究極の「働きやすいオフィス」作ったから見て! 電設大手が本気で作った最新拠点「SHIOMER」公開

電気設備大手のパナソニック エレクトリックワークス社(以下、EW社)。同社は、コンセントなどの配線器具で国内8割以上のシェアを占めています。そのEW社がいま力を入れているのが、ソリューション開発です。

 

現在のEW社の主力商品は、コンセントや照明といった“モノ”。しかし今後は、電気設備を通した新しい体験を世にもたらす、ソリューションの拡充を目指しています。

 

その開発を加速するべく、EW社はR&D(研究開発)の新拠点「SHIOMER(シオメル)」を、東京・田町に開設しました。働きやすさやウェルビーイングに徹底的にこだわったそのオフィスが本格稼働するのを前に、内部が報道陣に公開されました。本稿では、こだわりが詰まったその最新オフィスの中身をお届けします。

 

「潮目」を読んで、産み、変える場所

SHIOMERの名前の由来は「潮目」です。潮目とは異なる海流がぶつかる場所のことで、ここには多くの魚が集まり、豊かな漁場となります。時代の潮目を読んで、産み、変える場所を目指して、SHIOMERは開設されました。

↑SHIOMERの入口。多様なエネルギーが集まる場所を、照明、映像、さらにはアロマによって表現しています。これらの演出は、外の天候や時間に連動して変化します

 

SHIOMERの機能は、照明などの電気設備を活用した新たなソリューションの開発や試験、さらには他社との共創。生産性を高めるため、働きやすさやウェルビーイングを追求したオフィス環境が整えられています。

 

EW社は、これまでにも、ウェルビーイングなオフィスを実現するソリューションを事業として展開してきました。こちらはそのノウハウを活かし、自社内で実践した形となります。その内部を見ていきましょう。

 

ウェルビーイングの国際的認証で最高位を取得するほどの快適性

SHIOMERの内部は、大きく4つのゾーンに区切られています。エンジニアが働く研究開発ゾーン、会話ができるコミュニケーションゾーン、疲れを癒すリフレッシュゾーン、黙々と作業をする集中ゾーンです。それぞれのゾーンには名称があり、たとえば研究開発ゾーンは「DOCK」、コミュニケーションゾーンは「OCEAN」、入り口のカフェカウンターは「PORT」と、港や海辺をイメージした名付けがされています。各ゾーンによって、照明や音環境が異なるため、個々人の好みやそのときの気分に合わせて、場所を選んで働けるようになっています。

↑SHIOMERのマップ。ワンフロアのなかに、各種のゾーンが配置されています

 

↑「DOCK」には、昇降デスクやデュアルディスプレイが完備。製品のテストができるよう、天井にはダクトレールが格子状に張り巡らされています

 

SHIOMER全体の特徴として挙げられるのが、パナソニックが開発したオフィス設備・ソリューションがいたるところに導入されていること。たとえば「OCEAN」ゾーンの照明は、照明立地活用の新システム「LiBecoM」によって制御されていますし、天井からの風で温度ムラを防ぐ「スポット気流」が所々に配置されています。

↑ちょっとしたミーティングも可能な「OCEAN」。天井の照明には位置情報を取得するビーコンが内蔵されており、オフィス利用者の位置情報を計測、混雑度合いなどを測定しています

 

↑天井に設置された「スポット気流」。首振り機能を備えており、温度の高い場所を検知して、そこに風を送ります

 

また、心地よい音や照明で、誰もが快適に過ごせる空間であるセンサリールームを設置。入り口付近の「PORT」ゾーンには、照明器具でありながらも、文字を描いたり動きを表現できるマイクロLED照明が導入されています。会話が可能なゾーンには、コミュニケーションを促す次世代照明器具「ランターナ」が置かれていました。

↑パナソニックのセンサリールーム「あるまま」。人の五感を刺激しながら、快適なリフレッシュタイムを演出します

 

↑「PORT」では、マイクロLED照明が、壁にSHIOMERの文字を投影していました

 

↑「ランターナ」。照明器具の四方に液晶ディスプレイを内蔵しています

 

このオフィスの快適性は科学的にも認められており、ウェルビーイングの国際的な認証基準である「WELL認証 v2」で、最高位のプラチナを取得しています。

 

他社との共創を進め、人材確保にも注力

パナソニックは、SHIOMERの開設にあたって、他社との共創、人材確保にも注力しており、オフィス内には、外部の人を招いてイベントができるスペースもあります。

 

また、ソリューション開発のためのソフトウェア技術者の採用にあたっては、2022年から2024年までの間に、150名の採用目標を設定。これを現時点で達成しており、今後も人数を増やしていきたいとしています。EW社の担当者によると、応募者にSHIOMERを見てもらうことによって、意欲を高めてもらいたいとのことです。

 

阪神甲子園球場や新国立競技場、東京スカイツリーのLED照明など、大きなプロジェクトを数多く手がけるEW社。今後も世間を驚かせるような同社の新たな技術開発に期待したいところです。

↑SHIOMERはビルの21階にあります。リフレッシュゾーンの窓からは、気持ちのいい眺望が楽しめます

 

「理想のオフィス空間」って何だ? ウェルビーイングを「見える化」する最新ライブオフィスを体感

Well-Being(以下、ウェルビーイング。身体的・精神的・社会的に良好な状態であること)に配慮したオフィスづくりのソリューション開発に力を入れているパナソニック。同社では、オフィスの健康度を測る国際基準である「WELL認証」を取得するためのコンサルティングなど、オフィス改修プランの提案、施工とその後の保守まで、一気通貫のサポートを展開しています。

 

働きやすい環境整備のニーズが社会的に高まるなか、パナソニックは2024年11月、オフィスを診断・スコア化してレポートするサービスをアップデート。空間ソリューションの開発・提供を加速させています。本稿では、ウェルビーイングな職場の姿を形にした、同社のライブオフィス「worXlab」と、サービスアップデートの概要についてお届けします。

 

パナソニックは、国際的に認められたウェルビーイングのトップランナー

WELL認証が掲げる、ウェルビーイングな空間づくりに必要なコンセプトは10あります。その内容は、空気、水、音、光、温度快適性といった環境要因から、コミュニティ、こころといった人の内面にまで及び、これらを満たすオフィスづくりには、ノウハウの蓄積が不可欠です。

↑WELL認証が掲げる10のコンセプト。食物や運動など、従来のオフィスにはなかったような概念も求められています

 

パナソニックは、この空間ソリューションの事業を2020年にスタートさせてから、着々とノウハウを蓄積。現在では、WELL認証を策定・運営する国際的な非営利団体「IWBI」公認の、アンケート認定調査機関の資格を取得しています。この公認を取得しているのは全世界でも25社しかなく、国内では同社が唯一。ウェルビーイングの分野における、国内トップランナーといえる存在です。

↑パナソニックは、社内にWELL認証の専門家である「WELL AP」を23名抱えています。さらに、実地審査代理店、公認居住者評価機関としても認められています

 

ウェルビーイングなオフィスを肌で体感できる「worXlab」

「快適なオフィスとはどのようなものか」。その疑問にわかりやすく回答するため、パナソニックではウェルビーイングなオフィスを形にした、ライブオフィス「worXlab」(以下、ワークスラボ)を開設しています。パナソニック汐留ビル16階にあるワークスラボでは、同社の従業員が実際に働いている様子を見学可能。理想のオフィスを体験できる、ショールーム的な存在です。

↑ワークスラボの全体図。WELL認証のコンセプトに配慮して作られています

 

ワークスラボには、快適なオフィスを形成する様々な機器が設置されています。たとえば、直進的な風を送ることで天井と床面の温度差をなくし、快適な温度環境をつくる「スポット気流」。あるいは、時間にあった音楽や環境音を奏で、聴覚の面からオフィスの心地よさをつくる音響を内蔵した植栽。アイテム類のほかにも、従業員の交流を促すコミュニティスペースや集中ブースといった空間そのもののソリューションも見学できます。

↑スポットライト型の器具から直進性の高い風を送る、スポット気流。天井の配線ダクトに取り付けできます

 

↑スピーカーを内蔵した植栽。朝は鳥のさえずり、昼はラテン系の音楽、夜は落ち着いたジャズなど、時間帯や環境に合った音を流してくれます

 

2020年のワークスラボ開設以降、2024年10月時点で累計1900組、8600人もの見学者が訪れているといいます。この場所に来て、働きやすいオフィスの形をイメージしてもらうことが、同社のソリューション提供への第一歩となっています。

↑プロジェクターを設置した、リフレッシュスペース。木々が揺れる映像に合わせて、スポット気流で植栽に風を当てています

 

↑オフィスに設置した人感センサーで、ワークスラボ内の混雑状況を可視化するモニター。設計時の意図通りにオフィスが利用されているか、モニタリングできます

 

改修後のオフィスを3Dで体験。スコアによる定量的な評価も

理想的なオフィスづくり、特に既存のオフィスを改修する場合は、現在のオフィスをどう改修すればいいのか、具体的なプランを練らなければなりません。また、どの程度のコストがかかり、どれだけの効果を見込めるのか? といった、定量的な目安も欲しいところです。

 

そこでパナソニックでは、既存のオフィスを従業員へのアンケートと環境センシングで分析し、多数の項目に分けてスコア化するサービスを提供しています。このスコアを見れば現在のオフィスの改善点が明確化されますし、どのようなソリューションが必要なのかがわかります。

↑分析結果の例。なお、従業員へのアンケートは、IWBIの公認を受けており、科学的なエビデンスに基づいています

 

オフィスの快適度をスコア化するサービスは2023年からスタートしたものですが、2024年11月、これに新たな機能が追加されました。それが、改修後のオフィスを3Dレイアウトで再現し、改修後の様子をビジュアル化するというものです。これにより、改修後のイメージをよりはっきりと把握できるようになりました。

↑データを活用し、改修後のオフィス空間を3Dで再現。オフィス内を歩くVR体験も可能です

 

さらに2025年には、改修後のオフィスのレイアウトによって、スコアがどの程度変わるのか、ビフォーアフターを可視化する機能のローンチを予定しています。特定のソリューションを導入することで、どの程度スコアの改善が見込めるのか数値で確認できますし、コストの概算まですぐにわかります。つまり、改修のコストパフォーマンスが数値化されるというわけです。この機能が加われば、改修のプランニングや可否の判断がさらにしやすくなるでしょう。

↑オフィス診断レポートサービスのアップデートの経緯と展望。2024年11月のアップデートで、数値的な分析だけでなく、ビジュアルでの体験が可能になりました

 

↑2025年のローンチを目指しているシステムのデモ。右には改修前後のスコアの増減を表すグラフが、左には改修後のレイアウトと費用の概算が表示されます

 

生産性の向上が社会的な課題となっている現在、従業員のモチベーションを高め、健康を促進し、離職率の低下にも寄与する、快適なオフィスづくりへのニーズは高まっています。ただ、その効果を定量的に測るのは難しいものがありました。今回紹介したサービスのように、具体的な数値やビジュアルで確認できるサービスが登場することで、国内のオフィスの健康化がさらに前進することが期待されます。

SNSや職場を取り巻く“怒り”の正体と対処法は?上座仏教長老が説くブッダのアンガーマネジメント

“怒り”は、うまく付き合っていくのがもっとも難しい感情の一つ。家庭や職場での怒りをコントロールしようと近年、アメリカ発祥の心理トレーニング「アンガーマネジメント」が高い関心を集めていますが、それでも日々怒りの感情に苦しんでいる人は多く、幅広いアプローチが求められています。

 

とくに新年度を迎え、新しい環境や慣れない人間関係など、いつも以上に怒りのタネを抱えている人は多いでしょう。今回は、2600年前にブッダにより説かれた怒りの対処法に解決策を見出すべく、スリランカ上座仏教・アルボムッレ・スマナサーラ長老にお話をうかがいました。

 

【基礎編】
まずは「怒り」の正体を知る

「怒り」とは何か?

「仏教は宗教ではなく、実践心理学」だと話す、スマナサーラ長老。そんな仏教の教えにおいて、まず怒りとは何かをうかがいました。

 

「怒りというのは拒絶反応のことです。私たちの目、耳、鼻、舌などを伝って外部から入ってきた情報を、心と肉体が受け入れたくないときに拒絶反応が起きます。例えば、不快な機械音が耳に入ってくると遮断したくなります。見たくないものが目に入ってくると、これも消し去りたい。そうやって拒絶反応がエスカレートし、イライラが増し、怒りが膨張していきます。怒りは毒ですから、最終的には自分が不幸に陥ってしまいます。
受け入れたい情報と、受け入れたくない情報があるというのは自然なことです。そして、受け入れたくない情報に触れると、怒り、嫉妬、憎しみ、恨みという感情が現れ、ときにはそれが人を殺すことにもつながってしまいます。負の感情はすべて怒りであると言えるでしょう」

(スマナサーラ長老、以下同)

 

「正しい怒り」は存在するのか?

世間には「正しい怒りなら、怒ってもかまわない」という意見もあるようですが、仏教では「正しい怒り」についてどのように考えますか?

 

「仏教では『怒りは病気』と考えます。例えば、存在して良い病気はあるでしょうか? 怒りがウイルスなら、その粒子が1個でも2個でも人間に害を及ぼし、放っておいたらパンデミックになってしまいます。だから、正しい怒りというのは存在しないのです。人間が怒りを正当化しているだけなんですよ。

ひとたび怒りを正当化し始めると、怒りから抜け出せなくなります。例えば、世の中を正さないといけないからとか、子どもをしつけないといけないからとか。『あなたが悪いことをするから、私は怒っているんだよ』と。でも本当は、怒る人は、生きるテクニックを磨き切っていないだけなんです。生きるってもっと楽しくて、気楽にできてしまいます」

 

気楽に生きる、そのヒントとは?

 

「たとえば、夫の乱暴な言葉づかいにイライラしているなら、10倍くらい乱暴に、ただし面白おかしく演じてみせましょう。『あなたは私にこんなふうに振る舞っているのよ!』とドラマを見せて、夫にインスピレーションを与えるのです。すると、夫は思わず笑顔になって『態度を直そうかな』と思うし、演じている妻もちょっと楽しいでしょ? お互い楽しみながら解決できます。ジョークやユーモア、一番の薬はこれなんです」

 

日常で突然湧いてくる怒りを予防するには?

普段あまり怒らない人でも、思わずカッとしたり、怒りが噴き出すことはあると思います。そうした突発的な怒りは予防できるのでしょうか?

 

「いきなり爆発するような怒りを予防するには、朝から晩までニコニコと明るく振る舞い、冗談を言う癖をつけましょう。笑顔やユーモアが怒らない土壌を育んでくれますから。
とはいえ『日常に楽しいことがないから笑えない』と思う人もいるかもしれませんね。たとえば、こう考えてみてください。おいしい焼き魚を食べたくて釣りに出かけたとします。釣り糸を垂らすだけで、針に“おいしい焼き魚”はかかるでしょうか? 魚を釣るのも、獲れた魚をおいしく料理するのもすべて自分の仕事。自分を楽しい気分にさせるのも、自分の仕事というわけです」

 

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【実践編】
ケーススタディで学ぶ怒りの対処法

基礎編では怒りの本質と、怒りの感情をどう捉えるべきかをうかがいました。続いて実践編では、具体的なケースをもとに、自分の怒りをどう対処するか、怒っている人とどう向き合うかについてスマナサーラ長老に質問しました。

 

[ケース1] SNSに渦巻く怒りと向き合うには?

SNSには多くの利点がある一方、世界中の怒りが渦巻く場でもあります。政治的主張の異なる人々が罵り合っていたり、日常の小さな怒りを書き込んでストレスを発散していたり。みんなが怒りを撒き散らす時代といっても過言ではなく、その様子を外野から見ているだけでも悲しい気持ちになったり、怒りが込み上げてきたりします。

 

私たちはSNSとどのように向き合えば、穏やかな心でいられますか?

「この質問のように、多くの人がSNSでイライラや怒りを吐き出していることに嫌悪感を覚えることもあるでしょう。イライラや怒りは、根本的に汚いものです。言うなれば、私たちは彼らの吐しゃ物の中にいるというわけです。しかし、その中にも宝石のような言葉やアイデアが見つかることはあるので、SNSが必ずしも悪いものだと断言はできません。だからこそ、宝石を見つけたらそれだけを拾い上げ、自分をネガティブな気持ちにさせる投稿からはさっと目を背けてしまいましょう。

 

インターネットのない時代には、プロのジャーナリストが時間をかけて調べた情報を美しい文章にまとめ、新聞などで発表していました。現在は、公共の場でプレゼンテーションする訓練を受けていない人が、世界に向けてプレゼンテーションしていることを忘れて、好き勝手に発言し人々を傷つけることがあります。

 

私たちはまず、今がこういう時代なのだと理解して、時代に合わせて自身を進化させましょう。肉体的な進化には何万年もかかりますが、精神的な進化は1日で成し得ます。他人の怒りにいちいち反応せず、きれいなものだけを取って進みましょう」

 

SNSでは、正義感を振りかざして怒る人たちが非常に多い印象です。コロナ禍に登場した“自粛警察”が良い例かもしれません。正義感にもとづく怒りについて、スマナサーラ長老はどのようにお考えですか?

 

「人間が持つ『世直しの気持ち』は大きな問題です。世直しをしようとしてはいけません。動物の世界は世直しなんてしないで、平和でいるでしょう? 他人をコントロールしなくても大丈夫ですよ。たとえば、山歩きをして、道に大きな石があったとしましょう。蹴っても石は動きません。それならちょっと横に避けて通ればいいんです。同じように、水たまりがあったら避け、棘があったら避け、ただ自分の道を楽しく歩むのです」

 

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続いて、職場での怒りに目を向けてみましょう。

 

[ケース2] 職場の同僚が常にイライラ! ストレスなく仕事をするにはどうすれば?

■ 20代女性Aさんが抱える、職場の人間関係に関する悩み

 

Aさん:職場で私の隣に座っている同僚は、他人の仕事のミスを見つけては責め立てるものの、自分のミスは隠そうとする人で、みんなから疎まれています。また、一日中イライラして不平不満を口にしているので、隣で聞いている私は常にストレスを感じており、他の同僚に悪口を聞いてもらうことでストレスを発散しています。今後、隣の席の同僚とどのような人間関係を築けば、ストレスなく仕事ができるでしょうか?

 

「Aさんが同僚と一緒にいて辛くなるのは、その人の話題に乗ろうとするからです。Aさんがもっと成長したなら、同僚にも冗談混じりで本音を言えるようになります。『あなた、誰彼構わず噛みついちゃっていますよ。私、傷ついちゃいますよ~』って(笑)。そうすると同僚は笑いつつも、『自分の態度に気をつけようかな』と気付いてくれる可能性があります。ただ、Aさんはまだそれができる段階にはないようですね。自分の怒りをなくすために、自分の頭の中で楽しい設定を作って、誰彼構わず噛みついている同僚のことを気にしないでいられるといいですね。

 

それから、同僚や仲間に相談しても火に油を注ぐだけなので気をつけましょう。『私もその人のこと嫌いだから、こういうふうに言ってやりなよ』とさらに煽られる可能性もあり、とても危険です。他人に話してストレスを発散したいなら、自分より経験豊富で人格のある人に話しましょう。ただ、そういう人はあまりいないかもしれませんね。

 

若い頃、私はお寺の仕事をさぼっていたお坊さんに腹を立て、師匠に告げ口をしたことがありました。師匠はニコニコと話を聞いてくれて、『それであなたは怒っちゃったの?』と私に尋ねました。『はい』と答えると、『怒ったらまずいね』と言われました。仕事をさぼっていたお坊さんを呼んで叱るでもなく、私に優しく怒ったらダメだと諭してくれました。こういう人になら話してもかまいませんね」

 

Aさん:それでは、自分だけが我慢するということですか?

 

「あなたは怒って何か得をしましたか? 気分が良かったですか? 10分間怒っていたとして、その10分間は幸せでしたか? 最終的にダメージを受けるのは自分ではないですか? 世の中いろいろな人がいて、それぞれ好きに生きています。そういった人々の影響で、自分の幸せを壊すのは間違っています。つまり、怒らないというのは、自分を大切にすることなのです」

 

[ケース3] 職場の後輩にカッとなり強く注意してしまった。どう対応すれば良かった?

■ 30代女性Bさんが抱える、職場の後輩への接し方に関するお悩み

 

Bさん:最近、私は新入社員の育成担当になったのですが、まだ仕事が慣れないせいか、毎日一緒に残業をして仕事を手伝っています。ある日、私が「スキルアップのために少しは休日も勉強したほうがいいよ」とアドバイスすると、新入社員は「プライベートと仕事は分けたいので、休日にまで仕事はしたくありません」と反論。その瞬間、私はカッとなり、「仕事ができるようになってから言いなさい!」と強く言ってしまいました。この時どうすれば、後輩を怒らずにすんだでしょうか?

 

「Bさんが新入社員に伝えたことは、論理的には正しいですね。怒る必要がなかっただけです。人間、完璧じゃないから、頭でわかっていても態度に怒りが入ってしまうことはあります。もっと冗談っぽく、ユーモラスに伝えてみてはどうですか? 『そんなこと言わないでさ、少しでも家で勉強して腕を上げてみない? 仕事がもっと楽しくなるよ』とね(笑)」

 

Bさん:長老はお弟子さんにイライラしたことはありますか。例えば、「何度も教えたでしょ、何回も言わせないで!」などと……。

 

「出家の世界では、師匠は弟子たちの性格を熟知していて、一人ひとりに合わせたアドバイスするので、そういうトラブルはあまり起きませんね。ただ、一般の世界に生きる人々は、私たちのように心の修行を積んでいるわけではありませんので、同じようにするのは難しいかもしれません。だからこそ、ユーモアやジョークを大切にしてください」

 

“自己肯定感”を高めたい…幸福学研究者が教える幸せになるために心がけたい思考習慣

 

最後に、4月から新天地で働く人へメッセージをお願いします。

「4月から新天地で頑張るみなさん、これからまるっきり新しい世界に入るという気持ちにならなくちゃいけないですね。何もかも知らない世界で片っ端から学んで、少しでも早く一人前になってやろうと。一人ひとり、そういう覚悟をしましょう。いつも新人の気持ちでいれば、新しいことをたくさん学べますからね」

 

 

Profile


スリランカ上座仏教長老 / アルボムッレ・スマナサーラ

1945年スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとったのち、1980年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程で道元の思想を研究。現在、宗教法人日本テーラワーダ仏教協会で初期仏教の伝道と瞑想指導に従事し、ブッダの根本の教えを説き続けている。著書に『怒らないこと』『怒らないこと2』(だいわ文庫)など。
日本テーラワーダ仏教協会

 

“自己肯定感”を高めたい…幸福学研究者が教える幸せになるために心がけたい思考習慣

いま誰もが、忙しい日々に追われ周囲の視線を気にして、自分を見失っているのではないでしょうか? 毎日がもっと楽しくて、幸せに感じられるものならいいのに——。落ち込む時代の空気に反比例するように“ウェルビーイング”が重視されるなか、幸せを科学的に研究・実証する「幸福学」が注目されています。

 

幸福学とは、心理学を基礎として、統計的にどういう人が幸せなのかを明らかにしていく学問のこと。この連載では、幸福学を研究する前野マドカさんに、さまざまな視点から幸せを感じる習慣や思考法など、「幸せになる方法」を教えていただきます。第6回のテーマは、大人が自己肯定感を育むためにできること。

 

どうせ私なんて…は思考の悪癖。幸福学研究者が教える負の思考習慣をリセットする方法と効果

 

自分で自分をねぎらう習慣

———今回のテーマは「自己肯定感」。よく耳にする言葉になりましたが、あらためてどういったものなのか、教えてください。

 

「自己肯定感とは、文字の通りで “ありのままの自分を肯定し認めてあげること” を言います。自己肯定感には、自分の存在そのものを認める『絶対的自己肯定感』と、他者評価や成功体験によって育まれる『社会的自己肯定感』の2種類があるんです。最近よく言われている “自己肯定感が低い”“高い”という話は、絶対的自己肯定感のこと。絶対的自己肯定感の高い人は、自分のいいところもダメなところも含めて、自分を肯定できている人といえます」

 

幸福学の第一人者で、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授との夫妻で研究、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事なども務める、前野マドカさん。

 

———その絶対的自己肯定感は、どうやって育まれるのでしょうか?

 

「絶対的自己肯定感は、主に幼少期に育まれるものです。テストでいい点を採ったから、試合で活躍したからではなく、“存在しているだけで素晴らしい” と感じられる体験をどれだけしてきたかが影響します」

 

———そんな体験をしてこれたかどうか、自信がない……という大人は多そうです。

 

「もし幼少期に絶対的自己肯定感を育めなかったと思う人でも、不安にならないでくださいね。大人になってからでも高めることができます」

 

———安心しました。今からでもできる、自己肯定感の高め方を教えてください。

 

「今日からでも、すぐに始められますよ。道具は必要ありません。毎日シャワーを浴びる時、ポジティブな言葉のシャワーも一緒に浴びる “ホメホメシャワー” を試してみてください」

 

———“ホメホメシャワー” ですか?

 

「これは、実際に毎日大きなプレッシャーやストレスに直面している海外のハリウッドスターが実践していることです。『俺はできる』とか『私は最高!』なんて前向きな言葉を、シャワーと一緒に浴びるもの。“シャワーを浴びたら、自分を褒める” と習慣化するのがおすすめです。
寝る前に『私は今日も一日よくがんばった』と、自分に対して言ってから眠るだけでもいいんです。自分で自分をねぎらってあげることが、絶対的自己肯定感を育むことにつながります

 

———頭のなかで唱えるのではなく、声に出して言ったほうがいいんでしょうか?

 

「できれば声に出して言うことをおすすめします。自分で再度聞くことになりますから、より効果的ですよ」

 

誰かの自己肯定感を高めるためにできること

———自分で自分を褒めることが大切なんですね。逆に、他者の自己肯定感を高めるためにできることはありますか? 同僚や友人、パートナーや子どものためにできることがあれば知りたいのですが。

 

「ただ『すごい』や『えらい』とポジティブな言葉を伝えるだけでなく、何がすごいのか理由を一緒に伝えてあげましょう。すでにできていることやいいところの理由と一緒に伝えることで、自分の存在を認められるようになります」

 

———大人になると、褒めても「いやいや、私なんて」と謙遜する人も多いですよね?

 

「謙虚ですよね。とくに日本人は、照れ隠しで『いや』とか『そんなことない』とまず否定してしまう人も多いと思います。褒められたら最初に『ありがとう』と受け入れてみましょう。自己肯定感が高いアメリカの友人には、『その服かわいいね』と言うと『I know!』と返されます(笑)。自己肯定感が高い人の言葉を真似て、自分の自己肯定感を高めてみましょう」

 

———本当にちょっとした心がけで、自己肯定感を育んでいけるのですね。

 

自分で自分をいたわる。誰かに褒められたら、受け止める。『ありがとう』が承認になるので、褒めた相手も心地よくなれますよね。これは家族、同僚、友人、恋人、すべての人間関係に共通します。
先日、女子大学生向けのフォーラムに参加したのですが、『自分のことを好きな人』はたった2割程度だったんです。普通が6割、それ以外が2割。ところが、それが小学生低学年だと、ほとんどの人が『自分のことを好き』と手を挙げてくれます。年齢を重ねていくうちに人と比べる機会が増えるので、自分を好きだと認められなくなるんですよね」

 

———幸せな人は人と自分を比べない、幸福度は主体性と大きく相関があるというのは前回のお話にもありましたね。

 

「そうですね。幸せになるためには、主体性が大切。まずは自分が幸せになることで、自然と自己肯定感も高くなっていくでしょう。
もしどうしたら幸せになれるの? と迷ったら『幸せの4つの因子』を思い出し、自分はどんな時に幸せを感じるのか? 自分に足りないところはどこなのか? 照らし合わせてみるのがおすすめです」

 

幸せの4つの因子

■「やってみよう!」因子
・主体的にやりたいことに取り組んでいる人
・得意なことがあり、それを伸ばそうと努力をして強みをさらに高める人
・好きなことがあり、それを突き詰めようと打ち込んでいる人

 

■「ありがとう!」因子
・人の喜ぶ顔を見たいと思う人
・困っている人を支援したいと思う人
・他者とのあたたかい付き合いに感謝している人

 

■「なんとかなる!」因子
・考えすぎず物事を決断できる人
・失敗しても気持ちを切り替え立ち直るのが早い人
・自己受容できている人

 

■「ありのままに!」因子
・地位財形型の競争を好まない人
・自己像が明確な人
・他者への許容度が広い人

 

「小さなことからコツコツと幸せを積み重ねていきながら、幸福度、さらには自己肯定感を育んでいきましょう」

 

「幸福学」研究者が科学の力で導き出した、自分らしくいるための習慣「一杯のお茶をじっくりと味わう」

 

幸せになる思考習慣……「ホメホメシャワーで自己肯定感を高める」

・自己肯定感には、絶対的自己肯定感と社会的自己肯定感の2種類がある
・大人になってからでも自分を労ることで絶対的自己肯定感を高められる
・褒められたら、謙遜や否定をせず「ありがとう」と受け止める

 

「自己肯定感が低いな」と感じた人は、今夜からホメホメシャワーを実践してみませんか? まずは試してみる、これは幸福度の「やってみよう!」因子ともつながります。自分ができるところから行動し、暮らしの中の幸福度を高めていきましょう。

 

 

Profile

慶應義塾大学大学院研究員 / 前野マドカ

EVOL株式会社代表取締役CEO、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事、国際ポジティブ心理学協会会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』(ヴォイス)、『家族の幸福度を上げる7つのピース』(青春出版社)などがある。

どうせ私なんて…は思考の悪癖。幸福学研究者が教える負の思考習慣をリセットする方法と効果

いま誰もが、忙しい日々に追われ周囲の視線を気にして、自分を見失っているのではないでしょうか? 毎日がもっと楽しくて、幸せに感じられるものならいいのに——。落ち込む時代の空気に反比例するように“ウェルビーイング”が重視されるなか、幸せを科学的に研究・実証する「幸福学」が注目されています。

 

幸福学とは、心理学を基礎として、統計的にどういう人が幸せなのかを明らかにしていく学問のこと。この連載では、幸福学を研究する前野マドカさんに、さまざまな視点から幸せを感じる習慣や思考法など、「幸せになる方法」を教えていただきます。第5回は、自分の意識を変える“マインドセット”の方法について。

 

無意識のシャットアウトに気づくこと

———これまでの連載で、幸せが伝播することや幸せになる方法を教えていただきました。今回のテーマは、自分の意識を変える、です。幸せになる方法は理解できても、「どうせ私は幸せになれない」と思ってしまう人も多いのではないでしょうか?

 

「人間には、思考のクセがあるんです。思い込みは自分では気づきにくいものなので、幸せになる方法をわかっていても、いざ幸せを手にしようとした時『どうせ私なんて……』とシャットアウトしてしまうことも。これは無意識にやっていることなので、意識的に幸せになろうとすることが大切です」

 

幸福学の第一人者で、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授との夫妻で研究、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事なども務める、前野マドカさん。

 

———どうしたらその無意識に気づけるでしょうか?

 

「仲良しのお友だちや家族に『私ってどんな口癖がある?』『私はいつもどんな顔している?』など、聞いてみましょう。自分では気づけない部分を教えてくれることがあります。他にも『私はどんな性格だと思う?』なんて素直に聞いてみると、思ってもいなかったようなことを教えてくれる人が出てくるかもしれません。新たな自分を発見できると、無意識の部分が見つかりやすくなりますよ。

 

———たしかに、周囲の人のほうがよくわかってくれている、ということはありますよね。

 

「そうですよね。また第1回でお伝えしましたが、自分の価値観に合う幸せをピックアップすることが大切です。幸せにテンプレートはありませんし、幸せは誰かの物差しで決めるものではありません。下にある幸せの4つの因子と照らし合わせながら、自分はどんな時に幸せを感じるのか、考えてみましょう」

 

幸せの4つの因子

■「やってみよう!」因子
・主体的にやりたいことに取り組んでいる人
・得意なことがあり、それを伸ばそうと努力をして強みをさらに高める人
・好きなことがあり、それを突き詰めようと打ち込んでいる人

 

■「ありがとう!」因子・人の喜ぶ顔を見たいと思う人
・困っている人を支援したいと思う人
・他者とのあたたかい付き合いに感謝している人

 

■「なんとかなる!」因子
・考えすぎず物事を決断できる人
・失敗しても気持ちを切り替え立ち直るのが早い人
・自己受容できている人

 

■「ありのままに!」因子
・地位財形型の競争を好まない人
・自己像が明確な人
・他者への許容度が広い人

 

幸福学研究者が教える、幸せになる思考習慣…「幸せ」の定義とは? 幸せは自分の物差しで決めること

 

———一方で、「幸せになれないのは、〇〇のせい」と自分以外に原因を探ろうとしてしまう場合もありますよね?

 

「幸せな人は、そもそも他人と比べることが少ないんですよ。幸福度には主体性と大きく相関があることが幸福学の研究でわかっています。つまり、幸せになりたいならまずは自分を幸せな状態にする。誰かに幸せにしてもらうものではないんですよね」

 

———ドラマや漫画でよくみる「幸せにしてあげるね」っていうセリフは、ちょっと違うとも言えますね。

 

「とっても素敵な言葉ですが、一緒に幸せになろうね、がいいかもしれませんね。もし家族や友人など関わる人たちの幸せを願うなら、『〇〇さんは幸せになれる』ってマインドセットをするのがおすすめですよ」

 

———マインドセットですか?

 

「例えば、なかなか心を開いてくれない友人がいるとします。『どう接したらいいかわからない』と思いながらコミュニケーションしていくと、不思議なことにその思いが言葉や体に表れてしまうんです。これは相手にも無意識に伝わってしまうものなので、友人は『この人は私のことを苦手だと思っている』と、さらに高い壁を築いてしまいます。

 

ただ『この人は変われる、幸せになれる』と自分のマインドを変えて話しかけてみると、声のトーンや表情が明るくなりコミュニケーションが変化するんです。相手もそれを感じとり、話しやすい雰囲気が生まれていきます。本当にちょっとしたことなのですが、『仲良くなりたい』とか『幸せになれる』とマインドセットして接するだけで相手の心は開かれるようになりますよ」

 

———無意識に相手の感情が伝わってくる感覚、わかります。このマインドセットは、いろいろな場面で活用できそうですね!

 

「相手を変えようと思う前に、自分のマインドを変えてみる。そうすると、人間関係はよりよい方向へ向かっていくでしょう。とはいえ、すぐに変わるものではありません。『〇〇はできない』『〇〇なんて無理』と無意識に決めつけてしまう人は、大きな氷の塊を少しずつ砕いていくイメージでコツコツと続けてみましょう」

 

幸せになる思考習慣……「『幸せになれる』とマインドセットする」

・幸せになれないと感じているのは、思考の“クセ”にすぎない
・無意識のクセや思考を意識してみよう
・より良い人間関係を築くためのマインドセットをしてみよう

 

「どうせ私なんて……」と思うことは無意識のクセにすぎません。自分では気づけない部分に気づけると、誰もが幸せへの一歩を踏み出せるようになるはず。次回は「大人が自己肯定感を育むためにできること」を紹介します。

 

Profile

慶應義塾大学大学院研究員 / 前野マドカ

EVOL株式会社代表取締役CEO、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事、国際ポジティブ心理学協会会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』(ヴォイス)、『家族の幸福度を上げる7つのピース』(青春出版社)などがある。