世界首位奪還はどうなる?日本トップチーム「東海大学ソーラーカーチーム」の次戦に向けた戦い

全世界20カ国以上が参加した2023年の「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」から1年が経ちました。この世界最高峰に位置付けられる大会で、“総合5位”と“デイビット・ヒューチャック賞”を受賞した東海大学ソーラーカーチームは、すでに2025年のBWSCに向けて準備を進めています。

 

2024年8月に秋田県で行われた「World Green Challenge (以下、WGC)」では、首位を守りきり見事、総合優勝を果たしました。振り返って「学生たちだけで次に何をすべきか、どう動くべきか役割を意識して自律的に動けていた」と評価するのは、佐川耕平総監督。今回は、新車の設計まっただ中にある東海大学ソーラーカーチームのみなさんに、残り1年を切ったBWSCへ懸ける思いを伺います。

 

BWSCから1年。本当にあっという間だった

オーストラリアを縦断するBWSCの2023年大会にて。

 

オーストラリアの大地を約5日間かけて太陽の力だけで走り切るBWSCは、2年に一度開催されている世界最大級のソーラーカーレースです。4年ぶりに開催された23年大会では、気象変化やトラブルを乗り越え見事総合5位で完走しています。

 

BWSC(ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ)2023で東海大学が得た“日本トップで完走”以上の戦果とは?

 

この大会にも出場し、2024年度の学生代表を務める工学部機械工学科3年の熊林楽(がく)さんは次のように振り返ってくれました。

 

「本当にあっという間で、もう1年か……というのが率直な感想。この1年は国内大会に向けての調整をしながら、新車作りにも取り組んできました。学生代表になったことで責任感は増しましたが、自分の中ではまだまだ。来年に向けて、チームを率ながら今できることを進めていきたいです」(学生代表・熊林さん)

 

前回大会終了後の取材で「実は意外と時間がないんです」と語った佐川総監督。その実感に変化はあるのでしょうか?

 

「正直、さらに追い込まれている感覚があります。前回大会終了後、25年大会の新しいレギュレーションが発表され、これまで通りでは難しい部分も多く出てきたんです。また開催日程も10月末から8月末へ。2ヶ月早く開催される分、学生たちも夏休みに最後の追い込みができなくなり、負担も大きくなるでしょう。大人たちがチームビルディング含め環境を整えていかなければなりませんね」(佐川総監督)

 

チームワーク良く和気藹々とした雰囲気の中、WGCで総合優勝

8月に秋田県大潟市で開催された2024 World Green Challengeでは、ソーラーカーチャレンジ チャレンジャー・クラスで優勝、さらにソーラーカーチャレンジのグランドチャンピオンに輝いた。

 

新車の設計に忙しい最中ですが、8月に秋田県大潟村で開催されたWGCに参加。2019年にBWSCで準優勝した車体で挑み、周回数計34周(総走行距離875km)を走破! トラブルを乗り越えながら2位と50kmもの大差をつけ見事、総合優勝を獲得しています。

 

今回優勝したのは、2019年にBWSCで準優勝を獲得したマシン。ポテンシャルを最大限に活かし、よりチームの絆を強めた大会になった。

 

今年はたくさんの新入生が興味を持って、チームに参加してきたという東海大学。メインで活躍している新入生10名の半数が女子学生だといいます。WGCに初参加した工学部機械システム工学科1年の種田花音(おいだかのん)さんは、初めての大会で感じたことを次のように教えてくれました。

 

「プレッシャーもありましたが素直に『楽しい!』と思えることがたくさんありました。同級生も多く参加していたので、女子同士で夜遅くまで話し込んでしまいました(笑)」(種田さん)

 

トップでゴールしたマシンと、コース脇でマシンとドライバーを迎えるチームメンバーたち。

 

種田さんの言葉からも楽しそうなチームの雰囲気が伝わってきます。入学式でソーラーカーに一目惚れしてチームに参加した、という工学部4年の小平苑子(そのこ)さんは、女子学生が増えたことに「うれしい!」と目を輝かせます。

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

 

「新入生たちはとても元気なんです。女子学生が増えたことも影響しているのか、広報活動も積極的に行ってくれていて、とても和気藹々とした雰囲気。私は4年生なので、後輩に気を遣わせてしまうかな? と心配していたのですが、すごく仲良くしてもらっています」

 

WGCの会場でも、さまざまなシーンで女子学生の姿が目立った。

 

「そんな状況で、WGCを優勝できたことはチームの自信にもつながったと感じています。ただどうしてもBWSCを経験している人・していない人で経験の差が出てしまうのが正直なところ。25年の大会に向けて、後輩たちの育成など強化していきたいです」(小平さん)

 

ちなみに、この大会期間中に還暦を迎えられた木村英樹教授。1996年からチームを率いてきた中で、今年のメンバーたちをどのように見ていたのでしょうか?

 

「実は、大会期間中に体調を崩してしまいまして……戦力になれなかったと反省もあるのですが、学生たちが中心となって優勝を手にできたのはとてもうれしい結果でした。レース後には、胴上げもしてもらいましたよ(笑)
女子メンバーが増えているのは、理系学生全体にも言えることかもしれません。もちろん彼女たちが和気藹々と楽しんで参加してくれているのもチームの雰囲気に影響していますが、今年の新入生たちはコロナ禍の大学生活を知らない子がほとんど。やっと通常通りの大学生活が送れるようになったのも影響しているかもしれませんね」(木村教授)

 

チームを統括する木村教授は、大会期間中に節目となる誕生日を迎えた。学生たちとの絆を窺わせる一コマ。

 

秋田の夜空に広がる満点の星。雑音なく真剣に取り組める環境も、チームの絆を強める。

 

2025年BWSCは約2ヶ月前倒しに……課題と対策は?

大学のチームは常に学生たちの入れ替わりがあるため、来年大会に出場予定のBWSC経験者は半数ほどになってしまいます。さらに例年の10月末開催が8月末に前倒し。チームを率いる工学部の福田紘大教授は、これからの1年をどう過ごしていくかが勝負になると話します。

 

「開催時期が前倒しになることは、毎年メンバーが入れ替わる大学チームにとっては大きな影響があります。ただし、学生たちが責任感を持ってくれるようになり、自主的に動いてくれるようにもなったのは良い成果ではないでしょうか。新車体の設計についても、学生主体でアイデアを出してくれて、活発な議論ができています。私たちが『〇〇をしなさい』と指示を出さずとも、自分たちでやるべきことを見つけてくれているのはいい成長を感じられていますね」(福田教授)

 

2024 WGCでの1シーン。

 

工学部機械工学科2年の木村遥翔(はると)さんは、昨年との心境の変化を次のように話してくれました。

 

「1年生の頃はすべてが受け身の状態。大会についても先輩に教わることばかりでした。2年生になって、後輩ができてからは『受け身のままではいけない』と感じるようになり、責任感が伴うようになったと思います。2025年のBWSCはもちろんのこと2027年大会も見据えながら、この1年取り組んでいきたいです」

 

リベンジを果たし、目指せ世界一!

 

2024 WGCでの1シーン。

 

では、学生のみなさんに2025年の大会に向けた意気込みを伺っていきましょう。

 

「まだ実感がわかないのが正直なところですが、楽しみな気持ちが強いです。まだまだ私たちができることはたくさんあると思っているので、残り1年しかありませんが、できる限りのことを尽くして頑張ります」(種田さん)

 

「個人的には、焦っています(笑)。まだまだ成長できるところはたくさんあると思うので、自分自身を成長させていきながら準備していきたい。WGCでの課題をBWSCへと繋げられるよう、メンバーとのコミュニケーションを密にとりながら進めていきたいです」(木村さん)

 

「来年は大学院に進む予定なので、BWSCにも出場予定です。2021年の大会が新型コロナウイルスの影響により中止され、出場できなかった経験を踏まえて挑んだ23年の大会。そして来年が私にとっては最後のBWSCになります。いろんな思いがありますが、目標は優勝。前回大会で得た海外チームの技術も参考にしつつ、東海大学の実力を100%発揮できる大会にしたいと思います」(小平さん)

 

「8月に前倒しになったことで焦る気持ちもありますが、来年こそは優勝を目指したい。反省を活かして、リベンジですね。大会をゴールとするとまだ20%くらいの完成度だと思っています。まだまだやれることはある、そう信じて進んでいきます」(学生代表・熊林さん)

 

下が第1号車「Tokai 50TP」(1992年・Dream Cupソーラーカーレース鈴鹿大会)。2人乗り4輪の構造で、上の近年の車体とは形状がまったく異なることがわかる。

 

最後に、先生方からも学生たちに期待していることを伺いました。

 

「限られた中で、最高のパフォーマンスを出し切れるように頑張ってほしい。BWSCに出場するチームは、全チームが優勝を狙っています。技術の向上はもちろんのこと、チームで戦える力を身につけてもらえるといいですよね。今年の夏に行われたWGCでは、学業と地域イベントと新車体の設計と同時進行で進めることが多かった中で優勝することができた。チーム全体を見ながら、やるべきことに取り組める学生が増えてきたのは素晴らしいこと。期待しています!」(佐川監督)

 

「25年の大会は、開催時期が早まりレギュレーションも変わりましたが、見方を変えれば勝負できる大会ともいえます。仲間たちと勝利を勝ち取って、喜びをわかちあいたいですね。1年後にはもう大会が終わっているわけですから、どんな結果になるか私自身も楽しみです」(福田教授)

 

「毎年のことではありますが、学生チームは入れ替わりが発生する分、毎年フレッシュな気持ちで挑めるのがいい部分でもある。新しいメンバーにどんどん新しい発想を出してもらって来年のBWSCに挑みたい。学生にとっては、オーストラリアの大自然を存分に感じられるまたとない機会。世界中の仲間とふれあい、5日間過酷な条件で戦うことは人間としても成長できる大会なので、出場してよかったと心から思えるよう頑張ってもらいたいです」(木村教授)

 

 

東海大学は、この世界的なソーラーカーレースで過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回の輝かしい戦績を残しています。新たなメンバーでたくさんの人の期待を背負って挑む、2025年大会が楽しみですね。

 

 

Profile


東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・大学院生、約50名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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1億個が時速2万5千キロで浮遊…宇宙ゴミ(スペースデブリ)の脅威と地球規模の対策とは?

旧ソビエト連邦が1957年10月4日に人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げてからおよそ70年。人工衛星のおかげで日々の暮らしは便利で豊かになり、今では私たちの経済活動に欠かせない存在となっています。ところが今、人工衛星の打ち上げによる“宇宙ゴミ”(スペースデブリ)の数が増加していることが、世界的に問題になっています。

 

この問題について、長年スペースデブリを回収する研究に取り組み、技術開発も務める東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科 教授で、東京理科大学 スペースシステム創造研究センター センター長の木村真一さんに、現状や課題、解決方法などを教えていただきました。

 

小さな破片も衛星に穴を開けるほどの威力!
宇宙ゴミ(スペースデブリ)とは?

「スペースデブリとは、役目を終えた衛星や故障した衛星、衛星を打ち上げるために使われたロケットやその部品、破片など、コントロールされずに地球の周りを周回し続けている、不要になった人工物を指します。数mm程度の小さな破片から大型バスほどの大きなものまであります」(木村真一教授、以下同)

 

(イメージ)

 

スペースデブリはいったいどれくらいの数、浮遊しているのでしょうか?

 

「スペースデブリの数は、10cm以上のもので約2万個、1cm以上10cm未満は50〜70万個、1mm以上1cm未満は1億個を超えると言われ、宇宙空間を飛翔している人工物の約94%が、デブリです」

 

多くは1cm以下と微小ですが、その破壊力は凄まじいものです。

 

「広い宇宙、小さなデブリであれば問題ないだろうと思われるかもしれません。しかし、小さな破片でも致命的な打撃になる場合があります。
地球を周回するデブリは、秒速7〜8kmで飛翔しています。その速さは、ピストルの銃弾の約10倍。猛スピードで飛行する硬い塊が、もし稼働している衛星にぶつかってしまえば、太陽電池などの破損や、燃料タンクの爆発など、深刻な事態を引き起こす可能性があります。どんなに小さなデブリであっても、壊滅的なダメージをもたらす要因となってしまうのです」

 

地球を取り巻くスペースデブリのシミュレーション。デブリの分布を示している。©️NASA

 

衛星との衝突が原因?
スペースデブリが発生する原因

そもそもなぜ、デブリが発生するのでしょうか? その原因は主に2つあるといいます。

 

・衛星を打ち上げる一連の流れで発生するデブリ

衛星を打ち上げるためのロケットが宇宙空間で分離されたものや、ミッション遂行中に捨てられた部品、また、燃料が切れたり故障したなどの理由で役目を終えた本体も含みます。
近年は、民間が人工衛星を打ち上げるなど、宇宙開発が以前よりも身近なものになり、スターリンクを代表とする多数の衛星を活用した“コンステレーション”と呼ばれるサービスのように、人工衛星の利用の仕方が多様になることで、打ち上げられる衛星の数も増えています
衛星の寿命は、衛星の軌道や用途、設計などにより異なりますが、2年から10年ほどです。この寿命を終えた衛星は、近年では大気圏に突入させて軌道から取り除くように運用されていますが、不具合などで地球からのコントロールを失い、そのまま放置されるとスペースデブリと化します」

 

・衛星とスペースデブリの衝突

(イメージ)

 

「この衝突によって新たにできるデブリの発生は、広い範囲で軌道環境を汚染するという意味で深刻です。衛星同士がぶつかり合い爆発すると、破片が勢い良く飛び散ります。初速が加わることで、発生したデブリが元の衛星の軌道から大きく広がることになります。破片が広がれば新たな衝突を生み、さらに破片が増えるという悪循環に陥ります
2009年に、アメリカのイリジウム社の通信衛星イリジウム33号と、すでに使用されていなかったロシアの軍事用通信衛星コスモス2251号が衝突し問題になりました。この衝突によって、少なくとも数百個以上のスペースデブリが発生しました。
一方で、その衝突を故意に行う衛星破壊実験を中国が2007年に行い、飛躍的にデブリが増えた事例もあります」

 

もう衛星が打ち上げられない? 宇宙旅行も危険に?
スペースデブリが及ぼす影響

2021年には、実業家の前澤友作氏が日本の民間人で初めてISSに滞在するなど、一般人の“宇宙旅行”も夢ではなくなってきました。このままスペースデブリを放置するとどうなるでしょうか?

 

「スペースデブリが飛んでいる主な2つの軌道があります。『低軌道』と『静止軌道』です」

 

・低軌道

「地上から200kmから1000kmの範囲の軌道で、ISS(国際宇宙ステーション)や、インターネットを通信するための衛星コンステレーション、地球をさまざまな角度で観測する地球観測衛星などが打ち上げられる、もっとも多く使われている軌道です。
先ほど説明したように、低軌道には1億個以上ものデブリが周回しています。衛星とデブリが1km以内に接近するニアミスは、一日に数百回起きており、デブリを避けるための衛星の軌道修正も日に何度も行われている状態です。放置すれば猛スピードで周回するデブリの衝突により、さらにデブリが増え、地球を覆い、衛星の打ち上げもままならなくなるでしょう。持続的に宇宙開発を続けることが難しくなります」

 

・静止軌道

「これは地球から36,000km付近の軌道で、気象衛星や放送衛星などに使われています。地球の自転と同じ周期で公転する軌道です。同じスピードで動いているため衛星が止まっているように見えることから静止軌道と呼ばれます。広範囲で地球を定点観測でき、常に通信や放送を提供できることから、極めて有用性の高い軌道ですが、原理的静止軌道はたった1本しか存在しないので、このたった1本の“紐”を世界中で分け合って使っており、専門家の間ではすでにこの静止軌道の混雑も懸念されています。この静止軌道の近くで事故が起きると非常に深刻な事態が懸念されます。

 

また、低軌道であれば、デブリを大気圏に再突入させることで消滅させられますが、静止軌道から大気圏まで衛星を落下させるためには非常に大量の燃料が必要になるので、実際は困難です。そのため、役目を終えた衛星は、活動している衛星の邪魔にならないように静止軌道の外のいわゆる“墓場軌道”に移動させます。移動するだけなので処分されることなく、どんどんデブリが溜まっていきます。問題を先送りにしている状態のため、いずれは除去が必要になるでしょう」

 

宇宙旅行が現実化すれば、デブリ被害も増加?

最近ではアメリカの民家にデブリが直撃し、あと少しで人命に関わる事故になるところだった、というニュースが話題になりました。

 

「一般的に知られていないだけで、実はかなりの数のスペースデブリが落下しています。スペースデブリのほとんどは、大気圏に落ち燃え尽きるように設計されています。また近年では、運用されている衛星は、太平洋の真ん中など危険性の少ない場所に、軌道を制御することで落下させています
ただ、衛星によっては、一部燃えにくい部品を使用している場合もあり、また衛星が不具合などで制御を失うと、このように安全な場所に落下させることができなくなります。このように安全・確実に落下させることも、衛星の利用が盛んになるにつれて重要になってきます。これまでも、燃え残った衛星の残骸等が落下して損害を与えたという事故も発生しています」

 

(提供=東京理科大学スペースシステム創造研究センター)

 

宇宙旅行が実現する未来で、その影響に変化はあるでしょうか?

 

「人が搭乗する有人の宇宙船に対しても、デブリは人命に関わる深刻な問題です。すでにISSには小さなデブリが日々衝突し、機体にはでこぼこと穴が開いています。ISSは防護板で何重にも守られているため多少の穴は影響ありませんし、大きなデブリは追跡しているので事前に避けることもできます。しかし、数が増え制御できないほどになってしまえば、ISSで働く方々の命に関わってくるのです」

 

衛星の破壊によってインターネット通信が遮断?

(イメージ)

 

デブリによって衛星が破壊されると、どんな影響があるでしょうか?

 

「今や世界の経済は衛星によって支えられていると言っても過言ではありません。世界の大規模災害の予測や状況の把握にも衛星が使われています。通信や放送にも衛星が活用されています。それらの衛星がデブリによって次々と壊れることがあったらどうでしょうか。通信や気象、災害の監視など、さまざまな面で日常生活に関わっている宇宙技術が使用できなくなる可能性もあります
最近では、静止軌道に設置されている衛星の太陽電池パネルの出力が突然落ちたという事例も報告されています。詳細はわかっていませんが、恐らくデブリが衝突することによる影響ではないかと考えられています」

 

デブリを増やさず減らすために
世界と日本の取り組みとは?

 

地球環境の課題がなかなか解決しないように、国によってさまざまな考え方があるので、国際的な共通ルールを作ることは長い間、難しいと考えられていたといいます。

 

「しかし、2007年には、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)の提案に基づき、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)スペースデブリ低減のガイドラインが作成されました。運用中に放出されるデブリの制限や意図的破壊活動の回避、ミッション終了後に低軌道域に長期的に留まることの制限など、SDGsの目標のひとつである『つくる責任、つかう責任』が宇宙にも適用され、自主的に取り組むことが望ましい対策について制定されました。
また、2023年に広島で開催されたG7では、宇宙空間の安全で持続可能な利用を促進することについて首脳レベルでのコミットメントが表明されました。
スペースデブリの問題が世界共通の重要課題であると取り上げられることが増え、課題への意識が高まり、宇宙環境を改善する国際ルールが徐々に整いつつあります」

 

デブリを増やさない活動とは、具体的にどんなものなのでしょうか?

 

「デブリ対策には、これ以上数を増やさない取り組みと、現在あるデブリを減らす取り組みの2つの取り組みがあります」

 

・これ以上増やさない取り組み

「衛星打ち上げによるデブリ発生を減らすこと、また役目を終えた衛星をコントロールし、能動的に大気圏に落下させ消滅させる方法があります。
さらに、今ある衛星の寿命を伸ばしリユースする方法もあります。例えば、燃料が尽きデブリ化する衛星は、燃料がないだけで機体自体は問題なく使えることが多いです。ここで燃料をあらためて給油できるとしたらどうでしょう? 衛星の寿命を伸ばせます。打ち上げっぱなしだった衛星をメンテナンスし、再生できれば廃棄になる衛星の数も減ります」

 

・今あるデブリを除去する取り組み

(提供=アストロスケール)

 

「低軌道であれば、除去する方法は、デブリを大気圏で消滅させる方法でしょう。2021年に、日本の民間企業であるアストロスケールのデブリ除去技術実証衛星『ELSA-d』が、世界で初めて、デブリ除去の技術実証に成功しました。除去の際に必要となる高度な技術を実際に使って、デモンストレーションを行うもので、これまで世界に前例はありませんでした。

 

現在、同社は、商業デブリ除去実証衛星『ADRAS-J』のミッションを実施しており、デブリへの接近や周回観測等に成功しています」

 

もっと知っておくべき
スペースデブリのこと

ちなみに、私たち一般人でもスペースデブリ対策にできることはあるのでしょうか?

 

「ぜひ興味関心を持っていただきたいです。私がスペースデブリの研究を始めた20数年前は、まさか19時台のニュースで、スペースデブリ問題が取り上げられるとは思ってもいませんでした。しかし現在では宇宙の技術発展とともに、一般の方々の関心も高まりつつあります。
アストロスケール社を創業した岡田光信さんは、宇宙のホットトピックを調べているときにスペースデブリ問題を知り、軌道環境を保全していくことを決意し、現在の会社を立ち上げられました。そのとき、宇宙に関する知識も人脈もほとんどない状態だったそうです。今では、世界初の実証に成功し、除去分野での第一人者となっています。」

 

 

最初は自分には関係ないと考えていたスペースデブリのことも、何かのきっかけで急に関心が高まるかもしれません。皆さんが興味を持つことで、スペースデブリ問題を考えるきっかけになれば、同じように解決しようと思う方が増えるかもしれませんし、除去する支援をしてくださるかもしれません。ぜひみなさんには、宇宙をよりよい環境にしていくためにも興味関心を持って話題にしていただきたいと思います」

 

 

取材では、木村真一教授を初め、同席の関係者から口々に「スペースデブリについて興味を持っていただきありがとうございます」と、挨拶いただいたことが印象的でした。多くの人々に興味関心を持っていただくことが、将来の宇宙環境改善につながると話してくださった木村教授。わたしたちも、夜空の星を見上げながら「地球の外にはどんな世界が広がっているのかな?」を想像し、宇宙に考えをめぐらせてみませんか?

 

 

Profile

東京理科大学教授・東京理科大学 スペースシステム創造研究センター センター長 / 木村真一

1993 年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。旧郵政省通信総合研究所(国立研究開発法人情報通信研究機構)をへて、2007 年から東京理科大学に勤務。スペースデブリの除去を実現する技術の研究にも従事し、技術試験衛星 VII 型や Manipulator Flight Demonstrationなどの多くの宇宙ロボット・小型衛星ミッションに参加するとともに、「IKAROS」や「はやぶさ 2」の監視カメラシステムなど様々な宇宙機器を開発。現在、宇宙居住について、地上技術と連携して進める、地上−宇宙 Dual 開発というコンセプトのもと、研究を展開している。
東京理科大学 スペースシステム創造研究センター

 

日焼け止めが海と地球を脅かす!肌と環境にやさしい日焼け止めの選び方とおすすめブランド

日焼けをはじめとする紫外線の肌への影響を気にして、日常的に使われるようになった日焼け止め。ジェルやスプレーなど、テクスチャや形状もさまざまあり、シーンに合わせて使い分けが可能ですが、やはり夏の海や川を訪れる際には、いつも以上にUVカット効果が高い日焼け止めを使うはず。

 

ところが近年、この日焼け止めが海に悪影響を与えていると言われるようになりました。いったいなぜ? どんな日焼け止めならセーフ? サンゴ礁保全と観光産業の持続可能な発展を目的とした、国際的なダイビング・シュノーケリングのガイドライン「Green Fins」の日本導入を担当する積田彗加さんにうかがいました。

 

海遊びに必須な日焼け止めが
サンゴを弱らせている?

 

日焼け止めから、年間約6000〜1万4000トンもの化学成分が海に流れ込んでいるそう。スタンフォード大学の論文「Conversion of oxybenzone sunscreen to phototoxic glucoside conjugates by sea anemones and corals(イソギンチャクとサンゴによって日焼け止めに含まれるオキシベンゾンが光毒性のあるグルコシド結合体へ変換される)」によると、この日焼け止めに含まれる化学物質が、海洋生態系に致命的な影響を与えることが証明されています。

 

研究グループの実験によると、サンゴと似た生態のイソギンチャクや、サンゴの仲間であるクサビライシを使って、多くの日焼け止め成分に含まれる「オキシベンゾン」と疑似太陽光の影響について調査を実施。オキシベンゾンを取り入れ、疑似太陽光を当てた条件では、17日以内に全滅するという結果が出たのです。

 

「米国ハワイ州では、2021年1月より紫外線吸収剤の「オキシベンゾン」や「オクチノキサート」を含んだ日焼け止めの販売を禁止する法案が施行されました。さらに西大西洋に浮かぶパラオ諸島では、紫外線吸収剤に加え、「フェノキシエタノール」をはじめとする10種類の化学物質が含まれる日焼け止めもサンゴへの悪影響があるとみなし、2020年1月より、国内での販売および持ち込みを禁止する徹底ぶりをみせています。それだけ、日焼け止めによるサンゴへの悪影響を重んじているといえます」(「Green Fins」導入担当・積田彗加さん、以下同)

 

さらに、多くの日焼け止め成分に含まれている「酸化亜鉛」と「酸化チタン」ですが、近年ナノ粒子化された商品が多く出ています。成分が非常に小さいとサンゴが吸収してしまい、正常に成長することができなくなってしまうのだとか。禁止されていない成分でも、ナノ粒子化されることでマイクロプラスチックのように目には見えない影響が出てきていると言えるでしょう。

 

サンゴへ悪影響を及ぼす原因は、日焼け止めのほかにも、温暖化による気候変動、沿岸開発、レジャー時の踏む、蹴るなどによる人的被害など、さまざま考えられます。すべて私たちでコントロールすることはできませんが、日焼け止めに関しては、自分たちの意思と知識さえあれば、環境にやさしいものを積極的に選択できるはず。日焼け止めを購入する前に、どんな成分が含まれているか確認することから始めてみましょう。

 

なぜサンゴ礁を守らないといけないの?

 

そもそもなぜサンゴ礁を守る必要があるのでしょうか? 人間たちを魅了するような観光資源だけでなく、サンゴ礁は、海の生態系を支え、私たちの生活に不可欠な役割を担っていると、積田さんは話します。

 

「サンゴ礁は赤道近くに分布しています。地球の表面積のうちわずか0.1〜0.2%程度にしかなりませんが、地球上の海洋生物の約25%の種類が生息する場所でもあります。つまりサンゴ礁がなくなってしまうことは、海洋生物にも大きな影響を与えてしまうのです」

 

サンゴ礁の役割

・生き物の棲家(生物多様性を支える)
・温暖化の抑制
・防波堤
・観光および漁業資源

 

サンゴ礁が減少するとどうなる?

・海洋生物の25%の種類が生息する重要な生態系が破壊される
・食料が減る可能性がある
・防波堤の役割を果たせなくなる
・観光業への経済的な打撃も大きくなる

 

「私が駐在する沖縄県恩納村にも、さまざまなサンゴが生息しています。この村は、もずくやあおさ、海ぶどう養殖が盛んです。実は村のサンゴが大規模白化した年に、養殖物の漁獲量が一気に下がってしまったことがあったそうです。地元の漁師さんの中には、サンゴの状態と漁獲高の関係性を意識してサンゴの養殖を始めた人がいます。サンゴを守ることで、漁師さんの暮らしを守り、きれいなサンゴを見たいと観光客がやってくる。サンゴ保全の意識を高めることは、そこに住まう人だけでなく、観光で訪れる人にも大切な営みです」

 

普段使いできる
海の生き物たちにやさしい日焼け止め

私たちがサンゴを守るための一番身近な手段のひとつに、日焼け止めがあります。積田さんは、海遊びの時だけでなく日常的に使う日焼け止めやUVカットの化粧下地の成分もチェックしてほしいと言います。

 

「日焼け止めは、体や顔を洗った後に下水へ排出され、最後は海に流れていきます。食器や洗濯洗剤の成分、洗濯時に繊維から落ちるマイクロプラスチックが海に流れていくことと同じですね。海で遊ぶ際に使う日焼け止めだけでなく、日常的に使用するものも、地球環境にやさしい成分を選べると良いでしょう」

 

日焼け止めを選ぶ際には、この2つのキーワードが入っているかチェックしましょう。

 

【選ぶ際にチェックしたい表示】

・紫外線吸収剤不使用
・ノンナノ(酸化チタンや酸化亜鉛をナノ粒子化していないもの)

「表示を見てもわからないという人は、パラオで販売されている日焼け止めを購入するのがおすすめです。パラオはサンゴ保全国最先端の一つで、10種類の成分を規制しています。規制されている成分が入った日焼け止めを、パラオ国内に持ち込むことすらできません。つまりパラオで売っている日焼け止めは、すべて環境にやさしいものであると言えます」

 

ここからは積田さんおすすめの海の生き物たちにやさしい日焼け止めを4つ紹介します。

 

・「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証」を取得!海にも川にもやさしい


BADGER「Adventure Mineral Sunscreen Cream – SPF 50」
$17.99(USD)=2609円($1 USD = 145円で換算・ 8月29日時点)
紫外線予防効果:SPF50

サンゴやウミガメ、その他の水生生物に無害な製品にしか与えられない「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証※」の日焼け止め。肌の新陳代謝を促すビタミンE配合で美肌効果もあり。石けんでオフ可能。

※サンゴや環境に有害な日焼け止めの法規制を高めた論文の一つを発表した「米国バージニア州のハエレティクス環境研究所では、海洋および淡水の小川や川も含めた生態系に悪影響を及ぼす有害物質のリストを発表。このリストにある有害物質をすべて排除した製品に与えられるのが、「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証」です。

 

環境にやさしいノンナノの酸化亜鉛を使用しているがゆえに白浮きしやすいですが、そのおかげで水をはじき、約80分の耐水時間を誇ります。

 

・海とサンゴを思う気持ちが名前にも込められた日焼け止め


ジーエルイー「サンゴに優しい日焼け止め ホワイト40g」
3273円(税込)
紫外線予防効果:SPF50+、UVA★★★★

100パーセント自然由来成分でできた日焼け止め。自社ブレンドのラベンダーやユーカリ等4種の精油が保湿効果とリラックス効果をもたらします。ウォータープルーフ仕様ですが、石鹸とぬるま湯でオフすることができます。容器は再資源化が容易なスチール缶です。

 

「沖縄出身の金城由希乃さんによって開発された日焼け止め。ビーチでシュノーケリングをしようとしていた時に、『日焼け止めを塗ると、サンゴが死んじゃうんだよ』と近くにいたダイバーに教えてもらったのが開発のきっかけだそうで、商品名からも思いが込められていることが伝わってきますね」

 

・ハワイ産の良質な天然成分だけで生まれたカバー力抜群の日焼け止め

リトルハンズハワイ「【ベージュ】スティックタイプLittle Hands Hawaii(リトルハンズハワイ)」
4400円(税込)
紫外線予防効果:SPF35~40

ハワイの豊かな自然環境に育まれた、100%天然素材のみを使用した日焼け止め。紫外線予防効果で未来のシミ、しわも防ぎます。ウォータープルーフなのに石けんでするっとオフできる使いやすさも魅力です。パッケージは、プラスチックフリーで環境負荷を最小限に抑えています。

 

「ノンナノ成分の日焼け止めは、環境にはやさしい一方で、伸びにくかったり、白浮きしやすかったりと使用感がネックになることも。でも、この商品は自然に色がつくので使いやすいです。私はベージュカラーを日焼け止め兼ファンデーションとして使っています。手が汚れないスティックタイプは、ササッと塗れて忙しい朝や、アウトドア時にも便利」

 

・国内最高レベルのUV指数なのに肌にも自然環境にもやさしい


モアニオーガニクス「DAILY ESSENTIAL SUNSCREEN」
3960円(税込)
紫外線予防効果:SPF50+、PA++++

国際的な有機認定機関「ECOCERT」による厳しいオーガニック基準に合格した日焼け止め。100%天然由来成分でできていながら、紫外線B波(UVB)、A波(UVA)ともに高い予防効果があり、紫外線が強い野外にも安心です。汗や水にも強いのに、石けんで簡単に落とすことができます。

 

「ミルクタイプのテクスチャーで、肌によく伸びて使用感もいいです。べたつかずさらっとしていて着け心地も抜群ですよ」

 

サンゴや環境に配慮した日焼け止めを使うことは大切ですが、そもそも肌をださない様にするのも対策のひとつ。「シュノーケリングや海遊びをするときには、長袖のラッシュガードを着るようにすれば、日焼け止めを塗る面積もセーブできて、肌にも海にも優しいですよ」と、積田さん。少しの工夫を楽しみながら、環境にも自分にも優しくいられるといいですね。

 

Profile

「Green Fins」 / 積田彗加

神奈川県出身。早稲田大学卒業。新卒でIT企業に入社するものの、ダイビング好きが高じ、ダイビングの楽しみ方を広げたいという思いで海とダイビングのウェブメディア「ocean+α」に2018年に転職。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。「Green Fins」の導入推進を担当している。同団体の日本窓口でアセッサー。

人と街を繋ぐ!“東京23FC”のクリーンプロジェクトに見る、地元の声援が大きい理由

東京都江戸川区を拠点に活動する東京23フットボールクラブ(以下、東京23FC)は、2023年に取材したとおり、現在もJFL昇格を目指して戦い続けています。2024年度よりチーム体制が大きく変わりましたが、7月25日時点で8勝1敗1分と好調な成績。今年こそJFL昇格を! と多くのサポーターからも期待がかかっているところです。

 

そんな東京23FCは、10年以上「23クリーンプロジェクト」と称する清掃活動を続けています。毎月23日に、チームの拠点である西葛西の駅前に選手や地元住民、関係者たちが集まり、天候に関わらず約30分ほど町の清掃活動を実施しているのですが、なぜこのような活動を続けているのでしょうか?

 

今回は5月23日に行われた「23クリーンプロジェクト」、さらに6月23日に初めて実施されたパブリックビューイングに密着。東京23FCのサポーターや地域とのつながりに迫りました。

 

東京23区初のJリーグチームへ!「東京23FC」の戦いと目指す未来

 

快進撃を続ける東京23FC
2024年こそJFL昇格を目指す!

まずは新生チームの戦いぶりを確認してみましょう。順調に勝ちを重ねている東京23FCは、得失点が27点(7月25日時点)と他のチームを大きく引き離し、上位をキープしています。今年の東京23FCは何かが違う……そんな期待感を抱かせる状況ですが、2024年の強さの秘密はどこにあるのでしょうか?

 

就任4年目の小松祐己監督は「新体制の東京23FCは一言で言えばアグレッシブなチーム。まだまだ始まったばかりですが、昇格目指して頑張りたい」と力を込めます。また、今年度からチームに加わった澤朋哉選手(MF)と梶山かえで選手(DF)にも話を聞きました。

 

DF・梶山かえで選手

 

「すごく勢いもあって、元気のあるチームです。サッカー中はもちろんですが、練習後も和気あいあいとしていて、のびのび楽しくサッカーができる環境だと感じています。今は、リーグ優勝という目標に向かってひたすら邁進するのみ。なかなか思うようなゲームにならなくても、今のチームなら乗り越えられるような気がするんですよね。一戦一戦に集中して、選手が成長しながら気持ちよくシーズンを終えられるよう大切に戦っていきたいです」(梶山かえで選手)

 

MF・澤朋哉選手

 

「選手たちがとにかく若いんです。まだまだ伸び代があると感じています。今年度のリーグ首位はどのチームにも譲る気はないですし、優勝してJFLに昇格することしか考えていません。今のチームはコミュニケーションを大切にしているように感じます。年齢、経験的にも自分が先輩なので、周りをリードしていきながら、サポーターそして地域のみなさんと一緒に最後は笑顔で終わりたいですね」(澤朋哉選手)

 

地域リーグに所属する選手は、試合だけで生計を立てるのは難しいため、約9割の選手がサッカー選手とは別の仕事をしていると言います。東京23FCに所属する選手も、毎朝7〜9時の合同練習が終わると、会社員として働いたり経営者として組織を率いたり、選手以外の顔を持っています。

 

練習に仕事にと忙しい選手たちも参加している「23クリーンプロジェクト」ですが、実は自主参加。それにも関わらず、多くの選手たちが「地域のために」と参加していると言います。どんな思いでこの活動を続けているのでしょうか?

 

MFの澤朋哉選手(左)と、DFの梶山かえで選手(右)。2人とも今年度から加入しており、清掃活動は5月23日で4回目とのこと。

 

「以前のチームでは清掃活動など地域と関わるようなことはありませんでした。初めてクリーンプロジェクトに参加した時は、『いいことをしたな』という気持ちで純粋に気分がよくなりましたね。クリーンプロジェクトは地域の方々と交流ができるので、チームのためにもとても意義ある活動だと思います」(澤朋哉選手)

 

梶山選手も「普段関わることのないスポンサーや地域の方、サポーターとお話できるのがうれしい」と話します。「ピッチの外の振る舞いが試合にも出るぞ」と伝えているそう。

 

ここからは実際の「23クリーンプロジェクト」の様子をお届けします。

 

「何事もやり続けることが大切」
地域とつながる清掃活動

 

朝の混雑が少し落ち着いてきた朝10時の西葛西駅。参加者が集合し「これから132回目の23クリーンプロジェクトを始めます!」との高らかな宣言とともに、約30分間の清掃活動がスタートしました。

 

このプロジェクトは、チームの本拠地である西葛西をもっとキレイな街にしたい、気付けないところにも気配りができる人になろう、とスタートしたと言います。晴れた日は道路を歩きながらゴミを拾い、雨の日には商店街のアーケードを清掃するなど選手たちが中心となり、自主的に行っている活動です。

 

実際にゴミ袋を片手に歩き出すと、駅前の植え込みの影にある空き缶や道路に落ちたタバコの吸い殻、なかにはコンビニのお弁当ゴミまで! さまざまなゴミが落ちていました。「ゴミ拾いをすると見えないものが見えてくるんですよ。そこに気づく力はサッカーにも通じるんです」と話すのは、東京23FCの斉藤裕之亮マネージャー。この2〜3年で関わる人が増え、今まで点だった活動が少しずつ広がり始めていると教えてくれました。

 

5月23日に参加したのは、朝の練習を終えた東京23FCの監督と選手、スタッフに加えてスポンサー企業の方々。45名ほどの人たちが二手に分かれて清掃活動を行います。

 

「今回で80回目かな? 江戸川区在住ではないですが、東京23FCが大好きでよく参加しています」と教えてくれたのは、東京23FCのファン歴8年目だというサポーターの女性。サッカー好きな息子さんの影響もあり、今では家族で応援のために遠征までするのだとか。

 

選手を応援するのは「母親」のような気持ちもあるかな? とも。清掃活動後も、選手たちと「頑張ってね」「応援しているよ」と明るく笑顔で交流をしていました。

 

「サッカーチームを応援することで私もたくさんの元気をもらえているんです。何が魅力か? って聞かれると難しいけど、選手たちが悔しいと私も悔しい。うれしい時は、チームと一緒に心から喜べる。いくつになってもこんな気持ちになれるって素敵でしょ?(笑) 地域の人にも少しずつ知っていただけるようになって、私ももっと頑張ろうって思える活動ですよ」

 

監督就任時からほぼ欠かさず「23クリーンプロジェクト」に参加している小松祐己監督は、「サッカーも地域活動も、続けることが大切」と語ります。

 

東京23FCの小松祐己監督。

 

「毎月23日に清掃活動を続けていくことで、地域の方々から『頑張ってね』『この前の試合みたよ!』と声をかけてもらう機会も増えてきました。これはただサッカーをしているだけではできなかった経験なんです。地域の企業や住人、サポーターに支えられていることを知れる本当にいい活動だと思って参加しています。これからはもっと地域に必要とされる存在になりたい。サッカーも清掃活動も続けていくことで見えてくるものは必ずある。たった30分ですけど、地域と関わりがチームに与える力は大きいですよ」

 

5月23日の「23クリーンプロジェクト」に参加した選手たち。朝練のあと、企業で働いている選手も多いため自主参加が基本です。この日も「午後から仕事に行きます」と話す選手も。

 

またスポンサー企業である大和リビング株式会社からは合計17名が初参加。サッカー好きで、東京23FCの活躍を日頃から追いかけているという男性社員は清掃活動中、次のように話します。

 

スーツ姿で参加したのは大和リビング城東営業所のメンバーたち。清掃活動中、保育園の園児たちとすれ違うと「頑張る大人の姿を子どもたちにも見せましょう」と笑顔がもれるシーンも。

 

「西葛西駅周辺は営業車で走ることが多いエリアですが、こんなにもゴミが捨てられているなんて車内からはわかりませんでした。気づかない部分に気づかせてくれるいいきっかけになり、参加して本当によかったです。ちょっぴりミーハーかもしれませんが、一緒に清掃活動したチームが試合で活躍している姿を想像すると楽しみになります」

 

最後に記念撮影を行い、この日の「23クリーンプロジェクト」は終了しました。

 

たった30分間でも集まったゴミはこれほどたくさん。とはいえ、清掃活動を始めた当初はもっとたくさんのゴミが落ちており、今では見違えるように街がきれいになったといいます。

 

清掃活動中には「何しているの?」と地域の方から声をかけられ、趣旨を説明すると「頑張ってね」と笑顔で返されることも。「23クリーンプロジェクト」は、誰でも参加が可能です。毎月23日に開催されていますが、詳細については東京23FCのホームページやSNSを参照ください。

 

地元の人々が集い、声を上げた
「パブリックビューイング」

6月23日、133回目の清掃活動後に江戸川区立西葛西図書館とのコラボレーションで初めてのパブリックビューイング(東京23FC vs 南葛SC)が開催されました。この企画は西葛西図書館からの声かけにより開催が決定。サッカー初心者の方でも楽しめるようにと、元Jリーガーでサッカー解説者の中西哲生さんを招いた「サッカー観戦の楽しみ方」講座も開かれました。

 

西葛西図書館のギャラリーでパブリックビューイングが初開催されました。

 

西葛西図書館のギャラリーでパブリックビューイングが初開催されました。
パブリックビューイングでは、試合が動くたびに大きな声援が届けられ、大きな熱気に包まれていました。試合が行われていた味の素フィールド西が丘まで応援の声が届いたのか4-1の快勝! リーグトップを守りぬいた試合となりました。

 

お母さんと一緒に歓声を送る小川唯斗くん。最後まで集中力を切らすことなく、見ている私たちにも大好きな気持ちが伝わってきます。

 

小川唯斗くん(小学3年生)は、本拠地であるスピアーズえどりくフィールド(通称:えどりく)でのホーム試合前に行われる『キッズフェスタ』をきっかけに東京23FCのファンになったそう。以前はサッカースクールにも通っていましたが、現在はお休み中。「サッカーが好きだから」ということで今回のパブリックビューイングに参加しました。

 

家族で応援に駆けつけたという佐藤快成くん。サッカー経験はまだ少ないそうですが、「東京23FCが好き」というお父さんに連れられて家族で応援しているそうです。

 

また親子で東京23FCのファンだという佐藤快成くん(小学5年生)は、家族で佐賀県へ応援にいくほどのサポーター。一緒にきていた快成くんのお父さんは「最初は自分の趣味だったのですが、今では家族みんなで応援できてうれしいです」と話してくれました。

 

 

今回のパブリックビューイングでの熱狂を肌で感じ、地域の人たちにとって東京23FCはなくてはならない存在になっているのだと確信しました。選手と地域、スポンサー企業、そしてサポーターのみなさんの一丸となった応援が東京23FCの力になっているのでしょう。

 

10年以上活動を続けている「23クリーンプロジェクト」も地域の理解と参加する人々の支えがなくては続けられません。地域の応援が選手の力となり、選手の頑張りが地域の人を元気にすることで、東京23FCはより強く成長していくのではないでしょうか。

 

 

Profile

東京23フットボールクラブ

東京都江戸川区を拠点に活動するクラブチーム。2010年より現体制。スピアーズえどりくフィールドを本拠地としている。世界に視線を向ける一方、お膝元の江戸川区民との交流を大切に活動を続けている。

HP https://tokyo23fc.jp/
Instagram https://www.instagram.com/23footballclub/
Twitter https://twitter.com/tokyo23official

災害時に安心!ポータブルソーラーパネルの選び方と効果的な使い方を防災アドバイザーが解説

 

 

災害時の備えとして、大容量ポータブル電源とともに注目されている「ポータブルソーラーパネル」。スマホやモバイルバッテリー、ポータブル電源を屋外でも充電できる、“持ち運べる”ソーラーパネルが今、続々と登場しています。

 

このポータブルソーラーパネルが役立つシーンや選び方、さらにおすすめ製品について、備え・防災アドバイザーとして活動する合同会社ソナエルワークス代表の高荷智也さんに教えていただきました。

 

停電時に安心!防災の専門家が解説する大容量ポータブル電源の選び方とおすすめ8製品

 

手軽に充電できる手段として注目される、
ポータブルソーラーパネル

住宅の屋根やビルに設置されているイメージが強いソーラーパネルですが、最近は折りたたんで持ち運べるようなコンパクトなソーラーパネルも数多く販売されています。この「ポータブルソーラーパネル」とはどのようなものなのでしょうか?

 

「その名の通り、持ち運びができるソーラーパネルのこと。『ソーラー充電器』『モバイルソーラーパネル』などさまざまな呼び方がありますが、基本的にはどれも同じものを指します。
ポータブルソーラーパネルは、大きく2種類に分けられます。一つは、スマホやモバイルバッテリーなどの充電に適した、A4サイズ数枚分くらいの小型サイズのもの。もう一つが、ポータブル電源の充電などに適した少し大きめのサイズのものです」(備え・防災アドバイザー高荷智也さん、以下同)

 

製品自体はポータブル電源より前から存在したそう。では、なぜ今あらためて注目されているのでしょうか?

 

「停電対策に欠かせないポータブル電源やモバイルバッテリーは、充電ができなければ使い切りになってしまいますよね。そのため最近では、これらの充電手段を持っておくことが大切だと考えられています。
とはいえ、ガソリンやカセットガスの発電機を用意したり運用したりすることはなかなか大変で、住宅用ソーラーパネルは設置できる環境に制限があります。そのため、手軽に備えておけるポータブルソーラーパネルに注目が集まっていると考えられます。モバイルバッテリーやポータブル電源の性能が上がったことで、ポータブルソーラーパネルもさまざまな商品が発売されるようになりました」

 

ポータブルソーラーパネルが役立つシーンとは?

モバイルバッテリーやポータブル電源の充電手段として重宝するポータブルソーラーパネル。具体的にどのようなシーンで役立つのでしょうか?

 

「ポータブルソーラーパネルがもっとも活躍するのは、停電が長期化したとき。短期間の停電なら、モバイルバッテリーやポータブル電源があれば充分かもしれません。しかし台風や大地震、突発的な停電が起こり、いつ電力が復旧するかわからないような状況になったとき、モバイルバッテリーやポータブル電源を充電できるポータブルソーラーパネルは大いに重宝します」

 

活躍するのは、災害時だけではありません。

 

「もちろん、キャンプなどのアウトドアレジャーでも役立ちます。スマホやランタンの充電くらいであれば小型のポータブル電源で充分ですが、使うものによっては電力が足りなくなってしまうことも。例えばホットプレートや冷蔵庫、ポータブルエアコンなど、消費電力が大きいものを使いたいときには、ポータブル電源と併用するといいでしょう」

 

ポータブルソーラーパネルは
電気代の節約になる?

非常時やアウトドアで活用するほか、日常使いで“電力の自給自足”ができるかどうかも気になるところ。ポータブルソーラーパネルを使うことによって、日々の電気代を浮かせることはできるのでしょうか?

 

「正直、ポータブルソーラーパネルを使うことがお財布に優しいかというと、微妙なところです。例えばポータブル電源につないで、1時間で最大100Wを充電できるパネルを使ったとします。仮に1日5~6時間フル充電できたとすると500Wを充電できますが、金額にするとだいたい10~15円程度です。もし1ヶ月間、毎日充電ができたとしても節約できるのは300円くらい。1年間で考えると数千円レベルにはなるかもしれませんが、元を取れるかを考えると難しいところです。
とはいえ、電力を自給自足して生活するのは“環境負荷をかけない暮らし”にもつながりますよね。節約のために使うというよりは、ライフスタイルの一つとして、日々の暮らしの中で使ってみるのはアリだと思います」

 

発電効率を上げるには?
ポータブルソーラーパネルを上手に使うポイント

太陽光で簡単に充電することができるポータブルソーラーパネルですが、発電効率を上げるためにはどうすればいいのでしょうか? 押さえておくべき3つのポイントを教えていただきました。

 

1.直射日光を当てる

「ポータブルソーラーパネルに限りませんが、ソーラーパネルは屋外設置が基本。室内に設置する場合、設置場所や窓ガラスの種類によっては、発電効率が極端に下がる、もしくはほぼ0になってしまいます。南向きの庭や広いベランダを確保できるか、とくにマンションにお住まいの場合は購入前に確認しておきましょう」

 

2.パネルに対して太陽光を垂直に当てる

「発電効率を上げるためには、パネルを太陽の方に向ける、かつ太陽光に対して極力垂直に設置することが重要なポイントです。地面に対して垂直に置いてしまうと発電効率が落ちてしまいます。太陽の位置は意外とすぐ動くので、30分から1時間に1回程度は角度を調整するようにしましょう」

 

3.パネルの上に影を作らない

「製品にもよりますが、パネルの上に影がかかると発電効率が大きく下がってしまうものもあるので注意が必要です。一戸建て、庭、駐車場などの広い場所に置ける場合はそこまで問題はありませんが、マンションのベランダなどに設置する場合は、場所によってはうまく太陽光を当たらない場合も。『大きいパネルを買ったけど影がかかってうまく発電できない』とならないよう、場所に合わせてパネルの大きさを選ぶこともポイントです」

 

これらのポイントを押さえた上でパネルを設置したら、「どのくらい発電できているか」をあわせて確認してみましょう。

 

「製品によりますが、小型のポータブルソーラーパネルの場合は、電流計がついているものが多くあります。それを見れば、今どのくらい発電しているのかが一目でチェックできます。またポータブル電源に接続して使う場合は、ポータブル電源側にどのくらい充電できているかが表示されるので、それを確認しながら、発電効率の良い角度や設置する場所を調整してみてください」

 

ポータブルソーラーパネルの選び方

続いて、ポータブルソーラーパネルの購入時に知っておきたいポイントを紹介しましょう。パネルの大きさや発電量はどのくらいのものを選べばいいのか、ポータブル電源とセットで使いたいときに注意することなどを教えていただきました。

 

・なるべく大きなパネルを選ぶ

「ポータブルソーラーパネルは基本的に、大は小を兼ねるものです。曇りの日でも、ある程度の大きさのパネルであれば多少発電することができます。そのため、予算や設置場所が許す範囲で、大きいパネルを選ぶのがおすすめです。小型の場合でも、最低A4用紙1~2枚のサイズのものを選ぶのが良いと思います」

 

・スマホやモバイルバッテリーには20W前後が必要

「発電量は、スマホやモバイルバッテリーの充電に使いたい場合は、20W前後(15~30W)のものを選びましょう。これくらいの出力があれば、通常のUSB充電器と同じくらいの速度で充電することが可能です」

 

・ポータブル電源には最低100Wが必要

一方、ポータブル電源はそれなりに出力がないとそもそも充電できないので、最低でも100W以上あるものを選ぶようにしてください。ポータブル電源のなかには、パネルを2~3枚並列接続できるものもあり、例えば100Wのパネルを3枚並べて充電すると3倍の速度で充電することができます。とはいえ、100W発電できるパネルは両手を広げたくらいの大きさがあるので、設置場所や予算によって検討してみてください」

 

・ポータブル電源とソーラーパネルのセットならより手軽

ポータブル電源と併用したいときにおすすめなのが、ポータブル電源とポータブルソーラーパネルがセットになっているものを選んで買うこと。セットだとお得に買えることもありますし、間違いなく使うことができます。違うメーカー同士でも、ポータブル電源とソーラーパネルを接続するコネクタの形状と、入出力電圧が一致していれば使用することができます」

 

ポータブルソーラーパネルのおすすめ 4選

ここからは、高荷さんに教えていただいた選び方を参考に、編集部が厳選したおすすめのポータブルソーラーパネルを紹介します。最大出力100W以上のポータブル電源の充電に適した製品、スマホやモバイルバッテリーの充電に適した20W前後の製品をそれぞれピックアップしました。

Jackery「SolarSaga 100W ソーラーパネル」
3万4800円(税込)

ポータブル電源の大手メーカー「Jackery(ジャクリ)」のソーラーパネル。Jackeryポータブル電源の全シリーズに対応しており、最大100Wで充電することが可能です。本体にUSB端子がついているのでスマホやタブレットも充電することができます。

 

【スペック】
最大出力:100W(20V/5A)
USB-A 出力:5V/2.4A
USB-C 出力:5V/3A
収納サイズ:610×535×35mm
展開サイズ:1220×535×20mm
重量:約4㎏

 

Anker「625 Solar Panel (100W)」
3万4900円(税込)

Anker(アンカー)のポータブル電源シリーズの充電に最適なソーラーパネルで、3枚並列充電にも対応。USBポートがついているので、スマホやタブレットの充電も可能です。さらに、パネル連結部に太陽の位置測定器を搭載しており、太陽の位置に合わせて最適なパネルの向きを確認しながら設置することができます。

 

【スペック】
最大出力:100W (26.5V / 3.77A)
USB-A 出力:12W (5V / 2.4A)
USB-C 出力:15W (5V / 3A)
※USB-AポートとUSB-Cポートの合計最大出力は15W
格納サイズ:約525×470×85mm
展開サイズ:約1446×525×45mm
重量:約5㎏

 

EcoFlow「160W両面ソーラーパネルGen2」
4万7300円(税込)

パネルの素材には、高効率で低劣化の「N型TOPConセル」を採用。表面が160W、背面が環境光用の125Wの出力を誇り、スピーディに充電することが可能です。またポータブル電源との互換性が高いのも特徴。パネルの収納ケースは0~180度に調整可能で、スタンドとして活用できます。防水性&耐久性にも優れており、キャンプなどのアウトドアシーンでも活躍。

 

【スペック】
定格出力:正面160W(±5W) / 背面125W
格納サイズ:615×586×32 mm
展開サイズ:615×1628×25 mm
重量:5.1 kg

 

EXHEART「フォールディング ソーラーパネルミニ 28 EXP-M28GN」
1万5120円(税込)

最大24W出力する2つのUSBポートが付いたソーラーパネル。ベランダの物干し竿、リュック、テントに吊るしたり、付属の自立スタンドを活用したりと、手軽に設置できるのも特徴です。防滴性能があるので、突然の雨でも安心。

 

【スペック】
最大出力:24W
USB-A出力(2ポート):合計5V/4.8A
格納サイズ:約236×218×40mm
展開サイズ:約887×236×20mm
重量:約880g

 

Profile

備え・防災アドバイザー / 高荷智也

合同会社ソナエルワークス代表。「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに「自分と家族が死なないための防災対策」を体系的に解説するフリーの防災専門家。講演・執筆・メディア出演も多く、防災YouTuberとしても活動をしている。著書に『今日から始める家庭の防災計画』(徳間書店)ほか多数。

BWSC(ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ)2023で東海大学が得た“日本トップで完走”以上の戦果とは?

2023年10月下旬、オーストラリアで「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」(以下、BWSC)が開催されました。通常隔年で開催されている大会ですが、コロナ禍による大会中止もあり、今大会は4年ぶり。全世界20以上の国から大会を待ちわびていた約40チームが参戦する大会となりました。

 

過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回の輝かしい戦績を獲得してきた東海大学は、大きなアクシデントを乗り越え総合5位で完走。さらに公正かつ紳士的な姿勢が評価されデイビット・ヒューチャック賞を受賞するという、大きな成果を残しました。

 

「優勝を目指していたので悔しさは残ります。でも攻めた結果、無事ゴールできたのはうれしい」と語ってくれたのは、学生代表の宇都一朗さん。今回は、2023年の大会を終えた東海大学のソーラーカーチームに大会の感想と今後の目標、そして決意を伺います。

 

気象変化や大きなトラブルを乗り越え、
無事完走できたことがなによりの喜び

 

BWSCは、オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線距離3020kmを、太陽の力だけで5日間走り続ける大会です。世界最高峰のソーラーカーレースと言われており、世界各国の大学や企業など多くの団体が集結します。

 

これまで数々の試練を乗り越えてきた東海大学のソーラーカーチーム。優勝も期待されるなかで迎えた4年ぶりの大会でした。ところが、ゴール目前でリタイアを検討するほどの大きなトラブルが発生。それを決死のチーム力で乗り越え、無事総合5位という好成績でゴールを切りました。

 

今大会はコロナ禍で2021年大会が中心になったことも影響し、初参加となった学生が大半を占めていたといいます。工学部3年生の小平苑子(そのこ)さんは、初めてのBWSCを次のように振り返ります。

 

車体の点検を入念に行う小平さん。

 

「国内の大会には参加していましたが、世界大会は初めて。初めて見る車体や技術に触れて、素直に、世界は広いんだなと実感しました。オーストラリアをたった5日で縦断するので、環境の違いにも驚きました。いろいろなトラブルもありましたが、無事ゴールできたことが本当にうれしかったです」(小平さん)

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

 

大会時に司令車から学生たちの活躍を見守っていたのは、チームを統括する木村英樹教授。大会全体を通じて、まず気象面での変化を実感したそう。

 

東海大学ソーラーカーチームを、1996年から率いて指導する木村英樹教授。

 

「今大会は、前半戦の日照量が少なく全体的に記録が悪くなったチームが多かったですね。完走できなかったチームも少なくありません。ソーラーカーレースは、気象条件に左右される大会ですが、今年は気象の他にもブッシュファイヤー(森林火災)の影響もありました。天気予測のために衛星映像を確認するのですが、火災による煙で黒い雲が発生していたんです。煙によって太陽光が遮られるため発電量は減りますし、道路に迫るほどの距離に炎が届く場所もあったほど。地球温暖化の影響を肌で感じる、そんな大会でもありました」(木村教授)

 

そう今大会の“難しさ”を総括してくれました。では今大会でチームが目にしたものとは?

 

敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

 

BWSCを象徴する
“リスペクト文化”

 

BWSCでは、意外にも参加チーム間の交流が盛ん。大会後には、ユニフォーム交換まで行われるそう。とくに東海大学のユニフォームは各国の学生から「交換してほしい」と大人気になるほど。ライバル同士であるはずの学生たちを結びつけるのは、お互いを尊重する「リスペクト文化」だといいます。

 

「コミュニケーションが盛んなことも、BWSCの魅力だと感じます。大会中はピットで作業することが多かったのですが、それでも5〜6チームと交流して、個人のSNSのアカウントを交換することもできました。初めての大会でしたが、世界中にソーラーカーが好きで、一緒に頑張っている仲間がいるのは素敵なことだなと感じています」

 

そう語るのは、チームの機械班リーダーを務める、工学部4年の小田侑斗さん 。また、今大会のチームを率いた工学部の福田紘大教授は過去の傾向と比較しながら教えてくれました。

 

「最先端の技術が集まる大会なので、正直、過去にはペナルティ合戦になっていた部分もありました。東海大学では、一貫して『フェアにいこう、技術もオープンにしていこう』、そんな精神で取り組み続けていたので、それがデイビット・ヒューチャック賞受賞にも繋がったのだと思っています。コロナ禍で大会が中止になったことで世代が一新されたこともあり、『もうそういうのはやめようよ』と、大会全体がポジティブな雰囲気に変わっていったのもあるかもしれませんね」(福田教授)

 

お互いの良いところを認め合い、仲間とともに切磋琢磨する。BWSCはこれまで以上に未来をつくり、技術と心を育む大会へ発展しているのかもしれません。

 

機械班リーダー、小田侑斗さん。

 

進化はまだ終わらない?
ソーラーカーは最先端技術の結晶

 

また、BWSCでは、優勝チームが技術を惜しみなく公開するという文化も根付いているそう。今回2連覇を達成したベルギーのInnoptus Solar Teamが優勝した要因はどこにあったのでしょうか? 佐川耕平総監督(工学部講師)に伺いました。

 

「BWSCは、技術力を競うだけでなく情報戦も行われています。大会ごとに高い技術力を発揮するだけでなく、ソーラーパネルやバッテリーに関わる最新情報やトレンドをどこまで取り入れるかも、重要な戦略になります。今回優勝したInnoptus Solar Teamは、技術だけでなく情報面、資金面でも優れていると痛感しました。もはや軍事レベルと言っていいほどの高い技術が集約されていたので、その情報を知ることができたのは大きな収穫と言っていいでしょう。
彼らの勝因をどう活かすか、また私たちがどこまで反映できるのか、そこに今後がかかってくると思います。次の大会まで2年、というと長そうですが、実は意外と時間がないのです。一度すべてを疑って、改善すべきところは改善し、いいところもより高めるためにはどうしたらいいか検討し、さらなる高みを目指していきたいです」(佐川総監督)

 

 

1996年の大会から参加してきた木村教授は、ソーラーカーの魅力を次のように語ります。

 

「20年以上ソーラーカーの進化の過程を見ていますが、『これが限界かな?』と思えば新しい技術が出てきて、面白いほどに進化が止まる気配がありません。ソーラーカーの技術ってなかなか限界が来ないんですよ。アスリートが次々と新記録を塗り替えていくように、ソーラーカーの進化も日々限界突破していく、そんな部分に魅力を感じます」(木村教授)

 

向かうは2025年!
かけがえのない経験を次の世代へ

 

大きな収穫があっただけに、2025年に行われる次回大会に向けての意気込みは強いものがある様子。最後に、これからの目標を聞きました。

 

「2019年に次いで2回目となる大会でしたが、今回はゴール地点に家族や友人が待っていてくれて、とてもうれしかったです。またともにレースを戦った仲間、日本からレースを支えてくれていた仲間たちにも感謝したいですし、帰国後もたくさんの励ましや応援の言葉をもらえて、一生の思い出に残る大会にできたと思います。うれしいことだけでなく、レースの過酷さは経験してみないとわからないこと。今回、写真や動画でたくさんの記録を残してきたので、次の世代にも『何もかもが過酷だぞ! でも楽しいぞ!』ってことを伝えていきたいですね」(宇都さん)

 

 

「自分たちが作ったソーラーカーで3000kmを走り切る……そこに携われただけでも大きな意義のある大会でした。次の世代へは、経験することでしか得られない緊張感や雰囲気を、言葉にして伝えていきたいです。僕はレース前の車検を担当したのですが、ここを通さなければレースに出られないという、今まで経験したことのない緊張感を味わいました。身をもって経験したことを次の世代へ受け継いで、知識として役立ててもらいたいです。そして次の大会では、どっしりとかまえられる自分でいたいと思います(笑)」(小田さん)

 

 

「太陽の力だけで走るってあらためて凄いことだと実感した大会でした。ソーラーカーは、SDGsなど未来を支える技術にも関わってきます。BWSCに参加して、私も社会貢献できる一員になれるかもしれない、そんな気持ちを抱くことができました。レースにおいては『自分たちが作る車体が一番だ』と自信を持つことも大切ですし、勝つ経験を積み重ねていくことの大切さを得ることができました。経験値を高めて、2年後の大会でリベンジを果たしたいです」(小平さん)

 

「ソーラーカーの大会に参加している人の多くが、学生などの若者です。新しい技術に若者たちが挑戦している、そしてリードしていると思うとワクワクしますし、あらためて素晴らしい大会でした。東海大学ソーラーカーチームを卒業して社会人になった若者の多くが、ここでの経験を活かして空飛ぶ車や電気自動車など、“未来をつくる仕事”に就いています。ソーラーカーの技術はきっと学生たちの未来を育む武器になる。挑戦であり大変な戦いであるBWSCに、今後も学生たちとともに挑み続けていきたいですね」(福田教授)

 

大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

 

宇都さんの言葉にもあった“日本からレースを支えてくれていた仲間たち”には、チームメイトだけでなく、車体を共同開発した東レやブリヂストンをはじめ、資金面や現地の宿泊等でサポートした大和リビングなど、“サポーター”の存在も不可欠。

 

[関連記事] 3000kmのデスロードを太陽光だけで疾走! 世界最高峰のソーラーカー耐久レースで世界一奪還を誓うチームの秘策とは?(GetNavi web)

 

 

次の大会は2025年! 残り2年で、東海大学のソーラーカーチームはいったいどんな進化を遂げるのでしょうか? 技術の進歩や環境変化にも対応しながら、どんな未来を描いていくのか、今から楽しみになる取材でした。@Livingでは引き続き、その活躍を追っていきます。

 

 

Profile

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・大学院生、約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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「ジェットストリーム」にカリモク家具コラボ多機能ペンが新登場! 家具の端材をグリップに再生利用した「JETSTREAM × karimoku 4&1」

三菱鉛筆は、油性ボールペン「ジェットストリーム」シリーズから、カリモク家具とコラボレーションした多機能ペン「JETSTREAM × karimoku 4&1」を11月28日に新発売します。価格は3000円(税別)で、軸色はサンセットオレンジとスチールブルーの全2色。

 

今回発売するのは、国内生産の木製家具メーカーのカリモク家具とコラボレーションし、「暮らしに、木の温もりと彩りを。自分らしさを飾る、道具選びを。」をコンセプトとした、木製家具の製造工程で生まれる木の端材をグリップに再生利用した多機能ペン。

 

木製家具製造の過程で生まれた端材の中から、サンセットオレンジにはナラ材、スチールブルーにはウォールナット材をグリップとして採用。家具と同様のウレタン塗装を施し、手に優しくなじむ仕上がりとなっています。木目や色合いに天然木ならではの違いがあり、それぞれの個性が楽しむことができ、端材と端材との継ぎ目が模様として現れるグリップもあります。グリップの側面には、「karimoku」ロゴを刻印し、カリモク家具とのコラボレーションを象徴しています。

 

カリモク家具のラインナップなどから着想を得た、深みのあるトーンのカラーを取り入れ、トレンドを感じながらも日常的に使えるデザインに仕上げています。カラー塗装部分には、ファブリック家具のように、しっとりと柔らかな手触りが印象的なソフトフィール調の塗装を採用。

 

パッケージには、本体と色を合わせたデザインが印象的な、古紙を再生利用した紙製パッケージを採用しています。

 

ボールペン4色とシャープが1本に搭載されている多機能ペンで、日常的に使いやすく、ノートや手帳、書類、資料への色分けしての書き込みに最適です。ボールペンのインク色は黒、赤、青、緑。

茶殻をアップサイクルした「茶殻紙」を使用! 伊藤園×キングジム、エコな「紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」を共同開発

キングジムと伊藤園は、伊藤園が展開する「茶殻リサイクルシステム」により開発された「茶殻紙」を活用した「紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」を共同開発。12月8日に発売します。

 

同製品は、伊藤園の「お~いお茶」などの日本茶飲料の製造過程で排出される“茶殻”をアップサイクルした茶殻紙を活用して開発した、A4サイズの紙製ホルダーです。茶殻紙は茶殻と紙パルプを混合して生産されており、通常の紙を使用するよりも紙原料の使用量を削減できます。

 

清涼でほのかなお茶の香りがあり、封を開けた瞬間から香りを楽しめるのも特徴です。今回はホルダー本体だけではなく、パッケージにも茶殻紙を使用しています。

 

ラインナップは紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)と「二つ折り紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」の2種類で、いずれも内側に茶葉のデザインをプリントしており、茶殻紙ならではの地模様により、ホルダーに収納した書類が外から見えにくくなっています。二つ折り紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)はフルート加工により表面が波状で折れ曲がりにくい仕様で、内側に名刺を差し込めるスリットが付いています。

 

紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)は10枚入りで、10枚あたりお~いお茶600mlペットボトル約3本分の茶殻を配合しています。二つ折り紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)は2枚入りで、2枚あたりお~いお茶600mlペットボトル約2本分の茶殻を配合し、紙原料の使用量を削減しています。

 

価格は、紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)が920円(税別)、二つ折り紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)が830円(税別)です。

欲しいものを必要な分だけ。話題の業態「バルクショップ」の賢い活用法と注目店

「バルクショップ」という単語を聞いたことがあるでしょうか? 一言で言えば、量り売りの店のこと。食料品や日用品を、欲しい分だけパッケージフリーで買えるのです。このスタイルは古くから存在しますが、それが昨今注目を浴びています。

 

バルクショップが注目される理由と、メリットとは? また日本、そして地域社会で果たす役割にいたるまで、北海道ニセコエリアでバルクショップ『Pyram Organics & Plants(ピラムオーガニクスアンドプランツ:以下ピラム)』を営む小長井真樹さんに解説いただきました。

 

必要なものを、必要なときに、必要な分だけ買う。バルクショップの魅力

オーストラリア・メルボルンのオーガニックストア「テラマドレ」の店内。

 

「バルク」とは、直訳すると大きさ・容量を意味する言葉。流通や小売の分野で、「バラ売り」を指します。バルク品の対義語は「パッケージ品」。つまり「バルクショップ」とは、バラ売りを行う店、店舗が仕入れた商品を消費者が持参した容器に必要な分だけ詰めて購入できる、量り売り専門店のことをいいます。これにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

 

「この買い方は、一般的なパッケージ商品と比較すると、梱包材を用意する必要がないのでコストカットにもつながる、というメリットがあります。また使い捨てられるビニール袋や包装紙などのごみが出ないため、環境への負荷を大幅に減らせるのです。近年バルクショップが増えている一因に、2015年国連サミットで持続可能な開発目標SDGsが採択され、サステナブルな暮らしに国際的関心が高まったことがあると言われています」(『ピラム』店主・小長井真樹さん、以下同)

 

バルクショップは、環境先進国と言われるドイツや北欧諸国はもちろん、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでもすでに一般化。小長井さんも、長い海外生活のなかで日常的にバルクショップを利用していたそう。

 

「アメリカの大学を卒業したあと、カナダやオーストラリアでも暮らしていた期間が長いのですが、どこでも身近なところに、オーガニック食材が売られているバルクショップがあったんです。大きなスーパーでも、店の一角にオーガニック食材が量り売りスタイルで売られているのは普通のこと。都市部に限らず、田舎でもそういうお店が1軒はありました。海外では、選択肢のひとつとしてオーガニック食材の量り売りが身近に存在しているんです」

 

ニセコに移住したとき、海外の移住者が多い地域でありながらバルクショップがないことを残念に思っていた小長井さん。ないなら自分で始めようと思いたち、2019年にピラムをスタートさせました。

 

食料品から日用品までバルクショップで手に入る商品

 

ピラムでは、さまざまな商品を量り売りのスタイルで購入することができます。オーガニックのナッツやドライフルーツ、オリーブオイルや菜種油、醤油や酢などの調味料、スパイス、小麦粉、北海道産のお米やそばの実、生はちみつ、生分解性100%の洗濯洗剤や食器洗剤など、種類も多彩。現在、国内にあるバルクショップではどのようなものが売られているのでしょうか?

 

「やはりオーガニックの食料品を取り扱っているお店は増えていますね。また、お米や野菜、調味料などはもちろんですが、洗剤の量り売りを専門にしているお店、小麦粉やシロップ、チョコレートなどの製菓材料を専門に取り揃えているお店も。日本でもバルクショップの需要は伸びているのではないでしょうか」

 

小長井さんは、バルクショップを運営するにあたり、販売する商品をどのように選んでいるのでしょうか?

 

「大切にしているのは、地域の方が必要とする日用品を揃えていくこと、そしていま自分が暮らしている北海道の生産者さんとつながりながら、地元の商品を取り扱うことです。“地産地消”を目指すことで、無駄な梱包も輸送コストも削減され、環境へのインパクトを大幅に減らすことにつながります量り売りのお店が地域の需要に応えることで、消費者が必要なものを必要なときに、浪費や無駄のないスタイルで購入できることは、とてもすぐれた買い物のスタイルだと考えています」

 

容器持参でお店へ。バルクショップでの買い物方法

 

バルクショップでは、どのように買い物をするのでしょうか?

 

「まず、商品を入れる容器を持参してお店に行くのが基本スタイルです。当店では、什器に入っている穀類やグラノーラ、調味料や洗剤なども、持参していただいた容器に自分で詰め、風袋を引いた中身の重さだけで購入いただけます。また、地元の人から使用済みのガラス瓶を回収して消毒し、ドネーションボックスに置いて無料提供も。万が一容器を忘れた場合でも、自由にこちらの容器を利用していただけます。ガラス瓶を提供してくれた方は自宅のゴミを削減できるし、買い物に来た方もゴミを出さずに買い物ができるという、環境保全のためにも効果的な方法ではないでしょうか」

 

バルクショップ愛用者の活用方法

ピラムのリピーターは普段、量り売りで購入した商品をどのように暮らしの中で活用しているのでしょうか?

 

「ニセコエリアは外国出身の方も多いので、量り売りのスタイルに慣れた常連さんが多いですね。オートミールやシリアルなど、主食となるものをキロ単位でまとめ買いされていきます。ほかには、スパイスやハーブなど、日々のお料理に使用する食材をリピート購入される方が多いです。基本的には暮らしで日常的に食べるもの、使うものをご購入いただいています」

 

とはいえ、日本ではまだ、入店してからどうしたらいいのか、戸惑う人は多いそう。

 

「日用品を買うというより、ナッツやドライフルーツをお菓子感覚でちょっとずつ購入する感じの方も多いですね。海外と日本の、量り売りに対する感覚の違いをよく感じています」

 

小長井さんがおすすめするバルクショップの活用方法は?

 

「僕は、『日常的に必要なものを必要な分量だけ買う』ということ自体が当たり前になれば、と思っています。そのために、容器を持参し、量り売り専門店で普段使いのお米や調味料や洗剤を購入するというスタイルが浸透していけばいいと思うんです。とはいえ、いろいろな価値観や考え方があるので、量り売り専門店が普段使いの選択肢のひとつになるまでには、それなりに時間がかかるのでは、とも感じています」

 

注目のバルクショップ 5

全国に広がるバルクショップ。ここでは環境保全への取り組みも注目されているバルクショップを紹介します。

 

■ 斗々屋京都本店

「地球一個分の暮らしを全国に」日本初のゼロウェイストスーパー
斗々屋の京都店は、2021年に誕生しました。鴨川に程近い、京都本店の広々とした店内では、「オーガニック」「フェアトレード」「ゼロウェイスト」の基準で選ばれた生鮮食品、野菜、調味料、乾物、洗剤など700品目を販売。国内最先端の量り売り機械システムを導入し、初めての人でもスムーズに容器持参での買い物ができます。「地球一個分の暮らし」をコンセプトに、サステナブルな消費や生活のあり方を全国に広めることを目指しています。

 

【Shop Info】

所在地=京都府京都市上京区河原町通丸太町上ル出水町252番地 大澤事務所ビル1F
営業時間=スーパーマーケット11:00〜19:00、カフェ11:00〜14:00、イートイン11:30〜18:00、ワインお料理&夜カフェ「pas mal」18:00〜23:00
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■ ビオセボン麻布十番店

バルクフーズをもっと楽しく!「地球環境に優しいお店」
「オーガニックを日常に」をテーマに品揃えした、パリ発のオーガニックスーパーマーケット「ビオセボン」。2016年の日本上陸1号店「麻布十番店」をはじめ、全店とオンラインストアで量り売りを導入。無漂白・砂糖添加なしのドライフルーツやチョコレートなどが90種も並びます。その中身は本格的で、世界一基準が厳しいと言われるオーガニック認証「デメター」取得のトルコ産イチジク、自家発電で工場機器の運転をまかなうDixon Ridges Farms社の生クルミなど、環境保全を理念とする企業の商品のみを販売。専用の紙袋を使用し、プラスチック包装資材削減に貢献。自由が丘店、旗の台店では持ち込み容器にも対応しています。

 

【Shop Info】

所在地=東京都港区麻布十番2-9-2
営業時間=9:00〜22:00
定休日=年中無休
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■ オリエンステラ横浜元町店

環境と社会に配慮した美の追求
東洋人に合うオーガニック成分を厳選し、生分解性の高いシャンプーやコンディショナーを販売するオリエンステラ。ポンプを別売りとして再利用を推進し、ボトルにも燃やすときの二酸化炭素を軽減するバイオマスプラスチックボトルを使用することで環境負荷を低減。横浜元町店ではシャンプーとコンディショナーを量り売りで購入することができます。安心安全な成分のシャンプーを、必要な分量だけ購入し、容器も再利用する。美の追求と同時に、エシカルな消費の形を実現しています。

 

【Shop Info】

所在地=横浜市中区元町1-18-5 レフィナード元町3F
営業時間=10:00〜18:00
定休日=不定休
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■ ecostore アトレ恵比寿店

自然由来の原料にこだわるニュージーランド生まれのエコブランド
ecostoreは、ニュージーランド発祥の地球にやさしいホームケアブランド。植物・ミネラル由来の原材料を厳選して調達し、家庭用洗剤にも食べ物と同等の安全性を約束しています。サトウキビ原料の外容器「カーボンキャプチャーパック」を採用し、環境への配慮を徹底。ecostoreアトレ恵比寿店は世界に2拠点しかないエコストアのスペシャリティショップで、プラスチックごみ削減を目的とするキッチン、ランドリーなどのリフィルステーション(量り売り)が設置されています。

 

【Shop Info】

写真はニュージーランドの店舗。

所在地=東京都渋谷区恵比寿南1−6 アトレ恵比寿西館2F
営業時間=10:00〜21:00
定休日=年中無休
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■ にじのおもちゃ屋レーゲンボーゲン

子どもにやさしいおもちゃ店の量り売り
北欧を中心とした自然素材のおもちゃを取り扱う、にじのおもちゃ屋レーゲンボーゲン。店主の小池さんは、木の実や落ち葉、トンボやトカゲなど、子どもたちと一緒に身近な自然に触れ合いながら遊ぶうちに、自然環境を守る大切さについて考えるようになったと言います。主業はおもちゃの販売ですが、自然を子どもたちに残したいという思いと同時に、今ある環境課題への気づきにつながればと考え量り売りコーナーを設置。お腹がすいたときに、必要な分だけ購入できる量り売りのお菓子は、オーガニックのナッツやドライフルーツなど、素材そのもののおいしさを感じられるラインナップ。やさしい味に満たされながら、親子で環境保全を考えるきっかけになっています。

 

【Shop Info】

所在地=千葉県千葉市若葉区大草町535
営業時間=月曜・火曜10:00〜16:00、金曜10:00〜20:00、土曜9:30〜13:00
定休日=水曜、木曜、日曜、祝日
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バルクショップで買うことが環境保護につながる

「僕は、バルクショップで買い物をすることが環境問題への関心を深めるきっかけになれば、と考えています。ピラムにはお客様が容器を持参してくれたら、商品購入額から1%割引するという容器持参割引システムがあります。容器を持参したお客様の数とその割引額を算出し、割引額と同額を環境保護団体1% for the planetに寄付します。実際賛同者も増えていて、このスタイルがきっかけになって容器を持参される方もどんどん増えているんです」

 

容器を持参することで商品が割引になる上に、ただ使い捨てられるだけの梱包材のゴミも出さず、いま必要なものを必要な分だけ購入することで無駄もなくなる……バルクショップでの買い物が環境保護につながっていくという好循環。お財布にも地球にもやさしい、理想的な買い物のスタイルがここにあります。

 

「バルクショップでの買い物が、お店にも、お客様にも、社会にも、地球環境にも良い、“四方良し”の形になっていく。これがオーガニック食材や量り売りがもっと身近に感じられるきっかけになればと思っています。表向きだけではない、真の意味でサステナブルな社会を作っていくために大切なことではないでしょうか」

 

 

各企業の真摯な環境保全への取り組みを理解すると、バルクショップで買い物をする意義をより実感することができます。ゴミを減らす以外にも、量り売りは少量から買えるので、気になる商品を気軽に試せる楽しみもあります。また、必要量を見極めたりじっくり商品を選んだりすることで、無駄買いを減らせるというメリットも。本当に必要なもの、好きなものに囲まれた暮らしは心地良いもの。まずは空き瓶を片手に、気になるバルクショップへ出かけてみませんか?

 

Profile

バルクショップ『ピラムオーガニック』店主 / 小長井真樹

アメリカの大学卒業後、ワーキングホリデーを利用し、カナダ、オーストラリアで海外生活を送る。メルボルン在住期間に、現地のオーガニックストア「テラ・マドレ」に大きな影響を受け、身近に環境負荷を減らすオーガニックストアがあることの大切さを感じるようになる。ニセコエリアに移住後、地元でオーガニックストアの必要性があることを感じ、オーガニックストア「ピラムオーガニクス&プランツ」をスタート。梱包費や輸送コストも大幅に削減できる地産地消を大切にし、ニセコエリアの人たちが本当に必要としているものを、環境負荷を減らすスタイルで提供している。

 

Store Info

Pyram organics & Plants

所在地=北海道虻田郡倶知安町3丁目北1条西11
営業時間=10:00〜19:00
定休日=木曜
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3000kmのデスロードを太陽光だけで疾走! 世界最高峰のソーラーカー耐久レースで世界一奪還を誓うチームの秘策とは?

ブリヂストンがタイトルスポンサーを務める「2023 Bridgestone World Solar Challenge(以下、BWSC)」は、オーストラリアのダーウィンからアデレードまでの約3000キロの道のりを、太陽光のみで走行する世界最高峰のソーラーカーレース。

 

2021年は新型コロナウイルスの流行により中止されましたが、今年4年ぶりに復活します。2023年10月22日から5日間をかけて競われるBWSCは、全世界20以上の国と地域から43チームが参加し、日本からも大学や高校など複数がエントリーしています。とくに2009、2011年と連覇経験のある東海大学は、人気・実力ともにトップクラス! 世界一を期待されているチームのひとつです。

【関連記事】大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由 |@Living

 

今回は、レースを前に先日、東京都小平市にあるBridgestone Innovation Parkで開催された「Bridgestone Solar Car Summit 2023」の様子を紹介。東海大学の新型マシン「2023年型Tokai Challenger」のお披露目と試走会の様子から、チームやサポートするブリヂストンが4年ぶりのBWSCへかける意気込みまでをレポートします。

 

ソーラーカーの進化は「タイヤ」にあり!?

↑ブリヂストンは新技術によって生まれた再生資源・再生可能資源比率63%の新タイヤをモータースポーツに初めて供給する

 

BWSCは、1987年に第1回大会が開催された世界で最も歴史があるソーラーカーレース。2013年からブリヂストンがタイトルスポンサーを務めています。大会期間中は、毎朝8時~夕方17時までオーストラリアの公道を太陽の力だけで走行。砂漠の中を走るため、風や激しい気温変化に対応しながら、チーム一丸となってゴールを目指します。

 

1996年から東海大学ソーラーカーチームに所属する東海大学 木村英樹教授によると「ソーラーカーレースは、ブレインスポーツ。常にベストなコンディションで走行するためには、気象条件の把握やドライバーとのコミュニケーションが必須。チームで戦わないと勝てません。BWSCは、若手エンジニアの育成だけでなく、テクノロジーの共創といった観点からも大変重要な大会です」といいます。

↑東海大学ソーラーカーチームを率いる、同大学工学部機械システム工学科・木村英樹教授

 

またレーシングカーや飛行機などに用いられるカーボンコンポジット技術を開発する東レ・カーボンマジック株式会社の奥明栄氏も「ソーラーカーは、走る実験室。これらの経験や実験が、ものづくりに貢献する」と語り、未来のモビリティ開発との関係性を強く訴えていました。

↑東レ・カーボンマジック株式会社の奥明栄代表取締役社長

 

さらに株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門長である堀尾直孝氏は「BWSCは、世界中のハイレベルな技術と人が集結する大会。サステナブルなモータースポーツとして価値あるプラットフォームにしていきたい」と、大会の意義について語ります。

↑株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門長の堀尾直孝氏

 

そんなソーラーカーレースの歴史の中で、大きく進化しているのはどこなのでしょうか?

 

木村教授によると、一番の進化はタイヤにあるとのこと。というのも大会の初期には、自転車のタイヤが代用されており、ソーラーカー専用のタイヤは開発されていませんでした。ソーラーカーレースでは、なるべく少ない電力で効率よく走行することが求められます。タイヤが大きく重たいと、タイヤを動かすために必要以上の電力が使われてしまうため、非効率に。しかし軽さにこだわりすぎるとパンクしてしまうリスクが上がります。軽くて摩耗しにくい、そんなタイヤが求められていました。

 

このような背景を踏まえ、タイトルスポンサーであるブリヂストンでは、2013年大会からソーラーカー専用のタイヤ供給を開始。2023年大会では、35チームにタイヤを提供する予定です。

 

↑メディアに初公開された、東海大学ソーラーカーチームの新車「Tokai Challenger」。採用するタイヤには、ブリヂストンの商品設計基盤技術「ENLITEN」を搭載している。左端は工学院大学の濱根洋人教授

 

今大会から使用されているブリヂストンのタイヤは、カスタマイズが可能な「ENLITEN」技術を採用。ソーラーカーで重視される「低転がり抵抗」「耐摩耗性能」「軽量化」に特化したタイヤになりました。さらに再生資源・再生可能資源使用率(MCN比率)も向上し、より環境にやさしいタイヤを実現しています。

 

リサイクル可能な再生材料を利用し、よりサステナブルなソーラーカーを実現

↑「Tokai Challenger」を前に勢ぞろいした東海大学ソーラーカーチームのメンバーたち

 

大きく変わった点は、3つ。まず、四輪から三輪への変更です。こちらはルール変更により、これまで四輪のみ走行可能だったものから、三輪も選択できるようになったとのこと。東海大学では、初の試みとなる三輪(前2輪、後1輪)を選択しました。

 

東海大学の佐川耕平総監督は「最後まで悩んだ部分でしたが、さまざまなシミュレーションを行い、経験値も踏まえつつ空気の絞りが利く三輪を選択しました。大きなチャレンジではありますが、正しい選択だったかはこれからわかること。楽しみですね」と話します。

↑新車で東海大学が採用したのは、新レギュレーションの三輪。後輪が1本で、軽快さが増した

 

2つ目は、軽量化。2023年型は強度・剛性を保ちながら、車体全体重量を24.6kgにまで軽減! これは前回大会の車体から約50%の軽減に値します。軽くなった分、バッテリーやモーターなど駆動に関わる部分の向上にも貢献することができました。

↑軽量化が進んだコンポジットパネル

 

最後は、環境への配慮。これまでリサイクルが難しいとされていた炭素繊維をリサイクル可能な再生材料へと変更しています。

↑リサイクル材からなる炭素繊維

 

走行時、二酸化炭素を排出しないソーラーカーですが、使う素材にまでこだわるのは、BWSCが持続可能なソーラーカーレースに変化しているとも言えますね。

 

コロナ禍の悔しさと走れる喜びを胸に、目指すは世界一奪還!

↑2023年型「Tokai Challenger」

 

今回は新型マシンが披露されただけでなく、実際に走行する様子も見ることができました。快晴の中、滑るように走り抜けるソーラーカーは、太陽の力だけで走行しているとは思えないほどの力強さがありました。

 

BWSCでは、5日間ドライバーを交代しながら時速約90キロで走行し続けます。砂漠の中を走ると聞くと気持ちよさそうに感じてしまいますが、車内にクーラーは搭載されていないため、ドライバーは体力勝負になることも。またコース付近にはホテルがないため、参加者は自分たちでキャンプ地を決め、料理など身の回りのことも全てチーム内で行います。非常に過酷な大会のため、いくら技術があったとしてもチーム力がなくてはゴールを目指せません。

 

今大会でチームリーダーを務める東海大学大学院2年生の宇都一朗さんは、2019年のBWSC経験者。今大会に向けて以下のように話してくれました。

↑東海大学ソーラーカーチームのリーダー、宇都一朗さん。右は佐川耕平総監督

 

「2019年大会は、1位と僅差で負けてしまいました。残念ながらすぐにリベンジとはいかず、悔しさを晴らせないまま卒業していった仲間も多くいます。その仲間のためにも、2011年以来となる首位奪還を目指したいです。この4年間でいろんな経験ができました。たくさんのスポンサーさまにも支えていただきやっと大会に参加できるという嬉しさと、リベンジしたい気持ちを胸に頑張ります」

↑この日は、スポンサーの東レ株式会社、東レ・カーボンマジック株式会社、大和リビング株式会社、株式会社ブリヂストンが参加

 

大学生は4年間という限られた時間の中で、BWSCに挑戦しています。2021年大会が中止になったことで、BWSCに参加できないまま卒業してしまった学生も多くいます。悔しい時期を乗り越え、さらにパワーアップした学生たちを応援しましょう。大会はこの週末から来週にかけて、現地での静的・動的車検などを経て、いよいよ10月22日に北端のダーウィンでレース初日を迎えます。10月29日に南端のゴール地点アデレードで予定されている表彰式では、一番高いところに上れるか? 期待が高まります。

 

エコ&コンパクトになって登場! 液状のり「アラビックヤマト」に、小型でかわいい「補充用パック」が仲間入り

ヤマトは、コンパクトサイズの補充用液状のり「アラビックヤマト 補充用パック」を、8月8日から発売します。価格は450円(税別)。

 

液状のり「アラビックヤマト」は1975年に発売し、これまで様々なバリエーションを販売しています。「補充用」は、容器を捨てることがもったいないという利用者の声から生まれ、現在も発売中。近年は働き方の変化や、SDGs教育の広がりによる環境意識の高まりから、家庭での補充として、従来の大容量タイプのほかに、より少量でコンパクトな補充用を求める声があったそうです。

 

今回新たに発売となる補充用パックは、内容量130mlで、自立するマチつきのパックタイプの容器を採用。既存の補充用(NA-960)と比較し、容器のプラスチック使用量約77%削減と、環境に配慮しています。

↑右側2つが補充用(NA-960)

 

アラビックヤマト容器口部分と補充用パックの注ぎ口がぴったりサイズなので、安定した補充が可能。「スタンダード」「エル」「ジャンボ」「ツイン」「さかだち」に補充できます。

「海の日」に発売! 海に思いをはせたくなるエコマーク認定ボールペン「ジェットストリーム 海洋プラスチック」

三菱鉛筆は、油性ボールペン「ジェットストリーム」シリーズから、日本国内で回収された海洋プラスチックごみと使い捨てコンタクトレンズの空ケースをリサイクルした「ポストコンシューマープラスチック」を ボールペン軸に採用した「ジェットストリーム 海洋プラスチック」単色タイプを、7月17日の「海の日」に一部数量限定で発売します。価格は220円(税別)。

 

同製品は環境に配慮したノベルティ専用製品として、2022年7月に受注開始。多くの要望が寄せられたことから、継続色1色に限定色2色を追加した全3色の一般販売を、全国の店頭で開始します。

 

本体の軸材は、海洋プラスチックごみからなる再生樹脂とコンタクトレンズの空ケースを用いた再生樹脂からできており、ほぼ100%ポストコンシューマー材で構成しています。ポストコンシューマープラスチックと当社独自配合技術を採用することで、“単一の部材のみで”同社既存の製品と同等の品質を保持することができる仕様となっています。

 

軸色は「変わっていく海の情景」をイメージしたワントーンカラーを採用した全3色。ライトブルーは穏やかな海をイメージしており、新色のコーラルとターコイズは、刻々と少しずつ表情が変わっていく海の情景をイメージ。表面に海洋プラスチックごみの一部が点や模様として表出するものもあり、自然由来の素材が感じられる風合いも特徴です。

 

マットな風合いが日常生活にもなじむミニマルな軸デザインで、「メビウスの輪」をイメージしたクリップ形状は、循環や再生を表現しております。

 

また、ライトブルーはエコマーク商品類型No.164「海洋プラスチックごみを再生利用した製品」の認定を取得。手に取った人が環境配慮に関心を持つきっかけになってほしいという思いも込められています。

気象予報士が解説する日本の天気予報の最先端と「世界気象デー」に学ぶ世界の気候変動

酷暑にゲリラ豪雨、相次ぐ超大型台風による被害……。日本における近年の不安定な天気は、地球規模の気候変動と切っても切れない関係があるようです。そこで@Livingが注目したのは、毎年3月にある「世界気象デー」という記念日。これをヒントに、日本気象協会の気象予報士・齊藤愛子さんが、気候変動と日本の天気の現状を教えてくれました。

 

『世界気象デー』のテーマが気候変動を知るヒントに

『世界気象デー』とは、いったいどんな日なのでしょうか?

 

「以前は、世界各国の気象業務はいまと違って国ごとの連携がなく閉鎖的なものでした。これを世界で標準化し、各国間の気象情報を効果的にシェアするために発足したのが、世界気象機関(WMO)という国連の専門機関です。『世界気象デー』とは、そのWMOが1950年の3月23日に世界気象機関条約が発効したことを記念して、1960年に制定されました。。WMOは気象業務や地球における気候変動について、人々の理解促進を目的としたキャンペーンを行っています」(気象予報士・齊藤愛子さん、以下同)

 

世界気象デーには毎年、異なるテーマを設けてキャンペーンを展開。2023年のテーマは『世代を超えた気象、気候、水の未来』となりました。そもそもこのテーマは、どのように決めているのでしょうか?

 

「気象庁の方にお聞きしたところ、毎年6月頃に会議によって翌年度のテーマが決まるそうです。今年はWMOの前身である国際気象機関(IMO)の創立から150周年のアニバーサリーイヤーで、これまでの気象業務の歴史と将来の発展を見据えたテーマになっているようですね。
なかでも重要とされる気候変動のひとつが、みなさんもご存知の地球温暖化。地球全体で海水温が上昇することで水蒸気の量が増え、長期にわたる雨や豪雨が世界的にも増えていることから、『水の未来』というキーワードもテーマに掲げられています」

WMOの公式サイトより

 

つまり、毎年変わる『世界気象デー』のテーマには、地球の気候変動にまつわる最新のトピックスが盛り込まれている、ということになります。

 

「たとえば2022年のテーマは『早めの警戒、早めの行動』でしたが、その背景として国連は2022年3月に早期警戒イニシアチブを発表しています。日本では、災害につながるおそれのある大雨などが見込まれるとき、早期に警戒アラートが出て情報が発信されますよね。でも世界の全人口のうち約3分の1の人々は、そういったシステムがまだ十分に普及していない地域で暮らしているのです」

 

アラートの有無は、人の命に関わること。近年の地球温暖化に起因する気候変動の大きさは、やはりそれだけ警戒を強めなければならないレベルにあるようです。

 

「日本に暮らす私たちも、ゲリラ豪雨の発生や連日の熱帯夜など、天気を通じて何か異変が起きている、と痛感することが、年々増えているのではないでしょうか? ここで、地球温暖化が確実に進行していることを示すある報告書をご紹介しましょう」

 

地球の気温は、過去2000年間で前例のない速度で上昇している!

「次のグラフをご覧ください。これは2021年の8月に、『IPCC』という国連気候変動に関する政府間パネルが公開した『第6次評価報告書(AR6)』に掲載されたグラフの日本語訳です」

 

世界気温変化と直近の温暖化要因(IPCC AR6 WG!Figure SPMI Panel b) 出典=IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁)

 

「このグラフは、世界の平均気温上昇の変化を、太陽活動の変化や火山の噴火といった『自然起源』のみの場合と、温室効果ガスの増加や森林伐採、土地利用の変化といった『人間活動による影響=人為起源』を加えた場合とで、わかりやすく比較しています。

 

2011年〜2020年までの直近10年で、世界各地での地表面温度は、産業革命前(1850〜1900年)に比べて1.09度上昇しているんです。その主たる原因が、人間活動にあるということが明確になってきたわけですね」

 

ここ10年の気温上昇は、人間活動による影響が大きいことが一目瞭然です。

 

「この報告書でもっとも注目すべきは、『地球温暖化の原因は人間の活動によるものだ』と断定したことでした。そして昨今の地球の気温は、少なくとも過去2000年間で前例のない速度で上昇していると報告されています。実際に産業革命前と比べて大雨は1.3倍、干ばつは1.7倍増えているというデータもあります。気温上昇も1.09度……というとあまり大きな数字には思えないかもしれませんが、仮にこれが1.5度まで上昇すると、50年に1度あるような暑い日が、いまの約2倍も発生すると予想できます。そうなると海水温はさらに上昇し、世界的にもっと雨が増えることになるでしょう」

 

世界人口が未だ増え続けている背景をふまえると、気温は今後も上昇していきそうです。一方、日本に限定すると、気候変動の現状はどうなっているのでしょうか?

 

「日本の気候変動は、気象庁が公表している『日本の気候変動2020−大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書−』に詳しく掲載されています。大気中の温室効果ガスは年々増加傾向にありますし(図2)、21世紀末には年平均気温が約1.4〜約4.5度まで上昇、激しい雨や台風もますます増えていくことが予想されています」

 

日本国内における待機中の二酸化炭素濃度『日本の気候変動2020ー大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書ー』 出典=文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2020」

 

もはや、冷夏なんて過去のものになってしまうのでしょうか?

 

「実は、そうともいえないのが気候の難しいところです。というのも、日本の夏が猛暑の年には、地球のどこかが冷夏に見舞われるといったように、天気は地球全体でバランスをとっているのです。これは温暖化や気候変動においても同じことがいえます。たとえば日本でいくら人口が減って環境負荷が抑えられたとしても、世界規模で人口が増え続けて温暖化が進行すれば、その影響はゲリラ豪雨のような異常気象となって世界各地に及びます。とはいえもちろん、環境に配慮した取り組みは、これからも我々が推進していかなければならないことです」

 

日本の夏は今年も暑い!? “平年並み” はもはや安心できない

ちなみに、今年の夏もやっぱり “暑い” のでしょうか?

 

「今年の夏も暑くなりそうです。日本気象協会の「梅雨入り予想」では、梅雨前線の北上は平年と同様か早い傾向で、今年の梅雨入りは、沖縄や九州から東北にかけて平年並みか平年より早い見込みです。そして、6月から7月の太平洋高気圧の北への張り出しは順調で、今年の梅雨明けは平年並みか平年より早い傾向と見込まれます。平均気温は6月と7月は平年並みか高く、蒸し暑い日が多くなる予想です。
また、夏に発生が予想されるエルニーニョ現象の影響で、盛夏に「梅雨の戻り」のような天気となる可能性が考えられます。梅雨明け後も、局地的な大雨や日照不足などに注意が必要となりそうです」

 

この気象予報における “平年” とはどういう意味なのでしょう? たとえば「平年並みの気温」なら、それほど暑くならないと捉えていいのか、というとーーー

 

「平年値とは過去30年間の平均なのですが、実は10年ごとに更新されるのです。期間は西暦年の1の位が1の年から10年後まで。ですから2023年現在の予報でいう『平年値』は2021年に更新されています。つまり1991〜2020年の平均ということ。そこには近年の酷暑、ゲリラ豪雨が多い夏の気候などもカウントされているので、雨量が『平年並み』だからといって大雨が降らないわけではないし、気温が『平年並み』でも、危険な暑さになる可能性はあるということになります」

 

いわゆる “酷暑日” も、珍しくなくなっていきそうです。

 

「そうかもしれません。そもそも『酷暑日』は、われわれ日本気象協会が2022年の夏に提唱した用語なんです。気象庁では最高気温35℃以上のことを『猛暑日』と呼称していますが、2022年の夏は全国で観測史上初めて6月に40℃を観測しました。また、近年は夜間の最低気温が30℃以上となる日もあります。もはや『猛暑日』や『熱帯夜』という用語では足らないのではないかということで、日本気象協会の気象予報士が検討して独自に使い始めたのが、最高気温40℃以上の『酷暑日』と、最低気温30℃以上の『超熱帯夜』という用語なんです」

 

今までよりも、ひとつ上の暑さのランクが必要になってきているのだそう。

 

「日本の気象観測において40度の気温は何回か記録がありますが、そのうちの9割を直近の20年間が占めているんですよ」

 

※「酷暑日」「超熱帯夜」は日本気象協会が独自でつけた名称であり、気象庁が定義しているものではありません。

 

進化する天気予報を使って危険やリスクから身を守る

つまり、気候変動に合わせて、天気予報も進化していくというわけです。

 

「最近だと天気予報で『観測史上初』といった言葉を聞く機会が増えつつあると思うのですが、われわれはこういった事情も情報に反映しています。最近よくある大雨の予報においては、日本気象協会独自の情報である『既往最大比(過去最大値との比)』というデータを活用するようになりました」

 

「既往最大比」とは……

たとえば雨量でいうなら、いま降っている雨がこれまでの観測史上で最大かどうかを、ひとめでわかるようにしたデータのこと。

「大雨がよく降る地域と、雨自体があまり降らない地域においては、同じ雨量でも災害につながるリスクも変わってきます。それを知っているかどうかで、いざというときの行動にも変化が生まれます。実際に過去最大雨量の150%を超えた場合、犠牲者の発生数が急増する可能性があり、災害発生危険度が極めて高くなることが研究で分かっているんですよ」

 

※既往最大比とは、解析雨量が1kmメッシュ化された2006年5月以降に観測された雨量の最大値との比のこと
※研究とは、日本気象協会と静岡大学牛山素行教授との共同研究の結果。(本間基寛,牛山素行:豪雨災害における犠牲者数の推定方法に関する研究,自然災害科学,Vol. 40,特別号,pp. 157-174,2021.

 

気象予報の精度自体も、年々進化しているそうです。

 

「われわれ気象会社は、気象庁が発信する情報を受けて、各社が用いる独自の予測モデルを駆使して天気予報を発表しています。とくに日本気象協会では、最近になって統合予測モデルというものに切り替えたのですが、これは国内外のさまざまな予測モデルの情報を統合し、精度の向上を目指したモデルです。というのも、予測モデルには「予測の癖」があるんですよ。「予測の癖」は、季節や地域によって日々変化するので、この変化に対応し精度の良い予測になるよう補正しているんですよ。様々な予測モデルの「予測の癖」を補正しつつ、いいとこ取りをしたのが、日本気象協会の『JWA統合気象予測』になります」

 

↑「JWA統合気象予測」の成り立ち

 

気象庁、あるいは民間の会社によって予報の内容に差があるのは、予測モデルの差でもあるわけです。となると、ユーザーとしてはどれを信頼すればいいか迷うところ。

 

「各社の予報をインプットしておいて、総合的に考えるというのが正解に近いのかなと思います。天気予報にも “セカンドオピニオン” があると安心というか、どの予報もしょせんは予報であって絶対ではありません。1社だけが雨の予報を出しているなら、雨の可能性もあるなとインプットしておけば、行動の対策も立てられるということですね」

 

天気リテラシーの向上は “環境にいいこと” につながる

日本気象協会のtenki.jpでは、ユニークな指数情報も豊富。

 

「ユニクロさんとのコラボで実現している『エアリズム予報』や、『ヒートテック指数』は、SNSなどでも話題となり、ご好評をいただいているようです。これらは気温に適した機能性インナーを活用するうえで、参考にしていただける独自の指数なのですが、こういった情報も冷暖房器具の省エネなど、回り回って環境に配慮した行動につながっていくのではと期待しています」

↑日本気象協会がユニクロに働きかけて実現した「エアリズム予報」

 

↑そしてこちらはと「ヒートテック指数」。より暮らしに密着した実感をともなう予報といえます

 

天気予報から正しい情報を収集することは、災害から身を守るだけではなく、地球環境の保護という側面から考えても、今後ますます重要な行動になっていきそうです。

 

「私もプライベートでは3歳と5歳の子どもを育てていますが、仕事柄、彼らが大人になるころ日本の気候は、そして世界は果たしてどうなっているのか、考えてしまうことがよくあります。そこで、子どものうちからお天気リテラシーを高めるような、日々の会話を大事にしていますね。たとえば空を見たときに飛行機雲がなかなか消えなかったら、湿度が高いから天気が降り坂になることが多い。『飛行機雲が残っているから、雨がくるかもしれないね』って、一緒に空を見ながら、そんな会話をするだけでもいいと思いますよ」

 

 

プロフィール

日本気象協会 気象予報士 / 齊藤愛子

一般財団法人 日本気象協会で、放送局やデジタルサイネージ等の企画・開発に従事。tenki.jpのプロモーションをはじめ、フジテレビ『AI天気』、日本テレビ『じぶんごと天気』などのコンテンツ企画なども手がける。出身は特別豪雪地帯である長野県信濃町。
日本気象協会 HP


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SDGsを先取り! チャールズ英国王が半世紀前から陰口を叩かれても地球環境保護を訴えた理由

2015年9月、ニューヨークの国連本部で行われた国連持続可能な開発サミットで制定された17の目標『SDGs』は、「このままでは地球はもたない」あるいは「地球に人類が生きられなくなる」ことを周知させ、世界中の多くの人が意識や暮らしを見直すきっかけとなりました。ところが、そこからはるか半世紀以上も前から地球環境の危機的状況を憂慮し、環境保全のための活動を続けてきた人物がいます。

 

それが、2023年5月6日に戴冠式が迫る、イギリス国王のチャールズ3世です。日本ではあまり知られていないことに筋金入りの環境活動家であるチャールズ国王のサステナブルな姿勢から、学べることとは?

 

半世紀前……当初は孤独な戦いだった

チャールズ国王が地球環境の保全に関心を持ったのは1960年代後半頃だと話すのは、イギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史を専門とする関東学院大学の君塚直隆教授です。

 

「国王がケンブリッジ大学の学生だった20歳の頃には、地球環境についての考えをお持ちでした。国王は夏になると、2022年9月にエリザベス女王が亡くなったスコットランド北部のバルモラル城で過ごし、クリスマスから年初にかけてのホリデーシーズンにはイギリスのノーフォーク州にあるサンドリンガムで過ごしていました。いずれも大自然に囲まれた環境です。こうした場所で幼少期を送られたことが、のちに地球環境の保全について考えるきっかけになっているのではないでしょうか。また、国王のお父様である亡きエディンバラ公も世界自然保護基金の総裁を長年務めていたこともあり、徐々に関心を深めていかれたのではないかと思います」(関東学院大学教授・君塚直隆先生、以下同)

 

英国の皇太子といえば、いずれは世界15か国の英連邦をはじめとする多数の領土に君臨する存在。その影響力をもって地球環境の保全を声高に叫べば、一大ムーブメントになりそうですが……。

 

「SDGsが広まった今でこそ、世界中に賛同者がいますが、55年も前のことです。当時、チャールズ国王が森林破壊や大西洋の汚染、魚の乱獲について訴えても、多くの人びとにとって、それは身近な話題ではありませんでした。彼の環境保全への情熱を、“変わり者”だと揶揄する人は少なくなかったのです」

 

そして、ようやく時代が追いついてきた

↑2015年12月1日、COP21でスピーチするチャールズ皇太子(当時)

 

チャールズ国王は1976年に海軍将校から退役すると、「皇太子財団(The Prince`s Trust)」を設立。経済的に恵まれない青少年のための職業訓練の場を設けました。

 

「皇太子財団設立以降は、子どもたちの絵画教育や青少年の芸術教育、国際的な実業家の育成、医療健康の推進など、さまざまな支援団体を立ち上げました。それらの団体は統轄され、今では年間150億円以上もの事業運営に貢献する、イギリス最大級の事業団体に成長しています。しばらくは皇太子財団の活動に忙しくしていた国王でしたが、1980年代に入って国連が地球温暖化に警鐘を鳴らすようになり、1992年に国連気候変動枠組条約が採択され、地球温暖化対策に世界全体で取り組んでいくことに合意してからは、再び地球環境の保全にコミットしていきました。近年では、国連気候変動枠組条約に基づき毎年開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に可能な限り参加し、スピーチを行ってきました」

 

チャールズ国王は、皇太子財団のほかに、どのような活動を続けてきたのでしょうか?

 

「気候変動に対する取り組みをする財団をいくつも立ち上げてきました。なかでも主たるものが、熱帯雨林の保全を行う財団です。多くの企業から賛同を得たり、銀行から資金調達をしたりして、各国の首脳に呼びかけてきました。また、思いを同じくするハリソン・フォードやメリル・ストリープ、ロッド・スチュワートなど世界的スターの力も借りてプロモーションのための映像を作るなど、若い人たちに関心を持ってもらうための活動を続けました。さらに、熱帯雨林の減少を食い止めるには熱帯雨林が分布する中南米やアフリカ、南太平洋など途上国への支援が欠かせないとし、それらの国々の貧困の克服と自立をサポートする重要性についても言及しました」

 

SDGsが誕生し、「サステナブル」という言葉がようやく定着した今、チャールズ国王には先見の明があったことが立証されたわけです。

 

「今では世界中の首脳たちが、チャールズ国王が環境問題のエキスパートであることを認識しています。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんも、チャールズ国王には畏敬の念を抱いています」

 

まるで桃源郷!?
国王の庭「ハイグローヴ・ガーデン」

チャールズ国王による地球環境保全のための活動は、自身の暮らしにも根付いています。チャールズ国王が有機農法による植物の栽培や動物の飼育を行うハイグローヴは、生物多様性が息づき、持続可能性が確保された場所となっています。

 

「ハイグローヴはイギリスの南西部、グロースター州にあり、チャールズ国王が若い頃に友人から買い取ったお屋敷と庭を整備・拡張し、広大な庭園と農場にしました。ハイグローヴでは、化学肥料や殺虫剤、除草剤には頼らず、有機農法に基づく農業を行い、有機農法による安全な餌を食べる鶏や牛、豚などを飼育しています。また、邸内の電気には再生可能エネルギーや太陽光パネルを用いています。邸宅やレストランなどの暖房設備は敷地内で採れる薪を使っていますし、農場やトイレ用の水は、雨水を使っています。そしてゴミになるような木材や金属は一切使いません。環境負荷がなく、できるだけ自然に近い状態であることを大切にしているのです」

 

このハイグローヴには、レストランや売店があるそう。

 

「売店では、農場に放し飼いにされている鶏が産んだ新鮮で安全な卵をはじめ、野菜や果物、肉類、ハーブティーなどが売られています。そして、こうした販売収益もまた、国王の慈善団体に寄付されています」

 

英国王室による十人十色のSDGs

チャールズ国王の精神。家族でもある英国王室に、どのように受け継がれているのでしょうか?

 

「国王の精神を直接的に受け継いでいるのはウィリアム皇太子でしょう。祖父であるエディンバラ公の影響もあると思いますが、動物の保護活動に力を入れています。アフリカ野生動物保護組織タスク・トラストのパトロンを務め、10年以上にわたり、野生動物の違法取引や密猟への対策を訴えてきました。また、地球の危機的状況の解決に向けて、革新的な開発をした団体を称え、その活動を支えるためのアースショット賞の設立も、非常に有意義な活動です。一方、弟のハリー王子は、負傷兵のためのパラリンピックとも言える『インビクタス・ゲーム』を創立し、退役兵士らの支援をしてきました」

 

ウィリアム皇太子の妻、キャサリン妃は、ドレスからアクセサリーにいたるまで、以前着用したことのある服を公式行事で何度も着回していることが環境に配慮していると話題になりました。

 

「モノを大切に使うことは、英国王室では伝統的に行われてきました。エリザベス女王もそうしてきました。でもやはり、一番有名なのはチャールズ国王ですね。ジャケットは継ぎ接ぎしながら、靴も修理しながら、何十年も愛用します。こうした庶民的な感覚が、21世紀の今日においても、君主制がしっかりと続いているゆえんなのではないでしょうか?」

 

チャールズ国王の“ノブレス・オブリージュ”

チャールズ国王の地球環境保全への情熱は、どこから湧き出るものなのでしょうか?

 

「1つ目に、根底に“ノブレス・オブリージュ(Noblesse oblige)”という、高貴な身分の人には果たさなければならない義務と社会的責任があるという、欧米社会における基本的な精神がしっかりと根付いていることがあると思います。チャールズ国王はイギリスを含め15の国家からなる英連邦の国家元首でもあります。チャールズ国王は、国民の幸福のためにも、このままではもたなくなっている地球をなんとしてでも救わねばならない、行動しなければならない……このことを、ひたすらに体現しているのです」

 

SDGsの17の目標の中には、2030年の目標期限までに達成できないものもすでにあると言われています。チャールズ国王はどんな思いでおられるのでしょうか?

 

「何とかしたいと思っているでしょうね。イギリス帝国時代の旧領土である56の加盟国からなるコモンウェルスは、陸地面積でいうと世界の20%、人口でいえば世界の30%を占める共同体です。コモンウェルスの人びとがまず率先して行えば、コモンウェルス以外の国々も賛同してくれるだろうと、一歩ずつやっていけば地球環境問題も大きく変えられるだろうと感じているのではないでしょうか。チャールズ国王は、50年前は孤独だったわけですからね。誰も賛同する人がいない歴史があったからこそ、望みは捨てていないと思います」

「チャールズ国王が地球環境問題について孤独に戦っていた時代と比べて、現代は情報も賛同者も容易に得ることができます。そういった機会を活用しながら、人類のために、地球のために何ができるかを考えていけば、私たちは精神的な王侯貴族になれるはずです」。君塚先生は、最後にこのようなメッセージをくださいました。

 

「自分たちさえよければいい」では、もはや未来の地球は立ち行かない状態だからこそ、「全人類の幸福」という視点を持つことが、いま強く求められています。

 

プロフィール

関東学院大学国際文化学部教授 / 君塚直隆

1967年東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒業。イギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史が専門。1993年からオックスフォード大学に留学。上智大学文学研究科博士課程を修了。『立憲君主制の現在』(新潮選書)、『悪党たちの大英帝国』(新潮選書)、『エリザベス女王』(中公新書)、『王室外交物語』(光文社新書)、『イギリスの歴史』(河出書房新社)、『貴族とは何か』(新潮選書)ほか著書多数。


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環境に配慮した“エモい”文房具シリーズ「COE365」第2弾! 紙ケース入り修正テープなど4製品が新登場

プラスは、Z世代の学生をターゲットにしたエコ文具ブランド「COE365(コエサンロクゴ)」シリーズ第2弾を、2月22日に発売します。

 

COE365はZ世代をターゲットとしたエコ文具企画として2022年2月にシリーズ第1弾を発売。テーマは「エモロジー」で、感情が揺り動かされるエモーショナルな瞬間を意味する「エモい」と「エコロジー」の両方を表しています。プラスチック使用量の削減や再生プラスチック・再生紙の使用、繰り返し使えるつめ替え式の採用、古紙の採用など、いずれもエコにこだわった仕様です。

 

第2弾では、QRコードから「自然」を感じられるオリジナル楽曲が流れる「エモ音」を導入。製品本体やパッケージのイラストには、イラストレーターのこまやま明さんを起用。「月明りで宿題」「朝の通学自転車」「休日の勉強会」「放課後の階段」という、自然とリンクした学生生活のワンシーンを、どこか懐かしいPOPなイラストで描いています。

 

今回発売となるのは、エコ対応紙ケース入り修正テープをはじめ、3色ボールペン、消しゴム、携帯はさみの4製品。

 

紙ケース入り修正テープ「ホワイパー」は、プラスチック使用量を機能・強度に必要な最低限のレベルまで削減しており、同社「ホワイパープチ」(6m使い切りコンパクトタイプ)と比較し、プラスチック使用量を約40%削減したエコな修正テープです。

 

本体の紙にはサトウキビ(非木材資源)からつくられた、バガスパルプ配合の環境対応紙を使用し、プラスチック部分には再生プラスチックを使用しています。紙とプラスチックを分別して廃棄できるのでリサイクル可能。廃棄ゴミを削減するパッケージレス仕様です。イラストは4パターンで、税込価格は275円です。

 

ゲルインキ3色ボールペン「アイプラス」は、本体に再生樹脂を一部使用。パッケージレス仕様で廃棄ゴミを削減しています。リフィルタイプで、お気に入りの一本を長く使用可能です。

 

イラストは3パターンで、それぞれのイラストに合わせたカラーインキを装着。インキ色は、「月明りで宿題」がコーラルピンク×ブルー×パープル、「朝の通学自転車」がゴールデンオレンジ×ライムグリーン×グリーン、「休日の勉強会」がキャロットオレンジ×ベビーピンク×ミルクブルー。税込価格は715円です。

↑ピンクやオレンジのカラーは暗記シートで隠すことができる

 

ケース消しゴム「くるっと」は、パッケージにプラスチックを使わない紙箱仕様で、一部に古紙を使用。消しゴムケースにはリサイクルしたプラスチックを87%使用しています。詰め替え式で、ケースは繰り返し長く使用することができ、消しゴムは繰り出し式なので持ちやすく、小さくなっても最後まで無駄なく使えます。4パターンのイラストで、税込価格は264円。

 

携帯はさみ「ツイッギーフッ素コート」は、本体に再生プラスチックを93%使用。パッケージはプラスチックを使わない紙箱仕様で、一部に古紙を使用しています。3パターンのイラストで、税込価格は990円です。

 

発売日の2月22日は、プラス ステーショナリー公式Instagramアカウントにて、「エモロジーでキュン」キャンペーンを開催。対象の投稿に「いいね」やコメントした人の中から抽選で合計30名に「COE365 第2弾」をセットでプレゼントします。詳細は、キャンペーン開始日に同アカウントより配信される投稿をご確認ください。

バレンタインギフトに! 紙モノを再利用するサステナブルなラッピングアイデア5

贈り物をするときに欠かせないラッピング。素敵にラッピングされたギフトは、もらったほうも渡すほうも心がときめきます。ところが最近では、プラスチックごみや過剰包装といった環境問題とも向き合わなければならないのが現状です。

 

そこで今回は、家にある紙モノでできるギフトラッピングを紹介しましょう。身近な素材を使ったラッピングを考案されている “包装作家” の正林恵理子さんに、バレンタインに実践したい、サステナブルなラッピングを教えていただきました。

 

バレンタインにおすすめ! サステナブルなラッピング5選

家にある紙モノや使い切れずに余ってしまった素材を使って簡単にできるギフトラッピングをご紹介していきます。ラッピングをより美しく仕上げるためのポイントやアレンジについても、それぞれ教えていただきました。

 

封筒1枚でいい! 折るだけでできる舟型の袋

「封筒1枚あればできるので、初心者の方におすすめです」と正林さんが教えてくれたのが、封筒を折って作る舟型の袋。底にマチを作ることで袋の幅が広がり、形が安定します。個包装のチョコレートやパウンドケーキといったお菓子はもちろん、ちょっとした小物を入れたいときにも便利です。

【材料】

・封筒1枚(今回は洋形2号を使用)

 

【使用する道具】

両面テープ、ハサミ

 

【作り方】

1.封筒の下を折る

封筒の下から2センチくらいのところに折り目を付けます。折り幅の2倍の長さがマチになるため(2センチ幅で折るとマチは4センチ)、入れたいものの大きさによって好みで調整を。ただし封筒の下半分の範囲で折るようにしましょう。また、折り目は爪でしごくようにしながら両面に付けるときれいに仕上がります。

 

2.折り線に沿って組み立てる

折り目を付けたら底を広げ、折り線に沿って組み立てていきます。両端の三角の部分を両面テープで底に貼り付けたら、完成!

 

 

【アレンジ例】

海外の古い印刷物をコピーして作ったオリジナルのラベルを貼りました。ラベルを両面テープで貼り付けるときに、上の部分だけ貼らずにあけておくと、メッセージカードなどが入るポケットに!

 

「蚤の市のほか、雑貨屋やフリー素材で手に入る海外の古い領収書や絵葉書、手紙などの一部をコピーし、切って貼るだけで、オリジナルのラベルがすぐに作れます。そのほか、袋の口の部分に穴あけパンチで穴をあけてリボンや紐を通してもかわいく仕上がりますよ!」

 

好みの大きさにアレンジしやすい、紙袋で作るふた付きボックス

続いてご紹介する紙袋2枚を使って作るボックスは、パウンドケーキ、マドレーヌ、フィナンシェなどのお菓子を入れるのにぴったり。使う袋のサイズや袋を折り込む回数を変えることで、ボックスの大きさや高さを変えることができます。

 

【材料】

・紙袋2枚
・底板用の段ボールや厚紙(あれば強度が増しますが、なくてもOK)

 

【使用する道具】

(底板を敷く場合)定規、カッター

 

【作り方】

1.紙袋を折る

紙袋を半分より3ミリ程度端から離して折ります。折り目は爪でしごくようにして、両面にしっかりと付けましょう。

 

2.上の部分を内側に折り込む

折り線に沿って袋の上半分を内側に折り込みます。紙がぐしゃっとなっても気にせず、思い切って折り込んでしまってOKです。

 

3.1・2の工程を繰り返す

1・2の工程を繰り返し、さらに折り込み、半分の高さの箱を作ります。四隅もきちっと折り目を付けて形を整えましょう。入れるものに合わせて、もう一度折っても!(折り込む回数が増えると側面の強度が増します)

 

4.もう1枚の袋も同じように作る

もう1枚の袋も1~3の工程で同じように作ります。底板を敷く場合は、箱の底の縦横の長さよりそれぞれ5ミリくらい小さくなるようにカットして、底に敷きましょう。2つの箱をふたと箱で組み合わせたら完成です!

 

【アレンジ例】

絵本の一部を印刷して切り取り、ラベルに。紙袋の底に入っていたサイズ表記などの文字も上手に隠すことができました。

 

「絵本、ポストカード、布、地図、パッケージの一部分などを印刷して切り取れば、オリジナルのラベルや包装紙になります。『これは使えそう!』と思ったものは、ぜひデコレーション素材として取っておいてください!」

 

ホームパーティーでも大活躍! 紙皿で作る丸い箱

続いては、使い切れずに余ってしまいがちな紙皿を使ったラッピングをご紹介。タルトやキッシュなどの円形のものはもちろん、おすそ分けやランチを入れるのにもおすすめです。

 

「紙皿はそのままお皿として使ったり、持ち帰り用の容器として使ったりできるので、プレゼントだけでなく、ホームパーティーやピクニックでも活用できるラッピングです」

 

【材料】

・紙皿2枚(コーティングなどがされていない、薄めのもの)
・お好みのワックスペーパーやレースペーパー、折り紙など

 

【使用する道具】

(ワックスペーパー、折り紙を使用する場合)鉛筆、ハサミ、両面テープ

 

【作り方】

1.紙皿のフチを内側に押す

まずは紙皿のフチを餃子の皮のように折り、ヒダをつけていきます。折り幅は、親指の第一関節(約3センチ)くらいが目安。一周ぐるっと折り目を付けたら、指の腹と爪を使ってもう一度しっかりと折り目を付けます。

 

2.もう一枚の紙皿も同じように作る

もう一枚の紙皿も1と同じように作ります。写真のような形になっていればOK。

 

3.箱になる紙皿のフチを立たせる

2枚の紙皿のうち1枚(箱になる方)は、1で立たせた根元の部分を3ミリくらい内側へ押し付けるようにしてさらに折り目を付けます。(箱のサイズを少しだけ小さくすると、ふたがしやすくなります)2枚の紙皿を組み合わせたら完成!

 

4.ワックスペーパーなどをカットし、紙皿の表面に貼る

仕上げに、紙皿のサイズに合わせてワックスペーパーなどお好みのペーパーをカットし、上にかぶせる紙皿の表面に貼り付けます。さらに、贈り物を入れた後は、上下の紙皿が離れないよう輪ゴムや紐でとめておくと安心です。

 

【アレンジの例】

上下の紙皿はリボンで結ぶだけでも十分素敵ですが、もうひと工夫すればより洗練された雰囲気に。正林さんとっておきの、空き缶のプルトップを使ったベルト風のアレンジをご紹介します。

 

まずはプルトップを缶から外し、切り口がある方の穴(缶を開けるときに指をかけない方)にリボンを通し、ギザギザした切り口を覆い、リボンの端を両面テープで留めます。

 

リボンを箱に掛けたら、先ほどの穴に下からリボンを通し、もう一つの穴に上から通してベルトのように整えたら完成!

 

「このアレンジをするときには、1~1.3センチ幅のリボンを使うのがおすすめです。また今回、リボンとワックスペーパーの色を赤で合わせたのもポイント。アレンジに使う素材の色を揃えると全体がまとまって見えます」

フラワーアレンジメントにも使える、牛乳パックバッグ

次に紹介するのは、牛乳パックと紙袋の持ち手で作るバッグ。お菓子や小物を入れるのはもちろん、水に強いので小さめのフラワーアレンジメントにも使えるラッピングです。

 

【材料】

・牛乳パック(上部分はカットするため、容量は気にしなくてOK)
・紙袋の持ち手2枚

 

【使用する道具】

カッター(またはハサミ)、両面テープ、油性ペンなど(牛乳パックに線を引けるものであればOK)

 

【作り方】

1.牛乳パックに線を引く

牛乳パックの下部分に紙袋の持ち手を合わせて、持ち手の上部分に沿って線を引いていきます。

 

2.線に沿って牛乳パックをカットする

全面に線を引いたら、カッターやハサミで線に沿ってカットしていきます。

 

3.紙袋の持ち手に両面テープを貼る

紙袋の持ち手の片面に両面テープを貼ります。両面テープは、牛乳パックに貼るときにはがれないよう全面に貼るのがポイント。もう一つの持ち手も同じように貼りましょう。

 

4.牛乳パックに紙袋の持ち手を貼る

牛乳パックの中央に紙袋の持ち手の中央が重なるように貼り、余った持ち手の端はそのまま側面に沿わせて貼り付けます。向かい側も同じように貼ったら完成!

 

 

【アレンジの例】

黒い画用紙をカットして貼り付けると、黒板のようなメッセージボードに。白いペンやチョークを使って文字を書くとおしゃれに仕上がります。

 

さらに、持ち手部分に小さなリボンを結び、アクセントをプラスしました。

 

「黒い画用紙の代わりに、駐車券やチケットの裏などを使っても良さそうです。自宅で余っているもの、いつもは捨ててしまうものを、何か使えないかな? と考える時間も楽しいので、ぜひ家の中をちょこっと見回してみてください!」

 

キッチンペーパーの芯で作る、ピローボックス

最後は、タブレットタイプのチョコレートやアクセサリーなどの小物を入れるときにおすすめの、ピローボックスの作り方をご紹介。少し手間はかかりますが、キッチンペーパーの芯でできているとは思えない、本格的なボックスに仕上がるのでぜひチャレンジしてみてください。

 

【材料】

・キッチンペーパーの芯 1本
・お好みのペーパー(今回は15センチ角の折り紙1枚を使用)

 

【使用する道具】

定規、カッター、丸い小皿、鉛筆、ハサミ、両面テープ、スティックのり

 

【作り方】

1.芯をつぶして平らにする

キッチンペーパーの芯をつぶして平らにします。定規などを使ってしっかりと折り目を付けましょう。

 

2.芯をカットする

入れるものの大きさに合わせて芯をカットします。今回のように15センチの折り紙を外側に巻き付ける場合は14センチにカットしましょう。

 

3.丸い小皿を使って線を引く

写真のような丸い形の小皿を使って、芯の端に弧を描くように線を引きます。

 

4.線に沿ってカットする

両端に線を引いたら、ハサミでカットしていきます。

 

5.カッターで筋を入れる

両端を丸くカットしたら、先ほどの小皿を3とは逆の向きで端に合わせ、切らないように注意しながら、両端・両面の計4カ所にカッターで筋を入れていきます。

 

6.芯に折り紙を巻き付ける

芯の下に折り紙を置き、5で入れた筋の少し内側に両面テープを貼ります。両面テープを写真のように2カ所に貼ったら、芯の端に片方を貼り、引っ張りながらぐるっと巻いて貼り付けましょう。

 

7.両端の折り紙をカットする

折り紙を巻き付けたら芯のカーブに沿って両端の折り紙をカットします。

 

8.両端の折り紙を芯に貼り付ける

両端の折り紙を芯に貼り付けたら完成! スティックのりを使うと作業がしやすく、見た目もきれいに仕上がります。

 

【アレンジの例】

パッケージの一部を切り取った、オリジナルのラベルを貼ってアレンジしました。ラッピングがコンパクトなので小さめのラベルでも十分なワンポイントに!

 

さらに、手芸用のゴムで輪を作って斜め掛けにしました。

 

「黄色と反対色の青系をプラスし、ボックスの形とドット柄の曲線にゴムの直線を加えました。異なる色とデザインを少し足し、変化をつけることでおしゃれ感が増します。手芸ゴムの代わりにリボンや麻紐を使ったり、紐にタグを通したりしても!」

 

おしゃれにラッピングするコツは?

今回ご紹介したラッピングは家にあるもので気軽に始められますが、材料選びやアレンジが難しそう……と感じる方もいるはず。そこで正林さんに、初心者でもラッピングを素敵に仕上げるためのコツを教えてもらいました。

 

「ラッピングの材料やアレンジに使う素材は、ラッピング全体のテイストをイメージしながら選んでいくのが良いと思います。例えば、大人っぽい雰囲気にしたいなら、クラフト素材や落ち着いたトーンの色を選んでみる。そうすると、少し派手なデザインや柄を入れたとしても、イメージに近いものに仕上げることができるはずです。

 

色の組み合わせに悩むときは、単色や同系色、反対色を組み合わせて1~3色でまとめたり、封筒や袋の地の色をラベルや紐などのアレンジの一部に入れたりすると、統一感が生まれ、洗練された印象に見せることができます」

↑例えばこちらのラッピングは、地の色が赤の封筒に、赤いラインの入ったラベルを貼ることで色に共通点を持たせ、統一感を出しています。

 

「また、ラベルやリボンなどのアレンジは2~3個を目安に入れるのがおすすめ。ボックスの大きさなどにもよるかもしれませんが、あまり入れすぎると野暮ったくなってしまうので、『足しすぎない』ことも意識するといいと思います」

 

「こういうラッピングもアリなんだ!」と気軽にチャレンジしてほしい

 

そもそも正林さんがサステナブルなラッピングに関心をもったきっかけを聞きました。

 

「私が『エコ』を意識したラッピングを始めたのは、自分で作ったお菓子を、お金をかけずにかわいくラッピングしたいと思ったことがきっかけでした。でも最近は、それだけではエコとは言えないんじゃないかと考えるようになって……。例えば、安価だからと言ってラッピングの材料を大量に購入したり、プラスチック素材のものばかりを使ったりすることは、本当にエコなのかとか、疑問に思うことが増えてきたんですよね。そこから、自宅で余っている紙モノなど、身近なものを上手に活用したラッピングを考えるようになりました」

 

では、サステナブルなラッピングの魅力はどこにあるのでしょうか?

 

「私がこのラッピングにハマった大きな理由は、エコ・ラッピングでプレゼントをすると、中身を見る前から、ラッピングだけでとっても喜んでもらえるから。身近にあるけど、普通はラッピングに使わないようなもので包んであることに驚いてくれて、お金もかからず気軽にできそうだから『私もやってみよう!』という気持ちになるみたいです。そして、その人なりの個性あふれるラッピングで、お返ししてくれたりするんですよね。リユース素材や余ったものなどを活用したラッピングは、自分の手でアップサイクルをするということでもあります。エコ・ラッピングでプレゼントすることは、無理なく、楽しみながら、サステナブルな包装を広めていくことができるのも魅力だと思います」

 

ぜひ、多くの人にやってみてほしい、と話す正林さん。

 

「今回ご紹介したラッピングは、環境のために皆がやらないといけないものではなくて、ラッピングの一つの選択肢として考えてもらえたらうれしいです。『家に余った紙モノがあるからちょっとやってみようかな』『こういうラッピングもアリなんだ!』という気軽な気持ちで、ぜひ楽しくチャレンジしてみてほしいなと思います」

 

バレンタインデーだけでなく、日頃のちょっとした贈り物や手土産にも、活用していきたいですね。

 

プロフィール

包装作家 / 正林恵理子

お菓子作りを学ぶため、パリに1年留学する。その時に出会った暮らしの中にあるかわいらしい包みに感動し、帰国後、身近な素材を使って新しい包み方を考案するようになる。現在は、ワークショップなどでエコ・ラッピングを広める活動を行っている。 著書に『エコ・ラッピング』『もっとエコ・ラッピング〜思わず誰かにプレゼントしたくなる』(大和書房)ほか。
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触れば驚く!世界の名画を立体プリントした「アートペン」が今までにない感覚!

美術館に併設されたミュージアムショップが人気を集めている。近年は気の利いたグッズ展開に工夫を凝らす展覧会も増え、ユニークなオリジナル文房具がゲットできることも多いのだ。

 

例えば、いまミュージアムショップで買える大注目のボールペンとして「タッチミー! アートペン」の存在を知っているだろうか。これはペン軸に立体的な特殊印刷を施したもので、まさに名前の通り、“触れるアート”という感じ。その印刷精度の高さと美しさは、チェックしておいて絶対に損のないレベルなのである。

 

ミュージアムショップで人気の「触れる名画」ボールペン

ペノンの「タッチミー! アートペン ゴッホ」シリーズは、お馴染みの「ひまわり」や「星月夜」といったゴッホの名画を、六角の木軸にプリントしたボールペン。

ペノン
タッチミー! アートペン ゴッホ(全10本)
各1500円(税込)

 

↑ダンボールを重ねて組んだ、プラスチックや接着剤不使用のサステナブルなパッケージ

 

所沢の角川武蔵野ミュージアムで11月まで開催されていた「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」展でお目見え。現在も同ブランドのECサイトなどで販売されている。

 

そもそもミュージアムショップの売り上げ1位といえば、どの展覧会でもポストカードと相場は決まっている。そんななか、このゴッホ展において「タッチミー! アートペン」は、ポストカードに次ぐ売り上げを、それ以下を引き離して記録したという。

 

やや言い方は悪いが、1500円もするボールペンがそこまで売れるとは、ちょっとした事件に近い。

↑筆者がチェックしたタイミングでは、人気の絵柄がすでに複数売り切れていた

 

なぜそこまで人気を集めたのか、これは実際に見てもらうほうが話が早いだろう。

 

ペノンのアートペンはいったいどこが凄いのか?

木軸に施された立体印刷は、ゴッホのあの鮮烈なタッチを再現したかのようで、印刷や写真ではなく、本物の油彩の質感そのものだ。正直、ペン軸に名画が印刷されたものは従来、ミュージアムグッズとしてさまざま発売されてきたが、この立体印刷は迫力のケタが違う。

↑ゴッホ「自画像」も、本物の油彩を間近で見るようなリアル感

 

↑ペンを握ると、ゴッホの力強いタッチが指先から感じられる

 

↑「星月夜」と、ペン軸(右)の比較

 

このアートペンにいったいどのように印刷を施しているかというと、六角形の木軸の1面ずつにまず立体感のある特殊印刷を施し、次いで上からまた1面ずつ彩色印刷を施していく。つまり計12回の印刷によって、ようやくペン1本ができあがるという、壮絶に大変な作業だ。

 

その上、面と面の境での印刷ズレの誤差は0.2mm以下という驚異的な精度である。当然ながら木軸は1本ごとに微妙な差があるし、湿度で歪みも発生する。それを0.2mmの精度で12回印刷するのがどれほどのものか、想像できるだろうか。(しかも次の印刷面を出すために軸を回転させるのは、手作業!)

↑立体印刷ができる特殊なインクジェットプリンターで、1面ずつ印刷を重ねていく

 

もはや、ペンの製造行程自体がアートなのでは? という気分である。

 

ボールペンとしての機能性も特筆もの

このペノン、そもそもペンとしての性能が優秀なのもポイントのひとつ。ゲルインクを搭載したニードルポイントのペン先は、たっぷりとしてフローがあり、書き味なめらか。正直、サラサラした気持ちよい書き味だけでも、このペンを選ぶ価値があると思うほどだ。

【関連記事】欲張りすぎでは…書き味滑らかでオシャレでエコなボールペン「Penon(ぺノン)」は時代が求める条件を全クリア

 

↑馴染むとクセになる、サラサラ感強めな書き味

 

ラインナップは、このゴッホシリーズに加えて、印象派シリーズ(モネ「睡蓮」、ルノアール「春のブーケ」など10本)もそろう。さらには浮世絵(北斎・国芳など)シリーズなども展開予定とのこと。今後は全国で開催される美術展・展覧会にあわせるように増えていくようだ。

 

↑アートペン第2弾となる印象派シリーズの10種

 

展覧会を見た後にポストカードや図録を買って帰るのもいいが、これからは「触れるペン型名画」も選択肢のひとつに入ってくるかもしれない。お気に入りのアートに直接触れながら書く楽しみ、ぜひ体験してみて欲しい。

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線移動距離3020キロメートルを、5日間かけ太陽の力だけで縦断する「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」。東海大学は、この世界最高峰のソーラーカーの大会で、過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回と好成績をおさめてきた世界的な強豪チームです。2年ごとに開催されているBWSCですが、2021年は新型コロナウイルスの影響により世界大会が中止に。現在、チームは2023年大会に向け、国内でのレースや試走を重ねながら準備しています。

 

今回は、世界レベルで戦うチームに所属する女子メンバーを中心に、ソーラーカーへの各自の思いを取材。そこから、東海大学ソーラーカーチームが強豪であり続けられる理由が見えてきました。

ソーラーカーは静かに、すべるように走り抜ける。最高時速は時速100kmと、意外と速い!

 

ほとんどが “ソーラーカー初心者” からのスタート

「ソーラーカー」と聞くと、機械・工学系の男性が活躍している様子を想像する人が多いかもしれません。ところが、実のところ女性ドライバーが小柄な体型を活かして活躍しているチームもあるそう。東海大学でも、現在部員60名のうち5名の女性メンバーが活躍しています。

 

チームメンバーの多くは、もともとソーラーカーにまつわる専攻を選んでいたわけではなく、ソーラーカー初心者だったといいます。なぜこの活動に参加しようと思ったのでしょうか? きっかけから聞きました。

 

↑工学部4年生、インドネシアからの留学生のギセラ・ジョアン・ガニさん。「SNSでソーラーカーの投稿をすると映えるんです!」と目をキラキラさせながら魅力を語ってくれました。

 

「再生可能エネルギーの技術に興味があり、将来のステップに繋がると思って参加したのがきっかけです。ソーラーカーについては何も知らないまま参加しましたが、たくさんの学びを得ることができました。もちろん授業が最優先ですが、ソーラーカーが大好きなので、家にいるよりもチームがある『ものつくり館』で過ごす時間の方が長くなることもあります(笑)」(ギセラさん)

 

↑工学部2年生、小平苑子さん。授業以外はギセラさんと同じく、ほとんど『ものつくり館』にいるのだとか。「授業かソーラーカーのほぼ二択。大学生らしい生活ではないかも(笑)」とソーラーカーが大好きな様子が伝わってきました。

 

「入学式の展示でソーラーカーに一目惚れして、参加しました。そもそもソーラーカーチームがあることも知らなかったので、驚きで。この見た目で時速100キロ以上出ると聞いて、興味を持ったのがきっかけでした。世界一を目指せる場所に自分がいるっていうのが不思議な感覚でしたが、今まで感じたことのない期待感を味わえるのも好きなところです」(小平さん)

 

↑工学部1年生、岩瀬美咲妃さん。競技かるた部とかけもちでソーラーカーチームに所属しています。「大学に入ったらいろいろとやりたい気持ちが溢れ出た」と探究心が止まらない様子でした。

 

「入学式でソーラーカーを初めて見て、夢があると思ったのがきっかけです。せっかく工学部に入ったし、授業以外でも勉強できることがあると思って入部しました。今は機械班に所属し、先輩たちから図面起こしなどを教えてもらって取り組んでいます。少しずつでも、できなかったことができるようになってきて、うれしいです」(岩瀬さん)

 

↑建築都市学部1年生の早川千咲子さんは、チーム内で珍しい非工学部で、唯一の建築都市学部学生。「仲間といる時間が楽しいので週4日くらいは部室に足が向かう。もう家族みたいです」と笑顔で語ってくれました。

 

「ソーラーカーチームの存在は入学してから知ったのですが、親がクルマ関係の仕事をしていたので、興味があり入部しました。今は広報班として活動しています。ソーラーカーチームでは、設計・構築以外にも、イベントのチラシを作ったり、車体デザインを考えたりする広報の仕事もあるので、私のような工学部以外でも活動できるんです」(早川さん)

 

↑早川さんは現在チームで、広報の役割をになっている。大会では一眼レフカメラやスマートフォンをかまえ、レンズ越しに仲間たちを見守る。

 

↑工学部1年生、猶木愛子さん。ソーラーカーの車体はもちろん、そこで活動している先輩たちのかっこよさにも惹かれているそう。「さりげなく輪に入れてくれる感じが心地いい」と、和気あいあいとしたエピソードをたくさん教えてくれました。

 

「自分たちで設計したソーラーカーを、学生だけで走らせていると聞いて『マジかっこいい』と心から感動してしまい……。気がついたら先輩たちに導かれるように入部していました(笑)。わからないことも教えてくれるし、どんどんチャレンジさせてもらえます。ソーラーカーも先輩も、この環境も大好きです」(猶木さん)

 

携わる年数に差はあれど、誰もがすっかりソーラーカーの魅力にハマっている様子。活動自体にルールはなく、個人が好きな時に来て、やるべきことをやるのだとか。大学院で学びながら、ソーラーカーチームの学生代表を務める宇都一朗さんも「毎日来る人もいれば、授業やバイトの合間に来る人もいるので、自由度が高いですね」と教えてくれました。

 

「ワールド・グリーン・チャレンジ」2連覇を支えたチーム力

↑クラッシュの痕跡が痛々しい東海大学のソーラーカー。

 

2022年の夏に秋田県で行われた「ワールド・グリーン・チャレンジ」で、見事2連覇を達成した東海大学。国内から高校・大学・社会人ら20近いチームが参加して行われた大会でしたが、当日は太陽光を遮る悪天候や走行を妨げる風など、条件は最悪。しかも、接触事故により車体が激しくクラッシュするというアクシデントに見舞われます。車体を修復するために、1時間もレースを中断。それでもコースに復帰すると粘り強く挽回し、優勝を成し遂げたのです。

 

 

実はここまでの緊急事態は、学生たちにとって初めての経験だったとか。4年生のギセラさんにとっても、この2022年の「ワールド・グリーン・チャレンジ」が在学中で一番の思い出になったと教えてくれました。

 

「クラッシュした時は驚きましたが、それ以上にみんなのチームワークに助けられたと思います。1秒でも早くコースに戻そうと必死に取り組む姿は、今思い出しただけでも鳥肌が立ってしまうほど。優勝できたのでホッとしています」(ギセラさん)

↑緊迫した空気のなかで修理に没頭するギセラさん。

 

1年生は、レースに初めて参加してみて、どのような感想を抱いたのでしょうか?

 

「自分たちのチーム以外にも、いろんなチームがあることに驚きました。私たちよりも年下の高校生、年上の社会人チーム、女性だけのチームもあって規模の大きさを実感できました」(早川さん)

 

「学外で走行する姿を見るのも初めて。素直に『本当に走っている!』と感動したのが一番大きかったですね。今まで他のチームと比較することもなかったので、東海大学ソーラーカーチームの強み・弱みを把握できたと思います」(猶木さん)

 

↑優勝トロフィーを手にするギセラさん、小平さん。

 

みんなでつかみ取った優勝は、東海大学ソーラーカーチームをさらに強くしたようです。

 

国内ではトップクラスの実績を誇る東海大学ですが、目指すは世界一。どんな目標で、2023年のBWSCに挑もうとしているのでしょうか?

 

大切な仲間と一緒に “世界一” をつかみ取る!

BWSCは2年に一度の開催。コロナ禍で2021年大会が延期になった分、現在在籍しているメンバーで世界大会を知るのは2019年大会に参加したメンバーのみ。残念ながら、現在の4年生は世界大会を経験せずに卒業することとなってしまいました。学生代表の宇都さんは、2019年大会も参加したため、やっと参加できる世界大会へ向けて思いも強くあるそう。

 

「2023年は必ず、優勝したい。ライバルとなるヨーロッパ勢は、コロナ禍でも世界大会に参加しペースをつかんでいます。世界レベルを経験できていないからとネガティブになるのではなく、挑戦者の気持ちで挑むしかないと思っています。個人的には、2019年のリベンジもかけているので、しっかり優勝を勝ち取りたいと思っています」(宇都さん)

 

↑右は、学生代表の宇都一朗さん。

 

また、世界大会を経験できないまま卒業を迎える4年生のギセラさんも、後輩に向けてこんなメッセージを送ってくれました。

 

「私は入部してから挫けそうになることが何度もありました。自信もなくしたし、難しいこと、どうにもならないことも、たくさん経験できたと思います。その時は “できない自分” が嫌だったけれど、先輩たちが優しくサポートしてくれたおかげで、チャレンジできる気持ちを忘れずに取り組むことができました。チャレンジはけっして無駄じゃない。世界大会に挑むみんなには、授業では得られない貴重な経験をたくさんして欲しいですね」(ギセラさん)

 

ちなみに東海大学のソーラーカーチームに、 “卒業” はないのだとか。大会前になるとOBやOGが手伝いに来ることもあるとのことで、卒業しても強い絆で結ばれているところにも、強さの秘訣があるのかもしれません。

↑部室に飾られ、耀かしい実績を物語るトロフィーの数々。

 

【関連記事】 大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

 

↑ソーラーカーのサイズは全長約5m、幅1.2m。カーボン製の車体重量は140kg程度。車体には部品の提供元のほか、大和リビングといったスポンサーが名を連ねる。

 

↑シート状の太陽電池パネルを258枚搭載。太陽の方向へパネルを向け、充電を行う。

 

【関連記事】 敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

 

最後に、2023年に向け、そしてこれからソーラーカーチームを知る人たちに向けて、メッセージをもらいました。

 

「初心者も大歓迎! 何も知らなかった私でもたった4年で、制御プログラムが書けるように成長できました。クルマが好きな父とも、ソーラーカーの話題で以前よりも仲良くなることができました。入ってよかったなと思うことがたくさんありますよ」(ギセラさん)

 

「ゼロからのスタートでも、知識や経験を吸収してどんどん成長できるのは、ほかの部活にはないところかもしれません。新しい発見が多くできるので、探究心がある方や世界を舞台に活躍してみたい人にはおすすめです」(小平さん)

 

「クルマのことなんて全然知らないまま入部しましたが、ゼロからでも受け入れてくれる先輩がたがいっぱいいるので、安心してください。ここにいると、目標が明確なので自分のやる気も高まります。何をしようか悩んでいるならおすすめしたいです」(岩瀬さん)

 

「ソーラーカーというと、どうしても機械的な部分だけフィーチャーされてしまいますが、理系じゃなくても関われる部分はたくさんあります。授業とはまったく違うジャンルなので、刺激的で楽しいですよ」(早川さん)

 

「1年生の私が『仲良しです』っていうのはおこがましいかもしれないけれど、先輩後輩関わらず仲良しなんです(笑)。和気あいあいと楽しんでいるので、女の子にもいっぱい入部して欲しいですね」(猶木さん)

 

↑1年生から4年生まで、上下関係を感じさせることなく笑いの絶えない面々。

 

「ソーラーカー」という最先端技術を学び、実践していきながら世界を目指す……さぞストイックな部活と思いきや、仲間を大切にする人たちが揃った和やかな雰囲気を感じる取材となりました。性別も学年も関係なく、一人ひとりが目標を持ち邁進する姿に、東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密がありそうです。

 

学生だけで世界一を目指すのは、そう簡単なことではないはず。しかしこの一人ひとりが束になった時、その夢が叶えられるのかもしれません。2023年夏、オーストラリアの地でどんな走りを見せてくれるのでしょうか。日本から、応援の声を届けていきましょう。

 

プロフィール

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・院生の約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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環境にも人・動物の健康にも配慮した「ヴィーガンネイル」とおすすめブランド

マニキュアとも呼ばれる「ネイルポリッシュ」。最近では、ビューティ業界でも「サステナビリティ」を重視しようという考え方がトレンドとなっており、このネイルポリッシュなどネイルケア製品を扱う企業やブランドでも、環境や人権に配慮した取り組みが進みつつあります。そのひとつが「ヴィーガンネイル」です。

 

環境問題やSDGsに関心を持ち続け、サステナブルな暮らしなどをテーマに活動しているエコライター・エディターの曽我美穂さんに、サステナビリティの観点からネイルを中心としたビューティ業界を取り巻く現状と、ヴィーガンネイルの特徴、いま買えるヴィーガンネイルブランドについて、教えていただきました。

 

サステナビリティに配慮した化粧品とは?

 

2015年、サステナブルな(持続可能な)社会の実現に向け、国連のサミットで、2030年までに世界各国が取り組むべき17の目標「SDGs(持続可能な開発目標)」が掲げられました。この中には、環境問題や貧困、経済など幅広いジャンルの目標が含まれており、ビューティ業界においても無視することのできない課題がたくさんあります。

 

では、化粧品ではSDGsにどのようなアプローチをしているのでしょうか? 曽我さんは、「製造段階から環境に配慮することが大切」と話します。

 

「化粧品は、製造段階から動物実験や工場から排出される有害な物質の処理などの課題を抱えています。また、深刻化している海洋プラスチック問題のことを考えると、容器に使用するプラスチックの使用削減への取り組みも重要です。」(曽我美穂さん、以下同)

 

この問題に対して、企業はどのような取り組みを行なっているのでしょうか?

 

「動物実験を行わないことを『クルエルティフリー』と呼びますが、今これを掲げている企業が増えていて、認証マークを製品に表記しています。また、プラスチック容器の不使用や、自然エネルギーの活用、量り売りなどの取り組みをしている企業もあります」

 

取り組みの実例を、曽我さんに教えていただきました。

 

【AVEDA(アヴェダ)】
・プラスチックボトルのリサイクル使用
・製造過程で動物実験を行わない
・すべての製品をヴィーガン素材のみで製造

 

【NEAL’S YARD REMEDIES(ニールズヤードレメディーズ)】
・絶滅の危機に瀕している、ボスウェリアサクラ種のフランキンセンス精油について、種の存続を図るべく、植樹から栽培、精油抽出に至るまでの全工程を管理する独自の取り組み「プロジェクトフランキンセンス」を実施
・店舗の運営において自然エネルギーを活用
・表参道の店舗は100%自然エネルギーのみで運営

 

【LUSH(ラッシュ)】
・空容器回収率100%を目指したプログラム「BRING IT BACK」を実施

 

LUSHのプログラムでは、空の容器を店舗に持っていくと、対象容器1つにつき30円を買い物に使う事ができ、5つでフレッシュフェイスマスクと交換できるそう。もちろん、「返却」した容器は新たなLUSHの製品に生まれ変わるというわけです。

 

一方、消費者の環境意識も少しずつ高まってきているようです。2022年8月10日~15日に、化粧品や美容フードなどを中心とした美容コンサルティングを提供する株式会社EcoVia Intelが実施した「サステナブル化粧品に関する実態調査」では、「サステナビリティという言葉をよく聞く」と回答した消費者が22%と昨年度の18%より4ポイントアップ。また「環境配慮に対する具体的な策については「なかなか実行できていない」と回答した人が昨年度は全体の74%だったのに対して、今年は55%と低下し、意識の変化を着実に感じられる結果となっています。

 

自分の体も守るために。知っておきたいネイル成分の有害物質

このように企業も消費者もサステナブルな化粧品への意識を高めているなか、消費者として私たちが知っておくべきこととは何でしょうか? 曽我さんは、「ネイルの有害物質」をそのひとつに挙げます。ネイルの成分に有害物質が含まれているということは、近年ニュースでも取り上げられたことがあるので知っている人も多いでしょう。では、具体的にどのような物質が「有害」なのでしょうか?

 

曽我さんによると、「とくにリスクが高いのは、トルエン、フタル酸ジプチル、ホルムアルデヒド」だそう。購入前にネイルの成分表を見て、確認してみましょう。

 

【ホルムアルデヒド】
・発がんリスクがもっとも高い化学物質として、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)により、「グループ1(人に対する発がん性が認められる)」に指定されている。
・日本では「化粧品」への配合が禁止されている。

 

【トルエン】
・ラッカーなどの塗料を薄める有機溶剤である「シンナー(うすめ液)」として使用される。
・過剰に摂取すると、腎臓や肝臓に損傷を与えるリスクがある。
・生殖能又は胎児への悪影響のおそれがある。

 

【フタル酸ジプチル】
・アレルギー性皮膚反応を起こすおそれや呼吸器への刺激のおそれがある。
・生殖能や胎児への悪影響の危険性も指摘されている。
・欧州を中心に規制が高まっている。

 

自然由来の爪にも環境にも配慮した、「ヴィーガンネイル」とは?

こうした懸念を払拭し人体にも環境にも配慮する取り組みのひとつに「ヴィーガンネイル」があります。 ヴィーガンネイルとは、上記の有害物質のほか、動物由来の成分を使用せず、動物実験を行っていないクルエルティフリーのネイルのこと。その中身も容器も、できるかぎり製造、廃棄の際に自然に戻っていく素材を使う事を目指しています。

 

「ヴィーガンネイルはSGDsの17目標のうち3つの目標にかかわりがあると思っています」と曽我さんは言います。その目標とは以下の3つ。

 

【ヴィーガンネイルとかかわりの深いSDGs目標】

目標12 つくる責任つかう責任
目標14 海のゆたかさを守ろう
目標15 陸のゆたかさも守ろう

↑SDGsの17目標 外務省「持続可能な開発目標(SGDs)と日本の取り組み」より

 

「とくに、目標12は大切なことだと思います。製造過程においてできるかぎり自然由来の成分を使うこと、そして動物実験を行わないことを目指しているヴィーガンネイルは、まさに目標12で掲げる『つくる責任』を大切にしているといえるでしょう。
『つかう責任』は、私たち消費者が意識すべき点です。次々にネイルを買って結局最後まで使い切れなかった、なんてこともあるかもしれませんが、廃棄の際に環境への負担を少なくするためには、そうしたことは避けた方がいいですね。瓶も各自治体の分別方法を守って、しかるべきかたちでリサイクルされるように廃棄することが大切です」

 

ヴィーガンネイルを選び、さらに責任を持って使い、廃棄することが求められています。

 

日本で手に入る注目のヴィーガンネイル3選

オシャレを楽しみながらサステナブル社会の実現へアプローチするヴィーガンネイル。曽我さんが今注目しているヴィーガンネイルブランドのなかから、比較的日本でも手に入りやすいブランドをピックアップしていただきました。

 

・10フリーのヴィーガンネイルで豊富なカラバリが楽しめる「ZAO」

「じゃがいもやとうもろこしなど野菜由来の成分を74%~84%使用したZAOのヴィーガンネイルは、体に悪影響を与える可能性のある10の成分(パラベン、フタル酸ジブチル、トルエン、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド樹脂、キシレン、ロジン、カンファー、スチレン、ベンゾフェノン)を含まないことを明記しています。豊富なカラーバリエーションも魅力のひとつで、絶妙な色合いのネイルを楽しめます」

 

・フランス発の美しい輝きと仕上がり「Nailmatic」

「地産地消のために工場近くのビジネスパートナーとともに生産を進めていること、動物実験をおこなっていないこと、そして安心・安全な素材を使っていることなどを公約としているブランドです。ネイルは、植物由来の成分を最大84%まで配合していて、環境負荷が低い処方でありながら、伸びの良いテクスチャーや発色の良さなど従来のネイルの特性にもこだわっています」

 

・圧巻!400色以上のラインナップ展開が魅力の「ZOYA」

「米国発のネイルブランドで、1992年の発売以来トルエン、ホルマリン、フタル酸ジブチルなど人体に害があるとされている成分を極力使わないヴィーガンネイルを作っています。何と400色以上ものラインナップが展開されているので、眺めているだけでも楽しくなりますね。日本では東急ハンズやロフトなどで購入できます」

 

もうひとつ、「ヴィーガン素材ではないかもしれませんが……」と紹介していただいたのは、ホタテの貝殻を再利用したという「サステナブルネイル」です。

 

・ホタテの貝殻からできた水性ネイル「CYAN」

「青森県にある山神という会社が展開している、ホタテの貝殻を使用して作られた、自然素材成分を含むネイルを展開しているブランドです。青森県陸奥湾で養殖されているホタテから排出される、約5万トンもの貝殻を再利用するという試みからスタートしたそうです。環境に配慮した7フリー(トルエン、フタル酸ジブチル、カンファー、キシレン、ホルムアルデヒド、スチレン、パラベン)を掲げています。また、爪が弱くて従来のマニキュアやジェルネイルを付けることが難しい人でも使えることを目指して、作られているそうです」

 

身近なちょっとしたことから意識して、アクションを起こしてみる。そのきっかけは、 “我慢” ではなく積極的に取り組める気持ちをもてることがおすすめです。第一歩として、ヴィーガンネイルを使って、おしゃれをしながら地球環境を意識してみてはいかがでしょうか。

 

【プロフィール】

エコライター・エディター / 曽我美穂

子どもの頃から環境問題に関心を持ち続け、英語学校の広報を勤めながらライター活動を開始。2008年にエコライター・エディターとして独立し、現在は雑誌やウェブサイトの編集、撮影、執筆や、企業のCSR支援をおこなっている。主なテーマはサステナブルな暮らしやSDGs、環境問題。

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

排泄物まで徹底的にリサイクル! 究極のサステナブル社会「江戸時代」に学ぶ現代日本で実践すべきSDGsとは?

年々加速するSDGsの目標達成に向けた取り組み。しかしその一方では、Z世代を中心に「サステナブル疲れ」という言葉が広がるなど、過度にサステナブルな行動を求める風潮にどこか違和感や疲労感を抱く人も出てきています。

 

SDGsへの向き合い方が問いただされるなか、昨今あらためて見直されているのがなんと「江戸時代」! 高度な「循環型社会」で、人々は極めてサステナブルな暮らしを送っていました。それも社会的な義務感や倫理観の下ではなかったため、誰一人 “無理” をしていなかったといいます。

 

江戸時代が循環型社会だった理由や、現代に活かすべきポイントについて、法政大学名誉教授・前総長の田中優子さんにお話を伺いました。

 

循環型社会とは?

そもそも循環型社会とは「できるだけゴミの発生をおさえ、もし出てしまったら別の形で再利用する社会」を言います。江戸時代に循環させていた物のうち、もっとも代表的なものが木材です。

 

「一度木を切ると、再び生えてくるまでに長い時間がかかります。また、木を切りすぎると、雨が降った時に雨粒が直接地面に落ちるため、洪水が起こりやすくなります。そこで江戸時代には、過剰伐採を防ぐために『川の両側の木を切ってはいけない』『この山の木は切ってはいけない』『根から掘り返さない』などのさまざまな制限令が出されていました。ただ、建築には木材が必要不可欠なため、制限令の範囲内で木材の量が足りなくなると、今度は『切ったら植えましょう』という植林政策が行われるように。

また、過剰伐採を防ぐ策としては『天守閣の再建をしない』という幕府の方針も挙げられます。江戸城天守閣は1657年に火事で焼失してしまいましたが、建築をしなければ木を切ることもないため、再建の必要はないと判断されたのです。この考えは江戸以外にも広まっていき、当時、他のいくつかの城も天守閣の再建をしませんでした。

そして、過剰伐採の防止と合わせて行われていたのが、木材の再利用です。取り壊した建物の木材は、そのまま新築の建物に使い回されていました。老朽化して建築に使用できなくなった場合は小さく切って燃料にするなど、小さな破片さえも再利用されていたんです」(田中優子さん、以下同)

 

紙や着物、わらなど、木材以外のものも形を変えて使い回され、最後には必ず肥料として土に戻っていきました。江戸時代の日本には、一つとして無駄になるものはなかったのです。

 

江戸のリサイクル文化が成功した秘訣は “経済的メリット”

手間を掛けて物を使い続けていた江戸時代。令和の感覚では「手間をかけて使い回すなんて大変だ」と感じる人もいるはずです。一体なぜ、当時の人々は循環型社会に抵抗感を抱かなかったのでしょうか?

 

「循環型社会が実現した一番の要因は、“倫理観ではなく経済の仕組みの一部としてリサイクルが行われていた”ということです。

排泄物を例に考えてみましょう。江戸には厠(かわや)という、川の上に設置されるトイレがありました。参勤交代で江戸に人が集まると厠を使う人も増え、次第に排泄物によって川が汚れていき、1649年に厠の取り壊し令が出されます。すると今度は町中に厠が設置されたのですが、溜まった排泄物を川に捨てる人が現れ、1655年には川へ排泄物・ゴミを投棄することを禁じる御触れが出されました。

町に排泄物が溜まっていくなか、自分たちの排泄物を肥料として再利用していた農民たちが『江戸にある排泄物も持って帰ってきて、肥料として使えばよいのではないか』と気が付きます。そこで江戸まで排泄物を回収にいくと、より良いものを食べている武士たちの排泄物は、肥料としての質も高いことが分かり、江戸で排泄物を買って余剰分を周りの農民に売り始めました。

するとこの商売がとても上手くいったため、本格的に排泄物の売買を生業としようと考える人が増加。江戸まで向かう船の船頭や排泄物の回収を行う汲み取り屋を雇い、江戸の排泄物を売り買いする『下肥問屋』が誕生しました。江戸時代には他にも、紙くず買い、灰買い、蝋燭の流れ買い、鋳掛屋など、さまざまな商人が生まれ、使い古したものの修理・買取が盛んに行われていました。

つまり、幕府や藩主による命令や、『もったいないから、リサイクルしましょう』といった社会倫理から再利用をしていたのではなく、禁止令を逆手に取り、町人や農民が『自分たちの生活が上手く回る』ように、能動的に再利用をしていたわけです。持続的なリサイクルは、お金の動きと連動させることで実現するのです」

 

循環型社会を実現させた4つの価値観

もちろん江戸時代の循環型社会を支えたのは、社会の仕組みだけではありません。江戸の人々に根付いていたさまざまな価値観も、循環型社会の成立に大きく影響していました。

 

・廃りをやめる

「廃り(すたり)とは『捨てる』からきた言葉で“無駄”を意味します。つまり廃りをしない=無駄をしないということ。江戸時代の人々には質素倹約の価値観が根付いていました。また、『もったいない』という言葉も、“ものの本来の存在価値(もったい)が失われる”という意味でした」

 

・経済=人を救うこと

「現代では、経済=金銭のやりくりといった意味で使われていますが、江戸時代は違います。経済とは経世済民の略で『世の中を営むことによって人々を救うこと』を言います。つまり、経済活動の目的は、儲けることではなく人々を救うことだったんです。そのため、江戸時代の豪商たちは橋を作るなど、自分たちのお金で公共事業を担っていました。

また、現代の企業は儲けて会社の規模を大きくしようとしますが、江戸時代は儲けすぎずに現状を継続することが良しとされていました。儲けすぎていない証明として、商人たちはあえて汚れた暖簾を使っていたんですよ」

 

・1年サイクルで循環する時間感覚

「現代の人の多くが、時間を未来に向かって一直線に伸びていくようなイメージで捉えていると思います。しかし江戸時代の人々は、時間は1年で一周すると考えていました。そのため、秋に何かを収穫すると同時に、来年の秋にも収穫するにはどうすればよいのかを考えていました。木を切りすぎない、漁をしすぎない、山で狩りをしたらその場で解体して動物が食べる分の肉を残していく、それらが未来の自分たちのためになることを理解していたのです」

 

・限りある資源に合わせた暮らし

「現代の価値観で捉えると、江戸時代は決して暮らしやすくはありませんでした。例えば、江戸時代の夜はとても暗く、行燈(江戸の人々が日常的に使っていた、綿花の油を用いた照明)は60w電球の1/100ほどの明るさだったと言われています。しかし江戸時代の絵には行燈の明かりで読書や裁縫をしている様子が描かれており、不思議に思った私は行燈の明るさを再現して読書ができるか実験をしてみたんです。

すると現代の本はまったく読めないのですが、和紙に墨で印刷された江戸時代の書物はハッキリと読めました。また、画集の浮世絵は部分的に光って見えなくなる一方で、江戸時代と同じ印刷技術で刷られた浮世絵は色や立体感が素晴らしく美しかったのです。つまり必要以上にエネルギーを消費するのではなく、少ないエネルギー(行燈)に暮らしを合わせていた(わずかな光で読める本や浮世絵を作っていた)ということです」

 

当時の暮らしを真似することは難しくとも、「無駄をしない」「必要以上に欲に走らない」「常に1年後のことを考える」「限りある資源に暮らしを合わせる」といった考え方は、十分今に活かせます。一度自分の生活に置き換えて、考えてみてはいかがでしょうか。

 

現代の暮らしにおける3つの問題点

最後に、江戸時代の暮らしを踏まえ、現代の暮らしにおける3つの問題点を教えていただきました。

 

問題点1.自給率の低さ

「一番の問題点は自給率の低さです。鉱物資源が少なくなり輸入を控えるようになった江戸時代は、食糧はもちろんのこと、木綿や絹織物、時計などは自分たちで作っていました。一方現代では、食料品も日用品も輸入に頼っています。中でも食料自給率が低いため、一刻も早く農村の復興をすべきではないでしょうか。島国だからこそ、いつ輸入できない状態に陥るか分かりません。自分たちの食べ物は自分たちで確保できるように、これからは生産技術の向上に注力していかねばなりません

 

問題点2.リサイクルに要するコスト・エネルギー量の増加

「江戸時代は、大抵のモノが燃やして灰にするだけで肥料となり、太陽や土の中にいる微生物によって分解されていました。しかし今は化学物質を使った製品が多いため、単に土に返すわけにはいかず、電力などを利用した処理が必要となりました。地球に優しいはずのリサイクルにも、膨大なコストとエネルギーがかかるようになったのです。よりエコにリサイクルを行うために、自然エネルギーの開発が必要なのではないでしょうか

 

問題点3.より楽な方法で済ませること

「江戸時代は手間を掛けてでも長く使うことを大切にしていました。着物がその良い例です。江戸の人々にとってはとても高価なものだったため、夏は裏地を取り、冬は裏地と表地の間に綿を入れることで一年中着ていました。また、ほつれたら自分で縫い直すなどして、長く着続けていました。

しかし高度経済成長期以降、労働時間ばかりが増え、身の回りのことに費やす時間は徐々に減っていきました。そして時短家電などが次々と誕生するなど、身の回りのことは楽できればできるほど良いという傾向に陥っています。その結果、手間をかけてモノを使い続けるという意識が薄れてきているのではないでしょうか。

今後は働く時間を減らし、身の回りのことに使える時間を増やしていくべきです。最近はこの重要性に気付き、仕事をやめて地方に移住する人も現れ始めています。江戸時代に下肥問屋が生まれたように、サステナブルな社会に則した新しい仕事を見つけていく時代に入っていると思います」

 

「しきりにSDGsが叫ばれる昨今ですが、今までと同じ働き方をしながら社会的な倫理だけで状況を変えることは困難です。繰り返しにはなりますが、江戸時代の人々も倫理観で循環型社会を実現していたわけではありません。サステナブルな行動に経済が絡み、全員にメリットをもたらしたから、実現できていたのです。これからはSDGsを意識したアクションと同時に、新しい生き方についても考えてみてください。

また、SDGsには17項目ありますが、日本だけで見るとすでに達成目前の目標もあると思います。今後、日本は一体どの項目に向き合うべきだと思いますか。意味のあるアクションを起こすためにも、日本に必要な項目を整理した『ジャパニーズSDGs』について考えてみてはいかがでしょうか」

 

【プロフィール】

法政大学名誉教授・前総長 江戸東京研究センター特任教授 / 田中優子

法政大学社会学部教授、国際日本学インスティテュート(大学院)運営委員長、社会学部長、総長を歴任。専門は日本近世文化・アジア比較文化。研究領域は、江戸時代の文学、美術、生活文化。『江戸の想像力』で芸術選奨文部大臣新人賞、『江戸百夢』で芸術選奨文部科学大臣賞・サントリー学芸賞。その他多数の著書がある。江戸時代の価値観、視点、持続可能社会のシステムから、現代の問題に言及することも多い。2005年度紫綬褒章。現在、東京都男女平等参画審議会会長、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会副理事長、人間文化研究機構教育研究評議会評議員、サントリー芸術財団理事、『週刊金曜日』編集委員、TBS「サンデーモーニング」のコメンテーターもつとめる。

 

家族に、地元に、地球にも優しい小野伸二。サスティナビリティ活動の提案が話題に

現在、J1北海道コンサドーレ札幌でプレーする元日本代表MF小野伸二が自身のSNSを更新。サスティナビリティ活動の提案に、ファンは素直に反応している。

 

 

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小野伸二 / shinji ono(@shinjiono7)がシェアした投稿

黒コーデのファッションに身を包み、愛犬Lauweと一緒に「持続可能性」を意味するサスティナビリティ活動をアピール。

 

リサイクル素材で作られたグリーンのエコバッグを手に、「ASICSのエコバッグ リサイクル素材100%で作られているそうです。日頃からサスティナビリティ活動への意識を高めて少しでも貢献出来れば。グリーンバッグはアシックスの直営店で購入できるみたいなので是非」とコメントもつけて自身のインスタグラムに投稿。

 

するとファンからは「是非購入させていただきます」や「ブラックコーデもかっこいい」といった称賛メッセージが寄せられ、足元にいる愛犬、バーニーズマウンテンドッグのLauweの成長ぶりも話題に。

 

 

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小野伸二 / shinji ono(@shinjiono7)がシェアした投稿

9月27日に43歳の誕生日を迎えた小野は、SNSで家族とともに写した画像を、「43歳になりました。今まで通り「楽しむ」事と「感謝の気持ち」を忘れずに精一杯やっていきます。こんなおじさんをよろしくお願いします」とのコメントともに投稿。

 

同日にはJリーグも公式ツイッターで小野の誕生日を祝い、若かりし日の画像も投稿され、注目を集めた。

 

43歳となったいまでも現役を続ける小野は、地元にも優しかった。小野と同じく静岡県出身の、神奈川社会人1部・はやぶさイレブンに所属する元日本代表の水野晃樹がSNSを更新。「SNS載せなくていいよって言ってましたが、載せちゃいました」と投稿。

 

ファンからは「伸二男前!」や「最高のアスリートです」とコメントも。誰からも愛され、地球にも優しい小野の現役生活はまだまだ終わることなく、ファンに元気を与え続けてくれそうだ。

脱プラは紙に置き換えれば解決? 日本と世界の森林が抱える問題と「森林認証制度」

プラスチックの代替素材として、注目を浴びている紙。ストローや商品パッケージなど、さまざまなものが紙へと置き換わっているなか、「紙への安易な切り替えは、森林破壊につながるのではないか?」と疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、紙とプラスチックの違いや紙が選ばれる理由、森林保護の取り組みである「森林認証制度」などについて、「紙で環境対策」というスローガンのもと、環境問題へのアプローチに力を入れている大昭和紙工産業の西嶋裕之さんに、話を伺いました。

 

プラスチックの代用品として、紙が選ばれる2つの理由

海洋プラスチックごみ問題や気候変動問題といった課題に対応するべく、使い捨てプラスチック削減に向けた取り組みが、今、世界中で推進されています。日本も例外ではなく、2019年に政府は「プラスチック資源循環戦略」を策定。2030年までに、使い捨てプラスチックを25%排出抑制することを目標としています。

 

地球環境における諸問題以外に、日本がこれまで廃プラスチックを輸出していた諸外国が、輸入の規制強化に乗り出したことも背景にあります。なかでも、主な輸出国であった中国は、2017年末に生活由来の廃プラスチックの輸入禁止を宣言。行き場を失った廃プラスチックの処理についてもあらためて考えなければならない今、政府は「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」に加え、再生可能資源への適切な切り替えを意味する「Renewable(リニューアブル)」を基本原則として政策を推進しています。

 

そしてこの「Renewable」を促進するためにと、注目されているのが紙素材。食品、化粧品、アパレルなど、さまざまな業界で包装をプラスチックから紙へと切り替える動きが加速しています。では、なぜ紙が選ばれているのでしょうか? その理由を西嶋さんに伺いました。

 

1.紙は持続可能な資源である、木からできている

「理由の一つとして、やはりプラスチックと紙の原材料の違いが大きいと思います。プラスチックは、基本的に枯渇資源である石油から作られています。限りある資源である石油に比べて、紙の原材料である木は、植樹や適切な森林管理を行うことで再生可能な資源。さらに、木はCO2を吸収するため、焼却されたとしてもカーボンニュートラルなサイクルを生み出すことができる素材です。そうした理由から、よりサステナブルな素材として紙が選ばれているのだと思います」(大昭和紙工産業 紙で環境対策室 主任・西嶋裕之さん、以下同)

 

2.自然由来で、生分解性の性質がある

「もう一つは、生分解性があるということ。プラスチックは海に流れ出しても分解しきれず、マイクロプラスチックとなって恒久的に海に漂います。一方で紙は、自然由来の素材で作られているので、自然の条件下で分解されるという性質があります。ごみが意図せず土壌や海洋に流出してしまう可能性を考えると、『紙に置き換えられるものは紙に置き換える』という選択をする企業が増えています」

 

木を切る=森林破壊?森林資源をとりまく国内諸事情

紙を選択するメリットは理解できても、やはり「紙製品を作るために木を切りすぎると森林破壊につながるのでは?」と懸念を示す人も多いはず。もちろん、伐採をし続けていたら森林は失われてしまいます。そうした状況に対し、西嶋さんは「大切なのは、適切に森林を管理すること」と話します。

 

「たしかに、『木を切る=森林破壊』というイメージを抱いている人は多いと思います。過剰な伐採は控えるべきではありますが、同時に森林を管理し、有効活用していくことも大切なんです。
たとえば、日本国内の問題として挙げられるのが、森林の活用不足。日本は戦後、不足していた木材資源調達のために、国策として各地に木を植えてきました。木はおよそ40~50年で成長し、現在では当時植えた木材がいつでも収穫できる状況になっています。にもかかわらず、手付かずのまま放置されている森林が多く存在しているのです。

森林を放置すると、木が密集しすぎて本来成長すべき若木が育たなかったり、管理が行き届かず土砂崩れの原因につながったりと、さまざまな問題を引き起こしてしまいます。
さらに、木は成長しきると光合成の作用が緩やかになり、二酸化炭素の吸収率も下がると言われています。つまり、計画的に木材を収穫・植樹していくことは、健全な森林の保全のみならず、CO2削減による地球温暖化防止にもつながっているという視点もあるのです」

 

持続的な森林資源を守るための「森林認証制度」

それでも、世界に目を向けてみると森林破壊は深刻な問題となっています。

 

「森林破壊の原因は、違法伐採やプランテーション・農地への転換、森林火災などさまざまありますが、現在、『1秒間にテニスコート約15面分の面積の森林が消失している』と言われています。森林破壊が進むと、野生動物や森に住む人々のすみかを奪うだけでなく、気候変動の要因にもなりかねません。私たちが地球上で暮らしていくために、木材は欠かすことの出来ないもの。だからこそ『仕方ないこと』で済ませずに、森林を適切に管理し、次世代に残していくことが大切だと考えています」

そうした背景から誕生したのが「森林認証制度」です。森林認証制度とは一体、どのようなものなのでしょうか?

 

「森林認証制度とは、適正に管理されていると認証を受けた森林から取れる木材を、生産から流通、加工の全工程に認証ラベルを付けることで、持続可能な森林の活用を図る制度です。つまり、私たち消費者が認証製品を積極的に選択していくことで、森林保護に間接的に貢献できる仕組みとなっています」

 

世界には多数の森林認証制度が存在しており、なかでも国際的な認証制度として有名なのが、WWF(世界自然保護基金)を中心として発足した「FSC認証(森林管理協議会)」と欧州生まれの「PEFC認証(PEFC森林認証プログラム)」。今回は、大昭和紙工産業が全国に展開する営業所と工場で認証を受けている「FSC認証」を例に、詳しい仕組みを解説していただきます。

森林認証制度における、2つの認証「FM認証」と「CoC認証」

↑出典=FSCジャパン ビジネス向けパンフレットより

 

「森林認証制度の仕組みとしてまず知っておきたいのが、認証にも2種類あるということです。

一つは、森林の管理に関する「FM認証」。これは、厳しい基準をもとにチェックを行い、適切に管理されていると認定された森林自体に付与されるものです。もう一つが、加工・流通過程の管理を認証する「CoC認証」です。FM認証を受けた森林から産出された木材を、適切に管理・加工しているかをチェックするもので、製材所や製紙会社、印刷会社、卸売業者などが受ける認証です。

たとえば紙製品は、木を切ってから消費者の手に届くまでに多くの企業が関わるのですが、生産、加工、流通に関わるすべての組織が認証を受けなくては、製品やサービスにFSC認証マークを付けることができません。非常に厳しい条件ではあるのですが、そうすることで『この製品がどのような工程を経て作られた紙製品なのか』という、トレーサビリティを担保することができるのです。

さらにこの認証は、独立した第三者機関によって中立的に審査が行われているのも特徴です。補足ではありますが、2つの認証制度でチェックする仕組みはPEFCも同様です」

 

森林保護はもちろん、SDGsの達成にも貢献する10の審査基準

↑出典=FSCジャパン FSC原則と基準(第5版)紹介冊子より

 

FSC認証を受けるためには、厳しい審査基準をクリアしなくてなりません。とくに「FM認証」では、世界共通の10の原則と70の基準に基づいて審査が行われています。その特徴についても教えていただきました。

 

「『FM認証』の原則は、環境に関する項目だけでなく、社会や経済といった多角的な視点から成り立っています。たとえば、森林の計画的な管理ができているか? といった内容はもちろんのこと、そこで働く労働者の権利がきちんと守られているか、先住民の権利を侵害していないかなどさまざまです。これらのすべての基準について問題がないと判断された場合にのみ、認証が与えられています。

FSCの10の原則を見てみると、貧困や男女平等など、SDGsが掲げる17の目標に関係するものばかりです。さらに、2017年のSDGs進捗報告では、目標15『陸の豊かさも守ろう』の進捗を測る指標として『自主的な森林認証を取得している森林の面積の増加』が挙げられました。つまり、FSC認証マークがついた製品を選ぶことは、環境問題に加え、人権といった面でもSDGsの達成に貢献できると考えています」

 

森林資源を利用する、私たちが意識すべきこと

日常生活で毎日のように使用する紙製品。森林資源を利用する私たちが意識すべきこととは、一体何でしょうか?

 

「紙袋やコンビニで買うお菓子の箱などを見ると、『環境ラベル』と呼ばれるマークが印刷されていると思います。『環境ラベル』とは、環境負荷低減につながる製品やサービスに付けられるマークです。

今回紹介した、FSCやPEFCなどの森林認証制度マークもその一種です。他にも古紙を使っていることを示す再生紙マークや、環境に配慮した植物油を印刷インクに使っていることを示す植物油インキマークなど、さまざまなマークがあるので、まずは見つけてみてください。さらに、そのマークはどういう目的で付けられて、この紙製品はどういう風に作られたのか、というところも意識していただけたらうれしいですね」

今回インタビューを行った大昭和紙工産業も、FSC(CoC認証)を取得しているだけでなく、オリジナルの環境マークを作成しています。西嶋さんは、「製造した紙製品にマークを付与することで、環境問題を考えるきっかけにしてほしい」と話します。

 

↑大昭和紙工産業オリジナルの「木を植えるマーク」と「海を植えるマーク」。同社が製造する製品に付与することで、植林によるCO2排出削減や海洋プラスチックゴミゼロ活動といった取り組みへの間接的な支援に貢献できる。

 

「今、プラスチックの代替品として紙製品の需要は確実に高まっています。ですが、ただ安易に紙製品に切り替えるのではなく、やはり一歩踏み込んで考えて欲しいという思いがあります。大昭和紙工産業オリジナルの環境マークをご利用いただくことで、企業のみなさんにも、一般消費者のみなさんにも環境課題を意識してほしいと考えています。
弊社は、持続可能な資源である紙の加工製品を取り扱う会社です。しかし、紙だからといってなにもかもOKというわけではありませんし、ものを作る上ではどうしてもCO2を排出したり、エネルギーを使ったりします。だからこそ、メーカーが果たすべき責任として、環境課題に貢献していきたいという思いで活動しています。
現在は、環境配慮型の製品開発や『カンキョーダイナリー(環境>)』というサイトを通じて、環境問題に関する情報発信をするなど、さまざまな取り組みを行っています。これからも『紙で環境対策』のスローガンのもと、みなさんと一緒にサステナブルで地球に優しい社会の実現を目指していきたいです」

 

木は、管理された森林を適切に利用することで、将来的にも利用できる持続可能な資源。大切な森林を守るためにも、森林認証を受けた森から作られた紙製品を選ぶなど、意識的な選択で環境課題に目を向けてみませんか。

 

プロフィール

大昭和紙工産業 マーケティング室・紙で環境対策室 主任 / 西嶋 裕之

美術大学卒業後、デザイン事務所勤務を経て入社。紙を通して環境に関する新しい取り組みにチャレンジする「紙で環境対策室」に所属。ソーシャルグッドな情報コンテンツを発信する「カンキョーダイナリー(環境>)」の運営や、環境配慮型の商品開発などに携わっている。

 

過剰な節水は逆効果!? 日本人が知らない「水」という資源をめぐる現状と未来

水道の蛇口から出てくる水が、どこから来ているか知っていますか? また、使った水がどこへ流れていくか知っていますか? おそらく、ほとんどの人が答えることができないのではないでしょうか。

 

毎日のように使っていながら、滅多に考える機会のない「水」のこと。今、世界ではこの「水」が、大きな問題となっています。国連ニューヨーク本部 経済社会局 環境審議官を経て、現在はグローバルウォータ・ジャパンの代表を務める吉村和就さんに、今知っておくべき「水資源の現状と課題」について教えていただきました。

 

水の問題に目を向ける意味とは?

年々、関心の高まるSDGs。その中には、水に関するものとして目標6.「安全な水とトイレを世界中に」も含まれています。しかし吉村さんによれば、水資源とSDGsの関係はそれだけではないのだとか。

 

「水資源の賢い活用が17項目すべての達成につながると、私は考えています。なぜなら、かつて四大文明が川の近くから発展したように、水が人間生活の基本財源と言えるからです。貧困、飢餓、健康は、安全に飲める水や農業に使える水があれば、解消していくことができます。また、教育とジェンダーの平等には、不平等を強いられている子どもや女性の多くが、一日の大半を水汲みに費やしていることが問題のひとつです。そのため、近くに共同水栓ができれば、子供や女性の負担が減り、教育・雇用の機会が得られるのではないでしょうか」

「しかしSDGsに対する興味・関心が高まる一方で、水資源について深く考える人はそう多くありません。海に囲まれ、列島の真ん中に山が連なる日本は、水資源が潤沢です。そのため、日本人にとっては水の存在が当たり前になっているのです」(吉村和就さん、以下同)

 

地球上の水資源のうち、
生活に使える水はたったの0.8%

あまり深く考える機会のない水資源ですが、実は世界規模で考えるとさまざまな問題が起こっています。なかでもとくに問題視されているのが「水不足」。一体何が起こっているのでしょうか?

 

「正確に言うと、水の量は減っていません。地球上には14億立方キロメートルの水資源があり、それらは気体(水蒸気)、液体(海水と淡水)、個体(氷山)の3つに分けられます。それが、地球温暖化の影響で個体(氷山)が溶け、液体(海水と淡水)が蒸発し、気体(水蒸気)の割合が増加しているのです」

「水の状態は一定ではなく、地球の温度や自転によって変化します。これまでは気体(水蒸気)が雨や雪に変わり、液体(海水と淡水)と個体(氷山)へと戻っていました。そして私たちは、液体(淡水)を生活に使ってきました。しかし気体(水蒸気)が増えると、雨や雪ではなく局地的な大雨や台風などの異常気象による自然災害を引き起こします。その上、その水は生活に使うことができません。

 

その結果、いま地球上にある水資源のうち、生活に使える水はたったの0.8%しかなくなっています。地表面にあり、安全ですぐに飲むことができる水に限ると、0.01%しかありません。つまり水不足=私たちが生活に使うことができる水の量が減ってしまうということなのです」

 

水不足になって困ることは、
飲み水の不足ではない

2022年7月11日、国連人口基金は「2022年11月に地球人口が80億人を突破する」と発表しました。さらに「そのうち32億人(約40%)が水不足に直面する」と予想しています。日本に住んでいると少し縁遠い話のようにも感じますが、水不足になると具体的にどういったことが起こるのでしょうか?

「水と聞くと飲料水や生活用水を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は世界における水需要の割合は、農業用水が70%、工業用水が20%、生活用水が10%です。そのため、水不足に陥った際、農業にもっとも大きな影響が出てきます。2番目に多い工業用水とは産業活動に使われる水のことで、なかでも電気などのエネルギーをつくる際は、蒸気や冷却水が欠かせません。さらに地球温暖化の影響で冷却水の温度が上がっているため、これまでよりも多くの水が必要になっています。このように、水不足が深刻化するとエネルギーの供給にも影響が出てきます」

 

日本も安泰じゃない!
水道事業が直面する3つの問題

水資源を取り巻く諸問題。それは日本も例外ではありません。実は、安全な飲み水が確保されている日本ならではの問題が、まさに今起こっているのです。

 

「日本の水道普及率は98%と、世界でもトップレベルを誇ります。しかし現在、日本の水道事業には『ヒトなし・モノなし・カネなし』という3つの問題が渦巻いています」

 

ヒトなし
高齢化によりベテランの水道技術者が退職。技術を継承する若手も不足している。

モノなし
日本の水道設備は、戦後の高度経済成長期にあたる1955~1973年に一気に普及。約40年が過ぎると老朽化していくため、交換が必要な設備が年々増えている。

カネなし
人口減少に伴い、水道料金の収入がここ10年で約2千億円減少。老朽化した設備を交換することができない。また、地球温暖化の影響で水道原水に微生物が増え、今まで以上にろ過に費用がかかっている。

 

「非常に厳しい状況が続く水道事業。追い打ちをかけているのが、節水機能のついた電化製品の普及です。実は水問題の観点から言うと、節水はあまり推奨することができません。というのも、使用する水の量が減ると、おのずと水道事業体に入るお金も減ってしまいます。水道には国費が使われておらず、すべてを水道料金でまかなっているため、水道料金による収入が減れば減るほど、設備の改修などに使えるお金も減ってしまうという側面があるのです」

 

未来の水資源のために
「水・食料・エネルギー」を三位一体で考えよう

これまで私たちは当たり前のように水を使ってきましたが、今後も同じ使い方をしていけば暮らしに影響が出てくる可能性も否めません。日本の水資源の未来のために、何をすべきなのでしょうか?

 

「水資源の未来を考える上で大切なのは“水と食料とエネルギーを三位一体で考えること”です。再生利用可能な資源をうまく循環させ、効率的に使うことが最高のSDGsと言えるのではないでしょうか。

例えば、国土交通省は2013年から『BISTRO下水道』を推進しています。これは再生水、汚泥肥料、二酸化炭素などの下水道資源を農作物の栽培に利用する取り組みです。『食べ物に下水を使って大丈夫なの?』と心配になる方もいるかもしれないですが、下水道資源には窒素やリンなどの農業に有用な物質がたくさん入っています。むしろ最高の肥料とも言えるのです。

また、私は水を地域で循環させることも、日本の水資源の未来を守る上で有効な策だと考えています。というのも、水は浄水場から管を通って各家庭へと運ばれていきます。当然、水を運ぶにはエネルギーが必要であり、エネルギーを使えば使うほど水資源も消費してしまいます。各地域で水をつくり、使い、処理することで、最低限のエネルギー消費に抑えられるのではないでしょうか。

実はこれをうまく行っていたのが、江戸時代なのです。当時は山や川を境目に地域が分けられており、雨が降ると、山の高低差や川の流れなどの自然の力で地域内を循環していました。エネルギーを使わずにきれいな水を使える、まさに地産地消として理想的な水循環の形です」

 

「そして、皆さん一人ひとりにも、水と食料とエネルギーを三位一体で考えていただきたいと思います。たとえ節水をしても、エアコンでエネルギーを消費すれば、結局たくさんの水を使ったことになりますよね。“点”ではなく“線”で物事を考えて、水を賢く使っていきましょう」

 

【プロフィール】

グローバルウォータ・ジャパン代表 / 吉村 和就(よしむら かずなり)

大手エンジニアリング会社で営業、開発、市場調査、経営企画に携わり、1998年より国の要請で国連ニューヨーク本部に勤務。環境審議官として発展途上国の水インフラの指導を行った。その後、グローバルウォータ・ジャパンを設立し、各種メディアや講演を通じて水問題について判りやすく解説している。著書に『世界と日本の水事情』(水道産業新聞社)、『最新水ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)、『水に流せない水の話~常識がひっくり返る60の不思議~』(角川文庫)など。
グローバルウォータ・ジャパン HP

SDGsが悪用されている!?「グリーンウォッシュ」の問題と私たちができること

サステナブル、エコ、地球にやさしい……。あらゆるモノやサービスに添えられる環境保護のうたい文句ですが、何を根拠にその言葉を信じるか、自分なりに考えてみたことはありますか? いま世界中で起こっている見せかけだけのエコ=「グリーンウォッシュ」の問題と、賢い消費者になるために今日からできることについて考えます。

 

「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」とは?

「グリーンウォッシュ」とは、英語でごまかし・粉飾といった意味をもつ「ホワイトウォッシュ」という言葉に、環境やエコといった意味をもつ「グリーン」の単語を組み合わせた造語です。主に企業のサービスや製品において、環境に配慮しているような取り組みをアピールしているにも関わらず、その実態がともなっていないことを指します。簡単にいえば、見せかけのエコということです。

 

「グリーンウォッシュは、アメリカの環境活動家が1986年に書いたエッセイで作り出した造語です。その後、環境に対する意識が世界的に高まるにつれてこの言葉がクローズアップされるようになり、’90年代の後半にはイギリスのオックスフォードという辞書に単語が掲載されるようになりました」

 

そう教えてくれたのは、国内外のサーキュラーエコノミー=循環型経済に関する情報発信や企業・自治体支援などを行っているプラットフォーム「Circular Economy Hub」で編集長を務める那須清和さんです。近年では「グリーン」の部分に「SDGs」という言葉を当てはめた「SDGsウォッシュ」「サーキュラーウォッシュ」という造語まで派生するなど、企業の広告コミュニケーションにおける「グリーンウォッシュ」はますます見逃せない問題になっているそう。

 

「サステナビリティやサーキュラーエコノミーへの取り組みは、今や企業にとって欠かせない戦略です。つまり、より環境に配慮した製品やサービスを提供している企業に、消費者(購入を通じて)、投資家(投資を通じて)からお金が集まる時代になったことが、この問題の背景にあると言えるでしょう。一方で私たち消費者は、企業の製品が作られる本当のプロセスや原料などに関して、まだまだ限られた情報しか得られないケースが大半です。企業と消費者の間にあるこのパワーバランスが、グリーンウォッシュを生むひとつの大きな要因になっていると言えます」(「Circular Economy Hub」編集長・那須清和さん、以下同)

 

何が問われる? グリーンウォッシュの「7つの罪」

企業におけるグリーンウォッシュ問題が顕在化してきたのは、2000年代以降だといわれています。特に環境意識の高いヨーロッパでは、誰もが知る世界的なファストフード・チェーンから自動車メーカー、アパレルブランド、航空会社まで、過去に少なからぬ大企業がグリーンウォッシュを非難されてきました。

 

では、具体的にどんな問題が起こっているのでしょうか? グリーンウォッシュには、以下に挙げる「7つの罪」があるとされています。

 

1.トレードオフ隠蔽の罪

一部の良い属性だけをアピールして、その製品やサービスに関わるすべてのプロセスが環境に配慮しているかのようにうたうこと。

 

2.証拠がないことの罪

その製品やサービスがどのように環境に配慮しているか、具体的に証明していないこと。

 

3.あいまいさの罪

「環境にやさしい」「サステナブル」といった曖昧な表現で消費者の誤解を招くこと。

 

4.誤ったラベル表示の罪

実際には存在しない第三者機関の認証ラベルなどを貼って、安心や安全を偽装すること。

 

5.無関係の罪

真実ではあっても、その製品やサービスを通して消費者が求めている環境配慮とはズレた的外れな部分で、エコをアピールすること。

 

6.「かろうじて良い」罪

その製品カテゴリーの中では「良い」とされる部分をアピールし、より大きな環境負荷、問題から消費者の注意をそらすリスクがあること(たとえば『有機タバコ』はこれにあたる可能性がある)

 

7.うそをつく罪

うそをついて、消費者をだますこと。

 

出典:UL「Sins of Greenwashing」https://www.ul.com/insights/sins-greenwashing

 

どれも消費者を裏切る悲しい行為ですが、那須編集長はこの中でもとくに気をつけるべき罪があるといいます。

 

「いま日本を含め世界中で起こっている問題の多くは、『1.トレードオフ隠蔽の罪』ではないでしょうか。例としてよくあるのは、原料だけ見れば環境に良さそうな製品だけれど、製造工程や物流といったライフサイクル全体で見ると多くのエネルギーを消費していて、エコと言いづらい……といったケースです」

 

一方で、これらの罪や『2.証拠がないことの罪』に関しては、今後の企業の取り組み次第で改善の余地もあるといいます。

 

「グリーンウォッシュへの問題意識がとくに高いヨーロッパでは、QRコードからその製品に関するサスティナビリティ情報を閲覧できる『デジタルプロダクトパスポート(DPP)』という仕組みが生まれようとしています。これによって、消費者がより詳しい情報を得て、信頼できる製品を選べる機会が増え、結果的に循環型経済を推し進めることにつながると期待されているんです。まだ検討段階ではありますが、EUでの導入が始まったなら、その流れはいつか日本にも波及するかもしれません」

 

それって本当に地球にやさしい? だまされない消費者になるために

街のお店やSNSの広告など、日々あらゆるところで「エコ」「サステナブル」といった言葉やイメージを目にする時代。グリーンウォッシュにだまされない賢い消費者になるため、私たちにできることとは?

 

「まずはそういった言葉や表現に出会ったら鵜呑みにせず、注意して製品やサービスの情報を調べてみること。また、情報が多く表示されている製品を購入することなども考えられます。エコマークや有機JASマークのような認証ラベルの有無は、ひとつの判断材料にはなると思います。あとは、聞いたことのない名前の企業なら、検索して公式サイトで情報収集する心がけも大切ですね。また、SDGsやグリーンウォッシュについて基本的なことを知りたかったら、電通が公開している『『サステナビリティ・コミュニケーション』ガイド』という資料がわかりやすくておすすめです」

 

また、見逃されがちだけれど意外と有効な判断材料になるのが、「産地」についての情報だそう。

 

国内にも存在する場合は、できるだけ自分の暮らす場所から近い産地で作られたモノを買うという判断軸を持つといいですよね。たとえば外国で大量生産された木製品よりも、日本の職人が国産の木材を使って作ったモノの方が、製品に関する情報の透明性は高くなるはずです」

 

「地球にやさしいこと」や「効率の良いこと」をしているつもりで、実はそうではなかった…というパターンは、近年どんどん身近になっているあのサービスにも潜んでいるかもしれません。

 

「意外に思われるかもしれませんが、環境負荷として注意が必要なのは、便利な『サブスク』サービスです。サブスクでモノを所有せずに利用するアイデアは良いことも多いといえます。しかしここで新たに発生する物流や梱包資材が、どれほどのCO2を排出するか? もしかすると、日々の洗浄やクリーニングで大量の水を汚しているのではないか? そういった視点を持ってサービス全体をチェックすると、全く違う側面が見えてきたりします。実際、ライフサイクル全体での環境負荷を抑えるため、再利用できる梱包資材を導入したり、既存の物流ラインを生かしてコストを抑えたりといった努力をしている企業も出てきていますから、できるだけそういったサービスを選びたいですよね」

 

ひとことにグリーンウォッシュといっても、その問題は複雑多岐。とくに日本はヨーロッパに比べると、問題に対する消費者の認識もまだまだ低いのが現状です。そんななかで企業によるウォッシングを少しでも減らすためには、消費者自らがリテラシーを高めていくことが不可欠だと那須さんは言います。

 

モノを買うときに、“ライフサイクル”という視点で製品を選ぶことがその第一歩になると思います。長く使えるか、メンテナンスはしやすいか、壊れたときに修理が頼めるのか、ライフスタイルが変化したときに対応できるか、リサイクルできるのか。すべての情報を得ることは難しかったとしても、買った後のことを自分なりに考えてイメージしてみることはできるはず。目先のエコ、サスティナブルといった言葉に踊らされず、モノの本質的な価値をちゃんと見ようとする意識が大切なのではないでしょうか」

 

【プロフィール】

Circular Economy Hub 編集長 / 那須清和

大学(紛争学専攻)卒業後、教育関連企業・経営支援団体を経て、Circular Economy Hubに参画。また、サークルデザイン株式会社を設立する。サステナビリティ、特にサーキュラーエコノミーに特化して、共創・調査・研修などを行う。2004年に実施したエクアドルでの鉱山開発を巡る紛争のフィールドワークをきっかけに、サステナビリティに関心を持ち、後にサーキュラーエコノミーを追求・推進するようになる。
Site=https://cehub.jp/

 

手軽なバッグ型・段ボール型が登場!「コンポスト」で生ごみを資源に変えるサステナブルな暮らし

昨今、注目されている「コンポスト」。生ごみや落ち葉を活用して堆肥をつくることをいい、もともと家庭菜園を楽しんでいる人にはお馴染みでしたが、マンションのベランダでもできるバッグ型など手軽なタイプの登場によって、身近になってきています。

 

生ごみや落ち葉を、ゴミとして廃棄せずに活用する……そんなサステナブルな仕組みと、メリット・デメリット、活用法などについて、バッグ型のコンポストを手がけている、LFCコンポスト代表のたいら由以子さんに教えていただきました。

 

忙しい日々に癒しをもたらす!? 都会のベランダにも取り入れたい「コンポスト」

たいらさんが都会のベランダで始められるコンポストの開発と普及に力を注ぐきっかけとなったのは、約28年前の、お父様のガン宣告だったそう。

 

「食養生のための無農薬野菜が必要になり、いざ探してみると、近くのスーパーではほぼ手に入らない。おまけに高価で、家計への負担も大きい。安全な野菜を手に入れるのが困難な社会に憤りを感じつつも、この状態に反対運動をするよりも改善策を考え、行動することが大切だと感じました。

現代人の多くは、日々の忙しさに追われ、コンビニやスーパーで安易に手に入る無農薬とはほど遠い食材に頼り、食べ残しや調理くずは可燃ごみとして処分しています。これは自然界の循環を止めてしまっている行為なのです。わたしたちは自然の中の一部。食べ物で栄養をいただいたら、生きている間は排泄物でお返しし、死ぬときは自分自身が栄養素として土に戻っていくようにできています。人間も例外ではありません。

実際に、コンポストを始めたお客さまの中には、イライラや不安の解消効果が得られたという声も少なくありません。これは、自然循環を取り戻すアクションが、人間の心にも好循環の働きをもたらしてくれたと言えます。土や自然に触れる生活からかけ離れている方にこそ、コンポストを体験してもらいたいです」(LFCコンポスト代表・たいら由以子さん、以下同)

たいら由以子さん。

 

生ごみが分解されるまでは臭う? 土にどんな影響がある?

家庭から出る生ごみを資源として有効に活用する「コンポスト」。でもコンポストを使うことで、生ごみ臭や虫がわくトラブルはないのでしょうか?

「水気を含んだ生ごみをビニール袋に入れて保管すると、嫌な臭いが発生しますが、コンポストは微生物が分解していく上に、水分を含んだ生ごみが腐敗していくわけではないので、悪臭に悩まされることはありません。また、密封しておけば、ハエが飛び回るような状況も起こりません」

 

ちなみに、生ごみの臭いを防ぐものでは「乾燥式」の生ごみ処理機があります。温風で生ゴミの水分を蒸発させて乾燥させることで、腐敗の進行を防ぎ、臭いにくくするもの。ただしこれは、燃えるゴミとして廃棄する前提。生ごみをごみとせず、土壌に循環させて有効活用できるのが、「バイオ式」の生ごみ処理機で、これを「コンポスト」と呼びます

【関連記事】夏は虫がわいたり臭ったり……生ゴミをエコに処理する「生ゴミ処理機」を取り入れるには?

 

では、コンポストで作られた堆肥は、土にどのようなメリットをもたらすでしょうか?

「コンポストで作られた堆肥は、土壌の肥沃度を保つ働きをします。化学肥料を使う必要がなくなるので、結果的に、安心安全の野菜が育てられる上に、味が濃く、栄養価の高い収穫物が実ります。

家庭から出る燃えるゴミの約4割は、生ごみが占めています。これを家庭で堆肥に変えることができれば、ゴミの量が減らせる上に、自給率が上がり、化学肥料の使用量も減らすことができるのです」

 

コンポストを使う手順とは?

1.生ごみを集める

調理などで出た生ごみ。一口大よりも大きいものは、細かく切っておきましょう。ちなみに、コンポストに入れない方がいいものもあります。

・余分な水分
・分解しにくいもの…とうもろこしの芯、カニの殻、貝がら

 

2.コンポストの中に生ごみを入れ、よく混ぜ合わせる

コンポストの中に生ごみを入れて、よく混ぜます。生ごみは1日300g~500g程度に。これを1.5〜2か月間続けます。投入する生ごみの量は規定内にしましょう。生ごみの量が多すぎると分解や発酵が進みづらく、悪臭や虫がわく原因にもつながります。

 

3.約3週間、熟成させれば完成

週に1~2回、500mlほどの水を入れ、週に2~3回全体をよく混ぜれば完成。熟成しきらずに残った卵の殻も、そのまま堆肥として使用可能です。

 

初心者にはバッグ型がおすすめ! 取り入れやすい主なコンポスト

コンポストにはさまざまな種類があります。

 

「初心者におすすめなのは、ベランダで手軽に始められるLFCコンポストかダンボール型コンポストですね。お子さんのいるご家庭なら、ミミズコンポストも楽しめそうですね。ただ、ミミズコンポストは、ミミズが嫌いな柑橘系を入れるのはNGなのと、虫の出入りもあるので、初心者にはややハードルが高いかもしれません。電気式の生ごみ処理機は、床に直接置けて室内に設置できるのが便利です。ただし、本体が高額で継続的に電気代がかかります。電気式の生ごみ処理機に関しては、助成金のある自治体もあるので確認するといいでしょう」

 

コンポストの設置には、どのような点に注意したらいいでしょうか?

 

「どんなコンポストにも共通していますが、雨が当たらず、風通しのよい場所に置きます。コンポストの底面や床が湿らないように、床に直接置かず、網カゴの上などに置いてください」

 

・バッグ型コンポスト

LFCコンポスト「LFCコンポストセット」
定期便初回=3278円、2回目以降1848円(税込)

https://lfc-compost.jp/product

「専用バッグに基材(生ごみと混ぜ合わせる材料)を入れ、1日300g~500gの生ごみを1.5~2か月の間、毎日投入してよくかき混ぜるだけ。微生物が生ごみを分解し続けてくれるので、バッグからあふれるようなことはありません。虫が入りにくいファスナー仕様。たんぱく質類はたまにアンモニア臭が発生することもありますが、酸素がよく行き渡るようにしっかり混ぜていれば、臭いは自然と収まっていきます。生ごみ臭や虫の発生で近所に迷惑をかけることなく、都会のベランダでも手軽に始められます」※再利用可能

 

・ダンボール型コンポスト

たのしい循環生活「ダンボールコンポストセットプラス」
3940円(税込)/ NPO法人循環生活研究所提供

https://jun-namaken.shop-pro.jp/?pid=72901230

「ダンボール箱に専用基材を入れ、生ごみを投入してよくかき混ぜればOK。ダンボールコンポストの使い方をわかりやすく解説した冊子『堆肥づくりのススメ』や温度計、ファスナータイプの虫よけカバーも付いているので、初心者でも使いやすいタイプです。毎日500gの生ごみを約3ヵ月間投入でき、仕上げに3週間ほど熟成させると堆肥ができあがります」

 

暮らしも気持ちも満たされる!? コンポストがもたらす多大な恩恵

ベランダの一角で始められるコンポストが、暮らしの中に与える好循環は計り知れないというたいらさん。

 

「まず、ご飯や麺などの残飯、肉や魚の骨、野菜の皮やクズ、コーヒーのがらや茶がらなど、今までは家庭ごみとして捨てていた生ごみが堆肥となり、貴重な資源に生まれ変わります。作業は1日1回混ぜるだけ。コンポストを覗けば、微生物が野菜クズを分解し、土へと変えてくれている様子が見られます。毎日、コンポストのお世話をしているような気分や、地球にやさしい活動をしている感覚が得られてうれしいというお声もよく聞きます。

 

出典=ローカルフードサイクリング公式HPより

 

コンポストを始めて約3か月で堆肥ができますが、家庭菜園や観葉植物などで使いきれないときは、お友達やご実家にプレゼントをするのはいかがでしょうか? LFCコンポストでは、農家さんに堆肥を提供し、野菜と交換する機会も設けています。また、学校や施設、自治体で堆肥を回収しているところもあります。お近くの自治体に問い合わせてみるといいでしょう。堆肥と野菜の物々交換が当たり前にできる循環型の血の通ったやりとりが増えるといいですね」

 

不名誉な現状を変えられるか?
日本は、ごみ焼却量で世界No.1という現実

コンポストを都会で普及させ、家庭ごみを減らしたい。たいらさんの思いは、日本の不名誉な現状を打破することと、日本人本来の暮らしを取り戻したいという切なる願いも込められています。

 

「国際機関OECD(経済協力開発機構)の2013年発表のデータによると、日本は世界のごみ焼却率No.1。1位の日本が77%に対し、2位のノルウェーは57%、3位のデンマークは54%という数値から見ても、ダントツトップという結果に。

日本がごみ大国になってしまったのは、戦後の高度経済成長以降です。昭和初期までの日本は、80%以上の人が農業に携わり、生ごみは畑の土に埋め、肥沃な土を作り出すための大切な資源でした。戦後、一気に都市化や欧米化する暮らしの中で、いつしか生ごみを焼却するライフスタイルが定着していき、自然と暮らしが分断されてしまいました。そして、元々清潔好きだった国民性に、このごみを焼却するシステムが合ったこともあるでしょう。国内にはごみ焼却炉がどんどん増えていき、現在に至ります。

ベランダでできるコンポストが都会の暮らしにも普及すれば、生ごみの焼却量を大幅にカットし、環境にも体にもやさしい脱炭素社会に大きく貢献できるのです」

 

コンポストに挑戦した方からは、「もっと早く始めればよかった!」という感想が多く届くというたいらさん。まずは、コンポストを始めることで家庭ゴミを減らして、サステナブルなアクションに参加しませんか。

 

【プロフィール】

LFCコンポスト代表 / たいら由以子

大学で栄養学を学び、証券会社に勤務。大好きな父とのお別れをきっかけに、土の改善と暮らしをつなげるための、半径2kmでの資源循環を目指し活動開始。青年団の仲間と循生研を立ち上げ、子どもから高齢者、外国人までコンポストでつながる美味しい食の輪をつくるのが生きがい。メンバーとのお茶の時間を一番大切にしている。行動を最良の学習手段とし、活動をスパイラルアップさせるが信条。趣味はイラストコミュニケーション、レコード・映画鑑賞、愛犬と遊ぶこと。

 

ベランダ菜園がNGの賃貸マンションでも! コップ1つの「再生栽培」で家の中で野菜を収穫する方法

在宅時間が増えたことで、あらためて注目されている家庭菜園。貸し農園を利用したり、庭の一角に野菜を植えたり、さまざまな方法で楽しむ人が増えています。なかでも人気なのが、自宅のベランダやテラスでの“プランター菜園”。ところが賃貸マンションの場合、ベランダは共用スペースなので、ルール上はプランターを置いて菜園化するのはNGとされています。ならば家の中を活用して、野菜を育ててみませんか?

 

そこで今回は、初心者でもトライしやすい“再生栽培”を解説。農業コンサルタントとして活躍する宮崎大輔さんに、おすすめの野菜や育て方のポイントを教えていただきました。

 

家庭菜園の魅力は
“育てる楽しみ”だけでなく“食べる楽しみ”も味わえること!

家庭菜園は、「家で過ごす時間が増えた今、趣味として楽しむのにもぴったりです」と宮崎さん。コロナ禍で、農園を借りて本格的にチャレンジする人も、ベランダやキッチンなどの室内で気軽に楽しむ人も、両方増えていると言います。そもそも自分の手で野菜を育てる家庭菜園には、どのような魅力があるのでしょうか?

 

「どんな植物にも“育てる楽しみ”があると思うのですが、家庭菜園はそこに“食べる楽しみ”もプラスされるところが、魅力のひとつだと思います。収穫してすぐに食べられるので新鮮さや安心感がありますし、何より自分の手で育てた野菜には愛着がわきますよね。

家庭菜園の中でもトライしやすく、初心者におすすめなのが“再生栽培”です。野菜のヘタや切れ端などを使って育てる再生栽培は、『リボべジ(リボーンベジタブル)』とも呼ばれ、エコや節約にもつながります。ホームセンターに行って種や苗をわざわざ購入する必要はなく、土やプランターなしで育てられる野菜もあるので、コップ1つあれば始められます」(宮崎大輔さん、以下同)

 

家にあるものでチャレンジ!
再生栽培におすすめの野菜は?

「家庭菜園をやってみたいけれど難しそう」とハードルを感じている人にもおすすめしたい再生栽培。再生栽培の中でもチャレンジしやすい、土を使わず室内で育てられる野菜を教えていただきました。

 

1. 捨ててしまいがちなヘタを活用!「ニンジンの葉」

「ニンジンのヘタは普段捨ててしまう人も多いと思いますが、このヘタからニンジンの葉を育てることができます。葉は育ちすぎると固くなってしまいますが、再生栽培では固すぎずほどよい柔らかさに育つので、おいしく食べられますよ。スープに入れたり炒飯に入れたりして食べるのがおすすめです」

 

「栽培の方法はとても簡単。浅めのトレーやお皿にヘタを置いて水に浸しておくだけで葉が伸びていきます」

「水は、葉が出てくる部分に浸からない程度まで入れましょう。2週間ほどで育つので、食べる際にハサミでカットして収穫します。収穫できるのはだいたい1回です。ニンジンの葉は成長がとても早く、にょきにょきと伸びていく様子が目に見えてわかるのでとても面白いですよ!」

水は、とくに気温が高くなるこれからの時期は毎日替えるようにしてください。また水を替えるときには、トレーも一緒に洗うことを忘れずに! トレーに雑菌がついているとせっかく水を替えてもヘタが腐ってしまうことがあります。

置いておく場所は、そこまで日当たりが良い場所でなくても大丈夫です。しかし気温が高い時期は、直射日光が当たる場所は避けるようにしましょう。逆に冬はエアコンが効いている暖かい部屋など、寒すぎない場所に置くのが良いと思います。ちなみに、ダイコンの葉もまったく同じ手順で育てることができますよ」

 

2. 使いたい分だけ収穫できて、再生栽培にぴったり!「小ネギ」

「普段は捨ててしまう根の部分から育てられる小ネギ。最初から根が付いているので失敗しづらく、害虫もつきにくいので、初心者にもぴったりです。また、小ネギは料理のトッピングとして使うことが多いと思いますが、使いたいときに使いたい分だけ収穫できるので、再生栽培に適した野菜と言えると思います」

 

「栽培方法は、切り落とした根の部分を、水の入ったコップやプラスチックのカップに入れるだけ」

根の部分がしっかりと浸かっていれば、水の量はそこまで気にする必要はありません。約1週間で育つので、使いたい分だけハサミでカットして収穫しましょう。2~3回は収穫することができますよ」

置き場所は、日当たりの良さをそこまで考える必要はありません。リビングのテーブルや出窓などのちょっとしたスペースに置いても良いと思います。

また小ネギは、水に浸けずに土に植えて育てることも可能です。土で育てる場合は、まず小さめのプランターを用意して鉢底石を敷き、その上に野菜用の培養土を入れます。根が埋まるくらいまで穴を掘って植えたら、最初は水をたっぷりと与えましょう。その後は土の表面が乾いたら水やりをするようにしてください。土に植えれば、何か月、何年ももつので、長期間育てたいときや元気に大きく育てたいときには、ぜひ挑戦してみてください!」

 

3. 丈夫で育てやすいのが魅力!「ミント」

「残った茎から育てることができるミント。生命力が強くて丈夫なので、初心者でも育てやすいと思います。自分で育てれば、いつでも摘みたてのミントを使ったミントティーなどをつくることができます」

 

「栽培方法は、ミントの茎の部分を水が入ったコップやプラスチックのカップに浸けておくだけ」

葉を食べた後の茎を使うか、下の方の葉はあらかじめ取っておき、葉が水に浸からないようにしましょう。収穫するときは、ハサミでカットしても手で摘んでもどちらでもOKです」

「ミントは日当たりが良い場所に置いておくと、早く元気に育ちます。たまに水を替えてあげるだけで肥料などを与えなくても半年~1年間くらい育てることができますよ。

また、ミントも土で育てることが可能です。土に植える前に、根が5cmくらい伸びるまで茎を水に浸けておくようにしてください。植えるときにはまず、プランターに鉢底石を敷き、その上に野菜用の培養土を入れます。土に根が埋まるくらいまで穴を掘って植え、最初はたっぷりと水を与えましょう。その後は土の表面が乾いたら水を与えるようにしてください。約1か月で収穫できるくらいまで育ちますが、ミントは土に植えると育ちすぎてしまうため注意が必要です。植え替える場合は小さめサイズのプランターを使うことをおすすめします」

 

4. 今注目されている野菜の一つ!「ニンニクスプラウト」

「ニンニクスプラウトとは、発芽直後の新芽があるニンニクのこと。品揃えが良いスーパーなどでは販売されていることもありますが、まだ値段が高く、比較的珍しい野菜です。においがきつくなく、まるごと食べられて栄養価も高いので、最近少しずつ人気が高まっています。そのままソテーにしたり、素揚げや天ぷらにしたりして食べるのがおすすめです」

 

「再生栽培では、皮をむいたニンニクのかけらをそのまま使います。少し時間が経って芽が出てしまったものがあれば、ぜひそれを活用しましょう」

「卵のパックや製氷皿などにひとかけずつ入れて立たせ、根が浸かるくらいまで水を入れます。少し面倒ですがニンニクを全て取り出して、毎日水を取り換えるようにしてください。収穫までは約2週間。5cmほど根が伸びたら収穫できます」

「置き場所は、出窓などできるだけ日当たりの良い場所がおすすめです。3~4個だけ育てたいときには、小さなカップに入れても良いと思います。また僕自身、実験的にいくつかのニンニクを使って育ててみたのですが、品種によってはまったく芽が出ないものもありました。もっとも良く育ったのは、スーパーで手に入る普通サイズのニンニク。まずはこれで試してみるのがいいかもしれません」

 

再生栽培をもっと楽しむためには?

特別な道具がなくてもすぐに始められる再生栽培。最後に宮崎さんから、「他の野菜も育ててみたい」「もう少しレベルアップしたい」という人へ、再生栽培をさらに楽しむためのヒントを教えていただきました。

 

「今回紹介した野菜以外にも、肉料理の付け合わせにぴったりなクレソンや、暑い時期でも育てやすいクウシンサイなど、初心者の方もトライしやすい野菜はまだまだあります。

さらに難易度を上げて再生栽培をやってみたいという方には、プランターを使って土で育てたり、水耕栽培を本格的にやってみたりするのがいいと思います。例えば水耕栽培では、水に溶かすタイプの液体肥料や、水槽用のエアーポンプ、太陽光代わりのLEDライトなどを使って育てれば、ゴーヤやキュウリなどの野菜も育てることができますよ。個人的には、イチゴの再生栽培もおすすめ! 難易度は高めですが、ぜひチャレンジしてほしいです。

そのほか、一つの野菜をいくつかの方法で育ててみるのも楽しいと思います。例えば『豆苗』は根を水に浸しておけば、また豆苗が育てられますが、土に植えるとエンドウマメを育てることもできるんです。実験的にいくつかの品種を育ててみたり、育て方を変えてみたりすると発見があって面白いかもしれません」

 

さまざまな楽しみ方ができる再生栽培。ぜひ自分の好きな野菜でチャレンジしてみてください。

 

【プロフィール】

農業コンサルタント / 宮崎大輔

1988年生まれ、長野県出身。実家は果樹園を経営。信州大学大学院農学研究科修士課程修了。青年海外協力隊として中米パナマ共和国で農業支援に従事。2019年に農業コンサルティング企業「イチゴテック」を創業し、日本、アジア、中南米、アフリカで農業ビジネスの支援を行う。2021年10月には「キッチンからはじめる!日本一カンタンな家庭菜園の入門本 おうち野菜づくり」(KADOKAWA)を出版。自身のYouTubeチャンネルで「趣味の園芸からガチ農業まで」をテーマに、幅広い分野の植物に関する情報も発信している。
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『キッチンからはじめる!日本一カンタンな家庭菜園の入門本 おうち野菜づくり』(KADOKAWA)

 

「脱炭素」「カーボンニュートラル」って何? 地球温暖化の専門家に聞く、日本と世界と私たちのゼロカーボンアクション

気候変動の問題は、私たち一人ひとりが真剣に取り組まなければならない、もはや待ったなしの課題となっています。とはいえ、「気候変動の現状や、実際に行われている対策がよくわからない」「私たち個人の行動が、本当に課題の解決につながるの?」といった疑問を感じている人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、地球温暖化の専門家である、国立環境研究所の江守正多先生に、気候変動問題の現状や日本での新たな取り組み、私たちが具体的にできるアクションなどを教えていただきました。

 

「カーボンニュートラル」とは?

まずは気候変動問題を語る上で欠かせない、「カーボンニュートラル」という単語が意味することを知っておきましょう。江守先生にあらためて解説していただきました。

 

『カーボンニュートラル』あるいは『ゼロカーボン』とは、人間活動による温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすることを言います。

そもそも私たちが排出している、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの多くは、石油、石炭、天然ガスといった化石燃料を燃やしたときに発生するもの。もちろんこれをゼロにできればいいのですが、完全にゼロにすることは難しいのが実情です。そのため、どうしても排出してしまう分を、植林や森林管理などによって吸収することで、排出量を“実質ゼロ”にする。これがカーボンニュートラルの考え方です。

2020年10月に日本政府は『2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す』と宣言しました。現在は日本を含めた120以上の国と地域がこの目標を掲げていて、各国で取り組みが進められています」(国立環境研究所 地球システム領域副領域長・江守正多さん、以下同)

 

2050年までに日本は、カーボンニュートラルを実現できる?

世界各地でカーボンニュートラルへの取り組みが加速する中、日本は現在、目標をどのくらいまで達成できているのでしょうか?

 

「日本では2013年以降、温室効果ガスの排出量は減少しています。減らすことができている要因の一つは、太陽光発電や風力発電などによる再生可能エネルギーが普及し始めたこと。そのほか、2011年の東日本大震災を機にストップしていた原子力発電所の稼働がいくつか再開したことや自動車の燃費がよくなったことなども減少している要因と考えられています。

しかし、2050年にカーボンニュートラルを実現させるためには、もう少しペースアップしていく必要があります。また、排出量が少なくなればなるほど、さらに減らすことは難しくなっていくため、今後をそれほど楽観的に考えることはできません」

温室効果ガスを減少させることができている一方で、課題も抱えている現在の日本。2021年に開催された「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」では、温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」を受賞してしまいました。他の国と比べると、日本は取り組みが遅れているのでしょうか? 化石賞に選ばれてしまった理由も含めて、江守先生に聞きました。

 

「そもそも化石賞はCOPの期間中、毎日選ばれるものなので、日本以外にも受賞した国は多くあります。もちろん、だからと言って安心できるわけではなく、日本が批判された理由をよく理解すべきです。

今回日本が化石賞を受賞した理由は、日本政府が『火力発電を使い続ける』という方針を示したからです。ただし、日本政府が考えている火力発電は、化石燃料を燃やすのではなく、温室効果ガスを出さずにつくった水素やアンモニアを使って発電するというもの。将来的にはこの技術をアジアの他の国にも広めていきたいと考えています。しかしこれが本当にうまくいくのかまだ不確かであり、もしうまくいかなければ化石燃料を使い続けることになってしまうのでは? と批判を受けたことが、今回の化石賞受賞の理由です。

日本政府が今回の方針を示した背景には、日本は再生可能エネルギーを普及させるための地理的条件があまり恵まれていないという認識があります。例えば日本では、太陽光パネルを設置するのに最適な、砂漠のようにだだっ広い土地は少ないですよね。また、再生可能エネルギーには、自然状況によって発電量が大きく左右されるという特徴があります。ヨーロッパなどでは周辺の国との間に送電網があるため、電力を輸出入して電力量を調整することが可能ですが、島国の日本ではそれができません。こうした理由から日本政府は、安定的に供給できる火力発電も使っていきたいと考えているのだと思います。

日本政府が開発を目指している『クリーンな火力発電』では、温室効果ガスを出さないことはもちろん、低コストで大量に燃料を調達することが必要です。これらの実現に向けた研究が今まさに進められていますが、まだ楽観視はできないのです」

 

さらに加速する、再生可能エネルギーの導入

温室効果ガスを出さない火力発電の開発が進む一方で、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取り組みも進んでいます。日本が今後、さらに再生可能エネルギーの導入を加速させていくためには、どうすればいいのでしょうか?

 

太陽光パネルを設置できる場所はまだまだあるはずです。屋根の上や荒れ地はもちろん、最近では、農地の上に支柱を立てて太陽光発電と農業を同時に行う『ソーラーシェアリング』なども増えてきています。

しかし、同時に課題もあります。現在増えているのが、都会の業者が地方の土地を安く購入し、山を切り開いて木を切ったりして、太陽光パネルを設置するケースです。自然破壊や景観の悪化、土砂崩れの危険性など、さまざまな懸念点がある上に、太陽光発電で得た利益はすべて業者のもの。これでは、その地域の住民たちにとってまったくメリットがありません。

現在ドイツなどでは、地域の人々が主体となって再生可能エネルギーを開発している例があります。この方法だと、その土地をよく知る人たちが納得する場所に太陽光パネルを設置できて、雇用も発生する。さらに利益はその地域のものになります。日本でも今後、このような地域主体の再生可能エネルギーの開発がもっと普及していくべきだと考えています」

 

一般市民が気候変動の対策を考案!? 日本で進む新たな取り組み

最近では2050年のカーボンニュートラルに向けた、新たな取り組みも始まっています。江守先生はその一例として、無作為に選ばれた市民が温暖化対策の提案をつくる「気候市民会議」を挙げました。

 

「気候市民会議は、イギリスやフランスなどでは、国の政府や議会が主導して非常に本格的に行われている取り組みです。フランスではこの会議での提案をきっかけに、短距離の国内線の飛行機が廃止になりました。

気候市民会議のポイントは、“無作為に”参加者が選ばれるということ。気候変動の問題に関心がある人ばかりが集まるわけではありません。また、男女比や年齢層、都市に住む人や地方に住む人など、その国の社会の縮図となるように参加者を集めるため、さまざまな立場の人と議論をすることになります。

この取り組みは日本でも行われていて、一昨年には私も参加する研究グループが札幌市で実施しました。オンラインだったこともあり、話し合いは難しいところもありましたが、参加した人からは『初めて気候変動の問題に関心を持った』『いろいろな人と議論できて良かった』という声が聞かれました。ここでまとめられた対策案を、市がすべて実行できるわけではありませんが、今後の対策を考える上で大いに参考になると思うので、やって良かったと感じています。現在、他の地域から『うちでもやりたい』という相談が少しずつ増えているので、今後もぜひ注目してほしいと思います」

 

カーボンニュートラル実現のために、私たちにできること

地球規模で取り組まなければならない、気候変動の問題。しかし私たち個人の力ではどうすることもできないのでは? と考えてしまう人も多いはずです。カーボンニュートラルを実現させるために、私たち一人ひとりにできることは何か。最後に、江守先生に聞きました。

 

「カーボンニュートラルを実現させるためには、社会、経済、産業など、世の中のあらゆるシステムや仕組みを大きく変えなければなりません。しかしそれを『どこかの偉い人がやってくれるから自分にできることはない』とあきらめるのではなく、世の中を大きく変えるために、自分が後押しできることや応援できることはないかを考えてほしいと思います。

そのためにまず大切なのが、知ること。気候変動の現状や今後の影響を知ることで、『気候変動を止めなければならない』という危機意識が芽生えるはずです。よく私がおすすめしている方法は、ニュースアプリなどでトピックやテーマをフォローできる機能。『気候変動』などのキーワードをフォローしておけば、関連した情報を日々チェックすることができます。そして、自分が得た情報の中で興味深く思ったものは、ぜひSNSでシェアをしたり、周りの人と話したりしてほしいです。

次のステップは、自分のアクションをきっかけに『周りの人にもアクションを起こさせること』です。難しいことのようにも思えますが、例えばコンビニで『レジ袋はいりません』と言うときに、後ろの人にも聞こえるように大きな声で言ってみることも一つの方法だと思います。とても些細なことですが、温室効果ガスを減らすための行動が、意識せずとも人々の“当たり前”になるよう、働きかけていくことが大切です。

そのほか、気候変動対策をしている企業や人を応援することも、私たちにできることの一つ。私自身がたまにやっているのは、保険の契約を見直すときなどに『ここの保険会社では火力発電所に投資していますか?』などと質問することです。企業に対してメッセージを出せるタイミングがあれば、このような働きかけをしてみるのもいいと思います。ほかにも、再生可能エネルギー100%のプランがある電力会社に変える、気候変動に熱心に取り組む政治家に投票するなど、個人にもできることはたくさんあるはずです」

 

江守先生も作成に協力した「気候変動アクションガイド」。「KNOW」「THINK」「CHOOSE」「ACT」の4段階で、できることがまとめられています。出典=気候変動アクションガイド「個人でできる対策を選ぼう」

 

気候変動は、地球に住む私たちにとって避けられない課題。個人にできることはないとあきらめる必要はありません。気候変動対策に取り組むことは、「私たちの生活をよくすること」だとポジティブに考え、できることから行動していきましょう!

 

【プロフィール】

国立環境研究所 地球システム領域副領域長 / 江守正多

東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。2021年より地球システム領域副領域長。連携推進部社会対話・協働推進室長を兼務。東京大学総合文化研究科客員教授。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書の主執筆者。

水野敬也・長沼直樹・江守正多『最近、地球が暑くてクマってます。』(文響社)

大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

1987年から始まった「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」(以下、BWSC。創設当初の名称は「ワールド・ソーラー・チャレンジ」)。オーストラリア北部のダーウィンを出発し、アデレードまでを結ぶ総移動距離3020キロメートルの砂漠地帯を南下。日の出から日暮れまでを太陽の力だけで、5日間走り抜けます。

 

この過酷な舞台で、過去に総合優勝2回、準優勝2回、3位1回と学生ながら世界の強豪チームを凌ぐ好成績をおさめてきた東海大学。その強さの秘訣とは? そもそもなぜ学生が世界的なレースに参加することになったのか? 1996年から東海大学のソーラーカープロジェクトを指導している木村英樹教授に、モータージャーナリストの御堀直嗣さんがインタビューしました。

 

【関連記事】ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

 

ソーラーカーレースは、メーカー競争からアカデミックな大会へ

手作りで完成した第1号車「Tokai 50TP」。安定性を重視した結果、2人乗り4輪の構造となった

 

御堀直嗣さん(以下、御堀):東海大学でソーラーカーに取り組もうと思われたのは、なぜだったのですか?

 

木村英樹先生(以下、木村):プロジェクトがスタートしたのは1991年だったのですが、翌年に東海大学創立50周年を迎えるというタイミングでした。海外で電気自動車への注目が集まり始めた時期だったため、松前義昭初代監督は電気自動車とは異なったアプローチを……と模索する中で、ソーラーカーに行きあたったのです。ここから研究がスタートしました。

 

御堀:その頃は、世界的にも地球温暖化への関心が一気に高まった時期でしたね。「ワールド・ソーラー・チャレンジ」(当時)に参加されたのはいつからでしょうか? 1987年から大会が始まり、GM(ゼネラルモーターズ)の「Sunraycer(サンレイサー)」が優勝したと記憶しています。

 

木村:はい、初代チャンピオンはGMですね。東海大学は1993年から参加していますが、当時はまだGMやホンダといった世界的な大手自動車メーカーも参加していました。ただ、アメリカのミシガン大学やスタンフォード大学、EU圏からも多くの大学が参加していたため、自動車メーカーの大会というより、アカデミックな分野としても注目されていたと思います。

「ワールド・ソーラー・チャレンジ」は今世紀に入ってからは2年に一度、奇数年に開催されているのですが、東海大学はプロジェクト発足以降、2009年と2011年に優勝、連覇を果たしています。次の2013年大会は準優勝でした。

 

1993年大会のホンダのマシン

 

こちらは、同年に初参戦した際の東海大学のマシン

 

初優勝を飾った2009年のマシンには、シャープのソーラーパネルを搭載。大会新記録を叩き出した

 

パナソニックのソーラーパネルを搭載した2011年のマシン。2位に1時間5分の大差をつけて優勝したのち、翌年の南アフリカ大会では3連覇を達成している

 

準優勝を獲得した2019年モデル。2021年現在も同マシンを使用しているが、外装には8月よりスポンサーに加わった大和リビングのロゴが追加に

 

御堀:直近で開催された2019年大会でも準優勝でしたね。

 

木村:はい。優勝したベルギーのルーベン大学とは、わずか12分差とあと一歩のところでした。

 

学生たちが主体となって進める“学生によるプロジェクト”に

2021年に秋田で開催された大会「ワールド・グリーン・チャレンジ」で、マシンを整備する学生たち

 

御堀:素晴らしい成績を残していますね。

 

木村:我々教授陣はアドバイザーとして関わっていますが、企業のエンジニアからも直接指導をいただき、さまざまなサポートを受けています。そのような環境の中で学生自ら役割を考え、チームを編成しているんですよ。

 

御堀:学生主体なんですか。東海大学のソーラーカーチームは、どのような役割分担で活動しているのでしょうか?

 

木村:壮大なプロジェクト活動の中で学ぶことを掲げた「東海大学チャレンジプロジェクト」の一つである「ライトパワープロジェクト」として、現在約60名の大学生・大学院生が活動しています。大きく分けると、戦略を考えるストラテジーチーム、運営や広報を行うマネジメントチーム、機械部分を担うメカニクスチーム、モーターやバッテリー・発電管理を行う電気チームに分かれています。しかし、機械学科だからメカニクスというように担当する分野を決めつけていませんので、SNSの運営などの広報活動も学生たちに任せています。縦割りの組織ではなく、学生も教授も学年の垣根も超えた、フラットな活動ができていますね。

 

御堀:ソーラーカーの研究を始めた1991年から、学生主体の取り組みだったのでしょうか?

 

木村:最初は大学としての研究プロジェクトとして発足し、その後、理工系の研究室が連携した取り組みでした。それが2006年から研究室の有志連合と学生サークルのソーラーカー研究会が合体し、学生主体のプロジェクトへ発展したんです。

 

東海大学工学部教授 / 木村英樹さん。東海大学工学部を卒業後、現在は東海大学工学部 電気電子工学科 教授を務める(2022年4月より東海大学 工学部 機械システム工学科に異動予定)。2006年から東海大学チャレンジセンターの立ち上げに関わり、ソーラーカーや高効率モーターの開発を推進している

 

大学は卒業しても、チームの卒業はない!

取材に参加してくださった東海大学ソーラーカーチームの学生のみなさん

 

御堀:卒業生との関係についてはいかがでしょう?

 

木村:「学校は卒業しても、チームの卒業はない」と学生たちには伝えています。理工系プロジェクトとしては珍しいかもしれませんが、大学野球や駅伝などの部活動と似ているかもしれませんね。社会人になってからも大会が近づいてくると卒業生たちもソワソワしてくるようで(笑)、手伝いにきてくれますよ。

 

御堀:「学校は卒業しても、チームの卒業はない」というのは、素敵な関係ですね。

 

木村:チームに所属している学生は大学院への進学率が高いので、長い学生は6年間ソーラーカーと関われます。毎年メンバーが入れ替わるので、経験と知恵を継承することは大変ではあるのですが、学生たちは4年もしくは6年間、真摯にソーラーカーと向き合ってくれています。

BWSCに向けて2年に一度新車を作る際も、学生のチームリーダーを中心にアイデアを出し合いながら取り組んでいます。毎年メンバーが入れ替わる中で活動を続けられているのは、柔軟な考え方で動ける学生主体の組織だからかもしれません。

 

御堀:チームに所属されている学生さんたちの就職率が100%と伺いました。ソーラーカーでの実績を残しながら人間として成長できるのは、本当に素晴らしい取り組みです。

 

モータージャーナリスト / 御堀直嗣さん。大学の工学部で学んだあと、レースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい

 

コロナ禍に負けず、経験と知恵を継承するには

御堀:2021年に開催される予定だったBWSCは、コロナ禍で2023年へ延期になりました。練習ができず苦しんだ時もあったのではないでしょうか?

 

木村:そうですね。自粛期間中の1・2年生とは基本的にはオンラインでのコミュニケーションが中心だったので、経験としての技術継承が難しい部分はありました。そんな中、なんとかBWSCに近い形で大会に参加できないかと考えていたところ、2021年8月に秋田県大潟村のソーラースポーツラインで「ワールド・グリーン・チャレンジ」開催が決定し、東海大学も参加して見事優勝することができました。久しぶりに実践的な挑戦ができてほっとしました。

 

「ワールド・グリーン・チャレンジ」を優勝し、胴上げされるアドバイザーのひとり、佐川耕平講師

 

御堀:それはおめでとうございます。ただ、本来BWSCに参加できるはずだった学生さんは卒業してしまいますね。

 

木村:そうなんです。コロナ禍では、「いま、何ができるか?」をひたすら考え続けていたように思います。悩む時間もありましたが、「ワールド・グリーン・チャレンジ」で優勝できたことで、やっと次の2023年大会へ向けてやっと動き出したと感じています。この経験をバネに次回のBWSCに向けて取り組んでいきたいですね。

 

知恵を集結させ、気持ちよくエネルギーを使う未来へ

平面のソーラーパネルをどうやって曲面の車体に貼り付けるか、御堀さんへ説明する木村教授、福田紘大准教授、佐川講師。この3名で東海大学ソーラーカーチームをバックアップ

 

ソーラーパネルの下は、配線がびっしり!発電の効率を高めるために、12個ものブロックに分かれているのだとか。世界的に見てここまで細分化しているのは、東海大学ぐらいだそうです

 

御堀:ちょっと話はそれますが、ドライバーになりたいという学生も多いのではないでしょうか? どのように決めているのですか?

 

木村:基本的には、日頃から運転している学生になりますね。たとえば、コックピットが狭いので体格条件をクリアした学生の中から、小田原厚木有料道路を設定時間内に、当時のマイカーだったプリウスで往復し、燃費効率がよかった学生を選出したことがありました。今は、秋田県大潟村のソーラースポーツラインという1周が25㎞のコースを走行させて、データを見ながら選出しています。

 

御堀:面白い選定方法ですね。

 

木村:センスの良い学生は、自然と道路状況や燃費効率を計算し、戦略を立てられるようなドライバーになっています。

 

御堀:これからの目標をお聞かせください。

 

木村:レースというのは次世代の技術を磨くために続けられてきましたが、ソーラーカーは、太陽が出ている間しか走ることができない、とても特殊な環境で大会が進行していきます。これまで実用化が不可能と言われてきた分野ではありますが、これがもし実用化できればカーボンニュートラル社会を達成することに貢献できます。今はまだ谷の底にいる状態かもしれませんが、いろんな技術を融合させることによって、谷から地上へと這い上がり、大地の上に立てる日がくると考えています。化石エネルギーを使わなかった江戸時代に戻ろう!というわけではありません。技術や文明を退化させることなく、知恵を絞りながらどのようにカーボンニュートラルを実現させるか。気持ちよくエネルギーを使える時代になればいいと考えています。

 

御堀:そうですね。ひとつでは解決できないことでも、さまざまな科学が融合することで、人間にも自然にも快適な環境が見えてくることもありますからね。これからソーラーカーに関わりたいと考えている学生さんたちに、なにかメッセージはありますか?

 

木村:変化の激しい時代ですので、学生たちが頑張って勉強していることも3年後には時代遅れ、なんてこともあり得ます。常に新しいことに関心を持ち、吸収し、判断して、問題解決できる力を身につけて欲しいと思っています。その学ぶ場として、大学を活用してもらいたいですね。

 

チャレンジセンターに設置された、これまで獲得したトロフィーを飾るケース。BWSCの優勝トロフィーのサイズに合わせて作られており、“主”の帰還を待っている

 

新型コロナウイルスによって2021年の大会が延期になりましたが、取材時にいた学生さんに話を聞くと「延期になったのは残念ですが、これまでの経験を後輩たちにしっかりと受け継ぎたい」と明るく答えてくれました。毎年メンバーが入れ替わる中でも、技術と知恵を継承し世界でもトップクラスの成績を残す東海大学のソーラーカーチーム。2023年に開催されるBWSCに、今から期待が高まります。

 

【プロフィール】

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・院生の約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。

HP http://www.ei.u-tokai.ac.jp/kimura/kimura-lab/solarcar/solarcar.html
Facebook https://www.facebook.com/tokaisolarcar/

敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

2050年をターゲットとしたカーボンニュートラル時代に向け、「脱炭素」や「自然エネルギー」に注目が注がれています。太陽光発電を装備した住宅や企業単位での脱プラスチックへの取り組みなど、わたしたちの暮らしを取り巻く環境も急速に変化しており、もはや無関心ではいられません。

 

自動車の分野では、電気自動車や水素自動車といった二酸化炭素の排出量が少ないクルマにも注目が集まっていますが、なんと今から30年も前、1991年から太陽の力だけで走れる“ソーラーカー”のプロジェクトを推進してきた大学があるのをご存知でしょうか? 学部数日本一を誇る東海大学のチームは、国内外のソーラーカーの大会で多くの優勝経験があり、実績も折り紙付き。そこで、エコを考えるきっかけのひとつとして、今回は世界から注目される東海大学ソーラーカーチームにコンタクト。ソーラーカー、そして彼らが挑む過酷なレースについて取材しました。

 

1.最高時速は100km以上! ソーラーカーは意外と速かった

世界最高峰のソーラーカーレース「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」に集結した世界の“走り屋”たち(写真は2015年大会)

 

“ソーラーカー”と聞いてイメージするのは、車体上部に大きなソーラーパネルを積んだ“四角いクルマ”かもしれません。ところが、東海大学で目撃した最新のソーラーカーは、曲面が美しい流線形。“近未来のクルマ”のようなスタイリッシュさを感じさせます。

 

東海大学の最新型2019年製のマシン。弾丸のような細長い車体で、ドライバーが乗るコックピットも流線形。上面に電源であるソーラーパネルが備えられています

 

ソーラーカーの開発において重要なのは空気抵抗を抑えて走行するための「空力」と、太陽光を効率よく集めパワーに変える「電力」。このふたつがバランスよく融合することで実現したのは、なんと最高時速100km! 走り出しに「ブゥ〜ン」というわずかなモーター音が聞こえますが、走行中はとっても静か。当たり前ですが、排気ガスも出ていないので、風が走り抜けていくような印象です。

 

ドライバーはヘルメットをつけてコックピットへ。空気抵抗を少なくするため、空気穴はたったひとつだけ。太陽電池で発電したエネルギーを走行に集中させるため、一般車両のようなエアコンや音響設備はありません

 

ソーラーカーの車体は低く、操縦席も極限までコンパクトな設計。小柄なドライバーでも窮屈に感じる空間です。体をほとんど動かせないため、ハンドル部分にすべての操作系を集約。アクセルもペダルではなく、ダイヤルツマミです

 

2.車体はたったの140kg! 軽さの秘密はカーボンとソーラーパネルにあった

ソーラーカーのサイズは全長約5m、幅1.2mで、重量は140kg程度。軽トラックでも700kg前後はあるので、その軽さは一般車両と比べると5分の1以下です。

 

軽さを実現した最大の秘密は、車体を形作る最先端のカーボン素材にありました。繊維メーカー、東レの全面協力により、東レ・カーボンマジック株式会社の新世代炭素繊維「M40X」を採用したことで、軽さと強さを兼ね備えた車体を実現できたのだとか。

 

また取り付けられている太陽電池も、住宅用で使われているような分厚いガラスを用いた一般的なパネルとは異なり、薄いシート状の樹脂でモジュール化したものを採用。1枚あたり7g程度のパネルが、258枚取り付けられています。

 

小さな太陽電池パネルを敷き詰めるように配置。ドライバーのヘルメットなどの影で弱まった太陽電池の発電を、周囲の太陽電池が助け合う特殊な装置により、発電電力を確保しているのだそう。また分割することで、曲面にも対応しやすいというメリットも

 

3.まるで自転車!? 細くて軽いタイヤで、路面との摩擦を低減していた

ブリヂストンによりソーラーカー専用に開発された最新の低燃費タイヤ「ECOPIA with ologic」。東海大学チームをはじめとして、世界中の強豪チームがマシンに採用しています

 

クルマに装備するタイヤらしからぬ軽さと細さ、路面をしっかり捉える弾力性を兼ね備えています。とくにこの細さと軽さが、転がりやすさの秘密。タイヤに無駄なストレスをかけずスムーズに回転させることが、燃費向上につながっているのです。

 

空気の流れを乱さないよう4本のタイヤはボディで覆われています。かつては走行時の軽量化・高速化を重視し、3輪だった時代もあるとか

 

続いて、このマシンが投入されるレースについて、世界最高峰のレース「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」を例に見ていきましょう。「チャレンジ」と名付けられている通り、レース中はまさに挑戦の連続です。

 

4.世界最高峰のレース「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」は5日間で3000km超を走破!

車体やタイヤに注ぎ込まれたテクノロジーと燃費性能と技術は日進月歩。でもこのマシンを動かすドライビングテクニックやチーム力こそが、本番では試されます。

 

その世界最高峰とされる大会が、オーストラリアで1987年から開催されている「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」(以下、BWSC。開設当初の名称は「ワールド・ソーラー・チャレンジ」)。北部ダーウィンから南部アデレードまで、総移動距離は3020km! 5日間をかけたチャレンジが繰り広げられます。

 

BWSCは、約5日間をかけ、オーストラリア大陸を縦断する世界最高峰のソーラーカーレース

 

この大会は、「チャレンジャー部門」「クルーザー部門」「アドベンチャー部門」に分かれており、毎回50団体ほどが参加。東海大学が参加するのは速度を競うチャレンジャー部門で、2009年と2011年には2連覇の偉業を達成しています。

 

BWSCの開催は2年に1度。2021年大会は新型コロナウイルスの影響で中止となりましたが、BWSCと並び30年以上の歴史をもつ秋田の「ワールド・グリーン・チャレンジ」は無事決行され、東海大学チームは見事優勝を飾りました

 

5.住宅も歩行者もゼロ! コースは寒暖差の大きなデスロードだった

コースは、赤土が続く砂漠地帯の一般道。オーストラリア人ですら足を踏み入れることは稀という、辺ぴな地域です。そこを約3000キロ縦断するとは、日本でいえば沖縄から北海道へと移動するようなもの。大会が開催される10月の現地は春ですが、スタート地点とゴール地点の気象条件は異なり、しかも砂漠地帯のため、朝晩の気温は大きく変化します。

 

スタート地点であるダーウィンは、赤道近くに位置し、とにかく暑い街。最高気温が40℃以上になることもあるため、ソーラーカーを操縦するドライバーは汗だくです。車内に冷房設備はなく、操縦席に水2Lを用意し、水分補給することが義務付けられています。太陽光がなければ走行できませんが、引き換えに過酷な暑さとの戦いでもあります。

 

また、砂漠地帯を走行するため、風の影響も避けられません。猛烈な風に煽られコースアウトや横転してしまうチームもあるといいます。そして南部のゴールが近づくにつれ、今度は寒さとの戦いがやってきます。とくに夜は気温がグッと冷え込み、半袖でも汗だくになるような日中の気温から、アウターが手放せないほどまでになるのだとか。

 

こういった暑さ・寒さと戦いながらも、太陽光パネルには常に効率よく日差しを浴びなければなりません。大会期間中は気象衛星ひまわりのデータを日本にいる解析班と協力しながら分析し、走行スピードを決めているそう。まさにチーム一丸となって挑んでいます。

 

6.サソリや毒グモも天敵! 日没にたどり着いた場所へテントを張り自給自足していた

コース上には、カンガルー飛び出し注意の看板が! 思わぬ“敵”、あるいは沿道の客に遭遇する可能性も

 

BWSCに参加する際は、日本で製作したソーラーカーをオーストラリアへ空輸。同時に約60名いる学生のうち半数が現地に行き、チームを運営します。日本に残った学生もデータ解析や、不測の事態に備え、いつでも動ける体制にあり、常に情報共有を欠かしません。

 

ゴールするまでの5日間は、全員でコース沿いにテントを張ります。もちろんスーパーやコンビニもないため食料はすべて持ち込み。公衆トイレもありません。他国の参加チームと交流しながら、自らが探り当てたキャンプ地点で夜を明かし、翌日に備えます。

 

大会中は、ドライバー以外のメンバーがサポートカーで並走します。気象衛星のデータを分析しルートや時速を調整したり、休憩場所を先取りして確保したりするなどチーム全体のマネジメントがあり、さらにレース後はソーラーカーの整備をするので、5日間は睡眠不足状態が続くのだそう。走行時間は朝8時〜夕方5時までのルールですが、太陽が出ている限り蓄電は可能。早朝3時には起床し、日の出前から太陽が出る方角に太陽電池パネルを向け太陽の光を集める準備も欠かせません。

 

日の出とともに太陽光に当て、充電を行います

 

乾燥と紫外線で唇がカサカサになり、好きなものは食べられない、温度差はキツい……と過酷な環境ですが、東海大学チームのメンバーに思い出を尋ねると、ふと笑顔に。「あの星空は忘れられない」「とにかく大自然が素晴らしい」「20年以上この大会に参加しているけれど、景色は変わらない」「トイレが大変なんだよね!」「毒を持ったサソリやクモが普通にいます!」「朝が早くて大変でした」などなど。過酷ゆえに忘れがたい思い出がたくさん生まれる機会になっているようです。

 

コース中盤、アリス・スプリングスを通過する際には、ウルル(エアーズ・ロック)の至近を走行。またアフリカ大陸の大会ではテーブルマウンテンなど、サーキット走行のカーレースと異なり、地球の雄大な自然を目の当たりにできるのもソーラーカーレースの特徴

 

ウルルの上にかかるミルキーウェイ(参考写真)。生活圏から離れているため、星空の美しさも格別でしょう

 

7.1987年の初代チャンピオンはGM。現在も受け継がれる技術と情熱

ゼネラルモーターズ(GM)の記念館に展示されている「Sunraycer(サンレイサー)」。太陽光線“Sunray”とレーサー“Racer”から名付けられたのだそう

 

「ワールド・ソーラー・チャレンジ」初代チャンピオンはGMの「Sunraycer」でした。その後、日本からはホンダもソーラーカー開発に挑戦し、1993年と1996年大会で2連覇を達成。自動車メーカーと世界の大学チームが参加する大会へと発展していきます。

 

東海大学は、1993年に初参戦。平均時速は40kmで、52台中18位だったそう。2009年・2011年の2連覇達成後、直近の2019年BWSCでは、チャレンジャー部門準優勝を獲得。優勝したベルギーのルーベン大学とはわずか12分差という、素晴らしい成績を残しています。

 

2019年大会で完走し、準優勝を喜ぶ東海大学チーム。

 

本来であれは、2021年に行われるはずだったBWSCですが、新型コロナウイルスの拡大によって大会が中止に。そんな中、どのような取り組みを続けてきたのでしょうか? 次回は、1996年から東海大学のソーラーカープロジェクトに関わり続けている木村英樹教授に話を伺います。

 

エアコン(冷房)の最終結論!自動運転がいい?買い換えるべき?節約アドバイザーが解説する電気代を抑えながら効率運転する方法

年々、夏の暑さは増すばかり。熱中症を回避するためにも、日中はもちろん寝るときにも、エアコンをつけている人は多いのではないでしょうか。でも、一日中冷房運転状態が続くと、気になるのはやはりその電気代。設定温度を上げたりこまめに消したり、節電には気を遣っていても、実際のところ効果があるのでしょうか? 節約アドバイザーの和田由貴さんに、効果的なエアコンの使い方と、エアコンに関する“思い込み”の正誤を教えていただきました。

 

夏の冷房、やっぱり電気代がかさむ?

今年も高温多湿の日が続き、東京では平熱を超える気温になる日も。冷房なしでは、命の危険を感じることさえあります。つけっぱなしにしなくてはならないエアコンの電気代は気になりますが、節約アドバイザーの和田由貴さんが最初に伝えておきたいと力を込めるのは、「無理な我慢をしないでほしい」ということ。

 

「節約や節電を心がけることは、お財布にも環境にもやさしい取り組みですが、それよりも大切なのは、エアコンをつけるのを我慢しないことです。特に夏場は体調にも大きく関わることですから、節約のしすぎには十分注意しましょう。そもそもエアコンは、室温と設定温度に差がある方が電気代は高くなるので、冷房よりも冬につける暖房運転の方が電気代は高いのです。また、冷房はつけても7〜9月くらいの2か月ほど。暖房は11〜3月ごろまでと、長い間つけなくてはなりません。なぜか夏の方がすごくお金がかかると思われていることが多いのですが、そんなことはないんですよ」(節約アドバイザー・和田由貴さん、以下同)

 

例)
冷房 夏の室温30℃ 冷房の設定温度27℃ 差は3℃
暖房 冬の室温10℃ 暖房の設定温度25℃ 差は15℃
※もとの室温と設定温度との気温差が大きいほど、電気代がかかる

 

節約アドバイザーがおすすめする
効果的なエアコンの使い方10

エアコンは、使い方によって体感温度が大きく変わります。室温が適温になっても、体感温度が下がらないと設定温度を下げたくなりますよね。

 

「冷房は、設定温度を1℃上げるだけで消費電力量が10%節約できるといわれていますから、できるだけ設定温度はぎりぎり高いところに設定したいもの。同じ28℃設定でも湿度が低いと涼しく感じ、湿度が高くなると体感温度は上がってしまうので暑いと感じます。扇風機を併用したり、窓から入ってくる輻射熱対策をしたりして、設定温度が高くても過ごしやすいと感じるようにすることが、電気代の節約になります」

 

1. 輻射熱で室内が暑くならないよう窓の外によしずなどを使う

部屋が暑くなる大きな原因のひとつは、窓に当たる太陽光の輻射熱。夏場、窓を触ってみるとわかりますが、かなりの熱さになりますよね。窓から直接室内に入ってくる太陽光も問題ですが、輻射熱が部屋を暑くする原因にもなり、いくら冷房を強くしても部屋の中が冷えていかない……ということになってしまうのです。

 

「カーテンをひいて窓の内側に対策をする方は多いのですが、それよりも窓の外側に対策するのがより効果的です。ひさしやよしず、グリーンカーテンなどでもいいですし、窓に貼るタイプのフィルムでもいいので、窓に日が当たらない対策をしてみましょう」

 

2. 室外機に日陰を作る

室内には気を配れますが、室外機にはなかなか目が向かないもの。でも実は、室外機の環境によっても冷房の効き目に差が出るのです。

 

「室内機と室外機はパイプで繋がっていて、その中を“冷媒”と呼ばれるガスが循環しています。この冷媒が室内の熱を運び、室外機にある熱交換器で熱を排出する、というのがエアコンの仕組みなのですが、直射日光が当たっていると十分に冷却することができず余計な電力を使ってしまいます。とはいえ室外機を独断で動かしたり全体を覆ってしまったりすると、故障してしまうこともあるので、今室外機が日陰にないという方は、室外機用の日除けパネルなども売られていますので取り入れてみましょう。木の板を室外機の上に一枚乗せておくだけでも、日光の当たり方は違います。少しでも室外機が熱くならないように対策してみてください」

 

3. 風量や風向きは自動設定にする

外から帰ってきて部屋が暑いとつい風量を強くしていたり、風量を弱くした方が何となく節電になりそうと思って微風などに設定しているという場合は、ぜひ「自動設定」にしてみてください。

 

「エアコンは、素早く設定温度まで部屋を冷やすように運転を始めます。風量を弱くしていると部屋が冷えるまでの時間が長くかかり、逆に余計な電力を消費してしまうことがあるのです。風量を“自動”に設定にしておけば、最初は強風で部屋を一気に冷やし、部屋が涼しくなれば自動的に風量を控えてくれるので、効率の良い運転になるのです。風向きも、どこに風を届ければ部屋全体が効率よく冷えるのかを考えて、エアコンが自動的に調整しているので、風向きも自動に設定しておくのがおすすめです」

 

4. 扇風機やサーキュレーターで室内の温度ムラをなくす

冷房をつけるとどうも足元だけ寒い……という経験はありませんか? これは、冷たい空気が重たいので下に流れてしまうからです。

 

「エアコンは部屋の上の方についていますから、足元が冷えていても部屋の上部が温かいと、どんどん冷やそうとして活発に動いてしまいます。部屋の中に温度ムラができないよう、扇風機やサーキュレーターで風を回してみましょう。風が流れることで体感温度も下がり、設定温度の下げすぎも防げます

ちなみに風向きを“自動”に設定しておくと、冷房をつけたとき羽根が上向きになり、暖房は羽根が下向きになります。これは冷房の風はなるべく部屋の遠くまで届くようにし、暖房の風はなるべく下を温められるようにと考えられているからです。冷房の風が落ちてくるエアコンの向かいが冷気溜まりになりますから、そこに扇風機を置くといいでしょう」

 

5. 室外機のお手入れをする

室外機を覗いてみると、裏側や側面に薄い羽根のような金属板があります。これが熱の交換を行うフィンで、ここに埃や汚れが溜まっていると、消費電力量が上がってしまう可能性があるのです。

 

「フィンの間に風が通ることで熱を排出しているのですが、フィンの隙間が汚れで詰まっていると十分に冷却ができず、動作効率が落ちて余計な電力がかかります。室外機のフィンの掃除はシーズンごとにはしておきましょう。ただし、フィンは薄いアルミ製なので、余分な力を加えると変形してしまうことがあります。掃除をする際は柔らかいブラシなどを使い、できるだけ力を入れないように注意して扱いましょう」

 

6. 寝室も窓開けやカーテンで対策する

普段いる部屋は対策をしっかり施していても、日中はいない寝室のカーテンは開けっぱなし……ということはありませんか?

 

「日中こもった熱が夕方になっても放出できず、いざ寝るときになっても部屋が涼しくならない、ということがあります。寝室のカーテンを閉じたり窓を開けたりして、部屋の中が暑くならないよう対策することが大切です。もちろんよしずなどを使って輻射熱対策もしておきましょう。日中そうしておくだけで、夜寝るときに冷房を使いすぎることなく、部屋を冷やすことができるのです」

 

7. エアコンの掃除は清掃のプロに頼む

シーズンが始まる時期に、フィルターの掃除や見えるところの埃や汚れの手入れなどは、自分で行う必要があります。それ以外にも、2〜3年に一度はプロに頼んで掃除してもらいましょう。

 

「エアコン内部を掃除できるスプレーが売られていますが、汚れがひどい場合は奥に汚れを押し込んでしまうことがあるのでおすすめしません。これがカビの原因になったり、汚れによってドレンホースが詰まったりして、室内機から水漏れをする可能性もあります。内部の掃除は必ずプロに頼みましょう。メンテナンスを怠らずに使えば、エアコン自体の寿命も変わってきますよ」

 

8. 送風運転で汚れをつきにくくする

内部や羽根、フィルターに汚れがついていると、エアコンの消費電力が上がってしまうので、なるべく汚れないように使うのも大切です。

 

「カビや汚れの原因のひとつは、冷房を使ったあとエアコン内部に湿気が溜まってしまうからなんですね。そこからカビが繁殖するので、冷房を消す前に送風運転を5分ほどしてから消すといいでしょう。送風運転は常温の風を出す運転なので、湿気を取ることができます。上位機種には自動でこの動作をしてくれるものもあります」

 

9. 室外機の周りに打ち水をする

室外機がうまく内部の空気を冷やせるように、室外機の周囲には打ち水をしましょう。

 

「日中は水をまいてもすぐにお湯になってしまうので、朝か夕方の暑すぎない時間帯に水をまいて、室外機周辺が少しでも涼しくなるようにしましょう。室外機は外に置くものですから、雨が振っても壊れないよう防水設計はされています。ただし、強い水圧で内部を洗ったり、下から水をかけたり、通常の雨では考えられないような水のかかり方をすると、故障してしまうことがありますから注意しましょう」

 

10. こまめにつけたり消したりしない

「エアコンをこまめに消すことが節電につながる」と思っているなら、ぜひ今日からあらためましょう。はじめにも書きましたが、エアコンは室内温度と設定温度の差があればあるほど、消費電力がかかるものです。

 

「28℃設定にしておいて『あー、涼しくなった』とエアコンを切るとしましょう。窓は閉まっていますから、部屋の温度はふたたびぐんぐん上がって行きますよね。体感温度が上がり、ちょっと暑いなと思ってもう我慢できない、というときにまた冷房を入れるとなると、そこからまた冷房ががんばらなくてはならないので、電力を費やしてしまうのです。それよりはずっとつけておき、設定温度から少し上がった時点で、また設定温度に戻るよう自動的に冷房運転が始まる方が節電になります

 

巷では、エアコンの使い方に関するさまざまな“ノウハウ”がささやかれています。次のページでは引き続き、節約アドバイザーの和田さんに、こうした半ば“常識”になっている節約術の真相を聞きました。

エアコン節約術のその常識、ホントですか!?

巷では、エアコンの使い方に関するさまざまな“ノウハウ”がささやかれています。引き続き、節約アドバイザーの和田さんに、こうした半ば“常識”になっている節約術の真相を聞きました。

 

Q1. 除湿(ドライ)運転は冷房よりも電気代が安い?
A1. △ そうとも言い切れません。

「一般的なエアコンの除湿運転は、弱冷房除湿と呼ばれる除湿運転で、名前の通り弱い冷房とほぼ同じです。電気代は控えめですが、除湿できる量も冷房より少なくなります。また、上位機種などに搭載されている再熱除湿の場合、部屋は冷えませんが、冷房より電気代が高くなることがあるのです。暑いときに室温を下げて湿気を取りたい場合には、冷房運転が最適。節電を考えるのであれば、冷房運転で設定温度を控えめにしましょう。除湿は梅雨時などの湿気が気になるときや、冬の結露が気になるときなどに使うのがおすすめです」(節約アドバイザー・和田由貴さん、以下同)

 

Q2. 寝るときは冷房のタイマー設定がオススメ?
A2. × おすすめしません。

「就寝してからの数時間は冷房をつけておき、しばらくしたら消える設定をしている方は、暑くて起きてしまったりしていませんか? 冷房をつけて寝るということは、窓も閉め切っていますよね。寝苦しくて目が覚めるほどまで室温が上がってから再度エアコンをつけると、電力もかなりかかりますし、睡眠の妨げにもなります。睡眠中に熱中症になることもありますので、部屋を閉め切って冷房をつけるのであれば、設定温度を高めにして朝までつけっぱなしにするか、タイマー設定するなら明け方の涼しい時間まではつけておくようにしましょう」

 

Q3. コンセントはプラグから抜いた方がいい?
A3. × 抜かないでください。

「シーズンが終わり、もうしばらく使わないというときは抜いても構いませんが、数日の旅行などでコンセントを抜くのはやめてください。エアコンは電源を切ったあとも、数時間は冷媒が循環するなど目には見えない運転をしていることがあります。途中でプラグを抜いてしまうと故障の原因になることがあるので、抜かないでおきましょう。シーズンオフにプラグを抜きたい場合は、電源を切って一日経ってからにします。また、使いはじめも、コンセントを差して半日ほどしてから電源を入れるようにしましょう」

 

Q4. 換気してからエアコンをつけるといいってホント?
A4. ○ その通りです。

「部屋の中に熱い空気がこもったまま冷房をつけると、室温と設定温度の差が大きくなり、消費電力量も上がります。帰ってきたら一度窓を開けて熱い空気を逃し、そこから冷房をつけると、効果的でしょう。窓が2か所以上あれば、どちらも窓を開けて扇風機を外に向けてつけ、部屋の空気を逃します。窓がひとつしかない場合は、窓を少し開けて換気扇をつけてもいいですよ」

 

Q5. やっぱり最新機種が一番の省エネ?
A5. △ そうとも言い切れません。

「エアコンの省エネ性能は、ここ10年くらいは、それほど大きく変わっていません。20年以上前の製品などと比較すると飛躍的に進化していますが、ここ数年くらいの製品であれば十分省エネ性は優れているといえるでしょう。ただ、最新機種はAIや各種センサーの搭載で、よりきめ細かい節電ができるようにはなってきています」

 

Q6. 冷房や除湿運転より、自動運転が一番いい?
A6. × お好みの温度に設定した方がいいでしょう。

「冷房と暖房、除湿のほかに“自動”という運転の方法がありますよね。これは今の温度から判断してエアコンが自動的に運転や設定温度を決めるというものです。リモコンが壊れてしまったときや紛失したときのために、本体だけで自動運転の電源を入れることができるようになっていて、救済措置のひとつとも言えます。状況に応じて勝手に切り替えてくれるので便利な一方、機種によってはかなり設定温度が低くなっているものもあります。風量や風向は自動がおすすめですが、運転は自動ではなく、冷房で設定温度を控えめにする方がおすすめです」

 

 

電気代を気にしながら過ごすのも大切ですが、気にしすぎるあまり体調を崩したり快適な眠りが妨げられたりしては本末転倒。我慢するのではなく、室外機の掃除や輻射熱対策などで消費電力量を下げる努力をしてみましょう。

 

【プロフィール】

節約アドバイザー / 和田由貴

消費生活アドバイザー、家電製品アドバイザー、食生活アドバイザーなど、幅広く暮らしや家事の専門家として多方面で活動。環境カウンセラーや省エネルギー普及指導員でもあり、2007年には環境大臣より「容器包装廃棄物排出抑制推進員(3R推進マイスター)」に委嘱されるなど、環境問題にも精通する。「節約は、無理をしないで楽しく!」がモットーで、耐える節約ではなく快適と節約を両立したスマートで賢い節約生活を提唱している。著書に、『超かんたん!はじめてのスマホ決済』(扶桑社)、『月3万円貯まるムダなし生活術』(永岡書店)、『快適エコのライフスタイル 冬の省エネ生活』(NHK出版)、『めざせ!ごみゼロマスター』シリーズ(WAVE出版)など多数。

http://wada-yuki.com/

 

儲かってこそ広がる!SDGsビジネスアワード大賞受賞者が語る、ビジネスで世界を変える方法

2015年9月に行われた国連サミットでの「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には17のゴールが設定され、2030年までのSDGs(持続可能な開発目標)が記されています。

 

この「SDGs」という言葉、最近よく聞きますよね。地球に良いこと、環境のためになること、多様性を認めるなど、なんとなくは理解しているけれど、実際にいま何が起きていて、自分はいったいどうしたらいいの? と途方に暮れている人も多いのではないでしょうか?

 

今回は、「SDGsビジネスアワード」で大賞を受賞した、フロムファーイースト株式会社の代表取締役をつとめ、『世界は自分一人から変えられる』(大和書房)の著者でもある阪口竜也さんに話をうかがうなかで、そのヒントを探りたいと思います。聞き手は、髪から爪先までフロムファーイーストのスキンケアブランド『みんなでみらいを』を愛用中という、@Livingでおなじみの“ブックセラピスト”、元木忍さんです。

 


『世界は自分一人から変えられる』
阪口竜也 / 大和書房

大学時代、DJになるためにフリーペーパーを立ち上げ、新卒採用で給与交渉! 美容業界に転身し、エクステ専門店で世界進出も果たして順風満帆な人生を送っていた著者は、さまざまな逆境や出会いを重ねながら、2010年には、使えば使うほど体と環境が良くなる商品をと開発した「米ぬか酵素洗顔クレンジング」が大ヒット、さらに2017年には「SDGsビジネスアワード」で大賞を受賞。行動力と勇気を与えてくれると、2017年の出版以降、多くの人に親しまれています。

 

“つまらない大人”ではいたくない

元木忍さん(以下、元木):『世界は自分一人から変えられる』は、2017年に出版された本ですが、知人に紹介をされて、読ませて頂きました。本の中で、阪口さんが幼い頃、「あんなつまらなそうな大人にはなりたくない」と思っていたと書かれていますが、大人になってみて、この日本にはどんな大人が多いと感じていらっしゃいますか?

 

阪口竜也さん(以下、阪口):残念ながら、今も「つまらなそうだな〜」と思う大人がいっぱいいます。ただ、これは社会構造が問題なんだと思うんです。学生の頃は、社会と接することのないコミュニティの中にいるから、つまらない社会構造に触れることはないけれど、大学生で就職活動をするようになると、「これが正解です」「あーしなさい」「こーしなさい」「これは間違いです」とルールでガチガチになった社会が登場するんですよね。「これはおかしいぞ?」と感覚ではわかっていても、その流れに乗らざるを得ない。乗ってしまえばルールの中からは逸脱しにくくなるので、なりたくなくてもつまらない大人へのレールに乗ってしまう社会構造になっているんです。

 

元木:社会構造のおかしな部分に疑問を持てたり、阪口さんみたいに「俺はこうするんだ!」と言えればいいんでしょうけど、ほとんどの人が「おかしいな〜」と思いながらもその中でしか生きられないと……。半ば諦めているのでしょうか?

 

阪口:「なんか違う」っていうことは本人もわかっているはずなんだけど、声を上げたり、変化することが怖いんでしょうね。おかしい部分を変えればうまくいくよって教えてあげたいです。

 

元木:本当に言えていないですよね……。そもそも、いつ頃からこういう社会構造になってしまったのでしょうか?

 

阪口:社会=経済という市場原理ができてしまってからでしょうね。いいものを食べて、いい洋服を着て、いい家に住むのがステータス。さらに、日本人には昔から安定志向があるから、貯蓄や財産が多いほうが偉いという価値観。残念ながら「自分がこうありたい」と言いにくい社会として大きくなってきたという背景がありますね。

大量生産・大量消費の現代に一石を投じるべく一念発起、2017年には並み居る大手企業を抑えて「SDGsビジネスアワード」で大賞を受賞した、阪口竜也さん

 

普段通りに生活をしているだけで環境が良くなる仕組み

元木:阪口さんご自身は、大学生時代にDJをやりたいからとフリーペーパーを立ち上げ、新卒採用でも「1年だけ働く」と条件付きで給与交渉までされたそうですね。このエピソードだけでもビックリしちゃいますが、そこから就職後、本当に1年で退職。最初にフリーペーパーの広告を出してくれた会社さんに転職し、エクステ専門店を立ち上げて、世界進出までされました。驚くほどのスピードで、すべてが順風満帆に見えますが、なぜ「世界を変えたい」と一念発起し、今の事業を始めたんですか!?

 

阪口:話だけ聞くと「どんな変なやつなんだ」って思われちゃいますけど(笑)、実は脈絡なく生きてきたわけではなくて、すべては繋がっています。よく「阪口さんだからできるんだよ」とも言われますけど、目の前にある選択肢を、「やる」か「やらない」か選んできただけのこと。元々、「世界を変えたい」って漠然と思っていましたが、今の事業はあるスピーチがきっかけで始めることになったんです。

 

元木:1992年「地球サミット」でセヴァン・カリス=スズキさんが行った伝説のスピーチですよね。私も記憶にあります。

 

学校で、いや幼稚園でさえ、あなたがた大人は私たちに、世の中でどうふるまうかを教えてくれます。たとえば、
・争いをしないこと
・話し合いで解決すること
・他人を尊重すること
・ちらかしたら自分で片付けること
・ほかの生き物をむやみに傷つけないこと
・分かち合うこと
・そして、欲張らないこと
ならばなぜ、あなたがた大人は、私たち子どもに「するな」ということを、自分たちはしているのですか?

(『世界は自分一人から変えられる』より)

 

阪口:このスピーチを知ったのは、2004年になってからなんですよ。当時からこのスピーチが「感動した!」とか「伝説だ!」って話題になっていたはずなのに、1992年から2004年までの約10年で世界が大きく変わったか? と振り返ってみると、むしろ悪くなっているじゃないか……と思って。「みんなはたとえ感動しても、行動はしないんだな」って実感したんです。だったら、何もしなくても普段通りに生活をしているだけで環境が良くなる、子供たちに地球を残せる、そんな取り組みをすれば世界を変えられるんじゃないか? そう考えて、「みんなでみらいを」の事業を立ち上げました。

 

ナチュラルコスメ「みんなでみらいを(minnade miraio)」の化粧品。無添加な上、排水口に洗い流された排水は微生物によって分解されるため、肌にいいだけでなく、地球環境にもいい。右から、「米ぬか酵素洗顔クレンジング」2310円、「米ぬか酵素洗顔クレンジング+クレイ」3850円、「椿と黒文字のスキンケアオイル」4180円、「米ぬか美容オイル」3850円(すべて税込)

 

元木:「普段通りに生活をしているだけで環境が良くなる」って、本当に素敵な考え方だと思います。だから「みんなでみらいを」にはスキンケア商品や洗剤など日常生活に身近な、毎日使う商品が揃っているんですね。

 

阪口:社会=経済の時代は、便利だとか早いとか楽とか、“モノにあふれた豊かさ”や“効率がいい生活”をすることが最高! とされていたので、その代償として環境は破壊されてしまったように思います。この「経済発展=環境破壊」の構造を、「環境保護=経済発展」の仕組みに変えなきゃいけないと考えるようにもなりました。

美容師さんを例にあげると、見習いの子たちの手ってシャンプーでボロボロに手荒れしているんですよ。これは「今すぐ、美しい髪が欲しい」という社会のニーズに応えるために、合成界面活性剤やいろいろな薬品を使って、企業がスピーディに見た目の美しさを求めた商品を開発した結果なんですよね。そんな人間の手が荒れてしまうようなものを毎日下水に流したら、川や海は汚染されてしまう……。さらに各家庭からも同じようにいろいろな薬品が自然界に流れてしまっていると思うと、100年後もこの地球があるって保証できないだろうと思ったんです。

 

元木:私も美容室と一緒に事業をしていたので、「どうして美容師さんはこんなに手が荒れてしまうの?」と思っていました。髪の毛を染めている液剤が悪いのではないかと少しは疑いがありましたが、地球にも悪いんだとあらためて気が付かされ、私も髪を染めるのをやめました。地球を汚してまで美しくなりたいって何でしょうね? そのあたりのことをきちんと理解しておくことも、とても重要なのではないかと感じました。

 

「SDGs」は企業にとって大チャンス!?

阪口:その価値観も、少しずつですが変わってきています。新型コロナウイルスで自粛せざるを得なくなったのもありますが、「白髪でもかっこいいじゃん!」とか「自然由来の毛染めしようよ」とか地球にも自分にも優しい方向になっていますから。10年前では考えられなかったことです。元木さんの白髪も素敵ですよ!

 

元木:ありがとうございます(笑)。私も「みんなでみらいを」の商品を愛用していて、全身に使っています。正直、髪を洗うときしむんだけど、ドライヤーで乾かすとつるんとして気持ちがいい。今までは、髪の毛がツヤツヤになるとかしっとりするのが善とされていましたが、そうするためにどれだけの添加物や薬品が使われてきたのか? って考えさせられます。

 

阪口:都合の悪いことは、企業は発信しません。“天然由来”って聞こえはいいけれど、石油だって天然物質。無添加でも、植物を育てる時にたっぷり農薬を使っていたらその残留物は表記されません。CMのナチュラルな雰囲気だけで商品を選んでいる人も、正直多いですからね。自分が使う商品なんだから、何が入っているのか? この成分はどういう意味なのか? どうしてこの添加物が必要なのか? 調べれば全て出てくることですから、自分で調べて、理解して欲しいです。 

元木:たしかに、私たちはいろいろな情報を鵜呑みにし過ぎていますよね。

 

阪口:ネットで検索すれば、それがどんな成分かはすぐにわかりますよ。いろいろな情報を自分で調べて、自分に合うものを見極めて、選んで、使うのが当たり前になって欲しいですね。最近は、その感覚がどんどん薄れているような気がしますし。

 

元木:自分の目を養うことはもちろんですが、メーカーも、環境に優しい取り組みをしたいんだけど……と思っているだけで、踏み切れないという企業も多いのかもしれませんね。

 

阪口:正直、企業は“やらざるを得ない状況”だと考えたほうがいいと思います。社会のニーズはすでに変化していて、全世界70億人の共通目標として2030年までに「これを達成しますよ!」ってSDGsを掲げているわけですから。世界中で国を挙げて、予算つけて大々的に取り組んでいて、SDGsに沿った活動をすればするほど企業価値が高まりますから、マーケティング視点から考えても大チャンス。「経済発展=環境破壊」の価値観でいる企業は、CSR活動で「やってますよ」とアピールするのではなく、SDGsに沿った新規事業を生み出すほうが効果的です。

SDGsは17のゴール・169のターゲットから構成されています。どんな企業でもひとつくらいは事業内容を見直したり、達成に近づける取り組みができるはずです。今までは、商品開発後「どうやってターゲットにリーチするか」を考えていたと思いますが、もうターゲットはSDGsで定められているので、ゼロから新規事業を考えるより圧倒的に効果を得やすいんです

 

元木:なるほど。全人類の共通目標がSDGsと思うとわかりやすい! 今までエコ活動や環境保全はボランティアな印象がありましたが、しっかりビジネスとして経済を回していくことが大切なんですね。

 

阪口:そうそう。これまでの価値観で考えると、CSRってコストがかかるでしょ? 僕自身も社会貢献だけなんてことはしていません。どうすればビジネスとして成立するかをしっかり考えてビジネスモデルを組めば、環境保護しながら儲けることは可能です。「中小規模の企業じゃ無理だよ」って声も聞きますが、むしろSDGsという共通目標があることで大企業と一緒に仕事を生み出せる可能性も秘めています。僕もSDGsを通じて身の丈以上の企業とやりとりしてきた実績もありますから。チャンスがいっぱい転がっているので、あとは自分の所属している組織で「何ができるか」を本気で考えて、行動するだけです。

 

何ができるかを考えて、あとは行動あるのみ。そんなモットーを、阪口さんはさまざまな分野で体現しています。ファッション、はたまた家まで!? 次のページで、くわしく話を聞いていきます。

SDGsに適う暮らしは誰もが「いいね!」と思う。それを行動に起こすこと

元木:阪口さんとお話していると、その“行動力”にも驚かされます。いい意味で少年のままというか(笑)、本当に「やる」か「やらない」かの判断がスピーディですよね。

 

阪口:ありがとうございます(笑)。地方自治体からも「うちの〇〇を使って欲しい」って声がかかるので視察ツアーに参加すると、ほとんどの参加者が「いいですね」で終わるんです。僕の場合は、そこで計算して採算が合えば「今、買うわ」って取引しちゃいます。

「みんなでみらいを」の中にある「椿と黒文字のスキンケアオイル」という商品も、石川県能登半島に椿があるけど何もしてないって言うから地元の人に摘んでもらって、椿オイルを抽出してもらうことにその場で決めたんです。でも能登半島にある椿だけじゃ商品化するまでにはちょっと足りなかったので、伊豆諸島の神津島の町長さんに「椿ある?」って聞いたら「ある」と。じゃあそっちも買うよ! と。半年で商品化することができました。

 

阪口さん(左)と、聞き手の元木さん(右)

 

元木:それはすごい(笑)。米ぬかの後は、椿オイルですね。日本の素晴らしいものを自然のまま商品化していくなんて、本当に素晴らしい。でも、一緒に働いている社員さんは驚かれないですか?

 

阪口:もう慣れてますね(笑)。それに、うちの社員はもちろん、一緒に取り組んでいる商社や百貨店、取引先もひとつのチームという感覚なんです。だって、百貨店だって僕の商品を扱うことで給料をもらえているわけですから。もちろん「みんなでみらいを」の商品だけを取り扱っているわけじゃないけど、一緒に盛り上げていこうよと思っています。

 

元木:チームで取り組むなんて最高ですね。これから阪口さんがやってみたいことはどんなことでしょうか?

 

阪口:衣・食・住に関わっていきたいです。ずっと化粧品をやりたいわけじゃないんです(笑)。化粧品のような生活消費財は、市場にも浸透しやすい、ニーズが高いということで始めていましたが、違う業界でもどんどんやっていきたいと思っています。「住」の話だと、今、自分で家を建てているんですよ!

阪口さんが新たに手がけているタイニーハウス

 

元木:え、家をですか!?

 

阪口:“タイニーハウス”って、DIYで作れるレベルの家です。国産木材を使って、土地さえあれば、材料費はたったの100万円で作れちゃいます。造りもしっかりしているし、自分でDIYするから愛着も出てきます。数年経って「あぁ〜ちょっとここが傷んでるなぁ」となれば自分で補修もできる。これをひとつのパッケージにして販売しようと考えています。

 

元木:なんと100万円! 最近では都内にいなくても仕事ができる時代に急に変化したので、この“タイニーハウス”は流行りそうですね! 友達とのシェア別荘にしても楽しそう。

 

阪口:いいですね。あと「衣」でいうと、パイナップルで作った靴を売り始めました。

ファッショナブルなバブーシュ。“ヴィーガンレザー”で作られていますが、その原料はなんと、パイナップルなのだとか! vegflow「babouche」1万5000円(税別)

 

元木:パイナップルには見えない!

 

阪口:でしょ? おしゃれなんですよ。サステナブルなファッションとして注目をいただき、おかげさまで発売以来たくさんの注文をいただいています。けれど、大量生産はしたくてもできないので、数量限定になってしまうんです。

 

元木:数量限定であれば、さらに価値がついて話題の商品になりそうですね。

 

阪口:そうですね。「食」についてもさまざまな企業さんと展開を進めていますが、サステナブルな企画って、誰が聞いても「いいね!」とか「やってみたい!」ってポジティブな共感を得られるんです。環境にも生物にも経済にもうれしい、まさに“三方良し”な世界に変えるためには、「すごいなー」「いいなー」で終わらせないことですね。僕でもやれているんだから、他の人もやればいいだけのことなんです。

 

【プロフィール】

フロムファーイースト 代表取締役 / 阪口 竜也

2003年、有限会社エクステンド(現フロムファーイースト株式会社)設立。2010年、エクステンション事業を売却し、作れば作るほど使えば使うほど体と環境が健康になる事業「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』では、大賞を受賞した。
みんなでみらいを https://www.minnademiraio.net/

 

手帳の中身を一気見せ! コクヨ×スターバックスの2021年版「キャンパススケジュールブック」が登場

コクヨとスターバックス コーヒー ジャパンが共同開発した「2021 スターバックス キャンパススケジュールブック」が登場。10月7日(水)から、全国のスターバックス店舗(一部を除く)と、スターバックスオンラインストアで発売されます。

 

コクヨ×スタバのエコな手帳が誕生!

国内文房具メーカーの最大手、コクヨは、「限りある地球の資源を大切に使いたい」というスターバックス コーヒー ジャパンのポリシーに賛同し、全国のスターバックス店舗で出るミルクパックを、表紙としてリサイクルしたノート「スターバックス キャンパスリングノート」を発売していますが、今回新たに、2021年版の手帳をラインナップに追加し発売します。

コクヨ
2021 スターバックス キャンパススケジュールブック
各2100円(税別)

サイズはB6。カラーバリエーションは、ホワイトとピンクの2種類をラインナップ。

 

表紙はスタバのミルクパックをリサイクル、中紙はジブン手帳と同じ「MIO PAPER」

素材は、表紙には「スターバックス キャンパスリングノート」と同様、全国のスターバックス店舗で出る、年間約1000tに上る使用済みミルクパックを原料とした紙を使用。中紙には、なめらかな書き心地で、インクの乾きが早くにじみにくいコクヨのオリジナル原紙「MIO PAPER」(森林認証紙)を採用しています。

 

ミルクパックが表紙の紙に生まれ変わる工程を見てみましょう。

↑①全国のスターバックス店舗からミルクパックを回収

 

↑②水と攪拌し分離する工程

 

↑③古紙パルプが抽出され、新たな“紙”として生まれ変わります

 

手帳の表紙として生まれ変わった姿がこちら。

↑表面に微細なシボ加工が施され、光を反射して絶妙なニュアンスを生み出しています

 

↑リサイクルをイラストで示した表紙のデザイン

 

↑このリサイクル商品のコンセプトとメッセージが綴られた裏表紙

 

中紙に採用された「MIO PAPER」は、さらさらとしたなめらかな書き心地。コクヨの人気手帳ブランド「ジブン手帳」の「Bizシリーズ」とノーマル版の「LIFE」リフィルにも使用されています。

↑表面はさらさらとした触感で、書き味はなめらかなオリジナルペーパーを採用

 

フォーマットは、マンスリーと週間レフト式

スケジュールブックのフォーマットは、マンスリーページと、右ページに方眼のメモを備えた週間レフト式を収録。いずれも月曜始まりで、日本の曜日・祝日の表記にも対応しています。

↑ブロックタイプのマンスリーには、各月のモチーフから抽出したイラストがデザインされています

 

↑月曜から日曜まで、均等に配分されたスケジュール欄。右ページは方眼のメモページになっています

 

13か月分をチェック! スタバ自慢のコーヒー商品をイメージしたイラストとストーリー

各月の扉には、スターバックスが製造・販売しているコーヒー豆のパッケージデザインをモチーフとしたイラストが描かれ、その脇にはコーヒーストーリー、キーワードと味わいの特徴が記されています。2020年12月から2021年12月まで、一つずつ見ていきましょう。

 

2020年12月

↑スケジュールページは2020年12月からスタート。スターバックスの定番ブレンド「ハウスブレンド」のイメージとストーリーが施されています

 

2021年1月

↑2021年1月は、スターバックス発祥の地で、現在も第1号店が存在するPike Placeをイメージした「パイクプレイスロースト」のイラストとストーリー

 

2021年2月

↑2月は深煎り豆「カフェベロナ」のイメージとストーリー

 

2021年3月

↑3月はコーヒー発祥の地で収穫される豆「エチオピア」のイラストとストーリー

 

2021年4月

↑4月は、アンデスの高地で栽培された豆「コロンビア」のイラストとストーリー

 

2021年5月

↑5月は酸味が際立つ浅煎り「ブロンドロースト」に位置づけられる「ウィローブレンド」のイラストとストーリー

 

2021年6月

↑6月はミディアムブレンド「セイレーン」がモチーフ。セイレーンとはギリシア神話に登場する人魚の姿をした海の怪物で、ロゴにも使われるなどスターバックスのアイコンとなっています

 

2021年7月

↑7月は南米産の豆を使用した「ベランダブレンド」をイメージしたイラストとストーリー

 

2021年8月

↑8月はさわやかな後味が特徴の「ブレックファーストブレンド」のイラストとストーリー

 

2021年9月

↑9月はアフリカ・ケニアのシングルオリジン「ケニア」をイメージしたイラストとストーリー

 

2021年10月

↑10月は、南米のグアテマラ・アンティグア地方の農園で収穫された「グアテマラ アンティグア」をイメージしたイラストとストーリー

 

2021年11月

↑11月は、アジアの主要産地であるインドネシアのコーヒー豆「スマトラ」をイメージしたイラストとストーリー

 

2021年12月

↑締めとなる12月は、スターバックスを代表するダークローストコーヒー「イタリアンロースト」のイラストとストーリー

 

毎月ひとつずつ明かされるスターバックス・コーヒーのストーリーを楽しみながら、自身の記録をしたためられる、1冊で2度美味しい手帳です。

 

 

地球に優しいプラスチックはどっち?「バイオマス」と「生分解性」それぞれの真実

2020年7月1日より、レジ袋の有料化が始まりました。マイバックを片手に買い物に出かける習慣が、だんだんと馴染んできたのではないでしょうか。

 

一方でこれをきっかけに、“環境に配慮されている”として有料化の対象外となっているレジ袋の存在も知られるようになりました。例えば、「バイオマスプラスチック」配合のレジ袋。日本マクドナルドや松屋など、一部の外食チェーンで採用されており、無料配布が続いています。

 

今回は、レジ袋有料化を巡って話題となっている「バイオマスプラスチック」や、次世代のプラスチックとして期待されている「生分解性プラスチック」について、東京大学大学院農学生命科学研究科 教授・岩田忠久さんに話を伺いました。

 

そもそもレジ袋の削減に環境問題を解決する力はあるのか?

レジ袋にペットボトル、食品トレイなど、あらゆる場面で活用され、私たちの生活を支えているプラスチック。とても便利な素材ではありますが、海洋プラスチックごみ問題や地球温暖化といった環境問題に深く関わっていることも事実です。2050年には、海に流れ出たプラスチックごみが魚の量を上回ってしまうと試算されるなど、事態は深刻化しています。

 

そうした状況を踏まえ、レジ袋の有料化が始まりました。しかし、日本が毎年廃棄しているプラスチックごみのうち、レジ袋が占める割合は約2%とごく僅か。本当に環境問題を解決する力があるのか、と疑問の声もあがっています。これについて岩田さんは「消費者の意識改革としては有効」だと話します。

 

「レジ袋を有料化するからといって、直接的に地球温暖化や海洋プラスチックごみ問題が解決するということはないでしょう。しかし、より生活に身近な“レジ袋”を通して環境問題を意識し、プラスチック削減に対する意識を高めていくことができるのではないでしょうか」(東京大学大学院農学生命科学研究科 教授・岩田忠久さん、以下同)

 

環境に優しい、次世代のプラスチックとは?

今回のレジ袋有料化で、対象外となったのは以下の3つ。

1. 厚さが50マイクロメートル以上のもの
2. バイオマスプラスチックの配合率が25%以上のもの
3.海洋生分解性プラスチック100%で作られたもの

1の、厚みがあるレジ袋については、繰り返しの使用で「使い捨て」を抑えようという狙いがあります。今回注目したいのは、2と3の環境にやさしい2つの素材。基準の配合率を満たしていれば、有料化の対象外となります。では「バイオマスプラスチック」や「生分解性プラスチック」とは一体どのようなものなのか、詳しく説明していきます。

 

・温暖化防止に「バイオマスプラスチック」

「トウモロコシやサトウキビなど植物資源(バイオマス)を原料としたプラスチックのことを『バイオマスプラスチック』と言います。“プラスチック”とは本来、石油を原料として作られているのですが、そこには大きな課題があります。1つは石油資源が有限であるということ。そしてもう1つは、処分する際に二酸化炭素が発生し、温暖化を招いてしまうこと。これらの課題を解決するため、開発が進められているのが『バイオマスプラスチック』です」

 

もちろん、「バイオマスプラスチック」を燃やしても二酸化炭素は発生します。しかし、バイオマスを原料として用いていることから温暖化対策に有効だとされています。

 

「原料となるバイオマスは、成長段階で光合成によって二酸化炭素を吸収しています。そのため、バイオマスプラスチックを焼却した際に出る二酸化炭素は、実質的にプラスマイナスゼロ。この考え方を『カーボンニュートラル』と言い、地球上の二酸化酸素量を増大させることがないため、地球温暖化防止に有効とされています」

 

・プラスチックごみ問題に「生分解性プラスチック」

適切に処理されずに海や川、土壌などに捨てられた石油合成プラスチックはほとんど分解されず、環境中に悪影響をもたらしています。その解決策として期待されているのが「生分解性プラスチック」です。

 

「『生分解性プラスチック』とは、環境中で微生物によって水と二酸化炭素に分解されるプラスチックのこと海洋プラスチックごみ問題や、マイクロプラスチック問題の解決策の1つとして注目されています。最終的に二酸化炭素が発生しますので、『生分解性プラスチック』が温暖化防止になる、というのは間違い。あくまでも分解することに意義があるのです」

 

「バイオマス」と「生分解性」
しっかり理解すべき、2つのプラスチックの事実

どちらも環境に優しい次世代のプラスチック。しかし、「『バイオマスプラスチック』と『生分解性プラスチック』という名前のイメージで、勘違いされていることも多い」と話す岩田さん。一体どういうことなのでしょうか。

 

1.「バイオマスプラスチック」には、生分解しないものもある

「『バイオマスプラスチック』は植物から作られているので、落ち葉のようになくなっていくものだとイメージする人が多いかもしれません。しかし、『バイオマスプラスチック』はあくまでも植物資源(バイオマス)から作られたもののこと。分解するかしないかは関係ありません。むしろ、現在レジ袋に使われているバイオマスプラスチックの多くは自然環境中では分解しません。よって、勘違いして、捨てないでください」

 

2.「生分解性プラスチック」の原料は、石油由来のものもある

「逆に、土や海など環境中で分解する『生分解性プラスチック』は全てバイオマス由来なのかというと、そうではありません。もちろんバイオマス由来のものもありますが、石油から作られた『生分解性プラスチック』も存在しています。

 

3.「生分解性プラスチック」は、すぐに分解するわけじゃない

「環境中で分解すると聞くと、海に出た翌日にキレイに溶けてなくなってしまうようなイメージを持っている人も多いのですが、分解には時間がかかるということも、覚えておいてほしいのです」

 

4.「生分解性プラスチック」は、どこでも分解するわけじゃない

「『生分解性』だからといって、どこでも分解するというのも間違いです。一般的に『生分解性プラスチック』というと、土壌で分解するものを指すことが多いのですが、ポリ乳酸のようにコンポストでしか分解しないもの、土の中でしか分解しないもの海や川でも分解するものなど、さまざまあります。今回、レジ袋有料化の対象外となっている『海洋生分解性プラスチック』は、海でも分解するプラスチックのこと。海や川は、土に比べて圧倒的に微生物の数が少なく分解しにくいため、まだまだ開発段階であることも事実です。

もうひとつ、注意していただきたいことがあります。生分解性プラスチックを使うときは、100%生分解性プラスチックでなければ意味がありません。生分解性プラスチックと生分解しないプラスチックを混ぜて使うことは、けっしてやってはいけません」

 

「言葉だけにとらわれるのではなく、その中身まで正しく理解をしてほしい」と岩田さん。「こんなプラスチックがあったらいいな」という理想を抱いてしまうかもしれませんが、それぞれの特性について正しく知ることは、私たち消費者にとって重要なことではないでしょうか。

 

「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の違い、それぞれのメリット、誤解されやすい点を教えていただいた上で、では、私たちはこれから、これらをどのように選び、取り入れたらいいのでしょうか?

 

目指すのは、「生分解性」+「バイオマス」のプラスチック

政府は、2030年までに「バイオマスプラスチック」を約200万トン導入するという目標を掲げており、今後ますます注目が高まる新しいプラスチック。「何より大切なのは、それらを活用する意義や用途について、提供する事業者も、使用する消費者も、きちんと理解し使い分けること」と岩田さん。

 

「どういうプラスチックを、どういう用途で使っていくのか考えることが大切です。例えば、現在東京都では、プラスチックと他のごみを一緒に燃やしてしまっているのですが、これでは『生分解性』である意味がまるでありません。東京で『生分解性プラスチック』を流通させようと思ったら、ごみの回収システムにも目を向けなければなりません。そういった社会のインフラともリンクしているのです」

 

では、どのようなものが「生分解性プラスチック」に適しているのでしょうか?

 

「釣り糸や漁網、農業用のビニールなど、自然環境中で使われているものです。ゴルフのティーなどもいいかもしれません。外で使われているものは、切れたり、壊れたり、劣化したり、ロストしたりと環境中に放出され、すべてを回収することは難しいでしょう。そういったものを『生分解性プラスチック』に作り替えていけたら理想ですね」

では、「バイオマスプラスチック」の使用意義とは何でしょうか?

 

「とくに昨今は、コロナウイルスの影響もあり、プラスチックの需要はますます高まっています。例えば、病院で使われるマスクや医療用のエプロンや手袋。これらは、感染の問題がありますので、焼却処分する必要があります。そういった燃やしまうものこそ、二酸化炭素の排出量が増えない『バイオマスプラスチック』で作る意義があるのではないでしょうか。また、市中のマスクについてはポイ捨てされている現状もよく目にします。ポイ捨てされたものが土や海に流れ出てしまった場合、微生物によって分解される『生分解性プラスチック』であれば、環境問題の解決にもつながるかもしれません。つまり、一番の理想形は『生分解性のあるバイオマスプラスチック』なのです」

燃やしても二酸化炭素の排出量を増やさず、自然環境中に流れ出ても分解する……。二つのメリットを持ち合わせた「生分解性バイオマスプラスチック」は、現在も開発がすすめられており、今後活躍の場がどんどん広がっていくことが期待されています。

 

プラスチックと上手に付き合っていくために

「レジ袋有料化やコロナウイルスの状況もあり、プラスチックについて考えることが増えてきていると思います。プラスチックを完全に使わない生活をするのは難しいですが、意識して使用量を減らしていくことは重要だと思います」

 

プラスチックはけっして悪いものではなく、私たちの生活に欠かせないもの。現在、岩田さんは木材からとれるセルロース、ミドリムシが作るパラミロン、虫歯菌の酵素によって試験管で作る多糖類といった自然界に存在している「多糖類」を原料としたプラスチックの開発を進めており、これからもどんどん新しいプラスチックが生まれてきます。そうしたプラスチックを適切な用途で活用しながら、共存していくことが大切です。

 

【プロフィール】

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授 / 岩田忠久

フランス国立科学研究センター・植物高分子研究所での留学を経て、京都大学大学院農学研究科林産工学専攻博士後期課程を修了(博士(農学))。2006年・繊維学会賞、2010年・ドイツ イノベーション・アワード ゴッドフリードワグネル賞、2019年・高分子学会 学会賞など受賞歴多数。現在は東京大学大学院農学生命科学研究科・教授として「バイオマスプラスチック」や「生分解性プラスチック」の創製に関する研究を続けている。