トゥクトゥクもEV化! カンボジアの電気自動車への本気度

【掲載日】2022年6月8日

世界各国でモビリティ革命が進行するなか、カンボジアが持続可能な電気自動車(EV)国家への躍進を目指して、広範囲にわたる普及政策を展開しています。

トゥクトゥクもEVの時代に突入

 

カンボジア政府は2021年12月、長期的なカーボンニュートラル政策の一環として、2050年までに自動車と都市バスの40%、電動バイクの70%をEVにすることをUNFCCC(国連気候変動枠組条約)に盛り込みました。すでにカンボジアでは、2021年よりEVの輸入関税を従来のエンジン車より50%軽減させる措置が取られていると同時に、EV組立工場への投資が強く奨励されています。さらに政府は、EV普及の鍵を握る充電ステーションの設置を既存の給油所に働きかけるなど、積極的な動きを見せています。

 

実際、カンボジアの首都・プノンペンでは、二輪EVや電動モペットのシェアライド事業が行われるようになりました。三輪タクシーのトゥクトゥクやバスなどの公共交通機関もこれからEV化される予定。また、同国では海外の自動車や二輪車メーカーがEVのショールームを開設しています。

 

この背景には、世界中でEVの普及が急速に進んでいることが挙げられます。2021年11月に英国で開催されたCOP26サミット(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、2040年までに全世界で、2035年までには主要国の市場で環境に負荷のないゼロ・エミッションに対応する普通自動車や商用バンなどの新車販売100%を目指す誓約などが締結されました。また、近年の自動車市場においてEVの販売比率が飛躍的に伸長しており、国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年時点で普及している世界のEVは1000万台を超え、前年比では43%もの増加。さらに、EVはコロナ禍でも前年比で70%もの販売増加を記録したのです。世界最大のEV大国とされる中国では、EV購入の補助金を制限した結果、価格がやや下がったため、販売数が伸びた可能性があるとのこと。

 

当然ながらEVの普及には数多くのハードルが存在しています。カンボジアは、車道や送電網を含めたインフラの整備、EVバッテリーの廃棄、人材育成などの課題を抱えています。これらを解決するためには、政府や諸外国、国際機関の支援に加えて、民間企業の連携が不可欠。カンボジアは、中国がリードする世界の自動車市場のEV化について行く意思を示しているだけに、日本企業はカンボジアの動向にもっと注意を払うべきでしょう。

 

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●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

途上国で新型コロナウイルスに感染したら? 現地スタッフの体験から見える渡航の際の留意点

【掲載日】2022年4月5日

いまだ収束したとは言い難い状況が続いている新型コロナウイルス。世界各地で感染者が出ていますが、感染状況や対策は国によって大きく異なります。そこで今回は、海外で事業に従事するアイ・シー・ネット社員のうち、現地で新型コロナウイルスに感染した社員3名にインタビューしました。バングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの、現地でのリアルな体験談とともに、渡航の際に注意すべきことや備えておくべきことなどをお伝えします。

 

●バングラデシュ

感染者数が195万人超のバングラデシュ。2022年1月下旬頃から急激に感染者が増加し、新規感染者数が1日1万人を超える日もありましたが、2月下旬以降は感染状況が落ち着きつつあります。今回インタビューしたのは、感染者が急増した1月下旬に現地で新型コロナウイルスに感染した社員。自身の症状や療養施設の対応、国の政策などについて聞きました。

――陽性と診断されてから療養先が決まるまでの経緯を教えてください。

「のどに微かな違和感を覚えた翌日から次第に痛みがひどくなり、その後37.5度の熱が出ました。滞在していたホテルでPCR検査を受けたところ、翌朝に陽性と判明。医師に電話で相談したところ、軽症のため医療診察を受ける必要はないと言われ、そのままホテルで療養することになりました。旅行サポートサービスを利用し、日本語で日本の医師に相談できたことはとても安心できました」

 

――医療機関とのやりとりや発症してからの症状について教えてください。

「陽性と診断されて医師に電話した際に、日本から持参した解熱剤の成分などを伝え、服用して問題ないかを念のため確認しました。また、酸素飽和度や、息切れなどの症状で気を付けるべき点について説明を受けました。それ以降は発症してから6日目に経過確認の連絡があったくらいでした。

症状は、軽症とはいえ発熱してから3日間は熱が下がらず、最高で38.2度まで上がりました。4日目以降は平熱に戻りましたが、以降も倦怠感は続きました。咳もかなり出て辛かったです。解熱剤を十分に持っていたので、なんとか凌ぐことができましたが、額に貼る冷却のジェルシートや咳止めの薬などもあればもう少し早く楽になれていたかもしれません」

 

――療養していたホテルの対応について教えてください。

「ホテルのスタッフとは基本的に直接接触することはありませんでした。食事は朝と夜、タオル、シーツ、水、トイレットペーパーといった必要なものは必要なタイミングで連絡し、毎回、部屋の前に置いてもらっていました。食器や利用済みのタオル、シーツなどは部屋で保管するように言われ、ゴミも含めて隔離期間中は一切回収してもらえず……。洗濯サービスも停止されました。

バングラデシュでは陽性者への隔離や療養に関する明確な基準がないようで、私が滞在していたホテルではPCR検査で陰性と診断されることが、隔離対応解除の条件でした。私は発症してから10日後に再びPCR検査を受診しましたが、症状が出ていないにも関わらず結果は陽性。結局、陰性の結果が出たのは発症から19日後でした。他の利用客や従業員に感染させないようにというホテル側の対応はもちろん理解できるのですが、部屋から出られない期間が長く、なかなか辛かったです。ちなみに私が滞在していたホテルと同地区のホテルも隔離解除の条件は同じだったようです」

隔離期間中は外からサービスを受け取れるが、外に物を出せなかったためコップが25個、皿は30枚以上たまっていったという

 

――国の政策や方針について教えてください。

「国の政策としては、2022年1月13日から、マスク着用義務、公共交通機関定員半数制限、集会・行事の開催禁止、ホテル・レストラン利用時のワクチン接種証明書の提示などの行動規制がスタート。同月21日からは、学校・大学閉鎖(2月6日まで)、政府や民間のオフィス、工場の従業員は、ワクチン接種証明書を取得しなければならないなど、新たな行動規制が追加されました。これらの行動規制措置の期限は2月22日までで、それ以降の延長発表などは特にありませんでした。

行動規制があった時期は、オフィスへの出勤を控える人が増えたのか、いつもより朝夕の交通渋滞が少なくなったとも聞いています。その一方で新聞の1面では、市場などの不特定多数の人が集まる場所でマスクをしていない人がいることが連日のように報じられていました。

隔離や療養に関する明確な基準がないバングラデシュでは、感染しても国からの指示やサポートを受けることがなかなかできません。今回の経験を通して、いざというときのために薬など必要なものを一通り用意しておくことが大切だと痛感しました」

 

●カンボジア

続いて、感染者数13万人を超えるカンボジアで、2022年1月に新型コロナウイルスに感染した社員にインタビューしました。1日の新規感染者が500人を超える日もあった2月下旬をピークに、現在は減少傾向にあるというカンボジア。国の政策や、現地の人々の様子などもあわせてお聞きしました。

 

――陽性と診断されるまでの経緯や、その後の療養先について教えてください。

「症状は特にありませんでしたが、帰国前検査を受診したところ陽性と診断されました。自宅に戻って待機していると、その日のうちに保健省が手配したと思われる救急車が迎えに来て、7~10日分の衣服などを準備するように言われました。その後、保健省指定の隔離施設へ移動。詳しい説明はありませんでしたが、主に空港検査で陽性となった外国人と国外から帰国したカンボジア人を収容している施設だったと思われます」

隔離施設の中庭。右奥が職員滞在施設。左手前のテーブルに食事と水が置かれる

 

――隔離施設の対応や、医療機関とのやりとりについて教えてください。

「施設に来た翌日に、パスポートや保険証の提示を求められました。また同日に体調に関する簡単な問診があり、血液採取、体重や血圧の測定なども行いました。施設に来た翌日から出所する前日まで、3、4種類の飲み薬を渡され、朝と夜に服用していましたが、陽性と診断されてからも症状は特にありませんでした。

施設に来て5日目くらいのタイミングで、保健省関連の組織から過去の滞在履歴に関する確認の電話がありました。確認の対象となる期間は、陽性と診断された日から数えて14日前から4日前まで。あわせて私が現地で関わっている事業の担当者についても聞かれました。その際に、仕事で訪問していたところにも自身が陽性になったことを報告。しかし今思えば施設に収容された時点で報告しておくべきだったと反省しています。

出所できたのは、施設に入っておよそ10日後。陽性の診断を受けてから7日目に1回目のPCR検査、さらにその48時間後に2回目の検査を受け、両方とも陰性であったことが分かると、施設から“出所して良い”と言われました」

 

――隔離施設での生活はいかがでしたか? 

「私が療養していたのは8名分の病床がある部屋で、同室者には中国系の男性1名と、私と同じタイミングで入所したパキスタン人の男性2名がいました。同室になった人たちとコミュニケーションを取ったり、英語が話せる施設の職員たちと会話したりすることで、精神的に少し楽になりましたね」

「療養していた大部屋。カーテンで仕切られていて、半個室になっていました」

 

「ただ個室ではなく共同生活になるため、衛生面などでは気になるところもありました。例えば、石鹸が洗面台とユニットバスに1個ずつしかなく……。タオルや歯磨きセットなども支給がなかったため、こうした衛生用品は事前に準備しておいたほうがいいと思いました。さらに貴重品の管理なども注意が必要です。私は持って行きませんでしたが、トイレやお風呂場に持ち込めないPCなどは、鍵付きの小さなスーツケースなどで保管すると安心だと思います。またパスポートや保険証は原本ではなく、スクリーンショットの提示でも問題ありませんでした」

「半個室には扇風機とエアコンが各1台設置されていました。緑色のブランケット1枚は貸与されたもの。私はシーツ代わりに使用していました。オレンジのタオルは職員に貸してほしいと伝えたところ、借りることができました」

 

「食事は、朝・昼・夜、毎食クメール料理でした。毎回メニューが違ったので飽きることはありませんでしたが、外部からの持ち込みが自由だったので、カップ麺やスナック菓子などがあると、より快適に過ごせたかもしれません」

「昼食の一例。白米と炒め物とスープが、昼も夜も定番でした。左上に映っている小袋が、朝7時過ぎに支給される朝と夜の飲み薬です」

 

――カンボジアの人々や街の様子、国の対策や方針について教えてください。

「現在カンボジアでは、小さなスーパーマーケットや飲食店でもアルコール消毒と体温計が設置されています。また、屋外では基本的にマスクを着用している人がほとんどで、感染対策に対する意識は比較的高いと思います。しかし現在進められている3、4回目のワクチン接種は、1、2回目と比べると接種率はまだ低く、政府は追加接種を頻繁に奨励しているところです」

 

●セネガル

最後は、オミクロン株によりピーク時の感染者数が8万5000人を超えるセネガルで、2022年1月に新型コロナウイルスに感染した社員にインタビューしました。昨年の4月から6月まで、緊急事態宣言および夜間外出禁止発令が出されて空港も閉鎖され、1日の新規感染者数が500人を超える日もあったセネガルですが、現在は減少傾向にあります。感染した当時の現地の様子や、療養時の過ごし方などを聞きました。

 

――陽性と診断されるまでの経緯や、当時の病院の様子を教えてください。

「セネガルへの出張中に体調を崩し、次第に自力で立つのがやっとという状態まで悪化しました。直近まで海外出張が続いていたこともあって、最初は時差の関係で疲れているのかなと思っていたのですが、熱も出始めて38度まで上がったため病院へ。簡易検査では陰性と判断されましたが、PCR検査では陽性と診断されました。

病院は新型コロナウイルスに感染したと思われる患者たちで混み合っていました。そのため人手が足りておらず、往診などはできていないようでした。また、診察を受けてビタミン剤と頭痛薬を処方されたのですが、処方薬は自分で薬局まで買いに行かなければなりませんでした」

 

――療養先や陽性と診断されてからの症状について教えてください。

「療養していたのは、現地で滞在していたアパートです。医者からは“スーパーなどであれば出歩いてもいい”と言われていましたが、政府の方針に従って外出は控えていました。同じアパートに同僚が滞在していたため、買い物のついでに私の分の食材も買ってきてもらえたのはありがたかったです。アパートにはキッチンや洗濯機もあったので、身の回りのことは全て自分で行っていました」

「療養中は食欲がない日が続きましたが、同僚が果物や野菜を買ってきてくれてドアの前まで届けてくれました。その中でもスイカは良く食べていました」

 

「熱は1日で下がりましたが、その後も激しい頭痛と吐き気、食欲不振がしばらく続きました。特に頭痛がひどかったため、頭痛薬は日本から持参しておくべきだったと思います。療養中は、このまま症状が悪化したらどうなってしまうんだろうと不安と孤独でいっぱいでしたが、2週間ほどで無事に回復することができました」

 

――国の政策や街の様子などを教えてください。

「現地セネガルの水産局や現地JICA事務所からは、テレワークの推進や、集会・イベント開催の制限などが行われており、マスク着用・消毒・体温チェックなどを行うように説明を受けました。しかし店はほぼ通常通りに営業しており、ホテルやレストランを利用する際にワクチン接種証明書の提示を求められることはありませんでした。現在の新規感染者数は平均1日5人程度で、感染状況は落ち着きつつあると言えると思います」

 

今回お伝えしたバングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの体験談からも、新型コロナウイルスの感染状況や政府の対応は、国によって異なっていることがうかがえます。さらに各国の状況は日々変化しているため、渡航する際には情報収集や備えをすることが非常に重要だと言えるでしょう。特に日本国内で報道されることの少ない途上国などの状況は、渡航前に外務省のホームページなどで必ず最新の情報を確認するようにしてください。

※感染状況は3月17日までのものです。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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カンボジアで製造業の人材育成をサポート:コロナ禍を乗り越え、協力を継続【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、カンボジアの職業訓練校と連携し、技術者を育成する取り組みを追います。

 

カンボジアの急速な経済成長を支える人材の育成に向け、質の高い職業訓練が求められています。JICAは2015年から産業界のニーズに応えるため、より実践的で質の高い職業訓練に向けた協力で製造業の中核を担う技術者の育成を続けています。

 

コロナ禍でも協力は途切れることなく続き、全国の職業訓練校で活用できる、電気分野の訓練カリキュラムや必要な訓練機材などをマニュアル化した「標準訓練パッケージ」が完成。今年9月に政府承認を受けました。これにより、現場ニーズにより即した職業訓練が推進され、知識・技術を培ったカンボジア人技術者の活躍が期待されます。

↑職業訓練校で電気工事の実習をする学生ら

 

8月には専門家がカンボジアへ再赴任

「パイロット職業訓練校3校での開発機材を活用した実践的な訓練の経験を踏まえ、産業界とも協力し、ASEANの枠組みに準拠した標準訓練パッケージについて、今年3月、ドラフトがようやくまとまりました。4月からは労働職業訓練省内での作業が進められ、9月にプロジェクト活動後の目標であった政府承認までこぎつけました。当地関係者の努力の賜物です」

 

こう語るのは、このプロジェクトに厚生労働省から派遣されている山田航チーフアドバイザーです。3月下旬に新型コロナウイルス感染症の影響で一時帰国した後も、電子メールやSNSを活用して現地とのやりとりを継続。8月初旬には他の地域やプロジェクトに先駆けて首都プノンペンに再赴任し、いち早く現場での活動を再開しました。現地との対話を重視した連携が、今回の標準訓練パッケージの政府承認につながりました。

↑職業訓練校の指導員とオンライン会議も実施

 

工場のラインマネージャーといった中堅技術者に求められる知識・技術が習得可能なディプロマレベル(注)の標準訓練パッケージが国家承認を受けたのは、カンボジアでは初めてです。

(注)ディプロマレベル: 短大2年卒業相当の中堅技術者(テクニシャン)養成教育

 

存在感を増す職業訓練校——カリキュラムの“質”のばらつきが課題だった

カンボジアでは産業構造の多様化や高付加価値産業の創出に向け、自国での人材育成が重要課題となっているものの、製造業の生産ラインマネージャーといった技術者は現在、第三国の外国人でほぼ占められています。そのため、カンボジア人技術者の育成に向け、職業訓練校の存在感がいっそう高まっています。

 

しかし、従来の職業訓練カリキュラムはそれぞれの訓練校が独自に編成していたため、その質のばらつきが大きな課題でした。そこで、このプロジェクトでは現地の日系企業を含む産業界から広くヒアリングなどの調査を繰り返し行い、生産現場で必要とされる実践的な知識と技術を明確化してカリキュラムを作成。また、訓練機材を部品レベルからカンボジア国内で調達し、プロジェクト終了後も職業訓練校の指導員たちが自分たちで維持管理できる体制を整えました。

 

プロジェクトで電気技術分野を担当する松本祥孝専門家は、この作業を振り返り、次のようにこれからの展望を述べます。

 

「カンボジアでは、都市部および国境付近の工業地帯とその他の地方では人材ニーズが異なるため、画一的にパッケージを実践していくのではなく、地域の人材ニーズに即して多少アレンジすることも必要かもしれません。また、地方校への普及活動では、パイロット職業訓練校の指導員によるTOT(Training Of Trainers)が必要であり、パイロット校3校の先導的な役割が求められます。これらの活動を通じて職業訓練全体のボトムアップひいては中堅技術者不足の解消に繋がることを期待しています」

 

カンボジア産業界と訓練校を繋ぎ、互いの信頼関係を築く

職業訓練校の最大の目的は、カンボジア産業界が求める質の高い人材を輩出し、現場で活躍してもらうこと。そこでプロジェクトでは出口戦略の一環として、パイロット訓練校が主宰するジョブフェアや企業の現役技術者向け有料技術セミナーの企画・開催などを通し、産業界と職業訓練校がより密に関わる仕組みを構築し、連携を深めてきました。

 

「これまでも職業訓練校では個別に細々と産業界との繋がりはあったものの、自ら主宰するイベント等は実施経験もなく、訓練校同士の情報交換や共有の場もほとんどない状態でした。プロジェクト開始後、パイロット3校と産業界、関係省庁を繋ぎ、積極的に働きかけ、彼らが主体のイベントを仕掛ける活動をしていった結果、徐々に関係者の結びつきや関係性が醸成されつつあります」と業務調整や産業連携を担当する齋藤絹子専門家は語ります。

↑有料技術セミナー(写真左)とパイロット職業訓練校主催のジョブフェア(写真右)の様子

 

ASEANグローバルサプライチェーンの一角を担い、地域の成長と繁栄に寄与することを目指すカンボジアでは、教育・職業訓練による人材育成は政府の最重要課題の一つです。このプロジェクトの今後について、山田チーフは「カンボジアの人びとが、関係者と手を携えて、人づくりの仕組みを持続的に改善していくことができるよう、引き続き協力をしていきたいと思います」と抱負を述べました。

「コロナ危機を転機に変える!」 途上国でオンライン学習の普及に取り組む日本企業の思いとは!?

「子どもたちの学びを止めてはならない」——新型コロナウイルスの影響を受け、世界中で休校が相次ぐなか、オンラインを介したデジタル教材の活用が注目を集めています。そんな中、日本の教育会社も国内外で学習支援を進めていますが、実は新型コロナの感染拡大以前から、国外でのデジタル教材の普及に取り組んでいる日本企業があります。

 

それがワンダーラボ社とすららネット社。JICA(独立行政法人 国際協力機構)の民間連携事業「中小企業・SDGsビジネス支援事業」として、途上国の学校に“デジタル教材”という新しい学びの機会を提供しています。コロナ禍の現在、アプリなどによるオンライン学習をはじめ、子どもたちの新たな学習形態や環境などが世界中で試行錯誤されるなか、いち早く開発途上国におけるデジタル教材の活用に取り組んだ両社から、将来あるべき「新しい学び」の可能性と、子どもたちに対する熱い思いを探りました。

↑インドネシアにおける、すららネット社のデジタル教材「Surala Ninja!」での授業風景

 

ワクワクする教材を世界中の子どもたちに普及させたい:ワンダーラボ社のデジタル教材「シンクシンク

↑授業で「シンクシンク」アプリを使うカンボジアの小学生

 

ワンダーラボ社は、算数を学べるデジタル教材「シンクシンク」の小学校への導入をカンボジアで進めています。開発途上国の抱える問題を、日本の中小企業の優れた技術やノウハウを用いて解決しようとする取り組みで、3ヵ月で児童約750人の偏差値が平均6ポイント上がったと言います。「シンクシンク」の特徴をワンダーラボ社の代表・川島慶さんは次のように語ってくれました。

↑「シンクシンク」のプレイ画面

 

 

「『シンクシンク』は、図形やパズル、迷路など、子どもたちがまずやってみたい! と思える楽しいミニゲーム形式のアプリです。文章を極力省いて、『これってどういう問題なんだろう?』と考える力を自然と引き出す設計で、学習意欲と思考力を刺激するつくりになっています。外部調査の結果、『シンクシンク』を使っていた子どもたちは、児童の性別や親の年収・学歴など、複数の要因に左右されることなく、あらゆる層で学力が上がっていたことが確認できました。これは、私たちの教材の利点を証明する何よりのデータだと思っています」

↑夢中で問題を解く様子が表情から伝わってくる

 

川島さんが「シンクシンク」を作ったきっかけは、2011年までさかのぼります。当時、学習塾で主に幼稚園児・小学生を教えながら、教材制作も手がけていた川島さん。子どもたちと接するなかで注目したのは、教材に取り組む以前に、学ぶ意欲を持てない子どもがたくさんいるということでした。子どもが何しろ「やってみたい!」と意欲を持てる教材を、と考えて作ったのが、「シンクシンク」の前身となる、紙版の問題集でした。

 

「それを、国内の児童養護施設の子どもたちや、個人的な繋がりでよく訪れていたフィリピンやカンボジアの子どもたちに解いてもらったんです。そこで目を輝かせながら楽しんでくれている姿を見て、『これは世界中に届けられるかもしれない』と感じました。ただ、紙教材は、国によっては現場での印刷が容易ではありませんし、先生や保護者による丸つけなども必要です。

 

そこで注目したのが、アプリ教材という形式でした。タブレット端末は当時まだあまり普及していませんでしたが、必ずコモディティ化し、長期的には公立小学校などにも普及すると考えました。また、アプリならわくわくするような問題の提示にも適していますし、専任の先生や保護者がいなくても、子どもひとりで楽しみながら学べます」

 

その後、タブレットやスマートフォンは世界に浸透し、現在「シンクシンク」は150ヵ国、延べ100万ユーザーに利用されるアプリとなっています。

↑ワンダーラボ社のスタッフと現地の子どもたち

 

ワンダーラボ社は、休校が相次いだ2020年3月には国内外で「シンクシンク」の全コンテンツを無料で開放。この取り組みは新聞やテレビなどのメディアでも数多く取り上げられるなど、話題となりました。アプリの無償提供には、どのような思いがあったのでしょうか。

 

「新型コロナの流行がなければ、各地で私たちの教材を知ってもらうイベントを開催する予定でした。それを軒並み中止にせざるを得なくなる中で、自分たちは何ができるだろうと。お子さまをどこにも預けられず大変な思いをしているご家庭に、少しでも有意義なコンテンツを提供できればいいな、と思ってのことでした」

 

「アプリは所詮”遊び”」の声をどう覆していくか

ただ、いくらデジタル化が進む世の中とはいえ、「アプリ」という教材の形式が浸透するには、まだまだ壁もあるようです。

 

「特に途上国においては、ゲームアプリが盛んなこともあり、『アプリは遊びだ』という認識が根強くあります。ただ、カンボジアでも3月の途中から小学校をすべて休校することになり、教育省が映像での授業配信とともに『シンクシンク』の活用を始めたのです。そのおかげもあり、教材としてのアプリの見られ方も多少は変わったのではないでしょうか」とは、JICAの民間連携事業部でワンダーラボ社を担当する、中上亜紀さんです。

 

スマートフォンやタブレット端末が自宅にあれば教材を使えることもあり、ワンダーラボ社はカンボジアでもアプリの無償提供を約3ヵ月にわたって実施しました。教育省が発信したアプリを活用した映像授業は、約2万ビューを記録するなど好評でしたが、オンラインによる映像授業を視聴可能な地域が、比較的ネット環境が整備された首都プノンペン周辺に偏ってしまうことなどもあり、「いきなり、すべての授業をオンラインに、とはなりません」(中上さん)と、普及の難しさや時間が必要な点を強調します。これを踏まえてワンダーラボ社では、10年単位の長いスパンで、より多くのカンボジアの小学校へ教材を導入できるよう目指しているそうです。

 

「ワクワクする学びを世界中の子どもたちに広げていきたい」

 

会社を立ち上げる前から、川島さんが長年抱いているこの夢に向かって、ワンダーラボ社は着実に前進しています。

 

学力は人生を切り開く武器になる:すららネット社のeラーニングプログラム「Surala Ninja!」

 

「一人ひとりが幸せな人生を送ろうとしたとき、学力は人生を切り開く武器となります。だからこそ、子どもたちの学習の機会を止めてはならないと考えています」

 

スリランカやインドネシア、エジプトなどの各国でデジタル教材「Surala Ninja!」の普及に取り組んでいるのが、すららネット社です。日本国内で展開する「すらら」のeラーニングプログラムは、アニメーションキャラクターによる授業を受ける「レクチャーパート」と問題を解く「演算パート」に分かれており、細分化したステップの授業が受けられるのが特徴です。国語・算数(数学)・英語・理科・社会の5科目を学ぶことができ、小学生から高校生の学習範囲まで対応。 「Surala Ninja!」 は、「すらら」の特徴を引き継いで海外向けに開発された計算力強化に特化した小学生向けの算数プログラムになります。一般向けではなく、学校や学習塾といった教育現場に提供し、利用されています。

↑「Surala Ninja!」の画面

 

「『学校に行けない子どもでも、自立的に学ぶことができる教材を作ろう』——これが、『すらら』を開発した当初からのコンセプトなんです」。こう語るのは、同社の海外事業担当の藤平朋子さん。スリランカへの事業進出の理由を次のように明かしてくれました。

↑株式会社すららネット・海外事業推進室の藤平朋子さん

 

「スリランカでは、2009年まで約四半世紀にわたって内戦が続いていました。内戦期に子供時代を過ごした人たちが、今、大人になり、教壇に立っています。つまり、十分な教育を受けることができなかった先生たち教えるわけですから上手くできなくて当前です。そこで『Surala Ninja!』が、先生たちのサポートとしての役割を果たせればと考えました」

↑「Surala Ninja!」導入校での教師向け研修風景

 

現在、「Surala Ninja!」はシンハラ語(スリランカの公用語の一つ)・英語・インドネシア語の3言語で展開しています。スリランカでは、まず、現地のマイクロファイナンス組織である「女性銀行」と組んで「Surala Ninja!」の導入実証活動を行いました。週2・3回、小学1年生から5年生までの子供たちに『Surala Ninja!』による算数の授業を行ったところ、計算力テストの点数や計算スピードが飛躍的に向上しました。

 

しかし、最初から事業が順調に進んでいたわけではありません。JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」には、2度落選。事業計画やプレゼンテーションのブラッシュアップを重ねて、3度目の正直での採用となりました。

 

「当時のすららネットは、従業員数が20名にも満たない上場前の本当に小さな会社でした。海外、それも教育分野となると、自分たちだけではなかなか信用してもらえないのです。だからこそ、現地で多くの人が知っている、日本の政府機関であるJICAのお墨付きをもらっていることが、学校関係者の信頼を得るために大きな要因になっていると肌身に感じました。海外進出にあたって、JICAの公認を得たことは非常に大きなメリットだったと感じています」

↑スリランカの幼稚園での体験授業の様子

 

また同社は、エジプトでもeラーニングプログラムの導入を進めています。エジプトの就学率は2014年の統計で97.1%と高水準を誇りますが、2015年のIEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)という、学力調査のランキングでは数学が34位、理科が38位(※中学2年生のデータ)という結果。数学は他の教科にも応用する基礎的な学力になるため、算数・数学の学習能力向上に向け、目下、国を挙げて取り組んでいるところです。

 

複数の国で事業活動する上で苦労しているのは、宗教に基づく生活風習だといいます。活動国すべての国の宗教が違うため、ものごとの考え方や生活習慣なども大きく変わります。インドネシアでは、多くの人がイスラム教なので、一日数度のお祈りが日課。しかし、当初は詳しいことが分からず、学校向けの1週間の研修プログラムのスケジュールを作るのにも、「いつ、どんなタイミングで、どの位の時間お祈りをすればいいのか」を把握するために、何回もやりとりを重ねたりしたそうです。また、研修を受ける学校の先生方も給与が安かったりと、必ずしもモチベーションが高いわけではありません。教えた授業オペレーションがすぐにいい加減になってしまったりと、きちんと運営してもらうように何度も学校へ足を運び苦労しましたが、それも子どもたちのためだと、藤平さんはきっぱり。

 

「緊急事態宣言による休校を受け、日本でも家庭学習にシフトせざるを得ない状況になったとき、私たちの教材の強みを再認識することができました。子どもたちの学力の底上げは、将来の国力をつくることでもあると思っています」

 

ビジネスモデルの開発やアプリの利用環境の整備など、海外での展開にはさまざまなハードルがあるのも事実。「世界中の子どもたちに十分な教育を」という熱い思いで、真っ向から課題に取り組み続けている両社。官民一体となった教育への情熱が、新しい時代の教育のカタチへの希望の灯となっているのです。

 

【関連リンク】

ワンダーラボ社のHPはコチラ

すららネット社のHPはコチラ

JICA(独立行政法人 国際協力機構)のHPはコチラ

中小企業・SDGsビジネス支援事業のHPはコチラ