[依存度チェックリスト付き]社会問題化するSNS依存と“SNSデトックス”の方法

私たちは日々、オンラインを通じて大量の情報に晒され続けています。近年は「SNS疲れ」という言葉を耳にする機会も増えました。延々と更新されていく情報を追い続けることで精神的負担が積み重なったり、ひっきりなしに届く通知やメッセージにすぐ応じなければいけないストレスを感じたり……。そればかりか、華やかで満ち足りた(ように見える)誰かの暮らしをSNSで目にする機会が増えたことで、劣等感を感じ、悩む人も。

 

そこでSNSに依存してしまう問題と対策について、ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i心理師として活動する森山沙耶さんに話を伺いました。

 

 

大人の女性も依存傾向。
SNS依存の現状

 

子どもから大人まで、身近にSNS使っている人が大半を占める現代。日頃のストレス解消を目的に、SNSに過度に関わってしまうことで、SNS依存に陥ってしまう場合もあると言います。

 

「もともとお子さんのSNS依存とご家族の問題に長く向き合ってきた経験がありますが、最近では大人の女性の相談を受ける機会が増えています。
SNSに夢中になりすぎてSNSから離れられない状況になってしまうと、どんな人でも日常のさまざまな場面で問題が発生します。仕事があると分かっているのに毎日夜遅くまでSNSの閲覧がやめられず、朝起きることができない、そして仕事に遅刻してしまう、など現実的な問題が起きている場合は心配ですね。SNSに依存している状況があると思います」(ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i心理師・森山沙耶さん、以下同)

 

SNS依存は誰にでも起こりうる

「SNS依存の問題と向き合うときには、その背景に何が潜んでいるのかを理解することが大切です。SNS依存になってしまう場合、日常的に何か問題を抱えている人も多いからです。
ストレスや不安感を落ち着かせるために、手に取りやすいスマホについつい頼ってしまう、という経験をお持ちの方も少なくないでしょう。息抜き程度に始めたオンラインゲームにハマってしまうとか、複数のサブスク、またはSNSに登録して、最新の情報や好きなアーティストの発信を見ないと落ち着かない、とか。ただ楽しくて始めたものでも、いつの間にか夢中になってやめられなくなっていた。それは誰にでも起こりうることです」

 

あなたは大丈夫?
SNS依存度チェック

自分ではSNS依存に陥っているかどうかの判断がつきにくい、と話す森山さん。そこで今回は、自分で簡単にチェックできるセルフアセスメントテストをご用意いただきました。

 

※提供=一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会

 

※提供=一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会

 

チェックテストの結果をみて、「依存傾向があるな」と感じた場合は、できる限り早い段階で対処することが必要だと森山さんは言います。解決のコツをしっかり理解することでSNS依存からは抜け出しやすくなります。

 

SNS依存から抜け出すためにすべきこと

もしSNS依存に陥ってしまった場合、どのように対処すれば良いのでしょうか?

 

「大前提として、依存の状態であるならば一人でなんとかしようとするのはとても難しいと思います。信頼できる人に……それは家族でも友人でもよいのですが、まずは相談してみてください。病院だけでなく、行政でも相談窓口が設置されている場合もあります。また、私は民間のサポート団体に所属していますが、プロのカウンセリングを受けるのも良いでしょう。周りのサポートを得ることがとても大切です」

 

SNS依存の問題を自分で解決しようとするとさまざまな問題が逆に起きやすい、と森山さんは続けます。

 

「1人でどうにかしようと思っても、本当に難しい。SNSの閲覧を減らそうと思ってなんとか閲覧時間を制限してコントロールしようするのですが、誰かに咎められるわけでもないので、けっきょくまた閲覧してコントロール不能な状態になる……それを繰り返してしまうと自分にガッカリしてしまい、“どうせ私はできないんだ”という諦めモードになりやすいです。
そもそも依存という状態はすでに自分で自分をコントロールできない状態を指します。誰かの助けがある方が早い段階でSNS依存の問題を解決できるでしょう」

 

 

SNS依存から脱却するためには、暮らしを整え、生活スタイルの中にSNS以外の大切な要素を増やすことも効果的なのだとか。

 

「SNSに依存しなくても大丈夫な状態に整えていきましょう。私たちには人間関係を築いたり、食事をして、寝て、というように生きていく上での大切な土台があります。人として生きていく上でもっとも基本になる部分をまず1つずつ取り戻していくことです。食べる時間も惜しんでSNSにのめり込んでいるなら、まずは食事から。寝る間も惜しんでSNSばかり見てしまうのなら、まずは睡眠から、というように。
一気にすべてを改善しようとすると逆に辛くなってしまうことがありますから、慌てずに1つずつ、人しての当たり前の生活を取り戻していけるように取り組むことが大切です」

 

今日からできる!
簡単なSNSデトックスの方法

 

依存とまでいかなくても、SNSを見過ぎてしまっているという人や、ちょっとSNSから距離を置きたい、と思っている人は少なくないでしょう。そんなときにオススメのSNSデトックスのコツを3つ、森山さんにご紹介いただきました。

 

1.SNSアプリやサブアカウントを整理する

「まずSNSに触れる時間を減らすために何ができるかを考えましょう。登録しているアプリの通知を全部ONにしているのだったら、あまり見ないアプリの通知はOFFにしてしてみてください。アプリの登録数を半分以下に減らすのもいいですね。通知が少なくなれば、自然と閲覧時間も減っていきます。
また、インスタグラムなどでサブアカウントを複数持っている人の場合、各アカウントで情報閲覧したりコミュニケーションを取っているととても時間がかかってしまいます。そういうアカウントをまずは減らしていく。それだけでもかなりスッキリすると思います」

 

2.「スクリーンタイム」を活用する

「iPhoneではスクリーンタイムで各アプリの使用時間を制限することが可能です。ハマっているゲームアプリに夢中になりすぎて何時間もやめることができなかったり、インスタグラムやLINEなど、延々と友人とコミュニケーションを取り続けてしまったり……そんな方こそ、スクリーンタイムで各アプリの使用時間を制限しておくことをおすすめします。SNSから切り上げるタイミングを掴みやすくなるので、ぜひ活用してみてください」

 

3.見すぎてしまうアプリを見えにくくする

「スマホを立ち上げたとき、開いたページにお気に入りのアプリがあるとすぐに閲覧してしまうことがありますよね。さらに閲覧し始めると、あっという間に何時間も経過してしまって、仕事や家事に影響が出てしまう場合もあるでしょう。そこで、お気に入りのアプリほど見えにくくしたり、すぐにたどり着けないようにしてしまいましょう。アプリのアイコンをフォルダに入れて見えにくくしたり、スマホのずっと後ろのページに入れたりするのが効果的です」

 

「デトックスを試してみる場合、まずはこれらの方法から、自分にとって無理なくできそうなものを選んでみてください。そして1週間など一定期間続けてみて、効果的であったかを振り返ることで、自分に合う方法を見つけてもらいたいと思います」

 

「connected not addicted / リアルにつながろう」キャンペーン

10月7日より「connected not addicted / リアルにつながろう」 キャンペーンがスタート。現実世界におけるデジタル依存症と対策についてJDWA代表理事森山沙耶さんと、TIKTOKクリエーター景井ひな氏によるトークセッションが開催されます。
「日本デジタルウェルビーイング協会(JDWA)とシュウ ウエムラがパートナーシップを結び、デジタルに関わるさまざまな社会問題の解決をサポートする活動を展開。シュウ ウエムラはメイクアップを通じた自己探究や自己表現を応援することを使命とし、この活動を通じて、どこにいても誰もがデジタルの縛りから解放され、個々人の可能性を存分に開花させ、自分の人生を自信を持って生きるためのサポートをしたいと考えています」
PRイベント後には、特設ウェブサイトや大学キャンパス、企業等で、啓発活動を行われる予定です。

 

Profile

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i心理師 / 森山沙耶

2012年東京学芸大学大学院教育学研究科を修了後、家庭裁判所調査官として勤務。少年事件・家事事件の調査を行う中で、非行少年の更生や離婚調停など家庭紛争の調整に関わる。その後、大学病院や福祉施設にて心理臨床を経験。2019年8月、独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにてインターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)を修了後、MIRA-iの設立に携わる。現在はネット・ゲーム依存専門心理師として、カウンセリングだけでなく講演活動も行う。二児の母としても奮闘中。

多様性に逆行?外見至上主義「ルッキズム」の影響と付き合い方を社会学者が解説

近年、社会で多様性が叫ばれるようになりましたが、SNSなどでは「ルッキズム」と呼ばれる外見至上主義の価値観がいまだ根強く存在しています。このルッキズムの意味や傾向、どのように付き合っていくべきか、社会での取り組みなどについて、社会学者の高橋幸さんに社会学の観点からうかがいました。

 

 

「ルッキズム」とは何? なぜ陥ってしまう?

 

容姿を重視し、外見によって差別することを指す「ルッキズム(lookism)」。社会学者の高橋幸さんは、とくに自分の外見が人からどう見えるかが不安で仕方がないときに、この問題は深刻になりやすいのだと言います。

 

「例えば、人と会った後に『もっとこうすれば良かった』と外見や振る舞いを振り返ってしまうと、それはルッキズムに悩んでいる状態です。とくに、相手が自分を思うように受け入れてくれないかもしれないという“関係不安”を感じているときに、ルッキズムに陥りやすくなるのです」(社会学者・高橋幸さん、以下同)

 

関係不安を感じやすい場面としては、例えば、相手から評価される場や、自分がどう思われているか分からないとき、うまくコミュニケーションがとれないときなどが挙げられます。

 

「『相手と上手くいかないのは、外見が原因なのではないか』。そんな思考パターンを持つ人ほど、ルッキズムに陥りやすい傾向があります。例えば、自分の外見がもっと美しかったら、あの人はもっと私に良くしてくれたのではないだろうか……などと考えてしまうんですね」

 

そんな思いにとらわれたら、自分がどんな場面で「関係不安」を感じやすいのかを振り返ってみることが大切だと、高橋さんは提案します。例えば、以下のような状況下で不安になりやすいそう。

 

・自分の良さを上手く発揮できていない
「例えば、学校のクラスで自分の良さが評価されていないと感じると、『もっと外見が良ければ、みんなにもっと好かれたかもしれない……』と思ってしまうことがあります」

 

・自分の発言に耳を傾けようとしてくれない
「例えば、職場で意見を言おうとしても『若い人が何を言ってるの?もっと理解してから発言して』といった反応をされるのでは、と考えてしまう場面です。良い提案があっても言い出せなくなりがちで、“心理的安全性が確保されていない”とも言われます」

 

・外見について話題にされることが多い
「例えば、職場で『〇〇さんのその髪型、素敵ですね』といった話があると、自分の外見もチェックされているのでは……と感じてしまい、外見に対する不安が増してしまいます」

 

自分がどう見られるか、気になって仕方がない……。それは自分にとって不快であるというサインなので、できる限り離れた方が良いと高橋さんは言います。

 

「若い人は採用試験など評価される機会が多いため、年齢を重ねた人よりルッキズムにさらされやすい傾向にあります。弱い立場に置かれるとルッキズムが高まるのは、ルッキズムが社会的な権力構造の中で発生しているからだと思います」

 

摂食障害の専門医が解説する痩せすぎの危険性と世界で進む「ノーダイエット」

 

どのような関係でルッキズムが生じやすい?

 

ルッキズムがとくに強く現れやすい関係を知ることで、自分の外見に対する感情を振り返るヒントになります。たとえば、以下のような状況に心当たりはありませんか?

 

・親子関係
「親が子の外見評価をする場合は、評価する親が上、評価される子が下という位置づけになります。たとえば『最近ちょっと太ったんじゃない?』と親から言われると、子どもの自己愛が傷つけられますが、親から逃れることはできないため、状況は深刻です」

 

・学校
「スクールカースト(学内の階層構造)が存在するのは世界共通だと言われます。オランダの研究によれば、スクールカーストは学力、コミュニケーション力、そして外見の総合的な評価で決まるとのことです。それ以外の能力はほとんど評価されず、活躍の場も限られた環境では閉鎖感や苦しさを感じやすくなります。この構造に敏感な人ほど、ルッキズムに陥りやすい傾向があります」

 

・職場
「職場では外見の良し悪しと仕事の能力は基本的に関係ありません。美しく見せようとすること自体は自己実現の一部であり良いことですが、周囲の期待に応えなければならないと“やらされている”状態になるのは、望ましくありません」
とくに職場などで見られる外見に関する評価には、「あなたと親しくなりたい」という意図が含まれることが多く、外見に触れられた人は反論しにくい状況に置かれることがあります。

 

・SNS
「SNSを楽しんだり、美しい姿に共感したりするのは問題ありませんが、劣等感を刺激される場合は“関係不安”が生じていると言えます。また、アイドルの外見に対するコメントもよく見られますが、身体はその人にとっての生存と自己愛の基盤です。それを否定することは、その人を少しずつ追い詰める行為と同じです。ファンが外見を評価してアイドルを窮地に追い込むことは、けっして許されるべきではありません」

 

外見に対する先入観や思い込み

人の外見に対しては、先入観やステレオタイプが存在します。ルッキズムを理解するために、これらの考え方を押さえておきましょう。

 

「ハロー効果」

「ハロー(halo)は英語で“後光”を意味します。ハロー効果とは、目立つ特徴があると、その人全体が優れていると感じてしまう現象を指します。たとえば、外見が良い人を成績が良い、性格が良い、信頼できるなどと無意識に判断してしまうことがあり、こうした先入観は意識して切り離す必要があります」

 

「美人ステレオタイプ」

「アメリカの裁判では、複数の陪審員が評議する陪審制度が採用されていますが、一般的な外見の女性よりも、美しい女性が犯罪を犯した場合、同じ犯罪でも罪が重く感じられるというデータがあります。美人は冷酷だ、性格が歪んでいるなどのステレオタイプが影響しているのです」

 

美の多様化が進む現代

 

“美しさ”は、絶対的なものではないことを理解することが大切です。

 

「美しいと感じるものは瞬時に判断されがちで、自分が美しいと思ったものは他人もそう思うと考えてしまいますが、実際には人それぞれです。異なる美を認め合う姿勢が重要です」

 

かつては画一的な美が賞賛されていましたが、今では美しさの定義が多様化しており、日本でもファッション業界などでその傾向が見られます。

 

「例えば、下着ブランドのピーチ・ジョンは、2020年頃から多様性と伝統的な美の2つの方向性を持つミューズを起用しています。多様性を象徴するミューズには、ボディポジティブの考えを体現するお笑いタレントのバービーさんやゆりやんレトリィバァさんが選ばれています。ありのままの体型や外見を愛するメッセージが含まれているのです。
一方で、画一的な美の象徴としては、女優の田中みな実さんが挙げられます。彼女は、大学時代にミスコンテストで準優勝し、その後アナウンサーから女優へとキャリアを築いた方です。
田中みな実さんのような伝統的な美も素晴らしいですが、バービーさんのようにボディポジティブを表現する美しさも素敵だと認められる社会は、良い方向に進んでいると言えます。画一的な美も、今では多様性の中の一つに過ぎないのです。現在のルッキズムの中でも、美の多様化が進んでいます」

 

“自己肯定感”を高めたい…幸福学研究者が教える幸せになるために心がけたい思考習慣

 

海外で進む規制の動き

 

海外では、極端なルッキズムや美の基準に対して、規制が進んでいます。

 

「2000年代後半から2010年代にかけて、欧米では痩せすぎのモデルを広告やファッションショーに起用することを禁止する法律が相次いで成立しました。この背景には、摂食障害によるモデルの死亡が相次ぎ、社会問題となったことがあります。2006年にはイタリアで、BMIが18.5未満のモデルの出演を禁止する業界の合意があり、それ以降、欧米各国で同様の対策が進んでいます。2015年にはフランスで、痩せすぎのモデルに対する規制法が可決されました。この法律では、モデルのBMIが一定値以下の場合、健康証明書の提出が義務付けられ、違反した所属事務所には罰則が科されるという強制力の強いものとなっています」

 

SNSに投稿される写真にも、規制が生まれています。

 

「2021年にはノルウェーで、SNSに投稿される写真が加工された場合、インフルエンサーや企業が商業目的で使用する際には加工済みであることを明記する義務が生じました」

 

ルッキズムを感じたときの対処法

もし相手との関係においてルッキズムが生じた場合、その場を離れることが最善だと高橋さんは言います。しかし、さまざまな事情で簡単に離れられないこともあるでしょう。では、過度なルッキズムに陥らないためには、どのように対処すれば良いのでしょうか?

 

コミュニケーションを基盤に考える
「まず、相手との関係に不安を感じ、居心地が悪いことを自覚しましょう。その上で『外見さえ良くすれば、この関係もうまくいく』と考えるのは、偏った捉え方です。たとえ相手が外見ばかりを評価し、マウントを取ろうとしてくる場合でも、自分の外見に原因を求めるのではなく、どのようにコミュニケーションを取るべきかを冷静に考えることが必要です」

 

外見に対する評価への違和感を穏やかに伝える
「外見を評価してくる相手に対して、ただ無視するのではなく、『その態度はあまり良くないと思います』とやんわりと伝えることが大切です。外見を評価しながら距離を縮めようとする人は、セクハラの指摘にも反発することが多く、相手を変えるのは難しいかもしれませんが、自分自身がその態度を認識し、伝えることには意味があります」

 

自分にとって大切な関係を育む
「“関係不安”は誰にでも多少あるものです。自分の周りの人間関係を振り返り、『職場では不安を感じるけれど、あの友達との関係は少し安心できる』といったように、自分にとって良好な関係を見つけ、それを少しずつ深めていくことが大切です。そうすることで安心できる場をつくり、メンタルヘルスを良好に保ちましょう」

 

長く付き合うと外見は気にならなくなる
「信頼できる友人や恋人の関係になると、お互いの外見はあまり気にならなくなるものです。“関係不安”がなくなると、外見への過度なこだわりも薄れていくでしょう」

 

 

「誰しもが少なからず“関係不安”を抱えており、外見や印象に傷ついて生きているのです。相手と接するときには、相手が経験してきた傷を想像することが大切です」と高橋さんは語ります。外見にとらわれず、相手の内面に目を向け、「この人はどんな人だろう」「どんなことを伝えたいのだろう」といった視点を持つことが重要。自分が良好と感じる人間関係を大切にし、不安を感じる場からできる限り距離を置くことが、「ルッキズム」に陥るリスクを減らしてくれるはずです。

 

 

Profile

社会学者 / 高橋 幸(たかはし・ゆき)

石巻専修大学人間学部准教授。専攻は社会学、専門は社会学理論、ジェンダー理論。女らしさや男らしさのあり方を検討する必要があると考え、恋愛やルッキズム、ミスコンテストについての社会調査および研究も進めている。著書に『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど——ポストフェミニズムと『女らしさ』のゆくえ』(晃洋書房)がある。

ヨコよりタテにほめる!? ほめる達人に聞いた人も自分も伸ばす言葉とは

たった一言、ちょっとした言葉の言いかえで、人生がもっと楽しくなるかもしれません。

 

コロナをきっかけに人と会うケースが減っていき、リモートワークなどワーキングスタイルも変化したことで、会社では上司や同僚、部下と、家庭では親と子の人間関係の構築やコミュニケーションが難しくなっています。こうした悩みを “ほめて” 解決しているのが、 “ほめ達” の第一人者である松本秀男さん。著書である『できる大人は「ひと言」加える』と『できる大人のことばの選び方』には、 “ほめる” をベースに、人と人とのコミュニケーションを円滑にするためのノウハウがたっぷりつまっています。ブックセラピストとして活動する元木忍さんが聞き手となり、 “ほめる” 術とその効果を、松本さんに直接伝授していただきました。

『できる大人は「ひと言」加える』
『できる大人のことばの選び方』
(青春出版社)

 

さだまさしさんから学んだ、言葉を大切にする姿勢が “ほめ達” の原点

元木忍さん(以下、元木):松本さんが、 “ほめる” ことをビジネスやコミュニケーションスキルとして意識された理由から教えていただけますか?

 

松本秀男さん(以下、松本):私は30代で家業を継ぎ、ガソリンスタンドの経営者をしていました。ところがセルフスタンドの登場などもあって徐々に価格競争の激しさが増し、10年後には経営に行き詰まりまして。45歳の時、完全歩合の契約社員として、まったく経験のない外資系保険会社の営業に飛び込んだんです。この転職が “ほめる” ことに目を向けさせ、私の人生を180度変える大きなきっかけになりました。

 

元木:まったく別の世界への挑戦ですね。

 

松本:法人向けの個人情報漏洩保険や賠償責任保険などを売っていたのですが、それまでの10年、ネクタイもせずガソリンスタンドを走り回っていた人間でしたから、はじめのうちはまったく契約が取れませんでした。毎日70社回って2000円という月もありました。

 

元木:基本給にプラス2000円ですか?

 

松本:いえいえ。基本給が出るのは最初だけで、徐々になくなっていきます。45歳で子どもがいて、月給2000円ですよ! これはさすがにまずいなと思い、営業に取り入れたのが “ほめる” 技術です。とはいえそれ以前も、「すごいですね、社長!」とかけっこうヨイショをしてみていたんですが、まったく効果なし(笑)。そこで、社長さんと初めてお会いした時、「その会社のよさ」や「取り扱っている商品やサービスの良さ」「経営者の素晴らしさ」を質問しながら、まず私自身がしっかり理解して「なるほど、だから御社はすばらしいのですね!」とお伝えしたところ、驚くほどコミュニケーションが円滑に回り始めました。こちらからお願いしなくても契約が取れるようになり、営業成績も一気に上がっていったんです。

 

↑著者の松本秀男さん。月給2000円から、ほめる技術をみがくことによってトップ営業マン、そして伝説のトレーナーへと駆け上っていった。

元木: “ほめる” を具体的にするだけで、そうも成績が変わるものなんですね。

 

松本:私自身も驚きました。その後は社内でも、相手の良さを先に探すという “ほめるコミュニケーション” を心がけてみたら、やはり効果が出ました。それが認められて、50歳の時に契約社員から正社員となり営業トレーナーをまかされ……2年半後には、本社の中枢である経営企画部に引き抜かれました。外資系ですから、私以外の経営企画部のメンバーは全員バイリンガル。私は英語がしゃべれない代わりに、“ほめる”がスキルとして役立ったんですね。

 

元木:『できる大人は「ひと言」加える』の中に、ガソリンスタンド時代、「雨の日にボンネットで雨粒が躍る。ポリマー洗車!」の一言をチラシに書き、1日に185台の洗車記録を作ったというエピソードが出てきますね。もともと言葉を使ったコミュニケーション術の素質をおもちで、松本さんの言葉がいいかたちで、人々の心に染みたのかなと思っていますが、ほめ達(ほめる達人)の基本はいったいどこで身についたのでしょうか?

 

松本:私は歌手のさだまさしさんと同じ高校に通い、同じ落研(おちけん・落語研究会)のOBと現役という縁で、高校時代から交流が始まり、大学卒業後はさださんのプロダクションの社員となりました。そこから8年半、制作担当マネージャーとしてサポートをしていたなかで、さださんから大きな影響を受け多くを学びましたが、とくに言葉と本気で向き合う姿をずっと見せていただいたことが、その後も教えとして残ってきたと思っています。

 

ひと言つけくわえるだけでコミュニケーションは一気に回り出す

↑著書『できる大人のことばの選び方』より。

 

元木:『できる大人は「ひと言」加える』と『できる大人のことばの選び方』を拝読しました。この中にはさまざまな “ほめる達人” テクニックがあり、コミュニケーション術のヒントもたくさんありますね。『できる大人は「ひと言」加える』に書かれた<言葉は自分と誰かをつなぐ接点であり、自分と社会をつなぐ接点である>という言葉には唸りました。

 

松本:ほんの一言プラスするだけで、人間関係、自分自身の評価や未来も大きく変わることをお伝えしたいという思いで本書を書きました。身近なところでは仕事相手との何気ないメールのやり取りに「どんな結果になるのか、いまからワクワクしています」などと一文加えると、相手のやる気も変わってきます。

 

元木:コロナ禍でメールの重要度が増してきましたけれども、言葉足らずだと冷たい印象を与えがちですよね。私はワクワクという言葉が口癖で、自分で自分のモチベーションを上げたい時によく使っているんですが、メールにも一言添えてあるだけで、ポジティブな気持ちになれます。

 

↑聞き手は元木忍さん。

 

松本:上司が部下にメールを送る際にも使えると思いますよ。

 

元木:<できる上司は「ダメ出し」ではなく「惜しい!」を使う>、<「間違いもほめる」で勇気づける>は、うちの上司もぜひやってほしい!(笑)と思っているビジネスパーソンがたくさんいそうですね。

 

松本:ダメ出しが仕事と思っている上司の方はけっこういらっしゃいます。課題解決という意味では間違っていません。ですが否定だけでは部下は育ちません。「惜しいなあ、もう一息だよ」と言われたらどうでしょう。相手を応援し勇気づける言葉にもなります。

 

元木:<誰でも今日から「ほめる達人」になれる3つの言葉>は、コミュニケーション下手の人でもすぐにできるテクニックですね。

 

ほめ達3S

・すごい
・さすが
・素晴らしい

 

松本:「すごい」「さすが」「素晴らしい」は、私が専務理事を務める「日本ほめる達人協会」の基本メソッドであり「ほめ達3S(スリーエス)」と呼んでいます。シンプルですが感情を素直に言葉にすることで相手に気持ちが伝わりやすく、ちょっと小声でも言うだけでも効果があります。

 

元木:『できる大人のことばの選び方』の中にも金言がいろいろありますね。「相手のスキルではなく存在価値を認める」「マイナスをプラスに変換する」「減点法より加点法で見る」「ヨコではなくタテでほめる」の4つの言いかえはとても勉強になりました。

 

言葉選びをすることで45歳で飛び込んだ保険会社のトップ営業に

松本:下町のガソリンスタンドのおやじにすぎなかった私が、外資系保険会社のトップ営業になれたのも、この「小さな言葉選び」にあったからだと思います。ちょっとした言葉の言いかえが、大きな仕事につながったり、人生を変えてしまったりすることもあります。『できる大人のことばの選び方』は、そこにスポットをあて一冊にまとめました。

 

元木:とくに「ヨコではなくタテでほめる」はグッときますね。

 

松本:ヨコでほめるは、人と比較してほめることで、例えば営業成績の棒グラフの高さをヨコ並びにして比べるようなほめ方です。この方法だと、ほめられる回数が少なく、人によっては一度もほめられないケースもでてきます。タテにほめるとは、棒グラフでいうと他と比べず、当人のタテに伸びた分をほめる方法です。これだと何度もほめられますし、ほんの少しの成長でもほめられます。

 

元木:タテでほめるは他との比較にならない点もいいですね。

 

松本: “ほめる” は他人と比較して評価することだけではないんです。今の社会では、 “ほめる” 基準を会社や上司が作ってその基準を超えたらほめるとか、周りより結果が良かったらほめるとか、すべて他の基準との比較だけになってるんですよ。そうでなくて、ほめる相手自身の中での比較にできたらいいですね。人には成長欲求がありますから、「成長しているよね」「がんばってるね」を伝えてあげるだけで、本人が成長を実感することができ、心の報酬にもなります。

 

元木:先ほどの「ほめ達3S」に加えて、「あなたらしい」というほめ方も、言われたらとてもうれしい気持ちになりますね。私も一度は言われたいなぁ(笑)。

 

松本:「あなたらしい」には、3Sが込められているだけではなく、「もともとあなたの素晴らしさは知っているけれども、今回もすばらしい」というようなメッセージも入っています。自分を認めてもらったという承認欲求も満たされますから、気持ちのよくなるほめ言葉になるのです。

 

元木:この本の中には、さだまさしさんとのエピソードもまじえた、大人の言葉の選び方がいくつか書かれていますが、さださんの<生まれ変わることはできないが、生きなおすことはできる>は心に響く名言ですね。

 

松本:コンサートのトークでさらっと言われた一言です。生き方や人生の見方、周囲との向き合い方を変えるなどの意味が含まれた“生きなおす”はさださんらしい言葉だと思います。私もこれまでの人生で何度も生きなおしを繰り返してきましたが、読者のみなさんもこれから壁にぶつかるたびに生きなおしを思いだしていただければと思います。

 

元木:松本さんは本だけではなく、「日本ほめる達人協会」の専務理事でもありますが、ここではどのような活動をなされているのでしょうか。

 

松本:メインは「ほめる達人検定」ですね。検定には3級、2級、1級があり、これを通して “ほめる” ことを自身で再整理してもらいます。「このぐらいだったら自分でもやれる」というふうに勇気を持っていただき、ちょっとでも “ほめる” ことで、周りの人といい関係を築き、幸せな人生を送っていただきたいと思っています。あとは大手企業をはじめとした社員研修や、講演も積極的に行っています。講演では、ビジネスのことだけではなく家庭の悩みごとの相談も “ほめて解決” する方法をお教えしています。

 

元木: “ほめる” はいろいろなシーンで役に立つのですね。最後に、松本さんにお会いしたらぜひともお伺いしたかったのですが、「できる大人」はどういう人だとお考えですか。

 

松本:2冊書いてみて思うのは、もちろん仕事ができることも大切ではあるんですけど、もう少し広い意味として「自分にとっていてほしい人」が「できる大人」なんだと思います。この人にそばにいてほしいなとか、この人と仕事したいなとか、話を聞いて欲しいなとか。私自身のゴールもそこにありますね。

 

プロフィール

日本ほめる達人協会 専務理事 / 松本秀男

東京生まれ。国学院大学文学部卒業後、歌手さだまさし氏のプロダクションで8年半勤め、制作担当マネージャーとしてアーティスト活動をサポート。その後、家業のガソリンスタンド経営を経て、45歳で外資系大手損害保険会社に転職。トップ営業経験の後、伝説のトレーナーとして部門実績を前年比130%に。さらに本社・経営企画部のマネージャーとなり社長賞を受賞するなど、数々の成果と感動エピソードを生み出し続けた。現在は「日本ほめる達人協会」の専務理事。「ほめ達」として、リーダーシップやコミュニケーション、チームビルディング研修、子育て講演などでも活躍する。

 

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

家で使いたい連絡板とは? 省電力の電子メモパッド「ブギーボード」のインテリアモデルがちょうどいい!

最近いろいろと試しているのが「家庭向けのホワイトボード」。というのも、我が家は夫婦ともにフリーランスで日中はほぼ在宅。常に顔を合わせているので、例えば「ティッシュのストックがもうないから、外に出たときに買ってきて」なんて連絡も口頭で済ませるんだけど……だいたい忘れちゃうのだ。そしてたいてい、言った言わないでモメる。

 

夫婦どちらかが外で仕事をしていれば、こういった家庭内の連絡もSMSやLINEを使うが(=連絡事項が文面として残る)、共に在宅だとそれもよそよそしいし、ちょっと面倒くさくもある。であれば、家族間の連絡事項はホワイトボードで伝えるぐらいがちょうどいいんじゃないかな、と思ったのだ。

 

ただ、ホワイトボードはそもそもオフィス用品としての色が強いため、家に持ち込むと、どうしてもその周辺だけ“事務事務しい”雰囲気になってしまう。これがどうにもいただけない。もうちょっとオシャレというか、すっきりスマートなデザインのボードってないものか。

 

スタイリッシュに飾っておける「ブギーボード」のインテリアモード

そうしてたどり着いたのが、キングジムの「ブギーボード BB-15」(以下BB-15)だ。液晶に加圧して筆記する“電子メモパッド”というジャンルなので、正確にはホワイトボードではないが、用途はまったく同じだ。なにより見た目に事務用品っぽさがなく、かなりスタイリッシュ。

キングジム
ブギーボード BB-15
6000円(税別)

 

↑スタイラスなどで板面に圧を加えると蛍光グリーンの筆跡になるのが、ブギーボードシリーズの特徴。筆圧で線の強弱もつけられる

 

まず印象的なのが、ベゼル(枠)の薄さである。最近のスマートフォンなども“ベゼルレス”が注目されているが、やはりベゼルが分厚いと、それだけでどうしても野暮ったく感じてしまう。

 

「BB-15」は、シリーズ従来モデルと比較すると非常にスッキリとしたルックスで、パッと見からして「おっ、かっこよくなったなー」と思えるはずだ。

↑従来モデル(左)と比較すると、ベゼルはかなりスリムで洗練された雰囲気に

 

なぜベゼルを薄くできたかというと、お馴染みの画面消去ボタンをなくした、というのが最大のポイントだろう。

 

ブギーボードは、「スタイラスなどで画面を加圧すると筆跡が残せて、消去ボタンを押すと画面が消えてリセットされる」というのが基本の仕組みだ。となれば消去ボタンは必須なのだが、BB-15はボタンの代わりに消去ポイントを画面右下に設置。ここに専用スタイラスの上部(マグネット内蔵)を近づけることで、画面がリセットできるようになっている。

 

ちなみに専用スタイラスがない場合でも、なにか適当な磁石を使っての画面リセットは可能だ。

↑スタイラスの磁石(後端灰色の部分)を「erase」と書かれたポイントに近付けると、盤面が一瞬でリセットされる。ただし従来モデル同様、“この文字だけ”のような部分消去はできない

 

↑ベゼル側面・上面にスタイラスをくっつけておくこともできる

 

ちなみに、実は誤解されがちな部分だが、ブギーボードは画面のリセットを行う際にわずかに電力消費をするだけ(コイン型電池1つで約2万5000回の消去が可能)で、液晶表示には電力がいっさい使われていない。

 

そのため、たとえ電池切れになろうと、表示されているものが勝手に消えるという心配は不要なのだ。

 

↑背面の磁石で冷蔵庫や玄関ドアに貼っておけば、家庭内の伝達事項はこれでまかなえるはず

 

↑スマートな外見は、壁にかけてあっても違和感が少ない

 

裏面には、マグネットおよびフックをかける用のくぼみが備わっている。つまりこれ、最初から完全に壁掛けで使う前提なわけだ。このあたりが「シリーズ初のインテリアモデル」と名乗るゆえんだろう。

 

もちろん、ホワイトボード(連絡ボード)として考えると「お値段やや高い」「画面内の部分消しができない」などのネガティブはある。だが、逆に「消耗品は電池のみ(しかもほぼ消耗しない)」「ボード面が汚れずカスも出ない」のはありがたいし、なによりこのスタイリッシュな雰囲気は、これまでのホワイトボードにはなかった部分だ。

 

そのあたりを考えると、家庭内の連絡用にBB-15を選ぶ理由は充分にあるんじゃないだろうか。

 

「幸福学」研究者に聞く、幸せ格差が広がる時代のコミュニケーション術とは

生涯未婚率の上昇や晩婚化が問題になっていますが、結婚願望は依然として強く、最近では企業や自治体が、縁結びアプリと連携し、社員の婚活をサポートする新しい動きも出てきました。しかし、結婚はゴールではなく、円満な夫婦関係を長く続けていくには考えるべきこと、心がけるべきことがあるはずです。

 

いまの時代にどのようなパートナーシップで暮らしていけば幸せになれるか―――。夫妻で幸福学の研究者として活躍するふたりが書いた書『ニコイチ幸福学』に着目し、パートナーとふたりで幸せになる秘訣を、著者である前野隆司さんと前野マドカさんに聞きました。インタビュアーは、ブックセラピストの元木忍さんです。

 

パートナーと一緒に幸せになる秘訣とは?

元木 忍さん(以下、元木):最近耳にするようになってきた「幸福学」ですが、どういうものか、簡単に教えていただけますか?

 

前野隆司さん(以下、前野):幸福学とは心理学を基礎として、自分が幸福か幸福でないかを一人一人に考えてもらい、統計的にどういう人が幸せなのかを明らかにしていく学問です。ちなみに、幸福が一体どんなものかを定義するのは、哲学の範疇です。

 

元木:前野先生は、大学では機械工学を専攻されていましたね。

 

前野:もともと人間にとても興味がありまして。本当なら哲学や心理学へ進んでいればよかったのでしょうけれど、物理と数学が得意科目でしたので(笑)、大学は工学系に進みました。

 

元木:いつから幸福学を研究するようになったのですか?

 

前野:本格的に取り組みはじめたのは2008年です。それまでは企業や理科系の学部に籍を置き、人々が幸せになるための心のメカニズムを、“パートナーシップ”、“ロボット”といった、サービスやもの作りに活かす研究をしていまして、取り組みの中で、幸福学をもとに“楽しいロボット”、“笑うロボット”などを開発していました。振り返ると、ロボットの研究をしながらも実際は人間の心を研究していましたから、この期間を含めると約20年になりますね。

 

元木:おもしろいですね。なぜロボットが笑った方がいいと思ったのですか?

 

前野:そもそもロボットは人間を真似て作ったものですから、ロボットが楽しんでいたり、笑うことによって、当の人間がどう反応するかを知りたかったんです。

 


『ニコイチ幸福学』(CCCメディアハウス)
「幸福学」研究の第一人者である夫妻が、長く幸せに続く、夫婦、恋人などのパートナーシップを解説。慶應義塾大学大学院で開催された大人気講座「幸福学・夫婦編」の事例も紹介する。

 

元木:前野先生は幸福学の研究をもとに、さまざまな著作を出版され、マドカさんとの共著もお出しになっていますが、夫婦や恋人同士など、パートナーとの幸せを解いた共著は初めてですよね。『ニコイチ幸福学』をおふたりで書こうと思われたきっかけを教えていただけますか?

 

前野マドカさん(以下、マドカ):ふたりそろって出席した出版パーティで、知り合いの編集者の方に『どうしておふたりはそんなに仲がいいんですか?』と驚かれてしまいまして(笑)。雑談をしているうちに、夫婦円満の話しがどんどん盛り上がっていき、パートナーシップをテーマにした幸福学の本を出しましょうということになりました。

 

前野:私は職場を幸せにするとか、人が幸せになる製品をつくるといった本を出してきましたが、妻も私も幸福学やポジティブ心理学の研究者でありながら、“夫婦の幸せ”をテーマにした本はそれまで一度も書いていなかったんです。家庭や夫婦の幸せは妻が専門ですから、自然と一緒に書こうかという流れになりました。

 

「意見が食い違っても多様さを楽しみます」という前野隆司さん

 

元木:“ニコイチ”はふたりで1組を指す言葉で、特に若い人が恋人と自分をセットにしてこう呼んだりしますよね。本書には、ニコイチを人間関係やパートナーの最小単位とお書きになっていて、法律上のご夫婦に限らず、さまざまなカタチのカップルが最善のパートナーシップを得られるヒントが散りばめられています。1冊を通じてどんなことを伝えたかったのでしょうか?

 

マドカ:この本を書くにあたって、そもそも私たちはなぜ仲がいいのだろうかと、冷静に分析してみました。そうしたらふたりが意識せずこれまで自然にやってきたことが、実はウエルビーイング(幸福で満たされた状態)そのものだったんですね。私たちは研究者として、「昨日と違う自分でいたい」、あるいは「成長したい」という学びの気持ちが強いので、ふたりで相談をしながら過ごしていた日々が幸福だったことがあらためてわかり、本にすることで、その幸せを言語として体系化することができました。大事なポイントはいくつかありますが、多くの方の聞きたいこと以上の幸せのエッセンスが1冊にまとまっていると思っています。そして何より「幸せはふたりでつくっていくもの。今が幸せだからいいんだというのではなく、これからどんどん育んでいくもの」ということが伝わればとてもうれしいですね。

 

元木:ふたりで幸せを育くむのはパートナーシップの理想形ですよね。ただ、疲れている時に疲れた顔を見せないとか、いつもパートナーとともに喜びを分かち合うのってけっこうハードルが高いですよね。周囲の目がある外ではできたとしても、家の中では難しくありませんでしたか?

 

マドカ:私たちは外も家もないというか、いつでも自然体という感じですね(笑)。

 

元木:そうなんですね! 意見の食い違いとかは、ないのですか?

 

前野:それはあります。でも意見が違うことは悪いことではなく、多様性があっていいと考えますから、もめることはないですね。

 

マドカ:恋愛結婚でもお互いのことをすべて知って結婚したわけではないので、新婚時代は相手の見えない部分が多かったですね。一例をあげると、結婚当初、部屋をつくろうという段階で私は自分の好きな花柄のカーテンを選びたかったんです。ただ夫から「クッションなどを使ってアクセントは入れられるから、カーテンは無地の方が合わせやすいよ」と言われ、それもそうだなって納得して。私は素直なんです(笑)。

 

元木:はじめから否定されると反発しますけど、前野先生のように、それ以外の提案があるとすんなり受け入れやすいですね。

 

マドカ:そうなんです。お互いの意見を取り入れて、リビングは無地で、キッチンは花柄で、という方法もアリだと思いますけど、住まいはどこにいてもお互い居心地がいいのが一番ですよね。こういうふうに言ってくれることで納得ができたというのは私にとってプラスで、そこからクッションはどうしようとか、ふたりで意見を出しあうことで、新しいアイデアが生まれてくると思うんです。

 

前野:うちのカーテンのこと、いま思い出しました。緑の無地にしたつもりでしたが、よく見たら、薄く花柄が入ってますね(笑)。

 

マドカ:まあ、そういうこともありますよね(笑)。

 

「相手が喜んでくれることがお互いの喜び」と円満の秘訣を語る前野マドカさん

 

幸せをシェアすることでふたりの幸福度は上がる

元木:食事はどうですか? 私は和食、私はイタリアン、みたいに食い違いはないですか?

 

マドカ:どうしても食べたいものがあれば言いますね。お互い「そこまで言うならまあいいか」ってなるんです。行きたくないのに無理に連れていかれたという経験は一度もないですね。

 

前野:ふたりとも食の嗜好の許容範囲がすごく広くて、仮に100種類食べものがあったとして99種類は合います。どちらの意見を選んでも決して嫌な選択にはならないんです。

 

マドカ:私たちにとって、一番幸せを感じるクオリティ・タイムは、心地よい時間を一緒に楽しむことなんですね。たとえば私だけでおいしいものを食べたり、素敵な景色を見たりした時に、まず思うのが、“この瞬間を夫とシェアしたいなあ”ということ。食事でも、何を食べるか以上に、一緒に楽しい食の時間を過ごせることが何よりも大事なんです。

 

元木:相手が喜んでくれることがお互いの喜びなんですね。素敵ですね。

 

前野:相手を怒らせるより、喜んでくれた方が楽しいじゃないですか。とはいえガマンをしたという記憶はないですね。私が仕事や研究をさておいて妻のために尽くしたり、気を遣ったことはまったくなくて、マイペースでやっているんですよ。

 

元木:けんかしたことはないのですか?

 

前野:若い頃は分かりあえていないから、ぶつかることもありました。けれども、小さな衝突のすべての原因は誤解でした。その都度、話しあって誤解を解くことで、問題はひとつ残らず解決しました。誤解を解かず、あえてその件に触れないように過ごすご夫婦もいますが、20年ぐらいためてしまうと、ストレスが増大しています。私たちは常にわだかまりがないから、28年間、円満に夫婦を続けられていると思いますね。

 

元木:どんな誤解が多いのでしょうか?

 

マドカ:言い方ですね。傷つく言い方ってありますよね。そのまま聞き流すとストレスになるので、あまり時間をおかずに、どういう意図で言ったのかをやさしく聞くようにしています。大抵は夫が疲れていたことから出た言葉だったりして、悪気はなかったということに落ち着くんですけどね。

 

元木:やさしく聞く?

 

マドカ:キツく言うと、売り言葉に買い言葉になりますから。壁のように跳ね返すのではなく、スポンジみたいに、いわれたことを一旦自分の中に吸収して、それからやさしく聞くようにしています

 

元木:翌日には持ち越さないわけですね。

 

マドカ:そうしはじめたのは、子供が生まれ、育児のことなど相談する機会が増えてきてからですね。早く言わないと人は忘れてしまうし、その場で話し合った方が解決も早いんですよ。

 

夫の前野隆司さんと妻の前野マドカさん。見るからに素敵なカップルで、幸せな夫婦生活を28年間続けています

 

幸福学が導き出した、幸せになるための4つの因子とは?

「やってみよう!」因子

・得意なことがあり、それを伸ばそうと努力をして強みをさらに高める人
・好きなことがあり、それを突き詰めようと打ち込んでいる人

 

「なんとかなる!」因子

・考えすぎず踏ん切りよく決断できる人
・失敗しても気持ちを切り替え立ち直るのが早い人
・肝がすわっていて度胸のある人

 

「ありがとう!」因子

・人を喜ばせたいと思う人
・困っている人を支援したいと思う人
・他者とのあたたかい付き合いに感謝している人

 

「ありのままに!」因子

・地位財形型の競争を好まない人
・自己像が明確な人
・他者への許容度が広い人

 

元木:『ニコイチ幸福学』では、幸せになるための4つの因子を明らかにしています。

 

前野:「ありがとう!」の気持ちはとてもシンプルなことですが、忘れている方は案外多いですね。先日もずっと夫婦仲が悪いという女性に関係修復の相談を受けたので、「感謝を10倍しましょう」とアドバイスしました。その後「夫との関係が劇的によくなりました」というメールが届きました。日常の小さなことでも相手に「ありがとう」と感謝をしたところ、パートナーも感謝をするようになって、出会った頃のように、ふたりの仲が良くなったそうです。

 

マドカ:悪いところに目がいくのをグッと抑えて、良いところに目を向けるようにすると、夫婦の関係はすごく変わっていきますね。

 

元木:「やってみよう!」はどうしたらいいですか?

 

前野:ふたりで同じやりがいを持ち、同じゴールを目指すことですね。目標は趣味でも、家事でも仕事でもいいと思います。相手の努力や頑張りは自分にとってのモチベーションになります。

 

マドカ:何事もやらされて生きていくのは大変じゃないですか。気持ちを切り替えてワクワクして取り組むことで、自分もまわりもハッピーに変わっていけると思います。

 

元木:「なんとかなる!」はよくわかります。私にもその因子があるからかもしれません。

 

前野:前向きで楽観的であることは、幸せになるために大事なことです。どんなにつらいことでも死ぬことに比べればどうってことないですから。くよくよ悩む時間が少ないぶん、楽しい時間が長く、幸せでいられます。

 

元木:自分らしく「ありのままに!」。こう生きていければ幸せですよね。

 

前野:人と自分を比べてしまうと幸福度が落ちるんです。ありのままで生きている自分を受け入れられる人は、自然に他者を受け入れることができるので、イライラすることも少なく、ストレスもたまりにくいですね。

 

マドカ:多くの悩みは、誰かと比べることで生まれると思いますね。自分の良さを肯定して、大丈夫といいきかせることで、仕事や勉強に自信がもてるようになります。

 


『幸福の達人 科学的に自分を幸せにする行動リスト50』(ユーキャン)
Twitterフォロワー130万人を超えるインフルエンサーTestosteroneが、科学、心理学、行動経済学などの110本以上の研究論文をもとに「これさえやれば幸せになる」というアクションを50の「TO DOリスト」にまとめた1冊。前野隆司さんが監修を務めています。

 

幸せになるための行動もあります

元木:前野先生が監修された『幸福の達人』も拝読しました。この中にあるチェックテストを試したところ29点。結果をみると「幸福の上級者」でした。

 

マドカ:忍さんは4因子が全部ありますから(笑)。幸せですよ。

 

「幸福の達人」のチェックテストで「幸福の上級者」と判定されたブックセラピストの元木 忍さん。

 

元木:ほめていただいてありがとうございます(笑)。この本の中で、日本では年収660万円以上になると幸せ度は上がらないという箇所が気になったのですが、これは本当なんですか?

 

前野:金額は国によって違いますが、統計として、日本では600万円台の収入があれば衣食住がある程度満たされ幸福度も高い傾向があります。収入がアップするに越したことはありませんが、金銭面より、核家族化で失われてしまった、村社会にある周囲や近所とのつながりを取り戻した方が、幸福度は上がっていくと思います。

 

元木:『幸福の達人』では、「なんでもない日常を味わう」というアクションもささりました。私はすでに毎日の日常で幸せを感じていて、夕食に何をつくろうかと考えるだけでワクワクします(笑)。

 

マドカ:非日常の特別な体験ではなく 住んでいる家で幸福を感じられるというのは最強の幸せです。違う視点から見ることで、なんでもおもしろがれるというのも、幸せのエッセンスなんです。

 

元木:『幸福の達人』の幸せになる行動の中で、一つだけ難しいなと思ったのは「許す」という行為ですね。些細なことであれば許せますけど、人生ではどうしても許せないことってないですか? いったん忘れても、あとで思い出すことってありますよね。その時に本当は許してないんだと気づくこともあります。

 

マドカ:ひどい目にあわされた相手を「許す」ことが果たして幸せなのか、賛否はあるでしょう。相手の立場に立ってみると許せることもあれば、今許せなくても、何年か後に自分が成長して許せるかもしれないこともあります。そう思える自分になりたいという願望もありますね。

 

前野:許さないことは相手と同じ醜い心をむきだしにすること。行為によっては許すまでに時間を要するかもしれませんが、許そうと思うことで幸福度は成長していくと思いますね。

 

元木:コロナ禍で生活が変わった方も多いと思います。この時期に思う幸福学はありますか。

 

前野:在宅時間が長くなり、家族とコミュニケーションが増えたことで、幸せになった人もいれば、そうではない人もいます。昭和の頃は当たり前だった家族で食卓を囲む風景や、懐かしいご近所とのつながりが戻ってきて、これを受け入れた人と受け入れられなかった人で違いが出たと思います。また、傾聴、感謝、尊重という幸せになるための基本が整っているか否かでもそれぞれの方で幸福度は変わり、幸せの格差は広がっていると感じています。

 

元木:人によっては、コロナ禍で見えない不安を多く抱えてしまったということですね。

 

前野:幸せを感じることのできなかった人は、コロナの不安に、職場や家庭での不満が重なってしまっていると思います。こういうときだからこそパートナーと力を合わせることが重要です。コロナ禍でもうまくいっている家庭は、お互いに頼り合うことで、幸せにこの時代を乗り越えていけるはずです。

 

元木:心からそう思います。今日はありがとうございました。

 

【プロフィール】

慶應義塾大学大学院教授 / 前野隆司

1962年山口生まれ。1984年東工大卒。1986年東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長を兼任する。著書に、『錯覚する脳』(筑摩書房)、『幸せのメカニズム―実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『幸せな職場の経営学』(小学館)など。妻である前野マドカさんとの共著も多数ある。

 

慶應義塾大学大学院研究員 / 前野マドカ

EVOL株式会社代表取締役CEO、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事、国際ポジティブ心理学協会会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』(ヴォイス)、『家族の幸福度を上げる7つのピース』(青春出版社、2020年)などがある。

 


『なんでもない毎日がちょっと好きになる そのままの私で幸せになれる習慣』(WAVE出版)
前野隆司さんと前野マドカさんの共著による最新作。「幸せになれる」と科学的に証明された方法の中から、日々の小さな習慣で「幸せ」を感じとれる、誰でも簡単に実行できる50の習慣を紹介する。

 

【朝の1冊】ちゃんと伝わる話し方を習得するための5つの基本――『相手の心をつかむ話し方・伝え方』

ビジネスはもちろん、家族、恋人、友人同士でさえも話し方・伝え方が重要な時代になってきました。LINEの登場により、誰とも手軽に連絡がとれるようになり、最近では会社内外でもメールよりチャットが中心になっているなんて人も多いかもしれません。「了解!」を「りょ」だけですませてしまったり、感情をスタンプだけで表現したり、文字や絵でのやり取りが中心になってくると、実際に会った時にこそしっかりとした話し方を身につけてコミュニケーションをとりたいと思いますよね。

 

そこで今回は、「あの人とはうまく会話が噛み合わない」「なんで話が伝わらないのかなー」とお悩みのみなさんに知ってほしい、相手にちゃんと伝わる話し方・伝え方の5つの基本を『相手の心をつかむ話し方・伝え方』(仕事の教科書編集部・著/学研プラス・刊)からお伝えさせていただきます。

 

 

対話の基本は「外国人」をイメージして接すること!

コミュニケーションが活発になってくると「これくらい言わなくてもわかるでしょ!」と思う人も多く、最後の最後で「なんでそうなるの!?」なんて結果になってしまうことは多々あります。いくらお互いに信頼関係が築けていると自信を持っていても、エスパーではないので、やはり言わなきゃわかりません。そこで、対話の際に心がける1つめポイントをお伝えします。それは、「外国人」をイメージして接すること。特に話が通じない時にイライラしないことが大切なんだとか。

 

相手が勘違いをしたり誤解したいしたりすると、イライラしてしまいがち。言葉を荒げても、良い結果は得られない。「外国人に説明している」つもりで、粘り強く表現を変えながら伝える努力をしたい。

(『相手の心をつかむ話し方・伝え方』より引用)

 

相手が「わかっている」と思って接するのと、「わかっていない」と思って接するのでは伝え方も大きく変わりますよね。「これさっきも言いましたよね?」なんて言い始めたら相手もイライラしちゃいますし、お互い気持ちよく仕事ができるわけがありません。伝える側が一歩大人になって対話できるように心がけましょう。

 

 

語彙力のレベルをあげて、大人の品格を

若い人はプレゼン等でついついカタカナの難しい業界用語を使ってしまいがちです。そのカタカナ用語もプレゼンする相手がしっかり理解している間だったら良いのですが、知らないということがあるとせっかくのよいプレゼンテーションも「伝わらなかった」ということになりがち。そこで大事になってくる2つめのポイントが「語彙力」。聞く方も伝える方も語彙力レベルをあげておくことで、ワンランク上の会話を目指せるようになります。

 

「どんなに能力が高くても、稚拙な表現しかできない人の評価は上がりません。地位が高い人は年齢も高いことが多いため、語彙力が伴わなければ認めてもらえないのです」

(『相手の心をつかむ話し方・伝え方』より引用)

 

例えば、お世話になった方にお礼をする時、

・とても感謝しています

と伝えるよりも

・幾重にもお礼を申し上げます

と伝えた方が、スマートに思われますし、言葉を知っているな〜と思われますよね。頭の中にたくさんの言葉をストックして、使いこなせる大人になりたいものです。

 

 

アサーティブな表現でコミュニケーションエラーを減らす

3つめのポイントは、どうやって相手に伝達するかの「伝達術」。時代的に、軍隊のようにトップダウンで言われたことだけをやるということは少なくなってきました。仕事における関係性も、上下関係はあるもののお互いを対等と考えた上で相手の感情だったりも考慮した「アサーティブ」な考え方が必要になってきたと言われています。はて、この「アサーティブ」とは一体なんなのでしょうか?

 

自分の要求や意見を相手の権利を侵害することなく、誠実に、率直に、対等に表現するコミュニケーションのスキル。

(『相手の心をつかむ話し方・伝え方』より引用)

 

これまでは、

・怒りに任せて「私が正しい!」と主張する攻撃的な人

・対立を避けて自分の感情を抑えてしまう受身的な人

・陰で皮肉やイヤミをいうことで間接的に主張する作為的な人

という3つの伝達方法で括られることが多かったのですが、相手を受け入れ対立するのではなく「協力」することで問題を解決する「アサーティブ(ほどよい主張)」な人が、近年注目されるようになったというのです。自分がどんなタイプかを知りたい!  という方は、『相手の心をつかむ話し方・伝え方』で診断ができるので、ぜひやってみてくださいね。

 

 

「ほめ2→指摘1」の法則

遅刻してくる後輩をなんとかしたい…。でも言い方がきついと嫌われちゃうかもなー。と、遅刻する人が悪いのですが(笑)、こちらの主張をしっかり伝えて、お互いに気持ちよく業務するようにしたい…。そんな時には、4つめのポイントとなる「心理話術」を活用しましょう。今回は「ほめ2→指摘1」の法則を例にお伝えさせていただきます。

 

ほめる:「◯◯さん、最近、頑張っているよね」

ほめる:「昨日の企画書もすばらしい仕上がりだったよ」

指摘する:「あとは、遅刻だけを注意すればいいよね」

(『相手の心をつかむ話し方・伝え方』より引用)

 

この法則を使えば、事前に2つも褒められているので、指摘されても前向きな気持ちになれるんだとか。他にも「イエス・バット法」「アンカリング」「セルフ・デプリケーティング・ユーモア」など明日から使える心理テクニックが紹介されていますので、これだ!  という心理テクを実践してみましょう。

 

 

「いい声」も信頼につながる大切なポイント

「女は耳で恋をする」なんて言われるくらい、恋愛においても「声」は重要。最後のポイントは、「発声力」、つまり声です。元日本テレビのアナウンサーで、現在フリーアナウンサー、ボイススピーチデザイナーとして活躍されている魚住りえさんによると、「いい声ではなすことは、ビジネスやプライベートで、いち生涯の武器となってくれるはずですよ」とのこと! どんなポイントを押さえておくのが良いのでしょうか?

 

POINT1 腹式呼吸で話をする

POINT2 きちんと共鳴させる

POINT3 滑舌よく言葉を発する

(『相手の心をつかむ話し方・伝え方』より引用)

 

 

トレーニング方法はぜひ『相手の心をつかむ話し方・伝え方』をチェックいただきたいのですが、自分の声は変えられないと思わず、トレーニングを重ねて魅力的な声で仕事もプライベートも充実させちゃいましょう!

 

「対話力」「語彙力」「伝達術」「心理話術」「発声力」の5つの基本をマスターして、よりよいコミュニケーションが取れるよう、今日からどんどん実践していきましょう。

 

 

【書籍紹介】

相手の心をつかむ話し方・伝え方

著者:仕事の教科書編集部
発行:学研プラス

たったひと言を変えるだけで、仕事も人間関係もうまくいく――。これ1冊で、上司・部下とのコミュニケーションや商談の場で、言いにくいことをスマートに伝えるコツが身ににつく。一目置かる大人になる「語彙力」の高め方も紹介。

kindlleストアで詳しく見る
楽天Koboで詳しく見る
Bookbeyondで詳しく見る

大事なのはちょっとした気遣い!「ひと言添える文具」からイイ関係は作られる

引っ越しや就職や異動など、春は人間関係にも変化があらわれる季節。最近はコミュニケーションをデジタルツールで行うのが当たり前になってきていて、出会いや別れなどの大切なシーンにおいてさえ、そういったもので手軽に済ませてしまいがちです。

 

そんな時代だからこそ、アナログなあたたかみを重視したものも、一方で増えています。その流れは文具の世界でも! 文具メーカー各社は「気持ちを伝える」をキーワードに、コミュニケーションを円滑にするためのさまざまなアイテムを発売。専門店では専用の売り場が設けられ、「コミュニケーション文具」という言葉まで聞かれるようになりました。

 

その中で、特にどういったものを選んだらいいのでしょうか? 職場で使いたいおすすめの“気遣い文具”を、文具ソムリエールの菅 未里さんに聞きました。

 

 

“気遣い文具”はこうして使う

まずはスマートな使い方をチェック! 日常のちょっとした人との関わりが、印象深いものになりそうです。

 

1.感謝や応援の気持ちは普段からちょっとしたメモで伝える

手書きと言っても、気負う必要はありません。たとえばなにか差し入れをするときや、資料を借りたとき、代わりに電話を受けてもらったときなどに、「いつもおつかれさまです」「ありがとうございます」という言葉を、小さなメモにして添えるだけで印象が違います。ミスをしてしまった後輩に、「気にしないで」「がんばれ」という言葉を贈るのもひとつ。

 

感謝や応援の言葉をかけられて嫌な人はいませんし、プラスの言葉を惜しみなく周囲にかけられる人は、ポジティブで魅力的に映ります。

 

2.お別れのときの寄せ書きはもらった人が困らないもので

寄せ書きといえば色紙や大判のハンカチなど、大きなものにたくさんの人が寄せて書くのが主流でしたが、今は小さくまとめられて持ち運びや保管に困らないサイズの寄せ書き用メモ帳が人気です。

 

もらった人が長く持っていられるよう、配慮したアイテムを選ぶとよいでしょう。また、市販のハガキにそれぞれ寄せ書きし、フォトアルバムに差し込んでまとめるのもおすすめです。

 

3.新しい出会い用に一筆箋などを携帯する

はじめましてのご挨拶や、これから始まるプロジェクトの顔合わせ、新人へ贈る応援メッセージなどは、タイミングが肝心です。

 

ここぞ、というときにさっとできるよう、きれいな柄の一筆箋やハガキなどを手帳に挟んで常備しておくとよいでしょう。食事をご馳走になったときやプレゼントをもらったときにも、その日のうちに書いて出せるようにしておきます。

 

文具ソムリエールがイチ押しする“気遣い文具”5選

では、具体的にどんな文房具を用意しておけばいいのでしょう。文具ソムリエールの菅 未里さんがおすすめする、職場使いにぴったりな気遣い文具を5点紹介します。

 

・用途に合わせて選べる! デスクに立てておける付箋

メッセージを書き込んで下部を折ると、机の上に立てて貼ることができる付箋です。伝えたい用件に合わせて「ごはん」「がんばれ」「ありがとう」「おねがい」「ほうこく」「れんらく」と 6種類あります。「かわいらしい色でデザイン性が高いだけでなく、デスクに立てて貼っておけば、見落とすことなくメッセージを伝えることができます」(菅さん)

ニチバン「コミュニケーションふせん つたえる」(24枚入り)
各410円
http://www.nichiban.co.jp/stationery/tsutaeru/index.html

 

・目標の共有に便利! 黒板にもなるクリップボード

A4とA5の2サイズがあり、表にも裏にもチョークで書き込めるブラックボードです。壁掛けフックとクリップがついているので、たくさんの人に周知するときや資料を見ておいてほしいときなどにも便利。「共有スペースなどに置いて、やる気のでる一言を添えて資料を挟んでおけば、部下や新人の士気も上がるかも……!?」(菅さん)

ハイタイド「ペンコ クリップチョークボード O/S A4」
918円
http://www.hightide-online.jp/fs/hightide/item-dp172

 

・お礼を添えて渡せる、立てて使えるぽち袋

みんなで買った送別品などのお金を渡すとき、たとえばそんなときに使えるぽち袋は、デスクの上に立てておける仕組みです。いつもぽち袋を一枚お財布に入れておくと、デキる女子に見えるでしょう。「ちょっとした差し入れや飲み会の会費などを、メモを添えて立てて渡せます。動物のかわいらしいデザインで、もらった人もうれしくなりますし、デスクの上が賑やかになります」(菅さん)

ハイタイド「スタンディングぽち(とり・ライオン)」
各454円
http://www.hightide-online.jp/fs/hightide/giftbag/item-cl077

 

・資料やノートに貼って使える 、ロール状の付箋

瓶の形をモチーフにした、ころんとデスクに置いておくだけでかわいらしい付箋です。別途リフィルのみの販売も。「セロテープのようにロール状になっていて、好きな長さに切って貼ることができる紙製の付箋です。配布する資料や企画書に、読んでほしいポイントやあとで話し合いたいことなどを書いて貼っておけば、読み手の気持ちを考えた資料づくりができます」(菅さん)

ナカバヤシ「マイフォーカス ビンフセン」
712円
https://www.nakabayashi.co.jp/feature/myfocus/

 

・持ち運べるプレゼント、単語帳タイプのメッセージカード

「THANK YOU」や「おもひで」などのタイトルが書かれた、さまざまなかたちの小さなメッセージ帳。「単語帳のようにリングで留めるタイプなので、かさばらず持ち運びにもちょうどいいサイズです。みんなからの感謝の言葉を集めて、色紙代わりに送別品として贈ったり、春から仲間に加わった新人に応援のメッセージを添えて贈ったりしてもいいでしょう」(菅さん)

ハイタイド「思い出色紙帳」
972円
http://www.hightide-online.jp/fs/hightide/item-cl087

 

お店で文房具のコーナーに行くと、かわいらしいものがたくさんあって、気持ちが弾みますよね。自分用にあれこれと欲しくなりますが、「相手を思う」という観点で選んでみると、新たなアイテムに出会えそうです。新生活に向けて、コミュニケーションを円滑にする、素敵な文具をそろえてみませんか?

 

【プロフィール】

文具ソムリエール / 菅未里

文具好きが高じて、大学卒業後、雑貨店に就職。現在は、雑誌での連載や商品企画開発、売り場プロデュース、メディア出演など活躍の場を広げている。最近の商品プロデュースに「働く女性のためのステーショナリー ラシエンヌ」が、著書に『文具に恋して。』(洋泉社)、『毎日が楽しくなる きらめき文房具』(KADOKAWA)がある。

STATIONERY RESTAURANT  https://misatokan.jp/

 

 

何気ない日常を、大切な毎日に変えるウェブメディア「@Living(アットリビング)」

at-living_logo_wada

ユージさんに聞く! 夫婦の子育てと家事分担 後編

前編では、子どもたちとのコミュニケーションや、夫婦間のトラブルNo.1と言っても過言ではない家事の役割分担について聞いてみました。

 

妻からは「ユージさんを見習ってよ」と言われそう(泣)。でも、これを機に自分もできることからやってみようという気持ちが芽生えました。

20180111_maita_main-2

後編では、家族のルールをはじめ、長男の行動にグッときた話や娘さんたちの微笑ましい行動、そして子どもたちとの将来などなど。僕を始め、世のお父さん必見のエピソード満載ですよ!

 

【今月のお客さん】

20180109_maita_profile_zen
ユージさん
1987年生まれ、30歳。モデル、俳優業を始め、バラエティ番組でも活躍中。2014年に結婚し、現在14歳長男、3歳長女、2歳次女の3児の父親として育児に奮闘中。特技は建築現場で働いていた経験を活かした日曜大工やイラストを描くこと。アーティストのCDジャケットデザインを頼まれるほどの腕前を持つ。
[ブログ]http://ameblo.jp/lp-yuji/
[インスタグラム]@yujigordon

 

 

子どもを叱るときも“丁寧さ”を忘れずに

comment-father
ユージさんのように子どもたちと正面から深く接していると、思い出もたくさんあるでしょうね。

 

 

息子は、11歳の時に僕の子どもになったという経緯がありまして。結婚する前から名前で呼ばれていたので、今も息子からは「ユージ」と呼ばれているんです。あるとき、公園で友達と遊んでいる長男を見つけたので、遠くから声をかけたことがありました。でも、友達はまだ僕が父親だとは知らなかったらしく「あれ誰だ?」となってしまったんですよ。そうしたら、長男が僕に聞こえないように「僕のパパだよ」と言っていたんです! それがわかった瞬間は、グッとくるものがありましたね……。
 

 

comment-father
あれれ、目から汗が……(泣)。息子さん、めちゃくちゃ良い子ですね。

 

 
泣かないでくださいよ〜。じゃあ、娘のエピソードからは笑えるのを話しますね! 長女がまだ1歳くらいのとき、エレベーターの中で外国人男性と一緒になったんですけど、その方に向かって「パパ!パパ!」と何度も呼びかけてて。まあ、娘にしてみれば外国人顔=パパに見えたんでしょうね(笑)。僕がどうすることもできずに黙っていたら、その外国人の方が僕を見て「わかるよその気持ち」ってアイコンタクトしてくれました(笑)。
 

 

comment-father
それは焦りますね~。うちの娘も遊園地の着ぐるみを怖がって抱きついてくる、かわいい時期あったなぁ(遠い目)。そうそう、ユージさん家のルールって何かあるんですか? それと、子育ての悩みを誰かに相談したりとかしますか?。

 

20180111_maita_A0I6513
家族以外の人に悩み相談はしないですね。それから“ほかの家は気にしない!”が我が家のルールです。自分の家のことは自分たちのやり方で解決します。僕にしかできないこともあるはずだし、我が家にしっくりこないルールに振り回されるのは、心身ともに疲れちゃいますから。
 

 

comment-father
スカッとする回答ですね! 我が家も真似したい!

 

 

夫婦ゲンカも、子どもにわからないようにするのがベストですが、家の中で言い合いになってしまった場合は、子どもが聞いているかもしれないので、否定的な言葉や汚い言葉は使わないようにと約束しています。僕だったら妻のことを“お前”と呼ばない、とかですね。子どもを叱るときどんなにイライラしていても「サラちゃんもそこがよくないと思うよ」と丁寧に話します。丁寧語で言い合っている状況は、シュールでもありますが(笑)。
 

 

comment-father
子どもは親の口癖を真似たり覚えてしまうから、大人が丁寧に接しないといけないですよね。子どもたちが大きくなったらやってみたいことありますか?

 

20180111_maita_A0I6361
長男とは、将来一緒に仕事がしたいと思っています。パートナーとしてふたりで会社を経営できたら最高ですね! 娘とは、ヴァージンロードを歩くのが夢です。
 

 

comment-father
えぇっ! ヴァージンロードなんて、いま考えただけでも憂鬱になりますよ。どんな人を連れてくるんだろうとか、仕事はちゃんとしているんだろうとか。言いたいことや聞きたいことが山ほどあるけど、やっぱり躊躇して聞けないのかなとか……。

 

 
僕は、娘が幸せならどんな人でも賛成します。ただ、彼にアドバイスはすると思います。夢を追いかけている彼なら、「夢を見るだけじゃなくて、とりあえずやってみたら?」とか。正攻法じゃなくても、その夢を実現することはできると思うんですよ。やってみること、そこに向かってみることが大事だと思っているんで。でも娘には何度か確認をするかもしれませんね。「本当に彼とずっと一緒に居られる?」みたいな(笑)。
 

 

comment-father
えぇっ! ヴァージンロードなんて、いま考えただけでも憂鬱になりますよ。どんな人を連れてくるんだろうとか、仕事はちゃんとしているんだろうとか。言いたいことや聞きたいことが山ほどあるけど、やっぱり躊躇して聞けないのかなとか……。

 

 
そうなのか……ユージさんみたいな器の大きい父親なら「将来結婚するならパパみたいな人がいいな」とか言われるんでしょうね。僕も娘からそう思えるように、できることからがんばります! ユージさん、ありがとうございました。またぜひパパ会しましょうね!
 

 

【まとめ】

ユージさん夫婦の日々の過ごし方や子育ての方法は、考えさせられることばかりでした。

 

僕も参田家の大黒柱として、ちょっとずつでも前向きに努力してみようと、この年の瀬に気持ちを新たにしました。仕事や家事に子育てと、頼りないかもしれないけどお父さんなりにがんばっていますので、全国の奥様もそんな夫の不器用な姿を温かい目で見守ってくださいね!
 

 

日々の「参った!」というお悩みを5分で解決!「参田家(まいたけ)のおうち手帖」

matitake300x97_01