地域経済の活性化を身近に!増える“地産地消EC”の仕組みと活用がもたらすこと

ECサイトでの買い物が当たり前になり、生鮮食品でさえも日常的にネットスーパーで調達する時代になりました。一方で、新鮮な地元産の食材を購入する、いわゆる”地産地消”をしようとすると、道の駅など地域に足を運んだり、生産者と生のコミュニケーションをとりながら買い物をしたり。そういったやや負担が増えることで、忙しい家事や仕事の合間をぬって通うとなると、選択肢から除外されてしまうこともあるでしょう。

 

今、地産地消をスマートフォンから手軽にでき、地域に貢献できる……そんな食品流通サービスが続々と登場しています。サービス登場により、消費者の暮らしはどう変わるのでしょうか?

 

農業経済学が専門で、地産地消にも詳しい千葉大学の櫻井清一教授に、そもそもの地産地消のメリットや現在抱えている課題、スマホで貢献できる地産地消について教えていただきました。

 

「地産地消」とは?
消費者・生産者・事業者の立場で見るメリット

まずは、地産地消の定義とは何か、整理しましょう。櫻井先生によると、「同じ地域でとれた農産物はじめ食品を、同じ地域の消費者が購入したり、食べたり、消費したり……いずれか1つでも当てはまれば地産地消といえます」とのこと。

 

「地産地消というと“直売所で地元の農作物を購入する”というシーンを思い浮かべる方は、多いかもしれません。このケースは「消費者」と「生産者」の2者間の関係性だけでなく、物流から販売を担当する「事業者」も含めた3者間の関係がうまく機能している例といえるでしょう。事業者というのは、広義では、消費者と生産者をつなぐ人全般のことで、もっと具体的に言うと、直売所のほか、レストランやホテル、食堂などを指します。
とはいえ、3者間すべてが機能していなくとも、2者間の組み合わせいずれかが機能している状態であれば、十分地産地消といえます。組み合わせには「消費者×生産者」「生産者×事業者」「事業者×消費者」があります」(国立大学法人 千葉大学・櫻井清一教授、以下同)

 

「消費者」のメリット

・身近な場所から新鮮な農産物を得ることができる
・消費者自らが生産状況等を確認でき、安心感が得られる
・食と農について親近感を得るとともに、生産と消費の関わりや伝統的な食文化について、理解を深める絶好の機会となる
・環境に優しい生活につながる

 

「生産者」のメリット

・消費者との顔が見える関係により、地域の消費者ニーズを的確にとらえた効率的な生産を行うことができる
・流通経費の節減により、生産者の手取りの増加が図られ、収益性の向上が期待できる
・生産者が直接販売することにより、少量な産品、加工・調理品もさらに場合によっては不揃い品や規格外品も販売可能となる
・対面販売により消費者の反応や評価が直接届き、生産者が品質改善や顧客サービスに前向きになる

 

「事業者」のメリット

・市町村や栄養士には、学校給食で地場農畜産物を利用することで、生徒等の食育の推進につながる
・スーパーマーケットには、地場農産物コーナーの設置で新鮮で安心な農産物を求める消費者を確保できる
・レストランやホテルには、地元食材を活用した特徴のあるメニューを提供することで、地元客や観光客を集めることができる
・食品製造業者には、地元食材を利用することで、流通経費や環境負荷の軽減につながる

 

引用=「地産地消って何がいいの?」農林水産省 東海農政局

 

そもそも、地産地消という言葉ができたのは1980年代のこと。農林水産省が1981年(昭和56年)から4カ年計画で実施した「地域内食生活向上対策事業」が始まりだといわれています。これは、地域内の農産物の自給率の低さを何とかしようとする計画で、同じ地域でつくられた農産物は同じ地域で消費することを活性化させることを目指していました。

 

野菜の国内生産量と輸入量の推移。野菜の生産量だけみても、高度経済成長期の1960年代から1980年代半ばにかけては、人口増加による需要の拡大や施設園芸の拡大を背景に増加していきますが、1980年代後半から農業者の高齢化や労働力不足、漬物をはじめとする需要の減少などを理由に減少の道をたどりました。

 

地産地消という言葉が生まれて、40年ほどの月日が流れましたが、令和5年8月に公表された、農林水産省による「食料需給表」によると、日本の現在の食料自給率は、カロリーベース(※1)で38%、生産額ベース(※2)で58%となっています。世界と比較すると、カロリーベースで53位、生産額ベースで29位と低迷していると言わざるをえません。そんな中で、令和3年度の東京都の食料自給率はなんと0%!(※3)。改善が求められている状況です。

 

※1 人が生きていくために必要なエネルギー量に換算する方法
※2 経済的な価値として金額に換算する方法
※3 小数点以下、四捨五入で切り捨て

 

地産地消の課題解決は
3者間のコミュニティ化にあり

地産地消は、消費者、事業者の「需要」と生産者の「供給」が釣り合うことでスムーズに機能します。では、地産地消の課題はいったいどこにあるのでしょう? ここからは、3者それぞれの視点に立った時の課題について確認していきます。

 

・消費者視点

「忙しい日々の中では、加工食品を買って食べる『中食』やレストランや食堂に出向いて食べる『外食』、これを食の外部化といいますが、現代では当たり前のようになっています。とはいえ、毎日そのような生活では、健康面、コスト面で無理が来るかもしれないので、地元の新鮮な食材を使って自炊したいもの。しかし、直売所に行こうと思っても、時間コストと移動コストを考えると、見合っていなかったり、そもそもどこで地産地消の食材を入手できるかわからなかったり……。地産地消のあり方が現代人の生活にマッチしていないこと、情報量不足が課題です」

 

・生産者視点

「地産地消を一層促進するためにはまず、地域内で農作物や食品の生産を安定的にさせることが大切です。しかし、作りすぎてしまえば、その分の労力と販売・廃棄コストがかかるうえ、食品ロスによる損失まで負わなければなりません。リスクとコスト面の兼ね合いから、既存の販路以外には販売しない選択をとる生産者も多いです。消費者と事業者の需要の見える化と確保が課題です」

 

・事業者視点

「ここでの事業者を、仮に、食材にこだわるレストランだとします。そんなレストランなら、流通コストも抑えられるし、地元の新鮮な食材を使いたい!というニーズがあるはずです。ところがレストラン側は地元の農家を知らないので、どこで入手すればいいのかわからない。そんななかで、知人の紹介などでたまたま知り合った農家と個別に知り合っているケースは実際のところ結構多いんです。しかし、いろいろなメニューを提供しようとすると、多品目の食材の入手は欠かせません。そうなると、1つの農家だけでまかなうことは非常に困難。結局、コストアップは免れませんが、様々な事業者からの取り寄せに頼らざる終えない事業者が多いのが現状です。また、複数の農家と運よく知り合った場合でも、必ずしも大量流通に対応していなかったり、物流システムが整備されていなかったりすることもあるため、ここでも品目数の確保と流通コストに悩まされる場合も。生産者と事業者の2者間のコミュニティを広げること、物流システムの整備が課題です」

 

スマホからできる!
地産地消を促進するサービス4選

地産地消の課題を解決するかのように、消費者、事業者、生産者、いずれかを繋ぐ仕組みが続々と登場しています。そのなかで今後注目されそうなのが、スマホから簡単に参加できる手軽さが魅力のアプリやサービスです。

 

・生産者に寄り添い事務処理の負担も軽減「食べる東京」

「食べる東京(食べるTOKYO)」
【生産者×事業者】

東京の生産者と東京の飲食店、小売店事業者をつなぐオンラインの直売所。必ずと言っていいほど課題になる、畑からの物流・配送システム・請求書やクレジットなどの決済機能も充実しており、事業者に寄り添います。生産者にとって負担となる野菜の登録も30秒で完了するシステム。物流に関しては、近くの集荷場に納品して完了とシンプルさを極めます。

 

「生産者と地元のレストランや小売店、ホテル(事業者)をつなげるというのは、地産地消の中でも、優先順位の高い取り組みだと思います。多忙を極める消費者たちの食生活は、すでに加工された食品を購入して食べる『中食化」、レストランや食堂といった飲食店に出向いて食べる『外食化」が進んでいます。そんなニーズに合わせるように、新鮮でコストも安い地元の食材を使いたい、という飲食店も増えている中で、速やかに食材を供給することができます。生産者の数をネットワーク化すると、当然その地元の農産物や食材が集まりますよね、事業者の選択肢が広がるのは、事業をするうえでかなりのメリットになりえるといえます。多品目の食材を欲しがっている飲食店とマッチングさせる仕組みとして面白いサービスです」

 

・マップで一目瞭然! 事業者の気軽な情報発信をサポート「ロカスタ」

「ロカスタ」
【消費者×事業者】

直売所や飲食店といった事業者が、食品情報や地産地消メニューを消費者に発信できるアプリです。情報を見た消費者は、直売所で購入したり、飲食店で食事することで新鮮な農林水産物を消費でき、地産地消につながる仕組みです。各自治体がサービスの導入元となっており、2024年7月時点では、東京都練馬区と東村山市で導入されています。アプリ開発元は、他のエリアにもサービスを拡大できるように精力的に活動中です。
例)
・練馬区「とれたてねりま」
・東村山市「ロカスタ」
※サービス名は、各自治体によって異名称が異なります。

 

「地方より、むしろ都市部でフィットするサービスだと感じました。生産者の数が多い地方では、直売所は大型化され、販売先の生産者の集約化が図られるのに対し、都市部のほうには、小規模な農家単位の直売施設が点在しています。そんな中で、消費者がどこの畑や路地に何が売っているのかをすべて把握するのは至難の業。それをたちどころにマップ上で示してくれるのは便利な情報源になりえると思います。アプリなら、情報の更新も容易ですし、時代に合ったサービスでしょう」

 

・食品ロスを減らしながら地産地消にも貢献!「タベスケ」

「タベスケ」
【消費者×事業者】

食品ロスの削減のため、消費者と事業者をつなぐフードシェアリングサービス。事業者は、あまった食材や料理をアプリ上に登録。消費者からオファーがあれば取り置きし、実店舗にてお会計と引渡しを行います。なお、サービスの導入元は自治体で、2024年7月時点で利用できるのは、全国で24の自治体となっています。
サービス提供エリア一覧
※サービス名は、各自治体によって名称が異なります。上記URLからサービス名を確認してください。

 

「このサービスは、賞味期限が近くなった商品を売り切りたい事業者とお得に買いたい消費者を繋ぐことが主目的と思われるので、食品ロスに貢献する意味合いが強くなります。ただ、実際に購入したり物流するのは、事業者と消費者です。消費者がお店に出向くスタイルなので、そこまで遠出することは想定していない。となると、協力してくれる消費者は近いところに住んでいるので、うまくマッチングできた結果としての地産地消になるでしょう」

 

・ECサイトで決済したら、あとは取りに行くだけ!「ハックツ!」

神奈川県藤沢市で活動する農家や飲食店の農産物や加工品を購入できるECサイトです。サイト上で注文から決済まで完了したら、商品は、藤沢市内の指定場所まで、消費者自ら取りに行く点がユニーク。この仕組みにより、消費者もおのずと地元民に限られてきます。地域に暮らす人たちが、よりよい暮らしのために何をするべきか考え、積極的に行動に移す「自律分散型社会」を目指す狙いがあります。

 

農家直送の野菜セット。普段の買い物では手にとらないような食材が組み合わさることで、どんな野菜に出会えるのかワクワクしたり、料理のレパートリーが増えたりと、日常生活がポジティブになったという声も。

 

「自宅の近くのスポットで多様な出荷者の産品をまとめて受け取れる点が、消費者からみれば便利なシステムだと思います。生鮮食品のバラエティもなかなか豊富です。単品での販売だけでなく、こだわりの地元野菜を組み合わせたボックス、セットの販売もみられます。こうした売り方は、アメリカやカナダでの地元野菜の販売スタイルに似ていますね」

 

 

一般の消費者が地産地消に貢献したい、と思った時に手軽なのは、まずは「ロカスタ」と「ハックツ!」。スマホ片手に地産地消を取り入れた生活にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

 

 

Profile


国立大学法人 千葉大学 教授 / 櫻井清一

1967年、群馬県生まれ。東京大学文学部社会学科卒。1989年より農水省中国農業試験場(現:近畿中国四国農業研究センター)にて農産物流通の調査研究に従事。2001年より千葉大学園芸学部助手。2003年千葉大学より博士(学術)。同年より園芸学部助教授。2010年より園芸学研究科教授。農業経営学会学術賞・農業市場学会学術賞・農村生活学会学術賞受賞(いずれも2008年)

【主な研究テーマ】
農産物および加工食品のマーケティング論。農産物直売活動(農産物直売所の組織運営、出荷者の行動、直売を介した生産者と消費者の交流など)。農村部における社会関係資本の分析(農村の伝統的集団と新たな組織の評価、住民意識の変化等)。農村経済の多角化(都市農村交流事業の評価、ローカル・フードシステム、中小食品企業の連携等)

ライドシェアが日本でも解禁!知っておくべき仕組みと安全で賢い活用法

2024年4月から、タクシー運転手ではない一般のドライバーが有償で客を送迎する「ライドシェア」が、日本国内で解禁となりました。現在は東京都や神奈川県など一部の地域で限られた時間帯のみ利用することができますが、今後も導入される地域は増えていく見込みです。

 

日本版ライドシェアの特徴や仕組みとは? 利用する際のポイントや海外のライドシェアとの違いも含め、モビリティジャーナリストの森口将之さんに教えていただきました。

 

「ライドシェア」の定義と、「カーシェア」との違い

 

最近、ニュースなどでもようやく耳にする機会が増えたライドシェアですが、海外ではすでに普及している国も。そもそもライドシェアとは何でしょうか? また普及し始めたきっかけについて教えていただきました。

 

「『ライドシェア』とは、タクシー運転手ではない一般のドライバーが有償でお客を送迎するサービスのことを言います。乗車予約から支払いまでを、すべてアプリ上で行うところが大きな特徴です」(モビリティジャーナリスト・森口将之さん、以下同)

 

ライドシェアと似た言葉に『カーシェア』があります。

 

「『カーシェア』はドライバーと車両をマッチングさせる、車の貸し出しを目的としたサービスのこと。一方、ライドシェアはタクシー配車アプリなどを活用し、ドライバーと乗客がマッチングすることでサービスを利用することができます」

 

ライドシェアに欠かせない“配車アプリ”として有名なのが、アメリカ発のサービス「Uber」。

 

「日本でも利用されているUberは、配車アプリを提供する企業の先駆けとも言える存在です。このような企業が出てきたことで、ライドシェアという新しい移動の形が誕生し、世界的にライドシェアが普及していきました」

 

日本版ライドシェアの特徴や仕組みは?

ライドシェアは現在さまざまな国で導入されていますが、国によって独自のルールが定められています。日本では、どのような仕組みで運用されているのでしょうか?

 

「日本には、『自家用車活用事業』と『自家用有償旅客運送』の大きく2種類のライドシェアの制度があります」

 

・自家用車活用事業(都市型ライドシェア)

「こちらが、2024年4月から一部の地域で解禁されたライドシェアの制度。タクシー会社の管理のもと、一般ドライバーが自家用車を使って有償で送迎するサービスが認められるというものです。走行しているのはタクシーが不足する時間帯のみで、ライドシェアのドライバーはタクシー会社が募集・管理しています。東京、神奈川、愛知、京都の一部地域から導入が始まり、都市部での導入が中心であることから、私はこのライドシェアを“都市型ライドシェア”と呼んでいます」

 

4月に解禁された地域でライドシェア導入の目安となった、タクシーが不足する曜日および時間帯はこちら。

 

東京都(23区、武蔵野市、三鷹市)
・月~金曜:7時~10時台
・金・土曜:16時~19時台
・土曜:0時~4時台
・日曜:10時~13時台

 

神奈川県(横浜市、川崎市、横須賀市など)
・金・土・日曜:0時~5時台
・金・土・日曜:16時~19時台

 

愛知県(名古屋市、瀬戸市、日進市など)
・金曜:16時~19時台
・土曜:0時~3時台

 

京都府(京都市、宇治市、長岡京市など)
・月・水・木曜:16時~19時台
・火~金曜:0時~4時台
・金・土・日曜:16時~翌日5時台

 

国土交通省の発表資料より

 

・自家用有償旅客運送(地方型ライドシェア)

過疎地における移動手段の確保などを目的に、市町村やNPO法人などが主体となり、自家用車を使って有償に運送できる制度です。制度自体は2006年に創設されましたが段階的にルールが改正されており、2023年末にも大幅な改革が行われました。ニュースなどでは『自治体ライドシェア』と呼ばれることもあり、都市型ライドシェアに対して“地方型ライドシェア”とも言えます」

 

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ライドシェア導入の背景にある、ドライバー不足

2024年4月から一部で解禁された都市型のライドシェアは、そもそもなぜ導入されることになったのでしょうか?

 

「導入された大きな理由は、ドライバー不足です。都市部に限った話ではありませんが、コロナ禍でタクシーの利用者が減少し、ドライバーが辞めたり、タクシー会社が廃業せざるを得なかったりという事態が起こりました。しかしコロナ禍が落ち着きインバウンドの観光客も戻ってきたため、今はドライバーが不足しているのです」

 

また現在、物流業界でドライバーの時間外労働の上限規制が設けられることで起こる『2024年問題』も懸念されていますが、タクシードライバーも同じ状況にあると言います。

 

「2024年4月から、タクシードライバーの拘束時間や休息期間も見直され、一人あたりが運転できる時間は短くなりました。そのためドライバー不足に拍車がかかることが懸念されています。これまでも国内でライドシェアの議論はたびたびあったものの、こうした社会的な背景や、菅義偉前首相がライドシェア導入を後押しする発言をしたことなどもあって、本格的に導入が進められることとなったのです」

 

ライドシェアのメリットとは?

都市型・地方型ライドシェアにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

 

【都市型ライドシェア】

タクシーがつかまりにくい時間帯に、移動手段を確保できる
「4月からライドシェアが導入された地域では、タクシーが不足している時間帯に通常のタクシーに加えてライドシェアの車両が走行することになります。そのため今までタクシーがつかまりづらかった時間帯でも移動手段を確保しやすくなることが、利用者にとっては一番の利点だと思います」

 

【地方型ライドシェア】

タクシーより安く乗車できる
「都市型のライドシェアは通常のタクシーと同じ料金ですが、地方型のライドシェアはタクシーの約8割の価格で乗車することができます。また、自治体が主導する地方型のライドシェアならではの取り組みもあります。例えば石川県小松市が実施するライドシェアでは現在、能登半島地震で被災した二次避難者が無料で利用することができます。このように地域ごとに独自の取り組みができるところも、自治体主導のライドシェアならではのメリットと言えます」

 

また“ライドシェアドライバー”という仕事が生まれることによって、より多様な働き方ができるようになることもライドシェアを導入するメリットの一つと言えるでしょう。

 

「海外のライドシェアドライバーには、ドライバーの仕事だけで生計を立てている人と、副業として空いている時間に仕事をしている人の2パターンのドライバーがいます。日本でもライドシェアが導入されたことで、ドライバーになるための条件や時間の制限はあるものの、後者のような働き方が可能になりますよね。
また、地方でライドシェアドライバーが収入源の一つになるなら移住してみようと考える人も出てくるかもしれません。“ライドシェアドライバー”という仕事が、多様で柔軟な生き方、働き方をするための一つの手段にもなり得るのではないでしょうか」

 

ライドシェアを利用する際のポイント

 

実際にライドシェアを利用するときにはどのような準備が必要なのか、利用する前に知っておきたいポイントや注意点を教えていただきました。

 

・配車アプリをダウンロードしておく

「ライドシェアは配車アプリがなければ利用することができません。アプリ内で支払い登録などもしておく必要もあるため、乗車直前ではなく、あらかじめダウンロードしてすぐに利用できる状態にしておくことをおすすめします。
都市型ライドシェアが利用できるのは『GO』『Uber』『DiDi』などの配車アプリです。地方型のライドシェアは独自のアプリを用いているところもあるため、利用したい地域によって対応するアプリを確認してください」

 

・ライドシェアのタクシーに乗るための設定をしておく

「配車アプリでは、乗車できるタクシーを『通常のタクシーのみ』と『通常のタクシーとライドシェアの両方』のどちらかで設定することができます。都市型ライドシェアは今のところ、ライドシェアのみを選んで乗車することはできません。
またデフォルトは『通常タクシーのみ』の設定になっていることが多いので、ライドシェアを利用したい場合は設定し直しましょう」

 

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日本にはない仕組みも!
海外のライドシェア事情

 

国内での利用はまだという人も、海外でライドシェアを利用したことがある方は意外と多いかもしれません。日本のライドシェアとの違いも含めて、海外のライドシェア事情についても教えていただきました。

 

「ライドシェアは国によって仕組みや運用方法が異なります。たとえば、アメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコなどのライドシェアは、Uberなどのプラットフォーム事業者が運転手管理や運行管理を行う形で導入されています。一方で、イギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパでは、ドライバーに公的なライセンスが必要だったり国や地域が運行管理を行ったりする形で導入されている国が多くあります」

 

海外のライドシェアというと、犯罪やトラブルに巻き込まれた事例もメディアを通して耳にしたことがあるかもしれません。

 

「アメリカなどのライドシェアにまつわる犯罪の話題がメディアでも取り上げられますが、正直なところ、犯罪はどのようなシチュエーションでも起こり得るもの。ライドシェア乗車中の犯罪発生率は国の治安事情を反映しているというデータもあるため、ライドシェア=危険とは一概に言えないと考えています。逆に、乗車前に運転手情報を確認できたり乗車やGPSの情報が記録されたりするところに、安全性を感じるユーザーもいるようです」

 

森口さん自身も、通常のタクシーよりライドシェアのほうが安心して乗れると感じることもあるのだとか。

 

「ライドシェアは、あらかじめアプリで目的地を入力するので料金の目安がわかりますが、国によってはタクシーでわざと遠回りして料金を上乗せされてしまうなど、タクシーサービスの質があまり良いとは言えないこともあるためです。逆に言えば、今まで日本でライドシェアが導入されなかったのは、日本のタクシーのクオリティが高いことも一因かもしれませんね」

 

 

また、日本と海外のライドシェアの大きな違いとして森口さんが挙げたのが、「ダイナミックプライシング(変動価格制)」と呼ばれる仕組みです。

 

「ダイナミックプライシングは、需要と供給に応じて価格が変わる仕組みのこと。例えば人が多く集まるイベント終了後など、需要が増える時には、通常のタクシーよりライドシェアの料金の方が高くなることがあるのです。価格はドライバーではなく、アプリ提供側が設定しています。
ユーザー側が価格を見ながら、タクシーを利用するかライドシェアを利用するかを選べることは、個人的に良い仕組みだと思っています。日本でも導入することができれば、場所や時間によってタクシーよりライドシェアを安く利用できる可能性もあるため、ユーザー側のメリットもより大きくなるのではないでしょうか」

 

日本のライドシェアはこれからどうなる?

 

現在、利用にはさまざまな条件がある国内のライドシェアですが、今度はどうなっていくのでしょうか?

 

「地方では移動手段が限られる一方で、都市部ではタクシーが不足している今、どの地方自治体にとっても“移動”は切実な問題となっています。そのため現在進行形で規制緩和を求める声や、導入を検討する地域は多くあります。都市型のライドシェアは今後、仙台、大阪、福岡などの地域でもサービス提供が認められるようになる予定です。
とはいえ、今のところ国内でライドシェアを利用するには、ユーザー自らが配車アプリでライドシェアを利用できるように設定しなければならず、利用できる時間帯も限られています。そのため普及していくためには、ライドシェアを利用するための方法を周知していく必要もあると思います。さらに、ダイナミックプライシングの導入や時間帯の制限を撤廃するなど、少しずつ規制が緩和されていけば、利用者にとってのメリットも増えていくのではないでしょうか」

 

地方型のライドシェアについても、多くの地域で導入や規制緩和を求める声が上がっていると言います。

 

「地方型のライドシェアはこれまで自治体やNPO法人が主体となっていましたが、ルールが改正されて運行管理や車両の整備管理などをタクシー・バス事業者が協力して行うこともできるようになりました。今もさまざまな議論が行われているため、今後もさらなる改革が進んでより使いやすい形になることを期待したいですね」

 

 

まさに今、活発な議論が行われながら導入・普及が進められている国内のライドシェア。導入・普及が進めば、タクシーが捕まりにくかった時間帯や移動手段の少なかった場所での移動が、より便利になるはずです。導入の背景や利用の際のポイントを押さえた上で、かしこく上手に利用しましょう。

 

 

Profile


モビリティジャーナリスト / 森口将之
モビリティジャーナリストとして、移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

家電のサブスクは本当にお得? 注意点は? プロが教える賢い活用法とおすすめサービス

ものを必要以上に持たない暮らしの価値観が広まっていくなか、家電のサブスクリプションサービスに注目が集まっています。その先がけとなったのが「アリスプライム」。今まで複雑だった家電サブスクの料金形態を定額制にしたことで、家電好きの人や流行に敏感な人のみならず、広く一般に知られることとなりました。各社がこぞってより良いサービスを展開し、ますます便利になっている家電サブスクの現状を、家電ライターとして活躍されている田中真紀子さんに教えていただきました。

 

“家電のサブスク” ってどんなサービス?

家電サブスクのサービスの仕組みについて教えてください。

 

「サブスクとは『サブスクリプション』の略語であり、定額制で支払い利用するサービスのことを言います。音楽や映画、洋服などのサブスクサービスが展開し始めると、それに合わせるよう2018年ごろから家電サブスクもスタートしました。最近では、パナソニックや日立などメーカー独自の強みを活かしたサービスや、さまざまなメーカーの商品を取り揃え、たとえば掃除機1つとってみても、幅広いラインナップを展開しているサービスがあります。レンタルが、返品を前提とし短期間で借りるため初期費用が比較的高めな一括前払いなのに対し、サブスクは長期間借りるため定額制であり、かつ初期費用を抑えられ、場合によっては購入に至るケースもあるのが大きな違いです。
家電サブスクは、高価な家電を買ってから後悔することなく、一度試してから購入できる点に人気の理由があります。ご自身の希望にあったサービスを見つけるため、まずは目的に合わせて優先順位を整理してみるといいですね」(家電ライター田中真紀子さん、以下同)

 

“家電サブスク” サービスの特徴

・定額制である
「毎月同じ金額を支払えばいいので家計管理もしやすく、一括で多額の出費をしなくて済むので安心して使えます」

・長期で借りられる
「基本的には月単位で借りられ、月額を払っている限りいつまでも借りられます。しかし、長く利用すると、商品を購入するよりもかえって高くつく場合もあるので注意が必要です」

・交換ができる場合もある
「会社によって違いがありますが、交換できるサービスもあります。複数の機種を試したい場合は交換可能なサービスを選択しましょう」

・途中解約できる
「レンタルの場合は途中で止めることはできません。借りたら期間が終了するまで使う必要があります。サブスクでは、一般的には使用を止めたいときに止めることができます。ただしレンタル開始期間後数ヵ月は解約できない場合もあるため確認しましょう」

・故障、破損した場合や使い方に困ったときもサポートを受けられる
「レンタル期間内に壊してしまった場合も、補償付きで無償または比較的安く修理してもらえたり、代替商品を届けてくれたりするサービスもあります。製品によっては消耗品を無料で送ってくれるサービスがあったり、使い方に困ったときも、多くの会社では電話やメールでサポートしてくれるので安心して利用できます」

 

「また、レンタルとサブスクでは、借りる商品にもそれぞれ傾向があります。レンタルでは、旅行やイベントなどの期間限定で使いたいカメラのような小型家電が人気なのに対し、サブスクでは冷蔵庫や洗濯機などの大型家電が借りられています」

 

利用者のニーズに応える、家電サブスクの登場が業界を変えた

なぜ今、家電サブスクが人気を集めているのでしょうか?

 

「例えば、スティック掃除機などは家電量販店に行けば実際に手にとって使ってみることで使いやすさを体験できます。しかし、美容家電となるとその場で試したところで効果が分かりにくい、数日使ってみないと分からないな……と思うのが正直なところではないでしょうか。そのニーズにマッチしたのが家電サブスクでした。単価の高い家電用品は買ってからいまいちだったと後悔したくない品物です。実際に使ってみて始めて気がつくこともあるでしょう。レンタルして試すこともできますが、あくまでも返品が前提のサービスです。使ってみてよかったら購入もできる機会があるサブスクであれば、商品の選択の幅も広がります。しかしながら、会社によって多種多様なサービスがあり、利用者からすると複雑に思えてしまうこともありました。そのような状況のなか、2022年からサービスを開始したアリスプライムでは定額プランというシンプルな料金形態を採用しました。この新しいサービスは成長していく家電サブスク業界のなかで話題となりました。家電を使ってみてから購入するという新しいスタイルが始まっています」

 

家電サブスクはこんな人におすすめ

家電サブスクはどのようなライフスタイルの人に適しているのでしょう?

 

「家電サブスクで扱われている商品は比較的高価なものが多いです。よって、たとえば4年間の大学生活のみで使う最低限の機能のついた機種を安く手に入れられればそれで良いという考えの方には向かないでしょう。家電の高級機種の購入を視野に入れて、まずはお試ししたい人に適したサービスと言えます」

 

・新婚生活を始める人
「結婚など、ライフスタイルの変化にともなって、一度に多くの家電を揃える必要があるときにサブスクはおすすめです。サブスクを利用すれば、機能の充実した最新の家電を使うことができ、購入する金額が貯まったり、気に入ったりすればそのタイミングで購入することができます」

・転勤や引越しを控えている人
「将来的に転勤や引越しがある場合にもサブスクは便利です。必要に応じて借りたいものを借り、引越しのタイミングで返却すれば運搬の費用もかかりませんし、使わなくなった場合も返却するのみなので処分費用がかかりません」

・ミニマリスト思考の人
「ご自身のライフスタイルにあったものだけを厳選して持ちたいと考えるミニマリストの人にも家電サブスクは向いていると思います。ものを選び抜くために、家電の使い勝手を試せる期間が設けられているサブスクはちょうど良いのではないでしょうか」

 

家電サブスクのおすすめ活用法

家電サブスクを使っている人はどのように活用しているのでしょうか? 便利に使うヒントを教えていただきました。

 

・高額な最新家電を試したい
「家電は次々に新しい機種が発売され、そのサイクルには目を見張るものがあります。いち早く新しい機種を気軽に使いたい人には大変便利なサービスです」

・初期費用を抑えたい
「サブスクは分割払いのような役割も持っています。冷蔵庫や洗濯機といった高額の大型家電も、サブスクであれば定額払いで使用することができます」

・期間限定で使いたい
「とくに小さなお子さんのいる場合、生活の中で必要となるもののサイクルが早いですよね。忙しい育児の合間を縫ってフリマサイトに登録するのも難しいもの。ベビーモニターや体重計など、期間限定で使う商品を借りれば、育児にかかる費用の負担を減らせます」

・季節ごとに使いたい
「場所をとる季節家電を借りるのもおすすめです。使う時期だけ借りて、いらないときに返せば、部屋にゆとりが生まれます」

・使っていた家電が故障してしまった
「家電の突然の故障など、トラブルのときにもサブスクは便利です。早く新しい商品を買いたいけれど、しっかりとリサーチしたい場合や、買いたい商品の入荷を待つ場合などにもサブスクを活用することができます」

 

利用する前に知っておきたい家電サブスクの注意点

実際にサービスを開始しようと考えたときに、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?

 

「ひとえに家電サブスクといっても各社のルールは違います。利用規約をよく読んだうえで、自分にあったサービスを納得して始めることが大切です。ここでは、基本的な注意点についてお答えします」

 

・新品か中古品か

「家電サブスクでは中古品のことを『セカンドハンド』と呼んでいます。実際に使ってみて買いたいと考えたときに、その品物が新品か中古品かではもちろん値段に違いが出てきます。もし中古品に抵抗があるという方は、新品のみを取り扱う会社を選ぶ方が無難でしょう」

・商品の交換が可能か

「ちょっと思っていたものと違ったり、ほかに迷ってる商品があったりする場合など、商品を交換したいこともあるかもしれません。交換できるかどうかは会社によって違います。迷いが出そうであれば、交換可能な会社を選ぶようにしましょう」

・解約期間

「借りたい商品がいつから解約できるのかを調べておく必要があります。早めの段階で不要と判断したとしても、解約期限付きの場合、期日までは支払い借り続けなくてはいけません。サービスによっては縛りがなく、短い使用期間でも利用料金の安いものもあれば、使用期間に1年〜2年の縛りがあり、長期間使うことが前提で安くなっているケースもあります」

・借り続けた場合と、購入した場合の金額の差額

「だいたいの商品は2年〜3年使えば、購入金額を上回るような料金設定となっています。期間を過ぎればそのまま購入に至る場合もあるでしょう。では、いつ判断をすれば良いのか? 目安としては、レンタル開始後解約できるようになる期間までに、購入するか返却するかを決めることをおすすめします。ずるずると使い続けていざ返却したいとなったときには結果として割高になっていることもあるので注意が必要です」

・送料

「大型家電であれば送料もそれなりにかかってきます。基本的には送料は会社側の負担であることが多いですが、そうでなかった場合、そこを見落としてしまうと思わぬ出費になりかねません。そのほかにも回収費用や設置費用も事前にチェックしましょう。3ヵ月借りれば送料や回収費が無料になるサービスを行っている会社もあります」

 

家電のプロおすすめの家電のサブスク4選

最後に、田中さんに今おすすめの家電のサブスクサービスを紹介していただきました。

 

■ 安心の定額料金が人気! 自由に商品変更ができる便利なサービス

 

Alice.style PRIME(アリスプライム)
・料金 2980円(税込)/ 月
・配送料 無料
・レンタル商品 新品 / 中古
・商品交換 可
・試用後購入 可(一部購入不可)
・最低レンタル期間 無

どの商品も定額制のシンプルプラン。月に何度でも交換することが可能です。多くの商品を使ってみて、より良い商品選択をすることができます。保険適用の商品であれば、故障や破損も個人負担がないので安心です。

 

「脱毛器など、実際に試してから購入したい美容家電がとくに人気です。また、1年プランや半年プランを選択すれば1ヵ月あたりの料金が安くなります。家電サブスクが初めての方にはこのシンプルかつわかりやすいサービスがおすすめです」

 

■ おしゃれな暮らしを目指す人に。インテリア性を重視したアイテムが勢揃い

 

subsclife(サブスクライフ)
・料金 500円(税込)〜 / 月
・配送料 有料
・レンタル商品 新品
・商品交換 不可
・試用後購入 可
・最低レンタル期間 3ヵ月〜

すべての商品が新品のため、気持ちよく使えます。家電だけではなく家具も豊富に取り揃えており、暮らしの中で必要なアイテムを多く試せるのが魅力です。購入の場合は、商品価格とその時点で支払い済みの合計月額利用料との差額を支払います。月額料金は、商品価格を超えない設定です。

 

「とにかくおしゃれ! 人気有名ブランドの家電も豊富に取り揃えたサブスクです。実際に借りてみてサイズやほかの家具や家電との調和も見てみたい人におすすめです。よりセンス良く暮らしたいという欲求を満たすのに一役買ってくれます」

 

■ 欲しいものが見つかる。登録商品の多さは随一!

 

Rentio(レンティオ)
・料金 1980円(税込)〜 / 30日31泊(ロボット掃除機の場合)
・配送料 無( レンタル料に含む)
・レンタル商品 新品 / 中古
・商品交換 一部可
・試用後購入 可
・最低レンタル期間 ワンタイムプラン 3泊4日〜 / 月額制プラン 最低3ヶ月〜

借りて期間を待たずとも購入することができるのがポイント。高性能カメラからブランド家電まで幅広く取り揃えているため、何を選んで良いか迷ったときにチェックして欲しいおすすめのサービスです。

 

「レンタル料金以外の費用は基本的にかかりません。とくにカメラに関してはとても豊富に展開しています。実績のある会社で3500種類以上の家電を展開しているのが強みです」

 

■ 一人暮らしの強い味方。お得な家電セットでリーズナブルに生活をスタート

 

デザインアーク(大和ハウスグループの家具家電レンタル・リース)
・料金 3410円(税込) / 月〜 +初月のみ基本料金
・配送料 エリアごとに別途負担
・レンタル商品 新品(リース) / 中古(レンタル)
・商品交換 可(初期不良や通常使用による不具合のみ対象です)
・試用後購入 可
・最低レンタル期間 指定なし(期間を問わず最低料金は1ヵ月分になります)

 

必要な機能のついた家電一式を手早く揃えたい方におすすめです。家電4点セットや、単身赴任・転勤セットなどまとめて借りられるのが特徴。品揃えが豊富で、2年間くらいの期間にテレビ、洗濯機、冷蔵庫などの生活家電一式を揃えたい方には便利なサービスです。

 

「学生の一人暮らしや転勤・単身赴任など新生活スタートの際におすすめです。一つひとつを買い揃えるのはコストもかかりますし、なによりも手間がかかってしまいます。このように単身者向けに特化したサービスを選べば状況にマッチしたものを効率よく選ぶことができますね」

 

高価だからとためらっていた商品も、試して納得のうえで買えるのであれば、それはとても良い買い物になります。借りることも買うこともできる家電サブスクは、今後私たちの暮らしにかかせないサービスになっていきそうです。

 

プロフィール

家電ライター / 田中真紀子

白物家電、美容家電を中心に、雑誌、ウェブなどで執筆。家電製品の検証やレビュー記事では、主婦目線を大切にした感性に定評がある。家事やインテリア、生活雑貨など、暮らしにまつわる記事も手がける。近年は専門家としてコラム執筆やメディア出演も多数。
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「安全な水とトイレ」の普及で企業の役割が拡大! 1600億円規模の市場に投資を促進

世界では子どもの約30%がトイレや水道のない学校に通っていると言われています。このような学校の衛生環境を改善するためには、どうすればよいのでしょうか? 近年、発展途上国では企業が現地の政府と組んで、学校のトイレや水道の整備に乗り出す動きが広がりつつあります。この取り組みは社会的なインパクトが大きいだけでなく、新たなビジネスチャンスとしても注目されています。

学校にトイレを普及するうえで企業が果たす役割が大きくなっている

 

発展途上国の多くの学校ではトイレや水道といった設備が整っておらず、子どもたちに深刻な影響を及ぼしています。ユニセフの調査によれば、学校でトイレが利用できないために、身体の不調や集中力の欠如が見られる子どもの割合は、ほぼ5人に1人に上るとのこと。10人に1人以上は排泄を避けるために意図的に食べ物や飲み物を取らないほか、女子の場合は生理中に学校に通わず自宅で過ごすことも多く、学校中退の増加につながるとされています。

 

また、トイレの不足や汚れは、下痢性疾患や寄生虫の増加といった健康上のリスクを増大させるだけでなく、水質汚染を引き起こすなど広範囲に悪影響を及ぼします。

 

このような状況を変えるために、地元の企業が政府と協力しながら学校にトイレや水道を提供し、衛生施設を管理する取り組みが広がっています。トイレが設置されると、学校側にはトイレットペーパーや石鹸をはじめ、生理用品や掃除用品などを揃える必要がある一方、これらの製品を取り扱う地元の企業にとってはビジネスチャンスとなります。

 

トイレから出る汚物や汚水の再利用にも企業が参入するようになりました。トイレから出る汚物は回収された後、農産物の肥料やバイオガスとして活用されています。バイオガスは家庭における料理や暖房などでも使われるほか、電気に変換することも可能。この取り組みは、経済活動のなかで廃棄されていた製品や原材料などを資源として再利用するサーキュラーエコノミー(循環型経済)の典型的な例と言えるでしょう。

 

そのほかにも、回収したトイレの汚物を分析して子どもたちの健康状態を管理する技術を企業が開発しており、学校の水質や衛生状態をモニタリングするための指標として活用されることが期待されています。

 

1ドルの投資で4.3ドルのリターン

学校のトイレや水道の整備には、どれほどの市場規模があるのでしょうか? 世界の水や衛生問題の解決を目指す企業が集まる「Toilet Board Coalition」がフィリピン、ナイジェリア、メキシコを対象に行った調査によれば、フィリピンの市場規模は年間9億4800万ドル(約1261億円)、ナイジェリアで6億6500万ドル(約884億円)、メキシコで12億ドル(約1600億円)とのこと。

 

このように、水や衛生への投資は世界中で年間数十億ドル相当の利益を生み出す可能性があります。学校のトイレや水道を整備するためには、従来の3倍以上の支援が必要と言われていますが、WHO(世界保健機関)は「水・衛生分野に1ドル(約133円※)投資すると、生産性が向上して4.3ドル(約570円)のリターンが期待できる」と試算しており、企業に投資を促しています。

※1ドル=約133円で換算(2023年4月13日現在)

 

発展途上国における学校のトイレや水道整備への投資は社会的意義が高い事業であり、大きなビジネスチャンスがあると言えるでしょう。販路拡大にとどまらず、企業のブランド価値向上につながる広報効果や、現地企業や政府など新たなパートナーの開拓も期待できます。こういったメリットを鑑み、関連事業を手がける日本企業は途上国の学校への投資を積極的に検討してみる価値があるのではないしょうか?

 

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ECサイトのフェイクレビューを一掃! インドで「オンライン消費者レビュー」の新基準が制定

 

オンラインショッピングやホテルを予約する際、購入者や利用者のレビューを参考にしている人も多いのではないでしょうか。しかし最近は、レビューが信頼できないケースも増えてきました。こうした問題に対処すべく、インドで世界初となる「ECサイトからフェイクレビューを排除する基準」が導入されました。

 

ECサイトレビューの自主的な開示を義務化

The Times of Indiaの報道によると、2022年11月25日以降、インドにおけるすべてのEC業者や旅行・チケット販売ポータル、オンライン食品販売サイトは、スポンサーのレビューなどを自主的に開示しなければならなくなったと言います。これは、インド基準局(BIS)が作成した「オンライン消費者レビュー」に関する新基準に則ったもの。

 

それにともない、ユーザーなどから購入したレビューや、人を雇って書かせたレビューなどが公開できなくなりました。独立した第三者機関がオンライン上にレビューを投稿する場合にも、この基準が適応されることになります。

 

今回の基準は、製品やサービスに関する偽りや、消費者を騙す目的のレビューを排除するのが目的。違反した場合は不公正な取引とみなされ、事業者は消費者保護法に従って処分されることになります。

 

GoogleやMetaなどのグローバル企業も協力

オンラインレビューにおける新たな基準の策定には、GoogleやMetaといった大手企業も委員会の一員として参加しています。外国資本の意見を取り入れることで、高いコンプライアンスの実現を目指しているのです。

 

BISはレビューの適合性に関する評価方法を策定し、それにのっとったウェブサイトの認証に着手。認証されたウェブサイトは、BISからの証明書を表示することが可能になりました。

 

中央消費者保護局のNidhi Khare(ニディ・カレ)氏は、「オンラインレビューの新基準の焦点は、適切な情報開示。オンラインサイトは消費者が誤解しないように、レビューが収集された期間を明示しなければならない」と語っています。さらに、購入されたレビューは「詐欺以外のなにものでもない」と強調しました。カレ氏によれば、トルコやモルドバでは偽レビューに関するビジネスが横行しているとのこと。

 

日本国内のECサイトなどでも、同様のフェイクレビューが後を絶たない現在、レビューの信頼性を高めようとするインドの取り組みは、その実効性も含めて大いに注目したいところです。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

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日本のウォシュレットが欲しい! 先進国入りを目指すタイのトイレ事情

11月19日は「世界トイレの日」。2013年に国連が世界各国の衛生状況を改善するために設けました。タイでは19世紀のコレラの蔓延を契機にトイレの普及に力を入れ始め、1980年代の経済発展を経て、今日ではほぼ全世帯にトイレが設置されました。タイ政府は2036年の先進国入りを国家目標とし、公衆衛生の向上に力を入れています。タイのトイレ事情について、その歴史から現在の動向までを説明しましょう。

トイレは先進国入りを目指すタイの象徴

 

タイのトイレ史

18世紀末までのタイでは王族や貴族、僧侶のみがトイレを使用し、庶民は川や森、野原などで用を足していました。昔の俗語で「森に行く」や「畑に行く」は排泄を意味しています。

 

ところが、1817年にインドのガンジス川流域でコレラが大発生し、ラーマ2世統治下のタイ(サイアム)にも被害が及び、バンコクを中心に多くの人が犠牲となりました。その後もコレラはたびたび発生したため、1897年にラーマ5世が「バンコク都公衆衛生法令」を発し、バンコク市民はトイレで排泄するように義務付けられ、トイレの普及に乗り出します。

 

20世紀に入り、米国のロックフェラー財団から援助を受けたタイ政府は、地方でのトイレ建設を進め、設置数を増やしましたが、本格的な普及にはまだまだ及ばない状況でした。1930年代からはトイレ使用と入浴に関する児童用教材を製作し、国民の衛生意識育成を強化。その結果、第二次世界大戦後よりトイレが本格的に普及し始めたのです。タイ国家統計局のデータによれば、全世帯におけるトイレの普及率は2000年に約98%に達したとのこと。

 

日本とかなり異なるタイのトイレ

このような歴史を持つタイのトイレには日本と異なる点が多く見られます。主な違いを3つ挙げましょう。

 

1: トイレットペーパーを流せない

タイのトイレはトイレットペーパーを流せません。タイは水不足に悩まされることも多いので、水不足に備えて下水は配管が細く、水の勢いも弱く設定されています。トイレットペーパーを流すとすぐ詰まるので、トイレットペーパーは使用後に備え付けのゴミ箱に捨てています。

「紙をトイレに流すな」と注意を呼びかけるステッカー

 

2: ハンドシャワーで流す

日本では自動でお尻を洗い流すシャワートイレが普及していますが、タイでは空港や高級ホテル、高級大型商業施設にしか設置されていません。普通の商業施設や一般家庭トイレでは、設置されたハンドシャワーでお尻を流します。下水道の流れは弱くても、商業施設のハンドシャワーの中には水の勢いがとても強いものも。そのため、下着やズボン・スカートが濡れてしまうこともあるので注意が必要です。

 

3: タイ式トイレ

近年は便座式トイレが普及してきましたが、公衆トイレや古い商業施設、地場レストランでは旧来のタイ式トイレが残っています。和式トイレのデザインと似ているものの、和式とは逆にドアに向かってしゃがんで用を足します。水洗式ではない場合、トイレ内にある水槽の水をバケツに汲んで汚物を流します。

タイ式トイレで奥に見えるのが汚物流し用水槽とトイレットペーパーを捨てるゴミ箱

 

このように日本とは異なる点が多いタイのトイレ事情ですが、先進国入りを果たすには公衆衛生意識のさらなる向上が不可欠。そのために、官民挙げたさまざまな動きが見られます。

 

タイ政府は2010年代以降、世界トイレの日に合わせて公衆衛生のキャンペーンを実施してきました。さらに近年では学校教育にSDGsカリキュラムを取り入れ、トイレを中心とした公衆衛生の向上に取り組んでいます。

 

2018年には「20年間国家戦略」に沿い、保健省主導で「2019-2030年 安全衛生管理のためのマスタープラン」が以下のように策定されました。

 

1: 社会的弱者のための衛生的な家庭用トイレの増加

2: 衛生的な公衆トイレ、特に学校のトイレの増加

3: 安全なし尿管理システムの増加

 

各施策の予算配分を厚くし、すべての人の健康増進と伝染病の予防、健全な環境と生態系維持への貢献を目指しています。

 

日本企業もしのぎを削るトイレビジネス

1980年代におけるタイの経済発展に伴い、トイレは旧来のタイ式トイレから便座式に変わってきました。タイ王室系の最大財閥・サイアムセメントは1984年に日本のTOTOと合弁会社「COTTO」を設立し、便座式トイレの展開に着手。その後、アメリカン・スタンダード社が参入し、現在でもタイのトイレはCOTTOとアメリカン・スタンダード社の2社がシェア1位と2位を占めています。

 

TOTOは2013年にサイアムセメントとの合弁を解消し、以降はTOTOブランドでシャワートイレを販売。大型商業施設や高級ホテル、高級コンドミニアムを主な販売先として事業を展開しています。

 

近年、タイ人の日本へのビザなし渡航が解禁されたことで多くの人が日本のシャワートイレの良さに気づき、家庭用シャワートイレ(ウォシュレット)を望む声が高まりました。現在は一般家庭向け低価格モデルのシェア争いで、各社はしのぎを削っている状態です。

 

先進国入り目標に向けてトイレに関しても公衆衛生プロジェクトを推進するタイでは、10年後にはハンドシャワーやタイ式トイレがなくなってしまうかもしれません。タイらしさが薄れる一方で、誰でも利用できる衛生的かつ現代的なトイレが国中に普及するでしょう。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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アウトソーシングの好条件が揃うフィジーのコールセンター事業

 

オセアニア東部の島しょ国であるフィジー共和国(以下、フィジー)でコールセンタービジネスが広まっています。さらに、それにとどまらないアウトソーシングビジネスへの展開も始まっているとか。美しい自然で知られるフィジーで、今なにが起きているのでしょうか?

 

四国とほぼ同じ面積であるフィジーの人口は約90万人。公用語は英語で、フィジー系の住人とイギリス統治時代に移住してきたインド系住民で構成されています。以前はオーストラリアやニュージーランドとの関係が深かったのですが、最近は中国からの投資も増えています。

 

フィジーの主な産業は農業や観光。しかし新型コロナによる影響で、観光業は大きな打撃を受けました。また地域最高峰といわれる南太平洋大学があるにもかかわらず、国内の雇用先が少ないことから、学生が卒業後に他国に出ていってしまうという課題も。そのため、新たな産業への転換はもちろん、学生に向けた新たな雇用を創出するためにも、テクノロジーなど新たな分野への投資が急務でした。

 

コールセンターの設置に適した環境

そんな状況下で急速に広がりつつあるのが、コールセンタービジネスです。フィジーは、地理的にオーストラリアやニュージーランドだけでなく、アジアや北米にもアクセスしやすいのが特徴。また、海底ケーブルが整備されており、インターネットへの接続環境も整っています。しかも公用語が英語であることから、グローバルなビジネスを展開しやすいというメリットがあるからです。

 

このようなフィジーの動きに、早くも各国から熱い視線が向けられています。BBC Newsの報道によれば、オーストラリアの多国籍銀行グループであるANZは、クレジットカード処理や融資業務、支払い、口座サポートのために、フィジーのコールセンターを利用しているといいます。

 

一方、フィジーの地元メディアであるFiji Villageは、世界的な信用調査会社であるPepper Advantageが、同国で大規模なアウトソーシングビジネスを開始すると報じました。これにより、今後5年間で800人から1000人の新しい雇用の創出が期待されるそう。

 

これを受けて「Pepper Advantageによるハブの設立が、フィジーへのアウトソーシングを計画している国際企業の進出を促進するだろう」とフィジーのアウトソーシング事務局長のSagufta Janif(サグフタ・ジャニフ)氏がコメント。さらに、フィジーでさまざまな事業を展開するTruman Bradley(トルーマン・ブラッドリー)氏も、同国におけるテクノロジー産業の構築により、より多くの卒業生がフィジーにとどまり働くことになるだろうとの期待を寄せています。

 

農業や観光業から、コールセンターなどのテクノロジーを活用したアウトソーシングビジネスへと転換を図ろうとしているフィジー。この流れは、雇用の創出はもちろん、フィジー経済の発展にひと役買いそうです。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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5年連続で世界1位!「日本のパスポート」が世界最強であることの意味

7月、イギリスのコンサルティング企業であるヘンリー・アンド・パートナーズ(H&P)が、世界パスポートランキングの最新版(正式名は「The Henley Passport Index: Q3 2022 Global Ranking」)を発表。日本は史上最高の193点を獲得し、5年連続で1位になりました。日本のパスポートが“世界最強”であることは何を意味するのでしょうか?

もはやパスポートは単なる身分証明ではない

 

2006年から四半期ごとに発表されている同パスポートランキングは、IATA(国際航空運送協会)のデータをもとに、ビザなしで渡航できる国の数を調査しています。2022年第3四半期のランキングの結果は以下の通りでした。

 

1位: 日本(193)

2位: シンガポール、韓国(192)

3位: ドイツ、スペイン(190)

4位: フィンランド、イタリア、ルクセンブルグ(189)

5位: オーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデン(188)

6位: フランス、アイルランド、ポルトガル、イギリス(187)

7位: ベルギー、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、アメリカ(186)

8位: オーストラリア、カナダ、チェコ、ギリシャ、マルタ(185)

9位: ハンガリー(183)

10位: リトアニア、ポーランド、スロバキア(182)

※( )はスコア。出典:The Henley Passport Index: Q3 2022 Global Ranking

 

評価方法は、ある国・地域に入国するとき、ビザが必要なら0点、ビザの取得は必要はなく、パスポートのみで入国できる場合(到着した空港で取得できるアライバルビザを含む)は1点とカウントし、総合スコアで順位を付けています。例として日本のスコア(193)を見てみると、日本のパスポートを持っている人は、ビザなしで入国できる国と地域が世界に193あるということ。このパスポートランキングで日本が1位になったのは5年連続で、シンガポールや韓国もトップ3の常連です。

 

では、このランキングで上位に入ることは何を意味するのでしょうか? ここで注目したいのは、世界の平和や安全保障などに関するデータを提供するVision of Humanityがまとめた「グローバル・ピース・インデックス(世界平和指数)」との関係。この指数は、殺人率や政治テロ、内戦などの死者数などをもとに、世界各国の平和レベルを評価するものです。H&Pが、パスポートランキングの結果と世界平和指数を比較したところ、前者の上位10か国は後者でも上位10位にランキングしていることが判明。例えば、日本は世界平和指数で10位である一方、ヨーロッパ諸国はパスポートランキングと世界平和指数で上位を占めています。それに対して、パスポートランキングで順位が低い国は、世界平和指数でも下位。この2つのデータの間に相関関係があることがわかります。

 

最新版のパスポートランキングについて、オックスフォード大学サイードビジネススクールのフェローであるスティーブン・クリムチュック・マシオン氏は、「新型コロナウイルスのパンデミックやインフレーション、政治不安、戦争など、私たちは激動の時代を生きています。そんな中でパスポートは、これまで以上に『名刺』の役割を果たすようになってきており、渡航先での待遇や安全に影響を与えます」と述べています。

 

最近、日本はコロナ禍の「鎖国」政策を徐々に緩和し始めました。訪日外国人観光客の受け入れが再開した一方、海外直接投資も回復傾向にあります。これから日本企業が海外に進出したり、ビジネスパーソンが外国でリモートワークをしたりする際、日本のパスポートは平和と安全の象徴として重宝するかもしれません。もちろん、パスポートだけで身の安全が保証されるわけではありませんが、日本のパスポートは少しの安心感と自信を与えてくれることでしょう。世界が歓迎してくれるはずです。

 

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SDGsの「目標4:教育」に警鐘! 活路はアフリカへの「オンライン教育」の技術提供か

9月19日、米国・ニューヨークの国連本部で「トランスフォーミング・エデュケーション・サミット(TES)」が開催されます。このサミットは、「質の高い教育をみんなに」という目標を掲げる持続可能な開発目標(SDG)4の実現に向けて、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が国際社会の協力を強化するために構築した「グローバル・エデュケーション・コーポレーション・メカニズム」の一環。SDG4は2030年までに「教育への普遍的なアクセス」の実現を目指していますが、実はいま、この計画が危機的な状況に陥っているのです。

どうすれば世界は結束するのか?

 

TESに先行して、ユネスコは7月に『2022 SETTING COMMITMENTS』というレポートを発表しました。SDG4には、退学率やジェンダーギャップなど7つの指標があり、それぞれの目標が達成されるために、世界各国がどれだけ貢献するかを決めています。ユネスコは各国の取り組み状況を調べ、以前よりも多くの国がSDG4の実現に向けて取り組むことを約束した、と同レポートで述べています。しかし、前向きな材料はそれ以外にほとんどなかった模様。

 

現状は厳しいようです。同レポートの主な論点は、2030年までにSDG4を達成するのが難しいということ。たとえ各国の取り組みが順調に進んだとしても、未就学の児童や青少年の数は2030年までに約8400万人に上る見込みと言われています。また、同年までに初等教育(日本では小学校に当たる)を修了することができる子どもの数は世界中で3分の2以下とされる一方、ほぼ全ての子どもが中等教育(中学校と高校)を終えることができそうな国の割合は、6か国中わずか1つ。「普遍的なアクセス」と呼ぶには程遠い状況です。

 

これを受けて、国連は警鐘を鳴らし始めました。ECOSOC(国際連合経済社会理事会)のコレン・ヴィクセン・ケラピ議長は、途上国と先進国の間で教育格差が拡大しており、その中でもアフリカの教育環境が最も脆弱であると述べています。新型コロナウイルスのパンデミックがこの傾向に拍車をかけていることは明白ですが、「仮にいまアフリカ諸国がオンライン教育に舵を切っても、オンライン教育を行うための技術的な方法がない」とケラピ議長は指摘。持てる国が持たざる国と技術や方法を共有する必要があると論じています。

 

SDG4を達成するためには、先進国と途上国の結束が重要。これからも国連の機関は従来の指標を使って各国の取り組みを測定します。危機的な状況下にある国を支援するためには先進国の指導的役割が不可欠ですが、オンライン教育や回線接続環境などにおいては、民間企業を含めた国際協調体制の構築が強く求められるでしょう。

 

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おすすめのポイントサイトは? マイナポイントはどうする? カードの達人が教える「ポイ活」の極意

「ポイ活」とは、さまざまな方法で効率よくポイントを貯めたり、お得に使ったりすること。20年くらい前から、主婦層を中心に広がってきました。最近は、カードよりもアプリで管理するのが主流になっています。今回は、ポイントプログラムのポータルサイト「ポイ探」を運営している菊地崇仁さんに、初心者がポイ活を成功させるためのコツやノウハウを教えていただきました。

 

同じカード決済に集約すべし!
ポイ活を成功させるための基本ルール

ポイ活を楽しみながら続けるコツはあるのでしょうか?

 

「『駅から自宅への帰り道にあるドラッグストアよりも駅の反対側にあるお店の方がポイント還元率はいいから、そっちへ行こう』というような、ポイ活のために生活に負担をかける行動を増やす発想は避けた方がいいでしょう。ポイントを貯めるために時間や労力をかけることは、疲弊して長続きしません。

もっとも手軽で簡単なのは、楽天ポイントやTポイントなどの、多くの店舗で使用できる『共通ポイント』を活用すること。共通ポイントが貯まるクレジットカードを使い、たとえ数百円の支払いでも、クレジットカード決済が可能であればカード払いにすると、効率的にポイントが貯まります。クレジットカードが使えない場合のみ電子マネーでの支払いしにし、なるべく現金での支払いは避ける。これが、ポイ活を成功させるもっとも簡単な方法です」(株式会社ポイ探 代表取締役・菊池崇仁さん、以下同)

 

ポイ活の基本ルール

・共通ポイントを活用する
・なるべくクレジットカード決済を使う
・カードが使えない場合は電子マネーを使う

 

メリットいろいろ!
押さえておきたい主要なポイントサービス

ポイントを貯めるとひと口にいっても、その種類は膨大です。どのようなポイントサービスが狙い目なのでしょうか?

 

「楽天ポイント、Tポイント、dポイント、Pontaポイント、あたりが貯めやすいと思います。ほかには、WAON POINT、nanacoポイント。これらの中で、ネットや日常の買い物エリアで使いやすいものを選びましょう。
ほかには、日用品や家電系の買い物でよく利用するビックカメラやヤマダデンキのような家電量販店、最寄り駅やショッピングエリアにあるLUMINEや高島屋などの専門店系、出張や遠方への帰省で飛行機に乗る機会の多い方であれば、ANAやJALなどのマイレージカードもポイントが貯めやすいかもしれません」

 

主な共通ポイント

・楽天ポイント
クレジットポイントの還元率は1%、SPU(スーパーポイントアッププログラム)という独自のポイント倍増サービスがある。100〜200円ごとに1ポイントが貯まる。

・Tポイント
もとは「TSUTAYAレンタル会員証」として発行され、現在ではファミリーマートやガスト、ウエルシアやマルエツなど、多くの大手チェーン店が加盟。200円ごとに1ポイントが貯まる。

・dポイント
NTTドコモが発行。ドコモユーザー以外でもポイントが貯められ、ファミリーマートやローソン、マツモトキヨシなどの大手チェーン店が加盟中。100〜200円ごとに1ポイントが貯まる。

・Pontaポイント
Pontaカードで貯められるポイント。ローソン、KFC、シェル(ガゾリンスタンド)、すき家など、大手チェーン店が加盟。ポイントの付与率は提携先により異なる。100〜200円ごとに1ポイントが貯まる。

・WAON POINT
イオンが発行。イオンモール、VIVRE、ダイエー、マックスバリュなどのスーパーや、まいばすけっと、ミニストップなどが加盟。200円ごとに1ポイントが貯まる。

・nanacoポイント
セブン&アイ・ホールディングスが発行。セブンーイレブン、イトーヨーカドー、デニーズ、ロフトなど、使用頻度の高い大手チェーン店が加盟。100〜200円ごとに1ポイントが貯まる。

 

申請もれには注意!
マイナポイント第2弾がスタート

マイナンバーカードを申し込むと、希望するキャッシュレス決済サービスを指定して受け取れる「マイナポイント」。健康保険証としての利用申し込みと公金受取口座の登録も合わせて申請すれば、1人につき最大20,000ポイントが付与されます。

 

「これは家族全員が対象で、お子さんのマイナンバーカード分は親名義のキャッシュレス決済サービスで受け取れるので、家族分となると高額です。ちなみに、第1弾のときは5,000ポイントの付与でしたが、第1弾で申し込みをした方も差額の15,000円分のポイントは受け取れるので、申請をしていない方は追加手続きを忘れずに。対象となるキャッシュレスサービス決済は、楽天ポイント、PayPayポイント、dポイント、au PAY、WAONほか、いろいろな種類があります。

ポイントサービスというと、企業主体のものが主流だと捉えがちですが、最近はマイナポイントのように、政府主導のものも見逃せません。衣類のリユースや賞味期限の迫った食材を買うなどによって、通常のポイントに上乗せされる形での導入が広がっている『グリーンライフ・ポイント』は、環境省によるサービスですが、今後のポイ活をする上でチェックしておきたいところです」

 

ポイントは寝かさない!
使うから得すると肝に銘じるべし

「最近は、電子マネーもポイントサービスもスマホのアプリで管理できますが、複数のカードを持つよりもアプリをダウンロードした方がかさばらないし、残高がすぐに確認できて便利です」という菊地さん。ただしポイントは貯め込むのではなく、どんどん使うべきだと力を込めます。

 

「ポイントとお金や電子マネーは別物。ポイントは、紛失・失効しても補償されません。そのため、なるべく早めに使ってしまった方が安心です。『毎月20日はウエルシア薬局でTポイントが1.5倍で使える』など、ポイントの還元率が上がるキャンペーンはあります。そのようなキャンペーンスケジュールが暮らしの中で取り込めるのであれば、毎月20日はウエルシア薬局で日用品を買い物するなどのマイルールを作っておくのはいいですね。ただし、5,000円分や10,000円分など、まとまった金額のポイントが貯まってから使おうとすると、ハッキングなどで狙われやすくなりますし、ポイントの有効期限で失効することもあるので、数ポイントでも貯まったら使ってしまうのがおすすめです」

 

オンライン決済は
ポイントサイトを通すべし!

ポイントをより多く手に入れるために、オンラインで決済する場合は、なるべくポイントサイトを有効に活用したいところ。

 

ポイントサイトとは、成功報酬型広告を中心に広告代理業を行うウェブサイトのことで、『おこづかいサイト』とも呼ばれています。無料の登録をすることで利用でき、そのサイト経由でクレジットカードの契約をしたり、自動車保険見積もりをしたり、ネットショッピングやアンケート回答などを通じて、ポイントが加算されるものです。モッピー、ハピタス、ECナビなどが有名ですね。いくつかサイトを見に行って、使いやすそうなところのアプリをスマホに入れておくと、すきま時間にアンケートに答えたり、ここを経由してショッピングしたりすることでポイント稼ぎができます」

 

おさえておきたいポイントサイト

・モッピー

資料請求や会員登録、スマホアプリのダンロードなど、ちょっとした活動でコツコツとポイントが稼げます。無料ゲームで遊ぶだけでもポイントが貯まるのも魅力的。モッピーで貯めたポイントは、Tポイントへ加算できます。
https://pc.moppy.jp

・ハピタス

楽天、Yahoo、イオン、ビックカメラなどのネットショッピングの際にハピタスを経由するだけで、各ショップのポイント以外にもハピタスポイントが貯められます。ほかにも、アンケート回答や、ブログなどのSNSでクチコミをすることでボーナスポイントがもらえることも!
https://hapitas.jp/register

・Miles

すべての移動に“マイル”が付与されるスマホアプリ。このアプリを登録し、GPSを常時使用に設定しておけば、移動方法はAIが自動で判断してくれます。貯まったポ“マイル”は、ドリンクや飲食店の割引チケット、寄付などができます。
https://www.getmiles.com/jp

・ANA Pocket

日常の移動によって、ANAのマイルが貯められるスマホアプリ。「30日で200kmを歩いてみよう!」とか、「自転車と徒歩で合計100km移動しよう!」などの「移動チャレンジ」がいくつか設定されています。登録して目標を達成すると、報酬ポイントが加算されます。マイルを貯めるには、550円の有料アカウント登録が必要になります。
https://www.ana.co.jp/ja/jp/share/ana-pocket/

 

ポイントを貯めたり使ったりするのが面倒なら
「キャッシュバック型クレジットカード」がおすすめ

ポイントを貯める以外にも、お得感を味わえるのがキャッシュバック型クレジットカード。

 

キャッシュバック型クレジットカードとは、カードの利用合計金額から1%以上を自動で還元してくれるもの。『P-oneカード』や『Likeme by saison card』などが人気です。これは、ポイントを貯めたり使ったりするのがわずらわしくても、使いこなせるはずです。ポイントサービスとの併用もできるので、買い物ポイントに加えて、さらにここで利用額の割引を得るという使い方も可能です」

 

危険サイトと浪費には気をつけて!
ポイ活のデメリットと注意点

何ごとにもデメリットは潜んでいるもの。ポイ活をする上で注意するべきことも抑えておきましょう。

 

「ポイントを貯めるのも使うのもアプリを使うのが便利ですが、アプリやウェブサイトの中には、危険なものも存在します。まず、運営会社の名前が明記されているかどうかは必ずチェックしましょう。運営会社無記名で高還元率のポイント付与を謳っている場合、個人情報を抜き取られただけで、ポイントを交換する前に、サイトが閉鎖してしまうこともあります。あとは、『あと数百円でポイントが上乗せになる』というときの衝動買いにも注意。ポイ活に飲まれて時間とお金を浪費し、疲弊してしまいます」

ポイントが使える場面ではどんどん使い、より高還元率になるような方法を追求するのではなく、共通ポイントが貯まるクレジットカード決済での買い物をすればOKとする。これが、ポイ活を成功させるコツだと菊池さんは言います。コツコツと気軽に、ポイ活ライフを続けていけるといいですね!

 

【プロフィール】

クレジットカード専門家 / 菊地崇仁

株式会社ポイ探 代表取締役。2002年に友人と起業し、ポイント交換案内サービス「ポイ探」の開発に携わったうえで、2011年3月に同社代表取締役に就任。 90枚超のクレジットカードを保有し、約150万円の年会費を支払っている。実際に利用することで、信用できる情報提供をめざしているクレジットカードの達人。

HP=http://www.poitan.net/

マイラー歓喜! 年会費・審査ナシでANAのマイルがザクザク貯まるカードを持つとどうなるか計算してみた

いますぐ海外旅行を計画していなくても、いずれ訪れる解禁の日にむけ、マイルはしっかり貯めておきたい。そんなマイラーにおすすめしたいのが、ANAのマイルがザクザク貯まる「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」だ。マイルを貯めやすいといわれるカードは決して少なくないが、はっきりいってこのカード、次元が違う。そのメリットをじっくり紹介していきたい。

 

そもそもマイルを貯めるにはどんな方法がある?

・フライト利用で貯める!

もっともポピュラーなマイルの貯め方が、飛行機に乗るともらえるフライトマイルだ。マイル数は、搭乗区間の基本マイレージと予約クラスごとに積算率をかけて算出し、例えば、「成田・ホノルル」間(片道)は3831マイル、「成田・パリ」間(同)は6194マイルが付与される。海外出張や頻繁に旅行へ出かける人は貯めやすい。

※フライトにて積算されるマイル数は、「ご搭乗の区間基本マイレージ」と「予約クラス*ごとの積算率」によって異なります。積算されるマイル数についての条件、注意事項等はこちらを参照してください。(ANAの外部サイトにリンクします)
*予約クラスとは、航空券の購入運賃の運賃種別により分類されるクラスです。

 

・ショッピングで貯める!

普段の買い物にクレジットカードを使ってもマイルは貯まる。飛行機には乗らずにマイルを貯めるいわゆる“陸マイラー”は、マイルの付与率が高いクレカを選び、公共料金や通信費などもすべてカード決済にすることで、毎月効率よくマイルを積算している。

 

・“ポイ活”でマイルに交換して貯める!

ANAカードの提携パートナーのクレジットカードや、ショッピングで付与されたポイントならマイルへ移行が可能。また、ポイントサイトを使って貯めたポイントもマイルに交換できる。賢いマイル獲得術として「陸マイラー」には定番だ。

 

・その他の方法で貯める!

“フライト・クレカのポイント・ポイ活”。実はこれ以外にも、より効率的に、しかも大量にマイルを獲得する手段がある。それが「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」保有者限定で利用できる、外貨を預けるだけでマイルが貯まるプログラム。すでに他行でもっている外貨預金がANAマイル付き外貨定期預金の対象通貨なら、ソニー銀行に外貨送金して預けると、満期時にマイルを獲得できる。しかも、外貨預金や投資信託の月末残高に応じて、毎月マイルが積算されるのだ。

 

他にも、さまざまなマイル獲得方法を備えている。フルに活用すると「年間3万マイル貯める」ことも夢じゃないのだという。一体どうやって? 次で詳しく説明していこう。

 

ソニー銀行「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」

Visa 加盟店で使える Visa デビット付きキャッシュカード。国内の提携ATMで入出金や残高照会が利用できるほか、世界200以上の国と地域でのショッピングに使え、「Visa」および「PLUS」のマークのついた海外のATMでは現地通貨をスマートに引き出せる。

 

「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」でANAのマイルがもっと貯まる理由

世界を飛び回るビジネスパーソンならまだしも、年1-2回の旅行でもらえるフライトマイルだけでは1万マイル貯めることさえ難しいが、「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」は、飛行機に乗ることなく年間3万マイルも貯められるらしい。なぜそんなに貯まるのか? 理由を紐解きつつ、具体的にシミュレーションしてみよう。

 

理由1・カードの新規発行で貯まるから

ソニー銀行の新規口座開設と「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」の発行を同時に申し込むと500マイルが進呈される。

理由2・ANAマイル付き外貨定期預金で貯まるから

ANAマイル付き外貨定期預金は「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」保有者限定の商品で、満期になると外貨か円の普通預金へ振り替え、同時にマイルが積算される。満期のマイル獲得に加えて、外貨の預け入れを繰り返すことで効率よくマイルが貯まる。例えば、南アフリカランド148万円を6か月定期で2期間預けると、2万5400マイルとなる。

※申し込みが可能な通貨ならびに預け入れ期間および獲得マイル数は、定期的に見直しされるため、申し込み時に最新の条件の確認が必要。

理由3・外貨預金・投資信託で貯まるから

外貨預金と投資信託の月末の残高に応じてマイルが積算されるので、資産運用をしながらマイルを貯めることも。月末の残高総額が100万円以上500万円未満の場合は、100万円あたり20マイルも貯まる(年間最大4800マイル※)。他行で預けている外貨をソニー銀行へ移行するだけで、毎月気が付くとマイルが貯まっているということに! 例えば、月末の合計残高300万円×12か月で、720マイルが貯まる。

※月末の外貨預金と投資信託の合計残高が1000万円以上で1年間継続された場合。

理由4・国内ショッピングで貯まるから

月間の利用合計金額1000円に対して5マイルが積算される。コンビニの買い物などの少額決済でもマイルとして積算されるので無駄がない。例えば月7万円ずつ12か月利用したら、4200マイル。さらに毎月の公共料金や通信費もまとめて支払えば、マイルは加速度を増して貯まっていく。

 

=3万820マイル(年間)

 

さらなる理由は……
ANAクレカと2枚持ちできて、マイルも統合できるから

すでにANAカードを使っている人が「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」を申し込む場合、ANAマイレージクラブのお客様番号を伝えることで、2枚のカードで貯めたマイルは自動的に統合されるのも見逃せない。

あなたのプランでどれくらい貯まるかチェックしてみよう!【獲得マイルシミュレーション】

 

こんなメリットも見逃すな!

マイルを大量獲得できる2枚目カードとしても活躍しそうな「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」は、現地通貨の為替コストが安く、海外のATMを使って外貨がすぐに引き出せるなど、実は現地に着いてからも大活躍。1枚で海外旅行の強い味方になるはずだ。

 

・外貨両替の為替手数料でお得!

現地通貨を渡航前に準備しておく時、「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」なら、1USドルあたりの為替コストは業界最低水準の4銭〜15銭。たとえば1000USドル利用時の支払い額を外貨両替、カード会社所定の為替レートと比べてみると、外貨両替より2850円~2960円、カード会社所定の為替レートより1850~1960円、それぞれ得になる。

 

ほかに、ソニー銀行の為替手数料で得をする裏技はさまざま。毎月第一または第二金曜日の“雇用統計タイムセール”には外貨購入時の為替手数料が0円となる。またソニー銀行で口座開設すると、開設日が属する月の翌々月末日までの期間、外貨預金の円による、外貨購入にかかる為替手数料が無料に。例えば、1万米ドルの購入なら1500円、1万豪ドルなら4500円もお得だ。

 

ちなみに、世界200以上の国と地域にあるVisa加盟店では、デビットカードとして日本と同じように買い物が楽しめる。海外で決済をする際、10通貨中、対象の外貨預金口座に残高があれば、口座から直接引き落とされ、特別な手数料はかからない。

 

対象となる通貨は、例に挙げたUSドル・豪ドルのほか、ユーロから南アランドまで全10通貨と豊富だ。

 

・現地での外貨引き出しがスムーズ!

海外ATMを使って、自分の外貨預金口座からすぐに現地通貨を引き出せるため、空港での面倒な両替は一切不要。さらに「優遇プログラム Club S」のステージによっては、海外ATM利用手数料が最大月5回まで無料になるおまけ付き。

 

・年会費無料・審査なし!

年会費、新規発行手数料は無料。またカード発行のための審査がなく、申し込みから1週間程度でカードを受け取れる。口座に入金した瞬間からすぐに利用ができるのもうれしい。

 

・スタイリッシュなカードを持てる!

さまざまな場所で提示することになるカードは、やはり恥ずかしくないデザインがいい。ソニー銀行のVisaデビット付きキャッシュカード(写真)にあしらわれるマルチカラーストライプは、世界中の紙幣を集約するというストーリーをデザインしているという。今回はANAのイメージカラーであるブルーと、ソニー銀行のイメージカラー、グリーンを配した。

 

外貨預金が加わりマイルを貯める最強の切り札!

分散投資が一般になるなか外貨を銀行に預けるだけでマイルが貯まるのは「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」だけ。さらに国内ショッピングでの利用や外貨預金と投資信託の残高に合わせ、マイルが積算されていく。しかも、積算額も半端ではなく1年でハワイも夢ではない。陸マイラーにとっても最強の選択肢となるだろう。

 

※「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」は、日本国在住の個人で、ソニー銀行に円普通預金口座を保有する15歳以上のかたが利用できます。
※海外在住など非居住者は申し込みできません。
※ANAのマイル付き外貨定期預金は、「ANAマイレージクラブ / Sony Bank WALLET」をもつかたのみ申し込みできる商品です。
※満20歳以上のかたが利用できます。
※リスク商品に関する重要事項はこちら

 

文/安藤政弘

ヨーロッパで急成長中の医療×IoT「e-Health」、日本も注目すべき最先端を追う

【掲載日】2022年7月19日

新型コロナウイルス感染症の世界的流行も受けて、IoT技術を医療に取り入れるグローバルな潮流が加速されました。オンラインビデオ通話などによる遠隔診療をはじめとした、IoTを通じて個々の健康を増進する「e-Health」の取り組みが、世界各地で行われています。

 

EU理事会議長国であるフランスの取り組みの一環として、2022年5月にパリで開催された展示会「SANTEXPO 2022」では、最先端の取り組みを行う企業、研究・教育機関、NGOがヨーロッパ各地、さらにはそれ以外の地域からも出展。3日間開催された同展示会の出展社数は約600社、参加者は約2万人にのぼりました。この記事では、ヘルスケア・介護×IoTの最新トレンドをアイ・シー・ネット株式会社のグジス香苗がフランス在住の強みを活かし、実際に「SANTEXPO 2022」へ参加したレポートからお届けします。

パリ15区のポルト・ド・ベルサイユ見本市会場で開催

 

およそ600もの企業や団体がブースを出展した

 

薬局、市庁舎でも受けられる遠隔診療キャビンの導入

展示会場でまず目を引いたのが、遠隔診療用キャビン。日本でも普及が期待されているオンライン診療ですが、欧州では薬局を中心に、市庁舎、スーパーマーケットなど、公共の場所に遠隔診療用キャビンの設置が進んでいます。

 

キャビンにはオトスコープ(耳用の内視鏡)、デマトスコープ(皮膚の拡大鏡)、聴診器、パルスオキシメーター、体温計、血圧計といった検査機器が標準装備されており、簡易な検査に対応しています。また、薬が必要な場合は、キャビン内で処方箋をプリントアウト。薬局に設置されているキャビンを利用すれば、刷り出された処方箋で、薬を購入することができるので便利です。

ウェルネス、フィットネスサービスを展開するH4D社の遠隔診療用キャビン。人間工学に基づいて作られた椅子に座り、自ら検診器を使用する

 

キャビン上部に設置された画面に映る医師から問診を受ける

 

患者の情報が詰まった電子カルテは、暗号化されたうえで、EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、以下、GDPR)に基づいた高い安全性のもと、保管・管理されています。個人情報保護を目的に、2018年に適用が開始されたGDPRは、個人データを扱う機関・施設にデータ保護オフィサーの配置を義務付けるなど、高い基準が設定されているのが特徴。

遠隔診療サービスを提供するMEDADOM社の独立スタンド型診療用システム

 

保険証(緑色カード)を差し込み遠隔診療を開始。診療費は国民健康保険からMEDADOM社に払い戻される

 

遠隔診療用キャビンのリーディングカンパニーのひとつ、TESSAN社のスタッフによれば、同社製のキャビンは2018年から設置がスタートし、いまやフランス全土で450台が稼働しているとのこと。キャビンに訪れた患者に対応する医師・専門医は100人おり、患者数はなんと10万人におよびます。同社では、キャビン内の機器をさらに充実させる取り組みも行っており、眼科関連や心電図の検査機器を現在開発しているそうです。

TESSAN社の遠隔診療用キャビンの内部

 

そのビジネスモデルを見ていくと、キャビンの販売自体から得られる収益がない、という点が特徴的。というのも、これらのキャビンは5年間のリース契約で設置されており、リース終了後には契約者の所有物になるのです。一方、TESSAN社は、フランスの国民健康保険から払い戻される診察料から、管理費などの必要経費を除いた額を収益としています。

 

フランスでは、コロナ禍がはじまる以前の2018年時点で、遠隔診療に関する法整備が進んでおり、遠隔診療の医療費が国民健康保険の補償対象になっています。さらに、2020年以降のコロナ禍でその需要が爆発的に増えたことから、2022年7月31日まで遠隔診療の自己負担額が無料になる措置まで取られています。また、同国の健康保険証はデジタルスキャンに対応しており、日本とは異なるこういった土壌も、遠隔診療用キャビンの急速な普及に一役買っているといえるでしょう。

 

コロナ禍の感染対策や非接触に対する国民の意識向上の他に、このキャビンが普及した背景には、フランスの医療事情もあります。というのも、日本の街中に多く見られるような個人開業医によるクリニック数の減少と都市部に偏在していることから、医療へのアクセスが難しい「医療のデザートエリア(砂漠地帯)」と呼ばれる地域が存在します。こうした医療格差を埋める存在として、遠隔診療キャビンは大きな注目を集めているのです。

 

こうした背景は、日本でも決して、無縁ではありません。過疎化が進んでいる日本の地方では、医師不足の問題が深刻化しています。遠隔診療キャビンは、我が国における問題を解決するひとつのツールになる可能性も。また、医療レベルが低い発展途上国もこれに注目しています。アフリカ西部に位置し、フランス語を公用語とするマリでは、国家レベルのプロジェクトとして「マリ遠隔医療プロジェクト」が進行中。ヘルス分野のDX推進を進めるための省庁として、国家遠隔ヘルス・医療情報庁が設置されているほどです。

マリ「国家遠隔ヘルス・医療情報庁」の紹介パンフレット

 

パンフレットの裏面。遠隔医療をはじめ、庁内の取り組みについて解説

 

ブロックチェーン技術を活用した、患者の個人情報保護

「SANTEXPO 2022」には多くのスタートアップ企業も出展しました。そのなかでも特に目立っていたのが、ブロックチェーン技術を活用したプロダクトサービスを提供している企業。遠隔診療用キャビンの普及により、電子カルテ情報などを暗号化し安全に管理・共有するシステムの需要が高まっていることも、そんな企業を後押ししています。

 

本エクスポに出展していたうちの一社であるDr Data社は、フランスの法医学博士号を有する女性社長が起業したスタートアップ。同社の事業は、ブロックチェーンの暗号化技術を用いた保健医療データの保護や電子患者データの管理です。さらに、GDPRに基づいた、データ保護オフィサーの派遣も行っています。

 

また、救命医・麻酔科医によるスタートアップであるGALEON社は、患者や治験のデータを病院間・医療関係者間で安全に共有できる仕組みを開発しています。当然ながら、このシステムもブロックチェーン技術を活用したものです。同社の試みは、データを安全に保管するだけでなく、医療関係者がそれを共有できるようにした点がユニークですが、患者が自分のデータを管理できるようにするシステム構築が進められています。

 

そして、GALEON社の独自性は、事業内容にとどまりません。医療従事者だけでなく患者にも資する会社にするというコンセプトで運営されている同社は「分散型自立組織」という形式を採用しています。同社の組織はプロジェクトに貢献した人による投票によって運営されており、たとえば自身のデータを治験に利用することに同意した患者にも、その投票権が与えられるそう。従来の株式会社とは違う、トップダウンの性質が非常に薄い組織体系です。多くの医師・患者から高い評価を得ているGALEON社のプロジェクトは、2021年末から2022年初頭にかけて、1500万ドル相当の資金調達にも成功しています。

 

仏・郵政公社がe-Healthに進出し、高齢者の見守りに注力

遠隔医療、ブロックチェーンのほかにも「SANTEXPO 2022」で目立っていた要素が、高齢者や慢性疾患患者の見守りサービスです。

 

たとえば、フランスの郵政公社La Posteは、家庭・医療・デジタル技術関連の企業買収を進めており、イノベーションの支援やヘルスケア領域へ事業範囲を拡大。高齢者の自立生活支援や見守り、医療補助機器の販売、さらには保健医療サービス提供事業者への物流・金融などのBtoBサービスまで幅広く手掛けています。

 

La Posteの強みは、郵便配達員という“インフラ”を全国に有していること。実は同社、そのインフラを活かし、下水管の詰まりなど日常生活上のトラブルが起きてしまった住宅を郵便配達員が訪ねた際に、工事業者を紹介するといった事業をすでに行っています。昨今の事例は、高齢者の見守りにその領域を広げたものと考えることができるでしょう。

早期退院した患者が体調を遠隔モニタリングできるよう、RDS社が開発した遠隔サーベイランス機器のパンフレット

 

また、早期退院した患者の体調を遠隔モニタリングできる、小型パッチタイプの遠隔サーベイランス機器を開発したRhythm Diagnostic Systems社の出展もありました。このパッチは1週間の使い切りタイプ。患者がこれを貼り付けて生活することで、退院後であってもそのバイタルサインを一定期間遠隔モニタリングできるというわけです。日本でも、病院の病床不足が問題になることはありますから、こういった機器が海を渡って来れば、医療従事者の負荷軽減に一役買いそうです。

退院患者のバイタルサインを1週間ほどモニタリング可能

 

日本でも待たれるe-Healthイノベーション

e-Healthの最先端が結集した今回の「SANTEXPO 2022」。その展示を通してとくに強く感じたのは、官民両面での「日本との違い」でした。“官”の面では、フランス政府が遠隔診療の医療費を無料にするなどの強力な政策を進めており、e-Health推進に向けた強力なリーダーシップを発揮しています。

 

また、“民”の面でも、乱立するデジタルシステムの相互補完性を各社が担保するなど、医療の改善に向けた問題解決意識が競合各社の間で共有されています。e-Health勃興期といえる今、多様な製品・サービスが乱立しており、それらひとつひとつの互換性に懸念が持たれるところですが、多くのケースにおいて杞憂というわけです。

 

一方で、勃興期ゆえの問題もあります。それは、e-Health導入による改善効果のエビデンスがまだ集まっていないということです。しかし、この記事で紹介してきたように、e-Health導入による社会問題の解決事例が集まり始めているのもまた事実。あとは、それにどれくらいの費用対効果があるのかなど、トライアンドエラーを繰り返しながら改善を続けていくフェーズに入ることでしょう。

 

一方で日本に目を移すと……高い医療レベルを誇り、平均寿命世界一の国でもある我が国ですが、e-Healthの面でいえば後れをとっているといわざるをえません。この記事で紹介したものが海を渡って日本にやってくる未来があるかもしれませんが、国内でそれらに負けないイノベーションが生まれることも大いに期待ができます。

 

グジス香苗(写真右端)●米国大学院で公衆衛生修士号(MPH)を取得後、国際NGO、国連機関に勤務。アイ・シー・ネット入社後は、2011年から足掛け10年、セネガル保健省と保健システム強化のODA事業を実施。並行して女性の起業・ビジネス支援、経済的エンパワーメント、ジェンダーに基づく暴力などに関する研修事業や調査業務に従事した経験を持つ。現在は、アイ・シー・ネット保健戦略タスクチームの技術コンサルタントとして、保健医療分野の事業運営や戦略立案を支援しながら、フランス在住の地の利を活かしてフランス・欧州での調査業務を実施している。 

セネガル中央保健省の計画局課長、市長連合の代表、州医務局の担当官、プロジェクト総括のグジスの4人でチームを組んで、保健ポストを巡回指導(スーパービジョン)に訪れた時の様子。人材・保健情報・医薬品マネジメントと保健サービス提供の現状・課題を把握し、その対応策を一緒に検討した

 

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執筆/畑野壮太

”推し活”に使えるのは?ポッドキャストや音声SNS…「音声コンテンツ」の基礎知識と始め方

コンテンツの新しい形として、“音声コンテンツ”が存在感を増しています。2021年に話題をさらった「Clubhouse」をはじめとする音声SNSのほか、AppleやSpotifyが提供するポッドキャスト、オーディオブックなどさまざまなサービスが登場。そしておなじみのラジオも、インターネット配信によって魅力が見直されつつあります。このコンテンツを耳で消費する傾向について、ITライターでスマホ安全アドバイザーとして活躍する鈴木朋子さんに解説していただきます。

 

「目は忙しいが耳はまだ空いている」

昨年、2021年に注目されたネットサービスといえば、音声SNS「Clubhouse」がそのひとつに挙がるでしょう。「音声だけで交流する」という方法が新鮮に受け止められ、招待を求める人が殺到、一時期は招待枠がフリマアプリで売られるほどでした。

 

なぜClubhouseがここまで注目されたのでしょうか? 既存のSNSに新鮮味が薄れたことや、招待制(当時)による相乗効果などもありますが、「音声」に絞ったことが大きかったのだと思います。

 

以前から、ネットサービスを手掛ける人たちにより「目は忙しいが耳はまだ空いている」と言われていました。映像や画像、テキストなど、「見る」コンテンツはあふれています。一方、「聞く」コンテンツは常時聞いているほどではなく、まだ余力があると考えられていたのです。

 

音声コンテンツの魅力は、スマホがあればいつでも楽しめること。今はワイヤレスイヤホンやBluetoothスピーカーなど、スマホで音声を聞く環境が整っている人も多いでしょう。電車で移動しているときや、何か手作業をしているときでも、「ながら聞き」ができることも人気の理由です。

 

2021年初に巻き起こったClubhouseの爆発的な流行により、従来からあった音声コンテンツの魅力に、多くの人が気づきました。そして、新たなサービスも立ち上がり、今、音声コンテンツ業界全体が盛り上がっているのです。

 

音声コンテンツにはさまざまな種類がある

音声コンテンツといっても、ClubhouseのようなSNSから、定番のラジオまでさまざまな種類があります。現在はどのような音声コンテンツがあるのか、紹介していきましょう。

 

・音声SNS

音声で交流するサービス。誰でも配信者になることができる気軽さが魅力です。Clubhouseは音声専用ですが、Twitterは機能のひとつとして、音声チャット機能「スペース」をリリースしています。スペースはTwitterのアカウントがあれば聞くことができ、スペースが開かれるとアプリの上部に表示されます。既存のSNSが音声機能を付けると、配信者はすでに繋がっているファンをイベントに集めやすいメリットがあります。そこでFacebookも音声機能「Live Audio Rooms」をアメリカでスタートしています。日本での開始が待たれます。

Twitterの音声チャット機能「スペース」。

 

・インターネットラジオ

インターネットラジオ「radiko」や「NHKラジオ らじるらじる 」など、ウェブサイトやアプリを通じてラジオ局が配信している番組を聞きます。聞き逃してしまった番組を後から再生できるほか、現在いる場所では聞けない放送局の番組も聞くことができます。

インターネットラジオ「radiko」。

 

・ポッドキャスト(Podcast)

ポッドキャストは、音声で楽しめる番組。ラジオのように、配信者が作った番組を視聴します。ラジオとの違いは、配信されているコンテンツを選んで、好きな時間に再生するところ。ラジオ番組が過去の番組をポッドキャストで配信しているケースもあります。

 

ポッドキャストのサービス自体がオリジナル番組を配信していることもありますが、基本的にはポッドキャストアプリで世界中に配信されている番組を聞くのが一般的。「Apple Podcast」「Google ポッドキャスト」「Spotify」「Amazon Music」などがあるので、使いやすさで選ぶといいでしょう。

iPhoneユーザーならアプリがプリインストールされている「Apple Podcast」が便利。

 

・音声配信サービス

音声コンテンツを配信しているサービスです。ポッドキャストと似ていますが、独自のコンテンツを配信している点が異なります。認証を受けた人だけが配信できる「Voicy」や「NowVoice」「ZATSUDAN」などのサービスと、誰でも配信できる「Radiotalk」や「Spoon」などのサービスがあります。

 

前者は芸能人やスポーツ選手などの有名人が多く、ビジネスや自己啓発など学びに繋がるコンテンツが多く配信されています。主に有料会員に登録して視聴します。後者は無料でも楽しめる気軽な配信が多く、生放送での配信も行われています。

音声プラットフォーム「Voicy」。

 

・オーディオブック

プロのナレーターや声優が本を朗読して配信するサービスです。「audiobook.jp」や「Amazonオーディオブック – オーディブル」などがあります。月額で支払うか、1冊ごとに支払うかは、サービスによって異なります。

オーディオブック配信サービス「audiobook.jp」。

 

生活スタイルや聞きたいジャンルで選択

音声コンテンツには有料と無料があり、誰でも配信できるサービスと有名人が配信するサービスなどの違いがあることがおわかりいただけたかと思います。では、「音声コンテンツを楽しんでみたい」と思ったとき、何を基準に選べばいいでしょうか?

 

・推しの有名人がいるなら?

まず、好きな有名人がいる人は、その人のSNSをフォローしておくことがおすすめです。Twitterのスペースが突然開始されるかもしれませんし、Clubhouse開催の通知も受け取れます。SNSの音声サービスは投げ銭やサブスクなどの課金機能を今後拡充していくので、“推し活”もできますね。

 

また、音声コンテンツを配信している有名人も多くいます。各サービスで検索してみましょう。人によっては、無料コンテンツ、有料コンテンツ、月額制など、複数の方式で配信していることもあります。

 

・語学学習や無料聴取には?

「英語を勉強したい」「無料で楽しみたい」という場合は、ポッドキャストがおすすめです。世界中の番組を無料で聴くことができます。アプリの選択は自分が普段使っているなど使い勝手が良いと感じるアプリ、またはオリジナルコンテンツが配信されているアプリで選ぶといいですね。音声コンテンツサービスでも、一部の新聞社はニュースを無料で配信しています。配信時間に1日分のニュースを耳でチェックすると効率が良さそうです。

 

・あらためてラジオを聴きたいなら?

ラジオを生活に取り入れたいなら、「radiko」がおすすめ。音声コンテンツの老舗とも言えるラジオは、楽しい帯番組がたくさんあります。毎朝のルーティンにすれば、目を使うテレビよりも朝の準備がはかどるでしょう。

 

・本を読みたいけど時間がないなら?

本を読む時間が取れない人は、オーディオブックを。読んだことがない本を通勤時間に聞くこともできます。再生スピードを調整できる場合もあるので、すばやく勉強したい人にもおすすめです。

 

・自分でも配信したいと思ったら?

そして、自分も音声コンテンツを配信したいと思ったら、気軽にチャレンジできる無料配信サービスがいいですね。投げ銭方式でお小遣い稼ぎができるかもしれません。

 

今後、音声コンテンツサービスはますますコンテンツが増え、盛り上がっていきそうです。「耳」で楽しむ生活、一度試してみませんか?

 

【プロフィール】

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー/鈴木朋子

SNSなどスマートフォンを主軸にした身近なITに関する記事を執筆している。初心者がつまずきやすいポイントをやさしく解説することに定評があり、入門書の著作は20冊を越える。安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。

 

“移動革命”「MaaS(マース)」とは? モビリティジャーナリストが解説する日本と世界の現状と課題

鉄道、バス、タクシー、飛行機……。私たちの生活は、さまざまな移動手段によって支えられています。2010年頃からは「カーシェア」や「自転車シェア(シェアサイクル)」といった新しいサービスも登場し、さらに移動が便利になりました。

 

そんな中、新たな移動の概念として昨今注目を集めているのが「MaaS(マース)」という考え方です。聞いたことがあるけれど、結局どういうものなのかわからないという人も多いのではないでしょうか。今回は、モビリティジャーナリストの楠田悦子さんに、そもそもMaaSとは何か、日本と海外の事例を交えながら解説していただきました。

 

「MaaS」って一体なに?

「MaaS」とは、Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス) の頭文字をとった略語のこと。「サービスとしての移動」と訳されることが多く、自動車業界を中心に話題を呼んでいるキーワードです。では実際に「MaaS」とはどういったものなのか、楠田さんに解説していただきました。

 

MaaSとは、デジタル技術でいろいろな移動サービスを組み合わせ、一人ひとりのニーズに合った移動サービスを提案しようとする概念のことを言います。

移動をする際、これまではさまざまな交通手段を個別に検索し、予約や決済をしていたと思います。しかし、デジタル技術の発展とともに、バラバラだった移動サービスを一括で検索・予約・決済できるようになったり、サブスクリプションのような料金設定が実現したりと、今まで以上に個人に寄り添うサービスが誕生しているのです」(モビリティジャーナリスト・楠田悦子さん、以下同)

 

SDGsにも密接に関係している!? MaaSが目指すものとは

ところが、このMaaSという概念はとても抽象的で、国や地域によっても定義が異なっているのだそう。共通しているのは、「自分で車を運転できなくても、文化的で持続可能な暮らしと社会を実現することがMaaSの目指すもの」だと楠田さんは話します。

 

「そもそもMaaSは、環境問題への意識が高いヨーロッパ発祥の概念です。車利用の増加による都市部の渋滞や環境汚染などが深刻化する中で、車を所有するライフスタイルから、鉄道や自転車といった環境に優しい移動サービスを利用するライフスタイルに転換していこう、という考え方に基づいています。

日本でも、高齢化の加速により高齢者ドライバーが増え、事故や免許返納などにより移動手段を失ってしまった高齢者が多く見受けられます。

MaaSは、そういった渋滞や環境汚染、高齢化社会による移動困難者の増加など、さまざまな社会課題を解決する手段として期待されているのです。そう考えると、持続可能な暮らしを目指すSDGsとも密接に関わっている、とも言えるのではないでしょうか」

 

柔軟な料金設定が魅力! 海外のMaaSアプリ

実際に、海外で普及が進むMaaSの事例を見ていきましょう。

 

・「MaaS」の代表格、フィンランド生まれのMaaSアプリ「Whim」

「MaaS」が提唱されたのは、北欧の国フィンランド。その中心人物とされているのが、MaaSの生みの親とも呼ばれているMaaS Global社のCEO、サンポ・ヒエタネン氏です。同社は2017年に、世界初の本格的なMaaSプラットフォームである「Whim(ウィム)」というアプリの提供を開始。今ではフィンランドだけでなく、複数の国と都市で利用されています。

 

「『Whim』は、MaaSを語る上では欠かせないアプリのひとつ。日本では、トヨタグループが同社に出資をしたことにより一躍有名になりました。鉄道、バス、トラム、自転車シェアやカーシェアなどのさまざまな移動手段が一括で検索できるのはもちろん、定額制の乗り放題プランを用意していることが特徴です。

4つの料金プランがありますが、象徴的なのは月額499ユーロ『Whim Unlimited』というプランです。月6万円ほどで、指定エリア内の公共交通、自転車シェアやカーシェアが回数無制限、タクシーは最大5kmまでの距離を80回無料で利用できます。移動が便利になるだけでなく、環境に優しい暮らしを目指したサービスとして支持されています」

 

2020年には、不動産大手の三井不動産と連携して、日本でも実証実験が開始されました。この実験は、マンションの住民向けに、バスやタクシーといった交通機関の定額サービスを提供するというもの。通勤や通学など、住まいとモビリティは切っても切れない存在です。MaaSは、不動産、ひいては街づくりの観点からも注目を浴びていることがわかります。

 

・自分の通勤通学に最適な乗り放題プランを! 高雄市の「Men go」

ヨーロッパを中心に広がりを見せているMaaSですが、アジア圏でも続々とサービスが導入されています。中でも、台湾南部の高雄市のMaaSアプリ「Men go(メンゴー)」は、少しユニークな料金設定なのだそう。

 

「『Men go』には、高雄メトロ・高雄ライトレール・バス・公共レンタサイクル・タクシーが乗り放題のプラン、バスの乗り放題プラン、長距離バスの乗り放題プラン、フェリーの乗り放題プランの4つの料金プランが用意されています。

実は、日本のように定期券があって会社が通勤手当を出してくれる国って、すごく少ないんです。その為、自分が通勤・通学時に利用する主な交通手段のプランを選ぶことができるのが、人気の理由かもしれません。利用に逆に言えば、定期券は“日本的なMaaS”と言っても過言ではないかもしれませんね」

 

「日本のMaaSは遅れている」は間違い!

海外の事例を見ていると、「日本のMaaSは遅れているのではないか?」と感じる人もいるかもしれません。しかし、これは間違いだと楠田さんは話します。

↑スウェーデンの研究者が提唱したMaaSレベルの表(編集部作成) 出典:Jana Sochor(2017)

 

「MaaSには、スウェーデンの研究者が提唱したレベル定義があります。この基準に照らし合わせてみると、確かに日本のMaaSは遅れているという印象をうけるかもしれません。しかし、このMaaSレベルはあくまでも欧州の基準。日本とは移動に関するサービスや環境も異なりますので、必ずしも日本が遅れているということではありません。

例えば、私たちが日常的に使っている『Suica』や『PASMO』といった交通系ICカードも、日本的なMaaSです。移動だけでなく、お店での買い物ができますし、クレジットカード機能が付いたり、モバイルに対応したりと、いろいろなサービスとつながっています。海外からも評価が高く、日本独自に進化したサービスの形とも言えるでしょう。

つまり、日本は日本の実情に合わせてサービス水準を高めていくことが大切だと感じています」

 

実はこれもMaaS!? 日本の優秀なMaaSアプリ

特別なサービスのように感じるMaaSですが、実は以前から私たちが使っている経路検索サービスも、MaaSの一部。私たちは、気づかないうちに少しずつMaaSに触れていたのだと、楠田さんは話します。

 

「MaaSという言葉が生まれる前から、経路検索サービスでバスや電車など、移動手段の情報をまとめてみることができていました。MaaSとは、デジタルの力で移動が便利になっていくこと。つまり、経路検索サービスも立派な日本のMaaSであると言っても過言ではありません」

 

そんな日本の優秀なアプリを、楠田さんに紹介していただきました。

 

・検索結果からタクシーの配車も可能な「NAVITIME」

「NAVITIME」
無料(一部有料)
Android  https://products.navitime.co.jp/service/navitime/android_sp.html
iOS https://products.navitime.co.jp/service/navitime/ios_sp.html

ナビタイムジャパンが提供する『NAVITIME』。経路検索サービスだけでなく、音声案内や時刻表の確認、現在地周辺のスポット情報など、私たちの移動を助ける機能が満載のアプリです。

「『トータルナビ』機能では、電車・バス・飛行機・フェリー・車・歩きだけでなく、シェアサイクルといった新しい移動手段を組み合わせたルート検索が可能です。さらに、検索結果から飛行機の予約やタクシー配車も可能となっています。MaaSにつながる、画期的な経路検索アプリです」

 

・日常も旅行も快適に。小田急線沿線の暮らしを支える「EMot」

「EMot」
無料(一部有料)
Android  https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.odakyu.emot&hl=ja
iOS  https://apps.apple.com/jp/app/emot/id1472652885

「小田急電鉄の『EMot』は、日本の代表的なMaaSアプリのひとつです。鉄道・バスに加え、タクシーやシェアサイクルを組み合わせたルート検索が可能なだけでなく、旅行で使えるお得なフリーパスやテーマパークのチケットを購入できるなど、さまざまなサービスが展開されています」

 

最近では、月額7800円で対象店舗のそば・おむすび・パンといった食事を1日何度も楽しめる「EMotパスポート」というサブスクリプションサービスも登場しました。40を超える対象店舗の中には、飲食店だけでなくフラワーショップも含まれており、お得に買い物が楽しめます。

 

小田急線沿線を中心としたアプリではありますが、日常の移動だけでなく旅行や買い物など、より便利で快適な暮らしが実現できそうです。

 

高齢者も障がい者も“誰もが移動を諦めない社会”を目指す「Universal MaaS」

MaaSの新たなキーワードとして、2019年頃から「Universal MaaS」という言葉も生まれています。Universal MaaSとは、高齢者や障がい者、訪日外国人など、外出を躊躇して思うように移動ができない人に向けて、安心して移動ができるようなサービスを提供していこう、という動きです。

 

「例えば、車いす利用者は現在、移動をする際に事前に交通事業者に連絡を取って、介助を依頼しているのが現実です。これが移動を躊躇する要因の1つとなっています。

Universal MaaSは、アプリを活用することで利用者がバリアフリーな乗り継ぎルート情報を得ることができたり、事業者側もリアルタイムに利用者の動きや介助内容を把握できたりと、移動困難者の快適な移動を目指したサービスを展開していこうというもの。

現在は、全日本空輸株式会社(ANA)が旗振り役となり、京浜急行電鉄や横浜国立大学、横須賀市が連携して実証実験が行われています。移動困難者が躊躇することなく、快適に移動できるようになる社会に向けて、挑戦は続いています」

 

MaaSが描く、日本の未来像

『車がなくても、誰もが文化的で持続可能な暮らしができるようになること』。これこそが、MaaSの描く未来像です。

しかし、そもそも公共交通が充実しておらずサービスを組み合わせて考えることができない地域があったり、道路整備や人材不足によりサービスを開始できなかったりと、MaaSを実現するための課題はまだまだ山積みです。海外の基準に囚われるのではなく、日本は日本の現状を見据えて、日本流のサービスを模索していく必要があるのではないかと思います」

 

【プロフィール】

モビリティジャーナリスト / 楠田悦子

兵庫県生まれ。心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化や、環境問題といった社会課題の解決を目指し、モビリティジャーナリストとして活動を行っている。モビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て2013年に独立。国内外の取材やプロジェクトのコーディネート、国土交通省のMaaS関連データ検討会、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を務めるなど、活動は多岐に渡る。

 


『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

 

UberEats、Wolt……「飲食店マッチングサービス」が変えるフードデリバリーの最新事情と活用法

生活スタイルが一変した2020年、フードデリバリー業界では検索数が伸び、参入する企業が増えるなどの大きな変化がありました。「UberEats(ウーバーイーツ)」をはじめ、各国のデリバリーサービスも次々に日本へ進出し、自宅や会社にいながらして体験できるグルメの選択肢は、ますます広がっています。

 

そんな新しいフードデリバリーサービスの最新事情と楽しみ方について、業界の動向に詳しい株式会社ライドオンエクスプレスの正木伸繁さん聞きました。

 

UberEatsが変えたフードデリバリーの世界

かつては“出前”や“仕出し”と表現されてきた「フードデリバリー」のはじまりは、なんと江戸時代にまでさかのぼります。蕎麦やうどんを届けてもらうのが一般的で、当時は食器を返却するスタイル。それが1980年代に入ると、ピザの宅配サービスがアメリカから日本へ。自社で配達員と宅配用の三輪バイクを抱える業態は、デリバリーの可能性を広げた第一歩でしょう。

 

「現在、フードデリバリーの二大巨塔となっているのは『出前館』と『UberEats』です。出前館は、もともと自前で配達できる飲食店のみを集めた注文プラットフォームでしたが、出前館自体が配達員を雇って配達機能を持つようになったことで、加盟する飲食店の幅を増やしてきました。その後、2016年に進出したUberEatsは、これとはまったく違った形のデリバリーと言えます。

これまでのように配達員を雇用するのではなく、飲食店と配達したい人をアプリでマッチングさせるだけ、といういわゆる“飲食店デリバリーマッチングサービス”は、多くの功績をもたらしています。ひとつには、雇用を生みました。仕事や学業の合間にちょっとだけ働くことができ、働く地域や時間も自由にチョイスできる仕組みは、コロナ禍で仕事が減ってしまった方や、アルバイトを自由な時間にしたい学生の救いにもなっています。

もうひとつは、飲食店の新たな可能性を見出したことです。これまで行ったことがなかった地域の店の料理も、アプリひとつで注文できるので、飲食店にとっては顧客層を広げることができます。また、お店側からすると、配達員を雇用しないという形態を取ることで、人件費の削減にもつながるわけです」(株式会社ライドオンエクスプレス・正木伸繁さん、以下同)

 

UberEatsだけじゃない、注目の飲食店デリバリーマッチングサービス

それではここで、今、日本にある飲食店デリバリーマッチングサービスを教えていただきましょう。言わずと知れたUberEatsは、認知度がもっとも高いと言えますが、それ以外にもさまざまなサービスが立ち上がっています。

 

1. Wolt

フィンランドのヘルシンキから上陸したWolt(ウォルト)は、2020年3月に日本進出したサービス。サービス開始の地に広島県を選んだのが大きな特徴です。

 

「一般的には東京や大阪といった都市でスタートさせることが多いなか、“ヨーロッパの都市に似ていて、Woltの経験が活かせる”という理由で、広島から札幌、東京、福岡と各地に広がっています。UberEatsのようにファストフードが全面に出るというより、隠れた名店にフォーカスしているので、“こんなお店があったんだ”という発見にもつながります。また、ブルーのユニフォームと配達バッグがおしゃれで人気があり、配達員として働いてみたいと思う方が多いようです」

Wolt https://wolt.com/ja/

 

2. foodpanda

ドイツ発のデリバリーマッチングサービスで、日本では2020年9月に横浜、名古屋、神戸から開始されています。東京ではまだ使えないものの、札幌、福岡、広島、大阪とエリアを拡大しているところです。

 

「foodpandaの特筆すべきサービスは、ローソンと提携している点です。まだ使える店舗は少ないのですが、お弁当や飲料といったものだけでなく、日用品や雑貨、雑誌なども届けてもらえます。買い物に行きづらいお年寄りや子育て世帯にも需要がありそうですよね。すでにローソンはUberEatsとも提携していますので、これが2社目の提携となります」

foodpanda https://www.foodpanda.co.jp/

 

3. FOODNEKO

2020年12月に韓国からやってきたばかりのサービス。韓国国内でデリバリーアプリのシェア一位というWoowa Brothersが運営しています。

 

「FOODNEKOの特徴は、なんといってもそのネコのキャラクターのかわいらしさです。配達員をネコライダーと呼ぶこともウケがよさそうですよね。同じようなサービスが乱立しはじめると、どうしてもお得な方や便利な方に顧客は流れてしまうのですが、それに対抗するのが情緒的視点。“かわいいから使ってみたい”というところで、新しい顧客を開拓していくと思います。一人前から頼めることや配達料が1.5kmまで無料なことなど、手軽に頼んでみたいと思わせるシステムです」

FOODNEKO https://foodneko.com/company

 

4. DiDi Food

中国の北京に本社があり、2020年4月、まさにコロナ禍で外出自粛期間中に大阪府で実証実験をスタートさせたデリバリーサービスです。

 

「UberEatsと同様に、もともとはタクシーの配車サービスだったところから、デリバリーサービスを展開しています。東京ではまだ使えませんが、6月から本格的にスタートを切り、2021年1月下旬には福岡に進出することが決まっています。地域との結びつきを大切にしているようで、近畿大学の学生が起業した会社とコラボレーションして近大マグロを宅配したり、美術館とのコラボレーションもしています」

DiDi Food https://www.didi-food.com/ja-JP/

 

【番外編】国内発信のサービス

海外から日本進出するサービスだけでなく、日本の企業がローンチしたサービスもあります。

 

『Chompy』は、2020年8月から正式にはじまったサービスで、東京都渋谷区のみのエリアというところからスタートしました。現在は渋谷駅から半径4.5km圏内まで拡大し、新宿や目黒、三軒茶屋などでも利用できます。地域密着型とあって飲食店の方の顔写真を載せ、お店からのコメントが読めるようになっています。アプリの中でも人と人のつながりを感じられるのがいいですよね。また、デパ地下と提携しているので、ちょっと特別な日にワンランクアップしたものを買ってきてもらう、という使い方もできます。もうひとつは『menu』というサービス。もともとはテイクアウトのみ取り扱っていましたが、2020年4月からデリバリーサービスもはじまっています」

 

これから使いたい! フードデリバリーの活用法

今や誰もが宅配を気軽に利用する時代になり、天気の悪い日や出かけたくないとき、リモートワークで手が離せないときにも、アプリから好みの食べ物を選ぶだけで、おいしいものが手に入ります。でも、サービスが多いと何をどう選べばいいかわからないという人も多いはず。また、なんとなく機会を逃したまま、使っていない人もいるかもしれません。具体的には、どのように活用すればいいでしょうか?

 

1. 知らない店を探してデリバリーしてみる

「まず、どのサービスのアプリを入れるか考えるときは、配達エリアや時間、どのような飲食店が登録しているのか、調べてみましょう。実はデリバリーを使う方のおよそ85%が、そのお店をイートインでは利用したことがない、という方なんです。行ったことがあるよく知った店よりも、行ってみたかった店、気になるメニューがある店などのデリバリーをオーダーしてみると、楽しいと思いますよ」

 

2. 入りづらいお店のメニューをデリバリーしてみる

「女性でしたら、たとえばひとりでは入りづらいお店ってありますよね。がっつり系飯や牛丼店など、一度食べてみたいけれど入店にはちょっと勇気がいる……というお店のものをデリバリーでお試ししてみてはいかがでしょうか。“置き配”の設定もできますから、リラックスしている姿で玄関口に出たくないときにも便利です」

 

3. 食べ歩き感覚でデリバリーしてみる

「アプリで飲食店を検索するとき、メニューから検索することができるんですね。たとえば“カオマンガイ”で検索すると、たくさんのお店の情報が出てくるので、ひとつひとつ試してみながら、食べ歩きのような感覚でデリバリーを楽しむことができます。本当に食べ歩こうと思ったら、さまざまな土地に行かなくてはなりませんし、探すのも大変なので、こういう使い方ができるのは楽しいですよ」

 

4. フードトレンドになっているものをデリバリーしてみる

「今話題になっているのが唐揚げなのですが、なかでも“ヤンニョンチキン”という韓国から来た辛い唐揚げが沸々と人気上昇してきています。外出先で食べ歩きするのは難しくても、流行っているから一度食べてみたいな、と思うものをデリバリーしてみるのもいいですよね」

 

5. ハレの日にちょっといいモノをデリバリーしてみる

「デリバリーというと、どうしても使い捨て容器の安っぽい印象があるのですが、フルコースをデリバリーできたり、高級店だけが参加しているデリバリーサービスなどもあります。『DEAN & DELUCA』ではフルコースを、『FOOD-E』では日本料理のNobu Tokyoやウェスティンホテル東京のダイニングのメニューを、プロのドライバーが運んでくれます」

 

6. 飲み物やスイーツだけをデリバリーしてみる

「お昼ご飯やお弁当となると、必要な機会も少なくなりますが、タピオカドリンクをはじめ、シェイクやコーヒーなど、ほっとひと息つきたいときの“おとも”になるものをデリバリーするのもおすすめです。リモートワークではうまく息抜きできずにいる方もいるかもしれませんが、デリバリーが届いたら少し休憩する、というふうにリズムを決めておくのもいいですよね」

 

7. 特化したものをデリバリーしてみる

「店舗を持たず、デリバリー専門に調理しているゴーストレストランでは、変わったメニューを打ち出していることがあります。たとえば“究極のブロッコリーと鶏胸肉”というおもしろいネーミングの『QBT』の低糖質食ように、特殊で顧客範囲が限定される場合は、飲食店としてオープンするのはハードルが高いですよね。でもデリバリーでなら、人件費もかからず、オペレーションをシステム化しておいて営業することができます。何かに特化したこだわりのものをデリバリーしてみるのも楽しいですよ」

 

【番外編】フード以外のものをデリバリーする

デリバリーというと、お腹が空いたときの食べ物や生鮮食品などが思い浮かびますが、2020年11月からはじまったのが、インテリアショップのFrancfrancがUberEatsと提携してサービスを始めています。

 

「これで、UberEatsは初めて、飲食以外のデリバリーを始めることとなりました。取扱商品は決まっていますが、ギフトを買いに行く時間がない、という悩みから、デリバリーサービスを開始したのだそうです。海外では、薬の配達もありますから、これを機に今後さまざまなアイテム取り扱い、サービスが拡大していくことの始まりであると感じています」

 

はじめてデリバリーを頼むときの注意点

続いて、これまで注文したことがない方がはじめてのデリバリーで気をつけなくてはならないことを伺いました。

 

「もっとも気をつけなくてはならないのは、住所をきちんと入力することです。マンションの棟が間違っていたり、正しい表記になっていなかったり、建物名が書かれていなかったりしないか、確認しましょう。

デリバリーマッチングサービスでは特に、配達に慣れていない方や土地勘に疎い方が配達しているときもありますから、辿り着けずぐるぐるまわることになってしまうと、商品が冷めてしまうこともあります。よくTwitterなどで見かけるような、お弁当の中身がぐちゃぐちゃだった、などのトラブルはごく稀なケースと考えて大丈夫ですが、配達員が手間取らず配達できるよう心がけましょう。女性のひとり暮らしなどで表札が出ていない家もありますが、これも要注意です」

 

クーポンを活用してお得に頼んでみる

最後に、フードデリバリーはさまざまなチャネルでクーポンに出会いますよね。できるだけお得な情報を見逃さないためには、どこをチェックしておけばいいでしょうか?

 

「Twitterでクーポンを配布している店舗が多いので、各社のTwitterをフォローしてみましょう。それがもっともさまざまなクーポン情報を拾える方法だと思いますよ。写真のようなクーポン券も、加盟店ではレジの横で配布していたりしますから、チェックしてみてください」

 

手軽に食べ歩きするようにデリバリーを活用して、おいしいものを取り寄せてみてはいかがでしょうか? 家時間が続きマンネリ化しがちな日々の食生活に、ちょっとした楽しみをもたらしてくれるのではないでしょうか。

 

【プロフィール】

株式会社ライドオンエクスプレス / 正木伸繁

宅配寿司「銀のさら」事業におけるデジタルサービスの立ち上げから、コミュニケーションの拡大に至る全般業務に従事。オンライン・オフライン問わず、顧客体験の最大化を目的とした統合的なマーケティングを目指して活動していく中、個人のアウトプット力強化の目的で、noteを開始。主に日々チェックしているフード・デリバリー業界ニュースのまとめを週刊で更新している。
https://note.com/nbmasaki

 

利用者急増!「シェアサイクル」を活用すると暮らしはどう便利になるのか?

新型コロナウイルスの流行によって、私たちの暮らしは大きく変わりました。テレワークやリモート飲み会など、1年前には考えられなかったようなことも、今や当たり前になりつつあります。

 

そんな生活様式の変化に伴い、移動手段として再び注目を集めているのが自転車。通勤ラッシュでの“三密”が避けられるという理由から、徐々にニーズが高まっています。とくに、誰でも簡単に自転車を利用することができる「シェアサイクル」への注目度は高く、日本国内におけるサービスの普及が急速に進んでいます。

 

今回は、そんなシェアサイクルの特徴や便利な使い方について、NPO自転車活用推進研究会の理事長、小林成基さんに話を伺いました。

 

はじまりは、街中で自由に使える白い自転車

日本では、最近になってやっと実用化が進んできた「シェアサイクル」。そもそもこのサービスは、いつどこで始まったのでしょうか?

 

「『シェアサイクル』は、1960年代にオランダで行われた『Witte Fietsen』という取り組みがはじまりとされています。とある市議会委員が街をより便利にするため、“ホワイトバイク”と呼ばれる白い自転車を、誰もが自由に使えるようにしました。しかし、盗まれたり壊されたりといったトラブルが続出。残念ながら、定着には至りませんでした。その後、2000年代に入るとICT技術(情報通信技術)が発達し、個体認識が可能に。その結果、どこで誰がどの自転車を借りたのかが簡単に把握できるようになり、ようやくドイツでシェアサイクルのシステムが確立したのです」(NPO自転車活用推進研究会 理事長・小林成基さん)

↑オランダの国立公園に駐輪されたホワイトバイク

 

「自転車」ではなく「時間と移動」を借りる、という発想

では、シェアサイクルとはいったいどういったサービスなのでしょうか?

 

まずその特徴のひとつとして、“自分の自転車を持たなくてもいい”という利点が挙げられます。品質の良い自転車を、誰でも安価で使用することができるのです。しかし、それだけを聞くと「レンタルサイクルと何が違うの?」と感じる人も多いでしょう。小林さんは両者の違いについて、ずばり「“自転車”を借りるのか、“時間と移動”を借りるのか」ということだと言います。

 

「レンタルサイクルはその名の通り、自転車を借りるサービスです。有人の窓口で手続きを済ませ、自転車を受け取り、利用し終わったら元の場所に返す必要があります。

 

一方のシェアサイクルも、自転車を借りることに違いはないのですが、その根本には“短距離の移動を便利にする”という考え方があります。そのため、点在する無人のステーションで24時間いつでも借りることができ、終わったら別のステーションに返すことも可能となっています。必要な時に必要な区間だけ利用することができる。つまり“時間と移動”を借りられるサービスということです」(小林さん)

 

三密回避だけじゃない! いまシェアサイクルが支持される理由

三密が避けられるという理由から、需要が高まっているシェアサイクル。2020年5月の利用台数は、前年を大きく超えたといいます。

 

「東京郊外を中心にサービスを展開する『HELLO CYCLING』では、5月の前年同月比がなんと3倍。都市部を中心に展開している『ドコモ・バイクシェア』も、1.5倍にまで増えたそうです。また、今までは自宅から駅までの利用だった人が、電車に乗らないでそのまま会社まで行くケースも多くなっているみたいですね。台数だけではなく、時間と距離も伸びているということです」(小林さん)

 

しかし、シェアサイクルのメリットは、それだけではありません。誰でも乗りやすい自転車を、管理なしに利用できるところも魅力のひとつです。

 

「現在、都内で利用できるシェアサイクルの自転車は、ほとんどが電動アシスト自転車です。とくに坂の多い都内では、格段に移動がしやすくなるでしょう。また、赤い自転車がトレードマークのドコモ・バイクシェアでは、約20インチの小径車のタイヤが採用されています。タイヤが小さいと漕ぎ出しが楽なので、とても乗りやすいと思いますね。品質の良い自転車ほど『セキュリティのしっかりした駐輪場を用意しないと』『メンテナンスをきちんとしないと』と考えてしまうものですが、『シェアサイクル』ならそんな心配も無用です」(小林さん)

↑ドコモ・バイクシェアでは小径タイヤの電動アシスト自転車が採用されているので、坂道も楽々進むことができます

 

実際に使ってみよう!

シェアサイクルの特徴が分かってきたところで、次は基本的な使い方を確認していきましょう。今回は実例として、「ドコモ・バイクシェア」の利用方法を紹介します。

 

1. ネットで会員登録する

まずはネットで会員登録を行います。個人情報や決済情報などを入力し、お手持ちのスマートフォンや交通系ICカードを登録したら準備完了です。

 

2. ステーションで自転車を選ぶ

近くのステーションに行き、使いたい自転車を選びます。登録したスマートフォンや交通系ICカードをかざすだけで鍵が開く仕組みになっていることが多く、簡単に借りることができます。

 

3. 目的地近くのステーションに返却する

必ずしも借りた場所に返す必要はありません。目的地近くのステーションを探して返しましょう。

 

「現在、首都圏にある自転車の台数は、ドコモ・バイクシェアで9710台、HELLO CYCLINGは6230台です。ステーションの数もだんだんと増えてきて、最近は駅の近くや商店街の他、ビルの空きスペースに設置されることも多くなってきました。位置情報はネットでも見ることができるので、あらかじめ目的地付近の情報まで確認しておきましょう。そうすることで返却場所を探す時間を減らし、よりお得に利用することができます」(小林さん)

ドコモ・バイクシェア https://docomo-cycle.jp/
HELLO CYCLING https://www.hellocycling.jp/

 

“ラストワンマイルのための足”を活かして、限りある時間を有効に

シェアサイクルのことは理解できたけれど、実生活でどのように活用したらいいのか分からない……という人も多いのではないでしょうか。そこで小林さんに、便利な利用方法について聞いてみました。

 

「シェアサイクルは“ラストワンマイルのための足“とも言われています。ラストワンマイルとは、電車やバスを降りて、目的地まで歩く10分くらいの距離のこと。その距離を、徒歩から自転車に置き換える、というふうに考えてもらえるといいかもしれません。例えば勤務時間中、郵便局や銀行に行かなくてはならない時。ハイヒールを履いて歩き回るのは大変でしょうが、自転車を借りれば効率よく移動することができます。また、ランチタイムの利用もおすすめです。歩きだと少し遠いと感じるお店でも、自転車に乗れば気軽に行くことができます。ぐっと行動範囲が広まるので、貴重な休み時間がもっと楽しくなるはずです」(小林さん)

 

仕事の都合で移動が必要になった際、足の代わりとなってくれるシェアサイクル。ほかにもこんな使い方ができると言います。

 

「終電に乗り遅れてしまった時、シェアサイクルを利用して帰宅する人も多いようです。24時間いつでも使えるので、始発まで待つ必要がなくなるんです。営業時間後にカットの練習をする美容師さんをはじめ、遅くまで仕事をする人にとってはすごく便利なサービスだと思いますね。また、シェアサイクルに使用する自転車は、ベルやライトがきちんとメンテナンスされているので、暗い道でも安心して走ることができます。『夜遅くに歩いて帰るのは不安』という女性にもおすすめです」(小林さん)

 

ポイントは借りる前の点検確認

しかし、利用者が増えてきたためか、メンテナンスが追い付いていないという問題も発生しているようです。

 

「新型コロナウイルスの影響で利用者が一気に増えた5月は、電池切れの自転車も多くなってしまいました。ステーションに並ぶ自転車が、十分に充電されていないなんてこともしばしば。なので利用する方にも、借りる前の確認を徹底して欲しいですね。電池残量だけではなく、タイヤがパンクしていないか、ブレーキはきちんと作動するかなどを確認することで、借り換える無駄な手間をなくし、安全に利用することができます」(小林さん)

電池残量はボタンを押すだけで確認できます。十分に充電されている自転車を選んで、借りるようにしましょう。
電池残量はボタンを押すだけで確認できます。十分に充電されている自転車を選んで、借りるようにしましょう

 

また、シェアサイクル人口が増えてきたからこそ、問題になっているのが自転車事故だとか。当たり前ではありますが、スマートフォンで地図を見ながら走るのはとても危険。赤信号は停まる、自転車専用道路や通行帯をクルマと同じ方向に走るなど、基本的な交通ルールをしっかりと守って利用することが何よりも大事です。

 

使えば使うほど便利になっていくサービス

「シェアサイクルの面白いところは、使えば使うほど便利になっていくところ。通信会社が運営していることが多いので、それぞれのICT技術を活かしてサービスが展開されています。そのため、あまり使われていないというデータが出てしまったステーションは、どんどん撤退していってしまうんです。自分たちがより快適に移動するためにも、便利な場所にステーションがある場合には、積極的に利用するようにしてください」(小林さん)

 

まだ利用したことがないという人も、まずは自宅や会社近くのステーションの位置を確認するところから始めてみましょう。小林さん曰く、目的地の100~200メートル圏内にステーションがあったら使わないともったいない、とのこと。ちょうど良い場所にない場合でも、会員登録だけでもしておけば、ステーションが新設されたら知らせてくれます。

 

「新型コロナウイルスの影響でインバウンドが激減する今こそ、初めて挑戦するのに最適な期間であると考えます。“シェアサイクルで借りた時間と移動”を活用すれば、もっと上手な暮らしが実現できるはずです。みなさんも、その良さに是非気付いてほしい。また、アフターコロナの世界では、東京オリンピックや大阪万博が開催される予定です。戻ってきた海外からのお客さんのためにも、また日本の移動を豊かで快適なものにするためにも、今のうちに日本人がシェアサイクルに慣れ、活用できるようになってくれるとうれしいと思います」(小林さん)

 

【プロフィール】

NPO自転車活用推進研究会 理事長 / 小林成基

衆議院公設秘書や大臣秘書官などを務めた後、研究員として廃棄物、バイオマス、環境行政などに関わる。その一方で、アクト・ローカリーの一典型として自転車の活用を推進し、2000年に自転車活用推進研究会を創設。2006年にNPO化した。現在は同研究会の理事長。日本シェアサイクル協会、自転車利用環境向上会議全国委員会の副会長などを兼任。国土交通省、警察庁、自治体の自転車関係会議委員も務めている。

 

協力=三菱地所プロパティマネジメント株式会社 北の丸スクエア、株式会社ドコモ・バイクシェア