店舗の日曜営業が解禁されたフランスで、「社会の後退につながる」と不満の声が上がった――。昨年末、フランスから遠く離れた日本でそんなニュースが話題となりました。フランス人の感覚は、年中無休・24時間営業のコンビニをはじめ休日出勤を当たり前のように受け入れている日本人のそれと正反対に見えます。今回はそんな「働き方」をテーマに、日本人とスウェーデン人を比較してみました。
Simon Paulin/imagebank.sweden.se
■スウェーデン人はなぜ「休日出勤」を受け入れたか
フランス同様キリスト教が根付くスウェーデンは、かつて日曜日を休息日、教会に行く日と定めていました。この流れに従って1939年、18時以降の販売を法律で禁止し、土曜日の営業時間を昼までに限りました。ただ、この規制は1950年代に緩和。1972年になって、営業時間の自由化に踏み切りました。
お隣フィンランドに比べ、スウェーデンの自由化はかなり早いですね(フィンランドは2015年)。ただ、休日営業がすぐ一般的になったわけではありません。1975年の調査を見ると、日曜日に営業しているスーパーは17%、デパートは22%。社会や時代の流れ、人々のニーズに合わせ、休日営業が徐々に増えていったわけです。
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この流れを後押ししたのが、国際化です。スウェーデンでは経済発展にともない、余暇に海外旅行を楽しむ人が増えました。他国を訪れ、日時を気にすることなく買い物した彼らは「自国でも休日に買い物がしたい……」と考えるようになりました。
日本人の心情からすると、「休日に買い物できるのは休日に働いている人がいるからだよね……」とモヤモヤするかもしれません。ただ、スウェーデンは個人主義の国なので、他人の休日出勤に干渉するような意見は出なさそうです。これは、数多くの難民・移民を受け入れて多文化になったことも影響しているでしょう。
以上のような経緯で、現在多くの店舗がクリスマスをはじめとした祝日も営業しています。ただ、夜中の12時から朝5時までの深夜営業は特別な理由がない限り、禁止されています。
■スウェーデン人が「サビ残」しない理由
スウェーデンのフルタイムは週40時間、年間2080時間です。休日出勤の多い職種はしばしば、シフト制を導入して従業員の総労働時間を短くします。シフト制導入の是非は、夜勤や深夜勤務が健康におよぼす影響などを考慮し、労働組合と雇用主の交渉で決まります。
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スウェーデン人は絶対に「ただ働き」(代償のない仕事)をしません。1分たりともムダに働かないのが、スウェーデン人の基本スタンスです。労働時間とそれ以外の時間を分ける考えが浸透しているのです。私もスウェーデンで働き始めたころは、定時になるとさっと帰っていく同僚の姿に“あっぱれ”でした。日本のような「サービス残業」という考えがないのですね。
なお、残業には残業手当、休日出勤や夜間労働には「OB(Obekväm arbetstid)手当」と呼ばれる加算手当がつきます。これら労働条件は職種によって違いますが、「手当は必ず付く」「総労働時間は決まっている」の2点は同じ。サービス残業は法律違反となり、労働環境全般を取り締まる国の機関「労働環境局」に厳しく罰せられます。こうした環境のもと、「平日休みで便利がよい」として、休日出勤を好む人もいます。
スウェーデン人は、労働者と消費者双方の立場から休日出勤・休日営業のメリット・デメリットを体験し、時代の流れに合わせて働き方を変えてきました。スウェーデン人にとって休日出勤とは、働き方の多様性が根付いた社会における「選択肢の一つ」です。
日本でも「働き方改革」という言葉をあちこちで聞くようになりました。自分がどのように働き、どのような社会を望み、どのように生きたいのか真剣に考える時代になったのではないでしょうか。
【著者プロフィール】
サリネンれい子
観光・情報ライター。スウェーデンに住んでいるからこそわかる、スウェーデンの旬な情報をお伝えします。デザインやアートから教育、福祉まで幅広いジャンルの情報を伝えるべく、日々精進する毎日。
