アウトソーシングの好条件が揃うフィジーのコールセンター事業

 

オセアニア東部の島しょ国であるフィジー共和国(以下、フィジー)でコールセンタービジネスが広まっています。さらに、それにとどまらないアウトソーシングビジネスへの展開も始まっているとか。美しい自然で知られるフィジーで、今なにが起きているのでしょうか?

 

四国とほぼ同じ面積であるフィジーの人口は約90万人。公用語は英語で、フィジー系の住人とイギリス統治時代に移住してきたインド系住民で構成されています。以前はオーストラリアやニュージーランドとの関係が深かったのですが、最近は中国からの投資も増えています。

 

フィジーの主な産業は農業や観光。しかし新型コロナによる影響で、観光業は大きな打撃を受けました。また地域最高峰といわれる南太平洋大学があるにもかかわらず、国内の雇用先が少ないことから、学生が卒業後に他国に出ていってしまうという課題も。そのため、新たな産業への転換はもちろん、学生に向けた新たな雇用を創出するためにも、テクノロジーなど新たな分野への投資が急務でした。

 

コールセンターの設置に適した環境

そんな状況下で急速に広がりつつあるのが、コールセンタービジネスです。フィジーは、地理的にオーストラリアやニュージーランドだけでなく、アジアや北米にもアクセスしやすいのが特徴。また、海底ケーブルが整備されており、インターネットへの接続環境も整っています。しかも公用語が英語であることから、グローバルなビジネスを展開しやすいというメリットがあるからです。

 

このようなフィジーの動きに、早くも各国から熱い視線が向けられています。BBC Newsの報道によれば、オーストラリアの多国籍銀行グループであるANZは、クレジットカード処理や融資業務、支払い、口座サポートのために、フィジーのコールセンターを利用しているといいます。

 

一方、フィジーの地元メディアであるFiji Villageは、世界的な信用調査会社であるPepper Advantageが、同国で大規模なアウトソーシングビジネスを開始すると報じました。これにより、今後5年間で800人から1000人の新しい雇用の創出が期待されるそう。

 

これを受けて「Pepper Advantageによるハブの設立が、フィジーへのアウトソーシングを計画している国際企業の進出を促進するだろう」とフィジーのアウトソーシング事務局長のSagufta Janif(サグフタ・ジャニフ)氏がコメント。さらに、フィジーでさまざまな事業を展開するTruman Bradley(トルーマン・ブラッドリー)氏も、同国におけるテクノロジー産業の構築により、より多くの卒業生がフィジーにとどまり働くことになるだろうとの期待を寄せています。

 

農業や観光業から、コールセンターなどのテクノロジーを活用したアウトソーシングビジネスへと転換を図ろうとしているフィジー。この流れは、雇用の創出はもちろん、フィジー経済の発展にひと役買いそうです。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

 

石油はGDPの1割未満! 石油からICTに大転換するナイジェリア経済

1956年に初めて油田の存在が確認されたナイジェリア。これまで石油の生産は同国の主要産業でした。しかし近年、ナイジェリアの産業に大きな変化が生まれており、石油の役割が縮小している模様。代わりに、これから同国の経済を牽引するのは、情報通信技術(ICT)になる可能性が高まっています。

デジタル化が進むナイジェリアの経済

 

アフリカのテクノロジー系メディア・TechCabalは9月1日、2022年第2四半期におけるナイジェリアの国内総生産(GDP)で、ICTの占める割合が18.44%になったと報道。一方、石油産業のGDP構成比率は6.33%に低下し、非石油部門が93.67%を占めるようになりました。

 

ナイジェリアは、2021年のGDPが約4408億ドル(世界銀行。約63.4 兆円※)とアフリカ最大の経済国です。原油の発見は同国に新しい富をもたらした反面、天然資源が見つかったことによって、国の産業が弱体化するという「オランダ病」も引き起こし、ナイジェリアは多くの消費財を輸入に頼るようになりました。そのような経済構造からの脱却を図るため、ナイジェリア政府が進めているのが、ICTを中心とした経済の多角化。例えば、2017年に同国は、2020年までにICT関連産業を成長させることで、250万人の雇用創出とGDPの20%増加を目指す「Nigerian ICT Roadmap 2017-2020」プロジェクトを打ち立てました。また、国連が定める「世界開発情報の日」にあたる10月24日を「デジタル・ナイジェリア・デー」と制定していることからも、ナイジェリアのデジタル経済への強い意志が感じられるでしょう。

※1ドル=約144円で換算(2022年9月26日現在)

 

デジタル経済への原動力の1つが人口。ナイジェリアの人口は2億1000万人で、そのうちの23%が、教養と経済力を持つ中間層。同国の人口は2050年には4億人を超える見通しです。同国の通信デジタル経済省は『NATIONAL DIGITAL ECONOMY POLICY AND STRATEGY (2020-30): For A DIGITAL NIGERIA』で、人口が多く、デジタル経済が発展している国の例として中国、インド、アメリカを挙げており、人口の多さはナイジェリアがデジタル経済の発展を持続するうえで強みになると論じています。

 

また、ナイジェリアのICT産業では、スタートアップの存在も見落とせません。大企業や大学の研究機関、公的機関など、産官学が連携しながら、同国最大の都市・ラゴスを中心にスタートアップエコシステムを形成しています。ナイジェリアには現在、750を超えるスタートアップがあり、2021年に調達した資金の合計額は3億700万ドルに到達。スタートアップエコシステムについて調査するStartupBlinkによると、同国のスタートアップエコシステムの評価は世界で61位となっていますが、西アフリカ地域では1位。アフリカ大陸においてナイジェリアのエコシステムは高水準に達していると評価されています。

 

世界的に注目を集めるナイジェリアのスタートアップの中には、例えばOrda社があります。2022年1月に11万ドルを調達した同社は、レストラン向けの注文管理・決済などを管理するプラットフォームを展開。他にも、外食産業事業者と農家をマッチングさせるサービスを提供するVendease社など、フードテック関連企業は目覚ましい発展を遂げるようになりました。このようなスタートアップがロールモデルになりながら、ナイジェリアのICT産業を引っ張っているように見えます。

 

ナイジェリアのデジタル経済の成長には、このような背景がありますが、GDPの構成比でICTが石油を上回ったことについて、イサ・パンタミ通信・デジタル経済大臣は「今回の結果は、デジタル経済を推進してきた政府の取り組みと一致している」とコメント。ナイジェリアのデジタル経済推進の成果は、目に見える形で表れてきているのかもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

ガーナにアグリテックの拠点が誕生! アフリカ全体を巻き込む「timbuktoo」とは!?

 

UNDP(国連開発計画)が主導して進めている「timbuktoo(ティンブクトゥ)」というプロジェクトをご存じでしょうか。これは、さまざまな産業でICTを活用することにより、アフリカ大陸の成長と貧困からの脱却を目指す目的で2021年に発足したイノベーションイニシアチブ。

 

具体的には、アクラ、ナイロビ、ケープタウン、ラゴス、ダカール、キガリ、カサブランカ、カイロなど、スタートアップの拠点なりうるアフリカの都市8ヵ所に、民間主導となるハブ(施設)を設立。ベンチャービルダーやベンチャーファンドへの投資を通して、若手起業家の育成・支援を実施します。各ハブは、フィンテック、ヘルステック、グリーンテック、クリエイティブ、トレードテック、ロジスティック、スマートシティとモビリティ、ツーリズムテックなど、さまざまな分野に特化すると言います。

 

投資される資金は、官民あわせて今後10年間で約10億ドル(約1400億円)。1000社以上のスタートアップの育成や、1億人以上の人々の生活改善、環境改善などを目標に掲げており、投資額の10倍となる100億ドル(約1兆4000億円)以上の経済効果を目指しています。

 

ガーナ・アクラに設置されるハブでは「アグリテック」に注力

そしてこのたび、ガーナのラバディビーチホテルで開催されたイベントで、アグリテックに特化したイノベーションハブを首都アクラに設置することが発表されました。

 

「私たちは雇用を創出する必要があります。そのためには、まず起業家を育てることが重要。DXを活用してイノベーションと雇用創出を実現したい」とガーナ共和国副大統領のMahamudu Bawumia氏は期待を寄せます。

 

一方、UNDPガーナ常駐代表のAngela Lusigi氏もこうコメントしました。

 

「timbuktooは “未来志向のスマートなアフリカ”というUNDPのビジョンに沿った新しいアプローチ。民間と協力し、テクノロジーとイノベーションを活用して駆使して未来を拓くという、大胆で新しい取り組みを誇りに思います」

 

またtimbuktooでは、アフリカの低所得国10カ国にある大学に、学生たちのイノベーションとデザイン思考を促進するための研究施設(UniPods)の設立を予定。2022年末までに運用が開始され、さらに2023年までには18カ国にまで拡大する予定だといいます。

 

官民学が連携することで、ガーナをはじめアフリカのさまざまな国で、ICTによる経済成長を図ろうとしているtimbuktoo。今後、アフリカ地域全体のさらなる成長を促すことが大いに期待されています。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

資本投資が168%増加! 勢いづくエジプトの「デジタル人材育成」

【掲載日】2022年5月23日

エジプト発のスタートアップ企業の台頭が際立ってきました。エジプトはデジタル人材の育成を国家的に強化しており、中東・アフリカ地域におけるエコシステムの勢力図を塗り替えそうな模様です。

中東・アフリカ地域のデジタル勢力争いに加わったエジプト

 

スタートアップ・エコシステムに関する政策の助言や調査を行うStartup Genomeが2021年に発表したレポートによれば、2020年度におけるエジプトのスタートアップ企業に対する投資額が前年度比で30%増加し、そのうちの約3割は海外からの投資でした。また、途上国のスタートアップ企業に関するデータを提供するMAGNiTTは、同国のエコシステムへの資本投資が2021年に前年比で168%増加し、5億万ドル(約645億円※)に近づいたと報告。これらはエジプトが持つ可能性の高さを如実に表しています。

※1ドル=約129円で換算(2022年5月16日現在)

 

エジプトは2016年に、経済やエネルギーなど幅広い分野を包括した国家戦略「ビジョン2030」を発表しました。この中で同国は2030年に実質GDPの成長率を発表時の前年比で12%増を目指すなど、野心的な目標を掲げましたが、その実現に向けた施策の中で特に注力しているのがデジタル化の振興。そこで不可欠になる人材育成にエジプトは国家レベルで取り組んでいます。

 

例えば、エジプトの通信情報技術省は、オンライン教育を提供する米国のUdacityと組み、デジタル技術を無償で学べる「Future Work is Digital(FWD)」と呼ばれるイニシアティブを2020年に開始。これは18か月間のプログラムで、学生は専門家による実践的なプロジェクトやウェビナーを受講できるうえ、メンターによるサポートや卒業時の就業サポートなどを受けることが可能。20万人以上の若者のITスキル向上を目指しており、ここでフリーランスとして活躍できる知識や技術、能力を身に着けることができた若者はすでに約7万3000人に上るとのこと。

 

また、国内企業のみならず海外企業のアウトソーシングに対応する人材の育成も包括しているFWDでは、情報技術産業開発局の支援により、学生を含めた1万人の若者に英語・フランス語・ドイツ語を教えるプログラムも2021年末からスタート。つまり、エジプトはデジタル業界を中心としたグローバル人材の育成において手厚いサポートを実施しているのです。

 

このような「デジタル・エジプト」の取り組みは、すでに海外で評価され始めています。米国の経営コンサルティング企業のA.T.カーニーが発行する2021年版グローバルサービス拠点インデックス(GSLI)では、中東・アフリカ地域からエジプトだけが上位20位にランクイン。同国の世界経済全体に与えるインパクトが、これから強まっていくと見られています。

 

アフリカにおけるスタートアップ企業の発展は、これまでナイジェリアやケニア、南アフリカで顕著でしたが、現在ではそこにエジプトが加わっています。デジタル戦略を推進する同国は勢いづいており、日本企業が中東・アフリカ地域への進出を検討する際にも、エジプトの人材は貴重な戦力になるかもしれません。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

“オールインクルーシブ”なファッションを通してよりよい社会の実現へ

【掲載日】2022年3月4日

SDGs達成に向けた取り組みが加速する中、注目が集まっている分野の一つがファッション産業です。大量生産と大量廃棄の問題、作り手の人権問題など、あらゆる課題が浮き彫りになった今、課題解決のためのアクションが世界各地で起こり始めています。その中で、多様な人々や地球環境に配慮した「オールインクルーシブ」なファッションを通して、よりよい社会の実現を目指しているのが、SOLIT株式会社です。今回は代表の田中美咲さんに、会社設立の経緯や同社が運営するブランド「SOLIT!」に込めた想い、今後の展望などについてお聞きしました。

 

田中美咲/大学卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。東日本大震災をきっかけに、福島県で情報による復興支援を行う公益社団法人(現一般社団法人)助けあいジャパンに転職し、被災者向けの情報支援事業に従事。その後2013年8月に「防災をアップデートする」をモットーに一般社団法人防災ガールを設立。2018年の第32回人間力大賞経済大臣奨励賞受賞。同年フランスSparknewsが選ぶ世界の女性社会起業家22名に日本人唯一選出され、世界一位となった。2018年2月には社会課題解決に特化したPR会社、株式会社morning after cutting my hair創設。さらに2020年9月には「オールインクルーシブ」な社会の実現を目指してSOLIT株式会社を創設し、代表取締役を務めている。

 

根底にあるのは「弱い立場の人に寄り添いたい」という想い

 

――まずはSOLIT株式会社を立ち上げた経緯について教えてください。

 

田中 私が大学を卒業して社会人になったのは、東日本大震災が発生した2011年のこと。私にとって震災や災害について考えずに社会人生活を送ることはあり得ませんでした。社会人になって最初の1年は週末に被災地で支援活動を行っていましたが、目の前で助けを求める被災者と向き合ううちにいてもたってもいられなくなり、仕事を辞めて福島県に移住することを決意しました。移住後は、福島県庁の広報課のようなところで被災者への情報発信事業を行っていました。しかし現地に深く入れば入るほど、国、政府、自治体などと地域住民たちが意思疎通できていないことを痛感。そこで、自分で非営利団体を立ち上げようと考え、人にも環境にも配慮した課題解決のための事業を始めました。その3社目として立ち上げたのが、SOLIT株式会社です。東日本大震災が一つの大きなきっかけでしたが、自分の根底にある「全ての人が自律的に選択でき、生きやすい世の中になってほしい」という想いに従って選択を繰り返してきた結果、今があると感じています。

 

――SOLIT株式会社ではどのような事業を展開しているのでしょうか?

 

田中 SOLIT株式会社では多様な人々や地球環境に配慮した「オールインクルーシブ」な社会の実現を目指し、現在は大きく2つの事業を展開しています。1つは、ファッションブランド「SOLIT!」の運営です。障がいの有無、セクシュアリティー、体形などに関係なく、どんな人でもファッションを楽しむことができる服を提供しています。もう1つはSOLIT!の運営を通して蓄積した、ダイバーシティー&インクルージョンの考え方や、インクルーシブデザインの手法といった知見を活かして、他の企業とコラボレーションしたり伴走支援をしたりする事業を行っています。

 

またSOLIT株式会社では、働く人々も多様であることが大きな特徴の一つ。会社が提示する契約形態に合う人を探すのではなく、“素敵な人”を探して、その人に合う契約形態をつくるようにしています。現在、正社員は私を含めて2人で、そのほか業務委託やインターンシップ、プロフェッショナルボランティアのスタッフなど約40人で運営しています。

 

服が大量廃棄される裏側で、「選択肢がない人」の存在を知った

 

――そもそもなぜファッションブランドを立ち上げようと考えたのでしょうか?

 

田中 防災や気候変動など環境問題のフィールドで8年間活動をしていて、ファッション産業と言えば大量に生産して大量に廃棄しているというイメージしかありませんでした。そんな中で、指を麻痺している友人は、ジャケットやボタンの付いた服が着られないと「服の選択肢がない」と話している。このギャップに違和感を覚え、自分に何かできることがあるのではないかと考えたことがファッションブランド立ち上げの出発点となりました。

 

その後立ち上げたブランド「SOLIT!」では、多様な人と地球環境への配慮をできる限り「純度100%」で実現することを目指しています。例えばSOLIT!で販売している服は、すべてが受注生産品。依頼を受けてから生産するため、そもそも服が廃棄を前提としない仕組みになっています。つくる服に関しても、もともとある服に人が合わせるのではなく、「人に対して服が合わせる」という考え方をしていて、服のサイズ・仕様・丈を自分好みに選ぶことができます。例えば、脊柱側湾症(※)と呼ばれる障がいのある方の中には、左右の腕の長さが大きく異なる方がいます。そのため既存の服では片袖だけ引きずってしまったり、ブカブカで着づらかったりすることもあります。しかしSOLIT!の服は、左右の袖の長さを変えたり、余裕を持って着られるよう胴体のみを大きめサイズにしたりと、自由にカスタマイズすることが可能です。またSOLIT!では12サイズで商品を展開しているため、体形を選ばず着られますし、年齢や性別に関係なく着られるデザインも意識しています。

※脊柱側弯症…脊柱を正面から見た場合に、左右に曲がっている状態。

 

 

――商品はどのように企画してつくっていったのでしょうか。工夫した点などを教えてください。

 

田中 商品を企画するときには、まずチームのメンバーたちそれぞれが普段感じている服の課題を挙げ、その課題の背景にあるファッション産業の構造やデザインの文化、歴史について考える時間を設けました。さらに企画段階から、そもそも服の選択肢が少ないとされる障がいのある方、セクシュアルマイノリティーの方、高齢者の方も巻き込みながら、「インクルーシブデザイン」という手法を用いて、さまざまな意見を取り入れて一緒に考えていきました。

 

その中で特に着づらい服が多いと感じていたのが、身体に障害のある方たち。彼らにとって、服を着脱するときに腕を通したり肩を後ろに引いたりすることや、ボタンをとめたりすることはとても困難な動作です。そのため頭からすっぽりとかぶるようなパーカーやセーターしか服の選択肢がないという方が多くいました。そこで、身体に障がいのある方たちが「今まで着たくても着られなかった服」を作ろうとヒアリングを実施。結果的にはジャケット、パンツ、ボタン付きのシャツをSOLIT!の第一弾の商品として販売することが決まりました。

 

 

――実際にSOLIT!の服を着た方からはどのような反響がありましたか?

 

田中 今までパーカーなど頭からかぶる形状の衣服しか着ることができなかった方が、SOLIT!の服を着れば気兼ねなくデートに誘える!」と喜んでくれました。これを聞いてチームの皆で「最高じゃん!」と盛り上がりましたね。そのほかにも「このジャケットを着れば娘の結婚式に行ける」と話してくださった年配の男性もいました。健常者にとっては“one of them”でしかないボタン付きのジャケットやシャツですが、これらを着ることによってできることが増える人たちがいる。ファッションは社会参加の部分にまで関わるということを実感しました。

 

医療・福祉従事者と連携しながら“本当に着たかった病院服”を企画

 

――SOLIT株式会社のもう一つの事業では現在どのようなことを行っているのでしょうか。

 

田中 現在、大阪の岸和田リハビリテーション病院と、同病院が所属する生和会グループのSDX研究所と協業して、服の可動域に関する研究や病院服を開発するプロジェクトを行っています。

 

病院服を開発することになったのは、患者さんや医療従事者へのアンケートを通して、現在の病院服があまり快適なものではないとわかったことがきっかけでした。従来の病院服と言えば、甚平のような形をしたものが一般的。しかし患者さんにとって着たくなるデザインとは言い難く、また胸元がはだけやすかったり、腕が通しにくかったり、お腹の辺りで紐をくくらなければならなかったりと、さまざまな課題があることもわかりました。そこで今回私たちが企画したのが、“みんなが本当に着たかった”病院服です。患者さんや医療・福祉従事者へヒアリングをしながら課題を一つ一つ解決し、最終的には、デニムやカーキベージュのような色味にしたり、ボタンをマグネット式にしたり、肩からわき下にかけてのアームホールを広げて着やすくするなど、さまざまな工夫を凝らした病院服が出来上がりました。

 

現在は、クラウドファンディングで開発費などの資金を集めたり、プロジェクトを運営するための仕組みを整えたりしているところ。22年4月からは岸和田リハビリテーション病院で実際に患者さんたちに着てもらう予定です。すでに途中段階の病院服を試着した患者さんからは、「この病院服を着て家族に会いたい」「外に出かけたい」といった感想をいただきました。患者さんたちがこの病院服を通して少しでも前向きな気持ちになれるよう、今後もチーム全員でプロジェクトを進めていきます。

 

アジア展開も視野に入れ、さらに幅広くアプローチしていきたい

 

――SOLIT株式会社がこれからつくりたいと考えているプロダクトや新たに企画していることを教えてください。

 

田中 ファッションの分野では、より幅広いプロダクトを考案していきたいと考えています。例えばアレルギー性皮膚炎の方でも着やすい素材を使った服や、精神疾患により首回りがきつい服を着られない方にもやさしいデザインの服など、身体に障がいのある方だけでなく、さまざまな方が抱える課題を解決するような服を作っていきたいです。さらに文具、家具、家電といったものにも、多様な人々が使いやすいように改善できるところがまだまだあるはず。今後はファッションだけにとどまらず、衣食住に関わるあらゆるプロダクトを展開することも目標としています。

 

また国内だけではなく、アジアへの進出も視野に入れていて、障がいのある方が着やすい服、着たくなるような服を各地にローカライズしながら作れないかと考えています。しかし実現するためには、まだまだ乗り越えなければならない課題が多くあるのが現状です。例えばSOLIT!では現在、生地の調達や縫製を中国で行っていますが、同じ価格帯で他のアジアの国にも展開しようとすると、かなりの輸送コストと環境負荷がかかってしまいます。そのため、生産地を変えたり、カスタマイズ性を少なくしてコストを下げたりするなど、あらゆる調整が必要になってくると考えています。

 

そのほか、アジアの新興国や途上国の中には、アメリカナイズされたファッション文化が拡大し、地元のファッション産業が衰退しつつあることが問題視されている国もあります。こうした課題に対しては、例えば伝統衣装にマグネットやマジックテープを付けるなどして、障がいのある方をはじめ、より多くの方に着てもらいやすくなるようSOLIT!のインクルーシブデザインの手法を伝えていくこともできるはずです。しかしこれを事業として成り立たせる方法を考えたり、「文化の継承」という側面から考えて問題がないかを検証したりするなど、こちらもクリアすべき課題が多くあると感じています。現在はまだ、さまざまなことをリサーチしている段階ですが、協業できるパートナーを探したり、現地と連携をしたりしながらアジア展開の実現を目指していきたいです。

 

 

――最後に、SOLIT株式会社の今後の展望を教えてください。

 

田中 SOLIT株式会社では今後も「多様な人と環境に配慮した服を作っているブランド」として、多くの人から選んでもらえたり、思い出してもらえたりする存在でありたいと考えています。さらにほかのアパレル企業に対して環境問題や人権問題を解決するための提案やコラボレーションを行ったりして、双方にとってメリットになることも考えていきたいです。これからも自社事業と協業の両軸でアプローチをしながら、そしてファッション分野だけにとどまることなく、オールインクルーシブな社会の実現に向けて力を尽くしていきます。

 

【この記事の写真】

入居者アプリ「totono」と管理会社向けサービス「WealthParkビジネス」が連携へ、スマサポとWealthParkの事業提携で

内覧サービスなどの不動産テックを含めたさまざまな管理会社向けサービスを展開するスマサポと、管理会社と不動産オーナーをつなぐ管理会社向けの業務支援システム「WealthParkビジネス」を展開するWealthParkが、事業提携の開始を発表しました。

本提携によって、テクノロジーを活用したサービスを提供したいと考えている管理会社に向けて、スマサポとWealthParkのサービスを連携させた提案を行い、DX実現をサポートしてくとしています。

 

具体的には、賃貸物件の入居者と管理会社をつなぐスマホアプリ「totono」と「WealthParkビジネス」をパッケージプランで用意するほか、両サービスのデータを連携させることで、入居者の退去連絡や更新契約をオーナーに共有したり、入居者トラブルの内容をオーナーに報告したりできるようになります。

 

両社は、今回の提携により、管理会社・入居者・不動産オーナーがテクノロジーを通してより良い体験を得ることができるよう、引き続き連携を強めながらサービス提供を進めていくとのことです。

「実は日本の飲食業界の未来は明るい」――人材不足に悩める飲食業界で「クックビズ」が見出した答え

2869万人――これは2017年に日本を訪れた外国人観光客の数だ。1人あたり平均15万円以上を国内で消費し、また7~8割は“日本の食事”を観光目的にしているという。そのため、訪日観光客が国内で飲食に費やす額は1兆円近い。飲食業は日本の観光資源とも言えるわけだ。とはいえ、その飲食業界では人材不足が続いている。せっかく入店しても辞めてしまうことも多く、離職率は28%にのぼるという。

 

そのような飲食業界の課題を解決すべく、飲食に特化した人材サービスを提供しているスタートアップ企業がある。大阪に本社を構えるクックビズだ。同社は大阪のほか、国内4か所にオフィスを持つ。そのうちのひとつが五反田だ。

五反田スタートアップ第12回は、クックビズ代表取締役社長CEO 藪ノ賢次氏に、同社が提供するサービス「クックビズ(cook+biz)」と飲食業界を取り巻く課題について話をうかがった。

 

人気のある日本の食事を提供している飲食業そのものを、人気の職種にしていきたい

――:まずは、どのようなサービスを提供しているのか教えてください。

 

クックビズ代表取締役社長CEO 藪ノ賢次氏(以下 藪ノ):主に飲食に特化した人材サービスを提供しています。大きく3つの柱があり、有料の職業紹介事業、求人サイト運営事業、研修事業です。

 

人材紹介サービス事業では、飲食業界に特化した転職支援を行っています。相談に来られた転職希望者にカウンセリングを行い、お仕事を3つ~4つほど紹介。転職に成功すれば、転職先企業から報酬をいただく、という形です。

 

求人広告サービスについては、人材紹介サービスを使うのはハードルが高いと感じている人、あるいは仕事場所や分野など希望する転職先のイメージが具体的にできあがっている人向け。コンサルを受けるほどでもない、という転職希望者が自分で求人サイトを見て応募できるようになっています。また、自分のレジュメを登録しておいて、名前など個人を特定できる情報以外を企業向けに公開し、それを見た企業からのスカウトを受ける、というスカウトサービスも展開しています。

 

最後に研修事業ですが、こちらはスタッフへの教育がなかなかできず、せっかく優秀な人が入ってきても定着しない、という課題を解決するためのサービスとなっています。

↑クックビズ代表取締役社長CEO、藪ノ賢次氏

 

――:人材サービスのなかでも、なぜ飲食業界に特化することにしたのですか?

藪ノ:いろいろ理由はあるのですが、はじまりは食関連の専門学校とタイアップした「アルバイトマッチング」だったんです。講義が終わった午後6時ぐらいから飲食店で働くことで、いわば実地で学ぶことができる。そういうサービスでした。

 

そうやって飲食店と関わっていくなかで、飲食業界が慢性的に人不足に陥っていること、離職率が高いこと、人手が足りないから教育も行き届かないことなどの課題が見えてきました。しかも、そもそもの給与があまり高くないから採用が成功した際の報酬も低く、人材サービスに関しては誰も手を付けていない。それならば自分がやってみようか、と。

 

訪日外国人の76%が日本の食事を目当てにしている。日本のおいしい食事を食べたい、と思ってやってくる。インバウンドを引きつける力になっているんです。なのに、人手が足りない。人気がないからですよね。人気のある日本の食事を提供している飲食業そのものを、人気の高い職種にしていきたい、と考えているんです。

 

離職率の高さは特有の“ミスマッチ”が大きな要因

――:1/3近い人が辞めてしまうそうですが、なぜそれほどまでに離職率が高いのでしょうか?

藪ノ:飲食業の7~8割は中小企業。10店舗未満の個人店なんです。そうなると、人が少なく、余裕がないから新しいスタッフを教えている時間がありません。いわゆるOJTが成り立っていない。でも、お客さまは待ってくれませんし、粗相があれば即クレームに結びつきます。

 

そうすると、新しいスタッフは心が折れてしまいます。それが続けば辞めてしまう。そういった状況を変えるべく、接客マナーや組織として働くことの心構えなどを学べる「クックビズフードカレッジ」という事業をスタートしました。

 

クックビズフードカレッジでは、お店で働くスタッフだけでなく、店長向けの研修プログラムも用意しています。お店によって、あるいは店長によってルールが違うと、スタッフは戸惑ってしまい、それもまた辞める原因になってしまいますから。このようにお店のルール共通化を学べるほか、面接の仕方や損益の見方なども研修を通して習得していただき、店舗運営に強い人材を目指します。それがひいては組織の強化・発展につながっていくと考えています。

↑教育を行う余裕がないため、多くの飲食店では「練習なしにぶっつけ本番をしているような状態」になっていると藪ノ氏は語ります

 

――:アルバイトスタッフだけでなく、正社員として転職した場合でも辞めてしまう人が多いのはどういうことが原因なんでしょうか?

藪ノ:総合的な転職サイトや雑誌にある情報では足りない、ということが主な原因ですね。飲食業で転職したいという人は、「将来自分の店を持ちたい」という志を持っている人が多い。その準備としてお金を稼ぐ……というために転職しているわけではなく、仕入れや経営、メニュー作りなど、将来独立するときに役立つ情報を学びたいからそのお店に入るんです。

 

でも、一般的な求人情報にあるのは「給与」「仕事時間」「福利厚生」といったありきたりの情報だけ。もちろんそれらも必要ですが、それは最低限の情報ですよね。求められているのは、どんな仕事がそこでできるか、どんなスキルが身につくかといった、数字だけでは見えてこないものなんです。決められた仕事時間内で学べないことは、定時後にお店にとどまってでも学びたい、そういう職人の世界なわけです。

 

このように、少ない情報だけで転職を決めざるを得ないから、ミスマッチが生じ、辞めてしまう、というのが実情です。そこで、わたしたちは「cook+biz」というサービスを通じて飲食業界内での転職におけるミスマッチをなくし、楽しく目標を持って働く人たちを増やしていきたいと考えています。

 

――:飲食業界ならではの難しさはありますか?

藪ノ:ビジネスで、経営資源といえば「ヒト・モノ・カネ」。インバウンドによる底上げもあって、「カネ」の部分はだいぶ回っていますし、いままで聞いたこともないようなジャンルの食を扱うお店も出てきていることから、コンテンツも豊富になっていることがわかります。これは「モノ」の部分ですね。

 

でも、「ヒト」に関しては、“人材剰余”時代の印象が雇用者側に根強くて、働き手が少なくなっているという現状に気づいていないお店が多い。4店舗で求人を出しても、採用できるのは1店舗のみということが当たり前に起こりうる状況があまり理解されていません。

 

そういう職人気質というかクリエイティブな方に危機感をもっていただく、というのがなかなか難しいと感じています。

 

――:御社では「クックビズ総研」という食のキュレーションサイトも運営されていますが、時代に合った認識を持っていただくためにも情報発信し続ける必要がある、ということなんですね。

ところで、この事業を展開していて良かったな、と感じた場面はありますか?

藪ノ:採用のお手伝いをした会社の店舗数が増えていったり、人が定着したりするのを見るのはやっぱりうれしいですね。企業の成長には、人の成長が欠かせない、その最初の部分に人材サービスとして関わっている、というのを実感できますし、なんといっても成長が止まっているといわれる国内産業のなかでもまだ伸びしろがあるんだ、ということが手応えとして得られる。飲食業界を元気にすることで、この閉塞感を打ち破っていければと思っています。

 

【五反田編】さまざまな「食」が一堂に会する場所

――:それでは、次は五反田にまつわるお話をうかがいたいと思います。御社は大阪に本社があり、名古屋、福岡、そして東京には新橋と五反田にオフィスを持っていらっしゃいますが、五反田に拠点を構えたのはどういう理由があるのでしょうか?

藪ノ:そもそも拠点を数か所持っているのは、転職希望者が相談に来られるように、というのが理由です。直にお会いして、コンサルティングさせていただいているんです。東京の拠点のなかでも、新橋はそのための場所になります。

 

一方、五反田は面接のための場所ではなく、求人広告事業の事務所として使っています。築浅のきれいなオフィスが格安で借りられる。しかもアクセスがいい。横浜の案件も増えているのですが、五反田は山手線の西側だからその点でも便利です。

 

あと、五反田って飲食業が盛んなイメージありますよね。いろんなジャンルの食を楽しめる、そういう意味でもこの場所はいいかなと感じています。

 

――:特にお気に入りのお店はありますか?

藪ノ:祐天寺や中目黒にもあるようですが、「もつ焼き ばん」が東京に来てからのお気に入りです。夜は居酒屋の「てけてけ」が安くていいですね。肉料理では「なるとキッチン」。ザンギがうまいです(笑)。また、スタッフはよく「酒田屋」を利用しています。

 

――:五反田にあるスタートアップ企業の中でコラボしたいと思われるところはありますか?

藪ノ:食関連でいえば、トレタさんでしょうか。先ほどお話したとおり、飲食で働きたい人は目的を持っている人が多い。決して予約の電話に振り回されるためにそこにいるわけじゃないんですよね。従業員目線で何かしらできたらいいなと思います。

 

――:最後に、今後のビジョンについて教えてもらえますか?

藪ノ:そうですね……日本の飲食業界の未来は実は明るいんです。

 

というのも、日本はアメリカやフランスに並ぶ食の先進国。そして今後、全世界的に経済が成長しGDP比率が増えてくるのはアジア地区。経済的な豊かになったアジアの人たちに最も近い食の先進国が日本、というわけです。つまり、日本は飲食という観点でいえば地の利がある、ということになります。

 

ますます元気になっていく国内の飲食業界をもっと盛り上げていくには、人材が必要です。いまは国内でのみ転職マッチングをしていますが、将来的には国境を超えたマッチングも手がけていきたい。自分のウデと包丁1本で渡り歩いていける業界ですし、国境は関係ないですしね。

 

わたしたちがいままでの「日本人」という枠から「アジア人」の一員というアイデンティティを確立するようになったときに、飲食業界内で価値を提供できるような、そんな企業になっていたいですね。

↑「飲食という部分では日本の地の利はいい。それを生かせれば、飲食業界の未来は明るい」と語る藪ノ氏

 

ベルリンの壁と関係!? 旧東ベルリンの人気地区が「シリコンアレー」となったワケ

ベルリンの壁の崩壊以降、空洞化していたベルリン経済にミラクルを引き起こしたのが、実はスタートアップ企業たちでした。2017年のベルリンGDPは1366億ユーロと崩壊後の約3倍を記録し、ベルリンは「貧しい首都」のイメージを変えつつあります。そのスタートアップ企業の立地ですが、一体ベルリンのどこに位置しているのでしょうか? 本稿では「シリコンアレー」「ベルリンバレー」と呼ばれる、ベルリンのスタートアップ密集地を紹介し、ベルリンの壁との関係について考察してみます。

 

ベルリンの東側に集中するスタートアップ

ドイツ経済になくてはならない存在となったスタートアップ企業。約1800のスタートアップがベルリンで活動しているといわれます。ジョブプラットフォームを提供する「Honeypot」では、そのなかで成功している約10%を抽出して企業のロケーションを調査。その結果を見ると、多くはベルリンの東側に集中しています。

 

特に多いのが旧東ベルリンのプレンツラウアーベルク地区で、「Zalando」や「Wooga」など成功したスタートアップ企業もこの地域にあります。そのなかで最も集中しているのが、地下鉄駅「ローザ・ルクセンブルク・プラッツ(Rosa-Luxemburg-Platz)」の近くにある「トール通り(Tor Straße) 」沿い。ベルリンのシリコンバレー、通称「シリコンアレー」と呼ばれているのがこの通りです。

エコノミストのクリストファー・モラー氏は、トール通りが「シリコンアレー」になった理由として、クールなカフェやバー、映画館などが多く、ファウンダー(会社の創始者)がクリエィティブで都会的な雰囲気を好むためだと言います。また、周辺にファウンダーの居住地が多いことも理由に挙げています。

↑トール通りの位置。南に1.4キロ(or電車で6分)行くとベルリンの中心街になる。

 

ベルリン・コワーキングスペースの先駆けの1つとしてすっかり有名になった「ザンクト・オーバーホルツ(St.Oberholz)」もトール通り沿いに位置しています。

また、ベルリンの東側にあるものの、旧西ベルリンに属していたクロイツベルク地区にもスタートアップ企業が集まっています。この地域とプレンツラウアーベルク地区はかつて壁があった場所に近く、多くのカフェやレストラン、クラブがあるベルリン市民に人気のエリアです。

↑クロイツベルク地区の位置。北に約3.2キロ(or電車で約20分)行くとベルリンの中心街になる。

ベルリンの壁と関係があった? ベルリンの歴史的魅力

さて、そもそもなぜベルリンがスタートアップの聖地となったのでしょうか? まず、他国の大都市と比べて、当時はベルリンの家賃や生活費が安かったこと、カフェやレストラン、クラブ、映画館やコンサートホールなどの文化施設、そして魅力的なイベントが多いこと、英語が話せる人が多く、ドイツ語が必要ないことなどの理由が挙げられます。

 

しかし、ここでは、ベルリンの壁が与えた影響について考えてみたいと思います。ベルリンが辿ってきた特殊な歴史が起因する一種独特の自由な雰囲気は、スタートアップのロケーションにも影響を与えていると言えるでしょう。

壁の建設で、西ベルリンは四方を壁で取り囲まれた街――「東ドイツに浮かぶ孤島」――となりました。西ドイツの他都市に行くためには東ドイツを経由する必要があり、当時西ベルリンにあった企業は、地の利が悪いことから西ドイツの他の都市に移転。ベルリン経済は深刻な影響を受けました。

 

そこで政府は、西ベルリンを魅力的な都市にするために様々な特典を与えました。そのなかでも特に若者に魅力的だったのが、兵役の免除とカフェやクラブなどの閉店時間がないこと。壁で囲まれ孤立した西ベルリンは自由かつ一種変わった空間を提供していたようで、アナーキストや左翼のほか、海外からもデビッド・ボウイを始めとする多くのミュージシャンやアーティストたちが集まり、ナイトライフが盛んになっていました。

壁が崩壊すると、西ベルリンのバーやクラブはこぞって家賃の安い東ベルリンに移動。かつて壁があったエリアはしばらくアナーキーな無法地帯になりましたが、そこにある自由で前衛的な雰囲気からベルリン特有のテクノ文化やクラブが生まれました。

 

現在ファウンダーに人気のある場所はまさに、旧東ベルリンや元壁があった近くのカフェやクラブがあるエリア。いまはなき西ベルリンの文化や壁が崩壊した後のアナーキーな時代の名残を残す場所なのです。既存の企業に迎合せず、自分を信じ新しい生き方を作るスタートアップのファウンダーたちは、アナーキーな時代に「存在していた何か」に魅力を感じているのかもしれません。

「Appliv」も「カルモ」も根っこは同じ――スタートアップ企業「ナイル」のブレない事業マインド

五反田スタートアップ第19回「ナイル」

 

ウェブページが無数に存在するインターネットの海で、自社のサイトまでたどりついてもらう、そしてモノやサービスについて知ってもらい、さらには購入までの導線を引く――。さまざまな企業が頭を抱える難題だろう。スマートフォンアプリについても日々増え続けており、App Storeに掲載されているアプリは200万以上、Google Playでは300万以上にのぼる。これだけ多いと探すのも一苦労だ。

 

五反田スタートアップ第19回は、こうした課題を解決する、デジタルマーケティングやアプリ情報サービス「Appliv」(アプリヴ)を手掛けるナイルの代表取締役社長、高橋飛翔氏に話をうかがった。

↑ナイル代表取締役社長、高橋飛翔氏

 

大量のアプリのなかから自分に最適なアプリが見つかる

――:まず、御社で展開している事業について教えてください。

ナイル代表取締役社長高橋飛翔氏(以下、高橋):主な事業としては、デジタルマーケティング事業、スマートフォンメディア事業、モビリティ関連事業の3つがあります。

 

デジタルマーケティング事業では、ウェブサイトへの問い合わせを増やし、そこから売上を伸ばしていくにはどうすればいいか、といったコンサルティングが主となっています。

 

また、スマートフォンメディア事業では、スマホ向けアプリの情報を提供する国内最大級のメディア「Appliv」を中心に「ApplivGames」「Applivマンガ」という3つのメディアを展開。Applivでは、大量のアプリのなかから自分に最適なアプリが見つかるような仕組みを提供しており、それによってスマートフォンを活用した、より良いライフスタイルのお手伝いができればと考えています。

 

モビリティ関連事業としては、オンラインで完結する格安マイカーリースサービス「カルモ」を今年1月にリリースしました。

 

――:特にApplivについては、利用している読者も多そうです。なぜスマホアプリの情報サイトを立ち上げようと思われたのでしょうか?

高橋:デジタルマーケティング事業が軌道に乗り、新たな事業モデルを模索するなかでスマートフォンアプリの領域に注目しました。

 

私たちは2011年の冬からApplivについての企画を始め、2012年8月にApplivをリリースしました。やはり、「これからは、フィーチャーフォンではなく、スマートフォンがモバイル利用の主戦場になっていくだろう」と考えたのが大きかったです。フィーチャーフォンで遊べるDeNA モバゲーのモバコイン(ゲーム内で利用できる通貨)の消費量は、2012年に過去最高を記録しその後減少に転じているのですが、このあたりの数字感を見ても当時の考えは正しかったのかなと思います。

 

今後、数が増えていくスマホアプリを整理して見やすくし、求めているアプリがすぐに見つかるように なれば、スマホはより便利になるし、それによって生活も楽しくなる。それなら、アプリを見つけやすくする情報サイト を作ればいいんじゃないか、と考えて作ったのがApplivでした。

↑「適切なアプリを、必要としている人が見つけられるようにしたかった」という高橋氏

 

――:私も、iPhoneを買ったばかりのころは、App Storeに毎晩のようにアクセスして良いアプリがないかと探したものです。それでも最近は数が多すぎて、探すのが大変だと感じていました。使い勝手がよくわからないものも多いですしね。

高橋:Applivでは、10万本近いアプリを掲載していますが、わかりやすくカテゴライズしています。それに、レビュー数も一定数以上あるので、評価の高いものから選んでいただけますし、ユーザーの生の声を参考にすることもできるようになっています。

 

――:App Store内にもレビューを書き込めると思うのですが、ユーザーがApplivに書き込みたくなるような仕組みがあるのでしょうか?

高橋:そうですね、1つは自分たちが見つけたアプリをほかの人にも知ってもらいたい、というアプリ好きのユーザーの思いに応えられるところでしょうか。App Storeでは、レビューを書いても、それをシェアできません。しかし、Applivではトップページからレビューへの導線がありますし、レビューからアプリを探すこともできる。自分の書いたレビューをシェアしやすいし、「いいね」も押してもらえる。そういう意味では、「教えたい」「知らせたい」というユーザーの欲求を満たせるのではないかと思います。

 

また、有用なレビューを投稿するとポイントがゲットできるようになっており、貯まったポイントはApp Store&iTunesコードまたはGoogle Playギフトコードと交換できます。アプリのレビューをたくさんすることで、また別のアプリを購入できる、またはアプリ内課金ができる、という仕組みですね。

 

――:そうなってくると、どのようにマネタイズされているのかが気になります。登録も閲覧も無料ですよね?

高橋:Applivでは、自社開発のAppliv ADというシステムでサイト内に広告を配信しており、それによって収益を得ています。「配信」といってもバナー広告のようなものではなく、検索した結果の上位に「PR」として表示。しかも、きちんとユーザーレビューも表示されるため、「PR」ではあるけど違和感なくコンテンツになじんでおり、しっかりレビューを読んでいただいたあとに、そのアプリの詳細に飛べるようになっています。

 

もちろん、弊社独自の審査基準がありますから、広告として表示されるアプリはどれもしっかりしたものばかり。そこは安心していただきたいですね。

 

起業時の志を抱き続けることで今がある

――:創業から現在まで、どのような事業にチャレンジされてきたのでしょうか? また、どのようにして会社を大きくされてきたのですか?

高橋:実は、当社は最初、東大生の家庭教師を紹介する事業をやっていたんですよね。そのあと、オンラインで東大生が教えるWeb予備校というコンセプトの動画サービスをはじめて。どちらもあまり上手くいかなかったなかで、会社が本当に潰れそうになって、生き残りをかけて始めたのがWebマーケティング支援事業(現在のデジタルマーケティング事業)でした。

 

でも、マーケティングといっても幅が広い。競合他社がたくさんあるなかで弊社に発注しようと思っていただくには、何かの領域ですば抜けている必要がある、と感じていたんです。 当時はSEOという言葉が今よりももっと注目されていて、検索結果の上位に表示させたいというクライアントからの要望が増えていました。 そこで、SEOに強い会社になろう、とメンバーたちと話し合って。3回目のピボットで、会社が大きくなっていきました ね。

 

苦しい時期もありましたが、起業したからには最後までやり遂げたい、潰すわけにはいかない、という思いでやってきました。それがいつでも正解とは限りませんが、「世の中を変えたいと思って起業したのに、上手くいかないから辞めた」というのは、自分の美意識に反するんですよね。きちんと初志貫徹しようという気持ちが強かったからこそ今があるし、ここまで会社を大きくできたんじゃないかなと思います。もちろんまだまだ全く満足していませんが。

 

世の中の課題をなくしていきたい。その志があったからこそ、今があるし、ここまで大きくなれたんじゃないかな、と思います。

「苦しい時期もあったが、とにかく会社を潰したくなかった。それはぼくの美意識でもあります」(高橋氏)

 

【五反田編】現在の従業員数は160人! 採用活動を見込んで大所帯でも入れるオフィスに

――:2013年に豊島区から今の場所にオフィスを移転されたとうかがいましたが、五反田を選んだ理由はなんでしょうか?

高橋:渋谷や恵比寿、目黒や大崎も候補地に入っていたのですが、アクセスのしやすさがそれほど変わらないのに、五反田に比べると地価が高い。高い賃料を許容してまで渋谷や恵比寿にオフィスを構える必要性ってあるのだろうか? そう考えていたときに、ちょうど良い物件が五反田にできたので、ここに決めたんです。

 

このオフィス、200坪もあるんですよね。なかなかこれだけの広さの物件はなくて。当時でも60人〜70人ほど従業員がいましたし、その後も採用活動は続けるつもりでしたから。そこそこアクセスが良ければ、良い人材も採用しやすいですしね。

 

――:オフィスのまわりには飲食店も多いですが、お気に入りのお店はありますか?

高橋:ランチはいつも社内で食べてしまうんですけど、「日南」や「肉料理 それがし」には、よく飲みに行きますよ。

 

――:五反田にある企業で、コラボしたいところがあれば教えてください。

高橋:そうですね……。それこそ御社(学研)と何かできたらいいですよね。弊社なら、カスタマー目線にたったコンサルティングで業績アップに貢献させていただけますよ(笑)。

 

――:最後に、今後の展開をお聞きしてもよろしいですか?

高橋:以前、海外展開をしていたことがあるんですが、それは別に「大きなマーケットがあるから」という理由ではなく、困っている人がいれば、その課題を解決したい、という純粋な思いがあったからなんです。今でもそれは変わっていません。

 

今、ぼくたちが提供しているマーケティング事業では、情報を届けたい法人と、その情報を必要としているエンドユーザーをつなげるお手伝いができていますし、Applivでは、必要なアプリを見つけるお手伝いができている。適切な情報を、必要とする人に届けるサービスを展開しています。

 

でも、まだまだそういう情報が、必要な人の手に渡っていないところもありますよね。大企業がすくいきれていないそういった課題を解決して、人々が豊かになれればいい。できるだけ多くの人、億単位の人たちの生活を変えられるとすれば、それをしたいじゃないですか。マイカーリースサービス「カルモ」もそんな思いからスタートしました。

 

「ブルーオーシャンだ」「レッドオーシャンだ」と、競合に顔が向いていては本末転倒だと考えています。サービスの主軸は人の課題、社会が抱える課題。そこだけブレずにやっていければ、自分たちにしかできない、人の課題を解決するものを見つけられるんじゃないかなと思うし、今後もそうして事業を継続していきたいですね。

↑「競合を向くのではなく、人の課題と向き合いたい」と語る高橋氏

 

 

一世を風靡したウェブブラウザ「Sleipnir」開発会社がVRで「0次選考」を開始したワケ

五反田スタートアップ第18回「フェンリル」

 

2019年卒業予定の就活生たちによる企業エントリーが、この3月にはじまった。企業の新卒採用予定数は増加傾向にあり、企業はあの手この手で採用活動を行っているようだ。そんななか、VR技術を使った「0次選考」を行っている企業がある。

 

五反田スタートアップ第18回は、五反田に東京支社を持つフェンリルのCEO、 牧野兼史氏に話をうかがった。

 

ユーザーのために開発の手を速めたかった――フェンリル誕生のきっかけ

――御社で提供しているサービスや主な事業について教えてください。

↑フェンリル CEO 牧野兼史氏

 

CEO 牧野兼史氏(以下、牧野):基盤としている事業が2つあり、1つはウェブブラウザ「Sleipnir(スレイプニール)」を含む自社プロダクトの開発。もう1つはクライアントから依頼を受けて行う主にスマートフォン向けアプリケーションや、ウェブアプリケーションの開発です。つまり、ソフトウェアやアプリケーション開発を主に行っている、ということですね。

 

――:Sleipnirって、2002年にはオンラインソフトウェアの登竜門ともいえる「窓の杜大賞」を受賞していらっしゃいますよね。動作がキビキビとしているだけでなく、スタイリッシュ。フリーウェアだったこともあり一世を風靡したという印象があります。その当時、わたしの周りでも使っている人が多くいましたし。そのSleipnirが御社での最初のプロダクト、という認識でよろしいでしょうか?

牧野:実は、Sleipnirを世に出したときには、まだフェンリルという会社は存在していなかったんです。というのも、いまの社長である柏木が、個人で開発していたからなんです。

 

ところがある日、柏木の家に空き巣が入り、金目のものがすべて盗まれてしまいました。そのなかに、Sleipnirのソースコードが入っているパソコンも含まれていたんです。

 

Sleipnirはすでに大勢のユーザーさんから支持を得ていて、次のバージョンが待たれている。でも、彼は会社員だったから、平日夜間と休日しか開発のための時間が取れない。

 

「それなら、会社を立ち上げて、すべての時間を開発に充てようよ」と、空き巣事件の少しあとに出会ったわたしが提案しました。こうして2005年6月にフェンリルが生まれた、というわけです。

 

そのこともあり、空き巣に入られた2004年11月はうちの社内でも当時を知るスタッフの間で語り継がれています(笑)。

↑「柏木もいずれ、起業しようとは考えていたようですが、このころは具体的ではなかった。空き巣事件が後押しをした、というところでしょうか」と牧野氏

 

――:会社を立ち上げるにあたり、苦労されたことはありましたか?

牧野:立ち上げ自体は問題なかったのですが、人材募集では苦労しました。立ち上げから半年後、開発スピードを上げるため社員数を増やしたかったんですが、なかなか集まらなかったですね。

 

就活生にとってフェンリルとのファーストコンタクトになる「0次選考」

――:ところで、この春、御社の企業説明会にエントリーした就活生たちへ、VRゴーグルを無料配布し、「0次選考」をしているとうかがっています。VRコンテンツを楽しみながらクリアする、というものらしいですが、コンテンツ開発にもVRゴーグル制作にも相当コストがかかると思うのですが、なぜこのような取り組みをはじめたのでしょうか?

↑企業説明会に登録すると送付される「0次選考」用ゴーグル

 

牧野:Sleipnirユーザーであれば、フェンリルという会社のことをご存知かもしれませんが、たいていの人にとっては名前すら知らない会社というのが現状です。そのような状況のなかでフェンリルに関心を持って、説明会に来ようとしてくださっている学生さんたちがいる。もちろん、採用ページを見れば、この会社がどういう会社なのか、という説明はありますが、画一的な情報しか載せていないですよね。

 

弊社のことをもっと知ってもらいたい、どういうことをやっていて、何に力を入れているのか――サイトだけでは理解できない情報を得ていただきたい、と思ったのがきっかけです。

 

フェンリルが大切にしているのは、「デザインと技術」。開発するコンテンツだけじゃなく、サイトも、名刺も、クリアファイル1つに至るまでデザインにこだわっています。でも、認知度はそれほど高いわけではない。つまり、学生さんたちにとっては、フェンリルとのファーストコンタクトがこの就職活動になるわけです。

↑牧野氏の名刺。厚みがある光沢紙。「デザインを大切にしているので、会社の顔といえる名刺で手を抜くわけにはいかない」と言う

 

0次選考を通じて弊社を知ってもらい、今回応募いただかなくても、いつか転職するときに思い出してもらいたい、就職に悩んでいる友人がいれば「こんなおもしろいことをやっている会社があるよ」と紹介してもらいたい。そういう思いを持って、様々な部門からスタッフが集まり、自発的に考え出して生み出したものなんです。

 

――:最近、企業側が学生について知る、あるいはふるいにかける目的で行うWebテストなどもあるようですが、その逆で、御社について学生側に知ってもらうことが目的、というものなんですね。

牧野:0次選考という名前ではありますが、プレイは任意ですし、クリアしなかったからといって選考に不利になるわけでもありませんしね(笑)。

 

とはいえ、はじめてフェンリルに触れる窓口となるわけですから、コンテンツはコストをかけて開発していますし、ゴーグルのデザインや紙質にもこだわっています。

↑手触りの良い紙製VRゴーグル。使い方を説明する内側のデザインもハイセンスだ

 

【五反田編】社員の負担が少ない住職近接がかなうのが五反田の良いところ

――:ここからは五反田編の質問に入ります。五反田に支社を構えられたのはどのような経緯だったのでしょうか?

牧野:実はこのオフィスは五反田で2つめの物件になります。大阪で起業し、東京メンバーが5〜6人ほどになるまでは、別の場所のマンションの一室を東京支社としていました。でも、「そろそろオフィスに引っ越したいね」となったとき、新宿などでは借りられるオフィスビルが古かったり、窓がなかったり、隣との距離が近すぎたりして社風に合わなかった。

 

いろいろ探していたら、五反田駅の東側に新しいオフィスビルができたという。三面ガラス張りで、オフィス内も上から下まで窓で太陽の光が入って明るい。新築だから外観もきれい。そういうわけで即決したのが五反田との出会いです。

 

――:そして手狭になってこのビル(A-PLACE五反田)へ?

牧野:それもあるんですが、せっかく三面ガラス張りで明るいオフィスなのに、エンジニアたちが「窓から入る光がiMacの画面に反射して見づらい」と不評で、1日中ブラインドを下げることになってしまったんですよね。「これじゃ意味ないじゃん」と笑っていたんですが(笑)。

 

そうこうしているうちに、このビルが建ったので、こちらに引っ越すことにしたんです。

 

――:五反田から離れようとは思われなかったんですね。五反田の良いところって何でしょうか?

牧野:まず、交通の便がいいですね。本社が大阪にあるので品川駅にすぐ行けるというのがありがたい。

 

また、社員が近くに住みやすい、というのが大きいかなと思います。新宿や六本木、恵比寿では会社の近くに住もうと思うと、会社で住居手当を出したとしても社員の大きな負担になってしまう。でも、五反田駅や池上線沿線は家賃も安く、家族でも住みやすい。これが五反田のいいところではないかなぁと感じています。

↑「近くでなくても、横浜や千葉からも通いやすい。五反田という場所の利点だと感じています」

 

――:ところで、五反田でお気に入りの飲食店はありますか?

牧野:チェーン店ですけど、「一風堂」でよくランチを取りますね。あと、夜には「鳥料理 それがし」。五反田に住んでいる知り合いが多くて、そういう人とはよく食べに行きます。

 

――:五反田にはスタートアップ企業をはじめ、たくさんの企業があります。コラボしたい企業はありますか?

牧野:ん〜、同じビル内のクックビズさんとはよくセミナーなどを共催しているので、これからも親密になれればいいかな、と。あと、前述のとおり、わたしたちはデザインと技術を大切にする会社なので、IT部門などを持っていない事業会社のITやデザイン部分でのパートナーになりたいな、と考えています。

 

興味ある企業さんがあれば、ぜひお声がけいただきたいですね(笑)。

 

――:最後に、今後の展開を教えていただけますか?

牧野:弊社の主な事業はソフトウェア開発です。でも、デザインと技術を軸にしたものであれば、その枠だけにとどまる必要はないかな、と考えています。社長の柏木は、好きなものを仕事にしていく才能があるので、今後、ソフトウェアにとどまらず、さまざまな方面にプロダクトを広げていくかもしれません。

 

いずれにせよ、「デザインと技術」という軸と枠のなかで、ビジネスを続けていきたいですね。

すごい! PCやスマホで成長するAI

ハイテクスタートアップ5社が未来の社会をつくる技術No.1の座をめぐってプレゼン対決。大賞に選ばれたのは、自分で学習して成長していく、赤ちゃんのようなAI技術「SOINN」でした。


“お花の定期便”はここまで身近になった!「Crunch Style」が施す花生活

五反田スタートアップ第17回「Crunch Style」

 

女性にとって花を贈られるのはうれしいもの。部屋に飾り、しばらくの間は贈ってくれた人のことを思い出せる。ありふれた日常生活も華やかになる。そんな感動体験を日常生活に取り入れるサービスを提供しているスタートアップが五反田に存在する。

 

五反田スタートアップ第17回は、花の定期便サービス「Bloomee Life」を展開するCrunch Style(クランチスタイル)代表取締役CEO、武井亮太氏に話をうかがった。

20180305_y-koba3 (5)
↑Crunch Style代表取締役CEO 武井亮太氏

 

花があれば心が上向く――日常的に感動できる機会を“花の定期便”で提供

――:まず、御社のサービスについて教えていただけますか?

Crunch Style代表取締役CEO 武井亮太氏(以下、武井):ワンコインからお花がポストに毎週届くお花の定期便「Bloomee LIFE」を提供しています。コンセプトは「お花のある生活を手軽に」というもの。ポストに届くので、ご不在がちなお客さまでも、お花を買いに行く時間のない方でも、日常生活のなかにお花を取り入れていただけるサービスになっています。実際、ユーザーの皆さまも、キッチンやテーブル、玄関など好きなところに飾ってくださっているようです。

 

プランは、500円、800円、1200円と3種類 。それによってお花が3本以上、5本以上、7本以上となり、グリーンや小花などをセットにしたブーケの状態で専用パッケージに入れてお届けしています。

20180304_y-koba2 (6)
↑「Bloomee Life」では、独自に開発したパッケージに、アレンジした状態で花を梱包したものが届く。小花やグリーンもあるため、予想以上に華やかだ

 

「ポストに届く」がこのサービスの特徴の1つではありますが、1200円プランになると、ボリュームがかなりあるため、お手渡しでのお届けになります。

 

――:ステキですね! これは途中でのプラン変更は可能なのでしょうか? 例えば、「今週は結婚記念日があるから、1200円プランでお願いしたい」とか。

武井:できますよ! 都度都度プラン変更が可能なだけでなく、「この週はずっと家にいないので、スキップしてください」といったご要望にも柔軟に対応させていただいています。

 

――:「お花のある生活を手軽に」とのことでしたが、この柔軟さは手軽さ・気軽さにつながりますね。ところで、どのようないきさつでお花の定期便「Bloomee LIFE」を立ち上げようと思われたのですか?

武井:お花は食べ物ではないので、見た目が重要ですが、ネットではなかなか買いにくいのが現状です。全国2万5000店舗も生花店があるのに、業界的にネットに対応していないことが多い。自分で買おうと思ったときにそう感じたのがきっかけでした。

 

また、「日常に感動を届けたい」という思いもありました。毎日同じような生活を送っていても、ほんの小さなことでも感動があれば生きていく糧になりますよね。そういう小さな感動を日常のなかで感じていただきたい、そのための機会を創出したい。お花なら、見るだけで気持ちが上向きになりますよね。そこにあるだけで嬉しくなりますし、季節を感じることもできます。

20180305_y-koba3 (3)
↑「花が生活にあると気持ちが華やぐとわかっていても、定期的に取り入れるのはハードルが高いと感じる人が多い」という武井氏

 

ただ、お花が日常的にある生活って、結構手間がかかるんです。かさばるからできるだけ家の近くで買いたい、でも仕事帰りだともうお店が閉まっている、買いに行く時間が取れない、などなど。いろんな要素が絡まって、ハードルが高いという印象があるんです。

 

じゃあ、日常に無理なくお花を取り入れるにはどうすればいいか。毎週、定期的にポストに届いていれば、生活に取り入れやすい、飾っていただきやすいのではないか、と思って、この事業をはじめました。

 

新しい花や色の組み合わせと出会える喜びも

――:お花選びはどのようにされているのですか? 毎週だと大変かと思うのですが……。

武井:お花は、契約している30店舗の生花店から直接届けてもらっているんですよ。毎週ランダムに「今週はここのお店、今週はここ」という具合ですね。そして、セレクトからブーケ作成、配送まですべて生花店におまかせしています。

 

――:お店ごとにカラーがありそうですね。

武井:センスもそれぞれですしね。実は、届いたパッケージを開けるまで、どんなお花がセレクトされているか、どんなカラーコーディネートになっているかお客さまにはわからないようになっているんですよ。これは、ワクワク感、新しいお花やコーディネートとの出会いを得ていただくためでもあるんです。

20180304_y-koba2 (5)
↑花選びは生花店におまかせ。そのためユーザーは、どのような組み合わせの花が届くのかパッケージを開けるまでわからないというワクワク感が得られる

 

――:ところで、マネタイズはどのようになっているのでしょうか?

武井:販売実績に応じ、手数料を店舗からいただいています。

 

――:契約料とかはナシなのでしょうか?

武井:はい、契約をしていただく際はもちろん、固定の契約料などもありません。実際に届けていただいたぶんからのみいただく、という形を取っています。

 

――:お花はもらえるとうれしいものですし、見るだけでも幸せな気持ちになれますが、届ける側として「このサービスをはじめて良かった」と感じられた場面はありますか?

武井:ユーザーの皆さまが「#BloomeeLIFE」というハッシュタグを付けてインスタグラムに投稿してくださるのが励みになっていますね。「毎週違う花屋さんから届くので、楽しい」「これまで知らなかったお花が届くので、お花の勉強になる」「コーディネートが学べる」とか。もちろん、純粋に飾っていただいている写真も投稿されるので、それを見て「小さな感動を創り出せているのかな」という喜びを感じています。

 

――:サービスを提供されるうえで苦労されたことなどはありますか?

武井:苦労続きですね(笑)。お花はナマモノなので、100%、大丈夫! ということはありません。コンディションが悪くなることもありえます。お届けして開封するまで鮮度を保てるよう、保水の仕方を全店舗に共有したり、パッケージを改良したりしながら最善のコンディションで届くよう工夫しています。実は、この1年で、パッケージは6回も変わっているんですよ。

【五反田編】オフィスと日常がほどよく交錯する五反田で一般カスタマー視点を磨く

――:ところで、五反田にオフィスを構えた経緯を教えていただけますか?

武井:山手線内で家賃が安い、というのが1番の理由ですが、弊社と契約している生花店は全国にあります。とくに神奈川が多い。五反田って西側にも行きやすいんですよね。新幹線が停車する品川駅も近いですし。

 

また、弊社で提供しているサービスは、一般カスタマー向けのもの。もしいわゆる“オフィス街”にオフィスを構えたとしたら、道行く人もビジネスパーソンですし、一般カスタマーの感覚を忘れてしまうんじゃないかと思っているんです。でも、ここなら普通の飲食店も多いし、普通の人が買い物をする店もある。一般ユーザー視点を失わないのに適したエリアじゃないかな、と感じています。

20180305_y-koba3 (2)
↑「一般ユーザー視点を失わず、トレンドを見極めるためにも五反田という街が弊社のビジネスに合っています」という武井氏

 

――:五反田には多くのスタートアップ企業がありますが、そのなかでコラボしたいと企業はありますか?

武井:具体的にはすぐ思いつかないんですが、つながりの強い生花店の業務が楽になるシステムを作っている企業があれば、ぜひともコラボしたいですね。

 

――:最後に今後のビジョンや読者へのメッセージをお願いします。

武井:弊社がいま提供している「Bloomee LIFE」は定期的にお花を届けるサービスですが、お花以外でも、プレゼントをもらえるとうれしいものですよね。誕生日や結婚記念日など大切なタイミングだけでなく、日々、いつでも手軽にプレゼントを贈ってほしい。そうすると、“感動のタイミング”が増えてくると思うんです。

 

わたしたちの願いは「日常に感動を届けたい」というもの。その手助けになるようなサービスを展開していきたいですね。

 

読者の皆さんは、ぜひ、なんでもないときにお花を大切な人に贈ってみてください。「Bloomee LIFE」は遠方の人へも贈ることができるので、活用していただけたらうれしいです。

 

――:どうもありがとうございました。

「水orスマホ」進化する宿泊アメニティ

「インバウンドマーケットEXPO2018」にて、アスキーも特設ブースを開設。スタートアップならではのスピード感やアイディアでインバウンド市場にアプローチする企業10社を前後編で紹介。今回は後編をお届け。