大統領交代で開かれた国「タンザニア」、いま日本が経済参入できる領域は?

大陸部のタンガニーカ共和国と島しょ部のザンジバルで構成される東アフリカの国、タンザニア連合共和国。日本は同国から貴金属鉱やコーヒー、魚介類などを輸入していますが、周辺国であるケニアなどと比べて日本企業の進出もまだ少なく、タンザニアの実情を知る人は多くないのではないでしょうか。

 

かつてはアフリカ社会主義を採用し、閉鎖的な印象のあったタンザニアですが、市場経済への移行にともなう民主化や2021年の大統領交代などを契機に開放路線へと舵を切り、国民の生活にも変化が現れています。そんな知る人ぞ知る同国の現在を、タンザニアに在住しているアイ・シー・ネットの三津間香織氏に聞きました。さらに同国の経済事情や日本企業にとってのビジネスチャンスについても考察していきます。

三津間 香織

日系医療機器メーカーにて商品開発から生産販売、事業開発、アライアンスに関する業務などを広く経験。その後、大学院で経営学を学び、アフリカの農村部に置き薬を広めるNPO法人AfriMedicoでの活動を開始。本団体での活動をきっかけに、アイ・シー・ネットに転職し、ビジネスコンサルタントとして農業、教育、ヘルスケア分野の日本企業のアフリカ進出を支援。市場調査、現地での事業実証検証、パートナー調査、法人設立支援等を行う。現在タンザニア在住。

 

データで見るタンザニアの概況

[基礎情報]

首都:ドドマ

言語:スワヒリ語(国語)、英語(公用語)

民族:スクマ族、ニャキューサ族、ハヤ族、チャガ族、ザラモ族等

宗教:イスラム教(約40%)、キリスト教(約40%)、土着宗教(約20%)

面積:94.5万km2(日本の約2.5倍)

人口:6,100万人(2021年:世銀)

 

GDP:678億米ドル(2021年:世銀)

 

主な産業:農林水産(GDPの26.9%)、鉱業・製造・建設等(GDPの30.3%)、サービス(GDPの37.2%)(2020年:タンザニア中央銀行)

対日輸出貿易額:100.75億円(2021年:財務省貿易統計)

対日輸出主要品目:金属鉱、コーヒー、ゴマ、タバコ、魚介類(2021年:財務省貿易統計)

 

タンザニアの面積は、日本の約2.5倍にあたる94.5万平方キロメートル。赤道直下に位置する熱帯圏で、沿岸部は高温多湿な熱帯気候、中央部の平原はサバナ気候、キリマンジャロなどの山岳地帯は寒暖の差が激しい半温帯です。

商都として発展しているダルエスサラームの風景

 

新大統領就任により外資の参入が促進

アフリカに置き薬を広めるNPO法人活動や、アフリカでのビジネスコンサルティングを通じて、タンザニアを知悉する三津間香織さん。同国に在住し、もっとも魅力を感じたのは国民性や人柄でした。

 

「タンザニア人は人懐っこく、良くも悪くも大らか。昔の日本のように支え合って生きています。ビジネス面でもガツガツしたところがなく、接していると優しい気持ちになります」

 

民族間の紛争はなく、政情が比較的安定しているのもタンザニアの特徴です。途上国ならではのカントリーリスクはありますが、経済も堅調な動きを見せています。

 

「タンザニアは与党が圧倒的に優勢なので、与野党が拮抗するケニアのように大統領選のたびに経済がストップしたり、治安が悪くなったりするようなことはありません。とはいえ、政権交代すると同時にこれまでとは真逆の方針が出されることもあります。例えば、先代大統領はタンザニア国内の経済基盤強化を掲げていたため、就任後は徐々に外資への規制が厳しくなりました。ただ、2021年に女性であるサミア大統領が就任してからは、外資にオープンな経済政策に。次期も再選が予想されているため、彼女の在任中は外資企業にとっては良い環境だと思われます」

 

一方で、市場経済の移行にともない、都市部と地方の格差が広がっていると三津間さん。

 

「国民の70%を占める農家のうち、ほとんどが家族経営の小規模農家です。事業を拡大しようにも借り入れができず、除草剤などの農業資材や農機を購入する資金も十分ではありません。かたや都市部のダルエスサラームは豊かになりつつあるため、残念ながら貧富の差は拡大しています。経済発展にともない今後も都市化は進むと想定されますが、それに対応するような政策方針も示されているため、そうした対策が奏効すれば、治安が悪化するなどのリスクは(タンザニアの国民性を鑑みても)低いと考えられます」

 

堅調な中古車輸入販売業、電力サービス事業はじめ、さまざまな分野で可能性が

タンザニアは人口増加率が高く、堅調な経済成長を遂げています。GDPも年々成長しており、国民の生活水準も上昇傾向にあります。

 

「これまでダルエスサラームには小規模な小売店が立ち並んでいましたが、最近はスーパーマーケットも増えています。また、若者の一定数はスマートフォンを所有しています。タンザニアではiPhoneの価格が日本よりも高いのですが、購入できるだけの経済力があるのでしょう。マニキュアをしたり、ウィッグをつけたりする女性も増え、経済水準が徐々に上がっていると肌で感じます。前大統領の経済政策が功を奏したからか、以前は低所得者層が多くの割合を占めていましたが、現在は低中所得者が増えつつあります」

ダルエスサラームのスーパー

 

薬局に並ぶサプリメント

 

「近年、ダルエスサラームを中心に成長著しい業種は、フードデリバリーサービスや若者向けのSNSプロモーション代行業。上述の通り中間層の増加やスマホの保有者が増えたことや、コロナ等の影響を受け、新たなサービス産業も成長してきています。」

フードデリバリーサービス用のバイク

 

「日本企業も約20社進出しており、大手商社からベンチャーまで、規模も業種も異なる企業がタンザニアに拠点を置いています。アフリカでは日本の中古車がよく売れるので、中古車や自動車部品の輸入販売会社も目立ちます。ベンチャーでは、日本のスタートアップ企業・WASSHAが太陽光充電式のランタンを、一般消費者にレンタルするサービスを提供し、多額の資金調達で事業を拡大しています。タンザニアは電化率が50%未満。地方には未電化地域も多く、都市部でも夜いきなり停電することがあるので、ランタンのような照明器具は多くの需要があります。また、ダイキン工業とWASSHAが新会社『Baridi Baridi』を立ち上げ、エアコンのサブスクリプションサービスを展開。ほかにも、個人で起業している方々もいます」

 

ビジネスの世界には、アメリカなどで成功した事業やサービスを日本で展開する「タイムマシン経営」という手法があります。タンザニアでタイムマシン経営を行う場合は、ケニアがベンチマークになります。

 

「タンザニアのGDPは、ケニアの約5年前の水準です。近年ケニアではショッピングモールが急増していますが、タンザニアもスーパーマーケットからモールにステップアップしている段階。ケニアをベンチマークにしておけば、2、3年後にタンザニアで同じような状況が起きると言えます。ケニアで堅調なビジネスをされている方は、今がタンザニアに進出するタイミングではないかと思います」

 

マーケットニーズに合った製品カスタマイズがカギ

他のアフリカ諸国と同じように、近年はタンザニアでも中国企業の進出が目立っています。

 

「一帯一路構想にアフリカ大陸が含まれているうえ、ODAでインフラ事業を推進しています。中国人が増えれば、彼らをターゲットにした小売業、飲食業が生まれ、さらには輸入業、製造業も増えていきます。これまでタンザニアのバイクはインド製が大半を占めていましたが、最近は中国製を見かけることも増えています」

 

日本企業の事業と、バッティングする可能性ももちろんあります。

 

「途上国の人々は収入が安定しないため、価格が安いものを好みます。質が悪くて安価なものを頻繁に買い替えるという消費行動を取るため、中国製の製品がフィットしているのです。一方、日本製品は質が良くて長持ちし、メンテナンスもしっかりしているものの価格が高い傾向があります。とはいえ、中国製を使用して壊れやすいことが気になるタンザニア人は、クオリティの高い商品を検討するようになるはず。質の良い商品への関心が高まりつつあるタイミングで日本製が選択肢に入り、所得が上がれば長持ちするものを好み、中国製品とのバッティングも解消されるのではないでしょうか」

 

ただ、日本企業がポジションを確保するためには、課題もあります。一般的にアフリカは保守的な人が多く、一度気に入ったブランドを使い続ける傾向があります。そのため、早期から日本企業が進出し、ブランドを認知してもらい、中国企業に先行してマーケットを築く必要があるのです。

 

「多くのタンザニアの人たちの購入の決め手とする要素は、まだまだ価格です。日本企業は、中国製から日本製へのシフトをただ期待して待つだけでなく、必要最低限の機能に絞ったシンプルかつコスパのよい商品を投入するなどの施策が重要だと感じます。こうした商品で認知度を高めたうえで、徐々に高付加価値のものにシフトしていくという戦略も考えられるのではないでしょうか。

 

例えば消費材であれば、容量を少なくする、パッケージの素材を安いものに変える、デザインを簡素化するなどの工夫により、単価を下げられるでしょう。また、1回あたりの支払い金額を抑えるために、サブスクリプションサービスを導入するといった施策も考えられます。こうした手法で他社に先行してマーケットを押さえるという、発想の転換が必要です。良いものだとわかってもらえれば使い続けてもらえるので、その商品の価値がどこにあるか、わかりやすく伝えることも大切です」

 

成長領域はモビリティ、農業、教育、医療

成長著しいタンザニアですが、経済面での課題はまだまだあります。三津間さんが感じる課題は、以下の2点です。

活況を呈するダルエスサラーム・カリアコーマーケット。個人店など小規模な商店が中心

 

「ひとつは収入が安定しないこと。農業以外の就職先が少ないため、結局、商店などの個人事業を始めるしかありません。その結果、同じようなビジネスが競合することになってしまいます。

 

もうひとつは、教育問題です。タンザニアでは小学校は無償ですが、日本の中学高校にあたるセカンダリースクールには富裕層しか通えず、進学できるのは20~30%程度。英語が話せるのも、その若者たちだけです。そのため、一部の富裕層の若者は海外を視野に入れたビジネスができますが、そうでない人々は富裕層に雇われるか、地元の小企業で働くか、実家の農業を手伝うかという選択肢しかありません。また、どこの国もそうですが、算数が弱く計算が苦手です。経済基盤を強化するなら、中間レイヤーの教育を高めていく必要があるでしょう」

 

今後成長が見込める分野、日本企業が進出の可能性がある分野としては、モビリティ、農業、教育、医療が挙げられます。

 

「どの業界にも進出の余地はありますが、中でも将来性があるのはモビリティ。現在は中古車輸入販売業がさかんですが、今後さらに所得が上がれば、車を購入する人はもっと増えるでしょう。すでに割賦払いのビジネスモデルも始まっています。おそらくバイク市場もこれから伸びるでしょうし、自転車にも根強いニーズがあります。人口増加にともない、人の移動やモノの輸送も増えるので、成長産業のひとつと言えるでしょう。

 

タンザニアの主力産業である、農業もまだ伸びしろがあります。現在タンザニアで扱っている品種は、収穫量も品質も優れているとは言えないため、種子や農業資材を扱う事業は可能性を秘めているはず。また、日本が長年支援をしてきたため、一部地域には中規模な稲作農家も存在します。田植えや収穫などの繁忙期にはみんなで声を掛け合って人手を集めますが、同じタイミングに作業が集中するため、時機を逃してしまうことも。中古の田植え機やコンバインなども、導入の余地があります。

 

また、タンザニアは人口増加率も高いため、先ほど話に挙がった教育分野のほか、赤ちゃんに関わる医療のニーズはさらに高まると思われます。かたや都市部では、糖尿病など生活習慣病も増加。タンザニア人は炭水化物を多く食べる習慣があるため、健康管理やスポーツジムのようなヘルス&フィットネス産業もニーズがあるのではないでしょうか」

 

日本企業のタンザニア進出にあたっては、事前の情報収集がカギを握ると三津間さん。タンザニア人はもちろん、すでに現地で事業を行う企業から情報を得ることの重要性を強調します。

現地の関係者と撮影(中央が三津間さん)

 

「タンザニア人は人的ネットワークを大事にするので、物事をはっきり断ったり、表立って反対意見を言ったりすることはあまりありません。そのため、商品やサービスのリサーチを行っても、好意的な反応が返ってくることが多いのです。それを真に受けず、真意を聞き出すために踏み込んだ質問をしたり、彼らに同行してじっくり反応を見たりする必要があります。また、タンザニアで事業を行う日本人もいるので、彼らから苦労した点などをヒアリングするのもいいでしょう。参入前に、多角的に情報収集しておくことが重要です」

 

タンザニアに限らず、その国の商習慣やバックグラウンドを理解する必要があることは、海外でビジネスを行う上で基本中の基本。製品やサービスをローカライズする部分と、あえて変えない部分のバランスを見出すためにも、現地に明るいコンサルタントに相談したり、現地企業などとの橋渡しをしてくれる人材を活用するなど、情報にアクセスできるさまざまな手段を持つことが大事だと言えそうです。

 

また、三津間さんの所感では、ケニアでのトレンドが5年ほど遅れてタンザニアに到来する傾向があるそうです。このような点からも、すでにケニアなどアフリカで進出し、さまざまなノウハウを得ている日本企業などにとって、いまだブルー・オーシャンとも言えるタンザニアへのビジネス参入は、大いなるチャンスと捉えることができるかもしれません。

 

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読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

 

 

 

途上国・新興国でビジネスに挑戦する日本企業が登壇「第7回 飛びだせJapan! 成果報告会」レポート

【掲載日】2022年4月15

2022年3月22日、経済産業省主催の「途上国ビジネスに挑戦した日本企業のリアルに迫る~第7回飛びだせJapan!成果報告会~」が、オンラインにて開催されました。「飛びだせJapan!」は、途上国や新興国の社会課題をビジネスで解決する企業を支援する補助金事業です。本事業は、経済産業省の補助事業者として、アイ・シー・ネットが実施運営を行っています。本記事では、2021年度に採択された10社のうち8社が登壇した今回の報告会の様子をレポートします。

 

「飛びだせJapan!」の概要と背景

報告会の最初に、本事業の事務局を担当するアイ・シー・ネットの下山氏から「飛びだせJapan!」の概要と背景について説明がありました。下山氏は「少子高齢化が進み、国内マーケットの縮小が懸念される日本では今後、『海外進出』がビジネスにおける大きな成長エンジンになるはずです。中でも途上国や新興国は解決すべき社会課題を多く抱えており、それらはビジネスチャンスと捉えることができます。本事業では、途上国や新興国の人々にも、事業者たちにも、長きにわたって利益をもたらすビジネスを実践する日本企業を支援したいと考えています」と述べました。

 

オンラインコミュニケーションの質を高めるAIサービスを提供「株式会社I’mbesideyou」

概要説明後は、各企業がそれぞれ成果を報告。最初に株式会社I’mbesideyouが登壇しました。同社では、オンラインコミュニケーションの質を高めるための動画解析AIサービスを提供しています。同社の神谷氏はアプリケーションについて、「ビデオツール上で一人一人の表情や音声などの情報をリアルタイムで解析し、メンタルヘルスの状態を見える化することが可能です」と説明。アプリケーションを通じて、オンライン教育の質向上やメンタルヘルスの環境改善などを目指しています。

 

同社はインドでもサービスを展開しており、今回の事業ではオンライン教育とメンタルヘルスの2領域のアプリケーションを、それぞれインド向けにローカライズしました。神谷氏は「オンライン教育で活用できるアプリケーションは、インド工科大学と協業し、学生たちのニーズを反映しながらプロトタイプの仕様を決定しました」と述べました。

オンライン教育で活用できるアプリケーションは、授業を受ける生徒の様子や出席状況など、日々の授業データが集約され表示されるようになっている

メンタルヘルスをサポートするアプリケーションでも、毎日の感情の状態や変化などを見える化できるプロトタイプを開発。神谷氏は「これからも日本とインドの役に立つサービスを提供し、広くグローバル展開していきたい」と展望を述べました。

 

ウガンダ産カカオの品質向上に取り組む「株式会社立花商店」

2社目に登壇したのは、カカオの専門商社である株式会社立花商店。世界30か国以上との取引実績を持つ同社は、今回の事業でウガンダ産カカオの品質向上に取り組みました。ウガンダのカカオに着目した理由について同社の野呂氏は、「ウガンダのカカオは品質が良いとは言い難く、国際取引価格も低いのが現状。もっと価値を向上させ、カカオ産業の底上げができないかと考えました」と話しました。

 

今回の事業では、カカオの栽培・加工・輸出などを行う日本人が経営する現地企業と協業。現地パートナーが所有する自社農園で、高品質なカカオ生産に欠かせない工程である発酵乾燥ができる施設の建設や運営、カカオ豆の加工・殺菌設備の導入などを行いました。これらを通して、ウガンダ国内で高品質なカカオをつくる際のモデルケースとなることを目指しています。

さらに現在、ウガンダ国内で新たな品種の導入にも取り組んでいる同社。「ウガンダ国内はもちろん、国外にもウガンダ産カカオをアピールしていきたいと考えています」と今後の目標も語りました。

 

独自の信用スコアリングでケニアタクシー業界の課題を解決「株式会社HAKKI AFRICA」

3社目に成果報告を行ったのは、株式会社HAKKI AFRICAです。同社では、独自のクレジットスコアリングを活用し、信用情報が不足するアフリカの事業者に対して、中古車の購入代金を融資しています。

 

今回の「飛びだせJapan!」では、ケニアのタクシードライバー向けに中古車ファイナンスの実証事業を実施。同社の小林氏は「信用情報の不足により、車を購入したくてもローンの審査がなかなか通らず、レンタカーを活用するドライバーが多いのが現状です」とケニアのタクシードライバーが抱える課題について説明しました。

今回の事業で同社が行ったのは、信用スコアリングのローカライズ、GPSトラッキングシステムや、国内普及率が高い電子マネーに接続した会計ソフトの開発など。これらにより、ドライバーの収入や支払いの安定性評価、不正防止、返済管理の効率化などが可能になりました。小林氏は「今後も現地パートナーと協業しながら、ケニア及びアフリカへの事業展開を目指していきます」と話しました。

 

東アフリカで中古車販売プラットフォームを運営「株式会社Cordia Directions」

4社目は、株式会社Cordia Directionsが成果を報告しました。同社はケニアに子会社を持ち、オンラインの中古車社販売プラットフォームの運営などを行っています。同社の加賀野井氏は、現在のケニアの課題として、中古車検査・査定方法が確立されていないこと、高品質で安全安心な中古車購入方法が欠如していること、検査・査定できる人材が不足していることなどを指摘しました。

同社が運営する、品質検査済みの優良中古車を販売するウェブサイト

今回の事業で同社は、信頼できる検査・査定方法の確立、優良中古車のみを扱ったマーケットプレースの構築、検査士や査定士の育成などに取り組みました。さらに今後のビジネスモデルについて、「車検制度がないケニアにおいて、ビジネスをする上でいいエントリーポイントになるのが、車の売買のタイミング」と加賀野井氏。売主に対しては、集客力の強いマーケットプレースの提供や、検査・査定の実施。買主に対しては、適正価格で高品質な車を販売したり、安心できる支払サービスを提供したりするなどして、双方にアプローチしていきたいと話しました。

続いては、株式会社アルムが登壇。同社では、急性期医療から慢性期医療までを包括的にケアするITソリューションを提供しています。今回の事業ではガーナを対象に、同社が提供するソリューションの1つ「Join」を使った医療連携体制の構築とその有用性の検証を行いました。「Join」は、医療関係者用のコミュニケーションアプリで、メッセージはもちろん、細部まで確認できるCTやMRI画像などを送り合うことが可能です。同社の清瀬氏は「『Join』を活用した医療連携基盤を構築することで、ガーナが抱える医師不足や地域格差などの課題解決を目指しています」と話しました。

今回の事業は2地域で実証し、転院搬送時における専門医への事前情報共有、院内での多職種連携、地方医療の支援などを行いました。清瀬氏は「現在14施設にシステム導入が完了し、100名以上のユーザー登録を達成しています。引き続き情報収集などを続け、導入効果のさらなる明確化に努めたいと思っています」と今後の展望を述べました。

 

南アフリカでスマートロッカーやPUDOサービスを提供「アンドアフリカ株式会社」

次に成果報告を行ったのは、アンドアフリカ株式会社です。同社は南アフリカで、スマートロッカーや店舗を活用して荷物の受け渡しができるPUDOプラットフォームなどを提供しています。Eコマースの拡大などにより物流市場が伸びているアフリカですが、同社の室伏氏は「事業拡大の一方、配送への支出が大きいことなどが要因で黒字化できていない企業も多いのが現状です」と、急拡大の歪みも指摘しました。

 

この課題に対してスマートロッカーなどの包括的なラストマイルデリバリーサービスを提供している同社。今回の事業では、スマートロッカーやPUDOサービスを実施する店舗を増やし、デリバリーインフラの構築を行いました。さらに店舗に活用してもらうためのアプリケーションやその管理システムも開発しました。

アプリケーションでは、配送時のステータスを4項目に分けて表示。それぞれのシーンをクリックしてQRコードを読み取ると、ステータスが更新される仕組みになっている

さらに構築したデリバリーインフラを活用して、小売業にも進出。日本のお菓子や化粧品などを扱うオンラインマーケットプレースを開発しました。室伏氏は今後の目標として「一気通貫で物流サービスを提供していきたいと考えており、南アフリカのみならず、エジプト、ケニア、ナイジェリアなどへの展開も目指しています」と述べました。

 

タンザニアの妊産婦向けアプリケーションを開発「キャスタリア株式会社」

続いて登壇したのは、キャスタリア株式会社です。同社ではオンライン教育のプラットフォームを開発していますが、今回の「飛びだせJapan!」ではタンザニアの妊産婦向けアプリケーションを開発し、初のデジタルヘルス事業に取り組みました。

 

同社の鈴木氏はタンザニアの妊産婦の現状について「人口が急増しているタンザニアでは、医療提供の機会が足りておらず、妊娠出産を契機に亡くなる女性もいます」と説明。アプリは、助産師がモバイルカルテとして利用できるほか、妊産婦が自身の妊娠ステータスや健診内容を確認することも可能です。両者がアプリを活用することで、保健指導の継続や妊産婦の健診受診回数増加を目指しています。

今回の「飛びだせJapan!」では、アプリの事業化に向けた地盤づくりとして、パイロット運用を実施。ダルエスサラーム市内の総合病院で、アプリを使った妊婦健診を行い、実用化に向けた改善点などを抽出しました。鈴木氏は「3か月間で600人近くのユーザーを獲得し、現在はアプリ内のメッセージボードに集まったユーザーのコメント分析を進めています」と説明。さらに採択期間で収益化に向けた具体的なビジネスモデルの検討も進めました。鈴木氏は「今年度の事業化を目指して、法人の設立なども含めた調整を行っています」と話しました。

 

ウガンダ農村部で安全な水へのアクセス向上を「株式会社Sunda Technology Global」

最後は株式会社Sunda Technology Globalが成果を報告。同社では、ウガンダ農村部で安全な水を得るために欠かせないハンドポンプ井戸の料金回収システム「SUNDA」を開発しています。現在ウガンダ国内には、約6万基のハンドポンプ井戸が設置されており、村の住民たちによって管理されています。同社の田中氏は「村の代表者が各世帯から修理費などを毎月定額で徴収していますが、支払いの不正などが起こることも。こうしたトラブルで村の人々に不信感が生まれ、料金徴収がうまくいかなくなるケースもあります」と課題を指摘しました。この課題の解決策として同社が考案したのが、従量課金型でモバイルマネーを用いた自動料金回収システムSUNDAです。

オレンジのボックスにあるカードリーダーにIDタグをかざすと水が出る仕組み。IDタグは各世帯に配布され、モバイルマネーでチャージが可能

現在ウガンダ国内に約30台設置されているSUNDA。今後は政府と連携しながらさらなる設置台数の増加や、水道向け事業の立ち上げも検討しています。今回の事業では、SUNDAの量産モデルをつくるために現行モデルの課題抽出や、改善案の検討などを実施。故障しやすい制御部品の見直しなどを行い、「量産モデルの開発に向けて前進できました」と田中氏。さらに「今後も村の人々が自分たちで村を運営維持していけるような仕組みを考えていきたいです」と述べ、発表を終えました。

2021年度の「飛びだせJapan!」に採択された企業が、一年間の成果を発表した今回の報告会。それぞれの企業から課題や展望についても具体的に語られ、今後、取り組みはますます加速、拡大していくことが期待されます。アイ・シー・ネットのウェブサイトからは、2021年度に採択された10社すべての取り組みをまとめた、採択企業活動事例紹介冊子もダウンロードができます。そちらもぜひ併せてご一読ください。

「令和3年度 第7回飛びだせJapan! 支援実績」

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「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

EdTechが待ち遠しい…。タンザニアの「女性の教育」に必要なもの

【掲載日】2022年2月15日

タンザニアでは、2021年3月にジョン・マグフリ大統領(当時)が死去した後、副大統領だったサミア・スルフ・ハッサン氏が政府のトップに就きました。ハッサン氏は同国初の女性大統領として国民から大きな期待を集めていますが、彼女のリーダーシップのもとで改善の歩みを続けているのが、女性の教育を受ける権利です。

保育園に預けられないなら、EdTechで勉強したい

 

タンザニアの教育課程は、初等教育(小学校)の7年間のみが義務教育であり、その次の中等教育以降は就学率が極端に下がります。特に約7割の女性が結婚と出産のため、中等教育課程で中退すると言われています。同国では2000年代初めに「妊娠した女子生徒は退学させられ、二度と学校に戻れない」という法律が制定されました。また、マグフリ前大統領は「妊娠した女性の出産後における学業継続を認めない」とする姿勢を公に示し続けてきたこともあり、女性の出産後の学業復帰は絶望的なものでした。

 

この法律は2021年12月に廃止され、女性は出産後に学校に戻ることができるようになりましたが、まだ多くの問題が残されています。保育園や両親などに子どもを預けることができない母親は、子どもを学校に連れて行かざるを得ないのですが、先日、タンザニアのアドルフ・ムケンダ(Adolf Mkenda)教育相が「出産後の女性の教育を認める政府の決定は、赤ちゃんを授業に連れてくることを意味するものではない」と発言。育児中の女性がクラスに戻れるようにするだけでなく、ほかの生徒が集中して勉強できる環境を整えることも必要なのです。そのため、タンザニア政府は代替教育プログラムの推進や保育園や託児所などの設立を検討しています。

 

女性のエンパワーメントのためには、育児や教育支援が不可欠。アフリカでは、ケニアやナイジェリアなどテクノロジーの恩恵によるオンライン教育が爆発的に普及し始めている地域も存在しています。出産後さまざまな理由で登校できないタンザニアの女性の中には、認可教育以外の場所でも教育を受けることができる「EdTech(エドテック)」に希望の光を見出している人もいるかもしれません。