日本・米国・中国の開発状況は?「自動運転」の現在地と私たちへの影響

2021年、自動車メーカーのホンダは、「特定の条件下でドライバーがハンドルから手を放して運転できる自動運転車」を世界に先駆けて発売しました。これ以降、各国で同様の自動運転車が登場しています。また2024年10月には、愛知県名古屋市で自動運転車の定期運行の実証実験が開始。公道で制限速度や周囲の車の速度に合わせて走行する取り組みは国内初です。このように、自動運転車の公道での実用化はもう目前。

 

自動運転車の最前線とは? オンラインモーターマガジン『DRIVETHRU』ディレクターの神保匠吾さんに解説いただきます。

 

 

「自動運転」の定義と、技術進化の背景にあるもの

まず、「自動運転」とは何かについておさらいしましょう。

 

「自動運転とは、簡単に言えば、乗り物が自律的に目的地まで運転してくれる技術のことです。乗り物が自律的に動くことから『自律走行』とも呼ばれ、また、運転者がいないため『無人走行』という表現も使われます」(『DRIVETHRU』ディレクター・神保匠吾さん、以下同)

 

ここ数年、自動運転の技術開発が加速していますが、その背景には、ガソリン車から電気自動車(EV)への移行、いわゆる「EVシフト」が密接に関係しているといいます。

 

車を作動させる仕組みがシンプルであればあるほど、自動運転技術を導入しやすくなります。従来のガソリン車は、エンジンを使ってピストンを動かし、燃焼による爆発でタイヤを回す仕組み。エンジンを安定して稼働させるだけでも高度な技術が求められ、システムが複雑化しています。
一方、EVに使われるモーターは、構造が非常にシンプルです。バッテリーから供給される電力を使ってモーターを回転させ、その動力でタイヤを直接動かします。複雑な工程がないため機械的なトラブルも少ないことが、EVにおける自動運転技術の導入を容易にしているというわけです」

 

「自動運転車」によって実現する未来の形とは?

 

なぜ今、世界中で自動運転技術の開発が進められているのでしょうか? 主に2つの目的が後押ししていると神保さんは言います。

 

1.社会的な課題の解決

「過疎地での移動手段の確保や、運転できない高齢者や免許を持たない人々の移動支援、さらには交通事故の減少などが期待されています」

 

“移動革命”「MaaS(マース)」とは? モビリティジャーナリストが解説する日本と世界の現状と課題

 

2.SDGsへの対応

「北米やヨーロッパでは、サステナブルではない化石燃料からの脱却を急ぎ、EVへの移行が進められています。現在、EVの充電に使われる電力の多くは化石燃料を利用して発電されており、その段階でCO2が排出されていますが、再生可能エネルギー(太陽光や風力など)に切り替えることで、環境への負荷を大幅に減らすことができます。SDGsに対応してEVシフトが進むほど、自動運転技術の開発も加速するのです」

 

充電ステーションの数は、ガソリンスタンドの数には及ばないものの急速に増加中。

 

実現しているのはレベル3まで。
自動運転技術の5段階

自動運転は、国際規格の分類に基づき、5つのレベルで区分されています。

 

自動運転レベル1

……アクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作のどちらかが、部分的に自動化された状態。
運転操作の主体:運転者
車両の名称:「運転支援車」

 

自動運転レベル2

……アクセル・ブレーキ操作およびハンドル操作の両方が、部分的に自動化された状態。
運転操作の主体:運転者
車両の名称:「運転支援車」

 

自動運転レベル3

……特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。ただし、自動運行装置の作動中、自動運行装置が正常に作動しないおそれがある場合において、運転者に運転操作を促す警報が発せられるので、適切に応答しなければならない。
運転操作の主体:自動運行装置(自動運行装置の作動が困難な場合は運転者)
車両の名称:条件付自動運転車(限定領域)

 

自動運転レベル4

……特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。
運転操作の主体:自動運行装置
車両の名称:自動運転車(限定領域)

 

自動運転レベル5

……全領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。
運転操作の主体:自動運行装置
車両の名称:完全自動運転車

 

本当の意味で自動運転と呼べるのは、レベル4と5のみです。レベル1~3とレベル4~5の大きな違いは、“責任の所在”にあります。レベル1~3の車では、運転操作に対してドライバーが責任を持ち、事故が起きた際もその責任はドライバーにあります。レベル4~5では、車のシステムが運転を担うため、システムに責任が生じることになります」

 

現行の市販車はどのレベルにある?

 

現在、公道を走る車の多くには、レベル1~2の自動運転技術が搭載されているのだとか。

 

「トヨタ、ホンダ、日産、メルセデス・ベンツ、BMWなど、主要な自動車メーカーでは、レベル1~2の技術を搭載した車を販売しています。たとえば、自動運転レベル1~2の機能には、先行車との車間距離を維持しながら指定した速度で走行する『アダプティブ・クルーズ・コントロール』、車線を外れそうなときにハンドル操作を補助する『レーンキーピング・アシスト』、急ブレーキを踏んだ際に減速をサポートする『ブレーキアシストシステム』などがあります。これらは自動運転というよりも、“運転支援”という位置付けですね」

 

一方で、レベル3の機能が市販車に搭載されているケースは非常にまれです。

 

レベル3の技術を先駆けて搭載した市販車は、日本でも海外においてもホンダの『レジェンド』です。この車には、高速道路での渋滞時にドライバーに代わって運転操作を行う『トラフィックジャムパイロット』が搭載されており、2021年に100台限定でリース販売されました。しかし、現在ではレジェンド自体が生産終了しています。海外ではメルセデス・ベンツやBMWなどがレベル3の自動運転車を発表していますが、国ごとの法規制や基準の違いが影響し、まだ広く普及していない状況です」

 

道路側のインフラが整い、車両と道路がリアルタイムで情報共有することで、効率的で安全な自動運転が実現する。

 

レベル4~5の自動運転車が公道を走るためには、さまざまな課題をクリアしなければなりません。とくに大きなハードルとして挙げられるのが、法整備とインフラ整備です。

 

「まず必要なのは法整備でしょう。事故時の責任の所在、運転免許証のあり方、保険の仕組みなど、多くの法的問題を解決する必要があります。自動運転車が普及した未来では、自動運転以外で走行したら保険がおりない、なんてことも起きるでしょうね。
自動運転車がスムーズに走行できるよう、交通標識のデジタル化、信号機との通信、道路状況のリアルタイムマップの更新など、インフラの整備も不可欠です」

 

自動車メーカーだけではつくれない!?
自動運転の鍵となる技術

自動運転は、カメラ、LiDAR(光学レーザー)、ミリ波レーダー、GPS、慣性計測装置(IMU)など、さまざまな技術に支えられています。なかでも重要なのが、カメラとLiDARです。

 

「自動運転車の“目”として、車線、標識、歩行者、信号など、周囲の状況を視覚的に認識するカメラ。光学レーザーを使って環境を3次元でスキャンし、物体までの距離や形状を正確に把握するLiDAR。この2つの技術が、自動運転技術の中核をなします。
そして、カメラやLiDARなどのセンサーから収集された情報は、専用のチップ(プロセッサ)やOSでリアルタイムに処理され、AIがその情報をもとに周囲の状況を判断して車の動きをコントロールするのです」

 

 

注目すべきは、自動運転専用のチップやOSはテクノロジー企業にしか開発できないことだと、神保さんは話します。

 

「自動車メーカーには、それぞれ独自の運転特性やブランドの“乗り味”があります。たとえば、スムーズな加速や減速のタイミングなどですね。自動車メーカーは、自社の自動運転車でもこの乗り味を再現したいと考えています。そのため、NVIDIA社などのAI半導体チップを用いて、乗り味のチューニングを行っているわけです。
つまり、自動運転車は、もはや自動車メーカーだけでは開発できないということ。ここに自動車業界のパラダイムシフトが生まれています。従来、自動車メーカーはエンジンや車体などハードウェアの開発・製造に強みを持っていました。ところが自動運転の時代に求められるのは、センサーやAI、ソフトウェアなどテクノロジーの領域なんです。世界の自動車産業は、その構造を大きく変えようとしているんですね」

 

世界中で進む開発レース!
日米中の動向は?

グローバル市場では、自動車メーカーやテクノロジー企業が、各社の強みと戦略を活かし、技術開発を進めています。ここではとくに、日本、アメリカ、中国における特徴的な動きを紹介します。

 

【日本】

・日産<日本>が目指すのは“安心して任せられる”自動運転

「日産は、軽自動車やミニバン、EVなど幅広い車種に自動運転レベル2の技術を搭載。『スカイライン』や『アリア』などの高級モデルには、高速道路でのハンズオフ走行(手放し運転)を可能にする『プロパイロット2.0』を搭載しています。
日産が目指す自動運転技術は、“馬と人間の関係”。馬が人をサポートしながら安全に道を進むように、車もドライバーをサポートし、安心して任せられる存在になることを目標にしているそうです」

 

高速道路でのハンズオフ走行が可能な日産車。

 

【米国】

・宇宙技術にも支えられたテスラは独自路線で開発を進める

「テスラはEVのパイオニアとして、多くの人に自動運転の可能性を示してきました。最近では、自動運転技術の開発において独自路線を歩んでいます。通常であればカメラとLiDARの併用が必須ですが、カメラのみのシンプルな技術開発を模索しているようです。ちなみに、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏が設立した航空宇宙メーカーのSpaceXは、商用ロケットの再使用に世界で初めて成功。その底知れぬ技術力に大きな期待が寄せられています」

 

高速道路をハンズオフ走行するテスラ車。

 

・自動運転タクシー競争

「アメリカでは、自動車メーカー GM(ゼネラルモーターズ)が手がける「Cruise(クルーズ)」と、テクノロジー大手 Google の子会社「Waymo(ウェイモ)」が自動運転タクシーの市場で競り合っています。現在は、限定されたエリアや条件でのみ運行中(自動運転レベル4)。
クルーズは2023年に人身事故を起こし認可停止中ですが、それでも海外市場への進出を模索中で、日本もその候補国のようです。GMはホンダからの出資を受けていて、技術提携も進めています。自動車メーカーとしてのアプローチで自動運転を広げようとしているわけです。
一方、ウェイモはテクノロジー企業として自動運転の開発に早くから着手し、世界中から優秀なエンジニアを集めているのが強みです。現在は既存の車両にセンサーを装着して走行していますが、将来的にはオリジナルの車両の開発も目指しているようです」

 

アメリカのカリフォルニア州を走行するウェイモの自動運転タクシー。

 

【中国】

・国家戦略による支援と巨大なEV市場に支えられる

「中国はEVの生産・販売が世界トップクラス。その背景には、Huawei(ファーウェイ)やBaidu(バイドゥ)などテクノロジー企業の多さと、政府の国家戦略による強力な後押しがあります。さらに、IT技術を活用した便利で持続可能な都市づくりを目指すスマートシティ構想のもと、インフラ整備や自動運転技術の導入も推進されています。
規模が大きく、ビジネスチャンスも多い中国市場には、世界中のデザイナーやビジネス関係者が熱い視線を送っています。その結果、車のデザインは洗練されてきていますし、自動運転技術を搭載した中国製EVは今、ヨーロッパにどんどん輸出されているんですよ」

 

2023年に世界でもっとも売れたEVメーカーは中国のBYD。最新モデルには、レベル2の自動運転機能を搭載。

 

運転から解放される時代、
ライフスタイルはどう変わる?

 

自動運転車が普及した未来、「それは“移動”そのものが新たなライフステージへと変わる瞬間かもしれない」と、神保さんは語ります。

 

移動中にかかるストレスや不確定要素が減り、移動時間の予測がより正確になるでしょうね。渋滞の発生なども自動運転車同士の連携で緩和され、移動の効率が高まるでしょう。そのため、例えば仕事中の移動、子どもの送り迎え、買い物といった日常の場面での活用が広がり、ライフスタイルは一変しますよね。
シェアリングエコノミーとの融合も進むでしょう。街中の車のほとんどがシェアカーとなり、必要なときに乗って自動運転で目的地に行けるような仕組みが整うかもしれません。タクシーが常に街中を走るのではなくて、必要なときにだけ自動運転車を呼び出して使う、といった新たなパーソナルモビリティの形が生まれるはずです」

 

さらに、自動運転車は「時間」や「行動範囲」の捉え方そのものを変える可能性を秘めています。

 

「これまでは、自分が車を運転しさえすれば、行きたいところに行けました。レベル5の自動運転車が社会実装されたら、自分が寝ていても行きたいところに行ける。車を運転できなかった人でも、好きなところに行けるわけです。それってすごく自由だと思いませんか?
電車や徒歩の移動では、『持ち物はこれだけにしよう』『日帰りできるのはこの距離までだ』と、私たちは無意識にさまざまな制限をかけているでしょう。自動運転車なら、荷物を好きなだけ積み込んで、移動中に家族との団らんを楽しんだり、仕事をしたりできる。自動運転の技術は、時間の使い方や行動範囲の可能性を広げ、私たちの意識そのものに変革をもたらすのではないでしょうか」

 

 

Profile


『DRIVETHRU』ディレクター / 神保匠吾

カエルム株式会社より2014年にオンラインモーターマガジン『DRIVETHRU』を創刊。先進的な領域とカーカルチャーを織り交ぜたエディトリアルを得意とし、インディペンデントなカーブランドのクリエイティブディレクション多数。2021年にコンバートEVにてグッドデザイン金賞を受賞。京都芸術大学「モビリティ学」非常勤講師(2023年)など。
HP

1億個が時速2万5千キロで浮遊…宇宙ゴミ(スペースデブリ)の脅威と地球規模の対策とは?

旧ソビエト連邦が1957年10月4日に人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げてからおよそ70年。人工衛星のおかげで日々の暮らしは便利で豊かになり、今では私たちの経済活動に欠かせない存在となっています。ところが今、人工衛星の打ち上げによる“宇宙ゴミ”(スペースデブリ)の数が増加していることが、世界的に問題になっています。

 

この問題について、長年スペースデブリを回収する研究に取り組み、技術開発も務める東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科 教授で、東京理科大学 スペースシステム創造研究センター センター長の木村真一さんに、現状や課題、解決方法などを教えていただきました。

 

小さな破片も衛星に穴を開けるほどの威力!
宇宙ゴミ(スペースデブリ)とは?

「スペースデブリとは、役目を終えた衛星や故障した衛星、衛星を打ち上げるために使われたロケットやその部品、破片など、コントロールされずに地球の周りを周回し続けている、不要になった人工物を指します。数mm程度の小さな破片から大型バスほどの大きなものまであります」(木村真一教授、以下同)

 

(イメージ)

 

スペースデブリはいったいどれくらいの数、浮遊しているのでしょうか?

 

「スペースデブリの数は、10cm以上のもので約2万個、1cm以上10cm未満は50〜70万個、1mm以上1cm未満は1億個を超えると言われ、宇宙空間を飛翔している人工物の約94%が、デブリです」

 

多くは1cm以下と微小ですが、その破壊力は凄まじいものです。

 

「広い宇宙、小さなデブリであれば問題ないだろうと思われるかもしれません。しかし、小さな破片でも致命的な打撃になる場合があります。
地球を周回するデブリは、秒速7〜8kmで飛翔しています。その速さは、ピストルの銃弾の約10倍。猛スピードで飛行する硬い塊が、もし稼働している衛星にぶつかってしまえば、太陽電池などの破損や、燃料タンクの爆発など、深刻な事態を引き起こす可能性があります。どんなに小さなデブリであっても、壊滅的なダメージをもたらす要因となってしまうのです」

 

地球を取り巻くスペースデブリのシミュレーション。デブリの分布を示している。©️NASA

 

衛星との衝突が原因?
スペースデブリが発生する原因

そもそもなぜ、デブリが発生するのでしょうか? その原因は主に2つあるといいます。

 

・衛星を打ち上げる一連の流れで発生するデブリ

衛星を打ち上げるためのロケットが宇宙空間で分離されたものや、ミッション遂行中に捨てられた部品、また、燃料が切れたり故障したなどの理由で役目を終えた本体も含みます。
近年は、民間が人工衛星を打ち上げるなど、宇宙開発が以前よりも身近なものになり、スターリンクを代表とする多数の衛星を活用した“コンステレーション”と呼ばれるサービスのように、人工衛星の利用の仕方が多様になることで、打ち上げられる衛星の数も増えています
衛星の寿命は、衛星の軌道や用途、設計などにより異なりますが、2年から10年ほどです。この寿命を終えた衛星は、近年では大気圏に突入させて軌道から取り除くように運用されていますが、不具合などで地球からのコントロールを失い、そのまま放置されるとスペースデブリと化します」

 

・衛星とスペースデブリの衝突

(イメージ)

 

「この衝突によって新たにできるデブリの発生は、広い範囲で軌道環境を汚染するという意味で深刻です。衛星同士がぶつかり合い爆発すると、破片が勢い良く飛び散ります。初速が加わることで、発生したデブリが元の衛星の軌道から大きく広がることになります。破片が広がれば新たな衝突を生み、さらに破片が増えるという悪循環に陥ります
2009年に、アメリカのイリジウム社の通信衛星イリジウム33号と、すでに使用されていなかったロシアの軍事用通信衛星コスモス2251号が衝突し問題になりました。この衝突によって、少なくとも数百個以上のスペースデブリが発生しました。
一方で、その衝突を故意に行う衛星破壊実験を中国が2007年に行い、飛躍的にデブリが増えた事例もあります」

 

もう衛星が打ち上げられない? 宇宙旅行も危険に?
スペースデブリが及ぼす影響

2021年には、実業家の前澤友作氏が日本の民間人で初めてISSに滞在するなど、一般人の“宇宙旅行”も夢ではなくなってきました。このままスペースデブリを放置するとどうなるでしょうか?

 

「スペースデブリが飛んでいる主な2つの軌道があります。『低軌道』と『静止軌道』です」

 

・低軌道

「地上から200kmから1000kmの範囲の軌道で、ISS(国際宇宙ステーション)や、インターネットを通信するための衛星コンステレーション、地球をさまざまな角度で観測する地球観測衛星などが打ち上げられる、もっとも多く使われている軌道です。
先ほど説明したように、低軌道には1億個以上ものデブリが周回しています。衛星とデブリが1km以内に接近するニアミスは、一日に数百回起きており、デブリを避けるための衛星の軌道修正も日に何度も行われている状態です。放置すれば猛スピードで周回するデブリの衝突により、さらにデブリが増え、地球を覆い、衛星の打ち上げもままならなくなるでしょう。持続的に宇宙開発を続けることが難しくなります」

 

・静止軌道

「これは地球から36,000km付近の軌道で、気象衛星や放送衛星などに使われています。地球の自転と同じ周期で公転する軌道です。同じスピードで動いているため衛星が止まっているように見えることから静止軌道と呼ばれます。広範囲で地球を定点観測でき、常に通信や放送を提供できることから、極めて有用性の高い軌道ですが、原理的静止軌道はたった1本しか存在しないので、このたった1本の“紐”を世界中で分け合って使っており、専門家の間ではすでにこの静止軌道の混雑も懸念されています。この静止軌道の近くで事故が起きると非常に深刻な事態が懸念されます。

 

また、低軌道であれば、デブリを大気圏に再突入させることで消滅させられますが、静止軌道から大気圏まで衛星を落下させるためには非常に大量の燃料が必要になるので、実際は困難です。そのため、役目を終えた衛星は、活動している衛星の邪魔にならないように静止軌道の外のいわゆる“墓場軌道”に移動させます。移動するだけなので処分されることなく、どんどんデブリが溜まっていきます。問題を先送りにしている状態のため、いずれは除去が必要になるでしょう」

 

宇宙旅行が現実化すれば、デブリ被害も増加?

最近ではアメリカの民家にデブリが直撃し、あと少しで人命に関わる事故になるところだった、というニュースが話題になりました。

 

「一般的に知られていないだけで、実はかなりの数のスペースデブリが落下しています。スペースデブリのほとんどは、大気圏に落ち燃え尽きるように設計されています。また近年では、運用されている衛星は、太平洋の真ん中など危険性の少ない場所に、軌道を制御することで落下させています
ただ、衛星によっては、一部燃えにくい部品を使用している場合もあり、また衛星が不具合などで制御を失うと、このように安全な場所に落下させることができなくなります。このように安全・確実に落下させることも、衛星の利用が盛んになるにつれて重要になってきます。これまでも、燃え残った衛星の残骸等が落下して損害を与えたという事故も発生しています」

 

(提供=東京理科大学スペースシステム創造研究センター)

 

宇宙旅行が実現する未来で、その影響に変化はあるでしょうか?

 

「人が搭乗する有人の宇宙船に対しても、デブリは人命に関わる深刻な問題です。すでにISSには小さなデブリが日々衝突し、機体にはでこぼこと穴が開いています。ISSは防護板で何重にも守られているため多少の穴は影響ありませんし、大きなデブリは追跡しているので事前に避けることもできます。しかし、数が増え制御できないほどになってしまえば、ISSで働く方々の命に関わってくるのです」

 

衛星の破壊によってインターネット通信が遮断?

(イメージ)

 

デブリによって衛星が破壊されると、どんな影響があるでしょうか?

 

「今や世界の経済は衛星によって支えられていると言っても過言ではありません。世界の大規模災害の予測や状況の把握にも衛星が使われています。通信や放送にも衛星が活用されています。それらの衛星がデブリによって次々と壊れることがあったらどうでしょうか。通信や気象、災害の監視など、さまざまな面で日常生活に関わっている宇宙技術が使用できなくなる可能性もあります
最近では、静止軌道に設置されている衛星の太陽電池パネルの出力が突然落ちたという事例も報告されています。詳細はわかっていませんが、恐らくデブリが衝突することによる影響ではないかと考えられています」

 

デブリを増やさず減らすために
世界と日本の取り組みとは?

 

地球環境の課題がなかなか解決しないように、国によってさまざまな考え方があるので、国際的な共通ルールを作ることは長い間、難しいと考えられていたといいます。

 

「しかし、2007年には、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)の提案に基づき、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)スペースデブリ低減のガイドラインが作成されました。運用中に放出されるデブリの制限や意図的破壊活動の回避、ミッション終了後に低軌道域に長期的に留まることの制限など、SDGsの目標のひとつである『つくる責任、つかう責任』が宇宙にも適用され、自主的に取り組むことが望ましい対策について制定されました。
また、2023年に広島で開催されたG7では、宇宙空間の安全で持続可能な利用を促進することについて首脳レベルでのコミットメントが表明されました。
スペースデブリの問題が世界共通の重要課題であると取り上げられることが増え、課題への意識が高まり、宇宙環境を改善する国際ルールが徐々に整いつつあります」

 

デブリを増やさない活動とは、具体的にどんなものなのでしょうか?

 

「デブリ対策には、これ以上数を増やさない取り組みと、現在あるデブリを減らす取り組みの2つの取り組みがあります」

 

・これ以上増やさない取り組み

「衛星打ち上げによるデブリ発生を減らすこと、また役目を終えた衛星をコントロールし、能動的に大気圏に落下させ消滅させる方法があります。
さらに、今ある衛星の寿命を伸ばしリユースする方法もあります。例えば、燃料が尽きデブリ化する衛星は、燃料がないだけで機体自体は問題なく使えることが多いです。ここで燃料をあらためて給油できるとしたらどうでしょう? 衛星の寿命を伸ばせます。打ち上げっぱなしだった衛星をメンテナンスし、再生できれば廃棄になる衛星の数も減ります」

 

・今あるデブリを除去する取り組み

(提供=アストロスケール)

 

「低軌道であれば、除去する方法は、デブリを大気圏で消滅させる方法でしょう。2021年に、日本の民間企業であるアストロスケールのデブリ除去技術実証衛星『ELSA-d』が、世界で初めて、デブリ除去の技術実証に成功しました。除去の際に必要となる高度な技術を実際に使って、デモンストレーションを行うもので、これまで世界に前例はありませんでした。

 

現在、同社は、商業デブリ除去実証衛星『ADRAS-J』のミッションを実施しており、デブリへの接近や周回観測等に成功しています」

 

もっと知っておくべき
スペースデブリのこと

ちなみに、私たち一般人でもスペースデブリ対策にできることはあるのでしょうか?

 

「ぜひ興味関心を持っていただきたいです。私がスペースデブリの研究を始めた20数年前は、まさか19時台のニュースで、スペースデブリ問題が取り上げられるとは思ってもいませんでした。しかし現在では宇宙の技術発展とともに、一般の方々の関心も高まりつつあります。
アストロスケール社を創業した岡田光信さんは、宇宙のホットトピックを調べているときにスペースデブリ問題を知り、軌道環境を保全していくことを決意し、現在の会社を立ち上げられました。そのとき、宇宙に関する知識も人脈もほとんどない状態だったそうです。今では、世界初の実証に成功し、除去分野での第一人者となっています。」

 

 

最初は自分には関係ないと考えていたスペースデブリのことも、何かのきっかけで急に関心が高まるかもしれません。皆さんが興味を持つことで、スペースデブリ問題を考えるきっかけになれば、同じように解決しようと思う方が増えるかもしれませんし、除去する支援をしてくださるかもしれません。ぜひみなさんには、宇宙をよりよい環境にしていくためにも興味関心を持って話題にしていただきたいと思います」

 

 

取材では、木村真一教授を初め、同席の関係者から口々に「スペースデブリについて興味を持っていただきありがとうございます」と、挨拶いただいたことが印象的でした。多くの人々に興味関心を持っていただくことが、将来の宇宙環境改善につながると話してくださった木村教授。わたしたちも、夜空の星を見上げながら「地球の外にはどんな世界が広がっているのかな?」を想像し、宇宙に考えをめぐらせてみませんか?

 

 

Profile

東京理科大学教授・東京理科大学 スペースシステム創造研究センター センター長 / 木村真一

1993 年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。旧郵政省通信総合研究所(国立研究開発法人情報通信研究機構)をへて、2007 年から東京理科大学に勤務。スペースデブリの除去を実現する技術の研究にも従事し、技術試験衛星 VII 型や Manipulator Flight Demonstrationなどの多くの宇宙ロボット・小型衛星ミッションに参加するとともに、「IKAROS」や「はやぶさ 2」の監視カメラシステムなど様々な宇宙機器を開発。現在、宇宙居住について、地上技術と連携して進める、地上−宇宙 Dual 開発というコンセプトのもと、研究を展開している。
東京理科大学 スペースシステム創造研究センター

 

7月3日に20年ぶりの新紙幣“改刷”!紙幣に隠された驚異の印刷技術と偽造との戦いの歴史

2024年7月3日から、いよいよ発行がはじまる新紙幣。渋沢栄一(一万円札)・津田梅子(五千円札)・北里柴三郎(千円札)といった偉人の肖像や、3Dホログラムをはじめとした高度な技術が採用されたことで、大きな話題を呼んでいます。

 

今回のように紙幣のデザインや仕様などが切り替わることを「改刷」といい、主に紙幣の偽造防止を目的として行われます。国内の紙幣に施された偽造防止技術は、1871年の印刷局創設以降、150年以上にわたる偽造との戦いと、製造技術の試行錯誤の歴史から生まれたもの。

 

この機会に、新紙幣に込められた技術と紙幣改刷の歴史について、確認してみましょう。紙幣の印刷を行う国立印刷局による「お札と切手の博物館」学芸員の方に、解説していただきました。

※トップの写真は国立印刷局ホームページからの画像提供

 

 

技術と素材が鍵!
偽造されにくい“日本銀行券”の特徴

日本国内で流通している紙幣は「日本銀行券」と呼びます。製造枚数は財務省の「日本銀行券製造計画」により定められており、令和6年度は29.5億枚、金額にすると20.26兆円分の紙幣が製造される計画になっています。毎年大量の紙幣が製造されている一方で、国内で発見された偽造紙幣の枚数は、警察庁の発表によるとわずか681枚(令和5年度実績)なのだそう。

 

日本の偽造紙幣の発見確率を1としたとき、ユーロ券で137倍、ドル券で275倍もの偽札が発見された時期があったことを考えると、日本の紙幣が非常に偽造されにくいことがうかがえます。日本の紙幣ならではの特徴について、大きく3つのポイントを教えていただきました。

 

・和紙の素材“みつまた”を紙幣に採用

「日本の紙幣に用いられている用紙は、“みつまた”という植物を原料の一部として製造されています。“みつまた”は古くから和紙の原料として用いられた植物で、1877年に発行された紙幣から現在の紙幣に至るまで使われ続けています」

「海外の紙幣は、木綿やポリマー(プラスチック)を主な素材に採用しています。“みつまた”を紙幣の素材として用いている国は、日本だけ。日本の紙幣独特の色味や手触りなどは“みつまた”の特性を生かしたことによるものなので、素材の選択も偽造防止に役立っていると言えますね」(お札と切手の博物館・学芸員、以下同)

 

・クラシカルな色合いのインキも偽造防止のポイント

「海外の紙幣は青・赤・黄……と鮮やかな色味のものが多い一方、日本の紙幣はくすんだ中間色を多用しているところが特徴です。このインキはすべて印刷局内で特別な配合で調合しているので、簡単に複製はできません」

世界各国の紙幣。海外紙幣は、証券印刷会社が複数国の紙幣製造を担っている場合が多く、技術が画一的になりやすいそう。

 

「また、中間色の画線が重なると、印刷時に複雑な色味になります。カラープリンターなどでは再現できない色味が出るところもまた、日本のインキの強みです」

 

・国立印刷局から門外不出! 精巧な“白黒すかし”技術

「日本の紙幣は、図柄の濃淡を紙の厚さを調整して表す“白黒すかし”という技術を取り入れています。とくに“黒すかし”は偽造防止技術のなかでも非常に重要な技術なので、1887年以降、法律により政府や印刷局、政府の特別な許可を受けた者以外の製造は禁止されています。また、この“白黒すかし”技術を取り扱えるのは、印刷局の中でもごく限られた職員のみです。1871年から続く印刷局の歴史の中で、門外不出の技術として継承されています」

すかしを紙幣に施すことを“すき入れ”と呼ぶ。右のすかしは、“すき入れ”の技術向上のために、練習用の作品として制作されたもの。

 

「なお、海外の紙幣にもすかし技術は使われていますが、日本の鮮明なすかしの技術は世界トップクラスと言われています。これは、日本の“白黒すかし”技術の高さはもちろん、繊細なすき入れに適した用紙を開発したからこそできる技術なのです」

ユーロ紙幣(上)と日本紙幣(下)のすかしを比較したもの。日本紙幣のすかし絵のほうが、細部まで鮮明に確認できる。

 

進化の歴史は150年超!
紙幣の印刷防止技術の驚きの歴史

私たちが日々安心して紙幣を使えるのは、高度な偽造防止技術によって紙幣が守られてきたおかげ。その背景には、進化する印刷技術に対抗すべく、試行錯誤しながら偽造防止技術を高めてきた歴史があります。印刷局創設当初までさかのぼり、日本の紙幣に込められた偽造防止技術の変遷をうかがいました。

 

・国産第一号の紙幣が発行されるまでは、海外で紙幣を印刷していた

江戸時代末期まで、各藩が発行していた藩札が紙幣として使われていたなか、1868年に日本で初めて全国で通用する政府紙幣「太政官札(だじょうかんさつ)」が発行されます。

 

「太政官札は単純なデザインと印刷技術ゆえ、簡単に偽造されてしまいました。そのため、高度な印刷技術を有するドイツやアメリカに紙幣の印刷を依頼するように。しかし、今度は海外で偽造されるリスクや紙幣の耐久性・輸入コストといった別の課題が出てきたのです」

太政官札。

 

そこで1871年に印刷局が創設され、1876年には東京都北区王子と千代田区大手町に製紙・印刷工場が建設されます。最新の機械を輸入し、外国から技術者を招いて、国内での紙幣印刷事業が開始。紙幣の印刷だけでなく、紙幣に用いる紙やインキも印刷局内で開発し、1877年に国産第一号となる“国立銀行紙幣”が誕生します。

 

「国産第一号の紙幣には、当時最新式の細かい地模様が施されており、それが偽造防止技術になっていました。また、紙幣に使用されているインキはすべて印刷局の特色(一つとして同じ色のない特別に調合した固有色のこと)です。再現が難しい配合なので、これも偽造防止につながっていました」

国産第一号の紙幣用紙(写真)は毛羽立ちやすく、紙質改善の取り組みが行われた。その結果、1881年に発行された紙幣から主原料として“みつまた”が採用された。

 

・1882年発行の紙幣ですかし技術が初登場。肖像も描かれるようになった

1882年に発行された“改造紙幣(政府紙幣)”で、偽造防止技術として初めて、すかし入りの紙幣が登場します。また、紙幣のデザインに肖像が描かれるようになったのも、この紙幣が初めてです。

 

「海外の紙幣では、権威の象徴として国王などの肖像が描かれることが多かったので、日本もそれに倣い、肖像を入れることにしたそうです。
また、細かい画線で表現した人の顔を印刷することは、偽造防止の一環としても有効でした。紙幣の原版は印刷局の工芸官が手作業で彫刻しており、画線には工芸官の個性も現れます。肖像に彫り込まれた画線はとても微細ですから、それらすべてを完璧に真似することは極めて困難です。さらに、人は人の顔の差異に気が付きやすいという特性もあることから、偽札との判別にも役立つのです」

原版の複製こそ機械で行われているものの、原版の肖像などの彫刻は、令和の世になった今も手作業で行われている。

 

現在の紙幣にも使用されている“白黒すかし” 技術が完成したのは1889年の“日本銀行兌換銀券(銀貨との交換が保証された紙幣)”から。

 

・明治・大正は試行錯誤の時代……失敗を繰り返しながら新技術を生み出した

紙幣の偽造防止技術が進化する一方で、一般的な印刷技術も向上していきました。明治になると写真製版技術の進歩にともない、現像した写真を用いた偽造なども発生していました。そのため、さまざまな偽造防止技術が講じられたといいますが、失敗もあったようです。

 

「例えば、1885年に発行された“日本銀行兌換銀券(だかんぎんけん)”(銀貨との交換が保証された紙幣)では、当時フィルムの現像時に写りづらかった白地に青という配色を採用していました。しかし、青インキの成分が硫黄に反応して黒ずんでしまうため、とくに温泉地などでは使えなくなることがあったようです」

日本銀行兌換銀券。

 

「そして1910年に発行された“日本銀行兌換券”(金貨との交換が保証された紙幣)では、現行紙幣ではおなじみの“すかし部分を空欄にする”というデザインが採用されていました。しかし、当時はこの空欄が世間に受け入れられず、かえって印刷ミスを疑われるといったトラブルが後を絶たなかったため、すぐに空欄はなくなってしまいます」

空欄のすかしに加え、肖像の顔周りに緑インキを用いることも世界基準で最先端な取り組みだったが、当時の人々から「菅原道真の怨念が現れている」と噂されてしまったとか……。

 

「明治から大正時代にかけては、上記のような失敗を繰り返し、紙幣デザインが頻繁に変わる時期でもありました。しかしそれは、世の中に登場する最新の技術、特に偽造に関係する技術に対抗するため、印刷局で研究開発を積み重ねた結果でもあるのです」

 

・終戦直後は全国で印刷を分担、品質やデザインの統一感は後回しに

日本の紙幣に大きな変化が訪れるのは第二次世界大戦後。ここから発行される紙幣は、改刷時期ごとにA券、B券とアルファベットで呼称されるようになります。

 

「A券は戦後まもなく発行されたものです。印刷局が被災していたことから、複数の協力会社が全国各地の工場で生産していたため、品質がバラバラでした。戦後の混乱が落ち着いたころに改刷されたB券からは、本格的に印刷局が復興し、製造を再開しています」

画像左がA券シリーズ、右がB券シリーズ。A券シリーズは民間会社がデザインしており、シリーズ全体の統一感に乏しいことがわかる。

 

・戦後の高度経済成長期以降、新たな偽造防止技術が編み出される

1955年頃から日本が高度経済成長期に入ると、印刷技術が急激に向上します。この時代に改刷された紙幣はC券シリーズと呼ばれており、新たな偽造防止技術が採用されました。

 

「C券シリーズの紙幣は、枠模様や地模様がカラフルで、色が茶色から緑、緑から茶色と、途中で変わっており、なおかつ全くズレないすり合わせで印刷されています。これは高度な“ザンメル印刷”というもので、一般の印刷機では再現が難しい印刷技術です」

 

「C券は当初、一万円札と五千円札しか発行されておらず、千円札はB券が使われていました。しかし、このころに千円札の偽造事件が多発します。そのため、1963年に千円も改刷されます。ここから、肖像が大きく描かれるようになります。これにより、より細かい画線で肖像の彫刻ができるようになったので、偽造防止の効果はさらに高まりました

枠模様が無くなり、肖像を大きく描くデザインに。なお、戦前に不評だった空欄のすかしも復活している。

 

・平成に発行された「二千円札」には革新的な偽造防止技術が取り入れられていた!

1984年には、肖像の人物が刷新されたD券シリーズに改刷されます。しかし、平成に入ってからカラーコピー機が進化し始め、紙幣の偽造リスクが高まりました。これに対抗するため、1993年に大きく2つの技術が追加されました。

 

「まずは“マイクロ文字”です。カラーコピー機などでは再現困難なほど微小な文字で、“NIPPON GINKO”という文字が印刷されるようになりました」

マイクロ文字。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

「もう一つは“特殊発光インキ”です。お札の表にある印を紫外線に当てると発光するインキが用いられるようになりました」

 

特殊発光インキ。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

2000年に開催された九州沖縄サミットを契機に、二千円札が初めて登場しました。この二千円札には革新的とも呼べるほど、たくさんの偽造防止技術が詰め込まれました。

 

「お札の右上に記載されている2000という数字には、角度により色が変化する“光学的変化インキ”が使われています。また“潜像模様”“パールインキ”なども取り入れ、紙幣を傾けると見え方が変わるつくりになっています。これまでの紙幣の基礎となる技術が二千円札ですでに用いられていたのです」

2000の部分に施されている“光学的変化インキ”。紙幣を傾けると、2000の部分が紫色に変化して見える。

 

“潜像模様”。紙幣を傾けると、額面数字およびNIPPONの文字が浮かび上がって見える。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

“パールインキ”。紙幣を傾けることで、紙幣の両端中央部がピンク色に光って見える。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

そして、私たちが使用しているこれまでの紙幣はE券シリーズと呼ばれるもの。二千円札で取り入れられた偽造防止技術を引き継ぎつつ、“すき入れバーパターン”、“潜像パール模様”、そして一万円札と五千円札に“ホログラム”が入るようになりました。

紙幣に棒状のすき入れを施した“すき入れバーパターン”。紙幣を透かすと、一万円札は3本、五千円札は2本、千円札は1本の縦棒が見える。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

“潜像パール模様”。紙幣を傾けると、角度によって表左下にパール印刷による「千円」の文字と、潜像模様による「1000」の数字がそれぞれ浮かび上がる。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

これまでのE券でホログラムが施されているのは一万円札と五千円札のみで、千円札には採用されていない。

 

技術の集大成!
いよいよ登場した「新紙幣」に搭載された技術とは?

2024年7月3日からいよいよ発行される新紙幣。この紙幣に施された偽造防止技術は、これまで印刷局が歩んできた紙幣発行の歴史の集大成ともいえるでしょう。

一万円の渋沢栄一は「新たな産業の育成」、五千円の津田梅子は「女性活躍」、千円の北里柴三郎は「科学の発展」で、日本の近代化をリードしたという理由で紙幣に採用された。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

これまでのE券に採用されている技術は、新紙幣でも引き続き取り入れられています。今回新たに採用された技術には、大きく2つあるそう。

 

・高精細すき入れ

「1つ目は伝統的な“白黒すかし” をさらに強化した“高精細すき入れ”という技術です。これまで、すかしに入っていた絵柄は肖像だけだったのですが、今回から肖像の背景に細かな柄が入るようになりました」

新紙幣に施される“高精細すき入れ”。肖像の後ろに、ひし形の模様が細かく施されている。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

・3Dホログラム
「2つ目は“3Dホログラム”です。紙幣を傾けると、ホログラムに入っている肖像が角度に合わせて顔の向きが変わる技術です。この技術を紙幣に採用するのは世界初になります

3Dの肖像が動く技術もさることながら、“ホログラム”に施された絵柄も美麗。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

今回の改刷の目的は、偽造防止のほかにも存在した

また、今回の新紙幣改刷の理由には、偽造防止の強化の他に、ユニバーサルデザインの向上もあったそう。

 

「識別マークなどの部分は触るとザラザラする“深凹版印刷(ふかおうはんいんさつ)”という方法で印刷されています。
下図の通り、従来の識別マークは種類ごとに異なる形状でしたが、新紙幣では11本の斜線となっています。そのうえで、これまでは紙幣でも表面の左下・右下に配置していたマークを、種類ごとに配置を変えて識別しやすいように変更しています」

(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

「また、外国の方や小さな文字が見えづらい方にも紙幣の数字が判別しやすくなるよう、額面の数字を大きく、そしてアラビア数字に変更しています。アラビア数字の部分は、一万円札と千円札とで数字の1の形状を変えて、判別しやすくしています」

(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

1の部分に違いを作り、紙幣を識別しやすくした。(画像=国立印刷局ホームページより掲載)

 

新しい技術を開発しながらも、古くから使われる技術もうまく取り入れることで、総合的に偽造を防ぎつつ、紙幣の使いやすさにも配慮して紙幣が作られています。こうした紙幣に込められた技術の歴史を知ることで、新紙幣を手にしたときの感慨もひとしおではないでしょうか。

 

Profile


独立行政法人 国立印刷局 お札と切手の博物館

昭和46年、印刷局創立100年を記念して開設。明治期以前・以後の紙幣、海外の紙幣や切手、紙幣の製造と深いかかわりをもつ銅版画など、様々な資料を常設展示しており、紙幣の歴史、偽造防止技術などについて解説している。

所在地=東京都北区王子1-6-1
公式サイト

ChatGPTが仕事以外でも頼りになる?生成AIの暮らしにおける意外な使い道と注意点

生成AIの普及が急速に進み、「生成AI時代」とも呼ばれる近年。ビジネスや日常生活など、幅広いシーンで生成AIが活用されるようになり、私たちに多くの恩恵をもたらしています。

 

生成AIは、使い方次第で日々の暮らしをさらに楽しく、便利にできるツールです。今回は、AI専門メディア「AINOW」の編集長を務め、AI領域に精通し幅広く活躍されている小澤健祐(おざけん)さんに、日常生活で生成AIを使いこなすためのヒントを紹介していただきます。

 

私たちの日常を変える?
生成AIの進化で広がる可能性

2022年11月にChatGPTが公開されて以降、全世界で爆発的に普及した生成AI。その技術は驚くべきスピードで進化を続けています。

 

「これまではテキスト情報や画像生成といった、1種類の情報のみを処理する生成AIが主流とされてきました。しかし、最近はテキストや画像、音声、動画など、さまざまな形式のデータを横断的に処理する『マルチモーダルAI』が目覚ましい発展を遂げており、これまで以上に幅広い分野での活用が期待されています。

今後はメッセージアプリや動画サイトなど、私たちが普段から利用しているサービスやコンテンツにも、生成AIが組み込まれていくと予想されています。生成AIは、私たちの生活に欠かせない、身近な存在になりつつあります」(「AINOW」編集長・小澤健祐さん、以下同)

 

押さえておきたい三大生成AIサービス

近年はChatGPTを筆頭に多種多様な生成AIサービスが登場し、ビジネスの現場をはじめ、日常生活のあらゆる場面で生成AIの便利な機能を取り入れられるようになりました。なかでも生成AI初心者におすすめなのが、対話型AIチャットツールの三大サービスとも言われる「ChatGPT」「Gemini」「Claude」です。

 

・ChatGPT

OpenAI社発の「ChatGPT」は、まるで人間と対話しているかのような自然言語処理と高い回答精度で公開直後から話題を集め、生成AIブームの先駆けとなりました。

「文書の作成や要約、翻訳のほか、音声や画像の認識・生成など、非常に汎用性が高いサービスです。ビジネス利用だけでなく、日常使いもしやすいです」

ChatGPT

 

・Gemini

「Gemini(ジェミニ)」は、2023年12月にGoogleが発表した次世代のマルチモーダル生成AIモデルです。GmailやYouTubeなど、Googleが提供する各種サービスとの連携ができるという大きな強みがあります。

「ビデオ通話中に『ここに何がある?』と聞くと、通話画面に映るものを認識して回答してくれたり、動画の内容を解析して記事を生成してくれたりと、マルチモーダル性に優れています」

Gemini

 

・Claude

「Claude (クロード)」は、OpenAI出身のメンバーが立ち上げたスタートアップ企業、Anthropic社によって開発されました。他の生成AIサービスと比べ、より人間的で自然な言語表現が可能です。

「Claudeが出力する回答は言い回しがとても自然で、AI業界でもきれいな日本語に強いと評価されています。記事作成やメールなど、テキストの生成に便利です」

Claude

 

これらのサービスはいずれもモバイルアプリがリリースされており、スマートフォンで気軽に利用することができます。まずは登録して、無料プランから試してみてください。

 

生成AIを使いこなすカギは「プロンプト」にあり!

実際に生成AIサービスを使い始めてみたはいいものの、とんちんかんな回答ばかりで上手く使いこなせないパターンも多いのではないでしょうか? 実は、それには「プロンプト(=AIに与える指示)」の質が大きく影響しています。

 

「例えば、物件検索サイトで部屋を探すとき、住みたい部屋の条件を指定しますよね。ざっくりした条件を入れただけだと、希望にぴったり合致する物件が埋もれてしまったり、条件がほとんど合わない変な物件ばかりが引っかかったりしてしまいます。
それはAIも同様で、具体的な条件を指定してあげないと、ユーザーが意図しない的外れな回答が返ってきてしまいます。単に『○○して』とだけ伝えるのではなく、指示の内容や目的を明確にして、細かく整理することが重要です」

 

プロンプトを整理するコツは、「指示」「目的」「参照情報」「出力形式」の4つの基本要素を押さえること。知りたい情報や出力したい形式などを項目に分けて入力します。

 

【プロンプトの基本要素】

# 指示 AIに何をしてほしいかを具体的に入力する
# 目的 「上司への報告文作成のため」など、出力結果を使用するシーンを指定
# 参照情報 要約したいテキストや解析する画像などを指定
# 出力形式 表形式、会話形式など、内容に合った出力形式を指定

 

プロンプトを作成する際、指示は必ず先頭に置きます。項目を追加する場合は、「#」などの記号で区切ると良いでしょう。

 

「使用シーンに応じて条件やターゲット、注意事項などの項目を追加して、より細かく情報を入力していきます。一見難しそうに思えますが、たったこれだけで出力結果の精度は大きく変わってきます」

 

日常生活に取り入れたい!
暮らしの中の生成AI活用術5選

生成AIを使って、日常の困りごとを解決する方法について、引き続き小澤さんに解説していただきます。今回は、2024年5月にリリースされたChatGPTの新モデル「GPT-4o」を使用します。

 

使用目的に合わせてモデルを選択することができます(画像は有料版のChatGPT Plus)。

 

ChatGPTのアカウント登録や基本操作についてはこちら↓

ChatGPTを登録から解説。けんすう氏おすすめの初心者向け7つの使いこなし方

 

GPT-4oを利用する場合、基本的には有料プランである「ChatGPT Plus」へのアップグレードが必要です。有料プランでは、画像や音声の入力・生成や最新の情報を使った回答など、より高度な機能を利用できます。ただし、利用回数や一部機能に制限はあるものの、無料プランのユーザーでもGPT-4oの利用が可能です(2024年6月現在)。

 

ではさっそく、日常生活での活用法を見ていきましょう。

 

1.家にある食材からおいしいレシピを生成する

買い物に行きたくない、でも冷蔵庫にある食材だけで作れる料理を探すのは大変……。そんなときは、AIにレシピを生成してもらいましょう。まずは先ほど紹介したプロンプト作成のヒントを参考に、テキストのみでプロンプトを作成します。なお、テキスト入力のみであれば無料版のGPT-3.5でも出力が可能です。

 

【プロンプト例】

#指示
STEP1:提供する食材からレシピを作成してください。
STEP2:足りない食材がある場合は、その食材を指定してください。

#目的
なるべく買い足しをせずに、満足感のあるレシピを作成するため。

#残っている食材(=参照情報)
トマト、小麦粉、タマネギ、各種調味料、豚肉

#条件
健康には配慮したメニューにしてください(栄養バランスを重視)

 

「ポイントはSTEP1・2のように指示を2段階に分けて入力することです。長文のプロンプトだとAIに指示内容が伝わりづらいので、指示が2つ以上になる場合は情報を細かく分解してみてください」

 

テキスト入力だけでなく、画像認識機能を使ってレシピを生成することも可能です。冷蔵庫の中身を撮影してチャット画面にアップロードします。

 

「AIが冷蔵庫内にどんな食材があるのかを分析して、それに応じたメニューを生成してくれます。分析できない食材があっても、『おそらく○○』というように食材の予測までしてくれます」

 

2.食事内容を撮影してカロリー推定をしてもらう

料理の写真をもとに、AIに推定カロリーを計算してもらいます。

 

「画像で判断できる限りですが、大まかなカロリーを計算してくれます。詳細な成分分析までは難しいかもしれませんが、1日の総摂取カロリーを計算するための指標になりますね」

 

3.インテリアの配置換えを提案してもらう

家具の配置に迷ったら、部屋の写真を撮影してAIに模様替えのアイデアをもらってみましょう。

 

「写真からわかる範囲で配置換えの提案をしてもらいました。どんな部屋作りをしたいか、目的や条件を入力すると、より詳細なアイデアをもらえます」

 

4.写真撮影の改善方法についてアドバイスをもらう

撮影スキル向上のために、構図や背景について誰かに意見をもらいたい……。そんなときは、撮影した写真をもとにアドバイスをしてもらいます。

 


「使用目的を入力すると、それに応じたアドバイスをしてくれます。例えば『写真をおばあちゃんに見せたい』から『資金調達用のプレスリリースに使いたい』に変更すると、ビジネスシーンでの使用に適した回答が返ってきます」

 

5.旅行先の環境に適したコーディネートを提案してもらう

旅行先にどんな服を持って行くか迷ったら、目的地の気候や観光に適した服装を提案してもらいましょう。プロンプトには旅の目的地や時期、性別、身長など詳細な情報を入力します。

 

有料プランの機能ですが、提案されたコーディネートをもとに参考画像を生成することも可能です。

 

「『全体的に可愛くしたい』など、好きなテイストを指定するのも良いでしょう。コーディネートが気に入ったら、Googleの画像検索を使って似たアイテムを探すこともできます」

 

上記の他にも、使い方はいろいろ。テニスの練習メニューを作ってもらったり、音声認識機能を使って英会話練習の相手をしてもらったり、プロンプトを応用するだけで、幅広いシーンで活用することができます。

 

ただし、生成AIを利用するにはこんな注意点も。

 

「生成AIは、ユーザーが入力したデータを学習して回答を生成するので、入力した情報が他ユーザーの回答に組み込まれてしまう可能性は否定できません。名前や住所など個人が特定できる情報や機密情報の入力は避けましょう。
また、生成AIの出力結果をすべて鵜呑みにするのではなく、事実かどうかを見極めることも大切です。通常のインターネット利用と同様に、情報の扱い方には注意が必要です」

 

無限の可能性を秘める生成AI。みなさんも日々の暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか?

 

Profile


「AINOW」編集長 / 小澤 健祐(おざけん)

日本最大のAI専門メディア「AINOW」編集長。「人間とAIが共存する社会をつくる」のビジョンのもと、ディップ株式会社で生成AI活用推進プロジェクトに携わるほか、 1000本以上のAI関連記事の執筆、AIに関するトークセッションのモデレーターや登壇、講演、メディア出演など、AI領域で幅広く活動している。株式会社Cinematorico 共同創業者兼COO、株式会社テックビズ/PRディレクター、株式会社Carnot/事業戦略担当、Cynthialy株式会社/顧問 、日本大学次世代社会研究センター/プロボノとしても活躍。一般社団法人生成AI活用普及協会の協議員も務める。著書に『生成AI導入の教科書』(ワン・パブリッシング)。

小澤健祐『生成AI導入の教科書』

PlayStation VR2はどこが凄い? おすすめソフトは?「VR」の最新事情と楽しみ方

昨今、進化がめざましいVR。VRというと「ゲームを楽しむためのもの」とイメージする人も多いでしょう。ただそれだけではなく、近い将来、私たちの生活を大きく変えるものになるかもしれません。

 

そこで今回は、そもそもVRとはどのような技術なのか、現在どれほどの進化を遂げているのかといったVRの最新事情について、ネットワークや先端技術に詳しいフリージャーナリストの西田宗千佳さんに教えていただきました。さらに、最新のVRが体験できるゲーム「PlayStation VR2」についても紹介します。

 

VRの技術は、この50年で大きく進化した

そもそも「VR(virtual reality)」とは、コンピューターによってつくりだした仮想空間を、まるで現実空間にいるかのように感じられる技術のこと。日本語では「仮想現実」とも呼ばれています。ゲームのイメージが強いVRですが、西田さんによると、VRは本来とても幅広いことに活用できる技術だそう。

 

VRを使えば、目の前の現実世界をまったく別の映像や音に置き換えることが可能です。現実世界で狭い部屋にいたとしても、VRによってそこに仮想空間をつくりだすことで、私たちの世界はもっと自由なものになり得ます。そう考えるとVRは、とても幅広いことに活用できる技術です。ゲームはもちろん、コミュニケーションツールになったり、仕事をするときに役立ったり……。私たちの生活のさまざまな場面で活用できる可能性を秘めていると思います」(フリージャーナリスト・西田宗千佳さん、以下同)

 

未来を感じさせるデバイスで、近年生まれた技術のように感じられますが……。

 

「VRは今でこそ広く知られるようになりましたが、アイデア自体は50年以上前からすでにありました。しかし当時はまだ、実現させるための技術が足りていませんでした。VRの実現には、コンピューターの性能をつかさどる半導体、映像を表示するためのレンズやディスプレイ、ネットワークのスピード、これらすべてがそろわなければなりません。50年の間に3つの技術が徐々に進化していきましたが、とくにここ最近でVRを取り巻く環境が大きく変わる転換点になったのは、2012年です。アメリカのITベンチャー企業「Oculus(オキュラス)」のパルマー・ラッキー氏が、現在のVR用ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)のベースとなる技術をつくりだしました。それが、HMDの内部に魚眼レンズを設置して、そこにあらかじめ歪ませた映像を通すという技術です。これにより、広い画角で映像が見られるHMDを低コストでつくれるようになりました。その後、世界のIT大手もVR業界へと参入。今では一般消費者でも数万円で、高性能なVRが体験できるようになってきています。まったくゴールが見えなかった50年前と比べると、現在は順調に“頂上”へと近づいてきていると言えるでしょう。

 

とはいえ現在のVRは、コンピューター全体の歴史からいえば、家庭用PCとして広く普及した『Windows95』も発売されていない、1990年以前くらいのレベルとも言われています。携帯で言えば、まだガラケーもないくらいの時代で、まさに今が『黎明期』と言えると思います。VRで何か新しいことができるとわかってはいるけれど、現段階で便利かと言えば、不便なところはまだまだあるというのが現状です。それでも、VRを使って楽しくてびっくりするような体験ができる商品が、すでに世の中で売られていることを考えると、かなりの進歩。今触れておくことで、この先の新しい世界の可能性を感じることができると思います」

 

最新のVRを自宅で体験できる「PlayStation VR2」

現在、一般の人でも体験しやすくなってきているVR。なかでも2023年2月に発売された「PlayStation VR2(以下、PS VR2)」は、最新のVR体験ができるデバイスの一つです。PS VR2を使うとどのような体験ができるのか、西田さんに詳しく教えていただきました。

 

「PS VR2は、PlayStation 5(以下、PS5)と接続して使用するVRデバイスです。VR界の中で今もっともクオリティの高いゲームを低価格で楽しめるのがPS VR2だと思います。しかし低価格といっても、PS VR2とPS5を購入すると13万円ほどになるので、けっして手頃な価格ではありません。それでも海外旅行1回分くらいの価格で、まったく新しい世界を体験できると考えると試してみる価値はあると思います。

 

ソニー・インタラクティブエンタテインメント「PlayStation VR2」
7万4980円(税込)

©2023 Sony Interactive Entertainment Inc. All rights reserved.
Design and specifications are subject to change without notice.

 

PS VR2の大きな特徴は、『ゲームを楽しむこと』に特化してつくられているところです。先ほども述べたように、VRはあらゆることに活用できる技術。しかし、一般の人たちにとってはまだ馴染み深いものとは言えず、何ができるのかよくわからなかったり、買った後に使い方を試行錯誤したりする人も多いのが現状だと思います。しかしPS VR2は、ゲームができることをシンプルに押し出した商品。そのためセッティングが簡単で、PS5とPS VR2を用意し、ケーブル一本挿せばすぐにゲームを始めることができます。このシンプルさやわかりやすさは大きなポイントです。

 

さらにPS VR2の魅力と言えるのが、美しい映像でゲームを楽しめるところです。そもそもVRは、右目と左目で投影される映像が異なるため、単純に考えると、通常のゲームの倍の性能があって初めて通常のゲームと同じくらいの画質になります。左右の映像がずれていると、脳が違和感を覚えて酔いやすくなってしまいます。それが今回のPS VR2では、技術的な進歩によって性能がアップしたことで、酔いもかなり軽減され、よりリアルで美しい映像が楽しめるようになりました」

↑レンズの奥にあって見えないが、PS VR2には新しいディスプレイが使われており、発色や解像感がより自然なものになっている。

 

VRの醍醐味を味わえる! 西田さんおすすめのPS VR2のソフト

続いては、西田さんが体験したPS VR2のゲームの中でも、とくにおすすめのソフトを教えていただきました。

 

1.グランツーリスモ 7

『グランツーリスモ 7』スタンダードエディション(パッケージ版)

発売元=ソニー・インタラクティブエンタテインメント
プラットフォーム=PlayStation 5、PlayStation 4
価格=PS5版 8690円 / PS4版 7590円(税込)

 

「グランツーリスモ」は、バーチャルな世界でドライビングを体験できるリアルドライビングシミュレーター。ゲームファンのみならず、世界中のモーターファンからも高い支持を得ています。『グランツーリスモ 7』では、60以上の自動車ブランド、400車種以上の車を収録。普段はなかなか乗ることができないスポーツカーなどでドライビングを体験できます。

©2023 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.  “Gran Turismo” logos are registered trademarks or trademarks of Sony Interactive Entertainment Inc. Manufacturers, cars, names, brands and associated imagery featured in this game in some cases include trademarks and/or copyrighted materials of their respective owners. Any depiction or recreation of real-world locations, entities, businesses, or organizations is not intended to be or imply any sponsorship or endorsement of this game by such party or parties. All rights reserved.

「PS VR2 で『グランツーリスモ 7』をプレーしていると、本当に運転をしているような感覚になります。レースをするゲームでは、本来なら勝たないとイライラするはずですが、ドライブ気分でついリラックスしながら楽しんでしまうくらいです(笑)。また、現実の世界で夏の夕方に車を走らせていると、日差しが車内に入り込んで顔が熱くなったりすることがありますよね。ゲームの中でも、実際にそういう風景の中を走っていると顔に日が当たって本当に温かくなるような感覚があって驚きました。このように、感覚情報が影響を及ぼし合う現象は『クロスモーダル現象』と呼ばれています。クロスモーダル現象が起こるくらい、あまりにリアルな体験ができるのがPS VR2 。それを存分に味わえるゲームの一つが『グランツーリスモ 7』だと思います」

 

2.Kayak VR: Mirage

Kayak VR: Mirage(ダウンロード版) 

発売元=Better Than Life B.V.
プラットフォーム=PlayStation 5
価格=3080円(税込)

 

「Kayak VR: Mirage」は、世界のさまざまな場所で自然に囲まれながらカヤックの体験が楽しめるゲームです。ゲームはVR専用に開発されていて、VRならではの没入感を堪能できます。

「北極の氷河の間をカヤックで漕ぐなど、現実世界ではなかなかできない体験ができるところが大きな魅力です。このゲームでも、氷河の間を漕いでいると、自分のいる空間がなんとなく寒く感じられるくらいのリアリティがあります。カヤックを漕いだ時の水しぶきや周囲に見える自然の風景もすごくリアル。映像もとてもきれいです」

 

3.Rez Infinite

Rez Infinite(ダウンロード版) 

発売元=エンハンス
プラットフォーム=PlayStation 5(PS VR2対応)、PlayStation 4(PS VR対応)
価格=PS5 3462円 / PS4 3462円(税込)
※PS4版を購入済みの場合は、1100円(税込)でPS5版を購入可能。

 

「Rez Infinite」は、新しい共感覚体験ができるシューティングゲームです。美しいビジュアルやサウンドを楽しめるところも大きな魅力。世界各国でゲームアワードを受賞・ノミネートされる人気のタイトルです。

「真っ暗な空間に浮かび上がってくる敵を攻撃するときの効果音が音楽のようになっていて、音楽しかない空間に包まれるような、不思議な感覚をおぼえます。また、PS VR2の『視線トラッキング技術』により、コントローラーではなく視線を動かすだけで敵を狙うこともできるなど、VRならではの面白い体験ができます」(視線トラッキングを体験するには、PS5版「Rez Infinite」と、PS VR2が必要)

 

PS VR2のこれからは?

2023年2月に発売されたばかりのPS VR2は、今後どのような広がりを見せていくのでしょうか?

 

「現在PS VR2を楽しんでいるのは、元々VRゲームをやっていた方やPlayStation好きが多い印象があります。もちろん、そもそもゲームに興味がない人もいますし、ゲーム機はスマホと違って一人一台持つものでもないので、市場の限界もあると思います。しかし、VRのすごさは実際に体験してみないとなかなかわからないもの。PS VR2に限らずですが、今後国内でVRのゲームを広めていくためには、店頭やイベントでの体験会を積極的に実施したり、日本で人気のタイトルをVR版で発売したりするなど、より多くの人に興味を持ってもらえるようアピールしていく必要があると考えています」

 

さらに、「ゲーム以外のVRも体験したい」「もっと低コストで気軽にVRを体験してみたい」という人におすすめのデバイスについても教えていただきました。

 

もっとも手軽なのは、5~7万円ほどで購入できる『Meta Quest 2』や『PICO 4』です。これらはゲーム機などにケーブルをつながず、HMDをつけるだけで手軽に楽しむことができます。また『Meta Quest 2』や『PICO 4』で体験できるのは、ゲームはもちろん、フィットネス、メタバースでの交流、ビジネスワークなどさまざま。ゲームに特化したPS VR2とはまた違った、VRの面白さや魅力を体験できると思います」

 

ちなみに、西田さん自身が愛用しているのは「Meta Quest Pro」だそう。

 

「『Meta Quest Pro』は価格は15万円ほどしますが、VR機能だけではなく、現実世界と仮想世界をシームレスにつなぐことができる、MR(複合現実)対応のデバイスであることが大きな特徴です。例えば、手元に置いたキーボードが見えている状態で、空中にディスプレイを出したりすることができます。現在、一般向けにさまざまなデバイスが販売されているので、目的や予算によって自分に合ったものを選んでみてください」

 

社会のなかにも広がり始めている! VRの活用例

すでに驚くほどリアルな仮想空間を楽しむことができるVR。今後、VRの技術が進歩するとどのようなことができるようになるのでしょうか? また現在、社会の中でVRが活用されている事例についても西田さんに教えていただきました。

 

「VRの技術は今、富士山でいうと8合目くらいまで来ています。では、これが頂上に到達するとどうなるのか。例えば、街中で歩いているときにスマホの中のマップではなくて道の上に矢印が表示されるとか、イベントをやっている場所に立体のキャラクターが浮かんで見えるとか、飲食店に星や点数が表示されて評価がわかるとか……。生活の中で役立つようなさまざまなことができるのではないかと考えています。
とはいえ、屋外でVR用のゴーグルを付けることは安全面から考えてもハードルは少し高めです。そのため、屋内での活用、例えばアーティストのライブパフォーマンスなどは、もっと早くに楽しめる日が来ると思います。業界でも『ゲームの次はライブパフォーマンスが来る』と言われているので、今後の展開に期待しています」

 

一方、現在すでに社会の中でVRが活用されている事例もあります。

 

「その一つが、VRを使って行われる労働災害を防ぐために取り組みです。例えば工場などでは、機械に服の袖や腕が巻き込まれるような事故が起こることがあります。そこで安全教育としてVRを活用し、実際に事故が起こったときのシミュレーションを行います。これにより、事故防止への意識向上などが期待できますよね。さらに工場の設計などで機械の配置を考えるときに活用しているところもあります。VRでつくりだした仮想空間に機械や人を置くことで、どう配置すると効率的な作業ができるかなどをシミュレーションすることが可能です」

 

「そのほか、活用され始めているのが教育現場です。例えばVRを使うと、自宅から授業を受けていてもほかの生徒がそばにいるように感じられたり、歴史の授業で土器や刀といった歴史的な遺物を目の前で観察できたりと、いろんなことが体験できます。このように教育現場でのVR活用はとても有効だと言われていますが、世界的に見ても導入しているところはまだまだ多くありません。活用法の可能性や最適な使い方について、今まさに模索しているところだと思います」

 

最後に、西田さんが考えるVRの魅力と可能性についてうかがいました。

 

「現在、オンライン上で画面越しに人と会うことは当たり前の時代になりました。しかし近い将来、VRを活用することで遠く離れた人とのコミュニケーションはさらに進化して、まるで目の前に等身大の相手がいるかのように感じながら、話をすることができるようになります。このように、新しいコミュニケーションツールになり得るところはVRの大きな価値だと考えています。
今のVRでいえば、先にご紹介した『クロスモーダル現象』のような、視覚体験があまりにリアルなゆえに脳が騙されるような体験ができることは、やはり大きな魅力です。VRはまだ『明日、あなたの生活の役に立ちます』と言えるものではありません。それでも今触れておくことに価値があって、この面白さは実際に体験してみないとなかなかわからないので、ぜひ一度試してみてもらいたいなと思います」

 

プロフィール

フリージャーナリスト / 西田宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、書籍も多数執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略」(SBクリエイティブ)、「ネットフリックスの時代」(講談社)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)などがある。

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

「メタバース」で今何ができる? 今後どうなる? 3D都市データを駆使する制作者に聞いた、メタバースの基礎知識と楽しみ方

エンタメ業界を中心に、最近よく耳にするようになった「メタバース」という言葉。2022年はメタバース元年、とも言われますが、実際どういうものなのかわからない、という人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、メタバースの基礎知識やXR(VR・AR・MR)との違い、メタバースの活用事例など、未来への可能性を含めてわかりやすく解説します。3DCG技術を用いてメタバース空間の制作に携わっている、株式会社キャドセンターの古川修さんに話を聞きました。

 

そもそも「メタバース」って何? その魅力とは?

メタバース(Metaverse)は、「超越した」という意味を持つ「Meta」と、「宇宙や世界」を意味する「Universe」という単語を組み合わせた造語のこと。では実際に、メタバースとはどういったものなのでしょうか?

 

「『メタバース』とは、インターネット上に3次元CGで構築された仮想の空間のことをいいます。しかし、まだ線引きもあいまいで、厳密な定義があるわけではないんです。一般的には、オンラインの3D空間でユーザー同士がアバターを介してコミュニケーションしたり、ゲームを楽しんだり、映像を見たり。そういった体験ができるサイバー空間全般を指すことが多いです。具体的には『あつまれどうぶつの森』や『マインクラフト』といったゲームも、メタバースに分類されると言われています。

メタバースのなによりの魅力は、現実空間で不可能な体験が可能という点です。ライブ会場に行かなくてもアーティストのライブを楽しめたり、現実ではなかなか行くことができない観光スポットに仮想的に訪れることができたり。距離を感じさせない体験を共有しながらユーザー同士がコミュニケーションできるのも、メタバースならではですね。

また、アバターを介してなりたい自分になれるという魅力もあると思います。オンライン空間だからこそ、自分の好きなように自分をプロデュースできるので、外見など本来の自分に縛られることなく楽しむことができます」(株式会社キャドセンター・古川修さん、以下同)

 

混同されやすい、XR(VR・AR・MR)とはどう違う?

メタバースとよく混同されやすいのが、XR(VR・AR・MR)という言葉です。その違いについても解説していただきました。

「メタバースは『仮想空間』を意味する言葉で、XR(VR・AR・MR)は『仮想空間を表示する技術』のこと。いずれも、メタバース空間にアクセスするための手段といえます」

 

VR(Virtual Reality:仮想現実)

「ヘッドマウントディスプレイといったVR機器を装着して、3DCGなどでつくられたサイバー空間を360度体験できる技術です」

 

AR(Augmented Reality:拡張現実)

「現実空間でスマートフォンやタブレットをかざすと、その画面のなかに仮想のデジタル情報を表示させる技術です。スマートフォンアプリの『ポケモンGO』なども、ARの技術が使われています」

 

MR(Mixed Reality:複合現実)

「VRとARを組み合わせたようなもの。専用のグラスを装着することで、現実空間にCGや文字データを合成して表示する技術です。現在は、工場の点検業務や医療現場のトレーニングなど、一部の専門性のある領域で利用されているようです。これからますます発展が期待されています」

 

ヘッドマウントディスプレイを装着し、メタバース空間にアクセスする古川さん。

 

メタバースに注目が集まる、その背景とは?

メタバースという言葉自体は以前からあったものなのだそう。それではなぜ、今こうして話題となっているのでしょうか? 古川さんは「2022年はメタバース元年とも言われています。ここまで注目されるようになったのは、主に3つの背景があると考えています」と話します。

 

1.Facebook社が「Meta」に社名を変更した

「Google Trends」より。

 

「昨年10月、世界最大級のコミュニケーションプラットフォームを運営するFacebook社が、社名を『Meta』に変更し、メタバース事業に力を入れると宣言しました。それまではごく一部の人しか知らなかったキーワードだったのですが、この出来事がきっかけとなり、メタバース業界に参入する企業が続々と増えたのです。実際にこの時期の検索トレンドを調べてみると、この時期から注目度が急激に上がっているのが分かります」

 

2.VR機器やPCの性能が向上し、アクセスしやすくなった

「メタバース空間をより楽しむのに必要なVR機器の性能が向上し、かつ安価で購入することができるようになったのも、一つの理由といえます。それまでは数十万円かかっていたヘッドマウントディスプレイも、今では5万円程で購入できるようになっています。

また、以前はハイスペックなグラフィックボードを搭載したPCでなければ体験できないサービスが多かったのですが、近年は3D技術の向上により、スマートフォンやノートパソコン、ゲーム機でも楽しむことができるようになっています。より多くの人がアクセスしやすくなったことも、注目されるようになった大きな要因です」

 

3.コロナ禍によって需要が拡大した

「コロナにおける、対面のコミュニケーションや移動の制限は、メタバースのブームを加速させました。バーチャル空間でもコミュニケーションを楽しみたい、あの場所に行ってみたいという人々のニーズに応える手段として、メタバースに注目が集まったのだと思います」

 

エンタメだけじゃない! 日本と海外のメタバース活用事例

「現状のメタバースは、アニメやゲームでの活用が多いのですが、さまざまな分野に広がりを見せています。メタバース空間を提供するプラットフォームもたくさん誕生しているんですよ」と話すのは、キャドセンターのプランナーさん。実際にどのようななサービスがあるのか見ていきましょう。

 

・仮想の新宿で買い物も!「REV WORLDS」

「REV WORLDS (レヴ ワールズ)」
ダウンロード無料
iOS / Android

三越伊勢丹が提供する、スマートフォン向けアプリです。新宿東口をモデルとした仮想都市や仮想の伊勢丹新宿店といったメタバース空間に訪れ、チャットやモーションを活用して、アバター同士でコミュニケーションを取りながら、お買い物やメタバース空間の散策を楽しむことができます。ECサイトと連動しているので、訪れた仮想の伊勢丹新宿店で実際に商品を購入することも可能です。期間限定のイベントや催事なども開催されています。

 

・さまざまなメタバース空間が集まるプラットフォーム「DOOR」

DOOR
無料(一部有料)

『DOOR』は、NTTが提供するメタバースのプラットフォーム。企業や団体がコンサートや展示会、バーチャルショップといったさまざまな用途のメタバース空間を、このプラットフォームを通して提供しています。また、個人でメタバース空間を作成し、展開することもできます。利用者はアバターとなってメタバース空間に入り、ボイスチャットなどでコミュニケーションが可能です。

 

キャドセンターでは、首里城や平泉といった文化財を訪れることができるコンテンツを作成し、「DOOR」上で提供している。

 

・自分の作ったコンテンツをバーチャル上で収益化可能「The Sandbox」

The Sandbox(ザ・サンドボックス)
無料(一部有料)

 

現在、海外を中心に大きな注目を集めているのが、Bacasable Global社のゲーム「The Sandbox」です。「マインクラフト」のような見た目をしていますが、一番の違いは、このゲーム内で自分のつくったデジタルコンテンツを売って、収益化できる所にあります。

 

本来、デジタルコンテンツは安易にコピーできてしまうので、資産価値があるとみなされていませんでした。しかし『デジタルだけど複製できない』という特徴を持った技術(NFT)を用いることで、唯一無二のデータをオンラインで売買することができるようになりました。『The Sandbox』でも、その技術によって、自分でつくったゲーム内で使用できる装備や装飾品などを販売し、『SAND』と呼ばれる仮想通貨として収益化が可能。世界には、『The Sandbox』でお金を稼いでいる人もいるようです。

 

仮想空間といえど、現実と見紛うような精緻さで作り込んだメタバースも。リアルさを追求することで、どういった可能性が広がるのでしょうか?

妥協なき“リアリティ”への追求
キャドセンターのメタバース空間づくり

今回取材を行ったキャドセンターは、メタバース空間のデータ制作を行っている会社です。20年以上も前から3D都市データを作成してきたノウハウを生かし、クライアントが求める高度な空間をつくり上げてきたと言います。

フォト・リアリスティック3次元都市データ 「REAL 3DMAP」

 

「現実の街や観光地などを舞台としたメタバース空間をつくる際、当然ながらその場所の3D都市データが必要となってきます。例えば、秋葉原を舞台にしたメタバース空間をつくりたいとなれば、本来秋葉原の街を計測するところから始まるのですが、当社は長年作成してきた3D都市データを持っているので、そのデータをベースとして制作することができるのです。

 

蓄積してきた3D都市データは、空撮写真や測量を経てつくられた正確なもの。さらに、不動産のCGパースなどを多く手掛けてきたこともあり、『地図の正確さ』と『表現のクオリティ』両方の意味での“リアリティ”を実現できるところが弊社の強みです。この都市データはメタバース空間制作だけでなく、3Dハザードマップとして防災分野で活用されたり、映画などの背景などにも利用されたりしています」

大日本印刷株式会社 バーチャル秋葉原
アプリ版 ※DMM「Connect Chat」上にて利用可能。/ ブラウザ版

 

「バーチャル秋葉原」も、キャドセンターの技術とノウハウが生かされたコンテンツのひとつ。同社が所有する「REAL 3DMAP TOKYO」という3D都市データをベースに、人気クリエイターKEIGO INOUE氏のデザインビジュアルを融合させた、まるでSFの世界のようなメタバース空間です。

 

「バーチャル秋葉原では、アバターが集まってチャットで交流することはもちろん、同時に映像を見ることができるウォッチパーティーや、画家やイラストレーターによる展示会など、さまざまなイベントに参加することができます。また、一部のバーチャルショップでは、ECサイトと連動して実際に商品を購入することも可能です」

 

メタバースの可能性を広げる「街バース」

同社は、メタバース空間のベースデータとして活用できる3D都市データ「街バース」をリリース。第一弾として発表したのは、開業から100年を迎えた東京駅周辺(丸の内エリア)。順次、地域は拡大していく予定だといいます。

街バース

「街バースは、現実の都市空間を忠実に再現しているだけでなく、実際にアバターが歩くメタバースのデータとして必要不可欠な、人の目線からみた景色を再現しているのが特徴です。さらに、実際の街を歩いているかのような“フォトリアル”なデータを追求しました」

 

街バースは、「アイレベル」(人の目線の高さ)で見た景色のリアリティが魅力。

 

「ただ映像が綺麗なだけでもなく、ただ地図として正確なだけでもない。その二つの要素を組み合わせることで、メタバースの仮想体験自体がよりリアルになっていくと考えています。街バースをはじめとするコンテンツ制作を通して、メタバースの可能性がますますひろがっていくとうれしいです」

 

「メタバースが普及したからといって“リアル”がなくなるわけではありません。実際、私たちの元には『オンラインで体験してもらって、実際の来場につなげたい』といったご相談も多いです。みなさんも、インスタグラムで見た投稿をきっかけに実際のお店を訪れる、なんてことも多いですよね。それと同じように、気軽に利用できるオンライン空間があるからこそ、リアルにもつなげることができるようなハイブリッドなサービスは、今後ますます求められてくると考えています。

今、メタバースはまさに過渡期。それでもこの流れは止まることなく、買い物や仕事、教育現場など、今後もさまざまな分野に広がっていくと思います。そしていつか、『メタバースがリアルを超える』なんて未来がやってくるかもしれませんよ」

 

【プロフィール】

株式会社キャドセンター / 古川 修

同社プロデュースグループのプランナーとして、クライアントへの提案やコンペ等のコンセプト決定と提案書作成など、受託案件の実現へ向けた総合プロデュースを担当。学芸員の資格を持っており、文化財の3Dデジタルスキャンやテクスチャ撮影のコーディネートを担当することも。
https://www.cadcenter.co.jp/

”推し活”に使えるのは?ポッドキャストや音声SNS…「音声コンテンツ」の基礎知識と始め方

コンテンツの新しい形として、“音声コンテンツ”が存在感を増しています。2021年に話題をさらった「Clubhouse」をはじめとする音声SNSのほか、AppleやSpotifyが提供するポッドキャスト、オーディオブックなどさまざまなサービスが登場。そしておなじみのラジオも、インターネット配信によって魅力が見直されつつあります。このコンテンツを耳で消費する傾向について、ITライターでスマホ安全アドバイザーとして活躍する鈴木朋子さんに解説していただきます。

 

「目は忙しいが耳はまだ空いている」

昨年、2021年に注目されたネットサービスといえば、音声SNS「Clubhouse」がそのひとつに挙がるでしょう。「音声だけで交流する」という方法が新鮮に受け止められ、招待を求める人が殺到、一時期は招待枠がフリマアプリで売られるほどでした。

 

なぜClubhouseがここまで注目されたのでしょうか? 既存のSNSに新鮮味が薄れたことや、招待制(当時)による相乗効果などもありますが、「音声」に絞ったことが大きかったのだと思います。

 

以前から、ネットサービスを手掛ける人たちにより「目は忙しいが耳はまだ空いている」と言われていました。映像や画像、テキストなど、「見る」コンテンツはあふれています。一方、「聞く」コンテンツは常時聞いているほどではなく、まだ余力があると考えられていたのです。

 

音声コンテンツの魅力は、スマホがあればいつでも楽しめること。今はワイヤレスイヤホンやBluetoothスピーカーなど、スマホで音声を聞く環境が整っている人も多いでしょう。電車で移動しているときや、何か手作業をしているときでも、「ながら聞き」ができることも人気の理由です。

 

2021年初に巻き起こったClubhouseの爆発的な流行により、従来からあった音声コンテンツの魅力に、多くの人が気づきました。そして、新たなサービスも立ち上がり、今、音声コンテンツ業界全体が盛り上がっているのです。

 

音声コンテンツにはさまざまな種類がある

音声コンテンツといっても、ClubhouseのようなSNSから、定番のラジオまでさまざまな種類があります。現在はどのような音声コンテンツがあるのか、紹介していきましょう。

 

・音声SNS

音声で交流するサービス。誰でも配信者になることができる気軽さが魅力です。Clubhouseは音声専用ですが、Twitterは機能のひとつとして、音声チャット機能「スペース」をリリースしています。スペースはTwitterのアカウントがあれば聞くことができ、スペースが開かれるとアプリの上部に表示されます。既存のSNSが音声機能を付けると、配信者はすでに繋がっているファンをイベントに集めやすいメリットがあります。そこでFacebookも音声機能「Live Audio Rooms」をアメリカでスタートしています。日本での開始が待たれます。

Twitterの音声チャット機能「スペース」。

 

・インターネットラジオ

インターネットラジオ「radiko」や「NHKラジオ らじるらじる 」など、ウェブサイトやアプリを通じてラジオ局が配信している番組を聞きます。聞き逃してしまった番組を後から再生できるほか、現在いる場所では聞けない放送局の番組も聞くことができます。

インターネットラジオ「radiko」。

 

・ポッドキャスト(Podcast)

ポッドキャストは、音声で楽しめる番組。ラジオのように、配信者が作った番組を視聴します。ラジオとの違いは、配信されているコンテンツを選んで、好きな時間に再生するところ。ラジオ番組が過去の番組をポッドキャストで配信しているケースもあります。

 

ポッドキャストのサービス自体がオリジナル番組を配信していることもありますが、基本的にはポッドキャストアプリで世界中に配信されている番組を聞くのが一般的。「Apple Podcast」「Google ポッドキャスト」「Spotify」「Amazon Music」などがあるので、使いやすさで選ぶといいでしょう。

iPhoneユーザーならアプリがプリインストールされている「Apple Podcast」が便利。

 

・音声配信サービス

音声コンテンツを配信しているサービスです。ポッドキャストと似ていますが、独自のコンテンツを配信している点が異なります。認証を受けた人だけが配信できる「Voicy」や「NowVoice」「ZATSUDAN」などのサービスと、誰でも配信できる「Radiotalk」や「Spoon」などのサービスがあります。

 

前者は芸能人やスポーツ選手などの有名人が多く、ビジネスや自己啓発など学びに繋がるコンテンツが多く配信されています。主に有料会員に登録して視聴します。後者は無料でも楽しめる気軽な配信が多く、生放送での配信も行われています。

音声プラットフォーム「Voicy」。

 

・オーディオブック

プロのナレーターや声優が本を朗読して配信するサービスです。「audiobook.jp」や「Amazonオーディオブック – オーディブル」などがあります。月額で支払うか、1冊ごとに支払うかは、サービスによって異なります。

オーディオブック配信サービス「audiobook.jp」。

 

生活スタイルや聞きたいジャンルで選択

音声コンテンツには有料と無料があり、誰でも配信できるサービスと有名人が配信するサービスなどの違いがあることがおわかりいただけたかと思います。では、「音声コンテンツを楽しんでみたい」と思ったとき、何を基準に選べばいいでしょうか?

 

・推しの有名人がいるなら?

まず、好きな有名人がいる人は、その人のSNSをフォローしておくことがおすすめです。Twitterのスペースが突然開始されるかもしれませんし、Clubhouse開催の通知も受け取れます。SNSの音声サービスは投げ銭やサブスクなどの課金機能を今後拡充していくので、“推し活”もできますね。

 

また、音声コンテンツを配信している有名人も多くいます。各サービスで検索してみましょう。人によっては、無料コンテンツ、有料コンテンツ、月額制など、複数の方式で配信していることもあります。

 

・語学学習や無料聴取には?

「英語を勉強したい」「無料で楽しみたい」という場合は、ポッドキャストがおすすめです。世界中の番組を無料で聴くことができます。アプリの選択は自分が普段使っているなど使い勝手が良いと感じるアプリ、またはオリジナルコンテンツが配信されているアプリで選ぶといいですね。音声コンテンツサービスでも、一部の新聞社はニュースを無料で配信しています。配信時間に1日分のニュースを耳でチェックすると効率が良さそうです。

 

・あらためてラジオを聴きたいなら?

ラジオを生活に取り入れたいなら、「radiko」がおすすめ。音声コンテンツの老舗とも言えるラジオは、楽しい帯番組がたくさんあります。毎朝のルーティンにすれば、目を使うテレビよりも朝の準備がはかどるでしょう。

 

・本を読みたいけど時間がないなら?

本を読む時間が取れない人は、オーディオブックを。読んだことがない本を通勤時間に聞くこともできます。再生スピードを調整できる場合もあるので、すばやく勉強したい人にもおすすめです。

 

・自分でも配信したいと思ったら?

そして、自分も音声コンテンツを配信したいと思ったら、気軽にチャレンジできる無料配信サービスがいいですね。投げ銭方式でお小遣い稼ぎができるかもしれません。

 

今後、音声コンテンツサービスはますますコンテンツが増え、盛り上がっていきそうです。「耳」で楽しむ生活、一度試してみませんか?

 

【プロフィール】

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー/鈴木朋子

SNSなどスマートフォンを主軸にした身近なITに関する記事を執筆している。初心者がつまずきやすいポイントをやさしく解説することに定評があり、入門書の著作は20冊を越える。安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。

 

炎上やネットストーキングを防ぐには? スマホ安全アドバイザーが教える「SNSでプライバシーを守る方法」

自分の「好き」を発信したり、友人の近況を知ったり、同じ趣味を持つ人とつながったり、さまざまな形で楽しめるSNS。とはいえ楽しみながらも、自分の個人情報やプライバシーが脅かされていると、不安を感じる人も多いのではないでしょうか? SNSの世界で自分自身を守るためにはどうしたらいいのか? ITジャーナリストでスマホ安全アドバイザーの鈴木朋子さんに教えていただきました。

 

主なSNSとその特徴を、あらためてチェック!

そもそも「SNS」とは、「ソーシャルネットワーキングサービス」の略称。人と人とのコミュニケーションを促進したり、ネットワークの構築を支援したりするオンラインサービスのことを言います。まずは現在よく利用されているSNSとそれぞれの特徴について、あらためて鈴木さんに解説してもらいました。

 

・LINE
「LINEは現在、メッセージツールとして多くの人が利用しています。特徴としては、見知らぬ人ではなく、親しい人や家族とコミュニケーションを取るためのツールであるということ。そもそもSNSに含まれるのか議論されることもありますが、写真などを投稿できる『タイムライン』は、SNSの機能を持っていると言えます」(ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 鈴木朋子さん、以下同)

 

・Twitter
「Twitterは、140字以内の『つぶやき』を投稿して共有するサービスです。これまでは『自分の想いをつぶやく場所』という捉え方が主流でしたが、現在は、最新のニュースや電車の遅延情報など、リアルタイムの情報を得るためのSNSになってきています」

 

・Instagram
「Instagramは写真・動画の投稿に特化したSNSです。2017年に『インスタ映え』という言葉が流行語大賞に選ばれるなど、これまでは特別な一枚を投稿するイメージが強いSNSでした。しかし現在は、24時間で消えるストーリーズ機能やライブ機能が追加されたことによって、『映え』よりも日常のふとした瞬間を投稿する気軽な場所に変わりつつあります」

 

・Facebook
「Facebookは、プロフィールに実名や顔写真、出身校といった個人情報の登録が必要なSNS。最近の調査では、60~70代がLINEの次に愛用していることがわかっており、以前からの仲間との交流を深めていると考えられます」

 

・TikTok
「TikTokは、短時間の動画を投稿できるSNS。10代の女子がダンス動画を投稿しているイメージを持つ人も多いかもしれませんが、最近ではメイクやDIYのHow To動画、一発ギャグやモノマネを披露する動画など、多様化しています。AIによるレコメンド機能の性能が良く、ユーザーの多くは『おすすめ』というタイムラインをチェックしています」

 

知らない間に個人情報が流出!? SNSに潜む危険性とは?

使い方の変化や多様化が見られ、楽しみ方もますます広がるSNS。その一方で、個人情報流出や、プライバシー侵害によるトラブルは、ニュースでもたびたび取り上げられています。

 

2021年4月、Facebookのユーザー5億3000万人以上の個人情報が、ハッカー向けウェブサイトで閲覧可能になっていたことを、アメリカのニュースサイトが報じました。Facebookによると、ユーザーのスマートフォンから連絡先をインポートする機能を悪用して、プロフィールから情報をスクレイピング(保護されていない公開データを収集すること)されていたと言います。データは数年前のものと見られますが、氏名、生年月日、電話番号を含む個人情報が流出してしまったため、ハッキングへの悪用などが懸念されています。この事件のポイントを鈴木さんに解説してもらいました。

 

「実は、スクレイピング自体は違法行為ではないんです。そのためこの事件のポイントは、自分が『無難な情報』としてSNSに公開したものが、ハッカーによってデータ活用される可能性があるということ。これはFacebookに限った話ではありません」

 

自分自身のプライバシーを守るためにできることは?

気付かないうちに自分のプライバシーが侵害されていた! そんなトラブルに巻き込まれないためには、どうすれば良いのでしょうか? 自分自身のプライバシーを守るためにできることを「SNSをはじめるとき」と「SNSを利用しているとき」のそれぞれで教えていただきました。

 

・SNSをはじめるときにできる対策

 

1. 登録時に表示される文章を読み飛ばさない

SNSを始めるときにはどうしても「早くアカウントを作りたい」という気持ちが先走ってしまいがち。しかし登録時こそ、「自身の情報をどこまで提供するのか」を慎重に考える必要があります。

「表示される文章を読み飛ばして登録を進めていると、『知り合いを見つけやすくします』などと言ってアドレス帳のデータと紐づけさせるなど、自分が持つ情報を不用意にサービス側に提供してしまう可能性もあります。しっかりと確認して、拒否したい場合には『スキップする』『あとで登録する』などを選ぶようにしましょう」

 

2. アカウントを非公開にする

最近、未成年がInstagramでアカウントを作成する際には、非公開が推奨されるようになったそう。鈴木さんも「非公開にするのはかなりおすすめの方法」だと言います。

「アカウントを非公開にすることで、ある程度自分でフォロワーを選ぶことができるので、個人情報流出の可能性は低くなります。ただ、知らない人とつながることはSNSの醍醐味の一つでもありますよね。『同じ趣味を持つ人とつながりたい』『情報収集したい』など、自分がどうSNSを楽しみたいのか考えて、『どの情報を出してどの情報を隠すのか』ということをあらかじめ決めておくことが大切です」

 

3. 複数のアカウントを使い分ける(Instagram、Twitter)

特にInstagramとTwitterでおすすめだという複数アカウントの使い分け。その際の注意点も教えてもらいました。

「プライバシーを守りたいけど、SNSならではのコミュニケーションも楽しみたいという人は、メインアカウントは非公開にして、趣味用アカウントはオープンにするなどして使い分けるのがおすすめ。その際に、趣味用アカウントではメインアカウントの人とつながらないようにするなど、境界をはっきりさせて楽しむのが良いでしょう」

 

・SNSを利用しているときにできる対策

 

1. 写真や動画は投稿前に入念にチェック

たった一枚の写真から自宅や勤務先が特定されてしまうことも。写真や動画を投稿する前に確認しておくべきポイントを教えてもらいました。

 

「写真や動画を投稿する際には、場所が特定されるものや関係のない人物が映りこんでいないか入念に確認を。写真の場合は、少しでも不安な点はモザイクをかけたり、スタンプで隠したりするようにしましょう。動画の場合は音声をオフにしておくと安心です。

また、店の写真などを投稿するときには、『店を出た後』に投稿するようにしましょう。ただ、自分が行った店の写真を頻繁にアップしていると行動範囲がばれてしまうこともあるので注意が必要。ばれたくない場合は非公開アカウントで投稿するなどして、親しい人だけに見せるようにしてください」

 

2. タグ付けやコメントに注意!

良かれと思ってタグ付けをつけたりコメントを残したりしたつもりが、他人のプライバシーを侵害する可能性も。自分だけでなく他人のプライバシーを守ることも大切です。

 

「タグ付け機能を使用する際には、相手の許可を取ることを忘れずに。タグ付けは誰と誰がいつどこにいたという証拠にもなる機能です。トラブルを回避するためにも、あらかじめタグ付けはしないと決めておくのもよいかもしれません。

意外と油断してしまうのが、誰かの投稿に対してコメントをするとき。例えば友人の子どもの写真に対するコメントに、勝手に子どもの名前を出してしまってはまずいですよね。『コメントも不特定多数の人に見られている』ということを忘れないようにしてください」

 

3. アップデートはこまめに

使い慣れた仕様が変わってしまうことに抵抗があるためか、「若い世代ほどアップデートを嫌がる人が多い」と鈴木さん。

 

「ただ新しい機能が追加されるときだけでなく、脆弱性が見つかったり、プライバシー保護が強化されたりするときにもアプリはアップデートされます。よく使用するSNSほど、アップデート情報をチェックし、こまめに更新したほうが良いかもしれませんね」

 

プライバシーが侵害されてしまったときの対処法

できる限りの対策をしていたのにも関わらず、プライバシーが侵害されてしまったらどうすればいいのでしょうか? 対処法についても教えてもらいました。

 

「自分のある投稿によって個人情報が特定されてしまったり、炎上トラブルになったりしたときには、『アカウント停止』をするのが良いと思います。アカウント停止とは、完全な削除状態ではなく、ユーザー以外からは削除されているように見える状態のこと。この機能を利用して、ひとまず『隠れること』をおすすめします。

そのほか、特定の人から何かしらの嫌がらせを受けた場合には、そのアカウントを通報するようにしましょう。運営側が通報されたアカウントをチェックして、場合によっては削除をしてくれます。

もしもインターネットを離れ、ストーカー被害などリアルでのトラブルに発展した場合には、すぐに警察へ相談するようにしてください」

 

たとえ非公開アカウントにしたり、あとから投稿を削除したりしても、自分の投稿した写真などを誰かが保存している可能性は十分にあります。『SNSに一度あげたものは消えない』という意識は、常に持っておくことが大切です。

 

設定を見直して、万全の対策を!

最後に、プライバシーを守るための具体的な設定方法について、特に利用者が多いLINE、Twitter、Instagramの3つのSNSで、それぞれ教えていただきました。

 

・LINE

知らないうちに「友だち追加」されないための設定方法

「LINEは、不特定多数の人から自分のアカウントを知られることはあまりありません。しかし、設定によっては関係のない業者や知らない人と勝手につながってしまうこともあるので注意が必要です」

「設定」→「友だち」を選択すると、上記の画面が表示されます。「友だち自動追加」「友だちへの追加を許可」をどちらもオフにしておくことで、アドレス帳と紐づけされたり、自分が勝手に友だち追加されたりするのを防ぐことができます。

 

・Twitter

不用意に自分の居場所を漏らしていないか、位置情報の設定をチェック!

「ツイートと一緒に現在地を投稿している人をときどき見かけますが、自宅などからツイートするときには注意が必要。あらかじめ位置情報をオフにしておくことをおすすめします」

「設定とプライバシー」→「プライバシーとセキュリティ」を選ぶと上のような画面が表示されます。「正確な位置情報」を「無効」にしておけば、自分の位置を知らせることなく投稿することが可能です。

 

・Instagram

プライバシー侵害につながる可能性のあるタグ付けやコメントの設定を見直し!

「最初は、タグ付けやコメントが誰でもできる設定になっています。フォロワーのみに許可したり、手動で承認したりと、細かい設定が可能なのでぜひ一度見直してみてください」

「設定」→「プライバシー設定」→「投稿」を選ぶと上のような画面が表示されます。自分のタグを勝手に付けられたくない場合には、「タグ付けを許可する人」から設定の変更を! また「タグ付けを手動で承認」をオンにすると、自分のタグが付けられた投稿をその都度確認することが可能です。

 

↑アカウントを「非公開」にしているときには「コメント許可の対象」は表示されません

 

続いては、自分の投稿に対するコメントを制限する方法です。「設定」→「プライバシー設定」→「コメント」を選ぶと上のような画面が表示されます。この設定では、自分の投稿に対して全ての人がコメントできる状態になっています。

「コメント許可の対象」をタップすると上のような画面に。ここから、自分のアカウントにコメントできる対象を制限することが可能です。自身の使い方にあわせて設定してみてください。

 

SNSを思いきり楽しむためにも、ぜひ一度自身のSNSの使い方を見直して、プライバシーが守れているかチェックしてみましょう。

 

【プロフィール】

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー/鈴木朋子

SNSなどスマートフォンを主軸にした身近なITに関する記事を執筆している。初心者がつまずきやすいポイントをやさしく解説することに定評があり、入門書の著作は20冊を越える。安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。

 

注目のフードテック“代替肉(だいたいにく)”とは? 基本と世界の最新事情を解説

人口増加による食糧危機やフードロス、深刻な栄養不足の問題など、世界には食にまつわる課題が多数存在しています。そうした課題を解決するために、今注目されているのが「フードテック」です。「フードテック」とは、フードとテクノロジーを掛け合わせた造語のこと。欧米を中心に広がりを見せていましたが、日本でも近年フードテックに取り組む企業が増えています。

 

今回は、フードテックの中でも私たちの暮らしに身近になりつつある「代替肉」にフォーカス。食や生活雑貨など、さまざまな視点からウェルビーイングな製品・サービスを手掛ける、株式会社TWOの代表取締役CEO・東義和さんに、「フードテック」と「代替肉」の最新事情を教えていただきました。

 

↑株式会社TWOの代表取締役CEO・東義和さん

 

市場規模700兆円へ! 今「フードテック」が注目される理由とは?

まずは「フードテック」とはどういったものを指すのか、東さんに解説していただきました。

 

「フードテックという言葉は、とても定義が広いんです。わかりやすいものだと、やはり『代替食』ですね。お肉はもちろんのこと、海外ではたまごや牛乳、チーズといった食品にも、植物由来の代替食品が生まれています。しかし、フードテックの領域は『代替食』だけではありません。栄養を壊さないミキサーや、お肉を3Dで成形する3Dプリンターなど、食に関する最新技術もフードテックと呼ばれています」(TWO代表取締役CEO・東義和さん、以下同)

 

2025年には、世界の市場規模が700兆円になるとも言われているフードテック。なぜそれほどまでに注目が集まっているのでしょうか。その背景には「SDG‘s」が大きく関係している、と東さんは言います。

 

「SDG‘sでも取り上げられているように、世界では、人口増加による食糧危機や食肉の生産過程におけるCo2排出量の問題、土地・水資源の枯渇など、食にまつわる様々な問題が深刻化しています。そうした課題を解決する手段として、フードテックに期待が寄せられているのです。

環境保護や健康への意識が高い欧米を中心に広がりを見せているフードテックですが、日本でも、最近『エシカル消費』という言葉が聞かれるように、環境に配慮した商品を選ぶ人が増えてきていると思います。そうした消費者の意識の変化もあり、今後フードテックはますます大きなムーブメントになると感じています」

 

フードテックの代表格「代替肉」の種類と世界と日本の今

さまざまなフードテックの取り組みがある中で、代表格ともいえるのが「代替肉」。大きく分けて「培養肉」と「プラントベースの代替肉」の2種に分けられます。この代替肉について、東さんに詳しく教えていただきました。

 

・培養肉

培養肉とは、名前の通り肉の細胞を一部抜き取って、その細胞からつくられた人工的な肉のこと。少ない資源から食肉を生成する技術として注目されています。ただ、生産におけるコストが高く、ひとつ数十万円以上するなど課題点が多いのも事実です。私たちの食卓に届くのはまだ先になりそうですが、アメリカやイスラエルを中心に、世界中で開発が盛んに行われている領域でもあります。テクノロジーの進化とともに、一気に市場が広がるのではないかと思います」

 

・プラントベースの代替肉

プラントベースの代替肉は、植物性のタンパク質からつくられた肉のこと。一番メジャーなのは、大豆ミートですね。今では、ひよこ豆やえんどう豆がベースとなった代替肉も数多く存在しています」

 

アメリカでは、「ビヨンド・ミート」や「インポッシブル・フーズ」といったスタートアップ企業が急成長を遂げており、スーパーマーケットで気軽に手に入れることができるほどプラントベースの代替肉が広く普及しています。

↑アメリカのスタートアップ「Beyond Meat」「Impossible Foods」。Googleやビル・ゲイツなどが将来性を見込み、出資を行っていることでも話題

 

日本は、欧米に比べるとまだまだ市場規模が小さいのですが、ここ数年で国内の大手企業やベンチャー企業がこぞって代替肉の開発を進めており、通販はもちろん、一部大手小売店でプラントベースの代替肉商品が購入できるようになってきました。さらに、昨年は日本で初めての「プラントベース代替肉専門の肉屋」がオープンし、話題を集めています。

↑東京・池袋にあるThe Vegetarian Butcher。代替肉はグラム2円から購入することが可能

 

「昨年、オランダのプラントベース代替肉のスタートアップベンチャーである『The Vegetarian Butcher』が日本に上陸しました。レストランとして代替肉を使ったメニューが楽しめるだけでなく、プラントベース代替肉専門の肉屋が店内に併設されているのが特徴です。普通のお肉屋さんのような感覚で代替肉を買うことができるのは、日本初の取り組み。今後市場が広がれば、日本でもより気軽に代替肉を手に入れることができるようになると期待しています」

 

環境への配慮だけじゃない!「代替肉」のメリット

日々進化を遂げている「代替肉」の世界。一体なぜこれほどまでに需要が拡大し、新たな市場が生まれているのでしょうか。その理由は主に3つあると、東さんは指摘します。

 

「まずは、やはり環境への負荷が少ないという点が挙げられると思います。例えば、牛や豚を育てるためには大量の餌や土地、水などの資源が必要ですよね。さらに、牛の出すゲップや糞尿はメタンガスを多く含んでおり、地球温暖化にもつながると言われています。一方代替肉は、当然そうした生産における資源を削減することができるので、エシカルな視点で見ると大きなメリットがあるのです」

 

 

「そして、プラントベースの代替肉については健康面でのメリットが挙げられます。近年は、先進国を中心に肉の消費量が増えており、深刻な野菜不足が問題となっています。プラントベースの代替肉は、低カロリーで低コレステロール、高タンパク。タンパク質がしっかり取れるだけでなく、とてもヘルシーです。健康志向が高まっている今、より注目を集めているのだと感じています。

 

さらに、動物愛護の視点でも関心が高まっています。さまざまな議論がありますが、不必要な屠殺を減らすことができるのも、代替肉のメリットではないでしょうか」

 

残された課題と、アップデートし続ける「代替肉」

一方で、代替肉にはまだまだ課題も残されていると、東さんは言います。

 

「消費者の目線から言うと、やはり動物性のお肉に比べて価格が高いというのはネックになると思います。多くの企業で、そこはかなり意識しているところですね。よりリーズナブルにしていく必要があると思いますが、日本では市場が成長段階のため難しいのも事実です。しかし、今後需要が増えることを予測すると、価格も反比例して下がっていくはず。これからに期待ですね」

 

 

「そして、動物性のものに比べて味が物足りないと感じる人も多いようです。その問題に対しては、各社が“どう肉っぽさを再現するか”を追求している最中でもあります。肉の細胞から生まれた培養肉とは違い、プラントベースの代替肉は言ってしまえば肉とは全くの別物です。そのため『嚙んだときのスジの食感』や、『脂のうまみ』など、肉っぽさを再現することは難しいのですが、今も多くの企業が技術を駆使して美味しさに挑み続けています」

 

代替肉市場を牽引するアメリカのスタートアップ、「インポッシブル・フーズ」も、代替肉の美味しさを追求し続ける企業のひとつ。

 

「インポッシブル・フーズがユニークなのは、スマートフォンやパソコンがバージョンアップを繰り返すのと同じように、代替肉もアップデートを重ねているということ。味や食感などを改良するごとにVer.1、Ver.2とアップデートし、より動物性の肉に近い代替肉の開発を進めています。このように、味に対する戦いはこれからも続いていくと思います。テクノロジーの力でこれから代替肉がどう進化するのかは、私も楽しみにしています」

 

フードテックの筆頭「代替肉」について、基本的な構造や効果、最新事情などを解説していただきましたが、次のページでは具体的に、私たちが代替肉を日常的に取り入れられる商品について、紹介していただきました。

 

渋谷で出会う、フードテックとサステナブルな食の世界

フードテックや代替肉について知ることができても、「実際に食べてみないと実感がわかない!」と感じている人も多いのでは? 今回は、最先端のフードテックやプラントベースの食事を楽しめる渋谷の新スポットをご紹介します。

 

■ヘルシーで美味しい、プラントベースドフードカフェ「2foods」

 

今年4月、渋谷ロフトの2階にオープンしたプラントベースドフードが楽しめるカフェ「2foods」。メニューは全て、植物由来の食材を使っています。植物由来と聞くと、高いのではないかと思う人もいるかもしれませんが、すべてのメニューが1000円以下ととってもリーズナブル。思わず写真を撮りたくなるようなおしゃれな見た目も特徴です。

 

2foodsのコンセプトは、“ヘルシージャンクフード”。ブランドを立ち上げた東さんに、その想いを伺いました。

 

「2foodsは、ヘルシーでサステイナブルな食事が楽しめる場所です。ですが、それを全面に出すのは違うと感じていました。健康にいいから食べなさいとか、環境にいいからこの食材を選びなさいとか……。強制的にメッセージを受けて食べるのは、辛いし、テンションも上がらないと思うんです。
ブランドを立ち上げる上で大切にしてきたのは、2foodsのロゴにもある「Yummy(But so Healthy)」という考え方。つまり、美味しく食べた結果がヘルシーでエシカルだった、という体験をどうつくっていけるかを常に考えていました。
ジャンクフードのようにリーズナブルで、美味しくて、見た目もおしゃれなプラントベースドフードを提供する。そうすることで、プラントベースドフードがみなさんの日常的な選択肢のひとつになるのではないかと思い、 “ヘルシージャンクフード” というコンセプトをつけました」

 

■最新のフードテックに触れる、「FOOD TECH PARK」

 

カフェの隣には「FOOD TECH PARK」が併設。日本初登場のグローバルフードテックブランドや話題のスタートアップなど、最新のフードテック技術に出会うことができます。

 

「フードテックが世界中で盛り上がっているとお話をしましたが、メディアでしか知る機会がないのでは、と感じていました。FOOD TECH PARKは、実際に商品を見て、触れて、知ることができる場所です。現在はコロナウイルスの影響で行っていないのですが、展示されている商品の試食もできるように準備を進めています。この場を通して、エシカルでサステイナブルな商品を知るきっかけになればと思っています」

 

写真は、FOOD TECH PARKの展示ブース。各商品に置かれたタブレットで商品に込められた思いや、魅力を知ることができる。興味があれば、一部の商品は実際に購入することも可能です。

 

ヘルシー、そして美味しい!
2foodsオススメのプラントベースフード 5選

今回は特別に、2foodsのメニューの中から、代替肉を使ったメニューを中心に、オススメの商品を教えてもらいました。店内での飲食はもちろん、多くの商品がテイクアウトに対応しています。ぜひ足を運んでみてくださいね。

 

・オリジナルソースの香りが食欲をそそる、彩り鮮やかなまぜそば


「スパイシーまぜそば」テイクアウト 950円 / イートイン 968円(税込)

5種類の鮮やかな野菜と、ひき肉状の大豆ミートが添えられた、「スパイシーまぜそば」。6種のスパイスをブレンドした2foodsの特製ラー油で、ほどよい辛さが楽しめます。中華系のメニューは一般的にオイスターソースで味付けするそうですが、こちらのメニューで使われているのはオリジナルのきのこソース。食材だけでなく、調味料の部分まで徹底的にこだわり抜いた一品です。

メインとなる麺は、グルテンフリーの玄米麺。独自の技術で超微粒子に玄米を粉砕することで、モチモチとした食感を再現しています。

 

・1日の1/2の野菜が摂れる“バターチキン”カレー


「まるでバターチキンカレー」テイクアウト 950円 / イートイン 968円(税込)

植物由来の豆乳バターに、栄養満点のトマトをふんだんに使用した「まるでバターチキンカレー」。野菜の旨味が凝縮され、一皿で1日の1/2の野菜が摂取できます。代替肉は、鳥のささみのような食感が楽しめる大豆ミートを採用。ジューシーな食べ応えが魅力です。

ライスは、玄米にカリフラワーライスを合わせたオリジナル仕様に。玄米は食物繊維豊富なだけでなく、血糖値上昇を抑える働きがありますが、逆に慣れていない人が食べると胃がもたれてしまうことがあるのだそう。カリフラワーを合わせることで、消化にもよく、よりヘルシーな一皿にしあがっています。

 

・もちもちのドーナツとジューシーな大豆ミートが魅力の“チキンタツタ”サンド


「ソイチキンタツタドーナツサンド」テイクアウト 626円 / イートイン 638円(税込)

もちもち食感にこだわったドーナツにチキンタツタ風の大豆ミートを挟んだ「ソイチキンタツタドーナツサンド」。ドーナツ生地は、超低温で発酵させることで、たまごと乳を一切使用していないにも関わらず、もちもちふわふわの食感を再現しています。

チキンタツタ風の大豆ミートの衣は、ビタミンB1とB6が豊富なひよこ豆を使用。実際にチキンタツタをつくるのと同じように一晩味を漬けこんでから揚げることで、噛み応えもよく、旨味溢れるタツタにしあがっています。たまごを使用しないオリジナルのタルタルソースも相まって、満足感抜群の一品です。

 

・たまご嫌いも認めた“たまご”サンド


「まるでたまごなドーナツサンド」テイクアウト 518円 / イートイン 528円(税込)

ふわもち食感にこだわった2foodsオリジナルのプラントベースたまごサンド。たまごサンドという名前でありながらたまごは使われていません。

たまごの代わりには、かぼちゃと豆腐を使用。それに加えて、口に入れた瞬間のかぐわしい香りを追求し特殊なスパイスを使用して、たまごそのものの味わいを再現しています。かぼちゃのβカロテンや大豆由来のタンパク質が多く含まれており、体に優しいのも嬉しいところ。たまご嫌いも認めた究極のプラントベースたまごサンドです。

 

・オンラインショップでも! 3通りの食べ方が楽しめるガトーショコラ


「生食感の濃厚ガトーショコラ」テイクアウト 518円 / イートイン 528円(税込)

特殊製法の超微粒玄米粉を使用した、濃厚でなめらかなくちどけが魅力の「生食感の濃厚ガトーショコラ」。たまごや乳の代わりに、アーモンドミルクやオーガニックシュガーといったヘルシー素材を使用した一品です。

玄米粉を使う事で、3通りの食感が楽しめるこの商品。冷蔵庫で冷やせば生チョコ、常温ならテリーヌショコラ、温めるとフォンダンショコラと、お好みに合わせてぜひ味わってみてください。こちらの商品は、オンラインショップでも購入可能です。

 

100%じゃなくていい。フレキシブルなスタイルから始める食のサステナブル

「最近では、『フレキシタリアン』という言葉も聞かれるようになりました。フレキシタリアンとは、“ときどきベジタリアン”な人々のこと。世の中の情勢を見てSDG‘sを意識している人もいれば、『昨日焼肉を沢山食べたから、今日はヘルシーなご飯にしよう!』と、健康を気にして無意識のうちにフレキシタリアンなスタイルを取っている人もいます。

 

私は、食に対するエシカルなアプローチが必ずしも100%である必要はないと思っています。健康で環境にもいい食品を我慢して取り入れても、本当の健康とは言えません。段階があっていいと思いますし、ハーフアンドハーフな考え方でもいい。みなさんが体だけでなく、心も豊かになるようなエシカルで美味しい食に出会えることを祈っています」

 

【プロフィール】

株式会社TWO代表取締役CEO / 東 義和

2005年にPRを軸に企業のブランディングを行う「マテリアル」を設立。2018年にはCannes LionsのGlobal PR agencyランキングにおいて、アジア勢首位を獲得した。2015年、グローバルで通用する普遍的なウェルビーイング事業を創るため、TWOを設立。2019年からは、マテリアルを離れTWOに専心している。

 

Spot Data

2foods 渋谷ロフト店・FOOD TECH PARK

所在地=東京都渋⾕区宇⽥川町21-1 2階
電話番号=03-6416-4025
営業時間=11:00~20:00 ※コロナ禍では営業時間が変動する可能性があります。
定休日=無休 ※渋谷ロフトの営業時間に準じます。
アクセス=東京メトロ銀座線・副都⼼線・半蔵⾨線・東急⽥園都市線『渋⾕駅』(A3番出⼝)から徒歩3分/JR線『渋⾕駅』ハチ公⼝から徒歩5分

HP https://2foods.jp/pages/store03
オンラインショップ https://2foods.jp/pages/online

 

“移動革命”「MaaS(マース)」とは? モビリティジャーナリストが解説する日本と世界の現状と課題

鉄道、バス、タクシー、飛行機……。私たちの生活は、さまざまな移動手段によって支えられています。2010年頃からは「カーシェア」や「自転車シェア(シェアサイクル)」といった新しいサービスも登場し、さらに移動が便利になりました。

 

そんな中、新たな移動の概念として昨今注目を集めているのが「MaaS(マース)」という考え方です。聞いたことがあるけれど、結局どういうものなのかわからないという人も多いのではないでしょうか。今回は、モビリティジャーナリストの楠田悦子さんに、そもそもMaaSとは何か、日本と海外の事例を交えながら解説していただきました。

 

「MaaS」って一体なに?

「MaaS」とは、Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス) の頭文字をとった略語のこと。「サービスとしての移動」と訳されることが多く、自動車業界を中心に話題を呼んでいるキーワードです。では実際に「MaaS」とはどういったものなのか、楠田さんに解説していただきました。

 

MaaSとは、デジタル技術でいろいろな移動サービスを組み合わせ、一人ひとりのニーズに合った移動サービスを提案しようとする概念のことを言います。

移動をする際、これまではさまざまな交通手段を個別に検索し、予約や決済をしていたと思います。しかし、デジタル技術の発展とともに、バラバラだった移動サービスを一括で検索・予約・決済できるようになったり、サブスクリプションのような料金設定が実現したりと、今まで以上に個人に寄り添うサービスが誕生しているのです」(モビリティジャーナリスト・楠田悦子さん、以下同)

 

SDGsにも密接に関係している!? MaaSが目指すものとは

ところが、このMaaSという概念はとても抽象的で、国や地域によっても定義が異なっているのだそう。共通しているのは、「自分で車を運転できなくても、文化的で持続可能な暮らしと社会を実現することがMaaSの目指すもの」だと楠田さんは話します。

 

「そもそもMaaSは、環境問題への意識が高いヨーロッパ発祥の概念です。車利用の増加による都市部の渋滞や環境汚染などが深刻化する中で、車を所有するライフスタイルから、鉄道や自転車といった環境に優しい移動サービスを利用するライフスタイルに転換していこう、という考え方に基づいています。

日本でも、高齢化の加速により高齢者ドライバーが増え、事故や免許返納などにより移動手段を失ってしまった高齢者が多く見受けられます。

MaaSは、そういった渋滞や環境汚染、高齢化社会による移動困難者の増加など、さまざまな社会課題を解決する手段として期待されているのです。そう考えると、持続可能な暮らしを目指すSDGsとも密接に関わっている、とも言えるのではないでしょうか」

 

柔軟な料金設定が魅力! 海外のMaaSアプリ

実際に、海外で普及が進むMaaSの事例を見ていきましょう。

 

・「MaaS」の代表格、フィンランド生まれのMaaSアプリ「Whim」

「MaaS」が提唱されたのは、北欧の国フィンランド。その中心人物とされているのが、MaaSの生みの親とも呼ばれているMaaS Global社のCEO、サンポ・ヒエタネン氏です。同社は2017年に、世界初の本格的なMaaSプラットフォームである「Whim(ウィム)」というアプリの提供を開始。今ではフィンランドだけでなく、複数の国と都市で利用されています。

 

「『Whim』は、MaaSを語る上では欠かせないアプリのひとつ。日本では、トヨタグループが同社に出資をしたことにより一躍有名になりました。鉄道、バス、トラム、自転車シェアやカーシェアなどのさまざまな移動手段が一括で検索できるのはもちろん、定額制の乗り放題プランを用意していることが特徴です。

4つの料金プランがありますが、象徴的なのは月額499ユーロ『Whim Unlimited』というプランです。月6万円ほどで、指定エリア内の公共交通、自転車シェアやカーシェアが回数無制限、タクシーは最大5kmまでの距離を80回無料で利用できます。移動が便利になるだけでなく、環境に優しい暮らしを目指したサービスとして支持されています」

 

2020年には、不動産大手の三井不動産と連携して、日本でも実証実験が開始されました。この実験は、マンションの住民向けに、バスやタクシーといった交通機関の定額サービスを提供するというもの。通勤や通学など、住まいとモビリティは切っても切れない存在です。MaaSは、不動産、ひいては街づくりの観点からも注目を浴びていることがわかります。

 

・自分の通勤通学に最適な乗り放題プランを! 高雄市の「Men go」

ヨーロッパを中心に広がりを見せているMaaSですが、アジア圏でも続々とサービスが導入されています。中でも、台湾南部の高雄市のMaaSアプリ「Men go(メンゴー)」は、少しユニークな料金設定なのだそう。

 

「『Men go』には、高雄メトロ・高雄ライトレール・バス・公共レンタサイクル・タクシーが乗り放題のプラン、バスの乗り放題プラン、長距離バスの乗り放題プラン、フェリーの乗り放題プランの4つの料金プランが用意されています。

実は、日本のように定期券があって会社が通勤手当を出してくれる国って、すごく少ないんです。その為、自分が通勤・通学時に利用する主な交通手段のプランを選ぶことができるのが、人気の理由かもしれません。利用に逆に言えば、定期券は“日本的なMaaS”と言っても過言ではないかもしれませんね」

 

「日本のMaaSは遅れている」は間違い!

海外の事例を見ていると、「日本のMaaSは遅れているのではないか?」と感じる人もいるかもしれません。しかし、これは間違いだと楠田さんは話します。

↑スウェーデンの研究者が提唱したMaaSレベルの表(編集部作成) 出典:Jana Sochor(2017)

 

「MaaSには、スウェーデンの研究者が提唱したレベル定義があります。この基準に照らし合わせてみると、確かに日本のMaaSは遅れているという印象をうけるかもしれません。しかし、このMaaSレベルはあくまでも欧州の基準。日本とは移動に関するサービスや環境も異なりますので、必ずしも日本が遅れているということではありません。

例えば、私たちが日常的に使っている『Suica』や『PASMO』といった交通系ICカードも、日本的なMaaSです。移動だけでなく、お店での買い物ができますし、クレジットカード機能が付いたり、モバイルに対応したりと、いろいろなサービスとつながっています。海外からも評価が高く、日本独自に進化したサービスの形とも言えるでしょう。

つまり、日本は日本の実情に合わせてサービス水準を高めていくことが大切だと感じています」

 

実はこれもMaaS!? 日本の優秀なMaaSアプリ

特別なサービスのように感じるMaaSですが、実は以前から私たちが使っている経路検索サービスも、MaaSの一部。私たちは、気づかないうちに少しずつMaaSに触れていたのだと、楠田さんは話します。

 

「MaaSという言葉が生まれる前から、経路検索サービスでバスや電車など、移動手段の情報をまとめてみることができていました。MaaSとは、デジタルの力で移動が便利になっていくこと。つまり、経路検索サービスも立派な日本のMaaSであると言っても過言ではありません」

 

そんな日本の優秀なアプリを、楠田さんに紹介していただきました。

 

・検索結果からタクシーの配車も可能な「NAVITIME」

「NAVITIME」
無料(一部有料)
Android  https://products.navitime.co.jp/service/navitime/android_sp.html
iOS https://products.navitime.co.jp/service/navitime/ios_sp.html

ナビタイムジャパンが提供する『NAVITIME』。経路検索サービスだけでなく、音声案内や時刻表の確認、現在地周辺のスポット情報など、私たちの移動を助ける機能が満載のアプリです。

「『トータルナビ』機能では、電車・バス・飛行機・フェリー・車・歩きだけでなく、シェアサイクルといった新しい移動手段を組み合わせたルート検索が可能です。さらに、検索結果から飛行機の予約やタクシー配車も可能となっています。MaaSにつながる、画期的な経路検索アプリです」

 

・日常も旅行も快適に。小田急線沿線の暮らしを支える「EMot」

「EMot」
無料(一部有料)
Android  https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.odakyu.emot&hl=ja
iOS  https://apps.apple.com/jp/app/emot/id1472652885

「小田急電鉄の『EMot』は、日本の代表的なMaaSアプリのひとつです。鉄道・バスに加え、タクシーやシェアサイクルを組み合わせたルート検索が可能なだけでなく、旅行で使えるお得なフリーパスやテーマパークのチケットを購入できるなど、さまざまなサービスが展開されています」

 

最近では、月額7800円で対象店舗のそば・おむすび・パンといった食事を1日何度も楽しめる「EMotパスポート」というサブスクリプションサービスも登場しました。40を超える対象店舗の中には、飲食店だけでなくフラワーショップも含まれており、お得に買い物が楽しめます。

 

小田急線沿線を中心としたアプリではありますが、日常の移動だけでなく旅行や買い物など、より便利で快適な暮らしが実現できそうです。

 

高齢者も障がい者も“誰もが移動を諦めない社会”を目指す「Universal MaaS」

MaaSの新たなキーワードとして、2019年頃から「Universal MaaS」という言葉も生まれています。Universal MaaSとは、高齢者や障がい者、訪日外国人など、外出を躊躇して思うように移動ができない人に向けて、安心して移動ができるようなサービスを提供していこう、という動きです。

 

「例えば、車いす利用者は現在、移動をする際に事前に交通事業者に連絡を取って、介助を依頼しているのが現実です。これが移動を躊躇する要因の1つとなっています。

Universal MaaSは、アプリを活用することで利用者がバリアフリーな乗り継ぎルート情報を得ることができたり、事業者側もリアルタイムに利用者の動きや介助内容を把握できたりと、移動困難者の快適な移動を目指したサービスを展開していこうというもの。

現在は、全日本空輸株式会社(ANA)が旗振り役となり、京浜急行電鉄や横浜国立大学、横須賀市が連携して実証実験が行われています。移動困難者が躊躇することなく、快適に移動できるようになる社会に向けて、挑戦は続いています」

 

MaaSが描く、日本の未来像

『車がなくても、誰もが文化的で持続可能な暮らしができるようになること』。これこそが、MaaSの描く未来像です。

しかし、そもそも公共交通が充実しておらずサービスを組み合わせて考えることができない地域があったり、道路整備や人材不足によりサービスを開始できなかったりと、MaaSを実現するための課題はまだまだ山積みです。海外の基準に囚われるのではなく、日本は日本の現状を見据えて、日本流のサービスを模索していく必要があるのではないかと思います」

 

【プロフィール】

モビリティジャーナリスト / 楠田悦子

兵庫県生まれ。心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化や、環境問題といった社会課題の解決を目指し、モビリティジャーナリストとして活動を行っている。モビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て2013年に独立。国内外の取材やプロジェクトのコーディネート、国土交通省のMaaS関連データ検討会、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を務めるなど、活動は多岐に渡る。

 


『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

 

ベルリンの壁と関係!? 旧東ベルリンの人気地区が「シリコンアレー」となったワケ

ベルリンの壁の崩壊以降、空洞化していたベルリン経済にミラクルを引き起こしたのが、実はスタートアップ企業たちでした。2017年のベルリンGDPは1366億ユーロと崩壊後の約3倍を記録し、ベルリンは「貧しい首都」のイメージを変えつつあります。そのスタートアップ企業の立地ですが、一体ベルリンのどこに位置しているのでしょうか? 本稿では「シリコンアレー」「ベルリンバレー」と呼ばれる、ベルリンのスタートアップ密集地を紹介し、ベルリンの壁との関係について考察してみます。

 

ベルリンの東側に集中するスタートアップ

ドイツ経済になくてはならない存在となったスタートアップ企業。約1800のスタートアップがベルリンで活動しているといわれます。ジョブプラットフォームを提供する「Honeypot」では、そのなかで成功している約10%を抽出して企業のロケーションを調査。その結果を見ると、多くはベルリンの東側に集中しています。

 

特に多いのが旧東ベルリンのプレンツラウアーベルク地区で、「Zalando」や「Wooga」など成功したスタートアップ企業もこの地域にあります。そのなかで最も集中しているのが、地下鉄駅「ローザ・ルクセンブルク・プラッツ(Rosa-Luxemburg-Platz)」の近くにある「トール通り(Tor Straße) 」沿い。ベルリンのシリコンバレー、通称「シリコンアレー」と呼ばれているのがこの通りです。

エコノミストのクリストファー・モラー氏は、トール通りが「シリコンアレー」になった理由として、クールなカフェやバー、映画館などが多く、ファウンダー(会社の創始者)がクリエィティブで都会的な雰囲気を好むためだと言います。また、周辺にファウンダーの居住地が多いことも理由に挙げています。

↑トール通りの位置。南に1.4キロ(or電車で6分)行くとベルリンの中心街になる。

 

ベルリン・コワーキングスペースの先駆けの1つとしてすっかり有名になった「ザンクト・オーバーホルツ(St.Oberholz)」もトール通り沿いに位置しています。

また、ベルリンの東側にあるものの、旧西ベルリンに属していたクロイツベルク地区にもスタートアップ企業が集まっています。この地域とプレンツラウアーベルク地区はかつて壁があった場所に近く、多くのカフェやレストラン、クラブがあるベルリン市民に人気のエリアです。

↑クロイツベルク地区の位置。北に約3.2キロ(or電車で約20分)行くとベルリンの中心街になる。

ベルリンの壁と関係があった? ベルリンの歴史的魅力

さて、そもそもなぜベルリンがスタートアップの聖地となったのでしょうか? まず、他国の大都市と比べて、当時はベルリンの家賃や生活費が安かったこと、カフェやレストラン、クラブ、映画館やコンサートホールなどの文化施設、そして魅力的なイベントが多いこと、英語が話せる人が多く、ドイツ語が必要ないことなどの理由が挙げられます。

 

しかし、ここでは、ベルリンの壁が与えた影響について考えてみたいと思います。ベルリンが辿ってきた特殊な歴史が起因する一種独特の自由な雰囲気は、スタートアップのロケーションにも影響を与えていると言えるでしょう。

壁の建設で、西ベルリンは四方を壁で取り囲まれた街――「東ドイツに浮かぶ孤島」――となりました。西ドイツの他都市に行くためには東ドイツを経由する必要があり、当時西ベルリンにあった企業は、地の利が悪いことから西ドイツの他の都市に移転。ベルリン経済は深刻な影響を受けました。

 

そこで政府は、西ベルリンを魅力的な都市にするために様々な特典を与えました。そのなかでも特に若者に魅力的だったのが、兵役の免除とカフェやクラブなどの閉店時間がないこと。壁で囲まれ孤立した西ベルリンは自由かつ一種変わった空間を提供していたようで、アナーキストや左翼のほか、海外からもデビッド・ボウイを始めとする多くのミュージシャンやアーティストたちが集まり、ナイトライフが盛んになっていました。

壁が崩壊すると、西ベルリンのバーやクラブはこぞって家賃の安い東ベルリンに移動。かつて壁があったエリアはしばらくアナーキーな無法地帯になりましたが、そこにある自由で前衛的な雰囲気からベルリン特有のテクノ文化やクラブが生まれました。

 

現在ファウンダーに人気のある場所はまさに、旧東ベルリンや元壁があった近くのカフェやクラブがあるエリア。いまはなき西ベルリンの文化や壁が崩壊した後のアナーキーな時代の名残を残す場所なのです。既存の企業に迎合せず、自分を信じ新しい生き方を作るスタートアップのファウンダーたちは、アナーキーな時代に「存在していた何か」に魅力を感じているのかもしれません。

「最先端センシングテクノロジーと『アナログ表示』が融合」TRUMEの魅力を解き明かす––インプレッション編

国産マニュファクチュールとしてセイコーエプソンが培った技術の粋を結集したTRUMEという腕時計があります。このブランドに込められた先進機能やこだわりの外装。その魅力の所存を、最新作となる「M Collection」から解き明かしていきます。今回は、機能のおさらい編とコレクション一覧です。

 

 

多彩な情報を針のみで行う革新の表示

TRUMEはGPSや気圧・高度センサー、方位センサーなど多くの最先端センシングテクノロジーを持っています。一方で、そのすべてを針のみのアナログ表示で行うという、こだわりのコンセプトに基づいて作られているのです。こうした革新の個性を改めて見ていきましょう。

 

 

洋上での頼りに! 方位や気圧を針のみで示す

 

 

 

TRUMEは、8つの針で情報をアナログ表示します。6時に配されるインジケーターでBAR(気圧)、COM(方位)など計測項目を示し、方位であれば中央の赤針が北の方角を指すという具合。針の動きも“アナログ感”があるのが特徴で、コンパスのようにゆらゆら揺れながら方位を示します。

 

もちろんGPS受信で時刻もワールドタイムもアナログで表示する

 

 

 

TRUMEはエプソンが自社開発した「サテライトリンク」システムを搭載。国産衛星「みちびき」に対応したGPSモジュールを内蔵し、屋外でデュアルリングアンテナが現地タイムゾーンの時刻を確実に受信します。

 

 

スタイルによって楽しめるTRUMEコレクション

M Collection

 

 

 

TRUMEが持つセンシング技術が役立つシーンを連想させる「ヨット」にインスピレーションの源を得たコレクション。独自の最先端機能はそのままに、より“時計らしさ”を意識したデザインに仕上げられています。サイズ : 縦57.2×横15.5mm

 

C Collection

 

 

 

現行で最も端正なフェイスを持つモダンなコレクションは、方位計を除き、より機能を厳選。インナーベゼルに世界の都市名が記されており、世界の街で活躍する人にふさわしい雰囲気となっています。サイズ:縦57.2×横45.9mm

 

L Collection

 

 

 

2017年7月発表の1stコレクションで、TRUMEのすべての機能を包括。エクスパンデッドセンサーの併用で歩数や消費カロリーまで計測可能。立体的かつ流麗なラインを描くアーマーオーナメントは象徴的なアイコンです。サイズ:縦60.2×横48.6mm

 

歩数や消費カロリーまで計測できる「エクスパンデッドセンサー」

 

 

 

時計本体とBluetooth接続により、さらに多くの情報を取得するセンサー。歩数や消費カロリー、気温にUVインデックスなど日々の活動まで計測可能になります(L Collectionのみ対応)

 

TRUME https://www.epson.jp/products/trume/

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あなたの運命はデータ次第!? 世界で実用化が進むAIを使った自殺予防と予防医学

アメリカでは、大統領選挙におけるFacebookでのフェイクニュース拡散の影響について、いまだによく語られています。炎上を扇動するような内容のコメントやツイート、動画がロシアから大量に投稿されていたことが判明し、それを目にしたFacebookユーザーは1億2600万人いたというニュースが連日話題に。

 

もはやただのSNSの規模を越えて社会的な責任を大きく問われるようになったFacebookですが、フェイクニュース防止への取り組みに加えて、他にも色々なプラットフォーム改善を図って社会に貢献していることをアピールしています。その1つが「コメントをAIで分析してユーザーの自殺願望を事前に検知・通知する」という取り組み。小規模でのテストは以前から行っていたようですが、この機能を大規模に拡大することが11月末に発表されました。

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どうやったらFacebookのコメントから自殺願望が分かるのかと疑問に思ってしまいますが、分析するのは本人の投稿だけではなく、そこについた友人たちからのコメントも分析されるようです。「大丈夫?」「何か助けになれる?」といった心配のコメントを検知するわけですね。危険性をAIが検知するとFacebookの自殺予防の専門家チームに通知が行くようになっています。人間の専門家が「これは助けを差し伸べる必要がある」と判断すれば、ユーザーのもとに「『あなたには今、特にサポートが必要なのではないか』と思った人から私たちのもとに連絡が来ました。私たちはあなたを助けたいと思っています」とメッセージが届き、サポートが開始されるようです。

 

もちろん、自殺をめぐる背景は非常に複雑なもの。Facebookによるアルゴリズムも常に改良が加えられていて複雑なものになっており、対象が人の命とプライバシーに大きく関わることから詳細は公開されていません。

 

AIが病気を検知。命を救うことも

もちろん、すべての自殺をこれで検知できるわけではないでしょう。そもそもSNSがうつ病を促進しているのではないかという指摘もあります。しかし、AIを使ったこういった取り組みは医療分野でどんどんと実用化されています。

 

Googleは検索サービスを自殺予防に役立てようとしています。自殺に関連した特定の言葉を検索すると自殺防止ホットラインの番号が表示されるようになりました。Microsoftは同社の検索サービスBingを使って、「検索ワードのログから膵臓ガンにかかっているかどうかを高確率で当てられる」という研究を発表しています。さらにこれをMicrosoftによる音声アシスタント「Cortana」と組み合わせることで広範囲のユーザーの病気予防へと貢献できる、という展望を論文で語っているのです。

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マシーンラーニングやビッグデータに関するテクノロジーとコンピューターの処理速度が向上している今日では、検索ログやSNS上の言動といったデータからユーザー自身のことが驚くほど多く分かるようになってきているのです。

 

フィットネストラッカー「Fitbit」に記録されていた心拍数データが緊急救命の大事な手がかりとなって人命を救うという事態も起きています。自分自身に関するデータをどう活用しているかが命を救う時代なのですね。

 

ちょっと探せば、この分野では驚くほどたくさんのプロジェクトが進行されていることが分かります。日本でも日立と慶應大学がパートナーシップを結んでAIを使った病気の検知を研究しています。障がい者雇用・就労移行支援を行っている団体LITALICOはビッグデータ解析事業UBICの人工知能エンジンKIBITを活用して精神障がい者の自殺予防対策に取り組んでいます。

 

スマート聴診器「Eko」は心音と専門家による診断のデータベースをもとに、マシーンラーニングによる高精度な診断に取り組んでいます。このデバイスを使えば誰でも世界一の診断が受けられるようになるかもしれません。

 

データを隠すのは良くない!

そうするとFacebookやMicrosoft、GoogleやApple、Amazonといった大手プラットフォームやプラットフォームがデータを活用した医療分野に取り組む意義がよく見えてきますね。GoogleホームやAmazonエコーといった音声アシスタントが日本にも進出してきましたが、日常のデバイス操作やデータ管理を1つのプラットフォームで行うということには大きなメリットがあります。

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ウェアラブル・デバイスを通じて睡眠データや運動のデータも集められ、食べ物、薬などの購入データもあり、インターネットで何を検索しているかもデータとして蓄積される。ビッグデータのお陰で自分が「病院に行かないと」と考える前にデジタル・アシスタントが「○○の可能性があるので専門家に見てもらってください」と促してくれるという世界もすぐに実現されるかもしれません。

 

もちろん、こういったデータ利用はプライバシーの問題と大きくつながり得ます。前述のFacebookによる自殺予防テクノロジーに関しても、専門家からは「詳細を公開して透明にしてほしい」という声があがっています。AIの研究をリードする米国の大手テクノロジー企業がデータや知識をどれくらい公開するのか。注目が集まっています。

米国で経済的に最も進んでいる州はどこ? シリコンバレーがあるカリフォルニアは意外にも1位ではなかった

Google、Facebook、Amazonとアメリカの大手テック企業が経済ニュースに登場しない日はないですよね。日本からもスマートニュースやメルカリといったスタートアップ企業がアメリカに進出していますし、アメリカのテック企業で働く日本人エンジニアを見かけることはニューヨークでも珍しくなくなってきました。これは西海岸でも同じようです。

 

日本で働いている人も実はアメリカ進出に興味がある方は多いはず。「あの同僚もLinkedInに英語のプロフィールを作ってる!」と驚いて触発された方もいるでしょう。

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じゃあ「アメリカのどこ?」と聞かれると、カリフォルニア州シリコンバレー以外になかなか評判が聞こえてこないのも事実です。でもアメリカのテクノロジー経済は東西南北に広がっているってご存知でしたか? それを如実に示している「ニュー・エコノミー指標 2017」を今日は紹介したいと思います。

 

世界有数の非営利シンクタンク・ITIF(インフォメーション・テクノロジー・アンド・イノベーティブ・ファンデーション)が約20年間にわたって調査している「ニュー・エコノミー指標」は、ITイノベーションによる経済成長がどの州で起きているのかをランキング形式で発表しています。

 

エリートな州が競うトップ5

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1位:マサチューセッツ(スコア96.6/100)

 

2位:カリフォルニア(84.7)

 

3位:ワシントン州(84.5)

 

4位:ヴァージニア(81.7)

 

5位:デラウェア(80.4)

 

ワースト5は、下から順番にミシシッピ(37.9)、アーカンソー(42.8)、ウェスト・ヴァージニア(44.1)、ワイオミング(47.1)、ルイジアナ(47.6)となっています。

 

西海岸と東海岸に偏っているかと思いきや、コロラド(7位)、ユタ(9位)、ミネソタ(12位)、テキサス(17位)、ジョージア(18位)と中西部や南部にもテクノロジー経済は点在しているようです。ニューヨークは11位となっています。

 

エンジニアだけじゃない、テック業界が欲しがる人材

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ニューヨークに住む私の周りでも、テック企業へ転職を希望している知人が増えています。エンジニアはもちろん、マーケティングや人事部の仕事をしている人でもGoogleやAmazonといった大手テック企業やスタートアップに移ろうと狙っている人は多くなっています。

 

その理由は、経済が大きく成長しているこの分野では人材確保の競争も激しく、企業も給料や勤務体系といった面で高待遇を提示しているところが多いから。この業界での経歴を身につけることでその後のキャリアも広がります。

 

Amazonは第2本社を建設する都市を選別中ということで、全米の都市が「ウチに来てください!」とラブコールを送っています。そんな中のこのニュー・エコノミー指標の発表を受けて、Amazonの本社があるシアトルの新聞シアトル・タイムズは「Amazon第2本社を誘致したい州はこのランキングの上位に入ってないとまずいだろう」と述べています。

 

「州の経済が栄えるかどうかは、究極的にはモノやサービスをグローバル市場へ輸出し、厳しい競争に勝ち残っている企業が存在しているかどうかによる」とITIFのプレジデントでレポートの共著者であるロバート・D・アトキンソン氏は述べています。

 

アメリカでは、テック企業によって地域の経済が成長し、そこから新しい世代のスタートアップも生まれるということが起きています。アメリカで働きたいなら、どこにするか? 選択肢は1つではありません。

 

評価基準

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ニュー・エコノミー指標は、評価項目が大きく5つに分かれています。1つ目は「知識ベースの仕事の割合」。マネージャーや技術者といった職業の割合、知識ベースの職業に就く海外からの労働者の流入などがこの項目では調査されています。各州にどれくらいテクノロジーやイノベーションのための労働力が存在しているかということですね。

 

2つ目はモノやサービスの輸出先がグローバルであるかどうかといった「グローバリゼーション」。3つ目の「経済的なダイナミズム」ではスタートアップがどれくらい生まれているか、急速に成長している企業はいくつ存在しているか、特許はいくつ取得されたかなどが評価されます。

 

面白いのは4つ目の「デジタル経済」。ここではブロードバンドの速度、州政府が情報を伝達するときにITをどれくらい活用できているか、医療分野ではどうか、そして農業においてインターネットとコンピューターがどれくらい活用されているかが評価されています。農業におけるデジタル技術の普及具合も見られるなんて驚きですよね。

 

最後は「イノベーション・キャパシティ」。電子機器製造やテレコミュニケーション、バイオ医療といったハイテク産業の仕事の数や研究開発に注がれる投資金額などが評価されています。

 

ただ単にイノベーション関連の仕事が集まっているだけではなく、デジタル環境が良い地域かどうか、州や国境を越えた労働力を受け入れる土壌があるかなども分かるわけですね。

 

1999年からずっと1位のマサチューセッツの場合、ソフトウェアやハードウェアにおける大企業が集まっているほか、MITやハーバード大学からの支援を受けるバイオテック企業も多く存在していることが理由として挙げられています。

 

逆に投資を集めているという点で飛び抜けているのは、やはりシリコンバレーを持つカリフォルニア。なんとアメリカのベンチャー・インベストメントの55%はカリフォルニアに注がれているとのことです。

 

参照:ITIF, “The 2017 State New Economy Index”