ケニアで建設ラッシュ! 低価格住宅の需要は年間25万戸、日本企業に商機も

いまケニアの不動産業界が熱いことをご存知でしょうか? 同国の大統領が低価格の住宅建設を公約に掲げて就任したことからもわかるとおり、住宅不足が大きな課題となっているのです。ケニアで進行中の数多くの住宅プロジェクトについて紹介しましょう。

ケニアで住宅建設ラッシュ

 

人口が増え続けているアフリカでは、特に都市部での人口増加が顕著で、それにより住宅不足の問題が持ち上がっています。これはケニアでも同様で、世界銀行の報告書によると、ケニアの低価格住宅の需要は年間25万戸であるのに、実際の供給数はわずか20%の5万戸にとどまっています。

 

そんな背景があり、ウィリアム・サモエイ・ルト氏は低価格住宅の建設を公約に掲げ、2022年9月に大統領に就任しました。ルト大統領はすぐに「レガシープロジェクト」と名付けられた計画を進め、首都ナイロビにおける6000戸の住宅計画を発表するなどしています。

 

すでに建設が進められている計画としては、例えば、ケニアのルアカに450戸の住宅が完成する「ミラン・レジデンス」があります。このプロジェクトを手掛けるSafaricom Investment Co-operative社は、過去数年間にケニア各地で同様の住宅プロジェクトを進めてきました。第1期として2040年に完成予定の200戸は、スタジオ(ワンルーム)、ロフト付きスタジオ、1ベッドルーム(1LDK)、2ベッドルーム(2LDK)の間取り。すでに50%が契約済みと販売状況は好調で、ショールームが完成したことによって、今後さらに良い売れ行きが期待できると言われています。

 

また、Stima Investments Sacco社は、ナイロビ市内で12億ケニア・シリング(約12億円※)の住宅プロジェクトを進行中です。2022年11月から販売を開始し、20階建て全449戸のうち、すでにおよそ半数が契約済み。同社はこのプロジェクトで3億8000万ケニア・シリング(約3.8億円)の利益を得る見込みと報じられています。

※1ケニア・シリング=約1円で換算(2023年5月2日現在)

 

その一方で住宅建設と共に求められるのが、ケニアの人々が住宅ローンをより利用しやすくするための制度やサービスの整備。いくら低価格住宅とはいえ、全額を現金で購入できる人は一部に限られ、大半が住宅ローンを利用することになるでしょう。

 

例えば、上述のStima Investments Sacco社は、物件を人に貸して住宅を所有できるプランを設定。所有者は物件購入価格の25%だけを支払い、残りの75%はテナントからの賃料で支払うという内容です。そのほかにも、高額所得者ではなく低所得者に焦点をあわせた住宅ローンのプランが求められています。

 

日本を含めた海外のハウスメーカーに商機がありますが、日本の住宅と同じような価格での参入は難しく、大幅にコストダウンするための工法などに工夫が必要です。そのようにして途上国向けに低価格住宅を開発できれば、ケニア以外にも展開できるため、市場としては大きくなると見られます。

 

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フードロスは環境にどれほど悪い? 温室効果ガスの排出量が判明

気候変動の原因の一つとされているのが、世界で生まれている食品廃棄物です。国連はSDGsの目標の中でも「つくる責任 つかう責任」として、2030年までに食品廃棄物を半減させることを目指していますが、そこには気候変動が関わっています。最新の研究では、食品廃棄物から排出される温室効果ガスは、世界中の食料システム(※)に由来する温室効果ガス排出量の半分程度を占めることが判明。「食品ロス」を減らす声がますます広がっています。

※食料システムは食料の生産、加工、輸送及び消費に関わる一連の活動のことを指す(参考:農林水産省

もったいないうえにCO2も排出

 

先日、オンラインジャーナルの「Nature Food」で発表された南京林業大学の研究では、2001年から2017年までの期間に、穀物や豆類、肉類、動物性食品、果物、野菜など54種類の食べ物の廃棄物から排出された温室効果ガスの量を164の国と地域で調査しました。

 

収穫、保管、輸送、取引、加工、小売りなど、食べ物が収穫されてから消費者の手にわたり廃棄されるまでのサプライチェーンの各工程で温室効果ガスの排出量を調べた結果、2017年に93億トンに上ったことが判明。これは同年のアメリカとEUで排出された温室効果ガスとほぼ同量に匹敵するといいます。

 

また、中国、インド、米国、ブラジルの4か国では、食品廃棄物によって排出された温室効果ガスは、世界全体の食品廃棄物関連の排出量の44%を占めていることも明らかになりました。

 

世界の食料システムが温室効果ガス排出量に占める割合は約3分の1とされており、さらに、そのうちの半分程度が食品廃棄物に由来していると同研究は言います。気候変動に与えるフードロスの影響がわかりやすく表されているでしょう。

 

この研究では、食品廃棄物が半分に減れば、世界の食料システムで排出される温室効果ガスの総量が約4分の1にまで減少すると見ています。今日では多くの国で食品廃棄物などの生ごみは焼却処分または埋立てされていますが、生ごみは腐敗すると温室効果ガスの一種であるメタンを発生させます。それを防ぐための方法の一つとして、生ごみを堆肥化するコンポストの使用が勧められています。

 

日本で出ている食品廃棄物の量は年間522万トン。国民1人あたり、お茶碗一杯分のご飯を毎日捨てているのと同じと言われています。私たちの身近な行動が気候変動に直結しているのだと改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか?

 

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海外で働く「ベトナム人労働者」が15倍に急増! 需要が旺盛な日本企業は2400人を要請

日本で働く外国人労働者を国籍別に見た場合、最も多い国はどこでしょう? 答えはベトナムです。2023年、同国はさらに多くの人材を海外に送り出しており、その数は前年同期比の15倍。世界各国でベトナム人の労働者が増える見込みです。

↑ベトナム人労働者への需要が増す日本だが、世界各国で争奪戦になる可能性も

 

厚生労働省によると、日本で働く外国人労働者の総数は172.7万人(2021年10月末時点)。国籍別に見ると、3位フィリピンの19.1万人、2位中国の39.7万人を上回っているのがベトナムの45.3万人。日本で働く外国人労働者の約26%を占めています。

 

それほど日本に多くの労働者を送り出しているベトナムですが、2023年はさらに多くの人材を海外へ派遣しています。2023年1月から3月までの第1四半期で、海外に送り出した人材は3万7923人。同国の年間計画の34.5%を占め、前年同時期と比べると15倍以上にも増えているのです。

 

ベトナム国内で日本向け人材の育成と派遣を行う機関のESUHAIの副所長によると、2023年初頭に日本企業から2400人の労働者の派遣の要請を受けたとのこと。需要が高い分野は食品や食品加工業、機械工学、製造、自動車関連業など。最近は医療業界からの要請も多いといいます。新型コロナウイルスのパンデミックが落ち着きを見せ、多くの業界で労働需要が急増していることから、人員不足に陥る日本でベトナムに白羽の矢が立ったのでしょう。

 

日本企業がベトナム人を欲しがる理由は、ベトナムが親日国であることや、儒教の国ということもあり、礼儀正しく、温厚で勤勉な人が多く、日本人と価値観が似ていることが挙げられます。多くの企業がすでにベトナム人労働者を受け入れている実績があるので、初めて外国人労働者を受け入れる企業にとっても安心感があるでしょう。

 

一方、ベトナム側にも「日本で働けば稼げる」というイメージがまだあるようです。人口が東南アジアの中でもそれなりに多く(2022年は約9946万人)、送り出し機関も他の国よりたくさん存在しているので、供給量が多いと見られます。

 

しかし、労働力不足にあえぐ国は日本だけに限りません。ベトナム労働省海外労働局によると、2023年3月の単月だけで9494人を海外に送り出し、前年同期比で8.66倍となっているそうです。送り出し先は日本のほか、台湾、韓国など。海外に労働者を派遣できるライセンスを所有する現地の約500社では、人材の研修を行って、海外からの要請に応じて適正なスキルを持った労働者を派遣しているそうです。

 

ベトナム労働省海外労働局は2023年に欧州諸国とも労働協定を結びたいと考えており、その協定が締結されれば、アジアのみならず世界各国にベトナムから労働者が派遣されることになります。

 

2023年に予定されているベトナムから海外に行く人材の数は約11万人。アフターコロナで人材不足に直面する多くの国を支えることになりそうですが、各国で優秀なベトナム人の奪い合いになることも予想されます。

 

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巨大化するグリーン市場の形勢に変化。途上国でリープフロッグの可能性がじわり高まる

二酸化炭素の排出量を減少させたりすることで持続可能な社会を実現するための技術を指すグリーンテクノロジー。その市場規模は世界で1.5兆ドル(約200兆円※)と大きいものの、この分野では先進国が発展しているのに対して、途上国にはかなりの遅れが見られます。両者の間で差が広がりつつありますが、途上国の中にはポテンシャルの高い国もあり、先進国や国際社会の支援によっては先進国に一気に追い付く可能性もあります。

※1ドル=約133.8円で換算(2023年4月21日現在)

途上国がギャップを飛び越えるためには先進国の手助けが必要

 

先進国との差が開く

先日、UNCTAD(国連貿易開発会議)が発表した「テクノロジーとイノベーション報告2023」によると、2020年における世界のグリーンテクノロジーの市場規模は1.5兆ドルでしたが、2030年には9.5兆ドル(約1271兆円)に拡大することが見込まれています。

 

しかし、その中で重要課題として指摘されているのが、先進国と途上国の間で急速に拡大するギャップ。例えば、再生可能エネルギーや電気自動車に関連する技術の輸出では、先進国は2018年の約600億ドル(約8兆円)から2021年にはその2.6倍の1560億ドル(約20兆円)超に急増したのに対して、途上国では570億ドル(約7.6兆円)から3割増の約750億ドル(約10兆円)にとどまり、この3年間で世界の輸出に占める途上国の割合は48%から33%に15%減少しました。

 

UNCTADはグリーンテクノロジーにおけるギャップを、最先端技術への準備状況を評価するフロンティアテクノロジー準備指数で捉えています。この指数は情報技術インフラへの投資や関連スキルの向上、これらの分野を発展させるビジネス環境などによって変化。フロンティアテクノロジーには人工知能をはじめ、ブロックチェーンやドローン、遺伝子編集、ナノテクノロジーなどがあります。

 

フロンティアテクノロジー準備指数が示すランキングを見る限り、上位5か国は米国、スウェーデン、シンガポール、スイス、オランダという高所得国で占められていて、日本は19位。対照的に、ラテンアメリカやカリブ海、サハラ以南のアフリカの国々などは、まだ最先端技術に適応する準備が整っていないとのこと。

 

このような差を途上国が単独で埋めることは難しく、先進国や国際社会の支援とグローバルな枠組みがどうしても必要です。同報告書は、急速に発展するグリーンテクノロジー分野から発展途上国を除外しないように、国際社会が協調しながら迅速に行動すべきだと主張。今後数年間で急拡大するグリーンテクノロジーの波に途上国が現段階で乗り遅れると、技術的・経済的に成長する機会を逃してしまうと警鐘を鳴らしています。

 

リープフロッグを起こすためには…

しかし、そういった中でも一部の途上国は大きく進歩しています。例えば、アジアではインド、フィリピン、ベトナムといった国々のフロンティアテクノロジー準備指数が予想よりも高いことが判明。46位のインド、54位のフィリピン、62位のベトナムでは現地の政策が奏功した結果、順位が高くなりました。

 

インドは比較的低コストで利用できる高スキル人材の供給が豊富なことから、R&D(研究開発)とICT(情報通信技術)が好成績を収めています。その一方、フィリピンとベトナムは、電子機器を中心とするハイテク製造産業の水準が高いことが反映されました。

 

途上国のフロンティアテクノロジーが発展すると、リープフロッグが起きる可能性が高まります。基礎的なインフラが未整備である途上国が、先進国が歩んできた発展段階を飛び越えて、最先端技術に一気に辿り着いて普及させるこの現象は近年、アフリカやインドなどで起こっています。

 

とはいえ、多くの途上国はグリーンイノベーションの推進に向けて、先進国や国際社会の支援がまだ必要。途上国がリープフロッグを実現するためにも、先進国からの技術支援や投資が不可欠です。

 

UNCTADの報告書が述べているように、気候変動は待ったなしの問題とされているため、グリーンイノベーションには時間の制限があります。この取り組みを迅速に進めるためには、各国の政府主導による関連法律の整備やインフラ構築などが必須。途上国が波に乗り遅れないように、先進国が積極的に各国の政府に働きかけていくことが重要といえるでしょう。

 

 

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空気から水を作る「空水」に高い期待! エジプトの水不足に立ち向かう日本のMIZUHA社

水資源が豊富にある日本にいるとあまりピンと来ないかもしれませんが、世界には水不足に悩む地域が少なくありません。その一つが、国土の9割以上を砂漠が占めるエジプト。同国では現在、空気から水を生み出す日本企業の技術を活用し、水資源を確保して効率的に利用しようとする試みが始まっています。

水の危機が起きているエジプトが日本の技術に寄せる期待は高い

 

雨がほとんど降らないエジプトでは、飲み水や農業用の水源にナイル川が利用されています。しかしエジプトはナイル川の下流にあり、上流は他の国々が使用。さらに、ナイル川には住血吸虫や雑菌が混在しており、川に入ることは危険で、ミネラルウォーターを飲むことが推奨されています。そのためエジプトは、水資源を確保することが国の生存と繁栄のために不可欠と考えているのです。

 

そこで、同国が着目したのが、空気から水をつくる日本の技術。エジプトの軍事生産省は先日、日本のMIZUHA社と提携し、空気から水を生成する装置「空水(くうすい)」のプロトタイプを開発していることを発表しました。空水は、空気中に含まれる水分を結露させ、独自のイオン交換装置で殺菌し、カーボンフィルターで水質を調整して水を作り出すシステム。湿度さえあれば、地球のあらゆる場所で、安全な飲み水を作り出すことができるのです。

 

MIZUHA社では、エジプト国内の複数の場所で空水機の実証実験を実施。いずれの場所でも水の製造が確認され、飲み水に適する水質検査も通過したことから、2022年8月と11月にエジプト政府と空水の製造と開発に関して協定を締結。現在はエジプト国内向けに改良を重ねています。

 

同社のウェブサイトによると、空水が生産できる水は、気温25℃、湿度60%の条件で、1日16リットル。エジプトの水資源灌漑省によると、同国の水需要は1200億立方メートルで、そのうち最大55%(660億立方メートル)が不足していると言われており、空水だけで需要を全て満たすことができないのが現実です。しかし、水不足が深刻化するエジプトは、これまでの5か年計画で100億ドル(約1.3兆円※)以上を投資しており、空水に対する期待は高いと考えられます。

※1ドル=約134.7円で換算(2023年4月20日現在)

 

また、空気という豊かな資源をもとに飲料水を確保することができる空水は、土壌汚染などで井戸を使えないような途上国でも導入されている実績があります。そんな空水の導入は、エジプトにとって水の安全保障を強化し、持続可能な社会への移行を見据えた水利用の効率化を目指す計画の一環となっているのです。

 

エジプトの先には中東諸国での販売も検討していると見られる空水。空気から水を作るという画期的なシステムが、水不足に直面する国々を救う存在になっていく可能性を秘めています。

 

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「安全な水とトイレ」の普及で企業の役割が拡大! 1600億円規模の市場に投資を促進

世界では子どもの約30%がトイレや水道のない学校に通っていると言われています。このような学校の衛生環境を改善するためには、どうすればよいのでしょうか? 近年、発展途上国では企業が現地の政府と組んで、学校のトイレや水道の整備に乗り出す動きが広がりつつあります。この取り組みは社会的なインパクトが大きいだけでなく、新たなビジネスチャンスとしても注目されています。

学校にトイレを普及するうえで企業が果たす役割が大きくなっている

 

発展途上国の多くの学校ではトイレや水道といった設備が整っておらず、子どもたちに深刻な影響を及ぼしています。ユニセフの調査によれば、学校でトイレが利用できないために、身体の不調や集中力の欠如が見られる子どもの割合は、ほぼ5人に1人に上るとのこと。10人に1人以上は排泄を避けるために意図的に食べ物や飲み物を取らないほか、女子の場合は生理中に学校に通わず自宅で過ごすことも多く、学校中退の増加につながるとされています。

 

また、トイレの不足や汚れは、下痢性疾患や寄生虫の増加といった健康上のリスクを増大させるだけでなく、水質汚染を引き起こすなど広範囲に悪影響を及ぼします。

 

このような状況を変えるために、地元の企業が政府と協力しながら学校にトイレや水道を提供し、衛生施設を管理する取り組みが広がっています。トイレが設置されると、学校側にはトイレットペーパーや石鹸をはじめ、生理用品や掃除用品などを揃える必要がある一方、これらの製品を取り扱う地元の企業にとってはビジネスチャンスとなります。

 

トイレから出る汚物や汚水の再利用にも企業が参入するようになりました。トイレから出る汚物は回収された後、農産物の肥料やバイオガスとして活用されています。バイオガスは家庭における料理や暖房などでも使われるほか、電気に変換することも可能。この取り組みは、経済活動のなかで廃棄されていた製品や原材料などを資源として再利用するサーキュラーエコノミー(循環型経済)の典型的な例と言えるでしょう。

 

そのほかにも、回収したトイレの汚物を分析して子どもたちの健康状態を管理する技術を企業が開発しており、学校の水質や衛生状態をモニタリングするための指標として活用されることが期待されています。

 

1ドルの投資で4.3ドルのリターン

学校のトイレや水道の整備には、どれほどの市場規模があるのでしょうか? 世界の水や衛生問題の解決を目指す企業が集まる「Toilet Board Coalition」がフィリピン、ナイジェリア、メキシコを対象に行った調査によれば、フィリピンの市場規模は年間9億4800万ドル(約1261億円)、ナイジェリアで6億6500万ドル(約884億円)、メキシコで12億ドル(約1600億円)とのこと。

 

このように、水や衛生への投資は世界中で年間数十億ドル相当の利益を生み出す可能性があります。学校のトイレや水道を整備するためには、従来の3倍以上の支援が必要と言われていますが、WHO(世界保健機関)は「水・衛生分野に1ドル(約133円※)投資すると、生産性が向上して4.3ドル(約570円)のリターンが期待できる」と試算しており、企業に投資を促しています。

※1ドル=約133円で換算(2023年4月13日現在)

 

発展途上国における学校のトイレや水道整備への投資は社会的意義が高い事業であり、大きなビジネスチャンスがあると言えるでしょう。販路拡大にとどまらず、企業のブランド価値向上につながる広報効果や、現地企業や政府など新たなパートナーの開拓も期待できます。こういったメリットを鑑み、関連事業を手がける日本企業は途上国の学校への投資を積極的に検討してみる価値があるのではないしょうか?

 

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食料の約8割を生産!「女性が活躍する農業」を途上国が模索

発展途上国では食料生産をほぼ女性が担っているにも関わらず、女性の社会的・経済的地位は男性に比べて依然として低いまま——。このようなジェンダーギャップは途上国の農村で顕著であり、生産性にも影響を及ぼしていると近年では言われています。農家の女性へのエンパワメントが急務となる中、現状を変えようとする取り組みが少しずつ現れています。

女性が途上国の農業を支えている

 

農業は、途上国におけるジェンダーギャップの典型的な例と言えます。FAO(国連食糧農業機関)によれば、ほとんどの発展途上国において食料のおよそ80%を女性が生産しています。ところが、日々の農作業や食料生産に欠かせない存在であるにもかかわらず、女性は土地の所有や農産物の販売などの権利において差別に直面しています。

 

例えば、ケニアでは慣習法が女性の土地の所有権と財産権を制限しており、同国の65%の土地はその慣習法によって管理されています。つまり、農家の女性は夫か息子を通してしか土地を持つことができません。農家の男性が都市部に移住してしまった場合、残された女性は、男性の同意なしで土地の手入れをしたり、担保にしたり、生産物を売ったりする権利がないこともあるようです。

 

農産物の生産と供給における女性の役割の重要性を考えると、持続的に食料を確保するためには女性が土地などの生産資源を活用できるような取り組みが必要でしょう。

 

世界経済フォーラムによると、女性が男性と同じように土地などの生産資源を使用できれば収穫量が20%~30%増加し、飢餓が最大で17%減少するとのこと。また、女性は利益を家計に還元するため、貧困を根本から緩和することが可能になると言われています。

 

ケニアでの成功例

このように、農業における女性のエンパワメントが喫緊の課題となっていますが、それを実現するための施策はあるのでしょうか?

 

同じくケニアの事例を見てみましょう。ライキピア北部の女性農業グループであるライキピアパーマカルチャーセンターは、持続可能な農業システムを目指すケニアパーマカルチャー研究所と共に、コミュニティの長老たちに協力を要請し、女性の農業従事者25人に数エーカーの土地を割り当てました。

 

この女性たちは、それまで不毛だった土地に水を流す仕組みを構築すると、土壌を回復させ、農業ができるようにしました。その結果、アロエベラの栽培とミツバチの飼育から収入が得られるようになり、家族を養うことができているそう。女性が中心となって農業を建て直すとともに、地域コミュニティを支える仕組みが生まれたのです。

 

一方、日本政府も東南アジアの途上国などに対し、農業分野における女性のエンパワメント支援を手がけています。政府はカンボジア政府からの要請により、カンボジア女性省・州女性局の能力強化をはじめ、農業分野におけるジェンダー主流化に関する技術協力を提供。JICA(独立行政法人国際協力機構)もこのプロジェクトにおいて、現地関係省庁のジェンダー視点に立った政策策定や取り組みをサポートするなど、農業に携わる女性の経済的エンパワメントの促進を図っています。

 

農業を底上げするためにも女性はもっと経済活動や意思決定にかかわるべきであり、ジェンダーギャップの解消は途上国における農業全体の発展につながるでしょう。そのためには、女性が自立して経済活動に参加できるような仕組みを国や企業、協力団体が率先して進めていくことが求められます。

 

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「ハラルフード」の市場価値は最大19兆円! アジア諸国で和食のハラル需要が拡大

現在、世界人口のおよそ4分の1を占めるイスラム教徒(ムスリム)。イスラム教の食べ物は、神によって食べることが禁じられている食べ物の「ハラム」(代表例は豚肉とアルコール)と、許されている「ハラル」(例:野菜、果物、穀物、魚介類)に大きく分けられますが、最近ムスリムの間で注目を集めているハラルフードといえば、和食・日本食です。ムスリムが多いアジア諸国などで、ハラルの焼き肉や寿司のニーズが少しずつ高まっています。

 

市場が拡大するハラルフード

ムスリム人口の増加でハラルフード市場も拡大

 

ここ数年、ハラルフードは国際機関のOIC(イスラム協力機構)加盟国を中心に市場価値が上がってきました。統計プラットフォームのStatistaによれば、2021年におけるインドネシアのハラルフードの市場価値は1467億ドル(約19兆円※)で、バングラデシュは1251億ドル(約16兆円)相当とのこと。また、OIC諸国のハラルフードの輸入総額は2000億ドル(約26兆円)と推定されています。

※1ドル=約131円で換算(2023年3月27日現在)

 

インドネシアはムスリムが世界で最も多い国で、その数はおよそ2億3000万人。その後にインド、パキスタン、バングラデシュが続いており、ムスリム人口が多い国ではその分ハラルフードの需要もあるようです。

 

大人気の国内ハラル和食店

ムスリム客の行列ができる「寳龍総本店」

 

和食は世界中で認知度が高く、ムスリムからも好まれています。一般的に外国人の間で人気が高い和食・日本食といえば、ラーメンや焼き肉、寿司などがありますが、日本にはそれらのハラル版を提供しているレストランが既に存在しており、長蛇の列になっていることがよくあります。

 

例えば、北海道の札幌にあるラーメン店「寳龍(ほうりゅう)総本店」は、豚肉やアルコール不使用のハラル対応味噌ラーメンを提供。札幌ラーメンを食べたいムスリム客でほぼいつも満員です。

 

一方、大阪の難波にはハラル焼き肉が食べ放題の「ぜろはち難波OCAT本店」があり、ハラルの焼き肉店は他にもあるものの、同店は珍しく食べ放題であるため、ムスリムの間でとても人気です。

 

海外にも少しずつ広がる

海外に再び目を転じると、ハラルの和食レストランは現在のところ海外諸国にそれほど多く存在していません。しかし貴重な存在だからこそ、ハラルの和食レストランはムスリムから重宝されています。

 

2021年から2022年にかけてアラブ首長国連邦で行われたドバイ国際博覧会(万博)では、回転寿司チェーンの「スシロー」が6か月間の期間限定で初出店しました。初となるハラル対応メニューを開発したこともあって、平日でも3時間待ちの列ができるほど繁盛し、合計17万5000人を超えるお客が来店したそうです。

 

同店は、アルコールが含まれている通常の醤油やうなぎのタレを使用せず、代わりにそれらを現地調達するなどしてハラルの回転寿司を実現させました。この万博での盛況ぶりを見て、今後はアジア圏を中心に海外の店舗を増やしていく計画のようです。

 

アジア圏の中では、既にハラル和食が広がりを見せている国もあります。

 

シンガポールのボートキーにある「Ronin(以前の店名は「Gaijin」)」というハラル和食レストランは、2022年4月にオープン。Facebookなどのソーシャルメディアで絶賛され、予約枠がすぐに埋まってしまうほど人気があります。ハラル対応の焼き鳥や焼き肉を提供するほか、ビーツとひよこ豆のペーストを添えたタコ焼きや、塩漬溶き卵の汁を添えた餃子など、和食とそれ以外の料理を融合させたものもあります。本格的な和食体験をしてもらうために、店内には伝統的な障子や座敷なども取り入れられました。

 

また、同じくシンガポールで屋台2店舗を展開している「Abang Curry」は、比較的手ごろな価格で提供するハラルの和風カレー店。日本のカレーをシンガポール風にアレンジし、米の代わりに麺を選ぶことも可能。メインに付くソースも3種類から選べ、カレーパンなどのスナックも販売しています。

Abang Curryのハラル和食カレー

 

このように、ハラル対応の和食の人気は今後さらに伸びていく可能性があります。イスラム教徒が多いアジア諸国などには、まだ本格的なハラル和食レストランが少ないため、メニューなどの工夫次第で、高いニーズが見込めるかもしれません。

 

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バングラデシュ、2071年までに「耐震基準」を抜本的改革。不可欠な日本の支援

東日本大震災を上回る犠牲者を出しているトルコ・シリア地震。これだけ多くの被害をもたらした一因として建物の耐震性能が挙げられていますが、この問題はトルコやシリアに限りません。最近では、地震活動が活発な地域にあるバングラデシュが建物の耐震基準を抜本的に改革することを発表。この計画はこれから約50年間にわたって行われ、日本が支援していくことも明らかにされました。

ダッカでは建物が危険なほど密集している(ドローンで撮影)

 

バングラデシュの震災への取り組みについては、以前から国際協力機関などの間で議論されていましたが、トルコ・シリア地震を受け再び注目が集まっています。特に、首都ダッカは建物が無秩序に連立し、高密度化しているうえ、建物の設計や建設技術が劣ることから、災害リスクの高い都市の一つとなっているのです。

 

そこで先日、バングラデシュのエナミュール・ラーマン災害管理大臣は建築基準法の改正が必要だと述べ、2071年までに同国を地震に強い国にすると発表しました。同国では政府の建物も含め、耐震性が劣るものが多く、ダッカ市内のおよそ7万2000以上の建物が脆弱で、大地震が発生した場合、数百万人が死亡する恐れがあるとされています。

 

最近、同大臣が出席したDebate for Democracy主催のイベントでも、参加者たちは地震のリスクに対処するためには、脆弱な建物を特定して耐震性を高めることが必要であると議論していました。道路、地下鉄、高速道路などの交通網やガス、電気などのインフラについても同様の認識がされています。

 

防災への取り組みを強化するために、バングラデシュが支援を求めたのは日本。エナミュール・ラーマン災害管理大臣は、「日本は地震に強い国。マグニチュード10の地震があった場合、80階建てのビルは揺れることはあっても倒壊はしない」と日本の耐震技術について説明。その一方で、バングラデシュは耐震性の高い建物を建てる際に必要となるエンジニアが足りていないことから、同国は財政面だけでなく技術面でも日本に支援を求めています。

 

バングラデシュのように、都市部の急速な人口増加に伴い、建築基準法などの法整備が追い付かないまま、建物が次々に建設されている途上国は他にもあるでしょう。限られた時間の中で無数の建物の耐震性を高めていくのは、当然ながら時間も資金もかかります。しかし、日本はこれまでに多くの大地震に見舞われながら、建物の建設や都市計画、防災体制などについて知見を蓄えてきました。途上国の震災対策に貢献できることがたくさんあるはずです。

 

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アフリカ宇宙局が誕生! 途上国が挑む「宇宙開発」の狙いは?

スペースXやテスラ、ツイッターなどのCEOを務めるイーロン・マスク氏が火星移住計画を打ち立て、実業家の前澤友作氏が民間人として宇宙旅行を楽しむなど、昨今の宇宙開発は目覚ましいものがあります。しかし、そんな宇宙開発は先進国に限ったものではありません。ナイジェリア、ルワンダ、パキスタンなどの途上国も宇宙開発事業に取り組んでいることをご存知でしょうか?

途上国も宇宙開発に挑む

 

アフリカ諸国

アフリカ連合加盟国は2023年1月、同大陸における宇宙開発のハブとしてアフリカ宇宙庁を設立し、本格的に宇宙事業に乗り出しました。マスク氏が率いるスペースXも、南アフリカでの衛星の打ち上げを支援しています。その一方、現在、世界の多くの国々や民間企業が宇宙事業に参入しているなか、国際協調による平和的な宇宙探査を目的とした「アルテミス協定」に日本をはじめ、アメリカ、カナダ、イギリスなどが署名していますが、アフリカの国として初めて署名したのがナイジェリアとルワンダでした。

 

カザフスタン

旧ソビエト連邦を構成していたカザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンには、独自の宇宙機関や宇宙関連の民間企業があり、合計11の衛星を飛ばしています。なかでも技術的に優れているのが、カザフスタン。超小型衛星の開発に成功し、他国へのサービス提供も間もなく始まるとみられており、宇宙開発分野での国際協力も積極的に行っています。

 

トルコ

トルコでは、同国の宇宙庁が宇宙開発市場に参入するための目標を掲げた10年戦略を策定。トルコ人を宇宙に送り込むことや、同国で初となる観測用衛星を確立することなどが盛り込まれています。トルコは二国間協定や民間企業との協力を積極的に進めていることが特徴。例えば、パキスタンと衛星や宇宙プロジェクトに関する協定を結び、エルサルバドルと衛星システムに関する覚書を締結したほか、スペースXの協力のもと衛星の打ち上げも行っています。さらに、世界初の商用宇宙ステーションの開発を進めるアメリカのアクシオム・スペースとも協定を結んでいます。

 

パキスタン

パキスタンは1962年にアジアのイスラム圏で初めて宇宙開発事業に参入しました。インドとの長期にわたる国境紛争などの影響もあり、その計画は必ずしも順調に行かなかったようですが、同国が掲げる現在の「宇宙ビジョン2040」では、国産の衛星の開発と配備が主な目標とされています。パキスタンは、トルコ、タイ、UAE、中国などと協定を結び、近年はパキスタン人の宇宙飛行士の派遣に意欲を燃やしているそうです。

 

鍵は国際協力

宇宙開発は最先端の技術はもちろん、莫大な資金が必要なため、アメリカのような大国を除いて、途上国や新興国の一国だけで始めるには限界があります。そこで鍵となるのが二国間協定のような国際協力。例えば、インドは60の国と5つの国際機関の間で230以上の協定を結んでいます。2月下旬には、インドの宇宙研究機関(ISRO)とアルゼンチンの宇宙機関(CONAE)が宇宙開発の協力について会談を行ったニュースが報じられました。また、中国を抜いて人口が世界一多くなったインドは、アメリカや中国のように宇宙開発に関する長期的な目標の達成に向けて、民間企業を巻き込んで宇宙開発事業に乗り出しています。

 

このように、先進国だけでなく途上国や新興国も宇宙開発に積極的に取り組んでいますが、その目的の一つに自国の衛星システムの確立があります。日本では当たり前に利用されている衛星ですが、途上国や新興国はそうではありません。そこで、このような国々は自国の衛星を飛ばして、インターネットの普及を促進するだけでなく、そこから得た情報を活用して、国内の災害対策や森林管理、農業支援、安全保障などに活用しようとしているようです。そこでは先進国の知見が役に立つでしょう。

 

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新興国で最大の市場規模! アフリカの農業に打って出るべき4つの理由

現在、アフリカでは史上最悪の食料危機が起きており、多くの人たちが飢饉に苦しんでいます。専門家の間ではアフリカの農業をもっと発展させなければならないという危機感が募るとともに、国際的な支援の重要性もますます高まっています。日本企業がアフリカの農業に目を向けるべき理由はどこにあるのでしょうか? 大きく4つの可能性が考えられます。

伸び代が大きいアフリカの農業

 

1: 衰えない農業の市場規模

一つ目の理由は、アフリカにおける農業の市場規模が高いまま維持されているから。アフリカで農業がGDP(国内総生産)に占める割合は約35%で、世界銀行によると、この割合は数十年間変化がありません。他の新興国に目を向けてみると、農業の規模は縮小している所が多くあります。例えば、1970年の東南アジア諸国では農業がGDPの30~35%程度を占めていましたが、2019年には10~15%までに低下しました。アフリカでは今後も農業の市場規模が維持されていくと見られており、日本の企業が参入できる可能性は大きいと言えそうです。

 

2: 工業化に転じない可能性

経済は、農業のような一次産業から工業や製造業といった二次産業に発展することが一般的ですが、アフリカは必ずしもそれに当てはまりません。国際ビジネスを専門とするニューヨーク市立大学バルーク校のライラック・ナフーム教授は農業がアフリカ経済を牽引すると主張しており、その理由の一つとして「製造業を中心とした成長にはインフラが必要だが、アフリカのインフラは整っていない」と指摘しています。実際、エチオピアやモロッコなどの一部の例外を除いて、アフリカの多くの国で製造業を確立することが実現できていないので、他の新興国が辿ってきた発展のプロセスを踏む可能性は低いと考えられます。それゆえに、アフリカは持続可能な農業の形を模索することができるのかもしれません。

 

3: 栽培に適した広大な土地

アフリカには豊かな土地があることも、日本企業がアフリカ進出を検討すべき理由の一つに挙げられます。アフリカの国土は、中国、インド、アメリカ、ヨーロッパなどの国々の合計よりも広く、その半分以上は耕作が可能な土地と言われています。そこで栽培されたカカオやコーヒー、紅茶などはアフリカを代表する作物であり、最高級品質のものが世界中の市場に輸出されています。

 

近年、アフリカでは気候変動によって水不足や洪水などが起きることが多くなり、農業への影響が懸念されるようになりました。農業を守るためには、例えば、水が不足する時期の灌漑用水の確保や、効率的な栽培技術の発展などの技術革新が必要でしょう。また、きび、ひえ、あわなどの雑穀は、比較的過酷な環境下でも栽培しやすく栄養価も高いことから、国連を中心に注目が高まっています。作物を育てるのに適した気候と十分な土地があるアフリカに適しているかもしれません。

 

4: 求められる生産性の改善

アフリカの農業は、使用している機械の量が世界で最も少なく、生産性が世界最低のレベルであると指摘されています。その一因は、アフリカの農家の大半が、自分や家族が生活する分だけの作物を栽培する小規模農家であること。国際農業開発基金によれば、サハラ以南のアフリカの平均農地面積は1.3ヘクタールで、中米の22ヘクタール、南米の51ヘクタール、北米の186ヘクタールと比べると数十倍から百倍以上の差があります。また、小規模農家の多くは貧しく、機械を購入できるほどの資金がないことも生産性が低い原因と考えられますが、経済的な自立を支援していくためには、生産性を上げることが欠かせないでしょう。だからこそ、人口の半数以上が農業に従事しているとされるアフリカでは、日本のように人手不足を補う効率化ではなく、農業の作業を効率化して生産性を上げる技術やサービスが求められると考えられます。

 

国連食糧農業機関(FAO)が2021年に発表したデータによると、アフリカでは5人に1人にあたる2億7800万人が飢餓に直面していたとのこと。アフリカの農業はカカオやコーヒーといった作物を他国に輸出している反面、多くの国が輸入に依存しており、食料自給率が低いことも課題となっています。従来の「自分たちが食べる作物だけを育てる」という小規模農業から、生産性の高い農業にシフトすることは、このような状況を改善し、より多くの人々の利益につながっていくことが期待されます。しかし、この変化を起こすためには、日本などの政府による支援と、技術や知見を持った企業の関わりが必要不可欠でしょう。

 

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インドが巨大決済ネットワークをVisaやMastercardへと開放するワケ

 

インドで大きなシェアを占める小口決済インフラ「UPI(United Payments Interface)」が、Visa(ビザ)やMastercard(マスターカード)にも開放する準備が進められていると、現地紙のThe Morning Contextが伝えています。UPIの国際クレジットカードブランドへの開放は、同国の決済市場にどのようなインパクトを与えることになるのでしょうか。

 

インドで急成長する巨大決済ネットワーク

2016年4月にスタートしたUPIは、スマートフォンを利用し、24時間365日、リアルタイムで銀行口座間の送金を行う決済システム。利用者の決済手数料は少額であれば基本的に無料。手数料が発生した場合でも従来より少額で済むのが特徴、インドではショッピングモールから道端の屋台にまで、約2億3千万個のUPIのQRコードが設置され、さまざまな送金手段として利用されています。2022年12月には、約13兆ルピー(約1600億円)の決済を処理しました。うち個人間の送金が約10兆ルピー、残り約3兆ルピーが商店での買い物などQRコードを利用した決済となっています。

 

UPIの普及を後押ししているのが、インドにおけるフィンテックのパイオニアであるPaytmです。商店などは、月額2ドルでレンタルできるハードウェア「Soundbox」を使うことで、手軽にUPIでの決済が可能になりました。

 

UPIへの国際カードブランド参入を後押しする現地銀行

ただ、銀行預金から即時決済するシステムであるUPIは、少額であれば利用者の手数料が不要なため、預金口座からATMで現金を引き出しているのと変わりません。一方で銀行は口座保有者に預金額の金利を支払う必要があります。しかしこれらの一部をクレジット決済に移行できれば、加盟店舗から得られる決済手数料を銀行とUPI、カード発行会社と分け合うことができるのです。

 

The Morning Contextによれば、インド準備銀行(RBI)はVisaとMastercardに、UPIのオンライン決済プロトコルへのアクセスを認めることを計画しているそうです。これにより消費者は物理的なカードを利用することなく、クレジットの限度額まで買い物が楽しめるようになります。同国で発行されるクレジットカードはVisaとMastercardが9割を占めるなど、寡占状態が問題視されていることもあり、UPIの国際クレジットカードブランドへの開放は、現地のカード会社など既存業者からの反発も予想されていますが、上記の理由で現地銀行がこれを後押ししていると報じられています。

 

巨大な決済市場を国際カードブランドへと開放しようとしているインド。同国の決済シーンは、今後大きな変革期を向かえることになりそうです。

 

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食料危機と気候変動対策に「きび」が急浮上! その理由は?

「2023年は国際雑穀(ミレット)年」。国連が2023年をそう定めているのをご存知でしょうか? ミレットとは、きび、あわ、ひえなどの雑穀類の総称で、米・ニューヨークにある国連本部では先日、雑穀をテーマにした展示会が開催されました。きびなどの雑穀に国連がそれほど熱い視線を注いでいるのは一体なぜなのでしょうか?

きびはいかが?

 

きびなどの雑穀が注目されている背景には、世界人口の増加と食料不足への懸念があります。国連の「世界人口推計2022年版」によると、世界人口は2022年に80億人を突破し、2030年に約85億人、2050年には約97億人になる見込み。それに伴い食料が不足していくことが以前から危惧されています。

 

そこで注目されているのが、きびなどの雑穀。きびはイネ科キビ属に分類される作物で、推測されている原産地は中央アジアや東アジアの温帯地域。今日の日本ではほとんど栽培されなくなりましたが、アジアやアフリカ諸国の中にはきびを主食として食べてきた所があります。特にインドでは、きび、ひえ、あわなどの雑穀それぞれの品種に現地語名があり、人々に長いこと親しまれてきました。

 

栄養面については、たんぱく質や食物繊維を多く含むほか、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラルも豊富。栄養価がとても高いのに安価なことが大きな特徴です。

 

今日の世界情勢を見てみると、パンデミックに加えて、ロシアのウクライナ侵攻で、日本を含め多くの国々がインフレに見舞われています。特に食料のインフレが激しいのが、ジンバブエ、ベネズエラ、レバノンといった国。ジンバブエでは、食料の価格が例年に比べて285%も上昇し、日常生活に大きな打撃を与えているのです。きびなどの雑穀に待望論が持ち上がっても不思議ではないでしょう。

 

また、きびなどの雑穀のメリットとして、厳しい環境でも栽培しやすいことが挙げられます。年々深刻化している気候変動により、世界では水不足で干ばつが起きたり、逆に暴風雨に見舞われたりする地域が増えているのが現状。そこで多くの作物が被害を受けていますが、きびなどの雑穀類は、痩せた土壌や干ばつが起きるような環境でも、肥料や農薬などに頼らず育てることができるとされているのです。

 

桃太郎の精神

このように、栄養価が高く栽培しやすいきびなどの雑穀は、世界中の農民や人々を救う光になりつつありますが、普及を考えるうえで問題になるのは味。

 

きびはくせがなく、味は淡泊です。米に混ぜて食べる以外に、ピザ、パスタ、クッキー、ケーキなどの小麦粉を使った食べ物に加えたり、シリアルやスムージーに混ぜたり、さまざまな使い方が可能。そのため、多様な食文化や人々の好みに合わせて柔軟に取り入れることができると言われています。

 

SDGsの目標2の「飢餓をゼロに」や、目標13の「気候変動に具体的な対策を」など、SDGsの数多くの目標達成にも役立つと考えられる雑穀。アミーナ・J・モハメッド 国連副事務総長は「雑穀は豊かな歴史と可能性に満ちている」と述べています。きびは現代の日本でマイナーな存在かもしれませんが、昔話の『桃太郎』できびだんごが出てくるのを誰もが知っているように、私たちにとって必ずしも遠い存在ではありません。しかも、この物語に登場する鬼は人々に「飢餓をもたらす気象現象の主」であったかもしれないという見方があり(日本大百科全書)、現代社会に通じる部分があるでしょう。きびの力に目を向けるときが再びやって来ているようです。

 

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輸入禁止が功を奏す! ナイジェリアが半年で1億枚のSIMカードを生産

契約者の電話番号などの情報が記録されているSIMカード。スマートフォンに必ず装着されているもので、スマホの契約台数が延びれば、当然SIMカードの生産も増えることになります。そんなSIMカードをわずか半年で1億枚も生産したのが、ナイジェリア。デジタル経済を推進する同国政府のローカライズ計画が成果を上げてきたことが表れています。

アフリカのSIMカードはナイジェリアが作る

 

ナイジェリア政府の情報通信機関であるナイジェリア通信機関委員会(NCC)は2023年2月、過去半年間にナイジェリアで生産されたSIMカードが1億枚以上に達したことを発表しました。SIMカードの国内生産の増加は、「ナイジェリア国家ブロードバンド計画」や「NCC戦略管理計画」の一環。ナイジェリア政府は国全体のデジタル経済と国内でのSIMカード生産を推進するため、2022年8月から外国製SIMカードの使用を禁止しました。これにより、SIMカードを生産する国内の新興企業をバックアップ。もともと外国製のSIMカードに頼っていた生産システムを大きく変換させたのです。

 

ナイジェリアでSIMカードを生産する企業の一つが、CCNL(Card Center Nigeria Limited)。2004年に創業した同社は、ナイジェリアやアフリカの通信会社にSIMカードの生産と販売を行っており、アフリカのSIMカード生産のパイオニア的存在です。もともとIDカードの生産も行っており、ナイジェリア警察や同国の銀行などのIDカードも生産してきました。

 

現在、SIMカード生産などを手掛けるアフリカのスタートアップは7社あり、そのうちの5社はナイジェリアに拠点を持っているとのこと。しかし、同国には技術革新や投資を保護する法律がないことから、スタートアップの中にはナイジェリア以外の国で登記する企業もありました。

 

それを防ぐために、ナイジェリア政府は2022年8月からのSIMカード輸入禁止法を制定したのです。この法律について、ナイジェリアのパンタミ通信・デジタル経済大臣は、その重要性を度々アピールしてきました。スマホ利用者が急増するナイジェリアでSIMカードを100%国内生産すれば、雇用創出につながります。国内企業の売り上げが伸びれば、ナイジェリア経済への貢献度は増すでしょう。

 

SIMカード国内生産が活発化していくことで、ナイジェリアはアフリカにおけるSIMカード生産のハブとして存在感を増すでしょう。2022年におけるアフリカ54か国の人口はおよそ14億人。2030年には16億人、2050年には24億人を上回る見込みです。加えて、スマホやインターネット利用率は、先進国と比べると低いものの、利用者はますます増えて行くと見られています。Twitterが2021年にガーナにアフリカ初の拠点を置くことを明らかにしたように、ビッグテックはアフリカに熱い視線を注いでおり、GDP(国内総生産)や人口、デジタル人材の多さなどを考慮すれば、ナイジェリアはアフリカのデジタル化を牽引する国の一つ。これまで石油やガスに依存していたナイジェリア経済は着実に多角化しているようです。

 

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「リモート指導」でより安全な帝王切開を目指すケニア。医師不足を補うか?

帝王切開での出産は、正しい知識と経験を持った医師がいなければ、危険を伴うこともあります。発展途上国でそんな帝王切開手術を支える産婦人科医を、遠隔で育成していこうという試みがケニアで進められています。

テクノロジーで手術や医師の育成が変わる

 

ケニアのマクニエ県では、妊産婦の死亡率が10万人当たり452人と、同国全体の死亡率(10万人当たり355人)よりはるかに高いのが現状です。その理由の一つとして考えられるのが、帝王切開手術を行える産婦人科医が、毎月900件ほど行われる帝王切開に対してわずか3人しかいないこと。通常の出産に比べて複雑で難しい帝王切開には、それを支える技術を持った医師の存在が欠かせません。しかし、ケニアでは必要な設備が整った病院も、十分な技術を持った医師も不足していることが指摘されているのです。

 

そこで、米ジョンズ・ホプキンス大学と提携する非営利医療団のJhpiegoでは、医療向けプラットフォームを展開するProximieと提携して、遠隔で医師のメンターシップ(※)を行うプログラムを2021年12月に立ち上げました。これはケニアで帝王切開の手術が行われる際、経験豊富な産婦人科医とバーチャルでつなぎ、問題があればそこで相談しながら手術を進め、死亡率を減らそうという試み。手術室には4つのカメラを設置し、妊産婦、赤ちゃん、手術室全体などを映し、異なる場所にいる医師とバーチャルでつながり会話できるのです。手術の記録を録画して、後日それを閲覧することもできるとのこと。帝王切開の手術はもちろん、合併症のケア、処置後の赤ちゃんのケアなど、プログラムを通して、若手医師や看護師に適切なスキルを身につけていってもらうことを狙いとしています。

※メンターシップ(またはメンタリング)とは、企業などの組織において先輩が上司の指示に頼らず、自律的に後輩を指導すること

 

このプログラムに参加した5つの病院のいずれの手術チームも、バーチャルでのサポートがあることで、緊急事態が起きてもそれに的確に対応できるようになったとのこと。また録画した動画をケニアの手術チームとともに閲覧しながら、手術の対応について議論して、医師や看護師全体の知識や対応力を底上げしていくこともできます。Jhpiegoによると、プロジェクト開始当初は手術安全のためのチェックリストを守っている病院はほぼなかったのに、2022年3月時点で遵守率が100%になったそうです。

 

このプロジェクトは22か月に渡り行われていますが、「若手医師や看護師の6か月のインターン期間では、帝王切開の緊急事態に対応できるような十分な経験と自信をつけることは難しい」とケニアの産婦人科医師が語っているように、このようなプログラムを継続する必要性が認識されています。

 

デジタル技術を駆使した医師のメンターシップは、指導する側(メンター)にとっても指導を受ける側(メンティー)にとっても、有効な育成手法と言えるでしょう。発展途上国ではインターネットの接続やカメラなどの必要設備を整えることが必要にはなりますが、このような取り組みは産婦人科医に限らず、医療に関する他の分野にも広がっていきそうです。

 

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早い成長、低いコスト、高いCO2吸収量。「竹」の可能性に世界が注目

2021年に起きたウッドショック。コロナ禍で伐採労働者が減少した影響もあり、住宅建設に必要な木材が不足し、木材の価格が高騰しました。このような現象が起きた後で、建築材料として俄然注目を集めているのが竹です。現在、世界中で約44億人が都市部に住んでおり、その数は2050年に2倍になると見られていますが、それに伴い増えることが予想される住宅需要を満たすためには、竹の活用が不可欠と言われています。日本人が昔から馴染んできた竹には、一体どのような可能性が秘められているのでしょうか?

世界を救う可能性を持つ竹

 

まず、竹の特徴として成長がとても早いことが挙げられます。一般的な木材の場合、苗木を植えてから木材として使用できるまでに40~50年かかるのに対して、竹は多くの品種で根本を切っても再び芽が伸び、わずか3年で収穫できるほど早く成長するのです。

 

また、竹は成長するときに大気中の二酸化炭素を吸収することも特徴。1ヘクタールの竹林は1年間で約17トンの炭素を吸収するうえ、竹は建物や家具などになった後でも大気中の炭素を吸収して蓄えることが可能。そのため、竹は深刻化する地球温暖化の対策にもなり得るのです。

 

さらに、竹は耐久性があって安価、しかも軽量なので運搬しやすいと言われているほか、水分を多く含んでいるため耐火性があり、加工すれば400℃の高温にも耐えられるようになるそうです。このような理由で、竹はとても魅力的な建築資材であり、気候変動に対応した住宅の建築に役立つ可能性を秘めているのです。

 

世界経済フォーラムや世界資源研究所などの共同イニシアチブによる「気候スマート・フォレスト・エコノミー・プログラム(CSFEP)」は、持続可能な建築資材として竹を活用した住宅建築の取り組みを進めています。その一例が、グアテマラの竹製住宅。2022年10月に熱帯低気圧ジュリアに襲われた際、この住宅は強い風に耐え、しかも高床式の住居だったため浸水も防ぎ、被害を受けずに済んだ建物が多かったのです。

 

他国もこのような竹のポテンシャルに注目し、竹の産業化を推進しています。中国は2012年に竹産業を国家的な優先課題と決定した一方、ケニアは竹の商業化を促進するべく、2020年には竹を植物ではなく「作物」に分類しています。また、エチオピアでは、2030年までにアフリカで主要な竹生産国になることを目指し、竹の植林を進めていると同時に、人工竹材に関する実験も行っている模様。さらに、インドの建築業界でも竹を活用することで建築資材を多角化する動きが見られるなど、竹を利用した試みは世界各国に広がっているのです。

 

日本も負けられない

日本人にとって竹は昔から身近にある植物で、縄文時代から建築素材として使われてきたとされています。しかし、家具やインテリアなどには竹が使われているものの、より安価な資材が生まれたことなどから、日本では竹の消費量自体が減り、管理されないまま放置された竹林が増えているのが現状。

 

それでも、国産の竹100%を原料とした「竹紙」を製造したり、竹から「セルロースナノファイバー」と呼ばれる極小繊維を作る技術を開発したり、日本でも竹を資源として活用する研究が進められています。これらは建築資材ではありませんが、他国と同様に日本でも竹を再評価する機運が高まっているのかもしれません。世界各国がサステナブルな竹を巡り競い合っている中、日本の奮起が期待されます。

 

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日本でじわじわと増えるバングラデシュ人の採用、2022年には過去最高を記録

日本では人口減少と超高齢化を背景に、多くの業界で人材不足が起きています。そんな日本の労働市場に約20年前から労働者を派遣してきたのがバングラデシュ。同国は介護、農業、建設業などの分野で今まで以上に多くの技能実習生を日本に送り込もうと意気込んでいます。

バングラデシュの働く人々

 

内閣府によると、15歳以上の就業者と完全失業者を合わせた日本の「労働力人口」は、2014年は6587万人だったのが、2030年には5683万人、2060年には3795万人まで減少すると予測されており、経済成長にブレーキがかかると言われている中、外国人労働者の供給国として期待される国の一つがバングラデシュ。我慢強く、真面目な国民性だと言われている同国では、86の民間機関が日本への労働者派遣を許可されており、1999年から2022年までの間に日本へ働きに来た人々の数は2740人になります。バングラデシュ労働者雇用訓練局によれば、2022年には年間で過去最高となる508人が派遣されたとのこと。

 

バングラデシュ労働者雇用訓練局長は、「労働者を必要としてきた日本は、これまで中国や韓国、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどから人材を雇ってきたが、現在はその動きを拡大している」と現状を認識しています。

 

労働者雇用訓練局では、介護、農業、ビル清掃管理、建設などの分野で、特定技能労働者を採用する試験を行い、さらに半年をかけて日本語や日本の文化に関して学ぶ訓練を国内約30か所にある技術訓練センターで実施。日本の労働市場に即してより実践的な労働者を派遣できるように、国として施策を行っているのです。

 

これに対して、海外からの技能実習生を日本に受け入れる、国内最大の監理団体の国際人材育成機構(アイム・ジャパン)は、定期的にバングラデシュを訪れ、労働者の選定を行っています。しかし、日本で働くために必要な技能を有していることはもちろん、言葉も食事も異なる慣れない海外での生活を送るためには、労働ビザをもらえれば済むだけの話ではありません。バングラデシュ側は研修や教育方法について改善する必要があると認識しており、訓練期間を1年まで延ばすことを検討しているようです。

 

日本は、バングラデシュが1971年に独立して初めて外交関係を樹立した国。それ以来、青年海外協力隊の派遣をはじめ、50年以上にわたり外交関係を築いてきた歴史があります。バングラデシュは親日家が多いと言われていますが、かつては世界で最も貧しい国の一つと言われた国が、2041年には先進国入りを目指すまでになったのは日本の支援によるところも少なくないでしょう。

 

バングラデシュ人から見れば、日本で働くと母国より高い収入を得て、家族に送金することができるという側面があります。2023年2月から9月には、介護、農業、ビル清掃管理、建設などの分野で特定技能労働者の採用試験が始まりますが、この先、日本企業の採用担当者がバングラデシュの人材を検討することが増えるかもしれません。

 

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【4大リスク】紛争、債務危機、温室効果ガス、SDGs…2023年の途上国が危ない!

新型コロナウイルスのパンデミックから回復基調にあるなか、インフレやエネルギー危機に見舞われている世界の国々。2023年は世界全体で経済成長があまり見込めない年になると予測されています。そんな中、財政面での余力がない途上国は、さらなる逆風を受けることになりかねません。非営利団体である「センター・オブ・サステナブル・ディベロップメント」のアナリストが指摘する、2023年に注目するべき途上国の4つのリスクとはどのようなものなのでしょうか。

 

[1]SDGs:折り返し地点で目標から後退している途上国も

2030年までに達成すべき目標が示されたSDGs。2015年の国連サミットで採択されてから、2023年はちょうど折り返し地点にあたり、9月には各国の首脳が集まり進捗について確認するSDGsサミットが開催されます。しかし17の持続可能な目標のうち、ゴールに向けて進むどころか、後退しているものもあると指摘されています。例えば、極度の貧困状態にある人々は世界で約6億人。食料、教育、医療などを十分に得られない環境下にいる人々は数百万人にものぼります。そのようなリスクを抱えている国には、タンザニア、ウガンダ、マダガスカル、ナイジェリア、バングラデシュなどが挙げられます。途上国がSDGsの目標を達成するためには、「誰一人取り残さない」というSDGsの原則にもとづき、世界各国が資金面での支援をさらに強化する必要性があると言えるでしょう。

 

[2]気候:資金不足により、温室効果ガス削減に黄色信号

中国を除く途上国が排出する温室効果ガスは、世界全体の38%を占めており、2030年には約半分を占めるまでになると予測されています。多くの途上国で、先端技術を活かして地球環境問題の解決を目指す「グリーン・トランスフォーメーション」が進められていますが、資金面の不足などでその動きは鈍りが見られているのです。例えば、途上国(中国を除く)は日照時間が長く恵まれた気候条件の国が多いのに、資金調達に苦労していることから、太陽光発電設備の容量は世界の20%以下。もし十分な資金を確保できてグリーン・トランスフォーメーションを推進できれば、温室効果ガスの排出量をより抑えられるでしょう。このような気候問題に関するリスクがある主要な国として、ブラジル、メキシコ、南アフリカなどの名前が挙げられます。

 

[3]債務:利上げと世界経済の鈍化による債務危機の可能性

途上国が2023年に中長期で負う対外債務は、推定3810億ドルにものぼると見られています。実際、世界銀行は2022年12月、途上国では輸出入収入の10分の1以上を公的機関などの長期対外債務の返済に充てており、2000年以降で最高水準であると指摘。しかも利上げが進み、グローバル経済が鈍化することで、さらに多くの国が債務危機に見舞われるリスクがあると言われているのです。そのようなリスクを抱えている途上国は、アルゼンチン、アンゴラ、スリランカ、エクアドルなど。債務の透明性を高め、債務情報の提供を通じて、途上国の債務リスク管理能力を上げていくことも必要と言われています。

 

[4]紛争・暴力:必要数の半分しか追いついていない人道的支援

2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻のように、世界では武力紛争が起きている地域がまだ少なくありません。また、不安定な政治情勢によって、暴力や貧困に苦しんでいる人々もいます。国際救済委員会(IRC)が発表した「緊急ウォッチリスト2023」で、注視するべき国として挙げられたのは、ソマリア、アフガニスタン、イエメン、シリア、南スーダンなど。いずれも紛争、暴力、災害などに見舞われている国々で、国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、そのうち人道的な問題のおよそ半分しか支援が追い付いていないそうです。世界がそのような人道支援に手を差し伸べ、支援を行きわたらせることが求められています。

 

これらのリスクを抱える途上国として挙げられた30か国は、必要とする資金が、合計で9030億ドルも不足していると指摘されています。その差分は他国から調達する必要があることは間違いありません。世界全体で経済成長が鈍化するとみられる2023年。先進国からの資金面での援助が減少する可能性が高く、途上国はさらなるリスクを抱えることになそうです。

 

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途上国のGDP、コロナ前の予測から6%低下と世界銀行が警鐘。先手必勝が鍵

2023年の世界の経済成長は1.7%。わずか6か月前に予測されたのは3%だったのに、そこから大きく減速し、2023年の経済成長は1.7%にとどまると、世界銀行が先日報告書をまとめました。過去30年間で3番目に低い成長率となり、特に途上国に大きな影響を及ぼすと考えられています。

途上国の経済はかなり停滞しそう

 

2023年1月に世界銀行が発表した『世界経済見通し(Global Economic Prospects)』によると、世界の経済成長率は2021年が5.9%、2022年は2.9%でしたが、2023年は1.7%と大きく減速すると見られるのです。

 

この大きな要因は、予測を超えるインフレの進行と、それを抑制するための急激な金利の上昇。さらに新型コロナウイルスの再流行や、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界各国との緊張状態なども関係しています。

 

これらの影響を受けて、先進国の約95%、新興国・発展途上国の約70%で経済成長率が下方修正されたのです。これは、2009年のリーマンショック、世界に新型コロナウイルスが蔓延した2020年のマイナス成長に次いで、過去30年間で3番目に低いとのこと。

 

中国を除く新興国と発展途上国の経済成長率は、2023年は2.7%。2022年の3.8%からこちらも大きく減速すると予測されています。GDPレベルは、新型コロナウイルスが感染拡大するパンデミック前に予測されていた水準より約6%も低下するとのこと。

 

先進国の景気が減速すると、貿易などを通じてその影響が東アジア、太平洋、ヨーロッパ、中央アジアなど世界各地に波及します。先進国だけに限ってみると、経済成長率の鈍化はさらに顕著。例えばアメリカは、前回の予測を1.9%も下回り、2023年の経済成長率は0.5%。ユーロ圏は1.9%マイナスの0%。中国は4.3%(0.9ポイント下方修正)。先進国全体の2023年の経済成長率は、2022年の2.5%から0.5%に減速するとされているのです。さらに長引くエネルギー価格の上昇や、紛争、気候変動による自然災害なども重なり、新興国や発展途上国に逆風が押し寄せると見られています。

 

投資なしではSDGsは不可能

さらに、世界銀行が指摘したのは、新興国や発展途上国への投資額の減少。2022年から2024年にかけて、これらの国々への投資額の総額は、平均で約3.5%増加したものの、過去20年間の投資額と比べると半分以下になるといいます。世界銀行の見通し局長を務めるアイハン・コーゼは「強力で持続的な投資が増えなければ、開発や気候関連の目標達成に向けた前進は不可能だ」と述べています。

 

また、この報告書では、人口が150万人に満たない37の小規模国にも着目。これらの国ではコロナ禍による景気後退が顕著で、観光業が長期にわたり不況となったことで経済成長が遅れていると言います。

 

世界銀行のデイビッド・マルパス総裁は、「世界の経済成長の見通しが悪化するにつれ、国際開発が直面する危機はますます深刻化するだろう。政府財務の高止まりや金利上昇に直面する先進国にグローバル資本が吸収され、新興国と発展途上国は数年にわたる低い成長に遭遇する。これにより、教育、健康、貧困、気候変動などにおける取り組みはさらに悪化するだろう」と危機感を募らせています。

 

このようにネガティブな状況では途上国への投資に躊躇する企業が多いと思われますが、こうした状況下だからこそ他社に先駆けて行動することがビジネスの成功につながります。また、マクロな視点では成長率が鈍化しているとしても、ミクロな視点で見れば成長著しい分野もあります。マクロ経済だけで判断すると悲観的になりますが、現地に行くと勢いを感じる国も多い途上国。まずは現地の情報を詳細につかみ、いち早く行動してみてはいかがでしょうか?

 

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世界の「高齢化」が史上最速で進行。途上国にも広がる「高齢社会」ならではのビジネス

日本は世界で最も高齢化が進んでいる国として知られています。しかし高齢化の波は、日本のみならず世界全体に及び、史上最速の速さで進んでいることが国連の最新の発表で明らかとなりました。高齢化先進国である日本の企業は海外をも視野に入れたビジネスモデルを構築したほうが良いかもしれません。

先進国だけでなく途上国も高齢化

 

まず、2023年1月に国連経済社会局(UNDESA)が発表した「世界社会情勢報告書2023」の結果を述べましょう。

 

2021年時点で世界にいる65歳以上の高齢者の人数は約7億6100万人。およそ10人に1人が高齢者に当てはまります。しかし2050年には、この数が2倍以上の16億人に達し、6人に1人の割合になると見込まれています。この傾向を後押ししている要因として、出生率が低下していること、教育を受ける人が増え、健康に関する知識を身に付け、長寿化が進んでいることなどが考えられます。例えば、1950年に生まれた人は平均で46歳までしか生きられなかったのに対し、2021年生まれの人は、それよりも平均で25年も長い71歳まで生き、しかも女性は男性よりも平均で5年も長生きしているのです。

 

特に高齢者が多くなるのは、東アジアと東南アジア。高齢者の増加の6割以上がこの地域に集中すると見られています。日本は高齢者の割合が最も高い国で、2020年時点で29%が高齢者。2040年には人口の36%が高齢者になると予測されていますが、2050年までに中国や韓国がこの高齢化率を上回る可能性が指摘されています。

 

また、先進国よりも途上国における高齢化が進むことも予測されており、北アフリカ、西アジア、サハラ以南のアフリカなどは、今後30年間で高齢者の数が最も速く増加するとのこと。

 

さらに、65歳以上の高齢者の中でも80歳以上の割合が急速に増加していると同報告書は伝えています。

 

高齢化社会で生まれるビジネスの可能性

健康で経済的な不安もなく暮らせる高齢者がいる一方で、病気になったり貧困で苦しんでいたりする高齢者もいます。世界で進む高齢化は、保健や医療を平等に受けられる制度を整えるなど、不平等をなくす政策がなければ、高齢化社会でも格差が広がると報告書では指摘されています。

 

他方、高齢化の世界で、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性もあるでしょう。特に日本は50年以上も前の1970年に高齢化社会に突入した、いわば高齢化社会の先進国。これまでの社会の実情と経験から、あらゆるシニア向けビジネスを率先して進めていく存在になるかもしれません。例えば、インドでは2030年に約3億人が高齢者になると予測されており、高齢者ケアのニーズが拡大すれば、日本企業がインド市場へ参入する可能性もあり、日本で培った介護ビジネスのノウハウが生きてくるという見方もできます。

 

高齢化でニーズが生まれるのは介護だけではありません。例えば、日本ではリタイア前後の60代前半の男性と、子育てが落ち着いてきた50代後半の女性が多く利用するという「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」というコミュニティサイトが存在します。アクティブなシニア世代を中心に会員数は35万人まで増えており、こうした世代は消費意欲が高く、金銭的余裕もあるため、市場としても十分な大きさがあります。

 

逆に、高齢者がサービスを供給することも考えられるでしょう。イギリスの格安航空会社・イージージェットでは、45歳以上のミドル・シニア層のキャビンアテンダントの採用を積極的に実施。パンデミックによって労働力不足が顕著となっている航空業界では、人生経験を積んだミドルやシニア層に着目しているそうです。

 

シニア層の人材を活用するビジネスや、配偶者を亡くして一人で暮らす「おひとりさま」に向けたサービスなど、先進国で生まれたビジネスが途上国にも広がることが考えられます。世界で急速に進む高齢化を見据えたビジネスモデルを検討するときかもしれません。

 

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過去数十年で最悪の「食料危機」に陥るアフリカ、「小魚」が希望の光

近年、アフリカの食料危機が深刻化していることをご存知でしょうか? そのレベルは過去数十年で最も悪いと言われ、日本の人口を超える1億4600万人もの人が食料不足に陥り、死のリスクに直面する子どもが増加しています。そんな中、このような現状を解決する一助になるかもしれない、ある研究結果が報告されました。

食料危機における希望の光

 

国際赤十字・赤新月社連盟の2022年11月の報告によると、サハラ以南のアフリカで現在、食料不足に直面している人の数は1億4600万人。日本の人口よりも多い人々が、日々生きていくために必要な食料を得られていないことになります。これは昨今の気候変動(干ばつ)で、作物の収穫量が減少したこと、さらにロシアのウクライナ侵攻で世界全体の食料供給が不安定になっていることなどが関連しています。これだけの人々が食料危機に陥っているのは、過去数十年で最もひどいそう。

 

この影響は、幼い子どもにも及んでいます。十分な栄養を摂取できないことから、ひどく痩せ細り、死のリスクすらあるという消耗症(症状の重い乳児栄養失調症で、体組織が破壊され、食事量を増やしても体重は減り、ひどく痩せてしまう)に陥る子どもの数が増加していると言います。このような食料危機は2023年も続くと予測されており、ユニセフや国際赤十字をはじめ、さまざまな組織や団体が支援を呼び掛けているのです。

 

安くて栄養価が高い小魚

そこで注目したいのが、小魚の存在。英国・ランカスター大学の研究者らが、先日「ネイチャー」に発表した論文で、食料不足に苦しむ国において小魚が新しい食料供給源として有効であるとまとめたのです。

 

この研究では2348種の漁獲量と栄養データ、さらに低・中所得の39か国のデータなどを分析し、小魚は栄養価が高いのに価格が手ごろであると主張しています。例えば、ニシン、イワシ、カタクチイワシなどは栄養価も高く、72%の国で最も価格が安い魚でした。その価格は1日分の食費のわずか1~3割ほどで済むと同研究者らは述べています。

 

日本で小魚は手頃に入手でき、頭からしっぽまで丸ごと食べられて、栄養価が高い食材だと知られています。しかし、日本のように伝統的に魚を食べる習慣がある国とは違い、途上国の中には魚を頻繁に口にしない国もあります。例えば、サハラ以南のアフリカで5歳以下の子どもの魚介類摂取量は、推奨される量の38%にとどまっているそう。

 

また、現在の漁獲量だけでも、人々に供給するだけの十分な量があるとされており、ニシンなどの小さい遠海魚の漁獲量のわずか20%ほどで、アフリカの沿岸部に住む5歳未満のすべての子どもの推奨摂取量を満たせることが同論文で指摘されています。

 

日本の加工・品質管理技術が求められる

水産物を高い品質で管理し加工する日本の技術は、世界でもトップ水準。栄養価をできるだけ損なわずに、新鮮でおいしい状態を維持して長期間管理する技術があれば、より多くの人に高い栄養価の状態で魚を供給できるでしょう(例えば、コールドチェーン技術。原材料の調達から生産、加工、物流、販売、消費までのサプライチェーンの全工程において、冷凍や冷蔵などの適切な温度管理を行うこと)。日本が技術面で支援を行うことで、アフリカの食料不足や栄養失調の問題解決に役立つことが考えられます。

 

食料不足を解決する可能性を持っていることが明らかとなった小魚。アフリカなどで新たな食料源として活用するのに、コールドチェーンなど日本の技術が役立つでしょう。

 

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人口増加のインドで「スーパーリッチ層」が増加。コロナ禍で貧困が拡大との指摘も…

最近、インドで中産階級と「スーパーリッチ」と呼ばれる層が増えています。主に生産年齢人口の増加が経済成長を押し上げており、所得が増加しているのです。しかしその一方、コロナ禍により貧富の格差が拡大したとの指摘もあり、国内で議論が続いています。インドで拡大する中間層や所得格差の現状について説明しましょう。

幅広い中間層が集まり、活気が溢れる南ムンバイ

 

近年、インドで中産階級は増加しています。ニューデリーの経済調査会社PRICEによると、年間世帯収入が50万~300万ルピー(約79万円~470万円※)の中産階級の割合は、2004~2005年の14%から2021年に31%に倍増し、2047年までに63%になると予測されています。

※1ルピー=約1.58円で換算(2023年1月19日現在)

 

しかし中産階級といっても、この層は幅広いため、一般的には2種類に分類されます。50万~100万ルピー(158万円)未満までの所得がある層を「アッパーミドル層」、それ以上の100万以上~300万ルピーまでの層を「リッチ層」と呼びます。アッパーミドル層にはテレビやエアコン、冷蔵庫を所有し、家を保有している人もいる一方、リッチ層は飛行機で家族旅行に出かけ、高級車や自宅を所有するといった暮らしを送ります。さらに収入が中産階級以上のスーパーリッチ層になると、持ち家は大きく、何人ものメイドを雇うなど、とても裕福な暮らしをしています。

 

中産階級に届かない下層階級の人たちの暮らしと比べると、大きな差があることがわかります。

 

生産年齢人口の増加

インドで中産階級や、後述するようにスーパーリッチが増加している背景には、人口が大きく関わっています。同国の人口(約14億756万人)は中国に次いで多く、2027年には中国を抜いて世界一の人口になると予測されています。それに伴い15歳以上〜65歳未満の生産年齢人口の割合も増加しており、現在は全人口の67%と3分の2以上を占めるようになりました。それにより経済成長が続き、年々GDPの値も上昇。2018年から2020年まではかなり低下したものの、2022年から2023年の成長率は7%の見込みであるとの予測が出されています。

 

このような経済成長を背景に労働者の収入が増加。保険分野のコンサルティング企業・Aon plc社がインドの1300社を対象に調査したところ、2022年の給与上昇率は10.6%で、2023年には10.4%上昇の見込みとされています。2022年の給与上昇率は米国が4.5%、日本が3.0%だったため、インドの成長率の高さが如実に表れているでしょう。

 

経済成長の別の理由としては、生産年齢人口の増加だけではなく、消費活動が活発化したことも挙げられます。インドにおける個人消費額は2008年から2018年の10年間で約3.5倍増加。さらに、次の10年間である2028年までには、約3倍増加する見込みです。

 

特にコロナ禍をきっかけに公共交通機関の利用に抵抗感を持つ人が増え、自家用車を購入する動きが加速しました。2回目のロックダウンが起きた2021年4月から5月の車両販売数は、2020年同時期と比べて19.1%も増加したとの報告があります。

 

このように中産階級が増加した結果、インド全体の不平等は少しだけ緩和されたとの報告もあります。数値が高いほど経済面の不平等が大きいことを示すジニ係数は、2021年のインドでは82.3となりました。インドの不平等は引き続き高い水準ですが、2015年には83.3だったため、1ポイントとわずかですが改善した傾向にあります。

 

コロナ禍の影響により、スーパーリッチ層はさらに増加したといわれています。最近発表されたIIFL Wealth 社のリッチリストによれば、2012年には100人のインド人が100億ルピー(約157億円)以上の資産を所有していましたが、2022年にその人数は1103人に増加。2019年から2022年のパンデミック期間に353人がリストに追加されたそうです。

 

その要因の一つとして、コロナ禍をきっかけにワクチンの製造を含め製薬業界が潤ったことが挙げられます。インドのスーパーリッチ層1103人のうち約11%にあたる126人が製薬業に携わっています。その後には、化学および石油化学産業とソフトウエア産業、サービス業が続きますが、コロナ禍をきっかけに在宅ワークやオンライン授業が増加し、ソフトウエア産業やサービス業に関わる層も資産を増やすことができたと見られます。コロナ禍でお金持ちがさらにお金持ちになったとも言えるでしょう。

 

格差は拡大、それとも縮小?

スラム街と高級住宅が存在するムンバイ

 

しかし、先述したジニ係数の改善とは反対に、格差は広がったとの指摘もあります。低所得層はパンデミックの間に職を失い、家計が苦しくなりました。休職や解雇で所得ゼロの月が続き、その日に食べるものを確保するのに必死だった人たちが続出したと言われています。

 

また、インド政府の公的医療への支出は世界で最も低いレベルなので、民間機関のヘルスケアを受けるためには高額のお金が必要となります。そのため、低所得者層の中にはコロナ禍で医療費のために借金をする人が増加するなど、多くの人が貧困に追いやられました。

 

インドの貧困層は1億7000万人以上に達し、その割合は世界の貧困層のほぼ4分の1に当たります。インド政府は子どもの無償義務教育や若年層の技能開発教育など貧富の格差改善につなげる取り組みに着手しているものの、早期の改善を期待するのは厳しい模様です。

 

経済発展を遂げることで中産階級やスーパーリッチが増えているインドは、確かに国全体が少しずつ豊かになっているようです。ジニ係数が微減し、貧困は徐々に減りつつあるとも言えますが、コロナ禍をきっかけに超富裕層と低所得者層の格差が大きくなったのも事実でしょう。この点に関する国内の議論はまだ続いていますが、インドの主要援助国である日本もこの問題から目を離さず、経済協力を続けていくことが期待されます。

 

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アフリカがEU化する「AfCFTA」って何? 鍵を握るデジタル決済の重要性とあわせて解説

近年、世界中で普及するデジタル決済。この市場は2027年までに毎年12.31%のペースで成長すると言われています。アフリカでは、Interswitch(インタースイッチ)がデジタル決済サービスを牽引する存在の一つですが、このフィンテック企業は同大陸の自由貿易を推進するうえで重要な役割を担っています。

デジタル決済が自由貿易の障壁を低くする

 

2002年にナイジェリアで創業したインタースイッチは、デジタル決済のプラットフォームを構築し、アフリカを中心にさまざまなサービスを提供しています。例えば、同社はアフリカだけでなく欧米諸国の一部でも使用できるクレジットカードの「Verve」を発行しており、このカードに対応したATM数は1万1000台に上るそう。現在では、オンライン決済プラットフォームの「Quickteller」、モバイルビジネス管理プラットフォームの「Retailpay」、フィンテックカードの発行のほか、ナイジェリア初となる国内銀行間の取引サービスや州政府向けの電子決済インフラも展開しています。

 

2019年には、大手決済企業のVISAがインタースイッチの株式の一部を買収したことからも、アフリカで最も勢いのある企業の一つであることが伺えるでしょう。もともとナイジェリアでは現金主義の人が大半だったそうですが、同社はそんな国でキャッシュレス化を推進してきたと言える存在です。

 

アフリカ版EUの命運を左右

インタースイッチが重要視しているのが、アフリカ55か国間での自由貿易。先日、シエラレオネ共和国で開催され、インタースイッチも参加したセッションでは、この自由貿易がテーマとなり、同国を含めたアフリカ諸国におけるデジタル決済の問題やトレンドが議論されました。

 

アフリカには「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」協定があります。「アフリカ版EU」と呼ばれているように、貿易のルールをアフリカ国内で共通化して、関税を撤廃し、貿易を活発化させていくもので、2021年1月から運用が開始されています。

 

AfCFTAの成功の鍵となるのが、諸外国との取引をよりシームレスにするデジタル決済でしょう。その反面、デジタル決済サービスにはサイバー関連の脅威が伴いますが、その点、インタースイッチは州政府にも利用されるなど、セキュリティ面でも定評があることから、アフリカ各国の地方銀行などにも導入される可能性があると見られています。創業以来、インタースイッチはアフリカで「決済がシームレスで目に見えない物として日常生活の一部になること」を目指しており、そのビジョンの実現に向けて現在も邁進しているのです。

 

世界銀行のデイビッド・マルパス総裁が「デジタル革命は、金融サービスへのアクセスと利用を拡大し、決済、ローン、貯蓄の方法を一変させた」と述べているように、デジタル決済は人々の暮らしに大きな変化をもたらしました。同行のGlobal Findex Databaseによると、デジタル決済における途上国のシェアは2014年は35%でしたが、2021年には57%に拡大。アフリカ諸国の自由貿易を支える立役者としてインタースイッチには今後も注目が集まりそうですが、途上国におけるデジタル決済の普及が進めば、日本企業にとってもビジネスがしやすくなるでしょう。

 

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ビッグテック並みのデジタル人材大国へ! ナイジェリアがオフショア開発の委託先になる可能性

50以上の国々からなるアフリカでGDP第1位を誇るナイジェリア。およそ2億人の人口を抱え、アフリカ経済を牽引する国の一つと言える存在です。そんな同国は、テクノロジー分野で100万人の技術開発者を育成させる取り組みを進めています。ナイジェリアは近い将来、デジタル分野に関連するオフショア開発(※)で委託先の選択肢になるかもしれません。

アプリケーションやウェブページの開発といったIT(情報技術)関連の業務の一部を海外の会社に委託すること

デジタル人材の宝庫になるか

 

ナイジェリアは、近年はサービス産業の成長が目覚ましく、GDPが4323億ドル(約57兆円※)とアフリカでトップを走っています。そんなナイジェリアの国家情報技術開発庁(NITDA)のKashifu Abdullahi氏が先日、第16回アレックス年次会議にパネリストとして登壇し、デジタル分野における技術者の育成について触れました。

※1ドル=約132円で換算(2023年1月10日現在)

 

日本でも、あらゆる企業が労働人口の減少や働き方改革の推進を背景にデジタル化を進めています。それに伴い顕著になっているのが、企業が求めるデジタル技術を持った人材の不足で、その数は約1800万人にのぼるそう。これは日本に限った話ではなく、他国でも同じような傾向が見られ、世界の技術開発者の人材不足は8500万人と予測されています。

 

そんな世界の人材不足にナイジェリアは着目。100万人のナイジェリア人の技術開発者を世界中のバリューチェーンに組み込むことを目的としたプログラムを開始しました。Abdullahi氏は「ナイジェリアでは、他の先進国に製造業で敵わないものの、人材の分野では躍進できる可能性がある」と指摘しているのです。

 

同氏がこの会議で言及した、PwCコンサルティングのレポートによると、技術開発者やプログラマーの年収は概ね3万〜15万ドル(約396万〜1980万円)。仮に200万人のナイジェリアの開発者が、ナイジェリア国内からリモートで働き、一人2万ドル(約264万円)の収入を得ることができれば、ナイジェリアで年間400億ドル(約5.2兆円)以上の収入が生まれると試算されています。

 

また、Abdullahi氏は、世界の技術開発者不足を金額で表した場合、8.5兆ドル(約1123兆円)に達する見込みとも発言。アップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグルの親会社)、メタの5大IT企業の評価額は合計で9兆ドル(約1189兆円)になります。つまり、もしナイジェリアだけで世界が求める技術開発者を補うことができたら、同国はアフリカどころか、世界有数の経済大国のような存在になれるかもしれないと同氏は考えているようなのです。

 

現在、ナイジェリアは同プログラムでAI、ブロックチェーン、ロボット工学、データ解析などの技術部門の人材育成を推進。同時にデジタル経済が発展するための政策を実施したり法的な枠組みを見直したりしています。

 

Abdullahi氏は「デジタル経済はイノベーションであり、それは人である」と述べ、デジタル経済を推進するためには技術開発者の存在が必要不可欠であると話しています。それは世界各国の共通の課題であり、ナイジェリアがその解決策の一つになる可能性があります。

 

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PM2.5が基準値の150%超え。バングラデシュの大気汚染が深刻化

経済成長の目覚ましい国として注目されるバングラデシュ。2021〜2022年度の実質GDP成長率が6.4%、2023年度も6.1%と、安定的に成長しています。しかし、そんな同国で現在、大気汚染が悪化中。人々の健康や経済成長にまで悪影響を及ぼしつつあるのです。

首都ダッカの交通渋滞の様子

 

世界銀行は先日、バングラデシュにおける大気汚染に関する報告書(※)を発表しました。その内容によると、大規模な建設が行われ、交通量の多い首都ダッカ市内で最も大気汚染が進んでおり、微小粒子状物質(PM2.5)はWHOのガイドラインを平均で150%も上回っているとのこと。これだけ大気が汚染されている状態は、毎日1.7本のたばこを吸うのに相当するそうです。大気汚染は同国全土に広がり、全ての地域でWHOのガイドラインの推奨レベルを超えるPM2.5が観測され、バングラデシュ国内で最も空気がきれいと言われるシレット管区でさえもガイドラインを80%上回るPM2.5が観測されています。

 

大気汚染によって最も懸念されるのが健康被害。同報告書によると、大気汚染は、ぜんそく、肺炎、肺機能の低下といった下気道感染症の原因になるとされています。PM2.5の量がWHOのガイドラインのレベルを1%上回ると、呼吸困難を感じる割合が12.8%、湿った咳(痰の出る咳)が出る割合は12.5%、下気道感染症にかかるリスクは8.1%高くなるとのこと。また、交通渋滞が頻繁に起きたり大規模な建築工事が行われたりする場所では、住民の精神衛生にも悪影響が及び、鬱になる可能性が20%高くなると指摘されています。

 

実際、バングラデシュにおける死亡と障がいの原因で2番目に多いのが大気汚染。2019年には大気汚染が原因で8万人前後が亡くなったと言われています。また、バングラデシュの大気汚染がひどい地域に暮らす子どもたちの間で、下気道感染症の発症率が著しく高くなっていることが明らかとなりました。

 

世界銀行の報告書をまとめたWameq Azfar Raza氏は、「バングラデシュの都市化と気候変動によって、大気汚染はさらに悪化する」と指摘。大気汚染と気候変動による健康への被害に対処しなければならないと述べ、大気汚染状況の監視システムや、公衆衛生の各種サービスの充実・改善など、早急な対応を勧めています。

 

その一方、大気汚染は経済成長にも影を落としかねません。2019年のバングラデシュの国内総生産(GDP)は、公害によって3.9~4.4%下がったと世界銀行の報告書ではまとめられています。世界銀行のバングラデシュ・ブータン担当のDandan Chen氏が「大気汚染は子どもから高齢者まで、あらゆる人を危険にさらす」と述べているように、すべての世代の健康状態を悪化させ、それによって労働人口が減るなど経済成長にも影響を及ぼしていく可能性があるでしょう。

 

「バングラデシュの持続可能で環境にやさしい経済の成長と発展のためには、大気汚染への対応が非常に重要」と、Chen氏は述べています。

 

高度経済成長期(1955〜1970年代初め)に各地で公害が発生した日本を含めて、先進国は経済の生産性が大きく向上していく過程で大気汚染のような公害を起こしてきました。日本では住民の声を背景に自治体が努力して、公害の原因とされる企業と公害防止協定を結んだと言われていますが、そのような経験をバングラデシュにも生かすときかもしれません。

 

※【出典】Raza,Wameq Azfar; Mahmud,Iffat; Rabie,Tamer SamahBreathing Heavy : New Evidence on Air Pollution and Health in Bangladesh (English). International Development In Focus Washington, D.C. : World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/099440011162223258/P16890102a72ac03b0bcb00ad18c4acbb10

 

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ECサイトのフェイクレビューを一掃! インドで「オンライン消費者レビュー」の新基準が制定

 

オンラインショッピングやホテルを予約する際、購入者や利用者のレビューを参考にしている人も多いのではないでしょうか。しかし最近は、レビューが信頼できないケースも増えてきました。こうした問題に対処すべく、インドで世界初となる「ECサイトからフェイクレビューを排除する基準」が導入されました。

 

ECサイトレビューの自主的な開示を義務化

The Times of Indiaの報道によると、2022年11月25日以降、インドにおけるすべてのEC業者や旅行・チケット販売ポータル、オンライン食品販売サイトは、スポンサーのレビューなどを自主的に開示しなければならなくなったと言います。これは、インド基準局(BIS)が作成した「オンライン消費者レビュー」に関する新基準に則ったもの。

 

それにともない、ユーザーなどから購入したレビューや、人を雇って書かせたレビューなどが公開できなくなりました。独立した第三者機関がオンライン上にレビューを投稿する場合にも、この基準が適応されることになります。

 

今回の基準は、製品やサービスに関する偽りや、消費者を騙す目的のレビューを排除するのが目的。違反した場合は不公正な取引とみなされ、事業者は消費者保護法に従って処分されることになります。

 

GoogleやMetaなどのグローバル企業も協力

オンラインレビューにおける新たな基準の策定には、GoogleやMetaといった大手企業も委員会の一員として参加しています。外国資本の意見を取り入れることで、高いコンプライアンスの実現を目指しているのです。

 

BISはレビューの適合性に関する評価方法を策定し、それにのっとったウェブサイトの認証に着手。認証されたウェブサイトは、BISからの証明書を表示することが可能になりました。

 

中央消費者保護局のNidhi Khare(ニディ・カレ)氏は、「オンラインレビューの新基準の焦点は、適切な情報開示。オンラインサイトは消費者が誤解しないように、レビューが収集された期間を明示しなければならない」と語っています。さらに、購入されたレビューは「詐欺以外のなにものでもない」と強調しました。カレ氏によれば、トルコやモルドバでは偽レビューに関するビジネスが横行しているとのこと。

 

日本国内のECサイトなどでも、同様のフェイクレビューが後を絶たない現在、レビューの信頼性を高めようとするインドの取り組みは、その実効性も含めて大いに注目したいところです。

 

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EVで先進国入りを目指すインドネシアの戦い

世界の自動車産業がガソリン車からEV(電気自動車)へシフトする中、最近、大きな注目を集めているのがインドネシアです。同国はEV産業の鍵を握る資源・ニッケルの世界最大の生産国であり、それを生かして多くの雇用を作り、先進国になろうとしています。しかし、そこには課題も含まれており、世界各国がインドネシアの動向を注視している状況です。

EVに賭けるインドネシア

 

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)は、2019年にEVを推進する大統領令に署名しました。その内容は、2025年までにEVの利用者を250万人まで引き上げるというもの。その実現を目指し、インドネシア国内におけるEV産業の促進、充電ステーションの整備、電気料金の規制、EV購入に際する税金の軽減や財政支援などが盛り込まれています。

 

この施策の象徴的な存在が「グリーン・インダストリアル・パーク(グリーン工業団地)」。3万ヘクタールに及ぶ敷地内は主に水力発電でまかなわれ、交通手段としてEVが整備されるという、環境に配慮した住宅地になる予定です。

 

インドネシアがEVを推進する大きな理由は、EVのリチウムイオン電池の原料となるニッケルの生産量が世界で最も多く、約22%を占めているから。ジョコウィ大統領は国内でニッケルの原料を加工するために、2019年から鉱物の輸出を規制し始めましたが、最近では2022年内にはニッケルの輸出を課税する可能性があるとも報じられています。ニッケルの需要が急増している中、インドネシアは輸出税を導入し、バリューチェーン(価値連鎖。企画や生産など企業の一連のビジネスプロセスにおいて付加価値がいかに生み出されているかを示すフレームワーク)で価値を高めたい意向。このような背景を考慮すれば、2022年4月にヒュンダイ・モーターズ・インドネシアが初の国産EVを発売したことは、同国のEV産業にとって画期的な出来事であると理解できるでしょう。

 

EVは経済成長にとってプラス。インドネシアの人口は約2億7000万人ですが、オランダを拠点とするING銀行によると、インドネシアの自動車生産量はASEAN(東南アジア諸国連合)でタイに次いで第2位である一方、販売台数は年間約65万8000台と第1位です。パンデミックの影響で直近では販売台数が落ち込んだものの、2022年には前年比8.7%増、2023年には1.8%増になる見込み。そんな中でEVの生産が盛り上がれば、販売や修理などの関連産業も活発化し、経済成長率が高まる可能性があるとINGは述べています。

 

EV促進の犠牲は環境?

その一方、懸念されるのが環境への影響。環境保護団体の間では、グリーン・インダストリアル・パークは環境アセスメント(環境影響評価)が杜撰に行われており、ニッケルを採掘しているのは許可を得ていない業者が多いという見方があります。もしテスラといったEVメーカーが「インドネシアのサプライチェーン(供給連鎖)は環境への配慮が足りない」と思えば、彼らは環境意識の高い投資家や消費者を考慮して、インドネシア産の資源を使わないかもしれません。その他にも、「これからEVを所有する人が増えれば、大気汚染は改善されるかもしれないが、交通量や渋滞は減らないのではないか?」や「ニッケルを生産するために森林伐採が続き、住民の土地が脅かされるのではないか?」という懸念があります。

 

このような課題を抱えつつ、国内のEV産業に賭けているジョコウィ大統領。ニッケル輸出の規制を巡り、EUやWTO(世界貿易機構)はインドネシアを「国際貿易のルールに反する」と非難しています。しかしジョコウィ大統領は、輸出を規制することで、外国の企業がインドネシア国内により多く投資し、雇用が創出されることを狙っているので、「われわれは閉鎖するのではなく開かれるのだ」と金融メディア・Bloombergのインタビューで主張し、日本や韓国などに投資や技術支援を求めているのです。豊富な資源を自国の経済発展につなげることができるのかどうか、インドネシアから今後も目が離せません。

 

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ウクライナ侵攻の影響大。世界の食料輸入額が過去最高に

国連食糧農業機関(FAO)は2022年11月11日、世界の食料輸入額が過去最高を記録する勢いだと報告しました。国連の広報機関であるUN Newsが掲載したFAOの報告書によれば、世界の食料輸入コストは今年に1兆9400億ドル(約270兆円)に到達する見込みとのこと。これは、2021年と比較しておよそ10%の増加となります。

 

食料の輸入額が上昇した原因として、ロシアによるウクライナの侵攻が挙げられています。両国はあわせて世界における全小麦輸出量の約30%を占めており、その輸出が制限されていることで、食料価格を押し上げているのです。ただし食料価格の上昇と米ドルに対する通貨安を受け、今後、増加ペースは鈍化することが予想されています。

 

深刻化する富裕国と低所得国の格差

食料価格の上昇で現在懸念されているのが、低所得国に与える影響です。世界の食料輸入の増加分の多くを富裕国が占める一方で、低所得国の食料輸入量は10%も縮小。にもかかわらず、輸入総額は横ばいとなることが予測されています。つまり、低所得国による食料の入手が難しくなっているのです。

 

FAOはこのような現象について、「これは食料安全保障の観点から憂慮すべき兆候であり、コストの上昇を補填することが困難なことを示している。低所得国は食料価格の上昇に対する抵抗力を失っている可能性がある」と分析しています。

 

低所得国への国際的な支援が必須

食料価格の上昇を受けて、国際通貨基金(IMF)は、低所得国に緊急融資を行うための「フードショック対策窓口(Food Shock Window)」を新たに承認しました。FAOはこの動きを歓迎し、食料輸入コストを低減するための重要なステップだとしています。

 

一方で食料だけでなく、燃料や肥料などのコストも上昇しています。FAOによれば今年のエネルギーと肥料の世界的なコストは4240億ドル(約59兆円)となり、前年比で50%も上昇しているのです。さらに同機関は、「世界の農業生産と食料安全保障への悪影響は2023年まで続くだろう」と分析しています。

 

食料やエネルギーなどの価格上昇が、とりわけ低所得国に与える影響は決して小さなものではありません。日本をはじめとする各国からの国際的な支援が不可欠ではありますが、農業生産性の向上や、肥料の現地生産化などは、支援だけでなくビジネスによって貢献できる分野でもあります。課題が大きいからこそビジネスニーズも高いとも言える途上国。日本企業の海外展開が期待されます。

 

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「モバイルファイナンス」が貧困を2.6%減らす。UNDPらの共同調査で判明

無線通信企業のボーダフォングループが、国連開発計画(UNDP)、ケニアを代表する通信企業のサファリコムなどと共同で、アフリカ諸国を含めた途上国49か国を対象に、モバイルファイナンスと経済成長の関係を調査し、10月下旬にレポート(『Digital Finance Platforms to empower all』)を公表しました。モバイルファイナンスの経済的な効果が明らかにされています。

アフリカのモバイルファイナンスの代表例「M-PESA」

 

モバイルファイナンスとは、JICAによれば「一般の銀行のような支店網やATMといったインフラを必要とせず、顧客のもつ携帯電話とその通信ネットワークを利用し、代理店を通して預金の引き出し、送金などの金融サービスを提供するサービス」を指します(※1)。モバイルファイナンスがGDP(国内総生産)に与える影響を分析した本レポートでは、「もしモバイルファイナンスが普及していなかったら、GDPはどうなっていたか?」ということがわかります。

※1: JICAバングラデシュ事務所(2015年2月12日付)「モバイル・ファイナンスの台頭 第1回」https://www.jica.go.jp/bangladesh/bangland/reports/report11.html 

 

レポートを読むと、モバイルファイナンスが普及している国(成人1000人あたり300以上のモバイルマネー口座が登録されている国)では、それが普及しなかった(または導入されなかった)場合と比べて、国民1人あたりのGDP成長率が高くなることが示されていますが、その差は最大で1ポイントになりました。

 

例えば、モバイル決済サービス「M-PESA(エムペサ)」が広く利用されているケニアは、国民1人あたりのGDPが現在、約1600ドル(約21万8000円※2)で、2019年の同国のGDPは840億ドル(約11兆4600億円)でした。しかし、M-PESAのようなモバイルファイナンスが普及していなければ、ガーナの国民1人あたりのGDPは1450ドル(約19万8000円)、ケニア全体では760億ドル程度(約10兆3700億円)にとどまっていたと予測されるとのこと。その差はおよそ10%近くになるそうです。

※2: 1ドル=約136.4円で換算(2022年12月1日現在)

 

ボーダフォンとケニアのサファリコムが立ち上げたM-PESAは、2007年にケニアで始まりました。それから15年が経ち、現在このサービスはタンザニアやモザンビーク、ガーナなど7カ国に拡大。アクティブユーザーは5100万人以上で、一日の取引件数は6100万件を超えるそうです。

 

モバイル決済や送金をスマホ一台で行うことができるM-PESAの台頭により、金融包摂(経済活動に必要な金融サービスを全ての人たちが利用できるようにするための取り組み)は強力に推進されました。ケニアを含む4か国のユーザーのうち、1760万人のユーザーは、それまでに金融サービスを利用したことがなかったとのこと。そのような人たちが、地元の銀行と連携してローンを組んだり、送金したり、貯蓄したり、さまざまなことができるようになったのです。

 

モバイル決済ができるM-PESAは、オンラインショッピングなどのサービスを利用して、消費者の生活水準を向上することにも貢献している一方、企業側にとってもメリットがあります。例えば、本レポートに回答した企業の98%は、M-PESAによって支払いがより迅速かつ安全に行えるようになったり、商品やサービスをオンラインで販売できるようになったりしており、事業の運営に役立っていると回答していました。

 

このような理由により、このレポートは「モバイルファイナンスの導入成功で、貧困をおよそ2.6%減らすことができる」と述べています。

 

課題はあるのでしょうか? M-PESAアフリカのSitoyo Lopokoiyit CEOは「モバイルファナインスのプラットフォームにアクセスする側面では、デジタルリテラシーやスマホの所有といった課題があります。また、モバイルファイナンスの発展という側面では、多くの国々で金融サービス業に新規参入するための規制や条件が公平でないという障壁も存在しています」と指摘しています。

 

このような問題がありますが、アフリカなどの途上国で金融包摂を推進することは、UNDPの最重要課題の一つであり続けます。その中でモバイルファイナンスは重要な役割を担っており、今後も途上国の取り組みから目が離せません。

 

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東京メトロの5倍以上の路線延長へ! インドの地下鉄が「日本と韓国を追い抜く」勢いで発展

網目のように地下鉄の路線が張り巡らされた東京は、世界有数の交通ネットワークを誇る都市。アジアの中では中国の北京や上海、韓国のソウルも、地下鉄の路線延長や利用客数において大きな規模を持っていますが、現在、日本や韓国を上回る勢いで地下鉄を発展させているのが、アジアのもう一つの大国・インドです。

インドの首都・ニューデリーの地下鉄の様子

 

2023年には、中国を抜いて人口が世界1位になると予測されているインド。人口爆発に伴い、急速に経済発展を遂げている同国では、公共交通機関の整備が喫緊の課題です。インドの政府系シンクタンク・NITI Aayogによると、同国で登録された自動車の台数は急増しており、1981年ではわずか540万台でしたが、2019年には2億9500万台まで増加。この影響により渋滞や大気汚染、交通事故などの問題が顕在化してきました。

 

長年、インドを支援してきた日本もこの問題を深刻に捉えており、外務省は2016年の「対インド国別援助方針」の重点分野として、主要産業都市の鉄道や国道などの輸送インフラの整備を挙げました。

 

そこで進められてきたのが、地下鉄の建設です。例えば、同国首都・ニューデリーの地下鉄「デリーメトロ」は2002年に開通し、総延長は390kmになります(12路線)。東京メトロは9路線、総延長は約195kmなので、デリーメトロの規模の大きさがわかります。

 

それまで市民の足となっていたバスは治安面で不安がありましたが、地下鉄の完成によって女性でも安全に移動できるようになり、インドの人々の生活が大きく変わっていきました。

 

ニューデリーの地下鉄の影響は他の都市にも及び、いまではインドの20の都市に地下鉄網が張り巡らされ、総延長は810kmにまで拡大。巨大な交通ネットワークが構築されていますが、さらに今後は地下鉄を有する都市を27まで増やし、総延長が980kmにまで伸びる予定です。

 

ハーディープ・シン・プリ石油天然ガス大臣は、インドのケララ州の都市コーチで11月4日から開かれた「第15回アーバンモビリティ・インディア(UMI)会議&エキスポ2022」で、この新しい建設計画について言及し、「インドの地下鉄網は近いうちに日本や韓国を抜く」と述べました。この発言の裏には、このような計画があったのです。

 

人口爆発と経済発展を支える

交通網が発展する一方、課題もあります。それは公共交通機関の料金とラストマイル交通(Last-mile connectivity)。前者については、公共交通機関の利用料金が収入の20~30%を占めている家庭が、人口全体の半数近くになるそう。人々の移動をより利便にする存在とはいえ、地下鉄などがそれほど家計を圧迫するのは好ましい状態とは言えません。

 

他方、ラストマイル交通とは、最寄りの駅から最終目的地までの近距離の交通手段のこと。例えば、最寄りの地下鉄の駅から自宅までをどのように移動するか? その際の交通手段として、インドは電気自動車やライドシェアなど、より安価で利用できるテクノロジーの導入を積極的に推進。この取り組みは「スマートモビリティ計画」として知られています。

 

東京や大阪などの都市に人口が集中する日本と同じように、インドでは2050年に人口の7割が都市部に居住する見込み。交通網の整備はこれからもっと必要になりそうです。

 

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インドが「Web3.0」 で世界をリードする3つの理由

最近、耳にすることが増えた「Web3.0」。1990年代から普及が始まったインターネットの新時代を指す用語で、ブロックチェーン技術を活用したデータの分散化(脱中央集権化)を概念としていますが、このWeb3.0を巡ってインドが野心を燃やしています。

インドの時代へ?

 

まず、Web3.0について簡単に見ておきましょう。インターネットの発展の歴史は大きく3つに分けることができ、それぞれ大まかに以下の特徴があります。

 

Web1.0(概ね1991年〜2004年):ユーザーは消費者。コンテンツは静的(テキスト中心)

Web2.0(概ね2004年〜今日):ユーザーはコンテンツの消費者だけでなく生産者。コンテンツは動的(動画や画像が中心)。巨大IT企業がプラットフォームを構築し、ユーザーのデータを所有

Web3.0(これから):ユーザーは消費者であり生産者。ブロックチェーンに基づく脱中央集権化

 

現在、インターネットはWeb3.0に移行しているところですが、これまでのように米国の巨大IT企業がユーザーのデータを独占的に所有してきた時代とは異なり、これからはユーザーがデータを所有すると言われています。

 

では、どうしてインドがWeb3.0の世界をリードすると期待されているのでしょうか? インドの関係者は3つの根拠を挙げています。

 

1: Web3.0人材が豊富

インドの主要IT関連企業が加盟する団体「NASSCOM」は、インドはWeb3.0で豊富な人材を持っているので、この分野をリードする力を十分に持っていると述べています。毎年、200万人以上がSTEM分野で学位を修めており、ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)関連での雇用は2018年から138%増加したようです。分散型IDプラットフォームのEarth ID社でリサーチ&ストラテジー担当の副社長を務めるSharat Chandra(シャラット・チャンドラ)氏によれば、世界におけるWeb3.0関連の開発者の11%をインドが占めており、その数は世界で3番目に多いそう。さらに今後12〜18か月の間に、同国でのWeb3.0開発者が120%以上増えるとの見通しも伝えています。

 

2: インドにおけるWeb3.0の市場規模

NASSCOMによれば、インドには450社のWeb3.0スタートアップが存在し、そのうちの4社はユニコーン企業(評価額が10億ドル〔約1400億円〕を超える、設立10年以内の未上場ベンチャー企業)。2022年4月までにインドのWeb3.0エコシステムは13億ドル(約1810億円※)を調達しており、今後10年でインド経済に1兆1000億ドル(約153兆円)をもたらすと期待されているのです。

※1ドル=約139.3円で換算(2022年11月14日現在。以下同様)

 

3: 関連製品の開発

CoinDCXやポリゴン(Polygon)、コインスイッチ(CoinSwitch)などのスタートアップを含め、インドのWeb3.0関連企業は、分散型金融(特定の仲介者や管理者を必要とせずに金銭のやり取りを可能とする制度)やゲーム用NFT(非代替性トークン)、マーケットプレイス、メタバース、分散型コミュニティ(企業や組織ではなく、ユーザーが所有する共同体)、オンチェーン調整メカニズム(ブロックチェーン上で暗号資産の取引などを処理する仕組み)などに関する製品を国内だけでなくグローバル向けに開発しています。

 

一方、NASSCOMはインドが克服しなければならない問題も指摘。同国では暗号資産業界と政府、金融当局は必ずしも一枚岩ではなく、暗号資産の利益に対する高い税率や、曖昧な規制などによって、人材と資金が流出していると言われています。

 

このような課題があるものの、インドのWeb3.0業界は世界をリードしようと意欲満々。アメリカの大手IT企業がリードしてきたWeb 2.0の時代とは異なり、Web3.0では「インドの時代」がやって来るかもしれません。

 

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日本のウォシュレットが欲しい! 先進国入りを目指すタイのトイレ事情

11月19日は「世界トイレの日」。2013年に国連が世界各国の衛生状況を改善するために設けました。タイでは19世紀のコレラの蔓延を契機にトイレの普及に力を入れ始め、1980年代の経済発展を経て、今日ではほぼ全世帯にトイレが設置されました。タイ政府は2036年の先進国入りを国家目標とし、公衆衛生の向上に力を入れています。タイのトイレ事情について、その歴史から現在の動向までを説明しましょう。

トイレは先進国入りを目指すタイの象徴

 

タイのトイレ史

18世紀末までのタイでは王族や貴族、僧侶のみがトイレを使用し、庶民は川や森、野原などで用を足していました。昔の俗語で「森に行く」や「畑に行く」は排泄を意味しています。

 

ところが、1817年にインドのガンジス川流域でコレラが大発生し、ラーマ2世統治下のタイ(サイアム)にも被害が及び、バンコクを中心に多くの人が犠牲となりました。その後もコレラはたびたび発生したため、1897年にラーマ5世が「バンコク都公衆衛生法令」を発し、バンコク市民はトイレで排泄するように義務付けられ、トイレの普及に乗り出します。

 

20世紀に入り、米国のロックフェラー財団から援助を受けたタイ政府は、地方でのトイレ建設を進め、設置数を増やしましたが、本格的な普及にはまだまだ及ばない状況でした。1930年代からはトイレ使用と入浴に関する児童用教材を製作し、国民の衛生意識育成を強化。その結果、第二次世界大戦後よりトイレが本格的に普及し始めたのです。タイ国家統計局のデータによれば、全世帯におけるトイレの普及率は2000年に約98%に達したとのこと。

 

日本とかなり異なるタイのトイレ

このような歴史を持つタイのトイレには日本と異なる点が多く見られます。主な違いを3つ挙げましょう。

 

1: トイレットペーパーを流せない

タイのトイレはトイレットペーパーを流せません。タイは水不足に悩まされることも多いので、水不足に備えて下水は配管が細く、水の勢いも弱く設定されています。トイレットペーパーを流すとすぐ詰まるので、トイレットペーパーは使用後に備え付けのゴミ箱に捨てています。

「紙をトイレに流すな」と注意を呼びかけるステッカー

 

2: ハンドシャワーで流す

日本では自動でお尻を洗い流すシャワートイレが普及していますが、タイでは空港や高級ホテル、高級大型商業施設にしか設置されていません。普通の商業施設や一般家庭トイレでは、設置されたハンドシャワーでお尻を流します。下水道の流れは弱くても、商業施設のハンドシャワーの中には水の勢いがとても強いものも。そのため、下着やズボン・スカートが濡れてしまうこともあるので注意が必要です。

 

3: タイ式トイレ

近年は便座式トイレが普及してきましたが、公衆トイレや古い商業施設、地場レストランでは旧来のタイ式トイレが残っています。和式トイレのデザインと似ているものの、和式とは逆にドアに向かってしゃがんで用を足します。水洗式ではない場合、トイレ内にある水槽の水をバケツに汲んで汚物を流します。

タイ式トイレで奥に見えるのが汚物流し用水槽とトイレットペーパーを捨てるゴミ箱

 

このように日本とは異なる点が多いタイのトイレ事情ですが、先進国入りを果たすには公衆衛生意識のさらなる向上が不可欠。そのために、官民挙げたさまざまな動きが見られます。

 

タイ政府は2010年代以降、世界トイレの日に合わせて公衆衛生のキャンペーンを実施してきました。さらに近年では学校教育にSDGsカリキュラムを取り入れ、トイレを中心とした公衆衛生の向上に取り組んでいます。

 

2018年には「20年間国家戦略」に沿い、保健省主導で「2019-2030年 安全衛生管理のためのマスタープラン」が以下のように策定されました。

 

1: 社会的弱者のための衛生的な家庭用トイレの増加

2: 衛生的な公衆トイレ、特に学校のトイレの増加

3: 安全なし尿管理システムの増加

 

各施策の予算配分を厚くし、すべての人の健康増進と伝染病の予防、健全な環境と生態系維持への貢献を目指しています。

 

日本企業もしのぎを削るトイレビジネス

1980年代におけるタイの経済発展に伴い、トイレは旧来のタイ式トイレから便座式に変わってきました。タイ王室系の最大財閥・サイアムセメントは1984年に日本のTOTOと合弁会社「COTTO」を設立し、便座式トイレの展開に着手。その後、アメリカン・スタンダード社が参入し、現在でもタイのトイレはCOTTOとアメリカン・スタンダード社の2社がシェア1位と2位を占めています。

 

TOTOは2013年にサイアムセメントとの合弁を解消し、以降はTOTOブランドでシャワートイレを販売。大型商業施設や高級ホテル、高級コンドミニアムを主な販売先として事業を展開しています。

 

近年、タイ人の日本へのビザなし渡航が解禁されたことで多くの人が日本のシャワートイレの良さに気づき、家庭用シャワートイレ(ウォシュレット)を望む声が高まりました。現在は一般家庭向け低価格モデルのシェア争いで、各社はしのぎを削っている状態です。

 

先進国入り目標に向けてトイレに関しても公衆衛生プロジェクトを推進するタイでは、10年後にはハンドシャワーやタイ式トイレがなくなってしまうかもしれません。タイらしさが薄れる一方で、誰でも利用できる衛生的かつ現代的なトイレが国中に普及するでしょう。

 

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肥料価格高騰のピンチを救うか!? リン輸出が急増する「モロッコ」に世界が注目

ロシアのウクライナ侵攻による世界への影響は、エネルギーを筆頭に、小麦、トウモロコシなどの食料を含めて多岐に及んでいます。しかし、実は農業に欠かせない肥料についても重大な変化が進行中。世界一の肥料輸出国・ロシアが制裁により供給を制限されている中、注目を集めているのがモロッコです。

世界の商人がモロッコのリンを狙う(写真は同国中部の都市・マラケシュの市場)

 

肥料には窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の3つの要素が不可欠であり、それらに沿って肥料は窒素肥料、リン酸肥料、カリ肥料の3つに大別できます。モロッコが注目されているのは、世界のリン鉱石埋蔵量の7割以上を保有し、そこからリン酸肥料の原料となるリンを得られるから。成分の中にリン酸を含む肥料の例としては、家庭園芸用複合肥料のハイポネックス液があります。

 

世界の肥料市場で、モロッコはロシア、中国、カナダに次ぐ世界4位の輸出国。2021年における世界のリン酸肥料の市場規模は約590億ドル(約8.7兆円※)ですが、モロッコのリン酸肥料の収入は2020年で59億4000万ドル(約8740億円)。世界のリン酸肥料のうち1割程度が同国で生産されていることがわかります。

※1ドル=約147円で換算(2022年11月7日現在)

 

モロッコの輸出肥料の売上高のうち約2割を占めている、モロッコ国営リン鉱石公社(OCPグループ)は、2022年6月末に発表した決算報告で、2022年の純利益が前年比で2倍近くになったことを発表。その理由の一つには、ロシアのウクライナ侵攻による肥料価格の高騰があります。しかし、ロシアでの肥料生産量が落ちている中、2022年の第一四半期におけるモロッコのリン輸出は前年同期比で77%増加しました。この勢いに乗って、モロッコは2023年から2026年にリン酸肥料の生産を増加していく計画です。

 

モロッコは1921年からリン鉱石の採掘を開始し、OCPグループが世界最大の肥料生産拠点を建設するなど、肥料生産は同国の経済成長にも大きく貢献してきました。ロシアのウクライナ侵攻が始まる前は、OCPグループが抱える取引先は、インド、ブラジル、ヨーロッパなど、世界各国350社を超えていたそう。

 

また、広大な耕作地を有するアフリカ各国へも肥料を輸出しています。2022年にはOCPグループは、零細農家に無料や割引価格で肥料を提供するなどして、アフリカの農業を支援すると同時に、同国の影響力を高めています。

 

その一方、今後のモロッコにおけるリン酸肥料の生産には課題も。専門家が指摘するのは、水とエネルギーの問題です。リン酸肥料を生産するには、大量の水と天然ガスを使用しますが、モロッコは乾燥しやすい気候で水不足に悩まされているうえ、天然ガス資源も乏しい国。そのため世界の多くと同じように、高騰するエネルギー価格が生産コストに大きく影響します。

 

この課題を克服するために、モロッコ政府は「国家水計画」を立ち上げ、ダムや海水淡水化プラントを建設するほか、再生可能エネルギーに目を向けているようです。

 

世界の肥料業界で注目度を高めるモロッコ。肥料を輸入に依存する日本の政府も、原料の安定調達のため、2022年5月に農林水産省の武部新副大臣を同国に派遣しました。日本国内では肥料価格の高騰をきっかけに、農業のあり方を見直す動きも出てきていますが、モロッコとの関係は今後より一層強化されていく模様です。

 

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日本の安全保障に直結! モンゴルの「デジタル行政」、人口の約6割がすでに使用

ビッグデータやAIといった最先端のデジタル技術を活用して業務プロセスや組織を改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)。世界各国の政府が行政サービスにDXを導入していますが、その中でもモンゴルが大きな注目を集めています。中国やロシアという大国に隣接する同国のDXによる経済発展は、日本の安全保障にも直結。モンゴルで何が起きているのでしょうか?

デジタル化に猛進するモンゴルの首都・ウランバートル

 

2020年、モンゴル政府は「デジタル国家」構築のための5年計画を発表。テクノロジーとデータを活用して、公共サービスの合理化やイノベーションの促進などに取り組むことを明らかにしました。個人情報保護、サイバーセキュリティ、電子署名、仮想通貨など、デジタル変革を進めるうえで避けて通れない各種の法的整備が必要ですが、いずれも2020年に承認されており、2022年5月より施行が始まっています。

 

モンゴルというと、広い草原と遊牧民というイメージとは裏腹に、モンゴルの都市部は携帯電話の普及率が100%を超えるほどデジタル化が普及。そんなモンゴルのDXで目玉の一つとなっているのが、「E-Mongolia」と呼ばれる電子サービスです。

 

これは、パスポートや住民票の申請、企業の登録やビジネスライセンスの申請などを全てデジタルで行えるというもの。役所に出向いて並ぶことなく、オンライン上で手続きを完結できるシステムです。2022年3月時点で利用できる公共サービスの数は630。人口約341万人のモンゴルで、利用する登録ユーザーは200万人とおよそ6割近くに達しているとのこと。同国の成人の75%以上が「E-Mongolia」を日常的に使用しているそうです。

 

さらに、このサービスは決済面でも完全デジタル化し、オンライン決済で行えるとのこと。ちょうどコロナ禍での制度スタートであったことも、同サービスの普及を後押しする一因となったのでしょう。

 

モンゴル国立大学とモンゴル国立科学技術大学の調査によると、「E-Mongolia」は少ない人員で多くのサービスを効率的に行えることから、2021年には約570億モンゴル・トゥグルグ(約24.6億円※1)の経費を節約。2022年には、紙代、輸送費、燃料費、人件費の削減で3000万ドル(約44億円※2)の節約が見込まれているそう。削減した経費は余裕資金として、さらなるデジタル技術革新に投資することができます。

※1: 1モンゴル・トゥグルグ=約23円で換算(2022年11月4日現在)

※2: 1ドル=約147.6円で換算(2022年11月4日現在)

 

次世代リーダーのビジョンと日本の位置付け

この「E-Mongolia」をはじめ、モンゴルのDX推進の立役者となっているのが、2022年に設立されたデジタル開発・通信省。その副大臣には、アメリカのTIME誌による「次世代のリーダー」にも選ばれたことのあるBolor-Erdene Battsengel氏が就任しました。同国での最年少閣僚(29歳で入閣)で、しかも女性であることから、大きな注目を集めています。

 

母語(モンゴル語)の他に英語とロシア語を操り、国連や世界銀行にも勤務していたBattsengel氏は、「遊牧民という文化を持つモンゴルでは、遠方に暮らす人々も行政サービスを受けられるようにすることが重要」と話しています。また「E-Mongolia」にはAIを導入し、国民がどのような行政サービスが必要なのかを的確に把握するなどして、さらなるサービスの改善を図っているそう。

 

さらに、同氏はモンゴルを経済とテクノロジーのハブにするというミッションを掲げています。そのためには国全体のDXとともに、ITスタートアップの育成や若い人材の教育が必要。10代の女子学生にSTEM教育プログラムを提供したり、遠隔地や恵まれない家庭の女子学生に3か月間のブートキャンプを開催したり、さまざまなサポートを行っているようです。

 

国際関係の観点から見ると、モンゴルは中露に過度に依存しない、バランスの取れた外交を目指しており、その中で日本は重要な「戦略的パートナー」となっています。モンゴルとの経済協力について外務省の説明を引用しましょう(以下)。

 

モンゴルは、中国とロシアに挟まれ、地政学的に重要な位置を占める。同国の民主主義国家としての成長は、我が国の安全保障及び経済的繁栄と深く関連している北東アジア地域の平和と安定に資する。また、同国は石炭、銅、ウラン、レアメタル、レアアース等の豊富な地下資源に恵まれており、我が国への資源やエネルギーの安定的供給確保の観点からも重要。

出典:外務省「モンゴル 基礎データ」

 

このような理由で、日本はモンゴルをさまざまな分野で協力しています。例えば、JICA(国際協力機構)では、スタートアップを支援するプログラムを実施し、遠隔医療やデジタル教育、中小企業向けのクラウドファンディングプラットフォームの整備などに取り組む起業家をサポート。モンゴル政府は2024年までにDX化の90%を達成する計画ですが、同国の発展は日本にも良い影響を与えるでしょう。

 

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アウトソーシングの好条件が揃うフィジーのコールセンター事業

 

オセアニア東部の島しょ国であるフィジー共和国(以下、フィジー)でコールセンタービジネスが広まっています。さらに、それにとどまらないアウトソーシングビジネスへの展開も始まっているとか。美しい自然で知られるフィジーで、今なにが起きているのでしょうか?

 

四国とほぼ同じ面積であるフィジーの人口は約90万人。公用語は英語で、フィジー系の住人とイギリス統治時代に移住してきたインド系住民で構成されています。以前はオーストラリアやニュージーランドとの関係が深かったのですが、最近は中国からの投資も増えています。

 

フィジーの主な産業は農業や観光。しかし新型コロナによる影響で、観光業は大きな打撃を受けました。また地域最高峰といわれる南太平洋大学があるにもかかわらず、国内の雇用先が少ないことから、学生が卒業後に他国に出ていってしまうという課題も。そのため、新たな産業への転換はもちろん、学生に向けた新たな雇用を創出するためにも、テクノロジーなど新たな分野への投資が急務でした。

 

コールセンターの設置に適した環境

そんな状況下で急速に広がりつつあるのが、コールセンタービジネスです。フィジーは、地理的にオーストラリアやニュージーランドだけでなく、アジアや北米にもアクセスしやすいのが特徴。また、海底ケーブルが整備されており、インターネットへの接続環境も整っています。しかも公用語が英語であることから、グローバルなビジネスを展開しやすいというメリットがあるからです。

 

このようなフィジーの動きに、早くも各国から熱い視線が向けられています。BBC Newsの報道によれば、オーストラリアの多国籍銀行グループであるANZは、クレジットカード処理や融資業務、支払い、口座サポートのために、フィジーのコールセンターを利用しているといいます。

 

一方、フィジーの地元メディアであるFiji Villageは、世界的な信用調査会社であるPepper Advantageが、同国で大規模なアウトソーシングビジネスを開始すると報じました。これにより、今後5年間で800人から1000人の新しい雇用の創出が期待されるそう。

 

これを受けて「Pepper Advantageによるハブの設立が、フィジーへのアウトソーシングを計画している国際企業の進出を促進するだろう」とフィジーのアウトソーシング事務局長のSagufta Janif(サグフタ・ジャニフ)氏がコメント。さらに、フィジーでさまざまな事業を展開するTruman Bradley(トルーマン・ブラッドリー)氏も、同国におけるテクノロジー産業の構築により、より多くの卒業生がフィジーにとどまり働くことになるだろうとの期待を寄せています。

 

農業や観光業から、コールセンターなどのテクノロジーを活用したアウトソーシングビジネスへと転換を図ろうとしているフィジー。この流れは、雇用の創出はもちろん、フィジー経済の発展にひと役買いそうです。

 

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ジャンプ漫画が人気のインドでも! 世界中で『北斎漫画』が絶賛されている

江戸時代中後期の浮世絵師、葛飾北斎(1760-1849)。力強い荒波の向こうに富士山を描いた『神奈川沖浪裏』は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』に並ぶ名画として、世界でも高い評価を受けています。そんな葛飾北斎の作品と現代の漫画がコラボレーションした展示会「Manga Hokusai Manga」が2022年10月、インド東部のチェンナイにおいて、日印国交樹立70周年を記念したイベントの一つとして、在チェンナイ日本国総領事館などの主催で開かれました。

葛飾北斎の影響は世界中に時代を超えて広がる

 

葛飾北斎といえば、『神奈川沖浪裏』を含めた浮世絵『富獄三十六景』で有名ですが、これまでに残したコレクションは4000点に及び、その中には現代の漫画の原点ともいえる絵が数多くあるのです。それが、全15編からなる絵手本(指導書)『北斎漫画』。魚の種類を図鑑のように描いたものから、庶民が稲作にはげむ様子や米俵をかつぐ姿を表したもの、桃太郎や妖怪が出てくる物語風のスケッチなど、実にさまざまな絵が描かれています。

 

今や世界的に広まった、日本の漫画文化。インドでもその人気は絶大で、書店の漫画コーナーには、日本の『DEATH NOTE(デスノート)』『僕のヒーローアカデミア』『東京喰種 トーキョーグール』などの作品が数多く並んでいるそう。インドでも漫画やアニメが人々の間で根付いてきているようですが、そんな現代の漫画に無意識的に影響を与えてきたのではないかと考えられるのが、葛飾北斎というわけです。そこで、『北斎漫画』と現代の漫画の接点を探ろうと今回の企画展が行われました。

 

本展示会では、『北斎漫画』の一部を展示。さらに、市川春子、五十嵐大介、今日マチ子、西島大介、岡田屋鉄蔵、しりあがり寿、横山裕一の7名の漫画家が今回のために作った作品を展示。また、日本の漫画の特徴でもある、オノマトペ(擬態語や擬音語)の一つひとつに複雑なデザインを施している様子を紹介していました。

 

今回の展示に際し、在チェンナイ日本国総領事館の総領事は、「葛飾北斎は美人画のほか、山や川などの自然を描いた山水画で有名ですが、現代の漫画に通じるスケッチもたくさん描いていました。過去と現代の漫画家たちの間には対話があるはずです」と話していました。そのような視点から葛飾北斎の作品を改めてみると、漫画の魅力がより一層深まるかもしれません。

 

今回の展示に関するコメントではありませんが、『北斎漫画』を紹介したSNSの投稿には「すばらしい!」「傑作だ」「19世紀の漫画を初めて見た」などのメッセージが世界から寄せられています。きっとManga Hokusai Manga展も、日本の文化に興味を持つ人たちの感性に響いたことでしょう。

 

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【1周年特別企画】2022年最注目の「SDGs×ビジネス」人気記事ベスト5!

10/29でNEXT BUISINESS INSIGHTSは、サイトローンチから1周年を迎えます。「ポストSDGs時代を見据えた途上国ビジネスサイト」として様々な途上国の情報を発信し続けたこの一年、どんな記事に注目が集まったのか? ランキングの形で振り返りたいと思います。

 

【トピック&ニュース】世界での日本の影響力がわかる記事がランクイン!

トピック&ニュースのカテゴリーでは、途上国で動きのあったビジネスの最新情報から、新型コロナウイルス、ウクライナ情勢などの世界的トレンド情報まで幅広い情報を発信してきました。ランキングでは、世界における日本の存在感がわかる記事がランクイン。日本からは見えにくい世界や途上国の情報はもちろん、そういった遠く離れた国で日本がどんな影響を持っているのか。そういった視点での興味関心が高いことがわかりました。

 

(1位)5年連続で世界1位!「日本のパスポート」が世界最強であることの意味

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IATA(国際航空運送協会)のデータをもとに作成されている、世界パスポートランキングの2022年3Q版の発表によると、日本は史上最高の193点を獲得し、5年連続で1位に。日本のパスポートがなぜそれほどまでに高順位なのか? また、高順位であることの意味について記事で解説しています。

テーマ:観光

 

(2位)中国とインドが激突! 熾烈な覇権争いが繰り広げられる「中央アジア」とは?

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カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5か国からなる一帯を指す「中央アジア」。近年では、現代版のシルクロードとも言える「一帯一路」構想を立てている中国や、インド、ロシア、そして日本を中心に世界各国がその市場の成長性に注目している地域です。本記事ではその概要と近年の動きをまとめました。

テーマ:アジア、地域解説

 

(3位)インドネシア初の「高速鉄道」9割完成ーーその背景には、日本と中国の熾烈な対決が…。

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インドネシア初となる高速鉄道の建設がついに完成へ。その背景には、2位の記事でも存在感が垣間見える中国とインドの影響が強く見られます。建設に向けて中国、インド、そして日本はどう関係していったのか? 高速鉄道建設による影響と、各国の関係を記事では紹介しました。

テーマ:インフラ、モビリティ

 

(4位)コロナ禍でも日本は世界3位! 日本が20兆を注ぐ「FDI」、アジア向けは過去最高額に到達

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2022年6月、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)が、世界の投資に関する動向を調べた「World Investment Report 2022」を公開。海外で経営参加や技術提携を目的に行う海外直接投資(FDI)の途上国への実績が、2021年より緩やかに増加しています。特にアジアへの投資が増加しているその背景を分析しました。

テーマ:アジア、投資、M&A

 

(5位)憧れの日本のライフスタイルを体現! 「日本式コンドミニアム」がフィリピン・マニラに誕生

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フィリピンの首都マニラで発展著しい地域「BGC」(ボニファシオ・グローバル・シティ)。同地域で誕生した、日本の技術と文化を取り入れた複合開発タワーコンドミニアムの「ザ・シーズンズ・レジデンス」の詳細についてまとめた記事です。

テーマ:建設

 

【国で知るSDGs×ビジネス】途上国での流行病体験記事がトップに。医療関連の記事も人気!

「国で知るSDGs×ビジネス」カテゴリーは、その名の通り各国のトレンドや概要を知ることでSDGs×ビジネスの視点を学べるカテゴリーです。この一年では、アフリカからインド、タイ、ミャンマー、トルコなどの途上国のトレンドにアプローチしつつ、ヨーロッパで盛り上がるヘルステックなど世界的に注目されている情報も注目を集めました。

 

(1位)途上国で新型コロナウイルスに感染したら? 現地スタッフの体験から見える渡航の際の留意点

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2019年末より世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。本記事では、海外で事業に従事するアイ・シー・ネット社員のうち、現地で新型コロナウイルスに感染した社員3名にインタビューを行いました。バングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの、現地でのリアルな体験談をお届けしています。

テーマ:新型コロナウイルス

 

(2位)日本とミャンマーを繋ぐ「食」の可能性! 発酵食品や食品加工技術などミャンマーの特性と現状を探る

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ミャンマーの「食」に着目した記事。2011年以降、政治や経済の改革によって国が大きく発展し「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれているミャンマーの概要と暮らしを「食」にフォーカスして、アイ・シー・ネットの小山氏にインタビューを行いました。サイト全体でも食品や食品加工のトピックは強い人気を持つテーマです。

テーマ:食、食品加工

 

(3位)アフリカ女性のエンパワーメントを加速させる“フェムテック”の可能性を探る

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現在、アフリカ諸国では、女性の生理用品でさえ満足に普及していない状況と言います。エチオピアの事情に詳しくジェンダー支援にも関わる、アイ・シー・ネットの太田みなみ氏のインタビューを通じて、世界的に注目される「フェムテック」のアフリカ市場での可能性について追いました。

テーマ:ジェンダー、フェムテック

 

(4位)日本とは違うバングラデシュの「薬局」。ヘルスケア市場の課題解決の一手「リスクアセスメントシステム」について

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南アジアの親日国としても知られているバングラデシュ。ますます注目が高まる開発途上国の一つですが、医療体制や保険制度については未整備な部分もあるそうです。本記事では、ICTを活用した疾患の早期発見システムを開発し、バングラデシュの薬局への導入を目指す医療系スタートアップの取り組みを紹介しています。

テーマ;医療、e-Health

 

(5位)ヨーロッパで急成長中の医療×IoT「e-Health」、日本も注目すべき最先端を追う

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IoTを通じて個々の健康を増進する「e-Health」の取り組みが、世界各地で行われています。2022年5月にパリで開催された展示会「SANTEXPO 2022」では、最先端の取り組みを行う企業、研究・教育機関、NGOがヨーロッパ各地、さらにはそれ以外の地域からも出展。この記事では、ヘルスケア・介護×IoTの最新トレンドを通じて、e-Healthの最新事情をお届けしています。

テーマ;医療、e-Health

 

【人で知るSDGs×ビジネス】リユースビジネス、中古車輸出、遺品整理…日本から途上国へ多彩なアプローチを行う企業を紹介

「人で知るSDGs×ビジネス」カテゴリーでは、日本から途上国へ途上国ビジネスを展開する企業や、アイ・シー・ネットの現地スタッフが行っている活動・施策を通して、途上国ビジネスの可能性を探る記事を展開。ランキングでも、多彩なビジネスアプローチをする企業の記事が数多くランクインする結果となりました。人材開発、教育関連の記事が上位に入ったのも特徴です。

 

(1位)「海外と日本をつなぐ仕事がしたい」夢を追いかけタイへ! 経済成長が加速する国でリユースビジネスと海外進出支援業

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現在、日本の中古リサイクル品が、タイをはじめ東南アジアで人気になっています。本記事では、自社でもリサイクルショップを運営し、かつ、現地の店にも商品を卸すリユースビジネスを展開するほか、企業の海外進出支援もするASE GROUPのCEOである出口皓太さんにインタビューをしました。

テーマ:リサイクル

 

(2位)アフリカでもっとも有名な日本企業ビィ・フォア―ド社長が語る、アフリカビジネスの最前線

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2004年に設立された株式会社ビィ・フォアードは、越境ECサイトによる中古車輸出事業をアフリカで広く行い、2020年度の業績は売上高562億円、中古車輸出台数約12万5759台を達成し、業績を伸ばし続けています。アフリカでもっとも有名な日本企業ともいわれるビィ・フォアードの代表取締役社長・山川博功氏に、アフリカに注目した経緯や、現在の事業、途上国ビジネスの魅力などについてお聞きしました。

テーマ:アフリカビジネス、モビリティ

 

(3位)アフリカビジネスの大きなきっかけに!「ABEイニシアティブ」卒業生がこれからの日本企業に欠かせない理由とは?

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日本の大学での修士号取得と日本企業でのインターンシップの機会を提供するプログラム「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)」、通称:ABEイニシアティブ。2014年から現在までで、ABEイニシアティブを通じて1286人ものアフリカ出身の留学生が来日。留学生のなかには、プログラム終了後の進路として、日本企業へ就職する人がいます。本記事では、2019年より仙台を拠点とするラネックス社で活躍するセネガル出身のABEイニシアティブ卒業生、ブバカール ソウさんにABEイニシアティブでどのようなことが学んだのか、また日本企業で3年以上働いてみてどんな感想を抱いているのかを聞きました。

テーマ:教育

 

(4位)これからの子どもたちの学びに必要な「Playful Learning」と「6Cs」スキルーー「遊びを通した学び」で、社会で成功するスキルを身に付ける

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多様化するこれからの社会で、世界共通の重要なトピックである「教育」。新たな教育システムなどが模索される中、世界各地で実施されているのが、米国テンプル大学心理学部教授のキャシー・ハーシュ=パセック教授らが推進する「Playful Learning(遊びを通した学び)」です。キャシー教授に、“遊び”の重要性や「Playful Learning」、これからの社会で欠かせないスキル「6Cs」などについて、さまざまな事例を交えながら教えてもらいました。

テーマ:教育

 

(5位)「遺品整理サービス」に活路! 遺品整理品のリユースビジネスを開拓する「リリーフ」インタビュー

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少子高齢化社会が進むいま、終活にまつわるサービスを展開する企業が増えています。そのなかでも参入企業が増えているのが、「遺品整理サービス」です。そんな数ある片付けサービスを扱う企業のなかでも、存在感を強めている「株式会社リリーフ」の赤澤氏に、海外における中古品の海外輸出事業や、これからの片付けサービスの課題について聞いてみました。

テーマ:遺品整理、リサイクル

 

以上が、ローンチ1年間における各カテゴリーでの人気記事ランキングでした。途上国ビジネスと言っても数えきれないほどの課題やトピックが存在します。その数だけビジネスチャンスは存在するわけで、編集部では2年目も読者の皆様が取り組む事業のヒントになる情報や、皆様ひとりひとりが途上国と日本を含む世界全体の社会課題解決を考える一助になるコンテンツをお届けしていきます。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

アパレル輸出額が今後10倍予想! バングラデシュと日本の自由貿易協定、締結間近か。

 

インドとミャンマーの間に位置するバングラデシュは、1億6000万人以上の人口を抱える、世界で最も人口密度が高い国。もともと稲作やジュート(黄麻)の生産など、農業が盛んでしたが、近年は労働力の豊富さと人件費の安さから、日本をはじめ海外資本による製造業の進出が目立っています。これにより、同国は成長が期待される新興国「NEXT11」にも数えられています。

 

現在、日本はバングラデシュにおいて、マタルバリ港やダッカの地下鉄やハズラト・シャジャラル国際空港の第3ターミナルなど、今後数年以内に完成予定の大規模プロジェクトに関わっています。

 

そんな同国と日本との間で、自由貿易協定(FTA)または経済連携協定(EPA)締結の動きがあることを、地元紙のThe Daily Starが報じています。バングラデシュとのFTAの締結によって、とくにビジネス面で日本にどのようなチャンスが生まれるのでしょうか。

 

衣料品を中心に対日輸出が急増中

実は、バングラディッシュは国連開発計画委員会(CDP)により、後発開発途上国(LDC)に位置づけられています。この「LDCの特恵貿易」の恩恵により、同国の対日輸出はアパレル製品を中心に急成長。今年度の対日輸出額は13億5000万ドル(約2000億円)となり、前年比で14.4%増となりました。そのうち11億ドル(約1600億円)は衣料品が占めています。

 

バングラデシュから日本への衣料品の出荷量は、日本がLDCの国々におけるニットウェア分野の原産地規制を緩和した2011年4月から急増しました。それ以前は、日本は自国産業を保護するため、ニット製品に関税を設けていたのです。

 

バングラデシュにとって日本は、衣料品輸出が10億ドル(約1500億円)を超えた唯一のアジア諸国です。駐バングラデシュ日本大使である伊藤直樹氏は、アパレル製品の出荷額は2030年までに10倍の100億ドル(約1兆5000億円)に達するだろうと予測しています。

 

11月にもFTA締結に向けた交渉がスタートする!?

また伊藤大使は、バングラデシュと日本がFTAやEPAに署名し、より多くの日本への投資を誘致するためには、さらなる投資やビジネス環境を改善する必要があるとも述べています。氏によれば、バングラデシュの日本企業の数は過去10年間で3倍に、そして2022年には338社に達するのだとか。さらに、首都ダッカ近くのナヤランガンジにある日本の経済特区は、施設やインフラ、労使関係、ビジネス環境の面でアジア随一になるだろう、との発言もありました。

 

一方で、バングラデシュのTapan Kanti Ghosh(タパン・カンティ・ゴッシュ)商務上級秘書官はThe Daily Starに対し、「バングラデシュと日本は今年11月に協力覚書(MoC)に署名する予定です」とコメント。同国のハシナ首相が11月にも日本を訪れ、FTAの交渉が始まる可能性があるそうです。急速に接近しつつあるバングラデシュと日本。FTAないし、EPAが締結されれば、衣料品分野のみならず、さまざまな分野でのビジネスが期待できそうです。

 

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インドが中国を抜いてトップへ!「世界人口」がもうすぐ80億人に到達

国連経済社会局人口部の『世界人口推計2022年版』によると、2022年11月15日に世界人口は80億人に到達します。その約6割はアジアに集中する一方、サハラ以南のアフリカ諸国などでは人口が著しく増加していく模様。ヒトへの投資がますます重視されています。

人口はあっという間に80億人へ

 

世界人口はわずか100年の間に爆発的に増加してきました。初めて10億人に達したのは1804年。その後、1927年には20億人となり、それから100年も経たないうちに、その数は4倍増えることになります。

 

ただし、多くの国で出生率が低下しているなどの理由で、増加率は鈍化。2030年には約85億人、2050年には約97億人、2080年には約104億人になると見られていますが、人口はその頃にピークに達し、2100年まで104億人の数字でとどまると国連は予測。

 

大陸別に見ると、アジアの人口が際立っています。世界人口推計で人口が最も多い国は中国(14億4850万人)で、次がインド(14億660万人)。そのため、米ポータルサイト・Big Thinkの概算によれば、アジアだけで世界人口の58%を占める模様で、アフリカでさえも2割にもなりません。対照的に人口が最も少ないのはオセアニアで、わずか4400万人。これは日本の首都圏の人口(2020年に4434万人)とほぼ同じレベルにあたります。

 

【大陸別の人口と割合(概算)】

1位 アジア(約47億人、58%)

2位 アフリカ(約14億人、17.5%)

3位 ヨーロッパ(約7.5億人、9%)

4位 北米(約6億人、7.5%)

5位 南米(約4.4億人、5.5%)

6位 オセアニア(約4400万人、0.5%)

(出典:Big Think)

 

現在、世界人口ランキングのトップを争うのが中国とインド。これまで人口が爆発的に増えてきた前者ですが、2022年7月時点で人口は14億2589万人となり、若干の減少が見られるようになりました。日本と同様に、中国でも少子高齢化が進み、労働人口が減少していることから、これから人口がどんどん減少していくと見られています。

 

それに対して、インドは2023年に中国を抜いて世界トップになる見込み。2063年頃に16億9698万人に達すると、その後は減少していくと予測されており、結果的に2100年時点での人口は中国が約5億人、インドは約10億人になるそうです。

 

また、中国やインドと共にBRICS(近年、著しい経済成長を遂げたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国を指す)を構成するロシアは、世界で最も面積の大きい国であるものの、人口は1億4580万人と世界第9位。インドの東側にあるバングラデシュの人口(1億6700万人)よりも少ないのです。バングラデシュでは人口が増加傾向にあるのに対し、ロシアは少子化が進み、両国の差は今後さらに開くものと考えられます。

 

もっとヒトに投資を

一方、国連は、2050年までに増加が見込まれる世界人口の半数超が8か国――コンゴ、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニア――に集中すると見ており、その過半数をサハラ以南のアフリカ諸国が占めると予想しています。

 

とはいえ、サハラ以南アフリカの大半の国々とアジア、南米、カリブ諸国の一部では最近、出生率が減少したようで、それによって生産年齢人口(25歳から64歳の間)の割合が増加。この変化は一人当たりの経済成長を加速する機会(専門用語で「人口ボーナス」と呼ばれる)をもたらすそうですが、その利益を最大化するためには「人的資本のさらなる開発に投資すべき」と国連は説き、ヘルスケアや質の高い教育へのアクセス、雇用を促進することが必要だと述べています。

 

日本は世界一の高齢化社会であるものの、世界人口の増加はアジアに集中。サハラ以南のアフリカを含めて、両大陸の人口の動向から目が離せません。

 

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インドネシア初の「高速鉄道」9割完成ーーその背景には、日本と中国の熾烈な対決が…。

もうすぐインドネシアで、同国初となる高速鉄道の建設が完成を迎えます。首都ジャカルタの混雑を緩和することが期待されていますが、インドネシアがここまで至るまでには、日本が中国に出し抜かれるという波乱がありました。さまざまな思惑が交錯する中、この高速鉄道はインドネシアのインフラを変えようとしています。

↑開業に向けてラストスパート!

 

この高速鉄道は、インドネシアの首都ジャカルタと西ジャワ州の州都・バンドン間の約142㎞を結ぶもの。これまで3時間かかっていた2都市間の移動を約40分に短縮するもので、2016年から建設が開始され、およそ6年を経て、9割が完成する状態にまでなったそうです(2023年6月に開業予定)。先日、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)がバンドン駅を視察し、車両などを確認したことが国内外で大きく報じられました。しかし、このニュースに一番安堵しているのは中国かもしれません。


もともと、この高速鉄道プロジェクトは日本が働きかけていました。安全性が高く、しかも定時に運行する日本の新幹線は、世界でも高く評価されています。その技術は海外でも活用され、日本政府も日本の新幹線や鉄道の輸出に力を入れてきました。2019年にインドネシアで初めて誕生した地下鉄は、日本が全面的に支援していたのです。この高速鉄道プロジェクトでも当初は日本が有利とされていました。

 

一方、日本に劣らない技術と経済力を持っていると主張しているのが中国。2015年に中国はこの高速鉄道建設プロジェクトの入札に参加しました。インドネシア政府による債務保証を伴う円借款を提案していた日本と違って、中国は債務保証を求めませんでした。インドネシアは財政負担を避けたかったのです。

 

熾烈な駆け引きがあったと報じられるなか、結局、インドネシア政府は中国を選び、中国の国家開発銀行が総工費の75%を融資することになりました(残りの25%はインドネシアと中国の企業からなる合弁企業の資金で賄う)。

 

中国の落札の裏には、2013年に習近平国家主席が打ち出した「一帯一路」戦略があります。これはアジア各国やヨーロッパに陸路と海上航路の物流ルートを作り、巨大な経済圏を構築する構想。かつて中国とヨーロッパの間にあった交易路「シルクロード」の現代版と言えるでしょう。インドネシアの高速鉄道建設を一帯一路の一環と捉えた中国は、積極的な支援に乗り出すようになり、日本に勝ちました。

 

このように、この高速鉄道プロジェクトには中国の威信がかかっているとも言えます。車両の設計と製造は中国中車青島四方機車車両が行いました。最高速度は時速350kmに達するとのこと(日本の新幹線の最高速度は現時点で時速320km)。この列車は、インドネシアのような熱帯気候に適応するよう改良されているそうです。

 

とはいえ、この計画は落札後も順調に進んでいたわけではありません。土地の購入が計画した通りに進まないうえ、新型コロナウイルスが発生。そのため、当初は2019年に開業予定でしたが、度重なる延期に見舞われました。最終的には750kmの距離まで延伸される予定ですが、ひとまず第一段階としてジャカルタ—バンドン間の開通にこぎつけるまでに至ったのです。

 

紆余曲折を経て高速鉄道が完成すれば、インドネシア国内の物流が良くなることは確か。2014年の大統領就任からインフラの改善を掲げてきたジョコウィ氏は「この高速鉄道がモノとヒトの移動をより速く、より良くし、インドネシアの競争力を高めることを祈っている」と述べています。中国のプレゼンスは高まっていますが、日本のまき返しにも期待したいですね。

 

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電気代ゼロも可能! インド初「100%太陽光発電の村」が誕生

世界中でエネルギー価格が高騰する一方、化石燃料に頼らない、再生可能エネルギー確保の重要性が叫ばれています。そんななか、インドのナレンドラ・モディ首相は先日、グジャラート州にあるモデラで「太陽光発電100%の村」が誕生したと高らかに宣言しました。インド初となる太陽光で成り立つ村は、どのようになっているのでしょうか?

太陽光発電で希望の光を灯す

 

モデラは、グジャラート州の州都であるガンジナガールから約100㎞離れた場所にある小さな村。ここに中央政府と州政府が80.66億ルピー(約145億円※)を投じて、1300台以上のソーラーパネルを住宅の屋根に設置しました。さらに近くのサジャンプラ村には12ヘクタール分の土地を確保し、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)を導入。このBESSは、ソーラーパネルで発電した電力を貯蔵できるシステムで、太陽光発電には欠かせない存在です。これらの設備により、日中はソーラーパネルから、夜間や曇りの日にはBESSから電力が供給され、住民はそれを利用することができるのです。

※1ルピー=約1.8円で換算(2022年10月17日現在)

 

また、村の中にはソーラーエネルギーによる電気自動車の充電ステーションも設けられたそう。村の住民は正真正銘、太陽光から得たエネルギーだけで生活できるようになるのです。従来、この村には政府が電力を供給していたそうですが、今後、住民は電気代を60%〜100%減らすことができるとされているうえ、さらにソーラーパネルで得た電力を売って収入を得ることも可能。モディ首相は「モデラ村の住民は、電力を消費する立場であると同時に、電力を生産する立場でもある。ぜひ電気を売って、収入を得てほしい」と呼びかけました。

 

モデラ村があるグジャラート州は、年間を通して雨が少なく、冬の間はほとんどの日が晴れているそう。夏はモンスーンの季節ですが、日差しは強く、気温が40度以上になる猛暑日が多くなります。そんな気候は太陽光発電に適していると言えるのでしょう。

 

インドでは、2030年までに太陽光発電などの再生可能エネルギーを500ギガワットまで導入し、2070年までには温室効果ガスの排出をネットゼロ(正味ゼロ)にする目標を掲げています。その中でインド初の太陽光発電の村の存在は、モデルケースとして今後ますます注目を集めていくことでしょう。

 

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「ドローン配送」の普及へアフリカが猛進! ジップラインと大手EC企業が提携

2022年9月、ドローン配送のスタートアップとして知られるジップラインが、アフリカの大手EC(電子商取引)企業・ジュミアと提携したことが発表されました。これにより、アフリカでドローン配送の普及が進むことが期待されていますが、その影響は日本を含めた先進国に及ぶかもしれません。

アフリカから先進国に向かって飛んでいくか?

 

ヘルスケアや小売分野でドローン配送に取り組むジップラインは、アメリカやアフリカなどで事業を展開しており、過疎地への医療機器やワクチンなどの配送で注目を集めています。例えば、ルワンダやガーナでは、病院から依頼を受けるとドローンが輸血用の血液パックを積んで離陸し、病院に届けています。このサービスは、コロナ禍ではワクチンや日用品の配送を可能にする手段として世界から熱い視線を集めてきました。これまで配送したワクチンは500万ユニット以上。日本では豊田通商と提携しており、長崎県五島列島の医療機関への医療用医薬品のドローン配送の試験を2022年から始めています。

 

一方、ジュミアはアフリカを代表するマーケットプレイスを運営するほか、デジタル決済のプラットフォームや物流事業を展開。現在ではアフリカの11か国で30以上の倉庫を有し、ドロップオフ&ピックアップの拠点は3000以上になります。2019年にはニューヨーク証券取引所に上場しており、金融情報を提供するリフィニティブによると、時価総額は7億4100万ドル(約1091億円※1)です。

※1: 1ドル=約147.2円で換算(2022年10月14日現在)

 

今回、この二社が提携したのは、ジュミアが構築してきた流通・物流ネットワークの圏外のエリアへ配送することを可能にするため。アフリカにおけるECの利用が拡大している中、ジュミアでは流通網が十分に整っていない農村部からの注文が配達件数のおよそ27%を占めるようになりました。そこで、従来の配送サービスでは難しかったラストワンマイル(※2)への配送にドローンで対応しようと乗り出したのです。

※2: サービス提供者の最後の拠点から顧客・ユーザーまでの「最後の区間」のこと

 

ガーナで行われた最初の試験では、1時間未満で85㎞離れた場所までの配送に成功。大きさや重さが異なるさまざまな商品を組み合わせながら、実験を繰り返してきたそうです。将来的にはコートジボワールやナイジェリアにも本サービスを拡大するとのこと。

 

リバース・イノベーションの可能性

ドローン配送は、アマゾンや中国大手の京東集団(JD.com)といった大手ECはもちろん、フェデックス、UPSなどの物流企業も取り組みを初めている分野です。また、自動車と比較すると排出する温室効果ガスが98%も少なく、環境にもやさしい点もメリットの一つと言われています。

 

ドローン配送は先進国でも有用ですが、交通網や流通網が発展していない途上国や過疎地で真価を発揮することは間違いありません。そのため、今回の提携をきっかけに、アフリカのような新興国でドローン配送が一気に普及し、それが先進国に波及して革新を起こす「リバース・イノベーション」が起こることも考えられるでしょう。

 

世界各地で広がるドローン配送。まだ日本は実用化に向けて試験を行なっている段階ですが、これまで以上に当たり前に利用される日は確実に近づいているのではないでしょうか?

 

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日本の漫画はアフリカでも人気!「コミコン・アフリカ」が3年ぶりにリアル開催

2022年9月下旬、南アフリカのヨハネスブルグで、アフリカ大陸最大のマンガイベント「コミコン・アフリカ(Comic Con Africa)」が開催。大勢のマンガ好き、ゲーマー、コスプレーヤーが集まり、新型コロナウイルスのパンデミック以降、3年ぶりとなる同イベントは大盛況で幕を閉じました。マンガやアニメはアフリカでも巨大なポップカルチャーになりつつあります。

大盛況!(画像提供/Comic Con Africa)

 

「コミコン・アフリカ」が初めてアフリカで開催されたのは2018年のこと。米国・ニューヨーク最大のポップカルチャーイベント「NYコミコン」やシアトルで開催される「エメラルドシティ・コミコン」などを手掛ける企業リードポップが主催し、コミックやマンガのコンテンツを制作する企業、出版社、インフルエンサーなどを招き、地元のマンガファンとの交流を楽しむイベントとして始まりました。

 

もともとアフリカでは、日本の漫画とアメコミ(アメリカのマンガ)が高い人気を集めており、アフリカと世界を結ぶ場所として南アフリカが開催地に選ばれたのです。2018年の初回は、イベント開幕前にチケットが完売。その成功から、翌年の2019年には大手スポンサーがついて会場も大きくなり、アフリカ各国や世界中から多くの来場者を集めるイベントに成長しました。

 

その後、2020年はパンデミックでオンラインイベントに移行。翌年は中止になりましたが、2022年は3年ぶりのリアルイベントの開催とあって、これまでよりもさらに大きな会場が選ばれました。7万5000人を収容できるヨハネスブルグ・エクスポセンターを舞台に、4日間にわたり、マンガ、映画、ゲーム、コスプレなどのファンが集い、アフリカで過去最大のイベントとなったのです。参加したコスプレーヤーの中には、マーベルやセーラームーン、ハリー・ポッター、鬼滅の刃のキャラクターの装いをしている人たちがいました。

 

【コミコン・アフリカ2022の初日の様子】

 

アフリカ人にとってのマンガ・アニメ・コスプレは何を意味するのでしょうか? ヨハネスブルグに暮らし、今回のコミコン・アフリカに参加した女性のコスプレーヤーは、SF映画『アバター』に登場する、神秘の星パンドラの先住民ナヴィ族のネイティリを装い、「私にとってネイティリは、とてもパワフルで自分の村や部族のために戦うアフリカの女性です」と自分に重ねながら話しています。

 

また、12年間、映画のコスチュームデザイナーとして働いてきた人が自身もコスプレを楽しむようになり、今回のイベントに参加したというケースも見られました。アフリカでもマンガやアニメ、コスプレといったポップカルチャーの人気はとても高く、日本やアメリカが生み出す作品を見て育ったクリエイターたちが業界を引っ張りながら、着実にその文化が人々の間に根付いていっているようです。

 

2022年の開催では、ファン同士や業界関係者のコミュニケーションに満足感を覚えた参加者が多かったようです。実際、現地のコミックアーティストからは「オンラインでの開催となった2年間を取り戻したような感じだった」「とても楽しんだ」という声がありました。

 

締め切り前の停電は痛すぎる

一方、コミコン・アフリカに参加したコミックアーティストの中には、マンガやコミック、アニメがアフリカでさらに発展するうえでの課題を指摘する人もいます。ヨハネスブルク在住でマーベルなどのコミック作品を描くジェイソン・マスターズさんは「私たちはデジタルで仕事をしています。タブレットも持っているから、停電になっても数時間程度なら仕事を続けられます。でも、締め切り前に停電になったときはつらかった!」と、テクノロジー系メディア・Glitchedのインタビューに回答。安定的な電力供給を可能にするインフラの整備が求められているようです。

 

インターネットが発達してSNSが身近になった今日、個人が自分の作品をSNSに投稿するなどして広く世界に紹介することが簡単にできるようになっています。それをきっかけに新しいコミュニティが生まれたり、新しいアーティストの発掘につながったりする可能性が増えているのです。コミコン・アフリカでは、現地のアーティストが自分の作品を紹介できるプラットフォームの構築も検討しているそうで、コミコンの盛り上がりの後押しを受けて、この業界の新しい発展が期待されています。

 

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145兆円経済を狙え! ナイジェリアが仮想通貨に特化した「バーチャル経済特区」を設立

アフリカで最大の人口を誇るナイジェリア。同国はデジタル経済への大転換を進めていますが、9月3日(現地時間)、同国の輸出加工区庁(Nigeria Export Processing Zones Authority、略NEPZA)が西アフリカ初の仮想通貨に特化した経済特区「バーチャル・フリー・ゾーン(Virtual Free Zone)」を設立すると発表しました。

デジタル経済大国へまっしぐら?

 

同庁はこの経済特区計画で、大手暗号通貨取引所のバイナンス(Binance)と、テクノロジーを活用した都市革新に取り組むタレント・シティ(Talent City)と提携する予定。これら3者はまだ協議中の模様ですが、この計画によってナイジェリアではどのようなビジネス展開が可能となるのでしょうか?

 

NEPZAでマネージング・ディレクターを務めるアデソジ・アデスグバ(Adesoji Adesugba)氏は、「バーチャル・フリー・ゾーンを生み出すことで、1兆ドル(約145兆円※)近くのお金が動くブロックチェーンやデジタル経済を活用したい」と述べています。また、この計画の枠組みはドバイのバーチャル・フリー・ゾーンと似たものになるそうですが、現時点で詳細は明かされていません。

※1ドル=約144.7円で換算(2022年9月28日現在)

 

アフリカのメディア・Techpoint Africa(TA)によれば、バーチャル・フリー・ゾーンは、関税を撤廃し、製造業や輸出入を促進する自由貿易地域(FTZ)のデジタル版となる可能性があるとのこと。FTZを仮想通貨に適応すれば、メタバースやモバイルアプリ、ウェブサービスなどのデジタル製品を、規制を受けずに取引することができるデジタル経済空間となるかもしれません。

 

しかしその一方、TAは、今回の発表がただの注目集めだった可能性があるとも指摘。TAが調べたところ、バイナンスはドバイと協定を結んでいるものの、これはバーチャル・フリー・ゾーンと関係がなかったそうです。バイナンスとDubai World Trade Centre Authorityの協定の目的は「グローバルな仮想資産の産業ハブを設立する」というもの。同社とナイジェリアの間でも同様の協定が結ばれた可能性は考えられますが……。

 

謎に包まれたナイジェリアのバーチャル・フリー・ゾーン計画。同国は2021年10月にデジタル通貨の「eナイラ」を導入するなど、暗号通貨の普及が急速に進んでいますが、この経済特区は果たして実現するのでしょうか? 今後の展開に期待です。

 

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インドが「ソバの生産」に注力! 不透明感が増す日本のそば事情を変えるか?

2022年9月、インド東部のメーガーラヤ州にソバの実を生産する農家が集い、そば粉から作ったパンやスイーツなどが披露されるなど、そばをテーマにした一大イベント「メーガーラヤ・ソバ・グローバルショーケース2022(Meghalaya Buckwheat Global Showcase 2022)」が開かれ、日本の関係者も招かれました。一体なぜメーガーラヤ州は、ソバの実の生産に注力しているのでしょうか?

日本とインドの間で”細くて長い”貿易になる?

 

そば粉の原料になるソバの実の生産にメーガーラヤ州の農家が注力している理由の1つは、そばの高い健康効果。食後の血糖値の上昇度を示すグリセミック指数(GI)というものがあり、糖質が多くて食物繊維の少ない食品はGI値が高く、血糖値を一気に上昇させて、糖尿病や肥満を起こす原因になると考えられています。GI値が70以上は高GI食品に、56〜69の値だと中GI食品になりますが、そばのGI値は55前後。糖分を穏やかに吸収しながら、糖尿病や肥満などを防ぐ低GI食品なのです。また、そばは繊維質が豊富で、良質なタンパク質を含んでいるため、栄養価が高く、栄養バランスに優れた「スーパーフード」の1つとされています。

 

インドは、都市部の約28%の人が糖尿病または糖尿病予備軍と言われるほどの糖尿病大国。そこで、小麦や米をソバに切り替えて、健康的な生活を送ろうという動きが出てきているのです。

 

もう1つの理由として、ソバの実の需要が世界的に増加していることが挙げられるでしょう。インドのMarket Data Forecastによると、2022年における世界のソバの実市場規模は14億ドル(約2040億円※)。2027年までの今後5年間で、年平均成長率2.9%で伸びていくと見られています。2020年の国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、世界のソバの実の生産量は約181万t。生産量の多い上位国はロシア(89.2万t)、 中国(50.4万t)、ウクライナ(9.7万t)です。生産量で世界第6位の日本も7~8割程度を輸入に頼っており、ロシアや中国、アメリカから多くを輸入している状況。最近では、米中摩擦の影響で中国が減産するなどしたため、ソバの実の価格は高騰していますが、上述した健康的な側面から、そばの需要は世界的に伸びていくと予測されているのです。

※1ドル=約145.7円で換算(2022年9月22日現在)

 

インドのソバ輸出に日本も期待

比較的栽培しやすいと言われるソバ。メーガーラヤ州ではここ3年間で、理想的な植え付け時期を把握するために、何度もソバ栽培を試みるなどして、地域での最適な農法を探ってきました。同州はようやくその農法を確立しつつあるようで、少しずつ栽培面積を拡大していく段階に至っていると見られています。

 

それに加えて、メーガーラヤ州では日本が道路建設プロジェクトを支援するなどしてきた歴史があり、昔から日本とつながりのある地域。そのため、そばの輸出先の1つとして日本に熱い視線を送っているようです。今回のイベントに出席した在インド日本国大使館の北郷恭子公使は「そばは日本文化の1つであり、日本のソバ栽培の専門家たちは技術移転という形で、ソバ栽培技術の普及に取り組んでいます」とコメント。日本もインドに期待を寄せているようです。

 

最近の日本では、2021年に中国産のそば粉が値上げしたうえ、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻によって、ロシア産のソバの実の供給が止まる可能性も取り沙汰されており、そばを巡る状況は不透明感を増しています。今後インドは、日本にとって重要なソバの実の生産国になるかもしれません。

 

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石油はGDPの1割未満! 石油からICTに大転換するナイジェリア経済

1956年に初めて油田の存在が確認されたナイジェリア。これまで石油の生産は同国の主要産業でした。しかし近年、ナイジェリアの産業に大きな変化が生まれており、石油の役割が縮小している模様。代わりに、これから同国の経済を牽引するのは、情報通信技術(ICT)になる可能性が高まっています。

デジタル化が進むナイジェリアの経済

 

アフリカのテクノロジー系メディア・TechCabalは9月1日、2022年第2四半期におけるナイジェリアの国内総生産(GDP)で、ICTの占める割合が18.44%になったと報道。一方、石油産業のGDP構成比率は6.33%に低下し、非石油部門が93.67%を占めるようになりました。

 

ナイジェリアは、2021年のGDPが約4408億ドル(世界銀行。約63.4 兆円※)とアフリカ最大の経済国です。原油の発見は同国に新しい富をもたらした反面、天然資源が見つかったことによって、国の産業が弱体化するという「オランダ病」も引き起こし、ナイジェリアは多くの消費財を輸入に頼るようになりました。そのような経済構造からの脱却を図るため、ナイジェリア政府が進めているのが、ICTを中心とした経済の多角化。例えば、2017年に同国は、2020年までにICT関連産業を成長させることで、250万人の雇用創出とGDPの20%増加を目指す「Nigerian ICT Roadmap 2017-2020」プロジェクトを打ち立てました。また、国連が定める「世界開発情報の日」にあたる10月24日を「デジタル・ナイジェリア・デー」と制定していることからも、ナイジェリアのデジタル経済への強い意志が感じられるでしょう。

※1ドル=約144円で換算(2022年9月26日現在)

 

デジタル経済への原動力の1つが人口。ナイジェリアの人口は2億1000万人で、そのうちの23%が、教養と経済力を持つ中間層。同国の人口は2050年には4億人を超える見通しです。同国の通信デジタル経済省は『NATIONAL DIGITAL ECONOMY POLICY AND STRATEGY (2020-30): For A DIGITAL NIGERIA』で、人口が多く、デジタル経済が発展している国の例として中国、インド、アメリカを挙げており、人口の多さはナイジェリアがデジタル経済の発展を持続するうえで強みになると論じています。

 

また、ナイジェリアのICT産業では、スタートアップの存在も見落とせません。大企業や大学の研究機関、公的機関など、産官学が連携しながら、同国最大の都市・ラゴスを中心にスタートアップエコシステムを形成しています。ナイジェリアには現在、750を超えるスタートアップがあり、2021年に調達した資金の合計額は3億700万ドルに到達。スタートアップエコシステムについて調査するStartupBlinkによると、同国のスタートアップエコシステムの評価は世界で61位となっていますが、西アフリカ地域では1位。アフリカ大陸においてナイジェリアのエコシステムは高水準に達していると評価されています。

 

世界的に注目を集めるナイジェリアのスタートアップの中には、例えばOrda社があります。2022年1月に11万ドルを調達した同社は、レストラン向けの注文管理・決済などを管理するプラットフォームを展開。他にも、外食産業事業者と農家をマッチングさせるサービスを提供するVendease社など、フードテック関連企業は目覚ましい発展を遂げるようになりました。このようなスタートアップがロールモデルになりながら、ナイジェリアのICT産業を引っ張っているように見えます。

 

ナイジェリアのデジタル経済の成長には、このような背景がありますが、GDPの構成比でICTが石油を上回ったことについて、イサ・パンタミ通信・デジタル経済大臣は「今回の結果は、デジタル経済を推進してきた政府の取り組みと一致している」とコメント。ナイジェリアのデジタル経済推進の成果は、目に見える形で表れてきているのかもしれません。

 

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ガーナにアグリテックの拠点が誕生! アフリカ全体を巻き込む「timbuktoo」とは!?

 

UNDP(国連開発計画)が主導して進めている「timbuktoo(ティンブクトゥ)」というプロジェクトをご存じでしょうか。これは、さまざまな産業でICTを活用することにより、アフリカ大陸の成長と貧困からの脱却を目指す目的で2021年に発足したイノベーションイニシアチブ。

 

具体的には、アクラ、ナイロビ、ケープタウン、ラゴス、ダカール、キガリ、カサブランカ、カイロなど、スタートアップの拠点なりうるアフリカの都市8ヵ所に、民間主導となるハブ(施設)を設立。ベンチャービルダーやベンチャーファンドへの投資を通して、若手起業家の育成・支援を実施します。各ハブは、フィンテック、ヘルステック、グリーンテック、クリエイティブ、トレードテック、ロジスティック、スマートシティとモビリティ、ツーリズムテックなど、さまざまな分野に特化すると言います。

 

投資される資金は、官民あわせて今後10年間で約10億ドル(約1400億円)。1000社以上のスタートアップの育成や、1億人以上の人々の生活改善、環境改善などを目標に掲げており、投資額の10倍となる100億ドル(約1兆4000億円)以上の経済効果を目指しています。

 

ガーナ・アクラに設置されるハブでは「アグリテック」に注力

そしてこのたび、ガーナのラバディビーチホテルで開催されたイベントで、アグリテックに特化したイノベーションハブを首都アクラに設置することが発表されました。

 

「私たちは雇用を創出する必要があります。そのためには、まず起業家を育てることが重要。DXを活用してイノベーションと雇用創出を実現したい」とガーナ共和国副大統領のMahamudu Bawumia氏は期待を寄せます。

 

一方、UNDPガーナ常駐代表のAngela Lusigi氏もこうコメントしました。

 

「timbuktooは “未来志向のスマートなアフリカ”というUNDPのビジョンに沿った新しいアプローチ。民間と協力し、テクノロジーとイノベーションを活用して駆使して未来を拓くという、大胆で新しい取り組みを誇りに思います」

 

またtimbuktooでは、アフリカの低所得国10カ国にある大学に、学生たちのイノベーションとデザイン思考を促進するための研究施設(UniPods)の設立を予定。2022年末までに運用が開始され、さらに2023年までには18カ国にまで拡大する予定だといいます。

 

官民学が連携することで、ガーナをはじめアフリカのさまざまな国で、ICTによる経済成長を図ろうとしているtimbuktoo。今後、アフリカ地域全体のさらなる成長を促すことが大いに期待されています。

 

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日本のゴマ消費40%がナイジェリア産! 日・ナイジェリア貿易額が年1400億円に

2022年8月にナイジェリアの首都アブジャで開催された第2回日本・ナイジェリアビジネス促進協議会において、松永一義駐ナイジェリア日本大使が、両国間の年間貿易額が10億ドル(約1430億円※)に達したことを発表しました。

※1ドル=約143.3円で換算(2022年9月16日現在)

↑ホットになりつつある日本とナイジェリアの貿易

 

ナイジェリアの対日輸出品の代表的なものは石油やLNG(液化天然ガス)ですが、あまり知られていない物としてゴマがあります。ナイジェリアの金融情報サイト・Nairametricsによれば、日本で消費されるゴマの40%はナイジェリア産だ、と松永大使が話したとのこと。近年ナイジェリアのゴマの輸出量は増加しており、同国の輸出の22.4%を占めるようになりました。

 

視野を少し広げると、この傾向は同国の農作物の輸出でも見られ、その額は2020年の3215億ナイラ(約1075億円※)から、2021年には5049億ナイラ(約1690億円)に拡大。全体的に見れば、同国の対外貿易は2021年第1四半期(1月〜3月)の11.7兆ナイラ(約3.9兆円)から2022年の同期には13兆ナイラ(約4.3兆円)に成長しています。しかし、その主な要因は農作物というより、原油の輸出の増加にある模様。

※1ナイラ=約0.33円で換算(2022年9月16日現在)

 

一方、日本の対ナイジェリアの輸出品目としては、機械や自動車が挙げられます。松永大使によると、同国には現在47社の日本企業が進出しているとのこと。ナイジェリア投資促進委員会(NIPC)のSaratu Umar事務局長兼CEOは、「私たちは日本大使館と良好な関係を維持しており、今後も協力しながら、ナイジェリアでビジネスを行う全ての日本企業を援助するつもりだ」と話しています。

 

ナイジェリアは現在、海外の投資家が政府機関と協力しながら、同国への投資に関する問題を解決できる環境を構築しつつあり、この取り組みは日本・ナイジェリア間のビジネスをより一層促進するかもしれません。

 

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36億人に安全なトイレを! ゲイツ財団とサムスンが新しいトイレの試作品を発表

世界最大の慈善基金団体であるビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団(以下、ゲイツ財団)は、途上国の衛生問題に取り組むために「Reinvent the Toilet Challenge」と呼ばれるプロジェクトを2011年に立ち上げました。その使命は、排泄物を媒介とした病原体から人々を守ること。このプロジェクトではトイレの再発明に取り組んでおり、先日、その試作品が誕生しました。

世界を救うトイレを作ろう

 

2022年8月、このプログラムに協力している韓国のテクノロジー企業・サムスン電子が、新しいトイレの試作品を開発したと発表しました。サムスン電子の研究開発部門にあたるサムスン電子総合技術院は、2019年に新しいトイレの開発においてゲイツ財団と協力することに合意し、3年間の開発期間を経て、今回の試作品発表にこぎつけたのです。

 

このプロジェクトで公開されたトイレは、熱処理技術やバイオプロセスの技術を搭載し、人の尿や便に含まれる病原体を死滅させ、排水や排出される固形物を安全な状態にできます。トイレを使った後に出る排水は安全で再利用が可能になり、便などの固形物は脱水・乾燥後に焼却して処分できるとのこと。試作品で実際にテストも行われ、その試験も成功しています。

↑サムスン電子が開発した新しいトイレの試作品

 

サムスン電子は、この新しいトイレがエネルギー効率に優れ、排水処理機能もあり、途上国や先進国の家庭向けに商品化するためにゲイツ財団が設定した条件を満たしていると述べています。ゲイツ財団は、上下水道が整備されていない環境下でも、電力をほとんど使用しないで衛生的に使うことができるトイレを求めており、そのために、世界中の研究者に助成金を与え、さまざまなプロジェクトを支援してきました。

 

世界保健機関(WHO)とユニセフによると、安全ではないトイレ設備の使用を余儀なくされている人は世界で約36億人いるとのこと。トイレの衛生問題や安全な水を利用することができないために、多くの幼い子どもたちが下痢にかかり、5歳未満の子どもが毎年50万人も命を落としているのです。

 

サムスン電子は、このトイレに関する特許を途上国に提供する予定であると同時に、量産化に向けた技術革新を進めるそう。途上国への普及に向けて、同社の踏ん張りどころは続きそうですが、「トイレ先進国」と言われる日本のメーカーが貢献できることも大いにありそうです。

 

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研修時間が大幅にダウン! 途上国のリカレント教育におけるメタバースの可能性

人間は社会人になっても、さまざまな形で学ぶことができる。そのような意味を広義に持つリカレント教育は、国際開発でも重要な概念の1つです。近年では、企業内教育を含めたリカレント教育にメタバースを導入する動きが活発になっていますが、このトレンドは途上国で急速に発展するかもしれません。

没入すれば、可能性は無限大

 

昨今、世界中で注目を集めているメタバース。この用語は「超〜」や「〜より包括的な」を意味する接頭辞の「メタ(meta-)」と、「宇宙」を表す「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実が融合した世界を指します。カナダのリサーチ企業・Emergen Researchによると、2021年における世界のメタバースの市場規模は約630億ドル(9兆円以上※)で、2030年までに毎年43.3%のスピードで急成長していくとのこと。あらゆる業界が熱い視線を注いでいる分野ですが、別の資料によれば、VR教育の市場規模は2026年までに約1300万ドル(約18億7000万円)に達する見込み。

※1ドル=約143.6円で換算(2022年9月8日現在)

 

メタバースのような没入型テクノロジーの最も魅力的な用途は、教育やトレーニングにあると言われています。

 

メリーランド大学によると、ユーザーはコンピュータ画面上よりも仮想現実(VR)で提示されたほうが、より効果的に情報を保持することができるそうです。また、プライスウォーターハウスクーパースのレポートによると、従来の対面式教室やオンライントレーニングに比べ、VRを使用したソフトスキルのトレーニングは4倍の速さで従業員を訓練することができたと言います。

 

VRの中で被験者は対象物を、位置や自分との距離、周りのものとの関係を認識しながら、視覚的に覚えることができるようになります。例えば、「自分が立っている場所から15メートル程離れた所に建物があり、その2階の窓際に人の姿が見える。それは〇〇さんだった」という具合に、より細かく多くの情報を視覚から得られるのです。そのため、メリーランド大学の実験では、VRを使った被験者の記憶合致の率は8.8%上昇という結果が得られたそうです。

 

ビジネスの研修にもメタバースは良い効果を与えている様子。米国の小売大手・ウォルマートが2017年に、従業員の教育プログラム用に1万7000個のVRヘッドセットを導入した事例からも分かる通り、大規模な従業員を抱える企業の導入事例が増えています。世界最大の会計事務所の1つPWCが、企業研修におけるVRの機能について調べた結果、研修の参加者からは「VRに没入するため集中力が増すほか、学んだことをVRの中で気軽に練習することができるため、自信がつく」といった意見が多数挙がったそうです。さらに同社は、VRの研修は規模の経済性によって、参加者が増えれば増えるほど費用が下がるとも述べています。

 

インフラが十分でないからこそ

そんなメタバースは、まだ証拠は少ないものの、先進国以上に途上国で活用される可能性があります。

 

メタバースへの期待は途上国で最も高いことが調査で判明しており、教育への活用についても大きな需要がありそうです。JICAが行った調査によると、フィジーでは、デジタル技術を活用して業務プロセスを改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)施策の中で、デジタル技術を有する人材の不足が課題の1つになっているという事例もあるそう。

 

デジタル技術に限らず、途上国では技術をもった人材の育成ニーズが大きいのですが、教育の品質における問題や、交通のインフラ整備が不十分であったり、教育機会にアクセスが難しいといった別の課題も存在します。そこで、時間・場所を問わずアクセスを可能とし、より高い習熟度が期待できるメタバースが活躍するのではないでしょうか。

 

つまり、教育分野の制度やインフラが十分に整っていない途上国だからこそ、メタバースを試しやすいと考えられるのです。もちろん課題がないわけではありません。途上国で「メタバース教育」を実現するためには、通信環境の整備が必要。フィジーの例では、DXの有用性が明らかになる一方、通信環境の整っている地域とそうでない地域での格差が浮き彫りになっています。しかし、途上国が企業の投資や国際機関の支援を受けて、通信環境を整えた場合、その他の教育インフラの発展が遅れていたとしても、メタバースの活用が、先進国が通ってきた段階的プロセスを飛び越えて進む「リープフロッグ現象」さえ起こり得るかもしれません。

 

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「XR・メタバース」への期待値、日本の22%に対し途上国は倍以上

AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実世界が融合した世界を指す「メタバース」。2021年10月にFacebookが社名をMetaに変更したことで、世界中でメタバースの注目度が上がりましたが、2022年5月に発表された調査『How the World Sees the Metaverse and Extended Reality』で、メタバースへの関心は途上国・新興国で最も高いことがわかりました。

新興国・途上国で期待大

 

フランスの大手市場調査企業・イプソスは、世界経済フォーラムの依頼を受け、2022年4月〜5月に29か国で計2万1000人以上の成人を対象にXRとメタバースに対する意識を調査。XRを前向きに捉えている人の割合は中国で78%、インドで75%、ペルーで74%、サウジアラビアで71%となりました。対照的に先進国ではXRへの期待が低く、肯定的な意見を持っている人の割合は、日本が先進国で最低の22%、イギリスは26%、カナダは30%、ドイツとフランスは31%、アメリカは42%となり、新興国や途上国と顕著な差が見られます(下記のグラフ〔英語〕を参照。カーソルを合わせると各国の割合が表示される)。

 

 

メタバースへの関心についても同じような傾向が見られます。トルコやインド、中国、韓国といった新興国では3分の2以上の人がメタバースについてよく知っていると回答したのに対して、フランスやドイツ、ベルギー、オランダといった先進国では、その割合が3分の1以下になりました。

 

このような違いが現れた理由には、デジタル通貨が関係している模様。XRやメタバースはブロックチェーン技術によって支えられています。ブロックチェーンやフィンテックなどを専門とするメディアのCointelegraphによると、ブロックチェーンは、インフレーションや通貨価値の下落といった問題を抱える新興国・途上国で人気を高めており、このような国々では暗号通貨を購入する人が先進国より多いとのこと。この視点から考えれば、「経済的に苦しい生活をどうにかしたい」と願う人たちがXRやメタバースに大きな期待を寄せていると理解することができるでしょう。

 

教育やビジネス、エンタメ・ゲーム、ヘルスケア、デジタル資産の取引など、幅広い分野を劇的に変えるとされるXRやメタバース。世界の大手IT企業がこの分野で切磋琢磨しており、今後も市場規模は拡大していく見込みです。日本国内においても多くの企業が同分野に進出していますが、海外市場に目を向ける際は、XRやメタバースへの期待が高い新興国・途上国に注目すると良いかもしれません。

 

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世界2位の4億2000万人もの利用者を抱える「インドのオンラインゲーム市場」

インドのオンラインゲーム市場が目覚ましい発展を遂げています。スマートフォンユーザーの増加やモバイルゲームの拡大などによって、同国のゲーム人口は急増。この動向はインド企業だけでなく日本のゲーム関連企業にも大きなチャンスかもしれません。

もっと盛り上がろうぜ!

 

まずは、インドのオンラインゲーム市場について見てみましょう。同国のThe Economic Times紙によれば、インドのオンラインゲーム市場は成長率38%を記録し、世界のモバイルゲーム市場の上位5位に位置しているとのこと。また、インドには400社以上のゲーム会社があり、世界で2番目に多い約4億2000万人のオンライン利用者を抱えていると言われています。

 

インド国内に目を向けると、同国のゲーム市場は過去5年間、安定的に成長しており、2025年には3倍の39億ドル(約5400億円※1)に到達する見通し。オンライン利用者数も2020年の3億6000万人から、2021年には3億9000万人に増え、ゲーム人口は2023年に4億5000万人を超えると予測されています。

※1: 1ドル=約138.4円で換算(2022年8月31日現在)

 

このような成長の主な要因として、同紙は「若年層の増加」「可処分所得の増加」「新しいゲームジャンルの導入」「スマートフォンやタブレットのユーザー数の増加」「インターネットの高い普及率」が挙げられると分析。加えて、新型コロナウイルスのパンデミックによる「巣ごもり」も、インドのオンラインゲーム市場の拡大を加速させたと見られています。例えば、2020年9月に同国ではオンラインゲームのダウンロード数が73億回になりましたが、その数は世界で最も多く、全世界のダウンロード数の約17%を占めたとのこと。

 

それでは、インドではどのようなオンラインゲームが注目されているのでしょうか? 同国のスポーツ専門サイト・Twelfth Man Times(TMT)によれば、パズルやファーストパーソンシューティング(FPS※2)、バトルロイヤルゲーム(※3)などが人気を集めているそう。例えば、バトルロイヤルゲームの1つ『PUBG』の場合、インド市場は全ダウンロード数の25%を占め、月間5000万人のアクティブユーザーが登録しています。

※2: ゲームを操作する本人が主人公になり、銃などの武器を使って標的を倒すゲーム

※3: 多数の個人または複数のチームがゲームに参加し、他のプレイヤーもしくはチームを全て倒すゲーム。最後の1人もしくは1チームになると勝ち

 

一方、ゲーム機を利用する「コンソールゲーム市場」も高い人気を集めるようになりました。この分野では2022年から2026年にかけて年間10%の成長が見込まれています。さらに、インドオリンピック委員会が公式スポーツに指定した「eスポーツ」が盛り上がりを見せており、そのプレイヤー数は2022年に100万人に達する見込み。

 

ゲームパブリッシャーへの投資は不足

TMTによれば、インドのゲーム業界におけるゲームスタジオの数は、2009年の15社から2021年には275社へと大幅に増加したとされています。また、世界的に著名なスタジオもインドに事務所を開設し、インド市場におけるブランド確立を目指している模様。しかしその反面、インドのゲームパブリッシャーはまだまだ開発の余地があるとされており、同国のオンラインゲーム市場の成長には、ゲームパブリッシング業界へのさらなる投資が不可欠と指摘されています。

 

日本にはゲーム機やソフト、オンライン/スマホゲームを作る企業が多数存在しており、海外の企業と資本・業務提携をするなどしてグローバルに競争しています。次の戦いの舞台は、インドのオンラインゲーム市場かもしれません。

 

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世界の期待集まる途上国の「再生可能エネルギー」。各国で起きている「リープフロッグ現象」とは?

ロシアによるウクライナ侵攻、それにともなう各国の経済制裁などにより、さらに深刻さを増している世界的なエネルギー危機。一般的に途上国は予算などの問題などからエネルギーの確保が難しく、このような状況ではさらに不利な立場におかれるとみられがちです。しかし一方で途上国の中には、民間投資を募り積極的にエネルギー危機を乗り越えようとしている国もいくつかあります。少し耳慣れないキーワード「リープフロッグ現象」とともに、世界のエネルギー分野の「今」を俯瞰してみましょう。

 

「リープフロッグ現象」とは?

リープフロッグ(Leapfrog)とは跳躍、つまり大きなジャンプのこと。新しい技術やサービスが誕生した場合、通常、先進国では段階的に発展・普及していきますが、道路や電気などの社会インフラが未整備の途上国では、ひと足飛びに普及する場合があります。これがビジネス用語における「リープフロッグ現象」です。

 

既存のインフラや法律などが足かせとなり、社会への導入がスピーディーに進まないことが多い先進国に対し、こうしたしがらみが少ない途上国では、一気に新技術が社会に受け入れられることがあるのです。道路の整備もままならないアフリカやアジアの一部地域でも、スマートフォンや通信インフラなどが普及しているのは、わかりやすい例でしょう。

 

再生可能エネルギーでリードする途上国

そしてこのリープフロッグ現象は、再生可能エネルギー分野でも報告されています。世界銀行(The World Bank)がまとめたレポートによると、モロッコでは再生可能エネルギーが設備容量(発電能力)の約5分の2を占めているそう。またインドは主要経済国の中で、再生可能エネルギーの電力増加率が最も高い国となっています。このような目覚ましい進展は、政府による野心的なクリーンエネルギー目標の設定と、投資家への優遇政策の結果です。

 

さらにバングラデシュの例をみてみましょう。同国では2022年6月、900万人がクリーンエネルギーに移行。 電力供給を受けられるようにするため、政府が5億1500万ドル(約700億円)の融資に署名しました。この融資により、首都ダッカと北部のマイメンシンにて、地方電気協同組合(BREB)のデジタル化と近代化が支援されます。結果、電力システムの損失が2%以上削減され、電力供給量が向上するのです。

 

バングラデシュのプログラムでは、100以上の顧客にソーラー発電システムが提供。蓄電システムと分散型再生可能エネルギーの強化により、年間4万1400トンの二酸化炭素排出量の削減が期待されています。

 

先進国との共同での取り組み

一部の途上国にて大胆に進められている再生可能エネルギーへの取り組みに対して、日本を含めた先進国からの投資も行われています。米英の政府機関と米ブルームバーグが年1回発行する、途上国の再生可能エネルギー状況をまとめた「Climatescope」によると、日本からの投資は中東や北アフリカに集中しているそうです。

 

またJETRO(日本貿易振興機構)がまとめたレポートには、バングラデシュでは太陽光発電において、日本のノウハウと技術、さらには合弁事業を期待する声も掲載されています。

 

世界的なエネルギー危機と再生可能エネルギーへの転換は、途上国・先進国にかかわらず、まさに可及的速やかに対策を取る必要があります。安価な化石燃料に頼ってきた先進国の場合、コストの高いクリーンエネルギーへの投資はリスキーとみなされる場合もあることでしょう。こうした点からも、途上国における再生可能エネルギー分野は、今後が大いに期待されるところです。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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2032年までに約7.3兆円の成長!「アニメ・マンガ市場」の商機は途上国にあり

加速度的に拡大する世界のアニメ市場。コロナ禍の影響による「巣ごもり需要」は出版や動画配信業界にとって追い風となりましたが、アニメ関連業界は今後さらに成長すると予測されています。コンテンツ配信におけるプラットフォームの多様化がアニメの人気を世界中で高めると同時に、発展途上国でも市場が拡大する見込み。この波に乗るために、新たなビジネス機会を狙う企業が現れています。

世界中で成長するアニメ産業

 

2022年7月に米国のマーケットリサーチ企業Future Market Insights(FMI)が発表したデータによれば、世界のアニメ市場は2032年までに約530億ドル(約7.3兆円※)の成長が見込まれているとのこと。その中でも大きく注目されているのが、音楽コンサートやステージ上でのパフォーマンスといったライブ・エンタテイメント部門。新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で同部門は停滞していましたが、コロナ禍が収束するにつれて回復し、長期的には同業界を牽引していくであろうと予測されています。

※1ドル=約137円で換算(2022年7月23日現在)

 

また、スマートフォンやタブレットなどユーザーのデバイスが多様化する一方、テレビやケーブルではなく、インターネットを通して視聴者に直接コンテンツを配信する「OTTプラットフォーム」志向が世界各地で拡大。NetflixやDisney+、Amazon Prime Videoなどの動画ストリーミングサービスの普及が、アニメの人気を押し上げるようになりました。同様にオンラインゲームの発展もアニメやマンガのファンを増やすと見られています。

 

そんなアニメ市場で日本は不動の地位を築いてきました。FMIによると日本のマーケットシェアは43%以上で、今後も日本の優位は続くとされています。以前から日本が生み出すマンガやアニメは国境を超えて数多く流通しており、レベルの高さに衝撃を受けた世界中の子どもや若者が日本への憧れを抱いてきました。

 

可処分所得が増えている発展途上国では、アニメ・マンガ市場がさらに成長する可能性があります。最近では、日本の専門学校がアニメやマンガを専門的に教える学校をマレーシアで開校。熱心な若者が勉強に励んでいますが、この動きは日本の教育業界における少子化の影響を反映しているだけではなく、アニメ・マンガ業界で外国人材の活用が加速していく可能性を示唆しているかもしれません。昨今では日本の制作会社は慢性的な人材不足に陥っているため、どうしても外国人材を育成することが必要。すでに作品のローカライゼーション(現地化)では、多くの現地人材が活用されるようになりました。

 

このように、世界のアニメ・マンガ市場には、出版社やテレビ局といったメディア企業だけでなく、テクノロジーやゲーム、教育など、幅広い産業から多くの企業が参戦しており、経済発展が著しい発展途上国にも商機がありそうです。

 

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憧れの日本のライフスタイルを体現! 「日本式コンドミニアム」がフィリピン・マニラに誕生

親日国と言えば、まず名前があがるのが台湾やタイでしょう。しかし電通が発表した「ジャパンブランド調査2019年」によれば、フィリピンの親日度は4位と、これらの国に決して劣ってはいません。自動車や家電、さらにはコスメティックといった「Made in Japan」への信頼が高いのはもちろん、若い世代にはアニメや漫画といった日本のサブカルチャーが大人気。また、フィリピンにはたくさんの日本食レストランがあり、現地の人々の舌を楽しませています。

高層ビルが立ち並ぶBGC地区の夜景

 

そんなフィリピンの首都マニラでも、発展著しい地域が「BGC」(ボニファシオ・グローバル・シティ)。同地域では、近年、外資系企業のオフィスや高級ホテル、デパートなどが入る高層ビルやレジデンスなどが次々と建設されています。そこに、日本の技術と文化を取り入れた複合開発タワーコンドミニアムの「ザ・シーズンズ・レジデンス」が誕生。商業施設「MITSUKOSHI」と直結したこのコンドミニアムには、随所に日本の伝統文化があしらわれ、日本流の「おもてなし」が感じられることでも注目が集まっています。

ザ・シーズンズ・レジデンス「アキ」の室内。画像:野村不動産ソリューションズ

 

野村不動産と三越伊勢丹ホールディングス、そしてフィリピンの大手ディベロッパーであるフェデラルランドが共同で開発する、ザ・シーズンズ・レジデンス。日本の四季をモチーフにした同コンドミニアムでは、すでに「HARU(ハル)」と「NATSU(ナツ)」が公開されていますが、今回、新たに3棟目となる「AKI(アキ)」が発表されました。

 

ザ・シーズンズ・レジデンスの特徴は、こだわりの日本風の住宅に厳選されたアメニティ、そして同国初である三越の店舗がテナントとして入っている点。今回の「アキ」では、その名のとおり、日本の秋を連想させる意匠が各所に取り入れられています。室内にはシューキャビネットやキッチン収納、床下収納、ウォッシュレットトイレ、オイルフィルター付レンジフードなどを用意。キッチンに水切りやまな板付きの省スペース型キッチンシンクを採用するなど、まるで日本の住居にいるかのような住み心地が体験できます。

 

棟内にはヨガスタジオやジムプールを設置するなどアメニティも充実。「禅」をコンセプトにした庭園や、日本の冬をイメージしたスパ&ウェルネスルーム、さらにカラオケルームまで設置されているそうです。

 

一方でセキュリティ面でも抜かりはなく、強風に耐えるための耐震ダンパーや二段階セキュリティ(エレベータ及び玄関ドア)、火災警報器を装備。また、沈床スラブや床下排水システムを採用し、配管のメンテナンスが容易になっています。

 

アニメや食をきっかけに、本格的な日本文化への関心が高まっているフィリピン。建築や住宅分野をはじめさまざまな分野で、こうした日本の様式や伝統的な文化を採り入れようとする動きが拡大すれば、日本企業にとっても大いなるビジネスチャンスになりそうです。

 

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5年連続で世界1位!「日本のパスポート」が世界最強であることの意味

7月、イギリスのコンサルティング企業であるヘンリー・アンド・パートナーズ(H&P)が、世界パスポートランキングの最新版(正式名は「The Henley Passport Index: Q3 2022 Global Ranking」)を発表。日本は史上最高の193点を獲得し、5年連続で1位になりました。日本のパスポートが“世界最強”であることは何を意味するのでしょうか?

もはやパスポートは単なる身分証明ではない

 

2006年から四半期ごとに発表されている同パスポートランキングは、IATA(国際航空運送協会)のデータをもとに、ビザなしで渡航できる国の数を調査しています。2022年第3四半期のランキングの結果は以下の通りでした。

 

1位: 日本(193)

2位: シンガポール、韓国(192)

3位: ドイツ、スペイン(190)

4位: フィンランド、イタリア、ルクセンブルグ(189)

5位: オーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデン(188)

6位: フランス、アイルランド、ポルトガル、イギリス(187)

7位: ベルギー、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、アメリカ(186)

8位: オーストラリア、カナダ、チェコ、ギリシャ、マルタ(185)

9位: ハンガリー(183)

10位: リトアニア、ポーランド、スロバキア(182)

※( )はスコア。出典:The Henley Passport Index: Q3 2022 Global Ranking

 

評価方法は、ある国・地域に入国するとき、ビザが必要なら0点、ビザの取得は必要はなく、パスポートのみで入国できる場合(到着した空港で取得できるアライバルビザを含む)は1点とカウントし、総合スコアで順位を付けています。例として日本のスコア(193)を見てみると、日本のパスポートを持っている人は、ビザなしで入国できる国と地域が世界に193あるということ。このパスポートランキングで日本が1位になったのは5年連続で、シンガポールや韓国もトップ3の常連です。

 

では、このランキングで上位に入ることは何を意味するのでしょうか? ここで注目したいのは、世界の平和や安全保障などに関するデータを提供するVision of Humanityがまとめた「グローバル・ピース・インデックス(世界平和指数)」との関係。この指数は、殺人率や政治テロ、内戦などの死者数などをもとに、世界各国の平和レベルを評価するものです。H&Pが、パスポートランキングの結果と世界平和指数を比較したところ、前者の上位10か国は後者でも上位10位にランキングしていることが判明。例えば、日本は世界平和指数で10位である一方、ヨーロッパ諸国はパスポートランキングと世界平和指数で上位を占めています。それに対して、パスポートランキングで順位が低い国は、世界平和指数でも下位。この2つのデータの間に相関関係があることがわかります。

 

最新版のパスポートランキングについて、オックスフォード大学サイードビジネススクールのフェローであるスティーブン・クリムチュック・マシオン氏は、「新型コロナウイルスのパンデミックやインフレーション、政治不安、戦争など、私たちは激動の時代を生きています。そんな中でパスポートは、これまで以上に『名刺』の役割を果たすようになってきており、渡航先での待遇や安全に影響を与えます」と述べています。

 

最近、日本はコロナ禍の「鎖国」政策を徐々に緩和し始めました。訪日外国人観光客の受け入れが再開した一方、海外直接投資も回復傾向にあります。これから日本企業が海外に進出したり、ビジネスパーソンが外国でリモートワークをしたりする際、日本のパスポートは平和と安全の象徴として重宝するかもしれません。もちろん、パスポートだけで身の安全が保証されるわけではありませんが、日本のパスポートは少しの安心感と自信を与えてくれることでしょう。世界が歓迎してくれるはずです。

 

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途上国の「5G」導入費用は先進国の3倍。「スマート農業」に対する農家の期待と不安

途上国を中心に世界の人口が増加する中、ビッグデータやAI、ドローンなどの最先端テクノロジーを活用して、農家の経営をデジタル化し、農作物の管理をより精密にする「スマート農業」の動きが活発化しています。近年、この分野では「5G」が大きな注目を集めており、最新の移動通信システムを導入することでスマート農業はさらに飛躍すると言われていますが、その一方で課題も浮き彫りになっています。

5Gの導入は期待半分、不安半分

 

世界中の農家は、スマート農業に積極的な理由を見出しています。2022年7月、スマート農業に対する農家の姿勢や課題などについて調べた『DEMETER』レポートが発表されました。DEMETERは主に欧州諸国がスマート農業を推進するためのプロジェクトですが、同レポートは南アフリカやジャマイカといった新興国・途上国を含む、世界46か国から484名の農家の回答を収集しています。この中で、農家がスマート農業を取り入れる大きな理由として、「農業経営に必要な、より良い情報を得ることができる」「仕事をシンプルにする」「生産性を上げる」という3つの要因が存在することがわかりました。

 

そこで5Gが役に立ちます。数年前に国連開発計画は、このテクノロジーが先進国だけでなく途上国にもさまざまな恩恵をもたらすと論じました。例えば、ドローンやセンサー、データ通信などの幅広い技術との連携。フィリピンの農村・カウアヤン市は、数年前に地元政府が同国最大の通信事業者と提携して5Gを導入し、「デジタル・ファーマーズ・プログラム」を通して農家に最新テクノロジーに関する研修や指導を行いました。

 

また、5Gによって迅速かつ効率的にデータを共有することが可能になります。イギリスのある事例では、酪農家が牛の首や脚にIoTセンサーを装着。健康状態や日常の行動をモニターし、異変があれば、獣医師や栄養士にデータを送り、牛の健康上の問題にいち早く対処できる体制が構築されたとのこと。このことは最新テクノロジーがさまざまな場面で迅速な意思決定を促すことも意味しており、だからこそ5Gが効率や生産性を上げると期待されているのです。

 

その他のメリットとして、5Gには気候変動への対策としての側面があることも見逃せないでしょう。2017年に米国科学アカデミー紀要に掲載された論文によると、世界の平均気温が1度上がるごとに、大豆の収穫量は3%、小麦は6%、トウモロコシは7%減少するとのこと。気候変動がもたらす害虫や動物の病気が農作物に悪影響を及ぼしますが、スマート農業では、気候や土壌の状態などに関するデータをIoTセンサーから収集するほか、人工知能や機械学習が農作物の害虫や病気に対する感染のしやすさを予測して農家に伝えることが可能。このような機能の速度や効率性、精度が5Gによって向上すると見られています。

 

最大のネックは費用

しかし、農業に5Gやスマート技術を導入するうえで最大の障壁となっているのが費用の問題。5Gの導入には既存の4Gネットワークをアップグレードする必要があり、通信事業者が負担する費用は2倍近くになると言われています。コンサルティング会社のマッキンゼーによれば、2030年までに想定される範囲をすべて5Gにするためには、最大で9000億ドル(約121兆円※)もかかるとのこと。さらに途上国の場合、3Gや4Gのネットワーク自体が存在しないか不足している地域が少なくないため、5Gの導入費用は先進国の3倍近くなると言われています。つまるところ、先述したDEMETERのレポートでも、53%の農家がスマート農業における最大の課題は「費用」と回答していました。

※1ドル=約134.7円で換算(2022年8月9日現在)

 

このような理由で、5Gの導入には国や自治体の支援が不可欠。カウアヤン市の取り組みが参考になるかもしれませんが、農家の心配は費用だけではありません。「リソース不足」や「データのプライバシー」を懸念する声もあり、これらは農家が自力で解決できる問題ではないでしょう。農家が人手不足に陥っている日本では、2020年にNTTグループや北海道大学が共同で、ロボットトラクターを田んぼに導入し、5Gとスマート農業の実証実験を行いました。少子高齢化が進む先進国と人口が増加している途上国では、直面する課題が異なるかもしれませんが、経営の効率化や生産性の向上など、農家がスマート農業に期待していることは同じ。できるだけ費用を抑えた、広く通用するビジネスメソッドが求められています。

 

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SDGsの「目標4:教育」に警鐘! 活路はアフリカへの「オンライン教育」の技術提供か

9月19日、米国・ニューヨークの国連本部で「トランスフォーミング・エデュケーション・サミット(TES)」が開催されます。このサミットは、「質の高い教育をみんなに」という目標を掲げる持続可能な開発目標(SDG)4の実現に向けて、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が国際社会の協力を強化するために構築した「グローバル・エデュケーション・コーポレーション・メカニズム」の一環。SDG4は2030年までに「教育への普遍的なアクセス」の実現を目指していますが、実はいま、この計画が危機的な状況に陥っているのです。

どうすれば世界は結束するのか?

 

TESに先行して、ユネスコは7月に『2022 SETTING COMMITMENTS』というレポートを発表しました。SDG4には、退学率やジェンダーギャップなど7つの指標があり、それぞれの目標が達成されるために、世界各国がどれだけ貢献するかを決めています。ユネスコは各国の取り組み状況を調べ、以前よりも多くの国がSDG4の実現に向けて取り組むことを約束した、と同レポートで述べています。しかし、前向きな材料はそれ以外にほとんどなかった模様。

 

現状は厳しいようです。同レポートの主な論点は、2030年までにSDG4を達成するのが難しいということ。たとえ各国の取り組みが順調に進んだとしても、未就学の児童や青少年の数は2030年までに約8400万人に上る見込みと言われています。また、同年までに初等教育(日本では小学校に当たる)を修了することができる子どもの数は世界中で3分の2以下とされる一方、ほぼ全ての子どもが中等教育(中学校と高校)を終えることができそうな国の割合は、6か国中わずか1つ。「普遍的なアクセス」と呼ぶには程遠い状況です。

 

これを受けて、国連は警鐘を鳴らし始めました。ECOSOC(国際連合経済社会理事会)のコレン・ヴィクセン・ケラピ議長は、途上国と先進国の間で教育格差が拡大しており、その中でもアフリカの教育環境が最も脆弱であると述べています。新型コロナウイルスのパンデミックがこの傾向に拍車をかけていることは明白ですが、「仮にいまアフリカ諸国がオンライン教育に舵を切っても、オンライン教育を行うための技術的な方法がない」とケラピ議長は指摘。持てる国が持たざる国と技術や方法を共有する必要があると論じています。

 

SDG4を達成するためには、先進国と途上国の結束が重要。これからも国連の機関は従来の指標を使って各国の取り組みを測定します。危機的な状況下にある国を支援するためには先進国の指導的役割が不可欠ですが、オンライン教育や回線接続環境などにおいては、民間企業を含めた国際協調体制の構築が強く求められるでしょう。

 

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世界最高の送金コストを減らせ! アフリカで「デジタル通貨」導入の動きが加速

【掲載日】2022年8月2日

世界各国で進展している自国通貨のデジタル化は、アフリカ大陸において急激な進展を見せています。すでにナイジェリアは、中央銀行発行のデジタル通貨「eナイラ」を2021年にローンチした一方、南アフリカとガーナはパイロット運用を実施中。さらにケニア、タンザニア、ナミビアなど約8か国が、将来の本格的な導入に向けて詳細なリサーチを開始しており、安定した金融制度を確立するために奔走しています。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がアフリカ諸国に広がる

 

各国政府の中央銀行によるデジタル通貨は「CBDC(Central Bank Digital Currency)」の略称で呼ばれており、自国の法定通貨建てで、中央銀行の債務として発行されて流通している自国通貨のデジタル版となっています。価格変動の激しい暗号通貨と異なり、政府の規制で介入されるので、安定度の高さが見込まれるのが特徴。

 

アフリカ諸国は、政情不安やインフレなどによる通貨の激しい値動きに長年悩まされ続けてきました。さらに銀行口座を持っていない国民も多く、個人に向けた給付金などが想定通りに配布されないなど、多くの問題が存在しています。また、海外からの送金においてもサブサハラ(サハラ砂漠以南の国々)地域の平均手数料は約8%と、送金コストが世界で最も高いグループに属しています(世界銀行によると、2021年第1四半期における世界の送金コストの平均は6.4%で、南アジアが最低の4.6%。持続可能な開発目標では2030年までに3%に抑えることを目指している)。CBDCはこのような問題を解決できる可能性を持っており、それゆえに本格的な導入に向けた取り組みが熱を帯びているのです。

 

当然ながらデジタル通貨の導入には、解決すべき問題も多数存在しています。前提条件として、国民がデジタル通貨を活用するためのデバイスの所有や、広範囲な接続網などのインフラ整備が不可欠。また、デジタルゆえに、サイバー攻撃による資産や情報の流出リスクを常に警戒する必要があります。アフリカだけでなく他国でも、CBDCの導入を巡る議論においては自国の状況を踏まえながらメリット・デメリットを検証するため、リスクが大きい場合は慎重にならざるを得ません。

 

しかし、デジタル通貨の流通には大きな利点があります。それは金融包摂で、貧困や差別により既存の金融システムから除外されてしまった人々に対して手を差し伸べることが期待できるのです。デジタル通貨やブロックチェーン、NFTといった「フィンテック」は、すべての人々に対して経済的に平等な権利を与える意味でも革新的な技術。より多くの人たちが金融サービスにアクセスできるようにすることは、途上国だけでなく先進国の課題でもあるので、アフリカの先駆的な取り組みは世界が見守っています。

 

デジタル通貨の到来に向けたビジネスでは、アプリやセキュリティ、スマートカードの提供など大きなチャンスが存在しています。途上国ではフィンテックを活用した新しいビジネスモデルが続々と生まれていますが、デジタル通貨の導入に向けた動きが加速する中、アフリカの動向から今後も目が離せません。

 

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世界最高の送金コストを減らせ! アフリカで「デジタル通貨」導入の動きが加速

【掲載日】2022年8月2日

世界各国で進展している自国通貨のデジタル化は、アフリカ大陸において急激な進展を見せています。すでにナイジェリアは、中央銀行発行のデジタル通貨「eナイラ」を2021年にローンチした一方、南アフリカとガーナはパイロット運用を実施中。さらにケニア、タンザニア、ナミビアなど約8か国が、将来の本格的な導入に向けて詳細なリサーチを開始しており、安定した金融制度を確立するために奔走しています。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がアフリカ諸国に広がる

 

各国政府の中央銀行によるデジタル通貨は「CBDC(Central Bank Digital Currency)」の略称で呼ばれており、自国の法定通貨建てで、中央銀行の債務として発行されて流通している自国通貨のデジタル版となっています。価格変動の激しい暗号通貨と異なり、政府の規制で介入されるので、安定度の高さが見込まれるのが特徴。

 

アフリカ諸国は、政情不安やインフレなどによる通貨の激しい値動きに長年悩まされ続けてきました。さらに銀行口座を持っていない国民も多く、個人に向けた給付金などが想定通りに配布されないなど、多くの問題が存在しています。また、海外からの送金においてもサブサハラ(サハラ砂漠以南の国々)地域の平均手数料は約8%と、送金コストが世界で最も高いグループに属しています(世界銀行によると、2021年第1四半期における世界の送金コストの平均は6.4%で、南アジアが最低の4.6%。持続可能な開発目標では2030年までに3%に抑えることを目指している)。CBDCはこのような問題を解決できる可能性を持っており、それゆえに本格的な導入に向けた取り組みが熱を帯びているのです。

 

当然ながらデジタル通貨の導入には、解決すべき問題も多数存在しています。前提条件として、国民がデジタル通貨を活用するためのデバイスの所有や、広範囲な接続網などのインフラ整備が不可欠。また、デジタルゆえに、サイバー攻撃による資産や情報の流出リスクを常に警戒する必要があります。アフリカだけでなく他国でも、CBDCの導入を巡る議論においては自国の状況を踏まえながらメリット・デメリットを検証するため、リスクが大きい場合は慎重にならざるを得ません。

 

しかし、デジタル通貨の流通には大きな利点があります。それは金融包摂で、貧困や差別により既存の金融システムから除外されてしまった人々に対して手を差し伸べることが期待できるのです。デジタル通貨やブロックチェーン、NFTといった「フィンテック」は、すべての人々に対して経済的に平等な権利を与える意味でも革新的な技術。より多くの人たちが金融サービスにアクセスできるようにすることは、途上国だけでなく先進国の課題でもあるので、アフリカの先駆的な取り組みは世界が見守っています。

 

デジタル通貨の到来に向けたビジネスでは、アプリやセキュリティ、スマートカードの提供など大きなチャンスが存在しています。途上国ではフィンテックを活用した新しいビジネスモデルが続々と生まれていますが、デジタル通貨の導入に向けた動きが加速する中、アフリカの動向から今後も目が離せません。

 

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コロナ禍でも日本は世界3位! 日本が20兆を注ぐ「FDI」、アジア向けは過去最高額に到達

【掲載日】2022年7月29日

2022年6月、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)が、世界の投資に関する動向を調べた「World Investment Report 2022」を公開しました。アジアのレジリエンス(回復力)が特筆されています。

アジアのレジリエンスに世界の投資家が期待

 

途上国への海外直接投資(FDI※)は緩やかに増加しています。2019年から2020年にかけては新型コロナウイルスのパンデミックにより世界各国で投資が減退しましたが、2021年は復調の兆しが見られました。なかでも大きく注目されるのは、3年連続でFDIが増加したアジア。2021年のアジア全体に対するFDIは6190億ドル(約83兆円*)で、過去最高を記録しています。

※海外直接投資とは…海外で経営参加や技術提携を目的に行う投資のこと。現地法人の設立や外国法人への資本参加、不動産取得などを通じて行う。当該国では雇用の創出、技術移転などが期待できることから、特に開発途上国などで積極的な受け入れを行っている。英語表記はForeign Direct Investmentを略してFDIと称される。

*1ドル=約134.5円で換算(2022年7月29日現在。以下同様)

 

アジアの中でFDIが最も多く増加したエリアは東南アジア。その増加率は驚異の44%と、アジアのみならず世界のFDIを牽引するエンジンとなりました。例えば、この地域では、マレーシアが半導体分野で世界中から投資を受けています。

 

東南アジア以外のエリアに目を向けると、インドが注目されるでしょう。2021年のFDIは対前年比でマイナスであったものの、国際的なプロジェクトの投資契約は例年をはるかに上回るペースで増加。最近では日本製鉄やスズキ自動車などの大手日本企業がインドへの投資を発表しています。

 

アジア諸国へのFDIの増加の背景には、SDGs(持続可能な開発目標)があります。途上国では、全体的にSDGsに関連する分野への海外からの民間投資が2021年に70%増加。なかでも再生可能エネルギーと教育分野では、パンデミック前と比較して、前者への投資が2%、後者では17%増えました。2022年でもこの傾向は続いている模様で、先述したスズキはインドで電気自動車の工場を新設するために、約3500億円を投資しています。一方、教育分野におけるプロジェクト数は2019年の37件から2021年には60件に増えました。

 

このように、アジアの途上国は、コロナ禍のような状況下においても、安定した投資を世界中から受けており、回復力の高さを示しています。また、上述のインドにおける事例が示唆しているように、日本は2021年の海外直接投資額ランキングで前年の5位(投資額は960億ドル〔約13兆円〕)から3位(1470億ドル〔約20兆円〕)に順位を上げました。2019年は1位(2270億ドル〔約30兆円〕)で、コロナ禍で著しく減少したものの、再び増加に転じました。FDIがアジアを中心に立ち直る中、日本も盛り返しつつあります。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

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「混迷するスリランカ」に襲い掛かる、4つの大きなリスク

【掲載日】2022年7月22日

現在スリランカでは、財政破綻およびインフレの高騰が、国民生活に甚大な影響を与えています。長年、ラジャパクサ一族が支配してきた政治や経済状況の悪化に国民は怒り、大規模デモや大統領公邸の占拠などが発生。国外に逃亡していたゴタバヤ・ラジャパクサ氏は大統領を辞任し、数日前に暫定政権が誕生しましたが、同国の情勢は混迷しています。スリランカにはビジネス上どのようなリスクがあるのでしょうか?

スリランカの大規模デモの様子

 

スリランカは、対外債務の膨張および外貨準備高の不足によりデフォルト(債務不履行)に陥りました。原因はいくつかあります。まず、スリランカは2009年に内戦が終結した後、主に中国からの融資を受けて、港や空港などのインフラを整備しました。しかし、同国はそれらの運営に失敗し、外貨を獲得することができず、対外債務の返済が滞ります。これにより、スリランカの信用格付けが下がり、同国は海外の資本市場で資金を調達することができなくなりました。

 

また、新型コロナウイルスのパンデミックによって、スリランカの主要産業である観光業が不振になり、外貨が減ったことも大きな要因です。同国は有機農業へのシフトを図ると同時に、保有する外貨(ドル)の流出を防ぐため、農薬や化学肥料の輸入を禁止しましたが、この措置はかえって農家を苦しめ、食料生産に悪影響を与える結果となりました。そんな中、ウクライナ危機が起こり、物価が世界的に上昇しますが、スリランカは外貨不足のために石油や食料などの必需品を輸入することができず、国民生活は苦しくなり、その怒りが大規模デモという形で噴出しました。

 

海外進出のリスク

スリランカ危機が起きているいま、同国または他の新興国・途上国への進出を検討している企業にとって、リスク管理が以前にも増して重要になっているでしょう。リスク管理とは「企業が事業活動を遂行するにあたって直面するであろう損失、または不利益を被る危険、あるいは、想定していた収益または利益を上げることができない危険の発生の可能性を適正な範囲内に収めるための一連の活動」を指します(日経ビジネス経済・経営用語辞典)。リスクにはさまざまな種類がありますが、海外ビジネスを検討するうえで重要な要因が少なくとも4つあります。

 

1: 物流

海外事業に必要なアイテムや素材を購入しても、業者がそれらを予定通りに届けなかったり、予算を超えたりするという不確実性が存在します。現在、スリランカでは石油が不足しており、食品がスーパーに届かないなど、サプライチェーンが混乱しています。

 

2: 規制

国によって法律や規制が異なるため、それらに精通した弁護士が必要。近年では特に環境規制が厳しい国が多く、それらの規制に合わせることが求められています。

 

3: 金融

為替や金利、物価などが将来変動するリスク。途上国の場合、為替が不安定なことが多く、現地通貨で得た売り上げをどのように日本の本社に環流させるかという課題もあります。上述したように、金融リスクはスリランカで最も大きな不確実性です。

 

4: 政治

資産の国有化や戦争、テロ、政権交代といった不確実性。世界有数の金融グループであるアリアンツは、2022年2月に発表したカントリーリスクの調査で、スリランカは政治体制が分裂しており、連立政権が概して弱いことを指摘していました。

 

受け入れることができるリスクの量や損失の許容額は企業によって異なりますが、それらを決める前に、企業はこのようなリスクを特定することが必要です。そのためには、商習慣や文化を含めて現地のことを把握しているパートナー企業と組むことが役に立つでしょう。リスク管理を踏まえて進出する国を安全に検討したい方向けに、下記に海外進出に役立つ多くの資料を揃えていますので、ぜひ参考にしてください。

 

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世界の「フードテック」市場で存在感を高める、ナイジェリアのスタートアップ

【掲載日】2022年7月13日

最新テクノロジーを活用して食品分野の新たな可能性を追求するフードテック。デリバリーから流通ネットワークの構築、食品関連事業者への融資まで、幅広いイノベーションが生み出されています。しかし、この動きが活発なのは先進国だけではありません。近年、一際大きな注目を集めているのがナイジェリアです。

フードテック系スタートアップが次々に生まれているナイジェリアのラゴス

 

ナイジェリアのフードテックを多く生み出しているのは、同国最大の都市・ラゴス。世界中のスタートアップに関するデータを提供するStartupBlink(SB)社の世界エコシステム・ランキングで、同都市は2022年に81位へ浮上し、前年から41位も順位を上げました。さらに、同社のフードテック企業エコシステムの都市別ランキングでは、米国の主要都市が上位を占める中、ラゴスが24位にランクインしています。

 

ラゴスを中心にナイジェリアのフードテックが台頭している背景には、人口増加に伴う食のニーズの高まりがあります。また、中間層が増えているため、食の多様化が進むと同時に、外食産業も成長しています。

 

SB社によれば、同都市にはフードテックのスタートアップが46社ありますが、その中には著名なベンチャーキャピタルから巨額な出資を受けて事業を急拡大している企業が数多く存在しています。例えば、2020年に創業したOrda社は、レストラン向けの注文管理や決済、商品在庫、物流システム等を管理できるプラットフォームをクラウドで提供しており、2022年1月に110万ドル(約1億5000万円※)を調達しました。

※1ドル=約136円で換算(2022年7月8日現在。以下同様)

 

ほかにも、Agricorp International社は、独自開発した「Farmbase」と呼ばれるテクノロジーを活用し、スパイスや養鶏農家を対象に詳細なプロフィールや財務フローを作成することで、農家の生産能力を高めており、2021年にはシリーズAの資金調達ステージで1750万ドル(約23億7000万円)もの巨額な資金調達に成功しました。同年には、レストランなどの食品サービス提供事業者と農家などを直接マッチングさせる仕組みを提供するVendease社も320万ドル(約4億3000万円)の資金を調達しています。

 

このように、多くの機関投資家や個人投資家、ベンチャーキャピタルが、ラゴスを中心にナイジェリアのフードテックに熱視線を送り続けています。同国の食に関する産業は今後も成長していくことが見込まれており、日本企業にとっても、その存在感はますます大きくなるでしょう。

 

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「3Dプリンター」で劇変するナイジェリアの製造業と医療業界

【掲載日】2022年7月6日

3Dプリンターがアフリカの製造業に変革を起こしています。学校建設や義手の制作など、高い汎用性を持つこの技術には、過去の産業革命のように、国や地域の経済を一変させる可能性がありますが、ナイジェリアでは特に若い世代の間で大きなビジネスチャンスを生み出しています。

アフリカ経済を変える3Dプリンター

 

長年、ナイジェリアにとって機械部品は悩みの種の一つでした。同国は機械製品の輸入依存度が高く、特に中小規模の製造業者にとって機械部品を調達することは簡単ではありません。製造ラインが故障した場合、粗悪な部品を代用して製造を再開せざるを得ないケースが多く、それが商品の品質低下や機械の再故障を招くという悪循環を生み出すことに。全体として、この問題はナイジェリアの製造業の発展を大きく阻害してきた要因の一つでした。

 

3Dプリンターはそれを変えています。現在のナイジェリアでは、機械部品を3Dプリンターで製造する新興企業が続々と生まれており、需要が急増している模様。これまで中小の製造業者に対して主導権を握っていた部品輸入業者などから見れば、混乱した状況かもしれませんが、3Dプリンターによって今後のナイジェリアの製造業は大きく飛躍していくことが見込まれます。

 

実際、機械工学を専攻している大学生が、研究の一環で導入した3Dプリンターが仕事につながるなど、この技術は、学生やアーティストを含めた同国の若い世代に、雇用や起業の機会をもたらしています。ナイジェリアでは医療分野においても3Dプリンターの導入が始まっており、例えば、手術を予定している患者の情報にもとづいて、手術器具の一つであるカッティングガイドをこの方法で作った結果、手術時間が短縮されるということが起きています。

 

このように、3Dプリンターに代表される最先端テクノロジーは、新興国にとって大きなビジネスチャンスを生み出す爆発力を秘めています。この「産業革命」は始まったばかりで、ニッチな分野を含めて広範囲に需要が生み出されていく見込み。外国企業にとっても進出チャンスが大いにあるでしょう。

 

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かなり画期的! インドのデジタル戦略「NDAP」公開の衝撃

【掲載日】2022年7月1日

近年、民間セクターでは、ビッグデータやAIによる分析に基づいて経営やマーケティングを行うデータドリブン企業が多数存在していますが、同じような傾向は途上国の政府でも見られます。インドでは最近、政府が大胆な情報公開戦略を実施。インド政府の透明性と業務の効率化が高まると同時に、同国への進出を検討している企業の意思決定にも良い効果を与えそうです。

インドのパブリックデータを調査せよ(画像提供/NDAP公式サイト)

 

2022年5月、インドの政府系シンクタンク「NITI Aayog」は、政府所有のデータを閲覧し分析することができるプラットフォーム「National Data and Analytics Platform(NDAP)」を公開しました。統計学の回帰分析やデータマイニング、AIが組み込まれているNDAPは、農業やエネルギー、資源、財政、ヘルスケア、交通などの幅広い分野の基礎的なオープンデータを提供。それらは相互運用ができるため、ユーザーは異なる分野を横断的に分析することができます。

 

NDAPの導入によって、インドのデータエコシステムが強化され、データドリブンの意思決定がさらに促進される見込み。例えば、NDAPには治安を保つ機能があります。インドでは警察関連機関がデータ管理能力の向上に取り組んでおり、2022年3月には、インド工科大学カンプール校のベンチャー企業が警察活動を支援するために、高度なAIが搭載された検索エンジンを開発していると報じられました。これにより犯罪捜査はもちろん、監視や犯罪マッピング、分析などにおいて、警察のリソース配分が改善されると見られていますが、政府や警察などの執行機関はさまざまな形で犯罪関連のデータを利用することができ、NDAPでは、それらが金融関連データなどと紐づけられているようです。

 

他国と同様に、インドは政府のデジタル化に取り組んできました。2015年にナレンドラ・モディ首相が公共サービスの電子化を進めるキャンペーン「Digital India」を開始。それ以降さまざまな取り組みが行われ、2021年にNDAPのベータ版が一部のユーザーだけを対象に試験的に導入されました。NDAPの一般公開について、情報通信技術に関するプラットフォームを運営するOpenGov Asiaは「かなり画期的な出来事だ」と述べています。

 

このようなインド政府のデジタル化は、民間企業や海外からの進出企業にとっても有益でしょう。インド進出を目指している日本企業は、自社が所有するデータと政府の公開データを掛け合わせていくことで、より実現可能性の高い戦略やビジネスモデルを構築することができます。NDAPで公開されている情報が、勝敗を分けるかもしれません。

 

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インドでシェア拡大を目指す「ジャパニーズ・ウイスキー」、しかし国内市場に変化が…?

【掲載日】2022年6月29日

近年、日本産酒類の輸出が目覚ましいペースで増加しています。2021年の輸出金額は過去最高額の1000億円を超え、2022年は前年を上回る勢いで推移。主な輸出先である米国や中国で高級品として受け入れられているジャパニーズ・ウイスキーや日本酒は、途上国でも市場の拡大を目指しています。しかし、ターゲット市場の1つであるインドではウイスキー市場に大きな変化が起きており、競争がさらに激しくなりそうです。

インド市場を攻略するためには……

 

日本が輸出する酒類の中で最も多いのは日本酒と思われるかもしれませんが、実際には輸出額の第一位はウイスキー。2021年の清酒輸出額の対前年比は約66%増でしたが、ウイスキーはそれを上回る約70%増という驚異的な伸長を示しました(国税庁『最近の日本産酒類の輸出動向について〔2021年12月時点〕』)。国際市場では、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアンに加えて、ジャパニーズが世界的に有名なウイスキーの産地として認識されています。これは、日本のウイスキーメーカーが品質に徹底的にこだわり、国際品評会などで激戦を勝ち抜いてきた結果と言えるでしょう。

 

今後、ウイスキーの市場規模が爆発的に拡大すると見られるのは新興国ですが、その中でも一際大きな注目を集めているのがインド。国際物流網の混乱によって、インド国内のウイスキーメーカーが2020年頃から急成長しています。巨大な人口を抱えるインド国内のウイスキー市場は約188億ドル(約2兆5000億円※)規模と言われており、現在では、さまざまなフルーツの香りや黒コショウなどの新感覚で楽しめるシングルモルトウイスキーの人気が高まっている模様。プレミアム感の高い輸入品に依存していたインド人の嗜好を変えるために、国内メーカーが奮闘していますが、それが国産や輸入品を問わず、ウイスキー人気に拍車をかけるでしょう。

※1ドル=約134.6円で換算(2022年6月24日現在)

 

現在のインドのウイスキー輸入関税は約150%であるうえ、高温多湿の気候条件が海外メーカーのハードルになってはいますが、自由貿易の枠組みが進展すれば、そのハードルは下がります。ウイスキーだけでなく、日本酒を含めて考えると、日本にはかなり多くの銘柄が存在しており、そのどれもが国内競争で勝ち残ってきた逸品。日本産酒類が本当に世界を席巻するのは、これからが本番ですが、インドを含めた新興国で成功するためには早めの戦略策定が必要。日本での功績に陶酔している時間はありません。

 

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SDGs達成に暗雲。格差が阻むアフリカの「安全な水」の普及

【掲載日】2022年6月22日

持続可能な開発目標(SDGs)の目標6は「安全な水とトイレを世界に」。その中のターゲットの1つに「2030年までに、だれもが安全な水を、安い値段で利用できるようにする」がありますが、この計画が難航しています。

安全な水はまだ?

 

2021年7月、WHO(世界保健機関)とユニセフ(国際連合児童基金)は、2000年〜2020年までにおける家庭用飲水や下水設備、公衆衛生に関する進歩について報告(レポート名は『Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000‒2020』)。SDGsの目標6は、進捗速度が4倍以上にならなければ、2030年までに達成することはできないと警告しています。

 

2020年当時では世界中で約4人に1人が自宅で安全な水を飲むことができず、約半数が衛生基準を満たさないトイレなどの施設を利用しているとのこと。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック発生時には、10人中3人が自宅で石鹸と水を使って手を洗うことができなかったと報告しています。

 

この問題に潜んでいるのは格差。安全な水のサービスを享受することができないのは都市部より地方が多く、特に世界の中でもサブサハラ(サハラ砂漠より南のアフリカ地域)は最も進捗が遅れています。安全な飲料水を利用できる人は同地域の人口の約半分で、脆弱な地域では25%以下にまで低下。例えば、ウガンダでは人口の32%が安全な水を得るために30分以上も歩かなければならず、これが仕事や家計、ひいては経済に影響を及ぼしています。きちんと管理されていない井戸などは人間の排泄物や土壌の堆積物、肥料、泥などが水源に流れ込んでいるため、育児や日常生活に適していませんが、それでも安全な水は遠くにあるうえ、高価で手が届かないため、貧しい人たちは比較的近場にある不衛生な水を使わざるを得ないのが現実です。

 

このような状況にある国・地域では、国際機関や民間企業、地元のパートナーがタッグを組んで、この問題の解決に取り組んでいます。日本でも数多くの研究や事業が推進されており、その一例として株式会社Sunda Technology Global(京都市)が挙げられます。同社は、水の衛生状況が脆弱なウガンダの農村部で安全な飲料水の提供を目的として、IoTを活用した従量課金型の自動井戸料金回収システム(SUNDAシステム)を展開。2021年には、中小企業の途上国への事業展開を援助する経済産業省の補助事業「飛び出せJapan!」(運営:アイ・シー・ネット株式会社)で採択されました。

 

WHOとユニセフのレポートでは前向きな兆候もあったと述べられています。2016年から2020年の間に、自宅で安全な水を飲むことができる人口が世界で4%増えたり、安全な下水処理施設が7%増加したりするなど、いくつかの進歩が見られたとのこと。しかし、これらは決して十分ではなく、数十億人の子どもや家族を救うためには、さらなる投資が緊急に必要であると主張しています。Sundaのように、独自の手法を持つ日本企業の挑戦が今こそ求められています。

 

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低所得者層の農家向け「農機シェア」が話題! アグリテックがナイジェリアの農業を変える

【掲載日】2022年6月15日

最先端テクノロジーを導入することで農業の方法を変える「アグリテック」。AIやドローン、ビッグデータなどが話題を集めがちですが、実は資金の提供スキームも進歩を遂げています。途上国では「BOP(Base of the Pyramid)」と呼ばれる低所得者層の農家を対象にしたビジネスモデルが次々に登場しており、世界の投資家から熱視線を浴びているのです。この仕組みは途上国が人口増加と食料の問題を解決するうえで大きな役割を果たすかもしれません。

所得の低い農家が希望を持てるビジネスモデルが生まれた

 

2021年、貧困と飢餓の撲滅を目指して国際開発を行う「ヘイファーインターナショナル」は、アフリカ全土の有望なアグリテックイノベーターに賞金を提供する「AYuTe Africa Challenge」を創設。その第1回大会で賞金150万ドル(約2億2500万円※)を獲得したのが、農機具を持たない農民に対して携帯アプリでトラクターなどのレンタルサービスを提供するナイジェリアの「ハロー・トラクター(Hello Tractor)」でした。

※1ドル=約135円で換算(2022年6月13日現在)

 

ハロー・トラクターのサービスはソフトウエアとトラッキング・デバイスからなり、ユーザーがトラクターの所有者にアプリ上で連絡して利用日を予約するというもの。「Uberのトラクター版」とも呼ばれる本サービスは、ペイ・アズ・ユー・ゴー(Pay-as-you-go)の仕組みを活用しており、課金方式は従量制。最大のメリットは、低所得者層の農家がトラクターを使って生産性を向上させることができる点です。借りる側の担保ではなく、トラクターが生み出す収益に着目したこのビジネスモデルは、日本を含めた世界各国においても大いに参考になるビジネスモデルとなりえるでしょう。

 

石油大国として知られるナイジェリアですが、農業も最重要分野の1つ。同国の農業は、自給自足を主とする小規模農家が多く収穫高は天候に大きく左右されます。また、近年は高いインフレ率にも苦しんでおり、2022年3月は17.2%の食料インフレ率を記録しました。さらに、人口は現在2億人を超えており、2050年には4億人に倍増する見通し。そのため、食料の安定した供給は重要な問題なのです。

 

日本においては人口減少や跡継ぎの不在など、ナイジェリアの農業事情とは異なる部分も多いですが、アグリテックによる農業の進化が未来の重要な鍵である点は同様。また、食料の安全保障はどの国においても必須課題であると同時に、大きなビジネスチャンスを秘めています。途上国で生まれるハロー・トラクターのようなイノベーションから今後も目が離せません。

 

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世界初の「3Dプリンター学校」、アフリカの教育を変える驚きの手法

【掲載日】2022年6月13日

アフリカの南東部に位置するマラウイでは現在、学校と教員が不足しています。ユニセフ(国際連合児童基金)によれば、同国では約3万6000の教室が必要であるうえ、教員1人当たりの生徒数は99人であるとのこと。この状況は生徒の習熟度に大きく影響します。そこで、マラウイは学校不足を解消するために、意外な手法を用いました。

マラウイで開校した世界初の3Dプリンター学校(画像提供/14Trees)

 

2021年6月、3Dプリンターを使って建設した学校が世界で初めてマラウイで開校しました。この学校を建設したのは、スイスの建築資材企業ホルシムと英国政府系の開発金融機関ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメントの共同事業である14Trees。建設に要した時間はわずか18時間で、この学校は70人の生徒を収容することができます。マラウイの多くの児童は、自宅から数キロ以上離れた、かなり遠い学校に通学することを余儀なくされており、この学校はアクセスの改善においても強く期待されています。

 

また、従来の工法では約3万6000の学校を建設するために約70年を要するとユニセフは試算していますが、14Treesは3Dプリンター工法を活用することで、それを約10年に短縮することができると推計しています。

 

3Dプリンター工法は建設時間に加えて、コストと環境負荷の軽減にも有効。従来工法と比較すると建設コストは約25%減、二酸化炭素排出に関しては約86%も軽減することが判明しています。その反面、課題も存在しており、現在の建設用大型3Dプリンターのコストは約10万ドル(約1330万円※)以上と高価なもので初期の資金調達をクリアすることが必要です。投資家や寄付者を募る国々も多いとは思いますが、将来性の観点からすると非常に高い興味を持たれる事業であると想定できます。

※1ドル=約133円で換算(2022年6月8日現在)

 

3Dプリンターを使った学校建設プロジェクトは、マラウイ以外にもケニアや南アフリカ、マダガスカルなどで進行中。アフリカは爆発的な人口増加の渦中におり、子どもの数は増える一方ですが、多くのアフリカ諸国がマラウイと同様の問題を抱えています。また、今後アフリカ全土に広まる可能性を持つ本事業は、ほかの大陸の新興国にも注目されています。教員不足は別の問題ですが、学校が増えることはアフリカの教育にとって重要な進展となるでしょう。

 

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トゥクトゥクもEV化! カンボジアの電気自動車への本気度

【掲載日】2022年6月8日

世界各国でモビリティ革命が進行するなか、カンボジアが持続可能な電気自動車(EV)国家への躍進を目指して、広範囲にわたる普及政策を展開しています。

トゥクトゥクもEVの時代に突入

 

カンボジア政府は2021年12月、長期的なカーボンニュートラル政策の一環として、2050年までに自動車と都市バスの40%、電動バイクの70%をEVにすることをUNFCCC(国連気候変動枠組条約)に盛り込みました。すでにカンボジアでは、2021年よりEVの輸入関税を従来のエンジン車より50%軽減させる措置が取られていると同時に、EV組立工場への投資が強く奨励されています。さらに政府は、EV普及の鍵を握る充電ステーションの設置を既存の給油所に働きかけるなど、積極的な動きを見せています。

 

実際、カンボジアの首都・プノンペンでは、二輪EVや電動モペットのシェアライド事業が行われるようになりました。三輪タクシーのトゥクトゥクやバスなどの公共交通機関もこれからEV化される予定。また、同国では海外の自動車や二輪車メーカーがEVのショールームを開設しています。

 

この背景には、世界中でEVの普及が急速に進んでいることが挙げられます。2021年11月に英国で開催されたCOP26サミット(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、2040年までに全世界で、2035年までには主要国の市場で環境に負荷のないゼロ・エミッションに対応する普通自動車や商用バンなどの新車販売100%を目指す誓約などが締結されました。また、近年の自動車市場においてEVの販売比率が飛躍的に伸長しており、国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年時点で普及している世界のEVは1000万台を超え、前年比では43%もの増加。さらに、EVはコロナ禍でも前年比で70%もの販売増加を記録したのです。世界最大のEV大国とされる中国では、EV購入の補助金を制限した結果、価格がやや下がったため、販売数が伸びた可能性があるとのこと。

 

当然ながらEVの普及には数多くのハードルが存在しています。カンボジアは、車道や送電網を含めたインフラの整備、EVバッテリーの廃棄、人材育成などの課題を抱えています。これらを解決するためには、政府や諸外国、国際機関の支援に加えて、民間企業の連携が不可欠。カンボジアは、中国がリードする世界の自動車市場のEV化について行く意思を示しているだけに、日本企業はカンボジアの動向にもっと注意を払うべきでしょう。

 

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●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

偽薬が30%を超える国も。製薬業界がブロックチェーンで対抗

【掲載日】2022年6月2日

フィンテックや物流をはじめ、さまざま分野で活用されているブロックチェーン。その存在感が製薬業界でも高まってきました。大手企業やスタートアップ、国際機関がブロックチェーンの活用を通して、医薬品のサプライチェーンや安全性を向上させようとしています。

↑ヘルスケア分野でも重要性を増すブロックチェーン

 

市場調査を行うMarket Satsville社によると、ヘルスケア分野でブロックチェーン技術を導入するスタートアップ企業への投資が右肩上がりで成長中。その市場規模は2021年で約4億9000万ドル(約627億円※)、2027年には約36億6190万ドル(約4686億円)に達すると予測されています。

※1ドル=約100円で換算(2022年5月31日現在)

 

医療記録の管理や医薬品におけるサプライチェーンの管理、偽造医薬品の防止など、ブロックチェーンが製薬業界にもたらすメリットはさまざま。例えば、医薬品のサプライチェーンの管理において、ブロックチェーンが薬の製造元や原材料の調達、輸送などに関する情報を追跡することで、透明性のある物流手段を確保することが可能。結果的に医薬品の安全性の向上につながります。

 

ブロックチェーンの価値はそれだけではありません。この技術は偽造医薬品対策としても注目されています。世界保健機関(WHO)によると、先進国で入手可能な医薬品の約1%が偽造品であるうえ、途上国の中には30%を超える規模で偽造品が蔓延している国々もあるとのこと。ここでも、ブロックチェーンのトレーサビリティが役に立つと言われているのです。

 

製薬業界へのブロックチェーンの導入を巡り、世界中の民間企業でさまざまな動きが見られます。アメリカやイギリス、中国、エストニアなどのブロックチェーン先進国では、すでに数多くのプロジェクトが進行しており、例えば、アメリカでは2020年にIBMやKPMG LLPなどのテクノロジー関連企業が、アメリカ国内の医薬品の検証と追跡を目的とした実証プログラムを実施しました。また、同国では大手製薬企業25社のコンソーシアム「MediLedger Pilot Project」が発足しており、製薬業界向けのブロックチェーンの構築が進められています。

 

ヘルスケア分野のスタートアップへの投資も活発。アメリカでは2018年に、医療データ向けのネットワークを構築するスタートアップのAkiriが約1000万ドル(約12億8000万円)の資金を調達しました。一方、中国では政府がヘルスケア分野へのブロックチェーンの導入を積極的に支援。同国のさまざまな都市がブロックチェーンのスタートアップに投資しています。

 

日本やオーストラリア、シンガポールなどもブロックチェーン先進国に続こうとしていますが、偽造品の流通といった製薬業界が抱える課題はグローバルな問題であるため、途上国の動向からも目が離せません。アフリカ諸国はIT技術を駆使して医療の問題を解決しようとしています。世界各国がこの分野で研究開発や投資を加速させてくることでしょう。

 

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世界を襲う「砂クライシス」。危機の回避に向けて国連環境計画が解決策を提言

【掲載日】2022年6月1日

世界各地で発生している急激な都市化と人口の増加は、砂の消費量を激増させており、その価格は年々上昇しています。主にさまざまな建築物で活用される砂は、価格高騰による不正採取が跋扈しており、日本もその例外ではありません。環境保全や気候変動への適応という観点からも砂は重要であり、適切な管理方法の確立が今まで以上に求められています。

途上国の都市化により、ますます需要が高まっている砂

 

2022年4月、国際連合環境計画(UNEP)は「Sand and Sustainability: 10 Strategic Recommendations to Avert a Crisis」というレポートを発表し、砂資源の危機を回避するための戦略を提言しました。現在、世界で必要とされている砂は年間約500億トン程度で、その量は地球全体を高さ27メートルの砂壁で覆うことができる量に匹敵すると言われています。2019年に経済協力開発機構(OECD)が行った調査では、2060年までに世界人口が100億人を超えた場合、建築における砂や砂利、砕石の使用量が調査時と比較して2倍以上になるだろうと予測されています。「砂漠の砂を代用すればいいのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、残念ながら風食による細かい粒子の砂は建築資材には活用することができません。

 

新興国では近年、急激な都市化が進行しており、需要が増加したために砂の価格が過去数十年で高騰。例えば、1991年における米国の砂1トンあたりの平均価格は3.96ドル(約503円※)でしたが、2021年には9.9ドル(1257円)を記録しています。

※1ドル=約127円で換算(2022年5月25日現在)

 

砂はコンクリートの製造や住宅、道路、インフラ整備などのさまざまな用途で必要とされており、経済発展には不可欠な資源の1つ。その反面、海岸や河川などから砂を掘り出すことは、海岸などの浸食や塩害、高潮対策の喪失を引き起こす可能性があるほか、生物多様性への影響も危惧されています。さらに、海岸に砂があれば、高潮や海水面の上昇から人類を守ることができるため、UNEPは、砂の保護は「気候変動に適応するうえで最も費用対効果が高い戦略である」と述べています。

 

そこで、同レポートは、循環型経済の枠組みの中で砂を管理するべきだと主張。砂を建設資材だけの問題として片付けるのではなく、環境への影響やロジスティクス、国際公開入札に向けた新しい基準の必要性など、幅広い視点からこの問題を捉えると同時に、政府や産業界、消費者を含めた、すべての利害関係者に考慮しながら適正価格をつけるべきだと論じています。また、循環型経済の構築に向けて、公共調達案件における砂の再利用の奨励や、代替品としての砕石、解体資材のリサイクル、鉱砂など、さまざまなアプローチが提唱されています。

 

砂を適切に管理するために、UNEPは砂資源のマッピングや監視、報告体制の構築などについても言及していますが、これらに向けて、世界各国で官民挙げての取り組みが今後増えていくでしょう。各国ともに最善の対策を模索しているのが現状ですが、「戦略資源としての砂」という認識はどこも揺るぎません。砂は水に次いで世界で2番目に活用されている資源なのですから——。

 

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もう1つの恐るべき感染症。コロナ禍の裏で増加に転じる「マラリア」

【掲載日】2022年5月25日

2008年から毎年4月25日は「世界マラリアデー」になりました。この日はマラリア撲滅に向けた世界的な取り組みや進歩を確認する機会として設けられています。それに先立つ4月21日に、WHO(世界保健機関)はアフリカ3か国で計100万人以上の子どもたちがRTS, Sマラリアワクチンを接種したことを発表しました。しかし、マラリアのない世界はまだ訪れていません。

マラリアはまだまだ終わらない

 

マラリアとは蚊によって媒介される感染症で、語源はイタリア語の「mal(悪い)」と「aria(空気)」。人間に感染するマラリア原虫は5種類(熱帯熱、三日熱、卵形、四日熱、サルマラリア)あり、なかでも特に重症化を引き起こし、致死率の高い熱帯熱マラリア原虫は、世界のマラリア感染者の多数を占めます。感染すると悪寒や発熱だけでなく、脳症、腎不全、肝機能障害、出血などの合併症を発症するマラリアは、古代から人類を悩ませてきました。マラリアの病原体が発見された19世紀後半以降、ワクチンを含めた治療法の開発は目覚ましい進展を遂げてきましたが、宇宙を開発するまでの科学技術を生み出している現代においても、人類はいまだにこの感染症を克服することができていません。

 

近年では、新型コロナウイルスのパンデミックが、途上国のマラリア撲滅に向けた取り組みに影響を及ぼしました。WHOの「ワールド・マラリア・レポート2021」では、2020年には世界で約2億4100万人がマラリアに感染し、約62万7000人が死亡したと推計されています。前年と比べると、感染者数は1400万人、死亡者数は6万9000人増加。世界各国の政府や医療機関などが新型コロナウイルスの対策に追われた結果、それまで減少傾向にあったマラリアの感染が再び増加に転じるという異常事態が発生しているのです。

 

例えば、ブータンや東ティモールは、2025年までにマラリアの撲滅を目指すWHOの「E-2025」と呼ばれる取り組みの対象国に含まれていますが、両国ではその計画に黄信号が灯っています。一国だけの対策でマラリアの蔓延を抑えることはできず、隣国からの国境を越えた感染拡大を止めることが急務。政府機関および国際機関の協力体制の強化に加えて、現場の医療従事者が国境を越えて情報を交換できるアプリが開発されています。

 

日本にとっても現在進行形の課題

公衆衛生が高いレベルで維持されている日本にとって、マラリアの蔓延は遠く離れた途上国の話、もしくは過去の出来事と考えがちですが、様相は変わるかもしれません。温暖化の進行によって日本でマラリアの感染が再び広がるのではないかという説が以前にありましたが、現在、地球規模で気候変動が起きており、マラリアを媒介する蚊の生息地域も変化しています。熱帯熱マラリアを媒介するコガタハマダラカは、日本では沖縄地方の宮古・八重山諸島でのみ存在が確認されていますが、その生息地域が温暖化によって拡大する可能性はまったくないというわけではないでしょう。

 

一方、日本は世界各国の政府機関や民間機関などと協力しながら、途上国のマラリア対策を支援してきました。民間企業に目を移せば、住友化学による防虫蚊帳の配布や、九州メディカルによるボウフラ殺虫剤の展開など、途上国の現地住民の命と健康を守るための基本的な蚊媒介感染症対策製品が導入されています。マラリア撲滅という国際的な課題において、今後も日本にはあらゆる面で世界各国から大きな期待が寄せられていくでしょう。

 

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資本投資が168%増加! 勢いづくエジプトの「デジタル人材育成」

【掲載日】2022年5月23日

エジプト発のスタートアップ企業の台頭が際立ってきました。エジプトはデジタル人材の育成を国家的に強化しており、中東・アフリカ地域におけるエコシステムの勢力図を塗り替えそうな模様です。

中東・アフリカ地域のデジタル勢力争いに加わったエジプト

 

スタートアップ・エコシステムに関する政策の助言や調査を行うStartup Genomeが2021年に発表したレポートによれば、2020年度におけるエジプトのスタートアップ企業に対する投資額が前年度比で30%増加し、そのうちの約3割は海外からの投資でした。また、途上国のスタートアップ企業に関するデータを提供するMAGNiTTは、同国のエコシステムへの資本投資が2021年に前年比で168%増加し、5億万ドル(約645億円※)に近づいたと報告。これらはエジプトが持つ可能性の高さを如実に表しています。

※1ドル=約129円で換算(2022年5月16日現在)

 

エジプトは2016年に、経済やエネルギーなど幅広い分野を包括した国家戦略「ビジョン2030」を発表しました。この中で同国は2030年に実質GDPの成長率を発表時の前年比で12%増を目指すなど、野心的な目標を掲げましたが、その実現に向けた施策の中で特に注力しているのがデジタル化の振興。そこで不可欠になる人材育成にエジプトは国家レベルで取り組んでいます。

 

例えば、エジプトの通信情報技術省は、オンライン教育を提供する米国のUdacityと組み、デジタル技術を無償で学べる「Future Work is Digital(FWD)」と呼ばれるイニシアティブを2020年に開始。これは18か月間のプログラムで、学生は専門家による実践的なプロジェクトやウェビナーを受講できるうえ、メンターによるサポートや卒業時の就業サポートなどを受けることが可能。20万人以上の若者のITスキル向上を目指しており、ここでフリーランスとして活躍できる知識や技術、能力を身に着けることができた若者はすでに約7万3000人に上るとのこと。

 

また、国内企業のみならず海外企業のアウトソーシングに対応する人材の育成も包括しているFWDでは、情報技術産業開発局の支援により、学生を含めた1万人の若者に英語・フランス語・ドイツ語を教えるプログラムも2021年末からスタート。つまり、エジプトはデジタル業界を中心としたグローバル人材の育成において手厚いサポートを実施しているのです。

 

このような「デジタル・エジプト」の取り組みは、すでに海外で評価され始めています。米国の経営コンサルティング企業のA.T.カーニーが発行する2021年版グローバルサービス拠点インデックス(GSLI)では、中東・アフリカ地域からエジプトだけが上位20位にランクイン。同国の世界経済全体に与えるインパクトが、これから強まっていくと見られています。

 

アフリカにおけるスタートアップ企業の発展は、これまでナイジェリアやケニア、南アフリカで顕著でしたが、現在ではそこにエジプトが加わっています。デジタル戦略を推進する同国は勢いづいており、日本企業が中東・アフリカ地域への進出を検討する際にも、エジプトの人材は貴重な戦力になるかもしれません。

 

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投資額が210億円を突破! 世界で急成長する「海藻」産業

【掲載日】2022年5月17日

昆布やワカメ、海苔など、古代から日本人にとって馴染み深い存在である海藻。それが近年、世界中で熱視線を浴びています。環境や食料、途上国の経済発展など、さまざまな課題を解決するために、海藻が重要な役割を担いつつあるのです。

海藻が世界を救う

 

海藻の重要な側面の1つが養殖。ニューブランズウィック大学(カナダ)の海洋生物学教授のティエリー・ショパン氏によると、海藻は世界の養殖生産の約51%を占める生産量の高さを誇り、そのうちの99.5%が東〜東南アジアに集中しているとのこと。しかし、2012年に太平洋島嶼(とうしょ)国が国連で提唱した「ブルーエコノミー(循環型経済の概念を取り入れつつ、海洋生態系を維持しながら経済的繁栄と貧困撲滅を目指す経済モデル)」の提唱もあり、海藻の養殖はアジアを超えて拡大しつつあります。国際連合食料農業機関(FAO)の統計によると、世界の海藻養殖生産量が2000年では約1060万トンでしたが、2018年には約3240万トンと約3倍に増加し、現在でも生産量が落ちることなく推移。

 

海藻のさまざまな特徴が、生産量を上げています。現代社会で二酸化炭素の排出量削減は最重要課題の1つですが、海藻の養殖は1ヘクタールあたり熱帯林の約3倍の炭素を吸収することができ、さらに地球上の光合成の約50%は海藻で行われています。また、海藻は栄養価の高い食料としてのみならず、医薬品や有機肥料、燃料など幅広い用途に活用する可能性を有しており、国連をはじめ世界各国の研究機関が海藻に関する施策を打ち出すようになりました。

 

例えば、2022年4月13日から2日間にかけてパラオで開催された「Our Ocean Conference」において、米国国際開発庁(USAID)が24の取り組みを発表し、その中でも630万ドル(約8億1220万円※)の拠出を決めた「NOSY MANGA」プログラムは、海藻とナマコの養殖を通じた持続可能なブルーエコノミーの創出を目指しています。

※1ドル=約128.9円で換算(2022年5月13日現在)

 

海藻養殖への投資は世界的に拡大しており、海藻産業のニュースやデータを提供する「Phyconomy」によれば、2021年の取引件数は前年の17件から34件に倍増し、投資総額は前年比36%増の1億6800万ドル(約216億円)に到達したとのこと。また、同年の取引額の中央値は230万ドル(約2億9600万円)で、同年最大規模の投資案件はノルウェーの海洋バイオテクノロジー企業Alginorに対する協調融資。その規模は約3300万ドル(約42億5000万円)でした。

 

海藻は今後ますます世界で注目されていく模様ですが、その中でも日本は海藻の食文化において長い歴史を持ち、全国各地で養殖を展開しています。海藻を通じた持続可能な社会の実現に向けて、日本企業は大きく貢献することができるでしょう。

 

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次なるフロンティア! 急成長するインドの「メンタルヘルス」市場

【掲載日】2022年5月12日

近年、世界各国でメンタルヘルス(精神衛生)の重要性が認知されている中、特に注目を集めている国の1つがインドです。同国では多くの人々が心のケアを求めており、国全体でメンタルヘルスの問題に取り組んでいますが、精神科医が圧倒的に不足。この状況を打破するために、インドのスタートアップ企業がAIやロボットを活用しようとしています。

↑心の苦しみを誰に打ち明けたらいいのか?

 

2022年2月、世界経済フォーラムは、インドでメンタルヘルスの認知度が高まっているものの、人材不足の問題が深刻であると述べた記事を掲載しました。同国は2016年に、メンタルヘルスに関する国民的な議論を喚起するため「Live Love Laugh」というフォーラムを立ち上げ、啓蒙活動を行なっています。メンタルヘルスを前向きに捉える人の割合が2018年の54%から2021年には92%に増えるなど、国民の意識は大きく変化した模様。しかし、人材不足は解消されておらず、同国では10万人の患者に対して精神科医がわずか0.75人しか存在していません。

 

メンタルヘルスケアへの需要は増えています。新型コロナウイルスのパンデミックが宣言された2020年、アメリカの大手ソフトウェア企業のORACLEが、11か国で約1万2300人を対象にメンタルヘルスに関するアンケート調査を行いました。その結果、メンタルヘルスで最も苦しんでいる国はインドであることが判明。例えば、同国の従業員の89%がコロナ禍で精神の健康を損ない、さらに93%がその影響は家庭にも及んでいると述べています。

 

また、インドでは96%がリモートワークに伴うストレスを指摘していますが(比較すると日本人は71%)、それと同時に91%がメンタルヘルスの問題について職場のマネージャーではなくロボットセラピストに相談したいと回答。上司よりもロボットを好む傾向の高さは中国と同じですが、この問題におけるインドの取り組み方を考察するうえで、その事実は示唆的です。

 

すでにインドはロボットセラピストやメンタルヘルス向けのAIの開発に注力し始めています。近年、同国ではメンタルヘルス分野のスタートアップ企業に対する投資額が増加中。アメリカと比べると圧倒的に小さいものの、インドのメンタルヘルス産業は過去5年間で2000万ドル(約26億円※)の規模に拡大しており、コロナ禍における需要の爆発的な高まりから、同市場はこれから急拡大していくと見られます。

※1ドル=約130円で換算(2022年5月10日現在)

 

上述した世界経済フォーラムの記事の見出しは「Better access to treatment is the next frontier(より良い治療の提供が次なるフロンティア)」。メンタルヘルスケアを提供する日本企業も、巨大市場に成長する可能性を秘めたインド市場の動向に注目すべきかもしれません。

 

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日本の知見が必要だ!「有機農業」への道を模索するインド

【掲載日】2022年5月9日

2022年4月、インドのカルナータカ州政府は、化学肥料や殺虫剤を使用しない農作物の栽培に注力することを発表しました。同州政府は約4000エーカーの土地で野菜や果物の有機栽培に取り組む計画。今後の収穫結果の動向にも左右されますが、多くの地元農家が成功を期待しています。

有機農業へのシフトは言うは易く行うは難し

 

先進国と同様に、インドでも健康意識の高まりから、有機栽培による農産物を求める消費者の声が強くなっていますが、同国の農業がここまで発展するまでの道のりは平坦ではありませんでした。1960年代半ばに大飢饉がインドを襲いましたが、この危機から同国を救ったのは、1970年代にノーベル平和賞を受賞した故ノーマン・ボーローグ博士による「緑の革命」。これにより、高収量を目指すことができる品種が導入されたり、化学肥料などを活用して生産性が向上したりしました。この取り組みは飢饉を抑える原動力になった一方で、人体や生物への影響、所得格差の拡大といった問題点も浮き彫りになりました。そして、現在のインドは有機栽培による品質向上だけでなく、アグリテックの活用による農作物の大量生産を目指しているのです。

 

しかし、有機農業へのシフトを図るインドの前には、厳しい現実が待ち構えています。インド農家の多くは、成長促進や商品としての見栄えを考慮して、ホルモン剤や硫酸銅などを注入していると報じられています。また、工業施設近辺の農家では、有害金属が含まれる工業排水を農作物に与えることがあるため、汚染濃度の高い農産品も少なくありません。インド食品安全基準局は多くのガイドラインを定めていますが、まだ目標としている段階まで到達していないのが現状。

 

一方、高品質で安全な農産物を消費者が享受できるように、インドの州政府もさまざまな取り組みを行なっています。生産者が共同使用できる冷蔵室や熟成室、衛生機器、廃棄物処理施設などを提供したり、研修プログラムや能力開発支援を定期的に開催したり。しかし、州政府の戦略策定と現場への導入との間にはギャップが存在しており、有機農業へのシフトは難航しています。

 

有機栽培において日本は深い知見を持っています。例えば、農林水産省の認証制度やJICAと民間企業による連携事業など、インドの参考になる事例が数多くあるでしょう。また、環境負荷が少ない生産方法や流通網で農作物を提供することは、インドの販売企業にとっても多大なメリットが見込まれます。それだけでなく、高品質な農産物を生産してきた日本の民間企業にとっても、これは大きなビジネスチャンスと言えるでしょう。

 

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日本式に大きな期待!途上国へ拡大する「STEAM教育」

【掲載日】2022年4月27日

最近、STEM/STEAM教育が途上国で盛り上がりを見せています。それぞれの国の問題を解決したり、現代の産業や経済のグローバル化などに対応したりするために、途上国が国家レベルで、この教育モデルの構築に取り組むケースが見られるようになってきました。

日本式STEAM教育を世界へ

 

2022年3月、ナイジェリアでSTEAMを専門とする高等教育機関(ポリテクニック)をリバーズ州トンビアに設立する法案が可決しました。同校はソフトウェア工学や人口知能分野、さらに困難なビジネス状況に陥った場合においても創造的な解決手法を見つけ、世界に羽ばたく人材を育成することを目指していくための先駆的な機関です。

 

また、ジャマイカもSTEAM教育を国家で推進しており、4月1日の同国西インド諸島大学におけるSTEMキャリアフォーラムにおいては、初等教育段階からSTEM学習を推進しプロジェクトベースで問題解決型の能力評価を重視していく旨が大臣から発表されました。

 

そもそもSTEM/STEAM教育とは、Science(科学)Technology(技術)Engineering(工学)Arts(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字を並べたもので、国によって定義は異なりますが、「問題解決的な学習」をコンセプトにしています。当初は「科学(S)・技術(T)・工学(E)・数学(M)」という4つの学問分野を統合的に学ぶためのモデルでしたが、その後「A(芸術)」を加えたモデルへと発展。日本の文部科学省は「芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進することが重要」と述べています。

 

芸術が加えられたように、数学や科学をベースにしながら「創造力」や「感性」を重視する教育は、評価方法はもちろん、実際にそれらの分野を包括的に指導する側にも、既存の教育システムや価値観に捉われずに、新たな基準を作り出していくことが求められます。また、学習したことをビジネスに昇華させる過程では、さらに高度なレベルが求められるため、教育機関だけでなく産業界をも巻き込んだ国家的な取り組みになっていると言えます。

 

時代に適した感性や一見何事にも活用が難しいと思われる技術を掘り出して、ビジネス——つまり「商品」——としてマネタイズできる先進的なプロデューサーやプロジェクトマネージャーもSTEAM教育の先に求められてきます。

 

STEAM教育において日本は世界各国での評価が高く、資源の多くを輸入に頼っている島国を世界的に飛躍させた高品質な工業製品を生み出す原動力の1つであったと言えるでしょう。すでに掃除や日直、学級会といった特別活動を中心とする「日本式教育」は海外に輸出されていますが、これからは「日本式STEAM教育」の確立と途上国への伝達もより大切になりそうです。

 

【参考】

文部科学省『STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について:文部科学省初等中等教育局教育課程課』2022年4月25日閲覧)https://www.mext.go.jp/content/20210714-mxt_new-cs01-000016477_003.pdf

 

杉山雅俊・江草遼平・手塚千尋・辻 宏子(2021)『日本型STEM/STEAM教育の構築に向けた学習指導要領解説の比較分析』日本科学教育学会研究会研究報告、36 巻 2 号 p. 177-180 https://doi.org/10.14935/jsser.36.2_177

 

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人口爆発でサブサハラが台頭! 2050年の「メガシティー」予測

【掲載日】2022年4月22日

現在の日本では、高齢化や人口減少がすでに大きな社会問題に発展していますが、その一方で爆発的な人口増加の状況下にある国々も数多く存在しています。ビジネスの世界においては、人口増加率や平均年齢の若さなどが将来の市場の成長性を見出す大きな要素の1つであり、グローバル展開を検討している企業にとって、将来の大きなリターンが見込まれるチャンスになり得るでしょう。では、将来のメガシティー(巨大都市)はどこで生まれているのでしょうか?

メガシティーに向かって走れ!

 

国際連合の経済社会局人口部は2021年に『Global Population Growth and Sustainable Development(世界の人口増加と持続可能な開発)』を発表しています。このレポートによると、2020〜50年の間に高い人口増加率が見込まれる上位10か国はインド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア連合共和国、エジプト、インドネシア、アメリカ合衆国、アンゴラ(人口増加数が高く見込まれる順)。

 

サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)地域だけで約半分の5か国を占めています。この上位10か国は、下位グループでも約5000万人以上の人口増加が見込まれ、上位のインドとナイジェリアに関しては約2億人以上も増加するとのこと。これらの国々では人口爆発と経済発展に伴い、都市化が進むと見られます。

2020年〜50年の世界各国の人口変動予測(出典: 国連『Global Population Growth and Sustainable Development』2021年

 

サブサハラに着目すれば、この地域では今後のビジネスにおいて高い成長性が見込まれる国が多数存在しており、デジタル経済の発達や国の経済力をはかる指標の1つである名目GDP(国内総生産)の上昇が顕著である国も多く、それゆえにGoogleやMetaに代表されるような巨大IT企業が続々と巨額投資を行い、将来のグローバルビジネスで覇権を得るべく近年顕著に事業を展開しています。

 

このような人口動態や開発は日本から想像しにくいかもしれませんが、上記のグラフの下位に目を移せば、2050年までに最も人口が減少するのは中国で、日本とロシアがそれに続きます。数十年前、関西のある著名経営者は日本の人口減少について「顧客候補になる人間が1人減るということは、目、鼻、口、耳、触感など五感にまつわるビジネスがいくつも減るということ。それが広がっていくことの恐ろしさを本当に理解していますか?」と警鐘を鳴らしていたそう。いまこそ日本の経営者は近くではなく、もっと遠くを見るべきかもしれません。

 

【出典】United Nations Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2021). Global Population Growth and Sustainable Development. UN DESA/POP/2021/TR/NO. 2. https://www.un.org/development/desa/pd/sites/www.un.org.development.desa.pd/files/undesa_pd_2022_global_population_growth.pdf

 

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トーゴに来た! アフリカに巨大なデジタル経済圏を生む「Google海底ケーブル」

【掲載日】2022年4月18日

20223月、西アフリカ地域に向けたGoogleの海底ケーブル「Equiano」が西アフリカのトーゴに陸揚げされたと報じられました。近年、巨大IT企業によるアフリカへの投資がヒートアップしていますが、Equianoの進展によりアフリカにおけるデジタル経済がまた一歩前進した格好です。

国際海底ケーブル「Equiano」の地図(画像提供/Google)

 

2019年に始まったEquianoプロジェクトは、欧州のポルトガルから西アフリカ各地を経由して南アフリカのケープタウンへの陸揚げを目指しています。18世紀後半にベニン王国(現ナイジェリア南部)で生まれ、奴隷解放運動を行った作家のOlaudah Equiano(オラウダ・イクイアーノ)にちなんで名付けられたこの国際海底ケーブルは、これからナイジェリアとナミビアにも陸揚げされる予定。同プロジェクトは西アフリカのインターネット環境を劇的に改善させ、その結果、巨大なデジタル経済圏が生まれると言われています。

世界の移動通信事業者等から成る国際業界団体GSM(GSM Association)の調査によれば、トーゴは人口(約828万人)の7割以上が携帯電話を所有する一方、世界銀行によるビジネス環境ランキングではアフリカで第6位。しかし、モバイル人口の高さに比較すると、インターネット環境が整っていないことがデジタル経済の推進における大きな課題の1つでした。モバイルのインターネット接続率は36%で、3G通信のカバー率は全人口の66%と、先進国の通信環境とは雲泥の差であります。

 

Googleの海底ケーブルの到達により、世界の潮流である5G通信環境の展開が視野に入るようになるため、トーゴを皮切りとして西アフリカ地域のデジタル経済が飛躍的に改善されることになるでしょう。急激な人口増加で若年層比率が非常に高い西アフリカは、今後の経済成長に伴う巨大市場の出現を狙った各国企業の進出が今後ますます増加すると思われます。

 

Meta(旧Facebook)主導の「2Africa」プロジェクトも進んでおり、アフリカのデジタル経済市場は想像を超えるスピードで発達していきそうです。

 

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製薬産業に革新を!「医薬品」の輸入依存から脱却を進めるアフリカ

【掲載日】2022年4月14日

新型コロナウイルスのパンデミックは全世界のサプライチェーンにダメージを及ぼし、各国経済に多大なダメージを引き起こしました。先進国はもちろん、新興国も景気の回復に向けて戦略を模索していますが、昨今アフリカで喫緊の課題となっているのが医薬品不足。この問題は住民の健康に悪影響を及ぼすだけではなく、経済成長も鈍化させ、貧困を拡大させるリスクを併せ持っています。

もはや輸入に頼ってばかりではいられない

 

10億人以上の人口を持つアフリカ大陸には、その膨大な需要に対応するだけの医薬品メーカーが存在しません。コンサルタント企業のマッキンゼーによると、その数は同大陸全体で約375社で、同程度の人口を有する中国やインドと比較すると圧倒的に少なく(中国は約5000社、インドは約1万500社)、医薬品の多くは輸入品に頼らざるを得ない状況です。さらに、コロナ禍における輸出制限やサプライチェーンの混乱などのため、大陸全域で医薬品の入手が困難になりました。

 

今回のパンデミックで、慢性疾患の治療や経口避妊薬、精神安定剤など、すべての医薬品がアフリカ全土で不足状況に陥っています。また、アフリカは世界人口の約17%の人口を占めているにも関わらず、新型コロナウイルスのワクチンにおいては、全世界で生産された約90億回分のワクチンのうち6%程度しか供給されていません。

 

そんな状況を変えるために、アフリカも動き出しています。例えば、新型コロナウイルスパンデミック初期の2020年4月、日本のJICAとアフリカ連合開発庁はアフリカの保健医療分野に関わる企業の支援策「Home Grown Solutions(HGS)アクセラレータープログラム」をスタートさせました。本プログラムは、選出された対象企業に対して、個々の企業のニーズに応える形で約6か月間サポートするもの。例えば、2021年にサポート対象になった注射器等の基礎医療用品メーカーのリバイタル社(ケニア)においては、複数の投資家から約7億円の資金調達に成功、製造ラインの拡大と共に注射器の生産量が約3.5倍に拡大、製品輸出も増加させるなど目覚ましい結果を残しています。

 

医薬品の自国生産能力が乏しいアフリカでは、元来低所得者が多く、医療保険制度も未発達な状況にあり、これからどこまで自前で医薬品を製造できるのかが大きなチャレンジ。アフリカ連合開発庁は同大陸の55の国と地域からなるアフリカ連合のグローバルパートナーシップ調整機関で、JICAを含めた他国のサポートだけでなく、先進国の民間企業の進出も望まれています。東アフリカ地域からスタートしたJICAのHGSプログラムは、今後アフリカ全土に波及していくことが見込まれており、ヘルスケア市場の成長および医薬品生産能力向上に大きく貢献していくことが期待されます。

 

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インドでは約6200億円規模に! 途上国で急成長する「EdTech」市場

【掲載日】2022年4月8日

インターネットなどの最先端テクノロジーを活用して、教育分野でイノベーションを起こしている「EdTech」。この産業の成長は途上国において顕著に見られます。新型コロナウイルスのパンデミックによる対面学習の制限やデジタルインフラの拡大が成長を牽引する一因となっており、EdTech市場は、多くの人口を抱える途上国において今後さらに成長していく模様です。

EdTech市場は途上国でますます広がる

 

EdTechは、幼児教育から大学等の高等教育機関まで、さらに専門分野の職業訓練における社会人をも対象にしており、生涯学習の観点も考慮すれば、ほぼ全ての世代が顧客対象になる爆発力を秘めています。また、パソコンや学習関連機器などのハードウェア、教育コンテンツとしてのソフトウェア、通信環境としてのインフラ関連、教師に向けたトレーニングなどビジネスとしての裾野が広いこともあり、さまざまな分野、業種の企業が大きな盛り上がりを見せています。

 

例えば、インドのコンサルティング企業「RedSeer社」が発表した2022年3月のレポートでは、同国のEdTech市場における高等教育や生涯学習の分野は、2025年までに50億ドル(約6190億円※)の市場まで急成長すると予測されています。各大学と企業の提携によりオンラインでの学位取得が広まったことや、コロナ禍の不安定な経済情勢が引き起こした生涯学習の必要性に対する認知向上などが大きく影響しており、ビジネスチャンスの到来と判断した新興企業が続々と設立されています。

※1ドル=約123.7円で換算(2022年4月6日付)

 

一方、フィリピンでは現地の教育関連テクノロジー企業である「CloudSwyft」が同国の教育省と連携し、デ・ラ・サール大学などの大学に向けて、オンライン環境におけるバーチャルラボ設置ソリューションの試験運用を開始しています。同社のプロダクトは、クラウドベースのソリューションによってハイブリッド学習への移行を可能にするものですが、インフラ整備が未成熟なフィリピンにおいて、デスクトップパソコンを持っていない学生でもモバイル端末があれば、同システムを活用することが可能。このようなユーザー視点の設計が、ハードウェアと設備投資の問題を大きく軽減させることができるものとして高い評価を受けています。

 

また、CloudSwyftはエンジニアリングや建築、工業デザインなど広範囲な学習内容に適合できるように設計されており、マレーシアやインドネシア、シンガポールなど各国の高等教育機関に採用されています。新興国から教育関連のテクノロジー分野でグローバル展開を果たした同社は、まさに途上国におけるEdTechの成功例と言えます。

 

現時点で世界をリードしている先進国を人口規模で勝る後進国の人々は、学習や職業において人生を変革できる大きなチャンスと捉えているでしょう。未来を担う世代に向けたトレーニングツールとして今後も右肩上がりの成長が見込まれるEdTech市場は、かなり有望なビジネスチャンスでもあるのです。

「モバイル革命」に新展開! 携帯電話と機械学習が人道支援を改善する

【掲載日】2022年4月7日

コロナ禍において、各国政府や人道支援団体などは、さまざまな支援を行っています。しかし、そこには「誰を支援の対象とするか?」「対象基準はどのように設定するか?」という2つの問題があり、やり方を間違えれば、本当に支援を必要とする人に現金や援助物資が届きません。そんな中、機械学習と携帯電話を使って人道支援のターゲティングを改善するという研究が発表され、専門家の間で注目を集めています。

ケータイが人道支援をより良くする

 

西アフリカのトーゴ共和国は、新型コロナウイルスの流行が自国で表面化してきた2020年4月に、パンデミックの影響を最も受けた貧困層を対象とした現金配布プログラム『Novissi(同国で話されているエヴェ語で「団結」を意味する)』を始めました。トーゴの主要産業は農業で、アフリカの経済成長に伴い近年の国家経済は上昇傾向にありますが、国連の名目GDP国別ランキング(2020年)で213か国中157位となっているように、貧困は深刻な問題。そこで、本プログラムを実施するに当たって、トーゴ政府や支援団体は、貧困層の中から最貧困層を選別して、給付対象者として特定しようとしました。

 

大きな問題の1つは、支給対象者になる最貧困層を何の基準で特定するのか? トーゴでは自給自足で生活している人々が多いうえ、日本のように全国で統一されている住民基本台帳制度や世帯収入の特定なども存在しません。そんな条件を考慮して本プログラムでは、携帯電話を活用した機械学習プログラムをメインの判断基準として導入されました。

 

今回のプログラムをサポートしたのは、米国・カリフォルニア大学バークレー校情報学部の研究チーム。給付はデジタル通貨を対象者の携帯電話に送ることが前提条件で、支援が必要な人たちは、携帯電話とSIMカードを持っている必要があります。この時点で給付から除外されてしまう人も存在するかもしれませんが、成人の約65%、世帯の約85%が携帯電話を保持しているトーゴでは、戸籍や収入が特定できる仕組みが未整備であることも考慮すれば、携帯電話の使用は実現可能な範囲で最善の選択であると考えられます。

 

ターゲティングの主な基準は以下の通り3つ。

(1)携帯電話からNovissiのプラットフォームにダイヤルして基本情報を入力する

(2)特定の地域で投票をしている

(3)投票者登録の職業欄が非正規職業である

 

本プログラムでは、トーゴの主な携帯電話事業者2社が提供するメタデータに機械学習のアルゴリズムを適用し、加入者の財産や消費を測定することも行われています。メタデータに関しては、データの送受信量や通話日時などの記録、電子マネーの消費量、位置データなど、さまざまな情報が含まれており、個人情報やプライバシーの問題を併せ持っています。

 

ビッグデータがもたらす新たな商機

今回の試みは、人道支援だけでなくビジネスの観点からも示唆的です。これまで貧困層はあまり統計データがなかったため、ビジネスの対象になりづらかったのですが、これから彼らの行動などに関するビッグデータが蓄積されていけば、データドリブンによって貧困層向けビジネスのヒントが見えてくる可能性があります。モバイル革命に新展開が生まれるかもしれません。

 

【出典】Aiken, E., Bellue, S., Karlan, D. et al. Machine learning and phone data can improve targeting of humanitarian aid. Nature 603, 864–870 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04484-9

 

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日本に特別な期待! バングラデシュで世界基準の「経済特区」が開発中

【掲載日】2022年3月31日

2022年2月、バングラデシュの首都ダッカ市内で日本・バングラデシュ外交関係樹立50周年の式典が開催されました。同国は日本を世界銀行およびアジア開発銀行に次ぐ最大の援助国と認識しており、駐バングラデシュ日本大使をはじめ、JICAや総合商社の住友商事などの現地担当者も式典に招かれました。

活気あふれるバングラデシュの首都ダッカ

 

現在、日本はバングラデシュで経済特区および工業団地の開発を手がけており、2022年度中の稼働を目指しています。これは住友商事が主導している巨大プロジェクトで、第一期開発エリアだけでも190ヘクタール(東京ドーム約40個分)を開発する予定。本プロジェクトではバングラデシュも国を代表する経済特区の開発を目指しており、バングラデシュ経済特区庁が円借款を使って、洪水対策などのインフラ整備を進めています。

 

本プロジェクトで注目されているのは、同国初の国際水準インフラ整備が展開されていること。洪水対策をはじめ、浄水場や配電、通信環境の充実など進出企業がストレスフリーで事業を開始できる環境が構築されています。もちろん経済特区なので、税制面での優遇や各種許可申請など、バングラデシュ政府による手厚いサポートがあります。

 

バングラデシュは将来の高い経済成長が見込まれる南アジアの国の1つで、世界銀行の2022年経済成長予測によると、南アジア全体の経済成長率が7.6%と見込まれるなか、バングラデシュだけで6.9%と報じられており、特にサービス産業の活性化に伴う国内消費が非常に好調です。また、人口は約1億7000万人、うち労働人口は約6000万人で、さらに国民の平均年齢が24歳(日本バングラデシュ協会)と、非常に高い将来性とポテンシャルを有しています。

 

企業、特に製造業がバングラデシュへの進出を検討する場合、現地で作業員を雇用する人件費が課題の1つになりますが、同国の工員の平均月額基本給はベトナムやフィリピンの約半分程度で推移しています。経済特区の開発や人口、人件費を考慮すると、バングラデシュへの進出は検討する価値があるかもしれません。

 

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ウクライナ危機で忘れがちな途上国に迫る最悪の事態

【掲載日】2022年3月24日

2022年2月下旬に起きたロシアのウクライナ侵攻は、第二次世界大戦以後、最大の国際紛争の1つに発展しています。世界秩序の変化が確実視されていますが、今回のウクライナ危機は同2国のみならず、世界経済全体に多大な影響を与えるのはもちろん、中低所得国に分類される開発途上国には甚大かつ長期的な影響が及ぶと見られています。

ロシアのウクライナ侵攻で忘れてはならない途上国への影響

 

現在の世界経済は、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で疲弊しています。その中で起きたウクライナ危機は、回復過程にある各国の経済に冷や水を浴びせるものであり、世界的なインフレ傾向の高まりと共に中低所得国の国民生活に長期的な脅威となる恐れがあるため、国連をはじめ、さまざまな国際機関が警鐘を鳴らし始めています。

 

ロシアのウクライナ侵攻によって大きな影響を受けているのが、第一にエネルギー問題。ロシアの石油生産量は米国、サウジアラビアに次いで世界第3位であり、天然ガスは米国に次いで世界第2位です。エネルギー資源の有無や政策によって程度は異なりますが、製造品原価の高騰や輸送費の増大、電気代の高騰など、ウクライナ危機の影響は広範囲に及んでいます。専門家の中には、開発途上国がウクライナ情勢から受ける打撃を少しでも抑えるために、各国の新型コロナウイルスへの対応を参考にしながら、すぐに行動を起こすべきだと主張する人もいますが、経済的な基盤が脆弱な開発途上国が、例えば先進国と類似した措置を展開できるかどうかは疑問です。

 

エネルギー問題と同様に深刻なのは食糧。ウクライナとロシアは小麦産業をはじめ、大麦やトウモロコシなどの主要輸出国です。国際食糧政策研究所によると、小麦においてロシアは世界全体の約24%、ウクライナは約10%を占めていますが、最近、アントニオ・グレーテス国連事務総長は、アフリカおよび後発開発途上国の同2国に対する小麦輸入依存度が全体の3分の1以上を占めていると発言しました。国連食糧農業機関の世界食料価格指数は、ウクライナ危機の前から既に過去最高を記録しています。

 

ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギー資源の輸出国の一部は資源価格の高騰の恩恵を受けるという見方もありますが、途上国の多くは迅速な対応に迫られています。世界銀行や国際通貨基金などの国際機関の支援をはじめ、外貨準備高のさらなる増強やインフレ対処策など、膨大で広範囲な対策をできる限り実施する必要があるでしょう。ウクライナ危機で忘れがちな途上国にも危機が差し迫っています。

 

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答えは「OMO学習」にあり! コロナ時代に求められる教育方法とは?

【掲載日】2022年3月16日

経済援助や技術供与など、新興国が先進国に求める支援は多岐にわたりますが、国家繁栄の礎となるのは教育の充実にほかなりません。しかし、そこには教育環境の未整備や家父長制による女児教育機会の損失など、自力では超え難い壁が存在します。しかも、コロナ禍ではドロップアウトのリスクが増加したり、教育格差が拡大したりするなど、子供たちの学びが危ぶまれており、解決策が求められています。

フィリピンでは地域によってオンライン授業を受けることができない子供たちがいるため、オフライン教育は重要だ

 

2022年2月のロイター通信の報道によると、フィリピンの初等教育では約2700万人の子供たちが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学級閉鎖によって、約2年間もきちんとした教育を受けることができていないとのこと。そんな中、同国のケソン州タグカワヤンでは、貧困と通信インフラの不足から、教師がトロッコを活用して各地を巡る移動式教室をボランティアで行っています。

 

昨今の日本でもGIGAスクール構想によるICT教育環境の充実など、官民挙げての教育改革に取り組んでいますが、新興国においては、通信インフラの未整備地域が多いことやデジタル・デバイドによってオンライン教育を受けられない家庭が多く、先進国の政策や論理をそのまま移行できない問題に直面。そこで、前述したフィリピンのように、オフライン教育が再評価されているのです。

 

日本のラジオ講座のように

例えば、2020年11月中旬から2021年7月中旬までの期間にネパールで実施された「ラジオ学校プロジェクト」は、デジタル・デバイド格差を解消するためのラジオ番組の活用や、休校中の児童、特にジェンダー問題を抱える同国女児に向けた教育コンテンツの充実化など、インフラ面およびコンテンツ面においても現地に合わせた内容で展開されました。ネパールといった途上国では、先進国と異なる意識で教育に関する課題に取り組む必要があることを、この事例は示しています。

 

つまり、日本のみならず世界各国で現在求められているのは、オンライン教育とオフライン教育の融合「OMO (Online Merges with Offline)」。途上国の教育を支援するためには、現地の条件を第一に考慮することが必須でしょう。解決策はオンラインだけにあるわけではありません。

 

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石油を紅茶で支払う苦肉の策!「再生可能エネルギー」に食い下がるスリランカ

【掲載日】2022年3月14日

現在、原油や石油、天然ガスの価格が高騰し、世界各国でエネルギー問題が浮上していますが、ロシアのウクライナ侵攻の前からエネルギー危機に直面しているのがスリランカ。苦しい状況を打開しようと、日本の支援を受けながら再生可能エネルギーの導入に粘り強く取り組んでいます。

スリランカ西部の町カルピティヤにある風力発電の風車

 

2021年12月、スリランカは、イラン石油公社に対して、過去に輸入した石油の代金を紅茶で支払うという大胆な施策を講じたことが国内外のメディアで報じられました。新型コロナウイルスのパンデミックによる観光業の不振はスリランカの経済に大きなダメージを与え、政府債務の返済危機、さらには自国通貨のスリランカ・ルピー安も引き起こしています。

 

スリランカは、新型コロナウイルスによる経済的なダメージを受ける前から、経済成長に伴いエネルギー需要が増加傾向にありました。JICAの省エネルギー普及促進プロジェクト(2008〜2011年)や2023年まで継続する電力セクターへの技術協力など、日本もスリランカのエネルギー問題の解決に向けて大きなサポートを講じています。2021年7月からは日本気象協会が太陽光、風力の発電予測データを提供するなど、スリランカの再生可能エネルギーへの熱意は非常に高いものがあります。

 

エネルギー問題は一国の存亡に関わりますが、現在のスリランカは他国の支援を受けながら、エネルギー政策や化石燃料の輸入などに関する困難な問題に取り組む段階にいます。再生可能エネルギーの民間企業プロジェクトは300件近く稼働しており、将来は国内プロジェクトや外国企業の参入が増える可能性があります。同国における日本の長年のサポートは、日本の民間事業者がビジネス展開を検討する際にもプラスに働くかもしれません。

 

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世界の食文化3強の一角! 途上国の中間層が「日本食」をもっと人気にする

2022年2月、米国の著名な料理専門メディア「Eat This, Not That!」において、世界で最も人気のある料理(国別)ランキングで日本食が堂々の3位になりました。日本料理——特に和食——は1位のイタリア料理、2位の地中海料理と肩を並べる三強の一角です。

2019年、ケニアのナイロビで開かれた日本食のイベントの様子

 

日本食は美味しさもさることながら、見た目の芸術性や素材の生かし方、健康的な要素など、さまざま理由で世界各国の人々に愛されています。日本に住んでいると当たり前のように感じる日本食は、私たちの想像を超える強さで世界中の人々に支持されており、それが米国メディアのランキング結果にも表れていると言えるでしょう。

 

近年、成長著しい新興国においては、経済成長に伴う中間層の増加により、外食を楽しむ人や海外の食材を購入して自宅で調理を楽しむ人が増えていくと考えられます。例えば、2019年にケニアのナイロビで開催された「Nairobi Japan Food Festival(NJFF)」には現地の人々が多数来場し、ポン酢などの調味料が高い評価を受けました。その一方、アジアではラオスなどで青汁やわかめなどが好調に売れており、完成された日本食以外にも飲料や食材、調味料の分野まで広範囲な輸出の拡大に期待が持てます。

 

和食に無限の可能性

しかし、味の好みを含めた食文化は多様であるため、「日本人に好まれる味がそのまま海外で通用することはない」と事前に認識しておくことが賢明です。特にインドやバングラディッシュなどのスパイス食文化圏で日本食は苦戦していることもあり、現地の人たちの感覚に合わせる「ローカライゼーション」の意識を持つことが重要でしょう。

日本食に高い関心を示したナイロビの人々

 

例えば、NJFFでは「日本食」ではなく、「日本の味(フレーバー)」を現地の食文化と掛け合わせて紹介することに重点を置き、結果的にそれが功を奏しました。実際、ある参加者は、最初に同フェスティバルの宣伝を見たとき、「『日本食=寿司=生魚』を食べさせられる」と思って嫌がったそうですが、同イベントで初めて日本の味に触れて、「ビックリするほど美味しかった」と言っていました。

 

また、NJFFでのアンケート結果では、回答者がそれまで日本の食品を購入したことがなかった理由として、「どこで購入できるのか分からない」および「調理法が分からない」との回答がアンケート結果の6割を占めています。しかし見方を変えれば、これはまだまだビジネスチャンスが残されていることを示しているので、グローバル展開を検討している食品関連企業は、現地の情報を把握している専門企業に相談する価値があるでしょう。完成された日本食はもちろん、現地の料理と組み合わせて新たなレシピを生み出せる食材には、無限の可能性が秘められているのです。

 

画像提供/アイ・シー・ネット株式会社

 

混迷を深めるウクライナ情勢を受けてーー日本・グローバル企業それぞれの支援活動まとめ

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって2週間が過ぎようとしていますが、いまだ解決の糸口を見出せていない状況です。ロシア軍とウクライナ軍の戦闘はこの瞬間も続いており、現地の惨状や避難民の様子などが連日日本でも報道されています。そんな中、西側諸国を中心にロシアに対する制裁も拡大。それに伴い原油価格や物価の高騰、航空制限による輸送遅延、株価の下落など、世界経済はもちろん、私たちの生活にも深刻な影響を及ぼしています。

 

 

情勢は刻一刻と変化していますが、国際機関をはじめ各国の反応はロシアに対してシビアです。国際的な金融決済ネットワーク「SWIFT」からのロシアの排除や、ロシア政府関係者の資産凍結をはじめとするさまざまな経済制裁のほか、スポーツではロシアでの競技の延期や中止、スポンサー契約の解除、選手の出場取り消しという動きもみられます。さらにNETFLIXやTikTokがロシアでのサービスの提供を停止したり、ロシア映画の上映を差し替えたりするなど、幅広い分野でロシアへの風当たりが強くなっています。

 

活発化するウクライナへの支援

その一方で、国や民間を問わず活発化しているのがウクライナを支援する動きです。現地では多くの民間人が被害を受け、200万人以上(2022年3月8日時点)の人々が避難民として近隣諸国へ脱出。EU加盟国では、難民申請なしに滞在許可証を発行し、就労や住居の支援も行うことで合意するなど、さまざまな国が避難民の支援に乗り出しています。日本でも、政府がウクライナの難民受け入れを開始したほか、群馬県が避難民に対して住宅や物資の提供を表明、横浜市も市営住宅約80戸を避難民向けに確保するなど、自治体レベルでも支援の輪が着実に広がっています。

 

日本企業も続々とさまざまな支援を表明

こうした状況にいち早く対応したのが民間企業です。その多くは人道支援を目的とした募金活動で、各社が基金を設立し、赤十字やUNHCR(国連難民高等弁事務所)など、ウクライナからの避難民や現地の人たちへの人道支援を行っている組織・団体への寄付が中心ですが、事業を活かした取り組みなど、独自の支援策を打ち出している企業もあります。

 

●株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)

2006年から世界各地の難民に衣料を支援し、2011年にはアジアの企業としては初めてUNHCRとグローバルパートナーシップを締結した同社。今回も、保温性の高い「ヒートテック」素材の毛布やインナー、エアリズムマスクなど約10万点と、ユニクロ国内店舗で回収したリサイクル衣料の中から、防寒着を中心に約10万点をポーランドなどに避難してきた難民に提供。また、避難所の設置や救援物資の配布に充てる目的で、約11億5000万円をUNHCRへ寄付すると発表しました。

 

●株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(ドン・キホーテ)

ウクライナの避難民100世帯の受け入れを決定。さらに、経済的支援、生活面のサポート、就業機会の提供にも取り組む方針です。

 

●楽天グループ株式会社

三木谷浩史会長兼社長がウクライナ政府へ10億円の個人寄付をした同社は、ウクライナ国内のスマートフォンの97%にインストールされている、コミュニケーションアプリ「Viber」において、通常は有料オプションである固定電話や携帯電話への通話料を無料にするクーポンを提供。また、飲料水など物資支援、保険サービス提供、子どもの保護などに活用するための緊急支援募金を行っています。

 

●株式会社ZOZO

「ZOZOTOWN ウクライナ人道支援チャリティーTシャツプロジェクト」を展開。3月1日~14日までチャリティーTシャツを販売し、その売り上げを全額寄付すると発表。

 

●APAMAN株式会社

日本への避難してきた人たちへ、同グループが管理している空室物件を短期的に無償提供。反戦を求めるポスターを趣旨に賛同するアパマンショップ店舗に設置するほか、停戦後は復興に向けた住宅や資材提供等の支援を予定しています。

 

●ワールドポテンシャル株式会社

同社で運営するマンスリーマンション、ホテル、民泊施設の一部を、避難民受け入れ施設として提供。また、沖縄、宮古島、長野、函館で運営するホテルで、社宅の提供を含めた避難民の就労受け入れを積極的に行うそうです。

 

●株式会社ネクストエージ

日本からウクライナ避難民に自立の選択肢を提供するための「PC1台から勇者プロジェクトforU」を実施。WEB制作、メタバース企画などIT事業において、ウクライナ避難民クリエイターやエンジニアへの発注を企業から募っています。「寄り添われる側と寄り添う側の両方の想いを具現化したもの」として注目されています。

 

●クックパッド株式会社

紛争により影響を受けた人たちを支援することを目的に、調理環境が十分でない中でもできる料理のレシピを募集するプロジェクト「#powerofcooking」を開始。寄せられたレシピの一部をウクライナ語に翻訳し、ウクライナ版クックパッドの利用ユーザーに提供します。

 

●株式会社グローバルトラストネットワークス(GTN)

ウクライナ本国の家族や友人と連絡ができる状態を維持できるよう、海外のプリペイドSIMに通話・通話料のクレジットを送ることができるサービス「TOP UP(トップアップ)」を在日ウクライナ人GTNユーザーへ無償提供(2022年3月31日まで)。また、政府の認定を受けたウクライナの避難民を対象に、モバイルSIMを1年間無償で提供します。

 

●キーン・ジャパン合同会社

米国・ポートランド発のアウトドア・フットウェアブランド「KEEN」は、ウクライナ国内、近隣諸国に避難してきた人へ2500足のKEENシューズを提供。また、人道的な支援のために5万ユーロの寄付を決定しました。

 

多くのグローバル企業も人道支援を約束

もちろん、海外の企業も支援活動に名乗りを上げています。取り組みの多くは、ユニセフやUNHCR、国際赤十字、セーブ・ザ・チルドレンなど、避難民を支援する組織への資金や製品の寄付が中心となっているようですが、その一部を紹介しましょう。

 

●Google

2500万ドルを人道支援のために寄付し、さらに1000万ドルをポーランドで人道支援・長期支援を行う団体に寄付。また、人道支援組織・政府間組織が支援情報を届けられるよう広告クレジットを提供するなど支援を強化。主にウクライナの人々をサイバーセキュリティの脅威から守るための対応策も打ち出しています。

 

●Amazon

ユニセフ、世界食糧計画、赤十字、ポルスカ・アクチャ人道、セーブ・ザ・チルドレンなどの組織に500万ドルを寄付。また、社内からの追加で最大500万ドルを寄付するほか、顧客の支払い処理手数料を免除する寄付リンクをホームページに設定。

 

●Apple

ティム・クックCEOが従業員による寄付プログラムをスタート。2対1の割合で従業員からの寄付額に上乗せするマッチング方式で実施されます。また、ウェブサイトの上部に寄付用のバナーを追加し、ウクライナ人避難民へのサポートを容易にしました。

 

●Wells Fargo

アメリカの金融機関である同社は、アメリカ赤十字、ワールドセントラルキッチン、USO(米国慰問協会)を含むウクライナの避難民を支援する非営利団体に100万ドルの寄付を約束。

 

●Starbucks

ロシア内の全事業を停止した同社。スターバックス財団が、ワールドセントラルキッチンと赤十字に50万ドルを寄付しました。

 

●Ford Motor Company

 グローバル・ギビング・ウクライナ救援基金に10万ドルを寄付する計画を発表。

 

●Volkswagen

ドイツの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に100万ユーロを寄付。

 

●J.P. Morgan

同行のリッチ・ハンドラー最高経営責任者(CEO)がInstagram上で100万ドルの寄付を表明。

 

●SpaceX

ウクライナにおいて衛星によるネット接続サービスを提供。

 

●FedEx

避難民のいる地域に物資を輸送している組織へ、現物出荷で100万ドル以上、ヨーロッパの非政府機関に55万ドルの寄付を行っています。

 

●Booking.com

ブッキング・ホールディングスは、赤十字国際委員会に100万ドルを寄付し、さらに従業員の寄付総額と同額を寄付する方針。

 

●Airbnb

ウクライナからの避難民、最大10万人の無料仮設住宅を利用可能にすると発表。宿泊は同社と、利用者によるAirbnb.org難民基金への寄付、宿泊先ホストの善意によって賄われるそうです。

 

●BASF

ドイツ赤十字に100万ユーロを寄付。近隣諸国に到着した避難民への生活必需品(食料、衣類、衛生キット、通信機器など)の提供に使用されるそうです。

 

●IKEA

イケア財団が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に2000万ユーロを寄付。また、グループ企業としても製品を提供をはじめ、現地で活動するUNHCRやセーブ・ザ・チルドレンに2000万ユーロを支援します。

 

●Kering

UNHCRに多額の寄付を行うことを表明。傘下であるGUCCIは、グローバルキャンペーン「Chime for Change」を通じてUNHCRに50万ドルを寄付します。

 

●CHANEL

200万ユーロをCAREとUNHCRなどに支援すると発表。また財団としても女性や子どもへの中長期的な支援を行う計画です。

 

●NIKE

ユニセフ(国連児童基金)とIRC(国際救済委員会)に100万ドルを寄付します。

 

●L’Oreal

避難民やウクライナの現地の人々を支援するために、地域のNGOや国際NG(HCR、赤十字、ユニセフなど)に 100万ユーロを寄付。さらにウクライナ、ポーランド、チェコ、ルーマニアのNGOに衛生用品を届けています。

 

●Samsung

100万ドル相当の家電製品を含む計600万ドルを人道支援に寄付する方針。

 

他人事ではなく、“自分事”として関心を持ち続けることが大事

テレビやインターネットで連日流れる映像などを観て心を痛めている人も多いと思います。募金やデモへの参加など、ウクライナの平和のために私たちが個人レベルでできることは残念ながら限られますが、何より、問題意識を持って関心を持ち続けることが大切だと思います。1日でも早くこの事態が解決し、ウクライナの人たちに笑顔が戻ることを切に願います。

 

IC NET「海外展開に役立つ資料集」バナー入れる

デジタルノマドを大歓迎! スリランカが「デジタルノマドビザ」の発行を検討

【掲載日】2022年3月◯日

新型コロナウイルスのパンデミックにより、ITを活用して旅行しながら働く「デジタルノマド」が世界中で急増しています。最近では、そのような人たちを対象にした「デジタルノマドビザ」が欧州諸国で発行されるようになりましたが、アジアでもスリランカがこの動きに乗りつつあります。

スリランカはデジタルノマドを大歓迎!

 

世界中の人々を引きつける観光資産を多数有しているスリランカは現在、デジタルノマドビザの発行を検討しています。遺跡やビーチがある同国最大都市のコロンボ、美しい海岸線を有する南西海岸エリア、紅茶で有名なキャンディ丘陵地帯など、島国特有の豊富な自然に囲まれ、さらにカレーや果物、世界的に有名な紅茶やコーヒーなどに代表される食文化は、世界中のデジタルノマドから注目されています。

 

コロナ禍においても、スリランカを訪問する観光客は多く2021年12月には8万5506人の観光客を受け入れており、過去20か月間で最高記録を更新しました。さらに旅行者の滞在日数もコロナ禍以前の平均3〜4日間から10日間以上に増加しており、滞在長期化の傾向が顕著に表れています。

 

現在スリランカが検討しているデジタルノマドビザについては、約1年間の長期滞在が可能になるという見方があります。このような長期ビザは、現在の業務に携わりながら滞在国のメリットを発見できる可能性も高まるために、海外進出や現地での起業を検討する際にも有効に活用できることでしょう。デジタルノマドがスリランカの経済的な発展にどのような影響を与えるのか注目です。

NFTを活用した地域支援! Fintechで変わる新興国支援ビジネス

【掲載日】2022年2月28日

近年、NFTを活用した芸術作品の売買が世界中で注目されていますが、このテクノロジーは、ビジネスモデル次第で新興国の支援に役立つ可能性を持っています。その一例として、最近始まった新しいプロジェクトを簡単に見てみましょう。

NFTを活用した途上国の地域づくりって良いアイデアかも

 

2022年2月、寄付型クラウドファンディング事業をグローバルに展開している株式会社奇兵隊の子会社「KiHeiTai Estonia」は、NFT(※1)を活用したオープンタウンプロジェクト「Savanna Kidz NFT」を開始しました。

 

本プロジェクトは、生活環境を改善したい新興国のコミュニティーをサポートすることを目的としており、子どもを描いたデジタルアートを「コレクティブルNFT」として世界に向けて販売することで資金を調達。作品の購入者はコミュニティーの一員として街づくりに参加することができます。

 

すでに試験的な運用が行われているウガンダでは、飲料水や生活用水の確保、医療サービス、児童の教育環境などが不十分であり、政府の支援が行き届かない地域が多数存在しています。また「ラストワンマイル(※2)」の問題も存在しますが、本プロジェクトは「DAO」と呼ばれる自律分散型組織(※3)を取り入れることで、透明性を維持しながらコミュニティーを発展させるのが特徴。ウガンダ政府から独立して、住民とNFT購入者が民主的に運営する設計になっているため、本プロジェクトには「オープンタウン」という言葉が付けられています。

 

このように、新興国のコミュニティー支援では、NFTやクラウドファンディングを活用した新しいビジネスモデルが次々に生まれています。国際協力の新潮流として、フィンテックの導入はますます重要性を増していきそうです。

 

【脚注】

※1:NFT(Non-Fungible Token)はブロックチェーン上で発行されたオリジナルのデータ「非代替性トークン」を指し、デジタル空間における所有証明書や資産の鑑定書などとして機能する。また、「コレクティブルNFT」は概ね「コレクション可能なNFT」という意味。

※2:サービス提供者の最後の拠点から顧客・ユーザーまでの「最後の区間」のことを指す。もともとは通信業界での用語だったが、昨今では国際支援のキーワードの1つである。

※3:DAO(Decentralized Autonomous Organization)は自律分散型組織を意味し、ブロックチェーンに基づき、組織内の構成員一人ひとりによって自律的に運営される特徴を持つ。

中国とインドが激突! 熾烈な覇権争いが繰り広げられる「中央アジア」とは?

【掲載日】2022年2月22日

2022年1月、中国とインドが別々に中央アジア諸国とサミットを開催しました。これは中央アジアの重要性が増していることを示していますが、どのような背景があるのでしょうか? 中央アジアの特徴を概説しましょう。

カザフスタンのステップ(草原)。同国を含む中央アジアを巡り、熾烈な覇権争いが行われている

 

中央アジアはユーラシア大陸の中央部に位置し、概ね5か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)からなるとされています。かつてのシルクロードにおいて東西貿易の中枢に位置しているこの地域は、乾燥地帯や山岳地帯、砂漠などの厳しい自然環境と常に向き合ってきた一方、中央アジアの覇権を巡るイギリスとロシアの戦い「グレート・ゲーム」の舞台となり、諸民族による絶え間ない争いの歴史も有しています。

 

中央アジアは多民族で構成されており、キルギスのように日本人に似ていると言われている民族も存在します。また、中央アジアは「トルコ人の土地」を意味する「トルキスタン」とも呼ばれており、トルコ系住民が多く、キルギス語やカザフ語、ウズベク語などのトルコ系諸語が話されている一方、ロシア語も広く使われています。

 

中央アジア5か国は、宗主国であった旧ソビエト連邦が1991年に崩壊した時点から、それぞれに主権国家として独立の道を歩んできました。各国共にイスラム教の強い影響を受けており、カザフスタンやトルクメニスタンに代表される石油や天然ガスなどの地下資源および農業、畜産業、綿繊維などが主要産業です。外務省によると、各国のGDPは、カザフスタン1712億ドル(約20兆円※)、キルギス77.5億ドル(約9000億円)、タジキスタン80億ドル(約9200億円)、トルクメニスタン473.5億ドル(約5.5兆円)、ウズベキスタン599.3億ドル(約6.9兆円)と、カザフスタンの経済力が抜きんでています。

※1ドル=115円換算(2022年2月17日時点)

 

中央アジア5か国の人口とGDP

カザフスタン キルギス タジキスタン トルクメニスタン ウズベキスタン
人口(万人) 1900 650 970 610 3390
GDP(億ドル) 1712 77.5 80 473.5 599.3

出典:外務省

 

この5か国の経済は貿易、特に輸入に支えられています。総人口7500万人を超える将来的な巨大市場の獲得を目指して、中国、インド、ロシアを中心に、さまざまな国がアプローチしています。特に、インドはアフガニスタンでタリバン政権が復活し、敵対している隣国・パキスタンとの外交問題もあるため、輸送ルートを見直しており、その中で中央アジアとの関係強化が重要視されています。

 

アメリカの影響力が低下する中で……

2022年1月にはインドのナレンドラ・モディ首相による同国初の中央アジア5か国との首脳会議が開催されました。タリバン暫定政権のアフガニスタンの安全保障に関する問題がメインの議題とされています。また、中央アジア開発へ無償の協力金を提供するなど他国(特に中国)に後れをとるまいとの強い意気込みが感じられます。一方、中国は「一帯一路」構想の重要エリアとして中央アジアに今後ますます接近することでしょう。なお、トルクメニスタン以外の4か国が、既に上海協力機構に加盟しています。

 

もちろん日本も外交を展開しており、2015年には安倍晋三総理大臣(当時)が中央アジア5か国を訪問しました。さらにJICAによるODAや人材育成支援など、数多くのサポートが実施されています。アメリカのアフガニスタン撤退の影響もあり、中央アジアを巡る覇権争いは激しさを増していますが、この地域では日本も重要なプレーヤーなのです。

 

 

EdTechが待ち遠しい…。タンザニアの「女性の教育」に必要なもの

【掲載日】2022年2月15日

タンザニアでは、2021年3月にジョン・マグフリ大統領(当時)が死去した後、副大統領だったサミア・スルフ・ハッサン氏が政府のトップに就きました。ハッサン氏は同国初の女性大統領として国民から大きな期待を集めていますが、彼女のリーダーシップのもとで改善の歩みを続けているのが、女性の教育を受ける権利です。

保育園に預けられないなら、EdTechで勉強したい

 

タンザニアの教育課程は、初等教育(小学校)の7年間のみが義務教育であり、その次の中等教育以降は就学率が極端に下がります。特に約7割の女性が結婚と出産のため、中等教育課程で中退すると言われています。同国では2000年代初めに「妊娠した女子生徒は退学させられ、二度と学校に戻れない」という法律が制定されました。また、マグフリ前大統領は「妊娠した女性の出産後における学業継続を認めない」とする姿勢を公に示し続けてきたこともあり、女性の出産後の学業復帰は絶望的なものでした。

 

この法律は2021年12月に廃止され、女性は出産後に学校に戻ることができるようになりましたが、まだ多くの問題が残されています。保育園や両親などに子どもを預けることができない母親は、子どもを学校に連れて行かざるを得ないのですが、先日、タンザニアのアドルフ・ムケンダ(Adolf Mkenda)教育相が「出産後の女性の教育を認める政府の決定は、赤ちゃんを授業に連れてくることを意味するものではない」と発言。育児中の女性がクラスに戻れるようにするだけでなく、ほかの生徒が集中して勉強できる環境を整えることも必要なのです。そのため、タンザニア政府は代替教育プログラムの推進や保育園や託児所などの設立を検討しています。

 

女性のエンパワーメントのためには、育児や教育支援が不可欠。アフリカでは、ケニアやナイジェリアなどテクノロジーの恩恵によるオンライン教育が爆発的に普及し始めている地域も存在しています。出産後さまざまな理由で登校できないタンザニアの女性の中には、認可教育以外の場所でも教育を受けることができる「EdTech(エドテック)」に希望の光を見出している人もいるかもしれません。

 

 

世界の投資家が興奮する「アフリカ外食産業」のSaaSプラットフォーム

【掲載日】2022年2月8日

各分野でテクノロジーによる変革が猛スピードで進行しているアフリカですが、外食産業では、まだ非常に多くの中小飲食店がペンと紙を使ったオフラインの作業に頼っています。しかし、効率化やデジタル化への需要は増しており、変革の機運が高まっています。その一例としてナイジェリアのOrda社を見てみましょう。

アフリカの外食産業のデジタル化を加速させるOrda(画像提供/Orda)

 

2020年に創業したOrda社は、レストランを主な対象に、注文管理や決済、商品在庫管理、物流までを網羅した外食産業の管理プラットフォームをクラウドで提供しています。同社はSaaS(Software as a Service)型のビジネスモデルを取り入れており、ユーザーはこのソフトウェアから自分が必要とする部分だけを契約することが可能。

 

また、このプラットフォームは、店舗での注文はもちろんのこと、さまざまなフードデリバリー・サービスやウェブサイトに加え、WhatsAppなどのソーシャルメディアからの注文にも対応しています。

 

このようなプラットフォームを生み出したOrda社は、先日110万ドル(約1億2700万円※)の資金を世界各国の投資家から獲得しました。グローバル展開しているLofty Inc Capitalをはじめ、10を超えるエンジェル投資家がOrda社に出資を決めており、ビジネスの将来性が高く評価されています。

※1ドル=約115円換算(2021年2月7日時点)

 

Orda社のCEOを務めるGuy Futi氏は、レストラン向けSaaS型管理システムで既にグローバル展開をしている米国のToast社を目指していると述べており、アフリカ全土をはじめとした広範囲なビジネスの拡大を計画しています。

 

近年、アフリカでは日本食への認知度が増加傾向にあり、現地に進出する日本食レストランも増えています。Orda社のようなサービスを活用しながら現地でビジネスを展開する可能性もあるでしょう。アフリカの外食産業にOrda社がどのような影響を与えるのか注目です。

創業初期で巨額の資金調達! 世界が注目するアフリカのテック企業2社

【掲載日】2022年2月2日

アフリカのテック企業の成長と資金調達が加速しています。同大陸では近年、数多くの新興企業が出現し、世界各国の企業や投資家から注目を集めています。本稿では、その代表例として2社をピックアップ。両者は新しいビジネスモデルを構築し、2021年にプレシード段階(創業初期のコンセプト段階)で大規模な資金調達を実施しました。

 

電子カルテを患者自身が管理

エジプトの先進的なヘルスケアサービス「HealthTag」(画像提供/Bypa-ss)

 

まずは、ヘルステック分野で急成長を遂げているBypa-ss社。2019年にエジプトで設立した同社は、患者の病歴やデータ、いわゆる電子カルテと呼ばれる情報を各医療機関で共有できるサービスを展開しています。プレシード段階で国内外の投資家から約100万ドル(約1億1500万円※)の資金調達を成功させて一躍有名になりました。

※1ドル=約115円で換算(2021年2月1日時点)。以下同様。

 

Bypa-ss社は、創業者であるAndrew Saad氏が医学生時代に、医者が病歴を知らないために薬を投与できない女性に出会ったことがきっかけで、電子カルテの研究を行い、起業に至りました。同社は「HealthTag」というモバイルアプリとカードで患者自身が健康状況を管理できるサービスを提供しており、オンライン決済やエジプト国内医療機関における割引サービスも展開しています。患者が自分でカルテを持ち、医療費も節約できることは、患者本人のみならず医療従事者においても革新的なサービスであり、さらなる成長が期待されるでしょう。

 

国の教育制度に一石を投じるプラットフォーム

Edukoyaはナイジェリアの教育を変えるか? (画像提供/Edukoya)

 

一方、エドテック分野で前途を嘱望されているのが、オンライン教育プラットフォームを提供するナイジェリアのEdukoya社。同社は2021年12月のプレシード段階で350万ドル(約4億円)の資金調達目標を発表して、大きな注目を集めました。Honey Ogundeyi氏が同年5月に設立した同社は、現在ベータ版をリリースしており、2022年の本格稼働を目指しています。

 

ナイジェリアの最大都市ラゴスと英国のロンドンを拠点とする同社は、ナイジェリア国内の高等教育機関への進学を目指すユーザーをターゲットに、オンライン家庭教師をはじめ、試験準備や与えられた課題についての勉強法、問題集の提供、成績管理まで含めたサービスを現在無料で提供しています。将来は、有料サービスへのアップグレードを含めたフリーミアムモデルを展開する計画で、既存の教育機関や制度に満足できていなかったナイジェリアの学生や保護者から大きな期待が寄せられています。

 

創業者のOgundeyi氏は、数十年間変化のないナイジェリアの教育制度や多くの人々が失望している既存のシステムに一石を投じるために本サービスの展開を志しました。保護者と生徒に対して満足のいくサービスを目指して100%オンラインで提供しています。

 

プレシード期から多額の資金調達を実現しているアフリカのテック企業の中には、創業1年に満たない企業が多いのですが、同大陸は飛躍的な成長が見込まれているだけに、世界中の企業や投資家が投資やパートナーシップを狙っています。アフリカからますます目が離せません。

団結せよ! 復活に向けて弾みをつける「スリランカコーヒー」

【掲載日】2022年1月26日

セイロンティーの栽培地として世界的に有名なスリランカ(旧称セイロン)。しかし、この国はかつて世界第3位のコーヒー生産地でした。最近では、この歴史的遺産を復活させる取り組みが日本の協力を得つつ、スリランカ国内で活発化しています。

スリランカコーヒーは復活するか?

 

19世紀初頭にイギリスの植民地になったセイロン島では、1840年代にコーヒーの生産が最盛期を迎えますが、1880年代に「サビ病」と呼ばれる植物の病気によって同島のコーヒー農園は壊滅的な打撃を受けます。その後、イギリス人のトーマス・リプトンらによる紅茶の栽培が大成功すると、「セイロンコーヒー」は世界から忘れ去られました。

 

そんなスリランカのコーヒー産業が再び世界で脚光を浴びるようになったのは、2000年代に入ってからのこと。元来有していたコーヒー栽培に適した環境に加えて、フェアトレード(発展途上国の人々の社会的・経済的自立を支援するために、それらの生産品を公正な価格で取り引きする貿易の形)や、日本をはじめとする先進国のサポートが実を結び始めたのです。

 

現在、スリランカコーヒーの生産は、オーガニック栽培のセイロンコーヒーとしてスリランカ国内で盛り上がりを見せているのはもちろん、日本でも商品展開が拡大しています。スリランカでは、適度な酸味とフルーティーな香りに包まれるアラビカ種のコーヒーが栽培されていますが、日本からは2007年から約3年間、特定非営利活動法人の日本フェアトレード委員会が、同種のコーヒー栽培のコミュニティ開発をJICAの草の根協力支援としてサポート。さらにその後、同協会の代表がキヨタコーヒーカンパニーを創業し、現地の生産者と共に日本での商品展開を推進しています。

 

また、スリランカではコーヒー事業者の組織化が活発化しています。2021年には同国初の全国的な「ランカ・コーヒー協会(Lanka Coffee Association)」や、コーヒー関連事業者や生産者の連携や支援を図る「セイロン・コーヒーフェデレーション(Ceylon Coffee Federation)」が設立されました。従来ばらばらだった業界のルールや規制を統一することで、スリランカのコーヒー産業は足並みを揃えて復活に挑んでいる模様です。

 

スリランカの町中では新しいカフェが続々とオープンしており、コーヒー産業復活の機運が高まっています。

インドで取得数2位!「就労ビザ」から読み解く日本とインドの親密な関係

【掲載日】2022年1月25日

現在、インドでは就労ビザを有するアジア人が高い比率を有しています。2021年12月にインド外務省が公表した資料によると、同国で就労ビザを有する外国人の総数は2万607人。そのうちの約51%がアジア3か国で占められており、韓国(4748人)、日本(4038人)、中国(1783人)となっています。2位であるものの、日本の数字は親密な日印関係を象徴しているでしょう。

就労ビザの取得数が示す良好な日印関係

 

インドは13億人を超える世界2位の人口を誇り、生産年齢人口(15~64歳)の比率が多い人口ボーナス期に加えて、欧州や中東、アフリカ、アジア各国などとの地理的近接性や言語的優位性(英語)も持っています。しかし、これらのインドの強みは日本以外の国から見ても同様であるため、インドの中で日本独自のアドバンテージを見つけることが大切です。

 

日印両国においては、2015年に安倍晋三元首相とナレンドラ・モディ首相によって調印された「日印ヴィジョン2025特別戦略的グローバル・パートナーシップ(日印共同声明)」が、二国間の信頼関係を強力に後押ししており、インド太平洋地域における投資や安全保障、人的交流などの分野で強い影響力を持っています。

 

製造業にチャンスあり

また、2014年からモディ首相が推進しているインド製造業振興策「メイク・イン・インディア」も日本企業は考慮したほうが良いかもしれません。日本のインド進出企業においては製造業の比率が高く、外務省の海外進出日系企業拠点数調査によれば、2020年において日系企業のインド拠点総数4948の中で、製造業の割合は1731と約35%を占めており、最も比率が高い業種になっています。IT大国として知られるインドですが、日本との関係性においてはインド国内製造業の強力な振興策が、さらに深淵なパートナーシップを推進していることになるでしょう。

 

一方、インドにおける欧米諸国の就労ビザ取得数がアジア諸国より少ない要因については、インドをどのようなビジネスパートナーとして見るのかによるでしょう。筆者が外資系企業の日本支社で勤務した経験から述べると、例えば、欧米の巨大IT系企業におけるマネジメント層の就労を中心とした展開と、日本の製造業のような各部品の品質管理を行う現地担当者を要するビジネスでは、就労ビザの数が大きく変わると思われます。

 

さらに、インドでは雇用ビザを有していなくとも国内に配偶者等を有する人物に付与される永住権ビザ「OCI(Overseas Citizen of India)カード」が存在しており、欧米の就労者がこのビザを活用する傾向が高いため、就労ビザの取得数が少ないとも言われています。二国間のビザの取り扱いについては国ごとにルールや状況が異なるため、自国に付与されている詳細内容を確認する必要があります。

 

就労ビザの発行数だけで単純に比較することはできませんが、日本のプレゼンスが高まっていることは間違いありません。インドの将来的な経済成長力を見込んで、ビジネス展開を検討する日本企業は今後も増えていくでしょう。

 

日本企業の技術とノウハウに活路あり! タイの「循環型経済」とは?

【掲載日】2021年12月22日

近年、先進国は環境に配慮した持続可能な経済モデルの構築に取り組んでいます。ASEAN諸国もこの潮流に乗っていますが、なかでもタイが展開しているBCG経済モデルは、日本企業の海外ビジネスにとってチャンスの一つかもしれません。

「バイオ」と「グリーン」を加えた「循環型経済モデル」を構築しているタイ

 

バイオ(Bio)、循環型(Circular)、グリーン(Green)の頭文字から成る「BCG」は、文字通りタイが環境への配慮や持続可能な経済モデル、同国の強みの一つである農業に結びつくバイオ産業を推進していくことを意味しています。2021年1月、タイのプラユット・ジャンオーチャー首相は、2010年代から取り組んでいた経済ビジョン「タイランド4.0」から方向転換をして、BCGを国家戦略にすることを表明。この政策は今後5年間にわたり実行される計画です。

 

BCG政策は、(1)食品・農業(2)バイオエネルギー・バイオケミカル・バイオマテリアル(3)医療・健康(4)観光・クリエイティブ経済の4カテゴリーに注力するもので、開発資金や減税措置、技術的・教育的な支援などが提供される国家プロジェクトです。

 

BCG経済を実現するためには、上記の分野に関する高度な知識や能力を有する人材の育成が不可欠。タイは、BCG戦略の手本としている日本から技術やノウハウを学ぼうとしています。日本側はそれに呼応する形でさまざまな動きを見せており、日本貿易振興機構(ジェトロ)がタイのエネルギー省とワークショップを開催したり、バンコク日本人商工会議所がBCGについて会合を開いたりしています。

 

大企業からスタートアップまでタイに投資

また、数多くの日本企業がタイでビジネス展開を始めており、2021年には三菱自動車工業がタイの生産工場で太陽光発電設備を稼働しています。豊田通商は通勤バスのスマートモビリティ化を目指して現地企業に投資したほか、バイオベンチャーのスパイバーは、同社が開発した新素材の量産工場をタイに建設しました。医療分野においても富士フィルムの現地法人が新型コロナウイルス抗原検査キットをタイ国内で販売しており、技術や研究開発において優位性がある日本企業にとって追い風が吹いているでしょう。

 

BCG政策は4つの分野に注力されていますが、タイ政府による支援プログラムは多岐にわたり、税金優遇策や技術、インフラ支援などに加えて、研究開発や製品化などに向けた基金も準備されています。加えて、投資においても優遇策がありますので、日本からタイへの展開を検討する際には専門知識を有する機関や企業に意見を聞きながら、タイムリーで効果的な計画を策定し、実行することが大切です。

「電気自動車」の“覇権”をかけたグローバル競争に挑むインドの課題と可能性

【掲載日】2021年12月17日

最近のインドでは、「充電スタンドに投資しませんか?」という広告が増えています。これは、同国が官民一体となってEV(電気自動車)により一層力を入れていることを示していますが、この広告の裏にはどのような背景があるのでしょうか?

インドの首都ニューデリーに設置されている充電スタンド。EV環境を整えるためには、もっと必要だ

 

今日、EVは世界各国で国家戦略の一つとして位置付けられています。EV分野におけるイニシアティブを早めに握ってしまえば、企業のみならず国家の隆盛を決定づけてしまうほど、EVは経済的にも政治的にも重要な分野なのです。しかし、現実では車両開発技術以外にも、インフラ整備や車両価格など数多くのハードルが存在しており、各国で掲げられている長期目標が絵に描いた餅になってしまう可能性も十分にはらんでいます。

 

自動車販売台数と生産台数の面で世界第5位の自動車市場を有するインドは、温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギーへの移行を目指したe-モビリティの推進による構造転換を急ピッチで進めています。エコカー普及政策のFAMEや国内製造業に向けた生産連動型のインセンティブ制度(PLI)など、消費者と生産者の双方に向けた施策で国家としてのエコシステムを構築する戦略を実施しています。

 

問題点はあらゆる分野に及んでいますが、最大の問題の一つがインフラ。EVの普及には充電設備の充実と莫大な電力をまかなう電力設備の強化が伴います。現在インドの家庭用充電インフラ設備は国内に約1800か所ありますが、普及に向けた試算では290万か所の公共充電ステーションが必要になるとされており、現時点では全然足りていません。このような課題を乗り越えるためには、政府の膨大な追加支出が必要です。

 

また、EVの知見を有する技術者の数も大幅に不足しています。熟練労働者に至るまでにはさまざま訓練が必要であり、民間企業の努力だけでは達成困難でしょう。また、日本と比較すると道路の質が悪い地域が多く、悪天候による崩落も日常茶飯事です。中央政府、州、市など全ての政府系機関が互いに協力し、ガバナンスと財政の両立を目指す施策の展開が必須であると思われます。

 

消費者の視点から見れば、購入価格も普及に向けた大きな課題でしょう。一回の充電による走行距離や速度の問題は時間の経過と共に解消されていくはずですが、従来の自動車と比較してはるかに高価なものであると感じられる状況のなかでは、気持ちのうえでは環境保護のためにEVを購入したいが、経済的事情のためにあきらめざるを得ないと考える人々が多いのも容易に理解できます。

 

公共の充電スタンドの設置は認可不要

数多くのハードルが存在し、政策によるEV普及の達成まで長い道のりのように感じられるかもしれませんが、インドでは公共の充電スタンドの設置に関しては現時点で認可が不要で、電力省(MOP)や中央電力庁(CEA)が定める基準や仕様に準じている限り、個人や団体でも設置することができます。トラブルが発生する可能性もありますが、新たな時代に向けた社会構造の転換タイミングでは、このような方針が有効かもしれません。それが爆発的な普及に向けた礎になるかどうかは、今後の動向を見守っていくことでおのずと判明することでしょう。

 

世界各国の自動車メーカーは、新たなEVの開発に向けた資材調達のプラットフォームを構築しており、さまざまな国の最先端技術を有するメーカーの参加を促しています。すでに多数の日本企業が外国自動車メーカーの調達プラットフォームに参加を表明していますが、インフラ事情やEV展開を支える技術者育成の問題のように、視点を変えることで大きなビジネスチャンスが潜んでいるかもしれません。可能性のあるマーケットは世界中に広がっています。

 

【参考】EXPRESS mobility. Do Indian EV policies provide enough assistance for charging infrastructure to help the country’s mobility transition? 2021 November 17. https://www.financialexpress.com/express-mobility/do-indian-ev-policies-provide-enough-assistance-for-charging-infrastructure-to-help-the-countrys-mobility-transition/2371112/

「電気自動車」の“覇権”をかけたグローバル競争に挑むインドの課題と可能性

【掲載日】2021年12月17日

最近のインドでは、「充電スタンドに投資しませんか?」という広告が増えています。これは、同国が官民一体となってEV(電気自動車)により一層力を入れていることを示していますが、この広告の裏にはどのような背景があるのでしょうか?

インドの首都ニューデリーに設置されている充電スタンド。EV環境を整えるためには、もっと必要だ

 

今日、EVは世界各国で国家戦略の一つとして位置付けられています。EV分野におけるイニシアティブを早めに握ってしまえば、企業のみならず国家の隆盛を決定づけてしまうほど、EVは経済的にも政治的にも重要な分野なのです。しかし、現実では車両開発技術以外にも、インフラ整備や車両価格など数多くのハードルが存在しており、各国で掲げられている長期目標が絵に描いた餅になってしまう可能性も十分にはらんでいます。

 

自動車販売台数と生産台数の面で世界第5位の自動車市場を有するインドは、温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギーへの移行を目指したe-モビリティの推進による構造転換を急ピッチで進めています。エコカー普及政策のFAMEや国内製造業に向けた生産連動型のインセンティブ制度(PLI)など、消費者と生産者の双方に向けた施策で国家としてのエコシステムを構築する戦略を実施しています。

 

問題点はあらゆる分野に及んでいますが、最大の問題の一つがインフラ。EVの普及には充電設備の充実と莫大な電力をまかなう電力設備の強化が伴います。現在インドの家庭用充電インフラ設備は国内に約1800か所ありますが、普及に向けた試算では290万か所の公共充電ステーションが必要になるとされており、現時点では全然足りていません。このような課題を乗り越えるためには、政府の膨大な追加支出が必要です。

 

また、EVの知見を有する技術者の数も大幅に不足しています。熟練労働者に至るまでにはさまざま訓練が必要であり、民間企業の努力だけでは達成困難でしょう。また、日本と比較すると道路の質が悪い地域が多く、悪天候による崩落も日常茶飯事です。中央政府、州、市など全ての政府系機関が互いに協力し、ガバナンスと財政の両立を目指す施策の展開が必須であると思われます。

 

消費者の視点から見れば、購入価格も普及に向けた大きな課題でしょう。一回の充電による走行距離や速度の問題は時間の経過と共に解消されていくはずですが、従来の自動車と比較してはるかに高価なものであると感じられる状況のなかでは、気持ちのうえでは環境保護のためにEVを購入したいが、経済的事情のためにあきらめざるを得ないと考える人々が多いのも容易に理解できます。

 

公共の充電スタンドの設置は認可不要

数多くのハードルが存在し、政策によるEV普及の達成まで長い道のりのように感じられるかもしれませんが、インドでは公共の充電スタンドの設置に関しては現時点で認可が不要で、電力省(MOP)や中央電力庁(CEA)が定める基準や仕様に準じている限り、個人や団体でも設置することができます。トラブルが発生する可能性もありますが、新たな時代に向けた社会構造の転換タイミングでは、このような方針が有効かもしれません。それが爆発的な普及に向けた礎になるかどうかは、今後の動向を見守っていくことでおのずと判明することでしょう。

 

世界各国の自動車メーカーは、新たなEVの開発に向けた資材調達のプラットフォームを構築しており、さまざまな国の最先端技術を有するメーカーの参加を促しています。すでに多数の日本企業が外国自動車メーカーの調達プラットフォームに参加を表明していますが、インフラ事情やEV展開を支える技術者育成の問題のように、視点を変えることで大きなビジネスチャンスが潜んでいるかもしれません。可能性のあるマーケットは世界中に広がっています。

 

【参考】EXPRESS mobility. Do Indian EV policies provide enough assistance for charging infrastructure to help the country’s mobility transition? 2021 November 17. https://www.financialexpress.com/express-mobility/do-indian-ev-policies-provide-enough-assistance-for-charging-infrastructure-to-help-the-countrys-mobility-transition/2371112/