創業90周年のニッカウヰスキーから発売された高コスパすぎる贅沢ウイスキー「ニッカ フロンティア」。その魅力とは?

 「マッサン」の名で知られ、愛好家からは「日本のウイスキーの父」として愛される竹鶴政孝。彼が「日本人に本物のウイスキーを飲んでもらいたい」と情熱を捧げ創業したニッカウヰスキーが、今年90周年を迎えた。 

 

そして期せずして今年は、マッサン放送から10周年の年。そんなニッカウヰスキーフィーバーに湧く今年、4年ぶりの新商品「ニッカ フロンティア」が発売された。本記事ではその魅力をお届けする。 

 

↑商品名には、飲む人をいままでのウイスキー体験とは違う新たな境地(フロンティア)に誘いたいという思いが込められている 

 

ニッカウヰスキー
ニッカ フロンティア
500ml 2200円(税込)

 

ニッカウヰスキー創業の地、余市蒸溜所の個性を凝縮 

「ニッカ フロンティア」は、余市蒸溜所のヘビーピートモルト原酒をキーモルトに使ったプレミアムウイスキー(2000円以上のウイスキー)。キーモルトが作られている余市蒸溜所は、大正時代にウイスキーの本場・スコットランドで本格的なウイスキーづくりを学んできた竹鶴が、最初に建てた蒸溜所で、ニッカウヰスキー創業の地でもある。 

  

↑竹鶴がスコットランド留学中に記した通称「竹鶴ノート」のレプリカ。ノートは2冊あり、どちらもウイスキーづくりの工程がびっしりと細かな文字でまとめられている。かつてイギリスの首相が、ユーモアと親愛の情を込めて「頭の良い日本の青年が、1本の万年筆とノートでウイスキーづくりの秘密を盗んでいった」とスピーチしたという逸話が残っている

 

↑余市蒸溜所のシンボルでもあるキルン塔。現在は使われていないが、もともとはここで発芽した大麦をピート(泥炭・草炭)で燻しながら乾燥させ、麦芽を作っていた

 

↑蒸溜所内に建つ洋館「リタハウス(リタとは、竹鶴がスコットランド留学時に出会い、後に妻となった女性の名前)」は、創業前の1931年に建てられ、1984年までの約50年間、ニッカウヰスキーの研究所として使われていた。写真は2020年冬に筆者が撮影したもの。リタハウスや前述のキルン塔など、蒸溜所内の7つの施設が国の重要文化財に指定されてる

 

蒸溜所が建つ余市町は、北海道積丹半島の付け根にあり、スコットランドに似た寒冷な気候で、良質な水と豊かな自然を有する場所。 

 

さらに、ウイスキーにピーティーな風味(スコッチウイスキー特有の薫香)を付与するのに欠かせないピートの産地でもあり、これが、「余市のウイスキーといえばピーティー」と言われる所以である。そして「ニッカ フロンティア」では、このピートが重厚に効いたモルト原酒がキーモルトに据えられている。 

↑余市蒸溜所の見学コースに展示されているピート。ヨシやカヤといった植物が堆積してできたもので、これを使って麦芽にスモーキーな香りをつける

 

グレーンよりモルトを多く配合したブレンデッド

また、ブレンデッドウイスキーでありながら、モルト原酒が51%以上を占めているのも特徴だ。 

 

ちなみにウイスキーは、大麦のみで作られたモルトウイスキーと、とうもろこしやライ麦、小麦など、モルト(大麦)以外の穀物を主原料としたグレーンウイスキーに分けられ、このふたつの原酒を混ぜたウイスキーをブレンデッドウイスキーという。 

 

そして大半のブレンデッドウイスキーは、モルトウイスキーよりもグレーンウイスキーの配合比率のほうが高い。しかし「ニッカ フロンティア」は、その逆。モルトウイスキーの比率のほうが高いため、ブレンデッドウイスキーらしいすっきりとした飲みやすさがありながらも、モルトウイスキーの魅力であるコクもしっかりと感じられるのだ。  

 

加えて、前述した通りブレンドのキーとして使われているのが、余市蒸溜所のヘビーピート原酒のため、ピートに由来する香り高くスモーキーな味わいも楽しめる。 

↑余市蒸溜所の象徴ともいえるのが、石炭で蒸溜器を加熱し蒸溜する「石炭直火蒸溜」。昔ながらの伝統的な蒸溜法だが、温度管理が難しく熟練した職人技が必要なため、いまもこの手法を続けている蒸溜所は世界を見渡しても希少。1000℃を超える高温のポットスチルを操ることで生まれる適度な「焦げ」が、独特の香ばしさと力強さを生む

 

さらに、アルコール度数が48%と、これまでニッカウヰスキーが発売してきた商品のなかで高アルコールなのもポイントだ。アルコール度数を高めるメリットは、度数が低いと溶けきれずに失われてしまう旨味もそのまま残ること。また、ハイボールにしたときに、炭酸水に割り負けしないといった魅力もある。 

 

加えて、あえて冷却をしないノンチルフィルタードも採用。一般的にウイスキーは、瓶詰め前に冷却して濁り成分をろ過する工程を経るが、冷却せずに常温でろ過を行うことで、原酒の香味成分をたっぷりと残している。 

 

↑蒸溜所内にある「ニッカミュージアム」では、ニッカのウイスキーづくりを様々な角度から学べる。ミュージアムの奥には豊富なラインナップから好きな商品を有料で試飲できる「テイスティングバー」

 

ニッカウヰスキーでは、このノンチルフィルタード、モルトベースのブレンデッドウイスキーという特徴は、最高ランクに値するプレステージカテゴリー(5000円以上のウイスキー)の通年商品、もしくは数量限定商品でしか採用されてこなかった。しかし「ニッカ フロンティア」は、2200円(税込)と手に取りやすい通年商品にもかかわらず、これらの特徴が取り入れられている。 

 

↑「ニッカ フロンティア」のメディア向け発表会の資料より。「余市」や「竹鶴」などの5000円以上の商品はプレステージカテゴリー。今回発売された「ニッカ フロンティア」はプレミアムカテゴリーで、「スーパーニッカ」や「ニッカ セッション」などがそれにあたる。そして1000円以上の商品がスタンダードカテゴリー、1000円未満はエコノミーカテゴリーと呼ばれ、「ブラックニッカ」シリーズが、スタンダードおよびエコノミーに含まれる

 

こだわり抜かれたその味わいは? 

肝心の味わいだが、口を近づけるとまずは深く甘い香りが鼻腔をくすぐる。マーマレードを思わせるフルーティーさを主軸に、しっかりとしたモルトの香りと心地良いスモーキーさが重なり、なんともふくよかな香りだ。 

 

そして口に含むと、アルコール度数の高さからは考えられないほどにスムース。ピート由来のビターさのおかげで、果実のような甘さがぼけずに引き締まり、バランスの良さが感じられる。それでいて喉を通ったあとには、余韻が長く続く。これをこの価格で味わえるのは贅沢すぎるといえよう。 

 

↑ボトルの背面にはしめ縄のモチーフを彫刻。これは創業者の竹鶴が造り酒屋の生まれであることに由来する。ちなみに同様の理由から、ニッカウヰスキー蒸溜所の蒸溜器はすべて、しめ縄が結ばれている。ちなみに写真中央は余市蒸溜所、右はニッカウヰスキーが宮城県に持つもうひとつの蒸溜所・宮城峡蒸溜所の蒸溜器だ

 

「ニッカ フロンティア」のおいしさを余すことなく楽しめるフロートハイボール 

最後に、メーカーが推奨する「ニッカ フロンティア」の飲み方として「フロートハイボール」を紹介しよう。フロートハイボールとは、炭酸水のうえにウイスキーを浮かべるスタイルで、口を近づけたときにその香りを余すことなく堪能できるのが特徴。 

 

また一口目は、ロックで飲むときのようにウイスキー本来の味が楽しめ、飲み進めるうちにグラスの中で炭酸とウイスキーが混ざり合い、さらに口の中でもブレンドされるという、味わいの変化を楽しめる、何度飲んでもおいしいスタイルだ。 

 

もちろん途中で混ぜてハイボールにしてもOKだ。フロートハイボールなら飲むたびに味わいが変わり、飲み進める過程で自分の好みを探ることもできる。そして何より見た目が美しい。 

 

作り方は簡単で、グラスに氷を入れ、8分目ぐらいを目安に炭酸水を入れる。マドラーを炭酸水の液面にあて、そこに沿わせるようにして「ニッカ フロンティア」を注ぐ。そうするとウイスキーが炭酸水の上にフロートする。 

 

↑筆者が試したところ、マドラーを液面に対し垂直にするのではなく、できるだけ寝かせるようにして入れるとうまくいきやすいと感じた

 

文章で読むと難しそうに感じるかもしれないが、やってみると意外と簡単。勢いよく注ぐとウイスキーがこぼれ落ち炭酸水に混ざってしまうため、ゆっくり丁寧に注ぐようにすれば、ほとんどの人はできるだろう。 

 

お酒が弱い方だと、最初のロックを飲んでいるような味わいに驚いてはしまうかもしれないが、ある程度お酒が飲めて、それでいてウイスキーはハイボールしか飲んだことがないという方には、ぜひ一度この飲み方を試していただきたい。「ニッカ フロンティア」のおいしさを余すことなく堪能できると同時に、この一杯を通して、ウイスキーの多彩な楽しみ方を発見できるはずだ。 

 

ちなみに一般的なウイスキーは1本750ml容量なのに対し、「ニッカ フロンティア」は500mlと量が少ないのも特徴。これを少ないと感じる方もいるかも知れないが、購入してみてたとえ味の好みが合わなかったとしても困らない量ともいえる。 

 

では、リピ買いの人にとってはどうなのか?と疑問を持たれるかもしれないが、すでにこの味の虜になっている人ならば、500mlであってもこのおいしさが2200円で手に入るのは十分にお得だとわかるはず。 

 

ニッカミュージアムの様子

半身の「うな重」が1600円から! 2024年は「お手ごろうなぎチェーン」が拡大の予感!【フードNEXTトレンド】

コロナ禍を経て息を吹き返した外食トレンドからも目が離せない! 今回はフードライター中山秀明さんと「GetNavi」フード担当・鈴木翔子さんに2024年の「お手ごろうなぎチェーン」「第3のパン」「ニッカウヰスキー」について聞いてみた。

※こちらは「GetNavi」 2024年2・3月合併号に掲載された記事を再編集したものです

 

■フードライター中山秀明さん
食のトレンドに詳しいフードアナリスト。個人的には「お手ごろうなぎチェーン」が特に激アツだと豪語する。

 

■「GetNavi」フード担当・鈴木翔子

本誌のフードを5年以上担当。酒好きが高じ、しばしばバーでも働いており、酒トレンドに詳しい。

 

川上から川下までうなぎ上り!「お手ごろうなぎチェーン」

お手ごろ価格のうなぎチェーンと言えば「名代宇奈とと」のほぼ一強だったが、近年は新鋭が続々参入。なかでも2022年9月に横浜で創業した「鰻の成瀬」の勢いは凄まじく、2023年内で店舗数約70店を超えた。

 

うなぎビジネスは外食だけに留まらない。昨今、岡山理科大学や近畿大学が養殖に成功。23年夏には日清食品が発売した植物性うなぎ「謎うなぎ」が大ヒット。まさに、うなぎ上りで注目度が上がっている業界なのだ。

 

思わずウナる安さと味を両立した新鋭うなぎチェーンの大本命

鰻の成瀬

“うまい鰻を腹いっぱい!”がコンセプト。最も安価なうなぎメニューは、うなぎ半身ぶんを使った「うな重」を1600円(写真)から楽しめる。同社によると老舗うなぎ店の半額程度、それでいて1.5倍の量を実現している。

↑同店では、高級店で提供されているニホンウナギを使用

 

毎朝届く高級うなぎを鮮度を生かした関西風に!

うなぎ亭 智

2023年9月に東京・武蔵小山にオープンしたうな重専門店。愛知三河のうなぎ問屋から仕入れた高級うなぎをお手ごろ価格で楽しめる。毎朝届くうなぎの鮮度の高さを生かし、蒸さずに生のまま高温で一気に焼き上げる関西風に仕上げている。写真の「うな重 特上」は3080円

 

【ヒットアナリティクス】安さのカギは技術革新によるシステム化にあり

「新鋭店が圧倒的な安さとうまさを両立できる一番の理由が、調理などのシステム化。人件費を抑えると同時に、提供時間を短縮し回転率を上げ、単価を下げています。実に現代的であり、2024年はより拡大するでしょう」(中山さん)

先進技術:4 顧客ニーズ:4 市場の将来性:5 独自性:4 コスパ:5

 

麦、米の次に来るパンの新素材は豆だ!「第3のパン」

動物性原料不使用の食品ブランド「ZENB」が、スーパーフードである黄えんどう豆を使った「ZENBブレッド」を発売。グルテンフリーで食物繊維が豊富など、ヘルシーでヒットの要素は極めて高い。

ZENB JAPAN
ZENBブレッド
274円

小麦や動物性原料を使わずにふわもちなおいしさを実現

生地の主原料に黄えんどう豆を使った新しいパン。小麦のグルテンや卵、乳製品には頼らずに、ふわもち食感のおいしさを実現した。味は「くるみ&レーズン」「カカオ」「3種の雑穀」の3種をラインナップ。

 

【ヒットアナリティクス】人気のヘルシーパンの魅力だけをミックス

「食物繊維は少ないがグルテンフリーの米粉パンと、食物繊維が豊富で低糖質なグルテン入りのふすまパンの良いとこ取り。ふすまパンの代名詞、ローソンの『ブランパン』が販売数3億個超えなので、ヒットの可能性大」(鈴木)

先進技術:4 顧客ニーズ:4 市場の将来性:5 独自性:4 コスパ:3

 

ジャパニーズウイスキーはますますアツい「ニッカウヰスキー90周年」

“日本のウイスキーの父”と言われる竹鶴政孝氏が創業したニッカウヰスキーが、2024年で90周年を迎える。2023年はジャパニーズウイスキー100周年で盛り上がったが、この熱は依然冷めないだろう。

●写真は、2014年に80周年を記念して限定発売された商品

ニッカウヰスキー

ニッカの創業地や創業者の名を冠した商品が最注目株

ニッカウヰスキーは、1934年に北海道の余市で創業。その名を冠したシングルモルト「余市」や創業者の名であるウイスキー「竹鶴」など、周年記念商品が発売される可能性は高く、目が離せない。

 

【ヒットアナリティクス】記念商品は過去にもあり「マッサン」も周年

「限定商品の発売は発表されていませんが、80周年のときに記念商品が出ていたので、今回も登場するはず。しかも24年は、ジャパニーズウイスキー人気を後押しした、竹鶴氏がモデルの朝ドラ『マッサン』も放映10周年!」(中山さん)

先進技術:4 顧客ニーズ:4 市場の将来性:4 独自性:5 コスパ:2

ジャパニーズウイスキーの殿堂入り9本を飲み比べ! 覚えておくべき銘柄とその味わいは?

2023年は、ジャパニーズウイスキーのアニバーサリーイヤー。世界五大ウイスキーのひとつにも数えられますが、近年になってその評価はいっそう高まり、国際品評会で世界一に輝くことも珍しくありません。本特集記事では全4回にわたってジャパニーズウイスキーの魅力を解説。第3回は、代表的な銘柄とその味わいをお伝えします。

 

【関連記事】
ジャパニーズウイスキーとは。世界からの評価や5大ウイスキーにおける個性、伝説の銘柄などを解説

ブームから暗黒期、そして世界を牽引する時代へ。ジャパニーズウイスキーの100年間と、支えた7人のキーパーソンたち

↑比較的入手しやすい有名銘柄から、シングルモルトウイスキーとブレンデッドウイスキーを計9本紹介

 

蒸溜所の個性が表現されたシングルモルト

単一蒸溜所のモルト(大麦麦芽)原酒だけをブレンド(ヴァッテッド)したウイスキーがシングルモルト。土地の気候風土や、そこに湧く(流れる)マザーウォーター(仕込み水)の恵みが生きた、個性的な味わいが特徴です。

 

■ つつましい美麗。ザ・ジャパニーズウイスキー「山崎」

2023年のジャパニーズウイスキー100周年とは、サントリー山崎蒸溜所の建設着手から始まります。以来、山崎蒸溜所はいわばジャパニーズウイスキーのお手本となる味を生み出してきたパイオニアといえます。そんな同蒸溜所の魅力をめいっぱい堪能できる一本が、「シングルモルトウイスキー 山崎」ブランド。

↑熟成年などで様々なラインナップがありますが、基本的に入手困難。ただし左端のノンエイジであれば、モルトバーなどで飲む機会に恵まれることも

 

味の特徴は、甘く華やかで、繊細な余韻がエレガントな飲み心地にさせてくれる奥ゆかしい上品さ。そのつつましい美しさや力強さは、日本料理や日本画に通じるものがあると思います。

 

シングルモルトウイスキー 山崎(ノンエイジ、以下同)

ドライ ■■■■□ スイート

ライトリー ■□□□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■■□□ フルーティ

ジェントル ■■■■□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:いちご、さくらんぼ

主な熟成樽:ワイン樽、ミズナラ樽

 

■ 森林の恵みを感じる清々しいフィニッシュ「白州」

山崎蒸溜所の建設着手から半世紀後の1973年、山梨県北杜市に誕生したのが白州蒸溜所です。約82万平方メートル(東京ドームの約17倍)の広さがあり、海抜は約700メートル。敷地の多くが緑に抱かれ、白州の森にはバードサンクチュアリもあるという、世界的にも稀有なこの蒸溜所で生まれるのが「シングルモルトウイスキー 白州」ブランドです。

↑白州も山崎同様のラインナップ。左端のノンエイジは、比較的入手しやすくなっています

 

白州は、味わいにも雄大な森を彷彿とさせるグリーンなニュアンスが魅力。また、ピート(泥炭)を軽く焚いたモルトを一部に使った、軽やかなスモーキーフレーバーも特徴です。個人的には、キャンプ場で焚き火を囲みながら飲むウイスキーに最適な一本だと思います。

 

シングルモルトウイスキー 白州

ドライ ■■■□□ スイート

ライトリー ■■□□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■■□□ フルーティ

ジェントル ■■■□□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:すだち、ミント、青りんご

主な熟成樽:バーボン樽、ホッグスヘッド樽(バーボン樽を組みなおして成形するのが一般的。かつ、バーボン樽よりやや大きい)

 

■ スコッチへの憧憬が表現された重厚でスモーキーな「余市」

ジャパニーズウイスキー誕生前夜の1918年にスコットランドへウイスキー留学し、山崎蒸溜所の初代所長として設計や味づくりに携わり、その後ニッカウヰスキーを創業した竹鶴政孝氏。“日本のウイスキーの父”とも称される、氏のスコットランド愛は1934年に開設した北海道の余市蒸溜所で開花しました。

↑右がノンエイジの「シングルモルト余市」。なおニッカウヰスキーは2024年で創業90周年を迎え、左の「シングルモルト余市 アロマティックイースト」はその記念企画の一環として2022年に発売された限定品です

 

スコットランドの風土に最も近いとして選ばれた余市は、厳しくも豊かな大自然が力強い酒質を創出。なおかつ伝統的な石炭直火蒸溜を採用し、スモーキーなヘビリーピーテッドモルトで仕込んだその味は、まさにスコッチへの憧憬を日本の技とテロワールで表現した“アンサーウイスキー”となっています。

 

シングルモルト余市

ドライ ■■■□□ スイート

ライトリー ■■■□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■□□□ フルーティ

ジェントル ■■■■□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:オレンジ、オールスパイス、スモーキーなクリーム

主な熟成樽:バーボン樽、シェリー樽、新樽

 

■ 華やかな果実味が軽やかに躍動する「宮城峡」

ニッカウヰスキーが余市に次ぐ蒸溜所として、1969年に開設したのが宮城峡蒸溜所。仙台から北西に約25km離れた郊外の、2つの清流と緑豊かな渓谷がある場所に立地しています。求めたのは、余市とは異なる原酒の味わい。軽やかな香味成分を得られる蒸溜器を導入したり、間接的なスチーム加熱式の蒸溜方法を採用したりすることで、華やかでフルーティな酒質になることが宮城峡の特徴です。

↑左がノンエイジの「シングルモルト宮城峡」。右は余市同様の限定ボトルです

 

樽香をはらんだまろやかな甘やかさに導かれ、ふわりと顔を出すのがフルーティでフラワリーな心地よいフレーバー。かすかなピートが硬派な表情を演出する一方、シャープなキレは明るく爽快な余韻を演出します。

 

シングルモルト宮城峡

ドライ ■■■■□ スイート

ライトリー ■□□□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■■■□ フルーティ

ジェントル ■■■□□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:りんご、洋なし、バニラ、はちみつ

主な熟成樽:バーボン樽、シェリー樽、新樽

 

■ 霊峰の雫に甘香ばしい果実味が宿った「富士」

白州蒸溜所と同年の1973年に、アメリカとスコットランドの各企業と日本のキリンビールが3社共同で開設したのが富士御殿場蒸溜所(現在はキリンビールが単独運営)。霧深い富士山麓のなか、霊峰富士の伏流水で仕込むこと、また、熟成年数の長さ以上に原酒本来の持ち味が最もよく現れるピークのタイミングを重視する「マチュレーションピーク」という哲学でつくることも特徴です。

↑「キリン シングルモルト ジャパニーズウイスキー 富士」。生産体制が整い、2023年5月から通年発売となりました

 

味わいは、甘香ばしいクリーミーなタッチと、熟成感あふれるフルーティな香味が印象的。フラワリーな余韻が上品で心地よく、葛飾北斎が富士山をモチーフに描いた代表作「富嶽三十六景」で例えるなら、“赤富士”こと「凱風快晴」のようなパッションが感じられます。

 

キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー 富士

ドライ ■■■□□ スイート

ライトリー ■□□□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■■■□ フルーティ

ジェントル ■■■■□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:りんご、パイナップル、オレンジ、はちみつ

主な熟成樽:バーボン樽、ビール樽、ワイン樽

 

調和の芸術がブレンデッドウイスキー

ブレンデッドウイスキーとは、個性の強いモルト原酒に、クセがおだやかなグレーン原酒(※)をブレンドした、好バランスな味のウイスキーのことをいいます。無限にある組み合わせのなかから、ブレンダーが知見と技と感性を駆使して調和させる、芸術品のようなウイスキーといえるでしょう。

※:大麦麦芽のほか、とうもろこしやライ麦などの穀物を原料に、連続式蒸溜器でつくる原酒のこと。

 

■ 花鳥風月が表現された美しきハーモニー「響」

サントリーが創業90周年を迎えた1989年に、それまでのウイスキーづくりの夢の結晶として生み出したのが「響」ブランド(「サントリーウイスキー 響 17年」)です。「人と自然と響きあう。」をコンセプトとし、日本の四季や精神文化を表現した味は海外でも多くの賞賛を集め、名実ともに日本を代表するブレンデッドウイスキーといえるでしょう。

↑100万樽以上から選ばれた多彩な原酒をブレンド。「サントリーウイスキー 響 17年」(休売中)の誕生から四半世紀後の2014年にデビューした「サントリーウイスキー 響 JAPANESE HARMONY」は、比較的に入手しやすい一本です

 

たくましく華やかな香味の先に感じる、繊細な艶やかさ。クリアな甘みの奥に潜む、香木的な複雑味。静と動、柔と剛がオーケストラのように響き合い、まさに美しいハーモニーを奏でます

 

サントリーウイスキー 響 JAPANESE HARMONY

ドライ ■■■■□ スイート

ライトリー ■□□□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■■■□ フルーティ

ジェントル ■■■□□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:バラ、ライチ、バニラ、オレンジ、はちみつ

キーモルトの主な熟成樽:ミズナラ樽、バーボン樽、シェリー樽

 

■ ニッカの情熱的な魂が調和したピュアモルト「竹鶴

次に紹介する「竹鶴ピュアモルト」は、ニッカが余市と宮城峡それぞれのモルト原酒のみをヴァッティングし、あえてグレーン原酒を使わずに仕上げたウイスキー。厳密にはブレンデッドウイスキーではないのですが、シングルモルトでもないのでこちらで紹介します。

↑ニッカウヰスキー創業者、竹鶴政孝氏の哲学をヴァッティングに反映した「竹鶴ピュアモルト」。モルトウイスキーでありながら、ブレンデッドウイスキーに匹敵するやわらかな酒質が表現されています

 

なめらかなタッチは実にスムース。口に含めば華やかな果実味と重厚なモルトの甘みが広がり、ピーティなキレのメリハリも絶妙です。かすかに華やぐ塩気を含んだスモーキーフレーバーが、どこかスコッチウイスキーのように端正な表情をみせるところも面白いです。

 

竹鶴ピュアモルト

ドライ ■■■□□ スイート

ライトリー ■■□□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■■□□ フルーティ

ジェントル ■■□□□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:りんご、杏、バニラ、バナナ

キーモルトの主な熟成樽:シェリー樽、リメード(新旧組み替え)のオーク樽

 

■ 多彩なグレーンが紡ぎ出す静と動の邂逅「富士」

富士御殿場蒸溜所の設備的な特徴といえば、3つの国の蒸溜機を使い分け多彩なグレーン原酒をつくっていること。ライトな酒質になるマルチカラム蒸溜器(スコットランド製)、ミディアムタイプのケトル蒸溜器(カナダ製)、ヘビータイプでバーボンづくりに頻用されるダブラー蒸溜器(アメリカ製)の3種で、ブレンデッドウイスキーも同蒸溜所ならではの一本となっています。

↑中央が「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」。単一蒸溜所のモルトウイスキーとグレーンウイスキーだけをブレンドしていることも珍しい特徴です

 

やわらかい口当たりのあとに続く、甘くフルーティで香り豊かな味わい。果実たっぷりの焼き菓子を感じさせる、ジューシーな余韻もたまりません。富士のシングルモルトが葛飾北斎の「凱風快晴」なら、こちらは“グレートウェーヴ”と称される「神奈川沖浪裏」のような動と静の調和があります。

 

キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士

ドライ ■■■□□ スイート

ライトリー ■□□□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■■■□ フルーティ

ジェントル ■■□□□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:桃、杏、オレンジ、はちみつ、ビスケット

キーモルトの主な熟成樽:バーボン樽、ビール樽、ワイン樽

 

■ 秩父とミズナラの個性が芯で華やぐ「イチローズモルト」

最後は、ジャパニーズウイスキーにおけるクラフト(マイクロ)ディスティラリーの先駆け、ベンチャーウイスキーの「イチローズモルト」。多くの銘柄は入手困難ですが、通称“ホワイトラベル”と称される「イチローズモルト&グレーン ワールドブレンデッドウイスキー」は比較的購入しやすい一本となっています。

 

なお、この商品は日本以外の国の原酒も使っているので厳密にはジャパニーズウイスキーではありませんが、クラフトウイスキーの入門にも非常にオススメであるため、ここで紹介しておきます。

↑中央が、ワールドブレンデッドウイスキーの名称になる前の“ホワイトラベル”。ボトルデザインはその名の通り、白いエチケットが特徴です

 

世界五大ウイスキーを使っていながらも、芯となるのは日本・秩父のモルト。寒暖差がきわめて激しい秩父のなかでも北東部、吉田~大田エリアの小高い丘の上に蒸溜所はあり、ここで生まれる原酒はミズナラの発酵槽や樽による、オリエンタルなニュアンスがひとつの特徴です。甘くどっしりとしたコクとともに華やぐ果実味と、ほんのりスパイシーな余韻はお見事。どんな飲み方でも楽しめます。

 

イチローズモルト&グレーン ワールドブレンデッドウイスキー(ホワイトラベル)

ドライ ■■■■□ スイート

ライトリー ■□□□□ ヘビリー(ピート)

モルティ ■■■□□ フルーティ

ジェントル ■■■□□ ワイルド(ボディ)

香りのイメージ:オレンジ、洋なし、はちみつ、香木、バニラ

キーモルトの主な熟成樽:ミズナラ

 

モルトバーやウイスキーが得意な酒販店へ行こう!

↑ウイスキーファンの聖地といえる酒販店「目白田中屋」。訪れれば、名物店主の栗林幸吉さんに会えるかもしれません

 

比較的入手しやすい有名銘柄を中心に紹介しましたが、身近な場所で飲むならウイスキーをメインに提供するモルトバーに行くのも有効的な方法です。また、昨今はクラフトディスティラリーも年々増加。これらはジャパニーズウイスキーを得意とする酒販店や地方の土産店などに行けば、現地の希少銘柄を入手できることもあるでしょう。次回は全4回のラスト。ジャパニーズウイスキーの飲み方について解説します。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

ブームから暗黒期、そして世界を牽引する時代へ。ジャパニーズウイスキーの100年間と、支えた7人のキーパーソンたち

2023年は、ジャパニーズウイスキーのアニバーサリーイヤー。よく世界五大ウイスキーのひとつに数えられますが、近年になってその評価はいっそう高まり、国際品評会で世界一に輝くことも珍しくありません。この特集記事では全4回にわたってジャパニーズウイスキーの魅力を解説。第2回目は、奥深くドラマチックな歴史について紹介します。

【関連記事】ジャパニーズウイスキーとは。世界における立ち位置や独自の魅力などを解説

 

ウイスキー文化の浸透を夢見た偉人たちの情熱

冒頭で“アニバーサリーイヤー”と述べましたが、起点となったのは1923年10月。サントリーの創業者(当時は寿屋)である鳥井信治郎(とりいしんじろう)氏が、日本初となるモルトウイスキー蒸溜所、山崎蒸溜所の建設に着手したのが始まりです。

↑写真の人物が鳥井信治郎氏。山崎蒸溜所の展示パネルより

 

そして、山崎蒸溜所の初代所長が、のちにニッカウヰスキーの創業者となる竹鶴政孝(たけつるまさたか)氏です。竹鶴氏はさかのぼること7年前の1916年、当時の洋酒業界における大手だった摂津酒造に入社。社長の阿部喜兵衛(あべきへえ)氏と常務の岩井喜一郎(いわいきいちろう)氏の命を受け、1918年にスコットランドへ単身ウイスキー留学します。

↑写真の人物が竹鶴政孝氏。写真は宮城峡蒸溜所にて

 

ちなみに、この岩井氏はのちに本坊酒造の顧問となり、同社のウイスキーづくりに尽力。そのリスペクトはブレンデッドウイスキー「岩井 トラディション」シリーズに込められています。また、摂津酒造は1964年に焼酎業界の雄・宝酒造(現・宝ホールディングス)に吸収合併されています。

 

竹鶴氏は1920年に帰国。ウイスキーの実習報告書(通称「竹鶴ノート」)を岩井氏に提出し、摂津酒造は純国産ウイスキーの製造へ乗り出します。しかし第一次世界大戦後の恐慌によって資金調達ができず、壮大な計画は頓挫してしまいました。竹鶴氏も1922年にやむを得ず退職するのですが、その竹鶴氏を見つけ出し、採用したのが寿屋の鳥井社長だったというわけです。

 

山崎蒸溜所は着工翌年の1924年に竣工し、蒸溜も開始。そして5年後の1929年、ついに日本初の本格ウイスキー「サントリーウイスキー」(通称「白札」。現在の「サントリーウイスキーホワイト」)が誕生します。しかしスコッチへの敬意を表現したまさに本格的なその味は、魅力的なはずのスモーキーフレーバーが「煙くさい」と、当時の日本人には受け入れられませんでした。

左端が「白札」。この受難をもとに、日本人の味覚に合った酒質で1937年に生み出されたのがいまも続く「サントリーウイスキー角瓶」(右から3番目)です。結果、悲願の大ヒット

 

一方、竹鶴氏は1934年に寿屋を退職し、スコットランドと近い風土を探し求めてたどり着いた北海道の余市に蒸溜所建設を決意。大日本果汁(のちのニッカウヰスキー)を創業し、1940年に自社初のウイスキー「ニッカウヰスキー」を発売します。

↑左から2番目のボトルが「ニッカウヰスキー」。なお、熟成を経たウイスキーを発売するまでは、りんごジュースや「ニッカ アップルワイン」(左端)などを積極的に製造販売していました

 

戦乱を乗り越え高度経済成長とともに最高潮に

ところが1941年には太平洋戦争が勃発。1945年の終戦後も本格ウイスキーは統制品となり、市場にはアルコールに様々な香料や着色剤を加えたイミテーションウイスキーが出回るようになります。

 

しかし、1950年からの朝鮮戦争特需などもあり、日本経済は徐々に回復。同時に、寿屋のマーケティング施策によって全国にトリスバーが続々開業。夏はハイボール、冬はホットと飲み方を提案するなどの甲斐あって、ウイスキーが一層親しみやすくなっていきました。

↑寿屋の宣伝部が手掛けた、トリスバー向けのPR誌「洋酒天国」。編集兼発行人は、当時社員だった開高 健氏で、「トリス」の有名なコピー“人間らしくやりたいナ”も開高氏の作品です

 

1955年には伝説の蒸溜所と名高い軽井沢蒸留所(当時の名称は大黒葡萄酒軽井沢蒸留所)が誕生。こちらは2000年いっぱいで生産停止し2011年に閉鎖しましたが、その間日本におけるクラフトウイスキーの第一人者、ベンチャーウイスキー(2004年創業。秩父蒸溜所の「イチローズモルト」で有名)の肥土伊知郎(あくといちろう)氏が実習で使用したり、一部設備は東海クラフトウイスキーの雄、ガイアフロー静岡蒸溜所が買い取ったりと、伝説は引き継がれています。

↑ベンチャーウイスキーの肥土社長。2014年、秩父蒸溜所にて。ちなみに肥土氏は秩父の造り酒屋に生まれますが、洋酒に憧れがあったためサントリーに新卒入社しています

 

余談ですが、この軽井沢蒸留所におけるキーパーソンたちは、2022年末に始動した軽井沢ウイスキー蒸留所の顧問や工場長に招へいされています。そのひとりが、軽井沢蒸留所の最後のモルトマスターであり、軽井沢ウイスキー蒸留所の顧問に就任した内堀修省(うちぼりおさみ)氏。内堀氏は、秩父蒸溜所の黎明期に肥土氏へのウイスキー技術指導も行っています。

 

話を戻すと、高度経済成長とともにウイスキーはさらに躍進していきました。1969年には竹鶴氏が仙台の郊外に宮城峡蒸溜所を開設。同年にはバーボンの輸入自由化、そして1971年にはスコッチを含む酒類の輸入自由化、翌1972年には関税が引き下げられるなどして輸入酒ブームが起こり、国内の酒造企業も続々とウイスキー事業に参入していきます

↑宮城峡蒸溜所。2024年に開設55周年を迎えます

 

山崎蒸溜所の建設着手から半世紀後の1973年には白州蒸溜所が誕生。加えて同年には、米国(当時)のJEシーグラム社とスコットランドのシーバスブラザース社、キリンビールの3社共同出資で設立したキリン・シーグラム社の蒸溜所として富士御殿場蒸溜所も開設され、現在はキリンビールが単独で所有しています。

↑現在の正式名称は、キリンディスティラリー 富士御殿場蒸溜所

 

1976年には、前述の軽井沢蒸留所を当時運営していた三楽オーシャン(現在のメルシャン)によって、日本初のシングルモルトウイスキー「軽井沢」が発売。同銘柄はいまや“幻のウイスキー”として、歴史に名を刻んでいます。

 

失われた四半世紀。起爆剤は「ハイボール」と「朝ドラ」

1980年代に入ると、それまで上昇基調だったウイスキー市場は曲がり角を迎えます。1983年には過去最多の消費量を記録しましたが、その後は酒類の多様化が進むとともに、酎ハイ、ワイン、日本酒といったブームのあおりを受けて低迷期に突入。軽井沢蒸留所の閉鎖も、こうしたダウントレンドの影響は否めません。

↑この時代を象徴する銘柄が「サントリーウイスキーオールド」。1980年には1240万ケースに達し、世界一の出荷数量を記録しました

 

この氷河期初期の1984年に産声を上げたブランドがありました。それがジャパニーズウイスキーのシンボル的存在、山崎蒸溜所から生み出された「シングルモルトウイスキー 山崎」(当時の名称は「サントリーピュアモルトウイスキー山崎」で、12年熟成)です。

 

さらに、1989年には「シングルモルト余市」「シングルモルト宮城峡」(ともに12年熟成)が、1994年には「シングルモルトウイスキー白州」(当時の名称と熟成年数は山崎と同様)がデビュー。

 

ウイスキーの国内消費量は2008年までほぼ一貫して下がり続けますが、2003年には世界的に権威ある酒類コンペティション・ISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)で、「サントリーシングルモルトウイスキー 山崎12年」が日本で初めて金賞を獲得しました。

↑「サントリーシングルモルトウイスキー 山崎12年」。額に入った写真は2003年の授賞式のもの

 

この快挙は業界関係者、そしてジャパニーズウイスキー復活の原動力になったといっていいでしょう。以降、ジャパニーズウイスキーが世界の品評会で上位に入賞するようになっていきます。

 

また、2005年にはベンチャーウイスキーが最初の商品「イチローズモルト ヴィンテージシングルモルト1988」を発売。2年後の2007年には、国内35年ぶりとなる新規蒸溜所、秩父蒸溜所を設立します。

↑約10年前の秩父蒸溜所。2019年には、ここから約600メートル離れた場所に秩父第2蒸溜所が開設されました

 

2008年。ジャパニーズウイスキー起死回生のきっかけとなる出来事が起きます。それが、サントリー「角ハイボール」復活プロジェクトです。これにより翌2009年には右肩下がりだった消費量が上昇に転じ、日本のウイスキー市場は活気を取り戻していきました。

 

さらに、2014年にはドラマチックなジャパニーズウイスキーの誕生秘話が、竹鶴政孝氏とその妻・リタ氏の生涯をモデルにドラマ化。NHKの連続テレビ小説『マッサン』(竹鶴氏のニックネームがマッサン)が放送され、国内ウイスキーブームは一層過熱します。

↑モノクロ写真が竹鶴氏とリタ氏

 

近年はクラフトディスティラリーの躍進にも注目

ウイスキー人気復活の追い風を受けた2010年代は、クラフトディスティラリーの新設が増えていったことも特徴のひとつ。代表的なのは、前述のガイアフロー静岡蒸溜所(2016年)ほか、本坊酒造の第2拠点にあたるマルス津貫(つぬき)蒸溜所(2016年)、厚岸(あっけし)蒸溜所(2016年)、安積(あさか)蒸留所(2016年より再稼働。設立は1946年)、嘉之助(かのすけ)蒸溜所(2017年)、三郎丸蒸留所(2017年に大規模改修。製造は1952年より)などです。

↑三郎丸蒸留所で有名なのが「ZEMON(ゼモン)」。地元・富山の伝統工芸である高岡銅器の梵鐘(ぼんしょう)をヒントに開発された世界初の鋳造(ちゅうぞう)製ポットスチルで、銅と錫(すず)の2つの効果でよりまろやかな酒質を生み出します

 

2020年代は、新規蒸溜所の誕生がますます活性化。ビッグネームの例を挙げれば、前述の軽井沢ウイスキー蒸留所のほか、薩摩酒造の火の神蒸溜所などがあります。薩摩酒造は本坊酒造グループであり、焼酎メーカーとしては屈指の洋樽設備と技術を所有。その実力は、1988年の発売開始からロングセラーを続ける長期貯蔵麦焼酎の銘酒「神の河」(かんのこ)が証明しているといえるでしょう。

↑2023年2月に蒸溜を開始した、火の神蒸溜所。2024年にはショップやバーを備えた施設のオープンと一般見学を開始する計画で、ウイスキーの発売は2026年を予定しています

 

加えて、近年は「秩父ウイスキー祭」や「ウイスキーフェスティバル」などのイベントが盛んに開催されるようになったり、スコットランドで盛んな原酒交換が日本の蒸溜所同士でも意欲的に行われるようになったりと、その勢いはとどまることを知りません。

↑2021年3月に発売された、富山の三郎丸蒸留所と滋賀の長濱蒸溜所によるコラボレーションウイスキー「FAR EAST OF PEAT」。日本のクラフトディスティラリー同士では、初の商品化となりました

 

ジャパニーズウイスキーの誕生から100年を迎えた2023年。国内蒸溜所の数は80を超えるといわれ、100を超えるのもそう遠い未来ではないでしょう。次回は比較的に入手しやすい銘柄のなかから、覚えておきたいブランドとその特徴などを解説します。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

撮影/松村広行(GetNavi編集部)

見学可能でメモリアルイヤー! 日本が誇る3つのウイスキー蒸溜所をチェック

ジャパニーズウイスキー生誕の地である山崎をはじめ、今年は日本を代表する3つの蒸溜所がメモリアルイヤー。すべて見学できるので、本稿を参考にぜひ訪れてほしい。

※この記事は「GetNavi」 2023年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【100YEARS】サントリー山崎蒸溜所

鳥井信治郎が、ウイスキー作りの理想郷を求めて全国を踏破し、辿り着いた地が京都郊外の山崎。茶人・千利休も愛した良質な水、霧が立ちやすく熟成に適した湿潤な気候がここにある。駅から徒歩数分という好立地だ。

 

↑国際的な品評会ISCで日本初の快挙(P.35)を成し遂げたのも山崎。右の人物は、3代目マスターブレンダーの鳥井信吾氏

 

2023年秋フルリニューアル! 見学ツアーを刷新

周年を機にエントランスやラウンジなど一部を改修。11月1日からは事前予約制の見学も始まる。ツアーは内容や金額が異なる2つを抽選制で用意。なお白州も同様で、こちらはすでに刷新済みだ。

 

バニラ香と果実味が華やぐ日本を代表する名ブランド

サントリー
サントリー シングルモルトウイスキー山崎12年
サントリーウイスキー100周年記念蒸溜所ラベル

実売価格1万1000円(700ml)

ホワイトオーク樽熟成原酒由来の甘いバニラ香と熟した果実味が華やぎ、シェリー樽原酒とジャパニーズオークのミズナラ樽原酒の余韻も心地良い。繊細で上品なテイストの、日本を代表する一本。

 

【50YEARS】サントリー白州蒸溜所

日本初の蒸溜所誕生から半世紀後の1973年。山崎とは異なる個性的な酒質を求めて辿り着いた名水の地が、南アルプスの麓にある山梨の白州だった。標高約700mで冷涼な、世界でも稀な“森の蒸溜所”としても有名。

 

↑発酵槽に使うのは木桶のみ。また、山崎では使用していないスモーキーなピート麦芽を一部に使い仕込んでいる

 

爽やかな香りと果実味にスモーキーな甘味が漂う

サントリー
サントリーシングルモルトウイスキー白州12年
サントリーウイスキー100周年記念蒸溜所ラベル

実売価格1万1000円(700ml)

新緑を思わせる爽やかな香りと青りんごのような若々しい果実味に、甘くやわらかなスモーキーフレーバーが漂う。フルーティーでふっくらとしたコクがあり、フィニッシュはキレの良い味わい。

 

【50YEARS】キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所

米国(当時)のJEシーグラム社とスコットランドのシーバスブラザーズ社、キリンビールの3社共同出資で誕生したキリン・シーグラム社が、1973年に静岡に創設。3か国の技術や知見と、霊峰・富士の伏流水によるマザーウォーターを生かしたウイスキー作りが特徴だ。

 

↑グレーン原酒用の蒸溜器が3種ある、世界でも稀な蒸溜所。なかでもケトル蒸溜器(右)とダブラー蒸溜器(左)が併設されているのは希少

 

多彩なグレーンが織りなす甘く華やかで複層的な味

キリンディスティラリー
キリン シングルグレーン
ジャパニーズウイスキー 富士

6600円

グレーンの原酒のみをブレンド。優しくほんのりとした甘さ、伽羅などの香木を思わせるアロマ、ウッディでスパイシーな余韻が特徴で、ラストに伸びるマスカットのような果実味も心地良い。

 

【これも注目!】2024年はニッカウヰスキーが90周年

竹鶴政孝が創業したニッカウヰスキーは、2024年に90周年を迎える。2014年の80周年では限定の「竹鶴」が発売されたりイベントが開催されたりしていたため、来年の同社の施策にも注目だ。

↑竹鶴がスコットランドに近い気候を求めて辿り着いたのが、北海道の余市だった。現在も伝統の石炭直火蒸溜を行っている

国産ウイスキー蒸溜開始から100年目!激動と波乱の歴史を振り返る

いまや国際品評会で世界一に輝く銘柄が頻出するようになった、ジャパニーズウイスキー。2023年は、その誕生から100周年を迎えるアニバーサリーイヤーである。ドラマチックな歴史や注目の新顔などに触れながら、現在地へと誘おう。

※この記事は「GetNavi」 2023年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

■ジャパニーズウイスキーの定義

↑2021年に日本洋酒酒造組合が、消費者の利益を保護し、事業者間の公正な競争を確保するとともに品質の向上を目指し、ジャパニーズウイスキーの定義を制定した

 

幾多の受難を経て奇跡の復活!そして世界中から愛される酒に

まさかこんな時代が来るとは! そう断言できるほどジャパニーズウイスキーは奇跡の復活を果たし、絶好調だ。もともと、スコッチやアメリカンなどと並ぶ世界五大ウイスキーのひとつではあったが、近年はファンが急増し入手困難な銘柄も数多。こうした人気の理由は、ひとえに世界をあっと驚かせるほどのうまさにある。

 

高品質な味は、作り手の技術向上や飽くなき探求心がもたらしたものであるが、その誕生は1923年。ちょうど100年前だ。この年、現在のサントリー創業者である鳥井信治郎が、日本のウイスキー作りを志し、山崎蒸溜所の建設に着手。そしてスコットランドから帰国していた、のちのニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝を工場長に招致した。翌年11月11日の11時11分、同蒸溜所のポットスチル(単式蒸溜器)に最初の火が灯り、ジャパニーズウイスキーの夜が明けたのである。

 

↑竹鶴政孝(左)は、摂津酒造の阿部喜兵衛と岩井喜一郎のサポートにより留学したが、帰国時、戦後の経営悪化で同社のウイスキー作りは頓挫。そこで鳥井信治郎(右)が竹鶴を寿屋に招致した。ちなみに岩井は後年、本坊酒造でウイスキー製造を指導している

 

寿屋(現・サントリー)は1929年、ついに日本初の本格ウイスキーを発売。しかし“本格”な味は「煙くさい」として、あまり受け入れられなかったという。このように船出は決して順風満帆ではなかったが、日本人の繊細な味覚に合うウイスキーを追求し続けて開発したのが、いまも続く通称「角瓶」だ。続いて寿屋から独立した竹鶴も、自社初のウイスキー「ニッカウヰスキー」を発売するなど、日本のウイスキー業界は徐々に発展していく。

 

↑サントリーウイスキー白札(左)、ニッカウヰスキー(右)

 

しかし時代は戦争へ。戦後の混乱期にはアルコールに香料や色を加えただけの偽物もウイスキーとして流通。とはいえ世が平穏を取り戻すなか、ウイスキーは原酒混和率による等級制度で区分され、大衆的な銘柄を中心に浸透していく。やがて高度経済成長期にはバーが急増。ボトルキープやハイボール、水割りといった日本独自の文化が花開いたのもこのころだ。

 

1973年には白州蒸溜所と富士御殿場蒸溜所が誕生。そして1983年にウイスキーの消費量は隆盛を極めるが、酎ハイなど他の酒に人気を奪われ次第に低迷。転機となるのは2000年代に入ってから。国際品評会で上位入賞したり、クラフト蒸溜所が誕生したりと新たな潮流が芽生えるなか、ハイボールブームが到来して消費量でも復活を果たす。

 

ジャパニーズウイスキーの歴史は朝ドラ「マッサン」で広く知られるようになり、人気は不動のものに。加えて国際品評会ではすっかりトップの常連となり、ついにジャパニーズウイスキーは世界中の注目を集めるようになった。いまや新たな蒸溜所が全国に続々誕生し、そこで熟成を経たウイスキーの飲みごろをファンは待ち望んでいる。ジャパニーズウイスキーは、ますます面白くなるだろう。

 

ジャパニーズウイスキーの歴史

1853年 アメリカからペリーが来航し、日本に初めてウイスキーが持ち込まれる

1860〜1870年代 1859年の開港とともにウイスキーの輸入が始まる

1899年 鳥井信治郎が鳥井商店(以降、鳥井商店→寿屋洋酒店→寿屋→サントリーと社名を変更)を開業

1918年 竹鶴政孝が本場のウイスキー作りを学ぶため、スコットランドに留学する

↑竹鶴が留学中に書き綴ったノート。かつての英国首相が、「頭の良い日本の青年が、1本の万年筆とノートでウイスキー作りの秘密を盗んでいった」と親愛の情を込めてスピーチしたという逸話がある

 

1923年 竹鶴政孝が寿屋に入社。同社は京都郊外の山崎で蒸溜所の建設に着手し、国内での本格的なウイスキー作りが始まる

1924年 山崎蒸溜所竣工。竹鶴政孝が初代工場長に就任し、ウイスキーの製造を開始

↑山崎蒸溜所

 

1929年 寿屋が、日本初の本格ウイスキー「サントリーウイスキー白札」を発売

1934年 竹鶴政孝がニッカウヰスキーの前身となる大日本果汁を設立し、北海道・余市に蒸溜所を作る

↑余市蒸溜所

 

1937年 寿屋が「サントリーウイスキー角瓶」を発売

1940年 大日本果汁が自社初のウイスキー、「ニッカウヰスキー」を発売

1970年代 ウイスキーの貿易が自由化し、輸入洋酒ブームが起こる。以降、国内酒造会社が続々とウイスキー事業に参入

1976年 三楽オーシャン(現・メルシャン)が、国内初のシングルモルトウイスキー、「軽井沢」を発売

1983年 ウイスキー消費量が過去最多に。しかし、ワイン、日本酒といった酎ハイブームのあおりを受け、以降低迷期に突入

2003年 サントリーの「山崎12年」が国際酒類コンテスト「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)」で、日本で初めてウイスキー部門の金賞を受賞。以降、ジャパニーズウイスキーが世界の品評会で上位に入賞するようになる

2005年 ベンチャーウイスキーが、のちのクラフトウイスキーブームの火付け役となる「イチローズモルト」を笹の川酒造から発売。ベンチャーウイスキーは、2007年に秩父に蒸溜所を創設。

2008年 サントリーの「角ハイボール」をきっかけに、ハイボールブームが起こる

2014年 NHK連続テレビ小説で、竹鶴政孝とその妻・リタの生涯をモデルとした「マッサン」が放送される

2010年代後半 全国各地にクラフト蒸留所が続々と誕生

2021年 日本洋酒酒造組合がジャパニーズウイスキーの定義を確定させる

2023年 日本のウイスキー作りが100周年を迎える

ジャパニーズウイスキーとは。世界からの評価や5大ウイスキーにおける個性、伝説の銘柄などを解説

2023年に誕生から100年のアニバーサリーイヤーを迎えたジャパニーズウイスキー。よく“世界五大ウイスキー”のひとつに数えられますが、近年になってその世界的評価はいっそう高まり、国際品評会で世界一に輝くことも珍しくありません。

 

この特集記事では、全4回にわたってジャパニーズウイスキーにまつわる知っておきたい知識を解説。この第1回では、「ジャパニーズウイスキー」の定義や特徴など、基本的な要点を紹介します。

↑世界五大ウイスキーそれぞれの定義や特徴も解説

 

「ジャパニーズウイスキー」の定義制定は2021年。主な条件は?

ジャパニーズウイスキーとは読んで字の如く「日本のウイスキー」ですが、実は明確な定義があります。しかし、その制定は2021年と比較的最近。日本洋酒酒造組合により、消費者の適正な商品選択や、事業者間の公正な競争、品質の向上を目的に制定されました。主な条件を5つ挙げてみましょう。

 

1:原材料として麦芽は必ず使用し、日本国内で採取された水を使用すること

2:糖化、発酵、蒸溜は国内の蒸溜所で行うこと

3:原酒は700リットル以下の木樽に詰め、日本国内で3年以上貯蔵すること

4:日本国内で瓶詰めすること

5:充填時のアルコール度数は40%以上であること

 

例えば、海外産の原酒をブレンドまたはボトリングしたウイスキーは、日本で樽貯蔵や瓶詰めをしてもジャパニーズウイスキーとは名乗れないのです。

 

日本のウイスキーはスコッチが手本となった

ジャパニーズウイスキーの誕生は1923年。サントリーの前身にあたる寿屋が、山崎蒸溜所の建設に着手したのが始まりです。歴史については第2回で詳しく解説しますが、製法などに関する大きな特徴はスコッチウイスキーへのリスペクトが強いこと。

↑100周年を迎えた山崎蒸溜所。ロゴの横には「SINCE 1923」の一文も書かれています

 

これは、山崎蒸溜所の設計に携わり初代所長を務めた竹鶴政孝氏(のちのニッカウヰスキー創業者で、連続テレビ小説『マッサン』のモデル)が、スコットランドの蒸溜所でウイスキーの知見や技術を学んだことが強く関係しています。

 

■ 世界のウイスキーの6割を占める王者「スコッチ」

それでは、五大ウイスキーについても、それぞれ主な特徴を解説していきましょう。まずはスコッチウイスキーから。定義としては、水とイースト菌、それにモルト(大麦麦芽)などの穀物を使い、仕込みや蒸溜をスコットランドで行うこと、そして容量700リットル以下のオーク樽に詰め、スコットランドの倉庫で3年以上熟成させることなどが挙げられます。

↑販売数量世界一(「Impact Databank 2020」より※)のスコッチウイスキーブランドが「ジョニーウォーカー」

 

全世界のウイスキー消費量の約6割がスコッチウイスキーであるともいわれる、いわばウイスキーの王者。その魅力的な味は独自の風土に起因しています。原材料の大麦が豊富に収穫でき、熟成に向いた冷涼な気候、そして燻香に欠かせないピート(泥炭)にも恵まれた湿地帯であることなど、ウイスキーづくりに理想的な環境が整っています。

↑ピート。日本の産地としては、北海道が有名です

 

原材料やブレンドの有無などによって、「シングルモルト」「シングルグレーン」「ブレンデッド(ヴァッテド)モルト」「ブレンデッド(ヴァッテド)グレーン」「ブレンデッドウイスキー」の5種に分類されることも特徴です。

 

また、「アイラ」「アイランズ」「キャンベルタウン」「スペイサイド」「ハイランド」「ローランド」と6大産地に分けられ、ピートが効いたアイラ、優雅な香りのスペイサイドなど、地域ごとに風味のキャラクターが異なることもスコッチの魅力です。

↑“アイラモルトの王者”の異名をもつ「ラフロイグ」

 

■ モルティかつクリアな味わいの「アイリッシュ」

ウイスキー発祥地説をスコットランドと二分し、かつて世界一の生産量を誇ったのがアイリッシュウイスキーです。主な定義としては、穀物類を原料とし、麦芽に含まれる酵素によって糖化させて酵母で醗酵。木製樽に詰め、アイルランドまたは北アイルランドの倉庫で3年以上熟成させることです。

↑1608年創業といわれる、アイリッシュウイスキー最古の蒸溜所のひとつがブッシュミルズ蒸溜所。その代表銘柄が「ブッシュミルズ ブラックブッシュ」

 

分類としては、「シングル(ピュア)ポットスチルウイスキー」「モルトウイスキー」「グレーンウイスキー」「ブレンデッドウイスキー」の4種類。

 

なかでも伝統的なアイリッシュウイスキーといえるのが「シングル(ピュア)ポットスチルウイスキー」。モルトに未発芽の大麦やその他の穀物を原料とし、単式蒸溜機(ポットスチル)で3回蒸溜(他産地では2回が一般的)させます。こちらは穀物の風味が豊かかつ、雑味が少なくなめらかでクリアな味になることも特徴です。

 

香りが甘く力強い味わいの「アメリカン」

バーボンでもおなじみのアメリカンウイスキーですが、バーボンウイスキー=アメリカンウイスキーではなく、アメリカでつくられたウイスキーの総称が、字の如くアメリカンウイスキー。

↑スーパープレミアムバーボンとして名高い「ウッドフォードリザーブ」。毎年5月に開催される、権威あるケンタッキーダービーのオフィシャルバーボンとしても有名です

 

主な定義は、穀物類を原料とすること、アルコール度数40%以上で瓶詰めすることなどがありますが、最も特徴的な定義は、内側を焦がしたオーク材の新樽で熟成させること(ただしコーンウイスキーは不要)です。新樽熟成であるため香りが甘く豊かで、味わいが力強いこともアメリカンウイスキーの特徴といえるでしょう。

 

原料などによって種類も様々。「バーボンウイスキー(コーンを51%以上使うなど)」「コーンウイスキー(コーンを80%以上使うなど)」「ライウイスキー(ライ麦を51%以上使うなど)」があり、また、バーボンウイスキーと原料や製法はほぼ一緒でも、テネシー州産かつチャコール・メローイング製法(炭濾過工程)でつくられるものはテネシーウイスキーと呼ばれます(代表的な銘柄は「ジャック ダニエル」)。

↑テネシーウイスキーといえば「ジャック ダニエル」。2023年は缶入りカクテル「ジャックダニエル&コカ・コーラ」の日本発売でも話題になりました

華やぐ香りとライトな酒質の「カナディアン」

香り高く軽やかな味わいを特徴とするのが、カナディアンウイスキー。1776年のアメリカ独立宣言後、それを嫌った一部のイギリス系農民が五大湖周辺で穀物栽培を始めたことがきっかけといわれています。

↑カナディアンウイスキーの代表格が、「C.C.」の愛称で親しまれる「カナディアンクラブ」。写真の「カナディアンクラブ 20年」は良質のオーク樽に20年以上熟成させた、ふくよかなコクが特徴

 

定義は、穀物を原料に麦芽などで糖化し、酵母などによる発酵後に蒸溜すること。そのうえで700リットル以下の木製容器で3年以上熟成させ、糖化、蒸溜、熟成はカナダで行うことなどです。

 

主な種類は3つ。ライ麦、コーン、ライ麦モルト、大麦モルトを原料にアルコール分64〜75%程度で蒸溜した「フレーバリングウイスキー」。主原料にコーンを用い連続式蒸溜機でアルコール度数95%以下で蒸溜した「ベースウイスキー」。そして、この両者を1:9〜3:7の比率でブレンドした「カナディアンブレンデッドウイスキー」です。

 

優雅でたおやかな「ジャパニーズ」

ジャパニーズウイスキーの主な定義は前述した通りですが、スコッチに学びながら独自の進化を遂げ、多彩ではっきりとした四季が生み出す日本ならでの繊細かつ華やかな香り、たおやかな深み、美しい調和を感じられることが味わいの魅力といえます。

↑“日本の四季、日本人の繊細な感性、日本の匠の技を結集したウイスキー”がコンセプトのブレンデッドウイスキー「響」

 

分類は、「モルトウイスキー」「グレーンウイスキー」、その両者をブレンドした「ブレンデッドウイスキー」の3種。また、東アジアの代表的な樹種であるミズナラの樽を他国より積極的に使うことも特徴といえるでしょう。

右端のゴールドラベルがイチローズモルトの「ミズナラウッドリザーブ」。なお、ミズナラ樽は戦中戦後に洋樽の輸入が困難になったため、山崎蒸溜所が起用したことがきっかけといわれています
↑右端のゴールドラベルがイチローズモルトの「ミズナラウッドリザーブ」。なお、ミズナラ樽は戦中戦後に洋樽の輸入が困難になったため、山崎蒸溜所が起用したことがきっかけといわれています

 

躍進の“侍スピリッツ”、その理由は?

ジャパニーズウイスキーの歴史は五大ウイスキーのなかで最も浅いものの、近年、世界的な評価はきわめて高く、注目の的となっています。その最大の理由は、やはりおいしさ。実直に品質向上への飽くなき探求を続けていった結果、味のクオリティが高まっていったといえるでしょう。

 

自国におけるウイスキー文化の醸成とともに、飲み手の嗜好性も高くなったこと、1970年の日本万国博覧会(大阪万博)が大きな起点と言われる食のグローバル化など、ジャパニーズウイスキーがおいしく進化した背景にはいくつかの事象がありますが、エポックメイキングな出来事のひとつは国産シングルモルトの誕生です。

↑1824年に英国政府公認蒸溜所の第1号となり、“はじまりのシングルモルト”として知られる「グレンリベット」。また、1963年に初めて世界に向けてシングルモルトを発売したブランドは「グレンフィディック」(創業は1887年)です

 

日本初のシングルモルトは、いまはなき軽井沢蒸留所(当時は三楽オーシャン<現・メルシャン>が運営)が1976年に発売した「軽井沢」。その後1983年のピークを境に日本のウイスキー消費量はダウントレンドになっていきますが、この受難の時代に生まれたのが1984年デビューの「サントリーシングルモルト山崎」(当時の名称は「サントリーピュアモルトウイスキー山崎」で、12年熟成)です。

↑「サントリーピュアモルトウイスキー山崎」が発売された当時の広告。“なにも足さない。なにも引かない。”がキャッチコピーでした

 

その後1989年には「シングルモルト余市」と「シングルモルト宮城峡」(ともに12年熟成)が、1994年には「サントリーシングルモルト白州」(当時の名称と熟成年数は山崎と同様)が誕生します。

 

加えて、1990年代後半から世界的にシングルモルトブームが到来。その根幹をたどると、1988年に当時の英国洋酒最大手、ユナイテッド・ディスティラリーズ社がシングルモルトコレクション「クラシック・モルトシリーズ」を発売したことがきっかけといわれています。

 

これによって、ブレンデッドウイスキーより希少なシングルモルトに注目が集まるとともにファンが増加。加えて2000年代以降にはインド、中国、台湾といった新興国が豊かになり始め、飲み手も急増していきます。こうして世界的に盛り上がるなか、日本のシングルモルトも着実にクオリティを高め、2003年にはISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ。世界でも権威ある酒類国際品評会)で「サントリーウイスキー山崎 12年」が日本で初めてウイスキー部門の金賞に。

↑山崎蒸溜所にある、山崎ウイスキー館にて

 

以降、ジャパニーズウイスキーは国際品評会の常連となり、2004年には「響 30年」が日本で初めてISCの最高賞にあたるトロフィーに輝いています(「響 30年」は2023年のISCでもトロフィーを受賞)。

 

具体的な論評例も紹介しましょう。ウイスキー評論の第一人者であるマイケル・ジャクソン氏はジャパニーズウイスキーの躍進をカリフォルニアワインに例え、「フランスにならったカリフォルニアワインのレベルは、本家を凌ぐレベルに達した。ジャパニーズウイスキーもしかりで、手本にしたスコッチを超えるほどの銘柄が生まれている」と賛辞を送っています。

 

先人から後進へと挑戦の大和魂を継承し、ともに成長

近年のムーブメントとしては、クラフトディスティラリーの躍進も見逃せません。そのパイオニアが2004年に創業し、蒸溜所を2007年に開設したベンチャーウイスキー(秩父蒸溜所。イチローズモルトで有名)です。同社が2005年に発売した「キング オブ ダイヤモンズ」は、創業間もない2007年に英国「ウイスキーマガジン」主宰のジャパニーズモルト特集で最高得点を獲得。以来、瞬く間に国際品評会の常連に。あらためて、ジャパニーズウイスキーの高い実力を世界に証明しました。

↑激レアなイチローズモルトのなかでも希少価値が高い、通称カードシリーズ。秩父蒸溜所にて

 

興味深いのは、ベンチャーウイスキーはときに先達に支えられながら成長し、その恩を返すかのように後進のサポートに積極的であること。こうした横のつながりも新興クラフトディスティラリーの励みとなり、高い志をもった蒸溜所が全国に続々誕生しています。

ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎代表が公式に技術指導を行った蒸溜所が、北海道東部の厚岸(あっけし)蒸溜所。地元の風土を生かしつつ、アイラモルトのような酒質を目指した味は国内外で高い評価を得ています
↑ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎代表が公式に技術指導を行った蒸溜所が、北海道東部の厚岸(あっけし)蒸溜所。地元の風土を生かしつつ、アイラモルトのような酒質を目指した味は国内外で高い評価を得ています

 

クラフトディスティラリー間の親交が深まるなか、日本でも積極的に行われるようになった取り組みのひとつが、蒸溜所同士の原酒交換です。スコッチでは伝統的だった文化ですが、コラボレーションはウイスキーファンにとってもうれしい話題といえるでしょう。また「ウイスキーフェスティバル」をはじめ、近年はイベントも盛んに行われるようになりました。

↑日本のクラフトディスティラリー同士で、初のコラボレーション商品を発売したのが富山の三郎丸蒸留所と、滋賀の長濱蒸溜所(写真。代表銘柄は「AMAHAGAN」)

 

ほかにも、原材料に米を用いたライスウイスキー(ライスグレーンウイスキー)が存在感を示したり、鋳造製ポットスチルを発明する蒸溜所(上記、三郎丸蒸留所)が現れたり、つくり手の増加は個性の多様化や日本独自の進化も促し、ますますジャパニーズウイスキーは面白くなっています。

 

次回は100年前の誕生から最新ムーブメントまで、ドラマチックで奥深い歴史を紹介します。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

右端のゴールドラベルがイチローズモルトの「ミズナラウッドリザーブ」。なお、ミズナラ樽は戦中戦後に洋樽の輸入が困難になったため、山崎蒸溜所が起用したことがきっかけといわれています 激レアなイチローズモルトのなかでも希少価値が高い、通称カードシリーズ。秩父蒸溜所にて ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎代表が公式に技術指導を行った蒸溜所が、北海道東部の厚岸(あっけし)蒸溜所。地元の風土を生かしつつ、アイラモルトのような酒質を目指した味は国内外で高い評価を得ています

ニッカのレガシーとチャレンジが調和。グレーンウイスキーが躍動する即完売必至の第3弾

2023年は日本のウイスキー生誕100周年で非常に盛り上がっていますが、翌2024年も実はアニバーサリーイヤーです。その理由は“日本のウイスキーの父”と呼ばれ、朝の連続テレビ小説『マッサン』の主人公のモデルともなった竹鶴政孝氏が創業した「ニッカウヰスキー」が90周年を迎えるから。

 

同社はそれに先駆けて2021年より毎年特別なウイスキーを限定発売してきましたが、先日2023年版をお披露目しました。この限定モデルの魅力を、開発者へのインタビューやテイスティングを通じてレポートします。

↑3月28日に発売された「ニッカ ザ・グレーン」。1万3200円(税込)で、限定2万本(その内1万本は海外)です

 

グレーンウイスキーとは?

今回の「ニッカ ザ・グレーン」は、90周年に向けた企画「NIKKA DISCOVERYシリーズ」の第3弾。GetNavi webでは第1弾2弾も紹介しているので、合わせて一読ください。

 

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↑第1弾は原材料の違い、第2弾は酵母や醗酵の違いが生み出す個性に着目したシングルモルト(単一の蒸溜所で生まれるモルト)ウイスキーでした(アサヒビールの資料より)

 

そして今回の第3弾も、きわめて個性的。これまでは北海道・余市、仙台・宮城峡それぞれのシングルモルトでしたが、今回はグレーンウイスキーの1本勝負であり、しかも初採用の原酒を使うなど実にチャレンジングです。

 

詳細に迫る前に、まずはグレーンウイスキーについてざっくり解説しましょう。モルトウイスキーが大麦麦芽(モルト)を使いポットスチル(単式蒸溜機)で造るのに対し、グレーンウイスキーはコーン、ライ麦、小麦などの穀類(グレーン)を主原料とし、連続式蒸溜機で蒸溜。ちなみに、モルトを使って連続蒸溜した原酒もグレーンウイスキーに分類され、その代表作が「ニッカ カフェモルト」です。

↑「ニッカウヰスキー」の名作グレーンといえば、世界でも稀少な「カフェ式連続式蒸溜機」を使った「ニッカ カフェグレーン」(左)と「ニッカ カフェモルト」(右)

 

ウイスキーの味わいは、蒸溜する回数によって決まります。単発蒸溜されたモルトウイスキーは、原材料の風味が残りやすく重厚な味わいに、一方繰り返し蒸溜するグレーンウイスキーは、クリアでライトな酒質に仕上がるのが一般的。この両方を調和させたブレンデッドウイスキーでは、個性と飲みやすさのバランスをとるためにグレーンウイスキーが欠かせない存在となっているのです。

 

ただし、「グレーンがライト」というのはあくまで一般論。蒸溜機や製法、熟成度合いなどによって味わい深く仕上がっているグレーンウイスキーも多くあります。例えば、前述「カフェ式連続式蒸溜機」は原材料の風味が残りやすい原酒を造れる名器とされています。

 

ちなみに、コーンを主原料とする米国のバーボンウイスキーもグレーンウイスキーに分類されますが、バーボンは「コーンが51%以上含まれ新樽を使う」という決まりがあるため、甘くどっしり個性的な味わいになるのだと筆者は考えています。

 

「ニッカ ザ・グレーン」は7種のグレーン原酒をブレンド

「ニッカ ザ・グレーン」には、国際品評会の授賞歴もある「ニッカ カフェグレーン」と「ニッカ カフェモルト」に使われている宮城峡蒸溜所のグレーンを含む、計7種の原酒がブレンドされています。開発の中心メンバーである、ニッカウヰスキーの綿貫政志さんに話を聞きました。

↑主席ブレンダーの綿貫政志さん。「NIKKA DISCOVERYシリーズ」では第1弾からプロジェクトに参加し、個性あふれるウイスキーを生み出してきました

 

綿貫さんが今回グレーンウイスキーにフォーカスした最大の理由は、「カフェ式連続式蒸溜機」が2023年に節目を迎えるからだと言います。

 

「『カフェ式連続式蒸溜機』の導入は、『本場スコットランドに負けないブレンデッドウイスキーを造りたい』という創業者(竹鶴政孝氏)の夢であり、1963年に当時の西宮工場で実現されました。その後1999年に宮城峡蒸溜所へ移設していまに至るのですが、2023年で導入から60周年を迎えるんですね。当社のレガシーを活用することはDISCOVERYシリーズにもうってつけだと思い、特別なグレーンウイスキーの開発を決めました」(綿貫さん)

 

基軸となる原酒は宮城峡蒸溜所のカフェグレーン。加えて同蒸溜所のカフェモルトと、西宮工場時代のカフェグレーンにカフェモルト、さらに今今回初採用となる九州産の3種のグレーンの、計7種の原種が「ニッカ ザ・グレーン」を構成しています。

↑ベースのグレーンをイメージとして一部テイスティング。右側の4、5、6は実際のブレンドに用いられている九州産の原酒です

 

「西宮工場は現在飲食店向けのチューハイを造っていますが、ここは大都市ですから当時から貯蔵庫を確保できるほどの広さがなく、グレーンの熟成は栃木工場で行っていました。今回使用した原酒は1988年ものであり、35年熟成ですね。非常に希少ですが、熟成感を与えるために使っています」(綿貫さん)

 

そして気になるのは、九州産のグレーン原酒。生産地のひとつは福岡・門司(もじ)工場、もうひとつは鹿児島・姶良(あいら)のさつま司蒸溜蔵となり、ここでは普段、焼酎の原酒が蒸溜されています。

↑どちらにも、本格焼酎(乙類、または単式蒸溜焼酎)用のステンレス製単式蒸溜機が設置されています(一般的に、連続式蒸溜機で造ると甲類焼酎(連続式蒸溜焼酎)となる。ウイスキーの単式蒸溜機は銅製が多い)(アサヒビールの資料より)

 

「門司では発芽させていない大麦を主体としたグレーン原酒が1種。さつま司では同じく大麦主体のグレーンと、コーン・ライ麦原酒の計2種を蒸溜して『ニッカ ザ・グレーン』にブレンドしました。焼酎の単式蒸溜機でウイスキー原酒を造ることは、きわめて実験的でニッカにとってもチャレンジングなことでした」(綿貫さん)

↑「ニッカ ザ・グレーン」に用いられた3種の九州産グレーン原酒が、写真のミニボトル3本

 

なお、本格麦焼酎と大麦グレーンウイスキーは似ているようで違いも様々。例えば、大麦を麹で醗酵させ初溜のみで造るのが前者。麦芽の酵素で醗酵させ、複数回蒸溜でアルコール度数を高めるのが後者です。

 

「使った大麦に関しては、門司とさつま司は同一です。ただ、蒸溜機はまったく同じものではありませんし、設備の違いで製法も異なります。例えば門司では初溜が減圧蒸溜(※)で、再溜(2回目の蒸溜のこと)が常圧蒸溜。さつま司はどちらも常圧蒸溜で、蒸溜機のサイズもさつま司のほうが小型です」(綿貫さん)

 

※機内の圧力を下げて低温沸騰させる「減圧蒸溜」は、基本的には焼酎で用いられる手法で、雑味がクリアですっきりとした酒質になりやすい。一方、常圧蒸溜は伝統製法で、濃厚でどっしりした風味になりやすい。

 

 

甘香ばしく爽やか……多彩なグレーンが次々と主張する

いよいよテイスティング。まずは完成品の「ニッカ ザ・グレーン」から。伸びやかな甘みとロースト感のある香ばしさが立っていて、香りには焼きりんごのような甘い爽やかさも。

↑余韻にはシナモン的なスパイス感や、ビターなニュアンスも。味のグラデーションのなかで、多彩な要素が顔を出します

 

「華やかでコク豊かなカフェグレーンとカフェモルトの甘さに始まり、麦の香ばしさやコーンの甘み、ライ麦由来の爽やかさを感じた後にすっきりと終わる。次々に主張する香りや味わいがどの原酒由来なのか、想像しながらグラスを傾けていただきたいですね」(綿貫さん)

 

特に個性的なのは、まろやかに響くスイートな香ばしさ。これは九州の焼酎蔵から生み出されるグレーンによるものでしょうか?

 

「そうですね、明確なキャラクターを生み出しているのは九州産。特に、さつま司のコーン・ライ麦原酒は名バイプレーヤーだと思います。やっぱり酒質がバーボンに近く、甘いバニラ香をもっているんですね。それでいて爽やかなニュアンスもあって、コクや膨らみといった味わいにおいて、素晴らしい働きをしてくれました」(綿貫さん)

↑さつま司のコーン・ライ麦原酒を単独で試飲。明るいムードメーカーといったところでしょうか。無理やり侍ジャパンで例えるなら、ラーズ・ヌートバー選手のよう

 

九州産原酒は今後どうなる? 2024年の記念商品は?

今回使われた九州産グレーン原酒は初の採用であり、しかも存在自体を明かすのも初めてとのこと。そもそもいつから造りはじめたのでしょうか。背景や狙いを聞くと、実は「NIKKA DISCOVERYシリーズ」用ではなかったそうです。

 

「九州でグレーン原酒を造りはじめたのは2017年で、最初に門司工場で試験製造を開始しました。今回のブレンドにも2017年のファーストバッチを使っています。『NIKKA DISCOVERYシリーズ』の企画前ですね。造りはじめた理由は、私たちの探求心ももちろんありますが、それ以上にお客様への新しい価値提供に繋がるという期待が大きいです。原酒の多様性とともに、ブレンデッドウイスキーの幅を広げたい。それが目的です」(綿貫さん)

 

とはいえ、実験的な要素も大きかったと綿貫さんは言います。今回採用に至ったのは、想像以上に良質なグレーン原酒になったから。そのため、蒸溜し3年熟成させたあとのテイスティングで納得するまでは、マーケティング側にも原酒の存在を話していなかったそうです。

↑一番若いのが、さつま司で2019年に蒸溜されたコーン・ライ麦原酒(右端)。色が最も濃い理由は、バーボンを踏襲し、アメリカンホワイトオークのバレルサイズの新樽で貯蔵しているため

 

「『ニッカ ザ・グレーン』の発想は『カフェ式連続式蒸溜機』の節目というところから始まりましたが、グレーンがテーマなら九州産の原酒も使えるな、と。そして、今後はこれを機に九州産グレーンの生産量も増やし、ゆくゆくは挑戦的で新しいウイスキーの開発もしていきたいと思っています」(綿貫さん)

 

ジャパニーズウイスキーは、“日本のウイスキーの父”竹鶴政孝氏が、スコットランドへのウイスキー留学の知見をもとにして生まれたという経緯があり、つまりスコッチウイスキーのDNAをもっています。竹鶴氏が設立したニッカウヰスキーはその直系であり、アメリカンタイプのウイスキー原酒づくりは勉強になったと綿貫さん。

 

「モルトウイスキーには伝統的な美学がありますが、原料はモルトのみ。一方でグレーンウイスキーは様々な原料由来の香味を得られるので、そういう点は面白いと思います。ブレンダーの腕の見せ所でもありますし、ぜひ今後もご期待ください」(綿貫さん)

↑「このチャレンジをどんどん生かしていきたいです」と綿貫さん。今回採用された3原酒以外にも、様々な個性を持つグレーン原酒造りの挑戦に積極的に取り組んでいると教えてくれました

 

今後となると期待してしまうのが、90周年を迎える2024年。そしてさらなる先には2034年のニッカウヰスキー100周年があります。今回は90周年に向けて2021年から「NIKKA DISCOVERYシリーズ」を発売してきましたが、90周年はもちろん、100周年のときはより盛大なプロジェクトを企画するのでは?

 

「実はまだ決まっていません。とはいえ2024年には『NIKKA DISCOVERYシリーズ』とは別ですが、お客様にお喜びいただけるような90周年商品を造りたいです。その次はまだ先の話ですが100周年ですよね。いまのところまったく見当もつきませんが、さらに記念すべきアニバーサリーに向けてニッカの技術を磨いていきたいと思います」(綿貫さん)

↑パッケージは、ニッカエンブレム由来の市松模様を4段でデザイン。落ち着いた彩りのグラデーションを施すことで、4つの工場と蒸溜所で造られた多様な原酒を調和させていることを表現

 

「ニッカ ザ・グレーン」は今回も国内1万本限定と、激レア。限定ウイスキーなどに関心の高いウイスキーファンに向けて、飲食店を中心とした業務用での展開を予定しているとのことなので、味わうならモルトバーに行くのが正解といえるでしょう。

人気銘柄からクラフトウイスキーまで「ジャパニーズウイスキー」の楽しみ方と注目の蒸留所

近年、世界中で「ジャパニーズ・ウイスキー」の愛好家が増えており、2020年には輸出量が日本酒をしのいで酒類第1位となりました。なかでも人気を後押ししているのが、小規模蒸溜所の「クラフトウイスキー」という存在。日本酒や焼酎をつくっていた酒造メーカーがあらたにウイスキーづくりを始めるなど、その裾野は広がり続けています。

 

そんなジャパニーズ・ウイスキーの魅力と注目すべき蒸溜所を、新宿三丁目「BAR LIVET」「新宿ウイスキーサロン」のオーナーであり、最年少で「マスター・オブ・ウイスキー」の称号を獲得した静谷和典さんに伺いました。

 

2人のスペシャリストから生まれた “ジャパニーズ・ウイスキー”

2023年は、サントリーが日本初のウイスキー蒸溜所である「山崎蒸溜所」の建設に着手してから100年の記念イヤー。まずは、日本とウイスキーの歴史を少しだけ紐解いていきましょう。

 

「はじめて日本にウイスキーが持ち込まれたのは、1853年。かの有名なペリー提督が浦賀に来航し、日本人にウイスキーを振舞ったとされています。月日は流れ、日本で本格的なウイスキーづくりの歴史がはじまったのは、『山崎蒸溜所』の建設に着手した1923年のこと。その立役者となるのが、サントリー創業者の鳥井信治郎さんと、NHKの連続テレビ小説『マッサン』でも有名な、初代工場長の竹鶴政孝さんです。その2人のどちらが欠けてしまっても、今のジャパニーズ・ウイスキーは誕生しなかったと思います」(静谷和典さん、以下同)

↑BAR LIVET、新宿ウイスキーサロンのオーナー・バーテンダー、静谷和典さん。

 

国産第1号として発売されたのは、丸瓶に白いラベルがついた通称 “白札” 。残念ながら本格的な普及には至らなかったそうですが、その後発売された「角瓶」が大ヒット。「日本人の味覚に合うウイスキー」を追求し続けて生まれた銘品は、今もなお愛されるロングセラー商品となっています。

 

国産ウイスキーを語る上で欠かせない! 世界に誇る3社の蒸溜所

「100年の歴史は、サントリー、ニッカウヰスキー、キリンの3社が支えてきたと言っても過言ではありません」と、静谷さん。ジャパニーズ・ウイスキーを語る上で知っておきたい蒸溜所とその銘品を紹介します。

 

サントリー / 山崎蒸溜所・白州蒸溜所

↑天王山の麓に位置する、ジャパニーズ・ウイスキーはじまりの地「山崎蒸溜所」。主な銘柄は、「山崎」「山崎 12年」「山崎18年」など。

 

「ともに日本最大級の蒸溜所です。どちらの蒸溜所も、多彩な原酒をつくり分けできることが特徴。1つの蒸溜所で1タイプのウイスキーしかつくれないというのが世界では一般的なのですが、山崎・白州蒸溜所では、それぞれ16基の蒸溜器が稼働しています。各蒸溜器でつくられたさまざまな原酒を組み合わせて、多彩なウイスキーを1つの蒸溜所で生み出すことができる。それが山崎・白州蒸溜所の強みです」

 

↑「山崎蒸溜所」の誕生から約50年後、山梨県の豊かな森の中に建設された「白州蒸溜所」。主な銘柄は、「白州」「白州12年」「白州18年」など。

 

「多種多様なウイスキーが出ているので、一概にその味わいを表すことはできませんが、例えば、山崎の年数表記のない『山崎(ノンエイジ)』や『山崎12年』は、プルーン、レーズン、チョコレートなどの風味とほのかなスモーキーさを感じる味わいが特徴。一方で『白州』は、森林浴をしているような清涼感とシトラスの香りが特徴です。スモーキーさは『山崎』よりも顕著。爽やかさとスモーキーな味わいが楽しめます」

 

ニッカウヰスキー / 余市蒸溜所・宮城峡蒸溜所

↑日本のスコットランドと称される気候と豊かな自然に囲まれた、北海道・余市町にある「余市蒸溜所」。主な銘柄は、「シングルモルト余市」「竹鶴ピュアモルト」など。

 

「余市蒸溜所は、竹鶴政孝さんが北海道に建てた、ニッカウヰスキーのルーツとなる蒸溜所。最大の特徴は、世界でおそらく唯一石炭の直火で蒸溜しているということ。石炭直火蒸溜は、火加減をコントロールするのが困難で、熟練の職人でないと扱いが難しいと言われています。その職人技から生まれる原酒は、トースティーでスモーキー。大手ジャパニーズ・ウイスキーのなかではピートの香りをもっとも顕著に感じるものだと思います」

↑2つの清流に囲まれた峡谷に位置する「宮城峡蒸溜所」。主な銘柄は、「シングルモルト宮城峡」「伊達(地域限定発売)」など。

 

「ニッカウヰスキー第二の蒸溜所となるのが、仙台にある宮城峡蒸溜所です。ここから生まれるウイスキーは余市とは真逆。フローラルかつフルーティーでまろやかな味わいが特徴です」

 

キリン / 富士御殿場蒸溜所

↑富士山の麓に位置する「富士御殿場蒸溜所」。主な銘柄は、「キリン シングルグレーンウィスキー富士」「富士山麓シグニチャーブレンド」「キリンウイスキー陸」「ロバートブラウン」など。

 

「キリングループが所有する富士御殿場蒸溜所は、モルトウイスキー(大麦麦芽のみを使用したウイスキー)だけでなく、グレーンウイスキー(トウモロコシやライ麦などの穀類を主原料とするウイスキー)もつくっている蒸溜所。その2つの原酒を混ぜ合わせてつくる『ブレンデッドウイスキー』が有名です。マスターブレンダー・田中城太さんは、世界で最も優秀なブレンダーにも選ばれたことのある、日本を代表するブレンダーのお1人。卓越したブレンド技術を持つ蒸溜所だと思います」

 

クラフトウイスキーの先駆けとなる「秩父蒸溜所」とその生みの親

2000年代に入ると、海外のコンペティションで数多くのジャパニーズ・ウイスキーが金賞を受賞したり、2014年にNHK連続テレビ小説「マッサン」が放映されたりと、ジャパニーズ・ウイスキーへの注目度はますます高まります。そんななか登場するのが「ジャパニーズ・クラフトウイスキー」です。

↑入手困難で、世界中が欲するウイスキー『イチローズモルト』。ウイスキー樽としては珍しいミズナラ樽を使用したウイスキーやフレンチオーク製の赤ワイン樽で熟成させたウイスキーなど、味わい深いウイスキーを数多く手掛けている。

 

「2007年に蒸溜所が完成し、2008年から蒸溜開始したのが、日本のウイスキー業界に突如登場した『秩父蒸溜所』です。創設者は、肥土伊知郎(あくといちろう)さん。サントリーや家業の造り酒屋を経て、ご自身で立ち上げた会社でウイスキーづくりをはじめました。肥土さんの祖父が残した原酒をもとにつくられた『イチローズモルト』は、イギリスのウイスキーマガジンで日本最高の評価を獲得。世界的に有名なウイスキーのオークションでも高値で取引されるほど、国内外で注目を集めるようになりました」

↑写真は、肥土氏の祖父が運営していた羽生蒸溜所と秩父蒸溜所のモルト原酒をブレンドした『イチローズモルト ダブルディスティラリーズ』。甘味とミントのような爽やかな味わいが特徴。

 

その後2015年、2016年あたりから日本各地に続々と誕生した、ウイスキー蒸留所。静谷さんは「肥土さんの存在がなければ、ここまで日本のウイスキー蒸溜所が増えることはなかった」と、語ります。

 

「肥土さんは、本来ライバルとなる蒸留所に技術やノウハウを惜しみなく教えているのだそうです。人生を通してさまざまな蒸留所の原酒を見てみたいという思いと、さまざまな原酒が生まれること自体がジャパニーズ・ウイスキー文化の発展に貢献できる、とお考えなのだと思います。ジャパニーズ・ウイスキーの今を支えるキーパーソンですね」

 

個性豊かなウイスキーが楽しめる注目の国産クラフトウイスキー蒸溜所

いまでは蒸留免許を有した蒸留所は、国内90か所以上にものぼるそう。なかでも静谷さんが思わず感銘を受けた蒸留所を4つ教えていただきました。

 

滋賀県 長濱蒸溜所

↑長濱蒸溜所は、滋賀県びわ湖北部にある小さな蒸溜所。主な銘柄は、「シングルモルト長濱」「アマハガン」「長濱ニューメイク」「聖闘士星矢ゴールド聖闘士シリーズ(静谷和典氏監修)」など。

 

「1996年に創業し、長浜エールをはじめ、国内外問わず評価の高い銘柄を数多く輩出する長濱浪漫ビールが、2016年に日本で最小規模の蒸溜所としてウイスキーづくりをはじめました。大きな特徴は、ミニマムな蒸溜所にも関わらず、数多くの挑戦をしているところ。ウイスキーを寝かせる熟成庫は蒸溜所のそばにあるのが一般的ですが、トンネルや廃校となった小学校、琵琶湖のパワースポット・竹生島、沖縄でのトロピカルエイジングなど、さまざまな場所で樽を熟成させています。小さい蒸溜所だからこそ、さまざまな取り組みを行っている点も大きな魅力だと思います」

 

宮崎県 尾鈴山蒸留所

↑長年培ってきた蒸留酒造りの技術が光る、尾鈴山蒸留所。現時点で販売されている主な銘柄は、「OSUZU MALT NEW BORN」「OSUZU MALT NEW MAKE」。

 

「尾鈴山蒸留所は、『百年の孤独』や『㐂六』といった世界的にも有名な焼酎を生み出した、黒木本店が手掛ける蒸留所です。この蒸留所のすごいところは、原料となる麦の栽培から麦芽づくりまで全て手仕事で行っている点です。通常、麦芽は専門の製造会社から購入して仕込むのが一般的なのですが、尾鈴山蒸留所の場合は麦の生産から製麦まで全て手作業。職人が素手で麦の状態や温度を調整しながらつくる、まさにクラフトのなかのクラフトですね。

 

さらに、桜や栗、杉といったさまざまな地元の木を樽材として活用しているのも特徴です。桜は桜餅のような香り、栗は焼き菓子のようなまろやかな味が楽しめます」

 

鹿児島県 嘉之助蒸溜所

↑東シナ海を一望する絶景に建てられた「嘉之助蒸溜所」。主な銘柄「シングルモルト嘉之助」をはじめ、さまざまなリミテッドリリースを手掛けている。

 

「嘉之助蒸溜所は、本格焼酎の蔵元・小正醸造による蒸溜所で、『メローコヅル』という焼酎の空き樽を使用して寝かしているというのがポイントです。もちろんそれ以外の樽も活用していますが、 キーとなる原酒は『メローコズル』の樽。元々、樽熟成の焼酎をつくっていたノウハウがウイスキーづくりにも活かされているのだと思います。

 

そして、鹿児島の温かい土地でつくられているのも、唯一無二の特徴です。鹿児島の湿潤で暖かい気候の下では、熟成スピードが速いのだそうです。風土を活かし、オリジナリティある樽使いから生まれる嘉之助蒸溜所のウイスキー。今や、世界から大きく注目される蒸溜所の1つとなっています」

 

富山県 三郎丸蒸留所

↑江戸時代から続く伝統的な酒造・若鶴酒造が母体となって生まれた「三郎丸蒸留所」。主な銘柄は、「三郎丸」、「玉兎」など。

 

「三郎丸蒸留所は、スモーキーなウイスキーのみを手掛ける日本でも珍しい蒸留所。世界で初めて『鋳物(いもの)製のポットスチル(単式蒸留器)』を取り入れた蒸留所として有名です。鋳物とは、砂などでつくった型の空洞部分に金属を流し込んでできた製品のこと。蒸留器は一般的にブロンズやステンレスでできているのですが、ここでは富山の鋳物文化を取り入れ、世界初の鋳物製蒸留器『ZEMON』を開発、活用しています。

 

砂で型を取っている影響で、金属の表面に細かな凹凸ができるのが特徴。凹凸があることで、蒸留の際に複雑な液体の流れを生み出すのだそうです。さらに、型さえつくれば蒸留器の製作期間を短縮できるという利点もあり、今後、三郎丸蒸留所を起点として鋳物製の蒸留器を取り入れる蒸留所が増えるかもしれない。そんな可能性を感じています」

 

次からは、そんな魅力たっぷりのウイスキーの楽しみ方を紹介していただきます。

 

マスター・オブ・ウイスキーがおすすめするウイスキーの楽しみ方

1.ハイボールの次は「ウイスクテイル-whisktail-」

「バーテンダーとして心掛けているのは、つくり手へのリスペクトを忘れないこと。それぞれのウイスキーが持つ魅力を台無しにしないよう、風味を活かした楽しみ方を提案しています」と語る静谷さんに聞く、初心者にもおすすめの楽しみ方とは?

 

「ウイスキー本来の味わいを知るには、やはりストレートで飲むことは大切です。私の使命は、ストレートで楽しむ人口を増やし、ウイスキーブームを永続させること。ただ、ストレートだけでなく、いろいろな楽しみ方ができるのがウイスキーの魅力です。ハイボール、水割り、カクテル、ロック、ストレートと段階的に楽しむのがいいと思います。

 

ハイボールの次の段階としておすすめしたいのが、「ウイスクテイル-whisktail-」というウイスキーベースのカクテルです。ウイスキー文化だけでなくバーテンダーとしてカクテルも広めていきたいという想いで、商標も取得しました」

 

「ウイスクテイル」とは、
1.ウイスキーベースであること
2.ウイスキーの香味を活かすこと
3.ウイスキーへのリスペクトがあること

 

上記の3つの条件を満たしたカクテルを指します。その代表作を教えていただきました。

 

・世界の定番カクテル「オールド・ファッションド」

↑升に入った、新宿ウイスキーサロンの「オールド・ファッションド」。ほうじ茶をつけ込んだ、キリン富士御殿場蒸溜所でつくられた「富士山麓シグニチャーブレンド」というウイスキーをベースに、金平糖を食べながら飲んでいただくスタイルで提供。

 

「毎年発表されるカクテルの世界ランキングでは、TOP50にウイスキーベースのカクテルが数多くランクインするほど人気です。なかでも長年1位を獲得していたのが『オールド・ファッションド』。主にウイスキーと角砂糖、ビターズを使用した定番のカクテルです。シンプルが故に、世界では多種多様なアレンジを加えたオールド・ファッションドが生まれています。バーテンダーにとっては、自分のレシピが名刺代わりになるといってもいいかもしれませんね」

 

2.和食と楽しむなら、水割りで

食事、とくに和食と一緒に楽しむのであれば「水割り」がおすすめ。

 

「ジャパニーズ・ウイスキーは、和食に合うようにつくられている、といっても過言ではありません。かつてサントリーが『二本箸作戦』と呼ばれるプロモーションを行っていたのですが、これは『水割りにすれば、ウイスキーは和食にも合う』ということを謳ったもの。水で割ると、口当たりがマイルドになって食事にも合わせやすいんです。ハイボールもいいですが、食事には水割りという飲み方も定着していけばいいなと思っています」

↑新宿ウイスキーサロンでは、ウイスキー30mlと軟水45ml、そして氷を1つシェイカーに入れ、5回シェイキングした水割りウイスキーを提案。シェイクすることで、舌触りがスムースでシルキーになり飲みやすさもアップ。ジャパニーズ・ハンドメイドグラス「咲グラス-Saki Glass-」で提供している。

 

3.食とのペアリングを楽しむ「ウイスキラシカwhisky-laschka」

ウイスキーをストレートで飲むためのトリガーとして、静谷さんが提案しているのが「ウイスキラシカwhisky-laschka」という楽しみ方です。

 

「『ニコラシカ』というカクテルがあるのですが、これは本来ブランデーのストレートに輪切りにしたレモン、砂糖を添えたもの。レモンと共に砂糖を口の中で噛んでから、ブランデーを流し込み、口の中でつくるシューターカクテルです。そのウイスキーバージョンとしてお出ししているものを『ウイスキラシカ』と呼んでいます」

↑口の中で食とのマリアージュを楽しむ「ウイスキラシカwhisky-laschka」。静谷さんは、マスター・オブ・ウイスキーとして各ウイスキーの個性を存分に生かすペアリングを提案している。

 

「ウイスキーにはそれぞれ個性がありますので、それに合う料理も無限にあると思っています。例えば、『グレングラント アルボラリス』というスコッチウイスキー。シトラスやミント、リンゴの風味があるウイスキーなので、その風味に似た柚子、香り豊かなトリュフ塩、爽快なミント、アクセントとなるスイートピクルスを添えたペアリングを提案しています。食とのマリアージュを是非楽しんでほしいです」

 

4.ストレートは、グラスにもこだわりを

↑静谷さんが開発した「咲グラス-Saki Glass-」。ウイスキーの蒸留器の形を参考に、日本の職人が手吹きでつくり上げたハンドメイドのグラス。このグラスで飲むことによって、アルコール感がやわらぎ、口当たりもまろやかに、そして香りが咲き誇る。

 

「ストレートでウイスキーを楽しむ際は、グラスにもこだわりたいところ。とくに最高のジャパニーズ・ウイスキーには、最高のジャパニーズグラスで楽しむのはいかがでしょうか。ワインに、ボルドー型、ブルゴーニュ型など、それぞれのワインを楽しむグラスがあるように、ウイスキーに応じたグラスがあってもいいと思うんです。同じストレートでも、グラスによって味わいや香りは大きく変わるということを知ってほしい……その思いを形にしようと新たにグラスを開発しました。今後もさまざまなグラスを開発していきたいと考えていますので、興味がある方はぜひチェックしていただけるとうれしいです」

 

日本各地の魅力が詰まったジャパニーズ・ウイスキー

最後に、静谷さんが思うジャパニーズ・ウイスキーの魅力を教えていただきました。

 

「やはりジャパニーズ・ウイスキー最大の魅力は、マスターブレンターのブレンド技術の高さ。さまざまな原酒を織り成す技術は、世界で最も卓越しているのではないかと思います。そして、本場スコットランドの気候に近い北海道でつくるウイスキーもあれば、長濱蒸溜所のようにトンネルの中で寝かせるものもある。ありとあらゆるロケーションで生まれる個性豊かなウイスキーを楽しむことができるのは、ジャパニーズ・ウイスキーの魅力だと思います。

 

コロナの感染状況がさらに落ち着けば、その魅力を存分に感じることのできる『ジャパニーズ・ウイスキーツーリズム』が生まれるのではないでしょうか。各地の蒸留所で試飲をして楽しみ、近くの観光地を巡るのも面白そうです。ぜひ、これからのジャパニーズ・ウイスキーにも注目してみてください」

 

プロフィール

バーテンダー / 静谷和典

東京新宿にて「新宿ウイスキーサロン」と「BAR LIVET」の2店舗を経営するオーナー・バーテンダー。2019 年に、ウイスキー文化研究所が認定する最難関資格「マスター・オブ・ウイスキー」を史上最年少で取得。その後も、ウイスキー検定 3 階級全国 1 位や、カクテルコンペティション2021年の日本チャンピオンなど輝かしい成績をおさめる。現在は、「バーテンダーしずたにえん」として、SNSで幅広く活躍中。TikTokやYouTube、InstagramなどSNSの総フォロワー数は50万人オーバー。
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BAR 新宿ウイスキーサロン

所在地=東京都新宿区新宿3-12-1 佐藤ビル 3F
TEL=03-3353-5888
営業時間=18:00〜26:00
不定休

 

BAR LIVET

所在地=東京都新宿区新宿3-6-3 ISビル4F
TEL=03-6273-2655
営業時間=18:00〜26:00
不定休

「コンビニウイスキー」をソーダ割りで飲み比べ! 味わいと香りでマッピングしてみた!

有名なウイスキーは、いまやコンビニでも買えます。そこから10種を選んでソーダで割り、フードアナリストの中山秀明さんがチェックしました。マトリクスとともに紹介します。

 

【チェックした人】 

フードアナリスト 中山秀明さん

ジャパニーズウイスキーの聖地・秩父育ち。近年、日本各地に誕生する新興の蒸溜所に注目しています。

 

【マッピングはこちら】

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ニッカウヰスキー/ シングルモルト宮城峡/ 4536円

フルーティで華やかな香りと、軽快でやさしい甘さが魅力です。「果実味のなかに絶妙な燻香があり、上品な味です」(中山さん)

 

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ニッカウヰスキー /ブラックニッカ クリア /972円

クセがなく軽やか。クリアで飲み飽きないロングセラーです。「モルトの明るい香味と甘さがあり、後味も爽やかです」(中山さん)

 

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ブラウン・フォーマン /ジャック ダニエル ブラック(Old No.7)/ 2754円

カエデの木炭で雑味を取り除く稀有な一本。「まろやかでリッチな香りがおいしいです。コーラで割るのもアリです」(中山さん)

 

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ブラウン・フォーマン /アーリータイムズ イエローラベル/ 1728円

素朴でキレのある味と、甘く華やかな香りが広がります。「ライトな香ばしさと伸びやかな余韻。スイスイ飲めます」(中山さん)

 

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ジョニーウォーカー /ジョニーウォーカー レッドラベル/ 1135円

甘さや華やかさが調和した世界的銘酒。「ソーダで割ると、爽やかさに加えてフルーティな香味が広がります!」(中山さん)

 

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I.W.ハーパー /I.W.ハーパー ゴールドメダル /1961円

洗練された、スタイリッシュな味わいが特徴。「軽やかな甘味を感じます。クリアですっきりした飲み口は金メダル級!」(中山さん)

 

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サントリー /角瓶 /実売価格1718円

山崎と白州蒸溜所の原酒を使用。ハイボールブームの火付け役です。「甘味や香ばしさのバランスが絶妙で良いです」(中山さん)

 

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ビームサントリー /ジムビーム /実売価格1664円

大粒で高品質なトウモロコシを伝統の技と酵母で発酵し蒸溜。「甘味とスパイシーさが爽快で、すっきり飲めます!」(中山さん)

 

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サントリー ウイスキー /知多/実売価格4104円

軽やかでほのかな甘さが特徴のシングルグレーンウイスキー。「柔らかなスイートテイストで、新感覚の風味が◎」(中山さん)

 

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トリス /トリス <クラシック> /実売価格972円

特徴は、やさしく甘い香りと丸みのある味わいです。「飲み口は軽快。まろやかなアフターフレーバーが心地良いです」(中山さん)

 

【保存版】超有名ウイスキーの「定番銘柄」と「別銘柄」、どこが違う? 特徴を比べた

「ジョニ黒」こと「ジョニーウォーカー ブラックラベル」は、ウイスキーを飲まない人でも聞いたことがあるくらい有名な銘柄です。しかし同ブランドの「ダブルブラック」は、ウイスキー好き以外にはあまり知られていません。そんな超有名ブランドのひと味違った銘柄を、定番銘柄と飲み比べて違いを発見しましょう。

 

【その1/竹鶴】

竹鶴はニッカウヰスキーの創業者であり、「マッサン」のモデルとして知られる竹鶴政孝の名を冠した名作。同社の誇るシングルモルト、石炭直火蒸溜による力強い「余市」と、スチーム加熱蒸溜で華やかに仕上げた「宮城峡」を絶妙にブレンドしています。

 

<竹鶴の定番銘柄>

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ニッカウヰスキー 竹鶴 ピュアモルト 実売価格3240円

日本を代表するブレンデッドモルトであり、バランスの良さは抜群。複雑ながら、スムースでキレのある飲み心地が楽しめます。

 

<竹鶴の代表的な別銘柄>

長期熟成ならではの円熟した豊かな味わいを堪能

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[ジャパニーズウイスキー][ブレンデッドモルト]

ニッカウヰスキー/ 竹鶴17年 ピュアモルト /実売価格7560円

過去3回WWAで世界最高賞を受賞した銘酒です。17年以上熟成したモルト原酒のみをブレンドしています。長期熟成による円熟した甘さと麦芽由来のコク、凛としたボディ感が特徴です。

 

【その2/ボウモア】

潮の香りに抱かれ、ウイスキーの聖地といわれるアイラ島。その中心に位置し、1779年創業というスコッチのなかで最も古い歴史を持つ蒸溜所のブランドです。特有のスモーキーさと甘美な味で、アイラモルトの女王と呼ばれています。

 

<ボウモアの定番銘柄>

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ボウモア /ボウモア 12年 /実売価格4752円

シェリー樽とバーボン樽で熟成した原酒をブレンド。スモーキーな香りとフルーティさが調和した奥に、潮の香りを感じられます。

 

<ボウモアの代表的な別銘柄>

スモーキーで甘美な味のクイーンオブアイラモルト

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[スコッチウイスキー][シングルモルト]

ボウモア /ボウモア スモールバッチ /実売価格4752円

バーボン樽とシェリー樽での熟成にこだわる同蒸溜所において、バーボン樽だけで熟成した珍しいタイプです。潮の香りのなかにバニラに似た甘みとライムの風味があり、ソーダとの相性が良いです。

 

 

【その3/ブッシュミルズ】

アイルランドの蒸溜所のなかで現存する、最古の蒸溜所でつくられる正統派。400年の歴史を持ち、伝統の3回蒸溜を守りつつも、アイリッシュでよく使われる未発芽の麦は不使用です。ピートで不使用のモルトでつくる原酒にこだわります。

 

<ブッシュミルズの定番銘柄>

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ブッシュミルズ/ ブッシュミルズ/ 2214円

ブランドの特徴である軽い口当たりと、フレッシュな果実のような味わいです。スムーステイストをダイレクトに楽しむならこれです。

 

<ブッシュミルズの代表的な別の銘柄>

リッチだが極めてスムース! モルト感のある個性派アイリッシュ

 

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[アイリッシュウイスキー][ブレンデッド]

ブッシュミルズ /ブラック ブッシュ /5324円

アイリッシュながら、モルト原酒を80%も使っていて、モルトの味を楽しめます。オロロソシェリー樽とバーボン樽で最長7年熟成させた原酒を、グレーンとブレンドしています。あんずのような香りです。

 

 

【その4/バランタイン】

ブレンデッドスコッチの代表格。定番の「バランタインファイネスト」や、“ザ・スコッチ”と称される「バランタイン17年」など傑作多数。ヴィクトリア女王から王室御用達の称号を受け、同社を象徴する紋章には紋章院による認可状が交付されています。

 

<バランタインの定番銘柄>

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バランタイン /バランタイン ファイネスト/ 実売価格1502円

40種類以上のモルト原酒を巧みにブレンド。ライトでもへヴィーでもないバランスのとれた風味で、スコッチ通を魅了し続けています。

 

<バランタインの代表的な別の銘柄>

焦がした樽の香味を移し伝統の味に革新をプラス

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[スコッチウイスキー][ブレンデッド]

バランタイン/ バランタイン ハードファイヤード /実売価格2484円

内側を激しい炎で焦がした樽で熟成。これにより、バランタインならではの好バランスな味に、豊かなバニラのような甘さやほのかなスモーキーさが加わっています。

【その5/富士山麓】

富士山の麓にある御殿場が拠点。モルトウイスキーとグレーンウイスキーの仕込みからボトリングまでを一貫して行う、世界的にも珍しい蒸溜所です。今年、マスターブレンダーの田中城太さんと商品が世界的なアワードで最高栄誉に輝きました。

 

<富士山麓の定番銘柄>

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キリンウイスキー /富士山麓 樽熟原酒50° /実売価格1490円

原酒の風味を生かすため、冷却ろ過せずに瓶詰めしています。溶け込んだ香味成分を逃がさないために、アルコール度数50にこだわっています。

 

<富士山麓の定番銘柄>

樽で熟成された甘い香りを自然の製法で複層的に表現

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[ジャパニーズウイスキー][ブレンデッド]

キリンウイスキー/ 富士山麓 シグニチャーブレンド/5400円

熟成のピークを迎えた原酒を厳選しブレンドしたことで、より複層的で奥深く、円熟した味わいが楽しめます。オンラインショップ「DRINX」と、富士御殿場蒸溜所の売店限定で発売しています。

 

【その6/ジムビーム】

200年以上の歴史があり、1973年以来世界売上No.1を誇るブランド。秘伝の酵母と伝統の製法でつくられています。創業家であるビーム一族からは、自社以外の蒸溜所のマスターディスティラー(蒸溜責任者)も多数輩出しています。

 

<ジムビームの定番銘柄>

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ビームサントリー /ジムビーム /実売価格1644円

トウモロコシが主原料のバーボン。法律が求める2倍、4年以上の熟成期間を経て生まれた味は、トウモロコシ由来の甘さが心地よいです。

 

<ジムビームの代表的な別の銘柄>

ライ麦独特の個性が生きたスパイシーでドライな味

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[アメリカンウイスキー][ライ]

ビームサントリー /ジムビーム ライ /実売価格1804円

ライ麦が主原料。アメリカ禁酒法以前のスタイルを踏襲してつくられています。スパイシーでドライな香味を持ちながら、バニラのような甘みとフルーティな芳香も楽しめます。

 

【その7/ジョニーウォーカー】

1820年、創業者のジョン・ウォーカーが紅茶をヒントに、シングルモルトウイスキーのブレンディングを始めたのが誕生のきっかけです。ラベルを24度傾けて貼ることで、他社との差別化を図りました。この角度は19世紀から変わりません。

 

<ジョニーウォーカーの定番銘柄>

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ジョニーウォーカー/ ジョニーウォーカー ブラックラベル 12年/ 実売価格2138円

「ジョニ黒」の名で親しまれています。スコットランド屈指の上質な原酒を集め、匠の技で調合。上品でスモーキー、かつ美しいバランスが神髄です。

 

上質な原酒の個性が織りなす世界一売れているスコッチブランド

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[スコッチウイスキー][ブレンデッド]

ジョニーウォーカー /ジョニーウォーカー ダブルブラック /実売価格2936円

万人に愛されるブラックラベルの特徴を生かしつつ、よりスモーキーさやふくよかなコクを感じられるようにブレンド。それにより、深みのある甘さが際立っています。

 

【その8/エヴァン・ウィリアムス】

1783年にケンタッキー州ルイヴィルで、ライムストーン(石灰岩)から湧き出る水を発見し、最初にコーンが原料のウイスキーをつくったとされるエヴァン・ウィリアムスの名を冠した銘酒。すっきりとした後味が特徴です。

 

<エヴァン・ウィリアムスの定番銘柄>

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エヴァン・ウィリアムス /エヴァン・ウィリアムス12年 /実売価格3888円

12年熟成。熟成が早く進むバーボンのなかでは長期熟成の部類。アルコール度数は50.5度と高めだが、長熟のおかげでまろやかさがあります。

 

<エヴァン・ウィリアムスの代表的な別の銘柄>

伝説の男の名にふさわしいヴィンテージバーボンの頂

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[アメリカンウイスキー][バーボン]

エヴァン・ウィリアムス /エヴァン・ウィリアムス シングルバレル /実売価格5184円

バーボンとしては珍しい年数表記が施された一本。さらに樽詰めした日までも記載されているのは唯一です。ひとつの樽の原酒のみで瓶詰めされました。2014年から3年連続で世界的な賞を受賞。

 

 

 

【保存版】世界5大ウイスキー、初心者は何から飲めばいいの? 最初の1本と2本目以降を選んでみた!

何を原料にするか、どの樽を使うか、何年熟成するか、どの原酒をブレンドするか。ウイスキーはいくつもの選択を経てつくられています。だからこそ個性的で飲めば飲むほど面白いのです。本記事ではウイスキー初心者に向けて、まずは世界5大ウイスキーと呼ばれる代表生産国と、代表銘柄を紹介。1本目に飲むべき商品と2本目以降に飲んで欲しい商品を解説していきます。

 

 

【世界5大ウイスキー ジャパニーズウイスキー編】

【最初の1本】日本から世界へ!個性が奏でるハーモニー「響」

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[シングルモルト]

サントリー  響 Japanese Harmony 5400円

サントリーが国内に保有する蒸溜所の原酒を熟成年数にこだわらず、個性を見極めてブレンド。やわらかい味わいが華やかに広がります。国際的な酒類コンペで最優秀金賞を受賞しました。

 

【2本目以降その1】複数のモルトで奥行きを表現「モルテージ 越百」

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[ブレンデッドモルト]

マルス モルテージ 越百 モルトセレクション 4536円

中央アルプスの麓で造られた一本です。複数のモルトをブレンドした奥行きのある味わいです。ふくよかな香りは、蜂蜜やキャラメルを連想させます。

 

【2本目以降その2】伝統を守り続けるニッカの原点「余市」

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[シングルモルト]

ニッカウヰスキー シングルモルト余市 4536円

竹鶴政孝の理想の地、北海道余市町でつくられたシングルモルト。伝統的な石炭直火蒸溜による香ばしさとコク、心地よいピート感が特徴です。

 

【世界5大ウイスキー スコッチウイスキー編】

【最初の1本】政府公認第1号蒸溜所のフルーティで好バランス「ザ・グレンリベット」

 

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[シングルモルト]

ザ・グレンリベット ザ・グレンリベット 12年 5800円

スコットランド政府の公認第1号蒸溜所でつくられるウイスキー。シングルモルトの原点ともいえるバランスの良さは、創業時から続く伝統製法によるものです。フルーツや花のような香りです。なお、創業者が描いた理想の製法とレシピを現代風にアレンジした「ファウンダーズリザーブ」が2016年に発売されており、新たなフラッグシップが誕生しています。

 

【2本目以降その1】王室を虜にした強烈な個性「ラフロイグ」

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[シングルモルト]

ラフロイグ ラフロイグ 10年 実売価格6048円

アイラ(スコットランドの島の名前。この島のピートは海藻や潮を含んでいるため、ウイスキーに薬のような独特の香味(ヨード香)がつく)モルトの王と呼ばれます。好みが分かれるクセの強い味が魅力です。シングルモルトウイスキーとして初めて王室御用達の証を得ました。

 

【2本目以降その2】爽やかさと上品さを兼ね備えた逸品「グレンモーレンジィ」

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[シングルモルト]

グレンモーレンジィ グレンモーレンジィ オリジナル 5724円

スコットランドでよく愛されているウイスキーです。バランスが取れたエレガントな味で、ほのかに香る柑橘の香りが爽やかです。熟成年数は10年。

 

【世界5大ウイスキー アイリッシュウイスキー編】

【最初の1本】世界中で愛される アイリッシュの代表ブランド

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[ブレンデッド]

ジェムソンジェムソン スタンダード 2237円

世界で最も売れているアイリッシュウイスキーです。ピートを使わずに密閉炉で時間をかけて乾燥させた大麦を原料に、3回蒸溜でつくられます。滑らかな口当たりで万人に愛されています。

 

【2本目以降その1】ピートを感じる変り種ボトル「カネマラ」

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[シングルモルト]

カネマラ カネマラ 実売価格4536円

フレッシュな4年、華やかな6年、甘みの強い8年、熟成年の違う3つのモルト原酒をブレンド。アイリッシュには珍しくピートモルトを使っています。

 

【2本目以降その2】ビール党のための珍しいウイスキー「ジェムソン カスクメイツ」

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[ブレンデッド]

ジェムソン ジェムソン カスクメイツ 2700円

スタウト(ビールの種類のこと。アイルランドのビール「ギネス」に代表されるような黒いビールで、濃厚な味と強めの苦み、酸味が特徴)ビールの熟成に使った樽で後熟(熟成させた原酒を別の樽に移し替えて追加で熟成すること。ウッドフィニッシュとも)したウイスキーです。カカオやコーヒー、ホップなど香ばしいフレーバーを楽しめます。

 

【世界5大ウイスキー カナディアンウイスキー編】

【最初の1本】樽詰め前のブレンドが生むまろやかで飲みやすい味「カナディアンクラブ」

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[ブレンデッド]

カナディアンクラブ カナディアンクラブ 実売価格1502円

カナディアンウイスキーの代表格。樽熟成後ではなく、樽詰め前にブレンドする珍しいタイプです。クセのない味でカクテルにも使われています。熟成に向く温度を保つためカナダで唯一貯蔵庫に暖房を設置。

 

【2本目以降その1】英国王に捧げた高貴なる酒「クラウン ローヤル」

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[ブレンデッド]

クラウン ローヤル クラウン ローヤル 実売価格2628円

1939年、初めてカナダを訪問したイギリス王への献上酒として600通りのブレンドを試しつくられました。個性的な味わいながらもクセはなく上品です。

 

【2本目以降その2】軽快な飲み口の入門向けウイスキー「カナディアンミスト」

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[ブレンデッド]

ブラウン・フォーマン /カナディアンミスト/ 1458円

主原料はライ麦。3回蒸溜したあと、ホワイトオーク樽で熟成します。ライトでまろやかな口当たりと、すっきりした後味で初心者も飲みやすいです。

 

【世界5大ウイスキー アメリカンウイスキー編】

【最初の1本】小規模蒸溜所のクラフトマンシップが詰まったバーボン「メーカーズ マーク 」

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[バーボン]

メーカーズマーク メーカーズ マーク 実売価格3024円

ケンタッキー州の小さな蒸溜所でつくられるプレミアム・バーボン。小麦由来のふくよかな甘みが特徴です。原料の配合は、パンを何度も焼いて吟味したといいます。赤い封蝋はすべて手作業です。

 

【2本目以降その1】州内最古の蒸溜所のスペシャルなバーボン「ウッドフォードリザーブ」

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[バーボン]

ブラウン・フォーマン ウッドフォードリザーブ5627円

ケンタッキー最古の蒸溜所の少量生産バーボンです。バーボンには珍しくポットスチルで3回蒸溜した滑らかな味が人気です。バーボンに慣れてない人にも◎。

 

【2本目以降その2】一滴ずつろ過する 手間暇かけた逸品

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[テネシー]

ブラウン・フォーマン ジャックダニエル 2754円

木桶に詰めた楓の木炭で、蒸溜した原酒を一滴一滴ろ過するテネシー製法でつくられます。バニラやキャラメルの香りとスパイシーな風味が調和します。