アポロ13号の月面着陸――。当時はまだ生まれていなかった人でも、その写真や映像はどこかで見たことがあるはず。歴史的な瞬間を捉えた写真は、世界中の人々の記憶に刻まれるものです。そんな作品を生み出すのは並大抵のことではありませんが、別の方向から宇宙開発の歴史に名を刻もうとしている企業があります。バドワイザーで有名なアメリカ大手ビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ社は、「火星に人類が到着した時にバドワイザーを飲んで祝ってもらう」という目標に向かって宇宙空間でのビール醸造法研究に投資しているのです。
長い間、人類は火星探査を行っています。NASAは2030年までに有人探査に向けて人間を火星に着陸させる計画を進行中。2030年といったら13年後。13年前の自分が「2017年なんてまだまだ先」と考えたことを想像していただくと、「うーん意外とスグだな」と驚いてしまいませんか。
この計画は今年3月に発表されていましたが、ビールの原材料である水やホップなどを火星で確保・管理することは難しいとされています。そこで、バドワイザーは12月4日にSpaceXの宇宙船で国際宇宙ステーションに大麦の種を送り込み、無重力・微重力環境において発芽するのか、どのような速度で成長するのかといった実験を行いました。バドワイザーの公式リリースによると、バドワイザーに使われる大麦は地球上であれば発芽してから2週間ほどで約15センチほどに成長するとのこと。しかし火星は太陽光が地球よりも少ないので、これが種の育成を難しくするかもしれません。
また、国際宇宙ステーションで30日間保存された種が無重力空間からどういう影響を受けるのかについても観測されるとのこと。美味しいビールを醸造するためには大麦から始まるということですが、こちらの実験結果はビール製造だけでなく、宇宙空間での植物栽培についての基礎研究としても活用されます。
風邪のときに何を食べても味がしないのと同じ
宇宙飛行士が火星でバドワイザーを飲む。確かにこの映像が実現すれば、バドワイザーとしてもかなりのマーケティング効果が期待できそうですよね。しかし気になるのは「宇宙でビールを飲んで美味しいのか?」という点。米ワシントン・ポスト紙(Amazonが数年前に買収)は「重力がないと体液が下にとどまらないので鼻腔も詰まりがちになる。そうするとビールも味がしないだろう。風邪(で鼻がつまっている)のときに何を食べても味がしないのと同じだ」と指摘しています。これはちょっと残念。それにしても体液が下にとどまらないとは、どういう感覚なのでしょうね。
他にも大気圧が低いため、炭酸の泡もシュワシュワっと上がってはこないだろうとのこと。缶を開けたときの「プシュッ!」という音もないわけですね。そう言われるとビールじゃなくて別の種類のアルコール飲料の方が良さそうな気がしてきます。米テクノロジー雑誌のWiredも「蒸留酒の方が良い」と指摘しています。
それでも、この計画にはワクワクしてきます。近年ではAmazonやSpaceXといったアメリカの民間企業が競って宇宙船を開発中。「火星で最初のビールになる!」とバドワイザーが名乗りを上げたことからも同国の精神が伺えますよね。他のビールメーカーが続くのか、そしてビールはどう進化するのか、要注目です。