知っておかないと乗り遅れる! 途上国人材雇用の「最新トピック」【IC Net Report】バングラデシュ・池田悦子

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、海外事業開発コンサルティングを行っている、アイ・シー・ネット株式会社所属のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、バングラデシュや南アフリカなどで現地人材の育成事業に携わっている池田悦子さんです。

 

慢性的な労働力不足に悩む日本。世界的にもその傾向は顕著で、現在、いかに途上国の優秀な人材を確保するかに注目が集まっています。日本でもJICA主導で、産業人材育成やTVET(Technical and Vocational Education and Training)支援のプロジェクトを複数の途上国で実施するといった取り組みを行っていますが、企業レベルでは、トヨタ自動車など一部のグローバル企業を除けば、他の先進国に後れを取っているのが現状です。今後、さらに激化するであろう、途上国の人材確保競争に日本(企業)が勝ち残るためには!?  南アフリカやバングラデシュはじめ、アジア・アフリカ各地のポリテクや技術教育短大、職業訓練センターなどで人材育成事業に携わっている池田さんに、グローバルにおける人材育成の最新状況を伺いました。

●池田悦子/九州大学卒業。英国のイーストアングリア大学にて開発学修士を修める。タイのNGO勤務を経て、2000年より開発コンサルタントとして、主にJICAの様々な技術協力プロジェクトの運営に関わり、2018年にアイ・シー・ネットに入社。TVET分野では、パキスタン、バングラデシュ、スーダン、南アフリカ、ナイジェリア、フィリピン、キルギスタン、ウズベキスタン、ブータン他にて現地業務に。

 

日本が取り組む人材育成で優秀な人材が続々輩出

現在、バングラデシュをはじめとするアジアやアフリカ諸国では、日本の高専(エンジニアを養成する高等専門学校)や短大に相当する学校で、日本ならではの人材育成モデルを取り入れた支援が行われています。こうして育った多くの優秀な人材の中には、日本で活躍している人も。

 

「バングラデシュを例に挙げると、クルナ工学技術大学・機械工学科を卒業後に佐賀大学大学院へ留学、工学博士を修得した、現大阪産業大学工学部教授のアシュラフル・アラム氏がいます。彼は大学院を卒業後、松江高専でも教鞭を執っていました」(池田さん)

機械学科や土木学科の教員に教えているアラム教授(右端)

 

卒業後、そのまま日本で就職した後、企業を立ち上げ、順調に事業を拡大している人材もいるそうです。

 

「日本の明石高専の情報工学学科を卒業し、電気通信大学で学んだあと、NTTドコモ社に就職しムハマド・ハディ氏は、その後、自国に戻ってメガ・コーポレーションなど2つの会社を設立。ダッカと横浜を拠点に、ITコンサルティング事業、日本語通訳・翻訳などを行っています」

東京の電気通信大学で学んでいた時のハディ氏

 

日本語-ベンガル語(バングラデシュ)通訳の仕事中のハディ氏

 

「アフリカの若者のための人材イニシアティブ、通称ABEイニシアティブで来日したケニアのエリウッド・キップロップ氏は、足利工業大学(現・足利大学)で自然エネルギーについて学んだあと、筑波大学で博士号を取得。日本に留まり大学の講師を務めながら、日本とアフリカを結ぶビジネスコンサルタントとして活躍しています」

足利工業大学で風洞実験に取り組んだキップロップ氏

 

他にも、日本の大手企業に就職したり、日本で会社を立ち上げたりと、さまざまな人材が育っているそうです。しかし、日本ではまだ外国人材が普及したとは言いづらい状況。その背景にはどういった課題があるのでしょうか? グローバルの最新トピックと合わせて解説します。

 

[TOPIC.1]人材受け入れ環境が整っていない日本の現状

ただ一方で、優秀な人材は現地や他国の企業に就職するケースが多く、来日したり、日本の企業に就職したりする人は全国的に見るとほんの一握り。それには、現地と日本、それぞれの事情があると池田さん。

 

「日本企業に就職したい、日本文化を学びたい、日本へ行きたい、など若者たちの“日本への憧れ”はまだまだ健在だと感じます。ただし、地域によって差はあるのですが、まず政府が人材の送り出しに熱心でないケースが見られます」

 

また、受け入れる日本側にも環境が整っていないなどの課題が。

 

「高度人材が日本で就職する場合、日本語の習得が不可欠なのもネックとなります。現地の優秀な若者は英語が話せるので、英語で仕事ができる他国へ行くケースが多いのです。また、日本企業は採用にあたって、『日本人のような外国人』(ホーレンソー、和、しつけなど)を求める傾向にあり、ハードルが大変高いのですが、彼らの持っている人脈や言語能力、国際感覚、おおらかさを日本の会社が受け入れ活用し、多様性を学ぶことも大切ではないでしょうか」(池田さん)

 

日本人の英語習熟度が低いゆえ、現地での日本語教育の普及が必要となる点や、現地政府の理解をいかに得るかなど、解決すべき課題が山積していると言います。また、受け入れる日本企業側としてもインターンシップの拡充や意識の変革などの対応が急がれます。

 

[TOPIC.2]官民学一体となった人材育成事業が誕生

このような状況下で、池田さんが注目しているのが、「宮崎-バングラデシュ・モデル」(宮崎における産学官連携高度ICT人材地域導入事業)です。これは、自治体、企業、大学、およびバングラデシュなどのステークホルダー間で互いの課題解決に向けて協力した「高度外国人 ICT 人材育成導入事業」。

 

「まず現地で日本への就職を希望する優秀なICT技術者に、日本語、 ICT スキル、ビジネスマナーなどを学んでいただき、その後、宮崎へ留学生として派遣。宮崎では、宮崎大学が日本語学習と生活支援、ICT企業がインターンや就職相談などを行い、宮崎市がその研修費用を助成するという仕組みです」(池田さん)

 

この事業により、多くのICT技術者が日本で就職できたと言います。官民学の連携によるこうした事業が、優秀な途上国人材を獲得する近道なのかもしれません。

 

「同じく国立大学では、群馬大学が外国人留学生の群馬の企業での就職を見据えた教育と訓練を行っています。地元の製造業やサービス業とも連携した取り組みが進んでいるようです」(池田さん)

 

[TOPIC.3]大手グローバル企業の人材育成戦略

一部の大手日本企業は、現地人材雇用のため、個別に職業訓練センターなどを立ち上げているケースはあるとしつつも、戦略面で他国の企業に大きく水を開けられていると指摘します。

 

「グローバルでは、大手ICT企業が現地人材を育成する段階から、自社のソリューションや機器を提供し、人材を自社へと囲い込む施策を行っています。例えばサムスンの場合、バングラデシュ、パキスタン、中央アジアなどにある多くのTVET校に『サムスンラボ』を設置し、機材の供与やその機材に特化した短期訓練が行われています。自社に必要な即戦力となる人材が、いわば自動的に雇用できる仕組み。ヒュンダイもスーダンで似たような取り組みを実施しています。こうした具体的な就職に結びついた職業訓練は、学生に希望を与え、結果的に企業イメージアップに繋がります」

バングラデシュ/ダッカ工科女子短大の「サムスンラボ」

 

さらに、HPやAcerは世界銀行などの国際機関を通して、全世界の学校にPCを無償供与。こうした取り組みもその企業のファンをつくるためには効果的ですが、日本のメーカーでは、まだほとんど見られないと池田さん。

 

日本企業に就職したい人材を増やすためのイメージ戦略と、そうした人材をいかに日本に来てもらうか、官民学が一体となってサポートする出口戦略。優秀な途上国の人材を安定して獲得するには、これらの戦略を改めて見直す必要がありそうです。

 

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バングラデシュ、2071年までに「耐震基準」を抜本的改革。不可欠な日本の支援

東日本大震災を上回る犠牲者を出しているトルコ・シリア地震。これだけ多くの被害をもたらした一因として建物の耐震性能が挙げられていますが、この問題はトルコやシリアに限りません。最近では、地震活動が活発な地域にあるバングラデシュが建物の耐震基準を抜本的に改革することを発表。この計画はこれから約50年間にわたって行われ、日本が支援していくことも明らかにされました。

ダッカでは建物が危険なほど密集している(ドローンで撮影)

 

バングラデシュの震災への取り組みについては、以前から国際協力機関などの間で議論されていましたが、トルコ・シリア地震を受け再び注目が集まっています。特に、首都ダッカは建物が無秩序に連立し、高密度化しているうえ、建物の設計や建設技術が劣ることから、災害リスクの高い都市の一つとなっているのです。

 

そこで先日、バングラデシュのエナミュール・ラーマン災害管理大臣は建築基準法の改正が必要だと述べ、2071年までに同国を地震に強い国にすると発表しました。同国では政府の建物も含め、耐震性が劣るものが多く、ダッカ市内のおよそ7万2000以上の建物が脆弱で、大地震が発生した場合、数百万人が死亡する恐れがあるとされています。

 

最近、同大臣が出席したDebate for Democracy主催のイベントでも、参加者たちは地震のリスクに対処するためには、脆弱な建物を特定して耐震性を高めることが必要であると議論していました。道路、地下鉄、高速道路などの交通網やガス、電気などのインフラについても同様の認識がされています。

 

防災への取り組みを強化するために、バングラデシュが支援を求めたのは日本。エナミュール・ラーマン災害管理大臣は、「日本は地震に強い国。マグニチュード10の地震があった場合、80階建てのビルは揺れることはあっても倒壊はしない」と日本の耐震技術について説明。その一方で、バングラデシュは耐震性の高い建物を建てる際に必要となるエンジニアが足りていないことから、同国は財政面だけでなく技術面でも日本に支援を求めています。

 

バングラデシュのように、都市部の急速な人口増加に伴い、建築基準法などの法整備が追い付かないまま、建物が次々に建設されている途上国は他にもあるでしょう。限られた時間の中で無数の建物の耐震性を高めていくのは、当然ながら時間も資金もかかります。しかし、日本はこれまでに多くの大地震に見舞われながら、建物の建設や都市計画、防災体制などについて知見を蓄えてきました。途上国の震災対策に貢献できることがたくさんあるはずです。

 

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日本でじわじわと増えるバングラデシュ人の採用、2022年には過去最高を記録

日本では人口減少と超高齢化を背景に、多くの業界で人材不足が起きています。そんな日本の労働市場に約20年前から労働者を派遣してきたのがバングラデシュ。同国は介護、農業、建設業などの分野で今まで以上に多くの技能実習生を日本に送り込もうと意気込んでいます。

バングラデシュの働く人々

 

内閣府によると、15歳以上の就業者と完全失業者を合わせた日本の「労働力人口」は、2014年は6587万人だったのが、2030年には5683万人、2060年には3795万人まで減少すると予測されており、経済成長にブレーキがかかると言われている中、外国人労働者の供給国として期待される国の一つがバングラデシュ。我慢強く、真面目な国民性だと言われている同国では、86の民間機関が日本への労働者派遣を許可されており、1999年から2022年までの間に日本へ働きに来た人々の数は2740人になります。バングラデシュ労働者雇用訓練局によれば、2022年には年間で過去最高となる508人が派遣されたとのこと。

 

バングラデシュ労働者雇用訓練局長は、「労働者を必要としてきた日本は、これまで中国や韓国、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどから人材を雇ってきたが、現在はその動きを拡大している」と現状を認識しています。

 

労働者雇用訓練局では、介護、農業、ビル清掃管理、建設などの分野で、特定技能労働者を採用する試験を行い、さらに半年をかけて日本語や日本の文化に関して学ぶ訓練を国内約30か所にある技術訓練センターで実施。日本の労働市場に即してより実践的な労働者を派遣できるように、国として施策を行っているのです。

 

これに対して、海外からの技能実習生を日本に受け入れる、国内最大の監理団体の国際人材育成機構(アイム・ジャパン)は、定期的にバングラデシュを訪れ、労働者の選定を行っています。しかし、日本で働くために必要な技能を有していることはもちろん、言葉も食事も異なる慣れない海外での生活を送るためには、労働ビザをもらえれば済むだけの話ではありません。バングラデシュ側は研修や教育方法について改善する必要があると認識しており、訓練期間を1年まで延ばすことを検討しているようです。

 

日本は、バングラデシュが1971年に独立して初めて外交関係を樹立した国。それ以来、青年海外協力隊の派遣をはじめ、50年以上にわたり外交関係を築いてきた歴史があります。バングラデシュは親日家が多いと言われていますが、かつては世界で最も貧しい国の一つと言われた国が、2041年には先進国入りを目指すまでになったのは日本の支援によるところも少なくないでしょう。

 

バングラデシュ人から見れば、日本で働くと母国より高い収入を得て、家族に送金することができるという側面があります。2023年2月から9月には、介護、農業、ビル清掃管理、建設などの分野で特定技能労働者の採用試験が始まりますが、この先、日本企業の採用担当者がバングラデシュの人材を検討することが増えるかもしれません。

 

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PM2.5が基準値の150%超え。バングラデシュの大気汚染が深刻化

経済成長の目覚ましい国として注目されるバングラデシュ。2021〜2022年度の実質GDP成長率が6.4%、2023年度も6.1%と、安定的に成長しています。しかし、そんな同国で現在、大気汚染が悪化中。人々の健康や経済成長にまで悪影響を及ぼしつつあるのです。

首都ダッカの交通渋滞の様子

 

世界銀行は先日、バングラデシュにおける大気汚染に関する報告書(※)を発表しました。その内容によると、大規模な建設が行われ、交通量の多い首都ダッカ市内で最も大気汚染が進んでおり、微小粒子状物質(PM2.5)はWHOのガイドラインを平均で150%も上回っているとのこと。これだけ大気が汚染されている状態は、毎日1.7本のたばこを吸うのに相当するそうです。大気汚染は同国全土に広がり、全ての地域でWHOのガイドラインの推奨レベルを超えるPM2.5が観測され、バングラデシュ国内で最も空気がきれいと言われるシレット管区でさえもガイドラインを80%上回るPM2.5が観測されています。

 

大気汚染によって最も懸念されるのが健康被害。同報告書によると、大気汚染は、ぜんそく、肺炎、肺機能の低下といった下気道感染症の原因になるとされています。PM2.5の量がWHOのガイドラインのレベルを1%上回ると、呼吸困難を感じる割合が12.8%、湿った咳(痰の出る咳)が出る割合は12.5%、下気道感染症にかかるリスクは8.1%高くなるとのこと。また、交通渋滞が頻繁に起きたり大規模な建築工事が行われたりする場所では、住民の精神衛生にも悪影響が及び、鬱になる可能性が20%高くなると指摘されています。

 

実際、バングラデシュにおける死亡と障がいの原因で2番目に多いのが大気汚染。2019年には大気汚染が原因で8万人前後が亡くなったと言われています。また、バングラデシュの大気汚染がひどい地域に暮らす子どもたちの間で、下気道感染症の発症率が著しく高くなっていることが明らかとなりました。

 

世界銀行の報告書をまとめたWameq Azfar Raza氏は、「バングラデシュの都市化と気候変動によって、大気汚染はさらに悪化する」と指摘。大気汚染と気候変動による健康への被害に対処しなければならないと述べ、大気汚染状況の監視システムや、公衆衛生の各種サービスの充実・改善など、早急な対応を勧めています。

 

その一方、大気汚染は経済成長にも影を落としかねません。2019年のバングラデシュの国内総生産(GDP)は、公害によって3.9~4.4%下がったと世界銀行の報告書ではまとめられています。世界銀行のバングラデシュ・ブータン担当のDandan Chen氏が「大気汚染は子どもから高齢者まで、あらゆる人を危険にさらす」と述べているように、すべての世代の健康状態を悪化させ、それによって労働人口が減るなど経済成長にも影響を及ぼしていく可能性があるでしょう。

 

「バングラデシュの持続可能で環境にやさしい経済の成長と発展のためには、大気汚染への対応が非常に重要」と、Chen氏は述べています。

 

高度経済成長期(1955〜1970年代初め)に各地で公害が発生した日本を含めて、先進国は経済の生産性が大きく向上していく過程で大気汚染のような公害を起こしてきました。日本では住民の声を背景に自治体が努力して、公害の原因とされる企業と公害防止協定を結んだと言われていますが、そのような経験をバングラデシュにも生かすときかもしれません。

 

※【出典】Raza,Wameq Azfar; Mahmud,Iffat; Rabie,Tamer SamahBreathing Heavy : New Evidence on Air Pollution and Health in Bangladesh (English). International Development In Focus Washington, D.C. : World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/099440011162223258/P16890102a72ac03b0bcb00ad18c4acbb10

 

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アパレル輸出額が今後10倍予想! バングラデシュと日本の自由貿易協定、締結間近か。

 

インドとミャンマーの間に位置するバングラデシュは、1億6000万人以上の人口を抱える、世界で最も人口密度が高い国。もともと稲作やジュート(黄麻)の生産など、農業が盛んでしたが、近年は労働力の豊富さと人件費の安さから、日本をはじめ海外資本による製造業の進出が目立っています。これにより、同国は成長が期待される新興国「NEXT11」にも数えられています。

 

現在、日本はバングラデシュにおいて、マタルバリ港やダッカの地下鉄やハズラト・シャジャラル国際空港の第3ターミナルなど、今後数年以内に完成予定の大規模プロジェクトに関わっています。

 

そんな同国と日本との間で、自由貿易協定(FTA)または経済連携協定(EPA)締結の動きがあることを、地元紙のThe Daily Starが報じています。バングラデシュとのFTAの締結によって、とくにビジネス面で日本にどのようなチャンスが生まれるのでしょうか。

 

衣料品を中心に対日輸出が急増中

実は、バングラディッシュは国連開発計画委員会(CDP)により、後発開発途上国(LDC)に位置づけられています。この「LDCの特恵貿易」の恩恵により、同国の対日輸出はアパレル製品を中心に急成長。今年度の対日輸出額は13億5000万ドル(約2000億円)となり、前年比で14.4%増となりました。そのうち11億ドル(約1600億円)は衣料品が占めています。

 

バングラデシュから日本への衣料品の出荷量は、日本がLDCの国々におけるニットウェア分野の原産地規制を緩和した2011年4月から急増しました。それ以前は、日本は自国産業を保護するため、ニット製品に関税を設けていたのです。

 

バングラデシュにとって日本は、衣料品輸出が10億ドル(約1500億円)を超えた唯一のアジア諸国です。駐バングラデシュ日本大使である伊藤直樹氏は、アパレル製品の出荷額は2030年までに10倍の100億ドル(約1兆5000億円)に達するだろうと予測しています。

 

11月にもFTA締結に向けた交渉がスタートする!?

また伊藤大使は、バングラデシュと日本がFTAやEPAに署名し、より多くの日本への投資を誘致するためには、さらなる投資やビジネス環境を改善する必要があるとも述べています。氏によれば、バングラデシュの日本企業の数は過去10年間で3倍に、そして2022年には338社に達するのだとか。さらに、首都ダッカ近くのナヤランガンジにある日本の経済特区は、施設やインフラ、労使関係、ビジネス環境の面でアジア随一になるだろう、との発言もありました。

 

一方で、バングラデシュのTapan Kanti Ghosh(タパン・カンティ・ゴッシュ)商務上級秘書官はThe Daily Starに対し、「バングラデシュと日本は今年11月に協力覚書(MoC)に署名する予定です」とコメント。同国のハシナ首相が11月にも日本を訪れ、FTAの交渉が始まる可能性があるそうです。急速に接近しつつあるバングラデシュと日本。FTAないし、EPAが締結されれば、衣料品分野のみならず、さまざまな分野でのビジネスが期待できそうです。

 

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日本とは違うバングラデシュの「薬局」。ヘルスケア市場の課題解決の一手「リスクアセスメントシステム」について

南アジアの親日国としても知られているバングラデシュ。人口1億6千万人以上、経済成長率は近年7%台をキープし、首都ダッカは人口2000万人を超える巨大都市へと成長しています。年々上昇する都市人口率が50%を超えるのは2040年頃と推定され、ますます注目が高まる開発途上国のひとつです。(※)

※医療国際展開カントリーレポート(経済産業省:2021年)

 

そんなバングラデシュですが、医療体制や保険制度については未整備な部分があります。経済成長と人口拡大に比して、医療分野の開発不足が目立っています。なかでも「薬局」の存在感は重要で、国民のプライマリーケアの担い手となっており、日本での「薬局」とは異なる機能を担っているそうです。

 

本記事では、ICTを活用した疾患の早期発見システムを開発し、バングラデシュの薬局への導入を目指す医療系スタートアップの取り組みをご紹介します。今回の取り組みではビジネス発案者兼事業責任者として、バングラデシュにおける臨床検査センター・クリニック運営やAI・ICTに基づく医療システム開発等を行うmiup社の横川祐太郎氏が参画しています。そんなmiup社とともに調査を担当したアイ・シー・ネット株式会社の小泉太樹さんから、最新バングラデシュの薬局事情と、新しい試みによるビジネス分野での可能性について伺いました。

 

お話を聞いた人

小泉太樹氏

バーミンガム大学大学院にて国際開発学修士号を取得後、2017年にアイ・シー・ネット株式会社に入社。現在はビジネスコンサルティング事業部で、保健医療分野における日本企業の新興国進出の支援やJICAプロジェクトに従事している。

 

●バングラデシュ人民共和国/主要産業は衣料品・縫製産業で、輸出額は世界3位(2020年時点)を誇る。1971年にパキスタンから独立した際、日本が諸外国に先駆けて国家承認をしたことから、親日国としても知られている。現在でも友好関係は続いており、「日本企業で働きたい」と考えている若者も多い。

データ出典:JETRO、経済産業省、アイ・シー・ネット調査報告などから編集部が独自集計したものになります

 

バングラデシュの薬局の様子

 

バングラデシュ薬局の現状と市場調査の背景

――まずは、バングラディジュの医療体制の現状と「薬局」の役割について教えていただけますか?

バングラデシュの医師の数は、日本の4分の1以下、薬剤師も40分の1以下のため、全体的な人員不足は大きな課題として挙げられます。また住んでいる地域によって所得の差があるため、全国民が平等に医療を受けられていません。ももちろん日本のような公的保険制度はないため、医療費負担が著しい重荷になっています。気軽に病院に行くことができないというのが、日本との大きな違いといえるでしょう。

 

日本の場合「ちょっと具合が悪い」と思えば、どこに住んでいても比較的簡単に医療機関を受診できます。また保険制度によって、治療費も抑えられているので「何かあれば病院に行く」という習慣もついていますよね。

 

バングラデシュの場合「ちょっと具合が悪い」と思えば、伝統的な療法や、薬局で薬を購入して治す選択が一般的です。とくに農村エリアでは、病院に行くまでの交通費や時間もかかるので、近所の薬局に頼る傾向があります。病院が近くにない、医療を受けるお金がないなど、いくつかの課題が重なり合っているのがバングラデシュの医療体制の現状です。

 

農村エリアの薬局

 

――人員や施設の不足、貧富の差、医療機関までの物理的距離、インフラ整備と一筋縄では解決できない状況なんですね。日本の場合、処方箋をもらってから薬局に行く流れが一般的ですが、バングラデシュの人々は「まずは、薬局」という考え方なのでしょうか?

 

もちろん医療機関からの処方箋で薬を購入している人もいます。ただ、農村エリアになると、処方箋を持っている人はわずか2割程度で、残りの8割は自分で薬を決めて購入したり、薬剤師や薬局スタッフに医療相談に来ている状況です。「まずは、薬局」という考え方が浸透しているのだと思います。

 

バングラデシュは医療機関・人材が不足している一方で、薬局の数は約14万と日本の2倍以上です。薬局は容易にアクセスでき、コミュニティに深く根差していることから、人々に広く受け入れられています。ただしここにちょっと課題がありまして……。正確な割合や数値に関する統計データは存在しませんが、薬局の中には国の認可(DGDA※)を受けていない薬局も多く存在しているのです。

※ DGDA:医薬品管理総局(Directorate. General of Drug Administration)

 

基本的にはDGDAが認可した薬局のみが営業できるのですが、無許可で営業している薬局もありまして……。患者さん側からは、許可の有無を見分けることが難しいので、いつも利用している薬局がじつは無許可だったなんてこともありますね。一応、ウェブサイトなどではDGDAの許可を受けた薬局一覧は掲載されているのですが、わざわざ調べている人はごくわずかでしょう。

 

 

――無許可ってことは、そこにいる薬剤師さんも資格を所有していない可能性があると……。

薬局の中には資格を持った薬剤師がいないことや、本来処方箋が必要な薬が販売されていることもあります。このような背景もあり、バングラデシュでは、抗生物質の過剰使用や多剤併用などの問題が頻繁に報告されています。患者さんの立場で考えれば、安心して薬を購入できる薬局を選びたいですよね。

 

例えば、体調が悪くて薬局に医療相談をしても不適切な薬を処方されてしまうケースもあります。また早めに医療機関を受診していれば治せていた病気も、薬局で見逃されているケースも。なんとかこれらの課題を解決できないかと開発したのが、「リスクアセスメントシステム」です。

 

薬局から医療機関へ繋ぐ「リスクアセスメントシステム」

――リスクアセスメントシステムについて、詳しく教えていただけますか?

このサービスはスマートフォンを使った、健康状態を判別するシステムです。

 

非医療従事者でも、疾患の疑われる患者さんのパーソナルデータを用いて簡潔かつ安価にリスクレベルを判定できます。具体的には、薬局スタッフが患者から体調を聞き取り、スマートフォンのアプリ上で入力すると、症状から関連性のある病名の表示や病気のリスクが高い患者さんに対して近隣の医療機関を紹介できる仕組みになっています。

 

「この病気です」と断定することは医療行為なので薬局ではできません。あくまで参考として活用いただくシステムですが、患者さんは無料で使っていただくことができるモデルとなっています。

 

――患者さんが無料というのは安心ですね。病気のリスクも知れるので、薬局中心のバングラデシュにとってはありがたい仕組みだと感じました。ビジネスモデルはどのように考えているのでしょうか?

 

薬局と紹介先である医療機関から利用料をもらう形を想定しています。将来的にはバングラデシュ全土に展開できればいいですね。2021年7月から現地調査を開始したのですが、薬局や医療機関に向けたリスクアセスメントシステムの説明会も実施しました。そこでは、今までにない良い仕組みだと好評をいただけています。思っていた以上に高い期待値を実感でき、私たちにとっても実りの多い調査となりました。

 

――システム自体は、誰でも簡単に使えるようなものなのでしょうか?

はい、医師など専門知識を持っていない方でも使えるようなシステムです。

 

薬局スタッフが端末操作してシステムに入力している様子

 

リスクアセスメントシステムの入力画面

 

調査期間中に農村エリアの薬局で、テスト版を使っていただきました。実際に使っていただいた方の中には、受診するまでに至ったNCDs(※)患者さんもいます。これまで見逃されていた病気の早期発見にもつなげることができ、サービスの本格スタートへのモチベーションも上がりましたね。

※NCDs (Noncommunicable diseases)非感染性疾患:循環器疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの「感染性ではない」疾患に対する総称。開発途上国において経済成長にともない増加していくことが多い。

 

薬局向けの教育と、利用率の向上が課題

――実際に使ってもらうだけでなく、受診につながったとは! 素晴らしいですね。今回の調査で課題になった部分はどんなところでしょうか?

利用率の向上は課題だと感じました。今回のテスト版の利用率は、来店患者全体の4%未満でした。増加するNCDsに対応するためにはより多くの患者さんに利用していただくことが重要となります。

 

リスクアセスメントシステムが今までにないサービスなので、使い方がわからないことが大きな要因かもしれません。薬局を訪れる患者の約8割は処方箋を持っていない人たちなので、システムを使うメリットを理解してもらうことで、まだまだ利用者を伸ばすことができると考えています。

 

薬局への周知・教育の必要性も実感しました。「〇〇な患者さんが来たら、〇〇とご案内してください」など簡単なマニュアルがあると良いかも知れませんね。また、利用率の向上のためには、紹介できる医療機関を増やす、薬局の業務効率化や利益向上に結び付ける等、薬局が自ら使いたくなるシステムにしていくことも重要です。調査結果をふまえて、さらに使いやすいサービスになるよう継続的な取り組みを行っています。

 

――計画では、2022年度中の導入を予定されているとのことですが、進捗状況はいかがですか?

2022年度中は実証調査の拡大や販売体制の準備を進め、2023年前期にはシステムの販売を開始し、後期には全国展開を予定しています。

 

将来的には、他の途上国への横展開も検討しています。まだまだ世界に目を向ければ、解決しなければいけない医療課題はたくさんあります。普及が期待できるバングラデシュで実績を残し、他の国でも活かせればと考えています。

 

今回は薬局を中心としたシステムの提供ですが、日本の医療・ヘルスケア企業さんと連携して事業拡大することもできると考えています。バングラデシュでの実績を共有し、日系企業の海外展開をお手伝いできるとさらに可能性は広がっていくと感じました。

 

薬局での血圧測定の様子。薬局では血圧・血糖値測定など簡単な健康チェックが行われている

 

--日本国内のヘルスケア事業も盛り上がっているところなので、アイデアを掛け合わせて途上国医療を支えるサービスが提供できそうですね。ちなみに、今回の調査では農村エリアでテスト版が実施されていましたが、都市部での導入も予定していますか?

都市部の場合、病院内や隣接した場所にも薬局があります。そのため、来店患者はすぐに医師に診断してもらうことが可能です。農村エリアと同じ仕組みでシステムを導入するのではなく、都市部には都市部のニーズにマッチしたシステムが必要だと実感しています。

 

バングラデシュの薬局は、医療機関まで距離がある「農村型」・病院と薬局が密接している「都市型」・農村と都市の間にある「郊外型」の3つに分けられます。全国展開に向けて、それぞれの特徴に合わせて調整されたリスクアセスメントシステムを提供していく予定です。

 

予防対策に貢献し、バングラデシュの医療体制を支えたい

――最後に、プロジェクトの展望・目標を教えてください。

一昔前のバングラデシュでは感染症が多かったのですが、近年の経済成長にともなって糖尿病などの生活習慣病が増えています。まだまだ医師の数や医療施設が少ないため、医療やヘルスケアのニーズ拡大が予想されています。

 

政府としても公的セクターだけではまかないきれない部分を民間セクターと協業したいと考えています。薬局へのリスクアセスメントシステム導入を通じてNCDs予防対策に貢献していきたいですね。私自身もこのプロジェクトへのやりがいを感じながら、miup社横川氏と一緒に目標に向かって伴走していきたいと思っています。

 

――リスクアセスメントシステムをきっかけに、途上国の医療体制の拡大や充実に期待したいですね。

そうですね。バングラデシュは10代が多い若い国で、まだまだポテンシャルを秘めた国です。ビジネスチャンスの観点から見ても魅力が十分にあると思います。まずはバングラデシュで実績をつくり、将来的には開発途上国全体の医療体制をサポートできるように努めていきたいです。

 

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読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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取材・執筆/つるたちかこ

途上国で新型コロナウイルスに感染したら? 現地スタッフの体験から見える渡航の際の留意点

【掲載日】2022年4月5日

いまだ収束したとは言い難い状況が続いている新型コロナウイルス。世界各地で感染者が出ていますが、感染状況や対策は国によって大きく異なります。そこで今回は、海外で事業に従事するアイ・シー・ネット社員のうち、現地で新型コロナウイルスに感染した社員3名にインタビューしました。バングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの、現地でのリアルな体験談とともに、渡航の際に注意すべきことや備えておくべきことなどをお伝えします。

 

●バングラデシュ

感染者数が195万人超のバングラデシュ。2022年1月下旬頃から急激に感染者が増加し、新規感染者数が1日1万人を超える日もありましたが、2月下旬以降は感染状況が落ち着きつつあります。今回インタビューしたのは、感染者が急増した1月下旬に現地で新型コロナウイルスに感染した社員。自身の症状や療養施設の対応、国の政策などについて聞きました。

――陽性と診断されてから療養先が決まるまでの経緯を教えてください。

「のどに微かな違和感を覚えた翌日から次第に痛みがひどくなり、その後37.5度の熱が出ました。滞在していたホテルでPCR検査を受けたところ、翌朝に陽性と判明。医師に電話で相談したところ、軽症のため医療診察を受ける必要はないと言われ、そのままホテルで療養することになりました。旅行サポートサービスを利用し、日本語で日本の医師に相談できたことはとても安心できました」

 

――医療機関とのやりとりや発症してからの症状について教えてください。

「陽性と診断されて医師に電話した際に、日本から持参した解熱剤の成分などを伝え、服用して問題ないかを念のため確認しました。また、酸素飽和度や、息切れなどの症状で気を付けるべき点について説明を受けました。それ以降は発症してから6日目に経過確認の連絡があったくらいでした。

症状は、軽症とはいえ発熱してから3日間は熱が下がらず、最高で38.2度まで上がりました。4日目以降は平熱に戻りましたが、以降も倦怠感は続きました。咳もかなり出て辛かったです。解熱剤を十分に持っていたので、なんとか凌ぐことができましたが、額に貼る冷却のジェルシートや咳止めの薬などもあればもう少し早く楽になれていたかもしれません」

 

――療養していたホテルの対応について教えてください。

「ホテルのスタッフとは基本的に直接接触することはありませんでした。食事は朝と夜、タオル、シーツ、水、トイレットペーパーといった必要なものは必要なタイミングで連絡し、毎回、部屋の前に置いてもらっていました。食器や利用済みのタオル、シーツなどは部屋で保管するように言われ、ゴミも含めて隔離期間中は一切回収してもらえず……。洗濯サービスも停止されました。

バングラデシュでは陽性者への隔離や療養に関する明確な基準がないようで、私が滞在していたホテルではPCR検査で陰性と診断されることが、隔離対応解除の条件でした。私は発症してから10日後に再びPCR検査を受診しましたが、症状が出ていないにも関わらず結果は陽性。結局、陰性の結果が出たのは発症から19日後でした。他の利用客や従業員に感染させないようにというホテル側の対応はもちろん理解できるのですが、部屋から出られない期間が長く、なかなか辛かったです。ちなみに私が滞在していたホテルと同地区のホテルも隔離解除の条件は同じだったようです」

隔離期間中は外からサービスを受け取れるが、外に物を出せなかったためコップが25個、皿は30枚以上たまっていったという

 

――国の政策や方針について教えてください。

「国の政策としては、2022年1月13日から、マスク着用義務、公共交通機関定員半数制限、集会・行事の開催禁止、ホテル・レストラン利用時のワクチン接種証明書の提示などの行動規制がスタート。同月21日からは、学校・大学閉鎖(2月6日まで)、政府や民間のオフィス、工場の従業員は、ワクチン接種証明書を取得しなければならないなど、新たな行動規制が追加されました。これらの行動規制措置の期限は2月22日までで、それ以降の延長発表などは特にありませんでした。

行動規制があった時期は、オフィスへの出勤を控える人が増えたのか、いつもより朝夕の交通渋滞が少なくなったとも聞いています。その一方で新聞の1面では、市場などの不特定多数の人が集まる場所でマスクをしていない人がいることが連日のように報じられていました。

隔離や療養に関する明確な基準がないバングラデシュでは、感染しても国からの指示やサポートを受けることがなかなかできません。今回の経験を通して、いざというときのために薬など必要なものを一通り用意しておくことが大切だと痛感しました」

 

●カンボジア

続いて、感染者数13万人を超えるカンボジアで、2022年1月に新型コロナウイルスに感染した社員にインタビューしました。1日の新規感染者が500人を超える日もあった2月下旬をピークに、現在は減少傾向にあるというカンボジア。国の政策や、現地の人々の様子などもあわせてお聞きしました。

 

――陽性と診断されるまでの経緯や、その後の療養先について教えてください。

「症状は特にありませんでしたが、帰国前検査を受診したところ陽性と診断されました。自宅に戻って待機していると、その日のうちに保健省が手配したと思われる救急車が迎えに来て、7~10日分の衣服などを準備するように言われました。その後、保健省指定の隔離施設へ移動。詳しい説明はありませんでしたが、主に空港検査で陽性となった外国人と国外から帰国したカンボジア人を収容している施設だったと思われます」

隔離施設の中庭。右奥が職員滞在施設。左手前のテーブルに食事と水が置かれる

 

――隔離施設の対応や、医療機関とのやりとりについて教えてください。

「施設に来た翌日に、パスポートや保険証の提示を求められました。また同日に体調に関する簡単な問診があり、血液採取、体重や血圧の測定なども行いました。施設に来た翌日から出所する前日まで、3、4種類の飲み薬を渡され、朝と夜に服用していましたが、陽性と診断されてからも症状は特にありませんでした。

施設に来て5日目くらいのタイミングで、保健省関連の組織から過去の滞在履歴に関する確認の電話がありました。確認の対象となる期間は、陽性と診断された日から数えて14日前から4日前まで。あわせて私が現地で関わっている事業の担当者についても聞かれました。その際に、仕事で訪問していたところにも自身が陽性になったことを報告。しかし今思えば施設に収容された時点で報告しておくべきだったと反省しています。

出所できたのは、施設に入っておよそ10日後。陽性の診断を受けてから7日目に1回目のPCR検査、さらにその48時間後に2回目の検査を受け、両方とも陰性であったことが分かると、施設から“出所して良い”と言われました」

 

――隔離施設での生活はいかがでしたか? 

「私が療養していたのは8名分の病床がある部屋で、同室者には中国系の男性1名と、私と同じタイミングで入所したパキスタン人の男性2名がいました。同室になった人たちとコミュニケーションを取ったり、英語が話せる施設の職員たちと会話したりすることで、精神的に少し楽になりましたね」

「療養していた大部屋。カーテンで仕切られていて、半個室になっていました」

 

「ただ個室ではなく共同生活になるため、衛生面などでは気になるところもありました。例えば、石鹸が洗面台とユニットバスに1個ずつしかなく……。タオルや歯磨きセットなども支給がなかったため、こうした衛生用品は事前に準備しておいたほうがいいと思いました。さらに貴重品の管理なども注意が必要です。私は持って行きませんでしたが、トイレやお風呂場に持ち込めないPCなどは、鍵付きの小さなスーツケースなどで保管すると安心だと思います。またパスポートや保険証は原本ではなく、スクリーンショットの提示でも問題ありませんでした」

「半個室には扇風機とエアコンが各1台設置されていました。緑色のブランケット1枚は貸与されたもの。私はシーツ代わりに使用していました。オレンジのタオルは職員に貸してほしいと伝えたところ、借りることができました」

 

「食事は、朝・昼・夜、毎食クメール料理でした。毎回メニューが違ったので飽きることはありませんでしたが、外部からの持ち込みが自由だったので、カップ麺やスナック菓子などがあると、より快適に過ごせたかもしれません」

「昼食の一例。白米と炒め物とスープが、昼も夜も定番でした。左上に映っている小袋が、朝7時過ぎに支給される朝と夜の飲み薬です」

 

――カンボジアの人々や街の様子、国の対策や方針について教えてください。

「現在カンボジアでは、小さなスーパーマーケットや飲食店でもアルコール消毒と体温計が設置されています。また、屋外では基本的にマスクを着用している人がほとんどで、感染対策に対する意識は比較的高いと思います。しかし現在進められている3、4回目のワクチン接種は、1、2回目と比べると接種率はまだ低く、政府は追加接種を頻繁に奨励しているところです」

 

●セネガル

最後は、オミクロン株によりピーク時の感染者数が8万5000人を超えるセネガルで、2022年1月に新型コロナウイルスに感染した社員にインタビューしました。昨年の4月から6月まで、緊急事態宣言および夜間外出禁止発令が出されて空港も閉鎖され、1日の新規感染者数が500人を超える日もあったセネガルですが、現在は減少傾向にあります。感染した当時の現地の様子や、療養時の過ごし方などを聞きました。

 

――陽性と診断されるまでの経緯や、当時の病院の様子を教えてください。

「セネガルへの出張中に体調を崩し、次第に自力で立つのがやっとという状態まで悪化しました。直近まで海外出張が続いていたこともあって、最初は時差の関係で疲れているのかなと思っていたのですが、熱も出始めて38度まで上がったため病院へ。簡易検査では陰性と判断されましたが、PCR検査では陽性と診断されました。

病院は新型コロナウイルスに感染したと思われる患者たちで混み合っていました。そのため人手が足りておらず、往診などはできていないようでした。また、診察を受けてビタミン剤と頭痛薬を処方されたのですが、処方薬は自分で薬局まで買いに行かなければなりませんでした」

 

――療養先や陽性と診断されてからの症状について教えてください。

「療養していたのは、現地で滞在していたアパートです。医者からは“スーパーなどであれば出歩いてもいい”と言われていましたが、政府の方針に従って外出は控えていました。同じアパートに同僚が滞在していたため、買い物のついでに私の分の食材も買ってきてもらえたのはありがたかったです。アパートにはキッチンや洗濯機もあったので、身の回りのことは全て自分で行っていました」

「療養中は食欲がない日が続きましたが、同僚が果物や野菜を買ってきてくれてドアの前まで届けてくれました。その中でもスイカは良く食べていました」

 

「熱は1日で下がりましたが、その後も激しい頭痛と吐き気、食欲不振がしばらく続きました。特に頭痛がひどかったため、頭痛薬は日本から持参しておくべきだったと思います。療養中は、このまま症状が悪化したらどうなってしまうんだろうと不安と孤独でいっぱいでしたが、2週間ほどで無事に回復することができました」

 

――国の政策や街の様子などを教えてください。

「現地セネガルの水産局や現地JICA事務所からは、テレワークの推進や、集会・イベント開催の制限などが行われており、マスク着用・消毒・体温チェックなどを行うように説明を受けました。しかし店はほぼ通常通りに営業しており、ホテルやレストランを利用する際にワクチン接種証明書の提示を求められることはありませんでした。現在の新規感染者数は平均1日5人程度で、感染状況は落ち着きつつあると言えると思います」

 

今回お伝えしたバングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの体験談からも、新型コロナウイルスの感染状況や政府の対応は、国によって異なっていることがうかがえます。さらに各国の状況は日々変化しているため、渡航する際には情報収集や備えをすることが非常に重要だと言えるでしょう。特に日本国内で報道されることの少ない途上国などの状況は、渡航前に外務省のホームページなどで必ず最新の情報を確認するようにしてください。

※感染状況は3月17日までのものです。

 

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●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

日本に特別な期待! バングラデシュで世界基準の「経済特区」が開発中

【掲載日】2022年3月31日

2022年2月、バングラデシュの首都ダッカ市内で日本・バングラデシュ外交関係樹立50周年の式典が開催されました。同国は日本を世界銀行およびアジア開発銀行に次ぐ最大の援助国と認識しており、駐バングラデシュ日本大使をはじめ、JICAや総合商社の住友商事などの現地担当者も式典に招かれました。

活気あふれるバングラデシュの首都ダッカ

 

現在、日本はバングラデシュで経済特区および工業団地の開発を手がけており、2022年度中の稼働を目指しています。これは住友商事が主導している巨大プロジェクトで、第一期開発エリアだけでも190ヘクタール(東京ドーム約40個分)を開発する予定。本プロジェクトではバングラデシュも国を代表する経済特区の開発を目指しており、バングラデシュ経済特区庁が円借款を使って、洪水対策などのインフラ整備を進めています。

 

本プロジェクトで注目されているのは、同国初の国際水準インフラ整備が展開されていること。洪水対策をはじめ、浄水場や配電、通信環境の充実など進出企業がストレスフリーで事業を開始できる環境が構築されています。もちろん経済特区なので、税制面での優遇や各種許可申請など、バングラデシュ政府による手厚いサポートがあります。

 

バングラデシュは将来の高い経済成長が見込まれる南アジアの国の1つで、世界銀行の2022年経済成長予測によると、南アジア全体の経済成長率が7.6%と見込まれるなか、バングラデシュだけで6.9%と報じられており、特にサービス産業の活性化に伴う国内消費が非常に好調です。また、人口は約1億7000万人、うち労働人口は約6000万人で、さらに国民の平均年齢が24歳(日本バングラデシュ協会)と、非常に高い将来性とポテンシャルを有しています。

 

企業、特に製造業がバングラデシュへの進出を検討する場合、現地で作業員を雇用する人件費が課題の1つになりますが、同国の工員の平均月額基本給はベトナムやフィリピンの約半分程度で推移しています。経済特区の開発や人口、人件費を考慮すると、バングラデシュへの進出は検討する価値があるかもしれません。

 

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バングラデシュの大規模学生運動、交通ルールの向上とシステムの改善を要求

2021年11月にバングラデシュのノートルダム・カレッジ(NDC)の学生が市営ゴミ収集車の誤運転による衝突事故で死亡しました。これをきっかけに現在同国では、多くの学生を中心とした抗議活動が展開されています。バングラデシュ、特に首都のダッカは深刻な交通渋滞が発生する都市として知られており、多くの危険が隣り合わせです。さらに今回の事故は、実際の運転手とは異なる代理の運転手が引き起こした事故であり、法と秩序の遵守を求めて数千人の学生がダッカの主要交差点を封鎖しました。

大規模な抗議運動を展開するバングラデシュの学生たち

 

バングラデシュでは、日本のように交通ルールやマナーが国民の間に浸透しておらず、交通インフラが未整備の地域も多くあります。今回のような交通事故が引き起こす大規模な学生運動は2018年にも発生しており、頻繁に発生する交通事故の多さは尋常ではありません。例えば、今回の抗議活動の最中にも別の市営ゴミ収集車による衝突事故でオートバイの運転手が死亡しています。

 

今回のデモ参加者による市長や政府への要求は、負傷者への補償や加害者への迅速な裁定、交通安全の意識向上などに加えて、交通管理システムの再設計やバス停留所、駐車場の適切な配置などインフラ部分にまで及んでいます。

 

社会規範を熟成させるには非常に長い年月を要し、通常は幼少時からの教育が必要であるため、この問題をすぐに解決することは難しいでしょう。しかし交通インフラにおいては、他国の状況を検証し、同様のシステムを導入していくことで改善に向かった歩みを進められる可能性があります。

 

日本に問題解決のヒント

日本はクルマ社会の形成において他国より一歩進んでいます。社会規範や補償、責任の概念に加えて、全国に張り巡らされている交通管制システムなどは他国から模範とされるような部分も多いでしょう。また、ドライバーの安全意識を向上させるようなサービスや、AIを活用して交通事故を防ぐ自動運転のような製品を提供している民間企業もあり、このような仕組みを輸出できる可能性も十分にあります。

 

渋谷のスクランブル交差点で通行者がぶつからないことは、海外の旅行者から賞賛される日本の名物の一つですが、それは普段あまり意識することがない高い社会規範と高度な交通システムから成り立っているのです。