2017年10月3日、本年度のノーベル物理学賞が発表された。大方の予想どおり、受賞者はマサチューセッツ工科大学のレイナー・ワイス教授他2名であった。
「大方の予想どおり」と書いたのは、この3名の業績があまりにもズバ抜けているため、他に有力な対抗馬がいなかったせいである。
LIGO(レーザー重力波観測所)の施設。2016年2月、重力波を観測することに成功した。
この3名が成し遂げた、他を寄せつけない快挙とは何か。
重力波の検出である。
重力波は、アインシュタインが残した<予言>を完成させる、最後のピースのひとつであった。アインシュタインが一般相対性理論から導きだした、<未来に観測されるであろう宇宙現象>は、水星の近日点の移動、重力レンズ効果、重力による光の到達時間の遅れなどがあり、それらはこれまで予言どおり観測に成功してきた。
が、最後の予言である「巨大な質量の天体が動くとき、時空の歪みが周囲に波として伝わる」という現象だけは、実際に観測することができなかった。
ところが昨年、前記の3名の研究チームが、重力波の検出に成功。地球から約35億光年離れた巨大なブラックホール同士の衝突によって生じた時空の歪みを、地上でキャッチすることに成功したのである。
そしてなんという偶然であろうか。昨年はアインシュタインが一般相対性理論を発表した1916年から、ちょうど100周年を迎える記念すべき年でもあった。
宇宙誕生の謎に迫る
この快挙に、物理学界は沸き立った。なぜなら、重力波の検出技術が確立すれば、宇宙が誕生した瞬間の出来事を綿密に調べることができるからだ。
これまで宇宙物理学は、宇宙が誕生してから38万年後の宇宙までは、解析することができるようになっていた。しかし、それより以前となると、ビッグバンによるカオス状態の密度が濃すぎるため、光が通り抜けられない。光を分析することで、過去の宇宙を解析してきたこれまでの宇宙物理学の手法が、ここで行き詰ってしまったのだ。
そのため、それ以前の宇宙については、机上の理論と推測で組み立てた仮説に頼るしかなかったのだ。
ところが、重力はあらゆる物質を通り抜ける性質をもっている。ドロドロの火の玉のようなビッグバン空間も、重力波ならくぐり抜けることができる。
もしこの先、重力波の観測技術が向上すれば、138億年前の宇宙誕生と同時に生じた時空の歪みを、直接キャッチできるかもしれないのだ。それらを解析することで、宇宙誕生のさまざまな謎がついに解き明かされるかもしれない。
2017年8月17日に重力波が検出された。ハッブル望遠鏡がとらえたその衝突による残光。
重力波の解析から多次元宇宙を発見!?
さらにもうひとつ。重力波の解析技術は、わたしたち人類の未来を左右するかもしれない、とてつもなく重要な局面を切り拓く可能性がある。
それは次元を超越する理論だ。
現在、謎に満ちた宇宙の構造を、もっとも完璧に解き明かす理論として“超ひも理論”への期待が高まっている。
その超ひも理論が説くところによれば、宇宙はわたしたちの住む世界よりも、さらに複雑な多次元構造をしている。そしてそれぞれの次元の間では、重力が互いに影響を及ぼし合い、部分的に重力が“染みでてくる”現象が起きるのだという。
今回、ノーベル物理学賞を受賞したチームが所属する、米国「LIGO重力波観測所」の装置は、水素原子1個分の空間の歪みを検出する、きわめて高い精度を誇っている。これらの装置にさらなる改良を加えれば、次元を超越する重力の発見も、そう遠くない日に実現することだろう。
それはわたしたちが、もうひとつの宇宙の存在を、否応なく知らされる日でもある。
もうひとつの宇宙──その存在を、物理学的に証明するのがマルチバース理論だ。最先端の物理学が描くマルチバース理論は、あなたを奇想天外な異世界へいざなうだろう。そこでは、あなたがこれまでに身につけていた知識や常識は役に立たない。
しかし、アインシュタインもいっている。「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションである」と。
さあ、これまでの“常識”を脱ぎ捨て、異世界へ旅立つ準備はよろしいだろうか。
(ムー2017年12月号 総力特集「最新マルチバース理論が解き明かす宇宙の真実」より抜粋)
文=中野雄司
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