免許返納後の「高齢者の足」となれるか? 16歳以上なら免許なしで乗れるglafitの四輪車試乗レポート

16歳以上なら、免許不要で誰でも乗れる! そんな「特定小型原付自転車(以下:特定小型原付)」に四輪車を投入する計画が進められています。手掛けるのは電動パーソナルモビリティを提供する「glafit(グラフィット)」。今回、いち早くそのプロトタイプに試乗してまいりました。

↑glafitが開発した“特定小型原付”四輪車のプロトタイプ。後述する「リーンステア制御」により体を特に寝かせなくても自然に曲がれる

 

そもそも「特定小型原付」とは?

まず、特定小型原付について少し解説しましょう。これは2023年7月1日に新設された電動モビリティ向けの交通ルール。16歳以上であれば運転免許不要で運転でき、ヘルメットの着用は “努力義務”とされている新たなカテゴリーです。

 

特定小型原付の車両は、車体を長さ190cm以下、幅60cm以下に収め、原動機は定格出力を0.60kW以下の電動機とすることが条件。そのスタイルは特に指定はなく、AT機構が備えられていれば二輪や三輪でも、あるいは四輪でも構いません。

↑“特定小型原付”四輪車のプロトタイプは、長さ190cm以下、幅60cm以下の枠内に収まる。鉛バッテリーを使っていることもあり、重量は現状100kg前後

 

走行速度は一般道では最高20km/hまでとされる一方で、歩行者モードに切り替えれば自転車走行可となっている歩道を最高6km/h以下で走ることもできます。ただし、これに伴い、特定小型原付の車体には緑色の最高速度表示灯の装備が義務付けられ、20km/h以下では緑色点灯とし、歩道を走行する6km/h以下では緑色点滅で表示することも条件となります。

↑前後左右には緑色のLEDランプが備えられ、一般道を走行モードは点灯して最高20km/hに、歩道モードでは点滅して最高6km/hとなる

 

一方で、免許も不要でヘルメットも努力義務となれば、自転車と同じカテゴリーと勘違いしそうですが、特定小型原付はナンバー登録を行なったうえで、自動車賠償責任保険(自賠責)の加入が必須です。当然、取得したナンバーの装着も義務付けられています。

 

今回、glafitが発表した四輪車は、まさにこの特定小型原付の条件に基づいた四輪車両として開発されたものです。

↑シート背後にあるU字型バーは、背もたれとしての役割と、キャノピー(風防)を取り付けた際の固定場所になる

 

高齢者でも安心して乗れる「リーンステア制御」採用

開発にあたって特に意識したのは、免許を返納した高齢者や、運転に不慣れな若者でも安全に運転できるように設計されていることにあります。その実現のために搭載されたのが、アイシンが開発した「リーンステア制御」技術。これにより、車幅が狭い特定小型原付での四輪であっても安定した走行が可能となったのです。

 

glafit代表取締役社長CEOの鳴海禎造氏によれば、四輪車の計画は特定小型原付のルールが決まる以前から構想として持っていたそうです。しかし、いざ開発してみると解決すべき課題は山積みで、特に車幅が狭い特定小型原付で安定走行を実現するのは困難を極めたとのこと。

 

普通に考えれば、二輪車に比べて三輪車や四輪車は何となく倒れにくいと思われそうですが、特定小型原付では車幅は最大でも60cmと、一般的な乗用車の1/2~1/3しかなく、その分だけ安定性は低くなります。そのため、人が乗ると重心位置はおのずと高くなることもあり、特に車道と歩道を行き来する際の段差や、スピードを出して旋回する際の遠心力による対処はかなり難しかったようです。

 

そんな矢先、アイシンから紹介されたのがリーンステア制御技術だったのです。

 

アイシンとともにさっそく検証に入ると、その結果は安定走行に大きな効果があることが判明。開発がスタートしたのは2年前のことだったそうです。開発は、制御を含めた足回りをアイシンが、そのほかの車体はglafitが担当する共同開発という形で進められました。

 

リーンステア制御技術の最大のポイントは、路面が傾いていても車体を常に水平に保てることにあります。そのため、片輪だけ段差に乗り上げても車体は水平に保ち続けられます。さらにカーブでハンドルを切ると、車体が自動的に曲がる方向の内側へと傾いてくれるので、オートバイに乗っているときのようにドライバーが重心を移動させる必要は一切ないこともポイント。これにより、たとえ二輪車の経験がない人でも安心して乗れるモビリティとなったというわけです。

↑段差に乗り上げても車体は水平のまま。これは前輪でも同じで、この制御が安定走行につながる

 

↑タイヤは二輪スクーターで使われている汎用タイヤを仕様。ちなみに、これは冬用タイヤだった

 

車体を目の前にして実感するのは、高齢者が乗る「シニアカー」よりもずっと大きいところ。それでも特定小型原付の長さ190cm以下、幅60cm以下の枠内に収められているそうで、逆にこのサイズがあるからこそ道路上でも目立つ存在となり、後続車からの視認という意味でもメリットがありそうと感じました。

 

プロトタイプは鉛バッテリーを搭載していましたが、製品化する際はリチウムイオン電池の採用を進め、それによって実現する車体の軽量化や省スペース化を活かしてカーゴスペースも用意していきたいとのことでした。

↑この日はポータブル電源を用意して、そこから鉛バッテリーに充電していた。電源は100Vを想定しているという

 

ワンレバーで簡単走行。モード切り替えで一般道も歩道も走行できる

試乗してみると、プロトタイプの操作はとても簡単でした。電源をONにして、ハンドルの右側グリップ下にあるレバーを押し込むだけで車体はスルスルッと動き出し、レバーを放したら回生ブレーキで減速します。もちろん、ブレーキ機構は後輪を制動する仕組みとして別途備えられていますが、回生ブレーキがかなり強力なので、この日の試乗で使うことはほとんどありませんでした。

↑アクセルとして使う操作レバーはハンドル右側のグリップ脇に用意されている。左側グリップ横には速度モード切り替えスイッチがある

 

↑フロントにはダンパーの調整により、ハンドルの操舵感覚を無段階で切り替えられる仕組みが備えられていた

 

↑デザインが良かった円形のヘッドランプだが、これは法基準に則ったものではなく、あくまでプロトタイプ向け。ウインカーも装備されていない

 

速度は特定小型原付ならではの最高速度として6km/hと20km/hの2つのモードを用意し、利用者は歩道と車道の走行状況に応じてスイッチで切り替えられます。

 

20km/hで走行しているときは身体で風を直接感じることもあって、十分なスピード感を感じます。これなら少し離れた場所へ出掛けても“遅い”とは感じないかもしれません。一方の6km/hではさすがに遅く感じますが、二輪と違ってフラつくこともなく安定して走れます。これは周囲を歩行している人にとっても、安全性の面でメリットがありそうです。

 

一方で、プロトタイプはハンドルがオートバイのようなバータイプとなっており、そのため、コーナーリングではアクセルとなるレバー操作がしにくい状況もありました。こうしたことから、試乗した人からは「クルマのような回転するタイプがいい」との声もあったそうです。glafitとしては「こうした声を収集したうえで、製品化する際に最良のスタイルを提示していきたい」と話していました。

 

具体的な販売スケジュールは未定とのことでしたが、鳴海CEOによれば「2025年開催の大阪万博にも出展し、できるだけ早い時期に商品化したい」とのこと。航続距離も40km~50kmを想定しているとのことで、これなら積極的に出掛けるきっかけにもつながるでしょう。

↑取材した日は一般の方たちの試乗もでき、すべての枠が埋まる大盛況となっていた

 

商品化が実現できれば、免許を返納して日常の足を必要とする高齢者にとって、新たなモビリティとして役立つことに間違いありません。想定価格は「(30~40万円の)シニアカー以上、軽自動車未満」を想定しているとのこと。年金生活の高齢者にも買える価格帯での登場を期待したいですね。

 

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Makuake開始2時間で1000万円超え! 免許不要の電動バイク、glafitの特定原付「NFR-01 Pro」が登場

3月14日、glafitは特定小型原付「NFR-01 Pro」の先行予約販売をMakuakeにて開始した。道交法改正によりできた新車両区分「特定原付」の新しい乗り物で、座って乗れる免許不要の電動バイクとして注目を集める同製品は、プロジェクト開始から2時間でなんと1000万円を突破!

 

同日に行われた製品発表会では、製品紹介のほか実際にNFR-01 Proの試乗体験も実施された。一足先に体験してきた、話題の “漕がない自転車” の乗り心地をあわせてレポートしよう。

↑3月14日8時の開始から2時間で1000万円突破。3000万円にも届きそうな勢いだ(3月16日時点)

 

16歳以上は免許不要の新しい乗り物「NFR-01 Pro」

「特定原付」は、2023年7月に施行された改正道路交通法により追加された新たな車両区分。電動キックボードなどを想定した区分で、16歳以上であれば免許不要で乗ることができるほか、車道だけでなく自転車専用道も走行することができる。今回、glafitが発表し、Makuakeで先行予約販売を開始した電動バイクのNFR-01 Proは、この定義にあたる新型パーソナルモビリティだ。

 

その最大の特徴は、気軽さは自転車、性能は電動バイクという両者のいいとこ取りの「電動サイクル」であること。これは、動力源として電力を利用する “電動” に、自転車のように気軽に、という思いとmotorcycleの “cycle” を掛け合わせた同社の造語だ。

↑glafitが “電動サイクル” として提案するNFR-01 Pro

 

16歳以上の学生の通学からシニアのおでかけまで、幅広い世代の使用シーンが想定されているだけあって、操作性はアクセルスロットルを回すだけ、とシンプルに仕上げられている。走行モードは、最高時速20kmの「車道/自転車道モード」と同時速6km「歩道走行モード」があり、ハンドル部分に装備されたメーターのボタンで停車時に切り替えが可能。なお、ペダルはあるが、漕ぐ必要はなく足を置くだけものとなる。

↑ハンドル部分に装備されたアクセルスロットル(左)、ペダル式足置き(右)

 

↑走行モードはメーター表示で分かりやすい仕様。ボタンひとつで簡単に切り替えが可能だ

 

電動キックボードではカバーしきれなかった安定性の追求にも余念がない。同商品は、自転車のように座り乗りをすることで下重心となり、座席に体重を預けられて、かつバランスが取りやすくなる。また、電動キックボードよりも大径であるタイヤによって、段差などでの転倒リスクも抑えられる。

 

急こう配も止まらず登れるハイパワー!

オリジナル設計の高性能BMS(バッテリーマネジメントシステム)を搭載した48Vのバッテリーと、速度域時速20kmに最適チューニングした低中速域高トルク型、定格出力500wのインホイルモーターを採用。これにより、ペダルレスでも力強い走行を実現した。例えば、「都内で一番の急坂」と呼ばれる品川区の「まぼろし坂」は傾斜29%だが、デモ動画では途中で止まらずにグングンと登っていく様子を見ることができた。

↑上動画はNFR-01 Proで登坂する様子。まぼろし坂ではないが、グングン登っていくパワフルさが分かる

 

「電動バイクは、2015年頃から国内でも発売され始めました。しかし、なかなか普及しない。その一番の理由は、『坂が登れない』ことによる実用性の低さでした」と、当時を振り返った同社 代表取締役 CEOの鳴海禎造氏。2017年に発売したGFR-01では、その最適なソリューションをパワーが足らなくなったら漕いでフォローすること、としていた。しかし、NFR-01 Proは “漕がない自転車” でペダル部分が固定されている。そのため、実用性をより高めるために登坂性能を最大化した、と同製品の性能について語った。

↑glafit 代表取締役 CEOの鳴海禎造氏

 

さらに、従来シリーズよりも航続距離を伸ばすことにも注力した。その結果、体重60kgの人が平坦路を走行した場合、1回の充電で40km以上の走行が可能になった。バッテリーは本体に付けたままの充電も可能。

↑人力で漕げないからこそ1回の充電での航続距離にこだわった結果、40km以上の走行が可能に。中距離利用もできるスペックなので利用シーンが広がりそうだ

 

実際に乗ってみて、その力強さには驚いた。特に、スロットルレバーを回すと瞬時に加速したので、慣れないうちは初動時にバランスを取るのが難しいかもしれない。これは、走行中にも言えることだ。だが、実は今回が自転車以外の二輪車に、本格的に乗車するのが初めての筆者でも、結果的には無事に安定して走行することが出来たので、この点は安全運転にさえ気を付ければ問題ないだろう。

 

そして紹介の通り、傾斜も難なくスイスイと登ることができたのには感激した。ブレーキは自転車と同じ操作方法で、左で後輪、右で前輪のブレーキが作動する。この操作も、違和感なく自転車の延長線上で行うことができた。

↑クルマや人の往来が多い場所でも、快適な走行が楽しめる

 

スマホアプリで遠隔管理も可能

さらに、特定原付では国内初となる4G LTE通信を内蔵し、スマートロックとアプリに対応。販売ガイドラインを遵守するにあたり、年齢確認やナンバー登録、自賠責保険加入などの登録ができない限り車両の電源が入らないようになっている。特定原付の事前準備がスマホアプリだけで完了するシステムも、今回が国内初の導入となる。バッテリー残量の確認や、位置情報表示、鍵の開錠などもスマホアプリから遠隔管理することが可能だ。

↑アプリから遠隔操作で、NFR-01のバッテリー残量や位置情報、鍵の開錠が可能。※画面は開発中のもの

 

価格は、33万6600円(税込)のところ、Makuakeの先行予約販売では先着順で、最大35%オフの21万8790円から購入可能。5月30日18時まで実施される。カラーはマットブラックとラテベージュの2色。冒頭で述べた通り、爆発的な人気なので、気になる人はぜひMakuakeプロジェクトページへ!

↑NFR-01Pro マットブラック(左)、ラテベージュ(右)。セット内容は、本体1台とカードタグキー、バッテリー、充電器が各1個

 

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国際的な基準値の30倍。深刻化するインドの大気汚染

インドの大気汚染は、日本でも頻繁に報道されるほど深刻化しています。ひどい時期には、白っぽいモヤが空いっぱいに広がっていることが確認できます。現在、世界規模で温室効果ガスの削減が進められていますが、インドも2070年までに二酸化炭素排出量をゼロにする目標を掲げました。インドの大気汚染の現状と二酸化炭素を減らす取り組みについて説明します。

青天時でもモヤがかかっているインドの都市

 

インドにおける大気汚染物質PM2.5の値は普段でもとても高いのですが、最近は平均150~300とWHOが掲げる基準数値の30倍にもなってしまいました。特にインドのお正月(ディワリ)の時期がピークで、PM2.5の値は首都デリーを中心に最高値の300に達します。原因としては、お祝いの花火や爆竹、小麦を収穫した後のわら焼きが大きく関係しています。さらに、クルマの排気ガスを合わせると、非常に多くの有害物質が大気中に存在することになります。

 

雨が降ると大気中の汚染物質は落ち着きますが、ディワリの時期は乾季のため雨はめったに降りません。よって、汚染された空気はしばらく大気中に残り続けます。首都デリー周辺の学校は外出できるレベルではないとして、2022年11月初旬には学校を当面休校にしました。その他の地域の学校でも空気清浄機をつけたり、マスクを配布したりと対策をとっています。

 

さらに、心筋梗塞や肺の疾患、頭痛といった身体の不調も、大気汚染が原因で発症することが多いとされています。

 

インドの約束

2021年11月にはイギリスで、持続可能な社会を目指した「国連気候変動枠組条約第26回締約会議(COP26)」が開催されました。地球温暖化の問題が取り上げられ、各国の代表がさまざまな誓約をする中、インドのナレンドラ・モディ首相も5つの誓約をしました。

 

  • 2030年までに非化石燃料の発電容量を500GWにする
  • 2030年までにエネルギー需要の50%を再生可能エネルギーにする
  • 2030年までに予測されるGHG排出量を10億トン削減する
  • 2030年までに経済活動によってもたらされる二酸化炭素の量を45%削減する
  • 2070年までに二酸化炭素の排出をゼロにする

 

その後、インドでは本格的に二酸化炭素削減に向けての取り組みが始まりました。さらに、身近にある具体的な取り組みとして下記のことが行われています。

 

  • 交通を抑制し、車両数を減らす
  • 各都市にスモッグ計測装置を設置する
  • 爆竹の販売と購入を非合法化する

 

交通量規制については、以前はナンバープレートが偶数か奇数かによって通行できる曜日を決めるという施策もありました。ただ、一部の地域だけで実施されていたので徹底されておらず、交通量はいまだに減りません。

 

また、爆竹の販売が非合法化されているにもかかわらず、2022年のディワリもたくさんの花火や爆竹を目にしました。インド人からは「去年はコロナでできなかったからみんな待ち望んでいた。店に行けば爆竹は売っている」との声が聞かれました。

 

ゼロエミッション事業を推進

完成に向けて建設が進む高速道路

 

排出量ゼロに向け、政府規模で実施している取り組みもあります。その一つはグリーンテクノロジーの導入に向けた動きで、グリーンエネルギーの容量を2027年までに275GWにする施策です。

 

さらに、電気自動車の導入も進んでおり、インド政府は、2030年までに自動車の30%を電気自動車にすると公約しています。

 

2022年には日本政府主導のもと、UNDP(国際連合開発計画)とインドの気象庁が共同でネットゼロエミッション(※)事業を開始しました。脱二酸化炭素や持続可能な研究開発を行うためには気候変動や気象学の知識が欠かせないとして、気象庁が中心となって取り組んでいます。全予算のうち約12%の資金がインドに割り当てられました。この資金を原資とし、電気自動車の充電ステーション設置やソーラー電池を導入した診療所の拡大、中小企業へのグリーン技術の導入促進などが行われます。

※ネットゼロエミッション:正味の人為起源の二酸化炭素排出量をゼロにすること(参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構

 

さらに、車両数を削減する取り組みとして、高速鉄道の設立が始まりました。ムンバイからアーメダバードまでの約500キロメートルを結ぶラインをつくることが決まり、現在工事が着々と進んでいます。高速鉄道ができることで、都市部の渋滞が緩和し、クルマの流れがスムーズになるとの期待が高まっています。

 

このようにインドは二酸化炭素の排出ゼロに向けて、少しずつではありますが確実にプロジェクトを進めています。ただ日常生活においては、大気状態が改善されなかったり、交通渋滞が収まらなかったりと、まだ実感することはできません。世界規模で地球温暖化がクローズアップされている現在、なかなか浸透しないこれら取り組みを徹底させるためには、政府だけでなく社会全体も一丸となり、継続的に訴えていく根気強さが必要なのかと思われます。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

日本車が競争力で劣る、ラオスで中国車・韓国車が人気である裏事情

ラオス人が所有する乗り物は、他の東南アジア諸国と同様に小型バイクが主流。便利な足として「トゥクトゥク」が大活躍しています。ラオスは国土の多くが山岳で占められ、“東南アジア最後の秘境”とも呼ばれますが、近年では高速道路などの交通インフラが整い始め、都市部では舗装道路や信号も十分に整備されるようになりました。しかし、ラオスには独特なクルマの文化があり、図らずもサステナビリティーを体現していたのです。

ラオスの首都・ビエンチャンの風景

 

国民の自動車所有率は低い

ラオスの自動車所有率はとても低く、まだ国民の1~2割程度。そこには、いくつかの原因があります。

 

まず、国民の収入に見合った価格で製造・販売されている自動車がありません。ラオスは自国で自動車を生産していないため、人々は外国から輸入した外車を購入するしかありません。国内で販売する際には当然ながら関税がかかってくるので、どうしても高価になっています。

 

しかも、ラオスでは2012年からトラック、バス、建設機械以外の中古車は輸入禁止になっています。輸入車は全て新車になるためかなり高価であり、一般庶民にとってはとてもハードルが高いのです。

 

すでに国内で流通している中古車の販売は認められていますが、台数も少なく本格的な中古車販売店もないため、販売方法は主にインターネットによる個人売買。通りでは「For Sale」のボードを貼ったクルマを見かけますが、個人売買ということに変わりありません。

 

ミニマムな修理

ラオスの自動車修理工場

 

これらの理由から国内流通の自動車台数は増えず、結果的に一台の車を大切に乗り続けるというスタイルになるのです。

 

ただし、一台の自動車を使用し続けるにはこまめな修理が不可欠です。ラオスの自動車修理事情は、どのようになっているのでしょうか?

 

例えば、パワーウィンドウスイッチの故障が起きたとしましょう。一般的には、日本のディーラーであれば、スイッチパネルごと新品に交換すると思います。顧客を待たせることなく確実に修理が完了できる方法ですが、どうしても修理費用が高くついてしまいます。

 

一方、ラオスではスイッチを分解しピンポイントで故障個所を特定。そして、問題となっている電気的接点を磨くなどの手直しを施すのです。こういった修理方法を行うことで修理代が格段に安く済み、新しい部品を使わずに済みます。

 

ちなみに、パワーウィンドウスイッチの分解修理代は、20万キープ(約1570円※)程度で、もし部品交換が必要になったとしても最低限の交換で完了します。デメリットとしては、故障が再発する可能性があることや、修理の待ち時間が長いことです。

※1キープ=約0.0079円で換算(2022年12月15日現在)

 

日本の顧客サービスではなかなか見られない修理方法かもしれませんが、そこは価値観の違いということもあるのでしょう。

 

故障しにくい日本車のデメリット

エンジンも分解して修理する

 

実は、中古車として購入しても修理費用が高価になるとラオスでいわれているのが日本車なのです。

 

ラオスで利用されている自動車は韓国車、中国車、日本車が中心ですが、その中でも存在感が大きいのは韓国車と中国車。日本車の利用が韓国車や中国車に及ばないのは、現地で日本車を修理する人たちのスキルが低いということや、日本製のリペアパーツが高価であることなどが理由とされています。

 

クルマの購入を自動車修理工場に相談すると、「日本車は故障しにくいが、壊れた場合はお金がかかる」「韓国車は故障しやすいが、修理代は安く済む」といわれます。日本車に関しては、メーカーなどが修理スキルの向上やパーツ価格の見直しなどビジネス面の問題点を改善することにより、存在感をさらに高めていく可能性が生まれると思います。

 

ひと昔前までは日本でもラオススタイルの修理が行われていましたが、最近は大きい単位の部品を丸ごと交換する手法が主流となっています。一方で、必要に迫られてのこととはいえ、一台の車を修理しながら長く使うというラオスのスタイルは、大量消費は減らせるのだということを再確認させてくれます。

 

古い部品を無駄に交換することなく、磨いたり手直ししたりして、自動車を大切に使い切るという精神は、サステナビリティーにも通じるところがありますが、日本人も学ぶべきであるように思います。

 

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空飛ぶ車も近いうちに乗れるようになる!? 未来を感じるモビリティ8選

自動車業界では”100年に一度の変革期”と言われ、動力が化石燃料から電気に切り替わるだけでなく、自動運転化やソフトウェアの進化など変革は多岐にわたります。クルマの世界だけでなく、電動キックボードの登場など移動手段(モビリティ)の革新は随所で起こっているので、私たちの移動も変わっていきそうです。そんな中から、近いうちに乗れるようになりそうな未来感のあるマシンをピックアップしてみました。

 

【その1】ソニーの電気自動車も近いうちに走り出す!?

ソニー

VISION-S 02

2020年のCESでお披露目され、大きな注目を集めたのがソニーの電気自動車(EV)が「VISION-S」。同社が得意とするイメージセンサー技術を用い、周辺を3Dで把握する安全技術や、5G通信によるクラウド連携など、ソニーらしさが感じられます。車内にはToF方式距離画像センサーも搭載され、ドライバー認証やジェスチャーコマンドにも対応。クルマと人との関係も進化していきそうです。

 

クルマの変革には、動力源の置き換えのほかにソフトウェアの進化が必須と言われますが、その点でもソニーは強みが発揮できそう。「VISION-S」は既に欧州で公道試験を行っており、2022年にはSUV型の「VISION-S 02」も発表。先日はホンダとの合弁会社、ソニー・ホンダモビリティ株式会社を設立しており、2026年には第一弾モデルを発売されるとのことなので、「VISION-S」が公道を走る日も遠くなさそうです。

 

【その2】ホンダから生まれた電動3輪マイクロモビリティ

ストリーモ

「Striemo」

ホンダは社内でベンチャービジネスを生み出す新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」を運営していますが、そこから生まれたのが株式会社 ストリーモ。同社が手掛けるのが電動3輪マイクロモビリティ「Striemo(ストリーモ)」です。電動キックボードに似ていますが、こちらは3輪で独自のバランスアシスト機構により、バランスが取りやすい構造になっているとのこと。ゆっくり歩くようなスピードから自転車程度のスピードまで、転びづらく安定した走行が可能となっています。

 

プロトタイプは最高速度が6km/h、15km/h、25km/hとなる3つの走行モードを搭載。現行法規では原付一種に分類されるので、ナンバーやウィンカーの装備が必要で、ヘルメットの着用が必要となります。日本国内では2022年内、欧州では2023年の発売を予定しており、価格は「Striemo Japan Launch Edition限定モデル」で26万円(税込)となる見込みです。

 

【その3】ヤマハの電動3輪モビリティにも期待

ヤマハ

TRITOWN

電動キックボードのような乗り物はヤマハもリリースしています。「TRITOWN(トリタウン)」という名称で、こちらも電動の3輪。安定感がありますが、車体を傾けて(リーンさせて)曲がることができます。同社ではこうした乗り物を「LMW (Leaning Multi Wheel)」と呼んでおり、エンジン付きのバイクでは既に多くの車種が製品化されています。

 

発表は2017年と少し前のことになりますが、まだ市販化はされておらず、公道を走ることはできません。ただ、最近の電動キックボードの拡大と、新たな法制度がスタートすることで、公道を走れるようになる可能性は高まっていると感じます。実際に乗ったことがありますが、かなり楽しい乗り物なので市販される日を期待して待ちたいところです。

 

【その4】1輪でバランスをとって走るOnewheel

出典:FUTURE MOTION

Onewheel

Pint X

北米などでは既に乗り物として普及し始めているのがOnewheel(ワンウィール)。スケートボードに、電気で動く車輪を1つ付けたような乗り物ですが、バランス機構が組み込まれており、1輪でもスムーズに走ることができます。重量は少しありますが、手に持って移動することができるので、ラストワンマイルの乗り物としては適していると言えるでしょう。

 

出典:FUTURE MOTION

「Pint X」はそんなOnewheelの最新モデル。現地では1400ドルで販売されています。コンパクトで持ち運びしやすいですが、未舗装路の走行も可能で、最高速度は時速18マイル(28.9km)も出るとのこと。航続距離は12〜18マイル(19〜28km)なので、移動手段としては十分な性能を持っています。日本では公道走行できませんが、走れるようになると面白いですね。

 

【その5】スタイリッシュな電動バイクも登場

出典:Bandit9

Bandit9

Nano

クルマに比べると電動化が出遅れている感のあるバイクですが、最近になって電動化への道が示されるようになってきました。東京都は2035年までに都内で新車販売されるバイクについて「脱ガソリン化」することを公表しており、各メーカーもそれに合わせるように電動化の計画を示しています。

 

出典:Bandit9

そこで気になるのが、電動バイクらしいデザインとはどういうものかということ。既存メーカーから発表される電動バイクはガソリン車のデザインを焼き直したようなものがほとんどです。そういう意味で期待できるのが、ベトナムのカスタムビルダーBandit9が手掛ける「Nano」というマシン。現地では既に予約受付が開始されており、最高出力は4kWで航続距離は約96km、価格は4499ドルとなっています。何より、デザインが既存のガソリン車には似ていないデザインが魅力的ですね。こうした独自デザインの電動バイクが増えると、公道の風景も変わってきそうです。

 

【その6】街に馴染むスウェーデン製の電動バイク

CAKE

Makka

バイクから排出されるCO2の削減には、アパレルメーカーも取り組んでいます。バイク向けを中心とするスポーツウェアを手掛けるゴールドウインは、スウェーデンのプレミアム電動バイクメーカーであるCAKE 0 emission AB社との独占的パートナー契約を締結。2023年春頃から同社の電動バイクの予約受付を開始します。

 

CAKE社の電動バイクは、街乗り向けのコミューターからオフロード車、子ども向けや仕事向けなど幅広いマシンをラインナップしています。コミューターの「Makka」は北欧らしいミニマルなデザインで、街の風景に馴染みそう。低いステップの下にリチウムイオンバッテリーを搭載し、54kmの走行が可能となっています。

 

【その7】空飛ぶクルマも近日実現!?

出典:AELO MOBIL

AELO MOBIL

AM4.0

未来の乗り物というと、空飛ぶクルマを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。特に都市部で渋滞にハマることが多いと「空が飛べれば……」と思うことも少なくないはず。そんな夢を実現してくれそうなのがスロヴェニアに本拠を置くAELO MOBIL(エアロモービル)社のクルマです。

 

「AM4.0」は2人乗りで飛行する際は翼が開いた形状にトランスフォーム。分類としてはクルマではなく航空機となります。走行中は160km/h、飛行すると360km/hまで速度を出すことが可能。2024年に市販化を見込んでおり、価格は150万ユーロ程度(約2億円)を想定しているとのことなので、気軽に購入できるものではありませんが、一度は乗ってみたい新世代のモビリティです。

 

【その8】空飛ぶタクシーになる!? 4人乗りのモデル

出典:AELO MOBIL

AELO MOBIL

AM NEXT

同じくAELO MOBILが、「AM4.0」の次に開発しているのが4人乗りの「AM NEXT」。こちらもクルマの形状から飛行機にトランスフォームするのは同様で、変形にかかる時間は約3分とされています。2人乗りタイプは個人向けの販売を想定していますが、こちらはタクシーのような送迎サービスでの利用を想定しているとのこと。陸路と空路を組み合わせることで、より遠距離の送迎も快適にできるようになりそう。市販は2027年頃を想定しているとのことで、移動のかたちを革新してくれそうです。

 

 

動力が変わるだけでなく、移動のスタイルやライフスタイルまで変えてくれそうな乗り物たち。実際に市場に出てくる時期には差がありますが、その日はもう近くまで迫ってきています。

 

 

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EVで先進国入りを目指すインドネシアの戦い

世界の自動車産業がガソリン車からEV(電気自動車)へシフトする中、最近、大きな注目を集めているのがインドネシアです。同国はEV産業の鍵を握る資源・ニッケルの世界最大の生産国であり、それを生かして多くの雇用を作り、先進国になろうとしています。しかし、そこには課題も含まれており、世界各国がインドネシアの動向を注視している状況です。

EVに賭けるインドネシア

 

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)は、2019年にEVを推進する大統領令に署名しました。その内容は、2025年までにEVの利用者を250万人まで引き上げるというもの。その実現を目指し、インドネシア国内におけるEV産業の促進、充電ステーションの整備、電気料金の規制、EV購入に際する税金の軽減や財政支援などが盛り込まれています。

 

この施策の象徴的な存在が「グリーン・インダストリアル・パーク(グリーン工業団地)」。3万ヘクタールに及ぶ敷地内は主に水力発電でまかなわれ、交通手段としてEVが整備されるという、環境に配慮した住宅地になる予定です。

 

インドネシアがEVを推進する大きな理由は、EVのリチウムイオン電池の原料となるニッケルの生産量が世界で最も多く、約22%を占めているから。ジョコウィ大統領は国内でニッケルの原料を加工するために、2019年から鉱物の輸出を規制し始めましたが、最近では2022年内にはニッケルの輸出を課税する可能性があるとも報じられています。ニッケルの需要が急増している中、インドネシアは輸出税を導入し、バリューチェーン(価値連鎖。企画や生産など企業の一連のビジネスプロセスにおいて付加価値がいかに生み出されているかを示すフレームワーク)で価値を高めたい意向。このような背景を考慮すれば、2022年4月にヒュンダイ・モーターズ・インドネシアが初の国産EVを発売したことは、同国のEV産業にとって画期的な出来事であると理解できるでしょう。

 

EVは経済成長にとってプラス。インドネシアの人口は約2億7000万人ですが、オランダを拠点とするING銀行によると、インドネシアの自動車生産量はASEAN(東南アジア諸国連合)でタイに次いで第2位である一方、販売台数は年間約65万8000台と第1位です。パンデミックの影響で直近では販売台数が落ち込んだものの、2022年には前年比8.7%増、2023年には1.8%増になる見込み。そんな中でEVの生産が盛り上がれば、販売や修理などの関連産業も活発化し、経済成長率が高まる可能性があるとINGは述べています。

 

EV促進の犠牲は環境?

その一方、懸念されるのが環境への影響。環境保護団体の間では、グリーン・インダストリアル・パークは環境アセスメント(環境影響評価)が杜撰に行われており、ニッケルを採掘しているのは許可を得ていない業者が多いという見方があります。もしテスラといったEVメーカーが「インドネシアのサプライチェーン(供給連鎖)は環境への配慮が足りない」と思えば、彼らは環境意識の高い投資家や消費者を考慮して、インドネシア産の資源を使わないかもしれません。その他にも、「これからEVを所有する人が増えれば、大気汚染は改善されるかもしれないが、交通量や渋滞は減らないのではないか?」や「ニッケルを生産するために森林伐採が続き、住民の土地が脅かされるのではないか?」という懸念があります。

 

このような課題を抱えつつ、国内のEV産業に賭けているジョコウィ大統領。ニッケル輸出の規制を巡り、EUやWTO(世界貿易機構)はインドネシアを「国際貿易のルールに反する」と非難しています。しかしジョコウィ大統領は、輸出を規制することで、外国の企業がインドネシア国内により多く投資し、雇用が創出されることを狙っているので、「われわれは閉鎖するのではなく開かれるのだ」と金融メディア・Bloombergのインタビューで主張し、日本や韓国などに投資や技術支援を求めているのです。豊富な資源を自国の経済発展につなげることができるのかどうか、インドネシアから今後も目が離せません。

 

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東京メトロの5倍以上の路線延長へ! インドの地下鉄が「日本と韓国を追い抜く」勢いで発展

網目のように地下鉄の路線が張り巡らされた東京は、世界有数の交通ネットワークを誇る都市。アジアの中では中国の北京や上海、韓国のソウルも、地下鉄の路線延長や利用客数において大きな規模を持っていますが、現在、日本や韓国を上回る勢いで地下鉄を発展させているのが、アジアのもう一つの大国・インドです。

インドの首都・ニューデリーの地下鉄の様子

 

2023年には、中国を抜いて人口が世界1位になると予測されているインド。人口爆発に伴い、急速に経済発展を遂げている同国では、公共交通機関の整備が喫緊の課題です。インドの政府系シンクタンク・NITI Aayogによると、同国で登録された自動車の台数は急増しており、1981年ではわずか540万台でしたが、2019年には2億9500万台まで増加。この影響により渋滞や大気汚染、交通事故などの問題が顕在化してきました。

 

長年、インドを支援してきた日本もこの問題を深刻に捉えており、外務省は2016年の「対インド国別援助方針」の重点分野として、主要産業都市の鉄道や国道などの輸送インフラの整備を挙げました。

 

そこで進められてきたのが、地下鉄の建設です。例えば、同国首都・ニューデリーの地下鉄「デリーメトロ」は2002年に開通し、総延長は390kmになります(12路線)。東京メトロは9路線、総延長は約195kmなので、デリーメトロの規模の大きさがわかります。

 

それまで市民の足となっていたバスは治安面で不安がありましたが、地下鉄の完成によって女性でも安全に移動できるようになり、インドの人々の生活が大きく変わっていきました。

 

ニューデリーの地下鉄の影響は他の都市にも及び、いまではインドの20の都市に地下鉄網が張り巡らされ、総延長は810kmにまで拡大。巨大な交通ネットワークが構築されていますが、さらに今後は地下鉄を有する都市を27まで増やし、総延長が980kmにまで伸びる予定です。

 

ハーディープ・シン・プリ石油天然ガス大臣は、インドのケララ州の都市コーチで11月4日から開かれた「第15回アーバンモビリティ・インディア(UMI)会議&エキスポ2022」で、この新しい建設計画について言及し、「インドの地下鉄網は近いうちに日本や韓国を抜く」と述べました。この発言の裏には、このような計画があったのです。

 

人口爆発と経済発展を支える

交通網が発展する一方、課題もあります。それは公共交通機関の料金とラストマイル交通(Last-mile connectivity)。前者については、公共交通機関の利用料金が収入の20~30%を占めている家庭が、人口全体の半数近くになるそう。人々の移動をより利便にする存在とはいえ、地下鉄などがそれほど家計を圧迫するのは好ましい状態とは言えません。

 

他方、ラストマイル交通とは、最寄りの駅から最終目的地までの近距離の交通手段のこと。例えば、最寄りの地下鉄の駅から自宅までをどのように移動するか? その際の交通手段として、インドは電気自動車やライドシェアなど、より安価で利用できるテクノロジーの導入を積極的に推進。この取り組みは「スマートモビリティ計画」として知られています。

 

東京や大阪などの都市に人口が集中する日本と同じように、インドでは2050年に人口の7割が都市部に居住する見込み。交通網の整備はこれからもっと必要になりそうです。

 

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インドネシア初の「高速鉄道」9割完成ーーその背景には、日本と中国の熾烈な対決が…。

もうすぐインドネシアで、同国初となる高速鉄道の建設が完成を迎えます。首都ジャカルタの混雑を緩和することが期待されていますが、インドネシアがここまで至るまでには、日本が中国に出し抜かれるという波乱がありました。さまざまな思惑が交錯する中、この高速鉄道はインドネシアのインフラを変えようとしています。

↑開業に向けてラストスパート!

 

この高速鉄道は、インドネシアの首都ジャカルタと西ジャワ州の州都・バンドン間の約142㎞を結ぶもの。これまで3時間かかっていた2都市間の移動を約40分に短縮するもので、2016年から建設が開始され、およそ6年を経て、9割が完成する状態にまでなったそうです(2023年6月に開業予定)。先日、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)がバンドン駅を視察し、車両などを確認したことが国内外で大きく報じられました。しかし、このニュースに一番安堵しているのは中国かもしれません。


もともと、この高速鉄道プロジェクトは日本が働きかけていました。安全性が高く、しかも定時に運行する日本の新幹線は、世界でも高く評価されています。その技術は海外でも活用され、日本政府も日本の新幹線や鉄道の輸出に力を入れてきました。2019年にインドネシアで初めて誕生した地下鉄は、日本が全面的に支援していたのです。この高速鉄道プロジェクトでも当初は日本が有利とされていました。

 

一方、日本に劣らない技術と経済力を持っていると主張しているのが中国。2015年に中国はこの高速鉄道建設プロジェクトの入札に参加しました。インドネシア政府による債務保証を伴う円借款を提案していた日本と違って、中国は債務保証を求めませんでした。インドネシアは財政負担を避けたかったのです。

 

熾烈な駆け引きがあったと報じられるなか、結局、インドネシア政府は中国を選び、中国の国家開発銀行が総工費の75%を融資することになりました(残りの25%はインドネシアと中国の企業からなる合弁企業の資金で賄う)。

 

中国の落札の裏には、2013年に習近平国家主席が打ち出した「一帯一路」戦略があります。これはアジア各国やヨーロッパに陸路と海上航路の物流ルートを作り、巨大な経済圏を構築する構想。かつて中国とヨーロッパの間にあった交易路「シルクロード」の現代版と言えるでしょう。インドネシアの高速鉄道建設を一帯一路の一環と捉えた中国は、積極的な支援に乗り出すようになり、日本に勝ちました。

 

このように、この高速鉄道プロジェクトには中国の威信がかかっているとも言えます。車両の設計と製造は中国中車青島四方機車車両が行いました。最高速度は時速350kmに達するとのこと(日本の新幹線の最高速度は現時点で時速320km)。この列車は、インドネシアのような熱帯気候に適応するよう改良されているそうです。

 

とはいえ、この計画は落札後も順調に進んでいたわけではありません。土地の購入が計画した通りに進まないうえ、新型コロナウイルスが発生。そのため、当初は2019年に開業予定でしたが、度重なる延期に見舞われました。最終的には750kmの距離まで延伸される予定ですが、ひとまず第一段階としてジャカルタ—バンドン間の開通にこぎつけるまでに至ったのです。

 

紆余曲折を経て高速鉄道が完成すれば、インドネシア国内の物流が良くなることは確か。2014年の大統領就任からインフラの改善を掲げてきたジョコウィ氏は「この高速鉄道がモノとヒトの移動をより速く、より良くし、インドネシアの競争力を高めることを祈っている」と述べています。中国のプレゼンスは高まっていますが、日本のまき返しにも期待したいですね。

 

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「ドローン配送」の普及へアフリカが猛進! ジップラインと大手EC企業が提携

2022年9月、ドローン配送のスタートアップとして知られるジップラインが、アフリカの大手EC(電子商取引)企業・ジュミアと提携したことが発表されました。これにより、アフリカでドローン配送の普及が進むことが期待されていますが、その影響は日本を含めた先進国に及ぶかもしれません。

アフリカから先進国に向かって飛んでいくか?

 

ヘルスケアや小売分野でドローン配送に取り組むジップラインは、アメリカやアフリカなどで事業を展開しており、過疎地への医療機器やワクチンなどの配送で注目を集めています。例えば、ルワンダやガーナでは、病院から依頼を受けるとドローンが輸血用の血液パックを積んで離陸し、病院に届けています。このサービスは、コロナ禍ではワクチンや日用品の配送を可能にする手段として世界から熱い視線を集めてきました。これまで配送したワクチンは500万ユニット以上。日本では豊田通商と提携しており、長崎県五島列島の医療機関への医療用医薬品のドローン配送の試験を2022年から始めています。

 

一方、ジュミアはアフリカを代表するマーケットプレイスを運営するほか、デジタル決済のプラットフォームや物流事業を展開。現在ではアフリカの11か国で30以上の倉庫を有し、ドロップオフ&ピックアップの拠点は3000以上になります。2019年にはニューヨーク証券取引所に上場しており、金融情報を提供するリフィニティブによると、時価総額は7億4100万ドル(約1091億円※1)です。

※1: 1ドル=約147.2円で換算(2022年10月14日現在)

 

今回、この二社が提携したのは、ジュミアが構築してきた流通・物流ネットワークの圏外のエリアへ配送することを可能にするため。アフリカにおけるECの利用が拡大している中、ジュミアでは流通網が十分に整っていない農村部からの注文が配達件数のおよそ27%を占めるようになりました。そこで、従来の配送サービスでは難しかったラストワンマイル(※2)への配送にドローンで対応しようと乗り出したのです。

※2: サービス提供者の最後の拠点から顧客・ユーザーまでの「最後の区間」のこと

 

ガーナで行われた最初の試験では、1時間未満で85㎞離れた場所までの配送に成功。大きさや重さが異なるさまざまな商品を組み合わせながら、実験を繰り返してきたそうです。将来的にはコートジボワールやナイジェリアにも本サービスを拡大するとのこと。

 

リバース・イノベーションの可能性

ドローン配送は、アマゾンや中国大手の京東集団(JD.com)といった大手ECはもちろん、フェデックス、UPSなどの物流企業も取り組みを初めている分野です。また、自動車と比較すると排出する温室効果ガスが98%も少なく、環境にもやさしい点もメリットの一つと言われています。

 

ドローン配送は先進国でも有用ですが、交通網や流通網が発展していない途上国や過疎地で真価を発揮することは間違いありません。そのため、今回の提携をきっかけに、アフリカのような新興国でドローン配送が一気に普及し、それが先進国に波及して革新を起こす「リバース・イノベーション」が起こることも考えられるでしょう。

 

世界各地で広がるドローン配送。まだ日本は実用化に向けて試験を行なっている段階ですが、これまで以上に当たり前に利用される日は確実に近づいているのではないでしょうか?

 

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電動キックボードは免許・ヘルメットなしでOK?「小型電動モビリティ」の法改正によるルールと可能性

日本のゴマ消費40%がナイジェリア産! 日・ナイジェリア貿易額が年1400億円に

2022年8月にナイジェリアの首都アブジャで開催された第2回日本・ナイジェリアビジネス促進協議会において、松永一義駐ナイジェリア日本大使が、両国間の年間貿易額が10億ドル(約1430億円※)に達したことを発表しました。

※1ドル=約143.3円で換算(2022年9月16日現在)

↑ホットになりつつある日本とナイジェリアの貿易

 

ナイジェリアの対日輸出品の代表的なものは石油やLNG(液化天然ガス)ですが、あまり知られていない物としてゴマがあります。ナイジェリアの金融情報サイト・Nairametricsによれば、日本で消費されるゴマの40%はナイジェリア産だ、と松永大使が話したとのこと。近年ナイジェリアのゴマの輸出量は増加しており、同国の輸出の22.4%を占めるようになりました。

 

視野を少し広げると、この傾向は同国の農作物の輸出でも見られ、その額は2020年の3215億ナイラ(約1075億円※)から、2021年には5049億ナイラ(約1690億円)に拡大。全体的に見れば、同国の対外貿易は2021年第1四半期(1月〜3月)の11.7兆ナイラ(約3.9兆円)から2022年の同期には13兆ナイラ(約4.3兆円)に成長しています。しかし、その主な要因は農作物というより、原油の輸出の増加にある模様。

※1ナイラ=約0.33円で換算(2022年9月16日現在)

 

一方、日本の対ナイジェリアの輸出品目としては、機械や自動車が挙げられます。松永大使によると、同国には現在47社の日本企業が進出しているとのこと。ナイジェリア投資促進委員会(NIPC)のSaratu Umar事務局長兼CEOは、「私たちは日本大使館と良好な関係を維持しており、今後も協力しながら、ナイジェリアでビジネスを行う全ての日本企業を援助するつもりだ」と話しています。

 

ナイジェリアは現在、海外の投資家が政府機関と協力しながら、同国への投資に関する問題を解決できる環境を構築しつつあり、この取り組みは日本・ナイジェリア間のビジネスをより一層促進するかもしれません。

 

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トゥクトゥクもEV化! カンボジアの電気自動車への本気度

【掲載日】2022年6月8日

世界各国でモビリティ革命が進行するなか、カンボジアが持続可能な電気自動車(EV)国家への躍進を目指して、広範囲にわたる普及政策を展開しています。

トゥクトゥクもEVの時代に突入

 

カンボジア政府は2021年12月、長期的なカーボンニュートラル政策の一環として、2050年までに自動車と都市バスの40%、電動バイクの70%をEVにすることをUNFCCC(国連気候変動枠組条約)に盛り込みました。すでにカンボジアでは、2021年よりEVの輸入関税を従来のエンジン車より50%軽減させる措置が取られていると同時に、EV組立工場への投資が強く奨励されています。さらに政府は、EV普及の鍵を握る充電ステーションの設置を既存の給油所に働きかけるなど、積極的な動きを見せています。

 

実際、カンボジアの首都・プノンペンでは、二輪EVや電動モペットのシェアライド事業が行われるようになりました。三輪タクシーのトゥクトゥクやバスなどの公共交通機関もこれからEV化される予定。また、同国では海外の自動車や二輪車メーカーがEVのショールームを開設しています。

 

この背景には、世界中でEVの普及が急速に進んでいることが挙げられます。2021年11月に英国で開催されたCOP26サミット(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、2040年までに全世界で、2035年までには主要国の市場で環境に負荷のないゼロ・エミッションに対応する普通自動車や商用バンなどの新車販売100%を目指す誓約などが締結されました。また、近年の自動車市場においてEVの販売比率が飛躍的に伸長しており、国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年時点で普及している世界のEVは1000万台を超え、前年比では43%もの増加。さらに、EVはコロナ禍でも前年比で70%もの販売増加を記録したのです。世界最大のEV大国とされる中国では、EV購入の補助金を制限した結果、価格がやや下がったため、販売数が伸びた可能性があるとのこと。

 

当然ながらEVの普及には数多くのハードルが存在しています。カンボジアは、車道や送電網を含めたインフラの整備、EVバッテリーの廃棄、人材育成などの課題を抱えています。これらを解決するためには、政府や諸外国、国際機関の支援に加えて、民間企業の連携が不可欠。カンボジアは、中国がリードする世界の自動車市場のEV化について行く意思を示しているだけに、日本企業はカンボジアの動向にもっと注意を払うべきでしょう。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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一人じゃ無理! NASAが進める「電気飛行機計画」とは?

電気自動車や「空飛ぶタクシー」など、電気を動力とした乗り物へのシフトが進む今日、その波は飛行機の世界にも押し寄せています。しかし、大型の飛行機を電気の力で飛ばすプロジェクトにNASAが取り組んでいることをご存知ですか?

 

開発目標は2035年

↑電気だけで飛行機は飛ばせる?

 

2015年に発表された今後20年のロードマップによると、NASAは温室効果ガスの排出量を抑え、より安全で静音な航空輸送機の開発を目的としながら2035年までに電気飛行機の実用化を目指しています。

 

現在、飛行機はジェット燃料と呼ばれる化石燃料を燃焼させて推力を得て飛行していますが、この燃料は飛行機が数多く飛べば飛ぶほど温室効果ガスを排出しています。

 

日本では経済産業省が2017年から2036年の20年間で、世界の航空需要は年平均約5%で成長すると見込んでおり、この航空需要の増加に伴い温室効果ガスの排出量も増大するという見通しから、航空業界でも地球温暖化対策が議論されるようになっているのです。そこで電気自動車の開発と同じように持ち上がっているのが、環境にやさしい電気飛行機開発の構想です。

 

このような背景のなかでNASAは電気飛行機プロジェクトを進めているのですが、具体的にNASAでは「X-57」の開発が進められています。

 

「Maxwell」の愛称を持つ完全電動式の飛行機「X-57」計画が2016年に発表されました。それによると、X-57  Maxwellは左右に細長く伸びた翼を持っており、各翼に6個ずつ電気モーターと翼の先端に大きめの電気モーターが各1個ずつ、計14個の電気モーターが付いた構造となっています。

↑X-57 Maxwellは本当に空を飛ぶか?

 

この設計にもとづき作られたX-57 Maxwellが2019年、カリフォルニア州エドワーズにあるアームストロング飛行研究センターでお披露目されました。しかし、飛行機は大型の乗り物であるため、電気自動車や空飛ぶタクシーのような垂直離着陸機と比べて、ずっと高出力の電気モーターが必要になります。バッテリーを大きくすれば出力は高くなりますが、飛行機が効率よく飛行するためには軽量化が必須。そのため、電気飛行機では小型で軽量かつ高出力なモーターが求められるという大きな課題があるのです。

 

そこで2020年2月、NASAは動力を推進力に伝えるためのパワートレインシステムの開発を行う企業をアメリカ国内から広く募ることを発表。メガワットクラスと桁違いの出力を必要とする飛行機で、効率的にエネルギーを伝えるシステムの開発が求められているのです。

 

ちなみに、日本でもJAXA(宇宙航空研究開発機構)が電気飛行機の開発に着手しており、電動航空機「エミッションフリー航空機」を2030~50年代までに実用化するという目標を掲げています。ただし、NASAがパワートレインシステムの開発企業を募集したように、電動飛行機の実現には数々の技術開発が必要となり、複数の分野の技術力が必要。そのためNASAもJAXAも、官民一体となった共同開発が電気飛行機の実現には鍵となってくるようです。

 

タクシーを超えろ! 最大50人も乗れる「空飛ぶバス」をイギリスが構想中

現在ドローンを活用した「空飛ぶタクシー」が、新しい交通手段として世界各国で開発されていますが、そのほとんどの乗車定員数は少数にとどまっています。しかし、そんな前提条件を乗り越えようと国家で挑み、この分野のリーダーになろうとしている国がありました。それがイギリスで、この国では最大50人もの乗客を乗せる「空飛ぶバス」構想が持ち上がっています。

 

イギリス式空飛ぶバス

↑イギリスが国を挙げて構想している空飛ぶバス

 

イギリス政府が助成する戦略的政策研究機関のUKリサーチ・イノベーションは、これからの社会を大きく変えそうな課題に取り組むために「Industrial Strategy Challenge Fund」を立ち上げ、税金や民間からの資金を使って、低炭素社会における経済成長や高齢化、AIなどの研究を行っています。

 

モビリティ革命も課題のひとつであり、同ファンドは4年間で1億2500万ポンド(約186億円)という予算をかけて「The Future Flight Challenge」というプロジェクトを行っています。新しい空の交通手段の開発だけでなく、無人飛行システムやサステナブルな航空ネットワークの構築という3つのプログラムから構成されるこの企画には15社が参加し、コラボレーションしていますが、そのなかでリーダー的な役割を担っているのが、イギリスの大手航空機製造メーカーのGKNエアロスペース。世界14か国に48の工場を展開し、従業員は1万7000人にのぼります。

 

最近、同社は新しい交通手段を発表。「スカイバス(SkyBus)」と名付けられたこの乗り物は、ドローンのように電力で垂直に離着陸が可能な電動垂直離着陸機(eVTOL)です。小型飛行機のように空を飛ぶため、クルマ、電車、バスのように地上を走る交通機関よりも、移動時間を大幅に短縮し、渋滞の心配もありません。

 

また世界の都市で開発が進められている空飛ぶタクシーは、乗客の目的地に合わせてさまざまなルートを飛びますが、このスカイバスは地上を走るバスと同じように、決まったルートを運航する想定で計画されています。つまり、名前の通り「空飛ぶバス」のような存在になるわけです。

 

環境に優しく、しかも現状の交通手段よりも便利になるかもしれないスカイバスは将来の乗り物として理想的かもしれません。しかし、このスカイバスはまだ計画の初期段階。30~50人を乗せる大型機となると、巨大なバッテリーや充電設備が必要になるのは明らか。さらに大型化によって、充電効率の悪化などが課題として持ち上がると考えられます。しかし、Co2排出量の削減は地球全体が抱える大きな問題。このような問題をどのように解決するのかをチームUKは考えなくてはなりません。はたしてGKNエアロスペースは、航空機製造のスキルやリソースを活用することができるのでしょうか?