日本車が競争力で劣る、ラオスで中国車・韓国車が人気である裏事情

ラオス人が所有する乗り物は、他の東南アジア諸国と同様に小型バイクが主流。便利な足として「トゥクトゥク」が大活躍しています。ラオスは国土の多くが山岳で占められ、“東南アジア最後の秘境”とも呼ばれますが、近年では高速道路などの交通インフラが整い始め、都市部では舗装道路や信号も十分に整備されるようになりました。しかし、ラオスには独特なクルマの文化があり、図らずもサステナビリティーを体現していたのです。

ラオスの首都・ビエンチャンの風景

 

国民の自動車所有率は低い

ラオスの自動車所有率はとても低く、まだ国民の1~2割程度。そこには、いくつかの原因があります。

 

まず、国民の収入に見合った価格で製造・販売されている自動車がありません。ラオスは自国で自動車を生産していないため、人々は外国から輸入した外車を購入するしかありません。国内で販売する際には当然ながら関税がかかってくるので、どうしても高価になっています。

 

しかも、ラオスでは2012年からトラック、バス、建設機械以外の中古車は輸入禁止になっています。輸入車は全て新車になるためかなり高価であり、一般庶民にとってはとてもハードルが高いのです。

 

すでに国内で流通している中古車の販売は認められていますが、台数も少なく本格的な中古車販売店もないため、販売方法は主にインターネットによる個人売買。通りでは「For Sale」のボードを貼ったクルマを見かけますが、個人売買ということに変わりありません。

 

ミニマムな修理

ラオスの自動車修理工場

 

これらの理由から国内流通の自動車台数は増えず、結果的に一台の車を大切に乗り続けるというスタイルになるのです。

 

ただし、一台の自動車を使用し続けるにはこまめな修理が不可欠です。ラオスの自動車修理事情は、どのようになっているのでしょうか?

 

例えば、パワーウィンドウスイッチの故障が起きたとしましょう。一般的には、日本のディーラーであれば、スイッチパネルごと新品に交換すると思います。顧客を待たせることなく確実に修理が完了できる方法ですが、どうしても修理費用が高くついてしまいます。

 

一方、ラオスではスイッチを分解しピンポイントで故障個所を特定。そして、問題となっている電気的接点を磨くなどの手直しを施すのです。こういった修理方法を行うことで修理代が格段に安く済み、新しい部品を使わずに済みます。

 

ちなみに、パワーウィンドウスイッチの分解修理代は、20万キープ(約1570円※)程度で、もし部品交換が必要になったとしても最低限の交換で完了します。デメリットとしては、故障が再発する可能性があることや、修理の待ち時間が長いことです。

※1キープ=約0.0079円で換算(2022年12月15日現在)

 

日本の顧客サービスではなかなか見られない修理方法かもしれませんが、そこは価値観の違いということもあるのでしょう。

 

故障しにくい日本車のデメリット

エンジンも分解して修理する

 

実は、中古車として購入しても修理費用が高価になるとラオスでいわれているのが日本車なのです。

 

ラオスで利用されている自動車は韓国車、中国車、日本車が中心ですが、その中でも存在感が大きいのは韓国車と中国車。日本車の利用が韓国車や中国車に及ばないのは、現地で日本車を修理する人たちのスキルが低いということや、日本製のリペアパーツが高価であることなどが理由とされています。

 

クルマの購入を自動車修理工場に相談すると、「日本車は故障しにくいが、壊れた場合はお金がかかる」「韓国車は故障しやすいが、修理代は安く済む」といわれます。日本車に関しては、メーカーなどが修理スキルの向上やパーツ価格の見直しなどビジネス面の問題点を改善することにより、存在感をさらに高めていく可能性が生まれると思います。

 

ひと昔前までは日本でもラオススタイルの修理が行われていましたが、最近は大きい単位の部品を丸ごと交換する手法が主流となっています。一方で、必要に迫られてのこととはいえ、一台の車を修理しながら長く使うというラオスのスタイルは、大量消費は減らせるのだということを再確認させてくれます。

 

古い部品を無駄に交換することなく、磨いたり手直ししたりして、自動車を大切に使い切るという精神は、サステナビリティーにも通じるところがありますが、日本人も学ぶべきであるように思います。

 

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退職後、途上国で農場経営へ。ラオス×農業のポテンシャルと課題について

面積にして日本の本州ほどの国土に、約710万人が暮らすラオス。その南部に広がるボラベン高原は、ラオス有数の農業地帯として知られています。

 

そんなボラベン高原で、2012年より農園を経営しているのが山本農場の山本郁夫さんです。青年海外協力隊やJICAでの農業支援など、途上国での活動経験が豊富な山本さん。なぜラオスで農業を始めたのでしょうか。インタビューを通して、途上国における農業の可能性、農場経営のヒントを探ります。

山本郁夫さん●1955年生まれ。農業機械メーカー勤務を経て、青年海外協力隊隊員としてケニアへ。その後、JICAの農業専門家として東南アジアや南米などの途上国で活動する。帰国後は、アイ・シー・ネット株式会社のコンサルティング部に勤務しつつ、国内で8年間農業に取り組む。その後、同社代表取締役に就任。退職後、2012年よりラオス・ボラベン高原で農場を経営する。

 

ラオス有数の農業地帯・ボラベン高原

標高1000mを超えるラオス南部・ボラベン高原は、熱帯地方に属しながら年間を通して気温が25度前後と冷涼なため、温帯性作物をはじめ、さまざまな農作物の栽培に適した地。タイ、ベトナムなどの大消費地に近いという地の利にも恵まれています。

 

中でも盛んなのが、コーヒーの栽培です。国内9割のコーヒーがボラベン高原で生産され、海外企業の投資による1000ha規模の大農園や加工工場が点在。ほとんどの農家がコーヒー栽培に従事する、この地域を代表する一大産業になっています。他にも、白菜やキャベツなど高原野菜の産地として知られています。

海外資本によるコーヒー農園

 

それにもかかわらず、ボラベン高原には未開発の農地や農業資源も多く、ポテンシャルを十分に引き出せているとは言えません。多くの企業や農家がさまざまな農産物の生産に取り組んでいますが、農業技術、流通ルートの確立、労働者の確保などの課題に直面し、頓挫するケースも。一方で、近隣地域にパクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区の開発が進められるなど、日本企業・日系企業からも注目を集めています。それだけ伸びしろの大きいエリアであることが窺えます。

 

日系企業と連携し、タマネギのシェアNo.1を目指す

山本さんがボラベン高原で農場を始めたのは、2012年のこと。開発コンサルタントとして世界各国で農業支援を行ってきた山本さんは、40代の頃に国内で農業を始めたものの、道半ばにして諦めた過去がありました。やがて定年退職が間近に迫り、かつて果たせなかった夢を叶えるため、ラオスで農業を始めようと決意。

 

「開発コンサルタントをしていた頃、JICAの依頼を受けてカンボジア、ラオス、ベトナムの貧困地帯を調査しました。3カ国を巡ったところ、もっとも魅力を感じたのがラオスのボラベン高原。農業の発展可能性、ラオスの人々の親しみやすくて大らかな人柄に惹かれました。そこで、これまでの知識と経験を生かし、ボラベン高原でもう一度自分が目指す農業に挑戦しようと考えました」

 

こうしてラオスに渡り、42haの農地を借り受け、ひとりで農場経営を始めた山本さん。この地で目指したのは、環境に優しい循環型農業でした。

循環型農業実施のため、現在でも牛の放牧を行っている

 

「肉牛を放牧し、牛糞でたい肥を作り、作物に還元する“耕畜連携”の農業を始めました。当初はコーヒーの栽培から始めましたが、やがて日本企業と業務提携し、イチゴの試験栽培を始めることに。日本から来た技術者とともにイチゴを生産し、ラオスでも大きな評判を呼びました。ただ、貿易協定や検疫の問題に阻まれ、タイやベトナムへの輸出は叶いませんでした。その後、新型コロナウイルスの影響により、残念ながら提携企業が撤退を余儀なくされたのです」

 

そして現在、力を入れているのはタマネギとタバコ。どちらも日系企業と連携しながら、取り組みを進めています。

タマネギの苗づくりはビニールハウス内で実施

 

2021年から試験栽培を始めたタマネギは、日系企業であるラオディー社の依頼がきっかけ。今後の主力作物になると山本さんは期待しています。ラオディー社は、ラオスで高品位なラム酒の生産に成功し、ヨーロッパの展覧会で金賞を受賞するなど実績のある企業。ビエンチャン近郊に農場と醸造所を持っています。日本の大手食品会社の依頼を受けた同社が乾燥タマネギの仕入れ元を探していたところ、山本さんに行き着いたそうです。

 

「ラオスではタマネギの生産量が少なく、国内で消費するタマネギの多くはベトナムや中国から輸入しています。そこで、まずは周辺の農家を巻き込んで規模を拡大し、ラオス国内のマーケットを見据えた生産を考えています。日本に輸出するのは乾燥タマネギですから、形や大きさが不揃いなB品を加工しても問題ないので、将来的にはラオディー社と協力して国内マーケットの余剰分やB品を加工輸出するようにしたいと考えています」

 

昨年、初挑戦した試験栽培は、病害により失敗。しかし、提携しているラオディー社の士気は下がることなく、今年、山本農場は2haのタマネギ畑を開墾しました。今後は、10haまで拡大することも検討しています。

 

一方、タバコの生産を依頼したのは、パイプなどの喫煙具やタバコを輸入・製造・販売する浅草の柘製作所。現在の作付面積は1haですが、長い目で生産量を増やしていく考えです。

 

生産したタマネギとタバコは、どちらも提携する日系企業が買い上げてくれるため、物流ルートを開拓する必要はないと山本さん。

 

「個人で物流ルートを開拓するのは大変ですが、日系企業と組めばその苦労はありません。日本でも個人で小規模な農業を始めると、農協に農作物を収めて生活できるようになるまで3年はかかります。農協のような組織ができあがっていないラオスのような国では、現地の市場で販売するのが関の山。日系企業と手を組むのは、販売ルートを確保するうえで大きなメリットです」

 

日系企業と連携するメリットは、他にもあると言います。

 

「農業は、人材・物・資金の3つが不可欠。私も当初はひとりで農場を運営していましたが、徐々に現地の日系企業の方々との人間関係が構築され、そこからイチゴの栽培が始まり、現在のラオディー社や柘製作所との取り組みに広がりました。日系企業と連携し、お互いにできること・できないことを補完しながら農業に取り組むほうが、最終的な成功に結び付きやすいと実感しています」

 

途上国人材とともに働くことの課題

現在は、住み込みの家族を含む4名を雇用している山本農場。農繁期にはその都度、労働者を確保し、日本で技能研修を受けたサブマネージャーがハブとなって労働者を仕切っています。しかし、労働力はまだまだ不足しているとのことです。

山本農場にて住み込みで働いているラオス人家族と山本さん

 

「人材・物・資金の中でも、特に重要なのは人材です。ラオス人はどちらかというと労働意識があまり高くなく、1日来て、翌日からはもう来なくなり……の連続。もちろん勤勉な方もいますが、コーヒーの収穫時期になると『来週から来ないよ』と言われることも。今はコーヒーの価格が高く、その分労働者の待遇も良いため、そちらに移ってしまうのです。

 

都市部の工場などではFacebookなどのSNSを活用した求人を行ったりしているようですが、ボラベン高原は都市部から離れたところにあるので、それも難しいのが現状。収穫時期などの繁忙期には、サブマネージャーが友人や親戚に声をかけることで人を集めていますが、親戚や知人ばかり集めると、いざ冠婚葬祭や行事があるたびに揃って村に帰ってしまうなど弊害も大きい。安定的な人材の確保は大きな課題なのです」

 

山本さんが頭を悩ませる安定した労働力の課題。そこで今後、農場の拡大に必要となってくると考えているのが、しっかりとした技術を身に着け、現地の人たちを上手にマネジメントしてくれる日本人の雇用や育成です。では、どんな人がラオスでの農場運営に向いているのでしょうか。

 

「チャレンジや苦労を楽しめる、フロンティアスピリットに溢れた人ですね。のんびりした国なので、腹の中にしたたかなものを持ちつつ、人と鷹揚に接することができるタイプが望ましいでしょう。農業経験があるに越したことはありませんが、もし一から始めるなら強い意志が必要だと思います」

 

核となる農産物を見出し、現地に根差した農場経営を

現在、山本農場では事業拡大のため、農業技術者やマネジメント能力に長けた人材を募集中。

(問い合わせ先:山本ファーム メールアドレス:yamamotoikuojp3@gmail.com)

 

「農業の経験があり、途上国開発や農業開発に熱意を持つ人、ビジネスを成功させようという起業家精神のある人に来ていただけたらと思います。ラオディー社の社長と日頃から話しているのは、『高い報酬を払えば、日本から技術者を送り込んでもらえるかもしれない。でもそういう人では失敗するだろう』ということ。ああでもない、こうでもないと現地で試行錯誤しながら農業を行い、利益を出すための施策を考えることができる人が、成功するのでは」

 

持続可能な地域農業を実現するには、まだまだ課題の多い途上国。ラオスをはじめとする途上国で日本人が農場経営を行う場合、必要だと考えられる条件を山本さんに伺いました。

 

「大切なのは、中核となる農産物を見出し、現地に定着して農場経営を行うことです。日本の商社が何億円もの資金をつぎ込んだものの、撤退を余儀なくされたケースは少なくありません。現地を時々訪れる出張ベースではなく、その地に定住し、責任者として気概を持ってビジネスに取り組まなければ成功は難しいでしょう。中南米では日本人が移住し、苦労しながら農業にいそしんだ結果、現地の農業発展に寄与しました。日本政府も官民連携の支援策を出していますが、現地に根差して農業を行う人を増やし、成功事例を積み重ねていかなければならないと思います」

 

ラオスに腰を据えて約10年、トライエンドエラーを繰り返しながらも、地道に農業経営を続ける山本さん。そんなあきらめずに前を見続ける姿勢にこそ、成功のヒントが隠されていると言えそうです。

 

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ラオスのライフスタイルの変化はFMCG市場参入の商機! SNSの活用で未来の顧客を啓蒙

ASEAN加盟国の中でも、3番目に人口の少ないラオス。直接投資では、中国やタイ、ベトナムなどの周辺国の存在感が大きく、日本ではビジネス対象としての認識が低い現状がありますが、近年じわじわと経済発展を遂げています。都市部から会社勤めをする人々が増加し、ライフスタイルも大きく変わり始めています。そんなラオスで、今、日本の日用消費財を提供するスーパーマーケットが盛況です。日本企業の進出が進んでおらず、在留邦人が700人程度のこの国で、なぜ日本の商品が人気を集めているのか? ラオスで日本の商品を輸入販売している守野氏に話を聞きました。今回は、その中でも「食」に焦点をあて、その背景について考えます。

 

Phin Tokyo Plaza店内(https://www.facebook.com/PHINTOKYOPLAZA/

 

お話を聞いた人

守野雄揮氏

PTP Company Limited 代表取締役社長。2010年より2年間、JICAの地域開発プロジェクトに従事するためラオスに赴任。その後2012年にPTP Company Limitedを立ち上げ、ホテル業、ツアー業、コンサルティング業を中心に事業を開始した。2012〜2015年にはJICAの「南部ラオスにおける地域モデルによる⼀村⼀品推進プロジェクト」にも参画。2015年には日本の日用消費財を輸入販売する小売業にも参入し、店舗拡大を続けている。

 

6~8%の安定した経済成長率が変えるラオスのライフスタイル

 

ラオスに来た多くの日本人が、「ゆっくりとした時間の流れ」をまず感じると言います。国土は、日本の本州と同程度ながら、その人口はおよそ700万人と日本の人口の1割にも満たないラオス。街を走る車やバイクの数も日本とは比較にならないほど少ないことがその一因です。さらにラオス人の国民性として、時間を厳密に守ることに重きを置かないという点も影響しているようです。

 

「おおらかな国民性は旅行者にとって魅力的ですが、ビジネスを始めるには、難しい面もあります。期限通りに仕事は進まず、雨が降れば、遅刻や欠勤も当たり前。仕事よりも自分の生活を大切にしながら暮らすのがラオスの風土です。だからこそ、衣食住に関する関心も高く、特に食事は、時間をかけて自分で調理し、しっかりと食べる価値観が根づいています。しかし、都市部から、その傾向に変化が見られるようになりました」

 

コロナウイルスの感染拡大以前は、工業やサービス業の拡大もあり、概ね6~8%の経済成長が10年以上続いていました。産業分野別の就業人口構成比では、いまだ農業が7割近く、国民の多くが自給自足的な農業に従事する貧しい国というイメージもありましたが、2019年の産業構造は、サービス業(GDPの約42%)、工業(約32%)、農業(約15%)。農業の比率は年々減少しています。

 

「最近では、残業することが増え、都市部では渋滞も発生しています。仕事や通勤に時間を取られ、ゆっくりと市場へ食材を買いに行く時間はなくなりました。共働き家庭が多いので、子どもの送り迎えなどでも忙しく、食事を作る時間が取れず、外食やテイクアウトを利用する方が多くなっています。私がラオスに赴任した10年前と比べ、会社勤めをする方が増えているので、ラオス経済の発展という視点では良いことなのですが、それによって都市部から徐々に仕事を優先する、仕事を中心としたライフスタイルに変化しています」

 

IMF – World Economic Outlook Databases (2021年10月版)より

 

Parkson(パクサン)ショッピングモール

 

富裕層の増加とライフスタイルの都市化が日本食ニーズの追い風に

 

現在、守野氏は、変化するラオス人のライフスタイルに対応すべく、日本の食材や日用品を扱う「Phin Tokyo Plaza」というスーパーを国内に4店舗展開しています。

 

「現地法人を設立した当初は、ホテルやツアーなどの観光業がメインでしたが、並行してJICAの事業にも参画していました。地域住⺠の⽣計向上と産業振興を目的に、地方の手工芸品や農産加工品などの特産品を開発し、都市部で販売するプロジェクトです。その一環としてラオスで日本米を作ったのですが、それがすごく人気で。これなら日本の食材のニーズがあるかもしれないと思ったのが小売業立ち上げのきっかけです。年々富裕層が増えていると感じていましたし、当時はまだ、直接日本から商品を輸入して販売している会社がなかったのでビジネスチャンスだと思いました」その読み通り、「Phin Tokyo Plaza」は順調に売り上げを伸ばしています。

 

忙しくなったラオス人の食卓に、手軽に取り入れられる日本食

 

ラオスの食文化は、米とスープを食べるという特徴があります。ご飯と味噌汁を基本とする日本食に近く、出汁を取る料理が基本なので日本食との相性もいい。近年のライフスタイルの変化も相まって、忙しい中でも手軽で美味しく、栄養価の高い日本の食材のニーズが発生したと考えられます。こうした食材は、レストランとは違い、毎日の食卓で使われるもの。ですから、「ラオスの食生活と親和性が高く、日常的に取り入れやすい商品の人気が高い」と守野氏。特に「わさび」「乾燥わかめ」「ふりかけ」は、日本食材のスーパーだけでなく、コンビニでも人気の3商品です。

 

「隣国タイでサーモンが人気だということも影響して、ラオスでもサーモンの刺身を好む方が多く、少し高級なスーパーマーケットに行けば、普通にサーモンを購入できます。当社も冷凍サーモンを販売していますし、サーモンと一緒に、わさびを選んで購入する方が多いんです。乾燥わかめに関しては、スープの中に入れるだけという手軽さが受けています。商品のインパクトも重要ですね。乾燥わかめは、水に浸すことで、かなり量が増えるので、お得感もある。その点も人気の理由だろうと感じています」

 

ラオス人は、基本的にタイの影響を大きく受けています。タイ語とラオス語がかなり似通った言語ということもあり、タイ語を理解できる人が多く、タイの YouTubeやテレビを普段から視聴しているからです。日本食が流行したタイのトレンドを追い風にラオスで日本食市場が拡大したことも、日本の食材を受け入れる土壌になっているのかもしれません。今では、日本食レストランの数も増え、日本レストランをオープンするラオス人の経営者も現れてきました。富裕層のための高級店から庶民的なレストランまでお店の幅も広がっています。

 

ふりかけは、売れ筋ランキングTOP10に3種類もランクインする人気商品。野菜が嫌いなラオス人は少なく、日本の青汁は簡単に栄養が取れて美味しい上に飲みやすいと好評だ

 

医療体制の脆弱さから健康志向に。栄養価の高さも人気のポイント

 

ラオスの平均寿命は68.5歳(2019年時点)。周辺のタイ(77.7歳)、ベトナム(73.7歳)と比べても低い傾向です。食生活や経済的な要因もありますが、ラオスの医療体制の脆弱さの影響は小さくない。その事実が、ラオス人の健康に対する意識を高めていると言えます。

 

「ラオスの医療レベルは決して高いとは言えず、ラオス人もそれを実感しています。コロナウイルスの拡大前であれば、経済的に余裕があるラオス人は、出産や緊急時にタイの病院を利用していました。健康にまで気を配れる方が増えるぐらい豊かになっているともいえると思います。コロナ前は、エアロビやランニング、ジムに行くなど運動によって健康を保っていた方も、今年の4月から再び厳しいロックダウンが続いているため、外出せずに健康的な生活を送りたいと考えているという印象です」

 

国内の医療に頼れないからこそ、自助努力で健康を維持しようとするラオス人にとって、手軽で質の高い栄養素を提供してくれる日本の食材は魅力的に感じるのでしょう。特にラオスは、海に接していない内陸国という地理的な特徴により、海鮮系の商品が手に入りにくいためヨウ素と言われるワカメや昆布に含まれるミネラルが不足しがち。こうした点も日本の食材が求められる要因となっています。

 

さらに、食の楽しみを大切にするラオス人は、美味しいものを我慢するという考えはなく、足りない栄養をサプリメントで補うということにも抵抗がありません。以前から薬局で処方されるようなビタミン剤などはありましたが、より手軽に栄養を補いたいというニーズが日本食材の普及で顕在化し、最近では、サプリメントや日本の機能性表示食品などにも注目が集まっています。

 

 

ラオスの食市場参入を成功させるポイントは、商品認知とSNS

 

ラオス人の食生活に手軽に取り入れやすい商品が人気になりやすいことは、お伝えした通りですが、それ以上に、「商品をどう使い、どう食べればいいのか」が一目でわかるようなパッケージが、売れる商品の必須条件です。中身が美味しそうに見えることも重要。日本から入ってきた商品は、ラオス人には、馴染みのないものも多いですが、仕事で忙しさを増す中、商品の詳細をテキスト情報で確認するほどの時間的余裕はありません。

 

「写真もなく、中身も見えず、文字だけのパッケージは、すごく売りにくい商品です。ラオスではスルーされてしまいますから、パッケージは参入の際の大事なポイントですね。タイからの情報が入ってきますので、タイのSNSでバズったものが、ラオスでも人気になるというようなことも多々ありますが、それでもまだ、“いい商品がない”というより、“いい商品が何かわからない”というのが実状」と守野氏。商品を見る目が養われておらず消費者としても発展途上の国。だからこそ「Phin Tokyo Plaza」では、商品情報を伝える手段としてSNSを活用しています。

 

「ラオスでは、Facebook がSNSの主流。当社の Facebookは4万人のフォロワーがいます。そこで美容部員や現地のスタッフが新しい商品や商品のポイントを伝えています。多くのお客様とは Facebook上でつながっているので、気軽に質問を受けられる環境です。Facebookライブの配信により、お客様がこちらに親近感を抱いてくれて、使い方や商品の問い合わせを頻繁にいただくようになりました」。さらにSNSの活用により、インフルエンサー的な影響力を持つ美容部員が生まれ、彼女が紹介すれば売れるという現象も起きています。とはいえ、日本でイメージするインフルエンサーとは違い店舗のオフィスに座っている一従業員。店舗を訪れれば、いつでも会えるインフルエンサーです。

 

「Phin Tokyo Plaza」は、スーパーマーケットの中にオフィスを構え、お客様からも全従業員が見えるように店舗を設計。「現地のラオス人が知識のない外国商品を購入する場合、誰かが説明してあげなければ売れるはずがない」という考えの元、お客様の質問にも対応しやすくしています。特に日用消費財のような商品は、お客様との距離を近くして、商品の良さや使い方を説明することが重要です。お客様との距離が近い昔ながらの商店のような良さとSNSを活用した現代的なコミュニケーションを両立させた手法が、日本食材の普及に一役買っています。マーケティング活動において、新規顧客を獲得するだけでなく、既存のお客様との関係づくりの必要が高まっている今、注目すべきポイントが多い事例です。

 

お客様とのコミュニケーションにすぐ対応できるよう店内にオフィスを構える

 

Facebookライブ配信の様子(人気の美容部員ピンさん)

 

市場規模だけでは測れない、優良顧客としてのラオスの可能性

 

「多くの日本企業にとって、ラオスは、人口やGDPの面からも直接投資をする対象としては小さすぎる面はあると思います。しかし、実際に投資する価値が低いかというと、私はそうは思っていません」タイなどの周辺国と嗜好性の近いラオスでなら、東南アジアで売れた商品を小規模、省コストでテストマーケティングすることも可能です。

 

「企業単体で直接投資する段階には、もう少し時間がかかるかもしれませんが、ラオスに支社や営業拠点を構えるのではなく、我々が商品を購入し、販路を広げていくことができるので、リスクを取る必要はありません。都市で流行した商品は、いずれ地方へと需要が拡大しますし、ラオスという国に商品を根づかせることが、次第に売上増加につながっていくと考えています」

 

日本の地方都市などでも、シャッター通りと呼ばれる地域の商店街の衰退により、買い物難民が問題になりましたが、市場規模の小ささから、多様な食品が手に入りにくい状況となれば、ラオスは東南アジアのフードデザートにもなりかねません。地域を問わず、すべての人に安全・安心で健康的な食品を届けることは、社会的な意義もあるはずです。

 

「所得が伸びているということもあり、最近では、オーガニック野菜や各国の食材を集めた高級スーパーマーケットが賑わっています。東南アジアでよく見かけるような市場とは一線を画し、ここはラオスなのかと目を疑うほどです」

 

今後さらに経済発展を遂げていくなか、さらに多様なニーズが生まれるでしょう。どんな商品がラオスに根づくかの予測がつかないからこそテストマーケティングの意味があります。市場規模は小さいとはいえ、今後、経済が伸びていく一方のラオス。食に対する関心もこだわりも非常に高い国民性です。早い段階からそうした国に参入し、商品の認知度を高めてアドバンテージを得ることで、将来、需要が爆発する可能性も充分期待できるのではないでしょうか。