【中年名車図鑑】TOYOTAの信頼性を世界中に知らしめた4WD界のレジェンド

“ヨンク”ブームの最中、トヨタ自動車は1989年に旗艦4WDモデルのランドクルーザー60系を全面改良し、新型の80系に移行させる。「4WDの新しい歴史が始まる」と謳った80系は、ユーザーの高級志向や海外での商品力強化など、販売マーケットの情勢を存分に踏まえて開発。大型化したボディに高級感が増した内外装、そして駆動系のフルタイム4WD化や懸架機構のコイルスプリング化などを実施し、世界中のユーザーから高い評価を獲得した。今回は“最高級マルチパーパス4WD”を謳ったランドクルーザー80で一席。

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【Vol.54 7代目トヨタ・ランドクルーザー(80シリーズ)】

1980年代後半の日本の自動車市場ではクロスカントリー(通称クロカン)4WDの人気が急速に高まり、いわゆる“ヨンク”ブームが巻き起こっていた。この状況に対して、ランドクルーザーという伝統ある4WD車をリリースしていたトヨタ自動車は、市場の要請をより踏まえた新しいランクルの開発に邁進する。とくに、国内外の様々なユーザーに向けた多用途性の高いロングボディの60系は1980年8月のデビューから長い期間が経過しており、早急の全面改良が必要とされた。

 

■4WD車の高級志向への対応と海外市場での商品力強化

90年代の“ヨンクブーム”のなか、RVとしての特性と、海外市場のニーズを併せ持つランクルが求められた90年代の“ヨンクブーム”のなか、RVとしての特性と、海外市場のニーズを併せ持つランクルが求められた

 

1990年代に向けたランクルのロングボディを企画するにあたり、開発陣は日本と海外の両方の市場傾向を徹底して分析する。ヨンク・ブームの日本市場では、ファミリーユースやアウトドアユースといったレクリエーショナルビークル(RV)としての特性をいっそう磨き、さらにユーザーの高級志向に対応する必要があった。一方で海外市場では、より大きなボディサイズで、かつ広い室内空間と荷室を有する4WD車が求められた。もちろん、従来から好評を博す機動性や耐久性なども、さらに高いレベルへと引き上げなければならない――。様々な角度から検討した結果、開発陣は次期型の商品テーマに「トレンドの先端を行く最高級マルチパーパス4WD」の創出を掲げ、洗練された車両イメージと伝統のタフさを高次元で両立させた“4WDの頂点”に仕立てる旨を画策した。

 

まず基本骨格については、強靭で耐久性の高いラダーフレーム構造をベースとしたうえで、全長と幅、前後トレッド、ホイールベースを拡大しながら剛性を高めた新ボディを架装する。サスペンションは従来の60系のリーフスプリング式からコイルスプリング式に一新。形式は前リーディングアーム/後ラテラルロッド付4リンクとし、横剛性およびロール剛性のアップや乗り心地の向上を図った。

 

また、上級モデルには減衰力を2段階に切り替えられる2ステージショックアブソーバーをセットする。操舵機構に関しては信頼性の高いボール・ナット式を採用。同時に、ギアボックスのコントロール部に設けた油圧反力室で作用する油圧を巧みに制御する新開発のPPS(プログレッシブパワーステアリング)を組み込んだ。

曲面で構成されたインパネに各種スイッチ類をずらりと並べる。ステアリングフィールは乗用車ライク曲面で構成されたインパネに各種スイッチ類をずらりと並べる。ステアリングフィールは乗用車ライク

 

搭載エンジンは、すべてのパーツの設計を見直したうえでトヨタ独自の燃焼法であるTRB(TOYOTA Reflex Burn)や新素材のFRM(Fiber Reinforced Metal)を使ったハイリングピストン、ニードルが2段階に作動する2スプリング噴射ノズルなどを採用した新開発の1HD-T型4163cc直列6気筒OHCディーゼルターボ(165ps)、1HD-Tとほとんど同一のブロックとユニットを採用したうえで燃焼室を渦流室式とした改良版の1HZ型4163cc直列6気筒OHCディーゼル(135ps)、そしてEFIによる高効率な燃焼とスムーズな吹け上がりを実現したガソリンユニットの3F-E型3955cc直列6気筒OHV(155ps)という計3機種を設定する。ディーゼル車の電気系統には、始動時のみ24Vとなる新機構の12/24ボルテージ・スイッチングシステムを導入した。

 

組み合わせるトランスミッションには、操作感を向上させた新開発の5速MTと2ウェイOD付4速ATを用意。高トルクを誇る1HD-Tエンジン用の5速MTには、1~3速にトリプルコーンシンクロを内蔵した。一方で駆動システムについては、主要グレードにセンターデフ付フルタイム4WDを採用する。センターデフは信頼性の高いベベルギア方式。緊急脱出用として、電動モーター式アクチュエーターを組み込むセンターデフロック機構も装備した。また、開発陣はパートタイム4WDのリファインも敢行。強度や耐久性のアップを図るとともに、異音および騒音の低減や歯車・軸受の小型化と軽量化を実施する。さらに、ワンタッチ2-4セレクターとメカニカルフリーホイールハブも装備した。ほかにも、全車にフロント&リアの電動デフロックとフルフロートリアアクスルを設定。オフロードでの走破性を十分に踏まえた4WD機構とした。

 

内外装のアレンジに関しては、“4WDの頂点”にふさわしい演出を目一杯に施す。エクステリアはフォルム全体を動的で張りのある曲面で構成し、近代的で存在感あふれるルックスを実現。ボディ形式はオーバーフェンダー付きのワイドタイプ(全幅1900mm)と標準タイプ(同1830mm)を用意した。内包するインテリアは、曲面構成のインパネやずらりと並べたスイッチ類、乗用車感覚のステアリングフィール、上質なシート表地、充実した装備アイテムなどで、高級サルーンのような雰囲気を創出する。シート配列はワゴンタイプが2/3/3名乗車の3列式、バンタイプが2(5)名乗車の2列式。1/2列目には、休憩スペースとして活用できるセミフラット機構を盛り込んだ。

 

■「4WDの新しい歴史が始まる」のキャッチで市場デビュー

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ワゴンタイプは2/3/3名乗車の3列式のシート。シート地は上質であたかも高級サルーンのようワゴンタイプは2/3/3名乗車の3列式のシート。シート地は上質であたかも高級サルーンのよう

 

新しいロングボディのランクルは、「ランドクルーザー80」と称して1989年10月に市場デビューを果たす。キャッチコピーは、その先進性を意図して「4WDの新しい歴史が始まる」と表現。車種展開はワゴンタイプで3F-E型エンジンを積むVXリミテッドとVX、バンタイプで1HD-T型エンジンを搭載するVXリミテッドとVX、バンタイプで1HZ型エンジンを採用するGXとSTDをラインアップした。

 

市場に放たれたランクル80を見て、従来からのファンは「ついにランクルもRV志向に走ったか……」とがっかりした。丸みを帯びたボディや高級になったインテリア、オンロード走行時の静粛性の高さと振動の少なさなどが、オフロード4WDの雄であるランクルにふさわしくないと判断されたのだ。同時期にデビューした高級乗用車に倣って、“オフロード車のセルシオ”とも呼ばれたりした。しかし、ランクル80をオフロードで走らせると、そうしたファンの声は一変する。センターデフロックと4Lレンジによる強力なトラクションに、いざというときに真価を発揮する前後デフロック機構、4輪コイルスプリングのよく動く足、そしてより剛性を増したボディなどが、オフロード走行での強力な武器になったのだ。「やっぱりランクル」と思わせるそのパフォーマンスに、ファンは改めて感心させられることとなった。

 

■ガソリンとディーゼルともに新エンジンに移行

新世代の高級4WD車として高い評価を受けたランドクルーザー80は、従来のランクルと同様、デビュー後も着実に進化を図っていく。まず1992年8月には、ガソリンエンジンを新開発の1FZ-FE型4476cc直列6気筒DOHC24V(215ps)に換装。同時に、オートマチックトランスミッションをより緻密な制御を実現したECTに変更する。さらに、4輪ABSや本革シートなどの新アイテムの設定、275/70R16タイヤの装着および全幅の拡大(1930mm)などを実施した。1993年5月になると、ワゴンにベーシック仕様のGXグレードを追加し、同時に全車のエアコン冷媒をR134aに切り替える。翌6月にはキャンパー装備を搭載する特装車の「アクティブバケーション」を発売。さらに、1994年5月にはランドクルーザー・シリーズの生産累計250万台達成を記念した特別仕様車の「メモリアルパッケージ」を、9月には専用ボディ色のアーバンナイトトーニングを採用した特別仕様車の「Gパッケージ」をリリースした。1995年1月にはマイナーチェンジを行い、ディーゼルターボエンジンを1HD-FT型4163cc直列6気筒OHC24Vディーゼルターボ(170ps)に換装する。さらに、フロントグリルおよびエンブレムやバンパーなどの一部デザインを刷新。また、インパネはセンター部を独立させた造形に変更した。1996年8月になると、デュアルSRSエアバッグと4輪ABSを全車に標準化して安全性能の強化を図る。さらに、ワゴンは全車ワイドボディに統一した。

 

高級マルチパーパス4WDとしての性能に磨きをかけ、またその走破性の高さと故障の少なさなどから北米や豪州、さらにはアジアや中近東といった海外市場でも販売を伸ばしたランドクルーザー80。1998年1月にはよりラグジュアリーで高性能な新型のランドクルーザー100に移行するが、80も海外を中心に現役で走り続けた。“TOYOTA”の信頼性の高さを世界中に知らしめた4WD界のレジェンド――。それがランドクルーザー80の真骨頂なのである。

 

【著者プロフィール】

大貫直次郎

1966年型。自動車専門誌や一般誌などの編集記者を経て、クルマ関連を中心としたフリーランスのエディトリアル・ライターに。愛車はポルシェ911カレラ(930)やスバル・サンバー(TT2)のほか、レストア待ちの不動バイク数台。趣味はジャンク屋巡り。著書に光文社刊『クルマでわかる! 日本の現代史』など。クルマの歴史に関しては、アシェット・コレクションズ・ジャパン刊『国産名車コレクション』『日産名車コレクション』『NISSANスカイライン2000GT-R KPGC10』などで執筆。