ワンカップのテキーラが発売される。一般的に750mlのボトルで売られるのが基本のテキーラを50mlのワンショットサイズで売るという発想は、正にカップ酒のフォーマットだ。
出典:「メキシコ大使館」プレスリリースより
世界初だというのだが、まあ、それはそうだろうなと思う。日本人に比べて、メキシコ人は圧倒的に酒が強い。テキーラなんて酒を日常的に飲んでいるのだ。日本酒とはアルコール度数からして違う。そんな国民性の中にあって、50mlどころかカップ酒の1合(180ml)だって、全然足りないから、商品として発想できないのだ。実際、今回発売されるテキーラ13(トレッセ)のワンショットサイズも、まずは日本での先行販売だ。本気の酒飲みには、割高になってしまうので、そこをどう売っていくかが世界進出の鍵になるのだろう。
ワンカップというフォーマットは、日本人にとってとても良くできている。「ちょっと一杯」の基本単位である一合の日本酒を、自販機やコンビニで買えてガラスのコップで飲めるのだ。焼き鳥の缶詰めにワンカップで、家呑みが十分成立する。考えた人は賢いと思うけれど、しかし、これがとてもローカルなフォーマットであることは間違いない。だからこそ、日本の風景に馴染むし、長く日本人に愛されもするのだ。
■グローバルに展開する「カップヌードル」
一方で、日本を代表するフォーマットにカップ麺がある。しかし、カップ麺はカップ酒に比べると、当たり前のようにグローバルに展開しているし、カップ麺がある風景が日本ならではという感じもしない。それは当たり前で、元祖カップ麺である日清の「カップヌードル」は、元々、アメリカでインスタント麺を売るために作られたフォーマットだからだ。
「チキンラーメン」が大ヒットした日清食品は、これをアメリカで売るのに、どんぶりに箸で食べるスタイルでは普及しないと考えた。ならば、カップにフォークで食べるヌードルというスタイルで売り出そう、という発想がカップヌードルを生んだのだ。だから、あの初代「カップヌードル」や「カップヌードルカレー」、「シーフードヌードル」は、ラーメンとも一言も謳っていない。フォークで食べるカップ入りヌードル、というフォーマットなのだ。
昭和40年代以前の生まれであれば、カップヌードルにフォークが付いていたのを覚えているだろう。明らかに箸の方が食べやすいのだけど、あれはフォークで食べることまで含めてスタイルだったのだ。なんて、アメリカン、と、当時の日清食品社長である安藤百福は考えたのだろう。その発売当初(1971年)、小学2年生だった私は、別にそれをアメリカンだとも洒落てるとも思わず、「おいしそうなのが出たなあ」と思っただけだったけれど、その製品としての凄さは、大人になってしみじみ感じている。
■フォーマットより大切なもの
世界中で売っていることよりも、未だに売り上げトップであるという事実が物凄い。それは、フォーマットが良かったというよりも、ラーメンではない、新しい食べ物として開発したからだ。新しかったのはスタイルだけではなく、その味を食べたければ、それを食べるしかないというオリジナリティ。今の日本では、多分、そういう企画は通らないであろう、前例の無い製品。
フォーマットと言えば、日本ではボールペンはノック式でないと売れないのだが、海外ではキャップ式が売れる。これも、お国柄によるフォーマットの違いだ。あの三菱鉛筆の低粘度油性ボールペン「ジェットストリーム」も、海外でキャップ式を発売した後、3 年以上掛けてノック式を開発後、日本での発売を開始した。パイロットの消せるボールペン「フリクションボール」も、日本で本格的に売れたのはノック式登場以降だ。
一方、海外では万年筆に近い書き味の水性ボールペンが人気商品だし、水性インクの書き味ながら、速乾性でにじまないゲルインクボールペンの人気も高い。とはいえ、そんなフォーマットの違いとは関係なく、現在、日本のボールペンの品質は世界一だ。その品質の上に、選べる「フォーマット」がある。
そういうことなのだろう。優秀なフォーマットは、大きなビジネスになるかも知れないが、フォーマットはインターフェイスと切り離しては考えにくい。そしてインターフェイスは、お国柄というか、パーソナリティに左右される。ならば、魅力的なオリジナリティがある中身を考えることだ。それがあれば、フォーマットは選択肢として提供できる。そういうことなのだと思う。
【著者プロフィール】
小物王 納富廉邦
フリーライター。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方などを得意とし、「おとなのOFF」「日経トレンディ」「MONOマガジン」「夕刊フジ」「ココカラ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな媒体で、文具などのグッズ選びや、いまおすすめのモノについて執筆。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方をお伝えします。