発電所は足の裏! 汗を電気に変える「超吸収フィルム」の正体

足の裏には多くの汗腺があるため、足の汗の量は1日でコップ1杯になると言われています。そんな汗を吸収して、ウェアラブル機器の電力に換えるフィルムが最近シンガポールで開発されました。一体どんな仕組みなのでしょうか?

 

従来の15倍の吸収力

↑新開発されたインソール。汗のかき具合が色でわかる

 

私たちが汗をかくのは体温調節のため。汗をかいてその水分が蒸発したときに表面温度が下がるので、涼しさを感じることができます。そして汗腺が多く集まる足の裏はたくさんの汗をかき、1日中靴を履いたままでいると、不快感を感じるものです。

 

足の汗を吸収して快適に過ごすために、さまざまなインソールが市販されていますが、今回シンガポール国立大学の研究チームが開発に取り組んだのは吸収性に加えて、プラスアルファの機能を持ったもの。それが汗を電気に変えるという機能でした。

 

この研究チームが開発したのは、塩化コバルトとエタノールアミンの2つの吸収性物質でできた超吸収性フィルム。吸湿剤にはゼオライトやシリカゲルなどがよく使われていますが、研究チームが開発したフィルムは、それらと比べて15倍の水分量を吸収し、吸水スピードは6倍になるのだとか。おまけに太陽光にあてると水分を蒸発できて、100回以上繰り返し使用できます。しかもフィルムは吸水状況に応じて青から紫、ピンクに色が変化するため、色を見て吸湿度合を判断することが可能。

 

そして、このフィルムは汗から電気を発生させる機能もプラスしました。汗の主成分は水分であり、フィルムに使われた電気化学セルが水分から電力を生じさせます。電気化学セル1個で0.57ボルトの電気が発生し、全体では8個のセルが使われ、発光ダイオードに十分な量の電力になるそう。つまり、この電力を利用すれば将来、ウェアラブル機器など私たちが身に着けているデバイスの電力として利用できる可能性があるのです。

 

汗から発生させた電力をウェアラブル機器に利用する具体的な方法について研究チームはまだ明らかにしていません。研究チームは既にこのフィルムを使ったプロトタイプのインソールを3Dプリントで制作していますが、これを製品化させるために共同研究を行う企業を探しているとのこと。今後の発展が楽しみですね。

 

JICA広報誌mundiの人気企画「地球ギャラリー」がWebギャラリーに!: EARTH CAMP(1/31)トークイベントでは写真家が登場

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、新たに始まった「途上国の今」を伝えるウェブ上の写真ギャラリーと、その公開を記念したオンライントークイベントについて取り上げます。

↑Webギャラリー「mundi地球ギャラリー」のトップページ

 

JICA広報誌「mundi」の人気企画「地球ギャラリー」が、JICA公式ウェブサイト上で「mundi 地球ギャラリー」として新登場します。「地球ギャラリー」は2008年8月に連載が始まり、これまで約13年に渡って新進気鋭の写真家やベテランフォトジャーナリストらがとらえた「途上国の今」を写真と文章で紹介してきました。

 

今回、「mundi地球ギャラリー」の公開を記念して、国際協力キャンペーン「EARTH CAMP」メインイベントの1月31日に、写真家の清水匡さんと桜木奈央子さんのトークイベント「地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~」をオンラインで開催します。さて、どんな話がお伺いできるのでしょうか?

「地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~」

オンラインイベント視聴用URLはこちら

 

EARTH CAMP:コロナ禍においても「世界はつながっている」というメッセージを発信して国際協力・国際交流イベントを応援するキャンペーン。2021年1月30日と31日には、オンラインによるメインイベントを開催します。

https://earthcamp.jp/mainevent/

 

パキスタン大地震の復興支援から見えてきた女子教育の現状をルポ:清水匡さん

2005年10月の大地震で5700を超える教育施設が全壊・半壊の被害を受けたパキスタン。約15年経った今も、その半数近くが再建されていません。mundi 2019年1月号「地球ギャラリー」で「取り残された村」というタイトルで同国北部の村々をレポートしたのが、人道写真家の清水匡さんです。

 

清水さんは2003年からNGO「国境なき子どもたち」に所属しながら写真家として活動を続け、パキスタンでも学校の再建プロジェクトにNGOスタッフとして携わりつつ、子どもたちの姿を撮影しました。

↑mundi 地球ギャラリーに掲載されるインタビュー動画で、パキスタンについて語る清水匡さん

 

「今でもまともな校舎のない学校も多く、特に女子生徒の親御さんは、見知らぬ男性の目に触れやすい“青空学校”ですと、難色を示して通学させないこともめずらしくありません」と、現地ならではの事情を説明する清水さん。支援活動を続けていく中で、山岳地域は都市部と比べて女子教育の普及が遅れていることがわかりました。ニュースなどで取り上げられる機会も少ないことを指摘する清水さんは、「写真を通じて、パキスタンの子どもたちの現実をもっと多くの人々に伝えていきたい」と言葉に力を込めます。

↑清水さんの作品、mundi 2019年1月号 地球ギャラリー「取り残された村」より

 

↑清水さんの作品、地球ギャラリー「取り残された村」より

 

ウガンダの親友の結婚式で絆の大切さを改めて心に刻む:桜木奈央子さん

フォトグラファーの桜木奈央子さんは今から約20年前、大学在学中にNGOの一員として訪れたウガンダ北部の内戦にショックを受けたといいます。「子どもたちが反政府ゲリラ軍に誘拐されないように守るシェルターで運営のお手伝いをしながら、そこの子どもたちや人々の写真を撮り始めました」

↑mundi 地球ギャラリーに掲載されるインタビュー動画で、ウガンダについて語る桜木奈央子さん

 

桜木さんはmundi 2020年6月号の「地球ギャラリー」で、NGO時代から続く親しい友人の結婚式をテーマに選びました。「2020年1月、ハレの日がやってきました。ウガンダでは結婚してすぐに式を上げずに、家庭が落ち着いてから披露宴を行うことも多いのです」と、記事には「12年越しの結婚式」とタイトルをつけました。作品は、幸せそうな新郎・新婦、笑顔で溢れる親戚や友人たちの姿が続きます。なぜ、親友の結婚式にカメラを向け、どんな狙いでシャッターを切ったのか。その想いを31日のトークイベントで語ります。

↑桜木さんの作品、mundi 2020年6月号 地球ギャラリー「12年後越しの結婚式」より

 

↑桜木さんの作品、地球ギャラリー「12年後越しの結婚式」より

 

EARTH CAMPでトークイベント「地球ギャラリー 写真で旅する世界」を開催

「mundi 地球ギャラリー」の公開を記念したトークイベント「地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~」では、「テルマエ・ロマエ」などで知られる漫画家のヤマザキマリさんが登壇、落語家の春風亭昇吉さんがMCを担い、清水さん、桜木さんと途上国の姿を写真や漫画で表現する意義や苦労などを語り合います。

EARTH CAMP「地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~」
1/31(日)12:00~13:30

オンラインイベント視聴用URLはこちら

「mundi 地球ギャラリー」では、今後、清水さん、桜木さんの作品だけでなく、ミクロネシアのごみ問題や、モンゴルの鷹匠の少年を追った作品なども紹介していきます。誌面では語り切れなかったエピソードを盛り込んだ写真家のインタビュー動画もぜひご覧ください。

 

Webギャラリー「mundi 地球ギャラリー」
(1月29日以降にURLを掲載予定です)

 

コロナ禍だって世界はつながっている:1月30日、31日に「EARTH CAMP」メインイベントをオンラインで開催 さかなクンやヤマザキマリさんも登場!【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、楽しみながら国際協力について学び、考えることができるオンラインイベントについて取り上げます。

 

コロナ禍の今だからこそ、世界中で国際協力に取り組むことの大切さを知ってもらいたい—そんな思いから、「輪になって語ろう。地球の未来。EARTH CAMP」と題したキャンペーンを、JICA、外務省、認定NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)が共同で実施しています。

昨年10月から始まったこのキャンペーンのメインイベントが1月30日(土)31日(日)の2日間、オンラインでいよいよ開催! JICAは、さかなクンをはじめ、魅力あふれる登壇者のみなさんと環境やジェンダー、スポーツ、食料危機などの社会課題をテーマにトークセッションやワークショップを展開します。どんな状況でもより強く世界とつながるためにできることは何か!ぜひ一緒に考えてみませんか?

↑JICAはこのイベントで多くのゲストやMCの皆さん、そして参加者と一緒に世界が抱えるさまざまな問題や国際協力について考えます。登場するのは、左から、住吉美紀さん、有森裕子さん、春風亭昇吉さん、ヤマザキマリさんをはじめ、魅力あふれるみなさんです

 

日本最大級の国際協力イベントがオンラインで復活!

毎年10月6日(国際協力の日)前後に開催されていた日本最大級の国際協力イベント「グローバルフェスタJAPAN」は、毎年大勢の参加者で賑わいました(昨年は過去最高の18万4000人)。しかし昨年は新型コロナウイルス感染拡大により開催が中止に。コロナ禍でできることは何か、と模索するなか、始まったのがこのEARTH CAMPです。JANICの若林秀樹事務局長は、開催に至る経緯を次のように語ります。

 

「『グローバルフェスタJAPAN』の中止が決まったとき、国際協力に対する関心が薄れはしないか危惧する声だけでなく、国内の感染対策で手一杯なのに、国際協力まで手が回るのかという声がありました。しかし、開発や感染症の問題は、日本だけで対策を打っても解決しません。だからこそ、世界がひとつになれるよう国際協力の灯をともし続ける必要があると思い今回のEARTH CAMPキャンペーンの開催に至りました」

 

1月30日と31日のメインイベントには、こんなときだからこそ、ともに世界の課題を考えようと、興味あふれるイベントが目白押しです。

イベントのなかから、JICAが主催するトークイベントを一挙に紹介します。

 

さかなクンと楽しくモーリシャス沿岸の海洋環境を学ぶ

■30日/13時15分~ さかなクンと学ぼう!海でつながっている世界。みんなの海を守るために~モーリシャスの現場から~
※手話通訳あり。事前登録不要

オンラインイベント視聴用URLはこちら

まずは「ギョギョギョ!」あのさかなクンが登場です。昨年7月にアフリカ東海岸沖に浮かぶ島国モーリシャス沿岸で発生した船舶座礁による油流出事故で、現地に緊急援助隊として派遣されたJICA国際協力専門員の阪口法明さんが、さかなクンもギョギョっ!?とするようなモーリシャス沿岸域の生態系の素晴らしさや直面する問題を報告。フリーアナウンサーの住吉美紀さんがお二人のトークをつなぎます。さかなクンや住吉さんと一緒に、生態系保全のためにできることをクイズやトークを通じてわかりやすく学びませんか?

↑モーリシャスの美しい海を守るために、私たちには何ができるのでしょうか?

 

スポーツには未来をひらく力がある:オリンピアンらと考えるスポーツを通じた国際協力の可能性

■30日/16時30分~ ソウゾウするちから~世界を変える!未来をひらく!スポーツのチカラ~
※手話通訳あり。事前登録不要

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スポーツは、国や民族、文化が異なっても共に参加し、楽しめるもの。JICAはそんなスポーツを通じて、途上国の人々の可能性を広げ、生活をより健康で豊かにするための協力を行っています。スポーツの力を活かした国際協力について、日本オリンピック委員会の山下泰裕会長からの熱いメッセージを皮切りに、オリンピック女子マラソンメダリストの有森裕子さん、車いすバスケットボール元日本代表・JICA海外協力隊OBの神保康広さん、JICA海外協力隊OB・パナソニック株式会社の園田俊介さんが、ご自身の実体験を交えながら、意見を交わします。

↑日本オリンピック委員会の山下泰裕会長からメッセージを頂きました(写真:アフロスポーツ/JOC)

 

↑イベントに登壇するのは、写真左から、園田俊介さん、有森裕子さん、神保康広さん

 

写真に込めた想いを聞きながら、途上国を旅してみませんか

■31日/12時~ 地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~
※手話通訳あり。事前登録不要

オンラインイベント視聴用URLはこちら

JICA広報誌「mundi(ムンディ)」の人気コーナー「地球ギャラリー」に登場する写真家清水匡さん、桜木奈央子さんが、その写真に込めた想いを語ります。海外経験が豊富な漫画家のヤマザキマリさん、落語家の春風亭昇吉さんと一緒に、途上国の現状や人々をよく知るお二人から、ファインダー越しに見た途上国の魅力を聞くと、まるで旅に出たような気分になれるかも。

 

地球ギャラリーに掲載された写真を集めたウェブサイトも公開予定。こちらもお楽しみに!

↑写真上:写真家清水さんと作品「取り残された村—パキスタン」から

 

↑写真家桜木さんと作品「12年越しの結婚式—ウガンダ」から

 

日本で、途上国で、サッカー女子にエールを!

■31日/15時45分~ 羽ばたけ!世界のサッカー女子!~ジェンダーや環境の壁を超えて~
※手話通訳あり。事前登録不要

オンラインイベント視聴用URLはこちら

今年9月、日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ(Women Empowerment League)」が開幕します。女子サッカーの発展、そして、サッカーに打ち込んだ女子の社会での活躍の可能性について、女子サッカーの第一線を切り開いてきたお二人—WEリーグ初代チェアとなる岡島喜久子さんと長年にわたりスペインサッカーの最前線でキャリアを築いたJリーグ理事の佐伯夕利子さん—が初顔合わせ。さらに、女子がスポーツをする機会がまだまだ少ない途上国でJICA海外協力隊として女子サッカー指導を行ってきた相葉翔太さんも登壇。ミャンマーやスリランカで女子サッカーの現状や相葉さん自身の学びを共有し、日本で、途上国で、サッカーを通した女子の活躍にエールを送ります。

↑海外協力隊員としてスリランカで女子サッカーの指導を行っていた相葉翔太さん(左から2番目)

 

↑(左)日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」チェア岡島喜久子さん (右)Jリーグ理事の佐伯夕利子さん

 

中高生を対象としたワークショップも:参加申し込みはお早めに!

■30日/15時~ 【一般/中高生対象ワークショップ】「JICA地球ひろばでみんなで考えよう! 国連WFP~食べるから世界を考える~(先着順・定員制)

※申し込み先はこちら

国連WFP(世界食糧計画)職員の我妻茉莉さんとともに国連やNGOだけでは解決できない食糧危機について学びます。飢餓と栄養不良を世界からなくすためにできることは?
対象: 第一部(前半30分):どなたでも参加可能、 第二部(後半60分):中高生のみ(定員30名、先着順)

↑世界の「食」について一緒に考えてみませんか? (左)写真提供:WFP / Ratanak Leng (右)写真提供:WFP /Michael Tewelde

 

■31日/10時30~ 【中高生対象SDGsワークショップ】世界の課題を知ろう!~青年海外協力隊の写真から学ぶSDGs~(先着順・定員制)

※申し込み先はこちら

国際協力の取り組みを展示紹介している「地球ひろば」がワークショップを開催。青年海外協力隊が貧困、差別、環境問題などの課題についてSDGsの視点から現地での体験を伝えます。

 

ほかにも、国際機関キャリアセミナーや、お笑いジャーナリストたかまつななさんとSDGsについて考えたり、NGOが現地から生中継するオンラインスタディツアーなど盛りだくさん。詳しいスケジュールやイベントへの参加方法は「EARTH CAMP」ウェブサイトのイベントページをご覧ください。

<EARTH CAMP メインイベント>
https://earthcamp.jp/mainevent/

 

みなさまの参加をお待ちしています!

頭の中で羊を数えられない人は「記憶の仕組み」が特別かも。アメリカの研究が示唆

「羊を数えると眠くなる」とよく言われていますが、世の中には「羊が1匹、羊が2匹……」と頭のなかで数えられない人もいます。このような状態を指す言葉が「アファンタジア」。アファンタジアについてはまだ十分な研究が行われていませんが、その謎は少しずつ明らかにされつつあり、最近ではアメリカで興味深い研究結果が発表されました。著名人にもいると言われるアファンタジアについて見てみましょう。

↑記憶は謎だらけ

 

アファンタジア(aphantasia)とは、医学的には具体的な風景や物のイメージを頭のなかに描くことができない状態のことを指します。もともと1880年に、フランシス・ゴルトンという学者によって報告がありましたが、その後はほとんど研究されることなく、2000年代前半になってようやくイギリスの神経学者アダム・ゼーマンが研究を始めました。

 

最近では、シカゴ大学で神経科学について研究するベインブリッジ助教授が、ベッドや植木鉢など複数の家具が置かれた部屋の写真を100人以上の被験者に見せ、その絵を描いてもらう実験を行っています。この実験は2回行われ、1回目は写真を見た後に自身の記憶をもとに絵を描き、2回目は写真を見ながら絵を描きました。

 

1回目の実験では、アファンタジアではない人はカーペットやベッドなど部屋にあった物の色やデザイン、形のような細部まで絵にすることができましたが、アファンタジアの人は絵を描くことにとても苦労したことがわかりました。おまけにアファンタジアの人は物の細部の特徴を絵に表すことができず、なかには窓の絵を描かず「窓」と文字で説明を入れる人もいたのです。

 

一方、写真を見ながら絵を描くという2回目の実験では、アファンタジアでない人は1回目の実験との差があまり見られませんでしたが、アファンタジアとそうでない人では間違いの数に違いがありました。アファンタジアでない人は14回以上のミスがあり、写真のなかには存在していなかった物を絵に描いた人もいました。対照的にアファンタジアの人は描いた物の数が少なかったものの、そのミスはずっと少なかったのです。

↑シカゴ大学の実験結果。左から2番目と3番目にある2枚がアファンタジアの人が描いた絵

 

このことから、研究者たちはアファンタジアでは空間記憶のプロセスが異なるのではないかと推測。アファンタジアでない人は空間を「視覚的」に記憶し、それをもとに絵を描くのに対して、アファンタジアの人の空間記憶は視覚的なイメージを使わない代わりに、1つひとつの物を「言葉」で記憶しようとしていた可能性があるそうです。このような認知的な働きによって、間違えて覚えることを防いでいるのかもしれません。

 

アファンタジアはごくわずかな人に見られる特徴と考えられていますが、以前ディズニー・アニメーション・スタジオの社長を務めていた、ピクサー・アニメーション・スタジオの共同創業者であるエドウィン・キャットマルや、ウェブブラウザのMozilla Firefoxの共同創業者のブレイク・ロスが、アファンタジアであると言われています。近年では、そんな著名人をきっかけにアファンタジアが注目されるようになってきました。

 

アファンタジアの特徴や理由についてはまだ謎が多いようですが、もし「羊を数えて」と言われたときに、頭の中に羊の姿を思い浮かべられることができなかったら、あなたは数少ないアファンタジアの1人なのかもしれません。

 

【出典】Bainbridge, W. A., Pounder, Z., Eardley, A.F., & Baker, C. I. (2021). Quantifying aphantasia through drawing: Those without visual imagery show deficits in object but not spatial memory. Cortex, 135, 159-172. https://doi.org/10.1016/j.cortex.2020.11.014

自らの走りで母国の未来を拓く――南スーダンの未来と希望を背負った選手たちを元オリンピアン横田真人さんが激励

「私は国のために走っている」

決意を持った力強い眼差しで語るのは、陸上競技で東京オリンピック・パラリンピックの出場を目指す、南スーダンのグエム・アブラハム選手。母国を代表して出場するオリンピック・パラリンピックの舞台ですから、“国のために走るのは当たり前のことなのでは?”と考える人がいるかもしれません。しかし、アブラハム選手が語る“国のため”には、私たち日本人が考えるよりもはるかに重い意味がありました。

 

南スーダンの選手団が来日したのは2019年11月末。国際協力機構(JICA)より南スーダンを紹介されたことをきっかけに、群馬県前橋市が南スーダンの選手団の受け入れを決定し、東京オリンピック・パラリンピック大会に向けた長期事前合宿が始まりました。しかし、世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会の延期が決定。今後1年間をどのように過ごすかの協議がなされた中で、選手たちは日本に残ることを希望し、前橋市はその気持ちを受け取り、2021年の大会終了までの合宿継続を決定しました。大会の開催がいまだ先行き不透明な中、彼らはどのような心境で事前合宿に臨んでいるのでしょうか?

↑元オリンピアンとして、また現役コーチとして、独自の視点から南スーダン選手たちの本音を聞き出した横田真人さん(写真左)と、マイケル選手(中・パラリンピック陸上100m)、アブラハム選手(右・オリンピック陸上男子1500m)

 

今回、彼ら南スーダンの選手たちの想いに耳を傾けるのは、現在、陸上界のみならず、幅広いスポーツ分野から注目を集める元オリンピアンであり、陸上コーチの横田真人さん。昨年12月に開催された、日本陸上競技選手権大会の長距離種目・女子10000mで18年ぶりとなる日本新記録で見事優勝を果たした新谷仁美選手を、技術面・精神面で支えたそのコーチングに関心が高まっています。選手の個性を活かしながらの練習メニュー作成や、個人種目ながらチームとして一丸となって競技に挑むという横田コーチのマインドに共感するスポーツファンも多いのではないでしょうか。

 

「スポーツはプロフェッショナルだけのものではない」「持続可能な文化としてのスポーツのあり方を模索したい」と、勝ち負けだけにとらわれないスポーツとの向き合い方を模索し続けている横田さんだからこそ聞き出せる、南スーダンの選手たちの「国のために走る意味」に迫ります。

 

インタビュアー

横田真人さん

男子800m元日本代表記録保持者、2012年ロンドン五輪男子800メートル代表。日本選手権では6回の優勝経験を持つ。2016年現役引退。その後、2017年よりNIKE TOKYO TCコーチに就任。2020年にTWOLAPS TRACK CLUBを立ち上げ、若手選手へのコーチングを行う。選手一人一人に合わせたオーダーコーチングがモットー。活躍はスポーツ界だけにとどまらず、現役時代には米国公認会計士の資格を取得するなど様々なビジネスを手掛ける経営者としての側面を持つ。

 

勝ち負けだけが全てじゃない。スポーツの価値とオリンピック・パラリンピックの意義

↑「勝敗よりも大切なことがある」と、オリンピック・パラリンピックへの想いを語るアブラハム選手(写真右)

 

横田真人さん(以下、横田お二人にとって、オリンピック・パラリンピックはどういう意味を持つ大会なのでしょうか?

 

グエム・アブラハム選手(以下、アブラハム):オリンピック・パラリンピックは重要な意味を持つ大会です。もちろん、自分の実力を披露する場としての意味もありますが、私たちにとっては、“世界を知る”良い機会でもあります。世界各国からアスリートが集まることで、違う人種、文化的背景を持つ人々と触れ合うことができますからね。

 

クティヤン・マイケル選手(以下、マイケル):様々な文化に触れることで、自国・他国の良い面、悪い面が見えてくるはずです。それを自ら体験することは非常に貴重な経験だと思います。パフォーマンスの面でもやはりオリンピック・パラリンピックは特別です。自分たちが良い結果を出せれば、国に帰ってからの生活の質を変えることにも繋がりますからね。それも踏まえた上で国を代表する立場になって、胸を張って戦いたいと思います。

 

アブラハム:メダルを取ったり、良い記録を残したりすることはもちろん大切です。しかし、私たちにとってオリンピック・パラリンピックに出場することは、勝ち負け以上の価値があります。南スーダンには様々な部族の人々が住んでいて、さまざまな要因により内戦が続いています。でも、私たちが“南スーダン人”としてオリンピック・パラリンピックに出場すれば、部族の垣根を超えて全員が私たちを応援してくれると思います。南スーダンという国が一つになるために、そしてそれが平和につながるように、私たちは国のために走っているんです。

 

「前橋市の人たちには感謝しかない」。1年の延期が強めた南スーダン選手団と市民との絆

 

横田:前橋でのキャンプも1年以上が経過しましたが、日本には慣れましたか? 来日直後の日本に対する印象と、現在の日本の印象は変わったでしょうか?

 

マイケル:来日前は、日本に対するイメージが全く湧かなかったのですが、実際に来日して、本当に素晴らしい国だなと感じました。私たちの活動に対して、コーチを含め、たくさんの人々がサポートしてくれています。

 

アブラハム:特に日常的に感じるのが、市民の方々からの愛情です。子どもたちを含め、交流会などで触れ合う人々は、私たちの言葉に真摯に耳を傾けてくれますし、笑顔で迎え入れてくれます。街で出会った際も気軽に挨拶を交わしてくれます。本当に皆さんには感謝の想いしかありません。

 

横田:新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期されました。アスリートにとって1年の延期は、コンディションを整える難しさもあると思います。お二人にとっては異国の地での再調整という特殊な背景もありますが、この数ヶ月どのように過ごしてきましたか。

 

アブラハム:もちろん、オリンピック・パラリンピックの延期を知らされた時には大変大きなショックを受けました。しかし、この延期は私達にとってチャンスだと考えました。あと1年間、日本でトレーニングを積めば、さらに高度な練習に取り組むこともできるし、記録を伸ばすこともできます。ですから、選手団のメンバーは全員、前橋でのキャンプ延長を望んでいました。

 

マイケル:実際、もし帰国したら練習の場所や時間の確保が難しいのが南スーダンの現状です。また、日々の食事を確保するのも容易ではありません。もしかしたら、昔のように1日1食の生活に戻ってしまうかもしれないのです。だからこそ、私たちとしては延期をポジティブにとらえて、大会に向け、日本でコンディションを整えていきたいと考えています。

 

アブラハム:家族や友達に会いたいという気持ちはありますが、生活面や環境面に関しても、私たちが快適に過ごせるよう皆さんが全面的にサポートしてくれているので、難しさを感じたことはほとんどありません。前橋市の担当である内田さんともジョークを言い合える仲になっていますし、今では異国の地という感覚はなく、ホームタウンのような居心地の良さを感じています。

 

独立と半世紀にもおよぶ内戦。南スーダンの現状

↑コーチ(左)とともに練習に励むアブラハム選手(中)とマイケル選手(右)

 

南スーダン共和国は、半世紀にも及ぶ内戦を経て、2011年にアフリカ大陸54番目の国家としてスーダンより独立を果たした国。独立したとはいえ、その後も国内では内戦が絶えませんでした。

 

2013年末に始まった政府軍と反政府軍の争いでは、2015年・2018年の調停及び2020年2月の暫定政府設立に至るまでに約40万人の死者と、400万人以上の難民・避難民が発生したとされています。アブラハム選手が語るように、スポーツを練習する環境を整えることはおろか、日々の食事を確保することも困難な状況が続いているのだそう。

 

このような内戦が続く理由として、南スーダンが大小合わせ約60もの民族からなる多民族国家である、という特殊な事情が挙げられます。様々な価値観や生活様式、宗教を持った民族が1つの国で生活を共にするというのは、私たち日本人が想像するよりも、はるかに困難なことなのかもしれません。

 

東京オリンピック・パラリンピック以降の未来に何を見据えるのか? “文化としてのスポーツ”を伝えるために

 

横田:東京オリンピック・パラリンピックに向けて、全力で準備を行っている真っ只中だと思いますが、大会後についてお二人はどのように考えていますか? 今はまた陸上にどっぷりはまっていますが、私は引退後のセカンドライフを考えてアメリカで公認会計士の資格を取得しました。日本と南スーダンとでは思い描くセカンドライフは異なると思いますが、お二人が考える未来への展望を聞いてみたいです。

↑将来的にはパラリンピックを目指す後進の育成に携わりたいとマイケル選手

 

マイケル:私は大会後もトレーニングを続けて、何らかの形で競技に携わっていきたいと考えています。将来的には、パラリンピックを目指すアスリートたちに適切な指導ができるコーチになりたいです。南スーダンは、障がい者に対する指導環境が整っているとはいえない状態です。だからこそ、自分自身が日本で学んだこと、オリンピック・パラリンピックの舞台に立ったからこそ伝えられる経験を、若い世代に伝えていきたいです。

 

アブラハム:オリンピック・パラリンピックは目標ではありますが、ゴールではありません。幸いにも、私はまだ若い年齢でこのようなチャンスをいただけていますから、別の大会、そしてまた次のオリンピックへ向けて、記録を伸ばしていきたいと思っています。一方で、母国に住んでいる家族のことはいつも気にかけています。競技を続ける上でも、まずは一人で支えてくれている母親のためにも、家を建てて生活を安定させたいという希望もありますね。その後に、もしチャンスをいただけるのであれば、ぜひ日本に戻ってきて競技を行いたいと思います。

 

横田さん:お二人の練習風景を見学させていただいて、オリンピック・パラリンピックで活躍する姿を見るのがますます楽しみになりました! まだまだ厳しい国内情勢が続く南スーダンでは、スポーツに対する価値が国や国民に浸透していないのではないかと思います。オリンピック・パラリンピックが終わって、お二人が自国に帰った後、どのようにスポーツの価値を発信していこうと考えているのか、ぜひ教えて欲しいです。

 

マイケル:一般的にアフリカの人たちは、物事を「聞くこと」ではなく、「自身の目で見ること」で信じる傾向があります。だから、自分たちをスポーツで成功した例として国民に知ってもらうことが大切だと思います。例えば、自分が大きな家を建てることで、それを見た子どもたちや親たちが「スポーツでの成功が生活の豊かさに繋がる」ということを認識すると思うんです。そういった意味でも、まずはオリンピック・パラリンピックの舞台で自分が出来得る限りのいいパフォーマンスを披露したいですね。

 

国民結束の日(全国スポーツ大会)が大きな転機に。スポーツが切り開く国の未来

 

アブラハム:母国に帰れば、私たちが日本で経験したことを積極的に発信していくつもりです。おそらく、僕たちのストーリーに対して南スーダンの子どもたちもきっと興味を持ってくれると思います。しかしながら南スーダンにはまだスポーツで羽ばたくチャンスは少ない。国の情勢を考えても、スポーツだけに取り組むことができる人はほんの一握りですし、能力や才能がある子どもたちがいるとしても、それを披露する場所や機会がないのが実態です。

↑「国民結束の日」が自分にとっての大きな転機となったと強調するアブラハム選手

 

横田:南スーダンがいまだスポーツが日常的に楽しめる情勢ではないことは、聞いています。そんな中でアブラハム選手はどのようにしてオリンピック・パラリンピック代表を目指すまでのチャンスを得たのでしょうか。

↑国民結束の日の模様(写真:久野真一/JICA)

 

アブラハム: JICAの協力で始まった『*国民結束の日(全国スポーツ大会)』は、1つの大きなきっかけとなりました。あのイベントがなければ、もしかしたら私たちはオリンピック・パラリンピックに出場するチャンスを得られなかったかもしれません。私にとってこの経験が大きかったからこそ、帰国後、親や子どもたちに伝えるのはもちろん、スポーツができる環境づくりなどに投資をしてもらえるよう、政府にも直接訴えかけないといけないと思うんです。そうすることで、才能ある子どもたちが、自身の実力を披露する機会が得られると思いますし、国としてのスポーツの発展につながるのではないかと考えています。

*「国民を1つに結束させる」という目標を掲げ、2016年よりJICA協力のもと開催されているスポーツイベント。

 

横田:政府に働きかけることによってスポーツに対する環境を整える。そして、スポーツで成功した人を目撃することで、そこに憧れを持った子どもたちがスポーツに取り組む。2人の視点はどちらも大切ですよね。母国を離れ、2年近く日本での生活を送ったこと、そしてオリンピック・パラリンピックへ向けた挑戦を経験したからこそ体験できたスポーツの可能性を、ぜひ母国に帰って広めてほしいと思います。

 

前橋市担当者が語る市と市民のサポート

「選手たちの強い想いが、人々の心を掴んでいるのだと感じます」

↑「陽気な人たちが来るのかと思っていたら、非常に寡黙で驚きました」と、南スーダン選手団来日時の印象を語る前橋市役所スポーツ課の内田健一さん。今ではジョークを言い合えるほど、選手団のメンバーと打ち解けているのだそう

 

東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まった際、前橋市でも様々な議論が行われました。選手団全員が大会終了までのキャンプ継続を希望したことから、支援を決意。資金の工面などの問題が予想されましたが、多額の寄付金が集まり、支援が継続されています。

 

「南スーダン選手団のキャンプで発生する費用は、ふるさと納税などの寄付金で賄われています。コロナ禍ということで、キャンプ継続に対して様々な意見があることも事実ですが、多額の寄付金をいただけているということからも、前橋市民を含め、全国の方々がこの活動を肯定的に捉えてくださっていると考えています」と内田さん。選手たちの競技への想いは、確実に地域、そして日本の人々の心を掴んでいると語ります。

 

【関連リンク】

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未来標準のビルディング「ZEB」に全力投球する三菱電機ーー同社のSDGsとCSRを読み解く

省エネ・創エネ・快適性を同時に実現する「ZEB」に迫る~三菱電機株式会社

 

三菱電機といえば、GetNabi webでは家電のトップメーカーとして様々な製品を紹介しています。「霧ケ峰」でお馴染みのルームエアコン、本物の炭を内釜に使った「本炭釜」、最近では、美味しいパンが焼けるブレッドオーブンなど、挙げればキリがないほど。

 

我々にとっては家電製品が身近な三菱電機ですが、実は、未来の都市変化を先取りした取り組みを行っているなど、さまざまな価値創出による社会貢献にも積極的です。そのなかで近年、注目されているのが「ZEB」(ゼブ)というワードです。

 

年間のエネルギー収支ゼロを目指す「ZEB」とは

ZEBとは、「net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)」の略称で、快適な室内環境を保ちながら、設備の高効率化や建物の高断熱化による“省エネ”と、太陽光発電などの“創エネ”により、年間のエネルギー収支ゼロを目指した建築物のこと。国により定義は異なりますが、日本の場合、エネルギー低減率により、ZEB OrientedZEB Ready、Nearly ZEB、『ZEBと4段階に分かれています。

 

・ZEB Oriented

延べ面積が1万㎡以上の建築物のうち、再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギーから30~40%の省エネとなるように設計され、未評価技術を導入する建築物。

・ZEB Ready

再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の省エネとなるように設計された建築物。

・Nearly ZEB

ZEB Readyの条件を満たしつつ、再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量を75%以上低減させた建築物。

・『ZEB

ZEB Readyの条件を満たしつつ、再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量を正味100%以上低減させた建築物。

 

設計から運用管理までワンストップで提供

「ZEBが世界的に注目され始めたのは、2008年の洞爺湖サミットからです。日本では2014年に閣議決定された第4次エネルギー基本計画で、2020年までに新築公共建物など、2030年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指すとされました。さらに2015年のパリ協定で、日本は2030年までに温室効果ガス排出量を26%(2013年度比)削減すると宣言しています。昨年10月には、臨時国会の所信表明演説で菅首相が“2050年カーボンニュートラル宣言”にも言及していました。その目標の達成に向けて、ZEBはすごく重要な役割を担っています」と話すのは、同社ZEB事業推進課の南 知里さんです。

↑ビル事業部 スマートビル新事業企画部 ZEB事業推進課・南 知里さん

 

どうしてZEBが重要な役割を担っているのでしょうか。下は東京都環境局の資料ですが、実はCO₂排出量の約70%が建築物から出ているそうです。上記目標達成のためには建築物から出るCO₂を減らすことが不可欠なのがわかります。

↑「東京グリーンビルレポート2015」(東京都環境局)より

 

「ZEBは、建築物から発生するエネルギーを減らしたうえで(省エネ)、再生可能エネルギー(創エネ)をうまく組み合わせることによって、年間のエネルギー収支をプラスマイナスゼロに近づけるという取り組みです。省エネ対象設備は、空調、換気、給湯、照明、昇降機の5設備。弊社はそのすべての設備を保有し、業界でもトップシェアを誇ります。お客様のニーズにあった機器やシステムを選定することで、ZEB化の支援ができる、つまり設計から運用管理までワンストップで提供できる強みを持っています」(南さん)

 

同社は2016年からZEBの専門部門を立ち上げ、経済産業省が設定した登録制度「ZEBプランナー」を電機メーカーとして初めて取得。提案活動だけでなく、社内外向けの説明会も全国で実施しています。ZEB起点での案件引き合いは多く、2016年~2020年度上期だけで累計約370件あり、右肩上がりで増えているそうです。

 

快適性と省エネを同時に実現

ZEBの導入はSDGsの目標達成に繋がるのはもちろん、施主にとってのメリットも大きいと言います。

 

「省エネによる光熱費の削減はもちろん、快適なオフィス空間が作られる点もZEBのメリットになります。近年は、BCP(Business Continuity Plan/災害時の事業継承)対策の強化や、あるいは環境リーディングカンパニーである点を訴求するなど企業PRの一環として導入するお客様も増えています。社会貢献、環境保全活動推進、そして資産価値向上も期待できます」(南さん)

↑ZEBのメリット(三菱電機資料より)

 

ちなみにZEBを達成した建築物が日本国内に何件あるか、正確な数値はわかっていません。しかしBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)を取得した件数をZEBの竣工案件と読み替えることができるという前提だと、2020年8月末時点で、449件がZEB(ZEB4ランクすべて)を達成していると分析できるそうです。

 

建築物の条件によりエネルギーの低減率を算出

では、どうやってエネルギーの低減率を算出するのでしょうか。「基本的には、設計時点で『エネルギー消費性能計算プログラム』を用いて低減率を計算しています」と話すのは、実際にZEB導入を手掛けている、ソリューション技術第一課の柿迫良輔さんです。

↑ビルシステムエンジニアリングセンター システムインテグレーション部 ソリューション技術第一課・柿迫良輔さん

 

「新築だけでなく、既存の建築物のリニューアルや改修時でのZEB達成も可能です。というのもZEBは、図面のデータをもとに算出される“基準値”と、設計をした設備や躯体の性能から算出する“設計値”の差によって低減率を出します。例えば、東京都内に2020年に竣工したサンシステム株式会社様の新社屋は、地上6階建てのオフィスビルですが高効率空調や複層ガラスの導入、窓にブラインドを設置して日射の抑制をすることにより基準値から53%の省エネを達成しています。その他設備についても様々な工夫による省エネ化を図り、結果、建物全体の消費エネルギーは基準比56%減となり、ZEB Readyを達成することができたのです」

↑サンシステム株式会社様「SSビル」の省エネルギー性能 (出典:「環境共創イニシアチブ」ウェブサイト )

 

「この社屋の場合は都心部ということもあり、太陽光発電を設置できなかったのですが、設備や建築躯体の工夫により50%以上の省エネを達成し、ZEB Readyを実現しています。建築物全体でどれだけエネルギー消費量を低減できるかによってZEBのランクが決定しますが建築物の規模はもちろん、部屋の配置、用途、所在地により基準値は大きく異なります。例えば用途一つとっても、人の出入りが多い会議室なのかそうでないのかにより違いますし、北海道と沖縄では気候が全く違うことからもわかるように、所在地による地域区分が細かく設定されています」(柿迫さん)

 

例えばオフィスの場合は、建築物全体のエネルギー消費量における空調と照明が占める割合が大きいですが一方、病院なら給湯の割合が高くなるなど、建築物の用途や目的により数値は全く異なります。つまり手掛ける案件に、同じものは1つとしてないことがわかります。

 

「建築物の規模により、設置できる機器の目星は付きますが、そこにお客様の予算や要望が加わってきます。設計段階で、いかに数値を低減するか試行錯誤しなければなりません。本来は、お客様もZEBNearly ZEBと上のランクを目指したいのでしょうが、予算などの要因はもちろん、敷地面積の関係で太陽光発電を設置できないなど、設備の設置条件が障壁になることもあります。まずは自分たちができるところを目指されるお客様が多いようです」(柿迫さん)

 

ZEB関連技術実証棟が完成

社内外からZEBが注目を集めるなか、2020年10月には、三菱電機情報技術総合研究所内(神奈川県鎌倉市)に、ZEB関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」が完成しました。

 

「サスティナブルでエネルギーの明るい未来へということで、SUSTIEと名付けられた本施設は、省エネと創エネにより、基準値から106%の低減を達成し、ZEBを取得しました。6000㎡以上の中規模オフィスビル単体でBELS(建築物省エネ性能表示制度)の5スターとZEBの両立達成は日本初。CASBEEウェルネスオフィス(建物利用者の健康性、快適性の維持・増進を支援する建物の使用、性能、取り組みを評価するツール)で最高のSランク認証もいただいています。これまで、省エネと快適性は相反するというイメージが強かったかと思いますが、SUSTIEではZEB認証とCASBEEウェルネスオフィスSランクの同時取得により、それを両立できることを実証しています」(南さん)

↑2020年10月に完成したZEB関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」

 

総合電機メーカーの強みを生かし、各種高効率設備を設置。在室人数情報による換気や、照明の明るさ制御、昇降機の速度制御などの省エネ制御を導入。加えて自然換気による環境調整や太陽光発電など、SUSTIEには同社の技術が集約されています。

↑放射冷暖房パネルを配置し自然エネルギーを有効活用

 

「SUSTIEでは、設計時点の計画値を上回るさらなる省エネでの運用を目指しながら、新たな設備制御技術の導入や、省エネの実証実験も行われます。さまざまな効果を実証しながら運用化を目指していければと思います」(南さん)

 

CSR4つの重要課題

ZEBに限らず、三菱電機グループは他にもさまざまな価値創出への取り組みにおいて、SDGsの達成に貢献していこうとしています。

 

「当社は、『企業理念』と『私たちの価値観』(信頼、品質、技術、倫理・遵法、人、環境、社会)に従って経営方針を立て、すべての企業活動を通じてSDGsの達成に貢献していきます。価値創出への取り組みを推進することによってより具体的な行動を起こし、自社の成長とともにSDGsの達成に向けて貢献していきたいとの考えです」とはCSR推進センターの田中大輔さん。同社の企業理念は「私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します」というものです。

↑総務部 CSR推進センター 専任・田中大輔さん

 

CSRについて、下記の4つの重要課題を掲げています。他が重要ではないということではなく、当社の特徴を生かせるものは何かと考えた上で特定しました。

↑CSR(企業の社会的責任)の重要課題

 

“持続可能な社会の実現”“安心・安全・快適性の提供”は、環境問題や資源、エネルギー問題、インフラなど、事業を通じて世の中に貢献できるという分野です。残りの2つは企業の基盤として厳守する分野です」(田中さん)

 

CSRの重要課題の検討が始まったのは、折しもSDGsが国連サミットで採択される直前でした。その後、SDGsの17の目標と照らし合わせ、基本的に相違がないと確認するとともに、三菱電機グループの特長をいかしてSDGsにどう貢献できるか、社内外でアンケートを実施。その結果、事業を通じた活動への期待が高いということがわかったそうです。

 

「まずは、SDGsに貢献できる分野は何か? 自社の取り組みを整理することから始まりました。エネルギー、インフラ、環境は、それまでも社会に貢献できていましたし、今後もさらに注力して貢献できる分野だと考えたのです。そして “重点的に取り組むSDGs”として、目標7(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)、目標11(住み続けられるまちづくりを)、目標13(気候変動に具体的な対策を)に注力することを2018年度に特定し、価値を創出していくことでSDGsの目標の達成に貢献していきたいと考えました。わかりやすい事例のひとつが、今回紹介させていただいたZEBです。SDGsという世界共通の社会課題が示されたことで、社会への貢献について具体的に説明しやすくなりました」

 

今後は変化する社会課題にも対応

2000年代前半以降、社会課題に対する意識は、世界的にどんどん高まっています。同社も環境面について2021年を目標とした「環境ビジョン2021」に沿って、低炭素社会の実現、循環型社会の形成、自然共生社会の実現に取り組んできましたが、さらに長期的に継続するために、昨年『環境ビジョン2050』を新たに策定したそうです。

 

「今年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、新たな生活スタイル、ビジネススタイルに適応しなければなりません。新たな社会課題が顕在化しているなかで、社内外の連携をより強化し、取り組んでいかなければならないと感じています。場合によっては、重点的に取り組むと定めたSDGsの目標7、11、13についても、今後は見直すべきかもしれません」(田中さん)

 

多岐にわたる事業分野で活躍する同社だからこそ、グループ内外の力を結集して、変化する社会課題の対応に取り組んでいくことが求められているのだといえるでしょう。

脂肪燃焼が358%も違う! 寒い季節こそ「全力運動」で効果アップ

1月20日は大寒。暦のうえでは1年で最も寒い時期となりますが、気温がとても低い時期だからこそおすすめなのが運動。寒い季節の運動は脂肪が燃えやすいというのは以前から知られていましたが、最近の研究では「高強度インターバルトレーニング」と呼ばれる運動が特に効果的であることがわかりました。

↑真冬こそ身体を追い込め!

 

高強度インターバルトレーニング(High-Intensity Interval Training、以下HIIT)とは、強度の高い運動(つまり全力の運動)と短時間の休憩で身体を追い込むトレーニングのこと。HIITは中強度の運動に比べて脂質代謝が良く、脂肪もより燃えやすいことが明らかにされていました。この作用には運動している人をとりまく気温も影響を与えていると考えられていましたが、それが実際どのように血中の脂肪レベルや翌日の新陳代謝に関連するのかは不明でした。

 

そこで、運動中と休憩時における室内温度が脂肪の燃焼にどのような影響を与えるかを調べるため、カナダのローレンティアン大学の研究チームが実験をしました。この実験には、やや太り気味の成人が被験者群として参加。

 

まず被験者たちは夜に90%の強度で自転車を1分間全力でこぎます。スプリントを一回行うごとに、30%の強度で自転車を90秒間こぎながら休憩を挟みます。被験者群はこのセットを10回繰り返し、最後は軽めのサイクリングまたはウォーキングでクールダウンしてトレーニングを終えます。

 

このトレーニングは気温を変えながら2回行われました。1回目は十分に暖かいけど、代謝には影響を与えない室温21℃で行い、1週間後に行った2回目のトレーニングの気温は0℃でした。2回とも被験者群は運動後の就寝前にタンパク質や炭水化物の栄養バーを摂取し、翌朝にはインスリンやグルコースなどの量を測定しました。

 

その結果、0℃で運動したときは、21℃での運動に比べて、運動中に脂質が酸素と結びつく量が358%も上がっていることが判明。脂質が酸素と結びつきエネルギーに変換するというのは脂肪が燃焼するという意味なので、0℃での高強度の運動は21℃での運動に比べて脂肪が3倍以上も燃焼しやすいということになります。

 

しかし、高脂肪の食事を食べた後にHIITを行い、長期的な視点でその効果を見てみると、血糖値や中性脂肪値などを含めた代謝反応は0℃で運動をした後でも大きく変化しませんでした。

 

厳しい寒さのなかで全力で運動するのは精神的にツライかもしれませんが、真冬のHIITは頑張ってやってみる価値があるかもしれません。

 

【出典】Munten, S., Ménard, L., Gagnon, J., Dorman, S. C., Mezouari, A., & Gagnon, D. D. (2020). High-intensity interval exercise in the cold regulates acute and postprandial metabolism. Journal of Applied Physiology. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00384.2020

「DNAディッシュ」に大注目! 自分探しが医食同源になる

自宅で過ごす時間が増えた昨今、フード宅配サービスのニーズが世界的に高まっています。そんななかで大きく発展しているのが、好みのメニューを選ぶと食材や調味料が必要な分だけ送られてくるミールキット。イギリスではユーザーのDNAを分析し、各自の民族ルーツに合わせたミールキットを届けてくれる画期的なサービス「DNAディッシュ」が登場して、大きな注目を集めています。

 

民族ルーツに合ったメニュー

↑DNAも気にしながら食す

 

3度目の全国的なロックダウンが行われているイギリスでは、過去1年間にデリバリー食はもちろん、ホームメードのパンやお菓子の材料セット、チーズとかワインのテイスティングセットなど、さまざまなフードサービスが生まれました。自粛生活がノーマル化した現在、外食に代わり毎日の食事としてミールキットサービスを利用する人が増えています。

 

ミールキットは「毎回自炊するのは面倒だけど、出前ばかりでは費用もかかるし栄養面も気になる」というニーズをピッタリ満たす比較的新しいサービス。スーパーで食材を購入しイチから料理するのに比べ、献立に悩まず、食べたいメニューに必要な材料を人数分だけ届けてくれるメリットがあります。まとめて注文すればディスカウントも。リモートワークを続けている人もまだまだ多く、ミールキットを利用したほうが時短になり、食材の無駄も出ないという理由で人気があります。

 

多様なニーズに応えるために、メニューの選択肢は広く、栄養面もよく考慮されています。なかにはアスリートやダイエッター専用のメニューや、オーガニック、ヴィーガン、グルテンフリーなど最近のトレンドを意識したメニューもあり、このようなミールキットのサービスは特に発展しています。

 

そんななか、ロンドン発ミールキット会社のグーストが、個人の遺伝子タイプに合わせたメニューを選べる新たなミールキットの「DNA ディッシュ」を開発しました。イギリス版「マネーの虎」にも登場したことのある同社と、バイオテック企業のリビングDNAによるコラボ企画であるDNAディッシュは、DNAデータをもとにユーザーのルーツを特定し、それにあうメニューを提供するという仕組み。

 

自宅に届いた遺伝子検査キットを使いサンプルを採取して返送するだけで、自分の遺伝子にあった料理が届きます。試験運用期間中にプロモーション用として準備した無料の遺伝子検査キットが早々に品切れになるなど、サービス開始前に多くの人の心をつかんだ模様。

 

多様なバックグラウンドを持つ人が多いイギリスでは、自分の民族的ルーツをよく知らない人が大半です。遺伝子テストによって「代々イギリスだったけれど、実はフランスとドイツとアイルランドのミックスだった」とか「生粋のナイジェリア系と思っていたけれど、カメルーンやブルキナファソにもルーツがあった」といった驚きの声もあり、自分探しの方法としても魅力があることが話題の一因となっています。

 

ユーザーの民族ルーツに合わせ、グーストのサイトにはイギリス料理をはじめ、イタリア風や地中海風、ドイツ風、北欧風など40か国を超えるバラエティ豊かなメニューが揃っています。リビングDNA社が手がける有料の本格的な遺伝子検査キットを利用すれば、50種類以上から選ばれた最適なおすすめメニューが毎週、各ユーザーのアプリに表示されます。家族の構成人数で申し込むことができる一方、食品廃棄物が出ないように分量が計算されていることも好評。

 

遺伝子傾向を知って医食同源

↑健康は食事から

 

話題となった無料遺伝子分析キットはルーツ探しがウケましたが、リビングDNAが有料で提供する本格的な分析キットを利用すれば、食事や運動などに関してもっと詳しいアドバイスを受けることもできます。これを使えば、糖尿病など生活習慣病の発症リスクや遺伝的傾向を遺伝子レベルで知ることが可能。自分に合った食生活をすることで、体質を改善したり、病気を予防したり、「医食同源」の考え方を実践します。

 

食品アレルギーなど明確なケースを除くと、自分の体質に合った食事をしているかどうかわからないこともありますが、今回の無料版のプロモーションで、これまで縁のなかった遺伝子検査キットに興味を持った人も多かったのではないかと思います。

 

遺伝子分析と食事指導を合わせたサービスは以前にもありましたが、一人ひとりが持つルーツへの興味や各自の最適な食生活への気づきを満たしてくれるDNA ディッシュは、究極のパーソナライズ商品ともいえるでしょう。食事自体の価格も1食3〜7ポンド程度(約420〜990円)とリーズナブル。サブスクリプションサービスの側面も兼ねており、一度検査を受けてしまえば、自分に合った食材を定期的にオーダーすることもできます。

 

「健康は一日にしてならず」といいますが、DNAディッシュで自分のルーツや身体に合う食事を楽しめるのであれば、三日坊主にもなりにくいでしょう。DNA分析やサブスクリプションをミックスしながらパーソナライズされたサービスは、今後ますます増えていきそうです。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

「ワクチンパスポート」が航空業界で進行中だが、一筋縄でいかなそうなワケ

アメリカやイギリスなどで新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まり、日本でも2月下旬からワクチンの接種を開始する目標を掲げています。これに関連して議論されているのが、もしワクチン接種を証明する必要があるとしたら、どうやってすればいいのか? そこで注目されているのが「ワクチンパスポート」という構想です。

↑ワクチンパスポートも持った?

 

新型コロナのワクチンが普及すれば、映画館、イベント会場、レストランなどの公共の場所への入場には、もしかしたらワクチン接種が必要条件になると考えることができます。そうだとしたら、ワクチンの接種を証明したり、接種状況を管理したりするものが役に立つでしょう。それがワクチンパスポートです。

 

新型コロナによって多大な影響を受けた航空業界・旅行業界では、ワクチンパスポート構想に早く着手しました。世界の約290の航空会社が加盟する国際航空運送協会(IATA)は、「IATAトラベルパス」のアプリの開発しています。このアプリでは、新型コロナの検査結果や接種状況を管理できるほか、各国の入国規制情報や最寄りの検査施設を検索することも可能。海外渡航を目的とするなら世界共通で使えるグローバルなアプリが必要ですが、国内だけの利用を考えれば、ローカライズされた機能も求められるかもしれません。

 

安全な旅行を謳うIATAは、2021年3月までに同アプリのローンチを目指しているとのこと。すでにオーストラリアのカンタス航空やマレーシアのエアアジアなど、国際線の搭乗客にワクチン接種を義務付ける意向を示している航空会社が出始めており、このような航空会社がこのアプリを利用していく可能性もあります。

 

個人情報管理への懸念

しかしワクチンパスポートでは、ワクチン接種のような健康情報を取り扱うものだけに、個人情報の管理に懸念を抱く人もいるでしょう。ワクチン接種に懐疑的な人も少なくありません。またワクチンパスポートによって、「ワクチンを接種した=コロナ前のように自由に生活できる」といった安易な考えが人々の間で生まれると、社会の不公平を浮き彫りにする可能性があるという指摘もあります。このような反論があるため、ワクチンパスポート構想は一筋縄ではいかないでしょう。

 

 

体温計も常に携帯しませんか? 「スマホ装着型の検温デバイス」がクラファンで超人気

体温を頻繁に測定するようになった今日、体温計もほかのテクノロジーと同じように、もっと使いやすくなるように進化しようとしています。その兆候のひとつが、スマートフォンに装着して使う小型の体温計。「ThermGo」と名付けられたこの新しい体温計は、現在クラウドファンディングで大きな注目を集めています。

↑いつでも、どこでも体温を測定できるThermGo

 

ThermGoは、iPhoneとアンドロイドのスマホまたはタブレットに付けて体温を測定します。重さはわずか16g、横幅7cmの円筒状の小型体温計となっているThermGoは人の額に向けるだけで、赤外線センサーによってタッチレスで体温を測るのが特徴。わずか数秒で体温を測定するうえ、スマホに装着して使うため電池も不要です。体温測定の精度については2000回を超える試験を行い、誤差は±0.1℃にとどまっているのだとか。

 

また、スマホにつけて測定したら、そのままアプリで体温を管理できる点も魅力です。毎日測定した体温をアプリに記録しておけば、新型コロナウイルス以外でも、インフルエンザや風邪などのわずかな体調の変化にいち早く気づけるかもしれません。子どもの体調管理にも役立ちそうです。

 

さらに、ThermGoはタッチレスで短時間で測定できるため、ほかの用途にも使うことが可能。室温を測ったり、ペットの体温を見たり、赤ちゃん用のミルクや食べ物の温度を測ったり。測定可能温度は体温なら35~43℃、モノなら30~50℃、室温なら15~35℃です。

↑あらゆる状況で活躍

 

新型コロナの感染予防以外にも幅広く利用できるThermGoは、Kickstarterで締切まで1か月近くあるのに、すでに1800%近くの達成率となっています(2021年1月7日時点)。価格はアーリーバードの割引で1個29ドル、2個セットなら57ドル。締切は日本時間の2月1日0時で、配送は2021年2月の予定。10ドルの配送料で日本にも配送が可能です。

 

スマホに付けて、どこでもサッと検温できるThermGo。体温測定を忘れがちな人も重宝するかもしれません。これから体温計も携帯するのが当たり前になる可能性があります。

 

「絶対に伝えたい」ことは、ピュアに常識を飛び越えて発信! 佐渡島 庸平×JICA広報室:伝えきるアイデアをとことん探れ

「本当に伝えたいコトを伝えきる人は、ピュアに常識を飛び越えていく」

 

こう語るのは、編集者として『ドラゴン桜』(三田紀房)や『宇宙兄弟』(小山宙哉)など、数々のヒット作に携わり、現在はクリエーター・エージェンシー「コルク」の代表として活動の幅を広げている佐渡島庸平さん。今回、佐渡島さんが審査員となった「コミチ国際協力まんが大賞」をきっかけに、同賞に協賛したJICA(独立行政法人国際協力機構)広報課長と対談が実現しました。

 

佐渡島さんの自由な発想とニュートラルな視点に引っ張られるように、対談の内容は漫画を飛び越え、国境を飛び越え、コンテンツ配信の新しいビジネスモデルから経済・組織働き方論にまで発展。日本の未来は、定石から解き放たれて、新しいモデルを生みだすアイデアを即興で奏でていくことで開ける、と二人は熱く語り合いました。

↑編集者として多くのヒット作に携わってきた佐渡島庸平さん(左)と、漫画をはじめ、さまざまな媒体を使って国際協力の広報に取り組んでいるJICA広報室・見宮美早さん(右)

 

<この方にお話をうかがいました!>

佐渡島 庸平(さどしま ようへい)

(株)コルク代表取締役。東京大学文学部卒業後、2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)などの編集を担当する。2012年クリエイターのエージェント会社、株式会社コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。

(株)コルク:https://corkagency.com/
note:https://www.sady-editor.com/

 

コミチ国際協力まんが大賞とは

2020年11月、漫画家の「作る」「広げる」「稼ぐ」を支援するプラットフォーム・コミチが、JICA協力のもと「コミチ国際協力まんが大賞」を実施。12月3日の「国際障害者デー」、3月8日の「国際女性デー」の2つをテーマにしたお題(エピソード)をJICAが提供し、それを原作とした漫画作品をコミチサイト上で募集しました。審査員には、佐渡島庸平さんのほか、井上きみどりさん(漫画家)、治部れんげさん(ジャーナリスト)、松崎英吾さん(NPO法人日本ブラインドサッカー協会 専務理事 兼 事務局長)の計4名が参加。国際障害者デーである12月3日に大賞2作品を含む入賞8作品が発表されました。

【コミチ国際協力まんが大賞】
https://comici.jp/stories/?id=397

 

<国際障害者デー部門・大賞>

「エブリシング イズ グッド!」作:いぬパパ

→続きはコチラ

 

<国際女性デー部門・大賞>

「ペマの後に、続く者」作:伊吹 天花

→続きはコチラ

 

感情の動きは世界共通――漫画を通して世界にメッセージを届ける

JICA広報室・見宮美早さん(以下、見宮):まずは、「コミチ国際協力まんが大賞」の審査員として、応募作品についてご率直にいかがでしたか?

 

佐渡島庸平さん(以下、佐渡島):今回は「国際障害者デー」と「国際女性デー」というテーマだけではなく、JICAさん提供の原作ストーリーがあったので、読みやすい作品が多かったですね。土台があると、漫画に個性も出やすい。ガーナやネパール(※)の方々の服装や背景の絵柄などは、応募者それぞれのアイデアで良く描いていたと感じました。

※JICAがコミチ国際協力まんが大賞のために提供した「国際障害者デー」と「国際女性デー」にまつわるエピソード(=応募者向けのお題)が、それぞれガーナとネパールものだった

 

見宮:入選作品は、英語に翻訳して世界中に配信したいと考えています。今回のエピソードの舞台となっているガーナやネパールだけでなく、他の国でもこのような変化が生じうる、というメッセージが伝わればと思っています。

 

佐渡島:漫画での発信自体はいけると思いますよ。感情の動きは世界共通ですから。ただ、配信するなら漫画そのものだけでなく、世界の読者が読みやすい配信の仕方を考えたほうがいいかな。今後は、「縦スクロール×オールカラー」の形がいいと思います。

現代では開発途上国含めて世界の多くがスマホ文化ですから、スマホ画面で読みやすいことが大事。例えるなら、紙の本が流通しているのに巻物で読んでいる人がいたら「読みにくいものをよく頑張って読んでいるな」って思っちゃいますよね(笑)。それと同じで、スマホユーザーにとって読みやすい方法で届ける、という姿勢が必要だと思います。スマホ向けの物語を一度読んでしまったら、もう元には戻れませんから。

 

日本型の完璧主義より「アップデート主義」が求められる場面も

見宮:日本ではまだまだ漫画というと紙の人気が根強いので、「世界に発信するならスマホで読みやすいように」というのは新しい視点でした。この、相手の立場になって考えて、使いやすいツールを用いるという姿勢は、途上国への国際協力の姿勢と同じかもしれませんね。

それに少し関連するのですが、途上国における事業でも、質が良くて長持ちするが調達や建設に時間のかかる日本の協力とともに、場合によっては長持ちしなくともスピーディに対応する協力が喜ばれることがあるんです。私自身、2013年にフィリピンでスーパー台風による大災害が起きた際に現地にいて、日本が建設した小学校は屋根が飛ばず、その価値がフィリピン政府に改めて評価された一方、倒壊した学校周辺のコミュニティからは一刻も早い再建を要望されました。迅速性を重視して低コストで建設した施設は、同等の台風がきたらまた倒壊するリスクが高いのですが、判断が難しいところです。

↑コンテンツをITで発信していくスピード感の一方で、力のある作家が育ち、作品を作っていく時間軸は長いと話す佐渡島さん

 

佐渡島:そもそもの国ごとの考え方の違いも関係しているかもしれませんね。自転車で例えるなら、丈夫で10年壊れないモデルを使い続けるのか、安いけど壊れやすいモデルを買い替えていけばいいというスタンスなのか。壊れ方もいろいろで、全部が壊れるのではなく、タイヤだけが壊れたならタイヤだけを交換すればいい、という考え方もある。こういったアップデート主義で動いている国もありますよね。モノの基礎が壊れなければ、壊れた一部だけをその時々でアップデートしていけばいい、と。シェアリングエコノミーでやっていくときには、こうした「壊れてもいい」というルールもありですよね。

一方で日本は、全部が壊れないように、という完璧主義。これだと中身のソフトは年々アップデートされるのに、外側が追いつかないという現象が起きる。日本製のモノを使うと国全体が時代から遅れてしまう可能性すらありますよね。全部が全部そうとは限りませんが、壊れないことによる破綻や弊害もあると思うんです。

 

見宮:現地の状況をみつつ、いろいろな形の国際協力のあり方を模索していく必要がありますね。

↑いまはSNSのなかで消費される、一瞬見て楽しいコンテンツをつくりたいと話す佐渡島さん。コンテンツという中身を、どんな媒体に載せるかは時代の潮流で変化するそうだ

 

佐渡島:そうですね。全くゼロベースから完璧なものを仕上げようとするのではなく、現地にあるものを生かして、「今あるものにONしていく」というファクトフルネス(※)に対応できれば、国際協力の仕方も柔軟になる気がしています。

※思い込みではなく、データや事実にもとづいて世界を正しく見ること

 

見宮:ファクトフルネス、大事ですよね! 例えば、一般に教育分野の国際協力というと学校の建設というイメージもありますが、国やエリアによるものの、学校がなくて全くゼロベースで教育を受けたことがないという状態は減ってきています。より教育を充実させるために、新しい施設を建設すべきなのか、指導者のスキルアップが必要なのか、教育の重要性に対する意識改革が効果的なのか…など、その地域の現状を踏まえた協力を心がけています。

 

「一物多価」のネット社会で「一物一価」感覚のままでは取り残される?

見宮:以前、「時代が変化する空気を直に感じたくて、独立した」というお話をされていましたが、コルク社では、まさに従来の出版モデルにないコミュニティ形成やN高(※)業務など、柔軟に対応されていますよね。

※学校法人角川ドワンゴ学園が2016年に開校した、インターネットと通信制高校の制度を活用した“ネットの高校”

 

佐渡島:そうですね、特にネット社会では、人とモノのマッチングの仕組みが変わってきている。そこに従来の感覚で立ち止まってしまうと取り残されてしまう。モノの値段も、資本主義で発達した「一物一価」の感覚が、今は「一物多価」に戻ってきていると思うんです。

社会が未成熟な状態だと、経済は一物多価といわれますよね。モノの値段が一律ではない状態。日本人はインドでタクシーに乗るときに値段交渉があるのを嫌がりますが、それはタクシーの値段は一律という感覚があるからですよね。同じ値段で乗れるべきなのに、高額を支払わされたと怒る。ですが、インド人同士では普通の感覚で値段交渉しているわけです。それは、メルカリ上での値付けも同じで、モノの値段が一律でない状態でも違和感がない。モノの値段が場所と時間で変わる世の中にもう一度戻ってきていると思います。

↑日本には「ほんとうに必要?」という慣習が多く保存されていると話す。例えば小学生のランドセル。10万円もかけるなら、一生使える高級革バックを買ったほうが効率的と考えてしまうそう

 

佐渡島:アフリカなどでは一物一価の時代を経ずに、そのままネットの一物多価感覚にのっかっていますよね。郵便物の仕組みも面白いんですよ。僕らは郵便番号で管理された住所に荷物を届けてもらうのが当たり前、と思っていますが、アフリカでは住所を持たないがゆえに、スマホがある所に荷物を運ぶ仕組みができかけている。日本でも、住所がある所と自分のスマホの場所と、荷物の出し分けができるほうが便利なはずですが、日本社会でこれをやろうとしても「うん」と言う人は少ないでしょうね。「従来型」にはまって身動き取りにくい状況が、日本にはたくさんあるように感じます。

 

“注意力散漫な人”向けに伝える方法を掘り下げるとヒットにつながる

↑再読性の高い漫画というツールを、今後の国際協力に生かす手法について熱心に質問する見宮さん

 

見宮:最後に発信に思い入れがある佐渡島さんならではの視点について、おうかがいできればと思います。広報の仕事をしていると、コンテンツ内容はもちろん、どんな媒体に載せるのか、どんなツールが最適なのかで日々試行錯誤しているのですが、佐渡島さんなら例えば「国際協力」をどう発信されますか?

 

佐渡島:まずは、誰に何を伝えるかを明確にするとよいと思います。例えば日本の若い世代向けに、漫画を使って国際協力への興味を引くにはどうするか。僕ならまず、JICAの採用ページに今回の漫画を使いますね。どんな組織も人ありきですからね、そこから変えていくのは面白いんじゃないかと。

で、「この漫画を世界に促す人になりませんか?」と謳い文句をつける。漫画が冒頭にあって、そのあとに職員の方のインタビューが入るという流れ。

今、文章で書かれたものは書いた人しか読まない。10代20代のアテンションを引っ張るなら、数秒で理解できる1枚の絵的なツールが必要です。YouTubeよりもTikTokを選択する彼らに「インタビューを読んでください」から入ってもキャッチできないでしょうね。

↑ゼロから作品を作りだす作家たちには、漫画の登場人物がまるで本当に存在しているかのように、その人となりを第三者に伝える力があると語る佐渡島さん

 

佐渡島:テレビ局の方が以前、「注意力散漫な人に、どういう順序で伝えたら深い話が伝わるのかを考えられると、ヒット番組が生まれる」と話していたんです。今はテレビも、料理だったり洗濯だったり、何かをしながら画面を見る視聴者が多い。そうなると、注意力が散漫になるわけです。その状態の人に真剣にメッセージを送るとしたらどうすればいいか? を掘り下げることが重要だと。

国際協力に関しても、日本国民も途上国の方も、まだまだ知らないことが多く、注意力散漫な状況だろうと思うんですね。かなりクローズドなマーケットですから。その層に向けた発信策を追求してみたら改革につながるのではないでしょうか。

 

見宮:なるほど、面白いですね。常識から解き放たれて、新しい仕組みづくりや発信の仕方から掘り下げて考えていきたいですね。JICAとしてはまず、今回の国際協力まんが大賞作品をしっかりと世界に向けて発信していきます。発信者として、佐渡島さんが普段から意識されていることはありますか?

 

佐渡島:僕が編集を担当した『宇宙兄弟』に「俺の敵はだいたい俺です!」というセリフがあるんですよ。誰かに向けて何かを発信するという行為は、「伝わるといいな」程度では届かないと思うんです。伝える本人の「これは絶対に伝えたい」という強い想いこそが常識の壁を越えていく力になる。そういう想いがある方って、とってもピュアな方が多い。それは漫画以外の媒体であれ、伝えたい先が国内であれ世界であれ、共通していると感じています。会社や組織、国境や人種……壁はどこにでもありますが、周囲の状況以前に、まずは自分から突き抜けていく、という純粋な熱量が大事なんだと思いますね。

 

撮影:石上 彰  取材協力:SHIBUYA QWS

「自己修復するディスプレイ」でスマホはまだまだ進化する

スマートフォンによく起こるアクシデントのひとつが画面のヒビ割れ。楽天モバイルのアンケート調査によると、スマホのディスプレイを割ったことがある人はおよそ3割もいるそうです。画面が割れたまま使い続けると何だか少しだらしないし、かといって修理にかかる手間や費用も惜しい。そこで、そんな問題を解決するための研究が行われており、ついに最近、割れたスクリーンを自己修復させる新しい素材が発表されました。

↑画面が割れても、へっちゃら!

 

折りたたみスマホをはじめ各種電化製品には「透明ポリイミド」と呼ばれる素材が使われています。ガラスのように透明なこの合成樹脂は、折りたたむ動作を何千回と繰り返しても強度を維持できるのが特徴。そんなポリイミドに亀裂や破損が生じにくくするために、これまでに添加剤の注入や保護層のコーティングなどが試みられてきましたが、破損を予防できる素材の開発には至っていませんでした。

 

そんな状況を打破したのが、韓国科学技術研究院(KIST)と延世大学の共同研究チームが開発した「自己修復可能な透明ポリイミド」です。この研究チームは、亜麻という植物の種から抽出した「亜麻仁油」に着目。この油は25度で硬化する性質があり、美術品の塗料などにも使われていますが、彼らはマイクロカプセル状にした亜麻仁油にシリコンを混合し、それを透明ポリアミドでコーティングしました。これによって、素材が損傷を受けると亜麻仁油が損傷部分に流れ出て硬化し、自然と修復できるようになるそうです。

 

紫外線照射なら20分で修復

自己修復機能を持つ素材はこれまでにも開発されてきましたが、従来のものは柔らかい素材にしか利用できなかったうえ、修復のためには高温での処理が必要でした。しかし今回開発された透明ポリイミドはスマホのような硬い材質でも使用でき、室温環境で修復することも可能。さらに、修復の時間を短縮したい場合は紫外線照射と湿度によって、わずか20分以内に95%以上が元に戻るそうです。

 

この素材がスマホに広く使われるようになったら、同じスマホをいままでよりも長く使うことができるかもしれません。同様に、ほかの電子機器や電化製品にもこの素材が使われる可能性も考えられます。スマホの進化は頭打ちとも言われていますが、この開発によって、画面が割れてしまって「だらしない」と思うことはなくなりそうですね。

 

【出典】Youngnam, K., Ki-Ho, N., Yong, C. J., & Haksoo, H.(2020). Interfacial adhesion and self-healing kinetics of multi-stimuli responsive colorless polymer bilayers. Composites Part B: Engineering, 203, https://doi.org/10.1016/j.compositesb.2020.108451

新型コロナで変わった旅のカタチ。イタリアで流行る「安・近・短」な巡礼路ウォーキング

現在、イタリアの旅行業界ではスローツーリズムといわれる巡礼路ウォーキングが注目を集めています。ヨーロッパで最も有名な巡礼路はフランス各地からスペインに向かうサンティアゴ・デ・コンポステーラで、出発地点にもよりますが、その距離は数百キロを超えることも。ところが、最近のヨーロッパでは国境や州を超える長距離巡礼路は人気が低下し、その代わりに地元の短距離コースが人気となっているようです。

 

短距離巡礼デビュー者が増加

↑いまこそ巡礼デビュー

 

イタリアの大手出版社「Terre di Mezzo」の調査によると、2020年1月から9月末までに欧州の14の巡礼路が発行した巡礼証明書は3万通弱でした。前年の同時期と比べると32%減となっていますが、なかでも長距離の巡礼で知られるサンティアゴ・デ・コンポステーラが発行した証明書は、85%の減少を記録しました。

 

しかしその一方で、2020年夏に巡礼路デビューを果したイタリア人は増えています。同社が行ったオンライン調査には巡礼路を歩いた経験を持つ3000人超のイタリア人が参加しましたが、30%は今年の夏に初めて巡礼路を歩いたと答えています。

 

イタリア国内にはまだあまり知られていない巡礼路が多く、大自然や遺跡を見ながら歩ける巡礼はまさにコロナ時代のツーリズムにふさわしいと考えられたようです。調査によれば、イタリアのなかでも居住する州や近隣の州にある巡礼路を歩いたという人が53%にのぼり、国外の巡礼路を歩いたのはわずか5%でした。

 

人気だったのはエミリア・ロマーニャにある「ヴィア・デッリ・デイ(Via degli Dei)」、世界遺産の街マテーラを含む南イタリアの「ヴィア・ペウチェタ(Via Peuceta)」、サルデーニャ島にある「カンミーノ・ミネラーリオ・ディ・サンタ・バルバラ(Cammino minerario di Santa Barbara)」など、夏のバカンス地に近くアクセスも良い巡礼路でした。また、ピエモンテ州にある「カンミーノ・ディ・オロパ(Cammino di Oropa)」などでは昨年より4倍も参加者が増えたところも。イタリア半島では至る所に巡礼路であることを示す標識が見られますが、2020年はクルマで通り過ぎるだけでなく、これら標識に沿って歩いてみた人が多かったのでしょう。

↑1555年に描かれたローマ巡礼の様子

 

日曜日に教会に通う熱心なキリスト教徒の減少が顕著なイタリアで、なぜ巡礼路を歩く人が増えたのでしょうか? Terre di Mezzoの調査で参加理由を聞いたところ、「巡礼路がある土地や町についてより深く知りたかった」という答えが50%超、「大自然のなかで過ごしたかった」が48.6%でした。巡礼路デビュー者でも「新しい経験をしたかった(60.1%)」に次いで「大自然の中で過ごしたかった(58.9%)」が大きな割合を占めています。

 

そのほか「心身の健康のため」「トレッキングをしたかった」「文化的な興味」などの理由が上位を占め、巡礼路の本来の目的である「宗教上の理由から」と答えた人は29.7%にとどまりました。人好きのイタリア人らしい回答としては「巡礼路上でさまざまな人に出会える」が19.8%を占めました。巡礼路を歩くのは単独、あるいは2人までと答えた人が半数以上であることも、未知の人々との出会いを期待しているからかもしれません。

 

宿泊や食事は質素に

↑「オステッロ」と呼ばれる宿泊施設の様子

 

数日かけて巡礼路を歩くには宿泊施設が必要ですが、どのような宿泊施設が利用されるのでしょうか? 巡礼に参加する年齢層は、経済的に余裕がありそうな51~60歳が全体の30%弱と最多です。ところが全体の回答をみると、利用した施設はベッドと朝食付きの「B&B」が最多の42%で、2段ベッドが基本で浴室やトイレも共同とさらに安価な「オステッロ」が21%でした。

 

キリスト教会が運営する施設での宿泊は16%で、道具一式を担いで歩くのはかなりハードだと思いますが、6%はテントで過ごしたそうです。ホテルと名乗れるレベルの施設を利用したのは、わずか7%にすぎませんでした。

 

昼食に関してはコロナの影響もあり、84.6%がパニーノなどのお弁当持参。さすがに長距離を歩いた後の夕食は56%が外食と答えたものの、テイクアウトのピッツァやレストランより格下の「トラットリア」での軽食が大半でした。宿泊や食事については巡礼への忠実さを守り、清貧のスピリットを尊重した人が多かった模様。

 

このように、巡礼に参加した人の平均的な出費は宿泊費も含め1日30~50ユーロ(約3800~6400円)と驚くほど格安です。巡礼参加者のうち20代は9.5%を占めますが、2020年における巡礼路デビュー者のなかでは20代の割合が21.4%にのぼりました。このトレンドの背景には、コロナ禍によるツーリズム志向の変化というだけでなく、安価にスローライフを楽しめることもあるようです。

 

まとめ

長距離の巡礼ともなると数か月をかけて数百キロを歩くことも珍しくないのですが、コロナ時代の巡礼は無理せずに数日間での参加が増えました。お金の使い方も含め、まさにスローツーリズムといえるでしょう。

 

トレッキングの装備についても、現代は量販店で安く手軽にそろえられる時代。お金はあまり使わず豊かな自然のなかで心身を癒し、巡礼という同じ目的を持った未知の人たちと遭遇できる機会もあります。巡礼路がつくられた当時のイメージとはやや異なるスタイルかもしれませんが、人気ツーリズムとしてコロナの時代に定着しつつあるようです。

 

イタリアの「学校給食」が貧弱化。新型コロナの影響が子どもの食事にも。

学校に通う子どもたちには、おいしくて健康的な給食を食べさせてあげたいもの。多くの大人はそう思いますが、イタリアでは昨年から気になる変化が起きています。

 

同国では毎年「Foodinsider」というオブザーバー組織が学校給食の献立や栄養などを調べ、優れた給食を提供する都市をランキング形式で発表しています。同団体はイタリアがロックダウンを経験した2020年も調査を実施しましたが、イタリアの学校給食が新型コロナウイルスから深刻な影響を受けていることが明るみとなりました。

↑給食の中身も空っぽに?

 

ロックダウン前の給食事情

ここ数年、Foodinsiderが発表するランキングでトップを保持している都市は、北イタリアのクレモナです。新型コロナウイルスによる犠牲者が多かったことでも知られるクレモナですが、ここでは給食のために本職のコックを雇用しています。

 

評価が高い理由は料理の美味しさだけではありません。WHOの指標に従って野菜や魚をバランスよくメニューに入れるだけではなく、赤身の肉や加工肉を減らし、ヘルシーな白身の肉をより活用している点などで高いポイントを獲得しました。

 

クレモナ以外でも、トップ10の顔ぶれはこの数年間変わっていません。トップ10の常連は、アドリア海に面するファーノやイエージ、リミニ、北イタリアのトレントやマントヴァなど。ポイントが高くなる特徴として、ユネスコの世界遺産にも登録された「地中海式食事法」の主要食材のひとつである豆類の使用頻度が高いことが挙げられます。

 

また魚料理もシーチキンなどの加工品ではなく、アドリア海や地中海で獲れた新鮮な魚を使って調理。さらに、昨今のイタリアの食事情を反映させて有機野菜の使用頻度も高く、これもポイントに加算されます。

 

一方、首都ローマは16位、北イタリアの大都市ミラノは25位でした。ポイントが低い理由は、ハムやソーセージなどの加工肉や揚げ物が多すぎることや、パスタやコメに加えてじゃがいもなど炭水化物が多すぎることなどが挙げられます。イタリアで子どもの肥満は社会問題となりつつあり、実に5人に1人は該当するといわれているのです。そうした事情も考慮し、カロリーが高すぎたり栄養が偏ったりという給食はポイントが低くなっています。

 

ロックダウン後にメニューが貧弱化

↑おいしくて健康的な給食はどこへ……

 

イタリアは2020年3月5日に学校を閉鎖し、再開したのは9月に入ってからでした。ロックダウンを経て学校給食にはどのような変化があったのでしょうか? Foodinsiderが調査した結果、特に顕著だったのはメニューの貧弱化です。

 

チーズやバター、オリーブオイルでパスタを和えただけの「パスタ・ビアンカ」や、トマトソースをからめただけの「パスタ・ロッサ」が以前よりも頻繁に提供されるようになり、ペーストを絡めただけのパスタやピザが提供されることも多くなりました。旬の食材をパスタに入れるような手の込んだメニューは珍しくなってしまったのです。ミネストラと呼ばれる野菜スープは姿を消し、加工品のミートボールが幅を利かせるようになったことも報告されています。

 

Foodinsiderの報告によれば、以前は給食の内容をチェックしていた保護者の干渉も、ロックダウン解除後は激減したそう。各地の学校でクラスターが発生しているため、親も給食の内容まで目が届かないという事情があるのかもしれません。

 

いつもは環境問題に重きを置いて授業を進めているのに、コロナ感染拡大の影響で使い捨て食器の使用が大幅に増えたことも学校にとっては頭の痛い問題。さらに各市町村によって異なるものの、予想もしなかった使い捨て食器代が給食財政に重くのしかかってきたのです。

 

Foodinsiderのランキングでは23位と振るわなかったヴェネツィアでは、ロックダウン以前から給食のための食器を家から持参するルールが定められていましたが、今後はヴェネツィアのように現状に即したルールを取り入れる自治体も増えていく可能性があります。

 

一方でロックダウン中には国民の食料廃棄削減への意識が高まりました。従来のイタリアンマンマたちの間では「嫌いなものを無理に食べさせるなんて子どもがかわいそうだ!」という意見が大半でしたが、ロックダウンを経て食料ロスに関する教育が必要だという声も高まっています。

 

Foodinsiderの懸念は、イタリア国内の給食事情におけるポリシーの両極化にあります。ある自治体は給食を「食育」の場ととらえ、コストがかかっても質の良い給食を提供しようと努めています。実際、ランキング5位のリミニではロックダウン後に給食従事者を新たに12人も雇用し、栄養面と衛生面に万全を期しています。それに対して、効率化ばかりに注目し、子どもたちを満腹させればよいという自治体も少なくありません。

 

給食の時間が静かに

今回の報告で最も興味深かったのは、給食の時間が静かになったこと。イタリアの子どもたちはよくいえば天真爛漫で、給食の時間は嫌いなおかずが宙を飛んだり食事中に席を立ったりと、おしゃべりが絶えずに喧騒状態というのが常でした。しかし、ロックダウン後は飛沫が飛ぶことを理由におしゃべりが禁止され、コロナの怖さを充分に理解している子どもたちは静かに給食を食べるようになったそうです。この点だけを見ても、2020年はイタリアの給食事情に大きな変化があったといえるかもしれません。

 

「サステナビリティ」は加速する。2021年のトレンド予測

近年、サステナビリティに対する意識が世界各国で高まっており、2021年は一層加速していくでしょう。しかし、具体的にはどんなことが起こるのでしょうか? 本稿では「食品ロス」「オーガニック」「嗜好品・日用品」という視点から、タイ、イタリア、アメリカにおける様々な事例を取り上げることで、世界中のサステナビリティのトレンドを予測してみます。

↑サステナビリティをよく見てみると……

 

「食品ロス」はアプリで減らす

消費者に身近な取り組みとして、まずは「食品ロス」が挙げられます。欧米では賞味期限を活用して、ユーザーに情報を迅速に伝えられるスマホアプリが活躍しており、今後もその需要は高まると考えられます。

 

例えば、ロックダウンを通じてイタリア人が敏感になったのは「食の廃棄」。イタリア農業連盟の調査では4割以上が以前よりも廃棄を減らしたと答えています。それに貢献しているのが、賞味期限間近の食材情報を消費者やボランティア団体に知らせるアプリ。NPOなどがレストランや食料品店の閉店前ぎりぎりに食料を回収し、食べ物を必要とする家庭に届けています。

 

クリスマスや復活祭で余った食料もすぐにアプリにアップされる一方、イタリア独特の派手な結婚式や洗礼式で大量に余るご馳走についても、廃棄せずに必要とする人たちに届ける仕組みが広がっています。最近では、結婚式をあげる若いカップルはNPOに事前連絡し、この取り組みに参加することがトレンドになってきました。

 

アメリカやイギリスでもアプリを活用し、レストランなどで廃棄される食べ物を半額またはそれ以上の割引価格で購入できるようになっています。例えば「Too good to go」というアプリでは、住んでいる地域を登録しておけば、その地域のレストランやホテルから通知が届く仕組みとなっています。

 

また、欧米では形が不揃いといった理由で市場に卸せないオーガニック野菜をまとめ、リーズナブル価格で配達してくれるサブスクリプションサービス「Misfits」も人気。一般店舗の価格よりも最大40%の割引価格なのに加え、家族の人数に合わせて量を選べるため廃棄を減らすことができます。

 

その一方、もともと外食が多いタイでは新型コロナウイルスの影響でデリバリー需要が大幅に増え、ホテルや高級レストランも相次いでこの分野に参入しました。複数の現地大手銀行などもアプリ企業と提携し、新しい食品配達アプリの開発が活発化しています。

 

そのなかで登場したアプリのひとつが「Yindii」。ユーザーは最大50~70%引きで食料を入手することができるのに対し、飲食店はそれによって利益を得られるというもの。参加店舗はヴィーガン向けや添加物不使用のレストランが多く、SDGsに関心のある人や健康意識の高い人に選ばれるアプリとして人気が出そうです。

 

「オーガニック」はますます人気に

サステナビリティへの取り組みは、商品開発にも反映されるようになりました。なかでも女性やミレニアル世代の商品を見る目は厳しくなり、環境に配慮した商品に優位性が生まれているとみられます。例えば、イタリアのワイン業界では「サステナビリティ・ワイン」の認証基準に取り組むプロジェクトが立ち上がりました。この国ではオーガニック食材の市場が大幅に伸びていますが、同プロジェクトでは有機栽培を用いてCO2の排出量を削減しながら、空気、水、土を汚染せずにワインを生産しています。

 

南イタリアにはアーモンドの木との「養子縁組システム」があり、「親」となる出資者は縁組期間中、収穫した実を毎年受け取ることができます。「養子」となった木には親の名前を記したプレートを付けることができるうえ、木の成長具合も確認することができます。このシステムで集まった資金は樹木の手入れやバイオ農法の促進などに充てられているそう。

 

それと関連して、イタリアでは「樹木を植えるキャンペーン」も人気です。フィレンツェでは、購入した木が自治体の樹木遺産の一部となり、それを通して都市の気候緩和とCO2削減に貢献するという取り組みが行われています。購入者は自分で植える場所も選ぶことができ、樹木が成長する様子もメールで確認することが可能。また、この活動はギフトとしても活用されています。

 

アメリカでも、化学物質を一切使用しないオーガニックのスキンケア製品や自然に優しい洗剤などが人気を集めていましたが、最近はコロナ禍の影響で「心のつながり」を求める人が急増。商品のバックグラウンドやストーリーを重視したり、地域に根ざした店舗で消費したりという行動が強まっているようです。

 

タイではオーガニック食品やエコ商品の店舗が増加し、バンコクの中心街には環境配慮型商品のみを扱う専門店もオープンしました。このお店では雑貨や生活用品、食品などを取り扱っていますが、なかでもスキンケア商品が豊富に取り揃えられており、多くのオーガニック系ブランドもそこに含まれています。エコストローやプラスチックを再利用して作ったバッグ、水中の生き物に害を与えない日焼け止めなど、地球に優しい商品に人気が集まり、今後もこのような動きは続くでしょう。

 

さらに、タイでも不織布や紙で作られたエコバッグやマイボトル、マイストローを持ち歩く人が若年層を含めて増加中。ペットボトルの水を通常の3倍の価格で販売するスポーツジムもあるなど、多くの人にマイボトルなどを持ち歩くようにさせるための取り組みが、あちこちで行われています。

 

同国のフードデリバリーでは、プラスチックの代わりに紙やキャッサバ、サトウキビで作られた容器を使用する飲食店が増えており、特にヴィーガンカフェや富裕層向けレストランでは天然素材容器の活用が目立ちます。5つ星のマンダリンホテルでは、バイオプラスチックのペットボトルや固形タイプの歯磨き粉、木の歯ブラシなど、部屋のアメニティをプラスチック不使用の製品に変えており、このような動きはこれからもっと広がるでしょう。

 

サステナブル化する「嗜好品・日用品」

イタリアではラグジュアリーブランドが率先し、プラスチックをリユースした商品開発に力を入れています。プラダは廃棄素材を利用したナイロンでバッグを生産し、グッチは破棄された漁網やカーペット、生産過程で生じた廃棄物を再利用しています。フェラガモは廃棄オレンジの皮で作った素材を活用するなど、自然に優しい素材を使った商品はファッション業界でもトレンドになっています。

 

アメリカではテラサイクル社が、使用済みの商品容器を提携メーカーが回収し、洗浄して再利用するという循環型消費事業の「ループ」を展開中。サブスクリプションサービスとなっているループは、化粧品や日用品、飲料などを専用容器で購入すると、中身を使い切った時点で、同じ品物が別の専用容器に入れられて届くという仕組みになっています。

 

同社は専用容器のデザインなどにも工夫を凝らしており、消費者から高い評価を得ています。すでに多くのメーカーと20か国以上で提携しいるループは、日本でも多数の企業の賛同を受けながら2021年にサービスを開始する予定です。

 

まとめ

↑さあ、どうする?

 

2021年には消費者のサステナブル意識がさらに高まり、それが私たちの購買や行動パターンに影響を与える傾向が強まりそうです。それに対応するために、サステナビリティに本気で取り組む企業も増えていくのではないかと考えられます。その場合、サステナビリティ関連の新しい製品やサービスもどんどん作られていくはずですが、消費者にとって選択肢が増えるのは悪いことではありません。自分のライフスタイルにあった選び方ができるように、見る目を養っておくといいかもしれません。

いつもと違った一年を「AI」はどう過ごした?【2020年AI記事まとめ】

医療から自動車、環境まで、さまざまな分野で発展が目覚ましいAI(人工知能)。2020年は新型コロナウイルスの感染予防にもAIの技術が活用されましたが、この科学技術は今年どんな進歩を遂げたのでしょうか? 本稿では、この1年間に紹介したAIの最新技術を6つのカテゴリーに分けて振り返ってみます。

↑私の進歩について来い!

 

①【医療】”リモートで”病気を予測

どんな病気でも、早期に発見し適切に対処することが大切。そのために定期的な健康診断が奨励されているのですが、医療機関に行かなくても病気を予測することができたら、私たちにとってメリットもあるでしょう。医療界では、スマートフォンで撮影した顔写真から心臓病を予測するAIの技術の開発が進んでいます。薄毛や白髪、耳たぶのしわの増加、まぶた周辺の黄斑など、顔の変化をAIが解析して心臓病疾患を診断するというもので、まだ実際の医療現場で使われるために十分な精度は出ていませんが、多くの患者のデータを蓄積していくことで、今後は顔写真での心臓病解析が当たり前になっていくのかもしれません。

 

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自撮りだけで心臓病を診断できる? 「医療AI」が猛勉強中

 

②【環境】砂漠にいっぱい樹木を見〜つけ

年々深刻化する環境問題にもAIを活用する動きが進んでいます。例えば、AIとNASAの衛星画像を組み合わせた研究で、植物はほとんど生息しないと思われていたサハラ砂漠に、18億本もの樹木が生息していたことが判明しました。サハラ砂漠の大きさは、日本の国土面積の約22倍。いくら衛星画像があったとしても、その写真から樹木の本数を人間が手で数えるなど、途方もない時間と手間がかかる作業になります。それを短時間で計算することができたのはAI技術の賜物。砂漠に存在した樹木の種類を特定することなどによって、地球温暖化や地球保護などの研究にも活かすことができると期待されます。

 

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AIがサハラ砂漠に18億本もの樹木があることを発見! かかった時間が凄かった……!

 

③【コロナ対策】タッチレスなタッチスクリーン

スマホやタブレット、券売機、ATMなど、さまざまな機器に導入されているタッチスクリーン。これを非接触で操作可能にする開発が行われています。そのひとつが、クルマに搭載されたディスプレイのタッチスクリーン。運転中はクルマの揺れがあり、画面上のタッチしたい部分に、指で的確に触れることが難しいもの。そこで英ケンブリッジ大学では、AIを駆使して運転手が画面のどの部分を指そうとしているか自動的に判別する技術を開発したのです。開発されたタッチスクリーンは操作時間を最大50%も削減。これで運転中の操作ミスによる事故などのリスクも軽減されることでしょう。さらにこの技術は、スマホを含む私たちの生活の身近なあらゆる機器にも応用できると期待できます。

 

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「タッチレスなタッチスクリーン」ってどういうこと? AIを使った最新技術が加速中

 

④【自動車】周囲の音を分析して安全性を高める

クルマ業界の技術開発における永遠のテーマともいえるのが安全性でしょう。自動で駐車する「駐車サポートシステム」や、運転者の死角にクルマなどが近づいたときに警告を出す「ブラインドスポットモニター」はよく知られていますが、そのなかでほぼ未着手だったのが「音」に関する技術。そこでドイツの研究チームは、クルマのクラクションの音や、遠くから近づくサイレン音などを聴き分けられるよう、AIなどを活用しながら視覚機能の開発に取り組んでいます。将来的には、タイヤやエンジンの音から異変を感知するなど、自動車の安全性をさらに高める機能が誕生するかもしれません。

 

【詳しく読む】

AIが周囲の音を分析! 自動運転車用「聴覚機能」の開発が進行中

 

⑤【ビジネス】ダンスにも著作権を

ダンスの振り付けというと著作権があるのかないのか、なんだか曖昧ですよね。写真やイラスト、音楽には著作者を守る著作権が存在するのに、踊りに関してはそれが明確化されていないのが実情です。そこで世界中のダンサーや振付師を守るために、振り付けを登録して著作権を明確化しようとする動きが現れました。日本とアメリカでリリースされたダンス登録管理システムでは、ダンスの動画からAIが3Dモーションを推定、抽出してデータ化。すでに登録されている振り付けか、新しい振り付けか判断できるのです。せっかく自分が考案したダンスは、守られるべき。ダンス界が変わっていく新しい一歩になっていくかもしれません。

 

【詳しく読む】

曖昧だった「ダンスの著作権」を変えるのにはAIが役に立つ

 

⑥【画像】ボヤけた顔写真がクッキリ!

画像認識や画像作成は、特にAIの技術が活用されることが多い分野のひとつでしょう。2019年には現実の世界には実在しない人物の顔を作り出すAI技術を取り上げましたが、これと同じような画像AI技術としてアメリカの研究チームが発表したのが、ボヤけた元の画像を最大で64倍まで鮮明にするツール。目や鼻などのパーツはおろか、顔の輪郭さえハッキリしない元の画像でも、毛穴やシワまでリアルに再現してしまうのです。ただ、この技術はあくまでも「実在しそうな人の顔」を作るだけ。防犯カメラの画像を鮮明にするような用途では使えないとのことです。

 

【詳しく読む】

まるで目の前にいるかのようだ! 顔写真を64倍も鮮明にできるAI技術を米研究チームが開発

 

2020年はリモートワークが進み、私たちの働き方やライフスタイルに大きな変化をもたらしました。これは私たち人間とAIの距離をますます縮めているかもしれません。今後もめまぐるしく進化するAI技術に注目です。

若い世代がリードした、2020年に世界で注目されたサステナビリティまとめ

「サステナビリティ」や「SDGs(持続可能な開発目標)」は、現代のキーワードとして日本社会にもかなり浸透しました。2020年もサステナビリティに関するさまざまな記事を取り上げてきましたが、本稿ではアパレル・食品・容器包装・モビリティの4分野から注目すべき動向を振り返ってみます。

↑今年は未来の世代に何を残した?

 

①【アパレル再生可能な天然素材が流行り

化学製品を使わず再生可能な素材を活用することは、アパレル業界でも盛んになっています。ポール・マッカートニーの娘でイギリスのデザイナーであるステラ・マッカートニーは、自身のブランドで生分解可能なデニムを使ったストレッチジーンズを発表しました。ストレッチデニムの伸縮性は天然素材のコットンだけでは不十分で、石油由来の弾性素材が必要です。

 

しかし、イタリアの老舗ジーンズメーカーが天然の弾力素材を織り込んだ伸縮性の高い生地を開発したため、ステラはこの生地を使用。染料についても、オランダ企業が開発した生分解可能な天然由来の染料が用いられました。化学製品などの代用品としてキノコや海藻からの抽出成分を利用した結果、このジーンズは100%生分解が可能となったのです。

 

【詳しく読む】

サステナビリティを語るなら「生分解可能なデニム」をはくべし!

 

一方、意外な果物を使った繊維も開発されています。高級な繊維として知られるシルクは絹糸生成段階で大量の水が使われ、二酸化炭素が発生することが課題でした。エコな代替品が求められているなか、オレンジの皮から作ったオレンジファイバーが登場したのです。

 

素材の開発と販売を手掛けているのは、オレンジ産地として知られるイタリア・シチリア島の企業です。オレンジジュースの製造過程で年間70万~100万トン出る大量の皮の生ごみは、現地で悩みの種になっていました。オレンジの皮を繊維に加工できないかと考えたシチリア出身の研究者たちが、ミラノの大学と共同で皮からセルロースを抽出する技術を開発。生地の手触りはまさにシルクのようになめらかで、フェラガモ社をはじめアパレル関係者から高く評価されており、大手ファストファッションのH&Mもオレンジファイバー素材を用いたサステナブル商品を以前に発表しています。

 

【詳しく読む】

「柑橘系シルク」が世界を変える! H&Mも採用したエコ繊維「オレンジファイバー」とは?

 

②【食品食品廃棄物を活用した結婚式

食品廃棄もSDGsの重要課題のひとつ。欧州では若い世代がこの問題の解決に向けて活動しています。イタリアでは若者たちがNPOを立ち上げ、家庭やレストラン、食品店などで余った食料を必要な人にすぐ届ける取り組みを始めました。目を付けたのが、イタリア独特の派手な結婚式で膨大に余るご馳走です。

 

まずは結婚式が決まったカップルから事前連絡をもらい、段取りを決めます。パーティーが終わるとスタッフが安全できれいな食べ物をまとめて、見た目も整え、食料を必要とする近隣家庭に約30分で届けます。最近はこの活動が広く知られるようになり、若いカップルが結婚式を挙げる時には参加することが当たり前になってきました。

 

結婚式だけでなく洗礼式でも同じ活動が行われ、クリスマスや復活祭でも食料やお菓子が提供されて賞味期限とともにNPOの公式サイトやFacebookに掲載されます。さらに、食料品店の閉店15分前に賞味期限ぎりぎりの食材を回収し、必要な家庭に届けています。

 

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若者が社会を変える! 南イタリアから広まる「残飯ゼロ」を目指す素晴らしい動き

 

イギリスでも食品廃棄に対する国民の意識が年々高まっています。2018年に湖水地方で結婚式を挙げたカップルは、国内初の「食品廃棄物ウェディング」で一躍有名になりました。賞味期限が迫った食べ物や、スーパーに断わられた形の悪い野菜や果物を卸業者などから集めて販売するチェーン店が食料の調達に協力。

 

披露宴のご馳走はとても豪華で、招待客はすべて食品廃棄物から作られていたことにまったく気付かなかったそうです。この結婚式を機にイギリスでは「食品廃棄物ウェディング」を希望するカップルが増え、食の新しい価値観が生まれているようです。

 

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「食品廃棄物ウェディング」は素敵なこと! イギリスで活発な「食品ロス削減」のユニークな動き

 

③【容器包装海藻を使えば容器も食べられる時代に

ペットボトルや調味料の容器に使われるプラスチックの量を削減するために、イギリスのNotpla社は「食べられる包装材」を開発しました。「オーホ」と名づけたこの包装材はそのまま食べられ、捨てても4~6週間で自然分解されます。原料はフランス北部で養殖されている海藻で、乾燥させて粉状にしたあとに独自の方法で粘着性の液体に変化させ、さらに乾燥させるとプラスチックに似た物質になります。1日に最大1メートルも成長し養殖には肥料なども不要なため、原料不足になる心配もありません。

 

2019年のロンドン・マラソンではランナーに提供する飲料の容器に使用し、3万個以上を配布しました。同社は2020年にサントリーの子会社と提携し、ドリンクが入ったオーホの自動販売機を開発。スポーツジムに設置して実証実験を行ったほか、さまざまなイベントで活用しています。

 

新型コロナウイルスの影響でテイクアウトが増加し、プラスチック廃棄物も増えています。食べられる容器は、ごみ問題の救世主のひとつになっていくかもしれません。

 

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丸ごと食べてプラ削減! 飲み物や食材の「包装」も食べられる時代に突入

 

④【モビリティ公共交通機関の無償化は成功するか?

欧州の小国ルクセンブルクはドイツやフランスなどからの越境労働者が多く、夕方4時を過ぎると至るところで渋滞が見られます。排ガスによる大気汚染の観点からEUから何度も是正を促され、国としては初となる「公共交通機関の無償化」を導入しました。同国では自動車通勤の人が確定申告をすると、通勤距離に応じた金額が還付される制度があります。これを変更もしくは廃止して、その財源を公共交通機関の無償化に充当し、自動車利用の抑制につなげるという仕組みです。

 

ただ、ルクセンブルクの公共交通機関は本数が少なく移動が不便ということもあり、無償化後も渋滞が大きく緩和された様子は見受けられません。政府も今後はより利便性の高い交通サービスを提供していくことが必要と発言しています。

 

都市単位では欧州を中心に約100都市で同様のモビリティ施策が導入されていて、公共交通機関の全面無償化に踏み切ったフランスの都市ダンケルクやエストニアの首都タリンでは利用者数の増加など一定の効果が表れています。CO2削減策の1つになりうる可能性もあるといえるでしょう。

 

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国として初めて「公共交通機関」を無償化したルクセンブルク。国民が冷めているのはなぜ?

 

このように、限りある資源を未来の世代に残す活動は今年も活発に行われてきました。上記の取り組みはすべて欧米から生まれていますが、生活に密着したサステナビリティは日本でもさらに広がっていく可能性があります。そこで鍵を握るのは、イタリアの事例が示すように若い世代でしょう。新しい価値観をどんどん生み出す若者に2021年も注目です。

外科医のプライベートが「手術」に与える影響

現在、世界中の人々が医療従事者に感謝しています。そんななか興味深い論文が12月上旬、アメリカで発表されました。手術室で仕事をする外科医の集中力について「プライベート」という側面から分析したこの研究は、執刀医の誕生日と手術結果の関係に着目。新たな事実が示されました。

 

手術後30日以内の死亡率が増加

↑仕事とプライベートを切り離すのは簡単ではないのかも……

 

手術室では、執刀医が臨床的な理由だけでなく、個人的な事情のために注意力散漫になることがよくあります。これまでの実験では、気が散った執刀医は手術がうまくできなくなってしまうことが明らかにされていましたが、実際の手術のデータを使った研究では、執刀医の注意力散漫が手術の結果にどんな影響を与えるのか、よくわかっていません。

 

そこで調査に乗り出したのが、慶応義塾大学の加藤弘陸特任助教とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の津川友介助教授、ハーバード大学のAnupam B. Jena准教授の3人。この共同チームは、執刀医の誕生日に行われた手術を見てみることで、プライベートな事情による注意力散漫と手術結果にどのような関係があるのかを調べることができるかもしれないと考えました。執刀医の誕生日と患者の死亡率の関係は、これまで研究されていません。

 

彼らは、2011〜2014年の間にアメリカの救急病院などで65~99歳の患者に対して行われた98万876件の緊急手術に関するデータを使用。これらの手術を担当した外科医およそ4万7489人の誕生日とあわせて分析をしたところ、全体の0.2%にあたる2064件が執刀医の誕生日に行われた手術であったことが判明。そして術後30日以内の患者の死亡率について調べると、執刀医の誕生日以外の日に行われた手術では、患者が30日以内に死亡した割合は5.6%だったのに対して、執刀医の誕生日に行われた手術の後の死亡率は6.9%と、1.3ポイント高いことが判明。言い換えると、両者の間で死亡率が23%も異なることが明らかとなったのです。

 

執刀医が誕生日に手術を行うと、患者の死亡率がなぜ高くなるのか? 今回の研究ではその点は明らかにされていません。さらに今回のデータは65歳以上の高齢者を対象としたものなので、もっと若い世代でも同じような傾向が見られるかどうかも調べる必要があります。このような限界を踏まえて、津川氏は「患者は誕生日の執刀医を避ける必要はない」と述べています。目の前の大事な仕事に専念することは、外科医にとっても簡単ではないのかもしれません。

 

【出典】Kato, H., Anupam B, J., & Tsugawa, Y. (2020). Patient mortality after surgery on the surgeon’s birthday: observational study. BMJ, 2020;371:m4381. https://doi.org/10.1136/bmj.m4381

 

カンボジアで製造業の人材育成をサポート:コロナ禍を乗り越え、協力を継続【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、カンボジアの職業訓練校と連携し、技術者を育成する取り組みを追います。

 

カンボジアの急速な経済成長を支える人材の育成に向け、質の高い職業訓練が求められています。JICAは2015年から産業界のニーズに応えるため、より実践的で質の高い職業訓練に向けた協力で製造業の中核を担う技術者の育成を続けています。

 

コロナ禍でも協力は途切れることなく続き、全国の職業訓練校で活用できる、電気分野の訓練カリキュラムや必要な訓練機材などをマニュアル化した「標準訓練パッケージ」が完成。今年9月に政府承認を受けました。これにより、現場ニーズにより即した職業訓練が推進され、知識・技術を培ったカンボジア人技術者の活躍が期待されます。

↑職業訓練校で電気工事の実習をする学生ら

 

8月には専門家がカンボジアへ再赴任

「パイロット職業訓練校3校での開発機材を活用した実践的な訓練の経験を踏まえ、産業界とも協力し、ASEANの枠組みに準拠した標準訓練パッケージについて、今年3月、ドラフトがようやくまとまりました。4月からは労働職業訓練省内での作業が進められ、9月にプロジェクト活動後の目標であった政府承認までこぎつけました。当地関係者の努力の賜物です」

 

こう語るのは、このプロジェクトに厚生労働省から派遣されている山田航チーフアドバイザーです。3月下旬に新型コロナウイルス感染症の影響で一時帰国した後も、電子メールやSNSを活用して現地とのやりとりを継続。8月初旬には他の地域やプロジェクトに先駆けて首都プノンペンに再赴任し、いち早く現場での活動を再開しました。現地との対話を重視した連携が、今回の標準訓練パッケージの政府承認につながりました。

↑職業訓練校の指導員とオンライン会議も実施

 

工場のラインマネージャーといった中堅技術者に求められる知識・技術が習得可能なディプロマレベル(注)の標準訓練パッケージが国家承認を受けたのは、カンボジアでは初めてです。

(注)ディプロマレベル: 短大2年卒業相当の中堅技術者(テクニシャン)養成教育

 

存在感を増す職業訓練校——カリキュラムの“質”のばらつきが課題だった

カンボジアでは産業構造の多様化や高付加価値産業の創出に向け、自国での人材育成が重要課題となっているものの、製造業の生産ラインマネージャーといった技術者は現在、第三国の外国人でほぼ占められています。そのため、カンボジア人技術者の育成に向け、職業訓練校の存在感がいっそう高まっています。

 

しかし、従来の職業訓練カリキュラムはそれぞれの訓練校が独自に編成していたため、その質のばらつきが大きな課題でした。そこで、このプロジェクトでは現地の日系企業を含む産業界から広くヒアリングなどの調査を繰り返し行い、生産現場で必要とされる実践的な知識と技術を明確化してカリキュラムを作成。また、訓練機材を部品レベルからカンボジア国内で調達し、プロジェクト終了後も職業訓練校の指導員たちが自分たちで維持管理できる体制を整えました。

 

プロジェクトで電気技術分野を担当する松本祥孝専門家は、この作業を振り返り、次のようにこれからの展望を述べます。

 

「カンボジアでは、都市部および国境付近の工業地帯とその他の地方では人材ニーズが異なるため、画一的にパッケージを実践していくのではなく、地域の人材ニーズに即して多少アレンジすることも必要かもしれません。また、地方校への普及活動では、パイロット職業訓練校の指導員によるTOT(Training Of Trainers)が必要であり、パイロット校3校の先導的な役割が求められます。これらの活動を通じて職業訓練全体のボトムアップひいては中堅技術者不足の解消に繋がることを期待しています」

 

カンボジア産業界と訓練校を繋ぎ、互いの信頼関係を築く

職業訓練校の最大の目的は、カンボジア産業界が求める質の高い人材を輩出し、現場で活躍してもらうこと。そこでプロジェクトでは出口戦略の一環として、パイロット訓練校が主宰するジョブフェアや企業の現役技術者向け有料技術セミナーの企画・開催などを通し、産業界と職業訓練校がより密に関わる仕組みを構築し、連携を深めてきました。

 

「これまでも職業訓練校では個別に細々と産業界との繋がりはあったものの、自ら主宰するイベント等は実施経験もなく、訓練校同士の情報交換や共有の場もほとんどない状態でした。プロジェクト開始後、パイロット3校と産業界、関係省庁を繋ぎ、積極的に働きかけ、彼らが主体のイベントを仕掛ける活動をしていった結果、徐々に関係者の結びつきや関係性が醸成されつつあります」と業務調整や産業連携を担当する齋藤絹子専門家は語ります。

↑有料技術セミナー(写真左)とパイロット職業訓練校主催のジョブフェア(写真右)の様子

 

ASEANグローバルサプライチェーンの一角を担い、地域の成長と繁栄に寄与することを目指すカンボジアでは、教育・職業訓練による人材育成は政府の最重要課題の一つです。このプロジェクトの今後について、山田チーフは「カンボジアの人びとが、関係者と手を携えて、人づくりの仕組みを持続的に改善していくことができるよう、引き続き協力をしていきたいと思います」と抱負を述べました。

新幹線の100倍速い「サンタ」をリアルタイム追跡! 子どもが喜ぶこと間違いなし!!

もうすぐクリスマスですが、サンタクロース追跡サイトとアプリがあるのをご存知ですか? 北アメリカ航空宇宙防衛司令部(通称、NORAD)がサンタクロースの居場所を追跡しており、この取り組みは今年で65周年を迎えています。クリスマス本番を迎える前に、世界中の子どもたちに夢を与えている「NORAD TRACKS SANTA(ノーラッド・トラックス・サンタ)」をチェックしてみましょう。

↑サンタさんをフォローしよう(「NORAD TRACKS SANTA」公式サイトのトップページ)

 

北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)は、冷戦時代にアメリカとカナダが北米上空の観測や監視を行うために設立した組織です。そんな機関がサンタクロースの追跡を始めたきっかけは、子どもからの間違い電話でした。1955年、アメリカの百貨店が「サンタさん直通電話」を載せた新聞広告を出したのですが、その電話番号には誤りがあり、電話をかけると、NORADの前身の大陸防空司令部(CONAD)にかかってしまったのです。おかげでCONADにはサンタクロースと話をしたい子どもたちから次々と電話がかかってきましたが、CONADは子どもたちにサンタクロースの現在地を伝えることにしました。

 

それ以来、NORADはクリスマスの時期になると毎年サンタクロースの現在位置を追跡しています。同司令部には「サンタクロース・ホットライン」が設けられ、ボランティアの人たちがそこで働き、世界中の子どもたちにサンタクロースの居場所を伝えています。近年では、インターネットの普及に伴い、NORAD TRACKS SANTAというサイトも開設。現在は、英語のほか、日本語や中国語、フランス語、イタリア語など8か国に対応し、スマートフォン向けアプリもリリースされています(Apple StoreやGoogle Playで入手可能)。

 

サンタクロースの追跡は、人工衛星やジェット戦闘機の最新鋭システムなどを使ってリアルタイムで行われるそう。サンタクロースが世界をまわるルートは、南太平洋の日付の早い国から始まります。ニュージーランド、オーストラリアの次に日本へ到着。アジアのほかの国々もまわり、ヨーロッパに行き、その後にカナダとアメリカを経て、南アメリカへ飛びます。

 

新幹線の100倍も速く移動すると言われるサンタは、24時間以内に世界中の子どもたちのもとを回っていくそう。ただしサンタクロースのルートは、その日の天候に影響を受けるため予想するのが難しいとNORADは述べています。しかし、だからこそ役に立つのが追跡アプリ。NORADは、サンタクロースが12月24日の午後9時から深夜0時(各国の現地時間)までの間に子どもたち一人ひとりの家に到着すると発表しています。

 

面白いことに、北米ではサンタクロースをNORADの戦闘機がガイド役になってエスコートするとのこと。さらに、2020年は国際宇宙ステーションに人類が滞在し続けて20年目となることから、サンタクロースがISSから飛び出すパフォーマンスもあるのだとか。アプリならISSの現在地も確認することができるそうです。ちなみに、今年のサンタはマスクもしているそう。

このサンタクロースの追跡は、アメリカ東部標準時間で12月24日の午前4時(日本時間で12月24日の午後6時)からスタート。アプリとサイトで随時サンタクロースの現在地を確認しながら、ワクワクしたクリスマスイブを過ごしてみてはいかがでしょうか?

2021年に海外旅行するとしたら「ハワイ」が最有力候補なワケ

ハワイを訪問する旅行客が初めて年間1000万人を突破した2019年。2020年は状況が一転し、観光の中心地となるワイキキでは多くの店がシャッターを閉じ、日中ですら人影がほとんどないような状況が続いていました。

 

しかし、11月からハワイ州では日本の観光客を受け入れる体制を整え、少しずつですがハワイの街に活気が戻りつつあります。問題は2021年のハワイ旅行はどうなるのか? 最新の現地情報を交えながらホノルル在住の筆者が予想してみます。

↑行っちゃう?

 

2020年3月のロックダウンで、ハワイを訪れるすべての人に14日間の自己隔離が義務付けられてから、ハワイの観光業は停止。ほとんどのホテルが営業を休止し、各種ツアーやアクティビティ関連なども休止に追い込まれる事態が続いていました。この一連の対応は、観光が基幹産業であるハワイに予想以上の影響を与え、ハワイ経済に大きな影を落としました。

 

そこで、ハワイ州が10月15日から導入したのが「事前検査プログラム」。これは新型コロナウイルス感染症の検査を受けて陰性だった場合、14日間の自己隔離が免除されるというもので、陰性であれば、ハワイ到着後にコロナ前のように自由に観光旅行を楽しめるということです。アメリカ国外の国では初めて日本がこの事前検査プログラムの対象に認定され、11月6日のフライトから日本の観光客受け入れが始まりました。

 

では、この事前検査プログラムを利用して、日本からハワイへ旅行に行くときの手順について見てみましょう。

 

① ハワイ州Safe Travel Programにオンラインで登録。出発前24時間以内に健康状態について登録し、発行されるQRコードを保存します。

 

② ハワイ行フライト出発前の72時間以内にCOVID-19の検査を受診。ハワイ州指定医療機関が北海道から九州まで全国に57か所あるので、それらのいずれかで検査を受けます。結果が出たらハワイ州指定指定の陰性証明書を取得します。

 

③ コロナ前の旅行と同じくESTAの申請が必要です。海外旅行保険の加入もしておいたほうがいいでしょう。

 

④ ハワイ到着後、サーモグラフィーで検温が行われます。①で取得したQRコードとハワイ州指定指定の陰性証明書を提示したら、自己隔離が免除となります。

 

ハワイは待っている

↑想いは募る……

 

ハワイの観光客受け入れが開始しましたが、まだ問題があります。それは、ハワイ側の自己隔離が免除となっても、日本に帰国した際に自己隔離が必要となること。そのため、現段階でハワイ旅行を楽しめるのは、時間的にも経済的にも余裕がある方に限られてしまうかもしれません。しかし、ハワイにとって日本はアメリカに次いで2番目にたくさんの観光客が訪れる国。そのためハワイ州政府による日本側への働きかけで、帰国時の自己隔離が緩和されることが期待されています。

 

ハワイの新型コロナウイルス感染者の状況を振り返ってみると、2020年3月にハワイで最初の感染者が確認され、3月下旬から5月末までロックダウンが実施されました。その後経済活動を再開したものの、8月になると感染者が急増したため、感染者が集中しているオアフ島限定で8月下旬から2度目となるロックダウンが行われました。その後は感染者数に応じて4段階でビジネスを規制する細かいルールが設けられ、ハワイ州全体の新規感染者数は1日100人前後の状態が続いています。

 

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、10万人当たりの1日の平均感染者数は、ハワイ州は7人と(12月13日時点)、下から6番目に良い数字。最も悪いロードアイランド州やオハイオ州は100人を超えているので、アメリカ本土と比べてもハワイの感染者数がかなり少ないことがわかるでしょう。ハワイでは冬でも気温がそこまで低くならないため、ウイルスの感染が抑えられているのかもしれません。

 

ハワイでは、ソーシャルディスタンスが確保できない場合は屋外であっても、公共の場所でのマスク着用が義務付けられ、現地の人の多くがそれを守っています。また、レストランや小売店、観光スポットといった場所では入店時に体温チェックが行われるなど、安全対策がきちんと行われている印象があります。

 

11月に日本の観光客受け入れを再開した際、ハワイ州のイゲ知事は、ロックダウンでハワイ旅行をキャンセルせざるを得なかった日本人観光客にお詫びしたことに触れ、「今日は『ぜひハワイへ安全に旅行してください』という新しいメッセージを送ります。日本の方が再び訪れることを心より歓迎します」と語っていました。ハワイは日本人に愛される海外旅行先のひとつで、リピーターも数多く訪れる場所。日本の海外旅行の体制が整えば、ハワイは日本人にとってアフターコロナで最初に訪れやすい海外旅行先になっていくかもしれません。

トカゲほどじゃないけど「ワニの尻尾」も再生することが判明!

トカゲの尻尾は切れても再び生えてきますが、実はワニの尻尾にも同様の再生能力があることが最新の研究で明らかとなりました。しかも、新しく生えた尻尾の長さは最大23センチというから驚き。ワニの再生能力は一体どうなふうになっているのでしょうか?

↑トカゲより長いでしょ? ワニも尻尾を再生できる

 

トカゲが尻尾を切るのは、外敵に襲われたときに身を守るためだと言われています。トカゲの尻尾はもともと同じところから切れるようになっており、身に危険が迫ったときにその部分を切り離して生き延びられるのですが、この能力はトカゲの専売特許ではなく、同じ爬虫類のイモリにもあることがわかっていました。

 

しかし爬虫類であっても、ワニとなると話は別。体長4メートル前後にもなるワニでは、トカゲやイモリと身体の大きさがまったく異なるため、再生能力があるかどうかこれまで明らかなっていませんでした。そこで、アリゾナ州立大学とルイジアナ州の魚類野生生物局の研究者チームが共同で研究を実施し、ワニにもトカゲのような再生能力があるかどうか調べたのです。

 

調査の結果、若いワニには尻尾を再生する能力があることが判明しました。新しく生えた尻尾は最大で23センチとなり、全長の18%にもなったのです。さらに画像解析技術と組織構造学を利用して、再生した尻尾の組織について調べてみたところ、軟骨のまわりが、血管や神経を含んだ結合組織で覆われており、複雑な構造であることもわかりました。トカゲの尻尾でも軟骨や血管、神経が再生されることは明らかにされていましたが、ワニの尻尾でも同じように組織が再生していたんですね。

 

ただし、ワニの再生した尻尾には傷跡に似た結合組織も見つかっており、同じ組織のなかで再生と治癒のような現象が同時に起こっている可能性が示唆されています。また、ワニは脊椎動物ですが、再生された尻尾には軟骨しか存在していないようで、研究者にとっては新たな課題も見つかりました。

 

実はとても疲れるんです……

この研究チームは「新しい筋肉や組織を作りだすにはエネルギーが必要で、これは大変なことなのです」と述べています。それでも尻尾が再生するのは、そこがワニの身体にとって不可欠な部位であるということなのでしょう。

 

トカゲの尻尾は何度も生えるものではなく、再生するのは一度きりなのだそう。しかも、まったく同じ状態に戻るわけではなく、再生にはやはり多くのエネルギーを必要とするみたいです。これがワニにも当てはまるかどうかは不明ですが、尻尾が無限に再生しないという事実は、生命が有限であることを教えてくれます。

 

なお、トカゲなどの再生能力は人間にも応用できるのではないかと考えられており、ワニのような大型生物の再生能力が解明されたら、再生医療技術はさらに発展するかもしれません。

来年の初詣どうする? 賛否両論の「ハイテク参拝」が実利的な選択肢だ

現在、スマホ決済やICカードの普及によってキャッシュレス化が進んでいますが、この波は神社やお寺のお賽銭にも押し寄せています。いつもと違った年末年始が近づきつつあるなか、キャッシュレス参拝やバーチャル参拝できる神社やお寺について見てみましょう。

↑キャッシュレス参拝の最前線

 

京都駅から徒歩圏内にあり、数々の歴史的建造物が点在して見ごたえのある東本願寺は、京都観光では外せない人気スポットのひとつです。そんな東本願寺は2020年10月に電子決済のお賽銭を導入したことを発表しました。「御影堂(みえいどう)」や「阿弥陀堂(あみだどう)」などの境内6か所のほか、「渉成園(しょうせいえん)」と呼ばれる庭園などで、キャッシュレス決済を導入。また、QRコード決済の「J-Coin Pay」と「Union Pay」が印字されたパネルも設置し、参拝者はそれをスマートフォンで読み取り、好きな金額を入力して支払いすることができます。もちろん、これまで通りに現金でお賽銭を納めても構いません。

 

今回のキャッシュレス決済について、東本願寺は新型コロナウイルスに伴う「新たな生活様式」に基づき、安心して参拝できる環境を整え、利便性の向上も図ることを目的としていると述べています。キャッシュレスでの参拝は、既にキャッシュレス化が一般的になっている諸外国からの観光客が利用しやすいという利点もあるでしょう。

 

ただ、神社やお寺でのキャッシュレス決済に対して、賛成する声がある一方で反対する意見もあります。大きな懸念材料になっているのは、電子決済で収集された個人情報の漏洩。どこの神社やお寺に参拝したか、いくらの金額を支払ったかといった個人情報が明るみになると、個人の信仰や信教の自由が侵される可能性があります。また、キャッシュレスで参拝者からお金を集める行為は「収益行為」と指摘する声もあります。さらに、利用者側から考えても「なんとなくご利益がなさそう」「チャリーンという音が鳴るのも含めて参拝になる」など、“なんとなく腑に落ちない”と感じるところはあるかもしれません。

 

キャッシュレス参拝できる全国の神社・お寺

賛否両論の意見はありますが、政府がキャッシュレス推進政策を掲げていることや利便性を考えると、神社やお寺におけるキャッシュレス決済が今後まったく広まらないというのは考えにくいでしょう。実際、キャッシュレス参拝ができる神社やお寺はほかにもあるので、以下に挙げてみます。

 

東本願寺(京都)

先に紹介したように、2020年10月からキャッシュレスでの参拝が導入されています。

 

下鴨神社(京都)

世界文化遺産に登録され、パワースポットとしても人気の高い神社。下鴨神社ではVisa、Mastercardなどのクレジットカード、WAON、Suica、PASMOなどの電子マネーでの決済を2019年から導入しています。

 

日光東照宮(栃木)

日光市にある日光東照宮では2018年9月から、Suicaなどの交通系電子マネーで拝観券を購入できる取り組みを初めています。さらに境内ではWi-Fiが整備され、参拝者にとって便利な環境が整えられています。

 

バーチャル参拝&リモート参拝できる神社・お寺

毎年混雑が起きる初詣を2021年だけは避けておきたいと考える方も少なくないでしょう。そんな方にはバーチャル参拝やリモート参拝という選択肢がありますので、以下にリストアップしてみます。

 

東大寺(奈良)

東大寺は年間の拝観者が300万人を超える一大観光スポット。東大寺では3Dバーチャル参拝をウェブサイトで用意しており、自分の足で境内を進んでいるように大仏様を拝観することができます。

 

平等寺(徳島)

四国八十八ヶ所の第二十二番札所である平等寺。遠方の方や参拝できない方のために、リモート参拝のほか24時間本堂のライブ中継が行われています。

 

築地本願寺(東京)

築地本願寺も新たにオンラインでの法要参拝を始めており、大晦日や2021年正月にはオンラインで常例布教が配信されます。

 

どんなことであれ、新しい試みは賛否両論が起きるもの。お賽銭のキャッシュレス決済やバーチャル参拝にはデメリットもあるでしょうが、新型コロナウイルスへの心配がぬぐい切れないなか、このようなハイテク参拝は感染防止という観点からメリットが大きいかもしれません。

「読唇AI技術」で会話が正確に伝わる! AIで変わるコミュニケーションの形

人間には音や手話を使わなくても他人の発話を推測する力があります。それが読唇術。唇の動きや形から相手の言葉を読み取るこのスキルは習得するのが難しく、この能力があったとしても、話している内容を正確に判断することは決して容易ではないと言われています。しかし、そんな読唇術に近いスキルをAIによって開発しようとする試みが行われています。

↑何を話しているか当てられる?

 

口や顔の筋肉の動きから、話している内容を推測するAI技術を開発しているのが、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校の研究チーム。人間は言葉を話すとき、ひとつひとつの単語を発声するために顔や舌、喉の筋肉を細かく動かします。この動きは音節ごとに微妙に異なるため、この違いに注目して発話内容を推測しようというのがこの研究の趣旨。このチームは、声を出さずに口だけを動かす「サイレントスピーチ」を使って技術開発を行っており、先日このAIの開発が順調に進んでいると発表しました。

 

研究チームでは、まず話し手の喉と、頬などの口のまわりに電極を装着。筋細胞が収縮したときに発生する微弱な電位の変化を読み取る「EMG(筋電図)」を利用して、AIにそのデータの読み取りと、話し手の言葉の内容を推測するよう訓練させました。すると、発声しながら文章を読んだ場合と比べて、無発声で単語を推測するときの誤認率は64%から4%まで減少。かなり正確に言葉を推測することができるようになりました。

 

同じような技術には、Googleの傘下であるDeepMindとイギリスのオックスフォード大学が2016年に発表した読唇AIの技術があります。この技術では、AIにBBCなどのテレビ番組5000時間分を学習させ、人の唇の動きだけで何を話しているかを推測させました。

 

そして、読唇技術を持ったプロとこのAIに動画を見せて話の内容を推測させたところ、プロは12.4%を読み取ったのに対して、AIは46.8%とプロに勝る結果を残しました。おまけにAIの間違えた内容は、三人称の動詞や、名詞の複数形の後につく「s」だったそうです。

↑AIはこの違いがわかる

 

このような読唇AI技術は視覚障がいのある方への利用のほか、リアルタイムでの字幕表示にも活用されるかもしれません。しかし、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが発表したAI技術は、読唇AIとは一味違って、言葉をうまく発声できない人はもちろんのこと、それ以外のさまざまなシーンでも活用できる汎用性があると研究チームは期待しています。例えば、電車のなかや図書館など大きな声で話せない場所での電話や、逆に周囲が騒々しい場所での電話。周囲の環境に関わらず、このAIによって自分の言葉が相手により正確に伝わる可能性があります。

 

パソコンやスマートフォン、インターネットは私たちのコミュニケーションを大きく変えてきました。次はAIが読唇術を使って人間の会話や言語活動をさらに変えるかもしれませんね。

高専生のモノづくり力を途上国の課題解決と日本の地方創生に活用【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、高専生のモノづくりの力を活用して途上国の課題解決を図り、さらには地方創生も進めていく、そんな取り組みについて取り上げます。

 

2020年7月、JICAと長岡工業高等専門学校(長岡高専)は、「長岡モノづくりエコシステムとアフリカを繋ぐリバース・イノベーションによるアフリカと地方の課題解決」に関する覚書を締結しました。この「リバース・イノベーション」とは、先進国企業が新興・途上国に開発拠点を設け、途上国のニーズをもとに開発した製品を先進国市場に展開すること。先進国で開発された製品を途上国市場に流通させる従来のグローバリゼーションとは逆の流れになるのが特徴です。

 

長岡のモノづくりによるアフリカの課題解決と、アフリカのニーズをもとに開発した製品を先進国市場に逆転展開するリバース・イノベーションによって、日本国内の地方創生や社会課題解決を目指すという野心的で新たな試みが動き出しました。

↑2020年7月に長岡市で行われた調印式に参加した長岡高専の学生たち

 

長岡の技術力をアフリカの課題解決に活用する

「参加している学生たちは、関連諸国の取り組みやアフリカの社会背景を知るために文献を取り寄せて読み、専攻科目の垣根を越えて協力しながら、想像以上に高いレベルの試作品を作り上げています」とこの事業に参加する学生の様子を語るのは長岡高専の村上祐貴教授です。

 

長岡高専の学生たちは「循環型社会実現に向けた持続可能な食糧生産・供給システムのアイデア」や「モノづくりの力で新型コロナウイルスの感染拡大を防止するアイデア」などといったこの事業に託された課題についてチームで取り組み、解決策を検討。長岡技術科学大学が試作品の製作支援をしていくほか、長岡産業活性化協会NAZEも協力し、その製品化を目指します。

 

JICAは、この長岡高専での取り組みを皮切りに、次年度は参加校を増やし、3年後には全国の高専に展開されることを想定しています。

↑この事業の発表記者会見では、「長岡市のモノづくりの技術が世界に展開されることに期待しています」と磯田長岡市長(右端)が期待のコメントを寄せました

 

↑長岡市内での連携だけでなく、ケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学や現地企業とも連携して事業を進めます

 

始まりは全国の高専生が途上国の課題解決に挑んだ一大イベント

この事業が始まった背景には、高専生を対象としたJICAによる先行の取組みとなる「KOSEN Open Innovation Challenge」がありました。これは、高専生の技術とアイデアで、開発途上国の社会課題解決と国際協力の現場を教育の場として活用していくことを目的にしたコンテストです。第1回目(2019年4月開催)は、長岡、北九州、佐世保、宇部、都城、有明の6校の高専が参加しました。

 

なかでも長岡高専は、ケニアのスタートアップ企業のEcodudu社と連携して家畜の飼料を効率よく分別する装置の試作品を制作し、高専生はケニアで実証実験も行いました。試作品は現地で高い評価を受け、2019年8月に横浜で開催されたアフリカ開発会議(TICAD7)で報告された際、多くのメディアにも取り上げられました。

↑チームで開発した家畜飼料分別装置の実証実験をケニアの大学生たちと行う長岡高専の学生たち(2019年ケニアにて)

 

今年8月~9月には、第2回目のコンテストがオンラインで開催され、長岡、北九州、佐世保、徳山の4校の高専から、計20チーム・101名と第1回目を上回る数の高専生が参加しました。

 

「学生の関心度も参加意欲も高く、教員たちの想像をはるかに超える試作品が制作されています。今後、参加する高専が全国に広がることで『全国高等専門学校ロボットコンテスト』規模の一大イベントになっていくかもしれません」と、長岡高専の村上教授も今後の可能性について語ります。

↑「KOSEN Open Innovation Challenge」(第1回)の参加者と審査員たち

 

若い力による日本の地域創生にも期待

現在、JICAと長岡高専が進める「長岡モノづくりエコシステムとアフリカをつなぐリバース・イノベーションによるアフリカと地方の課題解決」では、アフリカの高専生や大学生の参画も計画されており、日本とアフリカの学生が柔軟な発想で日本の地方創生、課題解決に取り組みます。

 

「今回のリバース・イノベーションでは、第1回KOSEN Open Innovation Challengeで選ばれたケニアの技術を長岡の産業廃棄事業に生かす取り組みも進んでいます。学生たちはアフリカと日本の文化の違いなどを考慮しながら地元長岡を活性化すべく意欲を燃やしています」と長岡高専の村上教授は今後の抱負を述べます。

 

国際協力の枠組みで、日本の地方創生問題を日本とアフリカの学生が考え、解決策を探るというこの取り組みは、日本の高専生たちにとっても知見も広げる貴重な経験になっていくことが期待されています。

 

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「天空の鏡」といわれるボリビアのウユニ塩湖で、日本の知見を活かし持続的な観光開発を進める【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ボリビアを代表する観光地ウユニ塩湖で進む、日本の廃棄物管理の知見を活かした持続的な観光開発について取り上げます。

 

この活動に中心となって取り組むのは、JICAの課題別研修でコンポスト(堆肥化)と廃棄物管理を学んだ帰国研修員たちです。ボリビア各地に点在する彼らはグループ「ECO TOMODACHI」を結成し、現地の行政機関、民間企業やNPOなどと協力して、ごみの削減や衛生環境の改善などを図っています。

↑空と塩湖が一体となるボリビアの観光名所ウユニ塩湖

 

↑ボリビアの帰国研修員グループ「ECO TOMODACHI」のロゴマーク

 

現地の観光事業者とペットボトルごみの削減を目指す

ボリビア有数の観光地であるウユニ塩湖周辺は、標高3000メートルを超える高地にあり、ごみ処理能力に大きな課題を抱えています。ほとんどのごみは分別も熱処理もされないまま集積所に投棄されており、悪臭や土壌汚染を招くのはもちろんのこと、ビニール袋やペットボトルといった土中で分解されないプラスチックごみが周囲に散乱している状況です。

↑ラパス県観光地でのごみ拾いを実践するECO TOMODACHIのメンバー

 

そのようなウユニ塩湖周辺の環境改善に向けて、ECO TOMODACHIは現地で観光業を展開するキンバヤ・ツアーと協働し、ペットボトルごみの削減のために始めたのが、観光客へのタンブラー配布です。

 

ウユニ塩湖は標高が高く紫外線が強い場所なので、ツアー参加者にはペットボトル入りの水が渡されていました。タンブラーを無料配布し、ツアーバス内で飲料水の提供サービスを実施することで、ペットボトルを観光エリアに持ち込む必要がなくなり、ペットボトルごみの発生を抑えることができます。

 

キンバヤ・ツアーボリビア代表のロマイ・ウェンディ—さんは、2019年にECOTIOMODACHIメンバーから「観光地をよくする3R」研修を受けました。「ウユニ塩湖周辺の環境改善に向けてできることを模索したとき、ECO TOMODACHIに相談を持ちかけました。ラパス県観光ガイド協会やJICAも含めた意見交換会など重ねて、2019年に観光客が持ち込むペットボトルごみの削減という目標を設定し、タンブラーのプロジェクトを開始しました」と語ります。

 

タンブラー配布後の観光客の反応や使用状況などをみながら、改善を加え、5か月間のパイロット期間で1,080本相当のペットボトルごみを削減することができました。

↑配布したタンブラーを手に、セミナーでキンバヤ・ツアーの3Rを紹介するロマイ・ウェンディ—さん(写真左)とウユニで観光客に配布されたタンブラー(写真右)

 

キンバヤ・ツアーではこのウユニ塩湖の成功例をもとに、ボリビアのみならず、メキシコからチリに至るツアーにもタンブラー配布を導入していく予定です。コロナが収まり、観光事業が再開されれば、1年間で12,000本相当のペットボトルごみ削減を目標に掲げます。

 

ウユニ塩湖の衛生状況改善に向けて

ウユニ塩湖周辺の経済は、観光業を中心に成り立っています。しかし、下水処理施設が不十分なため、観光地でありながらトイレは慢性的に不足しており、このままでは観光客の増加が現地の生活環境の悪化につながりかねない状況です。持続的な観光開発のため、トイレ設備の改善は、喫緊の課題です。

 

「通常であれば、簡易トイレなどを設置し、タンクを定期的に最終処分場に運んで処理する方法が取られますが、この地域での実施は難しいです。そのため、トイレを設置した場所で、排泄物の最終処分までを行う方法を考えなければいけません」と語るのは、ECO TOMODACHIのヴィア・ホルヘさん(2010年JICA帰国研修員)です。

 

「富士山のトイレ問題を解決する日本企業の活動をインターネットの記事で読んだことをきっかけに、排泄物を悪臭なく固化できる携帯トイレ技術を使って、堆肥化を検討できないかと考えました。ウユニでは、観光業の次に重要な経済活動に、キヌア生産があります。トイレ問題の解決と同時に、キヌア生産も発展させられることができれば、極めて効率的な循環が実現できます」

 

そこで目を付けたのが、災害用・介護用の携帯トイレなどを開発販売する日本企業エクセルシアの開発した処理剤。無臭効果と排泄物を固める効果があり、使用の際の安心感を高め、排泄物の安全な取り出しを可能にします。「この技術を、ウユニの未来に活かしていきたい」とヴィアさんは語ります。

 

エクセルシアは、JICAが開催する中南米セミナーをきっかけにボリビアの現状を知り、この取り組みに大きな可能性を感じています。エクセルシアの足立寛一社長は「トイレ状況の改善は、生活の安全や質の向上に直接的に関わります。当社の技術が、世界的な観光地の持続的な発展に貢献できると考えています。先進的なエコ事業にしていきたいですね」と抱負を語ります。JICA事業としての展開を視野に入れ、ECO TOMODACHIとエクセルシアの協働作業が始まっています。

↑女性登山家サンヒネスさんに携帯トイレを渡してテスト使用の協力を依頼(写真左)。ECO TOMODACHIのセミナーで携帯トイレの使い方を紹介するエクセルシア足立社長(写真右)

 

多岐にわたるECO TOMODACHIプロジェクトの成果

ECO TOMODACHIは、ウユニ観光地域以外でも、JICAで学んだ日本のコンポスト(堆肥化)技術を活かしています。サカバ市(コチャバンバ県)、サマイパタ市(サンタクルス県)、ラパス市(ラパス県)では、高倉方式のコンポストを生産。2019年には、JICAと日系企業ER/Ikigaiとともに高倉式コンポストが学べるアプリ「COMPOCCHI」を開発し、ボリビアの廃棄物処理技術の発展を支えています。

 

JICAボリビア事務所の渡辺磨理子職員は、「ECO TOMODACHIのメンバーとして活動する帰国研修員たちは、ボリビア全国に点在していますが、SNSなどを通じて日常的に情報交換を行っています。日本で得た知見を持ち帰り、それぞれがそれぞれの場所でネットワークを広げています。こうした自発的なネットワークの輪に、民間企業や行政も含めていければ」と今後の活動に期待を込めます。

↑1年に1回程度、各地のECOTOMOメンバーが集まり、コンポスト技術を共有し意見交換の場を持っています

 

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「朝型/夜型」の分類はもう古い! 「生活リズム」をより正しく捉える6つのタイプとは?

生活リズムや睡眠スタイルについて話をするとき、たいてい私たちは人間を早寝早起きの人と夜遅い時間まで活動している人の2つに分けます。しかし人間の生活リズムは単純に「朝型」と「夜型」の2種類だけではなく、実は6つのタイプが存在することがロシアの大学の研究で判明しました。

↑朝型でもなければ夜型でもない人もいる

 

私たちの身体は体内時計や生態リズムによって、朝は自然と目が覚め、夜になると眠くなります。このリズムを朝型や夜型などと分けるのが「クロノタイプ」と呼ばれる分類法で、これまでのクロノタイプは朝型と夜型の2つに分けるのが一般的でした。しかし、これをもっと詳細に見てみると、実際には6つのタイプがあるというのです。

 

そう主張するのは、ロシア諸民族友好大学の生理学の研究者。その研究では2283人以上を対象にオンラインで調査を行い、集めたデータを解析。すると、従来の朝型と夜型に加えて、さらに4つのカテゴリーに分けることができるのを発見しました。睡眠時間、日中の眠気度合、朝の目覚めやすさ、入眠までの時間など、新しい基準で分類を行い、新たにわかった6つのタイプが以下の通りです。

1 朝型(Morning Type、朝に最も覚醒レベルが高くなるタイプ)

2 夜型(Evening Type、夜に最も覚醒レベルが高くなるタイプ)

3 覚醒型(Highly Active Type、一日を通して覚醒レベルが高いタイプ)

4 日中眠気型(Daytime Sleepy Type、日中に覚醒レベルが下がるタイプ)

5 日中覚醒型(Daytime Type、日中に覚醒レベルが高くなるタイプ)

6 非覚醒型(Moderately Active、一日を通して覚醒レベルが低いタイプ)

 

グラフの横軸は朝、昼、夜の時間を表し、縦軸は覚醒レベルを表しています。ここでは、特に「覚醒レベル」、つまり意識がハッキリしていて集中力や注意力がある状態について着目。朝型は、朝に覚醒レベルが最も高くなり、夜型は朝から夜にかけて覚醒レベルがどんどん上昇するタイプと分類できます。さらに、一日中ずっと覚醒レベルが高いタイプや、日中だけ高くなるタイプなどと分けられるのです。

 

この研究チームでは調査に参加した人のうち、朝型は13%、夜型は24%、覚醒型は9%、日中眠気型は18%、日中覚醒型は15%、非覚醒型は16%いると分析。つまり、従来の朝型と夜型に当てはまるのは全体の37%に過ぎず、残りの6割近くが新しい4つのタイプに分類できるとわかったのです。従来の朝型と夜型の分類は曖昧な分け方だったんですね。

 

クロノタイプには、その人が持つ遺伝子が関係していると言われ、ライフスタイルによってその影響も異なると考えられます。自分は6つのなかでどのタイプに当てははまるかを考えてみると、仕事のパフォーマンスを高めたり、健康的な生活を送ったりするうえで参考になるかもしれません。

世界の2%の人しか持っていない「超認識力」。自分にもあるか今すぐチェックできる

一度会った人の顔を、時間が経ってもしっかり記憶できる人がいますよね。普通なら覚えられないのに、一度見た人の顔を数多く認識できる特殊な能力は「超認識力」と呼ばれ、その持ち主を英語では「スーパーレコグナイザー(super recognizer)」と言います。

 

この超認識力とはどんなものなのでしょうか? そんな特殊能力が自分にもあるかどうか知ることができる簡単なテストとあわせてご紹介しましょう。

↑一度だけ見て、こんなに覚えられる?

 

超認識力とは何か? まずは、それを示すあるエピソードをご紹介しましょう。1990年代、ある女性がパリの公園で、男性写真家が子どもを撮影している様子を目撃しました。それから10年後、この女性がレストランで偶然このときの男性と遭遇したので、女性は男性に「あなたは写真家で、パリの公園で子供の写真を撮ったことがありますか?」とたずね、男性は驚愕した。そんな出来事が実際にあったそうです。

 

超認識力とは、このように一度顔を覚えれば長い期間が経った後でもその人を認識できる能力のことをさします。その後、研究者たちが行った顔認識テストで突出した結果を出した人物がいたことから、2009年に「超認識力」と「スーパーレコグナイザー」という言葉が作られました。

 

以前は、超認識力は訓練によって身につけられると思われていました。ところが一定のレベルまでは訓練で伸ばすことができても、スーパーレコグナイザーのようにずば抜けた能力は訓練で獲得できるものではないことが明らかとなり、この力はもっぱら遺伝と関係していると考えられています。

 

スーパーレコグナイザーは世界中でわずか1~2%ほどしか存在していないのですが、この特殊能力は警察などの政府機関や出入国管理局、情報機関、警備関連などで求められるケースが増えてきていると言われています。

 

超認識力のテスト

ごく限られた人しか持っていない超認識力ですが、「もしかしたら自分にも超認識力があるのでは……」と気になったりしませんか? 幸いにも超認識力があるかどうかを確認できる方法があります。それがUNSWフェイステストで、これはオーストラリアのニューサウスウェールズ大学の法心理学研究所の心理学者が2017年から使用しており、先日科学誌に発表したました。これまでにこのテストを受けた人は3万1000人。最も多いスコアは50~60%で、70%以上ならスーパーレコグナイザーに分類できるそうです。

 

では、テストのやり方を簡単にご紹介しましょう。テストは英語での表示ですが、10~15分ほどで簡単に進められて、無料でできます。

 

準備

① https://facetest.psy.unsw.edu.au/ にアクセスする

② 青い「Click here to begin the test」をクリック

③ ページ下の「*I have read and understood the Information and Consent details above」にチェックをつけて、「I agree, start test」をクリック

④ 「Launch Experiment」をクリック(テストはフルスクリーンモードで行われます)

⑤ 自分の年齢を入力して「Submit Answers」をクリック

⑥ 年齢と性別、人種を選択して「Submit Answers」をクリック

 

テスト開始

① 20人の顔が自動で次々に表示されるので、これをできるだけ記憶します(Part 1)。

② 今度(Part 2)は人の顔が表示されるので、Part 1で覚えた人物だったら「Y」、違う人なら「N」を押します。Part2の写真はPart1と表情やポーズなどが異なります。

③ 最初にターゲットの顔が表示され、その後別の顔写真4枚が重なった状態で表示されます。最初に見たターゲットと一致するなら右方向に、違うなら左方向にドラッグし、最後に画面下の「Done」をクリックします。(4枚すべてがターゲットと一致する場合も、その逆もあります。最初にイラストを使った練習問題を行います。)

④ これでテストは終了。テスト結果のデータをほしい場合、最後にEメールアドレスを入力、不要ならそのまま「Submit Answers」をクリックすれば、自分のスコアが表示されます。

 

このテストの過去最高スコアは97%。今後100%のスコアを出す人物が現れるかもしれないと研究者たちは期待しているようです。ちなみに筆者もこのテストを受けてみましたが、人を覚えるのがとても苦手なせいか、33%と散々な結果でした。超認識力が自分にあるかどうか知りたい方は試してみてはいかがでしょうか?

 

本格利用に向けて大きな一歩! 「中国製空飛ぶタクシー」がテストフライトに成功

現在、世界各国で「空飛ぶタクシー」の開発が進められていますが、無人航空機分野をリードする企業のひとつが中国のEHangです。同社は2人乗り無人航空機を自社で開発しており、最近、韓国でテストフライトを行いました。2人乗り無人航空機の本格利用はどんどん実現性を高めています。

 

最高時速130キロで無人飛行

↑韓国の空を舞うEHang216

 

EHangはは旅客輸送つまり空飛ぶタクシーのほか、観光、災害時の救急医療など、さまざまな分野で無人航空機の利用を目指しています。

 

韓国でテストフライトを行った無人航空機「EHang216」は、ヘリコプターと似たような外観ですが、高さは1.77mで横幅は5.61mと、一般的なヘリコプターよりも小さいサイズ。機体の周囲を囲むように8本のアームが伸び、そこに全部で16のプロペラがついており、電気の力で飛行します。最高速度は時速130キロで、最大積載量200キロの場合の航続距離は35キロ、21分間の飛行が可能。

 

4Gや5Gを利用してコマンド&コントロールセンターにリアルタイムでフライトデータが送信され、緊急時には警告を出したり遠隔操作して安全な場所へ着陸したりできるそう。おまけに高速充電で、2時間以内にフル充電をすることができます。大人数や大きな荷物を遠くまで輸送することはできないものの、短距離での利用に最適な設計となっています。

 

このテストフライトでは、旅客輸送、観光、救急医療の3つの用途を想定して、それぞれのシナリオに合った3つの場所で行われました。旅客輸送を想定したテストではソウル最大の川、漢江の中にある人工島「汝矣島(ヨイド)」を飛び立ち、人口が密集する都心部の上空を飛行。観光向けでは済州島を舞台に海岸線を飛び、救急医療の利用を想定したテストでは大邱市で救急医療セットとAEDなどの医療機器を輸送しました。これらすべてのテストフライトが成功に終わっています。

 

韓国の国土交通省が2023年〜2025年の商業利用開始を目指して進めているプロジェクトの一環として行われた今回のテストフライト。その成功は本格利用への大きな一歩となったことでしょう。

 

ぽこぽこ現れる「正体不明のモノリス」に世界が騒然中

赤土で覆われた一帯に巨大な岩がそびえたつ、米ユタ州の砂漠地帯。そんな人里離れた場所に、正体不明の金属の柱が埋められていることが偶然発見されました。その様子はまるでSF映画のワンシーンでしたが、この柱が忽然と姿を消したというから、さらに世界中が騒然としています。

↑突然現れて消えた金属の柱

 

グランドキャニオンをはじめ、モニュメントバレーやザイオン国立公園など壮大なスケールの自然に囲まれたユタ州。その砂漠地帯で11月、ユタ州公安局の職員が上空からオオツノヒツジを数えていたときに、異質なものがあることに気づきました。

 

柱は金属製で、高さはおよそ3.6メートル。一部が地中に埋められるように立っており、職員が柱や周囲を調べても、誰がここに置いたのかわからなかったそうです。ただその後の調査で、この柱は5年ほど前から存在していた可能性があると言われています。

↑2015年8月には見られなかったが、翌年10月には地上にあった

 

太陽の光を反射してキラキラ光る金属の柱が砂漠のなかに埋め込まれている風景は、まるで映画の世界のよう。この存在をユタ州が発表するや否や、このニュースは瞬く間に世界中をかけめぐり、「謎のモノリスが出現した!」「地球外生命体が置いた?」など、さまざまな憶測が飛び交うこととなったのです。

※モノリス:SF映画「2001年宇宙の旅」に出てくる石柱状の物体

 

この柱が見つかった地点はあまりにも人里離れたエリアであり、ここを訪れようとする人は道に迷い救助を求める可能性が高いことから、ユタ州当局は詳しい位置を明らかにしませんでした。しかし情報が開示されないことで、かえって余計に刺激を受けたのか、州当局のヘリコプターの飛行経路を分析し、Googleアースを駆使して柱の場所を特定し、ネット上で発表する人が現れたのです。また、その情報をもとに現地まで辿り着く人も登場するようになりました。

 

しかし驚くことに、この柱が突然消えたのです。ユタ州当局がこの柱を発見したと発表したのが11月23日。それからわずか1週間もたたない11月27日には柱が消えたことが確認されたのです。柱があった場所には三角形の金属板だけが残されているだけ。もしかしたら現地を訪れた人が撤去したのかもしれません。匿名のアート集団がこのモノリスを設置したことを認めていると言われていますが、誰が撤去したのかは不明です。

 

その後、この柱は欧州各地で発見されています。ルーマニアではピアトラ・ネアムツにある丘で同じような金属の柱が見つかりました。こちらの柱は黒っぽい金属製で、高さは約3.9メートル。表面にはたくさんの円が描かれていたそうですが、この柱も発見されてから間もなく突然姿を消したとのこと。さらに最近では、イギリスとオランダにも同様の柱が出現したと報じられていますが、いずれも模倣品ではないかという見方もあります。いまだに謎だらけのこのモノリス騒動はもうしばらく続くかもしれません。

 

eバイク先進国で人気の「スマート電気自転車」3選。 日本で買えるものもピック

ここ数年、気候変動への懸念とリチウム電池の小型化といったテクノロジーの進化を背景に、ヨーロッパでは「eバイク(電気自転車)」の人気が高まっています。なかでも大きな注目を集めているのが、「自転車のdisrupt(創造的破壊)」を掲げるスタートアップ企業が作るハイテクな「スマートeバイク」。一体どんな自転車なのでしょうか? 欧州の自転車文化に触れながら、現地で評判になっている3社のスマートeバイクを見てみましょう。

 

クルマよりも自転車

ヨーロッパ、特にオランダやドイツ、フランスでは、もともと自転車で颯爽と通勤するビジネスマンが多く、スポーツとしての自転車カルチャーも盛んです。週末や休暇に郊外へと向かうクルマに長距離用スポーツ自転車が積まれることが多いのはその一例でしょう。

 

それに加え、筆者が住むドイツを中心に欧米の比較的教育レベルが高い40代以下の層は、気候変動への影響が少ない生活スタイルを好む傾向があり、「ガソリン車よりも電気自動車、しかしクルマよりも自転車」というマインドがここ10年ほどでかなり浸透しています。

 

欧州各国政府も排ガス量緩和と市民の健康向上を目指して自転車活用に力を入れており、専用レーンの整備も進んでいます。コロナ禍では多くの人たちが公共交通の使用を避けていますが、eバイクは人との接触を避けながら手軽に移動できるうえ、駐車場の有無を心配する必要もありません。ドイツではeバイク購入に補助金を出している自治体もあるほどです。

 

このような背景のなかでハイテクかつシャープなデザインのeバイクの人気は急上昇してきました。このような自転車を取り扱うスタートアップ企業が2020年に次々と大型の資金調達を発表したこともその人気を裏付けています。

 

【その1】日本にも進出しているオランダの「バンムーフ(VanMoof)」

↑日本でも人気上昇中のバンムーフ(写真提供・VanMoof)

 

ここからは欧州で高い評判を得ている3社のeバイクについて述べていきます。まずはバンムーフ。同社は数ある欧米系eバイクのなかでも唯一日本に進出しているブランドとなります。最大のアピールポイントは、ケーブルやライト、バッテリーまで、すべてがフレームに埋め込まれているというスタイリッシュな外観と、鍵が不要という施錠システム。

 

後輪の小さなボタンを蹴ればロックが完了し、アプリの起動状態でハンドルバーのボタンを押すだけで解除が可能です。盗難防止用の警報や追跡システムが完備されたうえ盗難時の保証が付き、14日間の無償返品期間もあります。専用アプリからはアシストの強弱、自動ギアシフト、スピード上限などさまざまな設定ができるのに加え、走行距離や経路、時間、速度の自動記録も可能です。

 

以前は3500ユーロ(約40万円)だった価格も、生産量を増やしたり、前モデルと同型のフレームを採用したりすることでコストを下げ、最新モデルでは価格が1998ユーロ(約25万円)になりました。

 

難点は車体に埋め込まれたバッテリーを取り外せないことで、自宅の駐輪場にコンセントがなければ自宅の中まで自転車を運ばなくてはなりません。同社に問い合わせたところ「最近は街中に電源付き駐輪場が増加中」との回答でしたが、この点は改善を期待したいですね。

 

とはいえ、クールなeバイクという戦略が功を奏してか、今年の日本での売り上げはすでに去年の倍以上とのこと。日本でバンフームブームが起こるかもしれません。

 

【その2】バッテリーが取り外せるベルギーの「カウボーイ(Cowboy)」

↑実用性が高いカウボーイ(写真提供・Cowboy)

 

次は、マットなブラックボディとケーブル埋め込み型のシンプルな外観が人気のカウボーイ。その最大のポイントは、バッテリーが取り外せることです。外せないeバイクが増えているなか、実用面で優位性が高いことは間違いありません。

 

このカウボーイに試乗を申し込むと、なんと自宅まで来てくれました。普通は店舗に行くのが当たり前なので、秀逸なサービスといえるでしょう。

 

専用アプリでは、走行距離や速度の記録、アシストの設定などができます。持ち主が近くにいない状況で自転車が動かされるとアラームが鳴ったり、事故に遭えば自動検知して持ち主や事前登録した電話番号に連絡が行ったりなどのフォロー態勢が整備されています。

 

価格は2290ユーロ(約28万円)で、購入後30日間という長期の返品に対応しています。欧州企業でカスタマーサービスは軽視されがちですが、高額商品だけに安心して購入してもらえるように試乗や返金などのサービスに力を入れているようです。

 

残念ながら現在の販売は欧州のみですが、問い合わせたところ、詳細な時期は未定ながら日本への進出準備も進行中との回答があったので楽しみです。

 

【その3】クラシックなデザインのエストニア発「Ampler(アンプラー)」

↑見た目はレトロ、中身はモダン(写真提供・Ampler)

 

バンムーフとカウボーイが「メカっぽさ」を重視しているのに対し、3つ目のアンプラーはクラシックな外観が特徴です。色も赤、深いグリーン、鮮やかなブルー、シックなグレーを揃えており、目新しさやおしゃれ感よりも「自転車らしさ」を好む層をターゲットにしている模様。バッテリーは車体に完全に埋め込まれているのでスマートに見えますが、残念ながらバッテリーは取り外しできません。

 

専用アプリではモーターの強度変更やナビ機能の調節、走行距離やスピードの自動記録、バッテリーの残量確認などが可能です。走行モードはノーマルモードとブーストモードで切り替えができ、立体駐車場の急な坂で試乗してみましたが、センサーが自動で反応するので自然にスイスイと上れました。価格は2490ユーロ(約30万円)と上記2つのモデルより少し高めなものの、その性能はドイツの自転車雑誌でもランキング上位に選ばれるほど優秀。返品・返金可能期間は14日間となります。

 

日本には未上陸ですが、欧州ではドイツが最大の市場ということでベルリンとケルンに店舗がオープンしたばかりです。ドイツ西端のケルン店は近隣国からの顧客も見越した場所となっているので、欧州ならではの販売戦略といえるでしょう。

 

【まとめ】

まだ価格は高く、都市部の比較的高収入な世帯がメインターゲットのeバイクですが、需要の伸びに伴い価格低下が見込めることから、コロナ収束後も人気は加速していくと思われます。既存自転車メーカーもベンチャーに負けまいと市場に乗り出しており、欧州はまさにeバイク戦国時代といった様相を呈しています。各社が日本にこぞって進出する日も近いのではないでしょうか。

 

南イタリアの風物詩を守れ! 若手農家が仕掛ける「サステナブルな農業革新」

南イタリアの美しい春を彩る風物詩のひとつにアーモンドの花があります。ユネスコの世界無形文化遺産に登録された「地中海の食事」でもアーモンドの実は重要な食材のひとつですが、その一方で地中海の風景に溶け込むアーモンドの木は絶滅の危機に瀕しているものも少なくありません。そこで、食文化としても重要なアーモンドの木と養子縁組し、将来もアーモンドを残していくというプロジェクトが立ち上がりました。

 

紀元前から南イタリアで愛されてきたアーモンド

↑このアーモンドの養子にならない?

 

アーモンドの起源は西アジアにあるといわれ、紀元前5世紀にギリシアからイタリア半島に伝わりました。高い栄養価が評価され、中世にはカール大帝がイタリア半島内でのアーモンドの栽培を促進したとも伝えられています。

 

2013年にユネスコの世界無形文化遺産となった地中海の食事でもアーモンドはその一翼を担い、イタリアの保健省は1日に5~20gのアーモンド摂取を推奨しています。南イタリアではアーモンドを使用した伝統的なお菓子も多く、アーモンドオイルやアーモンドミルクなどの商品もあちこちで販売されています。

 

また、キリスト教会内にある宗教絵画などにアーモンドが描かれていることもあり、イタリアでは生活に浸透している食材といって過言ではありません。

↑モンツァのドゥオモに残る16世紀のフレスコ画の結婚式シーン。アーモンドの糖衣菓子が描かれている

 

地中海地方に伝わるアーモンドの品種は750種にも及ぶといわれてきました。しかし、気候の変化やアーモンド栽培農家の減少などにより、そのうちの150種はすでに絶滅。残る600種についても絶滅の危機に瀕しているものが少なくなく、農業食料森林省も長年頭を抱えていました。

 

そもそもアーモンドの栽培は南イタリアの農家の副次的な収入源にとどまっていた時代が長く、1950年代からアーモンドの栽培は減少し続けていたのです。ところが近年、健康ブームからアーモンドの栄養価が見直され、アメリカをはじめとする先進国でアーモンドの需要が増加しました。それに伴い、イタリアでもアーモンドの栽培を見直す動きが活発化し、最近ではオーガニック栽培のアーモンドも市場に登場するようになりました。

 

若い農家たちの大胆な戦略

そんななか、近年イタリアでは農業に従事する若い世代が増えています。イタリア専業農家連盟の2020年1月の報告によると、過去5年間に農業ビジネスに従事し始めた35歳以下の若者は5万6000人にも及ぶとのこと。

 

特に古代から肥沃な穀倉地帯として知られるイタリア南部でこの増加が顕著で、シチリア島、プーリア州、カンパーニア州を中心に若手が先導する農業ビジネスが加速しています。製造業やサービス業など他の業種と比べると、農業に従事する35歳以下の割合は10%ほど多く、彼らが率いる農業収入は従来の農家よりも75%も多いことが明らかになりました。

 

若い世代の新しい農業ビジネスの利点は、農産物を生産し販売するという単純な作業だけにとどまらないということ。消費者への直売、有機栽培、ツーリズムとの提携、再生可能エネルギーの導入など、時代に即した戦略を大胆に用いている点に特徴があるといえます。ソーシャルメディアを使用したマーケティング力に長けている点も無視できません。アーモンドに注目したのもそんな若い世代だったのです。

↑南イタリアの春を彩るアーモンドの花

 

若手の農業従事者から生まれたアイデアのひとつが、地中海エリアにおいて歴史的にも文化的にも重要な位置づけであるアーモンドを将来に残すという試み。そのプロジェクトは「アーモンドの木と養子縁組を(Adotta un mandorlo)」と名付けられました。

 

アーモンドの木と養子縁組する方法や金額はさまざま。まず、樹齢の高いアーモンドを1年間養子にするには59ユーロ(約7300円)かかります。3年間ならば159ユーロ(約2万円)、5年間であれば289ユーロ(約3万6000円)となります。出資期間中には毎年、それぞれの木から収穫したアーモンド3キロを受け取ることができます。

 

また、新しく接ぎ木したアーモンドの木を養子にすることも可能。こちらの期間も1年間、3年間、5年間の三択で、費用はそれぞれ39ユーロ(約4900円)、119ユーロ(約1万5000円)、209ユーロ(約2万6000千円)です。樹齢が高いものと比べると、こちらのほう安価なのですが、接ぎ木の場合はすぐに実をつけないため1年間の養子縁組ではアーモンドを受け取ることができません。つまり、その1年間はこの養子縁組プロジェクトに賛同したというボランティア感覚になります。他方、3年間と5年間の養子縁組を選択すると、毎年1キロのアーモンドを受け取ることができます。

 

いずれの養子縁組の場合にも、その樹木には投資をした人の名前を記したプレートが設置され、GPSによって成長具合や開花、実をつける様子などを見ることができます。また、養子縁組のために支払われた資金はその樹木の手入れに使われるほか、バイオダイナミック農法の促進や土壌の質の向上、地質研究などに有益活用されるそうです。

 

この養子縁組プロジェクトには資源の有益活用やサステナブルな農法、木の成長過程を共有できるワクワク感などが盛り込まれています。アーモンドが有する歴史や食文化を存続し、収穫したアーモンドを毎年受け取ることができるなら、養子縁組の費用を出してみようというイタリア人も少なくないでしょう。地中海の食文化に重要な食材のひとつであるアーモンドの木は、これからも大切に守っていきたい南イタリアの財産。その存続と発展は若い世代に託されています。

 

なぜイタリアが? 「コロナ対策サプリ開発」にハイテンションで取り組むワケ

2020年、イタリアでは新型コロナウイルスによって食生活において様々な変化が見られました。自家製のお菓子やパンを作るために小麦粉が品切れになったり、食料廃棄が減ったり。

 

しかし、海外にはあまり知られていないのが、サプリメントの消費動向の変化。実はイタリアはサプリメント大国でもあり、国内の各大学ではワクチンの普及に時間がかかることを見越し、ウイルスに対抗できるサプリメントの研究や開発が広がっています。

↑イタリア人はサプリもこよなく愛する

 

イタリアは欧州でも有数のサプリメント消費国です。イタリア薬剤師協会の調査によると、2019年にサプリメントを日常的に摂取しているイタリア人の数は3200万人に上り、全人口のおよそ65%になるそう。サプリメントの国内市場規模は33億ユーロ(約4200億円)で、欧州全体の23%を占めています。

 

イタリアのサプリメント事情についてもう少し細かく見ると、働き盛りの35歳〜64歳による消費が約63%となっている一方、全体の消費人口の65%近くを女性が占めています。スーパーマーケットでも購入できるという手軽さも、サプリメントの普及に拍車をかけているといえます。

 

なぜイタリア人はこれほどサプリメントを愛好するのか? それについては諸説ありますが、サプリメントの動向を調査する機関「FederSalus」のマッシミリアーノ・カルナッサーレ会長は、そもそも「ティサーナ」と呼ばれるハーブティーを健康や美容のために飲む習慣があったイタリアは、その流れでサプリメントの需要が伸びたのではないかと推測しています。

 

ロックダウンでサプリの消費が拡大

サプリメントについては健康だけでなく美容を意識した商品の需要も高く、従来は乳酸菌やミネラル塩を含む商品が売り上げの上位を占めていました。ところが、新型コロナの感染拡大に伴いロックダウンが実施されて以降、イタリア人が心身ともにストレスにさらされている状況がサプリメントの消費動向を通じて明らかになったのです。

 

イタリアの食産業を調査するイタリアフード協会の調査によると、これまで人気が高かった乳酸菌やミネラル塩のサプリメントを抜き、ビタミンBを含む商品の売り上げが30%、睡眠やリラックス効果に関する商品が21%、喉に関する商品が12%増加したことがわかりました。

 

また、免疫作用を強化するとうたわれているサプリメントの売り上げも30%以上増加するなど、記録的な業績となったのです。普段はサプリメントを摂取していない人でも、マルチビタミンなど手に取りやすい商品を購入するようになり、こちらも5.7%の売り上げ増となっています。

 

新型コロナを意識したサプリメントは売り上げが伸びたものの、薬局や店舗、オンラインなどを合わせたサプリメント全体の消費量はコロナ禍の経済状況を反映するようにマイナスとなりました。薬剤関係のデータを調査するニューライン・リチェルケ・ディ・メルカートによれば、2019年と2020年のある同じ時期を比べて、今年の消費量は1.6%減少しているそうです。ただしオンラインでの購入は30%以上増加しており、こういった消費動向もコロナ禍時代の特徴といえるかもしれません。

↑以前ほど店頭では売れません

 

コロナ感染予防を巡って品切れとなったサプリメントもあります。ローマのトル・ヴェルガータ大学のエレーナ・カンピオーネ教授が率いる研究班は今年6月、学術誌「International Journal of Molecular Sciences」にラクトフェリンに関する研究を発表しました。その論文ではラクトフェリンが新型コロナの感染予防に効果があるとされ、ニュースでも大きく取り上げられたのです。すると、そのニュースを見た人が薬局などに殺到し、ラクトフェリンのサプリメントがあっという間に品切れになってしまいました。

 

ラクトフェリンとは乳汁、涙、唾液、胆汁、膵液といった分泌液などに含まれる、抗菌活性を持つとされる鉄結合性蛋白質です。同大学の研究結果は現在、ラ・サピエンツァ大学の微生物学教授やラクトフェリン研究者たちによる客観的な検証の段階に移っていますが、もちろん、その成果に懐疑的な学者も少なくありません。しかしカンピオーネ教授は、ソーシャルディスタンスとマスク以外の新型コロナへの対抗手段としてラクトフェリンの有効性を証明したいという強い意欲を示しています。

 

また、中世からの伝統を誇るボローニャ大学は、クローブや小麦麦芽を使用して、新型コロナ感染予防のためのサプリメントを開発していることを発表しました。同大学のジョヴァンニ・ディネッリ教授のチームは、クローブに含まれるユージノールと小麦麦芽中に含まれるスペルミジンという成分が新型コロナの感染予防や治療に有効という可能性を提示し、ウィルスに対抗する免疫強化サプリメントの開発を目指しています。

↑目下研究中!

 

果たしてこういった成分が本当に有効な武器となるのかどうかはまだ断定できませんが、同教授はワクチンが開発され、普及するまでの手段としてこのサプリが役に立つことを願うと述べています。とはいえ、このようなサプリに関する研究結果については早急な判断を控えるようにという専門家の忠告もメディアではよく目にします。

 

ラクトフェリンや自然の成分を原料にしたサプリメントが新型コロナの予防や治療にどれだけ効果を発揮するのかについては、専門家の間でもさまざまな意見があります。いずれにしても、サプリ好きのイタリア人の消費動向はコロナの感染拡大によって大きく変化しました。ロックダウンによって食事に関しても健康志向がさらに高まったイタリアでは、「新型コロナにかからないように用心する」という切なる思いがサプリメントの選び方や開発にも表れているようです。

 

BMW製の「電動ウイングスーツ」!? 最高時速300kmで空を舞いヒトは鳥に近づく

長い間、人類は鳥のように大空を自由に飛ぶことを夢見てきましたが、人間が鳥に近づきつつあるようです。最近、BMWが時速300キロ以上で長い航続距離を飛行することができる電動ウイングスーツを発表しました。ムササビのような姿で空を舞うウイングスーツはどんなものなのでしょうか?

 

電気自動車の技術を結集

↑鳥だ! 飛行機だ! いや人間だ!

 

ウイングスーツとは、スカイダイビングのように高い崖から飛び降りて滑空する「ベースジャンプ」のジャンパーたちが着用するスーツのこと。手と足の間に特殊な布が貼られていて、これによってムササビのように上空に滞在することができます。

 

このウイングスーツの電動タイプを世界で初めて発表したのが、ドイツの高級自動車メーカーのBMW。BMWは2013年に電気自動車「BMW i3」を発表して以来、電動機や充電技術などの開発を続けてきています。近年では第5世代のeDriveテクノロジーを使ってクルマを生産していますが、BMWはこれらの技術を結集し、3年をかけてウイングスーツを開発しました。

 

ウイングスーツの開発には、スカイダイバーとベースジャンパーのプロとして活躍するオーストラリアのピーター・ザルツマン氏が協力。スーツにはBMWデザインワークスがコラボレーションし、カーボン製のプロペラ2つが付いた電動ドライブシステムを身体の全面部分に装着します。プロペラは約2万5000rpmの回転速度で、それぞれの出力は7.5kW、2つ合わせて15kWの出力を備えています。

 

従来のスカイダイビングやベースジャンプでは、ジャンパーは崖やヘリコプターから上空に飛び出した後、時速100キロ以上のスピードで地上に向かって下降していきます。しかし、このBMWのウイングスーツの電動ドライブシステムを着用していると、まるで小型飛行機が空を自由に飛ぶように、ときには上昇しながら上空を旋回することが可能。最高時速はおよそ時速300キロにも到達するそうです。

 

オーストラリアで行われたテスト飛行では、上空3000メートルからザルツマン氏が2人のジャンパーとともに上空へ飛び出し、電動ドライブシステムのおかげで正面に迫る崖を見事に高速でよけ、ジャンプを楽しんだのでした。地上から撮影された動画を見ると、ジャンパーが通過した後には飛行機雲ができています。その様子はまるで人間が飛行機になったかのようですが、大事なことは人間が鳥のように空を飛ぶことができるようになりつつあるということでしょう。

 

ベースジャンプはとても危険なスポーツですが、世界中のジャンパーたちが止めないのは、空を飛ぶというロマンに魅了されているからなのでしょう。そんな彼らが、電動自動車の技術力を活用して、これまで以上に自由に大空を舞う日が近づいているのかもしれません。

 

 

「マスク着用」でも運動のパフォーマンスは落ちないことが判明! でも呼吸が……

新型コロナウイルスの感染予防のため、たとえ運動中であってもマスクの着用が求められる時代となりました。でも気になるのは、マスクを着用して運動をすると身体にはどんな影響が出るのか? この問題についてカナダのサスカチュワン大学が研究し、最近その結果を発表しました。

↑マスクをしてもパフォーマンスは下がらない

 

たとえコロナ禍であっても、健康を維持するためには運動が大切。そして感染予防のためには、スポーツジムでのトレーニング中や自宅周辺のランニングの最中でも、マスクの着用が必要です。しかしマスクをつけながら激しい運動をしていると、十分な酸素を吸えないうえ、二酸化炭素を過剰に摂取してしまうなど、不安が生じるかもしれません。そこでサスカチュワン大学の研究者は次のような実験を実施しました。

 

健康な男女各7名が室内でエアロバイクをこぎ、一定のペダルの速さになるまで6~12分間運動を継続します。研究者たちは運動中の血中酸素濃度や筋肉の酸素レベルを測定し、この作業を外科の医療用マスクを着用した場合、3層の布製マスクを着用した場合、何もつけない場合の3パターンで行いました。

 

その結果、医療用マスクと布用マスクを着用していた場合は、マスクを着用しなかった場合に比べて血液中と筋肉中の酸素量は若干少なくなったものの、その影響は最小限に抑えられていることが判明しました。マスクを着用しても、運動中のパフォーマンスに悪い影響を与えるエビデンスは見つからなかったというわけです。

 

パフォーマンスは落ちないが、心肺への負担は上がる

しかし、実際には多くの人たちがマスクをつけながら運動すると息苦しさを覚えて、マスクをつけていないときに比べると疲れやすくなると感じていることでしょう。ある別の実験では、ランナー10人がマスクをした状態とマスクをしない状態でトレッドミルを走ったところ、マスクを着用すると、着用しなかったときに比べて1分間に肺を出入りする空気量が24%減少し、酸素摂取量も13%減少することがわかりました。酸素摂取量では大きな変化が見られませんでしたが、マスクを着用すると呼吸の回数が増加して、酸素の摂取を補っていると考えられます。つまり、マスクを着用して運動する場合、運動強度が上がるほど心肺への負担は増加すると言えるでしょう。

 

これら2つの実験結果は相容れないように見えます。さらなる研究が必要でしょう。しかし運動中にマスクを着用すると、新型コロナウイルスの感染を防ぐことに役立つと考えられる一方で、少なからず呼吸にも影響が出るようです。このような長所と短所をどう捉えるかは人によって異なるかもしれませんが、科学的な知識だけでなく、身体の声を聴くことも大切でしょう。

本棚ではなかった! 「オンライン会議」で最も信頼される背景は何?

リモートワークが普及し、社内外の人とオンライン会議を行うのが一般的になりました。そんなオンライン会議で気になるのが、自分が映ったときに見える背景です。たかが背景と思うなかれ。この背景によって、相手に対する信頼感やプロフェッショナル性などが増すことが、最近ある調査で判明したのです。ビジネスで相手に良い印象を与える背景は何なのでしょうか?

↑背景はどこがいいかな……

 

アメリカのデザイン企業Signs.comは、普段からビデオ会議を利用しているアメリカ人1507名にアンケートを実施しました。女性と男性各1人のモデルが同じポーズをとった写真を用意し、背景だけを次の6パターンに変更します。

 

・窓から自然光がさす背景

・アートを飾った背景

・植木鉢を置いた背景

・キャンドルを置いたやや暗めの背景

・本棚の背景

・模様のない壁の背景

 

そしてABテストを行い、それぞれの背景で「プロフェッショナル性」「信頼感」「親密性」「知性」の項目についてどのように感じたかを5段階で評価してもらいました。

↑実験された6つの背景

 

その結果、これら4つすべての項目でスコアが低めだったのは模様のない壁の背景。一方、「プロフェッショナル性」を感じるスコアが3.75と最も高かったのが、本棚の背景でした。ただ本棚の背景は「親密性」のスコアが3.67と、ほかの5パターンのどれよりも低く、プロ志向を感じさせるけれど近寄りがたい存在と相手に思わせている可能性があります。

 

また「知性」のスコアが4.07と最も高かったのが植物を置いた背景で、この背景は「信頼感」(3.92)や「親密性」(3.89)でもスコアが高く、平均的にどの項目でも高いスコアを獲得することがわかりました。またビジネスとはあまり結びつかない、キャンドルを置いたやや暗めの背景は、「プロフェッショナル性」のスコアは3.58と予想通り低かったのですが、「信頼感」と「親密性」のスコアは高めだったこともわかりました。

 

今回の結果を総合的に見て、背景に植物を置くと知性やプロフェッショナル性など、ビジネスにメリットがある良い印象を相手に与えることができるようです。

 

真っ白な壁には注意

アンケートで、ビデオ会議前に背景について調整などをするか聞いたところ、「時々調整する」「よく調整する」「いつも調整する」を合わせると75%となり、多くの人が会議での自分の背景について気を配っていることがわかりました。さらにその調整で最も重要なことを聞いてみると、自然光や窓や白い壁が上位の回答に上げられました。

 

でも、先ほどのモデルを使った写真アンケート結果から、何も模様のない白い壁はプロフェッショナル性も知性などのスコアが低い結果が出ています。つまり、よかれと思ってやったことなのに、白い背景にするとむしろ逆効果かもしれないのです。

 

人は視覚で得た情報から、相手がどんな人物か無意識のうちに判断しているとも言われます。オンライン会議でも最高の効果を生み出したい人は、背景に植物などの鉢植えをさりげなく見えるように置いてみませんか?

 

「片頭痛」を軽減させる可能性がある「光」

日本で1000万人近くの人が悩まされていると言われる片頭痛。一度痛みに襲われると、薬を飲んだり休みをとったり、さまざまな対処が必要になりますが、そんな片頭痛を軽減させるのに緑色の光が良いという研究結果が今年発表されました。緑色の光にはどんな力があるのでしょうか?

 

片頭痛の頻度や痛みが約60%軽減

↑緑が痛みを和らげる

 

日本と同様にアメリカでも片頭痛を抱える人は多く存在しています。この国では、およそ4人に1人が繰り返し訪れる痛みに見舞われており、音や光に敏感になったり、めまい、嘔吐、しびれが伴ったりすることもあるそう。片頭痛は薬による処方が一般的ですが、副作用の心配があるため、別の方法も研究されています。そこで考えられているのが光による予防治療。

 

アリゾナ大学ヘルスサイエンスセンターの医師らは、緑色の光を使った臨床実験を行いました。この実験には、さまざまな治療を受けても望ましい成果が見られなかった片頭痛患者29名が参加。患者たちは片頭痛が起きたときの痛みレベルを0~10で評価しました。

 

しかし緑色のライトを照射すると、平均で60%の人に片頭痛が起きる頻度が減少。痛みレベルについても、平均で8から3.2までおよそ60%下がったのです。さらに痛みが生じる時間が短くなり、片頭痛が起きても睡眠や家事、仕事を継続できるなどの改善も見られました。

 

臨床実験の最後には、被験者に今後も緑色のライトの照射を受けたいか聞くと、29名のうち28名が「引き続き照射を受けたい」と希望したそうです。ちなみに光を浴びたことによる副作用はなかったとのこと。

 

この実験を行ったイブラヒム医師は以前から、緑色の光を使った治療について研究を行っており、数年前にはラットを使用して緑色の光に痛みを軽減する効果があることを発表していました。同氏は線維筋痛症やHIVの患者に生じる痛みにも緑色の光の照射が効果的な治療法のひとつになる可能性があると考え、別の実験も行っており、今回と同じように痛みを緩和させる結果を出していました。

 

今回の実験で使われた緑色の光は、光の強度や波長を調整させたもので、残念ながら一般の方が同じような効果を得ようと自分で再現するのは難しいとのこと。ただイブラヒム医師は、以前行われたメディアのインタビューで「自分が頭痛になったときは、近くの公園に行って木の下で20〜30分過ごしている。すると、痛みが少しずつ良くなっていくんだ」と答えています。

 

私たちの現代の生活はパソコンやスマホなどの強烈な光に囲まれており、これらの強い刺激によって身体に痛みが起きているとも言われています。緑色の光による頭痛の予備治療が確立されるのはまだ少し先のことになりそうですが、頭痛が起きたときは、木々の緑がある場所で心を休ませてあげることが、いまできる対処法のひとつかもしれません。

 

【出典】The University of Arizona Health Sciences. (2020, September 9). Shining a Green Light on a New Preventive Therapy for Migraine. https://uahs.arizona.edu/tomorrow/shining-green-light-new-preventive-therapy-migraine

 

「マルチビタミンサプリ」はプラセボ効果? 米大学が検証した結果

ビタミンA、ビタミンC、カルシウムなど、毎日の生活で必要な栄養分をまとめて摂取できる「マルチビタミン」や「マルチミネラル」のサプリメント。栄養素別に摂取する必要がないため、専門知識がない一般の方にとっては便利な存在です。しかし最近、サプリメントは飲んでも飲まなくても健康に大差はないとする調査結果が発表されました。サプリメントの本当の効果とは何なのでしょうか?

↑健康なのは本当にサプリメントのおかげ?

 

アメリカは日本よりもサプリメントが広く普及しており、日頃から栄養の補給として利用する人が多くいます。なかでも特に人気が高く、およそ3人に1人のアメリカ人が飲んでいると言われるのが、複数の栄養素やミネラルをミックスした「マルチビタミン」や「マルチミネラル」です。

 

そこでハーバード大学医学大学院らの研究者などが、2万1000人のアメリカ人に行われた2012年の全国栄養調査結果をもとに、マルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントの効果を検証することにしました。2万1000人のうち、マルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントを日常的に摂取していた人は5000人で、残りの1万6000人は摂取していません。

 

調査では、高血圧や糖尿、喘息などの過去10年間の健康状態、感染症や記憶障害などの病歴、鬱や不安感などの心理状態などについても聞き取りが行われました。その結果、マルチビタミンやマルチミネラルを摂取している人は自分が健康だと判断する傾向が高かったのですが、実際にはサプリメントを摂取している人とそうでない人の間で健康上に大きな差は見られなかったのです。

 

サプリメントでポジティブ思考

健康状態とサプリメント摂取にはあまり関係がないのに、サプリメントを摂取している人は「自分は健康だ」と答えている人が多い。この事実からは、サプリメントをとっている人はサプリメントにそれなりの効果があると信じており、それをポジティブに捉えている人が多いと言えるかもしれません。そうだとしたら、これはプラセボ効果です。

 

ちなみにサプリメントを摂取している人は、高齢で世帯収入が高く、高学歴で健康保険に加入している女性が多かったそう。つまり健康を維持するために経済的な余裕があり、健康への意識が高い人がサプリメントを摂取している傾向にあるようです。

 

今回の結果がマルチビタミンをすべて否定することにはつながりません。しかし「自分はサプリのおかげで健康である」という考え方にはバイアスが働いていることも忘れないようにしながら、心と身体の健康を維持していくことが大切なのでしょう。

 

【出典】Paranjpe MD, Chin AC, Paranjpe I, et al. Self-reported health without clinically measurable benefits among adult users of multivitamin and multimineral supplements: a cross-sectional study. 

 

リアル過ぎて賛否両論! ディズニーが「人間のように目を動かすロボット」を開発

現在、人間とコミュニケーションを取るロボットの開発が進んでいますが、その課題のひとつに見た目の「人間らしさ」があります。私たちの言語活動において顔は重要な機能を担っているので、ロボットの表情を人間らしくすることはとても重要です。この問題に取り組んでいるのがディズニーで、同社は最近、会話の途中で視線が動いたり表情が変わったりするロボットを発表しました。一体どのようなロボットなのでしょうか?

 

目だけならロボット感なし

↑ギクリ

 

ディズニーで使う様々な技術を開発する「ディズニーリサーチ」が先日発表したのが、視線を人間らしく動かすことができるヒト型ロボットです。

 

従来のロボット研究では、ロボットと人間が視線を合わせることにフォーカスしてきました。そのためロボットと人間は目を合わせて会話することができるのですが、人間同士が行う実際の会話では、話の内容や相槌に合わせて私たちは視線を動かしたり逸らしたりするもの。そこでディズニーリサーチでは、ロボットが話し手や聞き手のキャラクターに合わせて視線を動かす技術を開発することにしました。そして先日お披露目されたのが、目の動きがこれまで以上に豊かなロボット。胸元にあるセンサーが、目の前の人物の目や顔の動きを感知して、それに対応して人間らしい動きができるそうです。

 

まだロボットの機械部分が露骨に見えるため、なんとも不気味な見た目ですが、下の動画を視線に注目しながら見てみてください。ロボットの前に人が立つと、頭をやや起こして視線を合わせたり、人の動きと合わせて首を左右に動かしたり、複数の人物がロボットの前にいれば、2人それぞれに視線を送ったり、より人間に近い目の動きをしているのがわかります。また、会話の途中にまばたきをするほか、目をしっかり開くときと、まぶたを半分くらい閉じた状態にするときがあるなど、1点を凝視する従来のロボットの目の動きとは明らかに違うようです。

この動画が公開されると世界中のメディアが取り上げ、SNSでは「さすがディズニー」「人間っぽい」と賞賛する声が上がりました。一方で、見た目の怖さから「不気味すぎる」「ハロウィンの日の投稿と間違えたんじゃないか?」「今夜は眠れそうにない」などのリアクションも。もしもこのロボットに人間のような皮膚をつけたとしたら、本物の人間に近づいて、さらに気味の悪さが増しそうです。

 

開発の現場にいる人からすれば、細部まで人間らしさを追及していくことは自然の流れでしょう。でもロボットには、どこかに「ロボットらしさ」が残っていたほうが、人間としては安心できると感じてしまう部分があるのかもしれません。

 

約5300万円でもう買える! 「空飛ぶクルマ」の現在

「空飛ぶクルマ」の時代が始まろうとしています。近年、国内外で空飛ぶクルマのロードテストや試験飛行成功のニュースが相次いでおり、クルマに乗ったまま道路を走って上空を飛行することが現実味を帯びてきています。次世代の乗り物になりそうな空飛ぶクルマを3つチェックしておきましょう。

 

カップラーメンができる間に……

↑3分で陸から空へ

 

スロバキアのKlein Vision社が手がける「AirCar」は先日、試験飛行に成功したばかりです。5世代目となるこのクルマは、2人乗りでBMWの1.6リッターのエンジンを搭載。航続距離は1000キロ、離陸時には時速200キロまで到達するそう。見た目はレーシングカーのように車体が低く横幅が広い印象ですが、一般的なオフィスやホテルなどの駐車場に駐車できる大きさのようです。

 

このAirCarの魅力は、走行モードから飛行モードに短時間で変えられることにあるでしょう。後方に収納されていた翼が伸びて、わずか3分以内に飛行の準備が整うのだとか。これなら自宅からAirCarに乗って飛行場に向かい、別の飛行機に乗り換えることなく、そのまま空へ飛び立つことが可能になるかもしれません。

 

官民一体で取り組む日本

日本でも空飛ぶクルマの開発が進んでいます。それを牽引するのが、若手技術者などを中心とした有志団体CARTIVATORのメンバーが2018年に創業したベンチャー企業のSkyDrive。「空飛ぶクルマを作ろう」というミッションを掲げる同社は、2023年度の実用化を目指して、空飛ぶクルマの開発を行っています。今年8月には初めての公開有人飛行を実施し、成功しました。

 

このとき公開された有人試験機「SD-03モデル」は、1人乗りで合計8個の電動モーターで飛行します。自動車というより、1人乗り用の小型飛行機のような見た目。しかし同社の空飛ぶクルマの特徴は、滑走路を必要としない垂直離着陸ができること。そのため、離島や山間部など郊外での移動手段としてだけでなく、災害時の搬送などにも利用できると期待されています。将来的に一般的な駐車場2台分に収まるよう、車体のサイズは高さ2m×幅4m×長さ4mにする計画とのこと。

 

ドローンを活用した物流サービスの試みが始まろうとしている日本では、空飛ぶクルマのプロジェクトも国が支援しています。官民が協力して取り組むべく、国土交通省と経済産業省が2018年から「空の移動革命に向けた官民協議会」を開いており、SkyDrive代表も構成員として参加しています。

 

一歩先を走るオランダの空飛ぶスポーツカー

↑PAL-Vリバティー・パイオニア・エディション

 

再び海外に目を向けると、オランダには2012年にプロトタイプの試験飛行を実施したPAL-V社があります。同社はその後、「PAL-Vリバティー」と名づけられた空飛ぶクルマの開発を開始。イタリアのデザイン企業とコラボしたという高級感あふれる外観はスポーツカーを彷彿させるデザインです。2人乗りで、走行モードでは時速最大160キロ、フライトモードでは最大180キロで飛行可能。この空飛ぶクルマは、厳しいことで知られるヨーロッパの道路許可証を得たので、ナンバープレートを付けて公道を走ることができるそうです。

 

しかも、PAL-Vリバティーは世界で90台限定のパイオニア・エディションを予約販売中。同社のウェブサイトによると、日本ではエグゼクティブエディションが75万ドル(約8000万円)、スポーツエディションは49万9000ドル(約5300万円)で購入できます。今後は耐久テストなどが実施される予定とのことですが、同社は一歩先を進んでいるように見えますね。

 

世界各国で続々と登場しつつある空飛ぶクルマ。現在、自動車などのモビリティー業界は大変革のときを迎えていますが、将来は自家用車のまま空を自由に飛ぶ人もいそうですね。

 

宇宙服はビームス製! 11月15日の宇宙船打ち上げの見所をチェック

日本時間の11月15日午前9時49分、野口聡一さんとNASAの3人の宇宙飛行士を乗せた「クルードラゴン宇宙船(Crew-1)」が打ち上げられます。今回は民間の宇宙船に日本人宇宙飛行士が初めて乗り込みますが、見所はそれだけではありません。国際宇宙ステーションで野口さんが着用する服はビームスがプロデュースするなど、宇宙を身近に感じられるトピックスが盛りだくさんなのです。

 

スペースX社製の民間宇宙船に日本人初搭乗

↑クルードラゴン宇宙船に乗って宇宙へ行く野口飛行士ら

 

2020年5月、イーロン・マスクが率いるスペースX社が、NASAからの委託を受けて開発した宇宙船「クルードラゴン」に2人の宇宙飛行士が搭乗しました。打ち上げは成功し、国際宇宙ステーション(ISS)にもドッキングするなどして地球に帰還。民間企業が宇宙開発に参入するという新時代を象徴する出来事となりました。

 

今回、野口飛行士が搭乗する宇宙船もスペースX社が開発しており、民間企業が作った宇宙船に日本人宇宙飛行士が乗り込むのは初めてのこととなります。

 

これまでの宇宙開発は国家主導のもと、国の威信をかけて多額を投じ、国同士が競い合ってきました。しかし、これからは国家というボーダーではなく、ひとつのビジネスカテゴリーとして宇宙開発を進める時代となっていきそうです。2020年は新しい宇宙開発時代が幕を開けたターニングポイントの年となるでしょう。

 

ISSで着用する宇宙服はビームスがプロデュース

↑ビームスがプロデュースしたポロシャツ

 

今回のミッションで野口宇宙飛行士はおよそ半年間、ISSに滞在し、さまざまな実験を行う予定ですが、野口さんらはその期間、ビームスが製作を担当した宇宙服を船内で着用します。宇宙船内では給水速乾で抗菌消臭機能が求められるなど、宇宙航空研究開発機構(JAXA)からは機能面でさまざまなリクエストがあったそう。ビームスが糸や生地の選定からデザインまでプロデュースし、ファスナーの向きやポケットの大きさなど細部までディスカッションを重ね、フライトスーツからポロシャツ、フリースパーカー、下着、ソックスなどを開発しました。宇宙飛行士がISSで着用する衣類を民間企業が総合プロデュースするのは初めてのことで、こんなところにも民間企業が宇宙事業に参入していることがうかがえます。日本の人気ファッションブランドも宇宙事業に参加していることを知ると、宇宙がグッと身近な存在になりますよね。

 

今回の宇宙滞在で複数の実験が計画されており、そのなかには一般の人にも興味深い取り組みがあります。そのひとつが宇宙放送局からの放送。JAXAは2019年に国際宇宙ステーション「きぼう」内にスタジオを設置する宇宙メディア事業を発表し、2020年8月には地上と宇宙の双方向ライブ配信に世界で初めて成功しています。今回は第2回目の放送を実施し、技術実証を行う予定。このほかにも、きぼうに設置された船内カメラを一般の人が地上から操作するというアバター体験などが企画されています。遠い存在だった宇宙が私たちにどんどん近づいてきていますね。

 

AIがサハラ砂漠に18億本もの樹木があることを発見! かかった時間が凄かった……!

雨が少ないため植物がほとんど生育しない砂漠地帯。アフリカ大陸にあるサハラ砂漠は世界最大級の砂漠のひとつですが、これまで何も存在しないと思われていたその砂漠に実は18億本もの樹木が生育していることが、AIを使った研究によって明らかとなりました。

 

NASAの衛星画像と深層学習技術でカウント

↑サハラ砂漠に樹木が

 

アルジェリアとリビア、エジプトの3か国の国土のほとんどを覆うように存在するサハラ砂漠。面積は860万平方キロメートルもあり、総国土面積が37.8万平方キロメートルの日本の約22倍にもなります。そんな巨大なサハラ砂漠に樹木はどれくらい存在しているのか? デンマークのコペンハーゲン大学の地理学者がAIを使った新たな研究を行いました。

 

コペンハーゲン大学コンピューターサイエンス学部は、木の形から自動的に画像上の木を識別して、木の本数を数えられる深層学習技術を開発。これにNASAから提供された数千枚の衛星画像を組み合わせて、サハラ砂漠に存在する樹木を数えることに成功しました。そしてこの調査によって、サハラ砂漠の西側130万平方キロメートルの地域に、18億本もの樹木があることが明らかとなったのです。もちろん木が一本も存在しない場所が広範囲に渡り存在していますが、樹木が密集している場所があったようです。

 

仮に18億本の木が130平方キロメートルの土地に均等にあると仮定すると、これは100メートル四方の土地に14本の木が生えている計算になります。私たちが思い込んでいた以上に樹木が生えていたんですね。この研究を行った学者たちですら、「サハラ砂漠にこれだけの樹木が存在していたことに大変驚いた」とコメントしています。

 

サハラ砂漠に木が存在することの意味

今回サハラ砂漠で見つかった樹木のように、降雨量の少ない地域での木々については、どのくらいの量の二酸化炭素を蓄積できるかほとんどわかっていません。そのため、さらなる研究が地球温暖化や地球保護にも活かされる可能性があります。

 

また、サハラ砂漠で生育する樹木の種類を特定することができれば、樹木を植栽しながら家畜の飼育や農産物の栽培を行う「アグロフォレストリー」の研究も進むとも見られています。

 

今回開発された広域の樹木を数える深層学習技術は、人間の力では何年もかかることが、わずか数時間程度で可能になったそう。この研究チームでは、今後さらにアフリカの広範囲の場所で樹木のカウントを明らかにし、将来的には降雨量の少ない地域に存在する樹木のデーターベースを作る計画です。

「色の見方」が変わる! 反射率が95.5%の「白のなかの白」が誕生

もっとも基本的な色ともいえる白と黒。しかし私たちが普段目にしている白と黒は、本当の白色と黒色とは違って見えているのかもしれません。近年、研究が行われている「白色のなかの白色」と「黒色のなかの黒色」の世界をのぞいてみましょう。

 

日光を反射し建物の気温を低く保つ白色塗料

地中海沿岸の街は、外壁を真っ白に塗った白い家が並んでいることで有名です。白色の塗料が使われる理由に、強い日差しから建物を守り涼しく過ごせることがあると言われています。黒のクルマと白のクルマのどちらが熱くなりやすいかは多くの方が経験してわかっていることでしょう。これらと同じように、屋根や外壁を白色にして暑さ対策を行う動きが世界で進んでいます。

 

そんな動きを受けて、アメリカのパデュー大学の研究チームが先日発表したのが、外気より最大で7.8℃も低く保てる白色塗料です。研究チームでは100種類以上の原料の組み合わせから10種類の原料に絞り込み、それらを組み合わせた50種類で検証を実施。その結果、岩や貝殻などによく見られる炭酸カルシウムが、紫外線をほとんど吸収せず光を散乱させることが可能という結論に行きつき、95.5%の反射率の白色塗料を開発したのです。

 

現在マーケットにある、遮熱効果付きの塗料は日光の反射率80~90%で、市販の白色の塗料と比較すると、この研究チームが開発した塗料は直射日光の下でも低温を維持して、紫外線を反射することができました。フィールドテストでは正午の時点で表面の温度を1.7℃低く保つことができたそうです。

↑どっちが本当に白い?

 

おまけに、この塗料で反射した紫外線は、光の速さで地球外の宇宙まで到達するとのこと。つまり反射した光によって地球のなかに熱がこもることはなく、この塗料を建物の屋根や道路、クルマなどに使えば、地球温暖化の防止にも役立つと期待できるそうです。塗料のコストも市販品より安価に抑えられることも魅力的でしょう。

 

黒のなかの黒もある

一方、「史上最も黒い黒」と世界中で話題となったのが、2019年にマサチューセッツ工科大学が発表した黒色の塗料です。この研究チームは黒色塗料の開発を行っていたわけではなく、炭素同士が円筒状に並んだ「カーボンナノチューブ」の実験を行っていました。その際、99.995%の光を吸収する、カーボンナノチューブでできた黒色の塗料を偶然発見。これまであったどの黒色塗料より10倍黒く、まさにブラックホールのような黒色ができあがったのです。

 

それまで世界で最も黒い物質と言われていたのが、同じくカーボンナノチューブでできた「ペンタブラック」。BMWがペンタブラックを塗った「世界一黒い車」を発表するなど、ペンタブラックは一時期、世界で大きな話題を呼んだのですが、ペンタブラックの光の吸収率は99.96%。マサチューセッツ工科大学が発見した黒色は、それよりもさらに黒い塗料なのです。

 

2019年9月には、16.78カラットで時価200万ドル(約2億1000万円)のイエローダイヤモンドに、この黒い塗料を塗ってしまうという大胆な試みが、ニューヨークの「リデンプション・オブ・ヴァニティ展」で披露されました。わずかな光でも反射して煌びやかに輝くダイヤモンドが、この黒色塗料で漆黒の闇に変わる様子は、本当にブラックホールに吸い込まれたようです。

↑どんな輝きも通さない

 

光の反射率と吸収率を考えると、圧倒的な存在感を感じさせる超白色と超黒色。これらを超える白色と黒色は生まれるのでしょうか?

 

 

「ペット可」の物件検索数が140%も増えたけど……。イギリス「ペットブーム」のオモテとウラ

イギリスでは多くの家庭がペットを飼っていて、ペット数も年々増える傾向にあります。ロックダウン期間中はこのペットブームにさらに火がつき、新しいペットを求める人たちが続出。ペットに適した住環境を求め、引っ越しを考える人も急増しました。本稿では、そんなイギリスのペット動向についてレポートします。

 

子犬の価格が急騰

↑聞いて、聞いて! ぼくの価値が急上昇しているんだって

 

イギリス人は動物好きで、約40%の家庭がペットを飼っているといわれています。1番多く飼われているのは犬で、次は猫。イギリスにはペットを家族の一員として考える習慣があり、ペット数は年々増える一方でしたが、ロックダウンによって前代未聞のペットブームが起こりました。ペットケア・ブランドのボブ・マーティン社は、ペットの需要が普段の約10倍も増え、オンラインによる検索数が急増したと述べています。なかでも子犬を求める人が目立ちます。

 

動物レスキューセンターのケンネルクラブによると、犬を購入することができる有名なサイトのひとつである同クラブのホームページへのアクセスが、今年4月時点で昨年度の2倍以上にのぼったとのこと。アドプション(保護譲渡)コーナーへのアクセス数が6倍も増えたという動物慈善団体もあるなど、アドプションが盛んなイギリスならではの現象も見られます。

 

その一方で、ペット業界はこうした需要の高まりに追いつけず、子犬価格が急騰しました。現在、子犬の平均価格は1900ポンド(約26万6000円)で、この数字は、ロックダウン開始前の約2倍です。

 

さらに人気の種類になると、3000ポンド(約42万円)を下りません。最近、BBCが発表した「子犬の価格上昇率トップ10」によれば、たとえばコッカースパニエルが184%増えて2200ポンド(約30万8000円)、コッカプーが168%増えて2800ポンド(約39万2000円)、ボーダーコリーが163%増えて1000ポンド(約14万円)となっています。

 

特に注目したいのは、キャバリアーキングチャールズスパニエルとプードルの雑種であるカバプーの人気です。育てやすい犬種といわれていることもあり、今年になって需要が一気に高まりました。価格は従来の900ポンド(約12万6000円)から2800ポンド(約39万2000円)へと、3倍以上に跳ね上っています。高額ではありますが、購入の順番待ちをする人たちが通常の4倍へと増えており、登録者は約400人もいるそうです。

↑一躍人気者のカバプー

 

ペットを飼える家がほしい!

急激なペットブームの背景には、やはり外出自粛に起因したストレスや寂しさなどがあるようです。

 

ペットはストレスや寂しさを軽減してくれるとして、イギリスでは心理セラピーにも長年使われてきました。特にステイホーム時間が増えた自粛期間中ともなれば、ペットとの触れ合いを望むのは当然といえるかもしれません。そのほか、この期間にペットを飼う理由として、「ペットオーナーになるという夢を実現するチャンスが到来した」「ペットのトレーニングに注力できる」などの声が挙がっています。

 

ペットの世話をしたり、触れ合ったりすることは、動物との絆を強め、飼い主自身も充実感や幸福感を味わうことができます。ペットフードや訓練時に与えるご褒美フードの販売数も伸びていて、なかでもミレニアム世代と呼ばれる20~30代の若者たちはご褒美やペット用アクセサリーの購入に熱心だといわれています。

↑ハイタッチ!

 

地元メディアによれば、ロックダウン中にペットが飼える物件を探したイギリス人は数え切れないほど多くいたそう。ロックダウン開始から5月4日までの約2か月間で、ペット可の物件検索数は140%も増え、賃貸物件に住む人の3分の2以上がペット可の物件を検索したといわれています。特に、犬や猫を飼いつつ、広いワーキングスペースを確保できる物件に人気が集中。このトレンドはロンドンやマンチェスターといった都会で顕著に見られます。また、ペットのスペースを確保できる庭付き1軒家の検索数もロックダウン前と比べて200%上昇。この需要に応じ、イギリスにおけるペット可の物件数は3月以降38%も増えました。

 

動物を飼うということは?

しかしその一方、加熱するペットブームの裏側では不法行為や犯罪が増えています。国内における子犬の供給が追いつかず、外国からの不法輸入や複数回の妊娠を強要する悪質なブリーダーが増加。購入の際には販売主のところを実際に訪問することが推奨されていますが、コロナ禍のため消費者はオンラインを好み、そこで悪質な販売が目立つようになりました。

 

別の問題は、ペットの飼い主がオーナーシップを勝手に放棄してしまうこと。これについて、大手慈善団体のRSPCAはペットの衝動買いなどについてメディアを通じて注意を呼び掛けています。オーナーシップの途中放棄により動物がストレス状態に陥ることを心配し、アドプションを一時的に停止するときもありました。

 

途中放棄の防止策として、ペットを購入する前にペットレンタルを勧める慈善団体もあります。レンタル期間を設けることで、ペットとの相性や飼い主としてのルーティン作業、オーナーとしての意志を確かめることができるという利点が挙がっています。

 

外出自粛が続き、テレワークが増えているなか、動物や自然との触れ合いは私たちに活力を与えてくれ、不安やストレスを和らげてくれます。ペットの購入を検討している人は、イギリスのペットブームがどんな問題をもたらしたのかも真剣に考えるべきかもしれません。

 

執筆者/ラッド順子

 

衛星技術で途上国の生活を便利に――電子基準点の利活用を進め、インフラ整備の効率化や自動運転技術の向上を図る【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、衛星技術を活用した途上国の生活を便利にするための取り組みについて取り上げます。

 

最近よくニュースで耳にするドローンやトラクターなどの自動運転は、米国の「GPS」や日本の「みちびき」といった衛星からの電波を地上で受け取り、位置情報が得られることで可能となります。衛星の電波から精度の高い位置情報を得るためには「電子基準点」という地上に設置された観測装置が欠かせません。

 

この高精度な位置情報とデジタル地形図を活用することで、道路や上下水道などのインフラ整備をより迅速に、かつ効率的に行えるようになります。

 

人々の生活を豊かにし、都市開発を効率的に進めるため、JICAはミャンマーやタイなどで、電子基準点の整備や活用の促進に取り組んでいます。

↑ヤンゴン市内に設置された電子基準点

 

↑衛星データを活用した測量実習の様子(ミャンマー)

 

ミャンマー:電子基準点の設置から運営維持管理までサポート

ミャンマー最大の都市ヤンゴンにて、JICAが2017年から実施しているのがデジタル地形図や電子基準点の整備を目的とした「ヤンゴンマッピングプロジェクト」です。ミャンマーでは、これまで電子基準点が設置されていなかったため、まずヤンゴン市および周辺エリアに5点の電子基準点を整備しました。

 

この電子基準点から得られた高精度な測位データとデジタル地形図によって、今後ヤンゴン市で計画されている道路や上下水道などのインフラ整備をより迅速に、かつ効率的に行えるようになります。

↑ミャンマー最大都市・ヤンゴンのデジタル地形図

 

さらに、デジタル地形図と土地利用・統計データを活用することで、「現状の建物用途を地形図上で可視化し、将来の土地利用計画を検討する」「学校、病院などの社会インフラの配置を適切に計画する」といったことが期待されます。多様な情報が地図上で可視化され、政策決定が迅速に進められるようになるのです。

 

電子基準点の利活用に向け、設置した後の適切な運営維持管理や利活用の促進も重要です。JICAはミャンマー政府の職員を日本の国土地理院に招き、安定的な運営維持管理手法や予期せぬトラブルが発生した際の対処方法などの研修を実施しています。

↑国土地理院で研修を受けるミャンマー政府の職員ら

 

電子基準点から得られる高精度な位置情報を利用する際、位置座標の補正が重要となります。その補正が必要となる代表的な理由は地殻変動です。大陸は1年に数センチメートルほど移動しますが、地図の位置座標は過去のある時点のまま変更されません。年月の経過と共に現在の正しい位置と、過去の地形図上の位置とのずれが大きくなっていくことから、座標の補正・更新を行い続ける必要があります。

 

研修に参加したミャンマーの職員からは「電子基準点を維持・管理していくための解析方法を目の前で学ぶことができた。今後の業務に活かしていきたい」といった声があがっています。

 

タイ:トラクターや建設機械の自動運転技術の実証実験を進める

JICAは昨年、タイにおいて、日系企業とタイ政府機関・現地企業と協力し、トラクターや建設機械の自動運転のデモンストレーションを実施しました。

↑タイで実施されたトラクターの自動運転のデモンストレーション

 

タブレット端末などで専用のソフトウェアを操作し、電子基準点と衛星技術を活用することで、センチメートルレベルの精度でトラクターの走行経路を設定することができるという実証実験です。通常、衛星からの位置情報だけでは誤差が数メートルレベルとされていますが、電子基準点があることで誤差がセンチメートルレベルにまで向上するのです。

↑左:無人で走行するトラクター(株式会社クボタ)/右:デモンストレーション会場では、自動運転に関する説明も行われた(ヤンマーアグリ株式会社)

 

さらに、今年9月からは、タイ政府が新たに設置する国家データセンターの運営維持管理能力の強化など、電子基準点から得られる高精度な測位データのさらなる利活用促進に向けた取り組みを進めていきます。デジタルエコノミーの拡大や新規ビジネス・イノベーションの創出に寄与することが目的です。今後、複数の民間企業と協力して、衛星と電子基準点を活用したさまざまな分野でタイにおける社会実装を目指していきます。

 

JICAの電子基準点の利活用は、民間企業から熱視線

JICAが途上国で進める電子基準点の利活用は、民間企業からも高い関心を集めています。電子基準点を活用したビジネスを展開している総合商社の三井物産の担当者は、JICAの取り組みについて、次のように話します。

 

「電子基準点の活用によって、途上国でさまざまなビジネスの可能性が開かれる点に注目しています。JICAが電子基準点から得られる空間情報を活用したインフラ整備を進めているのは、産業創出を促進する面でも大変意義深い取り組みです。日本をはじめ先進国では農業、建設分野に限らず、鉱山、運輸等、多岐にわたる分野で、電子基準点を活用したビジネスが広がっています。JICAが途上国で電子基準点の利活用を進めることで、さらに日本の民間企業の知見が途上国の開発とビジネス展開に寄与していくことが期待されます」

 

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「現金のプレゼント」で集客アップ!? EC大国タイの「ライブコマース」最新事情

世界有数のEコマース(EC)大国として知られるタイ。ある調査によると、16歳~64歳の85%がオンラインで買い物をした経験があるとのこと。タイでのEC取引はショッピング市場全体の10%を占めており、新型コロナウイルスによるステイホームで、ECへの移行はさらに加速しました。なかでもタイでさらに人気が高まっているのが、リアルタイムでやり取りしながら買い物をすることができるライブコマースです。

タイ人の性格にピッタリ

↑タイでも人気沸騰中のライブコマース

 

タイでは新型コロナの影響により、3月17日から5月22日までの2か月間、スーパーマーケットやドラッグストアなどを除くショッピングモール内の全店舗が閉鎖を強いられました。タイは公共交通機関が日本よりも乏しく、クルマでの移動を前提としたモール型の店舗が多いため、この期間は家電や調理器具でさえ店舗では手に入らない状況が続いたのです。そういった状況が追い風となり、ロックダウン期間におけるECの売上は200%伸びたと言われています。

 

ECの好調が続くタイで、最近、新たな販売手法の1つとして人気を集めているのが「ライブコマース」です。「ライブ動画配信」と「EC」を組み合わせた新しい販売方法で、ライブ配信中に配信者と視聴者が双方向型のコミュニケーションを取りながら商品を販売・購入する仕組みです。

 

従来のECでは、視聴者は販売者側がサイトにアップした写真や情報から商品を確認するもので、コミュニケーションは一方向でした。しかしライブコマースはECでありながら、視聴者と配信者のインタラクティブなコミュニケーションが可能となります。視聴者は商品に関する質問ができて、配信者は視聴者のリアルな声を聞けるという、従来のECに欠けていたタイムリーな会話が実現。この仕組みがタイでも当たっているのです。

 

タイのライブコマース人気はASEAN諸国でもトップで、視聴者1回あたりの購入額も約16ドルと、たとえばベトナムの約6ドルと比較した場合は3倍近くになります。その一因として、会話を好むタイ人の性格とリアルタイムでやり取りできるというライブコマースの手法がマッチしたからではないかと考えられます。

 

タイの会社員は副業が認められているケースが多く、カフェ開業や翻訳などさまざまな副業をしている人がたくさんいます。なかでもやはりオンラインでの販売は、気軽さから人気がある様子。

 

タイでは、有名ブランドは自社ウェブサイトで商品情報の発信から購入までを一貫して行いますが、副業などで販売している小規模事業者はほとんどウェブサイトを持っていません。その代わりFacebookなどSNS上で販売する人が多いと言えるでしょう。タイ人の93%が日常的にFacebookを使用しているといわれるため、コストをかけてウェブサイトを作らなくてもFacebookでの集客が可能というのが理由です。

 

特定のブランドを買いたい人はブランドから、ブランドにこだわらない人は小規模事業者から購入するので、両者はあまり競合にはならないようです。

 

話題作りのためなら……

↑「いいね」こそすべて

 

小規模事業者が最近積極的に利用しているのが、Facebookのライブ配信機能を利用したライブコマースです。ウェブサイトを持たない小規模事業者にとって、ライブ配信ができるFacebookはライブコマースの場として適しています。

 

有名ブランドと比較して柔軟に動ける小規模事業者は、Facebookのコメント欄を活用して商品が当たるゲームやクイズなどを取り入れています。さらに、なんと現金をプレゼントする配信者まで出てきたのです。

 

この施策はプレゼントキャンペーンや宝くじが好きなタイ人に刺さり、一躍有名になったページもあるほど。広告費をかけての集客ではなく、予算のない小規模事業者にとってはプレゼントや現金などに費用をかけてコメント欄を盛り上げ、視聴者を増やすのが一番の広告になるようです。

 

ライブコマースで商品購入した際の決済も、Facebook上で完結します。外部サイトを持たない小規模事業者は、基本的にライブ配信中のコメントやダイレクトメッセージを使って購入者とやり取りします。タイでは政府の方針でキャッシュレスが進んでおり、オンラインバンクを使った振り込みが一般的。ダイレクトメッセージで振込用QRコードを送るだけで簡単に支払いができるので、この点もタイでライブコマースが流行っている一因と考えられます。

 

SNS以外では、タイ最大級のオンライン通販サイトである「Lazada」や「Shopee」上でのライブコマースも活発化。Lazadaは、ライブ配信者のコンテストを通じてライブ配信のスタープレイヤーを見つける「LazTalent」という企画を開始しました。日本ではライブコマース専用のプラットフォームを使い、もともと知名度があるインフルエンサーなどを活用する場合が多く見られますが、タイの事例はその真逆ともいえるでしょう。

 

Facebookでは、今後Instagram内のみで買い物が完結するInstagramショップ(現在のショップ機能では外部サイトに飛ぶ必要があります)をリリースする予定で、ライブ動画内にもショップ掲載商品のタグ付けができるようになると報じられています。新しいInstagramショップが実装されればよりスムーズなショッピングが実現し、タイではこれまで以上にライブコマースの人気も上がるかもしれません。

 

執筆者/加藤明日香

ベトナム初の地下鉄整備が進む:鉄道建設から会社運営、駅ナカ事業までサポート【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ベトナムで進む鉄道プロジェクトについて取り上げます。

 

ベトナムの最大都市ホーチミン市で、2021年末開業予定の都市鉄道の運転士講習が、この7月から始まっています。ホーチミン市都市鉄道は、巨大都市に成長したホーチミン市の渋滞緩和を目的としてJICAの協力により整備されており、2012年から建設工事が進んでいます。

 

現地では鉄道建設に加えて、運転士の採用や安全管理部門などの人材育成、組織管理や営業規約の策定など、鉄道運営会社の能力強化プロジェクトが実施されており、JICAはハードとソフトの両面で開業をサポートしています。

↑運転士講習開講式の様子。運転士候補生59名と関係機関の代表者などが参加しました

 

ホーチミン市初の鉄道運転士講習がスタート

「発展を続ける都市開発と人々の安全輸送に貢献できることを、私たち自身とても誇りに思っています」

 

運転士講習の開講式でそう語るのは、今回唯一の女性運転士候補生ファム ティー ツー タオさんです。今回、運転士候補生として選ばれたのは59名。募集にあたっては、学歴や身体条件のほか、道徳・規範意識の高さや、責任感、自律性の高さなども条件となっていて、いずれもクリアした人たちが集まりました。候補生たちは、今後約1年に及ぶ鉄道学校での授業を受け、その後、実技訓練や国家試験を経て、晴れて運転士として業務にあたることになります。

↑運転士講習開講式でスピーチに立つファム ティー ツー タオさん

 

ホーチミン市の様々な課題をクリアする都市交通システム整備

この都市鉄道整備の背景には、ホーチミン市の人口急増問題があります。ベトナム最大の都市として約900万人(2019年4月時点)が暮らすホーチミン市は、2009年からの10年間で約180万人の人口増加があり、道路整備とバス活用による都市交通整備はもはや限界に達しています。現在はバイクで移動する住民が多く、また今後は経済成長に比例して自動車利用が増加していくと考えられています。今回の都市鉄道整備事業は、慢性化した交通渋滞を回避し、大気汚染緩和、地域経済発展など、巨大都市ホーチミンが抱える多くの課題を解消するものとして期待を集めています。

 

現在、全部で8つの鉄道路線が計画されおり、今回JICAの協力によって建設が進んでいるのは、その中の「都市鉄道1号線」とよばれる、ベンタイン-スオイティエン間を結ぶ19.7kmの路線です。ホーチミン最大の繁華街である都心部2.5kmは地下を走り、郊外の17.2kmは高架で、最高時速は100kmを超えるという、ベトナムでは初めての地下鉄です。

↑1号線の路線計画図。ホーチミンの中心部から郊外を結ぶ都市鉄道です

 

↑建設中の駅間シールドトンネル部分。都心部の2.5kmはベトナム初の地下区間となります

 

この1号線は、ホーチミン都市整備の優先区間と位置づけられており、2021年12月の開業に向け、工事が進められています。開業に向けては建設工事とは別に、鉄道職員の育成や、安全認証の取得など、鉄道運営会社が果たすべき課題はたくさんあり、JICAは、運営会社であるホーチミン市都市鉄道運営会社の運営維持管理能力を高める協力も進めています。

 

鉄道運営会社の能力強化プロジェクトに携わっている東京メトロの谷坂隆博さんは、1号線の有用性について「都心部の1区、発展著しい2区・9区を結ぶ路線で、1号線が成功すれば洗練された交通手段として都市鉄道が市民に浸透します。今後整備される他路線含めた都市鉄道普及の契機としてふさわしい路線です」と語ります。

↑1号線最初の列車が10月に車両基地に到着しました

 

ハード・ソフト一体となった整備・運営・維持管理支援

今回のプロジェクトで注目されているのは、東京メトロを中心とした協力のもと、鉄道利用を促進するモビリティ・マネジメント活動や、駅ナカ事業の取り組みといった非鉄道事業の整備も合わせて行っている点です。

 

モビリティ・マネジメントとは、交通渋滞や環境課題、あるいは個人の健康問題に配慮して、過度に自動車に頼る状態から、公共交通や自転車などを『かしこく』使う方向へと自発的に転換することを促す取り組みのことで、一般の人々やさまざまな組織・地域を対象としています。途上国の都市交通開発では、このモビリティ・マネジメントに類する活動はまだほとんど例がなく、都市鉄道整備とセットで取り組んでいる協力は日本独自のスタイルといえます。

↑都市鉄道建設現場には、ベトナムのファム・ビン・ミン副首相(写真前列左から2人目)も視察におとずれました

 

また、駅ナカ事業については、コンビニなどの商業施設だけにとどまらず、行政機関や、保育園など、地域社会向けの公共サービスが提供されるなど、日本独自の発展をとげてきた分野です。このようなノウハウを提供することにより、駅を単なる交通機関としてとらえるのではなく、市民生活に密着した場所として活用することができるようになるのです。

 

東京メトロをはじめとした日本の技術と知見により、ハード建設とソフト運営が一体となった協力をすることで、日本式の都市鉄道運営が、ベトナムでも大きな成果を上げることと期待されます。

 

開業へと準備が進む都市鉄道について、JICA社会基盤部の柿本恭志職員は、「都市鉄道の安全・安心な運行には、決められたルールをしっかりと守ることに加えて、異常時に適切な判断をして即座に行動できるように普段から訓練しておくことが重要です。今後は運営会社の人材育成とともに1号線開業のための重要なプロセスである安全認証取得の協力にも力を入れていきたいと思います」と語ります。

 

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年間42億個の卵を消費するキユーピーの「卵の殻」の意外な有効活用、とその覚悟

資源の100%有効活用で「捨てない・活かす」を目指す~キユーピー株式会社

 

日本でいちばん卵(鶏卵)を消費している企業を知っていますか? 食卓に欠かせない調味料のひとつ「マヨネーズ」でお馴染みのキユーピー株式会社です。日本の年間消費量のおよそ1割にあたる約25万トン、約42億個を使っています。

 

卵には捨てるところがない

一般的には、卵の殻、いわゆる卵殻はそのままゴミとして廃棄されます。再利用するより、産廃費を払って処分した方が企業としては手間がかからず、製造効率が上がるからです。ところが同社には、“もったいない”という精神が根付いていて、卵殻に限らず、未利用資源の有効活用策について古くから研究され続けているのです。

 

創業初期からの主力商品であるマヨネーズには卵黄を使用します。事業が拡大していく中、食品メーカーとして、資源や環境という観点からまず考えなければいけなかったのが、卵殻の再利用だったそうです。キユーピーで卵殻の有効利用が本格的に始まったのは1956年のこと。卵殻を天日で干し、土壌改良材(肥料)として農家へ販売しました。

↑卵殻を加工した土壌改良材を施肥する様子

 

「現在では卵を100%有効活用しています」と話すのは、廃棄物の有効活用を研究している、研究開発本部・機能素材研究部の倉田幸治さんです。

 

「弊社はさまざまな卵加工品を生産していますが、卵黄はマヨネーズに、卵白は、菓子類やかまぼこなどの練り製品の原料になります。そして通常は破棄される卵殻と卵殻膜について、より付加価値の高い活用法が研究されてきました。例えば、卵殻は土壌改良材だけでなく、カルシウム強化食品にも利用されていますし、卵殻膜は化粧品の原料にもなっています」

↑卵殻を有効活用したカルシウム強化商品「元気な骨」
↑卵の有効活用例

 

近年は卵殻粉の肥料を水田に利用

さらに4年前からは、東京農業大学と共同研究が始まり、さまざまな試験デザインを経て卵殻の水田への利用についての研究結果がまとめられました。

 

「元々の土壌改良材は、土の中のpHを矯正する肥料として使われてきましたが、それだけでは価値が低い。そこで、さらなる可能性について研究を進めた結果、水田にまくことで卵殻カルシウムが稲に吸収されやすく、稲の生育状況がよくなることが証明されました。つまり、天候不順時でも収量が安定する効果が期待できるのです。昨年、学会で研究発表を行い、今年の4月には特許出願しました。本格的に始まるのはまだこれからですが、今年は長い梅雨と8月の猛暑という天候不順な年でしたので、試験にご協力いただいた農家さんは効果を実感できるのではないかと思います」(倉田さん)

↑研究開発本部・機能素材研究部の倉田幸治さん

 

製造工程で出る野菜の廃棄部分も有効活用

また卵と同様、実はキャベツも日本での消費量が1位の同社。キユーピーグループのキャベツ消費量は年間約3万4000トン、1日あたり約95トン、数にすると約6万5000玉にも及びます。このキャベツでも、積極的に有効活用の研究が進められています。

 

「カット野菜の製造工程で発生するキャベツの芯や外葉を、私たちは“野菜未利用部”と呼んでいます。実は商品に利用できるのは中心の柔らかい部分だけで、1玉のうち3割程度は野菜未利用部として廃棄されてきました。それを“もったいない”と感じる従業員が多く、これまで工場ごとに個別で再利用の検討もされてきましたが、2015年に野菜未利用部を有効活用するための部署『資源循環研究チーム』が研究開発本部内に結成されたのです。2017年には、未利用部の乳牛用飼料化に成功し、乳業用飼料は『ベジレージ®』という商品名で昨年から酪農家さんに販売しています」(倉田さん)

↑野菜未利用部の有効活用(例:キャベツ)

 

野菜なら、加工しなくてもそのまま家畜の餌として使えそうですが、そんな簡単な話ではなかったそうです。

 

「野菜は腐りやすいため、そのまま譲ったとしても本当に近所の農家さんに限られます。しかもすぐに使用しなければなりません。また、実はキャベツなどの葉物野菜には硝酸態窒素という成分が含まれていて、牛が大量に摂取すると体調を崩しやすいのです。そこで、安全性や嗜好性を検証するため東京農工大学と共同研究を行いました。乳酸発酵させることで、結果的に品質を安定させ、嗜好性を向上させることができるようになったのですが、乳酸発酵の研究はもちろん、飼料として与える量の基準値や保管や輸送に関する検討に多くの時間を費やしました。

↑研究の様子。加工する段階で硝酸態窒素を減らすことに成功

 

『ベジレージ®』を牛に食べさせると餌の摂取量が増え、搾乳量も多いという声を酪農家さんからいただいています」(倉田さん)

 

一見、成功事例としてこれで完結したように思えますが、課題はあるそうです。

 

「(飼料や肥料は)副産物のため、所詮ゴミだという意識を持たれる方も中にはいらっしゃいます。だからこそ、資源としての価値を多くの人たちにきちんと伝えていかなければいけないと感じています。また、現時点で野菜廃棄物ゼロを達成しているのは、一部の工場(キユーピーグループ・株式会社サラダクラブ 遠州工場など)だけです。すでに達成した工場をモデルケースとし、全工場で2021年までに30%以上、2030年までに90%以上を有効活用することを目指しています」(倉田さん)

 

SDGsにも通じる創始者の想い

このように同社では、環境面での重要課題として「資源の有効活用」に取り組んできました。これは、同社のサステナビリティに向けての重点課題の1つでもあります。そもそも同社のサステナビリティの考え方には、創始者である中島董一郎氏の「食を通じて社会に貢献したい」という想いが詰まっています。その想いは、社会貢献、CSR、サステナビリティなどと時代に合わせて呼び方こそ変わっていますが、その精神は変わらず受け継がれ、SDGsに通じるものでもあります。サステナビリティ推進部・環境チーム・チームリーダーの竹内直基さんはこう話してくれました。

 

「SDGsが国連で採択されるだいぶ前から、当社は環境、社会活動を行ってきました。環境活動としては1956年の卵殻の活用、社会活動では1960年のベルマーク活動が始まりで、その後もさまざまな取り組みを行ってきました。その根底にあるのが創始者の“食を通じて社会に貢献する”という想いです。“食を通じて”という部分では、オープンキッチン(工場見学)も他社に先駆けて行ってきました(※現在は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため見学を中止しています)。製造工場を一般の方に開放するという考えは、当時あまりなく、社内でも賛否があったようです。また、2002年からは『マヨネーズ教室(出前授業)』という食育活動を始めました。食を通じた社会貢献からもう一歩踏み込んで、“食育”というステージに入ったわけです。

↑食の大切さと楽しさを伝えるマヨネーズ教室の様子

 

こうした活動を進める中、SDGsの登場は1つのターニングポイントになったと思います。CSRや社会貢献活動は、それに携わる一部の人たちだけの活動でした。しかしSDGsによって社内はもちろんのこと、世界中で通じる、わかりやすい共通言語になったと捉えています」

 

CSR部からサステナビリティ推進部へ

17の目標が明確に示されたことで、「地球全体の課題」や「それに取り組む必要性」がイメージしやすいのは確かです。同社にとってもSDGsの登場は、サステナビリティについて改めて考えを整理し、活動が加速するきっかけになったそうです。

 

「今年、CSR部からサステナビリティ推進部へと組織体制の変更とともに部署名が変わりました。その際、改めてサステナビリティについて整理し、企業として未来を創造していくことがまず必要だと改めて考えました。しかし、『持続可能性』ですから、ただ創造するだけでなく、当社の経済性とともに、社会の経済性も考えなければいけません。つまり、事業活動を通じて、環境と社会の課題解決を目指さなければいけないということです」(竹内さん)

↑サステナビリティ推進部 環境チーム チームリーダー・竹内直基さん

 

サステナビリティに向けての重要課題

このような考えのもと、同社は以下の「4つ+1」の重要課題を掲げています。

 

・健康寿命延伸への貢献

・子どもの心と体の健康支援

・資源の有効活用と持続可能な調達

・CO₂排出削減(気候変動への対応)

+ダイバーシティの推進

↑サステナビリティに向けての重要課題の特定

 

「健康寿命延伸への貢献」では、高齢になっても元気で過ごせる社会を持続可能にするために、サラダ(野菜)と卵の栄養機能で生活習慣病予防や高齢者の低栄養状態の改善を目指します。また、スポーツジムとの協働や大学との共同調査、“食”をテーマにした講演会の開催、機能性表示食品の製造・販売などを展開。「子どもの心と体の健康支援」では、食を通じて子どもの心と体の健康を支え、未来を応援するために、オープンキッチン(工場見学)、マヨネーズ教室(出前授業)、フードバンク活動の支援ほかを実施。「CO₂排出削減(気候変動への対応)」では、原料調達から商品の使用・廃棄まで、サプライチェーン全体を通じてCO₂排出削減を進めているそうです。

 

大切なのは子どもの心と体の支援

これら重点課題については、それぞれにSDGsとの紐づけが行われています。また紐づけをしていく過程で、同社がめざす姿を実現するために「キユーピーグループ2030ビジョン」という長期ビジョンを策定し、2030年にあるべき姿がまとめられました。

 

「そのなかの1つ、『子どもの心と体の健康支援』は本当に重要だと考えます。これからの社会を担っていくのは子どもたちです。彼、彼女らがきちんと育っていかなければ、持続可能な社会の実現はありえません。ですから、子どもたちの心と体をしっかり支援していきたいと考えています。貧困問題として、3つの側面に注目しています。1つ目は『経済的な貧困』、次に『関係性の貧困』、つまり核家族が増え、子どもたちはかかわりを持つ人が減ってきていること。最後は『体験の貧困』です。先に述べたオープンキッチンやマヨネーズ教室など、そうした機会を通じて、心を豊かに育んでいく取り組みを行っています」(竹内さん)

↑「キユーピーグループ2030ビジョン」より

 

「小学生はすでに学校で教わっていますが、一般の人たちには、SDGsがまだ浸透しきれていません。食品ロスのうちおよそ半分は一般家庭が占めています。また、世界にはまだ多くの貧困の地域がありますが、遠い世界の話で他人事だと言う人も多いと思います。こうした社会課題を一般の方たちにも知っていただく活動にも力をいれていかなければと感じています」と、社会課題の啓蒙活動も重要だと竹内さん。

 

「今後は、さらに社会課題、環境課題が複雑化していき、一企業だけでは解決できない問題が増えることが予想されます。だからこそ、さまざまなステークホルダーとの対話を通じてのパートナーシップが大事だと考えています。これからは、より社外とも連携して取り組んでいきたいと思います」(竹内さん)

 

眠れない夜にやってみて! たった2分で眠りにつく米軍式テクニック

最近、Twitterでトレンド入りしたのが、「#あなたは日本人のなかでどれだけ睡眠不足か」のハッシュタグ。名前を入力するだけで、日本人のなかで自分の睡眠不足の順位がいくらか表示する診断メーカーがあり、これを試して投稿する人が急増したようです。しかし実際のところ、私たちのなかには「すぐに眠りたいのに、全然眠れない」という悩みを抱えている方も少なくないでしょう。そこで本稿では「2分で眠れる」米軍のテクニックをご紹介します。

↑わずか120秒でこんな感じに眠れるかも

 

このテクニックの出典はスプリントコーチとして有名なロイド・ウィンターの著書「Relax and Win: Championship Performance」。もともとこの技は陸軍向けに開発されたそうで、軍人は戦闘のような緊迫した状態でもしっかり睡眠をとることが求められるため、このような方法が編み出されたようです。米軍がこの睡眠方法を6週間にわたって訓練したところ、96%の確率で成功したとも言われていますが、その睡眠方法は4つのステップからなります。

 

1 目のまわりや舌、顎など、顔の筋肉を緩める。

2 左右の肩をできるだけ下げ、上腕から下腕の順に力を抜く。

3 ゆっくりを吐いて、上半身から下半身の順にリラックスさせる。

4 次の3つのいずれかをイメージしながら、10秒かけて頭の中を空っぽにする。

・静かな湖のほとりでカヌーに横たわっているイメージ

・黒のベルベッドのハンモックで寝ているイメージ

・「何も考えない、何も考えない……」と自分に言い聞かせ続ける

 

では、このテクニックの効果はどのくらいあるのでしょう? 筆者が試してみましたので、まずは個人的な経験を報告します。私は寝つきが良いほうではなく、眠れずに目が冴えてしまう夜が数多くあり、そんな夜に試してみました。その結果、ひとつひとつの手順を確認する行程が入ってしまったためか、心身ともにリラックスするには至らず、そのまま眠りに落ちることはありませんでした。

 

しかし、同じようにこのテクニックに毎日連続で挑戦したあるアメリカのメディアの記者は、4日目の挑戦で「効果を実感した」と述べています。3日目まではまったく効果がなかったのに、4日目には普段よりも早く眠りにつけたのだそう。2分で眠ることはなくても、普段より30分近く早く眠れることもあったのだとか。

 

日本人は特に試してみる価値があるかも

経済協力開発機構(OECD)が世界33か国を対象に行った調査によると、日本人の平均睡眠時間は442分(7時間22分)。中国の542分(9時間2分)、アメリカの528分(8時間48分)、フランスとイタリアの513分(8時間33分)など、他国に比べてかなり短く、33か国中最下位でした。この調査は対象年齢や調査時期が各国で異なる場合もあるため、単純に比較はできませんが、それでも日本人の睡眠時間が短いことは確かな模様。

 

しかも今年は新型コロナウイルスの影響で、仕事や生活スタイルが変わり、収入や家族のことなど悩みを抱える方も少なくないはず。不安を胸に眠れない夜を過ごすことも増えているかもしれません。睡眠不足の順位を調べる診断メーカーがトレンドになったのも、いつも睡眠不足を感じている人が多いことの表れかもしれません。

 

1回の挑戦だけで簡単に効果が得られるわけではにけれど、毎日続けていくことで、不安感を落ち着かせ、普段よりも早く眠れるようになるのかもしれません。ベッドに入ってから眠るまで1時間近くかかっていたところを30分に短縮できたら、それだけ睡眠時間を長くできます。興味のある方は、この秋に試してみてはいかがでしょうか?

 

世界各地で前進してます! 「無人走行シャトルバス」が2021年春からトロントで運行へ

人口約290万人が暮らすカナダ最大の都市トロントで、2021年春より無人走行のシャトルバスが導入されることが発表されました。8人乗りのコンパクトなシャトルバスは、これから新しい交通手段の1つになるかもしれません。

 

コンパクトなシャトルバス

↑無人運行の「Olli」

 

トロント市は10月、米自動車メーカーのローカル・モーターズと提携したことを発表。同社が手がける自動運転バス「Olli(オリ)」の実証実験をトロント市内で2021年春から開始することを明らかにしました。

 

Olliは無人運行の電気自動車で、航続距離は最大60km、時速は最大40km。大きさは長さ3.9m×横幅2.05m×高さ2.5mと、やや大きめのゴンドラ程度のようです。運転席はなく、8人まで乗車することが可能(車いすで利用することもできます)。車内アナウンスは音声や映像を使って流れます。

 

安全面については、前方と後方、左右両側に合計5つのレーダーと6つのカメラを搭載しており、360度すべての周囲を確認可能。これにより、障害物を自動でよけたり、ルート変更したりできるそうです。さらに遠隔でもモニターされて、万が一の場合に備えているのだとか。

 

トロント市では、このOlliの実証実験を6~12か月実施する予定です。期間中は、カナダでバスの運行サービスを行っているパシフィック・ウエスタン・トランスポーテーション社やトロント交通局(TTC)の職員2人が乗車し、安全な運行をサポートするとのこと。実験はウェスト・ルージュ周辺と鉄道のルージュヒル駅周辺のエリアで行われ、鉄道利用者を駅まで乗せたり、駅から自宅に帰る人が利用したりするケースが見込まれるようです。

↑近未来の通勤手段の1つになりそう

 

世界各地で導入が進む

Olliはトロント以外でも世界各地で導入が進んでいます。例えば、アメリカではワシントンDCやフロリダ、サクラメント。ほかの国ではオーストラリアやベルギーなどで利用されている実績があります。

 

しかも専用アプリを使えば、事前登録や予約、支払いもすべて簡単に行うことができるので、あとは近くの停留所でOlliを待っていればいいだけ。二酸化炭素の排出もなく、スムーズでキャッシュレスな乗り物とあって、導入された都市では好意的に受け止められているようです。

 

東京のような大都市圏では、8人乗りのバスは小型すぎるかもしれませんが、都心からやや離れた地方都市などには、このような無人走行バスのほうが向いているのかもしれません。近年、無人走行シャトルバスは日本を含む世界各地で実験されていますが、競争は激しくなりそうです。

 

 

丸ごと食べてプラ削減! 飲み物や食材の「包装」も食べられる時代に突入

ペットボトルや調味料の容器に使われるプラスチック量を削減するために、イギリスのスタートアップが「食べられる包装材」を開発しました。すでに同国ではいろいろな形で試用されており、プラスチックのごみ問題を解決する有力な手段として期待が高まっています。飲みものや調味料の包装にも使われるこのカプセル状の袋は、どうやってできているのでしょうか?

↑食べてみて!

 

ロンドンのNotpla社が開発したのが「Ooho」と名づけられた包装材。そのまま食べることができる一方、捨てた場合は4~6週間で自然に分解されるのが特徴です。

 

このOohoの原料となっているのは、フランス北部で養殖されている海藻。乾燥させた海藻を粉状にし、同社独自の方法で粘着性の液体に変化させ、これを乾燥させるとプラスチックに似た物質としてできあがるのだとか。そうすることで、なかにソース類などの調味料や飲み物を入れることができるのです。

↑びよ〜んと伸びる原材料

 

同社が使っている海藻は1日で最大1メートルも成長するうえ、養殖には肥料なども必要ないそう。原料が豊富にあることは、プラスチックに代わる材料として今後広まっていくために大きなアドバンテージとなることでしょう。

Notpla社はOohoの開発にイギリス政府から資金援助を受けており、これまでにもイギリス国内でOohoを使用する試みがいろいろ行われてきました。例えば、2019年に開催されたロンドン・マラソンでは、ランナーへ配布する飲料にこのOohoが使用され、3万個以上を配布。ランナーはカプセルごと口に入れれば水分を補給できて、廃棄する容器は一切出ません。普段なら、選手が捨てたペットボトルなどの容器が道に散乱しますが、ランナーに配布していたペットボトルを20万本も少なくすることができたそうです。

↑ロンドンマラソンで配られた飲料

 

さらに2020年には、サントリーの子会社であるルコゼード・ライビーナ・サントリーがNotplaと提携。ドリンクが入ったOohoの自動販売機を開発し、これをスポーツジムに設置して実証実験を行ったほか、さまざまなイベントでもOohoの利用を促進しているそうです。

 

Oohoを通してプラスチック使用量の削減に貢献するNotpla社では、2020年後半に生分解性の食品用容器を発表する予定。通常の段ボールなら3か月はかかるところ、新容器なら3~6週間で分解され、水と油にも強い素材でできているそうです。専門店などで調理された料理を持ち帰る中食産業などに活躍の場が広がりそうです。

 

新型コロナウイルスの影響でレストランのテイクアウトやオンラインショッピングの利用が増えるなか、使い捨て容器や包装材の需要が高まる一方で、プラスチック廃棄物も増えていることが報じられています。食べられる包装は、ごみ問題の救世主のひとつになっていくかもしれません。

 

「水中ロボット」が進歩したきっかけは「イカ」!?

近年、水中で自由に動くさまざまなロボットが開発されています。海の生態系を調査したり、海中のプラスチックを収集したり。そんな水中ロボットが水のなかで前進するためのヒントとしているのが、水のなかの生き物です。このたびアメリカで開発された時速800mの速さで泳げる水中ロボットは、イカの動きに着想を得ています。

 

空も飛べるイカのジェット推進力

↑イカ型水中ロボット

 

イカは胴体のように見える外套膜に水を吸い込み、墨を吐き出すときに使う漏斗と呼ばれる器官からその水を勢いよく吐き出して泳ぎます。この「ジェット推進力」のおかげで、イカは水中で生活する無脊椎動物のなかで最も速く泳ぐことができるのだとか。2013年に北海道大学の研究によって、イカは水面から飛び出た後もこのジェット推進を使いつつ、腕やヒレを広げて揚力を発生させて加速し、短時間、飛行さえすることも明らかになっています。

 

そんなイカの優れたジェット推進力に目を付けたのが、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チーム。水中ロボットを作るためにはロボットの材質が重要になります。硬い物質でできていると、ロボットが水中を探索するとき、ほかの魚やサンゴを傷つけてしまう可能性があり、そうであるからと言って、柔らかい材質でできたロボットは動きが遅いのが難点です。そこで研究チームは、弾力のある身体なのに水のなかを速く泳げるイカに着目。イカのようなジェット推進を真似しながら、大部分が柔らかなアクリルポリマーでできたロボットを開発したのです。

 

できあがったロボットの見た目はイカというより、むしろ提灯。円形プレートにつながった複数の骨格部分がスプリングのように伸縮し、水を取り込んで吐き出しながら前に進んでいきます。その速さは秒速18~32cmで、時速にすると約800m。下の動画を見る限り、この新作ロボットはゆっくり泳いでいるように見えますが、従来の柔らかいタイプの水中ロボットより速く進めるほうなのだとか。また、もうひとつの円形プレートには防水カメラや各種センサーを搭載することが可能。電源も搭載しているため、外部のコンセントにつなげる必要もありません。

 

 

見た目と違って、このロボットが水中を泳ぐ様子はイカとそっくり。イカの動きにヒントを得たこの新しいロボットがどれくらい海の生態系保全に貢献するのか? 注目です。

どんどん身近になる宇宙! 「チキンナゲット」も本当に宇宙飛行しちゃいました

宇宙に向けてチキンナゲットを打ち上げる——。一見、冗談かと思ってしまいますが、そんなプロジェクトがウェールズで本当に行われ、宇宙空間をさまようチキンナゲットの映像が世界に公開されました。その一方、現在NASAはSNS上で「#NASAMoonKit」というキャンペーンを実施しており、「あなたが宇宙に行くことになったら何を持って行きたいか?」というテーマで投稿を募集中。世界中で宇宙ネタが盛り上がっています。

 

気象観測用の気球でナゲットが宇宙へ

↑こんなチキンナゲットは見たことがない

 

チキンナゲットを宇宙に飛ばすプロジェクトを企画したのは、イギリスのスーパーマーケット「アイスランド・フーズ」。創業50周年を祝うイベントとして、創業当時から人々に愛されているチキンナゲットを宇宙に打ち上げることにしたそうです。

 

方法はとってもシンプル。気象観測用の気球にチキンナゲットとカメラをくくりつけるだけ。こうして、ウェールズにあるアイスランド・フーズ本社の敷地から気球が飛び立ちました。

 

公開された動画を見ると、チキンナゲットはぐんぐん上昇し、やがて上空33.5キロメートルの成層圏に到達。およそマイナス65度の宇宙空間で1時間の飛行を行い、その後地上までパラシュートで帰還しました。

 

青く輝く地球を背景に、チキンナゲットが宇宙空間をただよう様子はなんともシュール。おかしいプロジェクトですが、話題性はピカイチ。おかげでアイスランド・フーズの名前が世界中に知れ渡ることになりました。

ちなみに、アイスランド・フーズがこのプロジェクトで提携した宇宙関連のマーケティングを行う企業Sent into Spaceは、これまでにディズニー映画「トイ・ストーリー」のキャラクター人形や食べ物のパイを宇宙に打ち上げる企画などを行っており、いずれも大きな話題を呼んだそうです。

 

宇宙飛行士の持ち物は小サイズ、何を持って行きたい?

では、チキンナゲットではなく、いつか自分が宇宙に行くことになったら何を持っていきたいですか? チキンナゲットよりはるかに前から宇宙に行っているNASAは現在、アルテミス計画の一環として予定されるグリーン・ラン試験を前に、宇宙に何を持って行きたいかSNSで呼びかける「#NASAMoonKit」キャンペーンを行っています。

 

NASAによると、宇宙飛行士が私物として持ち込める荷物の大きさは12.7× 20.32×5.08cm。A4のおよそ半分程度で、厚さ5センチメートルのサイズです。持ち込める荷物はかなり限られそうですが、#NASAMoonKitのタグを付けた世界中の投稿を見てみると、チョコレート、本、ヘッドホン、マスク、望遠鏡、お気に入りのぬいぐるみなど、思い思いのアイテムが並んでいました。もしNASAの目にとまったら、NASAのSNSでシェアされる可能性もあるのだそう。

 

これまでに、ローソンの「からあげクン」や「亀田の柿の種」など、数多くの身近な食べ物が宇宙食となっています。 月旅行に気軽に行けるようになれば、宇宙に行った食べ物ももっと増えていきそうですね。

 

【関連記事】

宇宙でも広がる”和食”。宇宙食に認定された身近な日本食とは?

 

【アフリカ現地リポート】withコロナで人々の生活はこう変わった――ガーナ、ルワンダ、コンゴ民主共和国

「ウイルスの感染拡大で自分たちの生活がこれほど変わってしまうとは……」

新型コロナウイルス(COVID-19)による緊急事態宣言からの外出自粛やマスク生活などを経験して、このように思った人は多いのではないでしょうか。現在も世界各国で感染を広げ続けている新型コロナウイルスは、日本だけでなく世界中の人々の生活を一変させています。

↑手洗い指導を受けるルワンダの小学生たち

 

たとえば、先進諸国と比べて報道される機会が少ない途上国。なかでも9月に入って感染者数が110万人を越えたアフリカ大陸では、どんな影響や生活の変化があるのでしょうか。コロナ禍以前から日本にあまり情報が入ってきていない分、想像できない面が多くあります。そこで今回は、ガーナ共和国、ルワンダ共和国、コンゴ民主共和国の3カ国で活動を行っているJICA(独立行政法人 国際協力機構)職員や現地ナショナルスタッフを取材。果たして現地の状況は? また人々の生活にどういう変化が起こっているのでしょうか。

 

【ガーナ共和国】コロナ対策への貢献で野口記念医学研究所が一躍有名に

 

↑ガーナの首都・アクラの風景

 

ガーナ共和国は大西洋に面した西アフリカの国で、面積は本州より少しだけ大きく、人口は2900万人弱。日本では「ガーナといえばチョコレート」を思い浮かべる人も多いでしょうが、実際、今でもカカオ豆は主要産品です。また、ダイヤモンドや金などの鉱物資源も豊富なうえ、近年は沖合の油田開発が始まり、経済成長も急速に進んでいます。

 

そんなガーナで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは3月12日。その10日後に国境を封鎖し、さらに1週間後に大きな都市だけロックダウンするという迅速な対策が実施されました。ただし、日用品の買い物はOKで、不要不急の外出は禁止という程度の制限でした。ところが、結局3週間でロックダウンは解除。感染者が減ったからではなく、人々の生活が成り立たなくなってしまうという経済的な事情と、ロックダウン中に検査や治療の態勢がある程度、各地で整ったという背景があるようです。

 

その後も感染者は増え続け、6~7月は1日の確認数が千人を越えた日も。7月頭には累計2万人を越えました。それでもロックダウンはされることはなかったのですが、6月末をピークに現在はかなり減ってきています。この理由について、JICAガーナ事務所で日本人として現地に残っている小澤真紀次長は、「新規感染者が減っている理由はよくわかっておらず、私たちも研究結果を待っているところです」と言います。

 

コロナ以前にくらべ、人々の衛生意識に着実な変化が

JICA事務所で働くガーナ人スタッフに話を聞くと、「公共バスは混雑していてソーシャルディスタンスもとりづらい状況なので、自分は極力利用しないようにしています。街中を見ると、市場では売り手のほとんどがマスクを着用していますが、定期的に手を洗ったり、消毒剤を使用したりといった他の予防策はあまりとられていません」と、それほどコロナ対策が徹底されていないと感じているようです。

↑ガーナではもっとも安価な交通機関として人気の乗合バス「トロトロ」の車内。コロナ対策としてマスクの着用と席間を空けることが義務づけられている

 

一方、別のスタッフは、「多くのガーナ人は手洗いや消毒など衛生面の重要性を以前より意識するようになりました。天然ハーブを使って免疫力を高めようとしている人もいます。マスクについても、ほとんどの人が家を出るときにマスクを持っていますが、正しく着用している人は少ないです。呼吸がしづらいという理由で、アゴにかけたり、鼻を覆っていなかったりする人も多いです」と教えてくれました。日本と違ってやはりマスクに慣れている人が少ないことが窺えます。

 

生活面に関しては、「生活は日常に戻りつつありますが、ソーシャルディスタンスのルールを守っている人は少ないです。大きなスーパーマーケットやレストランではコロナ対策のルールをしっかりと守っていますが、小規模の店では徹底しきれていないと感じます。また、ほとんどの学校はオンライン教育を行なう手段を持っていないので、子供たちが学校に行けなくてストレスを感じています」と言います。そんななか、以前から行なわれていたJICAの取り組みが意外な形でコロナ対策に役立っています。

 

「JICAでは以前から現地の中小企業の製造プロセスにおける無駄をなくすため、カイゼン活動を紹介するなど、民間に対する協力をしていました。その中に布マスクを作っている縫製会社もあり、増産していただくことになったのです」(小澤さん)

 

ガーナ国内では、マスクの着用が義務付けられて以来、さまざまな業者や個人で仕立て屋を営む女性たちがマスクの製造を始め、街中でマスクを売る人も増えました。布マスクが100円しないぐらいで買える(紙マスクとあまり変わらない価格)ので、マスクの普及も一気に進んだそうです。小澤さんも「最近は服を仕立てるのと同じ布でマスクもセットで作ってくれたりします」と、コロナ禍でも新たな楽しみを見出していると言います。

↑アフリカならではのカラフルな色使いが特徴の布マスク

 

そして、コロナ禍でひと際クローズアップされるようになったのが日本の国際協力です。なぜなら、1979年に日本の協力で設立された「野口記念医学研究所(以降、野口研)」が、感染のピーク時には、ガーナ国内のPCR検査の8割程度を担ってきたからです。当研究所の貢献は毎日のように報道され、「今は知らない人が1人もいないぐらい有名になっています」(小澤さん)とのこと。ガーナでは「日本といえば野口研」というイメージになった模様です。もちろん「野口」というのは、黄熱病の研究中に自らも黄熱病に感染し、1928年にガーナで亡くなった野口英世博士のことです。

↑野口記念医学研究所のBSLラボでの検査の様子。PCR検査だけでなく、これまでも多くの研究成果をあげてきた

 

この野口研に対しては、以前からJICAが資金、人材、設備などさまざまな面で協力を続けています。コロナ前から長い時間をかけて積み上げてきた協力が、この災禍の中で大きな成果をあげているというのは、同じ日本人として誇らしいことですね。

 

【教えてくれた人】

JICAガーナ事務所・小澤真紀次長

大学時代に訪れた、南西アジアにおける村落開発に興味を覚え、2002年に旧国際協力事業団(現JICA)に入構。2017年に保健担当所員としてガーナ事務所に着任し、2018年秋より事業担当次長を務める。ガーナ駐在は2006年に続いて2度目。趣味のコーラスはガーナでも継続しているが、コロナ流行で中断中。代わりにパン焼きを始めた。山梨県出身。

 

【ルワンダ共和国】コロナ禍で若者や現地スタッフが大きな力に

 

次に紹介するのは、東アフリカの内陸国、ルワンダ共和国。面積は四国の1.4倍ほどで、人口は1230万人。アフリカでもっとも人口密度が高い国と言われています。1980~90年代には紛争や虐殺もありましたが、21世紀に入って近代化が進み、近年はIT産業の発展にも力を入れているそうです。

↑ルワンダの首都・キガリの街並み

 

「資源の少ない内陸の小国なので、教育を通じて人間力を高め、それを経済発展につなげていこうと考えているようです。そこは日本とも共通しますね」。こう話を切り出したのは、JICAルワンダ事務所の丸尾信所長です。

 

ルワンダで最初に新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは3月14日で、その1週間後には強力なロックダウンが施行されました。国境はもちろん、州を越えた移動も物流以外は制限され、市内でも食料など生活必需品の買い物以外は基本的に外出禁止。もちろん外出中はマスクの着用が必須。街角には警官が立ち、ルールを守らない人を取り締まりました。ルワンダでは政府の力が強く、早い段階で強硬なコロナ対策が徹底されたのです。そうしたロックダウンが2カ月近く続き、解除された後も夜間の外出禁止や学校の休校は続いています。また感染者が多い地域やクラスターが発生した街は、その都度、部分的なロックダウンが行なわれているようです。

↑ソーシャルディスタンスを取って店頭に並ぶ人々。多くの人がマスクを着用している

 

感染予防対策に関して、行政の指導によってかなり浸透してきましたが、アフリカならではの共通した課題もあります。それは、地方では家の中まで水道管がつながっていない家庭のほうが多いこと。井戸や共同水洗まで水を汲みに行って生活用水にしているので、日本のように頻繁に手を洗う習慣はありません。そのためコロナ対策として、街中のあちこちに簡易な手洗い器が設置されるようになりました。

↑街中ではこのような簡易手洗い施設が各所に設置されるように。手の洗い方を写真入りで示したガイドが貼られ、石けんも置かれている

 

実際の生活について、JICA事務所のルワンダ人スタッフにも聞いてみました。

 

「COVID-19によって在宅勤務をする人はかなり増えました。 私も必要に応じて在宅勤務とオフィス勤務を使い分けていますが、ネットの接続が途切れることが多いため、在宅勤務はあまり効率的ではありません」

 

日本の家庭では光ファイバーなどの有線回線も普及していますが、ルワンダをはじめとするアフリカ諸国では携帯電話の電波を使った接続が主流です。そのため、回線状態が安定せずに苦労することも多いのだとか。

 

一方、「バスの駐車場、市場や公共の場所などでは、ベストを着たボランティアの若者の姿をよく見ます。彼らは、市民がマスクを適切に着用することや、公共の場所に入る前に石鹸あるいは液体消毒剤で手を洗うように促しています」と話してくれたスタッフも。

 

丸尾さんの印象では、ルワンダ国民はお互いに助け合う意識が強く、それを若い世代もしっかりと受け継いでいるようです。

 

IT立国を目指すルワンダならではのユニークな対策

ルワンダならではの特徴的な対策として、ドローンをはじめとする最先端IT技術の活用が挙げられます。たとえば、ドローンに拡声器を取りつけて市中に飛ばし、COVID-19の予防措置について住民に呼びかける活動などが行われています。また、アメリカ発の「Zipline」というスタートアップが実施する飛行機型ドローンで血液や医薬品を輸送するという事業は、コロナ禍以前から続けられています。ルワンダでの運用経験を生かして、COVID-19検体の輸送にも利用するようになった国もあるそうです。「ルワンダでドローンが積極的に利用されるのは、この国の道路事情も関わっている」のだと丸尾さん。

 

「山がちな国土のうえ、地方では道路整備が進んでおらず未舗装路が多いんです。しかも、雨が降ると坂道に水が流れてさらに凸凹になり、走行に支障をきたします。しかしドローンを使うことで、自動車だと3時間ぐらいかかっていた場所でも10分ぐらいで血液を届けられるようになったという話を聞きました」

 

他にも、1分間に何百人も非接触で検温をしたり、医療従事者の患者との接触を減らすために入院患者に食事を配膳したりするロボットが空港や病院で使われるなど、試験的にではなく実用として先端技術が生かされています。そこにも日本の技術が数多く生かされているのです。

↑空港で実際に使用されているロボット。「AKAZUBA(ルワンダのローカル言語でSunshineの意味)」と名付けられている

 

現在は、万一新型コロナウイルスに感染し、重症化した場合を懸念して、各国に駐在するJICA日本人スタッフや専門家はほとんど帰国しています。にも関わらず、ルワンダでは以前から進行中のプロジェクトが中断されている事例はひとつもないそうです。

 

「たしかに日本人の専門家が現場に行って直接指示を出せないのは大きな障害ですが、以前からプロジェクトに携わってきた現地スタッフに、日本からリモートで連絡をとりながら事業を進めてもらうというやり方が、試行錯誤しながら成果を挙げてきています。経験があって能力も高い現地スタッフが多く、彼らの活躍によって思った以上にプロジェクトが継続できています」(丸尾さん)

 

これも、日本やJICAが長年にわたって地道に支援を続けてきた成果と言えるかもしれません。

 

【教えてくれた人】

JICAルワンダ事務所・丸尾 信所長

2009~2013年にルワンダの隣国タンザニアのJICA事務所に在任中、ルワンダ・タンザニア国境の橋梁と国境施設建設案件を担当。以来ルワンダ事業に関わる。ルワンダ政府の方針に寄り沿い、周辺国との連結性強化の取り組みも支援している。赤道近くながらも、標高1000mを超える高原地帯にあるルワンダの冷涼な気候がお気に入り。2019年2月より現職。

 

【コンゴ民主共和国】「感染症の宝庫」ならではのコロナ事情とは

 

「コンゴ」という名が付く国が2つあることは、日本ではあまり知られていません。今回紹介する「コンゴ民主共和国」は1997年に「ザイール」から改称した国で(以下、コンゴと省略)、その西側に隣接するのが「コンゴ共和国」です。コンゴ民主共和国は、日本のおよそ6倍、西ヨーロッパ全体に相当する面積を持ち、人口は約8400万人。アフリカ大陸ではアルジェリアに次いで2番目に大きな国です。鉱物資源が豊富で、耕作可能面積も広大なので非常に大きな開発ポテンシャルを持っていますが、その一方で、国内紛争が長く続いていて、マラリアやエボラ出血熱などの感染症死亡者も多く、アフリカにおける最貧国のひとつとも言われています。

↑コンゴ民主共和国の首都・キンシャサは、人口1300万人以上というアフリカ最大の都市

 

今回、JICAコンゴ民主共和国事務所の柴田和直所長に同国の詳しい情報を伺ったのですが、中には日本に住む我々には想像できないような話もありました。たとえば、コンゴには26の州がありますが、国土の西端近くにある首都キンシャサから自動車だけで行ける州は3つ。全国的な道路整備が進んでおらず、その他の州に行くには、飛行機に乗るか船で川を進んでいくしかないとのこと。

 

「だから国全体を統治することが難しく、東部で続いている紛争を止めるのも困難な状況です。資源国でありながら、経済発展がなかなか進まないんです」(柴田さん)と、広大な国土を持つコンゴならではの難しさを指摘します。

 

そんなコンゴのもうひとつの特徴は、新型コロナウイルス以前から感染症が非常に多いことです。エボラ出血熱の発祥地でもあり、これまで10回にわたるエボラの封じ込めを行ってきました。感染症関連の死因でもっとも多いのはマラリアで、今年もすでに8千人以上(※見込み値)が亡くなっています。その他にもコレラ、黄熱病、麻疹(はしか)などでも死者が出ており、中には、日本では予防接種をすれば問題ないとされる、はしかで亡くなる子どもも。

 

コンゴで新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは3月10日で、2日後には国の対応組織が作られました。そして3月21日に国境が封鎖され、飛行機は国際線も国内線も運行停止に。3月26日には、首都キンシャサの中心部、政治・経済の中枢となっているゴンベ地区がロックダウンされ、他の国と同様のさまざまな制限が設けられました。こうした迅速な対応ができたのは、国として感染症の恐さもよくわかっていて、なおかつ専門家も多いからと言えます。一方で、「首都でこれだけ厳しい対策がしかれ、大きな影響が出ているのは、私の知るかぎりは初めて」(柴田さん)という言葉から、新型コロナウイルスの脅威の大きさが窺えます。

↑コロナ禍以前のキンシャサの市場。今は混雑もかなり緩和されているが、ソーシャルディスタンスを確保するのは難しいそうだ

 

JICA事務所のコンゴ人スタッフも「移動の制限が生活をとても困難にしています。それが商品不足の不安を引き起こして買いだめにもつながり、物価が高騰して国民の生活を非常に苦しくしています」と厳しい現状を伝えてくれました。

 

現在はロックダウンを解除しているコンゴ。小規模な小売店をはじめ、その日その日の収入で生活している人が多いため、外出禁止にすると食べ物を得る糧を失ってしまう人が多く、外国人や富裕層が多いゴンベ地区以外は制限を緩めて経済活動を継続せざるをえないという事情があるからです。他の感染症に比べて死亡率が低く、感染しても無症状で終わることが多い新型コロナウイルスで、これほどの経済的苦難を強いられるのは納得がいかないなどの理由から、コロナの存在自体を否定するフェイクニュースが出たりすることもあるようです。

 

日本の貢献が光る、コンゴでのコロナ対策

そんなコンゴでも、コロナ禍で日本の存在感が大きくなっています。ガーナでの野口記念医学研究所と同様の役割を持つ「国立生物医学研究所(INRB)」は日本が継続的に協力している機関で、コンゴではPCR検査の9割以上をINRBがまかなっています。また、日本が設立した看護師、助産師、歯科技工士などの人材を育成する学校「INPESS」は、国のコロナ対策委員会の本部や会議室として使用されています。

↑日本が建設したINRBの新施設

 

コンゴ医学界の要人との絆もより強固になっています。70年代にエボラウイルスを発見したチームの一員で、2019年に第3回野口英世アフリカ賞を受賞したジャン=ジャック・ムエンベ・タムフム博士は、INRBの所長を務め、JICAとの関係も深い人物。国民の信頼も厚く、現在はコロナ対策の専門家委員会の委員長も務めていて、日々国民の感染対策への意識を啓発しています。

↑ムエンベ博士(中央)と柴田所長(左)。右の女性は、JICAを通じて北海道大学へ留学した経験があるINRBスタッフ

 

「私たちが一緒に働いているコンゴの人たちは本当に真面目で、この国を良くしたいと毎日頑張っています。陽気で楽しい人たちでもあります。今回はお伝えできなかったですが、とても豊かで魅力的な文化や自然もあります」と柴田さん。最後にコンゴへの思いを熱く語ってくれました。

 

コンゴに限らず、アフリカの人たちはとても芯が強く、苦しい生活の中でも明るさを失っていないと、小澤さんも丸尾さんも柴田さんも口を揃えています。コロナ禍にあっても決して折れない心。それは日本の我々にとっても大きな希望となるように感じました。

 

【教えてくれた人】

JICAコンゴ民主共和国事務所・柴田和直所長

1994年よりJICA勤務。2018年3月より2度目のコンゴ駐在。過去2か国で4回のエボラ流行対策支援に関わり、コロナ対策支援も現地で奮闘中。趣味は旅行、音楽鑑賞・演奏などで、コロナ流行前は、コンゴ音楽のライブやキンシャサの観光名所巡りを楽しんでいた。

Facebook: facebook.com/jicardc

Twitter:twitter.com/jicardc

YouTube:youtube.com/channel/UCSEj0HR2W0x8yDjkEFHT6dg

 

【関連リンク】

JICA(独立行政法人 国際協力機構)のHPはコチラ

 

猫と仲良くなれる「超シンプルな方法」が研究で明らかに

動物と仲良くなるためには、警戒心を解いて信頼できる相手だと認めてもらうことが大切。相手が猫の場合、たくさん触れ合ったり、匂いを交換しあったり、猫と仲良くなるコツはいろいろあります。そのなかには、まばたきもありますが、これは猫の飼い主が経験的に知っているだけで、科学的に本当かどうかは検証されていませんでした。しかし最近、イギリスの研究グループによって、それが真実であることが判明しました。

↑まばたきしてニャ

 

イギリスのポーツマス大学とサセックス大学の共同研究チームは2つの実験を行いました。1つ目は、14世帯で飼われている21匹の猫(10匹がオス、11匹がメス、猫の年齢は0.45~16歳)を使って実施。猫が落ち着いたときに、飼い主は1メートル離れた場所に座り、ゆっくりまばたきします。研究チームはそのときの猫の様子を観察しました。2つ目の実験では、8世帯の猫24匹(オスとメスは各12匹、年齢は1~17歳)を対象に、飼い主以外の知らない人物に対して猫がどう反応するか確認しました。

 

その結果、1つ目の実験では、飼い主が何もせずに部屋にいるときに比べて、飼っている猫に向かってゆっくりまばたきすると、猫も同じようにまばたきをし返すことが判明。また2つ目の実験では、知らない相手であっても無表情なままでいるより、まばたきをすると、猫もまばたきをし返すことがわかったのです。しかも、猫はまばたきをした人のほうに近寄ることが多かったそう。この2つの実験の結果、まばたきが猫とのコミュニケーション方法として有効であることが明らかになったのです。

猫はまばたきで愛情を表現するなどと言われるのは、よく知られていること。しかしこれは、猫を飼っている人たちの間で経験則でわかってきたことで、今回のように人間と猫の間のまばたきによるコミュニケーションを実験で確認したのは、初めてのことなんだとか。

 

猫と仲良くなれるまばたきの方法

↑どんな猫にも通用する法則?

 

では、猫と信頼関係を築いて仲良くなるためには、具体的にどうまばたきすればいいでしょうか。この実験を指導した教授によると、ゆっくりと微笑むように目を細め、数秒間目を閉じるだけ。すると猫もそれに続いて、同じようにまばたきするはずなのだとか。これは飼い猫でも、道端にいる猫でも、コミュニケーション方法として使えるそうです。

 

ちなみに、猫がこのコミュニケーション方法を身に着けた理由については、さまざまな説があるそう。人間がゆっくりとまばたきした行為をポジティブなことと受け取ったことで、猫も同じようにゆっくりまばたきするように真似した可能性があるほか、凝視を遮断させるための方法として生まれたという説もあるようです。

 

猫との信頼関係をもっと深めたいときは、このまばたきコミュニケーションを取り入れてみてはいかがでしょうか?

 

【出典/参考】

Humphrey, T., Proops, L., Forman, J. et al. The role of cat eye narrowing movements in cat–human communication. Sci Rep 10, 16503 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-73426-0 

クレア・ベサント(2014)「ネコ学入門:猫言語・幼猫体験・尿スプレー」築地書館

 

海面温度を下げちゃえばいい! 「台風」の発生を防ぐ「泡のカーテン」が開発中

台風やハリケーンは世界各地に大きな被害をもたらすことがありますが、それらの勢いを人工的に抑えることはできるのでしょうか? この問題に取り組んでいるのが、ノルウェーのあるスタートアップ。伝統的な技術を”アップデート”して、海にカーテンを設置するそうです。どんな技術なのか見てみましょう。

↑噂の「泡のカーテン」(画像出典: OceanTherm公式サイト)

 

熱帯低気圧は、暖かい海の上で冷たい空気と温かい空気がぶつかると台風やハリケーンに変化します。このとき海面温度が26.5℃以上になると、台風やハリケーンはそこからエネルギーを得て、勢力を増していきます。

 

ノルウェーのスタートアップOceanTherm社はこのメカニズムに注目し、海面温度を下げる方法を考案しました。海面温度が高いときに、水深の深い場所から冷たい海水を運び、海面付近の温かい海水と混ぜて、26.5℃以下になるようにコントロールするというもの。海面温度が高くなりすぎないように海をコントロールすることができれば、勢力の強い台風やハリケーンが発生しにくくなるというのがコンセプトです。

 

これを具体的に行うのが、「バブルカーテン」の利用。まず海にパイプを設置し、そこから圧縮した空気を海中に送ります。すると海中に無数の泡が生じ、これが海面まで上昇。やがて下から上に向かって海水の流れができ、深い場所にあった冷たい海水が海面付近の温かい海水と混ざり、海面温度を下げられるのです。長さ1500メートルのパイプを船に付け、必要な場所で泡のカーテンを作れるようにしており、大量の泡が発生する様子から「バブルカーテン」と名づけられたそうです。

 

ノルウェーでは冬に、氷河の浸食で形成されるフィヨルドが凍るのを防ぐため、50年も前から海面温度を高くする技術が使われており、バブルカーテンはそれを応用した技術なのです。

 

OceanTherm社がノルウェー産業科学技術研究所(SINTEF)と共同で行った実験で、バブルカーテンによって水深50メートルの海水を海面まで運び、海面温度を0.5℃下げることができたそう。0.5℃では、まだわずかな変化にすぎないため、今後は水深を150~200メートルまで深くして実験を行う予定とのことです。

 

ビル・ゲイツも注目していたけど……

一説によると、今回の技術は特別新しいものではないのだそう。マイクロソフト社の共同創業者、ビル・ゲイツらは2009年にハリケーンの勢力を弱める技術を開発し、特許を申請していましたが、その後、この技術は進展がなかったとみられています。

 

バブルカーテンは気候工学(または地球工学)の一種とも見れますが、気候工学は地球規模で長期的に影響を与えるため、否定的な考えが多くみられてきたのが事実。バブルカーテンも技術的かつ経済的な面で実現できるか不透明な部分があり、さらに干ばつを引き起こすことや海洋環境へ影響をもたらす可能性があることも指摘されています。

 

しかし、地球温暖化などにより各地にさまざまな被害が起き、環境問題が年々深刻化するなかで、気候工学は「最後の切り札になる可能性もある」とも言われています。バブルカーテンも同じような視点で考えるべきかもしれません。この古くて新しいノルウェーの技術がどこまで発展するか注目です。

嗅覚だけでなく視覚も! 米軍が「軍用犬向けARゴーグル」を開発中

目の前の景色に文字や音声ガイド、CGなどを重ねて表示することができるARゴーグル。ゲーム業界やエンターテイメント業界で活用が進んでいますが、最近ではアメリカの陸軍で軍用犬にARゴーグルを開発しているということが明らかとなりました。犬までARゴーグルを装着する日がやってくるのでしょうか?

↑ARゴーグルをかける軍用犬

 

ARゴーグルはエンターテイメントの分野でよく使われている技術と思われるかもしれませんが、それだけに限りません。例えば、技術者や作業者への指示やサポートをARゴーグル上で行い、作業の効率化を図ったり、人材不足を補ったりする働きもあります。アメリカ陸軍はそれと同じような目的で軍用犬向けのARゴーグルを開発しているのです。

 

米軍では2019年、過激派組織ISISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者を殺害しました。この作戦で、バグダディ容疑者が自爆ベストを着用しているとみられたことから、送り込まれたのが複数の軍用犬でした。その後、バグダディ容疑者は3人の子どもたちと一緒に自爆しましたが、軍用犬は負傷するだけで済んだそうです。

↑どんな情報が見えている?

 

このように、軍用犬は地雷や爆弾のような危険物があるエリアでの偵察、救援活動などで活躍します。最近、米軍では軍用犬に直接指示を伝える犬用のイヤホンも開発したとも言われていますが、音声の指示だけで軍用犬を適格に動かすことは難しい場合もあるでしょう。そこで、そのような技術の発展系として現在、ARゴーグルの開発が進んでいるのです。

 

犬の視線をトレーナーが確認して指示

Forbesの報道によると、開発を行っているのはシアトルを拠点とするCommand Sight社。小型の高解像度カメラが内蔵されたARゴーグルは犬の視線をトレーナーに送信し、それによってトレーナーは犬が見ている景色を遠隔で確認することができるようです。また、このゴーグルは左右に動くマークを犬の視界に表示させる機能も持ち、そのポイントを固定させて犬に指示を出すこともできるそう。

↑ARゴーグルはつけ忘れた?

 

このARゴーグルを使った訓練を行うためには、このデバイスに犬だけではなくトレーナーも慣れる必要がありますが、もし効果的に使えるようになれば、実際の特殊作戦が行われる夜間などの環境下での指示出しが容易になると見られています。

 

ただし、現段階では実用化までにはさまざまな課題があるようです。犬のARゴーグルとPCをケーブルで接続させる必要があったり、小型化と無線送信機を装着する必要もあったり。しかし今後さらなる技術開発が進めば、軍用犬のトレーニングでARゴーグルを使うことも当たり前になるかもしれません。

 

「夜更かし投稿」は怒りが原因? トランプ大統領のTwitterを米研究者らが分析

従来のメディアを通さず、Twitterで自ら情報を発信するアメリカのトランプ大統領。1日の投稿回数が多く、過激な内容が含まれているときもあり、大手メディアでも盛んに取り上げられていますが、Twitterの投稿からトランプ大統領について何かわかるのでしょうか? 最近、コロンビア大学の研究者たちがトランプ大統領の投稿について分析を行い、政治活動への影響を検証したので、その結果をご紹介しましょう。

 

就任当初に比べて深夜の投稿が3倍増加

研究者たちは、トランプ大統領が就任した直後の2017年1月24日から2020年4月10日までの期間、大統領が滞在していた場所の現地時間で投稿時間帯について分析しました。その結果、朝の投稿は午前6時台から始まり、午前8時頃には1時間に1ツイートとなり、その後は2~3時間に1度のペースで投稿。これが深夜12時頃まで続きます。これまでの約3年間で、朝の投稿は必ず6時台から始まるのに対して、深夜の投稿については就任当初より現在のほうが大幅に増加していました。午後11時〜午前2時の投稿頻度は2017年が週に1度未満だったのに、2020年は週3日以上と317%にもなっているのです。

↑トランプ大統領のツイート概日周期。上のデータは0:00〜23:30までの平均投稿数(30分毎)、下は22:00~翌7:00。

 

このデータによれば、朝は6時ごろに起床する大統領のスケジュールは変わっていないのに、就寝時間は現在のほうがずっと遅くなっている可能性があるのです。激務のせいか、SNSのせいか、はたまたほかの原因か、就寝時間が遅くなった理由は明らかではありません。

 

怒りに駆られている?

これと似た研究は過去にも行われています。NBA選手のSNS利用と試合でのパフォーマンスの関連性について調べた論文では、深夜にツイートした翌日はシュートの精度や得点などのパフォーマンスが低かったという結果が出ていました。

 

睡眠時間が少なくなると、翌日の行動にさまざまな影響をもたらすことが予想されます。それと同じように、トランプ大統領も深夜までSNSを行っていると仮定した場合、睡眠時間が減ったら、翌日の仕事に影響は出ないのでしょうか?

 

そこで研究チームは、大統領就任以降のおよそ1万1000の投稿内容と大統領が行ったスピーチやインタビューの内容についても収集し、使われた言葉を分析しました。すると、深夜にツイートを行った翌日には、幸福感と比べて怒りの感情が3倍近く大きくなっていることが推測されるようです。しかし、ここからではトランプ大統領の仕事ぶりを判断することはできません。

 

SNSを始めると、夢中になってついつい夜更かしをしがち。でも睡眠時間が削られれば、翌日の体調が悪くなることは、誰もが実体験で学んでいることでしょう。アメリカの大統領選挙まで残り数週間となり、トランプ大統領の投稿頻度がますます上がっていますが、それが選挙戦にどう影響するのかにも注目です。

 

【参考】Almond, D. & Du, X. (2020). Later bedtimes predict President Trump’s performance. Economics Letters, 197. https://doi.org/10.1016/j.econlet.2020.109590.

【世界手洗いの日】日本発の「正しい手洗い漫画」が世界へ――途上国での感染症予防に新たなアプローチ、その制作背景に迫る!

毎年10月15日は「世界手洗いの日」。不衛生な環境や水道設備の不足により感染症にかかるリスクの高い途上国の子どもたちにも、予防のための「正しい手洗い」を普及したいと、2008年にUNICEF(国際連合児童基金)などによって定められました。

 

石鹸を使った正しい手洗いは、感染症から身を守る、最もシンプルな“ワクチン”ともいわれています。特に今年は新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない状況のなか、「手洗い」への関心が世界的に高まっています。

 

この機会に途上国の子どもたちに広く手洗いについて知ってもらおうと、漫画を使った取り組みが行われています。これはJICA(独立行政法人国際協力機構)が世界手洗いの日にあわせて実施する「健康と命のための手洗い運動」キャンペーンの一環で、漫画は翻訳され、世界各国の関連施設や現地の小学校へ配布されるほか、漫画を動画化してテレビCMやYouTubeで配信するなど多角的に展開されます。

この「手洗い漫画」を描いたのは、国際協力やジェンダー問題などをテーマに取材漫画家として活動する井上きみどりさん。制作過程では、途上国特有の手洗い事情への配慮はもちろん、技術的な側面でも新しい発見が多かったとか。そうした裏話を含め、井上さんに制作の背景や国際協力に対する想いなどをうかがいました!

<この方に聞きました>

井上 きみどり(いのうえ きみどり)

仙台在住の取材漫画家。与えられたテーマで描くより、自身が本当に描きたい「震災」「ジェンダー問題」「国際協力」等に注力したいという思いから取材漫画家として活動をスタート。2020年4月には「「コロナを『災害』として見る場合の災害時に子どものメンタルを守るために気をつけたいこと」と題した漫画を自身のSNS上で発表し、JICAの協力で33言語に翻訳され世界中で話題となる。仙台での震災の経験から、【震災10年】の作品制作活動にも取り組んでいる。「自由な場で自由に描く」が方針。

https://kimidori-inoue.com/bookcafe/

 

きっかけはコロナ下で大きな話題となった子どものメンタルケア漫画

――今回の手洗い漫画は世界展開を前提にしたものですが、井上さんが4月に発表された漫画「【コロナを『災害』として見る場合の】災害時に子どものメンタルを守るために気をつけたいこと」も、翻訳されて世界的な広がりを見せるなど話題になっていましたよね。

↑井上さんが自身のブログに掲載した日本語版(左)。タイ語版(右)に翻訳された後、33言語に翻訳され世界的に広がった

 

井上きみどりさん(以下、井上):あの漫画は当初、個人的に自分のブログにアップしただけだったのですが、以前に別のプロジェクトでお世話になったJICAタイ事務所の職員の方が見つけてくれて、「タイ語版にさせてほしい!」と連絡をくださったんです。その後はもう、私の手を離れ、漫画がひとり歩きしていった感じでした。そういった縁もあって、今回JICAさんからお声がけいただいたのだと思います。

 

――そのほか、アフガニスタンの女性警察官支援に関する漫画など、国際協力をテーマにした作品も多く描かれています。こうした分野にはもともと興味があったのでしょうか?

 

井上:以前は出版社の商業誌で育児漫画を描いていたのですが、その頃から国際協力に興味があったんです。「育児」というのは編集長から与えられたテーマでしたが、次第にジェンダー問題や途上国の事情について自分自身で取材して描いてみたいという気持ちが大きくなりました。でも、どうアクションしたらよいかわからず……。

それでグローバルフェスタJAPAN(※)の会場に押しかけたんです、「私に描かせてください!」って。ザンビアのHIV予防プロジェクトに自費で同行取材したことも。押しかけ女房状態ですよ(笑)。

 

※国際協力にかかわる政府機関、NGO、企業などが一同に集まり、世界のことをもっと知ってもらうことを目的とした展示やステージを行うイベント。毎年、「国際協力の日」の10月6日前後の週末に行われている

 

――熱意がすごい! それがいつの間にか、JICAさんのほうから今回のような企画依頼がくるようになったんですね。

 

井上:本当にうれしく思っています。

 

日本とは異なる手洗い事情――途上国に向けて描くなかで得られた気づき

――制作にあたって苦労された点などはありますか?

 

井上:これまでは、例えば途上国での取り組みを日本の読者に紹介するなど、当事者の話を当事者ではない方に向けて描くことが多かったのですが、今回は届ける先が途上国の方自身だったので、そこはまた違った難しさもありました。

あとは、漫画は「会話劇」なので、伝えるべきことをどう会話に落とし込んでいくかは毎回山場になりますね。今回は「手洗い」とはっきりシーンが絞られていましたが、それでもいただいた資料や自分が蓄積してきた情報を会話と絵にしてラフを作るまでに1週間ほど温めました。

 

――途上国では、水道などの設備や手洗いに対する意識なども日本と異なると思います。その違いに配慮して、描くうえで意識されたことはありますか?

 

井上:まずは“正しい”手洗いの仕方を正確に描くことでしょうか。ウイルスやバイキンを落とすには、水でしっかり洗い流すことが重要なのですが、途上国では水道設備のない地域もあり、桶に水を溜めてすすいだりするそうです。でもそれだと、溜まった水が汚染されるので感染症対策にはならないと。ですから、少ない水でもきちんと洗い流すことができる「Tippy-Tap」などの方法や簡易な手洗い装置を紹介するコマを作りました。

↑漫画内では、少ない水でもきちんとバイキンやウイルスを洗い流せる手洗い方法も紹介

 

井上:JICA地球環境部のご担当者とやりとりをするなかでは、手洗いのシーンには「石鹸」というワードを必ず入れ込んでほしいともいわれましたね。いわれてみればなるほどですが、石鹸がない環境で育っていると、石鹸を使わずに水洗いだけで済ませてしまうことが習慣になっている子どもたちもいるんです。また、洗ったあとは「乾かす」ことも大事だと。清潔な手拭きタオルがない環境では、自然乾燥でもよいとうかがい、パッパと手をはらって乾かす絵柄を入れました。

それから、日本ですと「家に帰ってきたら」「食事をする前に」手を洗う習慣がありますが、途上国の場合は事情が違う。「家畜の世話をした後に」や「ゴミを触った後に」にという表現を加えるようにアドバイスしていただき、なるほどなぁと感じました。

↑手を洗うタイミングについても、途上国の生活スタイルを考慮したシーンを取り入れている

 

井上:水道から水が流れるシーンには、「ジャー」という擬音語の描き文字を何気なく入れていたのですが、「途上国では水道の蛇口があっても、ジャーというほどの水量が流れないことがありますし、水が足りなくて節約しながら大事に使っている人もいます」とアドバイスいただきました。指摘されるまではその不自然さに気がつきませんでしたね。

↑最初の下書き段階では、水が流れる「ジャー」という擬音語が入っている(左)。完成版ではその擬音語が外され、タオルを使わず手を乾かす描写も描かれている(右)

 

翻訳や動画などの二次展開は、巣立つ子どもを見送る母のきもち

――今回の漫画は翻訳されることを前提に描かれたと思うのですが、その点で意識されたことはありますか?

 

井上:いつもは日本語ですから右→左にコマが流れるように描きますが、今回は横書きの言語にも対応できるようにと、左→右に描くことになりました。吹き出しも、横文字が入りやすいように横長にしています。

↑井上さんの制作風景。吹き出し内のテキストや、描き文字は翻訳用に外せるようレイヤー分けされている

 

――この漫画は、動画化も予定されているそうですね。こうした展開・拡散についてはどう思われますか?

 

井上:もうどんどんやってください! という気持ちです(笑)。心のケア漫画のときもそうでしたが、私の手を離れて、後は皆さんの手によって新しく展開されていくことは、とてもうれしいです。動画化は初めてですし、漫画が動いたり、音がついていったり変化するのは楽しみ。後は巣立つ子どもを見送る母親の気持ちです。

↑モルディブの小学校で「心のケア漫画」が授業で使われている様子。今回の「手洗い漫画」も 小学校での利用のほか、ボリビアのコチャバンバ市ではCMで配信される予定(写真提供/JICA)

 

「手洗い」って、「教育」だったんだ! 日本の子どもたちにも読んでもらいたい

――手洗い漫画を描いてみて、「手洗い」に対する考え方に変化はありましたか?

 

井上:ありましたね! 手を洗うことは自然に身に着くものではなく、「教育」なんだ、と気が付いたのです。日本だと、家庭や学校で子どもに手の洗い方を教えてくれますから、自然と習慣化されている。でも、それは当たり前のことではないんですね。

以前、ベトナム取材に行った際に、「ベトナムでは多くの人が俯瞰地図を読めない」というお話をうかがって、とても驚いたんです。タクシーに乗った際、ドライバーに地図を指し示して「ココに行って」と場所を伝えても、確かに理解してもらえませんでした。地図の読み方を、日本だと小学校で教えますが、そうではない国もあるのだと知りました。私にとって、それが大きな発見だったんです。「手洗い」も同じ。今回は途上国向けの手洗いの方法を、途上国の子どもたちに向けて描いていますが、日本の子どもたちにこの漫画を読んでもらっても意味深いと思うのです。「日本とは手を洗う環境が違うんだ!」って。それもまた大きな学びですよね。

 

漫画の利点を生かして「声を上げられない方の声」を届けたい

――社会課題を漫画で伝えることのメリットは何でしょうか?

 

井上:私が初めて「漫画家になってよかった!」と思えたのは、女性の医療問題を取材して単行本を2冊出したときでした。声を上げることができなかった女性たちの声を、漫画で伝えることができた、ということがうれしく、やりがいを感じた瞬間でした。ようやく「人の役に立つものが描けた」と。漫画だと、人の感情や声にならない声を、顔の表情などの非言語でも伝えることができるんですよね。

また、「恐怖」もデフォルメして伝えられると思うんです。途上国の事情も写真や映像だと、つらすぎる場合がある。私は仙台に住んでいますが、震災時のニュース映像などはリアルすぎて恐怖を感じる方も多いと思います。そういうときに、漫画というツールが、緩和してくれるといいますか。漫画を媒介にすることで届けやすくなるのかもしれませんね。

 

――取材漫画家として、今度取り組みたいテーマはありますか?

 

井上:社会課題を漫画にすることは今後も続けていきたいです。また、2011 年の東日本大震災で被災した仙台や福島の「震災の10年」をまとめたいと考えています。石巻の防災教育施設からのご依頼で、子どもの視点で震災漫画を描く試みもしています。東北では今、震災を知らない子どもたちも増えきているので、震災当時には子どもだった方々に取材をさせていただき、企画を温めています。

 

――最後に、改めてこの漫画に込めたメッセージをいただけますか?

 

井上:今はコロナ対策として手洗いがフューチャーされていますが、「世界手洗いの日」はコロナ以外の感染症にも取り組んできた日です。衛生管理は、健康の基本中の基本で、それで防げることはかなりある。下痢等の感染症で亡くなる子どもの死亡率も、手洗いで減らしていけるとうかがったことがあります。読んだ人全員が手洗いを励行はできないかもしれませんが、10人のうち1人でも2人でも頭の中に入れてくれたらな、と。その子どもたちが大人になったときに、今度は自分の子どもに手洗いの大切さを伝えていく、そうやって繋げていっていただけたらと願っています。

 

<JICA 健康と命のための手洗い運動プラットフォームとは>

民間企業、業界団体、市民社会、大学、省庁、海外協力隊などの団体又は個人の方に協力の輪を広げ、情報や経験の共有、衛生啓発イベントの開催、共同活動の企画などを通じて、様々な連携事例、アイデア、ナレッジ、ツール等を生み出し、開発途上国の感染症予防、健康の増進、公衆衛生の向上に貢献することを目指します。

https://www.jica.go.jp/activities/issues/water/handwashing/index.html

「コロナ危機を転機に変える!」 途上国でオンライン学習の普及に取り組む日本企業の思いとは!?

「子どもたちの学びを止めてはならない」——新型コロナウイルスの影響を受け、世界中で休校が相次ぐなか、オンラインを介したデジタル教材の活用が注目を集めています。そんな中、日本の教育会社も国内外で学習支援を進めていますが、実は新型コロナの感染拡大以前から、国外でのデジタル教材の普及に取り組んでいる日本企業があります。

 

それがワンダーラボ社とすららネット社。JICA(独立行政法人 国際協力機構)の民間連携事業「中小企業・SDGsビジネス支援事業」として、途上国の学校に“デジタル教材”という新しい学びの機会を提供しています。コロナ禍の現在、アプリなどによるオンライン学習をはじめ、子どもたちの新たな学習形態や環境などが世界中で試行錯誤されるなか、いち早く開発途上国におけるデジタル教材の活用に取り組んだ両社から、将来あるべき「新しい学び」の可能性と、子どもたちに対する熱い思いを探りました。

↑インドネシアにおける、すららネット社のデジタル教材「Surala Ninja!」での授業風景

 

ワクワクする教材を世界中の子どもたちに普及させたい:ワンダーラボ社のデジタル教材「シンクシンク

↑授業で「シンクシンク」アプリを使うカンボジアの小学生

 

ワンダーラボ社は、算数を学べるデジタル教材「シンクシンク」の小学校への導入をカンボジアで進めています。開発途上国の抱える問題を、日本の中小企業の優れた技術やノウハウを用いて解決しようとする取り組みで、3ヵ月で児童約750人の偏差値が平均6ポイント上がったと言います。「シンクシンク」の特徴をワンダーラボ社の代表・川島慶さんは次のように語ってくれました。

↑「シンクシンク」のプレイ画面

 

 

「『シンクシンク』は、図形やパズル、迷路など、子どもたちがまずやってみたい! と思える楽しいミニゲーム形式のアプリです。文章を極力省いて、『これってどういう問題なんだろう?』と考える力を自然と引き出す設計で、学習意欲と思考力を刺激するつくりになっています。外部調査の結果、『シンクシンク』を使っていた子どもたちは、児童の性別や親の年収・学歴など、複数の要因に左右されることなく、あらゆる層で学力が上がっていたことが確認できました。これは、私たちの教材の利点を証明する何よりのデータだと思っています」

↑夢中で問題を解く様子が表情から伝わってくる

 

川島さんが「シンクシンク」を作ったきっかけは、2011年までさかのぼります。当時、学習塾で主に幼稚園児・小学生を教えながら、教材制作も手がけていた川島さん。子どもたちと接するなかで注目したのは、教材に取り組む以前に、学ぶ意欲を持てない子どもがたくさんいるということでした。子どもが何しろ「やってみたい!」と意欲を持てる教材を、と考えて作ったのが、「シンクシンク」の前身となる、紙版の問題集でした。

 

「それを、国内の児童養護施設の子どもたちや、個人的な繋がりでよく訪れていたフィリピンやカンボジアの子どもたちに解いてもらったんです。そこで目を輝かせながら楽しんでくれている姿を見て、『これは世界中に届けられるかもしれない』と感じました。ただ、紙教材は、国によっては現場での印刷が容易ではありませんし、先生や保護者による丸つけなども必要です。

 

そこで注目したのが、アプリ教材という形式でした。タブレット端末は当時まだあまり普及していませんでしたが、必ずコモディティ化し、長期的には公立小学校などにも普及すると考えました。また、アプリならわくわくするような問題の提示にも適していますし、専任の先生や保護者がいなくても、子どもひとりで楽しみながら学べます」

 

その後、タブレットやスマートフォンは世界に浸透し、現在「シンクシンク」は150ヵ国、延べ100万ユーザーに利用されるアプリとなっています。

↑ワンダーラボ社のスタッフと現地の子どもたち

 

ワンダーラボ社は、休校が相次いだ2020年3月には国内外で「シンクシンク」の全コンテンツを無料で開放。この取り組みは新聞やテレビなどのメディアでも数多く取り上げられるなど、話題となりました。アプリの無償提供には、どのような思いがあったのでしょうか。

 

「新型コロナの流行がなければ、各地で私たちの教材を知ってもらうイベントを開催する予定でした。それを軒並み中止にせざるを得なくなる中で、自分たちは何ができるだろうと。お子さまをどこにも預けられず大変な思いをしているご家庭に、少しでも有意義なコンテンツを提供できればいいな、と思ってのことでした」

 

「アプリは所詮”遊び”」の声をどう覆していくか

ただ、いくらデジタル化が進む世の中とはいえ、「アプリ」という教材の形式が浸透するには、まだまだ壁もあるようです。

 

「特に途上国においては、ゲームアプリが盛んなこともあり、『アプリは遊びだ』という認識が根強くあります。ただ、カンボジアでも3月の途中から小学校をすべて休校することになり、教育省が映像での授業配信とともに『シンクシンク』の活用を始めたのです。そのおかげもあり、教材としてのアプリの見られ方も多少は変わったのではないでしょうか」とは、JICAの民間連携事業部でワンダーラボ社を担当する、中上亜紀さんです。

 

スマートフォンやタブレット端末が自宅にあれば教材を使えることもあり、ワンダーラボ社はカンボジアでもアプリの無償提供を約3ヵ月にわたって実施しました。教育省が発信したアプリを活用した映像授業は、約2万ビューを記録するなど好評でしたが、オンラインによる映像授業を視聴可能な地域が、比較的ネット環境が整備された首都プノンペン周辺に偏ってしまうことなどもあり、「いきなり、すべての授業をオンラインに、とはなりません」(中上さん)と、普及の難しさや時間が必要な点を強調します。これを踏まえてワンダーラボ社では、10年単位の長いスパンで、より多くのカンボジアの小学校へ教材を導入できるよう目指しているそうです。

 

「ワクワクする学びを世界中の子どもたちに広げていきたい」

 

会社を立ち上げる前から、川島さんが長年抱いているこの夢に向かって、ワンダーラボ社は着実に前進しています。

 

学力は人生を切り開く武器になる:すららネット社のeラーニングプログラム「Surala Ninja!」

 

「一人ひとりが幸せな人生を送ろうとしたとき、学力は人生を切り開く武器となります。だからこそ、子どもたちの学習の機会を止めてはならないと考えています」

 

スリランカやインドネシア、エジプトなどの各国でデジタル教材「Surala Ninja!」の普及に取り組んでいるのが、すららネット社です。日本国内で展開する「すらら」のeラーニングプログラムは、アニメーションキャラクターによる授業を受ける「レクチャーパート」と問題を解く「演算パート」に分かれており、細分化したステップの授業が受けられるのが特徴です。国語・算数(数学)・英語・理科・社会の5科目を学ぶことができ、小学生から高校生の学習範囲まで対応。 「Surala Ninja!」 は、「すらら」の特徴を引き継いで海外向けに開発された計算力強化に特化した小学生向けの算数プログラムになります。一般向けではなく、学校や学習塾といった教育現場に提供し、利用されています。

↑「Surala Ninja!」の画面

 

「『学校に行けない子どもでも、自立的に学ぶことができる教材を作ろう』——これが、『すらら』を開発した当初からのコンセプトなんです」。こう語るのは、同社の海外事業担当の藤平朋子さん。スリランカへの事業進出の理由を次のように明かしてくれました。

↑株式会社すららネット・海外事業推進室の藤平朋子さん

 

「スリランカでは、2009年まで約四半世紀にわたって内戦が続いていました。内戦期に子供時代を過ごした人たちが、今、大人になり、教壇に立っています。つまり、十分な教育を受けることができなかった先生たち教えるわけですから上手くできなくて当前です。そこで『Surala Ninja!』が、先生たちのサポートとしての役割を果たせればと考えました」

↑「Surala Ninja!」導入校での教師向け研修風景

 

現在、「Surala Ninja!」はシンハラ語(スリランカの公用語の一つ)・英語・インドネシア語の3言語で展開しています。スリランカでは、まず、現地のマイクロファイナンス組織である「女性銀行」と組んで「Surala Ninja!」の導入実証活動を行いました。週2・3回、小学1年生から5年生までの子供たちに『Surala Ninja!』による算数の授業を行ったところ、計算力テストの点数や計算スピードが飛躍的に向上しました。

 

しかし、最初から事業が順調に進んでいたわけではありません。JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」には、2度落選。事業計画やプレゼンテーションのブラッシュアップを重ねて、3度目の正直での採用となりました。

 

「当時のすららネットは、従業員数が20名にも満たない上場前の本当に小さな会社でした。海外、それも教育分野となると、自分たちだけではなかなか信用してもらえないのです。だからこそ、現地で多くの人が知っている、日本の政府機関であるJICAのお墨付きをもらっていることが、学校関係者の信頼を得るために大きな要因になっていると肌身に感じました。海外進出にあたって、JICAの公認を得たことは非常に大きなメリットだったと感じています」

↑スリランカの幼稚園での体験授業の様子

 

また同社は、エジプトでもeラーニングプログラムの導入を進めています。エジプトの就学率は2014年の統計で97.1%と高水準を誇りますが、2015年のIEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)という、学力調査のランキングでは数学が34位、理科が38位(※中学2年生のデータ)という結果。数学は他の教科にも応用する基礎的な学力になるため、算数・数学の学習能力向上に向け、目下、国を挙げて取り組んでいるところです。

 

複数の国で事業活動する上で苦労しているのは、宗教に基づく生活風習だといいます。活動国すべての国の宗教が違うため、ものごとの考え方や生活習慣なども大きく変わります。インドネシアでは、多くの人がイスラム教なので、一日数度のお祈りが日課。しかし、当初は詳しいことが分からず、学校向けの1週間の研修プログラムのスケジュールを作るのにも、「いつ、どんなタイミングで、どの位の時間お祈りをすればいいのか」を把握するために、何回もやりとりを重ねたりしたそうです。また、研修を受ける学校の先生方も給与が安かったりと、必ずしもモチベーションが高いわけではありません。教えた授業オペレーションがすぐにいい加減になってしまったりと、きちんと運営してもらうように何度も学校へ足を運び苦労しましたが、それも子どもたちのためだと、藤平さんはきっぱり。

 

「緊急事態宣言による休校を受け、日本でも家庭学習にシフトせざるを得ない状況になったとき、私たちの教材の強みを再認識することができました。子どもたちの学力の底上げは、将来の国力をつくることでもあると思っています」

 

ビジネスモデルの開発やアプリの利用環境の整備など、海外での展開にはさまざまなハードルがあるのも事実。「世界中の子どもたちに十分な教育を」という熱い思いで、真っ向から課題に取り組み続けている両社。官民一体となった教育への情熱が、新しい時代の教育のカタチへの希望の灯となっているのです。

 

【関連リンク】

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人類の犠牲にーーワクチン開発で25万匹のサメが危機に

新型コロナウイルスのワクチン開発が進むなか、専門家が警鐘を鳴らしているのがサメへの影響。ワクチンの開発でサメが危機に瀕しているそうなのです。一体どういうことなのでしょうか?

 

ワクチン製造に使われるサメの肝油

↑サメとワクチンの関係とは?

ワクチンの開発には、サメの肝油から抽出される「スクアレン」という原料が「アジュバント」として使われる場合があります。アジュバントとはワクチンの効き目を高める働きのある物質で、これまでに製造されたいろいろなワクチンにも採用。

 

また、アジュバントにはワクチンに含まれる抗原の量を減らして、免疫力の低い乳幼児や高齢者への効果を改善することなども期待できるそう。それに加えてワクチンに必要な抗原量を少なくできるため、一度に大量のワクチンを製造しなければならない場合でもワクチン数を増やすことにもつながるそうです。

 

保護団体Shark Alliesによると、1トンのスクアレンを抽出するためには2500~3000匹のサメが必要とのこと。そして地球上のすべての人に1回ずつ接種できる量のワクチンを製造するためには、約25万匹のサメが必要となるそう。もし2回分のワクチンなら、50万匹のサメが犠牲になる計算です。

↑保護かワクチンか

 

薬事規制専門家協会とWHO発表のデータによると、現在開発が進んでいる176種のワクチンのうち17でアジュバントが使用され、そのうち少なくとも5つのアジュバントにサメ由来のスクアレンが使用されているとのこと。実際、イギリスの製薬会社グラクソ・スミスクラインは、インフルエンザのワクチンにスクアレンを使用しており、新型コロナのワクチン開発に10億回分のアジュバントを製造すると発表しています。

 

今後のワクチン開発の状況と世界の需要次第で、実際にどの程度のスクアレンが必要となるのか不明ですが、人のために特定の種族の魚を必要とするというのは、なんだか矛盾する話に聞こえるかもしれません。

 

ほかの魚に比べてサメは繁殖が遅く、なかには個体数が減っている種類もあります。またこれまでに、フカヒレを目当てにしたサメの乱獲が問題になったこともあり、新型コロナのワクチン開発によって、再び乱獲が起きることも不安視されるでしょう。

 

もちろん新型コロナに対して有効で安全なワクチンができることは待ち望まれることですが、植物由来の原料などスクアレン以外を使ったアジュバントの製造が進むことにも期待したいですね。

 

なんとUAEが「月面探査計画」を発表! しかも壮大な「火星移住計画」まで構想

月や火星などの宇宙開発を行う国といえば、アメリカやロシア、日本、中国などの存在が広く知られていますが、石油産業で有名なUAE(アラブ首長国連邦)も宇宙事業に参入していることをご存知でしょうか? しかもこの国は100年後までに火星に都市を作る火星移住計画も掲げているのです。UAEが取り組む宇宙事業とはどんなものなのでしょうか?

 

2024年までの月面探査計画を発表

先日UAEが発表したのが、月面探査計画に乗り出す計画。月面を無人で走行して月の地表を調べる探査車を2021年までに設計し、その後、製作や試験を経て、2024年までに月に向けて打ち上げる予定とのこと。UAEの首長、シェイク・モハメド殿下は自身のTwitterで、この探査機は100%UEAで開発されたものであり、「ほかの月面探査機が調査しなかった月の表面から写真やデータを地球に送り、グローバルな研究機関などに共有される」と投稿しています。

 

さらにUEAは2020年7月に、同国初の火星探査機「Hope」を鹿児島県にある種子島宇宙センターから打ち上げ、成功しています。この火星探査機は約5億キロにも及ぶ距離を飛行し、UAE建国50周年と重なる2021年2月に火星へ到達する予定です。

 

これらに加え、UAEが掲げているのが「Mars Science City」と呼ばれる壮大な火星移住計画です。同国は2017年に今後100年以内にこの火星移住計画を遂行すると発表。大気が薄くマイナス63度、重力は地球の38%しかないという火星で人が生活するため、17万7000平方メートルのバイオドームを建設し、そこに都市を作るという大胆な構想が描かれていますが、今後は砂漠などでバイオドームを建てシミュレーションなどが行われるものと見られています。

↑火星への移住計画も進行中

 

石油だけに頼らない経済発展モデルへ

UAEは石油や天然ガスなどの資源が豊富な国であり、石油産業を中心に経済発展してきました。しかしUAEを構成する首長国のひとつドバイでは、今後10年ほどで石油が枯渇すると予想されており、太陽光発電開発のような環境関連ビジネスや観光業にシフトした経済発展モデルが進められています。

 

また、新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、2020年は石油の需要が落ち込み、価格が下落しているとのこと。そこでUAEとしても、同じように石油産業だけに頼らない経済モデルの構築が進められ、その中で宇宙開発事業に大きな期待がかかっているようです。

 

2040年代までに1兆ドル(約105兆円)に達すると予測される世界の宇宙ビジネス。2024年までに有人月面着陸を目指すNASAのアルテミス計画を筆頭に、新しいビジネスのフィールドとして宇宙に今後ますます熱い視線が向けられることは間違いないでしょう。

 

天才数学者の理論が解き明かした「フェアリーサークル」の謎

オーストラリアに「フェアリーサークル(妖精の輪)」と呼ばれる謎の自然現象が起きているのをご存知でしょうか? 乾燥した草原に草木が規則正しく円形の模様を作り、それが無数に並んでいるのです。このような不思議な現象がなぜ起きるのか、その謎を解くカギがわかりました。

↑なぜこんな模様が……

 

フェアリーサークルの存在がわかったのは2014年ごろ。直径2~15メートルの穴が規則正しく無数に草原を埋め尽くしており、地上にいると識別しづらいものの、上空から見ると不思議な模様が広がっていることがはっきりとわかるのです。

 

この原因について、これまでにさまざまな説が唱えられてきました。シロアリなどの昆虫が植物の根をかじるとか、土中の一酸化炭素が関係しているとか。しかし先日、ドイツのゲッティンゲン大学の研究者を中心としたオーストラリアとイスラエルとの共同チームが、ある数学者がおよそ70年前に提唱した「チューリング・パターン」が当てはまると明らかにしたのです。

 

チューリング・パターンとは、イギリスの数学者アラン・チューリングが1952年に発表した理論。2つの物質があったとき、濃度の濃い物質と薄い物質が空間に繰り返し模様を作り、これを「反応拡散方程式」と呼ばれる数式で証明したのです。おまけに、この数式はシマウマ、ヒョウ、魚などの模様についても当てはまり、自然界で作られるさまざまな模様をこの理論で説明することができたのです。

 

ひょっとしたらこの理論が使えるのではないかと考えた同研究チームは、ドローンや空間分析、フィールドマッピング、現地の気候データなどをもとにフェアリーサークルの解析を実施。その結果、チューリング・パターンがフェアリーサークルにも当てはまることがわかりました。

 

では、なぜ植物はこのような模様を作ったのでしょうか? 答えは明らかにされていませんが、このフェアリーサークルがある場所は乾燥した地帯で、土中の水分量が限られていると見られます。ここからひとつ考えられるのは、植物がフェアリーサークルを形成することで水分を確保し、生命を維持できているのではないかという仮説。研究者たちは「フェアリーサークルがなければ、この地域は砂漠になっていた可能性がある」と述べており、植物がわずかな水分量の環境下でも成育するために、自然とフェアリーサークルのような形を形成していったと予想できるそうです。

 

今日のコンピューターの理論的な原型とされるチューリング機械を考案したチューリングは1954年に亡くなっており、当然このフェアリーサークルの存在など知ることはありませんでした。それでも、自然界でできる不思議な模様について70年前に数式で証明していたとは、その知性に改めて驚嘆してしまいます。チューリング・パターン説の検証を進めるため、フェアリーサークルの研究は今後も続きます。

 

「国際ガールズデー」を機に秋元才加さんと考える――フィリピン、そして、日本を通して見えた教育とお互いを尊重することの大切さ

10月11日は今年で9年目を迎える「国際ガールズデー」。児童婚、ジェンダー不平等、女性への暴力……女の子が直面している問題に国際レベルで取り組み解決していこうと、国連によって定められた啓発の日です。これまでも世界各地の女の子が自ら声を上げ、そんな彼女たちを支援する様々なアクションがとられてきました。

 

「性別」や「年齢」による生きにくさは、途上国だけではなく、身近な日本の社会においても感じることかもしれません。女優の秋元才加さんは、人権問題やジェンダー問題について自身のSNSで積極的に発信するなかで“元アイドルがよく知りもせず”“女のくせに”という色眼鏡で見られるなど、戸惑う時期もあったといいます。

↑今回対談に参加してくれた女優の秋元才加さん。フィリピン人でたくましく働く母親の背中を見て育ち、「フィリピン人女性=強い」というイメージをもっていたそうですが、今回の対談ではフィリピンの意外な側面を聞いて驚く場面も

 

今回は、社会課題や国際協力への関心が高く、フィリピンにルーツをもつ秋元さんと、26年に渡りフィリピンで活動するNPO法人アクション代表の横田 宗さんが、人として尊厳をもっていきるために必要なもの、そして、お互いを尊重することの重要性を語り合いました。コロナ対策に配慮したweb対談ながら、熱いトークのスタートです!

 

【対談するのはこの方】

秋元才加(あきもと さやか)

女性アイドルグループ・AKB48の元メンバーで「チームK」時代はリーダーも務めていた。日本人の父とフィリピン人の母をもつダブルで、フィリピン観光親善大使を務める国際派女優。LGBTQのイベントに参加したり、SNSで人権問題について発信したりするなど、社会課題にも強い関心をもっている。2020年夏にはハリウッドデビューを果たし、ますます活躍の場を広げている。

 

横田 宗(よこた はじめ)

NPO法人アクション代表。高校3年の時、ピナツボ火山噴火で被災したフィリピンの孤児院で修復作業をした経験から、1994年にアクションを設立。以降、フィリピン・ルーマニア・インド・ケニア等の孤児院や乳児院の支援、そして、福祉に関する国の仕組み作りまで協力を広げている。また、空手を通した青少年支援、美容師を育成するプロジェクト「ハサミノチカラ」、女性の収入向上を目指す「エコミスモ」開設、シングルマザーやLGBTの方々が働く日本食レストランを経営等、幅広く事業も展開。フィリピン国内外の企業・財団やJICAとの連携も進めている。

■NPO法人アクション http://actionman.jp/
■エコミスモ http://www.ecomismo.com/

 

母親に連れていかれたスラム街の記憶――フィリピンの子どもや女性をとりまく今の現実は?

秋元才加さん(以下、秋元):私の母がセブ島のカモテス諸島出身で、以前は毎年1回帰省していました。6歳の頃には、首都圏マニラにあるスモーキーマウンテン(※)に連れて行かれて、スラム街の現実を目のあたりにしたことも。「日本では義務教育が普通だけど、学ぶことさえ叶わない子どもがいる」と母に言われて衝撃を受けたことをよく覚えています。

横田さんがフィリピンで福祉活動を始めたきっかけは何ですか?

※マニラ北部に存在した巨大なゴミの山とその周辺のスラム街で、自然発火したゴミの山から燻る煙が昇るさまからこう呼ばれた。1995年に政府によって閉鎖された

 

横田 宗さん(以下、横田):私は東京生まれの東京育ちですが、活動を始めたのは高校3年の時。1991年のピナツボ火山噴火で被災したフィリピンの孤児院で、1か月ほど修復作業をしたのがきっかけでした。

↑対談は、JICA本部(東京)で実施。横田さんはマニラ首都圏の郊外マラゴンからリモートで対談に参加してくれた。コロナの影響で外を歩く際はマスク+フェイスシールドの着用が義務付けられていると話すが、声や表情は力強い。ファシリテーターはフィリピン事務所赴任経験のあるJICA広報室・見宮美早さん(右)

 

秋元:えっ!? 17歳のときにもう? それから26年も続けてこられて、現在はどのような活動をしていらっしゃるのですか?

 

横田:活動軸は大きくは2つ。1つ目は、国の福祉の仕組みづくりに協力することです。日本の児童養護施設は民間も含めて税金で運営されているのですが、フィリピンは国から運営費は出ません。子ども達の食事や教育費は削れないので、職員の給与に負担がいってしまう。働く側にやる気があっても、例えば性的虐待を受けた女の子にどう接していいかを学んでいないと、対応がわからず燃え尽きてしまうといったような問題もありました。

 

秋元:なるほど、指導する側の大人にも教育などの支援が必要ということなんですね。

 

横田:そうなんです。身体や精神的に問題を抱えた子どもの育成には知識やスキルも必要で。そこで、指導員用の教材や研修制度を作りたいと考えました。JICAの「草の根技術協力事業」に採択され、現地の社会福祉開発省と連携しながら、継続的な指導研修やフォローアップ研修を設置。昨年には、国の制度として正式に大臣が署名し、全国に研修を展開していく仕組みができました。

↑横田さんが17歳のときに訪れた孤児院。それから26年間、いまでも支援を続けている

 

2つ目は、子どもの職業訓練やクラブ活動、性教育などの事業です。ストリートチルドレンや貧困層の子どもが無料で参加できるダンススタジオや、空手道場の運営もしています。2018年には秋元さんとの関係も深いMNL48さん(※)と、7000人の子ども達を集めて歌とダンスのチャリティコンサートを実施しましたよ。

※女性アイドルグループ・AKB48の姉妹グループの1つで、フィリピンのマニラを拠点に2018年から活動している

↑アクションが運営するダンススタジオ(上)と空手教室(下)の様子

 

秋元:おぉ、AKB48の姉妹グループ! いい活動ですね(笑)フィリピンの人は歌と踊りが大好きですし。

 

横田:職業支援として美容師やマッサージセラピストの育成もしています。手に職を持つことで、学歴がなくて働けない子どもたちにもチャンスが広がります。

 

秋元:その職業は女性が多い職業なのですか?

 

横田:育成したのは女性が多めですが、これまで男女合わせて500人程が国家資格を取りました。トライシクル(三輪バイクタクシー)の運転手や屋台販売などインフォーマルセクターの仕事は賃金がとても低く、家庭を養っていくだけの収入を得ることは難しい現状があります。技術があれば頑張れば稼げます。

↑美容師を育成する「ハサミノチカラ」プロジェクトの様子

 

コロナ禍で増える人身売買や広がる経済格差――14歳以下で母になる女の子が毎週約70人いる現実

秋元:コロナで今は世界中が大変な思いをしていますよね。そんな時に最も被害を受けるのは、フィリピンでもやはり貧困層の方々なのでしょうか?

 

横田:ええ、経済困難が起きると、まず人身売買が増えるんです。コロナ禍の3-5月は子どもの虐待率が2.6倍に増えました。10-14歳で望まぬ出産をする女の子は毎週およそ70人にのぼります。

 

秋元:その数字は驚きです……。売春宿のような所が今もあるのですか?

 

横田:コロナ以前は、そういう風俗街はエリアが存在していましたが、今は封鎖されているので、ネット上の見えない環境でのやり取りが増え、むしろ性犯罪の被害が増えてしまっています。収入が途絶えたことで、母親が娘の裸の写真を撮ってネット上で売ることもありました。

↑貧困層の厳しい現実を横田さんから聞き、時折つらそうな表情を浮かべる秋元さん。コロナ禍でも個人レベルで可能な援助について考え、お母様とも話し合ったそう

 

秋元:現実として「美」や「性」を売る仕事はありますが、いつまでも続けていけることではないと、私は思っています。それまでに正しい知識を身につけられるのが「教育」なのかなと。私は、母が言うように基礎教育を受けることができた幸せな部類だと思うんです。25歳でアイドルを卒業して以降も、いろんなご縁が重なって今がある。今日も横田さんから学ばせていただていますし。

 

横田:その通りですね、「教育」は現状を変える第一歩。そこで今は、青少年の性教育にも力を入れています。受講生の中から希望者を募り、ユーストレーナー14人が当会のソーシャルワーカーと共に同世代への啓発を実施したりしていますよ。

 

日本よりも先進的!? フィリピンの女性と子どもを守る社会システム

横田:貧困問題は根深いですが、一方で子どもや女性を守る国の制度は、日本以上に充実しているんですよ。例えばセクシャルハラスメントは1-3年の懲役刑。未成年へのレイプは終身刑になりますから、法律的には日本の数倍厳しいです。

 

秋元:日本だと被害を声に出すこと自体がはばかられる雰囲気ですし、誰に相談すれば良いのかもわからない場合もありますよね。急場の時はどこに逃げ込めばいいの?とか。

 

横田:フィリピンには子どもの虐待や夫の暴力に関しても、すぐに通報できる窓口がバランガイ役場にあります。バランガイは日本の町内会にあたる地方自治団体なのですが、役場のスタッフは、きちんと選挙で選ばれます。夫婦喧嘩レベルでも、このバランガイ役場が仲裁に入ります。役場には留置所のような場所もあって、そこに入れられることも。

 

秋元:フィリピンって、昔の日本のように町内レベルのご近所同士・お隣同士の繋がりが今も強いですものね。そういう身近な駆け込み所が日本にもあったら、女性は声を上げやすくなりそう。むしろ日本がフィリピンから学ぶことも多いのかもしれない。

↑頻繁にメモを取りながら、真剣な表情で横田さんの話に耳を傾ける秋元さん

 

横田:フィリピンも以前は「家庭を守るのは女性」「外で働く男性を支えるのは女性」という風潮があったんです。それがここ20年で変わってきた。国の制度改革もありますが、生きやすい環境を女性自身が勝ち取ってきた成果だと感じています。そして、従来は働かない男性は後ろめたい思いをもっていたのが、そういう生き方(女性が働き、男性が家事を担う)も社会で認められるようになっています。

↑アクション25周年イベントでのスタッフ集合写真。多くの女性が活躍している

 

国際協力・支援活動……何から始めればよいのか教えて欲しい!

秋元:私も個人として、フィリピンにどんな支援ができるだろうって、ずっと考えているんです。NPOなど多くの支援団体や財団がありますよね。でも正直、どれを選択するのが最適かわからない。コロナでも「マスクをフィリピンに送ろう」と考えましたが、母に「マスクよりお金を送れ!」とたしなめられました。

 

横田:たしかに、金銭支援はストレートな方法。フィリピンではコロナ関連では政府から米支援はありましたが、物質的に足りないのはミルクや生理用品等の生活必需品でしたので、我々は粉ミルクに絞って支援をしています。

 

秋元:古着や人形を寄付したことはあるんですが、それが果たして本当の支援になっているのか。寄付の仕方とかってあまり教育現場で教えられてこないですよね。

↑以前、フィリピンでの感覚のまま、新宿歌舞伎町でホームレスの方にコンビニ弁当を買ってきて渡したところ、逆に怒られてしまった経験があると話す秋元さん。改めて文化の違いや支援の難しさを感じたそうです

 

横田:たしかに。あと、日本だと一部に見返りのない寄付を疑うような風潮もありますね。売名行為と言われたり。

 

秋元:海外では、セレブの方に対して、寄付する団体や支援活動をアドバイスしてくれたり、仲介役になってくれたりする方がいると聞いたことがあって。私が知らないだけかもしれませんが、日本にもあればいいなぁと。身近な、無理のない範囲で始めたいんです。

 

横田:秋元さんは発信力をお持ちなので、それを武器にもできますよ。アクションがこれから実施するクラウドファンドに賛同いただくとか(笑)。秋元さん自身が社会課題だと思っていること、解決したいと思っている分野を支援している団体を応援するのも良いと思います。

 

性別に関わらず「尊敬」できる関係づくりを目指したい

秋元:今日お話を伺っていて、「学び」って本当に大事だなって実感しました。学べる環境で力をつけることで、女性の人生の選択肢も増える、といいますか。

↑歳を重ねるごとに「教養」も積み重ねていきたいと、目を輝かせて語る秋元さん。目標は英国女優のエマ・ワトソンさんなんだとか!

 

横田:それは男性にも言えることですよね。私の妻と子どもは日本に住んでいて、私が日本にいる時は子育てを手伝うようになったんですが、妻の海外出張でワンオペをしてみて、本当に子育ての大変さを学びました。そうすると妻にリスペクトの気持ちが生まれて家庭が円満に(笑)

 

秋元:理想の形ですね。リスペクトし合える関係性。

 

横田:フィリピンでは私がいる福祉業界は女性が9割。NPOの経理課長も事務局長も女性ですし、なかにはLGBTのスタッフもいます。その環境で長く仕事をしてきて感じるのは、ジェンダーに違いがあろうと、貧富の差があろうと、何かしらお互い尊敬できる部分があれば人間関係は上手くということなんです。GetNavi webの男性読者にもぜひ、お薦めしたい、ワンオペトライ!

 

秋元:素晴らしいまとめのお言葉(笑)。でも本当にその通りですね。差別を完全になくすことは難しいけれど、お互いを尊重するために、いろいろ知ることから始めたいと私も思います。

 

今日は本当にありがとうございました!

 

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撮影/我妻慶一

中小企業に活路! ニュージーランド発「地産地消型マーケットプレイス」は三方よし

ニュージーランド(以下NZ)は新型コロナウイルス対策に徹底的に取り組み、一時期は新規感染者をゼロにするなど国際的に注目を集めました。しかし、その一方で急なロックダウンによる弊害もあり、ビジネス面では多くの中小企業オーナーが苦境に立たされました。本記事では、NZの中小企業を救うとともに消費者ニーズにも応えるため、あるIT会社が生み出した地産地消型の新しいデジタル・マーケットプレイスについてお伝えします。

↑ニュージーランド北島北部に位置するオークランド

 

NZは起業しやすい国として有名で、「この国の経済はスモールビジネスが支えている」といわれています。統計によると、従業員20人以下の中小企業は国内全企業の97%を占め、全雇用の29%を創出しており、GDPの26%を占めています。このような理由で、中小企業が販路を失うということは国の経済全体を揺るがしかねない大きな問題なのです。

 

そういった経済状況でありながらも、3月に行われたロックダウンでは大手スーパーやエッセンシャルサービス(交通機関や大手スーパー、薬局・病院など)以外は営業を完全に禁止されてしまいました。多くの在庫を抱えた中小企業のオーナーたちは国からの助成金のみでは経営が苦しいうえ、営業再開のメドも立たず、先の見えない状況に陥りました。

 

消費者もレストランなどで食事をすることはもちろん、お気に入りのカフェで焙煎されたコーヒー豆や、地域のマーケットで販売されていたようなスキンケアグッズを買うことすらできなくなってしまったのです。

 

このような深刻な状況のなかで苦戦する中小企業をサポートするために立ち上げられたのが、NZ最大の都市オークランドにある「Unleashed」というIT企業が運営するウェブマーケット「The good products Marketplace」(以下、The Marketplace)です。

↑The good products Marketplaceのサイト

 

NZも日本と同様に大手ウェブサイトが存在し、オンライン上で商品を売買する動きも活発です。ただこういった既存サイトでは、名前を知られていない中小事業者の多くは当然ながら大手ブランドに太刀打ちできません。ブランドの認知度が低く、検索してもウェブで上位に表示されないため、多くのオーナーにとって大手サイトでの販売は圧倒的に不利であり、売り上げを見込めないものでした。

 

そのような状況下、ロックダウン直後の2020年春に設立したThe Marketplaceの目的は、「地元産業のオーナーと、地元で作られる優れた商品を探している消費者を繋ぐ」ことにあります。自分のブランドの存在を知ってもらうことが難しいと頭を悩ます中小企業にとっては大変画期的なサイトでした。ウェブ上で地元の優れた製品にたどり着けなかった消費者にとっても利便性が高く、売買側それぞれの悩みを解消することにつながったのです。

 

また注目すべきは、Unleashedが手がけるビジネスサポートの契約会員である中小オーナーたちは、このサービスを追加費用なしで使えるという点です。同社のチーフオフィサーであるLisa Miles-Heal氏は、「大手スーパーと取引するほどの規模ではない、道半ばにいるビジネスオーナーを救うためにこのサイトを開設した」と述べています。実際、The Marketplaceは同サイト上で商品の売買は行わず、ほしいものがあったら販売者のページに飛び、購入手続きを直接オーナーと行う仕組みになっており、仲介料も一切かかりません。

 

ロックダウン中は買い物以外の消費活動を制限されたため、多くの人たちは「生活の質を少し高めるニッチな商品」を求めていました。それと同時に「Be kind」がコロナ対策のスローガンとして掲げられていたNZでは、困っているビジネスオーナーの力になりたいと思う消費者もたくさんいたので、The Marketplaceの誕生は渡りに船でした。ユーザー会員であるMatt Morison氏(Karma cola設立者)はこのサイトについて以下のように賞賛しています。

 

「レストランやカフェなど、私たちの卸先はロックダウンによって店を閉めることを余儀なくされました。Unleashedはこの状況にいち早く気づき、このサイトを作ってくれました。このサイトは消費者が私たちのような小さな地元企業を支えることができる素晴らしい場所です」

 

実際にサイトで扱っている商品を見ると、そのジャンルが実に多岐にわたっていることがわかります。スーパーでは買えないようなこだわりのパンやオリーブオイル、ワイナリー直送のワインなどの食品・飲料だけではなく、オーガニック素材にこだわったスキンケア用品やサプリメント、変わり種ではキャンバス布や倉庫の収納整理棚、梱包品などを販売するサイトまで幅広く紹介されています。消費者は販売者に直接アクセスできるため、そのブランドコンセプトを詳しく知ることができるうえ、地元の経済に貢献することもできます。まさに三方よしでしょう。

 

現在、The Marketplaceは対象地域を積極的に拡大し、現在ではNZだけでなくアフリカから南北アメリカまで世界中へと規模を広げています。多くの中小企業にとって先行きはいまだに不透明ですが、このサイトによって少しでも多くの中小企業が活路を開くことを祈るばかりです。

 

執筆者/加藤 海里

 

英国初「ボートに乗る水上シネマ」で映画が変わる

ロックダウン再発動の懸念はあるものの、新学年がスタートし、職場に復帰する人も増え始めたニューノーマル時代のイギリス。屋内の映画館にはまだ行きたくないけれど、シネマ体験は楽しみたいという人も少なからずいるように思います。そういった人たちの気持ちに応えて、ロンドンの中心地にボートに乗って映画を楽しむドライブインならぬ「フロートイン(float in)」シネマが登場しました。3密を回避したユニークな取り組みを紹介しましょう。

↑「フロートイン」シネマの様子(写真出典:David Parry/PA Wire)

 

ロックダウン規制により、イギリスでは2020年前半まで屋内のエンターテインメント施設が軒並み閉まっていました。その後、夏には公園を会場にしたピクニック風の野外シネマやドライブイン・シネマなど、屋外でリラックスして楽しめるエンターテインメントが人気に。最近では9月にオープンした運河ボートに乗って映画鑑賞を楽しむフロートインシネマが話題になっています。

 

国内初となるフロートインシネマはロンドンのドライブイン・シネマを運営するOpenaireが主催するもので、運河ボートの会社と提携した期間限定の催し。6〜8人程度のグループでボートを貸し切り映画鑑賞できるというユニークなサービスで、ほかの観客とは距離が離れているのでソーシャルディスタンス対策もクリアしています。ボート一艇の価格は200〜250ポンドですが、運河沿いに並べられたデッキチェア席を予約することができ、こちらは一台につき15ポンドとボートに比べてお得な価格になっています。

 

上映されるのは「トイ・ストーリー」や「ライオン・キング」「アナと雪の女王」といったファミリー向けの名作をはじめ、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「アリー/スター誕生」など友人やデートで楽しみたい厳選された話題作です。イギリスのミュージシャン・エルトン・ジョンの半生を描く「ロケットマン」や、ロックバンド・クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーに焦点を当てた「ボヘミアン・ラプソディー」など、観客が映画のヒットナンバーに合わせて一斉に歌うカラオケ・ナイト風のイベントも行われます。

↑映画の新しい楽しみ方(写真出典:David Parry/PA Wire)

 

会場となるのはパディントン地区にある、リージェンツ運河の一角マーチャント・スクエア。この運河は産業革命のころに作られ、鉄道や自動車による交通路が発展していなかった時代に物資輸送の要となっていました。現在は観光ボートが行き交い、カフェやレストランが並ぶロンドン市民の憩いのエリアです。いつもは散歩やジョギング、サイクリングなどを楽しむ人たちで賑わっています。

 

フロートインのゲストはボートが係留されているリトルベニスで乗船し、シネマ会場までの短い距離を自分で操縦することができるという、ちょっと特別な体験が付いています。チェックイン時に消毒済みのワイヤレスヘッドフォンが手渡され、6×3メートルの巨大LEDスクリーンを観ながら高品質のオーディオで映画を鑑賞することができます。

 

メニューのQRコードをスキャンすると、ボートに乗ったままポップコーンやドリンク、アイスクリームなどスナックのオーダーができます。またリトルベニスという地名にちなんで、ラビオリが美味しいと評判のイタリアンレストラン「RaviOllie」 のポップアップ店も登場。こちらもボートやデッキチェア席からオーダーし、できたてのイタリア料理が席までデリバリーされる仕組みになっています。

 

逆境こそ面白い

↑グループで楽しく(写真出典:David Parry/PA Wire)

 

屋外プールを会場にしたシネマイベントは過去にありましたが、ボートに乗って観るシネマはイギリスでは初めてとされています。運河網が発達したオランダのアムステルダムでは、夏になると運河フェスティバルが開催され水上コンサートが行われますが、今回の水上シネマもこれにヒントを得たのかもしれません。

 

空気の流れがよく、ソーシャルディスタンスを確保できるという点で、小型ボートという座席は理想的でしょう。新型コロナの状況にもよりますが、夜間は使われない場所を利用してイベントを催すなど、ソーシャルディスタンスを守ったうえで新たな娯楽を提供する試みは今後増えていく可能性があります。

 

しかし、コロナ第2波への備えを考えると、課題はこれからのシーズンだといえます。屋外に場所を移せた夏とは異なり、気温がぐっと下がる今後の時期に屋内で3密状態を防ぐことはなかなか困難です。第2波への対策として、冠婚葬祭やスポーツチームをのぞき、屋内外で7人以上のグループが集まることを禁止する「ルール・オブ・シックス(Rule of 6)」と呼ばれる規制も新たに導入されましたが、先行きはまだ分らない状態です。

↑ボートの上で新体験(写真出典:David Parry/PA Wire)

 

イギリスではハロウィーンの夜の外出イベントも自粛傾向にあり、子どもがいる家庭だけでなく若い世代も含め、自宅での小さな集まりを楽しむプランに切り替える人が増えています。ただ、劇場や映画館、コンサートなど、大勢の人とともに体験できるエンターテイメントには、自宅では得られない楽しみがあるといえるでしょう。ステイホームばかりでは、やはり飽きがきてしまいます。

 

このまま新型コロナの感染を抑えることができ、雨や防寒対策を工夫することが可能になれば、屋外でも意外な場所を利用したさまざまな試みが可能になるかもしれません。ソーシャルディスタンスを守らなくてはならないからこそ、ユニークなイベントが生まれるチャンスがあるのではないでしょうか?

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【後編】

最近、すっかり定着した感のある「SDGs」というワード。ところで、2015年の国連サミットで採択された、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」であることは知っているけど、実際、具体的にはどういう意味? 自分たちにどう関係があるの? などなどイマイチSDGsについて分からないことが多いのではないでしょうか。そこで前編、後編の2回に分け、元麹町中学校の校長である工藤勇一さんにSDGsについて話をうかがいました。

↑現在は横浜創英中学校・高等学校の校長を勤める工藤勇一先生

 

「学校教育とSDGs」をテーマに、2回に分けてお届けする麹町中学校元校長の工藤勇一先生(横浜創英中学校・高等学校校長)のインタビュー。子育て世代も多いGetNavi web読者に向け、後編では、あるべき学校の姿とSDGsの本質についてお話しいただきます。

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【前編】

 

学校は何のためにあるのか

前回、学校が抱えている真の課題と、麹町中学校での私の取り組みについて話をしました。実は、「よい学校をつくるためには」と、SDGsの「よい社会をつくるためには」は、同じことなんです。最上位の目標がきちんと決まり、目標を実現するための手段を選べば、その手段が次の目標に変わり、さらにその手段を選ぶことができます。そのときに気を付けなければいけないのが、「手段が目的化しない」こと。手段が目的化すると、上位の目標の実現を損ねてしまうことがあります。この一連のプロセスを確実に行うことさえできれば、学校や社会は必ずレベルアップすると考えます。

↑最上位の目標を明確にし、それを実現するために手段を考える

 

そしてこれを進めていくにあたって重要なことが、「全員を当事者にする」ということ。責任を明確にしたり、何か権限を与えたりすると、人は自分事として捉え、考えて行動するようになります。もちろん、合意・共有できる目標でなければいけません。それがなければ、自分の意見や価値観を押し付け合うだけになってしまいます。そして繰り返しになりますが、「目標と手段を明確する」ことが重要です。常に「何のため?」と目標に立ち返り、手段の目的化が起こらないようにします。しかし、残念ながら日本の学校の多くはこうした一連のプロセスのスタート地点にすら立っていないと言わざるを得ません。

 

麹町中学校が掲げる最上位の目標

麹町中学校で最上位の目標(教育目標)として掲げているのが、「自律」「尊重」「創造」ですが、これは、OECDが2030年という近未来をイメージし示した教育の目標ともよく似ていると感じています

↑OECDのLearning Framework 2030と麹町中学校の教育目標

 

そもそも学校とは、子どもたちが将来、社会の中できちんと生きていけるようにするための準備期間だと考えます。そして、学校のもう1つの役割がよりよい社会をつくっていくことだと考えます。誰一人取り残すことのない社会を創り上げることは、容易いことではありません。一人ひとりを尊重していこうとすることは、当然ですが利害関係の対立が生まれるからです。しかし、対立を乗り越え、学校の中の社会を長期的視野に立ち、全員が持続可能な方向でみんながOKと言えるものを見つけ出す。それこそが学校で学ぶべきことだと私は考えます。まさにSDGsの理念です。

↑本当の意味での教育の最上位目標はSDGsと同じ

 

それを実現していくために必要なことが対話です。「みんな違っていていい」と「全員がOK」(誰一人取り残すことのない)は相反する概念ですが、これを両立させることを目指していく対話です。

↑対話によって全員がOKなものを導き出すのが民主的な考え方

 

民主的なプロセスが必要

この対話のあるべき姿について例を挙げて考えてみましょう。わかりやすいのがスポーツの世界です。学校で行われる運動会や体育祭をイメージしてみましょう。例えば、「体育祭であなたにとって何がいちばん大事ですか?」と質問すると、日本の学校の多くの子どもたちからは、すぐに「団結」「チームワーク」「協力」などという答えが返ってきます。

↑みんな違っていてよい。全員がOKなものを探し出す

 

しかし、社会全体の価値観を共有するとき、自分の価値観を他者に押し付けてしまうことはできません。誰一人取り残すことのない価値観を共有することが大切です。人にはそれぞれ個性や発達特性があり、そもそも協力したりするのが苦手な子どもがいたりするからです。対話をするときに重要なのは、1人ひとり異なる価値観を認めつつ、全員にとって何が一番大事なのかを考えるということ。そうすると、自分の価値観では「団結が大事だと思うよ」と言う人も、「あいつは団結って言わないよな」「あいつは1人でいるのが好きだしな」「あいつは勝負にもこだわらないし」となるわけです。そうなると、「全員がOK」というものはめったにないとわかります。

 

「運動を楽しむ」ならどうでしょうか。これならみんな否定しないのではないでしょうか。スポーツは障がいがあってもなくても、運動が得意でも苦手でも楽しめるもの。生涯の友達みたいなもの。自分の人生を豊かにしてくれるもの。そんなことが粘り強く対話を続けていれば、必ず見つかってくるのだと私は思います。そして「運動を楽しむ」ことを、全員が共有する最上位の優先すべき目標だと合意ができれば、それを実現するための手段が的確に選択されていくのだと思います。

 

麹町中学校でのSDGsの教え方

麹町中学校では、SDGsという言葉こそ使っていませんが、SDGsの基本的な考え方を、体育祭と文化祭で教えています。体育祭の最上位の目標は「全員を楽しませよう」。生徒1人残らず楽しませるというミッションを与えるんです。生徒1人残らずというのは、足に障がいがあって走れない子、集団行動が嫌いな子、運動が嫌いな子、そういった子もすべてを含みます。逆に運動が得意だったり、目立ったりするのが好きな子もいます。「どんな生徒も楽しめる体育祭」というミッションを、子どもたちは対話をしながら解決していくわけです。

↑どんな体育祭にするか、みんなで話し合いを行う

 

ブレストやKJ法、マインドマップなど話し合いの技術や、プレゼンのコツなどは教えますが、あとは子どもたちが考え、自由に決めていきます。当日の運営もすべて子どもたち任せ。それを保護者も受け入れてくれています。

 

文化祭になるとさらに難しくなります。「次は社会を広げるぞ。見に来てくれる人がいてなんぼだから、観客の皆さんを全員で楽しませろ!」と。そうすると、地域のおじいちゃんおばあちゃん、小学生、家族、先生たち、全員を楽しませるわけですから、さらに多様な人を相手にしなければいけません。難題ですが、子どもたちは真剣に取り組みます。これらが、子どもたちがSDGsを学ぶための基盤になっています。

↑麹町中学校の文化祭の模様

 

みんなが違っていいけど誰1人取り残さない

このように、目標を定めるための対話こそが大切ですが、この対話が今の日本の教育ではほとんどなされていないように感じています。結局、あらゆるところで大人の価値観を押し付けてしまっています。相反することが起こった場合に、みんなが当事者となり、将来のことを考えて上位の目標で合意するには、痛みを分け合わなければいけません。スウェーデンでは、小学生のころから、学校で来年度の予算について対話で決めるそうです。子どもですから、当然、「あれ買いたい」「これ買いたい」となりますが、全員OKのものを見つけ出すことを目指し、安易に多数決をとることなく、話し合いを続けていくのです。誰1人取り残さないようにする方向で徹底して対話するこの経験が子どもたちの当事者意識を高めていくことにつながっていくのだと思います。

 

SDGsの本質を理解する企業とは

企業も同様かもしれません。SDGsを掲げている企業が多くありますが、SDGsの本質を理解している企業ばかりではないように思います。

 

以前、株式会社IHI(旧石川播磨島重工業株式会社)の元代表取締役だった斎藤保さんと対談をさせていただく機会がありました。同社は元々造船の会社でしたが、現在は資源・エネルギー、社会インフラ、産業機械、航空・宇宙の4つの事業分野を手掛ける総合重工業グループとなっています。企業が生き残れた理由について斎藤さんは、「企業の場合、最上位の目標は経営理念にあります。IHIの経営理念のひとつは『技術をもって社会の発展に貢献する』です。それを徹底していけば、組織を倫理的にきちんと進めていくことができます」と話していました。これこそがSDGsの考え方だと私は思います。

 

 

私の好きな経営者の一人に本田技研工業を創業者、本田宗一郎さんがいますが、彼の意志を継承した“ホンダイズム”という理念に「そこで働く人たちと共に社会貢献していく」ような考え方があります。ホンダは海外に工場を建設した際、現地の人たちと経営方法や仕組みを考えていくそうです。工場の排水が環境問題となった場合、排水を浄化するシステムまで開発し、それを地域の農作物用に利用するなど、現地の人たちを当事者にして課題解決に努めています。まさにSDGsそのものです。

 

先に民主的な考え方を学ぶべき

これからの日本、そして地球には解決していかねばならないさまざまな問題が待ち受けています。どの問題も人は自分のことを優先してしまうから、解決は容易くはありませんが、これを解決していく方法は粘り強い「対話」です。利害の対立を乗り越え、持続可能な社会を目指して合意する。このことを繰り返していくしかないのです。

 

最も大切な究極の目標は平和ですが、私は生徒たちにこう言います。「対話を通して持続可能な平和な世の中を作るという戦いに負けたら人類は滅びるんですよ」と。

 

先に、麹町中学校ではSDGsという言葉は使っていないと言いましたが、子どもたちは「あぁ、これがSDGsのことなんだ」と、たぶん本質的にわかっていると思います。「みんなが違う意見を言えば対立が起こるものだよ」「その対立が起こったときに対話をして、みんながOKのものを探し出すことが大事だよ」と教えているからです。

 

まさに民主主義の考え方なのですが、日本の教育は、民主的な考え方を学ぶ教育が浸透していません。それができてこそSDGsの本当の意味がで理解できるのではないでしょうか。

 

日常からSDGsの理念を体得

前編冒頭で「18歳意識調査」に触れましたが、子どもたちを含め、我々に最も足りないのは当事者意識です。SDGsを「どこか遠い国の話」だとか、「限られた優れた人たちの話」「意識の高い人たちの学問」みたいな捉え方をしていませんか。

 

国連がSDGsで示した、10年後の2030年。もしかすると日本社会は本当の意味で岐路にたっているかもしれません。そうならないために、学校は変わらなければならないと私は思います。

 

学校の中で起こる日常的な人間関係のトラブル全てが、実はSDGsを学ぶ場だと私は思います。生徒はもちろんですが、職員室、PTA活動の中で、まずは大人自身が対話を通して合意することができるようになる必要があります。SDGsという言葉は便利で、ひとつの切り口としては使いやすいかもしれません。でも、まずは自分たちの生活の場で、SDGsそのものの考え方、基本的な理念を体得することこそが大切だと思います。

 

【プロフィール】

学校法人堀井学園 理事/横浜創英中学校・高等学校 校長

工藤勇一(くどう・ゆういち)

1960年山形県鶴岡市生まれ。山形県の公立中で数学教諭として5年務めた後、東京都台東区の中学校に赴任。その後、東京都と目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年4月から東京都千代田区立麹町中学校の校長を務める。大胆な教育改革を実行し、話題を呼んだ。2020年4月から、学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。また、現在、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。著書に、10万部のベストセラーになった『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)ほか多数ある。

 

【JICA地球ひろば】

今回のインタビューは、独立行政法人 国際協力機構(JICA)が運営する「JICA地球ひろば」で行った。世界が直面する様々な課題や、開発途上国と私たちとのつながりを体感できる場、そして、国際協力を行う団体向けサービスを提供する拠点となることを目指して設立された。各種展示では、国連で採択された世界をより良くするための2030年までの目標「持続可能な開発目標 SDGs」などについて学ぶことができる。

〒162-8433 東京都新宿区市谷本村町10-5
電話 03-3269-2911
開館時間 平日10:30~21:00(体験ゾーンは18:00まで)
休館日 毎月第1・3日曜日ほか
詳細は次のホームページでご確認ください。
https://www.jica.go.jp/hiroba/index.html

 

 

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【前編】

最近、すっかり定着した感のある「SDGs」というワード。ところで、2015年の国連サミットで採択された、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」であることは知っているけど、実際、具体的にはどういう意味? 自分たちにどう関係があるの? などなどイマイチSDGsについて分からないことが多いのではないでしょうか。そこで今回は前編、後編の2回に分け、元麹町中学校の校長である工藤勇一さんにSDGsについて話をうかがいました。

↑今年の4月から横浜創英中学校・高等学校の校長に就任した工藤勇一先生

 

東京都千代田区立麹町中学校の校長に2014年に就任後、宿題や固定担任制の廃止ほか“学校の当たり前”をやめ、子どもの自律を重視した教育改革に取り組んだ工藤勇一校長先生。先生の教育論はSDGsの考え方と共通する部分があります。前編では、学校教育が抱える真の課題について語っていただきました。

 

大人の自覚がない日本の高校生

まずは下記の図表をご覧ください。2019年11月に日本財団が発表した「18歳意識調査」です。世界9か国の17~19歳各1000人の若者を対象に、国や社会に対する意識を聞いたものです。

↑日本財団「18歳意識調査」(2019.11.30)より

 

結果を見ると、日本は他国と比べて尋常ではない数値であることがわかります。この数値が日本の高校生を象徴していると仮定するならば、日本の未来は非常に心配です。

 

どの項目も他国に比べて著しく低いことがわかります。最後の2項目、「自分の国に解決したい社会議題がある」「社会議題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」はSDGsにも関係しますが、突出して低い数値になっています。そもそもSDGsについてほとんど関心を持っていない生徒が多いということを示しています。

 

しかし、この調査結果は若者たちの姿だけを示しているのもではなく、我々大人自身の姿であるのかもしれません。大人自身がすべてにおいて「他人事」だから、自分たちで国を変えようという意識が子どもたちに生まれないのだと考えます。だから、この度の新型コロナウイルスのような出来事のような、とんでもないことが起こっても、私たちはただただ受け身の姿勢で、誰かが何かをやってくれることばかりを期待してしまいます。そして思ったようにことが進まないと、やってくれないことを批判することに終始する、そんな社会になってしまったのかもしれません。

 

自律・主体性を失った子供たち

どうしてこのような社会になってしまったのか――。ある意味日本はサービス過剰の社会だからかもしれません。学校も行政も単なるサービス機関になってしまったように感じています。人はサービスを与えられ続けると、次第にそのサービスに慣れていきます。そしてもっとよいサービスをと、さらに高品質を求めるようになっていきます。そして不満を言うのです。

 

学校も行政も本当は、みんなが当事者でなければいけないはずです。しかし、みんながただただサービスを与えられる側になってしまっているのです。幼児期から手取り足取りモノを教え、壁にぶつかれば手を差しのべる。早期教育など、少しでもいいサービスを受けさせれば子どもの学力が上がると勘違いしています。そして、与えられることに慣れた子どもは、手をかけられればかけられるほど自律できなくなっていきます。そして、うまくいかないと人のせいにするようになる。例えば、勉強がわからなければ「先生の教え方が悪い」「塾が悪い」などという具合に。

 

リハビリの3つの言葉がけ

私が今年の3月までいた麹町中学校は、教育熱心な保護者が多く、子どもたちは、幼児期から手をかけられて育ってきました。そのためか、自律性と主体性を失った挙げ句、自分で考えて行動ができない子どもたちがたくさん入学してきます。劣等感でいっぱいで自己肯定化が低い。わずか12歳の子どもが「自分はダメですよ」などと言うんです。やる気は見られないし、先生を含め、そもそも大人を信用していません。

↑近くには皇居や最高裁判所もある、千代田区立麹町中学校

 

ずっと与えられ続けてきて、自分で考えて判断や行動ができなくなってしまった子どもたちは多くの問題を抱えています。授業中でも歩きまわるし、他人の邪魔をします。友達に嫌がらせはするし、いじめもする。破壊行為だって珍しくありません。ですから、麹町中学校では主体性を取り戻すためのリハビリが必要になってくるのです。

 

最初は現状把握をするために「どうしたの?」と聞きます。例えば、騒いで授業の邪魔をする子どもがいたら、「どうしたの?」「何か困っているの?」と。小学校時代、頭ごなしに叱られてきた子たちたちは、叱られないことにまず驚きます。

 

次に、「君はこれからどうしたいの?」と聞く。これまでの中学校では、「邪魔するならとっとと帰れ」「空いている教室に行け」など、先生がある意味高圧的な指導で行動を指示をするのが一般的だったかもしれません。でも、「君はどうしたいの?」と聞かれると、どうしたいか自分で考えざるを得ません。

 

そして3つ目の言葉は、「何を支援してほしいの?」です。トラブルを起こした子どもが、自己決定しなければならない状況に自然と導くのです。とはいえ、主体性がなく自律できない子どもは、最初は自己決定などできません。例えばそんなときは、「支援できるとすれば、別室ぐらいは用意してあげられるよ」「君が選択できるとすれば、教室に戻って我慢して1時間授業を聞くか、別室にいて何かやっているかだけど、どうする?」と助け船を出します。そうすると、「別室に行かせてください」と返ってくる。子ども自身に決定させるのです。「1時間でいいかい?」と、さらに考えさせ、自己決定させます。

↑子どもに自己決定させるための言葉がけ

 

ほんの些細な自己決定に過ぎませんが、この「自己決定をする」というプロセスはすごく大事な作業で、これを何度も繰り返すことが重要です。繰り返していくうちに、主体性が徐々に戻り、自己肯定感が高まってきます。さらに、自分が支えられているという安心感が生まれ、他者を尊重する気持ちが芽生えてくるのです。

 

リハビリにより子どもたちに変化が

麹町中学校では、第1学年を「リセット(リハビリ)する時期」と位置付けています。

 

↑リセットにかかる期間は子どもによりまちまち

 

中学1年生相手にリハビリを展開するのは、教員にとってすごく忍耐のいる作業です。「宿題は出しません」「勉強をしたくなければしなくていいですよ」と言われれば、授業中でも子どもたちは遊んでいます。はじめに教えるのは、「あなたに勉強しない権利はありますが、他の人の勉強の邪魔をする権利はありません」というルールぐらいです。とは言っても、授業中に遊び続けられていると、「何やっているんだ」「時間の無駄だぞ」と教員は注意したくなります。注意するのは簡単ですが、それでは元も子もない。前述した3つのセリフをどのタイミングでどのように使えばいいのか、教員たちは日々悩み試行錯誤しながら教育活動を行っています。

 

当初は、「どうしたの?」と聞くと、「いやぁ」とヘラヘラ笑うか、「別に」と素っ気なく答える子どもがほとんどでした。無気力なんです。ところが、粘り強く「どうしたいの?」「手伝うことある?」と教員が訊き続けると、1日過ぎ、2日過ぎ、1週間過ぎ、1カ月過ぎ、次第に無気力な子どもが減っていきます。

 

いろいろなトラブルが起こり、そのたびにこうしたアプローチを続けていくうちに、「先生は信頼できる存在なのかも」と、子どもたちも心を開き始めます。

 

ずっとやる気がなく、授業中ほとんど勉強しない子のリハビリに8カ月かかったこともありました。その子は数学の時間、毎時間遊び続け、教員はひたすら我慢し、待ち続けました。7カ月が過ぎた頃、何かのきっかけで、その子が、1問、問題を解いたんです。その瞬間に気付いた教員が声をかけたら、スイッチが突然入ったんですね。その子はそこからわずかひと月半で、1年生のカリキュラムを全部終わらせることができました。これは、教員たちにとっても改めて待つことの大切さを感じた出来事となりました。

 

麹町中学校が行ってきた取り組み

こうした麹町中学校の取り組みはマスコミでも話題になりました。定期テストと宿題、服装・頭髪指導、固定担任制の廃止などです。子どもは場面に応じてその都度、先生を逆指名します。例えば中3の進路面談では、1年生から3年生までの全教員の中から相談に乗ってもらう教員を選べます。自分で選んだ先生ですからもちろん文句を言うことはありません。教員間での妙な競争意識がなくなり、教員たちも子どもたちに対して過剰なサービスをしなくなります。ある意味、教員の働き方改革にもつながりました。

↑話題になった、麹町中学校での主な取り組み

 

私は元々、数学の教師ですが、麹町中では数学にAI(人工知能)教材を取り入れた全く新しい指導を行いました。教員は3年間、一斉指導を行うことをやめたのです。基本的に毎時間、子どもたちが自主的に好きなように学べるのです。自分で問題集を持ってきて1人で解いている子どももいれば、AI教材を使って勉強している子もいます。もちろん先生に質問することもできます。この授業スタイルを取ってから、落ちこぼれる子どもがいなくなりました。特にAI教材は効果的です。どの子がどの部分につまずいているかをAIが瞬時に判断し、わからない箇所は小学校1年生の基礎まで戻れます。逆に数学が得意な子どもは、どんどん進んで、高校の内容まで勉強できるなど、教員が教えない方が遥かに効率的だということがわかりました。

 

大切なのは手段が目的化しないこと

宿題の廃止にも大きな意味がありました。宿題の目的は「学力を高めるため」ですが、一律に課すことにより、先生に怒られるからと子どもたちは「宿題を提出する」ことに意識がいってしまいます。そのため、例えば20問ある宿題があった場合、わからない問題を飛ばし、提出するためだけに時間を使います。本当は、飛ばした「わからない問題」を勉強することこそが大切なのに、それでは学力は何も変わりません。また、すでに理解している子どもにとっては単なる時間の無駄でしかありません。日本の教育は全てこれです。目的を達成させるための“手段”である「宿題をやる・提出する」ことが、目的化してしまっているのです。

↑わからない「×」の部分を「〇」にする努力をしなければ学力は何も変わらない

 

現在の学校教育を振り返ってみると、意味のないことをたくさん行っているように感じます。誰も読まない作文を書いたり、宿泊行事では集団行動が重視されたり、挨拶運動をさせたり。手段そのものが目的化し、本当の目標がブレてしまっているのです。よくあるのが、「みんなでSDGsを研究しましょう」という課題。さんざん研究して、その成果を廊下などに掲示したりしていますが、誰も読んでいません。これは、SDGsを研究させて発表すること自体が目的になっているからです。これでは何のためにやっているかわかりません。学校にはこのような手段の目的化が多く存在します。

↑手段が目的化している例

 

画一的な教育から多様な教育へ

日本の学校では、いまだに「礼儀」「忍耐」「協力」が強調され続けています。日本古来の「いい」考え方だという捉え方をされていますが、これらを優先することで排除されてしまう子どもたちが少なからずいることを忘れてはいけないと私は感じています。自閉症スペクトラムのような特性を持った子どもたちの多くは挨拶やコミュニケーションを苦手としています。友達と協調することが苦手な子どももいます。本当に大切にすべきことを優先にできる教育を行うことができなければ、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツのような起業家は生まれてこないと私は思います。

 

日本の学校では、先生の言うことを聞く子どもがよしとして育てられ、自律できないまま大人になってしまう子どもたちが数多くいます。終身雇用制度の時代であれば、組織の歯車としてはいいのかもしれません。しかし時代は急激に変化しています。終身雇用制度は崩壊し、転職や企業を、自分で考えて決め、行動しなければなりません。となると、学校の最上位の目標は「自律性・主体性のある子どもを育てる」でなければなりません。

 

学習のやり方はいろいろあるのに、一つの方法を全員に強制するのも手段が目的化してしまった一例です。一人ひとりの可能性を伸ばしていくために、これからの学校は、学習者主体で考えていくことが大切です。子どもたちが「何を学んで(カリキュラム)」「どう学ぶか(学び方)」を決められるようにしていくことです。例えば、発達に特性があって、プログラミングにしか興味が子がいるとすれば、その子にそれをたっぷり勉強できる環境を作ってあげる。そんなことができたらと思います。多様な子どもたちに、個別最適化した教育を行うことによって、多様な人材が生まれる。そんな学校教育を実現したいものです。〜後編に続く

 

【プロフィール】

学校法人堀井学園 理事/横浜創英中学校・高等学校 校長

工藤勇一(くどう・ゆういち)

1960年山形県鶴岡市生まれ。山形県の公立中で数学教諭として5年務めた後、東京都台東区の中学校に赴任。その後、東京都と目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年4月から東京都千代田区立麹町中学校の校長を務める。大胆な教育改革を実行し、話題を呼んだ。2020年4月から、学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。また、現在、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。著書に、10万部のベストセラーになった『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)ほか多数ある。

 

【JICA地球ひろば】

今回のインタビューは、独立行政法人 国際協力機構(JICA)が運営する「JICA地球ひろば」で行った。世界が直面する様々な課題や、開発途上国と私たちとのつながりを体感できる場、そして、国際協力を行う団体向けサービスを提供する拠点となることを目指して設立された。各種展示では、国連で採択された世界をより良くするための2030年までの目標「持続可能な開発目標 SDGs」などについて学ぶことができる。

〒162-8433 東京都新宿区市谷本村町10-5
電話 03-3269-2911
開館時間 平日10:30~21:00(体験ゾーンは18:00まで)
休館日 毎月第1・3日曜日ほか
詳細は次のホームページでご確認ください。
https://www.jica.go.jp/hiroba/index.html

ハワイ史上最も暑い夏を引き起こした「ブロブ」の最新研究が示す「気候変動」

記録的な夏の高温や世界各地で頻発する山火事など、さまざまな異変が世界レベルで起きていますが、そんな変化は広大な海のなかでも起きているようです。そのひとつが、2013年~2015年頃から北太平洋で観察されるようになった「温かい水の塊」。周辺の水温よりも最大で4度近く高くなるこの現象を科学者たちは「Blob(ブロブ)」と呼び、その原因や今後の発生頻度などについて調査してきました。

 

最高気温更新のウラに……

↑ Blobのイメージ

 

2013年頃から観察されていたブロブは、サンゴの白化やザトウクジラの個体数減少など生態系や漁業にも大きな影響をもたらしていると見られていますが、その影響は常夏の楽園にも及んでいました。2019年の夏にはハワイで最高気温記録を更新する日が29日もあり、史上最も暑い夏となったのです。

 

ハワイは本来、比較的冷たい海水に囲まれた地域にあり、夏であっても過ごしやすい気候なのですが、その年の夏については北太平洋の海域でブロブが発生し、平年より2~4度ほど高い海水に囲まれていたのだそう。そのため、このブロブによって夏の異常な暑さがもたらされたものと見られています。

↑2014年と2019年との比較。海面気温が上昇していることがわかる

 

温暖化でブロブの発生頻度も上昇

周辺よりも高温な気温の塊が、波のように押し寄せてくる現象を「熱波」と言いますが、ブロブは海中で起きる熱波のようなもの。日本語では「海洋熱波」と表現されることもあるこのブロブですが、発生の原因は何なのでしょうか? 最も単純な見方は、やはり地球規模で起きている気候変動の影響でしょう。

 

スイスのベルン大学の研究チームが先日発表した内容によると、1981年~2017年に記録されたブロブを解析したところ、ブロブは平均して150万平方キロメートルの大きさで40日間続き、海水温が最高で5度も例年より高いことがわかりました。さらに近年起きた大型のブロブについて、どのような確率で発生していたか計算すると、人為的な気候変動が原因で20倍も高い確率でブロブが発生すると判明したのです。

 

同チームによると、過去10年間で観測された最強のブロブは、産業革命前の気候では数百年~数千年に一度程度しか発生しなかっただろうと見られるとのこと。しかし、これから世界の平均気温が1.5℃上昇するとしたら、同じ規模のブロブは10〜100年に1度の頻度で発生し、気温が3℃上がるとしたら、10年に1度の頻度で起こると予想されるそう。

 

世界各地で引き起こされる、さまざまな異変。このまま続けば、さらに予想外の大きな影響が出てくる可能性だってあり得るでしょう。夏の厳しい暑さも、山火事も、海のブロブも、地球からの警告なのかもしれません。

 

【出典】

Laufkötter, C., Zscheischler, J., & Frölicher, T. L. (2020). High-impact marine heatwaves attributable to human-induced global warming. Science, 369(6511), 1621-1625. https://10.1126/science.aba0690

 

布団の新たなる効用! 「重い布団」が「睡眠」を劇的に改善する

羽毛布団は、ふかふかして高級感もあり、気持ちよく眠りにつけそうな気がします。でも、睡眠を良くしてくれるのは羽毛布団だけに限りません。最近の研究で、不眠症患者が重い毛布を使うと睡眠が改善したことがわかりました。

 

重さ8kgの毛布で不眠症回復率が20倍

↑重い布団に変えたほうがいいかもしれません

 

スウェーデンのカロリンスカ研究所の精神科医を中心とした研究チームは、布団の重さと不眠症などの関係を調べるために、不眠症と診断され鬱や不安障害などの精神疾患を併発している120名の成人(女性68名、男性32名、平均年齢は約40歳)に対して実験を行いました。研究者たちは被験者たちをランダムに2つのグループに分け、一方には鎖を付けて重さ8kgにした毛布を、もう一方にはプラスチック製の鎖を付けた重さ1.5kgの毛布を支給し、自宅で4週間過ごしてもらいました(重さ8kgの毛布が重過ぎると感じる人は6kgのものを代用)。

 

その結果、軽い毛布のグループでは、被験者のうち5.4%しか不眠重症度を表すISIスコアの改善が見られませんでした。それに対して、重い毛布のグループでは、ISIスコアが50%以上下がった人の割合が60%近くに達し、睡眠状態が改善され、日中の活動レベルや精神疾患の症状の改善が見られました。さらに不眠症の回復まで達した人は、軽い毛布のグループのうちわずか3.6%だったのに対し、重い毛布のグループでは42.2%と、20倍近く良い結果を得られたのです。

 

また、4週間の実験終了後、希望者には好きな毛布を選んでもらい、さらに12か月間の経過観察を行ったところ、ほとんどの患者が重い毛布を選びました。最初の4週間の実験で軽い毛布を使い、その後重い毛布に変えた人も、同じように睡眠が改善。12か月後、重い毛布を使った人の92%に変化が見られ、不眠症が改善した人は78%に達しました。

 

重さ8kgの毛布というと、一般の人にはずっしりと重く感じられるはず。そのような重みがなぜ不眠症改善に効果をもたらしたのでしょうか? この実験を行った研究者によると、毛布の重みによって、体中にある筋肉や関節に刺激が与えられ、指圧やマッサージと同じような効果が得られたと推測できるとのこと。深部へ圧力をかけると、心身の緊張を緩める副交感神経の働きが促進されると同時に、興奮するときに活発化する交感神経が静められると研究者らは示唆しています。

 

確かに不安や心配事を抱えているときは、軽いふわふわとした布団を掛けてもすぐに眠れないですよね。そんなときは、重い布団をかけることで身体から心の状態を変えるほうがいいのかもしれません。不眠症でない人も寝つきが悪いときは、少し重い布団を掛けてみてはどうでしょうか?

 

【出典】

Ekholm B, Spulber S, Adler M. A randomized controlled study of weighted chain blankets for insomnia in psychiatric disorders. J Clin Sleep Med. 2020;16(9):1567–1577. https://doi.org/10.5664/jcsm.8636 

ブラジルで環境に優しいエアコンを:官民連携で省エネ基準改正を実現【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ブラジルで進む環境に優しいエアコン普及のための取り組みについて取り上げます。

 

2020年7月、ブラジルで空調機向けの省エネ基準が改正されました。これは、ブラジルで日本のエアコンメーカー・ダイキン工業が、JICAの民間連携事業「中小企業・SDGsビジネス支援事業」を活用して現地の大学などと連携し、時代に対応できていなかった規制制度の改定をブラジル政府に働きかけてきた結果です。民間企業の取り組みによって国の規制改定に至ったのはブラジルでは初めてでした。これに伴い、今後、ブラジルのエアコン市場は、環境に優しい空調機が普及しやすくなり、エネルギーや環境保全の課題に貢献することが見込まれています。

↑ブラジルにあるダイキン工業の工場。JICAとダイキン工業はブラジルの省エネエアコン基準改正を後押ししました

 

空調機の性能評価の基準が改正された

ダイキン工業は、JICAの民間連携事業として「ブラジルでの環境配慮型省エネエアコンの普及促進事業」を2018年から実施しています。このブロジェクトが始まった頃のことを、当時の担当者だったJICA民間連携事業部の関智子職員は次のように振り返ります。

 

「ダイキン工業は、現地に法人と工場を持ち、すでにブラジル市場に参入していましたが、ブラジルの空調機の性能評価の基準が時代に適合していなかったため、同社製のエアコンの性能がどれほど高くとも、ブラジルの市場では評価されませんでした。しかし、単独の民間企業が国の評価制度や基準改正に向けて取り組むには限界があります。ダイキン工業によるJICA民間連携事業は、ブラジルのエネルギー課題への対応と日本企業の技術活用、その両方に貢献できる事業としてスタートしました」

 

ダイキンブラジルの三木知嗣社長は、「ブラジル政府も、エネルギー問題をどうしていくかということについて危機感を持っていました。そのタイミングで、JICAと連携することで『日本が国として動く』という姿勢をみせられたことは大きな力になりました」と語ります。

 

今回の改正では、空調機の性能評価方法について、国際的に広く用いられる評価基準のISO16358が適用されます。この改正基準は2020年7月に公布後、2023年と2026年には、段階的に時代に合わせた基準値の義務化が予定されています。

↑新制度の開始を告知するブラジル国家度量衡・規格・工業品質院(INMETRO)のwebサイト

 

時代遅れであったブラジルの省エネラベリング制度

ブラジルでは、エアコンの省エネ性能を表示するラベリング制度も機器の性能を適切に反映できるものに改善されます。この省エネラベリング制度については、省エネ性能に優れ世界の主流になっているインバーター機が正しく評価されておらず、問題が山積していました。

 

これまでは非インバーター機を対象とした基準になっており、約10年間も省エネ基準の見直しが行われていませんでした。そのため、インバーター機が非インバーター機に比べて最大で6割も消費電力が低いにもかかわらず同一カテゴリーに分類されており、省エネ品質表示としては実質的に機能していないものだったのです。

 

「ブラジルで売られているエアコンの多くが、省エネ性能に劣り、他国ではもはや売れなくなったような旧型製品です。しかし、従来のラベリング制度では市場に流通するこれらの製品の9割以上が最高グレードのAランクに分類されるため、ユーザーにとっては非常に分かりにくい制度になっていました」と、三木社長はブラジルの状況を振り返ります。

 

旧制度のままでは、インバーター機が正当に評価されず、その普及が遅れることは、ブラジルのエネルギー・環境問題にとって大きな課題でした。こうして、ダイキン工業とJICAは、これらの課題を解消するために、多くの施策に取り組んだのです。

「中南米ではインバーター機の普及が他地域に比べて遅れている」  世界の住宅用エアコンのインバーター機比率(2018年):住宅用エアコンとは、ウインド型、ポータブル型を除く住宅用ダクトレスエアコン(北米のみ住宅用ダクト式エアコンを含む)。日本冷凍空調工業会データを参考に作成(資料提供:ダイキン工業)

 

新しい基準設定のため産官学連携で働きかけ

消費者に省エネ意識が定着しておらず、国の省エネ政策もまだまだ弱いブラジルで、基準や制度の改定に向けた働きかけは簡単なものではありませんでした。ダイキン工業はJICAの支援を得て、現地の大学やNGO、国際機関などと連携し、共同実証試験の実施など、課題と対策について繰り返し話し合いの場を持ちました。

 

さらに、ブラジル政府関係者の日本への招聘、日・ブラジル政府次官級会合、ブラジル空調懇話会などを実施。ダイキン工業の工場見学など現場への訪問やWEB会議を重ね、理解を深めるための的確で正しい情報の提供と、改正案を整えるための懸命な働きかけを重ねることで、改正は進んでいったのです。

↑ブラジル政府関係者の日本来訪時の様子(2019年)。ダイキン工業滋賀工場の見学(上)や、家電量販店のエアコン売り場視察(下)

 

JICA民間連携事業部の担当者である山口・ダニエル・亮職員は「取り組みに対する、ダイキン工業の皆さんの熱量が高かった。それがブラジルの関係者に伝わったのだと感じます。さらに、ダイキン工業の高い技術力に裏付けされた実績と信頼、複数の専門分野の関係者を巻き込んだチーム運営、官民連携による対話の機会構築が今回の成果に繋がったのだと思います」と語ります。

 

また、ダイキン工業CSR・地球環境センター課長の小山師真さんは「日本にブラジルの関係者を招聘した際にも、先方の『なんとかしなきゃならない』『この機会を活かすんだ』という熱意を感じました。制度や規制を変えるのに必要なのは、日本とブラジル双方の熱意であると思います」と述べました。

 

ダイキン工業は今後、アフリカや中東でも環境に優しい製品を展開していく予定です。JICAは、長年築き上げてきた途上国との信頼関係や幅広いネットワークを活かし、日本の民間企業や研究機関が持つ新技術やノウハウを、途上国の課題解決につなげていきます。

↑現在、世界の主流はインバーター機。写真はブラジルのダイキンショールームに展示されているインバーターエアコン

 

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何やら面白そうなものを作っているぞ! LGが「マスク型空気洗浄機」と「発毛促進ヘルメット」を発表

最近、韓国の家電メーカーLGから話題の商品が2つ登場しました。マスク風のウェアラブル空気清浄機と発毛を促すヘルメットです。アメリカのメディアにも取り上げられるなど海外でも注目を集めているようですが、一体どんな製品なのでしょうか?

 

マスクのようなウェアラブル空気洗浄機

↑新種のウェアラブルデバイス

 

一般的なマスクのように見えるこの写真の商品は、口元に装着できる空気洗浄機「PuriCare Wearable Air Purifier」です。同社の家庭用空気清浄機にも使われている「H13 HEPAフィルター」を2つ備え、装着した人に新鮮できれいな空気を届けるという仕組み。また、呼吸センサーを搭載しており、装着した人の呼吸の量やサイクルを検出します。息を吸うとファンのスピードが上がり、吐くときはファンのスピードが落ちるという具合に、3速のファンが自動で設定されます。820mAhバッテリーを搭載し、ローモードなら最大8時間、ハイモードなら2時間使用できるそう。

 

さらに、マスクの形状は人間工学をもとに設計されており、鼻や顎からの空気漏れを最小限にして、長時間の着用でも快適に過ごせるようにデザインされています。また、付属ケースはUV-LEDライト付きで、使用後の空気清浄機をきれいにしてくれるうえ、フィルターの交換時期もアプリで知らせてくれます。

 

「PuriCare Wearable Air Purifier」は、2020年第4四半期から一部市場で発売される予定(価格未定)。このデバイスについて報じたアメリカのあるメディアの記事に対して「まわりの人たちが普通のマスクをしてくれればいいので、俺はこれにお金を使うつもりはない」「いいアイデアだ」と賛否両論が寄せられています。

 

光治療で発毛を促すヘルメット

マスク型ウェアラブル空気洗浄機に続き、新製品としてLGから発表されたのが、発毛を促すヘルメット「LG Pra.L MediHair」です。男性型脱毛症の治療法として、米国食品医薬品局(FDA)から認められた低レベルの光治療(LLLT)を採用。146個のレーザーと104個のLEDライトが毛包幹細胞を刺激して、発毛をサポートし男性型脱毛を遅らせるのだそう。LGによると、盆唐ソウル大学病院で行われた臨床実験で、このヘルメットを1週間に3回装着し16週間続けたところ、髪の密度や太さに改善が見られたのだとか。このヘルメットのリリースは2020年末頃の予定です。

↑これを頭にかぶれば、髪の毛が増えるかも

 

どちらの商品も日本で発売されるかまだ明らかとなっていませんが、LGはなかなか興味深い生活家電を作っているようです。

 

コロナ禍にスポーツのチカラでできること:地球ひろばでオンラインイベントと企画展を開催【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、スポーツをテーマにJICA地球ひろばで開催された一般参加型のオンラインイベントについて取り上げます。

 

新型コロナウイルスの流行がスポーツにも大きな影響を与えるなか、JICA地球ひろば(東京・市ヶ谷)では、スポーツの力や役割を見直そうと、オンラインイベントや企画展を開催しています。地球ひろばとしては初の取り組みとなった一般参加型のオンラインイベントでは多様な参加者による意見が飛び交い、スポーツを通じた新たな交流の場として盛り上がりました。

↑さまざまな意見が発信され、スポーツファンの交流の場となったオンラインイベント。全国各地から45名が参加しました

 

「途上国でのスポーツ普及は、可能性や希望、夢を与えることであると再認識」といった感想も

JICA地球ひろばで開催されたのは、五輪応援企画「オンラインでワールドカフェ! ザンビア パラ陸上支援 野﨑雅貴さんと考える日本と世界の体育・スポーツの価値の違いとポストコロナのスポーツの役割」と題したオンラインイベントです。野﨑さんはアフリカのザンビアで、青年海外協力隊の体育隊員として活動していた経験を持ちます。

 

当日は、高校生や大学生から、海外経験豊富な社会人まで、さまざまな立場の男女45名がオンラインで参加。スポーツの持つ力やその未来になどについて、活発な議論を交わしました。

 

参加者からは「スポーツを通して、礼儀なども身につくのが日本の体育教育のよい点だと思う」「日本の体育には、取り組む種目が多いので誰もが輝ける時間があるのが素敵なのではないか」といった意見が出され、日本の体育文化への議論が高まります。また、「ポストコロナとスポーツ」というテーマについては、「これからは人に触れないような形でのスポーツが主流になっていくのではないか」「コロナ収束後は、現地に行かなくてもスポーツに関する国際協力ができるようになるのではないか」といった、未来に向けてのさまざまな声が聞かれました。

↑野﨑さんのザンビアでの体験をもとにテーマが提示され、参加者同士のグループディスカッションが繰り広げられます

 

イベント終了後には、「幅広い年齢の方が参加していたこともあり、ディスカッションを通して、新しい視点で物事を考えることができた」「ディスカッションで、途上国でのスポーツ普及は、可能性や希望、夢を与えることであると再認識した」といった感想が参加者から寄せられ、参加者が主役となるディスカッションイベントとなりました。

 

イベントを企画した、JICA青年海外協力隊事務局でスポーツと開発を担当する浦輝大職員は、「今はネット上で簡単に情報を得られる時代なので、野﨑さんの体験談だけであれば、You tubeにアップして好きな時間に視聴してもらうことでもきます。でも、せっかく参加者の方々に同じ時間に集まってもらうのであれば、みなさんそれぞれが考えていることを共有する場になることが重要。そのような場が提供できればと今回のオンラインイベントを開催しました」と話します。

 

現在、地球ひろばのガイド役(地球案内人)を務めている野﨑さんは、「参加者が皆、積極的に発言しているのに感動した」と期待を上回る反応の良さに驚きを隠せない様子でした。

↑青年海外協力隊での体育隊員としての経験をプレゼンテーションする野﨑雅貴さん

 

地球ひろば企画展「スポーツのチカラで世界を元気に」を開催中

現在、JICA地球ひろばでは、スポーツを通じてできることを考えていく企画展「スポーツのチカラで世界を元気に」が開催されています。

 

東京オリンピック・パラリンピックの時期にあわせて開催する予定でしたが、新型コロナウイルスが広まるなか、「こんな時期だからこそスポーツのチカラを考えてみたい」という趣旨で企画されました。

↑企画展の入り口。地球案内人(展示のガイド役)の本宮万記子さん(左)と笈川友希さん(右)

 

展示は、「スポーツと国際協力」、「スポーツ技術の向上・教育としてのスポーツ」、「スポーツをすべての人に」、「ジブンゴトで考えよう」の4つのゾーンに分かれています。それぞれ解説パネルや、競技用の義足やバスケットボール用の車いすなど実際に使われているスポーツ用具が置かれ、ボッチャや綱引きといった競技を疑似体験できるコーナーもあります。会場では、野﨑さんをはじめとした地球案内人がガイドし、案内人はフェイスシールドを着用して、手で触れる展示物はこまめに消毒をするなど、コロナ対策を万全に来場者に対応しています。

↑会場内の様子。ボッチャの体験コーナーと綱引きの体験コーナーなどがあります

 

地球ひろばの中村康子職員は「来館者の方から『ボッチャやバスケットボール用の車いすの試乗体験は、スポーツの楽しさを体験できたし、人間の体の大きな可能性を実感した』という声をいただいています。ぜひたくさんの人に来場いただきたいです」と話します。企画展は、今年10月29日まで開催されています。

 

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コロナ禍のイギリスが編み出した「家飲み」の新スタイルがいかにも英国人らしい

新型コロナウイルスによる影響で、イギリスではこれまで以上にアルコールのオンライン販売が伸びています。さまざまな規制によって以前のようにパブやレストランで飲食を楽しめない日々が続いていますが、その代わりにイギリスでも家飲みが増加。ビールだけでなく、ワインやカクテルといったお洒落なお酒にも人気が集まっているようです。イギリス人はどうやって家飲みを楽しんでいるのでしょうか?

 

バーチャルパブ

↑パブの雰囲気に酔いしれて……

 

「イギリスといえばパブ」と言われるほど歴史の長いパブは、ビールやウイスキー、ワインを飲みながら交流を楽しむ場として昔から愛されてきました。ところがロックダウン中は閉店が続き、パブが恋しいと嘆くイギリス人が続出。そこで登場したのが「バーチャル・パブ」です。

 

バーチャル・パブには、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは個人が自宅でパブの雰囲気をつくり出し、オンラインを通して友人や家族とお酒を楽しむもの。もう1つはさまざまなイベントをオンラインで開催するパブです。

 

例えばFuller’s という大手パブチェーンは、毎週水曜日の夜にバーチャル・パブクイズを開始しました。また金曜日の「ハッピーアワー」の時間帯には、オリジナルカクテルに詳しいミクソロジストやビール業界のリーダーなど、お酒の専門家によるワークショップやカクテル作りのレクチャーを配信。音楽に耳を傾けながら静かに飲みたいときには、たっぷりと音楽の世界を満喫できるライブミュージックのイベントも毎週開催しています。

 

コロナ前では考えられなかった新体験

ビールやウイスキーで有名なイギリスですが、最近はカクテルの人気も高まっており、ロックダウン中には、カクテルの宅配も登場しました。ロンドンをはじめとする大都市のバーやレストランでは、カクテルだけでなくカクテル用グラスや氷、おつまみの注文も受けています。

 

プロがつくった本格的なカクテルを自宅で味わえるというユニークな体験は、コロナが蔓延する前には考えられないことでした。このようなひとときは、1日の疲れやコロナによるストレスを吹き飛ばしてくれます。

 

ワインやカクテルといえばグラスで飲むことが多いと思いますが、イギリスでは最近、缶入りのワインやカクテルが店頭やオンラインで販売されるようになりました。特にカクテルは手軽にいろいろな種類を試してみたい好奇心旺盛なイギリス人に好評で、人気が高まっています。

 

現在トレンディで手軽なカクテル缶といえば、2019年にアメリカから上陸した「ハードセルツァー」でしょう。これは、サトウキビを原料としたいろいろな種類のスピリッツをベースに、果物で風味をつけた低カロリーのヘルシーな発泡酒です。各ブランドによりカロリーやアルコール含入量はさまざまですが、例えば、スミノフのラズベリー・ルバブ風味250ml缶(下の画像)の場合は72カロリー、アルコール率は4.7%に抑えられています。

↑イギリスで大人気のハードセルツァー

 

ハードセルツァーはグルテンフリーや低カロリーなどの要素を取り入れ、健康に配慮していますが、さらにインスタグラム映えするオシャレなデザインでも消費者にアピールしています。このような戦略が功を奏して、健康維持や体重管理のために、ワインやビールの代わりとしてハードセルツアー飲むイギリス人が増えているようです。最近は、ミントや唐辛子を効かせたユニークな風味のハードセルツアーも続々と登場。500円前後で買える250mlのスリムな缶は、自宅のバーベキューパーティーやピクニックでも人気があります。

 

イギリス人にウケている「カクテル・サブスク」

カクテル人気が高まるイギリスでは、サブスクリプションもよく利用されています。カクテルファンの多くはシェーカーや専用グラスを持っているほど熱心なことから、カクテルのサブスクリプションはコロナが蔓延する前から注目されていました。

 

一般的なカクテル・サブスクリプションには「自分で好きなカクテルを選んで送付してもらうコース」や「規定のカクテルを送付してもらうコース」などがあり、「ギフトボックスコース」もラインナップされています。カクテルの袋詰めが箱入りでユーザーに送付されるものもあり、自宅にグラスと氷さえあればカクテル用シェーカーがなくても簡単に味わうことできます。

 

さらに、マティーニといった伝統的なカクテルのほかにも、コーヒー、ココナッツ、パンプキン、パイナップルなどをベースとしたさまざまなカクテルがあり、自宅にいながら世界の味を楽しむことができるのもお酒好きには堪らないでしょう。このような特徴をもつカクテル・サブスクリプションは、斬新的でエキサイティングな商品を好むイギリス人に喜ばれています。

 

バーチャルパブやカクテル・サブスクは家飲みの新しいスタイルとして定着していくかもしれません。

 

執筆者/ラッド順子

魚はどうやってカエルになった? 進化の鍵を握る「歩ける魚」に新事実

カエルやヘビといった両生類と爬虫類は、魚類から進化したものと言われています。では、海を泳ぐ魚たちはどうやって陸上を歩くようになったのでしょうか? その答えの鍵となるかもしれないのが、陸上を歩く能力を持つ魚が11種類いたという新事実です。アメリカのフロリダ自然史博物館が先日発表した「歩ける魚」についてご紹介しましょう。

↑2016年に初めて発表されたケイブ・エンゼルフィッシュの骨盤の形状。今回、新たに10種が「歩ける魚」に加わった(出典: FLORIDA MUSEUM IMAGES BY ZACHARY RANDALL. CT SCAN OF PELVIS BY FLAMMANG ET AL. IN SCIENTIFIC REPORTS)

 

フロリダ自然史博物館は、ニュージャージー工科大学とルイジアナ州立大学、メージョー大学と共同で、タニノボリ科の魚30種類の骨格を分析しました。タニノボリ科はコイ目に属し、日本で生息するものにはホトケドジョウなどがいますが、この調査の結果、分析した30種類のうち10種がサンショウウオのように地を這ったり歩いたりすることを可能にする珍しい骨盤を持つことが判明したのです。

 

歩ける魚の発見はこれが初めてではなく、これまでにも東南アジアに生息するタニノボリ科の「ケイブ・エンゼルフィッシュ(学名 Cryptotora thamicola)」が陸上を歩ける魚として2016年に発表されています。しかし、その10種類の魚も背骨から骨盤のヒレをつなぐ骨の形状に着目すると、どうやら通常の魚にはない屈強な骨盤を持っており、ケイブ・エンゼルフィッシュと同じ特徴を持っていることがわかりました。

 

一般的な魚は背骨と骨盤のヒレがつながっていないため、 ケイブ・エンゼルフィッシュのような骨格は例外だと考えられていました。しかも、東南アジアで発見されたタニノボリ科の魚は100種類以上いますが、これまでの研究で歩行能力があるとわかったのはケイブ・エンゼルフィッシュだけ。この能力は、激しい水の流れのなかで身体を流されないように岩をしっかりつかみ、酸素が多くて生息しやすい場所を求めて移動するために適応していった結果、獲得され、遺伝されてきたと考えられています。

 

そこで研究チームはタニノボリ科の進化の歴史にも着目し、CTスキャンやDNA分析を用いたところ、単一の魚から進化したわけではなく、タニノボリ科全体でこのような骨盤の出現が複数回あったことも発見しました。この結果から、より詳細なタニノボリ科の進化系統樹作成が可能になると言われています。

 

【出典】

Marchese, H. (2020 September 8). Skeletal study suggests at least 11 fish species are capable of walking. Florida Museum. https://www.floridamuseum.ufl.edu/science/study-suggests-11-fish-species-capable-of-walking/

 

「月の石」を売ってください! NASAの新ミッションで「宇宙ビジネス」がさらに白熱

近年、宇宙開発はビジネスとして広がりつつあり、NASAは宇宙研究の一部を民間企業に委託するようになりました。このトレンドの新しい事例が、2024年までに月への有人飛行を目指す「アルテミス計画」での民間企業の参入です。このなかでNASAは月の石を買い取ることを発表しました。

↑月の石、NASAが買ってくれるそうです

 

先日NASAが発表したのは、月の表面にある石などの採取を民間企業に依頼するミッション。月の表面は、砂のような細かい粒子や岩の破片などで覆われています。その粒子や岩の破片などを採取し、採取場所のデータと一緒にNASAに提供するという内容です。採取する量はわずか1.8~18オンス(51~510グラム)。さらにミッションは2024年までに行うことが求められ、採取した岩の破片などの所有権はNASAが有することになります。

 

約500gの採取で150~260万円

このミッションを請け負う企業は、全世界から少なくとも2社が選ばれる予定。NASAは報酬として1万5000~2万5000ドル(約157~262万円)を用意しています。契約企業に選ばれると10%、機器の打ち上げ時点で10%、残りの80%は採取データを提供したときに支払われるとのこと。

 

月の粒子などを採取して解析を行えば、先日明らかになった「月が地球の影響でサビているかもしれない」という研究に結びつくなど、さまざまな宇宙の解明につながるものと考えられます。そして宇宙ビジネスを進める民間企業のなかには、月面の粒子や岩を採取し、それをビジネスにつなげようと考えている企業もあるかもしれません。

 

【関連記事】

月がサビてるってどういうこと? しかも地球が原因?

 

今回のNASAのプロジェクトには、そんな宇宙ビジネスを活性化させる狙いがあります。NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「企業のなかには、NASAに提供する18オンス以上の量を採取して、NASA以外に売るかもしれない」と述べたそう。人類初の有人月面飛行となった、1969年~1972年のアポロ計画では、およそ382キログラムもの粒子や岩などが採取されたとか。それだけ、月の岩は貴重な研究材料になるものということ。だからこそ、NASA以外に宇宙ビジネスに参入する企業が月の表面を採取し、それを販売するビジネスがこれから盛んになっていくのかもしれません。

 

「米Appleのスタッフ限定マスク」にマニアが悶絶! 「従業員だけなんて超残念!」と言わせたマスクとは?

外出時にはマスクの着用が必要となったwithコロナの現在。従来のマスク製造メーカーに加えて、さまざまな企業やブランドも独自のマスクを作るようになりました。そして最近、巷で話題になっているのが米Appleが作ったマスクです。iPhoneのデザインチームが開発したというから、どんなマスクなのか気になって仕方ありません。

↑マスクの箱からして、いかにもAppleらしい

 

Appleには、iPhoneやiPadなどの設計に携わるエンジニアリング&インダストリアル・デザインチームが手掛けた2種類のマスクがあります。

 

1つ目は「リユーザブル・フェイス・マスク」(下の画像)。3層構造になっており、水洗い可能で、最大5回まで再利用できるそう。写真を見ると、口元と鼻を覆う部分が横に長くデザインされているほかは、一般的なマスクと大差がなさそうです。でも、耳にかける紐は付ける人にあわせて調整可能。そして何よりも魅力的なのが、マスクが入れられたパッケージや箱が、iPhoneの世界観そのものであること。究極にシンプルなデザインにしながら、機能性はしっかり備えている。そんなAppleらしさを感じさせてくれます。

↑AppleのReusable Face Mask

 

2つ目の「クリア・マスク」はFDAの認可を受けた手術用マスク。こちらは透明な素材でできていて、マスクを着用していても耳の不自由な方が口元の動きを目で確認できるようになっています。

 

残念ながらこれらのAppleマスクは、一般販売用に作られたわけではなく、Appleのオフィスや小売店で働く従業員のために製造されたものです。これまで同社では従業員に市販のマスクを配布していたそうですが、9月からこの自社製マスクの配布を始めたとのこと。Appleでは社員に限定グッズを配る習慣があり、今回のマスク配布も一種の伝統のようなものだそうです。

 

しかしAppleマスクを紹介する記事に対して、「ほしい!」「どこで買える?」「従業員だけなんて超残念!」など、マスクをほしがる人のツイートがいっぱい寄せられており、Appleユーザーなら間違いなく使いたくなりそうな“お宝マスク”になりそうです。

↑マスクが入っている袋にもAppleらしさがある

 

医療従事者向けにフェイスシールドも開発

Appleのティム・クックCEOは新型コロナウイルスの感染が広まり始めた春、2000万枚のマスクの調達とあわせて、フェイスシールドを開発し医療機関へ提供すると発表していました。このフェイスシールドもAppleが独自にデザイン・製造しており、2分以内に簡単に組み立てができるそうです。

 

Appleが世に送り出してきた製品を考えると、ウイルスから防護する目的を果たしながら、装着しやすさや使い心地なども考慮したフェイスシールドが作られたのではないでしょうか? たとえ販売しないモノであっても、同社のデザイナーたちはとことんAppleらしさを追求してデザインしていることでしょう。マスクのような小さなアイテム1つひとつにも、作り手の魂が宿るものなのかもしれません。

 

コロナ下の苦境を乗り切れ!――インドでマンゴー農家の窮地を救ったJICA主導の直販プロジェクト

「インドのマンゴーを守れ!」――新型コロナウイルス(以下新型コロナ)のパンデミックで人々やモノの動きが止まるなか、インドで農作物の流通を滞らせないための取り組みが注目を集めています。それはインターネットを介して生産者と消費者を結ぶ直販プロジェクト。同様のプロジェクトは、日本をはじめ世界でも始まっていますが、インドでの取り組みの背景には、旧態依然とした農業が抱えるさまざまな課題と、それらを解決しようと奮闘する人々の思いがありました。

 

今回、インドの水プロジェクトに長年携わってきた水ジャーナリスト・橋本淳司さんが現地からの声をリポートします。

 

【著者プロフィール】

橋本淳司

水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。水問題やその解決方法を調査研究し、さまざまなメディアで発信している。近著に『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『水がなくなる日』(産業編集センター)、『通読できてよくわかる水の科学』(ベレ出版)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)など。「Yahoo!ニュース 個人 オーサーアワード2019」受賞。

 

私は2015年頃から、インドの水に関するいくつかのプロジェクトに携わっています。インドは水不足が深刻になりつつあるため、それに対応する雨水貯留タンクの製作や実装、水質調査をはじめ、一般向けや学校向けの水教育などを行っています。水は「社会の血液」と言われるほどで、あらゆる生産活動に必要ですが、とくに農業は大量の水が不可欠。また、水があるからこそ、農作物を加工し販売することができると言えます。そして今回のインドにおけるコロナ禍は、ほかにもさまざまな問題を浮かび上がらせました。

 

日本では、3月上旬以降、学校の一斉休校が始まると給食が休止となり、さらに緊急事態宣言により飲食店や百貨店に休業要請が出されたため、収穫された野菜が行き場を失いました。収穫されないまま農地で廃棄される野菜の様子が報道されるなどし、「もったいない」と感じた人も多かったと思います。同様の問題はインドでも起きました。とりわけ農業技術や流通網の整備が不十分な地域では、事態はより深刻でした。

 

よく「バリューチェーン」という言葉を耳にしますが、農作物においては、生産の過程や加工することなどで食品としての価値を高めつつ、消費者の元に届けるプロセスのことだと個人的に考えています。このプロセスなくしてバリューチェーンは成り立ちません。実際、インドでもコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)が実施され、農作物を流通できず、農家が苦境に立たされました。現地からそうした情報を聞き大変心配しましたが、その救世主となったのが、JICA(独立行政法人 国際協力機構)による、生産者と消費者を直に結ぶ取り組みでした。

 

苦境に立たされたインドの農業

インドでの新型コロナの累計感染者数は、3月3日の時点では5人でしたが、同月24日には492人と急増(9月7日時点での感染者数の累計は420万4613人。アメリカに次いで感染者が多い)。3月25日からは、全土でロックダウンが実施され、ほぼすべての人々の移動や経済・社会活動が制限されました。その後、生活に最低限必要な活動や移動は可能になりましたが、依然として公共交通機関は止まったまま、リキシャー(三輪タクシー)や私用車の利用は禁止され、近隣の町への移動も制限されたままでした。

 

そのため農業従事者が農地に行けない、収穫された農産物を運べない、加工や販売ができないという事態が発生し、流通網がズタズタに寸断されてしまったのです。4月になると、インドはマンゴー収穫の時期を迎えます。このままでは大量のマンゴーを廃棄することにもなりかねません。

↑収穫したマンゴーを箱詰めする現地マンゴー農家の人々

 

この窮地を救ったのが、“Farm to Family”(農場から家族へ)と名付けられた直販プロジェクトでした。オンラインで生産者と消費者を結びつけるデリバリーサービスです。

 

熟したマンゴーを信じられない価格で提供

舞台となったのは、インド南部・デカン高原に位置するアンドラ・プラデシュ州です。人口は4957万人(2017年調査)で、そのうちの62%が農業に従事し、農耕可能な面積は805万ha、ほぼ北海道と同じ面積になります。この広大な農耕地で生産されている作物は多岐にわたりますが、トマト、オクラ、パパイヤ、メイズ(白トウモロコシ)の生産高はインド国内1位、マンゴーは2位、コメは3位という農業州です。

↑収穫時期のマンゴー農園

 

同州にはもう1つ強みがあります。流通の拠点となる海港を5つ、空港を6つも擁しているのです。州政府は農業と流通インフラという強みを活かし、農作物の生産から加工、流通までのフードバリューチェーンを構築し、食品加工産業の発展に注力してきました。ロックダウン下においては、農業従事者が畑に行って収穫することはできましたが、地元の仲介人が収集することも、販売網を通じて販売することもできませんでした。行き場を失ったマンゴーたちは、廃棄せざるを得ません。農家の収入はそもそも多くないのですが、これでは無収入になっていまいます。

 

危機的な状況を受け、州政府はこの地で実施されていたJICAの事業の一環として、州園芸局やコンサルティング会社と対応策を検討しました。そこで考え出されたのが、寸断された流通網をIT技術で修復するという画期的な方法でした。

 

プロジェクトのチラシにはこう書かれていました。「グッドニュース! マンゴーのシーズンが到来しました。政府は、COVID-19でピンチになった小さな農家を支援します。仲介者やトレーダーをなくすことで、農家と消費者に双方にメリットがあります。自然に熟したマンゴーを信じられない価格で提供します」

↑直販プロジェクトの開始を告知するチラシ

 

このプロジェクトには、約350人もの農業者が参画。ネットを使用してコミュニティーごとに需要を把握し、直接消費者に販売しました。ハイデラバードの3つのコミュニティでスタートして以来、これまでに3トンのマンゴーが販売されたほか、12のコミュニティから10トンの事前予約が寄せられ、ロックダウンの解除後も直販体制を継続することが予定されています。

↑農園に集まったプロジェクトメンバー

 

現地のマンゴー農家であるテネル・サンバシバラオ氏はプロジェクトについてこう話してくれました。

 

「この取り組みには大変感謝しています。品質のよいマンゴーを適切な価格で、直接消費者に届けることができました。販売にかかる運搬費や仲介料がかからなかった点もとても助かりました」

 

このコメントの裏からは、農家の深い悩みが窺えます。インドでは一般的に最大4層の仲介業者が存在し、農家には価格の決定権がありません。農家が仲介業者を通じて出荷すると、見込める収益の数十パーセント程度の価格で買い叩かれてしまい、農家の生活は厳しいものとなっているのです。“Farm to Family”(農場から家族へ)は、ロックダウンで分断されていた農家と消費者双方に果実をもたらしたと言えます。

↑出荷を待つマンゴー

 

農業、流通という強み。水不足、技術不足という弱み

そもそもJICAのプロジェクトは2017年12月からスタートしていました。農業と流通に強みをもつアンドラ・プラデシュ州ですが、一方で課題もありました。 まず、バリューチェーンの根幹となる、農作物の収穫量と質が安定していません。そこには農業生産に欠かせない「水」の問題がありました。世界の淡水資源のおよそ7割が農業に使われるというほど、農業と水は切っても切り離せません。

 

アンドラ・プラデシュ州では農業用水の62%を地下水に依存していますが、現在、その地下水の枯渇が懸念されています。これに関しては、原因がはっきりとわかっているわけではありません。私がプロジェクトを行なっている北部のジャンムーカシミール州の村では「雪の降り方が変わったことが地下水不足につながっている」と言う人もいますし、もう1つのプロジェクト地であるマハーラーシュトラ州の村の人々は「森林伐採の影響を受けているのではないか」と主張します。つまり場所によってさまざまな要因が考えられると言えます。

 

また、生産量の高まりとともに地下水の使用量が増加しているという声も多くの州で聞きます。なかには、どれだけの水を農業に使用しているのかわからないという地域も。アンドラ・プラデシュ州も同様で、節水などの地下水マネジメントは急務とされていました。

 

水を管理するうえで、もう1つ重要なのが灌漑用の施設の整備です。施設が老朽化すると水漏れも多くなり、貴重な水が農地まで届きません。それが水不足に追い討ちをかけています。

 

一方で、生産や加工の技術が不足しているという悩みもあります。品質のよい作物を育て、最適な時期に収穫するといった営農技術、収穫後の付加価値を高める加工処理技術などが十分に定着していないため、農産品の加工率が低く、販路が狭くなっています。

 

灌漑設備の改修とバリューチェーンの構築

こうしたさまざまな課題を解決するため、JICAが現地で取り組んでいるのが「アンドラ・プラデシュ州の灌漑・生計改善事業」という、灌漑設備の改修をはじめ、生産から物流までのバリューチェーンの構築を支援するプロジェクトです。「プロジェクトにはいくつかの柱がありますが、重要な柱の1つが、灌漑施設の改修です」とはJICAインド事務所の古山香織さんです。

 

州水資源局によって20年以上前に整備された灌漑施設はあるのですが、前述したように老朽化や破損による漏水、不適切な管理によって、失われる水の量が増えています。農業への水利用効率(灌漑効率)、すなわち農業用に確保した貴重な水の38%しか農地に届いていないのです。実際、末端の水路を利用している農家の中には雨水に頼らざるを得ないところもあります。近年は気候変動の影響で雨の降り方が以前とは変わっているため、収穫量は不安定で一定品質の農作物がつくれません。

↑改修前の灌漑用水路

 

「そこで老朽化した設備を新しいものと交換したり、地面に溝を掘っただけの水路をコンクリート張りの近代的な水路に変えています。 事業は着実に進捗しており、2024年に完了する見込みです。さまざまな規模の灌漑施設の改修が完了(470箇所を予定)すれば、灌漑農業による農作物の収穫量と質の改善が期待できます」(古山さん)

↑改修後の灌漑用水路

 

同時に、現地NGOと連携して地元の農家による水利組合づくりを手伝い、施設改修後の維持管理作業を自分たちで行うことができるよう研修も実施しており、実はこれが大変重要な取り組みなのです。技術を提供するだけでは不十分で、壊れてしまった途端放置される水施設がとても多いことが世界各地の水支援の現場で共通する問題であり、それを防ぐためには、技術を現地に根付かせるための人材育成が欠かせません。

 

さらに灌漑施設の改修を生産量の増加に結びつけるために、関係政府部局と現地NGOで構成する農業技術指導グループも組織しました。

 

「灌漑施設の改修、生産農家の組織化の支援、営農支援などを行うことで、それらが相乗効果をもたらして、高品質の農作物が安定的に生産されるようになります」(古山さん)

 

プロジェクトでは、さらにフードバリューチェーン全体の整備も支援しています。先述のように、マンゴーであればおいしくて大きな果実を育て、それをいちばんよい時期に収穫し、消費者のもとに届けること、あるいは収穫したマンゴーを顧客のニーズにあった製品に加工して付加価値をあげることです。

 

「消費者のニーズに合った加工品を開発・販売することで、付加価値の向上と農産品のロスを抑えることができます。小さな農家同士を組織化することにより、仲介人を介さず消費者と直接取引ができるようになれば、農家の収入向上につながりますし、逆に消費者の立場で考えると、購入できる農作物の種類と品質が向上することになります」(古山さん)

 

実現すれば農作物の収量と品質が高まりますし、農業者の収入も向上・安定します。農業セクターの重要性も高まります。同時にインドの食料安全保障の改善にも寄与していると言えるでしょう。

 

コロナ禍で起きた農家の考え方の変化

新型コロナの世界的な収束は、まだまだ先が見えない状況ですが、人々の心境の変化、生産や流通に対する考え方の変化が確実に起きているとJICAインド事務所のナショナルスタッフであるアヌラグ・シンハ氏は話します。

 

「新型コロナをきっかけに、農家の考え方に変化が起きています。販売のためには農産品の品質の向上が重要で、そのためには収穫のタイミングや選別がとても大切であるという認識がこれまでより強くなりました。同時に、消費者との直接取引などでデジタル・テクノロジーを有効活用すべきとの意識も芽生えています」

↑コミュニティーで販売されるマンゴー

 

農家と消費者が直接つながることで関係性が強くなり、農家は相手に対して「よりよいものを提供しよう」、消費者は「顔の見える生産者を応援しよう」という気持ちが生まれるなど、相乗効果も期待できそうです。

 

またインドでは、テクノロジーを活用して農業の効率と生産性を向上させる「アグリテック」の分野が、2015年頃から注目を集めるようになっています。データを活用した精密農業システム導入のほか、スマート灌漑システムなどの生産性向上、農業経営に特化したクラウドサービス拡充などその事業内容は幅広いのですが、新型コロナはこうした動きを加速させることになるでしょう。

 

一方、日本国内に目を向けると、国産の農林水産物を応援する「#元気いただきますプロジェクト」をはじめ、農家(生産家)と消費者を結ぶさまざまなプロジェクトが立ち上がっています。このような取り組みは今後も世界的に広がることが予想されます。

 

新型コロナにより、従来の社会は大きく変貌を迫られています。しかし、必ずしも悪い面ばかりではありません。大量生産と大量消費を繰り返し、食品廃棄など大量の無駄が存在していたこれまでの社会。しかし、今回ご紹介した、地域社会を大切にし、水や食料を大切にする新しい流通網の構築への取り組みなどは、私たちの社会を持続可能な方向へと向かわせてくれるのではないでしょうか。

 

JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

未来に向けてテイクオフ! 「V字型飛行機」がプロトタイプの試験飛行を動画公開

飛行機といえば、円筒形の胴体に翼がついている形が一般的ですが、未来はV字型の飛行機が普通になるかもしれません。

 

KLMオランダ航空が現在、オランダのデルフト工科大学と共に開発を進めているのが「フライングV」。機体がV字型にデザインされた飛行機で、つい先日そのプロトタイプの試験飛行が行われ、V字型飛行機が空を飛ぶ様子が公開されました。

↑将来はこんな形の飛行機が当たり前になる?

 

フライングVが発表されたのは、KLMオランダ航空が創立100周年を迎えた2019年のこと。従来の飛行機なら円筒状に伸びる胴体がV字型では2方向に別れ、そえぞれに客室と貨物室、燃料タンクがあります。

 

フライングVの大きさは長さ55m、高さ17mで、乗客定員は314人であるのに対して、現在の最新型旅客機のエアバスA350-900は定員数がほぼ同じですが、長さは66.8m、高さ17.1m。前者の長さはエアバスA350より短いものの、同じくらいの乗客数が飛行可能です。

 

しかも、まるで空を自由自在に飛び回る鳥のシルエットのようなV字型のデザインは、空気力学を考慮した設計になっているだけでなく、軽量化も進み、エアバスA350より燃料消費量が20%も低くなるそうです。

 

そして先日、このプロトタイプの試験飛行が行われ、その模様が公開されました。プロトタイプは全長約2.5mと実際の1/22のスケール。機体内部にコンピューターを搭載し、各種飛行データを収集したそうです。

 

公開された動画では、リモートコントローラーで操縦されながら、フライングVのプロトタイプが滑走路を走り離陸、やがて空を飛び着陸する様子がわかります。従来の円筒形ではなく、胴体がV字に2方向になっていることで、離着陸や飛行時の安定感などに懸念があったかもしれませんが、プロトタイプの飛行ではそのような障害は見られなかったようです。

 

フライングVの実用化は2040年~2050年などと報じるメディアもあり、実現にはまだ数十年かかるかもしれません。ただ、これまでは円筒形が当たり前だった飛行機が、未来にはV字型が一般的になる可能性もあるようです。

 

 

キノコの皮ではなく「キノコの革」の誕生で勢いを増すファッションの「サステナブル化」

近年、ファッションもどんどんサステナブル化しています。バッグや靴、財布などに使われる本革は、高級感と独特の風合いを楽しめるものですが、牛や羊などの動物の皮を利用しているため、動物愛護の観点から問題視されることもあります。世界的なブランドが脱動物性素材の動きを強めるなか、最近、注目されているのがキノコから作ったレザーです。

↑新種のレザー

 

キノコ由来の代替レザーについて調査したオーストラリアのRMIT大学(ロイヤルメルボルン工科大学)の発表によると、キノコを活用してレザーに応用する技術は、キノコの「菌糸体」と呼ばれる構造を利用したとのこと。

 

おがくずや農業廃棄物のうえでキノコの根が成長すると、厚いマットのようになりますが、これを酸やアルコール、染料などで処理したあとに圧縮し、乾燥させると、本革と同様に取り扱うことができるようです。このような方法で作られる「キノコの革」は本物の革と同じような見た目で、耐久性もあるそう。

 

キノコから作ったレザーの魅力は、短期間で製造できること。動物は何年もの年月をかけて飼育しなければなりませんが、キノコの場合は数週間程度で単一胞子から大きくなります。

 

環境負荷に関する利点を見てみると、家畜による二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量はよく知られていますが、キノコではその量が減ると考えられます。また、キノコのレザーは生分解性なので廃棄ゴミの問題も解決できるでしょう。このようにキノコのレザーを利用することで、地球環境に配慮することも可能になるのです。

 

おまけに動物の皮の加工には環境に有害な化学薬品が使われるそうですが、キノコのレザーならそのような薬品も使わずに済むとされています。

↑名案でしょう?

 

キノコのレザーを処理する工程はシンプルで、必要最低限の機器類があれば大量生産にも応用可能なのだとか。約5年前にアメリカの企業が製造技術の特許を取得しており、2019年にアメリカやイタリア、インドネシアで、腕時計、財布、靴などの試作品が発表されています。ちなみにキノコのレザーを使ったバッグの販売価格はおよそ500ドル(約5万3000円)。大量生産されれば、安価な製品として販売されると期待されます。

 

まさに「紙」技! 新しい印刷技術が「キーボード」に革命を生み出す

ワイヤレスや有線、メンブレンやパンタグラフ、メカニカルなど、キーボードの種類や方式にはさまざまな種類がありますが、現在まったく新しいキーボードが生まれようとしています。それが、ただの紙切れや段ボールを使ったキーボード。将来のキーボードは現在のものより、はるかにもっと薄くて持ち運びやすくなるかもしれません。

↑単にテンキーが書かれた紙っぺらではない

 

どこにでもあるただの紙をキーボード代わりに操作可能にする技術を発表したのが、アメリカのパデュー大学のエンジニアチームです。このチームは特別な印刷技術を開発して、ただの紙や段ボールをキーボードとして使えるようにしました。

 

この技術はフッ素系高分子の働きにより、紙に水や油、ホコリをはじく加工を行います。それにより、印刷したときにインクがにじまず、何層もの回路を紙に印刷することができるうえ、この印刷した回路は摩擦によって生じる静電気で動く構造のため、外部から電源を得る必要などもないそう。文字や数字などのデータはBluetoothを利用したワイヤレス通信でPCへ通信する仕組みです。

 

パデュー大学が公開した動画では、テンキー(数字キー)、音楽の再生や音量調整キーを印刷した紙が紹介されており、従来のキーボードと同じように、紙を指でプッシュしたりなぞったりすると、接続先のPCが反応して動いている様子がわかります。

 

また、段ボールの切れ端など表面が紙ベースのものなら印刷可能ということで、この技術は比較的安価に利用することができそう。紙や段ボールに印刷したキーボードは、折ったり湾曲させたりしても使えるようです。

 

食品パッケージなどに応用可能

この技術は、現在の大量印刷技術とも互換性があり、製品パッケージの印刷などにも簡単に利用できる可能性があるとのこと。このエンジニアチームの助教授は食品のパッケージへ利用できると考えており、例えば、食品が配達された際、受取人がこのキーボードを使って印刷面をドラッグして、届いた商品が自分の注文と合致するか確認するといった具合です。

 

ただの紙がキーボードになって折ることも可能なら、持ち運ぶときに重さを大きさを気にする必要が一切なくなって、かなり便利になることは間違いなさそう。打ちやすさが気になるところですが、これはもう少し先の問題でしょう。普段からPCやタブレットを持ち歩く方にとって、楽しみな将来が待っているかもしれません。

 

 

月がサビてるってどういうこと? しかも地球が原因?

月がサビてる——。そんな不思議なニュースが先日報道されたのをご存知でしょうか? そもそもサビるというのは鉄などの金属が腐食していく現象のことで、サビが起きるためには酸素または水が不可欠です。でも月には水が存在した可能性は示唆されているものの、酸素はほとんどないはず。では、月がサビているとは一体どんな現象で、何が原因なのでしょうか?

↑不思議な月のサビ。赤で示されている北極と南極で赤鉄鉱が多く見つかっている

 

月にサビが見つかったというニュースは、ハワイ大学マノア校海洋地球科学技術学部の研究チームが月でヘマタイト(赤鉄鉱)が見つかったと発表したことで明らかとなりました。

 

赤鉄鉱は、鉄が酸化してできる鉱物のひとつ。金属は酸素や水と反応して酸化し腐食するもので、特に鉄は酸素に反応しやすく、サビた鉄は地球上でよく見られます。しかし、月がある宇宙空間に酸素はほとんど存在しないうえ、月の表面や内部にも酸素がないと言われています。そのため月には酸化されていない鉄が多く存在し、アポロ計画で採取された月のサンプルにも酸化鉄は確認されていませんでした。

 

おまけに、太陽から電気をもった高温の粒子が惑星空間を飛ぶ「太陽風」が月の表面には吹き付けており、その太陽風に含まれる水素は酸化とは逆の働きをします。だから、赤鉄鉱が月で見つかった事実は科学者たちに大きな驚きをもたらしたのです。

 

では、なぜ月で酸化鉄ができたのでしょうか? この研究チームはその理由について、数十億年もの年月にわたって、地球の大気が太陽風によって月の表面に吹き付けられてきたことが関係するのではないかと仮説を立てました。

 

そして月の鉱物組成をマッピングするNASAの装置「M3」のデータを解析したところ、月の北極や南極に近い高緯度の地域では、低緯度の地域やアポロ計画で得られたサンプルとは異なり、赤鉄鉱が多くみられることがわかりました。さらに赤鉄鉱が多く発見された場所は常に地球に面しているエリアだったのです。

 

2017年、日本の月周回衛星「かぐや」の観測によって、月が「プラズマシート」と呼ばれる磁気圏を通過したときに、地球の大気から流出した酸素イオンを検出することが判明しました。つまり、地球の大気が月まで到達することがあるのです。

 

そのため、今回発見された赤鉄鉱の原因に、地球の大気による影響が関係ある可能性が浮上。また赤鉄鉱が見つかった場所は、以前に同研究チームが月に水が存在していた証拠を見つけた付近と重なることから、その水の存在も関係している場合があるそうです。

 

ただし、地球の大気が届かなかったと思われる月の裏側でも、赤鉄鉱がまったく見つからなかったわけでもありません。高緯度で発見されたごくわずかな水分が、この赤鉄鉱に関連していたのかもしれないそうです。

 

NASAは、月面探査を行うアルテミス計画を2024年の打ち上げ予定と発表しています。この研究チームでは、そのアルテミス計画で実際に赤鉄鉱のサンプルを地球まで持ち帰ることができれば、さらなる研究の前進に役立つと期待しているそうです。地球から遥かかなたに存在する月に、地球の大気が影響しているとは、なんだか不思議な気がしてきますね。

 

 

ゲームだってOK!STEM教育で先行するアメリカの「AI時代の学習スタイル」

2か月以上の長い夏休みが終わったアメリカ。子どもたちが安全に、しかも遅れることなく学習を続けるための方法を暗中模索しながら、アメリカの学校は新学年の新学期を迎えています。新型コロナウイルスを取り巻く状況が一向に改善されない中で、学校、教師、子ども、保護者と混乱と緊張が解けないままです。

 

新学期が始まる前の長い夏休みの間も、子どもがどう有意義な時間を使えるかは、アメリカの親の悩みの種。夏休みに入る3か月くらい前からじっくり調査し、より豊かな経験や学びを与えようと、サマーキャンプを見つけようとしています。キャンプという名前で思い浮かぶような自然の中で学ぶ泊まり込み体験型もありますが、スポーツ、アート、音楽といった参加体験型やコーディング、ハッカソン、人工知能(AI)といったSTEAM教育(あるいはSTEM教育)につながるテクノロジー系など、いろいろなキャンプがあります。

 

今年はコロナウイルスの影響で州政府からの制限がかかっており、キャンプ会場に出向くオンサイト型よりも、オンラインで開催されるキャンプが多く提供されていました。

 

なかでも親たちが注目しているのは、STEAM(STEM)系のプログラムです。STEAM教育とは科学(Science)、テクノロジー(Technology)、エンジニアリング(Engineering)、芸術・教養(Art)、数学(Mathematics)という5つの要素を盛り込み、次世代を担う人材、ゲームチェンジャーになりうる人材を育成するための教育手法のことです。この手法が注目される背景には、テクノロジーの発達に伴い、失われる仕事がある一方で、今もそして将来もテクノロジー系の人材不足が懸念されていることが挙げられます。つまり、将来の人材をSTEM教育によって子どものうちから育てていくことが期待されているわけです。

 

実際に、2020年にアメリカで開催された子ども向けの夏のテクノロジー系キャンプを見てみると、子どもたちにとって身近な、「マインクラフト」のようなオンラインゲームやソーシャルメディアというツールを活用して学習の動機付けを高めつつ、「遊びの中で学ぶ」「楽しみながら学ぶ」などのような体験学習やプロジェクト型学習が前面に出ています。あるいは変わったものでは、チームで料理を作りながら、科学を学ぶクラスがあったりもします。計算ドリルや単語や熟語の丸暗記や受験対策のための勉強が多くなりがちな日本の夏休みとはまた違った、新しい学びのスタイルともいえるでしょう。

東大合格を目指すロボット「東ロボ」君で知られる東京大学の新井紀子教授が指摘するように、前世代が行ってきた知識の丸暗記はもう機械のほうが人間よりも良くできることが証明されています。AI時代を生き抜く力を育むためには、図表も含めたあらゆる言語化された情報を正確に読める力「読解力」、相手の気持ちをくみ取って共感する心など、AIには欠けていて、人間のほうが優れていることの育成に早急に取り組む必要があるのです。

 

アメリカでは、この「楽しみながら学ぶ」という精神は通年タイプのテクノロジー系プログラムや教育系オンラインプラットフォームにも見られる傾向です。講師、先輩、仲間で構成されたコミュニティを作り、サポートしあう場を提供しているものもあります。さらにCourseraのように、修了証を発行するだけでなく、大学の単位として認可されるコースを提供するプラットフォームもあります。

 

そのほか、現マイクロソフト研究所の研修生兼ワシントン大学院博士課程在学中のステファニア・ドュルーガさんは遊びを通じてSTEAM教育を男女平等に行うことで、将来のテクノロジー系の職場や賃金における男女格差をなくすことにつなげる可能性を指摘しています。彼女が立ち上げた、ゲーム開発、ロボットのプログラミング、AIモデルのトレーニングを行うAI教育のプラットフォーム「コグニメイツ」では、子どもたちがAIに人間性を教えることも行われています。

 

日本ではSTEAM教育への取り組みは遅れており、その適用範囲も狭く、学齢期の子どもたちがプログラミングやAI、ロボティックスを学ぶ機会はごく限られているのが現状です。また、保護者や教える立場にある人たちも、SiriやAlexaに頼みごとをしたり、自動スペルチェックに助けられたり、便利な機能を日常的に使っているにも関わらず、必ずしも今のテクノロジーのトレンドに追いついているわけではありません。

 

社会全体として、徐々に興味関心は高まっていますが、STEAMとは理系を目指すための教育だと誤解されたりしがちです。実際には、科学、テクノロジー、工学、アート、数学を教科横断的に応用してものづくりを行い、かつ、21世紀型スキル(4C)を育むことを狙うというのがその本質です。

しかし、「AI」と「子ども(Kids)」で検索をかけてみると、小学校5-6年生が大人の聴衆相手にサイバーセキュリティの講演をしたり、ゲームやアプリを開発してアップルストアで販売したり、会社や非営利法人を立ち上げてグローバルに活躍しているビデオや記事にヒットします。もちろん、親もIT関係の仕事をしている「蛙の子は蛙」のようなケースもありますが、子ども自身が自ら興味をもって、身近なテクノロジーを使って学びを深め、起業するケースがあることは、子どもたちが柔軟に時代の波に乗れる力をもっていることを証明しています。逆にそうした子どもたちにリードされて、大人がAIの時代に新たに学ぶきっかけを持てるかもしれません。

地球から振動が50%消えた——新たに判明した新型コロナウイルスによる思わぬ影響

新型コロナウイルスが世界中で蔓延し、ほとんどの経済活動を休止するロックダウンが世界各国で行われた2020年の春。大気汚染や海洋汚染が軽減されるなど、都市封鎖が思わぬところに影響を及ぼしていることがこれまでに判明していますが、最近では新たに地球の振動も減ったということがベルギーの国立天文台やインペリアル・カレッジ・ロンドンなどの共同研究で明らかとなりました。

 

研究チームは117か国にある268の地震観測所からデータを収集。地震計は火山など地球内部で生じる振動を捉えるものですが、人々が生活したり街を移動したりすることでも振動は生まれるそうです。そのような人の活動によって生まれる振動はクリスマスや新年、週末や夜間には静まることがわかっています。今回、研究チームが、ロックダウンが行われた2020年3月〜5月のデータとそれ以前のデータを比較して解析した結果、185の観測所で振動の減少が見られました。国別に見てみると、中国では2020年1月後半に、ヨーロッパ各国やほかの国々では3月から4月にかけて振動の減少があったようです。

↑赤い部分がロックダウンによる影響で振動が減少した場所

 

特に大幅な減少が見られたのは、ニューヨークやシンガポールのような大都市。さらにイギリスのコーンウォールやアメリカのボストンなど大学や学校が多く集まる地域では、学校が休暇となっている時期と比べて20%の振動の減少が見られました。また、ドイツの山地であるブラックフォレスト(シュヴァルツヴァルト)や、ナミビアの都市ルンドゥなどでも振動は減少したそうです。

 

なかでも50%近くの減少があったのは、観光シーズンとロックダウンが重なった中南米のバルバドス。ロックダウンが始まる数週間前には多くの観光客がバルバドスを離れたことがフライトデータからわかっており、観光客の姿が消えたこととロックダウンが振動の減少につながったと見られます。

↑地球が静かになった

 

人の活動によって生まれる振動が減少したことで、これまで把握できなかった小さな地震などの振動を観測できるようになった場所もあるそう。地震学者にとっては予期せぬ出来事だったかもしれませんが、今後もロックダウンはいろいろな物に影響を与えそうです。

 

「痛みがわかる人工皮膚」の開発に進展! 人間の感覚に一歩近づいた

これまで人工皮膚がなかなか再現できなかったのが、痛みを感じる力です。病気やケガで人工皮膚を実際に身につける人が痛みを感じることができなければ、身体に危険が及ぶことも。しかし、人工皮膚の研究者たちはそんな状況を変えつつあります。最近、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学研究チームが痛みに反応する人工皮膚のプロトタイプを開発しました。

↑熱や痛みがわかる第二の皮膚

 

皮膚は強く押されたり、熱いものや冷たいものに触れたりしたときに痛みを感じます。そこでこの研究チームは、圧力と熱を検知する人工皮膚の開発に挑戦。そこで利用されたのが、これまでに同研究チームが開発し特許を取得した次の3つの技術です。

 

(1)熱に反応して変形する素材

(2)シールのように薄く破れにくく透明の電子機器

(3)昔の情報を記憶して思い出す電子記憶細胞

 

圧力を感じる人工皮膚には(2)と(3)の技術を組み合わせ、熱を感じる人工皮膚には、(1)と(3)の技術を組み合わせ、痛みを感じる人工皮膚には(1)(2)(3)のすべての技術を応用しました。これらの人工皮膚は、圧力や熱、痛みが一定の値に達すると反応する仕組みになっています。しかも、見た目にも人の皮膚とほとんど変わらず違和感のない薄さで、人の手に張り付けたときも皮膚と一体化して見えます。

 

刺激の大きさを判別可能

これまでにも痛みを感じる人工皮膚の開発は世界各国で行われてきましたが、痛みの度合いごとに電気信号を使用するものが多かったそう。しかし、今回開発された人工皮膚は圧力や温度などに対して反応するもの。例えば、とがったものに軽く触れる程度なら痛みは感じませんが、強い力で触れたら痛みが生じるというように、刺激の大きさによって痛みの有無を判別するように設計されています。実際の生活で起こり得る場面に即して応用できる技術になる可能性があります。

 

私たち人間は、物に触れてその温度や質感、材質などを想像することができますが、人工皮膚にはそんな感覚的な技術も求められていくのでしょう。今回の開発は、義手や義足などの技術に応用されるものと期待できそうです。

 

ベトナムで挑戦するミズノのSDGs―― 子どもの肥満率40%の国に「ミズノヘキサスロン」と笑顔を

スポーツの力を活用して社会課題の解決を目指す~ミズノ株式会社

 

「なんてつまらなそうに体育をしているのだろう」。総合スポーツメーカーであるミズノの一社員が6年前に抱いたこの違和感が、ベトナム社会主義共和国の教育訓練省とともに同社が進めている「対ベトナム社会主義共和国『初等義務教育・ミズノヘキサスロン運動プログラム導入普及促進事業』」のきっかけでした。

 

ベトナムでは子どもの肥満率が40%以上

 

同事業は、ミズノが開発した子ども向け運動遊びプログラム「ミズノヘキサスロン」を、ベトナムの初等義務教育に採用・導入する取り組みです。ミズノヘキサスロンとは、ミズノ独自に開発した安全性に配慮した用具を使用し、運動発達に必要な36の基本動作を楽しみながら身につけることのできる“運動遊びプログラム”のこと。スポーツを経験したことがなく、運動が苦手な子どもでも、楽しく遊び感覚で走る、跳ぶ、投げるなどの運動発達に必要な基本動作を身につけられます。日本国内向けに2012年1月から開始、これまで多くの小学校や幼稚園、スポーツ教室、スポーツイベントなどで導入され、運動量や運動強度の改善といった効果も示されています。

「ミズノヘキサスロン」のホームページ

 

そもそもベトナムでは、子どもの肥満率が社会課題となっていました。同社の法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当の柴田智香さんによると、「ベトナムの義務教育は小学校が6歳から始まり5年間、中学校が4年間。授業は1コマ30分と短く、国語や算数に力が入れられていて、体育はあまり重きを置かれていない状態です。また体育といっても、日本のように球技や陸上があるわけではありません。校庭も狭く、体操レベルの授業しか行われていないそうです。子ども時代に運動をする習慣が少ないためか、生涯で運動する時間が先進国の10分の1ほど。WHOによると、ベトナムの子どもの肥満率は40%を超え、同国教育訓練省も社会課題として認識していました」ということです。

法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当 柴田智香さん

 

ベトナム教育訓練省公認のもと約200校で活用

ベトナムの抱える課題を目の当たりにした担当者は、「ミズノヘキサスロンというプログラムなら、ビジネスとして成立し、校庭が狭くても効果を発揮できるのではないだろうか」と思いつき、2015年にベトナムに提案を開始しました。しかし話は簡単には進みませんでした。

 

「ベトナムの学習指導要領に関係するので、一企業のセールスマンが政府にプレゼンをしても相手にされません。ちょうどタイミングよく、文部科学省が日本型教育を海外に輸出するための『日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)』というプログラムを行っていたのですが、弊社もそのスキームに応募し、2016年に採択されたのです。日本政府のお墨付きをいただいての交渉とはいえ、ビジネスの進め方も慣習も異なるため、一進一退の攻防が繰り広げられたようです。そこでまず、約2年間かけて子どもたちの身体機能の変化に関するデータを収集しました。その結果、運動量は4倍、運動強度は1.2倍だったことを同国教育行政に報告しました。その後、在ベトナム・日本大使館やジェトロ(日本貿易振興機構)様などの協力を得ながら、2018年9月に、『ベトナム初等義務教育への導入と定着』に関する協力覚書締結に向けた式典が行われ(場所:ハノイ 教育訓練省)、翌10月に覚書締結に(場所:日本 首相官邸)まで至ったのです」(柴田さん)

 

ミズノヘキサスロン導入普及促進活動は、ベトナム全63省を対象に行われました。農村部など経済的に厳しい家庭の子どもたちなども分け隔てなく実施しています。また、小学校の教師を対象とした、指導員養成のためのワークショップには、現在までに約1700人の教師が参加。ワークショップに参加した教師が自身の担当する小学校で指導に当たり、多くの小学生がミズノヘキサスロンを活用した体育授業を受けています(2020年6月現在)。

ワークショップに参加した小学校の教師たち。ベトナムは女性教師が約70%を占めている。

 

「ミズノヘキサスロン」で子どもたちに笑顔を

「本事業は、“誰ひとり取り残さない”というSDGsの理念に立っており、ベトナムの小学生全720万人全員が対象です。現在、ベトナムの学習指導要領附則ガイドラインにミズノヘキサスロンを採用いただき、教育訓練省公認のもと、モデル校に導入されていますが、学習指導要領の本格的な運用には時間がかかっています。しかしながら、ベトナムの関係各所からは『狭い場所でやるのにも適している』『安全に配慮しているし、いいプログラムだ』と評価いただいていますし、何よりも、子どもたち自身が楽しそうに体育の授業を受けていることが写真から伝わってきます。

楽しそうに体育の授業を受けるベトナムの子どもたち。

 

子どもの時に運動をする習慣ができると、大人になってからも運動を続けると思います。ミズノヘキサスロンによって運動の楽しさを知り、習慣づけられることで、将来的にも健康を保てるのではないかという期待が持てます。また、弊社の用具を使ってもらうことで、今後、ミズノという会社に興味をもっていただけたり、子どもたちがプロサッカーやオリンピックの選手になるなど、そんな未来につなげられたら素敵ですね」(柴田さん)

エアロケットを使って「投動作」を学ぶプログラム。

 

今後の展開について、「現時点ではベトナムに注力しているという状態ですが、例えば、ミャンマーやカンボジアなど、他のアジア諸国でもビジネスチャンスはあると思います。ですが、まずはベトナムで事業として成功しないことには、他の国にアプローチするのはやや難しいと感じています。逆にベトナムでモデルケースができれば、他の国にも売り込みやすくなるのではないでしょうか」と柴田さん。ベトナム初等義務教育への本格的な導入が待たれるところです。

 

様々な課題への重点的な取り組み

来年で創業115年の節目を迎える同社。今回の対ベトナム事業もそうですが、さまざまな取り組みのベースとなっているのが、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という経営理念です。その理念のもと、社会、経済、環境への影響について把握し、効果的な活動につなげるため、自社に関するサステナビリティ課題の整理をし、重要課題の特定を2015年度に行いました。

 

「CSR・サステナビリティ上の重要課題として“スポーツの振興”“CSR調達”“環境”“公正な事業慣行”“製品責任”“雇用・人材活用”という6つの柱を掲げています。そのなかでも“環境”については1991年から地球環境保全活動『Crew21プロジェクト』に取り組み、資源の有効活用や環境負荷低減に向けた活動を行っています。また、CSR調達に関しては、他社様から参考にしたいというお話をよくいただいております。

サプライヤー先でのCSR監査の様子。

 

商品が安全・安心で高品質であることはもちろんですが、“良いモノづくり”を実現するために生産工程において、人権、労働、環境面などが国際的な基準からみて適切であることが重要と考え、CSR調達に取り組んでいます。そのため本社だけでなく、海外支店や子会社、ライセンス契約をしている販売代理店の調達先までを対象範囲とし、取引開始前は、『ミズノCSR調達規程』に基づき、人権、労働慣行、環境面から評価。取引後は3年に1度、現場を訪問し、調査項目と照らし合わせながらCSR監査を実施しています」(柴田さん)

 

また、総合スポーツメーカーらしい取り組みも多くあります。その1つが、「ミズノビクトリークリニック」です。これは、同社と契約をしている現役のトップアスリートや、かつて活躍をしたOB・OG選手による実技指導や講演会。全国各地で開催し、スポーツの楽しさを伝えると共に、地域スポーツの振興に貢献しています。

水泳の寺川綾さんを招き、熊本市で開催されたミズノビクトリークリニック。

 

「2007年からスタートしたのですが、昨年度は全国で89回開催しました。“誰ひとり取り残さない”という部分では、気軽にスポーツをする場、楽しさを伝える場所に。選手の方たちにとっては、これまでの経験で得た技術や精神を子どもたちに伝える場になっています。技術や経験は選手にとっていわば財産。それを伝えることに使命感を持っている方も多く、有意義な活動となっています」(柴田さん)

 

スポーツによる社会イノベーションの創出

また、SDGsの理解と促進を深めるために、社員向けの啓蒙活動も実施。2019年度には3回勉強会が実施され、子会社を含め、のべ約7700人が受講したそうです。

「社員一人ひとりが取り組んでいくことは、企業価値の創造でもあると思います。SDGsを起点に物を考え、長期的、継続的かつ計画的に様々な課題に取り組んでいく。これからも引き続き、持続可能な社会の実現に貢献し、地球や子孫のことを思い、ミズノの強みを持って、新しいビジネスにも挑戦していきます。それにより企業価値やブランド価値の向上を目指していきたいと思います。CSRは責任や義務というイメージがありますが、SDGsは未来に向けて行動を変えるというか、アクションを起こすということ。2030年の未来に向けて、今まで弊社が行ってきたことにプラスして、全社員が一丸となって取り組んでいきます」(柴田さん)

 

さらに2022年度中に、スポーツの価値を活用した製品やサービスを開発するための新研究開発拠点が、大阪本社の敷地内に完成予定です。

新研究開発拠点のイメージ ※実際の建物とは異なることがあります。

 

「スポーツ分野で培ってきた開発力と高い品質のモノづくりを実現する技術力。そんなミズノの強みを生かし、SDGsに貢献できるような新しい製品であったり、人であったり、どんどんつくっていけたらと思います。競技シーンだけでなく、日常生活における身体活動にも注力し、スポーツの力で社会課題を解決する社会イノベーション創出を目指します。新しい開発の拠点となる施設。SDGsの取り組みとともに、弊社にとって新しい幹になると考えています」(柴田さん)

 

創業者である水野利八さんは、「利益の利より道理の理」という言葉を残しました。スポーツの振興に力を尽くし、その結果としてスポーツの市場が育ち、それがめぐり巡って、事業収益につながるという考え方です。その想いは、創業から今に至るまで変わらず、ミズノグループの全社員に受け継がれているそうです。スポーツの持つ力を活かして世界全体の持続可能な社会の実現にさらに貢献していくに違いありません。

 

「手話を自動通訳するグローブ」の誕生でAIの翻訳技術がまた一歩前進

手や腕、口の動き、表情などを用いた言語である手話。でも一般的に言えば、手話は勉強をしなければ理解することができません。では、昨今よく見られるようにAIを使って手話を異なる言語に翻訳することはできないのでしょうか? そこで開発されたのが、手話をリアルタイムで音声言語に変換するグローブです。

↑開発された手話を通訳するグローブ

 

アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームは、手話を使う人が、ほかの人の手助けを借りずに、手話がわからない人と直接コミュニケーションを取れる方法を模索するため、このグローブの開発を始めました。

 

開発されたグローブは左右の両手にはめる手袋タイプ。5本の指には伝導性の糸でできたセンサーが付けられており、手や指の動きを感知することができます。このグローブは手や指の動きを手首部分についた硬貨ほどの大きさの基板にデータとして送り、そこからスマートフォンにワイヤレスで送信。手話は1秒に1単語のスピードで音声言語に変換されます。

 

そして、このグローブには人工知能を搭載。開発段階では、手話を使っている4人が協力し、一つひとつの手話の動作を15回繰り返しながら機械学習アルゴリズムを訓練。その結果、0~9の数字とそれぞれのアルファベットを含む660の手話を識別できるようになったそうです。

 

さらに、研究チームは手話を行うときの人の表情にも着目。眉や口角にセンサーをつけ、手話を行いながら人の表情がどんなふうに動くのかを捉える実験も行ったそうです。

 

実際にこのグローブを使って手話を行い、それを専用アプリが言語に変換する様子を動画で見てみると、グローブの手の動きから音声となるまでわずかな時間差はありますが、細かい手指の動きをきちんと把握して言葉に変換できていることがわかります。

 

現在は単語を変換することしかできないようですが、さらに開発が進めば複雑な文章を翻訳することもできるようになるかもしれません。さまざまな困難があるのでしょうが、翻訳や文章作成を含む言語におけるAIの発展を踏まえると、AIが手話も通訳するというのは必然の成り行きかもしれません。

 

バッテリー要らずの「15mmのカブトムシ型ロボット」がハーバードを超える出来栄え

世界では極小ロボットの研究が行われています。アメリカでは南カリフォルニア大学がカブトムシのようなロボットを開発しており、最近それを公開しました。バッテリーを使わずに最大2時間も動くということですが、一体どんな仕組みなのでしょうか?

↑新種の甲虫類?

 

南カリフォルニア大学の研究チームが開発したロボット「RoBeetle」は、体長が15mm、重さはわずか88mg。本物の昆虫のようなロボットの開発を目指して、6年以上の期間をかけて研究されました。このロボットは4本の脚と角のような部分がついており、カブトムシを思い起こさせる出で立ちが印象的ですが、これだけ小さなサイズなら、人の手では扱えないようなアクセスの悪い場所や危険な場所で利用ができるでしょう。

 

この極小ロボットが注目されるのは、バッテリーやモーターを使わずに利用できる点にあります。ロボットを動かすためには、一般的にはバッテリーなどを用いて動力を供給する必要がありますが、極小サイズのロボットの場合はバッテリーも小型化しなければならず、それにともない駆動時間にも限りができてしまいます。

 

そこでこの研究チームは、ニッケルとチタンを使った形状記憶合金を材料にして人工筋肉を開発しました。この金属は熱を加えると、一般的な金属とは異なり長さが縮む性質があります。合金のコーティングには白金が使われており、燃料となるメタノールの蒸気がその白金と反応して燃焼すると、筋肉が縮むように合金が縮みます。これが収縮性の人工筋肉の仕組みであり、RoBeetleがバッテリーなしで約2時間動くことができる理由です。

 

ちなみに、2020年6月にハーバード大学が発表したゴキブリ型小型ロボット「HAMR-JR」は体長2.25cm、重さは0.3g。こちらはワイヤーで動力を供給するため、ロボットの本体にワイヤーがつながれています。ロボットの大きさも電力供給の面でも、南カリフォルニア大学が開発したRoBeetleに軍配が上がりそうですね。

 

ロボットの小型化にとって課題だったバッテリーの問題を人工筋肉で解決したRoBeetle。これを応用すれば小型ロボットの開発がさらに前進し、医療シーンなどさまざまな場面でのロボット開発が期待できることでしょう。

 

バッテリー要らずの「15mmのカブトムシ型ロボット」がハーバードを超える出来栄え

世界では極小ロボットの研究が行われています。アメリカでは南カリフォルニア大学がカブトムシのようなロボットを開発しており、最近それを公開しました。バッテリーを使わずに最大2時間も動くということですが、一体どんな仕組みなのでしょうか?

↑新種の甲虫類?

 

南カリフォルニア大学の研究チームが開発したロボット「RoBeetle」は、体長が15mm、重さはわずか88mg。本物の昆虫のようなロボットの開発を目指して、6年以上の期間をかけて研究されました。このロボットは4本の脚と角のような部分がついており、カブトムシを思い起こさせる出で立ちが印象的ですが、これだけ小さなサイズなら、人の手では扱えないようなアクセスの悪い場所や危険な場所で利用ができるでしょう。

 

この極小ロボットが注目されるのは、バッテリーやモーターを使わずに利用できる点にあります。ロボットを動かすためには、一般的にはバッテリーなどを用いて動力を供給する必要がありますが、極小サイズのロボットの場合はバッテリーも小型化しなければならず、それにともない駆動時間にも限りができてしまいます。

 

そこでこの研究チームは、ニッケルとチタンを使った形状記憶合金を材料にして人工筋肉を開発しました。この金属は熱を加えると、一般的な金属とは異なり長さが縮む性質があります。合金のコーティングには白金が使われており、燃料となるメタノールの蒸気がその白金と反応して燃焼すると、筋肉が縮むように合金が縮みます。これが収縮性の人工筋肉の仕組みであり、RoBeetleがバッテリーなしで約2時間動くことができる理由です。

 

ちなみに、2020年6月にハーバード大学が発表したゴキブリ型小型ロボット「HAMR-JR」は体長2.25cm、重さは0.3g。こちらはワイヤーで動力を供給するため、ロボットの本体にワイヤーがつながれています。ロボットの大きさも電力供給の面でも、南カリフォルニア大学が開発したRoBeetleに軍配が上がりそうですね。

 

ロボットの小型化にとって課題だったバッテリーの問題を人工筋肉で解決したRoBeetle。これを応用すれば小型ロボットの開発がさらに前進し、医療シーンなどさまざまな場面でのロボット開発が期待できることでしょう。

 

自撮りだけで心臓病を診断できる? 「医療AI」が猛勉強中

現在、AIを利用して、顔写真から将来の病気を予測する技術の開発が進んでいます。本稿では中国の研究チームが最近European Heart Journal(循環器学における最も権威ある学術誌のひとつ)に発表した「自撮りから心臓病を診断するAI技術」についてご紹介しましょう。何気なく撮影した自撮り写真で病気がわかったとしたら、医療はどうなっていくのでしょうか?

↑自撮りが心臓の状態を映す

 

中国の国立心疾患センター次長で阜外医院(Fuwai Hospital)副院長なども務めるZhe Zheng教授ら研究チームが行ったのが、顔写真を分析して冠動脈疾患を発見することができる深層学習アルゴリズムの開発。

 

これまでの研究では、薄毛や白髪、耳たぶのしわの増加、まぶた周辺の黄斑など、心臓病のリスク増加によって顔にさまざまな変化が出ることがわかっていました。しかし、このような変化を人が定量的に判断するのは難しいことです。

 

この問題に挑むことにした同研究チームは、2017年7月から2019年3月までに中国にある8つの病院から心臓病患者5796名のデータを収集しました。さらに患者の正面からの写真と左右両側の横顔の写真、頭頂部を写した4枚の写真も集め、病歴やライフスタイル、経済的状況などについても聞き取り調査を実施。さらに放射線科医が血管造影で患者の血管がどのくらい狭くなっているか評価し、これらすべてのデータをもとにしながら、深層学習アルゴリズムの開発を行いました。

 

人相占い×最新科学?

こうしてできたアルゴリズムを使って中国の9つの病院にいる1013名の患者を調べた結果、8割の心臓病疾患を発見した一方、心臓病疾患がない患者も6割ほど見つけ出すことができたのです。しかし、この結果はこの技術が実際の医療現場で利用されるためにはまだ高いとは言えないかもしれません。研究チームはさまざまな人種に対して大規模な試験を行う必要があると認識しています。

 

しかし心臓の検査というと、心電図やレントゲン、心臓超音波などを利用するのが一般的で、これらは医療機関に行かなければできません。なので、患者がスマートフォンを使って自分で顔写真を撮り、それを医師に送ることで、心臓病にかかっている可能性の高い人やリスクの高い人を発見するというアイデアは、初期段階の診断ツールとして便利でしょう。今後の課題にはプライバシー保護の問題が含まれますが、医療技術やAIなどの技術が進化することで、遠隔地からも気軽に病気の診断を受けることが可能になる未来が着実に近づいている模様。運勢や健康を占う人相診断の科学的アプローチにも思えるこの取り組みは、今後どうなるのでしょうか?

途上国の感染症流行に奮闘する国際緊急援助隊――ノウハウの実績は日本の感染症対策にも貢献【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、途上国の感染症流行に奮闘する国際緊急援助隊の活動について紹介します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大により、国境を越えて広がる感染症への対策は、世界各国にとって共通の課題であることが再認識されました。

 

JICAに事務局を置く国際緊急援助隊(JDR:Japan Disaster Relief Team)には2015年、「感染症対策チーム」が設立され、各国での感染症対策に向け活動しています。JDR感染症対策チームの登録メンバーの多くは、日本国内で新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症対策の最前線で活動する医療関係者です。海外での支援実績とノウハウの蓄積は、日本国内の感染症対策にとって大きな貢献が期待されています。

 

昨年12月には麻しんが大流行した大洋州の島国サモアで、患者に対して診療活動を行い、同国の緊急事態宣言解除を支えました。途上国の感染症対策に奮闘するJDR感染症対策チームの活動の様子を紹介します。

↑JDR感染症対策チームによるサモアでの麻しん患者診療の様子

 

↑人口移動の増加や地球環境の変化に伴い、世界各地で感染症の流行は続いています。JDR感染症対策チームへの期待も増しており、当該国からの要請に備えて平時から訓練や研修を行っています

 

JDR感染症対策チームが直接診療を初めて実施

サモアでは昨年10月、麻しん(はしか)が流行し、サモア政府は11月に緊急事態宣言を発令。こうしたなか、同国政府の要請によりJDR感染症対策チームが12月2日から29日まで現地に派遣されました。これまで、同チームの活動は、検疫、検査診断、ワクチンキャンペーン支援など、公衆衛生関連の活動が中心でしたが、今回初めて、患者に対する直接的な診療活動を実施しました。

 

派遣先は、サモアの首都アピア国立中央病院、首都から西へ約30km離れたレウルモエガ地域病院、隣接地のファレオロ・メディカルセンターの3ヵ所。まさに麻しん診療の最前線での活動です。

 

麻しんは、39℃以上の高熱と発疹が出て、肺炎や中耳炎を合併しやすく、亡くなる割合は先進国でもおよそ1000人に1人といわれています。地方における診療活動は、医師・看護師による診察・処置・処方を行って、症状が重ければ入院、あるいは中央の国立病院へ搬送といった流れで行われました。

 

JDR感染症対策チームの山内祐人隊員(薬剤師)は、サモアでの活動について次のように話します。

 

「麻しんの大流行を防ぐには予防接種が重要ですが、ワクチン接種率の上昇だけでは期待する効果は得られません。特に、サモアのように年間を通して気温が高い国では、ワクチンの日々の温度管理が非常に重要です。サモアでは薬剤師が常駐していない医療機関が多く、看護師がワクチンを含む医薬品の管理を行っているため、看護師に対してワクチンの温度管理の重要性などに関する講習会を開き、ワクチンへの理解を深めてもらいました」

↑熱帯地域における麻しんワクチンの温度管理の講習会。「皆さん熱心に耳を傾け、積極的に質問されていたのが印象的でした」と山内隊員

 

サモアに派遣された薬剤師は2人とも、かつて大洋州のパプアニューギニアで青年海外協力隊として活動。「その経験が今回のJDR派遣で大きく活かされた」と言います。

 

日本で研修を受けたサモアの看護師と共に取り組む

JDRがサモアで活動したレウルモエガ郡病院は、1982年にJICAの無償資金協力で建設され、日本との関係も深く、昨年12月初旬までJICA沖縄の研修「公衆衛生活動による母子保健強化」に参加していた看護師のピシマカ・ピシマカ氏が勤務していました。

 

ピシマカ氏は看護師長として人員や薬品、医療器具・機械などの配置も担っており、JDRに対して現地事情をわかりやすく教え、活動をサポートしました。

 

田中健之隊員(医師)は、「医療資源が限られるなか、サモア人スタッフの献身的な医療へのスタンスは、検査診断にやや頼る傾向にある昨今の日本の医療現場で忘れかけていたものを感じさせてくれました。ピシマカ氏をはじめとする帰国研修員スタッフは、昼夜を問わず診療管理を統括する役目を担い、JICAと現地との連携において非常に大きな存在でした」と、両国スタッフの連携協調がうまく機能したと振り返ります。

↑ピシマカ氏(後列中央)は「JDRは、サモア人医師や看護師、病院職員に常に状況を知らせてくれて、現地スタッフとの協議を大切してくれた。これはとてもありがたかったです」と感謝の言葉を寄せました

 

このように、JDR感染症対策チームは延べ17日間、合計約200名の患者を診療するなど、サモアでの麻しん対策に大きく貢献。麻しん流行は、日本をはじめ、ニュージーランド、オーストラリアなど多くの国からの支援によって終息に向かい、12月29日にはサモア政府によって緊急事態宣言が解除されました。

↑サモアは気温が高く、発熱や嘔吐で脱水症状にならないよう、隊員らは経口補水液(ORS)の重要性などを伝えます

 

長崎大学との連携協定を締結

サモアに派遣されたJDR感染症対策チームには、2015年のチーム設立時から重要な役割を担っている長崎大学から4名のスタッフが参加しました。同大学大学院は熱帯病や新興感染症対策のためのグローバルリーダー育成プログラムに各国からの留学生を受け入れています。

↑JICA北岡伸一理事長(左)と長崎大学河野茂学長による協力協定署名式(2019年12月25日)

 

このような活動のさらなる連携強化を目指し、昨年12月、JICAは長崎大学と熱帯医学やグローバルヘルス関連分野における包括連携協力協定を結びました。

 

感染症は本来、早期に発見し、流行する前に封じ込めるべきものです。JDR感染症対策チームのサモア派遣の経験や長崎大学との包括連携協力協定の締結は、感染症の疫学的な研究はもちろん、新薬やワクチン開発はじめ、各種検査方法や検疫体制の強化など、海外派遣の緊急支援活動だけにとどまらず、日本国内の感染症対策にとっても、さまざまな波及効果が見込まれています。

 

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今、日本からできることを! 一時帰国中の海外協力隊員が活躍――赴任国に向け、リモートで支援【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、新型コロナウイルスの影響により一時帰国を余儀なくされているJICA海外協力隊の隊員の活動について紹介します。

 

中断された活動への無念さ、赴任国への思いなどから、多くの一時帰国中隊員が「今、できることから取り組もう!」と日本から現地に向け活動を始めています。本稿では、日本から赴任国に向け、インターネットを通じて支援を始めた隊員の姿を追います。

 

カンボジア:「手洗いダンス動画」で感染症対策

「病院職員だけでなく、患者さんにも広く公衆衛生の意識が高まってきたタイミングでの帰国で、文字どおり後ろ髪を引かれる思いでした」

 

残念そうに語るのは、看護師隊員としてカンボジアへ派遣された近藤幸恵隊員です。看護師歴13年の近藤隊員は、カンボジア南部のシハヌーク州立病院で、おもに感染症対策と病院経営の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)・KAIZEN活動の協力に携わりました。

↑赴任先の病院で、患者さんやその家族に紙芝居を使うなどして手洗いの重要性を説明する近藤隊員

 

↑同任地の教育隊員の協力も得て、小学校での出前授業も行なっていました

 

そんな近藤隊員が一時帰国後、取り組んだのは、手洗い啓発ダンス動画の作成です。同時期にカンボジアに派遣されていた看護師隊員と小学校教育隊員の3人で制作にあたりました。

 

「この動画は新型コロナウイルス感染症COVID-19対策も含めた公衆衛生改善支援WASH(=Water, Sanitation, and Hygiene) の一環です。カンボジアの人々に馴染みのあるダンスをアレンジすることで、気軽に手洗いの必要性やタイミング、具体的な手洗い法などを知ってもらい、楽しみながら習慣にしてもらうことを目指しています」

 

まず、看護師隊員が手洗いダンスの見本動画を作成。その後、カンボジアに派遣されていた一時帰国中の隊員やJICAカンボジア事務所職員、現地カンボジアの方々など、たくさんの人々に出演協力を依頼しました。日本に戻っても、カンボジアとのつながりを大切にして、動画の制作を進めました。

 

完成した動画は、FacebookやTwitterなどに投稿し、JICAカンボジア事務所や隊員、配属先の人々などに積極的にシェアしていく予定です。

↑手洗いダンス動画の一場面。動画編集は、同じカンボジアの小学校で体育教員として活動していた隊員が担当。カンボジアの皆さんの目に留まるよう、カンボジア国旗の色のイメージで画面レイアウトを工夫しています

 

↑手洗い動画の制作は、同僚隊員やJICAカンボジア事務所とオンライン会議で進めています(画面左下が近藤隊員)

 

「一時帰国後も現地病院スタッフと連絡を取っています。今回、インターネットを活用してリモートでも支援ができることに気づきましたが、オンラインだけでは現地の文化・習慣を肌で感じることは難しいと思います。やはり、相互理解は現地に住むことでより深まり、現場での体験が自分の視野を広げ、考え方も豊かにしてくれると改めて感じました。機会があれば、また海外で活動できればと考えています」と、近藤隊員は語ります。

■完成した動画はこちら↓

手洗い啓発ダンス動画

手洗いの大切さを説明

 

メキシコ:現地食品メーカー向けに品質管理のセミナー動画を作成

「NPO法人メキシコ小集団活動協会(AMTE)のホームページに掲載するオンラインセミナー動画を制作しています。食品の安全・安心を担保するHACCP(注)に基づいた食品の品質と衛生管理に関する内容です。昨年10月、メキシコの全国小集団活動大会で特別講演をした際、知り合ったAMTE事務局のリカルド・ヒラタ氏にいろいろアドバイスをいただきながら作っています。メキシコの皆さんに活用してもらえると嬉しいです」

 

こう話すのは、食品メーカーを定年退職後にJICA海外協力隊に応募し、2018年10月から2020年3月までメキシコの職業技術高校(CONALEP)ケレタロ州事務所で、日本式の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の導入と定着に向けた活動を行っていた入佐豊隊員です。

(注)Hazard Analysis and Critical Control point:「危害分析重要管理点」=世界中で採用されつつある衛生管理の手法。最終段階の抜き取り検査ではなく、全工程を管理する。日本でも食品関連事業者は2020年6月から義務化となった

↑セミナー動画のリハーサルの様子。入佐隊員(写真左)が作成した食品安全の資料を画面に写し、日本語で講義。スペイン語訳をボイスオーバーで入れます

 

「同じメキシコ派遣のシニア海外協力隊2人とともに、オンライン会議を行いながら、それぞれの職務経験を活かしてセミナー動画を作成しています。いつもながら、スペイン語によるコミュニケーションには苦労しています」と苦笑いを隠さない入佐隊員。「でも、メキシコの方々の人懐っこさや陽気さにはいつも助けられます」と微笑みます。

 

陽気でポジティブな人々に囲まれ、入佐隊員はCONALEPケレタロ州事務所での活動に取り組み、5S活動の現地推進メンバーを募り、いよいよ本格的に実施内容や改善点などを出し合おうとする矢先に、まさかの一時帰国でした。

↑CONALEPケレタロ州事務所が管轄する職業技術高校で、5Sの講義を行っていた入佐豊隊員

 

↑5S委員会の普及活動の様子(サンファンデルリオ校)

 

「軌道にのりかけた5S活動がストップしただけでなく、職業技術学校も休校となってしまい残念です。でも、ケレタロ州事務所が管轄する4つの職業技術高校のうち3校には私の専門である食品科があるので、AMTE向けのセミナー動画が完成したら、それを高校生向けにアレンジできないか、あれこれ検討しています」

↑毎週1回オンライン会議でセミナー動画の進捗を相談するメンバー(写真左下が入佐隊員)

 

初めてのセミナー動画作りに戸惑いながらも、任国メキシコに思いを向ける入佐隊員。道半ばで一時帰国せざるを得なかったシニア海外協力隊たちの新しいチャレンジは、これからも続きます。

 

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1.6億円の世界一高級なマスク! 海外の「超ユニークなマスク」3つ

花粉やインフルエンザが流行る季節に限らず、公共の場所ではマスクの着用が要請されている現在。マスクのデザインも急激に発展しており、ほかのファッションと同じようにマスクでも個性を見せる時代になりつつありますが、世界にはどんなマスクが存在するのでしょうか? 著者が調べたなかから、特に奇抜なマスクを3つご紹介します。

 

1: 約1.6億円の「ダイヤモンド製マスク」

抗菌性や冷感タイプ、UVカットタイプなど、さまざまな機能がついた高性能マスクは価格も高めになるもの。そして「世界一高価なマスク」として、とにかく豪華な装いに仕上げてしまったのが、イスラエルのジュエリー会社Yvel。250グラムの18金とおよそ3600個のダイヤモンドを全面に使用したもので、お値段はなんと150万ドル(約1億6000万円)。

 

内部には高性能のフィルターを取りつけ、細菌などをガードする機能もきちんと備わっているとのこと。このマスクを発注したのは、アメリカ在住の中国人の美術品コレクターで、本当にこのマスクを着用して街へ出かけるかどうかは不明です。

↑世界一高価なマスク

 

2. 文字や模様が浮かびがある「LEDマスク」

顔の半分近くを覆うマスクは、もはやファッションの一部。そして多くのファッションデザイナーやファッションブランドが、独自にマスクを作り販売しています。そんななか、ファッションとテクノロジーを融合したアメリカのスタートアップ「Lumen Couture」では、LEDを使って好きな画像や文字を表示可能なマスクを発売しました。

 

アプリを使って、好きな文字を入力したり、自分のオリジナルの画像を表示したりすることが可能。LED表示部分は取り外し可能なため、マスクを洗って清潔にキープできます。さらにUSBで充電して3~4時間使用できるそうで、価格は95ドル(約1万100円)。

↑オリジナリティあふれるLEDマスク

 

3. サステナブルな「紙で作れるマスク」

新型コロナウイルスが世界的に広がり始め、マスク不足が加速していったとき、ロシアのデザイナーが「自分たちにできるアイデアをシェアしたい」と立ち上げたのが、「BUMASK(ビューマスク)」です。試作品を繰り返し作りながら、どこにでも手に入る材料で誰にでも簡単に自分で作れることをコンセプトに、人間工学にもとづいて設計されたマスクを発表。

 

特設サイト上で型紙が公開され、誰でも無料でダウンロードして家庭用プリンターで印刷してマスクを作ることができます。材料になるものは、段ボールでも厚紙などでOK。内部には木綿などの布地、紙ナプキンなどをフィルターとして挟み、フィルターだけを交換すれば、長くマスクを愛用することができます。マスク不足の心配は解消されましたが、まだまだ続くウィズコロナの時代に、またいつマスクが足りない事態に陥るかわかりません。そんなときに利用できると便利かもしれません。

↑サステナブルでいい感じかも

 

ちなみに筆者が暮らすハワイでは、一般人が使うマスクでは、日本のような白色の無地のマスクはほとんど見かけず、花柄などカラフルな生地を使ったマスクがほとんどです。今後も「マスクでおしゃれを楽しみたい」というニーズは世界で高まっていくのでしょう。

 

「赤レンガ」50個に導電性ポリマーを塗ると数十万回も充電できることが判明

災害が起きて電力の供給が止まってしまったら、スマートフォンを使って家族と連絡を取ることや被害情報を入手することが難しくなってしまいます。そんな非常時に重宝されるが「蓄電できるアイテム」ですが、最近では身近にあるレンガを蓄電装置として利用する研究が行われています。

↑レンガで充電でもするか

 

安価な建築資材であるレンガを蓄電装置に使うことができたら便利ではないかという考えのもと、ワシントン大学セントルイス校の研究チームは、ホーム用品店で購入した赤レンガに「PEDOT」と呼ばれる導電性のポリマー塗料を塗る試みを行い、LEDライトを点灯させることに成功しました。

 

赤レンガの赤色は酸化鉄やサビであり、これがポリマーと化学反応を起こします。また導電性のポリマーはナノファイバーでできており、多孔質のレンガ内部に入りこむことができるため、電気を蓄えられるイオンスポンジのような役割を担うことができるのです。

 

このレンガが50個あれば、非常時に5時間分の電力を供給することが可能なのだそう。また充電は1時間以内で終了し、数十万回も充電を繰り返し行うこともできます。

 

進むバイオレンガの研究

↑レンガの使い道は狼から身を守るためだけではない

 

以前人の尿からレンガを作る研究についてご紹介したように、世界ではバイオレンガの研究も盛んです。近年発表されたバイオレンガの報告には、バクテリアを利用してレンガを作る方法があります。コロラド大学ボルダー校の研究チームが発表した内容によると、光合成細菌の一種を岩塩や栄養素を含んだ混合物のなかで増殖させると、それがやがて炭酸カルシウムを堆積していき、人が乗っても砕けないほどの強度を持つ素材が作られることがわかりました。

 

コンクリート並みの強度には及ばないものの、バクテリアの力だけでレンガのような素材を作ることができるとあって、宇宙や砂漠など人が介入できない環境で利用できるのではないかと期待されています。レンガには多くの可能性が潜んでいるようですね。

 

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「鍵を挿す音」を記録するだけで合鍵が3Dプリントで作れる。防犯はどう変わる?

映画やアニメ、ドラマでは、スパイや泥棒がドアの鍵をこっそり開けようとするとき、特殊な道具を鍵穴に入れて、音を頼りに鍵を開けようとするシーンがよくあります。しかし、このアナログな方法は近いうちに見なくなるかもしれません。最近、最先端のデジタル技術を使って合鍵を作れる可能性が明らかとなり、この新しい方法を使えば不法侵入がもっと簡単になると言われています。防犯には防音対策が必要になるかもしれません。

↑鍵穴に挿す音が聞こえれば、家に入れちゃう?

 

世界で広く普及している鍵に「ピンタンブラー錠」があります。これは鍵の左右片側だけに刻みが入り、反対の片側には刻みがないタイプ。鍵穴のなかにはピンが4~7本配置されていて、鍵の形とピンがすべて正しくそろったときに初めて鍵穴が回転する構造になっています。ピンの数が多いほど構造が複雑になり、ロックは何十万通りものパターンが製造可能と言われています。

 

ピンタンブラー錠は、針金のような特殊工具を鍵穴に差し込んで開錠させるピッキングに弱い側面もありますが、そのピッキングも特殊な技術や道具が必要で、近所の人たちが不審に思いやすいというデメリットがあるため、ピンタンブラー錠は広く使われ続けています。

 

そんななか、セキュリティに関する研究を行うシンガポール国立大学の研究チームが提案したのが、開錠したときに生じる音から合鍵を作る「SpiKey」という新しい方法。鍵を鍵穴に差し込むと、なかにあるピンと鍵がぶつかったり、こすれたりして必ず金属音が発生しますが、このチームはスマートフォンの録音機能や信号処理技術を使ってその音をシグナル(信号)として分析し、鍵の形状を推測するアイデアを研究しました。

 

実験で6つのピンがあるピンタンブラー錠を使用した研究チームは、開錠したときに6つのピンにこすれて生じるわずかな音の時間差などを計測して、鍵の形状を予測するソフトウェアを開発。そして、このソフトウェアで得られたデータをもとに、鍵を3Dプリントで再現するという仕組みを構築したのです。実験では33万通り以上の合鍵の候補から、3つまで絞りこむことに成功したそう。

↑ SpiKeyのイメージ(上の人物が鍵を開ける音を下の人物がスマホで録音する)

 

この研究チームは「SpiKeyは従来のピッキングと比べて、犯罪者にとって悪事を働く障壁を著しく下げるだろう」と述べています。一般人にとっては迷惑な話ですが、ピッキングのような犯罪もますます高度になっていくのでしょう。研究チームは今後、音をもとに合鍵を複製する犯罪を予防する方法についても調査を進めていく予定とのこと。鍵の機能の進化が期待されますが、私たちが防犯を考えるときには防音も意識したほうがいいのかもしれません。

 

牛はお尻に「目」を描くだけでライオンに襲われなくなる。なぜ?

牛やブタなどを飼育している畜産農家にとって、家畜を健康かつ安全に育てることが欠かせません。でもライオンなどの猛獣が共存する世界では、大切な家畜が他の動物から攻撃を受けることも起こり得ます。そんな課題を解決するために生み出されたのが、牛のお尻に左右2つの目を描くという方法です。

 

ライオンを騙す

↑目を描くだけ

 

開発途上国での畜産業では、家畜がライオンなどの動物に襲われるリスクが常にあり、それがエスカレートすると畜産農家に大きな経済的ダメージをもたらします。そこで求められるのが、できるだけコストがかからずに家畜を安全に守るための方法です。

 

オーストラリアのサウスウェールズ大学の研究チームは、シドニーにあるタロンガ動物園とボツナワにある肉食動物保全団体「Botswana Predator Conservation」と共同で「牛のお尻に目を描く」という方法を試すことにしました。ライオンの狩りは、獲物に気づかれないように近づき最適なタイミングを見計らって奇襲攻撃をしかけるスタイル。

 

そのため、狙った獲物に見られたと気づくと、ライオンは狩りをあきらめる可能性があると考えられています。そこで研究チームは牛のお尻に目を描くことで牛がライオンに気づいたと思わせ、ライオンに攻撃をあきらめさせることができるのではと仮説を立てたのです。

 

研究チームはアフリカのボツワナ北西部のオカバンゴ・デルタで、ライオンからの攻撃を受けたことのある畜産農家の協力のもと、14の牛の群れで実際に実験を行いました。1/3の牛にはお尻に左右2つの目を描き、1/3にはお尻にただの「X」マークを2か所描き、残りの1/3には何も描かずに4年間様子を見ることとしました。

 

その結果、お尻に何も書かなかった牛は15頭が、Xマークを描いた牛の4頭がライオンなどに襲われたのに対して、目を描いた牛は一匹も襲われることがなかったのです。Xマークは、何も描かないよりも効果が見られましたが、それよりも目を描いたほうがずっと襲われるリスクが減ったということです。

 

ただし今回行われた実験では、同じ群れのなかに何も描かなかった牛とXマークを描いた牛が混在していたため、すべての牛に目を描いた場合はどんな結果になるかはわかりません。また長期間同じことを行った場合、ライオンが牛に描いた目に慣れてしまうことも考えられます。しかし今回の結果で、特に大切に守りたい家畜がいたときは、お尻に目を描く方法でそれを安全に守る効果があるということは言えるようです。

↑身体に目を描く効果は絶大

 

魚や蝶、両生類などには同じように目に見える模様を持つものがいて、目玉模様は生物たちが自分の身を守るための一般的な手段のひとつとなっていますが、哺乳動物ではそのような目玉模様をもつ動物がいないそう。以前紹介したとおり、シマウマの縞模様がアブなどの害虫から身を守るためにできたとする説はあっても、目玉模様を持つ哺乳動物がいないということは、ライオンや牛などの哺乳動物の世界では、厳しい弱肉強食が自然の摂理ということなのかもしれません。

 

世界初「スマホとつながるマスク型デバイス」。ってなにそれ?

一年中マスクが欠かせなくなった今日、スマートフォンにつながる「スマートマスク」が誕生しました。世界中で話題となっている「 世界初のスマホとつながるマスク型デバイス」とは一体どんなものなのでしょうか?

↑マスクを超えたコミュニケーションデバイス

 

ロボット開発ベンチャーのドーナッツロボティクス社(日本とシンガポールが拠点)が、世界初と言われるスマートマスク「C-FACE」を発表。

 

C-FACEには主に3つの機能があります。1つ目の機能はマスク越しに話した自分の声を10メートル先の相手まで届けることができること。C-FACEは、市販のマスクを内側に組み合わせて着用するタイプで、マスクの電源を入れて専用アプリを立ち上げると、Bluetooth経由でマスクがスマホに接続します。この状態で話すと、小さな声であっても相手のスマホに自分の声が届き、Bluetoothが届く10メートル範囲程度までそれが可能になります。

 

この機能を利用すれば、病院での診療や買い物先、会議やセミナーなどでもソーシャルディスタンスを保ちながら、しっかり自分の声を相手に伝えることができるようになります。

 

2つ目の機能は翻訳機能。マスク越しに話した言葉を英語や中国語など8か国語に自動で翻訳することができます。翻訳機能は月額500円〜1000円ほどになる予定。

 

3つ目の機能は議事録の作成で、会議などの場面で簡単な議事録を残すことができます。

 

日本のみならず世界中でマスクが必需品となっていることから、このC-FACEへの注目度は俄然アップ。CNNやNYタイムズ、ロイターなどの世界各国の大手メディアもC-FACE を紹介する記事を掲載しており、世界中から問い合わせが増えているそうです(7月にはサーバーもダウンしたそう)。

 

そんなC-FACEは現在Makuakeで資金を募集しており、目標額50万円に対して、8月19日時点で180万円以上の資金を調達済み。C-FACEの価格はひとつ4378円で、早割りや複数個をまとめて購入できるプランもあります。

 

ドーナッツロボティクス社では新型コロナウイルスが発生する前からこのアイデアが社内で出ており、新型コロナの感染拡大を受けて、この商品の開発に取り組んだそう。今後はARやVRなどに対応する予定で、コロナ禍をきっかけにマスクが新たなコミュニケーションデバイスとして発展していきそうです。

 

Makuakeでの応募締切は2020年10月29日で、商品の発送は2021年2月末までの予定。興味のある方は支援もかねて注文してみてはいかがでしょうか?

 

お湯のほうが早く氷になる「ムペンバ効果」が新たな方法で実証! どういう仕組み?

暑い季節は飲み物や食事に氷を使う機会が増えますが、早く氷を作るための意外な方法があるのをご存知でしょうか? それが水ではなくお湯で氷を作るというやり方。これは「ムペンバ効果」と呼ばれる現象で、これまでに多くの科学者がそれについて研究し、最近になってようやく再現に成功しました。

 

とある少年の偶然の発見

↑お急ぎでしたらお湯がおすすめ

 

ムペンバ効果は1963年にタンザニアで見つかりました。当時13歳だったエラスト・ムペンバは学校の授業でアイスクリームを作っていたところ、砂糖やミルクを混ぜた液体を一度冷やすことなく、誤って熱いままアイスクリームの撹拌機に入れてしまいました。しかし驚くことに、彼が作ったアイスクリームはほかの生徒よりも早く凍ったのです。

 

その後、彼は先生の協力のもと、沸かしたお湯と温かいお湯をグラスに注ぎ、どちらが早く凍るかを実験。その結果、沸かしたお湯のほうが先に凍りやすいことを見つけ出したのです。この現象は彼の名前から「ムペンバ効果」と呼ばれるようになりました。

 

それ以来このムペンバ効果は、日本も含め世界各国の科学者たちが興味をもち、同じ現象が再現できるか実験を行ってきました。しかしムペンバ効果の存在を認める科学者がいる一方で、なかなか再現することが難しくその原因も完全には解明されておらず、ムペンバ少年がその現象を目の当たりにしてから50年以上が経った現在でも、ムペンバ効果に関する議論は続いてきました。

 

ついに再現成功

↑カナダの物理学者が効果を再現

 

そして最近、科学誌「Nature」に掲載されたのが、カナダのサイモンフレーザー大学の物理学者アビナッシュ・クマール氏とジョン・ベックホーファー氏がムペンバ効果の再現に成功したという論文です。彼らは極小のガラスビーズを水の入ったグラスに入れ、さまざまな条件下でそれがどんな動きをするかレーザーを使い観測していたところ、温かいガラスビーズの方がそうでないガラスビーズに比べて、早く冷えることを発見したのです。

 

ムペンバ効果について議論するとき、水にはミネラルなどのほかの物質も含まれいるため、問題はやや複雑になります。水が凍り始める時点を凍ったものとするのか、完全に凍った時点とするのか、氷点下に達したときなのか、どの時点を「凍った」と定義するのかも議論されていますが、今回発表された方法は「凍る」定義そのものとは関係なく、極小のガラスビーズそのものの温度を測定するものです。さまざまな温度で1000回以上に及ぶ実験を繰り返し、ガラスビーズは高温のほうが低温より早く冷たくなるという結論を導きだし、これによりムペンバ効果は実際に起こり得る現象であることが実証されたのです。

 

自宅で氷を作るとき、その条件は自宅によって異なり、ムペンバ効果が起きないこともあるそうですが、興味のある方は、温かいお湯で氷を作ってみてはいかがでしょうか?

 

超音速旅客機の夢に再び挑戦中! 米国スタートアップがロールスロイスと新提携

イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機コンコルドが初飛行してからおよそ50年。現在、新たな超音速旅客機として注目を集めているのが、日本航空が出資するアメリカのブーム・テクノロジー社が開発を進めている「オーバーチュア」です。この実現に前進すべく、同社は新たにロールスロイスと提携しました。過去に挫折も経験している超音速旅客機が夢に向かって再び挑戦しています。

↑超音速機を開発するため、ひとりで起業したブームのショールCEO

 

NY〜ロンドンを3時間15分で飛行

世界最速の超音波旅客機の実現を目指して2014年に創業したブーム・テクノロジーが開発しているオーバーチュアは、座席数がおよそ55席で、最高速度がマッハ2.2(時速約2300㎞)の超音速旅客機です。開発が成功すれば、ニューヨーク〜ロンドン間を3時間15分で結ぶと言われています。ブーム・テクノロジーには日本航空も出資しており、すでに日本航空はオーバーチュアを20機、ヴァージン・グループは10機仮受注していると報じられています。

↑日本航空の飛行機もいつか超音波旅客機になる? (Courtesy: Boom)

 

ロールスロイスと提携

そんなオーバーチュアの開発に向けて、ブーム・テクノロジーはロールスロイスと提携したことを7月末に発表しました。ロールスロイスというと世界屈指の高級車ブランドですが、航空機用エンジンの分野でも100年以上の長い歴史がある老舗メーカーです。現在では大型ジェットやビジネスジェットなど、30種類以上の機体にロールスロイス製のエンジンが採用されており、ワイドボディ旅客機向けエンジンでは50%以上のマーケットを占めているそう。

 

これまでにもロールスロイスはブーム・テクノロジーと協力してきたことがあり、今回の提携では既存のエンジンが超音速飛行に対応できるのかを調査することで、オーバーチュアのエンジン開発に協力するようです。ブーム・テクノロジーでは、オーバーチュアのテスト飛行は2020年中ごろを、商業利用の開始は2030年までの予定と発表していますが、航空機用エンジン開発の大手と手を組んだことで、オーバーチュアの開発スピードが上がるかどうかはわかりませんが、開発スケジュールは予定通りに進むことが期待されます。

 

「タッチレスなタッチスクリーン」でどういうこと? AIを使った最新技術が加速中

画面を指で触れることで操作できる「タッチスクリーン」。スマホやタブレット、PC、券売機、ATMなど、今日ではさまざまなものにこのタッチスクリーンが採用されています。でも新型コロナウイルスの感染予防の観点から、「できるだけ物には触れたくない」と考える方も多くいるかもしれません。そんな「タッチレス」ニーズを満たすような、画面に触れることなく操作ができるタッチスクリーンがイギリスで開発されました。

↑タッチスクリーンでクルマを運転

 

タッチスクリーン自体は、クルマに搭載されたディスプレイにもすでに採用されており、冷暖房や音楽の設定、カーナビゲーションなどの操作を行うのに使われています。しかし、運転中にタッチしたい部分を的確に指で触れることはなかなか難しく、操作にもたついたり、別の部分に触れたりすると、事故などの危険にもつながりかねません。そこで画面に触れずに操作できるタッチスクリーンの開発に、イギリスのケンブリッジ大学研究チームがジャガー・ランドローバーと乗り出したのです。

 

AIが操作時間を減らす

触らないタッチスクリーンの開発には、多くの電化製品でも一般的になってきている、人の視線やジェスチャーを追跡する技術が採用されました。それに加えて、ユーザーがどの部分を指さそうとしているかを自動的に判別するために、AI技術などを活用したマシンインテリジェンスも使用しています。

 

開発チームは、このタッチスクリーンを使って運転シミュレーターや実際の道路でテストを実施。その結果、操作時間を最大で50%短縮することに成功しました。つまり、視線や手の動きなどから操作を予測することで、操作時間は短くなるということが示されたわけです。操作にかかる時間が短くなれば、運転中のリスクを減らし、安全運転につながることも期待されます。

この触らないタッチスクリーンの技術は、スマートフォンなどのさまざまなデバイスにも応用可能。スマホに利用すれば、ウォーキングやランニング中の画面操作も簡単に行えるほか、病気などが原因で身体に震えが生じる方も操作しやすくなると考えられます。

 

また、駅の券売機のように、不特定多数の人が利用するタッチスクリーンの場合、新型コロナなどのウイルスや細菌の感染も気になりますが、画面に直接触れることなく操作することができるようになれば、感染予防にも大いに役立つことになるでしょう。近い将来、多くのデバイスが「タッチレス・タッチスクリーン」に変わっていくかもしれません。