あれ、何しに来たんだっけ? ドアを開けた瞬間にド忘れする本当の理由

何かをしようと思って違う部屋に行ったはずなのに、途端にその目的を忘れてしまうことって、よくありますよね。そんなド忘れの現象には「ドアウェイ効果」という名前が付けられているのですが、オーストラリアの心理学者が最近この効果を検証したところ、従来とは異なる意外な結果が出ました。

↑あー忘れた

 

ついさっきまで覚えていたのに、部屋を移動した瞬間に忘れてしまう現象について、米国・ノートルダム大学の心理学教授が2011年に「ドアウェイ効果」と名付けて脚光を浴びました。この心理学者は「別の部屋のドアを通り抜けることで、最初にいた部屋での記憶が古くなり、脳がリフレッシュされる」と説明しました。

 

オーストラリアのボンド大学の心理学者は、このドアウェイ効果が起きているときの脳の状態を調べようと、その現象について4つの実験を行いました。まず実験1ではVRを利用し、被験者は仮想空間のなかで複数の部屋を移動して、各部屋のテーブルに置かれた青いコーンや黄色の十字架の物体を記憶し、それを別のテーブルに移動するタスクを行います。この結果、ほとんどドアウェイ効果は見られず、別の部屋に移動しても記憶に影響を受けることはありませんでした。

 

そこで実験2では、ランダムに表示される数字を6つ覚える記憶力テストを行ってから同様のタスクを課し、記憶力に負荷をかけた状態で行いました。この結果は、実験1に比べると別の部屋に移動することで被験者の記憶力の低下が見られましたが、それでもドアウェイ効果と言えるほどの目立った変化は観察されませんでした。

 

実験を行った研究者は、このような結果になったのは、実験1と2で使われた部屋がどれも見た目が同じように作られたものだったことが関係すると考え、もっとリアルに近いシチュエーションで実験を行うことにしました。例えばデパートのなかでの移動を考えると、似たような作りの別のフロアをエレベーターで移動するより、デパートの売り場と駐車場のように、見た目がまったく異なる空間へ移動することで、ドアウェイ効果が現れるのではないかと考えたのです。

 

そこで、実験3では廊下にカーテンを設置して、被験者にはVRでなく、別の人がその廊下を歩いているビデオを見ながらテストを行い、実験4ではカーテンが設置された廊下を被験者が実際に歩き、記憶力がどのように影響を受けるのかを観察しました。その結果、実験3と4でも、カーテンをくぐることで記憶力が薄れるようなドアウェイ効果は見られなかったのです。

 

先行研究では、さまざまな状況でドアウェイ効果が観察されたことが報告されていましたが、今回の実験では記憶に明らかな影響を与えるようなドアウェイ効果は観察されないという結果になったのです。

 

このことから、記憶についてさまざまなことが考えられます。人間は1つのことに集中していると忘れにくいが、たくさんのことをしていたり考えていたりすると、忘れやすくなる。また、記憶は背景とも関連しており、部屋の環境がガラッと異なる場所へ移動したときは、記憶が影響を受けやすい様子。これらの点に気をつければ、ドアを開けた瞬間にド忘れすることも少なくなるかもしれません。

 

【出典】McFadyen, J., Nolan, C., Pinocy, E. et al. Doorways do not always cause forgetting: a multimodal investigation. BMC Psychology 9, 41 (2021). https://doi.org/10.1186/s40359-021-00536-3

 

「生命の起源」に新説! すべては「落雷」から始まった?

これまでにさまざまな説が唱えられてきた生命の起源。約40億年前に落ちた隕石によって、生命に必要な有機物などの材料が地球上にもたらされ、それが生命の誕生に繋がったと考える説が有力です。しかし最近、生命の起源には、落雷が重要な役割を果たしていたことが示唆されました。

 

閃電岩にヒント

↑すべての始まりはこんな感じだった?

 

米国・イエール大学の研究者は、生命の誕生に欠かせない成分「リン」に着目しました。リンはDNAを構成する成分で、生命体の成長や生殖など生命活動には不可欠な存在です。そこで、リンなどから構成される鉱物「シュライバーサイト」を含む隕石が地球に落ち、それによって生命が誕生したのではないかと考えました。しかし生命が誕生したと考えられる35億~45億年前の地球には、それほど多くの隕石が落下していないことが判明したのです。

 

一方、2016年に米国イリノイ州グレンエリンで落雷が起きたときにできた巨大な「フルグライト(閃電岩・せんでんこう)」について調べていた英国・リーズ大学の研究者は、このフルグライトには異常なほど高濃度のシュライバーサイトが含まれていることを発見しました。フルグライトとは、数億ボルトになるとされる雷の高熱によって砂が溶け、その後すぐに冷えて固まってできる管状の岩石のこと。しかも初期の地球上に存在していたリンは、水には溶けない鉱物の中に含まれていたと考えれますが、シュライバーサイトは水に溶ける性質があり、これが生命誕生の鍵となっていたのではないかと考えることができるわけです。

↑フルグライトのサンプル(撮影/Benjamin Hess)

 

次に、同リーズ大学の研究者はコンピューターモデルを用いて、初期の地球でどのくらい落雷が起きていたかを推測しました。すると、現在は1年間に5億6000万回の雷が発生しているのに対し、10~50億年前の地球では1年間に50億回と現在の9倍近くの回数の雷が発生し、このうち1~10億回は直接地面に落雷していたと推測しました。これにより、かなりの量のリンが地球上に存在し、その量は隕石の落下によるものより多かったと考えられるのです。

 

この2つの研究チームはこれらの結果から、「生命誕生のきっかけは隕石ではなく、落雷によるもの」という説を唱えました。しかも、落雷は気候条件さえ揃えば起きる自然現象のため、隕石の落下より頻繁に発生するうえ、地球へのダメージも少ないことから、生命の進化を妨げた可能性も低いと考えられます。

 

今回の論文で明らかになったように、雷が生命の起源だったとすれば、落雷が頻繁に起きていた地球以外の惑星でも同じように生命が生まれていた可能性が出てきます。ひょっとしたら、落雷説が地球外生命体の発見に繋がっていくかもしれません。

 

【出典】Hess, B.L., Piazolo, S. & Harvey, J. Lightning strikes as a major facilitator of prebiotic phosphorus reduction on early Earth. Nature Communications 12, 1535 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-21849-2 

瞳は騙せない!「ディープフェイク」を見破るツールがついに誕生!!

AIの「ディープラーニング(深層学習)」技術と、「フェイク(偽物)」を組み合わせた造語「ディープフェイク」。実在しない人物の画像を合成したり、本物そっくりの画像を作ったりすることができるこの技術は、いまや人間には見分けがつかないほど精巧になっていますが、人権侵害やプライバシー侵害、著作権侵害にも繋がるため、ディープフェイクを検出する技術の開発が求められています。そんななか、人間の瞳に着目してディープフェイクを見破るツールがアメリカで開発されました。

 

両目に写る光の形や色を分析

↑瞳は嘘をつかない

 

角膜は黒目の部分を覆っているもので、半球型で光を反射します。そして左右2つの目の角膜に映る光は、同じものを見ているため、似たような形と色になりますが、ディープフェイクの画像は大量の画像を組み合わせて作っているため、両目の角膜に写る光に一貫性がないという特徴があります。

 

私たちが人の顔を見て会話をするとき、角膜に写る光を意識したり気づいたりすることはほとんどありませんが、ニューヨーク州立大学バッファロー校のコンピューターサイエンティストたちはそこに着目。実在する人物の画像とAIが生成したフェイク画像のそれぞれで人がカメラを見ている画像を用意し、ディープフェイク画像を自動検出するツールを開発しました。

 

このツールは、人の顔から目と眼球、角膜に反射する光を検出し、左右の目の光の形や強さなどを分析します。ディープラーニングなどの評価指標として使われるIoU(Intersection over Union)スコアを使ったところ、実在する人物の画像のスコアは0.5〜1.0になるのに対して、ディープフェイクの画像のスコアは0.1~0.5と低いことが明らかとなりました。このツールを使うとディープフェイクかそうでないかを判断するのに、94%の有効性があると結論づけられたのです。

 

ただし、このツールは画像の人物がカメラを直視していて、しかも両目が写っている写真でないとうまく機能しません。しかしそれでも、ディープフェイクを見破るツールとして今後さらに改良を重ね、実際に活用されることが期待されています。

 

ディープフェイクが問題視されるのは、人権侵害などに大きく関わる事例がすでに起きているからです。例えば、ディープフェイクの問題に注目を集めるため、アメリカのニュースサイト「バズフィード」とジョーダン・ピール映画監督が、オバマ元大統領が演説するディープフェイクの動画を2018年に公開しました。動画のなかの人物はオバマ元大統領そのもので、話し方や声も本物そっくり。しかしこれでは、実際には言っていないことでも、本人の発言として信じる人が出てきてしまいます。

 

また、ポルノ動画にハリウッド女優の顔が使用されてインターネット上に出回る事件も起きています。このようなディープフェイクの悪用による被害は、有名人に限らず一般の人にも起こり得ることで、誰もが人権を脅かされ、プライバシーを侵害される可能性があるのです。

 

ディープフェイクを検出するツールの開発と発展は、ディープフェイクを生成する技術発展とのいたちごっこになるかもしれませんが、ディープフェイクによる事件をできるだけ防ぐために必要なのは明らかです。

離婚後の子育てをストレスフリーに。英国で大注目の「共同養育アプリ」とは?

イギリスでデジタル離婚サービスを手がける企業が、世界初とされる”共同養育アプリ”を開発しました。離婚した2人が、子育てに関するスケジュールやイベント内容をそれぞれ管理・調整できるうえ、専門家への相談機能も搭載。お互いの合意を得ながら、トラブルなく冷静に養育の協力関係を続けるためのアプリとして、大きな注目を集めています。

↑パパ、あのアプリ使ってる?

 

アジア諸国に比べ離婚率が高いとされる欧米圏ですが、イギリスの国家統計局調査の資料によれば1964年から2019年までの離婚率平均は33.3%となります。最も離婚率が高いのが1987年に結婚したカップルで、43.6%が2017年までに離婚しています。結婚という形式にとらわれずに同居や子育てを行う事実婚カップルも多いため、実質的な子持ち世帯の別離率は50%に届くのでは、ともいわれています。

 

さらに、コロナ禍によるロックダウン生活で夫婦間の問題が表面化した家庭も多いようで、その結果、世界的に離婚申請の数が増加しました。イギリスでも同様の現象が起こり、2020年12月にはオンライン上で「迅速な離婚」というキーワード検索数が前年比235%と増え、「離婚届」や「最寄りの離婚弁護士」の検索数も2倍に跳ね上がりました。

 

離婚がそれほど珍しくなくなったとはいえ、伴って生じるストレスが減るわけではありません。離婚には裁判が必要で、日本より煩雑なステップを踏まなくてはならないイギリスでは、精神面に加え費用面での負担も大きくなります。また宗教的な理由で離婚できない場合でも、法的手続きを経て別居という形で実質的な別離を成立させるなど、複雑でさまざまなケースが見られます。

 

円満離婚のためのデジタル・サービスを提供するアミカブル社は、離婚や別居手続きに伴う、財産分与などのアドバイスや合意をサポートするスタートアップ企業です。弁護士では対応しきれない細やかな相談について専門家のアドバイスが得られ、離婚にかかわる出費も軽減できるアプリを開発し、注目を集めてきました。そんな会社が今年ローンチしたのが、離婚後の子育てや意見の相違に伴うトラブルを解消してくれる共同養育アプリ「アミカブル・コー・ペアレンティング(amicable co-parenting app)」です。

 

スケジュールなどをアプリで共有

↑共同子育てに特化しており、スケジュール調整やメッセージ交換がアプリ1つで完結

 

子どもがいると、離婚後も元パートナーと連絡を取り合う機会が多くあります。このため、相手との関係があまり良好でない場合は、神経がすり減ってしまうことも珍しくありません。しかし、アミカブル・コー・ペアレンティングを介せば、お互いのコミュニケーションにワンクッション置くことで感情的になるのを防ぐことができ、必要な情報だけを共有できるため、精神的に大きな助けになります。

 

イギリスでは治安面などから、小学5年生ぐらいになるまで保護者が子どもを学校に送り迎えをするのが一般的。このため同居・別居にかかわらず、朝夕2回の送迎スケジュール調整は親の毎日の義務となります。しかし養育パートナー間でコミュニケーションがうまくいかず、さらなるトラブルを招いたり、相手への不信感が募ったりするケースも多いのです。

 

このアプリでは、まず個人プロフィールを作成したうえでパートナーを招待し、アプリ上でコミュニケーションをとることに合意します。ここでは学校の送迎や行事参加、食事内容、誕生日パーティーのプラン、スクリーンタイムや就寝時間などについて共同の子育てゴールを設定し、必要な情報やスケジュールを共有します。困った時はカウンセラーなどの専門家に相談できるコーチングセッションの予約も可能。

 

細かい話し合いはアプリ上で相手と直接メッセージ交換ができるようになっていて、送信時間がわかるタイムスタンプが装備されています。メッセージ内容が削除できない仕組みを取り入れ、お互いが「言った・言わない」のトラブルを防げるなど、細やかな工夫がされています。

 

アミカブル社ではロックダウンの影響で離婚件数が増えたことを受け、この共同養育アプリの30日間無料トライアルを始めました。トライアル後は月額9.99ポンド(約1500円)か、年間99.99ポンド(約1万5000円)のサブスクリプション契約でサービスを利用できるようになっています。

 

↑アプリ創業者は、自身もトラウマ的離婚を経験したというカウンセラーとIT起業家のコンビ

 

子どものストレスも軽減

これまで、電話やメッセージアプリやカレンダーアプリなどを総動員させて奮闘してきた共同子育てが、アプリ1つで済むようになるのは、多くの離婚者にとって朗報です。ユーザーからは「わかりやすくて使いやすい」「スケジュール調整と話し合いに苦労してきたが、お互い別の視点から物事を見ることができるようになった」といったコメントが寄せられています。不要なストレスに振り回されず、新生活への一歩を踏み出す手助けをしてくれる、心強いアプリといえるでしょう。

 

個人としては互いに別々の道を進むことになっても、子育ては一生もの。感情的にならずに協力関係を結び、子どもの希望やニーズを満たすことで、自分たちだけでなく子どものストレスも軽減することができます。ライフスタイルの多様化が進めば進むほど、このようなデジタル・コミュニケーションツールの需要も増えていくかもしれません。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

 

2100年には「1年の半分」が夏になる!? 中国が衝撃の予測

最高気温が35度以上になる日を「猛暑日」と気象庁が2007年に定義してから、毎年当たり前に使われているこの言葉。年々、夏の厳しさが増し、春や秋も温暖になっていると感じられますが、最近発表された論文によると、北半球では2100年までに1年の半分が夏になるかもしれません。これから季節はどうなってしまうのでしょうか?

 

約60年間で夏が2週間以上増加

↑冷や汗ものの論文

 

中国の科学技術の最高研究機関・中国科学院の海洋物理学者たちのチームが、1952年から2011年の北半球の日別の気候データを使い、春夏秋冬のそれぞれの長さと季節の変化について調べました。1年のうち最も高かった気温を基準に、その気温から25%以内の気温だった日を「夏」に、1年のうち最も低かった気温を基準にそこから25%以内の気温だった日を「冬」と定義し、北半球で過去の四季の長さについて導きだしました。

 

すると、1950年代は4つの季節の長さがほぼ均等で、季節の移り変わりは予測しやすいものだったとわかったのですが、1952年と2011年で平均的な四季の期間を見ると、次のような結果になるとわかったのです。

 

・春:124日→115日に短縮

・夏:78日→95日に延長

・秋:87日→82日に短縮

・冬:76日→73日に短縮

 

つまり4つの季節のうち、夏だけが17日と2週間以上長くなり、春、秋、冬は短くなっているのです。おまけに春と夏は季節の始まりが早まり、秋と冬の始まりは遅くなっていることもわかりました。

 

このまま夏が長くなり、それ以外の季節は短くなる傾向が続くと仮定した場合、研究チームが予測した2100年までの四季は次のようになります。

 

2100年までの春夏秋冬

・春:1月18日~5月5日(約108日)

・夏:5月6日~10月19日(約167日)

・秋:10月20日~12月17日(約59日)

・冬:12月18日~1月17日(約31日)

 

夏が6か月近くの長さになり、冬は12月中旬から1月中旬までのわずか1か月だけに短縮されることになります。

 

もしこの四季が現実となったら、植物の生育サイクルが変わり、農業や生態系などに大きな影響を及ぼし、花粉が長い期間飛んで人々を苦しめたり、病気を媒介する蚊が生育エリアを拡大したりする可能性も考えられます。

 

【出典】 Jiamin Wang et al, Changing Lengths of the Four Seasons by Global Warming, Geophysical Research Letters (2021). DOI: 10.1029/2020GL091753

ビジネスを通じて国際貢献! 海外進出を狙う中小企業を支援する「飛びだせJAPAN!」レポート

グローバル化が加速しているなか、新興国や発展途上国に対する日本の国際貢献は、政府やNGO団体だけにとどまらず、民間企業レベルでも活発に行われています。今回は、海外でのビジネス展開を通じて国際社会への貢献を支援するプロジェクト「飛びだせJapan!」について、その成果を報告するオンラインイベントの様子をレポートします。

 

アイ・シー・ネットが主催している「飛びだせJapan!」プロジェクトは、日本の中小企業が新興国で社会解決につながる海外展開を行う際に、企業にコンサルティングを行うとともに、製品・サービスの開発などに必要な経費を一部補助するもの。経済産業省の「技術協力活用型・新興国市場開拓事業費補助金(社会課題解決型国際共同開発事業)」を受けて実施されています。

↑飛びだせJapan! プロジェクトの概要

 

↑プロジェクトに応募するためにはいくつかの条件があります

 

今年で第6回となる今回は、新型コロナ感染症の影響もあり、海外への渡航ができないなど事業展開が難しいなかで、補助内容や期間を変更して実施されました。本年度、プロジェクトを完遂することができたのは全14社で、そのうち11社がオンライン上で成果報告を行いました。

 

最初に発表を行ったのは、大阪に本社を構える光洋機械産業。同社はこれまで国内市場向けおよびアジア地域向けに建設用機材の提供を行っていましたが、「飛びだせJapan!」プロジェクトの補助を受けて、アフリカ市場に日本製の建設足場の供給するという取り組みに挑戦しました。

 

↑同社はアフリカでの建設足場の普及事業に取り組んでいます

 

同プロジェクトの補助を受けて実施したのは、現地における建設足場の市場調査や、展示用見本の作成および輸出、英語・仏語パンフレットの作成など。

↑支援を受け、市場調査など様々な準備を実施したとのこと

 

これにより、アフリカ市場での建設足場の需要を確信できたとし、今後は現地で販売代理店網の確立を行うとともに、足場組み立て・解体の技術教育や安全教育を実施し、現地での雇用も創出していきたいと説明していました。また、建設用だけでなく、高速道路やトンネルといった土木用足場など、さらなる用途展開にも積極的に取り組んでいくとのこと。

 

単なる海外でのビジネス展開にとどまらず、社会的意義のある事業展開のために同プロジェクトの補助金が活用されていることがよくわかる発表となっていました。

 

同社以外にも、インドにおける慢性的な水不足解消を目的とした節水ノズルの提案や、ケニアで現地製造した土壌硬化剤を使った水路・ため池施工事業の取り組みなど、様々な事業での成果が報告され、参加者を交えた質疑応答なども行われていました。

 

アイ・シー・ネットのHPでは、今回の活動実績をまとめた資料や、海外進出に役立つニーズレポートなども公開していますので、海外でのビジネス展開をお考えの中小企業の方は、ぜひアクセスしてみてください。

 

飛びだせJapan!の特設ページ:https://www.icnet.co.jp/tobidase-japan/

 

【フォトギャラリー(画像をタップするとご覧いただけます)】

意外と研究が進んでいなかったタコが「とても嫌うもの」が2つ判明

日本でタコといえば、たこ焼き。お刺身やタコワサもいけますね。私たちにとってタコはあまりにも身近な食材ですが、タコ自体が持つ感覚や身体の機能についてもよく知っている人はあまり多くないかもしれません。そこで最近、この吸盤つき8本足の軟体動物に関する興味深い研究が2つ発表されたので、タコについての知識を少し深めてみましょう。

↑見た目以上に敏感

 

タコだって痛いのはヤダ

痛みは、苦しみをともなう複雑な感情が生まれる状態のこと。生物が痛みを感じるためには非常に複雑な神経システムが必要であるため、魚介類は痛みを感じられないと従来では考えられていました。しかし、特定の種類の魚介類を使った実験で、魚介類が痛みを感じる可能性が示唆され、「魚は痛みを感じるか? 感じないか?」という議論が研究者の間で広がってきています。

 

そこで、サンフランシスコ州立大学の研究者がタコの痛覚について実験を行うことにしました。タコは5億個もの神経細胞を持っており、ほかの無脊椎動物より神経細胞の数がはるかに多いという特徴があるため、痛みを感じる可能性が考えられます。

 

この研究者は動物の痛みの受容とそれに伴う行動について調べる一般的な方法を用いました。3つの部屋に分かれた水槽のなかにタコを入れて、1本の足に酢酸を注射し痛みを与え、どのような反応を示すか観察。するとタコは注射された部屋を避けて、別の部屋に移動するようになったのです。

 

タコに痛みを感じない生理食塩水を注射した場合、その部屋を回避するような動きは観察されなかったのですが、痛みを感じる酢酸の注射を打った後に麻酔薬を注射すると、タコは麻酔薬を打つ部屋を好むような行動を示したのです。しかも、痛みを感じない生理食塩水を注射したタコは、麻酔薬の注射を行う部屋に興味を示すことがありませんでした。

 

これらの結果から、タコは痛みを感じ、それを避ける行動をとると研究者たちは結論づけたわけです。しかも酢酸の注射で痛みをもたらされたタコは、注射された部分を20分も口で噛みついていたことが観察されていますから、タコには痛覚があると言えるようです。

 

強い光もヤダ

↑まぶしいな

 

もう一つ、タコに関する面白い研究結果が先日発表されました。それは、暗闇のように目が見えない環境であっても、タコは足だけで光を感じとれるというもの。タコの足は光を受けると色が変わる色素細胞で覆われており、それによって周囲の模様とあわせてカモフラージュする能力があります。

 

イスラエルのルッピンアカデミックセンターの研究チームは、光に反応するタコの色素細胞について研究していたとき、タコの足に光をあてても色が変化しない場合があることに気づいたそう。また、強力なライトを足先にあてると、いつもタコが足をひっこめることに気づき、タコのこのような行動を調べることにしたのです。

 

まず、黒いシートで覆った暗い水槽のなかにタコを入れ、水槽の上部に開けた穴に足を伸ばすと魚を捕まえられるように訓練しました。そしてタコは目が見えない暗闇のなか、穴に足を伸ばしたときにランダムに強いライトを当てたところ、84%の確率で足をすぐに引っ込めたことが判明。温度変化によって光を検知していることも考えられましたが、温度変化を確認したところ、そのような影響はなかったそうです。

 

またライトを当てる部位を変えてみると足の先端が最も敏感に反応し、麻酔をかけたタコや切断した足では、反応を示さないこともわかりました。

 

これらの結果から、タコの足は光を感じ、この情報が筋肉のなかにある神経を通って脳に伝わり、足を引っ込めるように脳が指令を出していると推測できるのです。この研究チームでは、捕食者から自身を守るための手段としてこのような反応を示すようになったと推測しており、さらに研究を続ける予定です。

 

最初に取り上げた研究でタコは痛みを感じることができるとわかったので、ひょっとしたらタコにとっては強い光も痛いのではないか……? ほかにも仮説は立てられますが、タコは私たちが普通に考えているよりもずっと面白い魚介類のようです。

 

【出典】

Crook, R. J., et al. (2021). Behavioral and neurophysiological evidence suggests affective pain experience in octopus.
iScience 24, 102229. https://doi.org/10.1016/ j.isci.2021.102229

Katz, I., et al. (2021). Feel the light: sight-independent negative phototactic response in octopus arms. Journal of Experimental Biology 2021 224: jeb237529 doi: 10.1242/jeb.237529

 

科学者が1人だけで挑む「レーザー蚊取りマシン」開発プロジェクト

暖かくなると出現してくる蚊。世の中には蚊取り線香や虫よけスプレーなどさまざまな製品がありますが、もっと劇的に蚊を追い払うことはできないものか? ロシアではコンピューターサイエンティストがレーザーで蚊を仕留める機械を制作しています。

↑開発中のレーザー蚊取りマシン

 

南ウラル国立大学の科学者は、Raspberry Pi(ARMプロセッサ搭載のシングルボードコンピューター)を使って、蚊をレーザーで殺すマシンの開発に取り組んでいます。この人はRaspberry Piと一緒に使えるPiカメラとか電流を検知する検流計、さらに人の皮膚に影響を与えない450ナノメーターの波長を持つ市販のレーザーポインターを用意して、それらを組み合わせました。

 

現段階ではまだプロトタイプを制作していませんが、開発は行われています。例えば、このマシンは蚊の大画像を使って、色、音、体温などから蚊を検出するディープラーニングに挑戦。また今後は望遠レンズを取り付けて、蚊の動きを追跡する機能を実験する予定でいるそうです。開発者の計画では1秒間に2匹の蚊を撃退し、将来的にはドローンにレーザーガンを取り付けて、空中を飛ぶ蚊をやつけるマシンを構想しているそうです。

 

このプロジェクトが始まったのは、ちょうど蚊がいない冬の時期だったため、一度中断していたそうですが、今後蚊が増える季節になれば、実際の蚊を使いながら実践に近い形で改良が行われるでしょう。

 

蚊はさまざまな感染症を媒介するという点で厄介な害虫です。蚊が媒介する感染症にはデング熱、チクングニア熱、日本脳炎、ウエストナイル熱、マラリアなどがあり、これらは特に東南アジアや中南米地域などで流行しています。蚊を媒介した感染症で亡くなる人の総数は年間70万人以上にのぼると言われ、蚊が「世界で最も多くの人を殺す危険な生物」とされているのには、そんな現実があるからなのです。

 

この科学者は、大学の仕事とは関係なく個人的にこのレーザー蚊取りマシンを制作しているそう。このような自主的な活動で救われる命が増えたら本当に素晴らしいことですね。

 

【参考】Rakhmatulin, I. (2021). Raspberry PI for Kill Mosquitoes by Laser. Preprints, 2021010412. doi: 10.20944/preprints202101.0412.v1

ロックダウン後に500%増加! 英国男性が「美容整形」に積極的になった当たり前の理屈

コロナ禍のイギリスで流行している物事のひとつに美容整形があります。自分の容姿に疑問を抱き少しでも良く見せたいと願う人たちが急増しているのですが、驚くのは男性も積極的だということ。なぜイギリスでは美容整形が男性にまで広がっているのでしょうか?

↑悩みは薄毛だけじゃない

 

イギリスでは、新型コロナウイルスの蔓延と同時に美容整形の人気が高まりました。美容整形といえば一般的に女性の希望者が多いと思われがちですが、ロックダウン期間中には多くの男性も興味を示すようになったのです。

 

イギリスの美容整形にはボトックスのような注射からメスを使った手術に至るまで、幅広い種類があります。高級紙タイムズによると、美容整形に興味を持っている人たちの数はロックダウンが始まった2020年3月以降に500%以上も増えているとのこと。

 

なかでも、最も人気のある美容整形は体重を減らしてスリム化するための施術です。例えば、余分な皮膚や脂肪、乳腺などを切除する乳房縮小手術の件数は昨年6月以降で520%も増加。また、乳腺の増殖により乳房が肥大した状態となる女性化乳房の除去についての男性からの問い合わせは115%も増加しています。

 

さらに、お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形や脂肪吸引法も人気があり、昨年3月以降は問い合わせが40%も上昇しています。こうした需要の高まりから美容整形機関への予約も殺到していて、数か月先まで予約で埋まっていることも珍しくはないそうです。

 

ではなぜ、体重を減らすための美容整形が人気なのでしょうか?

 

理由の1つとして考えられるのは、ロックダウン期間に増えた体重を落としたいと願う人たちが増えていること。昨年5月にタイムズ紙に掲載された調査によれば、イギリスの全人口の3分の1が3キロ以上も体重が増えたと回答しています。ただ、イギリスでは体重増加や肥満の問題は新型コロナの蔓延前から問題視されており、以前から美容整形を考えていた人も多いのではないかと思われます。

 

それ以外に大きな理由として挙げられるのが、テレワークという勤務形態。お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形や乳房縮小手術の場合、回復までに要する期間は4週間から6週間といわれています。そのため、希望者は通常では長期休暇を利用しますが、コロナ禍で自宅勤務が当り前になった現在はその必要がありません。長期休暇を取る必要がなく、誰にも知られずに手術を受けることができるのです。この点が男性にも女性にも大きな魅力となっているのでしょう。

 

自分の顔を見る時間が増えた

↑カメラはオフで参加したい……

 

減量のための施術と同様に、顔に関する美容整形にも人気が集まっています。バーチャル会議が当然になった今日、Zoomなどの画面に映る自分の顔を見つめる時間も必然的に増えてきました。画面を通じて他人の顔と自分を比較する機会や時間が十分あることも、美容整形をしようと考えるきっかけになったといえるでしょう。

 

イギリス政府公認の美容整形機関・Save Faceは、コンサルテーションの際に「眉間の皺に気づいた」「唇を何とかしたい」「鼻が曲がっている」といった顔に関する不満がロックダウン以降に増えていると語っています。

 

さらに男性の場合は頭髪に関する不満が多く、植毛に関心が集中しているそう。ロンドンのある美容整形医はこの現象について、「ロックダウンで床屋が一時閉鎖されて散髪が不可能になり、多少長めの髪で画面に頭が映ると照明や角度の影響で髪が薄っぺらに見える。それを実際の頭髪と勘違いされてしまうケースが多いようだ」と語っています。

 

さらにイギリス心理学会のジル・オーエン博士は、照明や角度により見え方が変わってくることや、バーチャル会議で顔を見る時間が長くなるにつれて自分の顔の欠点に気づくため、こだわりを持ちやすくなると指摘しています。

 

そのほかにも、美容整形によって美しく変わったセレブとの比較や、現実的ではない美への追求による自信喪失、さらに、ロックダウンを起因とする悲観的思考の頻発などが美容整形の需要に影響していると考えられるようです。

 

イギリス国民保健サービス(NHS)のホームページには、さまざまな美容整形の標準的価格が記載されています。例えば、顔の筋肉を柔らかくしてシワを減らすボトックス注射の場合は約1万3500円〜4万7200円。

 

お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形の場合は約60万7500円〜81万円ですが、手術後のコンサルテーションにも別途費用がかかります。脂肪吸引法は約27万円〜81万円。植毛は約13万5000円から405万円と、頭髪の長さや美容整形機関によって金額がかなり変わります。男性の女性化乳房除去は約47万2500円から74万2500円で、手術後のコンサルテーションにも別途費用がかかります。

 

価格はボトックス注射が一番安いのですが、効果は3か月〜4か月といわれ、繰り返して受けるとなると負担も多くなるでしょう。いずれにしても、イギリスで美容整形を受けるには金銭的な余裕が必要です。

 

美容整形ブームはイギリスの男性だけに見られるわけではなく、この現象はコロナ禍により世界的に起きていますが、その裏には副作用というトラブルもあることを忘れてはならないでしょう。例えば、ボトックス注射の後に顔の腫れが取れない、腹部の美容整形の後に血栓が肺に飛んでしまう等の症状が報告されています。後悔先に立たずです。

 

執筆者/ラッド順子

英国で1980~90年代がブーム! やっぱり古い物が好きな国民

現在、イギリスでは1980年代や1990年代のモノを楽しむ人々が急増しています。最新テクノロジーやAIが脚光を浴びる一方、懐かしい製品が次々にカムバックしており、現在の便利な生活にどこか物足りなさを感じているイギリス人にウケています。どのような”アンティーク”アイテムが人気を集めており、そこにはどんな背景があるのでしょうか?

↑昔のデバイスがビンテージ化

 

懐かしのビンテージ・コンピューター

革命的な新製品が次々と発売されるテクノロジー業界で現在、密かなブームとなっているのがビンテージ・コンピューターです。なかでも特に注目されているのは1980年代と1990年代の製品。当時のコンピュータは徐々に人気が高まり、今日では3年前の約5倍もの価格が付くほどになりました。

 

eBayなどのオークションサイトによれば、昨年12月にはこういったコンピューターが3分間に1台売れる勢いだったとのこと。また、ビンテージ・コンピューター購入のための検索数は今年1月上旬だけでも前年度の25%も増え、オークションサイトに掲載されるコンピューターの台数は2019年1月と比べて28%も増えています。

 

人気がある機種は80年代に販売されたイギリス製の「Sinclair ZX Spectrum」や「Acron BBC Micro」。これらは以前にイギリスの学校で幅広く使われていたため、多くのコレクターを惹きつけているのでしょう。

 

さらに「Apple-I」の人気も見逃せません。これはAppleの共同設立者であるスティーブ・ウォズニアック氏が組み立て、スティーブ・ジョブズ氏 が販売したApple初の製品で、2020年には4000万円以上という破格値が付いたほど人気があります。

 

ビンテージ・コンピューターは20代〜30代の若者にも人気があります。彼らの親の世代が使っていたコンピューターということもあり、身近に感じるのかもしれません。その当時の生活や雰囲気を実際に感じられる点が魅力となっています。

↑いまだに価値あり

 

さらに、この時代のコンピューターは基本的なコンポーネント(部品)で構成されおり、電子機器の基本学習に最適であると言われています。そのため、機器を実際にいじりながら基本を学びたいという人々にも魅力的。イギリスでは当時の部品がいまも販売されており、故障したコンピューターを修理する楽しみも提供しています。修理マニアにとっても絶対に欲しい機器であるに違いありません。

 

人気の理由はこのようにさまざまですが、誰もがノスタルジックな気分を味わうことできることも大きな魅力でしょう。ビンテージ・コンピューターの価格は需要とともに上がってきています。なかには予算内で獲得するために、ビンテージ・コンピューター専門のコミュニティに加入するコレクターも少なくありません。

 

レコードやカセットで音楽を満喫

コンピュータと同様に、レコードとカセットテープの人気も無視できません。イギリス・レコード産業協会(BPI)によれば、この国におけるレコードの売り上げは、国内で販売される全アルバム収入の18%を占めるとのこと。アーティストやレコード会社にとって、この収入はYouTubeなどのプラットフォームで得る収入の2倍にもなっているそうです。

 

新型コロナウィルスの蔓延により多くのレコード店が一時閉鎖に追い込まれるなか、レコード(1枚の平均価格2900円)の需要はコロナ前の2007年から次第に高まっており、2020年には1991年以降で初めて最高売上を記録しました。

 

それと同時にカセットテープ(1個の平均価格950円)の人気も高まる一方です。2012年以降は需要が継続的に広がり、2020年には前年の約2倍にあたる15万7000個という売り上げを達成しました。

 

こういった人気の理由についてBPIのジェフ・テーラー氏は「物として個人で所有できるレコードは時代を超えた価値を提供してくれる。だからこそ音楽にこだわるコレクターにアピールしているのではないか」と語っています。高級紙タイムズによると、2020年12月時点で最高売り上げが予想されたヒットアルバムは、1977年に発売されたフリートウッド・マックの「Rumour」、1995年のオアシスの「Morning Glory」、1991年のニルヴァーナの「Nevermind」といずれも90年代のものでした。

 

古くても愛着がある物は誰にとっても捨てがたいもの。イギリス人には家具や食器、宝飾品、家など“古き日の良いもの”をリスペクトする国民性がありますが、現在の80~90年代ブームもその象徴と見ることができるかもしれません。ときにはイギリス人のように、自分だけのノスタルジックな品物に触れることでタイムトラベルしてみてはいかがでしょうか?

 

執筆者/ラッド順子

換気性能は4倍、なのに騒音は1/4! 最新「スマートウィンドウ」が相反する機能を両立

新型コロナウイルスの感染を防止するために換気の重要性が高まっていますが、窓を長時間開けたままだと周囲の音をうるさく感じることがあるかもしれません。そこで役に立ちそうなのが、シンガポールで開発された換気をしっかり行いながら室内を静かに保つ窓。未来の建物に多用されるかもしれないスマートウィンドウに迫ってみましょう。

↑暑くないし、うるさくない

 

都心部のほか、幹線道路の近くや線路沿いの場所では騒音が気になるでしょう。そのような建物では窓に防音ガラスが使われたり、防音シートを貼ったりして、騒音対策が行われています。でも、それらの対策が有効なのは窓を閉めているときだけ。換気のために窓を開けると、周囲のうるさい音が気になってしまいます。

 

長いこと騒音問題が持ち上がっているシンガポールは、防音性と換気性の機能を兼ね備えた新しい窓の研究に取り組んできました。シンガポール国立大学の研究チームが開発したのは、「AFVW(Acoustic Friendly Ventilation Window)」と名付けられたシステム。

 

このAFVWは、2枚の窓ガラスを15センチの間隔を開けて重ねており、2枚の窓ガラスの間には換気システムを設けています。さらに窓の上下2か所に格子状の通気口を設置。これによって下の通気口から外部の空気が入りこみ、窓ガラス内部にある換気システムを通って上部の通気口から室内に流れこみます。さらに遮音性を高めるために、窓ガラスには吸音材が付けられました。

 

空気の流れなどの検出テストで使われるトレーサーガスを用いた実験を行ったところ、窓を開放した換気法に比べて、AFVWでは汚染物質が4倍の速さで減少したことが確認されました。さらに、このAFVWにエアコンで使用されているものと同じようなフィルターを付ければ、ホコリや汚染物質の除去も可能なのだそうです。

 

また防音性能については、外部のクルマなどの騒音を26db下げることがわかりました。クルマの音、掃除機をかける音、トイレの水を流す音、換気扇の音などはおよそ50~60dbに相当し、人と会話するためには少し大きな声を出さないといけない状況です。一方、騒音はほとんど聞こえないか気にならない程度なのは20~30db。人は10db減少するごとに、音のうるささが半分程度に低減したと感じると言われるので、26dbを減らせるこの窓は人の感覚で騒音を1/4程度抑えられたということになります。

 

新型コロナに加え、環境汚染や花粉の問題もあって、部屋の換気について悩んでいる方も多いのではないでしょうか。将来はこんな高機能の窓が問題解決に役立つかもしれません。

 

「宇宙初のホテル」が2027年以降に完成予定、米スタートアップ

民間人が自由に宇宙旅行を楽しめる時代が近づきつつありますが、宇宙が私たちの新たな旅行先となれば、問題となるのは「どこに泊まるか?」。そんな考えから現在、宇宙に初めてホテルを作る計画が始まっています。「宇宙ホテル」とは一体どんなものなのでしょうか?

↑日帰りなんて言わず、宇宙ホテルでごゆっくり

 

宇宙ホテルの建設に取り組むのは、米スタートアップのオービタル・アッセンブリー・コーポレーション。同社が先日発表した内容によると、宇宙ホテルは「ボイジャー・スペース・ステーション」と呼ばれ、24個のモジュールが直径200メートルのリング状に並ぶ形をしています。リング状というのがポイントで、巨大なリングを回転させることで重力を人工的に作りだし、宇宙にいても無重力状態にならない設計になっています。このホテルは地球を周回する人工衛星などと同じように、約90分で地球1周をまわり続けます。

 

ホテルの内部には宿泊スペースのほか、娯楽スペース、ジムスペース、緊急医療ルームなどの施設が設けられ、収容人数はゲスト300人と従業員100人の合計400人。宇宙研究機関の職員のほか、宇宙での滞在を楽しみたい一般人の利用も想定しています。またエネルギー源には太陽光を利用し、緊急帰還用の乗り物44機が用意されるそう。

 

ボイジャー・スペース・ステーションは2025年に建設を開始し、27年には完成予定。現在、スペースXは23年以降を目処に民間の月旅行を開始する計画を進めている一方、25年までに火星へ有人飛行することも目指していますが、オービタル・アッセンブリー・コーポレーションも民間人の宇宙旅行が開始してから数年以内(2027年〜30年)を目安に宇宙ホテルを建設する計画です。

 

宇宙空間では建設に使える道具や資材などが限られることから、建設時にはロボットの利用が考えられます。しかしロボット技術は進歩しているとはいえ、ロボットと人間では依然として能力に大きな差があることが宇宙ホテル建設の懸念事項である、とオービタル・アッセンブリー・コーポレーションはウェブサイトで述べています。

 

宿泊料金はまだ発表されていませんが、宇宙にホテルが本当に建設されたら、ロマンあふれる滞在になることは間違いないでしょう。お金持ちだけとは言わず、私たちもいまからお金を貯めておいたほうがいいかもしれませんね。

 

世界初「宇宙のハリケーン」の観測に成功! プラズマが渦巻いていた

ハリケーンは北太平洋東部や北大西洋で発生する熱帯低気圧のことを指しますが、最近このハリケーンが地球上ではなく宇宙でも起きていることが世界で初めて観測されました。一体どんな現象なのでしょうか?

↑はじめまして、宇宙ハリケーン

 

ハリケーンは、熱帯や亜熱帯の温暖な地域で温められた空気が上昇気流となって上空にのぼり、そこに周囲の空気が流れ込んで、地球の自転で渦を巻くような積乱雲が作られることで生まれます。雲は低いところなら上空数キロ程度、高いものなら13キロほどにありますが、積乱雲の高さは最大で上空10~15キロメートルほどです。

 

しかし今回観測された宇宙ハリケーンは、積乱雲よりもっと高い位置、北極の上空110~860キロメートルの上層大気で発生しました。観測に成功したのはイギリスのレディング大学や中国の山東大学などの共同研究チーム。彼らが米国軍事気象衛星DMSPの観測データを分析した結果、2014年8月に宇宙ハリケーンが発生していたことが明らかとなったのです。観測された宇宙ハリケーンでは、1キロ近くの直径の渦が形成され、この状態がおよそ8時間継続していました。

 

一般的なハリケーンは積乱雲が渦巻いているのに対して、この宇宙ハリケーンで渦を形成していたのはプラズマです。プラズマとは、個体、液体、気体に次ぐ「物質の第4の状態」のこと。物質は温度が上昇すると、個体から液体、さらに気体に変化します。そして気体に熱や電気エネルギーが加わると、気体の分子が原子となり、原子核のまわりを動いていたマイナスの電子が原子から離れます。

 

このときに中性分子、プラスイオン、マイナスイオンという非常に小さな粒子が自由に動きまわっている状態を「プラズマ」と言います。プラズマを観察できる自然界の現象にはオーロラや稲妻があり、どちらもプラズマで満たされた状態になっているのです。

 

宇宙ハリケーンでは、このプラズマが最大で秒速2.1キロメートルの速さで反時計回りに流れを作り、雨の代わりに電子の雨を降らせていました。また、渦巻きの中心部となるハリケーンの目は雲がなく穏やかな状態となるように、この宇宙ハリケーンの中心部でも同じような穏やかな状態が観測されました。

 

研究チームでは、宇宙ハリケーンが発生したのは太陽風エネルギーと荷電粒子が急速に上層部に伝わったことが原因であると考えており、宇宙ハリケーンは気象衛星などにも影響を及ぼす可能性があると見ています。2019年には、約11年の周期がある太陽活動のサイクルに、プラズマが引き起こす津波のような現象が関連していることが判明していますが、宇宙でもハリケーンや津波のような現象が起きているとは自然は本当に不思議ですね。

 

人は「夢」を見ていても会話できることが4か国の共同研究で判明

眠って夢を見ている人に話しかけたら、反応がないか、目を覚ましてしまうだろうと思いますよね。しかし、レム睡眠中の人は夢を見ながら質問に答えたり、簡単な計算問題まで解いたりできることが最近の研究で明らかとなりました。夢や意識の研究に影響を与えそうなこの実験について見てみましょう。

↑夢のなかでもコミュニケーションはとれる!

 

人の眠りにはノンレム睡眠とレム睡眠の2種類の睡眠があり、それらは夜寝ている間に交互に訪れます。ノンレム睡眠は大脳が休息して心身が深く眠りについている時間。それに対して、レム睡眠では脳が活発に動き記憶の整理や定着が行われ、眼球が活発に動くという特徴があり、私たちは多くの夢をレム睡眠中に見ると言われています。

 

夢の記憶や睡眠中の記憶の保存に関する調査は以前から行われており、過去の研究では、外の世界の出来事はレム睡眠中の人に影響を与えることがわかっています。とすると、ひょっとしたら、レム睡眠中の人は外の誰かと会話できるのではないだろうか? そんな可能性について調査したのが、フランス、ドイツ、オランダ、アメリカの4か国の科学者からなる共同研究グループです。

 

この研究グループは「明晰夢(めいせきむ)」を見ている人とコミュニケーションをとる実験を行いました。明晰夢とは、自分で夢を見ていると自覚しながら見る夢のことで、レム睡眠中によく起きることが知られています。この実験には、これまでに明晰夢を見た経験がある人、明晰夢を見る訓練を行った人、さらに頻繁に明晰夢を見るナルコレプシー患者1人を含む、合計36人が被験者として参加。

 

寝ている間でも自分がどのような状態にあるのかを意識したり、分析したりすることができるように、被験者たちは事前に訓練を受けました。脳波や眼球運動などから被験者が明晰夢を見始めたと確認されたら、実験者は音で合図を送って質問開始。被験者は眼球の動きのほか、腕をポンとたたいたり、言葉を発したりして質問に答えます。

 

その結果、被験者の一部の人と睡眠中にコミュニケーションをとることが可能だったとわかったのです。しかも実験はフランス、ドイツ、オランダ、アメリカの4か所で行われ、それぞれで同様の結果となりました。4か所の結果をまとめると、明晰夢を見た人に質問を行って、18.4%の人から正しい返事があり、60.8%の人には反応が見られず、17.7%の人は不明瞭な回答となりました。

 

正しい返事をした人のなかには、「8-6は?」という計算問題に対して、3秒以内に眼球を動かして「2」と正しく答えたアメリカ人や同じような簡単な計算問題に正確に答えたドイツ人などがいました。

 

この結果から、研究チームは明晰夢を見ている人は双方向のコミュニケーションが可能でであると結論づけたのです。4か国で別の場所で行われた実験で同じ結果が得られたという点も説得力を持ちます。しかも被験者たちは目覚めた後も、夢のなかで投げかけられた質問だけでなく、その質問がどのように自分に届いたのかも覚えていました。

 

人はなぜ夢を見るのか? 夢を見ている間に人の脳はどんな動きをしているのか? 夢にまつわる疑問はつきませんが、今回の実験は夢だけでなく意識の研究にも影響を与えそうです。

 

【出典/参考】

Konkoly, K. R., Appel, K., et al. (2021). Real-time dialogue between experimenters and dreamers during REM sleep. Current Biology. https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.01.026

The Economist. (2021, February 20). The Interpretation of dreams.

 

宇宙人も笑ってる? 火星探査車に暗号を仕掛けたNASAが示す「科学の原点」

日本時間の2月19日、NASAが手がける5台目の火星探査車「パーサヴィアランス(Perseverance)」が火星に着陸しました。着陸成功のニュースは瞬く間に世界中を駆け巡りましたが、それと同時に話題になったのが、この探査車のパラシュートに暗号が隠されていること。

 

地球外生命体へ呼びかけるメッセージを発表するなど、NASAはこれまでにもウィットに富んだ仕掛けや取り組をが行ってきましたが、今回の暗号に隠されたメッセージとは?

↑暗号化されたパラシュート

 

2020年7月30日、フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられたパーサヴィアランスは、約6か月にわたる4億8000万kmの長い旅を経て火星にたどり着きました。着陸システムを担当したエンジニアのアル・チェン氏はその後の会見で、探査車が着陸時に使った大型パラシュートの映像を示しながら「あるメッセージを隠した」と発表。すぐに、この暗号の解読に世界中が盛り上がったのです。

 

その暗号とは、パラシュートに使われたオレンジ色、クリーム色、白色の3色のうち、オレンジ色を「1」に、クリーム色を「0」とみなして2進法にするというもの。こうすると、パラシュートの内側には「4、1、18、5」の数字が浮かび上がり、これをアルファベットの順にあてはめると「d、a、r、e」と読めるのです。同様に、ほかの数字も解読すると、「dare mighty things」というフレーズが読めるのです。これは「困難に挑戦する」という意味。ルーズベルト大統領のスピーチに使われた言葉で、NASAのジェット推進研究所(JPL)のモットーなのだそうです。

 

さらにパラシュートの外側に隠された「34、11、58、N、118、10、31、W」は、JPLの緯度と軽度である「北緯34度11分58秒、西経118度10分31秒」のこと。ネット上では、この暗号をわずか6時間ほどで解読した人が現れ、おおいに盛り上がりました。この仕掛けを把握していたのは、NASAのなかでもごく一部の人だけだったそうで、もしかしたらNASAの関係者もこの謎解きにハマった人がいたかもしれません。

 

科学の源泉

ちなみに、2012年に火星に着陸した探査車「キュリオシティ(Curiosity)」には、探査車のタイヤの跡にモールス信号が仕掛けられていました。探査車のタイヤの跡は、探査車が進んだ距離を正確に把握するために必要なもので、あえてある一定のパターンの跡がつくように設計されています。これにモールス信号が仕掛けられていて、「JPL」と読み解くことができたんです。

 

ほかにも、真面目だけど遊び心あふれるNASAの取り組みをさらに象徴するものに「ゴールデンレコード」があります。これは1977年に打ち上げられた宇宙探査機ボイジャー1号、2号に搭載されたもの。地球外生命体や未知の人類が見つかったときに備えて彼らと交信できるように、さまざまな言語や音声、自然音、画像などを収録しているのです。ゴールデンレコードの表面にはレコードの読み方が書かれているのですが、英語などの文字ではなく、高度な知識を持った地球外生命体なら解読できると思われる、数学的な表現が用いられています。

 

このゴールデンレコードの一部はウェブサイト上で公開されており、誰でも自由に閲覧できるようになっています。ウェブサイトにアクセスすると、まず宇宙空間のような画像が画面いっぱに現れます。白く点滅するマーク部分をクリックしていくと、やがてボイジャーに到達し、収録された音声や画像など31のコンテンツを見たり聞いたりすることができます。

 

壮大なプロジェクトであっても、遊び心やエスプリの効いた仕掛けを施すとはなんとも粋。宇宙探査という大きな野望には人間の知的好奇心という原点があったと、改めて気づかせてくれるようです。

一人じゃ無理! NASAが進める「電気飛行機計画」とは?

電気自動車や「空飛ぶタクシー」など、電気を動力とした乗り物へのシフトが進む今日、その波は飛行機の世界にも押し寄せています。しかし、大型の飛行機を電気の力で飛ばすプロジェクトにNASAが取り組んでいることをご存知ですか?

 

開発目標は2035年

↑電気だけで飛行機は飛ばせる?

 

2015年に発表された今後20年のロードマップによると、NASAは温室効果ガスの排出量を抑え、より安全で静音な航空輸送機の開発を目的としながら2035年までに電気飛行機の実用化を目指しています。

 

現在、飛行機はジェット燃料と呼ばれる化石燃料を燃焼させて推力を得て飛行していますが、この燃料は飛行機が数多く飛べば飛ぶほど温室効果ガスを排出しています。

 

日本では経済産業省が2017年から2036年の20年間で、世界の航空需要は年平均約5%で成長すると見込んでおり、この航空需要の増加に伴い温室効果ガスの排出量も増大するという見通しから、航空業界でも地球温暖化対策が議論されるようになっているのです。そこで電気自動車の開発と同じように持ち上がっているのが、環境にやさしい電気飛行機開発の構想です。

 

このような背景のなかでNASAは電気飛行機プロジェクトを進めているのですが、具体的にNASAでは「X-57」の開発が進められています。

 

「Maxwell」の愛称を持つ完全電動式の飛行機「X-57」計画が2016年に発表されました。それによると、X-57  Maxwellは左右に細長く伸びた翼を持っており、各翼に6個ずつ電気モーターと翼の先端に大きめの電気モーターが各1個ずつ、計14個の電気モーターが付いた構造となっています。

↑X-57 Maxwellは本当に空を飛ぶか?

 

この設計にもとづき作られたX-57 Maxwellが2019年、カリフォルニア州エドワーズにあるアームストロング飛行研究センターでお披露目されました。しかし、飛行機は大型の乗り物であるため、電気自動車や空飛ぶタクシーのような垂直離着陸機と比べて、ずっと高出力の電気モーターが必要になります。バッテリーを大きくすれば出力は高くなりますが、飛行機が効率よく飛行するためには軽量化が必須。そのため、電気飛行機では小型で軽量かつ高出力なモーターが求められるという大きな課題があるのです。

 

そこで2020年2月、NASAは動力を推進力に伝えるためのパワートレインシステムの開発を行う企業をアメリカ国内から広く募ることを発表。メガワットクラスと桁違いの出力を必要とする飛行機で、効率的にエネルギーを伝えるシステムの開発が求められているのです。

 

ちなみに、日本でもJAXA(宇宙航空研究開発機構)が電気飛行機の開発に着手しており、電動航空機「エミッションフリー航空機」を2030~50年代までに実用化するという目標を掲げています。ただし、NASAがパワートレインシステムの開発企業を募集したように、電動飛行機の実現には数々の技術開発が必要となり、複数の分野の技術力が必要。そのためNASAもJAXAも、官民一体となった共同開発が電気飛行機の実現には鍵となってくるようです。

 

自販機の設置が2倍に! コロナ禍で加速するバンコクの「非接触化」ブーム

コロナ禍のタイの首都バンコクでは人との接触をできるだけ避けるため、日々新たなテクノロジーが生まれています。例えば、ショッピングモールなど建物への出入りを記録する「タイチャナ」というアプリは、コロナウイルスが流行り始めて間もない昨年5月にいち早く開発されました。日々刻々と変わる状況に対応すべく生まれたテクノロジーは人々に新しい体験をもたらしています。

↑非接触化するバンコク

 

一時閉店を余儀なくされていたショッピングモールの再開に合わせて、いち早く開発されたのが「タイチャナ」です。これはタイ政府が提供する入退店管理アプリで、ユーザーはショッピングモールやレストランなどへの入退店時、設置されたQRコードを読み込んで、チェックイン・チェックアウトをします。そうすることで、万が一コロナ感染者が発生したとき、感染者の行動ルートにいた人を特定できる仕組みです。

 

下着やサンダルも買える

またコロナの流行によって、バンコクでよく見かけるようになったのが自動販売機。現在は閉店した日本の大丸百貨店が40年以上前にタイで初めて自動販売機を導入しましたが、安全面などの観点から日本ほどの普及には至りませんでした。

 

ところがこの1年間で設置台数が以前のおよそ2倍に増えています。人との接触を避けられる自動販売機は、売り手と買い手の両方にとって好都合。従来は飲み物がメインでしたが、コロナ拡大後はマスクやアルコール消毒ジェルなどはもちろん、対面型店舗やオンラインでの購入が主だった下着や観葉植物なども並ぶようになりました。

↑マスクとスマートフォンの充電器が購入できる自動販売機

 

タイのビーチサンダルメーカーNanyang社でも、昨年バンコク郊外にあるショッピングモールに自動販売機を設置。ビーチサンダルは生活必需品でないにもかかわらず、週に100足も購入されています。対面型店舗の営業時間はコロナ禍において制限される可能性がありますが、24時間販売できる自動販売機は顧客との新たなコミュニケーションツールとして躍進しています。

 

自動販売機メーカーのSun 108社は2020年に1万4000台の自動販売機を稼働させました。前年と比べると、2888台の増加ですが、日本では約1億2500万人の人口に対し自動販売機は250万台ありますが、タイは6700万人に対し2万5000台と市場はまだまだ成長段階。タイの英字紙バンコクポストによると、将来的にタイの自動販売機市場は年間30億バーツ(約105億円)の市場になると推定されています。

 

自動販売機市場が成長した背景には、タイ政府主導で進められているキャッシュレス化の拡大もありました。非対面型の販売チャネルである自動販売機はキャッシュレスと相性がよいため、キャッシュレスで支払える自動販売機の導入が今後の鍵になっていくと考えられます。

 

ショッピングモールはテクノロジーサービスの“展示会”

コロナ禍で活躍しているテクノロジーサービスは、ほかにも数多くあります。例えば、バンコク最大級のショッピングモール「セントラルワールド」は、さまざまなロボットの存在により営業が成り立っていると言っても過言ではありません。

 

セントラルワールドでは、昨年5月のモール再開後「K9」というロボット犬を導入。背中にアルコールジェルを搭載し、ジェルを使いたがらない子どもでも楽しく使える仕組みを作りました。K9を仕掛けたのは大手携帯電話キャリアのAIS。まだ普及段階にある5Gを使ってコントロールすることで、自社のプロモーションになるのはもちろん、アルコールジェルを使う煩わしさを一種の「体験」に転換した好事例と言えるでしょう。

 

そのほかにも、除菌効果のある紫外線UVCを使用し買い物袋を消毒する機械や、エスカレーターに取り付けたセンサーが人の存在を感知して信号のように赤と青のライトで買い物客に知らせ、エスカレーター上でのソーシャルディスタンスを保つ機械などが設置されました。もはやセントラルワールドはコロナ禍期間中に開発されたテクノロジーの展示会のようになっています。

↑セントラルワールドのエスカレーターに設置された「信号」

 

一方、アメリカ発祥のチェーンレストラン「シズラー」では、ウェイターロボットの導入により非接触型の接客を実現させました。このロボットは来店客をテーブルまで案内して食事を提供するうえ、なんと誕生日の客のためにバースデーソングまで歌ってくれるという頼もしい存在です。

 

ソーシャルディスタンスや清潔さを保つためにスタッフの仕事が増えがちなコロナ禍のレストラン営業において、ロボットの導入は生産性を上げられるうえ、ロボット接客は来店客にとっても新たな珍しい体験につながります。実際にロボット導入後のシズラーの売上高は、コロナ拡大前の80%にまで回復しました。

 

このように、コロナ対策において比較的動きが速いタイは、日常の暮らしに数々のテクノロジーサービスを導入しています。新しい科学技術が支えるニューノーマルの日々は消費者にとっても一種の新しい体験。コロナ対策であることに変わりはありませんが、物事や生活をできるだけ前向きに楽しもうとするタイ人らしい考え方なのかもしれません。

 

執筆者/加藤明日香

 

休業店舗を「アート」に。ロックダウンのロンドンにコロナ時代の街作りのヒントが

イギリスではロックダウンで多くの店舗がシャッターを閉ざしており、映画館や劇場といったエンターテインメント施設もすべて閉店しています。企業や各自治体はコロナ禍を乗る切るためにさまざまな工夫を行っていますが、ロンドンのケンジントン・アンド・チェルシー王立区では閑散とした街全体をギャラリーに見立て、パブリック・アートで彩っています。

 

休業中の店が美しく変身

↑公共心のシンボル(レオン・シーシックスの作品)

 

閑散とした街をアートで彩ろうというプロジェクトを立ち上げたのが、ロンドンの芸術振興団体ケンジントン・アンド・チェルシー・アートウィーク(KCAW)です。ケンジントン&チェルシー王立区からの委託により、毎年ユニークな彫刻や、映像や光、デジタル技術を駆使して生み出すインスタレーション・アートで話題を呼ぶ芸術祭を行っているKCAWは、同地区にある休業中の店舗を美しいパブリック・アートに変身させました。

 

ケンジントン地区は、世界の美術工芸品を数多く所蔵するビクトリア&アルバート博物館や、国内外からの観光客にも大人気の自然史博物館、子どもたちの大好きなサイエンス・ミュージアムなどが密集する高感度エリアです。イギリスのデザインを語るうえで欠かせないデザイン・ミュージアムや王立芸術大学を擁するなど、この国の文化とアートを牽引する地区の1つといえるでしょう。

↑シーシックスの作品はライトアップされると幻想的だが……

 

↑近くで見るとシニカル

 

ミュージアムが密集するサウス・ケンジントン駅の近くでは、閉鎖中の店舗のショーウィンドウが不思議なライトインスタレーションに変身しました。これはアーティストのレオン・シーシックスの手によるもので(上の写真3枚)、暗くなると建物全体が巨大なライトボックスに変わる様子はとても幻想的。近くには写真家でビジュアルアーティストのアレグザンダー・アイクハイドの力強い作品群も展示されています(下の写真)。

 

お洒落な買物エリアとして人気のあるハイストリート・ケンジントン駅周辺も、アートエリアに変身しました。イアン・カークパトリックによる失われた遺物や神話の物語を組み合わせたカラフル&ポップなストリートアートや、ステンドガラス風のディスプレイが登場しています。

 

一方、ノッティングヒル地区では、前述のKCAWとロイヤル・カレッジ・オブ・アート、そしてデザインオフィスのコラボによるミューラル(壁画)プロジェクトが進行中です。これは建設工事中の仮囲いの壁一面をすべて地元アーティストの作品で埋め尽くし、通り一帯をストリートギャラリーに変えてしまうという試み。空が薄暗く日照時間も短い冬のロンドンで、カラフルかつポップなグラフィックが鮮やかに映えて街行く人の気分を盛り上げてくれます。

 

若手からベテランまでの作品を広く紹介し、ロンドン市民の士気を高めようとするこれらの取り組みは、ワクチンが普及し、街が再び活気を取り戻すための布石になっています。昨年は多くのイベントが中止またはオンライン開催になりました。しかし、今年は日本でも昨年展覧会が行われた有名アーティスト「バンクシー」の大規模な「リアル」ストリートアート展など、さまざまなアートやカルチャーイベントが屋外スペースを中心に予定されており、期待が高まっています。

 

芸術やユーモアの価値

↑鮮やかな色合いがグレーの街並に映えるアレグザンダー・アイクハイドの作品

 

アートは美しさで人の目を楽しませるだけでなく、新しい視点で物事を考える力を与えたり、精神状態にもプラスに働いたりといった影響も与えます。イタリアなどで行われた研究では芸術鑑賞によって血圧や心拍数が低下し、不安やうつの兆候を改善させる作用が見られることも分かっています*。

 

また、ゴーストタウンと化していたテムズ川南岸地区が2000年ミレニアル事業のアート誘致でロンドン有数の観光地に生まれ変わるなど、芸術は人の流れ、ひいてはビジネスの流れを変える大きな可能性も秘めています。

 

芸術だけで人は食べていけないという意見も確かにありますが、生活の一部として子どものころからアートに親しむ機会が多いロンドン市民は創造性こそが困難な時に新しい発想を生み、問題解決の原動力となることを肌で知っているのかもしれません。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

 

*Stefano Mastandrea, Fridanna Maricchiolo, Giuseppe Carrus, Ilaria Giovannelli, Valentina Giuliani & Daniele Berardi(2019) Visits to figurative art museums may lower blood pressure and stress, Arts & Health, 11:2, 123-132, DOI: 1080/17533015.2018.1443953

 

豚も「テレビゲーム」で遊べることが判明!! 一体どうやって??

チンパンジーは高度な頭脳を持ち、テレビゲームで遊ぶことができるのは広く知られています。しかし、それができるのはチンパンジーだけではありませんでした。最近アメリカで発表された研究によると、豚もテレビゲームを楽しむことができるそうです。いったい豚はどんなゲームをどうやってプレーするのか? 明らかにされた豚の可能性を見てみましょう。

↑こんなの朝飯前だぶー

 

パデュー大学の研究チームは、4頭の豚を使ってテレビゲームを覚えさせる実験を行いました。4頭のうち2頭は生後3か月のヨークシャー種、もう2頭は2歳のミニブタ。ヨークシャー種の豚には「ハムレット」と「オムレツ」、ミニブタには「アイボリー」と「エボニー」という名前が付けられています。

 

豚が挑んだテレビゲームは、ジョイスティックを動かして、カーソルを画面上の3つの壁(太くて青い線)まで移動させるというもの。豚が鼻でレバーを前後左右に傾けることができるように、ジョイスティックはコンピューターのモニターの前に設置されました。ゲームの開始時点で壁は3つあり、どれか1つにカーソルを当てれば餌をもらえるという仕組み。壁が3つのときは偶然当たる可能性が高いものの、壁の数が減るにつれて難易度は上がります。なお、実験を行う前に、同大の動物福祉学の研究者たちが、ジョイスティックの模造品やボイスコマンドなどを使って、豚が行動を学習するまで訓練させました。

 

本番の実験では、どんな結果が得られたのでしょうか? まず、ミニブタの2頭は3つの壁があるときに成功率が84%という成績を出しました。しかし壁が1つになったとき、アイボリーは76%の成功率だったのに対してエボニーは34%と低く、2頭の間で大きな差が見られました。一方、ヨークシャー種の2頭は壁が3つのときより、1〜2つのときに良い成績を残したそうです。

 

結果として、4頭すべてがジョイスティックを動かして、画面上のカーソルを移動させるゲームを行えました。これは、ジョイスティックの動きと画面のカーソルが連携していることを豚が理解していたということ。従来の研究では、産業動物にジョイスティックを動かすような運動能力があることは考えられなかったそうです。

 

親指を持っている動物は、物を握ることができるため、武器を持ったり道具を使えたりします。この親指は、人間の進化や動物の知能などを考えるうえで重要なものと見られていますが、豚のように親指を持たない動物がテレビゲームをできたという今回の発見は大変驚くべきものでしょう。

 

この結果を発表した研究者は「豚や産業動物について私たちは過小評価している」と述べ、今後の高度な学習や認知能力の研究に期待を寄せています。

 

【出典】Croney, C. C., & Boysen, S. T. (2021). Acquisition of a Joystick-Operated Video Task by Pigs (Sus scrofa). Frontiers in Psychology. 12:631755. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.631755

タクシーを超えろ! 最大50人も乗れる「空飛ぶバス」をイギリスが構想中

現在ドローンを活用した「空飛ぶタクシー」が、新しい交通手段として世界各国で開発されていますが、そのほとんどの乗車定員数は少数にとどまっています。しかし、そんな前提条件を乗り越えようと国家で挑み、この分野のリーダーになろうとしている国がありました。それがイギリスで、この国では最大50人もの乗客を乗せる「空飛ぶバス」構想が持ち上がっています。

 

イギリス式空飛ぶバス

↑イギリスが国を挙げて構想している空飛ぶバス

 

イギリス政府が助成する戦略的政策研究機関のUKリサーチ・イノベーションは、これからの社会を大きく変えそうな課題に取り組むために「Industrial Strategy Challenge Fund」を立ち上げ、税金や民間からの資金を使って、低炭素社会における経済成長や高齢化、AIなどの研究を行っています。

 

モビリティ革命も課題のひとつであり、同ファンドは4年間で1億2500万ポンド(約186億円)という予算をかけて「The Future Flight Challenge」というプロジェクトを行っています。新しい空の交通手段の開発だけでなく、無人飛行システムやサステナブルな航空ネットワークの構築という3つのプログラムから構成されるこの企画には15社が参加し、コラボレーションしていますが、そのなかでリーダー的な役割を担っているのが、イギリスの大手航空機製造メーカーのGKNエアロスペース。世界14か国に48の工場を展開し、従業員は1万7000人にのぼります。

 

最近、同社は新しい交通手段を発表。「スカイバス(SkyBus)」と名付けられたこの乗り物は、ドローンのように電力で垂直に離着陸が可能な電動垂直離着陸機(eVTOL)です。小型飛行機のように空を飛ぶため、クルマ、電車、バスのように地上を走る交通機関よりも、移動時間を大幅に短縮し、渋滞の心配もありません。

 

また世界の都市で開発が進められている空飛ぶタクシーは、乗客の目的地に合わせてさまざまなルートを飛びますが、このスカイバスは地上を走るバスと同じように、決まったルートを運航する想定で計画されています。つまり、名前の通り「空飛ぶバス」のような存在になるわけです。

 

環境に優しく、しかも現状の交通手段よりも便利になるかもしれないスカイバスは将来の乗り物として理想的かもしれません。しかし、このスカイバスはまだ計画の初期段階。30~50人を乗せる大型機となると、巨大なバッテリーや充電設備が必要になるのは明らか。さらに大型化によって、充電効率の悪化などが課題として持ち上がると考えられます。しかし、Co2排出量の削減は地球全体が抱える大きな問題。このような問題をどのように解決するのかをチームUKは考えなくてはなりません。はたしてGKNエアロスペースは、航空機製造のスキルやリソースを活用することができるのでしょうか?

 

世界で最も影響力のあるデザイナーが語る「仕事の流儀」

フェラーリ、マクラーレン、マセラティ、BMWなど、さまざまな高級自動車メーカーでデザイナーとして活躍してきたフランク・ステファンソン氏。現在、世界で最も影響力のあるデザイナーと言われる同氏は、自動車業界やデザイン業界でレジェンド的存在ですが、30年以上にわたるキャリアのなかで、テクノロジーの進化は彼自身の仕事にもさまざまな影響を及ぼしてきたそうです。そんななかでステファンソン氏は何を大切にしてきたのか? ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」で行った講演から3つのポイントを取り上げます。

↑テクノロジーでデザインの可能性はもっと広がる

 

1: 製造期間の短縮化の加速

ステファンソン氏は「デザインやエンジニアにおける、現在のそして今後の製造期間を短縮するニーズが高まっている」と述べます。デザイン業界では3Dのデザインにシフトし、特にここ数十年の変化はめざましいと言います。「完全にマニュアル作業だった時代は、ハンドスケッチでデザインするところから始まり、エンジニアとプロトタイプの制作を何度も重ね、最終的に商品販売に至るまで4~5年かかっていました。それが現在では半分の期間になっている」(ステファンソン氏)

 

製造にかかる時間が短くなると、質が落ちてしまうのではないかと思いがちですが、不利とも思える条件を逆手に取って「奇抜なアイデアが本当に実現できるかどうか」を早い段階で余計なコストをかけずに見極めることができます。「期間が短縮するほど、我々のデザインの可能性を広げることになる」と、ステファンソン氏は語っています。

 

2: 新しいツールの活用

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、私たちの働き方が変化していますが、ステファンソン氏も例外ではありません。例えば「世界一安全なチャイルドシート」のうたい文句で2020年に発表されたBabyArkのチャイルドシートを、ステファンソン氏がデザインしました。この仕事で、彼は「3Dソフトウェアのソリッドワークスを使い、エンジニアと一度も対面することなく、自宅のスタジオからすべての仕事を行った」と言います。完全にデジタル化されたプロセスで製品を世に出したということは驚くべきことでしょう。

 

また2021年10月には、スペースXが月面でのカーレースを計画しており、その2台のクルマのデザインをステファンソン氏が担当しています。実際に月でテスト走行を行うことはできませんから、このデザインでもデジタル上でのシミュレーションが大切。「起こり得る極限のコンディションを想定し、それにあわせてデザインを行っている」とのことです。このように、制作プロセスをサポートするツールは重要な役割を果たしているわけですね。

 

3: デザイナー・クライアント・製品の温かいつながり

「テクノロジーの発達とともに懸念されるのは、人間的な温かみが失われやすいということ」と、ステファンソン氏は語っています。これまでは人と人とのやりとりのなかで生まれていた様々な製品が、デジタル化の波にのまれることで人間性を欠いたものになっていくことが危惧されます。

 

人と人とが対面で議論を重ねアイデアを出していたプロセスが、今日ではデジタル上のやりとりだけで簡潔するようになってきました。「私たちが考える温かみの定義も変わり、よりパーソナライズされたものになっていくでしょう。そしてデザイナー・エンジニア・製品の間でいかに人間らしさを盛り込むか、デジタル上で製品にいかに愛・感情・情熱を注ぐかが重要になっていきます」とステファンソン氏。温かみのある製品には、デジタルにはない人間の五感が大切になってくると言います。

↑人間性を重要性を説くステファンソン氏(出典:ダッソー・システムズ)

 

ステファンソン氏のモットーは「if everything seems to be under control, you’re not going fast enough(万事が順調に見えるようでは、まだまだ遅い)」。現状に満足せず、自分をより高めたいのなら、ブレーキから足を離し、アクセルを踏み込んで、新しいことに挑戦すべきである。安定ばかりを求めていては時代に置いてかれるだけだ——。

 

時代に順応しながら冒険を止めないステファンソン氏のそんな姿勢は、これからも私たちに多くの刺激をもたらしてくれそうです。

イケアの「組立説明書」に隠された3つの知恵

スウェーデンの家具メーカーIKEA(イケア)の商品組立説明書を初めて見た人は、「えっ?」と驚くかもしれません。従来の説明書のような文章による説明はほとんどなく、シンプルなイラストだけで構成されているからです。これは説明書を数十ヵ国語分作らなければならないイケアだからこそ、編み出された手法と言えるかもしれません。その秘密は何なのか? イケアの社員がダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」で明かしてくれました。

 

年間3500の取説を38か国語で

↑言葉は(ほとんど)いらない

 

世界50か国以上で展開するイケア。ベッドやダイニングテーブルなどの家具は組み立てや自宅までの配送に時間とお金がかかりますが、イケアはそのプロセスをすべて省略。代わりにお客さんが自分で自宅まで持ち帰り、自分で組み立てるというスタイルを導入し、「おしゃれな家具が低価格で購入できる」ということで世界的に人気を博しました。

 

しかし、いくら店頭に素敵な商品が飾ってあっても、自宅に持ち帰って実際に顧客自身が組み立てることができなければ意味がありません。そこでポイントとなるのが組立説明書。「イケアでは年間3500の新しい組立説明書を38か国語分作ります」と、パッケージ&ストア コミュニケーションマネージャーのAnne Mansfeldt氏は言います。

 

それだけ膨大な説明書を用意するためには、文章による説明を極力省き、言語や文化が違っても理解できる普遍的なイラストが重要な役割を担います。だからイケアの組立説明書には文章がほとんどなく、組み立てのプロセスがシンプルなイラストで示されているのです。

↑プレゼンしたイケアのコミュニケーションのエキスパートたち(出典:ダッソー・システムズ)

 

グラフィックコミュニケーターとして組立説明書チームに12年間所属しているDavid Andersson氏によると、組立説明書を作る際のポイントとして、イケアでは次のようことを心掛けているそうです。

 

1: 最初の工程は簡単にして、自信を持たせる

家具の組み立てに慣れている人ならいいのですが、イケアで扱うような大型家具を初めて組み立てる場合は「本当に自分でできるかな?」と不安がよぎるもの。なので「最初は簡単な工程にして、顧客に自信を持たせて、組み立てを続けるように励ましています」とAndersson氏は言います。説明書の通りに工程を進められると、「大丈夫、作れそうだ!」という気持ちが生まれるため、これでをやる気にさせるようです。

 

2: 大きなパーツを最初に組み立て、完成品をイメージさせる

小さなパーツを組み立てていても、それが完成品のどの部分に使われるかイメージしにくいもの。でも「初期段階に大きなパーツを組み立てれば、でき上がりがわかりやすくなる」とAndersson氏は言います。完成したときのイメージがわかれば、途中で気持ちが萎えることも少なくなりますよね。

 

3: 1つの工程に1つの作業だけ

文章で説明しない分だけ、1つの工程には1つの作業しか記載しません。人間が物理的にできる作業だけを表示しているそうです。

 

組立説明書を作成するチームでは、実際のサンプルを組み立ててみて、上記のようなポイントに注意しながら、3DのCADソフトウェア「SOLIDWORKS(ソリッドワークス)」を使って組立説明書を作っているとのこと。組立説明書のほかにも、顧客とのコミュニケーションツールとして、ウェブサイトやアプリ、パンフレットなどがあります。これらのツールのために、「年間3万点の商品画像と、70本以上の動画が作られている」と開発およびIT運用マネージャーのTaco Van der Maden氏は言います。

 

今後はオンラインショッピングがますます盛んになり、イケアのコミュニケーションツールもさらに進化していくことが求められるでしょう。しかし、もしイケアが文字中心の取説を作っていたら、同社は現在ほどグローバルに成功していなかったかもしれませんね。

【東日本大震災から10年】被災地東北から伝える復興・防災の知見を途上国で活かす

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は東日本大震災の被災地東北から、途上国の人たちと防災や復興の知見を共有し、学び合う研修について取り上げます。帰国した研修員らは、母国で次々とその気づきを活かしています。

↑震災の語り部から、市民目線での緊急時の避難状況とその課題を聞く研修員ら

 

災害弱者のリスク削減の重要性を実感

「石巻を訪れた際、出会った男性の姿が忘れられません。震災で亡くした妻を思い出し、毎日涙を浮かべていると。この研修を通じ、平時から災害のリスクを伝えることで、このような悲しみを背負う人を世界中から一人でも減らしたいと強く思いました」

 

そう話すのは、バングラディッシュのNGO「アクション・エイド・バングラデシュ(AAB)」のナシール・ウディン・エー・エムさんです。2017年に、ジェンダーと多様性の視点から災害リスクの削減を考える研修に参加しました。女性や高齢者など、災害時に脆弱となるリスクの高い人たちのニーズを考慮し、防災・復興に反映することについて学ぶことを目的としています。

 

ナシールさんは研修での気づきを活かし、AABの防災分野のマネージャーとして、女性をはじめ貧困地域に暮らす人々に災害のリスクを広く伝える取り組みを進めています。また、バングラデシュ政府がまとめた平時と災害時の対策にも、女性や女の子の視点に立った取組みを盛り込むよう助言したほか、防災に関連するさまざまな支援に向けた会合で女性の参加を働きかけ、その数は徐々に増えています。

↑災害時のリスクについて女性たちに伝えるナシールさん(右側中央の男性)

 

2015年から実施されているこの研修の企画を担当するJICA東北の井澤仁美職員は「防災や災害対応は、かつては、女性は支援を受けるもので、その取り組みは男性がするものというイメージがありました。しかし、防災や復興は男性だけが担当するものではなく、女性はもちろんのこと、さまざまな立場の人々が多様に取り組むべきものだという意識が高まっています。被災地東北で実施されるこの研修を通じて、そのためのリーダーシップや意識が伝わっていることを実感しています」と研修の意義を語ります。

 

さらに、研修員と被災者との意見交換の場でのやり取りを振り返り「多くの研修員から『日本は、過去の災害経験から“日常で何をすべきか”を常に考え、状況に合わせて改善し、非常時でも対応できるようにしている。Build Back Better(より良い復興)という言葉が何を意味するのか、日本に来てはじめて実感することができた』という声を聞きました。被災者側も、世界中で同じ志をもって防災に取り組んでいる人々がいることを知り、勇気づけられたのではないかと思います」と、井澤職員は話します。

↑2019年の研修の様子。若者の語り部から、復興の現状と若者のリーダーシップについて説明を受けました

 

この研修には、これまでにアジアや中南米など計17か国から女性関連省、防災関連省庁、市民団体の職員ら78名(女性50人、男性28人)が参加してきました。

 

行政の役割からみた「災害復興支援」を学ぶ

「私の住むスクレ市は、海に面しているのですが、独自の地震・津波避難計画がありませんでした。東北での研修を受けて、市独自の避難計画の策定が必要であると考え、帰国後、市の地震・津波避難計画策定に着手しました」

 

自国での取り組みを話すのは、2019年の「災害復興支援」研修に参加した中米エクアドルのヘスス・ハビエル・アルシーバル チカさん。スクレ市安全・リスク・国際協力部でリスク技術士として勤務しています。

↑ヘススさんの取り組みにより、スクレ市では、津波浸水高の標識取付けが行われています

 

この研修は、自然災害からの復旧・復興期における行政機関の役割、そして、集団移転計画や土地利用計画を含む復興計画策定における市民と行政の合意形成過程を学ぶことを目的として、2018年に始まりました。これまで3回実施され、計12か国から29名が参加しています。

↑2019年の参加者ら。研修員たちは行政の立場から復興課題に向き合いました。(右から3人目がヘスス・ハビエル・アルシーバル・チカさん)

 

また、東日本大震災の被災者との交流で、宮城県岩沼市の集団移転地で被災者の話を聞いた際、メキシコからの研修員ロハス・アンヘル・ジェニフェル・アブリルさん(国家国民保護調整局勤務)は、最後に正座して深々と頭を下げ、涙を浮かべて研修への感謝の気持ちを伝えました。被災を乗り越えつつある姿に敬意を表し、「自国に戻ったら、行政官として被災者や住民に寄り添い、対話を重ねて、地域社会主体の復興や減災に取り組みたい」とその決意を表明。その想いを胸に、自国で災害に強いまちづくりを進めています。

 

災害復興を世界に伝えた10年間、そしてこれから

仙台に拠点を置くJICA東北では、さまざまなかたちで震災復興と防災に取り組んできました。震災が発生した2011年には、いち早く地域復興推進員を配置し、翌年からは復興に関わるセミナーや研修を開始。現在も多くの活動を通して、世界の人々に東北復興・防災の知見を発信しています。

 

JICA東北の佐藤一朗次長は、この10年間を振り返り、そしてこれからを見据え、次のように述べます。

 

「東北での研修は、各国からの研修員に、東北の被災地で復興や防災に関わる直接の当事者が自らの体験を伝え、現場体験をしてもらうことで価値ある発信ができます。被災地の復興はまだ終わっていません。これからは復興や災害に強いまちづくりと一体的に、社会の脱炭素化、地域経済の活性化、少子高齢化対策といった地方に共通の課題にも同時に取り組む必要性が増していきます。そうした災害復興プラス・アルファの取り組みを行う東北各地の経験やノウハウをこれからも途上国に発信していきたいと思います」

 

AIは地球外でもコスパよし!? 「宇宙開発」はロボットに任せてしまえ

月や火星で大量のロボットが自律的に活動してインフラを構築する。そんなSF映画のようなビジョンを実際に実現させようとしているスタートアップ企業があります。それがアメリカのOffWorld(オフワールド)。同社の共同創業者でCEOを勤めるJim Keravala氏が、ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」に登壇し、未来の宇宙開発の形について話しました。ワイルドなビジョンの裏には一体どんな考えがあるのでしょうか?

↑宇宙開発もロボットにはもってこい?(出典: オフワールド公式サイト)

 

OffWorldが描く未来の野望は、月や火星などの惑星にAIを搭載したロボットを何百台も大量に送り込み、人間の監視下のもとで採掘などの作業を行い、そこにインフラを構築すること。これによって地球以外の惑星まで文明を拡張し、地球の生態系のバランスをとることにも役立つと考えているのです。

 

ロボットは元来、危険な場所での作業や人間が近づけない場所での作業を行うために開発された一面があります。それと同じように、同社では「人間がまだ訪れたことのない未知の場所にロボットを送り、そこで何百万台ものロボットのプラットフォームを構築し、採掘・飲み水の生成、電気エネルギーの生産などを行うことをビジョンとしている」とKeravala氏は語り、その舞台となるのが月や火星などの惑星なのです。

 

これまでにも月や火星の調査にはロボットが活用されていますが、OffWorldが目指すロボット編隊によるインフラ構築がなぜ必要なのか? 同社ウェブサイトにはその理由が3つ挙げられています。

 

1つ目は人類が拠点とする地球を守るため。昨今、注目が高まっている地球環境問題をはじめ、宇宙で発生し得るさまざまなリスクなど、地球での暮らしが絶対的に安全と言えるわけではありません。なので、地球外でも私たちを守るための準備をする必要があると同社は考えています。

 

2つ目は地球上の環境負荷を軽減すること(同社はこれをサステナブルな発展と言っています)。宇宙でエネルギーインフラを構築できれば、そのエネルギー源を地球に届けることが可能になるかもしれません。そして3つ目は探求心。かつて人類は、山を超え、海を超え、知られざる地を開拓してきました。そして次なる未知の場所(ニューフロンティア)が宇宙になるのです。人類が宇宙に惹かれるのは「未知なる場所や物事を知りたい」という私たちの知的好奇心が背中を押しているからでしょう。

 

同社が開発を進めているロボットは、大きさは30×60×20cmで、重さは53㎏の小型サイズ。地球上はもちろん、月や火星などで自律式で活動できるよう設計され、ソーラーシステムを標準装備し活動します。そんなロボットを活用する最大のメリットは「宇宙に行くことのコストを下げられることだ」とKeravala氏は言います。「ロボットによって、従来なら人を介して行っていた組み立てなどの複雑な作業を宇宙で行えるようになり、インフラ構築に必要な生産コストを大幅に下げることができる」

↑オフワールドのJim Keravala氏(出典:ダッソー・システムズ)

 

そしてAIが搭載されており、ロボット同士の共同作業や現在開発中のマシンインテリジェンスによって、「将来的には人間がほとんど介入しなくてもロボット自身が学習して、次にどんな作業をすべきか判断し活動できるようになる」とKeravala氏は述べています。

 

世界の人口問題の究極の解決策?

映画のワンシーンのようで突飛に思えるKeravala氏の構想は、10代のときに読んだトーマス・ロバート・マルサス著の人口論がきっかけなんだとか。この本は、過剰人口によって食糧不足は避けられなくなり、その結果、飢饉や貧困などが起き、人口の増加は道徳的な観点から抑制すべきであると論じていますが、Keravala氏はそれを自分なりに解釈し、人類を地球外に連れていけば、この問題は解決できるのではないかと考えたのかもしれません。

 

そんなKeravala氏は、あるインタビューによると、近い将来の目標として2024年のNASAのアルテミス計画への参画に期待を寄せているそう。壮大かつ明確なビジョンを持つOffWorldが、どこまで計画を実現できるのか注目です。

モザンビークでサイクロン被害を最小限に食い止めた:東日本大震災の被災経験を活かし、災害に強いまちづくりを支える【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、東北との絆の中で、災害に強い社会を目指すアフリカ南東部のモザンビークでの取り組みを取り上げます。

 

いつどこで発生するかわからない自然災害に向け、JICAは途上国で災害直後の緊急支援から被災地の「より良い復興」に向けた協力まで、切れ目のない取り組みを続けています。そこには、あの東日本大震災からの教訓が活かされています。

 

昨年末にモザンビークにサイクロンが上陸。しかし、過去のサイクロンなどのデータをもとに作成されたハザードマップを使用して、住民と自治体が協働して準備した避難計画により、住民の速やかな避難が可能となり被害を最小限に食い止めることができました。住民の視点を活かした避難計画を作成するそのプロセスには、東日本大震災の被災地からの切実な声が反映されています。

↑ハザードマップをもとに避難計画を検討するモザンビーク・ベイラ市の防災担当者。災害に強いまちづくりには、防災・減災に向けた事前準備が重要です

 

住民をいち早く安全な場所へ。ハザードマップの重要性が明らかに

「サイクロン・イダイの時は、事前に取るべき行動が分からず混乱しましたが、今回のサイクロン・シャレーンの際は、事前に、スムーズな避難が可能となり、被害を最小化できました」

 

そう語るのは、モザンビーク・ベイラ市のダビズ・ムベポ・シマンゴ市長です。2019年3月にベイラ市を襲ったサイクロン・イダイは、死者数650名、国内避難民40万人という甚大な被害をもたらしました。その教訓をもとに、JICAは2019年9月からベイラ市で災害に強いまちづくりに向けたプロジェクトに取り組んでいます。

↑2019年3月、サイクロン・イダイの襲来時の様子(左)。避難計画はまだ未整備で、大雨で寸断された道路を前に、立ち往生する住民があふれました(右)

 

そのさなか、2020年12月30日にサイクロン・シャレーンが襲来。イダイの経験から、ベイラ市では、関係機関が連携して避難を呼びかけ、住民は安全な施設へ事前にかつ円滑に避難することができ、被害を最小限に抑えることができました。

↑シャレーン上陸前日に記者発表して住民に避難を呼びかけるベイラ市長

 

「モザンビークの復興支援では、これまでの支援経験を活かし、スピード感をより一層もって取り組むことを心がけています。サイクロン・シャレーンのときも、その直後の今年1月23日のサイクロン・エロイーズのときも、プロジェクトでいち早く作成支援したハザードマップを使用して、住民と自治体で作った避難計画が実施されたことが人的被害を最小限に抑えることにつながりました」。平林淳利JICA国際協力専門員は進行中のプロジェクトの成果を語ります。

 

「災害を風化させてはいけない」—モザンビークの人々の心に響いた宮城県東松島市民の声

災害に強いまちづくりには、平時から誰もがどれだけ防災・減災に向けた準備ができているかが大きな鍵になります。このプロジェクトでは、モザンビーク復興庁のフランシスコ・ペレイラ長官はじめ、国家災害対策院長官ら、復興や減災に取り組む国のリーダーたちを日本に招いて東日本大震災の被災地視察や関係者との意見交換などを実施。災害を経験した人々の声にも耳を傾けました。

↑モザンビーク復興庁長官らを招いた研修で、当時の状況を説明する東松島市復興政策部の川口貴史係長(左)

 

被災地での研修に同行した平林専門員は、とりわけ宮城県東松島市の被災者たちとのやりとりがモザンビークのリーダーたちの災害に強いまちづくりへのモチベーションを高めたと振り返ります。

 

「東松島市の被災者の皆さんからは『3.11では世界中から手を差し伸べいただきました。今度は私たちが恩返しをする番です』との言葉があり、モザンビークのリーダーたちの感動とやる気を呼び起こしました。また、東松島市復興政策部の川口貴史係長には、まだ地元の復興が道半ばでありながらもモザンビークまで来て頂き、住民らに復興の経験を話してもらいました。『自然災害はいつ起こるかわからない。住民も行政官も、自分事として復興・減災に取り組むことが大切です!』という川口係長の生のメッセージも響いたと思います」

↑モザンビークで東松島市の復興経験と教訓を話す川口貴史係長(中央)

 

こうした東北の人々の「災害を風化させてはいけない」という想いが、モザンビークでの災害に強いまちづくりの下支えとなり、ハザードマップの理解と活用や住民と自治体による避難計画作りと実施といった実情に則した防災・減災への取り組みへとつながっていったのです。

↑避難経路を確認するベイラ市の防災担当者ら

 

より良い復興に向け、住民と自治体の合意形成が不可欠

平林専門員は現在、コロナ禍でモザンビークへの渡航がかなわないなか、プロジェクト関係者とともにリモートでの協力を続けています。不安定な通信環境と格闘しながら、ドローンや360度カメラを駆使して、現地の行政官やコンサルタント、建設業者の皆さんとオンラインで、被災地での建設工事などにも取り掛かっています。

↑これから建設が始まる小学校の工事現場の様子。360度カメラ映像をみながら、日本からリモートでの支援が続きます

 

プロジェクトチームは、現地の人々に寄り添い、東日本大震災の経験を踏まえ、日本の知見を現地で適用できるよう尽力しています。復興に向けた取り組みは「ハード整備と同時にソフト面の強化」、つまり住民と自治体がともに復興及び防災・減災に取り組んでいく丁寧なプロセスが大切だと平林専門員は強く訴えます。

 

「スピード感を持ちつつも『急がば回れ』で、より良い復興はキメ細かな被災者との対話を重ねた合意形成をしつつ進めることが重要です。日本では東日本大震災以降、『復興における住民と自治体の合意形成』という基本思想の重要さが改めて確認されていますが、途上国ではまだまだ認識されてはいないのが現状です。命を守るためにどのようにまちを復興していくか計画し、被災住民、政府高官、自治体の職員の皆が災害リスクを共に理解し、意見と知恵を出し合って災害に強いまちづくりを進めていくことが大切です」

↑プロジェクトの協力により、ベイラ市職員と地区代表者が一緒に防災ワークショップを開催。東日本大震災の復興知見がアフリカの地でも役立っています

 

※この記事を制作中の2月22日、ベイラ市のダビズ・ムベポ・シマンゴ市長が新型コロナウイルス感染症により急逝されたとの知らせが現地より届きました。サイクロン・イダイの災害直後から、ベイラ市の復興に精力的に取り組まれてきた市長の突然の訃報に、プロジェクト関係者一同大変な大きな悲しみに包まれております。シマンゴ市長の復興への強い決意に報いるためにも、現地での協力により一層尽力していく所存です。シマンゴ市長、これまで本当にありがとうございました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

プロジェクト関係者一同より

ディズニー流「Think Different」が教える創造力のヒント。型破りな発想のために脳の87%を解放せよ!

まるで物語の世界に迷い込んだように、予想もしないような体験や感動があるディズニーランド。1955年に米カリフォルニア州で最初のディズニーランドが開園したことをきっかけに、ディズニーはそれまでのホスピタリティの常識を覆し、新しいホスピタリティの概念を生み出したと言われています。

↑パパ、遊び心が足りてないんじゃない?

 

そんなディズニーで大切にされているのが、「Think Different(ほかと違う考えを持つこと)」。決まりきった枠組みに固執せず、クリエイティブな考えを生み出すことには、どんな意味や可能性があるのでしょうか? ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」に登壇した、ディズニーのイノベーションとクリエイティビティの元責任者Duncan Wardle氏の言葉から、その重要性を探ってみましょう。

 

「Think Different」ができると、どんなメリットが生まれるのでしょうか? その一例として、Wardle氏は自身のウェブサイトでデジタルカメラを取り上げています。アメリカを拠点とする写真用品の大手コダックが、1975年にデジタルカメラの開発に挑み、試作機を制作しました。しかし同社は当時主流だったフィルムカメラ市場に競合する懸念から、これを市場に出すことはしませんでした。

 

数十年後にはカメラの世界がフィルムからデジタルに移行するなど、この時点で予測できた人はほとんどいなかったかもしれません。「でも写真を簡単に共有する目的を明確にして、それに何よりも重点を置いていたとしたら……」と、Wardle氏は疑問を投げかけます。もしそうしていたら、コダックは現在のデジタルカメラ市場で優位にシェアを伸ばし、2012年の倒産さえ免れたかもしれません。

 

ディズニー流「Think Different 」の方法

ほかとは違う考えを持つためには、どうしたらいいのでしょうか? Wardle氏が提案する1つ目の方法は、多様性を大切にすること。Wardle氏が香港のディズニーランドに作る商業スペースについて検討していたとき、50歳以上の白人男性ばかりが集まって議論しているなか、Wardle氏はあえて、若い中国人女性シェフをそこに呼んだそう。

 

その理由は「彼女は、その場にいる人と正反対の人物で、違う考えをもたらすだろうと思ったから」とWardle氏は言います。私たちは無意識のうちに、自分たちの経験や知識に基づいて、物事を判断したり想像したりしがちですが、違う考えを持つ人がいれば、その人が予想もしない考えをもたらすかもしれないわけです。

 

また、課題についてシンプルに見つめ直すことも必要で、これはディズニーの創業者であるウォルト・ディズニーが大切にしていたことと通じるとWardle氏は言います。「1955年に最初のディズニーランドがオープンしたとき、ウォルト・ディズニーは『園内にいるのはお客様とキャストだけで、従業員はいない』とキャストに伝え、我々の仕事について改めて考え、ホスピタリティ業について深く見つめ直すよう諭しました」(Wardle氏)。こうして、それまでにはなかったホスピタリティの考えを構築していき、それによってディズニーが唯一無二の存在となり、世界中の人々を魅了していったのです。

 

さらに、Wardle氏は遊び心を持つことも大切だと語ります。偉人や凡人に関係なく、人間は入浴中やウォーキング中、通勤途中、寝る直前などに閃くことがよくあり、職場で最高のアイデアを思いつくことは、あまり多くないかもしれません。

 

一説によると、その理由は私たちが仕事をしているとき、脳は忙しく仕事をこなす「ビジーベータ(Busy Beta)」の状態にあるから。「私たちは脳全体のわずか13%しか使っていません。残りの87%は無意識下の脳で、ストレスを感じたり多忙だったりするとその脳は閉ざされてしまうのです。この閉ざされた脳を開かなければ、素晴らしいアイデアでは生まれません」とWardle氏は述べます。

↑遊び心の大切さを説くWardle氏(出典:ダッソー・システムズ)

 

無意識下の脳を解放した状態は「アメージングアルファ(Amazing Alpha)」と呼ばれています。遊び心は閉ざされた脳をオープンにするときに重要な役割を果たすのですが、遊び心は誰もが産まれたときから持ち合わせているものだとWardle氏は言います。私たちは幼いときには周囲のあらゆることに「なぜ」と疑問を持ちましたよね? そんな既成概念や経験則に捉われることのない素朴な心がクリエイティブな思考につながるのです。会社や業界、社会のルールが思考の邪魔をしていたら、「ルールを無視できたら何が可能になるか?」と考えてみましょう。

 

確かにクリエイティブな思考は考える時間がないとなかなかできませんが、時間を言い訳にしてはいけません。時間がないとき、Wardle氏は子どものように笑う時間を作っているそうです。心から笑えるということは、日々のストレスを忘れ、心身がリラックスしているということ。そうすることで閉ざされていた脳が開放され、クリエイティブな思考になっていくようです。

 

議論の余地はありますが、一般的に日本人は集団主義的であり、周囲の人と同調する傾向があると言われています。しかも性格は真面目。それ自体には良い面も悪い面もありますが、Think Differentは日本人のそのような弱点を補うのに役立つかもしれません。

無印良品との10年以上にわたる連携:キルギスの女性たちの自立を支えたものづくり【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、キルギスで行われている無印良品(MUJI)と連携した地域活性化の取り組みについて取り上げます。

 

中央アジアに位置するキルギスは、ソ連崩壞により独立した国の一つです。独立後の相次ぐ政変や、エネルギー資源に乏しく経済成長の原動力となる産業に恵まれないこともあり、経済的に停滞が続いています。JICAはキルギスで日本の「一村一品運動」を取り入れ、地域の特産品で経済を活性化させるプロジェクトを進めています。特産品の生産組織を運営する女性たちの自立にもつながっているこの取り組みは、グローバルに展開している日本の生活日用品ブランド無印良品(MUJI)と連携し、2020年に10周年を迎えました。

↑キルギスの一村一品プロジェクトは地域経済の活性化とともに女性たち自立にもつながりました

 

特産品の生産を担うことで 自信が生まれる

「キルギスの農村部では、女性が自由に村の外に出かけることが難しいなど、一般的に女性の家庭内の地位は低いです。しかし、このプロジェクトで特産品の生産を手掛け、収入を得て家庭を支えることで家庭内の地位が上がり、彼女たちの自立と自信につながっていきました」

 

2009年からキルギスのイシククリ州で一村一品(OVOP=One Village One Product)プロジェクトを担う原口明久専門家は、これまでの取り組みをそう振り返ります。一村一品とは、日本の大分県から始まった地域活性化の取り組みで、その名のとおり「各村で、全国・世界に通じる特産品を作ること」。イシククリ州は日本と中東を結ぶシルクロードの道中にあり、伝統的に羊毛の生産が盛んで、果実やベリー類の宝庫です。プロジェクトでは、フェルト製品やジャムといった特産品を、上質で付加価値の高い商品に作り上げます。

↑フェルト製品の作り方を学ぶ女性たち

 

それぞれの村で廃校になった校舎や役場の建物を活用して、「コミュニティーワークショップ」という場所を設置。参加したい女性たちは誰でもここに集うことができ、特産品の生産技術を学び、商品の生産を担います。このワークショップで生産された商品からの収益は、生産者たちに還元され、村の女性たちが自らお金を稼ぐことができる仕組みです。

 

継続的に収益を上げることができる仕組みをつくる

OVOPプロジェクトで最も重要なのは、誰もが参加でき、かつ継続的に確実に収益を上げられるようにすること。そのため、プロジェクトでは商品開発から原料調達、販売、輸出といったロジスティック機能を担う「OVOP+1」の設立をサポートし、さらなる能力強化を図り、生産者と市場を結んでいます。

 

イシククリ州のOVOP+1には約2700名の生産者が登録されており、うち約90%が地元の女性たちです。このOVOP+1の活動は現在、キルギス全土に広がっており、「村に住み続けながら稼げる仕組み」を定着させることで、キルギス全体における女性の地位向上や若者の出稼ぎ流出の食い止めにつなげます。

↑原材料の調達(左)、商品の品質管理(中央)、デザインや企画(右)からビジネスマッチングまでOVOP+1が一貫して担います

 

原口専門家は、キルギスのOVOP+1の今後について、次のように語ります。

 

「OVOP+1のスタッフは発注者からの高品質な製品を求める声に生産者と共に応え、納品に対するプレッシャーを感じながらも、それを乗り越え、成功体験を重ねることで、ビジネスマインドを持つようになります。この循環によって、JICAのプロジェクトが終了した後も、この仕組みが続いていきます」

 

無印良品から商品発注が増え、コロナ禍で困窮する村の暮らしを支えた

このプロジェクトで生産された製品は日本でも購入することができます。日本で販売を手掛けるのは、無印良品(MUJI)ブランドを運営する(株)良品計画です。途上国での商品開発に向け、JICAと連携した「MUJI×JICAプロジェクト」は2010年から始まりました。

 

無印良品で販売するほかの商品と遜色ない品質とデザインが施されたキルギスのフェルト製品10~20種類が毎年、無印良品の店頭に並びます。商品がどのように生産され、地域にどのように還元されているかを考えてモノを購入するエシカル消費への関心が高まるなか、この10年で、無印良品からの発注額はOVOP+1の総売上高の約4割に相当します。

↑無印良品で販売され定番ヒット商品となっているイシククリ州特産品のフェルト素材の人形。商品バリエーションがあり固定ファンが多い

 

コロナ禍の影響により、農村部では家畜や農産物を近隣諸国へ出荷できず、また出稼ぎに出ている家族も出稼ぎ先で仕事を失うなどして仕送りも激減しています。村の住民たちが、現金収入源を失い経済的に困窮するなか、無印良品からの発注が増えて生産活動が続くことで、村の暮らしを支えています。

 

原口専門家は、「これまではクリスマス商品として一部の店舗のみでの販売でしたが、これからは無印良品の常設商品としての商品開発などについて(株)良品計画と協議しています。生産者と消費者が、本当に質の高い商品を通してつながることで持続的な関係が築き上げられると考えています。また、こういった連携事業を参考にして、多くの企業が途上国での生産活動に参画できるようになれば」と今後の期待を語ります。

↑良品計画本部を訪問したキルギスのスタッフ

 

日本の食卓を支えるモロッコに最新海洋・漁業調査船が就航:40年に渡る協力でアフリカの水産業をサポート【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、日本の食卓と関わりの深いモロッコの水産業に関する協力活動について取り上げます。

 

JICAの協力により岡山県玉野市の造船所で建造された最新鋭の海洋・漁業調査船が昨年12月、母港となるモロッコのアガディール港に向けて出発しました。まもなく現地に到着予定です。

↑海洋・漁業調査船の就航式の様子。JICAの協力により新たに就航した海洋・漁業調査船は全長48.5メートル、1,238総トン。海洋と水産資源の高精度な調査が可能となります

 

約40年間にわたり、JICAはモロッコの水産分野に多様な協力を続けています。今では、その協力から得た知見を活かし、モロッコ自らが主体となり、サブサハラ・アフリカ諸国への協力が実現するなど、モロッコはアフリカの水産分野全体の発展を促す存在に成長しています。

 

実は、日本に輸入されるタコの約2~3割がモロッコ産で、マグロやイカなどおなじみの水産物もモロッコから多く輸入されています。美味しいたこ焼きやお刺身のタコは、遠いモロッコの海から運ばれ、そのモロッコの水産資源管理に協力しているのが日本です。日本の水産協力は現地の水産業を豊かにし、私たちの食卓にも深くかかわっているのです。

 

新造調査船の就航は、モロッコと近隣諸国の水産振興に貢献

「アフリカ第一位の漁獲量を誇るモロッコ。その約95%は沿岸・零細漁業者によるものです。小規模の漁業者が多いという点は日本ともよく似ています」

 

こう話すのは、モロッコ王国海洋漁業庁戦略・国際協力局で水産業振興の協力を行っている池田誠JICA専門家です。グローバルに叫ばれている海洋環境の保全や水産資源の持続的利用のための調査・管理といった課題に加え、モロッコは現在、1.資源の持続的活用、2.水産物の品質向上、3.付加価値化による競争力強化を水産開発の大きな柱としており、池田専門家は、現地の行政官らとともにヒアリング調査や計画づくりの業務に取り組んでいます。

↑今回建造された海洋・漁業調査船は、最新の魚群探知機や海底地形探査装置などを搭載し、エンジンやプロペラなどの騒音・振動が抑えられた最先端の技術を誇ります(写真提供:三井E&S造船株式会社)

 

「モロッコでは、多くの沿岸・零細漁業者はイワシなどの小型浮魚を獲っています。そうした魚種は海洋環境変動の影響で資源量が大きく増減するため、継続的な海洋・資源調査がとても重要です。魚に国境は関係なく、モーリタニアやセネガルなど近隣諸国沿岸へも回遊するので、今回の最新調査船による調査データは、モロッコだけでなく広く西アフリカ各国に裨益することが期待されます。」と池田専門家は今回新たに就航した調査船への期待を語ります。

 

40年以上の多面的な協力が日本の食卓を豊かにする

日本とモロッコの国家間での水産協力の歴史は長く、1979年まで遡ります。以来JICAは、漁業訓練船・機材の供与や技術訓練、沿岸・零細漁業の振興や水揚場整備、さらに水産資源研究など、モロッコの水産業全般を網羅して協力を継続してきました。

 

モロッコと日本は、長年にわたり水産分野での友好関係が続いています。そんな歴史のうえに、日本の食卓にはリーズナブルでおいしい タコやマグロ、イカなどが並べられています。

↑スイラケディマの水揚場でのセリの様子。JICAは水揚場整備や沿岸・零細漁業の振興から、海洋調査・研究分野まで多岐にわたる協力を実施してきました。水産資源管理の重要度は日々高まっています

 

こうしたなか、前任専門家から引継ぎ昨年から池田専門家が携わっているのは、過去にJICAの協力で整備された水揚場を進化させる計画づくりです。

 

「水揚げ場では、輸出市場の求める衛生管理への向上、観光など新たな経済活動への展開、そして整備当時の想定よりも増加している利用者への対応などが必要になっています。現在、海洋漁業庁の行政官や同分野の関係者と検討を進めているところです」

↑スイラケディマの水揚場は、製氷設備や漁具倉庫なども備えています。JICAの協力でモロッコの大西洋側に2カ所、地中海側に2か所の計4か所の水揚場が整備されました

 

モロッコはサブサハラ・アフリカ諸国の水産業を牽引

今やアフリカ随一の水産大国となったモロッコは、水産分野における南南協力(注1)でも長い歴史があります。そのなかでJICAはモロッコで1990年代から第三国研修(注2)をサポートしています。

注1:開発途上国の中で、ある分野において開発の進んだ国が別の途上国の開発を支援すること
注2:途上国間の学び合いを支援するプログラム

↑周辺地域国から関係者を招聘しモロッコで開催されている第三国研修の様子

 

池田専門家はモロッコ水産業の発展性とその実力について次のように述べます。

 

「私は以前セネガルで7年ほど水産分野の振興に携わっていました。その際サブサハラ・アフリカ諸国の水産行政官と話す機会があり、『モロッコでの第三国研修参加の経験を活かして自国で新しい制度を構築した』といった話を少なからず耳にし、日本とモロッコの協力の成果が活かされているという実感を抱きました。また、モロッコの方々に何かアイデアを提示すると、それをヒントに現場の実情に合わせて新しいアイデアを生み出すなど、皆さん、柔軟さと発想力に長けている印象があって、そうしたモロッコ人の特長が水産業振興に発揮されているようにも感じています」

 

そして、「JICAは新たに、モロッコにおいて環境調和と地方開発を志向した貝類・海藻養殖開発の技術協力をスタートさせます。新型コロナウイルスの影響で、今はオンラインによるリモート協力にならざるを得ず、なんとも歯がゆいです。一刻も早いコロナ禍の収束を願っています」と今後について語ります。

 

国連食糧農業機関(FAO)によると、動物性タンパク質摂取量に占める水産物の割合が20%を超える国には日本やアジア等と並んでアフリカの国々が挙げられます。新しい海洋・漁業調査船の建造や、池田専門家が取り組む水揚場の計画づくりなど、一つ一つの水産協力は現地の食卓と経済を豊かにし、さらには日本の食卓を彩り、ひいては海洋・水産資源を保全し、持続可能な形で利用するという目標とも深くつながっていきます。

「焦げ付かないフライパン」なのに焦げ付く謎を科学が解明! 対策も。

テフロン加工やフッ素樹脂加工のフライパンは、少量の油でも食材が焦げ付きにくいのが特徴です。しかし、それなのに調理中の食べ物を焦げ付かせてしまった経験のある方は少なくないでしょう。せっかく焦げ付き防止加工のフライパンを使っているのに、そうなってしまうのは一体なぜなのか? そんな疑問を解決すべく、チェコ科学アカデミーの研究者たちが調査を行いました。

 

加熱で油の表面張力に変化が

↑きちんとした理由で焦げ付きます

 

この研究者たちは、グラナイト加工のフライパンとテフロン加工のフライパンという2種類の焦げ付き防止フライパンを用意。フライパンにひまわり油をひいて加熱し、ひまわり油がどのように変化していくかをビデオカメラで撮影して観察しました。その結果、フライパンを加熱すると、フライパンの表面は平らなのに中央部分に油が薄い「ドライスポット」が形成されることが明らかになりました。

 

ドライスポットが発生する原因は、フライパンは加熱されると油の表面張力が低下することにあります。表面張力とは液体と気体の境界で液体の表面をできるだけ小さくしようと働く力のことで、水をグラスにいっぱい注ぐと水の表面が盛り上がるのが有名な例ですが、この表面張力は温度が上がるほど小さくなります。

 

したがって、特に高温になるフライパン中央部分では油の表面張力が小さくなり、同じフライパン内部でも場所によって差が生まれることに。それによって油がフライパンの外側に移動する「熱キャピラリー対流」と呼ばれる対流が生まれ、結果的にフライパンの中央部分の油が薄くなり、食べ物が焦げ付きやすくなるのです。

 

鍋にお湯を沸かすと、温められた水は鍋の上のほうへ、まだ温められていない水は下のほうへ移動し、鍋のなかで対流が生まれますが、それと同じようにフライパンの油も加熱によって対流が起きていたのです。

↑熱によりフライパンの中で油の対流が起こる(画像出典: Alex Fedorchenko)

 

では、フライパン中央の焦げ付きを防止するためには、どうしたらいいでしょうか? この実験を行った研究者は焦げ付き防止対策として次の方法を挙げています。

 

・フライパンにひく油の量を増やす

・加熱しすぎない

・底が厚いフライパンを使う

・調理中に食材をよくかき混ぜる

 

「調理に使う油の量を減らしてヘルシーに仕上げたい」と思って、焦げ付き防止フライパンを使っている方なら、油の量を増やすのは避けたいかもしれません。その場合は強火より中火程度で、食材をよくかき混ぜながらフライパンを使うといいようです。フライパンはもっと合理的に使えば、もっと長持ちするかもしれませんね。

 

【出典】Fedorchenko, A., & Hruby, J. (2021). On formation of dry spots in heated liquid films. Physics of Fluids, 33(2). https://doi.org/10.1063/5.0035547

人の健康は「幼少期の食事」次第! アメリカの研究で判明

近年、腸内フローラは便通だけでなく肥満やうつ病などにも関係があるとわかってきています。「腸活」という言葉も生まれましたが、この腸内フローラには子どものころの食生活が大きく影響を及ぼしていることが最近の研究で判明しました。大人になってから健康的な食事に変えたとしても意味はないのでしょうか?

↑三つ子の食事百まで?

 

腸内フローラとは、「腸内細菌叢(さいきんそう)」と呼ばれるもの。人の腸のなかには数百種類、数にすると数百兆個もの細菌が生息しており、全部で1~2㎏にもなると言われています。この腸内細菌は身体にとって良い働きをする「善玉菌」と、身体に有害な「悪玉菌」に分類でき、悪玉菌のほうが優勢になり腸内細菌のバランスが崩れると、便秘を引き起こしたり肌の調子が悪くなったりします。

 

また、肥満の人やうつ病患者にはある種類の腸内細菌が少ない傾向があるなど、腸内フローラは人の健康や精神面にまで関連するとわかってきており、その重要性が着目されているのです。

 

そんな腸内フローラの形成に幼少期の食生活や運動が長期的にどのような影響を与えるか調べるため、カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームは若いマウスを使って実験を行いました。

 

マウスは4つのグループに分けます。1つ目のグループは通常の健康的な食事を、2つ目のグループには高脂肪・高糖質の洋食を摂取。さらに、両グループのマウスは運動させるものと運動させないものに分け、「健康的な食事+運動」「健康的な食事のみ」「洋食+運動」「洋食のみ」という4つのまとまりを作り、生後6週になるまで3週間観察。その後はすべてのマウスを運動なしの通常の食事に戻し、人間の6歳に該当する生後14週になった段階で、腸内細菌を調べました。

 

その結果、高脂肪・高糖質の洋食を与えられたマウスは、一部の腸内細菌の種類と量が大きく減少していることが判明。しかも、この減少は「洋食+運動」のマウスでも見られ、腸内細菌の減少に運動の有無は関係しないとわかったのです。

 

別の研究者が調査では、この実験で減少が見られた腸内細菌と同じ種類の細菌が5週間の運動で増えていることがわかっています。つまり、このタイプの細菌の増加には運動が関係していると示唆されるわけですが、それにもかかわらず今回の若いマウスを使った実験では運動をしても細菌数は減少したまま。このことから、幼少期に摂取した高脂肪・高糖質の食事が腸内細菌に長期的に影響していると考えられるわけです。

 

この実験はマウスで行われましたが、研究チームでは人間でも同じように腸内フローラに影響が出ると見ており、人間の場合は思春期以降でも最大6年間は影響を受けているのではないかと述べています。毎日の食事は私たちの身体の細胞一つひとつを形成する源ですが、幼少期の場合はそれがさらに重要なのかもしれません。研究チームの一人は「人の健康は食べ物だけでなく、幼少期の食事でも決まる」と述べています。

 

【出典】McNamara, M. P., Singleton, J. F., et al. (2021). Early-life effects of juvenile Western diet and exercise on adult gut microbiome composition in mice. Journal of Experimental Biology. doi: 10.1242/jeb.239699

 

冬の神秘「凍ったシャボン玉」の作り方! 自宅でもできるかも!

冬になると、各国メディアで取り上げられるのが凍ったシャボン玉。この現象はとても神秘的で美しく、たくさんの人たちを魅了しています。本稿ではシャボン玉が凍る仕組みとシャボン玉の凍らせ方を説明しましょう。

↑冬の美しさのひとつの形

 

シャボン玉が凍っていくとき、どこからか氷の結晶が生まれ、丸いシャボン玉の内部をフワフワと漂っていきます。その様子はとても神秘的で、まさに自然が作るスノードーム。やがて結晶はシャボン玉の表面に張り付き、その数はどんどん増えていきます。YouTubeやSNSにはこの様子を捉えた動画が数多く投稿されており、毎年冬になると世界中で話題となっています。

 

なぜ氷の結晶がシャボン玉のなかでフワフワと浮かぶのでしょうか? その理由は「マランゴニ対流」と呼ばれる現象が起きているからです。マランゴニ対流とは、液体の表面張力に差ができたときに生じる流れのこと。

 

私たちは日常生活でそれを目撃することがあり、お味噌汁をお椀によそったとき味噌汁がお椀のなかで自然と動いているのはその一例。これはお味噌汁の表面部分が空気に触れて冷やされるのに対して、お椀の内部は熱いままのため、表面張力に差が生じて対流ができるからです。

 

お味噌汁と同じように、シャボン玉でも表面部分と内部で温度差が生まれることで、その内部にマランゴニ対流が生まれます。すると氷結が始まったところから氷の結晶が剥離し、シャボン玉のなかをふわふわと浮遊していき、シャボン玉の凍結が進むにつれて氷の結晶が成長していきます。

 

シャボン玉の凍結にチャレンジ

凍ったシャボン玉はとても繊細で割れやすいため、一定の条件下でないと、この現象はなかなか観察できないそう。でも、こんなキレイな様子を見られるなら、自分でもシャボン玉を凍らせてみたくありませんか?

 

国立研究開発法人・科学技術振興機構は身近な材料だけで手軽にシャボン玉が凍る様子を観察できないか、さまざまな条件で実験を行いました。その結果からシャボン玉が凍りやすい条件を次のように結論づけています。

 

・液体洗剤と水を1:4の割合で混ぜて作ったシャボン玉液が最も凍りやすい

・ステンレス製トレイの表面温度を2.7℃以下まで冷やしておく

・そのトレイのうえにシャボン玉をのせて作る

・冷凍庫など-11.6℃以下の環境に置いてシャボン玉を凍らせる

 

一般的な家庭用冷凍庫の温度は-18℃のため、これなら自宅でもシャボン玉を凍らせることができるかもしれませんね。なお、ステンレス製のトレイではなく、銅のような熱伝導率が良いトレイなら、さらに凍結するまでの時間を短縮できるかもしれないそうです。

 

2020年12月9日、北海道では最低気温が-15℃を下回った地域があり、凍ったシャボン玉の写真が国内メディアで紹介されました。外気温がここまで下がる地域に住んでいる方なら気温がぐっと下がる日を狙って、自然環境下でシャボン玉の凍結にチャレンジしてみるのもありかもしれません。

 

やっぱり!「街路樹」の知られていなかった効用がドイツの研究で判明

森のなかを歩くだけで心が落ち着いて気分がスッキリしてくるように、緑には癒しの効果があると言われています。その効果は都市部の街路樹であっても、私たちの知らないうちに良い影響をもたらしていることが最近の研究で明らかになりました。

↑木の癒し効果はこんな場所にも

 

これまでの研究では、都市に緑地があると人間のメンタルヘルスに良い効果がもたらされることがわかっていました。しかし、このような研究は本人が申告した健康状態をもとにしていたため、緑による効果を客観的に評価するには難しい面もありました。

 

そこでドイツのヘルムホルツ環境研究センターなどの研究者たちは、処方された抗うつ薬を指標として、自宅近くにある緑の影響がどのようにメンタルヘルスに影響しているかを調査することにしたのです。

 

研究チームは、ドイツの都市ライプツィヒの住民およそ1万人のデータを収集し、抗うつ薬が処方されたケースを調査。さらにライプツィヒ市内全体の街路樹の数や種類も調べ、それらのデータを組み合わせて、抗うつ薬を処方された人の自宅周辺にどのくらい街路樹があるかを分析しました(なお、うつ病との関連性がわかっている雇用や性別、年齢、体重などはパラメーターとして設定されています)。

 

その結果、自宅から100m以内に街路樹が多いと、抗うつ薬の処方が少なくなることが判明。この傾向は特に経済的に恵まれない人に高く見られました。高級住宅街は街路樹が多く植えられ公園などの憩いの場所も多い一方、家賃の低い住宅が建ち並ぶエリアは建物が密集していて木々が少ない傾向にあることも抗うつ薬の処方と関連があるのかもしれません。

 

植えられていた木の種類と抗うつ薬との関連性についてはわからなかったそうですが、ドイツでは経済的に厳しい環境にある人は抗うつ薬を処方されるリスクが高いため、この研究結果が彼らの精神的な健康のサポートに役立つ可能性があるようです。

 

自宅の近くに木があれば、通勤や通学、買い物、散歩などちょっとした外出時にも必ず緑を目にすることになります。それによって私たちは知らないうちにストレスが軽減されたり、心が癒されたりしているのかもしれません。緊急事態宣言中は不要不急の外出を控えるよう呼びかけられていますが、心身の健康を維持するためにも、ときには公園や街路樹のような緑が多い場所で散歩したり運動したりするといいのかもしれません。

 

【出典】Marselle, M.R., Bowler, D.E., Watzema, J. et al. (2020). Urban street tree biodiversity and antidepressant prescriptions. Sci Rep 10, 22445. https://doi.org/10.1038/s41598-020-79924-5

やっぱ無茶だった? 気球でネット回線をつなぐ「ルーン計画」が10年で終了。なぜ頓挫した?

Googleの親会社のAlphabetは、より多くの人たちがインターネットに接続できるように、世界のインターネット網を気球で構築する「ルーン」計画を行ってきました。発展途上国などを中心にインターネットにアクセスできない人は世界の人口のおよそ半分もいると言われています。いわゆる「情報格差(デジタル・デバイド)」を解決するために、同社は壮大なプロジェクトに取り組んできましたが、最近この計画の打ち切りが発表されました。

↑ルーン計画は絵に描いた餅に

 

まずはインターネットの仕組みを簡単に見てみましょう。日本では全国各地に設置されている基地局に電波が送られて、インターネットに接続できます。総務省では2023年度末までに5Gの基地局数を28万局以上にする目標を発表しており、日本全国でインターネットに接続できる環境を整えるためには、それだけの基地局の数が必要です。

 

このようなことをインターネットの環境が整っていない世界中の土地で行うには莫大なコストがかかります。そこで、Alphabetは成層圏に太陽光で動く機器を搭載した気球を飛ばし、それを利用してインターネット網を構築しようとしました。

 

同社は2011年に子会社ルーンを創業し、「プロジェクト・ルーン」を開始しました。地表から高度10㎞までを「対流圏」と呼び、そのうえの高度10㎞~50㎞を「成層圏」と呼びます。ルーンの気球は地上から高さ20㎞の成層圏に飛ばし、空に浮く基地局として稼働する計画でした。飛ばす気球はテニスコートほどの大きさで、マイナス90℃になり時速100㎞以上の強風が吹く成層圏で耐えられるようにポリエチレン製で設計されていました。この気球なら地上の施設の200倍の地域をカバーできるそうです。

 

このルーンの飛行は世界各地で行われ、実際、ペルーの洪水やプエルトリコのハリケーンで被害を受けた地域の人々にインターネットを提供してきました。さらに2020年にはケニアの企業と提携し、初の商用展開を発表。さらなる展開に期待が高まっていました。

 

しかし1月下旬、Alphabetはルーンの閉鎖を発表。長期的に安定した事業として継続するためのコスト引き下げが難しかったことに加えて、多くの地域で基地局建設のコストが下がり、ルーンの需要が低くなったことなどが原因のようです。

 

ルーン計画は実現まで至りませんでしたが、ソフトバンク傘下のHAPSモバイルが成層圏に「HAPS(高高度疑似衛星)」と呼ばれる無人航空機を飛行させてインターネット網の構築を目指すなど、新しい取り組みが世界中で進められています。情報格差を解決するための挑戦は終わりません。

 

イエロー&レッドカードが13.5%も減!「無観客試合」が選手におよぼす意外な影響

現在、国内外の多くのプロスポーツでは無観客で試合が行われています。スタジアムでは試合を盛り上げるために、サポーターの姿をスクリーンに映したり、声援を流したり、さまざまな工夫が行われていますが、その影響は意外なところに出ているようです。

↑こんなシーンを見ることが減っているかも

 

オーストリアのサッカー・ブンデスリーガでは、2020年5月末から無観客試合でリーグを再開しました。観客の不在は選手の行動にどんな影響を及ぼすのでしょうか? オーストリアのザルツブルク大学の研究者たちが調査を行いました。

 

この調査の対象は、ザルツブルクを拠点とするレッドブル・ザルツブルク。研究者たちは試合中に起きる選手たちの口論や審判への抗議、タックル、ファウルなど、感情的になる行動について分析するシステムを開発しており、これを使って2018-19年シーズンの10試合と、コロナ禍で無観客で行われた2019-20年シーズンの10試合について比較しました。

 

すると、無観客試合では口論のような感情的な行動が、観客がいた試合に比べて19.5%も少ないことが判明。審判の行動も見てみると、そのような口論が起きた場合に制止するような行動はコロナ前の試合では39.4%見られたのに対して、無観客試合では25.2%に減少していました。審判も選手たちのケンカや抗議に積極的に関わろうとしないようです。

 

さらに感情的な行動が起きた時間について比較してみると、コロナ前の試合では合計41分42秒だった一方、無観客試合ではわずか27分9秒に減少。観客がいないと、選手やコーチ陣が議論するのが4.7%減り、激しく口論することも5.1%少なくなることがわかりました。

 

サッカーでは「サポーターは12番目の選手」と言われるように、スタジアムが観客で埋め尽くされ、サポーターの声援と熱気が溢れれば、それはピッチの選手に自然と伝わるもの。声援に後押しされて、選手やコーチ陣が興奮しやすくなるのもうなずけますが、今回の研究結果はそのことを客観的に物語っているでしょう。常に冷静でいなければならない審判も、そんな熱気からは完全に免れないみたいですね。

 

意外と選手は集中しやすい?

選手同士が試合中に口論になるのは、それだけ試合が白熱している証。そんなシーンも含めたスポーツの熱狂は無観客試合では薄れてしまうのかもしれませんが、それにはそれで良い面もあるようです。

 

研究チームは、コロナ前とコロナ禍のリーグ戦を合わせた全120試合(各60試合)におけるファウルとイエローカード、レッドカードの数を集計しました。すると、コロナ禍の無観客試合ではファウルは3.8%、イエローカードとレッドカードの数は13.5%減っていたのです。

 

さらに、レッドブル・ザルツブルクはコロナ前のシーズンでは10試合での得点数は28点だったのに、コロナ禍のシーズンでは10試合で36得点を記録。リーグ戦全60試合でもコロナ前は95得点だったのに、コロナ禍では114点と、約20%も得点数が増加しました。

 

これらのデータは、無観客試合では口論や抗議が減ることで選手がプレーにもっと集中できるようになり、その結果としてファウル数は減り、ゴール数は増える可能性があることを示しています。

 

選手同士の熱い闘いを間近で見られるのはスポーツの醍醐味のひとつ。しかし無観客試合であっても、選手が試合に集中して素晴らしいプレーが生まれているのかもしれません。そう言われるとサポーターは困ってしまいますが、無観客試合には無観客試合だからこその楽しみ方があるのでしょうね。

 

ちなみに、オーストリア・ブンデスリーガは2020-21年シーズンの開幕当初は観客数を制限していましたが、その後は新型コロナの感染者数の増加に伴い、無観客試合が続けられています。観客数の制限が選手などの行動にどのような影響を与えるのかは興味深い問題ですが、さらなる研究報告を待つことにしましょう。

 

【出典】Leitner, M.C., Richlan, F. (2021). Analysis System for Emotional Behavior in Football (ASEB-F): matches of FC Red Bull Salzburg without supporters during the COVID-19 pandemic. Humanities Social Sciences Communications, 8, 14. https://doi.org/10.1057/s41599-020-00699-1

アメリカで話題の「ウォルマートプラス」が示す小売業の新しいサービスモデル

現在、アメリカではAmazonが以前にも増して売り上げを伸ばしていますが、そこに一石を投じたのが大手スーパーのウォルマートです。ほかのスーパーに先駆けてアプリやドライブスルーを導入したことに加え、毎回の配達料が無料となるサブスクリプション(定額制)サービスも始めました。

 

競合スーパーやアマゾンへの対抗施策として顧客サービスに力を入れるウォルマートの取り組みをユーザー視点も交えて紹介します。

↑Amazonに立ち向かうウォルマート(画像出典: Walmart+の公式サイト)

 

2020年9月に始まった新たな定額制サービス「ウォルマートプラス(Walmart+)」。サービス内容は「日用食料品の無料配送」「スキャン&ゴー(無接触購入システム)」「ガソリンの値引き」の3点で、コロナ渦でも必要な買い物には行かざるをえないものの、人との接触は避けたいというニーズに対応したサービスです。会費は年間98ドルで、15日間無料で試すことができます。

 

会員になれば配達料がいつでも無料

まずは、3つのサービスのなかで一番のウリである「無料配達」から見ていきましょう。日用品、食料品、衣類、家電製品など幅広く取り扱うウォルマートですが、これまでの配達サービスは注文金額が最低35ドル以上ということに加え、1回あたり7〜10ドルの配達料がかかっていました。ところが、ウォルマートプラスに加入すると配達料は無料で、注文金額にかかわらず配達してもらえます。注文はアプリで行い、配達日時と受け取り方法も選びます。

 

定額制サービスのため、月に2回以上注文すれば十分に元が取れるでしょう。例えば、いままで週に2~3回、約30〜45分程度の時間を1回の買い物に使っていたとすれば、1週間で約2時間、1ヶ月で約8時間、年間で約96時間も自由な時間ができることになります。

 

惣菜も販売しているので、「Uber Eats」のようにテイクアウト宅配としての利用も可能。Uber Eatsではテイクアウト料・配送料が上乗せされるので店舗で食べるよりもかなり割高になってしまいますが、ウォルマートプラスは余計な金額をかけずに食事を宅配してもらうこともできます。

↑こんな注文も届いちゃう(画像出典: Walmart公式インスタグラム)

 

ウォルマートプラスは当日配達可能と謳ってはいますが、筆者が住む地域では注文が集中する土日や夕方以降は選択肢から自動的に外されていることも。また、筆者は何回か注文してみた結果、生鮮食品は自分で選んだ方がよいという感想を持っています。やや傷んだものや鮮度が落ちたものなどが混ざっていることもあったため、商品をピックアップする人によってかなり差があると思いました。

 

見落としがちですが、ウォルマートに限ったことではないものの、アメリカでは対面で何かサービスを受けたらチップを払うのが常識です。地域により金額の差はあると思いますが、ウォルマートプラスでも毎回配達員に5ドル程度のチップを払わなければなりません。配達料は無料でも、この点が日本とは異なります。

 

店舗での非接触会計やガソリン割引サービスも

↑スキャン&ゴーでサクッとお買い物

 

ここからは、店舗内で使う「スキャン&ゴー」と「ガソリンの割引サービス」に話を移しましょう。スキャン&ゴーはお店のなかでアプリを起動し、購入したい商品のバーコードをスキャンすると、即座にアプリに合計金額が表示されます。専用支払機で支払い用のQRコードをスキャンし、登録済みのカードで購入が完了した後、出口で店員にアプリの支払い済み画面を見せれば買い物は終了。共有の買い物カゴを使ったり、レジに並んだりする必要もありません。コロナ渦中でなるべく人との接触を避けたい人にはもってこいのサービスでしょう。

 

しかし、難点はシステムを取り入れている店舗とそうでない店舗があり、利用できる店舗が限られていること。また、割引価格やクーポンの利用には対応しておらず、それらを使いたい場合は通常通りレジに並ぶしかありません。

 

一方、ガソリンの割引サービスでは、会員は1ガロン(約3.8リットル)あたり5セント(約5円)の割引が受けられます。このサービスはウォルマートだけでなく、系列の大型量販店「サムズクラブ」やガソリンスタンドの「マーフィーステイション」も対応。全部合わせると全米の2000を超える場所でこのサービスが受けられます。給油の際には、アプリを起動し割引コードを入力するかQRコードをスキャンするだけなので手間もかかりません。

↑ガソリン代が結構浮きそう

 

旅行先などで給油したい場合でも、アプリを開くとGPSのマップ画面で割引対象となる最寄りのガソリンスタンドが確認できます。まったく土地勘がない場所でも割引を受けられるガソリンスタンドを見つけられるので、とても便利です。

 

Amazon Primeと比べると……

コロナ禍で売り上げがさらに拡大しているAmazonの有料会員サービス「Prime」と比較してみると、その年会費は119ドルとウォルマートに比べてやや高めです。Amazonはパントリーをはじめ、ホールフーズマーケットと提携し食品配達サービスも提供していますが、最低購入金額が35ドル以上のうえ、多くの場合、1個売りではなくケース売りと大量です。

 

また、ホールフーズマーケットはオーガニックやオリジナル商品を多く取り扱っている一方、安さを売りにしているウォルマートに比べると価格帯が高め。店舗の立地も街のなかが多く、人によっては遠くて行きづらいかもしれません。

 

Amazonは実店舗を有さないことから、ガソリン割引については実店舗を持つウォルマートのみのサービスとなります。しかしPrimeでは映画や音楽、ゲームを体験できますが、ウォルマートプラスにはこのようなサービスがありません。

 

まとめ

ウォルマートはオンラインに限定せず、実店舗を持つ強みも生かしたウォルマートプラスを始めました。実際に使ってみるとまだ改善すべき点はあるものの、Amazonとうまく差別化しながら、ユーザーのニーズを先読みしていると言えるでしょう。日本でもいくつかの小売りサービス企業が連携していけば、ウォルマートプラスのような新サービスが生まれるかもしれません。

 

英国の男性に「革命的手芸ブーム」が到来! 編み物は現代の象徴だ!!

最近、イギリスでは手芸が大流行し、編み物や裁縫を習い始める人たちが増えています。特に注目すべきは、男性がこれらを新しい趣味として楽しんでいること。長年の間、女性の趣味というイメージが強かった手芸ですが、このような見方は変化しつつあるようです。

↑英国紳士の新たな嗜み

 

起死回生の手芸ブーム

イギリスでは手芸の人気が急上昇し、第二次世界大戦以降ではみられなかった「革命的手芸ブーム」とメディアが謳うほどの盛り上がりを見せています。

 

インターネットで「craft(手芸)」の検索数や商品販売数を見ると、爆発的な伸びに驚くばかり。例えば、2012年にイギリスで創業したラブクラフト社へのアクセス数はロックダウン前と比べて58%も増え、そのうち71%は新規の顧客で占められていました。また、材料などの販売数は140%も増加し、初心者用のチュートリアル(基本操作などを教えるプログラム)へのアクセス数は8700%も上昇したとのことです。

 

また、手芸スーパーのホビークラフト社はミシンや生地、糸の検索数が前年度比の310%も上昇した一方、大手企業のジョンルイス社では裁縫セットの売り上げが300%も跳ね上がりました。

 

インターネットでは特にマスク作りの検索数が多く、検索件数はロックダウン前の700%増を記録。感染症対策のための一般防護用マスクの不足や、政府によるマスク着用推奨施策が引き金となったのではないかと考えられます。

 

新型コロナウイルスの影響により2020年は世界的に大変な年となりましたが、クラフトブームのカムバックによって倒産寸前だった手芸用品店が生き残りに成功し、驚くべき売り上げを記録しているというニュースも珍しくありません。

 

編み物や裁縫を楽しむ男性が急増 

↑手芸という瞑想

 

編み物や裁縫などの手仕事は女性のものというイメージが強いのは日本だけではありません。多様性や平等が重視される現代ではステレオタイプ的な考え方にも変化がみられるようになり、イギリスでも手芸は女性を象徴するものとして根付いてきましたが、コロナ禍においては編み物や裁縫にいそしむ男性が急増しています。

 

また、「グレーソンのアートクラブ」やアマチュアが裁縫の腕前を競う「グレート・ブリティッシュ・ソーイングビー」などのテレビ番組が人気を獲得したこともあり、男性が手芸の魅力に目覚めたといってもよいでしょう。

 

さらに、多くの魅力的な男性セレブが裁縫や刺繍、編み物の自作品をSNSに投稿していることも、男性をクラフトに引き付けている理由の1つです。例えば、有名なダイビング選手のトム・デーリーは手編みの水着やセーターなどを投稿。また、ハリウッド俳優のマシュー・マコノヒーやウィル・フェレルもTwitterに#dopemensewというハッシュタグを付けて投稿を始めました。イギリスでは刺繍のプロのジェイミー・チャルマも先導者的存在となっています。

 

手芸を始める理由を男性たちに尋ねると、「スーツを買う金銭的余裕がないから自分で作ろうと思った」「捨てるのがもったいないからボタン付けができるようになりたい」「環境保護のために服等の廃棄量を減らしたい」など、さまざまな回答が返ってきます。トム・デーリーの場合、最初は乗り気でなかったようですが、体調回復のためにコーチに勧められて始めたそう。いまでは夕方に編み物をすると気持ちが落ち着くと言っています。

 

ある調査によると、Twitterでは53%の男性が手芸や美術の会話を楽しんでいるとのこと。ほかの調査でも21%の男性が近いうちに手芸をやりたいと回答しており、今後も男性の手芸ファンはますます増えていく模様です。

 

手芸では自分の作品を実際に使えることが最大の魅力の1つですが、このほかにも「精神的に落ちつく」「リラックスできる」「達成感を味わえる」といった多くの利点が挙げられます。

 

特に昨年からの不安定な社会情勢においてテレビやコンピューター、スマートフォンなどのデバイスから離れて、まったく違った作業に集中することは瞑想的な効果があると感じている人たちも多い様子。「コロナを心配するなら、そのエネルギーをクラフト作りに費やした方がポジティブだ」と強調するイギリス人もいるほどです。

 

実際、いくつかの研究で編み物には「ストレスや心配を和らげる効果がある」ことが証明されています。ホビークラフトのクラフト系趣味のトップ5には、編み物がランクインしています。動物など日本の編みぐるみも人気がありますが、なかでも欧米でヒットしているNetflixの「タイガーキング」を演じるジョー・エキゾチックに人気が集中。この人形のかぎ針用の型紙が売り切れになったほどです。

見方にもよりますが、現代は仕事でも趣味でも「男性だから」「女性だから」という固定観念は時代遅れになりつつあります。イギリスの男性を虜にする手芸ブームは、ひょっとしたら日本でも現れるかもしれません。

 

執筆者/ラッド順子

総合化学メーカーがなぜ昆虫の養殖に参入? ビールやラーメンに使われるコオロギの魅力

コオロギの養殖で未来を拓く~太陽ホールディングス株式会社/太陽グリーンエナジー株式会社

 

日本には貴重なタンパク源としてハチの子やイナゴなどの昆虫を食する文化があり、今もまだ伝統食として残っています。また、世界に目を向けると、アジアや中南米、アフリカなどでは、おやつや嗜好品として日常的に昆虫を食べる文化が根付いている地域もあります。

 

総合化学メーカーが食糧事業に進出

近年、昆虫食が世界中で高い関心を集めています。2013年には、国際連合食糧農業機関(FAO)が、食糧問題の解決策の一つとして、栄養価が高いと言われる昆虫食を推進する方針を明らかにしました。そして現在、国内でも、コオロギの養殖に取り組む企業があります。それが総合化学メーカー・太陽ホールディングスのグループ会社、太陽グリーンエナジーです。

 

太陽ホールディングスは、ソルダーレジスト(プリント配線板の回路を保護する絶縁膜となるインキ)の世界シェアトップを誇る総合化学メーカーです。グループの土台である化学を基盤としてグローバルに展開してきた知見を生かし、2017年から、世界的に取り組むべき課題である3つの分野「医療・医薬品」「エネルギー」「食糧」を新たに事業領域に加え、総合化学企業として展開。太陽グリーンエナジーは、グループ内で食糧事業などを担い、ITを用いたベビーリーフやイチゴ、メロンなどのハウス栽培を行っています。

↑コンピューターをはじめ電化製品に使われるプリント配線板

 

食糧危機への対応策として事業を検討

では、なぜ総合化学メーカーが昆虫食なのでしょうか。コオロギの養殖を始めたきっかけについて、太陽グリーンエナジーの代表取締役社長である荒神文彦さんにうかがいました。

 

「大学時代から昆虫の研究に取り組み、ドイツの大手化学メーカーで農薬研究に長く携わってきたある社員がいるのですが、『食糧として昆虫が必要となる時代が来る』という考えを持っていました。そんな中、グループの新しい柱の1つに“食糧”が掲げられたことを受けて、コオロギの養殖を提案したのが始まりです。社内では戸惑いの声も大きかったものの、“自律型人材の育成”を掲げる当社グループには、自ら何かを成し遂げるという気概を持ち、果敢にチャレンジする人を応援する風土があります。コオロギで食糧問題に取り組むという新しい挑戦も当社グループらしいと、昆虫養殖という領域に乗り出すことになりました」

↑太陽グリーンエナジー株式会社 代表取締役社長・荒神文彦さん

 

SDGsの目標(2 飢餓をゼロに)にも掲げられていますが、人口増加に伴う食糧不足の危機は世界的に強まっています。検討当時、提案をした社員は本来の職務の傍ら、社屋の廊下内でコオロギの養殖研究を始めたそうです。その後、2018年6月に事業所敷地内(福島県二本松市)に専用の飼育研究施設を建設。同年9月には、東北サファリパークと共同研究をし、まずは人向けの食材としてではなく、魚や動物の餌として付加価値の高い飼料となることを目指し、スタートしました。さらに2019年より専属の社員が配属され、人向けにも注力。現在は福島県と埼玉県で養殖、及び試験研究を行っています。

↑コオロギを養殖している専用施設

大腸菌検査など管理体制を徹底

同社で養殖しているコオロギは、フタホシコオロギとヨーロッパイエコオロギという2種類です。フタホシコオロギはタイやフィリピンで主に生息しており、身体は大きめ。ヨーロッパイエコオロギは西南アジアで主に生息しており、身体は小さめです。ちなみに日本でよく見かける種類はエンマコオロギになります。ハウス内には衣装ケースが置かれ、その中に2種類のコオロギが入っています。福島県の専用施設だけで約150ケース。卵の状態で3000~5000個が1ケースに入っていますが、生育の段階で共喰いするため、回収できるのは800~1000匹だそうです。

↑ハウス内には衣装ケースがずらりと並んでいる

 

「なるべく共喰いを抑えるため、養殖魚用の餌などタンパク質含有量の高い餌を与えています。体が小さいコオロギは、食べたものの影響を受けやすいという特徴があります。食の安全性を考慮し、餌とハウスの衛生管理を徹底。クリーンな環境で育ったコオロギの方が安全であるといえるからです。また、食用のコオロギは生産時の衛生基準や、輸出入時の基準が法律で定められていません。そのため、人が食べてもトラブルがないように、一定以上の管理基準とモラルが必要とされます。当社で養殖しているコオロギは、食用として出荷するものについては大腸菌などの菌検査のほか、従事者の体調検査を必ず行っています」

 

そもそも、他の昆虫ではなく、どうしてコオロギだったのでしょうか。

 

「コオロギはタンパク質が豊富で、スポーツ用プロテインに匹敵します。また、弊社で養殖をしているコオロギは休眠期がなく1年中飼育が可能なうえ、雑食で育てやすく、35~40日で成虫になるなど、生育スピードが早いことも利点です。また味も海老などの甲殻類に近く、食べやすい点もあげられます」

↑養殖中のコオロギ

 

ラーメンやビールなどいろいろな食品や飲料に利用

養殖されたコオロギの出荷形態は、生体、生冷凍、乾燥体、乾燥冷凍とさまざま。それらをどう利用するかはユーザー次第だと言います。例えば、昆虫食専門レストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」(東京都中央区)では、コオロギに限らず、さまざまな昆虫を使った料理が食べられますが、名物になっているのが「コオロギラーメン」。煮干しラーメンで人気の「ラーメン凪」との共同開発による一品で、2種類のコオロギでとった出汁をブレンドしたスープはもちろん、大豆を使わずにコオロギを発酵させてつくった「コオロギ醤油」、特製の「コオロギ香味油」、さらには粉末コオロギを練り込んだ「コオロギ練り込み麺」と、コオロギの魅力を余すところなく表現。1杯に100匹を超えるコオロギを使っているそうです。

↑「ANTCICADA」の名物、コオロギラーメン  @Hiromi Toyonaga/はらぺこむしちゃん

 

一方、遠野醸造(岩手県遠野市)では、前述のANTCICADAとともに、コオロギを原料にした「コオロギビール」を製造、販売。昆虫食専門ショップ「昆虫食のTAKEO」や、太陽グリーンエナジーのECサイト「TAIYO Green Farm Cricket」では、食用のコオロギを購入することができます。そのほかにも、煮干しや菓子などさまざまな製品に利用されています。

↑コオロギを購入できるサイト「TAIYO Green Farm Cricket」(https://taiyocricket.base.shop/

 

こうした取り組みが注目され、近年は、製粉メーカーや調味料メーカー、製麺系メーカーなど多くの企業から、コオロギを使った新製品を検討したいという申し出が舞い込んでいるそうです。

 

コオロギ養殖の課題と今後の展望

「安定的に大量のコオロギを生産できる体制を作ることが喫緊の課題です。そのため現在では、空間上の表面積を大きくする飼育方法の検討、高密度飼育に伴い発生する排泄物を含む有害物質の除去方法の検討、コオロギ自体の改良、コオロギを利用したエコロジー活動などを検討しています」。注目を浴びているが故の課題も出てきたと荒神さん。

 

先に述べたように、コオロギは栄養素が不足すると共喰いをはじめ、収穫量が減ってしまいます。餌だけでなく、光を当てると物陰に隠れる習性を利用した共喰い対策なども早々に取ったそうです。確かに、一般的にはまだ昆虫食に対して抵抗はあるかもしれません。ですが、世界的な昆虫食市場の拡大に後押しされ、反響が徐々に大きくなっているのも確かです。

 

「日本人は入り口が狭く、保守的な反面、一旦受け入れてしまえば、大きく広がるのではと考えています。今後、さらに販路が拡大することを見越しているため、まず目指すのは、量を増やすこと。現在、年間1トン前後である生産量を月1トンにまで増量することを短いタームの目標に設定しています。その上で、最終的に追求するのはやはり“味”です。量とともに“美味しいコオロギ”を目指したいと考えています」

 

ビジネスの本質は“課題解決”にある

そもそも食糧事業について、グループではどういった考えを持っていたのでしょうか。太陽ホールディングス・社長室の安藤康正さんに話を聞きました。

 

「社会に必要とされる事業を作ることがビジネスの基本であると考えています。そのためには、課題をあげ、一つ一つ解決していかなければなりません。社会課題を解決していくことで、事業として成り立ち、会社の柱になっていくという考え方です」

↑太陽ホールディングス株式会社 社長室 安藤康正さん

 

「そこで人類共通の課題であり、これまで培った化学分野の知見を活かしつつ、かつグローバルに展開できる、“食糧”“エネルギー”“医療・医薬品”の分野に新規事業として取り組んでいます。中でも“食糧”分野については、世界的に人口が増加し続けていることから、これから直面するであろう食糧問題の解決のために、世界規模で必要とされる事業だと捉えています」

 

地域と共に魅力ある町づくりにも貢献

このように、もともと太陽ホールディングスは、社会的に必要とされるかどうかを、事業を営む上で一番の拠り所としていたそうです。例えば、SDGsとリンクする取り組みの一部が以下です。

 

<2 飢餓をゼロに>

・昆虫養殖により将来起こりうる食糧不足への対応

・子ども食堂(武蔵嵐山駅前の自社が経営する食堂で地域の子供たちに食事の提供)

<3 すべての人に健康と福祉を>

・医薬品の製造・開発を通じて人々の健康に貢献

・アフリカヘルスケアファンドへの出資を通じてアフリカ経済の発展及び健康への貢献

<7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに>

・自然エネルギーによる発電及び電気の供給により持続可能社会への貢献

・電気使用量削減の取り組み(省エネ機器への更新等)

<9 産業と技術確認の基盤をつくろう>

・高付加価値の電子部品用化学材料の開発・製造等の技術革新

・「みちびき」により農作業の効率化や生産性向上に貢献

<11 住み続けられるまちづくりを>

・2018年9月に埼玉県嵐山町と「地方創生に係る包括連携協定」を締結

 

「日本の製造業は地域とともに発展してきました。製造業として工場を構える当社も、そこで働きたいと思うような魅力ある町づくりを、地域と一体となり推進する必要があります。本社の所在地である嵐山町(埼玉県)では、嵐山渓谷周辺の自然保全活動としての植林や、里山の整備、小・中学校の自然環境学習の一環として行われている国蝶オオムラサキの観察・保全活動に対する支援など、さまざまな活動を行っています」(安藤さん)

↑嵐山町に開業した「駅前嵐山食堂」で月2回開催されている「子ども食堂」(※現在は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、持ち帰りにて実施)

 

「このように、従業員のみならず、地域の方がよりよく暮らせるまちづくりの一翼を担えるよう、コミュニティの一員としてできることを考え、取り組んできました」

 

“出来ることから始めよう”をコンセプトに

もちろん、本業であるソルダーレジストの生産においても、社会課題の一つである環境負荷の低減に取り組んできました。多くのレジストインキは緑色を基調としていますが、1980年代以前の製品は緑色を発色させる際に有害物質を含んだ顔料が使用されていました。同社は有害物質を使用しない青色顔料と黄色顔料を混合して緑色に発色させる製品を開発し、1999年には製品化を実現。2000年には、国内工場においてISO14001を認証取得し、その後もグループ各社に展開しています。また、脱炭素化に向けた自然環境にやさしい再生可能エネルギーの普及促進なども取り組んでいます。国内のエレクトロニクス事業に係る消費電力相当を自社で発電することを可能にし、太陽インキ製造は、2018年よりAppleのクリーンエネルギープログラムのサプライヤーに認定されています。

 

「SDGsへの取り組みは、当社が社会からより必要とされる企業となるために重要なことだと考えます。また、当社の目指すところと、SDGsの指標の中に合致する部分は多いと思っています。『9産業と技術革新の基盤をつくろう』は特に私たちの原点であり、経営理念とも近い考え方です。当社はかねてより、地球規模の環境問題に“出来ることから始めよう”というコンセプトで、事業を通じて実現できることをベースに取り組んできました。SDGsという枠組みができたことで世界的な課題が明確になったので、引き続き我々も社会から求められる取り組みをできることから推進していきたいと考えています」

高血圧は「ストレッチ」で改善することが判明! でも運動はやめないで

日本人の生活習慣病による死亡に最も大きな影響を与える要因の1つとされる高血圧症。この症状を改善するための治療法のなかには生活習慣の修正があり、具体的にはウォーキングや軽いジョギング、水中運動、自転車などの運動が奨励されています。しかし最近、ウォーキングよりも簡単に血圧を下げる方法があることが明らかになりました。それがストレッチです。

↑歩く前にストレッチ

 

これまでの研究では、ストレッチをすると血圧が下がる可能性が示唆されていました。では、ウォーキングとストレッチは血圧を改善するうえで、どちらのほうがより効果的なのでしょうか? この問題を調べるために、カナダのサスカチュワン大学の研究チームは比較実験を行いました。

 

実験には平均年齢61歳の高血圧の男女40名が参加。2つのグループに分けられ、1つ目のグループは全身のストレッチ運動を1日30分、週5日行うのに対して、2つ目のグループはウォーキングを1つ目のグループと同じ頻度と時間で行いました。実験中は血圧を24時間モニタリングし、8週間後の経過を観察したところ、両方のグループで血圧の低下が見られました。しかし、ストレッチのグループのほうがウォーキングのグループよりも血圧が顕著に下がっていたのです。

 

この研究を行った運動生理学の教授は、ストレッチは筋肉を伸ばすものですが、同時に動脈など全身の血管も伸ばしていると指摘。動脈にコリがあると血液の流れが悪くなり、血圧が上昇しますが、ストレッチによってそれが軽減する可能性があるようです。

 

ウォーキング+ストレッチ

ただし、ウエストまわりの脂肪については、ストレッチよりウォーキングを行ったグループのほうが減少していることも確認されました。つまり、血圧を下げるだけの目的ならウォーキングよりストレッチのほうが良いけれど、脂肪の燃焼にはウォーキングのほうが向いているということです。

 

すでに多くの人がご存知のように、ウォーキングのような有酸素運動にはコレステロール値や血糖値の低下など、数々のメリットがあります。そのため、この実験を行った教授は「運動をしないでいい」と思うのではなく、「ウォーキングにストレッチを組み合わせる」ことを勧めています。

 

ストレッチは、テレビを見ながら行ったり、お風呂上りのルーティンにしたり、生活習慣として取り入れやすいもの。全身をじっくり伸ばすと気持ちがいいものですし、高血圧ではない人も毎日の習慣として行ってみるといいかもしれません。

 

【出典】Ko, J., Deprez, D., Shaw, K., Alcorn, J., Hadjistavropoulos, T., Tomczak, C., Foulds, H. & Chilibeck, P. D. (2020). Stretching is Superior to Brisk Walking for Reducing Blood Pressure in People With High–Normal Blood Pressure or Stage I Hypertension. Journal of Physical Activity and Health, 18(1), 21-28. https://doi.org/10.1123/jpah.2020-0365

72%の精度で政治的立場を予測する「顔認証技術」の可能性と危険性

スマートフォンやパソコンといったデバイスのロック解除から飛行機の搭乗手続きまで、顔認証技術は活用の場をどんどん広げています。最近では性格や感情までも読み取ることが可能になってきている模様。そんな顔認証技術の可能性と危険性を示唆する研究が最近、発表されました。

↑顔認証技術も2つの顔を持つ

 

アメリカのスタンフォード大学の研究チームは、顔認証技術の危険性について研究を行うため、人物の顔写真からその人の政治的立場を予測する技術について実験を行いました。

 

研究チームはアメリカ、カナダ、イギリスの3か国から合計108万5795人を対象に、デートサイトやFacebookに掲載されたプロフィール用顔写真を集め、さらに本人から政治的な志向、年齢、性別などの情報を収集。プロフィール写真からは人物の顔以外のパーツは排除し、オープンソースの顔認証アルゴリズムを使ってリベラル派か保守派か予測しました。

 

すると、アメリカのデートサイトのユーザー86万2770人の政治的志向は72%という確率で予測が当たりました。そのほかの結果はカナダのデートサイトの精度が68%、イギリスのデートサイトが67%、Facebookのサンプルが71%。その一方で人間の精度はわずか55%だったので、顔認証技術のほうが顔写真からより正確に政治的立場を予測することができると判明したわけです。

 

この結果は顔認証技術の驚異的な能力を示す反面、政治的立場といったプライベートな情報も比較的に高い確率で予測することが可能であり、プライバシーや言論の自由を脅かす危険性を伴っていることを示しています。もちろん顔認証技術にはメリットもあり、例えばアメリカでは指紋で身元を割り出せなかった事件でも顔認証技術によって容疑者の特定につながったケースがあります。遺伝子工学と同じように、顔認証技術も倫理的な側面からもっと慎重に議論されるべきでしょう。

 

【出典】Kosinski, M. (2021). Facial recognition technology can expose political orientation from naturalistic facial images. Scientific Reports 11, 100. https://doi.org/10.1038/s41598-020-79310-1

 

イスラエル発「ドナー不要の人工角膜」は日本の眼科手術にも渡りに船

先日、イスラエルで78歳の男性が、視力を失ってから10年後に再び目が見えるようになったというニュースが流れました。この男性の視力を取り戻したのが人工角膜手術。これ自体は新しいことではありませんが、最新の科学技術により、人工角膜手術の課題の1つである「ドナー不足」が解決するかもしれません。

↑目玉が飛び出るほどの進歩かも

 

黒目の表面を覆う透明な組織を「角膜」と言い、外から目のなかに光を取り込むレンズの役割を担います。この角膜が傷ついたり、病気になってしまったりすると視力が失われてしまい、重症の場合は角膜移植が必要になります。

 

慶應義塾大学病院のサイトによると、角膜の移植はアメリカでは年間4~5万件、日本では年間2000件程度が行われているとのこと。日本での手術件数が少ないのは角膜の提供者(ドナー)が少ないから。そこで期待されているのが、ドナーを必要としない人工角膜。これまでにも人工角膜を使った移植手術は世界各国で行われてきましたが、今後はそれがもっと普及すると言われています。

 

そんな人工角膜を使った移植手術の最新の成功事例が、イスラエルの医療スタートアップ・CorNeat Visionから1月に報告されました。手術を受けたのは、約10年前に両目の視力を失った78歳の男性。イスラエルのラビン・メディカル・センターで、同社が開発した人工角膜「CorNeat KPro」を移植する手術が行われました。この人工角膜は非分解性のナノ組織でできており、これを強膜(眼球の白い部分)の下に入れます。担当医師によると、この手術は比較的シンプルで、1時間以内に終わったそうです。

 

手術後、男性の目から包帯が取り除かれると、一緒にいた家族の顔を見て確認したり、文字を読んだりすることができるようになりました。この男性も家族も感動に包まれたそうです。

↑目頭が熱くなるほど感動

 

同社では、この男性と同じように角膜手術を行う患者10人について承認を受けており、フランス、アメリカ、オランダなどの施設でも同様に申請を進めているそうです。

 

人工角膜手術は決して新しいものではなく、リスクもあるかもしれませんが、科学技術は進歩しており、より多くの人の役に立ちそうです。人工角膜手術を巡る日本の状況にも影響を与えるかもしれませんね。

 

ブームを支える「道ばたの植物」ーー急速に広がるタイの「プラントベースフード」事情

ここ数年、タイのバンコクでは健康志向が一種のブームとなっています。ターミナル駅前には多くのスポーツジムが並び、新型コロナウイルスによる規制でジムが一時的に閉鎖されたときには、大手スポーツ専門店で健康器具が売り切れたという話もあるそう。コロナ禍で健康志向がますます高まるなか、バンコクでトレンドになっているのがプラントベース(植物由来)フードです。

 

タイではもともと馴染み深い

↑バンコクの中華街で開催されるキンジェーの様子

 

国民の95%が仏教徒であるタイでは、昔から続く観音信仰の影響で牛肉を食べない国民が数多くいました。また、もともとタイには「キンジェー」と呼ばれる菜食週間が存在します。華僑の人々から始まったとされるこの菜食週間中は肉・魚・卵などの動物性食品、ニンニクやネギなど匂いの強い野菜、酒などの摂取を控えます。「ジェー(斎)」という漢字には、仏教において「身体と言葉と心の悪行を慎むこと」という意味があり、敬虔な仏教徒にとってキンジェーは大切な期間。菜食はタイ人にとって、もともと馴染み深いものだと言えるでしょう。

 

キンジェー期間に限らず、バンコクでトレンドとなっているのがプラントベースフードです。プラントベースフードとは植物由来の材料を使用した食べ物のことで、動物性のものを生活から排除するヴィーガンと異なり、あくまで植物由来のものをできる限り摂取するというだけで、動物性のものを食べてはいけないわけではありません。

 

日本でも昨年モスバーガーの動物性食品を使わない「グリーンバーガー」が注目を集めましたが、タイでは経済的に余裕がある中間層以上の人が多いバンコクを中心にプラントベースフードを提供する飲食店が増えてきました。プラントベースフードのみを集めた「プラントベースフェスティバル」や、地産地消を目指すファーマーズマーケットなどのイベントが毎週のように開かれ、健康志向な人はもちろん、いままでこの食べ物に関心を持たなかった層も足を運んでいます。

 

街中の飲食店でも大豆ミートを使ったガパオライスやヴィーガンパッタイなど、タイらしいプラントベースフードを数多く見かけるようになりました。ショッピングモール内の150円程度で食べられるフードコードですら、植物由来フードを扱う店舗を構えています。

 

目立つプラントベースミート市場の成長

↑バンコクを中心に広がりを見せるプラントベースフード

 

新型コロナウイルスの影響により、タイでは飲食店の店内飲食が禁止されて、持ち帰りとデリバリーのみのサービスとなった期間がありました。1月半ばとなる現在も続くさまざまな規制で多くの飲食店が不況に喘いでいますが、そんななかでも肉の代替品となるプラントベースミートの人気は特に高まっています。2021年以降のプラントベースミート市場はさらに成長し、特に中国とタイでの需要は今後5年間で200%増加すると予想されています。

 

大豆・米・ココナッツ・ビーツを原材料としたプラントベースミートを販売するタイ企業のレッツプラントミート社は、タイにプラントベースフード協会を設立。地元企業と協力し、プラントベースフード産業の成長に向けた支援促進に携わっています。

 

バイオサイエンス事業などを手がけるデュポン社の調査によると、タイの消費者は「味」「栄養」「利便性」の3つのバランスを満たすプラントベースミートを求める傾向にあるそうですが、実はタイには消費者が求める「味」「栄養」「利便性」の3要素をすべて満たす可能性を秘めている果物があります。

 

それが、東南アジアやアフリカなどの温暖な地域で栽培されるジャックフルーツ。この果物はカレーやカスタードの材料として一般的に使われ、この繊維質の食感はアメリカの南部料理の「プルドポーク」に例えられます。どんな調味料も吸収するため、調理する際に処理や加工の手間が少ない製品を求める消費者に人気のある代替肉の1つです。

↑一躍大注目のジャックフルーツ

 

食物繊維とビタミンB群も豊富なため栄養面でも優れているのですが、農園ではなく道端の植物として栽培されることが多いため、あまり食用として利用されることがありません。ジャックフルーツを活用することは、地産地消を促進させるのに加え食品ロスを減らすという観点からも需要なのです。

 

そのようなジャックフルーツをプラントベースミートとして加工・流通させているのが、タイの食品加工企業のNRインスタントプロデュース PCL社です。同社ではジャックフルーツの流通を拡大させており、現在は収益の約7%を占めるプラントベース製品のシェアが4年以内には30%まで跳ね上がると予想しています。

 

タイ最大の財閥であるCPグループも大豆タンパク質からなるプラントベースミートの開発に取り組んでいます。これら大企業の躍進もあり、国家統計局の調査によれば、2013年には4%にとどまっていた肉を食べない人の割合は2017年には12%まで拡大しました。

 

まとめ

フードコートから高級レストランまで、現在のタイでは幅広い店舗がプラントベースフードをメニューに積極的に取り入れています。世界有数のSNS大国として知られていることもあり、今後は消費者や店舗によるくちコミの後押しを受け、プラントベースフードの人気はますます広がっていきそうです。

 

執筆者/加藤明日香

「懸命に育てた動物が処分されるのは辛い」。離島刑務所を変えた受刑者の切なる思い

イタリア・トスカーナ州にあるゴルゴーナ島。この総面積2.23平方kmの小さな島には、1869年から続く刑務所があります。そこから昨年、受刑者たちによって育てられた動物たちが船に乗って本土へ向かい、この船は「自由の箱舟」と呼ばれて大きな話題を集めました。しかし、その裏では司法省から同州のリヴォルノ市、国立公園までを巻き込んだ壮大なプロジェクトが進行していたのです。

↑トスカーナ州リヴォルノ沖に浮かぶゴルゴーナ島

 

再犯率の高いイタリア

釈放後の再犯率が68%と高いイタリアでは、受刑者が服役後に社会で生きていけるように、さまざまな試みが行われています。受刑者が手に職をつければ、服役後の再犯率が著しく下がることが研究で報告されているからです。

 

例えば、ミラノには受刑者が働くレストランがあり、ナポリには女性の受刑者たちが作るコーヒーブランドが存在します。北イタリアのパドヴァには、著名な料理人や菓子職人が受刑者に技を伝授する菓子メーカーもあるほど。このような「メイド・イン・プリズン商品」はコロナ禍のクリスマスでもプレゼントに利用されました。

 

ゴルゴーナ島でも同様に受刑者たちは畜産業に従事してきましたが、この畜産業が7年前とある理由で終わることになったのです。

 

この刑務所には、ほかの刑務所と一線を画す特徴があります。それは受刑者たちが朝7時から夜8時まで屋外で仕事をしていること。一般刑務所の受刑者たちが屋外に出ることができるのは1日2時間程度ということを考えると、まさに特異な刑務所といえるかもしれません。

 

島内の工事や建設業にも携わる受刑者たちの主な仕事は、食肉となる動物たちの飼育にありました。動物の世話をすることを通して、罪を犯した人たちが倫理観を高めることが期待されており、およそ100人の受刑者が鶏や羊や牛と共存していたのです。しかし、島内には食肉処理場もありました。つまり、受刑者たちは自分で飼育した動物が食肉にされるために処分される情景を目の当たりにしてきたのです。

 

「懸命に飼育した動物が処分されるのは辛い」。そんな受刑者たちの切なる思いによって、この食肉処理場は2014年から2016年まで一時閉鎖されました。その後、経済的な理由から、この処理場は再開されてしまうのですが、受刑者たちの思いはさまざまな人たちに広がり、再開後も動物愛護団体や一般市民、元受刑者、著名人たちが食肉処理場の閉鎖運動を繰り広げたのです。更生のために受刑者たちが愛情をこめて育てた動物を食肉用に目の前で処分するのは倫理的にも間違っているというのが彼らの主張。司法省もイタリアは死刑を廃止しているという理由からこの運動を認めたのです。

↑手段から仲間へ

 

その結果、処分されるはずであった動物たち75頭がまず、余生を送るためにゴルゴーナ島からラツィオ州へと搬送されました。メディアが一斉に「自由の箱舟」と呼んだのは、食肉処理場送りを免れたこの動物たちを乗せた船のことだったのです。結局、450頭いた動物たちのうち受刑者たちが面倒を見ることになった138頭を残し、ほかの動物たちはゴルゴーナ島を後にすることになりました。

 

刑務所の発表によれば、残った138頭は受刑者の更生トレーニングの対象となっています。動物たちの存在は、受刑者たちが生きるための「手段」から、ともに生きる「仲間」へ変わりました。いまでは動物たちと受刑者、そして島の自然が写真となったカレンダーも販売されています。2019年にゴルゴーナ島を訪れ、動物たちの保護を推進した司法省次官ヴィットリオ・フェッラレージは、受刑者たちの心理状態だけではなく島の環境を考慮しても食肉処理場の閉鎖はよい決断だったと語っています。

 

観光やサステナビリティの地として取り組みを推進

↑ゴルゴーナ島にはこんな美しい側面も

 

しかし、新たな課題も生まれました。ゴルゴーナ島の刑務所の特徴である「屋外での活動」を維持するためには、動物の飼育以外の活動を受刑者たちに早急に提供することが必要です。そこで構想されたのが、司法省、リヴォルノ市、ゴルゴーナ島があるアルチペラゴ・トスカーナ国立公園やフィレンツェ大学を巻き込んで、サステナビリティをテーマにした新しい活動を始めること。まずはゴルゴーナ島内の道や森の整備や清掃から始まり、バイオダイナミック農法による農業プロジェクトが進行中です。

 

さらに、刑務所やリヴォルノ市は国立公園内に置かれたゴルゴーナ島の起伏ある地形を利用し、観光業を発展させることも目論んでいます。うまくいけば、受刑者が屋外で活動していても治安に問題がない島としての宣伝活動になることでしょう。

 

ゴルゴーナ島に住んでいるのは、受刑者と刑務所の関係者、そしてこの地で生まれ育った90歳過ぎの女性1人だけ。このような都会離れした状況や、外国人の間でも人気が高いトスカーナ州にあるという地の利を活用して経済面でのテコ入れが進められているのです。

 

もちろん、受刑者たちの願いが動物の保護につながったこともゴルゴーナ島のアピールポイントといえるでしょう。そういったポジティブなイメージやサステナビリティ活動への取り組みが、島全体の経済や生活にも良い影響を与えるのかどうか。この美しい島を舞台にしたストーリーはこれからも続きます。

 

 

「太陽光発電」の鍵を握るのは唐辛子? 身近な食材が熱視線を浴びるワケ

中南米を原産とする唐辛子は、太陽の光がさんさんと降り注ぐ熱帯地域などで育ちますが、そんな唐辛子が太陽光発電に一役買うことが最新の研究でわかりました。今後の太陽光発電の開発に唐辛子が積極的に使われることになるかもしれません。

 

エネルギー変換効率をもっとホットに

↑ソーラーパワー×唐辛子パワー

 

太陽光発電がさらに普及していくうえで課題の1つとなっているのが「エネルギー変換効率」の向上です。エネルギー変換効率とは、太陽の光をどれだけ電気に変換できるかを表した数値。現在、太陽光発電のエネルギー変換効率はおよそ15~20%で、この数値が上がればもっと効率的にエネルギーを得ることができるようになります。

 

それを目指して世界中の研究者やメーカーが電池の材料を変えるなどのさまざまな試みを行っていますが、そのなかで中国とスウェーデンの共同研究チームが注目したのが唐辛子でした。

 

太陽光発電の新しい材料として注目されている「ペロブスカイト太陽電池」の製造工程で、ペロブスカイト(MAPbI3)の前駆体(※)に唐辛子の辛み成分であるカプサイシンを添加したところ、エネルギー変換効率が19.1%から21.88%に上がったのです。さらにカプサイシンを添加した太陽電池は、800時間経過した後もエネルギー変換効率を90%以上維持しており、安定性があることもわかりました。

※前駆体: 正極材(電池のプラス側の電極に使用する材料)の前段階の物質のこと。

 

この理由として、カプサイシンがペロブスカイトの膜の密度を上げたことで、エネルギーがより変換されやすくなったと考えられています。カプサイシンは安価な材料として利用できるので、大型の太陽光発電にも利用できるかもしれません。

 

唐辛子と同じように、「にがり」も太陽光発電の効率を上げる可能性を持つと言われています。にがりの主成分は塩化マグネシウムで、これがテルル化カドミウム太陽電池に使われる塩化カドミウムの代わりになるそう。塩化カドミウムは高価で、しかも発がん性が疑われ毒性があることから代替物質の研究が行われていました。塩化マグネシウムは豆腐の製造に使われるように食べても安全なうえ、価格が安く魅力的と評価されているのです。

 

太陽光発電が唐辛子やにがりなど身近な食材を生かすことで、さらに発展することに期待したいですね。

 

列車を運休させる「ヤスデ」の大量発生サイクルが判明!

最近、全国各地でヤスデが線路上で大量発生し、列車の車輪が空転することから遅延や運休が起きています。ヤスデの大量発生は過去にも起きており、大量発生した年を追ってみると8年または16年おきになっていることが判明しました。なぜヤスデはこのサイクルで大量発生するのでしょうか?

 

列車を運休させることから「キシャヤスデ」の名前に

↑キシャヤスデのサイクルとは?

 

1976年に八ヶ岳周辺のJR小海線の線路でヤスデが大発生したことがありました。急こう配の区間のため、ヤスデを引いた車輪がスリップしてしまい、一部の列車が運休する事態に。同様の事例は各地で起こり、そこからこのヤスデには「キシャヤスデ」という名前が付けられたそうです。ヤスデの大群によって列車が運休すると、駆除費用のほか代替輸送費など、鉄道会社はさまざまな費用がかかってしまうのだとか。もしキシャヤスデの発生の予測や予防ができたら役に立ちますよね。

 

そんなキシャヤスデについて1972年から研究を行ってきたのが、国立研究開発法人「森林研究・整備機構」。この研究チームではキシャヤスデによる列車への影響が複数回報告されている小海線近くと、秩父多摩甲斐国立公園東側の2か所で2016年までに年に1~5回の調査を続けてきました。土を掘り起こしてポリエチレンのシートの上に広げてキシャヤスデを採取。土を掘り起こす深さを0~5センチ、5~10センチ、10~15センチ、15~20センチと変え、根気よくキシャヤスデの様子を観察しました。

 

すると、キシャヤスデが成長していくプロセスが詳細にわかってきたのです。まずメスが8月までに400~1000個の卵を産みます。夏になると幼虫は毎年脱皮し、少しずつ成長していき、8年目の夏の脱皮でようやく成虫に。成虫になったキシャヤスデは9月から10月ごろに、交尾する相手を探すために地表を動きまわり、冬眠前や春になってから交尾を行い、8月までに卵を産んで死を迎えます。

 

つまりキシャヤスデは卵のまま7年間土のなかで過ごし、8年目に成虫になって、相手を見つけるために地表面に出て活動を始めるのです。このとき線路上に現れたキシャヤスデこそが列車をスリップさせていたのです。

↑キシャヤスデの成長過程

 

キシャヤスデが成虫になって地表を動く距離はおよそ50メートルと決して広範囲ではないため、同じ電車の路線でキシャヤスデの大量発生が起きるのは、8年周期または16年周期と予測がつくそう。実際、これまでの事例を見てみると、キシャヤスデの大量発生は8年または16年間隔で起きているようなのです。

 

昆虫以外の節足動物でこのようなライフサイクルを持つ生物がいることが判明したのは、今回が初めてのことなのだとか。この研究チームでは、同じようにライフサイクルをもつ生物はいるだろうと見ていますが、この発見が大量発生に伴う電車の事故や遅延の予防に活用されることが期待されます。

 

【出典】Niijima, K., Nii, M., & Yoshimura, J. (2021). Eight-year periodical outbreaks of the train millipede. Royal Society Open Science. 8(1). http://doi.org/10.1098/rsos.201399

なんかスゴい時代…自律的に動く「魚の群れロボット」が誕生

イワシのような小さな魚は群れを作り、自分の身を守ります。そんな魚たちの動きを見本に、周囲の魚と共に自然と群れを形成する魚のロボットをハーバード大学の研究チームが開発しました。魚のように自ら群れを作るロボットの開発は、海での遭難者の捜索などに応用できる可能性があるそうです。

 

カメラで周囲の魚のLEDライトを検知

↑かわいくてスマート

 

魚の群れの形成には、リーダーのような存在がいるわけではありません。魚同士が個々にコミュニケーションをとっているわけでもなく、自然と作られると言われています。一匹一匹の魚が周囲の魚の行動をもとに自律的に動くことで群れが生まれており、そんな複雑な集団行動は科学者を長いこと魅了してきました。

 

ハーバード大学の研究チームは生命体が大群を成して自ら動くように、自己組織化されたロボットを開発してきました。例えば、自律的に動いて1000体の群れで星型や文字を作るミニロボットの「Kilobot」があります。しかし、これまでの自律型ロボットは2次元の平面的な空間でしか動かず、魚のような動きをするためには、ロボットが3次元で動く必要がありました。

 

この課題に挑むため、研究チームはロボットに青色のLEDライト3つと2つのカメラを搭載しました。このロボットは周囲のロボットのLEDライトをカメラで検知すると、独自のアルゴリズムで距離や方向などを測ります。こうして、3次元でも自律して動くことができるロボット「ブルーボット」が生まれました。

 

水中ロボットが3次元で自律行動することが実証されたのは、これが初めてとか。多くのロボットは人間が近づけない場所や危険な場所で利用されているかもしれませんが、ブルーボットはGPSやWi-Fiが存在しない場所でも自律的に活動することができる点がポイント。そんなロボットの開発は私たちにとって非常に意味のあることだと、この研究チームは語っています。

 

リーダー的存在を作らず、特別な指示がなくても、周囲のロボットの動きを真似して集団行動が可能な自律式ロボットは、例えば海での遭難者の捜索や救助などにも活用できる可能性があるようです。見方を変えれば、ロボットは少しずつ自由を獲得しつつあるようにも見えますが、進歩しているのは確実でしょう。

 

【出典】Berlinger, F., Gauci, M., & Nagpal, R. (2021). Implicit coordination for 3D underwater collective behaviors in a fish-inspired robot swarm. Science Robotics, 6(50). https://doi.org/10.1126/scirobotics.abd8668

 

発電所は足の裏! 汗を電気に変える「超吸収フィルム」の正体

足の裏には多くの汗腺があるため、足の汗の量は1日でコップ1杯になると言われています。そんな汗を吸収して、ウェアラブル機器の電力に換えるフィルムが最近シンガポールで開発されました。一体どんな仕組みなのでしょうか?

 

従来の15倍の吸収力

↑新開発されたインソール。汗のかき具合が色でわかる

 

私たちが汗をかくのは体温調節のため。汗をかいてその水分が蒸発したときに表面温度が下がるので、涼しさを感じることができます。そして汗腺が多く集まる足の裏はたくさんの汗をかき、1日中靴を履いたままでいると、不快感を感じるものです。

 

足の汗を吸収して快適に過ごすために、さまざまなインソールが市販されていますが、今回シンガポール国立大学の研究チームが開発に取り組んだのは吸収性に加えて、プラスアルファの機能を持ったもの。それが汗を電気に変えるという機能でした。

 

この研究チームが開発したのは、塩化コバルトとエタノールアミンの2つの吸収性物質でできた超吸収性フィルム。吸湿剤にはゼオライトやシリカゲルなどがよく使われていますが、研究チームが開発したフィルムは、それらと比べて15倍の水分量を吸収し、吸水スピードは6倍になるのだとか。おまけに太陽光にあてると水分を蒸発できて、100回以上繰り返し使用できます。しかもフィルムは吸水状況に応じて青から紫、ピンクに色が変化するため、色を見て吸湿度合を判断することが可能。

 

そして、このフィルムは汗から電気を発生させる機能もプラスしました。汗の主成分は水分であり、フィルムに使われた電気化学セルが水分から電力を生じさせます。電気化学セル1個で0.57ボルトの電気が発生し、全体では8個のセルが使われ、発光ダイオードに十分な量の電力になるそう。つまり、この電力を利用すれば将来、ウェアラブル機器など私たちが身に着けているデバイスの電力として利用できる可能性があるのです。

 

汗から発生させた電力をウェアラブル機器に利用する具体的な方法について研究チームはまだ明らかにしていません。研究チームは既にこのフィルムを使ったプロトタイプのインソールを3Dプリントで制作していますが、これを製品化させるために共同研究を行う企業を探しているとのこと。今後の発展が楽しみですね。

 

JICA広報誌mundiの人気企画「地球ギャラリー」がWebギャラリーに!: EARTH CAMP(1/31)トークイベントでは写真家が登場

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、新たに始まった「途上国の今」を伝えるウェブ上の写真ギャラリーと、その公開を記念したオンライントークイベントについて取り上げます。

↑Webギャラリー「mundi地球ギャラリー」のトップページ

 

JICA広報誌「mundi」の人気企画「地球ギャラリー」が、JICA公式ウェブサイト上で「mundi 地球ギャラリー」として新登場します。「地球ギャラリー」は2008年8月に連載が始まり、これまで約13年に渡って新進気鋭の写真家やベテランフォトジャーナリストらがとらえた「途上国の今」を写真と文章で紹介してきました。

 

今回、「mundi地球ギャラリー」の公開を記念して、国際協力キャンペーン「EARTH CAMP」メインイベントの1月31日に、写真家の清水匡さんと桜木奈央子さんのトークイベント「地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~」をオンラインで開催します。さて、どんな話がお伺いできるのでしょうか?

「地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~」

オンラインイベント視聴用URLはこちら

 

EARTH CAMP:コロナ禍においても「世界はつながっている」というメッセージを発信して国際協力・国際交流イベントを応援するキャンペーン。2021年1月30日と31日には、オンラインによるメインイベントを開催します。

https://earthcamp.jp/mainevent/

 

パキスタン大地震の復興支援から見えてきた女子教育の現状をルポ:清水匡さん

2005年10月の大地震で5700を超える教育施設が全壊・半壊の被害を受けたパキスタン。約15年経った今も、その半数近くが再建されていません。mundi 2019年1月号「地球ギャラリー」で「取り残された村」というタイトルで同国北部の村々をレポートしたのが、人道写真家の清水匡さんです。

 

清水さんは2003年からNGO「国境なき子どもたち」に所属しながら写真家として活動を続け、パキスタンでも学校の再建プロジェクトにNGOスタッフとして携わりつつ、子どもたちの姿を撮影しました。

↑mundi 地球ギャラリーに掲載されるインタビュー動画で、パキスタンについて語る清水匡さん

 

「今でもまともな校舎のない学校も多く、特に女子生徒の親御さんは、見知らぬ男性の目に触れやすい“青空学校”ですと、難色を示して通学させないこともめずらしくありません」と、現地ならではの事情を説明する清水さん。支援活動を続けていく中で、山岳地域は都市部と比べて女子教育の普及が遅れていることがわかりました。ニュースなどで取り上げられる機会も少ないことを指摘する清水さんは、「写真を通じて、パキスタンの子どもたちの現実をもっと多くの人々に伝えていきたい」と言葉に力を込めます。

↑清水さんの作品、mundi 2019年1月号 地球ギャラリー「取り残された村」より

 

↑清水さんの作品、地球ギャラリー「取り残された村」より

 

ウガンダの親友の結婚式で絆の大切さを改めて心に刻む:桜木奈央子さん

フォトグラファーの桜木奈央子さんは今から約20年前、大学在学中にNGOの一員として訪れたウガンダ北部の内戦にショックを受けたといいます。「子どもたちが反政府ゲリラ軍に誘拐されないように守るシェルターで運営のお手伝いをしながら、そこの子どもたちや人々の写真を撮り始めました」

↑mundi 地球ギャラリーに掲載されるインタビュー動画で、ウガンダについて語る桜木奈央子さん

 

桜木さんはmundi 2020年6月号の「地球ギャラリー」で、NGO時代から続く親しい友人の結婚式をテーマに選びました。「2020年1月、ハレの日がやってきました。ウガンダでは結婚してすぐに式を上げずに、家庭が落ち着いてから披露宴を行うことも多いのです」と、記事には「12年越しの結婚式」とタイトルをつけました。作品は、幸せそうな新郎・新婦、笑顔で溢れる親戚や友人たちの姿が続きます。なぜ、親友の結婚式にカメラを向け、どんな狙いでシャッターを切ったのか。その想いを31日のトークイベントで語ります。

↑桜木さんの作品、mundi 2020年6月号 地球ギャラリー「12年後越しの結婚式」より

 

↑桜木さんの作品、地球ギャラリー「12年後越しの結婚式」より

 

EARTH CAMPでトークイベント「地球ギャラリー 写真で旅する世界」を開催

「mundi 地球ギャラリー」の公開を記念したトークイベント「地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~」では、「テルマエ・ロマエ」などで知られる漫画家のヤマザキマリさんが登壇、落語家の春風亭昇吉さんがMCを担い、清水さん、桜木さんと途上国の姿を写真や漫画で表現する意義や苦労などを語り合います。

EARTH CAMP「地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~」
1/31(日)12:00~13:30

オンラインイベント視聴用URLはこちら

「mundi 地球ギャラリー」では、今後、清水さん、桜木さんの作品だけでなく、ミクロネシアのごみ問題や、モンゴルの鷹匠の少年を追った作品なども紹介していきます。誌面では語り切れなかったエピソードを盛り込んだ写真家のインタビュー動画もぜひご覧ください。

 

Webギャラリー「mundi 地球ギャラリー」
(1月29日以降にURLを掲載予定です)

 

コロナ禍だって世界はつながっている:1月30日、31日に「EARTH CAMP」メインイベントをオンラインで開催 さかなクンやヤマザキマリさんも登場!【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、楽しみながら国際協力について学び、考えることができるオンラインイベントについて取り上げます。

 

コロナ禍の今だからこそ、世界中で国際協力に取り組むことの大切さを知ってもらいたい—そんな思いから、「輪になって語ろう。地球の未来。EARTH CAMP」と題したキャンペーンを、JICA、外務省、認定NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)が共同で実施しています。

昨年10月から始まったこのキャンペーンのメインイベントが1月30日(土)31日(日)の2日間、オンラインでいよいよ開催! JICAは、さかなクンをはじめ、魅力あふれる登壇者のみなさんと環境やジェンダー、スポーツ、食料危機などの社会課題をテーマにトークセッションやワークショップを展開します。どんな状況でもより強く世界とつながるためにできることは何か!ぜひ一緒に考えてみませんか?

↑JICAはこのイベントで多くのゲストやMCの皆さん、そして参加者と一緒に世界が抱えるさまざまな問題や国際協力について考えます。登場するのは、左から、住吉美紀さん、有森裕子さん、春風亭昇吉さん、ヤマザキマリさんをはじめ、魅力あふれるみなさんです

 

日本最大級の国際協力イベントがオンラインで復活!

毎年10月6日(国際協力の日)前後に開催されていた日本最大級の国際協力イベント「グローバルフェスタJAPAN」は、毎年大勢の参加者で賑わいました(昨年は過去最高の18万4000人)。しかし昨年は新型コロナウイルス感染拡大により開催が中止に。コロナ禍でできることは何か、と模索するなか、始まったのがこのEARTH CAMPです。JANICの若林秀樹事務局長は、開催に至る経緯を次のように語ります。

 

「『グローバルフェスタJAPAN』の中止が決まったとき、国際協力に対する関心が薄れはしないか危惧する声だけでなく、国内の感染対策で手一杯なのに、国際協力まで手が回るのかという声がありました。しかし、開発や感染症の問題は、日本だけで対策を打っても解決しません。だからこそ、世界がひとつになれるよう国際協力の灯をともし続ける必要があると思い今回のEARTH CAMPキャンペーンの開催に至りました」

 

1月30日と31日のメインイベントには、こんなときだからこそ、ともに世界の課題を考えようと、興味あふれるイベントが目白押しです。

イベントのなかから、JICAが主催するトークイベントを一挙に紹介します。

 

さかなクンと楽しくモーリシャス沿岸の海洋環境を学ぶ

■30日/13時15分~ さかなクンと学ぼう!海でつながっている世界。みんなの海を守るために~モーリシャスの現場から~
※手話通訳あり。事前登録不要

オンラインイベント視聴用URLはこちら

まずは「ギョギョギョ!」あのさかなクンが登場です。昨年7月にアフリカ東海岸沖に浮かぶ島国モーリシャス沿岸で発生した船舶座礁による油流出事故で、現地に緊急援助隊として派遣されたJICA国際協力専門員の阪口法明さんが、さかなクンもギョギョっ!?とするようなモーリシャス沿岸域の生態系の素晴らしさや直面する問題を報告。フリーアナウンサーの住吉美紀さんがお二人のトークをつなぎます。さかなクンや住吉さんと一緒に、生態系保全のためにできることをクイズやトークを通じてわかりやすく学びませんか?

↑モーリシャスの美しい海を守るために、私たちには何ができるのでしょうか?

 

スポーツには未来をひらく力がある:オリンピアンらと考えるスポーツを通じた国際協力の可能性

■30日/16時30分~ ソウゾウするちから~世界を変える!未来をひらく!スポーツのチカラ~
※手話通訳あり。事前登録不要

オンラインイベント視聴用URLはこちら

スポーツは、国や民族、文化が異なっても共に参加し、楽しめるもの。JICAはそんなスポーツを通じて、途上国の人々の可能性を広げ、生活をより健康で豊かにするための協力を行っています。スポーツの力を活かした国際協力について、日本オリンピック委員会の山下泰裕会長からの熱いメッセージを皮切りに、オリンピック女子マラソンメダリストの有森裕子さん、車いすバスケットボール元日本代表・JICA海外協力隊OBの神保康広さん、JICA海外協力隊OB・パナソニック株式会社の園田俊介さんが、ご自身の実体験を交えながら、意見を交わします。

↑日本オリンピック委員会の山下泰裕会長からメッセージを頂きました(写真:アフロスポーツ/JOC)

 

↑イベントに登壇するのは、写真左から、園田俊介さん、有森裕子さん、神保康広さん

 

写真に込めた想いを聞きながら、途上国を旅してみませんか

■31日/12時~ 地球ギャラリー 写真で旅する世界~ファインダー越しの途上国~
※手話通訳あり。事前登録不要

オンラインイベント視聴用URLはこちら

JICA広報誌「mundi(ムンディ)」の人気コーナー「地球ギャラリー」に登場する写真家清水匡さん、桜木奈央子さんが、その写真に込めた想いを語ります。海外経験が豊富な漫画家のヤマザキマリさん、落語家の春風亭昇吉さんと一緒に、途上国の現状や人々をよく知るお二人から、ファインダー越しに見た途上国の魅力を聞くと、まるで旅に出たような気分になれるかも。

 

地球ギャラリーに掲載された写真を集めたウェブサイトも公開予定。こちらもお楽しみに!

↑写真上:写真家清水さんと作品「取り残された村—パキスタン」から

 

↑写真家桜木さんと作品「12年越しの結婚式—ウガンダ」から

 

日本で、途上国で、サッカー女子にエールを!

■31日/15時45分~ 羽ばたけ!世界のサッカー女子!~ジェンダーや環境の壁を超えて~
※手話通訳あり。事前登録不要

オンラインイベント視聴用URLはこちら

今年9月、日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ(Women Empowerment League)」が開幕します。女子サッカーの発展、そして、サッカーに打ち込んだ女子の社会での活躍の可能性について、女子サッカーの第一線を切り開いてきたお二人—WEリーグ初代チェアとなる岡島喜久子さんと長年にわたりスペインサッカーの最前線でキャリアを築いたJリーグ理事の佐伯夕利子さん—が初顔合わせ。さらに、女子がスポーツをする機会がまだまだ少ない途上国でJICA海外協力隊として女子サッカー指導を行ってきた相葉翔太さんも登壇。ミャンマーやスリランカで女子サッカーの現状や相葉さん自身の学びを共有し、日本で、途上国で、サッカーを通した女子の活躍にエールを送ります。

↑海外協力隊員としてスリランカで女子サッカーの指導を行っていた相葉翔太さん(左から2番目)

 

↑(左)日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」チェア岡島喜久子さん (右)Jリーグ理事の佐伯夕利子さん

 

中高生を対象としたワークショップも:参加申し込みはお早めに!

■30日/15時~ 【一般/中高生対象ワークショップ】「JICA地球ひろばでみんなで考えよう! 国連WFP~食べるから世界を考える~(先着順・定員制)

※申し込み先はこちら

国連WFP(世界食糧計画)職員の我妻茉莉さんとともに国連やNGOだけでは解決できない食糧危機について学びます。飢餓と栄養不良を世界からなくすためにできることは?
対象: 第一部(前半30分):どなたでも参加可能、 第二部(後半60分):中高生のみ(定員30名、先着順)

↑世界の「食」について一緒に考えてみませんか? (左)写真提供:WFP / Ratanak Leng (右)写真提供:WFP /Michael Tewelde

 

■31日/10時30~ 【中高生対象SDGsワークショップ】世界の課題を知ろう!~青年海外協力隊の写真から学ぶSDGs~(先着順・定員制)

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国際協力の取り組みを展示紹介している「地球ひろば」がワークショップを開催。青年海外協力隊が貧困、差別、環境問題などの課題についてSDGsの視点から現地での体験を伝えます。

 

ほかにも、国際機関キャリアセミナーや、お笑いジャーナリストたかまつななさんとSDGsについて考えたり、NGOが現地から生中継するオンラインスタディツアーなど盛りだくさん。詳しいスケジュールやイベントへの参加方法は「EARTH CAMP」ウェブサイトのイベントページをご覧ください。

<EARTH CAMP メインイベント>
https://earthcamp.jp/mainevent/

 

みなさまの参加をお待ちしています!

頭の中で羊を数えられない人は「記憶の仕組み」が特別かも。アメリカの研究が示唆

「羊を数えると眠くなる」とよく言われていますが、世の中には「羊が1匹、羊が2匹……」と頭のなかで数えられない人もいます。このような状態を指す言葉が「アファンタジア」。アファンタジアについてはまだ十分な研究が行われていませんが、その謎は少しずつ明らかにされつつあり、最近ではアメリカで興味深い研究結果が発表されました。著名人にもいると言われるアファンタジアについて見てみましょう。

↑記憶は謎だらけ

 

アファンタジア(aphantasia)とは、医学的には具体的な風景や物のイメージを頭のなかに描くことができない状態のことを指します。もともと1880年に、フランシス・ゴルトンという学者によって報告がありましたが、その後はほとんど研究されることなく、2000年代前半になってようやくイギリスの神経学者アダム・ゼーマンが研究を始めました。

 

最近では、シカゴ大学で神経科学について研究するベインブリッジ助教授が、ベッドや植木鉢など複数の家具が置かれた部屋の写真を100人以上の被験者に見せ、その絵を描いてもらう実験を行っています。この実験は2回行われ、1回目は写真を見た後に自身の記憶をもとに絵を描き、2回目は写真を見ながら絵を描きました。

 

1回目の実験では、アファンタジアではない人はカーペットやベッドなど部屋にあった物の色やデザイン、形のような細部まで絵にすることができましたが、アファンタジアの人は絵を描くことにとても苦労したことがわかりました。おまけにアファンタジアの人は物の細部の特徴を絵に表すことができず、なかには窓の絵を描かず「窓」と文字で説明を入れる人もいたのです。

 

一方、写真を見ながら絵を描くという2回目の実験では、アファンタジアでない人は1回目の実験との差があまり見られませんでしたが、アファンタジアとそうでない人では間違いの数に違いがありました。アファンタジアでない人は14回以上のミスがあり、写真のなかには存在していなかった物を絵に描いた人もいました。対照的にアファンタジアの人は描いた物の数が少なかったものの、そのミスはずっと少なかったのです。

↑シカゴ大学の実験結果。左から2番目と3番目にある2枚がアファンタジアの人が描いた絵

 

このことから、研究者たちはアファンタジアでは空間記憶のプロセスが異なるのではないかと推測。アファンタジアでない人は空間を「視覚的」に記憶し、それをもとに絵を描くのに対して、アファンタジアの人の空間記憶は視覚的なイメージを使わない代わりに、1つひとつの物を「言葉」で記憶しようとしていた可能性があるそうです。このような認知的な働きによって、間違えて覚えることを防いでいるのかもしれません。

 

アファンタジアはごくわずかな人に見られる特徴と考えられていますが、以前ディズニー・アニメーション・スタジオの社長を務めていた、ピクサー・アニメーション・スタジオの共同創業者であるエドウィン・キャットマルや、ウェブブラウザのMozilla Firefoxの共同創業者のブレイク・ロスが、アファンタジアであると言われています。近年では、そんな著名人をきっかけにアファンタジアが注目されるようになってきました。

 

アファンタジアの特徴や理由についてはまだ謎が多いようですが、もし「羊を数えて」と言われたときに、頭の中に羊の姿を思い浮かべられることができなかったら、あなたは数少ないアファンタジアの1人なのかもしれません。

 

【出典】Bainbridge, W. A., Pounder, Z., Eardley, A.F., & Baker, C. I. (2021). Quantifying aphantasia through drawing: Those without visual imagery show deficits in object but not spatial memory. Cortex, 135, 159-172. https://doi.org/10.1016/j.cortex.2020.11.014

自らの走りで母国の未来を拓く――南スーダンの未来と希望を背負った選手たちを元オリンピアン横田真人さんが激励

「私は国のために走っている」

決意を持った力強い眼差しで語るのは、陸上競技で東京オリンピック・パラリンピックの出場を目指す、南スーダンのグエム・アブラハム選手。母国を代表して出場するオリンピック・パラリンピックの舞台ですから、“国のために走るのは当たり前のことなのでは?”と考える人がいるかもしれません。しかし、アブラハム選手が語る“国のため”には、私たち日本人が考えるよりもはるかに重い意味がありました。

 

南スーダンの選手団が来日したのは2019年11月末。国際協力機構(JICA)より南スーダンを紹介されたことをきっかけに、群馬県前橋市が南スーダンの選手団の受け入れを決定し、東京オリンピック・パラリンピック大会に向けた長期事前合宿が始まりました。しかし、世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会の延期が決定。今後1年間をどのように過ごすかの協議がなされた中で、選手たちは日本に残ることを希望し、前橋市はその気持ちを受け取り、2021年の大会終了までの合宿継続を決定しました。大会の開催がいまだ先行き不透明な中、彼らはどのような心境で事前合宿に臨んでいるのでしょうか?

↑元オリンピアンとして、また現役コーチとして、独自の視点から南スーダン選手たちの本音を聞き出した横田真人さん(写真左)と、マイケル選手(中・パラリンピック陸上100m)、アブラハム選手(右・オリンピック陸上男子1500m)

 

今回、彼ら南スーダンの選手たちの想いに耳を傾けるのは、現在、陸上界のみならず、幅広いスポーツ分野から注目を集める元オリンピアンであり、陸上コーチの横田真人さん。昨年12月に開催された、日本陸上競技選手権大会の長距離種目・女子10000mで18年ぶりとなる日本新記録で見事優勝を果たした新谷仁美選手を、技術面・精神面で支えたそのコーチングに関心が高まっています。選手の個性を活かしながらの練習メニュー作成や、個人種目ながらチームとして一丸となって競技に挑むという横田コーチのマインドに共感するスポーツファンも多いのではないでしょうか。

 

「スポーツはプロフェッショナルだけのものではない」「持続可能な文化としてのスポーツのあり方を模索したい」と、勝ち負けだけにとらわれないスポーツとの向き合い方を模索し続けている横田さんだからこそ聞き出せる、南スーダンの選手たちの「国のために走る意味」に迫ります。

 

インタビュアー

横田真人さん

男子800m元日本代表記録保持者、2012年ロンドン五輪男子800メートル代表。日本選手権では6回の優勝経験を持つ。2016年現役引退。その後、2017年よりNIKE TOKYO TCコーチに就任。2020年にTWOLAPS TRACK CLUBを立ち上げ、若手選手へのコーチングを行う。選手一人一人に合わせたオーダーコーチングがモットー。活躍はスポーツ界だけにとどまらず、現役時代には米国公認会計士の資格を取得するなど様々なビジネスを手掛ける経営者としての側面を持つ。

 

勝ち負けだけが全てじゃない。スポーツの価値とオリンピック・パラリンピックの意義

↑「勝敗よりも大切なことがある」と、オリンピック・パラリンピックへの想いを語るアブラハム選手(写真右)

 

横田真人さん(以下、横田お二人にとって、オリンピック・パラリンピックはどういう意味を持つ大会なのでしょうか?

 

グエム・アブラハム選手(以下、アブラハム):オリンピック・パラリンピックは重要な意味を持つ大会です。もちろん、自分の実力を披露する場としての意味もありますが、私たちにとっては、“世界を知る”良い機会でもあります。世界各国からアスリートが集まることで、違う人種、文化的背景を持つ人々と触れ合うことができますからね。

 

クティヤン・マイケル選手(以下、マイケル):様々な文化に触れることで、自国・他国の良い面、悪い面が見えてくるはずです。それを自ら体験することは非常に貴重な経験だと思います。パフォーマンスの面でもやはりオリンピック・パラリンピックは特別です。自分たちが良い結果を出せれば、国に帰ってからの生活の質を変えることにも繋がりますからね。それも踏まえた上で国を代表する立場になって、胸を張って戦いたいと思います。

 

アブラハム:メダルを取ったり、良い記録を残したりすることはもちろん大切です。しかし、私たちにとってオリンピック・パラリンピックに出場することは、勝ち負け以上の価値があります。南スーダンには様々な部族の人々が住んでいて、さまざまな要因により内戦が続いています。でも、私たちが“南スーダン人”としてオリンピック・パラリンピックに出場すれば、部族の垣根を超えて全員が私たちを応援してくれると思います。南スーダンという国が一つになるために、そしてそれが平和につながるように、私たちは国のために走っているんです。

 

「前橋市の人たちには感謝しかない」。1年の延期が強めた南スーダン選手団と市民との絆

 

横田:前橋でのキャンプも1年以上が経過しましたが、日本には慣れましたか? 来日直後の日本に対する印象と、現在の日本の印象は変わったでしょうか?

 

マイケル:来日前は、日本に対するイメージが全く湧かなかったのですが、実際に来日して、本当に素晴らしい国だなと感じました。私たちの活動に対して、コーチを含め、たくさんの人々がサポートしてくれています。

 

アブラハム:特に日常的に感じるのが、市民の方々からの愛情です。子どもたちを含め、交流会などで触れ合う人々は、私たちの言葉に真摯に耳を傾けてくれますし、笑顔で迎え入れてくれます。街で出会った際も気軽に挨拶を交わしてくれます。本当に皆さんには感謝の想いしかありません。

 

横田:新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期されました。アスリートにとって1年の延期は、コンディションを整える難しさもあると思います。お二人にとっては異国の地での再調整という特殊な背景もありますが、この数ヶ月どのように過ごしてきましたか。

 

アブラハム:もちろん、オリンピック・パラリンピックの延期を知らされた時には大変大きなショックを受けました。しかし、この延期は私達にとってチャンスだと考えました。あと1年間、日本でトレーニングを積めば、さらに高度な練習に取り組むこともできるし、記録を伸ばすこともできます。ですから、選手団のメンバーは全員、前橋でのキャンプ延長を望んでいました。

 

マイケル:実際、もし帰国したら練習の場所や時間の確保が難しいのが南スーダンの現状です。また、日々の食事を確保するのも容易ではありません。もしかしたら、昔のように1日1食の生活に戻ってしまうかもしれないのです。だからこそ、私たちとしては延期をポジティブにとらえて、大会に向け、日本でコンディションを整えていきたいと考えています。

 

アブラハム:家族や友達に会いたいという気持ちはありますが、生活面や環境面に関しても、私たちが快適に過ごせるよう皆さんが全面的にサポートしてくれているので、難しさを感じたことはほとんどありません。前橋市の担当である内田さんともジョークを言い合える仲になっていますし、今では異国の地という感覚はなく、ホームタウンのような居心地の良さを感じています。

 

独立と半世紀にもおよぶ内戦。南スーダンの現状

↑コーチ(左)とともに練習に励むアブラハム選手(中)とマイケル選手(右)

 

南スーダン共和国は、半世紀にも及ぶ内戦を経て、2011年にアフリカ大陸54番目の国家としてスーダンより独立を果たした国。独立したとはいえ、その後も国内では内戦が絶えませんでした。

 

2013年末に始まった政府軍と反政府軍の争いでは、2015年・2018年の調停及び2020年2月の暫定政府設立に至るまでに約40万人の死者と、400万人以上の難民・避難民が発生したとされています。アブラハム選手が語るように、スポーツを練習する環境を整えることはおろか、日々の食事を確保することも困難な状況が続いているのだそう。

 

このような内戦が続く理由として、南スーダンが大小合わせ約60もの民族からなる多民族国家である、という特殊な事情が挙げられます。様々な価値観や生活様式、宗教を持った民族が1つの国で生活を共にするというのは、私たち日本人が想像するよりも、はるかに困難なことなのかもしれません。

 

東京オリンピック・パラリンピック以降の未来に何を見据えるのか? “文化としてのスポーツ”を伝えるために

 

横田:東京オリンピック・パラリンピックに向けて、全力で準備を行っている真っ只中だと思いますが、大会後についてお二人はどのように考えていますか? 今はまた陸上にどっぷりはまっていますが、私は引退後のセカンドライフを考えてアメリカで公認会計士の資格を取得しました。日本と南スーダンとでは思い描くセカンドライフは異なると思いますが、お二人が考える未来への展望を聞いてみたいです。

↑将来的にはパラリンピックを目指す後進の育成に携わりたいとマイケル選手

 

マイケル:私は大会後もトレーニングを続けて、何らかの形で競技に携わっていきたいと考えています。将来的には、パラリンピックを目指すアスリートたちに適切な指導ができるコーチになりたいです。南スーダンは、障がい者に対する指導環境が整っているとはいえない状態です。だからこそ、自分自身が日本で学んだこと、オリンピック・パラリンピックの舞台に立ったからこそ伝えられる経験を、若い世代に伝えていきたいです。

 

アブラハム:オリンピック・パラリンピックは目標ではありますが、ゴールではありません。幸いにも、私はまだ若い年齢でこのようなチャンスをいただけていますから、別の大会、そしてまた次のオリンピックへ向けて、記録を伸ばしていきたいと思っています。一方で、母国に住んでいる家族のことはいつも気にかけています。競技を続ける上でも、まずは一人で支えてくれている母親のためにも、家を建てて生活を安定させたいという希望もありますね。その後に、もしチャンスをいただけるのであれば、ぜひ日本に戻ってきて競技を行いたいと思います。

 

横田さん:お二人の練習風景を見学させていただいて、オリンピック・パラリンピックで活躍する姿を見るのがますます楽しみになりました! まだまだ厳しい国内情勢が続く南スーダンでは、スポーツに対する価値が国や国民に浸透していないのではないかと思います。オリンピック・パラリンピックが終わって、お二人が自国に帰った後、どのようにスポーツの価値を発信していこうと考えているのか、ぜひ教えて欲しいです。

 

マイケル:一般的にアフリカの人たちは、物事を「聞くこと」ではなく、「自身の目で見ること」で信じる傾向があります。だから、自分たちをスポーツで成功した例として国民に知ってもらうことが大切だと思います。例えば、自分が大きな家を建てることで、それを見た子どもたちや親たちが「スポーツでの成功が生活の豊かさに繋がる」ということを認識すると思うんです。そういった意味でも、まずはオリンピック・パラリンピックの舞台で自分が出来得る限りのいいパフォーマンスを披露したいですね。

 

国民結束の日(全国スポーツ大会)が大きな転機に。スポーツが切り開く国の未来

 

アブラハム:母国に帰れば、私たちが日本で経験したことを積極的に発信していくつもりです。おそらく、僕たちのストーリーに対して南スーダンの子どもたちもきっと興味を持ってくれると思います。しかしながら南スーダンにはまだスポーツで羽ばたくチャンスは少ない。国の情勢を考えても、スポーツだけに取り組むことができる人はほんの一握りですし、能力や才能がある子どもたちがいるとしても、それを披露する場所や機会がないのが実態です。

↑「国民結束の日」が自分にとっての大きな転機となったと強調するアブラハム選手

 

横田:南スーダンがいまだスポーツが日常的に楽しめる情勢ではないことは、聞いています。そんな中でアブラハム選手はどのようにしてオリンピック・パラリンピック代表を目指すまでのチャンスを得たのでしょうか。

↑国民結束の日の模様(写真:久野真一/JICA)

 

アブラハム: JICAの協力で始まった『*国民結束の日(全国スポーツ大会)』は、1つの大きなきっかけとなりました。あのイベントがなければ、もしかしたら私たちはオリンピック・パラリンピックに出場するチャンスを得られなかったかもしれません。私にとってこの経験が大きかったからこそ、帰国後、親や子どもたちに伝えるのはもちろん、スポーツができる環境づくりなどに投資をしてもらえるよう、政府にも直接訴えかけないといけないと思うんです。そうすることで、才能ある子どもたちが、自身の実力を披露する機会が得られると思いますし、国としてのスポーツの発展につながるのではないかと考えています。

*「国民を1つに結束させる」という目標を掲げ、2016年よりJICA協力のもと開催されているスポーツイベント。

 

横田:政府に働きかけることによってスポーツに対する環境を整える。そして、スポーツで成功した人を目撃することで、そこに憧れを持った子どもたちがスポーツに取り組む。2人の視点はどちらも大切ですよね。母国を離れ、2年近く日本での生活を送ったこと、そしてオリンピック・パラリンピックへ向けた挑戦を経験したからこそ体験できたスポーツの可能性を、ぜひ母国に帰って広めてほしいと思います。

 

前橋市担当者が語る市と市民のサポート

「選手たちの強い想いが、人々の心を掴んでいるのだと感じます」

↑「陽気な人たちが来るのかと思っていたら、非常に寡黙で驚きました」と、南スーダン選手団来日時の印象を語る前橋市役所スポーツ課の内田健一さん。今ではジョークを言い合えるほど、選手団のメンバーと打ち解けているのだそう

 

東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まった際、前橋市でも様々な議論が行われました。選手団全員が大会終了までのキャンプ継続を希望したことから、支援を決意。資金の工面などの問題が予想されましたが、多額の寄付金が集まり、支援が継続されています。

 

「南スーダン選手団のキャンプで発生する費用は、ふるさと納税などの寄付金で賄われています。コロナ禍ということで、キャンプ継続に対して様々な意見があることも事実ですが、多額の寄付金をいただけているということからも、前橋市民を含め、全国の方々がこの活動を肯定的に捉えてくださっていると考えています」と内田さん。選手たちの競技への想いは、確実に地域、そして日本の人々の心を掴んでいると語ります。

 

【関連リンク】

JICA(独立行政法人 国際協力機構)のHPはコチラ

 

未来標準のビルディング「ZEB」に全力投球する三菱電機ーー同社のSDGsとCSRを読み解く

省エネ・創エネ・快適性を同時に実現する「ZEB」に迫る~三菱電機株式会社

 

三菱電機といえば、GetNabi webでは家電のトップメーカーとして様々な製品を紹介しています。「霧ケ峰」でお馴染みのルームエアコン、本物の炭を内釜に使った「本炭釜」、最近では、美味しいパンが焼けるブレッドオーブンなど、挙げればキリがないほど。

 

我々にとっては家電製品が身近な三菱電機ですが、実は、未来の都市変化を先取りした取り組みを行っているなど、さまざまな価値創出による社会貢献にも積極的です。そのなかで近年、注目されているのが「ZEB」(ゼブ)というワードです。

 

年間のエネルギー収支ゼロを目指す「ZEB」とは

ZEBとは、「net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)」の略称で、快適な室内環境を保ちながら、設備の高効率化や建物の高断熱化による“省エネ”と、太陽光発電などの“創エネ”により、年間のエネルギー収支ゼロを目指した建築物のこと。国により定義は異なりますが、日本の場合、エネルギー低減率により、ZEB OrientedZEB Ready、Nearly ZEB、『ZEBと4段階に分かれています。

 

・ZEB Oriented

延べ面積が1万㎡以上の建築物のうち、再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギーから30~40%の省エネとなるように設計され、未評価技術を導入する建築物。

・ZEB Ready

再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の省エネとなるように設計された建築物。

・Nearly ZEB

ZEB Readyの条件を満たしつつ、再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量を75%以上低減させた建築物。

・『ZEB

ZEB Readyの条件を満たしつつ、再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量を正味100%以上低減させた建築物。

 

設計から運用管理までワンストップで提供

「ZEBが世界的に注目され始めたのは、2008年の洞爺湖サミットからです。日本では2014年に閣議決定された第4次エネルギー基本計画で、2020年までに新築公共建物など、2030年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指すとされました。さらに2015年のパリ協定で、日本は2030年までに温室効果ガス排出量を26%(2013年度比)削減すると宣言しています。昨年10月には、臨時国会の所信表明演説で菅首相が“2050年カーボンニュートラル宣言”にも言及していました。その目標の達成に向けて、ZEBはすごく重要な役割を担っています」と話すのは、同社ZEB事業推進課の南 知里さんです。

↑ビル事業部 スマートビル新事業企画部 ZEB事業推進課・南 知里さん

 

どうしてZEBが重要な役割を担っているのでしょうか。下は東京都環境局の資料ですが、実はCO₂排出量の約70%が建築物から出ているそうです。上記目標達成のためには建築物から出るCO₂を減らすことが不可欠なのがわかります。

↑「東京グリーンビルレポート2015」(東京都環境局)より

 

「ZEBは、建築物から発生するエネルギーを減らしたうえで(省エネ)、再生可能エネルギー(創エネ)をうまく組み合わせることによって、年間のエネルギー収支をプラスマイナスゼロに近づけるという取り組みです。省エネ対象設備は、空調、換気、給湯、照明、昇降機の5設備。弊社はそのすべての設備を保有し、業界でもトップシェアを誇ります。お客様のニーズにあった機器やシステムを選定することで、ZEB化の支援ができる、つまり設計から運用管理までワンストップで提供できる強みを持っています」(南さん)

 

同社は2016年からZEBの専門部門を立ち上げ、経済産業省が設定した登録制度「ZEBプランナー」を電機メーカーとして初めて取得。提案活動だけでなく、社内外向けの説明会も全国で実施しています。ZEB起点での案件引き合いは多く、2016年~2020年度上期だけで累計約370件あり、右肩上がりで増えているそうです。

 

快適性と省エネを同時に実現

ZEBの導入はSDGsの目標達成に繋がるのはもちろん、施主にとってのメリットも大きいと言います。

 

「省エネによる光熱費の削減はもちろん、快適なオフィス空間が作られる点もZEBのメリットになります。近年は、BCP(Business Continuity Plan/災害時の事業継承)対策の強化や、あるいは環境リーディングカンパニーである点を訴求するなど企業PRの一環として導入するお客様も増えています。社会貢献、環境保全活動推進、そして資産価値向上も期待できます」(南さん)

↑ZEBのメリット(三菱電機資料より)

 

ちなみにZEBを達成した建築物が日本国内に何件あるか、正確な数値はわかっていません。しかしBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)を取得した件数をZEBの竣工案件と読み替えることができるという前提だと、2020年8月末時点で、449件がZEB(ZEB4ランクすべて)を達成していると分析できるそうです。

 

建築物の条件によりエネルギーの低減率を算出

では、どうやってエネルギーの低減率を算出するのでしょうか。「基本的には、設計時点で『エネルギー消費性能計算プログラム』を用いて低減率を計算しています」と話すのは、実際にZEB導入を手掛けている、ソリューション技術第一課の柿迫良輔さんです。

↑ビルシステムエンジニアリングセンター システムインテグレーション部 ソリューション技術第一課・柿迫良輔さん

 

「新築だけでなく、既存の建築物のリニューアルや改修時でのZEB達成も可能です。というのもZEBは、図面のデータをもとに算出される“基準値”と、設計をした設備や躯体の性能から算出する“設計値”の差によって低減率を出します。例えば、東京都内に2020年に竣工したサンシステム株式会社様の新社屋は、地上6階建てのオフィスビルですが高効率空調や複層ガラスの導入、窓にブラインドを設置して日射の抑制をすることにより基準値から53%の省エネを達成しています。その他設備についても様々な工夫による省エネ化を図り、結果、建物全体の消費エネルギーは基準比56%減となり、ZEB Readyを達成することができたのです」

↑サンシステム株式会社様「SSビル」の省エネルギー性能 (出典:「環境共創イニシアチブ」ウェブサイト )

 

「この社屋の場合は都心部ということもあり、太陽光発電を設置できなかったのですが、設備や建築躯体の工夫により50%以上の省エネを達成し、ZEB Readyを実現しています。建築物全体でどれだけエネルギー消費量を低減できるかによってZEBのランクが決定しますが建築物の規模はもちろん、部屋の配置、用途、所在地により基準値は大きく異なります。例えば用途一つとっても、人の出入りが多い会議室なのかそうでないのかにより違いますし、北海道と沖縄では気候が全く違うことからもわかるように、所在地による地域区分が細かく設定されています」(柿迫さん)

 

例えばオフィスの場合は、建築物全体のエネルギー消費量における空調と照明が占める割合が大きいですが一方、病院なら給湯の割合が高くなるなど、建築物の用途や目的により数値は全く異なります。つまり手掛ける案件に、同じものは1つとしてないことがわかります。

 

「建築物の規模により、設置できる機器の目星は付きますが、そこにお客様の予算や要望が加わってきます。設計段階で、いかに数値を低減するか試行錯誤しなければなりません。本来は、お客様もZEBNearly ZEBと上のランクを目指したいのでしょうが、予算などの要因はもちろん、敷地面積の関係で太陽光発電を設置できないなど、設備の設置条件が障壁になることもあります。まずは自分たちができるところを目指されるお客様が多いようです」(柿迫さん)

 

ZEB関連技術実証棟が完成

社内外からZEBが注目を集めるなか、2020年10月には、三菱電機情報技術総合研究所内(神奈川県鎌倉市)に、ZEB関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」が完成しました。

 

「サスティナブルでエネルギーの明るい未来へということで、SUSTIEと名付けられた本施設は、省エネと創エネにより、基準値から106%の低減を達成し、ZEBを取得しました。6000㎡以上の中規模オフィスビル単体でBELS(建築物省エネ性能表示制度)の5スターとZEBの両立達成は日本初。CASBEEウェルネスオフィス(建物利用者の健康性、快適性の維持・増進を支援する建物の使用、性能、取り組みを評価するツール)で最高のSランク認証もいただいています。これまで、省エネと快適性は相反するというイメージが強かったかと思いますが、SUSTIEではZEB認証とCASBEEウェルネスオフィスSランクの同時取得により、それを両立できることを実証しています」(南さん)

↑2020年10月に完成したZEB関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」

 

総合電機メーカーの強みを生かし、各種高効率設備を設置。在室人数情報による換気や、照明の明るさ制御、昇降機の速度制御などの省エネ制御を導入。加えて自然換気による環境調整や太陽光発電など、SUSTIEには同社の技術が集約されています。

↑放射冷暖房パネルを配置し自然エネルギーを有効活用

 

「SUSTIEでは、設計時点の計画値を上回るさらなる省エネでの運用を目指しながら、新たな設備制御技術の導入や、省エネの実証実験も行われます。さまざまな効果を実証しながら運用化を目指していければと思います」(南さん)

 

CSR4つの重要課題

ZEBに限らず、三菱電機グループは他にもさまざまな価値創出への取り組みにおいて、SDGsの達成に貢献していこうとしています。

 

「当社は、『企業理念』と『私たちの価値観』(信頼、品質、技術、倫理・遵法、人、環境、社会)に従って経営方針を立て、すべての企業活動を通じてSDGsの達成に貢献していきます。価値創出への取り組みを推進することによってより具体的な行動を起こし、自社の成長とともにSDGsの達成に向けて貢献していきたいとの考えです」とはCSR推進センターの田中大輔さん。同社の企業理念は「私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します」というものです。

↑総務部 CSR推進センター 専任・田中大輔さん

 

CSRについて、下記の4つの重要課題を掲げています。他が重要ではないということではなく、当社の特徴を生かせるものは何かと考えた上で特定しました。

↑CSR(企業の社会的責任)の重要課題

 

“持続可能な社会の実現”“安心・安全・快適性の提供”は、環境問題や資源、エネルギー問題、インフラなど、事業を通じて世の中に貢献できるという分野です。残りの2つは企業の基盤として厳守する分野です」(田中さん)

 

CSRの重要課題の検討が始まったのは、折しもSDGsが国連サミットで採択される直前でした。その後、SDGsの17の目標と照らし合わせ、基本的に相違がないと確認するとともに、三菱電機グループの特長をいかしてSDGsにどう貢献できるか、社内外でアンケートを実施。その結果、事業を通じた活動への期待が高いということがわかったそうです。

 

「まずは、SDGsに貢献できる分野は何か? 自社の取り組みを整理することから始まりました。エネルギー、インフラ、環境は、それまでも社会に貢献できていましたし、今後もさらに注力して貢献できる分野だと考えたのです。そして “重点的に取り組むSDGs”として、目標7(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)、目標11(住み続けられるまちづくりを)、目標13(気候変動に具体的な対策を)に注力することを2018年度に特定し、価値を創出していくことでSDGsの目標の達成に貢献していきたいと考えました。わかりやすい事例のひとつが、今回紹介させていただいたZEBです。SDGsという世界共通の社会課題が示されたことで、社会への貢献について具体的に説明しやすくなりました」

 

今後は変化する社会課題にも対応

2000年代前半以降、社会課題に対する意識は、世界的にどんどん高まっています。同社も環境面について2021年を目標とした「環境ビジョン2021」に沿って、低炭素社会の実現、循環型社会の形成、自然共生社会の実現に取り組んできましたが、さらに長期的に継続するために、昨年『環境ビジョン2050』を新たに策定したそうです。

 

「今年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、新たな生活スタイル、ビジネススタイルに適応しなければなりません。新たな社会課題が顕在化しているなかで、社内外の連携をより強化し、取り組んでいかなければならないと感じています。場合によっては、重点的に取り組むと定めたSDGsの目標7、11、13についても、今後は見直すべきかもしれません」(田中さん)

 

多岐にわたる事業分野で活躍する同社だからこそ、グループ内外の力を結集して、変化する社会課題の対応に取り組んでいくことが求められているのだといえるでしょう。

脂肪燃焼が358%も違う! 寒い季節こそ「全力運動」で効果アップ

1月20日は大寒。暦のうえでは1年で最も寒い時期となりますが、気温がとても低い時期だからこそおすすめなのが運動。寒い季節の運動は脂肪が燃えやすいというのは以前から知られていましたが、最近の研究では「高強度インターバルトレーニング」と呼ばれる運動が特に効果的であることがわかりました。

↑真冬こそ身体を追い込め!

 

高強度インターバルトレーニング(High-Intensity Interval Training、以下HIIT)とは、強度の高い運動(つまり全力の運動)と短時間の休憩で身体を追い込むトレーニングのこと。HIITは中強度の運動に比べて脂質代謝が良く、脂肪もより燃えやすいことが明らかにされていました。この作用には運動している人をとりまく気温も影響を与えていると考えられていましたが、それが実際どのように血中の脂肪レベルや翌日の新陳代謝に関連するのかは不明でした。

 

そこで、運動中と休憩時における室内温度が脂肪の燃焼にどのような影響を与えるかを調べるため、カナダのローレンティアン大学の研究チームが実験をしました。この実験には、やや太り気味の成人が被験者群として参加。

 

まず被験者たちは夜に90%の強度で自転車を1分間全力でこぎます。スプリントを一回行うごとに、30%の強度で自転車を90秒間こぎながら休憩を挟みます。被験者群はこのセットを10回繰り返し、最後は軽めのサイクリングまたはウォーキングでクールダウンしてトレーニングを終えます。

 

このトレーニングは気温を変えながら2回行われました。1回目は十分に暖かいけど、代謝には影響を与えない室温21℃で行い、1週間後に行った2回目のトレーニングの気温は0℃でした。2回とも被験者群は運動後の就寝前にタンパク質や炭水化物の栄養バーを摂取し、翌朝にはインスリンやグルコースなどの量を測定しました。

 

その結果、0℃で運動したときは、21℃での運動に比べて、運動中に脂質が酸素と結びつく量が358%も上がっていることが判明。脂質が酸素と結びつきエネルギーに変換するというのは脂肪が燃焼するという意味なので、0℃での高強度の運動は21℃での運動に比べて脂肪が3倍以上も燃焼しやすいということになります。

 

しかし、高脂肪の食事を食べた後にHIITを行い、長期的な視点でその効果を見てみると、血糖値や中性脂肪値などを含めた代謝反応は0℃で運動をした後でも大きく変化しませんでした。

 

厳しい寒さのなかで全力で運動するのは精神的にツライかもしれませんが、真冬のHIITは頑張ってやってみる価値があるかもしれません。

 

【出典】Munten, S., Ménard, L., Gagnon, J., Dorman, S. C., Mezouari, A., & Gagnon, D. D. (2020). High-intensity interval exercise in the cold regulates acute and postprandial metabolism. Journal of Applied Physiology. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00384.2020

「DNAディッシュ」に大注目! 自分探しが医食同源になる

自宅で過ごす時間が増えた昨今、フード宅配サービスのニーズが世界的に高まっています。そんななかで大きく発展しているのが、好みのメニューを選ぶと食材や調味料が必要な分だけ送られてくるミールキット。イギリスではユーザーのDNAを分析し、各自の民族ルーツに合わせたミールキットを届けてくれる画期的なサービス「DNAディッシュ」が登場して、大きな注目を集めています。

 

民族ルーツに合ったメニュー

↑DNAも気にしながら食す

 

3度目の全国的なロックダウンが行われているイギリスでは、過去1年間にデリバリー食はもちろん、ホームメードのパンやお菓子の材料セット、チーズとかワインのテイスティングセットなど、さまざまなフードサービスが生まれました。自粛生活がノーマル化した現在、外食に代わり毎日の食事としてミールキットサービスを利用する人が増えています。

 

ミールキットは「毎回自炊するのは面倒だけど、出前ばかりでは費用もかかるし栄養面も気になる」というニーズをピッタリ満たす比較的新しいサービス。スーパーで食材を購入しイチから料理するのに比べ、献立に悩まず、食べたいメニューに必要な材料を人数分だけ届けてくれるメリットがあります。まとめて注文すればディスカウントも。リモートワークを続けている人もまだまだ多く、ミールキットを利用したほうが時短になり、食材の無駄も出ないという理由で人気があります。

 

多様なニーズに応えるために、メニューの選択肢は広く、栄養面もよく考慮されています。なかにはアスリートやダイエッター専用のメニューや、オーガニック、ヴィーガン、グルテンフリーなど最近のトレンドを意識したメニューもあり、このようなミールキットのサービスは特に発展しています。

 

そんななか、ロンドン発ミールキット会社のグーストが、個人の遺伝子タイプに合わせたメニューを選べる新たなミールキットの「DNA ディッシュ」を開発しました。イギリス版「マネーの虎」にも登場したことのある同社と、バイオテック企業のリビングDNAによるコラボ企画であるDNAディッシュは、DNAデータをもとにユーザーのルーツを特定し、それにあうメニューを提供するという仕組み。

 

自宅に届いた遺伝子検査キットを使いサンプルを採取して返送するだけで、自分の遺伝子にあった料理が届きます。試験運用期間中にプロモーション用として準備した無料の遺伝子検査キットが早々に品切れになるなど、サービス開始前に多くの人の心をつかんだ模様。

 

多様なバックグラウンドを持つ人が多いイギリスでは、自分の民族的ルーツをよく知らない人が大半です。遺伝子テストによって「代々イギリスだったけれど、実はフランスとドイツとアイルランドのミックスだった」とか「生粋のナイジェリア系と思っていたけれど、カメルーンやブルキナファソにもルーツがあった」といった驚きの声もあり、自分探しの方法としても魅力があることが話題の一因となっています。

 

ユーザーの民族ルーツに合わせ、グーストのサイトにはイギリス料理をはじめ、イタリア風や地中海風、ドイツ風、北欧風など40か国を超えるバラエティ豊かなメニューが揃っています。リビングDNA社が手がける有料の本格的な遺伝子検査キットを利用すれば、50種類以上から選ばれた最適なおすすめメニューが毎週、各ユーザーのアプリに表示されます。家族の構成人数で申し込むことができる一方、食品廃棄物が出ないように分量が計算されていることも好評。

 

遺伝子傾向を知って医食同源

↑健康は食事から

 

話題となった無料遺伝子分析キットはルーツ探しがウケましたが、リビングDNAが有料で提供する本格的な分析キットを利用すれば、食事や運動などに関してもっと詳しいアドバイスを受けることもできます。これを使えば、糖尿病など生活習慣病の発症リスクや遺伝的傾向を遺伝子レベルで知ることが可能。自分に合った食生活をすることで、体質を改善したり、病気を予防したり、「医食同源」の考え方を実践します。

 

食品アレルギーなど明確なケースを除くと、自分の体質に合った食事をしているかどうかわからないこともありますが、今回の無料版のプロモーションで、これまで縁のなかった遺伝子検査キットに興味を持った人も多かったのではないかと思います。

 

遺伝子分析と食事指導を合わせたサービスは以前にもありましたが、一人ひとりが持つルーツへの興味や各自の最適な食生活への気づきを満たしてくれるDNA ディッシュは、究極のパーソナライズ商品ともいえるでしょう。食事自体の価格も1食3〜7ポンド程度(約420〜990円)とリーズナブル。サブスクリプションサービスの側面も兼ねており、一度検査を受けてしまえば、自分に合った食材を定期的にオーダーすることもできます。

 

「健康は一日にしてならず」といいますが、DNAディッシュで自分のルーツや身体に合う食事を楽しめるのであれば、三日坊主にもなりにくいでしょう。DNA分析やサブスクリプションをミックスしながらパーソナライズされたサービスは、今後ますます増えていきそうです。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

「ワクチンパスポート」が航空業界で進行中だが、一筋縄でいかなそうなワケ

アメリカやイギリスなどで新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まり、日本でも2月下旬からワクチンの接種を開始する目標を掲げています。これに関連して議論されているのが、もしワクチン接種を証明する必要があるとしたら、どうやってすればいいのか? そこで注目されているのが「ワクチンパスポート」という構想です。

↑ワクチンパスポートも持った?

 

新型コロナのワクチンが普及すれば、映画館、イベント会場、レストランなどの公共の場所への入場には、もしかしたらワクチン接種が必要条件になると考えることができます。そうだとしたら、ワクチンの接種を証明したり、接種状況を管理したりするものが役に立つでしょう。それがワクチンパスポートです。

 

新型コロナによって多大な影響を受けた航空業界・旅行業界では、ワクチンパスポート構想に早く着手しました。世界の約290の航空会社が加盟する国際航空運送協会(IATA)は、「IATAトラベルパス」のアプリの開発しています。このアプリでは、新型コロナの検査結果や接種状況を管理できるほか、各国の入国規制情報や最寄りの検査施設を検索することも可能。海外渡航を目的とするなら世界共通で使えるグローバルなアプリが必要ですが、国内だけの利用を考えれば、ローカライズされた機能も求められるかもしれません。

 

安全な旅行を謳うIATAは、2021年3月までに同アプリのローンチを目指しているとのこと。すでにオーストラリアのカンタス航空やマレーシアのエアアジアなど、国際線の搭乗客にワクチン接種を義務付ける意向を示している航空会社が出始めており、このような航空会社がこのアプリを利用していく可能性もあります。

 

個人情報管理への懸念

しかしワクチンパスポートでは、ワクチン接種のような健康情報を取り扱うものだけに、個人情報の管理に懸念を抱く人もいるでしょう。ワクチン接種に懐疑的な人も少なくありません。またワクチンパスポートによって、「ワクチンを接種した=コロナ前のように自由に生活できる」といった安易な考えが人々の間で生まれると、社会の不公平を浮き彫りにする可能性があるという指摘もあります。このような反論があるため、ワクチンパスポート構想は一筋縄ではいかないでしょう。

 

 

体温計も常に携帯しませんか? 「スマホ装着型の検温デバイス」がクラファンで超人気

体温を頻繁に測定するようになった今日、体温計もほかのテクノロジーと同じように、もっと使いやすくなるように進化しようとしています。その兆候のひとつが、スマートフォンに装着して使う小型の体温計。「ThermGo」と名付けられたこの新しい体温計は、現在クラウドファンディングで大きな注目を集めています。

↑いつでも、どこでも体温を測定できるThermGo

 

ThermGoは、iPhoneとアンドロイドのスマホまたはタブレットに付けて体温を測定します。重さはわずか16g、横幅7cmの円筒状の小型体温計となっているThermGoは人の額に向けるだけで、赤外線センサーによってタッチレスで体温を測るのが特徴。わずか数秒で体温を測定するうえ、スマホに装着して使うため電池も不要です。体温測定の精度については2000回を超える試験を行い、誤差は±0.1℃にとどまっているのだとか。

 

また、スマホにつけて測定したら、そのままアプリで体温を管理できる点も魅力です。毎日測定した体温をアプリに記録しておけば、新型コロナウイルス以外でも、インフルエンザや風邪などのわずかな体調の変化にいち早く気づけるかもしれません。子どもの体調管理にも役立ちそうです。

 

さらに、ThermGoはタッチレスで短時間で測定できるため、ほかの用途にも使うことが可能。室温を測ったり、ペットの体温を見たり、赤ちゃん用のミルクや食べ物の温度を測ったり。測定可能温度は体温なら35~43℃、モノなら30~50℃、室温なら15~35℃です。

↑あらゆる状況で活躍

 

新型コロナの感染予防以外にも幅広く利用できるThermGoは、Kickstarterで締切まで1か月近くあるのに、すでに1800%近くの達成率となっています(2021年1月7日時点)。価格はアーリーバードの割引で1個29ドル、2個セットなら57ドル。締切は日本時間の2月1日0時で、配送は2021年2月の予定。10ドルの配送料で日本にも配送が可能です。

 

スマホに付けて、どこでもサッと検温できるThermGo。体温測定を忘れがちな人も重宝するかもしれません。これから体温計も携帯するのが当たり前になる可能性があります。

 

「絶対に伝えたい」ことは、ピュアに常識を飛び越えて発信! 佐渡島 庸平×JICA広報室:伝えきるアイデアをとことん探れ

「本当に伝えたいコトを伝えきる人は、ピュアに常識を飛び越えていく」

 

こう語るのは、編集者として『ドラゴン桜』(三田紀房)や『宇宙兄弟』(小山宙哉)など、数々のヒット作に携わり、現在はクリエーター・エージェンシー「コルク」の代表として活動の幅を広げている佐渡島庸平さん。今回、佐渡島さんが審査員となった「コミチ国際協力まんが大賞」をきっかけに、同賞に協賛したJICA(独立行政法人国際協力機構)広報課長と対談が実現しました。

 

佐渡島さんの自由な発想とニュートラルな視点に引っ張られるように、対談の内容は漫画を飛び越え、国境を飛び越え、コンテンツ配信の新しいビジネスモデルから経済・組織働き方論にまで発展。日本の未来は、定石から解き放たれて、新しいモデルを生みだすアイデアを即興で奏でていくことで開ける、と二人は熱く語り合いました。

↑編集者として多くのヒット作に携わってきた佐渡島庸平さん(左)と、漫画をはじめ、さまざまな媒体を使って国際協力の広報に取り組んでいるJICA広報室・見宮美早さん(右)

 

<この方にお話をうかがいました!>

佐渡島 庸平(さどしま ようへい)

(株)コルク代表取締役。東京大学文学部卒業後、2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)などの編集を担当する。2012年クリエイターのエージェント会社、株式会社コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。

(株)コルク:https://corkagency.com/
note:https://www.sady-editor.com/

 

コミチ国際協力まんが大賞とは

2020年11月、漫画家の「作る」「広げる」「稼ぐ」を支援するプラットフォーム・コミチが、JICA協力のもと「コミチ国際協力まんが大賞」を実施。12月3日の「国際障害者デー」、3月8日の「国際女性デー」の2つをテーマにしたお題(エピソード)をJICAが提供し、それを原作とした漫画作品をコミチサイト上で募集しました。審査員には、佐渡島庸平さんのほか、井上きみどりさん(漫画家)、治部れんげさん(ジャーナリスト)、松崎英吾さん(NPO法人日本ブラインドサッカー協会 専務理事 兼 事務局長)の計4名が参加。国際障害者デーである12月3日に大賞2作品を含む入賞8作品が発表されました。

【コミチ国際協力まんが大賞】
https://comici.jp/stories/?id=397

 

<国際障害者デー部門・大賞>

「エブリシング イズ グッド!」作:いぬパパ

→続きはコチラ

 

<国際女性デー部門・大賞>

「ペマの後に、続く者」作:伊吹 天花

→続きはコチラ

 

感情の動きは世界共通――漫画を通して世界にメッセージを届ける

JICA広報室・見宮美早さん(以下、見宮):まずは、「コミチ国際協力まんが大賞」の審査員として、応募作品についてご率直にいかがでしたか?

 

佐渡島庸平さん(以下、佐渡島):今回は「国際障害者デー」と「国際女性デー」というテーマだけではなく、JICAさん提供の原作ストーリーがあったので、読みやすい作品が多かったですね。土台があると、漫画に個性も出やすい。ガーナやネパール(※)の方々の服装や背景の絵柄などは、応募者それぞれのアイデアで良く描いていたと感じました。

※JICAがコミチ国際協力まんが大賞のために提供した「国際障害者デー」と「国際女性デー」にまつわるエピソード(=応募者向けのお題)が、それぞれガーナとネパールものだった

 

見宮:入選作品は、英語に翻訳して世界中に配信したいと考えています。今回のエピソードの舞台となっているガーナやネパールだけでなく、他の国でもこのような変化が生じうる、というメッセージが伝わればと思っています。

 

佐渡島:漫画での発信自体はいけると思いますよ。感情の動きは世界共通ですから。ただ、配信するなら漫画そのものだけでなく、世界の読者が読みやすい配信の仕方を考えたほうがいいかな。今後は、「縦スクロール×オールカラー」の形がいいと思います。

現代では開発途上国含めて世界の多くがスマホ文化ですから、スマホ画面で読みやすいことが大事。例えるなら、紙の本が流通しているのに巻物で読んでいる人がいたら「読みにくいものをよく頑張って読んでいるな」って思っちゃいますよね(笑)。それと同じで、スマホユーザーにとって読みやすい方法で届ける、という姿勢が必要だと思います。スマホ向けの物語を一度読んでしまったら、もう元には戻れませんから。

 

日本型の完璧主義より「アップデート主義」が求められる場面も

見宮:日本ではまだまだ漫画というと紙の人気が根強いので、「世界に発信するならスマホで読みやすいように」というのは新しい視点でした。この、相手の立場になって考えて、使いやすいツールを用いるという姿勢は、途上国への国際協力の姿勢と同じかもしれませんね。

それに少し関連するのですが、途上国における事業でも、質が良くて長持ちするが調達や建設に時間のかかる日本の協力とともに、場合によっては長持ちしなくともスピーディに対応する協力が喜ばれることがあるんです。私自身、2013年にフィリピンでスーパー台風による大災害が起きた際に現地にいて、日本が建設した小学校は屋根が飛ばず、その価値がフィリピン政府に改めて評価された一方、倒壊した学校周辺のコミュニティからは一刻も早い再建を要望されました。迅速性を重視して低コストで建設した施設は、同等の台風がきたらまた倒壊するリスクが高いのですが、判断が難しいところです。

↑コンテンツをITで発信していくスピード感の一方で、力のある作家が育ち、作品を作っていく時間軸は長いと話す佐渡島さん

 

佐渡島:そもそもの国ごとの考え方の違いも関係しているかもしれませんね。自転車で例えるなら、丈夫で10年壊れないモデルを使い続けるのか、安いけど壊れやすいモデルを買い替えていけばいいというスタンスなのか。壊れ方もいろいろで、全部が壊れるのではなく、タイヤだけが壊れたならタイヤだけを交換すればいい、という考え方もある。こういったアップデート主義で動いている国もありますよね。モノの基礎が壊れなければ、壊れた一部だけをその時々でアップデートしていけばいい、と。シェアリングエコノミーでやっていくときには、こうした「壊れてもいい」というルールもありですよね。

一方で日本は、全部が壊れないように、という完璧主義。これだと中身のソフトは年々アップデートされるのに、外側が追いつかないという現象が起きる。日本製のモノを使うと国全体が時代から遅れてしまう可能性すらありますよね。全部が全部そうとは限りませんが、壊れないことによる破綻や弊害もあると思うんです。

 

見宮:現地の状況をみつつ、いろいろな形の国際協力のあり方を模索していく必要がありますね。

↑いまはSNSのなかで消費される、一瞬見て楽しいコンテンツをつくりたいと話す佐渡島さん。コンテンツという中身を、どんな媒体に載せるかは時代の潮流で変化するそうだ

 

佐渡島:そうですね。全くゼロベースから完璧なものを仕上げようとするのではなく、現地にあるものを生かして、「今あるものにONしていく」というファクトフルネス(※)に対応できれば、国際協力の仕方も柔軟になる気がしています。

※思い込みではなく、データや事実にもとづいて世界を正しく見ること

 

見宮:ファクトフルネス、大事ですよね! 例えば、一般に教育分野の国際協力というと学校の建設というイメージもありますが、国やエリアによるものの、学校がなくて全くゼロベースで教育を受けたことがないという状態は減ってきています。より教育を充実させるために、新しい施設を建設すべきなのか、指導者のスキルアップが必要なのか、教育の重要性に対する意識改革が効果的なのか…など、その地域の現状を踏まえた協力を心がけています。

 

「一物多価」のネット社会で「一物一価」感覚のままでは取り残される?

見宮:以前、「時代が変化する空気を直に感じたくて、独立した」というお話をされていましたが、コルク社では、まさに従来の出版モデルにないコミュニティ形成やN高(※)業務など、柔軟に対応されていますよね。

※学校法人角川ドワンゴ学園が2016年に開校した、インターネットと通信制高校の制度を活用した“ネットの高校”

 

佐渡島:そうですね、特にネット社会では、人とモノのマッチングの仕組みが変わってきている。そこに従来の感覚で立ち止まってしまうと取り残されてしまう。モノの値段も、資本主義で発達した「一物一価」の感覚が、今は「一物多価」に戻ってきていると思うんです。

社会が未成熟な状態だと、経済は一物多価といわれますよね。モノの値段が一律ではない状態。日本人はインドでタクシーに乗るときに値段交渉があるのを嫌がりますが、それはタクシーの値段は一律という感覚があるからですよね。同じ値段で乗れるべきなのに、高額を支払わされたと怒る。ですが、インド人同士では普通の感覚で値段交渉しているわけです。それは、メルカリ上での値付けも同じで、モノの値段が一律でない状態でも違和感がない。モノの値段が場所と時間で変わる世の中にもう一度戻ってきていると思います。

↑日本には「ほんとうに必要?」という慣習が多く保存されていると話す。例えば小学生のランドセル。10万円もかけるなら、一生使える高級革バックを買ったほうが効率的と考えてしまうそう

 

佐渡島:アフリカなどでは一物一価の時代を経ずに、そのままネットの一物多価感覚にのっかっていますよね。郵便物の仕組みも面白いんですよ。僕らは郵便番号で管理された住所に荷物を届けてもらうのが当たり前、と思っていますが、アフリカでは住所を持たないがゆえに、スマホがある所に荷物を運ぶ仕組みができかけている。日本でも、住所がある所と自分のスマホの場所と、荷物の出し分けができるほうが便利なはずですが、日本社会でこれをやろうとしても「うん」と言う人は少ないでしょうね。「従来型」にはまって身動き取りにくい状況が、日本にはたくさんあるように感じます。

 

“注意力散漫な人”向けに伝える方法を掘り下げるとヒットにつながる

↑再読性の高い漫画というツールを、今後の国際協力に生かす手法について熱心に質問する見宮さん

 

見宮:最後に発信に思い入れがある佐渡島さんならではの視点について、おうかがいできればと思います。広報の仕事をしていると、コンテンツ内容はもちろん、どんな媒体に載せるのか、どんなツールが最適なのかで日々試行錯誤しているのですが、佐渡島さんなら例えば「国際協力」をどう発信されますか?

 

佐渡島:まずは、誰に何を伝えるかを明確にするとよいと思います。例えば日本の若い世代向けに、漫画を使って国際協力への興味を引くにはどうするか。僕ならまず、JICAの採用ページに今回の漫画を使いますね。どんな組織も人ありきですからね、そこから変えていくのは面白いんじゃないかと。

で、「この漫画を世界に促す人になりませんか?」と謳い文句をつける。漫画が冒頭にあって、そのあとに職員の方のインタビューが入るという流れ。

今、文章で書かれたものは書いた人しか読まない。10代20代のアテンションを引っ張るなら、数秒で理解できる1枚の絵的なツールが必要です。YouTubeよりもTikTokを選択する彼らに「インタビューを読んでください」から入ってもキャッチできないでしょうね。

↑ゼロから作品を作りだす作家たちには、漫画の登場人物がまるで本当に存在しているかのように、その人となりを第三者に伝える力があると語る佐渡島さん

 

佐渡島:テレビ局の方が以前、「注意力散漫な人に、どういう順序で伝えたら深い話が伝わるのかを考えられると、ヒット番組が生まれる」と話していたんです。今はテレビも、料理だったり洗濯だったり、何かをしながら画面を見る視聴者が多い。そうなると、注意力が散漫になるわけです。その状態の人に真剣にメッセージを送るとしたらどうすればいいか? を掘り下げることが重要だと。

国際協力に関しても、日本国民も途上国の方も、まだまだ知らないことが多く、注意力散漫な状況だろうと思うんですね。かなりクローズドなマーケットですから。その層に向けた発信策を追求してみたら改革につながるのではないでしょうか。

 

見宮:なるほど、面白いですね。常識から解き放たれて、新しい仕組みづくりや発信の仕方から掘り下げて考えていきたいですね。JICAとしてはまず、今回の国際協力まんが大賞作品をしっかりと世界に向けて発信していきます。発信者として、佐渡島さんが普段から意識されていることはありますか?

 

佐渡島:僕が編集を担当した『宇宙兄弟』に「俺の敵はだいたい俺です!」というセリフがあるんですよ。誰かに向けて何かを発信するという行為は、「伝わるといいな」程度では届かないと思うんです。伝える本人の「これは絶対に伝えたい」という強い想いこそが常識の壁を越えていく力になる。そういう想いがある方って、とってもピュアな方が多い。それは漫画以外の媒体であれ、伝えたい先が国内であれ世界であれ、共通していると感じています。会社や組織、国境や人種……壁はどこにでもありますが、周囲の状況以前に、まずは自分から突き抜けていく、という純粋な熱量が大事なんだと思いますね。

 

撮影:石上 彰  取材協力:SHIBUYA QWS

「自己修復するディスプレイ」でスマホはまだまだ進化する

スマートフォンによく起こるアクシデントのひとつが画面のヒビ割れ。楽天モバイルのアンケート調査によると、スマホのディスプレイを割ったことがある人はおよそ3割もいるそうです。画面が割れたまま使い続けると何だか少しだらしないし、かといって修理にかかる手間や費用も惜しい。そこで、そんな問題を解決するための研究が行われており、ついに最近、割れたスクリーンを自己修復させる新しい素材が発表されました。

↑画面が割れても、へっちゃら!

 

折りたたみスマホをはじめ各種電化製品には「透明ポリイミド」と呼ばれる素材が使われています。ガラスのように透明なこの合成樹脂は、折りたたむ動作を何千回と繰り返しても強度を維持できるのが特徴。そんなポリイミドに亀裂や破損が生じにくくするために、これまでに添加剤の注入や保護層のコーティングなどが試みられてきましたが、破損を予防できる素材の開発には至っていませんでした。

 

そんな状況を打破したのが、韓国科学技術研究院(KIST)と延世大学の共同研究チームが開発した「自己修復可能な透明ポリイミド」です。この研究チームは、亜麻という植物の種から抽出した「亜麻仁油」に着目。この油は25度で硬化する性質があり、美術品の塗料などにも使われていますが、彼らはマイクロカプセル状にした亜麻仁油にシリコンを混合し、それを透明ポリアミドでコーティングしました。これによって、素材が損傷を受けると亜麻仁油が損傷部分に流れ出て硬化し、自然と修復できるようになるそうです。

 

紫外線照射なら20分で修復

自己修復機能を持つ素材はこれまでにも開発されてきましたが、従来のものは柔らかい素材にしか利用できなかったうえ、修復のためには高温での処理が必要でした。しかし今回開発された透明ポリイミドはスマホのような硬い材質でも使用でき、室温環境で修復することも可能。さらに、修復の時間を短縮したい場合は紫外線照射と湿度によって、わずか20分以内に95%以上が元に戻るそうです。

 

この素材がスマホに広く使われるようになったら、同じスマホをいままでよりも長く使うことができるかもしれません。同様に、ほかの電子機器や電化製品にもこの素材が使われる可能性も考えられます。スマホの進化は頭打ちとも言われていますが、この開発によって、画面が割れてしまって「だらしない」と思うことはなくなりそうですね。

 

【出典】Youngnam, K., Ki-Ho, N., Yong, C. J., & Haksoo, H.(2020). Interfacial adhesion and self-healing kinetics of multi-stimuli responsive colorless polymer bilayers. Composites Part B: Engineering, 203, https://doi.org/10.1016/j.compositesb.2020.108451

新型コロナで変わった旅のカタチ。イタリアで流行る「安・近・短」な巡礼路ウォーキング

現在、イタリアの旅行業界ではスローツーリズムといわれる巡礼路ウォーキングが注目を集めています。ヨーロッパで最も有名な巡礼路はフランス各地からスペインに向かうサンティアゴ・デ・コンポステーラで、出発地点にもよりますが、その距離は数百キロを超えることも。ところが、最近のヨーロッパでは国境や州を超える長距離巡礼路は人気が低下し、その代わりに地元の短距離コースが人気となっているようです。

 

短距離巡礼デビュー者が増加

↑いまこそ巡礼デビュー

 

イタリアの大手出版社「Terre di Mezzo」の調査によると、2020年1月から9月末までに欧州の14の巡礼路が発行した巡礼証明書は3万通弱でした。前年の同時期と比べると32%減となっていますが、なかでも長距離の巡礼で知られるサンティアゴ・デ・コンポステーラが発行した証明書は、85%の減少を記録しました。

 

しかしその一方で、2020年夏に巡礼路デビューを果したイタリア人は増えています。同社が行ったオンライン調査には巡礼路を歩いた経験を持つ3000人超のイタリア人が参加しましたが、30%は今年の夏に初めて巡礼路を歩いたと答えています。

 

イタリア国内にはまだあまり知られていない巡礼路が多く、大自然や遺跡を見ながら歩ける巡礼はまさにコロナ時代のツーリズムにふさわしいと考えられたようです。調査によれば、イタリアのなかでも居住する州や近隣の州にある巡礼路を歩いたという人が53%にのぼり、国外の巡礼路を歩いたのはわずか5%でした。

 

人気だったのはエミリア・ロマーニャにある「ヴィア・デッリ・デイ(Via degli Dei)」、世界遺産の街マテーラを含む南イタリアの「ヴィア・ペウチェタ(Via Peuceta)」、サルデーニャ島にある「カンミーノ・ミネラーリオ・ディ・サンタ・バルバラ(Cammino minerario di Santa Barbara)」など、夏のバカンス地に近くアクセスも良い巡礼路でした。また、ピエモンテ州にある「カンミーノ・ディ・オロパ(Cammino di Oropa)」などでは昨年より4倍も参加者が増えたところも。イタリア半島では至る所に巡礼路であることを示す標識が見られますが、2020年はクルマで通り過ぎるだけでなく、これら標識に沿って歩いてみた人が多かったのでしょう。

↑1555年に描かれたローマ巡礼の様子

 

日曜日に教会に通う熱心なキリスト教徒の減少が顕著なイタリアで、なぜ巡礼路を歩く人が増えたのでしょうか? Terre di Mezzoの調査で参加理由を聞いたところ、「巡礼路がある土地や町についてより深く知りたかった」という答えが50%超、「大自然のなかで過ごしたかった」が48.6%でした。巡礼路デビュー者でも「新しい経験をしたかった(60.1%)」に次いで「大自然の中で過ごしたかった(58.9%)」が大きな割合を占めています。

 

そのほか「心身の健康のため」「トレッキングをしたかった」「文化的な興味」などの理由が上位を占め、巡礼路の本来の目的である「宗教上の理由から」と答えた人は29.7%にとどまりました。人好きのイタリア人らしい回答としては「巡礼路上でさまざまな人に出会える」が19.8%を占めました。巡礼路を歩くのは単独、あるいは2人までと答えた人が半数以上であることも、未知の人々との出会いを期待しているからかもしれません。

 

宿泊や食事は質素に

↑「オステッロ」と呼ばれる宿泊施設の様子

 

数日かけて巡礼路を歩くには宿泊施設が必要ですが、どのような宿泊施設が利用されるのでしょうか? 巡礼に参加する年齢層は、経済的に余裕がありそうな51~60歳が全体の30%弱と最多です。ところが全体の回答をみると、利用した施設はベッドと朝食付きの「B&B」が最多の42%で、2段ベッドが基本で浴室やトイレも共同とさらに安価な「オステッロ」が21%でした。

 

キリスト教会が運営する施設での宿泊は16%で、道具一式を担いで歩くのはかなりハードだと思いますが、6%はテントで過ごしたそうです。ホテルと名乗れるレベルの施設を利用したのは、わずか7%にすぎませんでした。

 

昼食に関してはコロナの影響もあり、84.6%がパニーノなどのお弁当持参。さすがに長距離を歩いた後の夕食は56%が外食と答えたものの、テイクアウトのピッツァやレストランより格下の「トラットリア」での軽食が大半でした。宿泊や食事については巡礼への忠実さを守り、清貧のスピリットを尊重した人が多かった模様。

 

このように、巡礼に参加した人の平均的な出費は宿泊費も含め1日30~50ユーロ(約3800~6400円)と驚くほど格安です。巡礼参加者のうち20代は9.5%を占めますが、2020年における巡礼路デビュー者のなかでは20代の割合が21.4%にのぼりました。このトレンドの背景には、コロナ禍によるツーリズム志向の変化というだけでなく、安価にスローライフを楽しめることもあるようです。

 

まとめ

長距離の巡礼ともなると数か月をかけて数百キロを歩くことも珍しくないのですが、コロナ時代の巡礼は無理せずに数日間での参加が増えました。お金の使い方も含め、まさにスローツーリズムといえるでしょう。

 

トレッキングの装備についても、現代は量販店で安く手軽にそろえられる時代。お金はあまり使わず豊かな自然のなかで心身を癒し、巡礼という同じ目的を持った未知の人たちと遭遇できる機会もあります。巡礼路がつくられた当時のイメージとはやや異なるスタイルかもしれませんが、人気ツーリズムとしてコロナの時代に定着しつつあるようです。

 

イタリアの「学校給食」が貧弱化。新型コロナの影響が子どもの食事にも。

学校に通う子どもたちには、おいしくて健康的な給食を食べさせてあげたいもの。多くの大人はそう思いますが、イタリアでは昨年から気になる変化が起きています。

 

同国では毎年「Foodinsider」というオブザーバー組織が学校給食の献立や栄養などを調べ、優れた給食を提供する都市をランキング形式で発表しています。同団体はイタリアがロックダウンを経験した2020年も調査を実施しましたが、イタリアの学校給食が新型コロナウイルスから深刻な影響を受けていることが明るみとなりました。

↑給食の中身も空っぽに?

 

ロックダウン前の給食事情

ここ数年、Foodinsiderが発表するランキングでトップを保持している都市は、北イタリアのクレモナです。新型コロナウイルスによる犠牲者が多かったことでも知られるクレモナですが、ここでは給食のために本職のコックを雇用しています。

 

評価が高い理由は料理の美味しさだけではありません。WHOの指標に従って野菜や魚をバランスよくメニューに入れるだけではなく、赤身の肉や加工肉を減らし、ヘルシーな白身の肉をより活用している点などで高いポイントを獲得しました。

 

クレモナ以外でも、トップ10の顔ぶれはこの数年間変わっていません。トップ10の常連は、アドリア海に面するファーノやイエージ、リミニ、北イタリアのトレントやマントヴァなど。ポイントが高くなる特徴として、ユネスコの世界遺産にも登録された「地中海式食事法」の主要食材のひとつである豆類の使用頻度が高いことが挙げられます。

 

また魚料理もシーチキンなどの加工品ではなく、アドリア海や地中海で獲れた新鮮な魚を使って調理。さらに、昨今のイタリアの食事情を反映させて有機野菜の使用頻度も高く、これもポイントに加算されます。

 

一方、首都ローマは16位、北イタリアの大都市ミラノは25位でした。ポイントが低い理由は、ハムやソーセージなどの加工肉や揚げ物が多すぎることや、パスタやコメに加えてじゃがいもなど炭水化物が多すぎることなどが挙げられます。イタリアで子どもの肥満は社会問題となりつつあり、実に5人に1人は該当するといわれているのです。そうした事情も考慮し、カロリーが高すぎたり栄養が偏ったりという給食はポイントが低くなっています。

 

ロックダウン後にメニューが貧弱化

↑おいしくて健康的な給食はどこへ……

 

イタリアは2020年3月5日に学校を閉鎖し、再開したのは9月に入ってからでした。ロックダウンを経て学校給食にはどのような変化があったのでしょうか? Foodinsiderが調査した結果、特に顕著だったのはメニューの貧弱化です。

 

チーズやバター、オリーブオイルでパスタを和えただけの「パスタ・ビアンカ」や、トマトソースをからめただけの「パスタ・ロッサ」が以前よりも頻繁に提供されるようになり、ペーストを絡めただけのパスタやピザが提供されることも多くなりました。旬の食材をパスタに入れるような手の込んだメニューは珍しくなってしまったのです。ミネストラと呼ばれる野菜スープは姿を消し、加工品のミートボールが幅を利かせるようになったことも報告されています。

 

Foodinsiderの報告によれば、以前は給食の内容をチェックしていた保護者の干渉も、ロックダウン解除後は激減したそう。各地の学校でクラスターが発生しているため、親も給食の内容まで目が届かないという事情があるのかもしれません。

 

いつもは環境問題に重きを置いて授業を進めているのに、コロナ感染拡大の影響で使い捨て食器の使用が大幅に増えたことも学校にとっては頭の痛い問題。さらに各市町村によって異なるものの、予想もしなかった使い捨て食器代が給食財政に重くのしかかってきたのです。

 

Foodinsiderのランキングでは23位と振るわなかったヴェネツィアでは、ロックダウン以前から給食のための食器を家から持参するルールが定められていましたが、今後はヴェネツィアのように現状に即したルールを取り入れる自治体も増えていく可能性があります。

 

一方でロックダウン中には国民の食料廃棄削減への意識が高まりました。従来のイタリアンマンマたちの間では「嫌いなものを無理に食べさせるなんて子どもがかわいそうだ!」という意見が大半でしたが、ロックダウンを経て食料ロスに関する教育が必要だという声も高まっています。

 

Foodinsiderの懸念は、イタリア国内の給食事情におけるポリシーの両極化にあります。ある自治体は給食を「食育」の場ととらえ、コストがかかっても質の良い給食を提供しようと努めています。実際、ランキング5位のリミニではロックダウン後に給食従事者を新たに12人も雇用し、栄養面と衛生面に万全を期しています。それに対して、効率化ばかりに注目し、子どもたちを満腹させればよいという自治体も少なくありません。

 

給食の時間が静かに

今回の報告で最も興味深かったのは、給食の時間が静かになったこと。イタリアの子どもたちはよくいえば天真爛漫で、給食の時間は嫌いなおかずが宙を飛んだり食事中に席を立ったりと、おしゃべりが絶えずに喧騒状態というのが常でした。しかし、ロックダウン後は飛沫が飛ぶことを理由におしゃべりが禁止され、コロナの怖さを充分に理解している子どもたちは静かに給食を食べるようになったそうです。この点だけを見ても、2020年はイタリアの給食事情に大きな変化があったといえるかもしれません。

 

「サステナビリティ」は加速する。2021年のトレンド予測

近年、サステナビリティに対する意識が世界各国で高まっており、2021年は一層加速していくでしょう。しかし、具体的にはどんなことが起こるのでしょうか? 本稿では「食品ロス」「オーガニック」「嗜好品・日用品」という視点から、タイ、イタリア、アメリカにおける様々な事例を取り上げることで、世界中のサステナビリティのトレンドを予測してみます。

↑サステナビリティをよく見てみると……

 

「食品ロス」はアプリで減らす

消費者に身近な取り組みとして、まずは「食品ロス」が挙げられます。欧米では賞味期限を活用して、ユーザーに情報を迅速に伝えられるスマホアプリが活躍しており、今後もその需要は高まると考えられます。

 

例えば、ロックダウンを通じてイタリア人が敏感になったのは「食の廃棄」。イタリア農業連盟の調査では4割以上が以前よりも廃棄を減らしたと答えています。それに貢献しているのが、賞味期限間近の食材情報を消費者やボランティア団体に知らせるアプリ。NPOなどがレストランや食料品店の閉店前ぎりぎりに食料を回収し、食べ物を必要とする家庭に届けています。

 

クリスマスや復活祭で余った食料もすぐにアプリにアップされる一方、イタリア独特の派手な結婚式や洗礼式で大量に余るご馳走についても、廃棄せずに必要とする人たちに届ける仕組みが広がっています。最近では、結婚式をあげる若いカップルはNPOに事前連絡し、この取り組みに参加することがトレンドになってきました。

 

アメリカやイギリスでもアプリを活用し、レストランなどで廃棄される食べ物を半額またはそれ以上の割引価格で購入できるようになっています。例えば「Too good to go」というアプリでは、住んでいる地域を登録しておけば、その地域のレストランやホテルから通知が届く仕組みとなっています。

 

また、欧米では形が不揃いといった理由で市場に卸せないオーガニック野菜をまとめ、リーズナブル価格で配達してくれるサブスクリプションサービス「Misfits」も人気。一般店舗の価格よりも最大40%の割引価格なのに加え、家族の人数に合わせて量を選べるため廃棄を減らすことができます。

 

その一方、もともと外食が多いタイでは新型コロナウイルスの影響でデリバリー需要が大幅に増え、ホテルや高級レストランも相次いでこの分野に参入しました。複数の現地大手銀行などもアプリ企業と提携し、新しい食品配達アプリの開発が活発化しています。

 

そのなかで登場したアプリのひとつが「Yindii」。ユーザーは最大50~70%引きで食料を入手することができるのに対し、飲食店はそれによって利益を得られるというもの。参加店舗はヴィーガン向けや添加物不使用のレストランが多く、SDGsに関心のある人や健康意識の高い人に選ばれるアプリとして人気が出そうです。

 

「オーガニック」はますます人気に

サステナビリティへの取り組みは、商品開発にも反映されるようになりました。なかでも女性やミレニアル世代の商品を見る目は厳しくなり、環境に配慮した商品に優位性が生まれているとみられます。例えば、イタリアのワイン業界では「サステナビリティ・ワイン」の認証基準に取り組むプロジェクトが立ち上がりました。この国ではオーガニック食材の市場が大幅に伸びていますが、同プロジェクトでは有機栽培を用いてCO2の排出量を削減しながら、空気、水、土を汚染せずにワインを生産しています。

 

南イタリアにはアーモンドの木との「養子縁組システム」があり、「親」となる出資者は縁組期間中、収穫した実を毎年受け取ることができます。「養子」となった木には親の名前を記したプレートを付けることができるうえ、木の成長具合も確認することができます。このシステムで集まった資金は樹木の手入れやバイオ農法の促進などに充てられているそう。

 

それと関連して、イタリアでは「樹木を植えるキャンペーン」も人気です。フィレンツェでは、購入した木が自治体の樹木遺産の一部となり、それを通して都市の気候緩和とCO2削減に貢献するという取り組みが行われています。購入者は自分で植える場所も選ぶことができ、樹木が成長する様子もメールで確認することが可能。また、この活動はギフトとしても活用されています。

 

アメリカでも、化学物質を一切使用しないオーガニックのスキンケア製品や自然に優しい洗剤などが人気を集めていましたが、最近はコロナ禍の影響で「心のつながり」を求める人が急増。商品のバックグラウンドやストーリーを重視したり、地域に根ざした店舗で消費したりという行動が強まっているようです。

 

タイではオーガニック食品やエコ商品の店舗が増加し、バンコクの中心街には環境配慮型商品のみを扱う専門店もオープンしました。このお店では雑貨や生活用品、食品などを取り扱っていますが、なかでもスキンケア商品が豊富に取り揃えられており、多くのオーガニック系ブランドもそこに含まれています。エコストローやプラスチックを再利用して作ったバッグ、水中の生き物に害を与えない日焼け止めなど、地球に優しい商品に人気が集まり、今後もこのような動きは続くでしょう。

 

さらに、タイでも不織布や紙で作られたエコバッグやマイボトル、マイストローを持ち歩く人が若年層を含めて増加中。ペットボトルの水を通常の3倍の価格で販売するスポーツジムもあるなど、多くの人にマイボトルなどを持ち歩くようにさせるための取り組みが、あちこちで行われています。

 

同国のフードデリバリーでは、プラスチックの代わりに紙やキャッサバ、サトウキビで作られた容器を使用する飲食店が増えており、特にヴィーガンカフェや富裕層向けレストランでは天然素材容器の活用が目立ちます。5つ星のマンダリンホテルでは、バイオプラスチックのペットボトルや固形タイプの歯磨き粉、木の歯ブラシなど、部屋のアメニティをプラスチック不使用の製品に変えており、このような動きはこれからもっと広がるでしょう。

 

サステナブル化する「嗜好品・日用品」

イタリアではラグジュアリーブランドが率先し、プラスチックをリユースした商品開発に力を入れています。プラダは廃棄素材を利用したナイロンでバッグを生産し、グッチは破棄された漁網やカーペット、生産過程で生じた廃棄物を再利用しています。フェラガモは廃棄オレンジの皮で作った素材を活用するなど、自然に優しい素材を使った商品はファッション業界でもトレンドになっています。

 

アメリカではテラサイクル社が、使用済みの商品容器を提携メーカーが回収し、洗浄して再利用するという循環型消費事業の「ループ」を展開中。サブスクリプションサービスとなっているループは、化粧品や日用品、飲料などを専用容器で購入すると、中身を使い切った時点で、同じ品物が別の専用容器に入れられて届くという仕組みになっています。

 

同社は専用容器のデザインなどにも工夫を凝らしており、消費者から高い評価を得ています。すでに多くのメーカーと20か国以上で提携しいるループは、日本でも多数の企業の賛同を受けながら2021年にサービスを開始する予定です。

 

まとめ

↑さあ、どうする?

 

2021年には消費者のサステナブル意識がさらに高まり、それが私たちの購買や行動パターンに影響を与える傾向が強まりそうです。それに対応するために、サステナビリティに本気で取り組む企業も増えていくのではないかと考えられます。その場合、サステナビリティ関連の新しい製品やサービスもどんどん作られていくはずですが、消費者にとって選択肢が増えるのは悪いことではありません。自分のライフスタイルにあった選び方ができるように、見る目を養っておくといいかもしれません。

いつもと違った一年を「AI」はどう過ごした?【2020年AI記事まとめ】

医療から自動車、環境まで、さまざまな分野で発展が目覚ましいAI(人工知能)。2020年は新型コロナウイルスの感染予防にもAIの技術が活用されましたが、この科学技術は今年どんな進歩を遂げたのでしょうか? 本稿では、この1年間に紹介したAIの最新技術を6つのカテゴリーに分けて振り返ってみます。

↑私の進歩について来い!

 

①【医療】”リモートで”病気を予測

どんな病気でも、早期に発見し適切に対処することが大切。そのために定期的な健康診断が奨励されているのですが、医療機関に行かなくても病気を予測することができたら、私たちにとってメリットもあるでしょう。医療界では、スマートフォンで撮影した顔写真から心臓病を予測するAIの技術の開発が進んでいます。薄毛や白髪、耳たぶのしわの増加、まぶた周辺の黄斑など、顔の変化をAIが解析して心臓病疾患を診断するというもので、まだ実際の医療現場で使われるために十分な精度は出ていませんが、多くの患者のデータを蓄積していくことで、今後は顔写真での心臓病解析が当たり前になっていくのかもしれません。

 

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自撮りだけで心臓病を診断できる? 「医療AI」が猛勉強中

 

②【環境】砂漠にいっぱい樹木を見〜つけ

年々深刻化する環境問題にもAIを活用する動きが進んでいます。例えば、AIとNASAの衛星画像を組み合わせた研究で、植物はほとんど生息しないと思われていたサハラ砂漠に、18億本もの樹木が生息していたことが判明しました。サハラ砂漠の大きさは、日本の国土面積の約22倍。いくら衛星画像があったとしても、その写真から樹木の本数を人間が手で数えるなど、途方もない時間と手間がかかる作業になります。それを短時間で計算することができたのはAI技術の賜物。砂漠に存在した樹木の種類を特定することなどによって、地球温暖化や地球保護などの研究にも活かすことができると期待されます。

 

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AIがサハラ砂漠に18億本もの樹木があることを発見! かかった時間が凄かった……!

 

③【コロナ対策】タッチレスなタッチスクリーン

スマホやタブレット、券売機、ATMなど、さまざまな機器に導入されているタッチスクリーン。これを非接触で操作可能にする開発が行われています。そのひとつが、クルマに搭載されたディスプレイのタッチスクリーン。運転中はクルマの揺れがあり、画面上のタッチしたい部分に、指で的確に触れることが難しいもの。そこで英ケンブリッジ大学では、AIを駆使して運転手が画面のどの部分を指そうとしているか自動的に判別する技術を開発したのです。開発されたタッチスクリーンは操作時間を最大50%も削減。これで運転中の操作ミスによる事故などのリスクも軽減されることでしょう。さらにこの技術は、スマホを含む私たちの生活の身近なあらゆる機器にも応用できると期待できます。

 

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「タッチレスなタッチスクリーン」ってどういうこと? AIを使った最新技術が加速中

 

④【自動車】周囲の音を分析して安全性を高める

クルマ業界の技術開発における永遠のテーマともいえるのが安全性でしょう。自動で駐車する「駐車サポートシステム」や、運転者の死角にクルマなどが近づいたときに警告を出す「ブラインドスポットモニター」はよく知られていますが、そのなかでほぼ未着手だったのが「音」に関する技術。そこでドイツの研究チームは、クルマのクラクションの音や、遠くから近づくサイレン音などを聴き分けられるよう、AIなどを活用しながら視覚機能の開発に取り組んでいます。将来的には、タイヤやエンジンの音から異変を感知するなど、自動車の安全性をさらに高める機能が誕生するかもしれません。

 

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AIが周囲の音を分析! 自動運転車用「聴覚機能」の開発が進行中

 

⑤【ビジネス】ダンスにも著作権を

ダンスの振り付けというと著作権があるのかないのか、なんだか曖昧ですよね。写真やイラスト、音楽には著作者を守る著作権が存在するのに、踊りに関してはそれが明確化されていないのが実情です。そこで世界中のダンサーや振付師を守るために、振り付けを登録して著作権を明確化しようとする動きが現れました。日本とアメリカでリリースされたダンス登録管理システムでは、ダンスの動画からAIが3Dモーションを推定、抽出してデータ化。すでに登録されている振り付けか、新しい振り付けか判断できるのです。せっかく自分が考案したダンスは、守られるべき。ダンス界が変わっていく新しい一歩になっていくかもしれません。

 

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曖昧だった「ダンスの著作権」を変えるのにはAIが役に立つ

 

⑥【画像】ボヤけた顔写真がクッキリ!

画像認識や画像作成は、特にAIの技術が活用されることが多い分野のひとつでしょう。2019年には現実の世界には実在しない人物の顔を作り出すAI技術を取り上げましたが、これと同じような画像AI技術としてアメリカの研究チームが発表したのが、ボヤけた元の画像を最大で64倍まで鮮明にするツール。目や鼻などのパーツはおろか、顔の輪郭さえハッキリしない元の画像でも、毛穴やシワまでリアルに再現してしまうのです。ただ、この技術はあくまでも「実在しそうな人の顔」を作るだけ。防犯カメラの画像を鮮明にするような用途では使えないとのことです。

 

【詳しく読む】

まるで目の前にいるかのようだ! 顔写真を64倍も鮮明にできるAI技術を米研究チームが開発

 

2020年はリモートワークが進み、私たちの働き方やライフスタイルに大きな変化をもたらしました。これは私たち人間とAIの距離をますます縮めているかもしれません。今後もめまぐるしく進化するAI技術に注目です。

若い世代がリードした、2020年に世界で注目されたサステナビリティまとめ

「サステナビリティ」や「SDGs(持続可能な開発目標)」は、現代のキーワードとして日本社会にもかなり浸透しました。2020年もサステナビリティに関するさまざまな記事を取り上げてきましたが、本稿ではアパレル・食品・容器包装・モビリティの4分野から注目すべき動向を振り返ってみます。

↑今年は未来の世代に何を残した?

 

①【アパレル再生可能な天然素材が流行り

化学製品を使わず再生可能な素材を活用することは、アパレル業界でも盛んになっています。ポール・マッカートニーの娘でイギリスのデザイナーであるステラ・マッカートニーは、自身のブランドで生分解可能なデニムを使ったストレッチジーンズを発表しました。ストレッチデニムの伸縮性は天然素材のコットンだけでは不十分で、石油由来の弾性素材が必要です。

 

しかし、イタリアの老舗ジーンズメーカーが天然の弾力素材を織り込んだ伸縮性の高い生地を開発したため、ステラはこの生地を使用。染料についても、オランダ企業が開発した生分解可能な天然由来の染料が用いられました。化学製品などの代用品としてキノコや海藻からの抽出成分を利用した結果、このジーンズは100%生分解が可能となったのです。

 

【詳しく読む】

サステナビリティを語るなら「生分解可能なデニム」をはくべし!

 

一方、意外な果物を使った繊維も開発されています。高級な繊維として知られるシルクは絹糸生成段階で大量の水が使われ、二酸化炭素が発生することが課題でした。エコな代替品が求められているなか、オレンジの皮から作ったオレンジファイバーが登場したのです。

 

素材の開発と販売を手掛けているのは、オレンジ産地として知られるイタリア・シチリア島の企業です。オレンジジュースの製造過程で年間70万~100万トン出る大量の皮の生ごみは、現地で悩みの種になっていました。オレンジの皮を繊維に加工できないかと考えたシチリア出身の研究者たちが、ミラノの大学と共同で皮からセルロースを抽出する技術を開発。生地の手触りはまさにシルクのようになめらかで、フェラガモ社をはじめアパレル関係者から高く評価されており、大手ファストファッションのH&Mもオレンジファイバー素材を用いたサステナブル商品を以前に発表しています。

 

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「柑橘系シルク」が世界を変える! H&Mも採用したエコ繊維「オレンジファイバー」とは?

 

②【食品食品廃棄物を活用した結婚式

食品廃棄もSDGsの重要課題のひとつ。欧州では若い世代がこの問題の解決に向けて活動しています。イタリアでは若者たちがNPOを立ち上げ、家庭やレストラン、食品店などで余った食料を必要な人にすぐ届ける取り組みを始めました。目を付けたのが、イタリア独特の派手な結婚式で膨大に余るご馳走です。

 

まずは結婚式が決まったカップルから事前連絡をもらい、段取りを決めます。パーティーが終わるとスタッフが安全できれいな食べ物をまとめて、見た目も整え、食料を必要とする近隣家庭に約30分で届けます。最近はこの活動が広く知られるようになり、若いカップルが結婚式を挙げる時には参加することが当たり前になってきました。

 

結婚式だけでなく洗礼式でも同じ活動が行われ、クリスマスや復活祭でも食料やお菓子が提供されて賞味期限とともにNPOの公式サイトやFacebookに掲載されます。さらに、食料品店の閉店15分前に賞味期限ぎりぎりの食材を回収し、必要な家庭に届けています。

 

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若者が社会を変える! 南イタリアから広まる「残飯ゼロ」を目指す素晴らしい動き

 

イギリスでも食品廃棄に対する国民の意識が年々高まっています。2018年に湖水地方で結婚式を挙げたカップルは、国内初の「食品廃棄物ウェディング」で一躍有名になりました。賞味期限が迫った食べ物や、スーパーに断わられた形の悪い野菜や果物を卸業者などから集めて販売するチェーン店が食料の調達に協力。

 

披露宴のご馳走はとても豪華で、招待客はすべて食品廃棄物から作られていたことにまったく気付かなかったそうです。この結婚式を機にイギリスでは「食品廃棄物ウェディング」を希望するカップルが増え、食の新しい価値観が生まれているようです。

 

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「食品廃棄物ウェディング」は素敵なこと! イギリスで活発な「食品ロス削減」のユニークな動き

 

③【容器包装海藻を使えば容器も食べられる時代に

ペットボトルや調味料の容器に使われるプラスチックの量を削減するために、イギリスのNotpla社は「食べられる包装材」を開発しました。「オーホ」と名づけたこの包装材はそのまま食べられ、捨てても4~6週間で自然分解されます。原料はフランス北部で養殖されている海藻で、乾燥させて粉状にしたあとに独自の方法で粘着性の液体に変化させ、さらに乾燥させるとプラスチックに似た物質になります。1日に最大1メートルも成長し養殖には肥料なども不要なため、原料不足になる心配もありません。

 

2019年のロンドン・マラソンではランナーに提供する飲料の容器に使用し、3万個以上を配布しました。同社は2020年にサントリーの子会社と提携し、ドリンクが入ったオーホの自動販売機を開発。スポーツジムに設置して実証実験を行ったほか、さまざまなイベントで活用しています。

 

新型コロナウイルスの影響でテイクアウトが増加し、プラスチック廃棄物も増えています。食べられる容器は、ごみ問題の救世主のひとつになっていくかもしれません。

 

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丸ごと食べてプラ削減! 飲み物や食材の「包装」も食べられる時代に突入

 

④【モビリティ公共交通機関の無償化は成功するか?

欧州の小国ルクセンブルクはドイツやフランスなどからの越境労働者が多く、夕方4時を過ぎると至るところで渋滞が見られます。排ガスによる大気汚染の観点からEUから何度も是正を促され、国としては初となる「公共交通機関の無償化」を導入しました。同国では自動車通勤の人が確定申告をすると、通勤距離に応じた金額が還付される制度があります。これを変更もしくは廃止して、その財源を公共交通機関の無償化に充当し、自動車利用の抑制につなげるという仕組みです。

 

ただ、ルクセンブルクの公共交通機関は本数が少なく移動が不便ということもあり、無償化後も渋滞が大きく緩和された様子は見受けられません。政府も今後はより利便性の高い交通サービスを提供していくことが必要と発言しています。

 

都市単位では欧州を中心に約100都市で同様のモビリティ施策が導入されていて、公共交通機関の全面無償化に踏み切ったフランスの都市ダンケルクやエストニアの首都タリンでは利用者数の増加など一定の効果が表れています。CO2削減策の1つになりうる可能性もあるといえるでしょう。

 

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国として初めて「公共交通機関」を無償化したルクセンブルク。国民が冷めているのはなぜ?

 

このように、限りある資源を未来の世代に残す活動は今年も活発に行われてきました。上記の取り組みはすべて欧米から生まれていますが、生活に密着したサステナビリティは日本でもさらに広がっていく可能性があります。そこで鍵を握るのは、イタリアの事例が示すように若い世代でしょう。新しい価値観をどんどん生み出す若者に2021年も注目です。

外科医のプライベートが「手術」に与える影響

現在、世界中の人々が医療従事者に感謝しています。そんななか興味深い論文が12月上旬、アメリカで発表されました。手術室で仕事をする外科医の集中力について「プライベート」という側面から分析したこの研究は、執刀医の誕生日と手術結果の関係に着目。新たな事実が示されました。

 

手術後30日以内の死亡率が増加

↑仕事とプライベートを切り離すのは簡単ではないのかも……

 

手術室では、執刀医が臨床的な理由だけでなく、個人的な事情のために注意力散漫になることがよくあります。これまでの実験では、気が散った執刀医は手術がうまくできなくなってしまうことが明らかにされていましたが、実際の手術のデータを使った研究では、執刀医の注意力散漫が手術の結果にどんな影響を与えるのか、よくわかっていません。

 

そこで調査に乗り出したのが、慶応義塾大学の加藤弘陸特任助教とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の津川友介助教授、ハーバード大学のAnupam B. Jena准教授の3人。この共同チームは、執刀医の誕生日に行われた手術を見てみることで、プライベートな事情による注意力散漫と手術結果にどのような関係があるのかを調べることができるかもしれないと考えました。執刀医の誕生日と患者の死亡率の関係は、これまで研究されていません。

 

彼らは、2011〜2014年の間にアメリカの救急病院などで65~99歳の患者に対して行われた98万876件の緊急手術に関するデータを使用。これらの手術を担当した外科医およそ4万7489人の誕生日とあわせて分析をしたところ、全体の0.2%にあたる2064件が執刀医の誕生日に行われた手術であったことが判明。そして術後30日以内の患者の死亡率について調べると、執刀医の誕生日以外の日に行われた手術では、患者が30日以内に死亡した割合は5.6%だったのに対して、執刀医の誕生日に行われた手術の後の死亡率は6.9%と、1.3ポイント高いことが判明。言い換えると、両者の間で死亡率が23%も異なることが明らかとなったのです。

 

執刀医が誕生日に手術を行うと、患者の死亡率がなぜ高くなるのか? 今回の研究ではその点は明らかにされていません。さらに今回のデータは65歳以上の高齢者を対象としたものなので、もっと若い世代でも同じような傾向が見られるかどうかも調べる必要があります。このような限界を踏まえて、津川氏は「患者は誕生日の執刀医を避ける必要はない」と述べています。目の前の大事な仕事に専念することは、外科医にとっても簡単ではないのかもしれません。

 

【出典】Kato, H., Anupam B, J., & Tsugawa, Y. (2020). Patient mortality after surgery on the surgeon’s birthday: observational study. BMJ, 2020;371:m4381. https://doi.org/10.1136/bmj.m4381

 

カンボジアで製造業の人材育成をサポート:コロナ禍を乗り越え、協力を継続【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、カンボジアの職業訓練校と連携し、技術者を育成する取り組みを追います。

 

カンボジアの急速な経済成長を支える人材の育成に向け、質の高い職業訓練が求められています。JICAは2015年から産業界のニーズに応えるため、より実践的で質の高い職業訓練に向けた協力で製造業の中核を担う技術者の育成を続けています。

 

コロナ禍でも協力は途切れることなく続き、全国の職業訓練校で活用できる、電気分野の訓練カリキュラムや必要な訓練機材などをマニュアル化した「標準訓練パッケージ」が完成。今年9月に政府承認を受けました。これにより、現場ニーズにより即した職業訓練が推進され、知識・技術を培ったカンボジア人技術者の活躍が期待されます。

↑職業訓練校で電気工事の実習をする学生ら

 

8月には専門家がカンボジアへ再赴任

「パイロット職業訓練校3校での開発機材を活用した実践的な訓練の経験を踏まえ、産業界とも協力し、ASEANの枠組みに準拠した標準訓練パッケージについて、今年3月、ドラフトがようやくまとまりました。4月からは労働職業訓練省内での作業が進められ、9月にプロジェクト活動後の目標であった政府承認までこぎつけました。当地関係者の努力の賜物です」

 

こう語るのは、このプロジェクトに厚生労働省から派遣されている山田航チーフアドバイザーです。3月下旬に新型コロナウイルス感染症の影響で一時帰国した後も、電子メールやSNSを活用して現地とのやりとりを継続。8月初旬には他の地域やプロジェクトに先駆けて首都プノンペンに再赴任し、いち早く現場での活動を再開しました。現地との対話を重視した連携が、今回の標準訓練パッケージの政府承認につながりました。

↑職業訓練校の指導員とオンライン会議も実施

 

工場のラインマネージャーといった中堅技術者に求められる知識・技術が習得可能なディプロマレベル(注)の標準訓練パッケージが国家承認を受けたのは、カンボジアでは初めてです。

(注)ディプロマレベル: 短大2年卒業相当の中堅技術者(テクニシャン)養成教育

 

存在感を増す職業訓練校——カリキュラムの“質”のばらつきが課題だった

カンボジアでは産業構造の多様化や高付加価値産業の創出に向け、自国での人材育成が重要課題となっているものの、製造業の生産ラインマネージャーといった技術者は現在、第三国の外国人でほぼ占められています。そのため、カンボジア人技術者の育成に向け、職業訓練校の存在感がいっそう高まっています。

 

しかし、従来の職業訓練カリキュラムはそれぞれの訓練校が独自に編成していたため、その質のばらつきが大きな課題でした。そこで、このプロジェクトでは現地の日系企業を含む産業界から広くヒアリングなどの調査を繰り返し行い、生産現場で必要とされる実践的な知識と技術を明確化してカリキュラムを作成。また、訓練機材を部品レベルからカンボジア国内で調達し、プロジェクト終了後も職業訓練校の指導員たちが自分たちで維持管理できる体制を整えました。

 

プロジェクトで電気技術分野を担当する松本祥孝専門家は、この作業を振り返り、次のようにこれからの展望を述べます。

 

「カンボジアでは、都市部および国境付近の工業地帯とその他の地方では人材ニーズが異なるため、画一的にパッケージを実践していくのではなく、地域の人材ニーズに即して多少アレンジすることも必要かもしれません。また、地方校への普及活動では、パイロット職業訓練校の指導員によるTOT(Training Of Trainers)が必要であり、パイロット校3校の先導的な役割が求められます。これらの活動を通じて職業訓練全体のボトムアップひいては中堅技術者不足の解消に繋がることを期待しています」

 

カンボジア産業界と訓練校を繋ぎ、互いの信頼関係を築く

職業訓練校の最大の目的は、カンボジア産業界が求める質の高い人材を輩出し、現場で活躍してもらうこと。そこでプロジェクトでは出口戦略の一環として、パイロット訓練校が主宰するジョブフェアや企業の現役技術者向け有料技術セミナーの企画・開催などを通し、産業界と職業訓練校がより密に関わる仕組みを構築し、連携を深めてきました。

 

「これまでも職業訓練校では個別に細々と産業界との繋がりはあったものの、自ら主宰するイベント等は実施経験もなく、訓練校同士の情報交換や共有の場もほとんどない状態でした。プロジェクト開始後、パイロット3校と産業界、関係省庁を繋ぎ、積極的に働きかけ、彼らが主体のイベントを仕掛ける活動をしていった結果、徐々に関係者の結びつきや関係性が醸成されつつあります」と業務調整や産業連携を担当する齋藤絹子専門家は語ります。

↑有料技術セミナー(写真左)とパイロット職業訓練校主催のジョブフェア(写真右)の様子

 

ASEANグローバルサプライチェーンの一角を担い、地域の成長と繁栄に寄与することを目指すカンボジアでは、教育・職業訓練による人材育成は政府の最重要課題の一つです。このプロジェクトの今後について、山田チーフは「カンボジアの人びとが、関係者と手を携えて、人づくりの仕組みを持続的に改善していくことができるよう、引き続き協力をしていきたいと思います」と抱負を述べました。

新幹線の100倍速い「サンタ」をリアルタイム追跡! 子どもが喜ぶこと間違いなし!!

もうすぐクリスマスですが、サンタクロース追跡サイトとアプリがあるのをご存知ですか? 北アメリカ航空宇宙防衛司令部(通称、NORAD)がサンタクロースの居場所を追跡しており、この取り組みは今年で65周年を迎えています。クリスマス本番を迎える前に、世界中の子どもたちに夢を与えている「NORAD TRACKS SANTA(ノーラッド・トラックス・サンタ)」をチェックしてみましょう。

↑サンタさんをフォローしよう(「NORAD TRACKS SANTA」公式サイトのトップページ)

 

北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)は、冷戦時代にアメリカとカナダが北米上空の観測や監視を行うために設立した組織です。そんな機関がサンタクロースの追跡を始めたきっかけは、子どもからの間違い電話でした。1955年、アメリカの百貨店が「サンタさん直通電話」を載せた新聞広告を出したのですが、その電話番号には誤りがあり、電話をかけると、NORADの前身の大陸防空司令部(CONAD)にかかってしまったのです。おかげでCONADにはサンタクロースと話をしたい子どもたちから次々と電話がかかってきましたが、CONADは子どもたちにサンタクロースの現在地を伝えることにしました。

 

それ以来、NORADはクリスマスの時期になると毎年サンタクロースの現在位置を追跡しています。同司令部には「サンタクロース・ホットライン」が設けられ、ボランティアの人たちがそこで働き、世界中の子どもたちにサンタクロースの居場所を伝えています。近年では、インターネットの普及に伴い、NORAD TRACKS SANTAというサイトも開設。現在は、英語のほか、日本語や中国語、フランス語、イタリア語など8か国に対応し、スマートフォン向けアプリもリリースされています(Apple StoreやGoogle Playで入手可能)。

 

サンタクロースの追跡は、人工衛星やジェット戦闘機の最新鋭システムなどを使ってリアルタイムで行われるそう。サンタクロースが世界をまわるルートは、南太平洋の日付の早い国から始まります。ニュージーランド、オーストラリアの次に日本へ到着。アジアのほかの国々もまわり、ヨーロッパに行き、その後にカナダとアメリカを経て、南アメリカへ飛びます。

 

新幹線の100倍も速く移動すると言われるサンタは、24時間以内に世界中の子どもたちのもとを回っていくそう。ただしサンタクロースのルートは、その日の天候に影響を受けるため予想するのが難しいとNORADは述べています。しかし、だからこそ役に立つのが追跡アプリ。NORADは、サンタクロースが12月24日の午後9時から深夜0時(各国の現地時間)までの間に子どもたち一人ひとりの家に到着すると発表しています。

 

面白いことに、北米ではサンタクロースをNORADの戦闘機がガイド役になってエスコートするとのこと。さらに、2020年は国際宇宙ステーションに人類が滞在し続けて20年目となることから、サンタクロースがISSから飛び出すパフォーマンスもあるのだとか。アプリならISSの現在地も確認することができるそうです。ちなみに、今年のサンタはマスクもしているそう。

このサンタクロースの追跡は、アメリカ東部標準時間で12月24日の午前4時(日本時間で12月24日の午後6時)からスタート。アプリとサイトで随時サンタクロースの現在地を確認しながら、ワクワクしたクリスマスイブを過ごしてみてはいかがでしょうか?

2021年に海外旅行するとしたら「ハワイ」が最有力候補なワケ

ハワイを訪問する旅行客が初めて年間1000万人を突破した2019年。2020年は状況が一転し、観光の中心地となるワイキキでは多くの店がシャッターを閉じ、日中ですら人影がほとんどないような状況が続いていました。

 

しかし、11月からハワイ州では日本の観光客を受け入れる体制を整え、少しずつですがハワイの街に活気が戻りつつあります。問題は2021年のハワイ旅行はどうなるのか? 最新の現地情報を交えながらホノルル在住の筆者が予想してみます。

↑行っちゃう?

 

2020年3月のロックダウンで、ハワイを訪れるすべての人に14日間の自己隔離が義務付けられてから、ハワイの観光業は停止。ほとんどのホテルが営業を休止し、各種ツアーやアクティビティ関連なども休止に追い込まれる事態が続いていました。この一連の対応は、観光が基幹産業であるハワイに予想以上の影響を与え、ハワイ経済に大きな影を落としました。

 

そこで、ハワイ州が10月15日から導入したのが「事前検査プログラム」。これは新型コロナウイルス感染症の検査を受けて陰性だった場合、14日間の自己隔離が免除されるというもので、陰性であれば、ハワイ到着後にコロナ前のように自由に観光旅行を楽しめるということです。アメリカ国外の国では初めて日本がこの事前検査プログラムの対象に認定され、11月6日のフライトから日本の観光客受け入れが始まりました。

 

では、この事前検査プログラムを利用して、日本からハワイへ旅行に行くときの手順について見てみましょう。

 

① ハワイ州Safe Travel Programにオンラインで登録。出発前24時間以内に健康状態について登録し、発行されるQRコードを保存します。

 

② ハワイ行フライト出発前の72時間以内にCOVID-19の検査を受診。ハワイ州指定医療機関が北海道から九州まで全国に57か所あるので、それらのいずれかで検査を受けます。結果が出たらハワイ州指定指定の陰性証明書を取得します。

 

③ コロナ前の旅行と同じくESTAの申請が必要です。海外旅行保険の加入もしておいたほうがいいでしょう。

 

④ ハワイ到着後、サーモグラフィーで検温が行われます。①で取得したQRコードとハワイ州指定指定の陰性証明書を提示したら、自己隔離が免除となります。

 

ハワイは待っている

↑想いは募る……

 

ハワイの観光客受け入れが開始しましたが、まだ問題があります。それは、ハワイ側の自己隔離が免除となっても、日本に帰国した際に自己隔離が必要となること。そのため、現段階でハワイ旅行を楽しめるのは、時間的にも経済的にも余裕がある方に限られてしまうかもしれません。しかし、ハワイにとって日本はアメリカに次いで2番目にたくさんの観光客が訪れる国。そのためハワイ州政府による日本側への働きかけで、帰国時の自己隔離が緩和されることが期待されています。

 

ハワイの新型コロナウイルス感染者の状況を振り返ってみると、2020年3月にハワイで最初の感染者が確認され、3月下旬から5月末までロックダウンが実施されました。その後経済活動を再開したものの、8月になると感染者が急増したため、感染者が集中しているオアフ島限定で8月下旬から2度目となるロックダウンが行われました。その後は感染者数に応じて4段階でビジネスを規制する細かいルールが設けられ、ハワイ州全体の新規感染者数は1日100人前後の状態が続いています。

 

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、10万人当たりの1日の平均感染者数は、ハワイ州は7人と(12月13日時点)、下から6番目に良い数字。最も悪いロードアイランド州やオハイオ州は100人を超えているので、アメリカ本土と比べてもハワイの感染者数がかなり少ないことがわかるでしょう。ハワイでは冬でも気温がそこまで低くならないため、ウイルスの感染が抑えられているのかもしれません。

 

ハワイでは、ソーシャルディスタンスが確保できない場合は屋外であっても、公共の場所でのマスク着用が義務付けられ、現地の人の多くがそれを守っています。また、レストランや小売店、観光スポットといった場所では入店時に体温チェックが行われるなど、安全対策がきちんと行われている印象があります。

 

11月に日本の観光客受け入れを再開した際、ハワイ州のイゲ知事は、ロックダウンでハワイ旅行をキャンセルせざるを得なかった日本人観光客にお詫びしたことに触れ、「今日は『ぜひハワイへ安全に旅行してください』という新しいメッセージを送ります。日本の方が再び訪れることを心より歓迎します」と語っていました。ハワイは日本人に愛される海外旅行先のひとつで、リピーターも数多く訪れる場所。日本の海外旅行の体制が整えば、ハワイは日本人にとってアフターコロナで最初に訪れやすい海外旅行先になっていくかもしれません。

トカゲほどじゃないけど「ワニの尻尾」も再生することが判明!

トカゲの尻尾は切れても再び生えてきますが、実はワニの尻尾にも同様の再生能力があることが最新の研究で明らかとなりました。しかも、新しく生えた尻尾の長さは最大23センチというから驚き。ワニの再生能力は一体どうなふうになっているのでしょうか?

↑トカゲより長いでしょ? ワニも尻尾を再生できる

 

トカゲが尻尾を切るのは、外敵に襲われたときに身を守るためだと言われています。トカゲの尻尾はもともと同じところから切れるようになっており、身に危険が迫ったときにその部分を切り離して生き延びられるのですが、この能力はトカゲの専売特許ではなく、同じ爬虫類のイモリにもあることがわかっていました。

 

しかし爬虫類であっても、ワニとなると話は別。体長4メートル前後にもなるワニでは、トカゲやイモリと身体の大きさがまったく異なるため、再生能力があるかどうかこれまで明らかなっていませんでした。そこで、アリゾナ州立大学とルイジアナ州の魚類野生生物局の研究者チームが共同で研究を実施し、ワニにもトカゲのような再生能力があるかどうか調べたのです。

 

調査の結果、若いワニには尻尾を再生する能力があることが判明しました。新しく生えた尻尾は最大で23センチとなり、全長の18%にもなったのです。さらに画像解析技術と組織構造学を利用して、再生した尻尾の組織について調べてみたところ、軟骨のまわりが、血管や神経を含んだ結合組織で覆われており、複雑な構造であることもわかりました。トカゲの尻尾でも軟骨や血管、神経が再生されることは明らかにされていましたが、ワニの尻尾でも同じように組織が再生していたんですね。

 

ただし、ワニの再生した尻尾には傷跡に似た結合組織も見つかっており、同じ組織のなかで再生と治癒のような現象が同時に起こっている可能性が示唆されています。また、ワニは脊椎動物ですが、再生された尻尾には軟骨しか存在していないようで、研究者にとっては新たな課題も見つかりました。

 

実はとても疲れるんです……

この研究チームは「新しい筋肉や組織を作りだすにはエネルギーが必要で、これは大変なことなのです」と述べています。それでも尻尾が再生するのは、そこがワニの身体にとって不可欠な部位であるということなのでしょう。

 

トカゲの尻尾は何度も生えるものではなく、再生するのは一度きりなのだそう。しかも、まったく同じ状態に戻るわけではなく、再生にはやはり多くのエネルギーを必要とするみたいです。これがワニにも当てはまるかどうかは不明ですが、尻尾が無限に再生しないという事実は、生命が有限であることを教えてくれます。

 

なお、トカゲなどの再生能力は人間にも応用できるのではないかと考えられており、ワニのような大型生物の再生能力が解明されたら、再生医療技術はさらに発展するかもしれません。

来年の初詣どうする? 賛否両論の「ハイテク参拝」が実利的な選択肢だ

現在、スマホ決済やICカードの普及によってキャッシュレス化が進んでいますが、この波は神社やお寺のお賽銭にも押し寄せています。いつもと違った年末年始が近づきつつあるなか、キャッシュレス参拝やバーチャル参拝できる神社やお寺について見てみましょう。

↑キャッシュレス参拝の最前線

 

京都駅から徒歩圏内にあり、数々の歴史的建造物が点在して見ごたえのある東本願寺は、京都観光では外せない人気スポットのひとつです。そんな東本願寺は2020年10月に電子決済のお賽銭を導入したことを発表しました。「御影堂(みえいどう)」や「阿弥陀堂(あみだどう)」などの境内6か所のほか、「渉成園(しょうせいえん)」と呼ばれる庭園などで、キャッシュレス決済を導入。また、QRコード決済の「J-Coin Pay」と「Union Pay」が印字されたパネルも設置し、参拝者はそれをスマートフォンで読み取り、好きな金額を入力して支払いすることができます。もちろん、これまで通りに現金でお賽銭を納めても構いません。

 

今回のキャッシュレス決済について、東本願寺は新型コロナウイルスに伴う「新たな生活様式」に基づき、安心して参拝できる環境を整え、利便性の向上も図ることを目的としていると述べています。キャッシュレスでの参拝は、既にキャッシュレス化が一般的になっている諸外国からの観光客が利用しやすいという利点もあるでしょう。

 

ただ、神社やお寺でのキャッシュレス決済に対して、賛成する声がある一方で反対する意見もあります。大きな懸念材料になっているのは、電子決済で収集された個人情報の漏洩。どこの神社やお寺に参拝したか、いくらの金額を支払ったかといった個人情報が明るみになると、個人の信仰や信教の自由が侵される可能性があります。また、キャッシュレスで参拝者からお金を集める行為は「収益行為」と指摘する声もあります。さらに、利用者側から考えても「なんとなくご利益がなさそう」「チャリーンという音が鳴るのも含めて参拝になる」など、“なんとなく腑に落ちない”と感じるところはあるかもしれません。

 

キャッシュレス参拝できる全国の神社・お寺

賛否両論の意見はありますが、政府がキャッシュレス推進政策を掲げていることや利便性を考えると、神社やお寺におけるキャッシュレス決済が今後まったく広まらないというのは考えにくいでしょう。実際、キャッシュレス参拝ができる神社やお寺はほかにもあるので、以下に挙げてみます。

 

東本願寺(京都)

先に紹介したように、2020年10月からキャッシュレスでの参拝が導入されています。

 

下鴨神社(京都)

世界文化遺産に登録され、パワースポットとしても人気の高い神社。下鴨神社ではVisa、Mastercardなどのクレジットカード、WAON、Suica、PASMOなどの電子マネーでの決済を2019年から導入しています。

 

日光東照宮(栃木)

日光市にある日光東照宮では2018年9月から、Suicaなどの交通系電子マネーで拝観券を購入できる取り組みを初めています。さらに境内ではWi-Fiが整備され、参拝者にとって便利な環境が整えられています。

 

バーチャル参拝&リモート参拝できる神社・お寺

毎年混雑が起きる初詣を2021年だけは避けておきたいと考える方も少なくないでしょう。そんな方にはバーチャル参拝やリモート参拝という選択肢がありますので、以下にリストアップしてみます。

 

東大寺(奈良)

東大寺は年間の拝観者が300万人を超える一大観光スポット。東大寺では3Dバーチャル参拝をウェブサイトで用意しており、自分の足で境内を進んでいるように大仏様を拝観することができます。

 

平等寺(徳島)

四国八十八ヶ所の第二十二番札所である平等寺。遠方の方や参拝できない方のために、リモート参拝のほか24時間本堂のライブ中継が行われています。

 

築地本願寺(東京)

築地本願寺も新たにオンラインでの法要参拝を始めており、大晦日や2021年正月にはオンラインで常例布教が配信されます。

 

どんなことであれ、新しい試みは賛否両論が起きるもの。お賽銭のキャッシュレス決済やバーチャル参拝にはデメリットもあるでしょうが、新型コロナウイルスへの心配がぬぐい切れないなか、このようなハイテク参拝は感染防止という観点からメリットが大きいかもしれません。

「読唇AI技術」で会話が正確に伝わる! AIで変わるコミュニケーションの形

人間には音や手話を使わなくても他人の発話を推測する力があります。それが読唇術。唇の動きや形から相手の言葉を読み取るこのスキルは習得するのが難しく、この能力があったとしても、話している内容を正確に判断することは決して容易ではないと言われています。しかし、そんな読唇術に近いスキルをAIによって開発しようとする試みが行われています。

↑何を話しているか当てられる?

 

口や顔の筋肉の動きから、話している内容を推測するAI技術を開発しているのが、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校の研究チーム。人間は言葉を話すとき、ひとつひとつの単語を発声するために顔や舌、喉の筋肉を細かく動かします。この動きは音節ごとに微妙に異なるため、この違いに注目して発話内容を推測しようというのがこの研究の趣旨。このチームは、声を出さずに口だけを動かす「サイレントスピーチ」を使って技術開発を行っており、先日このAIの開発が順調に進んでいると発表しました。

 

研究チームでは、まず話し手の喉と、頬などの口のまわりに電極を装着。筋細胞が収縮したときに発生する微弱な電位の変化を読み取る「EMG(筋電図)」を利用して、AIにそのデータの読み取りと、話し手の言葉の内容を推測するよう訓練させました。すると、発声しながら文章を読んだ場合と比べて、無発声で単語を推測するときの誤認率は64%から4%まで減少。かなり正確に言葉を推測することができるようになりました。

 

同じような技術には、Googleの傘下であるDeepMindとイギリスのオックスフォード大学が2016年に発表した読唇AIの技術があります。この技術では、AIにBBCなどのテレビ番組5000時間分を学習させ、人の唇の動きだけで何を話しているかを推測させました。

 

そして、読唇技術を持ったプロとこのAIに動画を見せて話の内容を推測させたところ、プロは12.4%を読み取ったのに対して、AIは46.8%とプロに勝る結果を残しました。おまけにAIの間違えた内容は、三人称の動詞や、名詞の複数形の後につく「s」だったそうです。

↑AIはこの違いがわかる

 

このような読唇AI技術は視覚障がいのある方への利用のほか、リアルタイムでの字幕表示にも活用されるかもしれません。しかし、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが発表したAI技術は、読唇AIとは一味違って、言葉をうまく発声できない人はもちろんのこと、それ以外のさまざまなシーンでも活用できる汎用性があると研究チームは期待しています。例えば、電車のなかや図書館など大きな声で話せない場所での電話や、逆に周囲が騒々しい場所での電話。周囲の環境に関わらず、このAIによって自分の言葉が相手により正確に伝わる可能性があります。

 

パソコンやスマートフォン、インターネットは私たちのコミュニケーションを大きく変えてきました。次はAIが読唇術を使って人間の会話や言語活動をさらに変えるかもしれませんね。

高専生のモノづくり力を途上国の課題解決と日本の地方創生に活用【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、高専生のモノづくりの力を活用して途上国の課題解決を図り、さらには地方創生も進めていく、そんな取り組みについて取り上げます。

 

2020年7月、JICAと長岡工業高等専門学校(長岡高専)は、「長岡モノづくりエコシステムとアフリカを繋ぐリバース・イノベーションによるアフリカと地方の課題解決」に関する覚書を締結しました。この「リバース・イノベーション」とは、先進国企業が新興・途上国に開発拠点を設け、途上国のニーズをもとに開発した製品を先進国市場に展開すること。先進国で開発された製品を途上国市場に流通させる従来のグローバリゼーションとは逆の流れになるのが特徴です。

 

長岡のモノづくりによるアフリカの課題解決と、アフリカのニーズをもとに開発した製品を先進国市場に逆転展開するリバース・イノベーションによって、日本国内の地方創生や社会課題解決を目指すという野心的で新たな試みが動き出しました。

↑2020年7月に長岡市で行われた調印式に参加した長岡高専の学生たち

 

長岡の技術力をアフリカの課題解決に活用する

「参加している学生たちは、関連諸国の取り組みやアフリカの社会背景を知るために文献を取り寄せて読み、専攻科目の垣根を越えて協力しながら、想像以上に高いレベルの試作品を作り上げています」とこの事業に参加する学生の様子を語るのは長岡高専の村上祐貴教授です。

 

長岡高専の学生たちは「循環型社会実現に向けた持続可能な食糧生産・供給システムのアイデア」や「モノづくりの力で新型コロナウイルスの感染拡大を防止するアイデア」などといったこの事業に託された課題についてチームで取り組み、解決策を検討。長岡技術科学大学が試作品の製作支援をしていくほか、長岡産業活性化協会NAZEも協力し、その製品化を目指します。

 

JICAは、この長岡高専での取り組みを皮切りに、次年度は参加校を増やし、3年後には全国の高専に展開されることを想定しています。

↑この事業の発表記者会見では、「長岡市のモノづくりの技術が世界に展開されることに期待しています」と磯田長岡市長(右端)が期待のコメントを寄せました

 

↑長岡市内での連携だけでなく、ケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学や現地企業とも連携して事業を進めます

 

始まりは全国の高専生が途上国の課題解決に挑んだ一大イベント

この事業が始まった背景には、高専生を対象としたJICAによる先行の取組みとなる「KOSEN Open Innovation Challenge」がありました。これは、高専生の技術とアイデアで、開発途上国の社会課題解決と国際協力の現場を教育の場として活用していくことを目的にしたコンテストです。第1回目(2019年4月開催)は、長岡、北九州、佐世保、宇部、都城、有明の6校の高専が参加しました。

 

なかでも長岡高専は、ケニアのスタートアップ企業のEcodudu社と連携して家畜の飼料を効率よく分別する装置の試作品を制作し、高専生はケニアで実証実験も行いました。試作品は現地で高い評価を受け、2019年8月に横浜で開催されたアフリカ開発会議(TICAD7)で報告された際、多くのメディアにも取り上げられました。

↑チームで開発した家畜飼料分別装置の実証実験をケニアの大学生たちと行う長岡高専の学生たち(2019年ケニアにて)

 

今年8月~9月には、第2回目のコンテストがオンラインで開催され、長岡、北九州、佐世保、徳山の4校の高専から、計20チーム・101名と第1回目を上回る数の高専生が参加しました。

 

「学生の関心度も参加意欲も高く、教員たちの想像をはるかに超える試作品が制作されています。今後、参加する高専が全国に広がることで『全国高等専門学校ロボットコンテスト』規模の一大イベントになっていくかもしれません」と、長岡高専の村上教授も今後の可能性について語ります。

↑「KOSEN Open Innovation Challenge」(第1回)の参加者と審査員たち

 

若い力による日本の地域創生にも期待

現在、JICAと長岡高専が進める「長岡モノづくりエコシステムとアフリカをつなぐリバース・イノベーションによるアフリカと地方の課題解決」では、アフリカの高専生や大学生の参画も計画されており、日本とアフリカの学生が柔軟な発想で日本の地方創生、課題解決に取り組みます。

 

「今回のリバース・イノベーションでは、第1回KOSEN Open Innovation Challengeで選ばれたケニアの技術を長岡の産業廃棄事業に生かす取り組みも進んでいます。学生たちはアフリカと日本の文化の違いなどを考慮しながら地元長岡を活性化すべく意欲を燃やしています」と長岡高専の村上教授は今後の抱負を述べます。

 

国際協力の枠組みで、日本の地方創生問題を日本とアフリカの学生が考え、解決策を探るというこの取り組みは、日本の高専生たちにとっても知見も広げる貴重な経験になっていくことが期待されています。

 

【JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

「天空の鏡」といわれるボリビアのウユニ塩湖で、日本の知見を活かし持続的な観光開発を進める【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ボリビアを代表する観光地ウユニ塩湖で進む、日本の廃棄物管理の知見を活かした持続的な観光開発について取り上げます。

 

この活動に中心となって取り組むのは、JICAの課題別研修でコンポスト(堆肥化)と廃棄物管理を学んだ帰国研修員たちです。ボリビア各地に点在する彼らはグループ「ECO TOMODACHI」を結成し、現地の行政機関、民間企業やNPOなどと協力して、ごみの削減や衛生環境の改善などを図っています。

↑空と塩湖が一体となるボリビアの観光名所ウユニ塩湖

 

↑ボリビアの帰国研修員グループ「ECO TOMODACHI」のロゴマーク

 

現地の観光事業者とペットボトルごみの削減を目指す

ボリビア有数の観光地であるウユニ塩湖周辺は、標高3000メートルを超える高地にあり、ごみ処理能力に大きな課題を抱えています。ほとんどのごみは分別も熱処理もされないまま集積所に投棄されており、悪臭や土壌汚染を招くのはもちろんのこと、ビニール袋やペットボトルといった土中で分解されないプラスチックごみが周囲に散乱している状況です。

↑ラパス県観光地でのごみ拾いを実践するECO TOMODACHIのメンバー

 

そのようなウユニ塩湖周辺の環境改善に向けて、ECO TOMODACHIは現地で観光業を展開するキンバヤ・ツアーと協働し、ペットボトルごみの削減のために始めたのが、観光客へのタンブラー配布です。

 

ウユニ塩湖は標高が高く紫外線が強い場所なので、ツアー参加者にはペットボトル入りの水が渡されていました。タンブラーを無料配布し、ツアーバス内で飲料水の提供サービスを実施することで、ペットボトルを観光エリアに持ち込む必要がなくなり、ペットボトルごみの発生を抑えることができます。

 

キンバヤ・ツアーボリビア代表のロマイ・ウェンディ—さんは、2019年にECOTIOMODACHIメンバーから「観光地をよくする3R」研修を受けました。「ウユニ塩湖周辺の環境改善に向けてできることを模索したとき、ECO TOMODACHIに相談を持ちかけました。ラパス県観光ガイド協会やJICAも含めた意見交換会など重ねて、2019年に観光客が持ち込むペットボトルごみの削減という目標を設定し、タンブラーのプロジェクトを開始しました」と語ります。

 

タンブラー配布後の観光客の反応や使用状況などをみながら、改善を加え、5か月間のパイロット期間で1,080本相当のペットボトルごみを削減することができました。

↑配布したタンブラーを手に、セミナーでキンバヤ・ツアーの3Rを紹介するロマイ・ウェンディ—さん(写真左)とウユニで観光客に配布されたタンブラー(写真右)

 

キンバヤ・ツアーではこのウユニ塩湖の成功例をもとに、ボリビアのみならず、メキシコからチリに至るツアーにもタンブラー配布を導入していく予定です。コロナが収まり、観光事業が再開されれば、1年間で12,000本相当のペットボトルごみ削減を目標に掲げます。

 

ウユニ塩湖の衛生状況改善に向けて

ウユニ塩湖周辺の経済は、観光業を中心に成り立っています。しかし、下水処理施設が不十分なため、観光地でありながらトイレは慢性的に不足しており、このままでは観光客の増加が現地の生活環境の悪化につながりかねない状況です。持続的な観光開発のため、トイレ設備の改善は、喫緊の課題です。

 

「通常であれば、簡易トイレなどを設置し、タンクを定期的に最終処分場に運んで処理する方法が取られますが、この地域での実施は難しいです。そのため、トイレを設置した場所で、排泄物の最終処分までを行う方法を考えなければいけません」と語るのは、ECO TOMODACHIのヴィア・ホルヘさん(2010年JICA帰国研修員)です。

 

「富士山のトイレ問題を解決する日本企業の活動をインターネットの記事で読んだことをきっかけに、排泄物を悪臭なく固化できる携帯トイレ技術を使って、堆肥化を検討できないかと考えました。ウユニでは、観光業の次に重要な経済活動に、キヌア生産があります。トイレ問題の解決と同時に、キヌア生産も発展させられることができれば、極めて効率的な循環が実現できます」

 

そこで目を付けたのが、災害用・介護用の携帯トイレなどを開発販売する日本企業エクセルシアの開発した処理剤。無臭効果と排泄物を固める効果があり、使用の際の安心感を高め、排泄物の安全な取り出しを可能にします。「この技術を、ウユニの未来に活かしていきたい」とヴィアさんは語ります。

 

エクセルシアは、JICAが開催する中南米セミナーをきっかけにボリビアの現状を知り、この取り組みに大きな可能性を感じています。エクセルシアの足立寛一社長は「トイレ状況の改善は、生活の安全や質の向上に直接的に関わります。当社の技術が、世界的な観光地の持続的な発展に貢献できると考えています。先進的なエコ事業にしていきたいですね」と抱負を語ります。JICA事業としての展開を視野に入れ、ECO TOMODACHIとエクセルシアの協働作業が始まっています。

↑女性登山家サンヒネスさんに携帯トイレを渡してテスト使用の協力を依頼(写真左)。ECO TOMODACHIのセミナーで携帯トイレの使い方を紹介するエクセルシア足立社長(写真右)

 

多岐にわたるECO TOMODACHIプロジェクトの成果

ECO TOMODACHIは、ウユニ観光地域以外でも、JICAで学んだ日本のコンポスト(堆肥化)技術を活かしています。サカバ市(コチャバンバ県)、サマイパタ市(サンタクルス県)、ラパス市(ラパス県)では、高倉方式のコンポストを生産。2019年には、JICAと日系企業ER/Ikigaiとともに高倉式コンポストが学べるアプリ「COMPOCCHI」を開発し、ボリビアの廃棄物処理技術の発展を支えています。

 

JICAボリビア事務所の渡辺磨理子職員は、「ECO TOMODACHIのメンバーとして活動する帰国研修員たちは、ボリビア全国に点在していますが、SNSなどを通じて日常的に情報交換を行っています。日本で得た知見を持ち帰り、それぞれがそれぞれの場所でネットワークを広げています。こうした自発的なネットワークの輪に、民間企業や行政も含めていければ」と今後の活動に期待を込めます。

↑1年に1回程度、各地のECOTOMOメンバーが集まり、コンポスト技術を共有し意見交換の場を持っています

 

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「朝型/夜型」の分類はもう古い! 「生活リズム」をより正しく捉える6つのタイプとは?

生活リズムや睡眠スタイルについて話をするとき、たいてい私たちは人間を早寝早起きの人と夜遅い時間まで活動している人の2つに分けます。しかし人間の生活リズムは単純に「朝型」と「夜型」の2種類だけではなく、実は6つのタイプが存在することがロシアの大学の研究で判明しました。

↑朝型でもなければ夜型でもない人もいる

 

私たちの身体は体内時計や生態リズムによって、朝は自然と目が覚め、夜になると眠くなります。このリズムを朝型や夜型などと分けるのが「クロノタイプ」と呼ばれる分類法で、これまでのクロノタイプは朝型と夜型の2つに分けるのが一般的でした。しかし、これをもっと詳細に見てみると、実際には6つのタイプがあるというのです。

 

そう主張するのは、ロシア諸民族友好大学の生理学の研究者。その研究では2283人以上を対象にオンラインで調査を行い、集めたデータを解析。すると、従来の朝型と夜型に加えて、さらに4つのカテゴリーに分けることができるのを発見しました。睡眠時間、日中の眠気度合、朝の目覚めやすさ、入眠までの時間など、新しい基準で分類を行い、新たにわかった6つのタイプが以下の通りです。

1 朝型(Morning Type、朝に最も覚醒レベルが高くなるタイプ)

2 夜型(Evening Type、夜に最も覚醒レベルが高くなるタイプ)

3 覚醒型(Highly Active Type、一日を通して覚醒レベルが高いタイプ)

4 日中眠気型(Daytime Sleepy Type、日中に覚醒レベルが下がるタイプ)

5 日中覚醒型(Daytime Type、日中に覚醒レベルが高くなるタイプ)

6 非覚醒型(Moderately Active、一日を通して覚醒レベルが低いタイプ)

 

グラフの横軸は朝、昼、夜の時間を表し、縦軸は覚醒レベルを表しています。ここでは、特に「覚醒レベル」、つまり意識がハッキリしていて集中力や注意力がある状態について着目。朝型は、朝に覚醒レベルが最も高くなり、夜型は朝から夜にかけて覚醒レベルがどんどん上昇するタイプと分類できます。さらに、一日中ずっと覚醒レベルが高いタイプや、日中だけ高くなるタイプなどと分けられるのです。

 

この研究チームでは調査に参加した人のうち、朝型は13%、夜型は24%、覚醒型は9%、日中眠気型は18%、日中覚醒型は15%、非覚醒型は16%いると分析。つまり、従来の朝型と夜型に当てはまるのは全体の37%に過ぎず、残りの6割近くが新しい4つのタイプに分類できるとわかったのです。従来の朝型と夜型の分類は曖昧な分け方だったんですね。

 

クロノタイプには、その人が持つ遺伝子が関係していると言われ、ライフスタイルによってその影響も異なると考えられます。自分は6つのなかでどのタイプに当てははまるかを考えてみると、仕事のパフォーマンスを高めたり、健康的な生活を送ったりするうえで参考になるかもしれません。

世界の2%の人しか持っていない「超認識力」。自分にもあるか今すぐチェックできる

一度会った人の顔を、時間が経ってもしっかり記憶できる人がいますよね。普通なら覚えられないのに、一度見た人の顔を数多く認識できる特殊な能力は「超認識力」と呼ばれ、その持ち主を英語では「スーパーレコグナイザー(super recognizer)」と言います。

 

この超認識力とはどんなものなのでしょうか? そんな特殊能力が自分にもあるかどうか知ることができる簡単なテストとあわせてご紹介しましょう。

↑一度だけ見て、こんなに覚えられる?

 

超認識力とは何か? まずは、それを示すあるエピソードをご紹介しましょう。1990年代、ある女性がパリの公園で、男性写真家が子どもを撮影している様子を目撃しました。それから10年後、この女性がレストランで偶然このときの男性と遭遇したので、女性は男性に「あなたは写真家で、パリの公園で子供の写真を撮ったことがありますか?」とたずね、男性は驚愕した。そんな出来事が実際にあったそうです。

 

超認識力とは、このように一度顔を覚えれば長い期間が経った後でもその人を認識できる能力のことをさします。その後、研究者たちが行った顔認識テストで突出した結果を出した人物がいたことから、2009年に「超認識力」と「スーパーレコグナイザー」という言葉が作られました。

 

以前は、超認識力は訓練によって身につけられると思われていました。ところが一定のレベルまでは訓練で伸ばすことができても、スーパーレコグナイザーのようにずば抜けた能力は訓練で獲得できるものではないことが明らかとなり、この力はもっぱら遺伝と関係していると考えられています。

 

スーパーレコグナイザーは世界中でわずか1~2%ほどしか存在していないのですが、この特殊能力は警察などの政府機関や出入国管理局、情報機関、警備関連などで求められるケースが増えてきていると言われています。

 

超認識力のテスト

ごく限られた人しか持っていない超認識力ですが、「もしかしたら自分にも超認識力があるのでは……」と気になったりしませんか? 幸いにも超認識力があるかどうかを確認できる方法があります。それがUNSWフェイステストで、これはオーストラリアのニューサウスウェールズ大学の法心理学研究所の心理学者が2017年から使用しており、先日科学誌に発表したました。これまでにこのテストを受けた人は3万1000人。最も多いスコアは50~60%で、70%以上ならスーパーレコグナイザーに分類できるそうです。

 

では、テストのやり方を簡単にご紹介しましょう。テストは英語での表示ですが、10~15分ほどで簡単に進められて、無料でできます。

 

準備

① https://facetest.psy.unsw.edu.au/ にアクセスする

② 青い「Click here to begin the test」をクリック

③ ページ下の「*I have read and understood the Information and Consent details above」にチェックをつけて、「I agree, start test」をクリック

④ 「Launch Experiment」をクリック(テストはフルスクリーンモードで行われます)

⑤ 自分の年齢を入力して「Submit Answers」をクリック

⑥ 年齢と性別、人種を選択して「Submit Answers」をクリック

 

テスト開始

① 20人の顔が自動で次々に表示されるので、これをできるだけ記憶します(Part 1)。

② 今度(Part 2)は人の顔が表示されるので、Part 1で覚えた人物だったら「Y」、違う人なら「N」を押します。Part2の写真はPart1と表情やポーズなどが異なります。

③ 最初にターゲットの顔が表示され、その後別の顔写真4枚が重なった状態で表示されます。最初に見たターゲットと一致するなら右方向に、違うなら左方向にドラッグし、最後に画面下の「Done」をクリックします。(4枚すべてがターゲットと一致する場合も、その逆もあります。最初にイラストを使った練習問題を行います。)

④ これでテストは終了。テスト結果のデータをほしい場合、最後にEメールアドレスを入力、不要ならそのまま「Submit Answers」をクリックすれば、自分のスコアが表示されます。

 

このテストの過去最高スコアは97%。今後100%のスコアを出す人物が現れるかもしれないと研究者たちは期待しているようです。ちなみに筆者もこのテストを受けてみましたが、人を覚えるのがとても苦手なせいか、33%と散々な結果でした。超認識力が自分にあるかどうか知りたい方は試してみてはいかがでしょうか?

 

本格利用に向けて大きな一歩! 「中国製空飛ぶタクシー」がテストフライトに成功

現在、世界各国で「空飛ぶタクシー」の開発が進められていますが、無人航空機分野をリードする企業のひとつが中国のEHangです。同社は2人乗り無人航空機を自社で開発しており、最近、韓国でテストフライトを行いました。2人乗り無人航空機の本格利用はどんどん実現性を高めています。

 

最高時速130キロで無人飛行

↑韓国の空を舞うEHang216

 

EHangはは旅客輸送つまり空飛ぶタクシーのほか、観光、災害時の救急医療など、さまざまな分野で無人航空機の利用を目指しています。

 

韓国でテストフライトを行った無人航空機「EHang216」は、ヘリコプターと似たような外観ですが、高さは1.77mで横幅は5.61mと、一般的なヘリコプターよりも小さいサイズ。機体の周囲を囲むように8本のアームが伸び、そこに全部で16のプロペラがついており、電気の力で飛行します。最高速度は時速130キロで、最大積載量200キロの場合の航続距離は35キロ、21分間の飛行が可能。

 

4Gや5Gを利用してコマンド&コントロールセンターにリアルタイムでフライトデータが送信され、緊急時には警告を出したり遠隔操作して安全な場所へ着陸したりできるそう。おまけに高速充電で、2時間以内にフル充電をすることができます。大人数や大きな荷物を遠くまで輸送することはできないものの、短距離での利用に最適な設計となっています。

 

このテストフライトでは、旅客輸送、観光、救急医療の3つの用途を想定して、それぞれのシナリオに合った3つの場所で行われました。旅客輸送を想定したテストではソウル最大の川、漢江の中にある人工島「汝矣島(ヨイド)」を飛び立ち、人口が密集する都心部の上空を飛行。観光向けでは済州島を舞台に海岸線を飛び、救急医療の利用を想定したテストでは大邱市で救急医療セットとAEDなどの医療機器を輸送しました。これらすべてのテストフライトが成功に終わっています。

 

韓国の国土交通省が2023年〜2025年の商業利用開始を目指して進めているプロジェクトの一環として行われた今回のテストフライト。その成功は本格利用への大きな一歩となったことでしょう。

 

ぽこぽこ現れる「正体不明のモノリス」に世界が騒然中

赤土で覆われた一帯に巨大な岩がそびえたつ、米ユタ州の砂漠地帯。そんな人里離れた場所に、正体不明の金属の柱が埋められていることが偶然発見されました。その様子はまるでSF映画のワンシーンでしたが、この柱が忽然と姿を消したというから、さらに世界中が騒然としています。

↑突然現れて消えた金属の柱

 

グランドキャニオンをはじめ、モニュメントバレーやザイオン国立公園など壮大なスケールの自然に囲まれたユタ州。その砂漠地帯で11月、ユタ州公安局の職員が上空からオオツノヒツジを数えていたときに、異質なものがあることに気づきました。

 

柱は金属製で、高さはおよそ3.6メートル。一部が地中に埋められるように立っており、職員が柱や周囲を調べても、誰がここに置いたのかわからなかったそうです。ただその後の調査で、この柱は5年ほど前から存在していた可能性があると言われています。

↑2015年8月には見られなかったが、翌年10月には地上にあった

 

太陽の光を反射してキラキラ光る金属の柱が砂漠のなかに埋め込まれている風景は、まるで映画の世界のよう。この存在をユタ州が発表するや否や、このニュースは瞬く間に世界中をかけめぐり、「謎のモノリスが出現した!」「地球外生命体が置いた?」など、さまざまな憶測が飛び交うこととなったのです。

※モノリス:SF映画「2001年宇宙の旅」に出てくる石柱状の物体

 

この柱が見つかった地点はあまりにも人里離れたエリアであり、ここを訪れようとする人は道に迷い救助を求める可能性が高いことから、ユタ州当局は詳しい位置を明らかにしませんでした。しかし情報が開示されないことで、かえって余計に刺激を受けたのか、州当局のヘリコプターの飛行経路を分析し、Googleアースを駆使して柱の場所を特定し、ネット上で発表する人が現れたのです。また、その情報をもとに現地まで辿り着く人も登場するようになりました。

 

しかし驚くことに、この柱が突然消えたのです。ユタ州当局がこの柱を発見したと発表したのが11月23日。それからわずか1週間もたたない11月27日には柱が消えたことが確認されたのです。柱があった場所には三角形の金属板だけが残されているだけ。もしかしたら現地を訪れた人が撤去したのかもしれません。匿名のアート集団がこのモノリスを設置したことを認めていると言われていますが、誰が撤去したのかは不明です。

 

その後、この柱は欧州各地で発見されています。ルーマニアではピアトラ・ネアムツにある丘で同じような金属の柱が見つかりました。こちらの柱は黒っぽい金属製で、高さは約3.9メートル。表面にはたくさんの円が描かれていたそうですが、この柱も発見されてから間もなく突然姿を消したとのこと。さらに最近では、イギリスとオランダにも同様の柱が出現したと報じられていますが、いずれも模倣品ではないかという見方もあります。いまだに謎だらけのこのモノリス騒動はもうしばらく続くかもしれません。

 

eバイク先進国で人気の「スマート電気自転車」3選。 日本で買えるものもピック

ここ数年、気候変動への懸念とリチウム電池の小型化といったテクノロジーの進化を背景に、ヨーロッパでは「eバイク(電気自転車)」の人気が高まっています。なかでも大きな注目を集めているのが、「自転車のdisrupt(創造的破壊)」を掲げるスタートアップ企業が作るハイテクな「スマートeバイク」。一体どんな自転車なのでしょうか? 欧州の自転車文化に触れながら、現地で評判になっている3社のスマートeバイクを見てみましょう。

 

クルマよりも自転車

ヨーロッパ、特にオランダやドイツ、フランスでは、もともと自転車で颯爽と通勤するビジネスマンが多く、スポーツとしての自転車カルチャーも盛んです。週末や休暇に郊外へと向かうクルマに長距離用スポーツ自転車が積まれることが多いのはその一例でしょう。

 

それに加え、筆者が住むドイツを中心に欧米の比較的教育レベルが高い40代以下の層は、気候変動への影響が少ない生活スタイルを好む傾向があり、「ガソリン車よりも電気自動車、しかしクルマよりも自転車」というマインドがここ10年ほどでかなり浸透しています。

 

欧州各国政府も排ガス量緩和と市民の健康向上を目指して自転車活用に力を入れており、専用レーンの整備も進んでいます。コロナ禍では多くの人たちが公共交通の使用を避けていますが、eバイクは人との接触を避けながら手軽に移動できるうえ、駐車場の有無を心配する必要もありません。ドイツではeバイク購入に補助金を出している自治体もあるほどです。

 

このような背景のなかでハイテクかつシャープなデザインのeバイクの人気は急上昇してきました。このような自転車を取り扱うスタートアップ企業が2020年に次々と大型の資金調達を発表したこともその人気を裏付けています。

 

【その1】日本にも進出しているオランダの「バンムーフ(VanMoof)」

↑日本でも人気上昇中のバンムーフ(写真提供・VanMoof)

 

ここからは欧州で高い評判を得ている3社のeバイクについて述べていきます。まずはバンムーフ。同社は数ある欧米系eバイクのなかでも唯一日本に進出しているブランドとなります。最大のアピールポイントは、ケーブルやライト、バッテリーまで、すべてがフレームに埋め込まれているというスタイリッシュな外観と、鍵が不要という施錠システム。

 

後輪の小さなボタンを蹴ればロックが完了し、アプリの起動状態でハンドルバーのボタンを押すだけで解除が可能です。盗難防止用の警報や追跡システムが完備されたうえ盗難時の保証が付き、14日間の無償返品期間もあります。専用アプリからはアシストの強弱、自動ギアシフト、スピード上限などさまざまな設定ができるのに加え、走行距離や経路、時間、速度の自動記録も可能です。

 

以前は3500ユーロ(約40万円)だった価格も、生産量を増やしたり、前モデルと同型のフレームを採用したりすることでコストを下げ、最新モデルでは価格が1998ユーロ(約25万円)になりました。

 

難点は車体に埋め込まれたバッテリーを取り外せないことで、自宅の駐輪場にコンセントがなければ自宅の中まで自転車を運ばなくてはなりません。同社に問い合わせたところ「最近は街中に電源付き駐輪場が増加中」との回答でしたが、この点は改善を期待したいですね。

 

とはいえ、クールなeバイクという戦略が功を奏してか、今年の日本での売り上げはすでに去年の倍以上とのこと。日本でバンフームブームが起こるかもしれません。

 

【その2】バッテリーが取り外せるベルギーの「カウボーイ(Cowboy)」

↑実用性が高いカウボーイ(写真提供・Cowboy)

 

次は、マットなブラックボディとケーブル埋め込み型のシンプルな外観が人気のカウボーイ。その最大のポイントは、バッテリーが取り外せることです。外せないeバイクが増えているなか、実用面で優位性が高いことは間違いありません。

 

このカウボーイに試乗を申し込むと、なんと自宅まで来てくれました。普通は店舗に行くのが当たり前なので、秀逸なサービスといえるでしょう。

 

専用アプリでは、走行距離や速度の記録、アシストの設定などができます。持ち主が近くにいない状況で自転車が動かされるとアラームが鳴ったり、事故に遭えば自動検知して持ち主や事前登録した電話番号に連絡が行ったりなどのフォロー態勢が整備されています。

 

価格は2290ユーロ(約28万円)で、購入後30日間という長期の返品に対応しています。欧州企業でカスタマーサービスは軽視されがちですが、高額商品だけに安心して購入してもらえるように試乗や返金などのサービスに力を入れているようです。

 

残念ながら現在の販売は欧州のみですが、問い合わせたところ、詳細な時期は未定ながら日本への進出準備も進行中との回答があったので楽しみです。

 

【その3】クラシックなデザインのエストニア発「Ampler(アンプラー)」

↑見た目はレトロ、中身はモダン(写真提供・Ampler)

 

バンムーフとカウボーイが「メカっぽさ」を重視しているのに対し、3つ目のアンプラーはクラシックな外観が特徴です。色も赤、深いグリーン、鮮やかなブルー、シックなグレーを揃えており、目新しさやおしゃれ感よりも「自転車らしさ」を好む層をターゲットにしている模様。バッテリーは車体に完全に埋め込まれているのでスマートに見えますが、残念ながらバッテリーは取り外しできません。

 

専用アプリではモーターの強度変更やナビ機能の調節、走行距離やスピードの自動記録、バッテリーの残量確認などが可能です。走行モードはノーマルモードとブーストモードで切り替えができ、立体駐車場の急な坂で試乗してみましたが、センサーが自動で反応するので自然にスイスイと上れました。価格は2490ユーロ(約30万円)と上記2つのモデルより少し高めなものの、その性能はドイツの自転車雑誌でもランキング上位に選ばれるほど優秀。返品・返金可能期間は14日間となります。

 

日本には未上陸ですが、欧州ではドイツが最大の市場ということでベルリンとケルンに店舗がオープンしたばかりです。ドイツ西端のケルン店は近隣国からの顧客も見越した場所となっているので、欧州ならではの販売戦略といえるでしょう。

 

【まとめ】

まだ価格は高く、都市部の比較的高収入な世帯がメインターゲットのeバイクですが、需要の伸びに伴い価格低下が見込めることから、コロナ収束後も人気は加速していくと思われます。既存自転車メーカーもベンチャーに負けまいと市場に乗り出しており、欧州はまさにeバイク戦国時代といった様相を呈しています。各社が日本にこぞって進出する日も近いのではないでしょうか。

 

南イタリアの風物詩を守れ! 若手農家が仕掛ける「サステナブルな農業革新」

南イタリアの美しい春を彩る風物詩のひとつにアーモンドの花があります。ユネスコの世界無形文化遺産に登録された「地中海の食事」でもアーモンドの実は重要な食材のひとつですが、その一方で地中海の風景に溶け込むアーモンドの木は絶滅の危機に瀕しているものも少なくありません。そこで、食文化としても重要なアーモンドの木と養子縁組し、将来もアーモンドを残していくというプロジェクトが立ち上がりました。

 

紀元前から南イタリアで愛されてきたアーモンド

↑このアーモンドの養子にならない?

 

アーモンドの起源は西アジアにあるといわれ、紀元前5世紀にギリシアからイタリア半島に伝わりました。高い栄養価が評価され、中世にはカール大帝がイタリア半島内でのアーモンドの栽培を促進したとも伝えられています。

 

2013年にユネスコの世界無形文化遺産となった地中海の食事でもアーモンドはその一翼を担い、イタリアの保健省は1日に5~20gのアーモンド摂取を推奨しています。南イタリアではアーモンドを使用した伝統的なお菓子も多く、アーモンドオイルやアーモンドミルクなどの商品もあちこちで販売されています。

 

また、キリスト教会内にある宗教絵画などにアーモンドが描かれていることもあり、イタリアでは生活に浸透している食材といって過言ではありません。

↑モンツァのドゥオモに残る16世紀のフレスコ画の結婚式シーン。アーモンドの糖衣菓子が描かれている

 

地中海地方に伝わるアーモンドの品種は750種にも及ぶといわれてきました。しかし、気候の変化やアーモンド栽培農家の減少などにより、そのうちの150種はすでに絶滅。残る600種についても絶滅の危機に瀕しているものが少なくなく、農業食料森林省も長年頭を抱えていました。

 

そもそもアーモンドの栽培は南イタリアの農家の副次的な収入源にとどまっていた時代が長く、1950年代からアーモンドの栽培は減少し続けていたのです。ところが近年、健康ブームからアーモンドの栄養価が見直され、アメリカをはじめとする先進国でアーモンドの需要が増加しました。それに伴い、イタリアでもアーモンドの栽培を見直す動きが活発化し、最近ではオーガニック栽培のアーモンドも市場に登場するようになりました。

 

若い農家たちの大胆な戦略

そんななか、近年イタリアでは農業に従事する若い世代が増えています。イタリア専業農家連盟の2020年1月の報告によると、過去5年間に農業ビジネスに従事し始めた35歳以下の若者は5万6000人にも及ぶとのこと。

 

特に古代から肥沃な穀倉地帯として知られるイタリア南部でこの増加が顕著で、シチリア島、プーリア州、カンパーニア州を中心に若手が先導する農業ビジネスが加速しています。製造業やサービス業など他の業種と比べると、農業に従事する35歳以下の割合は10%ほど多く、彼らが率いる農業収入は従来の農家よりも75%も多いことが明らかになりました。

 

若い世代の新しい農業ビジネスの利点は、農産物を生産し販売するという単純な作業だけにとどまらないということ。消費者への直売、有機栽培、ツーリズムとの提携、再生可能エネルギーの導入など、時代に即した戦略を大胆に用いている点に特徴があるといえます。ソーシャルメディアを使用したマーケティング力に長けている点も無視できません。アーモンドに注目したのもそんな若い世代だったのです。

↑南イタリアの春を彩るアーモンドの花

 

若手の農業従事者から生まれたアイデアのひとつが、地中海エリアにおいて歴史的にも文化的にも重要な位置づけであるアーモンドを将来に残すという試み。そのプロジェクトは「アーモンドの木と養子縁組を(Adotta un mandorlo)」と名付けられました。

 

アーモンドの木と養子縁組する方法や金額はさまざま。まず、樹齢の高いアーモンドを1年間養子にするには59ユーロ(約7300円)かかります。3年間ならば159ユーロ(約2万円)、5年間であれば289ユーロ(約3万6000円)となります。出資期間中には毎年、それぞれの木から収穫したアーモンド3キロを受け取ることができます。

 

また、新しく接ぎ木したアーモンドの木を養子にすることも可能。こちらの期間も1年間、3年間、5年間の三択で、費用はそれぞれ39ユーロ(約4900円)、119ユーロ(約1万5000円)、209ユーロ(約2万6000千円)です。樹齢が高いものと比べると、こちらのほう安価なのですが、接ぎ木の場合はすぐに実をつけないため1年間の養子縁組ではアーモンドを受け取ることができません。つまり、その1年間はこの養子縁組プロジェクトに賛同したというボランティア感覚になります。他方、3年間と5年間の養子縁組を選択すると、毎年1キロのアーモンドを受け取ることができます。

 

いずれの養子縁組の場合にも、その樹木には投資をした人の名前を記したプレートが設置され、GPSによって成長具合や開花、実をつける様子などを見ることができます。また、養子縁組のために支払われた資金はその樹木の手入れに使われるほか、バイオダイナミック農法の促進や土壌の質の向上、地質研究などに有益活用されるそうです。

 

この養子縁組プロジェクトには資源の有益活用やサステナブルな農法、木の成長過程を共有できるワクワク感などが盛り込まれています。アーモンドが有する歴史や食文化を存続し、収穫したアーモンドを毎年受け取ることができるなら、養子縁組の費用を出してみようというイタリア人も少なくないでしょう。地中海の食文化に重要な食材のひとつであるアーモンドの木は、これからも大切に守っていきたい南イタリアの財産。その存続と発展は若い世代に託されています。

 

なぜイタリアが? 「コロナ対策サプリ開発」にハイテンションで取り組むワケ

2020年、イタリアでは新型コロナウイルスによって食生活において様々な変化が見られました。自家製のお菓子やパンを作るために小麦粉が品切れになったり、食料廃棄が減ったり。

 

しかし、海外にはあまり知られていないのが、サプリメントの消費動向の変化。実はイタリアはサプリメント大国でもあり、国内の各大学ではワクチンの普及に時間がかかることを見越し、ウイルスに対抗できるサプリメントの研究や開発が広がっています。

↑イタリア人はサプリもこよなく愛する

 

イタリアは欧州でも有数のサプリメント消費国です。イタリア薬剤師協会の調査によると、2019年にサプリメントを日常的に摂取しているイタリア人の数は3200万人に上り、全人口のおよそ65%になるそう。サプリメントの国内市場規模は33億ユーロ(約4200億円)で、欧州全体の23%を占めています。

 

イタリアのサプリメント事情についてもう少し細かく見ると、働き盛りの35歳〜64歳による消費が約63%となっている一方、全体の消費人口の65%近くを女性が占めています。スーパーマーケットでも購入できるという手軽さも、サプリメントの普及に拍車をかけているといえます。

 

なぜイタリア人はこれほどサプリメントを愛好するのか? それについては諸説ありますが、サプリメントの動向を調査する機関「FederSalus」のマッシミリアーノ・カルナッサーレ会長は、そもそも「ティサーナ」と呼ばれるハーブティーを健康や美容のために飲む習慣があったイタリアは、その流れでサプリメントの需要が伸びたのではないかと推測しています。

 

ロックダウンでサプリの消費が拡大

サプリメントについては健康だけでなく美容を意識した商品の需要も高く、従来は乳酸菌やミネラル塩を含む商品が売り上げの上位を占めていました。ところが、新型コロナの感染拡大に伴いロックダウンが実施されて以降、イタリア人が心身ともにストレスにさらされている状況がサプリメントの消費動向を通じて明らかになったのです。

 

イタリアの食産業を調査するイタリアフード協会の調査によると、これまで人気が高かった乳酸菌やミネラル塩のサプリメントを抜き、ビタミンBを含む商品の売り上げが30%、睡眠やリラックス効果に関する商品が21%、喉に関する商品が12%増加したことがわかりました。

 

また、免疫作用を強化するとうたわれているサプリメントの売り上げも30%以上増加するなど、記録的な業績となったのです。普段はサプリメントを摂取していない人でも、マルチビタミンなど手に取りやすい商品を購入するようになり、こちらも5.7%の売り上げ増となっています。

 

新型コロナを意識したサプリメントは売り上げが伸びたものの、薬局や店舗、オンラインなどを合わせたサプリメント全体の消費量はコロナ禍の経済状況を反映するようにマイナスとなりました。薬剤関係のデータを調査するニューライン・リチェルケ・ディ・メルカートによれば、2019年と2020年のある同じ時期を比べて、今年の消費量は1.6%減少しているそうです。ただしオンラインでの購入は30%以上増加しており、こういった消費動向もコロナ禍時代の特徴といえるかもしれません。

↑以前ほど店頭では売れません

 

コロナ感染予防を巡って品切れとなったサプリメントもあります。ローマのトル・ヴェルガータ大学のエレーナ・カンピオーネ教授が率いる研究班は今年6月、学術誌「International Journal of Molecular Sciences」にラクトフェリンに関する研究を発表しました。その論文ではラクトフェリンが新型コロナの感染予防に効果があるとされ、ニュースでも大きく取り上げられたのです。すると、そのニュースを見た人が薬局などに殺到し、ラクトフェリンのサプリメントがあっという間に品切れになってしまいました。

 

ラクトフェリンとは乳汁、涙、唾液、胆汁、膵液といった分泌液などに含まれる、抗菌活性を持つとされる鉄結合性蛋白質です。同大学の研究結果は現在、ラ・サピエンツァ大学の微生物学教授やラクトフェリン研究者たちによる客観的な検証の段階に移っていますが、もちろん、その成果に懐疑的な学者も少なくありません。しかしカンピオーネ教授は、ソーシャルディスタンスとマスク以外の新型コロナへの対抗手段としてラクトフェリンの有効性を証明したいという強い意欲を示しています。

 

また、中世からの伝統を誇るボローニャ大学は、クローブや小麦麦芽を使用して、新型コロナ感染予防のためのサプリメントを開発していることを発表しました。同大学のジョヴァンニ・ディネッリ教授のチームは、クローブに含まれるユージノールと小麦麦芽中に含まれるスペルミジンという成分が新型コロナの感染予防や治療に有効という可能性を提示し、ウィルスに対抗する免疫強化サプリメントの開発を目指しています。

↑目下研究中!

 

果たしてこういった成分が本当に有効な武器となるのかどうかはまだ断定できませんが、同教授はワクチンが開発され、普及するまでの手段としてこのサプリが役に立つことを願うと述べています。とはいえ、このようなサプリに関する研究結果については早急な判断を控えるようにという専門家の忠告もメディアではよく目にします。

 

ラクトフェリンや自然の成分を原料にしたサプリメントが新型コロナの予防や治療にどれだけ効果を発揮するのかについては、専門家の間でもさまざまな意見があります。いずれにしても、サプリ好きのイタリア人の消費動向はコロナの感染拡大によって大きく変化しました。ロックダウンによって食事に関しても健康志向がさらに高まったイタリアでは、「新型コロナにかからないように用心する」という切なる思いがサプリメントの選び方や開発にも表れているようです。

 

BMW製の「電動ウイングスーツ」!? 最高時速300kmで空を舞いヒトは鳥に近づく

長い間、人類は鳥のように大空を自由に飛ぶことを夢見てきましたが、人間が鳥に近づきつつあるようです。最近、BMWが時速300キロ以上で長い航続距離を飛行することができる電動ウイングスーツを発表しました。ムササビのような姿で空を舞うウイングスーツはどんなものなのでしょうか?

 

電気自動車の技術を結集

↑鳥だ! 飛行機だ! いや人間だ!

 

ウイングスーツとは、スカイダイビングのように高い崖から飛び降りて滑空する「ベースジャンプ」のジャンパーたちが着用するスーツのこと。手と足の間に特殊な布が貼られていて、これによってムササビのように上空に滞在することができます。

 

このウイングスーツの電動タイプを世界で初めて発表したのが、ドイツの高級自動車メーカーのBMW。BMWは2013年に電気自動車「BMW i3」を発表して以来、電動機や充電技術などの開発を続けてきています。近年では第5世代のeDriveテクノロジーを使ってクルマを生産していますが、BMWはこれらの技術を結集し、3年をかけてウイングスーツを開発しました。

 

ウイングスーツの開発には、スカイダイバーとベースジャンパーのプロとして活躍するオーストラリアのピーター・ザルツマン氏が協力。スーツにはBMWデザインワークスがコラボレーションし、カーボン製のプロペラ2つが付いた電動ドライブシステムを身体の全面部分に装着します。プロペラは約2万5000rpmの回転速度で、それぞれの出力は7.5kW、2つ合わせて15kWの出力を備えています。

 

従来のスカイダイビングやベースジャンプでは、ジャンパーは崖やヘリコプターから上空に飛び出した後、時速100キロ以上のスピードで地上に向かって下降していきます。しかし、このBMWのウイングスーツの電動ドライブシステムを着用していると、まるで小型飛行機が空を自由に飛ぶように、ときには上昇しながら上空を旋回することが可能。最高時速はおよそ時速300キロにも到達するそうです。

 

オーストラリアで行われたテスト飛行では、上空3000メートルからザルツマン氏が2人のジャンパーとともに上空へ飛び出し、電動ドライブシステムのおかげで正面に迫る崖を見事に高速でよけ、ジャンプを楽しんだのでした。地上から撮影された動画を見ると、ジャンパーが通過した後には飛行機雲ができています。その様子はまるで人間が飛行機になったかのようですが、大事なことは人間が鳥のように空を飛ぶことができるようになりつつあるということでしょう。

 

ベースジャンプはとても危険なスポーツですが、世界中のジャンパーたちが止めないのは、空を飛ぶというロマンに魅了されているからなのでしょう。そんな彼らが、電動自動車の技術力を活用して、これまで以上に自由に大空を舞う日が近づいているのかもしれません。

 

 

「マスク着用」でも運動のパフォーマンスは落ちないことが判明! でも呼吸が……

新型コロナウイルスの感染予防のため、たとえ運動中であってもマスクの着用が求められる時代となりました。でも気になるのは、マスクを着用して運動をすると身体にはどんな影響が出るのか? この問題についてカナダのサスカチュワン大学が研究し、最近その結果を発表しました。

↑マスクをしてもパフォーマンスは下がらない

 

たとえコロナ禍であっても、健康を維持するためには運動が大切。そして感染予防のためには、スポーツジムでのトレーニング中や自宅周辺のランニングの最中でも、マスクの着用が必要です。しかしマスクをつけながら激しい運動をしていると、十分な酸素を吸えないうえ、二酸化炭素を過剰に摂取してしまうなど、不安が生じるかもしれません。そこでサスカチュワン大学の研究者は次のような実験を実施しました。

 

健康な男女各7名が室内でエアロバイクをこぎ、一定のペダルの速さになるまで6~12分間運動を継続します。研究者たちは運動中の血中酸素濃度や筋肉の酸素レベルを測定し、この作業を外科の医療用マスクを着用した場合、3層の布製マスクを着用した場合、何もつけない場合の3パターンで行いました。

 

その結果、医療用マスクと布用マスクを着用していた場合は、マスクを着用しなかった場合に比べて血液中と筋肉中の酸素量は若干少なくなったものの、その影響は最小限に抑えられていることが判明しました。マスクを着用しても、運動中のパフォーマンスに悪い影響を与えるエビデンスは見つからなかったというわけです。

 

パフォーマンスは落ちないが、心肺への負担は上がる

しかし、実際には多くの人たちがマスクをつけながら運動すると息苦しさを覚えて、マスクをつけていないときに比べると疲れやすくなると感じていることでしょう。ある別の実験では、ランナー10人がマスクをした状態とマスクをしない状態でトレッドミルを走ったところ、マスクを着用すると、着用しなかったときに比べて1分間に肺を出入りする空気量が24%減少し、酸素摂取量も13%減少することがわかりました。酸素摂取量では大きな変化が見られませんでしたが、マスクを着用すると呼吸の回数が増加して、酸素の摂取を補っていると考えられます。つまり、マスクを着用して運動する場合、運動強度が上がるほど心肺への負担は増加すると言えるでしょう。

 

これら2つの実験結果は相容れないように見えます。さらなる研究が必要でしょう。しかし運動中にマスクを着用すると、新型コロナウイルスの感染を防ぐことに役立つと考えられる一方で、少なからず呼吸にも影響が出るようです。このような長所と短所をどう捉えるかは人によって異なるかもしれませんが、科学的な知識だけでなく、身体の声を聴くことも大切でしょう。

本棚ではなかった! 「オンライン会議」で最も信頼される背景は何?

リモートワークが普及し、社内外の人とオンライン会議を行うのが一般的になりました。そんなオンライン会議で気になるのが、自分が映ったときに見える背景です。たかが背景と思うなかれ。この背景によって、相手に対する信頼感やプロフェッショナル性などが増すことが、最近ある調査で判明したのです。ビジネスで相手に良い印象を与える背景は何なのでしょうか?

↑背景はどこがいいかな……

 

アメリカのデザイン企業Signs.comは、普段からビデオ会議を利用しているアメリカ人1507名にアンケートを実施しました。女性と男性各1人のモデルが同じポーズをとった写真を用意し、背景だけを次の6パターンに変更します。

 

・窓から自然光がさす背景

・アートを飾った背景

・植木鉢を置いた背景

・キャンドルを置いたやや暗めの背景

・本棚の背景

・模様のない壁の背景

 

そしてABテストを行い、それぞれの背景で「プロフェッショナル性」「信頼感」「親密性」「知性」の項目についてどのように感じたかを5段階で評価してもらいました。

↑実験された6つの背景

 

その結果、これら4つすべての項目でスコアが低めだったのは模様のない壁の背景。一方、「プロフェッショナル性」を感じるスコアが3.75と最も高かったのが、本棚の背景でした。ただ本棚の背景は「親密性」のスコアが3.67と、ほかの5パターンのどれよりも低く、プロ志向を感じさせるけれど近寄りがたい存在と相手に思わせている可能性があります。

 

また「知性」のスコアが4.07と最も高かったのが植物を置いた背景で、この背景は「信頼感」(3.92)や「親密性」(3.89)でもスコアが高く、平均的にどの項目でも高いスコアを獲得することがわかりました。またビジネスとはあまり結びつかない、キャンドルを置いたやや暗めの背景は、「プロフェッショナル性」のスコアは3.58と予想通り低かったのですが、「信頼感」と「親密性」のスコアは高めだったこともわかりました。

 

今回の結果を総合的に見て、背景に植物を置くと知性やプロフェッショナル性など、ビジネスにメリットがある良い印象を相手に与えることができるようです。

 

真っ白な壁には注意

アンケートで、ビデオ会議前に背景について調整などをするか聞いたところ、「時々調整する」「よく調整する」「いつも調整する」を合わせると75%となり、多くの人が会議での自分の背景について気を配っていることがわかりました。さらにその調整で最も重要なことを聞いてみると、自然光や窓や白い壁が上位の回答に上げられました。

 

でも、先ほどのモデルを使った写真アンケート結果から、何も模様のない白い壁はプロフェッショナル性も知性などのスコアが低い結果が出ています。つまり、よかれと思ってやったことなのに、白い背景にするとむしろ逆効果かもしれないのです。

 

人は視覚で得た情報から、相手がどんな人物か無意識のうちに判断しているとも言われます。オンライン会議でも最高の効果を生み出したい人は、背景に植物などの鉢植えをさりげなく見えるように置いてみませんか?

 

「片頭痛」を軽減させる可能性がある「光」

日本で1000万人近くの人が悩まされていると言われる片頭痛。一度痛みに襲われると、薬を飲んだり休みをとったり、さまざまな対処が必要になりますが、そんな片頭痛を軽減させるのに緑色の光が良いという研究結果が今年発表されました。緑色の光にはどんな力があるのでしょうか?

 

片頭痛の頻度や痛みが約60%軽減

↑緑が痛みを和らげる

 

日本と同様にアメリカでも片頭痛を抱える人は多く存在しています。この国では、およそ4人に1人が繰り返し訪れる痛みに見舞われており、音や光に敏感になったり、めまい、嘔吐、しびれが伴ったりすることもあるそう。片頭痛は薬による処方が一般的ですが、副作用の心配があるため、別の方法も研究されています。そこで考えられているのが光による予防治療。

 

アリゾナ大学ヘルスサイエンスセンターの医師らは、緑色の光を使った臨床実験を行いました。この実験には、さまざまな治療を受けても望ましい成果が見られなかった片頭痛患者29名が参加。患者たちは片頭痛が起きたときの痛みレベルを0~10で評価しました。

 

しかし緑色のライトを照射すると、平均で60%の人に片頭痛が起きる頻度が減少。痛みレベルについても、平均で8から3.2までおよそ60%下がったのです。さらに痛みが生じる時間が短くなり、片頭痛が起きても睡眠や家事、仕事を継続できるなどの改善も見られました。

 

臨床実験の最後には、被験者に今後も緑色のライトの照射を受けたいか聞くと、29名のうち28名が「引き続き照射を受けたい」と希望したそうです。ちなみに光を浴びたことによる副作用はなかったとのこと。

 

この実験を行ったイブラヒム医師は以前から、緑色の光を使った治療について研究を行っており、数年前にはラットを使用して緑色の光に痛みを軽減する効果があることを発表していました。同氏は線維筋痛症やHIVの患者に生じる痛みにも緑色の光の照射が効果的な治療法のひとつになる可能性があると考え、別の実験も行っており、今回と同じように痛みを緩和させる結果を出していました。

 

今回の実験で使われた緑色の光は、光の強度や波長を調整させたもので、残念ながら一般の方が同じような効果を得ようと自分で再現するのは難しいとのこと。ただイブラヒム医師は、以前行われたメディアのインタビューで「自分が頭痛になったときは、近くの公園に行って木の下で20〜30分過ごしている。すると、痛みが少しずつ良くなっていくんだ」と答えています。

 

私たちの現代の生活はパソコンやスマホなどの強烈な光に囲まれており、これらの強い刺激によって身体に痛みが起きているとも言われています。緑色の光による頭痛の予備治療が確立されるのはまだ少し先のことになりそうですが、頭痛が起きたときは、木々の緑がある場所で心を休ませてあげることが、いまできる対処法のひとつかもしれません。

 

【出典】The University of Arizona Health Sciences. (2020, September 9). Shining a Green Light on a New Preventive Therapy for Migraine. https://uahs.arizona.edu/tomorrow/shining-green-light-new-preventive-therapy-migraine

 

「マルチビタミンサプリ」はプラセボ効果? 米大学が検証した結果

ビタミンA、ビタミンC、カルシウムなど、毎日の生活で必要な栄養分をまとめて摂取できる「マルチビタミン」や「マルチミネラル」のサプリメント。栄養素別に摂取する必要がないため、専門知識がない一般の方にとっては便利な存在です。しかし最近、サプリメントは飲んでも飲まなくても健康に大差はないとする調査結果が発表されました。サプリメントの本当の効果とは何なのでしょうか?

↑健康なのは本当にサプリメントのおかげ?

 

アメリカは日本よりもサプリメントが広く普及しており、日頃から栄養の補給として利用する人が多くいます。なかでも特に人気が高く、およそ3人に1人のアメリカ人が飲んでいると言われるのが、複数の栄養素やミネラルをミックスした「マルチビタミン」や「マルチミネラル」です。

 

そこでハーバード大学医学大学院らの研究者などが、2万1000人のアメリカ人に行われた2012年の全国栄養調査結果をもとに、マルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントの効果を検証することにしました。2万1000人のうち、マルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントを日常的に摂取していた人は5000人で、残りの1万6000人は摂取していません。

 

調査では、高血圧や糖尿、喘息などの過去10年間の健康状態、感染症や記憶障害などの病歴、鬱や不安感などの心理状態などについても聞き取りが行われました。その結果、マルチビタミンやマルチミネラルを摂取している人は自分が健康だと判断する傾向が高かったのですが、実際にはサプリメントを摂取している人とそうでない人の間で健康上に大きな差は見られなかったのです。

 

サプリメントでポジティブ思考

健康状態とサプリメント摂取にはあまり関係がないのに、サプリメントを摂取している人は「自分は健康だ」と答えている人が多い。この事実からは、サプリメントをとっている人はサプリメントにそれなりの効果があると信じており、それをポジティブに捉えている人が多いと言えるかもしれません。そうだとしたら、これはプラセボ効果です。

 

ちなみにサプリメントを摂取している人は、高齢で世帯収入が高く、高学歴で健康保険に加入している女性が多かったそう。つまり健康を維持するために経済的な余裕があり、健康への意識が高い人がサプリメントを摂取している傾向にあるようです。

 

今回の結果がマルチビタミンをすべて否定することにはつながりません。しかし「自分はサプリのおかげで健康である」という考え方にはバイアスが働いていることも忘れないようにしながら、心と身体の健康を維持していくことが大切なのでしょう。

 

【出典】Paranjpe MD, Chin AC, Paranjpe I, et al. Self-reported health without clinically measurable benefits among adult users of multivitamin and multimineral supplements: a cross-sectional study. 

 

リアル過ぎて賛否両論! ディズニーが「人間のように目を動かすロボット」を開発

現在、人間とコミュニケーションを取るロボットの開発が進んでいますが、その課題のひとつに見た目の「人間らしさ」があります。私たちの言語活動において顔は重要な機能を担っているので、ロボットの表情を人間らしくすることはとても重要です。この問題に取り組んでいるのがディズニーで、同社は最近、会話の途中で視線が動いたり表情が変わったりするロボットを発表しました。一体どのようなロボットなのでしょうか?

 

目だけならロボット感なし

↑ギクリ

 

ディズニーで使う様々な技術を開発する「ディズニーリサーチ」が先日発表したのが、視線を人間らしく動かすことができるヒト型ロボットです。

 

従来のロボット研究では、ロボットと人間が視線を合わせることにフォーカスしてきました。そのためロボットと人間は目を合わせて会話することができるのですが、人間同士が行う実際の会話では、話の内容や相槌に合わせて私たちは視線を動かしたり逸らしたりするもの。そこでディズニーリサーチでは、ロボットが話し手や聞き手のキャラクターに合わせて視線を動かす技術を開発することにしました。そして先日お披露目されたのが、目の動きがこれまで以上に豊かなロボット。胸元にあるセンサーが、目の前の人物の目や顔の動きを感知して、それに対応して人間らしい動きができるそうです。

 

まだロボットの機械部分が露骨に見えるため、なんとも不気味な見た目ですが、下の動画を視線に注目しながら見てみてください。ロボットの前に人が立つと、頭をやや起こして視線を合わせたり、人の動きと合わせて首を左右に動かしたり、複数の人物がロボットの前にいれば、2人それぞれに視線を送ったり、より人間に近い目の動きをしているのがわかります。また、会話の途中にまばたきをするほか、目をしっかり開くときと、まぶたを半分くらい閉じた状態にするときがあるなど、1点を凝視する従来のロボットの目の動きとは明らかに違うようです。

この動画が公開されると世界中のメディアが取り上げ、SNSでは「さすがディズニー」「人間っぽい」と賞賛する声が上がりました。一方で、見た目の怖さから「不気味すぎる」「ハロウィンの日の投稿と間違えたんじゃないか?」「今夜は眠れそうにない」などのリアクションも。もしもこのロボットに人間のような皮膚をつけたとしたら、本物の人間に近づいて、さらに気味の悪さが増しそうです。

 

開発の現場にいる人からすれば、細部まで人間らしさを追及していくことは自然の流れでしょう。でもロボットには、どこかに「ロボットらしさ」が残っていたほうが、人間としては安心できると感じてしまう部分があるのかもしれません。

 

約5300万円でもう買える! 「空飛ぶクルマ」の現在

「空飛ぶクルマ」の時代が始まろうとしています。近年、国内外で空飛ぶクルマのロードテストや試験飛行成功のニュースが相次いでおり、クルマに乗ったまま道路を走って上空を飛行することが現実味を帯びてきています。次世代の乗り物になりそうな空飛ぶクルマを3つチェックしておきましょう。

 

カップラーメンができる間に……

↑3分で陸から空へ

 

スロバキアのKlein Vision社が手がける「AirCar」は先日、試験飛行に成功したばかりです。5世代目となるこのクルマは、2人乗りでBMWの1.6リッターのエンジンを搭載。航続距離は1000キロ、離陸時には時速200キロまで到達するそう。見た目はレーシングカーのように車体が低く横幅が広い印象ですが、一般的なオフィスやホテルなどの駐車場に駐車できる大きさのようです。

 

このAirCarの魅力は、走行モードから飛行モードに短時間で変えられることにあるでしょう。後方に収納されていた翼が伸びて、わずか3分以内に飛行の準備が整うのだとか。これなら自宅からAirCarに乗って飛行場に向かい、別の飛行機に乗り換えることなく、そのまま空へ飛び立つことが可能になるかもしれません。

 

官民一体で取り組む日本

日本でも空飛ぶクルマの開発が進んでいます。それを牽引するのが、若手技術者などを中心とした有志団体CARTIVATORのメンバーが2018年に創業したベンチャー企業のSkyDrive。「空飛ぶクルマを作ろう」というミッションを掲げる同社は、2023年度の実用化を目指して、空飛ぶクルマの開発を行っています。今年8月には初めての公開有人飛行を実施し、成功しました。

 

このとき公開された有人試験機「SD-03モデル」は、1人乗りで合計8個の電動モーターで飛行します。自動車というより、1人乗り用の小型飛行機のような見た目。しかし同社の空飛ぶクルマの特徴は、滑走路を必要としない垂直離着陸ができること。そのため、離島や山間部など郊外での移動手段としてだけでなく、災害時の搬送などにも利用できると期待されています。将来的に一般的な駐車場2台分に収まるよう、車体のサイズは高さ2m×幅4m×長さ4mにする計画とのこと。

 

ドローンを活用した物流サービスの試みが始まろうとしている日本では、空飛ぶクルマのプロジェクトも国が支援しています。官民が協力して取り組むべく、国土交通省と経済産業省が2018年から「空の移動革命に向けた官民協議会」を開いており、SkyDrive代表も構成員として参加しています。

 

一歩先を走るオランダの空飛ぶスポーツカー

↑PAL-Vリバティー・パイオニア・エディション

 

再び海外に目を向けると、オランダには2012年にプロトタイプの試験飛行を実施したPAL-V社があります。同社はその後、「PAL-Vリバティー」と名づけられた空飛ぶクルマの開発を開始。イタリアのデザイン企業とコラボしたという高級感あふれる外観はスポーツカーを彷彿させるデザインです。2人乗りで、走行モードでは時速最大160キロ、フライトモードでは最大180キロで飛行可能。この空飛ぶクルマは、厳しいことで知られるヨーロッパの道路許可証を得たので、ナンバープレートを付けて公道を走ることができるそうです。

 

しかも、PAL-Vリバティーは世界で90台限定のパイオニア・エディションを予約販売中。同社のウェブサイトによると、日本ではエグゼクティブエディションが75万ドル(約8000万円)、スポーツエディションは49万9000ドル(約5300万円)で購入できます。今後は耐久テストなどが実施される予定とのことですが、同社は一歩先を進んでいるように見えますね。

 

世界各国で続々と登場しつつある空飛ぶクルマ。現在、自動車などのモビリティー業界は大変革のときを迎えていますが、将来は自家用車のまま空を自由に飛ぶ人もいそうですね。

 

宇宙服はビームス製! 11月15日の宇宙船打ち上げの見所をチェック

日本時間の11月15日午前9時49分、野口聡一さんとNASAの3人の宇宙飛行士を乗せた「クルードラゴン宇宙船(Crew-1)」が打ち上げられます。今回は民間の宇宙船に日本人宇宙飛行士が初めて乗り込みますが、見所はそれだけではありません。国際宇宙ステーションで野口さんが着用する服はビームスがプロデュースするなど、宇宙を身近に感じられるトピックスが盛りだくさんなのです。

 

スペースX社製の民間宇宙船に日本人初搭乗

↑クルードラゴン宇宙船に乗って宇宙へ行く野口飛行士ら

 

2020年5月、イーロン・マスクが率いるスペースX社が、NASAからの委託を受けて開発した宇宙船「クルードラゴン」に2人の宇宙飛行士が搭乗しました。打ち上げは成功し、国際宇宙ステーション(ISS)にもドッキングするなどして地球に帰還。民間企業が宇宙開発に参入するという新時代を象徴する出来事となりました。

 

今回、野口飛行士が搭乗する宇宙船もスペースX社が開発しており、民間企業が作った宇宙船に日本人宇宙飛行士が乗り込むのは初めてのこととなります。

 

これまでの宇宙開発は国家主導のもと、国の威信をかけて多額を投じ、国同士が競い合ってきました。しかし、これからは国家というボーダーではなく、ひとつのビジネスカテゴリーとして宇宙開発を進める時代となっていきそうです。2020年は新しい宇宙開発時代が幕を開けたターニングポイントの年となるでしょう。

 

ISSで着用する宇宙服はビームスがプロデュース

↑ビームスがプロデュースしたポロシャツ

 

今回のミッションで野口宇宙飛行士はおよそ半年間、ISSに滞在し、さまざまな実験を行う予定ですが、野口さんらはその期間、ビームスが製作を担当した宇宙服を船内で着用します。宇宙船内では給水速乾で抗菌消臭機能が求められるなど、宇宙航空研究開発機構(JAXA)からは機能面でさまざまなリクエストがあったそう。ビームスが糸や生地の選定からデザインまでプロデュースし、ファスナーの向きやポケットの大きさなど細部までディスカッションを重ね、フライトスーツからポロシャツ、フリースパーカー、下着、ソックスなどを開発しました。宇宙飛行士がISSで着用する衣類を民間企業が総合プロデュースするのは初めてのことで、こんなところにも民間企業が宇宙事業に参入していることがうかがえます。日本の人気ファッションブランドも宇宙事業に参加していることを知ると、宇宙がグッと身近な存在になりますよね。

 

今回の宇宙滞在で複数の実験が計画されており、そのなかには一般の人にも興味深い取り組みがあります。そのひとつが宇宙放送局からの放送。JAXAは2019年に国際宇宙ステーション「きぼう」内にスタジオを設置する宇宙メディア事業を発表し、2020年8月には地上と宇宙の双方向ライブ配信に世界で初めて成功しています。今回は第2回目の放送を実施し、技術実証を行う予定。このほかにも、きぼうに設置された船内カメラを一般の人が地上から操作するというアバター体験などが企画されています。遠い存在だった宇宙が私たちにどんどん近づいてきていますね。

 

AIがサハラ砂漠に18億本もの樹木があることを発見! かかった時間が凄かった……!

雨が少ないため植物がほとんど生育しない砂漠地帯。アフリカ大陸にあるサハラ砂漠は世界最大級の砂漠のひとつですが、これまで何も存在しないと思われていたその砂漠に実は18億本もの樹木が生育していることが、AIを使った研究によって明らかとなりました。

 

NASAの衛星画像と深層学習技術でカウント

↑サハラ砂漠に樹木が

 

アルジェリアとリビア、エジプトの3か国の国土のほとんどを覆うように存在するサハラ砂漠。面積は860万平方キロメートルもあり、総国土面積が37.8万平方キロメートルの日本の約22倍にもなります。そんな巨大なサハラ砂漠に樹木はどれくらい存在しているのか? デンマークのコペンハーゲン大学の地理学者がAIを使った新たな研究を行いました。

 

コペンハーゲン大学コンピューターサイエンス学部は、木の形から自動的に画像上の木を識別して、木の本数を数えられる深層学習技術を開発。これにNASAから提供された数千枚の衛星画像を組み合わせて、サハラ砂漠に存在する樹木を数えることに成功しました。そしてこの調査によって、サハラ砂漠の西側130万平方キロメートルの地域に、18億本もの樹木があることが明らかとなったのです。もちろん木が一本も存在しない場所が広範囲に渡り存在していますが、樹木が密集している場所があったようです。

 

仮に18億本の木が130平方キロメートルの土地に均等にあると仮定すると、これは100メートル四方の土地に14本の木が生えている計算になります。私たちが思い込んでいた以上に樹木が生えていたんですね。この研究を行った学者たちですら、「サハラ砂漠にこれだけの樹木が存在していたことに大変驚いた」とコメントしています。

 

サハラ砂漠に木が存在することの意味

今回サハラ砂漠で見つかった樹木のように、降雨量の少ない地域での木々については、どのくらいの量の二酸化炭素を蓄積できるかほとんどわかっていません。そのため、さらなる研究が地球温暖化や地球保護にも活かされる可能性があります。

 

また、サハラ砂漠で生育する樹木の種類を特定することができれば、樹木を植栽しながら家畜の飼育や農産物の栽培を行う「アグロフォレストリー」の研究も進むとも見られています。

 

今回開発された広域の樹木を数える深層学習技術は、人間の力では何年もかかることが、わずか数時間程度で可能になったそう。この研究チームでは、今後さらにアフリカの広範囲の場所で樹木のカウントを明らかにし、将来的には降雨量の少ない地域に存在する樹木のデーターベースを作る計画です。

「色の見方」が変わる! 反射率が95.5%の「白のなかの白」が誕生

もっとも基本的な色ともいえる白と黒。しかし私たちが普段目にしている白と黒は、本当の白色と黒色とは違って見えているのかもしれません。近年、研究が行われている「白色のなかの白色」と「黒色のなかの黒色」の世界をのぞいてみましょう。

 

日光を反射し建物の気温を低く保つ白色塗料

地中海沿岸の街は、外壁を真っ白に塗った白い家が並んでいることで有名です。白色の塗料が使われる理由に、強い日差しから建物を守り涼しく過ごせることがあると言われています。黒のクルマと白のクルマのどちらが熱くなりやすいかは多くの方が経験してわかっていることでしょう。これらと同じように、屋根や外壁を白色にして暑さ対策を行う動きが世界で進んでいます。

 

そんな動きを受けて、アメリカのパデュー大学の研究チームが先日発表したのが、外気より最大で7.8℃も低く保てる白色塗料です。研究チームでは100種類以上の原料の組み合わせから10種類の原料に絞り込み、それらを組み合わせた50種類で検証を実施。その結果、岩や貝殻などによく見られる炭酸カルシウムが、紫外線をほとんど吸収せず光を散乱させることが可能という結論に行きつき、95.5%の反射率の白色塗料を開発したのです。

 

現在マーケットにある、遮熱効果付きの塗料は日光の反射率80~90%で、市販の白色の塗料と比較すると、この研究チームが開発した塗料は直射日光の下でも低温を維持して、紫外線を反射することができました。フィールドテストでは正午の時点で表面の温度を1.7℃低く保つことができたそうです。

↑どっちが本当に白い?

 

おまけに、この塗料で反射した紫外線は、光の速さで地球外の宇宙まで到達するとのこと。つまり反射した光によって地球のなかに熱がこもることはなく、この塗料を建物の屋根や道路、クルマなどに使えば、地球温暖化の防止にも役立つと期待できるそうです。塗料のコストも市販品より安価に抑えられることも魅力的でしょう。

 

黒のなかの黒もある

一方、「史上最も黒い黒」と世界中で話題となったのが、2019年にマサチューセッツ工科大学が発表した黒色の塗料です。この研究チームは黒色塗料の開発を行っていたわけではなく、炭素同士が円筒状に並んだ「カーボンナノチューブ」の実験を行っていました。その際、99.995%の光を吸収する、カーボンナノチューブでできた黒色の塗料を偶然発見。これまであったどの黒色塗料より10倍黒く、まさにブラックホールのような黒色ができあがったのです。

 

それまで世界で最も黒い物質と言われていたのが、同じくカーボンナノチューブでできた「ペンタブラック」。BMWがペンタブラックを塗った「世界一黒い車」を発表するなど、ペンタブラックは一時期、世界で大きな話題を呼んだのですが、ペンタブラックの光の吸収率は99.96%。マサチューセッツ工科大学が発見した黒色は、それよりもさらに黒い塗料なのです。

 

2019年9月には、16.78カラットで時価200万ドル(約2億1000万円)のイエローダイヤモンドに、この黒い塗料を塗ってしまうという大胆な試みが、ニューヨークの「リデンプション・オブ・ヴァニティ展」で披露されました。わずかな光でも反射して煌びやかに輝くダイヤモンドが、この黒色塗料で漆黒の闇に変わる様子は、本当にブラックホールに吸い込まれたようです。

↑どんな輝きも通さない

 

光の反射率と吸収率を考えると、圧倒的な存在感を感じさせる超白色と超黒色。これらを超える白色と黒色は生まれるのでしょうか?

 

 

「ペット可」の物件検索数が140%も増えたけど……。イギリス「ペットブーム」のオモテとウラ

イギリスでは多くの家庭がペットを飼っていて、ペット数も年々増える傾向にあります。ロックダウン期間中はこのペットブームにさらに火がつき、新しいペットを求める人たちが続出。ペットに適した住環境を求め、引っ越しを考える人も急増しました。本稿では、そんなイギリスのペット動向についてレポートします。

 

子犬の価格が急騰

↑聞いて、聞いて! ぼくの価値が急上昇しているんだって

 

イギリス人は動物好きで、約40%の家庭がペットを飼っているといわれています。1番多く飼われているのは犬で、次は猫。イギリスにはペットを家族の一員として考える習慣があり、ペット数は年々増える一方でしたが、ロックダウンによって前代未聞のペットブームが起こりました。ペットケア・ブランドのボブ・マーティン社は、ペットの需要が普段の約10倍も増え、オンラインによる検索数が急増したと述べています。なかでも子犬を求める人が目立ちます。

 

動物レスキューセンターのケンネルクラブによると、犬を購入することができる有名なサイトのひとつである同クラブのホームページへのアクセスが、今年4月時点で昨年度の2倍以上にのぼったとのこと。アドプション(保護譲渡)コーナーへのアクセス数が6倍も増えたという動物慈善団体もあるなど、アドプションが盛んなイギリスならではの現象も見られます。

 

その一方で、ペット業界はこうした需要の高まりに追いつけず、子犬価格が急騰しました。現在、子犬の平均価格は1900ポンド(約26万6000円)で、この数字は、ロックダウン開始前の約2倍です。

 

さらに人気の種類になると、3000ポンド(約42万円)を下りません。最近、BBCが発表した「子犬の価格上昇率トップ10」によれば、たとえばコッカースパニエルが184%増えて2200ポンド(約30万8000円)、コッカプーが168%増えて2800ポンド(約39万2000円)、ボーダーコリーが163%増えて1000ポンド(約14万円)となっています。

 

特に注目したいのは、キャバリアーキングチャールズスパニエルとプードルの雑種であるカバプーの人気です。育てやすい犬種といわれていることもあり、今年になって需要が一気に高まりました。価格は従来の900ポンド(約12万6000円)から2800ポンド(約39万2000円)へと、3倍以上に跳ね上っています。高額ではありますが、購入の順番待ちをする人たちが通常の4倍へと増えており、登録者は約400人もいるそうです。

↑一躍人気者のカバプー

 

ペットを飼える家がほしい!

急激なペットブームの背景には、やはり外出自粛に起因したストレスや寂しさなどがあるようです。

 

ペットはストレスや寂しさを軽減してくれるとして、イギリスでは心理セラピーにも長年使われてきました。特にステイホーム時間が増えた自粛期間中ともなれば、ペットとの触れ合いを望むのは当然といえるかもしれません。そのほか、この期間にペットを飼う理由として、「ペットオーナーになるという夢を実現するチャンスが到来した」「ペットのトレーニングに注力できる」などの声が挙がっています。

 

ペットの世話をしたり、触れ合ったりすることは、動物との絆を強め、飼い主自身も充実感や幸福感を味わうことができます。ペットフードや訓練時に与えるご褒美フードの販売数も伸びていて、なかでもミレニアム世代と呼ばれる20~30代の若者たちはご褒美やペット用アクセサリーの購入に熱心だといわれています。

↑ハイタッチ!

 

地元メディアによれば、ロックダウン中にペットが飼える物件を探したイギリス人は数え切れないほど多くいたそう。ロックダウン開始から5月4日までの約2か月間で、ペット可の物件検索数は140%も増え、賃貸物件に住む人の3分の2以上がペット可の物件を検索したといわれています。特に、犬や猫を飼いつつ、広いワーキングスペースを確保できる物件に人気が集中。このトレンドはロンドンやマンチェスターといった都会で顕著に見られます。また、ペットのスペースを確保できる庭付き1軒家の検索数もロックダウン前と比べて200%上昇。この需要に応じ、イギリスにおけるペット可の物件数は3月以降38%も増えました。

 

動物を飼うということは?

しかしその一方、加熱するペットブームの裏側では不法行為や犯罪が増えています。国内における子犬の供給が追いつかず、外国からの不法輸入や複数回の妊娠を強要する悪質なブリーダーが増加。購入の際には販売主のところを実際に訪問することが推奨されていますが、コロナ禍のため消費者はオンラインを好み、そこで悪質な販売が目立つようになりました。

 

別の問題は、ペットの飼い主がオーナーシップを勝手に放棄してしまうこと。これについて、大手慈善団体のRSPCAはペットの衝動買いなどについてメディアを通じて注意を呼び掛けています。オーナーシップの途中放棄により動物がストレス状態に陥ることを心配し、アドプションを一時的に停止するときもありました。

 

途中放棄の防止策として、ペットを購入する前にペットレンタルを勧める慈善団体もあります。レンタル期間を設けることで、ペットとの相性や飼い主としてのルーティン作業、オーナーとしての意志を確かめることができるという利点が挙がっています。

 

外出自粛が続き、テレワークが増えているなか、動物や自然との触れ合いは私たちに活力を与えてくれ、不安やストレスを和らげてくれます。ペットの購入を検討している人は、イギリスのペットブームがどんな問題をもたらしたのかも真剣に考えるべきかもしれません。

 

執筆者/ラッド順子

 

衛星技術で途上国の生活を便利に――電子基準点の利活用を進め、インフラ整備の効率化や自動運転技術の向上を図る【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、衛星技術を活用した途上国の生活を便利にするための取り組みについて取り上げます。

 

最近よくニュースで耳にするドローンやトラクターなどの自動運転は、米国の「GPS」や日本の「みちびき」といった衛星からの電波を地上で受け取り、位置情報が得られることで可能となります。衛星の電波から精度の高い位置情報を得るためには「電子基準点」という地上に設置された観測装置が欠かせません。

 

この高精度な位置情報とデジタル地形図を活用することで、道路や上下水道などのインフラ整備をより迅速に、かつ効率的に行えるようになります。

 

人々の生活を豊かにし、都市開発を効率的に進めるため、JICAはミャンマーやタイなどで、電子基準点の整備や活用の促進に取り組んでいます。

↑ヤンゴン市内に設置された電子基準点

 

↑衛星データを活用した測量実習の様子(ミャンマー)

 

ミャンマー:電子基準点の設置から運営維持管理までサポート

ミャンマー最大の都市ヤンゴンにて、JICAが2017年から実施しているのがデジタル地形図や電子基準点の整備を目的とした「ヤンゴンマッピングプロジェクト」です。ミャンマーでは、これまで電子基準点が設置されていなかったため、まずヤンゴン市および周辺エリアに5点の電子基準点を整備しました。

 

この電子基準点から得られた高精度な測位データとデジタル地形図によって、今後ヤンゴン市で計画されている道路や上下水道などのインフラ整備をより迅速に、かつ効率的に行えるようになります。

↑ミャンマー最大都市・ヤンゴンのデジタル地形図

 

さらに、デジタル地形図と土地利用・統計データを活用することで、「現状の建物用途を地形図上で可視化し、将来の土地利用計画を検討する」「学校、病院などの社会インフラの配置を適切に計画する」といったことが期待されます。多様な情報が地図上で可視化され、政策決定が迅速に進められるようになるのです。

 

電子基準点の利活用に向け、設置した後の適切な運営維持管理や利活用の促進も重要です。JICAはミャンマー政府の職員を日本の国土地理院に招き、安定的な運営維持管理手法や予期せぬトラブルが発生した際の対処方法などの研修を実施しています。

↑国土地理院で研修を受けるミャンマー政府の職員ら

 

電子基準点から得られる高精度な位置情報を利用する際、位置座標の補正が重要となります。その補正が必要となる代表的な理由は地殻変動です。大陸は1年に数センチメートルほど移動しますが、地図の位置座標は過去のある時点のまま変更されません。年月の経過と共に現在の正しい位置と、過去の地形図上の位置とのずれが大きくなっていくことから、座標の補正・更新を行い続ける必要があります。

 

研修に参加したミャンマーの職員からは「電子基準点を維持・管理していくための解析方法を目の前で学ぶことができた。今後の業務に活かしていきたい」といった声があがっています。

 

タイ:トラクターや建設機械の自動運転技術の実証実験を進める

JICAは昨年、タイにおいて、日系企業とタイ政府機関・現地企業と協力し、トラクターや建設機械の自動運転のデモンストレーションを実施しました。

↑タイで実施されたトラクターの自動運転のデモンストレーション

 

タブレット端末などで専用のソフトウェアを操作し、電子基準点と衛星技術を活用することで、センチメートルレベルの精度でトラクターの走行経路を設定することができるという実証実験です。通常、衛星からの位置情報だけでは誤差が数メートルレベルとされていますが、電子基準点があることで誤差がセンチメートルレベルにまで向上するのです。

↑左:無人で走行するトラクター(株式会社クボタ)/右:デモンストレーション会場では、自動運転に関する説明も行われた(ヤンマーアグリ株式会社)

 

さらに、今年9月からは、タイ政府が新たに設置する国家データセンターの運営維持管理能力の強化など、電子基準点から得られる高精度な測位データのさらなる利活用促進に向けた取り組みを進めていきます。デジタルエコノミーの拡大や新規ビジネス・イノベーションの創出に寄与することが目的です。今後、複数の民間企業と協力して、衛星と電子基準点を活用したさまざまな分野でタイにおける社会実装を目指していきます。

 

JICAの電子基準点の利活用は、民間企業から熱視線

JICAが途上国で進める電子基準点の利活用は、民間企業からも高い関心を集めています。電子基準点を活用したビジネスを展開している総合商社の三井物産の担当者は、JICAの取り組みについて、次のように話します。

 

「電子基準点の活用によって、途上国でさまざまなビジネスの可能性が開かれる点に注目しています。JICAが電子基準点から得られる空間情報を活用したインフラ整備を進めているのは、産業創出を促進する面でも大変意義深い取り組みです。日本をはじめ先進国では農業、建設分野に限らず、鉱山、運輸等、多岐にわたる分野で、電子基準点を活用したビジネスが広がっています。JICAが途上国で電子基準点の利活用を進めることで、さらに日本の民間企業の知見が途上国の開発とビジネス展開に寄与していくことが期待されます」

 

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「現金のプレゼント」で集客アップ!? EC大国タイの「ライブコマース」最新事情

世界有数のEコマース(EC)大国として知られるタイ。ある調査によると、16歳~64歳の85%がオンラインで買い物をした経験があるとのこと。タイでのEC取引はショッピング市場全体の10%を占めており、新型コロナウイルスによるステイホームで、ECへの移行はさらに加速しました。なかでもタイでさらに人気が高まっているのが、リアルタイムでやり取りしながら買い物をすることができるライブコマースです。

タイ人の性格にピッタリ

↑タイでも人気沸騰中のライブコマース

 

タイでは新型コロナの影響により、3月17日から5月22日までの2か月間、スーパーマーケットやドラッグストアなどを除くショッピングモール内の全店舗が閉鎖を強いられました。タイは公共交通機関が日本よりも乏しく、クルマでの移動を前提としたモール型の店舗が多いため、この期間は家電や調理器具でさえ店舗では手に入らない状況が続いたのです。そういった状況が追い風となり、ロックダウン期間におけるECの売上は200%伸びたと言われています。

 

ECの好調が続くタイで、最近、新たな販売手法の1つとして人気を集めているのが「ライブコマース」です。「ライブ動画配信」と「EC」を組み合わせた新しい販売方法で、ライブ配信中に配信者と視聴者が双方向型のコミュニケーションを取りながら商品を販売・購入する仕組みです。

 

従来のECでは、視聴者は販売者側がサイトにアップした写真や情報から商品を確認するもので、コミュニケーションは一方向でした。しかしライブコマースはECでありながら、視聴者と配信者のインタラクティブなコミュニケーションが可能となります。視聴者は商品に関する質問ができて、配信者は視聴者のリアルな声を聞けるという、従来のECに欠けていたタイムリーな会話が実現。この仕組みがタイでも当たっているのです。

 

タイのライブコマース人気はASEAN諸国でもトップで、視聴者1回あたりの購入額も約16ドルと、たとえばベトナムの約6ドルと比較した場合は3倍近くになります。その一因として、会話を好むタイ人の性格とリアルタイムでやり取りできるというライブコマースの手法がマッチしたからではないかと考えられます。

 

タイの会社員は副業が認められているケースが多く、カフェ開業や翻訳などさまざまな副業をしている人がたくさんいます。なかでもやはりオンラインでの販売は、気軽さから人気がある様子。

 

タイでは、有名ブランドは自社ウェブサイトで商品情報の発信から購入までを一貫して行いますが、副業などで販売している小規模事業者はほとんどウェブサイトを持っていません。その代わりFacebookなどSNS上で販売する人が多いと言えるでしょう。タイ人の93%が日常的にFacebookを使用しているといわれるため、コストをかけてウェブサイトを作らなくてもFacebookでの集客が可能というのが理由です。

 

特定のブランドを買いたい人はブランドから、ブランドにこだわらない人は小規模事業者から購入するので、両者はあまり競合にはならないようです。

 

話題作りのためなら……

↑「いいね」こそすべて

 

小規模事業者が最近積極的に利用しているのが、Facebookのライブ配信機能を利用したライブコマースです。ウェブサイトを持たない小規模事業者にとって、ライブ配信ができるFacebookはライブコマースの場として適しています。

 

有名ブランドと比較して柔軟に動ける小規模事業者は、Facebookのコメント欄を活用して商品が当たるゲームやクイズなどを取り入れています。さらに、なんと現金をプレゼントする配信者まで出てきたのです。

 

この施策はプレゼントキャンペーンや宝くじが好きなタイ人に刺さり、一躍有名になったページもあるほど。広告費をかけての集客ではなく、予算のない小規模事業者にとってはプレゼントや現金などに費用をかけてコメント欄を盛り上げ、視聴者を増やすのが一番の広告になるようです。

 

ライブコマースで商品購入した際の決済も、Facebook上で完結します。外部サイトを持たない小規模事業者は、基本的にライブ配信中のコメントやダイレクトメッセージを使って購入者とやり取りします。タイでは政府の方針でキャッシュレスが進んでおり、オンラインバンクを使った振り込みが一般的。ダイレクトメッセージで振込用QRコードを送るだけで簡単に支払いができるので、この点もタイでライブコマースが流行っている一因と考えられます。

 

SNS以外では、タイ最大級のオンライン通販サイトである「Lazada」や「Shopee」上でのライブコマースも活発化。Lazadaは、ライブ配信者のコンテストを通じてライブ配信のスタープレイヤーを見つける「LazTalent」という企画を開始しました。日本ではライブコマース専用のプラットフォームを使い、もともと知名度があるインフルエンサーなどを活用する場合が多く見られますが、タイの事例はその真逆ともいえるでしょう。

 

Facebookでは、今後Instagram内のみで買い物が完結するInstagramショップ(現在のショップ機能では外部サイトに飛ぶ必要があります)をリリースする予定で、ライブ動画内にもショップ掲載商品のタグ付けができるようになると報じられています。新しいInstagramショップが実装されればよりスムーズなショッピングが実現し、タイではこれまで以上にライブコマースの人気も上がるかもしれません。

 

執筆者/加藤明日香

ベトナム初の地下鉄整備が進む:鉄道建設から会社運営、駅ナカ事業までサポート【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ベトナムで進む鉄道プロジェクトについて取り上げます。

 

ベトナムの最大都市ホーチミン市で、2021年末開業予定の都市鉄道の運転士講習が、この7月から始まっています。ホーチミン市都市鉄道は、巨大都市に成長したホーチミン市の渋滞緩和を目的としてJICAの協力により整備されており、2012年から建設工事が進んでいます。

 

現地では鉄道建設に加えて、運転士の採用や安全管理部門などの人材育成、組織管理や営業規約の策定など、鉄道運営会社の能力強化プロジェクトが実施されており、JICAはハードとソフトの両面で開業をサポートしています。

↑運転士講習開講式の様子。運転士候補生59名と関係機関の代表者などが参加しました

 

ホーチミン市初の鉄道運転士講習がスタート

「発展を続ける都市開発と人々の安全輸送に貢献できることを、私たち自身とても誇りに思っています」

 

運転士講習の開講式でそう語るのは、今回唯一の女性運転士候補生ファム ティー ツー タオさんです。今回、運転士候補生として選ばれたのは59名。募集にあたっては、学歴や身体条件のほか、道徳・規範意識の高さや、責任感、自律性の高さなども条件となっていて、いずれもクリアした人たちが集まりました。候補生たちは、今後約1年に及ぶ鉄道学校での授業を受け、その後、実技訓練や国家試験を経て、晴れて運転士として業務にあたることになります。

↑運転士講習開講式でスピーチに立つファム ティー ツー タオさん

 

ホーチミン市の様々な課題をクリアする都市交通システム整備

この都市鉄道整備の背景には、ホーチミン市の人口急増問題があります。ベトナム最大の都市として約900万人(2019年4月時点)が暮らすホーチミン市は、2009年からの10年間で約180万人の人口増加があり、道路整備とバス活用による都市交通整備はもはや限界に達しています。現在はバイクで移動する住民が多く、また今後は経済成長に比例して自動車利用が増加していくと考えられています。今回の都市鉄道整備事業は、慢性化した交通渋滞を回避し、大気汚染緩和、地域経済発展など、巨大都市ホーチミンが抱える多くの課題を解消するものとして期待を集めています。

 

現在、全部で8つの鉄道路線が計画されおり、今回JICAの協力によって建設が進んでいるのは、その中の「都市鉄道1号線」とよばれる、ベンタイン-スオイティエン間を結ぶ19.7kmの路線です。ホーチミン最大の繁華街である都心部2.5kmは地下を走り、郊外の17.2kmは高架で、最高時速は100kmを超えるという、ベトナムでは初めての地下鉄です。

↑1号線の路線計画図。ホーチミンの中心部から郊外を結ぶ都市鉄道です

 

↑建設中の駅間シールドトンネル部分。都心部の2.5kmはベトナム初の地下区間となります

 

この1号線は、ホーチミン都市整備の優先区間と位置づけられており、2021年12月の開業に向け、工事が進められています。開業に向けては建設工事とは別に、鉄道職員の育成や、安全認証の取得など、鉄道運営会社が果たすべき課題はたくさんあり、JICAは、運営会社であるホーチミン市都市鉄道運営会社の運営維持管理能力を高める協力も進めています。

 

鉄道運営会社の能力強化プロジェクトに携わっている東京メトロの谷坂隆博さんは、1号線の有用性について「都心部の1区、発展著しい2区・9区を結ぶ路線で、1号線が成功すれば洗練された交通手段として都市鉄道が市民に浸透します。今後整備される他路線含めた都市鉄道普及の契機としてふさわしい路線です」と語ります。

↑1号線最初の列車が10月に車両基地に到着しました

 

ハード・ソフト一体となった整備・運営・維持管理支援

今回のプロジェクトで注目されているのは、東京メトロを中心とした協力のもと、鉄道利用を促進するモビリティ・マネジメント活動や、駅ナカ事業の取り組みといった非鉄道事業の整備も合わせて行っている点です。

 

モビリティ・マネジメントとは、交通渋滞や環境課題、あるいは個人の健康問題に配慮して、過度に自動車に頼る状態から、公共交通や自転車などを『かしこく』使う方向へと自発的に転換することを促す取り組みのことで、一般の人々やさまざまな組織・地域を対象としています。途上国の都市交通開発では、このモビリティ・マネジメントに類する活動はまだほとんど例がなく、都市鉄道整備とセットで取り組んでいる協力は日本独自のスタイルといえます。

↑都市鉄道建設現場には、ベトナムのファム・ビン・ミン副首相(写真前列左から2人目)も視察におとずれました

 

また、駅ナカ事業については、コンビニなどの商業施設だけにとどまらず、行政機関や、保育園など、地域社会向けの公共サービスが提供されるなど、日本独自の発展をとげてきた分野です。このようなノウハウを提供することにより、駅を単なる交通機関としてとらえるのではなく、市民生活に密着した場所として活用することができるようになるのです。

 

東京メトロをはじめとした日本の技術と知見により、ハード建設とソフト運営が一体となった協力をすることで、日本式の都市鉄道運営が、ベトナムでも大きな成果を上げることと期待されます。

 

開業へと準備が進む都市鉄道について、JICA社会基盤部の柿本恭志職員は、「都市鉄道の安全・安心な運行には、決められたルールをしっかりと守ることに加えて、異常時に適切な判断をして即座に行動できるように普段から訓練しておくことが重要です。今後は運営会社の人材育成とともに1号線開業のための重要なプロセスである安全認証取得の協力にも力を入れていきたいと思います」と語ります。

 

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年間42億個の卵を消費するキユーピーの「卵の殻」の意外な有効活用、とその覚悟

資源の100%有効活用で「捨てない・活かす」を目指す~キユーピー株式会社

 

日本でいちばん卵(鶏卵)を消費している企業を知っていますか? 食卓に欠かせない調味料のひとつ「マヨネーズ」でお馴染みのキユーピー株式会社です。日本の年間消費量のおよそ1割にあたる約25万トン、約42億個を使っています。

 

卵には捨てるところがない

一般的には、卵の殻、いわゆる卵殻はそのままゴミとして廃棄されます。再利用するより、産廃費を払って処分した方が企業としては手間がかからず、製造効率が上がるからです。ところが同社には、“もったいない”という精神が根付いていて、卵殻に限らず、未利用資源の有効活用策について古くから研究され続けているのです。

 

創業初期からの主力商品であるマヨネーズには卵黄を使用します。事業が拡大していく中、食品メーカーとして、資源や環境という観点からまず考えなければいけなかったのが、卵殻の再利用だったそうです。キユーピーで卵殻の有効利用が本格的に始まったのは1956年のこと。卵殻を天日で干し、土壌改良材(肥料)として農家へ販売しました。

↑卵殻を加工した土壌改良材を施肥する様子

 

「現在では卵を100%有効活用しています」と話すのは、廃棄物の有効活用を研究している、研究開発本部・機能素材研究部の倉田幸治さんです。

 

「弊社はさまざまな卵加工品を生産していますが、卵黄はマヨネーズに、卵白は、菓子類やかまぼこなどの練り製品の原料になります。そして通常は破棄される卵殻と卵殻膜について、より付加価値の高い活用法が研究されてきました。例えば、卵殻は土壌改良材だけでなく、カルシウム強化食品にも利用されていますし、卵殻膜は化粧品の原料にもなっています」

↑卵殻を有効活用したカルシウム強化商品「元気な骨」
↑卵の有効活用例

 

近年は卵殻粉の肥料を水田に利用

さらに4年前からは、東京農業大学と共同研究が始まり、さまざまな試験デザインを経て卵殻の水田への利用についての研究結果がまとめられました。

 

「元々の土壌改良材は、土の中のpHを矯正する肥料として使われてきましたが、それだけでは価値が低い。そこで、さらなる可能性について研究を進めた結果、水田にまくことで卵殻カルシウムが稲に吸収されやすく、稲の生育状況がよくなることが証明されました。つまり、天候不順時でも収量が安定する効果が期待できるのです。昨年、学会で研究発表を行い、今年の4月には特許出願しました。本格的に始まるのはまだこれからですが、今年は長い梅雨と8月の猛暑という天候不順な年でしたので、試験にご協力いただいた農家さんは効果を実感できるのではないかと思います」(倉田さん)

↑研究開発本部・機能素材研究部の倉田幸治さん

 

製造工程で出る野菜の廃棄部分も有効活用

また卵と同様、実はキャベツも日本での消費量が1位の同社。キユーピーグループのキャベツ消費量は年間約3万4000トン、1日あたり約95トン、数にすると約6万5000玉にも及びます。このキャベツでも、積極的に有効活用の研究が進められています。

 

「カット野菜の製造工程で発生するキャベツの芯や外葉を、私たちは“野菜未利用部”と呼んでいます。実は商品に利用できるのは中心の柔らかい部分だけで、1玉のうち3割程度は野菜未利用部として廃棄されてきました。それを“もったいない”と感じる従業員が多く、これまで工場ごとに個別で再利用の検討もされてきましたが、2015年に野菜未利用部を有効活用するための部署『資源循環研究チーム』が研究開発本部内に結成されたのです。2017年には、未利用部の乳牛用飼料化に成功し、乳業用飼料は『ベジレージ®』という商品名で昨年から酪農家さんに販売しています」(倉田さん)

↑野菜未利用部の有効活用(例:キャベツ)

 

野菜なら、加工しなくてもそのまま家畜の餌として使えそうですが、そんな簡単な話ではなかったそうです。

 

「野菜は腐りやすいため、そのまま譲ったとしても本当に近所の農家さんに限られます。しかもすぐに使用しなければなりません。また、実はキャベツなどの葉物野菜には硝酸態窒素という成分が含まれていて、牛が大量に摂取すると体調を崩しやすいのです。そこで、安全性や嗜好性を検証するため東京農工大学と共同研究を行いました。乳酸発酵させることで、結果的に品質を安定させ、嗜好性を向上させることができるようになったのですが、乳酸発酵の研究はもちろん、飼料として与える量の基準値や保管や輸送に関する検討に多くの時間を費やしました。

↑研究の様子。加工する段階で硝酸態窒素を減らすことに成功

 

『ベジレージ®』を牛に食べさせると餌の摂取量が増え、搾乳量も多いという声を酪農家さんからいただいています」(倉田さん)

 

一見、成功事例としてこれで完結したように思えますが、課題はあるそうです。

 

「(飼料や肥料は)副産物のため、所詮ゴミだという意識を持たれる方も中にはいらっしゃいます。だからこそ、資源としての価値を多くの人たちにきちんと伝えていかなければいけないと感じています。また、現時点で野菜廃棄物ゼロを達成しているのは、一部の工場(キユーピーグループ・株式会社サラダクラブ 遠州工場など)だけです。すでに達成した工場をモデルケースとし、全工場で2021年までに30%以上、2030年までに90%以上を有効活用することを目指しています」(倉田さん)

 

SDGsにも通じる創始者の想い

このように同社では、環境面での重要課題として「資源の有効活用」に取り組んできました。これは、同社のサステナビリティに向けての重点課題の1つでもあります。そもそも同社のサステナビリティの考え方には、創始者である中島董一郎氏の「食を通じて社会に貢献したい」という想いが詰まっています。その想いは、社会貢献、CSR、サステナビリティなどと時代に合わせて呼び方こそ変わっていますが、その精神は変わらず受け継がれ、SDGsに通じるものでもあります。サステナビリティ推進部・環境チーム・チームリーダーの竹内直基さんはこう話してくれました。

 

「SDGsが国連で採択されるだいぶ前から、当社は環境、社会活動を行ってきました。環境活動としては1956年の卵殻の活用、社会活動では1960年のベルマーク活動が始まりで、その後もさまざまな取り組みを行ってきました。その根底にあるのが創始者の“食を通じて社会に貢献する”という想いです。“食を通じて”という部分では、オープンキッチン(工場見学)も他社に先駆けて行ってきました(※現在は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため見学を中止しています)。製造工場を一般の方に開放するという考えは、当時あまりなく、社内でも賛否があったようです。また、2002年からは『マヨネーズ教室(出前授業)』という食育活動を始めました。食を通じた社会貢献からもう一歩踏み込んで、“食育”というステージに入ったわけです。

↑食の大切さと楽しさを伝えるマヨネーズ教室の様子

 

こうした活動を進める中、SDGsの登場は1つのターニングポイントになったと思います。CSRや社会貢献活動は、それに携わる一部の人たちだけの活動でした。しかしSDGsによって社内はもちろんのこと、世界中で通じる、わかりやすい共通言語になったと捉えています」

 

CSR部からサステナビリティ推進部へ

17の目標が明確に示されたことで、「地球全体の課題」や「それに取り組む必要性」がイメージしやすいのは確かです。同社にとってもSDGsの登場は、サステナビリティについて改めて考えを整理し、活動が加速するきっかけになったそうです。

 

「今年、CSR部からサステナビリティ推進部へと組織体制の変更とともに部署名が変わりました。その際、改めてサステナビリティについて整理し、企業として未来を創造していくことがまず必要だと改めて考えました。しかし、『持続可能性』ですから、ただ創造するだけでなく、当社の経済性とともに、社会の経済性も考えなければいけません。つまり、事業活動を通じて、環境と社会の課題解決を目指さなければいけないということです」(竹内さん)

↑サステナビリティ推進部 環境チーム チームリーダー・竹内直基さん

 

サステナビリティに向けての重要課題

このような考えのもと、同社は以下の「4つ+1」の重要課題を掲げています。

 

・健康寿命延伸への貢献

・子どもの心と体の健康支援

・資源の有効活用と持続可能な調達

・CO₂排出削減(気候変動への対応)

+ダイバーシティの推進

↑サステナビリティに向けての重要課題の特定

 

「健康寿命延伸への貢献」では、高齢になっても元気で過ごせる社会を持続可能にするために、サラダ(野菜)と卵の栄養機能で生活習慣病予防や高齢者の低栄養状態の改善を目指します。また、スポーツジムとの協働や大学との共同調査、“食”をテーマにした講演会の開催、機能性表示食品の製造・販売などを展開。「子どもの心と体の健康支援」では、食を通じて子どもの心と体の健康を支え、未来を応援するために、オープンキッチン(工場見学)、マヨネーズ教室(出前授業)、フードバンク活動の支援ほかを実施。「CO₂排出削減(気候変動への対応)」では、原料調達から商品の使用・廃棄まで、サプライチェーン全体を通じてCO₂排出削減を進めているそうです。

 

大切なのは子どもの心と体の支援

これら重点課題については、それぞれにSDGsとの紐づけが行われています。また紐づけをしていく過程で、同社がめざす姿を実現するために「キユーピーグループ2030ビジョン」という長期ビジョンを策定し、2030年にあるべき姿がまとめられました。

 

「そのなかの1つ、『子どもの心と体の健康支援』は本当に重要だと考えます。これからの社会を担っていくのは子どもたちです。彼、彼女らがきちんと育っていかなければ、持続可能な社会の実現はありえません。ですから、子どもたちの心と体をしっかり支援していきたいと考えています。貧困問題として、3つの側面に注目しています。1つ目は『経済的な貧困』、次に『関係性の貧困』、つまり核家族が増え、子どもたちはかかわりを持つ人が減ってきていること。最後は『体験の貧困』です。先に述べたオープンキッチンやマヨネーズ教室など、そうした機会を通じて、心を豊かに育んでいく取り組みを行っています」(竹内さん)

↑「キユーピーグループ2030ビジョン」より

 

「小学生はすでに学校で教わっていますが、一般の人たちには、SDGsがまだ浸透しきれていません。食品ロスのうちおよそ半分は一般家庭が占めています。また、世界にはまだ多くの貧困の地域がありますが、遠い世界の話で他人事だと言う人も多いと思います。こうした社会課題を一般の方たちにも知っていただく活動にも力をいれていかなければと感じています」と、社会課題の啓蒙活動も重要だと竹内さん。

 

「今後は、さらに社会課題、環境課題が複雑化していき、一企業だけでは解決できない問題が増えることが予想されます。だからこそ、さまざまなステークホルダーとの対話を通じてのパートナーシップが大事だと考えています。これからは、より社外とも連携して取り組んでいきたいと思います」(竹内さん)

 

眠れない夜にやってみて! たった2分で眠りにつく米軍式テクニック

最近、Twitterでトレンド入りしたのが、「#あなたは日本人のなかでどれだけ睡眠不足か」のハッシュタグ。名前を入力するだけで、日本人のなかで自分の睡眠不足の順位がいくらか表示する診断メーカーがあり、これを試して投稿する人が急増したようです。しかし実際のところ、私たちのなかには「すぐに眠りたいのに、全然眠れない」という悩みを抱えている方も少なくないでしょう。そこで本稿では「2分で眠れる」米軍のテクニックをご紹介します。

↑わずか120秒でこんな感じに眠れるかも

 

このテクニックの出典はスプリントコーチとして有名なロイド・ウィンターの著書「Relax and Win: Championship Performance」。もともとこの技は陸軍向けに開発されたそうで、軍人は戦闘のような緊迫した状態でもしっかり睡眠をとることが求められるため、このような方法が編み出されたようです。米軍がこの睡眠方法を6週間にわたって訓練したところ、96%の確率で成功したとも言われていますが、その睡眠方法は4つのステップからなります。

 

1 目のまわりや舌、顎など、顔の筋肉を緩める。

2 左右の肩をできるだけ下げ、上腕から下腕の順に力を抜く。

3 ゆっくりを吐いて、上半身から下半身の順にリラックスさせる。

4 次の3つのいずれかをイメージしながら、10秒かけて頭の中を空っぽにする。

・静かな湖のほとりでカヌーに横たわっているイメージ

・黒のベルベッドのハンモックで寝ているイメージ

・「何も考えない、何も考えない……」と自分に言い聞かせ続ける

 

では、このテクニックの効果はどのくらいあるのでしょう? 筆者が試してみましたので、まずは個人的な経験を報告します。私は寝つきが良いほうではなく、眠れずに目が冴えてしまう夜が数多くあり、そんな夜に試してみました。その結果、ひとつひとつの手順を確認する行程が入ってしまったためか、心身ともにリラックスするには至らず、そのまま眠りに落ちることはありませんでした。

 

しかし、同じようにこのテクニックに毎日連続で挑戦したあるアメリカのメディアの記者は、4日目の挑戦で「効果を実感した」と述べています。3日目まではまったく効果がなかったのに、4日目には普段よりも早く眠りにつけたのだそう。2分で眠ることはなくても、普段より30分近く早く眠れることもあったのだとか。

 

日本人は特に試してみる価値があるかも

経済協力開発機構(OECD)が世界33か国を対象に行った調査によると、日本人の平均睡眠時間は442分(7時間22分)。中国の542分(9時間2分)、アメリカの528分(8時間48分)、フランスとイタリアの513分(8時間33分)など、他国に比べてかなり短く、33か国中最下位でした。この調査は対象年齢や調査時期が各国で異なる場合もあるため、単純に比較はできませんが、それでも日本人の睡眠時間が短いことは確かな模様。

 

しかも今年は新型コロナウイルスの影響で、仕事や生活スタイルが変わり、収入や家族のことなど悩みを抱える方も少なくないはず。不安を胸に眠れない夜を過ごすことも増えているかもしれません。睡眠不足の順位を調べる診断メーカーがトレンドになったのも、いつも睡眠不足を感じている人が多いことの表れかもしれません。

 

1回の挑戦だけで簡単に効果が得られるわけではにけれど、毎日続けていくことで、不安感を落ち着かせ、普段よりも早く眠れるようになるのかもしれません。ベッドに入ってから眠るまで1時間近くかかっていたところを30分に短縮できたら、それだけ睡眠時間を長くできます。興味のある方は、この秋に試してみてはいかがでしょうか?

 

世界各地で前進してます! 「無人走行シャトルバス」が2021年春からトロントで運行へ

人口約290万人が暮らすカナダ最大の都市トロントで、2021年春より無人走行のシャトルバスが導入されることが発表されました。8人乗りのコンパクトなシャトルバスは、これから新しい交通手段の1つになるかもしれません。

 

コンパクトなシャトルバス

↑無人運行の「Olli」

 

トロント市は10月、米自動車メーカーのローカル・モーターズと提携したことを発表。同社が手がける自動運転バス「Olli(オリ)」の実証実験をトロント市内で2021年春から開始することを明らかにしました。

 

Olliは無人運行の電気自動車で、航続距離は最大60km、時速は最大40km。大きさは長さ3.9m×横幅2.05m×高さ2.5mと、やや大きめのゴンドラ程度のようです。運転席はなく、8人まで乗車することが可能(車いすで利用することもできます)。車内アナウンスは音声や映像を使って流れます。

 

安全面については、前方と後方、左右両側に合計5つのレーダーと6つのカメラを搭載しており、360度すべての周囲を確認可能。これにより、障害物を自動でよけたり、ルート変更したりできるそうです。さらに遠隔でもモニターされて、万が一の場合に備えているのだとか。

 

トロント市では、このOlliの実証実験を6~12か月実施する予定です。期間中は、カナダでバスの運行サービスを行っているパシフィック・ウエスタン・トランスポーテーション社やトロント交通局(TTC)の職員2人が乗車し、安全な運行をサポートするとのこと。実験はウェスト・ルージュ周辺と鉄道のルージュヒル駅周辺のエリアで行われ、鉄道利用者を駅まで乗せたり、駅から自宅に帰る人が利用したりするケースが見込まれるようです。

↑近未来の通勤手段の1つになりそう

 

世界各地で導入が進む

Olliはトロント以外でも世界各地で導入が進んでいます。例えば、アメリカではワシントンDCやフロリダ、サクラメント。ほかの国ではオーストラリアやベルギーなどで利用されている実績があります。

 

しかも専用アプリを使えば、事前登録や予約、支払いもすべて簡単に行うことができるので、あとは近くの停留所でOlliを待っていればいいだけ。二酸化炭素の排出もなく、スムーズでキャッシュレスな乗り物とあって、導入された都市では好意的に受け止められているようです。

 

東京のような大都市圏では、8人乗りのバスは小型すぎるかもしれませんが、都心からやや離れた地方都市などには、このような無人走行バスのほうが向いているのかもしれません。近年、無人走行シャトルバスは日本を含む世界各地で実験されていますが、競争は激しくなりそうです。

 

 

丸ごと食べてプラ削減! 飲み物や食材の「包装」も食べられる時代に突入

ペットボトルや調味料の容器に使われるプラスチック量を削減するために、イギリスのスタートアップが「食べられる包装材」を開発しました。すでに同国ではいろいろな形で試用されており、プラスチックのごみ問題を解決する有力な手段として期待が高まっています。飲みものや調味料の包装にも使われるこのカプセル状の袋は、どうやってできているのでしょうか?

↑食べてみて!

 

ロンドンのNotpla社が開発したのが「Ooho」と名づけられた包装材。そのまま食べることができる一方、捨てた場合は4~6週間で自然に分解されるのが特徴です。

 

このOohoの原料となっているのは、フランス北部で養殖されている海藻。乾燥させた海藻を粉状にし、同社独自の方法で粘着性の液体に変化させ、これを乾燥させるとプラスチックに似た物質としてできあがるのだとか。そうすることで、なかにソース類などの調味料や飲み物を入れることができるのです。

↑びよ〜んと伸びる原材料

 

同社が使っている海藻は1日で最大1メートルも成長するうえ、養殖には肥料なども必要ないそう。原料が豊富にあることは、プラスチックに代わる材料として今後広まっていくために大きなアドバンテージとなることでしょう。

Notpla社はOohoの開発にイギリス政府から資金援助を受けており、これまでにもイギリス国内でOohoを使用する試みがいろいろ行われてきました。例えば、2019年に開催されたロンドン・マラソンでは、ランナーへ配布する飲料にこのOohoが使用され、3万個以上を配布。ランナーはカプセルごと口に入れれば水分を補給できて、廃棄する容器は一切出ません。普段なら、選手が捨てたペットボトルなどの容器が道に散乱しますが、ランナーに配布していたペットボトルを20万本も少なくすることができたそうです。

↑ロンドンマラソンで配られた飲料

 

さらに2020年には、サントリーの子会社であるルコゼード・ライビーナ・サントリーがNotplaと提携。ドリンクが入ったOohoの自動販売機を開発し、これをスポーツジムに設置して実証実験を行ったほか、さまざまなイベントでもOohoの利用を促進しているそうです。

 

Oohoを通してプラスチック使用量の削減に貢献するNotpla社では、2020年後半に生分解性の食品用容器を発表する予定。通常の段ボールなら3か月はかかるところ、新容器なら3~6週間で分解され、水と油にも強い素材でできているそうです。専門店などで調理された料理を持ち帰る中食産業などに活躍の場が広がりそうです。

 

新型コロナウイルスの影響でレストランのテイクアウトやオンラインショッピングの利用が増えるなか、使い捨て容器や包装材の需要が高まる一方で、プラスチック廃棄物も増えていることが報じられています。食べられる包装は、ごみ問題の救世主のひとつになっていくかもしれません。

 

「水中ロボット」が進歩したきっかけは「イカ」!?

近年、水中で自由に動くさまざまなロボットが開発されています。海の生態系を調査したり、海中のプラスチックを収集したり。そんな水中ロボットが水のなかで前進するためのヒントとしているのが、水のなかの生き物です。このたびアメリカで開発された時速800mの速さで泳げる水中ロボットは、イカの動きに着想を得ています。

 

空も飛べるイカのジェット推進力

↑イカ型水中ロボット

 

イカは胴体のように見える外套膜に水を吸い込み、墨を吐き出すときに使う漏斗と呼ばれる器官からその水を勢いよく吐き出して泳ぎます。この「ジェット推進力」のおかげで、イカは水中で生活する無脊椎動物のなかで最も速く泳ぐことができるのだとか。2013年に北海道大学の研究によって、イカは水面から飛び出た後もこのジェット推進を使いつつ、腕やヒレを広げて揚力を発生させて加速し、短時間、飛行さえすることも明らかになっています。

 

そんなイカの優れたジェット推進力に目を付けたのが、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チーム。水中ロボットを作るためにはロボットの材質が重要になります。硬い物質でできていると、ロボットが水中を探索するとき、ほかの魚やサンゴを傷つけてしまう可能性があり、そうであるからと言って、柔らかい材質でできたロボットは動きが遅いのが難点です。そこで研究チームは、弾力のある身体なのに水のなかを速く泳げるイカに着目。イカのようなジェット推進を真似しながら、大部分が柔らかなアクリルポリマーでできたロボットを開発したのです。

 

できあがったロボットの見た目はイカというより、むしろ提灯。円形プレートにつながった複数の骨格部分がスプリングのように伸縮し、水を取り込んで吐き出しながら前に進んでいきます。その速さは秒速18~32cmで、時速にすると約800m。下の動画を見る限り、この新作ロボットはゆっくり泳いでいるように見えますが、従来の柔らかいタイプの水中ロボットより速く進めるほうなのだとか。また、もうひとつの円形プレートには防水カメラや各種センサーを搭載することが可能。電源も搭載しているため、外部のコンセントにつなげる必要もありません。

 

 

見た目と違って、このロボットが水中を泳ぐ様子はイカとそっくり。イカの動きにヒントを得たこの新しいロボットがどれくらい海の生態系保全に貢献するのか? 注目です。

どんどん身近になる宇宙! 「チキンナゲット」も本当に宇宙飛行しちゃいました

宇宙に向けてチキンナゲットを打ち上げる——。一見、冗談かと思ってしまいますが、そんなプロジェクトがウェールズで本当に行われ、宇宙空間をさまようチキンナゲットの映像が世界に公開されました。その一方、現在NASAはSNS上で「#NASAMoonKit」というキャンペーンを実施しており、「あなたが宇宙に行くことになったら何を持って行きたいか?」というテーマで投稿を募集中。世界中で宇宙ネタが盛り上がっています。

 

気象観測用の気球でナゲットが宇宙へ

↑こんなチキンナゲットは見たことがない

 

チキンナゲットを宇宙に飛ばすプロジェクトを企画したのは、イギリスのスーパーマーケット「アイスランド・フーズ」。創業50周年を祝うイベントとして、創業当時から人々に愛されているチキンナゲットを宇宙に打ち上げることにしたそうです。

 

方法はとってもシンプル。気象観測用の気球にチキンナゲットとカメラをくくりつけるだけ。こうして、ウェールズにあるアイスランド・フーズ本社の敷地から気球が飛び立ちました。

 

公開された動画を見ると、チキンナゲットはぐんぐん上昇し、やがて上空33.5キロメートルの成層圏に到達。およそマイナス65度の宇宙空間で1時間の飛行を行い、その後地上までパラシュートで帰還しました。

 

青く輝く地球を背景に、チキンナゲットが宇宙空間をただよう様子はなんともシュール。おかしいプロジェクトですが、話題性はピカイチ。おかげでアイスランド・フーズの名前が世界中に知れ渡ることになりました。

ちなみに、アイスランド・フーズがこのプロジェクトで提携した宇宙関連のマーケティングを行う企業Sent into Spaceは、これまでにディズニー映画「トイ・ストーリー」のキャラクター人形や食べ物のパイを宇宙に打ち上げる企画などを行っており、いずれも大きな話題を呼んだそうです。

 

宇宙飛行士の持ち物は小サイズ、何を持って行きたい?

では、チキンナゲットではなく、いつか自分が宇宙に行くことになったら何を持っていきたいですか? チキンナゲットよりはるかに前から宇宙に行っているNASAは現在、アルテミス計画の一環として予定されるグリーン・ラン試験を前に、宇宙に何を持って行きたいかSNSで呼びかける「#NASAMoonKit」キャンペーンを行っています。

 

NASAによると、宇宙飛行士が私物として持ち込める荷物の大きさは12.7× 20.32×5.08cm。A4のおよそ半分程度で、厚さ5センチメートルのサイズです。持ち込める荷物はかなり限られそうですが、#NASAMoonKitのタグを付けた世界中の投稿を見てみると、チョコレート、本、ヘッドホン、マスク、望遠鏡、お気に入りのぬいぐるみなど、思い思いのアイテムが並んでいました。もしNASAの目にとまったら、NASAのSNSでシェアされる可能性もあるのだそう。

 

これまでに、ローソンの「からあげクン」や「亀田の柿の種」など、数多くの身近な食べ物が宇宙食となっています。 月旅行に気軽に行けるようになれば、宇宙に行った食べ物ももっと増えていきそうですね。

 

【関連記事】

宇宙でも広がる”和食”。宇宙食に認定された身近な日本食とは?

 

【アフリカ現地リポート】withコロナで人々の生活はこう変わった――ガーナ、ルワンダ、コンゴ民主共和国

「ウイルスの感染拡大で自分たちの生活がこれほど変わってしまうとは……」

新型コロナウイルス(COVID-19)による緊急事態宣言からの外出自粛やマスク生活などを経験して、このように思った人は多いのではないでしょうか。現在も世界各国で感染を広げ続けている新型コロナウイルスは、日本だけでなく世界中の人々の生活を一変させています。

↑手洗い指導を受けるルワンダの小学生たち

 

たとえば、先進諸国と比べて報道される機会が少ない途上国。なかでも9月に入って感染者数が110万人を越えたアフリカ大陸では、どんな影響や生活の変化があるのでしょうか。コロナ禍以前から日本にあまり情報が入ってきていない分、想像できない面が多くあります。そこで今回は、ガーナ共和国、ルワンダ共和国、コンゴ民主共和国の3カ国で活動を行っているJICA(独立行政法人 国際協力機構)職員や現地ナショナルスタッフを取材。果たして現地の状況は? また人々の生活にどういう変化が起こっているのでしょうか。

 

【ガーナ共和国】コロナ対策への貢献で野口記念医学研究所が一躍有名に

 

↑ガーナの首都・アクラの風景

 

ガーナ共和国は大西洋に面した西アフリカの国で、面積は本州より少しだけ大きく、人口は2900万人弱。日本では「ガーナといえばチョコレート」を思い浮かべる人も多いでしょうが、実際、今でもカカオ豆は主要産品です。また、ダイヤモンドや金などの鉱物資源も豊富なうえ、近年は沖合の油田開発が始まり、経済成長も急速に進んでいます。

 

そんなガーナで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは3月12日。その10日後に国境を封鎖し、さらに1週間後に大きな都市だけロックダウンするという迅速な対策が実施されました。ただし、日用品の買い物はOKで、不要不急の外出は禁止という程度の制限でした。ところが、結局3週間でロックダウンは解除。感染者が減ったからではなく、人々の生活が成り立たなくなってしまうという経済的な事情と、ロックダウン中に検査や治療の態勢がある程度、各地で整ったという背景があるようです。

 

その後も感染者は増え続け、6~7月は1日の確認数が千人を越えた日も。7月頭には累計2万人を越えました。それでもロックダウンはされることはなかったのですが、6月末をピークに現在はかなり減ってきています。この理由について、JICAガーナ事務所で日本人として現地に残っている小澤真紀次長は、「新規感染者が減っている理由はよくわかっておらず、私たちも研究結果を待っているところです」と言います。

 

コロナ以前にくらべ、人々の衛生意識に着実な変化が

JICA事務所で働くガーナ人スタッフに話を聞くと、「公共バスは混雑していてソーシャルディスタンスもとりづらい状況なので、自分は極力利用しないようにしています。街中を見ると、市場では売り手のほとんどがマスクを着用していますが、定期的に手を洗ったり、消毒剤を使用したりといった他の予防策はあまりとられていません」と、それほどコロナ対策が徹底されていないと感じているようです。

↑ガーナではもっとも安価な交通機関として人気の乗合バス「トロトロ」の車内。コロナ対策としてマスクの着用と席間を空けることが義務づけられている

 

一方、別のスタッフは、「多くのガーナ人は手洗いや消毒など衛生面の重要性を以前より意識するようになりました。天然ハーブを使って免疫力を高めようとしている人もいます。マスクについても、ほとんどの人が家を出るときにマスクを持っていますが、正しく着用している人は少ないです。呼吸がしづらいという理由で、アゴにかけたり、鼻を覆っていなかったりする人も多いです」と教えてくれました。日本と違ってやはりマスクに慣れている人が少ないことが窺えます。

 

生活面に関しては、「生活は日常に戻りつつありますが、ソーシャルディスタンスのルールを守っている人は少ないです。大きなスーパーマーケットやレストランではコロナ対策のルールをしっかりと守っていますが、小規模の店では徹底しきれていないと感じます。また、ほとんどの学校はオンライン教育を行なう手段を持っていないので、子供たちが学校に行けなくてストレスを感じています」と言います。そんななか、以前から行なわれていたJICAの取り組みが意外な形でコロナ対策に役立っています。

 

「JICAでは以前から現地の中小企業の製造プロセスにおける無駄をなくすため、カイゼン活動を紹介するなど、民間に対する協力をしていました。その中に布マスクを作っている縫製会社もあり、増産していただくことになったのです」(小澤さん)

 

ガーナ国内では、マスクの着用が義務付けられて以来、さまざまな業者や個人で仕立て屋を営む女性たちがマスクの製造を始め、街中でマスクを売る人も増えました。布マスクが100円しないぐらいで買える(紙マスクとあまり変わらない価格)ので、マスクの普及も一気に進んだそうです。小澤さんも「最近は服を仕立てるのと同じ布でマスクもセットで作ってくれたりします」と、コロナ禍でも新たな楽しみを見出していると言います。

↑アフリカならではのカラフルな色使いが特徴の布マスク

 

そして、コロナ禍でひと際クローズアップされるようになったのが日本の国際協力です。なぜなら、1979年に日本の協力で設立された「野口記念医学研究所(以降、野口研)」が、感染のピーク時には、ガーナ国内のPCR検査の8割程度を担ってきたからです。当研究所の貢献は毎日のように報道され、「今は知らない人が1人もいないぐらい有名になっています」(小澤さん)とのこと。ガーナでは「日本といえば野口研」というイメージになった模様です。もちろん「野口」というのは、黄熱病の研究中に自らも黄熱病に感染し、1928年にガーナで亡くなった野口英世博士のことです。

↑野口記念医学研究所のBSLラボでの検査の様子。PCR検査だけでなく、これまでも多くの研究成果をあげてきた

 

この野口研に対しては、以前からJICAが資金、人材、設備などさまざまな面で協力を続けています。コロナ前から長い時間をかけて積み上げてきた協力が、この災禍の中で大きな成果をあげているというのは、同じ日本人として誇らしいことですね。

 

【教えてくれた人】

JICAガーナ事務所・小澤真紀次長

大学時代に訪れた、南西アジアにおける村落開発に興味を覚え、2002年に旧国際協力事業団(現JICA)に入構。2017年に保健担当所員としてガーナ事務所に着任し、2018年秋より事業担当次長を務める。ガーナ駐在は2006年に続いて2度目。趣味のコーラスはガーナでも継続しているが、コロナ流行で中断中。代わりにパン焼きを始めた。山梨県出身。

 

【ルワンダ共和国】コロナ禍で若者や現地スタッフが大きな力に

 

次に紹介するのは、東アフリカの内陸国、ルワンダ共和国。面積は四国の1.4倍ほどで、人口は1230万人。アフリカでもっとも人口密度が高い国と言われています。1980~90年代には紛争や虐殺もありましたが、21世紀に入って近代化が進み、近年はIT産業の発展にも力を入れているそうです。

↑ルワンダの首都・キガリの街並み

 

「資源の少ない内陸の小国なので、教育を通じて人間力を高め、それを経済発展につなげていこうと考えているようです。そこは日本とも共通しますね」。こう話を切り出したのは、JICAルワンダ事務所の丸尾信所長です。

 

ルワンダで最初に新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは3月14日で、その1週間後には強力なロックダウンが施行されました。国境はもちろん、州を越えた移動も物流以外は制限され、市内でも食料など生活必需品の買い物以外は基本的に外出禁止。もちろん外出中はマスクの着用が必須。街角には警官が立ち、ルールを守らない人を取り締まりました。ルワンダでは政府の力が強く、早い段階で強硬なコロナ対策が徹底されたのです。そうしたロックダウンが2カ月近く続き、解除された後も夜間の外出禁止や学校の休校は続いています。また感染者が多い地域やクラスターが発生した街は、その都度、部分的なロックダウンが行なわれているようです。

↑ソーシャルディスタンスを取って店頭に並ぶ人々。多くの人がマスクを着用している

 

感染予防対策に関して、行政の指導によってかなり浸透してきましたが、アフリカならではの共通した課題もあります。それは、地方では家の中まで水道管がつながっていない家庭のほうが多いこと。井戸や共同水洗まで水を汲みに行って生活用水にしているので、日本のように頻繁に手を洗う習慣はありません。そのためコロナ対策として、街中のあちこちに簡易な手洗い器が設置されるようになりました。

↑街中ではこのような簡易手洗い施設が各所に設置されるように。手の洗い方を写真入りで示したガイドが貼られ、石けんも置かれている

 

実際の生活について、JICA事務所のルワンダ人スタッフにも聞いてみました。

 

「COVID-19によって在宅勤務をする人はかなり増えました。 私も必要に応じて在宅勤務とオフィス勤務を使い分けていますが、ネットの接続が途切れることが多いため、在宅勤務はあまり効率的ではありません」

 

日本の家庭では光ファイバーなどの有線回線も普及していますが、ルワンダをはじめとするアフリカ諸国では携帯電話の電波を使った接続が主流です。そのため、回線状態が安定せずに苦労することも多いのだとか。

 

一方、「バスの駐車場、市場や公共の場所などでは、ベストを着たボランティアの若者の姿をよく見ます。彼らは、市民がマスクを適切に着用することや、公共の場所に入る前に石鹸あるいは液体消毒剤で手を洗うように促しています」と話してくれたスタッフも。

 

丸尾さんの印象では、ルワンダ国民はお互いに助け合う意識が強く、それを若い世代もしっかりと受け継いでいるようです。

 

IT立国を目指すルワンダならではのユニークな対策

ルワンダならではの特徴的な対策として、ドローンをはじめとする最先端IT技術の活用が挙げられます。たとえば、ドローンに拡声器を取りつけて市中に飛ばし、COVID-19の予防措置について住民に呼びかける活動などが行われています。また、アメリカ発の「Zipline」というスタートアップが実施する飛行機型ドローンで血液や医薬品を輸送するという事業は、コロナ禍以前から続けられています。ルワンダでの運用経験を生かして、COVID-19検体の輸送にも利用するようになった国もあるそうです。「ルワンダでドローンが積極的に利用されるのは、この国の道路事情も関わっている」のだと丸尾さん。

 

「山がちな国土のうえ、地方では道路整備が進んでおらず未舗装路が多いんです。しかも、雨が降ると坂道に水が流れてさらに凸凹になり、走行に支障をきたします。しかしドローンを使うことで、自動車だと3時間ぐらいかかっていた場所でも10分ぐらいで血液を届けられるようになったという話を聞きました」

 

他にも、1分間に何百人も非接触で検温をしたり、医療従事者の患者との接触を減らすために入院患者に食事を配膳したりするロボットが空港や病院で使われるなど、試験的にではなく実用として先端技術が生かされています。そこにも日本の技術が数多く生かされているのです。

↑空港で実際に使用されているロボット。「AKAZUBA(ルワンダのローカル言語でSunshineの意味)」と名付けられている

 

現在は、万一新型コロナウイルスに感染し、重症化した場合を懸念して、各国に駐在するJICA日本人スタッフや専門家はほとんど帰国しています。にも関わらず、ルワンダでは以前から進行中のプロジェクトが中断されている事例はひとつもないそうです。

 

「たしかに日本人の専門家が現場に行って直接指示を出せないのは大きな障害ですが、以前からプロジェクトに携わってきた現地スタッフに、日本からリモートで連絡をとりながら事業を進めてもらうというやり方が、試行錯誤しながら成果を挙げてきています。経験があって能力も高い現地スタッフが多く、彼らの活躍によって思った以上にプロジェクトが継続できています」(丸尾さん)

 

これも、日本やJICAが長年にわたって地道に支援を続けてきた成果と言えるかもしれません。

 

【教えてくれた人】

JICAルワンダ事務所・丸尾 信所長

2009~2013年にルワンダの隣国タンザニアのJICA事務所に在任中、ルワンダ・タンザニア国境の橋梁と国境施設建設案件を担当。以来ルワンダ事業に関わる。ルワンダ政府の方針に寄り沿い、周辺国との連結性強化の取り組みも支援している。赤道近くながらも、標高1000mを超える高原地帯にあるルワンダの冷涼な気候がお気に入り。2019年2月より現職。

 

【コンゴ民主共和国】「感染症の宝庫」ならではのコロナ事情とは

 

「コンゴ」という名が付く国が2つあることは、日本ではあまり知られていません。今回紹介する「コンゴ民主共和国」は1997年に「ザイール」から改称した国で(以下、コンゴと省略)、その西側に隣接するのが「コンゴ共和国」です。コンゴ民主共和国は、日本のおよそ6倍、西ヨーロッパ全体に相当する面積を持ち、人口は約8400万人。アフリカ大陸ではアルジェリアに次いで2番目に大きな国です。鉱物資源が豊富で、耕作可能面積も広大なので非常に大きな開発ポテンシャルを持っていますが、その一方で、国内紛争が長く続いていて、マラリアやエボラ出血熱などの感染症死亡者も多く、アフリカにおける最貧国のひとつとも言われています。

↑コンゴ民主共和国の首都・キンシャサは、人口1300万人以上というアフリカ最大の都市

 

今回、JICAコンゴ民主共和国事務所の柴田和直所長に同国の詳しい情報を伺ったのですが、中には日本に住む我々には想像できないような話もありました。たとえば、コンゴには26の州がありますが、国土の西端近くにある首都キンシャサから自動車だけで行ける州は3つ。全国的な道路整備が進んでおらず、その他の州に行くには、飛行機に乗るか船で川を進んでいくしかないとのこと。

 

「だから国全体を統治することが難しく、東部で続いている紛争を止めるのも困難な状況です。資源国でありながら、経済発展がなかなか進まないんです」(柴田さん)と、広大な国土を持つコンゴならではの難しさを指摘します。

 

そんなコンゴのもうひとつの特徴は、新型コロナウイルス以前から感染症が非常に多いことです。エボラ出血熱の発祥地でもあり、これまで10回にわたるエボラの封じ込めを行ってきました。感染症関連の死因でもっとも多いのはマラリアで、今年もすでに8千人以上(※見込み値)が亡くなっています。その他にもコレラ、黄熱病、麻疹(はしか)などでも死者が出ており、中には、日本では予防接種をすれば問題ないとされる、はしかで亡くなる子どもも。

 

コンゴで新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは3月10日で、2日後には国の対応組織が作られました。そして3月21日に国境が封鎖され、飛行機は国際線も国内線も運行停止に。3月26日には、首都キンシャサの中心部、政治・経済の中枢となっているゴンベ地区がロックダウンされ、他の国と同様のさまざまな制限が設けられました。こうした迅速な対応ができたのは、国として感染症の恐さもよくわかっていて、なおかつ専門家も多いからと言えます。一方で、「首都でこれだけ厳しい対策がしかれ、大きな影響が出ているのは、私の知るかぎりは初めて」(柴田さん)という言葉から、新型コロナウイルスの脅威の大きさが窺えます。

↑コロナ禍以前のキンシャサの市場。今は混雑もかなり緩和されているが、ソーシャルディスタンスを確保するのは難しいそうだ

 

JICA事務所のコンゴ人スタッフも「移動の制限が生活をとても困難にしています。それが商品不足の不安を引き起こして買いだめにもつながり、物価が高騰して国民の生活を非常に苦しくしています」と厳しい現状を伝えてくれました。

 

現在はロックダウンを解除しているコンゴ。小規模な小売店をはじめ、その日その日の収入で生活している人が多いため、外出禁止にすると食べ物を得る糧を失ってしまう人が多く、外国人や富裕層が多いゴンベ地区以外は制限を緩めて経済活動を継続せざるをえないという事情があるからです。他の感染症に比べて死亡率が低く、感染しても無症状で終わることが多い新型コロナウイルスで、これほどの経済的苦難を強いられるのは納得がいかないなどの理由から、コロナの存在自体を否定するフェイクニュースが出たりすることもあるようです。

 

日本の貢献が光る、コンゴでのコロナ対策

そんなコンゴでも、コロナ禍で日本の存在感が大きくなっています。ガーナでの野口記念医学研究所と同様の役割を持つ「国立生物医学研究所(INRB)」は日本が継続的に協力している機関で、コンゴではPCR検査の9割以上をINRBがまかなっています。また、日本が設立した看護師、助産師、歯科技工士などの人材を育成する学校「INPESS」は、国のコロナ対策委員会の本部や会議室として使用されています。

↑日本が建設したINRBの新施設

 

コンゴ医学界の要人との絆もより強固になっています。70年代にエボラウイルスを発見したチームの一員で、2019年に第3回野口英世アフリカ賞を受賞したジャン=ジャック・ムエンベ・タムフム博士は、INRBの所長を務め、JICAとの関係も深い人物。国民の信頼も厚く、現在はコロナ対策の専門家委員会の委員長も務めていて、日々国民の感染対策への意識を啓発しています。

↑ムエンベ博士(中央)と柴田所長(左)。右の女性は、JICAを通じて北海道大学へ留学した経験があるINRBスタッフ

 

「私たちが一緒に働いているコンゴの人たちは本当に真面目で、この国を良くしたいと毎日頑張っています。陽気で楽しい人たちでもあります。今回はお伝えできなかったですが、とても豊かで魅力的な文化や自然もあります」と柴田さん。最後にコンゴへの思いを熱く語ってくれました。

 

コンゴに限らず、アフリカの人たちはとても芯が強く、苦しい生活の中でも明るさを失っていないと、小澤さんも丸尾さんも柴田さんも口を揃えています。コロナ禍にあっても決して折れない心。それは日本の我々にとっても大きな希望となるように感じました。

 

【教えてくれた人】

JICAコンゴ民主共和国事務所・柴田和直所長

1994年よりJICA勤務。2018年3月より2度目のコンゴ駐在。過去2か国で4回のエボラ流行対策支援に関わり、コロナ対策支援も現地で奮闘中。趣味は旅行、音楽鑑賞・演奏などで、コロナ流行前は、コンゴ音楽のライブやキンシャサの観光名所巡りを楽しんでいた。

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【関連リンク】

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猫と仲良くなれる「超シンプルな方法」が研究で明らかに

動物と仲良くなるためには、警戒心を解いて信頼できる相手だと認めてもらうことが大切。相手が猫の場合、たくさん触れ合ったり、匂いを交換しあったり、猫と仲良くなるコツはいろいろあります。そのなかには、まばたきもありますが、これは猫の飼い主が経験的に知っているだけで、科学的に本当かどうかは検証されていませんでした。しかし最近、イギリスの研究グループによって、それが真実であることが判明しました。

↑まばたきしてニャ

 

イギリスのポーツマス大学とサセックス大学の共同研究チームは2つの実験を行いました。1つ目は、14世帯で飼われている21匹の猫(10匹がオス、11匹がメス、猫の年齢は0.45~16歳)を使って実施。猫が落ち着いたときに、飼い主は1メートル離れた場所に座り、ゆっくりまばたきします。研究チームはそのときの猫の様子を観察しました。2つ目の実験では、8世帯の猫24匹(オスとメスは各12匹、年齢は1~17歳)を対象に、飼い主以外の知らない人物に対して猫がどう反応するか確認しました。

 

その結果、1つ目の実験では、飼い主が何もせずに部屋にいるときに比べて、飼っている猫に向かってゆっくりまばたきすると、猫も同じようにまばたきをし返すことが判明。また2つ目の実験では、知らない相手であっても無表情なままでいるより、まばたきをすると、猫もまばたきをし返すことがわかったのです。しかも、猫はまばたきをした人のほうに近寄ることが多かったそう。この2つの実験の結果、まばたきが猫とのコミュニケーション方法として有効であることが明らかになったのです。

猫はまばたきで愛情を表現するなどと言われるのは、よく知られていること。しかしこれは、猫を飼っている人たちの間で経験則でわかってきたことで、今回のように人間と猫の間のまばたきによるコミュニケーションを実験で確認したのは、初めてのことなんだとか。

 

猫と仲良くなれるまばたきの方法

↑どんな猫にも通用する法則?

 

では、猫と信頼関係を築いて仲良くなるためには、具体的にどうまばたきすればいいでしょうか。この実験を指導した教授によると、ゆっくりと微笑むように目を細め、数秒間目を閉じるだけ。すると猫もそれに続いて、同じようにまばたきするはずなのだとか。これは飼い猫でも、道端にいる猫でも、コミュニケーション方法として使えるそうです。

 

ちなみに、猫がこのコミュニケーション方法を身に着けた理由については、さまざまな説があるそう。人間がゆっくりとまばたきした行為をポジティブなことと受け取ったことで、猫も同じようにゆっくりまばたきするように真似した可能性があるほか、凝視を遮断させるための方法として生まれたという説もあるようです。

 

猫との信頼関係をもっと深めたいときは、このまばたきコミュニケーションを取り入れてみてはいかがでしょうか?

 

【出典/参考】

Humphrey, T., Proops, L., Forman, J. et al. The role of cat eye narrowing movements in cat–human communication. Sci Rep 10, 16503 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-73426-0 

クレア・ベサント(2014)「ネコ学入門:猫言語・幼猫体験・尿スプレー」築地書館