海面温度を下げちゃえばいい! 「台風」の発生を防ぐ「泡のカーテン」が開発中

台風やハリケーンは世界各地に大きな被害をもたらすことがありますが、それらの勢いを人工的に抑えることはできるのでしょうか? この問題に取り組んでいるのが、ノルウェーのあるスタートアップ。伝統的な技術を”アップデート”して、海にカーテンを設置するそうです。どんな技術なのか見てみましょう。

↑噂の「泡のカーテン」(画像出典: OceanTherm公式サイト)

 

熱帯低気圧は、暖かい海の上で冷たい空気と温かい空気がぶつかると台風やハリケーンに変化します。このとき海面温度が26.5℃以上になると、台風やハリケーンはそこからエネルギーを得て、勢力を増していきます。

 

ノルウェーのスタートアップOceanTherm社はこのメカニズムに注目し、海面温度を下げる方法を考案しました。海面温度が高いときに、水深の深い場所から冷たい海水を運び、海面付近の温かい海水と混ぜて、26.5℃以下になるようにコントロールするというもの。海面温度が高くなりすぎないように海をコントロールすることができれば、勢力の強い台風やハリケーンが発生しにくくなるというのがコンセプトです。

 

これを具体的に行うのが、「バブルカーテン」の利用。まず海にパイプを設置し、そこから圧縮した空気を海中に送ります。すると海中に無数の泡が生じ、これが海面まで上昇。やがて下から上に向かって海水の流れができ、深い場所にあった冷たい海水が海面付近の温かい海水と混ざり、海面温度を下げられるのです。長さ1500メートルのパイプを船に付け、必要な場所で泡のカーテンを作れるようにしており、大量の泡が発生する様子から「バブルカーテン」と名づけられたそうです。

 

ノルウェーでは冬に、氷河の浸食で形成されるフィヨルドが凍るのを防ぐため、50年も前から海面温度を高くする技術が使われており、バブルカーテンはそれを応用した技術なのです。

 

OceanTherm社がノルウェー産業科学技術研究所(SINTEF)と共同で行った実験で、バブルカーテンによって水深50メートルの海水を海面まで運び、海面温度を0.5℃下げることができたそう。0.5℃では、まだわずかな変化にすぎないため、今後は水深を150~200メートルまで深くして実験を行う予定とのことです。

 

ビル・ゲイツも注目していたけど……

一説によると、今回の技術は特別新しいものではないのだそう。マイクロソフト社の共同創業者、ビル・ゲイツらは2009年にハリケーンの勢力を弱める技術を開発し、特許を申請していましたが、その後、この技術は進展がなかったとみられています。

 

バブルカーテンは気候工学(または地球工学)の一種とも見れますが、気候工学は地球規模で長期的に影響を与えるため、否定的な考えが多くみられてきたのが事実。バブルカーテンも技術的かつ経済的な面で実現できるか不透明な部分があり、さらに干ばつを引き起こすことや海洋環境へ影響をもたらす可能性があることも指摘されています。

 

しかし、地球温暖化などにより各地にさまざまな被害が起き、環境問題が年々深刻化するなかで、気候工学は「最後の切り札になる可能性もある」とも言われています。バブルカーテンも同じような視点で考えるべきかもしれません。この古くて新しいノルウェーの技術がどこまで発展するか注目です。

嗅覚だけでなく視覚も! 米軍が「軍用犬向けARゴーグル」を開発中

目の前の景色に文字や音声ガイド、CGなどを重ねて表示することができるARゴーグル。ゲーム業界やエンターテイメント業界で活用が進んでいますが、最近ではアメリカの陸軍で軍用犬にARゴーグルを開発しているということが明らかとなりました。犬までARゴーグルを装着する日がやってくるのでしょうか?

↑ARゴーグルをかける軍用犬

 

ARゴーグルはエンターテイメントの分野でよく使われている技術と思われるかもしれませんが、それだけに限りません。例えば、技術者や作業者への指示やサポートをARゴーグル上で行い、作業の効率化を図ったり、人材不足を補ったりする働きもあります。アメリカ陸軍はそれと同じような目的で軍用犬向けのARゴーグルを開発しているのです。

 

米軍では2019年、過激派組織ISISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者を殺害しました。この作戦で、バグダディ容疑者が自爆ベストを着用しているとみられたことから、送り込まれたのが複数の軍用犬でした。その後、バグダディ容疑者は3人の子どもたちと一緒に自爆しましたが、軍用犬は負傷するだけで済んだそうです。

↑どんな情報が見えている?

 

このように、軍用犬は地雷や爆弾のような危険物があるエリアでの偵察、救援活動などで活躍します。最近、米軍では軍用犬に直接指示を伝える犬用のイヤホンも開発したとも言われていますが、音声の指示だけで軍用犬を適格に動かすことは難しい場合もあるでしょう。そこで、そのような技術の発展系として現在、ARゴーグルの開発が進んでいるのです。

 

犬の視線をトレーナーが確認して指示

Forbesの報道によると、開発を行っているのはシアトルを拠点とするCommand Sight社。小型の高解像度カメラが内蔵されたARゴーグルは犬の視線をトレーナーに送信し、それによってトレーナーは犬が見ている景色を遠隔で確認することができるようです。また、このゴーグルは左右に動くマークを犬の視界に表示させる機能も持ち、そのポイントを固定させて犬に指示を出すこともできるそう。

↑ARゴーグルはつけ忘れた?

 

このARゴーグルを使った訓練を行うためには、このデバイスに犬だけではなくトレーナーも慣れる必要がありますが、もし効果的に使えるようになれば、実際の特殊作戦が行われる夜間などの環境下での指示出しが容易になると見られています。

 

ただし、現段階では実用化までにはさまざまな課題があるようです。犬のARゴーグルとPCをケーブルで接続させる必要があったり、小型化と無線送信機を装着する必要もあったり。しかし今後さらなる技術開発が進めば、軍用犬のトレーニングでARゴーグルを使うことも当たり前になるかもしれません。

 

「夜更かし投稿」は怒りが原因? トランプ大統領のTwitterを米研究者らが分析

従来のメディアを通さず、Twitterで自ら情報を発信するアメリカのトランプ大統領。1日の投稿回数が多く、過激な内容が含まれているときもあり、大手メディアでも盛んに取り上げられていますが、Twitterの投稿からトランプ大統領について何かわかるのでしょうか? 最近、コロンビア大学の研究者たちがトランプ大統領の投稿について分析を行い、政治活動への影響を検証したので、その結果をご紹介しましょう。

 

就任当初に比べて深夜の投稿が3倍増加

研究者たちは、トランプ大統領が就任した直後の2017年1月24日から2020年4月10日までの期間、大統領が滞在していた場所の現地時間で投稿時間帯について分析しました。その結果、朝の投稿は午前6時台から始まり、午前8時頃には1時間に1ツイートとなり、その後は2~3時間に1度のペースで投稿。これが深夜12時頃まで続きます。これまでの約3年間で、朝の投稿は必ず6時台から始まるのに対して、深夜の投稿については就任当初より現在のほうが大幅に増加していました。午後11時〜午前2時の投稿頻度は2017年が週に1度未満だったのに、2020年は週3日以上と317%にもなっているのです。

↑トランプ大統領のツイート概日周期。上のデータは0:00〜23:30までの平均投稿数(30分毎)、下は22:00~翌7:00。

 

このデータによれば、朝は6時ごろに起床する大統領のスケジュールは変わっていないのに、就寝時間は現在のほうがずっと遅くなっている可能性があるのです。激務のせいか、SNSのせいか、はたまたほかの原因か、就寝時間が遅くなった理由は明らかではありません。

 

怒りに駆られている?

これと似た研究は過去にも行われています。NBA選手のSNS利用と試合でのパフォーマンスの関連性について調べた論文では、深夜にツイートした翌日はシュートの精度や得点などのパフォーマンスが低かったという結果が出ていました。

 

睡眠時間が少なくなると、翌日の行動にさまざまな影響をもたらすことが予想されます。それと同じように、トランプ大統領も深夜までSNSを行っていると仮定した場合、睡眠時間が減ったら、翌日の仕事に影響は出ないのでしょうか?

 

そこで研究チームは、大統領就任以降のおよそ1万1000の投稿内容と大統領が行ったスピーチやインタビューの内容についても収集し、使われた言葉を分析しました。すると、深夜にツイートを行った翌日には、幸福感と比べて怒りの感情が3倍近く大きくなっていることが推測されるようです。しかし、ここからではトランプ大統領の仕事ぶりを判断することはできません。

 

SNSを始めると、夢中になってついつい夜更かしをしがち。でも睡眠時間が削られれば、翌日の体調が悪くなることは、誰もが実体験で学んでいることでしょう。アメリカの大統領選挙まで残り数週間となり、トランプ大統領の投稿頻度がますます上がっていますが、それが選挙戦にどう影響するのかにも注目です。

 

【参考】Almond, D. & Du, X. (2020). Later bedtimes predict President Trump’s performance. Economics Letters, 197. https://doi.org/10.1016/j.econlet.2020.109590.

【世界手洗いの日】日本発の「正しい手洗い漫画」が世界へ――途上国での感染症予防に新たなアプローチ、その制作背景に迫る!

毎年10月15日は「世界手洗いの日」。不衛生な環境や水道設備の不足により感染症にかかるリスクの高い途上国の子どもたちにも、予防のための「正しい手洗い」を普及したいと、2008年にUNICEF(国際連合児童基金)などによって定められました。

 

石鹸を使った正しい手洗いは、感染症から身を守る、最もシンプルな“ワクチン”ともいわれています。特に今年は新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない状況のなか、「手洗い」への関心が世界的に高まっています。

 

この機会に途上国の子どもたちに広く手洗いについて知ってもらおうと、漫画を使った取り組みが行われています。これはJICA(独立行政法人国際協力機構)が世界手洗いの日にあわせて実施する「健康と命のための手洗い運動」キャンペーンの一環で、漫画は翻訳され、世界各国の関連施設や現地の小学校へ配布されるほか、漫画を動画化してテレビCMやYouTubeで配信するなど多角的に展開されます。

この「手洗い漫画」を描いたのは、国際協力やジェンダー問題などをテーマに取材漫画家として活動する井上きみどりさん。制作過程では、途上国特有の手洗い事情への配慮はもちろん、技術的な側面でも新しい発見が多かったとか。そうした裏話を含め、井上さんに制作の背景や国際協力に対する想いなどをうかがいました!

<この方に聞きました>

井上 きみどり(いのうえ きみどり)

仙台在住の取材漫画家。与えられたテーマで描くより、自身が本当に描きたい「震災」「ジェンダー問題」「国際協力」等に注力したいという思いから取材漫画家として活動をスタート。2020年4月には「「コロナを『災害』として見る場合の災害時に子どものメンタルを守るために気をつけたいこと」と題した漫画を自身のSNS上で発表し、JICAの協力で33言語に翻訳され世界中で話題となる。仙台での震災の経験から、【震災10年】の作品制作活動にも取り組んでいる。「自由な場で自由に描く」が方針。

https://kimidori-inoue.com/bookcafe/

 

きっかけはコロナ下で大きな話題となった子どものメンタルケア漫画

――今回の手洗い漫画は世界展開を前提にしたものですが、井上さんが4月に発表された漫画「【コロナを『災害』として見る場合の】災害時に子どものメンタルを守るために気をつけたいこと」も、翻訳されて世界的な広がりを見せるなど話題になっていましたよね。

↑井上さんが自身のブログに掲載した日本語版(左)。タイ語版(右)に翻訳された後、33言語に翻訳され世界的に広がった

 

井上きみどりさん(以下、井上):あの漫画は当初、個人的に自分のブログにアップしただけだったのですが、以前に別のプロジェクトでお世話になったJICAタイ事務所の職員の方が見つけてくれて、「タイ語版にさせてほしい!」と連絡をくださったんです。その後はもう、私の手を離れ、漫画がひとり歩きしていった感じでした。そういった縁もあって、今回JICAさんからお声がけいただいたのだと思います。

 

――そのほか、アフガニスタンの女性警察官支援に関する漫画など、国際協力をテーマにした作品も多く描かれています。こうした分野にはもともと興味があったのでしょうか?

 

井上:以前は出版社の商業誌で育児漫画を描いていたのですが、その頃から国際協力に興味があったんです。「育児」というのは編集長から与えられたテーマでしたが、次第にジェンダー問題や途上国の事情について自分自身で取材して描いてみたいという気持ちが大きくなりました。でも、どうアクションしたらよいかわからず……。

それでグローバルフェスタJAPAN(※)の会場に押しかけたんです、「私に描かせてください!」って。ザンビアのHIV予防プロジェクトに自費で同行取材したことも。押しかけ女房状態ですよ(笑)。

 

※国際協力にかかわる政府機関、NGO、企業などが一同に集まり、世界のことをもっと知ってもらうことを目的とした展示やステージを行うイベント。毎年、「国際協力の日」の10月6日前後の週末に行われている

 

――熱意がすごい! それがいつの間にか、JICAさんのほうから今回のような企画依頼がくるようになったんですね。

 

井上:本当にうれしく思っています。

 

日本とは異なる手洗い事情――途上国に向けて描くなかで得られた気づき

――制作にあたって苦労された点などはありますか?

 

井上:これまでは、例えば途上国での取り組みを日本の読者に紹介するなど、当事者の話を当事者ではない方に向けて描くことが多かったのですが、今回は届ける先が途上国の方自身だったので、そこはまた違った難しさもありました。

あとは、漫画は「会話劇」なので、伝えるべきことをどう会話に落とし込んでいくかは毎回山場になりますね。今回は「手洗い」とはっきりシーンが絞られていましたが、それでもいただいた資料や自分が蓄積してきた情報を会話と絵にしてラフを作るまでに1週間ほど温めました。

 

――途上国では、水道などの設備や手洗いに対する意識なども日本と異なると思います。その違いに配慮して、描くうえで意識されたことはありますか?

 

井上:まずは“正しい”手洗いの仕方を正確に描くことでしょうか。ウイルスやバイキンを落とすには、水でしっかり洗い流すことが重要なのですが、途上国では水道設備のない地域もあり、桶に水を溜めてすすいだりするそうです。でもそれだと、溜まった水が汚染されるので感染症対策にはならないと。ですから、少ない水でもきちんと洗い流すことができる「Tippy-Tap」などの方法や簡易な手洗い装置を紹介するコマを作りました。

↑漫画内では、少ない水でもきちんとバイキンやウイルスを洗い流せる手洗い方法も紹介

 

井上:JICA地球環境部のご担当者とやりとりをするなかでは、手洗いのシーンには「石鹸」というワードを必ず入れ込んでほしいともいわれましたね。いわれてみればなるほどですが、石鹸がない環境で育っていると、石鹸を使わずに水洗いだけで済ませてしまうことが習慣になっている子どもたちもいるんです。また、洗ったあとは「乾かす」ことも大事だと。清潔な手拭きタオルがない環境では、自然乾燥でもよいとうかがい、パッパと手をはらって乾かす絵柄を入れました。

それから、日本ですと「家に帰ってきたら」「食事をする前に」手を洗う習慣がありますが、途上国の場合は事情が違う。「家畜の世話をした後に」や「ゴミを触った後に」にという表現を加えるようにアドバイスしていただき、なるほどなぁと感じました。

↑手を洗うタイミングについても、途上国の生活スタイルを考慮したシーンを取り入れている

 

井上:水道から水が流れるシーンには、「ジャー」という擬音語の描き文字を何気なく入れていたのですが、「途上国では水道の蛇口があっても、ジャーというほどの水量が流れないことがありますし、水が足りなくて節約しながら大事に使っている人もいます」とアドバイスいただきました。指摘されるまではその不自然さに気がつきませんでしたね。

↑最初の下書き段階では、水が流れる「ジャー」という擬音語が入っている(左)。完成版ではその擬音語が外され、タオルを使わず手を乾かす描写も描かれている(右)

 

翻訳や動画などの二次展開は、巣立つ子どもを見送る母のきもち

――今回の漫画は翻訳されることを前提に描かれたと思うのですが、その点で意識されたことはありますか?

 

井上:いつもは日本語ですから右→左にコマが流れるように描きますが、今回は横書きの言語にも対応できるようにと、左→右に描くことになりました。吹き出しも、横文字が入りやすいように横長にしています。

↑井上さんの制作風景。吹き出し内のテキストや、描き文字は翻訳用に外せるようレイヤー分けされている

 

――この漫画は、動画化も予定されているそうですね。こうした展開・拡散についてはどう思われますか?

 

井上:もうどんどんやってください! という気持ちです(笑)。心のケア漫画のときもそうでしたが、私の手を離れて、後は皆さんの手によって新しく展開されていくことは、とてもうれしいです。動画化は初めてですし、漫画が動いたり、音がついていったり変化するのは楽しみ。後は巣立つ子どもを見送る母親の気持ちです。

↑モルディブの小学校で「心のケア漫画」が授業で使われている様子。今回の「手洗い漫画」も 小学校での利用のほか、ボリビアのコチャバンバ市ではCMで配信される予定(写真提供/JICA)

 

「手洗い」って、「教育」だったんだ! 日本の子どもたちにも読んでもらいたい

――手洗い漫画を描いてみて、「手洗い」に対する考え方に変化はありましたか?

 

井上:ありましたね! 手を洗うことは自然に身に着くものではなく、「教育」なんだ、と気が付いたのです。日本だと、家庭や学校で子どもに手の洗い方を教えてくれますから、自然と習慣化されている。でも、それは当たり前のことではないんですね。

以前、ベトナム取材に行った際に、「ベトナムでは多くの人が俯瞰地図を読めない」というお話をうかがって、とても驚いたんです。タクシーに乗った際、ドライバーに地図を指し示して「ココに行って」と場所を伝えても、確かに理解してもらえませんでした。地図の読み方を、日本だと小学校で教えますが、そうではない国もあるのだと知りました。私にとって、それが大きな発見だったんです。「手洗い」も同じ。今回は途上国向けの手洗いの方法を、途上国の子どもたちに向けて描いていますが、日本の子どもたちにこの漫画を読んでもらっても意味深いと思うのです。「日本とは手を洗う環境が違うんだ!」って。それもまた大きな学びですよね。

 

漫画の利点を生かして「声を上げられない方の声」を届けたい

――社会課題を漫画で伝えることのメリットは何でしょうか?

 

井上:私が初めて「漫画家になってよかった!」と思えたのは、女性の医療問題を取材して単行本を2冊出したときでした。声を上げることができなかった女性たちの声を、漫画で伝えることができた、ということがうれしく、やりがいを感じた瞬間でした。ようやく「人の役に立つものが描けた」と。漫画だと、人の感情や声にならない声を、顔の表情などの非言語でも伝えることができるんですよね。

また、「恐怖」もデフォルメして伝えられると思うんです。途上国の事情も写真や映像だと、つらすぎる場合がある。私は仙台に住んでいますが、震災時のニュース映像などはリアルすぎて恐怖を感じる方も多いと思います。そういうときに、漫画というツールが、緩和してくれるといいますか。漫画を媒介にすることで届けやすくなるのかもしれませんね。

 

――取材漫画家として、今度取り組みたいテーマはありますか?

 

井上:社会課題を漫画にすることは今後も続けていきたいです。また、2011 年の東日本大震災で被災した仙台や福島の「震災の10年」をまとめたいと考えています。石巻の防災教育施設からのご依頼で、子どもの視点で震災漫画を描く試みもしています。東北では今、震災を知らない子どもたちも増えきているので、震災当時には子どもだった方々に取材をさせていただき、企画を温めています。

 

――最後に、改めてこの漫画に込めたメッセージをいただけますか?

 

井上:今はコロナ対策として手洗いがフューチャーされていますが、「世界手洗いの日」はコロナ以外の感染症にも取り組んできた日です。衛生管理は、健康の基本中の基本で、それで防げることはかなりある。下痢等の感染症で亡くなる子どもの死亡率も、手洗いで減らしていけるとうかがったことがあります。読んだ人全員が手洗いを励行はできないかもしれませんが、10人のうち1人でも2人でも頭の中に入れてくれたらな、と。その子どもたちが大人になったときに、今度は自分の子どもに手洗いの大切さを伝えていく、そうやって繋げていっていただけたらと願っています。

 

<JICA 健康と命のための手洗い運動プラットフォームとは>

民間企業、業界団体、市民社会、大学、省庁、海外協力隊などの団体又は個人の方に協力の輪を広げ、情報や経験の共有、衛生啓発イベントの開催、共同活動の企画などを通じて、様々な連携事例、アイデア、ナレッジ、ツール等を生み出し、開発途上国の感染症予防、健康の増進、公衆衛生の向上に貢献することを目指します。

https://www.jica.go.jp/activities/issues/water/handwashing/index.html

「コロナ危機を転機に変える!」 途上国でオンライン学習の普及に取り組む日本企業の思いとは!?

「子どもたちの学びを止めてはならない」——新型コロナウイルスの影響を受け、世界中で休校が相次ぐなか、オンラインを介したデジタル教材の活用が注目を集めています。そんな中、日本の教育会社も国内外で学習支援を進めていますが、実は新型コロナの感染拡大以前から、国外でのデジタル教材の普及に取り組んでいる日本企業があります。

 

それがワンダーラボ社とすららネット社。JICA(独立行政法人 国際協力機構)の民間連携事業「中小企業・SDGsビジネス支援事業」として、途上国の学校に“デジタル教材”という新しい学びの機会を提供しています。コロナ禍の現在、アプリなどによるオンライン学習をはじめ、子どもたちの新たな学習形態や環境などが世界中で試行錯誤されるなか、いち早く開発途上国におけるデジタル教材の活用に取り組んだ両社から、将来あるべき「新しい学び」の可能性と、子どもたちに対する熱い思いを探りました。

↑インドネシアにおける、すららネット社のデジタル教材「Surala Ninja!」での授業風景

 

ワクワクする教材を世界中の子どもたちに普及させたい:ワンダーラボ社のデジタル教材「シンクシンク

↑授業で「シンクシンク」アプリを使うカンボジアの小学生

 

ワンダーラボ社は、算数を学べるデジタル教材「シンクシンク」の小学校への導入をカンボジアで進めています。開発途上国の抱える問題を、日本の中小企業の優れた技術やノウハウを用いて解決しようとする取り組みで、3ヵ月で児童約750人の偏差値が平均6ポイント上がったと言います。「シンクシンク」の特徴をワンダーラボ社の代表・川島慶さんは次のように語ってくれました。

↑「シンクシンク」のプレイ画面

 

 

「『シンクシンク』は、図形やパズル、迷路など、子どもたちがまずやってみたい! と思える楽しいミニゲーム形式のアプリです。文章を極力省いて、『これってどういう問題なんだろう?』と考える力を自然と引き出す設計で、学習意欲と思考力を刺激するつくりになっています。外部調査の結果、『シンクシンク』を使っていた子どもたちは、児童の性別や親の年収・学歴など、複数の要因に左右されることなく、あらゆる層で学力が上がっていたことが確認できました。これは、私たちの教材の利点を証明する何よりのデータだと思っています」

↑夢中で問題を解く様子が表情から伝わってくる

 

川島さんが「シンクシンク」を作ったきっかけは、2011年までさかのぼります。当時、学習塾で主に幼稚園児・小学生を教えながら、教材制作も手がけていた川島さん。子どもたちと接するなかで注目したのは、教材に取り組む以前に、学ぶ意欲を持てない子どもがたくさんいるということでした。子どもが何しろ「やってみたい!」と意欲を持てる教材を、と考えて作ったのが、「シンクシンク」の前身となる、紙版の問題集でした。

 

「それを、国内の児童養護施設の子どもたちや、個人的な繋がりでよく訪れていたフィリピンやカンボジアの子どもたちに解いてもらったんです。そこで目を輝かせながら楽しんでくれている姿を見て、『これは世界中に届けられるかもしれない』と感じました。ただ、紙教材は、国によっては現場での印刷が容易ではありませんし、先生や保護者による丸つけなども必要です。

 

そこで注目したのが、アプリ教材という形式でした。タブレット端末は当時まだあまり普及していませんでしたが、必ずコモディティ化し、長期的には公立小学校などにも普及すると考えました。また、アプリならわくわくするような問題の提示にも適していますし、専任の先生や保護者がいなくても、子どもひとりで楽しみながら学べます」

 

その後、タブレットやスマートフォンは世界に浸透し、現在「シンクシンク」は150ヵ国、延べ100万ユーザーに利用されるアプリとなっています。

↑ワンダーラボ社のスタッフと現地の子どもたち

 

ワンダーラボ社は、休校が相次いだ2020年3月には国内外で「シンクシンク」の全コンテンツを無料で開放。この取り組みは新聞やテレビなどのメディアでも数多く取り上げられるなど、話題となりました。アプリの無償提供には、どのような思いがあったのでしょうか。

 

「新型コロナの流行がなければ、各地で私たちの教材を知ってもらうイベントを開催する予定でした。それを軒並み中止にせざるを得なくなる中で、自分たちは何ができるだろうと。お子さまをどこにも預けられず大変な思いをしているご家庭に、少しでも有意義なコンテンツを提供できればいいな、と思ってのことでした」

 

「アプリは所詮”遊び”」の声をどう覆していくか

ただ、いくらデジタル化が進む世の中とはいえ、「アプリ」という教材の形式が浸透するには、まだまだ壁もあるようです。

 

「特に途上国においては、ゲームアプリが盛んなこともあり、『アプリは遊びだ』という認識が根強くあります。ただ、カンボジアでも3月の途中から小学校をすべて休校することになり、教育省が映像での授業配信とともに『シンクシンク』の活用を始めたのです。そのおかげもあり、教材としてのアプリの見られ方も多少は変わったのではないでしょうか」とは、JICAの民間連携事業部でワンダーラボ社を担当する、中上亜紀さんです。

 

スマートフォンやタブレット端末が自宅にあれば教材を使えることもあり、ワンダーラボ社はカンボジアでもアプリの無償提供を約3ヵ月にわたって実施しました。教育省が発信したアプリを活用した映像授業は、約2万ビューを記録するなど好評でしたが、オンラインによる映像授業を視聴可能な地域が、比較的ネット環境が整備された首都プノンペン周辺に偏ってしまうことなどもあり、「いきなり、すべての授業をオンラインに、とはなりません」(中上さん)と、普及の難しさや時間が必要な点を強調します。これを踏まえてワンダーラボ社では、10年単位の長いスパンで、より多くのカンボジアの小学校へ教材を導入できるよう目指しているそうです。

 

「ワクワクする学びを世界中の子どもたちに広げていきたい」

 

会社を立ち上げる前から、川島さんが長年抱いているこの夢に向かって、ワンダーラボ社は着実に前進しています。

 

学力は人生を切り開く武器になる:すららネット社のeラーニングプログラム「Surala Ninja!」

 

「一人ひとりが幸せな人生を送ろうとしたとき、学力は人生を切り開く武器となります。だからこそ、子どもたちの学習の機会を止めてはならないと考えています」

 

スリランカやインドネシア、エジプトなどの各国でデジタル教材「Surala Ninja!」の普及に取り組んでいるのが、すららネット社です。日本国内で展開する「すらら」のeラーニングプログラムは、アニメーションキャラクターによる授業を受ける「レクチャーパート」と問題を解く「演算パート」に分かれており、細分化したステップの授業が受けられるのが特徴です。国語・算数(数学)・英語・理科・社会の5科目を学ぶことができ、小学生から高校生の学習範囲まで対応。 「Surala Ninja!」 は、「すらら」の特徴を引き継いで海外向けに開発された計算力強化に特化した小学生向けの算数プログラムになります。一般向けではなく、学校や学習塾といった教育現場に提供し、利用されています。

↑「Surala Ninja!」の画面

 

「『学校に行けない子どもでも、自立的に学ぶことができる教材を作ろう』——これが、『すらら』を開発した当初からのコンセプトなんです」。こう語るのは、同社の海外事業担当の藤平朋子さん。スリランカへの事業進出の理由を次のように明かしてくれました。

↑株式会社すららネット・海外事業推進室の藤平朋子さん

 

「スリランカでは、2009年まで約四半世紀にわたって内戦が続いていました。内戦期に子供時代を過ごした人たちが、今、大人になり、教壇に立っています。つまり、十分な教育を受けることができなかった先生たち教えるわけですから上手くできなくて当前です。そこで『Surala Ninja!』が、先生たちのサポートとしての役割を果たせればと考えました」

↑「Surala Ninja!」導入校での教師向け研修風景

 

現在、「Surala Ninja!」はシンハラ語(スリランカの公用語の一つ)・英語・インドネシア語の3言語で展開しています。スリランカでは、まず、現地のマイクロファイナンス組織である「女性銀行」と組んで「Surala Ninja!」の導入実証活動を行いました。週2・3回、小学1年生から5年生までの子供たちに『Surala Ninja!』による算数の授業を行ったところ、計算力テストの点数や計算スピードが飛躍的に向上しました。

 

しかし、最初から事業が順調に進んでいたわけではありません。JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」には、2度落選。事業計画やプレゼンテーションのブラッシュアップを重ねて、3度目の正直での採用となりました。

 

「当時のすららネットは、従業員数が20名にも満たない上場前の本当に小さな会社でした。海外、それも教育分野となると、自分たちだけではなかなか信用してもらえないのです。だからこそ、現地で多くの人が知っている、日本の政府機関であるJICAのお墨付きをもらっていることが、学校関係者の信頼を得るために大きな要因になっていると肌身に感じました。海外進出にあたって、JICAの公認を得たことは非常に大きなメリットだったと感じています」

↑スリランカの幼稚園での体験授業の様子

 

また同社は、エジプトでもeラーニングプログラムの導入を進めています。エジプトの就学率は2014年の統計で97.1%と高水準を誇りますが、2015年のIEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)という、学力調査のランキングでは数学が34位、理科が38位(※中学2年生のデータ)という結果。数学は他の教科にも応用する基礎的な学力になるため、算数・数学の学習能力向上に向け、目下、国を挙げて取り組んでいるところです。

 

複数の国で事業活動する上で苦労しているのは、宗教に基づく生活風習だといいます。活動国すべての国の宗教が違うため、ものごとの考え方や生活習慣なども大きく変わります。インドネシアでは、多くの人がイスラム教なので、一日数度のお祈りが日課。しかし、当初は詳しいことが分からず、学校向けの1週間の研修プログラムのスケジュールを作るのにも、「いつ、どんなタイミングで、どの位の時間お祈りをすればいいのか」を把握するために、何回もやりとりを重ねたりしたそうです。また、研修を受ける学校の先生方も給与が安かったりと、必ずしもモチベーションが高いわけではありません。教えた授業オペレーションがすぐにいい加減になってしまったりと、きちんと運営してもらうように何度も学校へ足を運び苦労しましたが、それも子どもたちのためだと、藤平さんはきっぱり。

 

「緊急事態宣言による休校を受け、日本でも家庭学習にシフトせざるを得ない状況になったとき、私たちの教材の強みを再認識することができました。子どもたちの学力の底上げは、将来の国力をつくることでもあると思っています」

 

ビジネスモデルの開発やアプリの利用環境の整備など、海外での展開にはさまざまなハードルがあるのも事実。「世界中の子どもたちに十分な教育を」という熱い思いで、真っ向から課題に取り組み続けている両社。官民一体となった教育への情熱が、新しい時代の教育のカタチへの希望の灯となっているのです。

 

【関連リンク】

ワンダーラボ社のHPはコチラ

すららネット社のHPはコチラ

JICA(独立行政法人 国際協力機構)のHPはコチラ

中小企業・SDGsビジネス支援事業のHPはコチラ

人類の犠牲にーーワクチン開発で25万匹のサメが危機に

新型コロナウイルスのワクチン開発が進むなか、専門家が警鐘を鳴らしているのがサメへの影響。ワクチンの開発でサメが危機に瀕しているそうなのです。一体どういうことなのでしょうか?

 

ワクチン製造に使われるサメの肝油

↑サメとワクチンの関係とは?

ワクチンの開発には、サメの肝油から抽出される「スクアレン」という原料が「アジュバント」として使われる場合があります。アジュバントとはワクチンの効き目を高める働きのある物質で、これまでに製造されたいろいろなワクチンにも採用。

 

また、アジュバントにはワクチンに含まれる抗原の量を減らして、免疫力の低い乳幼児や高齢者への効果を改善することなども期待できるそう。それに加えてワクチンに必要な抗原量を少なくできるため、一度に大量のワクチンを製造しなければならない場合でもワクチン数を増やすことにもつながるそうです。

 

保護団体Shark Alliesによると、1トンのスクアレンを抽出するためには2500~3000匹のサメが必要とのこと。そして地球上のすべての人に1回ずつ接種できる量のワクチンを製造するためには、約25万匹のサメが必要となるそう。もし2回分のワクチンなら、50万匹のサメが犠牲になる計算です。

↑保護かワクチンか

 

薬事規制専門家協会とWHO発表のデータによると、現在開発が進んでいる176種のワクチンのうち17でアジュバントが使用され、そのうち少なくとも5つのアジュバントにサメ由来のスクアレンが使用されているとのこと。実際、イギリスの製薬会社グラクソ・スミスクラインは、インフルエンザのワクチンにスクアレンを使用しており、新型コロナのワクチン開発に10億回分のアジュバントを製造すると発表しています。

 

今後のワクチン開発の状況と世界の需要次第で、実際にどの程度のスクアレンが必要となるのか不明ですが、人のために特定の種族の魚を必要とするというのは、なんだか矛盾する話に聞こえるかもしれません。

 

ほかの魚に比べてサメは繁殖が遅く、なかには個体数が減っている種類もあります。またこれまでに、フカヒレを目当てにしたサメの乱獲が問題になったこともあり、新型コロナのワクチン開発によって、再び乱獲が起きることも不安視されるでしょう。

 

もちろん新型コロナに対して有効で安全なワクチンができることは待ち望まれることですが、植物由来の原料などスクアレン以外を使ったアジュバントの製造が進むことにも期待したいですね。

 

なんとUAEが「月面探査計画」を発表! しかも壮大な「火星移住計画」まで構想

月や火星などの宇宙開発を行う国といえば、アメリカやロシア、日本、中国などの存在が広く知られていますが、石油産業で有名なUAE(アラブ首長国連邦)も宇宙事業に参入していることをご存知でしょうか? しかもこの国は100年後までに火星に都市を作る火星移住計画も掲げているのです。UAEが取り組む宇宙事業とはどんなものなのでしょうか?

 

2024年までの月面探査計画を発表

先日UAEが発表したのが、月面探査計画に乗り出す計画。月面を無人で走行して月の地表を調べる探査車を2021年までに設計し、その後、製作や試験を経て、2024年までに月に向けて打ち上げる予定とのこと。UAEの首長、シェイク・モハメド殿下は自身のTwitterで、この探査機は100%UEAで開発されたものであり、「ほかの月面探査機が調査しなかった月の表面から写真やデータを地球に送り、グローバルな研究機関などに共有される」と投稿しています。

 

さらにUEAは2020年7月に、同国初の火星探査機「Hope」を鹿児島県にある種子島宇宙センターから打ち上げ、成功しています。この火星探査機は約5億キロにも及ぶ距離を飛行し、UAE建国50周年と重なる2021年2月に火星へ到達する予定です。

 

これらに加え、UAEが掲げているのが「Mars Science City」と呼ばれる壮大な火星移住計画です。同国は2017年に今後100年以内にこの火星移住計画を遂行すると発表。大気が薄くマイナス63度、重力は地球の38%しかないという火星で人が生活するため、17万7000平方メートルのバイオドームを建設し、そこに都市を作るという大胆な構想が描かれていますが、今後は砂漠などでバイオドームを建てシミュレーションなどが行われるものと見られています。

↑火星への移住計画も進行中

 

石油だけに頼らない経済発展モデルへ

UAEは石油や天然ガスなどの資源が豊富な国であり、石油産業を中心に経済発展してきました。しかしUAEを構成する首長国のひとつドバイでは、今後10年ほどで石油が枯渇すると予想されており、太陽光発電開発のような環境関連ビジネスや観光業にシフトした経済発展モデルが進められています。

 

また、新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、2020年は石油の需要が落ち込み、価格が下落しているとのこと。そこでUAEとしても、同じように石油産業だけに頼らない経済モデルの構築が進められ、その中で宇宙開発事業に大きな期待がかかっているようです。

 

2040年代までに1兆ドル(約105兆円)に達すると予測される世界の宇宙ビジネス。2024年までに有人月面着陸を目指すNASAのアルテミス計画を筆頭に、新しいビジネスのフィールドとして宇宙に今後ますます熱い視線が向けられることは間違いないでしょう。

 

天才数学者の理論が解き明かした「フェアリーサークル」の謎

オーストラリアに「フェアリーサークル(妖精の輪)」と呼ばれる謎の自然現象が起きているのをご存知でしょうか? 乾燥した草原に草木が規則正しく円形の模様を作り、それが無数に並んでいるのです。このような不思議な現象がなぜ起きるのか、その謎を解くカギがわかりました。

↑なぜこんな模様が……

 

フェアリーサークルの存在がわかったのは2014年ごろ。直径2~15メートルの穴が規則正しく無数に草原を埋め尽くしており、地上にいると識別しづらいものの、上空から見ると不思議な模様が広がっていることがはっきりとわかるのです。

 

この原因について、これまでにさまざまな説が唱えられてきました。シロアリなどの昆虫が植物の根をかじるとか、土中の一酸化炭素が関係しているとか。しかし先日、ドイツのゲッティンゲン大学の研究者を中心としたオーストラリアとイスラエルとの共同チームが、ある数学者がおよそ70年前に提唱した「チューリング・パターン」が当てはまると明らかにしたのです。

 

チューリング・パターンとは、イギリスの数学者アラン・チューリングが1952年に発表した理論。2つの物質があったとき、濃度の濃い物質と薄い物質が空間に繰り返し模様を作り、これを「反応拡散方程式」と呼ばれる数式で証明したのです。おまけに、この数式はシマウマ、ヒョウ、魚などの模様についても当てはまり、自然界で作られるさまざまな模様をこの理論で説明することができたのです。

 

ひょっとしたらこの理論が使えるのではないかと考えた同研究チームは、ドローンや空間分析、フィールドマッピング、現地の気候データなどをもとにフェアリーサークルの解析を実施。その結果、チューリング・パターンがフェアリーサークルにも当てはまることがわかりました。

 

では、なぜ植物はこのような模様を作ったのでしょうか? 答えは明らかにされていませんが、このフェアリーサークルがある場所は乾燥した地帯で、土中の水分量が限られていると見られます。ここからひとつ考えられるのは、植物がフェアリーサークルを形成することで水分を確保し、生命を維持できているのではないかという仮説。研究者たちは「フェアリーサークルがなければ、この地域は砂漠になっていた可能性がある」と述べており、植物がわずかな水分量の環境下でも成育するために、自然とフェアリーサークルのような形を形成していったと予想できるそうです。

 

今日のコンピューターの理論的な原型とされるチューリング機械を考案したチューリングは1954年に亡くなっており、当然このフェアリーサークルの存在など知ることはありませんでした。それでも、自然界でできる不思議な模様について70年前に数式で証明していたとは、その知性に改めて驚嘆してしまいます。チューリング・パターン説の検証を進めるため、フェアリーサークルの研究は今後も続きます。

 

「国際ガールズデー」を機に秋元才加さんと考える――フィリピン、そして、日本を通して見えた教育とお互いを尊重することの大切さ

10月11日は今年で9年目を迎える「国際ガールズデー」。児童婚、ジェンダー不平等、女性への暴力……女の子が直面している問題に国際レベルで取り組み解決していこうと、国連によって定められた啓発の日です。これまでも世界各地の女の子が自ら声を上げ、そんな彼女たちを支援する様々なアクションがとられてきました。

 

「性別」や「年齢」による生きにくさは、途上国だけではなく、身近な日本の社会においても感じることかもしれません。女優の秋元才加さんは、人権問題やジェンダー問題について自身のSNSで積極的に発信するなかで“元アイドルがよく知りもせず”“女のくせに”という色眼鏡で見られるなど、戸惑う時期もあったといいます。

↑今回対談に参加してくれた女優の秋元才加さん。フィリピン人でたくましく働く母親の背中を見て育ち、「フィリピン人女性=強い」というイメージをもっていたそうですが、今回の対談ではフィリピンの意外な側面を聞いて驚く場面も

 

今回は、社会課題や国際協力への関心が高く、フィリピンにルーツをもつ秋元さんと、26年に渡りフィリピンで活動するNPO法人アクション代表の横田 宗さんが、人として尊厳をもっていきるために必要なもの、そして、お互いを尊重することの重要性を語り合いました。コロナ対策に配慮したweb対談ながら、熱いトークのスタートです!

 

【対談するのはこの方】

秋元才加(あきもと さやか)

女性アイドルグループ・AKB48の元メンバーで「チームK」時代はリーダーも務めていた。日本人の父とフィリピン人の母をもつダブルで、フィリピン観光親善大使を務める国際派女優。LGBTQのイベントに参加したり、SNSで人権問題について発信したりするなど、社会課題にも強い関心をもっている。2020年夏にはハリウッドデビューを果たし、ますます活躍の場を広げている。

 

横田 宗(よこた はじめ)

NPO法人アクション代表。高校3年の時、ピナツボ火山噴火で被災したフィリピンの孤児院で修復作業をした経験から、1994年にアクションを設立。以降、フィリピン・ルーマニア・インド・ケニア等の孤児院や乳児院の支援、そして、福祉に関する国の仕組み作りまで協力を広げている。また、空手を通した青少年支援、美容師を育成するプロジェクト「ハサミノチカラ」、女性の収入向上を目指す「エコミスモ」開設、シングルマザーやLGBTの方々が働く日本食レストランを経営等、幅広く事業も展開。フィリピン国内外の企業・財団やJICAとの連携も進めている。

■NPO法人アクション http://actionman.jp/
■エコミスモ http://www.ecomismo.com/

 

母親に連れていかれたスラム街の記憶――フィリピンの子どもや女性をとりまく今の現実は?

秋元才加さん(以下、秋元):私の母がセブ島のカモテス諸島出身で、以前は毎年1回帰省していました。6歳の頃には、首都圏マニラにあるスモーキーマウンテン(※)に連れて行かれて、スラム街の現実を目のあたりにしたことも。「日本では義務教育が普通だけど、学ぶことさえ叶わない子どもがいる」と母に言われて衝撃を受けたことをよく覚えています。

横田さんがフィリピンで福祉活動を始めたきっかけは何ですか?

※マニラ北部に存在した巨大なゴミの山とその周辺のスラム街で、自然発火したゴミの山から燻る煙が昇るさまからこう呼ばれた。1995年に政府によって閉鎖された

 

横田 宗さん(以下、横田):私は東京生まれの東京育ちですが、活動を始めたのは高校3年の時。1991年のピナツボ火山噴火で被災したフィリピンの孤児院で、1か月ほど修復作業をしたのがきっかけでした。

↑対談は、JICA本部(東京)で実施。横田さんはマニラ首都圏の郊外マラゴンからリモートで対談に参加してくれた。コロナの影響で外を歩く際はマスク+フェイスシールドの着用が義務付けられていると話すが、声や表情は力強い。ファシリテーターはフィリピン事務所赴任経験のあるJICA広報室・見宮美早さん(右)

 

秋元:えっ!? 17歳のときにもう? それから26年も続けてこられて、現在はどのような活動をしていらっしゃるのですか?

 

横田:活動軸は大きくは2つ。1つ目は、国の福祉の仕組みづくりに協力することです。日本の児童養護施設は民間も含めて税金で運営されているのですが、フィリピンは国から運営費は出ません。子ども達の食事や教育費は削れないので、職員の給与に負担がいってしまう。働く側にやる気があっても、例えば性的虐待を受けた女の子にどう接していいかを学んでいないと、対応がわからず燃え尽きてしまうといったような問題もありました。

 

秋元:なるほど、指導する側の大人にも教育などの支援が必要ということなんですね。

 

横田:そうなんです。身体や精神的に問題を抱えた子どもの育成には知識やスキルも必要で。そこで、指導員用の教材や研修制度を作りたいと考えました。JICAの「草の根技術協力事業」に採択され、現地の社会福祉開発省と連携しながら、継続的な指導研修やフォローアップ研修を設置。昨年には、国の制度として正式に大臣が署名し、全国に研修を展開していく仕組みができました。

↑横田さんが17歳のときに訪れた孤児院。それから26年間、いまでも支援を続けている

 

2つ目は、子どもの職業訓練やクラブ活動、性教育などの事業です。ストリートチルドレンや貧困層の子どもが無料で参加できるダンススタジオや、空手道場の運営もしています。2018年には秋元さんとの関係も深いMNL48さん(※)と、7000人の子ども達を集めて歌とダンスのチャリティコンサートを実施しましたよ。

※女性アイドルグループ・AKB48の姉妹グループの1つで、フィリピンのマニラを拠点に2018年から活動している

↑アクションが運営するダンススタジオ(上)と空手教室(下)の様子

 

秋元:おぉ、AKB48の姉妹グループ! いい活動ですね(笑)フィリピンの人は歌と踊りが大好きですし。

 

横田:職業支援として美容師やマッサージセラピストの育成もしています。手に職を持つことで、学歴がなくて働けない子どもたちにもチャンスが広がります。

 

秋元:その職業は女性が多い職業なのですか?

 

横田:育成したのは女性が多めですが、これまで男女合わせて500人程が国家資格を取りました。トライシクル(三輪バイクタクシー)の運転手や屋台販売などインフォーマルセクターの仕事は賃金がとても低く、家庭を養っていくだけの収入を得ることは難しい現状があります。技術があれば頑張れば稼げます。

↑美容師を育成する「ハサミノチカラ」プロジェクトの様子

 

コロナ禍で増える人身売買や広がる経済格差――14歳以下で母になる女の子が毎週約70人いる現実

秋元:コロナで今は世界中が大変な思いをしていますよね。そんな時に最も被害を受けるのは、フィリピンでもやはり貧困層の方々なのでしょうか?

 

横田:ええ、経済困難が起きると、まず人身売買が増えるんです。コロナ禍の3-5月は子どもの虐待率が2.6倍に増えました。10-14歳で望まぬ出産をする女の子は毎週およそ70人にのぼります。

 

秋元:その数字は驚きです……。売春宿のような所が今もあるのですか?

 

横田:コロナ以前は、そういう風俗街はエリアが存在していましたが、今は封鎖されているので、ネット上の見えない環境でのやり取りが増え、むしろ性犯罪の被害が増えてしまっています。収入が途絶えたことで、母親が娘の裸の写真を撮ってネット上で売ることもありました。

↑貧困層の厳しい現実を横田さんから聞き、時折つらそうな表情を浮かべる秋元さん。コロナ禍でも個人レベルで可能な援助について考え、お母様とも話し合ったそう

 

秋元:現実として「美」や「性」を売る仕事はありますが、いつまでも続けていけることではないと、私は思っています。それまでに正しい知識を身につけられるのが「教育」なのかなと。私は、母が言うように基礎教育を受けることができた幸せな部類だと思うんです。25歳でアイドルを卒業して以降も、いろんなご縁が重なって今がある。今日も横田さんから学ばせていただていますし。

 

横田:その通りですね、「教育」は現状を変える第一歩。そこで今は、青少年の性教育にも力を入れています。受講生の中から希望者を募り、ユーストレーナー14人が当会のソーシャルワーカーと共に同世代への啓発を実施したりしていますよ。

 

日本よりも先進的!? フィリピンの女性と子どもを守る社会システム

横田:貧困問題は根深いですが、一方で子どもや女性を守る国の制度は、日本以上に充実しているんですよ。例えばセクシャルハラスメントは1-3年の懲役刑。未成年へのレイプは終身刑になりますから、法律的には日本の数倍厳しいです。

 

秋元:日本だと被害を声に出すこと自体がはばかられる雰囲気ですし、誰に相談すれば良いのかもわからない場合もありますよね。急場の時はどこに逃げ込めばいいの?とか。

 

横田:フィリピンには子どもの虐待や夫の暴力に関しても、すぐに通報できる窓口がバランガイ役場にあります。バランガイは日本の町内会にあたる地方自治団体なのですが、役場のスタッフは、きちんと選挙で選ばれます。夫婦喧嘩レベルでも、このバランガイ役場が仲裁に入ります。役場には留置所のような場所もあって、そこに入れられることも。

 

秋元:フィリピンって、昔の日本のように町内レベルのご近所同士・お隣同士の繋がりが今も強いですものね。そういう身近な駆け込み所が日本にもあったら、女性は声を上げやすくなりそう。むしろ日本がフィリピンから学ぶことも多いのかもしれない。

↑頻繁にメモを取りながら、真剣な表情で横田さんの話に耳を傾ける秋元さん

 

横田:フィリピンも以前は「家庭を守るのは女性」「外で働く男性を支えるのは女性」という風潮があったんです。それがここ20年で変わってきた。国の制度改革もありますが、生きやすい環境を女性自身が勝ち取ってきた成果だと感じています。そして、従来は働かない男性は後ろめたい思いをもっていたのが、そういう生き方(女性が働き、男性が家事を担う)も社会で認められるようになっています。

↑アクション25周年イベントでのスタッフ集合写真。多くの女性が活躍している

 

国際協力・支援活動……何から始めればよいのか教えて欲しい!

秋元:私も個人として、フィリピンにどんな支援ができるだろうって、ずっと考えているんです。NPOなど多くの支援団体や財団がありますよね。でも正直、どれを選択するのが最適かわからない。コロナでも「マスクをフィリピンに送ろう」と考えましたが、母に「マスクよりお金を送れ!」とたしなめられました。

 

横田:たしかに、金銭支援はストレートな方法。フィリピンではコロナ関連では政府から米支援はありましたが、物質的に足りないのはミルクや生理用品等の生活必需品でしたので、我々は粉ミルクに絞って支援をしています。

 

秋元:古着や人形を寄付したことはあるんですが、それが果たして本当の支援になっているのか。寄付の仕方とかってあまり教育現場で教えられてこないですよね。

↑以前、フィリピンでの感覚のまま、新宿歌舞伎町でホームレスの方にコンビニ弁当を買ってきて渡したところ、逆に怒られてしまった経験があると話す秋元さん。改めて文化の違いや支援の難しさを感じたそうです

 

横田:たしかに。あと、日本だと一部に見返りのない寄付を疑うような風潮もありますね。売名行為と言われたり。

 

秋元:海外では、セレブの方に対して、寄付する団体や支援活動をアドバイスしてくれたり、仲介役になってくれたりする方がいると聞いたことがあって。私が知らないだけかもしれませんが、日本にもあればいいなぁと。身近な、無理のない範囲で始めたいんです。

 

横田:秋元さんは発信力をお持ちなので、それを武器にもできますよ。アクションがこれから実施するクラウドファンドに賛同いただくとか(笑)。秋元さん自身が社会課題だと思っていること、解決したいと思っている分野を支援している団体を応援するのも良いと思います。

 

性別に関わらず「尊敬」できる関係づくりを目指したい

秋元:今日お話を伺っていて、「学び」って本当に大事だなって実感しました。学べる環境で力をつけることで、女性の人生の選択肢も増える、といいますか。

↑歳を重ねるごとに「教養」も積み重ねていきたいと、目を輝かせて語る秋元さん。目標は英国女優のエマ・ワトソンさんなんだとか!

 

横田:それは男性にも言えることですよね。私の妻と子どもは日本に住んでいて、私が日本にいる時は子育てを手伝うようになったんですが、妻の海外出張でワンオペをしてみて、本当に子育ての大変さを学びました。そうすると妻にリスペクトの気持ちが生まれて家庭が円満に(笑)

 

秋元:理想の形ですね。リスペクトし合える関係性。

 

横田:フィリピンでは私がいる福祉業界は女性が9割。NPOの経理課長も事務局長も女性ですし、なかにはLGBTのスタッフもいます。その環境で長く仕事をしてきて感じるのは、ジェンダーに違いがあろうと、貧富の差があろうと、何かしらお互い尊敬できる部分があれば人間関係は上手くということなんです。GetNavi webの男性読者にもぜひ、お薦めしたい、ワンオペトライ!

 

秋元:素晴らしいまとめのお言葉(笑)。でも本当にその通りですね。差別を完全になくすことは難しいけれど、お互いを尊重するために、いろいろ知ることから始めたいと私も思います。

 

今日は本当にありがとうございました!

 

JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

撮影/我妻慶一

中小企業に活路! ニュージーランド発「地産地消型マーケットプレイス」は三方よし

ニュージーランド(以下NZ)は新型コロナウイルス対策に徹底的に取り組み、一時期は新規感染者をゼロにするなど国際的に注目を集めました。しかし、その一方で急なロックダウンによる弊害もあり、ビジネス面では多くの中小企業オーナーが苦境に立たされました。本記事では、NZの中小企業を救うとともに消費者ニーズにも応えるため、あるIT会社が生み出した地産地消型の新しいデジタル・マーケットプレイスについてお伝えします。

↑ニュージーランド北島北部に位置するオークランド

 

NZは起業しやすい国として有名で、「この国の経済はスモールビジネスが支えている」といわれています。統計によると、従業員20人以下の中小企業は国内全企業の97%を占め、全雇用の29%を創出しており、GDPの26%を占めています。このような理由で、中小企業が販路を失うということは国の経済全体を揺るがしかねない大きな問題なのです。

 

そういった経済状況でありながらも、3月に行われたロックダウンでは大手スーパーやエッセンシャルサービス(交通機関や大手スーパー、薬局・病院など)以外は営業を完全に禁止されてしまいました。多くの在庫を抱えた中小企業のオーナーたちは国からの助成金のみでは経営が苦しいうえ、営業再開のメドも立たず、先の見えない状況に陥りました。

 

消費者もレストランなどで食事をすることはもちろん、お気に入りのカフェで焙煎されたコーヒー豆や、地域のマーケットで販売されていたようなスキンケアグッズを買うことすらできなくなってしまったのです。

 

このような深刻な状況のなかで苦戦する中小企業をサポートするために立ち上げられたのが、NZ最大の都市オークランドにある「Unleashed」というIT企業が運営するウェブマーケット「The good products Marketplace」(以下、The Marketplace)です。

↑The good products Marketplaceのサイト

 

NZも日本と同様に大手ウェブサイトが存在し、オンライン上で商品を売買する動きも活発です。ただこういった既存サイトでは、名前を知られていない中小事業者の多くは当然ながら大手ブランドに太刀打ちできません。ブランドの認知度が低く、検索してもウェブで上位に表示されないため、多くのオーナーにとって大手サイトでの販売は圧倒的に不利であり、売り上げを見込めないものでした。

 

そのような状況下、ロックダウン直後の2020年春に設立したThe Marketplaceの目的は、「地元産業のオーナーと、地元で作られる優れた商品を探している消費者を繋ぐ」ことにあります。自分のブランドの存在を知ってもらうことが難しいと頭を悩ます中小企業にとっては大変画期的なサイトでした。ウェブ上で地元の優れた製品にたどり着けなかった消費者にとっても利便性が高く、売買側それぞれの悩みを解消することにつながったのです。

 

また注目すべきは、Unleashedが手がけるビジネスサポートの契約会員である中小オーナーたちは、このサービスを追加費用なしで使えるという点です。同社のチーフオフィサーであるLisa Miles-Heal氏は、「大手スーパーと取引するほどの規模ではない、道半ばにいるビジネスオーナーを救うためにこのサイトを開設した」と述べています。実際、The Marketplaceは同サイト上で商品の売買は行わず、ほしいものがあったら販売者のページに飛び、購入手続きを直接オーナーと行う仕組みになっており、仲介料も一切かかりません。

 

ロックダウン中は買い物以外の消費活動を制限されたため、多くの人たちは「生活の質を少し高めるニッチな商品」を求めていました。それと同時に「Be kind」がコロナ対策のスローガンとして掲げられていたNZでは、困っているビジネスオーナーの力になりたいと思う消費者もたくさんいたので、The Marketplaceの誕生は渡りに船でした。ユーザー会員であるMatt Morison氏(Karma cola設立者)はこのサイトについて以下のように賞賛しています。

 

「レストランやカフェなど、私たちの卸先はロックダウンによって店を閉めることを余儀なくされました。Unleashedはこの状況にいち早く気づき、このサイトを作ってくれました。このサイトは消費者が私たちのような小さな地元企業を支えることができる素晴らしい場所です」

 

実際にサイトで扱っている商品を見ると、そのジャンルが実に多岐にわたっていることがわかります。スーパーでは買えないようなこだわりのパンやオリーブオイル、ワイナリー直送のワインなどの食品・飲料だけではなく、オーガニック素材にこだわったスキンケア用品やサプリメント、変わり種ではキャンバス布や倉庫の収納整理棚、梱包品などを販売するサイトまで幅広く紹介されています。消費者は販売者に直接アクセスできるため、そのブランドコンセプトを詳しく知ることができるうえ、地元の経済に貢献することもできます。まさに三方よしでしょう。

 

現在、The Marketplaceは対象地域を積極的に拡大し、現在ではNZだけでなくアフリカから南北アメリカまで世界中へと規模を広げています。多くの中小企業にとって先行きはいまだに不透明ですが、このサイトによって少しでも多くの中小企業が活路を開くことを祈るばかりです。

 

執筆者/加藤 海里

 

英国初「ボートに乗る水上シネマ」で映画が変わる

ロックダウン再発動の懸念はあるものの、新学年がスタートし、職場に復帰する人も増え始めたニューノーマル時代のイギリス。屋内の映画館にはまだ行きたくないけれど、シネマ体験は楽しみたいという人も少なからずいるように思います。そういった人たちの気持ちに応えて、ロンドンの中心地にボートに乗って映画を楽しむドライブインならぬ「フロートイン(float in)」シネマが登場しました。3密を回避したユニークな取り組みを紹介しましょう。

↑「フロートイン」シネマの様子(写真出典:David Parry/PA Wire)

 

ロックダウン規制により、イギリスでは2020年前半まで屋内のエンターテインメント施設が軒並み閉まっていました。その後、夏には公園を会場にしたピクニック風の野外シネマやドライブイン・シネマなど、屋外でリラックスして楽しめるエンターテインメントが人気に。最近では9月にオープンした運河ボートに乗って映画鑑賞を楽しむフロートインシネマが話題になっています。

 

国内初となるフロートインシネマはロンドンのドライブイン・シネマを運営するOpenaireが主催するもので、運河ボートの会社と提携した期間限定の催し。6〜8人程度のグループでボートを貸し切り映画鑑賞できるというユニークなサービスで、ほかの観客とは距離が離れているのでソーシャルディスタンス対策もクリアしています。ボート一艇の価格は200〜250ポンドですが、運河沿いに並べられたデッキチェア席を予約することができ、こちらは一台につき15ポンドとボートに比べてお得な価格になっています。

 

上映されるのは「トイ・ストーリー」や「ライオン・キング」「アナと雪の女王」といったファミリー向けの名作をはじめ、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「アリー/スター誕生」など友人やデートで楽しみたい厳選された話題作です。イギリスのミュージシャン・エルトン・ジョンの半生を描く「ロケットマン」や、ロックバンド・クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーに焦点を当てた「ボヘミアン・ラプソディー」など、観客が映画のヒットナンバーに合わせて一斉に歌うカラオケ・ナイト風のイベントも行われます。

↑映画の新しい楽しみ方(写真出典:David Parry/PA Wire)

 

会場となるのはパディントン地区にある、リージェンツ運河の一角マーチャント・スクエア。この運河は産業革命のころに作られ、鉄道や自動車による交通路が発展していなかった時代に物資輸送の要となっていました。現在は観光ボートが行き交い、カフェやレストランが並ぶロンドン市民の憩いのエリアです。いつもは散歩やジョギング、サイクリングなどを楽しむ人たちで賑わっています。

 

フロートインのゲストはボートが係留されているリトルベニスで乗船し、シネマ会場までの短い距離を自分で操縦することができるという、ちょっと特別な体験が付いています。チェックイン時に消毒済みのワイヤレスヘッドフォンが手渡され、6×3メートルの巨大LEDスクリーンを観ながら高品質のオーディオで映画を鑑賞することができます。

 

メニューのQRコードをスキャンすると、ボートに乗ったままポップコーンやドリンク、アイスクリームなどスナックのオーダーができます。またリトルベニスという地名にちなんで、ラビオリが美味しいと評判のイタリアンレストラン「RaviOllie」 のポップアップ店も登場。こちらもボートやデッキチェア席からオーダーし、できたてのイタリア料理が席までデリバリーされる仕組みになっています。

 

逆境こそ面白い

↑グループで楽しく(写真出典:David Parry/PA Wire)

 

屋外プールを会場にしたシネマイベントは過去にありましたが、ボートに乗って観るシネマはイギリスでは初めてとされています。運河網が発達したオランダのアムステルダムでは、夏になると運河フェスティバルが開催され水上コンサートが行われますが、今回の水上シネマもこれにヒントを得たのかもしれません。

 

空気の流れがよく、ソーシャルディスタンスを確保できるという点で、小型ボートという座席は理想的でしょう。新型コロナの状況にもよりますが、夜間は使われない場所を利用してイベントを催すなど、ソーシャルディスタンスを守ったうえで新たな娯楽を提供する試みは今後増えていく可能性があります。

 

しかし、コロナ第2波への備えを考えると、課題はこれからのシーズンだといえます。屋外に場所を移せた夏とは異なり、気温がぐっと下がる今後の時期に屋内で3密状態を防ぐことはなかなか困難です。第2波への対策として、冠婚葬祭やスポーツチームをのぞき、屋内外で7人以上のグループが集まることを禁止する「ルール・オブ・シックス(Rule of 6)」と呼ばれる規制も新たに導入されましたが、先行きはまだ分らない状態です。

↑ボートの上で新体験(写真出典:David Parry/PA Wire)

 

イギリスではハロウィーンの夜の外出イベントも自粛傾向にあり、子どもがいる家庭だけでなく若い世代も含め、自宅での小さな集まりを楽しむプランに切り替える人が増えています。ただ、劇場や映画館、コンサートなど、大勢の人とともに体験できるエンターテイメントには、自宅では得られない楽しみがあるといえるでしょう。ステイホームばかりでは、やはり飽きがきてしまいます。

 

このまま新型コロナの感染を抑えることができ、雨や防寒対策を工夫することが可能になれば、屋外でも意外な場所を利用したさまざまな試みが可能になるかもしれません。ソーシャルディスタンスを守らなくてはならないからこそ、ユニークなイベントが生まれるチャンスがあるのではないでしょうか?

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【後編】

最近、すっかり定着した感のある「SDGs」というワード。ところで、2015年の国連サミットで採択された、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」であることは知っているけど、実際、具体的にはどういう意味? 自分たちにどう関係があるの? などなどイマイチSDGsについて分からないことが多いのではないでしょうか。そこで前編、後編の2回に分け、元麹町中学校の校長である工藤勇一さんにSDGsについて話をうかがいました。

↑現在は横浜創英中学校・高等学校の校長を勤める工藤勇一先生

 

「学校教育とSDGs」をテーマに、2回に分けてお届けする麹町中学校元校長の工藤勇一先生(横浜創英中学校・高等学校校長)のインタビュー。子育て世代も多いGetNavi web読者に向け、後編では、あるべき学校の姿とSDGsの本質についてお話しいただきます。

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【前編】

 

学校は何のためにあるのか

前回、学校が抱えている真の課題と、麹町中学校での私の取り組みについて話をしました。実は、「よい学校をつくるためには」と、SDGsの「よい社会をつくるためには」は、同じことなんです。最上位の目標がきちんと決まり、目標を実現するための手段を選べば、その手段が次の目標に変わり、さらにその手段を選ぶことができます。そのときに気を付けなければいけないのが、「手段が目的化しない」こと。手段が目的化すると、上位の目標の実現を損ねてしまうことがあります。この一連のプロセスを確実に行うことさえできれば、学校や社会は必ずレベルアップすると考えます。

↑最上位の目標を明確にし、それを実現するために手段を考える

 

そしてこれを進めていくにあたって重要なことが、「全員を当事者にする」ということ。責任を明確にしたり、何か権限を与えたりすると、人は自分事として捉え、考えて行動するようになります。もちろん、合意・共有できる目標でなければいけません。それがなければ、自分の意見や価値観を押し付け合うだけになってしまいます。そして繰り返しになりますが、「目標と手段を明確する」ことが重要です。常に「何のため?」と目標に立ち返り、手段の目的化が起こらないようにします。しかし、残念ながら日本の学校の多くはこうした一連のプロセスのスタート地点にすら立っていないと言わざるを得ません。

 

麹町中学校が掲げる最上位の目標

麹町中学校で最上位の目標(教育目標)として掲げているのが、「自律」「尊重」「創造」ですが、これは、OECDが2030年という近未来をイメージし示した教育の目標ともよく似ていると感じています

↑OECDのLearning Framework 2030と麹町中学校の教育目標

 

そもそも学校とは、子どもたちが将来、社会の中できちんと生きていけるようにするための準備期間だと考えます。そして、学校のもう1つの役割がよりよい社会をつくっていくことだと考えます。誰一人取り残すことのない社会を創り上げることは、容易いことではありません。一人ひとりを尊重していこうとすることは、当然ですが利害関係の対立が生まれるからです。しかし、対立を乗り越え、学校の中の社会を長期的視野に立ち、全員が持続可能な方向でみんながOKと言えるものを見つけ出す。それこそが学校で学ぶべきことだと私は考えます。まさにSDGsの理念です。

↑本当の意味での教育の最上位目標はSDGsと同じ

 

それを実現していくために必要なことが対話です。「みんな違っていていい」と「全員がOK」(誰一人取り残すことのない)は相反する概念ですが、これを両立させることを目指していく対話です。

↑対話によって全員がOKなものを導き出すのが民主的な考え方

 

民主的なプロセスが必要

この対話のあるべき姿について例を挙げて考えてみましょう。わかりやすいのがスポーツの世界です。学校で行われる運動会や体育祭をイメージしてみましょう。例えば、「体育祭であなたにとって何がいちばん大事ですか?」と質問すると、日本の学校の多くの子どもたちからは、すぐに「団結」「チームワーク」「協力」などという答えが返ってきます。

↑みんな違っていてよい。全員がOKなものを探し出す

 

しかし、社会全体の価値観を共有するとき、自分の価値観を他者に押し付けてしまうことはできません。誰一人取り残すことのない価値観を共有することが大切です。人にはそれぞれ個性や発達特性があり、そもそも協力したりするのが苦手な子どもがいたりするからです。対話をするときに重要なのは、1人ひとり異なる価値観を認めつつ、全員にとって何が一番大事なのかを考えるということ。そうすると、自分の価値観では「団結が大事だと思うよ」と言う人も、「あいつは団結って言わないよな」「あいつは1人でいるのが好きだしな」「あいつは勝負にもこだわらないし」となるわけです。そうなると、「全員がOK」というものはめったにないとわかります。

 

「運動を楽しむ」ならどうでしょうか。これならみんな否定しないのではないでしょうか。スポーツは障がいがあってもなくても、運動が得意でも苦手でも楽しめるもの。生涯の友達みたいなもの。自分の人生を豊かにしてくれるもの。そんなことが粘り強く対話を続けていれば、必ず見つかってくるのだと私は思います。そして「運動を楽しむ」ことを、全員が共有する最上位の優先すべき目標だと合意ができれば、それを実現するための手段が的確に選択されていくのだと思います。

 

麹町中学校でのSDGsの教え方

麹町中学校では、SDGsという言葉こそ使っていませんが、SDGsの基本的な考え方を、体育祭と文化祭で教えています。体育祭の最上位の目標は「全員を楽しませよう」。生徒1人残らず楽しませるというミッションを与えるんです。生徒1人残らずというのは、足に障がいがあって走れない子、集団行動が嫌いな子、運動が嫌いな子、そういった子もすべてを含みます。逆に運動が得意だったり、目立ったりするのが好きな子もいます。「どんな生徒も楽しめる体育祭」というミッションを、子どもたちは対話をしながら解決していくわけです。

↑どんな体育祭にするか、みんなで話し合いを行う

 

ブレストやKJ法、マインドマップなど話し合いの技術や、プレゼンのコツなどは教えますが、あとは子どもたちが考え、自由に決めていきます。当日の運営もすべて子どもたち任せ。それを保護者も受け入れてくれています。

 

文化祭になるとさらに難しくなります。「次は社会を広げるぞ。見に来てくれる人がいてなんぼだから、観客の皆さんを全員で楽しませろ!」と。そうすると、地域のおじいちゃんおばあちゃん、小学生、家族、先生たち、全員を楽しませるわけですから、さらに多様な人を相手にしなければいけません。難題ですが、子どもたちは真剣に取り組みます。これらが、子どもたちがSDGsを学ぶための基盤になっています。

↑麹町中学校の文化祭の模様

 

みんなが違っていいけど誰1人取り残さない

このように、目標を定めるための対話こそが大切ですが、この対話が今の日本の教育ではほとんどなされていないように感じています。結局、あらゆるところで大人の価値観を押し付けてしまっています。相反することが起こった場合に、みんなが当事者となり、将来のことを考えて上位の目標で合意するには、痛みを分け合わなければいけません。スウェーデンでは、小学生のころから、学校で来年度の予算について対話で決めるそうです。子どもですから、当然、「あれ買いたい」「これ買いたい」となりますが、全員OKのものを見つけ出すことを目指し、安易に多数決をとることなく、話し合いを続けていくのです。誰1人取り残さないようにする方向で徹底して対話するこの経験が子どもたちの当事者意識を高めていくことにつながっていくのだと思います。

 

SDGsの本質を理解する企業とは

企業も同様かもしれません。SDGsを掲げている企業が多くありますが、SDGsの本質を理解している企業ばかりではないように思います。

 

以前、株式会社IHI(旧石川播磨島重工業株式会社)の元代表取締役だった斎藤保さんと対談をさせていただく機会がありました。同社は元々造船の会社でしたが、現在は資源・エネルギー、社会インフラ、産業機械、航空・宇宙の4つの事業分野を手掛ける総合重工業グループとなっています。企業が生き残れた理由について斎藤さんは、「企業の場合、最上位の目標は経営理念にあります。IHIの経営理念のひとつは『技術をもって社会の発展に貢献する』です。それを徹底していけば、組織を倫理的にきちんと進めていくことができます」と話していました。これこそがSDGsの考え方だと私は思います。

 

 

私の好きな経営者の一人に本田技研工業を創業者、本田宗一郎さんがいますが、彼の意志を継承した“ホンダイズム”という理念に「そこで働く人たちと共に社会貢献していく」ような考え方があります。ホンダは海外に工場を建設した際、現地の人たちと経営方法や仕組みを考えていくそうです。工場の排水が環境問題となった場合、排水を浄化するシステムまで開発し、それを地域の農作物用に利用するなど、現地の人たちを当事者にして課題解決に努めています。まさにSDGsそのものです。

 

先に民主的な考え方を学ぶべき

これからの日本、そして地球には解決していかねばならないさまざまな問題が待ち受けています。どの問題も人は自分のことを優先してしまうから、解決は容易くはありませんが、これを解決していく方法は粘り強い「対話」です。利害の対立を乗り越え、持続可能な社会を目指して合意する。このことを繰り返していくしかないのです。

 

最も大切な究極の目標は平和ですが、私は生徒たちにこう言います。「対話を通して持続可能な平和な世の中を作るという戦いに負けたら人類は滅びるんですよ」と。

 

先に、麹町中学校ではSDGsという言葉は使っていないと言いましたが、子どもたちは「あぁ、これがSDGsのことなんだ」と、たぶん本質的にわかっていると思います。「みんなが違う意見を言えば対立が起こるものだよ」「その対立が起こったときに対話をして、みんながOKのものを探し出すことが大事だよ」と教えているからです。

 

まさに民主主義の考え方なのですが、日本の教育は、民主的な考え方を学ぶ教育が浸透していません。それができてこそSDGsの本当の意味がで理解できるのではないでしょうか。

 

日常からSDGsの理念を体得

前編冒頭で「18歳意識調査」に触れましたが、子どもたちを含め、我々に最も足りないのは当事者意識です。SDGsを「どこか遠い国の話」だとか、「限られた優れた人たちの話」「意識の高い人たちの学問」みたいな捉え方をしていませんか。

 

国連がSDGsで示した、10年後の2030年。もしかすると日本社会は本当の意味で岐路にたっているかもしれません。そうならないために、学校は変わらなければならないと私は思います。

 

学校の中で起こる日常的な人間関係のトラブル全てが、実はSDGsを学ぶ場だと私は思います。生徒はもちろんですが、職員室、PTA活動の中で、まずは大人自身が対話を通して合意することができるようになる必要があります。SDGsという言葉は便利で、ひとつの切り口としては使いやすいかもしれません。でも、まずは自分たちの生活の場で、SDGsそのものの考え方、基本的な理念を体得することこそが大切だと思います。

 

【プロフィール】

学校法人堀井学園 理事/横浜創英中学校・高等学校 校長

工藤勇一(くどう・ゆういち)

1960年山形県鶴岡市生まれ。山形県の公立中で数学教諭として5年務めた後、東京都台東区の中学校に赴任。その後、東京都と目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年4月から東京都千代田区立麹町中学校の校長を務める。大胆な教育改革を実行し、話題を呼んだ。2020年4月から、学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。また、現在、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。著書に、10万部のベストセラーになった『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)ほか多数ある。

 

【JICA地球ひろば】

今回のインタビューは、独立行政法人 国際協力機構(JICA)が運営する「JICA地球ひろば」で行った。世界が直面する様々な課題や、開発途上国と私たちとのつながりを体感できる場、そして、国際協力を行う団体向けサービスを提供する拠点となることを目指して設立された。各種展示では、国連で採択された世界をより良くするための2030年までの目標「持続可能な開発目標 SDGs」などについて学ぶことができる。

〒162-8433 東京都新宿区市谷本村町10-5
電話 03-3269-2911
開館時間 平日10:30~21:00(体験ゾーンは18:00まで)
休館日 毎月第1・3日曜日ほか
詳細は次のホームページでご確認ください。
https://www.jica.go.jp/hiroba/index.html

 

 

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【前編】

最近、すっかり定着した感のある「SDGs」というワード。ところで、2015年の国連サミットで採択された、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」であることは知っているけど、実際、具体的にはどういう意味? 自分たちにどう関係があるの? などなどイマイチSDGsについて分からないことが多いのではないでしょうか。そこで今回は前編、後編の2回に分け、元麹町中学校の校長である工藤勇一さんにSDGsについて話をうかがいました。

↑今年の4月から横浜創英中学校・高等学校の校長に就任した工藤勇一先生

 

東京都千代田区立麹町中学校の校長に2014年に就任後、宿題や固定担任制の廃止ほか“学校の当たり前”をやめ、子どもの自律を重視した教育改革に取り組んだ工藤勇一校長先生。先生の教育論はSDGsの考え方と共通する部分があります。前編では、学校教育が抱える真の課題について語っていただきました。

 

大人の自覚がない日本の高校生

まずは下記の図表をご覧ください。2019年11月に日本財団が発表した「18歳意識調査」です。世界9か国の17~19歳各1000人の若者を対象に、国や社会に対する意識を聞いたものです。

↑日本財団「18歳意識調査」(2019.11.30)より

 

結果を見ると、日本は他国と比べて尋常ではない数値であることがわかります。この数値が日本の高校生を象徴していると仮定するならば、日本の未来は非常に心配です。

 

どの項目も他国に比べて著しく低いことがわかります。最後の2項目、「自分の国に解決したい社会議題がある」「社会議題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」はSDGsにも関係しますが、突出して低い数値になっています。そもそもSDGsについてほとんど関心を持っていない生徒が多いということを示しています。

 

しかし、この調査結果は若者たちの姿だけを示しているのもではなく、我々大人自身の姿であるのかもしれません。大人自身がすべてにおいて「他人事」だから、自分たちで国を変えようという意識が子どもたちに生まれないのだと考えます。だから、この度の新型コロナウイルスのような出来事のような、とんでもないことが起こっても、私たちはただただ受け身の姿勢で、誰かが何かをやってくれることばかりを期待してしまいます。そして思ったようにことが進まないと、やってくれないことを批判することに終始する、そんな社会になってしまったのかもしれません。

 

自律・主体性を失った子供たち

どうしてこのような社会になってしまったのか――。ある意味日本はサービス過剰の社会だからかもしれません。学校も行政も単なるサービス機関になってしまったように感じています。人はサービスを与えられ続けると、次第にそのサービスに慣れていきます。そしてもっとよいサービスをと、さらに高品質を求めるようになっていきます。そして不満を言うのです。

 

学校も行政も本当は、みんなが当事者でなければいけないはずです。しかし、みんながただただサービスを与えられる側になってしまっているのです。幼児期から手取り足取りモノを教え、壁にぶつかれば手を差しのべる。早期教育など、少しでもいいサービスを受けさせれば子どもの学力が上がると勘違いしています。そして、与えられることに慣れた子どもは、手をかけられればかけられるほど自律できなくなっていきます。そして、うまくいかないと人のせいにするようになる。例えば、勉強がわからなければ「先生の教え方が悪い」「塾が悪い」などという具合に。

 

リハビリの3つの言葉がけ

私が今年の3月までいた麹町中学校は、教育熱心な保護者が多く、子どもたちは、幼児期から手をかけられて育ってきました。そのためか、自律性と主体性を失った挙げ句、自分で考えて行動ができない子どもたちがたくさん入学してきます。劣等感でいっぱいで自己肯定化が低い。わずか12歳の子どもが「自分はダメですよ」などと言うんです。やる気は見られないし、先生を含め、そもそも大人を信用していません。

↑近くには皇居や最高裁判所もある、千代田区立麹町中学校

 

ずっと与えられ続けてきて、自分で考えて判断や行動ができなくなってしまった子どもたちは多くの問題を抱えています。授業中でも歩きまわるし、他人の邪魔をします。友達に嫌がらせはするし、いじめもする。破壊行為だって珍しくありません。ですから、麹町中学校では主体性を取り戻すためのリハビリが必要になってくるのです。

 

最初は現状把握をするために「どうしたの?」と聞きます。例えば、騒いで授業の邪魔をする子どもがいたら、「どうしたの?」「何か困っているの?」と。小学校時代、頭ごなしに叱られてきた子たちたちは、叱られないことにまず驚きます。

 

次に、「君はこれからどうしたいの?」と聞く。これまでの中学校では、「邪魔するならとっとと帰れ」「空いている教室に行け」など、先生がある意味高圧的な指導で行動を指示をするのが一般的だったかもしれません。でも、「君はどうしたいの?」と聞かれると、どうしたいか自分で考えざるを得ません。

 

そして3つ目の言葉は、「何を支援してほしいの?」です。トラブルを起こした子どもが、自己決定しなければならない状況に自然と導くのです。とはいえ、主体性がなく自律できない子どもは、最初は自己決定などできません。例えばそんなときは、「支援できるとすれば、別室ぐらいは用意してあげられるよ」「君が選択できるとすれば、教室に戻って我慢して1時間授業を聞くか、別室にいて何かやっているかだけど、どうする?」と助け船を出します。そうすると、「別室に行かせてください」と返ってくる。子ども自身に決定させるのです。「1時間でいいかい?」と、さらに考えさせ、自己決定させます。

↑子どもに自己決定させるための言葉がけ

 

ほんの些細な自己決定に過ぎませんが、この「自己決定をする」というプロセスはすごく大事な作業で、これを何度も繰り返すことが重要です。繰り返していくうちに、主体性が徐々に戻り、自己肯定感が高まってきます。さらに、自分が支えられているという安心感が生まれ、他者を尊重する気持ちが芽生えてくるのです。

 

リハビリにより子どもたちに変化が

麹町中学校では、第1学年を「リセット(リハビリ)する時期」と位置付けています。

 

↑リセットにかかる期間は子どもによりまちまち

 

中学1年生相手にリハビリを展開するのは、教員にとってすごく忍耐のいる作業です。「宿題は出しません」「勉強をしたくなければしなくていいですよ」と言われれば、授業中でも子どもたちは遊んでいます。はじめに教えるのは、「あなたに勉強しない権利はありますが、他の人の勉強の邪魔をする権利はありません」というルールぐらいです。とは言っても、授業中に遊び続けられていると、「何やっているんだ」「時間の無駄だぞ」と教員は注意したくなります。注意するのは簡単ですが、それでは元も子もない。前述した3つのセリフをどのタイミングでどのように使えばいいのか、教員たちは日々悩み試行錯誤しながら教育活動を行っています。

 

当初は、「どうしたの?」と聞くと、「いやぁ」とヘラヘラ笑うか、「別に」と素っ気なく答える子どもがほとんどでした。無気力なんです。ところが、粘り強く「どうしたいの?」「手伝うことある?」と教員が訊き続けると、1日過ぎ、2日過ぎ、1週間過ぎ、1カ月過ぎ、次第に無気力な子どもが減っていきます。

 

いろいろなトラブルが起こり、そのたびにこうしたアプローチを続けていくうちに、「先生は信頼できる存在なのかも」と、子どもたちも心を開き始めます。

 

ずっとやる気がなく、授業中ほとんど勉強しない子のリハビリに8カ月かかったこともありました。その子は数学の時間、毎時間遊び続け、教員はひたすら我慢し、待ち続けました。7カ月が過ぎた頃、何かのきっかけで、その子が、1問、問題を解いたんです。その瞬間に気付いた教員が声をかけたら、スイッチが突然入ったんですね。その子はそこからわずかひと月半で、1年生のカリキュラムを全部終わらせることができました。これは、教員たちにとっても改めて待つことの大切さを感じた出来事となりました。

 

麹町中学校が行ってきた取り組み

こうした麹町中学校の取り組みはマスコミでも話題になりました。定期テストと宿題、服装・頭髪指導、固定担任制の廃止などです。子どもは場面に応じてその都度、先生を逆指名します。例えば中3の進路面談では、1年生から3年生までの全教員の中から相談に乗ってもらう教員を選べます。自分で選んだ先生ですからもちろん文句を言うことはありません。教員間での妙な競争意識がなくなり、教員たちも子どもたちに対して過剰なサービスをしなくなります。ある意味、教員の働き方改革にもつながりました。

↑話題になった、麹町中学校での主な取り組み

 

私は元々、数学の教師ですが、麹町中では数学にAI(人工知能)教材を取り入れた全く新しい指導を行いました。教員は3年間、一斉指導を行うことをやめたのです。基本的に毎時間、子どもたちが自主的に好きなように学べるのです。自分で問題集を持ってきて1人で解いている子どももいれば、AI教材を使って勉強している子もいます。もちろん先生に質問することもできます。この授業スタイルを取ってから、落ちこぼれる子どもがいなくなりました。特にAI教材は効果的です。どの子がどの部分につまずいているかをAIが瞬時に判断し、わからない箇所は小学校1年生の基礎まで戻れます。逆に数学が得意な子どもは、どんどん進んで、高校の内容まで勉強できるなど、教員が教えない方が遥かに効率的だということがわかりました。

 

大切なのは手段が目的化しないこと

宿題の廃止にも大きな意味がありました。宿題の目的は「学力を高めるため」ですが、一律に課すことにより、先生に怒られるからと子どもたちは「宿題を提出する」ことに意識がいってしまいます。そのため、例えば20問ある宿題があった場合、わからない問題を飛ばし、提出するためだけに時間を使います。本当は、飛ばした「わからない問題」を勉強することこそが大切なのに、それでは学力は何も変わりません。また、すでに理解している子どもにとっては単なる時間の無駄でしかありません。日本の教育は全てこれです。目的を達成させるための“手段”である「宿題をやる・提出する」ことが、目的化してしまっているのです。

↑わからない「×」の部分を「〇」にする努力をしなければ学力は何も変わらない

 

現在の学校教育を振り返ってみると、意味のないことをたくさん行っているように感じます。誰も読まない作文を書いたり、宿泊行事では集団行動が重視されたり、挨拶運動をさせたり。手段そのものが目的化し、本当の目標がブレてしまっているのです。よくあるのが、「みんなでSDGsを研究しましょう」という課題。さんざん研究して、その成果を廊下などに掲示したりしていますが、誰も読んでいません。これは、SDGsを研究させて発表すること自体が目的になっているからです。これでは何のためにやっているかわかりません。学校にはこのような手段の目的化が多く存在します。

↑手段が目的化している例

 

画一的な教育から多様な教育へ

日本の学校では、いまだに「礼儀」「忍耐」「協力」が強調され続けています。日本古来の「いい」考え方だという捉え方をされていますが、これらを優先することで排除されてしまう子どもたちが少なからずいることを忘れてはいけないと私は感じています。自閉症スペクトラムのような特性を持った子どもたちの多くは挨拶やコミュニケーションを苦手としています。友達と協調することが苦手な子どももいます。本当に大切にすべきことを優先にできる教育を行うことができなければ、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツのような起業家は生まれてこないと私は思います。

 

日本の学校では、先生の言うことを聞く子どもがよしとして育てられ、自律できないまま大人になってしまう子どもたちが数多くいます。終身雇用制度の時代であれば、組織の歯車としてはいいのかもしれません。しかし時代は急激に変化しています。終身雇用制度は崩壊し、転職や企業を、自分で考えて決め、行動しなければなりません。となると、学校の最上位の目標は「自律性・主体性のある子どもを育てる」でなければなりません。

 

学習のやり方はいろいろあるのに、一つの方法を全員に強制するのも手段が目的化してしまった一例です。一人ひとりの可能性を伸ばしていくために、これからの学校は、学習者主体で考えていくことが大切です。子どもたちが「何を学んで(カリキュラム)」「どう学ぶか(学び方)」を決められるようにしていくことです。例えば、発達に特性があって、プログラミングにしか興味が子がいるとすれば、その子にそれをたっぷり勉強できる環境を作ってあげる。そんなことができたらと思います。多様な子どもたちに、個別最適化した教育を行うことによって、多様な人材が生まれる。そんな学校教育を実現したいものです。〜後編に続く

 

【プロフィール】

学校法人堀井学園 理事/横浜創英中学校・高等学校 校長

工藤勇一(くどう・ゆういち)

1960年山形県鶴岡市生まれ。山形県の公立中で数学教諭として5年務めた後、東京都台東区の中学校に赴任。その後、東京都と目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年4月から東京都千代田区立麹町中学校の校長を務める。大胆な教育改革を実行し、話題を呼んだ。2020年4月から、学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。また、現在、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。著書に、10万部のベストセラーになった『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)ほか多数ある。

 

【JICA地球ひろば】

今回のインタビューは、独立行政法人 国際協力機構(JICA)が運営する「JICA地球ひろば」で行った。世界が直面する様々な課題や、開発途上国と私たちとのつながりを体感できる場、そして、国際協力を行う団体向けサービスを提供する拠点となることを目指して設立された。各種展示では、国連で採択された世界をより良くするための2030年までの目標「持続可能な開発目標 SDGs」などについて学ぶことができる。

〒162-8433 東京都新宿区市谷本村町10-5
電話 03-3269-2911
開館時間 平日10:30~21:00(体験ゾーンは18:00まで)
休館日 毎月第1・3日曜日ほか
詳細は次のホームページでご確認ください。
https://www.jica.go.jp/hiroba/index.html

ハワイ史上最も暑い夏を引き起こした「ブロブ」の最新研究が示す「気候変動」

記録的な夏の高温や世界各地で頻発する山火事など、さまざまな異変が世界レベルで起きていますが、そんな変化は広大な海のなかでも起きているようです。そのひとつが、2013年~2015年頃から北太平洋で観察されるようになった「温かい水の塊」。周辺の水温よりも最大で4度近く高くなるこの現象を科学者たちは「Blob(ブロブ)」と呼び、その原因や今後の発生頻度などについて調査してきました。

 

最高気温更新のウラに……

↑ Blobのイメージ

 

2013年頃から観察されていたブロブは、サンゴの白化やザトウクジラの個体数減少など生態系や漁業にも大きな影響をもたらしていると見られていますが、その影響は常夏の楽園にも及んでいました。2019年の夏にはハワイで最高気温記録を更新する日が29日もあり、史上最も暑い夏となったのです。

 

ハワイは本来、比較的冷たい海水に囲まれた地域にあり、夏であっても過ごしやすい気候なのですが、その年の夏については北太平洋の海域でブロブが発生し、平年より2~4度ほど高い海水に囲まれていたのだそう。そのため、このブロブによって夏の異常な暑さがもたらされたものと見られています。

↑2014年と2019年との比較。海面気温が上昇していることがわかる

 

温暖化でブロブの発生頻度も上昇

周辺よりも高温な気温の塊が、波のように押し寄せてくる現象を「熱波」と言いますが、ブロブは海中で起きる熱波のようなもの。日本語では「海洋熱波」と表現されることもあるこのブロブですが、発生の原因は何なのでしょうか? 最も単純な見方は、やはり地球規模で起きている気候変動の影響でしょう。

 

スイスのベルン大学の研究チームが先日発表した内容によると、1981年~2017年に記録されたブロブを解析したところ、ブロブは平均して150万平方キロメートルの大きさで40日間続き、海水温が最高で5度も例年より高いことがわかりました。さらに近年起きた大型のブロブについて、どのような確率で発生していたか計算すると、人為的な気候変動が原因で20倍も高い確率でブロブが発生すると判明したのです。

 

同チームによると、過去10年間で観測された最強のブロブは、産業革命前の気候では数百年~数千年に一度程度しか発生しなかっただろうと見られるとのこと。しかし、これから世界の平均気温が1.5℃上昇するとしたら、同じ規模のブロブは10〜100年に1度の頻度で発生し、気温が3℃上がるとしたら、10年に1度の頻度で起こると予想されるそう。

 

世界各地で引き起こされる、さまざまな異変。このまま続けば、さらに予想外の大きな影響が出てくる可能性だってあり得るでしょう。夏の厳しい暑さも、山火事も、海のブロブも、地球からの警告なのかもしれません。

 

【出典】

Laufkötter, C., Zscheischler, J., & Frölicher, T. L. (2020). High-impact marine heatwaves attributable to human-induced global warming. Science, 369(6511), 1621-1625. https://10.1126/science.aba0690

 

布団の新たなる効用! 「重い布団」が「睡眠」を劇的に改善する

羽毛布団は、ふかふかして高級感もあり、気持ちよく眠りにつけそうな気がします。でも、睡眠を良くしてくれるのは羽毛布団だけに限りません。最近の研究で、不眠症患者が重い毛布を使うと睡眠が改善したことがわかりました。

 

重さ8kgの毛布で不眠症回復率が20倍

↑重い布団に変えたほうがいいかもしれません

 

スウェーデンのカロリンスカ研究所の精神科医を中心とした研究チームは、布団の重さと不眠症などの関係を調べるために、不眠症と診断され鬱や不安障害などの精神疾患を併発している120名の成人(女性68名、男性32名、平均年齢は約40歳)に対して実験を行いました。研究者たちは被験者たちをランダムに2つのグループに分け、一方には鎖を付けて重さ8kgにした毛布を、もう一方にはプラスチック製の鎖を付けた重さ1.5kgの毛布を支給し、自宅で4週間過ごしてもらいました(重さ8kgの毛布が重過ぎると感じる人は6kgのものを代用)。

 

その結果、軽い毛布のグループでは、被験者のうち5.4%しか不眠重症度を表すISIスコアの改善が見られませんでした。それに対して、重い毛布のグループでは、ISIスコアが50%以上下がった人の割合が60%近くに達し、睡眠状態が改善され、日中の活動レベルや精神疾患の症状の改善が見られました。さらに不眠症の回復まで達した人は、軽い毛布のグループのうちわずか3.6%だったのに対し、重い毛布のグループでは42.2%と、20倍近く良い結果を得られたのです。

 

また、4週間の実験終了後、希望者には好きな毛布を選んでもらい、さらに12か月間の経過観察を行ったところ、ほとんどの患者が重い毛布を選びました。最初の4週間の実験で軽い毛布を使い、その後重い毛布に変えた人も、同じように睡眠が改善。12か月後、重い毛布を使った人の92%に変化が見られ、不眠症が改善した人は78%に達しました。

 

重さ8kgの毛布というと、一般の人にはずっしりと重く感じられるはず。そのような重みがなぜ不眠症改善に効果をもたらしたのでしょうか? この実験を行った研究者によると、毛布の重みによって、体中にある筋肉や関節に刺激が与えられ、指圧やマッサージと同じような効果が得られたと推測できるとのこと。深部へ圧力をかけると、心身の緊張を緩める副交感神経の働きが促進されると同時に、興奮するときに活発化する交感神経が静められると研究者らは示唆しています。

 

確かに不安や心配事を抱えているときは、軽いふわふわとした布団を掛けてもすぐに眠れないですよね。そんなときは、重い布団をかけることで身体から心の状態を変えるほうがいいのかもしれません。不眠症でない人も寝つきが悪いときは、少し重い布団を掛けてみてはどうでしょうか?

 

【出典】

Ekholm B, Spulber S, Adler M. A randomized controlled study of weighted chain blankets for insomnia in psychiatric disorders. J Clin Sleep Med. 2020;16(9):1567–1577. https://doi.org/10.5664/jcsm.8636 

ブラジルで環境に優しいエアコンを:官民連携で省エネ基準改正を実現【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ブラジルで進む環境に優しいエアコン普及のための取り組みについて取り上げます。

 

2020年7月、ブラジルで空調機向けの省エネ基準が改正されました。これは、ブラジルで日本のエアコンメーカー・ダイキン工業が、JICAの民間連携事業「中小企業・SDGsビジネス支援事業」を活用して現地の大学などと連携し、時代に対応できていなかった規制制度の改定をブラジル政府に働きかけてきた結果です。民間企業の取り組みによって国の規制改定に至ったのはブラジルでは初めてでした。これに伴い、今後、ブラジルのエアコン市場は、環境に優しい空調機が普及しやすくなり、エネルギーや環境保全の課題に貢献することが見込まれています。

↑ブラジルにあるダイキン工業の工場。JICAとダイキン工業はブラジルの省エネエアコン基準改正を後押ししました

 

空調機の性能評価の基準が改正された

ダイキン工業は、JICAの民間連携事業として「ブラジルでの環境配慮型省エネエアコンの普及促進事業」を2018年から実施しています。このブロジェクトが始まった頃のことを、当時の担当者だったJICA民間連携事業部の関智子職員は次のように振り返ります。

 

「ダイキン工業は、現地に法人と工場を持ち、すでにブラジル市場に参入していましたが、ブラジルの空調機の性能評価の基準が時代に適合していなかったため、同社製のエアコンの性能がどれほど高くとも、ブラジルの市場では評価されませんでした。しかし、単独の民間企業が国の評価制度や基準改正に向けて取り組むには限界があります。ダイキン工業によるJICA民間連携事業は、ブラジルのエネルギー課題への対応と日本企業の技術活用、その両方に貢献できる事業としてスタートしました」

 

ダイキンブラジルの三木知嗣社長は、「ブラジル政府も、エネルギー問題をどうしていくかということについて危機感を持っていました。そのタイミングで、JICAと連携することで『日本が国として動く』という姿勢をみせられたことは大きな力になりました」と語ります。

 

今回の改正では、空調機の性能評価方法について、国際的に広く用いられる評価基準のISO16358が適用されます。この改正基準は2020年7月に公布後、2023年と2026年には、段階的に時代に合わせた基準値の義務化が予定されています。

↑新制度の開始を告知するブラジル国家度量衡・規格・工業品質院(INMETRO)のwebサイト

 

時代遅れであったブラジルの省エネラベリング制度

ブラジルでは、エアコンの省エネ性能を表示するラベリング制度も機器の性能を適切に反映できるものに改善されます。この省エネラベリング制度については、省エネ性能に優れ世界の主流になっているインバーター機が正しく評価されておらず、問題が山積していました。

 

これまでは非インバーター機を対象とした基準になっており、約10年間も省エネ基準の見直しが行われていませんでした。そのため、インバーター機が非インバーター機に比べて最大で6割も消費電力が低いにもかかわらず同一カテゴリーに分類されており、省エネ品質表示としては実質的に機能していないものだったのです。

 

「ブラジルで売られているエアコンの多くが、省エネ性能に劣り、他国ではもはや売れなくなったような旧型製品です。しかし、従来のラベリング制度では市場に流通するこれらの製品の9割以上が最高グレードのAランクに分類されるため、ユーザーにとっては非常に分かりにくい制度になっていました」と、三木社長はブラジルの状況を振り返ります。

 

旧制度のままでは、インバーター機が正当に評価されず、その普及が遅れることは、ブラジルのエネルギー・環境問題にとって大きな課題でした。こうして、ダイキン工業とJICAは、これらの課題を解消するために、多くの施策に取り組んだのです。

「中南米ではインバーター機の普及が他地域に比べて遅れている」  世界の住宅用エアコンのインバーター機比率(2018年):住宅用エアコンとは、ウインド型、ポータブル型を除く住宅用ダクトレスエアコン(北米のみ住宅用ダクト式エアコンを含む)。日本冷凍空調工業会データを参考に作成(資料提供:ダイキン工業)

 

新しい基準設定のため産官学連携で働きかけ

消費者に省エネ意識が定着しておらず、国の省エネ政策もまだまだ弱いブラジルで、基準や制度の改定に向けた働きかけは簡単なものではありませんでした。ダイキン工業はJICAの支援を得て、現地の大学やNGO、国際機関などと連携し、共同実証試験の実施など、課題と対策について繰り返し話し合いの場を持ちました。

 

さらに、ブラジル政府関係者の日本への招聘、日・ブラジル政府次官級会合、ブラジル空調懇話会などを実施。ダイキン工業の工場見学など現場への訪問やWEB会議を重ね、理解を深めるための的確で正しい情報の提供と、改正案を整えるための懸命な働きかけを重ねることで、改正は進んでいったのです。

↑ブラジル政府関係者の日本来訪時の様子(2019年)。ダイキン工業滋賀工場の見学(上)や、家電量販店のエアコン売り場視察(下)

 

JICA民間連携事業部の担当者である山口・ダニエル・亮職員は「取り組みに対する、ダイキン工業の皆さんの熱量が高かった。それがブラジルの関係者に伝わったのだと感じます。さらに、ダイキン工業の高い技術力に裏付けされた実績と信頼、複数の専門分野の関係者を巻き込んだチーム運営、官民連携による対話の機会構築が今回の成果に繋がったのだと思います」と語ります。

 

また、ダイキン工業CSR・地球環境センター課長の小山師真さんは「日本にブラジルの関係者を招聘した際にも、先方の『なんとかしなきゃならない』『この機会を活かすんだ』という熱意を感じました。制度や規制を変えるのに必要なのは、日本とブラジル双方の熱意であると思います」と述べました。

 

ダイキン工業は今後、アフリカや中東でも環境に優しい製品を展開していく予定です。JICAは、長年築き上げてきた途上国との信頼関係や幅広いネットワークを活かし、日本の民間企業や研究機関が持つ新技術やノウハウを、途上国の課題解決につなげていきます。

↑現在、世界の主流はインバーター機。写真はブラジルのダイキンショールームに展示されているインバーターエアコン

 

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何やら面白そうなものを作っているぞ! LGが「マスク型空気洗浄機」と「発毛促進ヘルメット」を発表

最近、韓国の家電メーカーLGから話題の商品が2つ登場しました。マスク風のウェアラブル空気清浄機と発毛を促すヘルメットです。アメリカのメディアにも取り上げられるなど海外でも注目を集めているようですが、一体どんな製品なのでしょうか?

 

マスクのようなウェアラブル空気洗浄機

↑新種のウェアラブルデバイス

 

一般的なマスクのように見えるこの写真の商品は、口元に装着できる空気洗浄機「PuriCare Wearable Air Purifier」です。同社の家庭用空気清浄機にも使われている「H13 HEPAフィルター」を2つ備え、装着した人に新鮮できれいな空気を届けるという仕組み。また、呼吸センサーを搭載しており、装着した人の呼吸の量やサイクルを検出します。息を吸うとファンのスピードが上がり、吐くときはファンのスピードが落ちるという具合に、3速のファンが自動で設定されます。820mAhバッテリーを搭載し、ローモードなら最大8時間、ハイモードなら2時間使用できるそう。

 

さらに、マスクの形状は人間工学をもとに設計されており、鼻や顎からの空気漏れを最小限にして、長時間の着用でも快適に過ごせるようにデザインされています。また、付属ケースはUV-LEDライト付きで、使用後の空気清浄機をきれいにしてくれるうえ、フィルターの交換時期もアプリで知らせてくれます。

 

「PuriCare Wearable Air Purifier」は、2020年第4四半期から一部市場で発売される予定(価格未定)。このデバイスについて報じたアメリカのあるメディアの記事に対して「まわりの人たちが普通のマスクをしてくれればいいので、俺はこれにお金を使うつもりはない」「いいアイデアだ」と賛否両論が寄せられています。

 

光治療で発毛を促すヘルメット

マスク型ウェアラブル空気洗浄機に続き、新製品としてLGから発表されたのが、発毛を促すヘルメット「LG Pra.L MediHair」です。男性型脱毛症の治療法として、米国食品医薬品局(FDA)から認められた低レベルの光治療(LLLT)を採用。146個のレーザーと104個のLEDライトが毛包幹細胞を刺激して、発毛をサポートし男性型脱毛を遅らせるのだそう。LGによると、盆唐ソウル大学病院で行われた臨床実験で、このヘルメットを1週間に3回装着し16週間続けたところ、髪の密度や太さに改善が見られたのだとか。このヘルメットのリリースは2020年末頃の予定です。

↑これを頭にかぶれば、髪の毛が増えるかも

 

どちらの商品も日本で発売されるかまだ明らかとなっていませんが、LGはなかなか興味深い生活家電を作っているようです。

 

コロナ禍にスポーツのチカラでできること:地球ひろばでオンラインイベントと企画展を開催【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、スポーツをテーマにJICA地球ひろばで開催された一般参加型のオンラインイベントについて取り上げます。

 

新型コロナウイルスの流行がスポーツにも大きな影響を与えるなか、JICA地球ひろば(東京・市ヶ谷)では、スポーツの力や役割を見直そうと、オンラインイベントや企画展を開催しています。地球ひろばとしては初の取り組みとなった一般参加型のオンラインイベントでは多様な参加者による意見が飛び交い、スポーツを通じた新たな交流の場として盛り上がりました。

↑さまざまな意見が発信され、スポーツファンの交流の場となったオンラインイベント。全国各地から45名が参加しました

 

「途上国でのスポーツ普及は、可能性や希望、夢を与えることであると再認識」といった感想も

JICA地球ひろばで開催されたのは、五輪応援企画「オンラインでワールドカフェ! ザンビア パラ陸上支援 野﨑雅貴さんと考える日本と世界の体育・スポーツの価値の違いとポストコロナのスポーツの役割」と題したオンラインイベントです。野﨑さんはアフリカのザンビアで、青年海外協力隊の体育隊員として活動していた経験を持ちます。

 

当日は、高校生や大学生から、海外経験豊富な社会人まで、さまざまな立場の男女45名がオンラインで参加。スポーツの持つ力やその未来になどについて、活発な議論を交わしました。

 

参加者からは「スポーツを通して、礼儀なども身につくのが日本の体育教育のよい点だと思う」「日本の体育には、取り組む種目が多いので誰もが輝ける時間があるのが素敵なのではないか」といった意見が出され、日本の体育文化への議論が高まります。また、「ポストコロナとスポーツ」というテーマについては、「これからは人に触れないような形でのスポーツが主流になっていくのではないか」「コロナ収束後は、現地に行かなくてもスポーツに関する国際協力ができるようになるのではないか」といった、未来に向けてのさまざまな声が聞かれました。

↑野﨑さんのザンビアでの体験をもとにテーマが提示され、参加者同士のグループディスカッションが繰り広げられます

 

イベント終了後には、「幅広い年齢の方が参加していたこともあり、ディスカッションを通して、新しい視点で物事を考えることができた」「ディスカッションで、途上国でのスポーツ普及は、可能性や希望、夢を与えることであると再認識した」といった感想が参加者から寄せられ、参加者が主役となるディスカッションイベントとなりました。

 

イベントを企画した、JICA青年海外協力隊事務局でスポーツと開発を担当する浦輝大職員は、「今はネット上で簡単に情報を得られる時代なので、野﨑さんの体験談だけであれば、You tubeにアップして好きな時間に視聴してもらうことでもきます。でも、せっかく参加者の方々に同じ時間に集まってもらうのであれば、みなさんそれぞれが考えていることを共有する場になることが重要。そのような場が提供できればと今回のオンラインイベントを開催しました」と話します。

 

現在、地球ひろばのガイド役(地球案内人)を務めている野﨑さんは、「参加者が皆、積極的に発言しているのに感動した」と期待を上回る反応の良さに驚きを隠せない様子でした。

↑青年海外協力隊での体育隊員としての経験をプレゼンテーションする野﨑雅貴さん

 

地球ひろば企画展「スポーツのチカラで世界を元気に」を開催中

現在、JICA地球ひろばでは、スポーツを通じてできることを考えていく企画展「スポーツのチカラで世界を元気に」が開催されています。

 

東京オリンピック・パラリンピックの時期にあわせて開催する予定でしたが、新型コロナウイルスが広まるなか、「こんな時期だからこそスポーツのチカラを考えてみたい」という趣旨で企画されました。

↑企画展の入り口。地球案内人(展示のガイド役)の本宮万記子さん(左)と笈川友希さん(右)

 

展示は、「スポーツと国際協力」、「スポーツ技術の向上・教育としてのスポーツ」、「スポーツをすべての人に」、「ジブンゴトで考えよう」の4つのゾーンに分かれています。それぞれ解説パネルや、競技用の義足やバスケットボール用の車いすなど実際に使われているスポーツ用具が置かれ、ボッチャや綱引きといった競技を疑似体験できるコーナーもあります。会場では、野﨑さんをはじめとした地球案内人がガイドし、案内人はフェイスシールドを着用して、手で触れる展示物はこまめに消毒をするなど、コロナ対策を万全に来場者に対応しています。

↑会場内の様子。ボッチャの体験コーナーと綱引きの体験コーナーなどがあります

 

地球ひろばの中村康子職員は「来館者の方から『ボッチャやバスケットボール用の車いすの試乗体験は、スポーツの楽しさを体験できたし、人間の体の大きな可能性を実感した』という声をいただいています。ぜひたくさんの人に来場いただきたいです」と話します。企画展は、今年10月29日まで開催されています。

 

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コロナ禍のイギリスが編み出した「家飲み」の新スタイルがいかにも英国人らしい

新型コロナウイルスによる影響で、イギリスではこれまで以上にアルコールのオンライン販売が伸びています。さまざまな規制によって以前のようにパブやレストランで飲食を楽しめない日々が続いていますが、その代わりにイギリスでも家飲みが増加。ビールだけでなく、ワインやカクテルといったお洒落なお酒にも人気が集まっているようです。イギリス人はどうやって家飲みを楽しんでいるのでしょうか?

 

バーチャルパブ

↑パブの雰囲気に酔いしれて……

 

「イギリスといえばパブ」と言われるほど歴史の長いパブは、ビールやウイスキー、ワインを飲みながら交流を楽しむ場として昔から愛されてきました。ところがロックダウン中は閉店が続き、パブが恋しいと嘆くイギリス人が続出。そこで登場したのが「バーチャル・パブ」です。

 

バーチャル・パブには、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは個人が自宅でパブの雰囲気をつくり出し、オンラインを通して友人や家族とお酒を楽しむもの。もう1つはさまざまなイベントをオンラインで開催するパブです。

 

例えばFuller’s という大手パブチェーンは、毎週水曜日の夜にバーチャル・パブクイズを開始しました。また金曜日の「ハッピーアワー」の時間帯には、オリジナルカクテルに詳しいミクソロジストやビール業界のリーダーなど、お酒の専門家によるワークショップやカクテル作りのレクチャーを配信。音楽に耳を傾けながら静かに飲みたいときには、たっぷりと音楽の世界を満喫できるライブミュージックのイベントも毎週開催しています。

 

コロナ前では考えられなかった新体験

ビールやウイスキーで有名なイギリスですが、最近はカクテルの人気も高まっており、ロックダウン中には、カクテルの宅配も登場しました。ロンドンをはじめとする大都市のバーやレストランでは、カクテルだけでなくカクテル用グラスや氷、おつまみの注文も受けています。

 

プロがつくった本格的なカクテルを自宅で味わえるというユニークな体験は、コロナが蔓延する前には考えられないことでした。このようなひとときは、1日の疲れやコロナによるストレスを吹き飛ばしてくれます。

 

ワインやカクテルといえばグラスで飲むことが多いと思いますが、イギリスでは最近、缶入りのワインやカクテルが店頭やオンラインで販売されるようになりました。特にカクテルは手軽にいろいろな種類を試してみたい好奇心旺盛なイギリス人に好評で、人気が高まっています。

 

現在トレンディで手軽なカクテル缶といえば、2019年にアメリカから上陸した「ハードセルツァー」でしょう。これは、サトウキビを原料としたいろいろな種類のスピリッツをベースに、果物で風味をつけた低カロリーのヘルシーな発泡酒です。各ブランドによりカロリーやアルコール含入量はさまざまですが、例えば、スミノフのラズベリー・ルバブ風味250ml缶(下の画像)の場合は72カロリー、アルコール率は4.7%に抑えられています。

↑イギリスで大人気のハードセルツァー

 

ハードセルツァーはグルテンフリーや低カロリーなどの要素を取り入れ、健康に配慮していますが、さらにインスタグラム映えするオシャレなデザインでも消費者にアピールしています。このような戦略が功を奏して、健康維持や体重管理のために、ワインやビールの代わりとしてハードセルツアー飲むイギリス人が増えているようです。最近は、ミントや唐辛子を効かせたユニークな風味のハードセルツアーも続々と登場。500円前後で買える250mlのスリムな缶は、自宅のバーベキューパーティーやピクニックでも人気があります。

 

イギリス人にウケている「カクテル・サブスク」

カクテル人気が高まるイギリスでは、サブスクリプションもよく利用されています。カクテルファンの多くはシェーカーや専用グラスを持っているほど熱心なことから、カクテルのサブスクリプションはコロナが蔓延する前から注目されていました。

 

一般的なカクテル・サブスクリプションには「自分で好きなカクテルを選んで送付してもらうコース」や「規定のカクテルを送付してもらうコース」などがあり、「ギフトボックスコース」もラインナップされています。カクテルの袋詰めが箱入りでユーザーに送付されるものもあり、自宅にグラスと氷さえあればカクテル用シェーカーがなくても簡単に味わうことできます。

 

さらに、マティーニといった伝統的なカクテルのほかにも、コーヒー、ココナッツ、パンプキン、パイナップルなどをベースとしたさまざまなカクテルがあり、自宅にいながら世界の味を楽しむことができるのもお酒好きには堪らないでしょう。このような特徴をもつカクテル・サブスクリプションは、斬新的でエキサイティングな商品を好むイギリス人に喜ばれています。

 

バーチャルパブやカクテル・サブスクは家飲みの新しいスタイルとして定着していくかもしれません。

 

執筆者/ラッド順子

魚はどうやってカエルになった? 進化の鍵を握る「歩ける魚」に新事実

カエルやヘビといった両生類と爬虫類は、魚類から進化したものと言われています。では、海を泳ぐ魚たちはどうやって陸上を歩くようになったのでしょうか? その答えの鍵となるかもしれないのが、陸上を歩く能力を持つ魚が11種類いたという新事実です。アメリカのフロリダ自然史博物館が先日発表した「歩ける魚」についてご紹介しましょう。

↑2016年に初めて発表されたケイブ・エンゼルフィッシュの骨盤の形状。今回、新たに10種が「歩ける魚」に加わった(出典: FLORIDA MUSEUM IMAGES BY ZACHARY RANDALL. CT SCAN OF PELVIS BY FLAMMANG ET AL. IN SCIENTIFIC REPORTS)

 

フロリダ自然史博物館は、ニュージャージー工科大学とルイジアナ州立大学、メージョー大学と共同で、タニノボリ科の魚30種類の骨格を分析しました。タニノボリ科はコイ目に属し、日本で生息するものにはホトケドジョウなどがいますが、この調査の結果、分析した30種類のうち10種がサンショウウオのように地を這ったり歩いたりすることを可能にする珍しい骨盤を持つことが判明したのです。

 

歩ける魚の発見はこれが初めてではなく、これまでにも東南アジアに生息するタニノボリ科の「ケイブ・エンゼルフィッシュ(学名 Cryptotora thamicola)」が陸上を歩ける魚として2016年に発表されています。しかし、その10種類の魚も背骨から骨盤のヒレをつなぐ骨の形状に着目すると、どうやら通常の魚にはない屈強な骨盤を持っており、ケイブ・エンゼルフィッシュと同じ特徴を持っていることがわかりました。

 

一般的な魚は背骨と骨盤のヒレがつながっていないため、 ケイブ・エンゼルフィッシュのような骨格は例外だと考えられていました。しかも、東南アジアで発見されたタニノボリ科の魚は100種類以上いますが、これまでの研究で歩行能力があるとわかったのはケイブ・エンゼルフィッシュだけ。この能力は、激しい水の流れのなかで身体を流されないように岩をしっかりつかみ、酸素が多くて生息しやすい場所を求めて移動するために適応していった結果、獲得され、遺伝されてきたと考えられています。

 

そこで研究チームはタニノボリ科の進化の歴史にも着目し、CTスキャンやDNA分析を用いたところ、単一の魚から進化したわけではなく、タニノボリ科全体でこのような骨盤の出現が複数回あったことも発見しました。この結果から、より詳細なタニノボリ科の進化系統樹作成が可能になると言われています。

 

【出典】

Marchese, H. (2020 September 8). Skeletal study suggests at least 11 fish species are capable of walking. Florida Museum. https://www.floridamuseum.ufl.edu/science/study-suggests-11-fish-species-capable-of-walking/

 

「月の石」を売ってください! NASAの新ミッションで「宇宙ビジネス」がさらに白熱

近年、宇宙開発はビジネスとして広がりつつあり、NASAは宇宙研究の一部を民間企業に委託するようになりました。このトレンドの新しい事例が、2024年までに月への有人飛行を目指す「アルテミス計画」での民間企業の参入です。このなかでNASAは月の石を買い取ることを発表しました。

↑月の石、NASAが買ってくれるそうです

 

先日NASAが発表したのは、月の表面にある石などの採取を民間企業に依頼するミッション。月の表面は、砂のような細かい粒子や岩の破片などで覆われています。その粒子や岩の破片などを採取し、採取場所のデータと一緒にNASAに提供するという内容です。採取する量はわずか1.8~18オンス(51~510グラム)。さらにミッションは2024年までに行うことが求められ、採取した岩の破片などの所有権はNASAが有することになります。

 

約500gの採取で150~260万円

このミッションを請け負う企業は、全世界から少なくとも2社が選ばれる予定。NASAは報酬として1万5000~2万5000ドル(約157~262万円)を用意しています。契約企業に選ばれると10%、機器の打ち上げ時点で10%、残りの80%は採取データを提供したときに支払われるとのこと。

 

月の粒子などを採取して解析を行えば、先日明らかになった「月が地球の影響でサビているかもしれない」という研究に結びつくなど、さまざまな宇宙の解明につながるものと考えられます。そして宇宙ビジネスを進める民間企業のなかには、月面の粒子や岩を採取し、それをビジネスにつなげようと考えている企業もあるかもしれません。

 

【関連記事】

月がサビてるってどういうこと? しかも地球が原因?

 

今回のNASAのプロジェクトには、そんな宇宙ビジネスを活性化させる狙いがあります。NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「企業のなかには、NASAに提供する18オンス以上の量を採取して、NASA以外に売るかもしれない」と述べたそう。人類初の有人月面飛行となった、1969年~1972年のアポロ計画では、およそ382キログラムもの粒子や岩などが採取されたとか。それだけ、月の岩は貴重な研究材料になるものということ。だからこそ、NASA以外に宇宙ビジネスに参入する企業が月の表面を採取し、それを販売するビジネスがこれから盛んになっていくのかもしれません。

 

「米Appleのスタッフ限定マスク」にマニアが悶絶! 「従業員だけなんて超残念!」と言わせたマスクとは?

外出時にはマスクの着用が必要となったwithコロナの現在。従来のマスク製造メーカーに加えて、さまざまな企業やブランドも独自のマスクを作るようになりました。そして最近、巷で話題になっているのが米Appleが作ったマスクです。iPhoneのデザインチームが開発したというから、どんなマスクなのか気になって仕方ありません。

↑マスクの箱からして、いかにもAppleらしい

 

Appleには、iPhoneやiPadなどの設計に携わるエンジニアリング&インダストリアル・デザインチームが手掛けた2種類のマスクがあります。

 

1つ目は「リユーザブル・フェイス・マスク」(下の画像)。3層構造になっており、水洗い可能で、最大5回まで再利用できるそう。写真を見ると、口元と鼻を覆う部分が横に長くデザインされているほかは、一般的なマスクと大差がなさそうです。でも、耳にかける紐は付ける人にあわせて調整可能。そして何よりも魅力的なのが、マスクが入れられたパッケージや箱が、iPhoneの世界観そのものであること。究極にシンプルなデザインにしながら、機能性はしっかり備えている。そんなAppleらしさを感じさせてくれます。

↑AppleのReusable Face Mask

 

2つ目の「クリア・マスク」はFDAの認可を受けた手術用マスク。こちらは透明な素材でできていて、マスクを着用していても耳の不自由な方が口元の動きを目で確認できるようになっています。

 

残念ながらこれらのAppleマスクは、一般販売用に作られたわけではなく、Appleのオフィスや小売店で働く従業員のために製造されたものです。これまで同社では従業員に市販のマスクを配布していたそうですが、9月からこの自社製マスクの配布を始めたとのこと。Appleでは社員に限定グッズを配る習慣があり、今回のマスク配布も一種の伝統のようなものだそうです。

 

しかしAppleマスクを紹介する記事に対して、「ほしい!」「どこで買える?」「従業員だけなんて超残念!」など、マスクをほしがる人のツイートがいっぱい寄せられており、Appleユーザーなら間違いなく使いたくなりそうな“お宝マスク”になりそうです。

↑マスクが入っている袋にもAppleらしさがある

 

医療従事者向けにフェイスシールドも開発

Appleのティム・クックCEOは新型コロナウイルスの感染が広まり始めた春、2000万枚のマスクの調達とあわせて、フェイスシールドを開発し医療機関へ提供すると発表していました。このフェイスシールドもAppleが独自にデザイン・製造しており、2分以内に簡単に組み立てができるそうです。

 

Appleが世に送り出してきた製品を考えると、ウイルスから防護する目的を果たしながら、装着しやすさや使い心地なども考慮したフェイスシールドが作られたのではないでしょうか? たとえ販売しないモノであっても、同社のデザイナーたちはとことんAppleらしさを追求してデザインしていることでしょう。マスクのような小さなアイテム1つひとつにも、作り手の魂が宿るものなのかもしれません。

 

コロナ下の苦境を乗り切れ!――インドでマンゴー農家の窮地を救ったJICA主導の直販プロジェクト

「インドのマンゴーを守れ!」――新型コロナウイルス(以下新型コロナ)のパンデミックで人々やモノの動きが止まるなか、インドで農作物の流通を滞らせないための取り組みが注目を集めています。それはインターネットを介して生産者と消費者を結ぶ直販プロジェクト。同様のプロジェクトは、日本をはじめ世界でも始まっていますが、インドでの取り組みの背景には、旧態依然とした農業が抱えるさまざまな課題と、それらを解決しようと奮闘する人々の思いがありました。

 

今回、インドの水プロジェクトに長年携わってきた水ジャーナリスト・橋本淳司さんが現地からの声をリポートします。

 

【著者プロフィール】

橋本淳司

水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。水問題やその解決方法を調査研究し、さまざまなメディアで発信している。近著に『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『水がなくなる日』(産業編集センター)、『通読できてよくわかる水の科学』(ベレ出版)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)など。「Yahoo!ニュース 個人 オーサーアワード2019」受賞。

 

私は2015年頃から、インドの水に関するいくつかのプロジェクトに携わっています。インドは水不足が深刻になりつつあるため、それに対応する雨水貯留タンクの製作や実装、水質調査をはじめ、一般向けや学校向けの水教育などを行っています。水は「社会の血液」と言われるほどで、あらゆる生産活動に必要ですが、とくに農業は大量の水が不可欠。また、水があるからこそ、農作物を加工し販売することができると言えます。そして今回のインドにおけるコロナ禍は、ほかにもさまざまな問題を浮かび上がらせました。

 

日本では、3月上旬以降、学校の一斉休校が始まると給食が休止となり、さらに緊急事態宣言により飲食店や百貨店に休業要請が出されたため、収穫された野菜が行き場を失いました。収穫されないまま農地で廃棄される野菜の様子が報道されるなどし、「もったいない」と感じた人も多かったと思います。同様の問題はインドでも起きました。とりわけ農業技術や流通網の整備が不十分な地域では、事態はより深刻でした。

 

よく「バリューチェーン」という言葉を耳にしますが、農作物においては、生産の過程や加工することなどで食品としての価値を高めつつ、消費者の元に届けるプロセスのことだと個人的に考えています。このプロセスなくしてバリューチェーンは成り立ちません。実際、インドでもコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)が実施され、農作物を流通できず、農家が苦境に立たされました。現地からそうした情報を聞き大変心配しましたが、その救世主となったのが、JICA(独立行政法人 国際協力機構)による、生産者と消費者を直に結ぶ取り組みでした。

 

苦境に立たされたインドの農業

インドでの新型コロナの累計感染者数は、3月3日の時点では5人でしたが、同月24日には492人と急増(9月7日時点での感染者数の累計は420万4613人。アメリカに次いで感染者が多い)。3月25日からは、全土でロックダウンが実施され、ほぼすべての人々の移動や経済・社会活動が制限されました。その後、生活に最低限必要な活動や移動は可能になりましたが、依然として公共交通機関は止まったまま、リキシャー(三輪タクシー)や私用車の利用は禁止され、近隣の町への移動も制限されたままでした。

 

そのため農業従事者が農地に行けない、収穫された農産物を運べない、加工や販売ができないという事態が発生し、流通網がズタズタに寸断されてしまったのです。4月になると、インドはマンゴー収穫の時期を迎えます。このままでは大量のマンゴーを廃棄することにもなりかねません。

↑収穫したマンゴーを箱詰めする現地マンゴー農家の人々

 

この窮地を救ったのが、“Farm to Family”(農場から家族へ)と名付けられた直販プロジェクトでした。オンラインで生産者と消費者を結びつけるデリバリーサービスです。

 

熟したマンゴーを信じられない価格で提供

舞台となったのは、インド南部・デカン高原に位置するアンドラ・プラデシュ州です。人口は4957万人(2017年調査)で、そのうちの62%が農業に従事し、農耕可能な面積は805万ha、ほぼ北海道と同じ面積になります。この広大な農耕地で生産されている作物は多岐にわたりますが、トマト、オクラ、パパイヤ、メイズ(白トウモロコシ)の生産高はインド国内1位、マンゴーは2位、コメは3位という農業州です。

↑収穫時期のマンゴー農園

 

同州にはもう1つ強みがあります。流通の拠点となる海港を5つ、空港を6つも擁しているのです。州政府は農業と流通インフラという強みを活かし、農作物の生産から加工、流通までのフードバリューチェーンを構築し、食品加工産業の発展に注力してきました。ロックダウン下においては、農業従事者が畑に行って収穫することはできましたが、地元の仲介人が収集することも、販売網を通じて販売することもできませんでした。行き場を失ったマンゴーたちは、廃棄せざるを得ません。農家の収入はそもそも多くないのですが、これでは無収入になっていまいます。

 

危機的な状況を受け、州政府はこの地で実施されていたJICAの事業の一環として、州園芸局やコンサルティング会社と対応策を検討しました。そこで考え出されたのが、寸断された流通網をIT技術で修復するという画期的な方法でした。

 

プロジェクトのチラシにはこう書かれていました。「グッドニュース! マンゴーのシーズンが到来しました。政府は、COVID-19でピンチになった小さな農家を支援します。仲介者やトレーダーをなくすことで、農家と消費者に双方にメリットがあります。自然に熟したマンゴーを信じられない価格で提供します」

↑直販プロジェクトの開始を告知するチラシ

 

このプロジェクトには、約350人もの農業者が参画。ネットを使用してコミュニティーごとに需要を把握し、直接消費者に販売しました。ハイデラバードの3つのコミュニティでスタートして以来、これまでに3トンのマンゴーが販売されたほか、12のコミュニティから10トンの事前予約が寄せられ、ロックダウンの解除後も直販体制を継続することが予定されています。

↑農園に集まったプロジェクトメンバー

 

現地のマンゴー農家であるテネル・サンバシバラオ氏はプロジェクトについてこう話してくれました。

 

「この取り組みには大変感謝しています。品質のよいマンゴーを適切な価格で、直接消費者に届けることができました。販売にかかる運搬費や仲介料がかからなかった点もとても助かりました」

 

このコメントの裏からは、農家の深い悩みが窺えます。インドでは一般的に最大4層の仲介業者が存在し、農家には価格の決定権がありません。農家が仲介業者を通じて出荷すると、見込める収益の数十パーセント程度の価格で買い叩かれてしまい、農家の生活は厳しいものとなっているのです。“Farm to Family”(農場から家族へ)は、ロックダウンで分断されていた農家と消費者双方に果実をもたらしたと言えます。

↑出荷を待つマンゴー

 

農業、流通という強み。水不足、技術不足という弱み

そもそもJICAのプロジェクトは2017年12月からスタートしていました。農業と流通に強みをもつアンドラ・プラデシュ州ですが、一方で課題もありました。 まず、バリューチェーンの根幹となる、農作物の収穫量と質が安定していません。そこには農業生産に欠かせない「水」の問題がありました。世界の淡水資源のおよそ7割が農業に使われるというほど、農業と水は切っても切り離せません。

 

アンドラ・プラデシュ州では農業用水の62%を地下水に依存していますが、現在、その地下水の枯渇が懸念されています。これに関しては、原因がはっきりとわかっているわけではありません。私がプロジェクトを行なっている北部のジャンムーカシミール州の村では「雪の降り方が変わったことが地下水不足につながっている」と言う人もいますし、もう1つのプロジェクト地であるマハーラーシュトラ州の村の人々は「森林伐採の影響を受けているのではないか」と主張します。つまり場所によってさまざまな要因が考えられると言えます。

 

また、生産量の高まりとともに地下水の使用量が増加しているという声も多くの州で聞きます。なかには、どれだけの水を農業に使用しているのかわからないという地域も。アンドラ・プラデシュ州も同様で、節水などの地下水マネジメントは急務とされていました。

 

水を管理するうえで、もう1つ重要なのが灌漑用の施設の整備です。施設が老朽化すると水漏れも多くなり、貴重な水が農地まで届きません。それが水不足に追い討ちをかけています。

 

一方で、生産や加工の技術が不足しているという悩みもあります。品質のよい作物を育て、最適な時期に収穫するといった営農技術、収穫後の付加価値を高める加工処理技術などが十分に定着していないため、農産品の加工率が低く、販路が狭くなっています。

 

灌漑設備の改修とバリューチェーンの構築

こうしたさまざまな課題を解決するため、JICAが現地で取り組んでいるのが「アンドラ・プラデシュ州の灌漑・生計改善事業」という、灌漑設備の改修をはじめ、生産から物流までのバリューチェーンの構築を支援するプロジェクトです。「プロジェクトにはいくつかの柱がありますが、重要な柱の1つが、灌漑施設の改修です」とはJICAインド事務所の古山香織さんです。

 

州水資源局によって20年以上前に整備された灌漑施設はあるのですが、前述したように老朽化や破損による漏水、不適切な管理によって、失われる水の量が増えています。農業への水利用効率(灌漑効率)、すなわち農業用に確保した貴重な水の38%しか農地に届いていないのです。実際、末端の水路を利用している農家の中には雨水に頼らざるを得ないところもあります。近年は気候変動の影響で雨の降り方が以前とは変わっているため、収穫量は不安定で一定品質の農作物がつくれません。

↑改修前の灌漑用水路

 

「そこで老朽化した設備を新しいものと交換したり、地面に溝を掘っただけの水路をコンクリート張りの近代的な水路に変えています。 事業は着実に進捗しており、2024年に完了する見込みです。さまざまな規模の灌漑施設の改修が完了(470箇所を予定)すれば、灌漑農業による農作物の収穫量と質の改善が期待できます」(古山さん)

↑改修後の灌漑用水路

 

同時に、現地NGOと連携して地元の農家による水利組合づくりを手伝い、施設改修後の維持管理作業を自分たちで行うことができるよう研修も実施しており、実はこれが大変重要な取り組みなのです。技術を提供するだけでは不十分で、壊れてしまった途端放置される水施設がとても多いことが世界各地の水支援の現場で共通する問題であり、それを防ぐためには、技術を現地に根付かせるための人材育成が欠かせません。

 

さらに灌漑施設の改修を生産量の増加に結びつけるために、関係政府部局と現地NGOで構成する農業技術指導グループも組織しました。

 

「灌漑施設の改修、生産農家の組織化の支援、営農支援などを行うことで、それらが相乗効果をもたらして、高品質の農作物が安定的に生産されるようになります」(古山さん)

 

プロジェクトでは、さらにフードバリューチェーン全体の整備も支援しています。先述のように、マンゴーであればおいしくて大きな果実を育て、それをいちばんよい時期に収穫し、消費者のもとに届けること、あるいは収穫したマンゴーを顧客のニーズにあった製品に加工して付加価値をあげることです。

 

「消費者のニーズに合った加工品を開発・販売することで、付加価値の向上と農産品のロスを抑えることができます。小さな農家同士を組織化することにより、仲介人を介さず消費者と直接取引ができるようになれば、農家の収入向上につながりますし、逆に消費者の立場で考えると、購入できる農作物の種類と品質が向上することになります」(古山さん)

 

実現すれば農作物の収量と品質が高まりますし、農業者の収入も向上・安定します。農業セクターの重要性も高まります。同時にインドの食料安全保障の改善にも寄与していると言えるでしょう。

 

コロナ禍で起きた農家の考え方の変化

新型コロナの世界的な収束は、まだまだ先が見えない状況ですが、人々の心境の変化、生産や流通に対する考え方の変化が確実に起きているとJICAインド事務所のナショナルスタッフであるアヌラグ・シンハ氏は話します。

 

「新型コロナをきっかけに、農家の考え方に変化が起きています。販売のためには農産品の品質の向上が重要で、そのためには収穫のタイミングや選別がとても大切であるという認識がこれまでより強くなりました。同時に、消費者との直接取引などでデジタル・テクノロジーを有効活用すべきとの意識も芽生えています」

↑コミュニティーで販売されるマンゴー

 

農家と消費者が直接つながることで関係性が強くなり、農家は相手に対して「よりよいものを提供しよう」、消費者は「顔の見える生産者を応援しよう」という気持ちが生まれるなど、相乗効果も期待できそうです。

 

またインドでは、テクノロジーを活用して農業の効率と生産性を向上させる「アグリテック」の分野が、2015年頃から注目を集めるようになっています。データを活用した精密農業システム導入のほか、スマート灌漑システムなどの生産性向上、農業経営に特化したクラウドサービス拡充などその事業内容は幅広いのですが、新型コロナはこうした動きを加速させることになるでしょう。

 

一方、日本国内に目を向けると、国産の農林水産物を応援する「#元気いただきますプロジェクト」をはじめ、農家(生産家)と消費者を結ぶさまざまなプロジェクトが立ち上がっています。このような取り組みは今後も世界的に広がることが予想されます。

 

新型コロナにより、従来の社会は大きく変貌を迫られています。しかし、必ずしも悪い面ばかりではありません。大量生産と大量消費を繰り返し、食品廃棄など大量の無駄が存在していたこれまでの社会。しかし、今回ご紹介した、地域社会を大切にし、水や食料を大切にする新しい流通網の構築への取り組みなどは、私たちの社会を持続可能な方向へと向かわせてくれるのではないでしょうか。

 

JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

未来に向けてテイクオフ! 「V字型飛行機」がプロトタイプの試験飛行を動画公開

飛行機といえば、円筒形の胴体に翼がついている形が一般的ですが、未来はV字型の飛行機が普通になるかもしれません。

 

KLMオランダ航空が現在、オランダのデルフト工科大学と共に開発を進めているのが「フライングV」。機体がV字型にデザインされた飛行機で、つい先日そのプロトタイプの試験飛行が行われ、V字型飛行機が空を飛ぶ様子が公開されました。

↑将来はこんな形の飛行機が当たり前になる?

 

フライングVが発表されたのは、KLMオランダ航空が創立100周年を迎えた2019年のこと。従来の飛行機なら円筒状に伸びる胴体がV字型では2方向に別れ、そえぞれに客室と貨物室、燃料タンクがあります。

 

フライングVの大きさは長さ55m、高さ17mで、乗客定員は314人であるのに対して、現在の最新型旅客機のエアバスA350-900は定員数がほぼ同じですが、長さは66.8m、高さ17.1m。前者の長さはエアバスA350より短いものの、同じくらいの乗客数が飛行可能です。

 

しかも、まるで空を自由自在に飛び回る鳥のシルエットのようなV字型のデザインは、空気力学を考慮した設計になっているだけでなく、軽量化も進み、エアバスA350より燃料消費量が20%も低くなるそうです。

 

そして先日、このプロトタイプの試験飛行が行われ、その模様が公開されました。プロトタイプは全長約2.5mと実際の1/22のスケール。機体内部にコンピューターを搭載し、各種飛行データを収集したそうです。

 

公開された動画では、リモートコントローラーで操縦されながら、フライングVのプロトタイプが滑走路を走り離陸、やがて空を飛び着陸する様子がわかります。従来の円筒形ではなく、胴体がV字に2方向になっていることで、離着陸や飛行時の安定感などに懸念があったかもしれませんが、プロトタイプの飛行ではそのような障害は見られなかったようです。

 

フライングVの実用化は2040年~2050年などと報じるメディアもあり、実現にはまだ数十年かかるかもしれません。ただ、これまでは円筒形が当たり前だった飛行機が、未来にはV字型が一般的になる可能性もあるようです。

 

 

キノコの皮ではなく「キノコの革」の誕生で勢いを増すファッションの「サステナブル化」

近年、ファッションもどんどんサステナブル化しています。バッグや靴、財布などに使われる本革は、高級感と独特の風合いを楽しめるものですが、牛や羊などの動物の皮を利用しているため、動物愛護の観点から問題視されることもあります。世界的なブランドが脱動物性素材の動きを強めるなか、最近、注目されているのがキノコから作ったレザーです。

↑新種のレザー

 

キノコ由来の代替レザーについて調査したオーストラリアのRMIT大学(ロイヤルメルボルン工科大学)の発表によると、キノコを活用してレザーに応用する技術は、キノコの「菌糸体」と呼ばれる構造を利用したとのこと。

 

おがくずや農業廃棄物のうえでキノコの根が成長すると、厚いマットのようになりますが、これを酸やアルコール、染料などで処理したあとに圧縮し、乾燥させると、本革と同様に取り扱うことができるようです。このような方法で作られる「キノコの革」は本物の革と同じような見た目で、耐久性もあるそう。

 

キノコから作ったレザーの魅力は、短期間で製造できること。動物は何年もの年月をかけて飼育しなければなりませんが、キノコの場合は数週間程度で単一胞子から大きくなります。

 

環境負荷に関する利点を見てみると、家畜による二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量はよく知られていますが、キノコではその量が減ると考えられます。また、キノコのレザーは生分解性なので廃棄ゴミの問題も解決できるでしょう。このようにキノコのレザーを利用することで、地球環境に配慮することも可能になるのです。

 

おまけに動物の皮の加工には環境に有害な化学薬品が使われるそうですが、キノコのレザーならそのような薬品も使わずに済むとされています。

↑名案でしょう?

 

キノコのレザーを処理する工程はシンプルで、必要最低限の機器類があれば大量生産にも応用可能なのだとか。約5年前にアメリカの企業が製造技術の特許を取得しており、2019年にアメリカやイタリア、インドネシアで、腕時計、財布、靴などの試作品が発表されています。ちなみにキノコのレザーを使ったバッグの販売価格はおよそ500ドル(約5万3000円)。大量生産されれば、安価な製品として販売されると期待されます。

 

まさに「紙」技! 新しい印刷技術が「キーボード」に革命を生み出す

ワイヤレスや有線、メンブレンやパンタグラフ、メカニカルなど、キーボードの種類や方式にはさまざまな種類がありますが、現在まったく新しいキーボードが生まれようとしています。それが、ただの紙切れや段ボールを使ったキーボード。将来のキーボードは現在のものより、はるかにもっと薄くて持ち運びやすくなるかもしれません。

↑単にテンキーが書かれた紙っぺらではない

 

どこにでもあるただの紙をキーボード代わりに操作可能にする技術を発表したのが、アメリカのパデュー大学のエンジニアチームです。このチームは特別な印刷技術を開発して、ただの紙や段ボールをキーボードとして使えるようにしました。

 

この技術はフッ素系高分子の働きにより、紙に水や油、ホコリをはじく加工を行います。それにより、印刷したときにインクがにじまず、何層もの回路を紙に印刷することができるうえ、この印刷した回路は摩擦によって生じる静電気で動く構造のため、外部から電源を得る必要などもないそう。文字や数字などのデータはBluetoothを利用したワイヤレス通信でPCへ通信する仕組みです。

 

パデュー大学が公開した動画では、テンキー(数字キー)、音楽の再生や音量調整キーを印刷した紙が紹介されており、従来のキーボードと同じように、紙を指でプッシュしたりなぞったりすると、接続先のPCが反応して動いている様子がわかります。

 

また、段ボールの切れ端など表面が紙ベースのものなら印刷可能ということで、この技術は比較的安価に利用することができそう。紙や段ボールに印刷したキーボードは、折ったり湾曲させたりしても使えるようです。

 

食品パッケージなどに応用可能

この技術は、現在の大量印刷技術とも互換性があり、製品パッケージの印刷などにも簡単に利用できる可能性があるとのこと。このエンジニアチームの助教授は食品のパッケージへ利用できると考えており、例えば、食品が配達された際、受取人がこのキーボードを使って印刷面をドラッグして、届いた商品が自分の注文と合致するか確認するといった具合です。

 

ただの紙がキーボードになって折ることも可能なら、持ち運ぶときに重さを大きさを気にする必要が一切なくなって、かなり便利になることは間違いなさそう。打ちやすさが気になるところですが、これはもう少し先の問題でしょう。普段からPCやタブレットを持ち歩く方にとって、楽しみな将来が待っているかもしれません。

 

 

月がサビてるってどういうこと? しかも地球が原因?

月がサビてる——。そんな不思議なニュースが先日報道されたのをご存知でしょうか? そもそもサビるというのは鉄などの金属が腐食していく現象のことで、サビが起きるためには酸素または水が不可欠です。でも月には水が存在した可能性は示唆されているものの、酸素はほとんどないはず。では、月がサビているとは一体どんな現象で、何が原因なのでしょうか?

↑不思議な月のサビ。赤で示されている北極と南極で赤鉄鉱が多く見つかっている

 

月にサビが見つかったというニュースは、ハワイ大学マノア校海洋地球科学技術学部の研究チームが月でヘマタイト(赤鉄鉱)が見つかったと発表したことで明らかとなりました。

 

赤鉄鉱は、鉄が酸化してできる鉱物のひとつ。金属は酸素や水と反応して酸化し腐食するもので、特に鉄は酸素に反応しやすく、サビた鉄は地球上でよく見られます。しかし、月がある宇宙空間に酸素はほとんど存在しないうえ、月の表面や内部にも酸素がないと言われています。そのため月には酸化されていない鉄が多く存在し、アポロ計画で採取された月のサンプルにも酸化鉄は確認されていませんでした。

 

おまけに、太陽から電気をもった高温の粒子が惑星空間を飛ぶ「太陽風」が月の表面には吹き付けており、その太陽風に含まれる水素は酸化とは逆の働きをします。だから、赤鉄鉱が月で見つかった事実は科学者たちに大きな驚きをもたらしたのです。

 

では、なぜ月で酸化鉄ができたのでしょうか? この研究チームはその理由について、数十億年もの年月にわたって、地球の大気が太陽風によって月の表面に吹き付けられてきたことが関係するのではないかと仮説を立てました。

 

そして月の鉱物組成をマッピングするNASAの装置「M3」のデータを解析したところ、月の北極や南極に近い高緯度の地域では、低緯度の地域やアポロ計画で得られたサンプルとは異なり、赤鉄鉱が多くみられることがわかりました。さらに赤鉄鉱が多く発見された場所は常に地球に面しているエリアだったのです。

 

2017年、日本の月周回衛星「かぐや」の観測によって、月が「プラズマシート」と呼ばれる磁気圏を通過したときに、地球の大気から流出した酸素イオンを検出することが判明しました。つまり、地球の大気が月まで到達することがあるのです。

 

そのため、今回発見された赤鉄鉱の原因に、地球の大気による影響が関係ある可能性が浮上。また赤鉄鉱が見つかった場所は、以前に同研究チームが月に水が存在していた証拠を見つけた付近と重なることから、その水の存在も関係している場合があるそうです。

 

ただし、地球の大気が届かなかったと思われる月の裏側でも、赤鉄鉱がまったく見つからなかったわけでもありません。高緯度で発見されたごくわずかな水分が、この赤鉄鉱に関連していたのかもしれないそうです。

 

NASAは、月面探査を行うアルテミス計画を2024年の打ち上げ予定と発表しています。この研究チームでは、そのアルテミス計画で実際に赤鉄鉱のサンプルを地球まで持ち帰ることができれば、さらなる研究の前進に役立つと期待しているそうです。地球から遥かかなたに存在する月に、地球の大気が影響しているとは、なんだか不思議な気がしてきますね。

 

 

ゲームだってOK!STEM教育で先行するアメリカの「AI時代の学習スタイル」

2か月以上の長い夏休みが終わったアメリカ。子どもたちが安全に、しかも遅れることなく学習を続けるための方法を暗中模索しながら、アメリカの学校は新学年の新学期を迎えています。新型コロナウイルスを取り巻く状況が一向に改善されない中で、学校、教師、子ども、保護者と混乱と緊張が解けないままです。

 

新学期が始まる前の長い夏休みの間も、子どもがどう有意義な時間を使えるかは、アメリカの親の悩みの種。夏休みに入る3か月くらい前からじっくり調査し、より豊かな経験や学びを与えようと、サマーキャンプを見つけようとしています。キャンプという名前で思い浮かぶような自然の中で学ぶ泊まり込み体験型もありますが、スポーツ、アート、音楽といった参加体験型やコーディング、ハッカソン、人工知能(AI)といったSTEAM教育(あるいはSTEM教育)につながるテクノロジー系など、いろいろなキャンプがあります。

 

今年はコロナウイルスの影響で州政府からの制限がかかっており、キャンプ会場に出向くオンサイト型よりも、オンラインで開催されるキャンプが多く提供されていました。

 

なかでも親たちが注目しているのは、STEAM(STEM)系のプログラムです。STEAM教育とは科学(Science)、テクノロジー(Technology)、エンジニアリング(Engineering)、芸術・教養(Art)、数学(Mathematics)という5つの要素を盛り込み、次世代を担う人材、ゲームチェンジャーになりうる人材を育成するための教育手法のことです。この手法が注目される背景には、テクノロジーの発達に伴い、失われる仕事がある一方で、今もそして将来もテクノロジー系の人材不足が懸念されていることが挙げられます。つまり、将来の人材をSTEM教育によって子どものうちから育てていくことが期待されているわけです。

 

実際に、2020年にアメリカで開催された子ども向けの夏のテクノロジー系キャンプを見てみると、子どもたちにとって身近な、「マインクラフト」のようなオンラインゲームやソーシャルメディアというツールを活用して学習の動機付けを高めつつ、「遊びの中で学ぶ」「楽しみながら学ぶ」などのような体験学習やプロジェクト型学習が前面に出ています。あるいは変わったものでは、チームで料理を作りながら、科学を学ぶクラスがあったりもします。計算ドリルや単語や熟語の丸暗記や受験対策のための勉強が多くなりがちな日本の夏休みとはまた違った、新しい学びのスタイルともいえるでしょう。

東大合格を目指すロボット「東ロボ」君で知られる東京大学の新井紀子教授が指摘するように、前世代が行ってきた知識の丸暗記はもう機械のほうが人間よりも良くできることが証明されています。AI時代を生き抜く力を育むためには、図表も含めたあらゆる言語化された情報を正確に読める力「読解力」、相手の気持ちをくみ取って共感する心など、AIには欠けていて、人間のほうが優れていることの育成に早急に取り組む必要があるのです。

 

アメリカでは、この「楽しみながら学ぶ」という精神は通年タイプのテクノロジー系プログラムや教育系オンラインプラットフォームにも見られる傾向です。講師、先輩、仲間で構成されたコミュニティを作り、サポートしあう場を提供しているものもあります。さらにCourseraのように、修了証を発行するだけでなく、大学の単位として認可されるコースを提供するプラットフォームもあります。

 

そのほか、現マイクロソフト研究所の研修生兼ワシントン大学院博士課程在学中のステファニア・ドュルーガさんは遊びを通じてSTEAM教育を男女平等に行うことで、将来のテクノロジー系の職場や賃金における男女格差をなくすことにつなげる可能性を指摘しています。彼女が立ち上げた、ゲーム開発、ロボットのプログラミング、AIモデルのトレーニングを行うAI教育のプラットフォーム「コグニメイツ」では、子どもたちがAIに人間性を教えることも行われています。

 

日本ではSTEAM教育への取り組みは遅れており、その適用範囲も狭く、学齢期の子どもたちがプログラミングやAI、ロボティックスを学ぶ機会はごく限られているのが現状です。また、保護者や教える立場にある人たちも、SiriやAlexaに頼みごとをしたり、自動スペルチェックに助けられたり、便利な機能を日常的に使っているにも関わらず、必ずしも今のテクノロジーのトレンドに追いついているわけではありません。

 

社会全体として、徐々に興味関心は高まっていますが、STEAMとは理系を目指すための教育だと誤解されたりしがちです。実際には、科学、テクノロジー、工学、アート、数学を教科横断的に応用してものづくりを行い、かつ、21世紀型スキル(4C)を育むことを狙うというのがその本質です。

しかし、「AI」と「子ども(Kids)」で検索をかけてみると、小学校5-6年生が大人の聴衆相手にサイバーセキュリティの講演をしたり、ゲームやアプリを開発してアップルストアで販売したり、会社や非営利法人を立ち上げてグローバルに活躍しているビデオや記事にヒットします。もちろん、親もIT関係の仕事をしている「蛙の子は蛙」のようなケースもありますが、子ども自身が自ら興味をもって、身近なテクノロジーを使って学びを深め、起業するケースがあることは、子どもたちが柔軟に時代の波に乗れる力をもっていることを証明しています。逆にそうした子どもたちにリードされて、大人がAIの時代に新たに学ぶきっかけを持てるかもしれません。

地球から振動が50%消えた——新たに判明した新型コロナウイルスによる思わぬ影響

新型コロナウイルスが世界中で蔓延し、ほとんどの経済活動を休止するロックダウンが世界各国で行われた2020年の春。大気汚染や海洋汚染が軽減されるなど、都市封鎖が思わぬところに影響を及ぼしていることがこれまでに判明していますが、最近では新たに地球の振動も減ったということがベルギーの国立天文台やインペリアル・カレッジ・ロンドンなどの共同研究で明らかとなりました。

 

研究チームは117か国にある268の地震観測所からデータを収集。地震計は火山など地球内部で生じる振動を捉えるものですが、人々が生活したり街を移動したりすることでも振動は生まれるそうです。そのような人の活動によって生まれる振動はクリスマスや新年、週末や夜間には静まることがわかっています。今回、研究チームが、ロックダウンが行われた2020年3月〜5月のデータとそれ以前のデータを比較して解析した結果、185の観測所で振動の減少が見られました。国別に見てみると、中国では2020年1月後半に、ヨーロッパ各国やほかの国々では3月から4月にかけて振動の減少があったようです。

↑赤い部分がロックダウンによる影響で振動が減少した場所

 

特に大幅な減少が見られたのは、ニューヨークやシンガポールのような大都市。さらにイギリスのコーンウォールやアメリカのボストンなど大学や学校が多く集まる地域では、学校が休暇となっている時期と比べて20%の振動の減少が見られました。また、ドイツの山地であるブラックフォレスト(シュヴァルツヴァルト)や、ナミビアの都市ルンドゥなどでも振動は減少したそうです。

 

なかでも50%近くの減少があったのは、観光シーズンとロックダウンが重なった中南米のバルバドス。ロックダウンが始まる数週間前には多くの観光客がバルバドスを離れたことがフライトデータからわかっており、観光客の姿が消えたこととロックダウンが振動の減少につながったと見られます。

↑地球が静かになった

 

人の活動によって生まれる振動が減少したことで、これまで把握できなかった小さな地震などの振動を観測できるようになった場所もあるそう。地震学者にとっては予期せぬ出来事だったかもしれませんが、今後もロックダウンはいろいろな物に影響を与えそうです。

 

「痛みがわかる人工皮膚」の開発に進展! 人間の感覚に一歩近づいた

これまで人工皮膚がなかなか再現できなかったのが、痛みを感じる力です。病気やケガで人工皮膚を実際に身につける人が痛みを感じることができなければ、身体に危険が及ぶことも。しかし、人工皮膚の研究者たちはそんな状況を変えつつあります。最近、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学研究チームが痛みに反応する人工皮膚のプロトタイプを開発しました。

↑熱や痛みがわかる第二の皮膚

 

皮膚は強く押されたり、熱いものや冷たいものに触れたりしたときに痛みを感じます。そこでこの研究チームは、圧力と熱を検知する人工皮膚の開発に挑戦。そこで利用されたのが、これまでに同研究チームが開発し特許を取得した次の3つの技術です。

 

(1)熱に反応して変形する素材

(2)シールのように薄く破れにくく透明の電子機器

(3)昔の情報を記憶して思い出す電子記憶細胞

 

圧力を感じる人工皮膚には(2)と(3)の技術を組み合わせ、熱を感じる人工皮膚には、(1)と(3)の技術を組み合わせ、痛みを感じる人工皮膚には(1)(2)(3)のすべての技術を応用しました。これらの人工皮膚は、圧力や熱、痛みが一定の値に達すると反応する仕組みになっています。しかも、見た目にも人の皮膚とほとんど変わらず違和感のない薄さで、人の手に張り付けたときも皮膚と一体化して見えます。

 

刺激の大きさを判別可能

これまでにも痛みを感じる人工皮膚の開発は世界各国で行われてきましたが、痛みの度合いごとに電気信号を使用するものが多かったそう。しかし、今回開発された人工皮膚は圧力や温度などに対して反応するもの。例えば、とがったものに軽く触れる程度なら痛みは感じませんが、強い力で触れたら痛みが生じるというように、刺激の大きさによって痛みの有無を判別するように設計されています。実際の生活で起こり得る場面に即して応用できる技術になる可能性があります。

 

私たち人間は、物に触れてその温度や質感、材質などを想像することができますが、人工皮膚にはそんな感覚的な技術も求められていくのでしょう。今回の開発は、義手や義足などの技術に応用されるものと期待できそうです。

 

ベトナムで挑戦するミズノのSDGs―― 子どもの肥満率40%の国に「ミズノヘキサスロン」と笑顔を

スポーツの力を活用して社会課題の解決を目指す~ミズノ株式会社

 

「なんてつまらなそうに体育をしているのだろう」。総合スポーツメーカーであるミズノの一社員が6年前に抱いたこの違和感が、ベトナム社会主義共和国の教育訓練省とともに同社が進めている「対ベトナム社会主義共和国『初等義務教育・ミズノヘキサスロン運動プログラム導入普及促進事業』」のきっかけでした。

 

ベトナムでは子どもの肥満率が40%以上

 

同事業は、ミズノが開発した子ども向け運動遊びプログラム「ミズノヘキサスロン」を、ベトナムの初等義務教育に採用・導入する取り組みです。ミズノヘキサスロンとは、ミズノ独自に開発した安全性に配慮した用具を使用し、運動発達に必要な36の基本動作を楽しみながら身につけることのできる“運動遊びプログラム”のこと。スポーツを経験したことがなく、運動が苦手な子どもでも、楽しく遊び感覚で走る、跳ぶ、投げるなどの運動発達に必要な基本動作を身につけられます。日本国内向けに2012年1月から開始、これまで多くの小学校や幼稚園、スポーツ教室、スポーツイベントなどで導入され、運動量や運動強度の改善といった効果も示されています。

「ミズノヘキサスロン」のホームページ

 

そもそもベトナムでは、子どもの肥満率が社会課題となっていました。同社の法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当の柴田智香さんによると、「ベトナムの義務教育は小学校が6歳から始まり5年間、中学校が4年間。授業は1コマ30分と短く、国語や算数に力が入れられていて、体育はあまり重きを置かれていない状態です。また体育といっても、日本のように球技や陸上があるわけではありません。校庭も狭く、体操レベルの授業しか行われていないそうです。子ども時代に運動をする習慣が少ないためか、生涯で運動する時間が先進国の10分の1ほど。WHOによると、ベトナムの子どもの肥満率は40%を超え、同国教育訓練省も社会課題として認識していました」ということです。

法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当 柴田智香さん

 

ベトナム教育訓練省公認のもと約200校で活用

ベトナムの抱える課題を目の当たりにした担当者は、「ミズノヘキサスロンというプログラムなら、ビジネスとして成立し、校庭が狭くても効果を発揮できるのではないだろうか」と思いつき、2015年にベトナムに提案を開始しました。しかし話は簡単には進みませんでした。

 

「ベトナムの学習指導要領に関係するので、一企業のセールスマンが政府にプレゼンをしても相手にされません。ちょうどタイミングよく、文部科学省が日本型教育を海外に輸出するための『日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)』というプログラムを行っていたのですが、弊社もそのスキームに応募し、2016年に採択されたのです。日本政府のお墨付きをいただいての交渉とはいえ、ビジネスの進め方も慣習も異なるため、一進一退の攻防が繰り広げられたようです。そこでまず、約2年間かけて子どもたちの身体機能の変化に関するデータを収集しました。その結果、運動量は4倍、運動強度は1.2倍だったことを同国教育行政に報告しました。その後、在ベトナム・日本大使館やジェトロ(日本貿易振興機構)様などの協力を得ながら、2018年9月に、『ベトナム初等義務教育への導入と定着』に関する協力覚書締結に向けた式典が行われ(場所:ハノイ 教育訓練省)、翌10月に覚書締結に(場所:日本 首相官邸)まで至ったのです」(柴田さん)

 

ミズノヘキサスロン導入普及促進活動は、ベトナム全63省を対象に行われました。農村部など経済的に厳しい家庭の子どもたちなども分け隔てなく実施しています。また、小学校の教師を対象とした、指導員養成のためのワークショップには、現在までに約1700人の教師が参加。ワークショップに参加した教師が自身の担当する小学校で指導に当たり、多くの小学生がミズノヘキサスロンを活用した体育授業を受けています(2020年6月現在)。

ワークショップに参加した小学校の教師たち。ベトナムは女性教師が約70%を占めている。

 

「ミズノヘキサスロン」で子どもたちに笑顔を

「本事業は、“誰ひとり取り残さない”というSDGsの理念に立っており、ベトナムの小学生全720万人全員が対象です。現在、ベトナムの学習指導要領附則ガイドラインにミズノヘキサスロンを採用いただき、教育訓練省公認のもと、モデル校に導入されていますが、学習指導要領の本格的な運用には時間がかかっています。しかしながら、ベトナムの関係各所からは『狭い場所でやるのにも適している』『安全に配慮しているし、いいプログラムだ』と評価いただいていますし、何よりも、子どもたち自身が楽しそうに体育の授業を受けていることが写真から伝わってきます。

楽しそうに体育の授業を受けるベトナムの子どもたち。

 

子どもの時に運動をする習慣ができると、大人になってからも運動を続けると思います。ミズノヘキサスロンによって運動の楽しさを知り、習慣づけられることで、将来的にも健康を保てるのではないかという期待が持てます。また、弊社の用具を使ってもらうことで、今後、ミズノという会社に興味をもっていただけたり、子どもたちがプロサッカーやオリンピックの選手になるなど、そんな未来につなげられたら素敵ですね」(柴田さん)

エアロケットを使って「投動作」を学ぶプログラム。

 

今後の展開について、「現時点ではベトナムに注力しているという状態ですが、例えば、ミャンマーやカンボジアなど、他のアジア諸国でもビジネスチャンスはあると思います。ですが、まずはベトナムで事業として成功しないことには、他の国にアプローチするのはやや難しいと感じています。逆にベトナムでモデルケースができれば、他の国にも売り込みやすくなるのではないでしょうか」と柴田さん。ベトナム初等義務教育への本格的な導入が待たれるところです。

 

様々な課題への重点的な取り組み

来年で創業115年の節目を迎える同社。今回の対ベトナム事業もそうですが、さまざまな取り組みのベースとなっているのが、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という経営理念です。その理念のもと、社会、経済、環境への影響について把握し、効果的な活動につなげるため、自社に関するサステナビリティ課題の整理をし、重要課題の特定を2015年度に行いました。

 

「CSR・サステナビリティ上の重要課題として“スポーツの振興”“CSR調達”“環境”“公正な事業慣行”“製品責任”“雇用・人材活用”という6つの柱を掲げています。そのなかでも“環境”については1991年から地球環境保全活動『Crew21プロジェクト』に取り組み、資源の有効活用や環境負荷低減に向けた活動を行っています。また、CSR調達に関しては、他社様から参考にしたいというお話をよくいただいております。

サプライヤー先でのCSR監査の様子。

 

商品が安全・安心で高品質であることはもちろんですが、“良いモノづくり”を実現するために生産工程において、人権、労働、環境面などが国際的な基準からみて適切であることが重要と考え、CSR調達に取り組んでいます。そのため本社だけでなく、海外支店や子会社、ライセンス契約をしている販売代理店の調達先までを対象範囲とし、取引開始前は、『ミズノCSR調達規程』に基づき、人権、労働慣行、環境面から評価。取引後は3年に1度、現場を訪問し、調査項目と照らし合わせながらCSR監査を実施しています」(柴田さん)

 

また、総合スポーツメーカーらしい取り組みも多くあります。その1つが、「ミズノビクトリークリニック」です。これは、同社と契約をしている現役のトップアスリートや、かつて活躍をしたOB・OG選手による実技指導や講演会。全国各地で開催し、スポーツの楽しさを伝えると共に、地域スポーツの振興に貢献しています。

水泳の寺川綾さんを招き、熊本市で開催されたミズノビクトリークリニック。

 

「2007年からスタートしたのですが、昨年度は全国で89回開催しました。“誰ひとり取り残さない”という部分では、気軽にスポーツをする場、楽しさを伝える場所に。選手の方たちにとっては、これまでの経験で得た技術や精神を子どもたちに伝える場になっています。技術や経験は選手にとっていわば財産。それを伝えることに使命感を持っている方も多く、有意義な活動となっています」(柴田さん)

 

スポーツによる社会イノベーションの創出

また、SDGsの理解と促進を深めるために、社員向けの啓蒙活動も実施。2019年度には3回勉強会が実施され、子会社を含め、のべ約7700人が受講したそうです。

「社員一人ひとりが取り組んでいくことは、企業価値の創造でもあると思います。SDGsを起点に物を考え、長期的、継続的かつ計画的に様々な課題に取り組んでいく。これからも引き続き、持続可能な社会の実現に貢献し、地球や子孫のことを思い、ミズノの強みを持って、新しいビジネスにも挑戦していきます。それにより企業価値やブランド価値の向上を目指していきたいと思います。CSRは責任や義務というイメージがありますが、SDGsは未来に向けて行動を変えるというか、アクションを起こすということ。2030年の未来に向けて、今まで弊社が行ってきたことにプラスして、全社員が一丸となって取り組んでいきます」(柴田さん)

 

さらに2022年度中に、スポーツの価値を活用した製品やサービスを開発するための新研究開発拠点が、大阪本社の敷地内に完成予定です。

新研究開発拠点のイメージ ※実際の建物とは異なることがあります。

 

「スポーツ分野で培ってきた開発力と高い品質のモノづくりを実現する技術力。そんなミズノの強みを生かし、SDGsに貢献できるような新しい製品であったり、人であったり、どんどんつくっていけたらと思います。競技シーンだけでなく、日常生活における身体活動にも注力し、スポーツの力で社会課題を解決する社会イノベーション創出を目指します。新しい開発の拠点となる施設。SDGsの取り組みとともに、弊社にとって新しい幹になると考えています」(柴田さん)

 

創業者である水野利八さんは、「利益の利より道理の理」という言葉を残しました。スポーツの振興に力を尽くし、その結果としてスポーツの市場が育ち、それがめぐり巡って、事業収益につながるという考え方です。その想いは、創業から今に至るまで変わらず、ミズノグループの全社員に受け継がれているそうです。スポーツの持つ力を活かして世界全体の持続可能な社会の実現にさらに貢献していくに違いありません。

 

「手話を自動通訳するグローブ」の誕生でAIの翻訳技術がまた一歩前進

手や腕、口の動き、表情などを用いた言語である手話。でも一般的に言えば、手話は勉強をしなければ理解することができません。では、昨今よく見られるようにAIを使って手話を異なる言語に翻訳することはできないのでしょうか? そこで開発されたのが、手話をリアルタイムで音声言語に変換するグローブです。

↑開発された手話を通訳するグローブ

 

アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームは、手話を使う人が、ほかの人の手助けを借りずに、手話がわからない人と直接コミュニケーションを取れる方法を模索するため、このグローブの開発を始めました。

 

開発されたグローブは左右の両手にはめる手袋タイプ。5本の指には伝導性の糸でできたセンサーが付けられており、手や指の動きを感知することができます。このグローブは手や指の動きを手首部分についた硬貨ほどの大きさの基板にデータとして送り、そこからスマートフォンにワイヤレスで送信。手話は1秒に1単語のスピードで音声言語に変換されます。

 

そして、このグローブには人工知能を搭載。開発段階では、手話を使っている4人が協力し、一つひとつの手話の動作を15回繰り返しながら機械学習アルゴリズムを訓練。その結果、0~9の数字とそれぞれのアルファベットを含む660の手話を識別できるようになったそうです。

 

さらに、研究チームは手話を行うときの人の表情にも着目。眉や口角にセンサーをつけ、手話を行いながら人の表情がどんなふうに動くのかを捉える実験も行ったそうです。

 

実際にこのグローブを使って手話を行い、それを専用アプリが言語に変換する様子を動画で見てみると、グローブの手の動きから音声となるまでわずかな時間差はありますが、細かい手指の動きをきちんと把握して言葉に変換できていることがわかります。

 

現在は単語を変換することしかできないようですが、さらに開発が進めば複雑な文章を翻訳することもできるようになるかもしれません。さまざまな困難があるのでしょうが、翻訳や文章作成を含む言語におけるAIの発展を踏まえると、AIが手話も通訳するというのは必然の成り行きかもしれません。

 

バッテリー要らずの「15mmのカブトムシ型ロボット」がハーバードを超える出来栄え

世界では極小ロボットの研究が行われています。アメリカでは南カリフォルニア大学がカブトムシのようなロボットを開発しており、最近それを公開しました。バッテリーを使わずに最大2時間も動くということですが、一体どんな仕組みなのでしょうか?

↑新種の甲虫類?

 

南カリフォルニア大学の研究チームが開発したロボット「RoBeetle」は、体長が15mm、重さはわずか88mg。本物の昆虫のようなロボットの開発を目指して、6年以上の期間をかけて研究されました。このロボットは4本の脚と角のような部分がついており、カブトムシを思い起こさせる出で立ちが印象的ですが、これだけ小さなサイズなら、人の手では扱えないようなアクセスの悪い場所や危険な場所で利用ができるでしょう。

 

この極小ロボットが注目されるのは、バッテリーやモーターを使わずに利用できる点にあります。ロボットを動かすためには、一般的にはバッテリーなどを用いて動力を供給する必要がありますが、極小サイズのロボットの場合はバッテリーも小型化しなければならず、それにともない駆動時間にも限りができてしまいます。

 

そこでこの研究チームは、ニッケルとチタンを使った形状記憶合金を材料にして人工筋肉を開発しました。この金属は熱を加えると、一般的な金属とは異なり長さが縮む性質があります。合金のコーティングには白金が使われており、燃料となるメタノールの蒸気がその白金と反応して燃焼すると、筋肉が縮むように合金が縮みます。これが収縮性の人工筋肉の仕組みであり、RoBeetleがバッテリーなしで約2時間動くことができる理由です。

 

ちなみに、2020年6月にハーバード大学が発表したゴキブリ型小型ロボット「HAMR-JR」は体長2.25cm、重さは0.3g。こちらはワイヤーで動力を供給するため、ロボットの本体にワイヤーがつながれています。ロボットの大きさも電力供給の面でも、南カリフォルニア大学が開発したRoBeetleに軍配が上がりそうですね。

 

ロボットの小型化にとって課題だったバッテリーの問題を人工筋肉で解決したRoBeetle。これを応用すれば小型ロボットの開発がさらに前進し、医療シーンなどさまざまな場面でのロボット開発が期待できることでしょう。

 

バッテリー要らずの「15mmのカブトムシ型ロボット」がハーバードを超える出来栄え

世界では極小ロボットの研究が行われています。アメリカでは南カリフォルニア大学がカブトムシのようなロボットを開発しており、最近それを公開しました。バッテリーを使わずに最大2時間も動くということですが、一体どんな仕組みなのでしょうか?

↑新種の甲虫類?

 

南カリフォルニア大学の研究チームが開発したロボット「RoBeetle」は、体長が15mm、重さはわずか88mg。本物の昆虫のようなロボットの開発を目指して、6年以上の期間をかけて研究されました。このロボットは4本の脚と角のような部分がついており、カブトムシを思い起こさせる出で立ちが印象的ですが、これだけ小さなサイズなら、人の手では扱えないようなアクセスの悪い場所や危険な場所で利用ができるでしょう。

 

この極小ロボットが注目されるのは、バッテリーやモーターを使わずに利用できる点にあります。ロボットを動かすためには、一般的にはバッテリーなどを用いて動力を供給する必要がありますが、極小サイズのロボットの場合はバッテリーも小型化しなければならず、それにともない駆動時間にも限りができてしまいます。

 

そこでこの研究チームは、ニッケルとチタンを使った形状記憶合金を材料にして人工筋肉を開発しました。この金属は熱を加えると、一般的な金属とは異なり長さが縮む性質があります。合金のコーティングには白金が使われており、燃料となるメタノールの蒸気がその白金と反応して燃焼すると、筋肉が縮むように合金が縮みます。これが収縮性の人工筋肉の仕組みであり、RoBeetleがバッテリーなしで約2時間動くことができる理由です。

 

ちなみに、2020年6月にハーバード大学が発表したゴキブリ型小型ロボット「HAMR-JR」は体長2.25cm、重さは0.3g。こちらはワイヤーで動力を供給するため、ロボットの本体にワイヤーがつながれています。ロボットの大きさも電力供給の面でも、南カリフォルニア大学が開発したRoBeetleに軍配が上がりそうですね。

 

ロボットの小型化にとって課題だったバッテリーの問題を人工筋肉で解決したRoBeetle。これを応用すれば小型ロボットの開発がさらに前進し、医療シーンなどさまざまな場面でのロボット開発が期待できることでしょう。

 

自撮りだけで心臓病を診断できる? 「医療AI」が猛勉強中

現在、AIを利用して、顔写真から将来の病気を予測する技術の開発が進んでいます。本稿では中国の研究チームが最近European Heart Journal(循環器学における最も権威ある学術誌のひとつ)に発表した「自撮りから心臓病を診断するAI技術」についてご紹介しましょう。何気なく撮影した自撮り写真で病気がわかったとしたら、医療はどうなっていくのでしょうか?

↑自撮りが心臓の状態を映す

 

中国の国立心疾患センター次長で阜外医院(Fuwai Hospital)副院長なども務めるZhe Zheng教授ら研究チームが行ったのが、顔写真を分析して冠動脈疾患を発見することができる深層学習アルゴリズムの開発。

 

これまでの研究では、薄毛や白髪、耳たぶのしわの増加、まぶた周辺の黄斑など、心臓病のリスク増加によって顔にさまざまな変化が出ることがわかっていました。しかし、このような変化を人が定量的に判断するのは難しいことです。

 

この問題に挑むことにした同研究チームは、2017年7月から2019年3月までに中国にある8つの病院から心臓病患者5796名のデータを収集しました。さらに患者の正面からの写真と左右両側の横顔の写真、頭頂部を写した4枚の写真も集め、病歴やライフスタイル、経済的状況などについても聞き取り調査を実施。さらに放射線科医が血管造影で患者の血管がどのくらい狭くなっているか評価し、これらすべてのデータをもとにしながら、深層学習アルゴリズムの開発を行いました。

 

人相占い×最新科学?

こうしてできたアルゴリズムを使って中国の9つの病院にいる1013名の患者を調べた結果、8割の心臓病疾患を発見した一方、心臓病疾患がない患者も6割ほど見つけ出すことができたのです。しかし、この結果はこの技術が実際の医療現場で利用されるためにはまだ高いとは言えないかもしれません。研究チームはさまざまな人種に対して大規模な試験を行う必要があると認識しています。

 

しかし心臓の検査というと、心電図やレントゲン、心臓超音波などを利用するのが一般的で、これらは医療機関に行かなければできません。なので、患者がスマートフォンを使って自分で顔写真を撮り、それを医師に送ることで、心臓病にかかっている可能性の高い人やリスクの高い人を発見するというアイデアは、初期段階の診断ツールとして便利でしょう。今後の課題にはプライバシー保護の問題が含まれますが、医療技術やAIなどの技術が進化することで、遠隔地からも気軽に病気の診断を受けることが可能になる未来が着実に近づいている模様。運勢や健康を占う人相診断の科学的アプローチにも思えるこの取り組みは、今後どうなるのでしょうか?

途上国の感染症流行に奮闘する国際緊急援助隊――ノウハウの実績は日本の感染症対策にも貢献【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、途上国の感染症流行に奮闘する国際緊急援助隊の活動について紹介します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大により、国境を越えて広がる感染症への対策は、世界各国にとって共通の課題であることが再認識されました。

 

JICAに事務局を置く国際緊急援助隊(JDR:Japan Disaster Relief Team)には2015年、「感染症対策チーム」が設立され、各国での感染症対策に向け活動しています。JDR感染症対策チームの登録メンバーの多くは、日本国内で新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症対策の最前線で活動する医療関係者です。海外での支援実績とノウハウの蓄積は、日本国内の感染症対策にとって大きな貢献が期待されています。

 

昨年12月には麻しんが大流行した大洋州の島国サモアで、患者に対して診療活動を行い、同国の緊急事態宣言解除を支えました。途上国の感染症対策に奮闘するJDR感染症対策チームの活動の様子を紹介します。

↑JDR感染症対策チームによるサモアでの麻しん患者診療の様子

 

↑人口移動の増加や地球環境の変化に伴い、世界各地で感染症の流行は続いています。JDR感染症対策チームへの期待も増しており、当該国からの要請に備えて平時から訓練や研修を行っています

 

JDR感染症対策チームが直接診療を初めて実施

サモアでは昨年10月、麻しん(はしか)が流行し、サモア政府は11月に緊急事態宣言を発令。こうしたなか、同国政府の要請によりJDR感染症対策チームが12月2日から29日まで現地に派遣されました。これまで、同チームの活動は、検疫、検査診断、ワクチンキャンペーン支援など、公衆衛生関連の活動が中心でしたが、今回初めて、患者に対する直接的な診療活動を実施しました。

 

派遣先は、サモアの首都アピア国立中央病院、首都から西へ約30km離れたレウルモエガ地域病院、隣接地のファレオロ・メディカルセンターの3ヵ所。まさに麻しん診療の最前線での活動です。

 

麻しんは、39℃以上の高熱と発疹が出て、肺炎や中耳炎を合併しやすく、亡くなる割合は先進国でもおよそ1000人に1人といわれています。地方における診療活動は、医師・看護師による診察・処置・処方を行って、症状が重ければ入院、あるいは中央の国立病院へ搬送といった流れで行われました。

 

JDR感染症対策チームの山内祐人隊員(薬剤師)は、サモアでの活動について次のように話します。

 

「麻しんの大流行を防ぐには予防接種が重要ですが、ワクチン接種率の上昇だけでは期待する効果は得られません。特に、サモアのように年間を通して気温が高い国では、ワクチンの日々の温度管理が非常に重要です。サモアでは薬剤師が常駐していない医療機関が多く、看護師がワクチンを含む医薬品の管理を行っているため、看護師に対してワクチンの温度管理の重要性などに関する講習会を開き、ワクチンへの理解を深めてもらいました」

↑熱帯地域における麻しんワクチンの温度管理の講習会。「皆さん熱心に耳を傾け、積極的に質問されていたのが印象的でした」と山内隊員

 

サモアに派遣された薬剤師は2人とも、かつて大洋州のパプアニューギニアで青年海外協力隊として活動。「その経験が今回のJDR派遣で大きく活かされた」と言います。

 

日本で研修を受けたサモアの看護師と共に取り組む

JDRがサモアで活動したレウルモエガ郡病院は、1982年にJICAの無償資金協力で建設され、日本との関係も深く、昨年12月初旬までJICA沖縄の研修「公衆衛生活動による母子保健強化」に参加していた看護師のピシマカ・ピシマカ氏が勤務していました。

 

ピシマカ氏は看護師長として人員や薬品、医療器具・機械などの配置も担っており、JDRに対して現地事情をわかりやすく教え、活動をサポートしました。

 

田中健之隊員(医師)は、「医療資源が限られるなか、サモア人スタッフの献身的な医療へのスタンスは、検査診断にやや頼る傾向にある昨今の日本の医療現場で忘れかけていたものを感じさせてくれました。ピシマカ氏をはじめとする帰国研修員スタッフは、昼夜を問わず診療管理を統括する役目を担い、JICAと現地との連携において非常に大きな存在でした」と、両国スタッフの連携協調がうまく機能したと振り返ります。

↑ピシマカ氏(後列中央)は「JDRは、サモア人医師や看護師、病院職員に常に状況を知らせてくれて、現地スタッフとの協議を大切してくれた。これはとてもありがたかったです」と感謝の言葉を寄せました

 

このように、JDR感染症対策チームは延べ17日間、合計約200名の患者を診療するなど、サモアでの麻しん対策に大きく貢献。麻しん流行は、日本をはじめ、ニュージーランド、オーストラリアなど多くの国からの支援によって終息に向かい、12月29日にはサモア政府によって緊急事態宣言が解除されました。

↑サモアは気温が高く、発熱や嘔吐で脱水症状にならないよう、隊員らは経口補水液(ORS)の重要性などを伝えます

 

長崎大学との連携協定を締結

サモアに派遣されたJDR感染症対策チームには、2015年のチーム設立時から重要な役割を担っている長崎大学から4名のスタッフが参加しました。同大学大学院は熱帯病や新興感染症対策のためのグローバルリーダー育成プログラムに各国からの留学生を受け入れています。

↑JICA北岡伸一理事長(左)と長崎大学河野茂学長による協力協定署名式(2019年12月25日)

 

このような活動のさらなる連携強化を目指し、昨年12月、JICAは長崎大学と熱帯医学やグローバルヘルス関連分野における包括連携協力協定を結びました。

 

感染症は本来、早期に発見し、流行する前に封じ込めるべきものです。JDR感染症対策チームのサモア派遣の経験や長崎大学との包括連携協力協定の締結は、感染症の疫学的な研究はもちろん、新薬やワクチン開発はじめ、各種検査方法や検疫体制の強化など、海外派遣の緊急支援活動だけにとどまらず、日本国内の感染症対策にとっても、さまざまな波及効果が見込まれています。

 

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今、日本からできることを! 一時帰国中の海外協力隊員が活躍――赴任国に向け、リモートで支援【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、新型コロナウイルスの影響により一時帰国を余儀なくされているJICA海外協力隊の隊員の活動について紹介します。

 

中断された活動への無念さ、赴任国への思いなどから、多くの一時帰国中隊員が「今、できることから取り組もう!」と日本から現地に向け活動を始めています。本稿では、日本から赴任国に向け、インターネットを通じて支援を始めた隊員の姿を追います。

 

カンボジア:「手洗いダンス動画」で感染症対策

「病院職員だけでなく、患者さんにも広く公衆衛生の意識が高まってきたタイミングでの帰国で、文字どおり後ろ髪を引かれる思いでした」

 

残念そうに語るのは、看護師隊員としてカンボジアへ派遣された近藤幸恵隊員です。看護師歴13年の近藤隊員は、カンボジア南部のシハヌーク州立病院で、おもに感染症対策と病院経営の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)・KAIZEN活動の協力に携わりました。

↑赴任先の病院で、患者さんやその家族に紙芝居を使うなどして手洗いの重要性を説明する近藤隊員

 

↑同任地の教育隊員の協力も得て、小学校での出前授業も行なっていました

 

そんな近藤隊員が一時帰国後、取り組んだのは、手洗い啓発ダンス動画の作成です。同時期にカンボジアに派遣されていた看護師隊員と小学校教育隊員の3人で制作にあたりました。

 

「この動画は新型コロナウイルス感染症COVID-19対策も含めた公衆衛生改善支援WASH(=Water, Sanitation, and Hygiene) の一環です。カンボジアの人々に馴染みのあるダンスをアレンジすることで、気軽に手洗いの必要性やタイミング、具体的な手洗い法などを知ってもらい、楽しみながら習慣にしてもらうことを目指しています」

 

まず、看護師隊員が手洗いダンスの見本動画を作成。その後、カンボジアに派遣されていた一時帰国中の隊員やJICAカンボジア事務所職員、現地カンボジアの方々など、たくさんの人々に出演協力を依頼しました。日本に戻っても、カンボジアとのつながりを大切にして、動画の制作を進めました。

 

完成した動画は、FacebookやTwitterなどに投稿し、JICAカンボジア事務所や隊員、配属先の人々などに積極的にシェアしていく予定です。

↑手洗いダンス動画の一場面。動画編集は、同じカンボジアの小学校で体育教員として活動していた隊員が担当。カンボジアの皆さんの目に留まるよう、カンボジア国旗の色のイメージで画面レイアウトを工夫しています

 

↑手洗い動画の制作は、同僚隊員やJICAカンボジア事務所とオンライン会議で進めています(画面左下が近藤隊員)

 

「一時帰国後も現地病院スタッフと連絡を取っています。今回、インターネットを活用してリモートでも支援ができることに気づきましたが、オンラインだけでは現地の文化・習慣を肌で感じることは難しいと思います。やはり、相互理解は現地に住むことでより深まり、現場での体験が自分の視野を広げ、考え方も豊かにしてくれると改めて感じました。機会があれば、また海外で活動できればと考えています」と、近藤隊員は語ります。

■完成した動画はこちら↓

手洗い啓発ダンス動画

手洗いの大切さを説明

 

メキシコ:現地食品メーカー向けに品質管理のセミナー動画を作成

「NPO法人メキシコ小集団活動協会(AMTE)のホームページに掲載するオンラインセミナー動画を制作しています。食品の安全・安心を担保するHACCP(注)に基づいた食品の品質と衛生管理に関する内容です。昨年10月、メキシコの全国小集団活動大会で特別講演をした際、知り合ったAMTE事務局のリカルド・ヒラタ氏にいろいろアドバイスをいただきながら作っています。メキシコの皆さんに活用してもらえると嬉しいです」

 

こう話すのは、食品メーカーを定年退職後にJICA海外協力隊に応募し、2018年10月から2020年3月までメキシコの職業技術高校(CONALEP)ケレタロ州事務所で、日本式の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の導入と定着に向けた活動を行っていた入佐豊隊員です。

(注)Hazard Analysis and Critical Control point:「危害分析重要管理点」=世界中で採用されつつある衛生管理の手法。最終段階の抜き取り検査ではなく、全工程を管理する。日本でも食品関連事業者は2020年6月から義務化となった

↑セミナー動画のリハーサルの様子。入佐隊員(写真左)が作成した食品安全の資料を画面に写し、日本語で講義。スペイン語訳をボイスオーバーで入れます

 

「同じメキシコ派遣のシニア海外協力隊2人とともに、オンライン会議を行いながら、それぞれの職務経験を活かしてセミナー動画を作成しています。いつもながら、スペイン語によるコミュニケーションには苦労しています」と苦笑いを隠さない入佐隊員。「でも、メキシコの方々の人懐っこさや陽気さにはいつも助けられます」と微笑みます。

 

陽気でポジティブな人々に囲まれ、入佐隊員はCONALEPケレタロ州事務所での活動に取り組み、5S活動の現地推進メンバーを募り、いよいよ本格的に実施内容や改善点などを出し合おうとする矢先に、まさかの一時帰国でした。

↑CONALEPケレタロ州事務所が管轄する職業技術高校で、5Sの講義を行っていた入佐豊隊員

 

↑5S委員会の普及活動の様子(サンファンデルリオ校)

 

「軌道にのりかけた5S活動がストップしただけでなく、職業技術学校も休校となってしまい残念です。でも、ケレタロ州事務所が管轄する4つの職業技術高校のうち3校には私の専門である食品科があるので、AMTE向けのセミナー動画が完成したら、それを高校生向けにアレンジできないか、あれこれ検討しています」

↑毎週1回オンライン会議でセミナー動画の進捗を相談するメンバー(写真左下が入佐隊員)

 

初めてのセミナー動画作りに戸惑いながらも、任国メキシコに思いを向ける入佐隊員。道半ばで一時帰国せざるを得なかったシニア海外協力隊たちの新しいチャレンジは、これからも続きます。

 

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1.6億円の世界一高級なマスク! 海外の「超ユニークなマスク」3つ

花粉やインフルエンザが流行る季節に限らず、公共の場所ではマスクの着用が要請されている現在。マスクのデザインも急激に発展しており、ほかのファッションと同じようにマスクでも個性を見せる時代になりつつありますが、世界にはどんなマスクが存在するのでしょうか? 著者が調べたなかから、特に奇抜なマスクを3つご紹介します。

 

1: 約1.6億円の「ダイヤモンド製マスク」

抗菌性や冷感タイプ、UVカットタイプなど、さまざまな機能がついた高性能マスクは価格も高めになるもの。そして「世界一高価なマスク」として、とにかく豪華な装いに仕上げてしまったのが、イスラエルのジュエリー会社Yvel。250グラムの18金とおよそ3600個のダイヤモンドを全面に使用したもので、お値段はなんと150万ドル(約1億6000万円)。

 

内部には高性能のフィルターを取りつけ、細菌などをガードする機能もきちんと備わっているとのこと。このマスクを発注したのは、アメリカ在住の中国人の美術品コレクターで、本当にこのマスクを着用して街へ出かけるかどうかは不明です。

↑世界一高価なマスク

 

2. 文字や模様が浮かびがある「LEDマスク」

顔の半分近くを覆うマスクは、もはやファッションの一部。そして多くのファッションデザイナーやファッションブランドが、独自にマスクを作り販売しています。そんななか、ファッションとテクノロジーを融合したアメリカのスタートアップ「Lumen Couture」では、LEDを使って好きな画像や文字を表示可能なマスクを発売しました。

 

アプリを使って、好きな文字を入力したり、自分のオリジナルの画像を表示したりすることが可能。LED表示部分は取り外し可能なため、マスクを洗って清潔にキープできます。さらにUSBで充電して3~4時間使用できるそうで、価格は95ドル(約1万100円)。

↑オリジナリティあふれるLEDマスク

 

3. サステナブルな「紙で作れるマスク」

新型コロナウイルスが世界的に広がり始め、マスク不足が加速していったとき、ロシアのデザイナーが「自分たちにできるアイデアをシェアしたい」と立ち上げたのが、「BUMASK(ビューマスク)」です。試作品を繰り返し作りながら、どこにでも手に入る材料で誰にでも簡単に自分で作れることをコンセプトに、人間工学にもとづいて設計されたマスクを発表。

 

特設サイト上で型紙が公開され、誰でも無料でダウンロードして家庭用プリンターで印刷してマスクを作ることができます。材料になるものは、段ボールでも厚紙などでOK。内部には木綿などの布地、紙ナプキンなどをフィルターとして挟み、フィルターだけを交換すれば、長くマスクを愛用することができます。マスク不足の心配は解消されましたが、まだまだ続くウィズコロナの時代に、またいつマスクが足りない事態に陥るかわかりません。そんなときに利用できると便利かもしれません。

↑サステナブルでいい感じかも

 

ちなみに筆者が暮らすハワイでは、一般人が使うマスクでは、日本のような白色の無地のマスクはほとんど見かけず、花柄などカラフルな生地を使ったマスクがほとんどです。今後も「マスクでおしゃれを楽しみたい」というニーズは世界で高まっていくのでしょう。

 

「赤レンガ」50個に導電性ポリマーを塗ると数十万回も充電できることが判明

災害が起きて電力の供給が止まってしまったら、スマートフォンを使って家族と連絡を取ることや被害情報を入手することが難しくなってしまいます。そんな非常時に重宝されるが「蓄電できるアイテム」ですが、最近では身近にあるレンガを蓄電装置として利用する研究が行われています。

↑レンガで充電でもするか

 

安価な建築資材であるレンガを蓄電装置に使うことができたら便利ではないかという考えのもと、ワシントン大学セントルイス校の研究チームは、ホーム用品店で購入した赤レンガに「PEDOT」と呼ばれる導電性のポリマー塗料を塗る試みを行い、LEDライトを点灯させることに成功しました。

 

赤レンガの赤色は酸化鉄やサビであり、これがポリマーと化学反応を起こします。また導電性のポリマーはナノファイバーでできており、多孔質のレンガ内部に入りこむことができるため、電気を蓄えられるイオンスポンジのような役割を担うことができるのです。

 

このレンガが50個あれば、非常時に5時間分の電力を供給することが可能なのだそう。また充電は1時間以内で終了し、数十万回も充電を繰り返し行うこともできます。

 

進むバイオレンガの研究

↑レンガの使い道は狼から身を守るためだけではない

 

以前人の尿からレンガを作る研究についてご紹介したように、世界ではバイオレンガの研究も盛んです。近年発表されたバイオレンガの報告には、バクテリアを利用してレンガを作る方法があります。コロラド大学ボルダー校の研究チームが発表した内容によると、光合成細菌の一種を岩塩や栄養素を含んだ混合物のなかで増殖させると、それがやがて炭酸カルシウムを堆積していき、人が乗っても砕けないほどの強度を持つ素材が作られることがわかりました。

 

コンクリート並みの強度には及ばないものの、バクテリアの力だけでレンガのような素材を作ることができるとあって、宇宙や砂漠など人が介入できない環境で利用できるのではないかと期待されています。レンガには多くの可能性が潜んでいるようですね。

 

【関連記事】

オシッコからレンガを作る!? 持続可能な社会に向けた「尿」の錬金術

「鍵を挿す音」を記録するだけで合鍵が3Dプリントで作れる。防犯はどう変わる?

映画やアニメ、ドラマでは、スパイや泥棒がドアの鍵をこっそり開けようとするとき、特殊な道具を鍵穴に入れて、音を頼りに鍵を開けようとするシーンがよくあります。しかし、このアナログな方法は近いうちに見なくなるかもしれません。最近、最先端のデジタル技術を使って合鍵を作れる可能性が明らかとなり、この新しい方法を使えば不法侵入がもっと簡単になると言われています。防犯には防音対策が必要になるかもしれません。

↑鍵穴に挿す音が聞こえれば、家に入れちゃう?

 

世界で広く普及している鍵に「ピンタンブラー錠」があります。これは鍵の左右片側だけに刻みが入り、反対の片側には刻みがないタイプ。鍵穴のなかにはピンが4~7本配置されていて、鍵の形とピンがすべて正しくそろったときに初めて鍵穴が回転する構造になっています。ピンの数が多いほど構造が複雑になり、ロックは何十万通りものパターンが製造可能と言われています。

 

ピンタンブラー錠は、針金のような特殊工具を鍵穴に差し込んで開錠させるピッキングに弱い側面もありますが、そのピッキングも特殊な技術や道具が必要で、近所の人たちが不審に思いやすいというデメリットがあるため、ピンタンブラー錠は広く使われ続けています。

 

そんななか、セキュリティに関する研究を行うシンガポール国立大学の研究チームが提案したのが、開錠したときに生じる音から合鍵を作る「SpiKey」という新しい方法。鍵を鍵穴に差し込むと、なかにあるピンと鍵がぶつかったり、こすれたりして必ず金属音が発生しますが、このチームはスマートフォンの録音機能や信号処理技術を使ってその音をシグナル(信号)として分析し、鍵の形状を推測するアイデアを研究しました。

 

実験で6つのピンがあるピンタンブラー錠を使用した研究チームは、開錠したときに6つのピンにこすれて生じるわずかな音の時間差などを計測して、鍵の形状を予測するソフトウェアを開発。そして、このソフトウェアで得られたデータをもとに、鍵を3Dプリントで再現するという仕組みを構築したのです。実験では33万通り以上の合鍵の候補から、3つまで絞りこむことに成功したそう。

↑ SpiKeyのイメージ(上の人物が鍵を開ける音を下の人物がスマホで録音する)

 

この研究チームは「SpiKeyは従来のピッキングと比べて、犯罪者にとって悪事を働く障壁を著しく下げるだろう」と述べています。一般人にとっては迷惑な話ですが、ピッキングのような犯罪もますます高度になっていくのでしょう。研究チームは今後、音をもとに合鍵を複製する犯罪を予防する方法についても調査を進めていく予定とのこと。鍵の機能の進化が期待されますが、私たちが防犯を考えるときには防音も意識したほうがいいのかもしれません。

 

牛はお尻に「目」を描くだけでライオンに襲われなくなる。なぜ?

牛やブタなどを飼育している畜産農家にとって、家畜を健康かつ安全に育てることが欠かせません。でもライオンなどの猛獣が共存する世界では、大切な家畜が他の動物から攻撃を受けることも起こり得ます。そんな課題を解決するために生み出されたのが、牛のお尻に左右2つの目を描くという方法です。

 

ライオンを騙す

↑目を描くだけ

 

開発途上国での畜産業では、家畜がライオンなどの動物に襲われるリスクが常にあり、それがエスカレートすると畜産農家に大きな経済的ダメージをもたらします。そこで求められるのが、できるだけコストがかからずに家畜を安全に守るための方法です。

 

オーストラリアのサウスウェールズ大学の研究チームは、シドニーにあるタロンガ動物園とボツナワにある肉食動物保全団体「Botswana Predator Conservation」と共同で「牛のお尻に目を描く」という方法を試すことにしました。ライオンの狩りは、獲物に気づかれないように近づき最適なタイミングを見計らって奇襲攻撃をしかけるスタイル。

 

そのため、狙った獲物に見られたと気づくと、ライオンは狩りをあきらめる可能性があると考えられています。そこで研究チームは牛のお尻に目を描くことで牛がライオンに気づいたと思わせ、ライオンに攻撃をあきらめさせることができるのではと仮説を立てたのです。

 

研究チームはアフリカのボツワナ北西部のオカバンゴ・デルタで、ライオンからの攻撃を受けたことのある畜産農家の協力のもと、14の牛の群れで実際に実験を行いました。1/3の牛にはお尻に左右2つの目を描き、1/3にはお尻にただの「X」マークを2か所描き、残りの1/3には何も描かずに4年間様子を見ることとしました。

 

その結果、お尻に何も書かなかった牛は15頭が、Xマークを描いた牛の4頭がライオンなどに襲われたのに対して、目を描いた牛は一匹も襲われることがなかったのです。Xマークは、何も描かないよりも効果が見られましたが、それよりも目を描いたほうがずっと襲われるリスクが減ったということです。

 

ただし今回行われた実験では、同じ群れのなかに何も描かなかった牛とXマークを描いた牛が混在していたため、すべての牛に目を描いた場合はどんな結果になるかはわかりません。また長期間同じことを行った場合、ライオンが牛に描いた目に慣れてしまうことも考えられます。しかし今回の結果で、特に大切に守りたい家畜がいたときは、お尻に目を描く方法でそれを安全に守る効果があるということは言えるようです。

↑身体に目を描く効果は絶大

 

魚や蝶、両生類などには同じように目に見える模様を持つものがいて、目玉模様は生物たちが自分の身を守るための一般的な手段のひとつとなっていますが、哺乳動物ではそのような目玉模様をもつ動物がいないそう。以前紹介したとおり、シマウマの縞模様がアブなどの害虫から身を守るためにできたとする説はあっても、目玉模様を持つ哺乳動物がいないということは、ライオンや牛などの哺乳動物の世界では、厳しい弱肉強食が自然の摂理ということなのかもしれません。

 

世界初「スマホとつながるマスク型デバイス」。ってなにそれ?

一年中マスクが欠かせなくなった今日、スマートフォンにつながる「スマートマスク」が誕生しました。世界中で話題となっている「 世界初のスマホとつながるマスク型デバイス」とは一体どんなものなのでしょうか?

↑マスクを超えたコミュニケーションデバイス

 

ロボット開発ベンチャーのドーナッツロボティクス社(日本とシンガポールが拠点)が、世界初と言われるスマートマスク「C-FACE」を発表。

 

C-FACEには主に3つの機能があります。1つ目の機能はマスク越しに話した自分の声を10メートル先の相手まで届けることができること。C-FACEは、市販のマスクを内側に組み合わせて着用するタイプで、マスクの電源を入れて専用アプリを立ち上げると、Bluetooth経由でマスクがスマホに接続します。この状態で話すと、小さな声であっても相手のスマホに自分の声が届き、Bluetoothが届く10メートル範囲程度までそれが可能になります。

 

この機能を利用すれば、病院での診療や買い物先、会議やセミナーなどでもソーシャルディスタンスを保ちながら、しっかり自分の声を相手に伝えることができるようになります。

 

2つ目の機能は翻訳機能。マスク越しに話した言葉を英語や中国語など8か国語に自動で翻訳することができます。翻訳機能は月額500円〜1000円ほどになる予定。

 

3つ目の機能は議事録の作成で、会議などの場面で簡単な議事録を残すことができます。

 

日本のみならず世界中でマスクが必需品となっていることから、このC-FACEへの注目度は俄然アップ。CNNやNYタイムズ、ロイターなどの世界各国の大手メディアもC-FACE を紹介する記事を掲載しており、世界中から問い合わせが増えているそうです(7月にはサーバーもダウンしたそう)。

 

そんなC-FACEは現在Makuakeで資金を募集しており、目標額50万円に対して、8月19日時点で180万円以上の資金を調達済み。C-FACEの価格はひとつ4378円で、早割りや複数個をまとめて購入できるプランもあります。

 

ドーナッツロボティクス社では新型コロナウイルスが発生する前からこのアイデアが社内で出ており、新型コロナの感染拡大を受けて、この商品の開発に取り組んだそう。今後はARやVRなどに対応する予定で、コロナ禍をきっかけにマスクが新たなコミュニケーションデバイスとして発展していきそうです。

 

Makuakeでの応募締切は2020年10月29日で、商品の発送は2021年2月末までの予定。興味のある方は支援もかねて注文してみてはいかがでしょうか?

 

お湯のほうが早く氷になる「ムペンバ効果」が新たな方法で実証! どういう仕組み?

暑い季節は飲み物や食事に氷を使う機会が増えますが、早く氷を作るための意外な方法があるのをご存知でしょうか? それが水ではなくお湯で氷を作るというやり方。これは「ムペンバ効果」と呼ばれる現象で、これまでに多くの科学者がそれについて研究し、最近になってようやく再現に成功しました。

 

とある少年の偶然の発見

↑お急ぎでしたらお湯がおすすめ

 

ムペンバ効果は1963年にタンザニアで見つかりました。当時13歳だったエラスト・ムペンバは学校の授業でアイスクリームを作っていたところ、砂糖やミルクを混ぜた液体を一度冷やすことなく、誤って熱いままアイスクリームの撹拌機に入れてしまいました。しかし驚くことに、彼が作ったアイスクリームはほかの生徒よりも早く凍ったのです。

 

その後、彼は先生の協力のもと、沸かしたお湯と温かいお湯をグラスに注ぎ、どちらが早く凍るかを実験。その結果、沸かしたお湯のほうが先に凍りやすいことを見つけ出したのです。この現象は彼の名前から「ムペンバ効果」と呼ばれるようになりました。

 

それ以来このムペンバ効果は、日本も含め世界各国の科学者たちが興味をもち、同じ現象が再現できるか実験を行ってきました。しかしムペンバ効果の存在を認める科学者がいる一方で、なかなか再現することが難しくその原因も完全には解明されておらず、ムペンバ少年がその現象を目の当たりにしてから50年以上が経った現在でも、ムペンバ効果に関する議論は続いてきました。

 

ついに再現成功

↑カナダの物理学者が効果を再現

 

そして最近、科学誌「Nature」に掲載されたのが、カナダのサイモンフレーザー大学の物理学者アビナッシュ・クマール氏とジョン・ベックホーファー氏がムペンバ効果の再現に成功したという論文です。彼らは極小のガラスビーズを水の入ったグラスに入れ、さまざまな条件下でそれがどんな動きをするかレーザーを使い観測していたところ、温かいガラスビーズの方がそうでないガラスビーズに比べて、早く冷えることを発見したのです。

 

ムペンバ効果について議論するとき、水にはミネラルなどのほかの物質も含まれいるため、問題はやや複雑になります。水が凍り始める時点を凍ったものとするのか、完全に凍った時点とするのか、氷点下に達したときなのか、どの時点を「凍った」と定義するのかも議論されていますが、今回発表された方法は「凍る」定義そのものとは関係なく、極小のガラスビーズそのものの温度を測定するものです。さまざまな温度で1000回以上に及ぶ実験を繰り返し、ガラスビーズは高温のほうが低温より早く冷たくなるという結論を導きだし、これによりムペンバ効果は実際に起こり得る現象であることが実証されたのです。

 

自宅で氷を作るとき、その条件は自宅によって異なり、ムペンバ効果が起きないこともあるそうですが、興味のある方は、温かいお湯で氷を作ってみてはいかがでしょうか?

 

超音速旅客機の夢に再び挑戦中! 米国スタートアップがロールスロイスと新提携

イギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機コンコルドが初飛行してからおよそ50年。現在、新たな超音速旅客機として注目を集めているのが、日本航空が出資するアメリカのブーム・テクノロジー社が開発を進めている「オーバーチュア」です。この実現に前進すべく、同社は新たにロールスロイスと提携しました。過去に挫折も経験している超音速旅客機が夢に向かって再び挑戦しています。

↑超音速機を開発するため、ひとりで起業したブームのショールCEO

 

NY〜ロンドンを3時間15分で飛行

世界最速の超音波旅客機の実現を目指して2014年に創業したブーム・テクノロジーが開発しているオーバーチュアは、座席数がおよそ55席で、最高速度がマッハ2.2(時速約2300㎞)の超音速旅客機です。開発が成功すれば、ニューヨーク〜ロンドン間を3時間15分で結ぶと言われています。ブーム・テクノロジーには日本航空も出資しており、すでに日本航空はオーバーチュアを20機、ヴァージン・グループは10機仮受注していると報じられています。

↑日本航空の飛行機もいつか超音波旅客機になる? (Courtesy: Boom)

 

ロールスロイスと提携

そんなオーバーチュアの開発に向けて、ブーム・テクノロジーはロールスロイスと提携したことを7月末に発表しました。ロールスロイスというと世界屈指の高級車ブランドですが、航空機用エンジンの分野でも100年以上の長い歴史がある老舗メーカーです。現在では大型ジェットやビジネスジェットなど、30種類以上の機体にロールスロイス製のエンジンが採用されており、ワイドボディ旅客機向けエンジンでは50%以上のマーケットを占めているそう。

 

これまでにもロールスロイスはブーム・テクノロジーと協力してきたことがあり、今回の提携では既存のエンジンが超音速飛行に対応できるのかを調査することで、オーバーチュアのエンジン開発に協力するようです。ブーム・テクノロジーでは、オーバーチュアのテスト飛行は2020年中ごろを、商業利用の開始は2030年までの予定と発表していますが、航空機用エンジン開発の大手と手を組んだことで、オーバーチュアの開発スピードが上がるかどうかはわかりませんが、開発スケジュールは予定通りに進むことが期待されます。

 

「タッチレスなタッチスクリーン」でどういうこと? AIを使った最新技術が加速中

画面を指で触れることで操作できる「タッチスクリーン」。スマホやタブレット、PC、券売機、ATMなど、今日ではさまざまなものにこのタッチスクリーンが採用されています。でも新型コロナウイルスの感染予防の観点から、「できるだけ物には触れたくない」と考える方も多くいるかもしれません。そんな「タッチレス」ニーズを満たすような、画面に触れることなく操作ができるタッチスクリーンがイギリスで開発されました。

↑タッチスクリーンでクルマを運転

 

タッチスクリーン自体は、クルマに搭載されたディスプレイにもすでに採用されており、冷暖房や音楽の設定、カーナビゲーションなどの操作を行うのに使われています。しかし、運転中にタッチしたい部分を的確に指で触れることはなかなか難しく、操作にもたついたり、別の部分に触れたりすると、事故などの危険にもつながりかねません。そこで画面に触れずに操作できるタッチスクリーンの開発に、イギリスのケンブリッジ大学研究チームがジャガー・ランドローバーと乗り出したのです。

 

AIが操作時間を減らす

触らないタッチスクリーンの開発には、多くの電化製品でも一般的になってきている、人の視線やジェスチャーを追跡する技術が採用されました。それに加えて、ユーザーがどの部分を指さそうとしているかを自動的に判別するために、AI技術などを活用したマシンインテリジェンスも使用しています。

 

開発チームは、このタッチスクリーンを使って運転シミュレーターや実際の道路でテストを実施。その結果、操作時間を最大で50%短縮することに成功しました。つまり、視線や手の動きなどから操作を予測することで、操作時間は短くなるということが示されたわけです。操作にかかる時間が短くなれば、運転中のリスクを減らし、安全運転につながることも期待されます。

この触らないタッチスクリーンの技術は、スマートフォンなどのさまざまなデバイスにも応用可能。スマホに利用すれば、ウォーキングやランニング中の画面操作も簡単に行えるほか、病気などが原因で身体に震えが生じる方も操作しやすくなると考えられます。

 

また、駅の券売機のように、不特定多数の人が利用するタッチスクリーンの場合、新型コロナなどのウイルスや細菌の感染も気になりますが、画面に直接触れることなく操作することができるようになれば、感染予防にも大いに役立つことになるでしょう。近い将来、多くのデバイスが「タッチレス・タッチスクリーン」に変わっていくかもしれません。

 

1万組以上のカップルからAIが導き出した「恋愛の満足度を上げる」要素

パートナーとの恋愛で満足度を上げるものは、いったい何だと思いますか? 相手の性格? 年齢? 収入? そんな恋愛の満足度について調べるため、AIを使って1万1196組のカップルのデータを分析するという研究が行われました。どんな結果が得られたのでしょうか?

↑AIは恋愛もお手の物?

 

ドキドキするような高揚感を味わったり、心の安らぎを感じたり、自分を肯定する気持ちが芽生えたり、恋愛中の人にはさまざまな感情が芽生えます。では、恋愛の満足感を高めるためには、どんな要因があるのでしょうか? カナダのウェスタン大学の研究チームがその疑問を調べるため、AIを使った大規模調査を行いました。

 

研究チームは43件の調査から1万1196組のカップルのデータを収集し、これを「ランダムフォレスト」と呼ばれる機械学習で分析しました。その結果、恋愛の満足度にもっとも影響を与えることは、「パートナーに対しての真剣度」「相手への感謝」「性生活の満足度」「恋愛での相手の満足度」「パートナー間のケンカ」で、これら5つの要因が最大45%の影響をカップルに与えることが判明しました。

 

一方、性格や年齢、性別といった個人特性に関しては、恋愛の満足度に21%の影響しか及ぼさないことも判明。個人特性のうち、恋愛の満足度に大きく関連するのは「人生に対する満足度」や「ストレスやイライラなどの負の感情」「うつ」「回避型愛着(距離をおいた対人関係を好む傾向のこと)」「不安型愛着(信頼した人から相手にされなくなることを極度に恐れる傾向のこと)」でした。

 

この結果から、パートナーがどんな人かということより、そのパートナーと自分がどんな関係を築くことができるのかが、恋愛の満足度には重要だということが導かれます。見た目が好みの相手や収入の高い相手と恋愛関係になれたらステキな恋愛ができるというのは、あくまでも理想の世界のことであって、実際に満足のいく恋愛を楽しむためには、相手と自分がどんな関係になれるかにかかっているということのようです。

 

精神的な充足感やパートナーとの関係は、数値などで可視化することが難しいもの。でもAIを使った分析で、「恋愛の満足感に関係するのは個人的な特性よりも相手との関係性」ということが明らかになったわけです。その答えを聞いてみると、「やっぱり」と思わずにはいられないものではないでしょうか。

マクドナルドの一人勝ちを阻止! 「フィリピンNo.1ファストフード店」はいかにグローバル競争で勝ち続けているのか?

ファストフードといえば、120を超える国や地域で展開するマクドナルドが名実ともにトップと思われていますが、実はフィリピンにその一人勝ちを阻止しているファストフード店があります。それが地元発として知られる「ジョリビー」。フィリピンでは同社がマクドナルドの2倍の売上高を誇り、No.1ファストフード店に輝いています。ジョリビーがなぜマクドナルドに勝てるのか、その秘密に迫ります。

↑フィリピン国内で1000店舗以上を展開するジョリビー(画像出典: ジョリビー公式サイト)

 

かわいいミツバチのキャラクターをロゴマークに掲げるジョリビーは、もともと町の小さなアイスクリーム店として1979年に創業。現在ではフィリピン国内に1150店舗を展開するまでに成長しました。公式サイトによると、同社はフィリピンのファストフード業界で50%以上のシェアを獲得し、アジアを中心に海外進出も積極的に展開する一方、アメリカにも31の店舗を構えています。人気メニューはハンバーガーやチキン、スパゲッティなどで、お昼の時間ともなれば店の外まで大行列ができる人気ぶり。フィリピン人はジョリビーが大好きなのです。

 

フィリピン人に愛されるジョリビーですが、いまから約40年前にその存在を脅かす存在が現れました。世界のファストフード王者マクドナルドがフィリピンに進出することになったのです。フィリピンNo.1ファストフード店として負けられないと考えたジョリビーはアメリカまで調査に行き、どうすれば勝てるかを徹底調査しました。

 

ジョリビーの社員は、マクドナルドの料理を食べたとき、あることに気づいたといいます。マクドナルドの味はアメリカ人には適しているけれども、フィリピン人には合わないかもしれないと。フィリピン人はアメリカ人と比べると、より甘く、より辛く、より塩味の効いた料理を好みます。そこで、ジョリビーはフィリピン人の味覚に徹底的にこだわったフードを提供するという戦略を採ったのでした。

↑ソースが甘めのジョリビーのスパゲッティ

 

甘めのバナナケチャップがかかったスパゲッティやスパイシーなチキン、塩味の効いたフライドポテトなど、ジョリビーはフィリピン人に愛される料理を作り続けました。その結果、マクドナルドも当初は自社特有の味で勝負しましたが、それではジョリビーに勝てないことを認識。最終的にはマクドナルドがジョリビーの味をまねたり、ライスメニューを導入したりという展開に至りました。

 

現在でもジョリビーとマクドナルドの勝負は続いていますが、ジョリビーの圧勝という図式は崩れていません。地元メディアなどの報道によると、2017年のフィリピン国内における収益額は、マクドナルドが8.4億ドルだった一方、ジョリビーはその約2倍の16億ドル。また、2019年におけるフィリピン国内店舗数についても、マクドナルドが640店舗に対して、ジョリビーは上述したように1150店舗と、ここでも約2倍の差がついています。しかしながら、2019年のフィリピン国内のマクドナルドの売り上げは2018年より15%アップと好調で、ジョリビーもうかうかしていられません。

↑チキンやライスなどが一緒になったジョリビーの人気セット

 

No.1であり続けるために

もちろん、ジョリビーがフィリピンNo.1ファストフード店であり続けている理由は味付けだけではありません。ほかにも2つの特徴があります:

 

1. マクドナルドよりも少し安い価格設定

ジョリビーのフードは、マクドナルドの価格よりもわずかに安く設定されています。例えば、フィリピンで人気のスパゲティ+ドリンクのセットであれば、ジョリビーが59ペソ(約127円)なのに対し、マクドナルドは80ペソ。チキン+ライス+ドリンクのセットの場合、ジョリビーが90ペソなのに対し、マクドナルドでは110ペソです。お客さんにとってジョリビーはおいしいだけでなく、経済的でもあるのです。

 

2. 子どもを楽しませる工夫

↑子どもたちにも大人気のジョリビー(画像出典: ジョリビー公式サイト)

 

ジョリビーは子どもに焦点を当てたマーケティング戦略を展開しているのも特徴。たくさんの子どもたちはジョリビーが大好きで、喜んでお店に行っています。

↑ジョリビーにも会えるかも(画像出典: ジョリビー公式サイト)

 

マクドナルドでも子ども向けのサービスが多くなされていますが、ジョリビーのそれはマクドナルドのレベルを超えているかもしれません。店内にはポップな装飾が施され、ジョリビーの絵が至るところに描かれています。にぎやかな音楽が流れていておもちゃ付きメニューも豊富で、運がよければ着ぐるみのジョリビーにも会えます 。

 

本質は、自国のユーザーを徹底的に分析すること

本稿では、フィリピンのNo.1ファストフード店であるジョリビーのさまざまな取り組みを紹介しました。マクドナルドに負けないためにジョリビーが最終的に行き着いたのは、メインターゲットであるフィリピン人好みの料理を提供し続けることでした。一見、素朴に思えるこの戦略ですが、それを続けることはそう簡単ではありません。フィリピン人がジョリビーを愛するのは、ジョリビーがフィリピン人を愛しているからにほかならないと思います。

 

ジョリビーは2020年、海外に300~350の店舗を設ける計画を立てています。もしかしたら近い将来、あなたの町にも、赤いミツバチ「ジョリビー」が現れるかもしれませんね。

東京ガスが「ショッピングサイト」を運営!? 同社のユニークな「SDGs」の取り組みは社会課題解決と価値創造が目標

食品ロスなど廃棄の削減へ貢献するECサイト「junijuni sponsored by TOKYO GAS」を協業~東京ガス株式会社

 

「junijuni(ジュニジュニ)」というサイトをご存じでしょうか。賞味期限が迫っていたり、パッケージの変更や期間限定プロモーションの終了などの理由で、従来は廃棄されていた食品や日用品などを中心に手ごろな価格で販売するECサイトです。商品の価格には、社会課題の解決に取り組む各種団体などへの寄付金も含まれていて、商品の購入を通じてユーザーも社会課題解決に貢献できます。このサイトを開設したのが、都市ガス事業のパイオニアである東京ガスです。

 

社会に貢献できるサービスとしてスタート

「junijuni sponsored by TOKYO GAS」のトップページ 2020年8月3日時点(https://www.junijuni.jp/

「『junijuni』は2019年4月25日にオープン。今年7月で1年3か月が経過した社会貢献型ショッピングサイトです。サイト名は、SDGsの『12:つくる責任、つかう責任』に本サイトの趣旨が合致することから、12(ジューニ)に重ねて、弊社が命名しました」と話すのは、サイト開設初期から携わる価値創造部サービスイノベーショングループの塩田夏子さんです。

 

価値創造部サービスイノベーショングループ・塩田夏子さん

「東京ガスというとガス会社のイメージが強いと思うのですが、それだけでなく、“快適な暮らしづくり”と“環境に優しい都市づくり”に貢献し、お客さまの暮らし全般を支えられる企業になるという経営理念があります。私たちが所属する価値創造部は、そうした理念を踏まえて新しいサービスを考える部署です。 社会課題解決に貢献できるサービスをいろいろ考えていたところ、先行して類似サイトを運営していたSynaBiz様とお会いする機会がありました。近年問題視されている、食品ロスや日用品廃棄の削減に貢献できるサイトということで興味を持ち、協業の話を進めていったのです」 (塩田さん)

 

2018年夏にプロジェクトがスタートし、同社の会員を対象にテストマーケティングを実施。会員へのアンケートを行ったところ、サイト趣旨に対して高い評価が得られたため、オープンに至ったそうです。現在では、さまざまな理由で廃棄されていた食品・日用品などをメーカーや卸などから集めるとともに、消費者である利用客への周知を行っているそう。サービスの運営はSynaBiz社が務めていると言います。

 

メーカー・消費者がまさにwin-winの関係に

このサイトでは、“もったいない”という想いへの解決策が提示されていて、メーカー、消費者ともにメリットが大きいことは一目瞭然です。

 

「『junijuni』で買い物をしてくださるお客さまにとっては、賞味期限間近などの理由があるにせよ、手ごろな価格で商品をお買い求めいただけるということ。さらに、ご自身のお買い物で食品ロスや日用品廃棄の削減と寄付ができるという満足感も得られます。普段のお買い物で社会貢献しているという実感を持てるのです。また、商品をご提供いただいているメーカー様などにとっては、処分対象の商品を出荷できるという点がかなり魅力的だと思います。廃棄するにもお金がかかりますし、何よりも、自分たちが作った商品を捨てるというのは悲しいことです。それをお客さまに届けられて、喜んでいただけているのではないでしょうか。

 

「junijuni」を通じてのメリットの輪(「junijuni」HPより)

弊社にとっても、企業としてSDGs達成に貢献できるだけでなく、こうした新しいサービスを提供していくことで“東京ガスってこんないいサービスを行っているんだ”と感じていただける部分にメリットを感じています。また、東京ガスというブランドに基づく安心感を多少なりとも消費者に持っていただける企業と協業することで、SynaBiz様にとっても、規模拡大の可能性があると考えています」 (塩田さん)

 

ちなみに、ある日の「デイリー注目度ランキング」を見ると、1位:ココアサブレ 2位:クッキーの詰め合わせ 3位:食パン詰め合わせ 4位:焼鮭フレーク……と食品が続きます。インスタント食品、調味料、カップ麺、缶詰、お菓子、ソフトドリンク、お茶、酒類など、やはり飲食類が充実していますが、美容サプリメント、基礎化粧品、シャンプー、芳香剤、調理器具、ドッグフードほか、サイト内で扱う商品の種類はバラエティに富んでいます。

 

メーカーなどから集めた商品を管理する物流倉庫

 

1年間で約1万人が利用し約25万点を販売

そもそも食品ロスの問題は、近年、大きく取りざたされてきました。環境省の資料によると、日本国内の食品ロス(まだ食べられるのに廃棄される食品)は年間 643 万t、廃棄コストも2兆円かかっています。消費期限と違い、賞味期限は必ずしも食べられなくなる期限ではありません。しかし「賞味期限」に対して消費者が敏感なことと、スーパーやコンビニにおける、賞味期限切れの商品が店頭に並ぶことを防ぐ商習慣が、食品ロスを生む一因と考えられます。こうした課題の解決に「junijuni」は一役買っているわけです。

 

日本国内の食品ロス(「junijuni」HPより。参考:環境省HP)

「“廃棄量何トン分”という形では数値を出していませんが、サイトのオープンから1年間で、のべ約1万人のお客さまにご利用いただき、商品数にすると25万点ほどご購入いただいています。食品だけでなく日用品も販売しているのですが、全体の8割ぐらいは食品。特にジュースやスイーツが人気です」(塩田さん)

 

また先に述べたように、商品の購入と寄付が連動していることでも、社会課題解決に貢献しています。寄付先は、8団体に台風などの災害義援金を加えた全9団体。サイトのオープンから約1年で30万6577円(2020年3月31日現在)を寄付できました。

 

販路に困っている人たちの救世主に

「まだ食べられるのに捨ててしまうのは本当にもったいない。そのような商品を、こうしたサイトで買えて、もったいないを減らせるのはすごいことだし、広めていった方がいい」という会員の声が多いという「junijuni」。開設から1年が過ぎ、今後はどのような展開を考えているのでしょうか。

 

「具体的にはまだ決まっていませんが、在庫に困っている地元企業様や生産者様の課題を解決できるような仕組みを展開できなかと考えています。現状では、新型コロナウイルス感染症の影響で販路に困っている方が増えているので、『junijuni』を活用していただければという思いから、『コロナに負けない! 生産者・販売者をみんなで応援! 買って応援特設サイト』を設けて、生産者や販売者の皆様をサポートしています」(塩田さん)

新型コロナウイルス感染症の影響で販路に困っている方向けに開設

新型コロナウイルス感染症対策支援は他にも行っています。5月25日と29日には、新型コロナウイルスの影響で生活に困窮する世帯を支援するフードバンク3カ所に食品を寄贈しました。

 

フードバンクへ寄贈した商品例

「3~5月に『junijuni』の利用者数は増えました。販路を失った生産者や業者が困っている状況をニュースや新聞などが取り上げていて、一般の方たちの意識も高まったのかもしれません。これからも、食品や日用品のロスを救える買い物の仕方に注目が集まるのではないでしょうか」(塩田さん)

 

事業活動を通じて社会的責任を果たす

 

「junijuni」を通して社会課題の解決に向き合う同社ですが、その活動は今に始まったことではありません。近年は、特に持続可能な社会の実現に対する企業への期待や要望が高まっていますが、エネルギーインフラを支える企業として、東京ガスは古くから社会課題の解決に取り組んできました。折しも昨年は、LNG(液化天然ガス)の導入から50年目にあたる記念の年。サステナビリティ推進部SDGs推進グループの森井奈央子さんによると、「51年前、東京ガスが初めて日本にLNGを導入したことも、社会課題を解決した事例のひとつかと思います」とのこと。

 

サステナビリティ推進部 SDGs推進グループの森井奈央子さん

「当時の日本はまさに高度経済成長期。経済成長に伴ってエネルギー需要が伸び、それにより大気汚染が深刻化していました。石炭や石油と比べて環境性の高い天然ガスの導入は、その課題解決に貢献できたと思います。また、天然ガスはカロリーが高いので効率良くエネルギーを供給することができ、エネルギー需要の増大にも対応できました」(森井さん)

 

一方で、社員の意識も高いといいます。

 

「元々弊社の事業は公益性が高いので、自社やお客さまの利益だけでなく、世の中のため、社会のために貢献していこうという創立時からの変わらない考え方があります。現在も、事業を通じて社会の持続的発展に貢献することで、企業としても持続的に発展していく、という考えに基づいて事業活動を進めています」(森井さん)

 

パートナー企業との連携によるサービスの創出

ガス・電気を供給する事業者として、SDGsの「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「11:住み続けられるまちづくりを」に貢献してきた東京ガス。昨年11月には2030年に向けた経営ビジョン「Compass2030」を発表しました。

 

「その中の挑戦の1つが“CO₂ネット・ゼロをリード”していくというもの。気候変動問題が深刻化している中、化石燃料である天然ガスを扱うリーディングカンパニーとして、今後CO₂をネット・ゼロにすることに挑戦していきたいと考えています。また、エネルギー事業だけでなく、より幅広い社会課題の解決に貢献していくためには、パートナーと協力していく必要があります。SDGsの「17:パートナーシップで目標を達成しよう」に該当しますが、個人や法人のお客さま、自治体、NPO法人、有識者、いろいろな方と強みを持ち寄って新たな価値を創出していく予定です」 (森井さん)

 

すでに取り組んでいるサービスが、警備会社と連携した「東京ガスのくらし見守りサービス」です。元々はガスの消し忘れの確認などを利用者に知らせるサービスとしてスタートしましたが、これに付加価値を加え、例えば、ドアの開け閉めをセンサーで確認することで、鍵の閉め忘れや、子どもの帰宅をスマートフォンに知らせることができます。さらに24時間の警備員対応や、保健同人社による健康相談などにも対応。離れて暮らす両親が心配でこのサービスを利用する人も少なくないそうです。

 

ふるさと納税の返礼品にもなっている「東京ガスのくらし見守りサービス」

「エネルギーの安定供給、そして安心・安全な生活を支える街づくりに関しては、これまで通り力をいれていきます。さらに今後は、『junijuni』も事例の1つですが、どれだけ社会的な価値を創出していけるかというところを重視していきます。あくまでも、弊社が目指しているのは持続可能な社会の実現。そこに向かって事業活動を通じて取り組んでいきます。それが実現できれば、結果的にSDGsにも貢献できると捉えています」(森井さん)

 

いまや世界の共通言語となったSDGs。それにより、パートナーシップが生まれやすい環境になったことも確かです。東京ガスは、これからもさまざまなパートナーとの連携により、社会課題の解決につながるサービスを創出していくことでしょう。

「最新バイオモニター」が草花を救う! キーワードは「ストレス」

人間や動物は自分で動くことができるけれど、植物は自由に移動ができない分だけ、暑い・寒い、水分不足や水分過多、栄養が足らないなど、環境からストレスを大きく受けるもの。ストレスは植物の成長にも影響を及ぼすので大事な問題ですが、そんな植物のストレスをリアルタイムでモニターできる新しいシステムがいろいろ開発されています。

 

スマホで植物のストレスをモニタリング

↑植物のストレスもスマホで検知

 

1つ目の植物ストレスセンサーは、植物の傷や感染、光害などを検知するセンサー。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが開発しました。

 

これまでにこの研究チームは、ナノ材料を組み込むことで、光を放ったり水分不足を検出したりする新たな植物の開発に取り組んできました。また、過酸化水素などさまざまな分子を検出できるカーボンナノチューブも開発しています。

 

そんな活動をしていたあるときに誤って植物を傷つけてしまったところ、その傷部分から過酸化水素が多く放出されていることに彼らは気づきました。過酸化水素の働きはまだはっきりとわかっていませんが、植物がダメージを受けてそれを修復するときなど、葉の内部で過酸化水素を使ってシグナルを送ると見られています。

 

そこでこの研究チームは過酸化水素の変化を利用して、植物が受けるストレスを検知できるカーボンナノチューブのセンサーを開発することにしました。こうして作られたセンサーは植物の葉に埋め込まれ、そのデータはスマホに送信されてリアルタイムで確認できます。

 

このセンサーはさまざまな植物でも利用可能。ホウレンソウやストロベリー、ルッコラなど8種類の植物でも実験を行い、ストレスのタイプによって植物が異なる反応を示すことも明らかになっています。

 

水分不足のストレスをリアルタイムで検知

MITの研究チームの開発と同じように、生きた植物のストレスをリアルタイムで検知できる別のセンサーもアメリカでは開発されています。それが、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが作ったバイオセンサーです。この研究チームが注目したのは、プロテインキナーゼ「SnRK2」と呼ばれる酵素。この酵素は植物が水分不足になったときに活性化することがわかっており、このSnRK2の変化をモニターできるナノセンサーの「SNACS」を開発したのです。

 

SnRK2の活性を調べるために、これまでは植物を粉砕して抽出物から測定する工程が必要で、生きた植物で調べることはできませんでした。しかしこの研究チームは、生きた植物でSnRK2の変化をリアルタイムでモニターできるセンサーを開発することに成功し、このセンサーによって、SnRK2の活性にはアブシジン酸という成分が関わっていることなどもわかってきたのです。

 

水分不足は植物の生育にとって必要不可欠なもので、このストレスをリアルタイムで検知できるセンサーの開発は、まだ未解明な植物のシグナル伝達の研究に大いに役立つと期待されています。

↑植物がストレスを感じていることが見えてきた

 

植物が感じているわずかなストレスを見逃さずモニターできるシステムがあれば、自宅で大切に育てている植物が枯れたり萎れたりすることを今後は減らせるようになるかもしれません。農家や花き栽培への活用も期待されます。

コロナ後を見据え、タイで始まった新しい形のサプライチェーン構築【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回はタイからです。新型コロナウイルスが経済にも大きな影響を与えている状況のなか、日本企業が進出し東南アジアの一大製造拠点となっているタイで始まりつつある危機下における事業継続のリスクを最小化する試みとは…。

 

JICAは、タイで2011年に発生した洪水被害の教訓を活かし、「地域全体で取り組む事業継続マネジメント」に向けた研究を産学連携で進めてきました。民間企業だけでは対応しきれない産業集積地の地域的防災対応への研究から得られた知見が今、コロナ後を見据えたサプライチェーンの新しい形にヒントを与えています

↑都市封鎖により人のいないバンコク中心部。高架鉄道サイアム駅(上)と駅前広場(4月撮影)

 

新型コロナでタイ国内のサプライチェーンが寸断

タイは、多くの日本企業が進出し、1980年代以降に石油化学や自動車関連産業の産業集積が進んできました。タイ国内に部品の製造から組み立て、販売までをひとつの連続した供給連鎖のシステムとして捉えるサプライチェーンが構築されており、メコン経済回廊の中心拠点として工業団地の整備が進んでいます。

 

しかし、新型コロナウイルス対策のため各国で都市封鎖や外出制限が広がると各企業とも生産や物流の活動を見直さざるを得なくなります。特に今年2月の中国の生産活動停止はタイをはじめとしたASEAN各国に大きな影響を及ぼしました。

 

JICAタイ事務所の大塚高弘職員はその影響について、「タイでも非常事態宣言が発出され、県境をまたぐ移動制限や外出自粛要請が行われたことから、人の行き来は大幅に減りました。日本企業を含む多くの製造業が立地するタイでも工場の稼働を停止させざるを得なくなるなど大きな影響が出ました」と話します。

 

産業集積地での事業継続リスクに関する研究の成果を活かす

今回の新型コロナウイルス感染拡大という危機下において、2018年からタイで実施してきた災害時における産業集積地での事業継続リスクに関する研究の成果を活かすプロジェクトが開始されました。

↑タイで実施されている自然災害時の弱点を可視化する研究プロジェクトでの会議

 

タイでは、2011年に発生した水害を教訓に、工業団地を取り巻く地域コミュニティの災害リスクを可視化して、企業、自治体、住民が地域としてのレジリエンス(しなやかな復元力)を強化して、災害を乗り越えていくための研究をしています。

↑2011年に発生したバンコク市内での洪水。高速道路上に多数の避難車両が並んだ

 

研究の日本側代表者である渡辺研司氏(名古屋工業大学大学院教授)は、現在実施しているプロジェクト成果の活用について、次のように述べます。

 

「プロジェクトで設計していく枠組みは、迫りくるリスクに対しての対応を地方自治体・住民・企業やその従業員などといった地域内の利害関係者が情報を共有し、意思決定を行い、対応行動を調整するプラットフォームとなることを目指しており、今回のコロナ禍に対しても活用可能と考えています」

↑プロジェクトの日本側代表、名古屋工業大学大学院の渡辺研司教授

 

サプライチェーン再編に備え、ウェビナーで知識を共有

これからに向け、グローバル・サプライチェーンの弱点を見直す手がかりとして、JICAタイ事務所は4月末、「新型コロナウイルスによる製造業グローバル・サプライチェーンへの影響と展望」と題したウェビナー(オンラインwebセミナー)を開催しました。JETRO(日本貿易振興機構)バンコク事務所の協力を得て、タイ政府の新型コロナウイルス感染症に対応した具体的な経済支援政策を紹介するとともに、渡辺研司教授による今後の課題を見据える講演を実施しました。

 

セミナーにおいて渡辺教授は、今回の災害を「社会経済の機能不全の世界的連鎖を伴う事案」と捉えた上で、「コロナウイルスの終息は、『根絶』ではなく『共存』。長期戦を想定したリスクマネジメントが必要となる」との展望を示しました。そして、「今までにない柔軟な発想を持って、転換期を見逃さないことが必要」とし、今後のレジリエンス強化の重要性を強調します。

 

さらに、「災害や事件・事故による被害を防ぎきることは不可能。真っ向からぶつかるのではなく、方向を変えてでもしぶとく立ち上がることが基本となる。通常時から柔軟性をもって対応しこれを日々積み上げることや、いざという時に躊躇なき転換を行う意思決定を行うことのできる体制を持つことこそが、転禍為福を実現するレジリエンスだ」と結びました。

↑プロジェクトの枠組みのCOVID-19事案への適用 (ウェビナー資料より)

 

ウェビナーには、在タイ日本企業の担当者を中心に240人が参加し、うち約6割は製造業およびサプライチェーンを支える企業からでした。

 

JICAタイ事務所の大塚職員は、「ウェビナーは渡航・外出制限下でも機動的に開催できるため、今回は企画構想から18日間で実施することができました。タイの感染拡大が収まりつつある一方、今後の見通しや計画策定に必要な情報が不足しているタイミングで、タイムリーに開催することができました」とオンラインイベントの手応えを語りました。

 

長年積み上げてきた日本とタイとの信頼関係をベースとして、精度の高い現地情報や研究の知見を多くの関係者と共有できる場が、実際の課題解決に貢献する。そんな国際協力の現場がここにあります。

 

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【関連リンク】

産業集積地におけるArea-BCMの構築を通じた地域レジリエンスの強化

危機下で増加する女性や子どもへの暴力を防ぐ――ブータン国営放送で働きかけ【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ブータンでの取り組みを紹介します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の危機下では、ウイルスへの脅威といった医療的なリスクだけでなく、社会の中で弱い立場におかれる人々がさらされるさまざまなリスクが浮き彫りになります。その一つが、女性や子どもに対する暴力のリスクです。

 

そんな懸念にブータンがいち早く対応しています。

 

ブータンでジェンダー課題への取り組みを続けてきたJICAと、ブータンの女性と子ども国家委員会(NCWC)は、国営放送で家庭内暴力に関するドキュメンタリービデオを放映し、暴力防止に向けた啓発を図るなど、社会的に弱い立場にある人々に目を向けた対策を進めています。

↑放映されたビデオで、家庭内暴力への警鐘を鳴らすクンザン・ラムNCWC事務局長(動画はコチラ→Suffering in Silence 

 

感染者が確認されるやいなや、女性と子どもに対するリスクへの対応を協議

「ブータンで新型コロナウイルス感染者が初めて確認されたのが3月5日。その翌週には、JICAとNCWCの担当者の間で、社会的に弱い立場におかれている女性や子どもたちに向けた支援が必要になると判断し、すぐに協議を始めました」

 

そう語るのは、JICAブータン事務所でジェンダー分野を担当する小熊千里・企画調査員です。東日本大震災の被災地では、経済的な要因に基づくストレスなどが原因で家庭内暴力や性暴力が増加し、悪化するケースが多く報告されるなど、緊急事態下では女性や子どもに対する暴力のリスクが高まることが指摘されています。

 

議論を重ねるなか、コロナ危機下で増加が想定される暴力の被害を防ぐため、家庭内暴力に関するドキュメンタリービデオを国営放送で流すアイデアが浮上。放送局との交渉や、ビデオの放映前に流すメッセージの作成などに奮闘したのが、ウゲン・ツォモNCWC女性部長です。

 

「ブータンではもともと、女性のうち約半数が、夫が妻に身体的暴力をふるうことへの正当性を容認しているといった調査結果もあり、暴力を受けた女性が声をあげにくいことがあります。放映したビデオには、カウンセリングやヘルプライン、シェルターの連絡先なども含まれ、暴力に苦しむ女性たちに具体的な情報を伝えると同時に、そのような暴力は決して容認されるものではないことを広く知らせることができればと思ったのです」とウゲン女性部長は、ビデオ放映を進めた理由を語ります。

 

このビデオは、3月20日から5日間、全国放送で10回以上にわたり放映されました。その後、ヘルププラインには通常より多くの問い合わせがありました。

↑JICAやNCWCは放映されたビデオの冒頭で、自然災害や紛争など緊急事態下では、家庭内暴力や性暴力が増加する傾向があることを訴えました

 

日本での研修で得た知見が素早いアクションにつながる

ウゲン女性部長がビデオ放映を進めた背景には、2017年度に日本で受けたジェンダー主流化(※)促進に向けたJICA研修に参加した経験がありました。

 

ウゲン女性部長は、研修のなかでも特に「女性に対する暴力」について学んだことが現在の業務に活かされていると言います。家庭内暴力や性暴力の現状、そして被害者の声を多くの人に知ってもらうことは、ジェンダー平等と女性のエンパワメントの実現に向けてなくてはならない取り組みの一つであり、今回のビデオ放映にもつながりました。

↑日本で実施された「行政官のためのジェンダー主流化政策」(※)研修の講師らとウゲン女性部長 (左)

 

※:ジェンダー主流化とは、「ジェンダー平等と女性のエンパワメント」という開発目標を達成するためのアプローチ/手法を指す。ジェンダー平等と女性のエンパワメントを主目的とする取り組みを実施する他に、都市開発や運輸交通、農業・農村開発、平和構築、保健、教育など、他の開発課題への取り組みを行う際に、ジェンダー視点に立った計画・立案、実施、モニタリング、評価を行うこと

 

JICAとNCWCは現在、ブータンで女性と子どもの保護やケアにあたる保護担当官の能力向上に向け、国内全24自治体の保護担当官などを対象にした研修を今後2回にわたり日本で実施する計画を進めています。

 

保護担当官たちは、家庭内暴力を受けた女性や虐待に苦しむ子どもたちへのケアや対応を知識としては知っていても、実際に被害者に対して適切に向き合うことができるかどうかといった点では、まだまだ経験不足が否めません。そのため、ウゲン女性部長は今回の研修により、保護担当官たちが被害者の立場に立って適切なケアを行えるよう、具体的な対応力を身に付けることを期待しています。

 

ブータンでは、家庭内における女性や子どもへの暴力や虐待に加え、未成年者の薬物依存や家庭外における性的虐待といった問題も表面化しつつあるなか、被害者に直接対応する保護担当官のカウンセリング能力の向上などは重要な課題です。

 

危機下でより深刻なリスクにさらされる人々の側から考える

国連のグテーレス事務総長は4月、「新型コロナウイルスの影響は全世界、すべての人々に及ぶが、その影響はおかれる状況に応じ異なるものであり、不平等を助長しうるもの」と発言。社会経済の停滞や変化が、男女平等を目指してきたこれまでの取り組みを後退させ、不平等を助長することへの強い懸念を示しました。

 

コロナ危機下の現在、ジェンダーに基づく差別や社会規範により社会的に弱い立場におかれている女性や少女に深刻な社会的・経済的影響が広がっています。感染リスクの増加だけでなく、性と生殖に関する健康と権利や母子保健に係るサービスの後退、暴力や虐待の増加、生計手段や雇用の喪失、学習・教育機会の減少など、女性や少女が直面するリスクがさらに拡大することが指摘されています。

 

このようなリスクが広がるなか、JICAはジェンダー視点に立った取り組みを一層強化し、女性や少女を取り残さない、また、女性や少女がこれまでに培ってきた能力や経験を地域社会で十分に発揮できるよう支援を進めていきます。このような支援の推進は、この困難を乗り越え、より強靭で包摂的な社会を築いていくために不可欠です。

 

ブータンの保護担当官への研修に対しジェンダーの視点から助言を行っている山口綾国際協力専門員(ジェンダーと開発)は、「ジェンダー不平等や格差のない社会をつくっていくためには、誰もがジェンダーの問題を身近な問題として意識することが大切です。ジェンダーの問題を意識することは、女性や少女と同じように社会的に弱い立場におかれている多様な人々が抱える様々な問題に目を向けることにもつながると考えています。そのような人々の声を聞き、取り組みを進めることで、「誰一人取り残さない」よりよい社会の実現につながると信じています。ジェンダーの問題が身近にある解決すべき重要な問題であるという認識が広まるよう、これから先も丁寧な情報発信を続けていきます」とその言葉に力を込めます。

↑新型コロナの感染が拡大するなか、ブータン女性と子ども国家委員会内の託児所で衛生備品が不足していたことから、JICAは寝具などの資材を供与。写真は供与された寝具など

 

↑納品に立ち会ったJICAブータン事務所と委員会のメンバー

 

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女性の信頼と年収は「化粧」で上がることが実験で判明

「美人は得する」などと昔から言われていますが、本当にそうなのでしょうか? この問題を調べるため、ブラジルのパラナ・カトリカ大学の研究チームが実際に調査を行い、その結果を論文で発表しました。

↑化粧で年収が変わる?

 

研究チームは342名の被験者で、ある実験を行いました。この実験で行われたのは、心理学や行動経済学などの研究の現場でよく使われる「信頼ゲーム」です。相手への信頼度を調べるこのゲームでは、1人の信託者(trustor)が少額のお金を別のプレーヤー(被信託者 trustee)に渡すかどうかを自分で決めます。別のプレーヤーに渡ったお金は3倍の金額になり、そのプレーヤーはそのうちいくらの金額を最初の信託者に戻すか決めて返金。信託者に対して信頼があるほど返金する金額も高くなり、信頼度が低ければ返金額は少なくなり、プレーヤーはお金を自分で保持しておこうとします。

 

今回の実験では38名の女性が信託者となり、別のプレーヤーの役を304名の男女が担当しました。ゲーム中、信託者の女性は化粧した場合と、プロのメイクアップアーティストによる化粧を行った場合で実施し、プレーヤーはその顔写真を見てゲームを行いました。その結果、信託者が化粧をした場合のほうが返金された金額が多くなり、この傾向は特に男性のプレーヤーで高く見られることがわかりました。また、元の顔が魅力的な女性よりもそれほど魅力的ではない女性のほうが、この傾向が顕著だったことも判明しています。

 

今回の実験で明らかになったのは、女性は化粧をしないよりも、していたほうが信頼されやすいということ。見た目が魅力的な女性は収入も多いとも言われますが、この実験はそれを裏付けているのかもしれません。

 

ただ今回の実験で行われた化粧は、顔の欠点をカバーする目的で行ったもの。もし女性の魅力をさらに引き出すような化粧を行っていたら、同じような結果が得られたかどうかは不明とのこと。また女性ではなく男性で髭をつけたり髪色をかえたりして同じ実験を行ってみても、その結果は不透明と研究チームは述べています。

 

女性は顔の欠点を隠して少しでもキレイに見せたいと、化粧したりスマホで画像フィルターを駆使したりするもの。その努力は決して無駄にはならないし、女性にとって大きなメリットをもたらしてくれるものなのかもしれません。

 

 

https://www.psypost.org/2020/05/women-viewed-as-more-trustworthy-when-wearing-makeup-and-receive-larger-money-transfers-in-an-economic-game-56679

「切り紙」を応用して「スパイク」を作る? 米研究チームが開発した「靴の裏」が新しい

折り紙のように紙を折って、ハサミで一部を切り取ったり切り込みを入れることで、芸術的な模様を作ることができる「切り紙」。マサチューセッツ工科大学とハーバード大学の合同研究チームは、そんな日本の伝統芸能からヒントを得て新しい靴底を開発しました。一見平面に見える靴底なのに、歩き出すとスパイクが飛び出てくるのです。

 

切り紙の新たな応用

もとはただの紙なのに、一部を切ったり切り込みを入れたりすることで、複雑な模様を作り出したり、ときには立体的にも見せることができるのが「切り紙」です。そのアイデアは、これまでにもサイエンス分野で活用されてきました。例えば、マサチューセッツ工科大学では2018年3月に切り紙スタイルの包帯を開発しています。肘や膝などの関節はよく動かす部位のため、湿布や包帯などをしっかりと固定させるのが難しいのですが、切り紙のように切り込みを入れることによって、より固定しやすい包帯が開発されました。

↑切り込みを細かく入れると大きな違いが!

 

それと同じように切り紙をヒントに靴底の開発に挑んだのが、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の合同研究チームです。この研究チームは、正方形や三角形、曲線などさまざまな形と大きさの切り込みをプラスチックやスチール製の靴底に入れ、歩き出すとスパイクが突き出るようなデザインをテストしました。氷や木材、人工芝やビニール製の床などで摩擦力なども計測。その結果、少し凹んだカーブのあるひし形がもっとも摩擦力が強く、スパイクに最適と判明したそう。

 

さらに、この靴底をスニーカーや冬ブーツなどにつけて、ボランティアによる歩行テストも実施したところ、摩擦力が20~35%高くなることがわかりました。こうして、歩いていないときは平らな靴底なのに、歩くとスパイクが出てくる靴底が生まれたのです。

↑歩くとスパイクが出てくる靴底

 

現在研究チームでは、この靴底を組み込んだ靴を開発するか、もしくは必要なときにだけ靴底に装着するタイプにするか、また別の材質の使用なども検討しているそうです。どちらにしても、簡単にスリップ機能がある靴底に変更できるのなら、滑りやすい雨や雪の日にも便利。特に高齢者の方の転倒防止にも役立つと期待できます。

 

切り込みが入っているだけの、とてもシンプルな仕組みのこの靴底。このルーツが日本の切り紙にあるとは、日本人としての喜びも感じられるアイテムのひとつとなりそうです。

いまさら聞けない「SDGs」とは?

2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す」ための国際目標です。とはいえSDGsの全体像をつかむのはなかなか大変。ならば日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)が取り組むSDGsの活動を追えば、その本質が見えてくるのはないでしょうか。そこで本シリーズは、JICAが発行する広報誌「mundi」に掲載されたSDGsに関する記事をシリーズで紹介していきます。今回紹介する記事は2015年の記事ですが、SDGsの成り立ちやポイントがコンパクトにまとめられている、JICA的SDGs宣言でもあります。

※本記事は、JICAの広報誌「mundi」2015年12月号からの転載です

 

全ての人により良い世界を ――。そんな願いを込めて掲げられた世界の新しい目標「持続可能な開発目標(SDGs)」が、いよいよ2016年から始まる。そこには、私たち一人一人にできることが、きっとあるはずだ。

編集協力:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)森秀行所長

(c)久野武志

17の目標と169のターゲット

2015年12月31日、ある目標が期限を迎えるのをご存知だろうか。

 

2000年に採択された「国連ミレニアム宣言」に基づく「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成期限が今年、2015年だ。MDGsでは、開発途上国の貧困削減に向けた8つの目標とのターゲットが設定され、具体的な数値目標を踏まえた開発協力が展開された。その結果、最貧困層が1990年の19億人から2015年の8億3600万人まで半減するなど、一定の成果を挙げている。その一方で、紛争地域の人々や女性など、一部の人々が発展から取り残される不平等の存在も指摘された。

 

そうした流れを受けて今年9月に採択されたのが、2030年までの15年間を実施期間とする「持続可能な開発目標(SDGs/※)」だ。SDGsでは、達成が不十分だった一部の MDGsの目標を引き継ぐとともに、先進国を含めた世界全体の持続可能な発展に向けた目標や、先進国と開発途上国の協力関係を深めるための目標が加わっている。

※:Sustainable Development Goals

 

「D、つまり〝Development〞が日本語で〝開発〞と訳されているので、SDGsも途上国の問題と思われるかもしれませんが、これを〝発展〞と理解すれば、世界全体の課題であることがより実感できるのではないでしょうか」と、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の森秀行所長は指摘する。

 

SDGsは、1992年にリオデジャネイロでの地球サミットで採択された行動計画「アジェンダ」の延長上にあるという考え方もある。アジェンダ21では、社会の発展に必要な環境資源を保護・更新する経済活動への移行が強調され、その一環として貧困削減なども掲げられていたからだ。

 

誰のための目標か自分の頭で考える

もう一つ 、SDGsの目標が多角化した理由として、MDGsが一定の成功を収めたことが挙げられる。MDGsは国連本部が軸となって、幅広い分野の取り組みを主導した。その結果、世間の注目が集まり、目標達成に向けた新たな基金が設立されるなどしたことから、MDGsに参画していなかった国連機関などが、より積極的に参画したのだ。中でも、明確な目標を掲げて国や企業、個人など、多彩なステークホルダーにアプローチする手法は、MDGsへの取り組みを通して定着した。

 

森所長は、「SDGsの内容に目を通し、それぞれの目標やターゲットが誰に向けたもので、どの主体が、これらにどう関わってくるかを考えることが大切です」と強調する。特に、貧困や環境面の課題などでは、途上国と先進国の違いはもちろん、一つの国でも都市と地方で状況が大きく違うため、世界共通の数値目標を作ることは難しい。事実、今回、環境に関連するターゲットは、他のターゲットに比べて数値目標があまり設定されなかった。従って、そうした分野では、自治体や企業などが自分たちに合った目標を作ることが極めて重要になってくる。

 

目標を設定する方法には大きく分けて二つある、と森所長は説明する。一つ目は、「内側から生まれる現実的な目標」、もう一つは「外側で提示されたものを取り入れる目標」だ。内側からの目標は、家庭や企業などの現状を把握した上で、その延長線上で実現可能な目標を設定するもので、これまでも多くの企業や団体などが取り組んできている。一方、例えば、二酸化炭素の排出量を抜本的に削減することなどは「外部から取り入れる目標」に当たる。現実的な目標を定めることはこれまでどおり基本となるが、それと同時に科学的な視点から思い切った目標を定めれば、革新的なイノベーションの可能性が開ける。

 

SDGs の精神を象徴する言葉に、「誰一人取り残されない」というものがある。貧困、紛争、災害など、過酷な状況下にある人たちに手を差し伸べる協力と同時に、全ての主体がさらなる発展に向けて身近な課題を解決していくことで、私たち皆が豊かさを手に入れる、新しい未来が見えてくるはずだ。

 

私たちに何ができる? 新たな開発目標SDGsの特徴

◉「5つのP」と日本の取り組み

「誰一人取り残されない」をキーワードに、People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、 Peace(平和)、Partnership(連携)の「5つのP」に焦点を当てて取り組むことが掲げられた。

 

【People(人間)】

貧困と飢餓を撲滅し、全ての人が平等の下で、尊厳を持って健康に生きられる環境を確保する

↑ポリオの撲滅に向けて、ワクチンの調達や予防接種キャンペーンなどを支援(パキスタン)

 

【Prosperity(繁栄)】

全ての人の豊かな生活を確保し、自然と調和した経済的・社会的・技術的な進歩を目指す

↑メコン経済圏の南部経済回廊の要衝となる「つばさ橋」の建設に協力(カンボジア)

 

【Partnership(連携)】

全ての国・関係機関・人が 、目標達成のために協力する

↑保健システム強化プロジェクトを、アンゴラ・ブラジル・日本の三角協力で実施(アンゴラ)

 

【Peace(平和)】

恐怖や暴力のない、平和で公正、かつ全ての人を包み込んだ社会を育む

↑地雷の除去作業のために必要な地雷探知機などの機材の調達を支援(カンボジア)

 

【Planet(地球)】

持続可能な消費と生産、天然資源の管理、気候変動対策などに取り組み、地球環境を守る

↑アマゾンなどの熱帯林の変化を測定し、森林や生物多様性を守る活動を継続(ブラジル)

 

肌のpHに合わせて色が変わる「スマートTシャツ」が健康管理が容易に

自分自身でも気づかないような身体のわずかな変化を検知できたら、体調管理にきっと役立てられるはず。そんなことを可能にしたのが、肌のpHに反応して色が変わるバイオアクティブインクを使ったTシャツです。スマートファブリックの最前線のアイテムをご紹介しましょう。

 

身体のpHに反応して色が変わる

身の回りのあらゆるものでIoT化が進み、心拍数や血圧、睡眠時間などの健康管理ができるウェアラブル機器も数多く生み出されています。それと同じように身体のさまざまな情報を管理できるのが「スマートファブリック」。繊維に金属線を巻き付けて導電性をもたせるなど、生体情報を取得できる機能素材が開発され、それを活用した衣類が作られているのです。そして今回ご紹介するTシャツも、そんなスマートファブリックのひとつと言えます。

↑身体のpHによってドットの色が変わり体調がわかる

 

簡単に言うと、これは「着ている人の健康状態がわかるTシャツ」。前面にあるドットのデザインに特殊なインクが使われ、その人の健康状態によって色が変わる仕組みです。このバイオインクはアメリカのタフツ大学の研究者が開発したもので、汗などに含まれる化学成分に反応して色が変化します。このシャツを着ている人の肌のpHによって、ドットの色が変わり、体調の変化を判断することができるというわけです。

 

このバイオインクは、一般的に使わているシルクスクリーン印刷にも使えるというのも特徴。特殊な製造方法ではなく、従来の製法でも利用できるという点で、このバイオインクの汎用性の高さがうかがえます。また、このバイオインクは今回発表されたTシャツなどの衣類のほか、靴やマスクなどに活用することもできるうえ、木材、プラスチック、紙などに印刷することも可能みたいです。

 

衣類だけでなく、いろいろな物に印刷できるこのバイオインク。健康に関するデータを解読するのは、専門的な知識がある程度必要かもしれませんが、色の識別だけなら老若男女だれでも簡単にできるもの。それで健康状態を判断できるのなら、健康管理や病気の予防にも役立てられることでしょう。

 

また同大学内のSilklab研究室では、このバイオインクをタペストリーに使ったアート作品の制作も実施したそう。色の変化が起きるアートとして楽しむなど、このバイオインク活用の期待はますます高まりそうです。

まるで目の前にいるかのようだ! 顔写真を64倍も鮮明にできるAI技術を米研究チームが開発

画像が粗くて顔の細部をはっきりと確認できない写真もあるでしょう。でも、これからはAIがそんな写真を鮮やかに「編集」してくれるかもしれません。アメリカのデューク大学の研究チームが元の画像を最大64倍まで鮮明にできるツールを開発しました。

 

GANでガンガン顔写真を学習

これまでにもぼやけた写真を鮮明にする技術はありましたが、元の解像度から最大でも8倍程度までしか画像をシャープにすることはできませんでした。それを最大64倍まで可能にしたのが、デューク大学のコンピューターサイエンティストによる研究チームです。解像度が64倍まで上がると、顔の輪郭や各パーツもまったく不明瞭な写真ですら、まるでその人物がすぐ目の前にいるかのように鮮明になります。

 

そんな超改造画像ツールは「PULSE」と名付けられ、コンピュータービジョンの世界会議のCVPRで2020年6月に発表されました。従来の画像生成ツールでは、低解像度の画像をもとに、コンピューターがこれまでに見た画像から不足しているピクセルを推測していました。しかしPULSEでは、元の画像サイズまで縮小したときに似ていると推測される高解像度の顔写真を検索するという異なるアプローチをとります。これがいわゆるGANと呼ばれる機械学習で、PULSEはこれを利用して開発されました。

↑ぼやけた画像もハッキリ!

 

このツールを使うと、16×16ピクセルの顔画像をわずか数秒で1024×1024ピクセルの高画像にすることが可能。おまけに毛穴やシワなどの細部までリアルに生成することができます。この研究チームでは40人を対象に、PULSEとそのほかの5つの方法で生成した1440枚の人物画像を用意し、それぞれについて評価してもらいました。その結果、PULSEが作った画像が実在する人物の画像に最も近いと高い評価を得ることができたそうです。

↑実在の人物に近づけることができるPULSE

 

ただし、このPULSEは“実在しそうな人物の顔”を生成するツールであり、毛穴やシワなど、本来なら存在しないものも加えられる可能性もあります。そのため、このツールは防犯カメラに写った画像を鮮明にして、実在する人物を探しだすことに使ったり、人を判別する目的で使ったりするものではないとのこと。本当の画像かどうか見極める力も私たちには求められています。

深刻なゲーム中毒になる可能性は10%、中程度は18%ーー米大学の6年にわたる調査をどうみるべきか?

つい夢中になって何時間もプレーしてしまうビデオゲーム。楽しすぎてハマってしまうことがよくある反面、ゲームに依存しすぎてしまう中毒性が懸念されますが、この問題に対し、アメリカのブリガム・ヤング大学の研究チームが6年間に及ぶ長期の研究を行った結果を発表しました。

↑ゲーム中毒はあるのか?

 

研究チームはビデオゲームの中毒を引き起こす前兆や要因を調べるため、385人の青年に調査を実施。1年に1度アンケートを行い、うつ症状や不安感、攻撃性、言動などについて評価を行い、6年間調査を続けました。

 

その結果、72%は6年間にわたり中毒症状が比較的少なく、18%は中程度の中毒症状があり、残りの10%が深刻な中毒症状の増加が見られました。

 

ゲーム中毒になる2つの予兆

また今回の調査で、ゲーム中毒になる予兆として2つのことが明らかになりました。それは男性であることと、社会的行動レベルが低いこと。社会的行動や、周囲の人にとって良いことをもたらす自発的な行動をとることは、ゲーム中毒症状から自身を守る要素になるそうです。

 

さらに、ゲーマーは安定した職につかず経済的に自立しないというステレオタイプがよく言われますが、今回の調査ではそれが間違いであることも明らかに。深刻な中毒がみられたゲーマーでも、ほかのゲーマーと同じように経済的には安定しており、自立に関しても前向きな傾向があることがわりました。

 

ただし、今回の調査で10%に深刻な中毒症状が見られたことは無視できません。彼らはうつ症状や攻撃性、不安感が高いなど、ゲーム中毒の症状が見られました。

 

WHOでは2019年、ビデオゲームのほかスマホゲームも含め、ゲームに依存する「ゲーム障害」を国際疾病として正式に認定。ギャンブル依存症などと同じ精神疾患として位置付けています。また厚生労働省が同年に行ったゲーム障害に関する初めての調査で、10~20代のゲーム利用者のうち7%は「授業中や仕事中など本来してはいけない状況でよくゲームをする」と述べ、また5.7%が「学業に悪影響が出たり、仕事を危うくしたり失ったりしてもゲームを続けた」と回答。ブリガム・ヤング大学研究チームの結果と同じように、およそ1割程度の人が中毒症状があることが伺えます。

 

今回の結果を「ゲームではそれほど中毒にならない」と捉えるか、それとも「ゲームはやっぱり中毒になりやすい」と捉えるかは人によって異なるかもしれません。この研究チームの主任は「ゲームには素晴らしい側面があると思う」と述べ、「ゲームは健康的に行い、病的なレベルに至るまでやらないことが大切です」と結んでいます。

「ロボット犬」が羊を管理する日は近いか?

最新テクノロジーは農業や畜産業の分野にも導入されていますが、ニュージーランドでは牧羊犬として働く四足歩行ロボットが話題となっています。

↑まさかこの仕事もロボット化とは……

 

牧羊犬として活躍する四足歩行ロボット「Spot」は、ソフトバンク傘下のボストンダイナミクスが開発したもの。「ロボット犬」と呼ばれるように、4本の脚を巧みに動かしながら、犬のように斜面や階段を上り下りしたりドアを開けたりすることもできます。最高速度は秒速1.6メートル(時速5.76キロ)と、人が歩くのと同じ程度。360度カメラが搭載され障害物をよけ、最大14キロの荷物も運べます。さらにマイナス20~45度の環境や、雨・霧のなかでも走行可能と、屋外での利用も想定されています。

 

そんなSpotは活躍の場を世界中に広げており、日本では鹿島建設が土木工事現場で測量業務や安全巡視のため、Spotを導入することを2020年2月に発表しました。シンガポールでは2020年5月から公園などで人々にソーシャルディスタンスを保つよう呼びかけるパトロールロボットとして試験導入されています。

 

Spotの活躍の場をさらに広げるためボストンダイナミクスは、ロボットの遠隔制御ソフトを開発するニュージーランドのRocosと提携しました。これによりSpotのカメラやセンサーから送られた情報をもとに、Rocosのプラットフォーム上でSpotを動かし、Spotを遠隔で操作させることが可能となったのです。

 

この遠隔操作のテストとして、ニュージーランドで牧羊犬としてSpotを操作する様子が撮影されました。放牧された何百頭もの羊や牛を見張ったり、オオカミなどの動物や盗難などから守ったり、さらに家畜小屋まで誘導したり、Spotは遠隔操作によってこれらの仕事を本物の牧羊犬のように行ったのです。初期のテストではアメリカのボストンダイナミクスから遠隔操作を行ったそうで、海を超えた遠隔地からも操作することが確認されたとのこと。

Spotのような遠隔操作技術の開発は食料問題や労働力問題の解決につながっていくことが期待されます。しかし、その影響は社会のより広い分野に及ぶかもしれません。

ペンギンの糞から「笑気ガス」。環境的にはそんなに笑えないかも……

南極に生息するペンギンの糞から大量の笑気ガスが排出されている——そんなユニークな論文が先日発表されました。しかもこの研究を行うため現地に行った研究者たちは、笑気ガスのせいで、頭痛になったり若干おかしくなってしまったのだとか。笑気ガスとはいったい何なのか? そしてなぜペンギンの糞からな笑気ガスが排出されるのでしょうか?

 

医療現場で使われる笑気ガス

↑「ねえ、オナラした?」

 

笑気ガスとは亜酸化窒素のこと。このガスを吸った人はリラックスして、心地よくうっとりする気分になると言われています。その効果を利用して、医療現場では麻酔用として使われており、特に歯科医院でよく利用されているそう。

 

そんな笑気ガスが南極沖に浮かぶサウスジョージア島で群れをなして生息するオウサマペンギン(別名キングペンギン)の糞から大量に排出されていることを、デンマークのコペンハーゲン大学の研究チームが突き止めました。現地で数時間にわたって調査を行っていた研究チームのメンバーは、大量のペンギンの糞に囲まれていることで気分が悪くなったり頭痛になったりした人もいたそうです。

 

ではなぜ、オウサマペンギンの糞から笑気ガスが排出されるのでしょうか? 研究チームによると、ペンギンが主食とする魚やオキアミには窒素が多く含まれており、これが糞にも含まれ、そして土壌のバクテリアによって窒素が亜酸化窒素に変換されるとのこと。

 

環境問題とも関連

この笑気ガスが話題を集めている理由のひとつには、それが環境破壊につながるということもあるでしょう。亜酸化窒素はオゾン層を破壊する温室効果ガスのひとつであり、環境への負荷は二酸化炭素の300倍にもなると言われています。しかも今回見つかったオウサマペンギンの糞から排出される笑気ガスはとても濃度が高いそうです。

 

ペンギンの糞から排出されている亜酸化窒素の量は、地球全体のエネルギーから考えれば少ない量かもしれないですが、今回の発見が地球環境に与える影響を今後調査するうえで役立つと期待されます。

「地球を守るバリア」に変化。「磁場」が弱ると何が起きる?

方位磁針の針が必ず北の方向を指すのは、北極付近にS極が、南極付近にN極がある磁場が地球に存在するからです。しかし、欧州宇宙機関の発表によると地球の磁場は弱まってきているそう。現在、磁場に何が起きており、その変化は地球にどんな影響を与えるのでしょうか?

 

地球を守る「磁場」のはたらき

↑地球のバリアは大丈夫?

 

地球は磁場を持つ惑星のひとつです。地球全体がまるで大きな磁石になっているように、北極付近はS極、南極付近はN極となるような磁場が作られています。宇宙空間には「宇宙線」と呼ばれる高エネルギーの放射線が飛び交っていますが、磁場はこの宇宙線から地球を守る働きなどがあるのです。つまり、磁場は地球のバリアであり、地球上の生物にとってとても大切な存在なのです。

 

そんな地球の磁場は、強さや向きが刻々と変化していることがわかっているのですが、ヨーロッパ諸国が共同で設立した宇宙開発機関である欧州宇宙機関(ESA)の研究で、近年磁場が弱まっていることがわかったのです。

 

ESAの発表によると、過去200年間で地球全体の磁場の強さが平均で9%弱まっているとのこと。その弱まりが特に顕著なのが「南大西洋異常帯」と呼ばれるアフリカと南アメリカの間。1970年~2020年で、この一帯の磁場は2万4000ナノテスラ(※)から2万2000ナノテスラまで減少し、南大西洋異常帯が毎年20キロのペースで西方向に移動していることも明らかになりました。さらに、ここ5年で磁場の弱い部分がアフリカ南西部で生じており、南大西洋異常帯が2つに分裂する可能性も出てきたのです。

 

(※)ナノテスラ:磁場の強さを表す単位。

 

N極とS極が逆転!?

南大西洋異常帯でみられたこの磁場の変化は、地球全体の磁場にも影響を与えるものなのでしょうか? 地球上の歴史のなかでN極とS極が入れ替わる「地磁気逆転」の減少はたびたび起こっています。地磁気逆転の原因はまだすべて解明されたわけではありませんが、最近では78万年前に起き、過去360万年の間にも少なくても11回は地磁気逆転が起きていることがわかっています。ただし、今回ESAが発表した南大西洋異常帯の地磁気の変化は、通常の変動範囲内とみられるとのこと。

 

今回の発表でESAは、磁場が弱まっているとわかった南大西洋異常帯付近を飛行する衛星や宇宙船に注意を促しています。磁場の弱まりで高エネルギーの荷電粒子が流入し、誤動作や異常などを経験する可能性が高まるそうです。

 

地球の磁場は、地磁気逆転のことも含め、まだ不明なことも多い分野ですが、今後の磁場の変化にかかわる研究がこれらの解明につながっていくかもしれません。

引越しゴミ「ゼロ」を目指すーーアート引越センターが挑戦する「SDGs」の取り組みとは?

紙資源を使わない「エコ楽ボックス」を開発〜アートコーポレーション株式会社

 

ここ数年、耳にする機会が増えてきた「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」。2015年に国連サミットで採択され、政府や自治体はもちろん、企業も積極的に取り組むようになっています。引越しの「アート引越センター」でお馴染みのアートコーポレーションも、早くからSDGsの考えに賛同し、持続可能な世界の実現を目指していると言います。

 

お客様の「あったらいいな」をカタチに

「当社は、『引越し』を専業とする会社として初めて創業し、引越しを“運送業”としてではなく、“サービス業”として発展させてきました。そして、お客様の“あったらいいな”をカタチにして、いつも先を行くサービス、いつも喜ばれるサービスを提供してきました」と話すのは、経営企画部の趙 培華(チョウ バイカ)さんです。

 

今回、話をうかがった経営企画部の趙 培華さん

同社は“関係者の共存と社会貢献活動の実践”をグループの基本理念の一つに掲げ、創業当時から、アートグループ全体で数々のCSRに取り組んできました。

 

「このような取り組みは、2015年9月に国連サミットで採択されたSDGsの目標と合致する部分も多く、グループ全体としてもSDGsに賛同すると同時に、これまでの取り組みをSDGsの各目標に合致する内容に再分類し、アートグループとして持続可能な世界の実現に向けた活動を実践することにしました」(趙さん)

 

SDGsの活動については、2018年11月に関西SDGsプラットフォームへ登録・掲載、同年12月には同社のホームページへ掲載しました。また2019年2月には、外務省のSDGsプラットフォームへも登録・掲載し、今年の6月には、内閣府の『地方創生SDGs官民連携プラットフォーム』の入会申請も承認されました。

 

プラスチック製で再利用が可能な「エコ楽ボックス」

SDGsの17目標について、グループ全体で数々の社会貢献活動に取り組む同社。そのなかで重きを置いたのが“ゴミゼロの引越し”を目指すということでした。

 

「『暮らし方を提案する企業』として、お客さまが新生活を快適に送れるようサポートしていくと同時に、地球温暖化、資源枯渇、廃棄物などの問題に向き合ってまいりました。その流れのなかで、少しでも引越し時の資材を減らし、環境にやさしい取り組みはないかと考え、使用済み段ボールを回収、再利用を始めたのです。1994年には『リ・ユース資材』を導入しましたが、当時のニーズには合いませんでした。しかし、社会が環境を意識する時代となり、また、お客様のニーズを直接お聞きしながら改良を重ね、『お引越をもっと楽に、もっとエコに。』というコンセプトのもとで開発されたのが『エコ楽ボックス』です。2008年7月に新たなエコ資材としてサービスを開始しました」(趙さん)

 

エコ楽ボックス(左)と従来の梱包(右)

『エコ楽ボックス』とは、紙素材を一切使用せず、食器をそのまま梱包できるプラスチック段ボールです。段ボールや割れ物を包む梱包材など引越しは多くの紙資材を使用しますが、そういったゴミを減らすうえ、再利用が可能なため、環境だけでなく素材費用の節約もできます。現在では『エコ楽ボックス』シリーズとして食器類だけでなく、シューズケース、テレビケース、照明ケース、ハンガーケースを展開しています。

 

エコ楽ボックスの使用例

また、“ゴミゼロの引越し”に向け、ペーパーレス化も積極的に推進。タブレット見積システムを使用し、従来複写式だった手書きの見積書を電子化しています。これは業務の効率化にも繋がり、『働き方改革』の一環として労働環境の改善にも一役買っているのです。

 

タブレット見積システムでお客様に説明

 

緩衝材の使用も約22%の削減を実現!

地球にとっても、客にとっても“やさしい引越し”を実現した「エコ楽ボックス」。改めてメリットを見ていくと、以下があげられます。

 

①紙資材を一切使用しないため、紙資源の節約ができる。

②ボックス本体はプラスチック段ボールでできた外ケースと緩衝性に優れるポリエチレン製の内仕切りを使用するため、食器が割れにくいだけでなく耐水性と密閉性も高い。

③そのまま食器を入れて簡単に梱包できるため、食器の荷造りや荷解きにかける時間が省ける。

④年配の方から子供までどんな人にも負担なく食器の梱包ができる。

⑤無料でレンタルの形で提供するため、利用客の財布にも優しい。

⑥ケースと仕切りともに折りたためるため、省スペースの保管が可能。

⑦反復資材のため、環境に優しい。

 

「エコ楽ボックス」を使うかどうかは利用客に委ねられていますが、引越し費用の軽減につながるほか、「これまでの引越しは食器を紙で包装していたので、引越し後の食器を片付けた時に、紙のゴミがたくさん出ていた。今回『エコ楽ボックス』を使ったところ、引越し後のゴミは一切なく、とてもエコに感じた」というようなコメントも多く聞かれるそうです。社会貢献の意義も感じられるためか、『エコ楽ボックス』は利用客からも高く評価されているのです。そして資源の節約という点でもその成果は顕著に表れています。

 

「食器を紙またはエアキャップのような緩衝剤でつつんで通常の段ボールの中に入れる従来の食器梱包方法と比べて、『エコ楽ボックス』を使用したことで、緩衝剤の使用は約22%削減されました(2015年と2017年の引越し件数との割合で算出)。使用しなかったエアキャップの総面積を算出したところ、2,255,904㎡になり、何と東京ドームの約48個分に相当します」(趙さん)

 

お客様の“あったらいいな”を形にして、様々な取り組みをしていきたいと話す同社。これからも、エコ資材の開発と紙資源の節約ができる新たなサービスの開発に注力しながら、ペーパーレスに繋がるデジタル化を進めていきたいと話します。

 

“ゴミゼロ”実現のための職場環境作り

「SDGsの17目標についてはすべて賛同している」という同社。一般トラック運送事業者の一員として、当然のことながら“事故ゼロ”も目標に掲げています。車両運行では、デジタル運行記録装置やドライブレコーダーを搭載し、走行中の負荷、速度、時間をデータ化することで安全指導を徹底。大阪府警察による「大阪府無事故・無違反チャレンジコンテスト」にも全支店が参加していると言います。

 

そしてこの“ゴミゼロ”“事故ゼロ”を実現するために、従業員の健康促進や、より働きやすい職場環境づくりにも注力しています。例えば、引越し業界として初めて定休日を設け、長時間労働や社員の健康などの課題解決に取り組みました。また、女性従業員からなる社内プロジェクト「女性活躍推進プロジェクト“Weチャレンジ”」を立ち上げ、女性が働きやすい環境を自ら考え、実行することで、健やかに働ける環境づくりを目指しています。これまで、「いきいきと働くための健康教室」「運動と休息で健康づくり」「異業種企業との交流会」など、社内のコミュニケーション活動を充実させてきました。

 

「女性活躍推進プロジェクト“Weチャレンジ”」の会議風景

対外的にも、日本全国さまざまな地域事業への協賛を通じ、地域が抱える課題の改善や、地域の盛り上げに取り組んでいます。自治体と提携した「高知県移住支援特使」では、Uターン・Iターンによる移住促進策を支援。「秋田竿燈まつり」や「さっぽろ雪まつり」、「芦屋サマーカーニバル」ほか、その土地に根付いているお祭りやイベントに参加・協力し、地域活動に貢献しています。

 

さらに関東、関西エリアのトラックには、AED(自動体外式細動器)を順次搭載。仕事柄、トラックで住宅街など街中の人命救助にあたることができると考えてのことです。AEDに関しては、グループ会社のアートチャイルドケアも、保育施設への設置を順次進めているそう。コマーシャルでもお馴染みのキャッチフレーズ“あなたの街の0123♪”の通り、地域のことを考え、いつまでも住み続けられる街づくりに貢献しているのです。

 

AEDのステッカーが目印

 

2030年までに“ゴミゼロ”の引越しをめざす

“引越し専業会社”という枠にとらわれず、“暮らし方を提供する企業”として、様々な取り組みを進めてきた同社。SDGsの活動について、今後どう考えているのか最後にうかがいました。

 

「これからもCS(顧客満足)とES(従業員満足)を経営の機軸に置いて、引越し事業を核とした“暮らし方を提案する”企業グループという経営方針を維持していきます。そして『the0123』ブランドの強みを活かし、引越しを中核としながらも、さらに暮らしに関わる企業へと事業領域を拡大していきたいと考えています」(趙さん)

 

“「ゴミゼロ」「事故ゼロ」をめざす”“働きがいのある環境作りをめざす”“より暮らしやすい社会をめざす”“地域の活性化”などさまざまな目標を掲げ、その実現に向け、取り組んできた同社。今後はさらに高みを目指していくと意気込みます。

 

「CSに関しては、引き続きお客様の“あったらいいな”の気持ちを大切にして、お客様により一層満足いただくことをサービスの原点とする姿勢で、2030年までに“ゴミゼロ”の引越しをめざすと共に、『エコ楽ボックスシリーズ』のような地球環境に優しい資材をさらに開発することで、アートならではの高品質なサービスを提供し続けていきます。また、ESに関しては、今後も従業員の健康促進を実施し、長時間労働や働く環境の改善に向けて、定休日の設定や業務のデジタル化を行い、より働きがいのある会社になるように取り組んでいきます。こうしたSDGsの理念にも共通しているCSとESの取り組みで、社会貢献活動を実践し続けていきます」(趙さん)

 

 

 

 

ロックダウンでささくれだった心を癒す! イタリアで国内観光の主役となりそうな「アグリトゥーリズモ」とは?

世界中で海外旅行が控えられているなか、観光業界では国内旅行が重要になっています。観光立国・イタリアも内需を喚起しようとしていますが、ソーシャルディスタンスが基本となった現在、観光地は新型コロナ対策に頭を悩ましています。しかし、そんななかで気を吐いているのが「アグリトゥーリズモ」と呼ばれる形態のホテル。ポストコロナの時代において、アグリトゥーリズモは観光業の支柱となるかもしれません。

↑国内旅行でも十分いいかも

 

「イタリア国内で過ごしましょう」

日本人の間でも安定した人気を誇る観光地イタリアは、イタリア政府のキャンペーンも功を奏し、2014年から順調に観光客数を伸ばしてきました。2018年に海外からイタリアを訪れた観光客数はおよそ4億3000万人で、そのインバウンド消費はイタリア経済にとって重要です。

 

中国と並び、イタリアはユネスコの世界遺産の数が世界第1位。文化的な魅力に加え、夏のバカンスシーズンには南欧の灼熱の太陽を求めて、ドイツや英国、北欧の富裕層が大挙して南下してくるのが普通の光景でした。ただ、今年はどう考えてもその可能性は低いというのが衆目の一致したところで、そうなると業界が頼るのは内需ということになります。

↑世界遺産のコロッセオ

 

巧みな言葉遣いでコロナ危機を国民とともに乗り切ってきたコンテ首相は、この夏のバカンスは「イタリア国内で過ごしましょう」と呼び掛けています。もちろん感染予防が第一の理由ですが、国内の富裕層に国内でお金を使ってほしいという狙いもあるでしょう。

 

イタリア政府は、所得が低い家庭には国内で消費できるバカンス・ボーナスを支給するとまで発表していますが、この動きを理解するには、夏のバカンスが慣習化している欧米では否応なしに企業が休業に入ってしまうという事情も考慮しないといけません。

 

そもそも、欧州におけるバカンスの趣旨は、1か所に腰を落ち着けて閑暇を堪能することにあります。日本のツアーのように各地の観光地を巡るということはまれで、海や山などの大自然の中で目的もなくリラックスするのが理想とされているのです。

 

特にイタリア人は、バカンスシーズンはローマやフィレンツェの街は観光客に明け渡し、海や山に向かうのが一般的。この傾向はポストコロナの今年も変わらないでしょう。ただ、イタリア人がこよなく愛する海は、シャワールームや更衣室など、「密」による感染面での心配が高く、人々が押し寄せる人気の砂浜も同様に密の状態が安易に生まれてしまう可能性もあります。

 

そこで注目したいのが、アグリトゥーリズモ。基本的にアグリトゥーリズモは、農家や酪農家が敷地の一角を客に開放し、自家製の食材やワインを提供するというサービスです。そのため、田舎や山の一軒家がその大半を占め、事業形態はほぼファミリービジネスとなっています。客室数が少ないうえ、敷地も広大であるため、ソーシャルディスタンスを保つことがとても容易なのです。

 

都会の喧騒からほど遠い一軒家のアグリトゥーリズモには、どうしてもクルマを使い少人数で赴く必要があります。旅の移動で公共交通機関を使用しなければ、新型コロナに感染する可能性はさらに低くなるというメリットもあるわけですね。

↑山もいいけど、海も外せない

 

長期滞在しても安価。キャンピングカーもOK

もともとアグリトゥーリズモには、さまざまな利点がありました。まずは、都会の洗練されたサービスとは異なる営業形態であるため、長期滞在をしても価格が抑えられるという点。提供される食事もイタリアでは「カザレッチョ」と呼ばれる田舎風の素朴なもので、ファミリービジネスが大半のため、大抵はその家のマンマが作ってくれるものが提供されます。

 

規模が大きいアグリトゥーリズモになると、週末に大自然を目指してやってくる人たちに向けたレストランを兼業している場合もありますが、いずれにしても敷地は広いため、街のレストランに比べるとソーシャルディスタンスは安易に保てます。

 

家畜の動物がいたり森があったり、家族連れでも時間つぶしに困ることはありません。長期滞在であれば、ここを拠点に近くの町や海などを訪問することも可能で、その日の気分でバカンスを楽しめるわけです。

 

家庭の経済的事情によってはアグリトゥーリズモの部屋を予約することが難しいこともありますが、そのようなときは敷地の一部をキャンプ場として開放しているアグリトゥーリズモを探すという選択肢もあります。

 

例えば、キャンピングカー族向けにサービスを提供する「Agricamper Italia」では、同社が契約するキャンプ可能なアグリトゥーリズモを網羅的に紹介していますが、そこでキャンプした客は、アグリトゥーリズモが生産・販売している物品を購入するという形で現地にお金を落としています。

 

ワインに特化した「エノトゥーリズモ」はさらに人気

農家や酪農家が多いアグリトゥーリズモですが、特に人気を誇るのがワインに特化した「エノトゥーリズモ」というカテゴリー。ブドウの木で覆われた丘陵地帯は心が洗われるような美しさがあり、北イタリアのランゲ地方は歴史的・文化的価値も認められて、ユネスコの世界遺産となっています。

 

ランゲほど高名でなくてもイタリアには著名なブドウの銘柄が数多くあり、各地でエノトゥーリズモが展開されています。新鮮な農産物やチーズを食べることができるアグリトゥーリズモも魅力は多いのですが、それがワインともなればイタリア人ならずとも盛り上がります。

 

ワインに合わせて美味しい料理が楽しめるバカンスともなれば、ワイン好きの人の満足度もより高くなります。エノツゥーリズモ業界も2020年夏のバカンスには大いに期待しており、ブドウ畑内をトレッキングしてロックダウン中のささくれだった心を癒す、というプランも進行中だそうです。

↑こんな雄大な景色を見れば、荒れた心も癒されること間違いなし

 

自然への回帰が進むといわれるポストコロナの時代では、バカンスの過ごし方も以前と変わる可能性があります。大自然のなかに佇むこうした宿泊形態が、今後は観光業の支柱となるかもしれません。