マクドナルドの一人勝ちを阻止! 「フィリピンNo.1ファストフード店」はいかにグローバル競争で勝ち続けているのか?

ファストフードといえば、120を超える国や地域で展開するマクドナルドが名実ともにトップと思われていますが、実はフィリピンにその一人勝ちを阻止しているファストフード店があります。それが地元発として知られる「ジョリビー」。フィリピンでは同社がマクドナルドの2倍の売上高を誇り、No.1ファストフード店に輝いています。ジョリビーがなぜマクドナルドに勝てるのか、その秘密に迫ります。

↑フィリピン国内で1000店舗以上を展開するジョリビー(画像出典: ジョリビー公式サイト)

 

かわいいミツバチのキャラクターをロゴマークに掲げるジョリビーは、もともと町の小さなアイスクリーム店として1979年に創業。現在ではフィリピン国内に1150店舗を展開するまでに成長しました。公式サイトによると、同社はフィリピンのファストフード業界で50%以上のシェアを獲得し、アジアを中心に海外進出も積極的に展開する一方、アメリカにも31の店舗を構えています。人気メニューはハンバーガーやチキン、スパゲッティなどで、お昼の時間ともなれば店の外まで大行列ができる人気ぶり。フィリピン人はジョリビーが大好きなのです。

 

フィリピン人に愛されるジョリビーですが、いまから約40年前にその存在を脅かす存在が現れました。世界のファストフード王者マクドナルドがフィリピンに進出することになったのです。フィリピンNo.1ファストフード店として負けられないと考えたジョリビーはアメリカまで調査に行き、どうすれば勝てるかを徹底調査しました。

 

ジョリビーの社員は、マクドナルドの料理を食べたとき、あることに気づいたといいます。マクドナルドの味はアメリカ人には適しているけれども、フィリピン人には合わないかもしれないと。フィリピン人はアメリカ人と比べると、より甘く、より辛く、より塩味の効いた料理を好みます。そこで、ジョリビーはフィリピン人の味覚に徹底的にこだわったフードを提供するという戦略を採ったのでした。

↑ソースが甘めのジョリビーのスパゲッティ

 

甘めのバナナケチャップがかかったスパゲッティやスパイシーなチキン、塩味の効いたフライドポテトなど、ジョリビーはフィリピン人に愛される料理を作り続けました。その結果、マクドナルドも当初は自社特有の味で勝負しましたが、それではジョリビーに勝てないことを認識。最終的にはマクドナルドがジョリビーの味をまねたり、ライスメニューを導入したりという展開に至りました。

 

現在でもジョリビーとマクドナルドの勝負は続いていますが、ジョリビーの圧勝という図式は崩れていません。地元メディアなどの報道によると、2017年のフィリピン国内における収益額は、マクドナルドが8.4億ドルだった一方、ジョリビーはその約2倍の16億ドル。また、2019年におけるフィリピン国内店舗数についても、マクドナルドが640店舗に対して、ジョリビーは上述したように1150店舗と、ここでも約2倍の差がついています。しかしながら、2019年のフィリピン国内のマクドナルドの売り上げは2018年より15%アップと好調で、ジョリビーもうかうかしていられません。

↑チキンやライスなどが一緒になったジョリビーの人気セット

 

No.1であり続けるために

もちろん、ジョリビーがフィリピンNo.1ファストフード店であり続けている理由は味付けだけではありません。ほかにも2つの特徴があります:

 

1. マクドナルドよりも少し安い価格設定

ジョリビーのフードは、マクドナルドの価格よりもわずかに安く設定されています。例えば、フィリピンで人気のスパゲティ+ドリンクのセットであれば、ジョリビーが59ペソ(約127円)なのに対し、マクドナルドは80ペソ。チキン+ライス+ドリンクのセットの場合、ジョリビーが90ペソなのに対し、マクドナルドでは110ペソです。お客さんにとってジョリビーはおいしいだけでなく、経済的でもあるのです。

 

2. 子どもを楽しませる工夫

↑子どもたちにも大人気のジョリビー(画像出典: ジョリビー公式サイト)

 

ジョリビーは子どもに焦点を当てたマーケティング戦略を展開しているのも特徴。たくさんの子どもたちはジョリビーが大好きで、喜んでお店に行っています。

↑ジョリビーにも会えるかも(画像出典: ジョリビー公式サイト)

 

マクドナルドでも子ども向けのサービスが多くなされていますが、ジョリビーのそれはマクドナルドのレベルを超えているかもしれません。店内にはポップな装飾が施され、ジョリビーの絵が至るところに描かれています。にぎやかな音楽が流れていておもちゃ付きメニューも豊富で、運がよければ着ぐるみのジョリビーにも会えます 。

 

本質は、自国のユーザーを徹底的に分析すること

本稿では、フィリピンのNo.1ファストフード店であるジョリビーのさまざまな取り組みを紹介しました。マクドナルドに負けないためにジョリビーが最終的に行き着いたのは、メインターゲットであるフィリピン人好みの料理を提供し続けることでした。一見、素朴に思えるこの戦略ですが、それを続けることはそう簡単ではありません。フィリピン人がジョリビーを愛するのは、ジョリビーがフィリピン人を愛しているからにほかならないと思います。

 

ジョリビーは2020年、海外に300~350の店舗を設ける計画を立てています。もしかしたら近い将来、あなたの町にも、赤いミツバチ「ジョリビー」が現れるかもしれませんね。

東京ガスが「ショッピングサイト」を運営!? 同社のユニークな「SDGs」の取り組みは社会課題解決と価値創造が目標

食品ロスなど廃棄の削減へ貢献するECサイト「junijuni sponsored by TOKYO GAS」を協業~東京ガス株式会社

 

「junijuni(ジュニジュニ)」というサイトをご存じでしょうか。賞味期限が迫っていたり、パッケージの変更や期間限定プロモーションの終了などの理由で、従来は廃棄されていた食品や日用品などを中心に手ごろな価格で販売するECサイトです。商品の価格には、社会課題の解決に取り組む各種団体などへの寄付金も含まれていて、商品の購入を通じてユーザーも社会課題解決に貢献できます。このサイトを開設したのが、都市ガス事業のパイオニアである東京ガスです。

 

社会に貢献できるサービスとしてスタート

「junijuni sponsored by TOKYO GAS」のトップページ 2020年8月3日時点(https://www.junijuni.jp/

「『junijuni』は2019年4月25日にオープン。今年7月で1年3か月が経過した社会貢献型ショッピングサイトです。サイト名は、SDGsの『12:つくる責任、つかう責任』に本サイトの趣旨が合致することから、12(ジューニ)に重ねて、弊社が命名しました」と話すのは、サイト開設初期から携わる価値創造部サービスイノベーショングループの塩田夏子さんです。

 

価値創造部サービスイノベーショングループ・塩田夏子さん

「東京ガスというとガス会社のイメージが強いと思うのですが、それだけでなく、“快適な暮らしづくり”と“環境に優しい都市づくり”に貢献し、お客さまの暮らし全般を支えられる企業になるという経営理念があります。私たちが所属する価値創造部は、そうした理念を踏まえて新しいサービスを考える部署です。 社会課題解決に貢献できるサービスをいろいろ考えていたところ、先行して類似サイトを運営していたSynaBiz様とお会いする機会がありました。近年問題視されている、食品ロスや日用品廃棄の削減に貢献できるサイトということで興味を持ち、協業の話を進めていったのです」 (塩田さん)

 

2018年夏にプロジェクトがスタートし、同社の会員を対象にテストマーケティングを実施。会員へのアンケートを行ったところ、サイト趣旨に対して高い評価が得られたため、オープンに至ったそうです。現在では、さまざまな理由で廃棄されていた食品・日用品などをメーカーや卸などから集めるとともに、消費者である利用客への周知を行っているそう。サービスの運営はSynaBiz社が務めていると言います。

 

メーカー・消費者がまさにwin-winの関係に

このサイトでは、“もったいない”という想いへの解決策が提示されていて、メーカー、消費者ともにメリットが大きいことは一目瞭然です。

 

「『junijuni』で買い物をしてくださるお客さまにとっては、賞味期限間近などの理由があるにせよ、手ごろな価格で商品をお買い求めいただけるということ。さらに、ご自身のお買い物で食品ロスや日用品廃棄の削減と寄付ができるという満足感も得られます。普段のお買い物で社会貢献しているという実感を持てるのです。また、商品をご提供いただいているメーカー様などにとっては、処分対象の商品を出荷できるという点がかなり魅力的だと思います。廃棄するにもお金がかかりますし、何よりも、自分たちが作った商品を捨てるというのは悲しいことです。それをお客さまに届けられて、喜んでいただけているのではないでしょうか。

 

「junijuni」を通じてのメリットの輪(「junijuni」HPより)

弊社にとっても、企業としてSDGs達成に貢献できるだけでなく、こうした新しいサービスを提供していくことで“東京ガスってこんないいサービスを行っているんだ”と感じていただける部分にメリットを感じています。また、東京ガスというブランドに基づく安心感を多少なりとも消費者に持っていただける企業と協業することで、SynaBiz様にとっても、規模拡大の可能性があると考えています」 (塩田さん)

 

ちなみに、ある日の「デイリー注目度ランキング」を見ると、1位:ココアサブレ 2位:クッキーの詰め合わせ 3位:食パン詰め合わせ 4位:焼鮭フレーク……と食品が続きます。インスタント食品、調味料、カップ麺、缶詰、お菓子、ソフトドリンク、お茶、酒類など、やはり飲食類が充実していますが、美容サプリメント、基礎化粧品、シャンプー、芳香剤、調理器具、ドッグフードほか、サイト内で扱う商品の種類はバラエティに富んでいます。

 

メーカーなどから集めた商品を管理する物流倉庫

 

1年間で約1万人が利用し約25万点を販売

そもそも食品ロスの問題は、近年、大きく取りざたされてきました。環境省の資料によると、日本国内の食品ロス(まだ食べられるのに廃棄される食品)は年間 643 万t、廃棄コストも2兆円かかっています。消費期限と違い、賞味期限は必ずしも食べられなくなる期限ではありません。しかし「賞味期限」に対して消費者が敏感なことと、スーパーやコンビニにおける、賞味期限切れの商品が店頭に並ぶことを防ぐ商習慣が、食品ロスを生む一因と考えられます。こうした課題の解決に「junijuni」は一役買っているわけです。

 

日本国内の食品ロス(「junijuni」HPより。参考:環境省HP)

「“廃棄量何トン分”という形では数値を出していませんが、サイトのオープンから1年間で、のべ約1万人のお客さまにご利用いただき、商品数にすると25万点ほどご購入いただいています。食品だけでなく日用品も販売しているのですが、全体の8割ぐらいは食品。特にジュースやスイーツが人気です」(塩田さん)

 

また先に述べたように、商品の購入と寄付が連動していることでも、社会課題解決に貢献しています。寄付先は、8団体に台風などの災害義援金を加えた全9団体。サイトのオープンから約1年で30万6577円(2020年3月31日現在)を寄付できました。

 

販路に困っている人たちの救世主に

「まだ食べられるのに捨ててしまうのは本当にもったいない。そのような商品を、こうしたサイトで買えて、もったいないを減らせるのはすごいことだし、広めていった方がいい」という会員の声が多いという「junijuni」。開設から1年が過ぎ、今後はどのような展開を考えているのでしょうか。

 

「具体的にはまだ決まっていませんが、在庫に困っている地元企業様や生産者様の課題を解決できるような仕組みを展開できなかと考えています。現状では、新型コロナウイルス感染症の影響で販路に困っている方が増えているので、『junijuni』を活用していただければという思いから、『コロナに負けない! 生産者・販売者をみんなで応援! 買って応援特設サイト』を設けて、生産者や販売者の皆様をサポートしています」(塩田さん)

新型コロナウイルス感染症の影響で販路に困っている方向けに開設

新型コロナウイルス感染症対策支援は他にも行っています。5月25日と29日には、新型コロナウイルスの影響で生活に困窮する世帯を支援するフードバンク3カ所に食品を寄贈しました。

 

フードバンクへ寄贈した商品例

「3~5月に『junijuni』の利用者数は増えました。販路を失った生産者や業者が困っている状況をニュースや新聞などが取り上げていて、一般の方たちの意識も高まったのかもしれません。これからも、食品や日用品のロスを救える買い物の仕方に注目が集まるのではないでしょうか」(塩田さん)

 

事業活動を通じて社会的責任を果たす

 

「junijuni」を通して社会課題の解決に向き合う同社ですが、その活動は今に始まったことではありません。近年は、特に持続可能な社会の実現に対する企業への期待や要望が高まっていますが、エネルギーインフラを支える企業として、東京ガスは古くから社会課題の解決に取り組んできました。折しも昨年は、LNG(液化天然ガス)の導入から50年目にあたる記念の年。サステナビリティ推進部SDGs推進グループの森井奈央子さんによると、「51年前、東京ガスが初めて日本にLNGを導入したことも、社会課題を解決した事例のひとつかと思います」とのこと。

 

サステナビリティ推進部 SDGs推進グループの森井奈央子さん

「当時の日本はまさに高度経済成長期。経済成長に伴ってエネルギー需要が伸び、それにより大気汚染が深刻化していました。石炭や石油と比べて環境性の高い天然ガスの導入は、その課題解決に貢献できたと思います。また、天然ガスはカロリーが高いので効率良くエネルギーを供給することができ、エネルギー需要の増大にも対応できました」(森井さん)

 

一方で、社員の意識も高いといいます。

 

「元々弊社の事業は公益性が高いので、自社やお客さまの利益だけでなく、世の中のため、社会のために貢献していこうという創立時からの変わらない考え方があります。現在も、事業を通じて社会の持続的発展に貢献することで、企業としても持続的に発展していく、という考えに基づいて事業活動を進めています」(森井さん)

 

パートナー企業との連携によるサービスの創出

ガス・電気を供給する事業者として、SDGsの「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「11:住み続けられるまちづくりを」に貢献してきた東京ガス。昨年11月には2030年に向けた経営ビジョン「Compass2030」を発表しました。

 

「その中の挑戦の1つが“CO₂ネット・ゼロをリード”していくというもの。気候変動問題が深刻化している中、化石燃料である天然ガスを扱うリーディングカンパニーとして、今後CO₂をネット・ゼロにすることに挑戦していきたいと考えています。また、エネルギー事業だけでなく、より幅広い社会課題の解決に貢献していくためには、パートナーと協力していく必要があります。SDGsの「17:パートナーシップで目標を達成しよう」に該当しますが、個人や法人のお客さま、自治体、NPO法人、有識者、いろいろな方と強みを持ち寄って新たな価値を創出していく予定です」 (森井さん)

 

すでに取り組んでいるサービスが、警備会社と連携した「東京ガスのくらし見守りサービス」です。元々はガスの消し忘れの確認などを利用者に知らせるサービスとしてスタートしましたが、これに付加価値を加え、例えば、ドアの開け閉めをセンサーで確認することで、鍵の閉め忘れや、子どもの帰宅をスマートフォンに知らせることができます。さらに24時間の警備員対応や、保健同人社による健康相談などにも対応。離れて暮らす両親が心配でこのサービスを利用する人も少なくないそうです。

 

ふるさと納税の返礼品にもなっている「東京ガスのくらし見守りサービス」

「エネルギーの安定供給、そして安心・安全な生活を支える街づくりに関しては、これまで通り力をいれていきます。さらに今後は、『junijuni』も事例の1つですが、どれだけ社会的な価値を創出していけるかというところを重視していきます。あくまでも、弊社が目指しているのは持続可能な社会の実現。そこに向かって事業活動を通じて取り組んでいきます。それが実現できれば、結果的にSDGsにも貢献できると捉えています」(森井さん)

 

いまや世界の共通言語となったSDGs。それにより、パートナーシップが生まれやすい環境になったことも確かです。東京ガスは、これからもさまざまなパートナーとの連携により、社会課題の解決につながるサービスを創出していくことでしょう。

「最新バイオモニター」が草花を救う! キーワードは「ストレス」

人間や動物は自分で動くことができるけれど、植物は自由に移動ができない分だけ、暑い・寒い、水分不足や水分過多、栄養が足らないなど、環境からストレスを大きく受けるもの。ストレスは植物の成長にも影響を及ぼすので大事な問題ですが、そんな植物のストレスをリアルタイムでモニターできる新しいシステムがいろいろ開発されています。

 

スマホで植物のストレスをモニタリング

↑植物のストレスもスマホで検知

 

1つ目の植物ストレスセンサーは、植物の傷や感染、光害などを検知するセンサー。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが開発しました。

 

これまでにこの研究チームは、ナノ材料を組み込むことで、光を放ったり水分不足を検出したりする新たな植物の開発に取り組んできました。また、過酸化水素などさまざまな分子を検出できるカーボンナノチューブも開発しています。

 

そんな活動をしていたあるときに誤って植物を傷つけてしまったところ、その傷部分から過酸化水素が多く放出されていることに彼らは気づきました。過酸化水素の働きはまだはっきりとわかっていませんが、植物がダメージを受けてそれを修復するときなど、葉の内部で過酸化水素を使ってシグナルを送ると見られています。

 

そこでこの研究チームは過酸化水素の変化を利用して、植物が受けるストレスを検知できるカーボンナノチューブのセンサーを開発することにしました。こうして作られたセンサーは植物の葉に埋め込まれ、そのデータはスマホに送信されてリアルタイムで確認できます。

 

このセンサーはさまざまな植物でも利用可能。ホウレンソウやストロベリー、ルッコラなど8種類の植物でも実験を行い、ストレスのタイプによって植物が異なる反応を示すことも明らかになっています。

 

水分不足のストレスをリアルタイムで検知

MITの研究チームの開発と同じように、生きた植物のストレスをリアルタイムで検知できる別のセンサーもアメリカでは開発されています。それが、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが作ったバイオセンサーです。この研究チームが注目したのは、プロテインキナーゼ「SnRK2」と呼ばれる酵素。この酵素は植物が水分不足になったときに活性化することがわかっており、このSnRK2の変化をモニターできるナノセンサーの「SNACS」を開発したのです。

 

SnRK2の活性を調べるために、これまでは植物を粉砕して抽出物から測定する工程が必要で、生きた植物で調べることはできませんでした。しかしこの研究チームは、生きた植物でSnRK2の変化をリアルタイムでモニターできるセンサーを開発することに成功し、このセンサーによって、SnRK2の活性にはアブシジン酸という成分が関わっていることなどもわかってきたのです。

 

水分不足は植物の生育にとって必要不可欠なもので、このストレスをリアルタイムで検知できるセンサーの開発は、まだ未解明な植物のシグナル伝達の研究に大いに役立つと期待されています。

↑植物がストレスを感じていることが見えてきた

 

植物が感じているわずかなストレスを見逃さずモニターできるシステムがあれば、自宅で大切に育てている植物が枯れたり萎れたりすることを今後は減らせるようになるかもしれません。農家や花き栽培への活用も期待されます。

コロナ後を見据え、タイで始まった新しい形のサプライチェーン構築【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回はタイからです。新型コロナウイルスが経済にも大きな影響を与えている状況のなか、日本企業が進出し東南アジアの一大製造拠点となっているタイで始まりつつある危機下における事業継続のリスクを最小化する試みとは…。

 

JICAは、タイで2011年に発生した洪水被害の教訓を活かし、「地域全体で取り組む事業継続マネジメント」に向けた研究を産学連携で進めてきました。民間企業だけでは対応しきれない産業集積地の地域的防災対応への研究から得られた知見が今、コロナ後を見据えたサプライチェーンの新しい形にヒントを与えています

↑都市封鎖により人のいないバンコク中心部。高架鉄道サイアム駅(上)と駅前広場(4月撮影)

 

新型コロナでタイ国内のサプライチェーンが寸断

タイは、多くの日本企業が進出し、1980年代以降に石油化学や自動車関連産業の産業集積が進んできました。タイ国内に部品の製造から組み立て、販売までをひとつの連続した供給連鎖のシステムとして捉えるサプライチェーンが構築されており、メコン経済回廊の中心拠点として工業団地の整備が進んでいます。

 

しかし、新型コロナウイルス対策のため各国で都市封鎖や外出制限が広がると各企業とも生産や物流の活動を見直さざるを得なくなります。特に今年2月の中国の生産活動停止はタイをはじめとしたASEAN各国に大きな影響を及ぼしました。

 

JICAタイ事務所の大塚高弘職員はその影響について、「タイでも非常事態宣言が発出され、県境をまたぐ移動制限や外出自粛要請が行われたことから、人の行き来は大幅に減りました。日本企業を含む多くの製造業が立地するタイでも工場の稼働を停止させざるを得なくなるなど大きな影響が出ました」と話します。

 

産業集積地での事業継続リスクに関する研究の成果を活かす

今回の新型コロナウイルス感染拡大という危機下において、2018年からタイで実施してきた災害時における産業集積地での事業継続リスクに関する研究の成果を活かすプロジェクトが開始されました。

↑タイで実施されている自然災害時の弱点を可視化する研究プロジェクトでの会議

 

タイでは、2011年に発生した水害を教訓に、工業団地を取り巻く地域コミュニティの災害リスクを可視化して、企業、自治体、住民が地域としてのレジリエンス(しなやかな復元力)を強化して、災害を乗り越えていくための研究をしています。

↑2011年に発生したバンコク市内での洪水。高速道路上に多数の避難車両が並んだ

 

研究の日本側代表者である渡辺研司氏(名古屋工業大学大学院教授)は、現在実施しているプロジェクト成果の活用について、次のように述べます。

 

「プロジェクトで設計していく枠組みは、迫りくるリスクに対しての対応を地方自治体・住民・企業やその従業員などといった地域内の利害関係者が情報を共有し、意思決定を行い、対応行動を調整するプラットフォームとなることを目指しており、今回のコロナ禍に対しても活用可能と考えています」

↑プロジェクトの日本側代表、名古屋工業大学大学院の渡辺研司教授

 

サプライチェーン再編に備え、ウェビナーで知識を共有

これからに向け、グローバル・サプライチェーンの弱点を見直す手がかりとして、JICAタイ事務所は4月末、「新型コロナウイルスによる製造業グローバル・サプライチェーンへの影響と展望」と題したウェビナー(オンラインwebセミナー)を開催しました。JETRO(日本貿易振興機構)バンコク事務所の協力を得て、タイ政府の新型コロナウイルス感染症に対応した具体的な経済支援政策を紹介するとともに、渡辺研司教授による今後の課題を見据える講演を実施しました。

 

セミナーにおいて渡辺教授は、今回の災害を「社会経済の機能不全の世界的連鎖を伴う事案」と捉えた上で、「コロナウイルスの終息は、『根絶』ではなく『共存』。長期戦を想定したリスクマネジメントが必要となる」との展望を示しました。そして、「今までにない柔軟な発想を持って、転換期を見逃さないことが必要」とし、今後のレジリエンス強化の重要性を強調します。

 

さらに、「災害や事件・事故による被害を防ぎきることは不可能。真っ向からぶつかるのではなく、方向を変えてでもしぶとく立ち上がることが基本となる。通常時から柔軟性をもって対応しこれを日々積み上げることや、いざという時に躊躇なき転換を行う意思決定を行うことのできる体制を持つことこそが、転禍為福を実現するレジリエンスだ」と結びました。

↑プロジェクトの枠組みのCOVID-19事案への適用 (ウェビナー資料より)

 

ウェビナーには、在タイ日本企業の担当者を中心に240人が参加し、うち約6割は製造業およびサプライチェーンを支える企業からでした。

 

JICAタイ事務所の大塚職員は、「ウェビナーは渡航・外出制限下でも機動的に開催できるため、今回は企画構想から18日間で実施することができました。タイの感染拡大が収まりつつある一方、今後の見通しや計画策定に必要な情報が不足しているタイミングで、タイムリーに開催することができました」とオンラインイベントの手応えを語りました。

 

長年積み上げてきた日本とタイとの信頼関係をベースとして、精度の高い現地情報や研究の知見を多くの関係者と共有できる場が、実際の課題解決に貢献する。そんな国際協力の現場がここにあります。

 

【JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

【関連リンク】

産業集積地におけるArea-BCMの構築を通じた地域レジリエンスの強化

危機下で増加する女性や子どもへの暴力を防ぐ――ブータン国営放送で働きかけ【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ブータンでの取り組みを紹介します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の危機下では、ウイルスへの脅威といった医療的なリスクだけでなく、社会の中で弱い立場におかれる人々がさらされるさまざまなリスクが浮き彫りになります。その一つが、女性や子どもに対する暴力のリスクです。

 

そんな懸念にブータンがいち早く対応しています。

 

ブータンでジェンダー課題への取り組みを続けてきたJICAと、ブータンの女性と子ども国家委員会(NCWC)は、国営放送で家庭内暴力に関するドキュメンタリービデオを放映し、暴力防止に向けた啓発を図るなど、社会的に弱い立場にある人々に目を向けた対策を進めています。

↑放映されたビデオで、家庭内暴力への警鐘を鳴らすクンザン・ラムNCWC事務局長(動画はコチラ→Suffering in Silence 

 

感染者が確認されるやいなや、女性と子どもに対するリスクへの対応を協議

「ブータンで新型コロナウイルス感染者が初めて確認されたのが3月5日。その翌週には、JICAとNCWCの担当者の間で、社会的に弱い立場におかれている女性や子どもたちに向けた支援が必要になると判断し、すぐに協議を始めました」

 

そう語るのは、JICAブータン事務所でジェンダー分野を担当する小熊千里・企画調査員です。東日本大震災の被災地では、経済的な要因に基づくストレスなどが原因で家庭内暴力や性暴力が増加し、悪化するケースが多く報告されるなど、緊急事態下では女性や子どもに対する暴力のリスクが高まることが指摘されています。

 

議論を重ねるなか、コロナ危機下で増加が想定される暴力の被害を防ぐため、家庭内暴力に関するドキュメンタリービデオを国営放送で流すアイデアが浮上。放送局との交渉や、ビデオの放映前に流すメッセージの作成などに奮闘したのが、ウゲン・ツォモNCWC女性部長です。

 

「ブータンではもともと、女性のうち約半数が、夫が妻に身体的暴力をふるうことへの正当性を容認しているといった調査結果もあり、暴力を受けた女性が声をあげにくいことがあります。放映したビデオには、カウンセリングやヘルプライン、シェルターの連絡先なども含まれ、暴力に苦しむ女性たちに具体的な情報を伝えると同時に、そのような暴力は決して容認されるものではないことを広く知らせることができればと思ったのです」とウゲン女性部長は、ビデオ放映を進めた理由を語ります。

 

このビデオは、3月20日から5日間、全国放送で10回以上にわたり放映されました。その後、ヘルププラインには通常より多くの問い合わせがありました。

↑JICAやNCWCは放映されたビデオの冒頭で、自然災害や紛争など緊急事態下では、家庭内暴力や性暴力が増加する傾向があることを訴えました

 

日本での研修で得た知見が素早いアクションにつながる

ウゲン女性部長がビデオ放映を進めた背景には、2017年度に日本で受けたジェンダー主流化(※)促進に向けたJICA研修に参加した経験がありました。

 

ウゲン女性部長は、研修のなかでも特に「女性に対する暴力」について学んだことが現在の業務に活かされていると言います。家庭内暴力や性暴力の現状、そして被害者の声を多くの人に知ってもらうことは、ジェンダー平等と女性のエンパワメントの実現に向けてなくてはならない取り組みの一つであり、今回のビデオ放映にもつながりました。

↑日本で実施された「行政官のためのジェンダー主流化政策」(※)研修の講師らとウゲン女性部長 (左)

 

※:ジェンダー主流化とは、「ジェンダー平等と女性のエンパワメント」という開発目標を達成するためのアプローチ/手法を指す。ジェンダー平等と女性のエンパワメントを主目的とする取り組みを実施する他に、都市開発や運輸交通、農業・農村開発、平和構築、保健、教育など、他の開発課題への取り組みを行う際に、ジェンダー視点に立った計画・立案、実施、モニタリング、評価を行うこと

 

JICAとNCWCは現在、ブータンで女性と子どもの保護やケアにあたる保護担当官の能力向上に向け、国内全24自治体の保護担当官などを対象にした研修を今後2回にわたり日本で実施する計画を進めています。

 

保護担当官たちは、家庭内暴力を受けた女性や虐待に苦しむ子どもたちへのケアや対応を知識としては知っていても、実際に被害者に対して適切に向き合うことができるかどうかといった点では、まだまだ経験不足が否めません。そのため、ウゲン女性部長は今回の研修により、保護担当官たちが被害者の立場に立って適切なケアを行えるよう、具体的な対応力を身に付けることを期待しています。

 

ブータンでは、家庭内における女性や子どもへの暴力や虐待に加え、未成年者の薬物依存や家庭外における性的虐待といった問題も表面化しつつあるなか、被害者に直接対応する保護担当官のカウンセリング能力の向上などは重要な課題です。

 

危機下でより深刻なリスクにさらされる人々の側から考える

国連のグテーレス事務総長は4月、「新型コロナウイルスの影響は全世界、すべての人々に及ぶが、その影響はおかれる状況に応じ異なるものであり、不平等を助長しうるもの」と発言。社会経済の停滞や変化が、男女平等を目指してきたこれまでの取り組みを後退させ、不平等を助長することへの強い懸念を示しました。

 

コロナ危機下の現在、ジェンダーに基づく差別や社会規範により社会的に弱い立場におかれている女性や少女に深刻な社会的・経済的影響が広がっています。感染リスクの増加だけでなく、性と生殖に関する健康と権利や母子保健に係るサービスの後退、暴力や虐待の増加、生計手段や雇用の喪失、学習・教育機会の減少など、女性や少女が直面するリスクがさらに拡大することが指摘されています。

 

このようなリスクが広がるなか、JICAはジェンダー視点に立った取り組みを一層強化し、女性や少女を取り残さない、また、女性や少女がこれまでに培ってきた能力や経験を地域社会で十分に発揮できるよう支援を進めていきます。このような支援の推進は、この困難を乗り越え、より強靭で包摂的な社会を築いていくために不可欠です。

 

ブータンの保護担当官への研修に対しジェンダーの視点から助言を行っている山口綾国際協力専門員(ジェンダーと開発)は、「ジェンダー不平等や格差のない社会をつくっていくためには、誰もがジェンダーの問題を身近な問題として意識することが大切です。ジェンダーの問題を意識することは、女性や少女と同じように社会的に弱い立場におかれている多様な人々が抱える様々な問題に目を向けることにもつながると考えています。そのような人々の声を聞き、取り組みを進めることで、「誰一人取り残さない」よりよい社会の実現につながると信じています。ジェンダーの問題が身近にある解決すべき重要な問題であるという認識が広まるよう、これから先も丁寧な情報発信を続けていきます」とその言葉に力を込めます。

↑新型コロナの感染が拡大するなか、ブータン女性と子ども国家委員会内の託児所で衛生備品が不足していたことから、JICAは寝具などの資材を供与。写真は供与された寝具など

 

↑納品に立ち会ったJICAブータン事務所と委員会のメンバー

 

【JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

女性の信頼と年収は「化粧」で上がることが実験で判明

「美人は得する」などと昔から言われていますが、本当にそうなのでしょうか? この問題を調べるため、ブラジルのパラナ・カトリカ大学の研究チームが実際に調査を行い、その結果を論文で発表しました。

↑化粧で年収が変わる?

 

研究チームは342名の被験者で、ある実験を行いました。この実験で行われたのは、心理学や行動経済学などの研究の現場でよく使われる「信頼ゲーム」です。相手への信頼度を調べるこのゲームでは、1人の信託者(trustor)が少額のお金を別のプレーヤー(被信託者 trustee)に渡すかどうかを自分で決めます。別のプレーヤーに渡ったお金は3倍の金額になり、そのプレーヤーはそのうちいくらの金額を最初の信託者に戻すか決めて返金。信託者に対して信頼があるほど返金する金額も高くなり、信頼度が低ければ返金額は少なくなり、プレーヤーはお金を自分で保持しておこうとします。

 

今回の実験では38名の女性が信託者となり、別のプレーヤーの役を304名の男女が担当しました。ゲーム中、信託者の女性は化粧した場合と、プロのメイクアップアーティストによる化粧を行った場合で実施し、プレーヤーはその顔写真を見てゲームを行いました。その結果、信託者が化粧をした場合のほうが返金された金額が多くなり、この傾向は特に男性のプレーヤーで高く見られることがわかりました。また、元の顔が魅力的な女性よりもそれほど魅力的ではない女性のほうが、この傾向が顕著だったことも判明しています。

 

今回の実験で明らかになったのは、女性は化粧をしないよりも、していたほうが信頼されやすいということ。見た目が魅力的な女性は収入も多いとも言われますが、この実験はそれを裏付けているのかもしれません。

 

ただ今回の実験で行われた化粧は、顔の欠点をカバーする目的で行ったもの。もし女性の魅力をさらに引き出すような化粧を行っていたら、同じような結果が得られたかどうかは不明とのこと。また女性ではなく男性で髭をつけたり髪色をかえたりして同じ実験を行ってみても、その結果は不透明と研究チームは述べています。

 

女性は顔の欠点を隠して少しでもキレイに見せたいと、化粧したりスマホで画像フィルターを駆使したりするもの。その努力は決して無駄にはならないし、女性にとって大きなメリットをもたらしてくれるものなのかもしれません。

 

 

https://www.psypost.org/2020/05/women-viewed-as-more-trustworthy-when-wearing-makeup-and-receive-larger-money-transfers-in-an-economic-game-56679

「切り紙」を応用して「スパイク」を作る? 米研究チームが開発した「靴の裏」が新しい

折り紙のように紙を折って、ハサミで一部を切り取ったり切り込みを入れることで、芸術的な模様を作ることができる「切り紙」。マサチューセッツ工科大学とハーバード大学の合同研究チームは、そんな日本の伝統芸能からヒントを得て新しい靴底を開発しました。一見平面に見える靴底なのに、歩き出すとスパイクが飛び出てくるのです。

 

切り紙の新たな応用

もとはただの紙なのに、一部を切ったり切り込みを入れたりすることで、複雑な模様を作り出したり、ときには立体的にも見せることができるのが「切り紙」です。そのアイデアは、これまでにもサイエンス分野で活用されてきました。例えば、マサチューセッツ工科大学では2018年3月に切り紙スタイルの包帯を開発しています。肘や膝などの関節はよく動かす部位のため、湿布や包帯などをしっかりと固定させるのが難しいのですが、切り紙のように切り込みを入れることによって、より固定しやすい包帯が開発されました。

↑切り込みを細かく入れると大きな違いが!

 

それと同じように切り紙をヒントに靴底の開発に挑んだのが、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の合同研究チームです。この研究チームは、正方形や三角形、曲線などさまざまな形と大きさの切り込みをプラスチックやスチール製の靴底に入れ、歩き出すとスパイクが突き出るようなデザインをテストしました。氷や木材、人工芝やビニール製の床などで摩擦力なども計測。その結果、少し凹んだカーブのあるひし形がもっとも摩擦力が強く、スパイクに最適と判明したそう。

 

さらに、この靴底をスニーカーや冬ブーツなどにつけて、ボランティアによる歩行テストも実施したところ、摩擦力が20~35%高くなることがわかりました。こうして、歩いていないときは平らな靴底なのに、歩くとスパイクが出てくる靴底が生まれたのです。

↑歩くとスパイクが出てくる靴底

 

現在研究チームでは、この靴底を組み込んだ靴を開発するか、もしくは必要なときにだけ靴底に装着するタイプにするか、また別の材質の使用なども検討しているそうです。どちらにしても、簡単にスリップ機能がある靴底に変更できるのなら、滑りやすい雨や雪の日にも便利。特に高齢者の方の転倒防止にも役立つと期待できます。

 

切り込みが入っているだけの、とてもシンプルな仕組みのこの靴底。このルーツが日本の切り紙にあるとは、日本人としての喜びも感じられるアイテムのひとつとなりそうです。

いまさら聞けない「SDGs」とは?

2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す」ための国際目標です。とはいえSDGsの全体像をつかむのはなかなか大変。ならば日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)が取り組むSDGsの活動を追えば、その本質が見えてくるのはないでしょうか。そこで本シリーズは、JICAが発行する広報誌「mundi」に掲載されたSDGsに関する記事をシリーズで紹介していきます。今回紹介する記事は2015年の記事ですが、SDGsの成り立ちやポイントがコンパクトにまとめられている、JICA的SDGs宣言でもあります。

※本記事は、JICAの広報誌「mundi」2015年12月号からの転載です

 

全ての人により良い世界を ――。そんな願いを込めて掲げられた世界の新しい目標「持続可能な開発目標(SDGs)」が、いよいよ2016年から始まる。そこには、私たち一人一人にできることが、きっとあるはずだ。

編集協力:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)森秀行所長

(c)久野武志

17の目標と169のターゲット

2015年12月31日、ある目標が期限を迎えるのをご存知だろうか。

 

2000年に採択された「国連ミレニアム宣言」に基づく「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成期限が今年、2015年だ。MDGsでは、開発途上国の貧困削減に向けた8つの目標とのターゲットが設定され、具体的な数値目標を踏まえた開発協力が展開された。その結果、最貧困層が1990年の19億人から2015年の8億3600万人まで半減するなど、一定の成果を挙げている。その一方で、紛争地域の人々や女性など、一部の人々が発展から取り残される不平等の存在も指摘された。

 

そうした流れを受けて今年9月に採択されたのが、2030年までの15年間を実施期間とする「持続可能な開発目標(SDGs/※)」だ。SDGsでは、達成が不十分だった一部の MDGsの目標を引き継ぐとともに、先進国を含めた世界全体の持続可能な発展に向けた目標や、先進国と開発途上国の協力関係を深めるための目標が加わっている。

※:Sustainable Development Goals

 

「D、つまり〝Development〞が日本語で〝開発〞と訳されているので、SDGsも途上国の問題と思われるかもしれませんが、これを〝発展〞と理解すれば、世界全体の課題であることがより実感できるのではないでしょうか」と、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の森秀行所長は指摘する。

 

SDGsは、1992年にリオデジャネイロでの地球サミットで採択された行動計画「アジェンダ」の延長上にあるという考え方もある。アジェンダ21では、社会の発展に必要な環境資源を保護・更新する経済活動への移行が強調され、その一環として貧困削減なども掲げられていたからだ。

 

誰のための目標か自分の頭で考える

もう一つ 、SDGsの目標が多角化した理由として、MDGsが一定の成功を収めたことが挙げられる。MDGsは国連本部が軸となって、幅広い分野の取り組みを主導した。その結果、世間の注目が集まり、目標達成に向けた新たな基金が設立されるなどしたことから、MDGsに参画していなかった国連機関などが、より積極的に参画したのだ。中でも、明確な目標を掲げて国や企業、個人など、多彩なステークホルダーにアプローチする手法は、MDGsへの取り組みを通して定着した。

 

森所長は、「SDGsの内容に目を通し、それぞれの目標やターゲットが誰に向けたもので、どの主体が、これらにどう関わってくるかを考えることが大切です」と強調する。特に、貧困や環境面の課題などでは、途上国と先進国の違いはもちろん、一つの国でも都市と地方で状況が大きく違うため、世界共通の数値目標を作ることは難しい。事実、今回、環境に関連するターゲットは、他のターゲットに比べて数値目標があまり設定されなかった。従って、そうした分野では、自治体や企業などが自分たちに合った目標を作ることが極めて重要になってくる。

 

目標を設定する方法には大きく分けて二つある、と森所長は説明する。一つ目は、「内側から生まれる現実的な目標」、もう一つは「外側で提示されたものを取り入れる目標」だ。内側からの目標は、家庭や企業などの現状を把握した上で、その延長線上で実現可能な目標を設定するもので、これまでも多くの企業や団体などが取り組んできている。一方、例えば、二酸化炭素の排出量を抜本的に削減することなどは「外部から取り入れる目標」に当たる。現実的な目標を定めることはこれまでどおり基本となるが、それと同時に科学的な視点から思い切った目標を定めれば、革新的なイノベーションの可能性が開ける。

 

SDGs の精神を象徴する言葉に、「誰一人取り残されない」というものがある。貧困、紛争、災害など、過酷な状況下にある人たちに手を差し伸べる協力と同時に、全ての主体がさらなる発展に向けて身近な課題を解決していくことで、私たち皆が豊かさを手に入れる、新しい未来が見えてくるはずだ。

 

私たちに何ができる? 新たな開発目標SDGsの特徴

◉「5つのP」と日本の取り組み

「誰一人取り残されない」をキーワードに、People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、 Peace(平和)、Partnership(連携)の「5つのP」に焦点を当てて取り組むことが掲げられた。

 

【People(人間)】

貧困と飢餓を撲滅し、全ての人が平等の下で、尊厳を持って健康に生きられる環境を確保する

↑ポリオの撲滅に向けて、ワクチンの調達や予防接種キャンペーンなどを支援(パキスタン)

 

【Prosperity(繁栄)】

全ての人の豊かな生活を確保し、自然と調和した経済的・社会的・技術的な進歩を目指す

↑メコン経済圏の南部経済回廊の要衝となる「つばさ橋」の建設に協力(カンボジア)

 

【Partnership(連携)】

全ての国・関係機関・人が 、目標達成のために協力する

↑保健システム強化プロジェクトを、アンゴラ・ブラジル・日本の三角協力で実施(アンゴラ)

 

【Peace(平和)】

恐怖や暴力のない、平和で公正、かつ全ての人を包み込んだ社会を育む

↑地雷の除去作業のために必要な地雷探知機などの機材の調達を支援(カンボジア)

 

【Planet(地球)】

持続可能な消費と生産、天然資源の管理、気候変動対策などに取り組み、地球環境を守る

↑アマゾンなどの熱帯林の変化を測定し、森林や生物多様性を守る活動を継続(ブラジル)

 

肌のpHに合わせて色が変わる「スマートTシャツ」が健康管理が容易に

自分自身でも気づかないような身体のわずかな変化を検知できたら、体調管理にきっと役立てられるはず。そんなことを可能にしたのが、肌のpHに反応して色が変わるバイオアクティブインクを使ったTシャツです。スマートファブリックの最前線のアイテムをご紹介しましょう。

 

身体のpHに反応して色が変わる

身の回りのあらゆるものでIoT化が進み、心拍数や血圧、睡眠時間などの健康管理ができるウェアラブル機器も数多く生み出されています。それと同じように身体のさまざまな情報を管理できるのが「スマートファブリック」。繊維に金属線を巻き付けて導電性をもたせるなど、生体情報を取得できる機能素材が開発され、それを活用した衣類が作られているのです。そして今回ご紹介するTシャツも、そんなスマートファブリックのひとつと言えます。

↑身体のpHによってドットの色が変わり体調がわかる

 

簡単に言うと、これは「着ている人の健康状態がわかるTシャツ」。前面にあるドットのデザインに特殊なインクが使われ、その人の健康状態によって色が変わる仕組みです。このバイオインクはアメリカのタフツ大学の研究者が開発したもので、汗などに含まれる化学成分に反応して色が変化します。このシャツを着ている人の肌のpHによって、ドットの色が変わり、体調の変化を判断することができるというわけです。

 

このバイオインクは、一般的に使わているシルクスクリーン印刷にも使えるというのも特徴。特殊な製造方法ではなく、従来の製法でも利用できるという点で、このバイオインクの汎用性の高さがうかがえます。また、このバイオインクは今回発表されたTシャツなどの衣類のほか、靴やマスクなどに活用することもできるうえ、木材、プラスチック、紙などに印刷することも可能みたいです。

 

衣類だけでなく、いろいろな物に印刷できるこのバイオインク。健康に関するデータを解読するのは、専門的な知識がある程度必要かもしれませんが、色の識別だけなら老若男女だれでも簡単にできるもの。それで健康状態を判断できるのなら、健康管理や病気の予防にも役立てられることでしょう。

 

また同大学内のSilklab研究室では、このバイオインクをタペストリーに使ったアート作品の制作も実施したそう。色の変化が起きるアートとして楽しむなど、このバイオインク活用の期待はますます高まりそうです。

まるで目の前にいるかのようだ! 顔写真を64倍も鮮明にできるAI技術を米研究チームが開発

画像が粗くて顔の細部をはっきりと確認できない写真もあるでしょう。でも、これからはAIがそんな写真を鮮やかに「編集」してくれるかもしれません。アメリカのデューク大学の研究チームが元の画像を最大64倍まで鮮明にできるツールを開発しました。

 

GANでガンガン顔写真を学習

これまでにもぼやけた写真を鮮明にする技術はありましたが、元の解像度から最大でも8倍程度までしか画像をシャープにすることはできませんでした。それを最大64倍まで可能にしたのが、デューク大学のコンピューターサイエンティストによる研究チームです。解像度が64倍まで上がると、顔の輪郭や各パーツもまったく不明瞭な写真ですら、まるでその人物がすぐ目の前にいるかのように鮮明になります。

 

そんな超改造画像ツールは「PULSE」と名付けられ、コンピュータービジョンの世界会議のCVPRで2020年6月に発表されました。従来の画像生成ツールでは、低解像度の画像をもとに、コンピューターがこれまでに見た画像から不足しているピクセルを推測していました。しかしPULSEでは、元の画像サイズまで縮小したときに似ていると推測される高解像度の顔写真を検索するという異なるアプローチをとります。これがいわゆるGANと呼ばれる機械学習で、PULSEはこれを利用して開発されました。

↑ぼやけた画像もハッキリ!

 

このツールを使うと、16×16ピクセルの顔画像をわずか数秒で1024×1024ピクセルの高画像にすることが可能。おまけに毛穴やシワなどの細部までリアルに生成することができます。この研究チームでは40人を対象に、PULSEとそのほかの5つの方法で生成した1440枚の人物画像を用意し、それぞれについて評価してもらいました。その結果、PULSEが作った画像が実在する人物の画像に最も近いと高い評価を得ることができたそうです。

↑実在の人物に近づけることができるPULSE

 

ただし、このPULSEは“実在しそうな人物の顔”を生成するツールであり、毛穴やシワなど、本来なら存在しないものも加えられる可能性もあります。そのため、このツールは防犯カメラに写った画像を鮮明にして、実在する人物を探しだすことに使ったり、人を判別する目的で使ったりするものではないとのこと。本当の画像かどうか見極める力も私たちには求められています。

深刻なゲーム中毒になる可能性は10%、中程度は18%ーー米大学の6年にわたる調査をどうみるべきか?

つい夢中になって何時間もプレーしてしまうビデオゲーム。楽しすぎてハマってしまうことがよくある反面、ゲームに依存しすぎてしまう中毒性が懸念されますが、この問題に対し、アメリカのブリガム・ヤング大学の研究チームが6年間に及ぶ長期の研究を行った結果を発表しました。

↑ゲーム中毒はあるのか?

 

研究チームはビデオゲームの中毒を引き起こす前兆や要因を調べるため、385人の青年に調査を実施。1年に1度アンケートを行い、うつ症状や不安感、攻撃性、言動などについて評価を行い、6年間調査を続けました。

 

その結果、72%は6年間にわたり中毒症状が比較的少なく、18%は中程度の中毒症状があり、残りの10%が深刻な中毒症状の増加が見られました。

 

ゲーム中毒になる2つの予兆

また今回の調査で、ゲーム中毒になる予兆として2つのことが明らかになりました。それは男性であることと、社会的行動レベルが低いこと。社会的行動や、周囲の人にとって良いことをもたらす自発的な行動をとることは、ゲーム中毒症状から自身を守る要素になるそうです。

 

さらに、ゲーマーは安定した職につかず経済的に自立しないというステレオタイプがよく言われますが、今回の調査ではそれが間違いであることも明らかに。深刻な中毒がみられたゲーマーでも、ほかのゲーマーと同じように経済的には安定しており、自立に関しても前向きな傾向があることがわりました。

 

ただし、今回の調査で10%に深刻な中毒症状が見られたことは無視できません。彼らはうつ症状や攻撃性、不安感が高いなど、ゲーム中毒の症状が見られました。

 

WHOでは2019年、ビデオゲームのほかスマホゲームも含め、ゲームに依存する「ゲーム障害」を国際疾病として正式に認定。ギャンブル依存症などと同じ精神疾患として位置付けています。また厚生労働省が同年に行ったゲーム障害に関する初めての調査で、10~20代のゲーム利用者のうち7%は「授業中や仕事中など本来してはいけない状況でよくゲームをする」と述べ、また5.7%が「学業に悪影響が出たり、仕事を危うくしたり失ったりしてもゲームを続けた」と回答。ブリガム・ヤング大学研究チームの結果と同じように、およそ1割程度の人が中毒症状があることが伺えます。

 

今回の結果を「ゲームではそれほど中毒にならない」と捉えるか、それとも「ゲームはやっぱり中毒になりやすい」と捉えるかは人によって異なるかもしれません。この研究チームの主任は「ゲームには素晴らしい側面があると思う」と述べ、「ゲームは健康的に行い、病的なレベルに至るまでやらないことが大切です」と結んでいます。

「ロボット犬」が羊を管理する日は近いか?

最新テクノロジーは農業や畜産業の分野にも導入されていますが、ニュージーランドでは牧羊犬として働く四足歩行ロボットが話題となっています。

↑まさかこの仕事もロボット化とは……

 

牧羊犬として活躍する四足歩行ロボット「Spot」は、ソフトバンク傘下のボストンダイナミクスが開発したもの。「ロボット犬」と呼ばれるように、4本の脚を巧みに動かしながら、犬のように斜面や階段を上り下りしたりドアを開けたりすることもできます。最高速度は秒速1.6メートル(時速5.76キロ)と、人が歩くのと同じ程度。360度カメラが搭載され障害物をよけ、最大14キロの荷物も運べます。さらにマイナス20~45度の環境や、雨・霧のなかでも走行可能と、屋外での利用も想定されています。

 

そんなSpotは活躍の場を世界中に広げており、日本では鹿島建設が土木工事現場で測量業務や安全巡視のため、Spotを導入することを2020年2月に発表しました。シンガポールでは2020年5月から公園などで人々にソーシャルディスタンスを保つよう呼びかけるパトロールロボットとして試験導入されています。

 

Spotの活躍の場をさらに広げるためボストンダイナミクスは、ロボットの遠隔制御ソフトを開発するニュージーランドのRocosと提携しました。これによりSpotのカメラやセンサーから送られた情報をもとに、Rocosのプラットフォーム上でSpotを動かし、Spotを遠隔で操作させることが可能となったのです。

 

この遠隔操作のテストとして、ニュージーランドで牧羊犬としてSpotを操作する様子が撮影されました。放牧された何百頭もの羊や牛を見張ったり、オオカミなどの動物や盗難などから守ったり、さらに家畜小屋まで誘導したり、Spotは遠隔操作によってこれらの仕事を本物の牧羊犬のように行ったのです。初期のテストではアメリカのボストンダイナミクスから遠隔操作を行ったそうで、海を超えた遠隔地からも操作することが確認されたとのこと。

Spotのような遠隔操作技術の開発は食料問題や労働力問題の解決につながっていくことが期待されます。しかし、その影響は社会のより広い分野に及ぶかもしれません。

ペンギンの糞から「笑気ガス」。環境的にはそんなに笑えないかも……

南極に生息するペンギンの糞から大量の笑気ガスが排出されている——そんなユニークな論文が先日発表されました。しかもこの研究を行うため現地に行った研究者たちは、笑気ガスのせいで、頭痛になったり若干おかしくなってしまったのだとか。笑気ガスとはいったい何なのか? そしてなぜペンギンの糞からな笑気ガスが排出されるのでしょうか?

 

医療現場で使われる笑気ガス

↑「ねえ、オナラした?」

 

笑気ガスとは亜酸化窒素のこと。このガスを吸った人はリラックスして、心地よくうっとりする気分になると言われています。その効果を利用して、医療現場では麻酔用として使われており、特に歯科医院でよく利用されているそう。

 

そんな笑気ガスが南極沖に浮かぶサウスジョージア島で群れをなして生息するオウサマペンギン(別名キングペンギン)の糞から大量に排出されていることを、デンマークのコペンハーゲン大学の研究チームが突き止めました。現地で数時間にわたって調査を行っていた研究チームのメンバーは、大量のペンギンの糞に囲まれていることで気分が悪くなったり頭痛になったりした人もいたそうです。

 

ではなぜ、オウサマペンギンの糞から笑気ガスが排出されるのでしょうか? 研究チームによると、ペンギンが主食とする魚やオキアミには窒素が多く含まれており、これが糞にも含まれ、そして土壌のバクテリアによって窒素が亜酸化窒素に変換されるとのこと。

 

環境問題とも関連

この笑気ガスが話題を集めている理由のひとつには、それが環境破壊につながるということもあるでしょう。亜酸化窒素はオゾン層を破壊する温室効果ガスのひとつであり、環境への負荷は二酸化炭素の300倍にもなると言われています。しかも今回見つかったオウサマペンギンの糞から排出される笑気ガスはとても濃度が高いそうです。

 

ペンギンの糞から排出されている亜酸化窒素の量は、地球全体のエネルギーから考えれば少ない量かもしれないですが、今回の発見が地球環境に与える影響を今後調査するうえで役立つと期待されます。

「地球を守るバリア」に変化。「磁場」が弱ると何が起きる?

方位磁針の針が必ず北の方向を指すのは、北極付近にS極が、南極付近にN極がある磁場が地球に存在するからです。しかし、欧州宇宙機関の発表によると地球の磁場は弱まってきているそう。現在、磁場に何が起きており、その変化は地球にどんな影響を与えるのでしょうか?

 

地球を守る「磁場」のはたらき

↑地球のバリアは大丈夫?

 

地球は磁場を持つ惑星のひとつです。地球全体がまるで大きな磁石になっているように、北極付近はS極、南極付近はN極となるような磁場が作られています。宇宙空間には「宇宙線」と呼ばれる高エネルギーの放射線が飛び交っていますが、磁場はこの宇宙線から地球を守る働きなどがあるのです。つまり、磁場は地球のバリアであり、地球上の生物にとってとても大切な存在なのです。

 

そんな地球の磁場は、強さや向きが刻々と変化していることがわかっているのですが、ヨーロッパ諸国が共同で設立した宇宙開発機関である欧州宇宙機関(ESA)の研究で、近年磁場が弱まっていることがわかったのです。

 

ESAの発表によると、過去200年間で地球全体の磁場の強さが平均で9%弱まっているとのこと。その弱まりが特に顕著なのが「南大西洋異常帯」と呼ばれるアフリカと南アメリカの間。1970年~2020年で、この一帯の磁場は2万4000ナノテスラ(※)から2万2000ナノテスラまで減少し、南大西洋異常帯が毎年20キロのペースで西方向に移動していることも明らかになりました。さらに、ここ5年で磁場の弱い部分がアフリカ南西部で生じており、南大西洋異常帯が2つに分裂する可能性も出てきたのです。

 

(※)ナノテスラ:磁場の強さを表す単位。

 

N極とS極が逆転!?

南大西洋異常帯でみられたこの磁場の変化は、地球全体の磁場にも影響を与えるものなのでしょうか? 地球上の歴史のなかでN極とS極が入れ替わる「地磁気逆転」の減少はたびたび起こっています。地磁気逆転の原因はまだすべて解明されたわけではありませんが、最近では78万年前に起き、過去360万年の間にも少なくても11回は地磁気逆転が起きていることがわかっています。ただし、今回ESAが発表した南大西洋異常帯の地磁気の変化は、通常の変動範囲内とみられるとのこと。

 

今回の発表でESAは、磁場が弱まっているとわかった南大西洋異常帯付近を飛行する衛星や宇宙船に注意を促しています。磁場の弱まりで高エネルギーの荷電粒子が流入し、誤動作や異常などを経験する可能性が高まるそうです。

 

地球の磁場は、地磁気逆転のことも含め、まだ不明なことも多い分野ですが、今後の磁場の変化にかかわる研究がこれらの解明につながっていくかもしれません。

引越しゴミ「ゼロ」を目指すーーアート引越センターが挑戦する「SDGs」の取り組みとは?

紙資源を使わない「エコ楽ボックス」を開発〜アートコーポレーション株式会社

 

ここ数年、耳にする機会が増えてきた「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」。2015年に国連サミットで採択され、政府や自治体はもちろん、企業も積極的に取り組むようになっています。引越しの「アート引越センター」でお馴染みのアートコーポレーションも、早くからSDGsの考えに賛同し、持続可能な世界の実現を目指していると言います。

 

お客様の「あったらいいな」をカタチに

「当社は、『引越し』を専業とする会社として初めて創業し、引越しを“運送業”としてではなく、“サービス業”として発展させてきました。そして、お客様の“あったらいいな”をカタチにして、いつも先を行くサービス、いつも喜ばれるサービスを提供してきました」と話すのは、経営企画部の趙 培華(チョウ バイカ)さんです。

 

今回、話をうかがった経営企画部の趙 培華さん

同社は“関係者の共存と社会貢献活動の実践”をグループの基本理念の一つに掲げ、創業当時から、アートグループ全体で数々のCSRに取り組んできました。

 

「このような取り組みは、2015年9月に国連サミットで採択されたSDGsの目標と合致する部分も多く、グループ全体としてもSDGsに賛同すると同時に、これまでの取り組みをSDGsの各目標に合致する内容に再分類し、アートグループとして持続可能な世界の実現に向けた活動を実践することにしました」(趙さん)

 

SDGsの活動については、2018年11月に関西SDGsプラットフォームへ登録・掲載、同年12月には同社のホームページへ掲載しました。また2019年2月には、外務省のSDGsプラットフォームへも登録・掲載し、今年の6月には、内閣府の『地方創生SDGs官民連携プラットフォーム』の入会申請も承認されました。

 

プラスチック製で再利用が可能な「エコ楽ボックス」

SDGsの17目標について、グループ全体で数々の社会貢献活動に取り組む同社。そのなかで重きを置いたのが“ゴミゼロの引越し”を目指すということでした。

 

「『暮らし方を提案する企業』として、お客さまが新生活を快適に送れるようサポートしていくと同時に、地球温暖化、資源枯渇、廃棄物などの問題に向き合ってまいりました。その流れのなかで、少しでも引越し時の資材を減らし、環境にやさしい取り組みはないかと考え、使用済み段ボールを回収、再利用を始めたのです。1994年には『リ・ユース資材』を導入しましたが、当時のニーズには合いませんでした。しかし、社会が環境を意識する時代となり、また、お客様のニーズを直接お聞きしながら改良を重ね、『お引越をもっと楽に、もっとエコに。』というコンセプトのもとで開発されたのが『エコ楽ボックス』です。2008年7月に新たなエコ資材としてサービスを開始しました」(趙さん)

 

エコ楽ボックス(左)と従来の梱包(右)

『エコ楽ボックス』とは、紙素材を一切使用せず、食器をそのまま梱包できるプラスチック段ボールです。段ボールや割れ物を包む梱包材など引越しは多くの紙資材を使用しますが、そういったゴミを減らすうえ、再利用が可能なため、環境だけでなく素材費用の節約もできます。現在では『エコ楽ボックス』シリーズとして食器類だけでなく、シューズケース、テレビケース、照明ケース、ハンガーケースを展開しています。

 

エコ楽ボックスの使用例

また、“ゴミゼロの引越し”に向け、ペーパーレス化も積極的に推進。タブレット見積システムを使用し、従来複写式だった手書きの見積書を電子化しています。これは業務の効率化にも繋がり、『働き方改革』の一環として労働環境の改善にも一役買っているのです。

 

タブレット見積システムでお客様に説明

 

緩衝材の使用も約22%の削減を実現!

地球にとっても、客にとっても“やさしい引越し”を実現した「エコ楽ボックス」。改めてメリットを見ていくと、以下があげられます。

 

①紙資材を一切使用しないため、紙資源の節約ができる。

②ボックス本体はプラスチック段ボールでできた外ケースと緩衝性に優れるポリエチレン製の内仕切りを使用するため、食器が割れにくいだけでなく耐水性と密閉性も高い。

③そのまま食器を入れて簡単に梱包できるため、食器の荷造りや荷解きにかける時間が省ける。

④年配の方から子供までどんな人にも負担なく食器の梱包ができる。

⑤無料でレンタルの形で提供するため、利用客の財布にも優しい。

⑥ケースと仕切りともに折りたためるため、省スペースの保管が可能。

⑦反復資材のため、環境に優しい。

 

「エコ楽ボックス」を使うかどうかは利用客に委ねられていますが、引越し費用の軽減につながるほか、「これまでの引越しは食器を紙で包装していたので、引越し後の食器を片付けた時に、紙のゴミがたくさん出ていた。今回『エコ楽ボックス』を使ったところ、引越し後のゴミは一切なく、とてもエコに感じた」というようなコメントも多く聞かれるそうです。社会貢献の意義も感じられるためか、『エコ楽ボックス』は利用客からも高く評価されているのです。そして資源の節約という点でもその成果は顕著に表れています。

 

「食器を紙またはエアキャップのような緩衝剤でつつんで通常の段ボールの中に入れる従来の食器梱包方法と比べて、『エコ楽ボックス』を使用したことで、緩衝剤の使用は約22%削減されました(2015年と2017年の引越し件数との割合で算出)。使用しなかったエアキャップの総面積を算出したところ、2,255,904㎡になり、何と東京ドームの約48個分に相当します」(趙さん)

 

お客様の“あったらいいな”を形にして、様々な取り組みをしていきたいと話す同社。これからも、エコ資材の開発と紙資源の節約ができる新たなサービスの開発に注力しながら、ペーパーレスに繋がるデジタル化を進めていきたいと話します。

 

“ゴミゼロ”実現のための職場環境作り

「SDGsの17目標についてはすべて賛同している」という同社。一般トラック運送事業者の一員として、当然のことながら“事故ゼロ”も目標に掲げています。車両運行では、デジタル運行記録装置やドライブレコーダーを搭載し、走行中の負荷、速度、時間をデータ化することで安全指導を徹底。大阪府警察による「大阪府無事故・無違反チャレンジコンテスト」にも全支店が参加していると言います。

 

そしてこの“ゴミゼロ”“事故ゼロ”を実現するために、従業員の健康促進や、より働きやすい職場環境づくりにも注力しています。例えば、引越し業界として初めて定休日を設け、長時間労働や社員の健康などの課題解決に取り組みました。また、女性従業員からなる社内プロジェクト「女性活躍推進プロジェクト“Weチャレンジ”」を立ち上げ、女性が働きやすい環境を自ら考え、実行することで、健やかに働ける環境づくりを目指しています。これまで、「いきいきと働くための健康教室」「運動と休息で健康づくり」「異業種企業との交流会」など、社内のコミュニケーション活動を充実させてきました。

 

「女性活躍推進プロジェクト“Weチャレンジ”」の会議風景

対外的にも、日本全国さまざまな地域事業への協賛を通じ、地域が抱える課題の改善や、地域の盛り上げに取り組んでいます。自治体と提携した「高知県移住支援特使」では、Uターン・Iターンによる移住促進策を支援。「秋田竿燈まつり」や「さっぽろ雪まつり」、「芦屋サマーカーニバル」ほか、その土地に根付いているお祭りやイベントに参加・協力し、地域活動に貢献しています。

 

さらに関東、関西エリアのトラックには、AED(自動体外式細動器)を順次搭載。仕事柄、トラックで住宅街など街中の人命救助にあたることができると考えてのことです。AEDに関しては、グループ会社のアートチャイルドケアも、保育施設への設置を順次進めているそう。コマーシャルでもお馴染みのキャッチフレーズ“あなたの街の0123♪”の通り、地域のことを考え、いつまでも住み続けられる街づくりに貢献しているのです。

 

AEDのステッカーが目印

 

2030年までに“ゴミゼロ”の引越しをめざす

“引越し専業会社”という枠にとらわれず、“暮らし方を提供する企業”として、様々な取り組みを進めてきた同社。SDGsの活動について、今後どう考えているのか最後にうかがいました。

 

「これからもCS(顧客満足)とES(従業員満足)を経営の機軸に置いて、引越し事業を核とした“暮らし方を提案する”企業グループという経営方針を維持していきます。そして『the0123』ブランドの強みを活かし、引越しを中核としながらも、さらに暮らしに関わる企業へと事業領域を拡大していきたいと考えています」(趙さん)

 

“「ゴミゼロ」「事故ゼロ」をめざす”“働きがいのある環境作りをめざす”“より暮らしやすい社会をめざす”“地域の活性化”などさまざまな目標を掲げ、その実現に向け、取り組んできた同社。今後はさらに高みを目指していくと意気込みます。

 

「CSに関しては、引き続きお客様の“あったらいいな”の気持ちを大切にして、お客様により一層満足いただくことをサービスの原点とする姿勢で、2030年までに“ゴミゼロ”の引越しをめざすと共に、『エコ楽ボックスシリーズ』のような地球環境に優しい資材をさらに開発することで、アートならではの高品質なサービスを提供し続けていきます。また、ESに関しては、今後も従業員の健康促進を実施し、長時間労働や働く環境の改善に向けて、定休日の設定や業務のデジタル化を行い、より働きがいのある会社になるように取り組んでいきます。こうしたSDGsの理念にも共通しているCSとESの取り組みで、社会貢献活動を実践し続けていきます」(趙さん)

 

 

 

 

ロックダウンでささくれだった心を癒す! イタリアで国内観光の主役となりそうな「アグリトゥーリズモ」とは?

世界中で海外旅行が控えられているなか、観光業界では国内旅行が重要になっています。観光立国・イタリアも内需を喚起しようとしていますが、ソーシャルディスタンスが基本となった現在、観光地は新型コロナ対策に頭を悩ましています。しかし、そんななかで気を吐いているのが「アグリトゥーリズモ」と呼ばれる形態のホテル。ポストコロナの時代において、アグリトゥーリズモは観光業の支柱となるかもしれません。

↑国内旅行でも十分いいかも

 

「イタリア国内で過ごしましょう」

日本人の間でも安定した人気を誇る観光地イタリアは、イタリア政府のキャンペーンも功を奏し、2014年から順調に観光客数を伸ばしてきました。2018年に海外からイタリアを訪れた観光客数はおよそ4億3000万人で、そのインバウンド消費はイタリア経済にとって重要です。

 

中国と並び、イタリアはユネスコの世界遺産の数が世界第1位。文化的な魅力に加え、夏のバカンスシーズンには南欧の灼熱の太陽を求めて、ドイツや英国、北欧の富裕層が大挙して南下してくるのが普通の光景でした。ただ、今年はどう考えてもその可能性は低いというのが衆目の一致したところで、そうなると業界が頼るのは内需ということになります。

↑世界遺産のコロッセオ

 

巧みな言葉遣いでコロナ危機を国民とともに乗り切ってきたコンテ首相は、この夏のバカンスは「イタリア国内で過ごしましょう」と呼び掛けています。もちろん感染予防が第一の理由ですが、国内の富裕層に国内でお金を使ってほしいという狙いもあるでしょう。

 

イタリア政府は、所得が低い家庭には国内で消費できるバカンス・ボーナスを支給するとまで発表していますが、この動きを理解するには、夏のバカンスが慣習化している欧米では否応なしに企業が休業に入ってしまうという事情も考慮しないといけません。

 

そもそも、欧州におけるバカンスの趣旨は、1か所に腰を落ち着けて閑暇を堪能することにあります。日本のツアーのように各地の観光地を巡るということはまれで、海や山などの大自然の中で目的もなくリラックスするのが理想とされているのです。

 

特にイタリア人は、バカンスシーズンはローマやフィレンツェの街は観光客に明け渡し、海や山に向かうのが一般的。この傾向はポストコロナの今年も変わらないでしょう。ただ、イタリア人がこよなく愛する海は、シャワールームや更衣室など、「密」による感染面での心配が高く、人々が押し寄せる人気の砂浜も同様に密の状態が安易に生まれてしまう可能性もあります。

 

そこで注目したいのが、アグリトゥーリズモ。基本的にアグリトゥーリズモは、農家や酪農家が敷地の一角を客に開放し、自家製の食材やワインを提供するというサービスです。そのため、田舎や山の一軒家がその大半を占め、事業形態はほぼファミリービジネスとなっています。客室数が少ないうえ、敷地も広大であるため、ソーシャルディスタンスを保つことがとても容易なのです。

 

都会の喧騒からほど遠い一軒家のアグリトゥーリズモには、どうしてもクルマを使い少人数で赴く必要があります。旅の移動で公共交通機関を使用しなければ、新型コロナに感染する可能性はさらに低くなるというメリットもあるわけですね。

↑山もいいけど、海も外せない

 

長期滞在しても安価。キャンピングカーもOK

もともとアグリトゥーリズモには、さまざまな利点がありました。まずは、都会の洗練されたサービスとは異なる営業形態であるため、長期滞在をしても価格が抑えられるという点。提供される食事もイタリアでは「カザレッチョ」と呼ばれる田舎風の素朴なもので、ファミリービジネスが大半のため、大抵はその家のマンマが作ってくれるものが提供されます。

 

規模が大きいアグリトゥーリズモになると、週末に大自然を目指してやってくる人たちに向けたレストランを兼業している場合もありますが、いずれにしても敷地は広いため、街のレストランに比べるとソーシャルディスタンスは安易に保てます。

 

家畜の動物がいたり森があったり、家族連れでも時間つぶしに困ることはありません。長期滞在であれば、ここを拠点に近くの町や海などを訪問することも可能で、その日の気分でバカンスを楽しめるわけです。

 

家庭の経済的事情によってはアグリトゥーリズモの部屋を予約することが難しいこともありますが、そのようなときは敷地の一部をキャンプ場として開放しているアグリトゥーリズモを探すという選択肢もあります。

 

例えば、キャンピングカー族向けにサービスを提供する「Agricamper Italia」では、同社が契約するキャンプ可能なアグリトゥーリズモを網羅的に紹介していますが、そこでキャンプした客は、アグリトゥーリズモが生産・販売している物品を購入するという形で現地にお金を落としています。

 

ワインに特化した「エノトゥーリズモ」はさらに人気

農家や酪農家が多いアグリトゥーリズモですが、特に人気を誇るのがワインに特化した「エノトゥーリズモ」というカテゴリー。ブドウの木で覆われた丘陵地帯は心が洗われるような美しさがあり、北イタリアのランゲ地方は歴史的・文化的価値も認められて、ユネスコの世界遺産となっています。

 

ランゲほど高名でなくてもイタリアには著名なブドウの銘柄が数多くあり、各地でエノトゥーリズモが展開されています。新鮮な農産物やチーズを食べることができるアグリトゥーリズモも魅力は多いのですが、それがワインともなればイタリア人ならずとも盛り上がります。

 

ワインに合わせて美味しい料理が楽しめるバカンスともなれば、ワイン好きの人の満足度もより高くなります。エノツゥーリズモ業界も2020年夏のバカンスには大いに期待しており、ブドウ畑内をトレッキングしてロックダウン中のささくれだった心を癒す、というプランも進行中だそうです。

↑こんな雄大な景色を見れば、荒れた心も癒されること間違いなし

 

自然への回帰が進むといわれるポストコロナの時代では、バカンスの過ごし方も以前と変わる可能性があります。大自然のなかに佇むこうした宿泊形態が、今後は観光業の支柱となるかもしれません。