その歌声に全米が感動! ハワイ出身の高校生が人気オーディション番組で優勝

ハワイ出身の有名人といえば、バラク・オバマ元大統領をはじめ、アーティストのブルーノ・マーズ、元力士の曙、小錦など……。そんなハワイ出身の新しいスターとなりそうなのが、弱冠18歳の高校生、イアム・トンギさんです。

↑スター候補となったハワイ出身のイアム・トンギさん

 

イアムさんが脚光を浴びているのは、アメリカの人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』で先日優勝したから。決勝まで勝ち進んだイアムは、ジョージア出身の出場者と決勝で対戦。亡くなったという父親に捧げる曲を披露し、観客の心をぐっとつかんで見事優勝を果たしたのです。

 

18歳とは思えない貫禄のある身体から発せられる、うっとりするような優しく澄んだ歌声。あっという間に会場中がイアムの歌声に引き込まれていました。彼のパフォーマンスを紹介した動画には、「なんて才能の持ち主なんだ!」「とろけそうで、心を打つ歌声だ」「いままでで最高のアイドル誕生!」などと、絶賛するコメントであふれています。

 

一躍ハワイで時の人となったイアムさん。決勝まで進んだ出場者が故郷に戻る「ホームタウンヒーローズ」の撮影のため、地元オアフ島カフクに戻ると、垂れ幕を持った地元住民が道路の両側に並び、イアムさんは熱烈な歓迎を受けていました。

 

今回の成功をきっかけに、イアムさんはプロのアーティストとして活躍することになるかもしれません。彼の将来に全米が注目しています。

 

【主な参考記事】

Hawaii News Now. After a storybook season, Hawaii’s own Iam Tongi wins ‘American Idol’. May 22 2023
KIT. Hawaii welcomes Iam Tongi back home to celebrate him making into the top 3 . May 21 2023

 

コロナ禍明けで高まる旅気分。今こそ知って得する「旅行ハック」とは?

新型コロナウイルスが5類に移行し、各種の規制が緩和され、コロナ前の生活に戻りつつあるいま。そろそろ「控えていた旅行を楽しみたい」と思う方もいるでしょう。そこで、お得で安心な旅行を実現するのに役立つ「旅行ハック」を紹介しましょう。

↑やっぱり得しないとね

 

ビザの緩和や円安の影響で訪日観光客が急増した2022年10月、旅行サイトのエクスペディアが「2023年の旅行節約術」を発表していました。すでにご存知の方もいるかもしれませんが、発表当時の日本はまだコロナ禍にあっただけに、この情報に気が付かなかった人も少なくないかもしれません。

 

この旅行節約術の要点だけを振り返っておくと……

 

  • 日本における国内線は土曜日、国際線は日曜日に予約するべき。国内線を土曜日に予約すると、金曜日に予約する場合に比べて平均で約41%、国際線なら日曜日に予約すると最大で約35%もお得な価格になるそうです。
  • 国内線の航空券を最安値で購入できるのは出発の39日前から。国際線の場合は出発の約10日前に価格が最高値になるとのことで、なるべく早く予約したほうが良いそうです。
  • 融通がきくなら、旅行のスケジュールは「金曜日発」に合わせて計画を立てるのがおすすめ。国内線も国際線も金曜日に出発すると平均で13~15%お得になるとのこと。
  • 欠航は、21時以降に出発するフライトで発生しやすいそう。21時前に出発の便に比べると、約3倍も欠航の確立が高くなります。

 

遅延・欠航、荷物が紛失したら…

一方、最近、米国で話題になっている旅行ハックは、フライトの遅延と欠航、荷物の紛失に関するもの。

 

アメリカ連邦航空局によると、2022年に報告された荷物の紛失は1万5453件。フライトの遅延は1万1000件以上、欠航は約2600件に上っています。これらは確かによくあるトラブルであり、フライトの遅延や欠航が起きた場合、多くの人は「何もできることがない」と思うかもしれません。

 

しかし、そんなときのハックについて紹介しているのが、エリカ・カルバーグ。TikTokで900万人のフォロワーを持つインフルエンサーで、弁護士です。

 

エリカさんは、運輸省と航空会社の約款を見るべきと主張。「運輸省のウェブサイトには、フライトの遅延・欠航の場合にどうすればいいか記載されている」と話しています。例えば、航空会社の都合でフライトが3時間以上遅れた場合、客は食事のほか、夜間なら宿泊場所を提供される権利があるとのこと。

 

また、預けたスーツケースなどが破損した場合は、航空会社が最高3800ドル(約52万6000円※)までその責任を負う可能性があるとのこと。エリカさんは、荷物を預ける前にスーツケースの写真を撮っておき、追跡タグも付けておくのがおすすめと言います。これにより、万が一スーツケースが破損しても、そのことを証明できるうえ、追跡タグで紛失されていないかも確認できるのです。

※1ドル=約138.4円で換算(2023年5月19日現在)

 

2023年の夏こそは「久しぶりに旅行を楽しみたい!」と考えている方は、これらのハックを参考にしてみてはいかがでしょうか?

知る人ぞ知る「コーヒーの意外な飲み方」に米メディアが仰天!

スターバックスで、コーヒーにスプーン1杯のオリーブオイルを加えた新メニューが登場するなど、コーヒーに何かをプラスする飲み方に少しずつ注目が集まっています。そんなアレンジの一つに塩をプラスする方法をご存知ですか?

↑マジでうまい!!

 

最近、アメリカのメディアでも話題になっている「塩コーヒー」。その飲み方は難しくありません。コーヒーを入れたら、そこにひとつまみの塩を加えるだけです。

 

できあがったコーヒーは、苦味が和らぎ、味が少し引き締まるのだそう。それもそのはず、塩には食べ物の苦味を抑える効果があることが、以前より知られているのです。例えば、料理でナスや芽キャベツに塩を振るのは、素材そのものにある苦味を抑える効果を期待する意味があるそうです。

 

1995年に発表された塩に関する論文では、塩に苦味をマスキングする働きがあることが改めて証明されました。塩には、旨味や風味を引き出す働きもあり、甘いものと苦いをものを混ぜて、そこに塩を加えると、甘味と苦味がそれぞれ強く感じられるようなったと言われています。

 

そんな塩を加えたコーヒーは、新しい飲み物ではありません。第二次世界大戦の時代までさかのぼると、当時は海水を真水に処理する装置がまだ不十分だったため、アメリカ海軍の兵士たちは塩気が残る水でコーヒーを飲んでおり、そのときからコーヒーの苦味が和らいでいることに気づいていたと言われています。

 

アメリカ以外に目を向ければ、ベトナムでは塩コーヒーを飲む習慣があり、スウェーデンなどの北極圏では、塩漬けにした肉やチーズをコーヒーに入れて飲む習慣があるなど、世界で塩コーヒーを楽しむ食文化があるのです。

 

筆者もコーヒーに塩を少量加えてみたところ、確かにコーヒーの苦味がまろやかになっているのを感じました。もちろん、コーヒーを飲むたびに塩を加えていると塩分過多になる心配がありますが、コーヒーの苦味が得意でない場合、ミルクの代わりに塩を加えてみたり、コーヒーのお供にチーズやハムなどの塩気の強い食べ物を試してみたりするのも良いかもしれません。

 

【主な参考記事】

Science Alert. People Are Adding Salt to Their Morning Coffee For a Rather Bizarre Reason. May 3 2023

米「ウェンディーズ」がドライブスルーでAIを試験導入。数十億通りの注文をさばけるか?

最近のテック関連の話題といえば、ChatGPTをはじめとしたAI技術。人材不足にあえぐ飲食業界も当然そこに目を向けているでしょう。最近では、米ファストフード店のウェンディーズが、AI搭載型のチャットボットをドライブスルーに試験導入するというニュースが飛び込んできました。

↑AIを試験導入する米・ウェンディーズ

 

ウェンディーズがタッグを組んだのは、Google Cloud。同社の生成AIと大規模言語モデル(Large Language Model〔LLM〕)の技術を使って、「Wendy’s FreshAI 」と名付けられたAIチャットボットが開発されました。オハイオ州コロンバス地区の店舗で6月より試験導入し、ドライブスルーの客に対応していきます。

 

しかし、ウェンディーズでの顧客対応で課題となるのが、メニューの複雑さ。ウェンディーズでは注文をカスタマイズすることが可能なため、AIチャットボットが受ける注文の組み合わせは数十億通りにもなるそう。そのため、誤って認識したり、誤った注文を受けたりすることも考えられます。

 

さらに、客が正しく商品名を言わずに注文することもあるでしょう。例えば、客が「ミルクセーキ」と言ったとき、それはウェンディーズで販売されているミルクシェイクの「Frosty(フロスティ)」のことであると判断できなければなりません。おまけに、周囲から騒音が聞こえるなか、客の声をはっきりと聞き分けることなども求められます。

 

テック企業のIntouch Insightによると、2022年時点でAIチャットボットによる注文の精度は79%だったそう。ウェンディーズは、これを85%まで引き上げたい考えです。

 

他のファストフード店では、マクドナルドもAIチャットボットの導入を発表したほか、ポパイやソニックも試験導入を行っているところ。近未来のファストフード店では、AIの接客が当たり前になるかもしれません。

 

【主な参考記事】

The Guardian. Wendy’s to test AI chatbot that takes your drive-thru order. May 10 2023
Wendy’s News Release. Wendy’s Taps Google Cloud to Revolutionize the Drive-Thru Experience with Articial Intelligence. May 9 2023

豪の森林地帯で5日間行方不明の女性を救出。絶体絶命の状況を救ったのは…

最近、オーストラリアの人里離れた森林地帯で、ある女性が、運転していたクルマが沼にはまって動けなくなり、5日後に救出されたというニュースが報じられました。彼女は健康上の理由で歩くことができないうえ、携帯電話もつながらなかったそう。絶体絶命の中、彼女はどうやって生き延びたのでしょうか?

↑リリアンさんを救出する際の様子

 

この女性の名前はリリアン(48歳)。母親に会うため、ブライトという町からダートマスダムという町に向かいクルマを走らせていました。すると行き止まりにぶつかり、クルマの向きを変えようとしたところ、泥にはまってしまったのです。

 

そこは、ユーカリの木が生い茂る林の中。しかも不運なことに、携帯電話の電波が届かない場所で、彼女は健康上、歩くことが困難でした。しかも、気温が1℃近くまで下がる寒さが追い打ちをかけるように彼女を襲ったのです。

 

リリアンが持っていたのは、母親にプレゼントするつもりだった小さなスナックとキャンディ、そして1本のワイン。クルマの暖房をつけ、それらで彼女は飢えをしのいでいたのです。

 

救出のきっかけとなったのは、家族が警察に相談したから。毎年、家族の誕生日には「ハッピーバースデー」の電話がかかってきたのに、今年は電話がなかったことから、不審に思った家族が警察に通報。ヘリコプターも出動する捜索を展開し、ついに5日後、ヘリコプターに向かって手を大きく振るリリアンを発見。パトカーがかけつけて救出したのです。地元警察が公開した動画では、警察官が近づくと、リリアンは両手を大きく広げ安堵している様子がよくわかります。

 

後からわかったのは、リリアンはお酒を飲まないということ。しかし持っていた1本のワインを飲み干して、この苦難を乗り越えたそうです。

 

もしあなたが、同じような場面に遭遇したら、どうやってその窮地を脱しますか?

 

【主な参考記事】

NPR. How wine and candy helped an Australian woman survive 5 days in the bushland. May 10 2023
Victoria Police. Missing woman Lillian rescued by Air Wing. May 5 2023

4月に38.8℃を記録! スペインが猛暑日の屋外労働を禁止へ

2022年のスペインは同国史上最も暑い年でした。猛暑のために多くの人が亡くなりましたが、2023年はそれをできるだけ防ぐために、スペイン政府は猛暑の日に屋外で労働することを禁止する方針を発表しました。

↑猛暑日では身の安全を優先

 

2022年の夏、ヨーロッパの国々が熱波に見舞われ、軒並み記録的な暑さの日が続きました。スペインの年間を通した1日の平均気温は、これまで13℃から14℃前後だったのに、2022年の平均は15.5℃となり、初めて15℃を上回ったのです。

 

2023年は、昨年と同様の厳しい暑さに見舞われることが懸念されています。すでに4月は史上最高気温を更新。イベリア半島では同月の平均気温が例年より4.7℃も高くなり、4月27日にはスペイン南部のコルドバ空港で38.8℃を記録。同時に、厳しい干ばつも危惧されています。

 

この暑さが市民生活に危険を及ぼすことに危機を感じたスペイン政府は、猛暑日の屋外での労働を禁止する方針を発表。昨年夏には、道路の清掃員を含め、暑さのために4744人の人が亡くなったと報道されています。

 

同国の気象庁(AEMET)が警告を出したら、屋外の作業が禁止されます。対象となるのは、農業従事者、警察、消防士、庭師、清掃員など。この方針はさらなる議論を経て正規に導入されると見られています。

 

日本でも、2022年夏は最高気温が40℃を超える地点があったほか、2023年4月には複数の地点で真夏日を観測。本格的な夏を迎える前に、真夏並みの暑さに見舞われる日も出てくる可能性があり、スペインの話も他人事とは言えないかもしれません。

 

【主な参考記事】

AP NEWS. Spain plans to ban outdoor work in extreme heat. May 11 2023
TIME. Spain and Portugal Experience Hottest April Ever Recorded. May 8 2023
SPAIN in ENGLISH. Confirmed: 2022 was Spain’s hottest year on record. January 5 2023

アメリカも緊急事態宣言終了! 今日から大勢来るのは…

日本では5月8日に新型コロナウイルスが5類に移行しましたが、5月11日にはアメリカでも国家非常事態宣言が解除されました。これに伴い、本日12日よりアメリカに入国する外国人に義務付けられていたワクチン接種証明の提示が不要になります。しかし、そんなアメリカでいま、日本ではあまり考えられないような事態が起きています。

↑アメリカとメキシコの国境が大変なことに

 

新型コロナに関連する入国規制は国によってさまざまですが、アメリカでは2021年11月8日から、アメリカに入国する外国人に対し、ワクチン接種を完了していることを求めていました。しかしホワイトハウスは、新型コロナウイルスの死者は2021年1月以降で95%、入院患者数は91%にそれぞれ減っていることから、国家非常事態宣言を5月11日で解除することを発表。5月12日からは外国人がアメリカに入国する際、ワクチン接種を証明する必要もなくなったのです。

 

これによって影響が出るとみられているのが、海外からの旅行客の増加ではなく、移民の大量流入。バイデン大統領が5月1日に国家非常事態宣言を解除することを発表していたことに加えて、不法移民を即時送還できる「タイトル42」という措置も同時に失効することが明らかにされていました。そのため、アメリカへの移住を希望する人々がアメリカとメキシコの国境付近に押し寄せています。

 

5月3日の現地報道によると、すでに1日で7500人ほどが国境付近に押し寄せており、その数はさらに増加する見込み。バイデン政権は1500人の軍隊をメキシコとの国境に追加で派遣する計画と発表しています。

 

新型コロナの5類移行で社会・経済活動が活性化すると見られている日本。一方、アメリカでは、1年近く前からマスク無しの生活は当たり前。国家非常事態宣言の解除によって現地の人々の生活に大きな変化があるとは考えられませんが、その代わりに移民の急増という古くて新しい問題に対処しなければなりません。

 

【主な参考記事】

CNN. Plans set in motion as Biden administration eyes end of Covid-era border restriction. May 3 2023

SDGsを先取り! チャールズ英国王が半世紀前から陰口を叩かれても地球環境保護を訴えた理由

2015年9月、ニューヨークの国連本部で行われた国連持続可能な開発サミットで制定された17の目標『SDGs』は、「このままでは地球はもたない」あるいは「地球に人類が生きられなくなる」ことを周知させ、世界中の多くの人が意識や暮らしを見直すきっかけとなりました。ところが、そこからはるか半世紀以上も前から地球環境の危機的状況を憂慮し、環境保全のための活動を続けてきた人物がいます。

 

それが、2023年5月6日に戴冠式が迫る、イギリス国王のチャールズ3世です。日本ではあまり知られていないことに筋金入りの環境活動家であるチャールズ国王のサステナブルな姿勢から、学べることとは?

 

半世紀前……当初は孤独な戦いだった

チャールズ国王が地球環境の保全に関心を持ったのは1960年代後半頃だと話すのは、イギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史を専門とする関東学院大学の君塚直隆教授です。

 

「国王がケンブリッジ大学の学生だった20歳の頃には、地球環境についての考えをお持ちでした。国王は夏になると、2022年9月にエリザベス女王が亡くなったスコットランド北部のバルモラル城で過ごし、クリスマスから年初にかけてのホリデーシーズンにはイギリスのノーフォーク州にあるサンドリンガムで過ごしていました。いずれも大自然に囲まれた環境です。こうした場所で幼少期を送られたことが、のちに地球環境の保全について考えるきっかけになっているのではないでしょうか。また、国王のお父様である亡きエディンバラ公も世界自然保護基金の総裁を長年務めていたこともあり、徐々に関心を深めていかれたのではないかと思います」(関東学院大学教授・君塚直隆先生、以下同)

 

英国の皇太子といえば、いずれは世界15か国の英連邦をはじめとする多数の領土に君臨する存在。その影響力をもって地球環境の保全を声高に叫べば、一大ムーブメントになりそうですが……。

 

「SDGsが広まった今でこそ、世界中に賛同者がいますが、55年も前のことです。当時、チャールズ国王が森林破壊や大西洋の汚染、魚の乱獲について訴えても、多くの人びとにとって、それは身近な話題ではありませんでした。彼の環境保全への情熱を、“変わり者”だと揶揄する人は少なくなかったのです」

 

そして、ようやく時代が追いついてきた

↑2015年12月1日、COP21でスピーチするチャールズ皇太子(当時)

 

チャールズ国王は1976年に海軍将校から退役すると、「皇太子財団(The Prince`s Trust)」を設立。経済的に恵まれない青少年のための職業訓練の場を設けました。

 

「皇太子財団設立以降は、子どもたちの絵画教育や青少年の芸術教育、国際的な実業家の育成、医療健康の推進など、さまざまな支援団体を立ち上げました。それらの団体は統轄され、今では年間150億円以上もの事業運営に貢献する、イギリス最大級の事業団体に成長しています。しばらくは皇太子財団の活動に忙しくしていた国王でしたが、1980年代に入って国連が地球温暖化に警鐘を鳴らすようになり、1992年に国連気候変動枠組条約が採択され、地球温暖化対策に世界全体で取り組んでいくことに合意してからは、再び地球環境の保全にコミットしていきました。近年では、国連気候変動枠組条約に基づき毎年開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に可能な限り参加し、スピーチを行ってきました」

 

チャールズ国王は、皇太子財団のほかに、どのような活動を続けてきたのでしょうか?

 

「気候変動に対する取り組みをする財団をいくつも立ち上げてきました。なかでも主たるものが、熱帯雨林の保全を行う財団です。多くの企業から賛同を得たり、銀行から資金調達をしたりして、各国の首脳に呼びかけてきました。また、思いを同じくするハリソン・フォードやメリル・ストリープ、ロッド・スチュワートなど世界的スターの力も借りてプロモーションのための映像を作るなど、若い人たちに関心を持ってもらうための活動を続けました。さらに、熱帯雨林の減少を食い止めるには熱帯雨林が分布する中南米やアフリカ、南太平洋など途上国への支援が欠かせないとし、それらの国々の貧困の克服と自立をサポートする重要性についても言及しました」

 

SDGsが誕生し、「サステナブル」という言葉がようやく定着した今、チャールズ国王には先見の明があったことが立証されたわけです。

 

「今では世界中の首脳たちが、チャールズ国王が環境問題のエキスパートであることを認識しています。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんも、チャールズ国王には畏敬の念を抱いています」

 

まるで桃源郷!?
国王の庭「ハイグローヴ・ガーデン」

チャールズ国王による地球環境保全のための活動は、自身の暮らしにも根付いています。チャールズ国王が有機農法による植物の栽培や動物の飼育を行うハイグローヴは、生物多様性が息づき、持続可能性が確保された場所となっています。

 

「ハイグローヴはイギリスの南西部、グロースター州にあり、チャールズ国王が若い頃に友人から買い取ったお屋敷と庭を整備・拡張し、広大な庭園と農場にしました。ハイグローヴでは、化学肥料や殺虫剤、除草剤には頼らず、有機農法に基づく農業を行い、有機農法による安全な餌を食べる鶏や牛、豚などを飼育しています。また、邸内の電気には再生可能エネルギーや太陽光パネルを用いています。邸宅やレストランなどの暖房設備は敷地内で採れる薪を使っていますし、農場やトイレ用の水は、雨水を使っています。そしてゴミになるような木材や金属は一切使いません。環境負荷がなく、できるだけ自然に近い状態であることを大切にしているのです」

 

このハイグローヴには、レストランや売店があるそう。

 

「売店では、農場に放し飼いにされている鶏が産んだ新鮮で安全な卵をはじめ、野菜や果物、肉類、ハーブティーなどが売られています。そして、こうした販売収益もまた、国王の慈善団体に寄付されています」

 

英国王室による十人十色のSDGs

チャールズ国王の精神。家族でもある英国王室に、どのように受け継がれているのでしょうか?

 

「国王の精神を直接的に受け継いでいるのはウィリアム皇太子でしょう。祖父であるエディンバラ公の影響もあると思いますが、動物の保護活動に力を入れています。アフリカ野生動物保護組織タスク・トラストのパトロンを務め、10年以上にわたり、野生動物の違法取引や密猟への対策を訴えてきました。また、地球の危機的状況の解決に向けて、革新的な開発をした団体を称え、その活動を支えるためのアースショット賞の設立も、非常に有意義な活動です。一方、弟のハリー王子は、負傷兵のためのパラリンピックとも言える『インビクタス・ゲーム』を創立し、退役兵士らの支援をしてきました」

 

ウィリアム皇太子の妻、キャサリン妃は、ドレスからアクセサリーにいたるまで、以前着用したことのある服を公式行事で何度も着回していることが環境に配慮していると話題になりました。

 

「モノを大切に使うことは、英国王室では伝統的に行われてきました。エリザベス女王もそうしてきました。でもやはり、一番有名なのはチャールズ国王ですね。ジャケットは継ぎ接ぎしながら、靴も修理しながら、何十年も愛用します。こうした庶民的な感覚が、21世紀の今日においても、君主制がしっかりと続いているゆえんなのではないでしょうか?」

 

チャールズ国王の“ノブレス・オブリージュ”

チャールズ国王の地球環境保全への情熱は、どこから湧き出るものなのでしょうか?

 

「1つ目に、根底に“ノブレス・オブリージュ(Noblesse oblige)”という、高貴な身分の人には果たさなければならない義務と社会的責任があるという、欧米社会における基本的な精神がしっかりと根付いていることがあると思います。チャールズ国王はイギリスを含め15の国家からなる英連邦の国家元首でもあります。チャールズ国王は、国民の幸福のためにも、このままではもたなくなっている地球をなんとしてでも救わねばならない、行動しなければならない……このことを、ひたすらに体現しているのです」

 

SDGsの17の目標の中には、2030年の目標期限までに達成できないものもすでにあると言われています。チャールズ国王はどんな思いでおられるのでしょうか?

 

「何とかしたいと思っているでしょうね。イギリス帝国時代の旧領土である56の加盟国からなるコモンウェルスは、陸地面積でいうと世界の20%、人口でいえば世界の30%を占める共同体です。コモンウェルスの人びとがまず率先して行えば、コモンウェルス以外の国々も賛同してくれるだろうと、一歩ずつやっていけば地球環境問題も大きく変えられるだろうと感じているのではないでしょうか。チャールズ国王は、50年前は孤独だったわけですからね。誰も賛同する人がいない歴史があったからこそ、望みは捨てていないと思います」

「チャールズ国王が地球環境問題について孤独に戦っていた時代と比べて、現代は情報も賛同者も容易に得ることができます。そういった機会を活用しながら、人類のために、地球のために何ができるかを考えていけば、私たちは精神的な王侯貴族になれるはずです」。君塚先生は、最後にこのようなメッセージをくださいました。

 

「自分たちさえよければいい」では、もはや未来の地球は立ち行かない状態だからこそ、「全人類の幸福」という視点を持つことが、いま強く求められています。

 

プロフィール

関東学院大学国際文化学部教授 / 君塚直隆

1967年東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒業。イギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史が専門。1993年からオックスフォード大学に留学。上智大学文学研究科博士課程を修了。『立憲君主制の現在』(新潮選書)、『悪党たちの大英帝国』(新潮選書)、『エリザベス女王』(中公新書)、『王室外交物語』(光文社新書)、『イギリスの歴史』(河出書房新社)、『貴族とは何か』(新潮選書)ほか著書多数。


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

フードロス問題へ一石を投じるOisixとチョーヤ梅酒とのコラボ商品とは!?

廃棄物や副産物などに新たな付加価値を付け、商品として販売するアップサイクル。これまでアパレル関係などで注目されてきましたが、食品業界でもその動きが活発になっています。食品のサブスクリプションサービスを展開するオイシックス・ラ・大地株式会社は、チョーヤ梅酒株式会社とのコラボで、商品化されなかった梅酒の梅果実をドライフルーツに生まれ変わらせました。

 

食に関する社会課題をビジネスの力で解決

まだ食べられるのに捨てられてしまう食品、いわゆる「フードロス」の量は、令和2年度で年間522トン。うち53%の275トンが事業系フードロスです(農林水産省・環境省推計)。この課題に対して、「“これからの食卓、これからの畑”という企業理念を明示し、食に関する社会課題をビジネスの力で解決することに取り組んできました」と話すのは、オイシックス・ラ・大地の三輪千晴さん。同社は2020年11月に「グリーンシフト施策」を定め、食に関わる社会課題に向き合っています。

 

「そもそも当社のビジネスモデルは、お客様からの注文を受けてから商品をお届けするサブスクリプションのため、一般的な小売業と比較してもフードロスは少なく、食品廃棄率は約0.2%です。主力商品のミールキット『Kit Oisix』も、使用分だけ食材をカットしてお客様にお届けしているので、ご家庭でのフードロス削減にもつながっています。また、コロナ禍で学校が休校になった時、給食の停止にともない余剰となった牛乳が問題視されましたが、その際は、キャンペーンを組むなど生産者支援に積極的に取り組みました。こうした土壌がある中で、社会やお客様のサステナビリティへの意識の高まりを受け、経営戦略に落とし込んだのが『グリーンシフト施策』です」

↑オイシックス・ラ・大地株式会社 経営企画本部 グリーン戦略室 Upcycle by Oisix ブランドマネージャー 三輪千晴さん

 

「本施策は、農業生産でのグリーン化の推進、配送車のグリーンエネルギー実証実験の開始、商品パッケージのさらなるグリーン化、フードロス削減の取り組みの強化、そしてフードロスを価値に変えるという5本柱から成り立っています。その中でとくに力を入れているのがフードロス削減です」

 

フードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」を展開

同社が注力しているというフードロス削減。その一環として、これまで製造過程で廃棄されてきた原料をアップサイクル商品として販売する、フードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」を、2021年7月に立ち上げました。例えば、冷凍ブロッコリーのカット工場で出る茎を活用した商品「ここもおいしく ブロッコリーの茎チップス」や、大根の漬物工場で廃棄されていた大根の皮を使用した商品「ここもおいしく だいこんの皮チップス」など、畑や加工工場から出た廃棄食材を活用し、アップサイクル商品を開発、販売しています。

↑アップサイクル商品を展開する「Upcycle by Oisix」。ネット販売のほか、ナチュラルローソンなど一部店舗でも販売している

 

「やむを得ず出てしまう未活用の食材を目の当たりにし、フードロスは自社だけでなく、食品業界全体の社会課題だと強く認識していました。フードロス削減のためには、産地や加工メーカーの方たちと手を取り合いながら新しい商品を生む必要があり、強いてはそれがお客様の意識変容にもつながると考えたのです。そこで、環境負荷が低く、新しい価値を加えたアップサイクル商品事業をスタートしました。立ち上げ時は、当社と取り引きのある方たちと展開していたのですが、食のアップサイクルの世界観を広げられることへの期待感と、お客様へ与えるインパクトを考え、今年の1月、チョーヤ梅酒様と共同開発し、アップサイクル商品『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』を開発したのです」

↑チョーヤ梅酒との共同開発による商品「梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ」。香料、酸味料未使用で、梅本来の味を楽しめる

 

「チョーヤ梅酒様は、梅酒に漬けた梅を製品に入れたり、実だけを販売をしていますが、製品化できなかった余剰の梅は、家畜の飼料や農業の肥料として使用していました。その余剰の梅を当社が買い取り、梅の産地で生産者が自らドライフルーツに加工することを提案。今回、他社との協業ははじめてでしたが、事業化することで、産地での新たな雇用の創出と、フードロス削減を同時に叶えることができました」

 

廃棄食材だからこその商品化の難しさも

本来は食品として使用し(でき)ないものも多いため、商品化には苦労も多いそうです。

 

「共同開発する企業様の協力は不可欠です。例えば、これまでは廃棄物なので衛生面を気にする必要はありませんでしたが、食材となると話は別。衛生面をケアした上で輸送していただかなければなりません。また今回の場合、梅の実に染み込んでいるアルコールをどう飛ばすか、種をどうやって取るか、どんな加工を施せば美味しい商品になるのか、乾燥させるための温度や時間をどうするかなど、いろいろ試しながら商品化しています。その間、チョーヤ梅酒様にもサポートいただきました。『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』に限らずアップサイクル商品は、廃棄されていた食材を活用するため、味や食感の面など、通常の食材を加工するよりも難しさがあります。食材ごとに課題があり、それを1つずつ解決しながら、どうすれば美味しくなるか、企画開発しているのです」

 

2月には早くも共同開発第2弾として、飲食チェーン「PRONTO」を展開する株式会社プロントコーポレーションとコラボレーション。「PRONTO」の店舗で出る抽出後のコーヒー豆かす(コーヒーグラウンズ)を活用し、「コーヒーから生まれた 黒糖あられ」「コーヒーから生まれた チョコあられ」を販売しました。

↑「コーヒーから生まれた 黒糖あられ」(左)と、「コーヒーから生まれた チョコあられ」。コーヒーグラウンズには食物繊維が含まれていて、健康志向の人にも好評だとか

 

「アップサイクル商品は、未活用食材が原料ということで、お客様に受け入れられるかどうか、正直、不安もありました。しかし、『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』にしても、『コーヒーから生まれた チョコあられ』にしても、お客様に味を評価され、反響も上々。通常の商品と比べて全ての面で遜色なく、それどころか“地球に優しい”“サステナブル”というプラスアルファの要素があるため、リピーターも増えています。

 

確かに、当社の商品を食べることで削減できるフードロスの量は大したことないかもしれません。ですが、アップサイクル商品の存在を知ったり、食べたりすることで、普段の生活でもなるべくフードロスを出さなくするなど、お客様の意識の変化こそが重要だと考えます。アンケートを見ても、お客様の意識の高まりを実感できますし、それだけでも意義のある取り組みだと思います」

 

80トンのフードロス削減を達成

現在、「Upcycle by Oisix」で誰でもご購入できるようにオンライン販売しているのは12~13商品ですが、2021年7月の立ち上げからこれまでに66商品が開発されました(2023年3月末現在)。それにより、約80トンのフードロス削減を達成したそうです。

 

「次の協業はまだ検討中ですが、多くの企業や自治体から、相談や問い合わせが来ています。今後も、自社だけでなく、製造業や小売業とのコラボにより、新しい食の楽しみや、気付きを与えられる商品を展開していく予定です。その際は、例えばチョーヤ梅酒様なら梅酒、プロント様ならコーヒーというように、協業先企業様の強みと当社の商品開発力・販売発信力を活かしてこそ、協業する意味があると考えています。強みをどう活かすかという難しさはありますが、この輪を広げ、少しでも社会課題解決につなげたい――。そしてお客様についても、アップサイクルという言葉が珍しくない世界を作っていきたいです」

 

見栄えや食感の悪さなどの理由で捨てられていた食材に、新たな価値を加えたアップサイクル商品。同社の取り組みは、フードロスへの意識変容のきっかけになることはもちろん、次にどんな商品が登場するのか、そんな楽しみも感じさせてくれます。

 

永遠の命に一歩近づく! 独の科学者が「老化を遅らせる」ことに大成功

どんなに科学や医学が発展しても、そう簡単にかなわないのが人間の老化を遅らせること。しかし最近、ドイツの科学者が、動物や人間の血液サンプルを使った実験で、老化のスピードを遅らせることに成功したのです。

↑老化をストップ!

 

独・ケルン大学の研究チームは、10年前に始めた老化に関する研究の中で、遺伝子の転写と呼ばれる工程が、年齢とともに速くなっていくことを突き止めました。たんぱく質は、DNAに書かれた情報がメッセンジャーRNA(mRNA)というものに写し取られ、mRNAの情報を基に作られます。このとき、DNAの情報をmRNAに写し取る工程を「転写」と言い、転写のスピードが年齢を重ねると速くなるだけでなく、エラーも起こりやすくなり、これが人間の「老化」につながっていると論じているのです。

 

また、転写の工程に関わっているのが「RNAポリメラーゼII」と呼ばれる酵素で、どうやらこれが転写のスピードやエラーに関連するようなのです。

 

そこで、RNAポリメラーゼIIの速度を遅くさせるように変異させたミバエとミミズを用意したところ、これらの寿命は、変異しないものに比べて10~20%も長くなったとのこと。さらに、ミミズについては変異を元に戻すと、寿命が短くなり、RNAポリメラーゼIIの変異が寿命に関連することが確認されました。

 

これと同じことを、人間の若い人と高齢者の血液サンプルを使って行ったところ、まったく同じ結果となったのです。つまり、遺伝子の転写の工程が老化に関わっていて、それは人間だけでなく他の生き物にも当てはまると考えられるのです。

 

また、低カロリーの食事を与えたミミズ、マウス、ミバエでは、RNAポリメラーゼIIの速度が遅くなり、転写のエラーが少なることも同チームの研究で明らかになっており、健康的な食事やカロリーを抑えた食事によって転写のクオリティを上げることが可能とされています。これは長期的に老化を抑えることにつながるのかもしれません。

 

「大発見」とされる今回の研究。老化を乗り越えたい人間の飽くなき挑戦は続きます。

 

【主な参考記事】

Euronews Next. German scientists make a ‘major discovery’ that could slow down the ageing process. April 24 2023

まだまだだね。「ChatGPT」が人間を超えられない意外な職業とは?

最近、毎日のように話題になっているChatGPT。その高い能力から、「自分の仕事がAIに奪われるのでは……」と不安にかられる人もいるでしょう。しかし、ChatGPTでも敵わない人間の仕事が存在します。アメリカの研究で「ChatGPTより人間のほうが上」とされた仕事は何でしょうか?

↑まだまだだね(いまのところ)

 

ブリガムヤング大学の研究によると、人間がChatGPTより優れているとされた仕事の分野は会計学。14か国186の教育機関から327人が関わり、25,181問の会計学の試験問題を作成し、会計学を学ぶ学生とChatGPTにそれらを出題し、どのくらい解けるかを確認しました。

 

すると、学生の平均の正解率は76.7%だったのに対して、ChatGPTは47.4%という結果になったのです。ChatGPTが学生より高い正解率を出した問題は、全体の11.3%。会計情報システムと監査の問題で良い成績を残したそうです。

 

一方、学生が強かったのは財務や税務、経営などの問題。これらには専門的な数学の処理が必要で、ChatGPTはその部分が苦手だったようです。

 

意外なことに、ChatGPTは引き算の中で数字2つを足したり、割り算を間違えたりといったミスをしており、どうやら自分が計算を行っていることを認識していないケースもあった模様。

 

また、ChatGPTは正誤を問う問題では68.7%、選択式の問題では59.5%と高い正解率を出したものの、記述式の問題では苦戦していたこともわかりました。

 

税金のような法律のことから、多岐にわたる知識を網羅しなければならない会計学。この分野では、まだ人間のほうがChatGPTより一枚上手のようですが、ChatGPTが現在の弱点を克服して、すぐ人間に追いつくことも考えられます。

 

【主な参考記事】

Euronews Next. Study shows this job is safe from AIs like ChatGPT – for now. April 24 2023

米で夫が妻に銃をプレゼント。「自分から身を守ってくれ」という笑えない話

万が一の事態には、銃の引き金を引いてでも自分や家族の身を守らなければならないアメリカ社会。銃を購入する人の多くが、「家族のために」「自分のために」という理由を挙げます。しかし、自分自身が万が一おかしくなって妻を攻撃したときに備えて、夫自らが妻に銃を渡したという人物が現れました。

↑こんなプレゼントはハリウッド映画でも見たことがない

 

「銃があれば、自分の命を救うことになるかもしれない」。銃を使った事件が起きるたびに、「銃を巡る規制をもっと厳しくすべき」という声が大きくなる一方、逆に「もっと銃を」と考えるアメリカ人は少なくありません。2021年のギャラップの調査によれば、同国では成人の31%が銃を所有しており、全世帯の44%がこの武器を持っているとのこと。そして、銃を所有している人の88%が、その理由について「犯罪から守るため」と答えています。

 

しかし、つい先日、妻用に銃を購入したというヴィンセント・グリア(男性)の理由は意外なものでした。それは妻に、夫である自分から身を守ってほしいから。

 

ヴィンセントは、「不安に感じるのはわかるが、世界には私を含めて、あらゆる種類のおかしい人間がいる」と、米メディアに答えています。「もし私が夜遅くまで仕事して、帰宅するときにひどく機嫌が悪く、妻に八つ当たりしたらどうする? 妻を殺すことになって刑務所に入ったら、自分自身を絶対に許すことはできない」

 

彼は妻に、プレゼントした銃を寝室のクローゼットに保管することを約束させ、自分よりも妻が先に銃に手をのばせるようにと思っているそうです。

 

この記事を紹介したTwitterの投稿には、「えーと、彼は間違ってはいないが…」「とても革新的だ」「もちろん妻にはピンク色の銃をあげたんだよね」など、さまざまなコメントが寄せられています。理解に苦しむ人や半分冗談のように受け取っている人など、アメリカ人の中でも今回の出来事に戸惑っている人も少なくないようです。

 

銃にまつわる事件が起きるたびに、日本人からすると「なぜ銃が必要なの?」と思う人もいるでしょう。しかしアメリカでは、日本人の想像を超える世界と考え方があるようです。

 

【主な参考記事】

The Onion. Wife Gun In Case She Ever Needs To Protect Herself From Man Buys Him. April 24 2023
Gallup. Gun Owners Increasingly Cite Crime as Reason for Ownership. November 17 2021

Google、巨大キャンパスの建設を保留。大規模な解雇や在宅勤務により「オフィスが要らなくなっている」ため

米Googleは米カリフォルニア州サンノゼ市に巨大なキャンパス(社屋)を建設する「ダウンタウン・ウェスト」計画を進めてきましたが、景気減速のため、保留になる可能性があると報じられています。

↑Google

 

米CNBCの情報筋によると、Googleは最初の解体段階(都市再開発のため、元の建築物の解体が必要)を終えた段階で、施設の建設を中止したそうです。同社は今年初めに約1万2000人の解雇を発表していましたが、その一環としてキャンパス開発チームも「解体」し、いつ再開するのか請負業者にも知らせないまま、建設を凍結したそうです。

 

Google広報は米Engadgetに声明を出し、オフィスの建設にビジネスやハイブリッドワーカー、地域社会の「将来のニーズ」を反映させたいと述べています。またサンノゼ社屋の建設を「どのように進めるのが最善か」をまだ決めていないものの、長期的な開発に「コミット」しているとも付け加えられています。

 

このサンノゼ市は、巨大IT企業が集まるシリコンバレーの端に位置する都市です。Googleは現地との交渉と設計に数年をかけており、1万5000戸もの住宅や2億ドルのコミュニティ支援(移転した企業への補助金など)、キャンパスの半分以上を公共の用途に充てるなどを約束して、2021年に認可を獲得しました。

 

もともと建設は今年後半から本格的に始まり、10年~30年かかるとの予想でした。有名な企業が移転したり名所がなくなることに反対する声もありましたが、サンノゼ市としては経済効果を重視しており、ギャビン・ニューサム知事は、この認可が新型コロナ禍からの回復に大きな役割を果たすとアピールしていました。

 

2017年以降Googleは従業員を約20%を増やしていましたが、最近は上述のように大規模なリストラを断行しています。それと合わせて、従業員が一部の時間を在宅勤務にできるハイブリッドワーク戦略を採用しているため、以前ほど物理的なオフィスは必要なくなっているわけです。

 

もちろんダウンタウン・ウェスト計画が消滅したわけではありませんが、Googleがやって来ることで雇用や経済活動をもたらすと期待していたサンノゼ市やカリフォルニア州は困った状態に置かれることになりそうです。

 

Source:CNBC
via:Engadget

イーロン・マスクの仕業? オーロラに謎のうず巻き模様が出現!!

緑、赤、紫など、空がさまざまな色にゆらめく神秘的な現象のオーロラ。しかし、その中に薄い水色のうず巻き模様が出現し、世界を驚かせています。このうず巻きの正体は一体何なのでしょうか?

アラスカのオーロラに謎のうず巻きが出現
↑摩訶不思議なこの現象の正体は!?

 

オーロラがゆらめくアラスカの空に4月15日、薄い水色のうず巻き模様が数分間現れたことが確認されました。YouTubeなどでシェアされているタイムラプスの動画によると、うず巻きは徐々に大きくなりながら移動して、やがて消えていったことがわかります。

 

「未確認物体⁉」と驚くような不思議な現象。この正体は、アメリカの宇宙開発企業・スペースXのロケットだったそうです。

 

このうず巻きが現れたおよそ3時間前、イーロン・マスクが率いるスペースXはカリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地でロケットを打ち上げていました。そのロケットから余分な燃料が排出され、それが高い高度で氷に変わり、地上から雲のように見えたとされています。

 

同様のうず巻きは、1月にハワイの上空でも確認されています。日本の国立天文台すばる望遠鏡もあるハワイ島の上空で、同じような水色のうず巻きが出現し、人々を驚かせました。このときも、スペースXのロケットが原因だったと見られています。

 

観察している人の度肝を抜くようなこのうず巻き。思わず目を奪われる不思議な光景ですが、自然の神秘が乱されている気がしないでもありません。今後、ロケットの打ち上げ回数を増やしていくと発表しているスペースX。もしかしたら、このうず巻き模様が空に頻繁に現れるようになるのかもしれません。

 

【主な参考記事】

AP News. Rocket science: Alaska sky spiral caused by SpaceX fuel dump. April 18 2023

英マラソン大会で3位の選手が失格! データ分析で「クルマに乗った」ことが発覚

キツい長距離マラソンをしている中、さっそうと駆け抜けるクルマを見て、「乗せてくれ」と頼みたくなる気持ちは、きっと誰でもわかるはず。フルマラソンより長い長距離の大会ならなおさらかもしれませんが、当然ファウルです。しかし、それを本当にやってしまった選手がイギリスに現れました。

↑レース中にクルマに乗るなんて…

 

4月7日にイギリスで行われた「GBウルトラス」。この大会はマンチェスターからリバプールまで、フルマラソンの2倍弱にあたる50マイル(約80㎞)の長距離のタイムを競い合う過酷なレースですが、そこで3位に入賞したJoasia Zakrzewski(ジョアシア・ザクシェフスキ)選手が失格となったのです。

 

ボルトを超えた!?

その理由は、途中の一部区間でクルマに乗ったから。選手の走りを追跡するシステムのデータや、GPSのデータを集めたGPXデータなどを検証した結果、一部の区間について、1マイル(1.6㎞)を1分40秒で通過したことがわかったのです。これは時速57.6㎞に相当する速さ。人類史上最速とされる陸上男子100mのウサイン・ボルト選手ですら、トップスピードは時速38㎞と言われますから、時速50㎞超えは人間では考えられないスピードです。さらに、別のランナーや本人などの証言から、彼女は2.5マイル(約4㎞)の区間をクルマで移動していたと判断され、失格となったのです。

 

この出来事はテクノロジーのお手柄とも見れるでしょう。今回のマラソン選手の失格も、追跡システムなどのデータが証拠の一つとなりました。近年さまざまなスポーツでトラッキングシステムやビデオ判定といったテクノロジーが導入されており、興醒めするときがなくはないものの、審判が試合を止めてビデオを確認する光景は当たり前になりつつあります。マラソンでも選手たちは常に見られており、不正行為はバレるのです。

 

ザクシェフスキ選手によると、レース中に足を痛め、たまたまコース脇に友人を見つけたので、次のチェックポイントまでクルマに乗せてもらったそう。その後ランを続け、3位でゴールするとトロフィーとメダルが手渡され、それを受け取ったといいます。

 

失格となった彼女の代わりに、繰り上げで3位になったMel Sykes(メル・サイクス)はTwitterで「私にとっては素晴らしいこと。でも、スポーツマンシップにとっては本当に悪いニュース」と投稿しています。

 

【主な参考記事】

The New York Times. A 50-Mile Race, a Quick Car Ride and a Scandal at the Finish Line. April 19 2023

Metro. Ultra-marathon runner disqualified from race for using a car. April 19 2023

賞味期限間近の13万個のチョコバー。在庫処分を覚悟したカナダ人の大どんでん返し

チョコレートに賞味期限を定める法規制がないカナダで、13万個ものチョコバーを処分しなければならない状況に陥り、途方に暮れたあるカナダ人女性が、ひょんなことから甘い結末を迎えた話が話題になっています。

↑チョコバーの在庫を大量に抱えた彼女にどんでん返しが待っていた

 

この人の名前は、Regehr Westergard(レゲール・ウェスターガード)。理学療法士として働く彼女は、昔ながらのお菓子を専門とするスイーツショップ「カナディアン・キャンディ・ノスタルジア」を2018年に立ち上げました。そして2年前、1980年代に流行り現在では販売されていないチョコバー「ラム&バター」を復活させ、100万本近くを売り上げていました。

 

しかし、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、製造ラインがスケジュール通りには進まなかったのか、2022年6月に、発注していたチョコバーが一度に33万3000本も製造されて納品されたのです。

 

カナダではチョコレートの賞味期限を定める法規制はないものの、スーパーなどの食料品店では賞味期限が考慮されています。そのため、製造から1年を迎える2023年6月には、倉庫に保管されている13万3000本、約5540箱ものチョコバーをなんとか処分しなければならない事態となったのです。

 

カルガリーのフードバンクでは、お菓子の寄付は禁止されているし、近所の人に配るといっても1000ポンド(約450㎏)ごとにまとめて保管されているため、それも容易ではありません。

 

期限が切れたら処分することも覚悟したという彼女ですが、SNS上で助けを求めたところ、地元紙「Globe and Mail」の記者の目に留まり記事になったのです。すると、その記事を読んだ人から、「ぜひチョコバーを分けてほしい」という声が殺到。

 

その結果、ウクライナの難民を支援する教会や、住居がない人のための施設、消防署などの慈善団体に全てのチョコバーを寄付することができたとのこと。また、普段ならお菓子の寄付は受け付けていないものの、地元のフードバンクは今回のチョコバーを引き取ることを申し出たといいます。

 

いまでも「まだチョコバーはある?」という問い合わせを受けているというウェスターガードさん。インターネットの力で食事に困っている人の手にわたったことから、きっとこの結末に満足して喜んでいるのではないでしょうか?

 

【主な参考記事】

BBC. How one Canadian woman got rid of 133,000 chocolate bars. April 19 2023

洗練された「物を持たないスタイル」。キャッシュレスに使える「スマートリング」が英で大人気

財布を持たない人も増えているキャッシュレス大国の英国で昨今、スマートリングがじわじわとユーザーを増やしています。スタイリッシュな指輪をリーダー端末にかざすだけで、迅速に非接触で決済することができるこのデバイスは、近年日本でも注目されるようになりましたが、英国ではどのように見られているのでしょうか? 現地からレポートします。

↑英国でユーザーを増やすスマートリングのリングペイ

 

手軽、安心、エレガント

英国のマクレア社が開発した非接触型決済スマートリングの「RingPay(リングペイ)」。「物を持たずに豊かな暮らしをするためには、どうすれば良いのか?」をコンセプトに開発されました。

 

その背景には英国のキャッシュレス化があります。同国のキャッシュレス決済比率は2020年時点で約64%と世界4位です。コロナ禍をきっかけに、デビットカードやスマホを使った非接触型決済への移行が加速。現在では支払いのほとんどがキャッシュレスというデータもあり、普及率は日本の3倍近くと言われています。

 

ロンドンなど都市部に暮らす若い世代は財布を持たず、スマホとカード一枚で外出する人も多数存在。ほとんどのレストランやショップ、交通機関はキャッシュレスに対応しているため、手持ちの現金がなくて困るというケースはほぼありません。コンビニやカフェでは「現金NG」の店舗も増えており、完全キャッシュレス化による集計作業自動化や人件費削減を目指しています。街角のストリートミュージシャンや大道芸人さえも現金置き場と一緒にカード決済末端を並べて対応するなど、「投げ銭」でさえデジタルで行われるようになっています。

 

このように、現金や財布を持たないことが当たり前になった国で生まれたRingPayは、当初ドアロックキーや自動車キーとして開発されたものの、次第によりニーズの高いキャッシュレス決済リングへと進化していきました。Bluetoothでスマートフォンと接続し、連動するアプリで支出を確認することが可能なこのデバイスは、クレジットカードやデビットカードと同様に英国のほぼ全ての店舗や交通機関で利用することができます。

 

リングペイは幅広い層に人気ですが、なかでもフィンテックや最新ガジェットへの関心が高い都市部のビジネスパーソンの間で好評。そのメリットとしては、カードやスマホと異なり、リーダー端末に手をかざすだけで決済することができることや、スマートウォッチと比べて軽いことが挙げられます。防水設計なので入浴やシャワー、プールでも使用可能なうえ、医療現場で採用されているジルコニアセラミック製のため金属アレルギーの人も着用できます。

 

リーダー端末からの電波に反応するワイヤレス充電技術を利用しているため、自宅での充電は不要。常に身に着けておけるので、紛失や盗難、個人情報漏洩などの心配もありません。万が一紛失しても、アプリからワンタッチで利用を停止することができます。

 

このような機能性やセキュリティ性能に加え、カジュアルなデザインが多いスマートウォッチより一層洗練された印象を与えられることなどが、都会のビジネスパーソンたちを中心に支持されている理由のようです。スマートリングは2016年のリオ五輪開催中にTeam Visaのアスリートが利用したことで話題となり、その後も世界的有名イベントで展示されるなど、英国をはじめ各国でファンを増やしてきました。2022年には、決済テクノロジー分野で世界的に優れた企業を表彰するイベントのペイテック・アワードで「ベストイノベーション」を受賞しています。

 

物を所有しない生き方の象徴

↑「物を持たない」印?

 

リングペイはキャッシュレスの道具の一つですが、もう少し視野を広げると、スマートリングはヘルスケア分野にも応用されています。例えば、フィンランドのŌURA社の「Oura Ring(オーラリング)」は、睡眠、心拍、歩数などをセンサーで常に計測・分析し、健康管理のサポートに特化しています。継続使用することで分析能力が向上し、よりパーソナライズした健康状態の把握と改善に役立つそうで、スマートウォッチに続く次世代ウェアラブルとして注目が高まっています。

 

携帯電話が時代とともに多機能デバイスとして発展していったように、スマートリングも新たな多機能デバイスとして進化を遂げています。物を持たず、身軽に暮らすライフスタイルが先進国で浸透していく中、リングペイはその象徴になったようにも見えます。その優れたデザインで、リングペイは英国をさらにキャッシュレス化させるかもしれません。

 

執筆/ネモ・ロバーツ

二酸化炭素を魚の餌に変える! 気候変動を抑える「海洋湧昇技術」とは?

気候変動や漁業の乱獲といったグローバルな課題を解決するために、現在「海洋ベースのソリューション」が世界中で研究されています。その一つが、波のエネルギーを使って魚の成長を促進させると同時に大気中の二酸化炭素(CO2)を回収することができる、オーシャンベイスド・クライメートソリューション社(OBCS)の「海洋湧昇技術」。一体どのような物なのでしょうか? この開発を支援するダッソー・システムズのジャン・パウロ・バッシ副社長が、テクノロジー系イベントの3DEXPERIENCE World 2023で説明しました。

↑二酸化炭素と魚を管理する仕組みが海に導入されつつある

 

海洋湧昇技術とは

海洋湧昇(ゆうしょう)とは、200~1000メートルの深海域にある下層の海水が海面近くまで湧き上がってくる現象のこと。「海洋湧昇技術」とは機械を用いて、波のエネルギーを使って深海域の海水を太陽に照らされた海面近くまで運ぶ技術を指します。

 

「海洋湧昇技術の大きな特徴は、ソーラーパネルなどの太陽エネルギーと波の力が原動力だということです。機械を海面に降ろすと、流れに合わせて自由に漂流します。400メートルの長さのチューブを海に入れますが、耐久性の観点から多くの動くパーツを最低限に抑えるなど、故障しやすい要因をできるだけ排除。パーツのデザイン時においても、メンテナンスしやすいように工夫が施されています」とバッシ氏は言います。

 

この技術は大気からのCO2回収もリアルタイムに測定可能で、衛星を介して継続的に海を観察することもできるそう。さらに、カーボンフットプリントも計測できるなど、サステナビリティを強く意識した仕組みになっています。

 

海洋湧昇技術は、より多くの魚の成長を可能にし、気候変動の抑制にも役立つという2つのメリットがあります。

 

「深海域にある冷たくて栄養豊富な海水を波の力を利用してポンプで海面に引き上げ、栄養塩や鉄など海水に含まれる栄養素を、太陽光と空気中のCO2の光合成によって魚の餌となる植物性プランクトンへと変換。実際、この技術によって植物性プランクトンの数を24時間ごとに2倍にすることに成功しました。

 

植物性プランクトンは動物性プランクトンの餌になり、動物性プランクトンは小魚などの餌となります。そして、小魚は大型の魚に捕食されるなど、海洋生物の食物連鎖が働いて、さまざまな魚の成長を促進させます。

 

また、海洋生物の餌を増やすと同時に、植物性プランクトンがCO2の吸収源として機能。光合成の働きによって大気中のCO2を回収してくれるため、地上のCO2量を減らすことができます。これを『生物ポンプ』と表現しますが、海洋湧昇技術は地球温暖化の進行を食い止めてくれるサステナビリティにつながる重要な役割も果たしているのです」とバッシ氏は述べます。

 

「気候変動の鍵は海にある」

↑海洋湧昇技術は海面に降ろすと波の流れで自由に漂流(画像提供/オーシャンベイスド・クライメートソリューション社の公式サイト)

 

この海洋湧昇技術を用いた事業は2005年に開始されており、米国のテキサス州やカリフォルニア州、オレゴン州、ハワイ州、バミューダ諸島、ペルーなどで100日以上にわたる海洋試験を完了済み。その広範における世界的な取り組みを通じて、湧昇ポンプによって毎年成長する新しい魚を推定できるようになりました。

 

OBCSは2023年から2024年にかけてハワイ沖に海洋湧昇ポンプを建設し、北太平洋地域のCO2を海洋魚の餌に変換することを計画しています。

 

バッシ氏は、これから先の海洋湧昇技術のニーズについて、「同社の海洋湧昇技術のニーズは、今後より多くの企業が『持続可能性』をコアビジネスモデルとして採用するにつれて増えていくことが予測されます。乱獲や気候変動などの課題を解決し持続可能な社会を目指したいと考えている企業——例えば、航空会社やエネルギー供給業者、製造会社など——が同社のパートナーになる可能性が高まっていると言えるでしょう」と予測。

 

「気候変動の鍵は海にあるといっても過言ではありません。私たちはこの画期的なソリューションによって、気候変動や魚の乱獲といった問題に大きなインパクトを与えることができると信じています」と、バッシ氏は未来に向けた海洋湧昇技術の重要性と価値に大きな自信を見せました。

 

執筆者/渡辺友絵

米ニューヨーク市警、犬型ロボット「デジドッグ」を再導入。爆弾事件など命に関わる状況だけで使うと約束

米ニューヨーク市警(NYPD)が、数年前に運用を中止した犬型ロボット「デジドッグ(Digidog)」を再導入することが明らかとなりました。

↑デジドッグ(通称Spot)

 

ニューヨーク市長のエリック・アダムス氏は、火曜日の記者会見でこのニュースを発表し、市内でデジドッグを使うことで「命を救える」と述べています。

 

デジドッグ(通称Spot)は米ボストン・ダイナミクス社製のリモート操作ロボットです。人間にとって危険な状況での作業を想定しており、すでに工事現場での見回りにも役立っています。しかし、2020年末にNYPDがレンタルして立てこもり事件などに投入したところ、市民から警察の軍事化が進むなど批判を浴びることに。もともと契約期限は2021年8月でしたが、4月には前倒しで契約が打ち切られていました

 

ニューヨーク市の非営利組織「監視技術監視プロジェクト(Surveillance Technology Oversight Project)」は、「NYPDは悪いSFをひどい監視に変えた」と批判。デジドッグを「模造品のロボコップ」と呼び、公金をムダ遣いして市民のプライバシーを侵害するものだと述べています。

 

かたやニューヨーク市当局は、NYPDが総額75万ドルで2匹のロボット犬を運用し、爆弾事件など命に関わる状況の時のみ使うと声明を出しています。

 

市民団体らがデジドッグに反発しているのは、カメラ付きロボットがプライバシーと公共の安全に悪影響を与えるかもしれないとの懸念からのようです。デジドッグが武装された例はまだなく、仮にそうするとボストン・ダイナミクス社の利用規約に反することになります。

 

そうした懸念を受けて、NYPD本部長はデジドッグを「透明性かつ一貫性をもって、常に我々が奉仕する人々との協力のもとで」運用すると述べました。さらに、顔認識技術を使うこともないと付け加えています。

 

どうやら市民がデジドッグに拒否反応を示した理由の一部は、犬とは似ても似つかないルックスにもあるようです。とはいえ、警官の命を危険に晒さず、事件現場の情報を集める必要もあるはずであり、プライバシー保護とのバランスが守られるよう祈りたいところです。

 

Source:The New York Times

学研とベトナムのDTP社が資本業務提携! 日本のSTEAM教育で「ベトナムの子どもたちを幸せにしたい」

4月11日、学研ホールディングスがベトナムの教育市場への本格的な進出を発表しました。ベトナムの大手教育出版社のDTP Education Solutionsと資本業務提携を結んだ同社は、ベトナムおよび東南アジア諸国を拠点としながら国際戦略を展開していきます。この取り組みは双方に利益があり、優れた理数科教育を特徴の一つとする「日本型教育」を海外展開したい日本にとっては試金石となるでしょう。

↑資本業務提携を発表したDTP社のヴォー・ダイ・フックCEO(左)と学研の宮原博昭CEO

 

学研は、国民の教育意識が高まっているベトナムを事業展開の最重要エリアと定めています。今後、世界的にマーケットの拡大が見込まれているK12市場(大学入学までの13年間の学校教育期間)に参入するためには、各国でローカライズされた商品の開発力と強固な顧客基盤を有するパートナーが不可欠。STEAM教育や科学に強みがある学研が、今回の提携において将来的にDTP社の持分法適用子会社化を視野に入れていることからも、企業として大きな決断をしたことは想像に難くありません。

 

一方、設立約20年のDTP社は、ベトナムといった東南アジア地域の教育産業、特に英語教育におけるリーディングカンパニー。シンガポールやタイ、ラオス、カンボジアにも事務所を持つ同社は、中南米にも販売チャネルを持っています。500名を超えるスタッフが英語の教科書を中心とした出版事業やスクリーニング(課外授業)事業などを展開しており、教育ポータルサイトの運営や教材の販売などを含めた多角化戦略で成功を収めています。ベトナムの英語教科書市場においては国営企業に次いで約30%のシェアを持ち、オックスフォード大学出版の東南アジア総代理店でもあるなど、国内外に強力なネットワークがあることが強みです。

 

今回の提携によって、学研は自社の教育コンテンツの輸出に加えて、DTP社のグローバルコンテンツやデジタルサービスを輸入することが期待されます。対して、DTP社は学研のコンテンツの英語化、ローカライズ、デジタル化を行うことができるので、双方にとってシナジー効果のある座組みと言えます。

↑学研の書籍がベトナムの子どもたちに読まれる

 

国交50周年を迎えたベトナムと日本はお互いに期待しています。学研は2022年にも日本の文部科学省やJETROと連携してベトナムのEdTech企業と業務提携を締結していました。DTP社のヴォー・ダイ・フックCEOは、ベトナムの教育市場は活気があり、ベトナム人の多くは「日本に憧れている」と言います。一方、日本にとっても教育が輸出品目として海外に展開されることは有益。ベトナムをはじめ東南アジア各国は、経済成長と共に教育の質を高めることに強い関心を持っており、学研には各国の政府や企業からのアプローチが増える可能性もありますが、そのための足掛かりをベトナムで作りたいところ。「日本のコンテンツでベトナムの子どもたちを幸せにしたい」と同社の宮原博昭CEOは決意を表しました。

 

日本型教育の代表的存在である学研が、これからベトナムの発展にどのように貢献していくのか、目が離せません。

 

企業が「週休3日制」を導入したら売り上げは下がる? 英の実験で意外な結果が判明

コロナ禍以降、働き方が著しく多様化している中、イギリスでは最近、「週に4日働いて、残りの3日は休み」となる週休3日制に関する大規模な実験が行われました。一般的な週休2日制から3日制に変わることで、企業の生産性や従業員の心身にどのような変化が見られたのでしょうか?

↑そのうち勤務日は週5日から4日になる?

 

今回の実証実験は2022年6月から12月までの6か月間、イギリスにある61の企業で働く約2900人を対象として行われました。これまでの週休2日制に休暇をもう1日どのように追加するかは、業界や企業によって変わり、例えば、金曜日を休みにして、金曜・土曜・日曜は3連休とする企業もあれば、追加の休暇は週の半ばに設定する企業もあります。ただし、どの企業でも従業員に支払われる給料は週休2日制のときと同じ金額でした。

 

6か月後、ストレスレベルや睡眠などの状態を確認したところ、39%の従業員がストレスを感じにくくなり、被験者の71%で燃え尽き症候群のレベルが低下。不安や疲労感も減少したことが判明したのです。仕事に携わる時間が減ることで、仕事で生じるストレスや疲労を感じにくくなるのは当然と言えるかもしれません。さらに、時間的な余裕が生まれたことで、ワークライフバランスが改善することも判明。「仕事と家庭のことを両立しやすくなった」と答えた人は54%にのぼりました。

 

週休3日制は従業員にとって多くのメリットがあることがわかりますが、企業側の視点で見ると、週休3日制に移行することで売り上げが低下することが懸念されるかもしれません。しかし実験期間中、参加企業の売上高は1.4%増とほぼ横ばいのまま。前年同月と比べると、売り上げは平均で35%も増加していることがわかりました。2021年のイギリス経済は、パンデミックの影響で経済活動が停滞した2020年より9.4%回復していることから、今回の結果で平均売り上げが35%増加したことは、週休3日制の影響が大きいと言えるかもしれません。加えて、実験に参加した企業を退職しようと考えている人の数が57%減少したことも明らかになりました。

 

つまり、企業にとってもメリットが大きいと言えるのです。実際、実験終了後も、週休3日制の継続を決めた企業が61社中56社と92%に及び、そのうち18社は恒久的に週休3日制にすることを決めました。

 

現在、当たり前になっている週休2日制ですが、日本における歴史はそこまで古くありません。国家公務員に完全週休2日制が導入されたのは1992年。それまでは週休1日が一般的でした。また、全国の公立学校が完全週5日制になったのは2002年からで、それ以前は生徒も週に6日通学していました。

 

それから数十年のときを経て、現在生まれている週休3日制の試み。今回の実験結果を受け、欧米を中心に週休3日制を導入する動きが広がっていく可能性があります。将来、AIなどの最新テクノロジーなどを駆使して、人の仕事をより効率化できた場合、諸外国から「働き過ぎる」と揶揄される日本でさえも、週休3日制の導入について議論しているかもしれません。

 

【出典】

Autonomy. The UK’s Four-day Week Pilot. February 2023. 

 

人間の力が50倍に! 巨人化ロボットスーツ「プロステーシス」とは?

「SF映画の主人公のように、巨大なロボットを操縦できたら……」と思ったことはありませんか? そんな夢を実現させてしまったのが、EXOSAPIEN社のジョナサン・ティペットCEOで、まるで自分の手足を動かすように操縦できるロボットスーツ「プロステーシス」を開発したのです。ティペット氏はどのような思いでこのロボットを作り、設計しているのでしょうか? 2月に開催されたダッソー・システムズのテック系イベント「3DEXPERIENCE World 2023」でティペット氏が語りました。

↑これがプロステーシスだ!

 

一際目立つ赤いパイロットスーツで舞台に立ったティペット氏。「もし巨人になれたら何をするだろう?」をテーマに会社を立ち上げたと語り始めました。

 

「私が開発した『プロステーシス(PROSTHESIS)』は、アートとテクノロジーを駆使し、6年間のタフなフィールドワークで得たデータをつぎ込んで作り上げたロボットスーツです。ロボットスーツはパワースーツ、またはパワーアシスト装置を意味しますが、プロステーシスのサイズは高さ4m、幅4.5m、奥行5.2mで、総重量は4000kg。パワーは200馬力で、操縦者の力を50倍まで引き上げることができます。2020年にはギネス世界記録に『世界一巨大な四足歩行の装着型パワーアシスト装置』として認定されました」とティペット氏は語ります。

 

人工知能は搭載しない

プロステーシスに操縦かんはありません。自分の手足の動きがマシンと直接連動しているので、人間が本来持つパワーを引き上げたまま、自分の身体のように動かすことが可能。足場の悪い山道も川の中も難なく進めるうえ、クルマを潰したり持ち上げたりすることもできます。

 

AIのような人工知能を搭載せず、あくまでも人間が操縦するように設計した理由は、楽しさを追求したかったから。「個人的にはスポーツのような位置づけで、ビジョンは国際的なスポーツエンターテイメントにすることだ」とティペット氏は話します。プロステーシスの開発には16年を費やし、脚部をスケッチするだけで1年、デザインの完成には5年かかったそう。エンジニアとしての経験と知識をフル活用し、最初の頃はデザイン、設計、組立を全て自分で行ったと言います。

 

進化を続ける「巨人たち」

↑リアルな進撃の巨人(画像提供/ダッソー・システムズ)

 

3DEXPERIENCE World 2023では、ファン待望のプロステーシス新型機「プロステーシス2.0」が発表されました。

 

「次世代機のプロステーシス2.0は、従来モデルに比べてサイズは3分の2に、重量は半分に改良しました。それでいてパワーは2倍。スピードもアップし、時速20~30キロで進むことができます。将来的には、プロのアスリートに装着してもらい、広大なスタジアムで障害物コースにチャレンジするようなスポーツエンターテイメントに発展させたいと思っています。面白そうでしょう?」(ティペット氏)

 

その一方、EXOSAPIEN社では新たなプロジェクトが進行しているとティペット氏は話しました。

 

「プロステーシス・シリーズで得たノウハウにクルマの要素を加え、全く新しい概念のマシンを製作中です。この新マシン『エクソクワッド(EXO-quad)』には、オートバイ、ロボットスーツ、4輪という3つの特徴を詰め込みました。バイクにまたがるように乗るのですが、タイヤを装着した4本の脚はパイロットの手足と連動しており、体勢をリアルタイムで自由に変えることができます。乗っている感覚としては、思うままにコースを変えながら走れるローラーコースターでしょうか。道の上を飛ぶように走れるのです。

 

開発のきっかけは、ラスベガスの企業からの問い合わせでした。レーシングカーの乗車体験を提供している会社で、そこでプロステーシスを扱えるかという内容でした。プロトタイプのプロステーシスは操作が複雑で、自分で操作できるようになるまで3~4日はかかります。そこで、もっと簡単に操作できるマシンを作ろうと思ったのです。エクソクワッドはバイク感覚で乗れますし、曲がるときは身体を傾けるだけ。初号機のデビューは1年後を予定しているので、ぜひ楽しみにしていてください」

 

人類の新たな希望?

「巨人になってみたい」という憧れを、その技術と行動力で実現させたティペット氏。この巨大マシンは、人類が直面しているさまざまな問題を解決できる新たな希望だとも語ります。

 

人間の持つ能力や創造性をパワーアップさせるとともに、エンターテイメントとして遊び心も満たしてくれる巨大ロボットスーツ。今後の活躍に、世界中のファンが期待を寄せています。

 

執筆者 / 長谷川サツキ

装着期間、感染リスク、ストレスが減少! 乳がん患者の悩みに寄り添うドレーン機器「SOMAVAC SVS」に全米が注目

日本を含め世界中で増加している乳がん。近年、米国では手術後の患者さんが身につけるドレーン機器(創傷部に溜まった液などの排出に用いる排液管)に新製品が登場し、注目を集めています。「SOMAVAC SVS」と呼ばれるこの機器は、感染症のリスクを軽減することが特徴の一つですが、魅力はそれだけではありません。SOMAVAC社CTO(最高技術責任者)のジョシュア・ハーウィグ氏が3DEXPERIENCE World 2023で同製品について語りました。

↑衣服の下で目立たずに装着できる「SOMAVAC SVS」

 

乳がん手術の問題点

SOMAVAC SVSは、乳房の切除や再建、ヘルニア修復など複雑な整形外科手術の術後に、体内にたまった血液や体液をスムーズに排出するための新型ドレーンポンプ機器です。連続的な吸引で液体を効率的に除去することにより、感染症の原因となる血清腫や血腫のリスクを軽減することができ、合併症予防にもつながります。

 

形成外科手術および一般外科手術における手術用としては唯一のスマート外科用ドレーンポンプとして、FDA(米国食品医薬品局)が許可し、2021年8月には「連続負圧スマートポンプ」として特許を取得しました。

 

なぜハーウィグ氏はこのような製品を開発しようと思ったのでしょうか?

 

米国形成外科学会 (ASPS)/形成外科財団によると、米国では2018年に約10万1600人の女性が乳房再建を行なったとのこと。しかし、そこにはある問題がありました。

 

「がん患者さんは最先端の除去手術を受けてはいるものの、退院するとこのようなドレーン装置を付ける必要があります。手術後に体内にたまった体液を除去するためですが、これまでの手動JP(ジャクソンプラット)ドレーン装置や、アコーディオン式ドレーン装置は吸引力にばらつきがあり、体液が滞留や蓄積、逆流するなどのトラブルがあったのです」とハーウィグ氏は言います。

 

「例えば、膝や肘などの関節をぶつけたときに、体液が溜まって腫れ上がることがありますが、こういったトラブルを最小限に抑えるためには、連続的な吸引能力と一方向にのみ作用するバルブが必要でした。従来のバルブ型だと体液を効果的に除去できないため、手術ではがれた組織がくっつきにくいのですが、SOMAVAC SVSであれば真空状態にして組織面を合わせることが可能です」(ハーウィグ氏)

↑SOMAVACのジョシュア・ハーウィグCTO

 

また、SOMAVAC SVSは強力な吸引力によって、ドレーンの使用期間を短縮できることが実証されています。通常は2~4週間装着しなくてはなりませんが、同製品はこの期間を5~7日に短縮可能。装置をつけている期間を短くすれば感染率を下げられるため、臨床的な観点からも大きなメリットあります。仮に、一度手術をしたが傷が再度開いてしまったなど、非常に複雑なケースの患者に使うと想定した場合、米国の中規模の病院において、年間約26万ドル(約3430万円※)の医療費削減につながるそうです。

※1ドル=約132円で換算(2023年3月20日現在)

 

乳房切除と組織拡張器による乳房再建を行った場合の感染リスクは約25%で、4人に1人がドレーンの使用後3週間以内に感染症にかかるというデータもあります。痛みと費用を伴う治療が必要なケースも多く、それに関わる米国の医療費は約60億ドル(約7900億円)に上るとされています。SOMAVAC SVSの導入で感染リスクを下げることができれば、患者の負担を和らげるだけでなく、医療費も削減することができます。

 

「精神的な負担や辛さを和らげたかった」

SOMAVAC SVSは感染症リスクの軽減だけでなく、患者が受ける肉体的・精神的な負担を大幅に解消できることも大きなメリットです。

 

これまでの手動タイプのドレーンなどは患者が使うこと自体が難しかったのですが、SOMAVAC SVSはこの課題も解決。体液は殺菌済みの使い捨て可能なバッグの中に自動的に入って計量されるため、患者自身が体液の数値を計らなくて済むようになりました。バッグには体液を収集・保管する優れた機能があり、体液がこぼれたり漏れたりする心配もありません。

 

なかでも、患者の精神的な負担や辛さを和らげたかったとハーウィグ氏は強調します。

 

「こういった器具をつけることで最も悪影響を受けているのは乳がんの患者さんだということがわかりました。器具をつけると回復期でも『自分はがんだ』と改めて感じて、とても辛い気分になるそうです。そこで私は、より良い医療器具を作ることはもちろん、患者さんのメンタル面の回復についても使命感を持って、率先して役に立ちたいと思うようになりました。

 

多くの乳がん患者さんは、回復期に不安やうつ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といったメンタルヘルスとの戦いに苦しんでいます。そのため乳がん手術後の回復期において、手術したことがわからず、尊厳を持つことができるドレーンが必要なのではないかと思ったのです。SOMAVAC SVSの大きさはiPhone程度で、平たい形状であり、衣服の下にベルトで目立たないように装着できるため、患者さんが術後の生活を前向きに捉えるようになりました。患者さんだけでなく、乳がんの遺伝的な要因を持っていて、発症前に予防的に乳房切除を行う人たちにも使ってもらっています」

↑ストレスフリーの体液収集が可能に

 

最後に、ハーウィグ氏は今後の計画について語ってくれました。

 

「2~3年先の研究開発になると思うのですが、乳房の切除手術を受けた患者さんの転移を見つけられるソリューションに着手しています。これは、がんを取り除いた後の体液を集めてラボに送り、その中にがん細胞ができていないかを検査するもの。体液の解析を行うことにより、転移する前にがん細胞を見つけたり、再発率を予測したりできるようにします。分析先の医療系ラボとはすでに話ができていて、そこに送って分析してもらうことになります」

 

2025年頃には新製品をリリースする予定で進めているとのことですが、現状は米国内で既存製品の営業展開に注力しており、力を入れて、より多くの患者さんに届けることに集中しているそうです。

 

執筆者/渡辺友絵

2021年創業のランドセルメーカーが半年でSDGsなランドセルを完成できたワケ

4月になると、ピカピカの大きなランドセルを背負って登校する小学生の姿が見られます。ランドセルといえば、昔は黒か赤の革製が主流でしたが、最近はカラーバリエーションが豊富で素材もさまざま。そんな中で注目されているのが、起業したばかりの合同会社RANAOS(ラナオス)が2021年から展開している布製のランドセル「NuLAND®(ニューランド)」です。実はこのランドセル、子どもへの愛情あふれるママたちの想いから生まれました。

 

小学1年生だった息子の様子を見て奮起

RANAOS代表の岡本直子さんには、現在小学の息子がいます。彼が小学1年生だった時の、ある出来事がNuLAND®誕生のきっかけだったそうです。

 

「2020年は新型コロナの影響で、本格的に登校し始めたのは夏でした。当時小学1年生だった息子は、猛暑の中、重いランドセルを背負って帰宅すると、顔を真っ赤にしてもう汗だく。またある時は、大雨なのに傘を差さずに全身ずぶ濡れになって帰宅。ランドセルに入りきらない荷物で両手がふさがっていて傘が持てなかったのです。腑に落ちないでいたところ、近所に住む帰国子女のお子さんがリュックで登校しているのを見かけて。“なんだ、別にランドセルでなくてもいいんだ”と固定観念が覆る思いでした。

 

そこで“ランドセルの機能を踏襲したリュック”を探したのですが、サイズや形、デザイン、機能性など、すべてにおいてしっくりくるモノが見つかりません。同じ思いをしているママたちもいるはずだから、それなら自分で作ろうと思ったのです」

 

↑「NuLAND®」誕生のきっかけ/NuLAND®のHPより by ぴよよとなつき

 

理想的なランドセルを作るためにわずか半年で起業

岡本さんは新卒で広告代理店に入社後、地方や海外のテレビ局勤務(両社とも勤務地は東京)を経て、『mamatas(ママタス)』という育児を応援するママ向け動画マガジンの事業部代表を務めていました。ランドセル製作を考えた際は、まずは現状を把握するために、延べ8000人以上の保護者や小学生から、ランドセルについてヒアリングをしたそうです。

↑合同会社RANAOS代表の岡本直子さん

「『mamatas』を活用して計3回の緊急アンケートを行ったところ、“小学生のランドセルが重すぎる”と答えた方は8割以上。調査を進めていくと、“軽さ”“大容量”“中身の出しやすさ”“丈夫さ”など、多くのキーワードが見えてきました。理想とするランドセルの姿が見えてきて、それを形にすれば、多くの保護者と子どもが望む新しいランドセルが生まれるのに違いないと実感したのです」

 

2020年8月~10月ぐらいでリサーチとコンセプト固めを行い、素材探しなどを同時進行、秋には試作品製作に着手しました。翌2021年1月に『mamatas』を辞めてRANAOSを設立し、3月には早くもNuLAND®の第1号を完成させたといいます。その間、わずか半年というスピードに驚かされますが、「外資系企業にいたせいか、私にとっては特別ではありません」と岡本さんは笑顔で答えます。

 

「NuLAND®には保護者と子どもたちの多くの意見が反映されています。例えば、大きな特徴であるフルオープン機能。これは、ある保護者からの『今のランドセルの形状だと、中がブラックホールすぎる。奥から何が出てくるかわからない(笑)』というユニークな意見から生まれた機能です。

 

しかし当初の設計では、フルオープンになるものの、従来のランドセルのように上部だけを開けてモノを出し入れすることができませんでした。それに対して子どもたちの意見を聞くと、『チャイムが鳴ったら教科書をすぐにしまって少しでも早く教室を出たい。急いでいる時はチャックを開けなくても、モノが取り出せた方がいい』と。そこで両方の意見を取り入れて作ったのが現在の形です。

 

また、曜日によって荷物の量が違うことから、拡張機能を付けたり、重い荷物が背中側に固定されるようにブックバンドを採用するなど、随所に保護者と子どもたちの意見を取り入れています。何よりも私自身が当事者なので共感できる意見も多くありました」

↑簡単にフルオープンになる
↑荷物の量に合わせてマチを広げられる

 

環境問題について親子で話すきっかけに

固定観念にとらわれない自由な発想で生まれたNuLAND®には、「環境」「軽さ」「機能性とデザイン」の3つのポイントがあるそうです。

 

「子どもたちの未来のために、環境に配慮した素材を採用することは最初から決めていました。生地を探していたところ、伊藤忠商事が展開する『RENU®(レニュー)』という循環型リサイクルポリエステル生地を知り、お話を聞いてコンセプトに共感。一般的なリサイクルポリエステルがペットボトルを原料にしているのに対して、RENU®は古着や工場での残反など、100%繊維廃棄物が材料なのです。このRENU®との出会いが、具体的な製品化に動き出すきっかけにもなりました」

 

NuLAND®では、素材の約36.5%にRENU®を使用しています。残りはファスナーや留め具、かぶせ芯、肩パット芯ほかの部材。環境にどのくらい配慮しているかというと、例えば、NuLAND®を100万個製作した場合、150万枚の廃棄Tシャツを使用します。自動車走行距離に換算すると地球20周分のCO2の削減となり、500ミリリットルのペットボトル72万本の水を削減できるそうです。しかし岡本さんの環境へのこだわりは、それだけではありません。

 

「SDGsを保護者の目線でとらえた時、結局、子どもたちの未来に関わることなので、何ができるかといえば子どもに伝えることだと思います。日本と比べて、欧米の子どもたちはすごく小さい頃から環境課題について両親から話を聞いています。そういうのが大切な教育だと思っていて、“NuLAND®がどんな生地を使用し、それは君たちの未来を思ってのことなんだよ”という部分、未来につながる製品であることを両親から子どもへ伝えてほしいのです。

 

環境や社会にどう影響するかも大事ですが、ある意味、製品作りにおいて環境に配慮するのは当たり前の時代。それよりも、ランドセルを選ぶ時に親子で環境について話をしたり、意識をするきっかけになってくれたらいいなと思います」

 

子どもの視点で軽さと機能性、デザインを追求

環境にこだわったのは子どもたちの未来のため。軽さを追求したのは、子どもたちの身体のため。機能性を追求したのも子どもたちの使い勝手を考えて、すべてが子ども主体です。

 

「ポイント2つ目の“軽さ”ですが、ランドセルが重たすぎると答えた方は8割以上でした。中には、3日で背負うのを嫌がった子どもの事例も。一般的なランドセルの重量は、人工皮革1210g、牛革1500g、コードバン(馬のお尻部分の革)1450g。それに対してNuLAND®は約930g(フラップなしで約700g)です。実際に使った子どもたちに話を聞くと“軽い”“締め付ける感じがない”と喜んでくれました」

↑一般的なランドセルとNuLAND®の重さの比較

 

そして3つ目のポイントが「機能性とデザイン」。機能性については、タブレット専用ポケット、鍵や交通パスケースを付けられる隠しリング、成長に合わせて対応できる調整テープ、体操服や水筒、リコーダーまで入る容量の大きさなど、挙げたらキリがありません。現役小学生ママたちの願いを取り入れた結果なのです。

↑2023年に東京・代官山に完全予約制のショールームもオープン

 

一方、デザインディレクションについては、広告、アート、絵本など様々な分野で活躍中のアートディレクター、えぐちりかさんが担当しています。

 

「最初はキービジュアルのご相談だけのつもりでしたが、えぐちさんも3人のお子さんのママであったこと、お話をしたら子どもの目線で活動している面を感じ取ることができたので、デザインディレクションから世界観の構築、ネーミング、ロゴ制作まで、すべてをお願いしました。話を進める中で、当初は少し攻めたデザインも考えたのですが、ランドセルへの憧れは日本の文化として根付いているので、そこは大事にしたいと。両親やおじいちゃん、おばあちゃん、子どものドキドキ感やワクワク感を大切にするために、伝統的な丸みのあるフォルムにもこだわりました」

↑従来のランドセルのような丸みあるフォルム

 

ユーザーとともに進化し続けたい

2023年の春で3年目を迎えたNuLAND®。新色2色が新たに加わり、全7色12ラインナップを展開しています。攻めの姿勢を感じますが、岡本さんの思いは別のところに。

↑2024年4月入学児童向けの新作は4月8日12:00から予約販売開始(7色、全12ラインナップ。オリーブ・グレープは新色・数量限定販売)https://nuland.jp/

 

「カラーバリエーションを増やしているのは、子どもたちが自分の好きな色を選べるようにするため。そもそも、従来のランドセルを否定する気は一切ありません。革のランドセルにはその良さがありますし、比較対象とするのではなく、あくまで選択肢が増えただけ。保護者の方の価値観や、子どもたちの素直な気持ちで選んでいただければと思っています。そして、子どもたちにとって小学校は、これから進んでいく社会への最初の入り口。NuLAND®を通して、“固定観念に縛られないで”“選択肢は1つではないよ”“多様性を認め合おうね”というメッセージが伝われば嬉しいです」

 

まだ3シーズン目ということもあり、耐久性などのデータ量が少ないのが課題と話す岡本さん。ですが、その間もユーザーの声を反映させ、少しずつ改良を続けているそうです。 “その時のベストな製品”を提供しながら、柔軟かつスピーディーに進化している同社。その取り組みには、子どもと未来へのさまざまな想いが詰まってるのです。

133万円と思いきや…。豪でアマチュア採掘師が2000万円以上の金塊を発見

金融危機やインフレでも値が下がらず最強の現物資産と言われる金。そんなお宝を見事に掘り当てた男性が最近、オーストラリアで現れました。その価格はおよそ2100万円。一体どうやって見つけたのでしょうか?

↑1万ドルぐらいの価値かと思いきや、はるかに上だった!

 

この幸運の人物は、オーストラリアのある男性。1800年代に金鉱が発見された同国には、一攫千金を夢見た人々が世界中から押し寄せてきました。そんなゴールドラッシュの中心地となったビクトリア州の金鉱地帯で、この男性は金採掘を行っており、そこで4.6kgの塊を見つけたのです。その石の塊には約2.6㎏の金が含まれていたそうですが、この男性はプロの採掘師ではなくアマチュアで、1200ドル(約16万円※)の格安金属探知機を使っていたとのこと。

※1ドル=約132.5円で換算(2023年3月30日現在)

 

おまけに、男性はこの石を発見したとき、それほど価値があるものとは気づいていなかったようです。男性は後日、石を半分に割ってその半分だけを持ち、採掘した鉱石などを買い取る店「Lucky Strike Gold」を訪れました。

 

そのときの様子について、店主はこう語っています。

 

「男性は『この石は1万ドル(約133万円)の価値があるか?』と尋ねたんです。でも、私が石を見ると、すぐにそれ以上の価値があるとわかりました」

 

それもそのはず、店主いわく「43年間も探鉱してきたが、これほど多くの金を含む石は見たことがない」そう。

 

結局、家に置いてきた残りの半分も後日、店に持ち込まれて、合計で約16万ドル(約2100万円)で店が石を買い取りました。

 

オーストラリアは金が埋蔵されている世界最大のエリアと言われています。まさに一攫千金を絵に描いたような今回の出来事。すぐに売却するより、もうしばらく金を現物で持っておいたほうが良かったのではないか……とも邪推してしまいますが、この男性にあっぱれです。

 

【主な参考記事】

BBC. Amateur Australian gold digger finds massive nugget. March 28 2023
Insider. An Australian man found $160,000 worth of gold in a 10-pound rock using a low-end metal detector. March 28 2023

わずか6年間で「マイクロプラスチック」の量が100倍以上増加! 英大学の研究

目には見えないけれど、静かに海を汚染している「マイクロプラスチック」。現在、その量が2017年の100倍以上に急増していることがイギリスの調査でわかりました。わずか5mm以下のマイクロプラスチックは、どのくらい私たちの身の回りに存在するのでしょうか?

↑もっと細かいプラスチックがたくさん海を漂っている

 

ペットボトルなどのプラスチックが小さな破片になり、やがて5mm以下の大きさになった「マイクロプラスチック」。海や川に漂い、海の生き物たちに影響を与え、それらを口にした人間にもその影は忍び寄っています。

 

マイクロプラスチックの現状について調査したのはポーツマス大学の研究メンバー。イギリス沿岸の約8000kmをボートで回り、海水を採取して、含まれているマイクロプラスチックの量を調べました。その結果、1立方メートルの海水に0~121個のマイクロプラスチックが存在することがわかったのです。

 

この研究チームは同様の調査を2017年に行っており、そのときは1立方メートルあたり0~1.5個のマイクロプラスチックを確認していたので、今回判明した数値はその100倍以上になります。つまり、わずか6年ほどの間に海を漂うマイクロプラスチックの量が急増しているということです。

 

今回のイギリスの調査の結果は、決して他人事とは言えません。愛媛大学などの研究チームが大分県別府湾の海底について行った調査では、1960年頃からおよそ20年の周期で、マイクロプラスチックの量が増減を繰り返しながらも、着実に増えていることが明らかとなっています。

 

2050年の海には、魚の量よりも多くなるとも言われるプラスチックごみ。海洋汚染は驚くほど速く進んでいるようです。

 

【主な参考記事】

BBC. Microplastics: Research finds almost 100 times more microplastics in UK coastline than six years ago. March 28 2023
愛媛大学. 別府湾海底堆積物が語る過去 75 年間(1940 年〜2015 年)の 海洋マイクロプラスチック汚染状況の変遷. October 11 2022

ゲノムデータでマンモスの「培養肉」を開発! 巨大ミートボールが豪で誕生

マンモスはおよそ5000年前に絶滅したとされていますが、その肉を使った巨大ミートボールをオーストラリアの企業が作り、世界中の関心を集めています。

↑マンモスの肉を使った巨大ミートボール

 

ゲノムデータからマンモス肉を再現

今は存在しないマンモスの肉で、なぜミートボールを作ることができるのか? その疑問を解く鍵は、実験室での培養技術にあります。この巨大ミートボールを生み出したオーストラリアのVow社は、実験室で細胞を培養して肉をつくる「培養肉」を手掛けている企業で、今回の巨大ミートボールも細胞培養技術を活用して作ったそう。

 

マンモスは、これまでに北極圏の永久凍土の中から発見されています。血液も残っているような保存状態が良いものもあり、そこに残された毛皮や組織からDNAが解析されてきました。そのように公開されているゲノムデータベースをもとに、同社は実験室でマンモスの肉を培養して再現したわけです。

 

できあがったマンモスの肉はおよそ400g。そこに、同じように実験室で培養して作られたラム肉を混ぜ、今回の巨大ミートボールを作ったのだそうです。ちなみに、羊のDNAとマンモスのDNAはほぼ同じ配列なのだとか。

 

培養肉をもっと知って!

今回、Vow社がマンモス肉の巨大ミートボールを作ったのは、温室効果ガスの排出量を抑えるために、食習慣を見直して培養肉に注目してほしいという意図があったそうです。

 

同社では、培養肉の認可をすでに取得しているシンガポールで、培養したウズラの肉の許可を近いうちに取得し、販売する予定。今回作られたマンモス肉の巨大ミートボールについては安全性が確認されていないため、実際に食べることはできないそうですが、こんな肉を実際に食べる日が近づいているのかもしれません。

【主な参考記事】

CNN. Meatballs made with mammoth DNA created by Australian food startup. March 28 2023

 

カーディラーからエンジニアに転身して失敗。どん底に落ちたアメリカ人を救った「ものづくり」の魅力とは?

ものづくりに人生を救ってもらった——。そう語る職人がアメリカにいます。それが、Todd White Metal Works社のトッド・ホワイト氏。カーディーラーからエンジニアに転身し、独学で出世するも、会社を解雇されてどん底に落ち、そこから成功を勝ち取った経験の持ち主です。すいも甘いも噛み分けるトッド氏をものづくりへと駆り立てる原動力とは?

 

ものづくりを楽しむ日々

↑娘さんと共に3DEXPERIENCE World 2023に登場したトッド・ホワイト氏(画像提供/ダッソー・システムズ)

 

ホワイト氏の物語は子どものときに始まりました。「私は幼い頃から物の構造や製造方法に興味を持っていました。エアガンで遊ぶより、物を分解して楽しむような子どもだったのです。きっと生まれたときからものづくりへの情熱を持っていたのでしょう」とホワイト氏は言います。

 

大人になると、ホワイト氏はカーディーラーとして生計を立てるようになりました。ものづくりへの興味は健在で、友人に教えてもらいながらクルマやバイクのカスタムを楽しんでいたそう。世界経済を不況に陥れたリーマンショックの翌年(2009年)には、全くの初心者ながら製造エンジニアリングの会社へ転職。そこで、機械設計用ソフトウェアの「ソリッドワークス」に出会いました。これは製品のさまざまな設計業務をこなせる3次元設計ツールですが、「私は大学を出ていませんし、新しいことを習うのは並大抵のことではありませんでした。毎朝1時間早く出社し、夜も1時間残業して勉強を続けました」とホワイト氏は当時を振り返ります。

 

1年ほど勉強を続けると同ソフトを使いこなせるようになり、技術部へと昇進したホワイト氏。プライベートも充実し、妻と子ども2人の4人家族で、安定した生活が送れるようになっていました。順風満帆な生活はこのまま続くかのように見えましたが……。

 

突然の解雇、苦難の日々

しばらく経ったころ、あるベンチャー企業から「ホワイト氏をリーダーエンジニアとして迎えたい」というオファーがありました。それまでの安定したポジションを失うことになりますが、生粋のギャンブラーとして知られるホワイト氏は「大きく成長できるチャンスだ」と考え、オファーを受けました。「このときプログラム制御システムを備えた自動工作機械のCNCマシンを業務用に購入したのですが、それぐらい私はやる気に溢れていました」(ホワイト氏)

 

しかし、転職からわずか6か月後、悲劇が彼を襲います。「まもなく会社の資金繰りに問題が発生して、経営が立ち行かなくなると、突如解雇されました。小さい子どももいるのに……。私たち家族は全てを失ったのです。家も財産も、何もかもなくなりました」とホワイト氏は言います。

 

それから6か月もの間、新しい仕事は得られず、無収入の生活を強いられました。その後、ホワイト一家は妹を頼ってアリゾナ州へ引っ越し、ホワイト氏は生活のために家電の設置を請け負いました。しかし、収入は1日働いて68ドル程度(約9280円※)。「本当に苦しかった」とホワイト氏は当時の心境を述べます。

※1ドル=136.45円で換算(2023年3月17日現在)

 

ものづくりに帰る

↑ホワイト氏が作るパーツ(画像提供/Todd White Metal Works)

 

そんな生活をするようになって数か月経ったころ、ホワイト氏の妻がガレージで埃をかぶっていたCNCマシンを指して、「これを使いましょうよ!」と言いました。そこから、本格的にCNCマシンを使ったものづくりが始まったのです。

 

ホワイト氏はバイクのパーツなど、さまざまな金属部品を自分でデザインして作成。CNCマシンの使い方がよくわからず、試行錯誤の日々だったそう。

 

「『お金が足りないの。食べ物もおむつも必要なのよ』という妻の言葉を背に、毎日必死で取り組みました。やるべきことは何でもやり、ガレージで寝起きしながらパーツを作り続けたのです」(ホワイト氏)

 

初めてのお客さんは、地域の情報サイトに掲載した広告を見て連絡をくれた人だったとのこと。パーツ1個200ドルのオーダーを受けたときは、天にも昇るような気持ちだったとホワイト氏は言います。

 

手探りで始めたものづくりという新しい事業。無我夢中で取り組んでいるうちに、徐々に軌道に乗り始めたようです。

 

「とにかくそのときに自分ができる仕事に没頭し、大変でしたが、少しずつ受注も増えていきました。地元のボーイズスカウトから依頼を受け、巨大な投石機を作成したこともありますよ」とホワイト氏は言います。

 

「プライベートでは子どもがさらに2人増えて、6人家族になりました。妻は子どもの教育を一手に引き受けながら、ビジネスもサポート。目が回るほど忙しい日々でしたが、自分のオフィスを借り、念願のショップもオープンできました。現在ではマシンも4台に増え、広大な敷地で日々ものづくりに精を出しています」

 

ホワイト氏の子どもたちはパパの仕事に興味を持ち、有能なアシスタントとして仕事を支えてくれているとのこと。10歳の娘さんは、マシンに材料を入れてセットアップしスタートするところまで全て一人で行うことができ、これまでに200パーツほど作成したそうです。現在は完成品の品質チェックについて勉強しているそうですが、娘さんはビジネスのアイデアさえも持っており、近い将来、自分でデザインしたパーツを作りたいと言っているそう。「こうやって家族と一緒に取り組めるのも、ものづくりの魅力ですね」とホワイト氏は言います。

↑有能なアシスタントとしてパパを支えるホワイト氏の娘さん(画像提供/ダッソー・システムズ)

 

今度は自分が恩返しをする番

近年は新たな試みとして、地元企業や次世代の技術者たち向けの技術実践クラスを始めたホワイト氏。その背景には、自分を支えてくれた人々へ恩返しをしたいという思いがあります。

 

「いま私がこの舞台(3DEXPERIENCE World 2023)に立っていられるのも、周りの人々の惜しみない助けがあったからこそです。無一文になった私たち家族を居候させてくれた妹、機械購入のための高額な費用を貸してくれた義父。マシンの使い方がわからず途方に暮れていたときは、同業の先輩が惜しげもなく公開してくれた情報に何度も救われました。初めて200ドルの注文をくれた人は、現在でもお得意さんとして長い付き合いをさせてもらっています」とホワイト氏は謙虚に述べます。

 

「今度は自分がお返しをする番です。現在、研磨機や旋盤機械のクラスを実施しており、地元工場の新人研修などに採用されています。成長し続けるこの製造業の世界で勝負できるような、優れた技術者を育てる手助けができればと思っています」

 

もとはカーディーラーで、ものづくりは素人だったホワイト氏。仕事も家も失うという不運に見舞われながらも、独学で学び、努力を重ね、実業家として成功を収めました。

 

「この4年間、本当にいろんなことがありましたが、ものづくりの魅力は、年齢や経歴に関わらず、誰でも成功できるチャンスがあることです。そして、ものづくりは私の人生を救ってくれました。ある可能性に賭けるとき、たとえそれが不可能に見えても、全身全霊で取り組めば必ず結果はついてきます。私はそうやって、ゼロから自分の会社を持つまでになりました。私にできることは、あなたにも必ずできます。どうか、勇気を持って進み続けてください」とホワイト氏はエールを送っていました。

 

執筆者 / 長谷川サツキ

米国で3倍以上も値上がりした「卵」。欧米人は卵ショックにどう対応している?

さまざまなものの価格が上がっているなか、身近な食材で値上がりが特に激しいのが卵。日本と同様にアメリカでも卵の価格が高騰しています。

↑食料危機の象徴

 

先日発表されたアメリカ農務省の報告書によると、カリフォルニア州では卵1パック(12個入り)の小売価格が、7.37ドル(約960円※)。1年前は2.35ドル(約306円)だったので、1年間で3倍以上に値上がりしていることになります。

※1ドル=約130.6円で換算(2023年3月24日現在)

 

ニューヨークのあるデリでは、以前は120個入りの卵の価格が40ドル(約5200円)たったのに、いまでは100ドル(約1万3000円)以上もするそう。ここでも卵の価格が2倍以上になっていることがわかります。

 

そんなアメリカにおける卵の価格上昇の原因は、サプライチェーンの崩壊や労働力不足。さらに2022年に5000万羽以上が死滅した鳥インフルエンザの発生も大きな影響を及ぼしています。これらの要因に加えて、ウクライナ侵攻による穀物のコスト上昇で、卵の飼料の価格が上がっていることもあります。

 

飼料の高騰は、主にロシアによるウクライナへの侵攻が影響を与えているとされており、これはアメリカに限らず、日本を含めて世界中で共通すること。さらに、鳥インフルエンザは2022年から欧州をはじめ世界各地で発生しており、新たに世界的な流行(パンデミック)が起きているとも言われています。

 

卵の代替案

そんな卵価格の高騰のなか、欧米では卵以外の食材で代用するアイデアも生まれています。例えば、イギリスのあるレストランではスクランブルエッグの代わりに豆腐を使って、スクランブルエッグ風に仕立てているそう。同じように、ひよこ豆をすりつぶして、野菜などと一緒にオムレツ風にして提供している店もあるのだとか。

 

また、お菓子づくりにも欠かせない卵ですが、マフィンやパンケーキではバナナをつぶして卵代わりに使うほか、プレーンヨーグルトやコンデンスミルク、牛乳なども卵の代用品になります。

 

ガソリンや電気などのエネルギー価格の世界的な高騰に加え、各国で起きている卵の価格上昇。これまでは冷蔵庫に「当たり前に」ある食材だっただけに、日常生活にとって大きな痛手ですが、さまざまな情報を参考にしながら、できる範囲で対策を始めていくことが大切かもしれません。

 

【主な参考記事】

CNBC. Egg prices increased 70% over the last year—here’s why. March 3 2023
The Gurdian. Egg swaps: a guide to plant-based alternatives amid UK avian flu crisis. November 8 2022
Southern Living. The Best Egg Substitutes For Baking. March 21 2023

目立ち過ぎだよ。外国人観光客がイタリアでフェラーリを乗り回して罰金6万円

アメリカからイタリアを訪れたある観光客が、フィレンツェの広場で真っ赤なフェラーリに乗ったところ、現地の警察に捕まり、470ユーロ(約6万6250円※)の罰金を支払うことになった……。そんなニュースが海外で報道されました。なぜ6万円以上の罰金が科されたのでしょうか?

※1ユーロ=約140.9円で換算(2023年3月24日現在)

↑観光名所と同じくらい(またはそれ以上に)目を引く真っ赤なフェラーリ

 

アメリカ人の43歳の男性はレンタカーでフェラーリを借りて、フィレンツェのシニョーリア広場などの人気観光地を運転した結果、翌日に警察に捕まり、罰金470ユーロを支払うことになりました。

 

その理由は3つあります。1つ目は、歩行者専用と定められているエリアで駐車したから。2つ目は現地の交通規則に従わず、道路標識が示す方向とは反対に向かって運転したから。そして3つ目は、イタリアで運転が認められる免許証を持っていなかったから。

 

このアメリカ人男性は、観光客が多く集まるフィレンツェの広場をフェラーリで走り、美術館なども訪れたそう。その際、駐車禁止のエリアにクルマを止めたり、現地の交通規則に反する運転をしたりしていたことから、目撃者が警察に通報したようです。その際、彼はアメリカで運転できる免許証は持っていたものの、イタリアで運転できる国際運転免許証を持っていなかったことも判明。そのため、罰金が科されることになったようです。

 

もしかしたら、彼は旅行中で気持ちが大きくなってフェラーリに乗ろうと決めたのかもしれませんが、結果として街中で目立って、警察に通報されてしまったのかもしれません。

 

「いい気味だ」と思ってばかりもいられない

海外旅行先でレンタカーを利用するときは、現地で有効な運転免許証を事前に用意することはもちろん、現地の交通ルールをきちんと理解しておくことが大切。外国人観光客が再び増え始めている日本でも、レンタカーで事故を起こすケースが増加しており、日本人が巻き込まれて死亡する交通事故も実際に起きています。対策を講じておく必要があるかもしれません。

 

【主な参考記事】

CNN. US tourist fined $500 for driving Ferrari into Florence’s famous piazza. March 21 2023

2023年版「世界で最も幸せな国」が発表! 日本は何位?

国連が毎年発表している「幸福度ランキング」の最新のランキングが発表されました。これは150か国以上の人々に行われた調査データをもとに、それぞれの国の幸福度をランク付けしたものです。2023年版の「世界で最も幸せな国」の上位国は?また、気になる日本のランキングはどうなのでしょうか?

↑幸せとは?

幸福度ランキング2023トップ20

  • 1位 フィンランド
  • 2位 デンマーク
  • 3位 アイスランド
  • 4位 イスラエル
  • 5位 オランダ
  • 6位 スウェーデン
  • 7位 ノルウェー
  • 8位 スイス
  • 9位 ルクセンブルク
  • 10位 ニュージーランド
  • 11位 オーストリア
  • 12位 オーストラリア
  • 13位 カナダ
  • 14位 アイルランド
  • 15位 アメリカ
  • 16位 ドイツ
  • 17位 ベルギー
  • 18位 チェコ
  • 19位 イギリス
  • 20位 リトアニア

 

1位になったのはフィンランドで、6年連続のトップに輝きました。フィンランドをはじめ、上位に入ったのはデンマーク、アイスランドなど北欧諸国。健康寿命が高く、一人当たりGDPが高く、社会的支援制度が整っていることなどが、この良いスコアにつながったようです。

 

日本は特殊?

一方、日本は47位でした。昨年の54位からランクが上がったものの、主要7か国では最下位の結果でした。ただし「幸せ」の感じ方や捉え方は、人々の考えや文化によって変わるもの。特に日本人にはアンケートのような調査で10点満点中5点といった具合に中間的な評価を好む傾向があるため、幸福度のスコアが上がりにくいという指摘もあります。

 

アフガニスタン、レバノンなど紛争が起きている国はランキングで低くなるのは納得できるし、給料が上がらないのに物の値段が上がっており家計に影響を与えていることも事実でしょう。でも、日本の47位を「そこまで低い」と悲観しすぎる必要はないのかもしれません。

 

【主な参考記事】

John F. Helliwell, et al. World Happiness Report 2023

CNN. The world’s happiest countries for 2023. March 20 2023

超レアなスティーブ・ジョブズの直筆サイン入り表彰プレート、約1240万円で販売中!

アップルの共同創業者にして元CEOの故スティーブ・ジョブズ氏は、めったにサインを書かなかったことで知られています。

↑超レア、超高い(画像提供/Moments in Time)

 

そのためサイン入りのアイテムは高値が付く傾向がありますが、かつてアップル社員に贈られたサイン入りの表彰プレートが9万5000ドル(約1240万円※)もの価格で売りに出されています。

※1ドル=約130.6円で換算(2023年3月23日現在)

 

レアなアップル製品や記念品のほとんどはオークションで競り合いますが、このアイテムは希少品販売サイト「Moments in Time」で希望者が問い合わせて購入する方式です。価格は非公開ですが、ニュースサイトTMZは9万5000ドルだと伝えています。

 

今回の品は2000年に、元マーケティング担当のスザンヌ・リンドバーグ氏に贈られた(勤続)10年表彰するプレート。10年という節目を祝うメッセージが添えられ、下部には本物のスティーブ・ジョブズ氏が黒いフェルトペンで書いたサインも入っています。

 

この表彰は、ちょうどジョブズ氏がアップルに復帰した直後に行われたもの。その後、アップル社内でのサインはファクシミリに移行したため、ジョブズ氏ご本人が手書きでサインした数少ない表彰状の1つとなったわけです。

 

また、リンドバーグ氏はアップルに25年在籍し、1994年から2013年までの19年間、ワールドワイドバズマーケティングディレクターを勤めていました。その仕事内容は、映画やテレビ番組でアップル製品を使ってもらうというもので、ご本人がアップル製品の普及や知名度の向上に果たした貢献も大きかったと言えます。

 

今回の表彰プレートは他人と競り合う必要はなく、ポケットの中に9万5000ドルさえあればすぐに入手可能。もっとも、購入を決心するまでには相当な時間がかかるかもしれません。

 

Source:Moments in Time

via:9to5Mac

「未利用材」が美しいテーブルに。オフィス家具大手「オカムラ」が取り組む森林整備の社会課題

製品などの材料として使えない間伐材や、枝、葉、樹皮などの不要部分を「未利用材」と言います。森林整備の際に発生する未利用材が残されたままだと、木材搬出の妨げになったり、土砂災害で大きな被害をもたらしたりする危険性があり、実は社会課題にもなっています。その解決にひと役買おうとしているのが、オフィス家具メーカーの株式会社オカムラ。未利用材を使用した製品の発売を2022年11月からスタートしました。

 

未利用材を活用してテーブルの天板に

「きっかけは、当社のお客様でもあるエースジャパン株式会社様からのご提案でした」と話すのは、マーケティング本部の白井秀幸さん。

 

「エースジャパン様は京都にある物流の会社で、京都府森林組合連合会および各森林組合と連携し、CSRの一環として未利用材を活用した輸送用パレットを製造していました。商談の際、“学校の机など、未利用材を活用した製品を何か一緒に展開できないでしょうか”とご提案いただいたのです。当社は元々『オカムラグループ 木材利用方針』をかかげ、生物多様性の保全、木材の合法性の確保、森林認証材や国産材、地域材の利用など、森林資源の持続可能な利用を推進していました。すでに流通経路は確立されていましたし、社会的な意義とビジネスの可能性を感じ興味を持ったのです」(白井さん)

 

府域の75%を森林が占める京都府は、府民みんなで京都の森を守り育むための取り組みとして「京都モデルフォレスト運動」を展開しています。モデルフォレストとは、1992年の世界地球サミットでカナダが提唱した持続可能な地球づくりの実践活動のこと。京都発祥の企業や団体、大学、行政が協力し、エースジャパンも参加していました。

↑マーケティング本部 パブリック製品部 部長の北川博一さん(左)と、マーケティング本部 企画部 部長の白井秀幸さん

 

「最初にお話をいただいたのは2021年9月ごろ。翌月には契約に至り、協議の結果、まずはテーブルの天板から始めることに決まりました。強度や重量はもちろん、反ったり割れたりしないためにどう成型するか、喧々諤々しながら進め、製品化したのは2022年11月。クリエイティブファニチュア『SPRINT』シリーズの1つとして、未利用材天板を使用したテーブルをラインアップに追加したのです」(北川さん)

 

↑未利用材天板を使用したクリエイティブファニチュア『SPRINT』のテーブル

 

環境問題と向き合い、資材として有効活用を

先述したように、「未利用材」という言葉は定義付けられていて、森林整備の際に発生した不要な樹木や切り捨て材のうち、未使用の材のことを指します。今回同社では、低質材や根元部、曲がり材、枝や葉なども積極的に活用。回収した材を粉砕機でチップ化し、乾燥させた後に成型することで製品に使用しています。

 

↑未利用材の例と活用の流れ

 

「このお話をいただくまで私どもも知らなかったのですが、放置された未利用材が雨などで川に流れ込み、ダム湖の水面を覆うように溜まることに電力会社は頭を痛めていたそうです。今回、ダム湖を見学したのですが、遠くから見て陸地だと思っていた部分が、実は流木だと知って衝撃を受けました。電力会社は定期的にすくい上げて破棄していたのですが、森林からの未利用材だけでなく、そちらも回収して使用しています。

↑写真の左側はすべてダム湖に流れ着いた流木。まるで陸地のように見える

 

材の回収はエースジャパン様が行っているので、現在回収を行っているのは京都府内だけですが、未利用材の適切な処理はどの自治体も課題として捉えています。昨年11月に開催した当社の製品発表会の際も、多くの自治体や電力会社、企業が、未利用材の活用について関心を寄せていました。未利用材の活用は、森林整備に寄与すると同時に、災害時の被害の防止など、社会課題の解決にもつながります。すでに複数の自治体や企業から具体的な相談も受けていますし、今後は他の都道府県での展開も進めていきたいです」(北川さん)

 

のしかかる責任と多くの課題

現時点では『SPRINT』のテーブルだけですが、回収エリアの拡大と共に、今後は学校の机などいろいろな製品に未利用材を使用していきたいそうです。ただし課題もあります。

 

「未利用材の回収には森林組合や自治体の協力が不可欠ですが、当社の取り組みに興味を持つ自治体が多い反面、一企業が正面から未利用材の回収と活用を提案しても、簡単にはいかないのが現実です。仮に合意したとしても、加工できる工場の確保をどうするか、現在の工場へ輸送するとしても、コストや輸送によるCO2排出の問題があります。

↑朽ち果てた木々がチップ化され天板に成形される

 

また家具メーカーとして最も重要なのは製品の品質。チップ化すると強度を高めるために凝縮する分、重たくなります。例えば天板1枚にしても、大きくすればするほど反る確率が高くなるのでそれをどう対処するか、小学校1年生の机が重たくていいのかなど、クリアしなければならない課題は尽きません。また、どんなに“未利用材を回収します、使用します”と言っても、当社が売らなければ社会貢献が持続できない。そのあたりの責任も強く感じています」(北川さん)

 

目指すは47都道府県での地産地消

まだスタートしたばかりの取り組みですが、今後の展開についてはどう考えているのでしょうか。

 

「最終的には47都道府県での地産地消を実現したいと考えています。それが実現できれば、輸送に関する課題が解決するだけでなく、新しい雇用も生みだせます。そして何よりも、自分たちの住む地域の課題解決につながりますし、学校などで子どもたちにとっては木育の一環にもなります。例えば、道の駅で地元の野菜を販売していたりしますが、商品棚や箱、商品を袋に詰め込むためのカウンターなどに未利用材を使用することも考えています」(北川さん)

 

「自治体をはじめ、一般のお客様の中にも、国産材にこだわる方は一定数いらっしゃいます。未利用材の家具は、正真正銘100%国産材ですし、これまでの国産材の家具よりも安価なので需要は見込めると思います。また、SDGsをはじめ社会貢献が当たり前となった昨今、未利用材を活用した製品ということで、企業にとっても導入しやすいのではないでしょうか。今回の取り組みは、社会貢献活動に寄与できることはもちろん、ビジネスとしての可能性にも期待しています」(白井さん)

 

実は同社では、環境課題の解決に向けた取り組みとして、「サーキュラーデザイン」思考による製品開発をしています。未利用材を使用した製品についてもそれは当てはまるそうです。

↑オカムラの製品開発におけるサーキュラーデザイン思考

 

「限りある資源をより長く有効に使用し、廃棄物の発生を最小化するものづくりを当社は目指しています。未利用材を使用した天板は接着剤を使用しているため、すぐには再利用とはなりませんが、ゆくゆくは廃棄される製品を材に戻し、製品に再生することも考えています」(北川さん)

 

国土の約7割を森林が占める日本だけに、同社の取り組みは、社会的にも大いに注目されそうです。

ばからしいからこそやれ! 防犯の常識を覆した実業家が語る、イノベーションの5つの秘訣

2023年2月、ものづくりに携わるプロたちが一堂に会するイベント「3DEXPERIENCE World 2023」が開催されました。そこで、一際大きな注目を集めたのが世界で活躍するイノベーターたちの講演。その中から今回は、世界初のwifi録画カメラ付きドアベルを開発し、ホームセキュリティのあり方を大きく変えたRing社のCEO、ジェイミー・シミノフ氏の講演を紹介します。現在そして未来のイノベーターたちに伝えたい、5つの成功の秘訣とは?

↑スピーチするRing社のジェイミー・シミノフCEO(画像提供/ダッソー・システムズ)

 

1: 他人に笑われることはイノベーターあるある

シミノフ氏が発明した録画カメラ付きドアベル誕生のきっかけは、自宅のガレージでした。

 

「我が家のガレージは裏手にあるため、来客があっても玄関のチャイムが聞こえません。いつも持ち歩いているスマートフォンで対応できたら便利だな、と思ったのがきっかけでした。そこで、自分で少々金属加工をしてカメラ付きのドアベルを開発したのです。妻にも好評でした」とシミノフ氏は語ります。

 

もともと家族のために作った発明品でしたが、そこから広がって2018年にはホームセキュリティ会社Ringを設立し、同年アマゾン社と提携。新進気鋭の起業家を紹介するテレビ番組Shark Tankでも紹介され、2023年にはスーパーボウルのCM進出も果たしました。しかし当初、周りの人は自分の研究にあきれた様子だったと言います。

 

「何かを真剣に開発している様子というのは、とてもばかげて見えるものです。他人に笑われるのは、イノベーターあるあるでしょう。僕も『君はドアベルなんて作っているのか?』と笑われたものです。当時ドアベルといえば、誰も気に留めない古ぼけた家の付属品でしたからね」(シミノフ氏)

 

2: 「誰もが知っている物を改良する」は成功率が高い

シミノフ氏は自分が成功した要因をどう分析しているのでしょうか?

 

「誰も気に留めないけれど、誰もが知っている物」を対象に選んだことが、成功した一因だとシミノフ氏は言います。「長く存在しているけれど注目されてこなかった物にイノベーションの光を充てるアプローチは、そうじゃないケースに比べて成功しやすいのです」

 

「台湾へ出張に行った際、多くの家で防犯用のスポットライトを設置していることに気づきました。そこで、ライトにカメラを追加したら防犯機能が格段にアップするだろうと思いついたのです。製造業者にデザインイメージがうまく伝わらず台湾に3~4回足を運ぶはめになりましたが、いまでは我が社の売れ筋商品です」と言うシミノフ氏。

 

「成功の秘訣は、『すでに世間に周知されている物・サービス』と『ばかげて見える発明』を掛け合わせること。僕は、誰でも知っているドアベルにテクノロジーをプラスしたことで大きな革命を起こすことができました」

↑「世間に周知されている物」と「ばかげた発明」を掛け合わせ生まれたRing(写真の製品は「Floodlight cam」。画像提供/ダッソー・システムズ)

 

3: ミッションを常に意識する

イノベーションを生み出すためには、発想法だけでは十分ではありません。

 

「イノベーターとして、自分のミッションはいつ何時でも忘れてはいけません。これは自分がRing開発に際して学んだことです。僕は自社製品が素晴らしいという自負がありますが、大事なのは商品じゃないのです。どんな世界を目指しているのか、というビジョンです」とシミノフ氏は熱を込めて話します。

 

「僕のミッションは、自宅近隣の犯罪率を下げることでした。単にカメラ付きドアベルを売りたかったのではなく、人々にとって意味のあるサービスを提供したかったのです。

 

大企業の役員たちを前に、プレゼンテーションを行った時のことです。僕は商品の性能は一切説明せず、この商品でどんな世界が実現するかを訴えました。『近隣の犯罪を減らし、ホームセキュリティの意義を変えられる』と。その結果、プレゼンが終わらないうちに『こんなプレゼンは初めてだ。君たちに投資しよう』と言ってもらえたのです。

 

我々の周りには常にあらゆる雑音があり、誘惑があります。売れるラインナップを増やすのは簡単ですが、それが本当に正しい判断なのか、いつも自身に問うべきです。売れる商品ではなく、消費者の生活クオリティを向上させるサービス・商品を提供する。そのミッションを貫くことで、長く愛されるブランドへと成長できるのだと思います」(シミノフ氏)

 

4: 高い目標と適度なストレス

情熱がほとばしるシミノフ氏ですが、ビジョンの描き方にはコツがあるようです。「僕が思うに、多くのイノベーターは目標が低過ぎます。絶対に達成できる目標なんて、つまらないでしょう。『不可能に見えるけど、必死にがんばれば何とか実現するかもしれない』くらいがちょうど良い。そうやって自分に負荷をかけて駆り立てることで、イノベーションへの道が開けるのです。

 

おいしいワインは、適度なストレスにさらされたブドウからできることをご存じでしょうか。水も肥料もたっぷり与えられ甘やかされると、ブドウは水っぽく味も薄くなります。もちろん枯れてしまうほど過度のストレスはいけませんが、適切なストレスをかけることで素晴らしい逸品ができるのです。

 

イノベーションやビジネスも同じことです。正しい方向に適切なストレスをかけることが、最高のイノベーションに繋がります」とシミノフ氏は力説します。

 

5: 顧客の声に全身全霊で向き合う

「商品開発にあたり、広く意見を聞くアンケートはおすすめしません。問題の核心がどこにあるのかがわかりにくく、方向性がぶれて収拾がつかなくなります。それよりも、実際に商品を使っている顧客の声にとことん向き合うべきだと思います。

 

Ringのパッケージには、僕のEメールアドレスが記載されています。顧客が何を求めているのか、真実の声を直接聞きたいからです。

 

例えば、今週(講演当時)販売開始となる車載カメラは、僕の発明ではなく、顧客の声から生まれた商品です。僕は車載カメラを商品化する予定は全くなかったのですが、『自宅の前で車上荒らしにあった』『近所で車の犯罪が多発している』といった意見に向き合う中で商品化に至りました。顧客の声は、商品開発において何よりも参考になる指標です」

↑情熱的なシミノフ氏の話に会場は盛り上がった(画像提供/ダッソー・システムズ)

 

近年のAIの台頭に、仕事を奪われるかもしれないと危機感を持つ人もいるでしょう。確かにAIはあらゆる業界において大きなインパクトを与え、イノベーションのスピードアップに貢献しています。しかし、シミノフ氏は以下のように力強く断言します。

 

「AIには、未来を形づくっていく力はありません。未来を変えるようなイノベーションを行えるのは、人間の、イノベーターの仕事なのです。僕たちが未来を創るのです。僕たちは、一緒に学び続けている仲間です。今日出会ったイノベーターから、プラットフォームから、たくさんのことを学んでほしい。同時に、あなたが世界の中心であること、あなたはユニークで素晴らしいことを絶対に忘れないでほしい。数年後、今度はあなたがこの舞台に立ち、どんなイノベーションで世界を変えたのかぜひ聞かせてください。それが私の願いです」

 

執筆者 / 長谷川サツキ

【1月23日から】ウクライナ難民の“今を知る”イベント「ウクライナ難民の暮らしの今」二子玉川 蔦屋家電で開催

1月23~29日、二子玉川 蔦屋家電2階 E-room 2にて、アイ・シー・ネット主催「ウクライナ難民の暮らしの今」が開催されます。開催時間は11~19時

 

同イベントは「写真パネル展」と、週末に開催される「ポップアップイベント」の2つのイベントで構成。写真パネル展では、隣国モルドバとルーマニアでの、ウクライナ難民の暮らしの状況や難民の子どもたちの教育環境について知ることができるパネルと、UNHCRの写真を展示。ドキュメンタリー写真家の森 佑一氏がウクライナ国内で撮影した写真もインタビュー内容と合わせて紹介します。無料で、期間中は常時開催。イベントブース来場者にはオリジナルロゴシールをプレゼントします。

 

ウクライナから約10万人が避難しているモルドバ。同国のワイナリーでは、ウクライナ難民が暮らしを続けていくために住居の提供や生活支援を行なっています。1月28日と29日のポップアップイベントは、ワインという身近なものを通じて、難民たちと“関わり”を持つことができます。イベントでは、東京・自由が丘にあるモルドバ産のワインや食品を販売している店舗が2日間限定で出店。売上の10%はウクライナ難民子ども支援プロジェクトに寄付されます。

 

また、5000年の歴史を持つモルドバワインの世界を楽しめるワインテイスティング会も開催。難民支援を行なっているワイナリーのワインを試飲できます。講師(ソムリエ)の遠藤エレナ氏よる、モルドバ国内の様子と、日本では珍しいモルドバ産のワインについての解説もあります。イベント参加は事前申し込みが必要で、参加費は1200円。所要時間は30分で、各日3回開催します。申し込み方法などの詳細はPeatixをご覧ください。

採用試験で学位は評価されなくなる!?「仕事」の近未来予測

現在、コロナ禍による社会の構造変化に伴い、ビジネスの世界は大きな変革期を迎えています。私たちの仕事はどう変わりつつあるのでしょうか? 官民協力の国際機関「世界経済フォーラム」の記事を参考にしながら、仕事の近未来について考えてみましょう。

↑私たちの仕事はこれからどうなる?

加速する大量退職と世界的IT企業のレイオフ

コロナ禍によるパンデミック終了後、労働者が職場に復帰することが難しくなっているといわれています。日々の生活が「通常」に戻った後、多くの人々が自分のキャリアを再評価し、仕事を辞める選択をするとの予測です。すでに米国では、テック業界とヘルスケア業界を中心に30~45歳のミドルキャリア世代で大量退職がトレンド化。企業にとって大きな痛手となっています。

 

その一方で、パンデミックに起因する景気減速により雇用が取り消されるなど、これまで成長分野とされていたテクノロジー企業のレイオフ(整理解雇)現象が加速しています。ここ2か月ほどで、世界的なIT企業であるツイッターやアマゾン、メタ(旧フェイスブック)も相次いで大量解雇を発表しました。業界構造やビジネスモデルの変化により、競争力や効率化を高めるために企業再編やビジネス再構築を目指すようになったのです。

 

新卒ではなく高スキル人材の採用へと舵切り

レイオフを行わない企業においても、従業員の生産性向上を求める動きが急速に高まりました。高度なデジタルスキルを持つ人材は世界的に不足しているため、人材獲得をめぐる競争も激化しています。

 

企業は競争力や効率化のために大規模な人員削減を実施した後、業界に関係なく、自社の収益に直接貢献できるデジタルスキルを持つ人材の採用を優先。短中期的な結果を出す必要性が増しているため、経験に裏打ちされたスキルがある人材の確保に積極的な姿勢を示しています。

 

こういった背景から目立ち始めたのが、新卒者の受け入れ減少。多くの企業が新卒者の未知のスキルや可能性に期待する姿勢をとらず、採用基準から学位を排除する動きが加速。熟練したデジタルスキルを持つ人材の評価を重視する採用へと、大きく舵を切りました。

 

そのため若者は社会に出る前に、現場でデジタルスキルの経験を積むことが必須となったのです。インターンシップや見習いプログラムなど、在学段階で仕事に直結した学習機会を受け入れることが求められています。

 

根底から変わる雇用形態や人材マネジメント手法

パンデミックによって仕事の形態は大きく変化し、リモートワークを活用すれば業界や国境を越えて働けるようになりました。デジタルテクノロジーの恩恵により、労働者が仕事を掛け持ちしたり、一度に複数の仕事に就いたりすることも可能になったのです。

 

米国労働統計局の調査によれば、現在点で最も若い労働者は生涯で12〜15の仕事をすると予測されるとのこと。そのため、企業も個人もより広くグローバルな視点で仕事を評価し、キャリアやスキルの流動性を見据えた働き方にシフトする必要があります。

 

また、ウーバーイーツなどデジタルプラットフォーム企業の台頭は、雇用のルールを根底から変えました。同社は世界中で約500万人のドライバーに仕事の機会を創出しており、同じ様に他社のデジタルプラットフォームを利用して生計を立てるフリーランサーも増加しています。

 

このように、企業と雇用関係を結ばず自らのスキルと知識で生計を立てる労働者は、今後も増える見込み。企業と労働者が共に支えてきたこれまでの雇用形態は、次第に弱体化していくでしょう。

 

企業が採用に取り組む手法についても、見直しが進むことが予想されます。従来のように人事部門が従業員を管理するのではなく、「人材」の戦略チームが人事ニーズを満たすといったマネジメント手法にシフトすると言われています。また、仕事のパフォーマンスを測定する分析ツールを活用し、職場が抱える人材の全体像を把握・評価するようになる可能性もあるそう。

 

もはや多くの企業は従業員がフルタイムでオフィスに戻る必要はないと考えています。パンデミック前の勤務形態が再現されることはなく、柔軟性がありバランスの取れた効率的な働き方が推奨されていきそうです。

 

デジタルスキルは雇用されるための必須能力に

デジタルテクノロジーの浸透は、仕事の世界に大きな変化をもたらしました。農業や製造、金融、さらにメディアまで、あらゆる分野でテクノロジー企業への転換が進んでいます。

 

こういった動きからもわかるように、より高い競争力を必要とする企業にとっては、優れたデジタルスキルを有する人材の確保が急務。国際的な流れとして、デジタルスキルは労働者に必須な「エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)」になりつつあるのです。

 

これからの時代における「エンプロイアビリティ」は、コミュニケーション力など従来の「ソフトスキル」だけでは足りません。AIやロボット工学、デジタルトランスフォーメーションなどが職場に浸透するにつれて、熟練したデジタルスキルがますます求められるようになるでしょう。

 

執筆者/渡辺友絵

子どもと過ごす時間がAIで増える! 2023年以降のテクノロジーと世界予測

2023年以降、テクノロジーはさまざまな分野でどのように発展にするのでしょうか? 世界のエリートたちが出席するダボス会議を運営する世界経済フォーラムがまとめたレポート(※)を抜粋しながら、未来の姿を探ります。

※ Saemoon Yoon. 17 ways technology could change the world by 2027. World Economic Forum. 10 May 2022. https://www.weforum.org/agenda/2022/05/17-ways-technology-could-change-the-world-by-2027/

↑どんな未来が見える?

Web3.0の時代へ

1990年代、インターネットが普及し始めた初期にあたるWeb1.0は、発信する側と受信する側が固定された限られた人でした。それから、高速で通信できるようになり、2000年代半ばころから誰もが自分で発信できるようになっていったのが、Web2.0 と呼ばれる時代です。しかし、現在の主流のかたちであるWeb2.0は、利用するのに個人情報の入力の必要がありましたが、分散型インターネットと呼ばれるWeb3.0ではブロックチェーンなどの技術を活用して情報を分散管理するため、個人情報漏洩のリスクが低くなりセキュリティが向上すると考えられます。オンラインでの各種取引が一般的になってきた現代では、Web3.0がスタンダードになっていくと考えられます。

 

AIによって教育が劇的に変わる

インターネットの普及によって、遠方に暮らす子どもがオンラインで教師とつながることも可能になった現代。ここにAIの技術が加わることで、教育そのものに対する考えが一新されると言われています。例えば、子どもが学習している内容を基に、理解しているコンテンツや興味を持っている分野に合わせて、次の学習内容を提示。子どもたちはより効率的に学習できるようになるかもしれません。

 

また、教師や保護者にとってもAIは良い影響をもたらすと言われています。AIのアドバイスをもとに、子どもへ的確に学習のサポートを行い、煩雑なタスクを機械に任せることで、より子どもと向き合う時間を捻出することが可能になるでしょう。学校や家庭での教育のあり方も、これまでの常識とは変わっていくかもしれません。

 

アパレル製品の製造期間を劇的に短縮

イノベーションはアパレル業界にも大きな変革をもたらすと考えられます。これまでアパレル業界で課題だったのが、過剰な生産による大量の廃棄・返品が生まれていること。製品が余るとセールで値下げして、利益率が低下することになり、メーカーにとってうれしいことではありません。これを解決するためには、オンデマンドで必要な分だけを生産できれば良いのですが、現在の製造モデルでは、注文から実際に製品ができあがって販売するまでに数か月の時間がかかるうえ、近年ではサプライチェーンの混乱も問題に。しかし、これからは実際のサンプルを制作する必要がない3Dモデリングや、パターン(型紙)を作る工程が不要な3Dプリンターの導入など、アパレル製品の製造にデジタルテクノロジーを活用すれば、数か月かかっていた製造の期間を大幅に短縮できると考えられています。必要な分だけを短期間で製造することで、不要な廃棄を減らし、サプライチェーンでの温室効果ガス排出量の削減などにもつながると期待できます。

 

不妊治療にAIを活用

さまざまな分野で活用が始まっているAIは、不妊治療にも活用されていく模様。2030年までに不妊に悩まされいる人は、世界で10億人以上に上っていると予測されています。そして、不妊治療で一般的に行われる体外受精は、コストが高いうえ、何度も試みることになると、治療を受けるカップルにとって大きな負担となります。そんな体外受精へ進むときの意思決定が、医師の判断に依存しているなか、AIの力を借りようというのです。さまざまな条件から、どのような治療法が最適なのかをAIが判断しアドバイスすることで、より成功率が高まり、治療を受けるカップルの負担を減らせる可能性があるのです。

 

先進国はもちろん、途上国の経済発展にも欠かせないこれらのテクノロジー。ひと昔前にはインターネットが存在しなかったのに、今日ではスマートフォンを使って、誰もがいつでもネットにアクセスできるようになり、生活スタイルが一変しました。それと同じように、今後も各種のテクノロジーが私たちの生活を大きく変えていくことになるのは間違いないでしょう。

人の縁は匂いと関係する。2022年に科学でわかったこと

科学の世界では2022年もさまざまな発見がありました。私たちの身近な事柄に焦点を絞りながら、この1年間に取り上げた研究を振り返ります。

↑2022年も新しい知識が生まれた

「男性外科医×女性患者」の組み合わせは危険!?

患者と外科医の性別の組み合わせと手術結果の関係について、カナダのトロント大学の研究チームが調べました。手術後に合併症などの“異変”が起きた確率を調べると、「男性外科医×女性患者」の組み合わせが最も多いことが判明。この組み合わせの場合、手術後30日間に死亡する確率が32%に上がっているのです。もちろん、手術結果には医師と患者のコミュニケーションや前後のケアなど、さまざまな要因が関係するもの。とはいえ、この問題は今後も調査が必要かもしれません。

 

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手術後の死亡確率が32%も高い! 実は危険かもしれない「男性外科医×女性患者」の組み合わせ

 

「AIが作った顔」は本物より信頼しやすい

「GAN(敵対的生成ネットワーク、Generative adversarial networks)」と呼ばれる画像生成AIプログラムが、人には判別できないほど巧妙で本物に近い人の画像を作れるようになってきています。カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、400人分の顔写真を見せて、本物かGANが作った偽物の画像か判別できるかテストを行いました。その結果、正解率は48.2%と50%を下回る結果に。しかも顔写真を見て「信頼できる度合い」を7段階で評価したところ、実在する人物のほうが低く評価され、逆に最も信頼できると評価された人はすべてAIが生成した偽物の顔だったのです。AIは平均的な顔を作るため、信頼しやすく感じられるのかもしれません。

 

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されど8%。「AIが作った顔」は本物より信頼しやすいことが判明

 

スッキリ起きるために最適な「目覚まし音」

毎朝気持ちよく起きるためには、目覚ましにどんな音を設定すればいいのでしょうか? そんな疑問に答えるために、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学の研究チームがさまざまなアラーム音で目覚めて、眠気レベルなどを評価する実験を行いました。その結果、楽曲などのメロディータイプで目覚めると眠気を感じにくく、逆に警告音で目覚めると脳の活動が混乱する可能性が判明。朝が苦手な人は、強い音で目覚ましを設定しがちかもしれませんが、それでは逆に眠気を増しているのかもしれません。

 

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1日のスタートが変わる! スッキリ起きるために最適な「目覚まし音」とは?

 

魚は計算できる生き物だった

簡単な計算をできるのは、ごく一部の動物に限られていると考えられていますが、魚にもそんな能力がありました。ドイツのボン大学の研究チームの実験で、対象となった魚は、これまでに物の数を見分けることがわかっていたアカエイと熱帯魚のシクリッド。青色と黄色の絵を見せて、青なら「1を足す」、黄色は「1を引く」というルールを覚えさせていくと、アカエイもシクリッドも、1を足したり引いたりすることができたのです。物のかたちや数を認識しながら計算するのは複雑な思考能力が必要。魚は高度な能力がないと過少評価されてきましたが、実は私たちが思っている以上に賢い生き物なのかもしれません。

 

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賢い生き物だった! 魚は計算できることが判明

 

「起業家」の顔のパターン

世界中の起業家の顔を解析したキプロス大学の研究チームによると、起業家の顔にはある特徴が見られることがわかりました。それは、頬骨が隆起して左右対称であること。これは、先日ツイッターを買収して話題になったイーロン・マスクにも当てはまります。ただし、この共通点とビジネスの成功には関連性がないことも判明。つまり、起業家に近い顔の持ち主だからといって、必ずしも起業して成功するとは限らないようです。

 

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イーロン・マスクにも共通点あり!起業家の「顔」にはパターンがあった

 

71%の確率で「同じ匂い」がしたら友達になる

人と初めて出会ったとき「すぐに打ち解けた」「なんだか仲良くなれる予感がした」なんて経験はありませんか。イスラエルにあるワイツマン科学研究所の大学院生は、「動物が相手の匂いを嗅ぐように、人は無意識のうちに他人の匂いを嗅いでいるのではないか」という仮説を立てました。そして、短期間で友人になった同性のペアを対象に、匂いのサンプルを集めて比較。このサンプルを機械と人で判定したところ、友人同士は同じような匂いを持つことがわかったのです。私たちは似たような匂いを持つ人と積極的に交流しており、その正確性は71%にもなるそう。人は動物のようにあからさまに匂いをくんくんと嗅ぎまわることはしませんが、無意識で匂いを嗅いで判断材料にしているのかもしれません。

 

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同じ「匂い」がしたら友達になる。当たる確率は71%!

 

2023年もビックリさせるほど面白い発見が生まれることを期待しましょう。

テクノロジーによる管理が浸透! 2022年のサステナビリティ

コロナ禍で3年目を迎えた2022年も、世界各国ではサステナビリティやSDGsの動きが進みました。この1年間取り上げてきたさまざまな記事の中から、北京冬季オリンピックをはじめ、都市再開発やカーシェアリング、フードマイレージの取り組みについて改めて振り返ります。

↑世界はサステナブルになった?

【中国】冬季“グリーン”オリンピックへの挑戦

近年のオリンピック・パラリンピックは環境への配慮だけでなく、大会を通じて持続可能な社会づくりを推進する場となっています。2022年2月に開催された北京冬季オリンピックも、「低炭素エネルギー・低炭素会場・低炭素交通」という三本柱の「グリーン・オリンピック」の実現に挑戦。会場のあちこちで、二酸化炭素排出を抑えるためのさまざまな工夫が見られました。

 

前年の東京オリンピックではメイン会場の国立競技場を建て替えましたが、北京冬季オリンピックでは2008年夏季大会のメイン会場だった「北京国家体育場(通称「鳥の巣」)」を再利用。改装を施しただけで使い、建物の周りに張り巡らされた発電ガラスはソーラーパネルの役割も果たしました。水泳会場も建て替えず、冬はカーリング、夏はプールとして使えるように工夫した改修を行っただけでした。

 

会場の低炭素化への取り組みで特に注目を集めたのが、排出された二酸化炭素を冷却材として再利用できる製氷技術。会場の氷上温度差を常に0.5℃以内にコントロールすることで、選手たちのパフォーマンス効果を上げるように設計されています。

 

敷地内の移動には電気自動車だけでなく1000台以上の水素自動車を投入。北京オリンピックにおける新エネルギー車の利用率は85%以上になるなど、「低炭素交通」の実現にも踏み出しました。

 

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中国の大奮闘! 北京冬季オリンピックに見る「低炭素化」への取り組み

 

【都市再開発】ミラノ市のゼロカーボン・ロジェクト

イタリアのミラノ市はサステナブルなまちづくりを目指し、3つの都市再開発プロジェクトに乗り出しました。同プロジェクトの「リネスト」は、旧鉄道の貨物ターミナルだった約7万平方メートルの敷地に約400戸の住宅と約300戸の学生住宅を建設。再生可能エネルギーで稼働させ、2050年までにゼロカーボン化を目指します。

 

注目を集めているのが「第4世代地域暖房(4GDH)」のシステム開発で、自然エネルギーや廃熱を利用した温水を建物の給湯や暖房に使うのが特徴。雨水を再利用してかんがい用水として使用するほか、CO2吸収に向けて周辺地域面積の60%を緑地化する方針です。

 

旧鉄道エリアに約90戸の集合住宅を建設する「ボスコナヴィリ」プロジェクトは、屋根を太陽光発電パネルで完全に覆い地熱エネルギーを利用するように設計。住民共有の電動自転車とスクーターを設置することでCO2の排出を抑え、 樹木や植物で敷地を囲みCO2を吸収します。雨水を再利用する自動かんがいシステムも導入される予定。

 

さらに、同地区の旧ポルタ・ロマーナ駅エリアには、2026年に開催される冬季オリンピックの選手村を建設し、大会終了後には学生用公営住宅に変える予定です。

 

イタリア最大の都市再開発プロジェクトとされる「ミラノセスト」は、150万平方メートルの広大な旧工業地帯を持続可能な都市へと再生させるもので、タワーオフィスや商業施設、ホテル、病院などが建設されます。サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方をもとに建物用の資材や原材料を決めているほか、対象地域全体に1万本の木を植える予定。緑地化により年間48トンのCO2が吸収され、歩道橋の上に設置した太陽光発電パネルによって利用量の半分を再生可能エネルギーで賄います。

 

【詳しく読む】

冬季五輪の選手村は学生向け住宅に。ミラノが挑む3つの「サステナブル住宅プロジェクト」

 

【カーシェアリング】ドイツで進む「乗り捨て型」

ドイツでは都市部を中心にカーシェアリングが急速に広がっています。人気の理由は、出発したステーションに返却する必要がない「乗り捨て型システム」。駐車禁止の標識が置かれた場所以外は、市内路上の駐車エリアでの乗り捨てが可能なのです。

 

カーシェアリングのプロバイダーと各自治体が連携したため、路上でなく有料の駐車場に乗り捨てた場合でも料金は無料。環境や交通量の面から少しでも自家用車の保有を減らしたいと考えた自治体が、カーシェアリングを推奨するようになりました。

 

24時間年中無休で月額料金はなく、利用代金は1分あたり0.09ユーロ(約13円※)から。数分でも数日でも利用可能で、事前にアプリで予約すれば指定の場所まで届けてくれます。

※1ユーロ=約146.24円で換算(2022年12月16日現在)

 

一般的にドイツ人はエコ意識が高いため、プロバイダーはCO2を排出しないゼロエミッションカーの導入に積極的。これらのクルマはカーシェアリング市場の23.3%を占め、中でもバッテリー式電気自動車が多く利用されています。このように、乗り捨て型カーシェリングはユーザーの利便性を実現した環境負荷を低減できるものなのです。

 

【詳しく読む】

ドイツのカーシェアリングは「乗り捨て型」が75%! もはや都会暮らしには不可欠の存在に

 

【フードマイレージ】ロンドン発、未来の食料供給法

ロンドンでは、フードマイレージ(食料が生活者に届くまでの輸送距離)をとことんカットした都会育ちの野菜が注目を集めています。スタートアップ企業がロンドン市内で貨物コンテナを使った未来型の「垂直農園」に着手し、食品輸送で発生する排気ガスの大幅抑制につなげています。

 

「Vertical farming(バーティカル・ファーミング)」と呼ばれる垂直農園は、未来の食料供給法としても注目を浴びています。垂直に積み上げた階層構造の室内で、AIによって光・温度・養分などを細かくコントロールされた環境下で農産物を育てることが特徴。

 

従来の農業とは異なり、天候に左右されず、限られたスペースで、農薬を使わずに1年中効率よく栽培できるのが大きなメリットです。水の使用量も非常に少なく、照明などの電源も太陽光や風力といった自然エネルギーで賄うことができ、栽培にかかる資源を最小限に抑えることができます。レタスやバジルなどの葉野菜やハーブが中心で、収穫後24時間以内にEV車や自転車によって注文先に届けられます。

 

すでに老舗百貨店やミシュラン星レストラン、高級青果店など、多くの高感度ショップへの卸売りを展開。大手スーパーからの問い合わせも相次いでおり、宅配サービスを利用する個人のサブスクリプション契約も人気。新鮮かつサステナブル、そして配達方法もエコな無農薬野菜というアイデアは、ロンドン市民の関心を集めているようです。

 

【詳しく読む】

貨物コンテナの活用で都市を変える! ロンドンで拡大する「垂直農園」

 

各国における最近のサステナビリティ施策を見ると、新たなシステム運用やAIの活用など、デジタル技術が浸透していることがわかります。その一方で、人が重視する利便性やエコ意識を利用した取り組みも進んでおり、この両輪を活用することが持続可能な社会の実現につながるのだということを改めて感じます。

毎週5分で完売する「陶器の街のクッキー」が地域課題解決の理想形であるワケ

わずか1日足らずで100個を完売した、ふるさと納税の返礼品があります。それは、長崎県のほぼ中央に位置する波佐見町の「HASAMI TOBAKO COOKIE」。波佐見産の米粉が原料のクッキーを、名産品である波佐見焼の陶器箱に入れた商品で、実は、波佐見焼の廃石膏型を再利用した地域内循環モデルとしても注目されています。

 

年間約700tもの廃石膏型の処分が町の課題に

有田焼で有名な佐賀県有田町と隣接する長崎県波佐見町は、江戸時代から陶磁器の生産地として知られ、現在も日用食器の生産が非常に盛ん。全国シェア約17%ともいわれ、陶磁器の醤油差しや、「セーフティわん」に代表される強化陶磁器が一世を風靡しました。そんな陶磁器の町で以前から問題になっているのが、波佐見焼を作る際に使用される石膏型の処分です。

↑「くわらんか碗」として江戸時代に普及し、現在も日用陶器として知られる波佐見焼。デザイン性にも優れ、「G型しょうゆ」はグッドデザイン賞を受賞した

 

「日用陶磁器の生産が多い波佐見焼は、大量生産する関係もあり、石膏型が多く使われます。石膏型は100回ぐらい使うと劣化し、廃棄されるのですが、年間推定約700tもの廃石膏型が排出されてきました。これまでは町が設置した産業廃棄物処理施設内の専用廃棄場に埋めていたものの、1999年に廃棄場が満杯に。新たな処理場を作るか、中間処理してリサイクルするか検討され、多額の費用が必要なことと、環境に対する時代背景などもあり、リサイクルを選択しました。ところが、リサイクルを始めて半年後、埋め立てを専門とする業者が進出してきたことでリサイクルの機運はいったんしぼんでしまったのです。しばらくは業者による処理が行われましたが、5~6年前、県内の埋め立て処理場から波佐見の石膏の受け取りが拒否されて利用できなくなり、廃石膏型の処理問題が再浮上。専門家を招き、本格的にリサイクルに取り組むことになったのです」と語るのは波佐見町役場の澤田健一さん。

↑波佐見町役場 商工振興課  課長 澤田健一さん

 

「まずコンプライアンスについて話し合いを行い、その後どういう形でリサイクルするのが賢明か専門家を交えて議論しました。他県ではコンクリートの材料に使われているケースもあり、土木や建築資材への活用も検討しましたが、調査研究を経て、波佐見町は県内有数の米の産地であること、農地活用が全国各地で実証されていて有効性が確認できたこと、そして廃石膏型を砕くだけなので生産コストも抑えられるという理由から、田畑への土壌改良剤としての再利用が決定しました」

 

地域内循環モデルを確立しコラボ商品を開発

しかし、土壌改良剤への再利用だけでは終わらなかったのが波佐見町。

 

「波佐見町は農業もかなり盛んで、半農半陶の町とも言われています。観光イベントの時も、農業と陶器を併せた企画を行うほどで、この2つの結びつきが重要だという強い想いが町にはありました。そこで、廃石膏型から作られた土壌改良剤を使用し、米粉専用米のミズホチカラという品種を生産。その米粉を材料とした食品と波佐見焼とのコラボ商品を開発すれば、“波佐見の食の地域内循環モデル”ができるのではないかと考えたのです」

↑波佐見町の食の地域内循環のモデル。地域の中で資源を循環させることで新たな特産品が生まれた

 

2019年から30アールの田んぼを使って実証実験を開始。専門家による長年にわたる石膏型の再利用研究から、石膏に含まれる硫酸カリウムに、根の張りをよくしたり、初期生育をサポートする効果があることがわかっていました。こうして育った米を米粉にして、町内にある鬼木加工センターで、地元のお母さんたちの手によるクッキーを製作。波佐見焼の陶箱に入れて「HASAMI TOBAKO COOKIE」として販売しました。

↑「HASAMI TOBAKO COOKIE」。クッキーを食べた後、容器は食器やアクセサリー入れとして使用可能

 

「観光協会のオンラインサイト『STORES』で毎週土曜日に48個限定で販売しました。すると今年度はじめには、開始5分で完売するほどの大人気商品に。その後、ふるさと納税の返礼品にしたところ、こちらも100個が1日で完売。すぐに完売するので生産量を増やしたかったのですが、陶器の生産が追いつかず……。結婚式の引き出物に使いたいと依頼があっても、残念ながら対応できませんでした。そこで、生産力がある窯元とタイアップしてクッキーの新シリーズを追加。来年度のふるさと納税分も含め、少しずつ販売数を増やしていく予定です」

 

環境への意識や作る責任を根付かせる

かくして、波佐見町のチャレンジは、予想以上の好結果となりましたが、当初は、廃石膏型の排出元である窯元は「面倒くさい」と非協力的。農家からも「焼き物のゴミを田んぼにまくなんてどういうつもりだ」と反発も多かったそうです。

 

「今でこそ廃石膏型や商品として売れないB級品、陶器の欠片などの廃棄処分を問題視し、個人でリサイクル活動をする方もいますが、当時は窯元や農家の方たちの理解を得られず、2~3歩進んでも5歩後退するような感じでした。でも地道に環境に対する意識やコンプライアンス、そして作る責任について説き、納得していただいたのです。最も強く反発していた農家の方も、実証実験に協力的となり、今では多くの田んぼを使わせていただいています。その方の分も含め、2022年は、ミズホチカラの栽培に1ヘクタール、食用米用に1ヘクタールと、合計2ヘクタールの田んぼで実証実験を行っています。

↑米粉に加工するのに適したミズホチカラ

 

↑廃石膏型から作った土壌改良剤

 

↑土壌改良剤の散布風景

 

実は石膏型に含まれる硫酸カルシウムは、稲よりもジャガイモの育成に効果的だそうで、2021年から、長崎県の農業技術開発センターとジャガイモでの実証実験もスタートするなど、いろいろな可能性を探っているところです」

 

地域内循環モデルの第2弾も登場

土壌改良剤を使った実証実験は順調で、陶箱入りクッキーの生産体制も整ってきた今、次のステップをどう考えているのでしょうか。

 

「現在、肥料登録の申請を行っています。2021年12月に肥料取締法が改正され、産業廃棄物をベースとした肥料を登録できるようになりました。農作物の生産者は、育成の段階で、使用した肥料を細かく記録しなければなりません。販売ルートの確保という課題はありますが、波佐見町の土壌改良剤が正式に登録されれば、肥料として全国に販売できます。価格についても、元々、お金を払って廃棄していたものですので、安価で提供できるのではないかと思います。また併行して、建築素材への再利用も進めています。こちらはJIS規格が取れるように準備をしている段階です」

 

さらに町では、クッキーに続く地域内循環モデル第2弾の販売を11月から開始。土壌改良剤でオリジナルブランド米『八三三(はさみ)米』を育て収穫した米と、波佐見焼のご飯茶碗をセットにした『八三三米くらわんかセット』です。茶碗は、プロジェクトに賛同した14の窯元がデザイン。“どろんこ”“内外十草”“波佐見ドット”など、個性溢れるデザインになっていると言います。

↑14の窯元が賛同。八三三米2合、ご飯茶碗、箸置き、波佐見町の郷土料理のレシピがセットになっている

 

「今でこそSDGsという言葉をよく耳にしますが、これまで町の人たちに“廃石膏型”“SDGs”と言っても、あまりピンときていませんでした。しかし今回、窯元や農家、そして町を挙げて取り組んだことで、多くの人たちに “作る責任をしっかり果たすクリーンな産地”という意識づけができたと実感しています。以前から、波佐見町には“もったいない”という精神が根付いていました。これはSDGsに通じる部分が多々あります。これからも、そうした意識を持って取り組みたいと思います」

 

課題解決に地元の特性を活かし、地域内循環を成功させた波佐見町のモデルケースは、多くの自治体にとっても参考になるのではないでしょうか。

 

弁当こそ日本の芸術文化! 世界105か国に「ベントー」を届ける京都のフランス人

観光立国として日本が世界に誇れる物は何があるのか? 普段の日常生活に溶け込んでいる独自の文化や慣習の中に埋もれている物はまだまだ存在しているはずであり、日本各地で受け継がれている伝統文化の中から世界に羽ばたく商品が出現してくる可能性も秘められていることでしょう。日本人にはありふれた物であっても、外国人には新たな驚きや感動を与えることがあるからです。

↑取材に応じてくれたBento&coのフランス人スタッフの方

 

その一例が京都市にありました。2008年から弁当箱専門店「Bento&co」が、日本在住のフランス人らにより運営されています。現在までに世界105か国から注文を受けており、伝統的な曲げわっぱや、華やかな和柄が散りばめられた弁当箱など、日本独自の魅力に加えて、外国人の視点でどのようなデザインや形状が海外で喜ばれるかを思案した商品ラインナップが展開されています。日本人の視点からは当然のものと思われてきた弁当文化にビジネスチャンスを見出した外国人ならではの発想とも言えるでしょう。

 

数年前に筆者は、日本の観光業および文化に造詣が深い安田彰氏(※)と日本の弁当文化に関して議論したことがあります。欧米に在住経験もある安田氏は、日本が海外に誇れるユニークな物の中で弁当の右に出るものはないと大絶賛。筆者自身も過去に外資系企業に長年勤務し、外国人が日本の弁当に驚嘆する場面に幾度となく遭遇しました。多彩なレシピや盛り付けはもちろん、箱に詰められた日本人独自の感性や美意識、さらに器においても実用性や芸術性が追求されてきた弁当は、日本の盆栽や生け花にも通じる小空間におけるこだわりが散りばめられているのです。

※安田 彰(やすだ・あきら)氏:株式会社JTB取締役、アメリカ法人JTB Americas副社長、JNTO(現・日本政府観光局)理事、亜細亜大学経営学部教授を歴任

 

海外にもランチボックス文化は存在しており、会議の合間や旅の移動時間などの特別な状況でしばしば見られます。しかし、日本の弁当文化は日常生活の中により深く根ざしており、私たちは特別なイベントや旅行に加えて、日常生活でコンビニや弁当専門店などを利用するとき、創意工夫が凝らされた多彩なレシピや容器を選ぶことができます。日本に住んでいれば、さまざまな場面で遭遇する弁当や弁当箱に着目し、母国を含めて海外に紹介したいと考えるのは、日本のライフスタイルに感動した外国人の発想としては当然のことなのかもしれません。

↑外国人観光客の間で人気が高い弁当箱の一つ

 

日本の弁当には、現代に至るまで非常に長い歴史があり、平安時代前期に紀貫之が書いた『土佐日記』の中にも「破籠(わりご)」と呼ばれる、現在の弁当箱に相当する容器が登場しています。また、著名な十字仕切りのある松花堂弁当は、江戸初期の文人、寛永の三筆の一人である松花堂昭乗に由来しているとされており、日本の名料理店「吉兆」の創始者・湯木貞一によって現在の形に昇華されました。普段の生活の中で何気なく使っている弁当箱は、長い歴史を経て多種多様な形に発展してきましたが、その過程で実用性に加えて器に彩りを添える文化が育まれてきたのです。

 

はるか昔から日本の食文化の中で重要な位置を占め続けてきた弁当。観光立国を目指すこの国にとって、弁当は私たちの代表的かつ外国人にとって魅力的なライフスタイルであることを、京都の弁当箱専門店は示唆しているのです。

 

プレゼントは「包み」にも心配りを。世界が驚く日本の「風呂敷」文化

年末年始は贈り物の季節。大切な人へのプレゼントは丁寧に包んで渡したいと思う人は少なくないでしょう。そこで考えてみたいのが風呂敷。日本国内の歴史的資料や芸術作品にも頻繁に登場してきたこの布は、実用品や贈答品として、さまざまな用途で使われてきました。この伝統文化は時代に合わせて変化しており、今日ではその価値が国内外で見直されているのです。

↑京都の舞妓をモチーフにしたポップな風呂敷「をどりをどり」

 

そもそも日本人は古くから包み物を大切にしてきました。勅撰の歴史書『続日本紀』には「天下百姓右襟」とあり、養老3年(719年)に衣服の袷の方向が法令で定められたのです。着物の着方が法律で定まり、それを基にしながら、包みの方向が慶事は右包み、弔事は左包みと定着していきました。縁起を重視した日本人の伝統や風習は、無言の志として相手を思いやる気持ちが表現されていますが、慶弔や贈答における包み方の作法は現代でも受け継がれています。

 

「風呂敷」の名称は、戦国から江戸時代にかけて、特に銭湯における湯具としての風呂敷包みから広まったと言われています。江戸時代の文学人、井原西鶴の作品にも度々登場していますが、当時の木綿風呂敷は、徳川家康の遺産目録にも(包み物ではなく風呂の敷物として)含まれていた高級品でした。大名をはじめとする限られた人々に愛用された風呂敷は、この時代に大衆の間でも爆発的に普及していきます。その後、明治時代に平民が苗字や家紋を持つことを許されてからは、各家の紋章デザイン文化が隆盛し、さらに長寿や子孫繁栄の象徴とされる唐草文様の風呂敷が大衆に人気を博しました。

↑盗人ではなく、実は繁栄の象徴だった唐草模様の風呂敷「STRIPE / KARAKUSA」

 

現在でも風呂敷を見かける頻度が高い場所は京都でしょう。京都には歴史のある風呂敷メーカーや加工業者が多数存在しており、風呂敷文化の復活と普及を目的とした日本風呂敷協会が本部を構えています。包み方教室やデザインコンペを定期的に実施するなど、同協会はさまざまな取り組みを行なってきました(なお、この協会の会長は宮井株式会社の宮井宏明社長が務めています)。

 

確かに生活習慣の欧米化により、風呂敷を日常生活で使う日本人は多くないでしょう。しかし、近年では環境保護や大量廃棄といったグローバルな問題を背景に、サステナビリティの観点から風呂敷が国内外で脚光を集めるようになりました。実際、海外では風呂敷の活用方法を知るためのワークショップが開催されています。風呂敷が持つ運搬具としての柔軟性やスペースを取らない簡易性など、機能性の高さに驚いた人もいると思われますが、その一方で、外国人の中には風呂敷をスカーフとして身に纏う人もいるそう。外国人だからこその発想と言えますが、風呂敷には普遍性があるのです。

↑ロングセラーの風呂敷「荒磯」

 

このように、風呂敷には長い歴史があり、その価値は世界的に再発見されつつあります。風呂敷の中には、時代に合わせて新しいデザインを取り入れるものもあれば(例:1枚目の画像の「をどりをどり」)、ずっと変わらないロングセラーもあります(例:3枚目の画像の「荒磯」)。不易流行を体現した風呂敷は、日本文化の金字塔なのです。今度のプレゼントは風呂敷で包んでみてはいかがでしょうか?

 

取材協力/宮井株式会社(https://www.miyai-net.co.jp/

プレゼントは「包み」にも心配りを。世界が驚く日本の「風呂敷」文化

年末年始は贈り物の季節。大切な人へのプレゼントは丁寧に包んで渡したいと思う人は少なくないでしょう。そこで考えてみたいのが風呂敷。日本国内の歴史的資料や芸術作品にも頻繁に登場してきたこの布は、実用品や贈答品として、さまざまな用途で使われてきました。この伝統文化は時代に合わせて変化しており、今日ではその価値が国内外で見直されているのです。

↑京都の舞妓をモチーフにしたポップな風呂敷「をどりをどり」

 

そもそも日本人は古くから包み物を大切にしてきました。勅撰の歴史書『続日本紀』には「天下百姓右襟」とあり、養老3年(719年)に衣服の袷の方向が法令で定められたのです。着物の着方が法律で定まり、それを基にしながら、包みの方向が慶事は右包み、弔事は左包みと定着していきました。縁起を重視した日本人の伝統や風習は、無言の志として相手を思いやる気持ちが表現されていますが、慶弔や贈答における包み方の作法は現代でも受け継がれています。

 

「風呂敷」の名称は、戦国から江戸時代にかけて、特に銭湯における湯具としての風呂敷包みから広まったと言われています。江戸時代の文学人、井原西鶴の作品にも度々登場していますが、当時の木綿風呂敷は、徳川家康の遺産目録にも(包み物ではなく風呂の敷物として)含まれていた高級品でした。大名をはじめとする限られた人々に愛用された風呂敷は、この時代に大衆の間でも爆発的に普及していきます。その後、明治時代に平民が苗字や家紋を持つことを許されてからは、各家の紋章デザイン文化が隆盛し、さらに長寿や子孫繁栄の象徴とされる唐草文様の風呂敷が大衆に人気を博しました。

↑盗人ではなく、実は繁栄の象徴だった唐草模様の風呂敷「STRIPE / KARAKUSA」

 

現在でも風呂敷を見かける頻度が高い場所は京都でしょう。京都には歴史のある風呂敷メーカーや加工業者が多数存在しており、風呂敷文化の復活と普及を目的とした日本風呂敷協会が本部を構えています。包み方教室やデザインコンペを定期的に実施するなど、同協会はさまざまな取り組みを行なってきました(なお、この協会の会長は宮井株式会社の宮井宏明社長が務めています)。

 

確かに生活習慣の欧米化により、風呂敷を日常生活で使う日本人は多くないでしょう。しかし、近年では環境保護や大量廃棄といったグローバルな問題を背景に、サステナビリティの観点から風呂敷が国内外で脚光を集めるようになりました。実際、海外では風呂敷の活用方法を知るためのワークショップが開催されています。風呂敷が持つ運搬具としての柔軟性やスペースを取らない簡易性など、機能性の高さに驚いた人もいると思われますが、その一方で、外国人の中には風呂敷をスカーフとして身に纏う人もいるそう。外国人だからこその発想と言えますが、風呂敷には普遍性があるのです。

↑ロングセラーの風呂敷「荒磯」

 

このように、風呂敷には長い歴史があり、その価値は世界的に再発見されつつあります。風呂敷の中には、時代に合わせて新しいデザインを取り入れるものもあれば(例:1枚目の画像の「をどりをどり」)、ずっと変わらないロングセラーもあります(例:3枚目の画像の「荒磯」)。不易流行を体現した風呂敷は、日本文化の金字塔なのです。今度のプレゼントは風呂敷で包んでみてはいかがでしょうか?

 

取材協力/宮井株式会社(https://www.miyai-net.co.jp/

【12/11は国際山岳デー】世界で4000万人以上のユーザーを誇る「オールトレイルズ」とは?

12月11日は、「International Mountain Day(国際山岳デー)」です。山や森林でのトレッキングやハイキングは世界中で親しまれているアウトドアですが、知らない場所へ行くときの下調べが面倒という人もいるかもしれません。しかし、最近は便利なアプリが増え、簡単にさまざまな登山・散策ルートを検索できるようになりました。なかでも登山・ハイキング検索アプリ「AllTrails(オールトレイルズ)」は優れていると評判で、アメリカで大人気を博しています。一体どのようなアプリなのでしょうか?

↑登山やハイキングの相棒

 

アメリカ生まれのオールトレイルズは、アウトドアの初心者から上級者までが使えるオールラウンドなアプリです。まず驚かされるのが、網羅されているトレイル(登山やハイキングのルート)の数の多さ。2022年11月時点で240か国にもわたる35万か所以上のトレイルが検索可能で、近所の遊歩道から誰もが知っている国立公園まで幅広く掲載されています。だからこそ、世界中に4000万人を超えるユーザーがいるのですね。

 

アプリを開くと、トレイルの簡単な説明や写真、地図、距離や高低、難易度などの基本情報が表示され、その中から自分に合ったトレイルを探すことができます。現地の天気や気温、紫外線強度、日の出や日没の時間もチェックできるため、暑さ・寒さ対策やルートの時間配分などに役立ちます。

 

歩いているときはGPSをオンにすれば、トレイルの外に出てしまうこともありません。トレイルの入り口へ向かうためのクルマの運転ルートも表示されるので、不案内な場所でも迷わないでしょう。

 

特定条件を満たすデータを絞り込んで抽出するフィルター機能も充実しています。ハイキングやジョギング、サイクリングなどのアクティビティー別に加えて、ルートの距離や難易度でも検索できるので、自分がやってみたい内容や体力に合ったトレイル探しが可能。子ども向きか、犬を連れて行けるか、車椅子でも利用できるか、などの条件を絞り込んで検索することもできます。

 

現場の情報が充実

↑近くにあるトレイルや地図が表示される

 

アプリが示すトレイルを実際に試してみた人のレビューや写真が数多く掲載されていることも、オールトレイルズの魅力。例えば、休日は人が多いとか、雨上がりには道がぬかるんでいるなど、基本的なデータからではわからない現場の情報が入手できるのです。

 

お気に入りのトレイルの保存や、自分が歩いた距離・時間の記録も可能。フェイスブックやインスタグラムなどのSNSに写真を投稿したり、本アプリを利用している他のユーザーをフォローしたりして、登山やハイキングの体験を共有するのも楽しそうですね。

 

有料版はさらに心強い

オールトレイルズは無料でこれらの機能を使うことができるので、普通のハイキングを楽しむには十分です。ただ、いざというときなどのために有料のサブスクリプション版(月2.5ドル〔約340円※〕)の「オールトレイルズ・プロ」もあり、次のような機能がついています。

※1ドル=約135.9円で換算(2022年12月9日現在)

 

  • 地図をダウンロードしてインターネット接続がない地域で使える
  • 道を間違えるとオフルート通知が携帯の画面に現れる
  • 天気や空気の質、花粉の状況などトレイルのリアルタイムの情報が表示される
  • トレイルに出掛ける前にバックアップ用の地図を印刷できる
  • 「ライフライン」という機能を通じ、事前登録した連絡先に予定ルートの詳細地図や状況更新などの情報を提供できる

 

特にライフラインは、一人で出かけるときや山岳地帯などを歩くときに役立つ機能です。登録先の家族や友人と計画や場所を共有できるうえ、予定より到着が遅れた場合には知らせが届く設定になっています。万が一のためにダウンロードしておくと、単独で難易度の高い山などに挑戦する人は心強いでしょう。なお、サブスクリプション料金の1パーセントは環境保護のために使われます。

 

無料で手軽に使えるオールトレイルズは、このように便利な機能が満載。アウトドアを楽しみたいという人は試しにダウンロードして、近隣の公園や遊歩道などから試してみてはいかがでしょうか?

フェンシングの剣を包丁やメダルにリサイクル! 現役オリンピアンが主導する「折れ剣再生プロジェクト」

穴が開いたサッカーボールや折れた野球のバットなど、壊れたスポーツ用具がどう処分されるのか、考えたことはありませんか? 東京2020オリンピック・フェンシング男子エペ団体で金メダルを獲得した見延和靖選手は、フェンシングを始めた高校時代から「折れたフェンシングの剣を捨てるのは心が痛む」と考えていたそうです。そんな想いが募り、今年1月、「折れ剣再生プロジェクト」を発足させました。

 

スポーツが持つ力でSDGsを目指す

「折れ剣再生プロジェクト」とは、試合や練習で折れたフェンシングの剣を回収し、包丁やメダルなど別のモノに再生するアップサイクルな活動です。

 

「フェンシングの剣は使えば使うほど、体や動きにフィットしていくので、試合用と区別することなく毎日の練習でも使います。選手は4~5本の剣を所持していますが、練習で酷使するため、早くて1カ月、もって半年ぐらいで折れたり亀裂が入ったりします。使えなくなった剣は、そのまま産業廃棄物として処理されてきました。しかし、フェンシングの剣は1本3~5万円と高価なうえ、剣への愛着も湧くため、廃棄するのは忍びない。そんな想いをずっと心の片隅に抱きながら競技を続けてきました。

 

東京2020オリンピックで金メダルを取った1週間後、マネジメント事務所に結果報告にうかがったところ、日本スポーツSDGs協会の鈴木朋彦さんと折れた剣についてお話をする機会を得、長年抱いていた想いを伝えたのです」(見延選手)

↑一般社団法人日本スポーツSDGs協会の代表理事を務める鈴木朋彦さん(左)と見延和靖選手

 

一般社団法人日本スポーツSDGs協会とは、スポーツを通してSDGs活動を推進することを目的とし、2021年6月に発足された機関。代表理事である鈴木さんは、設立の意義についてこう語ります。

 

「新型コロナウイルス感染症により、さまざまなスポーツイベントが無観客で開催されました。本来スポーツは、多くの観客が会場に集い、選手の一挙手一投足に一喜一憂し、興奮や感動を共有するものです。しかしその価値が揺らいでしまったのです。そこで、スポーツの新しい価値を考えた時、国境も人種も宗教も関係なく、平等に楽しめるスポーツは、SDGs活動のツールのひとつになり得るのではないかと感じました。

 

憧れの選手たちが率先してSDGsの活動に関われば、“自分たちもやってみよう”“自分たちもできるかもしれない”と行動心理を切り替えられるかもしれません。その連鎖が起こることで、世の中を変えていく力がスポーツにはある。それを実践していくためにスポーツSDGs協会が設立されました。

 

また選手たちの多くは、『自分の競技を次の世代につなげたい』、『子どもの時から自分を育ててくれた故郷に恩返しをしたい』という想いを持っています。そんな選手の想いを成就させる1つの手段として、SDGsを活用できるのでないかと。今回、競技や故郷に恩返ししたいという見延選手の想いと、協会の目指すべきところが合致し、プロジェクトが始動したのです」(鈴木さん)

 

あえて鋳造せずに「剣」の名残りを残す

その後、日本フェンシング協会の協力のもと、選手の練習拠点である味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)のフェンシング場に、折れた剣の回収BOXを設置。発足から9ヵ月で約100本の折れた剣が集まったそうです。奇しくも、見延選手は“越前打刃物”で有名な福井県越前市の出身。折れた剣の再生には、地元企業の武生特殊鋼材と高村刃物製作所全面協力してくれました。

 

「フェンシングの剣は、マルエージング鋼という素材でできています。これは、ゴルフのドライバーヘッドでも使用されている特殊な鋼材です。今回は、包丁やメダルなどへリサイクルするにあたり、厚みがある剣の根本部分を熱してから、ハンマーで叩いて薄くしながら整形する製法(熱間鍛造)を採用しました。フェンシングは剣に電流を流し、剣先が相手に当たったかどうかを判定します。そのため剣には電線を通す溝があります。メダルも包丁も、その溝をそのまま残すことで付加価値を付けたかったのです。

↑折れた剣。先の細い部分が比較的折れやすい
↑折れた剣の電線を焼き、根元の太い部分を再利用品に合わせて切断する。それ以外の部分は溶解利用へ(武生特殊鋼材)
↑熱間鍛造により刃物の形にしていく
↑よく見ると刃の表面に導線を通す溝の跡があり、フェンシングの名残を感じ取れる

 

刃物については、著名な一流料理人たちが愛用している包丁やナイフの製造元である、高村刃物製作所の高村さんにお願いをして試作品を作ってもらったのですが、完成度のすばらしさに衝撃を受けました。高村さんは、切れ味に満足をしていませんでしたが、これまで記念にとっておいた折れた剣も包丁にしてほしいと思ったぐらいです(笑)」(見延選手)

 

地元フェンシング大会でのメダルにも活用

試作品した刃物は、硬度や切れ味も使用可能な水準に仕上がったと話す見延選手。今後、ナイフや包丁は市場での流通の可能性を探っていく予定で、同時にメダルやタグプレートへの加工も進めていくそうです。

 

「8月に越前市で小中学生のフェンシング大会がありました。大会では3位までの選手に再生されたメダルを、それ以外の選手には参加賞として折れた剣で作られたタグプレートを贈呈。メダルを渡した瞬間、子どもたちの目が輝いたのがわかりましたし、本当に嬉しそうな表情が印象的でした。試合前にメダルのことを話したのですが、子どもたちはいつも以上に試合に集中していたようですし、オリンピックや世界を少しでも意識できるいい機会になったと思います」(見延選手)

↑折れた剣から作られたメダルにも溝の跡が残っている
↑「オリンピック選手の剣がメダルになった」と子どもたちも興奮気味だったとか

 

再生した刃物をふるさと納税の返礼品に

同プロジェクトへの関心は高く、再生された包丁やナイフが欲しいという問い合わせも多いそう。しかし現時点では多くの課題があると言います。

 

「現在は、味の素ナショナルトレーニングセンターでの回収だけですが、フェンシングクラブは全国にあります。回収方法をどうするか、全国から集めたとして、折れた剣を再生する生産体制をどうするか、賛同を得るためにこの活動をどう周知していけばいいのかなど、考えていかなければなりません。

↑武生特殊鋼材を訪問した際に河野社長と
↑高村刃物製作所を見学する見延選手。練習の合間を縫って、プロジェクトのために率先して動いている

 

こうした課題はあるものの、見延選手本人がプロジェクトのために率先して動いてくれているのは大きいです。例えば、武生特殊鋼材さんや高村さんも、見延選手でなかったら、ここまでスムーズに話が進んでいたかどうか。彼は、実際に工場に行って試作品を手に取り、意見を言ったりもしてくれています」(鈴木さん)

 

今後は流通を視野に入れつつも、まずは越前市のふるさと納税の返礼品にできないかと、市と話し合った結果、市と協定を結び、ガバメントクラウドファンディングとして1118日よりスタートすることになりました。(https://www.furusato-tax.jp/gcf/2158)

 

フェンシングの剣への再生が目標

競技と故郷への恩返しを胸に、プロジェクトに取り組む見延選手。プロジェクトの最終的な目標は、折れた剣をフェンシングの剣へ再生することだと言います。

 

「実はフェンシングの剣の生産は、フランスとウクライナが主で、日本では生産されていません。そのため、質の高い剣は海外の選手が手に入れてしまい、売れ残った剣が日本に送られてくるのが現状。日本も刀鍛冶など技術を持った職人は多いはずなので、折れた剣を使った日本製の剣ができれば素晴らしいですね。

↑試合中の見延選手

 

また、ヨーロッパでは、フェンシングは生涯スポーツの1つです。試合での駆け引きが面白いため、60代以上のシニア層も真剣に試合をしています。この活動を機にフェンシングのことをもっと知ってもらい、ヨーロッパのような文化を日本でも根付かせたいです」(見延選手)

 

国際大会で使用できる剣の認証取得のハードルの高さや、フェンシグ自体が競技人口約6000人とまだまだマイナーなことなどから、ビジネスとして成立させるのが難しいといった課題もありますが、折れた剣から新たな剣を製造できれば、価格も抑えられ、子どもたちはもちろん、多くの人たちが手に取りやすくなります。ひいてはそれが競技人口の増加にもつながる……。見延選手の夢はまだ始まったばかりです。

 

見延和靖さん●東京2020オリンピック フェンシング男子エペ団体金メダリスト。父親の勧めで高校時代からフェンシングを始め、大学時代からエペ(フェンシングの競技の1種)の選手として多くの大会で優勝。NEXUSホールディングス入社後、日本男子エペ個人では初のワールドカップ優勝をはじめ、さまざまな大会で活躍。2019年には日本人選手として初めて年間ランキング世界1位を獲得した。

 

©日本スポーツSDGs協会 ©日本スポーツSDGs協会/山本拓未 Ⓒ日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE

 

 

 

スマホみたいに一人一台所有する時代に!? 日本とアメリカのテレビ事情

若い世代を中心にテレビ離れが起きている今日、11月21日の「世界テレビ・デー」を知る人は少なかったかもしれません。この日は、現代におけるコミュニケーションとグローバリゼーションの象徴としてテレビを祝う日でしたが、現代ではNetflixやYouTubeなどの動画配信サービスのほうが、それらを象徴しているようにも思われます。

↑テレビはつけるけど、見るのはネトフリ

 

しかし、だからといって、テレビが消えるわけではありません。アメリカと日本を調べてみると、むしろテレビは、動画配信サービスと融合しながら今まで以上に大きくなり、一人一台所有する時代になりつつあるかもしれないのです。日米のテレビ事情を比較しながら見てみましょう。

 

動画配信サービスを視聴するためのテレビ

ある2021年度の調査によれば、アメリカ人のテレビ視聴時間は1日当たり2時間51分、日本人は2時間26分でした。これだけ見ると、日米間であまり差はないようにも思われます。

 

しかし、リサーチ会社・DataReportalによれば、パソコンやスマートフォンといったデバイスでの視聴時間を含めると、アメリカ人の視聴時間は7時間4分まで増えるとのこと。日本は4時間26分で、アメリカ人のほうが毎日約2.5時間も多くメディアを視聴していることになります。

 

一方、テレビ番組を毎日視聴しているアメリカ人の割合は約80%なのに対して、日本人は76%。どちらの国でも8割近くが毎日テレビを見ているものの、若い世代のテレビ離れの影響で、その数は徐々に減りつつあります。

 

アメリカにおけるテレビ視聴率の最盛期は1990年代で、2000年代に入るとデジタル社会化が進み、動画配信サービスやオンラインストリーミングが台頭。今日ではテレビ番組を毎日見ている人の半分以上が、55~64歳という比較的高齢の世代です。若い世代はNetflixやAmazon Primeなどの動画配信サービスを視聴するために、テレビをつけるようになりました。

 

より大きく

↑大画面に没入

 

「大きいことが正義」という価値観を持つ人が多いアメリカでは、テレビのサイズも例外ではありません。2018年時点では日本のテレビの平均サイズが37インチだったのに比べ、アメリカの平均サイズは47インチでした。その後、世界を襲ったコロナの影響で人々は自宅で過ごす時間が増加し、どちらの国でもより大きいサイズに買い替える動きが顕著になりました。

 

2022年の現在、アメリカ人が購入するテレビサイズの平均は53.6インチにアップ。売れ筋は65インチで、今後さらに大きなサイズへと移行していくことが予想されています。

 

日本でも2022年の買い替えで最も多く売れているのが55インチと、4年前に比べて18インチも拡大。特に動画配信サービスの視聴を目的に購入する人の60%が、50インチ以上のテレビを選んでいます。

 

内閣府が行った2022年度の消費動向調査によれば、日本の単身世帯では約1.5台、2人以上の世帯では2.16台のテレビが自宅にあるそう。一方、アメリカの1世帯当たりの平均は2.3台で、リビングルームに置かれているケースが最も多く、次いで親の寝室となります。

 

両国の1世帯あたりのテレビの保有台数は近いかもしれませんが、さらに見てみると、アメリカ人の31%が自宅に4つ以上のテレビがあります。しかし、日本では1世帯あたり4台所有している割合が4%、5台以上所有では2%と、アメリカとの違いが見られました。スマホやクルマと同様に、アメリカではテレビも一人一台の時代になりつつあるのかもしれません。

 

スポーツ vs ニュース

↑スポーツ観戦が好きなアメリカ人

 

映画やドラマには、ビール片手にテレビでスポーツ観戦するアメリカ人がよく登場しますが、実際、アメリカで最も多く視聴されているテレビ番組はアメリカンフットボールです。

 

なかでも、アメリカ最大のスポーツイベントであるNFLのチャンピオンを決める「スーパーボウル」の視聴率は、2012年以降10年にわたって年間1位を記録し続けています。マーケティングリサーチ会社Nielsen Holdingsによると、2022年2月の試合では平均視聴世帯数が4,500万世帯で、テレビのある家庭の72%がスーパーボウル番組にチャンネルを合わせていました。

 

一方、CCCマーケティング総合研究所のアンケート調査によれば、日本で最もよく視聴されているジャンルはニュースや報道番組、次いでバラエティ、情報番組とのこと。スポーツは9番目で、アメリカと日本で好まれるジャンルに違いがあることが見て取れます。

 

1993年に国連総会で世界テレビ・デーが決議されてから、もうすぐ30年が経ちます。その間にインターネットが目覚ましく台頭し、テレビを取り巻く環境が大きく変わりました。近年ではテレビの視聴スタイルも多様化していますが、今後もデジタル社会化や生活様式の変化に伴い、アメリカや日本だけでなく、世界各国でテレビとの付き合い方は変わっていくものと思われます。

 

執筆者/長谷川サツキ

米サンフランシスコ市警、ロボットに容疑者を殺害する権限を与えることを検討中

米サンフランシスコ市警察(以下「SFPD」)が、ロボットに容疑者を殺害する権限を与える案を検討していることが明らかとなりました。

↑SFPDのロボットに新たなプランが浮上

 

もちろん無条件に殺しのライセンスを与えるわけではなく、「一般市民や警官の命が失われる危険が差し迫り、ほかのあらゆる力の選択肢を上回る場合」殺傷力あるロボットを配備できるとされています。

 

このプランはSFPDにどのような装備を配備できるかを、サンフランシスコ市の監督委員会内の規則委員会が数週間にわたって検討した中で浮上してきたものです。もともと原案には、ロボットの殺傷力行使をめぐる文言は含まれておらず、委員会のアーロン・ペスキン議長は「ロボットはいかなる人物に対する武力行使としても利用してはならない」と追記したとのこと。

 

ところがSFPDは、この追加部分を赤線で消し「ロボットに容疑者を殺害する権限を与える」という行に置き換えて草案を返却したそうです。結局ペスキン氏は「致死的な力の使用が唯一の選択肢となるシナリオもありうる」と書き直して、方針の変更を受け入れることにしたといいます。この草案を規則委員会が全会一致で承認し、11月29日の監督委員会で審議される予定と伝えられています。

 

SFPDは現在17台のリモート操縦ロボットを保有しており、うち使用可能なものが12台。上記の草案では、これらロボットに殺傷能力の付与に加えて「訓練とシミュレーション、犯罪者の逮捕、重大事件、緊急事態、令状の執行、不審物査定時」での使用も許可することが提案されています。

 

テックメディアThe Vergeに対して、SFPDは「ロボットを使って殺傷力を発揮する必要があるような異常に危険な、または突発的な作戦は、まれで例外的な状況でしかなく、何らかの特定の計画はありません」との声明を発表。少なくともマシンガンを装着したロボットが日常的に街をパトロールし、問答無用で射撃する事態はなさそうです。

 

とはいえ、ほかの州では実際にロボットが容疑者を殺害したこともあります。たとえばテキサス州のダラス警察は2016年、SFPDが保有する1台と同じ「Remotec F5A」を使用。このモデルは本来爆弾処理用ですが、逆に爆弾を積み込み、5人の警察官を射殺して数人を負傷させて立てこもった容疑者を爆殺しています

 

またカリフォルニア州のオークランド警察も、 Remotec F5Aロボにショットガンを装備することを検討していたと明らかにされています。いったんは断念されましたが、その後も引き続き検討していくと述べられています。

 

戦場で無人ドローン兵器が大量に投入されているなか、警官だけが生身で凶悪犯と対峙して命を危険にさらすのはおかしい、との声も上がるのかもしれません。今後の議論の展開を見守りたいところです。

 

Source:Mission Local
via:The Verge

10万人に対して8個だけ!? アメリカのお粗末な「公衆トイレ」事情

11月19日は「世界トイレの日」でしたが、トイレや公衆衛生に関して深刻な問題を抱えているのは途上国だけではありません。意外な先進国が長らく公衆トイレの問題に悩まされているのです。それは世界一の経済大国・アメリカ。あぜんとするような同国の公衆トイレ事情について現地からレポートします。

 

3K:「汚い」「危険」「故障」

↑アメリカの公衆トイレは“3K”

 

アメリカ人の多くが、「公衆トイレはできれば使いたくない」と言います。実際に入ってみると分かるのですが、アメリカの公衆トイレはとにかく汚いことが多いのです。

 

使用後に流していないのは序の口。便器の中にプラスチックなどのゴミが突っ込んであったり、床が水浸しだったり。悪臭も強く、掃除が行き届いていないと感じるトイレがほとんどです。

 

また、誰でも簡単に使えるので、薬物取引など犯罪シーンの温床になりやすいというリスクもあります。犯罪行為防止のためにトイレのドアは下の隙間が大きく開いていますが、どの程度抑制力があるかは明確ではありません。

 

さらに、水が流せないなどの故障トラブルが起きても、なかなか修理されずに放置されているケースが多々あります。故障しているがために、公衆トイレ全体を閉鎖してしまっていることも珍しくありません。

 

超”レア”な公衆トイレ

このように衛生上の問題を抱えるアメリカの公衆トイレですが、近年特に問題とされているのがその数の少なさです。アメリカでは、なんと10万人に対して公衆トイレが8個しかありません。ニューヨーカーの中には、公衆トイレが見つからず、最後には茂みで用を足すしかなかったと語る人もいます。

 

観光客やタクシードライバー、ホームレスたちにとってもトイレ問題は深刻です。都市部では公衆トイレを検索できるオンラインサービスがあり、公衆トイレの現状改善を訴えるデモも行われています。

↑公衆トイレ改善を訴えるデモ(画像提供/The Hustle*)

*Michael Waters, “The fight to build more bathrooms in America“, The Hustle, 2022 November 4th

 

頼みのカフェも「客以外の利用お断り」

アメリカの公衆トイレ不足解消を長期にわたって支えてきたのが、スターバックスをはじめとした飲食店の存在です。これら店舗はトイレを一般開放しており、地方自治体も公衆トイレとしての役割を担ってくれる存在として依存してきました。店舗側もトイレ利用者が顧客拡大に繋がるなど、お互いにメリットがあったのです。

 

ところが、2018年にフィラデルフィアのスターバックスで、商品を購入せずにトイレを利用しようとした黒人男性2人に対し、店員が不法侵入として通報する騒ぎがありました。スターバックスは謝罪し、改めて「トイレは誰でも使用可能」との店舗ポリシーを明確にしたのです。

 

しかし、スターバックスCEOのハワード・シュルツ氏は2022年6月、「今後、地域の公衆トイレとしての役割を制限する可能性がある」と発言。その理由としてトイレ利用をめぐって精神衛生上のトラブルが増えていることを挙げ、スタッフと顧客の安全のために一部トイレの閉鎖を検討しているとのことでした。

↑「公衆トイレはありません」と伝える飲食店

 

公衆トイレが少ない3つの理由

毎年大勢の観光客が訪れる先進国でありながら、なぜこんなにも公衆トイレが少ないのでしょうか。これには、いくつかの理由があるようです。

 

1: 安全性の問題

すでに述べた通り、公衆トイレは簡単にプライベートになれる半面、犯罪シーンの温床ともなっています。そのため、安易に増やしにくいということが挙げられます。

 

2: 公衆トイレの役割を担う飲食店の存在

これまではスターバックスなどの飲食店が、公衆トイレとしての役割を果たしてくれていました。そのため、地方自治体もわざわざ予算を割いてまで新たな公衆トイレを設置しようとはしなかったのです。

 

3: 維持管理費の問題

端的にいえば、市や町に公衆トイレの修理や管理にかけるお金がないのです。事実、故障しても修理まで手が回らず放置されているトイレが少なくありません。

 

4坪の公衆トイレの予算が約238億円!? 

2022年10月、カリフォルニア州サンフランシスコでは信じがたいニュースが話題となりました。公園に4坪の公衆トイレを設置するにあたり、予算が1.7億ドル(約238億円※)かかると市が発表したのです。しかも建設期間は3年にもわたるとのことでした。

※1ドル=約140円で換算(2022年11月21日現在)

 

当然ながら市民はコストがかかりすぎると反対し、「世界で最も高級な公衆トイレの誕生か?」と国内で大きな注目を集めました。幸い、ギャビン・ニューサムカリフォルニア州知事が「高過ぎる」としてトイレ建設にストップをかけ、公費をもっと有効に活用できるような計画にすべきだと市に差し戻したのです。

 

日本に住んでいると、あまり意識することのない公衆トイレの問題。アメリカと比べれば、日本は「トイレ天国」とも言えますが、アメリカへ旅行する予定がある人は、事前に公衆トイレの設置場所を調べておくと良いかもしれません。

 

執筆者/ 長谷川サツキ

Meta、Facebookなどのアカウントを不正使用した従業員を20人以上解雇

Metaが社内調査した結果、過去1年間でFacebookやInstagramのアカウントを不正使用した従業員を20人以上も解雇あるいは懲戒処分にしたと米国で報じられています。

↑ユーザーアカウントの不正使用が明るみになったMeta

 

米Wall Street Journal紙によると、その中には社外のハッカーから数千ドルものワイロを受け取っていた者や、Metaから委託されたアライド・ユニバーサル(警備会社)所属の警備員も含まれていたそうです。

 

この犯行は、社内で「Oops」(Online Operations)と呼ばれるツールにより行われたもの。アクセス不能になったアカウントを回復できるツールですが、本来は友人や家族、ビジネスパートナーなど特殊なケースだけで使われることを想定していました。しかし、社員が増えるにつれて利用される頻度が増え、2017年の2万2000件から2020年には5万270件にまで跳ね上がっていたそうです。

 

なぜ不正利用が増えたかといえば、おそらく30億人を超えるユーザーに対してカスタマーサービスが十分に行き届いていないことが原因。アカウントが凍結された場合、電話やメールでMetaの担当者と連絡を取ろうとしても、たいていは空振りに終わることが常となっています。

 

そのため、最後の手段として、Oopsが使える従業員(ないしコネのある仲介役)に賄賂を払ってなんとかしてもらう、ということに。WSJは、よくわからない理由でInstagramにアクセスできなくなった人気モデルが、アカウントを回復するために約7000ドル(約98万円※)支払ったとの証言を伝えています。

※1ドル=約140円で換算(2022年11月18日現在)

 

Metaの広報担当者は、この種の不正行為で賄賂を取る者に対して「適切な措置」を講じると述べていますが、同社の評判はさらに傷ついたかもしれません。

 

Source: The Wall Street Journal

「足跡が残っています」スティーブ・ジョブズの中古サンダル、約3000万円で落札

アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズ氏が履いていたボロボロのサンダルが、なんと21万8750ドル(約3000万円※)で落札されました。一応、360度回転できるNFT(非代替性トークン)が付いてきます。

※1ドル=約139.4円で換算(2022年11月17日現在)

↑約3000万円で落札された故ジョブス氏のサンダル(画像提供/Julien’s Auctions)

 

このサンダルは、ビルケンシュトック(ドイツの靴ブランド)の中でも人気の高い「アリゾナ」モデル。アップルを創業した1970年代~80年代にかけて、ジョブズ氏が履いていたそうです。ジョブズ氏の元財産管理人であるマーク・シェフ氏がゴミ箱から回収したものが、米ジュリアンズ・オークションに出品されていました。

 

かつてシェフ氏はサンダルを入手した経緯について、ジョブズ氏がほとんど物を取っておかない」ため、一度捨てようとしたところを回収したと説明していました。いくつかは残し、いくつかは造園業者や友人におすそ分けし、いくつかはGoodwill(リサイクルショップ)に持ち込んだそうです。

 

このサンダルは2016年に、わずか2000ドル(現在のレートで約28万円)で落札されたとのこと。物価の上昇を考えずに単純に計算すると、それから100倍以上も値上がりしたことになります。今回も初めは6~8万ドルの値が付くと見積もられていましたが、そちらも余裕で上回りました。

 

オークションの説明では「サンダルはよく使われているが、まだ無傷のようです」とのこと。 ただの使い古されたサンダルにしか見えませんが、「長年使ったことで形づくられたスティーブ・ジョブズの足跡が残っています」とアピールされています。

 

2012年にはジョブズ氏のメモと稼働するApple I(アップル初のコンピュータ製品)基板が40万ドル(約5600万円)で落札され、2022年もジョブズ氏が使っていたMacintosh SEが最大30万ドル(約4200万円)だと見積もられたこともありました 。何かジョブズ氏に縁のあるグッズを持っている方は、オークションに出品すれば予想を超える価格が付くかもしれません。

 

Source:Julien’s Auctions
via:The Verge

世界の京都ファン、今夏に復活した「祇園祭」山鉾巡行への憧れが止まらない!

日本三大祭りの一つで、1100年を超える歴史を持つ祇園祭は、日本国内はもちろん海外でも広く知られている祭礼です。海外でもユネスコ無形文化遺産に「山・鉾・屋台行事」の一つとして2009年に登録されており、諸外国にも広く知られています。

↑待ってました! 祇園祭(後祭)の山鉾巡行の様子(写真は「役行者山」)

 

平安時代の「祇園御霊会(ごりょうえ)」が起源。全国に流行した疫病の病魔退散を祈願したことが始まりで、初夏の京都で1か月にわたり祭事が繰り広げられます。長い歴史の中で騒乱や戦争、大火などで中断した時期もありますが、1000年を超えて受け継がれてきた壮大な祭礼では、古今東西の芸術の粋を極め、人々の祈りが込められた神輿や山鉾などが都大路を彩ります。

 

祇園祭の名称は京都の八坂神社が過去に祇園社の呼称であったことに由来。日本全国に2000社以上の八坂神社が存在していると言われています。日本全国津々浦々まで広がる主祭神「スサノオノミコト」を祀る祇園信仰は、各地の神事として日本人の精神に深く根付いてきました。

 

京都市では2023年3月以降に文化庁が本格稼働を開始する予定。明治時代以降初の省庁移転であり、文化の力による地方創生・地域文化の掘り起こしによる文化芸術の振興などに大きな期待が寄せられています。京都は海外の旅行誌や観光専門家からも非常に高い評価を得ていますが、アジア圏内はもちろんのこと世界各地の著名観光地と比較しても群を抜いた存在。その中で祇園祭は世界中の京都ファンが一度は目にしたいと憧れるものです。

 

コロナ禍の祇園祭は、日本各地の他のお祭りや行事と同様に、感染防止のため縮小催行を余儀なくされました(2年連続で山鉾巡行が中止)。また、度重なる国内旅行者の移動制限や海外旅行者の入国制限により、関連する観光産業にも大きなダメージが。

 

しかし2022年、山鉾巡行が約3年ぶりに執り行われました。これは、復活に向け祇園祭に携わる人々の不断の尽力があればこそ。多くの市民や観光客らが待ち望んでいたことが、当日の人出や有料観覧席がほぼ満席であったことからも伺えます。

↑京都に賑わいが戻りつつある(写真は「浄妙山」)

 

祇園祭の完全復活を心待ちにしていたのは日本人だけではありません。山鉾巡行を観覧していたフランス人観光客は、外国人入国制限下において、この記念すべき日に足を運べた幸運をかみしめていました。日本の観光業は長期間コロナ禍で苦しみましたが、日本政府は2022年10月に外国人観光客の個人旅行を解禁し、空港の水際対策を大幅に緩和。今後もさまざまな感染症の発生やコロナ禍の再燃可能性も当然残されていますが、1000年を超えて疫病退散を祈ってきた祇園祭の復活は、日本の文化を形づくる全国のさまざまな祭りにもプラスの影響があったのではないでしょうか?

従業員を引きとどめろ! 世界最大のiPhone組立工場、ボーナスを最大10倍に

中国・鄭州市にある世界最大のiPhone組立工場では、従業員らがコロナ禍により外部から隔離されるなどの過酷な条件に置かれています。その中でも働き続けるよう説得するため、運営する台湾のFoxconnは従業員のボーナスを3倍以上に増やしたと報じられました。

↑ボーナスなんていらないから、ロックダウンから解放して(写真は2022年4月に上海がロックダウンしたときの様子)

 

中国は「ゼロコロナ」政策を続けており、わずかな陽性反応者が出ただけでも都市全体を封鎖し、国内からウィルスを根絶しようと努めています。

 

それを続けながら経済を回すため、閉鎖された都市でも工場では「バブル方式」による生産が認められており、従業員は敷地内で働き、食事をし、寝るという生活を送っています。そんな厳しい環境のもと、Foxconnの工場では感染者が出たことで、さらに不自由が強いられている模様。

 

従業員らは工場内の感染者が増え続けており、Foxconnが十分な食料と薬を提供することにも苦労しているとSNSに投稿。その苦境が本当だと裏付けるように、工場を囲むフェンスをよじ登って逃げ出す動画も広まっていました。

 

こうした事態に対して、当初Foxconnは10月26日から11月11日まで、全てのシフトをやり遂げた従業員には、無料の食事と約1500元(約3万円※)のボーナスを出すと述べていました。これは月給の20%に当たる額です。

※1元=約20円で換算(2022年11月2日現在)

 

Reutersの報道によると、Foxconnは事態が深刻なことから、このボーナスを3倍に増やすことを決定したとのこと。「徐々に秩序ある生産を再開する」努力の一環として、また「仲間の粘り強さに感謝する」ため、とされています。

 

そのうえ、11月中に休暇も返上して「全力」で働いた従業員には、合計1万5000元(約30万円)以上のボーナスが支給されるとのこと。つまり、初め提示された額の10倍以上がもらえるわけです。

 

これだけの金額を出されても、従業員の反応はまちまちで、残ろうと思う人もいれば、リスクが大きすぎると考える人もいるそう。儲かったとしても、心身の健康あってこそ……と悩んでいるのかもしれません。

 

Source:Reuters
via:9to5Mac

九死に一生の女性、夫に生き埋めにされる前に「Apple Watch」で緊急SOS

AppleのスマートウォッチApple Watchが、心臓の異常を早期に発見したり、あるいは自動車事故に遭ったときに自動で救助を呼んだりと、人の命を救うことは珍しくありません。しかし最近、なんと生き埋めにされた女性がApple Watchのおかげで助かったとのニュースが米国から飛び込んできました。

↑護身用ウォッチ

 

米NBC Newsによると、その女性は別居中の夫と進行中の離婚やお金につき相談したあと、自宅で襲われたとのこと。そしてダクトテープで手や足も縛り上げられ、口にも猿ぐつわされたものの、夫が離れたスキにApple Watchで911(緊急通報用の番号)に電話をかけることができたと語っています。

 

【NBC Newsの動画(英語)】

 

その後に女性はガレージに引きずり込まれ、Apple Watchもハンマーにより破壊されてしまいました。まさにギリギリのタイミングだったようです。

 

それにより警察が家に駆けつけましたが、夫は彼女をクルマで運び去り、離れた場所で埋めてしまいました。そして女性は何時間も経ってから自力で脱出し、約30分ほど走って人家を見つけたそうです。最終的には、その家にいた人が警察に通報してくれたとのことで、「直接Apple Watchに救われた」わけではありません。

 

もっとも、先にApple Watchで通報していたために警察も出動し、夫も下手な動きが取りにくかった可能性があるはず。発見された当時、女性は首や顔の下、足首にダクトテープを巻いたままで、足や腕、頭には大きなあざがあったそう。もし夫に素早く追われていたら、危うかったかもしれません。

 

Apple Watchで緊急SOSを使うには、Apple Watch または近くにあるiPhone のモバイルデータ通信接続や、インターネット接続を経由したWi-Fi 通話機能が必要です。

 

緊急電話のかけかたは、サイドボタン(デジタルクラウンの下)を長押しし、「緊急電話」スライダが表示されたらドラッグします。または、サイドボタンをそのまま押し続けるとカウントダウンが始まり、自動的に緊急通報サービスに電話がかかります。

 

Source:NBC News
via:iMore

イタリア版「祇園祭」が再開! 約400年続く「聖ロザリーアのフェスティーノ」は奇跡的だった

2022年7月、イタリア・シチリア島の都市パレルモで、疫病退散を願う「聖ロザリーアのフェスティーノ」祝祭が3年ぶりに開催されました。世界中から20万人もの人々が集まり、伝統の行列に連なりました。ペストの流行からパレルモを救った守護聖人・サンタロザリーアを崇拝するこのお祭りは、京都の祇園祭に通じるものがあります。コロナ禍の中断を経て再開したシチリアの伝統文化を紹介しましょう。

↑聖ロザリーアのフェスティーノに登場するシチリアの象徴「カッロ」

 

パレルモと聖ロザリーア万歳!

聖ロザリーアのフェスティーノは 、2022年で398回目を迎えたシチリアの伝統的祭礼。400年前のペスト大流行を一瞬で消滅させた奇跡を祝うもので、開催期間は7月1日から15日までおよそ半月に及びます。18世紀の貴族の館が立ち並ぶパレルモ旧市街では、宗教行事やパレード、演奏会、演劇などのさまざまな催し物が行われますが、祭りの熱気が最高潮に高まるクライマックスは14日の前夜祭。疫病終息の奇跡の行列を再現したパレードが、イルミネーションに彩られた市街を練り歩き、世界遺産のパレルモ大聖堂ではミサが行われます。

 

また、「カッロ」と呼ばれる豪華な山車の行進もこのお祭りの大切なイベント。シチリア文化を象徴するカッロは、ノルマンニ宮殿から海までの旧市街を一直線に結ぶヴィットーリオ・エマヌエーレ通り(Vittorio Emanuele)を進みます。2022年のお祭りでは、生演奏で盛り上がる雰囲気の中、カッロやパレードは次のように進みました。

 

第1停留所:ヌオーヴァ門より20時半カッロが出発

第2停留所:カトリック教会神学校にて、パレルモ教区最高位聖職者のコッラード・ロレフィチェ大司教がカッロに搭乗して聖ロザリーアの像を祝福

第3停留所:世界遺産のパレルモ大聖堂にて、名門マッシモ劇場の児童聖歌隊とユースオーケストラによるコンサート

第4停留所:旧市街にある代表的な交差点クアットロ・カンティにて、ロベルト・ラガッラ市長がカッロに登り「Viva Palermo e Santa Rosalia!(パレルモと聖ロザリーア万歳!)」と叫びました。

第5停留所のローマ通り、第6停留所のカッティーベの城壁、第7停留所のフェリーチェ門、第8停留所の音楽堂記念碑、第9停留所のギリシャ門と、名高い観光名所を次々に通過した行列は海に到着。深夜0時にフィナーレの花火があげられました。

 

聖ロザリーアの奇跡

↑聖ロザリーアのフェスティーノのポスター(右側に描かれているのが聖ロザリーア)

 

お祭りの“主人公”である聖ロザリーアは12世紀を生きた地元出身の聖女で、カトリック教会によりパレルモ守護聖人として認められています。ローマ皇帝だったカール大帝の末裔であるノルマン貴族の家系に生まれますが、神を愛し、祈りの生活を送るためペッレグリーノ山の洞窟で隠者として暮らし、若くして洞窟内で亡くなったと言い伝えられています。

 

しかし、それから約450年後、1624年にパレルモに疫病ペストが流行していたころ、ロザリーアはある病気の女性の夢枕に、続いて猟師の夢枕に現れ、自分の遺骸の在り処を啓示しました。そして、ペッレグリーノ山の洞窟からパレルモ市街までの間で行列を作り、遺骨を運ぶように言います。その猟師が洞窟でロザリーアの遺骨を見つけ、言われた通りにしたところ、たちまち病人は癒され、疫病の流行は終息したそうです。

 

ロザリーアはパレルモの守護聖人として地元で深く愛されるようになり、遺骸が発見された7月15日を記念して、行列を再現するようになりました。これが聖ロザリーアのフェスティーノの起源です。宗教的にも重要な行事として後世に受け継がれてきた一方、ペッレグリーノ山の洞窟には教会が建てられ、パレルモの街と海を見渡せる風光明媚な名所かつ癒しの祈りの場所として、世界中から多くの巡礼客が集って来ます。

 

祇園祭と類似

↑市民や観光客で賑わうヴィットーリオ・エマヌエーレ通り

 

新型コロナウイルスの蔓延によって2年間、開催中止を余儀なくされた聖ロザリーアのフェスティーノですが、再開にあたり、コッラード・ロレフィチェパレルモ大司教は次のように述べました。「パンデミックが引き起こした心理的、人間的、経済的、社会的な要因が、フェスティーノの衰退と人間疎外の原因になってはなりません。そうならないようにすることにこそ祝祭の真の目的があるのです。ロザリーアに愛された私たちの街の解放と再生をともに賛美しましょう」

 

ほぼ同時期に、遠く離れた日本の京都でも、コロナ禍で2年間中止されていた祇園祭の再開を巡り、門川大作市長から似たような言葉が発せられていました。疫病がまん延した平安時代初期に、疫神や怨霊を鎮める祈りを捧げる行事として生まれたのが祇園祭です。京都警察によると、2022年の祇園祭山鉾巡行の沿道にはおよそ14万人が見物に訪れたとのこと。「動く美術館」と称される祇園祭の山鉾は、日本各地の祭りに見られる山車の原型になったとされていますが、「動く劇場」とも言えるパレルモのカッロを連想せずにはいられません。

 

洋の東西を問わず、見えない疫病を鎮めるためのお祭りは、長い歴史の中で人類が魂を込めて営んできた一大伝統行事。太陽の恵み溢れるパレルモの聖ロザリーアのフェスティーノには、人々が抱える不安を鎮め、元気づけてくれる力があります。筆者も当時の景観が保全された旧市街を練り歩く群衆に加わってみましたが、実際に疫病退散の奇跡を目の当たりにしたかのような気持ちになりました。

 

コロナ禍は社会に深い影響を与えていますが、だからこそ、伝統的なお祭りが持つ「人々を精神的に癒しながら、結びつける」という目に見えない価値は、今後も継承されるだろうと思います。

オス犬は「匂いを嗅ぐ」とガンの危険が!? ケンブリッジ大学の研究

犬は家の中にいても、散歩中であっても、あらゆるものの匂いを嗅ぎまわる習性があります。これは、人間よりもずっと優れた嗅覚を持つ犬が、匂いからさまざまな情報を得るためとされています。でもそんな習性によって、オスの犬はある珍しいガンに罹患する確率が高いことがわかりました。

↑それでもやめられない

 

「CTVT」と呼ばれる犬のガン。正式名称を「可移植性性器腫瘍」といい、犬の外部性殖器に発生するガンで、珍しいタイプのガンです。感染性があり、犬同士が接触すると、生きているガン細胞が移りそれによってガンが感染ることがあるそう。そんなCTVTについて、イギリス・ケンブリッジ大学の博士が調べた、ある研究論文が発表されました。

 

その内容によると、世界中で報告されたCTVTのデータベースを詳しく解析したところ、通常は生殖器に発生するこのガンが、鼻や口に発生する例が見つかったそう。その数は、全部で約2000件報告されたCTVTのうち、わずか32件のみですが、うち27件はオス犬で発症していることがわかりました。オス犬は、メス犬に比べて、鼻や口にこのガンが発生する可能性が4~5倍も高いことになります。

 

オス犬とメス犬で鼻・口にCTVTを発症しやすい理由について、この調査を行った博士は、オス犬とメス犬の行動の違いを指摘しています。オス犬はメス犬より、他の犬の生殖器の匂いを嗅いだり舐めたりすることが多いそう。CTVTはガン細胞が感染するため、それによって鼻や口にガン細胞が移って感染する可能性があると見られています。

 

このCTVTは、そもそも数千年前に1匹の犬の細胞から発生したと考えられています。感染性のガンであるため、その犬が死んだ後も、ガン細胞は他の犬に感染を広げて、今日でも世界中の犬にそれが広がっています。国単位でみればまだ症例数は少なく、珍しいガンの一つではありますが、自然界で生まれた最も古い感染性ガンの一つとも言えます。

 

犬が他の犬の匂いを嗅いだり、周囲の物の匂いを確認したりする行為は、犬にとって必要不可欠。匂いを嗅ぎまわることを禁止すると、犬に大きなストレスを与えてしまうそうです。とはいえ、そんな行動によってガンのような病気にかかる可能性があるなら、飼い主は心配するもの。普段から飼い犬の様子をよく観察し、わずかな異変を感じたらできるだけ早く獣医に相談することが大切かもしれません。

 

【出典】Strakova, A, Baez-Ortega, A, Wang, J, Murchison, EP. Sex disparity in oronasal presentations of canine transmissible venereal tumour. Vet Rec. 2022;e1794. https://doi.org/10.1002/vetr.1794

お腹が空くとイライラするのはなぜ? 空腹と感情の関係が少しずつ明らかに

「お腹が空いているときは、イライラしたり怒りっぽくなったりしやすい」と、感じたことはありませんか? 実際に科学者による実験で、空腹感はイラ立ちや怒りを増幅させ、逆に喜びのようなポジティブな感情を減退させることがわかったのです。

↑腹が減った! イライラ……

 

英語には「Hangry(ハングリー)」という造語があります。これは、空腹を表す「Hungry(ハングリー)」と、怒るという意味の「Angry(アングリー)」を組み合わせた言葉。私たちは、お腹がすいた状態にあると怒りやすくなることを、経験で知っているわけです。ただし、空腹と感情の関係については、科学的にあまり研究されてきませんでした。

 

そこでイギリスのアングリア・ラスキン大学と、オーストリアのカール・ラントシュタイナー健康科学大学の研究者は、共同で研究を行うことにしたのです。研究チームは、ヨーロッパ中央部から64名を集め、21日間にわたる実験を行いました。実験期間中、参加者には普段と同じ生活を送りながら1日に5回、そのときの自分の感情と空腹レベルについてアプリで報告を行うよう指示。日常生活において、私たちの感情と空腹の関連について調べました。

 

その結果、分散(統計学ではデータのバラつき具合を表す指標)の値はイライラが37%、怒りが34%、喜びの喪失が38%でした。同研究チームによれば、これらの値は、空腹がネガティブな感情と強い関係があることを示しているとのこと。本研究は方法論などにおいて課題が残されていますが、年齢、性別、肥満度、食事、個人の性格などを考慮しても、空腹が感情に与える影響は顕著に見られるようです。

 

怒りの感情を分類してみよう

では、空腹になってイライラする気持ちを抑える方法はないでしょうか?

 

この研究を行ったアングリア・ラスキン大学の社会心理学教授は、自分のそのときの感情を分類することを提案しています。例えば、自分が怒りっぽくなっていて、しかもお腹が空いていると気づいたら、「空腹だから怒りを感じているのだ」と自分で認識して、その怒りの原因を「空腹」として他のイライラした気持ちと区別することができるわけです。そのように、自分で空腹であることを強く意識すると、怒りのようなネガティブな感情を抑えられる可能性があるそうです。

 

食欲は、人が生きていく上で重要な三大欲求のひとつ。生命の維持に関わる自然現象ですから、私たちは空腹を感じると身体が危機を感じて、そんな負の感情を抱くようにできているのかもしれません。次に「イライラしている!」と気づいたら、自分が空腹かどうかまずは考えてみては?

 

【出典】Swami V, Hochstöger S, Kargl E, Stieger S (2022) Hangry in the field: An experience sampling study on the impact of hunger on anger, irritability, and affect. PLoS ONE 17(7): e0269629. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0269629 

新入社員は78歳! 社員の約30%が70歳以上の「横引シャッター」は未来の企業のあり方の一つだ

↑駅のキオスクなどで見かける横開きのシャッター

 

2年半前に入社した“新入社員”はなんと御年80歳。キオスクで見かけるシャッターなど、特殊シャッター技術で定評のある株式会社横引シャッターには、実質的に定年がありません。社員の年齢、性別、国籍は一切不問。まさにSDGsと合致した経営を地で行っています。

 

過去3年間で中途入社した社員6名が60歳以上

パソコンの画面を見ながらCADソフトでシャッターの設置場所に応じた設計を行う一級建築士の金井伸治さんは、44年間勤務していた大手電力会社を2017年に退職後、奥様ががんを患ったことを機に再就職を決め、2020年6月に78歳で同社に入社しました。

↑一級建築士の金井伸治さん。自動車好きで、ポルシェ・カレラ911に乗るのが夢だった

 

「また働きたいと思ってハローワークに行きましたが、年齢制限に引っかかってどこもダメ。高齢者の就業を支援する区役所の部署でも厳しい現実を突きつけられました。そんな折に、90歳を超えても現役で働く社員を紹介するテレビ番組をたまたま観て、この会社を知ったのです。さっそく面接を受けたら、人柄を買われたのか、驚いたことにその場で採用が決定。社長からは『職場での和を大切にしてほしい』とだけ言われました」(金井さん)

 

入社のきっかけとなったテレビ番組で紹介された方は、正社員としてシャッターの金具を作る仕事をしていました。残念ながら、在職中の今年2月に94歳で亡くなったそうで、今は80歳の金井さんが最高齢。33人の社員のうち、10名が70歳以上で、この3年間で60歳以上の方が6名も中途入社していると言います。社員の平均年齢は58.7歳と高い一方で、最近26歳の若者も入社しました。これだけ幅広い年代の社員が働く職場において、世代間ギャップなどが業務に支障をきたすことはないのでしょうか。

 

仕事仲間なので年齢は関係ないと思います。20代、30代の人たちに対して孫のような感覚になることも、ジェネレーションギャップも感じません。以前は親睦を深めるために飲み会や芸人を呼んだイベントなど、会社での集まりもよくあったそうですが、今はコロナの影響で交流する機会が減っていて……。それでも社内の雰囲気は悪くなく、私にとってすごく居心地がいい職場です」(金井さん)

 

社長からの「信頼」が仕事のモチベーションに

前職では原子力施設の設計を行っていましたが、今はシャッターの設置環境や顧客の要望に応じて設計するのが金井さんの仕事。「規模は違っても同じ設計なので何も問題はない」と笑います。1つの案件にかける日数は2~3日だそうです。

↑営業担当者からの説明を受けて図面をおこすことが多いため、営業や職人たちとの関係性も重要となる

 

「当社ではJWCADという無料のCADソフトを使っていたのですが、大手ゼネコンなどはAutoCADという有料ソフトを使うことが多いんです。そこで社長に『大手を相手に仕事をするならAutoCADを導入した方がいい』と提案したところ、その案をすぐに採用していただけました。社長は私を信頼して任せてくれているんだと考えると、仕事へのモチベーションも高くなります。現在は、JWCADとAutoCADを併用しつつ、仕事の合間にAutoCADへの移行作業を行っているところで、それにもやりがいを感じています。

 

一般的な会社は採用に年齢制限を設けていますが、年齢に関係なく、才能のある人はたくさんいます。社長の考え方は意義のあることだと思いますし、私にとっては本当にありがたく、感謝しています。今後は健康が許す限りこの会社で働き続けたいし、AutoCADでの設計は非常に奥が深いので、日々勉強して少しでも極めたいと考えています」(金井さん)

 

能力があれば年齢なんて関係ない

80歳になっても生き生きと働く金井さんですが、「あえて高齢者を採用しているわけではなく、面接をして、わが社に来てほしいと思った人にたまたま高齢者が多かっただけです」と話すのは市川慎次郎社長。創業者である父親の急逝にともない、2012年12月に同社の社長に就任しました。

↑代表取締役 市川慎次郎さん

 

「子どもの頃、『お前たちが生活できるのも社員のおかげ』と父からよく言われていました。ゼロからこの会社を築いた父は、苦労も多く、社員のありがたみが身に染みていたんです。そんな父の背中を見て育った私ですから、社員を大切にする気持ちは自然と身についたんだと思います。年齢や国籍などの条件にとらわれず採用や昇給をしますし、定年もなし。福利厚生はもちろん、パソコン教室や資格取得推進など、社員にさまざまな学習の機会も設けています。雇用に関してよく取材を受けますが、私としては特別なことをしている意識はありません。

 

そもそも、年齢や性別、障害の有無、国籍で差をつける理由がわかりません。逆にもったいない。59歳から60歳になっても急に能力が落ちるわけではないのに、60歳になったからと定年退職したり、会社に残っても給料を減額されるのはおかしな話です。高齢者でも能力が高い人は少なくないし、現役でバリバリ働ける人も多い。もちろん会社なので、来るものは拒まずではありません。採用の際は、経歴よりも、和を重んじる当社の社風に合うかどうかを重視しています。金井さんの場合は、建築士としての経歴は申し分ありませんでしたし、面接で話した印象が当社に合うと感じたので採用を決めました。

 

また、制限を設けない雇用によるメリットは多々あります。例えば、腕のいい職人の場合、同じ作業工程であっても仕事のクオリティに差が出ます。一般的な職人は、自分が習得した技術をなかなか教えたがらないのですが、定年がないと生涯働き続けられるので、会社のことを自分事としてとらえ、後継者の育成にも協力的になります。彼らの経験から得た技術や知識を若い人たちに教えてもらえることは何よりの財産。さらに、若い人たちは、目上の人を大切にする機会が増え、人間性を育むことができると考えています」(市川さん)

 

過去の苦い経験がきっかけに

何よりも、社員同士の“和”を重んじる市川社長ですが、それには大きな理由がありました。

 

「実は会社が経営難に陥ったことがこれまで2度あり、とくに父が亡くなる前後はどん底でした。いくら“社員が大切”と掲げていても、社員の会社に対する不信感が強まり、離職する人も多かったです。また、事業継承の際も、会社を倒産させる考えの兄と、社員のために続けたいと主張した私との間に確執が生じ、社内の雰囲気が最悪に。社員のモチベーションが低下し、生産性にも影響しました。だから私は、社員から信頼される会社にしたいと強く思いました」(市川さん)

↑工場での作業風景

 

倒産の危機、そして社員の会社に対する不信感……。社長に就任した市川さんは、立て直しのために手腕を発揮しますが、同時に、社員の信頼を得ることにも力を入れました。経営上開示できない資料以外の情報をすべてオープンにし、社員にとってプラスになることはすぐに取り入れました。社員の声に耳を傾け、いつも真剣に向き合うことも意識したそうです。

 

「今でこそ笑顔で話せますが、会社立て直し当時は社員からの風当たりも強く、悲惨そのもの。でも、社長になって10年になりますが、今は本当に会社の雰囲気がいいと感じています。社員同士も仲が良く、不安がないから仕事に集中できています。雇用に関してもそうですが、有言実行してきた1つずつの小さな積み重ねの結果だと思います。こちらから襟を開かないと相手は殻に閉じこもったままなので、話しかけたり、困っていたら手を差しのべたりするなどの意識も持ち続けました。

↑社員の皆さん。年齢も国籍もバラバラだが、仕事中でもお互いに尊重し合っている様子が伝わってくる

 

また、社員には“お互いさま精神”を持つようにと常々言っています。表面的な付き合いや、会社のために手伝うのではなく、和を重んじ、誰かが困っていたら仲間として積極的に助け合えと。会社で起きている全てのことは、自分たちに影響するのだからと。そのため、頻繁に部署の配置転換を行い、他部署が忙しかったり、困ったりしていたら、“応援”ではなく“戦力”になるよう多能工化も進めています。例えば新型コロナに複数の社員が感染した時も、ほかの社員がフォローしてくれたおかげで、業務が停滞したり、お客さまにご迷惑をかけたりすることはありませんでした」(市川さん)

 

会社は社員あってのものだから、社員を信頼し大切にする――。こういう考えを持つに至ったからこそ、社員の年齢や性別、国籍などは問わない雇用を行うことができているのでしょう。

 

撮影/神田正人

冬季五輪の選手村は学生向け住宅に。ミラノが挑む3つの「サステナブル住宅プロジェクト」

イタリアのミラノ市はサステナブルな町づくりを目指し、長く放置されていた旧鉄道エリアや旧工業地帯エリアの再開発を始めました。2026年2月に開催される「ミラノ・コルティナ冬季オリンピック大会」に向けて選手村も建てられており、大会終了後には住宅になる予定。ミラノ市が取り組む、3つのサステナブル住宅プロジェクトを紹介します。

サステナブルな巨大プロジェクトが進行中のミラノ

 

1: ゼロカーボン住宅に取り組む「リネスト」

 現在、イタリア初のゼロカーボン住宅を建設中の「リネスト」は、都市再開発に関する国際コンペティションで数年前に優勝したことがあるプロジェクトの1つです。旧鉄道の貨物ターミナルとして使われていたミラノ北東のスカログレコ ブレダ地区にある約7万平方メートルの敷地に、約400戸の住宅と約300戸の学生住宅を建設。これらは再生可能エネルギーにより稼働し、2050年までにゼロカーボン化を目指しています。

 

特に注目を集めているのは「第4世代地域暖房(4GDH)」のシステム開発で、自然エネルギーや廃熱を利用した温水を建物の給湯や暖房に使うのが特徴。雨水を再利用してかんがい用水として使用するほか、周辺地域はCO2を吸収するために、面積の60%を緑地化する方針です。リネストは専用アプリを開発し、住民は自宅のエネルギーと水の消費量をリアルタイムで確認することができます。

 

ミラノ市内の道路は平坦で自転車での移動が便利なことから、リネストは1200平方メートルの駐輪場を設置することで、自転車の利用を促進する予定。住戸ごとの駐車場は用意せず、自家用車の大幅削減を目指します。市内にはCO2を排出しない電気自動車のカーシェアリングサービスがあるため、10台分の充電エリアを用意する計画も。

 

このような取り組みを通して、リネストは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」を30年以内に実現する予定です。

 

2: 選手村を建設予定の「ボスコナヴィリ 」

↑週末に賑わいをみせる、サン・クリストフォロ地区の運河沿いの飲食店舗

 

旧鉄道エリアのサン・クリストフォロ地区では、約90戸の集合住宅「ボスコナヴィリ」が建設中です。外壁に多くの植物が植えられ「垂直の森」と呼ばれる、ミラノで有名な高層建物「ボスコ・ヴェルティカーレ」を手がけた建築家ステファノ・ボエリ氏が設計。このエリアは運河沿いにレストランやバーが並ぶ観光地としても人気のエリアで、2024年までに運河に近い9000 平方メートル以上の敷地に「ボスコナヴィリ」をはじめ、3階建てヴィラなどを建設予定です。

 

ボスコナヴィリは住宅の屋根を太陽光発電パネルで完全に覆い、地熱エネルギーを使用することで、夏は涼しく、冬は暖かくなるように設計されているとのこと。スマートモビリティにも対応しており、住民共有の電動自転車とスクーターを設置することで、CO2の排出を抑えます。

 

敷地を囲む樹木や植物は、騒音や微粒子状物質(PM2.5)に対するバリアの役割を果たすと同時に、CO2を吸収することが期待されています。雨水を収集して再利用する自動かんがいシステムも導入されます。

 

さらに、旧ポルタ・ロマーナ駅エリアには、冬季オリンピックの選手村を建設予定です。この地域では都市化や公共緑地化の計画が進められており、大会終了後には選手村を学生たちが使える公営住宅にする計画です。

 

3: イタリア最大の都市再開発プロジェクト「ミラノセスト」

イタリア最大の都市再開発プロジェクトといわれている「ミラノセスト 」は、150万平方メートルの広大なセスト・サン・ジョバンニ旧工業地帯を持続可能な都市へと再生させる計画です。タワーオフィス、商業施設、ホテル、病院、大学、住宅など7つの建物が建設され、住民や在勤者、訪問者などの利用者数は1日約5万人を想定。第1フェーズとして、2025年までに住宅や商業施設がオープンします。

 

ミラノセストは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方に基づきながら、建物に使う資材や原材料を決めているほか、かつて工場があった場所を含めて、本計画の対象地域全体に1万本の木を植える予定。これにより、年間48トンのCO2が吸収されるそうです。さらに、周辺での車両使用を削減するために、10kmの歩行者専用道路と自転車専用道路が建設されるとのこと。

 

本プロジェクトでは、歩道橋の上には太陽光発電パネルを設置し、使用するエネルギーの50%を再生可能エネルギーから生み出します。緑地化とクリーンエネルギーの活用により、CO2の排出量を5500トン抑制することを目指しており、これは2万1000台のクルマが1年間に排出する量に当たるそうです。

↑歴史あるミラノのシンボル「ドゥオーモ」と「ガレリア」

 

町の中心には歴史を感じさせる古く美しい建物や景観をそのまま残し、その一方で持続可能な都市へと生まれ変わる再開発にも力を入れているミラノ。国や州、市の総力を結集した今回のサステナブルプロジェクトは、未来を見据えた挑戦としてイタリアの歴史に刻まれていきそうです。

 

執筆者/Shiho Yamaguchi

ドライブスルーを導入したら、コロナ禍の卒業式が一生の思い出になった

この数年間、世界中で多くの子どもたちが、学校に行きたくても行けないという経験をしました。コロナ禍のハワイでは、他の国や地域と同じように、小・中学校や高校、大学の卒業式が変化。2020年にはオンラインによる「バーチャル卒業式」が行われました。しかし翌年、この儀式は独特の変化を見せ、アメリカらしい「ドライブスルー卒業式」が誕生。最近では子どもたちが学校に戻るようになりましたが、ドライブスルー卒業式はハワイに浸透した模様。子どもたちの悔しさを晴らしたこの卒業式は、どのようなものなのでしょうか?

↑クルマを派手にしてお祝いモード

 

クルマなら安全に卒業式ができる!

ハワイの卒業式シーズンは5月で、大きなライフイベントの1つとして盛大にお祝いをします。伝統的なレイ(花輪)を顔が見えなくなるまで重ねる卒業生の写真は有名です。高校、大学の卒業式では、ダンスパーティーやアワードセレモニー(学生たちのさまざまな功績を表彰する式)など、多くの関連イベントも行われます。

 

コロナにより厳しい規制が始まった2020年5月は、学生の卒業式は中止になるか、またはオンラインで開催。卒業関連のイベントはほぼ全て中止を余儀なくされました。

 

そして翌年5月もコロナの状況は悪化していましたが、1年前と違って、感染予防をしながら行うというスタイルの導入に踏み切る学校が現れます。規制しながら実施するイベントが増えていた中、「ドライブスルー卒業式」が登場。2022年の卒業式でも多くの学校が前年と同じくドライブスルー式で行い、コロナが完全には収束していないハワイの卒業式の定番スタイルとなりました。

 

ドライブスルー卒業式は、デコレーションしたクルマに卒業生が1人ずつ乗って学校やその周辺を走り、学校の先生たちや近所の人たちにお祝いしてもらうというスタイルです。

 

そのスタイルは学校によって異なりますが、例えば、フェイスシールドをした校長先生たちが待つ校門までドライブをし、校長先生から卒業証書を受け取るという祝い方があります。また、学校の校庭に卒業生が乗るクルマを一斉に入れて、その中で先生のお祝いの言葉を聞くというスタイルも。

 

しかし、ドライブスルー卒業式の大きな特徴は、なるべく目立つようにクルマをデコレーションするということ。デコレーションしたクルマとすれ違うと、対向車がクラクションを鳴らしてくれたり、「おめでとう」と声を掛けてくれたりします。

↑校長先生が待つ学校に向けて列をなして走る卒業生を乗せたクルマ

 

クルマをデコレーションする方法としては、窓に専用のペンでペイントしたり文字を書いたりするのが一般的。水で簡単に消すことができるので、卒業式が終わればサッと拭いて帰宅できますが、そのままドライブして、帰り道で見知らぬ人に祝ってもらう人も少なくありません。先生に向けて「MAHALO」(ありがとうのハワイ語)と窓に書いているクルマも多く見かけます。

 

誕生日などでよく使われる文字のバルーンもよく使われており、「2022」や「CONGRATS」(おめでとう)といった卒業関連のバルーンがこの時期は多く出回ります。また、ハワイの各学校には必ず独自の「スクールカラー」があるので、その色でデコレーションするのも人気です。卒業式の時期は大型ディスカウントストアなどが「卒業コーナー」を設け、このようなグッズを販売しています。

 

ドライブスルー文化の派生

↑ドライブスルー卒業式を行う小学校

 

コロナ禍で開催できなかったイベントは卒業式以外にも多くありましたが、近頃は誕生日やベビーシャワーなどを卒業式と同じようなドライブスルースタイルで祝う人が増えました。

 

もともとアメリカには、巨大な駐車場に大きなスクリーンを配置してクルマに乗ったまま映画を鑑賞するドライブインシアターがあります。コロナ禍でも、このドライブインシアターはハワイのいたるところで開催されていました。窓を開けて夜風を感じながら見る映画は、閉ざされたコロナ禍の中で非日常的な空気を感じることができるため、人気が高まったようです。感染防止目的で始まったドライブスルー卒業式や誕生祝いは、ドライブインシアターのような文化があるハワイだからこそ比較的浸透しやすかったのかもしれません。

 

たくさんのレイを首にかけてお祝いし、家族や親戚、友達が大勢集まって祝うハワイの伝統的な卒業式スタイルは、コロナ禍が落ち着く頃にはまた復活すると思われます。ただし、コロナ禍により生み出された新しいスタイルのドライブスルー卒業式は、さまざまな規制を強いられた多くの学生たちにとって、一生忘れられない卒業式となることでしょう。

 

同じ「匂い」がしたら友達になる。当たる確率は71%!

相手のことをそれほど知らないのに、出会ってからすぐに友人になったという経験はありませんか? そんな相手は自分と似た匂いの持ち主なのかもしれません。最近、世界を驚かせた研究によると、人は同じような匂いの人と引かれ合うようです。

↑同じ匂いがするぜ

 

動物は相手の匂いを嗅いで、味方か敵なのかを判断します。例えば、犬同士が初めて出会ったとき、お互いの匂いをくんくん嗅ぎまわりますよね。このように、社会的関係を構築するうえで匂いは重要な役割を担っていることが、人間以外の陸上に住む哺乳類では確認されていますが、なぜこれまで人間では確認されていないのでしょうか?

 

そこで、イスラエルにあるワイツマン科学研究所の大学院生が、「人は無意識のうちに自分や他人の匂いを嗅いで、自分と他人を比較し、自分の匂いと似ている人に引き寄せられるのではないか?」と仮説を立て、ある実験を行いました。

 

この実験では、短期間で友人になった同性のペアを被験者として募集。お互いの人となりを十分に知る前に友人関係が形成されるということは、身体の匂いといった生理的な特徴が何らかの影響を与えているのではないか? そう考えた同研究者は、被験者から匂いのサンプルを採取し、ランダムに選んだ別の人のサンプルと比較することで、友達同士の匂いに類似性があるかを調べました。

 

その結果、匂いの化学物質を特定する機械「eNose」を用いた判定と、人間による検査のどちらでも、友人同士は似た匂いを持つことがわかったのです。

 

匂いは友を呼ぶ

しかし、友人同士の匂いが似るようになったのは、友人関係ができた結果であるかもしれません。そこで同研究者は、この可能性を排除するため、別の実験も行いました。知らない人同士を会わせて、言葉を使わない交流の時間を持ってもらい、その後、相手のことを「どの程度好きか?」「どの程度の友人になれそうか?」と評価してもらいました。なお、被験者の匂いは事前にサンプルを取って分析してあります。

 

すると、積極的に交流していた人同士は、お互いに似た匂いを持つ傾向があることが判明。匂いの類似性から、それぞれのペアがどのくらい積極的に交流するかを予測したとき、その正確さは71%にもなりました。

 

これらの実験結果から、どうやら人は自分と同じような匂いを持つ人と仲よくなりやすいということが言えるようです。私たちは知らない人と初めて会ったとき、相手の性格や考え方、言動などを見て、相手に好感を抱いたりするものですが、そこでは無意識に相手の「匂い」も嗅いでいるのかもしれません。

 

【出典】Ravreby, I., et al. (2022). There is chemistry in social chemistry. Social Advances, 8(25). DOI: 10.1126/sciadv.abn0154

周りから取り残される恐怖! スマホ依存症対策の「通知オフ設定」は人によって逆効果

近年、「スマホ依存症」という言葉をしばしば耳にします。この病気は「スマートフォンの使用を続けることで昼夜逆転する、成績が著しく下がるなど様々な問題が起きているにも関わらず、使用がやめられず、スマートフォンが使用できない状況が続くと、イライラし落ち着かなくなるなど精神的に依存してしまう状態」(東邦大学医療センター)を指します。この“治療法”として、メールやSNSの通知機能をオフにすることが挙げられますが、この方法はかえって逆効果になる可能性があるようです。

↑通知をオフにしても、スマホから離れられないのはなぜ?

 

米国・ペンシルベニア州立大学の研究者は、平均年齢36歳の男女計138人のiPhoneユーザーを対象に、SNSの利用やスマホの使用状況を調べました。スマホの画面を見ている時間を確認できるツール「スクリーンタイム」を使って、スマホの使用時間や手にする頻度などを調査。スマホの通知音については、音が鳴る設定、バイブのみの設定、通知をオフにした消音モード(マナーモード)などを自由に設定してもらいました。

 

その結果、通知機能がオンになっている人より、消音モードにしている人のほうが、スマホを手にして画面を確認する頻度が高くなっていることが判明。通知機能をオフに設定しているほうが、「メッセージやメールなどを見逃していないか」という焦りが生じ、この心理的苦痛を減らすために、スマホの利用時間が減るどころか、かえって長くなってしまうようなのです。

 

複雑な社会心理

通知をオフにすると余計にスマホが気になってしまう人は、FOMO(フォーモ)タイプの人かもしれません。FOMOとは「Fear of Missing Out」の略で、自分が周囲から取り残されることに対する恐怖を表し、SNSなどの時代背景から生まれてきました(逆に、周囲から取り残されても平気な心理状態は「Joy of Missing Out(JOMO)」と呼ばれています)。FOMOの傾向が低い人は消音モードにすると、スマホの使用頻度が著しく低くなったのに対して、FOMO傾向が高い人は消音モードにすると、スマホを確認する頻度が高くなったことがわかりました。

 

それと同時に、どこかの集団の一員であるという「帰属意識」が強い人も、FOMOの人と同じようにスマホを手にする時間が多いことも明らかとなったそうです。

 

この結果を受けて、ペンシルベニア州立大学の研究者は「スマホ依存症の人に通知をOFFにすることを勧める考え方は見直したほうがいい」と提言。性格や生い立ち、働き方、人間関係など、より広い観点からスマホ依存症の治療法について考えるべきなのかもしれません。

 

【出典および参考】

Mengqi Liao, S. Shyam Sundar, Sound of silence: Does Muting Notifications Reduce Phone Use?, Computers in Human Behavior, Volume 134, 2022, 107338, ISSN 0747-5632, https://doi.org/10.1016/j.chb.2022.107338.

東邦大学医療センター 大森病院 メンタルヘルスセンター『スマホ依存について』

https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/smartphone_dependence/index.html

皮膚炎になる可能性は他の犬の38倍!「イングリッシュブルドッグ」の飼育を英国が警鐘

短い脚と顔の垂れた皮膚が特徴的なイングリッシュブルドッグ。“ブサかわ”犬として人気ですが、健康上の問題から、将来は飼育が禁止されるかもしれません。

イングリッシュブルドッグは交配によって生まれた犬種で、体高が低く短足。顔の皮膚は重く垂れ下がり、たくさんのシワができています。強面な見ためとは裏腹に、温和で飼い主に誠実な性格もあり、ここ10年ほどでイギリスを中心に人気が上がっています。

 

そんなイングリッシュブルドッグの健康状態について、イギリスの王立獣医学校(ロイヤル・ベタリナリー大学)の研究者が調べました。2016年にイギリスで獣医師から治療を受けた犬90万5544匹から、イングリッシュブルドッグ2662匹とイングリッシュブルドッグではない犬2万2039匹を無作為に選び、診療記録からそれぞれの犬の健康を調査。

 

その結果、イングリッシュブルドッグは他の犬種と比べて、約2倍病気にかかりやすいことが判明しました。次のように、さまざまな病気にかかるリスクがずっと高いのです。

 

  • 皮膚炎: 約38倍
  • チェリーアイ(目の病気): 約27倍
  • 突顎(下顎が突き出る): 約24倍
  • 呼吸障害を引き起こす閉塞性気道: 約20倍

 

さらに、今回の調査の対象となったイングリッシュブルドッグのうち、8歳以上だったのは9.7%。一方、他の犬種のうち8歳以上は25.4%でした。これはイングリッシュブルドッグは長生きしづらく、若いときから健康上の問題を抱えているものが多いことを示しています。イングリッシュブルドッグの平均寿命が8〜10年と短いこととも関係があるでしょう。

 

繁殖を制限する国も

この調査結果を受けて王立獣医学校の研究者は、イングリッシュブルドッグの健康状態は、他の犬種に比べてずっと悪いと指摘。特に皮膚炎や呼吸障害など、人間の交配によってできた身体的特徴が直接関連していることが問題だと警鐘を鳴らしました。

 

このような健康上の懸念から、オランダ、ノルウェーなど、イングリッシュブルドッグの繁殖を制限する国も出てきています。王立獣医科大学の研究者は、イングッシュブルドッグはもっと皮膚にしわがない健康的な身体になったほうが良いと考えており、「イングリッシュブルドッグを飼う前に一度立ち止まって考えてほしい」と呼びかけています。

 

【出典】O’Neill, D.G., Skipper, A., Packer, R.M.A. et al. English Bulldogs in the UK: a VetCompass study of their disorder predispositions and protections. Canine Med Genet 9, 5 (2022). https://doi.org/10.1186/s40575-022-00118-5

コロナ禍を経ても変わらない、ドイツ人の羨ましい「長期滞在型旅行」

コロナ禍で旅行を自粛せざるを得ない状況にあったこの2年間は、旅行好きなドイツ人にとってかなりの我慢が必要とされる時期でした。マスクを外すことが許可された2022年の春、ドイツではこれまで溜まっていた旅行熱が一気に溢れ出すかのように旅行ラッシュが始まりました。コロナ禍が収束したとは言い切れない状況で、以前と比べてドイツ人の旅行事情にどのような変化が見られるのでしょうか?

↑「暮らすように旅する」がドイツスタイル

 

ドイツでは新型コロナワクチンの3回目の接種を終えた証明書があれば、日常生活に制限がかかることはほぼなくなりました。市街地でもマスクを着用している人を見ることが少なくなり、「コロナ禍はほとんど終わったようだ」と思うことが増えています。日常会話にも「今年はどこでバカンスを過ごすの?」というような話が戻ってきましたが、旅行での必須アイテムに新型コロナワクチンの証明書が加わったことで、これまでワクチン接種をしていなかった人もバカンスに向けて急遽済ませるケースが増えています。

 

フライトや宿の予約スピードも勢いを増しています。統計データを提供するStatista社の調査では、2021年時点で82%の人が「翌年に旅行する計画がある」と答えていましたが、2022年4月になるとドイツ国民の約65%がすでにオンラインで旅行を予約していました。2年間に及ぶロックダウンの反動で、明らかに旅行意欲が強まっています。

 

じっくりと味わう

日本の旅行は週末や連休の数日間で名所を観光したり、贅沢な食事をしたりする「周遊型」が一般的ですが、ドイツなどのヨーロッパ諸国では、もともと1か所のリゾートエリアや宿泊先にとどまる「滞在型」が好まれています。食事付きの「オールインクルーシブ型」のホテルに1週間ほど宿泊したり、「フェーリエンハウス」と呼ばれる休暇用の一軒家やアパートメントを借りて1~3週間自炊しながら過ごしたりします。“暮らすように旅する”と言われるように、できるだけ旅行中の移動が少なく、予定を詰め込み過ぎない「リラックス型」がドイツ人の旅行スタイルといえます。

 

ドイツにあるルフトハンザ系列の旅行会社によれば、2022年は大きな都市部や観光名所を巡る旅行に比べて、やはり滞在型旅行の問い合わせが増えているとのこと。混雑するエリアを回るよりも1か所にとどまる旅行のほうが、コロナ感染のリスクを少しでも抑えられると考えている人が多いことも要因と見られます。

 

しかし、バカンス旅行の行き先や移動手段については、コロナ禍以前に比べると、さまざまな変化が見られます。陸地移動が可能なヨーロッパではこれまで海外旅行も気軽に行われていましたが、現時点ではまだ国境を越えた旅行に抵抗感を持つ人が多いのも事実。コロナ感染を恐れているというよりも、陰性証明の有無など頻繁に変わる各国のコロナ対策による入国条件を事前に把握し、準備することが面倒だという理由もあるようです。

↑鉄道の旅が人気

 

さらに、パンデミックで大打撃を受けたドイツ国内のホテルやレストランを支援する運動「#supportyourlocal」 の効果もあるでしょう。Statista社によれば、2022年は国内旅行を予定している旅行者は約31%と、コロナ禍前を上回りそうです。

 

ドイツ政府も国内旅行の需要を喚起するために、燃料費の値上げや環境問題への対策、さらにローカルサポートへの支援策として、2022年6月から3か月間限定で国内の公共交通機関が乗り放題になる通称「9ユーロチケット」を導入しました。このニュースは欧州内で大きな話題となり、5月時点で約50%の人がこのチケットを購入する予定と答えていました(Statista社)。

 

パンデミック以前は、ドイツ人の間でクルーズ旅行が大人気でした。一度乗船してしまえば乗っているだけで次の目的地に連れて行ってくれるので、リラックスしながら楽しむには最適と言えましたが、コロナ禍以降はクルーズ旅行が避けられるようになり、旅行熱が戻った現在でも予約状況は芳しくありません。船上の密室として新型コロナウイルスのホットスポットになってしまったことに加え、C02や排出物・廃棄物を多く吐き出し、環境に悪影響を及ぼすという観点からも、クルーズ離れが見られるようになったのです。

 

日本人には真似できない?

ゆったりした長期滞在型旅行を好むドイツ人ですが、そのワークスタイルは「休暇が多いのに生産性が高い」ということで、働き方の良いモデルになっています。日本企業と違って、ドイツの多くの企業では従業員が年度初めに1年間の有給休暇スケジュールを提出しなければならず、ドイツ人はその時に年間の旅行プランも立ててしまうなど、とても効率的なのです。

 

ドイツ人にとって人生で旅行の優先順位が高いことは、コロナ禍以前もコロナ禍以降も変わりません。昔から最も人気が高い滞在型旅行は、人との接触を極力減らしたい人に合った旅行スタイルとも言えそうで、さらに人気が高まりそうです。

イギリスはお祭りモード! 売り切れが続く「プラチナジュビリー記念グッズ」

イギリスは現在、エリザベス女王の即位70周年を盛大にお祝いしています。「プラチナジュビリー(Platinum Jubilee)」と呼ばれるこの祝典では、年間を通してさまざまなイベントが行われますが、6月初めには祝日が設けられ、パレードや礼拝が行われました。コロナ禍で落ち込み気味だった街も一気に華やぎ、記念グッズも大盛況。スキャンダルが後を絶たないイギリス王室ですが、国中にお祭りムードが漂っています。

↑バッキンガム宮殿には大勢の人が集まった(誰もマスクを付けていないような……)

 

エリザベス2世はイギリスで最も長く君臨し、プラチナジュビリーを祝う初の君主であり、最年長の現職国家元首です。そんな女王を盛大にお祝いしようと、パレードが行われたバッキンガム宮殿の周辺には多くの人が集まり、国旗を振っていました。1200人以上の将校と兵士が数百人のマーチングバンドと約240頭の馬とともに行進を披露し、宮殿周辺は熱気に包まれました。

 

また、6月の祝典では「ビーコン・チェーン(a beacon chain)」と呼ばれる伝統的な炎のリレーが、「プラチナジュビリー・ビーコン」として行われ、イギリス本国と海外領土全体で1500以上のビーコンが点灯。団結の象徴として多くの人の目に焼き付きました。

 

ロンドンまで出掛けずに、プラチナジュビリーを楽しむ人も多くいます。自宅の庭に家族や友人を招いてガーデンパーティーを開いたり、ユニオンジャックカラーの服装で職場に集まったり。また、数多くのプラチナジュビリー記念グッズが販売されており、人気を博しています。

 

老舗デパートの「SELFRIDGES」は、ショートブレッドビスケットやチョコレート、ジャムなど、「ハンパー」と呼ばれる詰め合わせのバスケットをお祝いパッケージ仕様で発売。王室御用達デパートの「フォートナム&メイソン」は、ジャムやビスケット、お皿やティータオルがセットになったギフトボックスを揃えました。高級スーパーの「マークス&スペンサー」は、イギリス人が大好きなソーセージロールやポークパイ、お菓子の詰め合わせなど、簡単にパーティーができるセットを販売。装飾用のユニオンジャックの旗や、ユニオンジャックが描かれたTシャツ、トートバッグなども売られています。

↑プラチナジュビリー版アフタヌーンティー

 

王室グッズ公式サイトでもさまざまな記念品を購入できますが、一時は混みすぎてアクセスできなくなるという事態も起きました。公式サイトのさまざまなグッズのなかでも数時間以内に売り切れたのは、プラチナジュビリーのエンブレムが刻印された120ユーロ(約1万6500円※)の限定版シャンパングラスのセットでした。プラチナジュビリー限定版の時計やコーヒーマグ、大型ジョッキ、ティーカップとソーサーも完売したとのこと。ティータオルも大人気で、売り切れが続いています。

※1ユーロ=約137.6円で換算(2022年7月12日現在)

 

また、パンデミックや環境問題に影響を受けて、ハンドサニタイザーやフェイスシールド、エコボトルなどの記念グッズも販売中。例えば、プラチナジュビリーの公式サイトにある特別テディベアには、リサイクルポリエステルが使用されています。

 

ロンドンの地下鉄では2022年5月、「エリザベスライン」と呼ばれる新しい路線が開通しました。ヒースロー空港とロンドン東部を結んでおり、これによってロンドンがもっと観光しやすくなると期待されています。コロナ禍がほぼ収束し、暖かくなってきたイギリスは、これからが観光やバカンスのベストシーズン。プラチナジュビリーのお祝いムードも手伝って、イギリス人はこれからお祭りモードが全開になりそうです。

世界で大注目! 海を航行するだけで「マイクロプラスチックごみ」を回収するスズキの船外機の仕組みが素晴らしすぎた

海洋プラスチックごみ問題――。中でも直径5mm以下のマイクロプラスチックは、海流に乗って世界中に拡散し、海の生態系に甚大な影響を及ぼすと懸念されています。この問題に対してスズキ株式会社が開発するのが、世界初の船外機用マイクロプラスチック回収装置。海を航行するだけでマイクロプラスチックを回収できることで、いま世界中から注目を集めています。

 

戻り水の通り道にフィルターを設置

自動車やバイクメーカーという印象が強いスズキですが、実は船外機(ボート用のエンジン)を取り扱うなど、陸から海まで事業を展開する世界でも珍しい企業です。そんな同社が開発したマイクロプラスチック回収装置とはいかなるものなのか? マリン営業部の小川陽平係長に説明していただきました。

 

「小型船舶に搭載する船外機には、自動車のようなラジエーターはなく、ウォーターポンプで汲み上げた大量の海水でエンジンを冷却しています。冷却に使った海水(戻り水)は、そのまま海中へ戻すため、戻り水の通り道にフィルターを付け、マイクロプラスチックを回収する構造を考えました。

↑マイクロプラスチック回収装置(右)を取り付けた船外機

 

戻り水の通り道にフィルターを付けただけと仕組みは至ってシンプル。しかもエンジンの性能には影響しません。また、フィルターにマイクロプラスチックが詰まった場合も、別の通り道に水が流れる仕組みなので、冷却水路が詰まってしまう心配も無用。溜まったゴミはフィルターを取り外して処分するだけです。当社では、航行100時間ごとにエンジンの定期点検を推奨していますが、その時にフィルターのゴミも処分するので、ゴミ処理をお客様自身が行うケースはほとんどありません。もちろん穴など開いていなければ、フィルターは長く使用できます」(小川さん)

↑マイクロプラスチック回収装置の仕組み。万が一フィルターが詰まった際に備えて、バイパスルート(赤丸で囲んだ部分)も想定されている

 

既存もモデルにも搭載可能

至極、シンプルな構造ながら、今までどの企業も思い付かなかったというから、まさに目からウロコ。アイデアの勝利と言えるでしょう。ただ実用化に至るまでには、やはり試行錯誤を繰り返したそうです。

 

「まず、マイクロプラスチックの定義を確認したり、実態調査を行ったりする作業からスタートしました。当初は、漁網のような装置や、浄水器のようにエンジン冷却水の出口にフィルターを付ける案も出ましたが、それでは走行スピードに影響が出ます。開発にあたり、お客様には普段通りご利用いただけるということを大前提としていたので、エンジン性能や走行性能に影響しないシステムを考え出すのに苦労しました。そして装置の開発後、国内をはじめアジア各国でモニタリングテストを実施。世界中の代理店から問い合わせが多数寄せられるなど、その反響の大きさに手ごたえを感じました。

↑新型船外機「DF140B」をはじめ5機種に標準装備される

 

こちらの装置は、「DF140B」をはじめ、今年7月の生産分以降、5機種の船外機に標準搭載予定です。装置自体は、冷却水が通るホースをフィルター付きのホースに交換するだけなので、構造的には既存モデルの船外機にも設置可能です。つまり、船外機を買い替える必要はありません。ちなみに、現時点での対象機種は100~140馬力の船外機。より大型の船外機にも対応してほしいという要望は多いのですが、設置スペースや他の装置への干渉など、馬力の大きい船外機の場合、まだいくつか課題があるのが現状です。今後はできるだけ早く、より高馬力の船外機にも対応できるようにしていきたいです。

↑海上を航行しているだけでマイクロプラスチックを自動的に回収する

 

もちろん、この装置によってすべてのマイクロプラスチックを回収できるわけではありませんが、お客様自身が環境問題に興味を持っていただくきっかけになったり、知らず知らずのうちに社会貢献活動に参加していることになったりするのではと考えています。世界中のお客様と一緒になってマイクロプラスチックを回収できる今回の装置は、環境保全の観点からもすごく意義があると自負しております」(小川さん)

 

事実、この装置の発表後、10社以上の国内メディア、100社以上の海外メディアから問い合わせを受けているそう。マイクロプラスチック回収装置への関心度の高さや期待の大きさが窺えます。

 

海への感謝を示す「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」

「マイクロプラスチック回収装置が誕生した背景には、“海への感謝を忘れない”という当社の想いがあります」と話すのはマリン営業部の原木理恵さんです。同社はその想いを具現化するために、2010年より、海や河川、湖を中心に清掃活動を行ってきました。さらに近年の社会課題の変化を踏まえ、活動のあり方を見直し、2020年に新たな取り組みとして「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」を立ち上げました。

 

「このプロジェクトは、①水辺の清掃活動 ②製造及び補給部品梱包におけるプラスチックの削減 ③海洋マイクロプラスチックの回収 という3つの活動から成り立っています。原点であるについては、いまや全世界に活動が広がっていて、2021年12月までの参加者数は延べ約1万人に達しました。近年は社員だけでなく、一般のお客様にもご参加いただいています。

↑清掃活動は本社のある静岡県浜松市から始まり、今では世界27代理店で実施

 

②の製品及び補給部品梱包におけるプラスチックの削減に関しては、2020年10月より補給部品梱包、2021年9月より製品梱包に、環境に配慮した梱包材を採用するなど、プラスチックの削減に積極的に取り組んでおり、これまでに11.2トンのプラスチックを削減しました。そしてマイクロプラスチック回収装置の開発が③に該当します」(原木さん)

 

このように「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」のもと、実現に向けて着実に歩みを進める同社。最後に、SDGsが同社に与えた影響について、コーポレート戦略部サステナビリティ推進グループの渋谷俊介さんにうかがいました。

 

スズキらしいアイデアをカタチに

「一般的にCSR活動という言葉が使われ始めた2000年代の社会貢献活動は、ボランティアや寄付が主体でしたが、SDGsが登場すると、企業は“本業を通じて社会課題に貢献していかなければならない”という考え方に変化していきました。これを機に、当社のこれまでの事業を振り返りますと、環境に配慮した小型車を開発・普及させてきたことや、当社のシェアが高い新興国で製造活動を行って雇用を創出していることなど、事業自体を通じてSDGsの目標に貢献できていると認識できたのです。“お客様の立場になって価値ある製品を作ろう”という創業時からの企業理念に沿って続けてきた事業活動に間違いはなかったと改めて自信を持つことができました」(渋谷さん)

↑写真左から、マリン事業本部 マリン営業部 米州・大洋州・企画グループ 係長・小川陽平さん、同グループ・原木理恵さん、コーポレート戦略部 サステナビリティ推進グループグループ長・渋谷俊介さん

 

「現在は、四輪、二輪、マリンなど、あらゆる事業を通じて私たちがどう社会に貢献できるのかを、改めて見つめ直しながら取り組んでいるところですが、マイクロプラスチック回収装置のように、スズキらしい課題解決の仕方やアイデアを活かすことができればと思います。“当社の船外機を使っていただければ、どんどん海が綺麗になる――”。こうした製品やサービスをこれからもどんどん創出していけるよう、全社一丸となって努力していきたいです」(渋谷さん)

すごい再生能力!「肝臓年齢」は高齢でも3歳のままであることが判明

人間の細胞は日々生まれ変わっています。私たちは加齢によって内臓も年を取ると思っていますが、少なくとも肝臓にはそれが当てはまらず、何歳になっても「平均年齢が3歳未満」であることが最近の研究でわかりました。

↑肝臓は“永遠の3歳”だった

 

ドイツ・ドレスデン工科大学の再生治療センターの研究チームは、20歳から84歳の複数の人の遺体を調べ、「放射性炭素年代測定」と呼ばれる方法で肝臓を分析しました。その結果、すべての被験者の肝細胞はほぼ同じ年齢であり、しかもその平均は3歳弱だったのです。つまり、実年齢に限らず、人間の肝臓は3歳未満で加齢の影響を受けていないというのです。

 

この驚くべき事実の鍵となるのが、肝臓の再生能力。肝臓は体内の毒素を排出する働きをもつ臓器。解毒作用を持つがゆえに身体に有害な物質を常に取り込んでいるため、肝臓は臓器のなかで唯一、ダメージを受けても自らで再生する能力を持っています。今回の調査によって、その再生能力は加齢とともに低下することなく、維持されているということが明らかになりました。たとえ70歳とか80歳になっても、肝臓の細胞は新しいものに生まれ変わっていたのです。

 

肝臓はおよそ1年に1度の頻度で新しい細胞に生まれ変わりますが、肝臓のすべての細胞が若い状態でいるわけではありません。なかには新しい細胞に生まれ変わるまでに、最長で10年もかかるものがいるそう。生まれ変わりが遅いのは、老化や体細胞の変異から身体を守るシステムではないかと見られています。さらに今回の研究では、そのような細胞には多くのDNAがあることも判明。長期間生き続ける細胞の割合は年齢と共に増えていくとのことです。

 

常に新しい細胞に生まれ変わりながら、私たちの身体を支えている肝臓。たとえ年は取らなくても、いたわりたいですね。

 

【出典】Heinke, P., et al. (2022). Diploid hepatocytes drive physiological liver renewal in adult humans. Cell Systems, (13)6, 499-507. https://doi.org/10.1016/j.cels.2022.05.001  

Bluetoothを搭載した、オールインワンまな板「4T7」が米国で登場

近年、キッチンにあるさまざまな物がインターネットに接続され、相互にデータを交換するIoT化がどんどん進んでいます。外出先からアプリを通して冷蔵庫の中身を確認できる「スマート冷蔵庫」や、これまでの調理記録から好みの温度や調理時間をAIが学習する「スマートオーブン」など。そこに最近、新たに加わったのが、Bluetoothを搭載した「スマートまな板」です。

↑単なるまな板じゃない

 

最近、アメリカの「4T7」社が、社名と同じ名前を持つスマートまな板を開発しました。その最大の特徴は、まな板の上で食材をカットしながら、重さを測り、カロリー計算を自動で行うこと。見た目は一般的なウッド調のまな板ですが、竹でできた上部のカッティングボードの下にはBluetoothを内蔵したスケールが組み込まれています。それにより、食材をまな板の上にのせるだけで、専用アプリを通して、0.1g単位で最大3kgまで食材の重さを量る仕組みになっています。この無線通信技術を搭載している点が、従来の「スマートまな板」との大きな違いでしょう。

 

さらに、この計量機能を活かして、食材のカロリー計算もアプリで可能。例えば、まな板の上に肉などの食材を置くと、重さと併せて摂取カロリーがわかります。まな板にはタイマーも付いていて、調理時間を測るときに利用できます。

 

機能面に加えて、衛生面も4T7の魅力。肉類を切るときに使う竹製のボードと、野菜・果物のカットに最適なアクリルボードのどちらも、銀イオンの抗菌加工と防水・防カビ加工済み。また、冷凍した食材を素早く解凍できる、特殊な熱電動性素材を使った解凍トレイもセットになっています。

 

専用アプリは、先にご紹介した食材の計量とカロリー計算のほか、ダイエットや健康など、目的別のレシピ検索機能を搭載。できあがった料理を写真に撮って投稿することもできるので、料理の楽しみが広がりそうですね。

計量、カロリー計算、タイマー、解凍トレイなど、幅広い機能を集約した4T7。現時点で、購入と配送はアメリカ本土のみに限定されていますが、このようなスマートまな板は、これから世界中に現れるかもしれません。

否定的な言葉は不愉快! 動物は人の気持ちを解読していることが判明

動物は、人間の感情を、言葉を通して解読している。最近ヨーロッパで行われた実験で、一部の動物がそのような能力を持っていることが示唆されました。この結果は、動物福祉に良い影響を与えるかもしれません。

↑前向きな言葉を聞けば、動物もうれしい

 

デンマークのコペンハーゲン大学の行動生物学者は、動物が人間の言葉から、発話者がプラスの感情(幸せ・うれしい)とマイナスの感情(怖い・緊張)のどちらを抱いているのかを解読できるどうか調べました。

 

この実験で対象としたのは、豚、馬、イノシシ。実験対象の動物に対して、隠したスピーカーから人間の声や言葉のほか、さまざまな動物の鳴き声を流して、豚、馬、イノシシがどのような反応を見せたかを、耳の位置や尻尾の動きなどに注目しながらビデオに録画して検証しました。人間の言葉については、飼い主などがよく話している言葉などを覚えていることも考えられるため、プロの声優に依頼して録音した言葉を流すことにしました。

 

その結果、豚と馬は、人間の声や言葉がポジティブなときとネガティブなときで異なる反応を示し、ネガティブな言葉を聞かせたときは、ポジティブなものと比べて、より早くて強い反応を示すことがわかりました。イノシシだけは、そのような反応を示さなかったとのこと。つまり豚と馬は、人間の声や言葉にポジティブな意味があるのか、それともネガティブな感情が含まれているのかを区別できるようなのです。しかも、最初にネガティブな言葉を、次にポジティブな言葉を聞かせるときは、その逆と比べて、動物はより一層強い反応を示したとのこと。

 

この結果から、豚と馬はネガティブな感情を持っている人間や動物がそばにいると、声や言葉を通して相手の感情をいち早く察知している可能性が考えられます。馬と豚のこの行動について、同研究者たちはそれぞれ異なる仮説を立てており、馬の場合は系統発生(生物の種族がその出現当初から現在に至るまでの間、下等なものから高等な生物へと少しずつ変わってきた進化の過程〔精選版 日本国語大辞典〕)が、豚の場合は家畜化が最も当てはまると述べています。

 

今回の実験では、ある人の感情が他人の感情に影響を与える「感情の伝染(emotional contagion)」が働いていることは確認できませんでしたが、この点については今後の課題とされています。同研究者たちは「人間の言葉遣いは動物の福祉にとって重要である」と述べ、動物にも丁寧に話しかけるよう提言。今回の発見は世界中のペットオーナーに、動物への話しかけ方を考えさせることでしょう。

 

【出典】Maigrot, AL., Hillmann, E. & Briefer, E.F. Cross-species discrimination of vocal expression of emotional valence by Equidae and Suidae. BMC Biology 20, 106 (2022). https://doi.org/10.1186/s12915-022-01311-5

 

朝と夜では全然違う!「運動の効果」を最大限に引き出す方法とは?

朝ワークアウトしてから一日を始めるか、それとも仕事などを終えた後の夜間に運動するか。運動する時間帯は、ライフスタイルによって異なるかもしれません。しかし最近、米国で発表された論文によると、運動の効果を最大限に引き出すなら、いつ運動するかを真剣に考えたほうが良いようです。

↑性別と目的という観点から考えると、別々の時間に運動したほうが効果的かも

 

米国のスキッドモア・カレッジの健康・人間生理学の教授が率いる研究チームは、運動する時間帯が運動の効果に影響があるのかを調べるため、男性26名、女性30名の被験者に12週間の実験を行いました。

 

今回の参加者は、25歳から55歳の健康な男女です。男女それぞれを2つのグループに分け、一方には午前6時30分から午前8時30分の朝の時間帯に、もう一方のグループには午後6時から午後8時の夜の時間帯に、週4日さまざまなフィットネスプログラムに沿って運動してもらいました。朝のグループは、運動後に朝食をとり、その後さらに4時間ごとに1日3回の食事を摂取。夜のグループは、運動前に4時間おきに3食をとり、運動後にもう1食をとりました。また、被験者は12週間の実験前と後に、持久力や柔軟性などの身体能力テストを行ったほか、血圧やコレステロール、体脂肪などを測定。彼らの身体にどのような変化がもたらされるのかを同研究チームはデータで確認しました。

 

12週間後、すべての参加者が、運動のパフォーマンスが向上し健康的になるという結果になりました。しかも女性は全員、体脂肪と腹部やヒップ周辺の脂肪が減り、血圧も下がったのですが、夜のグループより朝のグループのほうがその成果が大きいことがわかりました。一方、男性は夜のグループだけコレステロールや血圧などが好ましい結果になったのです。

 

性別と目的で時間を変える

今回の結果を受けて、実験を指揮した教授は「運動の成果は、運動する時間帯によって異なる」ことを結論づけました。ウエストまわりの脂肪を減らし、足の筋肉を強化したい女性なら、朝に運動するべき。上半身の筋力アップや持久力向上を目指したい女性なら、夜の運動がおすすめとか。男性なら、夜の運動によって肥満予防のほか、心臓病や脳卒中などのリスク軽減につながるそうです。

 

なぜ男女で、運動する時間帯によってその結果に違いが出てくるのか、その理由はまだわかっていません。今回の実験は少人数の被験者に行われたものなので、さらなる調査が必要とのことです。

 

ただ、せっかく運動するならその効果が上がったほうが良いですよね。定期的に運動している人やこれから始めようとしている人は、朝か夜か運動する時間帯を考えるときに参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

【出典】Arciero, P. J., et al. (2022). Morning Exercise Reduces Abdominal Fat and Blood Pressure in Women; Evening Exercise Increases Muscular Performance in Women and Lowers Blood Pressure in Men. Frontiers in Physiology, 13. DOI=10.3389/fphys.2022.893783   

「レディース&ジェントルメン」の廃止が止まらない。死語になるのは確実?

乗り物の機内アナウンスやショーなどでよく耳にする「レディース・アンド・ジェントルメン」という呼びかけ。このお馴染みのフレーズの使用が、いま世界各国で廃止されています。この言葉はどうなるのでしょうか?

↑「乗客の皆様、こんにちは」

 

「レディース&ジェントルメン(ladies and gentlemen)」は、「皆さん」と人々に呼びかけるときに使われる礼儀正しい(正しかった?)言葉。でも直訳すれば「淑女と紳士の皆さん」となり、ジェンダーへの意識が高まるなか、「女性でも男性でもないと感じている人に疎外感を与えかねない」と、この言葉を敬遠する動きが出てきているのです。

 

先日、「レディース&ジェントルメン」という呼びかけの廃止を発表したのは、ドイツのTUI航空。すべてのお客様を歓迎するという意味をこめて、今後の機内アナウンスは「Good morning, passengers(乗客の皆様、おはようございます)」を使うよう、パイロットや客室常務員に指示しました。

 

この動きは、以前から航空会社の間で起きています。最初に「レディース&ジェントルメン」以外の挨拶を導入したのは、エア・カナダ。同社は2019年に「everyone(皆様)」の言葉の使用を発表しています。そのほかにも、イギリス最大の航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ、ドイツのルフトハンザ、マルタのマルタ航空などが、この呼びかけを廃止。

 

同様に、日本航空は2020年9月に、空港や機内における英語アナウンスでの「レディース&ジェントルメン」の使用をやめ、同年10月から「Attention all passengers(乗客の皆様)」を使っているのです。ちなみに日本語でのアナウンスに使われる言葉は、もともとジェンダーニュートラルであることから、変更していないそう。

 

ディズニーランドも

航空会社以外でも、「レディース&ジェントルメン」をやめる動きが出ています。その一つが、世界的エンターテイメント企業のディズニー。世界各国にあるディズニーパークでは、「レディース&ジェントルメン、ボーイズ&ガールズ」の代わりに、「Hello everyone(皆さん、こんにちは)」や「Hello friends(親愛なる皆さん、こんにちは)」を使うことを表明しました。

 

東京ディズニーランドと東京ディズニーシーでも2021年3月より、パレードやショー、アトラクションなどのアナウンスで変更しています。

 

さらに、「ディズニープリンセスに変身できる」とうたい、子どもたちにドレスを用意してヘアメークも施すサービスを行うサロンでは、2016年から性別を問わず誰でも利用できるようになっています。

 

以前は礼儀正しかった言葉が今日では失礼になる。「レディース&ジェントルメン」の意味の逆転は、時代の変化を物語っています。「レディース&ジェントルメン」はこのまま死語になるのか、それとも新しい意味や用法を獲得することはあるのでしょうか? 

約300円から「再エネ発電所オーナー」になれるサービスが爆売れ中。 即日完売も続出の「ワットストア」とは?

資源エネルギー庁によると、日本のエネルギー自給率は12.1%(2019年)で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも下から2番目と高くありません。この課題解決のため、政府も太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーへの転換を推進しています。

 

今回紹介するのは、民間レベルで再生可能エネルギーの普及を目指す、株式会社チェンジ・ザ・ワールドの取り組みです。わずか約300円で再生可能エネルギー発電所のオーナーになれることが話題となり、現在の登録ユーザー数は2万名を突破するという人気ぶり。新たに発売したサービスに関しては、即日完売が続出するという、ユニークかつ注目のサービスとは!?

 

福島原発事故がきっかけで再生可能エネルギー事業をスタート

山形県酒田市に本社がある同社。「創業のきっかけは2011年の東日本大震災でした」と話すのは、代表取締役の池田友喜さんです。

 

「福島の原発事故をテレビで観て、現実に起こっていることに衝撃を受けました。当時は東京でITソフトウエアの会社を経営していましたが、地球の環境やエネルギーについて深く考えるようになり、次の世代の子どもたちのためにITを活用して何かできないかと思ったのです。そこで2014年に会社を設立し、再生可能エネルギーの事業を始めました」

↑「子どもや孫たちに誇れる仕事がしたい」と話す代表取締役の池田友喜さん

 

核となる事業の1つが、スマホで買える再生可能エネルギー発電所「ワットストア」というサービス。太陽光発電所をはじめとする、再生可能エネルギー発電所の個人向け小口販売です。

 

社会貢献参加への敷居を下げるサービス

「ワットストア」は、いつでもどこでも、スマホやパソコンで簡単に好きな場所の再生可能エネルギー発電所を1ワット単位で購入できます。1ワットの価格は発電所によって異なりますが、1ワット約300円から。購入後は月に1度、売電収入が分配されます。ざっくり言うと“再エネ投資”ですが、単なる金融商品ではないと池田さん。

 

「売電した収益はお金で戻すのではなく、投資したワット数に応じて新たに発電所を付与していきます。購入後はそのまま放置していても、所有する発電所が少しずつ増えていきます。苗木を植えたら木が自然に育っていくようなイメージです。もちろん、好きなタイミングで発電所を売却することも可能です。

↑「ワットストア」のアプリトップ画面。スマホがあれば簡単に再生可能エネルギー発電所が買える

 

本サービスは「社会貢献」が目的ではありますが、一般の人々に訴求するには、まず経済的なリターンが必要だと考えました。参加する動機はどんな形であろうと、環境に対する貢献の仕組みが提供できれば、結果的には再生可能エネルギー発電所が増えていくことに変わりはないと考えています。大きな資金を用意できなくても約300円ぐらいから購入できますし、スマホやパソコンがあれば24時間、どこにいても取引ができ、発電所の発電状況なども簡単に確認できます。災害用の保険も加入しているのでリスクも少ない。できるだけ敷居を下げて、多くの人が参加できるようにしているのです。

↑アプリ上から、発電所の購入や発電量の確認などが簡単に行える

 

購入すると自分が買った発電所の発電量が気になりますよね。それがきっかけで、環境に対する意識がより高まるのではないかと期待しています。当初の目的は経済的リターンだったとしても、知らずしらずのうちに環境課題が気になり始める……。それが大切だと考えました」

 

「耕作放棄地」問題にも貢献

要となる太陽光発電所は毎月5~6基ずつ増えています。2021年1月からは、新たに風力発電所の販売もスタートしました。現在、「ワットストア」での発電所販売数は111基(2022年5月末現在)。これにより、約1870世帯分の電力をまかなえるそうです。

 

「太陽光発電所のうち、約6割がソーラーシェアリングです。これは、農地の上に太陽光パネルを設置して、農業と太陽光発電事業を同時に行う仕組みのこと。営農型太陽光発電ともいいますが、2013年に農林水産省が農地の一時転用を許可したことで可能になりました。日本には、農業が放棄された耕作放棄地が約42万ヘクタールもあります(2015年調査)。放置された土地は害虫の住処になるほか、農地として再利用できなくなる可能性も。ソーラーシェアリングは、日本が抱えるこれらの問題にも効果的です。

↑ソーラーシェアリング。太陽光パネルの下では農作物を育てている

 

農作業は、弊社の子会社である株式会社ララキノコが実施。これまで100種類ほどの農作物を試験的に栽培してきました。現在は、さつまいも、みょうがなどを主に栽培。収穫した作物は道の駅で販売したり、『ワットストア』のユーザーにプレゼントしたりしています。また最近では、CO2吸収能力の高い新品種のあしたばに注目し、東京大学と共同研究を行っています」

↑ソーラーシェアリングによって栽培された野菜

 

ただ、ソーラーシェアリングには課題も多いと池田さん。最大の課題は土地の確保だそうで、ソーラーシェアリングに対する世の中の認知・理解がまだまだ進まないのが実情だそう。

 

「ただ、近年は国や自治体がソーラーシェアリングを推奨していますし、農地法など法的な部分が今後是正されれば、この課題は改善されていくと思います」

 

経済的リターンゼロの「グリーンワット」も大反響

同社は「ワットストア」内で「グリーンワット」という商品の販売を昨年から開始。これが予想以上の結果になっているそうです。

 

「『グリーンワット』は1口500円で太陽光発電所を購入できますが、経済的リターンはゼロ。自分の持っている発電所がどのくらいCO2削減しているかなど、環境に対しての貢献度を『リーフ』という名称のポイントで可視化します。昨年7月に約2000口限定販売したところ、約14時間で完売。その後、不定期で計4回限定販売していますが、現在は全て完売しています。予想を上回る反響でした。

 

このサービスはさまざまな可能性があると考えています。例えば、製造や輸送時のCO2排出が課題と言われているアパレル業界なら、服を『グリーンワット』込みの料金で販売すれば、お客さんは自動的に『環境に配慮したお客さん』になります。一方、アパレルメーカーは、客が購入したグリーンワットにより、『環境価値(CO2削減量)』を活用してカーボンオフセットが実現できるというわけです。

 

実際、サッカーJ2のモンテディオ山形の試合で、法人(サッカーチーム)のカーボンオフセットを実現しました。“カーボンオフセットマッチ”という企画を掲げ、グリーンワット付きのチケットや選手の限定ポストカードを販売したのです。結果、1000人以上のサポーターの方が購入。選手を応援したいという気持ちと環境保護を結びつけることができたこの取り組みは、とても意義があったと感じています」

↑2022年5月8日に開催された「カーボンオフセットマッチ」。サポーターはさまざまな環境アクションに参加できた。年内にあと3試合開催予定。画像提供:モンテディオ山形

 

「カーボンオフセットマッチを通して、発電所を購入するという行為にハードルの高さを感じる人でも、もっと身近な部分であれば、気軽に環境アクションに参加してもらえることが分かりました。今後、さらに多くの人が環境アクションに参加できるように、さまざまな企業とコラボレーションをするなど面白い企画を展開していきたい。私たち一人ひとりの力は小さいかもしれませんが、多くの人たちが集まることで世界をも変えることができます。それを可能にするビジネスモデルを創り出し、美しい地球を子どもたちに残していきたいです」

 

“グリーンエネルギーの発展にみんなが参加できる社会を創る”その目的を達成するために、同社のチャレンジは続きます。

運動すると気持ち悪くなるのはなぜ? 解剖学者が仕組みと予防法を説明

運動した後に、なぜか気持ち悪くなることがあります。遊びや気分転換のために身体を動かしたのに、逆に気分が悪くなってしまっては台無しですよね。一体なぜこのようなことが起きるのでしょうか? 最近、イギリスの解剖学者が2つの説を述べました。身体が気持ち悪くなる仕組みを知れば、その予防ができるかもしれません。

↑こうなるはずじゃなかったのに……

 

イギリスのランカスター大学で解剖学を研究するアダム・テイラー教授によると、運動中や運動後に気持ち悪くなる原因として次の2つの説が考えられるとのこと。

 

1: 運動前の食事

食事をすると胃が広がり、消化のための酵素などが分泌され、胃の筋肉が活発に動いて消化活動を行います。このとき胃腸には、消化のために多くの酸素や血流が必要。しかし運動すると、身体の筋肉や肺、心臓が活発に動き、その部分の血流が増加。運動中は胃腸に向かう血管を最大で8割ほどまで狭くして、その分だけ多くの血流を筋肉や肺などの活動に使おうとするそうです。

 

つまり、運動の前に食事をすると、胃腸が酸素や血液を必要とするのに、胃腸以外の組織も酸素や血液を必要とする事態となり、それによって吐き気を催す可能性があるのです。ちなみに、マラソンランナーのような持久力が求められるスポーツを行っている人は、長時間胃腸にわたる酸素と血流が減ることから、胃腸が弱い可能性が高いのだとか。

 

2:  臓器の圧迫

運動前に食事をとっていない場合でも、運動によって気持ち悪くなることがあります。それは運動によって胃などの臓器が圧迫されることがあるから。例えばスクワットを行うとき、肺は大量の空気を取り込み、それによって横隔膜が強く押し下げられます。そして、呼吸のたびに腹部の臓器が圧迫されるため、気持ち悪さを感じることがあるのです。

 

予防法

運動しても気持ち悪くならないために注意することはあるでしょうか?一番にできる方法としては、やはり運動前に食事をとらないことです。食べ物が胃から小腸にたどりつくまでおよそ2時間かかるので、運動する前の2時間は食事をとらないほうが良さそう。

 

また、運動前にとる食事の内容にも注意が必要です。消化が遅いものは食べ物が長く胃にとどまるため、その分吐き気をもよおす可能性が高くなります。繊維量が多く、高脂肪・高たんぱくの食べ物は避けるべき。さらにエナジードリンクやソーダ、スポーツドリンクなども運動中の吐き気と関係があると言われています。

 

運動は強度の低いものからゆっくり高いものに上げたり、運動の前後に十分な水分を取ったりすることも大切。運動してスッキリと気分よく終われるように、これらのことに注意してみてはいかがでしょうか?

イーロン・マスクにも共通点あり!起業家の「顔」にはパターンがあった

「起業したい」「独立して成功したい」と考えているなら、その素質が自分にあるのかどうか知りたくありませんか? 欧州の研究者が男性の顔の特徴を分析した結果、起業家の顔に2つの特徴があることがわかりました。

↑顔と起業と成功の関係は?

 

キプロス大学の研究チームは、起業家になる可能性や成功するチャンスが、人の顔に表れているかを研究しました。そこで世界最大のスタートアップ企業のデータベースと言われる「クランチベース」に登録されている起業家と、起業家以外の人の顔写真のサンプルを用いて、顔分析ソフトで解析を行いました。解析は、主に以下の3つのポイントで行われました。

 

・顔の横幅と長さの比率

・頬骨の隆起度合

・顔の左右対称性

 

この結果、顔の横幅と長さの比率は起業家に共通する特徴とは言えませんでした。しかし頬骨が隆起していて左右対称であることは、起業家の特徴として多いことが明らかとなったのです。

 

今回の解析で使われたデータは、主にアメリカ在住の白人男性が中心。これは、テスラや宇宙開発企業スペースXの創設者で、世界長者番付1位に輝いたイーロン・マスクにも当てはまる特徴。確かにイーロン・マスクは頬骨が出ているところが特徴的で、左右対称性も高いです。同様に、イギリスの実業家でヴァージン・グループの創設者であるリチャード・ブランソンにも該当します。

 

顔と成功は別

しかし、もし自分の顔は頬骨が出ていて、左右対称であったとしても、「起業家に向いている!」と喜ぶのは早過ぎます。今回の研究で、上記の特徴とビジネスの業績に関連性はないことがわかりました。つまり、起業家に多く見られる顔だからといって、必ずしもビジネスで成功するとは限りません。この研究チームは「起業において顔の外見的特徴はリーダーの出現と関連しているが、その後のビジネスパフォーマンスとは関連性はない」と結論づけています。

 

【出典】Dimosthenis Stefanidis, Nicos Nicolaou, Sylvia P. Charitonos, George Pallis, Marios Dikaiakos, What’s in a face? Facial appearance associated with emergence but not success in entrepreneurship, The Leadership Quarterly, Volume 33, Issue 2, 2022, 101597, ISSN 1048-9843, https://doi.org/10.1016/j.leaqua.2021.101597.

ヤスデはテイラー・スウィフトに。生き物の意外な名付け方

最近、新たに発見されたヤスデにポップスターの名前が付けられ、海外で話題になりました。しかし、それは決して珍しいことではなく、世界には「セレブ」な名前を持つ生き物が少なくありません。いくつか紹介しましょう。

↑キミの名は……

1: 歌姫のおかげで見つかったヤスデ

グラミー賞を11回受賞している世界的シンガーソングライターの「テイラー・スウィフト」の名前が、米国・テネシー州のアパラチア山脈で発見された新種のヤスデに付けられています。この名前を付けた科学者は、命名の理由について「テイラーの音楽が、自分の研究に影響を与えたから」と語っているそう。大学院での研究を支えてくれたので、感謝の気持ちを込めて名付けたのだとか。ちなみに、このヤスデと同時に別の16の新種も発見しており、そのうちの1つには「自分の研究を支えてくれた」妻の名前を付けています。

 

2: 米国歴代大統領の名を持つ寄生虫

米国大統領の名前も人気がある模様。例えば、米国の第44代大統領である「バラク・オバマ」の名前は、7つ以上の生物に付けられています。しかも、そのうちの2つは寄生虫。2012年にケニアで発見された寄生虫と、2015年にマレーシアの淡水ガメの肺に寄生する寄生虫の2つに、バラク・オバマの名前が付けられています。そのほか、トカゲやクモなどの中にもバラク・オバマの名前が命名されているものも存在します。

 

また、第45代アメリカ大統領の「ドナルド・トランプ」の名前は、新種の蛾の名前になっています。この蛾の頭部に金色の断片のようなものが付いており、それがドナルド・トランプ元大統領のヘアスタイルに似ていることから、付けられたのだとか。

 

3: ロックンロールなクモ

中国の最高研究機関と言われる中国科学院の科学者が2021年、クモの4つの新種を発見。それに、ロックバンドの「ボン・ジョヴィ」の名前を付けています。残りの3つのクモには、16世紀の博物学者の名前や、俳優、映画監督の名前を付けたとか。

 

最高の栄誉?

科学者は新種の生き物を発見すると、「国際動物命名規約(ICZN)」という国際的な規約に則りながら、数か月から数年もの時間をかけて論文を書きます。この論文を発表して初めて、新種を世界に発表することができそう。科学者たちにとって自分で新種を発見し、自由に名前を付けることは憧れであり名誉あることですが、その新種に付けられた人物には、尊敬や感謝の意味合いが含まれていることが多いようです。

 

ただし、新種を発見した人が自由に命名できるとなると、例えば残虐な行為を行った歴史的人物の名前を生き物につけることも可能。しかも現状のシステムでは、人道的な理由でICZNが生物の名前を変更することはできないそうです。このことに異論を唱えている科学者もおり、生き物の命名プロセス自体が見直されるかもしれません。

イタリアで「豆類パスタ」がブーム! イタリア人が納得した食感とは?

最近のイタリアでは、パスタの主原料に豆類を使うことがブームになっています。豆類は地中海式食事(ダイエット)法の重要な一要素ですが、イタリアでは貧しかった時代の象徴として敬遠される傾向もありました。ところが、最近は健康ブームやロックダウンをきっかけに、豆類パスタの人気が急上昇。イタリアで豆類に何が起きているのでしょうか? 現地からレポートします。

 

植物性タンパク質のニーズが増加

↑豆類パスタがイタリアでブーム!

 

イタリアのスーパー大手「COOP」の調査報告によると、ここ数年、イタリアの人たちの買い物に顕著な変化が起きています。それは、タンパク質を有する食材に対する需要の増加。2019年と比較すると、2021年前半の植物性タンパク質の商品の需要は、17.4%も上昇したことが報告されています。

 

ヘルシーなイメージを持つ豆類の人気が高まっていることは、イタリア政府中央統計局(ISTAT)の報告でも明らか。統計では、豆類を少なくとも週に1回は食べていると答えたイタリア人は全体の53%にものぼりました。この数字は、10年前と比較すると15%も増えています。

 

なぜ、このような現象が起きているのでしょうか? その理由の一つとして、豆類を原材料とするパスタが人気を集めているからではないかという説があります。豆類を主力に販売するペドン社の社長マッテーオ・メルリン氏は、豆類の消費の増加は、人々の健康志向に加えて、新型コロナウイルスのパンデミックとも関係していると分析。つまり、ロックダウン中に食の多様化が進み、若い世代の間でも豆類への興味が広がったことが、豆類パスタの人気を支えているというわけです。

 

食感が良くなった!

↑タンパク質は豆で摂る

 

では、豆類を原料にしたパスタとは一体どのようなものなのでしょうか? パスタの原料となる豆類は、ヒヨコマメ、レンズマメ、インゲンマメ、グリーンピースが主流。また、飽食の時代には忘れられていたグラスピーやハウチワマメを使用するパスタもあります。

 

実は豆類パスタは以前から販売されていたのですが、最近まであまり普及しなかった理由は、単純においしくなかったから。従来の豆類パスタは、イタリア人がこだわるパスタのアルデンテ、つまり歯ごたえの良い食感を得ることがどうしてもできなかったのです。

 

ところが、この数年間で豆類パスタはその弱点を克服。通常のパスタと比較すれば歯ごたえという点ではわずかに劣るものの、豆類の粉特有のポロポロと崩れるような食感が、メーカーの技術の向上により軽減されたのです。

 

豆類パスタはイタリア人の舌を満足させる食感に辿り着いたことで、鮮やかな色やコクのある味わいも消費者に評価されるようになりました。その結果、かつてはオーガニック専門企業の独壇場といわれた豆類パスタは、2018年に大手パスタメーカーのバリッラ社が参入したこともあり、イタリアではごく身近なものになっていったのです。

 

とはいえ、豆類パスタは、従来のパスタのもちもちとした食感と異なることは否定しようがないため、大手メーカーは製品のホームページで「レンズマメのパスタはカリフラワーとの相性が良い」とか「ヒヨコマメのパスタは小エビとマッチする」などのアドバイスを提供することで、その価値を高めようとしています。

 

豆の意味が逆転

↑豆類パスタが売れています

 

豆類パスタには具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか? まずはグルテンフリーの食材であること。本来はアレルギー対策として考案されたグルテンフリー食材ですが、現在では健康や美容の面でも注目される存在になりました。しかし、小麦などの穀物のタンパク質を摂らないようにするからと言っても、タンパク質の摂取は必要。そこで、ちょうど良いのが豆類であり、豆類パスタが特に食べやすいのです。

 

また、小麦パスタと比べて、豆類パスタにはタンパク質や食物繊維が豊富に含まれています。バリッラ社の商品を参考に比較すると、豆類パスタのタンパク質量は小麦パスタの約2倍、食物繊維量は3~5倍にもなります。農業研究および農業経済調査委員会(CREA)は週に3食、豆類を摂ることを推奨していますが、日常的に食べるパスタで摂取できれば難しくありません。

 

豆類を使ったパスタの人気は、新商品開発への追い風にもなっています。豆類パスタの売れ行きに気をよくしたバリッラ社は豆類が原料のビスケットを発売し、ほかの企業も豆類を原料にしたプリンやスナック、ドリンクなどを商品化しています。

 

さらに、こうした豆類を使った各種商品開発は、ウクライナ戦争などによる小麦の供給危機を乗り越えるための一助にもなるかもしれません。もはやイタリアで豆類は貧しさの象徴ではなく、豊かさや健康のシンボルなのです。

バリスタはロボット! カナダで急増中の「無人店舗」の背景と反応

日本は自動販売機において世界トップクラスであると言われていますが、カナダでも新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、自販機を含む小売店の無人化が急速に進んでいます。街中では、おいしい飲み物やスナックを提供する無人店舗があちこちに出現。完全自動化したコンビニエンスストアも登場し、人手不足に一役買っている模様です。カナダで拡大する無人店舗と人々の反応を現地からレポートします。

 

バリスタ自販機

↑カナダ初のロボカフェ

 

日本の自販機で販売されている商品の多くは飲み物ですが、カナダのトロントでは本格的なコーヒーやスライスケーキ、ピザなどを販売する自販機が増えてきました。実は、これまでカナダの自販機といえばホッケーアリーナや学校の庭に設置されているものが多く、コーヒーカップが汚い、古いデザートが販売されているなどあまりよいイメージはありませんでした。しかし、今回取り上げた自販機には従来の悪いイメージを変える力があるかもしれません。

 

2020年にオープンしたカナダ初の無人ロボットカフェ(通称「ロボカフェ」)は、ロボットが「バリスタ」というユニークさ。メニューもコーヒーだけでなく、エスプレッソやチャイラテなどさまざまで、カフェインフリーコーヒーや植物性オーツミルクへの変更も可能。注文は店頭のタッチパネルや専用アプリで行い、購入者は目の前のプレキシガラスを通して、実際にロボットが注文商品を作る過程を一通り見ることができます。

 

また、スライスケーキを販売する「ケーキATM」もカナダの無人店舗化を象徴する自販機の1つ。アメリカで有名な「カルロズベーカリー」の商品を取り扱うこのケーキATMは、キャロットケーキやクッキーアンドクリームなど6種類のケーキを販売しています。自販機内の温度と在庫量がきちんと管理されており、ケーキはいつも新鮮。このATMは現在のところショッピングモール内を中心に約30か所に存在しており、子ども連れの家族や若者の間で人気を博しています。

 

「スライスタイプでもサイズが大きいので、誰かとシェアするにはちょうどいい。知名度が高いケーキを自販機で手軽に買える体験は価値があるし、面白かった」と、ある利用者は述べています。

↑レンガ模様が目を引くケーキATM

 

一方、カナダにはピザの自販機も存在。トロントに拠点を置き、カナダで30軒以上の店舗を構えるPizza Forno社がこの自販機を運営しており、カナダ国内のみならずアメリカにも進出しています。キャッチコピーは「オーダーからわずか3分でフレッシュな焼きたてピザを味わえる」。シェフが作った生地をストックしておき、オーダーが入ったら自動的にマシンが調理して提供するという仕組みが特徴です。毎日24時間いつでも利用可能。ピザを購入した人の中には、「当初は味に期待していなかったが、実際に食べてみて、自販機ピザの概念が変わりました」と話す人もいます。

 

自営業者に時間の余裕を

トロントの自販機で売られているのは、飲料や食料品だけではありません。新型コロナウイルスの影響で、地下鉄駅構内にはマスクや消毒用ジェルなどを買える自販機も設置されています。

 

iPodやポータブル充電器、ヘッドフォンなど旅行に必要な電化製品の自販機も、トロントのピアソン空港などに置かれています。この自販機を展開しているSignifi Solution社のシャミラ・ジャファーCEOは、「自販機のあり方が変わり始めている」と語ります。自販機で扱う商品は次第に高級志向になっており、利用者の中には、1200カナダドル(約12万6600円※)の電化製品を空港で買う人もいるそうです。

※1カナダドル=約105.5円で換算(2022年6月7日現在)

 

消費者と無人店舗をつなぐ架け橋のような体験を提供したいと語るのは、完全キャッシュレス&スタッフレスのコンビニエンスストアを展開するAisle24社のジョン・ドゥアンCEO。

 

毎日14時間営業という個人経営の食料品店を営んでいたドゥアン氏の両親は従業員を雇う余裕もなく、休みを取りたい時は店を閉めなければならかったそうです。「自分のような店舗オーナーに時間の余裕を持ってもらうために最新技術を導入したい」と思ったのをきっかけに、完全自動化のコンビニエンスストア事業に乗り出しました。

 

来店者はアプリを利用してチェックインし、自動精算機を使ってチェックアウト。誰とも接することなく、食料品や調理された食品を購入できます。人手不足が深刻な小売業界において、完全自動化は労働力をカバーしワークライフバランスなどの課題を解決する重要な施策であると言えるでしょう。

 

このように、カナダではハイクオリティで便利な自販機や完全無人化店舗が増えており、自販機——ひいては無人化——のイメージは変わりつつあります。面白いものや新しいものが好きなカナダ人にとって、IT技術を活用した無人接客は、日常生活にワクワク感をもたらす新しい体験。これから自販機がカナダでどのように発展していくのか、期待しながら見守りたいと思います。

 

 

 

 

 

 

ドイツで大ブームの「貸し庭」、単なる趣味ではない魅力とは?

ガーデニング大国と言われるドイツでは、老若男女を問わず、太陽の下で土仕事をすることが自由時間の楽しみの1つとされています。また、自然を好む国民性ならではの文化として昔から「貸し庭」が愛されてきましたが、現在その大ブームが巻き起こっています。ドイツの貸し庭の魅力や現状、希望者が増え続ける背景とは?

 

プチ別荘のような存在

↑貸し庭に行きたい!

 

多くの人が庭付きの家に住むことに憧れると思いますが、都市部で庭付き一軒家を確保するのはなかなか難しいかもしれません。そのような人のために、自分の庭を持ちたいという願いを叶えてくれるのがドイツならではの文化といえる「貸し庭」。ドイツでは貸し庭が国内全域に存在し、人々に親しまれています。

 

ドイツの貸し庭は「クラインガルテン(小さな庭)」と呼ばれ、長い歴史とともに園芸好きのドイツ人に愛されてきました。日本の市民農園と同じように、貸し庭は利用料を払って使用できる集合型の市民農園ですが、日本と異なるのは野菜や花木の栽培だけではなく、敷地内にそれぞれ大小さまざまな小屋があることです。

 

小屋には電気や水道が整備され、家具も置けるので、いわばプチ別荘のような存在。ただ、別荘といっても貸し庭はあくまでも「自然の中でリラックスする」ことが目的のため、住居として使用することは禁止されています。それでも、庭で料理やバーベキューをして楽しんだり、小さい子どもがいる家族は遊具やプールを置いたり、さまざまな魅力が詰まった空間です。

 

社会的な重要性

↑貸し庭の小屋①

 

貸し庭の歴史は、200年ほど前に遡ります。ドイツで起きた人口増加による貧困や食糧難の拡大を抑制するために取られた措置の1つでした。

 

その後、各地の自治体や教会などの組織によって管理され、現在ではさまざまな社会的機能を果たしています。都市部の自然環境を確保することに加え、人々が農園として使えるエリア、さらに場所によっては避難所として利用されるなど、とても重要な存在なのです。

 

クラインガルテンの連邦協会によると、2022年時点でドイツ国内には90万区画以上の貸し庭があり、合計で4万4000ヘクタールもの敷地面積になります。区画によって大小はありますが、1区画の平均は約370平方メートルで、家族や友人などと休日を過ごすリラクゼーションの場としては十分な広さ。

 

ただし、この敷地では好き勝手なことをして良いというわけではありません。所属するクラインガルテン協会によって異なりますが、それぞれの貸し庭にはルールが設けられており、それを守る義務があるのです。クラインガルテンの規定の例は下記の通り。

 

  • Laube(ラウベ)と呼ばれる小屋は24平方メートルまでの広さであること
  • 環境、自然保護、景観を考慮する
  • 庭の敷地の3分の1以上を園芸に利用し、そこで果物、野菜、ハーブを自分で使用(販売用ではなく)するために栽培する必要がある
  • 一部の指定された針葉樹や落葉樹を植えてはいけない

 

このようなルールのもとでドイツの貸し庭は緑が保たれ、癒しの場となっています。

 

貸し庭で旅気分

↑貸し庭の小屋②

 

ドイツ人は「バカンスで旅行をするために仕事をしている」と言われており、自然の中でリラクゼーションを楽しむことが人生に必要不可欠と考えています。したがって、ロックダウン(都市封鎖)によって旅行が制限されたドイツ人の関心が貸し庭に向けられたのは驚くべきことではありません。ドイツの統計会社Statistaが、コロナ禍におけるドイツ人の休暇の過ごし方について調査したところ(複数回答可)、以下の結果が得られました。

 

  • バルコニーや庭で太陽を浴びる: 60%
  • 友達に会いに行く: 38%
  • ハイキングに出かける: 36%
  • サイクリングに出かける:  30%
  • そのほか: 12%
  • 代案なし: 11%

 

この結果からも、ドイツ人にとって太陽を浴びることがいかに大切なのかが伺えます。コロナ禍でドイツにも空前の園芸ブームが訪れ、トイレットペーパーの買い占めに続き、園芸グッズが次々に売り切れました。多くのドイツ人が貸し庭で日光浴をしたいのです。

 

何年も待つ価値はある

↑生き方が変わる

 

ベルリンやミュンヘンなどの大都市では、貸し庭に申請登録してから利用できるようになるまで4~8年かかるといわれています。郊外では早くて半年から2年ほどを要するようですが、植物を育てるのに自宅からあまり離れていては使いやすいといえません。また、大都市ではマンション建設や大型公園などの開発が進み、貸し庭の区画が取り壊されるなど、ドイツの伝統文化であるにもかかわらず、貸し庭は減少する一方です。このように、貸し庭の需要と供給が釣り合わないことが、待ち期間が長期化した理由と言えるでしょう。

 

それでも、多くのドイツ人が、都会で300平方メートル以上の土地を自由に使用できる貸し庭を求め続けます。水まきしながらビールを飲んだり、自家栽培の枝豆を庭の小屋で茹でて食べたり、休日は友達を呼んでバーベキューをしたり。貸し庭を手に入れた人は、自然に癒されながらリラクゼーション気分で野菜や果物を育てることに没頭。だからこそ、貸し庭は、園芸にまったく興味がなかった若者の生活を変える力があるとも言われているのです。コロナ禍が収束し、以前のような生活が戻ったとしても、貸し庭ブームは当分の間、消えそうにありません。

不満が爆発! ロサンゼルスの生活満足度が過去最低に

たくさんのハリウッドセレブが暮らす高級住宅街や、美しいビーチがあるロサンゼルス。アメリカではニューヨークに次ぐ大都市で、憧れの地というイメージを持つ人も少なくないかもしれません。しかし、実際にロサンゼルスに住んでいる人は、そこでの暮らしに不満だらけのようです。一体なぜでしょうか?

↑ロサンゼルスの生活も大変らしい

 

ロサンゼルスの生活満足度が低いことは、ロサンゼルスの住民1400人に行われた調査「QLI(クオリティー・オブ・ライフ・インデックス)」で判明。これは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ラスキン公共政策大学院が2016年から行っており、住民への調査結果をもとに、生活費・教育・治安など9つの項目を10~100のスコアで評価し、暮らしの満足度を明らかにします。

 

2022年3月に行われた最新の結果で、ロサンゼルスは総合評価が53。前年の58から低下し、この調査を行っている7年間で過去最低のスコアになりました。9項目すべてでスコアが下がり、そのうち8項目は過去最低を記録。主な各項目の結果は以下のとおりです。

 

・生活費: 39(2021年: 45)

・治安: 56(2021年: 60)

・交通: 51(2021年: 56)

・雇用・経済: 56(2021年: 60)

・教育: 46(2021年: 48)

スコアの低下で気になるのは、生活費・治安・教育の3項目。現在、アメリカではインフレが進んでおり、スーパーで販売されている食料品はもちろん、ガソリン価格、公共料金など、あらゆるものの価格が上昇しています。しかもロシアのウクライナ侵攻により、ここ数か月でこの傾向が加速。これがロサンゼルスの生活費に影響したようです。

 

また、インフレによって暴力的な犯罪や財産を狙った犯罪が増加しており、それにより治安のスコア低下が見られたようです。

 

新型コロナウイルスの影響が最も長引いているのは教育分野。2022年の調査時点では、ほとんどの子どもたちは対面授業に戻っていますが、パンデミック期間にリモート授業が行われたことからその影響を心配する親が多くいるようです。特に仕事をしている親は、子どもがリモート授業になったことで負担が増し、「再びリモート授業になったら」という心配があるのかもしれません。

 

ロサンゼルスがあるカリフォルニア州では近年、気候変動が原因とみられる大規模な山火事や深刻な干ばつが起きています。しかも過去2年間はコロナ禍でしたが、それにも関わらず、これまでの調査の総合評価は56~59と安定していたそう。しかし2022年になって、まるでダムが決壊したようにスコアが下落。生活費の高騰や治安面や教育面の不安など、人々の生活を取り巻くさまざまなマイナス要因が重なり、人々の不満が積もってきているようです。

 

新型コロナウイルスやウクライナ侵攻などの予期せぬ大きな出来事が続いている中、ロサンゼルスに限らず、それは確実に人々の暮らしに影を落としているのかもしれません。

6億人に「きれいな水」を! ーーノウハウと総合力でスピーディーに成し得たケニア・水供給プロジェクト

アフリカ・ケニアで学校の子どもたちに水を届けるプロジェクトがスタート~株式会社荏原製作所

 

国連の「世界人口予測」で、2100年の人口が43~44億人になると言われているアフリカは、魅力あるマーケットとして世界中から注目されています。ポンプやコンプレッサ・タービンなどの機械製造を軸に、さまざまな事業を展開する荏原製作所も、アフリカ・ケニアで自社の製品と技術を活かし、水の供給支援を実施。

 

開発途上国でインフラを構築するという点では決して珍しいものではありませんが、そこには、技術力はもちろん、海外企業との連携力、現地の人々のコミュニケーション力、これまでの経験値、そしてスタッフの熱き思いなど、総合力があったからこそ、スムーズに実現し得た事業だと言います。

 

あるドイツ企業からの提案

「きっかけは、再生可能エネルギーを利用した水処理設備のソリューション提供を専門とするBoreal Light GmbH(ドイツ)というスタートアップ企業からの提案でした」と話すのは、同プロジェクトを担当する乗富大輔さん。ケニアの事業に立ち上げから携わってきた1人です。

 

「当社は、2020年に『E-Vision2030』という長期ビジョンを策定しました。その重要課題の一つとして『持続可能な社会づくりへの貢献』を掲げ、具体的な成果として『6億人に水を届ける』ことを目指しています。サブサハラアフリカでは、水道など基礎的な給水サービスを利用できない人が人口の4割ほどいます。

 

ポンプメーカーとしては、一歩踏み込んだビジネスモデルを創出し、課題解決に取り組まなければいけないという認識を持っていました。そんな背景があり、イタリアのEBARA Pumps Europe S.p.A.(EPE社)の顧客でもあるBoreal Light GmbHから提案を受け、2021年4月にスポンサーシップ契約を締結しました」(乗富さん)

↑右から3人目がEbara Pumps East Africa ケニアプロジェクトジェネラルマネジャーの乗富大輔さん

 

学校の子どもたちに飲料水を無償提供

プロジェクトの舞台はマチャコスという街。ケニア南部に位置し、首都ナイロビから車で約2時間の場所にあります。

 

「マチャコスの水道供給は限られており、住民は井戸水を利用したり、タンクに詰めた水を販売する業者から購入したりしていました。安全性の高い水の入手が難しい当地にて、当社は、特別支援学校の敷地内に4台のポンプを含む浄化装置を設置。

 

これにより、深井戸から水を汲み上げ、1時間に2000リットルの清潔な飲料水を製造することが可能となりました。それを学校の生徒たち約160人に無償で提供。余った飲料水は日本の駅のキオスクのようなスタンド『Waterkiosk』で地域コミュニティーの方たちに販売し、収益をWaterkioskの運営費用に充てています。

 

浄水装置に必要な電力はソーラーパネルで発電されたクリーンエネルギーを活用しており、また、浄水装置から出る排水は、施設内の農場や魚の養殖池で有効活用するなど、持続可能なモデルとして運営できる点も重要であると考えています。

↑飲料水の販売スタンド「Waterkiosk」

 

このWaterkioskの運営は2021年7月中旬から始まりました。今回のケースでは、EPE社のポンプを含むBoreal Light GmbHの標準化された浄化装置を活用したため、着工から完成まで約3か月という短期間で実現することが出来たのです。

 

その間に、学校関係者や保護者をはじめ、水を利用する方たちに集まっていただき、プロジェクトの概要や運営システム、水の販売価格をいくらに設定するかなど議論し、現地のニーズを収集しました。

 

また、学校には寮もあるため、飲料水だけでなく、シャワーや手洗いなどの生活用水も供給しています。最初に学校を訪問した際は、不純物のせいか、寮のシャワーが詰まっていて水が出ませんでした。

 

当初の計画にはなかったのですが、寮で暮らす子どもたちの生活全体を改善したいという想いも強かったので、限られた予算の中で調整し、安全な水を生活用水としても提供できるようにしました。結果として、子どもたちの更なるQOL向上に貢献できたと思います。また、このような取り組みを評価頂き、「荏原グループが目指す『6億人に水を届ける』に関わる途上国向け浄水・給水ビジネスモデルの創出」として、第5回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞することが出来ました」(乗富さん)

↑Waterkiosk設立の式典。子どもたちを前にスピーチをする乗富さん

 

 

6億人に水を届けることで生活の改善を目指す

ケニアでの水供給のビジネスモデルは 、あくまで“6億人に水を届ける”という目標に向けての取り組みの1つです。「6億人の対象者はアフリカに限らず世界中すべて」と話すのは、マーケティング統括部の崎濱大さん。

 

「世界の人口は、現在の78億人から2030年には85億人に増加するといわれており、増加分のほとんどが新興国です。当社は、世界シェアを現在よりも5%拡大させることによって、6億人の人に水を供給することを目標としています。

 

ケニアでの新規事業プロジェクトに限らず、既存事業も含めた長期的なビジョンですので、ケニアのビジネスモデルをそのまま他の国や地域で展開するのではなく、それぞれの課題やニーズに応じて柔軟にアプローチをしていきたいと考えています。

↑荏原製作所 マーケティング統括部 マーケティング推進部 第一課・崎濱 大さん

 

新興国の中には、所得や水道事業の運営そのものに課題があったり、そもそも水にお金を払うという認識すらない地域もあります。さまざまな課題に対応し、衛生的で安全、そして安定的な供給をするためには、単にポンプや浄水装置を販売するだけではなく、その国の社会や生活環境への理解を深めることが大切。

 

そのためにも、今回のように現地パートナーと組んで、ニーズに応じた持続可能なシステムを構築、創出していく必要があると考えています」(崎濱さん)

 

水が変われば、生活全体が次々と変わる

“水”というと飲料水だけをイメージしがちですが、もちろんそれだけではありません。

 

「アフリカでは人口増加に伴い、農業生産性の向上と食料の安定供給が大きな課題です。小規模農家向けに当社の技術を活かした灌漑設備を提供し、農業分野においても貢献していきたいと考えています。顧客農家の生産量と所得が増えることで、生活の質向上にも繋げられたらと思います」(乗富さん)

↑マチャコスの学校内では浄水装置の排水を利用して野菜を育てている

 

「食料問題以外にも、水汲み労働による子どもの教育問題、衛生環境問題など、課題は多岐にわたります。こうした安心安全な水にアクセスできる仕組みを作ることにより、課題を解決し、生活基盤の改善が期待できると考えています。

 

今後も飲料水の供給に限らず、当社の技術的な強みと知見を活かせる領域を見定め、現地のニーズに合わせた商品やサービスを創出することで、アフリカをはじめとする新興国の人たちの生活が、社会的かつ経済的に改善されていくように取り組んでいきたいと思います」(崎濱さん)

 

SDGsという言葉が生まれる遥か昔から実施

今回紹介した事例以外にも、荏原製作所では、新興国を対象に、その国や地域の社会基盤の整備や改善に役立てるよう、社員や技術者によるセミナーやワークショップを1989年から開催。2019年までにアジアを中心に20か国で279回実施しています。

 

社会課題に向き合う同社の姿勢について、経営企画部 IR・広報課の粒良ゆかりさんは「創業当時から社会の役に立ちたいという想いを持って事業を継続してきました」と話します。

↑荏原製作所 グループ経営戦略・経理財務統括部 経営企画部 IR・広報課 粒良ゆかりさん

 

「現在は、『E-Vision2030』(前出)で掲げた5つのマテリアリティの解決を目指した、新規事業の開拓、創出を行っています。例えば世界的な食糧不足、たんぱく質不足という課題解決のために、陸上養殖システムの開発を行ったり、水素社会に向けて極低温の液体水素を運ぶための技術実証も予定しています。今後も、当社の技術や知見を活かし、持続可能な社会、豊かな社会づくりに貢献できればと思います」(粒良さん)

お腹が空くと非合理的な行動を取る理由をミミズが教えてくれた!

お腹が空いているとき、人間はイライラして怒りっぽくなったり、軽率に物事を決めたりします。空腹状態は私たちの思考や行動に影響を与えていることは間違いありませんが、そのメカニズムが解明されつつあります。

↑何としてでも食べたい!

 

人が空腹になったとき、その信号がどのように脳に伝わり、私たちの行動を変化させているのか、その詳細はほとんどわかっていません。そこで米国・ソーク研究所のチームは、ミミズを使って空腹が生き物にどのような変化をもたらすのかを研究することにしました。

 

研究チームは、ミミズを空腹状態にして、農薬や虫よけに使われる硫酸銅の壁をエサとミミズの間に設置。ミミズがどんな行動を示すのかを実験しました。また、エサを十分に与えたミミズでも同様の実験を行い、空腹状態のミミズとの行動の違いを観察したのです。

 

その結果、空腹状態になったミミズは、お腹が空いていないミミズに比べて、ミミズにとって危険な硫酸銅の壁を積極的に進んでエサを求めようとする行動が確認できました。

 

この行動の原因を突き止めるために、同研究チームが、脳に信号を送っている可能性のある腸内の分子について調べたところ、転写因子(DNAに結合し、遺伝子の活性を調節するタンパク質)のある動きを発見。通常、転写因子は細胞の細胞質内にあり、活性化したときだけ細胞核に移動します。しかしミミズが空腹になると、「MML-1」と「HLH-30」という2つの転写因子が、細胞質に戻っていることが確認されたのです。MML-1とHLH-30が動かないようにすると、ミミズは硫酸銅の壁を越えようとする行動は見せなくなったそう。

 

ここから、MML-1とHLH-30の2つの転写因子が、毒性のある壁を進もうとするミミズの行動に関わっているものと考えられます。また、この2つの転写因子が移動する際、腸からタンパク質が分泌されていることも判明。つまり、ミミズが空腹状態になると、MML-1とHLH-30の2つの転写因子の移動が引き起こされ、それによってタンパク質の分泌が促進されている可能性があるのです。さらに、そのタンパク質が空腹情報を脳に伝達して、目の前に危険があってもエサを求める行動を促しているものと考えられるのです。

 

生き物は、苦痛な状態を自ら求めることはせず、快適な状態を求めるもの。しかし、食欲という基本的欲求がある場合は、リスクや苦痛よりもお腹を満たすことを優先する仕組みが備わっているようです。今回のミミズの実験結果について、この研究チームはさらなる研究を進めるとしながらも、「同様の仕組みが人間でも起こる可能性がある」と話しています。

 

【出典】Matty MA, Lau HE, Haley JA, Singh A, Chakraborty A, Kono K, et al. (2022) Intestine-to-neuronal signaling alters risk-taking behaviors in food-deprived Caenorhabditis elegans. PLoS Genet 18(5): e1010178. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1010178

 

医者に転職できたら…。「AIに奪われる職業」の最新研究

「AIに奪われる職業」は以前から世界中で議論されていますが、最近ではスイスの共同研究チームが、この問題について新たに調査を行いました。

↑AIはどんな仕事を狙っている?

 

この研究を行ったのは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のロボット工学者とローザンヌ大学の経済学者による共同研究チーム。ロボット・AIに求められる能力や、将来それらに期待される能力がカテゴリーごとにまとめられた「ヨーロッパH2020ロボティック・マルチアニュアルロードマップ」をもとに、これまで発表されたロボットやAIに関する論文や特許などについて調べ、現在のロボットの能力がどのくらいのレベルに達しているかを判定しました。

 

さらに、アメリカ労働省が公開している職業情報データベース「O*net」から約1000種の職業について、それぞれの職種に必要なスキルを解析。これと上述のロボットの能力を照らし合わせ、それぞれの職種ごとにロボットが代替となる可能性があるかを調べました。結果は以下の通りです。

 

ロボットやAIによって消えるリスクが高い仕事

1位 食肉処理・加工業者

2位 プレス・繊維・衣服関連業者

3位 農産物の選別員

4位 清掃員

5位 用務員

 

ロボットやAIによって消えるリスクが低い仕事

1位 物理学者

2位 神経科医

3位 予防医学専門医

4位 神経心理学専門家

5位 病理医

 

研究チームによると、最もリスクの高い仕事は食肉処理や加工を行う仕事。一方で、リスクの低い仕事には物理学者や神経科医などの学者・医者のような仕事が並びました。多様な角度から物事を考えるクリティカルシンキングやクリエイティビティは、ロボットやAIにはまだあまりない能力のため、そのようなスキルを必要とする仕事はロボットに仕事を奪われるリスクは低いそうです。また教育やコミュニティに関する仕事も、リスクは低いとのこと。

 

この研究チームは、今回の研究で得たリスクのデータを一般公開しており、ここで自分の気になる職業を入力すると、ロボット化するリスクが表示されるようになっています。ウェブサイトへの入力は英語で行う必要がありますが、自分の仕事の将来がどうなるか気になった方は、サイトでチェックしてみてはいかがでしょうか?

 

【出典】Antonio Paolillo, Fabrizio Colella, Nicola Nosengo, Fabrizio Schiano, William Stewart, Davide Zambrano, Isabelle Chappuis, Rafael Lalive, Dario Floreano. (2022). How to compete with robots by assessing job automation risks and resilient alternatives. Journal Article. Science Robotics . 10.1126/scirobotics.abg5561

少しでいい。スマホに「人生の幸福」を奪われないための方法とは?

スマートフォンのおかげで、さまざまなことがとても便利になった現代。私たちはそこから多くのメリットを享受している反面、さまざまなデメリットがあることも広く知られています。最近の研究では、人生をもっと充実させて楽しむためには、スマホの利用を少し控えたほうがいいことが示されました。でも、「スマホがなかった時代」に戻る必要はありません。

↑スマホから少し離れると幸せがやってくる

 

これまでの研究では、SNSの利用を減らせば減らすほど、幸福度は上がることがわかっています。では、スマホ自体を使うことを減らすと、どんな効果が生まれるのでしょうか? ドイツのルール大学ボーフムの研究チームは、スマホの使用とそれによる心理的影響について調べるため、619人の被験者を対象にある実験を行いました。

 

実験では、被験者を無作為に次の3つのグループに分け、スマホを指示の通りに使いながら1週間を過ごしてもらいました。

 

① 1週間スマホを一切使わないグループ(200人)

② 1日の使用時間を1時間減らすグループ(226人)

③ これまでと同じようにスマホを使うグループ(193人)

 

そして、1か月後と4か月後に、運動の頻度、喫煙状況、不安やうつの兆候、生活満足度などについての質問に答えてもらい、スマホの使い方を変えることで生活にどんな変化をもたらすのか調べたのです。

 

その結果、スマホの使用時間を減らした①と②のグループはどちらも、うつ・不安の症状と喫煙量が減り、運動量と生活の満足度が向上。しかもこの効果の持続性は、完全にスマホを利用しなかった①のグループより、1日1時間だけ使用を減らした②のグループのほうが高かったのです。さらに②のグループは、4か月後でもスマホの使用時間が実験前より45分短くなり、その分運動する時間が増加。うつや不安の症状やタバコの喫煙量が減り、生活満足度が上がったことがわかりました。

 

今回の実験結果で特徴的なのは、スマホを完全に手放す必要はなく、利用を1日1時間減らすだけで生活に変化がもたらされたことにあります。スマホが生活に欠かせない存在になった現代では、スマホをまったく使わない生活だと、逆に「仕事のメールをチェックしないと」とか「SNSで取り残される」といったストレスや不安を感じる可能性があるでしょう。SNSと同様に、スマホの使用時間を意識的に減らせば、幸福度は上がりそうです。

 

【出典】Julia Brailovskaia, Jasmin Delveaux, Julia John, Vanessa Wicker, Alina Noveski, Seokyoung Kim, Holger Schillack, Jürgen Margraf: Finding the “sweet spot” of smartphone use: Reduction or abstinence to increase well-being and healthy lifestyle?! An experimental intervention study, in: Journal of Experimental Psychology: Applied, 2022, DOI: 10.1037/xap0000430

賢い生き物だった! 魚は計算できることが判明

数の概念は理解できても、足し算や引き算などの計算をできる能力は別の話。簡単な計算をできる動物は、ごく一部に限られていると言われていましたが、最近、魚は簡単な足し算と引き算ができることが判明しました。

↑シクリッドを過小評価するなかれ

 

今回の実験で使われたのは、アカエイと熱帯魚のシクリッド。これまでの研究で、これらの魚は、例えば「3個」と「4個」の違いを区別するなど、物の数を見分けることがわかっていました。そこでドイツのボン大学の研究チームは、これらの魚が算数の能力も持っているか実験することにしたのです。

 

ここで彼らは、ミツバチの算数の能力を確認するための実験で使われた方法を用いました。まず、実験の対象になる魚に正方形が描かれた絵を見せて、それが青色なら「1を足す」、黄色なら「1を引く」というルールをつくりました。例えば、青色の正方形が4つ描かれた絵を魚に見せます(4+1の意味)。次に正方形が5つ描かれた絵と3つ描かれた絵の2種類を用意して、魚が5つの絵の方に泳いでいったらエサをもらえて、3つの絵に泳いでいったら何ももらえないことになります。これを繰りかえし行い、青は「1を足す」、黄色は「1を引く」ということを覚えさせました。

 

その結果、アカエイもシクリッドも「1を加える足し算」と「1をマイナスする引き算」ができたのです。

 

とはいえ、魚が数の計算を行わずに、「青い絵は、最初の数より大きくなる」とだけ単純に覚えているのでは? これを確認するための実験も行いました。青色の正方形が3つ描かれた絵を見せた後に、正方形が4つ描かれた絵と5つ描かれた絵の2種類を用意するといった具合。それでも魚は、正方形4つの絵の方を選び、きちんと「3+1=4」と計算していることがわかりました。

 

しかも、絵に使われたのは正方形だけでなく、円や三角形など大きさも形も異なる幾何学模様を組み合わせたものです。そのため、魚は物の形を認識しながら、その色を見て計算ルールを把握していたということに。「魚はモノの数と色を同時に認識し、正しく計算した結果エサをもらえたら、その計算ルールを記憶しておかなければなりません。それには複雑な思考能力を必要とします」と同研究者は分析しています。

 

計算のような複雑な認知作業を行うのは、脳の「大脳皮質」と呼ばれる部分。魚にはこの大脳皮質がないため、高度な能力はないと過小評価されてきたようです。今回の実験結果は、そんな見方を覆すかもしれません。

 

【出典】Schluessel, V., Kreuter, N., Gosemann, I.M. et al. Cichlids and stingrays can add and subtract ‘one’ in the number space from one to five. Sci Rep 12, 3894 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-07552-2

虎のステーキにシマウマ寿司!? フードテックが作る「近未来の肉料理」

昨今、代替肉として培養肉の開発が進んでいます。そんななかイギリスから飛び込んできたのが、「虎肉のステーキ」や「シマウマ寿司」に関するニュース。嘘のようなメニュー名ですが、これらは実際にロンドンのフードテックが開発しているもの。一体どんな肉なのでしょうか?

 

もっとおいしい肉があるのでは?

↑シマウマ寿司。パッケージに「謹賀新年」とあり、おめでたさ満点?(画像提供/Primeval Foods)

 

虎肉やシマウマ肉の培養について発表したのは、ロンドンを拠点にするフードテック企業「プライメーバル・フーズ(Primeval Foods。以下、PF)」。この企業が開発しているのは、ライオン、虎、シマウマなど、ギョッとするような動物のお肉ばかりです。

 

彼らは、これらの動物からとった、わずかな組織のサンプルをビールの醸造に使われるようなステンレス製のタンクで培養。

 

PFは「私たちが牛、豚、鶏の肉を食べているのは、その肉が一番美味しくて栄養価が高いという理由ではなく、単に家畜として飼育しやすかったから」と考えています。つまり、世の中には、それらよりおいしい肉があるかもしれないということ。技術が発達すれば、飼育が難しい動物でも細胞を培養し、肉を作って食べることができるようになるかもしれません。

 

例えば、同社によると、ゾウは長距離を移動する草食動物のため、筋肉組織の脂肪分が旨味を引き出すとのこと。

 

培養肉は「従来食べられていた肉の代替となるもの」と捉えられることが多いかもしれません。しかしPFは、代替品というより、現在の肉をさらにアップグレードするものと考えているようです。

 

サステナブルな「味わい」

↑虎のステーキ。魅力はおいしさだけではない(画像提供/Primeval Foods)

 

培養肉には、味以外でも 多くのメリットがあります。その1つが食の安全性。細胞培養で添加されるのは、アミノ酸、炭水化物、脂質などの必須栄養素やビタミン、ミネラルなど。成長ホルモンや抗生物質は使用されておらず、遺伝子組み換えの心配もありません。

 

そもそも、培養肉は環境にも優しいのがメリット。オックスフォード大学の試算によると、従来の家畜肉と比べて、温室効果ガスの排出量は最大96%、消費エネルギーは45%、使用する土地は99%、使用する水の量は最大96%も抑えられるそうです。しかも骨や臓器がないため、廃棄物もあまり出ないとのこと。

 

イギリスやアメリカ当局の認可が下りれば、PFは同社のお肉料理の試食会をロンドンとNYのミシュラン星つきレストランで開催する計画とか。いつか「ライオン肉のバーガー」や「虎肉のハンバーグ」が私たちの食卓に並ぶ日が来るのでしょうか?

道に迷うのは育った環境のせい? 欧州の共同研究で示唆

道を覚えようと努力しているのに、なかなかそれができないと悩んでいる人は少なくないかもしれません。一体それはなぜ起きるのでしょうか?  最近、欧州の研究で「空間ナビゲーション能力(空間認知能力)」は、育った環境と関連性があることが明らかにされました。

↑なんで道に迷うのだろう?

 

これまでの研究で、環境が人間の認知機能やメンタルヘルスに深い影響を与えることがわかっていますが、生まれ育った環境が認知能力に与える影響については、あまり明らかにされていません。では、空間ナビゲーション能力は生まれ育った環境と何か関係があるのでしょうか? この疑問に対する答えを導くため、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとイースト・アングリア大学、フランスのリヨン大学の共同研究チームが実験を行いました。

 

この実験で使用したのは、モバイルゲームの『シー・ヒーロー・クエスト(SEA HERO QUEST)』。このゲームはドイツテレコムや英国アルツハイマー研究所などが、アルツハイマーの研究のために共同で開発したもの。認知症によって父が喪失した記憶を取り戻すために息子が海を冒険するという内容の同ゲームで、プレイヤーはボートに乗って、地図上のチェックポイントを見つけながら進んでいきます。

 

これまでに400万人以上が遊んだとされる同ゲームのプレイヤーの中から、今回の実験では38か国・約40万人のデータを収集し、ゲームの成績とプレイヤーの出身地を比較したのです。

 

その結果、ニューヨークやシカゴのように碁盤の目状に道路が整備された大都会で育った人は同ゲームが苦手でした。また、プラハ(ニューヨークのように道路が整備されていないものの、統一された街並みを持つチェコの首都)で育った人たちのゲームの成績も、田舎育ちの人たちより少し悪かったとのこと。

 

この共同研究チームは、以前に空間ナビゲーション能力が年齢とともに低下し、その衰退は20歳前後から始まることを突き止めましたが、今回の研究では、碁盤の目のような都市で育った人の同能力は、5歳上の田舎育ちの人のそれと同等であることが判明。地域によって両者の差は変わるようですが、田舎育ちの人でもこの能力は年齢を重ねるほど衰えるとすると、ここからは、都会育ちの人の空間ナビゲーション能力が、田舎育ちの人より早く弱くなる、またはその発展が早く止まると考えることができます。

 

道路が複雑に入り乱れた地域で育つと、何度も道を曲がる必要があり、こまめに方角や現在地を把握する必要がありますが、だからこそ道路や目印を覚えるスキルが自然と身に付く可能性がある、とこの共同研究チームは考察しています。

 

便利さの代償

今日の社会では、場所や通信環境にもよりますが、知らない土地であってもスマートフォンなどの地図アプリで現在地を確認しながら移動できるもの。その代わり、現代人はだんだん道やその名前、景色などをだんだん覚えられなくなっていると言われます。規則的に整備された道路は美しく、カーナビなどの技術はとても便利ですが、私たちを取り巻く環境は、人間の認知能力の発達に思いもよらない影響を与えている模様。さらなる研究が待たれます。

 

【出典】Coutrot, A., Manley, E., Goodroe, S. et al. Entropy of city street networks linked to future spatial navigation ability. Nature 604, 104–110 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04486-7

道に迷うのは育った環境のせい? 欧州の共同研究で示唆

道を覚えようと努力しているのに、なかなかそれができないと悩んでいる人は少なくないかもしれません。一体それはなぜ起きるのでしょうか?  最近、欧州の研究で「空間ナビゲーション能力(空間認知能力)」は、育った環境と関連性があることが明らかにされました。

↑なんで道に迷うのだろう?

 

これまでの研究で、環境が人間の認知機能やメンタルヘルスに深い影響を与えることがわかっていますが、生まれ育った環境が認知能力に与える影響については、あまり明らかにされていません。では、空間ナビゲーション能力は生まれ育った環境と何か関係があるのでしょうか? この疑問に対する答えを導くため、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとイースト・アングリア大学、フランスのリヨン大学の共同研究チームが実験を行いました。

 

この実験で使用したのは、モバイルゲームの『シー・ヒーロー・クエスト(SEA HERO QUEST)』。このゲームはドイツテレコムや英国アルツハイマー研究所などが、アルツハイマーの研究のために共同で開発したもの。認知症によって父が喪失した記憶を取り戻すために息子が海を冒険するという内容の同ゲームで、プレイヤーはボートに乗って、地図上のチェックポイントを見つけながら進んでいきます。

 

これまでに400万人以上が遊んだとされる同ゲームのプレイヤーの中から、今回の実験では38か国・約40万人のデータを収集し、ゲームの成績とプレイヤーの出身地を比較したのです。

 

その結果、ニューヨークやシカゴのように碁盤の目状に道路が整備された大都会で育った人は同ゲームが苦手でした。また、プラハ(ニューヨークのように道路が整備されていないものの、統一された街並みを持つチェコの首都)で育った人たちのゲームの成績も、田舎育ちの人たちより少し悪かったとのこと。

 

この共同研究チームは、以前に空間ナビゲーション能力が年齢とともに低下し、その衰退は20歳前後から始まることを突き止めましたが、今回の研究では、碁盤の目のような都市で育った人の同能力は、5歳上の田舎育ちの人のそれと同等であることが判明。地域によって両者の差は変わるようですが、田舎育ちの人でもこの能力は年齢を重ねるほど衰えるとすると、ここからは、都会育ちの人の空間ナビゲーション能力が、田舎育ちの人より早く弱くなる、またはその発展が早く止まると考えることができます。

 

道路が複雑に入り乱れた地域で育つと、何度も道を曲がる必要があり、こまめに方角や現在地を把握する必要がありますが、だからこそ道路や目印を覚えるスキルが自然と身に付く可能性がある、とこの共同研究チームは考察しています。

 

便利さの代償

今日の社会では、場所や通信環境にもよりますが、知らない土地であってもスマートフォンなどの地図アプリで現在地を確認しながら移動できるもの。その代わり、現代人はだんだん道やその名前、景色などをだんだん覚えられなくなっていると言われます。規則的に整備された道路は美しく、カーナビなどの技術はとても便利ですが、私たちを取り巻く環境は、人間の認知能力の発達に思いもよらない影響を与えている模様。さらなる研究が待たれます。

 

【出典】Coutrot, A., Manley, E., Goodroe, S. et al. Entropy of city street networks linked to future spatial navigation ability. Nature 604, 104–110 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04486-7

99%の人は不健康な空気を吸っている! WHOが発表

自然が豊かな場所では、都会に比べて空気がおいしく感じるもの。しかし、それは錯覚かもしれません。先日、WHO(世界保健機関)が「世界の人口の99%は不健康な空気を吸っている」と発表したのです。一体どういうことでしょうか?

↑きれいな空気を吸っていると思っていたけど、勘違いだった?

 

WHOは2011年から、日本を含む世界117か国6000以上の都市で、二酸化窒素(NO2)、PM10(直径10マイクロメートル以下の粒子状物質)、PM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微粒子状物質)の年平均濃度を観測し、大気の質に関するデータベース(『Air Quality Database』)を3年ごとに発表しています。最近、その2022年版が公開されました。

 

まず、二酸化窒素から見てみましょう。二酸化窒素とは、空気中の酸素と反応してオゾンを生成する物質で、PM10やPM2.5と同じように都市部で多く観測されている大気汚染物質。約4000の都市や地域がこのデータを収集していますが、WHOの大気質ガイドラインの数値(air quality guideline levels)を達成している国は全体のわずか23%しかありませんでした。国の所得によって大きな差は見られなかったとのこと。

 

次に、PM10とPM2.5に関しては、WHOの基準を下回る国が、特に所得の低い国で多数あることがわかりました。低・中所得国で基準を満たすのは全体のわずか1%未満。それに対して、日本、アメリカ、ヨーロッパなどの高所得の国では、83%が基準を満たしていました。低・中所得国のPM10とPM2.5の量は、高所得国の約3倍にもなります。

 

これらの結果から、WHOは世界の人口の約99%が「汚染された不健康な空気を吸っている」と警鐘を鳴らしたのです。「約99%」の算出方法は不明ですが、2020年の世界の人口を約77.6億人(出典:世界銀行)とすると、約76.8億人が該当。特に所得の低い国の人々は、大気汚染によりさらされているのが現状のようです。

 

WHOは、大気汚染によって亡くなる人が毎年世界で700万人にのぼると報告しています。大気汚染がさらに進むと、これまで以上に多くの人々が病気で苦しむことになりかねません。コロナ禍で世界中の人々が自宅にとどまった期間、クルマの排気ガスなどの量が減ったことで、空気がきれいになったことが複数の都市で報告されました。再び空気が汚れてしまわないように、各国が大気汚染のガイドラインを刷新し、それに合わせた対策を講じるべきだ、とWHOは述べています。

50語に達するボキャブラリー!「キノコ」は人間のように会話している

キノコは電気信号を送ることで会話している。そんな驚きのニュースがイギリスから飛び込んできました。しかも、キノコのコミュニケーション方法は人間のそれとよく似ているとか。どういうことでしょうか?

↑「あそこに良い場所を発見!」「ラジャー!」

 

これまでの研究で、さまざまな植物が電気信号を発していることがわかっています。これはキノコにも当てはまり、キノコの細胞は糸状に集まった「菌糸」と呼ばれる部分から電気信号を発していると見られています。では、キノコ同士が発信する電気信号は人間の会話と共通するところがあるのでしょうか? そんな疑問に対する答えを探るべく、西イングランド大学の研究チームが、キノコの会話のメカニズムを調べることにしたのです。

 

研究チームは4種のキノコを使い、菌糸部分に電極を挿入して電気信号を解析。電気信号が瞬時に上昇する「スパイク」の持続時間やそのパターンについて調べました。

 

その結果、スパイクの持続時間や振り幅に、キノコの種類ごとに異なるパターンが記録されたのです。さらに、そのスパイクの長さなどからグループ分けしていくと、キノコの語彙は最大で50語に達していることが判明。そのうち、よく使われるのは15~20個。長いボキャブラリーほど使われる回数は減っていることもわかりました。人間の言葉でも、長い言葉はあまり使われにくく、その傾向は人間の会話と共通するようなのです。

 

「キノコ語」の意味

では、なぜキノコはこのような会話をしているのでしょうか? この研究を行った教授は「オオカミの遠吠えのように、群れの和を保つ役割があるのではないか」と推測しています。実際、木に寄生するキノコでは、木に接触すると電気信号を強く発する現象が観察されているそう。つまり、菌糸を虫などから守る物質や誘引物質に関する情報を、電気信号で仲間たちに伝えている可能性があるのです。

 

動物は鳴き声で仲間に危険を知らせたりするものですが、キノコは言葉や声ではなく、電気信号を使って、仲間たちと会話しているのかもしれません。専門家の間では今回の発見を言語として解釈することに対して慎重な意見もあり、さらなる研究が必要。しかし、植物にはまだまだたくさんの不思議が隠されているようです。

 

【出典】Adamatzky Andrew. 2022. Language of fungi derived from their electrical spiking activity. Royal Society Open Science9211926211926. http://doi.org/10.1098/rsos.211926

 

新しいストレス解消法! ウェアラブル「足裏くすぐり」デバイスが登場

世の中にはさまざまなストレス解消法がありますが、その1つが“くすぐり”。現在、ニュージーランドの研究者たちがウェアラブルな「足裏くすぐりデバイス」を開発しており、ユニークな取り組みとして注目を集めています。

↑こんなことをしてくれるデバイスがあれば……

 

くすぐりや笑いによってストレスが緩和されることは、以前から知られていました。しかし機械のような人工的なものによるくすぐりでも人の笑いを誘うのか、またくすぐりの影響が男女で異なるかどうかといった詳細については、まだ明らかになっていません。そこで、オークランド大学の研究チームがこの問題を調査しました。

 

この研究チームはまず、ブラシを内蔵し、足裏の指の部分から中心部分など、足裏のさまざまな部分をくすぐるマシンを開発。このマシンを使って、足裏のどの部分がもっとも笑いを誘発し、どんな笑いのパターンがあるか調べる実験を行ったのです。

 

対象となったのは女性7人、男性6人の合計13人。マシンで足裏のさまざまな場所をくすぐり、それぞれのくすぐったいと感じる度合を7点満点の点数で評価してもらいました。その結果、女性は「土踏まず周辺が最もくすぐったい」と感じた一方、男性は「足指のほうがくすぐったい」と感じることが判明。また、くすぐったさの点数は、女性が平均5.57点だったのに対して、男性は平均で3.83点と、女性のほうが足裏が“弱い”ようです。

 

この結果をもとに、研究チームは自動で足裏をくすぐるバッテリー式インソール「TickleFoot」を3Dプリンターで制作。特にくすぐりに弱かった足裏の3つのスポットに、自動で動いてくすぐる仕掛けを施しました。靴の中に入れておけば、このインソールが自動で足裏をくすぐり、笑いを誘発してくれるのです。

 

このインソールによる成果は明らかになっていませんが、例えば、仕事の休憩時間にスイッチを入れて、自分で足裏をくすぐるという使用場面が考えられます。さらに、遠隔操作も可能なので、離れた場所にいる家族や友人と電話しながら、お互いにスイッチを入れて楽しんでみてもいいかもしれません。このウェアラブルデバイスは、とてもユニークなストレス対策になりそうです。

既に再エネ自給率56%! 長崎県五島市で進む「脱炭素社会」の仕掛けたち

目指すは再生可能エネルギー自給率約80%&ゼロカーボンシティ~長崎県五島市

 

2018年にユネスコ世界文化遺産に登録。最近では、NHKの連続テレビ小説「舞いあがれ!」(2022年後期放送予定)の舞台の一つとして注目を浴びている長崎県の五島列島。東シナ海に浮かぶ自然豊かなこの島は、再生可能エネルギー事業に積極的に取り組み、脱炭素の先駆者的存在として期待が寄せられています。

 

日本初の浮体式洋上風力発電機を設置

太陽光や風力、潮流、地熱など、温室効果ガスを排出しない自然の力を利用する再生可能エネルギー。五島市では、海に浮かぶ発電所ともいえる「浮体式洋上風力発電設備」が日本で初めて設置され、2016年3月からすでに実用化されています。

 

「きっかけは、再生可能エネルギーの導入を促進する環境省の実証事業への参加です。2012年に五島列島の椛島(かばしま)沖に100kw小規模実証機設置を経て、2013年に2000kw実証機1基が設置されたのですが、この辺りは波が穏やかで、かつ年平均風速が毎秒7.45mと風が強く、風速の変動も少ないため、風車を設置するには非常に適した環境でした。その後、野口市太郎現市長が就任した2012年に、4大プロジェクトが策定され、そのうちの1つに再生可能エネルギーの推進が掲げられました」(五島市 総務企画部 未来創造課 ゼロカーボンシティ推進班 佐々野一成さん)

↑現在は福江島の崎山沖に位置する浮体式洋上風力発電設備「はえんかぜ」

 

フル出力で2000kW、一般家庭の約1800世帯分を送電

水深約50mまでの浅い海域には着床式の洋上風力発電が適していますが、洋上の風が強く、効果的な発電ができる水深の深い海域では浮体式でなければなりません。浮体式は世界でも実用化がそれほど多くありませんが、排他的経済水域の面積が世界第6位の日本の場合、こうした地の利を生かした浮体式洋上風力発電に大きな期待が寄せられています。

 

「実証事業は2015年度に終了。2016年3月から福江島の崎山沖に設備を移設し、現在は実際に商用運転されています。浮体式洋上風力発電は船舶扱いで船舶名は“はえんかぜ”(方言で「南東の風」という意味。幸せを運ぶという伝えがある)。海中部分を含め全長172mで、40mの回転翼が3枚付いています。椛島での実証事業の時は海底ケーブルが細く、約600kWしか送電することができませんでしたが、福江島の崎山沖へ移設後は海底ケーブルを新たに敷設し、発電量はフル出力で2000kW、一般家庭の約1800世帯分の電力を送ることが可能となっています。2024年までにさらに8基を増設し、計9基で商用稼働させることを目指しています」

↑未来創造課の佐々野一成さん。「五島産の再エネ電気を五島のPRに活かしていきたい」と話す

 

再生可能エネルギー自給率約80%に

五島市の再生可能エネルギーの取り組みは浮体式洋上風力発電だけではありません。

 

「陸上の風力発電機は現在大型が11基、小型が18基、水力発電が1基。太陽光パネルにいたっては、家庭用も含めると1600基ほど設置されています。また、奈留瀬戸で潮の満ち引きを利用した潮流発電の実証事業がスタート。昨年までは500kWの発電機でしたが、今後は1000kW程度と規模を拡大し、4年後の実用化を目指しています。五島市の再生可能エネルギー自給率は、2020年時点の推計値で約56%ですが、こうした取り組みにより、浮体式洋上風力発電を増設した2024年には自給率約80%になる見込みです。

↑福江島にある太陽光パネル。個人宅の屋根にも多く設置されている

 

再生可能エネルギー事業は、商用化しても電気料金が安くならないなど、市民が直接的な恩恵を感じられにくい部分があります。ですが、広報誌や勉強会などで啓発活動を積極的に行っていることもあり、市民アンケートではポジティブな意見を多くいただいていますし、意義のあることだと捉えている方は少なくありません。また、浮体式洋上風力発電設備の海中部分に藻やサンゴが付着し、そこを隠れ家とした小魚を狙う魚が集まるなどの好影響も。これまでは魚が少なかったため、漁が盛んでない海域でしたが、今後の検証次第では、漁獲量の向上につながるのではないかと期待されています」

 

ゼロカーボンシティを宣言

再生可能エネルギー事業に積極的な五島市は、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を2020年12月に宣言しました。具体的には、「再生可能エネルギーの地産地消の推進」「電気自動車の推進」「市役所における省エネルギーの取り組み」「一般廃棄物焼却量減少に関する取り組み」です。

 

「実はゼロカーボンシティを宣言する前から、電気自動車に関しても2011年に国の実証事業により、五島市と新上五島町に合わせて100台が導入されました。充電設備も整備したため、その後も普及が続き、現在は島内に155台の電気自動車が走っています。うち43台はレンタカー、残りは企業や市民が利用していますが、今後も増え続けるようにさらなる推進を行っています。

↑島内で利用されている、三菱自動車の「i-MiEV」。急速充電器など島内における設備も充実している

 

地球温暖化の影響が深刻化されている近年、ふるさと五島を守り、持続可能な島にするためにゼロカーボンシティへの取り組みは必要です。その実現には、再生可能エネルギーの地産地消はもちろん、電気自動車普及の推進など市民の皆様のご理解とご協力が欠かせません。そこで、『サステナブルな暮らし10の習慣』という誰にでもできる身近な取り組みを提案したり、環境学習の題材として子どもたちに風力発電を見学してもらったり、省エネや節電を学ぶためのシンポジウムを開催したりと、いろいろなアプローチを展開しています」

 

再生可能エネルギー活用の先駆者に

ただ、現実的にはまだやれることが多いと佐々野さん。

 

「例えば余った電力を水素化して燃料電池船に利用したり、水素を運びやすくするために気体から液体に変えて貯蔵し、船で本土へ運ぶなどの実証事業も行いました。今後もさまざまな構想が練られていますが、こうした取り組みは、次世代産業の創出にもつながりますし、人にも環境にもやさしい島であり続けたいという想いも込められています」

 

経済産業省の資料によると、2019年度の日本のエネルギーの自給率は12.1%。先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)36カ国中35位と非常に低い水準です。安定したエネルギー源の確保は大きな課題。それだけに、いち早く再生可能エネルギー事業に取り組んだ五島市へと寄せられる期待はとても大きいと言えるでしょう。

 

貨物コンテナの活用で都市を変える! ロンドンで拡大する「垂直農園」

2021年秋にスコットランドで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)を経て、気候変動問題への関心や環境意識がより一層高まっている英国。その首都ロンドンでは、フードマイレージ(食料が生活者に届くまでの輸送距離)をとことんカットした都会育ちの野菜がグルメ界の注目を集めています。

↑ロンドンで話題の「CRATE TO PLATE」

 

英国ではプラスチック包装を使わない量り売りの店が急増し、スーパーやパブ、ファストフード店などあらゆるところでビーガンメニューが見られるようになりました。それと同時に、果物と野菜の7割を輸入に頼っている英国では、フードマイレージをカットすることも大きな課題です。輸入の通関手続きを省くことは、ブレグジット(英国のEU離脱)とパンデミックやウクライナ情勢による急激な物価上昇の抑制にもつながります。そのため、最近では国産の食材に注目が集まっています。

 

2020年の長期ロックダウン中に誕生したスタートアップ企業の「クレート・トゥ・プレート(CRATE TO PLATE)」は、ロンドン市内で貨物コンテナを使った垂直農園を展開しています。都会の隙間を使ったコンテナ農園を各地に設置することで、限られた土地を有効活用でき、地元産の新鮮な野菜を消費者に提供することができるようになります。

 

最初のコンテナ垂直農園ができたエレファント&キャッスル駅前は、現在再開発が進むロンドン南部の中心地。さらに最近では金融街アイルオブドッグズに3か所、そして北部ケンティッシュタウンに2か所と合計6農園に拡大しています。分散型にすることでフードマイレージ「ほぼゼロ」のデリバリー体制を実現しており、2022年はロンドンから飛び出してストラットフォードやマンチェスターといった地方都市へ拡大する計画が進んでいます。

 

最小限の資源で栽培

英語で「Vertical farming(バーティカル・ファーミング)」と呼ばれる垂直農園は、未来の食料供給法としても注目を浴びています。その名前の通り垂直に積み上げた階層構造の室内で、AIによって光・温度・養分などを細かくコントロールされた環境下で農産物を育てることが特徴。

 

従来の農業とは異なり、天候に左右されず、限られたスペースで、農薬を使わずに1年中効率よく栽培できるのが大きなメリットです。水の使用量も非常に少なく、照明などの電源も太陽光や風力といった自然エネルギーで賄うことができ、栽培にかかる資源を最小限に抑えることが可能。

 

このような垂直農園は狭い土地でも作れるため、都市部での食糧生産に向いています。クレート・トゥ・プレートのコンテナ農園も、駅前やビルの間のちょっとした空きスペースに設置されています。人口集中エリアに効率よく農園を設置することで、食品輸送によって発生する排気ガスを大幅にカットできるのです。

↑ロンドンのグルメ界でも注目を集める食材に

 

米国でも2022年1月に、チェーンストア最大手のウォルマートが国内スタートアップ企業と提携し、この手法で生産された野菜を広く取り扱うと発表しています。

 

クレート・トゥ・プレート社の野菜はレタスやバジルなどの葉野菜やハーブが中心で、収穫後24時間以内にEV車や自転車によって注文先に届けられます。

 

すでに老舗ラグジュアリー百貨店の「フォートナム&メイソン」やミシュラン星レストランの「ハイド」、チェルシーの高級八百屋「アンドレアス」など、多くの高感度ショップへの卸売りが行われています。新鮮かつサステナブル、そして配達方法もエコな無農薬野菜というアイデアは、パンデミック規制解除で活気を得たロンドン市民の関心を集めているようです。

 

大手スーパーマーケットからの問い合わせも相次いでおり、宅配サービスを利用する個人のサブスクリプション契約も人気です。

 

エコフード都市へ 

もともと英国ではスローライフを楽しむためのレンタル菜園や、室内でフレッシュなハーブが育てられる家庭用の水耕ハーブガーデンが人気でした。そこにクレート・トゥ・プレートのような商業用・マス向けのローカル農園が増えることで、自然エネルギーはもちろんのこと、都市部で生じる排熱や雨水、食料廃棄物を分解した肥料などを活用し循環させる「エコフード都市」の実現も夢ではないでしょう。

 

現在の英国では貨物コンテナを店舗やオフィス、研究所として利用することがトレンドになっていて、オフィス賃貸価格が高いロンドンでスモールビジネスが成長する足がかりとしての役割も担っています。将来的にはそこに住む人たち全体の食料を生産できる、垂直農園付きの集合住宅も登場してくるかもしれません。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

金融教育の注目株! お金の良識を養う「子ども向けデビットカード」

小さい頃からお金の価値や管理に関する意識を持つことを重視するアメリカでは最近、子ども向けのマネー教育サービス「Greenlight(グリーンライト)」が人気を集めています。子どもが使えるデビットカードと親子それぞれが管理できる専用アプリを組み合わせたもので、キャッシュレス拡大も追い風となり利用者が増加中。寄付や投資ができる機能も備えた最先端のサービス内容を、アメリカの社会背景も盛り込みながら紹介します。

↑欲しいものを買うためには、どれだけ家の手伝いをして稼げばいいだろう。貯金を運用するのもアリか……。

 

キャッシュレス化が進んでいるアメリカではクレジットカードやオンラインでの決済がほとんどで、現金がなくても基本的にどこでも買い物ができます。一方で、クレジットカードによる自己破産が大きな問題になるなど、子どもの頃からお金に対して正しい知識を持つことが求められています。

 

アメリカではその人の社会的信用を示す指標として、クレジットカードの利用履歴や返済額、借金の有無など個人資産の管理状況を示す「クレジットスコア」があります。この結果に応じて就職時の採用判断や、家やクルマのローン利息優遇措置なども変わりますが、クレジットスコアは、「クレジットカードの支払いが期日通りに行われているか」といった積み重ねによって上昇します。そのため一般的にアメリカでは18歳になるとクレジットカードを作り、多くの人は信用情報源となるスコアを上げるために、たとえ少額であってもクレジットカードで決済するのです。

 

ただ、そこで困るのが、18歳に満たない中高生の子どもたちのお金の管理。親のクレジットカードを持たせるのはリスクがあるのに加え、アメリカの多くの銀行では13歳以下の子ども名義で口座を開設することができず、デビットカードを作ることもできません。キャッスレス化が進んでいることから、親が自宅に余分な現金を置いておくという習慣も減っています。

 

このようなマネー事情があるアメリカで、子どもが自分でお金を管理できるうえ親もチェックが可能で、防犯性にも優れているというメリットを持っているサービスがGreenlightなのです。子どもに早期から実践的な金融リテラシーを学ばせたいというニーズに応えたものと言えるでしょう。

 

Greenlightは「親が管理できるアプリ」と「子ども用デビットカード」を合わせたもので、2017年のサービス開始以来、2022年現在でアメリカ国内の500万人以上が利用登録しています。料金は利用サービス別に3つに分かれていますが、基本使用料は月々4.99ドル(約632円※)で家族5人分までデビットカードを作ることができます。

※1ドル=約126.6円で換算(2022年4月18日現在。以下同様)

 

アプリでは親用の管理画面を通じ、デビットカードの残高や履歴など、登録した複数の子どもたちの利用状況をすべて確認することが可能であるのに対して、子ども用の画面では本人の情報のみを閲覧することができます。

 

アプリ内にはデビットカードを直接オンまたはオフにできる機能があり、最大25万ドル(約3160万円)のFDIC(連邦預金保険公社)保険やマスターカードの「Zero Liability Protection(カードが不正利用されても保有者が保護されるポリシー)」を付帯するなど、安全や防犯の面でも安心といえます。

 

主な機能5つ

↑金融教育を網羅

 

Greenlightでは、主に次の5つのことができます。

 

① お金を使う

親が自分の銀行口座と紐付ければ即座に送金でき、子どもは実際のデビットカードと同じように支払いに使えます。決済が行われるとアプリ経由でリアルタイムに通知が届くうえ、スーパーやガソリンスタンド、いつも利用する店舗のみなど利用先を指定することも可能です。

 

親が送金した以上の金額は使えず、残金がない場合は利用しようとしても「Decline(決済不能)」となります。このような経験を通じ、子どもは何にお金を使うか、自分はいくら使えるのかを考えるようになります。

 

② 稼ぐ

アメリカの家庭では、芝刈りや洗車、家事の手伝いなどを仕事として子どもに依頼します。料金や曜日などを細かく設定でき、親は子どもがその仕事をしたかどうかを確認後、仕事に応じた料金を送金。単にお金をもらう小遣いとは違い、自分の労働の対価としてお金を稼ぐということは、大人になるのに役立つ経験となります。

 

③ 貯める

自転車や携帯電話など欲しくてもすぐには買えないものを手に入れるために、目標設定して貯金することができます。自分が持っている残金を貯めておけば、利息がついてお金が増えます。毎年2%の利息が付くオプションプランもあり、目標に向けてコツコツ貯めることや複利の重要性などを学ぶことができます。

 

④ 寄付する

アメリカでは州により税制優遇が受けられることもあり、寄付は一般的な行為です。「他者のために寄付をすることが人生を豊かにする」ということを小さい頃から学ぶことができるのもGreenlightの大事な特徴の1つ。寄付先については、動物愛護団体や自然保護団体など子ども自身がアプリ上で選べるようになっています。

 

⑤ 投資する

オプションプランではありますが、投資先を選び、それを親が承認すると実際に株やファンドに投資することができます。自分が労働して稼ぐことだけでなく、お金を運用して稼ぐことをアプリで実際に経験できるのは、最先端のお金の教育といえるでしょう。

 

このように、Greenlightは単に支払い機能のあるアプリというだけでなく、金融教育をまんべんなく網羅したサービスとなっているのです。

 

プラグマティックな存在

「子どもにデビットカードを持たせるのは早過ぎる」と思っていた筆者。しかし、アメリカではマネーリテラシーやビジネスマインドを育てる教育が重要視され、小学校で金融教育が始まっています。そのため、小さな頃からお金に興味を持つ子どもが多く、7歳の息子も先日友人と初めてレモネードスタンド(玄関先でレモネードを売る)を経験し、ビジネスに興味を持ち始めているようです。

 

世界的に見ても、今後の主な決済方法がキャッシュレスから現金に戻るとは考えられません。次世代を生きる子どもたちにとって、彼らのライフスタイルに合わせた金融教育やサービスを家庭や学校に導入することは、プラグマティック(現実的かつ実用的)な選択と言えるでしょう。今後のマネー教育およびツールの進化・発展に注目していきたいと思います。

 

圧倒的に少ないCO2排出量! 国産「切り花」の逆襲を狙うイギリス

イギリスでは、花屋やスーパーマーケットで販売されている切り花のほとんどが輸入品です。しかし近年、同国内のスーパーマーケットが国産の切り花の取り扱いを増やしていくと宣言。イギリス王室でも国産が使われるなど、そのシェアが徐々に増えています。イギリスの取り組みは日本にとって参考になるかもしれません。

↑イギリスの花屋などで売られる花の多くが輸入品

 

イギリスでは、年間約8億6500万ポンド(約1430億円※)の売り上げがある切り花のほとんどが輸入品で、そのうち70%を占めるのがオランダ産。オランダは、国内にサッカー場規模の温室スペースを約500か所抱えています。

※1ポンド=約165円で換算(2022年4月15日現在)

 

それらの温室には栽培から販売、出荷まで自動化システムが導入されていますが、エネルギー集約型の加熱温室で栽培された切り花は、多くの二酸化炭素を排出します。

 

また、イギリスの切り花の約6%はケニア、約4%がコロンビアから輸入されていますが、このような暖かい国々での栽培は温室ほどエネルギーを使わないないものの、イギリスへの輸送の際に大量の二酸化炭素を排出します。さらに、どの国でも栽培から輸送の過程でプラスチックを使用するため、環境に負荷を与えているのです。

 

さらに、規制が比較的軽い国では、化学肥料や農薬を使う花農家も少なくありません。残留農薬は栽培から梱包、販売などに関わるすべての人に悪影響を及ぼし、土壌を汚染すると言われています。

 

イギリスも、こうした輸入花を取り巻く状況を無視しているわけではありません。労働環境や生物多様性保護などを考慮して作られたり、フェアトレード取引されたりした花束にはラベルが貼られ、購入する際にわかるような取り組みがされています。

 

気候変動を阻止するなら……

イギリスのランカスター大学では、イギリスをはじめオランダやケニアでさまざまな条件(屋外または温室)で栽培された7種類の切り花について、栽培と輸送に関連する二酸化炭素排出量を比較しました。その結果、茎あたりの排出量はオランダのユリが最も高く、ケニアのカスミソウバエ、オランダのバラ、ケニアのバラと続きました。

 

一方、イギリスの花の生産者が栽培したユリ、キンギョソウ、アルストロメリアの3種類は、二酸化炭素排出量がとても低いことが判明。輸送距離が短いという優位性もあるでしょうが、国内産の花束の二酸化炭素排出量は輸入花で作られた花束の10分の1となっています。

 

30年前、イギリス国内で栽培された花のシェアは45%でしたが、その後は大きく減少。しかし2016年には12%、2019年には14%と徐々に回復の傾向にあります。その背景には、国を挙げた環境への取り組みや国民のサステナブル意識の向上がありますが、最近ではコスト面での影響もある模様。

 

例えば、20224月からイギリスにはプラスチック包装税が導入されました。エネルギーや輸送コストの上昇もあり、輸入を取り巻く環境は日々厳しくなっていることも、輸入花の減少要因と考えられるでしょう。

↑ミツバチも国産の花や植物が大好きみたい

 

また、イギリスではスーパーマーケットで切り花を購入する人が多く、国内における全売上高の半分強を占めています。そこでは国内産切り花を奨励する動きが見られ始め、購入者も増えている様子。

スーパーマーケットの「コープ」と「アルディ」を例として挙げると、国内産の植物や花の割合を増やすことを目的とした国立農民組合の「植物と花の誓約」にそれぞれ署名し、消費者に国産の花をアピール。国産の花束にはユニオンジャックのラベルが貼られているため、店内ですぐに見つけることができます。

 

また、別のスーパーである「ウェイトローズ」によると、イギリス産のピオニー(牡丹)の2019年の売り上げが前年に比べて48%上昇したとのこと。国産ピオニーは近年、王室の結婚式で使われており、それが人気の原動力になっているようです。

 

イギリスの教訓

サステナビリティや生態系の維持、花農家へのサポートなど、国産の切り花の生産量が増えることには、さまざまなメリットがありますが、日本に目を転じれば、切り花の輸入の割合は2010年以降、数量ベースで20%台を推移(農林水産省「花きの現状について」令和元年12月)。国産に比べて燃料費や光熱費、人件費などのコストを抑制できるため、コロンビアなどからの輸入が増えています。イギリスの経験から学ぶとすれば、輸入花が増加傾向にあるときだからこそ、日本も国産の美点を忘れるべきではないでしょう。

遊んじゃうもんね。コロナ禍で進化した「遊び」

ドイツでは休暇に友達や家族が集まると、ボードゲームを楽しむのが一般的です。多くの家庭には何種類ものボードゲームが置いてあり、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した2020年以降はボードゲームの売り上げが増加。1人や少人数でも遊べるゲームやパンデミックに関連したゲームが人気を集めるようになりました。

 

コロナ禍で変化したドイツのボードゲームや遊びについて現地からレポートします。

↑ボードゲームはコロナ禍でさらに人気に

 

増え過ぎたスクリーンタイム

パンデミックによりドイツで実施された厳しいロックダウンは、子どもたちのデジタル依存をさらに深刻化させました。ボードゲームの人気が高まっている背景には、「子どもにデジタル離れをさせたい」という親の思いがあるようです。

 

ドイツのハンブルク・エッペンドルフ大学病院・青年中毒問題センターの研究によれば、子どもたちのスマートフォンやタブレットを使うゲームや動画鑑賞の時間が急速に増加したそう。2019年には平日で平均79分だった時間が、コロナ禍以降には139分にまで増えました。学校や託児所の閉鎖で自宅勤務せざるを得ない状況となった親も、どう対処してよいかわからず、デジタル機器に頼ってしまった傾向があることも判明しています。

 

しかし、学校の授業や習い事もオンライン化されステイホームが続くと、多くの親が子どもに「デジタル離れ」させることを真剣に考えるようになりました。子どもたちがテレビゲームや動画視聴に費やす時間を減らすために、ボードゲームが発展を遂げることになったのです。

 

ボードゲームは、参加者が多ければ多いほど刺激が増えて楽しくなります。ただし、コロナ禍では大勢で遊ぶことが難しくなったため、2020年以降は1~4人用という単独や少人数で遊べるゲームの人気が上昇しました。

 

例えば、2021年にドイツの「Spiel des Jahres」というゲーム大賞に輝いた、探偵ものボードゲーム『Micro Macro』は1人でも楽しめるだけでなく、3~4人で一緒に推理をしながら遊ぶこともできます。ポップで可愛いイラストからは想像できないような凶悪犯罪が起きる街で、カードに書かれた問題を推理し事件を解決するというこのゲームは、対戦型とは違って、個人でも集団でも楽しめるという点が現代にぴったりです。

↑個人でも集団でも楽しめる推理系ボードゲーム『Micro Macro』

 

その一方、2020年に発売された『Corona – mit Eifer ins Geschäft(「コロナ – 熱意をもって店舗へ」という意味)』というボードゲームも注目を集めました。「外へ買い物に行く」という当たり前の日常生活が困難になったパンデミックの時期を再現したこのゲームは、トイレットペーパーや消毒液など、コロナ禍での必需品を誰が集められるかを競います。対象年齢は7歳からで、遊び方はとても簡単。買い物をするためには「コロナウイルス」という障害を乗り越えなくてはならず、「マスク」や「タクシー」のカードを引いた人はしばらくの間感染から保護されます。

 

このゲームは、ドイツのヴィースバーデン市に住む20歳と14歳の姉妹が開発。最初のロックダウン(都市封鎖)で、トイレットペーパーやマスク、消毒液、小麦粉などがスーパーから消えました。それらを手に入れるために、ソーシャルディスタンスを保ち、マスクや手袋をはめ、必死になって商品を探し回る消費者の姿からアイデアを得たといいます。

 

ロックダウンによって学校や友人との交流が絶たれ、残ったものは時間だけ。しかし、そこでこの2人はその時間を使ってボードゲームを開発しようと思いついたそうです。このゲームは飛ぶように売れ、発売後には、まるで当時のトイレットペーパーのパニック買いと同じくらいの速さで完売になった、と姉妹の父親はインタビューで冗談交じりに話しています。

 

やめろと言われても……

↑コロナボールしようよ!

 

ボードゲームの世界だけでなく、子どもたちは近年「コロナ遊び」を自分たちで生み出し、日常的に楽しんでいます。ドイツの小学生の中では「コロナボール」と呼ばれる遊びが見られるようになりました。

 

ルールは各グループでそれぞれ異なりますが、タネを明かせば、以前から行われていたボール遊びです。日本のドッジボールのように、ボールを投げ合い、ぶつけられた人がコロナに感染。感染しても、誰かにボールを当てれば感染から回復できるというルールです。

 

それ以外にも、罰ゲームを達成することで、ボールを当てられた人(コロナ感染者)は回復し再度ゲームに参加できるルールもあります。「罰ゲームをこなす」というルールは、コロナ禍での「感染後の隔離」と似ている部分もあり、現実の世界でもゲームの世界でも、感染してしまった人は決められた規定を守らなければならないのです。

 

パンデミックが始まった当初、子どもたちが「コロナ遊び」をすることについては、感染防止や道徳的な観点から大人の間で議論されたこともありました。しかし、子どもたちは遊びの天才。コロナボールのように、子どもたちは昔からあった遊びをアレンジしながら、「どうしたらコロナ感染を防げるのか?」「どのようにすれば回復するのか?」というルールやストーリーを自然とゲームに取り入れて、新しい遊び方を生み出しています。大人は反対するのではなく、そっと見守るべきでしょう。

1日のスタートが変わる! スッキリ起きるために最適な「目覚まし音」とは?

新生活が始まる春。出勤・通学のため、これまでと起床時間が変わった人もいるでしょう。朝スッキリ目覚めるためには、ジリジリとけたたましい音か、優雅なメロディー音のどちらが良いのでしょうか?

↑音を変えれば、目覚めも変わる

 

目を覚ましても、強い眠気に襲われることがありますよね。脳や身体がうまく覚醒できない状態を「睡眠慣性」と言いますが、これは目覚めるときに耳にするアラーム音の種類によって影響されることがわかっています。しかし、どんな種類の音楽が睡眠慣性を軽減するのか、詳しいことは明らかになっていませんでした。そこで、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学の研究チームが、50名を対象に実験を行いました。

 

被験者には自宅で普段通り寝起きしてもらい、どんなアラーム音を目覚ましに設定し、どのくらいの眠気レベルがあったかなどを質問。それによって、アラーム音の種類と睡眠慣性のレベルを評価してもらいました。

 

その結果、アラーム音の種類とその音に対する感じ方は、睡眠慣性と関連性は見られなかったものの、メロディータイプのアラーム音は睡眠慣性が低下することがわかったのです。また、メロディータイプではないニュートラルな音は、睡眠慣性が上昇することも判明。

 

つまり、メロディータイプの音で目覚めると眠気を感じにくく起きやすいということ(この実験の共同執筆者の1人はザ・ビーチ・ボーイズの『Good Vibrations』を例として挙げています)。逆に「ピーピーピー」や「ジリジリジリジリ」と、けたたましく鳴る警告音タイプについては、脳の活動を乱したり混乱させたりする可能性があると、研究チームでは見ています。

 

すぐに活動するならメロディー音

私たちは上記のような警告音を設定したほうが「起きられる」と思いがちかもしれません。しかし、実際にはそのような目覚まし音は逆に眠気を増すようです。

 

今回の研究結果は、消防士のように起床後すぐに活動しなければならない人にとって重要であると言われていますが、朝が苦手な人や、学校や仕事などの都合で早起きをしなければならない人も試してみてはいかがでしょうか?

 

【出典】McFarlane SJ, Garcia JE, Verhagen DS, Dyer AG (2020) Alarm tones, music and their elements: Analysis of reported waking sounds to counteract sleep inertia. PLoS ONE 15(1): e0215788. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0215788 

日本は「ロボット製造」で世界一! でも強敵が隣に…

私たちを取り巻くあらゆることに、ロボット技術が使われている現代。そんなロボット業界で日本は“世界1位”であると先日、国際ロボット連盟が発表しました。

 

世界最大のロボット輸出国

↑世界最強のロボット国!

 

世界におけるロボット産業の研究や国際協力を促進している国際ロボット連盟は、世界のロボット市場や売上高などについて発表を行っています。そして2022年3月にリリースされた報告で、「日本は世界最大のロボット生産国である」と述べているのです。

 

その内容によると、世界で使われている産業ロボットの供給量のうち、実に45%を日本が製造。2020年には13万6069台の産業用ロボットが輸出され、輸出率が78%に達しました。しかも日本の企業が設備用として輸入した産業用ロボットはわずか2%。つまり、日本で使われている産業ロボットはほとんどが国内で製造されており、おまけに世界で使われる産業ロボットの半数近くも日本製であるということ。つまり「日本は世界を牽引するロボット産業国」なのです。

 

国際ロボット連盟の事務総長であるスザンヌ・ビラー博士は「日本は高度にロボット化された国。日常生活におけるロボットの使用で、世界的なパイオニア的存在だ」と述べています。

 

世界最大のロボット消費国

日本の産業ロボットの最大の輸出相手国の1つが中国。日本のロボットやオートメーション技術の輸出の36%が、この隣国に送られています。中国はロボット市場の規模が世界で最も大きく、産業ロボット分野は同国の経済成長を支えています。日本が世界最大のロボット輸出国であるならば、中国は世界最大の産業用ロボット消費国なのです。

 

中国政府は2021年末に「ロボット産業発展計画」を発表。今後5年間で、中国国内のロボットレベルを世界の先進水準まで上げ、年20%以上の成長率でロボット産業全体の売上高を増やす目標を掲げているのです。

 

実際、国際ロボット連盟が発表した、従業員1万人あたりのロボット数を表す「ロボット密度統計」を見てみると、中国は2015年に49台で世界25位だったのが、2020年は246台で世界9位まで躍進。世界平均が2015年の66台から、2020年の126台まで約2倍になり、世界全体で産業ロボットの活用が進んでいるとはいえ、中国の成長は世界平均よりも早いペースであることが伺えます。

 

2020年〜2021年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、中国にある日本の自動車工場などが稼働の一時停止などに追い込まれました。しかし、2022年は経済が再び活気を取り戻していくと期待されており、それに伴い中国の産業ロボットもさらに成長していくかもしれません。

 

産業ロボット界で世界のトップを走る日本。すでにGDPでは追い越されましたが、巨大な隣国にこの分野では負けたくないですね。

ビジネスで「絵文字」は使わないほうがいい理由とは? イスラエルの大学の研究

メールはもちろん、LINEやチャットツールもビジネスシーンで多用される現代。社内外の人と上手にコミュニケーションをとるために、絵文字を使うこともありますよね。でもビジネスパーソンとして成功したいのなら、絵文字は使わない方がいいかもしれません。イスラエルのテルアビブ大学が、絵文字の効果について調査しました。

↑絵文字を使うと軽んじられる

 

テルアビブ大学の研究チームは、人が文字だけを見た場合と、絵文字のようなマークを見た場合で、どのような印象を受けるのかを調べるため、複数の実験を行いました。最初は、メジャーリーグのボストン・レッドソックスのTシャツを着ている人を見るというもの。被験者の半分には、「RED SOX」という文字が書かれたTシャツを着た人を見てもらい、もう半分の人には、球団のロゴ入りTシャツを着た人を見てもらいました。

 

すると、「RED SOX」の文字だけが書かれたTシャツを見た被験者グループのほうが、ロゴ入りTシャツを見たグループより、レッドソックスのTシャツを着用した人を「強そうだ」と感じたことが判明。

 

次に、この研究チームは、「LOTUS」という言葉が書かれたTシャツを着ている人と、蓮の花の絵が描かれたTシャツを着ている人を見た場合を同様に調べました。すると、最初の実験と同じように、絵が描かれたTシャツを着ている人より、「LOTUS」と書かれたTシャツを着ている人のほうに被験者は「強そうだ」と感じていることが明らかになりました。

 

さらに、3つ目の実験では、被験者にZOOMでのビデオ通話を通じて、2人の候補者から自分たちの企業の代表に相応しいほうを選んでもらいました。2人の候補者のうち、1人はZOOMのプロフィールに絵文字を使っており、もう1人はプロフィールを文章だけで仕上げています。その結果、62%の被験者が、文字だけでプロフィールを書いた人を選んだのです。

 

絵文字はナメられる

この3つの実験結果から見えてくるのは、メッセージの受け手はイラストやマークではなく文字を見たとき、送り手の「力(地位や権力、権威など)」を感じやすいということ。先行研究では、イラストや絵文字を使った視覚的なメッセージは、送り手が受け手に対して「社会的に近づきたい」と思っているサインとして解釈されることがわかっています。別の関連した研究では、力の弱い人は、力のある人よりも、人との社会的な距離を縮めたいと望む傾向にあると示唆されています。

 

これらの結果を踏まえて、今回の研究を行った研究チームでは、「絵文字やイラストをビジネスの相手に送ることは、自分の力が弱いことを相手に示すことになる」と指摘。絵文字やイラストではなく、文字で自分の力を示す人が職場で昇格していく可能性が高いとも述べています。しかも、この絵文字の効果は、企業の代表でも新入社員でも、まったく同じなのだそう。

 

確かに文章だけのメッセージを受け取るより、イラストや絵文字がついているメッセージを受け取ると、私たちは相手に親しみが生まれ心理的に近づいたように感じるもの。しかし、今回の研究結果を考慮に入れると、私たちはイラストや絵文字を見ると、メッセージの送り手を無意識に過小評価しているのかもしれません。

 

社会人は、このような効果を与える文字と絵文字をうまく使い分けたほうが良いようです。

 

【出典】Elinor Amit, Shai Danziger, Pamela K. Smith, Medium is a powerful message: Pictures signal less power than words, Organizational Behavior and Human Decision Processes, Volume 169, 2022, 104132, ISSN 0749-5978, https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2022.104132.

米バイデン政権、3Dプリントの自家製「幽霊銃」を規制へ。作成者を追跡可能にする義務づけ

米バイデン政権は、3Dプリンターで自作された銃の普及を食い止める新たな措置を講じることを発表しました。同政権は「米全土での銃を使った暴力がはびこり、国際的にも恥ずべきことだ」として銃規制を打ち出していましたが、その新たな一手となります。

 

米司法省は「幽霊銃(Ghost Gun)」の販売と流通を制限する複数の措置を盛り込んだ最終規則を発表しました。これには連邦政府から認可を受けたディーラーや銃製造業者が、顧客に販売する前に(3Dプリント銃など)刻印のない銃器にシリアル番号を付けるのを義務づけることも含まれています。つまり自宅で銃を3Dプリンターで“印刷”しても、誰が作ったか追跡可能にしなければ売ることはできなくなります。

 

すでに銃が氾らんしている米国ですが、特に3Dプリンター製銃が問題視されているのは「誰が作ったか、追跡して突き止められない」ため。未登録で出処が不明のため「幽霊銃」と呼ばれているわけです。追跡不能な自家製銃が犯罪で使われている現実もあり、銃を取り締まる連邦当局はロサンジェルスで押収した銃の4割以上が「幽霊銃」だったと発表していました

 

米国では、3Dプリントされた自家製銃の規制をめぐって一進一退の攻防が繰り広げられてきました。2018年にはDefense Distributed社の3Dプリント銃をめぐる裁判につき、トランプ政権(当時)の国務省は合法的だと認める和解に達したものの、ワシントン州は憲法違反と手続き違反の疑いがあると連邦政府を訴え、禁止を勝ち取っています

 

こうした規則があっても、個人や闇市場業者が3Dプリントした銃を作ったり売買したりすることは止められないはず。ですが、ライセンスを持つ業者が店に持ち込ませないようにするだけでも、少しは効果があるのかもしれません。

Source:The White House
via:Engadget

地球は俺が救う! 世界を変えたい実業家の考え方

実業家の中には「世界を変えてやろう!」という野心を持っている人が少なくありません。ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE World 2022」で登壇したMisty West社(MW社)のレイ・クリスティ(Leigh Christie)はその1人。クモ型ロボットの『モンドスパイダー(Mondo Spider)』を発明するなど、世界的な注目を集めています。どうやって世の中を変えようとしているのでしょうか?

↑世界を救うためにはスマートなテクノロジーを開発するしかない!

 

まずはクリスティ氏を簡単に紹介しましょう。MW社の公式サイトによれば、彼のバックグラウンドは物理工学ですが、マサチューセッツ工科大学大学院で芸術・文化・テクノロジーの修士号を取得。肩書きは起業家・エンジニア・コミュニティービルダーとなっています。これだけでも面白そうな人物であることが伺えますが、彼はなぜ起業しようと思ったのでしょうか?

 

「私は工業デザイナーやエンジニア、発明家として、世の中に大きなインパクトを与えたいと思っていました。そこで起業を考えたとき、頭の中には2つの道がありました。1つは、地下室のガレージに一匹狼のようにこもり、世界を大きく変えられるようなすごい発明を自分ですること。もう1つは、会社を設立して、自分よりも頭のいい人材を雇うこと。意欲的で、情熱にあふれていて、テクノロジーによって世界を変えることに力を注げる人たちを集めることです」とクリスティ氏は言います。

 

同氏は2つ目の道を選び、優秀な人材を集めてMW社を立ち上げました。同社は、サステナブル社会の実現をもたらすテクノロジーの設計と開発を手がけており、その専門分野には光学やクラウドサービス、IoT、BluetoothやWi-Fiなどの通信デバイスが含まれています。「私たちは、国連のSDGsの達成に貢献することを重視しています。例えば、電気自動車メーカーのテスラのように、持続可能な経済への移行を加速させることをミッションにすれば、私たちだって世界最大規模の企業になれるはず。海洋や森林の生態系を守ったり、気候変動との闘いの力になるようなプロジェクトを実行していきます」とクリスティ氏は豪語します。

↑3DEXPERIENCE World 2022で熱く語るクリスティ氏

 

そんな彼を一躍有名にしたのが、モンドスパイダー。これは8本の鋼鉄脚を使って歩行運動をする機械です。「8年ほど前に作ったのですが、当初はボランティアチームによるアートプロジェクトとして始めました。自分たちができることをやっていたら、テレビやイベントなどで数多く紹介されることになり、『モンドスパイダー』はちょっとした名刺代わりになっていきました。カナダのバンクーバーやカルガリーの市長に会ったり、この製品を世界中に発送したり、モンドスパイダーによって私たちのビジネスが大きく変わりました」(クリスティ氏)

 

現在、MW社は面白い取り組みにもチャレンジしています。例えば、折りたたみ式スケートボードや任意の言語を瞬時に翻訳できる万能翻訳機、水中・水底の物体を探る水中音波探知装置など。この水中音波探知装置を使い、水中でホッキョクグマを追跡するなどのフィールドワークも行なっているとか。

 

子どもの歯磨きだって変えられる

その一方、近年、MW社はソフトウェアビジネスに注力しています。「当初、私たちの会社にはソフトウェアなどのエンジニアや電子設計者、次世代の電子製品設計用ソフトウェアを扱えるPCB(プリント基板)デザイナーなどがいませんでした。そのため、数年かけて技術開発スタッフを集め、現在ではソフトウェアはビジネスの重要部分を占めるようになりました」とクリスティ氏は述べます。

 

その背景にあるのは、当然ながらテクノロジーの進化。機械や道具などに情報処理機能を持たせ、コンピュータで最適な制御ができるようにする「インテリジェント化(スマート化)」が進み、それまでつながっていなかった物同士が連携できるようになりました。

 

「インテリジェント化が進めば、IoT端末などのデバイスや、近くに設置されたサーバーでデータ処理・分析を行うエッジコンピューティングの種類は増え、機械学習などはより高度になると言われています。これからのデバイスは私たちが何を望んでいるかを事前に察知し、製品開発を促進するための分析を行い、ユーザーがデバイスをどのように使用しているかを教えてくれることで、生活をよりスムーズにしてくれるのです」とクリスティ氏は言います。

 

インテリジェント化が世界を変える力になると信じているMW社。IoTなどのテクノロジーに懐疑的な人たちに対して、クリスティ氏は「例えば親の立場から言えば、子どもがきちんと歯を磨いているかどうかを教えてくれる子ども用スマート歯ブラシみたいな物はありがたいですよね?」と投げかけます。視点を変えれば、物事の見え方も変わりますが、何か大きなことを成し遂げようとするときは、彼のような柔軟性と信念が必要なのかもしれません。

自分に全集中! 元NASAの宇宙科学教育リーダーが語る「自己実現論」

環境問題、コロナ禍、ウクライナ情勢と、現代社会は混沌の様相を呈しています。人によって生き方や考え方は異なりますが、「少しでも自分を高めたい」とか「夢や目標を実現したい」と思っている人は、こんな時代にどうすれば良いのでしょうか? ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE World 2022」で処世術や自己啓発について語ったハキーム・オルセイ(Hakeem Oluseyi)氏のアドバイスが参考になるかもしれません。

↑自分に専念すれば世界は変わる

 

オルセイ氏はアメリカの天体物理学者です。フロリダ工科大学の物理学と宇宙科学科の教員を経て、NASA本部の科学ミッション本部で宇宙科学教育マネージャーを務めたこともあります。最近ではディスカバリーチャンネルの宇宙関連番組やNetflixのバラエティ番組など、メディアへの出演機会も増えており、北米を中心に認知度を広げています。

 

オルセイ氏の考え方の1つに、「人生にはインスピレーションが必要で、自分の話し方1つで相手にインスピレーションを与える側になれる」があります。つまり、自分の言葉には、生涯を通じて相手——特に若者——の心に響き、自分が思っている以上に大きな影響を与える可能性があるということ。

 

オルセイ氏は若かったころ、学校の先生や周りの大人たちから、さまざまな機会や正しい助言を与えてもらい、自分が活躍できる場に推薦してもらったそう。「同じようなことを自分も若者にすることで恩返しをしたい」という思いが彼にはあります。「世の中には信じられないほどの才能を持った人たちがいて、同じレベルの教育を受けながら社会に出る準備をしています。そういった人たちの才能や努力をつぶす権利は誰にもなく、そういった才能が花開くように応援することが社会貢献である」と考えるオルセイ氏。そのような信念で彼は自分の考えを世の中に伝えています。

↑3DEXPERIENCE Worldにオンラインで参加したハキーム・オルセイ氏

 

そんなオルセイ氏にとってコミュニケーションは重要です。コミュニケーションは話し手と聞き手がメッセージを交換する営みであり、両者によって大切なことが異なります。「話し手にとって重要なのは、聞き手が自分より若かったり、部下だったり、専門分野が異なる人だったりしても、相手と自分を対等に扱い、相手の反応を素直に受け入れることです。逆に、聞き手にとって大切なのは、話し手の言葉が自分にとって納得できるものであるかを考え、そうであれば取り入れること。つまり、聞き手は『自分が進歩するために意味のある内容かどうか』を聞き分けることが肝心です」(オルセイ氏)

 

この考え方はタイミングとも関係しています。歌手のセリーヌ・ディオンは夫から「すべての時間をオンにしておく必要はない。『自分がいまだ!』と思ったときにオンにすることが大事なのだ」というアドバイスを受けたそう。この話を例として挙げながら、オルセイ氏はコミュニケーションでもビジネスでも、メリハリを付けることが大切であると述べています。もっと言えば、それは余計なことに気を散乱させず、いますべきことに精神を集中するということでしょう。

 

オルセイ氏自身がそのように生きてきたそうです。彼は決して恵まれた環境で育ったわけではなく、有名高校を卒業したわけでもありませんが、卑屈にならず、常に情熱的な姿勢で人生を切り開いてきました。「幼いころ、私はミシシッピの森の中のトレーラーハウスに住み、高校を卒業しただけの両親に育てられましたが、小さいときから『僕は物理学者になるんだ』と話していました。どのような逆境に置かれていても、ほかの境遇の人たちと自分を比べるのではなく、自分のことだけに集中して努力する。ただ、それを実行してきただけです」と言うオルセイ氏。

 

「『完ぺきでありたい』『必ずヒットさせたい』『何をやってもうまくいかない』——。そんな思いがあるから物事が難しく見えるのです。何か1つのことに的を絞り、それを達成することに時間を費やしてください。誰もが自分だけのアイデアを持っており、それを評価してくれる人が必ずいるはずです」

 

やるべきことに専念すれば、道は開ける。これは日本人の「お天道様が見ている」という考え方に通じるところがありますが、洋の東西を問わず、大事なことであるようです。「自分の目標が何であれ、どういった分野であれ、何か1つのことをやり遂げるためには、時間をかけてじっくりと取り組むことが必要です。自分が選んだことを全力でやり遂げる、という気持ちを大事にしてください」とオルセイ氏は力を込めて言います。元NASAの宇宙科学教育マネージャーが言うだけに、これは宇宙の真理なのかもしれませんね。

 

執筆者/和多田 恵