レヴォーグと何が違う? スバル都会派ワゴン「レヴォーグ レイバック」をクローズド試乗

スバルのスポーツワゴン「レヴォーグ」をベースに、車高と最低地上高を高めたクロスオーバーモデル「レヴォーグ レイバック(以下レイバック)」が発表されました。このモデルはスポーツ志向が強かったレヴォーグに対し、都会志向のユーザー層をターゲットにする目的で新たなグレードとして追加されたものです。今回はそのプロトタイプの走りを、佐渡島の「大佐渡スカイライン」の一部を閉鎖したコースで体験してきました。

↑試乗コースは「大佐渡スカイライン」。アップダウンとワインディングが続くコースで力強い走りを見せた「レヴォーグ レイバック」

 

■今回紹介するクルマ

スバル/レヴォーグ レイバック

※試乗グレード:Limited EX

価格:399万3000円(税込)

 

レヴォーグのラインナップに追加された「都会派ワゴン」

車名のレイバックとは、「くつろぐ」「リラックスできる」という意味の「laid back」をベースとした造語で、「ゆとりある豊かな時間や空間を大切にする気持ち」をそのネーミングに込めたそうです。スバル車といえば大半の人がアウトドア系のクルマという印象を持っていると思いますが、レイバックはレヴォーグにラグジュアリー路線の新たな価値観を与える都会派ワゴンという位置づけで、新グレードとして新たにラインアップされました。

↑佐渡島の雄大な風景にもマッチする人気色「アステロイドグレー・パール」に身をまとったレヴォーグ レイバック Limited EX

 

それだけにデザインの印象もレヴォーグとはずいぶんと違います。前後のバンパーは丸みのあるレイバック専用とし、フロントグリル、サイドスカートなどにも専用デザインを採用することで都会的な雰囲気を持たせています。これに伴ってボディサイズは全長4770mm×全幅1820mm×全高1570mmと、レヴォーグに比べて若干サイズアップすることになりました。

 

【デザインを画像でチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

また、クロスオーバー車としての走破性を確保するために、最低地上高はベース車より55mm高い200mmとしています。これによって全高は回転式駐車場への入庫で制限が加わる1570mmとなりますが、ホイールベースは2670mmとベース車と変わりません。また、トレッド幅も少し広がっていますが、その差はわずかで普段の取り回しはレヴォーグとほとんど同じ感覚で扱えると思って差し支えないでしょう。

 

乗降性を高めたフロントシート。高い静粛性が快適性をアップ

インテリアは、センターコンソールやアームレスト、シートのサイドサポート部にスバル初となるアッシュカラーを採用したうえに、カッパーステッチを加えることでレイバックならではの落ち着いたカラーコーディネイトを実現しています。また、フロントシートは座面左右の張り出しを抑えてサポートワイヤーをなくすことで、車高が高くなって影響が出やすくなった乗降性を向上。一方で座面のクッションパッドにインサートワイヤーを加えることで適度なホールド性も確保したとのことです。

↑基本的にはレヴォーグと共通のインテリアは、アッシュカラーを採用してシルバー部にほんのりブルーを加えて都会派をイメージした

 

↑最低地上高が高くなってもスムーズな乗降を得るために、シート左右のサポート部にはワイヤーフレームに変更している

 

車内空間については、コンセプト通りの高い静粛性が大きな特徴となっています。タイヤにはオールシーズンタイヤを採用していますが、スバル専用設計として遮音材をしっかりと使って対策をしており、走行時のロードノイズはかなり押さえ込まれています。これならレイバック専用として標準装備された「Harman/Kardon」の10スピーカーサウンドシステムの能力を十分堪能できるのではないかと感じました。

↑後席は座り心地の良いゆとりのあるシートと広々とした足元スペースを確保。後席用のベンチレーションやシートヒーターなども採用

 

↑カーゴスペースはレヴォーグ GT-X EXと同等の561L(サブトランク含む)となっており、アウトバックとクロストレックの中間サイズとなる

 

11.6インチ縦型ディスプレイのインフォテイメントシステムはレヴォーグから引き継いだもので、見やすさと使いやすさを両立させているのが特徴です。

↑11.6インチ縦型ディスプレイを採用したインフォテイメントシステム。「what3words」を採用したほか、Apple CarPlayとAndroid Autoにも対応した

 

ナビゲーション機能には、簡単な3単語を使って正確な位置を調べられる「what3words」を採用。スマホにインストールされているアプリを使えるApple CarPlayとAndroid Autoにも対応したことで、普段聴いている音楽などもそのまま車内で楽しめます。また、専用アプリを用いた遠隔操作により、車外からでもエンジンの始動と空調の設定が可能となる、リモートエアコン機能を新たに用意しているのも見逃せないでしょう。

 

ワインディングでもロールを抑えながら快適な乗り心地を発揮

パワーユニットは、レヴォーグにラインナップされている2.4リッターターボの用意はなく、1.8リッター水平対向4気筒ガソリンターボエンジンのみの構成となります。試乗したクローズドコースはアップダウンのあるワインディングでしたが、それでもパワー不足を感じることは一切ありませんでした。減速した後に立ち上がるまでのラグが若干感じられましたが、通常の走りであればそれほど気になるレベルのものではありません。むしろターボによるトルクフルなパワーは頼もしさを感じます。

↑パワートレーンは水平対向4気筒DOHC 1.8Lターボエンジンで、最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生させる

 

↑アップダウンが激しい試乗コースにもかかわらず、レイバックはスムーズな走行体験ができた

 

足まわりには高い操縦安定性と快適な乗り心地を両立した専用設定のサスペンションを組み合わせています。ロールもしっかりと抑えられていて、段差のある場所を通過してもフワリとこなすあたりはレヴォーグとはひと味違った乗り心地です。ただ、レヴォーグに比べると車高が高いぶんだけステアリングフィールは若干曖昧で、その意味でシャキッとしたフィールを味わいたいならレヴォーグがオススメとなるかもしれません。

 

それでもレイバックはコーナーをややキツめに通過してもしっかりとグリップしてくれ、高い安心感を与えてくれました。聞けばそれはファルケン製オールシーズンタイヤによる効果が大きいそうで、開発者によれば「走行ノイズが少ないうえに、想像以上に高いグリップ力を獲得できる」実力がレイバックでの採用につながったとのことでした。つまり、十分な回頭性を持ちながら快適な乗り心地を発揮する、まさに都会派ワゴンに求められているスペックをレイバックは実現してくれたというわけです。

↑クロストレックにも採用されたオールシーズンタイヤ「ファルケン ZIEX ZE001 A/S」を標準装着とした

 

↑大佐渡スカイラインの展望台で撮影した「レヴォーグ レイバック」の用品装着車。こちらはアウトドア系に振った装備となっていた

 

SPEC●全長×全幅×全高:4770×1820×1570mm●車両重量:非公開●パワーユニット:水平対向4気筒DOHC●エンジン最高出力:177PS/5600rpm●エンジン最大トルク:300Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:非公開

 

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撮影/松川 忍

初代「楽ナビ」展示も! 歴史がまるっとわかるパイオニア楽ナビ25周年イベントに行ってきた

パイオニアのエントリー向けカーナビといえばカロッツェリア「楽ナビ」。登場したのは1998年で、それから25年が経ち、その実績を振り返る記念イベントが、10月5~8日の間、東京・二子玉川にある「蔦谷家電」で開催されました。

↑東京・二子玉川にある「蔦谷家電」2階で開催された「楽ナビ25周年記念イベント」。会場では秋の新商品も出品された

 

↑1998年に初代が登場した楽ナビの、25年にわたる歴史が製品と共に出展された

 

「タクシーに乗ったように行き先を告げるだけで済む」ことが楽ナビの目標

楽ナビといえば登場以来、「高性能なナビ機能を誰でも簡単に」のコンセプトの下、多くの人に親しまれる、裾野の広いカーナビとして絶大な支持を集めてきました。その理由はどこにあったのでしょうか。経緯を少し振り返ってみましょう。

 

パイオニアは世界で初めてGPSカーナビを発売したメーカーとしても知られます。それまでのカーナビは、現在地を地図上に設定してからでないと使えない悩みを抱えていましたが、発売によって初めて常に正しい現在地を地図上に表示できるようになったのです。

 

これが契機となって、他メーカーからも相次いでGPSカーナビが登場。その後、目的地までのルートを自動的に探索して案内する、文字通りのカーナビも誕生し、まさに時代はカーナビによってドライブを楽しむ新たなスタイルが生まれたわけです。

 

しかし、GPSカーナビにも悩みがありました。それは肝心の目的地設定が煩わしく、設定が難しいと感じていた人が少なからず存在したことです。「これを解決しなければ真の普及にはつながらない」。そう感じたパイオニアは、誰でも使えるカーナビの開発に着手。試行錯誤の結果、誕生したのが音声認識機能を使った楽ナビだったのです。

↑1998年に初代が登場した楽ナビ。CD-ROM機ながら、音声で行き先を告げるだけで目的地が設定できた

 

ポイントは「タクシーに乗るときのように、行き先を音声で伝えるカーナビ」にありました。リモコンにある発話ボタンを押して目的地を告げる。これだけで目的地が設定できる、まったく新しいインターフェースを作り上げたのです。スマホもない時代にこれを実現したのはまさに画期的なことだったと言えるでしょう。

 

もちろん、認識精度や検索能力が現在のスマホとは比べものにならないほど低かったのは確かです。しかし、「カーナビを誰でも使えるようにする」楽ナビのコンセプトはこのときに確立し、多くの人に受け入れられて大ヒット。以来、楽ナビは当時のコンセプトを継承しながら、時代に合わせた最適なモデルへと発展しつつも、その精神は今もなお連綿と受け継がれているというわけです。

 

会場ではそんな初代楽ナビをはじめ、その後の歴史を飾った製品が年表と共に展示されました。そのほか、大画面化やフローティング化した最新の楽ナビを一堂に集め、そこでは取り付け例としてスズキ「ジムニーシエラ」や、日産「SAKURA」を出展。楽ナビならではの使い勝手の良さを実際に操作して確認することができました。

↑会場では25年の歴史を持つ楽ナビが築き上げた数々のトリビアも紹介された

 

↑デモカーにはフローティング気候を採用した9型大画面の最新「楽ナビ」を搭載した日産のEV「SAKURA」を出展

 

2023年秋のカロッツェリア最新モデルのラインナップも一堂に展示

この25周年イベントでは、楽ナビ以外にも、10月5日に発表されたばかりのカロッツェリアの最新モデルもいち早く展示されました。

↑10月5日に発表されたカロッツェリアのカーオーディオ商品群も展示された

 

【サイバーナビ】

ひとつがカロッツェリアのフラッグシップナビ「サイバーナビ」の最新モデルです。外観こそ従来モデルを踏襲していますが、注目すべきは中身。カーエンターテインメントの要とも言える高音質化をさらに強化しているのが最大のポイントになります。目指すのは“原音再生”であり、それを支える設計思想として掲げられたのが「マスターサウンド・アーキテクチャー」です。

↑カロッツェリアのフラッグシップナビ「サイバーナビ」も音質を高め、ナビ機能も向上させて新登場した

 

ハイレゾ音源が持つハイクオリティをそのまま再生するために最適かつ厳選されたパーツをセレクト。会場では高音質化の“立役者”ともなった高音質パーツを組み込んだ基板を直に見ることができました。

↑搭載するパーツを厳選することで、サイバーナビとして最高レベルの音質を実現できたという

 

また、サイバーナビが実現してきたネットワーク機能も強化され、目的地のフリーワード検索では住所や電話番号、郵便番号の音声入力に対応できるようにもなっています。

 

【「アドベンチャー」シリーズ】

2023年秋モデルではオーディオ系の新モデルも数多く投入されました。なかでも目を引いたのが、アウトドアレジャーをライフスタイルとして楽しむ人たちに向けた「アドベンチャーシリーズ」です。パワードサブウーファーやツィーター、サテライトスピーカーの3つで、いずれもアースカラーとなるライトベージュカラーを採用し、どんなクルマにもマッチしそうな雰囲気を出しています。また、荷物の積み下ろしなどでも傷つきにくいストーン調塗装を採用するといった、こだわりも見逃せません。

↑より多くの人に好まれるカラーを採用した「アドベンチャーシリーズ」。サブウーファー(中央)とミッドレンジスピーカー(右)、ツィーター(左)で構成される

 

【90系ノア/ヴォクシー/ランディ専用スピーカー】

最近、ドアスピーカーの交換が難しくなっているトヨタ車において、90系ノア/ヴォクシー/ランディ専用に開発されたのがこのダッシュボードスピーカー。スピーカー本体とツィーター部に角度を付けてフロントガラスへの反射を低減し、乗員にダイレクトに音を伝えられるように工夫したことで明瞭感のあるサウンドを楽しめるのが特徴です。また、「フレア形状グリルフレーム」を採用することで、音の回り込みを防ぎつつ、豊かな中低域再生とクリアな高域再生を実現。配線加工や特別な工具も必要なく、簡単に取り付けられるのも魅力ですね。

↑90系ノア/ヴォクシー/ランディ専用スピーカー。ユニット部に角度を付けることで乗員にダイレクトに音を伝えられるように工夫した

 

【ボックススピーカー「TS-X170」/「TS-X210」】

今も根強い支持があるというボックス型スピーカーのニューモデルです。TS-X170はコンパクトなサイズの密閉型スピーカーで、重量が軽いこともあってハッチバック車などにも後方視界を妨げることなくリアトレイに設置できます。一方のTS-X210はバスレフ機構を備えた本格派。サイズは少し大きくなりますが、より豊かな重低音再生が可能となってサウンドへの期待も持てそうです。ワンボックスカーなどへの装着にもピッタリですね。

↑ボックス型スピーカー「TS-XS170」(右)をより軽量な密閉型。「TS-X170」はバスレフ構造とすることで豊かな低音を実現した

 

新製品コーナーには、ほかにも「パイオニアグローバルシリーズ」として、海外で展開されているスピーカーもありました。

↑海外で展開していた「パイオニアグローバルシリーズ」も国内導入が決まった

 

パイオニア初のスマホ用ナビアプリ「COCCHi(コッチ)」が登場!

最後にパイオニア初となるナビアプリ「COCCHi(コッチ)」も紹介しましょう。このアプリは、パイオニアが培ってきたカーナビでの知見が活かされ、スマホ専用カーナビアプリとしてはトップクラスの高精度とドライバーアシスト機能を搭載しているのが特徴です。特にナビ機能では、同社ならではの高度なルーティング技術や走行履歴データを活用。道幅や車線数はもちろん、信号の数や交差点の曲がりやすさなどを考慮して、安全かつ最適なルート探索/案内を可能としています。

↑カロッツェリアの秋の新商品や、パイオニアから新たに発売されたスマホ用カーナビアプリ・COCCHi(左)も展示された

 

↑パイオニアとして初めて用意したスマホ用カーナビアプリ・COCCHi。左は新たにNP1との連携も可能になったディスプレイオーディオ「DMH-SF700」

 

また、アプリ内には「お助けボタン」を用意し、このボタンを押すと周辺にある駐車場やトイレ施設を検索。ほかにも渋滞情報の確認や並走道路への切り替えなどのアシスト機能が利用できるようになっています。Android版/iOS版が用意され、利用プランは月額350円の「基本プラン」と、機能を制限した「無料プラン」の2種類を用意。基本プランは最初の30日間のみ無料で使用できます。

 

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ラージ級ミニバン日本代表に相応しい完成度!トヨタ・アルファード/ヴェルファイア

今回は日本を代表するラージ級ミニバンのトヨタ・アルファード/ヴェルファイアをピックアップ。

※こちらは「GetNavi」 2023年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

ラージ級ミニバン日本代表に相応しい完成度!

トヨタ
アルファード/ヴェルファイア

SPEC【ヴェルファイア Zプレミア(ガソリン・2WD)】●全長×全幅×全高:4995×1850×1945mm●車両重量:2180kg●パワーユニット:2393cc直列4気筒DOHC+ターボ●最高出力:279PS/6000rpm●最大トルク:43.8㎏-m/1700〜3600rpm●WLTCモード燃費:10.3km/l

 

パワーユニットは2種類

パワーユニットは、2.5lハイブリッドと2.4lターボの2種。後者はガソリンがハイオク指定なのが少し気がかりだが、長距離を走る機会が少ない人なら影響は少ないはず。

 

シートアレンジ次第で広さは十分

3列目シートを展開させるとさすがにミニマムなスペースだが、シートアレンジ次第ではボディサイズに相応しい広さも実現可能。床下にも大きな収納スペースが備わる。

 

一層ラグジュアリーな空間に変化!

インパネと前席回りは程度なタイト感を演出。プレミアムなセダンにも通じる上質感を誇る。ガラスルーフやオーバーヘッドコンソールなど、ラグジュアリーな装備も充実。

 

装備面と見た目で棲み分け!

ヴェルファイアと比較すると、アルファードの外観はフォーマルな仕立て。先代比では高級車らしい上品さも向上した。両者では装備面も差別化され、価格帯は540〜872万円となる。

 

快適性と使い勝手も申し分ナシ!

シートはたっぷりとしたサイズで座り心地も上々。左右スライドドア下には、機械式の格納式ステップが装備され乗降性を向上させるなど、使い勝手への細かな配慮も行き届く。

 

見た目に相応しい快適性

外観は、リア回りも華やかさを感じさせる仕立て。ボディサイドの造形も先代より大胆になった。その走りは2トン超えの巨体ながら十分な速さと快適性の高さが印象的だ。

 

見た目の質感はミニバンの域を超えた!

精悍な顔つきに代表される押し出しの強い佇まいは相変わらず。しかし、新型を前にして最初に気付かされるのは質感の高さに一層の磨きがかかっていること。そんな印象は、室内に入るとより鮮明になる。試乗車はヴェルファイアの一番ベーシックなガソリン仕様だったが、適度なタイト感を演出する前席回りはもはやミニバンというよりプレミアムなセダン級。3列目に至るまでゆったりとしたサイズのシートはナッパレザー仕立てで、座り心地もすこぶる良い。特にオットマン付きの2列目は、快適な空調システムやシェード付きガラスルーフの恩恵もあって、極上の居心地を実現している。

 

新型のエンジンは、2.5lガソリン+電気モーターのハイブリッドと2.4lガソリンターボの2本立て。車重は2WDでも優に2t超えとなるが、動力性能はガソリンターボでも何ら不足はなく、フル乗車の状態でもなければパワフルな感触すら実感できる。それを受け止めるシャーシは穏やかな味付けで、乗り心地は速度域を問わず快適。一方、高速域でも過不足のない安定性も兼ね備える。

 

見た目も含めて全方位的に進化した中身と同様、現状では価格まで大幅に高くなった点こそ気にはなる。だが、新型が先代と同じくラージ級ミニバンの決定版であることは間違いない。

 

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トップモデルの出来映えはまさにAMG!実用性もアップしたメルセデスAMG 「SL」

今回は新たにメルセデスAMGブランドの専用車となった伝統のSLを紹介。その出来映えはまさに鉄壁と呼べるものだった。

※こちらは「GetNavi」 2023年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

トップモデルの出来映えはまさにAMG!

メルセデスAMG
SL

SPEC【SL63 4マチック+】●全長×全幅×全高:4705×1915×1365㎜●車両重量:1940㎏●パワーユニット:3982㏄V型8気筒DOHC+ツインターボ●最高出力:585PS/5500〜6500rpm●最大トルク:81.6㎏-m/2500〜5000rpm●WLTCモード燃費:非公表

 

現行AMGでは文字通り最高峰

63のパワートレインは、4lV8ツインターボ+9速ATにSL史上初となる4WDを組み合わせる。なお、ベーシックな43は2lターボ+9速ATで駆動方式は2WD。

 

よりスポーツカーらしく!

先代比ではボディがコンパクト化。外観はスポーツカーらしい引き締まった佇まいになった。また、ルーフはメタル製リトラクタブルハードトップからソフトトップに回帰した。

 

ラグジュアリーにして実用的

インテリアは最新のメルセデスに準じた仕立てながら、ラグジュアリーな風情も満点。乗る人の身長が150㎝までに制限されるが、2人ぶんの後席も用意され乗車定員は4名に。

 

乗車定員が4名になり地味ながら実用性もアップ

SLは、その源流を辿ると1950年代の純レーシングカーに行き着く伝統あるモデル。しかし今回の新型ではメルセデス・ベンツブランドから離れ、メルセデスAMGの専用車となった。先代と比較すると、ボディはコンパクトに引き締まる一方、搭載するハードウエアはAMGを名乗るに相応しい高性能ぶり。また、オープンカーの見せ場であるルーフがリトラクタブルハードトップからソフトトップに回帰したことも目を引くが、後席が用意され乗車定員が4名となったこともトピックのひとつに挙げられるだろう。

 

今回は導入が遅れていた旗艦モデルの63に改めて試乗したのだが、SL史上初となる4WD +4lV8ツインターボの動力性能は圧巻の域。日常域では扱いやすい一方、積極的に操れば盤石の安定感を維持しつつ血の気が引くような速さを披露する。操る楽しさ、という意味ではベーシックな43も魅力的だが「AMGならやはりコレ」と思わせる出来映えだった。

 

 

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話題沸騰中!三菱デリカミニの他の軽とは“ちょっと違う”部分とは?【クルマの神は細部に宿る】

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は話題沸騰中の軽自動車、三菱デリカミニの、他の軽とは“ちょっと違う”部分にフォーカスした!

※こちらは「GetNavi」 2023年11月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)
日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

安ド
元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】

 

三菱
デリカミニ

SPEC【Tプレミアム・4WD】●全長×全幅×全高:3395×1475×1830mm●車両重量:1060kg●パワーユニット:659㏄直列3気筒+ターボ●最高出力:64PS(47kW)/5600rpm●最大トルク:100Nm/2400〜4000rpm●WLTCモード燃費:17.5km/l

514万2000円〜648万8000円

 

デリカミニのオフロード感はあくまで雰囲気!?

安ド「殿、デリカミニ、良いですね!」

永福「うむ。良いな」

安ド「デリカD:5が他のミニバンとはちょっと違うように、デリカミニも、他の軽スーパーハイトワゴンとはちょっと違いますね!」

永福「うむ。ちょっと違うな」

安ド「オフロード感を打ち出していて、個性があってカッコ良いです!」

永福「同感だ。しかしSUVテイストの軽スーパーハイトワゴンなら他にもある。スズキのスペーシア ギアやダイハツのタント ファンクロスがそれだ」

安ド「そうですけど、デリカミニが一番本格的じゃないですか?」

永福「イメージ的にはそうだが、実はデリカミニにはFFモデルもある」

安ド「エッ! あるんですか」

永福「従来のekクロスに比べると、オフロード仕様ゆえにだいぶ最低地上高が高くなっているようにも見えるが、実はタイヤ径が1サイズ大きくなっただけで、車高は1cmしか変わっていない」

安ド「エッ! たったの1cmですか!?」

永福「つまりデリカミニのオフロード感は、スペーシア ギアやタントファンクロス同様、ほとんど雰囲気だけなのだ」

安ド「そう言えば、フェンダーガードっぽい黒い部分や、サイドステップガードっぽいシルバーの部分は塗装やステッカーでした」

永福「エエッ! サイドのアレはステッカーだったのか!?」

安ド「はい。触って確かめました」

永福「フロントやリアのアンダーガードっぽいシルバーの部分はどうだ?」

安ド「あれは本物でした。と言っても樹脂製ですが」

永福「ステッカーよりは良いがな」

安ド「走りも良いですね!」

永福「うむ。試乗したのは4WDターボモデルだったが、エンジンも足まわりも良かった」

安ド「軽スーパーハイトワゴンなので、あまり期待していなかったんですが、良く走ります!」

永福「良く走るな」

安ド「乗り心地がゴツゴツしているのかなって思ったら、ふんわり快適でした」

永福「うむ。ふんわり快適である」

安ド「車高の高さが良い方向に向いているのでしょうか?」

永福「三菱のエンジニアによると、従来よりタイヤ径を1サイズ大きくしたので、そのぶんサスペンションをソフトにしたそうだ」

安ド「それがプラスに働いたんでしょうか」

永福「そのようだ。首都高のカーブでも安定していたぞ。ステアリングの反応も思ったよりもダイレクトだ」

安ド「さすが三菱、オフロード車作りがうまいですね!」

永福「いや、デリカミニのオフロード感はあくまで雰囲気だ」

安ド「僕はオフロードは走らないので、雰囲気だけで良いです!」

永福「私もだ」

 

 

【GOD PARTS 神】ダイナミックシールド

ブランドの不文律に則っていなくても許せる

三菱のアイデンティティといえば「ダイナミックシールド」と呼ばれるフロントデザインがあります。カタチ的にはライトやグリルをメッキパーツで「X」型に形成したものですが、デリカミニでは「X」というより漢字の「八」です。上の部分が足りないのですが、このクルマのカッコかわいいキャラ的には合っています。

 

【GOD PARTS 1】ロールサンシェード

広いウインドウからの日差しをカット!

「プレミアム」系グレードの両側リアウインドウには、普段は巻き取られていて、使いたい時にサッと引き出せるサンシェードが搭載されています。デリカミニのようなスーパーハイトワゴンは窓面積が広すぎるのでこれは便利ですね。

 

【GOD PARTS 2】ヘッドライト

マンガのキャラのような目

まるでマンガのキャラクターのように、白目のなかに黒目があるように見えます。このデフォルメ感が親しみやすさを感じる所以かもしれません。なお、デザインの元となったデリカD:5のヘッドライトはもっとシュッとしています。

 

【GOD PARTS 3】デリ丸。

デリカミニの販売を後押しする人気者

イプサムの「イプー」など、過去にもクルマの宣伝のためにオリジナルキャラクターが作られたことはありましたが、この「デリ丸。」はかなり人気で、グッズを販売してほしいという声が殺到しているのだとか。写真は、契約者特典のぬいぐるみです。

 

 

【GOD PARTS 4】フェンダー

タイヤまわりを黒くしてオフロード車っぽく!

SUVでは、タイヤを囲っている部分に樹脂製のガードなどをつけてオフロード車っぽさを演出することがあります。デリカミニも黒いので別体の樹脂製か? と思いきや同体パーツで、色だけ変えています。ま、張り出してたら車幅オーバーしちゃいますしね。

 

【GOD PARTS 5】視界

さらに窓面積を増やして運転のしやすさを強化

サイドウインドウの前方には縦長のガラス空間があります。ここを1本の太い柱(ピラー)にしてしまうと視界が狭くなるので、2本の柱でガラスを囲んでいます。昔の三角窓のように開けられたらもっと良かったですね。

 

【GOD PARTS 6】リアシート

軽自動車最長クラスの後席スライド量

左右分割が可能で約320㎜もスライドできるので、後席スペースを広くしたり、荷室を広げたりと自由自在です。中央部分はファブリック素材のようですが、表面は撥水処理がされていて、多少の水分であれば弾いてくれます。

 

【GOD PARTS 7】アンダーガード

SUVらしさを高める前後バンパー

フロントとリアのバンパー下部は、黒とシルバーでギザギザのデザインが施されています。障害物にブツけても跳ね返しそうな、いかにもオフロード車っぽいデザインです。サイド(ドア下部)のものはステッカーです。

 

【GOD PARTS 8】ルーフレール

ギア感溢れるアクセサリー装備

オフロード車の定番装備であるルーフレールが、全グレードに標準搭載されています。スキーやスノボなどを収納するキャリアを取り付けられますが、このクルマは結構背が高いので取り付けに苦労するかもしれません。

 

【GOD PARTS 9】サーキュレーター

広すぎる空間の空気を循環!

リアシートの天井にはサーキュレーターが付いていて、後席まわりの広い空間にエアコンの冷気や暖気を循環させてくれます。空気清浄のプラズマクラスター付きで、「プレミアム」系のグレードに標準装備されています。

 

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3000kmのデスロードを太陽光だけで疾走! 世界最高峰のソーラーカー耐久レースで世界一奪還を誓うチームの秘策とは?

ブリヂストンがタイトルスポンサーを務める「2023 Bridgestone World Solar Challenge(以下、BWSC)」は、オーストラリアのダーウィンからアデレードまでの約3000キロの道のりを、太陽光のみで走行する世界最高峰のソーラーカーレース。

 

2021年は新型コロナウイルスの流行により中止されましたが、今年4年ぶりに復活します。2023年10月22日から5日間をかけて競われるBWSCは、全世界20以上の国と地域から43チームが参加し、日本からも大学や高校など複数がエントリーしています。とくに2009、2011年と連覇経験のある東海大学は、人気・実力ともにトップクラス! 世界一を期待されているチームのひとつです。

【関連記事】大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由 |@Living

 

今回は、レースを前に先日、東京都小平市にあるBridgestone Innovation Parkで開催された「Bridgestone Solar Car Summit 2023」の様子を紹介。東海大学の新型マシン「2023年型Tokai Challenger」のお披露目と試走会の様子から、チームやサポートするブリヂストンが4年ぶりのBWSCへかける意気込みまでをレポートします。

 

ソーラーカーの進化は「タイヤ」にあり!?

↑ブリヂストンは新技術によって生まれた再生資源・再生可能資源比率63%の新タイヤをモータースポーツに初めて供給する

 

BWSCは、1987年に第1回大会が開催された世界で最も歴史があるソーラーカーレース。2013年からブリヂストンがタイトルスポンサーを務めています。大会期間中は、毎朝8時~夕方17時までオーストラリアの公道を太陽の力だけで走行。砂漠の中を走るため、風や激しい気温変化に対応しながら、チーム一丸となってゴールを目指します。

 

1996年から東海大学ソーラーカーチームに所属する東海大学 木村英樹教授によると「ソーラーカーレースは、ブレインスポーツ。常にベストなコンディションで走行するためには、気象条件の把握やドライバーとのコミュニケーションが必須。チームで戦わないと勝てません。BWSCは、若手エンジニアの育成だけでなく、テクノロジーの共創といった観点からも大変重要な大会です」といいます。

↑東海大学ソーラーカーチームを率いる、同大学工学部機械システム工学科・木村英樹教授

 

またレーシングカーや飛行機などに用いられるカーボンコンポジット技術を開発する東レ・カーボンマジック株式会社の奥明栄氏も「ソーラーカーは、走る実験室。これらの経験や実験が、ものづくりに貢献する」と語り、未来のモビリティ開発との関係性を強く訴えていました。

↑東レ・カーボンマジック株式会社の奥明栄代表取締役社長

 

さらに株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門長である堀尾直孝氏は「BWSCは、世界中のハイレベルな技術と人が集結する大会。サステナブルなモータースポーツとして価値あるプラットフォームにしていきたい」と、大会の意義について語ります。

↑株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門長の堀尾直孝氏

 

そんなソーラーカーレースの歴史の中で、大きく進化しているのはどこなのでしょうか?

 

木村教授によると、一番の進化はタイヤにあるとのこと。というのも大会の初期には、自転車のタイヤが代用されており、ソーラーカー専用のタイヤは開発されていませんでした。ソーラーカーレースでは、なるべく少ない電力で効率よく走行することが求められます。タイヤが大きく重たいと、タイヤを動かすために必要以上の電力が使われてしまうため、非効率に。しかし軽さにこだわりすぎるとパンクしてしまうリスクが上がります。軽くて摩耗しにくい、そんなタイヤが求められていました。

 

このような背景を踏まえ、タイトルスポンサーであるブリヂストンでは、2013年大会からソーラーカー専用のタイヤ供給を開始。2023年大会では、35チームにタイヤを提供する予定です。

 

↑メディアに初公開された、東海大学ソーラーカーチームの新車「Tokai Challenger」。採用するタイヤには、ブリヂストンの商品設計基盤技術「ENLITEN」を搭載している。左端は工学院大学の濱根洋人教授

 

今大会から使用されているブリヂストンのタイヤは、カスタマイズが可能な「ENLITEN」技術を採用。ソーラーカーで重視される「低転がり抵抗」「耐摩耗性能」「軽量化」に特化したタイヤになりました。さらに再生資源・再生可能資源使用率(MCN比率)も向上し、より環境にやさしいタイヤを実現しています。

 

リサイクル可能な再生材料を利用し、よりサステナブルなソーラーカーを実現

↑「Tokai Challenger」を前に勢ぞろいした東海大学ソーラーカーチームのメンバーたち

 

大きく変わった点は、3つ。まず、四輪から三輪への変更です。こちらはルール変更により、これまで四輪のみ走行可能だったものから、三輪も選択できるようになったとのこと。東海大学では、初の試みとなる三輪(前2輪、後1輪)を選択しました。

 

東海大学の佐川耕平総監督は「最後まで悩んだ部分でしたが、さまざまなシミュレーションを行い、経験値も踏まえつつ空気の絞りが利く三輪を選択しました。大きなチャレンジではありますが、正しい選択だったかはこれからわかること。楽しみですね」と話します。

↑新車で東海大学が採用したのは、新レギュレーションの三輪。後輪が1本で、軽快さが増した

 

2つ目は、軽量化。2023年型は強度・剛性を保ちながら、車体全体重量を24.6kgにまで軽減! これは前回大会の車体から約50%の軽減に値します。軽くなった分、バッテリーやモーターなど駆動に関わる部分の向上にも貢献することができました。

↑軽量化が進んだコンポジットパネル

 

最後は、環境への配慮。これまでリサイクルが難しいとされていた炭素繊維をリサイクル可能な再生材料へと変更しています。

↑リサイクル材からなる炭素繊維

 

走行時、二酸化炭素を排出しないソーラーカーですが、使う素材にまでこだわるのは、BWSCが持続可能なソーラーカーレースに変化しているとも言えますね。

 

コロナ禍の悔しさと走れる喜びを胸に、目指すは世界一奪還!

↑2023年型「Tokai Challenger」

 

今回は新型マシンが披露されただけでなく、実際に走行する様子も見ることができました。快晴の中、滑るように走り抜けるソーラーカーは、太陽の力だけで走行しているとは思えないほどの力強さがありました。

 

BWSCでは、5日間ドライバーを交代しながら時速約90キロで走行し続けます。砂漠の中を走ると聞くと気持ちよさそうに感じてしまいますが、車内にクーラーは搭載されていないため、ドライバーは体力勝負になることも。またコース付近にはホテルがないため、参加者は自分たちでキャンプ地を決め、料理など身の回りのことも全てチーム内で行います。非常に過酷な大会のため、いくら技術があったとしてもチーム力がなくてはゴールを目指せません。

 

今大会でチームリーダーを務める東海大学大学院2年生の宇都一朗さんは、2019年のBWSC経験者。今大会に向けて以下のように話してくれました。

↑東海大学ソーラーカーチームのリーダー、宇都一朗さん。右は佐川耕平総監督

 

「2019年大会は、1位と僅差で負けてしまいました。残念ながらすぐにリベンジとはいかず、悔しさを晴らせないまま卒業していった仲間も多くいます。その仲間のためにも、2011年以来となる首位奪還を目指したいです。この4年間でいろんな経験ができました。たくさんのスポンサーさまにも支えていただきやっと大会に参加できるという嬉しさと、リベンジしたい気持ちを胸に頑張ります」

↑この日は、スポンサーの東レ株式会社、東レ・カーボンマジック株式会社、大和リビング株式会社、株式会社ブリヂストンが参加

 

大学生は4年間という限られた時間の中で、BWSCに挑戦しています。2021年大会が中止になったことで、BWSCに参加できないまま卒業してしまった学生も多くいます。悔しい時期を乗り越え、さらにパワーアップした学生たちを応援しましょう。大会はこの週末から来週にかけて、現地での静的・動的車検などを経て、いよいよ10月22日に北端のダーウィンでレース初日を迎えます。10月29日に南端のゴール地点アデレードで予定されている表彰式では、一番高いところに上れるか? 期待が高まります。

 

改めてトヨタの「RAV4 PHV」に乗って考える、ほかのSUVとの差は?

長い歴史を持ち、これまで世界を席巻してきたシティSUVのトヨタ「RAV4」は今も高い人気をほこる。その理由を分析するべく、今回はトップグレードでもあるプラグインハイブリッドモデルを試乗した。ほかのSUVに勝っている部分はどこか、パワーユニットによる違いとはなんだろうか?

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ RAV4 PHV(BLACK TONE)

価格:563万3000円(Zグレード)

 

世界で人気を誇るクロスオーバーSUVのプラグインハイブリッドモデル

世界中でこれだけ多くのSUVが販売されているなかで、トヨタのクロスオーバーSUV・RAV4は今も昔も世界トップクラスの人気を誇っている。1994年の初代モデルデビュー時は革命児のような存在で、当時はまだSUVが「クロカン(クロスカントリー車)」と呼ばれていた時代。街中でも映える「ライトクロカン」の先駆けとして、またたく間にヒットモデルとなった。

 

時代を経て、いつしか街の風景に似合うクロカンが、「シティSUV」や「クロスオーバーSUV」などと呼ばれるようになるのだが、グローバルモデルであったRAV4は北米でも好評で、モデルチェンジのたびに北米市場に合わせるかのようにサイズが大きくなっていった。現在では間違っても「ライトクロカン」とは呼べない、全幅1855mmの立派な「ミドルサイズSUV」である。

↑ボディサイズは全長4600×全幅1855×全高1695mm。また、現在販売されているZグレードのカラバリは7色展開となっています。写真はメーカーオプションのアティチュードブラックマイカとエモーショナルレッドを組み合わせたカラーリング

 

日本ではサイズ感が合わなくなってしまったため、実は先代型は国内販売されなかったのだが、2019年に登場した現行型は、登場するやいなや驚くほど好調なセールスを記録した。当初は、ガソリンエンジンモデルとハイブリッドモデルのみの設定で、翌20年6月に追加されたのが、今回紹介するプラグインハイブリッドモデルのRAV4 PHVである。

 

エクステリアもインテリアもこだわりの見えるデザイン

今回試乗した車両のグレード名は「BLACK TONE(ブラックトーン)」。実はこれ、2022年10月でカタログ落ちしてしまったグレードで、現在、RAV4のPHVモデルは「Z」という新グレードのみ販売されている状態なのだが、基本性能はBLACK TONEから変更されていない。

 

RAV4のラインナップのなかでも、PHVモデルはトップグレードの位置に置かれており、グリルやバンパーまわりなどフロント部に専用のメッキモールやLEDランプなどが装着され、高級感が高められている。

↑スポーティなイメージを強めたとするフロント。専用のLEDライトは先進性を強調しているそうです

 

↑新たに意匠した19インチ専用アルミホイール。都会のシーンにも合うよう、塗装と仕上げにもこだわっています

 

RAV4自体のデザインについては、直線基調でカクカクしていて、なんだか変形ロボットのようなイメージ。その世界観をうまく壊さないように上質にまとめられているが、幼少時に変形ロボットアニメを見て育った30~40代にとってはこのカクカクデザインが、懐かしくもあり、なんだか新しくもあり、支持される理由のひとつになっているようだ。

 

一方でSUVらしさ、たくましさといった力強い雰囲気はトレンドをしっかり押さえていて、常に世界のトップセールスを争っているトヨタのデザインここにありという自信が伝わってくる。

↑後ろから見てもカクカクとしたデザインが目立ちますね

 

インテリアもこのクラスのSUVのなかではデザインが凝っている。外観に合わせた力強さとモダンさを合わせたような上質な雰囲気ながら、物入れや装備もかなり充実していて、王道のSUVらしい堂々とした佇まいと、使いやすさが両立している。

 

操作部はそれぞれが使いやすい場所へ配置され、あらゆる人にしっくりくるように設計されている。また、SUVらしく着座位置が高いため運転自体はイージーだが、前述のとおり全幅がそれなりに広いため、あまり運転に慣れていない人は、狭い路地や駐車場などですこし苦労するかもしれない。

↑手元のダイヤルで「エコ」「ノーマル」「スポーツ」とドライブモードを変更できます。また、専用の「TRAIL」スイッチも装備

 

↑合成皮革シート表皮採用のスポーティシートを標準装備。横基調のキルティング意匠とレッドリボン加飾で上質さを演出しています

街乗りは超快適、スポーツモードにすれば強力な加速を楽しめる

EVモードにおける、フロントとリアのダブルモーター+CVTによる乗り味は非常にマイルドで、騒音についてもタイヤと路面が生み出すロードノイズしか感じられないほど。快適極まりない。ダイヤル式のドライブモードを「ノーマル」モードから「スポーツ」モードに変更すれば、一転ハイブリッド車となり、エンジンの力強さも加わったトルク感あふれる強力な加速を楽しむことも可能だ。また、電気容量が少なくなってくると自動でハイブリッドに切り替わり、エンジンを使って走りながらある程度充電もされるようになる。

↑RAV4 PHVは2.5L直列4気筒エンジンに加えて、フロントとリアにモーターを搭載。システム最高出力は225kW(306PS)を実現しています

 

車内も乗員の空間が広く感じられ、ロングドライブも快適。当然ながら燃費だってガソリンエンジン車より優れている。PHEVということで、今回はすっかりモーター走行を堪能させてもらったが、低速域や高速道路での走行時もパワー不足を感じることはなかった。さらにSUVでありながらコーナリング姿勢が安定しており、これは、重量物であるバッテリーを床下に搭載していることも貢献しているのだろう。

 

プラグインハイブリッドであることのマイナス面はなかなか見当たらない。荷室スペースについては、少々ガソリン車やハイブリッド車より容量が減っているものの十分使えるサイズだし、これだけ荷物が積めればアウトドアやレジャーでも不足はないだろう。また、荷室内にはAC100Vのコンセントも搭載されているので、出かけた先で家電などを使用することも可能だ。このあたりはSUVであることと、プラグインハイブリッドであることがうまくマッチングしている。

↑荷室スペースの容量は約490L。アウトドアなどで必要十分な装備は積めるでしょう

 

SUV+プラグインハイブリッド搭載モデルといえば、かつてはアウトランダー一択だったが、RAV4 PHVの登場で選択肢が広がった。ただし、ガソリンエンジン車やハイブリッド車であれば300万円くらいから買うこともできるが、このPHVは約560万円。どんなクルマを買うにしてもトップグレードを手に入れたい人や、時代の変化に敏感でEVの購入も視野に入れているような人に相応しい1台といえよう。

SPEC【BLACK TONE】●全長×全幅×全高:4600×1855×1695mm●車両重量:1920kg●パワーユニット:電気モーター+2.5L直列4気筒エンジン●エンジン最高出力:177PS(130kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:219Nm/3600rpm●WLTCモード燃費(ハイブリッド):22.2km/L●WLTCモード一充電走行距離:95km

 

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文・撮影/安藤修也

ホンダ新型「アコード」の魅力を解説! 先進的で斬新な機能が満載

ホンダ「アコード」が、11代目として日本でも2024年春に発売されることが明らかになりました。アコードは1976年に初代が登場したホンダのミッドサイズセダンです。以来、その活躍の場は海外にまで広がり、今やアコードは同社の世界戦略車種として揺るぎない地位を獲得するまでになりました。今回は事前撮影会でキャッチした新型アコードの魅力についてレポートします。

↑北米に続いて、2024年春、日本市場にも投入されることが決まった11代目新型アコード

 

Google ビルトインのインフォテイメントなど先進技術を満載

今回導入されることになった新型は、初代から一貫して持ち続けてきた「人と時代に調和したクルマ」の思想を踏襲。それでいて新開発の2.0L直噴アトキンソンサイクルエンジンと高出力モーターを組み合わせた新開発2モーター式ハイブリッドシステムで、スムーズで上質な走りを実現。そのうえでDセグメントにふさわしい高品質なインテリアと、最新のコネクティビティや最新の安全技術を装備した“新世代のミドルサイズセダン”としています。

 

なかでも注目すべきは、日本のホンダ車として初めてコネクテッドサービスに「Google ビルトイン」を搭載したことと、ホンダが開発を進めてきた最先端の安全技術「HondaSENSING 360」を初採用したことです。

↑日本車として初めてコネクテッドサービスに「Google ビルトイン」を搭載。Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応する

 

Google ビルトインは、OSにAndroidを採用したもので、アコードのダッシュボード上に設置されたインフォテイメントシステムに組み込まれています。ディスプレイは12.3インチとホンダ車としては最大クラスのサイズ。スマホやタブレットのようにタッチ操作ができるほか、Google アシスタントの音声コマンドを活用してGoogle マップで目的地設定、残燃料や走行距離の確認やエアコンの温度調節などが可能となっています。

 

【Google ビルトインを画像でチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

この機能で見逃せないのは、スマホなどで使っているGoogle アカウントでログインできることにあります。これにより、車内で使えるGoogle アシスタントやGoogle マップ、Google Playのほか、最新のアプリなどがひとつのGoogle アカウントの下でシームレスに利用できるようになるのです。たとえば、スマホで管理していたスケジュールや住所などがアコードのインフォテイメントシステムでも反映されるようになり、過去に検索した目的地履歴も反映可能。この便利さは一度使ってみればすぐにわかります。

 

国内初採用となる先進運転支援システムのHondaSENSING 360は、約100度の有効水平画角を持つフロントセンサーカメラと、計5台のミリ波レーダーを組み合わせることで、360度の車両監視が可能になるというものです。なかでも従来のHonda SENSINGの機能に加えて、前方交差車両警報、車線変更時衝突抑制機能、車線変更支援機能もサポートすることになったのは新たなプラス。これがより安心・安全な運転環境が提供されることにつながるわけです。

 

また、ホンダは新型アコードのHondaSENSING 360において、2025年にもドライバーの異常や周辺の環境を的確に検知することで、事故リスクを低減し、さらにハンズオフでの走行が可能になる機能も追加することを予定しています。今後のHondaSENSING 360の進化にも期待したいですね。

 

ロー&ワイドなプロポーションと斬新さあふれる新機能に注目!

さて、新型アコードを前にすると、ロー&ワイドなプロポーションで構成されていることが一目でわかります。メッシュ調のフロントグリルを軸にフルLED化した薄型フロントヘッドライトと、横一文字のリアコンビネーションランプで前後共にワイドな印象を強調。加えて、リア方向の流麗で洗練されたファストバックスタイリングが走りに対する力強さをしっかりと伝えてきます。

↑ロー&ワイドなプロポーションが印象的な新型アコード。リア方向の流麗で洗練されたファストバックタイリングが力強い走りを伝えてくる

 

インテリアは、最近のホンダに多い水平基調のデザインの中に統一感のあるコーディネイトを採用したプレーンな印象。これが開放的でノイズの少ない、優れた前方視界を確保しています。手に触れる部分にはソフト素材をふんだんに採用しており、触感からして上質さをしっかりと伝えてきます。また、クラストップレベルの広さを持つ車内空間は、大人4人(定員は5名)がゆったりとくつろいで移動できる十分な広さとなっていました。

 

【インテリアを画像でチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

車内のLED照明にもこだわりを見せています。それはインパネラインやドアラインなどに施された、色の好みや室内温度などを総合的に判断して“光”で演出するマルチカラーのアンビエントライトです。7色のLEDカラーが用途に応じて自動的に変化するというもので、その光はユーザーが好みに応じて選ぶことも可能。ドア開閉やエアコンの温度調節、音声認識の発話と連動するほか、SPORTモードに切り替えたときには専用カラーへ切り替わってスポーティさを演出します。ややギミック的な印象はぬぐえませんが、使ってみればその変化に意外な楽しさを感じたのも確かです。

↑インパネラインやドアラインなどには“光”で演出するマルチカラーのアンビエントライトを採用

 

使い勝手を高める機能としては「エクスペリエンスセレクションダイヤル」の採用に注目です。車内環境のスマートな操作体験を提供するために考案されたもので、ダイヤルを回してプッシュすることで、使いたい機能をあっという間に選択できる機能です。使いたいスイッチがどこにあったか探す必要なんて一切ないため、車内には従来なら装備されていたハードスイッチ類はほとんど見当たりません。これがインテリアによりスッキリとした印象を導き出すことにもつながったと言えるでしょう。

↑使い勝手を高める「エクスペリエンスセレクションダイヤル」を採用。時計はアナログ/デジタルが選択できる

 

しかも、このダイヤルの中央には時計が表示され、アナログ/デジタル式が選択できるほか、背景には好みの動く模様を設定することも可能となっています。スマホのように、ここに家族の写真とか好みの画像に入れ替えられたらきっと喜ばれるでしょうね。ちなみに、この機能はアジア向けアコードのみに搭載される専用機能とのこと。先行で発表された北米仕様には搭載されていないそうです。

 

事実上のホンダ車のフラッグシップ。新エンジンの走りが楽しみ!

今回はあくまで事前撮影会ということで試乗はできていません。伝え聞くところでは、第4世代2モーターハイブリッドシステムによる走りのパフォーマンスは、相当に期待が持てるとのこと。洗練されたデザインと上質なインテリア、デジタル時代にふさわしいインフォテイメントシステム、最先端の運転支援システムなど、その内容はこれまでの国産セダンにありがちな地味なイメージが払拭される可能性大です。

 

価格は「600万円クラスになりそう」とのことでしたが、車両価格が高くなっている今となってはそれも仕方ないのかもしれません。いずれにしても新型アコードは、日本で販売されるホンダ車にとって事実上のフラッグシップとなります。どんな走りを見せてくれるのか、来年の春の登場が今から待ち遠しいですね。

 

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走りはどう? 日本上陸したBYDのコンパクトハッチBEV「ドルフィン」をチェック

BYDジャパンは8月末、バッテリーEV(BEV)のコンパクトハッチモデル「ドルフィン」のメディア向け試乗会を開催しました。同社は2023年1月にSUV型のBEV「ATTO3(アットスリー)」を発売しており、ドルフィンはそれに続く第2弾。9月20日に正式発表されたモデルの走りをさっそく体験してきました。

↑実車を前にすると意外に大きく存在感がある。写真はドルフィン

 

■今回紹介するクルマ

BYDジャパン/ドルフィン

価格:363万円〜407万円(税込)

 

グレードは「ドルフィン」と「ドルフィン・ロングレンジ」の2構成

ドルフィンを前にして実感するのは、思ったよりも存在感があるということでした。ボディサイズをチェックすると全長4290mm×全幅1770mm×全高1550mmで、クラスとしてはBセグメントとCセグメントの中間に位置するサイズ。これはノートやフィットよりも一回り大きいサイズに相当します。

↑ボディサイズは全長4290mm×全幅1770mm×全高1550mm、ホイールベースが2700mm。写真はドルフィン

 

↑全高はオリジナルよりも20mm低い1550mmとして回転式駐車場への入庫に配慮した。写真はドルフィン

 

ドルフィンで注目なのは輸入車ながら、徹底して日本市場にローカライズされていることです。たとえば全高は、グローバルでは1570mmなのですが、日本仕様だけは回転式駐車場制限に合わせて20mm低くしています。それだけじゃありません。ウインカーレバーを中国本国の左側から右側に変更したほか、急速充電についても日本で一般的なチャデモ方式を採用。そして、日本では装着が義務づけられている誤発進抑制システムや、各種機能の日本語による音声認識機能までも追加しているのです。

↑急速充電は日本で一般的なチャデモに対応(左)。右が普通充電用。写真はドルフィン

 

そのドルフィンは、スタンダードな「ドルフィン」と、より上級な装備を搭載した「ドルフィン・ロングレンジ」の2グレード構成となっています。違いで最も大きいのはバッテリー容量とモーターの出力にあります。

 

ロングレンジはバッテリー容量を58.56kWhとし、一充電での航続距離は476㎞。組み合わせるモーターも最大出力150kW(204馬力)・最大トルク310Nmというハイパワーを実現しています。一方のスタンダードはバッテリー容量が44.9kWhとなり、一充電当たりの走行距離は400km。モーター出力は最大70kW(95馬力)・最大トルク180Nmとなります。

↑ドルフィンのパワーユニットは、モーター出力が最大70kW(95馬力)・最大トルク180Nm

 

駆動方式はどちらも前輪駆動のみ。サスペンションは、フロントこそどちらもストラットですが、リアはロングレンジがマルチリンクを採用し、スタンダードはトーションビームの組み合わせとなっていました。これらの両者の違いも気になるところです。

 

外観上は、ロングレンジにはルーフとボンネットをブラックとした2トーンカラーを組み合わせましたが、スタンダードは単色のみの選択となります。

 

グレードを問わず、最高水準の先進運転支援システムを標準装備

インテリアはとても質の高いものでした。シンプルながら緩やかにラウンドするダッシュボードに、ドルフィン(イルカ)のヒレを彷彿させるドアノブなど、デザインへのこだわりが感じられます。ソフトパッドも随所に施され、コンパクトハッチにありがちなチープさはほとんど感じません。特にロングレンジにはサンルーフやスマホ用ワイヤレス充電器が追加されており、そういった面での満足度は高いと言っていいでしょう。

 

【インテリアなどをギャラリーでチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

加えて驚いたのが先進運転支援システムの充実ぶりです。アダプティブクルーズコントロール(ACC)をはじめ、自動緊急ブレーキ(AEB)やレーンキープアシスト(LKA)、フロントクロストラフィックアラート(FCTA)&ブレーキ(FCTB)、ブラインドスポットインフォメーション(BSI)といった多数の先進機能を装備。さらに室内に2つのミリ波レーダーを搭載し、子供やペットの置き去り検知機能も装備。これらがすべてグレードを問わず標準装備されるのです。

 

グレードによって安全装備にも差を付けていることがほとんどの国産車と違い、安全装備ではグレードに応じて差を付けない。こうした姿勢は高く評価していいと思います。

 

市街地走行に十分なパワー感を発揮する「ドルフィン」

↑スタンダードなグレードとなる「ドルフィン」。試乗は街中から高速道へ続く公道で実施した

 

さて、いよいよドルフィンで公道に出て試乗に入ります。

 

最初に試乗したのはモーター出力を抑えたスタンダードからでした。とはいえ、アクセルを踏むと、車重が1520kgもある印象はまるでなく、スムーズに発進していきます。街中は「エコモード」で走りましたが、もたつく印象は一切なく、ハンドリングは軽めながらも左右の見切りがいいので不安を感じさせません。決して速さは感じませんが、軽くアクセルを踏むだけで交通の流れに乗れるので、運転はとてもラクに感じました。

↑高速クルージングからの加速では実用上十分なトルクを感じた

 

ただ、高速に入ると加速に物足りなさを感じたのは確かです。クルーズモードに入ってからの加減速ではそれほど力不足は感じませんが、高速流入時ではすぐに加速が頭打ちとなってしまい、つい「もう少し!」と叫んでしまいそうになります。

↑高速道路本線への進入ではもう少しパワーが欲しいと感じたが、決して遅いわけではない

 

ステアリングも中間位置が曖昧で、これに慣れないでいると真っ直ぐ進むのに細かく修正を加えながら走ることになります。また、乗り心地についてもスタンダードは路面からの突き上げ感があり、後席に乗ったカメラマンからも「結構コツコツ来ますねー」との声が出たほどです。

 

圧倒的な加速力で目標速度に到達!「ドルフィン・ロングレンジ」

こうした体験の後、次はロングレンジに乗り換えてみました。街乗りからスタートするとすぐにスタンダードとの違いを実感します。路面の段差もしなやかにこなし、不快な感じはほとんどなくなったのです。ステアリングの軽さは大きく変わりませんでしたが、このしなやかさがクルマに上質感を与えてくれています。

↑ドルフィンの上級グレードとなるドルフィン・ロングレンジ。高出力モーターによる圧倒的パワーが醍醐味

 

↑タイヤは両グレードともブリヂストン「エコピア」を履いていた。サイズは205/55R16。写真はドルフィン・ロングレンジ専用デザイン

 

さらに加速の力強さが半端ない! 走行モードを「スポーツ」に切り替えてアクセルを踏み込むと、車重が1680kgもあるクルマとは思えない圧倒的な加速力で目標の速度域に到達したのです。走行モードを「エコ」に切り替えたとしても十分な加速力を実感でき、まさにモーター出力の違いを見せつけられた印象があります。

 

一方で回生ブレーキは2段階を用意していますが、ATTO3と同様、ワンペダルで走れるほど減速感は強くありません。それでもスポーツモードにするとやや減速感が強くなるので、たとえば峠道はより楽に走れるのではないかと思いました。

↑ドルフィン・ロングレンジにはスマホ用ワイヤレス充電機能が装備される

 

↑センターディスプレイはATTO3と同様、タテ表示に電動で切り替えられる

 

ドルフィンで気になるのはやはり価格でしょう。ドルフィンの価格は363万円(税込)、ドルフィン・ロングレンジは407万円で、政府のCEV補助金65万円を適用すれば、ドルフィンは298万円からとなります。正直言えばもう少し安く出てくるかとは思いましたが、昨今の円安を踏まえれば妥当な価格といったとところでしょうか。それでも、この価格は日本で販売される軽EVと真っ向から勝負できる価格。その意味でこのドルフィンは、日本におけるBYDの存在感を打ち出せるか、重要な役割を担っていると言えるでしょう。

SPEC【ドルフィン】●全長×全幅×全高:4290×1770×1550mm●車両重量:1520kg●パワーユニット:交流同期電動機●モーター最高出力:95ps/14000rpm●エンジン最大トルク:180Nm/3714rpm

【ドルフィン・ロングレンジ】●全長×全幅×全高:4290×1770×1550mm●車両重量:1680kg●パワーユニット:交流同期電動機●モーター最高出力:204ps/9000rpm●エンジン最大トルク:310Nm/4433rpm

 

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写真/松川 忍(ドルフィン)、 筆者(ドルフィン・ロングレンジ)

気持ちの良い「音」の秘密に衝撃! ホンダZR-Vのディテールをチェック【クルマの神は細部に宿る。】

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は、ホンダが北米から導入した新型SUV、 ZR-Vを取り上げる。特徴的な顔つきはカッコ良いのか悪いのか!?

※こちらは「GetNavi」 2023年10.5月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)
日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

安ド
元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】

HONDA
ZR-V

SPEC【e:HEV Z AWD】●全長×全幅×全高:4570×1840×1620mm●車両重量:1630kg●パワーユニット:1993cc直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:141PS(104kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:182Nm/4500rpm●WLTCモード燃費:21.5km/L

293万2600円〜410万3000円

 

エンジンがものすごく気持ち良いe:HEV

安ド「殿! 今回はホンダのSUV、ZR-Vです!」

永福「うむ。実質的なCR-Vの後継モデルだな」

安ド「えっ、そうだったんですか。CR-Vよりはコンパクトで、ちょうど良いサイズですね」

永福「CR-Vは世界で5番目くらいに売れているホンダの大ヒットモデルだが、日本ではサイズが大きすぎて売れず、消滅してしまった。そこでCR-Vより少し小さいSUVを、新たに投入したというわけだ」

安ド「クルマって、どんどんサイズが大きくなってきていますけど、海外ではもっと大きくなってるんですね!」

永福「実はこのクルマ、ホンダのメイン市場たる北米では、HR-Vの名前で売られている」

安ド「えっ! 以前日本でも販売されていた、あの小さくてオシャレだったHR-Vが、こんなに大きくなっていたんですか!」

永福「うむ。海外向けの先代HR-Vは、日本の先代ヴェゼルだったが、現行のヴェゼルは、北米では売られていない」

安ド「……何がなんだかわかりません!」

永福「私もだ。ヴェゼルのような日本で売れ筋のモデルは、北米では小さすぎて売れないので、車名が複雑なことになっているのだ」

安ド「とにかくZR-Vは、日本では新型車ですよね!」

永福「うむ。ベースはシビック。シビックのSUVバージョンと思えば良い」

安ド「今回の試乗車はe:HEVというハイブリッドシステムを搭載していますが、これもシビックと同じですね」

永福「だな。私はe:HEVが大好きなのだ。ハイブリッドだが、エンジンがものすごく気持ち良い」

安ド「スポーツモードにすると、エンジンがパワフルで音もスポーティで、たしかに良い感じでした!」

永福「実はその時、エンジンは発電しているだけで、実際にはモーターが駆動しているのだが、ものすごく気持ち良いだろう」

安ド「ええーーーーっ! あの良い音がしてる時、エンジンは発電機なんですか!?」

永福「私も聞いてビックリした。まるでF1マシンのような良い音がするのに、実際には電気だけで走っているんだからな」

安ド「衝撃です!」

永福「衝撃だな」

安ド「もうひとつ衝撃だったのは、顔のおちょぼ口です!」

永福「言われてみればおちょぼ口だな」

安ド「当初はなんだこりゃと思っていたのですが、見ているうちにだんだんマセラティみたいに思えて、好きになってきました!」

永福「言われてみれば、マセラティもおちょぼ口でカッコ良いな」

安ド「昔の価値観だと絶対カッコ悪いんですけど、不思議です!」

永福「ひょっとこのようなおちょぼ口がカッコ良く思えてくるんだから、たしかに不思議だな」

 

【GOD PARTS 神】パワーユニット

ハイブリッドでも速くて気持ち良い

ハイブリッドモデルは、2.0L直噴エンジンに2モーター内蔵電気式CVTを組み合わせた「スポーツe:HEV」を搭載。ドライブモードを「SPORTモード」にすれば、まるで自然吸気式レーシングエンジンのような力強い加速を味わえます。「ECONモード」にしても、街中であれば走りにまったく不満は感じません。1.5L VTECターボエンジン仕様もあります。

 

【GOD PARTS 1】フロントグリル

顔の中央に位置する枠なし個性派デザイン

水平に並んだヘッドライトの間にはグリルが配置されています。グリル自体には枠がなく、内部は11本の縦ラインで仕切られています。フロントまわりの中央に位置していて、なんだかひょっとこ顔ですが、インパクトはかなり強いです。

 

【GOD PARTS 2】ボディカラー

艶っぽさが感じられる上質なボディ色

取材車両のボディカラーは、新色の「プレミアムクリスタルガーネット・メタリック」でした。言葉で表現するのが難しいカラーで、赤かと思いきや紫だったり、マルーンのようにも見えたり、光の状態では茶色っぽくも見えます。ZR-Vらしい艶っぽさが感じられますね。

 

【GOD PARTS 3】ドアハンドル

ムキムキイメージを共通化

顔も個性的ですが、インテリアでも個性を発揮しています。直線的でシンプルだったヴェゼルと比べて、抑揚のある筋肉質な雰囲気です。ドア内側の握る部分も、このようにムキムキな感じで、後述するセンターコンソールと共通イメージになっています。

 

【GOD PARTS 4】車名

 

スタンダード派か個性派か?

かつてホンダのSUVといえば、1990年代にヒットした「CR-V」でした。その後、HR-Vやエレメント、MDXなど個性的SUVを経て、ヴェゼルが大人気に。このZR-VのZには「究極の」といった意味があるそうで、ホンダのSUVここに極まれりという感じでしょうか。

 

【GOD PARTS 5】ハイデッキセンターコンソール

 

上質さと使い勝手の良さを兼ね備えたインテリアはマッチョ系

筋肉質で立体的な造形となったセンターコンソールは、デッキが2層になっていて、下段のトレイには小物を入れることができます。さらに下段の両サイドには、USB端子(Type-AとType-C)を備え、スマホの充電がしやすかったです。

 

【GOD PARTS 6】ラゲッジルーム

必要にして十分な荷室スペース

ミドルクラスのシビックがベースということで、ボディサイズに合わせて荷室もかなり使えるサイズ。リアシートを畳めば床面はほぼフラットになりますし、床下アンダーボックスもあります。荷室内にスポット照明も複数設けられていて便利です。

 

【GOD PARTS 7】シフトセレクター

ホンダの新しいスタンダード?

ボタン式のシフトセレクターが採用されています。クルマのATシフトは、時代ごと、メーカーごとにさまざまに形を変えてきましたが、ホンダはこのボタン式をスタンダードにしていこうと考えているのかもしれません。

 

【GOD PARTS 8】パワーテールゲート

上級車の装備も全モデル標準搭載

荷室のトビラはボタンひとつで開閉できますが、この電動式トビラがZR-Vでは全モデル標準装備になっています。高級車やラージサイズのモデルに多いパワーテールゲートですが、ZR-Vも高ランクのクルマということですね。

 

【GOD PARTS 9】ステアリングヒーター

押しやすいところに配置されたボタン

寒い日に重宝するステアリングヒーターは、パワーテールゲート同様、高級車によく搭載される装備です。ZR-Vでは、ステアリングの手前側、目立つところに設置されていて、すぐにステアリングの持つところを温かくできます。

 

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「e-POWER」は やっぱりセレナの大本命! 最上級グレード「ルキシオン」試乗レビュー

今回は国産ミニバン三強の一角をなす日産・セレナを紹介。一層洗練された自慢のe-POWERに注目だ。

※こちらは「GetNavi」 2023年10.5月号に掲載された記事を再編集したものです

 

NISSAN SERENA

SPEC【e-POWERルキシオン】●全長×全幅×全高:4765×1715×1885㎜●車両重量:1850㎏●パワーユニット:1433㏄直列3気筒DOHC+電気モーター●最高出力:98[163]PS/5600rpm●最大トルク:12.5[32.1]㎏-m/5600rpm●WLTCモード燃費:18.4㎞/L ●[ ]内はモーターの数値

 

“電気感”に一層の磨きがかかった!

昨年リリースされたガソリンモデルに続き、e-POWERを搭載したセレナの発売がいよいよスタートした。シリーズ式ハイブリッドとなるe-POWERは、いまや同社の顔ともいうべきシステムだが、セレナへの採用にあたっては第2世代へとアップデート。発電用ガソリンエンジンも、排気量を先代の1.2Lから1.4Lへと拡大すると同時に静粛性などを高める改良も施された。

 

e-POWER搭載モデルの最上級グレード、ルキシオンでは運転支援システムのプロパイロットが同一車線内でのハンズオフ走行を可能とする「2.0」となることもトピックのひとつ。日産車ではスカイラインで初採用されているが、ミニバンで同様の機能が搭載されたのは世界的に見てもセレナが初だとか。

 

今回の試乗車はそのルキシオン、ということでまずは2.0の効能を再確認してみたのだが、ハンズオフ走行時の自然なステアリング制御や速度管理の巧みさは相変わらず。まったく同じ条件ではないので直接比較するのは乱暴だが、以前試乗したスカイラインのそれと比較すると作動領域が拡大しているように感じられたことも印象的。元々、基本的な操作が簡単なだけに長距離走行の機会が多いユーザーは重宝しそうだ。

 

だが、それ以上に印象的だったのはe-POWERの進化ぶりだ。ルキシオンでは遮音対策が一層入念に施された効果もあってか、日常的な走行条件ではもはや発電用エンジンの存在を意識させない。もちろん、高負荷時には相応の音が車内に侵入してくるがそれも騒々しく感じる類ではない。加えて、純粋な電気モーター駆動なので滑らかな加速感やアクセル操作に対する正確な反応はピュアEVレベル。トヨタのノア/ヴォクシーやホンダのステップワゴンでも電気駆動モデル(ハイブリッド)は選べるが、e-POWERのセレナほど“電気”の存在を実感できないのが本音。長年、国産ミニバン3強として切磋琢磨している各モデルだけに実用性に関する作り込みはいずれ劣らぬもの。加えてそれぞれに独自の持ち味も存在するが、セレナでは第2世代e-POWERこそがキラーコンテンツであることは間違いない。

 

最新モデルらしいデジタル感をアピール

多彩な表示機能を持つアドバンスドドライブアシストディスプレイやコントロールディスプレイ、タッチパネルを駆使したインパネ回りは、いかにも最新モデルらしい仕立て。シフトもボタン操作になった。

 

歴代モデルの面影が残るボディは使い勝手も上々

リアゲート上部を開閉できるデュアルバックドアを先代から継承。使い勝手への配慮に怠りはない。全体の雰囲気は歴代モデルに通じるが、外観は精悍な印象も強まった。

 

クラストップの広さを実現!

室内長、幅はクラストップというだけに各席とも空間的な余裕は十分。2列目にはロングスライド機構も採用する。ルキシオンを除くe-POWER車では8人乗りも実現。

 

上々な使い勝手は歴代モデルから継承

スクエアなボディ形状だけに、荷室は3列目シート使用時でも実用的な広さ。ゴルフバッグなら9.5インチのものが4個収納できる。フロア下にも収納スペースを用意。

 

もはや存在を意識させない!

搭載される発電用の1.4L3気筒ガソリンエンジン。高い静粛性や振動の少なさも従来の1.2ℓエンジンからの進化のポイントとか。

 

走りは静けさに一層の磨きが!

ルキシオンでは、特に日常域の静粛性の高さが印象的。滑らかな加速とアクセル操作に対する正確な反応も電気駆動車ならでは。操縦性は基本的に穏やかな味付けだ。

 

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見た目はセダンとSUVのイイとこ取り! 軽快な走りが魅力な「プジョー 408」をチェック

今回はプジョーのクロスオーバーモデルとなる408を紹介。独自性にあふれた内外装に注目してみた。

※こちらは「GetNavi」 2023年10.5月号に掲載された記事を再編集したものです

 

PEUGEOT 408

SPEC【GT】●全長×全幅×全高:4700×1850×1500mm●車両重量:1430kg●パワーユニット:1199cc直列3気筒DOHC+ターボ●最高出力:130PS/5500rpm●最大トルク:23.5kg-m/1750rpm●WLTCモード燃費:16.7km/L

 

ベーシックな1.2L版でも動力性能の高さは特筆モノ!

これまで中国や南米をメインの市場としてきた408が3代目でガラリと変わり、日本にも上陸を果たした。ご覧の通り、その外観はリアにハッチゲートが備わるファストバックボディにSUV要素をプラス。事実上、308のセダン版だった従来型はもちろん、かつて日本でも発売されていた407とも車名的なつながりを意識させる要素はない。

 

基本的な構成要素は308と多くを共有化しているが、ボディサイズはずっと大きく全長は4.7mと308より20cm以上長い。リアピラーを大きく傾斜させ、グラスエリアをタイトに仕上げた外観は輸入車で近年流行りの4ドアクーペ風。一方、最低地上高は170mmもありハイトが高い19インチのタイヤを組み合わせるなどして、ボディ下半分はSUVらしさをアピールする。佇まいはSUV的セダン/クーペといったところで、イメージはトヨタのクラウン・クロスオーバーが一番近い。

 

そんな、一見スタイリング重視な外観ながら、実用性への配慮に怠りがないのはプジョーらしいところ。前後席の空間は、セダンとして申し分ない広さを確保。荷室に至っては後席使用時でも536L(ガソリンモデル)の容量を誇り、最大では1611L(同)と本格派のワゴンに匹敵する広さを実現している。その意味では、セダン/クーペ風の見た目でもSUVに要求される使い勝手はしっかりとクリアされているわけだ。

 

搭載するパワーユニットは、1.2Lガソリンターボと1.6Lガソリンターボに電気モーターと総電力量12・4kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせたプラグインHVの2タイプ。今回の試乗車は前者だったが、その動力性能は排気量から想像される以上の高さが自慢だ。低回転域から十分なトルクを発揮するエンジンと高効率な8速AT、そして1.5tを切る比較的軽量なボディの効果もあるのか、日常域ではサイズ以上の軽快感すら味わえる。

 

それを受け止めるシャーシも完成度は高い。“ネコ足”と評された往年のプジョーとは趣が異なるが、日常域ではフラットで快適な乗り心地、積極的に操る場面では素直な操縦性を披露する。その意味では、近年ますます選択肢が少なくなっているセダンの代替としても自信を持ってオススメしたい。

 

室内の広さはサイズ相応インパネには眺める楽しみも!

極端な小径ステアリングに代表されるプジョー独自の「iコックピット」は、凝ったグラフィックのメーター回りなどエンタテインメント性も高い。前後席はセダンとして十分な広さを誇る。

パワートレインは2タイプを用意

エンジンは、66㎞のEV走行を可能とするプラグインHV(写真)と1.2Lガソリンターボの2タイプ。組み合わせるトランスミッションは、いずれも8速ATとなる。

 

最新のプジョーらしくエッジの際立つスタイリング

タイヤはグレードを問わず55扁平の19インチを採用。足元はSUV的な力強さを演出する。外観は随所が308と共有化されているが、見た目の印象は完全に別モノ。ボディカラーは、写真のブルーの他に3色が用意される。

 

フランス車らしく荷室の広さもトップ級

実用性を重視するフランス車らしく荷室は広い。写真のプラグインHVは通常時471/454L、最大時は1545/1528Lとガソリン仕様より容量が減少するが、絶対値としてはこちらも十分。

 

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プジョー「408」試乗。トップクラスの質感! 走ればスポーティなハンドリングで楽しい

一目見て「カッコイイ!」そう思わせたのがフランス生まれの新しくなったプジョー「408」です。セダンとクーペ、そしてSUVを融合させたファストバックモデルで、プレスカンファレンスにはアンバサダーに起用された森山未來さんが登場してそのファッショナブルな出で立ちをアピール。近年稀に見る格好良さと存在感を実感した次第です。

 

今回はそのベーシックモデルとなるガソリン車の「408 GT」の試乗レポートをお届けします。

↑新型プジョー「408」のイメージキャラクターには俳優の森山未來さんが務めることになった

 

■今回紹介するクルマ

プジョー/408

※試乗グレード:408 GT

価格:429万円〜669万円(税込)

 

質感の高さはCセグメント中トップクラス!

408 GTのボディサイズ(全長4700×全幅1850×全高1500mm)は、基本骨格こそ308と共通ですが、ホイールベースで110mm、全長では280mm延長されています。それでいて、フロントグリル周りのプジョーらしい精悍なデザイン、205/55R19の大径タイヤを履くことによる引き締めた足元とも相まって、よりスポーティな印象を伝えてきます。

 

ボディデザインはハッチバックゲートを持ち、伸びのあるクーペスタイルと力強いフェンダーラインを特徴とした、いわばクーペ的なデザインを持つSUVとして位置付けられています。全高を1500mmに抑えることでタワーパーキングにも対応しながら、室内に入ればリヤシートの足元も広々。SUVらしくラゲッジスペースもたっぷり取っており、まさに“スタイリッシュSUV”という表現がぴったりです。

 

【ボディデザインをフォトギャラリーでチェック】(写真をタップすると閲覧できます)

 

インテリアは、ダッシュボードやシートなど基本デザインを308と共通のものとしています。ただ、驚くのはその品質レベルの高さで、レザーやスエード、ソフトパッドを場所によって巧みに使い分けており、その仕上がり感はCセグメントでもトップクラスにあるといって間違いありません。

 

小径ステアリング越しに見るメーターからセンターコンソールに至るダッシュボードは、ドライバーを囲むコックピット感が満載。スポーティさも十分に感じられ、この雰囲気作りは「さすがフランス車!」と思える仕上がりレベルです。

↑高品質感が伝わってくる前席まわり。小径・扁平のステアリングホイールでクイックな操作が可能だ

 

一方で、前席の余裕ある空間に対して、後席はヘッドまわりに若干の狭さを感じました。それでも、前方の見通しはそこそこあり、閉塞感を感じさせないあたりは巧さを感じさせますね。

↑「腰に優しく長時間運転しても安心」なシートとしてのお墨付きをもらった前席

 

↑後席に座るときはヘッドレストを引っ張り出すスタイルとなる。後席用ベンチレーターも備わる

 

ただ、インターフェースはイマイチの印象です。空調系は物理スイッチで操作感が伝わってくるものなのに、インフォテイメント系は完全なタッチパネル。それでいて押したときに何の反応もないのは要改善だと思いました。ハザードスイッチも用途を考えたら、空調スイッチと並べずに独立させるべきでしょう。

 

【インターフェースをフォトギャラリーでチェック】(写真をタップすると閲覧できます)

低回転域から発揮する高トルクが力強い走りを実現

ではいよいよ試乗開始です。パワーユニットは、ガソリンエンジン搭載車には1.2L 3気筒ガソリンターボエンジンを、PHEVには1.6L 4気筒ガソリンターボエンジンを採用。今回は残念ながら、試乗するはずだったPHEVにセキュリティ系のトラブルが発生し、代わりにガソリン車の408 GTに試乗することとなりました。

↑ガソリン車には1.2L 3気筒ガソリンターボエンジンを搭載。最高出力130ps(96kW)/5500rpm、最大トルク230Nm/1750rpm

 

↑駆動方式はFF。タイヤサイズは205/55R19とした

 

実は試乗するに際し、「ターボ付きとはいえ、1.2L エンジンでこの大きめなボディに対して、十分なパフォーマンスを発揮できるのか?」と、内心不安があったのも否定できません。そして確かにアクセルを踏み込んだ瞬間は、何となく動きににぶさを感じます。しかし、そんな不安もつかの間。走り出せばすぐに力強い走りを見せてくれたのです。

 

そのワケはこのエンジンが発揮する130ps/5500rpm、230Nm/1750rpmのスペックにありました。最大トルクはほぼ2.5リッターエンジンクラスで、しかも最大トルクは1750rpmという低回転で発生します。加えて、3気筒ならではのレスポンスの良さと、組み合わされる8ATとのマッチングも良好。これが、街中でのキビキビとした動きにつながっていたのは間違いありません。そのうえで、アクセルを踏み込めばターボらしい力強い加速で、一気に車体を高速域まで引っ張り上げてくれたのです。

↑1.2L3気筒ターボエンジンの排気量からは想像できない力強い加速を発揮した新型プジョー408 GT

 

ハンドリングも素晴しいです。交差点を通過するときも、狙ったラインを正確にトレースするので安心感が極めて高い印象。しかも、そのときのフィーリングもしっとりとして気持ちがいい。大径タイヤを履くと、どうしてもバネ下重量が気になる傾向にありますが、そんな心配も一切ありません。思わず408で峠道を楽しんでいる自分の姿を想像してしまったほどです。

 

SUVテイストを発揮しつつ十分なパフォーマンスを発揮

一方で乗り心地は多少、タイトな印象を受けました。サスペンションのストロークが十分にあるのはわかりましたが、車体の高剛性なプラットフォームが影響しているのか、一般道にありがちな段差を超えるときはショックが強めに出る傾向にあったのです。とはいえ、ショックのいなし方が巧みなので不快な印象はありません。むしろ、このハンドリングを踏まえれば、このぐらいの固さはキビキビとしたスポーティさに一役買っているように思いました。

↑路面からはややタイトさを伝えてくるが、しなやかさを伴うことで不快感はまったくない

 

人気のSUVテイストをしっかりと発揮しながら、プジョーならでは乗り味を堪能できる、十分なパフォーマンスを備えた新型プジョー408。価格が499万円(408 GT)と、このクラスのガソリン車としては高めの設定となりますが、装備そのものは輸入車の常でほぼフル装備に近い状態です。国産車は価格が高くなっているにも関わらず、オプションが多いのは相変わらず。その意味でも408 GTは満足度の高い選択となることでしょう。

↑新型プジョー408にはガソリン車の「GT」以外に、PHEVの「408 GT HYBRID」(写真)がラインナップされる

 

SPEC【408 GT】●全長×全幅×全高:4700×1850×1500mm●車両重量:1430kg●パワーユニット:ターボチャージャー付き直列3気筒DOHC●エンジン最高出力:130ps/5500rpm●エンジン最大トルク:230Nm/1750rpm●WLTCモード燃費:17.1km/L

 

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撮影/松川 忍

常識を覆す衝撃の走り……ヴェルファイアとアルファードの差別化を決定づけた2.4Lターボ

都心でクルマを運転していると、見ない日はないくらい街中を走っているのが、トヨタのアルファードと兄弟車のヴェルファイアだ。今や庶民の憧れ、到達点として、かつてのクラウンのレベルに並んでいるか、下手したら凌駕しているような状態である。そして今夏、この2車に4代目となる新型が発売された(ヴェルファイアは3代目)。頂点を極めたクルマの進化とはいったいどんなものか?

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ アルファード/ヴェルファイア

価格:540万~872万円(アルファード)、655万~892万円(ヴェルファイア)

 

ルックスはアルファードの圧勝だが……

今や日本を、いやアジアを代表する高級車に上り詰めたアルファード。レクサスLSやクラウンの後席でふんぞり返っていると、周囲からなんとなく冷たい視線が注がれ、センチュリーを公用車にすると袋叩きにされたりするけれど、アルファードなら誰も文句を言わず、むしろ憧れの視線が注がれるのだから素晴らしいじゃないか。

 

従来型の国産高級車が売れなくなって久しいが、アルファードは一人勝ちで売れまくってきた。そのフルモデルチェンジともなれば、クルマ関連では今年最大級のイベントである。

 

兄弟車のヴェルファイアも、同時にフルモデルチェンジされた。アルファード人気のあおりを食って、先代モデル末期にはアルファードの3%程度しか売れなくなり、今回は消滅・統一されると思われていたが、豊田章男会長の鶴の一声で生き残りが決定したという。先代まではルックスの違いが2台の棲み分けポイントだったが、新型では走りのキャラクターで差別化を図っている。

 

まずはルックスの評価からいこう。新型アルファードのスタイリングは、大人気だった先代型のイメージを強くキープしているが、非常に洗練された印象だ。先代型は巨大な銀歯のようなオラオラ顔にばかり目が行ったが、新型のグリルはメッキ量を減らして威圧感をほどよく抑え、逆にボディフォルムはふくよかにうねらせ跳ね上げつつ、尻下がりのウエストラインでフォーマル感も出している。先代型のほうがインパクトは強かったが、新型のデザインは全体の完成度がとても高い。

↑フロント部は「突進するような力強さを生み出すべくエンブレム部分が最先端になる逆傾斜の形状」を採用

 

↑ボディのサイドにはリアからフロントにかけて流線形を取り入れている。サイズは全長4995×全幅1850×全高1935mm

 

新型ヴェルファイアは、デザイン面ではアルファードのグリル違いに徹している。スタンダード感の強い横桟グリルは、アルファードの鱗グリルに比べるとかなり平凡な印象だ。個人的には、「今回も見た目でアルファードの圧勝だな」と感じたが、ヴェルファイアのスタンダード感を好む方も少なくないらしく、新型は受注の約3割をヴェルファイアが占めているという。

↑横に伸びたグリルが印象的なヴェルファイア

 

↑ヴェルファイアのZプレミアグレードは黒色の「漆黒メッキ」を基調とした金属加飾を施し、モダンかつ上質なデザインにしたとのこと。サイズは全長4995×全幅1850×全高1945mm

 

常識を覆す走りと秀逸な操縦性のヴェルファイア

最初に乗ったのは、ヴェルファイア Zプレミアの2.4L 4気筒ターボエンジン搭載モデル(FF)。最高出力は279馬力だ。このエンジンはアルファードには用意されず、「走りのヴェルファイア」を象徴するグレードになっている。

 

走り出してすぐに衝撃を受けた。ほとんどスポーツサルーンのごとく意のままに走り、曲がり、止まってくれる。これまでのミニバンの常識を引っ繰り返す走りである。

↑走行イメージ。「運転する喜びを感じるための走行性能」を実現したという

 

従来のアルファード/ヴェルファイアは、ルックスの威圧感のわりに加速が物足りなかったが、このエンジンは、先代型の3.5L V6エンジンと比べてもパワフルでレスポンスがいい。バカッ速くはないが、意のままに加速する。燃費も思ったより良好で、燃費計の数値は10km/L弱を示していた。

↑高い加速応答性能と十分な駆動力をそなえ、ペダル操作に対して気持ちよく伸びるという2.4L直列4気筒ターボエンジンを搭載

 

操縦性がまたすばらしい。ミニバンという乗り物は基本的に重心が高く、ボディ剛性も出しにくいから、操縦性はイマイチなのがアタリマエだが、ヴェルファイア2.4ターボは違う。とにかくハンドルの反応がシャープで気持ちいい。ヴェルファイアは、19インチタイヤやスポーティなサスペンションに加えて、車体骨格の前部に補強を施してある。それがこの秀逸な操縦性を生んでいるようだ。

 

しかも、乗り心地も非常にイイのである。足まわりはやや固めだが、路面から伝わる車体の揺れが一発で収まるし、カーブでの車体の傾き(ロール)も小さめなので、結果的にこのグレードが最も快適に感じられた。

↑コックピットには12.3インチの大画面液晶のほか、カラーメーター、同時に複数の情報を見られるマルチインフォメーションディスプレイなどが搭載(画像はExecutive Loungeグレード)

 

↑プライベートジェットのような空間を設えたとする室内

 

クルマ好きが乗っても納得のアルファード

ヴェルファイア2.4ターボの走りの良さに感動しつつ、アルファードの2.5ハイブリッドE-Four「エグゼクティブラウンジ」に乗り換える。エグゼクティブラウンジは贅沢な2列目シートが売りの「動く応接間」。そこに座っていれば、まさにエグゼクティブ気分だが、アルファードの走りは、ヴェルファイアに比べるとだいぶ穏やかで当たり障りがない。ボディ剛性アップの恩恵により、先代に比べればはるかに快適性は高いが、ヴェルファイア2.4ターボの素晴らしさを知った後では、加速や操縦性だけでなく、乗り心地すら若干平凡に感じてしまった。

↑走行イメージ。新モデルは基本骨格を見直すと同時に、乗員に伝わる振動・騒音の低減に徹底している

 

↑運転席と2列目シートおよび3列目シートとの距離は従来型比でそれぞれ5mm/10mm広い前後席間距離を確保した、ゆとりのある空間を実現

 

ただし、2.5ハイブリッドのパワーユニットは先代型から大幅に進化し、システム出力は197馬力から250馬力にアップしている。先代ハイブリッドの走りはかなり眠い印象だったが、新型のハイブリッドは加速のダイレクト感があり、クルマ好きが乗っても「悪くないね」と言えるレベルになっている。

↑システム最高出力250PSの「2.5L A25A-FXSエンジン」。燃費性能も高められており、E-FourエグゼクティブラウンジはWLTCモードで16.5km/Lとなっている

 

↑コックピットは「隅々まで心づかいを施した」と自信をのぞかせる

 

アルファードには、2.5L 4気筒自然吸気エンジン搭載のベーシックなグレードも用意されている。加速はぐっと控え目になるが、「走りはそこそこでいいから、とにかくアルファードが欲しい!」というユーザーも少なくないはず。ハイブリッドより80万円安い価格は魅力的だ。

 

それでもお値段は540万円。ちなみに2.5ハイブリッドのエグゼクティブラウンジE-Four は872万円。10年前なら中古フェラーリが買えた金額なのだから、「うーむ」と唸るしかない。

 

結論として、ルックスは個人的にアルファード推しだが、走りや快適性はヴェルファイア2.4ターボFF(655万円)が抜きん出ていた。見た目を取るか走りを取るか。それ以前にお財布との相談が必要だが、すでに納車待ちは1年以上、ヘタすると2年とか。「KINTO(リース)なら半年後の納車も可能」というトヨタ側の提案を検討せざるを得ないほど、人気大爆発のアルファード/ヴェルファイアなのであった。

SPEC【ヴェルファイア/Zプレミア・ターボガソリン車・2WD】●全長×全幅×全高:4995×1850×1945mm●車両重量:2180㎏●パワーユニット:2393cc直列4気筒ターボエンジン●最高出力:279PS(205kW)/6000rpm●最大トルク:430Nm/1700-3600rpm●WLTCモード燃費:10.3㎞/L

 

一部撮影/清水草一

 

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クーペ+SUVなプジョー「408」、ベストグレードはPHEVではなく…

プジョーの中核を担うモデルでもある408が、フルモデルチェンジでスタイリングを一新した。新型モデルはSUV! 昨年、国産車ではクラウンのSUVが登場して大きな話題となったが、奇しくもプジョー408もセダンからSUVヘと変貌を遂げていた。スタイリッシュなニュースタイルとなったフレンチミドルモデルを、プジョー車オーナーでもある清水草一はどう評価するか?

 

■今回紹介するクルマ

プジョー 408

車両価格:Allure/受注生産 429万円〜、GT 499万円〜、GT HYBRID 629万円〜、408 GT HYBRID First Edition 669万円〜(今回試乗)

 

SUVだが圧倒的に低い全高

世界的なSUVブームにより、現在、全世界で販売されている乗用車の約半分はSUVになった。日本では軽やミニバン(どちらも日本独自のカテゴリー)が強いのでまだ3割程度だが、海外ではSUVが乗用車の絶対的スタンダード。SUVの枠のなかで、さまざまなボディタイプが生まれている。

 

今年日本への導入が始まったプジョー408は、SUVのスポーツクーペ、つまりクーペSUVだ。408のデザイン上の最大の特徴は、全高が1500mmしかなく、SUVとしては非常に低いこと。クーペは重心を低くするために全高が低いものだが、その文法に完璧に沿っているのである。1500mmという全高は、BMWのクーペSUVであるX4(1620mm)に比べても格段に低い。408は、SUVとしては世界で最も背の低い部類に入る。そのぶんスポーティで、古典的にカッコよく見える。

↑機械式駐車場にも入る全高1500mm

 

現在ヨーロッパでは、クーペSUVがかなりの人気を集めている。本物のスポーツクーペは室内がだいぶ窮屈だが、SUVならそれなりの広さを確保できて、実用性とカッコよさを、いい具合にバランスさせることができるからだろう。

↑408 GT HYBRID First Editionの場合、荷室容量は454L。2列目を倒した状態では1528Lになる

 

↑リアシート。リアのニースペースは188mmでゆったりと座れる空間が用意されている

 

408のベースになったのは、ハッチバックの308だが、コロンとしたフォルムの308とは、見た目の印象がまったく異なる。408はカッコを優先したシャープなスタイリングで、若い頃からスポーツクーペに憧れ続けてきた中高年世代としては、「こんなSUVを待っていた!」と言いたくなる。ちなみに全長×全幅×全高は4700mm×1850mm×1500mm、ホイールベースは2790mm。全高に比して全長が長いので、自然とフォルムはシュッとするわけだ。

↑最低地上高は170mm

 

パワートレーンは、1.2L直3ガソリンターボと1.6L直4ガソリンターボ+PHEVの2種類。前者の最高出力130psに対して、後者はシステム最高出力225psと、大きな差がある。前者は3気筒1.2Lゆえに、SUVとしては軽量(1430kg)なのに対して、後者は12.4kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載しており、車両重量は1730kgとかなりの重量級。見た目はほとんど同じだが、中身はまるで違うのだ。

 

価格も3気筒ガソリンの「GT」が499万円なのに対して、PHEVの「GT HYBRID」は629万円。この2台は別のモデルと考えてもいいくらいだ。今回試乗したのは、高いほうの「GT HYBRID」の、さらにお高い「ファーストエディション(669万円)」である。

 

508のPHEVは期待ハズレだったが…

正直なところ、プジョーのPHEVにはあまりいい印象を抱いていなかった。508のPHEVはやたらと車体が重い印象で、加速は重ったるく、本来の軽快な操縦性も損なわれていた。

 

ところが408のPHEVはまったく違っていた。モーターだけでもスルスルと軽やかに加速するし、コーナリングもシャープでスポーティ。どうやら以前試乗した508のPHEVは、初期ロットゆえの熟成不足か、あるいは「ハズレ個体」だったらしい。

 

ちなみに私は現在、508のディーゼルモデルを所有しているが、そちらと比べても408 GT HYBRIDは動きが軽く、直進安定性も操縦安定性も高かった。エンジンがかかった状態でも、驚くほど静かで快適なのだから恐れ入る。

 

ただ、プジョーのPHEVは、ハイブリッドと言うよりもEV+エンジンに近く、バッテリーが残っている間は基本的にモーターで走行し、バッテリーをほぼ消耗し尽くしたらエンジン主体にバトンタッチする単純なシステムだ。

↑満充電までの時間は普通充電器(200V 3kW)で約5時間

 

WLTC燃費は17.1km/Lにとどまり、国産ハイブリッドカーに比べるとかなり見劣りする。スポーツモードにするとエンジンがかかりっぱなしになって、そのぶんパワフルになるが、その状態もあまり魅力的とは言えない。そこを考えると、「やっぱりハイブリッドカーは国産だな」と言わざるを得ない。

 

インテリアは308とほぼ同じだが、質感は十分高く、オシャレでステキなクルマに乗っている感がある。プジョーの定番である小径の楕円ステアリングや、ステアリングの上側から見るメーターなどのインターフェイスは、408のカッコマンなスタイリングとよくマッチしている。

インパネは削り出したような造形が特徴的。インフォテイメントは「i-Connect Advanced」搭載でコネクテッドにも対応

 

408 GT HYBRIDは、見ても乗っても非常に気持ちのいいクルマだが、価格も含めて考えると、3気筒1.2Lガソリンエンジンの「GT」がオススメだろう。プジョーの3気筒ガソリンターボは、1.2Lとは思えない低速トルクがあり、日常域のドライバビリティが素晴らしくイイ。1430kgくらいの車両重量は問題なく走らせるはずだ。そちらに試乗した同業者は、「軽々と走ったよ!」とベタホメだった。WLTC燃費は16.7km/Lなので、GT HYBRIDとほとんど変わらない。

 

ちなみにディーゼルエンジンは、408には本国でも用意されていない。ヨーロッパの乗用車は、ガソリンエンジンより先に、まずディーゼルエンジンと決別する決意を固めているのだ。ディーゼルファンとしては残念だが、今後ディーゼルモデルが追加される可能性がないと聞けば、「ならガソリンだな」と割り切りやすいかもしれない。

 

SPEC【GT HYBRID】●全長×全幅×全高:4700×1850×1500㎜●車両重量:1740㎏●パワーユニット:1598cc直列4気筒ターボエンジン+電気モーター●エンジン最高出力:180PS(132kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:250Nm/1750rpm●モーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm●モーター最大トルク:320Nm/500-2500rpm●WLTCモード燃費:17.1㎞/L●一充電EV走行距離:65km

 

文・撮影/清水草一

ブリヂストンが「ソーラーカーサミット 2023」を開催。なぜ太陽光に力を注ぐ?

ブリヂストンは、ソーラーカーの最新技術と未来を語るイベント「Bridgestone Solar Car Summit 2023」(以下、ソーラーカーサミット)を開催しました。

このイベントには、同社のモータースポーツ部門長・堀尾直孝さんのほか、ソーラーカーについての研究を行う東海大学の木村英樹教授らが登壇。最もサステナブルなEVであるソーラーカーの近年の動向、世界最高峰のソーラーカーレースについて、トークを展開しました。この記事では、その模様をお届けします。

 

ソーラーカーレースのための“究極のカスタマイズタイヤ”

ブリヂストンは世界最高峰のソーラーカーレース「Bridgestone World Solar Challenge」(以下、BWSC)のタイトルスポンサーを務めており、サステナブルなモータースポーツを推進するなかで、技術の極限への挑戦を通じ、ソーラーカーの技術革新を後押ししています。

↑株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門長 堀尾直孝さん

 

BWSCは、20以上の国と地域から40以上のチームが参加するソーラーカーレース。オーストラリアの北部ダーウィンから南部のアデレードまで、約3000kmにもなる道程を太陽光によって生み出された電力のみによって走破する、長く過酷なレースです。

 

堀尾さんはBWSCについて「各国の多様なエンジニアによる産学共創の場、次世代のソーラーカーを作るためのオープンプラットフォーム」だと語ります。2023年10月に開催されるBWSCでは、日本から、東海大学、工学院大学、和歌山大学、呉港高校の4チームが参加予定。ブリヂストンは参加43チーム中、35チームにタイヤを提供予定です。

 

ブリヂストンが提供するタイヤは、ソーラーカーに特化したものになっています。設計を担当した同社の木林由和さんによると「限られた電力で長距離を走り切るための転がり抵抗の軽減や軽量化と、耐パンク性能をはじめとする耐久性を両立した、究極のカスタマイズを施している」とのこと。

↑株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門 MSタイヤ設計第1課 木林由和さん

 

このカスタマイズは、同社の誇る商品設計基盤技術「ENLITEN」により成立しました。またこのタイヤは、環境負荷の軽減にもこだわっており、再生資源・再生可能資源比率が前回大会の30%から63%に増大しています。

 

原付バイク以下の馬力で90km/hを実現

堀尾さんに続いてプレゼンテーションに登壇したのが、東海大学教授の木村英樹さんです。木村さんは、BWSCに出場する東海大学のチームの監督も務めています。木村さんは、ソーラーカーが従来からどれほどの進化を遂げているかについて語りました。

↑東海大学 木村英樹教授

 

ソーラーカーの進化は、太陽光パネル、モーター・インバーター、バッテリー、タイヤといった各種パーツの性能向上に加え、ボディの軽量化や空気抵抗の低減、それらを可能にするコンピューターシミュレーション技術の向上といった、多様な要因によって成り立っています。これらの複合的な進化の結果、近年のBWSCで走行するソーラーカーは、小型化と高速化、信頼性の向上を同時に実現したものになりました。

 

木村さんによると、ソーラーカーの走行速度は、かつては50〜60km/h程度だったそうですが、現在では90km/hにまで上昇。しかも搭載する太陽光パネルの面積を、従来の半分に減らしたうえでの速度向上だといいます。今回、東海大学が2023年のBWSCのために設計したソーラーカーの馬力は原付バイク以下でありながら、この速度を実現します。小さな力で高速を生み出すこの車は、数多の最先端技術の結晶なのです。

 

限界に挑むことで見える世界がある

ソーラーカーのボディに用いられる、炭素繊維強化プラスチック素材を開発する、東レ・カーボンマジックの奥 明栄さんもプレゼンテーションを行いました。同社は炭素繊維の分野で世界のトップランナーである東レグループのなかにあって、炭素繊維の用途拡大を目的とする技術開発を担っています。

↑東レ・カーボンマジック株式会社 奥明栄代表取締役社長

 

↑炭素繊維が使用されるジャンル

 

奥さんは「競争によって生まれるテクノロジーや、世界一を目指すことで生まれるアイデア、限界に挑むことで見える世界がある」と語ります。その考えをもとに、東レカーボンマジックは、東京都大田区の町工場から五輪を目指す「下町ボブスレー」、トラックバイク、スポーツ用の義足、車いすマラソンのホイールなどに素材を提供してきました。

↑東レ・カーボンマジックが支援しているチャレンジャーやアスリート

 

極限の環境で繰り広げられる世界最高峰のソーラーカーレース・BWSCも同様です。同社にとってBWSCは、新技術、高性能化のための手段を実践で試せる「走る実験室」となっています。「BWSCは、学生はもとより、若きエンジニアたちが創造力、判断力、実行力、協調性を身につける場」だと、奥さんは言います。

 

東レ・カーボンマジックにも、学生としてBWSCを経験してから入社した社員がいるといい、彼らは入社時から即戦力として活躍しているそうです。

 

メーカー、科学者、エンジニアから見た、BWSCという大会の意義

プレゼンテーション後には、堀尾さん、木村さん、奥さんに、工学院大学教授の濱根洋人さんを加えた、4名によるクロストークセッションが行われました。そこで各者が強調したのが、BWSCという大会の意義です。

↑クロストークセッションの様子

 

「ブリヂストンがモータースポーツの活動を始めて、60年になります。ブリヂストンとしては、モータースポーツ文化を関連企業とともに支えていくこと、サステナブルなモータースポーツを強化していくことをコンセプトにしていますが、BWSCはこれに合致したものだと思っています」(堀尾さん)

 

「BWSCは、競争であり共創の場です。スタート前はピリピリした雰囲気がありますが、走りきってみると皆笑顔で、各チームによる情報交換が活発に行われています」(木村さん)

 

「BWSCは、“極めて”という表現がぴったりなモータースポーツだと思っています。最先端の素材を、F1より先に実践で使えるんですから」(濱根さん)

 

「色々な技術を持ち寄って、世界一を競うという体験を学生のうちにできるのは、非日常的で、かけがえのないものだと思います。BWSCは、エンジニアとしての可能性を広げ、様々な力を身につける機会になります」(奥さん)

 

ブリヂストンは2020年を「第三の創業」とし、Bridgestone 3.0の初年度と位置付けました。サステナビリティを経営の中核に据え、2050年には「サステイナブルなソリューションカンパニー」を目指しています。 BWSCはブリヂストンにとって単なる大会スポンサーという立場ではなく、今後の未来を占う活動のひとつといえるでしょう。

 

世界の最先端が詰まったBWSCは、2023年10月21日〜29日にかけて開催予定。そこで生まれた出会いが、未来のイノベーションを生むかもしれません。

ベストセラーの後継に相応しい完成度! 2代目メルセデス・ベンツ「GLC」をチェック

今回はメルセデス・ベンツの世界的ヒットとなったプレミアムSUV「GLC」の2代目を紹介。

※こちらは「GetNavi」 2023年9月号に掲載された記事を再編集したものです

 

ベストセラーの後継に相応しい完成度!

メルセデス・ベンツ
GLC

SPEC●全長×全幅×全高:4720×1890×1640mm●車両重量:1930㎏●パワーユニット:1992cc直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最高出力:197PS/3600rpm●最大トルク:44.9㎏-m/1800〜2800rpm●WLTCモード燃費:18.1km/l

 

その走りは進化と同時に深化を実感させる出来栄え

世界的には、メルセデス・ベンツのSUVでもトップセラーを誇ったGLCが2代目へと進化。いまのところ、日本向けの選択肢はマイルドハイブリッドを組み合わせる2lディーゼルターボ仕様のみだが、その走りはすでに盤石といえる完成度だ。先代と比較して特に印象的なのは、動き出しからの滑らかさと静かさ。この点は先代も秀逸だったが、新型はより着実な進化を実感させる仕上がり。2t近い車重に対する動力性能も申し分ない。日常域では力強く、積極的に操る場面ではディーゼルであることを意識させない吹け上がりを披露する。

 

それを受け止めるシャーシも、いかにもメルセデスのSUVらしい。ステアリングの操舵感、足回りのストローク感は上質そのもので快適性の高さはトップレベル。素直な操縦性も相変わらずで、新型ではそこに正確かつ軽快なレスポンスという「深化」が加わる。また、新たに後輪操舵が追加されたことで、日常域での取り回し性能も向上。街中でも1.9m近い全幅を意識させない。

 

その見た目はヒットした先代の後継ということで、イメージを引き継いだ部分が多い新型。しかし、中身は同クラスのライバルをさらに引き離す出来栄えであることは間違いない。

 

街中での扱いやすさに大きく貢献

新型に採用された後輪操舵は、このように低速域だと後輪が大きく逆相に動く。その効果は絶大で最小回転半径はコンパクトカー並みを誇る。

 

現状パワートレインは一択

日本仕様のエンジンは、ISGと名付けられたマイルドハイブリッドを組み合わせる2ℓディーゼルターボのみ。先代より走りの質感が向上した。

 

座り心地、スペースともに上々

先代比で特別広くなったわけではないが、車内空間は十分な広さ。後席は若干硬めだが前席の座り心地は適度にソフトでサイズもたっぷり。

 

ヘビーユーザーのニーズにも対応

荷室容量は通常時で620l、後席を格納すれば1680lに達する。ミドル級としては余裕の広さで、SUVを使い倒したいというニーズにも対応できる。

 

様変わりの度合いは外観以上の室内

画像化されたメーターは「オフロードコックピット」と名付けられたグラフィックも選択できる。インテリアはメルセデスの最新モードに準じた作り。

 

ボディは先代より若干ながら大型化

全長とホイールベースが伸びる一方、全幅は先代と変わらない新型。本国ではすでにクーペ版も登場しているが、いまのところ日本仕様はSUVボディのみのモノグレード。価格は820万円。

 

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個性派RVが欲しいなら狙い目! フィアット「ドブロ」を徹底解剖

今回はフィアット久々の新作である「ドブロ」を紹介。個性派のRVが欲しいという人には狙い目の1台となるはずだ。

※こちらは「GetNavi」 2023年9月号に掲載された記事を再編集したものです

 

“素”の魅力が実感できる欧州産MPVの新作!

フィアット
ドブロ

SPEC●全長×全幅×全高:4405×1850×1850mm●車両重量:1560kg●パワーユニット:1498cc直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最高出力:130PS/3750rpm●最大トルク:30.6kg-m/1750rpm●WLTCモード燃費:18.1km/l

 

室内の広さと使い勝手はライバルと横一線!

MPV(マルチ・パーパス・ビークル)としての基本的な成り立ちは、先に上陸している兄弟車のプジョー・リフターやシトロエン・ベルランゴと変わらないドブロ。しかし、その見た目は両車よりもRV的な飾り気が少なく、良い意味での“道具感”を漂わせる仕上がり。このあたりは、あえて無塗装バンパーの仕様を用意するライバル、ルノー・カングーにも通じるキャラクター作りと言えるかもしれない。

 

商用車ベースとあって、純粋な使い勝手は申し分ない。室内はミニバン級の広さが確保され、荷室はライバルと同等の容量であると同時にスクエアな形状で、この種のクルマを使い倒すユーザーでも満足度は高いはずだ。

 

搭載する1.5lディーゼルターボの動力性能も、MPV用としては満足できる仕上がり。商用車ベースと言いつつ快適性はライバルと同じく乗用車級だけに、個性派のRVが欲しいという人には狙い目の1台となるはずだ。

 

外観同様インテリアもシンプル系

中央に8インチのタッチスクリーンが備わるインパネ回りは、基本的に兄弟車と共通でシンプル。商用車ベースながら、運転支援機能は最新の乗用車らしい充実度。絶対的な広さはもちろん申し分ないレベルだ。

 

兄弟車に対して“ツール感”を強調?

プジョー・リフター、シトロエン・ベルランゴといった兄弟車と比較すると、商用車的なツール感を残す外観。価格は399万円。7人乗りのロングホイールベース版であるマキシ(429万円)も選べる。

 

容量だけでなく秀逸な形状も魅力

リアゲートはガラス部分のみ開閉できるなど使い勝手への配慮も十分。荷室容量は最大で2126ℓに達するが、スクエアな形状にも注目。

 

扱いやすさに加え快適性も上々

搭載するパワーユニットは1.5lのディーゼルターボ。8速ATとの組み合わせで、扱いやすさと乗用車レベルの快適性を両立する。

 

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クルマの神は細部に宿る。【フォルクスワーゲン/ID.4編】欧州でもっとも売れているEVの実力とは?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は、2022年末から日本に導入された、VW(フォルクスワーゲン)が本命と据える新世代EVを取り上げる。

※こちらは「GetNavi」 2023年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)
日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

安ド
元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】

Volkswagen
ID.4

SPEC【Pro】●全長×全幅×全高:4585×1850×1640mm●車両重量:2140kg●パワーユニット:電気モーター●最高出力:204PS(150kW)/4621〜8000rpm●最大トルク:310Nm/0〜4621rpm●一充電走行可能距離:618km

514万2000円〜648万8000円

 

ヨーロッパでもっとも売れているEV

安ド「殿! 今回はVWのEV、ID.4を取り上げます!」

永福「またEVか」

安ド「え? このコラムでEVを扱うのは久しぶりですよ」

永福「そうだったか。最近ニューモデルの試乗というと、EVばかりなのでな。ところが日本では、EVはまだ全体の4%弱しか売れていない。うち半分近くを日産のサクラと三菱のekクロス EVの軽EVが占めている。その他のEVはほとんどが不人気モデル。元気が出ないのだ」

安ド「そうなんですか!?」

永福「前述の軽EV以外でそこそこ売れているのは、日産のアリアとテスラくらい。富裕層の間では、ポルシェのタイカンなどのチョー速EVが人気だが」

安ド「ID.4は、アリアのライバルですね!」

永福「うむ。世界的に見れば、こういうコンパクトSUVタイプが、EVとして最もスタンダード。ID.4は、ヨーロッパで一番売れているEVなのだ」

安ド「EV販売数世界一のテスラより売れているんですか?」

永福「ヨーロッパではな」

安ド「確かに、すごく普通に乗れる気がしました!」

永福「これぞスタンダードだ」

安ド「でも、シフトスイッチがインパネに付いていたり、適度に個性的な部分もあって、なかなか良いと思います!」

永福「デザインもスタンダード感満点だ」

安ド「グリルが小さいのはEVっぽいですけど、それ以外はすっきりスポーティで、カッコ良いと思います!」

永福「嫌味がないな」

安ド「走りも自然でした!」

永福「まるでガソリン車のように自然、と言われているが、驚いたのは、加速が遅いことだ」

安ド「エッ、これで遅いんですか!?」

永福「EVは、アクセルを踏んだ瞬間に最大トルクが出るので、どのEVも、走り出した瞬間は『ゲッ、速い!』と思うものだが、ID.4はその感覚が一番小さい」

安ド「これでですか!」

永福「テスラのモデル3 パフォーマンスなどは、発進加速で本当にムチ打ちの症状が出た。それに比べると“ものすごく遅い”と言ってもいい」

安ド「僕は十分速いと思いましたけど……」

永福「不必要に速くないと言ったほうがいい。VWは大衆車メーカー。その良識の表れだ」

安ド「なるほど!」

永福「そのわりに、電費が特に良くはないのが残念だ。ヒーターも効率の悪いタイプなので、冬場は電気を食うぞ」

安ド「ウリはなんでしょう?」

永福「VWは、グループのアウディ、ポルシェとともに、独自の専用充電ネットワークを作る。ディーラーに行けば、待たずに90 kWの急速充電ができる確率は高い。なにしろ売れてないからな」

安ド「ガクッ!」

 

【GOD PARTS 神】床下の厚み

バッテリーを床下搭載したことで走りも安定

ドアを開けると見るからに床下が分厚いですが、これは床下のアンダーボディにリチウムイオンバッテリーが敷き詰められているためです。重量物であるバッテリーが床下にあるため、必然的に重心が低くなり、走りも安定しています。ちなみにクルマの下側を覗いてみると、バッテリーがあるためフラットになっています。

 

【GOD PARTS 1】ドライバーモニタ

広い視野を生み出す超小型ディスプレイ

運転席前のモニタは薄くて小さいです。小さいので表示される情報も必要最小限ですが、これが意外にも見やすくて、無駄を省くことは大切だと実感させられます。運転席からの広い視界を生み出すことにも役立っています。

 

【GOD PARTS 2】ウインドウオープナー

後席の窓を開けるならワンステップ必要

4ドア車なのに、窓を電動開閉するスイッチであるオープナーが左右2つしか付いていません。しかし、よく見るとその前方に「REAR」と書かれていて、そこを押すとリアウインドウの操作に切り替わります。これはメリットがよくわかりません(笑)。

 

【GOD PARTS 3】ドライブモードセレクター

珍しいところに付いているシフト操作レバー

「ドライブモード」という名が付いていますが、いわゆるシフトセレクターです。運転席モニタの右側に一体化していて、グリンと回すことでシフトを選べます。シフトとしてはいままで見たことのない形状ですが、操作感は意外とすぐ慣れてしっくりきます。

 

【GOD PARTS 4】ラゲッジルーム

広くて使える荷室がアウトドアでも大活躍

SUVスタイルでありながらワゴンのようでもあるID.4。その荷室は前後方向に長く、広くなっています。後席シートを前方へ倒せば1575Lもの大容量となります。スタイリングは都会的ですが、荷室が広いのでアウトドアレジャーにも向いています。

 

【GOD PARTS 5】センターコンソール

ドリンクも小物もいろいろ入る

フロント左右シート間にはシフトレバーがあることが多いですが、ID.4のシフトは右頁のようにメーター横に設置されています。結果、ドリンクホルダーや小物入れがたくさん設置されています。スペースの有効活用というやつですね!

 

【GOD PARTS 6】フロントデザイン

EVに大型グリルは必要なし!

エンジン車ほど吸気を必要としないため、EVに大型グリルは必要ありませんが、ID.4もやはりスッキリした顔をしています。しかし、VWの象徴たるゴルフなどは、最近大型グリルを付けてなかったので、違和感がありません。

 

【GOD PARTS 7】ボンネット下

ありそうでなかった収納

モーターを後輪近くに搭載しているため、ボンネットの下にはきっとポルシェやフェラーリのように収納があるのではと期待したのですが、空調関係の機器などが積まれていました。やはりフロントの収納はあまり使わないからでしょうか。

 

【GOD PARTS 8】アクセル&ブレーキペダル

VWらしい遊びゴコロ

よく見ると両ペダルに「再生」「停止」のマークが付いています。動画サイト隆盛の時代が生み出した遊びゴコロですね。かつてビートルには一輪挿しを付けたこともありましたが、VWはいつの時代も伊達なブランドなのです。

 

【GOD PARTS 9】パノラマガラスルーフ

いまどきっぽい操作で類まれなる開放感

Proグレードのみ標準搭載される大型ガラスルーフです。運転席の頭上あたりから後席後ろまで広がっていて、シェードを開けると車内に開放感があふれます。操作は物理スイッチではなく、タッチして指を前後に滑らせて操作するいまどきっぽい形になっています。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

大ヒット間違いなし! 最新の電動キックボードをプロが紐解く

コロナ以前の日常がほぼ戻ったいま、気付けば2023年も後半戦に突入。この先売れるアイテムと流行るコトを各ジャンルのプロたちに断言してもらった。今回は7月1日より道路交通法の一部が改正された「電動キックボード」についてお届けする。見逃し厳禁! NEXTトレンドの波に乗り遅れるな!

※こちらは「GetNavi」2023年9,10月合併号に掲載された記事を再編集したものです。

私が選びました!

本誌乗り物担当 上岡 篤

最近は電動キックボードのスムーズな走り&ラクさに目覚めた。自転車にもよく乗るので、軽量で涼し気なヘルメットの購入を検討中。

 

スマホひとつで手軽に利用でき街中の移動を快適化できる

シェアリングサービス

Luup

LUUP

基本料金50円+15円/1分

電動キックボードと電動アシスト自転車のシェアリングサービス。東京、大阪、名古屋など7都市(7月現在)でポート(駐輪スペース)を展開する。アプリで年齢確認や支払い先クレカの登録、交通ルールテストを済ませておけば、近場にある利用可能な車両にすぐにライド可能。

↑アプリからポートの場所や利用可能な台数を確認できる。ハンドル横のQRコードを読み取り、返却場所を選んだらライド開始だ

 

↑返却の際は、ポートの緑の枠線内に駐輪。アプリの「ライド終了」をタップしたら、返却車両とポートが写るように撮影した写真を送信する

 

<LUUP安全講習会取材メモ>公道に繰り出す前に操縦に慣れる機会は貴重

今回の法改正に合わせて、LUUPの利用者向けの安全講習会を複数エリアで実施。今後も継続的な開催を目指すということなので、新ルールや車両の操縦に不安があるなら必ず参加しよう。

POINT1:酒気帯び運転厳禁や道路標識など基本的な交通ルールを遵守

当然のことながら、酒気帯び運転は厳禁。普通免許などを取得しておらず、道路標識のルールについて学んだことがない人はその点も確認しよう。

 

POINT2:車道通行が原則! 交通量や交通規制も確認して走行

車両の速度制限や交通規制など、特定の条件下で歩道等を通行できる場合もあるが、原則は自転車と同様に、車道の左側端を走る車両だ。

 

POINT3:交差点では二段階右折 難しい場合は降りれば歩行者扱い

原付に乗らない人に馴染みが薄いのが二段階右折。とっさに迷った際や、交通量が多く危険だと判断した際は、手押しで歩行者として通行しよう。

 

誰もが利用しやすくなるが基本的なルールの再確認を

都市部のLUUPを中心に、新たな移動手段のひとつとして存在感を増している電動キックボード。基本的な操縦が手元のみで行えて非常にラクな乗り物だ。アクセル、ブレーキ、ウインカーに加えて車両の速度制限の切り替えさえマスターすれば、ハンドリングも簡単で、自転車のような感覚で乗り回せるだろう。車道では20km/hまで速度が出せるようになったため爽快感もあり、心地良く走れる。

 

安全講習会の参加者からも、「シェアリングは必要なときに使えて便利」、「意外とスピード感があり操縦も簡単」など、肯定的な意見が多かった。しかし、その一方で「ルールの周知と、利用者側の守る意識がなければ、事故が増えそう」といった声も多く聞かれた。

 

今回の法改正では、車両区分が変わったことで運転免許が不要になったのが大きな変更点。なお、交通違反した場合は、反則点ではなく、違反者講習の受講や罰則(罰金や懲役)を命じられる。16歳以上であれば利用できるが、基本的な交通ルールを理解したうえで、実際の交通規制や交通量を確認しながら運転することが必須。走行中に何か困ったときは、一度降車して手押しすることで、歩行者として通行する方法をLUUPでは啓発している。また、ヘルメットの着用も努力義務にとどまるが、万一の事故で被害を抑えるためには着用するのが望ましい。

 

シェアリングだけじゃない! 新しい安全規格を満たしたモデルが続々

電動キックボードはシェアリングサービスに限らず、個人で購入して常用することもできる。法改正に伴い安全規格や必要な手続きも刷新されたので要チェック!

 

【その①】電動モビリティの大手によるタフな新モデルが登場

YADEA

KS6 PRO 

電動モビリティ世界最大手である同社の最新モデル。フロントサスペンションの搭載により段差を乗り越えやすく、耐パンク加工を施したタイヤを装備した。高強度アルミフレームを採用し最大荷重110㎏を実現。

↑ロック解除、レバーを引く、折りたたみ用フックに引っ掛ける、と3ステップで折りたためる。コンパクトに収納可能

 

【その②】低速トルクチューン設計で急な坂道でもラクに上れる

SWALLOW

ZERO9 Lite 

後輪駆動小径タイヤを採用。時速20km以下のトルク性能に長け、スイスイと登坂できる。「特例特定小型原動機付自転車」として一部の歩道を通行できる機能は非搭載。

↑歩道モードを省き、車道を快適に走行できる設計に注力。前後輪のサスペンションとパワフルなモーターを備える

 

【その③】安定感を追求した3輪構成のモビリティ

ストリーモ

S01JT

自分のペースで移動しやすい立ち乗り3輪モビリティ。独自の「バランスアシストシステム」の搭載により、超低速から快適な速度までどの速度域でも安定した走行を実現した。

↑前輪1輪+後輪2輪の3輪構成。デコボコした石畳や傾斜のある路面でもふらつきにくく、安定感を保持できる

 

<ヒットアナリティクス>利用者層の拡大に伴いルールの周知徹底も急務

「16歳以上なら免許不要で乗れて、学生から高齢者まで利用者層が拡大。特にLUUPのポートがある都市部では7月以降、利用者の姿を頻繁に目にします。ルールの周知や地方へのポート設置が進み、安全かつ便利なモビリティとしての普及に期待」(上岡)

 

個人で購入・公道走行するための3STEPS

STEP1:保安基準に適合した モデルを選ぶ

国土交通省認定機関による性能等確認制度をクリアした車両には、「性能等確認済」と記されたシールが貼られる。上記3モデルはいずれもクリア済みだ。

 

STEP2:ナンバープレートの 取得・取り付け

住んでいる自治体の役所に行き、必要書類の記入などを経てナンバーを発行する必要がある。なお、原付バイクと同様に、軽自動車税の課税対象となる。

 

STEP3:自賠責保険に加入

公道を走るには自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)への加入が義務。加入や更新の手続きはコンビニなどでもできる。任意保険は別途検討しよう。

ランボルギーニ、EVスーパーカーをチラ見せ……18日にお披露目へ

Lamborghini(ランボルギーニ)は8月18日に公開予定の完全EVスーパーカーのシルエットを、X(旧Twitter)に投稿しています。

↑ Lamborghiniより

 

スーパーカーで名高いランボルギーニですが、同ブランドは今年3月にプラグインハイブリッド(PHV)モデルの「Revuelto(レヴエルト)」を発表。また、2024年にはスポーツカー「ウラカン」も電動化(PHV)される予定です。

 

 

今回ランボルギーニが公開したシルエット画像では、フロントガラスから長く傾斜したルーフへと流れる、流線型のシルエットがわかります。現時点ではこれ以上の詳細は判明していませんが、同車両はスーパーSUV「ウルス」に続く、ランボルギーニにとって第4のモデルとなることが決まっています。

 

ランボルギーニ初の完全EVスーパーカーは、8月18日のモントレー・カー・ウィークにてコンセプトカーが公開される予定です。ただしこれはあくまでもコンセプトカーで、実際の車両は2030年までに販売される予定となっています。ランボルギーニの完全EVスーパーカーがどのような姿でデビューするのか、実に気になるところです。

 

Source: Lamborghini / X via Engadget

2023年上半期「乗り物系」で話題になったものといえば? 3大トピックを解説!

『GetNavi』が選ぶ「2023年上半期売れたものSELECTION」。今回は「乗り物編」から、上半期話題となった3つのトピックを紹介します!

※こちらは「GetNavi」 2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【トピック01】自転車用ヘルメット着用努力義務化

ヘルメット然としていない自然なキャップスタイル

●写真提供: オージーケーカブト

オージーケーカブト
LIBERO
9680円

自転車用のSG基準の安全性を満たした軽量インモールド成型のヘルメットに、キャップ型のヘルメットカバーをかけたモデル。つばのエッジ部分のパイピングなどにもこだわり、自然なキャップスタイルを演出する。

↑多くの日本人の頭部形状データに基づく設計で、快適な被り心地を実現。軽量コンパクトなソフトシェルを採用する

 

【コレもCheck!】
週末のツーリングに合うアウトドアテイスト

オージーケーカブト
DAYS
9240円

広めのツバで日差し対策もできるアウトドアテイストなモデル。フチに仕込んだワイヤーで、形状のニュアンスを好みに応じて作れる。夜間の走行時に安心なリフレクター素材も装備する。

 

【ヒットのシンソウ】

<証言者>「GetNavi」乗り物担当・上岡 篤

普段から自転車にはよく乗るのでヘルメットの購入を検討中。軽く涼し気なモデルが希望。

●施行時期が報道されると問い合わせが急激に増加

「2023年4月の着用努力義務化が報じられると、消費者からの問い合わせが急激に増加。人気モデルは品薄で、解消は9〜10月までかかりそうです」(上岡)

売れ行き:★★★★
革新性:★★★
影響力:★★★★

 

【トピック02】相鉄・東急新横浜線

神奈川県央から東京都心、都心部から新横浜が近くなった!!

●写真提供:相模鉄道・東急電鉄

相模鉄道・東急電鉄
相鉄・東急新横浜線

相鉄・東急新横浜線は、相鉄線西谷駅から新横浜を経由し、東急東横線・目黒線の日吉駅までを結ぶ約12.1kmの新路線(※)。相鉄線二俣川駅から東急目黒線・目黒駅までは最速38分で到達するなど、利便性が向上した。

※相鉄新横浜線は2019年に一部先行開業
↑東急東横線・目黒線は多くの鉄道会社車両が乗り入れることに。行き先も多いので、乗車時によく確認したい。●写真提供:相模鉄道・東急電鉄

 

↑新横浜駅での東海道新幹線への乗り換えが便利に。臨時列車だが早朝新横浜始発の、新大阪行きのぞみ号も設定

 

【ヒットのシンソウ】

<証言者>「GetNavi」乗り物担当・上岡 篤

●広域鉄道網の整備により移動が便利かつ活発に

「新路線の開業で神奈川県央エリアと東京都心部、横浜を結ぶ広域ネットワークが完成。移動も便利になり、2023年3月の相鉄・東急新横浜線の1日平均輸送人員は6万6251人にものぼったほどです」(上岡)

利用者数:★★★★
革新性:★★★
影響力:★★★★

 

【トピック03】JAL国内線航空券タイムセール

日本どこでも大人一律6600円! 一時はサイトへのアクセスが困難に

JAL
国内線航空券タイムセール
6600円(子ども4950円)

「JALスマイルキャンペーン」の一環として3月9日午前0時からウェブ限定で予約受付開始。国内線全路線一律大人6600円(片道)という破格の値段で搭乗できるとあって、発売直後からアクセスが殺到した。

↑一部の路線は対象外となったが、沖縄や北海道などの人気路線も含まれた。空港施設利用料は別途必要だ

 

【ヒットのシンソウ】

<証言者>「GetNavi」乗り物担当・上岡 篤

●発売日はアクセス殺到!  販売中止になるほどに

「アクセスが集中して3月9日はウェブサイトにつながりにくい状態になり、販売中止になるほど。以降の販売時には販売開始時間前に『仮想待合室』で待機し、抽選順に予約ができる方法に変更されました」(上岡)

売れ行き:★★★★
革新性:★★★
影響力:★★★★

人気の秘密は「8人乗り」にあり。日産「セレナ」の新e-POWERモデル総合力チェック!

いまや日産の主力ミニバンとなったセレナが、6代目としてフルモデルチェンジしたのが2022年の暮れ。先代に続いてガソリン車とe-POWER車の2本立てを基本としていますが、23年4月、人気の8人乗りをe-POWER車にもラインナップ。さらに最上級の「e-POWER LUXION(ルキシオン)」を追加するなど、選択肢の幅は大きく広がりました。

 

今回の試乗ではその中から一番の売れ筋となっている「e-POWER ハイウェイスターV」を選択し、その実力に迫ってみたいと思います。

 

■今回紹介するクルマ

日産/セレナ

※試乗グレード:e-POWER ハイウェイスターV

価格:276万8700円〜479万8200円(税込)

↑2023年4月から販売を開始したセレナ「e-POWER ハイウェイスターV」。販売比率はガソリン車を上回る6割近くに達する

 

「e-POWER」車比率がアップ。秘密は8人乗りの実現にあった

日産が発表した内容によれば、新型セレナの受注台数は2023年6月26日の時点で5万4000台に達し、なかでも8人乗りのe-POWER車は全体の約6割を占めるまでになったそうです。このまま行けば「年間10万台の達成も狙えるペース」と、期待通りの売れ行きに手応えを感じている様子。では、その人気のポイントはどこにあるのでしょうか。

↑フロントグリルから伸びるブラックの2トーンカラーがサイドビューに躍動感を与えている

 

↑ e-POWER ハイウェイスターVはプラットフォームこそ先代から引き継いだが、足回りなども大幅な改良が加えられた

 

セレナといえば、2005年の3代目が登場した際に、左右分割式セカンドシートを「スマートマルチセンターシート」としたことで話題を呼びました。これは2列目を用途に応じてキャプテンシートにも、8人乗車ができるベンチシートにもなる使いやすいもの。以来、セレナならではの人気装備となってきました。

 

ところが、5代目に追加されたe-POWER車ではバッテリーを追加搭載した関係上、セカンドシートをキャプテンシートとした7人乗りに変更となってしまいました。販売店の話ではこれが影響して、泣く泣くe-POWER車をあきらめてガソリン車を選んだ人も多かったそうです。

 

そうした事情を反映して6代目ではガソリン車よりスライド量が少ないとはいえ、スマートマルチセンターシートをe-POWER車にも採用。一転、全体の6割がe-POWER車を選ぶようになったのもこの対応が功を奏したとみて間違いないでしょう。

↑セカンドシートで3人掛けを実現したことでe-Power車でも8人乗車が可能となった。シート表面は汚れにくい素材を採用

 

しかも、単に8人乗りとしただけでなく、セカンドシートにはさまざまな工夫を施しているのです。たとえば、センターのバックレストを倒せば収納庫付きのアームレストになり、必要に応じてセンター部だけを前方へ移動することも可能。さらにシートスライドは前後だけでなく左右にも動かせるので、サードシートへの移動も使い方に応じた設定ができます。

 

加えて、セカンドシートでは前席の背後に備えられた折りたたみ式テーブルが用意され、左右には充電用USB端子も装備。シートバックポケットが左右に備えられているのも何かと重宝しそうです。

↑セカンドシートの真ん中を前方にスライドさせ、シートを横に動かすことで、生まれたスペースを使ってサードシートへ乗り込むことができる

 

↑前席のシートバックには折りたたみ式テーブルやUSB端子が左右2か所に装備されている

 

たっぷりとしたシート厚で乗り心地も上々のサードシート

サードシートは広々とした印象はないものの、大人が座ってもそれほど窮屈な印象はありません。シート厚もたっぷりとしており、少し遠乗りした際に家族に座ってもらいましたが乗り心地で特に不満は感じなかったそうです。むしろサードシートにもスライドドアのスイッチやUSB Type-Cが装備されていることに便利さを感じている様子でした。

↑サードシートはクッション厚もたっぷりとしており、長時間の移動でも疲れは少ないようだ

 

↑サードシート側に装備されていたスライドドアの開閉ボタンとUSB Type-C

 

↑足を出し入れする、ハンズオフでスライドドアの開閉が可能。ただし操作に若干こつがあるのが気になった

 

惜しいと感じたのは、サードシートをたたんだときに左右に跳ね上げるタイプとなっているうえに、シート厚がたっぷりとしていることが災いして、左右の幅が狭くなってしまったことです。シートの固定方法もベルトを使う古くさい方法。ここにはもう少し工夫が欲しかったと思いました。

 

一方で荷物の出し入れでいうと、上半分だけが開閉できるデュアルバックドアは、特に狭い場所での開閉がラクで使いやすさを感じます。荷物の落下防止に役立つことも見逃せないでしょう。

↑サードシートは左右跳ね上げ式を採用。シートのクッションが厚めであることが災いして左右のスペース幅は結構狭い

 

↑バックドアは上半分だけを開閉できる「デュアルバックドア」を採用。狭い駐車スペースでも荷物の出し入れができる

 

↑最後部のフロア下には、大容量のカーゴスペースを用意。普段使わないメンテナンス用品を入れておくのにも最適だ

 

運転席に座ると視界の広さを実感でき、周囲の状況はさらに把握しやすくなっています。座ったときの収まり間も良好なうえ、センターディスプレイにぐるりと囲まれるようなインテリアもデザインと機能性を兼ね備えた使いやすさを感じさせます。一方、賛否が分かれたスイッチタイプの電動シフトは、違和感を覚えたのは最初だけ。慣れてしまえば使いやすく、むしろ操作ミスを減らすのではないかと思ったほどです。

↑運転席は視界を遮るものを減らした開放感のあるもので、これが運転のしやすさをもたらしている。高品質なインテリアも好印象

 

↑日産初となるスイッチタイプの電制シフトを採用。見た目にもスッキリとしており、慣れると使いやすく確認しやすい

 

排気量が1.4Lにアップ。スムーズな走りはまさに電動車そのもの

さて、6代目となったセレナに搭載のe-POWERは、エンジンの排気量が従来の1.2Lから1.4Lへと拡大されています。従来のe-POWER搭載車でも特に力不足を感じたことはありませんでしたが、発電効率を高めることで、もともと重いミニバンで定員乗車したときなどでも余裕ある走りにつなげているのがポイントです。

 

実際、走り出してすぐに感じるのが、先代よりも明らかに静かさと滑らかさが増していることです。アクセルへの応答性も向上して、エンジンがかかる比率もかなり少なくなったこともあり、リニアな加速はもはや電動車そのもの。それがとても気持ちいいのです。モーターによる恩恵は明らかに大きいといえます。

↑アクセルを踏み込んでもストレスなく速度を上げていく。エンジンが起動しても走行中ならほとんど気付かない

 

しかもエンジンがかかってもそのときの振動はほとんど伝わってこない見事さ。これらはエンジンを収めるケース類の剛性アップとバランスシャフトの採用など、音・振動面のリファインを徹底的に施した効果が発揮されたものです。排気量拡大にともなってエンジンもパワーアップ。発電効率向上にも寄与しており、走りの快適度は確実に向上したといえるでしょう。

↑e-POWER車は新開発となる直列3気筒DOHC 1.4リッターのe-POWER専用のHR14DDe型エンジンを搭載。最高出力は72kW(98PS)/5600rpm、最大トルクは123Nm(12.5kgfm)/5600rpmで、EM57型モーターの最高出力は120kW(163PS)、最大トルクは315Nm(32.1kgfm)

 

足回りの剛性の高さも6代目の良いポイントです。5代目の柔らかめのサスとは違い、コシのあるしっかりとしたサスペンションは、段差を乗り越えたときの収束性もよく、荒れた路面での乗り心地は同乗した家族からも好評。個人的には見事なカーブでの踏ん張りが印象的で、峠道でもミニバンとは思えない粘りを見せてくれたのが好印象でした。

↑タイヤは205/65R16 95H。スポーティなハイウェイスターVながら、乗り心地が良いのもこの扁平率が効果を発揮している可能性がある

 

ただ、高速走行時に大きめの段差で受けると、ボディ全体がやや微振動として残る傾向があります。実は6代目はモデルチェンジしたとはいえ、プラットフォームまでは刷新しておらず、そのあたりの設計の古さが災いしているのかもしれません。とはいえ、一番多く利用する一般道での違和感はほとんどなし。その意味での進化は確実に遂げているとみて間違いないでしょう。

 

実用上で使いやすい「プロパイロット」。ライン装着ドライブレコーダーも

最後にプロパイロットの使い勝手に触れておきます。最上位のルキシオンには、高速でのハンズオフ走行が可能になる「プロパイロット2.0」が装備されましたが、ハイウェイスターVには単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた、オーソドックスなACCを採用するプロパイロットが装備されます。

 

それでも先行車への追従性は極めて良好で、速度ムラもほとんど感じさせないため、追従走行でストレスを感じることはありませんでした。ただ、レーンキープはテンションが強めにかかるため、これが気になる人はいるかもしれません。

↑プロパイロットのメインスイッチはステアリング右側に装備。このスイッチを押して「SET」すれば設定完了。あとは+-で調整するだけ

 

↑プロパイロット作動時。レーンキープのテンションがやや強めだが、先行車への追従性は速度ムラも少なく安定していた

 

また、6代目では新たにドライブレコーダーがライン装着で選択できるようになりました。前後に2台のカメラが装備され、配線が一切露出しないうえに表示をインフォテイメントシステムのディスプレイ上で展開できます。これはまさにライン装着ならではのメリットです。販売店に聞くと装着率はかなり高いそうで、今後はドライブレコーダーの標準化も当たり前になっていくのかもしれません。

↑日産車としては初めて、ライン装着でドライブレコーダーを用意した(下)。映像はインフォテイメントシステムでモニターできる

SPEC【e-POWER ハイウェイスターV】●全長×全幅×全高:4765×1715×1885mm●車両重量:1810kg●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:98PS/5600rpm●エンジン最大トルク:123Nm/5600rpm●モーター最高出力:163PS●モーター最大トルク:315Nm●WLTCモード燃費:19.3km/L

 

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撮影/松川 忍

フルモデルチェンジで納車は1年先!?「5代目プリウス」人気のヒミツ【2023年上半期売れたモノSELECTION 乗り物編】

『GetNavi』が選ぶ「2023年上半期売れたものSELECTION」。今回は「乗り物編」から、トヨタ 5代目プリウスをピックアップ。フルモデルチェンジをして納車は1年先とも言われる人気のヒミツに迫ります!

※こちらは「GetNavi」 2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです

 

ハイブリッドカーのパイオニアは走りとスタイルが大変身!

トヨタ
プリウス
320万円〜460万円

8年ぶりにフルモデルチェンジ。歴代モデルでもっともスポーティなデザインを採用している。スポーティさはデザインだけでなく最高出力152PSの2ℓエンジンを新開発するなど、高い走行性能も魅力となった。

↑外部からの充電も可能なPHEVモデルも登場。バッテリー搭載位置などで、いまのところ2WDモデルのみだ

 

↑近未来的なインパネ。メーターは独立した7インチ、センターディスプレイはグレードによりサイズが異なる

 

↑新たに設定された2lエンジンのハイブリッドモデル。システム最高出力は従来比1.6倍の196PSを誇る

 

【ヒットのシンソウ】

<証言者>自動車ライター・海野大介さん
専門誌からフリーに転向しウェブを中心に活動。1級小型船舶操縦免許や国内A級ライセンスを持つ。

納車は1年先とも言われる人気っぷり

「日本自動車販売協会連合会の5月新規登録台数では9233台で、トヨタのヤリスに次ぐ2位に浮上。受注台数は非公開ですが、1〜5月までに月販基準台数の約1.7倍になる3万5000台以上は販売済みです」(海野さん)

売れ行き:★★★★
革新性:★★★★★
影響力:★★★★

 

元祖ハイブリッドカーはデザインと走りが激変!

今年1月にフルモデルチェンジしたプリウスは「ハイブリッド・リボーン」が基本コンセプト。それは同車の強みでもある燃費をはじめとする高い環境性能に加え、「ひと目惚れするデザイン」や「虜にさせる走り」を兼ね備えたモデルに変化させたことだ。

 

「特にボンネットからAピラーが一直線につながるあたりは、まさにスポーツカー。さらに先代よりも45mmも低くした全高は1420mmと、こちらもまさしくスポーツカー並みです」(海野さん)

 

プリウスのアイコン的デザインと言える、「モノフォルムシルエット」を引き継ぎながら低重心かつスタイリッシュなプロポーションにしているのが新型の特徴だ。

 

走りの良さも人気のポイント。第2世代となったTNGAのプラットフォームは高い剛性と低重心化を実現しており、新しく搭載された2lエンジンは従来モデルの1.6倍の最高出力を誇る。

 

「走り出せば、パワフルな加速はもちろんのことステアリングのレスポンスも俊敏です」(海野さん)

 

タイヤは19インチながらも幅を狭くして空気抵抗を減らすなど細かいところも抜かりがない。先進安全・運転支援システム「トヨタセーフティーセンス」も標準装備し、全方位的に魅力のあるクルマに仕上がっている。ヒットも納得だ。

 

元祖ハイブリッドカーの歴史をおさらい!

■初代(1997〜2003)
世界初の量産ハイブリッドカー。1.5lエンジンにモーターを組み合わせ、当時の10・15モード燃費では28km/lを実現した。

 

■2代目(2003〜2009)
5ドアハッチバックへ変化。ハイブリッドシステムも進化し、4人乗りハイブリッドカーとしては世界最高の燃費35.5km/lを実現。

 

■3代目(2009〜2015)
エンジンが1.8lへ拡大し、燃費は世界トップクラスの38.0km/lに。また大きくなったボディで室内の快適性も向上している。

 

■4代目(2015〜2023)
新プラットフォームを採用。ハイブリッドシステムの小型軽量化を図るなどの改良で、驚異的な40.8㎞/ℓの燃費を達成した。

 

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約2か月で2万台受注! 日産 セレナ e-POWERのヒミツに迫る【2023年上半期売れたモノSELECTION 乗り物編】

『GetNavi』が選ぶ「2023年上半期売れたものSELECTION」。今回は「乗り物編」から、日産 セレナ e-POWERをピックアップ。事前受注開始後、2か月も経たないうちに2万台以上のオーダーがあった人気車のヒミツに迫ります!

※こちらは「GetNavi」 2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです

 

代々受け継がれる広い室内と高い静粛性が自慢

日産
セレナ e-POWER
319万8800円〜479万8200円

ファミリー層から高い支持を集めるセレナが2022年にフルモデルチェンジ。現行モデルにはエコとパワーを高次元で両立させたe-POWERを2023年4月にラインナップに加え、より魅力を増した。もちろん先進の運転支援機能も充実。

↑最上位グレードには、条件付きだが同一車線でのハンズオフ運転を可能にするプロパイロット2.0が装備される

 

↑特徴でもある広い室内空間はそのままに、シートをアップグレード。車体の揺れの伝達を抑えクルマ酔いを抑制

 

↑搭載されるe-POWERは1.4lの発電用エンジンを持つ第2世代のもの。トルクフルな走りも魅力だ

 

【ヒットのシンソウ】

<証言者>自動車ライター・海野大介さん
専門誌からフリーに転向しウェブを中心に活動。1級小型船舶操縦免許や国内A級ライセンスを持つ。

 

e-POWERへの期待大!約2か月で2万台受注

「事前受注開始後、約2か月も経たないうちに2万台以上のオーダーがありました。ガソリン車は昨年12月に発売されましたが、やはり日産得意のe-POWERを待っていた人が多いことの表れです」(海野さん)

売れ行き:★★★★★
革新性:★★★★
影響力:★★★★

 

誰もが快適に乗れる装備と技術が凝縮

セレナといえば扱いやすいボディサイズで広い室内がヒットの要因。そしてその“ちょうど良さ”が人気のヒミツだ。それは現行モデルにも受け継がれ、人気グレードのハイウェイスターの3ナンバーボディは1715mmと限りなく5ナンバーに近い寸法に。それでいて室内空間は広く、歴代セレナの美点は健在である。

 

「2列目のスライド量を見直して、3列目の足元スペースは先代よりも大きくなりました」(海野さん)

 

また、先代では選択できなかったe-POWER車の8人乗りも選択可能になったことも魅力だ。一方、走りの面ではe-POWERのコア部分が1.4lエンジンを採用する第2世代に進化。

 

「エンジンは振動や騒音を抑えるバランサーを装備しています。高速巡航中の静粛性も高く、不快な振動も少ないです」(海野さん)

 

ミニバン特有のふらつきも、高剛性サスペンションや揺すられにくい新開発のシート「ゼログラビティシート」の採用も相まってうまく軽減されている。また、ハンズオフ可能なプロパイロット2.0も最上級グレードに装備されたことも特筆。e-POWER車には100VのAC電源がオプション設定され、アウトドアや災害時の非常電源として家電等が使える点も好評だ。

 

【コレもCheck!】
e-POWER車の人気はSUVでも! 一時は受注が停止になるほど

日産
エクストレイル
351万100円〜532万9500円

「タフギア」というコンセプトはそのままに、e-POWER専用車として2022年に登場したエクストレイル。モーター駆動ならではの電動4輪制御技術「e-4ORCE」搭載で、高い悪路走破性も健在だ。

↑世界で初めて量産化に成功した、圧縮比を変えられるエンジン「VCターボ」。低燃費とハイパワーを実現している

 

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“遊びの空間”が “もっと遊べる空間”へ! 3代目ルノー・カングーの進化をチェック

今回は日本で華開いた商用車ベースMPV、ルノー・カングーをピックアップ! 3代目になって一層際立った進化を紹介する。

※こちらは「GetNavi」 2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

自慢の使い勝手にはさらなる磨きがかかった!

RENAULT
KANGOO

SPEC【クレアティフ(ディーゼル)】●全長×全幅×全高:4490×1860×1810mm●車両重量:1650kg●パワーユニット:1460cc直列4気筒SOHCディーゼル+ターボ●最高出力:116PS/3750rpm●最大トルク:27.5kg-m/1750rpm●WLTCモード燃費:17.3km/L

 

「遊びの空間」と銘打ち、2世代に渡るヒット作となったカングーが3代目へとスイッチ。新型では謳い文句も「もっと遊べる空間」へと変化したが、中身をチェックすると進化は確かに全方位的だ。

 

まず、ボディサイズは先代比で全長と全幅がそれぞれ210mmと30mm拡大されたが、それに伴い自慢の荷室は一層広大に。容量は後席使用時でも775L、後席をたたむと2800Lに達し、数値上はいずれも先代を100L以上上回る。また、良くも悪くも商用車然とした先代までに対し、新型の内外装は乗用車らしい質感も獲得。加えて、運転支援系の装備も最新モデルに相応しい充実ぶりだ。

 

日本仕様のエンジンは、1.3Lガソリンターボと1.5Lディーゼルターボの2種。ミッションは、いずれも7速DCTを組み合わせるが、動力性能は必要にして十分というところ。ガソリンでは日常域の快適性が、ディーゼルは充実したトルクによる扱いやすさや力強さが実感できるので、どちらを選ぶかはユーザーの好みや用途次第だろう。先代と比較すると価格まで大幅に“成長”したのは少し気になるが、新型は操縦性や乗り心地といったシャーシ性能も着実に進化。その意味では、輸入車MPVとして相変わらず狙い目の1台であることは間違いない。

 

力強さと経済性ならディーゼル優位だが……

ガソリン仕様(上)の燃費は15.3km/lとディーゼル(下)より控え目。だが24万円の価格差、快適性の違いを考慮してガソリン仕様を選ぶ意義はありそうだ。

 

運転支援系の装備は格段に充実!

室内は、相変わらずボディサイズ以上の広さ。走行時の車線維持支援など、安全性を高める運転支援関連の装備も大幅に充実している。

 

好評だったアイコン的装備は継承!

左右に開くダブルバックドアは、カングーらしい装備のひとつ。無塗装のバンパー仕様が選べるのも特徴的だが、この組み合わせは日本向けにしか存在しないとか。その走りは先代より洗練された。

 

“もっと遊べる”ことは間違いなし!

先代比では後席使用時で115L、後席をたたんだ際は132Lも容量が拡大された荷室。絶対的容量の大きさに加え、スクエアな形状も魅力的。

 

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これぞ英国流ラグジュアリーSUVの最新モード!「レンジローバー・スポーツ」レビュー

今回はラグジュアリーSUVの草分け的存在でもあるレンジローバーのスピンオフ、レンジローバー・スポーツを紹介!

※こちらは「GetNavi」 2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです

 

走りは2トン超えの車重を意識させない軽やかさ!

ランドローバー
レンジローバー・スポーツ

SPEC【ダイナミックHSE D300】●全長×全幅×全高:4946×2209×1820㎜●車両重量:2315kg●パワーユニット:2998cc直列6気筒DOHCディーゼル+ターボ●最高出力:300PS/4000rpm●最大トルク:66.3kg-m/1500〜2500rpm●WLTCモード燃費:11.3km/l

 

名前の通り、“本家”のレンジローバーに対してはスポーティな走りを持ち味としてきたレンジローバー・スポーツ。だが、今回の3代目で際立つのは高級なSUVに相応しい見た目の質の高さだ。シンプルな造形にしてパネル間の隙間をギリギリまで詰めたボディの「塊感」は、もはや本家に匹敵する仕立てで強い存在感を放つ。

 

そんな印象は室内でも変わらず、インパネ回りはむしろあっさりしたデザインながら、吟味した素材や作りの良さで上質感をアピール。先代より室内空間が拡大されたこともあって、実際の居心地も前後席ともに申し分ない。

 

エンジンは3Lターボのディーゼルとガソリン、ガソリン+モーターのプラグインHV、そして4.4L V8ツインターボと多彩。今回はディーゼルに試乗したが、動力性能は2トン超の車重に対しても十分。その大柄なボディを意識させないほど身のこなしも軽やかなだけに、日々の贅沢な伴侶としても自信を持ってオススメできる。

 

ボディサイズ相応の十分な広さを確保

荷室容量は後席を使用する通常時でも647L〜。後席をたためば1491L〜というSUVとして申し分ない広さを実現。

 

アニマルフリーな素材も採用

英国ブランドというと「木と革」のイメージも根強いが、新型ではアニマルフリーのサステナブルな素材も積極的に採用。室内空間が先代比で広くなるなど、実用性も向上した。

 

ボディサイズは先代よりさらに成長

3列シートまで選択できるようになった本家と比較すればコンパクトだが、新型レンジローバー・スポーツも全長は5m近くで先代より大型化した。その外観は、シンプルな造形ながら「塊感」にあふれた強い存在感が印象的。

 

パワーユニットの選択肢は多彩!

エンジンはマイルドハイブリッドを搭載する3ℓターボのディーゼルとガソリンに加えプラグインHV、4.4ℓV8ターボまで用意される。

 

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BOSCH新ユニットで「e-Bike」は大きく変わる! 最新e-MTBと自転車向けABSの実力をチェック

電動アシスト自転車は日本で生まれた乗り物ですが、海を渡り主に欧州でさらなる進化を遂げ、e-Bikeと呼ばれるようになって生まれ故郷に戻ってきた経緯があります。その進化を牽引している存在が、e-Bikeのドライブユニット(モーター)では世界シェアNo.1を誇るBOSCH(ボッシュ)です。

 

そのBOSCH製ドライブユニットのトップグレードである「Performance Line CX」が、新たに「Smart System(スマートシステム)」対応モデルとして生まれ変わりました。この新しいドライブユニットを搭載したマウンテンバイクタイプのe-Bike「e-MTB」に試乗することができたので、その乗り味と進化の詳細をお伝えします。

 

コントローラーのみで動かす新システムに対応

e-Bikeの心臓部といえるのが、アシストを発生するモーターなどが一体となったドライブユニット。近年は、そのドライブユニットを自転車メーカーに提供する企業が増えていますが、そこでトップを走り続けているのがBOSCHです。同社のドライブユニットには、街乗り向けのモデルに搭載される「Active Line Plus」と、スポーツ向けモデルに採用されるPerformance Line CXがあり、今回リニューアルされたのは上位グレードのほうです。

↑大きな出力が必要なe-MTBなどに採用されるPerformance Line CXドライブユニット

 

↑こちらはPerformance Line CXのカットモデル。モーターと減速機、ペダルを踏んだ力を感知するトルクセンサーなどが一体となっている

 

新型のドライブユニットは、BOSCHが「The smart system」と呼ぶアシストシステムに対応しています。このシステムはPerformance Line CXドライブユニットを中核に、組み合わせるコントローラーとバッテリーの自由度を高めたもの。従来はコントローラーとディスプレイの2つを装備する必要があったのですが、新システムではコントローラーのみで動かすことができるようになりました。また、バッテリーサイズは750Whという大容量のものを選べるようになっています。

↑新たに登場した「LED Remote」というコントローラーは、ボタンのクリック感も向上し、光の色で走行モードもわかる

 

アシスト面では、新たに「Tour+」「Auto」という2種類のアシストモードが加わり、「OFF」モードを含めて全7モードが選べるようになりました。Tour+モードは、その名の通りツーリング向けのモードですが、ペダルを踏む力に応じてアシスト力が可変するもの。ツーリング中でも坂道に差し掛かって踏力が増せば、アシスト力も強くなります。

 

Autoは、踏力ではなく速度の変化に応じてアシストを増減するモード。上り坂になると速度が落ちるので、それに合わせてアシストが増しますが、ライダーが疲れて速度が落ちてきてもアシストを強くしてくれる”楽のできる”モードといえます。

 

進化したドライブユニットはアシストの制御が緻密

今回The smart systemに対応したe-MTBで専用コースを試乗。用意されていたのはトレックのe-MTB4車種でした。ハードテイルと呼ばれるフロントのみにサスペンションを搭載した「Powerfly(パワーフライ) 4 Gen 4」と、前後にサスペンションを装備する“フルサス”と呼ばれるタイプの「Powerfly FS 4 Gen 3」、「Rail(レイル) 5 Gen 3」、「Rail 9.7 Gen 4」の4モデルです。ドライブユニットはすべてPerformance Line CXを搭載しています。

 

【e-MTBフォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

e-MTBの中でも最高峰のモデルといえる「Rail 9.7」については、以前に前モデルの「Gen 2」に乗ったばかりだったので(関連記事)、ドライブユニットの進化を如実に感じることができました。一番に感じたのは、アシストの制御が緻密になっていること。BOSCHのドライブユニットはe-Bikeの中でもパワフルという評価がされますが、新型ではペダルを踏んだ瞬間にガツンと車体を押し出すようなアシストではなく、立ち上がりは穏やかだけどペダルを踏み込んでいくうちにパワーが増してくるような特性です。

 

この特性の進化を、顕著に感じられたのが最もアシスト力が強い「TURBO」モード。従来は、このモードにしているとペダルに足を乗せているだけでも前に出ようとする力が発生して、慣れていないと怖い場面もあったのですが、その危なさがなくなっていました。

 

出だしのアシストがコントローラブルになっていることは、ハードテイルタイプのPowerfly 4 Gen 4に乗った際にさらにありがたく感じました。リアタイヤを路面に押し付けるサスペンション機構がないため、ペダルを踏み込むとリアタイヤが滑りやすい傾向にありますが、Powerfly 4 Gen 4はコントロールしやすくなっているので、滑りやすい路面でも滑ってしまうことはありませんでした。

↑Powerfly 4 Gen 4のフロントサスペンションは120mmのストロークを確保。ホイール径は29インチですが、XSとSのサイズは27.5インチとなります

 

初心者が乗っても快適そうなフルサスモデルに好印象

そして、今回試乗した中で最も好印象だったのが、追加されたフルサスモデルのPowerfly FS 4 Gen 3。フルサスモデルは凹凸の激しい下り斜面にフォーカスしたモデルが多いのですが、新モデルはどちらかというと普通の山道を走る際の快適性を重視したような設計となっています。サスペンションのストロークは「Rail」シリーズがフロント160mm、リア150mmであるのに対して、Powerfly FS 4 Gen 3はフロント120mm、リア100mm。凹凸の大きな路面を走らなくても、フルサスのメリットを感じることができます。

 

新しいドライブユニットとの相性も良好で、抑制の効いたサスペンションがしっかりとタイヤを路面に押し付けてくれるうえ、アシストのコントロール性が高いので、自分の脚力が強くなったと錯覚するほどスルスルと山道を登って行くことができました。フルサスタイプのe-MTBはどちらかというと中級以上のライダー向けというイメージでしたが、Powerfly FS 4 Gen 3は初心者や女性が乗っても快適にトレイルを楽しめそうです。

 

【Powerfly FS 4 Gen 3の細部を写真でチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

自転車用のABSも登場

もうひとつの注目すべきトピックはBOSCHのe-Bike用ABSシステム。近年、クルマはもちろん、バイクでも標準的な装備となってはいるものの、自転車用にはまだまだ普及していません。ただ、日本では初披露となるe-Bike用ABSシステムですが、欧州などではすでに実用化されていて、採用したe-Bikeも発売されているとのこと。目新しい技術ながら、すでに普及を見据えて製品化されているようです。そもそもBOSCHはクルマやバイク用のABSで長い実績のあるメーカーですから、信頼性については言うまでもありません。

↑ABSを体験するための試乗車も用意されていました。フルサスタイプの車体にゴツいブレーキが装着されています

 

↑大径のフロントディスクの内側には、回転を検知するセンサーが装備されています

 

↑フロントフォークの内側にはABS機構の要となるユニットが。このサイズに抑えているのはスゴいことかも

 

実際にABSを装着した試乗車で、滑りやすい砂利の路面で思い切りブレーキを握ってみました。ですが、フロントタイヤがロックすると、反射的にレバーを握る力を緩めてしまって失敗……。フロントタイヤがロックしたまま、レバーを握り続けるのは結構勇気が必要です。滑りやすい路面でフロントがロックすれば、通常は即転倒ですから。

 

しかし、握り続けてみるとレバーにカクカクという感触が伝わってきて、何事もなかったかのように停止できます。少しハンドルを切りながら試してみても同様。ABSのついていないMTBで同じことをしたら……と想像するだけで恐ろしいですが、多少フロントがアウト側に逃げる程度で曲がりながらでも止まることができました。

 

近年のMTBは制動力の高い油圧式のディスクブレーキを装備していますが、慣れない人が山道で乗ると効きすぎてしまってタイヤがロックして転倒に至ることも珍しくありません。慣れるとレバーの入力を調整できるようになっていきますが、ABSが付いていれば安心してブレーキを握ることができそうです。

↑リアブレーキにも大径ディスクと4ピストンキャリパーを装備。ディスクの内側には回転センサーが装備されています

 

↑電源をONにするとディスプレイに「ABS」の文字が表示され、ABSが作動可能な状態となります

 

初心者が起こしがちな転倒を防げるABS

試乗用e-MTBをよく見ると、リアブレーキにも回転センサーが取り付けられています。ただ、ABSが効くのはフロントのみで、リアはフロントとの回転差を検知するためのものだとか。MTBで山道を下る場合、フロントブレーキを掛け過ぎるとリアタイヤが持ち上がって前転してしまうこともありますが、リアが持ち上がってロックすると自動的にフロント側のABSが作動する仕組み。”握りゴケ”と呼ばれるフロントロックによる転倒も、前転も防いでくれる優秀な機構です。

 

初心者が起こしがちな2大転倒要因を防げるので、これはぜひエントリーグレードのe-MTBに採用してもらいたいもの。コスト的には2〜3万円程度のアップで可能になりそうとのことなので、多くのモデルに取り入れてほしいと感じました。

 

新型ドライブユニットの制御の緻密さと、e-Bike用ABSの実用化。どちらもe-MTBの利用シーンに合わせた制御になっており、BOSCHがこのカテゴリーではトップランナーであることを改めて感じさせられました。世界初の電動アシスト自転車であるヤマハ「PAS」が登場したのは1993年のことですから、今年はちょうど30年目の節目。それでもまだまだ進化を続けていることが実感できた試乗体験でした。

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

クルマの神は細部に宿る。【GRカローラ限定モデル「モリゾウエディション」編】すでに完売! 会長肝いりの限定車の実力は?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は、すでに買うことができなくなった、GRカローラの限定モデル「モリゾウエディション」を取り上げる!

※こちらは「GetNavi」 2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)
日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

安ド
元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】

TOYOTA
GR COROLLA

SPEC【RZ・MORIZO Edition】●全長×全幅×全高:4410×1850×1475㎜●車両重量:1440kg●パワーユニット:1618㏄直列3気筒+ターボ●最高出力:304PS(224kW)/6500rpm●最大トルク:400Nm/3250〜4600
rpm●WLTCモード燃費:非公表

715万円(通常のGRカローラ RZは525万円)

 

豊田章男会長の肝入りの絶滅危惧種

安ド「殿! 今回のクルマは、“マシン”と呼んだほうがふさわしい気がします!」

永福「うむ。まさしくマシンだ」

安ド「ホンダのシビックタイプRもすごかったですが、コレはもっと戦闘的ですね!」

永福「新型シビックタイプRは見た目がジェントルだが、このGRカローラは、かつてのランサーエボリューションを彷彿とさせる」

安ド「リアウイングはないですが、重武装した感じが、どことなくガンダムっぽいですね!」

永福「考えてみれば、ランエボが消滅してはや8年。インプレッサWRX STIもなくなった。GRカローラは、GRヤリスとともに、いまや貴重なガンダム系マシンというわけだ」

安ド「絶滅危惧種ですね!」

永福「なかでもこのモリゾウエディションは、モリゾウことトヨタの豊田章男会長の肝入りだ」

安ド「なにしろ軽量化のために、リアシートは取り外されていて、定員2名です!」

永福「うむ。リアシートのあった部分にバーが渡されているが、あれは間違って人が座らないためなのか?」

安ド「いえ、ボディ補強バーらしいです!」

永福「確かにボディ剛性がすごかった。ポルシェかと思ったぞ」

安ド「ものすごくしっかりしてますね! 304馬力の加速も凄くて、身体がシートに押さえつけられました! でも、どこか安心感があるのは、優秀な4WDシステムや、電子制御のおかげなんでしょうか」

永福「大雨のなかで走っても、微塵も不安を感じなかった。すごいマシンだ。しかし、もうとっくに買えないらしいな」

安ド「モリゾウエディションは70台限定の抽選販売でしたが、宝くじ並みの倍率だったようです!」

永福「マニア垂涎の希少マシンというわけだ」

安ド「715万円もするのに、欲しい人がいくらでもいるのは不思議ですね!」

永福「800万円出せばレクサスIS500が買えると思うと715万円はずいぶん高いが、なにしろこんなモデル、もう二度と出ないだろうからな」

安ド「このクルマで走り屋が集まる首都高速の大黒パーキングエリアにいたら、カーマニアたちがわらわら集まってきました!」

永福「心温まる話だ」

安ド「トヨタの古いホットハッチ乗りや、インプレッサのWRX乗りの人たちだったんですが、インプレッサのグループは、『もうラリー系のスポーツモデルはこれくらいですから!』と、目を輝かせて写真を撮りまくってました」

永福「三菱やスバルは撤退したが、トヨタは世界ラリー選手権で頑張っているからな」

安ド「トヨタってすごいですね!」

永福「うむ。トヨタがコケれば日本がコケる」

安ド「コケないで欲しいです!」

 

【GOD PARTS 神】リアシートレス

スポーツ走行のために必要ないモノを撤去!

「モリゾウエディション」を開発するにあたり、ボディ剛性の強化が徹底されました。しかしそうなると車体が重くなってしまうのですが、このようにリアシートを撤去することで約30㎏も軽量化されています。利便性より走行性能、見るだけで気持ちがたかぶります。もちろんメーカーによる改造ですから、内装の内張りもしっかりしていてチープさは感じられません。

 

【GOD PARTS 1】ブレーキ

本来の性能はもちろん色と文字もスポーツ性高し!

赤いカラーが戦闘的な雰囲気を感じさせるだけでなく、そこに刻まれた「GR」の文字が国産車好きやラリークルマ好きカーマニアの目を惹きます。対向キャリパー式ということで、コントロール性が高く、安定感のある制動力を発揮してくれます。

 

【GOD PARTS 2】ハイグリップタイヤ

幅広タイプでより速く安定した走りを楽しめる

「モリゾウエディション」には、ベースのGRカローラより10㎜幅広いタイヤが装着されています。ベース車でも235㎜とスポーツ走行には十分なくらい幅広いのですが、これでコーナリング時の安定性やブレーキ性能もさらに高めてくれそうです。

 

【GOD PARTS 3】マットスティール

高級感あふれる特別なボディカラー

「モリゾウエディション」だけに特別に設定された「マットスティール」という名前からしてカッコ良いボディカラーが採用されています。このようなツヤ消しのメタリックブラックは、近年メルセデスなどの高級車でもよく見かけます。

 

【GOD PARTS 4】エンジン

特別チューンされたターボで武装

「3気筒」と聞くと非力そうですが、これはラリーベースのGRヤリスに搭載されたターボエンジンをさらに強化したもの。4WDシステム「GR-FOUR」とともにリセッティングされていて、速さと伸びの良さを実感できます。

 

【GOD PARTS 5】トランスミッション

モリゾウエディションでさらに高められた効率性

「モリゾウエディション」では、通常のGRカローラよりギア比を最適化。運動性能が向上し、素早いシフト操作がしやすくなっています。さらに、「iMT」ボタンを押せば、自動でエンジン回転数を調整してくれます。

 

【GOD PARTS 6】セミバケットシート

スポーツシートながら使いやすい仕様

バケットシートは身体を包み込む形状で、コーナリング中などに着座位置がズレるのを防いでくれます。しかしこれは「セミバケット」。リクライニングもできるし、ホールド性も若干の余裕があって日常使用でも使いやすい仕様です。

 

【GOD PARTS 7】モリゾウサイン

ウインドウガラスにサイン入り

GRカローラは当初一般販売予定でしたが、コロナ禍や半導体不足の影響により500台のみ抽選販売されました(現在追加販売を検討中)。サインが入った「モリゾウエディション」は最初の70台限定。貴重です!

 

【GOD PARTS 8】バンパー&ボンネット

戦闘的でラリーカーの装い

冷却効果や空力性能強化のために、バンパー形状はワイルドになっていて、ボンネットフードとフェンダーにはアウトレット(空気穴)が設けられています。フェンダーも拡幅され、筋肉質に仕上がっていて、ラリーカーイメージがビンビンです!

 

【GOD PARTS 9】ステアリング

滑りにくくて操作も安心

「モリゾウエディション」のみの装備として、ステアリングに「ウルトラスエード」と呼ばれる毛羽だった表皮が採用されています。これは見た目のスポーティさを向上しながら、滑りにくく、ドライビング操作を確実なものにしてくれます。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

【2023年上半期メガヒット】半年足らずで1万6000台超の予約受注を達成! 三菱「デリカミニ」人気の理由を探る

「デリカ」の名が付く軽スーパーハイトワゴンが出ることが明らかになるや、「欲しい!」という人が続出。5月の発売日までに想定をはるかに上回る受注数に。その人気の要因を探る。

※こちらは「GetNavi」 2023年8月号に掲載された記事を再編集したものです

三菱
デリカミニ

180万4000円〜223万8500円

「eKクロス スペース」の実質的な後継モデルとして開発。“頼れるアクティブな軽スーパーハイトワゴン”をコンセプトに、デリカらしい力強いデザイン、日常からアウトドまで使いやすい室内空間、運転をサポートする走行性能や安全装備などを備えている。

SPEC【T Premium・4WD】●全長×全幅×全高:3395×1475×1830㎜●車両重量:1060㎏●パワーユニット:659cc直列3気筒インタークーラー付ターボ最高出力:64ps/5600rpm●最大トルク:10.2kgm/2400〜4000rpm●WLTCモード燃費:17.5km/l

 

↑内装色は精悍なブラックで統一。小物を片付けやすいよう各部に収納が設けられている。オリジナル9型ナビはぜひ付けたいところ

 

↑開口高は1080㎜もあり、地上高が低めなのでかさばる荷物の積み下ろしもラクラク。後席は分割して320㎜も前後スライドできる

 

↑飲み物をこぼしてもサッと拭き取れて水遊びのあとでも気にせず乗り込める撥水シート生地を採用。座り心地と通気性にもこだわっている

 

●ヒットのシンソウ

【証言者】モータージャーナリスト・岡本幸一郎さん
軽自動車からスーパーカーまで守備範囲が広い。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

インパクト満点のルックス異彩を放つ独特の存在感

「こういうクルマが発売前に多くの注文を集めたところに意義がある。内容的にはそれほど目新しくはないものの、使い勝手に優れ、見た目にもインパクト抜群。かつてない存在感を放っているところがスゴい」(岡本さん)

 

「デリカ」のミニ版らしいデザインと利便性を兼備

1万6000台という数字がどれくらいのものかというと、例えば軽自動車界の王者として君臨しているホンダのN-BOXなら、わずか1か月でもっと多くの台数が売れることも珍しくない。それでもデリカミニのように価格帯が高めの軽自動車で、しかもまだ試乗レビューも出ていない段階の新型車が、これほどの受注を集めたことは大健闘といえる。

 

この人気の秘密は、アウトドアミニバン・デリカゆずりの力強いデザインと、軽ハイトワゴンとしての使い勝手を良い具合に兼ね備えているところにありそうだ。いまどきの軽ハイトワゴンはどれも良くできていて、使い勝手は甲乙付けがたい。その点ではライバルと大きな差はないだろう。そんななかでもデリカミニが特別なのは、やはりデザインだ。

 

最近ではSUVテイストの軽自動車もいくつか見受けられるようになってきたが、デリカミニほど上手くまとまっている例はあまり心当たりがない。特に、いかにもデリカのミニ版らしい、ちょっとヤンチャで、かわいらしさのなかにもキリッとした表情のあるフロントが目を引く。

 

また、半世紀以上の歴史と伝統のある「デリカ」が車名についていることから興味を持ったという人や、信頼を感じて注文したという人も少なくないようだ。

 

実際、デリカとしての使い勝手の良さと4WD性能への期待により、アウトドア派からも大いに注目を集めているという。

 

人気雑誌編集長が本気で考えた「私ならデリカミニでコレがしたい!!」

■「ベストカー」編集長・飯嶋 穣さん

パーツが揃ってきたら自分好みにカスタマイズ

「デリカミニは自分好みにイジるには最高の素材。今後、カスタムパーツも続々と増えるでしょう。というわけでまずはカスタム。タイヤあたりから始め、ゆくゆくはリフトアップキットで車高も上げたいですね」

 

「ベストカー」
販売部数、情報量、エンタメ濃度No.1の自動車専門誌。1977年創刊/毎月10・26日発売(講談社ビーシー/講談社)

 

■「ランドネ」編集長・安仁屋円香さん

デリカミニに合う服を着て秘湯やカフェで寛ぎたい

「お気に入りのウエアに似合うナチュラルアイボリーメタリックのデリカミニで、駅から登山口までが遠い山に出かけます。山歩きのあとは、山奥の秘湯を目指したり、カフェに立ち寄ったりして1日を過ごしたい!」

 

「ランドネ」
山歩きの旅をキーワードに、自分らしいアウトドアライフを楽しむ女性を応援する隔月刊誌。奇数月23日発売(ADDIX)

 

■「GetNavi」編集長・松村広行

カミさんと2人で日本各地を巡りたい

「デリカと言えば4WDによる走破性が魅力。多少の悪路も平気だし、運転支援機能も充実していて、ロングドライブで疲れても安心です。愛らしいルックスはカミさんも気に入ってくれそう。2人で日本各地を旅したいですね」

 

PLAYBACK![1968-2023]デリカ55年ヒストリー

1968年、トラックから始まったデリカは今年で55年を迎える。初代スターワゴンでの4WD追加が大きな転機となり、以降SUVとワンボックスを融合した唯一無二の存在となっている。

 

【1968年】デリカトラック

1.1lエンジンを積む小型トラックがまず登場。ほどなく商用バンと、9人乗りワゴンの「コーチ」が追加された。

 

【1979年】デリカスターワゴン(初代)

スクエアなスタイルに一新。のちにピックアップトラックをベースとした4WDとディーゼル車がラインアップされた。

 

【1986年】デリカスターワゴン(2代目)

ボディサイズ拡大とともにエンジンを強化。ワゴンは4WDと2WDでスタートし、世のRVブームのなか人気を博した。

 

【1994年】デリカスペースギア

2代目パジェロをベースに開発。4WDシステムは、先進的なスーパーセレクト4WDをいち早く搭載していた。

 

【2007年】デリカD:5(ビッグマイナーチェンジ後)

独自の環状骨格構造であるリブボーンフレームを採用し、強固な車体を実現。2019年より現在のデザインとなる。

予約時で異例の大ヒット、イメチェンにも成功した三菱「デリカミニ」の乗り心地はどう?

https://getnavi.jp/vehicles/877011/?gallery=gallery-2_1今年の東京オートサロンで大きな注目を浴びた三菱自動車「デリカミニ」が5月25日、いよいよ発売を開始しました。昨今のアウトドアブームが後押ししたのか、5月24日時点での予約受注はすでに1万6000台超え! しかも全体の約6割が4WDモデルなのです。これはまさに、いかに多くのユーザーが三菱自動車らしいアウトドア志向の軽自動車を待ち望んでいたか、を示すものと言えるでしょう。

 

今回はそのデリカミニにいち早く試乗することができましたので、インプレッションをお届けします。

 

■今回紹介するクルマ

三菱/デリカミニ

※試乗グレード:T Premium

価格:180万4000円〜223万8500円(税込)

↑三菱自動車「デリカミニ」。試乗車はターボ付き「T Premium」の4WD車

 

ワイルド感を高めた“ヤンチャかわいい”顔つきが大きな話題に

デリカミニとはどんなクルマでしょうか。一言で表せば、高い人気を獲得している三菱のミニバン「デリカ」の世界観を、軽自動車で展開したものです。“ヤンチャかわいい”顔つきが話題のデリカミニですが、実は同社の「eKクロス スペース」をベース車としたマイナーチェンジモデル。そこにデリカならではのエッセンスを取り入れたクルマとなっているわけです。

↑ボディサイズは全長3395×全幅1475×全高1830mm。2WDの全高は1800mm

 

特に外観は従来のイメージを大きく変更し、フロントグリルには三菱車の共通アイコンである、“ダイナミックシールド”と呼ばれる痕跡を残したフロントフェイスを採用。半円形のLEDポジションランプ付きヘッドランプを組み合わせつつ、上位車であるデリカD:5との共通性をも持たせながら可愛らしさを演出しています。

 

しかも前後のフロントバンパーとリアガーニッシュには立体的な「DELICA」ロゴを浮かび上がらせたほか、光沢のあるブラックホイールアーチ、前後バンパー下にプロテクト感のあるスキッドプレートを組み合わせることでワイルドさを演出。このように、外観をがらりと変えたことによって今までのイメージを一新させ、人気獲得に結びついたというわけです。

↑フロントグリルには「DELICA」のロゴマーク。ヘッドライトはかわいらしい形状のLEDを採用

 

↑前後アンダー部とサイドに施したデカールによってワイルド感がいっそう増した

 

↑ワイルド感を高めるのに効果的なサイドデカール(3万3440円)はディーラーオプション

 

軽自動車はいまや日本で約半分を占める大きなマーケットです。その中でもスーパーハイト系ワゴンは最大の激戦区。ここには圧倒的強さを発揮するライバルが君臨しており、残念ながら三菱自動車はこれまでその一角に入ることができていませんでした。聞くところでは「候補の一つにも入れてもらえないことが少なくなかった」というのです。そんな中での大ヒット! 商品開発でのうれしい誤算となったことは間違いないようです。

 

オフロード走行を意識した足回りを4WD車に標準装備

用意された試乗車は、シリーズ中で最上位となるターボ仕様のデリカミニ「T Premium」の4WD車です。

 

車両本体価格は223万8500円。そこにメーカーオプションとして、オレンジのオプションカラー(8万2500円)とアダプティブLEDヘッドライト(7万7000円)を装備しています。さらにディーラーオプションとして、フロアマット(2万5960円)やサイドデカール(3万3440円)、ナビドラ+ETC2.0(36万9820円)などが加わり、総合計では282万7220円。諸経費を含めると300万円を超える見積りとなりそうです。

↑ディーラーオプションのナビドラ+ETC2.0(36万9820円)のナビゲーションは、手持ちのスマホとWi-Fi接続することで音声での目的地検索が可能になる

 

そのデリカミニを前にすると、やはりデリカ風のデザインがとってもカッコイイ! 試乗車のボディカラーがオレンジだったことも一つの理由だと思いますが、4WD車は車高が高くなったうえに、タイヤを標準グレードよりも一回り大きい165/60R15にしたこともカッコ良さを際立てているように感じました。さらに4WD車に限ってはダンパーにも手が加えられ、オフロードで快適な走行ができるように改良されているのです。

↑4WD車のタイヤには標準車よりも一回り外形サイズが大きくなる165/60R15を採用

 

一方で内装は黒を基調としており、基本的には従来のeKクロス スペースを踏襲したものです。とはいえ、デリカミニとしての独自色を上手に演出できており、運転席からの視界は比較的に高めで、周囲の見通しはかなり良いと言えるでしょう。ただ、ステアリングがチルトするのみでテレスコピックはなし。そのため、若干ハンドルを抱え込むポジションになってしまいました。それでもシートの座面にコシがあり、しっかりとしていることから疲れは感じないで済みそうです。

↑水平基調のインストルメントパネルはブラックで統一。着座位置は高めで視界はとても広い

 

↑シートは合皮とファブリックの組み合わせた通気性の良い撥水シートとなっている

 

レジャーを意識した装備も豊富です。たとえば寒い季節にありがたいステアリングヒーターは新装備されたもので、しかも全周囲を対象とする優れもの。また、天井に設けられたサーキュレーターはエアコンの効きを均一化できるほか、リアサイドウィンドウのロールサンシェードや助手席シートバックの折りたたみ式テーブル、さらにはUSB端子も装備されるなど、後席でも快適に過ごせるようさまざまな工夫が施されています。さらに、リアシートは320mmもスライドでき、出掛けた先でいろいろな活用法が見出せることでしょう。

 

【内装フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

ターボパワーは必要十分! ハンドリングも穏やかで乗りやすい

↑最高出力47kW(64PS)/5600rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/2400~4000rpmを発生させる直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ+マイルドハイブリッドを搭載

 

走り出しは4WD車らしい、落ち着いたスタートを切ります。軽快さはあまり感じませんが、高速道路での流入でもそれほどパワー不足を感じることはないと思います。ただ、これがノンターボ車だと、おそらくかなり動きは鈍くなるのではないかと推察できます。その意味で、オススメはターボ付きモデルですね。

↑デリカミニに試乗中の筆者。高めの着座位置ということで運転のしやすさが印象的だった

 

ハンドリングも穏やかでスーパーハイト系ワゴンにもかかわらず腰砕けしないフィーリングは、乗りやすくコーナリングも安心して走れるという感じです。トランスミッションはパドルシフト機能付きCVTで、走行中に簡単操作でシフトを変えられるのもメリットと言えます。

↑デリカミニは、「DELICA」のロゴマークが従来の「eKクロススペース」とは異なる雰囲気を醸し出していた

 

もう一つ注目なのは、悪路での走破性です。前述したように、4WD車にはスムーズなダンピングと路面への追従性を高めたショックアブソーバーが装備され、そのうえでタイヤサイズを一回り大きくした165/60R15を組み合わせています。これにより、2WD車に比べて砂利道など悪路での走破性を高めているとのこと。この日の試乗では、悪路走行はキャンプ場内に限られたため、その効果をはっきり体感できるまでには至りませんでしたが、継続装備されたヒルディセントコントロールも含め、改めての試乗で確かめてみたいと思います。

↑砂利道など悪路での走破性を高めているとのことだったが、キャンプ場内ではその効果を十分に体感することはできなかった

 

可愛い『デリ丸。』のCM効果もあって、三菱の軽自動車としては異例の大ヒットをもたらしたデリカミニ。ここまで人気を集めればサードパーティの新たなパーツの登場も期待できそうです。かつてのパジェロミニがそうだったように、デリカミニとして新たな盛り上がりを期待したいところですね。

 

SPEC【T Premium(4WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1830mm●車両重量:1060kg●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:64PS/5600rpm●エンジン最大トルク:100Nm/2400〜4000rpm●モーター最高出力:2.7PS/1200rpm●モーター最大トルク:40Nm/100rpm●WLTCモード燃費:17.5km/L

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撮影/松川 忍

20万円以下で高コスパ! 電アシ元祖ヤマハの「PAS Brace」は気軽に使える「フツウさ」が武器

ママチャリでは味気ないけれど、e-MTBはハードルが高い。そんな人におすすめしたいのが取り回しの良いe-クロスバイクだ。本記事では、自転車ライターの並木政孝さんが厳選したe-クロスバイクモデルのなかから、電動アシスト自転車の元祖、ヤマハの「PAS Brace」を紹介しよう。

※こちらは「GetNavi」 2023年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が選びました

自転車ライター 並木政孝さん
輸入車、女性ブランド、眼鏡、時計雑誌の編集長経験を持つフリーライター。釣りやアウトドア、自転車にも精通する生粋の道楽者だ。

 

アンダー20万円で買えるベストパートナー

ヤマハ
PAS Brace 19万3600円

電動アシスト自転車の元祖、ヤマハならではの信頼性とアンダー20万円で買える手軽さが魅力。巡航距離は最大91kmと少々控えめだが、通勤・通学から休日のサイクリングまで気軽に使えるコスパに優れたe-クロスバイクだ。

バッテリー容量:15.4Ah
一充電あたりの走行距離目安:強モード62km/スマートパワーモード68km/オートエコモードプラス91km
変速:内装8段
重量:23.0kg

 

↑確実な制動力を発揮するディスクブレーキをフロントに採用。アシストが効いた状態でも安全に止まることができて心強い

 

↑内装8段式を採用したギアを搭載し、軽快な走りが楽しめる。各シフト位置に合わせて最適な電動アシストを提供してくれる

 

↑モード表示、時計、消費カロリーを表示するスマートクロックスイッチ。バッテリー残量が20%を切るとブザーで警告してくれる

 

並木’s JUDGE

毎日気軽に使えるフツウさが武器

「巡航距離が短かめなのでマメな充電が必要ですが、気軽に使えるフツウさが魅力です。フロントショックの採用で段差への乗り上げも快適。女性にもオススメのモデルです」(並木さん)

トレックらしい秀逸なフレームワークを見よ! 「FX+ 2」の最新モデルを選ぶべき理由を徹底レビュー

軽快なライドが叶うe-クロスバイクは、スポーティでカッコ良く、本格的なサイクリングが楽しめる。週末が待ち遠しくなること間違いなしのe-クロスバイクの注目モデルを、自転車ライターの並木政孝さんが厳選してくれた。本記事では、そのなかから特に軽快なライドが楽しめる、トレック「FX+ 2」を紹介しよう。

※こちらは「GetNavi」 2023年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が選びました

自転車ライター 並木政孝さん
輸入車、女性ブランド、眼鏡、時計雑誌の編集長経験を持つフリーライター。釣りやアウトドア、自転車にも精通する生粋の道楽者だ。

 

リヤハブモーターの採用でスマートさを倍増

トレック
FX+ 2 27万9290円

ダウンチューブ一体型のバッテリーに加え、パワフルな40Nmのリヤハブモーターを採用することで、ペダル周辺がスッキリとして “電アシ感” を一掃。ロードバイクにも負けないスポーティさと軽快さを合わせ持つ最新モデルだ。

バッテリー容量:250Wh
一充電あたりの走行距離目安:最大67km
変速:外装9段
重量:17.69kg(サイズM)

 

↑リヤハブ部分にモーターを内蔵。コンポーネントは通常のクロスバイクと同様にシマノ製外装9段を採用し、軽快なライドが可能だ

 

↑スッキリとデザインされたアシストスイッチは好感が持てる。液晶画面は搭載されていないが直感的に操作できるので心配なし

 

↑同モデルはバッテリーが取り外しできないので車体に充電器を接続。だが、別売の外付けバッテリーがあれば自宅で充電できる

 

並木’s JUDGE

巡航距離は短かめだがスタイルは完璧!

「トレックらしいフレームワークは秀逸。新採用のリヤハブモーターでスッキリ感も抜群です。唯一のネックは巡航距離が67kmと短い点ですが、都市部での使用なら必要十分」(並木さん)

もうすぐロータリー×PHEV版出ますが…マツダ「MX-30 EVモデル」の価値はどこにある?

昨今、世界の自動車メーカーから次々とEVが発表されている。そんななか、マツダは同社初の量産型EVとして、2021年1月に「MX-30 EVモデル」の国内販売を開始した。ハイブリッドモデルとなるMX-30が先行して登場しているが、併売する意義や販売的な成功はあるのだろうか。さらに、同クラスのSUVの多くがファミリーカーとして使われているなか、MX-30 EVモデルの使い勝手はどうか。発売から2年半経過した今、考察してみたい。

 

■今回紹介するクルマ

マツダ MX-30 EVモデル

※試乗グレード:EV・Highest Set

価格:451万~501万6000円(税込)

 

 

MX-30のEVモデルは遅れてきた本命

MX-30は現在日本で売れ筋となっているコンパクトサイズのSUVだが、ベースとなっているのは、同社のコンパクトSUV、「CX-30」である。そして、マツダにはさらに小型のエントリーモデル、「CX-3」もラインナップされている。棲み分けが難しいこの小さな領域において、マツダだけで3車種も販売している状態だ。

 

では、この3台で最も後出しとなるMX-30 EVモデルの存在意義とはなんなのかと言われれば、それはEVとして企画されたモデルであることにほかならない。2020年10月にマイルドハイブリッドモデルが先行して発売されたものの、EVであることを前提に開発された車種だけに、数か月後に発売されたEVモデルが「遅れてきた本命」というわけである。

 

観音開きのドアはファミリー向けの提案

デザインについても、CX-3やCX-30とは一風違ったテイストで仕上がっている。フロントまわりはEVらしくグリルが小さく、流行りの大型グリルの威圧顔とは違ったすました表情だ。全体的には現代的な曲線基調で、尖った部分はなくスッキリしており、上質さと同時に、親しみやすさを感じるデザインにまとめられている。

↑サイズは全長4395×全幅1795×全高1565mm。試乗モデルのカラーは特別塗装色のソウルレッドクリスタルメタリックで、ほか7色のカラーを展開しています

 

デザインではないが、「フリースタイルドア」と呼ばれる観音開き式のドアもこのクルマのポイントとなっている。フロントドアは通常通りの後ろ開きだが、リアのドアが前開き。つまり真横から見たら観音開きである。マツダで観音開きといえば、RX-8を思い出す好事家もいるに違いない。

 

この観音開き、実は構造的な“珍しさ”のほかにもメリットがある。それは、前席ドアを開けなければ後席ドアが開かないというもので、小さな子どものいる家庭では重宝される機能。ファミリー向けのクルマとして、ミニバン以外の選択肢に新たな提案というわけだ。

↑フリースタイルドアは専用設計のヒンジを採用しており、ほぼ垂直に近い角度まで開きます

 

↑ラゲージスペースは366Lの容量を確保

 

インテリアも非常に特徴的なデザインが採用されている。特に印象に残るのは、シフトノブの下部にスペースが設けられていること。これは一部輸入車などでも採用されていた構造で、見た目もスッキリするし、ドライブ中でも欲しいアイテムをすぐ手に取ることができて、足元に落ちる心配も少ない。また、センターコンソールに採用されたコルク素材も、現代的でオシャレである。

↑シフトノブとコマンダーコントロールは前方に配置。またセンターアームレストを高くしているため、肘を置きながら自然な腕の角度で操作できるようにしています

 

↑空間全体で包み込まれるような心地よさを実現したというシート

 

↑回生ブレーキの強さを変えられるパドルシフトが付いたステアリング

 

さらに、2022年10月の商品改良では、MX-30 EVモデルのバッテリーから電力を供給できるAC電源が追加装備されている。これで、アウトドアなどレジャーに出かけた先でも、電化製品を気軽に使うことができるため、アクティブなライフスタイルをサポートしてくれるに違いない。

コーナーも安心の乗り心地。航続距離の短さは日常使いであれば問題なし

もうひとつ、MX-30 EVモデルならではの美点がある。それは走りがいいことだ。EVならではのストップ&ゴーの気持ちよさはもちろん、乗り心地も優れている。しなやかなサスセッティングで道路に張り付くように走れるだけでなく、ドイツ車のようにタイヤの接地感が失われるようなことが少ないので、背の高いSUVでありながら高速道路のコーナーでも安心である。

 

一充電走行距離のカタログ値は256kmとなっているが、実質的には200kmくらいになるだろう。この距離をどう捉えるかだが、買い物や通勤など短距離移動を日常的にこなす人にとっては、不足感はないはずだ。

↑運転席寄りに搭載されたe-SKYACTIVEVユニット。モーターの最高出力は107kW(145ps)/4500~11000rpmで、最大トルクは270Nm(27.5kg-m)/0~3243rpmです

 

↑充電口には普通充電ポート(左)と急速充電ポート(右)をそろえています

 

さらに今後、プラグインハイブリッドモデルが発売される。電気モーターにプラスして、発電機を回す動力源としてのエンジンを搭載した「e-SKYACTIV R-EV(イースカイアクティブ アールイーブイ)」という名称のモデルが追加販売されるという。発売日はまだアナウンスされていないが、6月22日に広島の宇品工場で量産が開始されたことが発表されている。

 

この発電用エンジンというのが、なんとロータリーエンジンである。マツダにとってロータリーエンジンは特別なもので、コスモやRX-7に搭載されてきた象徴的な技術だ。RX-8生産中止以来、約11年ぶりのロータリーエンジンは、発電用であっても特有の高回転の快音が聞こえるのだろうか。だとすればファン垂涎のモデルでもあり、このモデルの投入でMX-30が一気にスターになる可能性も秘めている。今回紹介しているEVモデルの購入を検討していた人にとっては、悩ましい存在となるのかもしれないが……。

 

「人が乗ってないクルマ」「自分らしさを表現できるクルマ」を好む人が選ぶ

さて、このMX-30 EVモデルの最大のマイナス面を挙げるなら、価格が高いところだろう。ハイブリッドモデルと比べて、約200万円も高く設定されている。ハイブリッド車を検討している人からは、この価格を知っただけで見向きもされないかもしれない。

 

しかし、そもそもMX-30 EVモデルを選ぶ人は、人が乗ってないクルマや、自分らしさを表現できるクルマを好む人である。「EVに乗る生活」により早く移行できることからも、喜びを味わえるのではないだろうか。そこに加えて、CO2排出量を抑えることに意義を感じられるような人にはぴったりである。

 

同クラスのEVのなかでも、見事な“個性”を発揮しているMX-30 EVモデル。これからマツダマニア待望のロータリーエンジン搭載プラグインハイブリッドモデルが追加されることになる。ハイブリッドかEVか、はたまたプラグインハイブリッドか、人々がどのモデルを選ぶのか、今後はその経過を追ってみたい。

 

SPEC【EV・Highest Set】●全長×全幅×全高:4395×1795×1565mm●車両重量:1650kg●パワーユニット:電気モーター●最高出力:145PS(107kW)/4500-11000rpm●最大トルク:270Nm/0-3243rpm●WLTCモード一充電走行距離:256km

 

文/安藤修也、撮影/茂呂幸正

 

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PorscheのCarPlayでの車両コントロール機能が進化

カーブランドのPorsche(ポルシェ)は、Apple(アップル)の車載システム「CarPlay」における新たな車両コントロール機能を発表しました。

↑Porscheより

 

今回の新機能は、「My Porsche」アプリのアップデートにより提供されます。これにより、CarPlayをとおして車両のオーディオ、空調、快適機能、照明、エンタメ機能を操作することができるのです。

 

Porscheによれば、車両のオーナーはラジオ局の変更や車内温度のコントロール、照明の調整などを行うことができます。さらに「リラックス」「ウォームアップ」「リフレッシュ」といったウェルネスモードを、CarPlayのクイックアクション機能から起動することができます。これらの機能は、音声アシスタント「Siri」の音声コマンドからも操作可能です。

 

これらの機能は、Porsche Communication Management(PCM)に表示されるQRコードをスキャンすることで、利用を開始できます。新しいMy PorscheとCar Playの機能は、まず「Cayenne(カイエン)」から利用できるようになり、その後に他のモデルにも展開される予定です。

 

また今回のニュースとは別に、AppleはCarPlayにおけるマルチスクリーンへの対応や、車両コントロール機能などの導入を予告しています。この新しいCarPlay機能を搭載した車両は、今年後半に登場する予定です。

 

Source: Porsche via MacRumors

「テスラか、それ以外か」と思わせるほど「モデルY」のバッテリーと乗り心地は素晴らしい

日本ではあまりうまくいっていないEV(電気自動車)の普及。しかし北米の雄・テスラは、日本以外での鮮やかすぎる販売的成功をもとに、日本にトドメとなる1台を展開させてきた。人気モデルである「モデル Y」の航続距離を強化したバージョンは、日本の市場にどれだけ食い込めるだろうか?

 

■今回紹介するクルマ

テスラ モデル Y

※試乗グレード:デュアルモーターロングレンジAWD

価格:652万6000円

 

「加速は必要ないが、長い距離を走りたい」人に最適な選択肢

テスラと言えば世界一のEVメーカー。そのテスラのなかで現在一番売れているモデルが、SUVの「モデル Y」だ。

↑フロントは目立つグリルなどがない。それがかえって先進性を醸し出している

 

SUVと言っても、最低地上高が特に高いわけではなく、セダンタイプのモデル 3の全高をこんもりと上げ、そのぶん室内を広くしたモデルだと考えればいい。そもそもセダンの販売は世界的に絶不調。そんななかでモデル 3は健闘していたが、モデル Yの生産が本格化したことで、そちらに主役の座を譲ったわけだ。

 

日本で販売されるモデル Yには、従来2つのグレードがあった。ベーシックなRWD(563万円)と、デュアルモーターAWDパフォーマンス(727万円)だ。WLTCモードの航続距離は、RWDが507km、パフォーマンスが595km。パフォーマンスのウリはスーパーカー以上のバカ加速だが、一般ユーザーには性能過剰だった。

 

そこに今回、中間的存在の「デュアルモーターAWDロングレンジ」が加わった。価格は652万円とちょうど両車の中間で、航続距離は605km。パフォーマンスより価格が75万円安いので、「バカ加速は必要ないが、安心して長い距離を走りたい」というユーザーには、最適な選択となる。今回は、発売間もないこのクルマに試乗した。

↑高速に乗って長い距離を試走

 

バッテリーマネジメントが優れた、EV界のエリート

モデル Yロングレンジに限らないが、テスラのEVには、ドアに鍵穴もタッチセンサーもない。キーを登録したスマホを持つオーナーが近づくだけで、自動的にドアロックが解除される。

 

運転席に乗り込んでも、ボタンがほとんどない。電源ONのボタンすらない。これまた、キーを登録したスマホを持ったオーナーが乗り込むだけで、自動的に電源が入るのだ。ステアリング右に生えたレバーを下げるとDレンジに入り、発進が可能になる。

↑ボタン類をほとんど排除したシンプルなインテリア。中央のディスプレイは15インチと大きめ

 

この、ほとんどボタンがない操作系には、中高年は大抵ビビッてしまう。不安で不安でたまらなくなる。でも、慣れれば気にならなくなる。初めてのスマホのようなものだ。

 

ステアリング右のシフトレバーと左のウィンカー以外のあらゆる操作は、中央のディスプレイで行なうことになる。運転中のタッチ操作は結構難儀でイライラするが、声で操作することも可能だ。音声認識はスマホ並みに優秀なので、ナビの設定やエアコンの温度変更は、声で操作するのが吉。

 

いよいよ走り出そう。充電100%で電源ON、エアコンもONの状態で、ディスプレイに表示される航続距離は525kmだった。WLTCモードの605kmよりは短いが、公称の87%に当たる。通常EVの実際の航続距離がWLTCモードの7掛け程度なのに比べると、かなり長い。さすがテスラだ。

 

テスラは、バッテリーのマネジメントが非常に優れている。つまり充放電の制御が上手なので、同じバッテリー容量でも、より長い距離を走れて、バッテリーの寿命も長い。最初に表示される「525km」という数字からも、それがうかがえる。さすがEV界のエリートである。

サスペンションがしなやかで、乗り心地は快適

走り始めると、まさにEVそのもの。音もなくスムーズに加速する。驚いたのは、新車の割にサスペンションがしなやかだったことだ。ボディも猛烈にしっかりしているので、乗り心地は素晴らしい。

 

以前乗ったモデル 3は、サスペンションがハードすぎて乗り心地は最悪レベルだったが、今回のモデル Yは雲泥の差だった。もともとテスラ車は新車時のサスのあたりが固い傾向があったが、改良されたらしい。

 

市街地で気になるのは幅の広さだ。全長は4760mmなのでちょうどいいが、全幅は1925mmもあり、取り回しには多少気を遣う。

 

そのぶん室内は広い。セダンのモデル 3と比べると、全高は180mm高く、全長も65mm長いのだから当然だ。パノラミック・ガラスルーフが標準装備なので、開放感もある。ラゲージ容量は、リアシートの後ろ側で854L。これで足りない人はまずいないと思うが、リアシートの背もたれを倒すと、2041Lという巨大な空間になる。フロントのボンネット下にも117Lの容量のトランクがある。実用性は十分だ。

↑本体サイズは約全長4760×全幅1925×全高1625mm。カラーは試乗モデルのパールホワイトのほかに、オプションで4色をそろえている

 

↑コックピットはシートポジションが高く、ダッシュボードは低いため、よく見渡せるようになっている

 

駆動用モーターは、前後に1基ずつ搭載。詳細な出力は非公開だ。モデル Yパフォーマンスに比べると加速は控え目だが、それでも十分すぎるほど速い。

↑試乗モデルは、静止状態から時速100kmまで約5.0秒の加速を実現している

 

ライバルに対して優位に立つ航続距離の長さ

テスラ車の美点は、速度を上げてもあまりバッテリーを食わない(電費がいい)点にある。新東名の120km/h制限区間を120km/hでブッ飛ばしても、100km/hのときとあまり電費が変わらないのだ。空気抵抗は1.4倍に増加しているはずなのに、不思議で仕方がない。EVは速度を上げると急激にバッテリーを食うものだが、なぜかテスラはその割合が小さい。これも優れたバッテリーマネジメントの賜物だろうか? テスラは技術的な情報をほとんど公表しないので謎だが、そう考えるしかない。

 

東京から240km先の浜松SAで折り返し、富士川まで合計340km走った段階で、バッテリーにはまだ34%電力が残っていた。つまり、100%使い切れば500km走れた計算だ。残り20%まででも、約400km走れることになる。さすがロングレンジ。ここまで航続距離の長いEVは、この価格帯にはほかに存在しない。ライバルに対して、2~3割は優位に立っている。

 

富士川のテスラスーパーチャージャー(テスラ専用の急速充電スポット)の250kW器で30分間充電したところ、87%まで回復した。推定充電量は40kW。平均充電速度は80kWhだ。最大50kWがスタンダードのチャデモ(CHAdeMO)の急速充電器よりはるかに速い。しかもテスラスーパーチャージャーは、一か所のスポットに4~6器の充電器が並んでいるから、充電待ちもまずない。

↑スーパーチャージャーでは、15分間で最大275km相当の充電が可能

 

テスラスーパーチャージャーは、現在国内70余か所、300器強が整備されている。なにしろテスラ専用なので、気分は貴族。この充電速度で、この利便性。EVは「テスラか、それ以外か」で、天と地の差があると認めざるを得ない。

 

SPEC【ロングレンジ AWD】●全長×全幅×全高:4760×1925×1625mm●車両重量:1980kg●パワーユニット:デュアルモーター●最大出力:250kW●最高時速:217km/h●航続距離:605km

 

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撮影/池之平昌信

電動化されても“らしさ”は健在! アルファ・ロメオ「トナーレ」試乗レビュー

今回はアルファ・ロメオの新型コンパクトSUV「トナーレ」をピックアップ。「電気」の存在を強く意識させるニューモデルの走りをチェック!

※こちらは「GetNavi」 2023年7月号に掲載された記事を再編集したものです

 

走りはMHEVでも「電気感」が強い!

アルファ・ロメオ トナーレ

SPEC【ヴェローチェ】●全長×全幅×全高:4530×1835×1600mm●車両重量:1630kg●パワーユニット:1468㏄直列4気筒DOHC+ターボ+電気モーター●最高出力:160[20]PS/5750[6000]rpm●最大トルク:24.5[5.6]kg-m/1700[2000]rpm●WL
TCモード燃費:16.7km/l
●[ ]内は電気モーターの数値

 

しばらくFRベースで少々大きめのジュリアとステルヴィオしかなかったアルファ・ロメオだが、久しぶりにコンパクトSUVのトナーレが登場。都市部で使いやすく身近なモデルだ。

 

電動化へ向けた第一歩でもあるがMHEV(マイルド・ハイブリッド)となり、1.5lターボ・エンジンに20PS、5.6kg-mのモーターが組み合わされている。信号などで停止するとエンジンも止まるのは当然だが、面白いのは発進からしばらくはフルハイブリッドのようにモーターだけで走ること。MHEVでここまで電気感が強いのは珍しく、燃費も良さそうだ。その一方、アクセルを強く踏み込むと元気いっぱいの走りをみせるのがアルファ・ロメオらしい。

 

ボディには剛性感があり、サスペンションは引き締まっている。おまけにステアリングギア比が超クイックなので、操舵するとグイッとノーズが反応してスポーティ。それでいて操縦安定性も高く、シャーシ性能は想像以上に高度だ。

 

デザイン性の高さが持ち味

スポーティな仕立ての外観は、いかにもアルファ・ロメオ。撮影車は導入記念モデルのエディツィオーネ・スペチアーレで、現在のラインナップはTIとヴェローチェの2種。

 

メーターはついにデジタルな画像に!

ドライバーズカーらしい仕立てのインパネでは、アルファ・ロメオ初のデジタルクラスターメーターを採用。上級グレードではシートがレザー仕様となるなど、上質感も十分。

 

SUVとしての実用性もハイレベル

荷室容量は、後席を使用する通常時でも500ℓを確保。SUVとしての使い勝手は申し分ない。電動テールゲートも標準で装備している。

 

日本仕様はハイブリッドのみ

パワーユニットは、1.5l直噴ガソリンターボエンジンと48Vモーターの組み合わせ。組み合わせるトランスミッションは7速ATとなる。

 

構成/小野泰治 文/石井昌道 撮影/郡 大二郎

注目はキレキレのデザインだけじゃない! 新型トヨタ「プリウス」試乗レビュー

ハイブリッドの選択肢が豊富ななか、その元祖であるプリウスが独自の魅力を満載して登場。今回は劇的に生まれ変わったトヨタ「プリウス」をピックアップ。

※こちらは「GetNavi」 2023年7月号に掲載された記事を再編集したものです

 

大胆なスタイリングに相応しい走りも楽しめる!

トヨタ
プリウス

SPEC【Z(FF)】●全長×全幅×全高:4600×1780×1430mm●車両重量:1420kg●パワーユニット:1986㏄直列4気筒DOHC+電気モーター●最高出力:152[113]PS/6000rpm●最大トルク:19.2[21.0]kg-m/4400〜5200rpm●WLTCモード燃費:28.6km/l
●[ ]内は電気モーターの数値

 

見よ、この劇的に生まれ変わった姿を! 低くワイドでフロントウインドウの角度はスーパーカー並み。タイヤも19インチを履く。乗降性や後席の居住性は推して知るべしだが、こんなにスタイリッシュになるとは予想外だった。

 

それだけではない。スポーティなルックスに相応しく、走りもスポーツカー顔負けの仕上がりだ。新たに主力に位置づけられた2lハイブリッドは、従来型と同等の低燃費を達成しつつ胸のすくような加速感や俊敏なレスポンスを実現している。ハンドリングも、まさに意のまま。ドライブフィールも、これまでとは一線を画する出来映えだ。また4WDのE-Fourでは走りの一体感がより高まり、舗装路しか走らない人にも積極的に薦めたくなる。

 

さらに新型はPHEV(プラグイン・ハイブリッド)もスゴい。EV走行距離が最大105kmと大幅に向上したのも大したものだが、ハイブリッド比で約1.5倍の出力を持つ強力なモーターを搭載。6.7秒という0〜100km/h加速は、ハイブリッドより0.8秒も速く静粛性にも優れる。加えて外部給電機能も標準装備だ。

 

いまやハイブリッドの選択肢が豊富ななか、その元祖であるプリウスが独自の魅力を満載して登場したことは大いに歓迎したい。

 

PHEV仕様は一層高性能に!

19インチタイヤ装着車では87㎞だが、17インチ仕様ではEV航続距離が105㎞に。2WDのみだが電気モーターも高性能化されている。

 

サイズを考えると少し控えめ

荷室容量は、後席を使用する通常時で284〜370l(バックドアガラス下端まで)。ボディサイズに対しては若干ながら控えめだ。

 

パワーユニットは2タイプ

ハイブリッドシステムのエンジンは、KINTO専用車が1.8ℓ。その他のグレードはPHEVも含めて新開発の2lユニットを搭載する。

 

受け継いだのはボディ形状だけ?

5ドアハッチバックというボディ形状こそ先代と変わらないが、モノフォルムを強調する外観は実にスタイリッシュ。個性的な造形のライトまわりはフルLED化されている。

 

電気駆動モデルらしさを強調する作り

インパネはドライバー正面に7インチのトップマウントメーターを装備するなど、電気駆動モデルらしさを強調する仕立て。室内は前後席ともに十分な広さを確保する。

 

構成/小野泰治 文/岡本幸一郎 撮影/郡 大二郎

クルマの神は細部に宿る。【ルノー カングー編】走りは完璧な新型の問題点とは?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は、キャンプやペット生活を楽しむ人たちの間で大人気のカングーを取り上げる。顔が一新された新型の評価は?

※こちらは「GetNavi」 2023年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)
日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

安ド
元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】

RENAULT
KANGOO

SPEC【クレアティフ・ディーゼル】●全長×全幅×全高:4490×1860×1810mm●車両重量:1650kg●パワーユニット:1460㏄直列4気筒ディーゼルターボ●最高出力:116PS(85kW)/3750rpm●最大トルク:270Nm/1750rpm
●WLTCモード燃費:17.3km/l

481万円〜850万円

 

走りは問題なし! 問題はボディカラーの少なさ?

安ド「殿! 今回は新しいカングーを紹介します!」

永福「問題の新型カングーだな」

安ド「えっ、問題とは?」

永福「カングーはここ日本で、フランス人もビックリの人気を誇ってきた。質素でオシャレで実用的なフランス製ミニバンとして、数多くのファンを持っている」

安ド「独特のどんぐりまなこが良かったですよね!」

永福「ところが新型は、フランスの公務員のような顔になった」

安ド「なるほど、それが問題ですか。でも今回の撮影車は、日本向けにわざわざ黒い樹脂バンパーを付けた質素なグレードで、これなら悪くないと思います!」

永福「確かに悪くない」

安ド「僕が乗っていたフィアット・ムルティプラの整形顔を思い出しました。商用車風のスチールホイールもカッコ良いです!」

永福「扁平率が60の分厚いタイヤも良いな」

安ド「乗ってみると、走りも良いのでビックリしました。カングーってこんなに操縦安定性が良かったでしたっけ?」

永福「最近のルノー車らしい、タイヤが路面に吸い付くような安定感抜群の走りだな」

安ド「今回は1.5lのディーゼルエンジン仕様でしたが、静かで実用的で良く走りますね!」

永福「燃費も良いぞ。首都高を軽く流したら、22km/lも走った」

安ド「凄いですね! 燃料は軽油ですし!」

永福「走りには文句なしだ」

安ド「じゃ問題は顔だけってことですね?」

永福「いや、まずボディカラー。黒い樹脂バンパーの質素仕様は、白か黄色しか選べない」

安ド「ええっ! たったの2色ですか!?」

永福「いくらなんでも4色くらい揃えてほしいぞ」

安ド「そのうち増えるんじゃないでしょうか?」

永福「だと良いな」

安ド「ほかにもありますか?」

永福「ある。大幅な値上げだ。先代カングーは250万円くらいから買えたのが、新型は384万円から。今回のクレアティフ・ディーゼルは419万円だ」

安ド「エエ〜ッ! 先代カングーって安かったんですね……」

永福「確かに、いま考えるとものすごく安かった。だから人気があったのだな」

安ド「でも、カングー人気は日本でも定着してますから、高くなってもファンは買うんじゃないでしょうか?」

永福「とは思うが、現在はシトロエン・ベルランゴというライバルが出現している。コンセプトもサイズも値段もほとんど同じ。そしてデザインや装備はベルランゴのほうがかなり上だ。私ならベルランゴを選ぶな」

安ド「ベルランゴのボディカラーは何色ですか?」

永福「5色だ」

安ド「カングー、ピンチですね!」

 

【GOD PARTS 神】インパネアッパーボックス

フランスの働く人たち御用達の便利機能

運転席正面に小物入れがあるのは普通ですが、カングーにはここから伸びるスマホホルダーがオプション設定されています。内部にはUSB端子もあって充電もバッチリ。さらに同じものを左右両側につけることも可能で、これは母国フランスで仕事用とプライベート用でスマホを2つ使用するユーザーが多いそうで、そこへの配慮らしいです。

 

 

【GOD PARTS 01】ダブルバックドア

 

日本では見かけないが欧州の香りを感じる

いわゆる「観音開き」です。日本のミニバンではほとんど採用されていませんが、逆にこういうところは欧州の香りが感じられて好ましいです。写真のように180度全開にできますが、途中の90度で一度止まる構造になっているので安心して開くことができます。

 

【GOD PARTS 02】ラゲッジスペース

 

広大すぎる空間を自由に使い倒せる

通常時でも775l、リアシートを前方に倒せば床はフラットになったうえ、2800lもの大容量スペースが出現します。なお、リアシートは6:4の分割可倒式になっていて、トノカバーと合わせて、空間を仕切るなどして自由に使い倒すことができます。

 

【GOD PARTS 03】チャイルドミラー

 

隠された小さなミラーで運転中でも後席が確認可能

前席頭上のオーバーヘッドコンソール中央には小さなミラーが隠されています。なぜ2つもバックミラーがあるのかというと、こちらは後席の子どもなどを見るための車内用。使わない時は裏返して格納できるので邪魔になりません。

 

【GOD PARTS 04】両側スライドドア

初代モデルから受け継ぐ使いやすいドア構造

日本のミニバンではおなじみですが、海外ではあまり多くないスライドドア。カングーはルーツが商用車であるため、初代モデルから採用されてきました。開口部が広くて乗りやすいうえ、荷物も積み込みやすくなっています。

 

【GOD PARTS 05】スチールホイール

安っぽさをウリにするハーフキャップデザイン

従来モデルではキャップレスのスチールホイールを履かせていたオーナーもいましたが、新型の「クレアティフ」グレードでは、商用車っぽいハーフキャップの16インチホイールが設定されています。チープな雰囲気が逆にイケてます。

 

【GOD PARTS 06】オーバーヘッドコンソール

頭上にモノを置くというスペース活用術

普通のクルマにはあまり付いていませんが、カングーではおなじみとなっているのが頭上の物入れ。手を伸ばせばスッとモノを取り出せるので重宝します。左右両側はつかめるようになっていて、アシストグリップとして使えます。

 

【GOD PARTS 06】ヘッドライト

 

幼かったイメージを大人っぽくするライト

初代と2代目はつぶらな瞳(ライト)だったカングーですが、新型は直線基調のキリッとしたまなざしに変更されました。顔の印象は大人っぽくなり、スポーティでワイド感があって、こちらのほうが好きという方もいるようです。

 

【GOD PARTS 07】ブラックバンパー

この感じが好き! という人の声が取り入れられた

本来、塗装のされていない黒い樹脂パーツというのは、商用車などでコストを抑えるために採用されるものです。しかし、この野暮ったさが良いというファンの声が取り入れられ、日本にも導入されることになったとか。ルノー首脳部の英断に拍手!

 

【GOD PARTS 08】パワーユニット

内燃機関モデルに乗れる喜び

新型には今回の1.5lディーゼルのほか、1.3lガソリンエンジンもラインナップされています。電動化がマストとなりつつある欧州ブランドながら、内燃機関を充実させているのはカーマニア的にはウレシイ限りです。

特に坂道で真価を発揮! パナソニックe-bike「XEALT」新モデル試乗レポ

パナソニック サイクルテックから、e-bikeの新モデル「XEALT L3」(以下、L3)と「XEALT S5」(以下、S5)が出ました。L3は街乗りに適したライトスポーツバイク、S5はアウトドア向けのオールラウンダーで、それぞれ異なる顔を持っています。では、実際の乗り味はどう違うのか、今回この2台に試乗する機会を得ましたので、その体感をレポートします。

 

通勤・通学や街乗りに最適なL3

↑XEALT L3。希望小売価格は19万5000円(税込)

 

メーカーが「e-bikeの裾野を広げたい」という思いで開発したというL3は、通勤・通学や街乗りに最適なモデルです。一般の電動アシスト自転車にも使われるドライブユニットを採用することで価格を20万円以下に抑えつつ、e-bike向けのチューニングを加えてアシスト力を強化。従来のe-bikeではケイデンスが約50rpm以上になるとアシスト力が落ちてしまうという弱点がありましたが、L3はそれを克服しています。具体的には、80rpmくらいの高ケイデンス域までアシストしてくれるので、早く漕いでいるときにも十分な後押しが得られます。

↑コンポーネントにはシマノのCLARISを採用。ギアは外装8段

 

試乗会では、アップダウンのあるコースが用意されました。L3の特徴を特に実感できたのは、坂道でギアを軽くしてたくさん漕いだとき。通常であれば自然とケイデンスが高くなり80rpmを超えてきますが、踏み込んだときの負荷の軽さはしっかりと維持されていました。乗り心地は起伏に左右されることなく、快適です。

↑ケイデンスや速度は、左ハンドルの液晶モニターから確認できます。モニター左の上下のボタンを押すと、アシストモードが変化します

 

アシストのモードは、HIGH、AUTO、ECO、NO ASSISTの4つ。AUTOモードでは状況に応じてアシストパワーを変え、ECOモードではペダルを漕ぐ力と同等のアシストを行ないます。アシストを受けたときの感覚は、後ろから押されるというよりは、足にかかる負荷が単純に軽くなっているという印象です。走り出しで急にグイッと行くことはないので、安全に乗れるように感じました。なお、ECOモードでも十分なパワーがあるので、急な坂道でもない限り、そのほかのモードは使わずともよさそうというのが筆者の感想です。

↑タイヤ径は38C。アルミ合金のフレームはスリム

 

L3は車重が20kgに抑えられており、タイヤも太くはないので、NO ASSISTでもある程度軽快に漕ぐことができました。万一のバッテリー切れにも、それほど怯えずに済みそうです。

 

【XEALT L3 概要】

  • フレームサイズ:390 or 440mm
  • カラー:4色(マットチャコールブラック、シャインパールホワイト、エアグリーン、ソニックローズレッド)
  •  質量:20.0kg(フレームサイズによらず共通)
  • タイヤ:700×38C
  • バッテリー容量:12.0Ah
  • バッテリー充電時間:約4.0時間
  • 走行距離:約45km(HIGH)、約58km(AUTO)、約90km(ECO)
  • メーカー希望小売価格:19万5000円(税込)
  • 発売時期:発売中

 

アウトドア向けのユーティリティー性が光るS5

↑XEALT S5。希望小売価格は36万8000円(税込)

 

アウトドア向けのオールラウンダーであるS5は、街も山も快適に走れるユーティリティー性が特徴です。雨中の走行や、荷物が多いときに備えて、前後のフェンダーやリアキャリアを標準装備しています。

↑後輪のフェンダーとリアキャリア

 

ドライブユニットには、すでに発売済みのマウンテンモデルXEALT M5(以下、M5)と同じGXドライブユニットを搭載。このユニットは、90Nmの高トルクでアシストします。高ケイデンス域でもアシスト力が落ちないのは、L3と同様です。

↑コンポーネントはシマノのALIVIO、ギアは外装9段

 

小柄な人でも取り回しがしやすいよう、タイヤサイズは大きすぎない27.5インチを採用。ただし太さは2.0インチと極太で、高い安定性を発揮します。試乗会で砂山を乗り越えたときにも、地面をしっかり捉えてくれました。ただしタイヤが太いぶん、舗装路を走るときにはL3より明らかに重いので、街で乗り回すぶんにはL3を選ぶのが無難かもしれません。

↑前後輪ともにシマノ製油圧ディスクブレーキを装備。雨天時でも制動力が落ちません

 

モニターがカラーになっているのも特徴のひとつ。L3では、ケイデンスと速度を同時に確認することはできませんでしたが、S5ではそれが可能です。アシストモードはL3と同様の4つを搭載しています。

↑カラーモニター。中段にケイデンス、下段に速度とアシストモードを表示中

 

【XEALT S5 概要】

  • フレームサイズ:390 or 440mm
  • カラー:2色(メタリックダークグレー、レーザーブルー)
  •  質量:25.4kg(390mmモデル)/25.5kg(440mmモデル)
  • タイヤ:27.5×2.0
  • バッテリー容量:13.0Ah
  • バッテリー充電時間:約5.5時間
  • 走行距離:約75km(HIGH)、約99km(AUTO)、約139km(ECO)
  • メーカー希望小売価格:36万8000円(税込)
  • 発売時期:7月上旬より順次

 

XEALTブランドのe-bikeは、マウンテンモデルのM5が先行して発売されていました。今回のL3とS5の発売によって、ラインナップが拡充され、街乗りからアウトドア、スポーツシーンに至るまで、幅広いニーズをカバー。特にL3は通勤・通学の足として、あるいはe-bikeのエントリーモデルとして、高いポテンシャルを持っています。試乗会でこれに乗った筆者も、そのまま乗って帰りたくなるくらい、魅力的な一台でした。

大きいフィアットに魅力はある?「ドブロ」、兄弟車や国産ミニバンとの違いは?

フィアットから家族や仲間との遠出にピッタリなMPV『ドブロ』が日本デビューを果たしました。両側スライドドアを備えつつ、ボディは2列シート5人乗りの「ドブロ」と、3列7人乗りの「ドブロ・マキシ」をラインアップ。これまで日本でのフィアットは「500」や「500X」、「パンダ」など、コンパクトサイズの車両を展開していましたが、ドブロの登場でファミリー層にまで裾野を広げることとなったのです。

 

本記事では、ドブロの魅力をファーストインプレッションとしてお届けします。

 

■今回紹介するクルマ

フィアット/ドブロ

※試乗グレード:ドブロ・マキシ

価格:399万円〜429万円(税込)

 

ドブロはプジョー「リフター」、シトロエン「ベルランゴ」と兄弟車

フィアットのドブロは、同社が属するステランティス・グループのプジョー「リフター」、シトロエン「ベルランゴ」の兄弟車として誕生しています。それだけにボディサイズは5人乗りで全長4405×全幅1850×全高1850mm、7人乗りも全長4770×全幅1850×全高1870mmと、若干の差異はあるもののほかの2車種とほぼ同じサイズ。荷室容量も最大2693リッターと、ほぼ同じとなっていました。

 

では、このサイズはいったいどのぐらいに相当するのでしょうか。たとえばトヨタ「シエンタ」と比べると、5人乗りのドブロは145mm長く、7人乗りのドブロ・マキシになると510mm長くなります。少し大きいトヨタ「ノア」との比較では、ドブロが逆に290mm短くなり、ドブロ・マキシは75mm長いといった感じです。同じ7人乗りで比較すれば、ノア/ヴォクシーに近いサイズと考えていいと思います。

↑全長4770mmのドブロ・マキシは定員が7名。ボディカラーは、この「メディテラネオ ブルー」以外に、「ジェラート ホワイト」「マエストロ グレー」の3色を選べる

 

↑手前が7人乗りのドブロ・マキシで、奥が5人乗りのドブロ。ボディの長さが大きな違い

 

ドブロをフロントから見ると、リフターやベルランゴとはデザインで明らかにテイストが違うことがわかります。フロントグリルをキュッと細身にしたシンプルなデザインは、最近のミニバンに多いギラギラ感とは一線を画するものです。しかも、FIATのロゴマークを大きくして、存在を主張しています。これだけでもフィアットファンにはたまらない魅力となるのではないでしょうか。

↑5人乗りのドブロ。フロントの「FIAT」のロゴマークが存在感をアピール

 

↑ドブロ・マキシのホイールベースは、5人乗りドブロよりも190mm長い2975mm。タイヤは205/60R16

 

多彩なシートアレンジが高い居住性と広大なスペースを生み出す

車内もシンプルなブラックで統一されたインテリアが乗員を取り囲みます。中央を仕切るセンターコンソールには、ダイヤル式シフトやスライド式のリッド付きドリンクホルダーが配置されるのみ。メッキ類もほとんどなく、日本のミニバンに見慣れた人にとっては物足りなさを感じるかもしれません。

 

ですが、それを好まない人にとっては、そのシンプルさがかえって心地よく感じられるかもしれません。むしろ、統一されたシンプルさがあるからこそ、ステアリング中央にあしらわれた、真っ赤なFIATのエンブレムが際立つのです。これもフィアットファンには大きな魅力となるでしょう。

↑シンプルなブラックで統一されたインテリアは、日本のミニバンとは違ってメッキ類もほとんどなし

 

↑ダイヤル式シフトは慣れれば結構使いやすいものだ。パーキングブレーキが電動なのもうれしい

 

一方で収納力はリフターやベルランゴと同様、収納スペースを前席まわりに8か所配置するなど、充実しています。運転席周りは正面のメーターナセルの上にフタ付きのグローブボックスがあり、収容力はかなり大きめです。上を見上げればそこには左右一杯に広がる収納トレーを配置。左右ドアにあるドアポケットもかなり大きめで、使い勝手はよく考えられているようでした。

↑運転席の前にある巨大なグローブボックス。深さもそこそこあって容量はかなり大きめだ

 

リアシートの多彩なアレンジもドブロの魅力です。2列目は3座独立タイプで、それぞれが均等に座れるようになっており、たとえ真ん中に座ったとしても左右より窮屈だったり、居心地が悪かったりはしません。しかもシートはすべて床下に収納できてしまい、フロアがフラットになるのです。

↑3席が完全に独立しているセカンドシート。大人が十分余裕をもって座ることができる。写真は5人乗りのドブロ

 

7人乗りの場合は3列目シートが残りますが、シートそのものを取り外すことができ、それによって生まれる空間は巨大そのもの。独身世帯のちょっとした引っ越しなら十分対応できそうなレベルです。

↑7人乗りのドブロ・マキシでセカンドシートを床下へ収納した例。3列目シートの前に広大なスペースが再現できる

 

また、バックゲートはガラスハッチだけを開閉することもでき、狭い場所でも上から荷物を出し入れできます。車庫などに入れたときの荷物の出し入れに重宝することでしょう。

↑7人乗りのドブロ・マキシのカーゴスペース。脱着も可能な3列目シートを折りたたんでも、かなり広いスペースが生まれる

 

ただ、左右のスライドドア、バックドアともにパワー機構が備わっていません。どれも開け閉めには結構な力が必要で、軽自動車でもパワースライドドアが当たり前に装備されている感覚からすると、ちょっとツライかもしれません。

↑バックドアは自分で開閉。そのため、閉めるときは特に重さを感じるが、このロープが役立つ

力強いトルクが生み出すスムーズな加速。コーナーでの安定度も抜群

日本仕様のパワートレイン系は、1.5Lのターボディーゼルと8速ATの組み合わせで、最高出力130ps/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発揮します。リフターやベルランゴと共通のもので、パフォーマンス面でも満足いくレベルにあることは容易に想像ができます。

↑パワートレイン系は1.5リッターのターボディーゼルと8速ATの組み合わせのみ

 

この日はあいにく雨天での試乗となってしまい、路面から湧き起こる“シャーッ”というノイズが室内に進入し、エンジン音すらかき消してしまうほど。そのため本来の静粛性をチェックできませんでしたが、リフターやベルランゴの経験からすると、高速域でも十分な静粛性を保っていたことは確かです。

 

走りはというと、アクセルを踏み込むと同時に力強いトルクが車体をスムーズに動かしてくれました。しかしながら、決してトルクが出しゃばることなく、自然な雰囲気で加速してくれます。速度の伸びも良好で、少なくとも試乗コースとなっていた都内の道路上で不満はまったく感じませんでした。

 

一方で、サスペンションはしっかり感を伝えるフィールで、コーナーを曲がるときも後輪が路面にちゃんと追従して雨天走行でも不安感はまったくなし。MPVながら走りも楽しめそうな印象でした。

 

最後にドブロで見逃せないのが、安全装備や先進運転支援システムです。オートハイビームや自動緊急ブレーキ、車線維持支援機能を搭載したのはもちろん、ロングドライブで重宝するアダプティブクルーズコントロールを装備。レーンチェンジの安心をサポートするブラインドスポットモニターや、便利な電動パーキングブレーキも搭載しています。実用性のみならず、ドライブの安全性と快適性を両立しているのもドブロのポイントと言えるでしょう。

↑ロングドライブで役立つアダプティブクルーズコントロールを装備。先行車に追従して速度を自動的に加減速してくれる

 

【まとめ】

ドブロは、電動スライド系機構がない点は、日本車並みの至れり尽くせりな装備になっていないのは確かです。しかし、安全装備、運転支援機能を備え、収納スペース、荷室アレンジは十分。広大なスペースを活用して、自分らしい使い方をアレンジするところに魅力があり、存在意義はそこにこそあるのです。家族や仲間と一緒に、そんな新しいイタリア車の世界観を楽しんでみてはいかがでしょうか。

↑ドブロでイタリア車らしい、自分流の楽しみ方を見つけて欲しいと話す、Stellantisジャパン 代表取締役社長 打越 晋氏

 

SPEC【フィアット/ドブロ】●全長×全幅×全高:4770×1850×1870mm●車両重量:1660㎏●パワーユニット:ターボチャージャー付直列4気筒DOHC(ディーゼル)●最高出力:130ps/3750rpm●最大トルク:300Nm/1750rpm●WLTCモード燃費:18.1km/L

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

吉田由美曰く「ランボルギーニ史上、最も楽しいランボルギーニ」ウラカン ステラート試乗記

2022年12月にドーハで発表された 、全地形対応スーパースポーツカーを謳う「ランボルギーニ ウラカン ステラート」。その国際試乗会がカリフォルニアで行われました。オフロードを走れるランボルギーニってどんなもんじゃ〜い? 試乗会に参加した吉田由美さんの試乗記をお届けします。

↑カーライフエッセイスト 吉田由美さん

 

今回は、米国カリフォルニア州パームスプリングスまではるばる、ウラカン ステラートの試乗に行ってきました!

 

そもそもウラカンは、フラッグシップモデルのアヴェンタドールと比べるとやや小ぶりなサイズ。これまでEVO、STO、テクニカなど様々なモデルが登場してきましたが、V10エンジンの最終モデルとして世に送り出したのは、未舗装路も走れるスーパーカーです。

↑V10エンジンは排気量5204cc、最大出力610PS/8000 rpm、最大トルク560 Nm/6500 rpm

 

スーパーカーというと、車高が低く、オンロードをオラオラ走るイメージだから…なんとなくミスマッチ。だけどこれが、乗った人全員が笑顔になるという、楽しい仕上がり。そう、最初に結論から述べてしまうと、試乗の感想は「ズバリ!楽しい♪」。

 

ウラカンシリーズの集大成として「どこでも走れるスーパーカーを作りたかったんだな」と。何がどう楽しかったかはこのあとお伝えしていきましょう。

 

【記事では紹介しきれなかったディテール関連のギャラリー(本記事で使用した写真のギャラリーは記事下部にもあります)】

 

試乗の舞台は、パームスプリングスから100㎞以上離れた砂漠の真ん中にあるサーキット「チャックワラバレー・レースウェイ」。サーキット自体は1周3.75㎞ほどの舗装路のコースですが、ウラカン ステラートの試乗のために半分を通常の舗装路、あとの半分は土の上を走る特別なコースを設定。なんと!同じサーキットのコース内で両方楽しめるという贅沢!

 

ウラカンの名はほかのランボルギーニのモデル同様に闘牛の名前を、ステラートはイタリア語でダートやオフロードという意味だそう。つまり、ダートを走るために生まれたクルマなのです。

 

ウラカン ステラ―トはベースのウラカンEVOと比べて最高地上高が44mm高くなり、ボディサイズは全長5mm長く、全幅を23mm広く、全高は83mm高くなりました。同時に、フロントとリアのトレッドも広くなっています。全体的にひとまわり大きくなっている印象ですが、ほかのウラカンとプロポーション上の違いはあまり感じられません。

↑スタイリングはこんな感じ。確かにいつものウラカンなら地面ひたひたですが、右のリアタイヤも見えるぐらいに最低地上高があります

 

むしろ、ボンネット先端に装備された長方形のラリー用のライトや、前後のアンダープロテクション、黒のオーバーフェンダー、きれいな風をエンジンに取り込むためのにリアフードにつけられたエアインテーク。このあたりはウラカンとは違う、オフロードの雰囲気を漂わせています。

↑ラリーライトに寄ってみました。どことなく闘牛のツノを思わせるよう。存在感たっぷりに配置されています

 

↑オーバーフェンダーもかなり分厚め。ここだけ見るとSUVのように見えますが、これはスーパーカー

 

↑リアのエアインテークは巨大。ながら一体感あるデザインでまとまっています

 

今回パワーアップされたのは、キャリパーやブレーキ系統。カーボンセラミックの大型ディスクブレーキが控えています。そして足元を守るのはブリヂストンのランフラットタイヤ「Dueler AT002」(デュラー AT002)。

 

SUV専用のブランドですが、今回、ランボルギーニとのコラボで開発されたステラ―ト専用タイヤ。乾燥路面はもちろん、ダートも泥の路面でも、浅い雪の路面もどんとこい!ブロックが大きくかなりマッスル。ちなみにサイズはフロントが235/40 R19、リアが285/40 R19。

 

ほかにウラカン ステラートならではといえば、シート。Verde Sterratoと名付けられたアルカンターラ素材が特徴的です。シートやインテリアのレザーとアルカンターラは60色から、エクステリアは350色からカスタマイズも可能。

 

内外装の注目ポイントを説明してきましたが、何より今回の目玉はドライブモードの「ストラーダ」「スポーツ」のほかに「ラリー」モードが設定されたこと。ラリーと銘打つこのドライブモード、どんなものなのか気になります。

 

気分は完全にラリードライバー

さて、お待ちかねの試乗です。砂漠のサーキット試乗はヘルメット着用。ただでさえ暑いのに…。しかし車内はエアコン完備。でも暑くて熱い。そして助手席にチーフインストラクターを乗せて、いよいよコースイン。

 

まずは「スポーツ」モードでオンロードを疾走。思ったよりタイヤのゴツゴツ感は感じられません。そしてコース途中からオフロードコースへ。ここでインストラクターから「ラリー」モードにするよう指示が出されます。

 

ラリーモードに設定し、コーナー手前でブレーキをかけて曲がると自然にリアが流れてドリフト状態になります。これがまるでスローモーション(というのは大げさですが)のように感じられるほど。ただし、車両を安心してコントロールできるので、気分はすっかりラリードライバーかはたまたドリフトドライバー。ラリーモードにすると、グリップが弱くなり、前後の駆動も配分も変わるようです。

 

華麗にドリフトが決まった半分は、電子制御のLDVI(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ)のお陰かもしれません。そして、タイヤがしっかり路面を掴んでくれるし。

 

インストラクターは横から「GO!GO!」と私を煽り、コースに慣れてくると私も徐々にスピードアップ。それにしても自分でクルマを操ってる感、とにかく最高です!個人的には「ランボルギーニ史上、最も楽しいランボルギーニ」と言っても差し支えないでしょう。

 

乾いた土の上を走った後は砂煙が立ち、疾走感抜群。(私には見えてないけど)ああ、なんでこの写真がないの!?(笑)

↑【編集部補足】提供されたプレス用画像に吉田由美さんのイメージするような画像ありました

 

サーキットでの試乗後は、公道試乗。西部劇に登場しそうな荒野をひた走る…。と思ったら、実はカーナビの設定間違いで、違う目的地を設定するというアクシデントが。途中でスタッフに間違いを知らせてもらったのですが、おかげで設定コースより多くの距離をステラートで走ることに体験ができました。

 

50㎞ぐらいの一本道の直線道路は、いくら走っても同じような景色で圧倒。思いも寄らぬ試乗機会となりましたが、乗り心地は意外にも悪くなかったのが印象的です。

 

世界中からプレスを呼んだ今回の試乗会のうち、日本人チームは最後から2番目のタームだったのですが、私たちが乗るときには1本数十万円もするウラカン ステラートのホイールはほぼ全車が傷だらけ。しかもどこもかしこも。それだけみなさん、走らせて楽しい、操って興奮する一台だったといえるでしょう。ちなみに、傷がつくのはランボルギーニも了承済み。実に太っ腹です。

↑ホイールのあちこち、ゴリゴリです

 

さてウラカン ステラート、日本でのお値段は3116万5367円(税抜)。世界限定1499台で、すでにほぼ完売だそうですが、万が一ということもあるようなので、気になる方はディーラーへご相談くださいとのこと。

 

なお、この試乗会でお会いしたシンガポール在住のランボルギーニ広報女史とのディナーによると、シンガポールではウラカン ステラート、1億円だそうです(笑)。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

作りこめば最高の相棒に! 楽しいDIY的なクルマ「スペーシア ベース」

継続するアウトドア人気を受けて、メーカーもその動きを意識したモデルを送り出している。今回はスズキ「スペーシア ベース」をプロが診断する!

※こちらは「GetNavi」 2023年6月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【私が診断します】

GetNavi乗り物担当・上岡 篤

宅ワークを軸にしつつ、取材などに飛び回る日々を送る。

 

作りこむのが楽しいクルマはアウトドアシーンでも大活躍

スズキ
スペーシア ベース
139万4800円〜166万7600円

ハイトワゴンと商用車の“ちょうど良い中間”を狙い開発されたモデル。登録としては商用車ながら乗り心地の良い足回りなど、乗用車としても十分な資質だ。標準で搭載される「マルチボード」で後席や荷室の幅広い活用が可能。

SPEC【XF・2WD】●全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm●車両重量:870kg●パワーユニット:658cc直列3気筒DOHC●最高出力:52PS/6500rpm●最大トルク:6.1kg-m/4000rpm●WLTCモード燃費:21.2km/l

 

頭上にも小物を収納できるスペース

↑乗用モデルのスペーシアでは後席も快適なサーキュレーターを搭載。だが同車では小物が収納できるオーバーヘッドシェルフを装備する

 

愛犬との同乗に便利な分割モードも可能

↑リアシートを愛犬などのペット居住スペースに、荷室部分を荷物積載スペースに分割可能なモードも設定。安心してドライブできる

 

同社軽モデルの豊富な収納スペースが魅力

↑写真のフロントドアポケットを含め、リアスペースの収納スペースも豊富。純正オプションパーツが豊富で、カスタマイズもしやすい

 

標準のマルチボードで後方空間が多彩に変化

↑ワークスペースに適した上段モード(上)、移動販売車などに向く中段モード(中)、フルフラットで車中泊にぴったりな下段モード(下)が設定可能。アイデア次第で車内空間の使い方が大きく広がるのが最大の魅力だ。

 

【上岡’s Check】使い方はアイデア次第!作りこめば最高の一台に

「商用車はバンタイプが多く、使い方も限られてきました。ですが同車はオンでもオフでも活躍できるマルチな存在で、大きな可能性を秘めています。作りこめば最高の相棒です」

 

作りこんでいくのが楽しいDIY的なクルマ

スペーシア ベースは商用車に与えられる4ナンバーのクルマ。だがその性格は、フロントシート回りと、リアシートから後ろの荷室で大きく異なるのが面白い。

 

フロントシートまわりは、他のスペーシアシリーズと変わらない快適さがポイント。足回りも荷物の最大積載量を200kgに抑えたことで乗用車用タイヤの装着が可能となり、ゴツゴツ感もない。

 

一方でリアシートは、スライドやリクライニングも不可能というエマージェンシー的な存在。だがその割り切りと荷室の活用のために標準搭載されるマルチボードが秀逸。ワーキングスペースになったり、フルフラットにして車中泊も可能なモードにもなる。使う人のアイデアで可能性が広がる。

 

同車は「なんとなくアウトドア向きだから」と選ぶのには不適格。であればスペーシア ギアのほうがよりアウトドア向けで快適だからだ。だが「キャンプのベース車にしたい」「移動販売車として使いたい」「動くワーキングスペースにしたい」という目的があり、自分なりに作りこんでいくクルマとして最高のモデルだ。

子育て世代の日常クルマが大変身! ダイハツ「タント ファンクロス」はアウトドアにぴったりの”軽”だ!!

継続するアウトドア人気を受けて、メーカーもその動きを意識したモデルを送り出している。今回はダイハツ「タント ファンクロス」をプロが診断する!

※こちらは「GetNavi」 2023年6月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【私が診断します】

自動車ライター・塚田勝弘さん

新車を中心に中古車やカー用品などを取材、執筆を行う。ゲットナビの元・編集部員で、乗り物担当だった。

 

家族に愛される定番モデルにアウトドア仕様を追加

ダイハツ
タント ファンクロス
168万8500円〜193万500円

2022年10月、タントの商品改良を機に追加。キャンプをはじめ、マリン&ウインタースポーツに向く撥水シート、防水加工シートバックを標準装備する。ルーフレールもファンクロスの専用装備で、荷物が多くなる趣味に対応。

SPEC【ターボ・2WD】●全長×全幅×全高:3395×1475×1785mm●車両重量:940kg●パワーユニット:658cc直列3気筒DOHCターボ●最高出力:64PS/6400rpm●最大トルク:10.2kg-m/3600rpm●WLTCモード燃費:20.6km/l

 

アクセントカラーがアウトドアで映える

↑センターメーターによりワイドで開放感のあるインパネを踏襲する。オレンジの加飾を随所に配することで、遊び心ある仕上がりに

 

助手席側の大開口ミラクルオープンドア

↑ピラーレス構造の「ミラクルオープンドア」により子どもからお年寄りまでラクに乗降可能。大きな荷物の出し入れも容易に行える。 ※写真はタント カスタムのもの

 

掃除もしやすい撥水シート生地を採用

↑ファブリックシートに撥水加工を施すことで、濡れや汚れに強く、掃除しやすい利点もある。後席シート裏にも防水加工が施してある

 

ファンクロス専用のカモフラージュ柄

↑シートはタントのベージュ系、タント カスタムのブラック系とは異なり、カモフラージュ柄。アウトドアに似合う雰囲気を醸し出す

 

【塚田’s Check】タフさと使い勝手を両立した巧みな設計

「子育て層から絶大な支持を集めてきたタントのイメージを覆す、アクティブでタフな内外装がポイント。キャンプを楽しむ開発担当者ならではの利便性の高い装備も出色です」

 

軽スーパーハイトワゴンに外遊びに便利な機能を追加

ダイハツも助手席側のピラー(柱)がない「ミラクルオープンドア」を最大の特徴とするタントをベースに、ルーフレールやタフな印象の前後バンパーを備えたファンクロスを追加。内装に遊び心あふれるオレンジの加飾やカモフラージュ柄のシートを採用し、撥水加工が施された後席シートバックは、汚れた荷物も積載しやすく、手入れも容易にできる。最大の見どころは上下2段調整式ラゲッジボード。上段にするとクーラーボックスなどの大きな荷物が積みやすく、背もたれ前倒し時に段差のない平らな空間が出現する。下段にすれば荷室高が稼げるため高さのあるモノにも対応する。さらにこのボードは着脱可能で、取り外せば車外でアウトドア用品などを置けるテーブルにもなる。

 

子育て世帯の日常クルマとして人気の同車が、外装と内装を変更することで進化。アウトドアにぴったりなモデルに仕上がっている。

2023年最注目の軽自動車「三菱・デリカミニ」をプロが診断!

継続するアウトドア人気を受けて、メーカーもその動きを意識したモデルを送り出している。なかでも軽自動車では三菱・デリカミニの登場で車中泊も快適に過ごせるモデルの人気に拍車がかかりそうだ。今回はそんな人気の「デリカミニ」をプロが診断する!

※こちらは「GetNavi」 2023年6月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【私が診断します】

モータージャーナリスト・岡本幸一郎さん

守備範囲の広さは業界屈指。幼い二児との楽しいカーライフを目指し小さくて便利なクルマを物色中だ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

万能ミニバンのDNAを受け継ぐ2023年最注目の軽自動車

三菱
デリカミニ
180万4000円〜223万8500円

伝統ある「デリカ」の名を冠した軽スーパーハイトワゴンが登場。軽自動車界でも異彩を放つタフでギア感のあるSUVスタイリングが目を引く。車内にもアウトドアでの使用を想定した機能的な装備が満載されている。

SPEC【T プレミアム・2WD】●全長×全幅×全高:3395×1475×1810mm●車両重量:1000kg●パワーユニット:659cc直列3気筒DOHCターボ●最高出力:64PS/5600rpm●最大トルク:10.2kg-m/2400〜4000rpm●WLTCモード燃費:19.2km/l

 

リアシートを最後端にすると広いスペースが出現

↑320㎜もの前後スライドが可能。アウトドアや小さな子どものいる家庭の使用を想定し、汚れにくく通気性の良い撥水シート生地を採用

 

使いやすく機能的で快適なインテリアを採用

↑ブラック基調で水平基調のインパネにライトグレーのアクセントを配する。トレイやドリンクホルダーも使いやすくレイアウトしている

 

後席は分割スライド式でたくさんの荷物を載せられる

↑後席は片側ずつスライドおよび前倒しが可能。助手席のシートバックには大小のポケットやテーブル、充電用USBポートなどを装備する

 

車内のいたるところに収納スペースを設定

↑助手席下にはシートアンダートレイを設定。何かと置き場所に困りがちな車検証もここに入れておくことができるようになっている

 

【岡本’s Check】使い勝手の良さは軽自動車として最上級

「軽自動車派ではないがこのクルマは気になる人は多いはず。まだ乗れていないので走りに関しては予想ですが、悪いはずがない。使い勝手は軽自動車としては最上級です」

 

日常生活では小回りが利きアウトドアでは本領を発揮

誕生から55年を迎える万能ミニバン「デリカ」のDNAを受け継ぐミニマムなクルマがついに現れた。

 

三菱が誇る「ダイナミックシールド」による力強い顔はインパクト満点! 大径タイヤもよく似合う。

 

コンパクトな外見からイメージするよりもずっと広い車内空間は、アウトドア好きや子育てファミリーがより便利に使えるよう細やかな配慮が行き届いている。さらには、好みにあわせて選べるオプションパーツも豊富に用意されている。

 

走りについても、すでにeKシリーズで定評のある三菱のことだから、良くできているに違いない。「デリカ」を名乗るだけあって4WD性能にも期待できそうだから、アウトドア好きで未舗装路を走る機会のある人や、降雪地帯に住む人にとっても心強いはずだ。

 

それでいて、軽自動車のサイズだから小回りが利いて、ちょっと出かけるのも億劫にならないし、先進運転支援装備も充実。高速道路を使った長距離のドライブでも疲れ知らずでより快適に運転できそうだ。

 

見るだけでも楽しめて、毎日の生活でも便利に使えて、休日のお出かけにも頼もしい。小さな車体に多くの要素を詰め込んだ実に欲張りな一台は、アウトドアはもちろん、様々なシチュエーションで楽しいカーライフを満喫させてくれること請け合いだ。

専門家が厳選! スポーティな走りを楽しめるステーションワゴン6選

セダンの利便性はそのままに、荷室スペースを拡大した2ボックスモデルがステーションワゴン。その魅力は使い勝手の良さがおもにクローズアップされがちだが、美しいデザイン、そして低い重心がもたらすスポーティな走りこそ真骨頂。今回は、自動車ライター・海野大介さんに、低重心のスタイルが生む安定した走りが魅力な6台のステーションワゴンを選んでもらった。

※こちらは「GetNavi」 2023年6月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【私が選びました】

自動車ライター・海野大介さん

ウェブを中心に活動する自動車ライター。国内A級ライセンスと1級小型船舶という、趣味性の高い資格を保持。

 

水平対向エンジンを搭載するスポーティワゴン

SUBARU
レヴォーグ
310万2000円〜414万7000円

レガシィツーリングワゴンに代わるステーションワゴンとして2014年にデビュー。現行モデルは2020年にデビューした2代目になる。低重心を生み出すSUBARU伝統の水平対向エンジンを搭載し、スポーティな走りが魅力だ。

SPEC【GT-H EX】●全長×全幅×全高:4755×1795×1500mm●車両重量:1570kg●パワーユニット:1795cc水平対向4気筒DOHC直噴ターボ●最高出力:177PS/5200〜5600rpm●最大トルク:30.6kg-m/1600〜3600rpm●WLTCモード燃費:13.6km/l

 

↑運転支援システム「アイサイト」は全モデルに標準装備。グレードによってはより進化した「アイサイトX」を装備するモデルもある

 

↑荷室床下に290㎜の深さを持つ大型のサブトランクを装備。底面からルーフまでは最大1105㎜の高さがあり、大きな荷物も積載可能だ

 

↑主力エンジンは177PS/300Nmを発揮する1.8l直噴ターボ。低回転域から最大トルクを発揮するので扱いやすいのが特徴だ

 

【ココがスポーティな意匠】低重心のエンジンとAWDの安定した走り

なんといっても低重心を生み出す水平対向エンジンとSUBARU独自のシンメトリカルAWD。コーナー進入時もしっかりと路面を捉え続け、立ち上がりの良さも抜群だ。

 

マイルドハイブリッドが高い環境性能を実現

メルセデス・ベンツ
Cクラス ステーションワゴン
622万円〜1202万円

無駄を削ぎ落としたスポーティなデザインが魅力のモデル。現行モデルでは全グレードでマイルドハイブリッドを採用する。モーターによる高効率なエネルギー回生やブースト機能が、高度な環境性能と気持ち良い走りを実現。

SPEC【C 200 Stationwagon AVANTGARDE】●全長×全幅×全高:4755×1820×1455㎜●車両重量:1700kg●パワーユニット:1494cc直列4気筒DOHC●最高出力:204PS/5800〜6100rpm●最大トルク:30.6kg-m/1800〜4000rpm●WLTCモード燃費:14.2km/l

 

↑エンジンは1.5l直4ターボと2l直4ディーゼルターボの2つ。いずれも9速ATが組み合わされ、スムーズな加速を実現している

 

↑ディスプレイを多用したインパネ。正面は12.3インチ、コクピット中央のものは11.9インチだ。後者はドライバー側に傾けて設置される

 

【ココがスポーティな意匠】スポーツカー並みの旋回性能が楽しめる

メルセデスの特徴でもあるボディ剛性の高さは、足回りの安定感をより感じさせる。それはハンドリングの良さにもつながり、ロールの抑えられたコーナリングを楽しむことが可能だ。

 

伸びやかなルーフラインがスポーティさを強調

トヨタ
カローラ ツーリング
207万円〜304万8000円

いまや数少ないトヨタブランドのステーションワゴン。伸びやかなルーフラインがスポーティさを演出している。2021年にマイナーチェンジ。ガソリンエンジンとハイブリッドがあり、ハイブリッドのみE-Fourの4WDが設定される。

SPEC【W×B(ハイブリッド・2WD)】●全長×全幅×全高:4495×1745×1460mm●車両重量:1390kg●パワーユニット:1797cc直列4気筒DOHC+モーター●最高出力:98[95]PS/5200rpm●最大トルク:14.5[18.9]kg-m/3600rpm●WLTCモード燃費:27.3km/l

※[ ]内はモーターの数値

 

↑すべての電動モジュールを刷新したハイブリッドシステム。モーター出力は従来比+16%を実現した。パワーと燃費の高バランスが特徴だ

 

↑後席はワンタッチで格納可能な60:40の分割可倒式を採用。G以上のグレードにはセンターコンソール背面にUSB端子が備わる

 

【ココがスポーティな意匠】アクセル操作に忠実なパワー出力が魅力

アクセルやステアリング操作に対する反応が素直で扱いやすく、低重心パッケージのシャーシ特性と相まって気持ちの良いコーナリングが楽しめる。意外に低いドラポジも魅力。

 

クリーンディーゼルの追加で魅力が増したワゴン

アウディ
A4 アバント
508万円〜693万円

アウディを代表する人気車種、A4のワゴン版がアバントだ。A4としては5代目になり、2015年にデビュー。2020年には大幅なマイナーチェンジを受けた。ディーゼルエンジン搭載車もラインナップに追加され、魅力がいっそう高まった。

SPEC【35 TDI advanced】●全長×全幅×全高:4760×1845×1435mm●車両重量:1610kg●パワーユニット:1968cc直列4気筒DOHCターボ●最高出力:163PS/3250〜4200rpm●最大トルク:38.7kg-m/1500〜2750rpm●WLTCモード燃費:17.1km/l

 

↑デザインは同じだが、アバントの後席はセダンよりも座面から天井までの高さがある。35TFSI以外は3ゾーンのエアコンを標準装備する

 

↑ラゲッジルームは後席を使用した状況で495ℓの容量を確保。40:20:40の可倒式後席を倒せば1495ℓの大容量荷室が出現する

 

【ココがスポーティな意匠】実用域でも楽しめるエンジンとハンドリング

ディーゼル特有の厚いトルクは低回転域での加速に優れ、クルマはステアリング操作に対し正確に反応する。正確だが穏やかなレスポンスなのでリラックスして運転できる。

 

独自の車両制御技術で卓越した操縦性を誇る

マツダ
MAZDA 6 ワゴン
296万2300円〜385万8800円

2019年のマイナーチェンジ時にアテンザから世界共通名のMAZDA 6に名称変更。現行モデルは2012年にデビューした。マツダ独自の車両制御技術により、ステーションワゴンながらスポーツカー並みのハンドリングが魅力だ。

SPEC【XD Sport Appearance】●全長×全幅×全高:4805×1840×1450mm●車両重量:1630kg●パワーユニット:2188cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ●最高出力:200PS/4000rpm●最大トルク:45.9㎏-m/2000rpm●WLTCモード燃費:17.8km/l

 

↑ソフトパッドを多用し高いインテリアの質感も定評があるマツダ6。8インチのセンターディスプレイはスマホとの連携も可能だ

 

↑豊かなトルクで力強い走りを実現するディーゼルエンジン。それまでの回らないディーゼルの概念を変えたパワーユニットでもある

 

【ココがスポーティな意匠】ドライバーの意図に忠実で安定した挙動が堪能できる

ホイールベースが短くても安定した直進性を持ち、ドライバーの意図に忠実でリニアなステアリングフィールを誇る。安定した挙動はロードスターに通じる爽快感が感じられる。

 

PHEVが追加されたバカンスの国のワゴン

プジョー
308SW
362万1000円〜576万6000円

コンパクトモデルの308に設定されるワゴンがSW。現行モデルは2022年に発表され308としては3代目になるモデルだ。パワー・オブ・チョイスのコンセプトに基づいてガソリン、ディーゼル、PHEVと合計3つのパワートレインを設定する。

SPEC【GT・ハイブリッド】●全長×全幅×全高:4655×1850×1485mm●車両重量:1720kg●パワーユニット:1598cc直列4気筒DOHCターボ+モーター●最高出力:180[110]PS/6000rpm●最大トルク:25.4[32.6]kg-m/1750rpm●WLTCモード燃費:17.5km/l

●[ ]内はモーターの数値

 

↑インパネはステアリングの上下がフラットで包まれ感のあるi-Cockpitを採用。308のものはディスプレイを多用した最新進化版だ

 

↑シートの良さに定評ある308。現行モデルで採用されたシートはAGR(ドイツ脊椎健康推進協会)に認められた人間工学に基づくもの

 

【ココがスポーティな意匠】帰ってきた「ネコ足」は剛性感たっぷりで快適

一時はドイツ車的な固い足回りのセッティングだったが、柔らかく深くロールし、粘りのある走りが特徴の「ネコ足」が復活。高い剛性感が特徴だが、都市部でも快適に走行可能だ。

使い勝手の良さだけじゃない! これがスポーティステーションワゴンの矜持だ!【BMW 3シリーズ ツーリング】

セダンの利便性はそのままに、荷室スペースを拡大した2ボックスモデルがステーションワゴン。その魅力は使い勝手の良さがおもにクローズアップされがちだが、美しいデザイン、そして低い重心がもたらすスポーティな走りこそ真骨頂。そんなステーションワゴンのトレンドを専門家が紹介。今回は「BMW 3シリーズ ツーリング」をピックアップ!

※こちらは「GetNavi」 2023年6月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【私が選びました】

自動車ライター・海野大介さん

ウェブを中心に活動する自動車ライター。国内A級ライセンスと1級小型船舶という、趣味性の高い資格を保持。

 

スポーティかつ上質なBMWの主力モデル

BMW
3シリーズ ツーリング

664万円〜1104万円

SPEC【M340i xDrive ツーリング】●全長×全幅×全高:4725×1825×1450mm●車両重量:1810kg●パワーユニット:2997cc直列6気筒DOHC●最高出力:387PS/5800rpm●最大トルク:51.0kg-m/1800〜5000rpm●WLTCモード燃費:10.6km/l

BMWの主力モデルである3シリーズ。その魅力はスポーティさと上質さを兼ね備えている点だ。同ブランドの美点である正確なハンドリングはもちろん、最大1510ℓを誇るラゲッジルームは低い位置から開くので使いやすい。

 

↑ボタンやスイッチ類を最小限に抑えたインパネ。センターにはインパネに浮いて見えるフレームレスのカーブド・ディスプレイを採用する

 

↑セダン同様の快適性を持つリアシート。積載物によって多彩なシートアレンジを可能にする40:20:40の分割可倒式を採用している

 

↑ラゲッジルームは後輪の張り出しも最小限で使いやすいのが特徴。床下のサブトランクには取り外したトノカバーが収納できる設計に

 

【ココがスポーティな意匠】抜群の安定感と正確なハンドリングが身上

前後重量配分はセダンと同じ48:52。またホイールベースがセダンより少し長いぶん、高い直進安定性と安定したコーナリングは魅力だ。そこに気持ちの良いエンジンとはさすがBMW!

MAZDA2は旧来のデミオファンをも取り込むポップさと質感の高さを両立してるではないか!

2023年の春、MAZDA2が大幅に改良された。MAZDA2といえばマツダの根底を支えるコンパクトカーだが、はたしてどのような変更がなされたのか。本稿では、かつてのデミオを懐かしみながら、その魅力について解説していきたい。

 

■今回紹介するクルマ

マツダ MAZDA2

※試乗グレード:15BD・2WD

価格:152万2900~254万1000円(税込)

 

デミオ時代から数えて10年目を迎えるロングセラーモデル

2010年代からブランドイメージの転換を図ってきたマツダ。イメージカラーをメタリックレッドとブラックで揃え、販売ディーラーもプレミアムな雰囲気へと変貌させた。MAZDA2は、新時代のマツダのエントリーモデルだが、かつての名称「デミオ」と呼んだほうが、そのサイズ感や特徴を捉えられる人は多いかもしれない。

 

デミオは1996年にデビューしたコンパクトハッチバックで、小型車にしては高めの全高や広い荷室を特徴として人気を博し、スマッシュヒットとなった。以後、マツダの基幹モデルとして4代目まで販売されてきており、走りのスポーティーさやデザインの妙で、2000年以降、戦国時代となっていた日本のコンパクトカー市場でも独自の地位を確立していた。

 

しかしその後、2019年の改良時に名称変更がなされ、新車種のMAZDA2としてリボーンすることとなる。つまり、MAZDA2は4代目デミオであり、改良が施されたデミオと言ってもいいだろう。そして、この4代目モデルが登場したのは2014年であり、そろそろ10年目を迎えんとするロングセラーモデルとなっている。

↑新MAZDA2は2023年1月に大幅改良がアナウンスされました!

 

なかなかモデルチェンジされないのは、言い換えれば「いいクルマだから」長く売れ続けているとも言える。たしかに4代目デミオは、「魂動」デザインが取り入れられ、内外装ともに質感が高く、また当時のさまざまな新技術も採用されて機能性も高かった。

 

それらに加えて、デミオの時代に3回、MAZDA2になってからは1度、改良が施されてきた。また、その間に先進安全技術の拡充なども図られている。そして2023年、今回の商品改良は、メーカー自ら「大幅」改良と呼ぶほどで、外観のデザイン変更から、新素材の採用、グレード追加など、その範囲は多岐にわたっている。

↑試乗モデルのサイズは全長4080×全幅1695×全高1525mm、重量は1090㎏。なおボディカラーは全12色を用意しています

 

まず大きなところでは、「15BD」、「XD BD」という新グレードが追加されている。これらは、「自分らしく、自由な発想で、遊び心を持って」というテーマが掲げられたMAZDA2において、自分好みに選べるカラーバリエーションの楽しさを味わえるモデル。今回試乗したのは、前者の「15BD」の方で、1.0Lのガソリンエンジンを搭載するモデルである(XD BDはディーゼルエンジン搭載モデル)。

 

外装・内装にアクセントカラーを取り入れて違いを出す

外観デザインは、MAZDA2全モデルにおいて、フロント&リアのグリルやバンパーの形状が変更されるなど、グレードごとのキャラクターを立てる形で変更。グレードによってはフロントグリルとリアバンパーにはワンポイントのカラーアクセントが採用されていて、今回の車両はイエローのワンポイントが入っている。地味になってしまいがちなホワイト系のボディカラーでも、このようなアクセントが1点入るだけで、グッとオシャレさが増して見える。

↑フロントグリルの正面から少し右にイエローのワンポイント。遠くから見ても目立ちます

 

さらにこの15BDでは、ホイールにも非常に特徴的なデザインが採用されている。内部のスチールホイールの表面を隠すキャップ仕様でありながらも、2トーンカラーでシンプルかつクールさを演出。また、オプションパーツだが、ルーフ(車体天板)部分にはカーボン調のルーフフィルムが採用されており、スポーティーさをアピールしている。なお、このルーフフィルムはマツダ独自の新技術で、塗装回数を減らすことに貢献するという時代にも即したものになっているという。

↑ボディに合わせたカラーのアクセントが入ったホイールキャップ

 

↑俯瞰して見たときに、デザインに大きな変化を与えるルーフフィルム

 

従来からセンスの良かった上質な雰囲気の内装は、今回、ボディカラーに合わせて3色の配色がなされた。試乗したスノーフレイクホワイトパールマイカのボディカラーは、「ピュアホワイト」のインテリアパネルが採用されている。ボディ同系色を配置する手法は、海外のコンパクトカーでよく見られたものではあるが、やはり雰囲気を艶やかにしてくれる巧みな手法だ。

↑インテリアパネルがかなり目立つ内装。パネルは植物由来原料の材料を採用し、従来の塗装にはない質感を実現しつつ、環境に配慮しているそうです

 

↑運転席と助手席の間には「8インチWVGAセンターディスプレイ」を配置

 

↑試乗モデルのシートは見た目シンプルですが、座り心地にはこだわっており、「人間中心」の思想のもとで開発。心地よくフィットするとのこと

デミオのポップさと新時代のマツダを象徴する質の高さを融合

 

さて、走りに関して特段変更点はアナウンスされていないものの、久々に試乗してみたところ、相変わらず上質な雰囲気である。コンパクトカーというと、どうしても低価格で低コストなため、チープな走りを想像してしまいがちだが、MAZDA2は静粛性が高く、高級感のある走りを味わえる。

↑エンジンにはSKYACTIV-G 1.5に、燃料をしっかり燃やしきる独自技術を搭載。また、圧縮比率を14に高めることで環境性能と燃費を上げています

 

↑コントロール性能も進化。ドライバーのハンドル操作に応じて、スムーズで効率的に挙動する「GVC」は、ブレーキによる姿勢安定化制御を追加しています

 

さらに、筆者がいいなと思ったのは、チルト&テレスコピック機能がしっかり備わっていることだ。クルマにあまり詳しくない人にとっては何のこっちゃという言葉だが、これはステアリングホイールの位置を調整する機能のこと。チルトはステアリングの上下位置(高さ)を、テレスコピックは同様にステアリングの前後位置を調整できる。コンパクトカーといえばチルト機能はあってもテレスコまで備えているものは少なく、このあたりまでコストをしっかりかけているのは、マツダのドライバーへの配慮が感じられる部分である。

 

初代、2代目、そして3代目あたりまで、デミオの味といえば、快活さやポップな雰囲気であったが、4代目モデルでは新時代のマツダの特徴に沿うように、質感の高さを持ち味にしていた。どちらがいいかはユーザーの好み次第であったが、今回のMAZDA2最大の改良では、両者の魅力を兼ね備えたモデルとなった。旧来のマツダファンも裏切らない、ポップさを備えながらも、質感の高いコンパクトカーへと変貌を遂げている。

↑定員乗車時で280Lの容量を確保したラゲージスペース。荷室幅が約1000mmと広いので、荷物の出し入れもしやすそうです

 

SPEC【15BD・2WD】●全長×全幅×全高:4080×1695×1525mm●車両重量:1090㎏●パワーユニット:1496cc直列4気筒エンジン●最高出力:110PS(81kW)/6000rpm●最大トルク:142Nm/3500rpm●WLTCモード燃費:20.3㎞/L

 

文/安藤修也、撮影/茂呂幸正

 

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350台もの社用車をEVに切り替える! そうぶち上げた企業が味わった苦労とは

世界的に推進されるカーボンニュートラルなどの観点から、日本政府は2035年以降、新車販売を電動車のみとする方針を示しています。そこで企業として一早く動いたのが、賃貸住宅「D-ROOM」の管理運営を手がける大和ハウスグループの大和リビング。すでに全国で70台ものEVを社用車として稼働させている同社に、これからの未来を見据えた取り組みについて聞きました。

 

2026年までに、約350台すべての社用車をEVにする

 

大和リビングは、大和ハウスが建設した全国約63万戸の賃貸住宅「D-ROOM」の管理会社。入居募集から家賃の回収・管理まで、主に物件オーナーの経営をきめ細かくサポートしています。事業所は全国に138箇所(2023年4月時点)あり、同社はそこで使用する約350台の社用車を、2026年までにすべてEVへと切り替える、と宣言。早くも、一部の営業所で切り替えが実現しています。

 

グループ内でも先陣を切って社用車のEV化に踏み切った背景について、同社・事業本部エネルギー事業推進部次長の柴田孝史さんに聞きました。

 

「大和ハウスグループでは、環境長期ビジョン『Challenge ZERO 2055』に基づき、創業100周年を迎える2055年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。その中期的な行動計画となる『エンドレスグリーンプログラム2026』を推進するなかで、各事業所が使用している電力、社用車のガソリンといったエネルギー消費をいかに削減するかという課題がありました。このうち電力は、2023年度中に大和ハウスグループの再エネ発電所由来の再生可能エネルギーによる『RE100』を達成する見込みです。

一方の社用車は、2026年度までに約350台のリース車をすべてEV化していく目標を掲げています。今回はその初年度の目標として、『RE100』達成済みの事業所から36箇所を選出し、2022年度(2023年3月)中に、70台の社用車を再エネで充電できるEVへと切り替えました」(柴田さん)

 

↑大和リビングの社用車として採用された「SAKURA」

 

約350台のうち、2割にあたる70台をEVに切り替える初年度計画が具体化したのは、2022年6月。それは今回導入された日産のBEV(バッテリー式電気自動車)「SAKURA」の発売と同時期であり、まさに急ピッチでの導入でした。

 

「まずは走り出すことを優先した結果。賃貸住宅の管理業務を行う弊社では、他のグループ会社と比べても多くの車両を使用します。我々が率先してEV導入に踏み切ることに意義があると考え、初年度目標の達成に重点を置きました」(柴田さん)

 

グリーンをキーカラーに使用したグラフィカルなラッピングが目を引く「SAKURA」。取引先や街中でも人々の関心を惹きつけているそう。

 

「各営業所で顧客対応に使用する社用車は、従来から狭い住宅地で走りやすい軽自動車を使用してきました。その使用感や利便性を損なわず、なおかつ年度内に70台という目標を達成できる車種が、日産の『SAKURA』でした」(柴田さん)

 

↑ボディには「We Build ECO」といったグループ挙げてのメッセージなどが描かれています

 

「もちろん、今後は車種の選択肢も増えていくと思います。そもそも、350台の社用車は業務に使用される車両のほんの一部に過ぎません。このほか社員が業務に使用している約1250台の自家用車についても、今後EVに切り替えていくことを見据えて、社内のマイカー手当等の制度を整えていく予定です」(柴田さん)

 

↑大和リビング株式会社 エネルギー事業推進部 次長 柴田孝史さん。大和リビングが推進する『エンドレスグリーンプログラム2026』の達成を目指し、今回の社用車EV化を主導

 

充電スタンド設置へのハードルは営業所によってさまざま

 

今回、取材班が訪れたのは、東京・足立区にある大和リビング足立営業所。敷地内の駐車場には6つの充電スタンドが備えられ、「SAKURA」が6台停まります。同営業所所長の森永友章さんによると、営業所でのEV導入においては、この充電スタンドをいかにスムーズに設置できるかが大きなポイントになったのだとか。

 

「今回選ばれた36の拠点は、大和リビングが管理している賃貸物件に我々がテナントとして入っている営業所のみになります。つまり、建物のオーナー様との信頼関係がすでにできていることが前提条件でした。特に足立営業所は1階にあり、建物前面の駐車場はすべて弊社で借りているため、オーナー様にも説明をしやすい環境が整っていたといえます」(森永さん)

 

↑大和リビング足立営業所所長の森永友章さん。足立営業所では、初年度における最多となる社用車6台をEV化。エネルギー事業推進部へのフィードバックも担っています

 

賃貸物件のオーナーから理解を得るために、具体的にどんなハードルがあるのでしょうか?

 

「主に施工の段取り的な部分ですね。EVの充電スタンドに使用する電気は、建物の中から分岐させて供給するか、それとも目の前の電線から直接引き込んで使用するかの2択なんです。やはり今後の拡張性などを考えると後者になりますが、電線を充電スタンドまで引き込むには、舗装されたアスファルトを剥がすといった工事が必要になります。また、駐車スペースのうちどの部分に導入するかは、各駐車場の状況によってオーナー様の考えもまったく違いますし、その後の運用を含めて検討していく必要があります」(柴田さん)

 

「EVが普及していない今の段階で、オーナー様が設備の劣化や今後の管理について不安を抱かれるのは当然のことだと思います。そういった現状も踏まえ、こちらで想定しうる限りのアンサーをご用意して対話に臨みました。なおかつ今回は、導入にあたっての施工費もすべて大和リビングが負担しています」(森永さん)

 

「自社負担に関しては、コストより導入までの時間を最優先したかった事情もあります。EV導入に対しては手厚い助成金も使えますが、今回はこちらが施工したいタイミングと、都の許認可が降りるタイミングを一致させることが制度上、難しかったんです。ですから、70台という初年度の目標達成を重視する一方で、肝心の充電器にかかるコストはできるだけ最小化する必要がありました」(柴田さん)

 

DIYで大幅なコスト減!? 足立営業所独自の充電スタンド

 

「日々の業務で使用する社用車ですから、駐車場への充電スタンド設置は必須でした」(柴田さん)

 

EVの充電設備にはいくつかの種類がありますが、共用に多く導入されているのが、駐車スペースに設置した充電器側に制御回路を内蔵し、大きな充電ケーブルが備え付けられている『モード3』タイプ。ところが、足立営業所の充電スタンドには充電ケーブルが見当たらず、非常にシンプルな見た目をしていました。

 

EV用充電設備の種類

モード1……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行って電力供給を行う。普通充電器は家庭用電源を使うため、導入時のハードルが低いのがメリット。

モード2……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行う。ケーブル間に設置されたコントロールボックスで制御を行いながら電力を供給する。

モード3……充電ケーブル付きの普通充電器から充電。充電器に制御回路を搭載し、充電制御を行う。

モード4……高圧の直流電源を用いた急速充電器で充電。短時間で充電できるのがメリットだが、導入コストは高い。

 

「一般によく用いられる『モード3』のタイプは、スタンドとコントローラーだけで数十万円。これに電線引き込み工事費をプラスすると、1営業所で数百万レベルのコストがかかってきます。そのようなタイプを導入した営業所もありますが、足立営業所が今回導入したのは『モード2』タイプの3kWの充電コンセントでした。駐車スペースに設置するスタンドにはコンセントのみがあり、取り外し可能な充電ケーブルの方に制御回路が内蔵されています。汎用品のポールに、パナソニック製のコンセントが入った既成のBOXを取り付けたいわば『DIY充電器』。『モード3』に比べるとかなり割安で設置できました」(柴田さん)

 

このDIY充電器の制作は、『D-ROOM』のインターネット設備工事を手掛けているグループ会社『D.U-NET』が手がけたのだそう。

 

「そもそも『モード3』の充電器は、たった1台の社用車のために設置するにはオーバースペックなのではないかという見方もあります。充電ケーブルが据え置きなので、かえって管理しにくい側面もあるかもしれません。一方の『モード2』なら充電ケーブルは車に置いておけますし、作りがシンプルなので、今後6kWの普通充電へのアップデートも容易だと考えています」(柴田さん)

 

運用のカギは安定した夜間充電。創意工夫から見つけたベストな形

 

コスト削減のための創意工夫が、結果的に利便性へとつながった形。一方で、肝心のEVの乗り心地や使い勝手はどうなのか、誰もが気になるところです。

 

「社用車は車両ごとに使用者を決めており、今のところ運用に問題はありません。実は、ガソリン車の軽よりも今の『SAKURA』の方が乗りやすいという声が圧倒的に多いんです。最新のクルマなので標準装備でも従来の軽自動車よりハイスペックですし、EVならではの安全装置も充実しています。弊社では公共交通機関で出勤する若い世代の社員が社用車を使用するケースが多いのですが、若い世代ほどEVの乗り味をスムーズに受け入れられているのかもしれませんね。足立営業所の場合、1日の走行距離は30km程度。航続距離はカタログで180kmとありますが、エアコンをフルで使用していると、安心して走れるのは100kmくらいかなという体感です」(森永さん)

 

↑ “日本の美を感じさせるデザイン” がコンセプトのひとつとなっているSAKURA。良い意味で社用車らしからぬ遊び心も盛り込まれています

 

導入は2023年の2月から。電力消費が多い暖房を特に多用する時期だったこともあり、バッテリーの持ちを不安視する声もあったそう。

 

「EVはとにかく充電に時間がかかります。そこで、夜間充電をどうするかは当初の大きな課題でした。夜間充電をしておかないと営業に間に合わないので許可自体は出していましたが、『モード2』の場合、充電ケーブルが取り外し可能なので簡単に抜けてしまうんですね。いたずらでケーブルそのものが盗まれたりする懸念もありました」(森永さん)

 

「街の急速充電スタンドで使えるEモビリティカードも支給していますが、急速充電とはいえ30分はかかります。業務に影響を与えないためにも、夜間の基礎充電は非常に大事。そこで、独自の鍵を設置するなど安心して夜間充電をしてもらうための対策も進めています」(柴田さん)

 

EVの草創期だからこそ、導入の形に正解はなく、さまざまな試行錯誤をすることにこそ価値がある。それが大和リビングの考え方。

 

「今回の取り組みから得た知見は、やはり大きかったです。設備にしても高機能なものをつければいいというわけではないですし、どんな形がベストかはケース・バイ・ケース。それがEVを導入していく難しさでもあり、同時に可能性でもあると思っています。今後はEVのカーシェアなども増えていくでしょうし、弊社が手がける賃貸住宅『D-ROOM』にも、そういったサービスと連携することで新たな付加価値が生まれていくはずです。いずれにしても、大和リビングはこれからもEVに対して前向きな取り組みを継続していきます」(柴田さん)

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

「お高いハリアーPHEVに価値ある?」→超快適な乗り心地にV8を積んでいるかの加速で大アリ

国産ラグジュアリーSUVの先駆として1997年に国内市場に登場したトヨタ ハリアー。2020年に発売された現行型である4代目モデルは、質感やデザイン性が従来モデルからさらに高められ、販売も好調だ。その人気を維持、向上すべく、2022年10月には一部改良が施されると同時に、PHEV(プラグインハイブリッド車)が追加された。SUVとしては早くからハイブリッドモデルが投入されていたハリアーだが、シリーズ初となるPHEVモデルの完成度ははたしてどれほどのものか?

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ ハリアーPHEV

価格:620万円(税込)

 

衝撃的な売れ行きのハリアー。でもお高いPHEVモデルに価値はあるの?

トヨタの高級SUVであるハリアーが猛烈に売れている。少し前まで、アルファードが月に1万台レベルで売れまくり、「狂ったように売れている」と話題になった。だが、いまはハリアーがメチャメチャ売れている。上級モデルでありながら、月平均7000台を超えているのだから、衝撃的な売れ行きと言っていい。

 

ハリアーの魅力は、高級感あふれるエレガントな内外装と、乗り心地の良さだろう。いまやどんなクルマも、加速や燃費はそこそこよくて当たり前。勝負は高級感と快適さなのである。

 

そのハリアーに、PHEVが加わった。シャシーベースが共通のRAV4には、以前からPHEVの設定があったが、ハリアーは、今回のマイナーチェンジのタイミングで追加された。

↑側面には「PLUG-IN-HYBRID」のロゴがあしらわれています

 

前述のように、ハリアーの魅力は内外装と乗り心地にあった。加えて、最安312万円(税込)からという価格も競争力抜群だ。一方、ハリアーPHEVの価格は620万円。最安グレードが2台買える値段である。それだけの価値はあるのか?

 

乗り心地のフワフワ感とトルク満点の走りで気分は大富豪である

乗って驚いた。すばらしくイイのである。内外装はハリアーのトップグレード「Zレザーパッケージ」に準ずるが、乗り心地はふんわりソフトで超絶快適!

↑シートは本革で見た目にも高級感が漂います。シートに施されたダークレッドのステッチもアクセントに

 

クルマは重量が増せば増すほど乗り心地を良くすることが可能だが、ハリアーPHEVは、バッテリー搭載によってハイブリッドに比べて約200kg増えた重量をうまく使って、すばらしい乗り心地を実現している。ほかのハリアーも快適ながら、PHEVはその一段上。思わず「えええ~っ!」と声が出るほど快適なのである。

 

しかも、加速がものすごい。エレガントな乗り心地とは裏腹に、暴力的なまでに出足がイイ。それもそのはず、2.5Lのダイナミックフォースエンジン(177ps/219Nm)と、フロント270Nm、リア121Nmのモーターを使ったシステム最高出力は、なんと306psに達する。

 

馬力もすごいが、それよりすごいのがトルクだ。乗り心地がフワフワと快適でトルク満点の走りは、かつての大排気量アメ車を彷彿とさせる。特にスポーツモードでは、アクセルレスポンスがウルトラシャープで、思わず「うおおおお!」と叫んでしまう。見晴らしのいいSUVでこの加速が炸裂すると、気分は大富豪である。

 

ハリアーには従来、2.0Lガソリンモデルと2.5Lハイブリッドモデルがあった。2.0Lガソリンは、排気量のわりに低速トルクがあり、重量級のボディをそれなりに走らせてくれるが、高速道路での加速は物足りなかった。2.5Lハイブリッドなら、全域でぐっと力強い加速を見せるが、こちらも特段速い部類ではない。

 

しかし今回追加されたハリアーPHEVは、明確に速い! V8でも積んでいるのか? と思うほど速いのである。実際、モーターのトルク特性は大排気量V8エンジンに近い。

↑2.5Lの直列4気筒DOHCエンジンを搭載。エンジンのみの最高出力は130kW(177ps)を実現しており、そこにフロントとリアのモーターが加わります

 

620万円という価格は決して安くはない。しかし従来のトップグレードだった「Z レザーパッケージE-Four」は514万円だ。プラス106万円でこの乗り心地と加速なら、高くないのではないだろうか?

外観の差別化は小さい

ハリアーPHEVの外観上の特徴は、ブラックアウトされたメッシュフロントグリルや、19インチ(タイヤサイズ:225/55R19)の大径ホイール、そしてPHEVバッヂ程度。

↑前面はメッシュフロントグリルのほかに、ワイドに広がるヘッドランプも特徴

 

今回の試乗車はボディカラーがガンメタだったため、ほかのグレードとの見分けは難しい印象だったが、ハリアーのエクステリアはもとから十分カッコいいので、差別化が小さいことに対する不満はない。内装に関しては、赤のステッチやパイピングがシートやダッシュボードまわりにアクセントとして入る。

↑外観デザインを見ると、フロントからリアに流れるようなシルエットが印象的です。なお、ボディサイズは4740×1855×1660mm

 

↑フラットなラゲージスペースは、ゴルフバッグ3個分収納できます。また、スライド式のデッキボックスを装備し、デッキボード下収納にアクセスしやすいほか、ハリアーPHEVには充電ケーブル用の収納スペースを用意

 

燃費は見劣りするが、EVモードなら近所にお出かけ可能(ただしゼイタク者に限る)

では、燃費はどうか。ハリアーハイブリッドは、WLTCモード21.6km/L(E-Four)。PHEVは車両重量が210kg重いため(1950kg)、WLTC燃費は20.5km/Lと若干落ちるが、これはPHEVのEVモード走行を無視した数値だ。

 

PHEVの駆動用バッテリーは18.1kWhの容量があり、EVでの航続可能距離は93kmある。実際にはその7掛け、つまり60km程度がEVモードの走行可能距離になり、近所のおでかけならEVモードでカバーできる。

↑充電は付属の充電ケーブルとコンセントをつなぎます。200V/16Aで充電時間は約5時間30分。ただし専用の配線工事が必要で、工事なしだと100V/6Aで充電可能。その場合は約33時間で満充電となります

 

もちろんそのためには、車庫に普通充電設備が必要。つまり、車庫付き一戸建ての住人にのみ許されたゼイタクではある。ハリアーでゼイタクを満喫したいなら、間違いなくPHEVがベストだ。

 

最後に、残念なお知らせ。ハリアーPHEVは注文の殺到と生産能力不足によって、発売前から受注停止となり、当分発注すらできそうにない。早くなんとかしてもらいたいものだ。

 

SPEC【プラグインハイブリッド E-Four・Z】●全長×全幅×全高:4740×1855×1660mm●車両重量:1950㎏●パワーユニット:2487cc直列4気筒エンジン+フロント&リアモーター●エンジン最高出力:130kW(177ps)/6000rpm●最大トルク:219Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:20.5km/L●電力使用時走行距離:93km

 

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EVが弱点を克服? 中国の新興企業が「寒冷地でも性能が低下しないバッテリー」を開発か

「電気自動車は寒さに弱い」と指摘されています。これは、気温が極端に下がるとバッテリーの充電性能が落ちる一方、電力の使用量が多くなって航続距離が短くなるためです。

↑寒さを克服?

 

しかし、中国の新興企業であるGreater Bay Technology(GBT)がこの弱点を克服し、寒冷地でも通常の速度で充電できる新型バッテリーを開発したようです。

 

GBTの共同創業者で会長のHuang Xiangdong氏は、米Bloombergの記事で、同社の最新バッテリー「Phoenix」は超伝導材料を使い熱管理をすることで、わずか5分でマイナス20度から25度(摂氏)まで加熱でき、「あらゆる気象条件で6分以内に」充電できると述べています。

 

このPhoenixバッテリーはEVの充電時間ばかりか、ほかの問題にも対応しているそうで、同氏は「暑い日でも寒い日でも、航続距離には影響しません」と主張。

 

冬場や寒い地方で充電されにくくなることは、EVバッテリーにとって難問となっています。例えば、スウェーデンの高級EVメーカー・ポールスターや米GMなどは、ヒートポンプを追加して解決を図っている一方、ドイツの大手自動車部品メーカーZFは、車内の暖房に使う電力を減らすため「ヒートベルト」を開発しています。

 

航続距離が1000kmとされる新型Phoenixバッテリーは、中国のEV専門ブランド大手であるAIONのEVに搭載され、2024年に一般発売される予定。GBTは他の自動車メーカーとも協議中と伝えられています。

 

実際にこのバッテリーが採用されたEVが登場し、性能が検証されるまで信ぴょう性は不明ですが、もし本当であれば、寒い地方でEVが普及するきっかけとなるかもしれません。

 

Source:Bloomberg
via:Engadget

ゼンリン「クルマの地図 大集合!!~68年の軌跡~」がカーマニア垂涎の内容。世界初のカーナビも見てきました

日本最大の地図メーカー・ゼンリンが運営する地図の博物館「ゼンリンミュージアム」(北九州市小倉北区)において、道路地図やカーナビゲーションの歴史に焦点を当てた企画展『クルマの地図 大集合!!~68年の軌跡~』が5月20日からスタートしました。

 

この企画展は、日本初の道路地図誕生や、世界初のカーナビゲーションの実機などを集めたもので、知られざる“クルマの地図”の歴史を貴重な資料とともに紹介するものです。今回はその見どころを取材してきました。

 

「道路地図」と「カーナビ」の貴重な資料や実機を数多く展示

ゼンリンミュージアムは、かつて「ゼンリン地図の資料館」として運営されていたスペースを2020年6月に一新してリニューアルオープンしたものです。展示される内容が大幅に増加したことに加え、選任の解説員「Z(ズィー)キュレーター」による、より詳細な説明も受けられるなど新たなサービスも用意されました。『クルマの地図 大集合!!~68年の軌跡~』は、そうした常設展の特別展として開催されるものです。

 

会場は常設展が展開されている奥の特設会場。展示内容は大きく道路地図とカーナビゲーションに分けられ、そこでは貴重な資料や実機を数多く見ることができるようになっています。

 

なぜ地図上に砂利道が表示? 高度経済成長期の初めにあった不思議な表記

入口から入って真っ先に目にするのが、今から68年前の1955年に日本で最初に道路地図として使われた20万分の1地形図・地勢図です。戦後、高度経済成長期を迎えた日本では、道路インフラの整備が進み始めていました。そんな中で求められていたのは道路地図でしたが、当時はそれに該当するものがなく、1955年に登場したのが、20万分の1地形図・地勢図を使った道路地図でした。

↑1955年当時、道路地図として使われていた20万分の1地形図・地勢図

 

ここから日本の道路地図の歴史は始まったのです。

 

現在の道路地図らしいスタイルで登場するのはそれから3年後の1958年のことです。1958年と言えば、政府の国民車構想の下で“てんとう虫”こと「スバル360」が誕生した年。時代は本格的な高度経済成長期に入り、この頃から日本でもモータリゼ-ションの波がいよいよ押し寄せ、道路地図への需要が急速に高まっていったのです。それにともない、各地図会社が数多くの道路地図を出版するようになり、クルマ1台に必ず道路地図が1冊常備される時代へと向かっていきました。

↑1958年、建設省道路局監修の下、地図会社の武揚堂が日本初の道路地図として発行

 

興味深いのは、この時代の地図を見ると“砂利道”の表記があることです。実は、1958年当時の日本の道路はほとんどが砂利道で、幹線道路でも舗装率はわずか8%しかありませんでした。砂利道を走ればクルマが痛むのはもちろん、速度が遅くなるうえに燃費にも悪影響を及ぼします。できるだけ砂利道を走らないようにするためにも、この表記は欠かせなかったのです。

↑地図凡例には舗装路/砂利道の区別がしてあるのが興味深い

 

1964年に開催された東京オリンピックを迎えるにあたって、その前年には日本初の高速道路となる名神高速道路が一部区間で開通。そこから日本はいよいよ高速道路を使った本格的なハイウェイ時代に入っていきます。それにともなって移動ニーズが多様化し、地図会社もさまざまな種類の道路地図を用意。道路地図はドライブを楽しむのに欠かせない必携アイテムとなりました。会場ではこうした道路地図の変遷を見ることができます。

↑1970年代になると目的に応じた多彩な道路地図が、さまざまな地図会社から出版される

 

世界初のカーナビをはじめ、エポックメイキングな製品が見られる

そして、もうひとつの展示がカーナビゲーションです。その目玉となっているのが、1981年に登場した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」。この機種はまだGPS衛星による測位がなかった時代に、ガスレートセンサーで車両の動きを検知して現在地を測位することに成功した世界初のカーナビゲーションです。2017年にIEEEによって“世界初の地図型自動車用ナビゲーションシステム”として認定されました。

↑1981年に登場した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」。世界初のカーナビゲーションとしてIEEEに認定された

 

会場ではカーナビの歴史を築き上げた、この貴重な現物を見ることができるのです。

 

実はこの開発で培った経験を活かし、ホンダは“地図データを光ディスクに収録する”特許を取得しています。そして、その特許をホンダはなんと無償公開。これが後に始まるカーナビの進化に大きな功績を残すことにつながるのです。

 

その功績はすぐに花開きました。1985年に開催された東京モーターショーで三菱電機は、地図のデジタル化に成功したゼンリン製CD-ROMを使い、GPSカーナビの実現を目指すコンセプトを紹介したのです。この技術は1990年に登場したユーノス・コスモに搭載された世界初のGPSカーナビ「CCS(カーコミュニケーションシステム)」の開発へと引き継がれます。さらに市販カーナビでもパイオニアがサテライトクルージングシステム「カロッツェリア・AVIC-1」を発売し、GPSカーナビ時代が到来するのです。

 

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そのほか、ルート案内機能を初めて搭載することで、名実ともに“カーナビゲーション”となった「ボイスナビゲーションシステム」が1992年にトヨタ・セルシオに搭載。さらに、カーナビの普及に貢献した1993年登場のソニー「NVX-F10」、初のポータブル型カーナビとして世に出た三洋電機「ゴリラ・NV-P1」、通信機能を搭載したパイオニア「エアーナビ・AVIC-T1」などと続いていきます。そんな時代のエポックメイキングとなったカーナビの数々を目の当たりにできるのも、この企画展の醍醐味と言えるでしょう。

↑カーナビの普及に大きく貢献したソニー「NVX-F10」(左)。ナビソフトも目的に応じた多彩なラインナップをそろえた

 

↑ディスプレイやGPSアンテナなど、カーナビに必要なすべてを一体化した三洋「ゴリラ」初号機。初のポータブル型ナビでもある

 

有料入館者全員にオリジナルチケットホルダーをプレゼント

会期中は有料入館者全員に、1970年に日地出版が発行した道路地図の表紙をモチーフにした、オリジナルデザインのチケットホルダーがプレゼントされます。私も実物をいただきましたが、個人的にはチケットだけでなくマスクホルダーとして使ってもいいのではないかと思いました。

↑有料入館者には、昭和45年に道路地図の表紙をモチーフにしたオリジナルデザインのチケットホルダーがもらえ↑

 

『クルマの地図 大集合!!~68年の軌跡~』の開催期間は、2023年5月20日(土)~9月3日(日)まで。ゼンリンミュージアム内多目的展示室で開催されています。開催時間は10時~17時(最終入館16時30分)で休館日は毎週月曜日(祝日が重なった時は翌日に変更)。入場料は常設展示も含め、一般1000円です。

 

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トヨタが強い? Z世代とバブル世代で人気の車種に違いはあるのか

ジオテクノロジーズは、Z世代(18歳~27歳)、バブル世代(53歳~57歳)を対象に「今後クルマの購入を検討する際、候補となる車種は?」をテーマとしたアンケート調査を実施しました。

 

調査には、移動するだけで報酬が貯まるアプリ「トリマ」のユーザーにアンケートをとる同社のサービス「トリマリサーチ」を活用。Z世代、バブル世代の「軽自動車」「ミニバン」「SUV」ジャンル別人気車種が、今回の調査で判明しました。

 

「軽自動車」はスズキ、「ミニバン」「SUV」はトヨタの人気が高い

結果調査は以下の通りです。

 

Z世代の人気車種ランキング

 

軽自動車は、N-BOXが1位となりました。そのほかはタント・ハスラー・ジムニーといった車種が若者に人気があるようです。ミニバンは、アルファードが1位の結果になりました。注目したいのは、トヨタがTOP3を独占しているところでしょう。SUVは、ハリアーが1位。バブル世代ではランク外となったライズやラングラーもランクインし、このあたりに違いが出ています。

 

バブル世代の人気車種ランキング

 

軽自動車は、Z世代と同じくN-BOXが1位になっています。2位のタントに続き、ワゴンRが3位にランクイン。ムーブやDAYSも人気があります。ミニバンは、シエンタ・フリードなど小型ミニバンが上位に。Z世代でランク外になったオデッセイもランクインしています。また、Z世代同様、トヨタがTOP3を独占しているのもポイントでしょう。SUVは、ハリアーが1位とZ世代と同じ結果に。このほか、Z世代でランク外になったフォレスター・カローラといった歴史ある名車がランクインしています。

 

調査結果をもとにジオテクノロジーズは、Z世代の車離れが話題となる昨今、必ずしも車に興味がないとはいえない事実が見えてきたといいます。加えて、生活スタイルが変われば、あるいは経済的な状況が変われば、将来的に車を購入したい、または、こんな車に乗りたい、という車への期待がより高まるのではないかとのこと。

 

調査概要

エリア: 日本全国
対象者: トリマユーザ10代~60代
調査手法: トリマリサーチ
調査期間: 2023年1月13日~1月31日(2週間)

これぞ狙い目の1台! ピュアEVにおけるアウディの”本丸”「Q4 e-tron」をレビュー

今回の「NEW VEHICLE REPORT」はアウディのピュアEV、e-tronシリーズの最新作となる「Q4 e-tron」をピックアップ!

※こちらは「GetNavi」 2023年5月号に掲載された記事を再編集したものです

 

アウディらしさ満載の1台

アウディ Q4 e-tron

SPEC【Sライン】
●全長×全幅×全高:4590×1865×1615㎜●車両重量:2100㎏●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:82kWh●最高出力:204PS●最大トルク:31.6㎏-m●一充電最大航続距離(WLTCモード):594㎞

滑らかで静粛な走りはまさにアウディならでは

アウディのピュアEV、e-tronシリーズの最新作となるQ4 e-tronの発売が開始された。モデル番号の通り、そのサイズ感はSUVのQ3とQ5の中間的ボリュームで、ボディ形状は他のQシリーズにならいクーペ風のスポーツバックも選択できる。日本仕様は、全グレードがシングルモーターの2WD。Q4 e-tronはリアにモーターを搭載するので、アウディでは珍しい純粋な後輪駆動車となる。搭載するリチウムイオンバッテリーの総電力量は82kWhで、一充電当たりの最大航続距離は594km(WLTCモード)。最新のピュアEVらしくロングドライブも可能としている。

 

204PSを発揮する電気モーターがもたらす動力性能は、過不足のないレベル。車重が2100kgに達するとあって驚くほど速いわけではないが、低速域での力強さやアクセル操作に対するリニアな反応はピュアEVならでは。いかにも精度の高そうな滑らかなライド感と静粛性の高さはアウディのキャラクターにも合っていて、特に日常走行域の居心地はすこぶる良い。居住性はリアシートまで十分なヘッドクリアランスとレッグスペースを確保し、すべての乗員が快適に過ごすことができる。e-tronシリーズのなかでは最も身近な価格設定であることを考慮すれば、エンジン搭載の従来型Qモデルを含めても狙い目の1台となりそうだ。

 

【POINT01】荷室の使い勝手はエンジンモデルと同等

通常時でも荷室容量は520Lを確保。バッテリーは床下に搭載されるので、荷室容量はエンジンモデル比でも遜色ない広さとなる。

 

【POINT02】クーペ風ボディも選択可能

エンジンモデルのQシリーズ同様、Q4でもクーペ風のスタイリングを纏ったグレード、スポーツバックが選択可能。日本仕様が2WDモデルのみの展開なのはシリーズ共通だ。

 

【POINT03】フロント部分にそれほどのスペースはナシ

ピュアEVではフロント部分も荷室のモデルが珍しくないが、Q4 e-tronにそうしたスペースはなし。純粋なメンテナンス用となる。

 

【POINT04】アウディらしさはピュアEVでも同様

オプションでARヘッドアップディスプレイも選択できるインテリアは、アウディらしい精緻さと随所にピュアEVらしさを感じさせる仕立て。室内空間はサイズ相応の広さを誇る。

 

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構成・文/小野泰治 撮影/宮越孝政

本格派スポーツカーとして申し分ナシ! 新しいのに懐かしい「フェアレディZ」をレビュー

今回の「NEW VEHICLE REPORT」は日本を代表するリアルスポーツモデル、日産・フェアレディZの新型をピックアップ!

※こちらは「GetNavi」 2023年5月号に掲載された記事を再編集したものです

 

歴史を受け継いだ新旧ファン納得の1台

日産 フェアレディZ クーペ

SPEC【バージョンST(6MT)】

●全長×全幅×全高:4380×1845×1315㎜●車両重量:1590㎏●総排気量:2997㏄●パワーユニット:V型6気筒DOHC+ツインターボ●最高出力:405PS/6400rpm●最大トルク:48.4㎏-m/1600〜5600rpm●WLTCモード燃費:9.5㎞/L

 

3Lターボの魅力はパワーだけじゃない!

日本を代表するスポーツカー銘柄のひとつでもあるフェアレディZが新型へとスイッチ。ご覧の通り、その外観デザインは随所に歴代モデルを彷彿とさせる造形を採用。昭和世代には、懐かしさも感じさせる見た目に生まれ変わった。

 

そんなテイストは室内に目を向けても変わらない。もちろんインターフェイスは現代的にアップデートされているが、往年のZを知る人なら思わずニンマリとさせられる仕上がり。また、2 人乗りのスポーツカーとしては上々と言える室内の使い勝手も歴代モデルからしっかりと受け継がれている。

 

エンジンは400ps超えとなる3Lツインターボで、9速ATに加え6速МTが選べる点も特徴だが、当然ながら動力性能は本格派スポーツカーとして申し分ない。またこのエンジンは積極的に回す楽しさが見出せるのも魅力のひとつで、腕に覚えのある人へのアピールも十分。その出来栄えを思うと、生産事情の影響で受注が止まっていることが何とも恨めしい。

 

【POINT01】プリミティブな走りの楽しさを実感

コンパクトなボディとハイチューンな3ℓターボの組み合わせとあって、絶対的な動力性能は申し分ない。また、ただ速いだけではなく積極的に操る楽しさも見出せる。

 

【POINT02】新しい一方で懐かしい仕上がり

室内は最新モデルに相応しい作りだが、随所に往年のZに通じる造形も見られ古典的な風情も漂わせる。2人乗りのスポーツカーとしては使い勝手も納得の出来だ。

 

【POINT03】スペックはクラス最強レベル

エンジンは先にスカイラインにも搭載され話題を呼んだ400PS超えの3L V6ツインターボ。6速MTと9速ATが選択できる。

 

【POINT04】レイズ製の鍛造ホイールも採用

中・上位グレードには日本の代表的ホイールメーカー、レイズ製の鍛造19インチホイールが標準で装備される。

 

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構成・文/小野泰治 撮影/宮越孝政

クルマの神は細部に宿る。【LEXUS IS編】中高年カーマニアにとって、これ以上のクルマはない!?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回はレクサスのスポーツセダン「IS」に追加された新グレード、IS500をピックアップ! 永福ランプが惚れた理由は?

※こちらは「GetNavi」 2023年5月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)
日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

安ド
元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】

LEXUS IS

SPEC【IS500“Fスポーツパフォーマンス ファーストエディション”】
●全長×全幅×全高:4760×1840×1435㎜●車両重量:1720㎏●パワーユニット:4968㏄V型8気筒エンジン●最高出力:481PS(354kW)/7100rpm●最大トルク:535Nm/4800rpm●WLTCモード燃費:9.0㎞/L

481万円〜850万円

 

中高年カーマニアにとって、これ以上のクルマはない!?

安ド「殿! 今回は殿の強い要望にお応えして、レクサスのIS500を取り上げます!」

永福「うむ。激しいまでの要望、いや欲望であった」

安ド「いまどき5.0L V8エンジンを積んだセダンなんて、ほかにないですよね!」

永福「そもそも、大排気量マルチシリンダー自然吸気エンジンそのものが絶滅寸前だ。メルセデスやBMWなどの欧州勢は、すべてターボ化しているので、地球上に残っているのは、コルベットやカマロなどのアメリカンV8と、トヨタの5.0L V8だけと言っていい。豪快かつ繊細なエンジンフィールは、まさに世界遺産級だ!」

安ド「同感です! 首都高に乗ってアクセルをベタ踏みしたら、強烈な加速で意識が遠のきました! 排気音の音量も上がり快音が聞こえてきて、なんというか、脳内でドバーッと汁が出た感じで、超気持ち良かったです!」

永福「うむ。これほど気持ち良いのは、自然吸気だからだ」

安ド「なぜドイツ勢は、みんなターボ化したんですか?」

永福「ターボのほうがパワーアップしやすいし、エンジンも軽量化できて、燃費を多少改善できるから……ということだろう。確かにIS500の最高出力は481馬力。対するBMW M3は550馬力だ」

安ド「それほど違わないじゃないですか!」

永福「たしかにそれほど違わない。カタログ燃費だってほとんど変わらない。実は今回IS500で燃費アタックをしてみたのだが、なんと14・5㎞/Lも走ったぞ」

安ド「ええっ! 僕のパジェロの2倍じゃないですか!」

永福「普通に走ったらリッター7〜8㎞だが、可変バルブタイミング機構により低速域でもトルクがあるから、ゆっくり巡航すれば驚くほど低燃費だ。トヨタの内燃エンジン技術はスゴイな」

安ド「こんなにパワフルなのに、その気になれば低燃費でも走れるなんて、本当にスゴイですね!」

永福「コーナリングも最高だ。フロントにはデカいV8エンジンを積んでいるから、曲がりずらいかと思ったら真逆で、常に前輪に重みがかかっているから、面白いように曲がる」

安ド「コーナーでは路面に張り付くように走れますね!」

永福「アクセルを踏めば無敵、ハンドルを切っても無敵。乗り心地も驚くほど良いし、ATだから渋滞でもラクチン。中高年カーマニアにとって、これ以上のクルマはないと断言できる」

安ド「ひょっとして、買うおつもりですか?」

永福「うむ。売ってくれればな」

安ド「えっ、これもやっぱり買えないクルマなんですか!!」

永福「最初の500台は競争率12倍で抽選になった。私も次の抽選に参加したいと思っているが、果たして抽選に混ぜてもらえるかどうか……」

 

【GOD PARTS 神】5.0L V8エンジン

名車の条件を満たすラインナップ数!

IS350は3.5L V6エンジン、IS300hは2.5L直4エンジン+モーターのハイブリッド、IS300は2.0L直4ターボエンジン、そしてこのIS500には、最もパワフルな5.0L V8エンジンが搭載されています。BMW3シリーズしかり、たくさんのエンジンがラインナップされていることは名車の条件ですね。

 

【GOD PARTS 01】ボンネット

気付く人は少ない!?フード上の細かな違い

スタンダードなISとはボンネットフードの形状が異なっています。通常は八の字のラインがある部分に縦のラインを2本走らせていて、スポーティさが強調されています。外観の変更がほぼないこのグレードにとって、数少ない特別な部分です。

 

【GOD PARTS 02】アルミホイール&ブレーキ

イケイケの専用ホイールと映えるブラック塗装

今回取材のために借りた500台限定の特別仕様車「ファーストエディション」には、細くて、しかし頑丈そうな専用19インチアルミホイールが採用されています。また、ブレーキキャリパーがブラック塗装されているのはIS500だけの特徴です。

 

【GOD PARTS 03】リアスポイラー

存在感は希薄だが計算されたサイズと形状

トランクの先端にちょこんと乗せただけのような薄くて小さなスポイラーが付いています。空気力学を研究し尽くして設計されたシロモノなのでしょう。スポーツセダンとしてはこれくらいがベストサイズなのかもしれません。

 

【GOD PARTS 04】リアパフォーマンスダンパー

足まわりだけでなくボディ全体の振動を吸収

IS500では「パフォーマンスダンパー」がフロントに加えてリアにも搭載されています。前後バンパー付近の左右にまたがる形で装着され、走行中、繰り返し発生している車体の変形や振動を抑えて、上質な乗り心地と操作性を実現します!

 

【GOD PARTS 05】フロントグリル

トヨタのヒストリーを感じさせる形状

クルマの印象を決定づけるグリルは、レクサスの特徴でもある「スピンドル」形状が採用されています。スピンドルとは紡績機の糸を巻き取る軸のことで、トヨタが自動織機業から身を起こしたことに通じていて、歴史のロマンが感じられます。

 

【GOD PARTS 06】ドアミラー

ブラック塗装が左右を引き締めスポーティな印象に

本来はボディ同色のドアミラーですが、この特別仕様車「ファーストエディション」では、特別にブラック塗装が施されています。よく愛車のボンネットなどを黒く塗装する人もいますが、これによってスポーティな雰囲気が増します。

 

【GOD PARTS 06】Fスポーツパフォーマンス専用エンブレム

よく見ると色が異なる小さな部分に見つける喜び

フロントフェンダーに装着されたこのエンブレムは、IS500の「Fスポーツパフォーマンス」にのみの装備で、IS350の「Fスポーツ」のそれとはカラーが異なっています。非常に小さな差異ですが、オーナーにとっては誇って良い部分かもしれません。

 

【GOD PARTS 07】4連エキゾーストマフラー

後方から見た人に強烈な印象を与える4本出し!

ボディ後方から見ると、吹き出し口が4本もあって強烈な印象です。これだけで後方を走っているクルマはビビります(笑)。また、ISには「ロアガーニッシュ」と呼ばれるディフューザーが付いていて、車体の下を通る空気を整えます。

 

【GOD PARTS 08】スエード&木目素材

特別仕様車だけに許された特別な質感と肌ざわり

やはり特別仕様車「ファーストエディション」のみの装着となってしまいますが、インテリアにはウルトラスエードと呼ばれる、肌触りが良くて滑りにくい素材があちこちに使われています。ステアリングのアッシュ木目も良い感じです。

全社用車をEVに切り替え! 大和リビングの次世代を見据えた取り組みの実態

世界的に推進されるカーボンニュートラルなどの観点から、日本政府は2035年以降、新車販売を電動車のみとする方針を示しています。そこで企業として一早く動いたのが、賃貸住宅「D-ROOM」の管理運営を手がける大和ハウスグループの大和リビング。すでに全国で70台ものEVを社用車として稼働させている同社に、これからの未来を見据えた取り組みについて聞きました。

 

2026年までに、約350台すべての社用車をEVにする

 

大和リビングは、大和ハウスが建設した全国約63万戸の賃貸住宅「D-ROOM」の管理会社。入居募集から家賃の回収・管理まで、主に物件オーナーの経営をきめ細かくサポートしています。事業所は全国に138箇所(2023年4月時点)あり、同社はそこで使用する約350台の社用車を、2026年までにすべてEVへと切り替える、と宣言。早くも、一部の営業所で切り替えが実現しています。

 

グループ内でも先陣を切って社用車のEV化に踏み切った背景について、同社・事業本部エネルギー事業推進部次長の柴田孝史さんに聞きました。

 

「大和ハウスグループでは、環境長期ビジョン『Challenge ZERO 2055』に基づき、創業100周年を迎える2055年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。その中期的な行動計画となる『エンドレスグリーンプログラム2026』を推進するなかで、各事業所が使用している電力、社用車のガソリンといったエネルギー消費をいかに削減するかという課題がありました。このうち電力は、2023年度中に大和ハウスグループの再エネ発電所由来の再生可能エネルギーによる『RE100』を達成する見込みです。

一方の社用車は、2026年度までに約350台のリース車をすべてEV化していく目標を掲げています。今回はその初年度の目標として、『RE100』達成済みの事業所から36箇所を選出し、2022年度(2023年3月)中に、70台の社用車を再エネで充電できるEVへと切り替えました」(柴田さん)

 

↑大和リビングの社用車として採用された「SAKURA」

 

約350台のうち、2割にあたる70台をEVに切り替える初年度計画が具体化したのは、2022年6月。それは今回導入された日産のBEV(バッテリー式電気自動車)「SAKURA」の発売と同時期であり、まさに急ピッチでの導入でした。

 

「まずは走り出すことを優先した結果。賃貸住宅の管理業務を行う弊社では、他のグループ会社と比べても多くの車両を使用します。我々が率先してEV導入に踏み切ることに意義があると考え、初年度目標の達成に重点を置きました」(柴田さん)

 

グリーンをキーカラーに使用したグラフィカルなラッピングが目を引く「SAKURA」。取引先や街中でも人々の関心を惹きつけているそう。

 

「各営業所で顧客対応に使用する社用車は、従来から狭い住宅地で走りやすい軽自動車を使用してきました。その使用感や利便性を損なわず、なおかつ年度内に70台という目標を達成できる車種が、日産の『SAKURA』でした」(柴田さん)

 

↑ボディには「We Build ECO」といったグループ挙げてのメッセージなどが描かれています

 

「もちろん、今後は車種の選択肢も増えていくと思います。そもそも、350台の社用車は業務に使用される車両のほんの一部に過ぎません。このほか社員が業務に使用している約1250台の自家用車についても、今後EVに切り替えていくことを見据えて、社内のマイカー手当等の制度を整えていく予定です」(柴田さん)

 

↑大和リビング株式会社 エネルギー事業推進部 次長 柴田孝史さん。大和リビングが推進する『エンドレスグリーンプログラム2026』の達成を目指し、今回の社用車EV化を主導

 

充電スタンド設置へのハードルは営業所によってさまざま

 

今回、取材班が訪れたのは、東京・足立区にある大和リビング足立営業所。敷地内の駐車場には6つの充電スタンドが備えられ、「SAKURA」が6台停まります。同営業所所長の森永友章さんによると、営業所でのEV導入においては、この充電スタンドをいかにスムーズに設置できるかが大きなポイントになったのだとか。

 

「今回選ばれた36の拠点は、大和リビングが管理している賃貸物件に我々がテナントとして入っている営業所のみになります。つまり、建物のオーナー様との信頼関係がすでにできていることが前提条件でした。特に足立営業所は1階にあり、建物前面の駐車場はすべて弊社で借りているため、オーナー様にも説明をしやすい環境が整っていたといえます」(森永さん)

 

↑大和リビング足立営業所所長の森永友章さん。足立営業所では、初年度における最多となる社用車6台をEV化。エネルギー事業推進部へのフィードバックも担っています

 

賃貸物件のオーナーから理解を得るために、具体的にどんなハードルがあるのでしょうか?

 

「主に施工の段取り的な部分ですね。EVの充電スタンドに使用する電気は、建物の中から分岐させて供給するか、それとも目の前の電線から直接引き込んで使用するかの2択なんです。やはり今後の拡張性などを考えると後者になりますが、電線を充電スタンドまで引き込むには、舗装されたアスファルトを剥がすといった工事が必要になります。また、駐車スペースのうちどの部分に導入するかは、各駐車場の状況によってオーナー様の考えもまったく違いますし、その後の運用を含めて検討していく必要があります」(柴田さん)

 

「EVが普及していない今の段階で、オーナー様が設備の劣化や今後の管理について不安を抱かれるのは当然のことだと思います。そういった現状も踏まえ、こちらで想定しうる限りのアンサーをご用意して対話に臨みました。なおかつ今回は、導入にあたっての施工費もすべて大和リビングが負担しています」(森永さん)

 

「自社負担に関しては、コストより導入までの時間を最優先したかった事情もあります。EV導入に対しては手厚い助成金も使えますが、今回はこちらが施工したいタイミングと、都の許認可が降りるタイミングを一致させることが制度上、難しかったんです。ですから、70台という初年度の目標達成を重視する一方で、肝心の充電器にかかるコストはできるだけ最小化する必要がありました」(柴田さん)

 

DIYで大幅なコスト減!? 足立営業所独自の充電スタンド

 

「日々の業務で使用する社用車ですから、駐車場への充電スタンド設置は必須でした」(柴田さん)

 

EVの充電設備にはいくつかの種類がありますが、共用に多く導入されているのが、駐車スペースに設置した充電器側に制御回路を内蔵し、大きな充電ケーブルが備え付けられている『モード3』タイプ。ところが、足立営業所の充電スタンドには充電ケーブルが見当たらず、非常にシンプルな見た目をしていました。

 

EV用充電設備の種類

モード1……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行って電力供給を行う。普通充電器は家庭用電源を使うため、導入時のハードルが低いのがメリット。

モード2……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行う。ケーブル間に設置されたコントロールボックスで制御を行いながら電力を供給する。

モード3……充電ケーブル付きの普通充電器から充電。充電器に制御回路を搭載し、充電制御を行う。

モード4……高圧の直流電源を用いた急速充電器で充電。短時間で充電できるのがメリットだが、導入コストは高い。

 

「一般によく用いられる『モード3』のタイプは、スタンドとコントローラーだけで数十万円。これに電線引き込み工事費をプラスすると、1営業所で数百万レベルのコストがかかってきます。そのようなタイプを導入した営業所もありますが、足立営業所が今回導入したのは『モード2』タイプの3kWの充電コンセントでした。駐車スペースに設置するスタンドにはコンセントのみがあり、取り外し可能な充電ケーブルの方に制御回路が内蔵されています。汎用品のポールに、パナソニック製のコンセントが入った既成のBOXを取り付けたいわば『DIY充電器』。『モード3』に比べるとかなり割安で設置できました」(柴田さん)

 

このDIY充電器の制作は、『D-ROOM』のインターネット設備工事を手掛けているグループ会社『D.U-NET』が手がけたのだそう。

 

「そもそも『モード3』の充電器は、たった1台の社用車のために設置するにはオーバースペックなのではないかという見方もあります。充電ケーブルが据え置きなので、かえって管理しにくい側面もあるかもしれません。一方の『モード2』なら充電ケーブルは車に置いておけますし、作りがシンプルなので、今後6kWの普通充電へのアップデートも容易だと考えています」(柴田さん)

 

運用のカギは安定した夜間充電。創意工夫から見つけたベストな形

 

コスト削減のための創意工夫が、結果的に利便性へとつながった形。一方で、肝心のEVの乗り心地や使い勝手はどうなのか、誰もが気になるところです。

 

「社用車は車両ごとに使用者を決めており、今のところ運用に問題はありません。実は、ガソリン車の軽よりも今の『SAKURA』の方が乗りやすいという声が圧倒的に多いんです。最新のクルマなので標準装備でも従来の軽自動車よりハイスペックですし、EVならではの安全装置も充実しています。弊社では公共交通機関で出勤する若い世代の社員が社用車を使用するケースが多いのですが、若い世代ほどEVの乗り味をスムーズに受け入れられているのかもしれませんね。足立営業所の場合、1日の走行距離は30km程度。航続距離はカタログで180kmとありますが、エアコンをフルで使用していると、安心して走れるのは100kmくらいかなという体感です」(森永さん)

 

↑ “日本の美を感じさせるデザイン” がコンセプトのひとつとなっているSAKURA。良い意味で社用車らしからぬ遊び心も盛り込まれています

 

導入は2023年の2月から。電力消費が多い暖房を特に多用する時期だったこともあり、バッテリーの持ちを不安視する声もあったそう。

 

「EVはとにかく充電に時間がかかります。そこで、夜間充電をどうするかは当初の大きな課題でした。夜間充電をしておかないと営業に間に合わないので許可自体は出していましたが、『モード2』の場合、充電ケーブルが取り外し可能なので簡単に抜けてしまうんですね。いたずらでケーブルそのものが盗まれたりする懸念もありました」(森永さん)

 

「街の急速充電スタンドで使えるEモビリティカードも支給していますが、急速充電とはいえ30分はかかります。業務に影響を与えないためにも、夜間の基礎充電は非常に大事。そこで、独自の鍵を設置するなど安心して夜間充電をしてもらうための対策も進めています」(柴田さん)

 

EVの草創期だからこそ、導入の形に正解はなく、さまざまな試行錯誤をすることにこそ価値がある。それが大和リビングの考え方。

 

「今回の取り組みから得た知見は、やはり大きかったです。設備にしても高機能なものをつければいいというわけではないですし、どんな形がベストかはケース・バイ・ケース。それがEVを導入していく難しさでもあり、同時に可能性でもあると思っています。今後はEVのカーシェアなども増えていくでしょうし、弊社が手がける賃貸住宅『D-ROOM』にも、そういったサービスと連携することで新たな付加価値が生まれていくはずです。いずれにしても、大和リビングはこれからもEVに対して前向きな取り組みを継続していきます」(柴田さん)

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

「らしくないけれど…ありがたい」アルファロメオ「トナーレ」、ファンが抱える複雑な心情

イタリアの伊達なブランド、アルファロメオはいつの時代もカーマニアを唸らせてきた。その一番の魅力は美麗なスタイリングとスポーティな走行性能にあったが、ブランドの新体制における第一弾製品は、小型のSUV。近年、最も流行りのボディタイプで、アルファロメオはいったいどのような味わいを持たせることができたのか。イタリア車に精通する清水草一がレポートする。

 

■今回紹介するクルマ

アルファロメオ トナーレ

※試乗グレード:Ti

価格:524万~589万円(税込)

 

販売立て直しが必須のなかで登場した、アルファロメオのSUV

アルファロメオはイタリアの名門。エンブレムを見ただけで「なんかステキ!」と思ってしまうブランドで、私もこれまで2台購入している。

 

ただ、今世紀に入ってからは不振が続いている。アルファロメオと言えば「オシャレなデザインと痛快な走り」というイメージだが、経営戦略の迷走により、あまりオシャレでも痛快でもなくなってしまったからだ。

 

アルファロメオはもともとフィアットグループの一員。フィアットはクライスラーと合併し、近年、プジョー/シトロエンとも合併して、多国籍自動車製造会社ステランティスとなった。ステランティスグループのいちブランドとして、アルファロメオはどのような立ち位置を目指すのか、まだはっきりしていないが、とにかく販売を立て直さなければならない。

 

トナーレはセダンタイプ「ジュリエッタ」の後継モデルだが、欧州で最も売れ筋のコンパクトSUVセグメントにボディタイプを変更した。もはやSUVじゃなければ販売の拡大は見込めないのだ。痛快な走りを身上とするアルファロメオとしては、それだけで若干ハンデだが、仕上がりはどうだろう。

 

典型的なクロスオーバーSUVだが、随所に感じられるデザイン性

まずデザインを見てみよう。フォルムは典型的なクロスオーバーSUVで、いまやどこにでもありそうな形だ。アルファらしいデザインのキレが感じられない。決して悪くはないが、あまりにもフツーと言うしかない。さすがにフロントフェイスの盾形グリルだけはアルファロメオの伝統に則っており、一目でアルファロメオだと判別できるが、それを除けば、アルファロメオらしさはあまり感じられない。

↑SUVとしては一般的なデザインながら、鮮やかな青のカラーリングは目を引きます。なお、ボディカラーはTiグレードで3色(VELOCEは5色)を用意

 

ただ、細かく見れば、アルファロメオらしさはちりばめられている。3連ヘッドライト風のシグネチャーライトは、かつてのアルファロメオSZを彷彿とさせ、5つの円を組み合わせたホイールデザインも、アルファロメオ伝統の造形だ。

↑3連のU字型デイタイムランニングライト。アルファロメオの新たなシグネチャーになっているとのこと

 

↑今回試乗した「217 アルファ ホワイト」カラーモデル。ボディサイズは全長4530×全幅1835×全高1600mmです

 

しかしこういう小技だけでなく、全体のフォルムで「ひええ! オシャレすぎる!」くらい言わせないと、アルファロメオとは言えないのではないか。トナーレのデザインは、あまりにも定番すぎて、ほかのSUVに埋没してしまいそうだ。

 

1.5L 4気筒直噴ターボに48V駆動モーター、さらにBSGも搭載

パワートレインは、新開発の1.5L 4気筒直噴ターボに48V駆動のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドで、7速DCTで前輪を駆動する。トナーレは、「ステルヴィオ」に続くアルファロメオのSUV第2弾にして、初の電動化モデルなのである。

 

電動化と言っても流行りのバッテリーEVではなく、ガソリンエンジン主体のマイルドハイブリッドという点はアルファロメオらしいが、ハイブリッド王国・日本のユーザーとしては、「いまさらマイルドハイブリッドで電動化もないだろう」と感じてしまったりする。

 

試乗したのは、エントリーモデルのTi。「Ti」とは「ツーリズモ・インテルナチオナーレ」の略だ。国境を越えて走るってこと。島国の日本ではムリだけど。

 

新開発の1.5L 4気筒ターボエンジンは、エンジン単体では160PS/5750rpmと240Nm/1700rpmを発生させ、そこに20‌PS/55‌Nmを生み出すモーターが加勢する。さらに12Vのベルト駆動スターター・ジェネレーター(BSG)も搭載されている。一般的なマイルドハイブリッドシステムはBSGだけだが、トナーレの場合は20km/hぐらいまでの低速なら、電動モーターだけで走ることもできる。つまり、マイルドハイブリッドでも、ちょっと進んだヤツではある。

↑計器盤には12.3インチの大型デジタルクラスターメーターを採用

 

アルファロメオらしくないが、アクセルを踏んだときのレスポンスがステキ

1.5L4気筒エンジンのもうひとつの大きな特徴は、ターボに可変ジオメトリータービン(VGT)を採用していることだ。タービンの排気流路を変化させ、低速側のトルクとレスポンス、および高速側の出力を両立させるメカで、ガソリンターボエンジンではかなりゼイタクである。

 

低速域では、DCTが多少ガクガクするくらいで、走りはまったく平凡かつ安楽だが、首都高に乗り入れてクルマの流れに乗ると、トナーレは水を得た魚のように躍動をはじめた。

 

「どうせマイルドハイブリッドだろ」とナメていたが、ハーフスロットルでの反応が実にすばらしい。反面、アルファロメオらしいエンジンを回す快感はまったくない。レッドゾーンはなんと5500rpmという低いところから始まっていて、「こんなのアルファロメオじゃない!」という思いも沸く。

 

しかし実際の走行では、アクセルを踏めば車体は即座にググッと前に出て、実にレスポンスがいい。アクセルを全開にしても大した加速はしないが、日常的に使う領域では非常に俊敏で速く感じる。

↑低回転時からトルクが駆動し、高回転までスムーズに伸びていくため、爽快な加速を実現しているそうです

 

ハンドリングは実に素晴らしい

パワーユニットが縁の下の力持ち的なのに対して、ハンドリングは手放しでほめられる。とにかくタイヤの接地感がすばらしく高い。アルファロメオと言えば、いつテールがすっ飛ぶかわからない、頼りない操縦性が“味わい”だったが、トナーレのハンドリングは頼りがい満点。自信満々にコーナーに入ることができる。

↑コックピットは黒を基調としたデザイン。触感にもこだわり、上質な素材を採用しています。また、中央には10.25インチのタッチ対応インストルメントパネルを搭載

 

ステアリングは適度にクイックでアルファロメオらしいが、サスペンションは当たりが優しくしなやかで、首都高のジョイントを超えてもショックは最小限。カーブを曲がるのが実に気持ちイイ。ロングドライブでも疲れ知らずで走ることができそうだ。

↑優れた前後重量のバランスを利用して、トルクへの伝達とコーナーにおけるハンドリングの最適化を実現しているそうです

 

価格は524万円(Tiモデル)。美点は主にハンドリングなので、かなり割高に感じてしまう。国産SUVなら、トヨタ「ハリアーハイブリッドS」が371万8000円〜で買える……。

 

しかしトナーレは、欧州ではそれなりに売れて、アルファロメオブランドを守ってくれるだろう。アルファロメオファンとしては、それだけでありがたいという思いが沸いた。

 

SPEC【Ti】●全長×全幅×全高:4530×1835×1600mm●車両重量:1630㎏●パワーユニット:1468cc直列4気筒ターボエンジン+モーター●エンジン最高出力:160PS/5750rpm[モーター:20PS/6000rpm]●エンジン最大トルク:240Nm/1700rpm[モーター:55Nm/200rpm]●WLTCモード燃費:16.7㎞/L

 

撮影/清水草一

質実剛健がウリだったけど大丈夫? 3代目「ルノー カングー」乗って試す

フランスのルノー「カングー」と言えば、質実剛健な造りが日本でも人気を呼び、多くのファンを生み出したクルマです。そのカングーが2020年11月に3代目としてフルモデルチェンジを果たし、それから3年を経て日本での販売をスタート。サイズアップして乗用車としての乗り心地や使い勝手を高めた新型カングーをご紹介します。

 

■今回紹介するクルマ

ルノー/カングー

※試乗グレード:インテンス(ガソリンモデル)

価格:384万円〜424万5000円(税込)

↑1.3Lガソリンターボエンジンを搭載した「インテンス」。より乗用車ライクな外観を特徴とする

 

人気の秘密は質実剛健なコンセプト。3代目で「豪華になった」のは大丈夫?

カングーは高い実用性を持つ“乗用車”として、日本でも人気を集めているフランス車。わざわざ乗用車を“”で囲ったのには理由があって、もともとカングーは商用車として登場しているクルマだったからです。

 

カングーが誕生したのは1997年のことです。商用車らしく背を高くして十分なカーゴスペースを確保しながら、直進安定性やハンドリングなどが乗用車並みに優れていると高い評価を獲得。加えて当時の商用車としては数少ないABSや4つのエアバッグを標準搭載するなど、高い安全性も確保したことで、日本だけでなく世界中で人気モデルとなりました。

 

日本で初代が発売されたのは2002年。最初はバックドアを跳ね上げ式のみとしていましたが、翌年に実施されたマイナーチェンジを機に観音開き式のダブルバックドアが選択可能となりました。以降、カングーは使い勝手の良さから一躍人気モデルとなったのです。

 

そのカングーが今回のモデルチェンジで3代目となり、より大きく豪華なクルマへと進化を遂げました。ただ、“豪華になった”と聞けば、質実剛健さがウリだったカングーにとって果たして良いことなのか? そんな心配をする声も当然出てくるでしょう。ですが、その心配は基本無用と私は感じました。むしろ、走行中の安全性や使い勝手が進化したことで、実用車としての能力が一段と高められたのではないかと思ったのです。

 

全長が210mm長くなり、スタイリングにも余裕が生まれた

今回試乗したカングーは、カラードバンパーを採用し、より乗用車らしさを追求したグレード「インテンス」です。外観は、フロントグリルが従来のカングーとは大きく違ったデザインになり、以前よりも一段とルノーっぽさを感じさせます。ボディは前モデルに比べて全長が210mm長くなり、それによりAピラーを大きく傾斜させています。室内空間を狭めることなく伸びやかさを感じるデザインです。

 

一方でキャビンから後ろ方向を見ると、サイドのグラスエリアを細めにして、相対的にルーフ部分の厚みが増しています。これは商用車として荷物の積載に配慮したものですが、ここに本来のカングーっぽさを感じ取ることができます。

↑ガラスエリアを狭めたことから商用車としての基本構造が伝わってくるが、乗用車としても十分納得がいくデザインだ

 

さらに、3代目のラインナップには、フロントとリアがブラックバンパーになっている「クレアティフ」も用意されました。ホイールをセンターキャップのみともしており、よりカングーらしい質実剛健さを求めたいユーザーには格好のグレードと言えるでしょう。

↑ブラックバンパーやホイールが特徴的なグレード「クレアティフ」

 

全長が210mm伸びたことで、実感できたのが室内空間の広さです。特に「広いなぁ」と感じるのが後席で、一人ずつ専用シートが割り当てられている3座独立タイプとなっており、身長168cmの筆者が座っても十分なゆとりを感じます。フロアもフラットであるため、ゆったりと座ることができました。

↑シートサイズもたっぷりとしたサイズで、乗用車としての質感も申し分ないレベルに仕上がっていた

 

↑リアシートは3人分を専用シートで区切ってあるうえに、足元が広いために大人3人がゆったりと座れる

 

ただ、リアスライドドアは左右ともに完全な手動式で、国産なら今どき軽自動車でも電動化を実現していることを踏まえると残念に思うかもしれません。しかし、これがカングーだと思えば許せちゃうところが不思議です。

 

運転席に座って、変わりように驚いたのがインパネのデザインです。ダッシュボードは水平基調でデザインされ、中央にはフローティングされた8インチのディスプレイを配置。その下にはクロームで縁取られた空調用ダイヤルをはじめ、シフトレバーと電動パーキングブレーキがすっきりとまとめられています。

 

【運転席まわりのフォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

商用で使うならパーキングブレーキは引き上げるタイプの機械式が良かったのではないかと思いますが、時代の流れなのでしょう。もちろん、乗用として使うならより使いやすいと感じるはずです。

 

ダッシュボード中央の「8インチ・マルチメディア EASY LINK」は、カーナビこそ装備されていませんが、スマートフォンを接続することで、iPhoneならCarPlayで、AndroidならAndroid Autoによってさまざまなアプリが使えます。なので、iPhoneならGoogle マップやYahoo!カーナビが使え、AndroidならGoogle マップがメインとなるでしょうか。

↑カーナビは搭載していないため、スマホにインストールしてあるカーナビアプリを使うことになる。写真はアップルのCarPlay

カングーならではの圧倒的な収納力と使い勝手の良さ

そして、カングーならではの真骨頂が優れた収納力です。ダッシュボードのアッパーには開閉式の収納ボックスが用意され、ここにはUSB端子2基とシガーライターソケットを装備。また、おなじみのオーバーヘッドコンソールも引き継がれ、その手前には巨大なアシストグリップが装備されました。これまで親しまれてきたチャイルドミラーはくるりと回転すると現れるようになり、これまた使いやすさを高めています。

 

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一方で、後席用のオーバーヘッドコンソールはなくなり、代わりに前席背後に使い勝手が良い折り畳み式テーブルが装備されました。

↑前席シート背後には新たに折りたたみ式テーブルが備えられた。後席に座った人には重宝する装備だ

 

ラゲッジスペースは当然の広さ。その容量は5名乗車時でも先代モデル比で115Lプラスとなる775Lを実現。後席は6:4分割で折りたたむことができ、すべてをたためば先代モデル比で132Lプラスの2800Lにもなります。しかもフロアは出っ張りがほとんどないフルフラット状態。フロアの地上高も低いために、重い荷物でも楽に積み込めそうです。

 

さらに、カングーの美点でもある観音開きのダブルバックドア。左右のドアは右が小さく、左が大きく左右非対称となっており、片方ずつ開いて荷物の出し入れができるのです。ドアの開閉は90度まで開き、必要ならロックを外すことで180度のフルオープンにすることもできます。状況に応じてさまざまなスタイルでドアの開閉ができるのは、いざというときに役立つでしょう。

 

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エンジンは2モデル用意。ガソリンモデルは走りが軽やかで、乗り心地も◎

最後に、新型カングーの走りを検証したいと思います。エンジンは従来の1.2リッターから1.3リッターへ排気量アップしたガソリンターボを搭載しています。インテンスではほかに1.5リッターのディーゼルターボも選択可能。トランスミッションはどちらも湿式7速となったデュアルクラッチを備えるEDC(エフィシエントデュアルクラッチ)を採用。従来の乾式6速より機能面も耐久性も大幅にアップしたということです。

↑1.3L直4・ガソリンターボエンジンは最高出力96kW(131ps)/5000rpmを発揮する

 

ガソリンである試乗車は、想像以上に軽やかに発進し、そのまま滑らかに加速。ボディが大きくなったことなど、まるで感じさせない余裕を体感できます。高速域に入っても力不足を感じることはなく、安定した走りっぷりです。これなら定員乗車してたっぷり荷物を積んでも不満は感じないでしょう。

↑試乗したのはガソリン車。軽やかに発進し、そのまま滑らかに加速していく様はスムーズそのものだった

 

なかでも感心したのが市街地での走行フィールで、加減速が滑らかであるためにギクシャクする様子などまったく見せません。コーナリング中のロールもしっかりと抑えられており、これなら同乗者にも歓迎されるでしょう。

 

乗り心地も大幅に向上しました。これまでは道路の継ぎ目などをしっかり拾っていたものですが、新型ではそれを上手にいなしてくれ、高速走行時の安定した走りとも相まって格段に乗り心地がレベルアップしたことを実感させてくれます。静粛性も十分に高く、全ガラスの厚みを増したこともあり、同乗者の音声も1割ほど聞きやすくなったということです。そのためか、運転中は生い立ちが商用車であることなどすっかり忘れてしまうほど快適に走ることができました。

↑道路の継ぎ目も上手にいなすことで乗り心地は大幅に向上した。写真は.3Lガソリンターボエンジンを搭載したインテンス

 

素晴らしい仕上がりを見せた、ACCなどの先進安全装備

また、さまざまな先進安全装備の搭載も見逃せないポイントです。

 

アダプティブクルーズコントロール(ACC)とレーンセンタリングアシストを組み合わせることで、ステアリングに手を添えているだけで高速道路のコーナーを曲がっていってくれます。渋滞で停止しても電動パーキングブレーキが停止を自動的にホールド。再発進はクルコンのスイッチを押すか、アクセルを軽く踏むだけで設定はすぐに復帰されます。この一連の使いやすさはカングー初の装備とは思えない素晴らしい仕上がりでした。

↑多彩な運転アシストによりロングドライブをしっかりサポート。ACC制御も自然で違和感を覚えることはほとんどなかった

 

↑新たに搭載されたブラインドスポットモニター。隣接する車線に車両がいるとミラーでその存在を知らせてくれる

 

今回はディーゼル車の試乗は間に合いませんでしたが、低速域の力強さはガソリン車を上回るものがあると聞いています。ディーゼルということでノイズこそ高まる可能性はありますが、長距離を走ることが多い人ならこちらの選択を考えても良いのではないでしょうか。

 

とはいえ、前述したようにガソリン車でも走りで不満は感じません。新型は今までのカングーに愛着がある人も、乗用車的な使い方をしたかった人にとっても満足度が高い選択となることを実感した次第です。

 

SPEC【ルノー カングー インテンス(ガソリン)】●全長×全幅×全高:4490×1860×1810mm●車両重量:1560㎏●パワーユニット:1333Lターボチャージャー付き筒内直接噴射 直列4気筒 DOHC16バルブ●最高出力:131PS/5000rpm●最大トルク:240Nm/1600rpm●WLTCモード燃費:15.3km/L

 

撮影/松川 忍

 

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e-Bike最高峰の実力は? 100万円弱のTREK製「Rail 9.7 Gen 2」で都内を散策したら……

このところ、急速に選択肢が広がり成長を続けているのが、e-Bikeと呼ばれるスポーツタイプの電動アシスト自転車。その心臓部であるドライブユニット(モーター)の製造で世界一のシェアを誇っているのがBOSCHです。今回は、BOSCH製ユニットを搭載した最高峰のe-MTB(マウンテンバイクタイプのe-Bike)に試乗するとともに、その楽しみ方を味わってきました。

 

e-Bikeでなければ到達できなかった景色に出会える

今回試乗したのはTREKの「Rail 9.7 Gen 2」というモデル。BOSCH製のドライブユニットで最もパワフルで緻密なコントロールが可能な「Performance Line CX」を搭載したe-MTBのトップグレードです。

↑カーボン製のフレームに前後サスペンションを装備したTREK「Rail 9.7」。試乗したモデルはGen2と呼ばれる最新型で、価格は97万6800円(税込)

 

世界的に見ると、e-Bike市場を牽引しているのは、こうしたハイグレードなe-MTB。ただ、日本国内ではまだ限定的な規模にとどまっています。理由のひとつとして、日本国内ではMTB専用コースが限られるという事情もありますが、e-Bikeは決して専用コースに行かなければ楽しめないものではありません。そんなe-Bikeの楽しみ方を体験するため、BOSCHの担当者にアテンドしてもらい、東京都内のルートを走ってみました。

↑桜の花の咲いている時期だったので、お花見気分でのライドとなりました

 

筆者の自宅からそう遠くないエリアでのライドでしたが、少し裏道に入るだけで都内とは思えないような田園風景が開けます。アップダウンもある道のりではあるものの、アシストしてくれるe-Bikeならまったく苦になりません。景色を見ながらペダルを回しているだけで、風を感じて走って行けるのはe-Bikeライドの魅力です。

↑幹線道路からちょっと外れて裏道に入って行くと、東京だとは思えない風景に出会えました

 

↑ペダルを軽く回しているだけで、どんどんスピードが乗ってくるのもe-Bikeのいいところ

 

↑写真ではわかりにくいですが、普通の自転車なら登る気にもならないほどの激坂もe-Bikeならラクラク

 

アシストのない自転車では立ちこぎをしても登れないかも……と思うほどの坂を登って行くと、これまた都内とは思えない切り通しに到着しました。このあたりはクルマで通ることはありましたが、少し裏道に入っただけでこんなスポットがあるとは……。

 

もし知っていたとしても、e-Bikeでなければ手前にある坂を登ろうとは思わなかったでしょうから、e-Bikeだからこそ出会えた景色だともいえます。

↑激坂を登って行くと、思わぬ絶景ポイントに到着しました

 

↑e-Bikeに乗っていなければ、出会わなかったかもしれない景色

 

その後も、BOSCHの担当者さんが設定したルートを案内してもらいましたが、普段はなかなか行かないようなスポットに連れて行ってもらえました。細い道ばかりでクルマで入って行く気にはならないうえに、坂道がキツイので普通の自転車で行こうとは思わないような場所ばかり。e-Bikeならではのルート設定はさすがだと感じました。

↑都内、しかも近所にこんな牧場みたいな場所があったとは……

 

↑クルマで前を通ったことはあったけど、寄ろうとは思わなかった場所もe-Bikeなら気軽に立ち寄れます

 

今回、走らせてもらったルートはRail 9.7 Gen 2のようなフルサスe-MTBでなくても走破できます。e-Bikeはほしいけど、どう楽しんだらいいのかわからないという人は、こうやって少しいつもの道を外れて探索するだけでも十分にその魅力が感じられるはず。e-Bikeだと坂道も気にならないし、帰り道の体力も心配しなくていいので、積極的に寄り道や探索ができるのがおもしろいところです。

↑最後に少しだけ未舗装の山道も探索して、フルサスe-MTBの実力を試してみました。これくらいの坂道は余裕で登ったり下ったりできます

 

フルサスタイプのe-MTB「Rail 9.7 Gen 2」

順番が前後しますが、今回乗らせてもらったTREK Rail 9.7の詳細を紹介しておきましょう。登場したのは2020年のことで、その際にも試乗はしているのですが、今回乗ったのは2022年モデルでGen2に進化しています。細かいコンポーネントも刷新されていますが、「Gen1」から大きく違うのはドライブユニットの制御です。「Performance Line CX」のドライブユニットはハードウェアは同じですが、最大トルクが75Nmから85Nmに高められているだけでなく、ペダルを踏み込んだ瞬間に強力なアシストが立ち上がるような設定が追加されています。山の中の急な登り坂などで役立ちます。

 

前後にサスペンションを装備した“フルサス”と呼ばれるタイプのe-MTBで、フレームはカーボン製。バッテリーはフレームに内蔵されるタイプで、スマートなシルエットを実現しています。

 

【Rail 9.7 Gen 2を画像でチェック】(タップするとご覧いただけます)

 

走行性能を左右する変速ギアやサスペンションなどのパーツもハイグレードなもの。変速ギアはシマノ製の12速で、幅広いシーンに対応できます。サスペンションはフロント160mm、リア150mmのホイールトラベルを確保し、凹凸の激しい路面でもグリップを確保。ブレーキは前後とも制動力とコントロール性にすぐれた油圧式ディスクブレーキを採用しています。

↑大小12枚のギアが並ぶリアの変速機構。ディレーラーはシマノ製のXTグレードです

 

↑フロントには変速を搭載しない最近のMTBのトレンドを踏襲。チェーン落ちを防ぐガードも装備しています

 

↑フロントサスペンションはRockShoxの「Domain RC」。160mmのストロークは激しい下りにも対応できます

 

↑ホイール径は前後とも29インチ。走破性が高くスピードを維持しやすいので、舗装路でも疲れません

 

↑リアのサスペンションはRockShox製「Deluxe Select+」で、車体中央にリンクを介してマウントされます

 

近年のMTBでは一般的となっているドロッパーポストも標準装備されています。これは、乗車したまま手元の操作でサドルの高さを上下できるもの。山道を走る際は、登りではペダリングしやすい高さに、下りでは腰を引きやすいよう低い位置にサドルをセットしたいのですが、その切り替えを乗ったままできます。また、街乗りでも信号待ちの際に足を付きやすいようにサドルを下げたりできるので便利です。

↑ドロッパーポストを一番下げた状態。足付きも良くなり、腰を引いたライディングポジションが取りやすくなります

 

↑ドロッパーポストを一番上にすると、ペダリングしやすい位置にサドルをセットできます

 

今回走行したコースでは、フルサスe-MTBの性能をフルに発揮する場面はあまりありませんでしたが、以前に山の中で試乗した際には登りでも下りでも高い走破性を実感できました。特にゲレンデを下るような斜面での安定性は特筆もの。Active Braking PivotというTREK独自のリンク機構が、下りで凹凸が激しい場面でもタイヤを路面に押し付けてくれるので、安定したブレーキングが可能です。

 

登り斜面でも前後のサスペンションがタイヤを押し付けてくれるので、アシストによる駆動力を余すことなく伝えることができます。e-Bikeのメリットを最も強く感じられるのが、このフルサスe-MTB。その中でもトップグレードに当たるRail 9.7 Gen 2は機会があれば一度乗ってもらいたい完成度の高いモデルです。

 

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最近減ったディーゼルエンジン車は買い? プジョー「308」をちょい辛で評価

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回はプジョーのミドルサイズコンパクトカー、308を取り上げる。先代よりシャープになったデザインの評価は?

※こちらは「GetNavi」 2023年3.5月号に掲載された記事を再編集したものです

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感。クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわっている。

 

【今月のGODカー】プジョー/308

SPEC(GT BlueHDi)●全長×全幅×全高:4420×1850×1475mm●車両重量:1420kg●パワーユニット:1498cc直列4気筒ターボディーゼルエンジン●最高出力:130PS(96kW)/3750rpm●最大トルク:30.6kg-m(300Nm)/1750rpm●WLTCモード燃費:21.6km/L

320万6000円〜515万1000円(税込)

 

走りのバランスが良いもののデザインは刺さらなかった

安ド「殿! 今回はプジョー308のディーゼルモデルを取り上げます!」

 

永福「そうか」

 

安ド「殿はプジョー508ディーゼルのオーナーですから、308もお好きなのでは?」

 

永福「いや、あまり好きではない」

 

安ド「ええっ! すごく良いクルマじゃないですか。安ド的には、歴代308で一番カッコ良いと思っております!」

 

永福「歴代308は、どれもあまりカッコ良くない。新型の308もイマイチだ」

 

安ド「でも新型は、シャープでネコ科の動物っぽい雰囲気が……」

 

永福「かなり太ったネコだな。同じプジョーでも208や508は非常にカッコ良いので、308にも期待していたのだが」

 

安ド「インテリアもシンプルでムダがありません。メーターまわりのサイバーな雰囲気に全体がマッチしていて好きです!」

 

永福「プジョー定番の楕円ステアリングは、クイックに操作できるので私も好きだ」

 

安ド「乗った感じも、バランスが良いなと思いました。すべてがマッチしていて、先代ゴルフに乗ったときのような感覚がありました」

 

永福「確かに走りのバランスは良いと思うぞ」

 

安ド「殿は、先代308のディーゼルモデルを、『最も現実的かつ理想的なディーゼル車だ!』と高く評価されてました。新型のディーゼルエンジンも、先代と同じ1.5Lですよね?」

 

永福「そう。エンジンも実用的で素晴らしいぞ」

 

安ド「ディーゼル乗用車は、ガソリンエンジンより早く、近い将来消滅すると言われていますが、いま買っても大丈夫でしょうか?」

 

永福「だからこそ、いまのうちに買っておくべきだ。ディーゼルの太いトルクと低燃費は、何ものにも代え難い。この快感を知ってしまったら病みつきだ」

 

安ド「そんなに良いですか。軽油がスタンドから消えたりする心配もないですか?」

 

永福「トラックはそう簡単にEV化できないから、むしろガソリンより長く買えるんじゃないか」

 

安ド「なるほど!」

 

永福「308が良いクルマなのは確かだが、デザインにフランス車らしい小粋さが足りないし、あまりにもボディが大きくなりすぎてしまった。全幅が1850mmもあるのはイカン」

 

安ド「殿の508のほうが、ずっとデカいじゃないですか!」

 

永福「508は、ちょいワルオヤジのためのスカしたスポーツセダンだからそれで良い。しかし308は実用ハッチバック。フランスの実用車は、もっと小粋でコンパクトであってほしい。よって個人的には、プジョー208のほうがオススメだ」

 

安ド「208にはディーゼルの設定がありません!」

 

永福「このクラスでディーゼルにこだわるなら、VWのゴルフだな」

 

【GOD PARTS 1】オートマチックセレクター

スタイリッシュで収納スペースも確保

2022年春登場の208に続き、新型308でも、指先で操作できるトグルタイプのオートマチックセレクターが採用されています。見た目のスッキリさはもとより、センターコンソールまわりの収納スペースも確保できます。

 

【GOD PARTS 2】エンブレム

ブランドの新たなアイデンティティ

従来の“2本足で立っているライオンのアウトラインをかたどった”エンブレムは、この新型308から“顔だけ”に変更されました。60年代にも横顔エンブレム時代はありましたが、こちらは平面的になり、モダンな雰囲気を感じさせます。

 

【GOD PARTS 3】エンジン

高出力から低燃費まで充実のラインナップ

撮影車のエンジンは最高出力130馬力を発揮するディーゼルターボ。ほかにも1.6L直列4気筒ターボエンジン+モーターのプラグインハイブリッド、1.2L直列3気筒ガソリンターボもラインナップされて、選べるのがうれしいです。

 

【GOD PARTS 4】マフラー

大胆アピールかと思いきや隠された排気口

リアの下部は黒くて、ボディの厚みを感じさせるデザインになっていますが、左右にシルバーで囲まれた箇所があります。コレ、マフラーかと思いきや完全なるダミーで、実物は底面から1本だけちょこっと出てました。

 

【GOD PARTS 5】リアシート

先代と比べて足元空間が拡大

先代からホイールベース(前輪と後輪との間の距離)が拡張されたことで、後席の足元のスペースも約30mmほど拡大されました。このクラスのコンパクトカーにとって、意外と使われるリアシートまわりの広さは重要ですからね。

 

【GOD PARTS 6】ホイール

足元を引き締めるサイバーなイメージ

フロントまわりのシャープな雰囲気に似合うサイバーなデザインです。ブラックとシルバーを組み合わせてスポークが細く見えるように工夫されています。また中央部にはカバーのようなものが付いていて、ナットが直接見えないように工夫されています。

 

【GOD PARTS 7】ヘッドライト

後方までまっすぐ伸び続けるプレスライン

先代と比べてボディサイズは拡大されましたが、フロントデザインは直線基調でシャープです。特に超薄型マトリクスLEDヘッドライトは特徴的ですが、ライト後端からフロントドアまで伸びたプレスラインは、実は先代から受け継いでいます。

 

【GOD PARTS 8】リアコンビネーションランプ

ライオンの爪で引っ掻かれた跡

フロントにならってリアライトも薄型です。そして斜めに入ったこのラインはライオンのかぎ爪で引っ掻かれたイメージなんだとか。ライオンのエンブレムをつけたプジョーのライオンへのこだわりが感じられるデザインですね。

 

【GOD PARTS 9】センターディスプレイ

タッチパネル式で未来感あふれる造形

インパネ中央には大型ディスプレイが鎮座していて、タッチ操作や声で呼びかけて操作できる「iコネクトアドバンスト」を採用。デジタルメーター「iコックピット」とサイバーな雰囲気で統一されています。

 

【これぞ感動の細部だ!】ステアリング

クイックな操作感が好印象

スポークが左右2か所のみというスポーティなデザインが採用されています。また、上端が平らになっているのも特徴で、ステアリングの上からメーターパネルが見える設計になっています。さらに、スタンダードなステアリングと比べて小径なので、操作感がクイックです。

 

撮影/我妻慶一

徹底比較! カーシェア大手3社のサービスにはどんな違いがある?

予約も乗車も返却もサクッとできるのがカーシェアの魅力。コロナ禍により通勤で利用する人も増え、ますます勢力を拡大中だ。ここでは大手3社のサービスの違いを徹底検証。利用しやすく魅力あるカーシェアを選んで、快適なドライブを楽しみたい。

※こちらは「GetNavi」 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

【私がガイドします】本誌乗り物担当 上岡 篤

ホームセンターへの買い出しなどにカーシェアをよく利用する。最近は電動キックボードのスムーズな走り&ラクさに目覚めた。

 

↑乗車時、返却時はICカードをクルマの所定位置にタッチするだけ。最近ではスマホアプリで手続きが完了するカーシェアもある

 

タイムズカーはステーションの多さが圧倒的!
選べる車種が豊富なカレコや各種ポイントを有効活用できるオリックスカーシェアにも注目!

カーシェアの魅力は、最短15分単位(長時間プランもあり)で24時間いつでも利用できる点。面倒なカウンターでの手続きも不要だ。

 

「自宅や職場など、拠点となる場所の近くにステーションがあるか確認して、使いやすいカーシェアを選ぶことが基本です」(上岡)

 

全国47都道府県にあり、圧倒的なステーション数を誇るタイムズカーや、一度は乗ってみたいと憧れるモデルもラインナップするカレコ・カーシェアリングクラブには注目。オリックスカーシェアは「楽天カーシェア」からの予約・利用(オリックスカーシェア利用)でポイントが貯まるので、Rポイント会員にとって魅力的だ。

 

「注目は給油したときに受けられる割引。タイムズカーなら、20リットル以上給油すれば自動的に30分ぶんの割引が適用されます(パック料金は除く)。燃料残量が少ないクルマを予約するワザも!!」(上岡)

 

シェアリングサービスの代表格であるカーシェア。クルマにかかる諸経費を削減できると注目だ。

 

大手3社のサービス内容比較

タイムズカー カレコ・カーシェアリングクラブ オリックスカーシェア
サービス開始年月 2009年5月 2009年1月 2002年4月
会員数 約207万7000人(2022年12月末時点) 約38万9000人(2022年12月末時点) 約37万5000人(2022年9月末時点)
展開エリア 全国47都道府県(2022年12月末時点) 東京都、神奈川県など16都道府県(2022年12月末時点) 首都圏エリアを中心に、全国30都道府県(2022年9月現在)
ステーション数 1万4358か所(2022年12月末時点) 3564か所(2022年12月末時点) 1633か所(2022年9月末時点)
車種 36車種(2023年2月1日時点) 46車種(2022年12月末時点) 26車種(2023年2月現在)
台数 3万7101台(2022年12月末時点) 6271台(2022年12月末時点) 2541台(2022年9月末時点)
変わったモデル トヨタ・bZ4X トヨタ・MIRAI レクサス・UX/NX トヨタ・MIRAI
初期費用 1650円(会員カード発行料) 0円(個人会員の場合) 1650円(ICカード発行手数料)
利用料金 月額基本料金880円(個人・家族プラン)、時間料金220円/15分〜(ベーシッククラスの車両利用の場合)※月額基本料金は利用料金に充当可能 月額基本料金980円(個人プラン)、時間料金150円/10分〜(ベーシックプランでベーシッククラスの車両利用の場合)※月額基本料金は利用料金に充当可能 月額基本料金880円(個人Aプラン)、時間料金220円/15分〜(個人Aプランでスタンダードクラスの車両利用の場合)※月額基本料金は利用料金に充当可能
オススメポイント エコドライブや給油、走行距離などによってカーシェアポイント(cp)が貯まる「TCPプログラム」を用意。貯まったポイントに応じて月額基本料金無料やミドルクラスをベーシッククラスの料金で利用できるなど、おトクなサービスが受けられる。 運転しやすいコンパクトカーから、マツダ・ロードスターやダイハツ・コペン、トヨタ・86など憧れのスポーツカーまで、豊富な車種ラインナップから選べる。国産高級ブランドの雄、レクサスが選べるのは同社のカーシェアだけだ。 全車にバックモニターを装備し、自動ブレーキ搭載車、ドライブレコーダーの搭載を順次進めている。万が一の事故の際のロードサービスも充実している。月額料金無料プランはドコモのdカーシェア、楽天カーシェアからも利用可能。

 

【タイムズカーのおトク情報】

時間料金利用時の給油&洗車で利用料金が割引になる!

時間料金での利用時に、20リットル以上の給油や洗車をして返却すると、それぞれ30分ぶんの料金が割引になる給油・洗車割引が適用される(併用すると60分の料金割引が適用)。

 

【カレコ・カーシェアリングクラブのおトク情報】

乗らない月でも安心! 月会費0円のプランもあり

個人会員向けの料金プランは、980円の月会費が利用料金に充当できるオススメのベーシックプランと、月々の費用は乗ったぶんだけの月会費無料プランの2種類から選べる。

 

【オリックスカーシェアのおトク情報】

新規入会2か月基本料金無料! スタンダードクラス2時間ぶんも無料

新規入会後2か月は月額基本料金が無料。さらにスタンダードクラス2時間ぶんが無料で利用可能だ(個人Aプランで利用の場合)。

 

商用車登録でありながら快適性や遊びが魅力! スズキ・スペーシアの派生モデル「ベース」をチェック

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、商用車登録でありながら乗用車のような快適性を誇る、スペーシアの派生モデル「ベース」を紹介!

※こちらは「GetNavi」 2023年02・03合併特大号に掲載された記事を再編集したものです

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感。クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわっている。

 

【今月のGODカー】スズキ/スペーシア ベース

SPEC(XF・2WD)●全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm●車両重量:870kg●パワーユニット:658cc直列3気筒エンジン●最高出力:52PS(38kW)/6500rpm●最大トルク:6.1kg-m(60Nm)/4000rpm●WLTCモード燃費:21.2km/L

139万4800〜166万7600円(税込)

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

走行性能も申し分ない“大人の秘密基地”

安ド「殿! スズキからスペーシア ベースが発売されました!」

 

永福「軽自動車のバリエーションがどんどん増えておるな」

 

安ド「ですね! これは人気の車中泊需要に応えたモデルです!」

 

永福「たしかに、サイド後方の窓がなくなっておる」

 

安ド「その部分の内側の壁に棚やコンセントが付いています!」

 

永福「さすが車中泊仕様だな」

 

安ド「僕が良いなと思ったのは、黒いホイールです。今回借りた上位グレードのアルミホイールも、下位グレードの鉄チンホイールも、どちらも真っ黒に塗ってあってシブいんです!」

 

永福「同感だ。ホイールが黒いだけでたくましく、クロウトっぽく見える」

 

安ド「スズキの方にレクチャーしてもらったんですが、ラゲッジ&リアシートのアレンジが、覚え切れないくらいたくさんあってオドロキました。それらを全部使うことはないと思いますが、自分の使いやすい形を見つけ出せるのは良いですね!」

 

永福「子どものころ、隣の空き地に基地を作って遊んだが、このクルマにはその感覚があるぞ」

 

安ド「通常の軽とは逆で、電動スライドドアが右側だけなんですが、これは、ドライバーのためのクルマだからということでした。自分だけの遊びグルマとして軽を一台所有できる趣味人には、ピッタリではないでしょうか!」

 

永福「うらやましいな」

 

安ド「スペーシア ベースは商用軽自動車なんですが、乗用軽自動車のスペーシアがベースということで、エブリィより快適性が高いそうです。僕はエブリィに乗ったことないので違いがわかりませんが、そんなに違いましたか?」

 

永福「確実に違う。エブリィやアトレーはキャブオーバータイプゆえ、前輪の真上に座る感覚だが、スペーシア ベースは通常の軽と同じなので、快適性や操縦性は大幅に上回っている。最近、スペース性に優れるキャブオーバー軽をアウトドア仕様に仕立てるのも流行っているが、走行性能は確実にスペーシア ベースが勝っている」

 

安ド「直接のライバルはホンダのN-VANだと思いますが、それと比べてはどうですか?」

 

永福「乗り心地に関しては、スペーシア ベースがだいぶリードしている。N-VANには、純粋な商用モデルもあって、貨物を満載した状態を想定し、サスペンションを固めてあるからだ。しかしスペーシア ベースは、商用車であっても実際にはアウトドア専用に開発された乗用モデル。足まわりは断然しなやかなのだ」

 

安ド「殿はダイハツのタントを所有されていますが、それと比べるとどうでしょう?」

 

永福「タントより100kg近く軽いので、ターボなしでも走りが軽快で驚いた。さすがスズキの軽は軽いな。このクルマ、大人の秘密基地として実に魅力的だぞ」

 

安ド「同感です!」

 

【GOD PARTS 1】フロントフェイス

カスタム風デザインもカラー違いで異なる趣き

通常のスペーシアではなく、スペーシア カスタム系のデザインが採用されています。ただ、「カスタム」はギラギラしていてアクが強い感じですが、この「ベース」は大部分が艶消しブラックで落ち着いた雰囲気です。

 

【GOD PARTS 2】ホイール

純正ブラック塗装で映えるカスタム質感!

クルマのホイールといえばシルバーの印象が強いですが、このスペーシア ベースのホイールは真っ黒。カスタマイズの基本とも言えるホイール塗装が最初からされているので、いきなり玄人っぽい雰囲気を醸し出せます。

 

【GOD PARTS 3】片側パワースライドドア

あえて右側を電動化した理由はドライバーのため?

軽自動車では片側のみ電動スライドドアということが多いですが、ほとんどが左側。日本は歩道が左にあるので当然といえば当然ですが、このクルマは運転席を降りてすぐ開ける右側が電動。“すべてはドライバーのために”というわけです。

 

【GOD PARTS 4】フロントシート

室内を有意義に使うため前後移動を可能に!

スペーシアやスペーシア カスタムのオーナーならすぐに気付くと思いますが、このべースではフロントシートがベンチタイプではなく、左右セパレートタイプになっています。車内を前後方向に移動できる、“秘密基地”らしいつくりです。

 

【GOD PARTS 5】リアシート

小さくて補助的で最低限使えるレベル

非常に小さなリアシートがついています。このクルマは商用車(4ナンバー貨物)なので、貨物スペース優先で設計されているため、リアシートは取って付けたような必要最低限のものになっています。かわいいですが快適性は期待できません。

 

【GOD PARTS 6】リアサイドウインドウ

埋められた窓の内側には便利な収納が!

スペーシアとの外観上の大きな違いが、リア(荷室部分)のサイドウインドウがなくなっていること。ベースではこの内側にポケットやフックが付いていて、荷室活用時には便利な棚や小物を置くスペースとして使うことができます。

 

【GOD PARTS 7】エンブレム

工事現場の足場風模様がイカしてる!

リアの「BASE(ベース)」と車名が書かれたエンブレムをよく見ると、文字周囲のシルバーの部分に、まるで工事現場の足場に使う鉄板のような滑り止めっぽい加工が施されています。まさに仕事場! 細かいところにまでこだわっていますね。

 

【GOD PARTS 8】オーバーヘッドシェルフ

高い天井を最大限生かせる収納スペース

商用バンなどで時々見かける装備ですが、スペーシア ベースにも天井に物入れスペースが設置されています。上位グレードのみの設定ですが、天井のデッドスペースを活用するという、軽自動車のなかでも車高が高いモデルに許された特権ですね。

 

【GOD PARTS 9】助手席

ただ前に倒れるだけじゃないシートの工夫

当然のごとく、助手席も道具として使えます。背もたれを前方に倒せばテーブルに(下)。キズが目立ちにくい加工が施されているのもポイントが高いです。座面を外せば、買い物カゴのように持ち運べるアンダーボックスが出現します(上)。

 

【これぞ感動の細部だ!】マルチボード

使い方に合わせて荷室スペースを変化!

クルマの最大の特徴がボード(板)というのは長い自動車史のなかでも初めてかもしれません(笑)。搭載された1枚のボードを荷室内にある様々な凹みや突起に組み合わせて設置することで、荷室がデスクスペースになったり、フラットスペースを生み出せたりします。荷室の上下・前後の分割なんてこともできて、秘密基地気分で愛車を自由に使い倒せます。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

 

撮影/我妻慶一

ピュアEV「BYD アットスリー」はコスパ高と思わせる充実の完成度!

今回の「NEW VEHICLE REPORT」は中国から上陸したBYDのアットスリーをピックアップ。ピュアEVとなるアットスリーで、最新の電気駆動モデルらしさを存分に堪能する。

 

※こちらは「GetNavi」 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです

 

新興勢力のクルマとは思えない完成度!

【EV】

BYD
アットスリー

SPEC●全長×全幅×全高:4455×1875×1615㎜●車両重量:1750㎏●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:58.56kWh●最高出力:204PS/5000〜80
00rpm●最大トルク:31.6㎏-m/0〜4620rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):485㎞

最新のピュアEVとしてソツのない仕立てが魅力

本国の中国では、9年連続で電気駆動モデルの販売がトップというBYD。日本でも昨年に上陸が発表され、本年から販売がスタートしているが、第1弾となったアットスリーはミドル級SUVのピュアEVという位置付けになる。

 

その外観はご覧のとおり、プレーンなデザインでさりげなく電気駆動モデルらしさを演出しつつもSUVとしてソツのない仕上がり。細部の質感も既存メーカーの最新モデルと比較しても遜色なく、新興メーカーのクルマにありがちな一種の危うさとは無縁だ。

 

一方、インテリアには随所に斬新な手法が取り入れられているのが興味深い。インパネ中央にあるタブレット風ディスプレイは縦横どちらでも使えるようになっているほか、ドアポケットの伸縮性コードでは音が奏でられるなど、その発想には既存メーカーにはない独自の持ち味がある。

 

ルーツがバッテリーメーカーというBYDだけに、ピュアEVとしての出来映えも最新モデルに相応しい水準だ。フロントに搭載する電気モーターは204PSと31・6㎏-mを発揮するが、動力性能は1・7t半ばの車重に対して不足のないレベル。アクセル操作に対する反応の自然な味付けとあって、特に日常域では快適なライド感が楽しめる。装備品が充実していることまで考慮に入れれば、440万円という価格はかなりコスパ高だ。

 

[Point 1]モチーフはフィットネスジム&音楽

フィットネスジム&音楽がモチーフだというインテリアは外観以上に個性的。インパネ中央のタブレット風ディスプレイはスイッチひとつで縦横どちらでも使用できる。

 

[Point 2]ミドル級SUVとして余裕の容量を確保

荷室容量は、後席を使用する通常時でも440Lを確保。ミドル級SUVとしての使い勝手は、内燃機関のモデルと比較しても遜色がない。

 

[Point 3]スポーティな風情も演出する作り

前後席の絶対的な広さは、サイズ相応で実用上の不満を感じることはない。前席はスポーティな形状を採用しているが、たっぷりとしたサイズで座り心地も良好だ。

 

[Point 4]日常域での扱いやすさが好印象

日本仕様は前輪を駆動する2WDのモノグレードとシンプル。運転支援システムは最新レベルで、価格は440万円とコスパの高さも光る。走りは日常域の扱いやすさが魅力。

 

[Point 5]動力性能は必要にして十分

BYD独自のリン酸鉄リチウムイオン電池と組み合わせる電気モーターはフロントに搭載。自然なアクセルレスポンスが印象的だ。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

構成・文/小野泰治 撮影/神村 聖

「新型エクストレイル」は駆動方式が全車e-POWERに統一! ピュアEVに負けない滑らかな乗り心地

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」は日産の新型エクストレイルをピックアップ。e-POWERを名乗るハイブリッドで、最新の電気駆動モデルらしさを存分に堪能できる。

 

※こちらは「GetNavi」 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです

 

電気駆動モデルらしさはピュアEVに匹敵!

【SUV】

日産
エクストレイル

SPEC【G e-4ORCE】●全長×全幅×全高:4660×1840×1720㎜●車両重量:1880㎏●総排気量:1497㏄●パワーユニット:直列3気筒DO HC+ターボ+電気モーター×2●最高出力:144[204/136]PS/4400〜5000rpm●最大トルク:25.5[33.7/19.9]㎏-m/2400〜4000rpm●WLTCモード燃費:18.4㎞/L

●[ ]内はモーターの数値

エンジンには日産独自のハイテク技術も投入!

新型エクストレイルは駆動方式が全車e-POWERに統一。リアにも電気モーターを搭載する4WD版では、駆動力だけでなく快適性や操縦性向上にも貢献する「e-4ORCE」を採用する。また、発電機の役割を担うガソリンエンジンが凝った作りになっているのも特徴だ。日産独自のVCターボは、圧縮比を8〜14・0まで可変させることで高い燃費と高出力化を両立させている。もちろん、最新SUVとしての機能も着実に進化。室内空間はサイズ相応の広さを確保しつつ、荷室はクラストップの容量を実現した。4WD仕様では、3列シートも選択できる。

 

走りは電動駆動モデルらしさが満喫できる出来映え。今回は4WDに試乗したが、日常域の力強さと滑らかな加速、そしてフラットな乗り心地が印象的だった。また、エンジンの存在を意識させない点も最新のe-POWERらしい。その意味では、充電に不安を抱きつつも電動駆動モデルに興味がある人にも狙い目と言えそうだ。

 

[Point 1]クラストップの容量を実現

荷室容量は、5人乗り仕様でクラストップの575Lを実現。先代より全幅が拡大されたことで、横方向の空間にも余裕がある。

 

[Point 2]充実の装備に加えて高級感も大幅アップ

ナッパレザーのシートが選択できるなど、室内はSUVとしての高級感も先代より向上。最新モデルらしく、プロパイロットを筆頭とする安全支援装備も充実している。

 

[Point 3]独自のVCターボを搭載

1.5Lの3気筒ガソリンエンジンには、圧縮比を可変させる独自のVCターボを採用。高出力化と低燃費を高次元で両立する。

 

[Point 4]走りはまさに電気駆動モデル

日常域での力強さや滑らかな加速は、電気駆動モデルならでは。乗り心地も重厚感すら漂わせるフラットな出来映えとあって、快適性はピュアEVにも引けを取らない。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

構成・文/小野泰治 撮影/宮越孝政

圧倒的人気で即受注停止となった「新型シビック タイプR」見た目は知的でエレガント。その乗り心地は?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は、発売されるやいなや圧倒的な人気ですぐに受注停止となってしまった新型シビック タイプRを取り上げる!

※こちらは「GetNavi」 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】ホンダ/シビック タイプR

SPEC●全長×全幅×全高:4595×1890×1405㎜●車両重量:1430㎏●パワーユニット:1995㏄直列4気筒ガソリンターボエンジン●最高出力:330PS(243kW)/6500rpm●最大トルク:42.8㎏-m(420Nm)/2600〜4000rpm●WLTCモード燃費:12.5㎞/L

499万7300円

 

永福ランプが探る小さなパーツの大きな浪漫

安ド「殿! 今回はシビック タイプRです! 早くも何年ぶんかが売り切れて、受注停止らしいです」

 

永福「同じく売り切れのフェアレディZは、月に100台程度しか販売しないのでまだわかるが、こっちは月400台だ。なのに、あっという間に4年ぶんが売り切れてしまった」

 

安ド「やっぱり、ハイパワーなガソリン車が、そろそろ消えるからなんですかね?」

 

永福「人間、もう買えないと思うと、余計に欲しくなるのだな」

 

安ド「個人的には、MTのみの設定という点にグッと来ます。僕はMT車しか買ったことない男ですから!」

 

永福「MTのみのモデルが、2万台も売れただけで奇跡だな」

 

安ド「でも、新型シビック タイプRは、先代に比べると見た目は地味ですよね?」

 

永福「地味というより知的でエレガントと言うべきだろう。先代は後ろから見ると『ランボルギーニか?』と思うほどハデだったが、新型は羊の皮を被った狼だ。タイプRの伝統になりつつあるリアスポイラーも、真後ろから見ると薄い板1枚に見えるので、あまり目立たないしな」

 

安ド「このリアスポイラー、よく見ると複雑な形状でカッコ良いんですよね!」

 

永福「思えばリアスポイラー付きのクルマは貴重な存在になった」

 

安ド「羽根の付いたクルマに憧れた世代としては、これだけで泣きそうです!」

 

永福「リトラクタブルヘッドライトは20年前に消えたが、リアスポイラーもこれが最後かもしれないな」

 

安ド「ところで、走りはどうですか? やっぱりスゴいですか」

 

永福「もちろんスゴい。しかしあまりにも完成度が高く、公道ではスゴさがわかりにくいのが残念だ」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「シビック タイプRはFF最速のスポーツモデル。300馬力を超えるパワーを前輪だけで路面に伝えるから、先代、先々代は、アクセルを全開にするだけで多少クルマが暴れた。そのじゃじゃ馬感が好きだったが、新型はそういうじゃじゃ馬感がほとんど消えている」

 

安ド「僕には、速くて楽しいとしか感じませんでしたが……」

 

永福「ディープなマニアは、速いだけでは満足できないのだ!」

 

安ド「なぜじゃじゃ馬感がなくなってしまったんでしょう?」

 

永福「サーキットでの速さを突き詰めてシャーシ性能を上げていくと、自然とそうなるのだ」

 

安ド「自然とそうなるんですか!」

 

永福「しかしまぁ、ほとんどの人は、このクルマの本物感に触れるだけで満足するだろう」

 

安ド「ですよね! 僕は満足しました! MTですけど4ドアなので実用性もありますし、ファミリーカーとして使えます!」

 

永福「乗り心地も悪くないしな」

 

安ド「次の愛車にしたいです!」

 

永福「言うだけならタダだからな」

 

【GOD PARTS 1】シフトノブ

握りやすい形状で操作感も上々な伝統のアルミ製

トランスミッションは6速MTのみで、潔ささえ感じさせます。そしてこのアルミ製のシフトノブはタイプRの伝統にもなっていて、握りやすく、操作感も上々。ただし寒い冬の朝に乗る際はかなり冷たくなっているのでご注意を。

 

【GOD PARTS 2】ステアリング

バックスキン仕様で滑りにくく操作しやすい

最近のクルマらしく操作スイッチが配置されていますが、全体のデザインはシンプルです。握る部分は滑りにくいバックスキン素材になっています。かつてサーキットを走る人たちからは、このような素材が好まれたものです。

 

【GOD PARTS 3】+Rモード

ビンビンに過激な走りが味わえる

走りを楽しむためのドライブモードは、「COMFORT」「SPORT」などが選べますが、その前方にあるスイッチを押せば、「+Rモード」になります。これは電子制御をオフにして運転操作の応答性を過敏にしたモードで、剥き出しの走りが味わえます。

 

【GOD PARTS 4】ディスプレイ

走行情報を記録して表示、腕を磨くことにも貢献!

スポーツモデルではありますが、現代のモデルらしく、データロガーシステム「Honda LogR」が装着されています。各種走行情報を表示するほか、走行データを自動で保存、解析してスコア化。ドライバーのパフォーマンスアップを助けてくれます。

 

【GOD PARTS 5】バケットシート

伝統の赤いシートが身体をしっかりホールド

赤いバケットシートもタイプRの伝統的アイテムです。ただし、かつてのようなRECARO社製ではなく、「Honda TYPE Rシート」となっています。身体をホールドして姿勢をキープできるので、キツいコーナーでも運転しやすいです。

 

【GOD PARTS 6】エンジン

ターボの利点を加えて進化を遂げた心臓部

かつて「タイプR」のエンジンと言えば高回転型のNA(自然吸気式)でしたが、近年のシビックタイプRはターボで武装されました。しかしこのエンジンはターボらしい強烈な加速に加えて、NAのようなスムーズな回転まで味わえます。

 

【GOD PARTS 7】タイヤ&ホイール

オリジナル設計による高い強度とハイグリップ

横から見るとわかりますが、タイヤがめちゃくちゃ薄いです。これは走行性能を高めたミシュラン社による特別なハイグリップタイヤで、ホイールもリバースリム構造という、歪み低減、内側の接地圧安定を狙った専用設計になっています。

 

【GOD PARTS 8】エアコン吹出口

フェンスのような雰囲気で内装のアクセントに

普通のエアコンのフィンの手前にフェンスのような網目状のカバーが施され、風向きを変えるためのレバーが突き出ています。シンプルなインテリアにあって、このエアコンの吹出口だけはデザインが凝っていて雰囲気があります。

 

【GOD PARTS 9】ディフューザー

車体下の空気を整えて走りを安定させる黒い溝

ボディの後方下部はブラックアウトされていて、フィンがつけられています。これがいわゆる「ディフューザー」というもので、ボディ下部を通る空気を利用して走行安定性を高めます。3本出しマフラーも迫力満点です。

 

【これぞ感動の細部だ!】リアスポイラー

空力を操るレーシングマシン風エアロパーツ

リアスポイラーは当然ながら専用設計で、微妙にグネグネした不思議な形をしています。ホンダはF1に参戦していたメーカーということもあって、空気力学に沿ったこのような難解な形状を生み出すことができたわけですが、超高速域でのダウンフォース獲得の一助となるに違いありません。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

撮影/我妻慶一

LUUPやnottecoなど、盛り上がりを見せる乗り物系シェアサービスを一挙に紹介!

今回は乗り物系のシェアサービスを紹介。注目のポイントなども合わせて解説します。

【私がガイドします】本誌乗り物担当 上岡 篤

ホームセンターへの買い出しなどにカーシェアをよく利用する。最近は電動キックボードのスムーズな走り&ラクさに目覚めた。

 

※こちらは「GetNavi」 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

道交法改正で利用しやすくなる電動キックボードを筆頭に
移動手段は“個”から“共同”へ

乗り物は比較的古くから「共同で利用する」文化が根付いているカテゴリ。最近は電動キックボードなどの“新しく生まれた乗り物”のシェアリングが盛況だ。「電動キックボードは紆余曲折ありましたが、7月1日予定の改正道路交通法の施行により、電動小型モビリティの車両区分が変わります。16歳以上であれば運転免許は不要となり、ヘルメットの着用も自転車と同様に努力義務となります。これを機に一層の普及が見込まれます」(上岡)

 

また、従来はひとりや家族、あるいは友人同士で利用していた乗り物を、他人同士で利用する“相乗り”のシェアリングも増えている。

 

「割安になるという点は魅力ですが、他人と乗るわけですから、安心できることが必要になります。そのためドライバーや同乗者の評価を見てから決められるシステムがあるかが重要です」(上岡)

 

電動キックボードシェア
LUUP

電動キックボード/小型電動アシスト自転車を手軽に利用することができるサービス。2023年現在、東京、横浜、京都、大阪などの展開エリアに乗降のためのポートを設置。エリアの拡大を含め、乗りやすく返却しやすい環境が広がっている。

↑スマホでサッと予約して行きたい場所へ気楽に移動!

 

サービス開始年月
2020年5月

会員数
非公表

サービス展開エリア
東京23区・横浜市・宇都宮市・京都市・大阪市
(2023年1月現在)

利用料金
ライド基本料金50円、時間料金1分あたり15円

 

「ポートが増えているので、通勤や通学、買い物はもちろん、散歩代わりのちょい乗りにも、これからさらに活用の場が広がることが予想されます」(上岡)

 

スタート地点のポート(専用駐車場)を確認し、使う車体のQRコードをスキャンし返却のポートを予約。そこに空きポートがあれば即ライドが可能になる。現在電動キックボードの利用に際して必要なのは、運転免許証(原付はNG)の事前登録と基本的な交通ルールのテストに合格すること。

 

「乗り方がよくわからない、不安という人向けにはガイドブックが用意されていたり、主要なポートでは乗り方ガイダンスが行われていたりと、安全性への取り組みも拡大のポイントです」(上岡)

 

使われている電動キックボードは継続的に改善され安全性が高められている。快適ライドはそんな安心安全への配慮があってこそだ。

↑ポートに返却する際は緑の枠線内に機体をきれいに並べ、その状態の写真をLUUPに送信。次に使う人のワクワク感や街の美観を損ねないシステムだ

 

↑ライドを開始するには、使用する機体のQRコードを読み込んで、目的地周辺のポートを検索。空いているポートを確認して返却予約をする

 

【おトク情報】

1〜2駅間の移動にピッタリ! 初回は30分無料のクーポンも

歩くにはやや遠い、タクシー利用だと高いという鉄道1〜2駅間の移動にピッタリ。運転免許証登録後、12問の交通ルールに正解すると初回30分無料のクーポンがもらえる。

 

ライドシェア
notteco

“安く移動したい人”と“ガソリン代などの実費を節約したいドライバー”とをつなぐ、現代のヒッチハイク的相乗りマッチングサービス。2007年「のってこ!」のサービス開始以来、相互扶助の精神を大切に、国内最大のライドシェアサービスへと成長している。

↑行き先や目的が同じなら相乗りしておトクに行ける

 

サービス開始年月
2007年6月

会員数
約6万3000人
(2023年1月現在)

サービス展開エリア
全国

利用料金
無料
(サービス利用時)

 

旅の道連れが見つけられるのがライドシェア。同郷だったり、趣味が同じなら、ドライブの車中も楽しいものになる。あくまで実費の精算のみで、運賃を徴収するなどの営利目的はご法度。だがドライブがおカネには代えられない、思い出の旅になる可能性もある。同乗者も運転できるのなら場合によっては運転を交替してもらったり、長距離でも無理せずドライブできるメリットもある。

 

「乗せたい人も乗りたい人も、お互いのスケジュール、要望を事前に十分に確認し合うことで、より楽しくリーズナブルに移動ができます。厳格な運営ルールはもちろんなのですが、利用する人のモラルやマナーによって支えられているサービスです」(上岡)

↑ドライバーは、まずドライブプランを決める。出発地、予定、募集人数、相乗り料金など必須情報を入力して登録

 

↑同乗希望なら、まず目的地に行くドライブを検索。相談や不明点はメッセージ機能を通じてクリアにするのが必須

 

【おトク情報】 

長距離を移動するなら大人数でコスト低減

燃料費や高速料金など、どうしてもかさんでしまう実費は複数で割り勘するのが吉。帰省やライブ、イベント、ボランティア遠征など、仲間を募れば費用対効果はより高くなる。

 

シェアサイクル
HELLOCYCLING

複数のシェアサイクリングサービスをひとつのアカウントでシームレスに利用することができるサービス。2023年時点で全国20都道府県、約200市区町村でサービスを展開し、国内最大級のシェアサイクルネットワークを構築している。

↑街乗りにも遠乗りにも便利でマイ自転車感覚で利用できる

 

サービス開始年月
2016年11月

会員数
約189万人
(2023年1月現在)

サービス展開エリア
約200市区町村
(2023年1月現在)

利用料金
利用開始30分130円、延長15分あたり100円、12時間あたり1800円
(地域によって異なる)

 

マップから乗りたい場所のステーションを探してサクッと予約し、提携ステーションであれば、どこでも返却することができる。約200以上の市区町村にステーションが設置されているので、旅行先でも自転車でラクに観光することが可能だ。

 

「これまで地域にはそれぞれ独自のシェアサイクルがあって、利用には個別に登録が必要でした。同サービスならカバーエリアも広いですし、何より都市部での利便性が高いのは大きな魅力ですね」(上岡)

 

現在、湘南エリアではシェアサイクルとして初めてとなるスポーツタイプe-Bike“KUROAD”の実証実験が実施されるなど、次世代のシェアサイクルへの取り組みも積極的に行われている。

↑シェアサイクルの性質上、シティサイクルと呼ばれるタイプがメイン。誰にでも乗りやすく、利用しやすい

 

↑都市部はもちろん、公園や観光スポットなどにもステーションが増加中。ますます手軽に利用できるようになった

 

【おトク情報】 

ギフトマークのついたステーションに注目!

「HELLO CYCLING」のステーションなら、全国どこでも貸出と返却が可能。アプリ上でギフトマークがついているステーションに返却すると、130円ぶんの乗車クーポンがもらえる。

 

個人間バイクシェア
AirRide

オーナーが登録したバイクから、ユーザーが乗りたいバイクを選ぶ個人間バイクシェアサービス。原付から大型バイクまで実用的な使い方はもちろん、憧れのバイクに乗れたりバイク好きの新たな交流のきっかけになったりといった楽しみも。

↑垂涎のマシンや実用モデルなど幅広くバイクと出会える場

 

サービス開始年月
2019年2月

会員数
約5000人
(2023年2月現在)

サービス展開エリア
全国

利用料金
24時間あたり約5000円
(平均)

↑オーナーは自分のバイクの情報を随時アップデートしていくことが可能。もちろん保険(補償)もしっかりしているので登録も安心だ

 

【おトク情報】 

試し乗りやちょっとしたビジネスでの利用にもピッタリ

50ccのスクーターを借りて、近場のバイク便やデリバリーサービスなど仕事用の足として使う方法もある。バイクを所有できるようになるまでの“つなぎ”としてもオススメだ。

 

タクシー相乗り
AINORY

2022年11月にスタートした、タクシー相乗りサービス制度をスマートに利用できる“相乗りマッチング”システム。相乗り候補とはプロフィールを確認し合ったり、チャットを通じて相談や打ち合わせができる。相乗り募集は1か月先まで対応。

↑タクシー相乗り解禁! 公共交通機関感覚で使える

 

サービス開始年月
2013年9月

会員数
約3万3000人
(2023年1月現在)

サービス展開エリア
東京を中心に全国

利用料金
無料

↑相乗り候補を承認したら集合の場所と時間を決める。チャットを使って話し合いながら、さらに相乗りメンバーを増やすこともできる

 

【おトク情報】 

混雑している場所ならばマッチングのチャンス大

アプリ内にサーチ機能を搭載。ライブやイベント会場への行き帰り、乗り場に行列ができる駅などで募集を掛ければマッチング率がアップする。自宅近辺で降車すれば位置を特定される心配も少ない。

 

電動折りたたみバイクシェア
Shaero

原付免許所持なら手軽に乗れる、折りたたみ式電動バイクのシェアリングサービス。バイクはアクセス製Cute-mLを採用し、コンパクト&キュートな車体ながら、パワー感、安定感のある走りが楽しめる。東京を中心にエリア拡大中。

↑クルマや自転車ではちょっとムリ。そんな場所もコレなら行ける

 

サービス開始年月
2021年9月

会員数
非公表

サービス展開エリア
東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、沖縄県(宮古島)
(2023年1月現在)

利用料金
15分あたり200円、24時間2000円
(乗り換え可能&乗り放題)

↑軽量設計で展開も折りたたみもラク。折りたたんだ状態なら新聞1面の半分程度しか場所を取らないので、駐輪場所の心配も不要だ

 

【おトク情報】

好きなときいつでも使える30日プランが便利!

長期で使用する場合は30日プラン(2万円)を検討したい。乗り放題や乗り換えはもちろん、30日プラン利用者には充電器プレゼントキャンペーンも用意されており、バイクを自宅に保管して自由に乗れる。

 

新たな価値観の構築へ! マツダの意欲作「CX-60」は随所にプレミアム感が満載

「NEW VEHICLE REPORT」はプレミアムブランドへの飛躍を模索するマツダの意欲作「CX-60」をピックアップ。「CX-60」のチャレンジングな新機軸に注目だ。

※こちらは「GetNavi」 2023年3.5月号に掲載された記事を再編集したものです

 

新たな価値観の構築を目指すマツダの意欲作は新機軸が満載!

【SUV】

マツダ

CX-60

SPEC【XD ハイブリッド・エクスクルーシブ・スポーツ】●全長×全幅×全高:4740×1890×1685mm●車両重量:1910kg●総排気量:3283cc●パワーユニット:直列6気筒DOHCディーゼル+ターボ+電気モーター●最高出力:254[16.3]PS/3750rpm●最大トルク:56.1[15.6]kg-m/1500〜2400rpm●WLTCモード燃費:21.1km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

新時代のマツダを予感させる意欲的な作りが好印象!

これまで“走る歓び”を追求してきたマツダが、“プレミアム”という領域に本格的に踏み込むため、直6エンジンとそれを縦置きしたFRベースのプラットフォームを新開発。その第1弾となるCX-60は、運転するほど元気になり、ユーザーの行動範囲を広げ、家族や仲間との新しい愉しさを提供する“ドライビングエンターテインメントSUV”という位置づけだという。

 

その優雅なスタイリングは、マツダ独自の“魂動デザイン”が進化したもの。大別して4つのグレードが用意され、インテリアでは西陣織に着想を得たという“プレミアムモダン”の斬新な表現や、“エクゼクティブスポーツ”の鮮烈なタンカラーの内装が目を引く。

 

パワートレインは直6ディーゼルおよびMHEVと、直4ガソリンおよびPHEVの計4種類のエンジンに新開発のトルコンレス8速ATを組み合わせている。まず、ディーゼルは3.3Lという大きめの排気量による余裕の動力性能を確保しつつ、燃費を大幅に向上させることに成功。ディーゼルらしい力強い走りと、直列6気筒らしく調律された迫力あるサウンドを味わうことができる。

 

MHEVは小さなモーターが発進直後に上手くアシストしてくれて軽やかな出足を実現している。PHEVは、大きなモーターと十分なバッテリー容量により最長で74kmの距離をEV走行できる点がポイントだ。

 

一方、足まわりはロードスターで培ったFR駆動のノウハウを生かしつつ、独自の着眼点で数多くの新たな試みにチャレンジ。現状では煮詰めきれていない部分も見受けられるが、マツダが目指すものには大いに期待できる。

 

また車内のカメラで運転者を認識し、記憶した設定を自動的に復元する「ドライバー・パーソナライゼーション・システム」を搭載。異常を検知すると停止までを自動制御する「ドライバー異常時対応システム」など、マツダ独自の取り組みによる運転支援装備をいち早く設定している点も注目に値する。

 

そんなCX-60は、さらなる高みを目指すマツダの渾身の意欲作であることは間違いない。

 

[Point 1]新開発のFR骨格は優美な外観作りにも貢献

縦置きのエンジン回りと後輪駆動という構成を基本とする、FRプラットフォームを新規開発。その効果は、ホイールベースの長さが印象的な優美さを感じさせる、CX-60のエクステリアデザインでも実感できる。

 

[Point 2]上質感の演出にも抜かりないインパネ回り

デジタル系の装備を網羅しつつ、デザイン自体は従来のマツダ車らしいスポーティなテイストを踏襲しているインパネ回り。トリムのステッチ類など、プレミアムなモデルに相応しい上質感も演出している。

 

[Point 3]走りへのこだわりを象徴するシート回り

質感の高さが印象的なシート。前席には最適な着座位置を設定できる「自動ドライビングポジションガイド」も装備される。後席もボディサイズ相応の広さが確保されている。

 

[Point 4]ミドル級SUVに相応しい使い勝手も実現

外観のイメージこそスタイリッシュだが、荷室回りの絶対的な広さはミドルサイズのSUVらしい水準を確保している。広い開口部をはじめ、使い勝手への配慮も行き届いている。

 

[Point 5]パワートレインは4タイプと多彩

パワートレインは2.5Lガソリンがベース。加えてディーゼルとそのマイルドハイブリッド版(MHEV、写真)など、合計で4種を揃える。

 

[Point 6]プレミアム級SUVらしく足元も重武装に

プレミアム級の風情を演出するSUV、ということで足元もスポーティな選択が可能。試乗車のホイールは大型の20インチを装着していた。

 

[Point 7]ディーゼルのMHEVは速さと高燃費を両立

3.3L直列6気筒ディーゼルターボに電気モーターを組み合わせるMHEV版は、大排気量ディーゼルターボらしい力強さと低燃費を両立。足回りはスポーティな味付けだ。

 

[ラインナップ]

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

文/岡本幸一郎 撮影/市 健治、篠原晃一

トヨタのマルチプレイヤー「シエンタ」が愛される理由とは?

「NEW VEHICLE REPORT」はコンパクトミニバンの人気モデル、トヨタ「シエンタ」の新型をピックアップ。日本の環境にマッチした万能性に注目だ。

 

※こちらは「GetNavi」 2023年3.5月号に掲載された記事を再編集したものです

 

ミニバンの機能を凝縮したマルチプレイヤーぶりが魅力!

【ミニバン】

トヨタ

シエンタ

SPEC【ハイブリッドZ (7人乗り 2WD)】●全長×全幅×全高:4260×1695×1695mm●車両重量:1370kg●総排気量:1490cc●パワーユニット:直列3気筒DOHC+電気モーター●最高出力:91[80]PS/5500rpm●最大トルク:12.2[14.4]kg-m/3800〜4800rpm●WLTCモード燃費:28.2km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

ハイブリッドとガソリンとで走りの味付けを差別化

最大で7人が乗れる3列シートのミニバンでは、もっともコンパクトなシエンタが生まれ変わった。従来とはガラリと変わり、四角くて丸い造形となったのはご覧の通り。各部の黒い部分は見た目のアクセントとなっているだけでなく、ぶつけやすい部分のキズを目立たなくする効果もある。

 

コンパクトならではの取り回しの良さはシエンタの強み。このサイズが良いというユーザーの声に応え、車体形状はスクエアになりながらも全長と全幅に変更はなく、全高だけ20mm高くなった。

 

これによりスライドドア開口部の天地高が増して乗り降りしやすくなったほか、室内高も拡大して頭まわりの余裕が増していることが、特に2列目に乗るとよくわかる。ソファのような生地のシートの座り心地も申し分ない。

 

ボディ後部の車内空間が極めて合理的な作りとなっているのは従来通り。3列目シートは小さくて簡素なものだが、成人男性もそれほど苦もなく座れ、いざというときには助かる。もちろん不要なときは2列目床下に格納でき、荷室を広く確保することもできる。

 

その走りは、新世代プラットフォームであるTNGAを導入したことも効いて、見た目からイメージするほど重心の高そうな感覚はない。正確でしっかりとした手応えのあるステアリングフィールを実現し、走りの質も高まった。

 

ハイブリッドは出足のレスポンスが良く、力強くて乗りやすい。3気筒ながら各部に施された対策により音や振動が小さく抑えられているので、走行中も車内でストレスなく会話できる。また、ライド感はしっとりとしていて、特に新たに後輪をモーター駆動するE-Fourとなった4WDの上質感は、非降雪地に住むユーザーにも積極的に勧めたいほどだ。

 

一方のガソリン車は軽快なドライブフィールに加え、エンジンの吹け上がりをより楽しめるような味付け。キャラクターはかなり異なるが、どちらも燃費が非常に良い点は共通している。

 

トヨタの最新モデルらしくインフォテインメントや先進運転支援装備も充実。このクラスでこれ以上マルチなクルマはない。

 

[Point 1]ボディは5ナンバーサイズをキープ

「シカクマル」がデザインテーマという新型のボディは、全高こそ拡大されたが日本の5ナンバーサイズをキープ。随所に先代の面影を残しつつ、ミニバンらしい合理性を感じさせる仕立てになった。

 

[Point 2]親しみやすさと実用性がハイレベルで調和した作りに

デザイン性の高さも感じさせるドアポケットなど、随所に設けられた収納スペースは実用性の追求だけにとどまらない作り。背の高いミニバンということで、後席へ送風する天井サーキュレーターを装備できる点も日本のミニバンらしい。

 

[Point 3]細部に至る使い勝手の良さはニッポンのミニバンならでは

絶対的な広さに加え、2列目シート(スライド機構付き)の使い勝手に配慮した1列目シートバックの仕立てなど、細部に至る配慮は日本生まれのミニバンらしい。サイズを考えれば3列目も納得の広さだ。

 

[Point 4]ユーティリティの高さは外観のイメージ通り

ウッドデッキ風のフロアボードを用意する荷室は、もちろん絶対的な広さも十分。7人乗りの3列目シートは、2列目下にコンパクトに格納可能だ。5人乗りと同等の使い勝手を実現している。

 

[Point 5]2本立てとなるパワートレイン

パワートレインは1.5Lハイブリッド(写真)と1.5Lガソリンの2本立て。先に登場したヤリス クロスなどと同じ構成だ。

 

[Point 6]最新世代のTNGA採用で基本性能を底上げ

最新のTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)採用で、クルマとしての性能も全方位的に底上げ。その走りは、先代より質感が向上していることも実感できる。

 

[ラインナップ]

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

文/岡本幸一郎 撮影/市 健治、篠原晃一

首都東京のメガ物量拠点「東京貨物ターミナル駅」を解剖する【後編】

〜〜開業50周年を迎えた東京貨物ターミナル駅(東京都)〜〜

 

東京都品川区八潮に設けられた東京貨物ターミナル駅は、首都東京を代表する貨物駅として今年で開業50周年を迎えた。

 

前回は主に同駅の歴史やその機能、貨物列車の動きなどを紹介したが、今回は駅構内で行われる貨物列車や荷役機械の動き、そして最もよく使われている12ftコンテナの最新機能などに迫っていきたい。

*取材協力:日本貨物鉄道株式会社、株式会社丸和通運。2023(令和5)年3月22日の現地取材を元にまとめました。

 

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【関連記事】
首都東京のメガ物量拠点「東京貨物ターミナル駅」を解剖する【前編】

 

【巨大貨物駅を解剖⑥】隅田川駅発72列車の動きを追う

前回の紹介で、尻手短絡線で目撃した隅田川駅発の〝シャトル便〟はその後、南武支線、東海道貨物線の羽田トンネルをくぐって、東京貨物ターミナル駅(以下「東京(タ)」と略)へ向かう。列車を引いているのはEF66形式直流電気機関車だ。

 

このEF66形式は、かつて寝台特急ブルートレイン列車を牽引した〝国鉄形機関車〟だ。残念ながら基本番代のEF66形式27号機は昨年に引退となったが、今活躍する100番代は形やスタイルこそ多少違えども、そのDNAを引き継いでいる。ちなみに、同100番代は車両数が減少し、ここ数年での引退が予想されている。JR貨物では環境にやさしく、省エネルギーに役立つ新型車両を徐々に導入し、古くなりつつある電気機関車の置換えを進めているのだ。

↑東京(タ)の構内図。左側(北側)に着発線があり、右側(南側)がコンテナホームという構成になる

 

東京(タ)の場内を走る上り本線の構内踏切が鳴り始め、重厚な面持ちがあるEF66形式が牽引する72列車が勢いよく上り本線を入ってきた。同列車は一度、北側にある着発線へ入っていく。

↑隅田川駅発72列車が上り本線を入ってきた。取材した日は休日明けということもありコンテナの積み荷は少なめだった

 

入線した列車の撮影が終了してちょっと一息……と思ったら、72列車はすぐに折り返し、コンテナホームに入ってくることに気がつき、慌てて移動した。

 

【巨大貨物駅を解剖⑦】わずか7分で荷役線に進入してきた!

東京(タ)に入線してくる列車には2タイプがある。1つは着発線に到着したら、機関車を変更せず、そのまま後進してコンテナホームへ入ってくるもの。もう1つは、着発線で構内入換え用のHD300形式ハイブリッド機関車に引き継がれ、同機関車の後押しでコンテナホームに入ってくるものだ。

 

72列車の場合は前者で、休む間もなくコンテナホームへ後進して入ってくる。上り本線を通過したのが13時4分だったのだが、13時10分過ぎに構内踏切が鳴り出して列車の接近を知らせる。そして列車はコンテナ貨車を先頭にコンテナ8番線へ静かに滑り込んできた。先ほど我々の目の前を通り過ぎて、わずか7分後にコンテナホームに入線したのだった。

 

↑東京(タ)の構内踏切を通り過ぎる72列車。勢い良く後進してきた

 

このコンテナホームの構造を改めて見てみると、旅客用とは異なりホームといってもコンクリートの床面は低床だ。広々した平面ホームでフォークリフトなどの荷役機械や大型トラックが動きやすい造りとなっている。少し視線を上げてみると架線が構内踏切付近までしかないことに気がついた。

↑EF66形式がバックで列車を押してホームへ入線する。この構内踏切の場所までしか架線が設けられていない

 

架線のあるところまでは電気機関車が走れるわけで、その先は機関車が進入することがないため、コンテナホーム上に架線は設けられていないのだ。

 

荷役を行うフォークリフトは貨車の上でコンテナを持ち上げて運ぶことが必要になるため、架線があっては危険という理由もある。よって貨物駅の荷役ホームには架線がないところが多い。

 

ただし例外もあって、着発線で荷役が行えるように「E&S方式」を導入している貨物駅がある。「E&S方式」とは「着発線荷役」とも呼ばれ、このような駅の場合は、高さ制限を備えたフォークリフトを導入するなど工夫されている。

↑架線が設けられていないコンテナホームへの発着はHD300形式が北側に連結され、到着した貨物列車の後進運転を行う

 

【巨大貨物駅を解剖⑧】フォークリフトが素早く動き始める

取材班が密着した72列車はコンテナホームへ入ると、ホーム上に待機していた作業員が、積んでいたコンテナを固定する緊締装置(きんていそうち)の固定レバーを解錠して回る。片面でなく両面でこの解錠作業は行われる。

 

作業員が貨物列車の両側を、指さししつつ何かを確認している様子を貨物駅の外から見たことがないだろうか。これは先ほど見た解錠作業とは逆で、出発前にコンテナの緊締装置のレバーがコンテナをロックする位置になっているかを確認しているところだ。このコンテナを固定する緊締装置の確認作業が非常に重要になる。

 

長いホームいっぱいに停まった貨車20両に積まれたコンテナの緊締装置の解錠が終わると、フォークリフトが貨車に近寄り、該当するコンテナを持ち上げ移動させ、ホームの所定位置にコンテナを積み、近づいてきたトラックに載せていく。

↑72列車が到着して間もなく、フォークリフトを使ってのコンテナの積み下ろし作業が始められた

 

12ftのコンテナであれば、下にフォークリフトのフォーク部分を差す箇所が開いていて、そこへずれることなくフォークを差し込み、持ち上げて移動させていく。実に手際のよい作業だと感心させられる。

 

ちなみに、コンテナ貨車のすみには上部に突起が出ていて、積む場合には突起にコンテナ下部にある穴を合わせて降ろしていく。

 

そう簡単な作業とは思えないが、作業員に聞いてみると、フォークリフトの運転席は高い位置にあり四方はよく見えるが、前方はフォークを持ち上げる柱があり、コンテナをフォークで持ち上げてしまうと前が見えなくなって、視界はよくないらしい。積み下ろし作業には熟練の技が生かされているわけだ。

↑東京(タ)のコンテナホームでは大型トラックが多く走り、コンテナを受け取り、所定場所まで運ぶ作業も同時に行われている

さらに、該当するコンテナを素早く間違いなく貨車から降ろし、また出発に向けてコンテナを貨車に積み込んでいく。そのスピーディな動きには何か秘密があるのではと思った。

 

【巨大貨物駅を解剖⑨】JR貨物の12ftコンテナの秘密に迫る

かつてコンテナには荷票という行き先を記した紙が差し込まれていて、目の前を通る列車のコンテナがどこへ行くものか推測ができた。最近は荷票がないようだが、どのようにコンテナを動かしているのだろう。

 

この日、撮影できたのはJR貨物の最新型20G形式12ftコンテナ。従来の19G形式よりも高さを100mmほど高くして、〝かさ高品〟にも対応できるようにしている。

↑JR貨物の最新コンテナ20G形式を見る。開け閉めするレバーほか、RFIDタグと呼ばれるICタグがドアの左下隅に取り付けられる

 

20G形式は「側妻二方開き有蓋(ゆうがい)」と呼ぶ構造のコンテナで、正面と横の開け閉めが可能な形になっている。開ける時にはまず中央のロックピンを外し、開閉テコと呼ばれるレバーを上げる。

 

右の開閉テコの右下に荷票入れがあるが、撮影時にはコンテナ内は空で、どこかへ運ぶものでもないので荷票も差し込まれていないと推測したのだが、スタッフに聞いてみると、荷票は現在、ほぼ使われないそうで、代わりにRFIDタグと呼ばれるパーツが使われていた。このIDタグ(無線ICタグ)が優れものだった。

↑20G形式は鋼製の箱の中に木製の板が貼られた、5トン積み側妻二方開き有蓋タイプだ。室内には「偏積注意」の注意書きが貼られる

 

調べてみると2005(平成17)年8月に導入された「IT FRENTS & TRACEシステム」と呼ばれるシステムに組み込まれたもので、GPSとIDタグにより貨物駅構内で、コンテナがどこに置かれているか、その位置が数10センチ単位で把握できるそうだ。IDタグは貨車にも付けられている。

 

このシステムにより、コンテナの位置の把握だけでなく、積み下ろしてどこに置くか、どこへ運べばよいか、フォークリフトなどの荷役機械に搭載した装置が指示を出す。作業員はこの指示に合わせたコンテナを動かし、所定の貨車やトラックへの積み込みを行う。

 

【巨大貨物駅を解剖⑩】遠隔で監視を行う12tクールコンテナ

今回の東京(タ)の取材では、12ftコンテナとともに最新12ftクールコンテナを撮影する機会を得た。こちらも優れた機能を持っている。

↑桃太郎マークが付いた12ftクールコンテナ。右側にエンジン付き冷凍機が取り付けられている

 

株式会社丸和通運の12ftクールコンテナで、UF16Aという形式名が付く。コンテナはJR貨物のコンテナと、私企業が用意した私有コンテナに分けられるが、このコンテナは私有コンテナにあたる。

 

JR貨物の12ftコンテナと大きさはほぼ同じだが、端にエンジン付き冷凍機が装着されている。温度設定は+20度〜−25度の範囲、0.5度刻みで設定が可能だ。このコンテナで生鮮産品、冷蔵冷凍品などを温度管理しつつ輸送できるというわけである。

 

丸和通運では152台を所有、全コンテナに通信機能が搭載されていて、温度設定、庫内温度の確認、変更ができる。コンテナの場所はもちろん、エンジン燃料の残量まで分かるそうだ。もちろんJR貨物のIDタグも装着されている。

 

鉄道輸送用のコンテナは、ここまでハイテク化されていたわけだ。

↑12ftクールコンテナの内部。左上に冷風口が付けられている。細かい温度設定(左円内)も可能で、しかも遠隔操作できる

 

【巨大貨物駅を解剖⑪】31ftコンテナの積み込み作業は?

コンテナ貨車には12ftコンテナを5個積むことができる。12ftコンテナより大きなコンテナを積んでいる姿を見ることもあるが、こちらは31ftが多い。ちなみに、31ftコンテナはコンテナ貨車に2個積むことができる。今回の東京(タ)の取材では最後に31ftコンテナの積み下ろし作業を見ることができた。

 

撮影したのはJR貨物の31ftコンテナ49A形式で、ウィング片妻開き有蓋という機能を持つ。このコンテナの移動にはフォークリフトよりも一回り大きな、トップリフターが使われている。

↑トップリフターがJR貨物の31ftコンテナを貨車の所定位置への積み込みを行う

 

トップリフターの上部リフトが31ftコンテナ上部の四つ角にある窪みに、ツメを絡ませて持ち上げて運んでいく。コンテナ貨車の所定位置に積み込み、わずかな時間で作業が完了となる。見守っていると、あっという間なのだが、これも熟練の技なのであろう。

 

もちろん31ftコンテナにもコンテナ貨車にもIDタグが付けられ、間違いなく貨車の所定位置に積まれていく。そして、作業員が貨車に付いた緊締装置のレバーを操作し、固定されていることを指さし確認して作業は終了したのだった。

↑JR貨物の31ftコンテナはウィングコンテナと呼ばれる機能を持ち、積んだ荷物を積み下ろししやすい構造となっている

 

↑コンテナ貨車のコキ107形式の上部を見ると、このようなツメが設けられている。その横には緊締装置に解錠レバー、IDタグが付く

 

改めて東京(タ)を取材撮影してみて、現在の貨物列車の動き、またコンテナの移動作業などに触れらたことで、スムーズに行われる作業の裏でコンピュータ管理された物流の今を知ることができた。

 

その一方で、荷役機械によるコンテナの移動では熟練の技が生かされ、コンテナが輸送中にトラブルに遭わないように、緊締装置の解錠レバーを指さし確認する姿を目にした。ハイテク化しつつも、大切なのは人が磨いた技や、常日ごろから怠りなく行う確認作業なのかもしれない。そう感じた東京貨物ターミナル駅の取材撮影だった。

トヨタ「クラウン」が新時代に突入! 大改革を果たしつつ従来の機能の美点は継承した国際派へ

今回の「NEW VEHICLE REPORT」は「クラウン」の新機軸について特集。「クラウン」はトヨタのブランドのひとつだが、長い歴史に裏打ちされた伝統がある。その一方で歴史あるブランドを守り続けるからこそ、それ相応の変化も必要となる。トヨタ「クラウン」の新機軸に触れてみた。

 

※こちらは「GetNavi」 2023年02・03合併特大号に掲載された記事を再編集したものです

 

大変革の16代目は国際派へと転身か

【SUV】

トヨタ

クラウン・クロスオーバー

SPEC【RS アドバンスト】●全長×全幅×全高:4930×1840×1540mm●車両重量:1920kg●総排気量:2393cc●パワーユニット:直列4気筒DOHC+ターボ+電気モーター×2●最高出力:272(82.9/80.2)PS/6000rpm●最大トルク:46.9(29.8/17.2)kg-m/2000〜3000rpm●WLTCモード燃費:15.7km/L

 

大変革しながらも従来の機能の美点は継承

トヨタでは最長寿の乗用車ブランドにして、保守派高級セダンの筆頭格でもあったクラウンに大変革の大ナタが振るわれた。2022年7月の発表時には4種ものボディ形態が揃えられることも明らかになったが、その先陣を切って発売されたのが今回の「クロスオーバー」。外観はネーミング通りにセダンとSUVを融合させた個性的な佇まいが印象的で、先代から受け継いだ要素は感じられない。しかし、高級セダンとしての後席の空間作りや独立した荷室、そして後輪操舵の採用で実現した取り回しの良さといった機能上の持ち味はしっかり継承されている。

 

エンジンは、ガソリンの2.5L自然吸気と同2.4Lターボの2種で、いずれも前後にモーターを搭載。駆動システムはグレードを問わずハイブリッドの4WDとなる。また、後者では6速AT採用している点も目新しい。

 

その走りは、確かにクラウンが新時代に突入したことを実感させるものだ。たとえば、従来モデルは(一部例外はあったが)良くも悪くも路面から切り離されたようなライド感が特徴だったが、新型のそれは欧州車の風味付けに変化。一方、静粛性の高さは相変わらずで2.4Lターボでは高級車らしい操舵感やダイレクトなアクセルレスポンスも楽しめる。その意味で新型クラウンは、全般的に作りが国際派になったことが最大の変化と言えるかもしれない。

 

[Point 1]機能的でカジュアルな風情も演出

ハイブリッドらしく、インパネ回りの設計は多機能ディスプレイが主体。運転支援関連の装備も、当然ながら最先端レベルだ。内装のカラーについても豊富な選択肢を用意する。

 

[Point 2]外観は個性的でボディカラーの選択肢も豊富!

近年欧州車で流行のクーペ風SUVにも通じるテイストの外観は実に個性的。ボディカラーも大胆な塗り分けの2トーンが6色、モノトーンが6色の合計12色と豊富な選択肢を用意する。

 

[Point 3]セダンの機能を継承して荷室はキャビンから独立

荷室はキャビンから独立。容量は450Lで、後席中央のアームレスト部分にトランクスルー機能を備える。長尺物の積載も可能だ。

 

[Point 4]パワートレインは全車ハイブリッド4WD

エンジンはガソリンの2.5L(写真)と2.4Lターボの2種。いずれも前後に電気モーターを組み合わせたハイブリッド4WDとなる。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/ミッション/駆動方式/税込価格)

RS:2.4L+ターボ電気モーター×2/6速AT/4WD/605万円

RSアドバンスト:2.4L+ターボ電気モーター×2/6速AT/4WD/640万円

G:2.5L+ 電気モーター×2/電気式無段変速/4WD/475万円

Gレザーパッケージ:2.5L+ 電気モーター×2/電気式無段変速/4WD/540万円

Gアドバンスト:2.5L+ 電気モーター×2/電気式無段変速/4WD/510万円

Gアドバンスト・レザーパッケージ:2.5L+ 電気モーター×2/電気式無段変速/4WD/570万円

X:2.5L+ 電気モーター×2/電気式無段変速/4WD/435万円

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

文/小野泰治 撮影/市 健治、郡 大二郎

SUVの要素を網羅する万能さ!「ジープ」の魅力を4つのPOINTで分析

今回の「NEW VEHICLE REPORT」は「ジープ」の新機軸について特集。「ジープ」はブランドそのものの長い歴史に裏打ちされた伝統があり、その一方で歴史あるブランドだからこそ守り続けるためには相応の変化も必要となる。まずはジープの新機軸に触れてみた。

 

※こちらは「GetNavi」 2023年02・03合併特大号に掲載された記事を再編集したものです

 

SUVの要素を網羅する万能さが魅力!

【SUV】

ジープ

コマンダー

SPEC【リミテッド】●全長×全幅×全高:4770×1860×1730mm●車両重量:1870kg●総排気量:1956cc●パワーユニット:直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最高出力:170PS/3750rpm●最大トルク:35.7kg-m/1750〜2500rpm●WLTCモード燃費:13.9km/L

 

3列シート+ディーゼルの魅力的な組み合わせを実現

新型コマンダーは、日本向けのジープでは初のディーゼル仕様となるミドル級SUV。そのボディは、現行ジープではコンパスとグランドチェロキーの中間という適度なサイズながら、3列シートの7人乗りを実現していることが魅力的だ。もちろん、SUVだけに3列目の広さこそミニバン級とはいかないが、大人の着座にも耐える実用性は確保。使い方次第では、ミニバンの代替としても選択肢になり得るはずだ。

 

搭載する2Lディーゼルターボの動力性能は、必要十分というところ。現状ではいくぶん音や振動が気になるものの、高効率な9速ATを組み合わせるだけに巡航時には気にならない。また、ジープらしく走破性を高める装備も充実しているので万能さはライバルと比較しても屈指のレベルだ。日本でも2000年代に導入されていた初代はある種マニア向けだったが、新型コマンダーは新たなジープユーザーを開拓する可能性に満ちた1台と言えそうだ。

 

[Point 1]ジープのモデルらしく走破性を高める装備も充実

4WDであることはもちろん、悪路での走破性を高める機能に抜かりがない点もジープらしい室内。運転支援系の装備も充実している。室内は3列目シートでも実用的な広さ。

 

[Point 2]日本仕様はモノグレード

日本仕様のグレードは「リミテッド」のみとシンプルで、車両価格は597万円。ボディカラーは写真のブラックのほかに3色を用意するが、ルーフはどの色でもブラック仕立てになる。

 

[Point 3]多彩なアレンジが可能

ラゲッジ容量は3列目シートをたたんだ状態で481L。3列目使用時でも170Lが確保されるなど、使い勝手はSUVらしく秀逸だ。

 

[Point 4]燃費性能はまさに期待通り

2Lディーゼルターボは、今回の試乗でも市街地から高速に至るまで終始2ケタ台の燃費をキープ。経済性は期待通りの出来栄えだ。

 

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文/小野泰治 撮影/市 健治、郡 大二郎

「ここまで人気を呼ぶとは……」大ヒットの予感、三菱「デリカミニ」発売前チェック

2023年1月の東京オートサロン2023で実車が初公開され、大きな注目を浴びたのが三菱の新型軽自動車「デリカミニ」です。正式発売は5月25日を予定していますが、3月上旬にはなんと7000台もの事前受注を獲得。三菱の広報担当者も「ここまで人気を呼ぶとは思っていなかった」というほど、予想以上の反響を集めているのです。

 

それほど人気を集めた新型デリカミニとはどんなモデルなのでしょうか。4月6日に明らかになった価格を含め、その詳細レポートをお届けしたいと思います。

 

■今回紹介するクルマ

三菱/デリカミニ

価格:180万4000円〜223万8500円(税込)

↑「デリカ」の世界観を軽自動車で再現した『デリカミニ』(手前)。写真はオプションの「アクティブトーンスタイル」仕様

 

オフロード4WDミニバン「デリカ」の世界観を軽自動車で実現

デリカミニを一言で言い表せば、高い人気を獲得している三菱のミニバン「デリカ」の世界観を軽自動車で展開するものとなります。

 

そもそもデリカは1960年代後半に商用車としてデビューしたのが始まりです。その後、1979年に登場した2代目「デリカ・スターワゴン」で本格的オフロード4WDシステムを搭載したミニバンとして定着。その伝統は現行の「デリカD:5」にまで引き継がれ、いまではオフロード4WDミニバンとして不動の地位を獲得しています。その“デリカ”で培ったイメージを軽自動車に再現したのが、新たに登場したデリカミニというわけです。

↑デリカミニ・G Premiumの標準仕様。ボディカラーは全12色あります。写真はアッシュグリーンメタリック×ブラックマイカ

 

東京オートサロンで初めてデリカミニの姿を見たとき、完成度の高さに思わず惹きつけられた記憶があります。デザインの表現にも限界がありそうな軽自動車というサイズながら、デリカの世界観が見事に再現されていたからです。

 

その特徴のひとつが最近の三菱車の共通アイコンである、ダイナミックシールドと呼ばれるフロントフェイスを採用していることです。半円形のLEDポジションランプ付きヘッドランプを組み合わせることで、フロント周りはデリカD:5との共通性を見事にキャッチアップ。加えて、フロントバンパーとリアガーニッシュには立体的な「DELICA」ロゴを浮かび上がらせたほか、光沢のあるブラックホイールアーチ、前後バンパー下にプロテクト感のあるスキッドプレートを組み合わせます。これらによってデリカならではの力強いミニバンを表現することに成功したのです。

↑デリカならではのSUVらしい力強さと高い質感を表現したというフロント(アクティブトーンスタイル装着車)

 

↑ドアの開口部を広げたことで乗降性や荷物の出し入れは極めてしやすくなっています(アクティブトーンスタイル装着車)

 

4WD車は専用ショックアブソーバーで足回りをチューニング

ただ、これだけだと「従来のekクロススペースとはデザインが違うだけ?」と思われてしまいそうですが、そこはしっかりとデリカミニとして新たな進化を遂げていました。

 

足回りは上位グレードに装備した165/60R15サイズの大径タイヤに加え、4WDにはデリカミニ専用チューニングを施したショックアブソーバーを装備。開発者によれば、これが路面をしっかりと捉えながら車内へ振動を伝えにくくするのに効果を発揮し、砂利道などの未舗装路での走行で高い安定性と快適性をもたらしているということです。

↑4WD車には165/60R15を組み合わせます。三菱の軽自動車ではもっとも大きい径です

 

また、室内装備としてステアリングヒーターも上位グレードに新装備されました。寒冷地でのスタートはとかく触れるものすべてが冷たいもの。そんなとき、ドライバーの手をこの機能が優しく温めてくれるのです。デリカミニらしい使われ方を想定してしっかりとここをサポートしています。

↑新たに「G Premium」「T Premium」に標準装備されたステアリングヒーター。軽自動車での装備例は数少ないです

 

一方、安全装備は基本的にekクロススペースから踏襲されました。滑りやすい路面での発進をサポートするグリップコントロールや、急な下り坂などを安心して走行できるヒルディセントコントロールを標準装備。さらに高速道路での同一車線運転支援機能として、“マイパイロット”をはじめ車線維持支援機能を搭載するなど、ロングドライブでの疲労軽減に対してもしっかりアシストしてくれるというわけです。

↑高速道路での同一車線運転支援機能として、センサーにはミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせています。中央の四角い部分にミリ波レーダーを収納(アクティブトーンスタイル装着車)

 

また、サポカーSワイドに対応する運転支援機能“三菱 e-Assist”の搭載や、メーカーオプションで光軸自動調整機構付アダプティブLEDヘッドライトも用意されていることも見逃せません。

 

グレードは「T」と「G」の2タイプ。2WD/4WDも選べる

インテリアも、アウトドアでも使いやすく機能的かつ快適な造りにしています。ダッシュボードはブラックを基調としながらも、中央にアイボリーのアクセントを加えることでワイド感を強調。シートはアウトドアでの使用や、小さな子どもがいる家庭での利用を想定して通気性を考慮したシート生地を採用し、座面や背もたれの中央部に立体的なエンボス加工を施すことで疲れにくさと座り心地の良さを両立させています。

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

グレード体系は大きくインタークーラー付きターボエンジンの「T」と、自然吸気エンジンの「G」の2つで、それぞれに装備を充実した上級グレードの「T Premium」、「G Premium」を用意し、全グレードで2WDか4WDを選ぶことが可能となっています。

 

4月6日に明らかになった価格は以下の通りです。

【T Premium】3気筒ターボ付ハイブリッド/CVT

2WD/207万4600円  4WD/223万8500円

【T】3気筒ターボ付ハイブリッド/CVT

2WD/188万1000円  4WD/209万2200円

【G Premium】3気筒ハイブリッド/CVT

2WD/198万5500円  4WD/214万9400円

【G】3気筒ハイブリッド/CVT

2WD/180万4000円    4WD/201万5200円

 

↑ デリカミニ・G Premiumには、DOHC 12バルブ 3気筒インタークーラー付ターボチャージャー(ハイブリッド)を搭載(アクティブトーンスタイル装着車)

 

デリカらしさを際立たせるオプションパッケージも充実

デリカの一員として、デリカミニではアウトドアでの使用やカスタムでの楽しみ方もディーラーオプションパッケージとして提案しています。それが「アクティブトーンスタイル」と「ワイルドアドベンチャースタイル」です。

 

アクティブトーンスタイルは、都会での走行に似合うスタイリッシュさを強調するデザインとなっています。フロントマスクのダイナミックシールドとフロントバンパー&テールゲートガーニッシュをグロスブラックとし、フロントバンパーとテールゲートの“DELICA”エンブレムをホワイトレターに変更した「エクステリアパッケージA」はセット価格が7万5570円。“DOHC 12 VALVE”“INTERCOOLER TURBO”のサイドデカールは左右4点セットで3万3440円。ブラックのマッドフラップ(4万9940円)はデリカならではの世界観にマッチさせる格好とアイテムと言えます。※価格はいずれも取付工賃別

 

ワイルドアドベンチャースタイルは、冒険心をくすぐるカスタマイズアイテムです。フロントマスクのダイナミックシールドとフロントバンパー&テールゲートガーニッシュがシルバーとなり、フロントバンパーとテールゲートの“DELICA”エンブレムをブラックとする「エクステリアパッケージB」はセット価格が7万5570円。フロントアンダー、サイド/リアのアンダースキッドプレート風「デカールシール」を3点セットにした「デカールパッケージ」が6万75400円。さらに「タフネスパッケージ」では、三菱ファンにはたまらないレッドマッドフラップ、アルミホイールデカールなど4点をセット(7万1940円)にしました。※価格はいずれも取付工賃別

↑ディーラーオプションとして用意された「ワイルドアドベンチャースタイル」。フロントマスクやフロントガーニッシュ、テールゲートガーニッシュがシルバー塗装になります

 

↑「ワイルドアドベンチャースタイル」には、三菱ファンにはたまらないレッドマッドフラップも用意されます

 

↑「ワイルドアドベンチャースタイル」には、アウトドア好きにうれしいベースキャリアもラインアップ

 

SPEC【G /G Premium(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm[3395×1475×1830mm]●車両重量:970kg /990kg[1030kg /1050kg]●総排気量:659cc●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:52PS/6400rpm●エンジン最大トルク:60N・m/3600rpm●モーター最高出力:2.7PS/1200rpm●モーター最大トルク:40N・m/100rpm●WLTCモード燃費:20.9km/L[19.0km/L]

※[]内は4WDの数値

 

SPEC【T /T Premium(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm[3395×1475×1830mm]●車両重量:980kg /1000kg[1040kg /1060kg]●総排気量:659cc●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:64PS/5600rpm●エンジン最大トルク:100N・m/2400〜4000rpm●モーター最高出力:2.7PS/1200rpm●モーター最大トルク:40N・m/100rpm●WLTCモード燃費:19.2km/L[17.5km/L]

※[]内は4WDの数値

 

 

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写真/松川 忍

東武鉄道フラッグシップ特急「スペーシアX」がお披露目! 独自の車体・豪華な車内を詳細レポート

〜〜南栗橋車両管区でN100系「スペーシア X」を公開(埼玉県)〜〜

 

今年の7月15日に運転を開始する東武新特急「SPACIA X(スペーシア エックス)」。100系スペーシア以来、約33年ぶりに東武のフラッグシップ特急として登場する。2023年度までに6両×4編成が導入される予定だ。

 

先日、東武鉄道の南栗橋車両管区でN100系スペーシア Xが報道陣にお披露目された。新しい特急電車らしく魅力はふんだんにあり、さらにとっておきの秘密を見つけることができた。

*取材協力:東武鉄道株式会社

 

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乗ってみてわかった東武鉄道「リバティ」のすごさ!新型特急の快適さに鉄道マニアも脱帽

 

【新型特急の秘密①】1号&6号車の窓はXのデザイン!

まずは新特急の外観をじっくり見ることにしよう。

 

車体カラーは日光東照宮陽明門に塗られた「胡粉(ごふん)」に着想を得たとされる青みのかかった「白」。訪れた日は晴天に恵まれ、大空の下、空の色が反射しているのか、薄い水色に見えた。雲が多少かかると、薄い紫色といったイメージに。高級感あふれる美しい車体だった。

 

外観では窓枠の造りがおもしろい。1号車と6号車は六角形のガラス窓が並び、窓周りのデザインはXに見える。

↑浅草側の先頭車・6号車。正面にかけて流れるような曲線と運転席周りの造作が良くマッチしている

 

この窓枠は東武スカイツリーラインや東武日光線沿線の鹿沼組子、江戸の竹編み細工を連想させるもの、と東武鉄道では解説している。これまでにないおしゃれなデザインだ。この模様は車内にも多く組み込まれている。

↑1・6号車の側面窓は六角形。加えられたX模様がユニークだ。運転席の横と後ろの窓は〝不等辺な〟三角形、五角形なのが目を引く

 

↑スペーシア X のロゴが5〜6号車の間に入る。5号車から先の窓部分を見ると、パンダの黒白模様にも見えてしまった

 

2号車から5号車は四角い小さめの窓で、これには実は理由があった(詳細後述)。

 

正面のライトのデザインもユニークだ。運転席のガラス窓の下に装着されたLEDライトは39のドットで構成されている。ロービームの場合は光が台形の形をしているが、ハイビームにすると「T」字型になる。これは東武の「T」をイメージしたもの。ライト一つにしてもお洒落心が加えられているわけだ。

↑LEDライト39個で構成された正面ライト。左がハイビーム状態で「T」の字に見える。右はロービームの状態で台形の形だ

 

↑真正面からヘッドライトとテールライトを写す。左のハイビーム状態は意外に明るい。右はテールライト点灯時のもの

 

車外表示器はスペーシア X の列車番号、行き先等が表示されていた。実はこちらはLCDディスプレイ(東武鉄道ではLCD搭載ガラスサイネージと表現)が使われる。一般的な電車にはLED表示器がよく使われているが、どこが違うのだろう。

 

LCDとは液晶ディスプレイのこと。つまりこの車外表示器は私たちが日常的に使っているものに近い。文字がくっきり見やすいだけでなく多彩な映像演出もできる。このLCDディスプレイがスペーシア X 車内の意外なところで使われていた。

↑側面の車外表示器にはLCDディスプレイが使われている。映像なども流すことが可能だ

 

【新型特急の秘密②】1号車の運転席後ろの席は超激戦となる!?

ここからは車内の紹介をしていこう。まずは1号車「コックピットラウンジ」から。東武日光側の運転席の後ろに設けられた指定席で、1人、2人、4人用に各種ソファとテーブルが用意される。

↑2人用ソファと4人用ソファが通路をはさんで設けられる。運転席の後ろには1人用のソファを左右に備えている

 

1号車の「コックピットラウンジ」は、日光の老舗リゾートホテル「日光金谷ホテル」や大使館の別荘などがモチーフにされたそうだ。

 

デッキ側にはカフェカウンターもある。カウンター内にはコーヒーの豆を挽くコーヒーミルに、ドリップ式のコーヒーメーカーを設置。さらにビールサーバーが設けられている。こちらでは挽きたて入れたてのクラフトコーヒー「日光珈琲」に、クリーミーな泡が楽しめるクラフトビール(日光地元産に加えて全国各地の厳選クラフトビールを用意)を味わいつつ、運転室の背後からの展望や、移り行く景色を楽しむことができるわけだ。

 

同列車では特急券+座席を指定しての着席となる(料金は後述)。ちなみに1号車運転席のすぐ後ろ左右には1人用のソファが2つある。東武日光側の先頭車とあって、この2席は高倍率の人気席となりそうだ。

 

ちなみに4月現在、カフェカウンターの細かなサービス内容は決まっていない。1号車以外への車内サービスもお願いしたいところだ。

↑什器備品が調えられたカフェカウンター。コーヒーミルも設置されていた。またビールサーバーも備えている(右下)

 

【新型特急の秘密③】デッキ&通路といえども侮れない!

1号車から移動しようとデッキに出て驚いた。天井部分に42インチLCDガラスサイネージ「天窓表示器」(LCDディスプレイ)が付けられている。車体側面に付いたディスプレイよりもかなり大きい。そこには青空、雲の流れ、樹林、星空の映像が流されている。列車のデッキにもかかわらず、まるでオープンカーから空を眺めるような映像が楽しめるわけだ。

↑東武沿線の林間を走るような映像がディスプレイに映される。まるで木漏れ日を受けて走るような感覚だ

 

加えてデッキにはアロマディフューザーが設置され、心地よさが感じられる。デッキの車内案内の上に細かい穴が設けられていたが、ここから香りが放たれていたのだ。

 

【新型特急の秘密④】シンプル&快適に旅が楽しめる2号車

2号車はグリーン席にあたる「プレミアムシート」となる。1列と2列並びのシートがダークグレーのじゅうたんの上に配置されていた。

 

シートピッチは1200mmと広く、横幅もゆったりしている。さらに、バックシェル構造の座席を採用したこともあり、後ろに座る人へ配慮せずとも、席をリクライニングさせることができる。

↑通路をはさみ1席と2席が並ぶプレミアムシート。足を置くスペース、シートピッチもたっぷりしたサイズが確保される

 

↑プレミアムシートのシートを目一杯に倒してみた様子。バックシェル構造のため、後ろの席を気にせず利用できる。右下はボタン類

 

↑ひじ掛け内にインアームテーブルが内装され、開くとこの形に。ほかボトルスペースとコンセント(右下)、読書灯が付く(右上)

 

【新型特急の秘密⑤】スタンダードシートで粋なデザインを発見!

3号車から5号車は普通車にあたる「スタンダードシート」が設けられる。中央の通路の左右に2席ずつ連なる形だ。淡いグレーの座席で座り心地はなかなか上質だった。

↑2席が横並びに並ぶスタンダードシート。3・4号車と5号車の半室がスタンダードシートとなる

 

シートを倒してみると意外に倒すことができる。例えば、4人グループが利用する時に対面する位置に向きを変え、シートを倒しても後ろの席にぶつかることのないスペースが確保されている。東武鉄道の特急「500系Revaty(リバティ)」と比較してシートピッチは100mmも広がっているそうだ。さらに秘密が隠されていた。

↑スタンダードシートには2つの折畳みテーブルがある。前のイスの背面と、さらにひじ掛け部分には折畳み小テーブル(左下)を内装

 

車外から見ると、スタンダードシートの車両の窓が意外に小さめに見えたのだが、実は、これが座席にぴったり合わせたサイズになっていた。広い窓は景色がよくみえる長所があるものの、シェードやカーテンを閉めるとき、前後に座る人への配慮が必要になる。個々に合わせたサイズならば気遣いをせずにすむわけだ。

 

スタンダードシートにはまだ秘密が隠されていた。それはテーブルだ。前の座席の背面に折り畳まれた大きめのテーブルが1個設けらていれる。さらにひじ掛け部分に小テーブルが収納されているおり、使い分けができるわけだ。小テーブルのデザインは六角形で、スペーシア X の多くの箇所で見られる鹿沼組子の紋様が使われていた。

 

取材当日、3号車では技術スタッフが乗車して、座面を取り除き座席のベース部分を見せて解説をしていた。座面を外したベース部分はメッシュ状の造り。ベースに金属ではなくこうしたメッシュ状の素材を使うことにより、座り心地を改善しているそうだ。

↑座席の向きを変えてシートを倒しても、後ろに触れないスペースを確保。座席のベース部分にはメッシュ状の素材が使われる(左下)

 

↑ボトルケースは折り畳んだ上下の支え部分が一緒に出る仕組み。ボトルケースの上にはコンセントが設けられている

 

【新型特急の秘密⑥】テレワークにもぴったりなボックスシート

次の5号車の連結器側には「ボックスシート」がある。東武鉄道では「向かい合う2シートにより構成した半個室仕様」と解説している。このシートへ入ってしまうと、個室のように他人の目を気にせずに済む。1人、もしくは2人連れにぴったりの席と言っていいだろう。

 

ちなみに、コンセントが装着されているので、東武鉄道では「車窓を眺めながらのテレワークにも対応します」としている。朝晩、通勤・通学で利用する人も多いことを意識してのPRなのかもしれない。

↑ボックスシート部分に合わせたサイズの窓も設けられている。テーブルもあり、テレワークにも使えそうだ

 

↑5号車に設けられた車いすスペース。「新移動等円滑化基準」に準拠したスペースを備える

 

【新型特急の秘密⑦】デッキや通路とはいえお役立ち感が満載!

最終6号車へ移る前に、通路・デッキ部分を見ておこう。5号車の通路部分にはバリアフリートイレ、洗面設備などに加えて東武鉄道初の多目的室が備えられた。多目的室は体調が悪くなった利用者、授乳する人などが自由に使えるスペースとなっている。

 

また来日訪問客の乗車に備え、大型荷物置場が設けられた(車内5か所用意)。こちらは交通系ICカードを利用して盗難防止用のワイヤロックができる仕組みだ。

↑5号車の通路部分に設けられた洗面設備、隣に多目的室(右上)、バリアフリートイレ(右下)が並ぶ

 

↑大型荷物置場用のバゲッジポート。交通系ICカードを利用すれば盗難防止用のワイヤロックを使っての施錠が可能になる

 

【新型特急の秘密⑧】6号車に東武特急定番の〝特上〟個室を用意

浅草駅側の6号車には個室とスイートルームがある。個室の「コンパートメント」は全4室。コの字型にソファーを配置し、大人4人がくつろげる。

 

さらに運転室側は「コックピットスイート」。7名までの利用が可能で大小ソファと、テーブルが用意され、グループや家族向けのスペースとなる。運転室とはガラスで仕切られていて、室内から前面および後方の景色を楽しむことができる贅沢な部屋だ。

↑通路の横に個室「コンパートメント」が4室並ぶ。一番奥がコックピットスイートとなる

 

↑こちらはコンパートメント。4名用にソファとテーブルを備えている

 

↑運転室のすぐ後ろにある「コックピットスイート」。最大7名用で面積は11平方メートルと私鉄では最大級の個室の広さだ

 

最後に料金を確認しておこう。

 

◇特急料金1名(料金は浅草〜東武日光・鬼怒川温泉間の場合・乗車運賃を除く)
スタンダードシート:1940円
プレミアムシート:2520円

◇特別座席料金(スタンダードシート料金にプラス以下の料金が必要)
1号車【コックピットラウンジ】1人用:200円、2人用:400円、4人用:800円
5号車【ボックスシート】(2人定員)1室:400円
6号車【コンパートメント】(4人定員)1室:6040円
6号車【コックピットスイート】(7人定員)1室:1万2180円

 

7月15日からの運転開始ながら、早くも旅行代理店の商品としてスペーシア X のプレミアムシート、コンパートメント、コックピットスイートと旅館・ホテルの宿泊を組み合わせた旅行プランの販売が開始されている。

 

個室はなかなか高額だが、一方でコックピットラウンジは割安感がある。運転開始当初は指定券の購入が難しいプレミアムチケットになりそうだ。沿線をさっそうと駆けるスペーシア X の姿を楽しみにしたい。

↑スペーシア X の運転室。運転台左にL型ワンハンドル式主幹制御器がある。前面ガラスに2次曲線ガラスを採用し、十分な前方視界を確保

 

首都東京のメガ物量拠点「東京貨物ターミナル駅」を解剖する【前編】

〜〜開業50周年を迎えた東京貨物ターミナル駅(東京都)〜〜

 

今年2023(令和5)年は新橋と横浜の間を貨物列車が走り始めて150周年の記念の年にあたる。さらに首都東京の物流拠点「東京貨物ターミナル駅」が生まれてちょうど50年を迎えた。

 

東京貨物ターミナル駅と言われても、何をしているところなのかよく分からないという方が多いのではないだろうか。そこで同駅の取材撮影を試みた。貨物列車が日々どのように走り、また荷物が動いているのか、今週と来週の2回に分けて巨大貨物駅を解剖してみたい。

*取材協力:日本貨物鉄道株式会社。2023(令和5)年3月22日の現地取材を元にまとめました。参考資料:「写真でみる貨物鉄道百三十年」(日本貨物鉄道株式会社刊)など

 

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鉄道各社「事業計画」の新車導入&設備投資に注目する【JR編】

 

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【巨大貨物駅を解剖①】50年前に開業した東京貨物ターミナル

旅客列車の運行開始の翌年にあたる1873(明治6)年9月15日に、新橋〜横浜間を有蓋車7両、無蓋車8両の計15両の貨車を引き、1日2往復(不定期便も含む)の貨物列車が走り始めた。

 

その後、日本の貨物輸送は急速に発展。戦後の高度成長期には輸送量が急増し、既存の設備だけではさばききれなくなる。首都東京の貨物駅は鉄道創始のころから汐留駅(現在の汐留駅とは異なる)と、隅田川駅の2大拠点で行われてきたが、そのうち汐留駅および東海道本線が扱う輸送量は限界を迎えつつあった。

 

そこで1973(昭和48)年10月1日に生まれたのが東京貨物ターミナル駅だ。同駅を通る新線、東海道貨物線(「東海道貨物別線」「東海道貨物支線」とも呼ばれる)も設けられた。

↑1975(昭和50)年当時の東京貨物ターミナル駅全景 写真:株式会社ジェイアール貨物・不動産開発 「写真でみる貨物鉄道百三十年」から引用

 

掲載の写真は東京貨物ターミナル駅(以下一部「東京(タ)」と略)が開設されて2年後のころの航空写真だ。敷地内は平屋建ての建物が多く、また周辺部にも倉庫などがなかったことが分かる。

 

東京(タ)が開業後も、汐留駅の貨物駅としての機能は残されていたが1986(昭和61)年11月1日に廃止となった。その後も浜松町駅〜東京(タ)を結ぶ東海道貨物線の路線は残され、カートレイン九州などの運行に使われていたが、こうした列車も廃止され、東京(タ)より北の線路は「休止」という形で使われなくなった。

↑東京貨物ターミナル駅の北側を望む。同駅と浜松町駅間の東海道貨物線は現在、休止中という扱いになっている

 

実は東京(タ)を開業させるにあたり、当時の国鉄は同駅を最大限に生かすプランを持っていた。東京(タ)に千葉方面、京葉線から直接アクセスする路線計画を描いていたのである。京葉線は元々、貨物線として計画されたもので、京葉線から武蔵野線経由で常磐線方面、東北本線方面へのアクセルをスムーズにし、全方向から東京(タ)へスムーズにアクセスするルートが考えられていた。全国からの貨物列車を受け入れ、東京(タ)をそれこそ首都の物流拠点として使おうと考えたわけだ。ところが、浜松町駅からの路線は休止となり、京葉線からの路線も開業に至らなかった。

 

ちなみに、東京高速りんかい線の線路は東京(タ)の東隣まで到達していて検修庫が設けられている。さらに東京高速りんかい線の線路は京葉線と結びついている。これらの路線を結びつけようと思えば可能だったわけだが、JRが分割民営化してしまった以上、見果てぬ夢に終わってしまった。

 

【巨大貨物駅を解剖②】北・中央・南上空から貨物駅を眺める

東京貨物ターミナル駅は貨車個々の荷物の積み下ろしに対応した駅でなく、コンテナ輸送の専用駅として生まれた。その規模はとにかく大きい。南北に長く、その長さは3600m、東西も最長600m、総面積は75万平米にも及ぶ。よく大きさの比較に用いられる東京ドームだが、東京ドームが16個入る大きさとなる。まったく予測が付かない大きさだ。

 

東京(タ)を構内図と写真でその姿を見ていこう。まずは北側に機待線があり、連なるように貨物列車が発着する着発線がある。西隣には留置線があり、こちらにはすぐ動くことのない貨車や時間待ちする貨物列車などが留め置かれる。

↑東京貨物ターミナル駅の構内図。北から留置線、着発線、中央部に機留線、南側に荷役線、コンテナホームがある(本図は略図)

 

↑都道316号線、北部陸橋から望む東京貨物ターミナル。このあたりが北限で、ちょうどHD300牽引の貨車が入換え作業を行っていた

 

中央部には機留線があり、大井機関区という車両基地で検査・修繕され、出番を待つ電気機関車、入換え用のハイブリッド機関車HD300形式が留められる。このすぐ上には公道の大井中央陸橋が東西を結んでいて、東京モノレールの大井競馬場前駅から徒歩圏内ということもあり、同駅や、隣接するJR東海の大井車両基地を陸橋の上から眺めようと訪れる人の姿をよく見かける。

 

このエリアにはJR貨物の研修施設もあり、乗務員育成のための運転シミュレータ施設なども設けられている。つまり東京貨物ターミナルは貨物駅機能だけでなく、JR貨物にとって大事な諸施設が併設されているわけだ。

↑機留線にはJR貨物のEF210形式やEF65形式、入れ替え専用機のHD300形式が停められている。みな同エリアで出番を待っているわけだ

 

大井中央陸橋の南側には荷役スペースにあたるコンテナホームが広がっている。荷役線が多く設けられコンテナホームへ線路が続き、ホームは6番線から21番線(一部通し番号に抜けあり)がある。

 

このコンテナホームへはひっきりなしに発着列車があり、フォークリフトなどの荷役機械や大型トラックが動き回る様子が見てとれる。

 

↑東京貨物ターミナル駅の南側に設けられたコンテナホーム。膨大な数のコンテナが置かれている様子が見える

 

最近、コンテナホームがある南エリアで大きな変化があった。都道316号線に沿ったところに「東京レールゲート」という大きな建物が2棟建ったのである。この施設は何なのだろうか。

 

【巨大貨物駅を解剖③】新たに誕生したレールゲートとは?

2020(令和2)年3月にまず「東京レールゲートWEST」が誕生。さらに2022(令和4)年7月15日に「東京レールゲートEAST」が完成した。「東京レールゲートEAST」はWESTの約3倍の賃貸面積だというから、東京(タ)の規模とともに想像が付きにくい。

 

レールゲートとはJR貨物初の「マルチテナント型物流施設」で、フロアごとにテナント賃貸を行い、借りた側はここで集荷、配達、保管、荷役、梱包、流通加工などに使うことができる。大型トラックの出入りができることもあり、企業の物流拠点としてこの施設を使えるというわけだ。

 

東京(タ)は貨物列車の発着地点であるだけでなく、東京港、羽田空港にも近い。企業にとって利便性が高く利用価値が高いこともあり、早くも名の知られた企業が入居し、拠点として生かし始めている。

↑東京貨物ターミナル駅のメインゲート横に建つ東京レールゲートWEST。大型トラック出入り用のスロープが裏手にある

 

【巨大貨物駅を解剖④】西日本方面への貨物列車が圧倒的に多い

東京(タ)は国内の貨物駅として最大の発着トン数を誇る。その量は1日平均7127トンにも及ぶ(2021年度)。年間に直すと約260万トンとなる。成田国際空港が扱う国際線貨物便の貨物量が235.6万トン(2022年)とされているので、1つの貨物駅で成田国際空港の国際便の貨物量を凌いでいるわけだ。

 

ちなみに国内の貨物駅では2位が札幌貨物ターミナル駅で6464トン、同じ都内にある隅田川駅は8位となり3355トンとなる。

 

東京(タ)の貨物列車の発着は1日に80本ほど(定期便・臨時便を含む)。発着する貨物列車はどこからやってきて、どこへ発車していくのだろう。時刻表を元に発車する定期列車(臨時列車を除く)全33列車の行き先をチェックしてみた。東京(タ)を発車する貨物列車は次のとおりだ(2023年3月18日現在)。

↑東京貨物ターミナル駅の上り本線を入線する貨物列車。このあと着発線へ向かい、コンテナホームへ入線していく

 

首都圏 隅田川駅行4本、宇都宮貨物ターミナル駅行2本、相模貨物駅行など6本
東北地方 酒田駅行1本、泉(小名浜)駅行1本
東海中部地方 名古屋貨物ターミナル駅行1本
近畿地方 安治川口駅行2本、大阪貨物ターミナル駅行2本、百済貨物ターミナル駅行など2本
中国・四国地方 広島貨物ターミナル駅行2本、東福山駅行2本、新居浜駅行1本
九州地方 福岡貨物ターミナル駅行7本、鹿児島貨物ターミナル駅行1本

 

↑東京貨物ターミナル駅発の東福山駅行5061列車が川崎市内を走る。東福山駅行は1日に2本が発車している

 

この数字を見ると東京(タ)から発車する列車は福岡貨物ターミナル駅行の7本をトップに、近畿地方、そして中国地方、九州地方へ向かう列車が多いことが分かる。また同じ東京都内の隅田川駅が4本と多い。

 

一方で東日本、北海道への貨物列車が少ない。東北、日本海方面、北海道行の列車は隅田川駅を起点に発着する列車が多い。東京(タ)は西日本行、隅田川駅は東日本と棲み分けが行われているわけだ。こうした棲み分けをしている理由は東京(タ)を取り巻く路線網にある。

↑東京都荒川区にある隅田川駅。開業は1896(明治29)年のことで東北や北海道、日本海方面への列車が多い

 

【巨大貨物駅を解剖⑤】東海道貨物線を南にたどっていくと

東京(タ)がある東海道貨物線は現在、浜松町駅間との路線が閉ざされている。そのため東京(タ)を発着する列車は南側の路線から出入りせざるを得ない。東京(タ)からは、まず大田市場、羽田空港の西側地下を羽田トンネル(6472m)で抜けていく。

↑東京貨物ターミナル駅を発車した貨物列車は東京港野鳥公園、そして大田市場の下を通る羽田トンネルへ入線する

 

↑東京(タ)を取り巻く路線網。東京(タ)と北を結ぶ路線が無いことがわかる 地図提供:日本貨物鉄道株式会社

 

地図を見て分かるように、貨物列車が走ることができる路線は東京(タ)の北側にない。東京(タ)を発着する貨物列車は必ず、川崎貨物駅の横を通り、浜川崎駅から南武支線の八丁畷駅(はっちょうなわてえき)方面へ走らなければいけない。

 

西日本方面へは東海道貨物線から東海道本線へスムーズに走ることができるが、北へ向かおうとすると思いのほか厄介だ。

↑南武支線の川崎新町駅付近を走る東京(タ)発の貨物列車。ここから八丁畷駅を通過して東海道へ、また新鶴見信号場へ向かう

 

東京(タ)から北へ向かう列車は、南武支線の八丁畷駅から南武線の尻手駅(しってえき)へ向かい、通称尻手短絡線という単線ルートをたどり、品鶴線(ひんかくせん/現在は横須賀線などの列車が通る)の新鶴見信号場へ向かう。そこから東北本線、高崎線方面への列車は武蔵野線を通って、大宮操車場経由で走る。常磐線や隅田川駅、千葉方面へは武蔵野線をそのまま走る。

 

こうした手間が生じるため、東北方面や北関東、日本海方面への貨物列車は隅田川駅発着便が多くなっている。隅田川駅からは田端信号場を経て東北本線方面へ、スムーズに出入りできるからだ。

 

同じ都内の貨物駅とはいうものの東京(タ)と隅田川駅の間を結ぶ直線ルートがないため、武蔵野線経由で輸送が行われる。両駅間の輸送量は多く、両駅を結ぶ〝シャトル便〟が1日に4往復している。

 

次回は隅田川駅発、東京(タ)着の〝シャトル便〟の動きから、到着列車の動きを追うとともに、東京(タ)の場内の模様をレポートしたい。

↑品鶴線の新鶴見信号場と南武線の尻手駅を結ぶ尻手短絡線。ちょうど東京(タ)へ向かう隅田川駅発72列車が通過していった

 

38歳で免許取得。ハーレーの「音」に魅了された 高橋ジョージのバイクライフはいつでも自由!

『ロード』の大ヒットで知られるバンドTHE虎舞竜のボーカリスト・高橋ジョージさんはフルチューンのカスタムハーレーを駆る大のバイク好きだ。そのこだわりのカスタムポイントや、ミュージシャンならではの“フェチ”、自由を楽しむライフスタイルについて伺った。

 

(撮影・構成・丸山剛史/執筆:背戸馬)

●高橋ジョージ(たかはし・じょーじ)/1958年宮城県生まれ。THE虎舞竜のコンポーザーで、現在、TV番組のコメンテーターとしても活躍中

 

【高橋ジョージさんの1990年式ソフテイルの画像はコチラ】

 

楽器を取るか、バイクを取るか

――高橋さんが最初にバイクに乗られたのは何歳ごろですか?

 

高橋ジョージ(以下、高橋)「自分のバイクを持ったのは、今のハーレーが初めてなんですよ。オートバイの免許を取ったのは38歳なんです」

 

――意外です。高橋さんやTHE虎舞竜の雰囲気から察するに、以前からお乗りだったのかと。

 

高橋「バイクはずっと好きだったんですよ。俺が14歳の時に両親が離婚して、母親の実家に預けられたんですが、そこにいた従兄弟がカワサキのトレールボスに乗ってたんです。当時(1972年ごろ)はモーターサイクルの熱がすごくて、バイクがすごくポピュラーでした。田舎は宮城県栗原市ってところなんですけど、モトクロス場があって、全国大会もやってたんですよ」

 

――バイクが好きになりそうな環境だったんですね。

 

高橋「それに昔、田舎だとバイクっていうのは、耕運機とかトラクターとかその類だったんですよね。ま、ほとんどが原付きとか、ホンダのカブやCDといった荷物を運ぶようなバイクが多かったかな。とにかくバイクは身近にありました」

 

――以前は今よりももっとバイクは実用車として重宝されていましたもんね。

 

高橋「今で言えばもう幻のようなバイク、ホンダCB750Fourとか、カワサキ750RS(Z2)が出て、高校生になるとみんなそういうバイクを買って、交換して乗っては、スズキはこうだとか、カワサキはこうだとか品評をしてたすごくいい時代でした。いい意味ではそういうことだし、悪い意味で言ったら、もうそこは暴走族が盛んになってきた時代でもありましたけど」

 

――そのころ、高橋さんは免許を取られなかったのはどうして?

 

高橋「バイクって金がかかるじゃないですか。うちの親から『楽器を取るか、バイクを取るか』って言われたんです。両方は買えないわけですよ。ベースが欲しかったから、もう断腸の思いでバイクを諦めました」

 

――運命の選択があったんですね。

 

高橋「そうです。『ビートルズを追っかけるのか、イージーライダーになりたいのか』って時に、両方取りたいですけど、経済的に無理だと。当然バイク乗ってるやつは楽器やってなかったりしたから、バイクと楽器は両立できないなと思って諦めてたんですね」

 

グローブを買ったら火がついた

――38歳でバイクの免許を取ることになったきっかけは?

 

高橋「35歳で一応ヒット曲を出して、3年間ぐらいツアーで全国を回ってたんですね。38になって一息ついていた時に、バンドのベースから『ちょっと上野にバイクを見に行きませんか』と電話があって、まぁ行くだけならいいかと車で行ったんですよ。そしたら急に、ヘルメットとグローブを買っちゃったんです。なぜか、バイクもないのに。そのまま革ジャンを買って、ブーツも買って……と同じ日にバイク以外全部揃えてしまった。最後にバイク屋さんに電話してみたら『ハーレーのエボのいいやつが2台ある』と。行ってみたらちょっと悪そうなのがあったんで、じゃあ買いますと」

 

――1日で全部揃えてしまった。

 

高橋「そう。グローブ買った流れでバイクも買ってしまった。でも、そこまで勢いがついちゃったのは、ずっとバイクへの思いが圧縮されてたからですね、10代のころから。その圧縮されたものが一気に決壊したようなことかなと思います」

 

――バイクの免許は?

 

高橋「そこから取りに行くんですよ。すぐ教習所に中免(自動二輪免許中型限定)を取りに行って、10日くらいで取れるからあらかじめ鮫洲(運転免許試験場)に予約入れておいた。当時はまだ大型二輪はなく限定解除の一発試験でしたね」

 

――勢いがすごい!

 

高橋「バイクはずっと好きだから、自分はそこにギアを入れちゃうと絶対買っちゃうし、 買うとなれば100万以上するじゃないですか。その金額だといいギターが買えるんで、どっちを取るってなると…やっぱりね」

 

――バイクと楽器のせめぎ合いがずっとあったんですね。

 

高橋「そうです」

 

――ひとつ確認なのですが、日本テレビの深夜のオーディション番組に、ハーレーを持ち込んでステージを作って『ロード』を歌われた。その番組を録画したテープを大阪有線放送に持っていって売り込んだ結果、大ヒットへとつながるきっかけになった、と聞きました。

 

高橋「そうそう」

 

――ある意味、ハーレーが『ロード』がヒットしたきっかけにもなったわけですが、その時のハーレーというのは?

 

高橋「当時は乗ってないですから。後輩とか友達はいっぱい乗ってるんで、仲間のバイクですね」

 

――そうでしたか。でも、やはり高橋さんはハーレーなんですね。先ほどう伺ったように、CBやZという国産のバイクのいい時代も見てこられた中で、ご自分が乗るオートバイにはハーレーというこだわりがあると。

 

高橋「日本のバイクの良さはよくわかってました。トレールボスに乗っていた従兄弟がそのあとCB750K4に乗っていましたけど、すっごくいいバイクだった。Z2も大好きだし、あの時代のバイクはほとんど好きかな。その後から、国産車のフォルムがあまり好きじゃなくなってね。ちょっとレーシーになっちゃって、フルフェイスで乗るバイクって、自分とはちょっと違うなと感じてました」

 

ハーレーは「音」が好き

――高橋さんのハーレー好きの原点は映画『イージー・ライダー』ですか?

 

高橋「うーん、あの映画ってバイクが出てるけど、走ってるシーンは何分かだけなんですよね。ストーリーも淡々と時が過ぎるような感じ。ただ、バッキングの音楽がかっこいいから、バイクを見るために映画を観たのに、音楽のほうに行っちゃったんですよね」

 

――たしかに、『イージー・ライダー』はサウンドトラックも大きな魅力です。

 

高橋「そう、映画の中のステッペンウルフ、ジミ・ヘンドリックスとかのロックにやられましたね。オートバイはフォルムも大事なんだけど、やっぱり音なんですよね。さっき言った国産車とハーレーの違いは音ですよ。すっごいかっこいいフォルムの国産車ってあるけど、サウンドに関してはいわゆるハーレーの3拍子というか、あの音が好きでした。人間の9割ぐらいが視覚重視で、音重視って少数派ですけど、その少ないとこにほぼウエイトかけて俺は生きてますから」

 

――ミュージシャンならではのこだわりということでしょうか。

 

高橋「ミュージシャンっていうカテゴリーを置いといて、言うのはこっ恥ずかしいけど、“音フェチ”っていうか“音マニア”なんです。例えば、人でいうと顔はどうでもいいけど声に惹かれるっていうのはありますよ」

 

――高橋さんは音フェチで音マニアですか?

 

高橋「そうそう。街でもどこでも、ハーレーのスロットルをひねったときの “ダブダブダブ!”という音の響きが好きなんですよ。だから、夏に海沿いを走るのが気持ちいいってのもよく分かるんですけど、俺は季節は冬が好きなんですよね」

 

――冬ですか、それはどうしてでしょう?

 

高橋「冬は湿気が少なくて空気が乾いてる。湿気が少ないということは音が響くんですよ。圧倒的に違いますね」

 

――ちなみに一番音がいい回転数とかってあるんですか。

 

高橋「何回転だろうって気にしないんでタコメーターは見ないんですよ。だいたい気持ちいいのは、セカンドからサードですね。4、5速はほぼ同じですよ」

 

――2速3速の回転が伸びるところが気持ちいいっていうのはよくわかります。

 

高橋「そうそう。俺はできるだけ一人で走るのが好きだから、複数でも3人ぐらいが限度ですね。それ以上だとうるさいって感じます。“爆音がいい音だ”って勘違いしてる人もいるけど、それは違う。いい音は小さくてもいい音だし、うるさい音は小さくてもうるさいんですよ」

 

――いい音は音量じゃないと。

 

高橋「いい音は気持ちいいんです。心地よさを超えたらダメなんですよ」

 

――先ほどハーレーを撮影させてもらったときに、マフラーが特徴的だなと思いました。

 

高橋「サンダンスのマフラーなんですけど、普通マフラーって右から出てるじゃないですか。俺のは左に出てて、ちょっと上につけてんるんです。音が近いんですよ」

 

――あ、なるほど。

 

高橋「アップタイプにしてもいいんだけど、今のマフラーのスタイルと音がいいですね。いずれにしてもタンデムできないですよ、熱くて(笑)」

 

ハーレーのカスタムポイント

――マフラーのお話が出たので高橋さんのハーレーのカスタムポイントを伺いたいと思います。バイクは1990年式のソフテイルです。全体にコンセプチュアルな仕上がりになってますね。カスタムはサンダンスですか?

 

高橋「そうです。これは“The Masamune”っていう、武士っぽい感じのイメージでカスタムしてもらいました。これが一番のコンセプトです。このスタイルになったのは2013年かな」

 

――サンダンスのカスタムハーレーでこういったスタイルのものもあるんですね。

 

高橋「ちょっとダサい話なんですけど、カスタムする時に、前のカミさんと2台で依頼したんです。あっちが侍みたいなコンセプトだから、俺は伊達政宗の甲冑をイメージしたんです。サンダンスのザック(以下柴崎代表)と何回も打ち合わせして、彼もアーティストだから、イメージだけ伝えてやってもらいました」

 

――ということはヘッドライトバザーの三日月型のオーナメントは?

 

高橋「伊達政宗の兜のイメージです。鋭利で危ないので、アクシデントがあったら外れるような仕様になってます」

 

――外装もさることながら、エンジンと給排気の存在感がすごいです!

 

高橋「エンジンは腰下がエボで、腰上がスーパーXRになってます。キャブはFCRですね」

 

――スーパーXRはサンダンスがリリースしているスポーツスターカスタムですね。この後方吸気のFCRツイン仕様は迫力ありますね。

 

高橋「あとは、適度な長さにアレンジしたスプリンガーフォーク。スーパーXRに近づけたかったんで、長すぎるとちょっと違うかなと。それなら倒立フォークのほうがいいのかなと思ったんだけど、あんまりそっちに攻めるのは良くないなといろいろ考えて。あまりスプリンガーっぽくないでしょ?」

 

――確かに。とにかくサンダンスらしく手を入れていない部分がないフルカスタムですね。

 

高橋「初めは、ロングフォークを付けてもらおうとサンダンスに行ったのがザックとの出会いです。あれからもう23、4年になるかな。理屈をちゃんと説明してくれたうえで『ロングにするならこれくらいじゃないと。長すぎるとねじれて危険だ』と。そんなハーレー屋に会ったことがなかったし、言ってることと結果がちゃんと合致しているから信用できますよ」

 

――プロに依頼するなら大事な点ですね。

 

高橋「サンダンスはハーレーのみだから、そこに特化してるとこが素敵だね。たとえスズキのバイクを持ってっても直せるんだけど、『それはうちではやりません』ってはっきり言うところがね、わかってるんだよね」

 

自由なライフスタイルを謳歌

高橋「そういえば最近、ハンドルだけ変えました。なんか突然、もうちょっと目の高さに来るハンドルで乗りたかったなと思って、俺が好きなのはアップだなと。ちょうどサンダンスにジャパンエイプっていう、日本人に合う、グリップ位置が上すぎないハンドルがあったんで。気に入ってますけど、バイク仲間からは“バイクの形が崩れる”ってすごい反対されましたね。まぁ別に違うなって思うなら戻せばいいんだし」

 

――そこは軽い感じで。

 

高橋「だんだん熟年になってくると、もともと何が好きだったかに戻るんですよ。原点回帰というか。簡単にいえば好きなことやる時間にしたいんだよね、残りの人生は……って、残りってだいぶあると思うけど、うまくいけば」

 

――好きなことをやる時間ですか、なるほど。これやってみたかった、ということをやり遂げたいのはわかる気がします。

 

高橋「音楽だって、俺にとっては仕事でもあるけど、最近は趣味性が強いね。だから俺ほど幸せな男はいないなと。芸能的に考えたら、『一人で寂しい人でしょう』って。いやいや、自由度100%ですよ。言うなれば、何時に起きて何時に寝るのか、誰も知ったこっちゃないし、今日はずっとこの曲のここのアレンジだけやることもできる。だから、気づいたのは、好きなことを毎日やってる俺ほど幸せな奴っていないなとよく言ってます」

 

――羨ましいとしか思わないですよ。

 

高橋「昨日もさ、30年くらい前に買ったウェスコのブーツがあったなと思い出して、見たらカチカチになってたから夜中にミンクオイルを塗って馴染ませたりしてるのが楽しいわけ。明日バイクの取材だとかウキウキしながら」

 

――ある意味すごく贅沢な時間ですね。

 

高橋「このBUCOのヘルメットは娘が使ってたんだけど、57センチ・サイズで、61ある俺からしたら小さいのね。それでインナーをペーパーがけしてサイズ調整をして“よし、入る入る”と。これはシェルが小さくていいやと。そういうの楽しいじゃないですか。こういうことに1日好き勝手使えるわけですよ」

 

――自分の好きなことに使える時間ってなかなか手に入らないですからね。

 

高橋「でしょう。俺も65だから気づいてる、もう時間ないよと。負けおしみに聞こえるかもしれないけど、俺がたとえば東京ドームをいっぱいにするアーティストだったらそれを続けなきゃいけないじゃん。うん、そしたら、バイクなんか乗ってる時間ねえよってなる。金持ちでもなんでもないけど、富豪って俺のことを言うんじゃないかって思うときがありますよ。時間が自由で、好きなバイク乗って、好きな音楽やって……と、自分で食事作って食って、好きな時間に寝て、起きてって、それ繰り返してるの最高じゃんとか思うよね」

 

――そこにバイクがあるってのはいいですね!

 

高橋「大事なことはオリジナリティですね。個性ってみんなたぶん死ぬまでのテーマだと思う。そのためには俯瞰が大事で、俯瞰ができる人はオリジナリティ

 

バイクはバイク、と考える

――趣味を楽しまれてる生なん?ですけど、高橋さんにとってバイクとは?

 

高橋「哲学的に聞かれると、“バイクはバイク”だよね。“バイク・イズ・バイク”というか、ハーレーにはハーレー、カワサキにはカワサキの個性やオリジナリティがそれぞれあるんだから、『君のバイクいいじゃん』『君こそいいじゃん』と認め合おうよって。みんな好きなバイクに乗ってるんだから。“俺のバイクのほうがいいと思う”っていうような押しつけは、歯を出して“俺のインプラントのほうがいい”って言ってるのと同じじゃん(笑)。自分に合ってると思ったら、それを楽しそうに乗ってればいいんだよね」

 

――バイクはバイクとして、優劣つけるものじゃないと。その考えは大事ですね。

 

高橋「うん。あと1個言えるのはね、どんなにバーチャルリアリティが進化しても“乗る”っていう感覚は無理。VR機器で走ってる感覚の絵が流れて、風が来て、音が流れてもそれはフェイク。本当に乗らないと、本当の音は感じない。音楽って今、そういうとこに入ってるんですよ。デジタルで、シミュレーターでアンプを鳴らすとか。若い子たちはノイズの入らない、倍音のない世界を聞いてるから、20代の人が俺のスタジオに来てレコードを聞いた時に『なにこれ?』ってぶっ飛んでましたよ。普段、倍音を聞いてないんです。ハーレーも倍音がある。それが遮断されたデジタルの世界ってのは、シミュレートってすごいけど、仮装空間はあくまで仮想空間じゃんって思います」

 

――バイクは風も音も匂いも景色も全部体感できる乗り物ですからね。さすがにVRでは体験できない世界観だと思います。

 

高橋「バイクを下に見てるやつは、いくらバイクっていいよ言っても無理じゃないですか。ハーレーが嫌いっていう奴もいますよ、友達でも。嫌いなもんはしょがないよね。寿司でヒカリもん食えないのと一緒だから(笑)」

 

――バイクをインプラントや光り物で例える方は初めてです(笑)。

 

高橋「うん。バイクはバイク。それ以上でも以下でもない。乗るならばそれぞれが一番気に入ってるのに乗って、お互い認めあえばいいんですよ」

 

日本企業の正念場、タイの自動車業界に忍び寄る中国勢の躍進

常夏の国でもあり“微笑みの国”としても知られるタイ。日本人にとっても人気が高く、コロナ禍前の2019年には約180万人がタイを訪れています。風光明媚な観光地が多いのと物価が割安で食べ物が美味しいというのが主な理由ですが、日本との関係でタイはもう一つの重要な側面があります。それが自動車です。

↑バンコク国際モーターショー2023のオープニングセレモニー。出展した代表者が壇上に勢揃いして盛大に開催されました

 

タイは“東南アジアのデトロイト”と呼ばれる東南アジア随一の自動車生産国で、中でも日本車は全体の9割近いシェアを獲得している“日本車王国”。それだけに日本の自動車メーカーはそろって工場をタイ国内に構え、そこを基点にASEAN各国にも輸出しています。つまり、タイは日本の自動車産業にとってもっとも重要な国のひとつとなっているのです。

 

モーターショーは160万人が訪れるビッグイベント

そんなタイの首都バンコクで「第44回バンコク国際モーターショー」が3月22日から4月2日まで開催されました。このショーは毎年3月に開催されているタイ国内最大のモーターショーで、前回2022年の開催ではコロナ禍にもかかわらず160万人が会場を訪れたというビッグイベントです。

↑会場はバンコク郊外の「インパクト アリーナ」。2022年は2週間近くの会期中に約160万人が会場を訪れました

 

このショーで見逃せないのは、ショー自体が販売目的で開催されているということです。そのため、各ブースには多くの販売員が配置され、裏に回ればそこには商談用のスペースが用意されています。各自動車メーカーはショー期間中だけの特別な低利キャンペーンなどを用意し、来場者も「どうせ買うのならこの機会に……」という気持ちで会場を訪れるのです。

↑各出展ブースの背後には商談スペースが準備され、軽食を取れるコーナーも用意されています

 

ショーの主催者によれば、会期中に販売される台数は昨年で約3万5000台にものぼり、今年はその15~20%増程度を販売したいと意気込んでいました。このあたりが、基本的に見せるだけの日本や欧米などのモーターショーとは大きく違うところなのです。

 

そして、出展メーカーの数にも注目です。まずシェアが高い日本のメーカーはトヨタやいすゞ、ホンダ、三菱、日産、マツダ、スズキ、スバル(2022年販売台数順)が出展。欧米系からはメルセデス・ベンツ、BMW、ミニ、アウディ、フォードのほか、プジョーやボルボ、アストンマーティン、ロールス・ロイス、マセラティなどそうそうたるブランドが勢揃いしています。そこに韓国のヒョンデ、キア、中国のMG、BYD、NETAが加わり、日本のモーターショーでは考えられないほどの賑わいを見せているのです。なお、ダイハツはタイ国内で販売しておらず、出展していません。

↑BMWが創立50周年を記念して開発された『XM』。V型8気筒エンジンと電気モーターの組み合わせが生み出すPHEVで、総合出力は653PSを発揮します

 

↑ヒョンデが東南アジア市場向けに開発した7人乗りミニバン『スターゲイザー』。タイでは初披露となりました

 

ここで多くの日本人が「?」と思うのがいすゞの存在かもしれません。日本では大型バスやトラックだけとなっていて、一般ユーザーには縁がないメーカーだからです。実はタイ国内でいすゞは、需要が高いピックアップトラックやSUVを手掛けていて、その売上げ規模が極めて大きいのです。それも半端じゃない数を販売していて、そのシェアはトヨタに次ぐ第2位というから驚きですよね。

↑タイ市場でいすゞのシェア拡大の立役者となっているピックアップトラック『D-MAX』。ほかにSUV『MU-X』もラインアップします

 

↑三菱がピックアップ市場での拡販を目指し、トライトンの後継モデルとして発表した『XRTコンセプト』

 

急速に勢いを増している中国勢。その中心にはBEVが

そうした中で、急速に勢いを増しているのが中国勢です。特に勢いがあるのがMGとBYD、グレート・ウォール・モーター(GWM)の3社で、いずれもタイ国内でトップシェアを持つトヨタに迫る広いスペースを使って出展していました。

 

MGは元々イギリスのスポーツカーメーカーとして知られていましたが、現在は中国の上海汽車グループの傘下にあり、東南アジアやオセアニア市場で展開して人気を集めています。一方のBYDは中国・深センでバッテリーメーカーとして創業しましたが、いまではその技術を活かした大型バスや乗用車を生産しており、タイだけでなく欧州や日本でもその存在が知られるようになっています。GWMは中国・長城汽車の英語名で、タイでは「Haval」「ORA」「TANK」の3つのブランドを展開します。

 

この3社がそろってタイ市場に向けて出展したのが電気自動車(BEV)やHEVの新型車です。実はこれまで中国市場を重視して販売体制を整えてきましたが、2023年1月1日より中国政府からの補助金が打ち切られ、それに伴って中国国内でのBEVの販売が急減。3社ともその落ち込みを補おうと海外進出を急速に広げているのです。しかもタイではBEVに対して10万バーツの補助金が支給され、それによって販売価格の実質引き下げに貢献することになりました。こうした背景が対市場への参入につながったと見ていいでしょう。

 

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一方で日本車はこの中国勢の電動化の動きにどう対応したのでしょうか。

 

BEVで目立ったのは、トヨタが8代目ハイラックスをベースとして開発したピックアップトラック『ハイラックス・レボBEVコンセプト』を出展したぐらいでした。これは2022年12月にトヨタがタイ進出60周年を記念して発表されたもので、2020年代半ばの発売を予定しています。これ以外はハイブリッド車(HEV)が中心で、トヨタはHEVとして5代目『プリウス』や『JPNタクシー』のタイ仕様を用意し、ホンダもHEVとした『CR-V』の新型を出展した程度です。電動化への動きでは明らかに中国勢に押されっぱなしという感じでした。

 

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しかも、タイ政府は“ASEANのEVハブ”を目指して、2030年までに直流タイプ(DC型)のEV急速充電器を全国で1万3000基以上、同タイプの充電器を備えたEV急速充電ステーションを約1400か所まで整備することを目標としているのです。これはBEVで市場拡大を目指す中国勢にとっては追い風になっているとの見方が出ても不思議ではありません。

 

BEV需要は補助金次第。航続距離が長いHEVへの関心も高い

ただ、ショー関係者にこのあたりを取材すると「BEVが順調に伸びていくのにはハードルが高い」と話します。というのも、タイ国内での充電インフラが不足しているのは間違いなく、「休日に郊外に出掛けて3時間の充電待ちが発生することもよく聞く話」だからです。たとえ、政府が充電設備を増やすとは言っても、それで十分と言えないのは日本の例を見ても明らかというわけです。

 

また、「BEVは近所を走行する2台目需要の領域を出ておらず、それを買えるのは戸建てを持つ富裕層のみ。来年の補助金政策が変われば、それによって需要は大きく変化する」とも話します。むしろ「バンコクなど都市部では環境に対する意識が高い人にとっては、航続距離が長いHEVの方が使いやすい」と考える人が多いというのです。

 

実際、2022年のBEV販売台数は1万5000台ほどで、2021年の2000台から急増しました。しかし、それでも総販売数の1.7%程度にとどまります。これで補助金が打ち切りとなれば、販売台数に影響をもたらすのは間違いないでしょう。とはいえ、中国勢の勢いはかつてない力強さを感じさせます。そうした状況にどこまで日本勢が対抗できるか。まさに2023年はタイにおける日本勢にとって正念場を迎えることになるのは間違いないでしょう。

↑バンコク国際モーターショー名物ともなっているコンパニオン。写真はいすゞ

 

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アウトドアカーの最適解! 先進PHEVから本格オフローダーまで間違いナシの7台をチョイス

車中泊にキャンプ、グランピングから釣りにバードウォッチングなどアウトドアの楽しみ方は十人十色。しかし目的地に行くまでの移動手段となると頼れる相棒で行きたいものだ。さあ、いまこそ“行動制限”のないクルマで出かけよう!

※こちらは「GetNavi」2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が選びました!

モータージャーナリスト
海野大介さん

自動車雑誌の編集部や船の専門誌を渡り歩く。小型船舶やA級ライセンスなど遊びの資格を所持する40代。現在はウェブへの寄稿を中心に活動中。

 

三菱独自のAWCが生む高い走行性能が魅力

三菱
アウトランダー PHEV
484万1100円〜570万5700円

三菱の新しい旗艦モデル。力強く存在感のあるエクステリアや上質で先進的なインテリアが特徴だ。三菱独自のS-AWCや前後輪でのブレーキAYCが生み出す高い旋回性能や安定性は、背の高いSUVであることを忘れてしまうほど。

SPEC【P】●全長×全幅×全高:4710×1860×1745mm●車両重量:2110kg●パワーユニット:2359cc4気筒DOHC+ターボ+2モーター●最大出力:98kW/5000rpm●最大トルク:195Nm/4300rpm●WLTCモード燃費:16.2km/L

↑パワートレインは2.4ℓエンジンに前後輪に独立したモーターを持つ2モーター式。エンジンは基本的に発電用だが、走行状況に応じて駆動用にもなる

 

↑センターコンソールに設置された、大型で操作しやすいドライブモードセレクター。各モードで駆動力の配分やアクセルレスポンスなどが常に最適に制御される

 

↑フロントのセンターコンソールボックスの後ろと荷室にはAC100V、1500Wの電源が装備されている。アウトドアでも自宅と同様に“レンチン”が可能だ

 

↑ステアリングホイールに設けられたのは回生ブレーキの効きを任意に調整するパドル。スポーツ走行や下り坂など、減速エネルギーを電力に変換して充電可能だ

 

レジャーから非常時までマルチに活躍するSUV

アウトドアで大活躍する地上最低高の高いSUV。同カテゴリで世界初となるプラグインハイブリッド車になったアウトランダーは、2021年にフルモデルチェンジした。パワートレインは2・4lのガソリンエンジンに前後2つのモーターを組み合わせ、発進時から高速域まで抜群のレスポンスと加速性能を誇る。

 

非常時などにクルマを家の電源として使えるV2Hに対応しているのも魅力のひとつ。その性能はガソリン満タンならエンジンによる発電を含め、約120kWhの電力を供給できる。これは一般的な家庭の12日ぶんの使用量に相当。同車には100V対応のAC電源も装備しており、グランピングなどでも頼れる1台だ。

 

海野’s ジャッジ

PHEVの力強い走りや航続距離、非常時でも“使える”装備の数々。三菱の旗艦モデルということを考えても、これらがすべて500万円台というのは抜群のコストパフォーマンスだ。

 

高い悪路走破性能とワイルドなスタイルが人気

トヨタ
RAV4
293万8000円〜563万3000円

力強さと洗練さが融合したデザインのSUV。パワーユニットはガソリン、ハイブリッド、PHVの3種が揃う。4WDはガソリン車とそれ以外で異なるメカニズムとなる。先進安全装備はどのグレードでも充実。

SPEC【ハイブリッド Adventure】●全長×全幅×全高:4610×1865×1690mm●車両重量:1700kg●パワーユニット:2487cc4気筒DOHC●最大出力:178PS/5700rpm●最大トルク:221Nm/3600〜5200rpm●WLTCモード燃費:20.3km/l

↑アドベンチャーグレードに設定された、特別仕様車の「オフロードパッケージⅡ」。バンパーなどに艶を抑えた塗装を使用してタフさを表現している

 

↑荷室には表裏使えるデッキボードを装備。表面の起毛処理と異なる樹脂製の裏面を使えば、濡れたり汚れたりしたモノをそのまま載せても掃除がラク

 

↑2lのアドベンチャーグレードほかで採用する、ダイナミックトルクベクタリングAWD。各駆動輪のトルク制御を瞬時に行い旋回性能と燃費が向上する

 

海野’s ジャッジ

ミドルSUVクラストップレベルの容量を持つラゲッジルームや、オフロードも余裕で走れる走行性能はアウトドアユースにぴったり。PHVも加わり、高い商品力も魅力のモデルだ。

 

低重心エンジンを搭載する実力派ミドルクラスSUV

SUBARU
フォレスター
299万2000円〜363万円

全モデルにSUBARUの定番システムであるAWDシステム、アイサイト、水平対向エンジンを装備する。またモーターを組み合わせたパワートレインを持つe-BOXERも設定。グレードごとにキャラクターが分けられているのも同車の特徴と言える。

SPEC【SPORT】●全長×全幅×全高:4640×1815×1715mm●車両重量:1570kg●パワーユニット:1795㏄水平対向4気筒DOHC+ターボ●最大出力:177PS/5200〜5600rpm●最大トルク:300Nm/1600〜3600rpm●WLTCモード燃費:13.6km/l

↑脇見運転や居眠り防止に役立ち安全運転につなげるドライバーモニタリングシステム。ジェスチャーにより、好みの空調制御まで行える

 

↑本格スポーツグレードのSTIもラインナップに追加。足回りに定評のある同モデルには専用チューニングが施されたダンパーが装備される

 

海野’s ジャッジ

ひと目でそれと分かるダイナミックかつソリッドなデザイン。十分なロードクリアランスや悪路からの脱出をサポートする「X
モード」など、走りに重点を置いているのはSUBARUらしい。

 

車中泊もおまかせ! 足を伸ばして仮眠、いや爆睡できるクルマはこのモデルだ!

室内の広さや快適さがウレシイ日産自慢の新型ミニバン

日産
セレナ
276万8700円〜393万3600円

2022年にデビューした5代目モデル。同車の美点でもある室内空間の広さや利便性はそのままに、移動時の快適性を追求し、先進技術を搭載する。初代からの「BIG」「EASY」「FUN」のコンセプトはいまも受け継がれている。

SPEC【e-POWER ハイウェイスターV】●全長×全幅×全高:4765×1715×1870mm●車両重量:1810kg●パワーユニット:1433cc直列3気筒DOHC●最大出力:98PS/5600rpm●最大トルク:123Nm/5600rpm●モーター最高出力:163PS●モーター最大トルク:315Nm●WLTCモード燃費:19.3km/l

↑最上級グレードには条件つきの手放し運転が可能になる「プロパイロット2.0」が標準装備。これはミニバンとしては世界初となる

 

↑すっきりしたインパネ周り。それまでのシフトレバーは廃され、シフトセレクターはスイッチ式に。日産車としては初の装備になる

 

海野’s ジャッジ

2Lのガソリン車と1.4L e-POWERの2種がラインナップした新型セレナ。e-POWERモデルでも8人乗りが実現した。多彩なシートアレンジは健在で車中泊も余裕なのがうれしい!

 

四角い実用的なクルマならフランス車におまかせ!

シトロエン
ベルランゴ
384万5000円〜455万4000円

多くの荷物を積んで家族や友人との旅行に適したレジャーアクティビティビークルは、シトロエンが23年前に生み出したセグメント。その代表格であるベルランゴは、広くスクエアな室内が特徴だ。収納空間も豊富に用意されており便利に使える。

SPEC【SHINE BlueHDi】●全長×全幅×全高:4405×1850×1850mm●車両重量:1600kg●パワーユニット:1498cc直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最大出力:130PS/3750rpm●最大トルク:300Nm/1750rpm●WLTCモード燃費:18.1km/L

↑3列シート7人乗りの「ロング」も新たに登場。乗り心地にこだわった足回りの設計によって、シトロエンらしい走行性能を実現している

 

↑純正オプションで用意されるアグレ・ベッドキット。ベッドマットは使わないときは荷室の棚として使用可能だ。加工なしに設置できるのも魅力

 

海野’s ジャッジ

シンプルなデザインと内装でもキラリと個性が光るのがフランス車の良いところ。1.5Lのディーゼルターボは1750rpmで最大トルクを発揮し、力強い走りができるのがイイ!

 

本格オフローダー!

軍用車がルーツのクロカン4WDの代名詞

ジープ
ラングラー
870万円〜1030万円

シンプルなスタイリングで多くのファンを魅了し続ける、軍用車がルーツのクロカンの雄。現行モデルは2018年デビューの4代目だ。装備充実のサハラと最強仕様のルビコンがラインナップ。いずれも2Lの直列4気筒ターボエンジンを搭載する。

SPEC【Unlimited Sahara 2.0L】●全長×全幅×全高:4870×1895×1845mm●車両重量:1960kg●パワーユニット:1995cc直列4気筒DOHC+ターボ●最大出力:272PS/5250rpm●最大トルク:400Nm/3000rpm●WLTCモード燃費:10.0km/L

↑最強グレード「ルビコン」に追加されたプラグインハイブリッドモデルの4xe。2L直列4気筒ターボに2モーターを組み合わせている

 

↑リジッドサスペンションは本格オフローダーの証。左右の車輪が車軸でつながっており、片輪が浮いてしまっても反対側はしっかりと接地する

 

海野’s ジャッジ

ブランドの象徴である7スロットグリルや無骨ながらシンプルなデザインなど、唯一無二の世界観が特徴。アダプティブクルーズコントロールなどの先進装備が多く備わっているのも魅力だ。

 

ホビーベースにもなる実用的軽商用車が誕生!

スズキ
スペーシア ベース
139万4800円〜166万7600円

軽貨物自動車として開発された、いわば“働くクルマ”。後席は自由度が高く、自分のアイデア次第で車中泊やワークスペース、趣味の空間としても使える。ラインナップされる4WD車の荷室床面地上高はFF車と同じなので、荷物の積載もしやすい。

SPEC【XF 2WD】●全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm●車両重量:870kg●パワーユニット:658cc直列3気筒DOHC●最大出力:52PS/6500rpm●最大トルク:60Nm/4000rpm●WLTCモード燃費:21.2km/L

↑車内空間を自由にアレンジできるマルチボードを採用。後席を倒してボードを下段に設置すれば車中泊に使える空間に。大人でも足を伸ばして横になれる広さだ

 

↑後席を倒すと座椅子として使える工夫が楽しい。マルチボードを上段にすればデスクスペースに早変わり。乗り手のアイデア次第でちょっとしたワークスペースに

改めて「カローラ スポーツ」に乗ってみたら…ハッチバックの最新存在意義

過日、カローラ クロスの試乗記事でも紹介したが、カローラは日本のスタンダードカーとして長期に渡って販売されてきたモデル。そのカローラシリーズのなかでも、ハッチバックタイプの「カローラ スポーツ」は現行型で最初に登場した。ハッチバックならではの魅力はどこにあるのか、ピックアップして見ていこう。

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ/カローラ スポーツ

※試乗グレード:G “Z”(ガソリン・2WD)

価格:220万円~289万円(税込)

 

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日本ではブームが終わっているけども……

現行型カローラは、まずこのハッチバックの「カローラ スポーツ」が2018年にデビューしたのを皮切りに、セダンの「カローラ」とワゴンの「カローラ ツーリング」が登場。その後、2021年にSUVタイプの「カローラ クロス」が発売され、現在は4兄弟という構成になっている。

 

クルマ自体は、カローラらしくすごくまっとうに、それでいて現代的に作りました! という最新モデルだが、4種類ものボディタイプから選べるクルマは、ほかを探してもなかなかない。実はこのハッチバックはカローラファミリーに復帰したモデルであり、先代型は「オーリス」という車名で販売されていた。余談だが、現行型も海外の一部地域では当初「オーリス」という名称で販売されたが、現在では改めて「カローラ」という名称に統一されている。

 

しかし4つのボディタイプがあるとはいえ、後になって追加されたSUV以外、セダンもワゴンも、そしてハッチバックも、正直なことを言えば、日本ではすでにブームが終わっているジャンル。個人的にオーリスが好きだったこともあり、「もしまたなくなってしまったら……」と考え、「今のうちに乗らなきゃいかん」という衝動に駆られて(笑)、借りだしてみた。なお、2022年10月にマイナーチェンジを受けて、パワートレインを刷新、安全・快適装備をアップグレードしている。

↑ラゲージスペースは9.5インチゴルフバッグが2個積める、352Lの容量を備えています

 

トヨタのこだわり、演出が随所に感じられるデザイン

フロントまわりのデザインは、ひと言でいってシャープだ。セダンやワゴンも同様のテイストだが、極力キャラクターラインを減らし、面は面として強調しつつも、ヘッドライトやグリルなど顔全体の構成物が中央のエンブレムに収束されている感じ。キリッとしていて、若干怒っているような表情に見えるのは、現在のカーデザインのトレンドにのっとったもの。

↑LEDライトを横方向に配置したヘッドライト。1灯の光源でロービームとハイビームの切り替えが行えるBi-Beam(バイ-ビーム)LEDを採用しています

 

一方、リアまわりは下部分をふっくらさせつつもシャープに見せるようなキャラクターラインがたくさん入っていてにぎやかな装い。また、リアウインドウは結構前方へ傾斜していて、スポーティさが強調されている。ハッチバックモデルのリアデザインというは、そのクルマの特徴であり、他車との違いをアピールできる部分でもある。そういった意味では、トヨタなりのこだわりが見てとれる。

↑いくつものラインが入ってはいるものの、全体を見るとシンプルなデザインに仕上がっています

 

↑ヘッドライトと同様に、切れ長でシャープな光を放つリヤコンビネーションランプ

 

全体的なスタイリングは、重心が低くてワイド。わかりやすくいえば、平べったく幅広になった印象だが、これはいわゆるスポーツカーの定番プロポーションである。フロントのシャープなデザインを基調に考えれば、セダンは重心が高そうに見えるし、ワゴンでは全長が長すぎて俊敏さが感じられない(実際の運動性能はそんなことないが)。ハッチバックのスタイリングは「低くてワイド」が実にしっくりきている。これもトヨタによるスポーティさの演出である。

↑全長4375×全幅1790×全高1460mm。また試乗モデルの総重量は1655kg

 

↑G“Z”グレードはタイヤ225/40R18、18×8J(切削光輝+ダークグレーメタリック塗装/センターオーナメント付)のホイールを標準装備

 

新時代設計思想「TNGA」に裏打ちされた快適な走り

で、実際の走りはどうかというと、これがまたいい。想像していたより静かで、快適。さらに乗り心地も悪くない。クラストップレベルの上質感といっても決して言い過ぎではない。ハンドリングも素直でコーナーでは気持ちよく曲がってくれる。そもそも、全長の短いこのハッチバックは、カローラファミリーでは一番コーナリング性能が高いのだ。

 

この走りの良さというのは、トヨタの新時代設計思想「TNGA」から生まれている。TNGA(Toyota New Global Architecture)は、パワートレーンやプラットフォーム(車体)をはじめ、クルマの基本性能を飛躍的に向上させるための車体設計や取り組みをまとめたもの。トヨタによる新時代のクルマづくりにおける構造改革の名称だ。2015年の先代型プリウスに初採用されたTNGAだが、それから3年後となる後出しだけに、カローラシリーズでは、よりセッティングが熟成されたように感じられる。

↑TNGAによって優れた重量バランスと車両安定性を実現。これによって意のままに走行でき、快適さを感じられます

 

そんなカローラ スポーツに搭載されるパワーユニットは、2.0L直列4気筒ガソリンエンジンと、1.8L直列4気筒エンジンに電気モーターを加えたハイブリッドの2種類。今回試乗させてもらったのは前者のガソリンエンジンモデルであったが、2.0Lエンジンに組み合わされるCVTのフィーリングがよかった。

↑従来のCVTに発進用ギヤを追加し、発進から高速域まで力強くダイレクトな走りと低燃費を実現。ガソリンエンジンモデルの燃料消費率はWLTCモードで17.2km/Lとなっています

 

速いかどうかと言われれば、驚くほど速いということはない。しかしこれは一般道を走るにはちょうどいいくらい。もし速さにこだわるようなら、後から追加販売されたGRカローラを選ぶといい。2022年にわずか500台のみ発売されたモデルで、入手するのは難易度が高いモデルだが、ベースはカローラ スポーツで、それだけの価値がある走りの魅力を備えたクルマである。

 

総合的に考えると、オワコンどころか核家族世帯にピッタリ

居住性に関しては、セダンやワゴンと比べると、前席はほぼ変わらないが、後席は前後長が短いハッチバックはすこし分が悪い。しかし、取り回しのよさや使い勝手の良さなどを総合的に考えるなら、これが小さな子どものいる家庭にはちょうどいい。筆者がオーリスがいいなと考えたのも子どもがまだ小さいからである。ハッチバックは“オワコン”なんかじゃなかった。現代社会の中心的存在である核家族世帯にぴったりのジャンルだったのだ。

↑広い視界を確保すべく、ダッシュボードやAピラーの形状などに工夫がなされています。高精細なHDワイドディスプレイを搭載するとともに、T-Connectのオプションサービス「コネクティッドナビ」に対応

 

↑試乗車のG “Z”はスポーツシート。黒と赤の色使いがスポーティでテンションが上がります

 

SPEC【G “Z”(ガソリン・2WD)】●全長×全幅×全高:4375×1790×1460㎜●車両重量:1380㎏●パワーユニット:1986cc直列4気筒ガソリンエンジン●最高出力:170PS(125kW)/6600rpm●最大トルク:202Nm/4900rpm●WLTCモード燃費:17.2㎞/L

 

文/安藤修也、撮影/木村博道

 

 

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乗り味はロールス・ロイス「ファントム」超えだな! BMW「7シリーズ」と「i7」の試乗報告

1970年代からBMWのフラッグシップサルーンとして君臨してきた「7シリーズ」も、電気の時代を迎えたことで、シリーズとしては初のEVモデル「i7」を新たにラインナップ。最高級車としての実力は、ライバルブランドと比較してどうか? またエンジンモデルとEVモデルでどのような違いが味わえるのでしょうか?

 

■今回紹介するクルマ

BMW/7シリーズ & i7

※試乗グレード:740i Mスポーツ(7シリーズ)、xDrive60エクセレンス(i7)

価格:(7シリーズ)1460万円~1501万円、(i7)1670万円~

↑写真左から740i Mスポーツ(7シリーズ)、xDrive60エクセレンス(i7)

 

ロールス・ロイスを意識したデザインで、見た目の威厳的にすごくアリ

みなさんは、ロールス・ロイスを知ってますよね。恐らく「世界一の高級車」という認識だと思います。実はいまロールス・ロイスは、BMW傘下にあるのですね。ロールス・ロイスのラインナップの頂点に君臨するのが「ファントム」。その見た目は、「とにかく高そう」で「すごく怖そう」で、「ひたすら威厳のカタマリ」です。そしてロールス・ロイスのデザインを象徴するのが、フロントグリル。「パンテオン・グリル」と呼ばれており、円柱が並ぶローマ神殿を模しています。

 

実は私、アレは「パルテノン・グリル」だと思い込んでいました。パンテオンはローマの神殿で、パルテノンはアテネの神殿。円柱が並ぶ形状は同じですが、パンテオンのほうは、その上に三角形が乗っかってる(残ってる)。そっちがロールス・ロイスのグリルの元ネタだったわけです。知らなかった!

 

一方、BMWのグリルは「キドニー・グリル」です。キドニーとは腎臓のこと。楕円形が2個並んだ姿が腎臓に似ているので、この名が付きました。新型7シリーズでは、そのキドニー・グリルが左右合体して、まるでパンテオン・グリルみたいになりました! これ、どう見てもロールス・ロイスを意識してるだろ!

↑xDrive60エクセレンス。グリルだけでなく、全体のフォルムも、ものすごく古典的に角張ったセダン型で、ロールス・ロイスを意識したかのようです

 

BMWの最高級セダンである7シリーズは、従来、メルセデス・ベンツのSクラスに対して常にスポーティであり、デザインもその文法に則っていましたが、新型は逆張りで、ロールス・ロイスに寄せてきたわけです。ライバルのメルセデス・ベンツEQSが、スポーティな「謎の円盤」にリボーンしたのと正反対! お互いに逆張りしたことで、ポジショニングが完全に逆転しました。

 

しかしこの、ロールスみたいな7シリーズのデザイン、意外と悪くないです。これまでの7シリーズは、「しょせんSクラスにはまるでかなわない万年2位」でしたが、新型はなにしろロールス風味。見た目の威厳に関しては、EQSをはるかに凌駕しています。こういう最高級セダンに乗る方々は、たぶん最大限の威厳を求めているでしょうから、すごく「アリ」だと思います!

↑サイズは全長5390×全幅1950×全高1545mm。カラーは13色をそろえています

 

乗り心地はフワッフワ! それでいて超ダイレクトなハンドリングで新鮮

ところで新型7シリーズには、エンジンモデルとEV(電気自動車)とが併存しています。エンジンモデルは3.0L直6のガソリン/ディーゼルですが、今回はガソリンの740i Mスポーツに試乗しました。従来7シリーズと言えば、V8やV12の巨大なエンジンを積んでいましたが、ダウンサイジングの流れにより、3.0L直6に統一されております。

↑740i Mスポーツ。サイドには流れるようなラインが施され、軽やかさが感じられます

 

BMWの3.0L直6と言えば、「シルキー6」と呼ばれ、カーマニア垂涎の的ですが、7シリーズは2tを超える重量級。さすがにパワーが足りないのでは? と思ったのですが、450Nm(先代)から520Nmへと増強されたぶっといトルクが、低い回転からグイグイと車体を前に押し出します。回転も超なめらかでスバラシイ! BMW3.0L直6はここまで進化したのか!

 

「しかも乗り心地が凄い! とろけるようにフワッフワ! この感覚はまさにロールス・ロイスに近いっ!」

 

ロールス・ロイスの名前や形は知っていても、乗ったことのある方は少ないと思います。いったいどんな乗り心地なのかと言うと、「雲の上」です。雲の上のクルマだけに雲の上。そのまんまやないけ! ですが、運転していてもステアリングインフォメーション、つまりハンドルから伝わる路面情報がまったくゼロ! 本当に浮かんでるんじゃないか? って感じなのです。新型740i Mスポーツも、その感覚に近く、浮かんでいるかのような体験でした。

 

ただ、BMWだけに、ステアリング・インフォメーションはそれなりにあり、電子制御エアサスの恩恵で、ハンドルを切ってもまったく車体が傾かず、そのままズバーンとカートみたいに曲がります。フワッフワなのに超ダイレクトなハンドリングがものすごく新鮮! このクルマ、どーなってんの?

↑コックピットには、12.3インチの情報ディスプレイと14.9インチのコントロール・ディスプレイで構成されるBMW カーブド・ディスプレイを搭載

 

振動が完全にゼロ、加速はウルトラケタ外れ! もうロールス・ロイス超えだろ

ここまででもビックリですが、新型7シリーズのEV版であるi7のxDrive60エクセレンスは、さらにケタ外れでした。まずもって、パワーユニットの滑らかさが段違い。ガソリン直6でもウルトラスムーズなのに、さすが電気モーターだけあって、振動が完全にゼロ! 日産「サクラ」も振動ゼロのはずだけど、まったく感覚が違います。そんなのあるのか? いやいや、上には上がいるのですね。

↑「740i」のパワーユニットは3リッター直6ガソリンターボエンジンと48Vのマイルドハイブリッドシステムの組み合わせ

 

乗り心地もさらにフワッフワ! ガソリンモデルより車体が600kgくらい重いぶん、フワッフワさがものすごく荘重! 荘重なフワフワなんてあるのか? と思われるでしょうが、あるんですね。ビックリです。

 

加速もウルトラケタ外れ! 前後に2個搭載されたモーターは、合計745Nmのトルクを生み出し、アクセルを踏み込めば、宇宙船のように加速します。740i Mスポーツがお子様用に思えてしまうほどの、強烈な加速の差! こんなに速くてどうするの! って感じですが、「物凄いものに乗っている」感はハンパないです。もちろんコーナーでは、ロールせずにカキーンと直角に曲がります。そうか、電気自動車って、こんなにも高級車向きだったのか……。

↑xDrive60エクセレンスは静止状態から100km/hまでを4.7秒(ヨーロッパ仕様車値)で駆け抜けます

 

i7の乗り味は、ロールス・ロイス ファントムを超えたと言ってもいいでしょう。6.8L V12ターボ(BMW製ですが)でも、i7のモーターのパワーや滑らかさにはかなわない。ロールス・ロイス ファントムのお値段は、6050万円から。たったの1670万円で買えるBMWのi7は、猛烈にコスパが高いと思います! 以上報告終わり!

↑受注生産オプションの「エグゼクティブ・ラウンジシート」。そして、Amazon Fire TVを搭載した31.3インチのBMWシアター・スクリーン(オプション)は快適空間じゃ!

 

SPEC【740i Mスポーツ】●全長×全幅×全高:5390×1950×1545mm●車両重量:2395kg●パワーユニット:2997cc直列6気筒ガソリンエンジン●最高出力:381PS(280kW)/5500rpm●最大トルク:520Nm/1850-5000●WLTCモード燃費:12.8km/L

 

SPEC【xDrive60エクセレンス】●全長×全幅×全高:5390×1950×1545mm●車両重量:2965kg●パワーユニット:電気モーター●最高出力:前258+後313PS/前後8000rpm●最大トルク:前365+後380Nm /前0-5000+後0-6000rpm●WLTCモード一充電走行距離:650km

 

撮影/池之平昌信

 

 

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正式な線名より通称で親しまれる「宇野線」のちょっと切ない現実

おもしろローカル線の旅112〜〜JR西日本・宇野線(岡山県)〜〜

 

瀬戸大橋線と聞けば、瀬戸内海を渡り岡山県と香川県を結ぶ路線と多くの方がご存知だろう。では、宇野線はどうだろう? 実は、瀬戸大橋線は路線の通称で、岡山県側の岡山駅と茶屋町駅(ちゃやまちえき)間の正式な路線名は宇野線なのだ。

 

ここまで通称が一般化してしまい、正式名称があまり知られていない路線も珍しい。今回はそんな宇野線の旅を楽しんだ。

*2014(平成26)年9月1日〜2023(令和5)年3月12日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
黄色い電車に揺られ「宇部線」を巡る。炭鉱の町に歴史と郷愁を感じる

 

【宇野線の旅①】瀬戸大橋線は通称で本当の路線名は宇野線

宇野線の歴史は古い。今から113年前の1910(明治43)年に路線の歴史が始まった。まずはその概要を見ておこう。

路線と距離 JR西日本・宇野線:岡山駅〜宇野駅間32.8km、全線電化単線および複線
開業 鉄道省官設の宇野線として岡山駅〜宇野駅間が1910(明治43)6月12日に開業
駅数 15駅(起終点駅を含む)

 

山陽本線を開業させた山陽鉄道が、鉄道国有法により1906(明治39)年に国有化。4年後の1910(明治43)6月12日に山陽本線の岡山駅〜宇野駅間に官設の路線を敷かれた。この開業日に合わせて宇野港と四国、高松港を結ぶ連絡船の運航も開始。宇高連絡船の始まりである。

 

78年後の1988(昭和63)年の瀬戸大橋開通にともない、茶屋町駅〜宇多津駅間を結ぶ本四備讃線(ほんしびさんせん)も開業、本州・四国間を列車が走るようになった。この本四備讃線と宇野線の一部を合わせて「瀬戸大橋線」と呼ぶようになる。一方、宇高連絡船は長年にわたる役目を追え、宇野線も連絡船へのアクセス線としての使命を終えた。

 

瀬戸大橋の開通以降、宇野線の茶屋町駅〜宇野駅間17.9kmは瀬戸大橋線の支線の扱いとなり、ローカル色の強い区間となっている。

 

【宇野線の旅②】国鉄形のほかバラエティに富む走行車両

次に宇野線を走る車両を見ていこう。岡山駅〜茶屋町駅間はJR四国の車両が乗入れていることもあり、車両はバラエティに富んでいる。一方、茶屋町駅〜宇野駅間は普通列車が大半で、走る車両の種類も少ない。まず岡山駅〜宇野駅間を通して走る車両から紹介したい。

 

◆113系・115系電車

↑早島駅付近を走る115系電車。113系とともに大半が濃黄色で塗られている。JR西日本の車両は側面窓などリメイクしているものが多い

 

113系、115系ともに国鉄時代に製造された近郊形電車で、115系は山岳路線を走れるように電動機などが強化されている。岡山地区を走る両形式は一部を除き濃黄色で、全車が下関総合車両所岡山電車支所に配置され、宇野線の全区間を走る。

 

今後、広島地区に先に導入された227系が色を変更して岡山地区に投入される予定だが、岡山地区の113系・115系は車両数が昨年春の段階で209両と多いこともあり、まだまだ走り続けそうだ。

 

◆213系電車

↑宇野駅のホームに停車する213系。写真は中間車を改造した先頭車で、車両の縁が角張った個性的な姿をしている

 

国鉄時代の末期に造られた211系近郊形電車の側面の乗降ドア3つを2つに改めた車両で、JR移行後にもJR東海、JR西日本で製造が進められた。JR西日本の車両は213系の基本番台で、本四備讃線用に先行して導入され、当初は「快速マリンライナー」としても運用された。宇野線では現在2両編成の車両が中心に使われていて、特に茶屋町駅〜宇野駅間を往復する列車に使われることが多い。

 

宇野線の観光列車として親しまれる「ラ・マル・ド・ボァ」も213系を改造した車両で、同線の各駅のデザインや塗装は、この観光列車とイメージに合わせて変更されている。

↑213系を改造した観光列車「ラ・マル・ド・ボア」。白をベースにマリンイメージ+黒文字入り電車2両が宇野線を走る

 

ほかにも宇野線の岡山駅〜茶屋町駅間では多くの車両が走っているので、書き出してみよう。

 

◆JR西日本の車両

・285系 特急「サンライズ瀬戸」:JR東海との共同運行により東京駅〜高松駅間を走る。日本で唯一の定期運行される寝台特急でもある。

・223系:快速「マリンライナー」として岡山駅〜高松駅間を走行、JR四国の5000系と編成を組んで走る。

 

◆JR四国の車両

・8000系 特急「しおかぜ」:岡山駅〜松山駅間を走る電車特急。四国内では高松発着の特急「いしづち」と連結して走る。

・8600系 特急「しおかぜ」:一部列車はより新しい8600系で運行されている。

・2700系 特急「南風(なんぷう)」:岡山駅〜高知駅を走るディーゼル特急。一部はアンパンマン列車として運行される。同じ2700系を利用した徳島駅行、特急「うずしお」も一部列車が岡山駅へ乗入れている。

・5000系 快速「マリンライナー」:「マリンライナー」は岡山駅〜高松駅間を走る快速列車で、高松駅側に連結される2階建て車両が5000系となる。JR西日本の223系と編成を組んで走る。

 

ほかにJR四国の観光列車「瀬戸大橋アンパンマントロッコ」なども運行している。

↑宇野線を走る代表的な4車両。JR西日本の車両に加えてJR四国の車両が多く乗入れている

 

◆JR貨物の車両

EF210形式・EF65形式電気機関車+コンテナ貨車:宇野線(瀬戸大橋線)は貨物列車にとっても重要な路線で、岡山と高松を結ぶ貨物列車が1日に5往復(臨時列車を含む)走っている。貨車には目一杯にコンテナが積まれていることも多く、本州と四国を結ぶ大動脈として、活かされていることが分かる。

↑早島駅付近を通過する高松貨物ターミナル駅行き貨物列車。牽引するのはEF210-300番代エコパワー桃太郎だ

 

【宇野線の旅③】岡山駅から出発後、単線で山陽本線を越える

それでは岡山駅から宇野線の旅をスタートさせよう。岡山駅は中国地方最大のターミナル駅で、在来線のホームだけで1〜10番線まである。宇野線(瀬戸大橋線)方面への列車は5〜8番線から発車する。ホームの表示は「瀬戸大橋線」「宇野みなと線」といった具合で、宇野線の表示はほぼない。

 

5番線から発着の列車は少なく、6番線・8番線が特急列車や快速「マリンライナー」の発着で賑わう。両ホームの西側に行き止まり式ホームの7番線があり、ここから普通列車が発着する。宇野駅まで走る直通普通列車は、昼の運行列車(観光列車を除く)がほぼないものの、本数は1日に12本と多く幹線の趣なのだが、乗車すると様子が一変する。

 

本州と四国を結ぶ大動脈・瀬戸大橋線なのだから、岡山駅からのルートは全線が複線だろうと思いがちだが、岡山駅からは単線区間で始まる。

↑桃太郎の銅像が駅前に立つ岡山駅(左下)。山陽本線をまたぐ宇野線の単線ルートを快速「マリンライナー」が走る

 

【宇野線の旅④】宇野まで大きく迂回して走った理由は?

宇野線の単線区間は、まず山陽本線を高架橋で立体交差し、その後山陽新幹線の路線をくぐり高架線を走る。岡山市街を走る途中からようやく複線となり最初の駅の大元駅へ到着。この先も複線が続くのかなと思っていると再び単線区間へ入る。こうした複線区間と単線区間の繰り返しが茶屋町駅まで続く。走る列車が途中で信号待ちして、すれ違う列車を待つということも同線では珍しくない。

 

ここでちょっと寄り道。宇野線は連絡船が出港する宇野を目指して明治期に路線が計画された。地図を見ると疑問に感じるのだが、岡山駅から宇野を直接目指した路線にしては、西へ大きく迂回して走っていることが分かる。今でこそ瀬戸大橋へのアクセス線としては相応しいルートなのだが、宇野を目指したルートとしては遠回りになる。

 

これには理由があった。計画時、岡山市街の南に広がる児島湾は現在よりもずっと西へ入り込んでいたのである。そのため宇野線の線路敷設も西へ回り込むしかなかった。この児島湾は古くは奈良時代から干拓の歴史が始まる(後述)が、明治期に干拓事業が本格化、太平洋戦争をはさみ1956(昭和31)年に干拓事業が終了している。本稿でも最初に掲載した地図で、明治期の海岸線を記したが、明治時代の海岸線は宇野線の路線ぎりぎりまで入り込んでいたことが分かる。

 

このルートでは当然、時間も余計にかかるわけで、太平洋戦争後には短絡線の計画も持ち上がった。現在、国道30号が児島湾を突っ切って走るように、宇野線も児島湾を横切って走らせようとしたのである。具体的には岡山臨港鉄道の路線を活用し、児島湾締切堤防に沿って走る計画まで具体化された。実際に鉄道線用のスペースが現在も残っているそうだ。

 

ところが、この短絡線計画は頓挫してしまう。その理由は伝えられていないが、予算面での問題が浮上したのであろう。瀬戸大橋の計画は具体化する前だったが、結局、短絡線に切り替わらず児島湾を遠回りするルートのままとなったことが、後の瀬戸大橋線の開通に役立ったわけだ。

↑岡山から南へ敷かれていた岡山臨港鉄道(廃線)を活用して短絡線を造る案があった。写真は旧岡南新保(こうなんしんほ)駅跡

 

【宇野線の旅⑤】複線&単線区間、高架区間と複雑な路線が続く

予算面での問題は、実は複線と単線区間が入り交じる岡山駅〜茶屋町駅間でも起こっている。前述した大元駅付近では複線だったが、再び単線区間となり備前西市駅付近で複線となる。備前西市駅を通り過ぎると単線に戻り、妹尾駅(せのおえき)付近でまた複線になる。このように代わる代わる単線、複線区間が続いている。

↑備中箕島駅付近は単線区間が続く。この南側、早島駅〜久々原駅間でようやく複線区間が続くようになる

 

実は過去に岡山駅〜茶屋町駅間の複線化事業が具体化した時があった。2003(平成15)年には複線化を進めるために「瀬戸大橋高速鉄道保有株式会社」という第三セクター方式の会社まで設立された。複線化を推し進め、曲線改良工事の実施が計画された。会社設立には国と岡山県、香川県、愛媛県とJR西日本が関わったが、関係する自治体の温度差があったとされる。

 

香川県、愛媛県は列車の運行をスムーズにし、本数も増やしたい思惑が強かった。ところが岡山県側は、沿線住民の通勤・通学の足がより快適になれば良いわけで、最終的に事業費が削減され、早島駅付近の複線化を進めたのみで事業は終了してしまった。その結果、早島駅等での列車待ちは減少したものの、瀬戸大橋線を通過する特急や快速列車の所要時間が1〜2分短縮されたのみだったそうである。

↑早島駅付近の複線区間を走る8600系。早島駅付近は複線区間が続くものの曲線区間が連なる

 

こうした結果を見ると、各自治体の思惑が入り交じる公共事業は難しいことが良く分かる。また資金を投じても結果が現れにくいようだ。つい最近も西九州新幹線開業で佐賀県と長崎県の温度差が感じられるように、どの時代どの場所でも起こる問題なのだろう。

 

宇野線を南下すると岡山市街の街並みが途切れ、周囲に水田風景が広がり始める。早島駅、久々原駅(くぐはらえき)といった駅を過ぎると間もなく、本四備讃線と宇野線の分岐駅、茶屋町駅に到着する。

 

【宇野線の旅⑥】本四備讃線と離れローカル色が強まる

さまざまな車両が走り賑やかだった茶屋町駅までの区間だが、茶屋町駅の先は一転してローカル色が強まる。

 

前述したように岡山駅から宇野駅への直通列車は日中にほぼなく、茶屋町駅での乗換えが必要となる。岡山駅からの列車は4番線、また児島・四国方面からの列車は1番線に到着する。ドアが開いた向かいに宇野駅行き列車が停っていて、2番・3番線の両側のドアから乗車が可能な駅の造りになっている。

↑高架駅の茶屋町駅で宇野駅行への乗換えが必要。ホームには宇野への乗換えはこちらと分かりやすく表示される(左下)

 

訪れた日に乗車したのは115系の3両編成だった。乗車率はそれほど高くはなかったものの、訪日外国人の姿がちらほら見られた。宇野駅から上り列車にも乗車したが、地元の高校生たちの乗車が目立ち、ローカル線としては利用する人が多い路線のように見うけられた。

 

高松行、岡山行の両列車からの乗り換え客が乗車し、宇野行列車が発車。しばらくは本四備讃線の高架線を走ったのち、倉敷川を渡った先で分岐して高架を下りていく。高架をくぐり東へ向かうと、進行方向の左手には旧児島湾の干拓地が広がり、右手には小高い山が連なる。この山の麓を縁取るように列車は走っていく。前述したように、この沿線左側にはかつて海岸線がつらなっていたが、今は児島湾の湾岸ははるか先で、長い年月をかけて築かれた干拓平野が目の前に広がっている。

↑本四備讃線(瀬戸大橋線)の高架下を走る宇野駅〜茶屋町駅間を走る普通列車。この左側で線路は本四備讃線に合流する

 

ローカル色の強い宇野線区間に入って気がついたのは、多くの駅のホームが長いということだ。現在は2〜3両の列車ばかりで、持て余し気味の長さだ。つまり、宇高連絡船が使われた時代に造られたホームがそのまま残り使われているわけだ。栄光の時代を偲ばせる宇野線の各駅でもある。

 

【宇野線の旅⑦】かつて島だった山を越えて終点の宇野駅へ

茶屋町駅の南側には小高い山々が連なり、また宇野線自体もこの山の麓を宇野へ向けて走っていく。今は児島半島と呼ばれる半島部になっているが、歴史をふり返ると、かつて児島半島は吉備児島(きびこじま)と呼ばれた島だったそうだ。

 

この吉備児島と本州の間は浅い海で隔てられていて、奈良時代から少しずつ干拓が進められた。さらに室町後期になると大規模な干拓が行われるようになり、江戸時代には本州側と陸地がつながった。

 

宇野線が走る多くの区間はかつて海だった。茶屋町駅の南側には小高い山が連なって見えていたが、ここは吉備児島という島の中心部だったわけだ。平野が広がるエリアのすぐ南側に山が連なり不思議に感じたが、かつての島がこの変化に富む地形を生み出していたのだ。

↑宇野駅のある地区は昔、吉備児島と呼ばれる島だったとされる。駅の北は小高い山々が取り囲んでいる

 

児島湾側の最後の駅、八浜駅(はちはまえき)を過ぎると宇野線は右カーブを描いて山中へ。そして峠をトンネルで抜けると宇野の市街が進行方向左手に広がり始める。茶屋町駅からは約30分で終点の宇野駅に到着した。

↑カーブした路線に長いホームが残る宇野駅。駅舎は観光列車「ラ・マル・ド・ボァ」のデザインに合わせた白地に黒ライン入り(右下)

 

宇野駅は現在、海岸からやや内陸側に設けられているが、この駅は1994(平成6)年に移転した新しい駅だ。宇高連絡船が運航されていたころには100mほど港側に駅があり、東京・大阪方面からの直通列車が頻繁に発着していた。

 

引込線も多く、連絡船へのアクセス駅だったころは発着する列車に加えて貨物列車の入換えも行われていたとされる。しかし、いまではそんな華やかさはすっかり消え去り、駅前には大手家電店などの建物が立つ他の都市の駅前と同じ趣となっている。ホームは1本のみで1・2番線から茶屋町駅行、岡山駅行が折り返していく。

 

【宇野線の旅⑧】僅かに残る連絡船の遺構が寂寥感を誘う

宇野駅がやや北側に移動したこともあり、宇野港のフェリー乗り場、旅客船乗り場へは約400mの距離がある。散策にはちょうどよい距離なので、波止場まで歩いてみた。列車の発着にあわせてちょうど直島行、高松行フェリーが出港するところだった。

 

宇野線の列車に訪日外国人の姿がちらほら見られたのは、宇野港から直島へフェリーを利用して渡るためだったのだろう。直島は現代アートが楽しめる島として人気があり、島内に複数の美術館がある。宇野港から直島までは片道約20分と近く、運賃も片道300円と手ごろだ。

↑宇野港を出港する四国汽船新造船の「あさひ」。乗り場を離岸すると意外に早く沖合に出ていった。直島までは約20分と近い

 

直島行のフェリーを見送ったあと、港内をぶらぶら巡る。宇高連絡船の歴史につながる遺構を探していると、駐車場内にコンクリート製の大きな固まりがぽつんと残されていた。連絡船の発着に使われた埠頭の一部、連絡船の係留箇所だったところだ。

 

案内板には当時の写真付きで「宇高連絡船の遺構」という解説が記されていた。しかし、案内板は立てられてだいぶ経つせいなのかすっかり色あせていた。ここから宇高連絡船が出ていた歴史を知る人も徐々に減り、関心を寄せる人もあまりいないのかもしれない。

 

宇高連絡船が消えて早くも35年、宇野線は残されたものの、旅の終わりにこうした現実を知って、やや寂しい気持ちになったのだった。

↑宇野港を望む駐車場内に宇高連絡船の係留箇所が残る。案内板(左上)が立つが、掲載した写真や文字が色あせて読みづらくなっていた

新潟の地場企業がなぜ?「重機の世界大会」に2大会連続で決勝進出した田中産業の技術の源

建設機械世界大手のキャタピラー社が主催する重機オペレータの世界大会「キャタピラー グローバル オペレータ チャレンジ」というものがある。世界各国から5000人以上が参加し、重機の腕を競うというものだ。2022/2023大会は、3月14日にラスベガスで決勝戦が開催され、9名のオペレータがテクニックを競い合った。

 

実は、その大会に2回連続で出場している日本企業がある。新潟県上越市を中心に総合建設業を営む田中産業だ。設備や実績が充実した大手のゼネコンではなく、地場の企業が世界を相手に技術力を披露できるのはなぜか? 前回の記事では、世界大会に出場した今井雅人さんの超絶スキルを紹介したが、本稿ではその理由に迫っていきたい。

 

↑新潟県上越市にある田中産業の本社

 

重機200台保有は国内トップクラス

田中産業のルーツは1961年。創業者である田中利之氏が田中産業を法人化し、土木、重機施工などの技術力を活かしガス田の開発に着手。その後、新潟県を代表するサブコンとして地元のインフラ整備を担う企業へと成長を遂げている。

 

同社は創業以来、「地域社会に貢献する」を会社の理念に掲げ、建築、土木・舗装、骨材生産、農業の4事業を柱として地元に根付いた企業として社会貢献を果たす。直近では上越と魚沼を結ぶ新たな地域高規格道路、通称『上沼道』の工事にも多数関わっている。なお、この道路は「命の道路」とも呼ばれ、孤立している山間地と都心部を繋ぐ重要な役割を担う。また、関越自動車道へもアクセスできる道路としても注目を集めている。

 

田中産業が特徴的なのは、キャタピラー社との協力により200機もの重機を自社で保有する点だ。これは国内トップクラスの台数だという。拠点となる上越市は豪雪地帯ということもあり、特に除雪車に関しては70台を保有。冬季には総延長150kmに及ぶ除雪作業を行っている。

 

↑田中産業が保有する重機の一部

 

保有する重機の台数が多ければ多いほど、各種管理やメンテナンス費用、それに伴う人件費が嵩んでいく。なぜ200機もの重機を保有するのかという問いに対して、田中産業の回答は極めてシンプルだ。

 

「自社で重機を所有することで万が一の場合にはすぐに駆けつけ、人々の安全を守ることができるからです」(常務取締役 田中朗之氏)。

 

↑田中産業 常務取締役 田中朗之氏。同氏は「キャタピラー グローバル オペレータ チャレンジ」の応援団長でもある

 

社会的な役割を担い、地域に貢献するーー実直な企業姿勢が伝わってくるが、この「重機を数多く保有していること」が世界に対峙できるテクニックを産み出すきっかけにもなっている。

 

数ミリ単位の操作精度を磨く

多数の重機を所有していても、それらを迅速かつ正確に操作できなければ宝の持ち腐れだ。そのため、同社ではオペレータの育成にも力を注ぐ。今回の「キャタピラー グローバル オペレータ チャレンジ2022/2023」への参加も、その取り組みのひとつという位置付けだ。

↑キャタピラージャパンのサイトより

 

同社が使用するキャタピラー社の重機はGPSとの連動による情報化システム「ICT」を搭載し、機械管理から施工管理、生産管理、安全管理の一元化を可能とする。モニター画面を確認することで重機からオペレータが降りて状況を目視することもなくなり、安全に作業を進めることができるのだ。

 

ただし、重機を操るのはあくまでも「人間」であり、施工の品質を向上させるには高度な操縦テクニックを持つオペレータが不可欠。同社では重機のスキル講習を継続的に行っているほか、業務時間外でも実践的な操作が行える仕組みを設けている。今回、世界大会に出場したICT施工部 部長 今井雅人さんも、通常業務後に重機に触れる時間をなるべく多く作り、スキルを磨くことがルーティンになっているという。

 

また、上越ならではの事情も田中産業のオペレータの操作技術向上に寄与している。

 

「新潟県の上越地区は地盤が軟弱で、粘土質という土質の影響もあり重機の操作には独特の難しさがあります。また、冬は積雪の影響を受けてしまうため、工事ができる期間が短くなる。短い工事期間に効率良く作業を進め、工期を短縮できるかはオペレータの裁量にかかってくるので責任は重大です」(ICT施工部 部長 今井雅人さん)

 

↑世界大会前にメディア向けに開催されたデモンストレーションの様子。移動式クレーンでポールを筒に差し込んでいる様子でミリ単位の精度が要求される

 

こうした日々の積み重ねと地域特性によって、2人のアジアチャンピオンを生み出し、2大会連続の世界大会の進出を実現。日本の技術力の高さを世界に知らしめたのである。

 

毎月コシヒカリ10kgを支給

田中産業でユニークな点がもうひとつある。手当のひとつとして、毎月コシヒカリ10kgを支給しているのだ。米どころの新潟を考えれば突飛な手当でもないが、その大元となる農業の取り組み方は本格的だ。

 

今年度の作付面積は約300ヘクタールで、世界基準の農業認証であるGLOBAL G.A.P.を取得。また、自動運転トラクター、営農支援アプリ、衛星データを活用した育成状況の確認なども積極的に導入し、スマート農業にチャレンジしている。

 

新潟県、上越市は農家の高齢化や米価格の下落、肥料や燃料の高騰を受け、廃業する農家も少なくないのが現実だ。その状況を打破するために廃業を決めた農地を譲り受け、新たな農業の指標として基幹産業を守っている。「米どころとしての誇り」を守ることが地域貢献となり、第一次産業における大きな可能性を生み出すことは間違いない。

 

なお、世界大会「キャタピラー グローバル オペレータ チャレンジ2022/2023」の結果は残念ながら優勝にはならなかった。しかし、地元に根付いた企業活動から研鑽される技術で、次回以降の優勝に期待したい。

ヘルメット着用が努力義務化。オシャレを邪魔しないヘルメットと自転車の交通ルール

2023年4月から、道路交通法の一部改正により、すべての年齢に対して自転車乗用中のヘルメット着用が努力義務化されることになりました。普段、何気なく乗っている自転車ですが、この機会にもう一度自転車の安全ルールを見直してみましょう。併せてヘルメットの最新事情も紹介。自転車ジャーナリストの遠藤まさ子さんに解説いただきました。

 

自転車は軽車両。クルマのルールに従うのが基本

「基本的に自転車はクルマと同じように考えましょう」と、遠藤さん。道路交通法上、自転車は軽車両と位置付けられているため、基本的な交通ルールについても、自動車と自転車はほぼ同じ視点で考えるといいのだそうです。

 

「車が左側通行であるのと同じように、自転車も車道左側を走るのが基本です。たまに進行方向右側の車道を逆走している自転車を見かけますが、大変危険です。また、信号や一時停止、一方通行などの標識も自動車用に従います。ただし、 “自転車は除く“ や ”含む自転車“ などと例外が書かれている場合があるので、注意して見て、従うようにしましょう」(遠藤まさ子さん、以下同)

 

【関連記事】電動キックボードは免許・ヘルメットなしでOK?「小型電動モビリティ」の法改正によるルールと可能性

 

これもNG!? 勘違いしやすい自転車ルール

具体的に自転車の基礎ルールをみていきましょう。

 

■ 自転車は基本的に歩道NG! 常に歩行者優先で

「歩道と車道の区別があるところでは自転車は車道を通行しなければいけません。自転車通行可という標識があったり、道路での走行が著しく危険だったり特別な理由を除いては、歩道を走ってはいけないことになっています(ただし、13歳未満と70歳以上、体の不自由な方を除く)。

 

やむをえず歩道を走るときは、歩行者優先で、歩道の車道側を徐行して走ってもよいとされていますが、自転車の徐行速度はおおむね時速7~8kmが目安なので、実際かなりゆっくりのスピードです。自転車はゆっくり走るとバランスを崩しやすいため、下りて押しながら歩くのがいいでしょう。自転車を押し歩いていると歩行者扱いとなります」

 

■ 横断歩道はラインを踏んだり横切ったりしない。信号は車用に従って

「横断歩道は歩行者のためにあるものですから、自転車は歩行者を邪魔してはいけません。ラインを踏んだり横切ったりしないようにしましょう。基本的に自転車は車道の左側を走っている状態ですから、わざわざ横断歩道に近づくのではなく、そのまま交差点を直進して結構です。また一般的な交差点(スクランブル交差点以外)を右折しようとする場合は、原付と同じように二段階右折をしなければならないので注意してください」

 

■ 一時停止や一方通行など、自動車の標識に従う

「自転車は車の一種とされているため、自動車の標識にも従うのが基本です。『とまれ』の道路表示や標識、『一方通行』の標識などは、『自転車は除く』の記載がない限り従ってください。特にうっかりしがちなのは、踏切の一時停止です。踏切の手前で一度止まって、安全確認してから渡ります。信号のない交差点はすべて一時停止して安全確認をするのが基本ですから、どうしたらよいか迷ったらまず止まった方が安心ですね」

 

■ イヤホン、ヘッドホンは片耳でもNG

「ワイヤレスのイヤホンはいつもつけっぱなし、という人もいるかもしれませんが、これは明確に使用が禁止されていて、片耳でも違反です。罰金は県によって違いますが、2~5万くらいのところもあります。自動車のルールで、踏み切りの警報機やパトカーのサイレンなどがしっかり聞こえるように、車内で音楽を大音量で聴いてはいけないことになっているのと同じことです。スマートホンも同じで、手に持たず、自転車のハンドルに固定していても、注視したり乗りながら操作したりすることは認められません。少しでも運転以外のことに神経が集中してしまう状態がダメ、ということですね」

 

■ ハンドルに大荷物をかけるのは歩道ではNG

「自転車のハンドルに荷物をかけて走るのはやめましょう、とよく言いますが、それは『荷物をかけてはいけません』という法律・規則ではありません。やむを得ない理由があるときは歩道を走ってもいいとお話しましたが、歩道を通行できる自転車自体にもきまりがあり、最大幅が60cm以内と決められています。自転車はだいたいハンドルの幅で60cmぎりぎりなので、そこに大きな荷物をかけたら60cmをはみ出してしまいます。絶対に車道しか走らない場合には法律違反にならないものの、ハンドルに荷物をかけるとふらつきの原因になってしまうので、おすすめできません。

 

傘も同様です。手に持って片手運転じゃなければいいでしょ? と言う人もいますが、ほとんどの自治体で傘差し運転自体が禁じられています。さらに言えば、さっきの荷物の例と同じで、傘は広げるとだいたい90cm以上の幅になるため、60cmの規定をオーバーしてしまいます。そもそも、法律がどうこうだけでなく、傘をさして自転車に乗ると風をすごく受けて走りにくく、危ないですし、歩行者に傘がささる危険性も高いので絶対にやめた方がいいですね」

 

■ 自転車のライトやリフレクターは、前は白系、後ろは赤

「夜間や夕暮れどき、自転車のライトはたとえ照明が多く明るい道でもきちんとつけてください。これは道路交通法で決められています。もし、買った自転車にライトがついていなかったとしても、あと付けのものを購入して必ずつけなくてはいけません。

 

ライトは単に明るければいい、目立つようにカラフルにすればいい、というものではありません。前は白やクリーム色くらいのもの、後ろは赤、という指定があります。ライトは自分が道を照らすために必要だと思っている人が結構いますが、そうではなく、あくまでも “ドライバーから認識されやすいため” 、 “自分の姿を見せるため” なんです。だから自分は道が見えているから大丈夫、ではないのです。

 

車のライトも、前は白、うしろは赤になっています。これをもし前後を逆につけてしまったら、ドライバーとしては “逆走している?” とか、 “バックしてきた?” と混乱してしまいます。ライトはLED式、点滅式、いずれもOKなのですが、色が重要です。ただし、後ろのライトに関してはレフレクター(反射板)でも構いません。車がライトを照らしたときに反射したり、反射同様の光を発したりする状態が大事というわけです。ちなみにペダルに取付けられているリフレクターは黄色いや琥珀色のことが多いですが、この色味については法律ではなく、BAAという自転車の安全基準で定められている内容になります」

 

自転車に乗るときは命を守るためにヘルメットを

今回の道路交通法の改正に伴い、4月から大人も自転車に乗るときはヘルメットの着用が義務化されます。罰則のない努力義務となりますが、今回の法律改正にはどのような背景があるのでしょうか。

 

「自転車によるヘルメットをかぶっているとき、かぶっていないときとでは事故のときの致死率が約1.6倍~2.6倍変わると警察から発表されています。ヘルメットをかぶらないで走ったら、死亡する確率がほぼ2倍高くなると考えたらいいかもしれません。自転車ってそんなにスピードが出ないから大丈夫、と思うかもしれませんが、実は速度が問題ではないのです。

 

自転車の事故で亡くなった方をみると、6~7割近くの人が脳挫傷などの頭のけががもとで亡くなっています。ですから、死亡事故を防ぐならまず頭を守って、というのはバイクと同様です。最近何件かあった高齢者が自転車に乗っているときに起きてしまった事故も、決してスピードを出していたわけではありませんでした。むしろ止まったりゆっくり走ったりしていたのにバランスを崩して横倒しになってしまい、道路に頭を打ち付けて亡くなるというケースも多いのです。自転車に乗っているときは、ふだんより頭の位置が高くなりますし、バランスを崩しやすいため、もし転倒してしまったとき、大切な頭部を守るためにヘルメットが必要なのです」

 

ヘルメットを選ぶときに気を付けた方がいいことは?

それではヘルメットを選ぶときは何に気をつけたらいいのでしょうか?

 

「日本にはSG規格という安全基準があります。ただ、国内ブランド以外でこの規格の認証を受けていない商品も多いため、その際は第三者機関の安全認証や欧米の安全基準(CE)に則ったものが安心です。なお、海外製のヘルメット選びのときに注意してほしいのですが、頭囲だけでなく頭の形も重要です。欧米人は縦に長くて、アジア人は横に丸い形をしているので、頭囲だけで選んでしまうと、サイズは合っているのにきつくて入らない、ということもよくあります。ですから、できれば試着してから買うのが安心です。

 

サイズ感自体は、ダイヤル式の調整機能がついていたり中のパットが取り外しできるものもあるので、緩すぎないものを選ぶといいでしょう。あごひもは指一本分隙間を残してしっかり締めるようにしてください」

 

人気は帽子タイプや丸形のシンプルなもの。おすすめヘルメット5選

最近のヘルメットは、街でかぶる帽子のように洋服にも合うデザインのものが人気です。また、BMXやスケートボードの選手がかぶっているようなコロンとしたシンプルな形のものも人気があります。ただ、これは穴が少ないものもあるので、蒸れが気になる場合は通気口がたくさん開いているものがおすすめです。最近のトレンドも踏まえ、遠藤さんにおすすめのヘルメットを紹介していただきました。

 

・バックリボンがポイントのエレガントなシルエット

↑写真提供=オージーケーカブト

 

オージーケーカブト「シクレ
9240円(税込)

広めのツバで日差しの気になるシーズンも安心。パターンにこだわった立体感のあるデザインとバックのリボンが上品です。夜間の走行にも安心のリフレクター素材も使われています。54〜57cm(350g)

 

・アウトドアにもぴったりなカジュアルなデザイン

↑写真提供=オージーケーカブト

 

オージーケーカブト「デイズ
9240円(税込)

アウトドアタイプのデザインで、広めのツバが日差し対策にも効果的。フチに仕込んだワイヤーで型のニュアンスを好みに応じて造れます。後ろにリフレクター素材も使用しています。54〜57cm未満(325g)

 

・スポーツタイプのタウン用ヘルメット。マットな色合いが個性的

↑写真提供=オージーケーカブト

 

オージーケーカブト「キャンバス・アーバン
7040円(税込)

通勤や街中での自転車移動に最適なバイザースタイルのアーバンヘルメットです。通気性がよく、フロントパッドの機能を兼ね備えたキャンバスバイザーを装着できます。後部と左右に大きなリフレクター付き。M / L(290g)

 

・人気のクラシックモデルを受け継ぐスタイリッシュなデザインが魅力

bern(YTS STORE)「BRENTWOOD 2.0
1万5400円(税込)

後頭部までしっかりカバーするデザインで、耐衝撃性に優れ、さらに快適な使い心地を実現。インナーはゴムを用いた伸縮可能素材を採用し、フィット感も抜群です。バイザーは取り外しが可能。M~L(345~390g)

 

・ヘアスタイルを選ばない快適なヘルメット

クミカ工業「ドルフィン
4950円(税込)

後頭部にヘア用の空間があり、束ねた髪のゴムのあたりの締め付けを軽減します。通気孔は前後のみに配置し雨の降込を最小限に。額部分は取り外して水洗いできて清潔です。あご紐はワンタッチでサイズ調整可能。S-M(約430g)、M-L(約460g)

 

自転車に乗るときにヘルメットをかぶるのは、義務ではなく、自分の命を守るために必要だから。自転車ルールを守って、安全で快適に自転車を利用したいですね。

 

プロフィール

自転車の安全利用促進委員会メンバー / 遠藤まさ子

自転車業界新聞の記者や自転車専門誌の編集などを経てフリーランスへ。自転車のルールや製品情報などに精通し、自転車の安全な利用方法や楽しみ方を各種メディアで紹介している。
自転車の安全利用促進委員会 HP

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

5000人以上が出場する「重機の世界大会」で日本人唯一のファイナリストになった男の卓越スキル

「キャタピラー グローバル オペレータ チャレンジ」という重機を使った世界大会が開催されているのをご存知だろうか? 建設機械世界大手のキャタピラー社が主催する競技会で、世界各国から重機のオペレーションに長けた5000人以上が参加するこの大会に、日本企業そして日本人として唯一参加した男がいる。新潟県に拠点を構える田中産業の今井雅人さんだ。

今井雅人さん。田中産業 ICT施工部 部長。高校卒業後、19歳から土木・建築業界へと身を置き、2003年に田中産業へと入社。重機オペレータとしてのキャリアは20年を越える

 

日本地区予選、アジア・パシフィック大会を制し、アメリカはラスベガスで開催される世界大会へと駒を進めたのである。3月14日に行われた大会では残念ながら優勝を飾ることはできなかったが、善戦。GetNavi webでは世界大会前に、今井さんに話を聞く機会を得ていた。本稿では、同氏の操作技術を写真や動画で紹介。卓越した操作技術の背景にある、新潟県ならではの事情も解説していこう。

 

今井さんは現在、ICT施工部の部長として配車、人員の配置などの事務作業で手腕を振るう一方、自らも積極的に現場へと出向き重機のオペレーションを行っている。プレイングマネジャー的なポジショニングだ。通常業務の後、前大会の日本チャンピオンでもある同僚の原田さんと共に練習。とにかく重機に触れ、操作時間を作ることを心掛けているという。

 

そう、田中産業では、前回の2020年大会でもアジア太平洋チームの代表として、同社の原田洋之さんが世界大会に出場。2大会連続で出場している背景のひとつとして新潟県の特性があることを教えてくれた。

 

「新潟県の上越地区は地盤が軟弱で、粘土質という土質の影響もあり、重機の操作には独特の難しさがあります。また、冬は積雪の影響を受けてしまうため、工事ができる期間が短くなります。短い工事期間に効率良く作業を進め、工期を短縮できるかはオペレータの裁量にかかってくるので責任は重大です。しかし、この厳しい地域特性がオペレータの操作技術を向上させる絶好の機会になっていることは間違いありません」(今井さん)

 

そんな背景にまず触れたところで、早速今井さんのスキルを見ていただこう。

【その1】地面と平行をキープしたままバーを動かす

赤いカラーコーンにセットされたトラバー(黄色と黒の棒)を持ち上げて、そのまま90度重機を回転させ、用意された台座に移動し見事にセット。一見地味に見えるかもしれないが、地面との並行を保ったまま、重機で軽量なバーを動かすのは微細な操作が必要だという。

 

【その2】重機は“優しく添えるだけ”のボール入れ

赤いカラーコーンに載せられたバスケットボールをキャタピラー社の油圧ショベル(303CR)で拾って、ボールの直径より一回りほどの大きさしかない缶に見事にゴール。

 

【その3】重機版・針の穴に糸を通す

最後はフラッグ用のポールを持ち上げて、直径40mmの筒に差し込むというもの。会場が屋外ということもあり風の影響を大きく受けることになる。しかし、今井さんは風を読みながら見事にクリア。

 

今井さんの操縦技術はどれも繊細かつ緻密で、操作レバーをミリ単位で操る技術に取材陣が驚きの声を上げていた。その技術はさすがチャンピオンと納得させられるものであった。

 

日本のインフラを支える優れた技術をアピール

この取材の数日後、今井さんはアメリカへと旅立ち世界大会の舞台に立った。今回の決勝大会は世界各国から勝ち上がった9名で争われ、今井さんはそのひとりとして3つの課題に挑戦したのである。CAT950ホイールローダでのフォークローダ・チャレンジ、CAT420XEでのバックホウサービスなど、各タスクの最短タイムを競い合った。

 

結果から報告すると、優勝を果たしたのはオーストラリア代表のパトリック・ドヒニーさん。残念ながら今井さんは優勝の夢を叶えることはできなかったものの、日本人ならではの繊細なオペレーションで会場を大いに沸かせた。そして、大会を終えた今井さんから「挑戦することの大切さを学ばせていただきました」とコメントを頂いた。

 

世界の頂点に手は届かなかったものの、決勝という舞台で戦った今井さん。その誇りと功績は日本の重機オペレーションにとって新たなる扉を開いたことは間違いない。世界に通用する優れた技術力は日本のインフラを支える縁の下の力持ちであり、これからの未来を担う頼もしい存在であり続けるはずだ。

 

なお、最後に取材メモとして、今井さんに当日伺ったQ&Aを記しておく。大会前の意気込みコメントのため鮮度としては古くなってしまっているが、数ミリ単位で重機を動かすコツだったりなど、今井さんだから見える他の人のクセだったりを語ってくれて非常に興味深い。

 

Q:世界大会ではどのような項目を競い合うのですか?

A:基本的に大会は3つの種目で競うことは分かっていますが、詳細はシークレットにされています。ですから、ぶっつけ本番…の要素が大きいですね。でも、前回の大会や各国で行われた大会の模様をYouTubeなどを見て研究し、傾向と対策を練っています。この大会は競技時間+ペナルティ(時間換算)のトータル時間として競い合うので、どれだけ正確に、どれだけ素早く操作するのがポイント。操作の正確性はもちろんですが、焦らずに立ち向かう“強い気持ち”を持つことも優勝には欠かせないと思っています。

 

Q:今井さんが得意とする操作はありますか?

A:最近のキャタピラーの重機は最新のICTを搭載しているので、機種による得意や不得意の差はあまり出なくなっています。私の場合、どちらかといえばレバーの操作が得意になるのかと思います。レバーを操作する指先に感じる抵抗の大きさで、今、どれくらい油圧が掛かっているのかを感じ取りながら操るのが好きですね。レバーから感じる微妙な指先への抵抗が分かるようになると、重機をミリやセンチ単位で動かせるようになるんです。

 

Q:この大会に参加することで得られた知見はありますか?

A:「キャタピラー グローバル オペレータ チャレンジ2022/2023」への挑戦によって、自分自身の成長を促し、技術力を向上させたいという強い気持ちが芽生えたことです。日常の作業を行う時にも「安全」を優先しながらも、高い技術力を目指すことを心掛ける。その積み重ねが作業の効率化やスピーディな操作へと繋がると考えています。

 

世界にはたくさんのオペレータが存在し、そのなかには優れた技能を習得した人たちがいます。日本大会、アジア大会で出逢ったオペレータたちにはそれぞれの操作にクセがあり、色々なアプローチ方法があることに驚かされました。操作の方法に正解はなく、状況に合わせて安全かつ迅速に重機を操る。良い部分は取り入れ、自分のスキルアップに繋げることができました。そんな猛者が集まる世界大会で自分の技術がどこまで通用するのかという不安はありますが、ワクワクする気持ちも存在します。大会に参加することで芽生えた向上心は、これからの仕事にも大きく影響すると思っています。

 

Q:世界大会に向けて心掛けていることはありますか?

A:世界大会に選ばれたオペレータたちは最高峰の技術力を持った人たちばかりですから、その中で自分自身の技をしっかりと披露するために平常心で臨みたい。ラスベガスという会場の雰囲気に呑まれないよう、落ち着いてチャレンジしたいと思います。今回は日本から応援団が来てくれる予定なので、自分の持てる力を100%出し切って優勝を目指します。

 

【記事ギャラリー】

 

撮影/中田 悟

新型「ルノー カングー」は観音だし広くなったし静かだしココロオドルぜぃ!

ルノー・ジャポンは、広大な室内空間と豊富なユーティリティ、そしてひと目でカングーとわかるデザインが特徴の「ルノー カングー」をフルモデルチェンジ。すでに全国のルノー正規販売店で販売をスタートしています。

 

新型カングーはもともと広かった室内空間がさらに広がり、2種類のパワートレーン、先進の運転・駐車支援システムを採用。「LUDOSPACE(ルドスパス)=遊びの空間」が「もっと遊べる空間」へと進化しています。

 

大きく進化したポイントを紹介!

【その1】快適で楽しい時間を過ごすためのインテリア

形状が見直されたフロントシートは一回り大きくなり、サポート性も向上しています。3座独立タイプ、6:4分割式リアシートには、大人3人がしっかりと乗車することが可能。

 

さらに新型カングーでは、静粛性が大きく向上しています。ダッシュボードには3層構造の防音材を使用し、エンジンルーム、前後サイドドアにも防音材を追加。全ての窓ガラスの厚みも増しました。この結果、可聴音声周波数が10%向上し、室内での会話が聞き取りやすくなっています。室内での会話が弾むこともカングーの特徴ですから、この点は嬉しいポイント。

 

【その2】たくさん積めて、自在に使える

新型カングーのボディサイズは、全長が4490ミリ、全幅が1860ミリ、全高が1810ミリと、前モデルに比べて全長が210ミリ長く、全幅が30ミリ大きくなりました。ホイールベースは2715ミリと前モデルに比べて15ミリ長くなりました。最小回転半径は5.3メートルです。

 

この大きくなった全長によって、荷室の床面長も通常時で1020ミリ(前モデル比+100ミリ)、後席を折りたたむと1880 ミリ(+80ミリ)と拡大。これに伴い荷室容量は通常時で775リッター(前モデル比 +115リッター)、後席を折りたたむと2800 リッター(前モデル比+132リッター)に、荷室の積載量が大きく増えました。

 

数字が並びましたが、端的に言うと、たくさん荷物を乗せられて、居住空間も広くなってもっと快適になっています。

 

【その3】直噴ガソリンターボとディーゼルエンジンの2タイプ

搭載されるエンジンは、新たに1.3リッター直噴ガソリンターボエンジンと1.5リッターディーゼルターボエンジンがラインナップされ、好みに合わせて選ぶことができます。1.3リッター直噴ガソリンターボエンジンは、1600rpmの低回転から240N・mの最大トルクを生み出し、最高出力131PS/5000rpmを発揮します。

 

一方の1.5リッターディーゼルターボエンジンは、最高出力116PS/3750rpm、最大トルク270N・m/1750rpmを発揮します。どちらのエンジンも、組み合わされるトランスミッションは高効率な電子制御7速AT(7EDC)です。

 

ドライブを安心して楽しめるよう、アダプティブクルーズコントロール、レーンセンタリングアシスト、アクティブエマージェンシーブレーキ。そして、日本導入モデルでは初となるエマージェンシーレーンキープアシスト、ブラインドスポットインターベンションなどの先進の運転・駐車支援システムが、数多く装備されま した。

 

特別仕様車で心躍る!

新型カングーの発売を記念し、ルノー カングー クレアティフの特別仕様車 ルノー カンクグー プルミエール エディションを同時に販売。ルノー カングー プルミエール エディションは、 ルノー カングー クレアティフには設定のないボディカラーのブラウン テラコッタ M、グリ ハイランド M、 ブルー ソーダライト M にペイントされた、特別なモデルです。

 

■ガソリンモデル

ルノー カングー インテンス 395万円(税込)

ルノー カングー クレアティフ 395万円(税込)

ルノー カングー ゼン(受注生産車) 384万円(税込)

ルノー カングー プルミエール エディション(特別仕様車) 400万5000円(税込)

 

■ディーゼルモデル

ルノー カングー インテンス 419万円(税込)

ルノー カングー クレアティフ 419万円(税込)

ルノー カングー プルミエール エディション(特別仕様車)  424万5000円(税込)

 

新型カングーで何と言っても嬉しいのは、観音式のバッグドアが新型にも採用になっている点。本国フランスの乗用モデルはハッチバック式になっており、商用モデルのみに搭載されており、日本だけのスペシャルな使用になっています。

 

また、黒のバンパーも本国では商用モデルのみの設定となっているので、従来モデルのカングーに惹かれていた人は引き続き購入できる内容になっています。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

阿武隈川流域の美しさ&険しさ魅力をたっぷり味わう「阿武隈急行」の旅

おもしろローカル線の旅111〜〜阿武隈急行・阿武隈急行線(福島県・宮城県)〜〜

 

起点は東北新幹線の福島駅がアクセスが良く、気軽に〝秘境線〟気分が味わえる阿武隈急行線。春は車窓から花々や吾妻連峰を眺め、秋は赤いリンゴが実る風景を走り抜ける。やや無骨な面持ちの電車に揺られ福島から宮城へ美景探訪とともに、意外な歴史に触れる旅を楽しんだ。

*2014(平成26)年8月3日〜2023(令和5)年2月26日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
奥州三名湯・飯坂温泉へ走る福島交通の「いい電」10の秘密

 

【阿武隈の旅①】かつて軌道線が走っていた福島県・宮城県沿線

まずは大正期の絵葉書を見ていただきたい。こちらは福島駅前の大通りの様子だ。絵葉書には写真撮影を見にきた子どもたちとともに、道の真ん中をのんびり走る路面電車が写り込んでいる。

↑「本町十字路通りより大町方面を望む」と記された古い絵葉書。現在の福島市街とはかなり様子が違う

 

阿武隈線沿線にはかつて、福島交通飯坂東線、福島交通保原線(ほばらせん)、福島交通梁川線(やながわせん)といった路面電車の路線網が張り巡らされていた。しかし、モータリゼーションの高まりとともに、それらの軌道線は1971(昭和46)年4月12日に一斉に廃止されてしまう。

 

一方、宮城県側では1968(昭和43)年に国鉄丸森線が造られたが、終点の丸森駅が町の中心から離れていたことから、開業後も利用者が伸びなかった。丸森線は福島まで路線を延ばす工事が続けられ、東北本線と接続する矢野目信号場まであと一歩という箇所まで工事が進んだが、国鉄の財政がひっ迫し、国鉄は同線を開通させても黒字化は無理と判断、工事を中断させた。

 

戦前には福島交通の軌道線が多く走っていたこともあり、地元の人たちの鉄道への思いは強かったようだ。せっかく工事が進んだのだからと、結局、福島県、宮城県と地元企業が出資。こうして第三セクター鉄道の阿武隈急行線ができ上がったのだった。

 

ちなみに同線の主要な株主は福島県、宮城県、福島交通とされる。路線開業まで福島交通のバスが走っていた地域で、主要な株主になったのは補償の意味があるとされている。また福島交通の多くの社員も阿武隈急行へ移っている。阿武隈急行の福島駅ホームが福島交通と共同利用している理由の裏には、こうした〝近い関係〟もあったわけだ。

路線と距離 阿武隈急行・阿武隈急行線:福島駅〜槻木駅(つきのきえき)間54.9km(福島駅〜矢野目信号所間はJR東北本線を走行)、全線交流電化単線
開業 国鉄丸森線、槻木駅〜丸森駅間が1968(昭和43)4月1日に開業
福島駅〜丸森駅間が1988(昭和63)年7月1日に開業
駅数 24駅(起終点駅を含む)

 

【阿武隈の旅②】35年走り続けた車両から新型車両へ切り替え中

次に阿武隈急行を走る車両を見ておこう。長年、走り続けてきた車両に代わり新型車両が徐々に増えつつある。

 

◇8100形電車

↑丸森駅近くを走る8100形電車。側面の2つの扉は前方が片開き、連結器側が両開きと珍しい姿をしている

 

阿武隈急行が1988(昭和63)年から導入した交流型電車で、JR九州の713系電車を元に2両×9編成が造られ、現在も主力として活用されている。車内はセミクロスシートで、トイレも装備。2両の貫通幌部分はキノコのような形に大きく開き、乗降扉は両開き、片開きの両方があり、側面から見ると不思議な形をしている。

 

すでに導入されてから35年たち、搭載する機器類も古くなりつつあり、部品に事欠くようになったことから、古い編成を廃車して部品取り用に使うなどしている。そのため新型車AB900系の導入が急がれている。

 

◇AB900系

JR東日本のE721系を元に造られた車両で、2018(平成30)年度に1編成が導入され、徐々に増備され将来的には2両×10編成を導入する予定だ。

 

槻木駅の先、阿武隈急行線の列車は仙台駅まで1日に2往復乗り入れているが、東北本線乗入れ車両はJR東日本の車両と同形式のAB900系が使われることが多くなっているようだ。

 

ちなみに形式名の頭にABが付くのは「あぶ急」という阿武隈急行の通称から取ったもので、車両正面のアクセントカラーは編成ごとに異なり、沿線自治体の自然や花をテーマに5色が設定されている。またアニメキャラクターをラッピングした車両も走るようになっている。

↑AB900系のうち最初に導入されたAB-1編成と、後ろはAB-2編成。正面のアクセントカラーが編成ごとに変わる

 

【阿武隈の旅③】列車は福島交通と共通ホームから発車する

ここからは阿武隈急行線の旅を始めたい。起点となる阿武隈急行線の福島駅はJR福島駅の北東側に位置し、JR線構内側に設けられた連絡口と、福島駅東口側の通常口がある。東口の入口にはゲートが設けられ、上に「電車のりば」そして阿武隈急行線、福島交通飯坂線の名が掲げられている。

↑福島駅ホームに停車する阿武隈急行線の8100形と駅入口(左上)。阿武隈急行線用ホームはJR線側が使われている

 

ホームは1面2線で、何番線とは付けられず、改札口から入って左が阿武隈急行線、右が福島交通飯坂線となっている。なお交通系ICカードの利用はできない。

 

乗車する時にあまり気にしなかったが、飯坂線は直流電化、阿武隈急行線は交流電化されている。このように1つのホームで対向する電車の電化方式が違うというのは、国内でこの福島駅ホームだけだそうだ。電化方式が違うので、線路幅は同じだが、当然ながらお互いの線路に入線できない。

↑福島交通飯坂線の美術館図書館前駅までは、並走して線路が設けられる。JR線を走る阿武隈急行の電車と飯坂線がすれ違うことも

 

阿武隈急行の乗車券は福島駅の窓口および自販機で販売され、お得な「阿武急全線コロプラ★乗り放題切符」(大人2000円)も発売されている。曜日および日付によってはもっと安いフリー切符もある。

 

全線を通して走る列車はなく、途中の梁川駅(やながわえき)行、または富野駅行の列車に乗って乗継ぎが必要になる。列車本数は1時間に1〜2本とローカル線にしては多めだ。

 

【阿武隈の旅④】福島市内でまず阿武隈川橋梁を渡る

福島駅を出発した列車は東北本線の線路に入り北へ向けて走る。かつて国鉄が計画した路線だけに、今もその歴史を引き継ぎ、阿武隈急行線もJR東日本の一部区間を走っている。最初の駅、卸町駅(おろしまちえき)までは5.6kmと離れていて、東北本線から分岐する矢野目信号場の先に同駅がある。卸町駅から先、阿武隈急行線の沿線に入ると駅間が狭まり、各駅の距離は1km程度と短くなる。

 

JR東日本と共用する東北本線の区間には踏切があるが、1980年代に新しく生まれた路線ということもあり、阿武隈急行線に入ると踏切は旧丸森線の区間まで行かないとない(駅構内踏切を除く)。市街は高架線区間が多く、その先は交差する道路が線路をくぐるか陸橋で越えていく。

 

そんな踏切のない路線を快適に列車は走り、福島市の郊外線らしい沿線風景が続いていく。

↑福島市の郊外を流れる阿武隈川を渡る。その先の向瀬上駅周辺は5月上旬ともなると、リンゴの白い花が美しく咲きほこる(左下)

 

瀬野駅(せのうええき)を過ぎると間もなく阿武隈橋梁を渡る。福島県南部を水源にした一級河川で、水量が豊富だ。この阿武隈川橋梁を渡ると、次の向瀬上駅(むかいせのうええき)の駅周辺には丘陵部が連なり、リンゴ畑が広がる。

↑阿武隈橋梁を渡り向瀬上駅へ近づく富野駅行の列車。背景の吾妻連峰の雪が消えるのは意外に早い。写真は5月初旬の撮影

 

【阿武隈の旅⑤】福島市から伊達市へ郊外住宅地が続く

向瀬上駅までは福島市内の駅だが、丘陵を抜けるトンネルを過ぎると伊達市(だてし)へ入る。次の高子駅(たかこえき)付近は新しい住宅街として整備され、近年、福島市のベッドタウンとして賑わいをみせている。

↑伊達市内の大泉駅を発車する富野駅行列車。こちらの駅前にも住宅地が連なる

 

大泉駅付近からは少しずつ水田が連なるようになる。福島県の米の作付面積は全国6位で、特に福島市、伊達市がある中通り地方での米づくりが盛んだ。作付けされる品種はコシヒカリがトップで5割以上を占めている。

 

このあたりも踏切はなく、快調に列車は走る。そうした風景を見るうちに梁川駅へ到着する。駅に到着する前、進行方向右手に阿武隈急行線の車庫があるので、車両好きな方は注目していただきたい。

↑梁川駅(左上)に近い阿武隈急行の車両基地。8100形とともに右にAB900系が停められている

 

梁川駅でこの先の槻木駅方面への列車に接続することが多い。接続時間は1〜2分と非常に短く、便利なものの乗り遅れに注意したい。

 

【阿武隈の旅⑥】梁川は伊達家のふるさと

梁川駅の次の駅は、やながわ希望の森公園前駅で仮名書き16文字は全国で5番目の長さだ。駅に設けられた駅名標も通常の駅のものよりも横に長い。これだけ長いと覚えたり話すのも大変そうで、利用する人にとって不便なことがないのか心配してしまう。

 

やながわ希望の森公園前駅の近くに梁川城址がある。梁川城は鎌倉時代初期に生まれた城で、築城したのは戦国武将、伊達政宗を輩出した伊達氏である。元は関東武士だったが、奥州征伐の功績により源頼朝から伊達郡(現在の福島県北部)を賜り、伊達を名乗るようになった。

 

梁川城は伊達家が米沢へ本拠を移した後も重要な拠点として治められ、伊達政宗の初陣も梁川城を拠点にしたそうだ。

↑やながわ希望の森公園前駅の駅名標は横長だ(右上)。近くには伊達家ゆかりの施設が多い。写真は「政宗にぎわい広場」

 

興味深いのは梁川城の南側を広瀬川という川が流れていることだ。伊達政宗が生み出した仙台の町にも広瀬川が流れているが、場所がだいぶ離れているため同じ川の流れではない。偶然の一致か伊達氏が仙台に入って川の名前を命名したのか、今後の宿題にしたい謎である。

↑富野駅で福島駅方面へ折り返す列車も多い。この駅の先に県境があり、険しい区間となる

 

【阿武隈の旅⑦】県境の厳しさを体感する車窓風景

富野駅を発車、次の駅は兜駅(かぶとえき)だ。進行方向左手には阿武隈川が眼下に望める。福島市内で渡った阿武隈川と同じ川とは思えないぐらい両岸が切り立つような地形になりつつある。

 

兜駅を過ぎて、福島県と宮城県の県境部へ入っていく。そして阿武隈急行線では最も長い羽出庭(はでにわ)トンネル2281mに進入する。このトンネルを出るとすぐ宮城県の最初の駅、あぶくま駅に到着する。

 

あぶくま駅は近隣に民家もなく秘境駅の趣がある。川へ下りる遊歩道は川下り船の運航時(夏期など季節運航)の時以外、閉鎖されているのが残念だが、あぶくま駅前に天狗の宮産業伝承館があるので、有意義な時間を過ごすことができる。

↑羽出庭トンネルを抜けてあぶくま駅へ。県境越えの山道(左側)はかなり険しい

 

この県境部は阿武隈川の左岸(下流に向かって左側)を国道349号が通り右岸を阿武隈急行線が走っている。線路沿いに設けられた山道は狭く険しくカーブ道が続く。険しい川沿いを阿武隈急行線は複数のトンネルで通り抜ける。

 

トンネルが多い路線区間であるものの、近年の豪雨で大きな被害を受け、特に2019(令和元)年10月12日「令和元年東日本台風(台風19号)」の影響は大きかった。あぶくま駅ではホームが流失、駅に隣接する丸森フォレストラウンジ天狗の宮産業伝承館の建物も天井近くまで水が達したとされる。駅付近では線路に土砂が流入、一部で道床が流失してしまう。富野~丸森間は長期にわたり運転がストップし、ホームの再整備、阿武隈川川岸の壁面などの修復作業が行われ1年後の10月31日に全線運転再開を果たした。

↑あぶくま駅に隣接した天狗の宮産業伝承館。台風被害の時にはこの施設も上部まで水に浸ったという話を聞いた

 

筆者は路線復旧を遂げた1年後に、あぶくま駅に降りてみたが、はるか下を阿武隈川が流れ、駅のそばは渓流が流れるのみで、なぜ駅が大きな被害を受けたか想像が付かなかった。地元丸森町の雨量計では総雨量427mmで阿武隈川の水位は8m以上も上昇し、複数個所で氾濫、犠牲者も出している。今年の2月下旬に同線に乗車した時も、対岸の国道349号沿いで修復工事が続けられていた。豪雨災害というのはとてつもなく厳しいものだと感じる。

 

↑現在、夏期などに同船着き場から阿武隈川の川下り船が運行。河原は立入禁止で、川下り船運行の時のみ降りることができる

 

【阿武隈の旅⑧】急流域を抜けて平野が開ける丸森へ

兜駅からあぶくま駅、次の丸森駅にかけての12.3km間は進行方向左側に注目したい。眼下に阿武隈川が流れ、四季を通じて素晴らしい景観が楽しめる。険しい風景を見せていた阿武隈川を橋梁で渡ると丸森駅も近い。このあたりまで走ってくると険しさも薄れ、駅周辺には平野部も広がるようになる。

↑丸森駅構内に進入する下り列車。後ろには山々が望める。この険しい山の麓を阿武隈川が流れている

 

丸森町は阿武隈川の川港として町が形成された。阿武隈川の南側が町の中心部で豪商屋敷などの古い家並みが残り、歴史散歩が楽しめる。阿武隈川ラインの舟下りの拠点も川沿いに設けられる。町の中心部が阿武隈急行線の丸森駅から約2.5kmと離れているのが残念だが、丸森町は阿武隈川と縁が深い町なのである。

↑1968(昭和43)年に誕生した丸森駅(左上)。槻木駅発、丸森駅止まりという列車も日中の時間帯は多い

 

【阿武隈の旅⑨】国鉄が戦後に整備した旧丸森線の沿線

丸森駅からは1960年代に整備された旧国鉄丸森線の区間となる。次の北丸森駅から先は見渡す限りの水田地帯が広がるようになる。このあたりまでは、丸森駅構内などを除き踏切がない区間が続くが、南角田駅まで走ってきて初めて車が通る踏切が駅そばにある。

 

在来線では当たり前のように設けられる踏切だが、阿武隈急行線では非常に数が少なく、安全に配慮した路線であることが良く分かる。

↑ホーム1つの小さな南角田駅。御当地アニメラッピング電車がこの南角田駅を発車していった(左上)

 

南角田駅の次の角田駅は角田市の表玄関にあたる駅で、駅舎はオークプラザと名付けられている。駅の跨線橋などの窓は円形が多く「宇宙に拓かれた町の、未来的なフォルムの駅」という解説がされている。

 

実は角田市には宇宙開発機構角田宇宙センターがあり、ロケットの心臓部となるエンジンの開発を行っている。駅舎を未来的なフォルムにした理由もこうした施設があるためだったのだ。

 

【阿武隈の旅⑩】JR東北本線の中央の線路を走って終点駅へ

阿武隈急行線の旅も終盤にさしかかってきた。終点の槻木駅の手前が東船岡駅だ。船岡という地名で山本周五郎の小説『樅の木は残った』を思い出される方もいるかと思う。同小説の主人公、原田甲斐が居住した船岡城址跡(柴田町)がある町だ。原田甲斐は伊達家のお家騒動で身を張って逆臣となり藩を守るため働いたとされる。船岡城址はJR船岡駅が最寄りで東船岡駅からやや遠いものの、一度は訪れてみたい地でもある。東船岡駅の先で、東北本線と立体交差して並行に走り始めるが、東北本線の線路に入ることなく北上する。

↑東北本線の上り下り両線の間の線路が阿武隈急行線の専用路線となる

 

阿武隈川の支流、白石川を越えれば間もなく槻木駅へ。到着するのは2番線で、向かいの3番線からは仙台駅方面への列車が発着していて便利だ。途中での乗り継ぎはあったものの福島駅から槻木駅まで約1時間15分の道のり、乗って楽しめる〝阿武急〟だった。

↑終点、槻木駅2番線に到着した阿武隈急行線の列車。向かい側に仙台方面行の列車が停車して乗換えに便利だ

 

↑近代的な造りの槻木駅舎。土曜・休日には仙台駅発梁川行「ホリデー宮城おとぎ街道号」も運転される(右上)

 

鉄道好きのあの人が忘れられない本とは? 石破 茂、泉 麻人……などが語る鉄道本の名著~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。よく「包容力のある人」という言い方をしますが、鉄道ほど包容力のある存在もなかなかないでしょう。乗り鉄、撮り鉄、スジ鉄、車両鉄……それぞれの思いを受け止めてくれますし、それほど“鉄道オタク”でなくとも、車窓に旅情をそそられたり、駅舎での人との触れ合いに心温まったり、轟音を立てて力強く走る姿に圧倒されたり。“鉄”はいかようにも人の心を動かします。

 

私はというと、このレールがどこか別の場所にずっとつながっているという空間の連結性と、何十年も前から地域の人々の足であるという時間の連続性、そうした時空の結びつきに惹かれ、ファンタジー的な妄想が止みません。鉄道はエモーションの塊ですね。

 

鉄道好きが熱く語る鉄道関連本

さて、今回紹介する新書は忘れられない鉄道の本』(『鉄道ダイヤ情報』編集部・編/交通新聞社新書)。泉 麻人さん、石破 茂さん、久野 知美さん、屋鋪 要さん、前原 誠司さん……。鉄道好きの著名人や鉄道メディアで活躍する書き手など20名が、鉄道愛と思い出の鉄道関連本を語っています。

 

創刊50周年を超えた、JRグループ協力の月刊誌『鉄道ダイヤ情報』の企画で、自分で原稿を書く人もいれば、インタビューで鉄道への思い入れを披露する人もいて、それぞれ個性が出ています。鉄道愛を深めてくれたバイブルとは? 大いに気になりませんか。

『阿房列車』『真鶴』……鉄道本の魅力

最初に登場するのはコラムニストの泉 麻人さん。泉さんが愛するのはかつて東京を走っていた路面電車・都電。小学5年生だった1967年の師走に、銀座通りの都電など9路線が一気に廃止されたのが、都電に興味を抱くきっかけだったそうです。

 

挙げられている本は都電関連が多め。中学生のときに熟読したという随筆集『都電春秋』(野尻 泰彦・著/1969年)は、読ませる文章に加えて、各路線のどこでナイスショット写真が撮れるかの略地図がついていて、泉さんは撮影ポイントの手引にしたとか。少年時代に消えゆく都電に心掴まれたというのは、何気ない日常にノスタルジーを感じ取る泉さんのセンスですね。

 

政界きっての鉄道好きとして知られ、「乗り鉄」兼「呑み鉄」を自称している石破茂さんが挙げる一冊のなかには『阿房列車』シリーズ(内田百閒・著)がありました。このシリーズは私も通学の電車で読んだのを覚えています。

 

「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」というゆるい書き出しから、あっという間に内田百閒ワールドにハマってしまいます。同行する国鉄職員のあだ名「ヒマラヤ山系」君との噛み合わない掛け合いも、まったりとした時間が流れる旅情にマッチするのです。

 

紀行文ライターの蜂谷あす美さんが忘れられないのは『真鶴』(川上弘美・著/2006年)。この『真鶴』も“鉄旅”ファンにオススメしたい一冊です。日記に「真鶴」という単語を残して突然失踪した夫。その言葉に導かれるかのように、主人公の女性は電車で真鶴へ通う……。喪失感と再生の予感が漂う美しい幻想文学。蜂谷あす美さんが言う通り、日常とそうでない場所を結ぶ存在として鉄道がキーになる小説です。

 

登場する20名それぞれの鉄道への想いが明かされ、鉄道を透かして人となりも伝わってくるのが面白いところ。20の視点から多角的に鉄道の魅力にライトを当て、鉄道とは何かを浮かび上がらせる新書でもあります。もちろん紀行文、小説、写真集、マンガ……と鉄道関連の名著が満載。本書から気になった一冊を選んで、各駅停車に乗って読みふける、“読み鉄”の旅もいいかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

忘れられない鉄道の本

編:鉄道ダイヤ情報編集部
発行:交通新聞社

やはり、みんな本を読んでいた!政治家やアナウンサーほか、鉄道好きの著名人や鉄道メディアで活躍する人などに、「忘れられない、鉄道の本」をテーマに、ご自身のエピソードをまとめた一冊。インターネットやSNSが全盛時代と言いながら、やはり本の存在は大きいもの。本書に書かれているのは、手で覚える紙の感触があったからこその、貴重な人生訓集でもある。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

車載器がスシローの混み具合を教えてくれる!? パイオニア「NP1」大型アプデをレポ

パイオニアは2月27日、“会話するドライビングパートナー”「NP1」の4回目となる大型アップデートを実施しました。10万件を超える施設データと連携できるスポット情報を追加し、音声での案内や専用アプリ「My NP1」上での画像案内がより充実した形で案内されるようになりました。

↑“会話するドライビングパートナー”「NP1」の車内側。音声でのアシスタントが受けられるマイクやスピーカーも備わる

 

追加スポット情報は10万件以上。スシローの混雑状況もわかる

今回のアップデートで追加された施設データは、「JTB/JTBパブリッシング」「あきんどスシロー」「アクトインディ」が提供する3つのデータです。

↑最新アップデート終了後のメインメニュー。上から3番目の列に「るるぶトピック」「スシロートピック」「いこーよトピック」が追加された

 

JTB/JTBパブリッシングで提供されるのは、旅行ガイドで知られる「るるぶDATA」の全国4万3000件以上の観光情報と詳細な施設情報とデータ連携した「観光情報レコメンドサービス」です。観光地における推奨スポットやお店、周辺情報を「NP1」の音声やスマートフォンの「My NP1」アプリの画面を通じて、あらかじめ指定したカテゴリーに合わせて知らせてくれます。

↑ドライブトピック「るるぶトピック」の設定画面。紹介して欲しいジャンルをあらかじめ選んでおくことができる

 

提供される情報には画像も含めたPOI(Point of Interest:店舗や施設など地図上に表示するポイントを指す)情報が含まれており、目的地設定のほか、履歴を振り返って次のお出かけプランを作成するのに役立てることができます。

↑ドライブトピックには画像情報も含まれ、気に入った地点は後から検索しやすいようブックマークしておくことができる

 

あきんどスシローとの連携では、自車位置周辺の店舗情報やその店舗のキャンペーン情報を提供するものです。この機能でメリットが大きいと思われるのは、店舗の混雑情報がリアルタイムで確認できること。こうした最新の情報に基づいた情報が提供されるのは、通信機能を持つNP1ならではの機能といえ、効率的なドライブ計画にプラスとなることでしょう。

↑ドライブトピック「スシロートピック」。スシロー近くを訪れると、最新のキャンペーン情報やトリビアを紹介する

 

↑「スシロートピック」でキャンペーン情報を表示した画面

 

子ども向けファミリー向けイベント情報も充実

そして、特に子どもを持つ家族に役立ちそうなのが「アクトインディ」が手掛けるファミリー向けお出かけ情報サイト「いこーよ」との連携です。このサイトでは親子で平日にお出かけできる遊び場、連休や週末のファミリー向けのイベント情報が満載されており、そこにはおむつ替え台や授乳室、ベビーカー貸し出しの情報も含まれます。自車から半径1.5km圏内で子ども向けとして人気が高い施設情報を提供され、子どもへのサプライズとして役立つ可能性大です。

↑ドライブトピック「いこーよトピック」。あらかじめ登録した「いこーよ」アカウントと連携することも可能だ

 

これらのサービスは、普段使っている生活圏から離れて走行すると、自車位置周辺にあるおすすめスポットを提供するものです。自動的にNP1より音声と「My NP1」アプリによる画像を使って提供されるのはこれまでと同様。

↑NP1では音声案内と専用アプリ「My Np1」を組み合わせたルートガイドも行われる

 

また、パイオニアとJTB/JTBパブリッシングの3社は2月27日、観光DXの取り組みの一環として、2022年より熊本県阿蘇地域において観光DXに関する実証実験を実施してきていることも発表しました。「観光情報レコメンドサービス」はその知見を活かしたものとなり、今後は観光DXに向けた取り組みを通して、「NP1」から取得するユーザー行動情報を統計化、定量分析。これにより、旅行者の観光体験価値の向上や地域の活性化につながる新たなサービスやビジネスを創出することに役立てていく計画です。

 

音声での提案方法をより使いやすくすることも検討中

こうした中、アップデートが実施される直前の2月22日、アップデートのベータ版に試乗することができました。そこで開発者から聞くことができたのは、情報の提案を5分間隔に押さえたというものです。実は、これまで情報が多いエリアでは、案内される件数が多く、あらかじめ対象をカテゴリー別に絞り込んでもそれが煩わしく感じることもありました。そこで今回のアップデートに伴い、提供間隔を5分ごととしたのです。

↑最新アップデートしたNP1でデモ走行中。スポット情報を受信すると音声での告知と、スマホの「My NP1」では施設の画像情報が表示された

 

しかし、試乗してみると情報の提供はもっと短い間隔で行われています。5分ごとに絞り込まれているんじゃないのか? そう思い、開発者に訊ねると「5分ごとの間隔をおいているのはアプリごとであり、たとえばJTBの情報の後にアクトインディのスポット情報があった場合はその限りではない」とのこと。これにより、バランス良くスポット情報の提供が行われるとのことでした。

 

また、情報の読み上げは施設名からその詳細までを一気に読み上げられるのはこれまでと同じです。個人的には「それが煩わしさを感じさせる要因となっているのではないか?」と思い、開発者に質問すると「実はそのプランも構想に入っており、それを反映できるよう検討していきたい」と回答してくれました。こうした使い勝手の部分にも通信によって更新ができていくのもNP1ならではのメリットなのです。今後に期待したいですね。

 

“会話するドライビングパートナー”「NP1」は、通信型ドライブレコーダー、スマート音声ナビ、車内Wi-Fiなど多彩な機能を一つのボディに搭載したAI搭載通信型オールインワン車載器として、2022年3月に発売されました。通信によるアップデートにより、ユーザーは購入後も継続的に使い勝手や体験価値を向上させていくことができるのがポイントで、今回のアップデートもその機能を活かしたものとなります。

↑“会話するドライビングパートナー”「NP1」の前方側。カメラを通してドライブレコーダーとしての役割も果たす

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

「水戸線」なのに水戸は通過しない!? 意外と知らない北関東ローカル線深掘りの旅

おもしろローカル線の旅110〜〜JR東日本・水戸線(栃木県・茨城県)〜〜

 

あまり目立たないローカル線でも、実際に乗ってみると予想外の発見があるもの。関東平野の北東部を走る水戸線はそんなローカル線の1本だ。

 

実は水戸線、名前に水戸という地名が入るものの水戸市は走っていない。なぜなのだろう? そんな疑問から水戸線の旅が始まった。

*2017(平成29)年8月13日〜2023(令和5)年2月12日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
SL列車だけではない!「真岡鐵道」貴重なお宝発見の旅

 

【水戸線の旅①】常磐線よりも先に開業した水戸線の歴史

まず、水戸線の概要や歴史から見ていこう。

 

路線と距離 JR東日本・水戸線:小山駅(おやまえき)〜友部駅(ともべえき)間50.2km、全線電化単線
開業 水戸鉄道が1889(明治22)年1月16日、小山駅〜水戸駅間を開業、友部駅は1895(明治28)年7月1日に開設
駅数 16駅(起終点駅を含む)

 

水戸線の歴史は古く、今年で開業134年を迎えた。最初は水戸鉄道という私鉄の会社が、起点となる小山駅から水戸駅まで路線を開業。ところが、水戸鉄道として走ったのはわずか3年ばかりと短く、1892(明治25)年には日本鉄道に譲渡され、水戸線という路線名になった。

 

さらに日本鉄道が常磐線の一部区間を開業、1895(明治28)年に水戸線と接続する地点に友部駅を開設した。友部駅が開設された翌年の1896(明治29)年には常磐線の田端駅と土浦駅間の路線が開業し、東京と水戸が鉄道で直接結ばれるようになった。

 

明治期に北関東の鉄道網は目まぐるしく変化していく。常磐線が開業してから10年後の1906(明治39)年に日本鉄道は官設鉄道に編入。国営化された後に友部駅〜水戸駅間は常磐線に編入され、残された小山駅〜友部駅間のみ、水戸線という名称が残された。その後、名称の変更が行われることはなく、水戸市は通らないのに水戸線という路線名が今もそのまま使われ続けている。

 

1987(昭和62)年に国鉄民営化でJR東日本の一路線となったが、その時も長らく親しまれてきた路線名ということもあり、改称などの話は持ちが上がることもなかったそうだ。

 

【水戸線の旅②】E531系ひと形式が走るのみだが

次に水戸線を走る車両を見ておこう。現在は臨時列車や甲種輸送列車などを除き1形式のみが走っている。

 

◇E531系電車

↑水戸線の顔となっているE531系。5両編成での運行が行われている。座席はセミクロスシートで、トイレを備える

 

JR東日本の交直流電車で常磐線のほか水戸線、東北本線の一部区間で運用されている。定期運用が開始されたのは2015(平成27)年2月1日から。常磐線での運用はグリーン車を交えた10両編成が主力だが、水戸線では併結用に造られた付属5両編成の車両が単独で使われている。

 

ちなみに1編成(K451編成)のみ、かつて交流区間を走っていた401系の塗装をイメージした〝赤電塗装〟のラッピング車となっている。なかなか出会えないものの、この車両を見られることが旅の楽しみの一つになっている。

 

E531系導入まで水戸線では長らくE501系および415系が走っていたが、415系は引退、E501系は水戸線内でたびたび故障が起きたこともあり、今は常磐線での運用に限られるようになっている。

↑1編成5両のみ走る赤電ラッピング車。水戸線内と常磐線一部区間を走ることが多い

 

【水戸線の旅③】小山駅を出発してすぐの気になる分岐跡は?

ここからは水戸線の旅を進めたい。起点となる小山駅は東北本線の接続駅で、水戸線は15・16番線ホームから発車する。朝夕は30分間隔、昼前後の時間帯も1時間おきとローカル線としては列車本数が多めだ。昼間の時間帯は大半が友部駅どまりだが、朝夕は水戸駅や、その先の勝田駅へ走る列車もある。

↑東北新幹線の停車駅でもある小山駅。水戸線の列車は水戸駅地上駅の一番東側の15・16番線から発車する

 

小山駅のホームを離れた水戸線の列車は、すぐに左にカーブして次の小田林駅(おたばやしえき)へ向かう。乗車していると気づきにくいが、進行方向右側からカーブして水戸線に近づいてくる廃線跡がある。今は空き地となっているのだが、並行する道路が緩やかにカーブしていて、いかにもかつて列車が走っていた雰囲気が残る。

 

この廃線跡は、水戸線と東北本線を結んでいた短絡線の跡で、東北本線の間々田駅(ままだえき)と水戸線を直接に結ぶために1950(昭和25)年に敷設された。入線すると折り返す必要があった小山駅を通らず、東北本線から直接、貨物列車が走ることができた便利な路線だったが、1980年代に貨物列車の運用が消滅したため、2006(平成18)年に線路設備も撤去されて今に至る。

↑小山駅の最寄りにある東北本線との短絡線の跡。左手に延びる空き地にかつて線路が敷かれ貨物列車が通過していた

 

【水戸線の旅④】気になるデッドセクション箇所の走り

水戸線は16ある駅のうち、15駅が茨城県内の駅で、小山駅1駅のみが栃木県の駅だ。小山駅が栃木県の県東南部の端にあるという事情もあるが、2県をまたいで走る路線は数多くあるものの、このように1つの県で停車駅が1駅のみという路線も珍しい。この県境部に鉄道好きが気になるポイントがある。

 

小山駅を発車すると次の小田林駅との間、県境のやや手前で列車の運転士は運転台で一つの切り替え作業を行う。小山駅は直流電化区間なのだが、次の小田林駅への途中で交流電化区間に切り替わる。この切り替え作業を行うのである。

 

以前、筆者が水戸線の415系に乗車した時には、この区間で車内の照明が消え、モーター音が途絶えて一瞬静かになるということがあり驚いたものだった。現在走っているE531系の車内照明は消えることはなく、走行音もほぼ変わることはない。外から見ても変化がないのか、興味を持ったので直流から交流へ変更を行う「デッドセクション」区間を訪れてみた。

 

上部に張られた架線にはいろいろな装置が付けられていて、ここで直流と交流が変わることが分かる。また架線ポールに「交直切替」の看板が付けられ、運転士にデッドセクション区間であることを伝えている。

↑交流直流の切替区間には他と異なり碍子(がいし)を含めさまざまな設備が装着されている

 

小山駅から向かってきたE531系を見ると、ほぼスピードを落とさず通過していった。今では技術力も高まり、運転士が切替えスイッチの操作を行えば、問題なく通過できてしまう。通常の走行と異なる点といえば、車両先頭の案内表示用のLED表示器が消灯しているぐらいだった。

↑デッドセクション区間を走る友部方面行列車。架線柱には「交直切替」の案内がある(左下)。LED表示器のみ消灯していた

 

ところで、なぜ直流電化、交流電化の切り替え区間が県境付近にあるのか。その理由は茨城県石岡市に「気象庁地磁気観測所」があるからだ。地磁気観測所は地球の磁気や地球電気の観測を行っている。この観測地点から半径30km圏内で電化をする場合、電気事業法の省令で観測に影響がでない方式での電化が義務づけられている。従来の直流電化は、漏えい電流が遠くまで伝わる特長があり、そのため観測に影響が出にくい交流で電化されているのだ。

 

「気象庁地磁気観測所」の半径30km圏内に路線がある水戸線では小山駅〜小田林駅間で、また友部駅で合流する常磐線も取手駅〜藤代駅(ふじしろえき)間にデッドセクションを設けている。

 

【水戸線の旅⑤】川島駅の構内には広大な貨物線跡が残る

小田林駅の次の結城駅は、結城つむぎの生産地でもある結城市の表玄関となるのだが、今回は下車せずに先を急ぐ。東結城駅〜川島駅間で550mの長さを持つ鬼怒川橋梁を渡った。

↑鬼怒川橋梁を渡る水戸線の列車。現役の橋の横には開業当時に造られたレンガ造りの橋台跡が今も残されている(左上)

 

この鬼怒川橋梁を渡った地点から川島駅の構内に向けて、側線が設けられていた。今は一部が保線用に利用されているが、その先にあたる川島駅の北側の広々した空き地には今も錆びた線路が一部残り、側線の跡であることがよく分かる。

 

現在、川島駅の北側にはNC工基の工場がある。NC工基は土木、建築工事に関する各種基礎工事を施工する企業で、駅から工場内を望むと資材などを運ぶ大型クレーン類が良く見える。さらに、駅の北西側にはNC東日本コンクリート工業川島第四工場(旧太平洋セメント川島サービスステーション)があり専用線が設けられていた。

↑川島駅を発車した友部行列車。駅の北側に広々した側線の跡地と、大規模な工場が広がっている

 

今もこうした工場へ向けての専用線の跡地が残っている。かつては電気機関車などによる貨車の入換え作業が行われていたわけだ。筆者は、こうした引き込み線跡に興味があり、この場所には複数回訪れたが、駅の北西側の工場内に伸びていた専用線の跡は、つい最近ソーラー発電所に再整備された。徐々に川島駅周辺の廃線跡も消えていくことになるのだろう。

↑かつて使われていた専用線には今も一部に線路、また架線柱や架線も残されている

 

ちなみに、小山駅近くの東北本線への短絡線は、この川島駅と秩父鉄道の武州原谷駅(ぶしゅうはらやえき)という貨物専用駅との間を結んでいた貨物列車運行用に使われたものだった。1997(平成9)年3月22日にこの運行は終了してしまい、川島駅付近の専用線も荒れるままとなっている。貨物列車の運行も永遠に続くわけではなく、このように企業の活動に左右されるわけだ。

 

【水戸線の旅⑥】気になる関東鉄道・真岡鐵道の接続駅、下館駅

川島駅付近から先は好天の日、進行方向の右手に注目したい。関東平野の広大な田園畑地が広がるなか、筑波山が見えてくる。

 

そして列車は下館駅(しもだてえき)へ到着する。この駅は関東鉄道常総線、真岡鐵道の乗換駅となる。真岡鐵道のSLは牽引機のC12形が検査を終えたばかりで3月4日(土曜日)から運行されている。今年も行楽シーズンには多くの乗客で賑わいそうだ。さらにGW期間中には益子陶器市が開かれ、水戸線、真岡鐵道の利用者の増加が見込まれている。

 

筆者がよく訪れる下館駅だが、訪れるたびに賑わいが薄れていくように感じる。駅前の元ショッピングセンターは市役所となり、昼間に開く食事処も少なく、駅のコンビニも営業日と営業時間が限られている。このように駅の周辺が寂しくなるのは、地方都市では鉄道よりも車の利用者が圧倒的に多くなってきているせいなのだろう。

↑筑西市の表玄関にあたる下館駅の北口。真岡鐵道のSLもおか(左下)は土日休日の運行で下り列車は下館駅発10時35分発だ

 

下館駅の次の新治駅(にいはりえき)にかけて、もっとも筑波山の姿が楽しめる区間となる。標高877mとそれほど高い山ではないものの、関東平野の中にそびえ立つ山容は、昔から「西の富士、東の筑波」と称されてきた。

 

筑波山には男体山と女体山の2つの峰がある。以前に本稿で日光線の紹介した時に男体山、女体山が対になる山と記述したが、この筑波山も同じ名称の峰があり、古くから信仰の山として尊ばれてきたわけだ。

 

水戸線側から望むと単独峰に見えるのだが、実は標高が一番高い筑波山をピークに300mから700mの複数の山々が東西に連なっていて、この峰々を筑波連山、筑波連峰と呼ぶ。

↑新治駅近くの沿線から眺めた筑波山。単独峰のようにみえるが、筑波山の東側に複数の山々が連なり見る角度によって印象が変わる

 

【水戸線の旅⑦】岩瀬駅から発着した筑波線の跡は?

現在、水戸線に接続する鉄道路線は下館駅の関東鉄道常総線と真岡鐵道の2路線しかないが、かつては貨物輸送用、また観光用に複数の路線が設けられていて、それらの駅も接続駅として賑わっていた。

 

下館駅から3つめの岩瀬駅もそうした駅の一つだ。この岩瀬駅からはかつて、筑波鉄道筑波線が常磐線の土浦駅まで走っていた。筑波山観光の利用者が多く、最盛期の1960年代には上野駅などから列車が直接に筑波駅まで乗り入れた。モータリゼーションの高まりの中で、利用者の減少に歯止めがかからず、筑波鉄道筑波線は1987(昭和62)年4月1日に廃線となっている。

 

美しい筑波山麓の田園地帯をディーゼルカーが走る当時の写真をサイトで見ることができるが、長閑な趣を持つローカル線だったようだ。

↑旧筑波鉄道の廃線跡を利用した「つくばりんりんロード」。岩瀬駅に隣接して駐車場や休憩所が設けられる

 

現在、岩瀬駅から伸びていた筑波鉄道の廃線跡は、サイクリングロード「つくばりんりんロード」として整備されている。岩瀬駅の南側には駐車場が整備され、サイクリングのベースとして利用する人も多い。サイクリングロードの終点、土浦までは40kmという案内板も設けられている。途中、一里塚のようにに休憩所が複数設けられているので、のんびりとペダルをこぐのに最適な廃線跡となっている。

↑廃線線跡を利用した「つくばりんりんロード」。しっかり整備されていて自転車を漕ぐのに最適な専用道となっている

 

【水戸線の旅⑧】稲田石の産地、稲田駅で降りてみた

小山駅から岩瀬駅まで田畑を左右に見て平坦な地形を走ってきた水戸線だが、羽黒駅を過ぎると地形も一転して丘陵部を走り始める。そんな風景を眺めつつ稲田駅に到着した。

 

地元・笠間市稲田は稲田石と呼ばれる良質の御影石の産地で、切り出した砕石の輸送のため駅が開設され、また駅と砕石場を結ぶ稲田人車軌道という鉄道も敷設された。駅は水戸鉄道開業後の1898(明治31)年に造られた。地元の石材業者が中心になって、用地を提供するなど駅の開設に協力したそうだ。

 

地元が稲田石の産地であることにちなみ駅前には立派な石燈籠が立ち、「石の百年館」(入館無料)という展示館が設けられている。

↑稲田駅の駅前に立つ巨大な石燈籠。向かい側に「石の百年館」という稲田石を紹介する施設がある

 

「石の百年館」に入り、展示内容を見て驚かされた。稲田石は地元笠間市で採掘される花崗岩だが、白御影と呼ばれその白さが特長になっている。明治神宮など様々な施設に使われ、1914(大正3)年に建造された東京駅丸の内駅舎にも使われていた。窓周り、柱頭の飾りに稲田石の白い岩肌が活かされたそうだ。

 

さらに東京市電の敷石にも、材質に優れ、採掘量が安定した稲田石が大量に使われた。すでに東京都内の路面電車の路線は多くが廃止となったものの、今も道路工事のために旧路線を掘ると、敷き詰められた稲田石が大量に見つかるそうだ。

↑稲田駅に隣接して稲田石の積み下ろしに使った貨物ホームも残る。1906(明治39)年には4万4千トンの稲田石が東京方面へ出荷された

 

【水戸線の旅⑨】常磐線と合流、そして終着友部駅へ

起点の小山駅から乗車1時間弱、進行方向右手から常磐線が近づいてくると、その先が水戸線終点の友部駅となる。水戸線の列車は3〜5番線に到着し、一部列車はそのまま水戸駅または勝田駅へ向かう。

 

友部駅は2007(平成19)年にリニューアルされた橋上駅舎で、南口と北口を結ぶ自由通路が設けられている。

↑手前の2本が常磐線の線路で、水戸線の列車は写真の左側から坂を登り合流する

 

↑友部駅は3面あるホームへ上り下りする3本のエレベータ棟がアクセントになっている。水戸線の折返し列車は3番線発が多い(右上)

 

友部駅は地元笠間市の常磐線側の玄関口にあたるものの、水戸線の開業時には駅がなかった。笠間の市街地は他にあったからで、水戸線笠間駅の北側が笠間市の中心部にあたる。

 

笠間は日本三大稲荷にあたる笠間稲荷神社の鳥居前町であり、笠間城が築かれ笠間藩の城下町として栄えた。春秋に行われる陶器市で賑わう町でもある。

 

今回は訪れそこねたものの、次は笠間駅で下車してゆっくりと古い城下町巡りをしてみたいと思った。

 

【水戸線の旅⑩】最近気になる特急の模様替え車両

さて友部駅で接続する常磐線だが、停車する特急「ひたち」「ときわ」の一部編成が模様替えされ、鉄道ファンにとっては気になる列車となっている。水戸線を走る車両ではないものの、水戸線を訪れる際に利用してはいかがだろうか。

↑友部駅付近を走る特急「ひたち」グリーンレイク塗装車。今後、5編成がフレッシュひたち塗装になる予定だ

 

以前、常磐線を走っていたE653系は、各編成で色が異なり鮮やかな印象を放っていた。現在走るE657系の塗装は1パターンのみだったが、かつての「フレッシュひたち」をイメージした特別塗装車が走るようになっている。

 

茨城デスティネーションキャンペーンに合わせての塗装変更で、まずはK17編成がグリーンと白の「グリーンレイク(緑の湖)塗装」に。さらにK12編成が「スカーレットブロッサム(紅梅色)塗装」に変更されている。合計で5編成が模様替えされる予定で、水戸線を旅する時の、もう一つの楽しみになりそうだ。

「水戸線」なのに水戸は通過しない!? 意外と知らない北関東ローカル線深掘りの旅

おもしろローカル線の旅110〜〜JR東日本・水戸線(栃木県・茨城県)〜〜

 

あまり目立たないローカル線でも、実際に乗ってみると予想外の発見があるもの。関東平野の北東部を走る水戸線はそんなローカル線の1本だ。

 

実は水戸線、名前に水戸という地名が入るものの水戸市は走っていない。なぜなのだろう? そんな疑問から水戸線の旅が始まった。

*2017(平成29)年8月13日〜2023(令和5)年2月12日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

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【水戸線の旅①】常磐線よりも先に開業した水戸線の歴史

まず、水戸線の概要や歴史から見ていこう。

 

路線と距離 JR東日本・水戸線:小山駅(おやまえき)〜友部駅(ともべえき)間50.2km、全線電化単線
開業 水戸鉄道が1889(明治22)年1月16日、小山駅〜水戸駅間を開業、友部駅は1895(明治28)年7月1日に開設
駅数 16駅(起終点駅を含む)

 

水戸線の歴史は古く、今年で開業134年を迎えた。最初は水戸鉄道という私鉄の会社が、起点となる小山駅から水戸駅まで路線を開業。ところが、水戸鉄道として走ったのはわずか3年ばかりと短く、1892(明治25)年には日本鉄道に譲渡され、水戸線という路線名になった。

 

さらに日本鉄道が常磐線の一部区間を開業、1895(明治28)年に水戸線と接続する地点に友部駅を開設した。友部駅が開設された翌年の1896(明治29)年には常磐線の田端駅と土浦駅間の路線が開業し、東京と水戸が鉄道で直接結ばれるようになった。

 

明治期に北関東の鉄道網は目まぐるしく変化していく。常磐線が開業してから10年後の1906(明治39)年に日本鉄道は官設鉄道に編入。国営化された後に友部駅〜水戸駅間は常磐線に編入され、残された小山駅〜友部駅間のみ、水戸線という名称が残された。その後、名称の変更が行われることはなく、水戸市は通らないのに水戸線という路線名が今もそのまま使われ続けている。

 

1987(昭和62)年に国鉄民営化でJR東日本の一路線となったが、その時も長らく親しまれてきた路線名ということもあり、改称などの話は持ちが上がることもなかったそうだ。

 

【水戸線の旅②】E531系ひと形式が走るのみだが

次に水戸線を走る車両を見ておこう。現在は臨時列車や甲種輸送列車などを除き1形式のみが走っている。

 

◇E531系電車

↑水戸線の顔となっているE531系。5両編成での運行が行われている。座席はセミクロスシートで、トイレを備える

 

JR東日本の交直流電車で常磐線のほか水戸線、東北本線の一部区間で運用されている。定期運用が開始されたのは2015(平成27)年2月1日から。常磐線での運用はグリーン車を交えた10両編成が主力だが、水戸線では併結用に造られた付属5両編成の車両が単独で使われている。

 

ちなみに1編成(K451編成)のみ、かつて交流区間を走っていた401系の塗装をイメージした〝赤電塗装〟のラッピング車となっている。なかなか出会えないものの、この車両を見られることが旅の楽しみの一つになっている。

 

E531系導入まで水戸線では長らくE501系および415系が走っていたが、415系は引退、E501系は水戸線内でたびたび故障が起きたこともあり、今は常磐線での運用に限られるようになっている。

↑1編成5両のみ走る赤電ラッピング車。水戸線内と常磐線一部区間を走ることが多い

 

【水戸線の旅③】小山駅を出発してすぐの気になる分岐跡は?

ここからは水戸線の旅を進めたい。起点となる小山駅は東北本線の接続駅で、水戸線は15・16番線ホームから発車する。朝夕は30分間隔、昼前後の時間帯も1時間おきとローカル線としては列車本数が多めだ。昼間の時間帯は大半が友部駅どまりだが、朝夕は水戸駅や、その先の勝田駅へ走る列車もある。

↑東北新幹線の停車駅でもある小山駅。水戸線の列車は水戸駅地上駅の一番東側の15・16番線から発車する

 

小山駅のホームを離れた水戸線の列車は、すぐに左にカーブして次の小田林駅(おたばやしえき)へ向かう。乗車していると気づきにくいが、進行方向右側からカーブして水戸線に近づいてくる廃線跡がある。今は空き地となっているのだが、並行する道路が緩やかにカーブしていて、いかにもかつて列車が走っていた雰囲気が残る。

 

この廃線跡は、水戸線と東北本線を結んでいた短絡線の跡で、東北本線の間々田駅(ままだえき)と水戸線を直接に結ぶために1950(昭和25)年に敷設された。入線すると折り返す必要があった小山駅を通らず、東北本線から直接、貨物列車が走ることができた便利な路線だったが、1980年代に貨物列車の運用が消滅したため、2006(平成18)年に線路設備も撤去されて今に至る。

↑小山駅の最寄りにある東北本線との短絡線の跡。左手に延びる空き地にかつて線路が敷かれ貨物列車が通過していた

 

【水戸線の旅④】気になるデッドセクション箇所の走り

水戸線は16ある駅のうち、15駅が茨城県内の駅で、小山駅1駅のみが栃木県の駅だ。小山駅が栃木県の県東南部の端にあるという事情もあるが、2県をまたいで走る路線は数多くあるものの、このように1つの県で停車駅が1駅のみという路線も珍しい。この県境部に鉄道好きが気になるポイントがある。

 

小山駅を発車すると次の小田林駅との間、県境のやや手前で列車の運転士は運転台で一つの切り替え作業を行う。小山駅は直流電化区間なのだが、次の小田林駅への途中で交流電化区間に切り替わる。この切り替え作業を行うのである。

 

以前、筆者が水戸線の415系に乗車した時には、この区間で車内の照明が消え、モーター音が途絶えて一瞬静かになるということがあり驚いたものだった。現在走っているE531系の車内照明は消えることはなく、走行音もほぼ変わることはない。外から見ても変化がないのか、興味を持ったので直流から交流へ変更を行う「デッドセクション」区間を訪れてみた。

 

上部に張られた架線にはいろいろな装置が付けられていて、ここで直流と交流が変わることが分かる。また架線ポールに「交直切替」の看板が付けられ、運転士にデッドセクション区間であることを伝えている。

↑交流直流の切替区間には他と異なり碍子(がいし)を含めさまざまな設備が装着されている

 

小山駅から向かってきたE531系を見ると、ほぼスピードを落とさず通過していった。今では技術力も高まり、運転士が切替えスイッチの操作を行えば、問題なく通過できてしまう。通常の走行と異なる点といえば、車両先頭の案内表示用のLED表示器が消灯しているぐらいだった。

↑デッドセクション区間を走る友部方面行列車。架線柱には「交直切替」の案内がある(左下)。LED表示器のみ消灯していた

 

ところで、なぜ直流電化、交流電化の切り替え区間が県境付近にあるのか。その理由は茨城県石岡市に「気象庁地磁気観測所」があるからだ。地磁気観測所は地球の磁気や地球電気の観測を行っている。この観測地点から半径30km圏内で電化をする場合、電気事業法の省令で観測に影響がでない方式での電化が義務づけられている。従来の直流電化は、漏えい電流が遠くまで伝わる特長があり、そのため観測に影響が出にくい交流で電化されているのだ。

 

「気象庁地磁気観測所」の半径30km圏内に路線がある水戸線では小山駅〜小田林駅間で、また友部駅で合流する常磐線も取手駅〜藤代駅(ふじしろえき)間にデッドセクションを設けている。

 

【水戸線の旅⑤】川島駅の構内には広大な貨物線跡が残る

小田林駅の次の結城駅は、結城つむぎの生産地でもある結城市の表玄関となるのだが、今回は下車せずに先を急ぐ。東結城駅〜川島駅間で550mの長さを持つ鬼怒川橋梁を渡った。

↑鬼怒川橋梁を渡る水戸線の列車。現役の橋の横には開業当時に造られたレンガ造りの橋台跡が今も残されている(左上)

 

この鬼怒川橋梁を渡った地点から川島駅の構内に向けて、側線が設けられていた。今は一部が保線用に利用されているが、その先にあたる川島駅の北側の広々した空き地には今も錆びた線路が一部残り、側線の跡であることがよく分かる。

 

現在、川島駅の北側にはNC工基の工場がある。NC工基は土木、建築工事に関する各種基礎工事を施工する企業で、駅から工場内を望むと資材などを運ぶ大型クレーン類が良く見える。さらに、駅の北西側にはNC東日本コンクリート工業川島第四工場(旧太平洋セメント川島サービスステーション)があり専用線が設けられていた。

↑川島駅を発車した友部行列車。駅の北側に広々した側線の跡地と、大規模な工場が広がっている

 

今もこうした工場へ向けての専用線の跡地が残っている。かつては電気機関車などによる貨車の入換え作業が行われていたわけだ。筆者は、こうした引き込み線跡に興味があり、この場所には複数回訪れたが、駅の北西側の工場内に伸びていた専用線の跡は、つい最近ソーラー発電所に再整備された。徐々に川島駅周辺の廃線跡も消えていくことになるのだろう。

↑かつて使われていた専用線には今も一部に線路、また架線柱や架線も残されている

 

ちなみに、小山駅近くの東北本線への短絡線は、この川島駅と秩父鉄道の武州原谷駅(ぶしゅうはらやえき)という貨物専用駅との間を結んでいた貨物列車運行用に使われたものだった。1997(平成9)年3月22日にこの運行は終了してしまい、川島駅付近の専用線も荒れるままとなっている。貨物列車の運行も永遠に続くわけではなく、このように企業の活動に左右されるわけだ。

 

【水戸線の旅⑥】気になる関東鉄道・真岡鐵道の接続駅、下館駅

川島駅付近から先は好天の日、進行方向の右手に注目したい。関東平野の広大な田園畑地が広がるなか、筑波山が見えてくる。

 

そして列車は下館駅(しもだてえき)へ到着する。この駅は関東鉄道常総線、真岡鐵道の乗換駅となる。真岡鐵道のSLは牽引機のC12形が検査を終えたばかりで3月4日(土曜日)から運行されている。今年も行楽シーズンには多くの乗客で賑わいそうだ。さらにGW期間中には益子陶器市が開かれ、水戸線、真岡鐵道の利用者の増加が見込まれている。

 

筆者がよく訪れる下館駅だが、訪れるたびに賑わいが薄れていくように感じる。駅前の元ショッピングセンターは市役所となり、昼間に開く食事処も少なく、駅のコンビニも営業日と営業時間が限られている。このように駅の周辺が寂しくなるのは、地方都市では鉄道よりも車の利用者が圧倒的に多くなってきているせいなのだろう。

↑筑西市の表玄関にあたる下館駅の北口。真岡鐵道のSLもおか(左下)は土日休日の運行で下り列車は下館駅発10時35分発だ

 

下館駅の次の新治駅(にいはりえき)にかけて、もっとも筑波山の姿が楽しめる区間となる。標高877mとそれほど高い山ではないものの、関東平野の中にそびえ立つ山容は、昔から「西の富士、東の筑波」と称されてきた。

 

筑波山には男体山と女体山の2つの峰がある。以前に本稿で日光線の紹介した時に男体山、女体山が対になる山と記述したが、この筑波山も同じ名称の峰があり、古くから信仰の山として尊ばれてきたわけだ。

 

水戸線側から望むと単独峰に見えるのだが、実は標高が一番高い筑波山をピークに300mから700mの複数の山々が東西に連なっていて、この峰々を筑波連山、筑波連峰と呼ぶ。

↑新治駅近くの沿線から眺めた筑波山。単独峰のようにみえるが、筑波山の東側に複数の山々が連なり見る角度によって印象が変わる

 

【水戸線の旅⑦】岩瀬駅から発着した筑波線の跡は?

現在、水戸線に接続する鉄道路線は下館駅の関東鉄道常総線と真岡鐵道の2路線しかないが、かつては貨物輸送用、また観光用に複数の路線が設けられていて、それらの駅も接続駅として賑わっていた。

 

下館駅から3つめの岩瀬駅もそうした駅の一つだ。この岩瀬駅からはかつて、筑波鉄道筑波線が常磐線の土浦駅まで走っていた。筑波山観光の利用者が多く、最盛期の1960年代には上野駅などから列車が直接に筑波駅まで乗り入れた。モータリゼーションの高まりの中で、利用者の減少に歯止めがかからず、筑波鉄道筑波線は1987(昭和62)年4月1日に廃線となっている。

 

美しい筑波山麓の田園地帯をディーゼルカーが走る当時の写真をサイトで見ることができるが、長閑な趣を持つローカル線だったようだ。

↑旧筑波鉄道の廃線跡を利用した「つくばりんりんロード」。岩瀬駅に隣接して駐車場や休憩所が設けられる

 

現在、岩瀬駅から伸びていた筑波鉄道の廃線跡は、サイクリングロード「つくばりんりんロード」として整備されている。岩瀬駅の南側には駐車場が整備され、サイクリングのベースとして利用する人も多い。サイクリングロードの終点、土浦までは40kmという案内板も設けられている。途中、一里塚のようにに休憩所が複数設けられているので、のんびりとペダルをこぐのに最適な廃線跡となっている。

↑廃線線跡を利用した「つくばりんりんロード」。しっかり整備されていて自転車を漕ぐのに最適な専用道となっている

 

【水戸線の旅⑧】稲田石の産地、稲田駅で降りてみた

小山駅から岩瀬駅まで田畑を左右に見て平坦な地形を走ってきた水戸線だが、羽黒駅を過ぎると地形も一転して丘陵部を走り始める。そんな風景を眺めつつ稲田駅に到着した。

 

地元・笠間市稲田は稲田石と呼ばれる良質の御影石の産地で、切り出した砕石の輸送のため駅が開設され、また駅と砕石場を結ぶ稲田人車軌道という鉄道も敷設された。駅は水戸鉄道開業後の1898(明治31)年に造られた。地元の石材業者が中心になって、用地を提供するなど駅の開設に協力したそうだ。

 

地元が稲田石の産地であることにちなみ駅前には立派な石燈籠が立ち、「石の百年館」(入館無料)という展示館が設けられている。

↑稲田駅の駅前に立つ巨大な石燈籠。向かい側に「石の百年館」という稲田石を紹介する施設がある

 

「石の百年館」に入り、展示内容を見て驚かされた。稲田石は地元笠間市で採掘される花崗岩だが、白御影と呼ばれその白さが特長になっている。明治神宮など様々な施設に使われ、1914(大正3)年に建造された東京駅丸の内駅舎にも使われていた。窓周り、柱頭の飾りに稲田石の白い岩肌が活かされたそうだ。

 

さらに東京市電の敷石にも、材質に優れ、採掘量が安定した稲田石が大量に使われた。すでに東京都内の路面電車の路線は多くが廃止となったものの、今も道路工事のために旧路線を掘ると、敷き詰められた稲田石が大量に見つかるそうだ。

↑稲田駅に隣接して稲田石の積み下ろしに使った貨物ホームも残る。1906(明治39)年には4万4千トンの稲田石が東京方面へ出荷された

 

【水戸線の旅⑨】常磐線と合流、そして終着友部駅へ

起点の小山駅から乗車1時間弱、進行方向右手から常磐線が近づいてくると、その先が水戸線終点の友部駅となる。水戸線の列車は3〜5番線に到着し、一部列車はそのまま水戸駅または勝田駅へ向かう。

 

友部駅は2007(平成19)年にリニューアルされた橋上駅舎で、南口と北口を結ぶ自由通路が設けられている。

↑手前の2本が常磐線の線路で、水戸線の列車は写真の左側から坂を登り合流する

 

↑友部駅は3面あるホームへ上り下りする3本のエレベータ棟がアクセントになっている。水戸線の折返し列車は3番線発が多い(右上)

 

友部駅は地元笠間市の常磐線側の玄関口にあたるものの、水戸線の開業時には駅がなかった。笠間の市街地は他にあったからで、水戸線笠間駅の北側が笠間市の中心部にあたる。

 

笠間は日本三大稲荷にあたる笠間稲荷神社の鳥居前町であり、笠間城が築かれ笠間藩の城下町として栄えた。春秋に行われる陶器市で賑わう町でもある。

 

今回は訪れそこねたものの、次は笠間駅で下車してゆっくりと古い城下町巡りをしてみたいと思った。

 

【水戸線の旅⑩】最近気になる特急の模様替え車両

さて友部駅で接続する常磐線だが、停車する特急「ひたち」「ときわ」の一部編成が模様替えされ、鉄道ファンにとっては気になる列車となっている。水戸線を走る車両ではないものの、水戸線を訪れる際に利用してはいかがだろうか。

↑友部駅付近を走る特急「ひたち」グリーンレイク塗装車。今後、5編成がフレッシュひたち塗装になる予定だ

 

以前、常磐線を走っていたE653系は、各編成で色が異なり鮮やかな印象を放っていた。現在走るE657系の塗装は1パターンのみだったが、かつての「フレッシュひたち」をイメージした特別塗装車が走るようになっている。

 

茨城デスティネーションキャンペーンに合わせての塗装変更で、まずはK17編成がグリーンと白の「グリーンレイク(緑の湖)塗装」に。さらにK12編成が「スカーレットブロッサム(紅梅色)塗装」に変更されている。合計で5編成が模様替えされる予定で、水戸線を旅する時の、もう一つの楽しみになりそうだ。

「出会い頭の事故」を防ぐ未来の電動自転車。実証実験で行われているのは?

電動自転車で約50%シェアを誇るパナソニック サイクルテックは、自動車との衝突を防ぐための通信機器を搭載した、電動自転車の実証実験を開始すると発表。その仕組みは自転車と自動車の接近を自動で感知し、双方にアラートを出すというもの。実験の模様を取材しました。

 

出会い頭の衝突をなくすための仕組みとは?

今回の実証実験が想定しているのは、見通しの悪い交差点での出会い頭の事故です。このようなケースを想定している根拠には、2点の調査結果あります。

 

まずは、自転車の死傷事故のうち約8割が自動車との事故であるという、警視庁交通局による調査。そしてもうひとつは、交差点の死角が原因で自動車と出会い頭の事故に遭いそうになったという人が、自転車ユーザーの6割近くもいたというインターネット調査です。

 

これらの結果から、自動車との出会い頭事故を防ぐことが、最も効率よく自転車事故を減らす方法であると推察できます。

↑日本における自転車事故の現状(同社発表のスライドより)

 

自転車と自動車の衝突を防ぐために活用するのが、GNSSとITSです。GNSSは、GPSよりも精度の高い衛星測位システム。またITS(高度道路交通システム)は、専用の帯域により遅延なく通信を行えるシステムです。

 

実験では、自転車と自動車の双方にGNSSとITSのアンテナを設置。GNSSは自車の位置・速度・方位を常に計測しており、その情報をアンテナから発します。そして、自転車と自動車のITSが通信を行う“車車通信”を介して衝突するリスクがあると判断された場合、互いの端末にアラート画面が表示され、音でも注意が促されます。

↑実証実験で使われる電動自転車の構成。GNSSとITSはスマホに接続されています。衝突リスクの演算やアラートの表示はスマホを介して行います(同社発表のスライドより)

 

さらに自動車が停止した場合、自転車側の端末には「お先にどうぞ」と表示され、安心して横断できることが通知されます。自転車から自動車へ、道を譲ってくれたことに対する感謝を示す機能も搭載されており、ライダーとドライバーのコミュニケーションまで考慮されているそうです。

↑実証実験の流れ(同社発表のスライドより)

 

見通しの悪い交差点を再現した実証実験

実証実験では、曲がり角の右車線にトラックを設置して、見通しの悪い交差点を再現。実際に事故が起こりうるシチュエーションを作っています。

↑実験のために用意された交差点。左側から自動車、右側から自転車が交差点に進入してきます。自転車側の右車線にはトラックが駐車されており、見通しが悪くなっています

 

↑自転車側の目線。トラックが邪魔で、死角ができています

 

実験の模様を見たところ、自転車がトラックによる死角に差し掛かったあたりで、アラートが発出。交差点に入る前に十分に減速できる距離を確保されている状態でアラートが出ており、急ブレーキをかけずとも停止できていました。

↑十分減速できる距離でアラートが表示されるため、自動車・自転車ともに安全に停止できます

 

↑自転車に取り付けられたスマホに表示されるアラート

 

“出会い頭以外”の事故も減らすシステムに発展するか

今回の実験で想定されているシチュエーション以外にも、車車間のITS通信によって防止できる自転車事故は考えられます。それは、右折時の衝突事故、追突事故、自転車同士の衝突事故といったものです。

↑車車間通信により防止が期待できる事故のシチュエーション

 

また今回は、車車間通信を活用しての事故防止の試みですが、通信機器やディスプレイを搭載した電柱(スマートポール)と自動車・自転車が通信を行えるようになれば、歩行者が関わるものなど、防止できる事故シチュエーションは大きく広がります。この実証実験が秘めるポテンシャルは大きいといえるでしょう。

↑スマートポールも普及すれば、さらなる事故防止効果が期待できます

 

自転車の市場規模は、人口減に伴う形で、近年はおおよそ年率3%減で推移しています。しかし電動自転車の市場は年率6%の割合で堅調に成長しており、自転車の電動化が進行中です。電動自転車であれば、今回紹介したような通信機器を搭載した場合の給電の問題もありません。今後の技術開発に、期待が高まります。

メルセデスのEVにようやく主役が登場! 最高級EVのベンツ「EQS」に試乗した感想は。

長年、数多くの高級車を試乗レポートしてきた清水草一が、「これは謎の円盤だ!」と言うクルマ。それは、近年モデルラインナップにEV(電気自動車)を増やし続けてきた、メルセデス・ベンツの最新EV「EQS」だ。メルセデス・ベンツでは、車名のアルファベットで車格が表されており、「S」はフラッグシップモデルであることを示す。世界的ラグジュアリーメーカーによる、最高級EVの仕上がりとは?

 

■今回紹介するクルマ

メルセデス・ベンツ/EQS

※試乗グレード:EQS450+

価格:1578万円~2372万円(税込)

 

最高級EVの仕上がりは、例えるなら「謎の円盤」?

これまで試乗したメルセデスのEVは、どれもこれも、いまひとつな印象だった。ボディ骨格はガソリンエンジンモデルの流用だったし、航続距離も意外と短くて、実質300kmくらいしか走れない。ベンツの威光で効率がよくなるわけではないので、航続距離はバッテリー容量にほぼ比例する。贅沢なベンツだからこそ、贅沢装備が電気を食っているのか? などと想像していた。

 

ついでに書くと、ガソリン/ディーゼルエンジン搭載の新型Sクラスの印象もイマイチだった。これまでのSクラスのような、圧倒的な何かがなく、「先代のほうが凄かったなぁ」と感じさせた。メルセデスはすでに電動化に舵を切っている。だから内燃エンジン専用車であるSクラスの開発に手を抜いたのだろう。が、しかし肝心のEVモデルもいまひとつ揃い。「これで大丈夫なのかメルセデス!」みたいなことを密かに思っていた。

 

そんな状況で、ようやく主役が登場した。メルセデスの新しいフラッグシップ、EQSである。このクルマこそが、新しいSクラスなのだろう。いわゆるSクラスは、出たばっかりで「お古」になった。デザインを見た瞬間に、それが実感できる。EQSのフォルムは、横から見ると「謎の円盤」である。全長はしっかり5.2m以上あるが、前後の部分が極端に短く、どちらもなだらかに傾斜したどら焼き風味(どら焼きと書くと語感がアレなので、やはり謎の円盤とさせていただきます)。

↑全長5225×全幅1925×全高1520mmを誇る。ボディカラーは全10色から選べます

 

超古典的な超高級セダンの象徴・Sクラスが、謎の円盤にリボーンしたのだから、時代の変化を感じざるを得ない。謎の円盤フォルムには理由がある。EVのモーターは、内燃エンジンに比べると断然コンパクトだ。逆にバッテリーは、できるだけ車体の中央部分に薄く広く敷き詰めたい。前後の短い謎の円盤形状になるのは、機能の要請なのである。

 

ライバルであるBMW「i7」が、内燃エンジンを積む7シリーズとボディを共用し、超伝統的な四角っぽいセダンフォルムで勝負をかけているのとは対照的だ。「この対決、どっちが勝つのか?」、外野としてはそこも興味深い。

↑ルーフからなだらかに繋がるクーペのようなリアエンドは官能的なデザインとする一方、テールゲートにスポイラーを設けることによりスポーティな印象も持ち合わせています

 

話がそれた。EQSのドアを開けようとすると、ドアと一体化していたドアノブが、ドライバーを手招きするようにせり出してきた。さすが謎の円盤。ドアノブを引いて運転席に座ると、これがまた謎の円盤だ。運転席から助手席まで、3つの液晶パネルをガラスのカバーが覆っている。これまでも、左右にながーい液晶パネルは存在したが、EQSのソレは、インパネ形状の新しさと相まって、明らかにこれまでとは別の何かに見える。つまり謎の円盤のコクピットに見えるのである。

 

この「MBUXハイパースクリーン」、デジタルインテリアパッケージというオプションに含まれていて、価格は105万円。さすがSクラス! というお値段だが、これを付けないと、インパネのレイアウトは内燃エンジン車のSクラスと同じような感じになってしまう。EQSのお客様は、もれなくこのオプションを注文するに違いない。「これがついてなければ謎の円盤じゃないゼ!」なのだから。

↑MBUXハイパースクリーンは、コックピットディスプレイ(12.3インチ)、有機ELメディアディスプレイ(17.7インチ)、有機ELフロントディスプレイ(助手席・12.3インチ)で構成。3つのディスプレイを1枚のガラスで覆うことで、幅141cmにわたる広大なスクリーンとしている

 

「宙に浮かんで走ってるみたい!」

今回試乗したEQSは、後輪駆動のEQS450+だ。EQSには、4駆の高性能版「AMG EQS53 4MATIC+」も存在するが、今回はお安いほうのグレードだ。450+は、システム最高出力333PS、53 4MATIC+は658PS。ほぼ2倍もの差がある。お値段も1578万円対2372万円と、かなりの差がつけられている。

 

ちなみにEQSのバッテリーの容量は、どっちも107.8kWh。私が「意外と航続距離が短いなぁ」と感じた「EQA」は66.5kWhだから、2倍までは行かないが、だいぶ差がある。おかげでEQS450+の航続距離は、カタログ上700kmを誇っている。実用上も500kmくらいは行くだろう。

 

で、実際に走らせたイメージはどんなものかというと、これまた「謎の円盤」としか言いようがなかった。333馬力の加速は、EVとしては控え目なほうだ。日産「アリア」やヒョンデ「アイオイック5」あたりとも大差はない。しかし、アクセルを全開にする機会なんて、そうそうあるもんじゃないから無視していい。それより重要なのは、フツーに走って、どれくらい高級感があるかだ。なにしろこれは、メルセデスの最高級セダンなのだから。

↑コックピットの機能と操作は基本的にSクラスと同様。EQS 450+に標準装着されるステアリングは本革巻

 

EQS450+の乗り味は、高精度感がすさまじい。「これぞメルセデスのフラッグシップ!」と唸るしかない。新型Sクラスに手を抜いたぶん、きっちり手をかけた印象である。

世のEVの多くは、SUV風のボディ形状+バッテリーによる重量増加+重心の低さによって、自然と硬く締まったスポーティな乗り味になりがちだ。それはEQA等のメルセデス製EVも同じだった。

↑車両重量は2530kgに達します。ホイールは、21インチ10スポークデザイン

 

しかしEQSはまったく違う。全高の低いセダンフォルムの超ロングホイールベースボディに、連続可変ダンピングシステム「ADS+」を備えた標準装備のエアサスペンションによって、謎の円盤としか言いようのない、しっとり上質な乗り味が実現しているのである。いや、「しっとり上質」と書くとどこか旧世代的なので、「宙に浮かんで走ってるみたい!」と訂正させていただきます。

 

ライバルのBMW・i7は、ロールスロイスを彷彿とさせる超フンワリした超フラットライドな新テイストで勝負しているが、それとはまったく趣の違う、これまで経験したことのない謎の円盤テイストなのである。先ほどから謎の円盤を連呼しているが、「結局謎の円盤ってナニ?」と思われることでしょう。でも、乗ってみればわかります。「これは謎の円盤なんですヨ!」、さすがメルセデスの新しいフラッグシップ。

 

SPEC【EQS450+】●全長×全幅×全高:5225×1925×1520㎜●車両重量:2530㎏●パワーユニット:電気モーター●最高出力:333PS(245kW)●最大トルク:568Nm●WLTCモード一充電走行距離:700㎞

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

祝・総延長250kmの鉄道ネットワーク完成! 3.18開業「相鉄・東急直通線」のお洒落な新駅探訪レポート

〜〜相鉄・東急直通線しゅん功開業式典・新綱島駅見学会(神奈川県)〜〜

 

3月18日、いよいよ相鉄本線と東急東横線を結ぶ「相鉄・東急直通線」が開業する。相模鉄道沿線から東京都心へのアクセスが便利になり、東急沿線からも東海道新幹線・新横浜駅へ行きやすくなる。

 

開業日が間近に迫る3月5日に「相鉄・東急直通線」しゅん功開業式典および試乗会、途中駅となる新綱島駅の見学会が開かれた。ここでは試乗会と新駅見学会の話題を中心にお届け。さらに同時期に開業を迎える大阪市と福岡市の新駅と新線の話題に触れてみたい。

 

【関連記事】
開業前の巨大地下駅ってどんな感じ?「人流を変える」と期待大の相鉄・東急直通線「新横浜駅」を探検!

 

【新線レポート①】計画から38年!いよいよ開業する直通線

3月18日に開業するのは「相鉄・東急直通線」の営業キロ10kmの路線だ。内訳は相鉄新横浜線・羽沢横浜国大駅〜新横浜駅間(営業キロ:4.2km)と、東急新横浜線・新横浜駅〜日吉駅間(営業キロ:5.8km)。新横浜駅が2社の境界駅となり、列車の相互乗り入れが行われる。

↑開業するのは東急東横線の日吉駅と相鉄・JR直通線の羽沢横浜国大駅を結ぶ区間で、途中、新横浜駅と新綱島駅の新駅が開業する

 

この相鉄・東急新横浜線は「神奈川東部方面線」の一部区間として計画された。「神奈川東部方面線」のこれまでの経緯に関して触れておこう。

1985(昭和60)年 運輸政策審議会答申第7号で東京圏の交通網整備について答申が行われ、その中で「二俣川から新横浜を経て大倉山・川崎方面へ至る路線」が検討路線として盛り込まれた
2000(平成12)年 運輸政策審議会の第18号答申で「神奈川東部方面線(仮称)」の名で路線計画がより具体化
2005(平成17)年 都市鉄道等利便増進法が成立、上下分離方式の導入により、円滑に路線開業を行えるようシステムが整備
2007(平成19)年 国土交通省が相鉄・東急直通線の速達性向上計画を認定
2012(平成24)年 国土交通省から相鉄・東急直通線の工事施工認可を受け、工事を開始
2019(令和元)年11月30日 相鉄・JR直通線の相互直通運転を開始、羽沢横浜国大駅が開業
2023(令和5)年3月18日 相鉄・東急直通線開業予定、新横浜駅、新綱島駅が開業の予定

 

最初の計画が立てられたのは38年前の1985(昭和60)年。改めて相鉄・東急直通線の誕生には非常に長い期間が必要だったことが分かる。

 

計画の進行を促進したのは2005(平成17)年に生まれた「都市鉄道等利便増進法」の成立が大きかった。それまで、JRグループと多くの民間の鉄道事業者が並び立ち、成長を遂げた日本の都市の鉄道網だが、増進法成立後は、各会社間の乗り入れを密にして、乗換えの手間を解消するなどの基本方針が打ち出された。さらに新線の開業を促進するために、鉄道事業者だけに建設を任せることなく、整備主体と営業本体(鉄道事業者)を分離する、いわゆる「上下分離方式」が利用しやすいように法の整備が行われた。

 

今回の相鉄・東急直通線では、整備主体は「鉄道・運輸機構(JRTT)」が行い、営業主体の相模鉄道・東急電鉄に路線を貸付し、施設使用料(受益相当額)を受け取る仕組みとなっている。

 

【新線レポート②】新横浜駅に「祝!新線開業」の垂れ幕がかかる

開業が間近に迫る3月5日に、来賓を招いて「しゅん功開業式典および新綱島駅見学会」が行われた。まずその模様をレポートしたい。

 

筆者が早朝に向かった新横浜駅の西口。駅前の歩道橋から円形ペデストリアンデッキ(円形歩道橋)への途中、「キュービックプラザ新横浜」には「相鉄・東急 新横浜線 開業おめでとう」という垂れ幕が掲げられていた。地元でも新線、新駅開業のお祝いムードが高まっていることがわかる。

↑JR新横浜駅の北西側にある円形ペデストリアンデッキ付近に新駅ができる。地上の工事箇所もかなり縮小されつつあった

 

新横浜駅は地下4層構造になっている。横浜市営地下鉄ブルーラインの新横浜駅ホームが地下2階、東西方向に設けられ、新しい駅のホームはさらに2階ほど掘り下げた地下4階部分の南北方向にクロスして設けられた。

 

筆者は昨年の11月24日にも建設中の新横浜駅を訪れたが、このときは諸施設が設置間もない状況で、地上と地下4階にあるホームへの上り下りは階段を使わざるをえない状況だった。しかし、今回はエスカレーターが作動していてスムーズに下りていくことができた。開業のほぼ2週間前ということもあって、自動改札機などの防護カバーも外され、開業に向けてあとは利用者を待つばかりとなっていた。

↑地下1階に改札階があり、B2階フロア(写真)を経て地下4階のホームへ下りて行く。すでにエスカレーターが稼働していた

 

【新線レポート③】新横浜駅構内でしゅん功開業式典を開催

新横浜駅の地下3階のフロアで「相鉄・東急直通線 しゅん功開業式典」が開かれた。相模鉄道・東急電鉄の関係者だけでなく、相互乗り入れを行う鉄道事業者の代表、横浜市長と横浜18区の区長、神奈川県知事、また国からも斉藤鉄夫国土交通大臣、菅義偉前内閣総理大臣といった錚々たる錚々たる来賓が参加。祝辞の後に、紅白のテープカット、くす玉割りが行われた。

↑新横浜駅地下3階フロアで催されたしゅん功開業式典。来賓が集まり開業を祝い、紅白テープカットとくす玉割が行われた

 

祝辞で印象に残ったのは「首都圏で総延長250kmにも及ぶ広域な鉄道ネットワークが完成する」という言葉だった。相鉄・東急直通線が完成することにより、両鉄道会社だけでなく、東武鉄道、西武鉄道、東京メトロ、都営地下鉄、横浜高速鉄道、埼玉高速鉄道の会社線が線路で結びつく。さらに、相鉄・JR直通線でつながるJR東日本の路線網を加えれば、首都圏の主要鉄道会社の多くが結びついたことになり、このネットワーク効果は大きいように思う。あとは利用者がいかに、この路線網を役立てていけるかということなのだろう。

↑新横浜駅構内のホームのラインカラー入り案内板。1・2番線は相鉄新横浜線、3・4番線は東急新横浜線という区分けになる

 

【新線レポート④】試運転列車で新綱島駅へ向かう

しゅん功式典が終了した後には、来場者は1フロア下りて地下4階のホーム階へ。そこに待っていた試乗会用の試運転列車の運転士に花束贈呈、および記念撮影が行われた。新横浜駅での式典がすべて無事に終了すると、列車は次の駅、新綱島駅へ向けて11時4分に出発した。

↑新横浜駅構内で運転席越しに新綱島駅方向を眺める。トンネル内は真っ暗ではなく、右手に青いランプが連なっていることが分かる

 

新横浜駅〜新綱島駅間は、東急電鉄の路線で最も駅間が長い区間(約3.6km)で、列車は同駅間を約3〜4分で走ることになる。進行方向、右手には青いランプが点灯、左手には黄色いランプが点滅していて、暗いトンネルの中も意外に明るい印象だった。

 

【新線レポート⑤】新開業する新綱島駅に到着

東急電鉄で最も長い駅間とはいえ、乗車時間は3分ちょっとなので、あっという間に電車は新綱島駅へ到着した。新綱島駅はホーム1面に上下2線というシンプルな造りで、試乗した列車の相鉄20000系はその2番線に到着した。

 

駅構内の案内や、3月18日から使われる東急の路線図などの写真を掲載したので参考にしてほしい。

↑試乗会に使われた相鉄20000系20103編成。運転台には式典で贈呈された花束が置かれていた

 

↑新綱島駅の駅名案内。相鉄・東急直通線の東急側のラインカラーはパープルで、駅のナンバリングは「SH02」となった

 

↑新綱島駅1・2番線両ホームの案内。1番線がシンプルなのに対して、2番線の渋谷側は電車の行き先が多いこともあり複数の駅名が入る

 

駅の案内ボードには東急の新しい路線図も掲示された。東急東横線の日吉駅までつながる目黒線の延長線上に「東急新横浜線」として紫色のラインが加えられていた。また東急新横浜線からも東急東横線に向けて細いラインも入る。

 

相模鉄道方面からの電車は開業後に目黒線と、東横線に乗入れる。一方、東急東横線から相模鉄道へ向かう電車は、新横浜駅止まり、および相鉄本線、相鉄いずみ野線へ向かう電車が運行される。間違わずに行き先へ向かうためには、乗車した電車がどこの会社の何線を走る電車なのか注意を払う必要がありそうだ。

↑新綱島駅に掲示された東急電鉄の新しい路線図

 

【新線レポート⑥】東急電鉄の車両が1番線に入線した

11時24分、新綱島駅の1番線ホームに東急電鉄の5050系が入線してきた。来賓や来場者が新横浜駅へ戻るために用意された列車だ(報道陣を除く)。5050系は東急東横線の主力車両で、10両編成のグループが5050系4000番台に区分けされている。入ってきたのは4000番台にあたる5050系4108編成だった。前面の表示器は「TEST RUN」と記され、正面と側面の表示に東急電鉄のキャラクター「のるるん」のイラストが添えられていた。

 

「のるるん」のイラストは「回送列車」「試運転列車」などに入っているイラストのようで、通常の走行時には表示器に入ることはあまりないレアな表示だった。

↑日吉方面から走ってきた東急5050系4108編成。正面と側面(右下)の表示はキャラクター「のるるん」のイラスト入りだった

 

今回は新綱島駅までの試乗会だったが、この先、日吉駅方面には1356.51mの「綱島トンネル」が延びている。このトンネル内で気になることがあった。列車の接近時、下り新横浜方面線では一定間隔で設けられた青いライトが点滅し、上り日吉方面線では、こちらも一定間隔で設置された黄色いライトが点滅する。このライトが暗いトンネル内で〝一筋の光明〟のように鮮やかに感じられた。

 

この青と黄色のライトは東急電鉄の路線の地上部にも一定間隔に設置された保安装置(列車接近警報器などと呼ばれる)で、列車が接近すると点灯して沿線を巡回する保線係員に知らせている。東急電鉄は大手私鉄の中でもこうした安全装置の導入に積極的で、沿線の地上部で車両の撮影をする場合にも、この装置が目安になり便利だ。トンネル内にも同じ装置が設置されていたわけだ。

↑新綱島駅のホームから日吉駅へ約1.3kmの綱島トンネルが延びる。上り線は黄色、下り線(右下)は青色の保安装置が設置されている

 

ちなみに相鉄・東急直通線では羽沢横浜国大駅〜新横浜駅間の羽沢トンネルを掘り進める時に、シールド機を利用しての掘削に加えて「セグメント」と呼ぶ覆工部材を利用した。セグメント区間に加えてSENS(場所打ちライニング/支保システム)区間を連続させる技術が多用されている。この方法は従来の方法に比べてより経済的だそうで、2020(令和2)年度には優れた技術に贈られる土木学会賞技術賞(Iグループ)を授賞している。そんな先進技術が詰まったトンネルというわけだ。

 

【新線レポート⑦】改札階のデザインウォールがお洒落

試運転列車が到着した新綱島駅は地下駅構内の幅が13.7〜25m、長さ約240mで、約35mの深さにある。ホーム階から2階上がった改札フロアにきて驚いた。

 

改札口の目の前の壁一面にデザインウォールと呼ばれるガラスパネルが設置され、このパネルの上部がピンク色・青紫色と交互に変化を繰り返しながら、美しく輝いていたのだ。

↑新綱島駅の改札フロアに設けられたデザインウォール。上部がピンクから青紫(右上)に鮮やかに変わっていく

 

解説板には「様々な色の光により移ろう季節に彩られた桃の木をデザイン」とあった。横浜市の綱島地区は戦前まで鶴見川の水を生かし、桃の栽培の町として栄えたそうだ。デザインウォールはこの桃をイメージしてピンクや青紫に発色する。今はすっかり住宅街となった綱島だが、桃の花が咲いていた時代を彷彿とさせるこのデザインウォールは美しく〝映える〟設備だと感じた。

↑地上部へは、ホームから改札口(右上)をへてエスカレーターを乗り継いで上がる。自動改札機には防護シートが付けられていた

 

【新線レポート⑧】エスカレータを乗り継いで地上へ

地下の改札口から地上部へ上がる。地上へ上がるには、ホームの地下4階フロアからエスカレーターを合計4つ乗り継ぐ必要がある。ホームまで下りて行くのも、時間がかかりそうだと感じた。

 

新綱島駅の出口は3月18日開業時には南口のみの設置となる。南口は港北区綱島東1丁目にあり、既存の東急東横線の綱島駅まで県道2号線の綱島交差点を横切れば約200m、徒歩2分と近い。新駅周辺では再開発事業が進んでいて、南口出口の隣接地では新水ビル(仮称)の建設が進み、新綱島駅の綱島方面出入口(仮称)が整備中だった。こちらはビル完成後に第2出口(新綱島駅構内の地図での表記による)となりそうだ。

↑新綱島駅の地上出口として整備された南口。エレベーターの入口(右下)は訪れた時はまだ利用できない状態だった

 

相鉄・東急直通線が3月18日に開業した後には、相鉄本線の二俣川駅から目黒駅まで約38分、さらに渋谷駅から新横浜駅まで東急東横線経由で約25分と所要時間が大幅に短縮される。東京の山の手地区からも新横浜駅へのアクセスが格段に向上する。今後、東海道新幹線を利用する時にどのルートでアクセスしたらより便利か、うれしい悩みとなりそうである。

 

【3月開業の路線①】大阪駅新地下ホームも3月18日に開業

この3月には、相鉄・東急直通線以外にも注目されている新線・新駅の開業がある。大阪市と福岡市という2つの大都市での新線開業だけに、注目度も高い。以下ではこの新たな路線の情報を加えておこう。

 

まず、大阪駅周辺の鉄道網が3月18日に大きく変わる。「東海道線支線地下化・新駅設置」で、大阪駅の北西部に新地下駅(通称うめきた地下ホーム)が誕生する。

↑大阪駅のメイン口として賑わう御堂筋南口。今後は御堂筋側だけでなく新駅ができる北西部も大きく変わっていきそうだ

 

元々、大阪駅の北西部(うめきたエリア)には梅田駅という貨物専用駅があり、広大なヤードが広がり多くの貨物列車の発着があった。この梅田駅の機能を吹田貨物ターミナル駅などに分散し、再開発が行われた。その一環として誕生するのが大阪駅の新地下ホームで、新大阪駅と大阪環状線の福島駅付近を結んでいた梅田貨物線を地下化、さらに大阪駅側に路線をカーブさせて接近させ、大阪駅の隣接地の地下に新ホームを建設した。

 

このうめきた地下ホームが誕生することにより、関西空港と大阪・京都を結ぶ特急「はるか」や和歌山や紀伊半島へ向かう特急「くろしお」の両特急が大阪駅での発着が可能になる。さらに新大阪駅止まりだった「おおさか東線」の電車も大阪駅へ乗入れることになるのも便利だ。

↑大阪駅の北西部を通り抜けていた旧梅田貨物線。同路線はすでに地下へ移行済みで、うめきた(右上)の再開発も進む

 

新ホーム開業後も、地上部では新ビル建設など地区の開発が進められる。うめきたは、この春の新線・新駅開業だけでなく大阪の新たな注目エリアとして大きく変わっていきそうである。

 

【3月開業の路線②】福岡市・七隈線が3月27日に延伸開業

福岡市の橋本駅と天神南駅を結ぶ福岡市地下鉄七隈線(ななくません)が、3月27日に博多駅まで延伸される。延伸される距離は1.6kmで、途中の櫛田神社前駅(くしだじんじゃまえき)もこの日に開業となる。

 

建設が始まったのは2013(平成25)年と今から10年前のこと。当初は2020(令和2)年度に完成予定としていたが、2016(平成28)年に大規模な道路陥没事故が起き、その後に施工方法などの見直しが行われ、開業が遅れていた。

↑橋本駅近くにある橋本車両基地に並ぶ七隈線の車両3000系と3000A車両。同線はミニサイズの鉄輪式リニアモーター車両が使われる

 

これまで多くの利用者が天神駅と天神南駅を結ぶ地下道を歩いての乗り換えを強いられていたものの、新線延長でこの乗り換えが不要となる。七隈線が走る福岡市の西南地区へのアクセスが劇的に改善されそうだ。

 

なお途中駅の櫛田神社前駅は、駅名どおり櫛田神社近くに設けられ、商業施設として人気のキャナルシティにも近く便利になりそうだ。また博多駅の七隈線ホームは博多駅博多口(西口にあたる)直下の地下5階に設けられる。福岡市の東西を結ぶ福岡市地下鉄空港線とは改札口を出ずに約150mの専用通路で乗換えが可能になる。七隈線の延伸は福岡市内の通勤・通学だけでなく観光にも大きく役立ちそうである。

↑JR博多シティを中心に賑わう博多駅博多口の地下5階に新駅が誕生。延伸開業を告知するポスターも市内で見かけるように(右上)

 

車格と装備内容を考えてみれば、コスパも高いトヨタ「カローラ クロス」

2022年の普通車販売台数ランキングで2位となったのはトヨタ・カローラだが、その販売の中心となっているのは、ミドルサイズクロスオーバーSUVの「カローラ クロス」だ。発売から1年以上が経過した今、改めてその魅力を探ってみたい。

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ/カローラ クロス

※試乗グレード:ハイブリッドZ(2WD)

価格:199万円~319万9000円(税込)

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50年以上売られてきた超ロングセラーモデル「カローラ」

現代の若者たちは知らないかもしれないが、トヨタの「カローラ」といえば、一時期日本で最も売れていたクルマであり、日本を代表するスタンダードカー、そして50年以上売られてきた超ロングセラーモデルでもある。売れるクルマというのは、つまりそれだけの魅力を備えているとも言えるが、万人受けするつくりを「平凡でつまらない」と評する人もいた。

 

しかし、現代のカローラの印象はどうだろう。現行型は、2018年にハッチバック(カローラ スポーツ)が登場し、約1年後にセダン(カローラ)とワゴン(カローラ ツーリング)が発売されている。サイズは3ナンバー化し従来型より大きくなったものの、切れ長のヘッドライトやスマートなボディラインがモダンにまとめられた。さらに、ネット接続機能を特徴とした「コネクテッドカー」として、新世代モデルの象徴として誕生した。

 

そして、これら3つのボディタイプから約3年遅れで2021年に追加されたのが、このカローラ クロスである。なんといってもカローラとしては歴代初のSUVモデルということで注目を集めたが、SUVブームももう10年近く続いているので、どうして今まで出なかったのか不思議なくらいだった。ちなみに、前年の2020年にはタイで先行販売されているが(日本仕様とはデザインが若干異なる)、先に東南アジアの国で販売されるというのは国産車としては珍しい売り方である。

↑カローラ クロスのボディカラーは全8色。写真のプラチナホワイトパールマイカは、太陽の光に反射するたびに真珠のような輝きを見せる

 

カローラのクロスオーバーSUVモデル……つまり、「カローラ クロス」となるわけだが、当然SUVタイプならではの恩恵があり、アイポイントが高く、荷室もそれなりに大きい。他のカテゴリーのクルマと比べて最低地上高も高いため、さまざまなシーンでそれほど高低差を気にせずに走り抜けることができるのもSUVらしい魅力である。

 

顔つき(フロントフェイス)については、現行型カローラの特徴をしっかり受け継いでいる。ボディサイズは、同社のSUVとしては、「C-HR」よりすこし大きく、「RAV4」より少し小さい。2016年末に発売されて以降、若干、販売にかげりが見えてきたC-HRを補完する形で、同等のミドルサイズモデルとしてラインナップされた。

↑ヘッドランプは、Bi-Beam LEDランプと2灯のバルブランプを採用しています。フロントフォグランプはLED

 

アニメチックでチャレンジングなデザインが特徴のC-HRに対して、このカローラクロスのデザインは、非常にオーソドックスだ。現代のSUVらしく、オフロードっぽさより都会的な雰囲気で、筋肉質でたくましく躍動的なボディラインや、大きなグリルにツリ目のヘッドライトが組み合わされている。前後フェンダーの盛り上がりなどもあるが、これらは近年のSUVのトレンドであり、どこか特別奇抜なデザインがあるわけではない。正統派で、奇をてらわないよさがある。ここはいい意味で「カローラ」なのだ。

↑1.8Lハイブリッド車(2WD)は、225/50R18タイヤ&18×7Jアルミホイールを履く

 

ネガティブな要素は見当たらず、すべてが快適!

インテリアは、水平基調のデザインでバランスがよく、乗員を安心させてくれる心地よさがある。質感はそれほど高いとは言えないが、決して低くはない。なにより使い勝手がよく、使用感がいい。なお、外から見るとそれなりに大きさを感じたが、実際に車内へ乗り込んでみると、車体はそれほど大きく感じられず、運転しやすい。

↑ディスプレイオーディオはセンター上方に配置。ドアの解錠・施錠、ドアの開閉時には照明が自動的に点灯・消灯し、乗る人を優しく迎える「イルミネーテッドエントリーシステム」

 

前席はそれなりに広くて窮屈さはない。シートは立派な仕立てで身体を包み込むような形状をしている。後席はもう少し前後長があれば足もとも快適だが、同クラスのSUVでは広いほうである。リクライニング機構が付いているのは、腰が痛くなりがちな筆者のような中年世代にはありがたい(笑)。

↑本革とファブリックのコンビシート。パワーバックドアや運転席の電動シートが標準装備なのはZグレードだけです

 

↑膝まわりに十分なスペースを確保し、座り心地にこだわったリヤシート

 

↑電動のサンシェードがついたサンルーフは、ZとSグレードのみのオプション。開口部がかなり大きくデザイン性も高い

 

全幅が広めなこともあってか、走りはずっしり安定していて、重心の低さと全体のバランスの良さを感じさせるが、この走りの安心感はミドルサイズモデルにしては珍しい。今回の試乗車が18インチタイヤ装着グレードだったためか、多少路面のデコボコを拾うような感覚もあるが、うまく足まわり(サスペンション)で処理してくれて、乗員に嫌な印象は与えない。今回は高速走行も試してみたが、高速巡航時の安定感も高めで、背の高いSUVらしからぬ安定感があった。

↑ハイブリッド車の2WDはWLTCモード26.2km/Lの低燃費。E-FourでもWLTCモード24.2km/Lを実現しています。また、ガソリン車はWLTCモード14.4 km/Lとなっています

 

ラインナップされるパワーユニットは、今回試乗した1.8Lエンジンベースのハイブリッドモデルと同じく1.8Lエンジンのガソリンエンジンモデル。ハイブリッドモデルには4WDの設定もある。ガソリンエンジンモデルと比べて多少高額だが、販売の主流はやはりハイブリッドモデルとなっているようだ。

↑高出力と燃費を同時に追求するバルブマチックを採用

 

ある意味、日本の中心だった「カローラ」のど真ん中。ネガティブな要素は見当たらず、すべてが快適で扱いやすく、乗員を困らせるようなことがない。車格と装備内容を考えてみれば、コストパフォーマンスも高い。いろいろと「クセが強い!」時代だが、それが苦手な人にはぴったりのモデルだ。

↑リヤシート通常時でも、ゴルフバッグが4個入るラゲージスペース。最大荷室容量は487L

 

↑後席を倒すと、奥行き1885mm×最大幅1369mm×高さ957mmと広いスペースに。ロードバイクも積載可能です

 

SPEC【ハイブリッドZ(2WD)】●全長×全幅×全高:4490×1825×1620㎜●車両重量:1410㎏●パワーユニット:1797cc直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm[モーター:フロント72PS/リヤ7.2PS]●エンジン最大トルク:142Nm/3600rpm[モーター:フロント163Nm/リヤ55Nm]●WLTCモード燃費:26.2㎞/L

 

撮影/茂呂幸正 文/安藤修也

 

 

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あれから12年! 変貌する「仙石線」で謎解きと震災の記憶をたどった

おもしろローカル線の旅109〜〜JR東日本・仙石線(宮城県)〜〜

 

東日本大震災が起きた2011(平成23)年3月11日から早くも12年を迎える。複数の鉄道路線が復旧を諦めバス路線に変更された一方で、一部区間の線路を敷き直して復旧を果たした路線がある。

 

仙石線(せんせきせん)もそうした路線の1つだ。震災から復旧したのみならず、歴史をたどると荒波にもまれた過去があることも分かった。路線に関わる謎解きと、あの日の記憶を改めて見つめ直した。

*2015(平成27)年9月5日〜2023(令和5)年2月26日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
今や希少!国鉄形機関車がひく「石巻線」貨物列車&美景を旅する

 

【仙石線の旅①】仙石線と東北本線はなぜ並行して走るのか?

仙石線の旅を始めるにあたって昭和初期の絵葉書の謎から解いていきたい。下記は昭和初期の仙石線の絵葉書だ。仙石線の電車がクロスする線路は何線だろうか。現在、JR東日本の仙石線と東北本線は塩釜〜松島間を並行して走っていて、クロスする箇所があるものの、絵葉書の風景とはだいぶ異なる。調べたところ、下の線路は国鉄塩釜線と推測された。塩釜線は東北本線の岩切駅から塩釜港まで延びていた路線で、港湾部の区間は廃線となったが一部はその後の東北本線に流用された。

↑昭和初期発行の宮城電気鉄道の絵葉書。下を走るのは旧国鉄塩釜線で現在の塩釜港まで線路が延びていた 筆者所蔵

 

現在、塩釜〜松島間で東北本線と仙石線は並行して走っている。なぜ同じ企業の2本の路線がすぐ近くをほぼ同じルートで走ることになったのだろう。

 

実は太平洋戦争前まで東北本線は官設の路線で、仙石線は私鉄の路線だったのだ。並行する路線には両線の過去が隠されていた。まずは仙石線の概要を含め歴史を追ってみたい。

 

【仙石線の旅②】宮城電気鉄道により98年前に開業した仙石線

仙石線は宮城県の仙台と石巻を結ぶことから名付けられた。その概要は次のとおりだ。

路線と距離 JR東日本・仙石線:あおば通駅(あおばどおりえき)〜石巻駅間49.0km、陸前山下駅〜石巻港駅1.8km(貨物支線)、全線電化(支線は非電化)複線および単線
開業 宮城電気鉄道が1925(大正14)年6月5日、仙台〜西塩釜間を開業、1928(昭和3)年11月22日に石巻駅まで延伸され全通
駅数 33駅(起終点駅・貨物駅を含む)

 

宮城電気鉄道により設けられた仙石線は、社名のとおり当時の最先端を行く直流1500ボルトに対応した新型電車が運行。仙台の郊外電車として、また観光地・松島が沿線にあるため利用客が多く、昭和初期には15分〜30分間隔で列車が走っていた。沿線の陸海軍の施設に向けての貨物輸送も盛んで、こうした背景のもと1944(昭和19)年5月1日に戦時買収され、国有化された。

 

一方、東北本線は現在、塩釜駅から松島駅まで仙石線とほぼ並行して走っているが、古くは利府支線の利府駅と品井沼駅(しないぬまえき)間21.2kmを結び走っていた。ちょうど現在の三陸沿岸道路が通る地域に重なる。旧線は山中を通るため勾配がきつく輸送のネックとなっていたために戦時下の1944(昭和19)年11月15日に、旧塩釜線の一部区間を利用した現在の海沿いの路線に改められた。なお旧線は1962(昭和37)年4月20日に廃止されている。

 

仙石線は、海沿いの東北本線の新線が開業した年に国営化された。戦時下とはいえ国に計画性がなかったことが透けてみえる。もし並行する仙石線と東北本線を直結させて列車を走らせたのならば、問題は一挙に解決し、無駄もないようだが、なぜそうした解決策を図らなかったのか謎である。

 

その後、1987(昭和62)年4月1日に国鉄分割民営化により仙石線はJR東日本に引き継がれ現在に至る。そして2011(平成23)年3月11日を迎えるわけだが、震災前後の様子は沿線めぐりの中で触れていきたい。

 

【仙石線の旅③】JR東日本では希少な205系が今も主力

仙石線を走る車両を見ておこう。現在、旅客用車両は下記の2形式だ。

 

◇205系電車

↑仙石線を走る205系3100番台。仙石線のラインカラーのスカイブルーの帯が入る

 

205系は国鉄が1985(昭和60)年に投入した直流通勤形電車で、国鉄分割民営化した後にはJR東日本、JR西日本に引き継がれた。

 

仙石線を走る205系は旧型の103系の置換え用に2002(平成14)年〜2004(平成16)年に導入された車両だ。新製車両ではなく、元山手線・埼京線を走った205系の車体や機器を流用している。4両編成で冬の寒さに対応するために耐寒設備も装着された。JR東日本の205系は徐々に減りつつあり、現在は仙石線と、鶴見線、南武支線のみと希少な車両になっている。

 

なお、ロングシートがクロスシートに変わる2WAYシートを装備した車両も走っている。こちらはスカイブルーの帯を巻く主力の車両と異なり、沿線の観光イメージのアップを図るため多彩なラインカラーが車体に入っている。また沿線の石巻に縁が深い漫画家、石ノ森章太郎氏のマンガ作品がラッピングされた車両も走る。

 

◇HB-E210系気動車

↑仙石線内を走行するHB-E210系気動車。車体正面に「HYBRID(ハイブリッド)」の文字が入る

 

HB-E210系気動車はディーゼルハイブリッドシステムを搭載した一般形気動車で、仙台駅〜石巻駅間を走る仙石東北ライン用に2015(平成27)年に導入された。JR東日本の東北地域の電化方式は交流電化で、一方の仙石線は直流電化方式のため、両路線の間で行き来するため気動車が採用された。

 

ちなみに、仙石東北ラインは、仙台駅〜塩釜駅間は東北本線を走り、高城町駅(たかぎまちえき)〜石巻駅間は仙石線を走る。塩釜駅と高城町駅の間には連絡線があり、その連絡線を利用して東北本線、仙石線を行き来している。

 

そのほかにJR貨物のDD200形式・DE10形式ディーゼル機関車牽引の貨物列車も一部区間を走っている(詳細後述)。

 

【仙石線の旅④】日本初の地下路線&地下駅だった旧仙台駅

ここからは仙石線の旅を始めよう。現在の起点は地下駅のあおば通駅となる。ここから陸前原ノ町駅間の約3.2km間が地下鉄区間となっている。この仙台市街地区間の歴史も紆余曲折があり、謎も秘めている。

↑仙台駅の西側に位置する起点駅のあおば通駅。地上からの入口(右上)は市営地地下鉄との共用で、入口には仙台駅と記されている

 

路線が誕生した宮城電気鉄道時代、仙台駅から東七番丁駅間で地下路線が設けられた。東北本線と立体交差し、仙台駅西口に駅の出口を設けるためだった。

 

日本の地下鉄道は浅草駅〜上野駅間を走った東京地下鉄道(現・銀座線)が最初だとされるが、仙石線はその開業より2年半も早く設けられた地下鉄道および地下駅だったのだ。しかし、単線で使い勝手が悪く1952(昭和27)年に廃止、その歴史はすっかり忘れられてしまった。宮城電気鉄道が消滅したため、当時の地下駅がどうなったかも謎のままである。

 

地下ホームが廃止された後、仙石線のホームは200メートルほど東に移され、地上ホームとなった。東口から市街を走る時代が長く続いたのだが、市街地には踏切が多く、開かずの踏切ばかりで不評だった。そこで連続立体交差事業が進められ2000(平成12)年3月11日に工事が完成し、今の仙石線の地下を走る区間ができあがった。

↑現在の仙台駅の東側に仙石線の地上ホームがあった。旧路線の東七番丁踏切跡には記念碑(右下)が歩道上に設けられている

 

【仙石線の旅⑤】地下駅の一つ宮城野原駅で途中下車した

仙台市街の地下駅の一つ、宮城野原駅(みやぎのはらえき)で途中下車してみた。この駅は楽天ゴールデンイーグルスの本拠地、楽天モバイルパーク宮城の最寄り駅。発車ベルは応援歌の「羽ばたけ楽天イーグルス」だったり、駅の2番出口にはヘルメットが乗ってるなど、なかなか凝っている。

 

この球場に隣接して仙台貨物ターミナル駅が広がる。仙台貨物ターミナル駅は東北地方を代表する貨物駅で、路線は仙台駅を通らず東北本線のバイパス線、東北本線支線(通称・宮城野貨物線)にある。貨物駅上には跨線橋がかかり、橋の上から貨物列車の入換えや、コンテナを積む様子を見ることができる。

↑宮城野原駅の一つの2番出口は楽天カラーでまとめられている(左下)。その出口から徒歩約10分の場所に仙台貨物ターミナル駅がある

 

仙石線は宮城野原駅の次の陸前原ノ町駅を過ぎると宮城野貨物線の下をクロスして走り、苦竹駅(にがたけえき)手前から地上部へ出る。

 

【仙石線の旅⑥】本塩釜駅までは大都市の郊外線の趣が強い

仙石線は起点のあおば通駅から本塩釜駅までは複線区間で列車本数も多い。北側を東北本線が沿うように走っているが、東北本線は駅間が長いのに対して、仙石線は駅間が短い。例えば東北本線の仙台駅〜塩釜駅間13.4kmに途中駅は4駅で所要時間が16分、対して仙石線は仙台駅〜本塩釜駅間15.5kmに途中駅が11駅で所要時間は約30分かかる。

 

東北本線の駅周辺よりも仙石線の駅周辺のほうが賑わっていて、沿線の住宅開発やマンション建設も進んでいる。列車本数が多く便利ということもあるのだろう。

↑複線区間が本塩釜駅まで続く。仙台市の郊外区間ということもあり、マンションも多く建ち並ぶ

 

仙台駅から約30分、本塩釜駅を過ぎると進行方向右手に塩釜港が見えてくる。筆者は震災前に訪れたことがあったが、今は港を取り囲むように背の高い堤防が築かれ、だいぶ趣が変わっていた。

↑塩釜港の西側を高架線で走る仙石線の下り列車。車窓からも港の様子を望むことができる

 

【仙石線の旅⑦】芭蕉も発句に懊悩した松島はやはりすごい!?

次の東塩釜駅からは海岸沿いを走る区間が多くなる。仙石線の線路に寄り添うように左手から近づいてくるのが東北本線の線路だ。しばらく並走するのだが、接続駅がなく両線の駅も遠く離れているのが不思議なところ。やはり私鉄路線と官設路線だった名残が今も続いているわけだ。

 

仙石線の車窓から大小の島々が浮かぶ海が眺められるようになると、間もなく松島海岸駅だ。この駅では多くの観光客が下車していく。

↑新装した仙石線の松島海岸駅。駅から景勝地、瑞巌寺五大堂(左上)も徒歩圏内にある

 

冬にもかかわらず、松島海岸駅は賑わいをみせていた。駅前から遊覧船の呼び込みが盛んで、松島名物のカキの殻焼きも香る。そんななかを歩くこと8分、瑞巌寺五大堂を訪れ、松島湾を見渡した。260余の島々が浮かぶ日本三景の松島には、かの俳聖、松尾芭蕉すら美しさに発句できなかったと伝わるが、観光客が訪れる魅力は醒めないようだ。

 

松島には瑞巌寺(ずいがんじ)、瑞巌寺五大堂といった古刹や景勝地が集う。海岸に近い瑞巌寺だが、杉並木が枯れたりしたものの津波の影響もあまりなく、震災後は避難所として活かされた。松島湾に浮かぶ島々が津波から施設を守り、この場所ならば安全という長年の経験と知恵が役立っているようだ。

↑仙石線と東北本線との連絡線付近を走る仙石東北ラインの列車。松島の瑞巌寺のちょうど裏手にこの連絡線がある

 

【仙石線の旅⑧】丘陵部の野蒜駅の新駅から海へ散策してみた

仙石線は路線の68%が海岸部の近くを走ることもあり、震災時には津波の被害を受けた箇所も多かった。松島海岸駅周辺のように被害が軽微だった地域もあれば、大きな被害を受けた地域もあった。ここからはより海岸近くを走る区間の震災前後の状況を見て行きたい。

↑復旧した陸前富山駅。背の高い防波堤(右上)が設けられた。現在防波堤は入場禁止となっている 2015(平成27)年9月5日撮影

 

 

仙石線の沿岸で最も海岸に近いのは陸前富山駅(りくぜんとみやまえき)から陸前大塚駅付近。この区間は海が近いだけに風景が素晴らしい。一方で津波の被害を受けたため路線をかさ上げし、堤防を増強するなどした上で、2015(平成27)年5月30日に復旧に至っている。

↑陸前富山駅〜陸前大塚駅間を県道27号線から松島湾と仙石線を眺める。近くの古浦農村公園では5月、菜の花畑も楽しめる(左上)

 

陸前大塚駅から東名駅(とうなえき)、野蒜駅(のびるえき)間の津波の被害は特に際立った。野蒜駅から東名駅へ向かっていた仙石線の上り列車が津波に押し流されて大破している。幸いにも乗客は近くの小学校へ避難して無事だった。

 

震災前の地図を見るとこの区間は海岸からだいぶ離れていた。そして海の先には宮戸島(みやとじま)という松島湾最大の島がせり出している。2つの駅は海岸から離れていたものの標高が低く平坦地が連なっていたこともあり、津波の被害が大きかったようだ。

 

仙石線の路線は震災後に丘陵部に移され、東名駅と野蒜駅の北側は野蒜北部丘陵団地として新たに整備された。この新しい野蒜駅から津波の被害が甚大だった旧野蒜駅方面へ歩いてみた。

↑現在の野蒜駅の駅舎。野蒜ヶ丘という丘陵部に造成された住宅地に面して、新しい駅が設けられた。右上は旧駅方面へ向かう連絡通路

 

 

駅前から「野蒜駅連絡通路」を抜けて旧駅方面へ降りていく。徒歩10分ほどで着く旧野蒜駅周辺は「東松島市東日本大震災復興祈念公園」として整備されていた。中心となる施設が旧野蒜駅の駅舎だ。

 

旧駅舎は「東松島市 震災復興伝承館」として開放されている(入館無料)。館内には被災前の東松島市と、3月11日の同地の様子、そして津波、避難の記録などが展示され、映像でもふり返ることができる。2階の入口には旧駅で使われた自動券売機が展示され、その壊れ方が津波のすごさを物語っている。

↑駅名案内などもそのままに残る旧野蒜駅の駅舎。建物に津波が3.7mの高さまで来たことを示す案内看板が付いている

 

階段の上部には津波がここまで来たことを示す案内看板が。この場所での津波の高さは3.7mだった。数字だけだとその高さが実感できないが、実際に見上げると、この津波が目の前に差し迫ったとしたら、とても逃げられない高さであることが実感できた。

 

旧野蒜駅と裏手に残るホームからは今も電車が発着しそうな趣が残るだけに、震災および津波の恐ろしさを改めて感じた。

↑旧野蒜駅「東松島市 震災復興伝承館」の裏手にはレールが敷かれたまま残るホームも保存されている。

 

【仙石線の旅⑨】航空自衛隊の練習機が駅前に

丘陵に設けられた野蒜駅から陸前小野駅、鹿妻駅(かづまえき)と、水田風景が広がる平野部へ下りていく。この鹿妻駅前には航空自衛隊で使われたジェット機が保存展示されている。

↑鹿妻駅の駅前で展示保存される航空自衛隊のT-2練習機。ブルーインパルスの基地上空訓練は平日の午前中に行われている

 

鹿妻駅の駅前に展示保存されるのは、航空自衛隊で1995(平成7)年12月まで地元の松島基地を拠点に活動する曲技飛行隊・ブルーインパルスで使われていたT-2超音速高等練習機(69-5128機)であることが分かった。なお、現在のブルーインパルスはT-4練習機を使っている。

 

航空自衛隊の松島基地は鹿妻駅から次の矢本駅の海岸側に滑走路がある。ちなみに松島基地も被災し、基地内の駐機していた28機がすべて水没してしまった。幸いブルーインパルスの乗務機は福岡県の芦屋基地を訪れていて水没を免れ、隊員たちは機体を残し、東松島へ急ぎ戻り被災した人たちの支援にあたったそうだ。

 

【仙石線の旅⑩】石巻市内では貨物専用線を訪ねてみた

起点のあおば通駅から約1時間30分で終点の石巻駅へ到着した。石巻駅の駅構内や駅舎には、石ノ森章太郎氏が生み出したマンガのキャラクター像が飾られている。石ノ森章太郎氏は宮城県登米市生まれだが、学生時代に石巻の映画館に通った縁もあり、石ノ森萬画館(駅から徒歩12分)が市内に設けられている。

↑仙石線の石巻駅。1・2番線(左下)が仙石線、仙石東北ラインのホームで、石巻線との乗換えも便利だ

 

石巻駅で鉄道好きが気になることといえば、駅構内に停まるコンテナ貨車だろう。この列車はどこへ向かう列車なのだろう。

 

貨物列車は石巻駅のとなり、仙石線陸前山下駅から分岐する仙石線貨物支線の先にある石巻港駅へ向かう。この貨物駅に隣接して日本製紙石巻工場があり、紙製品がコンテナに積まれて、石巻線経由で小牛田駅(こごたえき)へ運ばれる。

↑陸前山下駅から住宅街を抜けて石巻港に面した石巻港駅を目指すDE10形式牽引の貨物列車。同機関車牽引の列車も減り気味だ

 

石巻港にほぼ面した石巻港駅も津波により壊滅的な被害を追った。駅構内に停まっていたDE10形式ディーゼル機関車の1199号機と3503号機が被害を受けて現地で廃車、解体されている。

 

仙石線貨物支線の撮影から戻る陸前山下駅近くの街中で、ここまで津波が到達したことを示す案内が貼られていた。海岸からかなり遠い住宅地まで津波がやってきたがわけだ。仙石線沿線の「東松島市東日本大震災復興祈念公園」の案内には「あの日を忘れず 共に未来へ」という見出しが付く。時間がたつとともに忘れがちだが、時あるごとに震災の記憶を未来への教訓として役立てていくべきだと切に感じた。

リーズナブルな価格だけど、しっかり走れるベネリのe-Bike「MANTUS 27 CITY」

最近、注目を集めているe-Bikeと呼ばれるスポーツタイプの電動アシスト自転車ですが、乗りたいとは思っていても、価格がハードルだと感じている人も少なくないのではないでしょうか。たしかに、e-Bikeは元々安いものではないですし、昨今の円安傾向や輸送費の高騰もあって価格は上昇傾向。そんな中で、昨年末に発表されたベネリの「MANTUS 27 CITY(マンタス 27 シティ)」は、17万7210円(税込)という価格もあって話題となっています。

 

発売前ですが、このe-Bikeに試乗する機会があったので、インプレッションをお届けします。

↑「MANTUS 27 CITY」は2023年3月上旬発売予定。カラーはマットブラック(写真)と、ホワイト、シルバーの3色が用意される

 

またぎやすい低床フレームを採用

「MANTUS 27 CITY」のベースとなっているのは、以前に試乗レポートをしたことがある「MANTUS 27 TRK」というモデル。ベースモデルと大きく違うのはフレーム形状で、トップチューブのないステップインと呼ばれるタイプとなっています。それも、単にトップチューブを廃しただけでなく、足が通る部分を低床設計としているのがポイント。小柄な人でも気軽に乗れる作りです。

↑乗り込む際に足を通す部分が低くなる形状なので、乗り降りがしやすい構造

 

そのほかにも、前後タイヤにはフェンダーが装備され、リアのキャリアやフロントのライトも標準装備。e-Bikeではありますが、普段の使い勝手に配慮したモデルになっています。スタンドも安定して車体を支えられる両足タイプで、フロントに装着できるバスケットもオプションで用意されているとのこと。通勤や通学にも安心して使えるモデルといえそうです。

↑フロントには泥はねを防ぐフェンダーだけでなく、ショックを吸収するサスペンションも装備

 

↑リアには荷物やバスケットなども取り付けられるキャリアを標準装備。反射板もキャリアにマウントされる

 

↑フロントに装備されるライトは、バッテリーから給電されるタイプなので、発電機が抵抗になることもない

 

↑スタンドはフレーム中央部に両足タイプを装着。安定して車体を支えられるので安心感が高い

 

ハンドル形状は手前に向けてゆったりとカーブしたもの。握りやすい形状でグリップもエルゴノミックタイプとするなど、長時間走っても疲れにくい設計です。サドルも快適性を重視したタイプで、お尻が痛くなりにくい。

↑手前にカーブした形状のハンドルは、手首が自然なかたちになるので疲れが少ない

 

↑グリップは手のひらを支えるエルゴノミック形状で、こちらも手が痛くなりにくい

 

↑サドルはやや細身の形状だが、肉厚でクッションが効いているので快適性が高い

 

シンプルな見た目を実現するアシストシステム

e-Bikeの心臓部であるドライブユニットはAKM製のハブモータータイプを採用。後輪の軸(ハブ)とモーターが一体となっているので、車体の中央に搭載するタイプのドライブユニットと違って目立たないので、電動アシストであることがわかりにくくなっています。バッテリーもフレームに内蔵されるタイプとなっているので、こちらも自転車のデザインを邪魔しないスッキリとした見た目です。

↑車軸の部分にあるシルバーのパーツがハブモーター。知らない人が見ても存在には気付かなそう

 

↑バッテリーはフレームに内蔵されている。バッテリー容量は36V-7.8Ahで、最長80kmのアシスト走行が可能。充電時間は約4〜6時間

 

↑アシストモードの切り替えなどを行うコントローラーは左手側に装備。ディスプレイはなくシンプルな作り

 

変速機構はシマノ製の「TOUNEY(ターニー)」グレードの7段。チェーンカバーが装着されているので、ズボンの裾などをチェーンに巻き込んでしまう心配がありません。

↑変速機構がクロスバイクなどに採用される外装式だが、普段使いがしやすいカバーなどが装備される

 

e-Bikeらしいスムーズなアシストを体感

e-Bikeとしては非常に求めやすい価格となっている「MANTUS 27 CITY」。ママチャリタイプの電動アシスト自転車に+α程度の価格で購入できます。そこで気になるのは、やはり走行性能でしょう。e-Bikeにはかなりのモデルを試乗してきましたが、多くは“値段なり”の走行性能なので、高いものはそれなりに上質な乗り味で、逆に安いものはアシスト制御の緻密さなどに差がある印象です。このモデルはどうなのか、実際に走り回ってみました。

 

走り出してすぐに感じるのは、アシストの制御が自然でe-Bikeらしい完成度になっていることです。低価格の電動アシスト自転車だと、ペダルを踏み込んだ瞬間に思った以上のアシストが立ち上がってしまったり、逆に遅れてアシストされるようなモデルもありますが、これはそうした違和感がなく、ペダルを踏んだ力にきれいにアシストが上乗せされるような印象です。

↑自然なアシストフィーリングなので、乗っていてとても気持ちいい。いつもより少し足を伸ばして遠出したくなるような完成度

 

フレームの形状はステップインタイプで、フェンダーやキャリアなどの装備も使い勝手を重視した作りですが、乗り味はスポーツタイプのe-Bikeに近いフィーリング。その印象に効いているのが、サドルの真下にペダルが位置するようなフレーム設計です。スポーツタイプの自転車では一般的な設計ですが、この配置だとペダルを漕ぐ際に太腿の裏側やお尻の筋肉が使えるので、長時間乗っても疲れにくいというメリットがあります。

↑ペダルを真下に降ろすような設計なので、スピードが出しやすい。前に踏み降ろすようなママチャリタイプとは一線を画する設計

 

アシストの力強さを体験するため、坂道も走行してみました。マウンテンバイクタイプのe-Bikeなどと比較すると、力強さという点ではやや劣りますが、街中にある坂道程度であればまったく問題なくスイスイと登っていけます。アシストモードは3段階に切り替え可能ですが、登り坂では最も強力なモードに入れておいたほうが良さそう。あとはペダルを回しているだけで、急な坂でも座ったまま登れます。

↑ペダルを回していれば勝手に登って行ってくれるような感覚はe-Bike最大のメリット

 

非常にリーズナブルな価格を実現しながら、e-Bikeらしい乗り味を実現しているベネリの「MANTUS 27 CITY」。低床フレームなど気軽に乗れる設計ですが、実際に乗り回してみると自然なアシストフィーリングもあって、遠出もしてみたくなるような完成度です。3月発売とのことなので、新生活のスタートに合わせて導入すれば、行動範囲を広げてくれるでしょう。

 

撮影/松川 忍

 

 

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「日産氷上試乗会」トレース性に優れたe-4ORCEの走行性能に脱帽!

2023年1月中旬、この時期の恒例行事となった日産の氷上試乗会が開催されました。今回の目玉は、同社の新たな4WDシステム「e-4ORCE」搭載車がこの条件でどう反応するかを体験できることです。本記事ではe-Powerの「エクストレイル」と100%EVの「アリア」による、その走りをレポートします。

↑長野県蓼科にある女神湖で開催された日産自動車の氷上試乗会。日産の電動車をはじめ、「フェアレディZ」や「GT-R」など日産の名車たちが勢揃いした

 

摩擦係数が低い中を多彩な試乗コースでチャレンジ

この試乗会は、湖(長野県・女神湖)の表情に作られたコースを走行して、車両の制御や運転技術を知る場として日産が毎年開催しているものです。雪上でさえ滑りやすいのに、氷上ということで滑りやすさはそれ以上。スタッドレスタイヤを履いているものの、この環境下で日産の最新4WDシステム「e-4ORCE」がどんな制御を見せてくれたのかが氷上試乗のポイントとなります。

 

用意された試乗メニューは基本的にこれまでと同様、直線路や大小のコーナーを組み合わせた往復コースと、定常円と8の字コース、それにスラロームが体験できるようになっていました。一般道とは違い、安全が確保された上で走行できるため、仮にスピンしても、横滑りしても問題は一切なし。この普通では得られない環境下で思いっきり車両の性能を確かめることができるというわけです。

 

結論から言うと、e-4ORCEの高い走行能力には驚きを隠せなかったというのが正直な感想です。それは極端に摩擦係数が低いこの条件下でも、驚くほどの安心感で走ることができたからです。これまでドライ路面やウェット路面での走行性能の高さは体験していましたが、正直ここまでとは思っていませんでした。

 

2tを超えるヘビー級モデルが氷上を意のままに走る「アリア」

まず紹介するのが、2022年6月にデビューしたアリアのe-4ORCEモデルです。このクルマは前後に最大出力218PSものハイパワーなモーターを搭載しつつ、車重は2.2tというヘビー級モデル。従来の感覚なら、この圧倒的なパワーで攻めまくったところで車重による慣性が働いてあっという間にコントロールを失う。そんなイメージが湧いてきます。ところが走り出すとそんな印象は微塵も感じさせなかったのです。

 

発進時こそタイヤはスリップしますが、速度が上がるにつれて車両はすぐに方向をつかんでスムーズに走って行きます。滑りやすい路面ではアクセルを不用意に踏めば、タイヤが空転するばかりで思うように前へ進むことはできません。しかし、アリアは舗装路に比べれば速度の上がり方こそ緩やかですが、トラクションコントロールの制御能力が高く、アクセルを踏む量に応じて速度を上げていくことができたのです。

 

ハンドルを切った時の動きも正確で、不安を感じることはほとんどありませんでした。さすがに速度域を上げ過ぎると横滑りが始まりますが、控えめに走れば思った通りのコースを正確にトレースして見せたのです。ここまで車両の挙動が乱れず、安定した走りが得られるとは思ってもみませんでした。

 

しかも、日産お得意の「e-Pedal」という回生ブレーキを併用すればコーナーに差しかかっても無理なく減速でき、スリップの発生を最小限に抑えることができるのです。滑りやすい路面ではブレーキの踏み方に神経を使うものですが、e-Pedalを使えばそんな不安から解放されるというわけですね。

↑e-4ORCEを4WDシステムに組み込んだバッテリーEVのアリア

 

高い着座位置、フロントヘビーもなんのその、安心して氷上を走行「エクストレイル」

一方のエクストレイルはどうでしょうか。エクストレイルといえば、初代よりアウトドア系4WD車として高い走破性を発揮するクルマとして根強い人気を保ってきたモデルで、新型はその4代目モデルとして2022年7月にデビューしました。特に4代目は全車がe-POWERによるモーター駆動となり、4WDシステムとしてe-4ORCEを採用したのが大きなポイントになります。

 

アリアと比較して大きく違うのは着座位置です。エクストレイルはもともとオフローダーとして誕生しているだけに、その分だけ腰高感は否めません。加えてフロントには発電用のガソリンエンジンを備えたことにより、前後の重量バランスでもアリアよりも不利となるのは明らかです。

 

ただ、そんな心配をよそに、エクストレイルは発進から減速、さらにはコーナリングでもアリアに迫るコントローラブルな動きを発揮してくれました。発進時の安定した加速はアリアにも劣らず確実性があり、しっかりと方向を見据えて進む感じです。コーナリングでのハンドリングも速度さえ注意すれば、リアがしっかりと駆動力を伝えてくれ安心して曲がれます。高い着座位置からは想像もできない安定した走りは、やはりe-4ORCEによる制御がここにあるからこそ。そう実感させられた次第です。

↑受注の約9割がe-4ORCEを選んだというシリーズ型ハイブリッドの新型エクストレイル

 

「e-4ORCE」が発揮する緻密なまでの制御の秘密とは?

では、どうしてe-4ROCEがこのような制御を発揮してくれるのでしょうか。実は同じ電動4WDを採用する「ノート」「セレナ」ではe-4ROCEと呼びません。日産車でも4WD機構にe-4ROCEを搭載するのはアリアとエクストレイルだけなのです。

 

日産はこのe-4ROCEについて、「これまで日産が培ってきた4WD制御技術、シャシー制御技術に、電動化技術で革新した新しい駆動システム」としています。これにより、日常走行からワインディング、滑りやすい路面まで、すべての走行シーンで意のままに走れる能力を発揮することになりました。

 

そのポイントとなるのが「協調制御」です。これまで油圧ブレーキや回生ブレーキのコントロールと、4WDの制御は別々のECUが担ってきました。そのため、それぞれがセンシングして入力された事象に応じて対応することとなり、互いの連携が十分でないまま制御することとなっていたのです。

 

それに対しe-4ROCEでは、シャシー全体の制御を一つの目標に向かってECUが一括して制御することとし、互いの連携もスムーズに行われるように進化。これによって路面の状況に応じた緻密な制御が可能となり、ドライ路面から滑りやすい路面まですべての路面に対して安心して走行できるようになったというわけです。

 

以前、エクストレイルで連続するドライ路面でコーナーを走り切った際、思い通りのコースを正確にトレースしていく様に、まるで自分の運転が上達したようにも感じました。その感覚が氷上でも同じように発揮されたのには本当に驚きです。聞けば4代目エクストレイルの販売比率は9割がこのe-4ORCEとのこと。もし、この走りを体験して選んでいるとしたら、エクストレイルの購入者は見識が相当に高い!  ぜひ、e-4ORCEの素晴らしい走りを堪能していただきたいと思います。

 

他の日産車種も紹介!

↑後輪駆動のフェアレディZ。VDCをOFFで不用意に踏み込むと簡単にスピン!コントロールが一番難しく、楽しくもあったクルマだ

 

↑カーボンセラミックブレーキやカーボン製リアスポイラーなどを装着した、特別仕様車GT-R プレミアムエディション Tスペック

 

↑「オーラNISMO」は2WDのみの設定。2WDであってもボディの軽さも手伝って、切り返しはとてもスムーズ。思ったよりもラクに走行できた

 

↑「オーラ」の4WD車。強烈な回生ブレーキの効きによって氷上でもラクにコントロールできたが、滑り出す感じが結構早い

 

↑バッテリーEVの軽自動車「サクラ」。2WDながら、車重の重さにより高いグリップを発揮していた

 

↑「キックス AUTECH」の4WD。eペダルにより。e-4ORCEほどの連続的な滑らかさはないものの、アクセルに敏感に反応して加減速。安定性は高い

 

 

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黄色い電車に揺られ「宇部線」を巡る。炭鉱の町の歴史と郷愁を感じる旅

おもしろローカル線の旅108〜〜JR西日本・宇部線(山口県)〜〜

 

重工業で栄えてきた宇部市は人口16万人と地方の中核都市だ。そんな市内を走る宇部線だが、駅周辺の賑わいは消えていた。車社会への移行によって駅前の風景が大きく変わっていく−−そんな地方ローカル線の現状を、宇部線の旅から見ていきたい。

*2017(平成29)年9月30日、2022(令和4)年11月26日、2023(令和5)年1月21日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
電車も駅も昭和の趣が色濃く残る「小野田線」超レトロ旅

 

【宇部線の旅①】宇部軽便鉄道として宇部線の歴史が始まった

まず、宇部線の概要や歴史を見ていこう。宇部線は軽便鉄道が起源となっている。

路線と距離 JR西日本・宇部線:新山口駅〜宇部駅間33.2km、全線電化単線
開業 宇部軽便鉄道が1914(大正3)年1月9日、宇部駅〜宇部新川駅間を開業。
宇部鉄道が1925(大正14)年3月26日に小郡駅(現・新山口駅)まで延伸し、宇部線が全通。
駅数 18駅(起終点駅を含む)

 

今から109年前に宇部軽便鉄道により路線が開設された宇部線だが、「軽便」と名が付くものの官設路線との鉄道貨物の輸送が見込まれたこともあり、在来線と同じ1067mmの線路幅で路線が造られた。1921(大正10)年には宇部鉄道と会社名を変更、1941(昭和16)年には宇部電気鉄道(現・小野田線の一部区間を開業)と合併し、旧宇部鉄道は解散、新たな宇部鉄道が設立された。この〝新〟宇部鉄道だった期間は短く、その後の戦時買収により1943(昭和18)年5月1日、宇部鉄道の全線は国有化。1987(昭和62)年4月1日に国鉄分割民営化によりJR西日本に引き継がれ現在に至っている。

 

ローカル線の利用状況の悪化が目立つJR西日本の路線網だが、2021(令和3)年度における宇部線の1日の平均通過人員は1927人。居能駅(いのうえき)で接続する小野田線の346人と比べれば多いものの、赤字ローカル線の目安となる2000人をやや下回る状況になっている。

 

【宇部線の旅②】国鉄形105系とクモハ123形の2形式が走る

次に宇部線を走る車両を見ておこう。現在は下記の2形式が走る。

↑宇部新川駅を発車する濃黄色の105系。宇部線の105系は2両編成のみだがクモハ123形と連結して走る列車もある

 

◇105系電車

105系は国鉄が地方電化ローカル線向けに開発し、1981(昭和56)年に導入した直流電車で、宇部線には同年の3月19日から走り始めている。誕生して42年となる古い車両で、他の路線では後継車両に置き換えが進めれ、JR西日本管内で残るのは福塩線(ふくえんせん)および、宇部線、小野田線と山陽本線の一部となっている。なお、宇部線を走る105系の車体カラーは濃黄色1色と、クリーム地に青と赤の帯を巻いた2タイプがある。

 

◇クモハ123形電車

クモハ123形電車は、1986(昭和61)年に鉄道手荷物・郵便輸送が廃止されたことで、使用されなくなった荷物電車を地方電化ローカル線用に改造したもの。JR東日本、JR東海のクモハ123形はすでに全車が引退となり、JR西日本に5両のみが残る。5両全車が宇部線、小野田線で走っていることもあり、貴重な電車を一度見ておこうと訪れる鉄道ファンの姿も目立つ。

↑宇部新川駅構内に留置中のクモハ123形。トイレが付く側の側面は窓がわずかしかない。それぞれの車両は細部が微妙に異なっている

 

宇部線、小野田線を走るクモハ123形は1両のみで走る列車が大半だが、105系2両と連結し、3両で走る珍しい列車も見られる。こちらは朝夕のラッシュ時のみ、新山口駅と山陽本線の下関駅を往復(宇部駅を経由)している。

↑2両の105系の後ろに連結されたクモハ123形。同じ車体色のため違和感はないが、ドアの数が異なる不思議な編成となっている

 

【宇部線の旅③】やや離れた0番線から宇部線の旅が始まった

ここからは宇部線の旅を楽しみたい。路線の起点は新山口駅なのだが、路線の3分の2にあたる12駅が市内にあり、路線名ともなっている宇部市の宇部駅から乗車することにした。

 

筆者は宇部駅7時28分着の山陽本線の下り列車を利用したが、ホームを降りると連絡跨線橋を走り出す中学生がいた。接続する宇部線の列車が7時31分と、3分の乗り換え時間しかないのだ。しかも、宇部線の電車が停車しているのが、0番線と連絡跨線橋から遠いことが、中学生が走り出した理由だった。

 

通常、宇部線の列車は1番線からの発車が多いのだが、早朝はこうした接続時間に余裕のない列車がある。走り出す中学生がいたから分かったものの、のんびりしていたら乗り遅れていただろう。こうした例はいかにもローカル線らしい現実だ。ワンマン運転のため、運転士がホームを確認して乗り遅れがないかを確認して発車していたが、慌ただしいことに変わりはない。

↑小規模ながら瀟洒な造りの宇部駅駅舎。とはいえ駅前通り(右下)を見ると閑散としていた

 

宇部駅は1910(明治43)年7月1日に開業した古い駅だが、宇部鉄道が国有化した後に、宇部線の宇部新川駅が宇部駅と改称。1943(昭和18)年5月1日から1964(昭和39)年10月1日までは西宇部駅を名乗った。後に再改称されて宇部駅を名乗っているが、宇部市の中心は宇部新川駅付近である。

 

宇部駅は名前の通り宇部市の表玄関にあたるが、駅前に商店はほとんどなく閑散としてい理由はこのあたりにあるのかもしれない。

↑宇部駅の0番線ホームに停まるクモハ123形。0番線は連絡跨線橋から離れていて山陽本線からの乗り継ぎに時間を要する

 

【宇部線の旅④】厚東川の上をカーブしつつ105系が走る

宇部駅を発車した宇部線の列車は、進行方向左手に山陽本線の線路を見ながら右へカーブして宇部線に入ると、わずかの距離だが複線区間に入る。ここは際波信号場(きわなみしんごうじょう)と呼ばれるところで、朝夕に宇部方面行き列車との行き違いに使われることがある。

 

現在の宇部線は列車本数が少なめで、上り下り列車の行き違いのための信号場は不要に思える。しかし、石炭・石灰石輸送が活発だったころは、美祢(みね)線の美祢駅と宇部港駅(現在は廃駅)間を貨物列車が1日に33往復も走っていたそうだ。際波信号場はそんな貨物輸送が盛んだったころの名残というわけである。ちなみに現在、貨物輸送は全廃されている。

↑厚東川橋梁を渡る宇部新川方面行の列車。橋の途中からカーブして次の岩鼻駅へ向かう

 

信号場を通り過ぎると間もなく列車は厚東川(ことうがわ)橋梁にさしかかる。車窓からは上流・下流方向とも眺望が良い。二級河川の厚東川だが水量豊富で宇部線が渡る付近は川幅も広い。橋梁上で列車は右カーブを描きつつ次の岩鼻駅へ向かう。

 

【宇部線の旅⑤】開業当初、岩鼻駅から先は異なる路線を走った

宇部線の開業当初の岩鼻駅付近の地図を見ると、次の居能駅方面への路線はつながっておらず藤山駅(その後に藤曲駅と改称)、助田駅(すけだえき)という2つの駅を通って宇部新川駅へ走っていた。現在のように路線が変更されたのは国有化以降で、それ以前は現在の小野田線のルーツとなる、宇部電気鉄道の路線が居能駅を通り、宇部港方面へ線路を延ばしていた。

 

国有化されて路線が整理された形だが、宇部市内の狭いエリアで宇部鉄道、宇部電気鉄道という2つの会社がそれぞれの路線を並行して走らせていたわけである。

↑レトロな趣の岩鼻駅(右上)から居能駅へ線路が右カーブしている。戦後しばらくこの先、異なる路線が設けられていた

 

岩鼻駅から右にカーブした宇部線は小野田線と合流して居能駅へ至る。この岩鼻駅〜居能駅間は路線名がたびたび変わっていて複雑なので整理してみよう。

 

【宇部線の旅⑥】レトロな居能駅の先に貨物線が走っていた

国有化まもなく宇部駅(当時の駅名は西宇部駅)〜宇部新川駅(当時の駅名は宇部駅)〜小郡駅(現・新山口駅)は宇部東線と呼ばれた。一方、居能駅から延びる宇部港駅、さらに港湾部に延びる路線は宇部西線と呼ばれた。岩鼻駅と居能駅間は1945(昭和20)年6月20日に宇部西線貨物支線として開業している。終戦間近のころに岩鼻駅と居能駅間の路線がまず貨物線として結ばれたわけである。

 

その後の1948(昭和23)年に宇部東線が宇部線に、宇部西線が小野田線と名が改められた。岩鼻駅から藤曲駅(旧・藤山駅)、助田駅経由の宇部駅(現・宇部新川駅)まで路線が結ばれていたが、この路線は1952(昭和27)年4月20日に廃止され、岩鼻駅〜宇部新川駅間は現在、旧宇部西線経由の路線に変更されている。

↑居能駅(左下)を発車した下関駅行列車。居能駅の裏手(写真右側)には今も貨物列車用の側線が多く残されている

 

何とも複雑な経緯を持つ宇部市内の路線区間だが、貨物線を重用したことが影響しているようだ。宇部市の港湾部の地図を見ると、港内に陸地が大きくせり出しており、この付近まで引込線が敷かれていた。当時のことを知る地元のタクシードライバーは次のように話してくれた。

 

「今の宇部興産のプラント工場がある付近は、かつて炭鉱で働く人たちが暮らした炭住が多く建っていたところなんです。沖ノ山炭鉱という炭鉱があったのですが、私が小さかった当時、町はそれこそ賑やかなものでした」

 

宇部炭鉱は江戸時代に山口藩が開発を始めた炭鉱だった。中でも宇部港の港湾部にあった沖ノ山炭鉱は規模も大きかった。宇部炭鉱は瀬戸内海の海底炭鉱で、品質がやや劣っており、海水流入事故などもあったことから、全国の炭鉱よりも早い1967(昭和42)年にはすべての炭鉱が閉山された。一方で、出炭した石炭を化学肥料の原料に利用するなど、歴史のなかで培ってきた技術が、後の宇部市の化学コンビナートの基礎として活かされている。

↑沖ノ山炭鉱の炭住が建ち並んだ港湾部は現在コンビナートに変貌している。写真は宇部伊佐専用道路のトレーラー用の踏切

 

【宇部線の旅⑦】郷愁を誘う現在の宇部新川駅

炭鉱の町から化学コンビナートの町に変貌した宇部市だが、人口の推移からもそうした産業の変化が見て取れる。炭鉱が閉山した当時は一度人口が減少したものの、その後に増加に転じ、1995(平成7)年の国勢調査時にピークの18万2771人を記録している。今年の1月末で16万183人と減少しているものの、豊富なマンパワーが沖ノ山炭坑を起源とする宇部興産(現・UBE)などの大手総合化学メーカーの働き手として役立てられた。

 

宇部市の繁華街がある宇部新川駅に降りてみた。山陽本線の宇部駅に比べると駅周辺にシティホテルが建ち、また飲食店も点在している。駅前の宇部新川バスセンターから発着する路線バス、高速バスも多い。

↑宇部新川駅の駅舎。宇部市の表玄関にあたる駅で規模も大きい。とはいえ人の少なさが気になった

 

だが、立派な造りに反して駅は閑散としていた。跨線橋は幅広く以前は多くの人が渡っていたであろうことが想像できるのだが、階段の踏み板は今どき珍しい木製で、改札口の横に設けられた小さな池も水が張られず、白鳥の形をした噴水の吹出し口が寂しげに感じられた。

 

一方、駅構内の側線には宇部線・小野田線用の105系、クモハ123形が数両停められていた。駅構内には宇部新川鉄道部と呼ばれる車両支所(車両基地)があったが、それぞれの電車は現在、下関総合車両所運用検修センターの配置となっていて、宇部新川駅の構内は一時的な留置場所として車庫代わりに利用されている。

↑宇部新川駅構内に止められる宇部線、小野田線の車両。同駅の車両基地は廃止されたが現在も車庫代わりに利用されている

 

宇部新川駅前の賑わいがあまり感じられないこともあり、再びタクシードライバー氏に聞いてみた。

 

「若い世代は地元であまり買物をしないし、遊ばないからね。下関までなら電車で1時間、車を使えば北九州小倉へ約1時間ちょっとで行けるから、皆そちらへ行ってしまう……」と悲しげな様子だった。

 

車で移動する人が大半となり、さらに他所へ出かけてしまう。それがこうした駅周辺の寂しさの原因となっているようだ。

 

【宇部線の旅⑧】バスの利用者が大半の山口宇部空港の現状

宇部線の沿線には重要な公共施設もある。例えば宇部線草江駅のそばには山口宇部空港がある。駅から徒歩7分、距離にして600mほどだ。山口県には広島県境に岩国飛行場もあるが、山口宇部空港は山口県内の主要都市に近いこともあり年間100万人を上回る利用者がある。とはいうものの草江駅で降りて空港へ向かう人の姿はちらほら見かけるだけだった。

 

これは、空港へはバスの利用が便利なためと推察する。現在、空港の公式ホームページでも同駅利用のアクセス方法を紹介しているものの、飛行機の発着に列車のダイヤが合っておらず、不便なのだろう。

↑利用者が少ない草江駅。ホームからも空港が見える。山口宇部空港(左上)は県道220号線をはさんで7分の距離にある

 

その点、山口宇部空港が1966(昭和41)年に開設されたときに、駅を少しでも空港近づけるなり方法があったのではと感じてしまう。ちなみに、JR西日本管内の路線では、鳥取県を走る境線では米子空港の改修時に、より近くに駅を移転させて利用者を増やした例がある。それだけに、少し残念に感じた。

 

【宇部線の旅⑨】瀬戸内海の眺望が楽しめる常盤駅

山口県の瀬戸内海沿岸地方を走る宇部線だが、車窓から海景色が楽しめる区間が意外に少ない。唯一見えるのが草江駅の次の駅、常盤駅(ときわえき)だ。

↑常盤駅のホームからは瀬戸内海が目の前に見える。レジャー施設が集う常盤池も徒歩15分ほどの距離にある

 

この駅で下車する観光客を多く見かけた。その大半が海方面とは逆の北側を目指す。北には常盤池という湖沼があり、この湖畔に「ときわ公園」(徒歩15分)が広がる。園内には動物園や遊園地や植物園もあり宇部市のレジャースポットとなっている。また宇部市発展の基礎を作った石炭産業の歴史を伝える「石炭記念館」もあり、併設された展望台からは瀬戸内海が一望できる。

 

筆者は時間の余裕がなかったこともあり、公園を訪れることなく、海へ出て常盤海岸を散策するにとどめた。駅から海岸へは徒歩3分で、瀬戸内海と九州が海越しに望める。山口宇部空港の滑走路が右手に見えて、発着時はきっと迫力あるシーンが楽しめるだろうと思ったが、残念ながら次の列車を待つ間に飛行機の発着を眺めることはできなかった。

↑常盤駅のすぐそばに広がる常盤海岸。今は波消しブロックが並んでいるが、1999(平成11)年までは海水浴場として開放されていた

 

【宇部線の旅⑩】宇部市から山口市へ入ると景色が大きく変わる

宇部市内の宇部線の駅は岐波駅(きわえき)まで続く。宇部線の18駅中、岐波駅までの12駅が宇部市内の駅で、この先の阿知須駅(あじすえき)からの6駅が山口市内の駅となる。宇部市は山口県内でも人口密度が県内3番目ということもあるのか、宇部市内の駅や沿線に民家が多く建つ。一方、阿知須駅を過ぎたころから沿線に緑が目立つようになり、特に深溝駅から先は田畑が沿線の左右に広がるようになる。

↑上嘉川駅〜深溝駅間は水田地帯が広がる。山陽本線は左手に見える民家付近を通っている

 

こうした民家が途絶える山口市内は宇部線の列車を撮影するのに最適なこともあり、深溝駅〜上嘉川駅(かみかがわえき)間で撮影した写真がSNS等に投稿されることも多い。そんな田園の中を走り、上嘉川駅を過ぎると、左側から山陽本線が近づいてきて並走し、今回の旅の終点、新山口駅へ到着する。

 

宇部駅からは1時間15分〜20分ほど、変化に富んだ車窓風景が楽しめる旅となった。

 

【宇部線の旅⑪】かつて小郡駅の名で親しまれた新山口駅

最後に新山口駅の駅名に関して。同駅は1900(明治33)年の駅の開設時に小郡駅(おごおりえき)と名付けられた。小郡村に駅が設けられたためで、その後に小郡町となり山口市と合併した。1975(昭和50)年、山陽新幹線が開業した後もしばらく小郡駅のままだったが、紆余曲折あった後、2003(平成15)年10月1日に山陽新幹線ののぞみ停車駅になったことを機に、小郡駅から新山口駅へ駅名を改めた。

↑新山口駅の新幹線ホーム側にある南口。在来線は北口側近くに改札口があり宇部線のホーム(右上)はそちらの8番線となっている

 

小郡駅といえば、駅弁ファンは「ふく寿司」を製造していた小郡駅弁当という会社を思い出す方もあるかと思う。筆者も安価でふく(地元下関ではフグと濁らずフクと呼ぶことが多い)が味わえるので、駅を訪れた際は欠かさず購入していたのだが、2015年に小郡駅弁当は駅弁から撤退してしまった。

 

しかし、この味を別会社の広島駅弁当が引き継ぎ販売を開始していた。パッケージのフクのイラストも健在で、懐かしの味が復活。新山口駅の「おみやげ街道」で金・土・日曜日のみ限定販売(1200円)するとのこと。次回に訪れた際は必ず購入しようと誓うのだった。

ホンダ「ヴェゼル」。人気車種のデザインや装備に隠された魅力を改めて深堀り!

初代モデルが大ヒットしたホンダ「ヴェゼル」だったが、2021年に登場した新型モデルは、デザインイメージを一新。ライバルとは一線を画するシンプル&クリーンなデザインで、コンパクトSUV市場でも目立った存在となっている。本稿ではそのデザインや装備に隠された魅力を深堀りする。

 

■今回紹介するクルマ

ホンダ/ヴェゼル

※試乗グレード:e:HEV PLaY

価格:227万9200円~329万8900円(税込)

 

新型ヴェゼル、他車との違いはデザインの妙にある

コンパクトSUV市場はここ数年ずっと活気に満ちている。なかでもホンダのヴェゼルは、2013年に登場した先代型がブランニューモデルであったにも関わらずヒット作となり、2014年から3年連続で新車販売クラスナンバーワンに輝いた。手頃なサイズと価格、そしてアクのないデザイン、室内の広さなどが人気を博した要因だ。

 

そんなヴェゼルが新型へフルモデルチェンジしたのは2021年だが、現在のコンパクトSUV市場にライバルは多く、トヨタの「ヤリスクロス」や「C-HR」、日産「キックス」などが存在している。では、この市場で新型ヴェゼルが打ち出した違いが何かといえば、それはデザインの妙だ。

 

切れ長のヘッドライトというのは現代SUVのトレンドでもあるが、ボディ同色グリルは新型ヴェゼルの真骨頂である。まるでグリルが存在しないように見えて、無機質な感じで無印良品っぽいというか、シンプルでクリーンなイメージだ。初めは違和感を覚える人もいるかもしれないが、見慣れてくると、品がよく、知的に見えてくる。

 

一方で、やはりクルマには目立つグリルがあってこそ、みたいなユーザーも一定数存在する。その証拠に、オプションパーツでは、ボディ色と異なるブラックのグリルが人気らしい。ないものねだりという人もいるだろうが、これはつまり、ボディ同色グリル以外の部分でもヴェゼルのデザインが優れていることの証明にほかならない。

↑e:HEV PLaY専用カラーバーオーナメント付フロントグリル

 

ボディサイドには、水平基調でまっすぐなウエストラインがフロントからリアまで伸びている。しかもこれが結構高い位置に設定されていて、車両全体の重心が高いように感じられる。しかし、スポーツカーでは重心が高く見えるとカッコ悪いが、ヴェゼルのようなSUVでは問題ない。むしろ重厚さが感じられて、乗員の安心感にもつながる。

 

さらに、サイドラインからつながるように高い位置に配置された、左右につながった形状のテールランプも特徴的だ。ランプ内はサイバーなデザインが施されていて、リアのアクセントになっている。また、その上のリアウインドウはかなり傾斜がつけられていて、クーペライクなスタイリングになっている。横から見るとクルマが前傾姿勢をとっているようにも見えるが、このアンバランスさがヴェゼルのおしゃれさを引き立てている。

↑エクステリアのデザインは、クーペライクなプロポーションを際立たせている。試乗車のボディカラーは、サンドカーキ・パール&ブラック

 

全体的に見てみると、ライバル車と比べて、端正なラインで、シンプルかつ品のある雰囲気にまとめられている。清潔感がありすぎて毒が足りないという人もいるようだが、他に似てない独自性という意味では頭ひとつ抜け出しているようにも感じる。

↑e:HEV PLaYは、18インチアルミホイール(ブラック+切削)+スチールラジアルタイヤを履く

 

室内は外観同様クリーンなイメージ

ウエストラインが高いがゆえ、室内スペースは狭そうにも見えるが、さにあらず。「フィット」譲りのセンタータンクレイアウトによって、車内には余裕が感じられる。また、リアシートは座面を跳ね上げてからシートバックを前方へ倒すことができるので、ラゲッジルームを拡張した際の床面がしっかりフラットになる。こういったところはSUVを趣味の道具として使う人にとって重要なポイントだ。

↑予約ボタンを押してクルマから離れるとテールゲートが自動で閉まる「予約クローズ」機能付き。個別の車両設定により、閉まった後に自動でキーロックさせることも可能だ

 

外から見ていると、なんだかボディが大柄に感じられる。たしかに先代モデルより全長と全幅は拡大されているものの(全高は低くなった)、しっかりコンパクトなモデルで、それはシートに座ってみると実感できる。ボディ全体の感覚は掴みやすいし、特別視界が悪いということもない。なお、インテリアデザインも、外観同様クリーンなイメージでまとめられていて好印象だ。

↑インテリアのデザインではしっかりと芯の通った「かたまり感」のあるソリッドなフォルムでSUVの力強さを表現

 

↑e:HEV PLaY専用のコンビシート(グレージュ)。シートサイドにオレンジのステッチをあしらった遊び心のあるデザイン

 

↑これはちょうどイイ! フロント左右に配置された「そよ風アウトレット」。風が体に直接当たることなく穏やかに頬をなでます

 

パワーユニットは、1.5Lガソリンエンジンと、同じく1.5Lベースのハイブリッドがラインナップされている。今回試乗したハイブリッドモデルは、アクセルを踏み込んでもそれほど加速感が鋭いわけではない。どちらかといえば穏やかで上質で、のんびり走ってちょうどいいクルマといった趣である。サスペンションはほどよい固さで乗り心地も上々。先代型と比べて静粛性は高くなっているし、心地よさという部分でしっかり進化を感じられた。

↑最高出力106PS/6000-6400rpm、最大トルク127Nm/4500-5000rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターアトキンソンサイクル i-VTECエンジン

 

進化という部分では、先進運転支援装置の「ホンダセンシング」も最新バージョンが搭載されている。高速道路走行中に前走車との車間を自動でキープして走れるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は渋滞追従機能付きとなったことで、渋滞走行がさらに楽になった。標識認識機能で走行中の道路の制限速度を見落とすことも減り、先行車発進お知らせ機能は信号停車時に後方からクラクションを鳴らされるのを防いでくれる。

↑空力性能においては、F1マシンの設計・開発などを行なうHRD Sakuraの風洞実験施設を使い、コンパクトSUVトップクラスの空力性能を目指したという

 

売れ筋のカテゴリーであり、各メーカーから数多くラインナップされるコンパクトSUVのなかで、あえてヴェゼルを選ぶ人というのは、きっとシンプルな暮らしを好む、都会的で品のある人なんだろうなぁと思えてくるから不思議である。

 

SPEC【e:HEV PLaY】●全長×全幅×全高:4330×1790×1590㎜●車両重量:1400㎏●パワーユニット:1496cc直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:78kW/6000-6400rpm●エンジン最大トルク:127Nm/4500-5000rpm●WLTCモード燃費:24.8㎞/L

 

文/安藤修也 撮影/茂呂幸正

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

鉄道&街道に歴史が感じられる「日光線」で美景を堪能する

おもしろローカル線の旅107〜〜JR東日本・日光線(栃木県)〜〜

 

日光といえば徳川家康を祀る日光東照宮がある町として知られている。この日光と栃木県の県庁所在地・宇都宮を結ぶのが日光線だ。

 

日光線に沿って日光詣でに使われた古道が残り、野山には四季の草花が美しく咲き誇る。そんな日光線の歴史探訪と美景探勝の旅を楽しんだ。

*2017(平成29)年1月29日〜2023(令和5)年1月19日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

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【日光線の旅①】116年前に日本鉄道が敷設した日光線

まずは日光線の概要に触れたい。加えて日光線の歴史を見る上で避けて通れない、ライバル路線の東武日光線の歴史も見ておこう。

路線と距離 JR東日本・日光線:宇都宮駅〜日光駅間40.5km、全線電化単線
開業 日本鉄道により1890(明治23)年6月1日、宇都宮駅〜今市駅間が開業、同年8月1日に日光駅まで延伸された
駅数 7駅(起点駅を含む)

 

今から133年前に、東北本線を建設した日本鉄道により日光線が造られた。その後、1906(明治39)年11月1日に日本鉄道が買収され日光線も国有化、官営の鉄道路線となった。1987(昭和62)年の国鉄分割民営化以降はJR東日本に引き継がれている。

 

日光線の歴史を大きく変えたのが、並行して走る東武日光線の存在だった。日光線が開業してから39年後の1929(昭和4)年に東武日光線が東武日光駅まで路線が延伸されると、熾烈なライバル争いが繰り広げられた。

 

1959(昭和34)年に国鉄が特急並みの充実度を誇る157系電車を導入したのに対して、東武鉄道は翌年に1720系「デラックスロマンスカー」を投入して対抗。国鉄の路線は東武に比べて所要時間が長いなど弱点があり、利用者の伸び悩みから優等列車の運転は消滅し、現在、日光線は普通列車のみの運行となっている(臨時列車を除く)。一方で、JR新宿駅発の特急が、途中の東北本線栗橋駅から東武日光線に乗入れ、東武日光駅着で走らせるなど、今や呉越同舟といった状態になっている。

 

【日光線の旅②】新型E131系電車に置換え完了

次に日光線を走る車両を見ておこう。現在は下記の1形式のみとなっている。

↑鹿沼駅近郊を走るE131系電車。先頭の車両はこの日は未使用ながら霜取り用のパンタグラフを備えている

 

◇E131系電車

2022(令和4)年3月のダイヤ改正時から、E131系600番台、680番台がそれまでの205系電車に代わり走り始めた。ステンレス製の拡幅車体を使用し、黄色と茶色の2色の帯をまとう。宇都宮線(東北本線)との共通の仕様で、関東地方の寒冷地を走ることから、先頭車に霜取り用のパンタグラフを装着し、加えてドアレールヒーターが装着されている。

 

昨年春まで走っていた205系は、日光線仕様の車両に加えてオリジナルな姿を残した車両や、改造した観光車両「いろは」も走っていただけに、鉄道ファンとしては残念だった。とはいえ、秋の修学旅行向け団体臨時列車の運行や、観光シーズンには臨時列車の運行も予想されるので、楽しみにしたい。

↑秋にE257系5500番台で運行された修学旅行用の団体臨時列車。2021(令和3)年11月14日撮影

 

【日光線の旅③】レトロな趣の宇都宮駅5番線ホームから発車

ここからは日光線の旅を楽しもう。日光線の列車は宇都宮駅5番ホームから発着する。このホームは宇都宮線用の7〜10番線とは趣がかなり異なる。ホームへの降り口に設けられる案内表示が、えんじ色ベースに明朝体の白い文字で表記、凝った金色の装飾が施される。レトロな駅名表示などは路線全駅共通で、歴史ある路線という演出が施されている。

↑宇都宮駅を発車してしばらくは宇都宮線や、高架の東北新幹線と並走して走る。駅名表示などもレトロな造りになっている(左下)

 

日光線の列車は朝夕30分おきに宇都宮駅を発車(一部は途中、鹿沼駅どまり)し、日中もほぼ1時間おきに運転される。観光シーズンは快速臨時列車も運行され、ローカル線としては本数も多めだ。

 

日光駅までの所要時間は45分弱と短めだが、個々の駅や沿線には観光地や鉄道ファンが気になる箇所が多数点在し、濃密な旅が楽しめる。本稿ではそうした気になるポイントを中心に紹介したい。

 

【日光線の旅④】鶴田駅到着までに目にする謎の引込線跡は?

宇都宮駅から所要約6分で次の鶴田駅に到着する。到着する前に進行方向左手に気になるポイントがある。雑草が生い茂って確認しにくいが、一部に線路が残っている。この線路は何なのだろう?

↑鶴田駅の宇都宮駅側には線路の左右に広い空き地が残る。写真右手にはかつて近隣の工場までの専用線が敷かれていた

 

宇都宮駅〜鶴田駅間に一部残る線路は、かつて富士重工(現・SUBARU)宇都宮製作所まで延びる専用線だった。旧・富士重工宇都宮製作所は鉄道事業部門で、気動車を中心に特急形からローカル線用まで多くの車両を製作していた。今も走るJR北海道のキハ283系や智頭急行のHOT7000系といった振子式気動車など優秀な車両も多かったが、2002(平成14)年度に鉄道事業は採算が取れないと撤退。同時に宇都宮製作所と鶴田駅間に設けられていた専用線も廃止され、日光線を使っての新車の甲種輸送も中止されてしまったのである。

 

鶴田駅から旧・富士重工宇都宮製作所の間を歩くと、雑草の生い茂るなか、線路の一部や信号施設も残されていて、一抹の寂しさを感じる。

↑東武宇都宮線と立体交差していた富士重工宇都宮製作所への引込線跡。線路や信号設備(右上)も公道のすぐ横に残されていた

 

ちなみに、鶴田駅からはかつて東武大谷線《1964(昭和39)年廃止》や、大谷軌道線《1932(昭和7)年廃止》、専売公社宇都宮工場専用線《1977(昭和52)年廃止》といった複数の線路があった。これらの線路は富士重工業の引込線に比べて廃止時期が古いため、残念ながらあまり痕跡が残っていない。

 

【日光線の旅⑤】鶴田駅の跨線橋は非常に興味深い歴史を持つ

工場への専用線が設けられていたため駅構内に側線の跡が残る鶴田駅には、歴史的な建造物が残され今も現役として使われている。

↑鶴田駅の現在の跨線橋は明治後期に造られたもので、支える柱や骨組みなどもかなり凝ったデザインとなっている

 

駅舎とホームを結ぶ跨線橋の上り口の右の柱には「明治四十四年 鉄道院」と刻印されている。今から112年前の1911(明治44)年に設けられたもので、左側の柱には「浦賀船渠(せんきょ)株式会社」とあった。調べてみるとこの会社、江戸幕府が設けた浦賀ドックだった。日本海軍の駆逐艦の製造を得意にした会社で、今は合併して住友重機械工業浦賀造船所となり、浦賀ドック自体は横須賀市に寄付されている。鶴田の跨線橋は現在、経済産業省により近代化産業遺産に認定されていて、歴史上かなり貴重な鉄道遺産といって良いだろう。

 

【日光線の旅⑥】秋にはそばの白い花が咲く鹿沼駅近く

日光線は駅と駅の間がかなり離れている区間が多い。特に鶴田駅から次の鹿沼駅までは9.5kmもある。鶴田駅近くまでは民家が建ち並んでいたものの、すぐに田畑が広がり始め、鹿沼駅が近づいてくると再び民家が連なるようになる。こうした移り変わる車窓風景が日光線らしい。日光線の沿線は近年、宇都宮市の通勤・通学路線としての役割が強まっているが、一方で沿線に緑が色濃く残っている。例えば鹿沼駅は西側のみしか駅の入口がないが、反対の東側にはうっそうとした竹林が広がっているのだ。

↑宇都宮駅から2つ目の鹿沼駅。裏手には竹林が広がりホームからも良く見える。ちなみに東武鉄道の新鹿沼駅とは約2.4km離れている

 

鹿沼駅を発車して間もなくのそば畑は、秋になると白い花が広がる。車窓からもそばの花と背景に古賀志山(こがしやま)などの低山を望むことができる。日光線では、鹿沼市の北隣の日光市にある100店以上の手打ちそば店により「日光手打ちそばの会」というグループを作りPR活動をしている。鹿沼市から日光市にかけて広がる畑で育ったそばが実る晩秋(夏に刈る品種もあり)からは新そばが提供される時期ということもあり、日光線を訪れたら昼時はぜひそばを賞味したい。

↑鹿沼駅を発車して間もなく、花咲くそば畑が望めた。左上は畑の目の前を走る日光線の下り列車。2022(令和4)年9月16日撮影

 

【日光線の旅⑦】文挟駅の裏手に続く例幣使街道とは?

沿線の風景を楽しむうちに次の文挟駅(ふばさみえき)に到着する。文挟駅という珍しい駅名だが、調べると駅の近くに台地にはさまれた低地があり、そちらをフ・ハザマ(狭間)と言われたことが転化して文挟となったそうだ。この文挟駅の西口駅前には古い杉並木が連なり見事だ。

↑文挟駅の東口からを望むと背景に杉並木が南北に連なる様子が見える

 

文挟駅の西口の前には杉並木にはさまれ国道121号が通っている。この道は例幣使街道(れいへいしかいどう)とも呼ばれ、南は鹿沼市と日光市の市境、小倉から北は日光市今市まで13.17kmにわたり美しい杉並木が残っている。

 

例幣使街道とは、江戸時代に主に日光例幣使が日光例祭に訪れ、例幣を納めるため用に設けられた脇街道のひとつ。京都から中山道を通り江戸に寄らず日光へ向かうアクセス路でもあった。江戸を通れば幕府に挨拶が必要になるわけで、例幣使街道を使えば面倒さが省けたわけだ。朝廷が遣わした例幣使の場合、帰りに江戸を通ることをしきたりにしたが、行き帰りとも例幣使街道を利用することもあったようだ。

 

江戸時代、朝廷の幕府への気遣いは大変なものだったようだが、その反面、挨拶を受ける側の幕府も用意が必要になるわけで、そのあたりの両者の気遣いがこのような街道を造った裏事情だったのかもしれない。

↑文挟駅近くに残る例幣使街道の杉並木。杉の大木は今や樹齢400年という大木になり街道を覆い続けている

 

現在、例幣使街道を含む日光杉並木は、植樹してから400年ほどの約1万2500本の杉並木が見事に残り、日本の史跡の中で唯一、国の特別史跡と特別天然記念物の二重指定を受けている。

 

【日光線の旅⑧】二宮尊徳が亡くなった地でもある今市の町

文挟駅の次の駅、下野大沢駅(しもつけおおさわえき)と今市駅の間で日光線と東武日光線と交差する。下を日光線の列車が、上を東武鉄道の電車が走るが、「特急日光」や「特急きぬがわ」として走るJR東日本の特急形電車が交差する姿も見ることができる。ここから日光までは、両路線がほぼ並行して走る区間となる。

↑日光線と東武日光線(右)は日光市の室瀬地区で立体交差する。東武日光線を走るのは500系リバティ ※本写真は合成したもの

 

さて、東武日光線の路線を上に見ながら着いたのが今市駅だ。駅は日光市今市の南の玄関口にあたる。同駅の北側700mほどに東武日光線の下今市駅があり、ここから鬼怒川温泉駅方面へ、また野岩鉄道(やがんてつどう)、会津鉄道を経て会津若松まで線路が延びている。

 

対してJR今市駅のにぎわいはそれこそ〝いまいち〟なのだが、この駅は閑散としている反面、駅前から日光駅方面には雄大な山々を望むことができる。この先からは山景色が美しい区間となる。

 

その前に今市の歴史に関して一つ触れておきたい。同町内には二宮尊徳記念館が設けられている。二宮尊徳といえば多くの小学校に薪の束を背負って本を読みながら歩く姿の銅像が残るが、この尊徳は70歳でこの今市で亡くなった。尊徳は今で言うところの篤志家で、晩年は災害や飢饉で苦しむ関東各地を巡り農村復興政策を指導している。それこそ八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍で貧しい農民たちの暮らしを助ける役目に献身した。今市では日光の神領で農村復興への道筋を立てるべくさまざまな施策をおしすすめていたが、病に倒れ今市の報徳役所で亡くなった(現・二宮尊徳記念館内)。

↑今市駅の駅舎からは天気に恵まれると男体山など日光連山を望むことができる

 

二宮尊徳も歩いたであろう日光杉並木が今市から日光方面へ延びている。この西側に並行するように日光線の線路が延びている。

↑今市から日光方面へ延びる日光杉並木。日光街道(現・国道119号)に並行して残る杉並木は、江戸期の様子が非常に良く保たれている

 

【日光線の旅⑨】男体山と女峰山の姿見たさに通ってしまった

今市駅を発車すると間もなく広々とした田園風景が車窓左側に広がる。進行方向、右手には日光杉並木と日光街道が望むことができる。

 

今市駅から日光駅までの最後の一駅区間は、天気に恵まれると前方に山々が連なる景色が楽しめる。日光連山を代表する山々で、左手から男体山(なんたいさん)、中央に大真名子山(おおまなこさん)に小真名子山(こまなこさん)、右手に女峰山(にょほうさん)と連なって見える。

 

山景色は平野部が晴れていても山頂部に雲がかかることがあり撮影が難しい。筆者は同じポイントを3回訪れたが、最初の時は雲一つなかったが、2回目は山に雲がかかり断念、3回目は少し雲が出ていたものの山景色が無事に拝めた。この区間の眺めは日光線を代表する美景だと思う。

↑21.7パーミルの急勾配を登る日光線の列車。同じ箇所でふり返ると下記のような山景色が広がっている

 

↑日光駅〜今市駅間を走る上り列車。左から男体山、大真名子山、女峰山の日光連山が連なり美しく眺められる

 

お気付きかも知れないが男体山は男、女峰山は女の文字が含まれる。男体山、女峰山は関東を代表する高山で、古くから神が宿る山として尊ばれ男女一対の名が付けられたとされる。女峰山は日光連山では最もとがった外観を持つそうだ。中間部にそびえる大真名子山、小真名子山は男体山、女峰山という両親の子どもにあたる山とされ、そのために両峰ともに「まなこ(愛子)」という名が付く。両山は「まなご」と濁って読まれる場合もある。昔の人は巧みで粋な名前を4つの山に付けたものだと感心させられる。

 

【日光線の旅⑩】美しい駅舎が〝映える〟JR日光駅

美しい山々を眺めつつ日光駅に到着した。初めて訪れた時には、この駅の建物の美しさに驚かされた。和洋折衷の建築で厳かな趣が感じられる。

↑左右対称の造りをもつJR日光駅。写真映えするせいか記念撮影を行う観光客の姿も目立つ

 

駅にはホーム側に貴賓室(非公開)、階段を上ると建設当時の一等車利用者用待合室「ホワイトルーム」があり(見学可能)、年代物のシャンデリアがつり下げられる。開業のころのものかと調べると、1912(大正元)年8月に建てられた2代目駅舎だった。2代目とはいえ、111年前に建てられたものと古い。ネオ・ルネサンス様式の木造2階建て洋風のたたずまいの駅舎で、栃木産の大谷石を多用している。

 

2007(平成19)年に発見された棟札から鉄道院技手・明石虎雄(あかしとらお)の設計したものと判明した。建築後に何度か改装されているものの、貴重な駅舎建築ということもあり、国の近代化産業遺産に認定され、関東の駅百選に選ばれている。

 

日光駅を訪れ、駅構内が撮影できないかと探し歩いたら南側にうってつけの跨線橋が見つかった。そこにはファミリーらしき先客があった。橋の名称は明らかでないが、スリリングなレトロ跨線橋としてSNS等で発信されているようだ。今の時代にはあまり見かけない古いレールで組まれたもので、橋の上からは天気に恵まれれば日光連山を望むことができる。昭和中期に設けられたものとのことで現代の跨線橋よりも幅が狭く、覆いも無く風が吹き抜けるつくりで渡るのもやや怖い。高所恐怖症の筆者は撮影を終えて早々に引き上げたのだった。

↑日光駅の南側にかかる古い跨線橋(右上)から日光駅を発車した列車を撮影。留置線として使われた広い敷地が残されている

 

【日光線の旅⑪】かつて路面電車が走っていた日光市内

最後に日光駅前から日光東照宮方面に走っていた路面電車に関して触れておこう。路面電車が消えたのは1968(昭和43)年2月25日のことと古い。廃止当時は東武日光軌道線という名前だったが、開業は東武鉄道の東武日光線が開業するずっと前のことだった。

↑大正初期の手彩色絵葉書に残された日光軌道線。場所は日光東照宮の先、田母沢川橋で今も路面電車の橋の遺構が同地にある 筆者所蔵

 

開業は1910(明治43)年8月10日のことで日光電気軌道により路線が造られた。路線は日光駅を起点に馬返駅(うまがえしえき)までで、終点では日光鋼索鉄道線と接続、同線のケーブルカーを利用すれば明智平ロープウェイの明智平駅へ行くことができた。

 

日光軌道線は一般観光客の輸送だけでなく、沿線にあった古河電気工業の日光事業所まで貨物列車が走っていた。国鉄日光駅から貨車を引き継ぎ電気機関車が牽引したそうで、日光東照宮近くの神橋付近までは最大58パーミルというとんでもない急勾配を上り下りしたそうだ。

 

もし、日光に路面電車が残っていたら便利だったろう。貨物列車が急勾配を走る様子は観光客が賑やかに闊歩する今の街道筋から想像できないが、この目で見たかったものである。

↑2020(令和2)年3月から東武日光駅前で保存されている東武日光軌道線100形電車。日光駅前から馬返駅まで9.6km間を走った