「実は日本の飲食業界の未来は明るい」――人材不足に悩める飲食業界で「クックビズ」が見出した答え

2869万人――これは2017年に日本を訪れた外国人観光客の数だ。1人あたり平均15万円以上を国内で消費し、また7~8割は“日本の食事”を観光目的にしているという。そのため、訪日観光客が国内で飲食に費やす額は1兆円近い。飲食業は日本の観光資源とも言えるわけだ。とはいえ、その飲食業界では人材不足が続いている。せっかく入店しても辞めてしまうことも多く、離職率は28%にのぼるという。

 

そのような飲食業界の課題を解決すべく、飲食に特化した人材サービスを提供しているスタートアップ企業がある。大阪に本社を構えるクックビズだ。同社は大阪のほか、国内4か所にオフィスを持つ。そのうちのひとつが五反田だ。

五反田スタートアップ第12回は、クックビズ代表取締役社長CEO 藪ノ賢次氏に、同社が提供するサービス「クックビズ(cook+biz)」と飲食業界を取り巻く課題について話をうかがった。

 

人気のある日本の食事を提供している飲食業そのものを、人気の職種にしていきたい

――:まずは、どのようなサービスを提供しているのか教えてください。

 

クックビズ代表取締役社長CEO 藪ノ賢次氏(以下 藪ノ):主に飲食に特化した人材サービスを提供しています。大きく3つの柱があり、有料の職業紹介事業、求人サイト運営事業、研修事業です。

 

人材紹介サービス事業では、飲食業界に特化した転職支援を行っています。相談に来られた転職希望者にカウンセリングを行い、お仕事を3つ~4つほど紹介。転職に成功すれば、転職先企業から報酬をいただく、という形です。

 

求人広告サービスについては、人材紹介サービスを使うのはハードルが高いと感じている人、あるいは仕事場所や分野など希望する転職先のイメージが具体的にできあがっている人向け。コンサルを受けるほどでもない、という転職希望者が自分で求人サイトを見て応募できるようになっています。また、自分のレジュメを登録しておいて、名前など個人を特定できる情報以外を企業向けに公開し、それを見た企業からのスカウトを受ける、というスカウトサービスも展開しています。

 

最後に研修事業ですが、こちらはスタッフへの教育がなかなかできず、せっかく優秀な人が入ってきても定着しない、という課題を解決するためのサービスとなっています。

↑クックビズ代表取締役社長CEO、藪ノ賢次氏

 

――:人材サービスのなかでも、なぜ飲食業界に特化することにしたのですか?

藪ノ:いろいろ理由はあるのですが、はじまりは食関連の専門学校とタイアップした「アルバイトマッチング」だったんです。講義が終わった午後6時ぐらいから飲食店で働くことで、いわば実地で学ぶことができる。そういうサービスでした。

 

そうやって飲食店と関わっていくなかで、飲食業界が慢性的に人不足に陥っていること、離職率が高いこと、人手が足りないから教育も行き届かないことなどの課題が見えてきました。しかも、そもそもの給与があまり高くないから採用が成功した際の報酬も低く、人材サービスに関しては誰も手を付けていない。それならば自分がやってみようか、と。

 

訪日外国人の76%が日本の食事を目当てにしている。日本のおいしい食事を食べたい、と思ってやってくる。インバウンドを引きつける力になっているんです。なのに、人手が足りない。人気がないからですよね。人気のある日本の食事を提供している飲食業そのものを、人気の高い職種にしていきたい、と考えているんです。

 

離職率の高さは特有の“ミスマッチ”が大きな要因

――:1/3近い人が辞めてしまうそうですが、なぜそれほどまでに離職率が高いのでしょうか?

藪ノ:飲食業の7~8割は中小企業。10店舗未満の個人店なんです。そうなると、人が少なく、余裕がないから新しいスタッフを教えている時間がありません。いわゆるOJTが成り立っていない。でも、お客さまは待ってくれませんし、粗相があれば即クレームに結びつきます。

 

そうすると、新しいスタッフは心が折れてしまいます。それが続けば辞めてしまう。そういった状況を変えるべく、接客マナーや組織として働くことの心構えなどを学べる「クックビズフードカレッジ」という事業をスタートしました。

 

クックビズフードカレッジでは、お店で働くスタッフだけでなく、店長向けの研修プログラムも用意しています。お店によって、あるいは店長によってルールが違うと、スタッフは戸惑ってしまい、それもまた辞める原因になってしまいますから。このようにお店のルール共通化を学べるほか、面接の仕方や損益の見方なども研修を通して習得していただき、店舗運営に強い人材を目指します。それがひいては組織の強化・発展につながっていくと考えています。

↑教育を行う余裕がないため、多くの飲食店では「練習なしにぶっつけ本番をしているような状態」になっていると藪ノ氏は語ります

 

――:アルバイトスタッフだけでなく、正社員として転職した場合でも辞めてしまう人が多いのはどういうことが原因なんでしょうか?

藪ノ:総合的な転職サイトや雑誌にある情報では足りない、ということが主な原因ですね。飲食業で転職したいという人は、「将来自分の店を持ちたい」という志を持っている人が多い。その準備としてお金を稼ぐ……というために転職しているわけではなく、仕入れや経営、メニュー作りなど、将来独立するときに役立つ情報を学びたいからそのお店に入るんです。

 

でも、一般的な求人情報にあるのは「給与」「仕事時間」「福利厚生」といったありきたりの情報だけ。もちろんそれらも必要ですが、それは最低限の情報ですよね。求められているのは、どんな仕事がそこでできるか、どんなスキルが身につくかといった、数字だけでは見えてこないものなんです。決められた仕事時間内で学べないことは、定時後にお店にとどまってでも学びたい、そういう職人の世界なわけです。

 

このように、少ない情報だけで転職を決めざるを得ないから、ミスマッチが生じ、辞めてしまう、というのが実情です。そこで、わたしたちは「cook+biz」というサービスを通じて飲食業界内での転職におけるミスマッチをなくし、楽しく目標を持って働く人たちを増やしていきたいと考えています。

 

――:飲食業界ならではの難しさはありますか?

藪ノ:ビジネスで、経営資源といえば「ヒト・モノ・カネ」。インバウンドによる底上げもあって、「カネ」の部分はだいぶ回っていますし、いままで聞いたこともないようなジャンルの食を扱うお店も出てきていることから、コンテンツも豊富になっていることがわかります。これは「モノ」の部分ですね。

 

でも、「ヒト」に関しては、“人材剰余”時代の印象が雇用者側に根強くて、働き手が少なくなっているという現状に気づいていないお店が多い。4店舗で求人を出しても、採用できるのは1店舗のみということが当たり前に起こりうる状況があまり理解されていません。

 

そういう職人気質というかクリエイティブな方に危機感をもっていただく、というのがなかなか難しいと感じています。

 

――:御社では「クックビズ総研」という食のキュレーションサイトも運営されていますが、時代に合った認識を持っていただくためにも情報発信し続ける必要がある、ということなんですね。

ところで、この事業を展開していて良かったな、と感じた場面はありますか?

藪ノ:採用のお手伝いをした会社の店舗数が増えていったり、人が定着したりするのを見るのはやっぱりうれしいですね。企業の成長には、人の成長が欠かせない、その最初の部分に人材サービスとして関わっている、というのを実感できますし、なんといっても成長が止まっているといわれる国内産業のなかでもまだ伸びしろがあるんだ、ということが手応えとして得られる。飲食業界を元気にすることで、この閉塞感を打ち破っていければと思っています。

 

【五反田編】さまざまな「食」が一堂に会する場所

――:それでは、次は五反田にまつわるお話をうかがいたいと思います。御社は大阪に本社があり、名古屋、福岡、そして東京には新橋と五反田にオフィスを持っていらっしゃいますが、五反田に拠点を構えたのはどういう理由があるのでしょうか?

藪ノ:そもそも拠点を数か所持っているのは、転職希望者が相談に来られるように、というのが理由です。直にお会いして、コンサルティングさせていただいているんです。東京の拠点のなかでも、新橋はそのための場所になります。

 

一方、五反田は面接のための場所ではなく、求人広告事業の事務所として使っています。築浅のきれいなオフィスが格安で借りられる。しかもアクセスがいい。横浜の案件も増えているのですが、五反田は山手線の西側だからその点でも便利です。

 

あと、五反田って飲食業が盛んなイメージありますよね。いろんなジャンルの食を楽しめる、そういう意味でもこの場所はいいかなと感じています。

 

――:特にお気に入りのお店はありますか?

藪ノ:祐天寺や中目黒にもあるようですが、「もつ焼き ばん」が東京に来てからのお気に入りです。夜は居酒屋の「てけてけ」が安くていいですね。肉料理では「なるとキッチン」。ザンギがうまいです(笑)。また、スタッフはよく「酒田屋」を利用しています。

 

――:五反田にあるスタートアップ企業の中でコラボしたいと思われるところはありますか?

藪ノ:食関連でいえば、トレタさんでしょうか。先ほどお話したとおり、飲食で働きたい人は目的を持っている人が多い。決して予約の電話に振り回されるためにそこにいるわけじゃないんですよね。従業員目線で何かしらできたらいいなと思います。

 

――:最後に、今後のビジョンについて教えてもらえますか?

藪ノ:そうですね……日本の飲食業界の未来は実は明るいんです。

 

というのも、日本はアメリカやフランスに並ぶ食の先進国。そして今後、全世界的に経済が成長しGDP比率が増えてくるのはアジア地区。経済的な豊かになったアジアの人たちに最も近い食の先進国が日本、というわけです。つまり、日本は飲食という観点でいえば地の利がある、ということになります。

 

ますます元気になっていく国内の飲食業界をもっと盛り上げていくには、人材が必要です。いまは国内でのみ転職マッチングをしていますが、将来的には国境を超えたマッチングも手がけていきたい。自分のウデと包丁1本で渡り歩いていける業界ですし、国境は関係ないですしね。

 

わたしたちがいままでの「日本人」という枠から「アジア人」の一員というアイデンティティを確立するようになったときに、飲食業界内で価値を提供できるような、そんな企業になっていたいですね。

↑「飲食という部分では日本の地の利はいい。それを生かせれば、飲食業界の未来は明るい」と語る藪ノ氏

 

「Appliv」も「カルモ」も根っこは同じ――スタートアップ企業「ナイル」のブレない事業マインド

五反田スタートアップ第19回「ナイル」

 

ウェブページが無数に存在するインターネットの海で、自社のサイトまでたどりついてもらう、そしてモノやサービスについて知ってもらい、さらには購入までの導線を引く――。さまざまな企業が頭を抱える難題だろう。スマートフォンアプリについても日々増え続けており、App Storeに掲載されているアプリは200万以上、Google Playでは300万以上にのぼる。これだけ多いと探すのも一苦労だ。

 

五反田スタートアップ第19回は、こうした課題を解決する、デジタルマーケティングやアプリ情報サービス「Appliv」(アプリヴ)を手掛けるナイルの代表取締役社長、高橋飛翔氏に話をうかがった。

↑ナイル代表取締役社長、高橋飛翔氏

 

大量のアプリのなかから自分に最適なアプリが見つかる

――:まず、御社で展開している事業について教えてください。

ナイル代表取締役社長高橋飛翔氏(以下、高橋):主な事業としては、デジタルマーケティング事業、スマートフォンメディア事業、モビリティ関連事業の3つがあります。

 

デジタルマーケティング事業では、ウェブサイトへの問い合わせを増やし、そこから売上を伸ばしていくにはどうすればいいか、といったコンサルティングが主となっています。

 

また、スマートフォンメディア事業では、スマホ向けアプリの情報を提供する国内最大級のメディア「Appliv」を中心に「ApplivGames」「Applivマンガ」という3つのメディアを展開。Applivでは、大量のアプリのなかから自分に最適なアプリが見つかるような仕組みを提供しており、それによってスマートフォンを活用した、より良いライフスタイルのお手伝いができればと考えています。

 

モビリティ関連事業としては、オンラインで完結する格安マイカーリースサービス「カルモ」を今年1月にリリースしました。

 

――:特にApplivについては、利用している読者も多そうです。なぜスマホアプリの情報サイトを立ち上げようと思われたのでしょうか?

高橋:デジタルマーケティング事業が軌道に乗り、新たな事業モデルを模索するなかでスマートフォンアプリの領域に注目しました。

 

私たちは2011年の冬からApplivについての企画を始め、2012年8月にApplivをリリースしました。やはり、「これからは、フィーチャーフォンではなく、スマートフォンがモバイル利用の主戦場になっていくだろう」と考えたのが大きかったです。フィーチャーフォンで遊べるDeNA モバゲーのモバコイン(ゲーム内で利用できる通貨)の消費量は、2012年に過去最高を記録しその後減少に転じているのですが、このあたりの数字感を見ても当時の考えは正しかったのかなと思います。

 

今後、数が増えていくスマホアプリを整理して見やすくし、求めているアプリがすぐに見つかるように なれば、スマホはより便利になるし、それによって生活も楽しくなる。それなら、アプリを見つけやすくする情報サイト を作ればいいんじゃないか、と考えて作ったのがApplivでした。

↑「適切なアプリを、必要としている人が見つけられるようにしたかった」という高橋氏

 

――:私も、iPhoneを買ったばかりのころは、App Storeに毎晩のようにアクセスして良いアプリがないかと探したものです。それでも最近は数が多すぎて、探すのが大変だと感じていました。使い勝手がよくわからないものも多いですしね。

高橋:Applivでは、10万本近いアプリを掲載していますが、わかりやすくカテゴライズしています。それに、レビュー数も一定数以上あるので、評価の高いものから選んでいただけますし、ユーザーの生の声を参考にすることもできるようになっています。

 

――:App Store内にもレビューを書き込めると思うのですが、ユーザーがApplivに書き込みたくなるような仕組みがあるのでしょうか?

高橋:そうですね、1つは自分たちが見つけたアプリをほかの人にも知ってもらいたい、というアプリ好きのユーザーの思いに応えられるところでしょうか。App Storeでは、レビューを書いても、それをシェアできません。しかし、Applivではトップページからレビューへの導線がありますし、レビューからアプリを探すこともできる。自分の書いたレビューをシェアしやすいし、「いいね」も押してもらえる。そういう意味では、「教えたい」「知らせたい」というユーザーの欲求を満たせるのではないかと思います。

 

また、有用なレビューを投稿するとポイントがゲットできるようになっており、貯まったポイントはApp Store&iTunesコードまたはGoogle Playギフトコードと交換できます。アプリのレビューをたくさんすることで、また別のアプリを購入できる、またはアプリ内課金ができる、という仕組みですね。

 

――:そうなってくると、どのようにマネタイズされているのかが気になります。登録も閲覧も無料ですよね?

高橋:Applivでは、自社開発のAppliv ADというシステムでサイト内に広告を配信しており、それによって収益を得ています。「配信」といってもバナー広告のようなものではなく、検索した結果の上位に「PR」として表示。しかも、きちんとユーザーレビューも表示されるため、「PR」ではあるけど違和感なくコンテンツになじんでおり、しっかりレビューを読んでいただいたあとに、そのアプリの詳細に飛べるようになっています。

 

もちろん、弊社独自の審査基準がありますから、広告として表示されるアプリはどれもしっかりしたものばかり。そこは安心していただきたいですね。

 

起業時の志を抱き続けることで今がある

――:創業から現在まで、どのような事業にチャレンジされてきたのでしょうか? また、どのようにして会社を大きくされてきたのですか?

高橋:実は、当社は最初、東大生の家庭教師を紹介する事業をやっていたんですよね。そのあと、オンラインで東大生が教えるWeb予備校というコンセプトの動画サービスをはじめて。どちらもあまり上手くいかなかったなかで、会社が本当に潰れそうになって、生き残りをかけて始めたのがWebマーケティング支援事業(現在のデジタルマーケティング事業)でした。

 

でも、マーケティングといっても幅が広い。競合他社がたくさんあるなかで弊社に発注しようと思っていただくには、何かの領域ですば抜けている必要がある、と感じていたんです。 当時はSEOという言葉が今よりももっと注目されていて、検索結果の上位に表示させたいというクライアントからの要望が増えていました。 そこで、SEOに強い会社になろう、とメンバーたちと話し合って。3回目のピボットで、会社が大きくなっていきました ね。

 

苦しい時期もありましたが、起業したからには最後までやり遂げたい、潰すわけにはいかない、という思いでやってきました。それがいつでも正解とは限りませんが、「世の中を変えたいと思って起業したのに、上手くいかないから辞めた」というのは、自分の美意識に反するんですよね。きちんと初志貫徹しようという気持ちが強かったからこそ今があるし、ここまで会社を大きくできたんじゃないかなと思います。もちろんまだまだ全く満足していませんが。

 

世の中の課題をなくしていきたい。その志があったからこそ、今があるし、ここまで大きくなれたんじゃないかな、と思います。

「苦しい時期もあったが、とにかく会社を潰したくなかった。それはぼくの美意識でもあります」(高橋氏)

 

【五反田編】現在の従業員数は160人! 採用活動を見込んで大所帯でも入れるオフィスに

――:2013年に豊島区から今の場所にオフィスを移転されたとうかがいましたが、五反田を選んだ理由はなんでしょうか?

高橋:渋谷や恵比寿、目黒や大崎も候補地に入っていたのですが、アクセスのしやすさがそれほど変わらないのに、五反田に比べると地価が高い。高い賃料を許容してまで渋谷や恵比寿にオフィスを構える必要性ってあるのだろうか? そう考えていたときに、ちょうど良い物件が五反田にできたので、ここに決めたんです。

 

このオフィス、200坪もあるんですよね。なかなかこれだけの広さの物件はなくて。当時でも60人〜70人ほど従業員がいましたし、その後も採用活動は続けるつもりでしたから。そこそこアクセスが良ければ、良い人材も採用しやすいですしね。

 

――:オフィスのまわりには飲食店も多いですが、お気に入りのお店はありますか?

高橋:ランチはいつも社内で食べてしまうんですけど、「日南」や「肉料理 それがし」には、よく飲みに行きますよ。

 

――:五反田にある企業で、コラボしたいところがあれば教えてください。

高橋:そうですね……。それこそ御社(学研)と何かできたらいいですよね。弊社なら、カスタマー目線にたったコンサルティングで業績アップに貢献させていただけますよ(笑)。

 

――:最後に、今後の展開をお聞きしてもよろしいですか?

高橋:以前、海外展開をしていたことがあるんですが、それは別に「大きなマーケットがあるから」という理由ではなく、困っている人がいれば、その課題を解決したい、という純粋な思いがあったからなんです。今でもそれは変わっていません。

 

今、ぼくたちが提供しているマーケティング事業では、情報を届けたい法人と、その情報を必要としているエンドユーザーをつなげるお手伝いができていますし、Applivでは、必要なアプリを見つけるお手伝いができている。適切な情報を、必要とする人に届けるサービスを展開しています。

 

でも、まだまだそういう情報が、必要な人の手に渡っていないところもありますよね。大企業がすくいきれていないそういった課題を解決して、人々が豊かになれればいい。できるだけ多くの人、億単位の人たちの生活を変えられるとすれば、それをしたいじゃないですか。マイカーリースサービス「カルモ」もそんな思いからスタートしました。

 

「ブルーオーシャンだ」「レッドオーシャンだ」と、競合に顔が向いていては本末転倒だと考えています。サービスの主軸は人の課題、社会が抱える課題。そこだけブレずにやっていければ、自分たちにしかできない、人の課題を解決するものを見つけられるんじゃないかなと思うし、今後もそうして事業を継続していきたいですね。

↑「競合を向くのではなく、人の課題と向き合いたい」と語る高橋氏

 

 

一世を風靡したウェブブラウザ「Sleipnir」開発会社がVRで「0次選考」を開始したワケ

五反田スタートアップ第18回「フェンリル」

 

2019年卒業予定の就活生たちによる企業エントリーが、この3月にはじまった。企業の新卒採用予定数は増加傾向にあり、企業はあの手この手で採用活動を行っているようだ。そんななか、VR技術を使った「0次選考」を行っている企業がある。

 

五反田スタートアップ第18回は、五反田に東京支社を持つフェンリルのCEO、 牧野兼史氏に話をうかがった。

 

ユーザーのために開発の手を速めたかった――フェンリル誕生のきっかけ

――御社で提供しているサービスや主な事業について教えてください。

↑フェンリル CEO 牧野兼史氏

 

CEO 牧野兼史氏(以下、牧野):基盤としている事業が2つあり、1つはウェブブラウザ「Sleipnir(スレイプニール)」を含む自社プロダクトの開発。もう1つはクライアントから依頼を受けて行う主にスマートフォン向けアプリケーションや、ウェブアプリケーションの開発です。つまり、ソフトウェアやアプリケーション開発を主に行っている、ということですね。

 

――:Sleipnirって、2002年にはオンラインソフトウェアの登竜門ともいえる「窓の杜大賞」を受賞していらっしゃいますよね。動作がキビキビとしているだけでなく、スタイリッシュ。フリーウェアだったこともあり一世を風靡したという印象があります。その当時、わたしの周りでも使っている人が多くいましたし。そのSleipnirが御社での最初のプロダクト、という認識でよろしいでしょうか?

牧野:実は、Sleipnirを世に出したときには、まだフェンリルという会社は存在していなかったんです。というのも、いまの社長である柏木が、個人で開発していたからなんです。

 

ところがある日、柏木の家に空き巣が入り、金目のものがすべて盗まれてしまいました。そのなかに、Sleipnirのソースコードが入っているパソコンも含まれていたんです。

 

Sleipnirはすでに大勢のユーザーさんから支持を得ていて、次のバージョンが待たれている。でも、彼は会社員だったから、平日夜間と休日しか開発のための時間が取れない。

 

「それなら、会社を立ち上げて、すべての時間を開発に充てようよ」と、空き巣事件の少しあとに出会ったわたしが提案しました。こうして2005年6月にフェンリルが生まれた、というわけです。

 

そのこともあり、空き巣に入られた2004年11月はうちの社内でも当時を知るスタッフの間で語り継がれています(笑)。

↑「柏木もいずれ、起業しようとは考えていたようですが、このころは具体的ではなかった。空き巣事件が後押しをした、というところでしょうか」と牧野氏

 

――:会社を立ち上げるにあたり、苦労されたことはありましたか?

牧野:立ち上げ自体は問題なかったのですが、人材募集では苦労しました。立ち上げから半年後、開発スピードを上げるため社員数を増やしたかったんですが、なかなか集まらなかったですね。

 

就活生にとってフェンリルとのファーストコンタクトになる「0次選考」

――:ところで、この春、御社の企業説明会にエントリーした就活生たちへ、VRゴーグルを無料配布し、「0次選考」をしているとうかがっています。VRコンテンツを楽しみながらクリアする、というものらしいですが、コンテンツ開発にもVRゴーグル制作にも相当コストがかかると思うのですが、なぜこのような取り組みをはじめたのでしょうか?

↑企業説明会に登録すると送付される「0次選考」用ゴーグル

 

牧野:Sleipnirユーザーであれば、フェンリルという会社のことをご存知かもしれませんが、たいていの人にとっては名前すら知らない会社というのが現状です。そのような状況のなかでフェンリルに関心を持って、説明会に来ようとしてくださっている学生さんたちがいる。もちろん、採用ページを見れば、この会社がどういう会社なのか、という説明はありますが、画一的な情報しか載せていないですよね。

 

弊社のことをもっと知ってもらいたい、どういうことをやっていて、何に力を入れているのか――サイトだけでは理解できない情報を得ていただきたい、と思ったのがきっかけです。

 

フェンリルが大切にしているのは、「デザインと技術」。開発するコンテンツだけじゃなく、サイトも、名刺も、クリアファイル1つに至るまでデザインにこだわっています。でも、認知度はそれほど高いわけではない。つまり、学生さんたちにとっては、フェンリルとのファーストコンタクトがこの就職活動になるわけです。

↑牧野氏の名刺。厚みがある光沢紙。「デザインを大切にしているので、会社の顔といえる名刺で手を抜くわけにはいかない」と言う

 

0次選考を通じて弊社を知ってもらい、今回応募いただかなくても、いつか転職するときに思い出してもらいたい、就職に悩んでいる友人がいれば「こんなおもしろいことをやっている会社があるよ」と紹介してもらいたい。そういう思いを持って、様々な部門からスタッフが集まり、自発的に考え出して生み出したものなんです。

 

――:最近、企業側が学生について知る、あるいはふるいにかける目的で行うWebテストなどもあるようですが、その逆で、御社について学生側に知ってもらうことが目的、というものなんですね。

牧野:0次選考という名前ではありますが、プレイは任意ですし、クリアしなかったからといって選考に不利になるわけでもありませんしね(笑)。

 

とはいえ、はじめてフェンリルに触れる窓口となるわけですから、コンテンツはコストをかけて開発していますし、ゴーグルのデザインや紙質にもこだわっています。

↑手触りの良い紙製VRゴーグル。使い方を説明する内側のデザインもハイセンスだ

 

【五反田編】社員の負担が少ない住職近接がかなうのが五反田の良いところ

――:ここからは五反田編の質問に入ります。五反田に支社を構えられたのはどのような経緯だったのでしょうか?

牧野:実はこのオフィスは五反田で2つめの物件になります。大阪で起業し、東京メンバーが5〜6人ほどになるまでは、別の場所のマンションの一室を東京支社としていました。でも、「そろそろオフィスに引っ越したいね」となったとき、新宿などでは借りられるオフィスビルが古かったり、窓がなかったり、隣との距離が近すぎたりして社風に合わなかった。

 

いろいろ探していたら、五反田駅の東側に新しいオフィスビルができたという。三面ガラス張りで、オフィス内も上から下まで窓で太陽の光が入って明るい。新築だから外観もきれい。そういうわけで即決したのが五反田との出会いです。

 

――:そして手狭になってこのビル(A-PLACE五反田)へ?

牧野:それもあるんですが、せっかく三面ガラス張りで明るいオフィスなのに、エンジニアたちが「窓から入る光がiMacの画面に反射して見づらい」と不評で、1日中ブラインドを下げることになってしまったんですよね。「これじゃ意味ないじゃん」と笑っていたんですが(笑)。

 

そうこうしているうちに、このビルが建ったので、こちらに引っ越すことにしたんです。

 

――:五反田から離れようとは思われなかったんですね。五反田の良いところって何でしょうか?

牧野:まず、交通の便がいいですね。本社が大阪にあるので品川駅にすぐ行けるというのがありがたい。

 

また、社員が近くに住みやすい、というのが大きいかなと思います。新宿や六本木、恵比寿では会社の近くに住もうと思うと、会社で住居手当を出したとしても社員の大きな負担になってしまう。でも、五反田駅や池上線沿線は家賃も安く、家族でも住みやすい。これが五反田のいいところではないかなぁと感じています。

↑「近くでなくても、横浜や千葉からも通いやすい。五反田という場所の利点だと感じています」

 

――:ところで、五反田でお気に入りの飲食店はありますか?

牧野:チェーン店ですけど、「一風堂」でよくランチを取りますね。あと、夜には「鳥料理 それがし」。五反田に住んでいる知り合いが多くて、そういう人とはよく食べに行きます。

 

――:五反田にはスタートアップ企業をはじめ、たくさんの企業があります。コラボしたい企業はありますか?

牧野:ん〜、同じビル内のクックビズさんとはよくセミナーなどを共催しているので、これからも親密になれればいいかな、と。あと、前述のとおり、わたしたちはデザインと技術を大切にする会社なので、IT部門などを持っていない事業会社のITやデザイン部分でのパートナーになりたいな、と考えています。

 

興味ある企業さんがあれば、ぜひお声がけいただきたいですね(笑)。

 

――:最後に、今後の展開を教えていただけますか?

牧野:弊社の主な事業はソフトウェア開発です。でも、デザインと技術を軸にしたものであれば、その枠だけにとどまる必要はないかな、と考えています。社長の柏木は、好きなものを仕事にしていく才能があるので、今後、ソフトウェアにとどまらず、さまざまな方面にプロダクトを広げていくかもしれません。

 

いずれにせよ、「デザインと技術」という軸と枠のなかで、ビジネスを続けていきたいですね。

“お花の定期便”はここまで身近になった!「Crunch Style」が施す花生活

五反田スタートアップ第17回「Crunch Style」

 

女性にとって花を贈られるのはうれしいもの。部屋に飾り、しばらくの間は贈ってくれた人のことを思い出せる。ありふれた日常生活も華やかになる。そんな感動体験を日常生活に取り入れるサービスを提供しているスタートアップが五反田に存在する。

 

五反田スタートアップ第17回は、花の定期便サービス「Bloomee Life」を展開するCrunch Style(クランチスタイル)代表取締役CEO、武井亮太氏に話をうかがった。

20180305_y-koba3 (5)
↑Crunch Style代表取締役CEO 武井亮太氏

 

花があれば心が上向く――日常的に感動できる機会を“花の定期便”で提供

――:まず、御社のサービスについて教えていただけますか?

Crunch Style代表取締役CEO 武井亮太氏(以下、武井):ワンコインからお花がポストに毎週届くお花の定期便「Bloomee LIFE」を提供しています。コンセプトは「お花のある生活を手軽に」というもの。ポストに届くので、ご不在がちなお客さまでも、お花を買いに行く時間のない方でも、日常生活のなかにお花を取り入れていただけるサービスになっています。実際、ユーザーの皆さまも、キッチンやテーブル、玄関など好きなところに飾ってくださっているようです。

 

プランは、500円、800円、1200円と3種類 。それによってお花が3本以上、5本以上、7本以上となり、グリーンや小花などをセットにしたブーケの状態で専用パッケージに入れてお届けしています。

20180304_y-koba2 (6)
↑「Bloomee Life」では、独自に開発したパッケージに、アレンジした状態で花を梱包したものが届く。小花やグリーンもあるため、予想以上に華やかだ

 

「ポストに届く」がこのサービスの特徴の1つではありますが、1200円プランになると、ボリュームがかなりあるため、お手渡しでのお届けになります。

 

――:ステキですね! これは途中でのプラン変更は可能なのでしょうか? 例えば、「今週は結婚記念日があるから、1200円プランでお願いしたい」とか。

武井:できますよ! 都度都度プラン変更が可能なだけでなく、「この週はずっと家にいないので、スキップしてください」といったご要望にも柔軟に対応させていただいています。

 

――:「お花のある生活を手軽に」とのことでしたが、この柔軟さは手軽さ・気軽さにつながりますね。ところで、どのようないきさつでお花の定期便「Bloomee LIFE」を立ち上げようと思われたのですか?

武井:お花は食べ物ではないので、見た目が重要ですが、ネットではなかなか買いにくいのが現状です。全国2万5000店舗も生花店があるのに、業界的にネットに対応していないことが多い。自分で買おうと思ったときにそう感じたのがきっかけでした。

 

また、「日常に感動を届けたい」という思いもありました。毎日同じような生活を送っていても、ほんの小さなことでも感動があれば生きていく糧になりますよね。そういう小さな感動を日常のなかで感じていただきたい、そのための機会を創出したい。お花なら、見るだけで気持ちが上向きになりますよね。そこにあるだけで嬉しくなりますし、季節を感じることもできます。

20180305_y-koba3 (3)
↑「花が生活にあると気持ちが華やぐとわかっていても、定期的に取り入れるのはハードルが高いと感じる人が多い」という武井氏

 

ただ、お花が日常的にある生活って、結構手間がかかるんです。かさばるからできるだけ家の近くで買いたい、でも仕事帰りだともうお店が閉まっている、買いに行く時間が取れない、などなど。いろんな要素が絡まって、ハードルが高いという印象があるんです。

 

じゃあ、日常に無理なくお花を取り入れるにはどうすればいいか。毎週、定期的にポストに届いていれば、生活に取り入れやすい、飾っていただきやすいのではないか、と思って、この事業をはじめました。

 

新しい花や色の組み合わせと出会える喜びも

――:お花選びはどのようにされているのですか? 毎週だと大変かと思うのですが……。

武井:お花は、契約している30店舗の生花店から直接届けてもらっているんですよ。毎週ランダムに「今週はここのお店、今週はここ」という具合ですね。そして、セレクトからブーケ作成、配送まですべて生花店におまかせしています。

 

――:お店ごとにカラーがありそうですね。

武井:センスもそれぞれですしね。実は、届いたパッケージを開けるまで、どんなお花がセレクトされているか、どんなカラーコーディネートになっているかお客さまにはわからないようになっているんですよ。これは、ワクワク感、新しいお花やコーディネートとの出会いを得ていただくためでもあるんです。

20180304_y-koba2 (5)
↑花選びは生花店におまかせ。そのためユーザーは、どのような組み合わせの花が届くのかパッケージを開けるまでわからないというワクワク感が得られる

 

――:ところで、マネタイズはどのようになっているのでしょうか?

武井:販売実績に応じ、手数料を店舗からいただいています。

 

――:契約料とかはナシなのでしょうか?

武井:はい、契約をしていただく際はもちろん、固定の契約料などもありません。実際に届けていただいたぶんからのみいただく、という形を取っています。

 

――:お花はもらえるとうれしいものですし、見るだけでも幸せな気持ちになれますが、届ける側として「このサービスをはじめて良かった」と感じられた場面はありますか?

武井:ユーザーの皆さまが「#BloomeeLIFE」というハッシュタグを付けてインスタグラムに投稿してくださるのが励みになっていますね。「毎週違う花屋さんから届くので、楽しい」「これまで知らなかったお花が届くので、お花の勉強になる」「コーディネートが学べる」とか。もちろん、純粋に飾っていただいている写真も投稿されるので、それを見て「小さな感動を創り出せているのかな」という喜びを感じています。

 

――:サービスを提供されるうえで苦労されたことなどはありますか?

武井:苦労続きですね(笑)。お花はナマモノなので、100%、大丈夫! ということはありません。コンディションが悪くなることもありえます。お届けして開封するまで鮮度を保てるよう、保水の仕方を全店舗に共有したり、パッケージを改良したりしながら最善のコンディションで届くよう工夫しています。実は、この1年で、パッケージは6回も変わっているんですよ。

【五反田編】オフィスと日常がほどよく交錯する五反田で一般カスタマー視点を磨く

――:ところで、五反田にオフィスを構えた経緯を教えていただけますか?

武井:山手線内で家賃が安い、というのが1番の理由ですが、弊社と契約している生花店は全国にあります。とくに神奈川が多い。五反田って西側にも行きやすいんですよね。新幹線が停車する品川駅も近いですし。

 

また、弊社で提供しているサービスは、一般カスタマー向けのもの。もしいわゆる“オフィス街”にオフィスを構えたとしたら、道行く人もビジネスパーソンですし、一般カスタマーの感覚を忘れてしまうんじゃないかと思っているんです。でも、ここなら普通の飲食店も多いし、普通の人が買い物をする店もある。一般ユーザー視点を失わないのに適したエリアじゃないかな、と感じています。

20180305_y-koba3 (2)
↑「一般ユーザー視点を失わず、トレンドを見極めるためにも五反田という街が弊社のビジネスに合っています」という武井氏

 

――:五反田には多くのスタートアップ企業がありますが、そのなかでコラボしたいと企業はありますか?

武井:具体的にはすぐ思いつかないんですが、つながりの強い生花店の業務が楽になるシステムを作っている企業があれば、ぜひともコラボしたいですね。

 

――:最後に今後のビジョンや読者へのメッセージをお願いします。

武井:弊社がいま提供している「Bloomee LIFE」は定期的にお花を届けるサービスですが、お花以外でも、プレゼントをもらえるとうれしいものですよね。誕生日や結婚記念日など大切なタイミングだけでなく、日々、いつでも手軽にプレゼントを贈ってほしい。そうすると、“感動のタイミング”が増えてくると思うんです。

 

わたしたちの願いは「日常に感動を届けたい」というもの。その手助けになるようなサービスを展開していきたいですね。

 

読者の皆さんは、ぜひ、なんでもないときにお花を大切な人に贈ってみてください。「Bloomee LIFE」は遠方の人へも贈ることができるので、活用していただけたらうれしいです。

 

――:どうもありがとうございました。

五反田のスタートアップ「XSHELL」に見た「人にやさしいIoT」――目前に迫る「IoT時代」に不可欠なものとは?

五反田スタートアップ第16回「XSHELL」

 

電球が生活に入ってきた当時、灯りをつけるためには踏み台を用意し、電球の根元あたりにあるつまみをひねる必要があった。それから蛍光灯の時代になり、最初はぶら下がったヒモで、やがて壁に取り付けられたスイッチや手元のリモコンでオン・オフができるように移り変わってきた。そしていま、スマートスピーカーなどを設置し、IoT機器を音声で制御する時代が始まろうとしている。

 

五反田スタートアップ第16回は、わたしたちの暮らしを、社会を豊かにする「IoT」を支える事業を展開する、XSHELL(エクシェル)CEO 瀬戸山 七海氏に話をうかがった。

20180219_y-koba3 (5)↑XSHELL CEO 瀬戸山 七海氏。ちなみに、社名はプログラムの「SHELL」と未知をあらわす「X」を表したもの……と公式には説明されているが、「本当は『GHOST IN THE SHELL』が由来なんです」とのこと。人とネットの接続がごく当たり前のものになってほしい、という意味も込められている

 

まるでリモコンで操作するように、遠隔地にある端末を集中管理できる画期的システム

――:早速ですが、御社の事業について教えていただけますか?

XSHELL CEO 瀬戸山 七海氏(以下、瀬戸山):その前に、まずは弊社内をご覧ください。

20180219_y-koba3 (2)(1)オフィス内照明のオン・オフを一括管理するためのパネル。(2)Amazonダッシュボタンを改造した、同じくオフィス内照明のコントロールボタン。(3)ハンダゴテなどが置いてある作業スペース上に設置した温度センサー。ハンダゴテの電源切り忘れを防止する。(4)IoTとは少し異なるが、ドアの開閉を容易にするハンドル。社内にある3Dプリンターで製作。3Dプリンターのほかにレーザー加工機もあり、ハードウェアのプロトタイプを作るのに使う

 

――:さまざまなものが手元や音声でコントロールできるんですね。

瀬戸山:はい。それに加え、オフィスの4か所に取り付けられたこの端末は、気温、気圧、湿度、端末内部の温度などをモニタリングし、データをすべてクラウド上に蓄積。わたしが出社していなくても、オフィスに人がいるかどうかをチェックすることができるんです。

20180219_y-koba3 (3)↑室内環境の情報をセンシングする手作りのIoT端末

 

20180219_y-koba3 (4)↑上の端末で取得したデータはすべて社内にあるサーバーに蓄積され、このように可視化することが可能

 

――:IoTという言葉はよく耳にするようになりましたが、こうやって見ると便利さを実感できますね。ところで、これと御社の事業にはどのような関連性があるのですか?

瀬戸山:わたしたちは、世の中に出回っているたくさんのIoT機器を適切に管理したり、端末内のソフトウェア・アップデートをしたりするのを自動化する仕組“IoTのロジスティクスツール”を提供しています。

 

――:……というと?

瀬戸山:駅の案内表示などのデジタルサイネージを思い浮かべてもらえるでしょうか。たまにそれがWindows Update画面になっている写真がSNSで流れてくることがありますよね。

 

――:はい(笑)。

瀬戸山:ネットにつながっている端末は、さまざまな理由でアップデートが必要です。でも時間帯がコントロールできていないとそのようなことになってしまう。その点、XSHELLが提供する「isaax(アイザックス)」は、ひもづいたすべてのIoT端末(独自IPアドレスを持っていなくても)を、遠隔でアップデートしたりデータ収集したりなどして管理でき、これにより本来作動していなければならない時間帯ではなく、夜間など、任意のアップデートのスケジューリングが可能になるんです。

20180219_y-koba3 (1)_R↑XSHELLが提供するIoTロジスティクスサービス「isaax」の説明サイト

 

――:なるほど!

瀬戸山:ほかに、自動販売機、物理的な鍵がなくてもスマートフォンで開閉できるスマートロック、プリンター、モニターカメラといったIoT機器も一括管理できます。

 

――:モニターカメラもですか!?

瀬戸山:たとえば、仕事場のモニターカメラを最初は「人感センサー」としてのみ利用していたとします。そこに、あとから「作業服の着用の判別」「胸のタグを判別」という具合に、できることをソフトウェア・アップデートにより増やしたいという場合が出てきます。もちろん、日々巧妙になっているネット上の危険を回避するために、セキュリティの脆弱性にパッチを当てる、といった必要性もあるでしょう。

 

これまでだと、こうしたアップデートも含めた管理・保守・運用は、メーカーからの派遣など、人が端末のある現地に行く必要がありました。でも、isaaxを使えば、リモートで行えるんです。

 

――:では、事業立ち上げのきっかけを教えてください。

瀬戸山:2014年8月に学生ベンチャーとして立ち上げた際は、協調型パワードスーツを事業の柱にしていました。でも、ハードウェア事業はお金がかかる。その限界を感じたことが、1点。

 

また、“協調型”ということで3~4台のパワードスーツを試作していたのですが、ソフトウェア・アップデートは1台1台有線で行っていて、これがなかなか手間のかかる作業でした。「ユーザーエクスペリエンスの向上には、ソフトウェア・アップデートが欠かせないのに、こんなに手間がかかる。これが複数、しかもあちこちに散らばっているとしたら、どれだけ大変だろう。ソフトウェアの遠隔配信システムを作ったら喜ばれるのではないか」と考えたんです。

 

この2つのことがあり、事業をピボットし、生まれたのがisaaxというわけです。

 

――:マネタイズについても教えていただけますか?

瀬戸山:isaaxを利用しているデバイスの台数ごとに月額料でまかなっています。ただ、我々のシステムが組み込まれているのは現状B to B to B製品のみなので、一般の方にとってはここに料金が発生している、というのは見えてこないと思います。

 

――:立ち上げ時、また現在でも苦労されていることはありますか?

瀬戸山:事業について理解してもらえないことですね(笑)

 

――:ああ……。わたしもまだ十分には理解できていません。

瀬戸山:そういうものですよ(笑)。まず、IoTのこと、次になぜアップデートが必要なのかということを理解してもらえない。でも、ネットワークにつながっているハードウェアはソフトウェアのアップデートをしないと、セキュリティ上の危険を回避できないことがままあります。端末で取得した情報が、知らない間に知らないところに送信される、ということがあり得るわけです。

 

このアップデートを、端末のある現地に人を派遣することなく、早く、同時に、任意の時間帯に行える。そのメリットは計り知れないと考えています。

 

isaaxでハードウェアが人間に寄り添う世界に?

――:事業への理解を深めるために、isaaxを利用した事例があれば教えていただけますか?

瀬戸山:神戸にある、みなと観光バスでの実証実験にisaaxを活用してもらいました。これは、同社が運行する33台のバスに対し、運転手の安全運転支援システムを搭載、3か月間稼働させるというものです。

 

搭載直後は、運転手の心拍数や呼吸状態を見守り、次にみなと観光バスの路線図情報と運転手の健康情報が連携するようアップデート。これにより、特定の十字路で運転手の心拍数が上がることなどがわかり、どの場所が危険なのか、などといった情報を取れるようになりました。

 

こうした神戸にある複数台のセンサーへの段階的アップデートは、ここ東京のオフィスから。isaaxだからこそ、簡単に手間なく行うことができたと言えます。

 

――:将来のビジョンについてもお聞きしてよろしいですか?

瀬戸山:わたしたちが目指しているのは、人間がハードウェアに合わせる世の中ではなく、ハードウェアが人間に寄り添う世界。いまは何かのマシンを使いたいと思う場合、その使い方を覚えないといけないですよね。

 

そうではなく、スマートフォンを中心とした1つのインターフェイスだけで複数のハードウェアを使える、しかもそれらハードウェアは複数人でシェアする、という将来を実現したいと考えています。そして、それらの間にあるのがクラウドです。

 

たとえば、ある人がソーシャルアカウントでクラウドサービスにログイン、そこにあるドキュメントをプリントアウトする。別の人も自分のソーシャルアカウントでクラウドサービスにログインして、自分のドキュメントを同じプリンターを使ってプリントアウトする。ユーザーは、そのプリンターを所有するための料金ではなく、使ったぶんだけのお金を払う。それらハードウェアのユーザーエクスペリエンスは、アップデートによってどんどん向上し、使いやすくなる。

 

そういう世界が、今後のIoTの流れで来るのではないかな、と感じています。そして、isaaxならアップデートに手間取りませんから、実現も容易になってくるのではないか、と思います。

 

品川と渋谷の中間地点にある五反田は、両地域の特徴をあわせ持つユニークな場所

――:五反田にオフィスを構えた理由を教えてください。

瀬戸山:実は、取引先が渋谷と品川に多いんですよね。五反田はその真ん中あたり。もちろん、賃料が安い、というのもありますが、立地的にも弊社に最適だと感じ、ここに落ち着きました。おそらく、当分はここにいるんじゃないかと思います。

 

――:実際、五反田に腰を落ち着けてからどのようなイメージを持ちましたか?

瀬戸山:渋谷と品川、両方の特徴を持った街、という印象ですね。品川はいかにもオフィス街、渋谷はもともと繁華街、というイメージですが、五反田の場合、駅を挟んで西側がビジネスライクで東側には夜の街の顔もある。面白いところですよね。

 

――:五反田には飲食店も多いのですが、お気に入りのお店は見つかりましたか?

瀬戸山:それが、ほとんどコンビニやファーストフード店などで食べるものを買ってきて、オフィスで仕事しながら食べてしまうんですよね。だから、まだ「ここ」というところがないんですよ。ただ、社内のほかの人間はよく外食していて、「ミート矢澤」がいい、という話は聞いています。

 

――:スタートアップ企業の多い五反田ですが、コラボしたいところがあれば教えてください。

瀬戸山:手間いらずで、新仕様をアップデートできるセンサーを使って「こういうことがやりたい」という企業さんがあればぜひコラボしたいのですが……募集してます!

 

――:最後に、読者へのメッセージをお願いします。

瀬戸山:うちのオフィスにもありますが、スマートスピーカーがだいぶメジャーになってきましたよね。次にくるのはいつも身に着けていられるスマートイヤホンだと考えています。これがあれば、自分の脳がインターネットにつながっているような、そんな感覚を覚えることができます。

20180219_y-koba3 (6)↑瀬戸山氏が愛用するスマートイヤホン。簡単にPCのアプリを立ち上げたり、ネット上の情報を検索し、その結果を音声で返してくれる

 

また、耳孔はひとりひとり形が違うため、指紋や虹彩、顔認証の代わりになり得ます。なので、イヤホンを着けているだけで、決済できたり、スマートロックを解錠できたりするようになるんじゃないかな、とも期待しているんです。

 

そして、そこにisaaxが組み込まれていれば、対応機器を次々と増やしていくこともできます。縁の下の力持ち的なシステムではありますが、そういうところにも活用できる、ということを知っていただければと思います。

 

――:ありがとうございました。

決算書不要のオンライン融資、どう審査? ニーズは? 新時代のレンディングサービス「LENDY」の狙い

五反田スタートアップ第15回「クレジットエンジン」

 

年末――どこの飲食店も宴会やパーティーの予約のため繁忙期に入る。このシーズンに合わせ、設備を拡充したり新しくしたりする店舗もあることだろう。とはいえ、先立つものがないと設備投資もままならない。繁忙期を乗り越えればまとまったお金が入るのに……。

 

そんな中小事業者のニーズに応えるのがオンラインレンディングサービス「LENDY」だ。五反田スタートアップ第15回は、LENDYを提供するクレジットエンジンの代表取締役 内山誓一郎氏に話をうかがった。

 

手間も時間かかる、これまでの融資が抱える課題を解決したかった

――:まず、「LENDY」がどういうサービスなのか教えていただけますでしょうか。

代表取締役 内山誓一郎氏(以下、内山):LENDYは、個人事業主または規模の小さい法人向けのオンラインレンディングサービスです。

20171213_y-koba5 (1)↑クレジットエンジン代表取締役 内山誓一郎氏

 

――:オンライン、ですか? 

内山:はい。来社いただいたり、直接面談していただいたりする必要がなく、オンラインデータで審査をし、融資します。

 

従来の融資には決算書に加えて、事業計画書や、資金繰り表などの資料の提出が必要でした。慣れていればいいのですが、個人事業主が、忙しい仕事の合間を縫って作るのは大変です。知識も時間も必要ですから。それだけ時間をかけて作っても、早くて1か月、⻑いときは3か月も融資が下りるのに時間がかかる。

 

でも、LENDYならPCまたはモバイルからオンラインで申し込んでいただき、最短で2営業日で融資可能。なぜなら、利用者の申し込み時にその事業の決済に関係するクラウドデータと連携してもらい、そのデータをわたしたちの機械学習アルゴリズムで判定しているからです。

 

これは、これまでローカルのPCに保存していたようなデータが、クラウド上に置かれるようになったいまの時代だからこそ実現可能になりました。例えば、クラウド会計システムやオンラインバンキングのデータ、モバイル端末を利用したPOSシステムなど。従来の手書き決算書よりリアルで細かい情報を得られるため、より質の高い審査を行えていると考えています。

20171213_y-koba5(6)↑オンラインレンディングサービス「LENDY」の仕組み図。事業主は申し込み時に、利用中のクラウド会計やオンラインバンキングなどとのデータ連携の設定をする。あとは独自の機械学習アルゴリズムが自動で判断。データがそろっていれば2営業日というスピーディーな融資が実現する

 

――:確かに、手書きの場合だと書類の不備や偽装に気づきにくそうですね。決算書の審査に時間がかかるのも納得です。

内山: LENDYで利用するクラウド上にあるデータは生のデータです。先ほど挙げたもの以外では、美容室や飲食店の評価サイトの星の数や口コミ、Amazonや楽天などで運営しているECサイトの売上記録などとも連携して判断可能です。実店舗の有無に関わりなく審査することができるので、新しい形態の業種にも対応できるのがLENDYの強みですね。

 

――:サービスを開発するきっかけは何だったのでしょうか?

内山:海外でオンラインレンディングが一般化してきていたことが大きいです。Fintechのなかでもレンディングというのは非常に大きな要素の1つで、海外では多くのサービスが生まれ、成長しており、日本でもこのようなサービスができるのではないかと常々考えていました。実際に立ち上げのきっかけとなったのは、チームに入ってくれているエンジニアと出会って、このチームならできると思ったことです。

 

振り返って考えると、過去に銀行で融資を行っていたことや、その後震災復興事業で中小企業の支援をしていたことの経験が課題意識にありました。銀行の稟議だとどうしても時間がかかるため、できるだけ収益性の高い案件にフォーカスせざるを得ず、少額の案件は対応できませんでした。

 

また、中小企業の資金調達は『どれだけ綺麗な資料を作ることができるか』ということが成否を決めており、『実際のビジネスの状況』とは必ずしも一致していませんでした。

 

LENDYであれば、オンラインデータの連携により『実際のビジネスの状況』を元に審査を行うことができるため、既存の資金調達にある課題が解決できるのではと考えています。

 

銀行など既存の金融機関とバッティングしない理由とは?

――:まだサービスインから10か月ほどですが、利用件数はどれぐらいでしょうか?

内山:正確な数字はお伝えできないのですが、これまでに数百件の融資を行うことができました。まだまだこれからですが、徐々に利用される方が増えて来ています。

20171213_y-koba5 (3)↑利用件数は「まだまだこれからですね」という内山氏。「オンラインレンディングという仕組みがもっと知られるようになればいいのですが」と語る

 

――:このサービスをやっていて良かったと感じた瞬間がありましたら、教えていただけますか?

内山:必要なときに必要なお金が手元にあるかどうかは死活問題。でも、突然銀行に行って「お金貸してください」といっても貸してもらえるはずありませんし、決算書など必要書類を整えていっても、その銀行と普段からお付き合いがなければ、審査に時間がかかるのが一般的です。中小事業者さんにとっては、やはりそこが不満だったようです。

 

でも、我々の場合は一度登録さえしておけば、必要なときいつでも資金の引き出しをすることができる。「このような融資方法が主流になれば、資金調達しやすいのに」と高く評価していただけるのは、素直にうれしいですね。

 

――:お話しいただいているように、銀行など既存の金融機関でも中小事業者向け融資商品があると思うのですが、将来的にはそのシェアを取っていかれるというイメージでしょうか?

内山:それは考えていません。銀行には銀行の、LENDYにはLENDYの良さがそれぞれあると思うんです。

 

銀行では人の目を介して審査するので融資までに時間がかかるのですが、返済に長期間かかる場合や、金額が大きい場合は利息が低いぶん銀行に分があります。例えば、これからお店を作りたい、といったような場合ですよね。

 

逆に、「いますぐ」「少額で」「少しの期間だけ」お金が必要だ、という場合ならLENDYに分があります。例えば、税金を来月までに払わないといけないとか、繁忙期に備えて設備投資しておきたい、などのニーズに応えられます。

 

――:マネタイズの方法について教えていただけますか?

内山:そこはほかの金融機関と同じで、利息のなかから利益を得ています。

 

 【五反田編】 なんでもそろい、採用にも有利な土地柄

――:五反田にオフィスを構えられたのはどういう経緯なのでしょうか?

内山:オフィスを探すとき、考えたのが「どうしたら優秀なエンジニアたちに来てもらえるか」というところでした。エンジニアの採用の観点では、東京のなかでも⻄側のほうが有利だと考えたので、原宿から大崎の間で探していました。

 

そのほかにも、貸金業では、面談スペースを設けなければいけない、という決まりがあるので、そのためにある程度の広さも必要。それらの条件をクリアし、かつ家賃が安い、ということで五反田で創業することになりました。

20171213_y-koba5 (2)↑「実際、ここに来て良かったと感じています。必要なものはなんでもそろっていますし、物の値段も安いですしね。もちろん、アクセスもいいですし」と語る内山氏

 

――:よく利用される飲食店はありますか?

内山:このビルの下にある「スペインバル・ジローナ」でよくランチを食べます。会社の近くでは1番のお気に入りですね。夜食べに行くとしたら、韓国料理「王豚足家」。野菜が食べ放題のサムギョプサルセットがオススメです。本当においしいですから。中華料理「陳麻家」の麻婆豆腐も花山椒がきいていて辛くて最高ですね。

 

――:ところで、五反田にはスタートアップが多く集まっていますが、コラボしたい企業がありましたら教えていただけますか?

内山:同じぐらいの規模のスタートアップ企業と一緒に何かできたら、と思います。あとは、お金まわりというところでfreeeさん、個人事業主に飲食店が多いというところでトレタさんと協業できればいいなぁと思っています。

 

――:最後に、今後の展望と読者へのメッセージがあればお願いします。

内山:現在、オンラインストアプラットフォームを提供しているSTORES.jpとサービス提携していて、出店者向け融資を展開しています。今後は、同様の提携先を増やしていき、そこでの売上情報をもとに、よりシームレスに「いま借りたい」というニーズに応えていけるようにしていきたいですね。

 

また、クラウドデータを取ってレンディングするというモデルを確立し、それを販売できるようにしたい、とも考えています。そのためには、エンジニアやほかの業務を担当してくれる人材が必要なので、興味のある方はぜひ一度ご来社ください(笑)。

20171213_y-koba5 (4)↑「連携企業も、一緒に働くメンバーも、絶賛募集中です」

 

 

「黒字経営なのに廃業」という不合理に「M&A × IT」で立ち向かう「M&Aクラウド」が目指すもの

五反田スタートアップ第14回「M&Aクラウド」

 

“廃業”と聞くと、どのようなイメージをもつだろうか。「財政状況が悪かったのだろう」「資金繰りが悪化したかな」と考えるかもしれない。ところが、債務超過がないどころか、毎年黒字の優良企業であっても廃業に追い込まれてしまうことがある。それは、事業を継ぐ人がいない場合だ。

 

五反田スタートアップ第14回は、そのような問題に真っ向から立ち向かうべく起業した、M&Aクラウドの代表取締役CEO・前川拓也氏と代表取締役COO・及川厚博氏に話をうかがった。

 

「他人事」ではなくM&Aという解決策を知ってもらいたい

――:御社名に含む「M&A」というのは、経済ニュースで取り上げられる、企業買収のM&Aのことでしょうか?

代表取締役CEO・前川拓也氏(以下、前川):そうです。企業の買収と売却、会社を買ったり売ったりということですね。弊社の事業は、通常であれば直接出向かなければならないM&Aの売り手と買い手のマッチングを、できる限りウェブ上で行なう、というサービスになっています。

20171201_y-koba8_02_R↑代表取締役CEO前川拓也氏

 

――:具体的なサービス内容を教えてください。

前川:「事業を売却したい」と売り主が考えても、ほとんどの場合そんなことは一生に一度、あるかないかのこと。なので、まずどこにアドバイスを求めればいいか、どこに売却を依頼すればいいのかがわからない。しかし、買い手側は経験値を積んでいますから、安く買い叩こうとする。つまり買い手が強い世界なのです。

 

そこで、我々は、売りたい事業の企業価値をAIなどを使って無料で算定し、匿名でアドバイザーに紹介。M&Aのマッチングがすべてクラウド上で完結できるプラットフォームを提供しています。

20171205_y-koba2_01

また、M&Aを身近なものと感じていただいたり、企業買収の相場を過去データから知っていただいたりという啓蒙のために、オウンドメディアで情報を発信しています。

 

――:このサービスをはじめられた理由というのは何でしょうか?

前川:それには及川とぼくのバックグラウンドが大きく関係しています。

 

ぼくの父は、北海道 洞爺湖町で建築業をしていました。祖父の代からのものだったので4、50年という歴史がありましたが、ぼくが跡を継がなかったために廃業し、従業員も解雇となってしまいました。当時、父はM&Aという言葉すら知らなかったんです。もし、M&Aがもっと身近だったら、会社を売却することにより、事業も、従業員の雇用も継続できていたんじゃないのかな、と感じたんです。

 

代表取締役COO・及川厚博氏(以下、及川):ぼくは学生で起業して、アプリの受託開発を主軸に置いた事業をやっていました。それなりの規模に成長し、事業譲渡を考えたところ、不動産や転職サイトのように、自分の事業の価値を知るための相場のデータベースやシステムがM&A業界にはない。テクノロジーが入っていないことに気づきました。学生時代に取っていた簿記一級の知識を生かして、M&AにITを取り入れた何かができるんじゃないか、と感じました。

20171201_y-koba8_04_R↑代表取締役COO・及川厚博氏

 

前川:彼(及川氏)がやっていた会社「マクロパス」が南青山のシェアオフィス内にあって、そこのオーナーとぼくに付き合いがあったことから、知り合うことになりました。そして、M&Aという共通のワードから、M&A業界にソリューションを何かしら提供できないか、ということではじめたのがM&Aクラウド、というわけです。

 

――:事業承継問題は社会的にどれほど重要な問題なのでしょうか?

前川:廃業は、年に7万社。そのなかで黒字経営をずっと続けていて、さらに債務超過でもないという会社は3万社ほどあります。潰す必要がないのに子どもが継がないから潰しちゃう。規模の大小はあれども、黒字経営だから売ろうと思えば売れるのに、です。でも、M&Aっていうと、新聞報道での金額が大きいからか、みんな他人事だと捉えている。実際は数千万円規模の会社を買いたい、と考えている企業は多いんですけどね。

 

知っているか知らないかで、事業譲渡するか廃業するかという分かれ目になってしまうわけです。廃業したら当然、従業員も解雇されますからおおごとですよね。

 

及川:実際、年間35万人の雇用が失われています。経済産業省の試算によれば、事業承継失敗によるGDP(国内総生産)の損失額は2025年までに約22兆円、失われる雇用は650万に膨れ上がるだろうとのことで、国を挙げて取り組むべき課題となっています。

 

とはいえ、M&A自体の担い手が少ない。それに、いくつもの仲介業者に相談に行くにつれ、「どうもうちのオーナーが売却を検討しているみたいだ」という噂が従業員たちの間で広がって退職されたり、取引先が取引を継続してくれなくなったり、銀行が融資してくれなくなったり、とデメリットが多くなります。匿名性を保ちつつ、ふさわしい仲介業者を探す、という点で、ネットを使うメリットを感じています。

20171201_y-koba8_05_R↑「これまでの足を使った方法では、デメリットが多い」と前川氏

 

――:正直なところ、これまでM&Aの「敵対的買収」という側面しか知らなかったこともあり、良いイメージをもっていませんでした。でも実は、事業承継問題の解決策であり、従業員たちの雇用や生活を守る、という点で大きな意義がある、ということをおふたりの話から知ることができました。

 

無料で登録、匿名で事業価値を公開――事業売却時に抱える課題を解決

――:創業が2015年、サービスリリースが2017年6月とのことですが、苦労されたところはありますか?

前川:売主さんがなかなかここを見つけてくれない、というところですね。事業を売却しようとする際、まず買主の企業を探そうとするんですが、限界がある。そこで仲介業者に依頼するんですが、相性の善し悪しがわからず1軒目で契約を結んでしまうことがあります。相性っていうのは、例えばアパートを探しているのに、高級デザイナーズマンションを扱っている不動産業に依頼してしまうようなもので、ミスマッチなわけです。そういうところで疲弊して、ようやくうちにたどり着く、といったことが結構多いですね。

 

業者選びは重要なんですが、最初にお伝えしたように、一生に一度あるかないかなので、経験も知識も少ないですし、そもそもそれまでM&Aが他人事だったから情報も十分ではない。まずその重要性に気づいていただくというのが、うちとしては苦労しているところです。

 

――:そういうこともあって、オウンドメディアで情報を発信されているわけですね。登録件数やこれまでの事例をお聞きしてもよろしいですか?

前川:10月22日の段階で、売却したいという売主が150件、アドバイザーが35社となっています。アドバイザーとして登録していただく際には、書類での審査のほか、2回以上の面談を行っています。売主からいただいた3期分の財務データは、その名前を伏せ、特定できない状態にして、登録済みアドバイザー、仲介業者に紹介。事業売却を考えていることがよそに漏れることはありませんし、仲介業者も折り紙つきなので、安心してご登録いただけるかと思います。

 

実績としては、事業売却には約半年かかるのが相場といわれていますが、サービス立ち上げから5か月未満で3件のM&Aが成立しています。

 

――:マネタイズはどのようになっているのでしょうか?

前川:M&Aが成立すると、仲介業者が売主と買主から5%ずつの手数料を取るのが、この業界では一般的です。そして、ぼくたちは仲介業者が得た合計10%の手数料のうち30%、つまり、買収金の3%を成功報酬としていただいており、それが唯一の収入です。例えば、買収額が1億円なら、そのうち1000万円が仲介業者の手数料。さらにその30%が弊社の報酬金なので、300万円が収益になります。プラットフォームへの登録自体は、売主もM&A仲介業者も無料です。

 

及川:売主から直接お金をいただく、ということがないのが特徴です。むしろ、売却成功の「お祝い金」を売主にお支払しているぐらいなので、売主にとっては、うちを使っていただくことでメリットしか生じません。

 

前川:M&Aが成立したときもそうですが、業者選びで迷われている売主にうまくアドバイスできたときも、「この事業をはじめて良かった」と感じますね。

 

【五反田編】「売主さんが訪問するときに路上キャッチに遭わないかが心配だった」

――:事務所を五反田にした理由はなんでしょうか?

前川:創業時は南青山のシェアオフィスを使っていましたが、センシティブな情報を取り扱うのにシェアオフィスは良くないよね、ということで単独のオフィス探しがはじまりました。坪単価が1万円〜1万2500円でITベンチャーの多い渋谷にアクセスしやすい場所、しかもITベンチャーが多い場所、ということでここに。

 

ただ、五反田というと夜の街のイメージがあって、お客さんがこのビルに来るまでの間に路上キャッチに遭ってしまったらどうしよう!? という心配はありましたね。

 

及川:「大丈夫かな、この会社」って思われないか、ってね(笑)。

20171201_y-koba8_07_R↑「路上キャッチが心配だったけど、大丈夫だったね」と目を見合わせる

 

――:実際、五反田に事務所を構えてみてよかったと感じることはありますか?

及川:ランチ代が安く済むのがありがたいですね。南青山だとランチの平均が1000円ぐらい。雇った学生インターンやアルバイトさんたちが、ランチ代のために疲弊してしまうんですよね(笑)。でも、ここならその心配はないかなぁと。

 

――:お昼や夜の食事でお気に入りのお店はありますか?

前川:基本的に安いところを選んでいるので、立正大学の学食をよく利用しますね。

 

及川:外部の人とランチするときには、予約すれば絶対に入れて、しかもオシャレで量が多い、ということでロマーノ五反田を。

 

前川:夜は基本的に、すぐそばにガストがあるので、ガストのお弁当を買ってきてここで食べていますね。圧倒的に安いですし、すぐに食べられておすすめです。ほかには、お寿司の好きなメンバーがいるので、魚がし日本一もよく利用しますね。

 

――:五反田にはベンチャー企業が多く集まっていますが、コラボしてみたい企業はありますか?

前川:まだお会いしたことはないですが、クラスターさんと組んで、バーチャルM&A相談会やM&Aセミナーといったものをやれたらおもしろそうですね。

 

――:最後に、将来的なビジョンをお聞かせください。

前川:いまのところ、このプラットフォームに登録していただいているのは売主とM&A業者で、その両者をマッチングさせるサービスとなっていますが、買主も登録したい、というニーズが出てきています。将来的にはそのマッチングもできるかな、と考えています。とはいえ、絶対に必要なM&A業者を排除する、ということはありませんけどね。

 

及川:M&Aマッチングをクラウド上で行うサービスは未開拓領域なので、エンジニアのみなさんにはぜひ来ていただきたいですね。きっと面白いと思いますよ。そして、事業主の方で、興味があるならぜひ相談しに来てください。これは決して他人事などではないのですから。

 

――:ありがとうございました。