俳優・井浦新がこだわる、オンとオフを同時に充実させる方法 後編

前編では、井浦さん流の壮絶な役作り、そして20周年を迎えた俳優業に対する向き合い方の変化を聞きました。若い頃に比べ、仕事の難しさとそこからくる楽しさをより実感できるようになったという話に、共感を覚えた人も多いのではないでしょうか?

 

この後編では、オフの時間の過ごし方を中心に聞いていきます。多趣味な井浦さんだけに、どんなオフを過ごしているのか気になるところです。

俳優 井浦 新さん
1974年東京都生まれ。1998年に映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。京都国立博物館の文化大使や、「SAVE THE ENERGY PROJECT」のアンバサダー、そしてアパレルブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」のディレクターを務めるなど、フィールドは多岐にわたる。現在、TBS1月期連続ドラマ「アンナチュラル」に出演中。今後も映画「赤い雪 RED SNOW」「菊とギロチンー女相撲とアナキストー」など公開が控えている。
[インスタグラム]@el_arata_nest

 

オフを充実させると、自然と仕事も充実する

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「井浦さんはカメラから美術まで、とても多趣味なイメージがあります。「旅」もそのうちの大きなひとつとのことですね。ちなみにどんな所に行かれるんですか?」

 

「ここ十数年は国内を中心に訪れています。若い頃は海外への憧れが強かったし、今でも海外には行くんですが、今は自分の中できちんと日本について知っていきたいという気持ちが強いです」

 

comment-father
「海外もいいけど、国内もいいですよね! 知っているようで知らない魅力的な場所がたくさんありそうです。最近旅をして印象的だった所は?」

 

「山形県北部の金山町という所です。そこは古民家が残っていて冬の積雪量が多い地域で、茅葺屋根の上に雪が乗っかっている様子はまるで昔話の中の世界。日本の原風景という感じでした。白い竜の伝説とか、その地域ならではの神話や伝承、地域の人に信仰される霊山などもあって、夏はその山を登ったりもしました」

 

comment-father
「井浦さんは旅のどんなところに魅せられているのですか?」

 

「昔から歴史や文化に興味があったんですよね。子供の頃から縄文時代にすごく興味があったりもしましたし。本を読むのも好きなので、部屋の中で本を読み、旅に出てそれを実体験で埋めていくという感じですね。だから僕にとって旅は、ゆっくりとリラックスするものではありません。知らないことや見たことのない景色と出会うために、止まることなく動き続けるものです。そういう意味では、旅というより「フィールドワーク」に近いかもしれません」

 

comment-father
「たしかにお話を聞いていると、フィールドワークという言葉がぴったりですね。写真がお好きなのも、そういったフィールドワークと繋がってくるのですか?」

「もちろんカメラは旅のパートナーになってきますし、オフでも仕事の現場でもいろいろ撮っています。写真を撮ること自体が好きですね。だから旅先の圧倒的な自然や、その土地の生活がにじみ出た人たちや日常のなんてことない光景もたくさん撮ります。普段から「小さなことにも感動できる気持ちを持っていたい」というのが自分の中であって、自然とカメラが手放せません」

 

comment-father
「前編で、「オンとオフがもはや崩壊している」という言葉がありました。オンとオフの垣根がないというのは、仕事もプライベートも心から楽しめるということだと思うので、正直うらやましいです。でも逆に、垣根がないことでプライベートが仕事に侵食される、なんて悪影響はありませんか?」

 

「仕事は仕事、家庭は家庭って分けるのは一見ラクなようで、言い訳にもなってくると思います。頭で決めたルールに則っていると、たとえ矛盾やストレスを感じても“仕事だから”とやる気モードをオンにしてやるわけで、それを続けるのはやっぱり心身にとって健全ではないと思います。あるいは、オフだから週末は家でゴロゴロしようとか。そうしたくなる気持ちもわかりますが、できれば子供に「週末のお父さんはいつもゴロゴロとしてる」と言われたくないですよね」

 

comment-father
「耳が痛いところがたくさんあるな……(笑)。要は、オンもオフも心からやりたいと思えることをやりましょう、ということでしょうか?」

「もちろん好きなことだけをやって生きていけるほど世の中は甘くないです。ただ、全ては生きるためにやることだとしても、その中に自分ならではの面白さを見い出せるはずです。役者の仕事も、今だからこそ胸を張ってやりがいがあるとか、苦しいから楽しいみたいなことが言えるけど、ここに至るまでには自分が好きなものをずっと探し続ける時間がありました。どうやったらこの仕事を愛せるのかなとか、自分ができることは何なのか、自分しかできないことは何だろうと、ずっと試行錯誤し続けてきました。そうやっていくうちに、面白さがわかってきた感じですね」

 

comment-father
「なるほど。どうすれば仕事が面白くなるのかを探し続けたからこそ、今があるんですね。仕事までもがライフワークの一部になるようなイメージですかね。でもそれって、サラリーマンの僕にはなかなか難しそうだな……」

 

「いえ、それは役者でも会社員でもフリーランスでも変わらないはずです。あきらめずにやり続ければ、そういう感覚は必ずつかみ取れると思います。それにはやはり「オフの過ごし方」が重要になってきます。オフだからといって“止める”のではなく、オンのとき以上に何かを本気でやる。それがきっと生きる楽しさにも変わってくるし、自分の仕事をより愛せたり、深く理解するきっかけになると思います」

 

comment-father
「僕も今日から仕事は仕事、オフはオフときっぱり分けるのではなく、どちらにもそれぞれの楽しさややりがいを見出してやっていこうと思います。奥さんも子どもたちも、そんな僕の変化をちょっとでも感じてくれたらうれしいなぁ」

 

【出演作品情報】

「ニワトリ★スター」

2018年3月17日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
出演:井浦新、成田凌、紗羅マリー、阿部亮平、LiLiCo、鳥肌 実、津田寛治、奥田瑛二
(C)映画「ニワトリ★スター」製作委員会

 

参ったなぁ……と、いつも困っている「参田家(まいたけ)」の面々。きょうはお父さんがなにやら悩んでいたようです。

参田家の人々
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ちょっと気弱なお父さん、元気でしっかり者のお母さん、もうすぐ小学生の娘、甘えん坊の赤ちゃん、家族を見守るオスの柴犬の4人と1匹家族。年中困ったことが発生しては、宅配便で届いた便利グッズや、ご近所の専門家からの回覧板に書かれたハウツー、知り合いの著名なお客さんに頼って解決策を伝授してもらい、日々を乗り切っている。
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俳優・井浦新がこだわる、オンとオフを同時に充実させる方法 前編

我々働く世代にとって、家庭と同じぐらい大切なのが「仕事」。家族を支えるためにも、毎日仕事がんばるぞ! と言っても、オフの時間もやっぱり大切ですよね。子どもと過ごしたり、趣味に没頭したりする時間があるからこそ、日々に充実感を感じられる。でも実際は、仕事をがんばるとオフの時間が削られ、オフを充実させると仕事が犠牲になりがちで……。

 

そこで今回は、ドラマ「アンナチュラル」など、話題のドラマや映画で活躍しながら、私生活ではカメラをはじめ数々の趣味を満喫しているという、俳優の井浦新さんに話を聞きました。仕事も趣味も充実しているのはまさに理想の生き方。いろいろお話を聞いて参考にさせてもらいましょう。

俳優 井浦 新さん
1974年東京都生まれ。1998年に映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。京都国立博物館の文化大使や、「SAVE THE ENERGY PROJECT」のアンバサダー、そしてアパレルブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」のディレクターを務めるなど、フィールドは多岐にわたる。現在、TBS1月期連続ドラマ「アンナチュラル」に出演中。今後も映画「赤い雪 RED SNOW」「菊とギロチンー女相撲とアナキストー」など公開が控えている。
[インスタグラム]@el_arata_nest

 

仕事とプライベートの境界線を作らない、という考え方

「井浦さんは、俳優としていろいろな作品に出演されていますが、役者というのは大変なお仕事でしょうね! 映画『ニワトリ★スター』(3月17日公開)では関西弁を話す役どころということですが、撮影前から具体的にやっていたことはありますか?」

 

「今作の場合は、監督のかなた狼さんが吹き込んでくれた音声データを、約2ヶ月間ずっと聞き続けました。今回僕が演じたのは関西弁の役どころだったので、意識せずとも自然に関西弁で話せるところまでいこうということで、大阪出身の監督が自身が延々としゃべる音声データを作ってくれたんです。だから撮影が始まる前の約2ヶ月間は、常にイヤホンをつけ続ける毎日でした。一見音楽を聴いているように見えるけれど、実は監督の声をひたすら聴いている、という」

 

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「それはなかなか大変ですね……。関西弁をマスターするどころか、「もうイヤ!」というふうにはならなかったんですか?」

「夜寝るときも寝落ちるまでずっと聴いていたので、朝ふと目覚めると監督の声が耳から流れ続けている。最悪な目覚めですね(笑)。でも、その声と毎日付き合っているうちに、途中から変な愛着が湧いてきました。その期間は文字とか映画とか音楽とか、自分が好きなものを体が全て拒否してしまって、逆に監督の関西弁が精神安定剤みたいになっていました(笑)。これを聞いてないと呼吸できない、みたいな状況までいってました」

 

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「壮絶ですね(笑)。いやあ〜役者さんって、そこまでやるものなんですね……」

 

「実は、監督からははじめに「今までの井浦新を1ミリでも見せたら許さんぞ」という言葉をかけられました。要は素の自分、普段の自分の生理的な反応なんかもすべて捨て去って、役になりきれ、と。監督はそう言った後に「わっはっは」と笑っていましたが、その言葉が本気なことは痛いほど伝わってきました。「あ、これは僕を“刺しに”きたんだな」と(笑)」

 

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「わわわわ、穏やかではないですね(笑)。そもそも、普段の自分をすべて消し去るなんて、常人にはそうそうできることではないです。いったいどうされたんですか?」

「もう本当に『ニワトリ★スター』の住人になるしかなかったですね。芝居ではあるんだけど、その世界の中で生きるというのをどこまで突き詰められるかっていう。要は日常生活を全部捨て、いかにこの作品しか見ていない状況までいけるか。だからこのときばかりは、僕が憧れる昭和の大先輩の俳優さんたちのように生活をするチャンスだと思いました。それというのは、家庭も顧みず、私生活の全てを捨てて作品のためだけに没頭する数ヶ月間。まあ現実的には、なかなかそこまでいくのは難しいですが、いつ監督から刺されるかわからないので、脅されながらやっていました(笑)」

 

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「井浦さんは、今年でちょうど役者になって20周年を迎えますよね。20年といえば、会社では新入社員が管理職になるくらいの年月です。この長い間に、役者という仕事に対する向き合い方は変わりましたか?」

 

「実は始めた頃は、とくに芝居をやりたいという気持ちは持ち合わせていませんでした。好きでやっている洋服作りというものが別にあって、役者の方はいってみれば思い出づくりのために飛び込んだようなものでした。だから自分の方からこんな役がやりたいとか、こんな監督に出会いたいとか、そういう気持ちはありませんでした。洋服作りと役者の二足のわらじでやっていることに対する後ろめたさみたいなのも感じていて、このまま続けていいのかなと、一時期俳優業から身を引いたこともありました」

 

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「今のご活躍からすると意外な感じがします。でも確かに、若い頃って仕事で迷うことが多々あるし、“自分がやりたいのはこれじゃない”と違う道を選ぶ人も多いですよね。そんななか井浦さんの場合は俳優業を続けるという選択肢をとったわけですが、なにか転機があったんですか?」

「だんだん芝居、というより映画作りというものが楽しくなってきたんです。現場で難しいことに対して何十人もの人たちが一丸となって取り組んでいく楽しさや充実感。そういう“ものづくりの現場”に対する喜びみたいなものを感じていきました。芝居をする難しさや大変さを真の意味で感じることからくる楽しさがわかるまで、10年くらいかかりました。その辺からなんですよね、なんか自分はすごく面白いことをやっているんじゃないかなって、きちんと言葉にして言えるようになったのは。そこからの10年は、芝居をする楽しさというものを噛みしめながらやってこれた10年だったと思います」

 

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「なるほど、やっぱり始めた頃とは向き合い方が大きく変わったんですね。今の井浦さんの軸となっているものはなんでしょうか?」

 

「自分にはライフワークと呼べるものがいくつかあるんですが、その軸になっているのが『旅』です。たとえば映画やドラマの撮影現場でも、ちょっと山の方に行くとか、海の方に行くとなれば、自分にとってはそれも旅になってきます。だからロケにはたいてい旅のセットを持っていきます。カメラやノート、ペンなど。カメラは通常コンパクトカメラですが、中判カメラを持っていくこともあります。オンとオフという感覚がもはや崩壊している感じですね」

 

comment-father
「井浦さんの持つ趣味の世界、かなり深そうですね。それにしても、『オンとオフが崩壊している』という気になる言葉……。いったいどういうことでしょう? 後編で、その辺りをじっくり掘り下げて聞かせてください!」

 

ときには私生活のすべてを投げ打ってまで、全身全霊で仕事にのめり込む井浦さん。仕事にのめり込むというのは男として憧れる生き方だけど、その気合いの入り方は半端ではなかった。そんな井浦さんにも仕事で迷う時期があり、それを乗り越え、やり続けてきたからこそ今の楽しさがある、というから勇気付けられる。

後編では、井浦さんの持つ「オフ」の面に迫ってみよう。

 

【出演作品情報】

「ニワトリ★スター」

2018年3月17日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
出演:井浦新、成田凌、紗羅マリー、阿部亮平、LiLiCo、鳥肌 実、津田寛治、奥田瑛二
(C)映画「ニワトリ★スター」製作委員会

 

参ったなぁ……と、いつも困っている「参田家(まいたけ)」の面々。きょうはお父さんがなにやら悩んでいたようです。

参田家の人々
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ちょっと気弱なお父さん、元気でしっかり者のお母さん、もうすぐ小学生の娘、甘えん坊の赤ちゃん、家族を見守るオスの柴犬の4人と1匹家族。年中困ったことが発生しては、宅配便で届いた便利グッズや、ご近所の専門家からの回覧板に書かれたハウツー、知り合いの著名なお客さんに頼って解決策を伝授してもらい、日々を乗り切っている。
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