日本のドライバーは“運転力”が低い!?110km/h制限の高速で事故を減らすには…

1年前のこのコラムで、1963年に名神高速道路が開通して以来100km/hだった日本の高速道路の制限速度を、2017年度に一部区間で110km/hに引き上げるという警察庁の発表について書いた。

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警察庁は2016年春、制限速度を120km/hに引き上げることをアナウンスしており、第一段階として新東名高速道路の新静岡〜森掛川IC(インターチェンジ)間と東北自動車道の花巻南〜盛岡南IC間という、どちらも120km/h走行を想定して設計した区間を試験的に引き上げるという内容だった。

 

それが予定どおり試行された。11月から新東名、12月から東北道の上記区間が110km/h制限になったのだ。新東名のこの区間を管轄する静岡県警察本部高速隊は、引き上げ後1か月間での事故は16件と前年同月比で3件増えたものの、速度引き上げと直接関係する原因はなかったとしている。一方で80km/hのまま据え置かれた大型トラックなどとの速度差が大きくなったことを懸念する声もある。

 

交通事故減少が重要な任務のひとつである警察庁が制限速度引き上げに踏み切ったのは、昨年のコラムにも書いたように、近年多くの国で引き上げを実施しており、その結果事故が減ったという報告が多く寄せられているからだ。

 

具体的には、多くの乗用車が高速道路で出している速度、つまり実勢速度に制限速度を近づけることで速度のバラツキをなくし、追い越しを減らすとともに、ブレーキ性能や操縦安定性が乗用車に大きく劣る大型トラックなどとの速度差を大きくすることで、大型トラックの追い越しによる重大事故を減らすという目的がある。

 

ニュースを見ていて感心したのは、いままで単一だった最高速度の標識を110km/hと80km/hの2枚に分けたことと、片側3車線の区間では大型トラックなどの通行帯をもっとも左側の走行車線に指定する交通規制を実施したことだ。いずれも2種類の速度制限があることを明示しており好ましい。そして上で書いたように、引き上げが原因の事故は1か月間では起きていない。

 

それでも否定的な意見はしばしば目にする。さまざまな理由が考えられるけれど、日本のドライバーが追い越しなどの運転操作に慣れていないことも関係しているのではないかと思っている。日本の道路では、追い越しのための右側はみ出しを禁じた黄色い車線をよく見かける。しかし欧米でここまではみ出し禁止の道路が多い国は記憶にない。事故を減らすにははみ出しを禁止すれば良いという判断が主流だったのかもしれないけれど、その結果、日本の多くのドライバーが追い越しの経験が少ないまま高速道路を走り、追い越しが終わっても走行車線に戻らないなど、さまざまな問題を引き起こしているのではないかと想像している。

 

一見すると危険を遠ざける、好ましいルールに見えるかもしれない。しかし人口10万人あたりの交通事故死者数で、日本は欧州諸国とほとんど変わらない。この数字から懸念するのは、我が国のドライバーの「運転力」が低下しているのではないかということだ。運転力を英語にするとドライビングテクニックとなりそうだが、それでは速く走る能力という意味に取られてしまう。ここでいう運転力とはそうではなく、道路という公共空間のもとで、周囲の環境と協調し、状況に応じて的確な操作ができる能力を示すものだ。

 

先週欧州の道を走ってきたけれど、たとえばフランスでは高速道路の制限速度は130km/hだが雨の日は110km/hとなり、一般道路は郊外では90km/hまで出せるのに市街地では50km/h以下まで落とさなければならない。天候や場所によってひんぱんに速度を調節する必要がある。

 

でもクルマの運転とは、本来そういうものではないだろうか。横断歩道を渡る人がいれば止まり、遅い車両がいれば追い越し、と臨機応変にアクセルやハンドルを操作しながら進んで行くものだと思う。こうした環境で育った欧州のドライバーの運転力は日本よりはるかに高い。我が国も高速道路の110km/h試行を機に、ひとりひとりがこうした能力を育もうという気持ちになってくれるといいのだが。

 

【著者プロフィール】

モビリティジャーナリスト 森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。