“昭和100年”の価値観になってない?『組織のネコという働き方』著者に学ぶ令和時代の就職観

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.20「ネコと就職」

 

就職観に透けて見える“世代間ギャップ”

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機11年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

売り手市場の就職期。犬山電機では新たな取り組みとして「採用広報」が始まった。営業部からは、中堅社員としてポチ川と、新人として白田ワン子が取材を受けることになり、インタビューが行われたのだが……。

 

広報担当「では、次にお二人が『犬山電機を選んだ理由』を教えてください」

 

ポチ川「それはもちろん、長年の歴史と伝統があり、安定している会社だったからです。福利厚生も充実しています。ここで着実にキャリアを築いて定年まで勤め上げるのが理想的な働き方だと思いました。なにより、やはり両親を安心させたかったですしね!(キリッ)」

 

白田「就職活動では『社会的な課題解決に貢献できる仕事かどうか』を軸に考えていたので、NPO法人やソーシャルベンチャーも回ったんです。関わる方々から感謝される仕事がやりたいと思って。実際、直接的に人の役に立っている実感を得やすいと聞いていました。それでかなり悩みましたが、犬山電機を選んだんです」

 

ポチ川「(え、NPOと悩んだの!?)」

 

広報担当「決め手は何だったんですか?」

 

白田「犬山電機でも環境に配慮した製品開発など、社会に良い影響を与える取り組みを進めていると知り、興味を持ちました。ただ一番の理由は、面接官の方々がとても魅力的だったからです。『こんな人たちと一緒に働きたい』と思ったのが決め手でした」

 

広報担当「その面接官というのは、誰だったのですか?」

 

白田「タマ田さんと西部(さいべ)さんです」

 

ポチ川「え、タマ田!? 僕の同期の……?」

 

白田「社長直轄プロジェクトのタマ田さんです。ポチ川さん、同期だったんですか?」

 

ポチ川「え、あ、うん。そうなんだよね。タマ田もまぁ、いいヤツだよね、うん」

 

白田「タマ田さんと西部さんのお話を伺って、この会社なら本業を活かしたカタチで社会課題に貢献できると確信できましたし、何よりお二人の人柄に惹かれたんです」

 

ポチ川「そ、そうなんだ(……サイベさんって誰かな?)」

 

広報担当「なるほど、素晴らしいですね。それで実際、仕事はいかがですか?」

 

白田「はい!  私の教育係のミケ野さんが立ち上げた、量販店コミュニティの仕事が本当に楽しいです! いろいろなアイデアを出させてもらえますし、反応を直接いただけますし。最近、量販店さんから『このあいだの白田さんのアイデア、やってみたら手応えあったよ。ありがとう!』と言ってもらえたんです! 私は『ありがとう』と言われる仕事をやりたいと思っていたので、最高です」

 

ポチ川「……」

 

自分が指導する新人・黒井ニャン吉は会社を休みがちだというのに、タマ田とミケ野はZ世代にウケている。それは一体なぜなのか……。インタビューを終え、どうにも心が落ち着かないポチ川は、いつものニャンザップへと足を運んでいた。

↑Z世代から見た自分と、タマ田・ミケ野の間にどんな違いがあるというんだ? ポチ川は意気消沈してニャンザップへ向かった。

 

Z世代は何を考えているかわからない?

ポチ川「こんばんは……」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。表情が冴えないようですが、何かありましたか?」

 

ポチ川「ええ……実は今日、会社の採用広報のインタビューを受けたんです。それで、一緒に取材を受けた新卒の白田さんの話を聞いて、なんだかモヤモヤしてしまって……」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「ウチを選んだ理由を、社会課題の解決ができると思ったから、とか言うんですよ。さらには、なんと就職先としてNPOなんかと迷ったそうで、意識高すぎじゃないのかとびっくりして。僕の就職活動のときにはそんなハナシ聞いたことないですから」

 

ニャカ山T「なるほど。ポチ川さんは会社を選んだ理由を何と?」

 

ポチ川「僕はやっぱり、会社の安定性とか福利厚生とかですよ。親も安心して喜んでくれましたしね。ただ気になるのは、白田さんの入社の決め手になったのが、面接官がタマ田だったからだと言っていて……。さらに、白田さんの教育係がミケ野なんですが、そのおかげで仕事が楽しいって言うんです」

 

ニャカ山T「ほう。そういえば前回、ポチ川さんが指導している新卒の方が会社を休みがちだと言われていましたね」

 

ポチ川「黒井ですね。今も休んでいます。それで、もしかしてZ世代の考えがわかっていないのは僕だけなのか、みたいなモヤモヤが……」

 

ニャカ山T「そういうことでしたか。それにしても、白田さんという方のお話はいいですね」

 

ポチ川「いやいや、あんなの理想論でしょう! 仕事ってもっと泥臭くて、特に営業なんて数字を上げなきゃ生き残れないシビアな世界ですよ。今はたまたま楽しいかもしれませんけど、いつまでもキレイゴトだけでうまくいくわけがないんですよ! 白田さんも黒井も考えに甘いところがあると思いますよ」

 

ニャカ山T 「今日のポチ川さんは、いつも以上に凝っているようですね。では、今回のテーマは『世代による就職観ギャップ』 にしてみましょうか」

 

令和は“キレイゴト”でも食べていける?

ポチ川「やっぱり“世代の問題”ということでいいんですかね?!」

 

ニャカ山T「今日は昔話でもしましょうか。大学時代の友人の話です。彼自身、就活時点でやりたいことはありませんでした。そもそもどんな仕事が向いているかもわからないので、面接で『質問はありますか?』と聞かれたときには、『ありがとうと言ってもらえる仕事がしたいのですが、御社にはそういう仕事はありますか?』と聞いていたそうです」

 

ポチ川「(白田さんの話と似ている……)」

 

ニャカ山T「多くの会社の面接官から『そんなキレイゴト』と鼻で笑われたといいます。当時は組織の歯車として働くことが求められていました。大量生産・大量消費の流れが成熟してきて、限られたパイをいかに奪い合うかが重要視されていたのです。手段を選ばず競合他社からシェアを奪った社員が、表彰されていました」

 

ポチ川「その方は、結局、どうなったのですか?」

 

ニャカ山T「『ありがとうと言われる仕事をしたい』と話した彼の言葉を笑わず、受け止めてくれた大手企業に内定をもらい、就職しました。ただ、3年も経たないうちにインターネット系のベンチャーに転職をしました」

 

ポチ川「そのパターン、僕の大学同期のネコ山とかなり似てませんか!?」

 

ニャカ山T「そうですね。まあ、私の友人はちょっと早すぎたんでしょう。当時はインターネットが出たてで認知度も低かったので、大手を辞めて転職するなんて、かなりの変わり者だと思われていたようです。白田さんの話を伺うと、ようやく時代がそういう方向になってきたのだなと思えます」

 

ポチ川「そういう方向? キレイゴトで食っていける時代ということですか?」

 

ニャカ山T「若い彼らは、親世代が組織のために必死にがんばっているのに、あまり幸せそうではない姿を見てきています。そもそもモノが有り余っているのに、もっと売り込もうとする活動に価値や意味を感じていません。自分たちより上の、工業化が始まってからの世代が地球の資源を使い、環境に負荷をかけながら自らの利益を追い求めた結果、さまざまな社会問題が顕在化してきています。それらを何とかすることに価値や意味を感じているのではないでしょうか」

 

ポチ川「え、じゃあ、ニャカ山さんの世代よりも若いのに、そういう価値観がわからない僕はやっぱり意識が低いってことですか?!」

 

ニャカ山T「意識が高いとか低いというより、見えているものが違うのが大きいかもしれません。というわけで、今回のネコトレは『リバースメンターをつける』にしましょう」

 

立場が逆転すると見えてくるもの

ポチ川「リバースメンター? 飲みすぎて吐きながら指導するメンター?」

 

ニャカ山T「……違います。リバースメンターは、若い世代の社員が年長者に対して、新しい知識や技術、視点を教えるものです。例えば、最新のテクノロジー、SNSの活用方法、新しい世代の価値観などを伝えます。つまり、ポチ川さんが白田さんや黒井さんに教えを請うわけです」

 

ポチ川 「はぁ? そんなの必要ないでしょう! 長年の経験こそが重要なのであって、若い人に教わるなんて! 第一、最近の若いモンは常識もなっていないじゃないですか。仕事が気に入らないとすぐ休んだりするし! 経験豊富な世代が若い世代を指導して、会社の伝統やルールを叩き込むほうがよっぽど大切ですよ!」

 

ニャカ山T 「そうですか。では、もしポチ川さんの”推し”のアイドルが、ベテランや中堅の歌手に対して、最新のSNSでのファンとの交流方法を教えるとしたらどうでしょうか?」

 

ポチ川 「それはきっと素晴らしいメンターになるでしょうね! わが推しはいつも新しいことにチャレンジする姿勢が素晴らしく、各種SNSでもファンとのコミュニケーションをすごく丁寧にしていますから。それに、新しいファン層を獲得するために、積極的に自分より若い世代のトレンドを学ぼうとしていますし、それを自分の活動に取り入れる柔軟さも持ち合わせています。その姿勢から学べることは、僕らにとって数え切れないですよ。そうだ、ニャカ山さんもぜひわが推しをリバースメンターにすべきです! まずは何から観たらよいか教えましょうか?!」

 

ニャカ山T「あ、ちょっと次の予定が入っていますので、きょうはこのへんで。またいつでもいらしてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.20
【“リバースメンター”につこう】

・「教えるのは上から下」という固定観念を手放そう
・若い世代に「彼らから見えているもの」を教わろう
・お客さん、ひいては世の中から「ありがとう」と言われる仕事をしよう

Vol.00から読む
Vol.19「ネコと人材育成」<< Vol.20 >> Vol.21「ネコと転職」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

手取り足取りのOJTは昭和的? 令和式メンタリングマネジメントの極意を『組織のネコという働き方』著者が解説

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.19「ネコと人材育成」

 

「気合いが入る教育係」と「気が滅入る新人」

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機11年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

新しい年度を迎え、営業部に2人の新卒社員がやってきた。教育係として指名されたのはポチ川とミケ野。ポチ川が黒井ニャン吉を、ミケ野が白田ワン子を担当することになった。久しぶりの新人に「ミケ野への指導は失敗したので、今度こそきちんと育てるぞ!」と気合いが入るポチ川だったが……。

 

ポチ川「黒井くん、教育係で副主任のポチ川です。この会社には10年いるから、安心してください。手取り足取り丁寧に指導していきますね。まずは今日の To Do リストを渡します。この30個のタスクを進めていってください。あと、人事の新卒研修でホウレンソウは教わってるよね? 報告・連絡・相談は欠かさずやること。それではがんばってください!」

黒井ニャン吉「わかりました(To Do リストって、こんな細かいことまで指示されるのか。1つ目が『朝、ポチ川さんの机をウェットティッシュで拭く』って書いてある……)」

 

――――その1週間後の夕方。

ポチ川「黒井くん、なんで今日もまた To Do リストを残さずやれてないの?! ちゃんとやるように言ってるよね」

黒井「えっと、リストにない仕事をハチ村課長から頼まれまして……」

ポチ川「言い訳は聞きたくありません。どうしたら全部できるか、ちゃんと考えてください。これは君のためを思って言ってるんだからね(キリッ)」

黒井「す、すみません……」

 

――――4月が終わり、ゴールデンウィークが明けて1週間後。黒井は欠勤するようになった。ポチ川が連絡しても返信がない。困ったポチ川は、黒井の同期・白田ワン子に声をかけることにした。

ポチ川「あの〜、白田さん。ちょっといいかな?」

白田ワン子「はい、なんでしょう」

ポチ川「今日も黒井くんが出社してないんだけど、何か聞いてる?」

白田「……いえ、特には」

ポチ川「そうか。白田さんは仕事どう? ミケ野が教育係だと、ただの放任でちゃんと仕事教えてもらえてないんじゃないの〜?」

白田「いえ全然! 新鮮なことばかりで、とっても仕事が楽しいです!」

ポチ川「そ、そうなんだ……。ちなみにどんなことやっているの?」

白田「毎日1つか2つ、お題をもらっているんです。例えば、量販店さんの勉強会に連れて行ってもらう日は『参加者全員の名前を覚えること』とか『何人以上と話すこと』とか」

ポチ川「え、それだけ?」

白田「あとは一日の終わりにふりかえりをしてくれます。『今日一番印象に残ったこと』と『得られた学び』は何だったかを」

ポチ川「な、なるほど。どうもありがとう……」

 

(いやいや、そんなの何も教えてないに等しいじゃないか。楽しいって言うけど、仕事は遊びじゃないことを最初にわからせるべきなのでは。ミケ野は一体なにを考えているんだ?)

 

その翌日、休んでいた黒井が出社してきたので、ポチ川は励まそうと声をかけた。

 

「この遅れを取り返さないとな! 黒井をどんどん成長させたいんだ。そうしないと白田さんにどんどん差をつけられるからね。よし、今日からテレアポ100本ノックだ! ここにトークマニュアルがあるから、これ通りにやってくれたらいいよ。ちゃんとできてるか、僕が横で見ててあげるから安心してよね!」

 

そして次の月曜日、また黒井は休んでしまった。悩むポチ川は、ニャンザップへと向かった。

↑何がいけなかったのか、悩むポチ川は今夜も、ニャンザップに向かうのだった

 

「成長させるため」にがんばる教育係

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おやポチ川さん、なんだか元気がないようですね」

 

ポチ川「新卒が入社してきて僕が教育係になったのですが、彼が連休明けから出社しなくなってしまいまして……」

 

ニャカ山T「おや、そんなことに」

 

ポチ川「僕は去年、ミケ野の教育係になったものの、ちゃんと教え込めなかったので『今度こそは』と気合いを入れたのですが……。彼(黒井)を成長させるため、手取り足取り丁寧に教えているつもりです。仕事を早く覚えさせるため、具体的な To Do リストを渡してやらせています。進捗を管理し、やり残しがあったら叱咤激励しているというのに……。しかも納得できないのが、ミケ野ですよ!」

 

ニャカ山T「ミケ野さんがどうしたのですか?」

 

ポチ川「あいつも別の新卒(白田)の教育係になったのですが、全然ちゃんと仕事を教えていないんです。それなのに、新卒が楽しいって言ってるんです。仕事は遊びじゃないってことを、最初にきちんとわからせるべきでしょう!」

 

ニャカ山T「ふむ。ミケ野さんは、そんなに何も教えてないんですか?」

 

ポチ川「いや、毎日お題を与えて、一日の終わりにふりかえりをしているそうです。あとは、量販店の勉強会に連れて行ったりして遊んでるんですよ」

 

ニャカ山T「ああ、なるほど。勉強会のときに、参加者の名前を覚えるとか、全員と話す、みたいなお題とか、いいですねぇ」

 

ポチ川「なんでわかるんですか?! そういうお題が出たとその新卒が言ってました」

 

ニャカ山T「さすがミケ野さん。教え上手ですね」

 

ポチ川「教え上手?! 何も教えてないのに?!」

 

ニャカ山T「今日もだいぶ凝っているようですね。今回のネコトレのテーマは『教え方』にしましょうか」

 

「答えを教えない」教え方?

ニャカ山T「ポチ川さんは、答えを教えるのが教育や育成だと思っていませんか?」

 

ポチ川「え、当然ですよね?」

 

ニャカ山T「教え上手には2種類あります。答えを教えるタイプと、答えを教えないタイプです」

 

ポチ川「ということは、答えを教えてもいいわけですよね。なにか問題でも?」

 

ニャカ山T「答えを教えるタイプの教え上手は、ハッキリ『こうしなさい』と言います。教わる側がその通りにやると、結果が出る。そのアドバイスが驚くほど的確なので、どんどん成長していきます。ただ、教わる側が依存してしまうことになりやすい。自分で考えなくなるわけです」

 

ポチ川「それなら、自分で考えさせるように指導すればよいのでは?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんが教わる側だとして、今まで答えを教えてくれた人から、急に『自分で考えなさい』と言われたらどう思いますか?」

 

ポチ川「ケチ!って思いますね。……ああ、そういうことか。たしかに急に切り替えるのは難しいかもしれません……。では、もう一つの『答えを教えない』ほうの教え上手はどうするんですか?」

 

ニャカ山T「お題を出します」

 

ポチ川「お題?! それって、ミケ野じゃないですか!? 教え上手ってどういう意味で?!」

 

ニャカ山T「お題をクリアすることで、自分で考えて行動しながら成長実感が味わえるように設計すれば、『答えを教えて』と依存されることもなく、夢中で仕事に取り組んでもらうことができます」

 

ポチ川「……。お、お題を出せばいいんだったら、僕もテレアポ100本ノックのお題をやらせているから、教え上手ということですか?!」

 

ニャカ山T「そのお題をクリアすると、どんな学びや成長につながるのですか?」

 

ポチ川「それはまあ、打たれ強さですね。使い古されて獲得見込みがほとんどないリストを使ってテレアポさせることで、トークマニュアルを覚えさせるとともに、何度断られてもあきらめない不屈の精神を学ばせたいと思って」

 

ニャカ山T「なるほど……。お題設計の前に、そもそものところで問題がありそうですね。きょうのネコトレは『使役形の言葉を使わない』にしましょう」

 

「〇〇させる」と言うのをやめよう

ポチ川「使役形?」

 

ニャカ山T「『◯◯させる』とか『◯◯をやらせる』という表現です。ポチ川さん、ここまでのやりとりでご自分が何回使役形を使ったかおわかりですか?」

 

ポチ川「そんなの使いましたっけ?」

 

ニャカ山T「9回ほど使っていました。成長させる、覚えさせる、やらせる、わからせる、考えさせる、テレアポさせる、などとおっしゃっていましたね」

 

ポチ川「それが何か?!」

 

ニャカ山T「使役形は、相手を思い通りにコントロールしようとする意思があるときに出てくる表現です。『自分で考えさせた』相手は、自分で考えるというより『考えさせられただけ』になることが多いです。人を思い通りに育てようとしても、そううまいことはいきません。『育ちやすい環境』をつくってあげることしかできないのです」

 

ポチ川「はぁ。あまりピンとこないのですが……」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、推しの方に対して、『成長させる、覚えさせる、やらせる、わからせる、考えさせる』などの表現を使われますか?」

 

ポチ川「いやいやいや、使うわけないでしょう! 推しは尊い存在ですから、僕の思い通りにコントロールすることなどできません。僕にできることは、あくまで推しがすくすくと成長していきやすい環境をつくるために、常に見守りながら支援し続けるだけですから! よければどんな支援の仕方があるのか、詳しくお話ししましょうか!」

 

ニャカ山T「あいにく今日は予定がありまして。またいつでもいらしてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.19
【相手をコントロールしようとする表現を使わない】

・人を思い通りに育てることはできない。育ちやすい環境をつくるだけ
・手取り足取り教え込むのではなく、成長しやすいお題を設計してプレゼントする
・他人に対して使役形を使ったら、違和感を持てるようになろう

Vol.00から読む
Vol.18「ネコとお金」<< Vol.19 >> Vol.20「ネコと就職」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

“給料への不満”に潜む意外な落とし穴とは?『組織のネコという働き方』著者が説く組織人のお金との向き合い方

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.18「ネコとお金」

 

給料が上がらないのは、会社のせい?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

このところの物価高に加えて、残業禁止による月給ダウン、さらに出世も足踏み状態で、お金の三重苦に悩まされているポチ川。漠然とした将来の不安を抱えながら今日も出社すると……

 

「ミケ野さん、おめでとう!」

 

朝から盛り上がっている営業チーム。なんとなく噂では聞いていたが、こんなにも早くこの日が訪れるなんて……。そう、ミケ野が副主任に昇格したのだ。しかも同期でトップのスピード出世だとか……。

 

ハチ村課長「お、ポチ川くん! ミケ野くんにお祝いの一言を!」

ポチ川「お、おめでとう……」

 

精一杯の笑顔をつくったつもりだけれど、ひきつっているのが自分でもわかった。ただの後輩だったミケ野が同じ役職になったなんて……。

 

さらに先日課長に昇格した、同期のタマ川ミャア子はどんどん評判を上げている。この前もネットのビジネスニュース番組に出演し、SNSで大きな注目を浴びていた。また大学の同級生であるネコ山のスタートアップ企業は、毎年ビジネス雑誌で特集されている「年収が高い企業ランキング」にランクイン。給料の上昇率が高いだけでなく、ストックオプションとかいうのもあるらしい。大手企業よりスタートアップの方が年収が高いなんて……。

 

会社の指示に忠実なオレよりも、自分勝手なことばかりするミケ野が評価されたり、女性だからって昇格して注目されたり、伝統のない会社のほうが給料が高いなんて、なにかがおかしくなっているのでは?! 自分ももっと給料が上がってよいはずなのに、なぜ?! モヤモヤがマックスになったオレは、またもニャンザップへ向かっていた。

↑ポチ川はモヤモヤする気持ちを抱えながら、今夜もニャンザップを訪れた

 

どうしてお金がほしいの?

ポチ川「こんばんは。もっとお金がほしいのですが!」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。なにがあったのですか?」

 

ポチ川「ミケ野が副主任にスピード昇格したんです。僕が面倒を見てきてやったのに、僕と同じ給料になるなんておかしいと思いませんか!? 僕ももっと給料が上がってよいはずですよね!?」

 

ニャカ山T「なるほど。それで、どうしてお金がほしいのでしょうか?」

 

ポチ川「どうしてって、そりゃあった方がいいに決まっているからです! 」

 

ニャカ山T「なにに使うんですか? あ、推し活のグッズとかライブとかですかね?」

 

ポチ川「いえ、推しのグッズは毎回コンプリートしていますし、ライブはチケットさえ取れれば、すべて参戦できてます!」

 

ニャカ山T「では、なにに使うためですか?」

 

ポチ川「いや、別にとりたててお金に困っているわけではないというか。副業を始めたこともありますし。あれですよ、やっぱりお金がある方が勝ち組じゃないですか」

 

ニャカ山T「……ああ、そういえばネコ山さんの会社が『年収が高い企業ランキング』に入っていましたね。あと、犬山電機の女性管理職の方が出ている番組も拝見しましたよ。もしかして前に言われていた同期の方ですか?」

 

ポチ川「そ、そうです……。ズルくないですか、みんなどんどん給料が上がっていって! だから僕も給料を上げてほしいんです!」

 

ニャカ山T「ああ、なかなか凝っていますね。今回のネコトレのテーマは『お金から自由になる』にしましょうか」

 

給料が上がれば自由になれる?

ポチ川「お金から自由になるには、たくさんあったほうがよいですよね」

 

ニャカ山T「では、もしポチ川さんの給料がたった今、3倍になったとしましょうか」

 

ポチ川「え、そんなにもらえるんですか? うれしい」

 

ニャカ山T「あるとき、会社がイヤすぎて辞めたくなって、転職を考えたとします。しかし、同じような営業職を探しても給料が大幅に減るところしか見つかりません。どうしますか?」

 

ポチ川「ううう……。ありありと目に浮かんでしまいました……。それだと転職はむずかしいですね。現在の給料が高すぎることで不自由になるパターンもあるってことか」

 

ニャカ山T「だから、『ちょっと損する』のがオススメです。具体的には、実力よりちょっと少なめに給料をもらう。そうすると、会社を辞めたくなったとしても選択肢が増えます。つまり自由度が増す。そうやって既得権益にしばられない身軽さを保つためには、収入源を複数持っておくことも有効です

 

ポチ川「副業をやったほうがいいということですか?」

 

ニャカ山T「給料以外の収入源があると、会社にしがみつかなくてよくなりますよね」

 

ポチ川「たしかに、副業するようになってからは、『給料を3万円上げてもらう努力より、副業で稼ぐほうが早いな』と思えるようにはなりましたけど……。でも、給料で単に損をしている状態はおもしろくないと思うのですが!」

 

ニャカ山T「ですよね。そこで今回のネコトレを始めましょう。『精神的報酬でモトを取る』です」

 

プライスレスな喜びで“心の財布”を満たそう

ポチ川「精神的報酬? 報酬って、お金のことじゃないんですか?」

 

ニャカ山T「報酬には5種類あります。

・お金が増える(経済的報酬)
・自由時間が増える(時間的報酬)
・手間・労力が減る、体が強くなる(肉体的報酬)
・考えなくて済む、賢くなる(頭脳的報酬)
・気を遣わなくて済む、楽しい(精神的報酬)

の5つです。このうち精神的報酬とは、喜びや感動など心が満たされたと感じられることです」

 

ポチ川「はぁ。それでモトを取るっていうのがよくわからないのですが?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんが推し活をするときに使っているコストを、さっきの5つの視点で考えてみてください。経済的コスト、時間的コスト、肉体的コスト、頭脳的コスト、精神的コストとして、どのようなものがありますか?」

 

ポチ川「えーと、お金も時間も労力もいっぱい使ってますし、限られた資金で地方ライブに行くための交通手段を考えたり、推しと距離を近づけるためのアイデアは脳に汗をかくほど考え抜きますよね。精神的コストとしては、推しが失敗しないか、ちゃんと活躍できるか、今後成長していけそうかなど、常に気を配っていると言っても過言ではありませんね」

 

ニャカ山T「そんなに膨大なコストを使っていながら、ポチ川さんが推し活を続けるメリット、すなわち報酬ってなんですか?」

 

ポチ川「そんなの決まっているじゃないですか! わが推しによって心が満たされる瞬間がたくさんあるからですよ。例えば、推しの笑顔が見えた時、推しの新番組レギュラーが決まった時、推しのライブが満席だった時、それから……」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは精神的報酬でモトを取ることを熟知されているので、それを仕事に置き換えてみてください。今日はこのくらいにしておきましょう。またいつでもいらしてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.18
【精神的報酬でモトを取る】

・実力よりちょっと少なめに給料をもらう
・ただし損をしている状態に甘んじない
・お金以外の報酬でモトを取ることができるようになろう

Vol.00から読む
Vol.17「ネコと越境」<< Vol.18 >> Vol.19「ネコとメンター」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

アウェーでの仕事は怖い?組織人が“越境体験”に抱く誤解を『組織のネコという働き方』著者が解く

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.17「ネコと越境」

“越境学習”ってなんだ?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

「半年以内に全員が副業を経験する」という新たな取り組みの期間が終わった犬山電機。社内では、「副業は辞める? 続ける?」という話題がそこかしこで話題になっていたが、ポチ川をはじめ渋々アルバイトを探したタイプの社員のなかにも、辞めずにそのまま副業として続けている者が少なからずいた。

 

ある日、ポチ川が社食できつねうどんをすすっていると、その姿を見つけた同期のタマ田が「ここいい?」と隣に座ってポークカレーを食べ始めた。タマ田といえば、ミャルミューダ電機とのコラボプロジェクトのリーダーとして社内外で話題になっているヤツだ。

 

ポチ川「そういえば、タマ田は副業ってどうしてるの?」

タマ田「ミャルミューダのオフィスにも席を置かせてもらってるんだけど、コラボ以外の仕事を手伝ってるうちに、業務委託として報酬をもらえるようになってるんだよね」

ポチ川「うわ、やっぱりそっち系か……」

タマ田「そっち系?」

ポチ川「自分の強みを活かしてる系の副業ってやつ。オレなんか、”WanWanEats”でデリバリーのバイトやってるだけだから、強みとか関係ない系」

タマ田「まだ続けてるの?」

ポチ川「うん。なんか副業を始めてみたらさ、今まで人事考課のたびに『どうすれば給料が上がるのか』と必死になっていたのがアホらしくなってきたんだよね。会社で無理してがんばって昇給しても月5千円とかなのに比べると、副業で月3万円とかふつうに稼げちゃうじゃん。だからちょっと気持ちが楽になったというか。まあ、強みを活かしてる系だったらもっと稼げるのかもしれないけど……」

タマ田「それならちょうどいい、ミャルミューダとの間で交換レンタル移籍をやることになったんだけど、立候補しない? まずは半年間やってみようってことになって」

ポチ川「交換レンタル移籍?! 半年間も?! い、いやぁ、どうかな。うーん、オレが抜けると部署的にキビしいんじゃないかな。だからムリだと思う。ムリムリ。たぶん、うん」

タマ田「そうなの? 最近話題の“越境学習”だからおすすめなんだけどな。あ、もう行かなきゃ。じゃまた!」

 

「もしかしたら断らないほうがよかったのかな……」。タマ田から去り際に言われた一言がひっかかったポチ川の足は、ニャンザップに向かっていた。

↑ポチ川はモヤモヤする気持ちを抱えながら、今夜もニャンザップを訪れた

 

境界線の向こうは敵だらけ?

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おやポチ川さん、こんばんは。今日は早いですね」

 

ポチ川「あの、越境ナントカってやったほうがいいんでしょうか?! えっと、レンタル移籍みたいなやつなんですけど!」

 

ニャカ山T「ああ、越境学習ですかね。ちょうど昨日、例の”組織のネコ”なタマ田さんの記事を拝見しましたよ。ミャルミューダさんと交換レンタル移籍をすることになったとかいうニュースでした」

 

ポチ川「えっ、もうニュースになってるハナシなんですか!? 実は今日、タマ田から『立候補したら?』って誘われたんですけど、ムリだと断ったんです」

 

ニャカ山T「どうしてムリだと思ったのですか?」

 

ポチ川「だって、ウチの部署から僕が抜けたらキビしいと思うんですよね。あと、タマ田には直接言いませんでしたが、以前お話ししたようにミャルミューダなんて創業たかだか10年の”ポッと出”の会社でしょう。わが犬山とは格が違いますよ。社員数だって100名もいない中小企業ですから」

 

ニャカ山T「あれ、さっきの記事だと今は300名を超えたと書いてあったような」

 

ポチ川「えっ!? この短期間でそんなに増えているのですか……?! むむむ、油断なりませんね……」

 

ニャカ山T「もしかしてポチ川さんは、ミャルミューダさんを競合だと思っているのですか?」

 

ポチ川「それはそうでしょう。ウチの部署と同じような家電製品を売っているわけですから敵ですよ、敵」

 

ニャカ山T「ほほう、敵ですか」

 

ポチ川「なんなら最近は、隣の営業1課も敵ですよ。もともとデジタル機器担当の部署なのですが、家電がネットワークにつながるようになって、家電担当のわが営業2課と同じ商品を扱うようになっていますからね。社外も社内も敵ばかりで大変ですよ」

 

ニャカ山T「なるほど、今日もかなりの凝り具合いですね。では今回のネコトレのテーマは『境界線はどこか』にしましょうか」

 

境界線はそもそも存在する?

ポチ川「境界線?」

 

ニャカ山T「ポチ川さん、もしかしてミャルミューダさんへのレンタル移籍を断った本当の理由って、自分が通用するかどうか自信がなかったから、とかではないですか?」

 

ポチ川「(ギクッ)い、いや、そういうことではなくて……そもそも会社の格が違うわけですから、僕の言っていることが相手に理解できるかどうか的なアレがコレで……(モニョモニョ)」

 

ニャカ山T「もう一つ、ポチ川さんは、レンタル移籍など左遷のようなものなので、社内の出世のレールから外れてしまう、と思ってはいませんか?」

 

ポチ川「(ドキッ!)そ、そ、そんなふうにはけっして……ちょっとだけしか思ってません! 実は今日、タマ田に『自分の強みを活かしてる系の副業いいなー』的なことを話したら、『それならちょうどいい』ってレンタル移籍のハナシが出てきたんですけど……ぶっちゃけなんか左遷っぽいなと思ってしまいました……」

 

ニャカ山T「そうでしたか。タマ田さんの昨日の記事では、

“全員副業の取り組みをやった結果、自分の強みを活かせていない副業をしている人はツラそう。だから、レンタル移籍の取り組みが【越境学習】としてアウェーの環境で強みを発揮する成功体験につながったらいいと思う”

みたいに書いてありましたよ。たしかに本業と遠すぎる副業をやるよりも、ミャルミューダさんだと同業種だからアウェー感は薄くなる分、強みを活かしやすくなりそうですもんね」

 

ポチ川「そうは言っても、やはり越境するには勇気が……」

 

ニャカ山T「越境、越境と言いますけど、そもそもそんな境界線ありますか?」

 

ポチ川「それはあるでしょう」

 

ニャカ山T「目に見える線、引いてあります?」

 

ポチ川「いや、目には見えないけど、犬山とミャルミューダの境界線はありますよね」

 

ニャカ山T「では、ミャルミューダさんのオフィスで、犬山の営業2課の仕事をするとしたら、越境ですか?」

 

ポチ川「え、それはただのリモートワークみたいなことなので、越境ではないのでは」

 

ニャカ山T「では、そこでのポチ川さんの仕事を見たミャルミューダの社員さんから、『それ、うちでもやってくれませんか』と頼まれてやったら越境ですか?」

 

ポチ川「えっと、うーんと、越境のような、越境でもないような……よくわからなくなってきました」

 

ニャカ山Tもともと線なんてなくて、勝手に思い込んでるだけかもしれませんよね。ということで、今日のネコトレは『敵と呼ばない』にしましょう」

 

敵でもライバルでもない

ポチ川「敵と呼ばない? 敵は敵ですよね。なんと呼べばよいのですか?!」

 

ニャカ山T「あるサッカー指導者から聞いたのですが、対戦相手のことを敵とは呼ばず、“相手”と呼んでいるそうです」

 

ポチ川「そりゃそうかもしれませんが……敵は敵なのでは?」

 

ニャカ山Tちょっと自分と違う意見を持っているだけで敵と判断してしまうと、チームワークや共創ができなくなってしまいます。同質性の高い環境にどっぷり浸かっているタイプの中には”敵認定が早すぎる人”がけっこういますが、もったいないです。ポチ川さんに伺いたいのですが、同じ推しのアイドルを応援している人は、敵ですか?」

 

ポチ川「は? そんなわけないでしょう! 同担(同じ推しを応援する人)は、同志ですよ。推しをメジャーにしていくために一致団結すべきチームメイトです。なんなら、将来わが推しのファンになってくれる人たちだって、大きく見たら仲間ですよね。わが推しはこれからグローバルに活躍すべき存在ですから、ファンの国境なんてものも関係ありません。それに加えて……」

 

ニャカ山T「あ、今日はもう遅いので、またの機会に聞かせてください」

 

今日のネコトレ

Vol.17
【敵と呼ばない】

・アウェイで強みを活かす経験をしてみよう
・くっきりした境界線はないと思ってみよう
・早すぎる敵認定はやめよう

Vol.00から読む
Vol.16「ネコと副業」<< Vol.17 >> Vol.18「ネコとお金」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

副業は害?何をしたらいい?『組織のネコという働き方』著者に学ぶ、組織人が副業を苦行から“福業”に変える方法

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.16「ネコと副業」

副業で稼ぐどころか
ヘトヘトで本業に悪影響?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

「週3日ノー残業デー」に「2030年までに女性管理職比率50%」と新たな取り組みが続く犬山電機。そこへ新たなお題が追加された。「半年以内に全員が副業を経験する」というものだ。「本業だけで忙しいのに何のために?!」「何をしたらいいの?」など、にわかにザワつく社内。そして3か月も経つと、社内の様相が変わってきた。

 

夜中の警備バイトでげっそりしたハチ村課長をはじめ、深夜のコンビニ店員などをしている社員などは、会議中に居眠りしている姿が目につくように……。一方で、ミケ野のようにいつもどおり飄々とふるまっている社員もいて、二極化し始めたのだった。

 

とある休日。副業のデリバリーバイト“WanWanEats”を終えたポチ川は、久しぶりに“推し”のライブへ向かった。

 

ところが、あろうことかライブ会場で寝落ちしてしまい、楽しみにしていた新曲初披露を聞き逃すという大失態。不甲斐なさにうつむいて歩く帰り道、気持ちよさそうに汗をぬぐいながら近づいてきたのは、同担(※推しが同じ人)の吠崎係長である。

 

吠崎係長「おや、ポチ川さん。最高のライブだったのにテンションが低いですね。どうかしましたか?」

ポチ川「……ライブ前に出前バイトだったのですが、疲れのせいか寝落ちしちゃって……新曲を聞き逃してしまったんです。あああ……」

吠崎係長「それは心中お察しします」

ポチ川「これもすべて会社が“全員副業”なんて言い出したせいですよ……。でも、吠崎係長は元気ハツラツな感じですね。副業はどうされてるんですか?」

吠崎係長「もちろんやっていますよ。知人の紹介で、スタートアップ企業のお手伝いをしています。総務まわりのアドバイスがほしいと頼まれましてねえ。もともとボランティアで関わっていたのですが、会社で“全員副業”になったのを機に、有償に切り替えてもらいました」

ポチ川「時間とか体力的に、本業に影響ありません?」

吠崎係長「ないですよ。オンラインで月に3〜4時間、おしゃべりするくらいのものですから」

ポチ川「そんな副業があるなんて、うらやましすぎるんですけど……」

 

迎えた週明け。眠気と戦いながら仕事を終えたポチ川は、またニャンザップに向かうのだった。

↑ポチ川は今日も、ニャンザップに駆け込んだ

 

サラリーマンは「副業」すべきではない!

ポチ川「こんばんは……ふぁ〜(あくび)」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「こんばんは。ポチ川さん、ずいぶん眠そうですね。どうされましたか?」

 

(推しのライブで寝落ちして新曲を聞き逃したコトの経緯を話したあと、ポチ川は疑問をぶつけた)

 

ポチ川「全員副業しろなんて、完全に会社の失策ですよ! 本業に支障が出ている社員がワンさかいるんですから。そもそもサラリーマンは副業なんてすべきじゃないんですよ!」

 

ニャカ山T「ほうほう」

 

ポチ川「ただでさえ本業で忙しいのに、副業でさらに仕事が増えたら、どう考えても過重労働でしょう! 実際にみんなヘトヘトで、会議中に居眠りしている社員が増えているんです!」

 

ニャカ山T「元気に副業してる方もいらっしゃいますよね? 吠崎さんとか」

 

ポチ川「えっ?! なぜそれを?!」

 

ニャカ山T「副業をテーマにしたネット記事で犬山電機さんが紹介されていて、吠崎さんがインタビューを受けていたのを見かけましたよ。ほら、この記事です(スマホを見せる)」

 

ポチ川「本当だ……。ライブのときに聞いた話が載っている……」

 

ニャカ山T「スタートアップ企業は会社の仕組みが整備できていないので、中堅企業の総務を知り尽くした吠崎さんのアドバイスは非常に役立っている、と経営者の方が喜んでいましたね。……そうそう、ミケ野さんも載っていますよ」

 

ポチ川「えっ、ミケ野も?! 本当だ。アイツ、いつの間に?」

 

ニャカ山T「例の量販店コミュニティが話題になったことで、コミュニティをテーマにした講演依頼がいくつも舞い込むようになったと書いてありましたね」

 

ポチ川「その講演料が副業収入になっているのか。知らなかった……。楽して副業できているなんてズルイ!」

 

ニャカ山T「ポチ川さんもマネすればよいのでは?」

 

ポチ川「そんなこと言われても、自分にはスタートアップ企業に売り込める専門性もないし、コミュニティもうまく立ち上げられないし……。僕は、いったいどんな副業をしたら、楽して稼げるのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「……。これまたなかなかの凝り具合いですね。では今回のネコトレのテーマは、『“ふくぎょう”を考える』にしましょうか」

 

“副業”と“複業”の違いとは?

ニャカ山T「ポチ川さんは副業で“WanWanEats”のデリバリーをしているとのことでしたが、それを決めるときどんなふうに考えたか、思考プロセスを教えてもらってよいですか?」

 

ポチ川「えーと、まず副業しなければいけないと言われたので、アルバイト募集サイトを見て、会社の就業時間外で働けるところを探しましたよね。候補の中から、夜中の警備とかコンビニみたいな自分には無理だと思うものを避けていって、残ったのがデリバリーでした。自転車を漕ぐだけだったらバスケ部出身なのでいけるかなと思って。まあ、やってみたらキツすぎてヘトヘトになっているのですが……」

 

ニャカ山T「なるほど。ポチ川さんは、“副業”と“複業”の違いは考えたことありますか?」

 

ポチ川「ふくぎょうとふくぎょう?」

 

ニャカ山T「副主任の副のほうと、複雑の複のほうですね」

 

ポチ川「副業と複業か。どう違うんでしょう?」

 

ニャカ山T以前、働き方には『足し算のステージ』と『引き算のステージ』があるとお伝えしたのは覚えていますか?」

 

ポチ川「もちろんです!……なんでしたっけ?」

 

ニャカ山T「働き方の第1ステージは足し算。できることを増やしていく。苦手なこともより好みせず、できるようになるまでやることが大事。次の第2ステージが引き算。好みでない作業を減らし、強みに集中するステージです」

 

ポチ川「ああ、そうでしたそうでした」

 

ニャカ山T「その先にある第3ステージが、掛け算です。自分の強みと他者の強みを掛け合わせて価値を生み出す働き方ができるようになります」

ポチ川「なるほど、掛け算。……それと”ふくぎょう”にどういう関係が?」

 

ニャカ山T本業と関係ないことをやる”副業”は、足し算。自分の強みを活かして本業を含めた複数の仕事に関わる”複業”は、掛け算です

 

ポチ川「え、じゃあ、僕がやっている”WanWanEats”のデリバリーバイトは……足し算の副業ということですか?」

 

ニャカ山T「犬山電機で培った強みは活かされていますか?」

 

ポチ川「い、いえ、まったく。じゃあ足し算ってことですね……。では、吠崎係長とかミケ野がやっているのは……掛け算?!」

 

ニャカ山T「記事で拝見する限り、本業で培った強みを活かす形でやっているので、掛け算ですね」

 

ポチ川「掛け算の複業をやるには、どうしたらよいのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「そもそも働き方のステージが”足し算”の人は、強みが確立していないので複業はできません。社外で本業と関係ない何かを副業としてやろうとするよりも、本業でいろいろな業務を経験していく量稽古のほうが効果的です。副業しても、ただいろんなことを無関係にやらされているだけで、疲弊してしまいがちなので」

 

ポチ川「僕も含めて、会社にいっぱいいる人のことなんですけど……。僕が”副業は害”だと思っている状態がまさにそれです。ちなみに掛け算の複業だと、害じゃないというか、メリットがあったりするんですか?」

 

ニャカ山T「では、それを味わえるように今日のネコトレをやってみましょうか。今回のトレーニングは『無報酬で、自分の強みを活かしたことをする』です」

 

お金より“強みを活かすこと”を目的にすべし

ポチ川「無報酬って、ボランティアのことですか?」

 

ニャカ山T「まあ、そうですね。強みを活かして喜ばれる活動です」

 

ポチ川「喜んでもらえるボランティアなら、近所のゴミ拾いとかですかね?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんがゴミ拾いのプロだったらそれでも良いでしょう。実は本業で培った何らかの強みを持っているにもかかわらず、お金をもらうとなると時間労働のイメージが浮かんでしまう人は”足し算の副業”を選びがちです。そうならないようにするために、まずは無報酬で、”自分の強みを活かして”誰かに喜んでもらえる活動を探すことがポイントです」

 

ポチ川「うーん、何をしたらよいのか全然イメージが浮かばないのですが……」

 

ニャカ山T「もしポチ川さんが推しの事務所でボランティアをするとしたら、”今のままではもったいない。営業面でこうしたほうがいいのに!”と思っていることはありませんか?」

 

ポチ川「そんなのいくらでもありますよ! 最近、少しずつファンが増えてきたとはいえ、グローバル展開にはあと一歩でもったいないんですよね! そこを僕の営業力で一気に世界で活躍できるアイドルに押し上げたいと、常々思ってはいます。それができるのであれば、お金なんてもちろん必要ありませんよ。推したちの笑顔が僕の報酬ですから! それこそ、僕に与えられた“福業”ですね。幸福な業と書く福業ですよ」

 

ニャカ山T「壮大な構想を持っているんですね。ちなみに、事務所でボランティアをするツテはあるんですか?」

 

ポチ川「まったくありません。でも声さえかかればいつでも動けるようにイメージはしていますよ! まずグローバル展開に向けて必要なのはですね、17個のポイントがありまして……」

 

ニャカ山T「あ、今夜はもう遅いので、また次回聞かせてください」

 

今日のネコトレ

Vol.16
【強みを活かせるボランティア活動をしてみる】

・時間労働だけが“ふくぎょう”じゃない
・「足し算の副業」は、作業量が増えるだけ
・「強みを掛け算した複業」をしよう

Vol.00から読む
Vol.15「ネコとコミュニティ」<< Vol.16 >> Vol.17「ネコと越境」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

コミュニティは人数で勝負?『組織のネコという働き方』著者に学ぶコミュニティの意味とつくり方

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.15「ネコとコミュニティ」

 

コミュニティ運営なんて楽勝?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

ポチ川の後輩・ミケ野が運営する、量販店向けオンラインコミュニティが依然順調な犬山電機。企業間のコラボ実施やイベント開催で、社内外からの注目度はさらに高まっているという。その前例を受け、営業部のSNSを任されていたポチ川が、自社の家電を軸としたファンコミュニティを立ち上げることに。まずはインパクトあるリアルイベントを開催し、オンラインコミュニティに誘導しよう! と目論んだのだが……。

 

ハチ村課長「おい、ポチ川くん。『犬山電機家電ファンコミュニティ』の件はどうなっている?」

ポチ川「ようやく会場を押さえられたところです。SNS総フォロワー数200万人超えの、家電大好きアイドル・イヌ森ポメ子ちゃんに出演してもらう予定ですからね! 今話題の子なので、集客力はありますよ~。ギャランティと会場費で、予算はザッとこれくらいです」

ハチ村課長「うむ。初回のイベントで予算をほぼ使いきることになるわけだな。まあ、ファンコミュニティを立ち上げるからには、初回で何人集客できるかが大事だからな」

ポチ川「はい、ドーンと花火を打ち上げましょう! きっとニュースサイトにも取り上げられて話題になるはずです!」

ハチ村課長「で、これをやったら売り上げはいくら伸びるんだ?」

ポチ川「え!? 売り上げ……。そ、そうですね、500人がコミュニティに入会して3万円ずつ買ってくれれば1500万円とか……?」

ハチ村課長「おお、なかなかの費用対効果じゃないか。きちんと計画を立てて進めてくれよ。まずは集客目標500人というわけだな、頼んだぞ!」

ポチ川「は、はい(テキトーに答えちゃったけど、まあいいか……)」

 

――――その1か月後。

イベントはイヌ森ポメ子の集客力のおかげで500人超が参加、ネットニュースやSNSでも話題となった。ところが、肝心の「犬山電機家電ファンコミュニティ」に登録したのはたったの8名という結果に。ポメ子がそのオンラインコミュニティにいないとわかると、ほとんどの人が登録してくれなかったのだ。

 

「イベントは成功したのに、まさかこんなことになるなんて……。こんなときはニャンザップに行くか……」

 

しかし今日はあいにくの定休日。久しぶりに大学時代の同級生・ネコ山でも誘って飲みにいこうと連絡してみると、即レスで「OK! 今ここで飲んでるから一緒にどう?」と『呑みナビ』の URLが送られてきた。「スナック ミアキス」? 聞いたことのない店だな……。

↑ポチ川の駆け込み寺、ニャンザップへ向かおうとするも、今日は定休日。別の場所へ足を向けるが……

 

“コミュニティ”ってなんだ?

ポチ川「(カランカラーン)こんばんは」

 

ネコ山「こっち、こっち!」

 

ポチ川「よう、ネコ山、久しぶり! ……あ、あれ、ニャカ山さん?!」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。偶然ですね」

 

ポチ川「実は今日、ニャンザップに行こうと思ったんですけど定休日だなと気づいて。まさかこんなところでお会いできるなんて!」

 

ママ「あーら、“こんなところ”ってあんまりだわね(笑)」

 

ネコ山「ママ、ごめん。僕の大学の同級生で……。この3人はそれぞれ知り合いだけど、一緒に会うのは初めてなんですよ」

 

ママ「あらそうなの。お友達のお名前は?」

 

ポチ川「ポ、ポチ川アキ男です」

 

ママ「じゃ、ポチちゃんね。おビールでいいかしら?」

 

ポチ川「は、はい。……早速なんですけどニャカ山さん、コミュニティって何なんでしょう?」

 

ネコ山「おいおいポチ川~、いきなりニャカさんにガチ相談かよ。せっかく3人が集まったのに~(テーブル席から「ネコ山っちー!」と呼ばれる)……あ、ちょっと呼ばれたから行ってきます!」

 

ニャカ山T「さて、コミュニティですか。今日は何があったんですか?」

 

ポチ川「ファンコミュニティを作れと会社に言われて、まずは盛大にイベントだ! ってアイドルを呼んで500人集めたんですけど、実際オンラインコミュニティに登録してくれたのは8人だけだったんです……」

 

ニャカ山T「思った以上に少なかったわけですね」

 

ポチ川「はい。計画では500人集めて、みんなが登録してくれるはずだったのに……。案内の際、会場からの質問に対して、そのアイドルはコミュニティには入らない旨を伝えたら急に雰囲気が変わって……」

 

ニャカ山T「なるほど」

 

ポチ川「正直に言わなければよかったんでしょうか?! そうしたらみんな登録してくれて、一気にコミュニティが活性化したはずなのに……」

 

ニャカ山T「……。ちなみに、集まった8人は今どうしているのですか?」

 

ポチ川「どうしているもなにも、誰も発言し始めませんよ。少人数だから盛り下がってしまっているんでしょうね」

 

ニャカ山T「ポチ川さんからはどんな投げかけをしたのですか?」

 

ポチ川「『事務局からのご案内』として、ご自由に発言くださいと。あと、そうだ。不適切投稿をした場合は退会処分となる旨も忘れずに伝えていますよ。問題が起こると会社から怒られますからね。でも、これだけやってうまくいかないのは、そもそもファンコミュニティはウチの会社には向いてなかったんでしょうね。この失敗の責任は、指示をした会社側にありますよ」

 

ニャカ山T「なるほど……。今日のポチ川さんはかなりいろいろ凝っているようですね。今回のネコトレのテーマは、『1:n:nをつくる』にしましょう」

 

人を集めれば
“いいコミュニティ”ができる?

ポチ川「いちたい、いちたい、えぬ? って何ですか?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、人を集めれば勝手にコミュニティができると思っていますか?」

 

ポチ川「はい、そうですけど」

 

ニャカ山T「では、ポチ川さん。今、このお店じゅうに聞こえるように、何か話してもらってよいですか?」

 

ポチ川「えっ、イヤですよ! 知らない人がいるのに」

 

ニャカ山T「今、店内にいるお客さんは、私たちを含めて8名ですよね。ちょうどポチ川さんのつくったコミュニティと同じ人数です」

 

ポチ川「ハッ! だから誰も発言し始めないということですか!?」

 

ニャカ山T「その可能性はありますね。オンラインで発言すると全員に届くので、大声とかマイクでしか話せないようなものですよね」

 

ポチ川「たしかに。『ご自由に発言ください』じゃダメなのか……。じゃあ、どうすればいいんでしょう?」

 

ニャカ山T「ママの行動をよく観察してみてください。コミュニティをつくるために重要な“あること”をよくしているんです」

 

ポチ川「え、何ですか? 今、お酒飲んでますね。それ?」

 

ニャカ山T「……。コミュニティの形には2種類あります。『1:n』『1:n:n』です。ポチ川さんはファンクラブに入られていますか?」

 

ポチ川「もちろんです! 推しのファンクラブに年会費を払って、会員証とグッズをゲットするのは当然のことですから」

 

ニャカ山T「ほかのファンクラブ会員の方々とは交流ありますか?」

 

ポチ川「ないですけど、それが何か?」

 

ニャカ山T「それが『1:n』型のファンコミュニティです。それに対して、ファン同士の横のつながりがある形が『1:n:n』型です。『1:n』型であれば、人をたくさん集めれば集めるほど成功といえますが、『1:n:n』型だとハナシが変わってきます。もしオンラインコミュニティに500人も集まったとしたら、発言のハードルはかなり高いでしょうね……」

↑左が「1:n」、右が「1:n:n」のコミュニティを表す

 

ポチ川「あああ、たしかに知らない人が500人いるところでマイクでしゃべろと言われても、何を話したらいいかわからないですね……。たくさん集めても勝手に盛り上がるわけじゃないのか……」

 

ニャカ山T「ママは今、あっちのテーブルのお客さんとネコ山さんをつないでいるでしょう。あれが『1:n:nをつくる』ということです。それをずっと続けているから、このお店のお客さんたちはみんな顔見知りの関係になれているのです」

 

ポチ川「ママすごい……」

 

ニャカ山T「では、今日のネコトレをやりましょうか。今回のトレーニングは『名前を覚えて呼び合う』です」

 

名前を覚えて呼び合うだけで、仲良しに

カランカラ~ン

 

ママ「いらっしゃい。あら、ラミちゃん。久しぶりね」

 

ラミ「ごぶさたしてます。友達3人、連れてきました~」

 

ママ「そちらのテーブルにどうぞ。じゃあ、ほかに新顔さんも多いから、みんなでアレやりましょうか。ネコ山っち、いつものやつお願い~」

 

ニャカ山T「これはちょうどいい。ポチ川さん、始まりますよ。これが今回のトレーニングです」

 

ポチ川「え? ネコ山が何かするんですか!?」

 

ネコ山「はい、みなさま。それではご指名に預かりましたので、始めさせていただきます。『名前覚え大会』です~! 今から、ここにいる全員の呼び名を覚えてください。ぼくの呼び名は『ネコ山っち』です。そんな感じでお互い呼び名を伝え合って、覚えてください。5分後にテストがありますよ。ではどうぞ!」

 

(5分後)

ネコ山「はい、時間でーす。  ではポチちゃんから行きましょう!」

 

ポチ川「え、えーーっと、まずニャカ山さん、じゃなくてニャカさん、奥のテーブルにいるのがラミちゃん、タイガさん、ムギたんにジジさん。真ん中がネコ山……じゃなくてネコ山っち、その隣のテーブルが、マルっちとプーさんと(中略)……レオレオ! 全員言えたーー!」

 

ママ「あら、私も呼んでよ」

 

みんな「ワハハハハ!」

 

(その後、他のお客さんとの会話も盛り上がり、あっという間に帰宅の時間になった。)

ポチ川「今日はとっても楽しかったです! ママ、ボトルキープしてもいい? ほらほら、ラミちゃんたちも一緒に帰りますよ~」

 

ニャカ山T「今日はいつもと違うポチ川さんの一面も見られて楽しかったです。こんなに明るい方だったんですね」

 

ママ「ポチちゃんったら、ホント調子がいいんだから。またいつでもいらっしゃい」

 

今日のネコトレ

Vol.15
【「名前」を覚えて呼び合う】

・コミュニティには『1:n』型と『1:n:n』型がある
・横のつながりがある『1:n:n』型では、人数が多ければよいわけではない
・お互いに名前を呼び合うことで、一気に話しかけやすさが変わる

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Vol.14「ネコと多様性」<< Vol.15 >> Vol.16「ネコと副業」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

“多様性”を納得して受け容れるには?組織人に『組織のネコという働き方』著者が説く、異なる意見を敵視せず歩み寄る秘訣

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.14「ネコと多様性」

 

組織における“多様性”の現実に悶々……

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

2030年までに女性管理職比率50%を目指している、わが犬山電機。しばらく前に、外部から女性の部長も入社したらしい。先日はなんと同期の女性社員、タマ川ミャア子が課長に昇格。オレはまだ副主任だというのに……。

 

そんなある日。そのタマ川課長がリーダーを務める部署の会議に、「営業部からの意見を聞きたい」とのことでオレとミケ野が招集された。営業部とは違い、活発な意見交換が行われている様子に少々驚きながらも、終了予定時刻が近づいても終わる気配がない。

 

ポチ川「なあ、この会議っていつもこんな感じなのかな?」

ミケ野「僕、前も来たことありますけど、こんな感じでしたよ」

ポチ川「みんな話が長いよな〜。このままじゃ結論もまとまらないし、会議なんだからわきまえて発言するべきだと思うんだよな。女性が多いからじゃないのか?」

ミケ野「……そうっスかね?」

ポチ川「“女性活躍推進”とか聞くけどさ、こんな会議が増えるようじゃ非効率だろ」

ミケ野「でも、タマ川さんがリーダーになってからこの部署の業績、めっちゃよくなってるみたいですよ」

ポチ川「……そ、そうなの?」

 

とはいっても、女性管理職を増やすなんて、ただの”数合わせ”なんじゃないの? 多様性って本当に意味あるのか? ……いや、ひょっとすると、ますます自分の出世は危ういのか!? 不安になったポチ川は、今夜もニャンザップに向かっていた。

↑不安になったポチ川が向かった先は、今夜もニャンザップだった。

 

女性ばかり出世するなんて不公平だ!

ポチ川「こんばんは。多様性だかなんだか知りませんが、僕はもう出世できないんでしょうか?!」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「ポチ川さん、こんばんは。いったい何があったのですか?」

 

ポチ川「うちの会社は、2030年までに女性管理職比率50%を目指すとかで、最近、新しい女性の部長が転職してきたり、同期の女性が課長に昇進したりしているんです。僕なんてずっと会社に尽くしてきても副主任なのに、女性ばかり出世するなんて不公平ではないでしょうか?! 多様性なんていいことないですよ!」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「そもそも会社って、空気を読みつつ一致団結して、“あうんの呼吸”で動くべきものじゃないですか! それなのに、ネコも杓子も多様性、多様性って、そんなひっかき回されたら、会社なんかまとまるはずがありませんよ! 実際、同期で課長になった女性が主催する会議に行ってみたら、とにかくみんなおしゃべりが長くて非効率そうでしたからね」

 

ニャカ山T「それは雑談ばかりしているということですか?」

 

ポチ川「いやまあ、仕事のハナシでしたけど。ああしたほうがいいんじゃないか、こうしたほうがいいんじゃないかって、延々と終わらないんですよ。本来、リーダーがビシッと指示を下しさえすれば、そんなおしゃべりは不要でしょう。きっと、リーダーの力量がないのに昇進してしまって、答えがわからないんでしょうね。フッ、かわいそうに」

 

ニャカ山T「そうすると、そのリーダーのチームは成績不振なのですね?」

 

ポチ川「え、いや、聞くところでは成績は上がっているとか……。でも、強い組織というのはリーダーが的確な指示・命令によって部下を引っ張っていくべきですから、たまたま結果が出ているだけなんでしょうね、うん」

 

ニャカ山T「なるほど。今日のポチ川さんは、いつも以上にガッチガチに凝っているようですね。では今回は、『多様性』の意味について考えてみましょうか」

 

多様な価値観が存在する中で
どうやって意見を合わせるか

ポチ川「多様性の意味ですか? そりゃ、みんなバラバラっていうことでしょう。それでそれぞれが好き勝手に主張していたら、仕事がしにくくて困りますよね!」

 

ニャカ山T「“多様”の対義語って、なんでしょうね?」

 

ポチ川「一様とか、単一とかでしょうか?」

 

ニャカ山T「イヌって、単一ですか?」

 

ポチ川「は? イヌを舐めてもらっちゃ困りますよ。チワワみたいな小型犬からゴールデンレトリバーみたいな大型犬もいれば、ダックスフント、ブルドッグ、プードルに柴犬、あとタロからジロまでとにかくバラエティ豊富なのがイヌでしょう。単一のわけがありませんよ!」

 

ニャカ山T「たしかにネコよりイヌのほうが多様ですよね。小型ネコと大型ネコといっても体格の差は何倍もありませんし。なぜイヌはそんなにいろいろなタイプがいるんでしょう?」

 

ポチ川「もともと人間の狩猟のお供だったから、獲物の種類によって大型である必要があったり、ダックスフントみたいにアナグマの巣穴に入りやすい体型だったり、あとは雄牛(ブル)と闘うために噛みついても息ができる顔のカタチだったりに進化したからですよ。イヌはいろんな仕事ができるんです!(ドヤ)」

 

ニャカ山T「つまり、多様性に意味があるということですね」

 

ポチ川「はっ!(ハメられた気がする……)」

 

ニャカ山T「ポチ川さんが多様性を避けたがっているのは、“相手が自分の思い通りにならないから”ではないですか?」

 

ポチ川「むぐぐ……思い通りにならないっていうよりも、一致団結が損なわれては本末転倒だと思うのですが」

 

ニャカ山T「もしかしてポチ川さんは、意見が合わない相手は敵だと思っていませんか?」

 

ポチ川「えっ? 意見が違えば味方ではないですよね。価値観が合わないのですから」

 

ニャカ山T「意見が合わないとき、ポチ川さんは、自分が正しくて相手が間違っていると思っていますか?」

 

ポチ川「そんなの当たり前ですよね?」

 

ニャカ山T人間は、“判断するブラックボックス”みたいなものだとイメージしてみてください。入力された情報が、ブラックボックス内部の価値基準で計算されて、その結果として『これはいい』『これはよくない』『やろう』『やめよう』などの判断が出力されるわけです。これを【判断=価値基準×入力情報】と表現します。判断の公式ですね」

ポチ川「なんか急に四字熟語満載の公式が出てきましたけど、僕が売店でプリンを見つけたら『買おう』と判断する、みたいなことで合ってますか?」

 

ニャカ山T「バッチリです。まさに、ポチ川さんというブラックボックスにプリンを入力したら『買おう』という判断が出力されたわけです。さきほど、ポチ川さんは意見が違う人のことを『価値観が合わない』と言いましたよね? でも【価値基準×入力情報】と2つに分解して考えると、意見つまり判断が違う場合には3つのパターンがあることになります。

(1) 入力情報はそろっているが、価値基準が違う
(2) 価値基準はそろっているが、入力情報が違う
(3) どちらも違う

だとすると、意見が合わないからといって価値基準が違うとは限らないわけです。(2)のパターンで、見えているもの(入力情報)が違うだけかもしれません」

 

ポチ川「そう言われると、たしかに……。でも、自分が正しくて相手が間違っているのは変わりませんよね!?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんも相手も、自分が見えている入力情報を自分の価値基準で正しく計算し、判断しているとしたら、どちらも正しいと言えませんか」

 

ポチ川「はぁ」

 

ニャカ山T「『間違い』というのは、どちらも正しいけれど、“お互いの正しさの間(ま)が違っている”だけなのです」

 

ポチ川「でも、お互いが正しかったら話がまとまらないのでは? それが多様性を大事にすることなんだからガマンしろというわけですか?」

 

ニャカ山T「裁判をイメージしてみてほしいのですが、裁判には原告と被告がいますよね。どちらも自分が正しいと思っているから、裁判になっているわけです。裁判では、まず自分が見えている入力情報を“証拠”として提出し合います。入力情報をそろえた上で、どの価値基準を使うかを裁判官が決めて、判断(判決)するというプロセスです。
なので、この『入力情報をそろえてから、どの価値基準を優先するかをすり合わせる』というプロセスで対話できるようになると、多様性が単なるバラバラで終わらず、それぞれの強みを活かし合うアイデアにつながる可能性が広がるのです」

 

ポチ川「うーん、わかる気もするけど、それって実際には難しいのでは?」

 

ニャカ山T多様性は、意見のすり合わせとセットでなければ価値がないというところだけ知っておいていただければ、今日のところは大丈夫です。まずスタートラインとして理解しておきたいのは、この世の中に”同じ人なんていない”ということ。というわけで、ネコトレをやってみましょう。今回のトレーニングは『異名をつけてみる』です」

 

みんな違って、みんないい!
みんなに“異名”をつけてみよう

ポチ川「異名、ですか?」

 

ニャカ山T「そうです。ハチ村課長やホエザキ係長、後輩のミケ野さん、今日の会議でご一緒した同期の女性など、 身近な人にこっそり異名をつけてみましょう。その人の得意なことや優れたところがわかる異名をつけるのがポイントです。そうすれば、いろんな強みを持った人がいるんだな、という多様性のメリットを受け取りやすくなるはずです」

 

ポチ川「うーん、あんまり思いつかないなぁ」

 

ニャカ山T「アイドルもよく異名がつきますよね。最近だと『カリスマ総長』なんて呼ばれている子がいたような……」

 

ポチ川「そ、そ、それは!! “わが推し”が所属しているアイドルグループのリーダーですよ! “わが推し”のアイドルグループは、同じタイプの人は一人もいなくて、みんなそれぞれいいところがあります。みんな違って、みんないい! まさにそんな感じなんです。ほら見てくださいよ(スマホでアイドルの写真を見せる)」

 

ニャカ山T「私には、みなさんが同じ顔に見えます……」

 

ポチ川「なんですと!! まず“わが推し”のトレードマークは、この笑顔なんです! 『同じ時代に生まれてよかった! 200万年に一度の笑顔天使』と言われているんですよ!」

 

ニャカ山T「ずいぶんと長い異名ですね」

 

ポチ川「あと“わが推し”の後ろにいる子は、とにかく頑張り屋さんなんです。『下町のど根性ムスメ』と呼ばれていて、老若男女に愛されていますから! ちなみに一番左の子は……」

 

ニャカ山T「わかりました、わかりました。今夜はもう遅いので今度ゆっくり聞かせてください。職場の人の異名をつけることが難しいと感じたら、まずは自分に異名をつけてみることから始めてみるのもおすすめですよ」

 

ポチ川「なるほど、僕の異名か……『推しごと王子』なんてところでしょうかね。『推しごとプリンス』のほうがいいかな。いや、『推しごとファンタジスタ』か。どれがいいと思いますか?!」

 

ニャカ山T「ど、どれもいいから迷いますね……。今日はこのへんにしておきましょう」

 

今日のネコトレ

Vol.14
異名をつけてみる

「多様性」と「一致団結」は矛盾しないと知る
間違いとは、お互いの正しさの間が違うだけ
「判断=価値基準×入力情報」を使いこなせるようになる

Vol.00から読む
Vol.13「ネコと心理的安全性」<< Vol.14 >> Vol.15「ネコとコミュニティ」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

「心理的安全性」の本当の意味とは?『組織のネコという働き方』著者が解説する自分が正しいと思い込む人の傾向と対策

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.13「ネコと心理的安全性」

 

なぜ会議で本題と関係ないことをするの!?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

「週3日ノー残業なんてムリなんですけどっ!」

 

犬山電機で始まったワークライフバランスの取り組み「週3ノー残」。推進委員に任命されたポチ川のワークライフバランスは整うばかりか、サービス残業も増え、モヤモヤがつのる日々……。

 

そんなワークライフバランス推進委員会のメンバー集会が初召集された。同じ営業部門から選出されたハチ村課長、先日「同担(同じ人を推すこと)」であることが判明した吠崎係長、同期で社長直轄プロジェクトに抜擢されたタマ田など、おなじみの顔ぶれも並ぶ。

 

「今日はみなさんお集まりいただきありがとうございます! 初の顔合わせですので、まずやっていただきたいことがあります」

 

と、切り出したのはタマ田だ。まず自己紹介として “自分が偏愛するもの” を書いて壁に貼り出してほしいという。「貼り終わったらこちらにお集まりください! 続いて、机の組み立てをしてもらいます」。

 

「なんで机の組み立てなの……?!」

 

ポチ川は困惑しながら、指定された2人一組で作業を開始した。パートナーは話したことのない社員だったが、壁に貼られた自己紹介を見たら自然と会話が盛り上がり、大きくて重い机を協力しながらなんとか組み立て終えた。ただ途中、ちょっと腰を痛めてしまったようだ……。

 

「みなさん、おつかれさまでした! 無事に机が完成しましたね。このあと、参加できる人は飲みにいきましょう!」とタマ田。

 

「いやいや、自己紹介と机の組み立てで会議が終わり、ってどういうこと?! ただでさえ忙しいのに、本題にも入らず飲みに行くなんて!」

 

うれしそうに飲み会へ向かうハチ村課長や吠崎係長を横目に見つつ、モヤモヤがつのるポチ川が向かったのは、いつものニャンザップだった。

 

心理的安全性とは、波風を立てないこと?

ポチ川「あイタタタタタ……」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「ポチ川さん、今日はなにやら動きがぎこちないですね」

 

ポチ川「さきほど重たいものを持ち上げる肉体労働をしまして、どうやら腰を痛めたみたいで……」

 

ニャカ山T「肉体労働ですか?」

 

ポチ川「今日、例のワークライフバランス委員会の初集会があったんです。そこで何をするかと思ったら、自己紹介をして、指定された2人組みになって机を組み立てて、それだけで終わったんですよ! しかも、そのあと任意参加で飲みに行っちゃいましたよ。あり得なくないですか!? 本題に入るべきでしょう!」

 

ニャカ山T「なるほど。その指定された2人組は、知らない人同士でしたか?」

 

ポチ川「そうです。僕の相手は、顔は社内で見かけたことはあるけど話したことはない社員でした。ほかの組もみんなそんな感じかなと」

 

ニャカ山T「ああ、やはりそうでしたか」

 

ポチ川「やはりって、どういうことですか?」

 

ニャカ山T「ポチ川さん、“心理的安全性”ってご存知ですか?」

 

ポチ川「もちろんです! アレですよね、チームワークに大事なやつ。でも、うちの課長なんて全然わかってないんですよ」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「この前も『こんな仕事のレベルでいいと思ってるのか!』と言われたばっかりで。そんなキビしいことを言われたら心理的安全性がなくなりますよね〜」

 

ニャカ山T「ほう。そんなにキビしい基準を求められたのですか?」

 

ポチ川「まあ、以前はやっていたレベルなんですけど、みんなこれだけ忙しくなっているんだから無理ですよ〜。そこまで言うなら、自分でやるべきでしょう」

 

ニャカ山T「ほうほう。以前はやっていたレベルですか」

 

ポチ川「でも、チームには心理的安全性が大事なんだから、波風立てずにやるべきですよね」

 

ニャカ山T「波風立てずに、ですか。ポチ川さん、今日もかなり凝っていますね。では今回のテーマは『心理的安全性のつくり方』にしましょうか」

 

「心理的柔軟性」と「心理的ガッチガチ」

ポチ川「え? 僕が凝っている? 凝っているのはハチ村課長のほうですよね?」

 

ニャカ山T「いえ、ポチ川さんが、です」

 

ポチ川「いやいやいや、職場の心理的安全性を損なっているのは、明らかに課長でしょう! 僕が直すべきところなんてないですよ?」

 

ニャカ山T波風立てずに仲良くやろうよ、というのは心理的安全性ではありません。ただの『仲良しグループ』や『ぬるい職場』です」

 

ポチ川「えっ、そうなの?! 違いがよくわからないのですが……」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、“心理的柔軟性”ってご存知ですか?」

 

ポチ川「心理的安全性じゃなくて、心理的柔軟性? 初耳ですけど……」

 

ニャカ山T心理的柔軟性がない人は、『自分が正しくて、相手が間違っている』と思っている人が多いんです。ほかにもこういったパターンがあります。

 

心理的柔軟性がない人

・自分が正しくて、相手が間違っていると思っている
・相手の視点・視野・視座がわからないし、わかろうとも思っていない
・状況が変化しても、習慣を変えられない
・過去の成功体験を「不変・普遍の正解」だと思っている
・「◯◯しなければならないから」「◯◯すべき」という表現をよく使う
・「でも」から話し始める
・「最近の若いヤツは……」と言う
・積み上げてきたもの(既得権益)を大切にする
・知識はあるけど経験はないことを語る

 

ちなみに私は、こういう人を“心理的ガッチガチ”と呼んでいます」

 

ポチ川「(あれ、ちょっと心当たりがあるような……)で、でも! 心理的柔軟性は心理的安全性にどう関係あるんですか?」

 

ニャカ山T自分が何かを言ってもメンバーはみんな心理的柔軟性をもって受け取ってくれると『お互いが思い合えている』状態が、心理的安全性があるということです」

 

ポチ川「お互いが思い合えている……ということは、誰か一人でも心理的ガッチガチな人がいたら?」

 

ニャカ山T「心理的安全性はなくなりますね」

 

ポチ川「ええっ!? じゃあ、僕が凝っているというのは……」

 

ニャカ山T「『課長が◯◯すべきだ』と言い張っているポチ川さんに心理的柔軟性はありませんので、ポチ川さんがガッチガチな人として職場の心理的安全性を損なっていることになりますね」

 

ポチ川「そ、そういうことなの?! で、で、でも、課長もガッチガチですよ!」

 

ニャカ山T「お互いガッチガチ、というケースはよくありますね」

 

ポチ川「ああ、うちは完全にそのパターンだ……」

 

ニャカ山T「今日の初顔合わせで、タマ田さんが自己紹介と机づくりをやったのは、お互いの心理的柔軟性を高めたり、確認し合いやすくするためでしょうね。ポチ川さんは、お相手の方に対してどういう印象をもちましたか?」

 

ポチ川「そう言われれば……お互いに趣味が推し活とわかって一気に打ち解けました。机づくりも協力しあいながらできたので、思った以上に楽しい時間でした。……そうか、そういうことだったのか! じゃあ、ガッチガチの僕はどうすべきなんでしょうか……」

 

ニャカ山T「では、今回のネコトレは【『べき』と言うのをやめる】にしましょう」

 

つい口にしてしまう『べき』をこらえる

ポチ川「なんだか簡単そうですね」

 

ニャカ山T「実は数えていたのですが、ポチ川さんはさきほどからすでに5回も『べき』と言っています」

 

ポチ川「そ、そんなに!?」

 

ニャカ山T「無意識に『べき』が出てしまう人のことを“ベキベキ星人”と呼びます。まずは『べき』と言ってしまっている自分に気がつけるようになることが大事です」

 

ポチ川「ベキベキ“星人”って……ネーミングセンスはショボいけど、インパクトはありますね……」

 

ニャカ山T「ちなみに、『でも』ばかり言う人は“デモデモ星人”です。心理的に柔軟な状態になると、『べき』や『でも』というガチガチ言葉に違和感が出るようになりますよ

 

ポチ川「ハイ、『べき』って言わないべきなんですね。わかりました!」

 

ニャカ山T「ポチ川さん、6回目……。まあ今日はこの辺にしておきましょう。またいつでもお越しくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.13
【『べき』と言うのをやめる】

・「心理的ガッチガチな自分」に気づけるようになろう
・共通の話題を見つけたり、利害が対立しない共同作業で小さな成功体験をつくろう
・心理的柔軟性が心理的安全性を生み、肩書きや役割を超えて試行錯誤できるようになる

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Vol.12「ネコとワークライフバランス」<< Vol.13 >> Vol.14「ネコとダイバーシティ」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

ノー残業でサビ残が増える組織のイヌが知るべき「ワークライフバランス」の整え方とは?『組織のネコという働き方』著者が解説

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.12「ネコとワークライフバランス」

 

制度はホワイト企業モデル。でも現実は……?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

会社の新たな取り組みとして「週3日のノー残業デー」が導入された犬山電機。社内には「整えよう! みんなのワークライフバランス」「ノー残業で人生を楽しく」など標語が掲げられるようになった。「週3日ノー残業デー」の曜日は各部署に委ねられることになり、営業部は月・水・金曜がノー残業デーに決まった。これらを管理するためにそれぞれの部署から「ワークライフバランス推進委員」が選出されることになったのだが……。

 

ハチ村「ポチ川くん、ちょっといい?」

ポチ川「なんでしょう、課長」

ハチ村「週3日のノー残業デーが始まった件で、君にもワークライフバランス推進委員になってもらうから」

ポチ川「(え、すでに仕事があふれてるんですけど……)わ、わかりました。具体的に何をしたらいいんですかね?」

ハチ村「それは、君が考えることだろう。明日の朝10時までにまとめておいて。さ、今日もノー残業デーだぞ。帰った、帰った!」

ポチ川「(え、明日10時って……実質、サービス残業なんだけど)」

ミケ野「お疲れ様でーす! お先に失礼しま〜す」

 

なんだよ。ミケ野のヤツ、ほぼ週5日ノー残業デーだな。なにやら毎晩のようにオンライン勉強会だかオンライン飲み会をやっているとか。そんな余裕があるなら、アイツに推進委員をやらせたらいいのに! っていうか、こういうのって、ふつう課長がオレの仕事を巻き取って自分の負担が増えることに悩む、とかが相場なのでは?

 

そんなことを思いながら、仕方ないので近場のカフェで仕事をやっつけた。このカフェには、「週3ノー残」が始まってから何度もお世話になっている。残業代は出ない、コーヒー代はかさむ、だから推し活に使えるお金が減る……これの一体どこがワークライフバランスだってんだ!?

 

だんだん腹が立ってきたオレは、カフェを出ていつものニャンザップに向かっていた。

↑今日もポチ川は、ニャンザップに向かっていた

 

ノー残業デーで、サービス残業は増すばかり?

ポチ川「こんばんは……」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。ずいぶんと遅い時間にいらっしゃいましたね」

 

ポチ川「もうサービス残業ばかりで、心も体も疲弊しちゃって」

 

ニャカ山T「サービス残業?」

 

ポチ川「うちの会社で『ワークライフバランスだ!』と、週に3日ノー残業デーが設けられたんです。通常業務だけでも忙しいというのに、僕はその推進委員に抜擢されたので、会議の資料を作ったりノー残業を続けていくための施策を考えたりしなければいけないんですが、それをやるためにサービス残業しているんですよ。しかも、同じく推進委員のハチ村課長は僕に仕事を丸投げするだけ。ワークライフバランスって、一体なんなんでしょう?!」

 

ニャカ山T「サービス残業しているのは、ポチ川さんだけなんですか?」

 

ポチ川「会社の近くのカフェで、たくさん社員を見かけますよ。だいたい、これまで毎日残業してたのに、いきなり週3日もノー残業デーなんて、仕事が終わるわけがないんですよ! そうでしょう?」

 

ニャカ山T「みなさんサービス残業をしているわけですね?」

 

ポチ川「ミケ野は毎日、定時に帰ってますけどね……」

 

ニャカ山T「ああ、“組織のネコ”のミケ野さんですね。量販店さんをつなぐコミュニティを立ち上げたということでしたから、夜な夜なオンラインで勉強会や飲み会でもやっているんじゃないでしょうか」

 

ポチ川「なんでわかるんですか!? そう言ってました!」

 

ニャカ山T「やはりそうでしたか。よいことですね」

 

ポチ川「全然よくないですよ! 職場のみんながサービス残業をしている中で、一人だけ週5日ノー残業ですよ? そんな余裕があるのなら、アイツが推進委員をやったらよいと思うのですが!?」

 

ニャカ山T「なるほど……、今日もなかなか凝っていますね。では、今回のネコトレのテーマは、『ライフワークバランス』にしましょうか」

 

「ワークライフバランスから「ライフワークバランス

ポチ川「ライフワークバランス? ……ワークライフバランスじゃなくて?」

 

ニャカ山T「そうです。ワークライフバランスは、ワークとライフを分ける考え方ですよね?」

 

ポチ川「そうですよ。定時まで働いて、あとはプライベートを充実しろということですよね。すなわち、推し活に励めと!」

 

ニャカ山T「はいはい。それに対して、ライフワークバランスは『いまやっている仕事のうち、どのくらいの割合がライフワークといえるか』ということです」

 

ポチ川「ライフワークの割合? えーと、そもそもライフワークってどういうことですか?」

 

ニャカ山T「仕事のステージには3つある、という考え方があります。『ライ“ス”ワーク』『ライ“ク”ワーク』『ライ“フ”ワーク』の3ステージです」

 

ポチ川「ライスワーク? お米??」

 

ニャカ山T食べるために働くのが『ライスワーク』、仕事が好きで没頭して働くのが『ライクワーク』、そして自分の使命に従って働くのが『ライフワーク』です」

 

ポチ川「……僕はどのステージなのでしょうか?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、仕事が好きで没頭していますか?」

 

ポチ川「いいえ、まったく!」

 

ニャカ山T「では、ライスワークですね。もしかしたら、それ以下かもしれません」

 

ポチ川「それ以下?! どういうことですか?」

 

ニャカ山T「この図を見てください。【自己犠牲的←→自己中心的】【お金にならない←→お金になる】の2軸の4象限で考えると、“仕事してる風”という状態があります」

 

 

ポチ川「ムダな会議や資料づくり等って……僕の日常業務なんですけど……」

 

ニャカ山T「はい、仕事してる風ですね。自分を犠牲にしつつ、なんの価値も生み出さない作業をしている状態です。ここに該当する作業は、全力でゼロにすることが大事です

 

ポチ川「ゼロですか? もしそこがゼロになったら……週3ノー残でも余裕ですね」

 

ニャカ山T「その取り組みは、そういう業務の見直しをするために行なわれているのでは?」

 

ポチ川「そうなのか……。じゃあ、カフェでサービス残業してる僕って、ムダの極地じゃないですか??」

 

ニャカ山T「そういうことになりますね」

 

ポチ川「(ガーン!)ち、ちなみにミケ野がやってることはこの図でいうとどうなるんでしょうか?」

 

ニャカ山T「どう思われますか?」

 

ポチ川「会社から指示もされていない、お金にならないことをやっているわけですから、仕事をせずにただ遊んでるだけだと思ってたのですが……」

 

ニャカ山T「定時後に量販店コミュニティの活動をしていて、まだお金になっていないのであれば、ライフワークの種をまいていることになりそうですね。そのうち、そこに参加している量販店さんで犬山電機製品の売り上げが伸びたり、企業間でコラボが生まれたりするようになると、立派なライフワークになります

 

ポチ川「ううう……。なんかものすごい差をつけられている気がしてきました。僕はどうすればよいのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「まずはワクワクする仕事の割合を2割にすることを目指してください。そうすれば、仕事が楽しいと感じられるようになるはずです」

 

ポチ川「……。具体的にどうすればよいか、まったくイメージがわかないのですが、何をすればよいでしょうか?!」

 

ニャカ山T「では、今日のネコトレをやってみましょうか。今回のトレーニングは『ハッピーメールを送る』です」

 

用件のないときに連絡をする「ハッピーメール」

ポチ川「はっぴーめーる?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、特に用件もないのに量販店さんへメールをすることはありますか?」

 

ポチ川「は? そんなことはしませんよ。用事もなくメールするなんて非効率なことは」

 

ニャカ山T「では、それを1日3件やってみてください」

 

ポチ川「え! でも、内容は?」

 

ニャカ山T「なんでもいいんですが、ポイントは、こちらが先方のことを気にしていたり、先方の情報を見ていたりするのが伝わるような内容がよいですね」

 

ポチ川「あれ? それって……推しのSNSで毎日やってる気が。投稿にはすべて“いいね”を押しますし、推しが興味を持ちそうな情報をコメント欄に共有することが重要なんですよ!」

 

ニャカ山T「そうでしたか。では、同じことを量販店さんにやればよいだけですね。もちろんメールに限らず、SNSでもかまいません」

 

ポチ川「SNSでいいんですね! SNSで推しとの距離を縮めるためのノウハウ、まだまだありますよ! 聞きたいですか?!」

 

ニャカ山T「えーと、今夜はもう遅い時間ですから、ここまでにしましょう。また、いつでもいらしてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.12
【1日3件『ハッピーメール』を送る

・お金にならず、ワクワクもしない『仕事してる風』をゼロにする
・残業をなくすではなく、ライクワーク・ライフワークを増やそう
・お客さんへのハッピーメールで、ライフワークの種をまこう

Vol.00から読む
Vol.11「ネコとやりたい仕事」<< Vol.12 >> Vol.13「ネコと心理的安全性」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

“楽しい仕事”をやりたい!?『組織のネコという働き方』著者が説く「やりたいこと」を見つける方法

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.11「ネコとやりたい仕事」

 

“楽しい仕事” をやりたい?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

犬山電機がいま話題の新進家電メーカー、ミャルミューダ電機とコラボしたキャンプ用品ブランドのPRイベントが、大盛況のうちに終わったという。活気づく社内をよそに、あふれ出す悔恨の念……。イベントスタッフの社内公募をよく見なかったオレは、ゲスト参加した “わが推し” に会うチャンスを逃したのだった……。

 

ランチで社食に行く気がしなかったので外へ出ようとエレベーターを降りたところで、吠崎係長と遭遇した。例の社内公募でイベントに参加したという、庶務課の万年係長だ。いつもつまらなそうな顔で仕事していたはずなのに、なんと向こうから微笑みながら声をかけてきた。

 

吠崎係長「おや、ポチ川さん。これからお昼ですかな?」

ポチ川「そ、そうですけど……。あれっ、その缶バッチは!!!」

吠崎係長「ホッホッホッ。この前のPRイベントでもらいましてね。実は、私の推しなんですよ」

ポチ川「なんと “同担” (※)でしたか!」※同じ推しを担当すること。

吠崎係長「おや、そうでしたか。よかったら一緒にお昼でもどうですか?」

ポチ川「ぜひとも」

 

吠崎係長と話すのなんて初めてのことだったが、推しの話で盛り上がり、すっかり打ち解けたのだった。

 

推しの話がひと段落すると、仕事の話になった。 聞けば、吠崎係長はPRイベントで運営マニュアルづくりをはじめ、当日の運営でも事務局として大活躍。それが評価されたことで、なんと今回のイベントだけではなく、プロジェクトメンバーとして兼務発令が出ることになったという。

 

ポチ川「そんな楽しい仕事に就けるなんて、うらやましすぎます。僕なんかつまらない仕事ばっかりなのに……」

吠崎係長「楽しい仕事といえば、実はあのイベントのあと、庶務課の仕事のほうも面白く感じられるようになったんですよ」

ポチ川「えっ?! どういうことですか?」

吠崎係長「今回、かつてのイベント運営経験がみなさんから喜ばれたことで、仕事の面白さを思い出すことができたんです。入社した40年ほど前の、夢中で働けば働くほど会社が伸びていったときのことを思い出しましてね。……おや、もういい時間ですね。戻りましょうか」

 

席に戻ったあとも吠崎係長の言ったことが気になって、午後はずっとモヤモヤが続いた。あんなにつまらなそうに働いていた人が、庶務課の仕事も楽しくなったって、一体どういうことなんだろうか? そして気づけば、今日も僕は、ニャンザップにたどり着いていた。

↑気づけば、ポチ川は今日も、ニャンザップにたどり着いていた。

 

「楽しい仕事をやりたい!」の落とし穴

ポチ川「こんばんは……」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「ポチ川さん、今日はなにやら考え込んでいるようですね」

 

ポチ川「僕も楽しい仕事をやりたいんですが、どうすればよいでしょうか?」

 

ニャカ山T「楽しい仕事?」

 

ポチ川「みんな、楽しい仕事をやっていてズルいと思うんです。僕なんかつまらない仕事ばっかりなのに!」

 

ニャカ山T「ほう。ポチ川さんにとって、“楽しい仕事” とはどういうものですか?」

 

ポチ川「そうですね、パーッと華やかでまわりからチヤホヤされて、会社からも評価されて地位も名誉もお金も手に入る仕事ですかね。たとえば、イベントプロデューサーみたいな? あと、IT企業の社長とかもよさそうですよね〜」

 

ニャカ山T「……。それは本当にポチ川さんのやりたい仕事なのですか?」

 

ポチ川「やりたいですよ。最高に楽しそうじゃないですか!」

 

ニャカ山T「その “やりたい理由” とは、すべて他人の基準なのでは?」

 

ポチ川「え?」

 

ニャカ山T「”社長になりたい”とか”プロ選手になりたい”という人には2種類あります。一つは “なりたい人”。もう一つは “やりたい人” です」

 

ポチ川「なりたい人と、やりたい人? どう違うんですか?」

 

ニャカ山T“なりたい人” は、そのポジションに就けたら満足です。ゴール到達。そのポジションに就いてもやりたいことは特にないので、“仕事してる風” を演出するようになります。待遇が下がるようなことには猛烈に抵抗するなど、既得権益を守ろうとするタイプです。

一方の “やりたい人” は、やりたいことの実現に必要だからこそ、そのポジションに就きます。ですから、ポジションに就いたら猛烈に仕事をする。ポジションは手段に過ぎないので、やりたいことができていれば待遇を下げられても飄々としていられるタイプです」

 

ポチ川「なるほど……自分がどっちかは、実際なってみないとわからないですが」

 

ニャカ山T「“やりたいこと” を尋ねられたときに、“やったことのないこと” を答える人は “なりたい人” の傾向があります。一方、“言われなくてもやってしまっていること” を答える人は、ほぼ確実に “やりたい人” です。“やりたい” の基準が自分にあって、たとえ誰からも評価されなくてもやりたいからやってしまう

 

ポチ川「むむむ……。しかし、社長になりたいとか部長になりたいというのは、組織人として自然なことなのでは? それがダメなんでしょうか?!」

 

ニャカ山T「それがダメなのではありません。問題は、“楽しい仕事をやりたい” という考え方のほうです」

 

ポチ川「どういう意味ですか? あ、わかりましたよ。よく本なんかを読むと書いてある、『楽しい仕事というのがあるわけではない。目の前の仕事を本気でやれば、楽しくなる』みたいなハナシですか!?」

 

ニャカ山T「いえ。その考え方はそのとおりだと思いますが、鵜呑みにするとただの根性論になりかねません」

 

ポチ川「えっ?! 根性論が大事って言われるものだと思っていました。どういうこと?!」

 

ニャカ山T「今日も凝っているようですね。では、今回もネコトレをはじめましょう。テーマは『やりたいことを考える』です」

 

あらゆる仕事は “作業”である

ポチ川「あの〜、実はきょう気になったことがあって、あれだけつまらなそうに仕事をしていた吠崎係長が、仕事の面白さを思い出したと言っていて……(きょうの吠崎係長とのエピソードを説明)」

 

ニャカ山T「なるほど。その理由がわからないから、考え込んだ表情だったわけですね。いきなり夢も希望もない話をするようですが、私は 、あらゆる仕事は“作業” だと考えています」

 

ポチ川「えっ? どういうことですか?!」

 

ニャカ山T「重いものを持ち上げる仕事は “筋肉細胞を動かす作業” ですし、企画を考えるのは “脳細胞を動かす作業”。そういう見方です。あとは、その作業にどんな “意味” を見出しているのか。その “作業” と “意味” のふたつが仕事の要素です。それを、

 

仕事 = 作業 × 意味

 

と表現しています。ポチ川さん、以前やった『好みでない作業を洗い出す』というネコトレは覚えていますか?」

 

ポチ川「あれですよね! えーと……、何でしたっけ?」

 

ニャカ山T「苦手な仕事をできるようにはなったけれど、『やっぱりこの作業はテンション上がらないな』『できればやりたくないな』と思う作業のことです」

 

ポチ川「あぁ、思い出しました。僕クラスであれば、100個くらい挙げられるやつですよね」

 

ニャカ山T「100個ですか。挙げてみましたか?」

 

ポチ川「え、いや、忙しかったので……。えっと、『仕事=作業×意味』でしたよね。もっと詳しく聞きたいです!」

 

ニャカ山T「自分にとって “好みの作業” をしていると、人は楽しいと感じます。サッカーが好きな人は、ボールを蹴る作業を楽しいと感じます。妄想が好きな人は、じっと座ってボーっと考え事をしている作業を楽しいと感じます。反対に、“好みでない作業” をすると、楽しくありません。ボールを蹴ると足が痛くてツラいという人、じっと座ってボーっとするなんて苦痛すぎるという人がいます。

ひとつの仕事は、いろいろな作業が合わさってできています。仕事を楽しくするためには、まず目の前の仕事をするにあたって “好みでない作業を減らすこと” と “好みの作業を増やすこと” がキモ。自分にとって楽しいから、自然とやりたくなるわけです

 

ポチ川「そう考えると、たしかに根性論とは違う感じがしますね。でも、なぜ “やってみたい仕事” だとダメなのかがよくわからないのですが?」

 

ニャカ山T「たとえば、『アイデアを形にするのが好きなので、企画部で仕事をやりたいんです』という人を、よく見かけます」

 

ポチ川「あ、それ、ハチ村課長が言ってました! 『俺は営業部より企画部のほうが向いている気がする』って」

 

ニャカ山T「その課長は、ふだんからアイデア豊富な方なんですか?」

 

ポチ川「いいえ、全然。だいたいが、上から言われたことを下に伝えるだけですね」

 

ニャカ山T「そうでしたか。『アイデアを考えて形にする作業』は、企画部でなくても、どの部署のどんな仕事でもできることです。しかも、企画部の仕事のなかには思った以上に “好みでない作業” がたくさん混じっていたりします。

“世の中的に楽しい仕事と思われていること” と、実際の “自分にとって楽しい仕事” は大きく違うのです。ですから、“やってみたい職種や部署” に憧れているヒマがあったら、今いる部署で “好みの作業” を増やすためのチューニングをしていくことが大事です

 

ポチ川「うーん、なんとなくわかる気はしますが、吠崎係長が庶務課の仕事まで楽しいと思えるようになった理由は、そういうことなんですか?」

 

ニャカ山T「もうひとつの視点が “意味” です。働く理由についての研究はだいぶ進んできて、6種類に集約されると言われています。

 

働く理由(ポジティブ)

1.楽しいから
2.社会的意義があるから
3.成長可能性があるから

 

働く理由(ネガティブ)

4.感情的プレッシャーがあるから(やらないと怒られる・嫌われる・バカにされるから)
5.経済的プレッシャーがあるから(やらないとお金がもらえないから)

6.惰性(昨日もやっていたから)

 

1〜3はポジティブな理由、4〜6はネガティブな意味合いのもので、ポジティブな理由で仕事をしているとパフォーマンスが上がり、後者の3つを動機にしているとパフォーマンスが下がります」

 

ポチ川「(ギクッ)それはなぜでしょうか?」

 

ニャカ山T“楽しさ” “社会的意義” “成長可能性”というポジティブな動機は仕事内容とリンクしているのに対して、“感情的プレッシャー” “経済的プレッシャー” “惰性”というネガティブな動機は、仕事内容とリンクしていないからです。3つのポジティブ動機は、3つ全部にあてはまる人のほうが長期的なパフォーマンスは高まります。なので、どうしたら前者3つすべてを仕事の原動力にできるかを考えて、仕事に “意味づけ” をしていく。それが、楽しく仕事をする大きなコツです

 

ポチ川「モヤモヤしながらしぶしぶ現状に甘んじて働き続けている人たちを、この6つの動機にあてはめるとどうなりますか?」

 

ニャカ山T「そうですね、“楽しさ” は感じられずに退屈または不安にしているでしょうし、お客さんに喜ばれるような仕事ができておらず “社会的意義” が希薄でしょうし、“成長できそう” という実感もないでしょうね。

おそらく、マイナス評価されたら困るという“感情的プレッシャー”、給料が下がったら困るという “経済的プレッシャー” を原動力になんとかがんばりつつ、『こんなにがんばっているのに給料がそれほど上がらない』という不安も抱えていて、それでも自分で現状を切り開いていくのは大変なので、目の前にレールがあるうちはそれに乗っかっておこうという “惰性” 的でいる。そんな感じでしょうか」

 

ポチ川「なんだか過去イチ、グサグサくるのですが……(涙)」

 

ニャカ山T「もしかすると、吠崎係長はポジティブ動機として “仕事の意味” を思い出したのかもしれませんね」

 

ポチ川「なるほど……」

 

ニャカ山T「では、今日のネコトレをやってみましょうか。今回のトレーニングは『もし、仕事内容が自由で人事考課もないなら、いま勤めている会社で何をやりたいか?』です」

 

「もし、仕事内容が自由で人事考課もないなら、いま勤めている会社で何をやりたいか?」

ポチ川「仕事内容自由かつ人事考課なし?! フリーダム過ぎませんか?」

 

ニャカ山T「もし仮に、万が一そうだとしたら?」

 

ポチ川「それはもちろん、“わが推し” をゲストに招いたイベントをもう一度やりたいです! そのためであれば、マーケティング調査のデータ収集と分析、イベント告知動画の作成、握手会の運営、グッズの企画・制作・販売くらいであれば、ふだんの推し活の延長でできるでしょうから、たとえ残業代が出なくてもやりたいです! これは、楽しくて、社会的意義があって、自分も成長できる仕事になることはまちがいないですよね!?」

 

ニャカ山T「……それが実現するとよいですね。今日はここまでにしましょう」

 

今日のネコトレ

Vol.11
【仕事を「作業」と「意味」に分解してみる】

・他人から評価されるために仕事するイヌ、自分が楽しむために仕事するネコ
・仕事がつまらないと感じたら「仕事=作業×意味」の公式で考える
・ポジティブ動機3点セットがそろうにはどうすればよいかを考える

Vol.00から読む
Vol.10「ネコと研修」<< Vol.11 >> Vol.12「ネコとワークライフバランス」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

中堅社員が今参加すべき研修とは?『組織のネコという働き方』著者が説く「伸ばすスキル」の見つけ方

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.10「ネコと研修」

 

リスキリングにポータブル・スキル……?
研修なんて無駄じゃないの?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

ここ最近、社内で新たな取り組みが増えている犬山電機。1 on 1の導入に続いて、今度は研修制度が変わることになった。配付された資料には、「リスキリング」「ポータブル・スキル」「越境学習」「健康経営」「人的資本経営」などの聞き慣れない言葉が並んでいる。これまでは会社からの指示で必須参加のカタチだったのが、これからは研修を受けたい社員だけが好きなプログラムを選べる制度になるという。従来の階層別研修なども廃止されるそうだ。

 

ミケ野「先輩、新しい研修制度のやつ見ました!?」

ポチ川「ああ……ちゃんと見てないけど、なんか変わるらしいね」

ミケ野「楽しみっスよね!」

ポチ川「えっ、楽しみ?! いやいやいや、研修なんて全然楽しみじゃないだろ。恐ろしく退屈な座学で眠気と戦うとか、ままごとみたいなグループワークをやらされるとか、精神鍛錬で大声を出させられるとかでしょ、どうせ。最後3年計画を立てて宣言させられるけど、3日後には跡形もなく忘れ去ってるやつな。無駄の極地! 今回のあれで任意参加になったら、誰も参加しなくなるんじゃない?」

ミケ野「僕、もう申し込みましたよ!」

ポチ川「えっ?! なんの研修に?」

ミケ野「『ファンマーケティング』と『コミュニティマネジメント』と『チームビルディングファシリテーション』っス!」

ポチ川「なにそれ、そんなの今までの研修で聞いたことないんだけど……」

ミケ野「外部のプログラムでも申請すれば経費で参加できますよ!」

ポチ川「そんな斬新な制度になったのか……。でもさ、そんなテーマの研修、1日受けたって変わんないでしょ」

ミケ野「あ、さっきの3つとも3か月プログラムなんで!」

ポチ川「そ、そうなんだ……。なんでそれを受けようと思ったの?」

ミケ野「僕が立ち上げた量販店さんのコミュニティを、さらにイイ感じにできたらなと思って! 先輩は何やるんスか?」

ポチ川「うん……、まあ、あれだな。いろいろあるからまだこれからって感じかな。あはは……」

 

……マズい。席に戻って資料に目を通したオレは、研修を受けなければ取り残されるような不安と、何を選べばいいのかさっぱりわからない不安で、午後いっぱいモヤモヤが止まらなかった。そうだ、帰りにニャンザップに寄って聞いてみよう!

↑ポチ川は今日も、敏腕トレーナーのいるニャンザップへ駆け込んだ!

 

将来役に立つスキルを手っ取り早く学びたい!?

ポチ川「こんばんは! 今日もよろしくお願いします!」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「ポチ川さん、今日はなんだか勢いがありますね」

 

ポチ川「ハイ! 質問があるのですがいいでしょうか?!」

 

ニャカ山T「もちろんです。何でしょう?」

 

ポチ川「僕は今どんなスキルを学ぶべきなのか、ぜひ教えてほしいのです!」

 

ニャカ山T「なぜそれを聞きたいと?」

 

ポチ川「実は会社の研修制度が刷新されることになって、研修を受けるかどうかも含めてすべて自分で考えて決めるカタチになったのです。でも、何を学べばいいのか困ってしまって……」

 

ニャカ山T「ご自分がよいと思うプログラムを選べばいいのではありませんか?」

 

ポチ川「どれがよいかわからないから質問しにきたのですが」

 

ニャカ山T「ポチ川さんはどういうものがよいとお考えですか?」

 

ポチ川「そりゃあ、手っ取り早くスキルアップできて、将来、役に立つような?」

 

ニャカ山T「……。たとえば?」

 

ポチ川「そうですね。やはりプログラミングとかAI活用、データサイエンスあたりをやるべきでしょうかね?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんはそういう方面、素養がおありだったんですか?」

 

ポチ川「いいえ、まったく知識ゼロですけど」

 

ニャカ山T「……。もしかして、今の3つはパンフレットみたいなのを眺めていて、自分がまったくできないとかニガテだとかいうものを言ってみただけですか?」

 

ポチ川「ご名答! というか、研修ってそういうものですよね。できないことを勉強させられるやつ」

 

ニャカ山T「ふむ。今回もかなり凝っているようですね。では、今日のネコトレのテーマは『凸(デコ)を磨く』にしましょうか」

 

組織人の努めは
凹を埋めること?

ポチ川「凸を磨くっていうのはあれですか、強みを伸ばせ的な?」

 

ニャカ山T「そうです」

 

ポチ川「出ましたね。僕はもうダマされませんよ! 強みなんて伸ばしたって意味ないですから」

 

ニャカ山T「どうしてですか?」

 

ポチ川「だって、組織というのは人が入れ替わっても大丈夫なようにしなければいけないでしょう。強みを伸ばしたら、仕事のしかたが属人的になってしまうので、その人がいなくなったら回らなくなりますよね。だから、凸を磨くのではなく、決められたことをきちんとこなせるように凹を埋めるのが組織人の努めなんですよ。研修ってのは、そのためにあるわけですから。ミケ野だってそうですよ」

 

ニャカ山T「あの“組織のネコ”のミケ野さんも?」

 

ポチ川「3つも研修に申し込んだと言っていました。自分が立ち上げた量販店コミュニティがどうのこうので、なにやらカタカナの羅列みたいな研修を受けるとか。きっとうまくいってなくて悩んでいるんでしょうね」

 

ニャカ山T「ちなみに、ミケ野さんは何の研修を?」

 

ポチ川「気になって一応メモっておいたんですよ。えーっと、これこれ、『ファンマーケティング』と『コミュニティマネジメント』と『チームビルディングファシリテーション』だそうです」

 

ニャカ山T「たしかミケ野さんは、量販店さんの横のつながりをつくって、どこだかの社長からほめられてましたよね?」

 

ポチ川「ニャンデンネンの社長ですね。それが何か?」

 

ニャカ山T「ミケ野さんが申し込んだプログラムのラインナップからすると、完全に凸を磨きにいっていますね。おそらく単発の研修ではなく、一定期間継続するようなプログラムではないでしょうか」

 

ポチ川「どうしてわかるんですか!? 3つとも3か月続くやつだと言ってました……」

 

ニャカ山T「やはりそうですよね。では、そろそろ今日のネコトレをやってみましょう。今回のトレーニングは『101点以上を目指す』です」

 

凹を埋めずに凸を磨いて
101点以上を目指すべし

ポチ川「101点……って意味がわからないのですが?」

 

ニャカ山T「学校教育のテストは100点満点なので、ニガテ科目を勉強したほうが点数の伸びが大きくなりましたよね」

 

ポチ川「当然です」

 

ニャカ山T「でも、仕事の世界に満点はありません。あったとしても100億万点とかなのです。凹を埋めても70点くらいの平均点にしかならないのに対して、凸を磨けば1000点にも1万点にもなる可能性があります。だから、ポチ川さんも得意なことで突き抜けてほしいと思うのですが」

 

ポチ川「仕事で得意なこと……。うーん、そう言われても、僕には特に思い当たるものがないんですけど」

 

ニャカ山T仕事以外のことでもかまいません。ポチ川さんの趣味は推し活だと思いますが、そこで得意なことやスキルを伸ばしたいことはありませんか?」

 

ポチ川「推し活で得意なことですか? 長くなりますよ? まずは推しの魅力を解説するための動画チャンネルを立ち上げたのですが、まだまだ登録者が少ないので動画の編集スキルを磨いてスピードを上げたいと思っていたところです。さらに、推しが成長を遂げるには何が必要なのかを知るために、トレンドのデータを収集・分析するノウハウを今まで以上に磨きたい。また、推し仲間の横のつながりをつくることでファンコミュニティを強化するために、社会心理学の方面から攻めてみるのもありだなと思っていたところで……」

 

ニャカ山T「あの、ポチ川さん」

 

ポチ川「なんでしょう?」

 

ニャカ山T「もうそのくらいで十分です」

 

ポチ川「あ、すみません! 推しのこととなるとつい熱くなってしまうもので」

 

ニャカ山T「動画編集、情報分析、ファン心理ということですが、営業の仕事にも役立ちそうなスキルばかりですね

 

ポチ川「……あっ!」

 

ニャカ山T「さて、今日はもうこんな時間です。またお会いできる日を楽しみにしていますね」

 

 

今日のネコトレ

Vol.10
【101点以上を目指そう】

・何を学ぶべきかではなく、何を学びたいか
・凹を埋めるのではなく、凸を磨くことにフォーカス
・趣味や好きなことのスキルを、仕事に当てはめてみる

Vol.00から読む
Vol.09「ネコと1on1」<< Vol.10 >> Vol.11「ネコと楽しい仕事」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

ホウレンソウからザッソウへ!『組織のネコという働き方』著者が説く意味のある「1on1」とは

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.09「ネコと1on1」

 

1on1なんて憂鬱で無駄な時間でしかない

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

ここしばらく低迷が続く犬山電機の営業部。しかし、全社的には社長直轄プロジェクトが世間の話題になるなど、変化のきざしがなくはない。その一環なのかはわからないが、社内で新しい取り組みが導入された。

 

「1on1(ワン・オン・ワン)」というやつだ。配付マニュアルには、「1対1の面談で部下の心理的安全性を確保する」「問いかけが大事」うんぬん……なんて書いてあるが、オレの面談相手といったら上は頭のカタいハチ村課長、下はあの自由すぎる後輩・ミケ野である。一体どんなテンションで何を話したらいいのか、よくわからない。

 

ポチ川「それで、ハチ村課長が『今後のことは、何でも気軽に相談しろよ』って言うから、『部署を異動したい』って打ち明けたら、課長がいきなりブチ切れたんだよ」

ミケ野「なるほど〜」

ポチ川「気軽にって言うから思い切って話したのに、結局は今月の成績がどうのってお説教になっちゃってさ」

ミケ野「うわー」

ポチ川「というわけで、オレにはそういう苦い経験があるから、ミケ野に対しては話をちゃんと聞いてやれる先輩でありたいんだよ。わかるだろ?」

ミケ野「はぁ」

ポチ川「業務で困ってることがあればアドバイスするから、何でも言ってくれよ。なんかあるだろ?」

ミケ野「別に……」

ポチ川「じゃあ、今月の数字を上げるためにどうしたらいいと思ってる? ほら、せっかくの1on1なんだから、自分の考えを伝えてくれないと何も始まらないぞ?」

ミケ野「えーと、特にないっス」

ポチ川「もしかして、また何かひとりで勝手な仕事してるんじゃないだろうな? おまえってやつは報連相がなってないからな。社会人の基本中の……」

ミケ野「あ、すみません! やっぱり僕、相談したくなったときにこっちから声かけるんで、今は大丈夫っス!」

ポチ川「おい待て! ミケ野!」

ミケ野「ちょっとお客さんから連絡入っちゃったんで……行ってきます!」

 

ミケ野との3回目の面談は、そこで終わった。あれから2週間だが、ミケ野は一向に声をかけてこない。1on1は月に2回実施するルールになっているのに、このままじゃオレの査定に響くじゃないか。実際、さっきのハチ村課長との1on1でそれを相談したら「お前が甘いからじゃないのか? もっと考えてから相談しろ!」と叱られたところだ。毎回、お説教になるので正直ツラい。一体、1on1って何のためにあるんだろう? 帰りにニャンザップへ寄って、聞いてみるか……。

↑ポチ川は今日も、敏腕トレーナーのいるニャンザップへ駆け込んだ!

 

優しく問いかけながら指導するのが1on1?

ポチ川「こんばんは。ちょっといいですか?」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「あぁ、ポチ川さん。最近はよくいらっしゃいますね」

 

ポチ川「いやぁ、また会社で悩みの種が増えてしまいましてね」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「最近、1on1という個別面談が始まったんです。月2回やらなければいけないのに、後輩のミケ野が僕との1on1を避けていて、ちっとも面談に応じてくれないんです」

 

ニャカ山T「毎度おなじみの“組織のネコ”、ミケ野さんですね」

 

ポチ川「そもそも1on1って、部下や後輩の成長を促すためにやるものでしょう? 多忙な先輩がわざわざ時間をとって後輩の相談を聞こうっていうのに、いったい何が不満なんだか!」

 

ニャカ山T「ふむ。まだ一度もやっていないんですか?」

 

ポチ川「いえ、3回やったんですが、『次は自分から相談したくなったら声をかけます』と言ったきり、一向に音沙汰なしなんです」

 

ニャカ山T「3回目まではどんな話を?」

 

ポチ川「仕事で困りごとや悩みごとはないか、業績アップのために何をすべきか、主にそんなことを話しました。でもミケ野のやつ、『別に』とか、『特にないです』なんて適当なことばっかり言うんです。こちらがせっかく話を聞いてやろうとしているのに! だから毎回、組織人としての姿勢を指導してやりましたよ」

 

ニャカ山T「つまり、お説教をしたわけですか」

 

ポチ川「ま、そういうことですね」

 

ニャカ山T「その1on1のやり方は、研修かなにかで学んだのですか?」

 

ポチ川「マニュアルは配られましたけど、研修というかOJT(実践型トレーニング)ですね。上司のハチ村課長の1on1を受けているのですが、ずっと会社のグチを聞かされるか僕への説教なんですよ。あまりにも苦痛な時間なので、それを反面教師にして後輩には”理解ある先輩”として臨んでいるつもりです。マニュアルにあるように、ちゃんと優しく問いかけをして、心理的安全性をつくったり。大変ですよ」

 

ニャカ山T「なるほど……それでも適当な返事しかなかったので、説教したと」

 

ポチ川「そうです。そこは先輩として毅然とした指導をすべきでしょう! それが何か?」

 

ニャカ山T「ふむ。なかなか凝っているようですね。では、今回のネコトレのテーマは『ワン・オン・ニャン』にしましょうか」

 

「ワン・オン・ワン」と
「ワン・オン・ニャン」の違い

ポチ川「ワン・オン・ニャン?! なんですかそれ?」

 

ニャカ山T「組織のイヌタイプの上司が、組織のネコタイプの部下と1on1をしている状態のことです」

 

ポチ川「誰がうまいこと言えと(苦笑)……とすると、僕がミケ野とやるのはワン・オン・ニャンになるわけですか?」

 

ニャカ山T「そうですね」

 

ポチ川「ハチ村課長が僕とやるのは、ワン・オン・ワンということか……」

 

ニャカ山T「そうなりますね」

 

ポチ川「何が違うんでしょう?」

 

ニャカ山T”組織のイヌ”は価値基準が会社優先なので、上下関係のあるワン・オン・ワンは組織人としての指導のようになってしまいがちです。それを、自分に忠実な”組織のネコ”にやってしまうと違和感を感じやすいでしょう」

 

ポチ川「まさに僕とミケ野のことではないですか……。ただ、僕はハチ村課長とは違ってちゃんと問いかけをしながら進めたのですが、それはワン・オン・ニャンにはならないのですか?」

 

ニャカ山T「問いかけをすればよい、というものではないのです」

 

ポチ川「そうなんですか?! どうすればよいんでしょう?!」

 

ニャカ山T「どうすればよい、というよりも、やってはいけない問いかけ方を考えたほうがわかりやすいかもしれません。たとえば、『何でも聞いてくれたらアドバイスするから質問していいよ。何かあるだろ?』とか、さんざん持論を語っておいて最後に『そう思うだろ?』とか、自分が正解を持っていることを『どう思う?』と聞いて違う答えが返ってきたら『それは違う』と言うとか」

 

ポチ川「(き、聞かれてた?)……なぜそれがダメなのでしょうか?」

 

ニャカ山Tクエスチョンマークをつけて問いっぽく見せているだけで、実際は相手のハナシを聞く気はなく、自分の主張を伝えたいだけだからです。そういうのを『問いの顔をした指導や非難』と呼びます」

 

ポチ川「……」

 

ニャカ山T「ネコがそういう個別面談を受けたら、まっしぐらに逃げていくでしょうね」

 

ポチ川「……ではどうすればよいのでしょうか?」

 

ニャカ山T「そろそろ今日のネコトレをやりましょう。今回のトレーニングは『ザッソウ』です」

 

“ザッソウ”で“相談”のハードルを下げる

ポチ川「ザッソウ……?」

 

ニャカ山T「ホウレンソウってありますよね」

 

ポチ川「報告・連絡・相談のことですか。ミケ野が全然できてないやつですよ! 社会人の基本なのに……」

 

ニャカ山T「ITツールが普及した今のご時世、情報共有ルールさえきちんと決めておけば、『オレは聞いてない!』ということは起こらずに済みます。その人が見ていないだけなので。だから、報告・連絡はそこまで重要ではなくなりつつあると考えられます」

 

ポチ川「その『オレは聞いてない』って、ハチ村課長がいっつも言うやつです!」

 

ニャカ山T相談は未来のことを話すので、大事です。ただ、相談は意外とハードルが高いのが問題です。上司が『いつでも相談して』と言うから相談したら、『忙しいときに何だ』と怒られる、なんてことはありませんか?」

 

ポチ川「それは僕の日常です。だから相談しないほうがマシなんです」

 

ニャカ山T「そうならないためには、雑談が大事です。雑談の流れのなかで、『そう言えばあの件、こんなアイデアを思いついたんですけどどうでしょう?』のように相談しやすくなるからです。だから“雑談と相談”で、ザッソウ

 

ポチ川「うーん、でも雑談ってニガテなんですよねぇ。何を話したらいいかわからなくて。仕事と関係ないプライベートのことを話さないといけないんでしょう?」

 

ニャカ山T「雑とはいろいろ入り混じっていることなので、なんでもいいんですよ。もちろん仕事のハナシでも」

 

ポチ川「そうだったのか。でも、雑談ばかりしていてまともな仕事になるのですか?」

 

ニャカ山T「雑談だけして仕事になるわけないじゃないですか」

 

ポチ川「えええ、どういうこと?!」

 

ニャカ山T相談しやすくするための手段として雑談がある、ということです」

 

ポチ川「ああ、そっか。そうでした。でも、やっぱり相談って難しくないですか。以前、課長に相談したら、『考えが浅すぎる! もっと考えてから持ってこい』と言われたんです。で、次にかなり考えて資料をつくり込んでから相談したら、『そういうことじゃないんだよ。もっと早く相談してくれたらよかったのに!』と叱られました。一体どうすればよいのか……」

 

ニャカ山T「相談される側の立場で考えてみると、パッと見で『これはない』と思う内容だけれど時間をかけたことはわかる場合、『もっと早く相談してくれたらムダな時間を使わなくてもよかったのに』と思うはず。だから、“相談は早い段階でキャッチボールを一往復するのが大事”ということで、ザッソウには“雑な相談”という意味も込められているのです。“雑な相談”をしやすくするために、”雑談”が大事になります

 

ポチ川「そういうことだったのか……。たしかに、推し活仲間からの相談を受けたときに、もっと早く相談してくれたらよかったのに、と思うことはよくありますね! 知識がないヤツが考えたところで、ズレてることが多いんですよ。今まで受けた相談で、そう思ったものを挙げてみましょうか。えーと、30個くらいは思い当たりますがね」

 

ニャカ山T「あ、そろそろ私は次の予定がありまして……。またの機会に聞かせてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.09
【1on1はまず“ザッソウ”から始めよう!】

・「ワン・オン・ワン」はネコにはツラい
・相談しやすい状況をつくるための雑談が大事
・「ザッソウいいですか?」を共通言語にする

Vol.00から読む
Vol.08「ネコとスケジュール」<< Vol.09 >> Vol.10「ネコと研修」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

スケジュールは埋めずに空けるもの!『組織のネコという働き方』著者が提案する、意味あるヒマのつくり方

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.08「ネコとスケジュール」

 

ヒマな後輩や“窓際族”が面白そうな仕事にありつけるなんて!

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

犬山電機と新進気鋭のミャルミューダ電機がコラボしたキャンプ用品ブランドが、いよいよ始動するという。そのPRイベントの実施に際し、発起人である同期のタマ田から当日の運営スタッフの社内公募が告知されたのだ。

 

「インフルエンサーを集めてイベントだって? ただでさえ忙しいのに、そんなお遊びにつき合ってるヒマなんてないっつーの」

 

そうつぶやきながら名刺が足りないことに気づいたオレは、庶務課へ向かった。窓口では、吠崎係長がめんどくさそうに対応していた。いつもヒマそうにしている定年間近の窓際族だ。仕事が忙しいのも困りものだが、あんなふうにだけはなりたくない。そんなことを思いながら席に戻る途中、タマ田とすれ違った。

 

ポチ川「よう、タマ田。久しぶり」

タマ田「おお、ポチ川、どう最近?」

ポチ川「まあ、ぼちぼちかな。タマ田は例のコラボで忙しそうだな」

タマ田「リリースまでは大変だったけど、一山越えたから結構ヒマだよ。そうだ、ポチ川も社内公募エントリーしてよ。締め切り、今日までだから」

ポチ川「いやぁ、いろいろ忙しくってそんなヒマはないなぁ」

タマ田「そうなんだ。そういえば、ミケ野くんからはエントリーきてたよ」

ポチ川「えっ!? 聞いてないんだけど。ミケ野のヤツめ!」

 

席に戻ると、さっきまでいたはずのミケ野は外出で不在だった。その翌日、発表された社内公募メンバーのなかにミケ野と吠崎係長の名前があったのだが、もうそんなことはどうでもよくなるほど驚愕の出来事が起こった。

 

なんとイベントのゲスト一覧に、オレの推しの名前が書いてあったのだ……!

 

タマ田に「なんで教えてくれなかったのか!」と問い詰めたところ、「社内公募の案内に書いてあったんだけど」とさわやかな笑顔で言われる始末。興味なかったからちゃんと見ていなかった。なんという不覚……。

 

アタマが真っ白になったオレは、気づけばいつものニャンザップにたどり着いていた。

↑ポチ川は今日も、ニャンザップに駆け込んだ

 

いつだって「時間がない」のはなぜ?

ポチ川「……(顔面蒼白)」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。なんだか顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」

 

ポチ川「……いえ、もう無理かもしれません」

 

ニャカ山T「いったい何があったのですか?」

 

ポチ川「なぜ忙しく働いている自分が報われなくて、ヒマにしているヤツが報われるのか……」

 

ニャカ山T「と、いいますと?」

 

(推しに会えるチャンスを逃したコトの経緯を話したあと、オレは疑問をぶつけた。)

 

ポチ川「タマ田もミケ野も吠崎係長も、ヒマがあるからお遊びみたいなイベントに参加できるわけですよ。こちとら骨身を削るほど忙しいというのに……。組織人として、ヒマがあるなんて許されるべきではないと思うのですが!?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんには、時間が足りないというわけですね」

 

ポチ川「正直、毎日の仕事量が多すぎます。営業先へのフォローやトラブル対応、社内会議の資料づくりや諸々の社内調整、日々の業務報告のための活動記録と数値管理、それに加えて自由すぎる後輩の監督役。忙しすぎて、毎日ヘトヘトですよ。スケジュールがびっしり埋まっている上に、突発的なトラブル対応に追われるわけですから、社内公募なんて絶対に無理でしょう!?」

 

ニャカ山T「なるほど、それで推しに会えるチャンスを逃した、と。ちなみにポチ川さんはヒマになることはないのですか?」

 

ポチ川「いや、だから組織人としてヒマなんてあってはならないでしょう。そんなボーッとしていたら、評価が下がって窓際族にされてしまいますからね! 価値がある人は忙しくなるものですから」

 

ニャカ山T「なるほど。今日のポチ川さんも、だいぶ凝っているようですね。では、今回のテーマは『びっしり詰まったスケジュールを手放す』にしましょうか」

 

“ヒマ”と“退屈”の違いとは?

ポチ川「びっしり詰まったスケジュールを手放す? それは難しいでしょうね。1日36時間あれば別ですが」

 

ニャカ山T「本当に、少しのヒマもないほど忙しいのですか?」

 

ポチ川「毎日バタバタですよ。まあ、仕事ができる人に仕事が集まってきちゃうってことなんでしょうけどね(フッ)」

 

ニャカ山T「ポチ川さんにとって、“ヒマ”とはどういうことですか?」

 

ポチ川「ヒマ、ですか? やることがない、怠惰で生産性のない時間のことだと思いますが」

 

ニャカ山T「ならば、ヒマは悪いことですか?」

 

ポチ川「当然です。時間は有限なのですから、それを無駄に使ってはいけません!(ドヤ顔)」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、“ヒマ”の意味を辞書で調べたことはありますか?」

 

ポチ川「そんなの、調べるまでもないですよ。まあでもいいでしょう、スマホで検索してみましょうか。えーと、ヒマ……っと。出てきましたよ。……えっ?!」

 

ニャカ山T「なんと書いてありますか?」

 

ポチ川”ヒマ”とは自由に使える時間があること』って書いてあります……」

 

ニャカ山T「その定義だと、ネガティブな意味合いは入っていないですね」

 

ポチ川「うっ……。でもヒマにしていると、吠崎係長みたいに“窓際”に追いやられてしまうのが組織というものなんですよ!」

 

ニャカ山T「ホエザキ係長?」

 

ポチ川「会社の庶務課の万年係長ですよ。いつもヒマそうにしていて、窓口ではめんどくさそうに働いています。それなのに、社内公募に選ばれたなんて……う、うらやましい……」

 

ニャカ山T「ああ、もしかすると、その方はヒマ人から“自由人”に変わったのかもしれませんね」

 

ポチ川「どういうことでしょう?!」

 

ニャカ山T「では、ヒマと“退屈”の違いは、わかりますか?」

 

ポチ川「さっきヒマの意味を調べるまでは同じ意味だと思っていましたけど……。退屈を検索してみていいですか? えーと、出ました。『飽きていること。ヒマを持て余していること』。えええ、ヒマを持て余しているのが退屈なのか……」

 

ニャカ山T「そうです。自由に使える時間(ヒマ)を持て余しているのが退屈であって、『ヒマ=退屈』ではないのです。いわゆるヒマ人とは、正確に言うと『ヒマ持て余し人』のことになります」

 

ポチ川「ヒマと退屈が違うことはわかった気がするのですが、吠崎係長がヒマ人から自由人に変わったというのは?」

 

ニャカ山T大事なのは、ヒマな時間を退屈せず、夢中で過ごせるようになることです。そこで『ヒマ⇄忙しい』と『退屈⇄夢中』の2軸を組み合わせて、4象限で考えてみましょうか。

ヒマがあって退屈なのが『ヒマ人』
ヒマがあって夢中なのが『自由人』です。
忙しくて夢中なのが『モーレツ人』
忙しいけれど退屈なのを『歯車人』と呼びます。

もしそのホエザキ係長の趣味が推し活だとしたら、自由に使える時間で夢中になれる仕事に就いて『自由人』になったことになりますね」

 

ポチ川「吠崎係長の趣味が推し活?! そういえば、今回のイベントゲストの一人と”我が推し”が共演したイベント会場で、吠崎係長らしき人を見かけた記憶が……。いや、そんなことより『忙しいけれど退屈な歯車人』という状態が存在するなんて聞いたことなかったんですけど、どういうことなのでしょうか!?」

 

ニャカ山T歯車人は、いつも忙しくしていないと不安になります。なぜなら、スケジュールをいっぱいに埋めることで、自分は組織の役に立っている、必要とされているといった自己重要感を得ようとするからです。仕事には退屈しているから、仕事そのものからは自己重要感を得られない。だから歯車人にとって“ヒマ”は悪なのです

 

ポチ川「むぐぐ……。でも、スケジュールが詰まっていることの何が悪いというのですか!?」

 

ニャカ山T「『スケジュールが詰まっている=価値がある人』という思い込みがあると、そのうち”本当はヒマなのに余計な用事や仕事をつくって忙しいフリをし始めてしまう”ことがあります。しかも、そういう人に限って、『1日がもっと長ければいいのに』と言っていたはずなのに、いざヒマができると持て余しがちになるのです」

 

ポチ川「(み、見られてた?!)いや、僕はそんなことないですけど、そういう人もいるんでしょうねぇ」

 

ニャカ山T“ヒマ=自由に使える時間”をつくり出し、そこでやりたいことを夢中で楽しもうとするのが自由人です。それに対して、歯車人にとってスケジュールは“埋める”もの。忙しいことで自分に価値があると思い込もうとしているのです。というわけで、今日のネコトレをやってみましょう。今回のトレーニングは『1日に30分だけ、仕事中に自由な時間をつくる』です」

 

100%自分のために使う時間をつくる

ポチ川「30分だけでいいんですか? 何をしてもいいの?」

 

ニャカ山T「30分でよいです。ただし、その時間にはトラブルや上司からの指示といった、外側の何かに対応する行動を含めてはいけません。100%、自分のために使ってください

 

ポチ川「うーん。30分くらいなら、明日にでもできそうだな。その時間で、まずは吠崎係長に推し活が趣味なのかを問い詰めにいきますよね。あとはミケ野をつかまえて、”我が推し”の写真を撮ってくるように厳命せねばなりませんね! あぁ、忙しい!!」

 

ニャカ山T「はい、今日のトレーニングはここまでです。お気をつけてお帰りくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.08
【1日に30分間だけ自由な時間をつくる!】

・“ヒマ”とは、自由に使える時間があること
・時間を埋める歯車人と、時間をつくる自由人がいる
・忙しいなら、まずは踏ん張ってヒマをつくろう

Vol.00から読む
Vol.07「ネコと苦手業務」<< Vol.08 >> Vol.09「ネコと1 on 1」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

苦手の克服は組織人の義務?『組織のネコという働き方』著者が説く、苦手な仕事から解放される秘訣

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.07「ネコと苦手業務」

 

苦手だけど、仕事だからしょうがない……

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

なんと今月、業界の気鋭メーカー・ミャルミューダ電機と犬山電機のコラボ企画が発表された。しかも手掛けたのは、営業部から社長直轄の新プロジェクトに抜擢された、同期のタマ田だという。いまトレンドの「キャンプで使える家電」という話題性も手伝い、SNSの公式アカウントは開設から一晩で5万フォロワーを獲得。我が社にとって久々の明るいニュースは、朝礼で各部署へ共有された。その影響で……。

 

「というわけで、営業チームでも早急にSNSを始めよ! まずはフォロワー1万人を目指すべし!」

 

SNSのなんたるかも知らないであろうハチ村課長の大号令で、オレたちも犬山営業部公式アカウントを運営するハメに。そもそもオレたちのフォロワーって誰? 目的もはっきりしないのに、運用ルールだけは厳格だ。炎上することがあってはならないと、投稿のたびに部長と課長の承認を要するという。チームのメンバー全員が、1日交代制で回すことになったのだが……。

 

ポチ川「開設3週間でフォロワー25人……」

ミケ野「それ、ほぼ犬山営業部の人数じゃないスか(笑)」

ポチ川「そんなことよりミケ野、今週の更新サボったな?」

ミケ野「僕、不特定多数に向けたSNSってなんか苦手なんですよね。メンバーが限定されたグループとかだったらいいんですけど」

ポチ川「仕事に“苦手”も何も関係ないの。次はちゃんとやれよ!」

ミケ野「あ、スミマセン。次回もたしか出張の日とカブるんで、先輩、代わりにやっといてくれません?」

ポチ川「ハァッ!?」

 

いい加減な後輩・ミケ野が社内で話題になったのは、数日後のことだった。先月、彼が獲得した新規取引先の大手量販店「ニャンデンネン」の社長が、SNSで犬山営業部をほめちぎる投稿をしたという。なんでも、うちの営業マンが、いくつかの量販店の担当者をつなぐクローズドなオンラインコミュニティを作り、この試みが業界の経営者の間で話題になっているとか。その仕掛け人が、まさかのミケ野だというのだ。この間「メンバー限定のグループだったらいい」と言っていたのは、そのことだったのか!? いずれにしても、営業チームのSNSは苦手だからと放ったらかしておいて、裏でそんなものを作っていたとは、まったくいかがなものか。

 

SNSなんてオレだって苦手だけど、仕事だから頑張って回している。アイツはそこから逃げたんじゃなかったのか? ミケ野のやり方はさすがに納得がいかない。苦手を克服するのは組織人の義務であるはずだ。オレはその日の帰り道、迷わずいつものニャンザップを目指した。

↑ポチ川は今日も、ニャンザップに駆け込んだ

 

苦手は克服すべき組織人の義務なのか?

ポチ川「こんばんは、ニャカ山トレーナー!」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「こんばんは、ポチ川さん。今日は勢いがありますね」

 

ポチ川「最近の若者って、自分がやりたくないことや、苦手なことからはすぐに逃げようとしますよね!」

 

ニャカ山T「ずいぶんイラ立っているようですね」

 

ポチ川「だって、聞いてくださいよ。ちょっと前から、うちの部署でSNSの運用が始まったんです」

 

ニャカ山T「ほう」

 

ポチ川「課長が流行りに乗って何の考えもなく号令を出してしまったので、どう運用すべきかわからず困っているんです。投稿内容にいちいち部長と課長の承認もいるし、面倒くさいったらありゃしない。交代制で投稿することになっているのに、ミケ野は苦手だからと業務から逃げているんですよ!」

 

ニャカ山T「ああ、若者とは『組織のネコ』のミケ野さんのことだったんですね」

 

ポチ川「そうです。苦手なことを避けて、自分のやりたいことばかりやるのです。しかも、ニャンデンネンの社長からほめられるなんて!」

 

ニャカ山T「ほめられた?」

 

ポチ川「ミケ野が、自分の担当している量販店の担当者同士をつなぐ、クローズドのオンラインコミュニティを作っていたんです。互いの売り場の作り方など、情報交換や学びの場として盛り上がっているようで、それが量販店の経営者の間でも話題になっているらしく……。だけど同じ営業チームのメンバーとしては、今回の彼の行動にはやっぱり納得がいきません」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「だって、僕らはみんなで苦手なSNSにも正面から向き合って取り組んでいるのに、ミケ野はそこから逃げていますから」

 

ニャカ山T「オンラインコミュニティを立ち上げているのですから、ミケ野さんはSNSを使いこなしていますよね?」

 

ポチ川「不特定多数に向けたSNSは苦手だと言っていました。メンバーが限定されているグループSNSだったらいいのですが、と」

 

ニャカ山T「なるほど、クローズドのSNSは得意ということなんですね」

 

ポチ川「そのあたり、僕にはよくわかりませんが、とにかく苦手を克服するのは組織人として必須です。やりたいことばかりやって苦手から逃げていると、いずれ成長できなくなりますから。ミケ野の言うことは甘えですよ!」

 

ニャカ山T「ふむ。今日もなかなか凝っているようですね。では、今回のネコトレのテーマは『苦手なことを手放す』にしましょうか」

 

働き方には「足し算ステージ」と「引き算ステージ」がある

ポチ川「苦手なことを手放す?! それはナシでしょう。今日ばかりは僕のほうが正しいと思いますが」

 

ニャカ山T「あ、そういえば話は変わりますけど、犬山さんとミャルミューダさんがコラボすることになったんですよね。ニュースで見ました」

 

ポチ川「ご存知でしたか。実はそのコラボプロジェクトの公式SNSが話題になったせいで、課長の号令で『営業部も公式SNSをやるぞ』となったんですよ。しかもそのプロジェクトの担当者が僕の同期なんです……」

 

ニャカ山T「そうでしたか。犬山さんの”中の人”と、ミャルミューダさんの”中の人”は、以前からSNSで仲良くやりとりしていましたもんね」

 

ポチ川「えっ、そうなんですか?!」

 

ニャカ山T「ご存知ありませんでしたか? SNS界隈では有名ですよ。そのやりとりの中で『コラボしましょう』と盛り上がったのがきっかけで実現したって。たしか犬山さんの”中の人”は……タマ田さんといったかな」

 

ポチ川「タマ田!! さっき話した同期です!」

 

ニャカ山T「そうでしたか。タマ田さんは実名だったんですね」

 

ポチ川「そんな軽いきっかけでコラボが実現したなんて……。仕事って、そんないい加減な感じでやってよいものなのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「あ、ちょうどいいキーワードが出ましたね。仕事には『加減』が大事なんですよ。加と減、すなわち、足し算と引き算です。働き方にはステージがあって、まず足し算。できることを増やしていくステージです。苦手なこともより好みせず、できるようになるまでやる」

 

ポチ川「ほら、やはり僕の考えが正しいということですよね!?」

 

ニャカ山T「第1ステージの考え方としてはそうですね。しかし、その先に第2ステージがあります。好みでない作業を減らし、強みに集中する引き算のステージです。このステージでは、苦手なことを克服し続けてはいけません」

 

ポチ川「なぜですか!?」

 

ニャカ山T「会社から苦手なことを指示され続けて、それを克服し続けるうちに定年を迎えたらどうなると思いますか?」

 

ポチ川「むむむ……。真面目ではあるけれど、たいした取り柄のない無職の人が生まれるでしょうね……。それはツラい……」

 

ニャカ山T「そうならないためには、しかるべきタイミングで引き算ステージに進むことが大事なのです」

 

ポチ川「ステージを上がるタイミングは、どうすればわかるのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「足し算ステージでいろいろな仕事ができるようになると、だんだん頼まれる仕事が増えてきて、どこかでキャパシティオーバーになるタイミングがきませんか」

 

ポチ川「きますきます。僕なんて、もう何年もキャパオーバー状態が続いていますよ。それがステージを上がるタイミングということですか?」

 

ニャカ山T「いえ、まだです。そのキャパオーバーになった状態を、なんとか工夫することでキャパの範囲内に収めることができるようになったとします。それはなんらかの強みが発揮されたことによって生産性が高まったということなので、その時点で『仕事で通用するほんものの強みが浮かび上がった状態』になっているはずです。それが自覚できたときが、ステージを上がるタイミングです」

 

ポチ川「キャパオーバーなのは、上司のマネジメントがよくないからではないでしょうか!?」

 

ニャカ山T「その考え方だと、“取り柄のない無職”まっしぐらでしょうね」

 

ポチ川「……。ぼ、僕のことは置いといて、いま問題なのはミケ野ですよ。苦手から逃げているということは、足し算ステージをやっていないことになりませんか!?」

 

ニャカ山T「ミケ野さんが”営業スキル的にできないこと”は何がありますか?」

 

ポチ川「基本的なことは、ほぼすべてできるようになりましたよ。なんと言っても、この僕が指導役なのですから! ミケ野は最初、本当に何もできなかったから手を焼きましたよ!」

 

ニャカ山T「ということは、すでに足し算ステージをやり切って、引き算ステージに入っている可能性が高そうですね。SNSも十分に使えるスキルがある上で、自分の苦手業務を手放しているのではないでしょうか。では、今日のネコトレをやってみましょう。今回のトレーニングは『好みでない作業を洗い出す』です」

 

「好みでない作業」を洗い出す

ポチ川「好みでない作業? 得意なことについて考えるのではないのですか?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、自分の得意なことがまだわからないのでしょう?」

 

ポチ川「し、失礼な! まぁ、まだよくわからないですけど……」

 

ニャカ山T「『組織のイヌ』の働き方は、指示されたことは苦手であろうともやり遂げようとするので、足し算ステージっぽいところがあります。それに対して、『組織のネコ』の働き方は自分の価値基準を優先し、やりたいことや得意なことで価値を生み出そうとするので、引き算ステージっぽい。言い換えると、イヌは放っておくとずっと足し算をし続けようとする落とし穴にハマりやすいんですね。だから、イヌにはネコトレが大事なんです。ちなみに、ネコは放っておくと足し算をしないまま好き勝手やろうとする落とし穴にハマりやすいので、ネコには逆に“イヌトレ”が大事なのですが」

 

ポチ川「わかるようなわからないような……」

 

ニャカ山T「足し算ステージでは、いろいろな仕事を”できるようになるまでやる”ことが大事です。一人前にできるようになったあとで、それでも『この作業は好みじゃないな』と思うものを挙げてもらいたいのです」

 

ポチ川「作業ってどういう意味ですか?」

 

ニャカ山T「苦手な仕事をできるようになったけれど、やっぱりこの作業はテンション上がらないな、できればやりたくないな、と思う作業のことです。ミケ野さんの例で言えば、『不特定多数の人向けに発信する作業は好みでないけれど、特定メンバー向けに発信する作業は好み』と言えそうな気がします」

 

ポチ川「なるほど、『SNSを運用する仕事』みたいなくくりではなく、もっと作業レベルで好みか好みじゃないかを判断するということですか?」

 

ニャカ山T「そうですそうです。ポチ川さんは足し算をし続けてきているので、いろんな作業をやってきているはず。言い換えると、『仕事はできるようになったけど、この作業は好みじゃないな』という発見をたくさんしてきている可能性があるかなと」

 

ポチ川「フフフ。そんなことでよければ、いくらでも挙げられますよ。まあ、100個はくだらないでしょうね。いまここで言いましょうか? 理由も挙げれば、2時間くらいかかるでしょうね」

 

ニャカ山T「それは、ぜひ家でやってみてくださいね。今日はここまでにしましょう。またいつでもいらしてください」

 

今日のネコトレ

Vol.07
「好みでない作業」を洗い出す!】

・苦手なことでも、できるまでやることが大事な「足し算」の時期がある
・苦手な作業を手放すことが大事になる「引き算」の時期がある
イヌの働き方は足し算っぽく、ネコの働き方は引き算っぽい

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仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

組織のための犠牲は美しい?『組織のネコという働き方』著者に学ぶ“評価”に左右されない働き方

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.06「ネコと評価」

 

会社や上司のために、心を無にしてがんばったのに!

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

ここのところ、有力顧客との取引停止が相次ぐ犬山電機。危機感が募る営業部では、根っからの体育会系・ハチ村課長から「新規開拓の営業電話を毎日100本かけろ」との指示が下された。正直なところ気がまったく乗らないが、業務命令だからやるしかない。声を枯らし、心を無にしてアタックリストを潰していれば、そのうち1件くらいは引っかかるだろう……。

 

と思っていたのだが、リストを完遂したオレたちの収穫は、まさかのゼロ。課長からは「もっと頭を使え!」と怒鳴られた。いやいや、自分の指示がイケてなかったんだから、こっちの責任じゃあないでしょうに。

 

そんななか、あるメンバーが予想外の大口顧客をゲットした。あの関西エリアの大手量販店『ニャンデンネン』だ! しかも大金星を挙げたのは、またしてもあの自由すぎる後輩・ミケ野である……。アイツはこの1週間、電話のひとつもかけずにデスクで黙々とパソコンをいじっていただけなのに!

 

ポチ川「おいミケ野! ハチ村課長に聞いたぞ。社長賞の候補になってるって」

ミケ野「ハイ! そうみたいっスね!」

ポチ川「あんな大手、一体どんな手を使ってゲットしたんだ?」

ミケ野「いや、別に何も。なんかマタタビ電機の社長が、ニャンデンネンの社長に『犬山いいよ』ってクチコミしてくれたみたいなんすよね」

ポチ川「もしかして、口を利いてもらえるように裏で頼み込んだのか?」

ミケ野「やだなぁ先輩、僕にそんな力はないっスよ(笑)。マタタビ電機の店長さんが言うには、ぼくがお手伝いした売り場でウチの製品がよく売れるのを、社長が評価してくれているとかで。こんなラッキーなことってあるんスねぇ。アハハ」

 

なんということだろう。会社の指示をスルーする不良社員のミケ野が、ウチの社長からも量販店の社長からも評価されているだって?! 会社のために真面目に営業活動をした他のメンバーは怒鳴られたのに、あまりに不公平な話じゃないか。真っ当な社員が評価されない会社なんて、おかしくないか? モヤモヤした思いを抱えてオレはまた、ニャンザップに向かって歩き出していた……。

 

↑ポチ川は今日も、ニャンザップの戸を叩いた

 

給料はガマン料?

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「こんばんは、ポチ川さん」

 

ポチ川「こんばんは……」

 

ニャカ山T「どうしましたか? 今日もずいぶん険しい表情をされていますね」

 

ポチ川「正直やってられないですよ! 一体、会社の評価って何なんでしょうか?!」

 

ニャカ山T「これはまたご立腹ですね。事情を聞かせてもらえますか?」

 

ポチ川「みんなで新規開拓の営業電話を毎日100件ずつかけるよう指示が出たんです。それなのに、上がやれといったことをやらない人間が評価され、やりたくもない仕事を真面目にこなした人間が怒鳴られるなんて、おかしいと思いませんか?!」

 

ニャカ山T「おや。指示どおりやらなかった人が評価されたのはどうしてですか?」

 

ポチ川「電話をかけ続けた僕らが玉砕したのに対して、電話をかけずに大口顧客をゲットしたからですよ! あのミケ野が!」

 

ニャカ山T「あぁ、『組織のネコ』のミケ野さんですね。今回はどんなやり方をしたんでしょう?」

 

ポチ川「前回、ミケ野が担当している『マタタビ電機』の売り場が、なぜか好調だと話したのは覚えていますか?」

 

ニャカ山T「もちろんです。私もミケ野さんのつくったPOPを見て炊飯器を買いましたから」

 

ポチ川「その『マタタビ電機』の社長が、なんと関西の『ニャンデンネン』の社長に『犬山はいいよ』と紹介したそうなんです。完全に単なるラッキーゲットですよ。しかも、そんなたまたま結果が出ただけのミケ野に対して、社長賞が出るかもしれないというんです。あまりに不公平な話ですよ!」

 

ニャカ山T「不公平といいますと?」

 

ポチ川「いや、ですから指示どおりに仕事をこなしたことを評価してもらえていないんですよ。やりたくもない電話100本ノックをやらされたというのに!」

 

ニャカ山T「でも、玉砕したんですよね」

 

ポチ川「いやいやいや、指示をしたのは会社ですから。結果が出なかったのは会社の指示が悪かったからでしょう。僕らだって、やりたくてやったわけじゃないんですから。そこはきちんとプロセスを評価してもらえないと、やってられないでしょう。そもそも給料なんてガマン料なわけですから!」

 

ニャカ山T「なるほど、給料はガマン料ですか。今日のポチ川さんも、ずいぶん凝り固まっているようですね。今回のネコトレのテーマは『上司からの評価を手放す』にしましょう」

 

誰に評価されたいか?

ポチ川「えっ? 上司からの評価を手放す?!」

 

ニャカ山T「そうです。上司に評価されるために働くのをやめるのです」

 

ポチ川「仕事をサボれと?」

 

ニャカ山T「そういうことではありません。上司ではなく、お客さんに評価してもらえるよう働くのです」

 

ポチ川「お客さんからの評価……ですか」

 

ニャカ山T「お客さんに喜んでもらうことにフォーカスするのです」

 

ポチ川「いや、もうさんざん値引きはしてきていますよ。これ以上だと赤字になってしまうくらい努力しているのに、まだ値引けというのですか?!」

 

ニャカ山T「そういうことではありません」

 

ポチ川「では、無理めな要求を呑むとか、接待するとか媚びるとか?」

 

ニャカ山T「そういうことでもありません」

 

ポチ川「それ以外に取引先が喜ぶことってあります……?」

 

ニャカ山T「ここでいう”喜んでもらう”とは、“本質的な価値を提供する”という意味です。ミケ野さんは、それができていたから量販店の社長がクチコミをしてくれたのでしょう」

 

ポチ川「うーん……。とはいえ、指示通りに電話100本かける仕事に価値はないのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「その仕事は、誰にどんな価値を提供しましたか? 顧客? 上司?」

 

ポチ川「むむむ……。たしかに上司に評価されるためにやりましたが、結果的には上司にも怒られましたね……」

 

ニャカ山T「お客さんには何らかの価値を提供できたと思いますか?」

 

ポチ川「冷たい感じや、めんどくさそうな感じで電話を切られ続けましたね……。しかし、会社のピンチをなんとかしようと一致団結して動くのは、組織人として当然ではないでしょうか?!」

 

ニャカ山T「それは事業が成長期の頃の考え方です。『この活動を推進すれば価値を広めることができる』とわかっている場合です。目の前にやるべき仕事が山ほどあるので、一致団結して動くことが価値の最大化につながります」

 

ポチ川「せ、成長してない期なんですけど、どうすれば……?」

 

ニャカ山T「価値を生まない仕事を一致団結してやっていると、そのうちピンチの起こる頻度が増えていって、いずれ行き詰まるでしょうね」

 

ポチ川「ウチの会社のことではないですか……。火消し続きの毎日なのですが、どうすればよいのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「お客さんに喜んでもらえる価値の種まきをすることです」

 

ポチ川「種まき? それだと今月の数字につながらないのでは?」

 

ニャカ山T「そうですね。2年くらいかかるかもしれませんね」

 

ポチ川「2年?! そんな悠長なことを言っていたら、ゼッタイ上司に怒られますよ。短期的な数字づくりにしか興味がないんですから」

 

ニャカ山T「まさにそういう上司からの評価を手放そう、というのが今日のテーマです。お客さんに喜ばれるけど、上司には評価されないことをやる」

 

自己犠牲的な働き方をしていないか?

ポチ川「そんなことをしたら、職場で変人だと思われそうです……」

 

ニャカ山T「変人だと思われたら、しめたものじゃないですか。その評価を受け入れさえすれば、やりたくないことをやらずに済みやすくなります。でも、多くの人は『変人と呼ばれる精神的コスト』に耐えられなくて、お客さんを捨ててまでも上司の評価を得られるように流されてしまいます」

 

ポチ川「(……ギクッ)」

 

ニャカ山T「上司のためにやりたくない指示をやる働き方を『自己犠牲的利他』といいます。その姿勢だと”給料はガマン料”というとらえ方につながります」

 

ポチ川「でも、利他というのは自己犠牲を必要とするものですよね。子どもの頃、『お兄ちゃんなんだからガマンしなさい』って怒られて、しぶしぶ妹におもちゃを貸していたなぁ(遠い目)。誰かを喜ばせるためには、犠牲がいるんですよ」

 

ニャカ山T「そういう考え方と対照的なのが『自己中心的利他』です。“自分がやりたくて得意なこと”でお客さんに喜ばれる働き方。お客さんから『ありがとう』と言われるのがうれしいから、さらにやりたくなる、という好循環が生まれます」

 

ポチ川「それは、人に迷惑をかけるワガママな働き方とは違うのですか?」

 

ニャカ山T「まずは試しにネコトレをやってみましょう。今回のトレーニングは『偏愛マップを書いてみる』です」

 

「偏愛マップ」のススメ

ポチ川「偏愛マップ……?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんには、偏愛しているモノやコトはありませんか? それを1枚の紙に書き出して、お客さんや仕事相手に自己紹介をするためのマップを作ってみてほしいのです」

 

ポチ川「偏愛? 自己紹介? それは、ミケ野がよく自分の営業資料に添えているプロフィールみたいなものですかね? 好きなことや趣味なんかもいろいろ書いてありました」

 

ニャカ山T「ミケ野さんはすでにやっているのですね。好きなことの中でも『偏愛』と呼べるほど圧倒的な熱量で好きなものを書き出すのが良いです。実はそれが『自己中心的利他』の精神で働く第一歩になります」

 

ポチ川「なるほど……。まぁでも、うちのチームで『偏愛』を語らせたら、おそらく僕の独壇場でしょうね。圧倒的な熱量なら、ミケ野のプロフィールには絶対に負けない自信があります」

 

ニャカ山T「そうなんですね……それはよかった」

 

ポチ川「まず、推しについてなら一晩中でも語れます。模造紙1枚でも到底足りないでしょうから、この愛情の深さをどう伝えるか、見せ方を考える必要はあるでしょうね! もうちょっとライトなところでいくなら、最近大好きなサッカー漫画『ブルードッグ』がアニメ化された件もいいかもしれない。ただ、僕の原作愛からするとツッコミどころが多すぎる。このもどかしい気持ちを分かり合える相手が客先にいたら、どれだけ仕事が楽しくなることか!」

 

ニャカ山T「……その思いの丈をマップにしてみてくださいね。今日はここまでにしましょう」

 

今日のネコトレ

Vol.06
【偏愛マップで自己紹介してみる!】

・誰に評価されたいか、を考えてみよう(答えは「お客さん」)
・今日まいた種は、タイムラグを経て実を結ぶ
・自己犠牲的利他と、自己中心的利他の違い

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仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

顧客との適切な距離感とは?『組織のネコという働き方』著者が説く「お客さん」とポジティブに付き合うスキル

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.05「ネコとお客さん」

 

戦略より雑談だって?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

昨今の“おうちごはん需要”の高まりから、調理家電が好調だ。そこで我が犬山電機でも、付加価値を売りにした高級炊飯器『豪華炊き・WAN(椀)』、通称『豪WAN』シリーズを2年前に発売。しかし、目下の売り上げは主要5大メーカーにシェア9割を持っていかれ、我が社は3%となんとも情けない結果に甘んじていた……。

 

そんな中、製品のリニューアルが発表された。消費者アンケートで多機能な炊飯器の人気が高かったという結果を踏まえて、ターゲットを見直し、「調理にこだわる、毎日の食事への意識が高いリモートワーク層」に設定。50種類の炊飯モードと300種類の炊飯器レシピが搭載されたという。併せて、店頭POPなどの販促ツールもリニューアルとなった。

 

それから1か月後のこと。新たな営業戦略のもとチームで奔走した努力もむなしく、『豪WAN』の売り上げは一向に上向かなかったが、一つだけ例外があった。空気を読まない問題児の後輩・ミケ野が担当する量販店『ニャフマップ』と『マタタビ電機』でだけ、『豪WAN』シリーズが好調に売り上げを伸ばしているというのだ!

 

営業戦略会議でほめられたミケ野に、帰り際、声をかけてみることにしよう。

 

ポチ川「おいミケ野、一体何をしたんだ? 『ニャフマップ』と『マタタビ電機』は、全店あげて『豪WAN』フェアでもやってるのか?」

ミケ野「いえ、やってませんよ」

ポチ川「じゃあアレか、たまたまターゲットユーザーがたくさん住んでいるエリアだったとか」

ミケ野「ターゲットユーザー? ああ、“調理にこだわるリモートワーク層”みたいなやつでしたっけ。っていうか先輩、コレ見てください! 僕が作って店舗さんに配った店頭POPっス!」

ポチ川「……なにこの『忙しい方、時短できます!』って」

ミケ野「実は店頭で店長さんと世間話をしてたら、『豪WAN』ファンだというお客さんが偶然通りかかって。その方に『豪WAN』のどこがいいのか聞いてみたら、『洗う手間がかからないのと、ボタンが少なくて使いやすい!』って教えてくれたんスよ。リモートワークだとトイレにも行けないくらい打ち合わせがみっちり入るから、時短できるのが最高だって。ちなみにレシピ機能は使ったことないそうでした」

ポチ川「……それでこのPOPを勝手につくったのか?」

ミケ野「そうです。新機能をゴチャゴチャ説明するよりいいかなと思って差し替えてみました」

ポチ川「差し替えたってオマエ……元のPOPはどうしたんだよ?」

ミケ野「サーセン、捨てちゃいました(笑)」

ポチ川「なにをそんな勝手なことを!」

ミケ野「だって、隣に陳列されていた『ナショブル電工』の新製品が『100種類の炊飯モードと600種類の炊飯器レシピ』って書いてあったんですよ。うちのPOPに書いてある数字の2倍じゃないスか。お客さんからしたら、元のPOPがあると逆に買いにくいだろうなって。先輩もよかったら使ってみてくださいよ、このPOP!」

ポチ川「……」

 

こんなヤツがほめられるなんて……。こっちは指示通りマジメに仕事をしたというのに、会社の戦略と戦術を無視しても結果さえ出せばいいというのか……。組織人としてなにが正解かわからなくなったオレは、またもやニャンザップに向かっていた。

 

熱意はあるのに、届かない?

↑ポチ川は今日も、ニャンザップの戸を叩いた

 

ポチ川「あぁ……今日もまた、ここに来てしまった」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「こんばんは、ポチ川さん。そんなところに突っ立っていないで、どうぞお入りください」

 

ポチ川「ニャカ山さん。僕は今日、自分が誰のために仕事をしているのかよくわからなくなりました」

 

ニャカ山T「それはまた深刻そうなお悩みですね」

 

ポチ川「創業からほぼ100年。昭和の時代からファミリー層のユーザーに支えられてきた犬山製品のクオリティは、けっして他社に見劣りはしません」

 

ニャカ山T「はい、私もいち消費者としてそう思っていますよ。特に最近買った炊飯器は気に入っています」

 

ポチ川「……なんと、『豪WAN』をお使いでしたか!」

 

ニャカ山T「はい。ボタン一つでふっくらと炊けて、ごはんが本当においしくなりました」

 

ポチ川「アレの付加価値はスゴいんです。なにせ、米の銘柄に応じて50種類もの炊飯モードを備えていますからね! それに、売れっ子料理家監修の300種のレシピも搭載されてあのお値段! 他社製品と比較しても1000円ほど低価格です!」

 

ニャカ山T「……なるほど、そうでしたか(その機能は使ったことないけど)」

 

ポチ川「僕はその付加価値をありのまま取引先に伝えているはずなのに、どうしてこの熱意がターゲットに届かないのか……」

 

ニャカ山T「あまり売れていないのですか?」

 

ポチ川「実は、僕ら営業チームの成果としては惨敗なんですが、後輩のミケ野だけ異常値のような成績を出していまして……」

 

ニャカ山T「よく話題に出てくる『組織のネコ』タイプのミケ野さんですね。異常値ですか、すばらしい」

 

ポチ川「とんでもない。ミケ野のやつ、会社の方針を無視して勝手にPOPなんか作って、またスタンドプレーをしているようなんです。まぁ、今回のはまぐれだと思いますけどね」

 

ニャカ山T「まぐれ?」

 

ポチ川「そうです。ミケ野が量販店の店長と立ち話をしていたら、たまたま『豪WAN』のファンが現れて、そのユーザーが話したことをPOPに書いたら売り上げが伸びたと言うんですよ。しかも会社から指示されたPOPは捨てたっていうんだから、ひどいものです」

 

ニャカ山T「ほぅ。それのどこがダメなのですか?」

 

ポチ川「会社は多額の費用をかけてマーケティング調査をし、そのデータを分析した結果、製品をリニューアルしたんです。ターゲットも変更され、そこに向けたコピーがPOPに書かれているわけですよ。それを捨てて、たまたま聞いただけの『忙しい方、時短できます』に差し替えるなんて、組織人としてどうかと思いませんか!」

 

ニャカ山T「あれ? 私が買ったときのPOP、そのメッセージでした。それで興味を持ったんですよ。ミケ野さん、いい仕事をしてますね」

 

ポチ川「なんてことだ……。では、あなたも結果さえ出せば、会社の方針を無視してもよいと言うのですか?! こっちは会社のためにマジメに奔走したというのに」

 

ニャカ山T「ふむ、かなり凝っているようですね。今日のネコトレをはじめる前に、一つ伺いたいのですが」

 

ポチ川「なんでしょうか?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは先ほど、『誰のために仕事をしているのかわからなくなった』とおっしゃっていましたよね。それはもともと『会社のため』だと思っていたわけですよね?」

 

ポチ川「そうですけど……もしかして、『お客様のため』と言うべきだ、みたいな話でしょうか?」

 

ニャカ山T「なるほど、凝っているポイントがわかりました。今日のネコトレのテーマは『”お客様”をやめてみる』です」

 

「お客様」と「お客さん」の違い

ポチ川「お客様をやめる?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、自社の製品を買う人のことを、なんと呼んでいますか」

 

ポチ川「え、『お客様』……じゃないんですか?」

 

ニャカ山T「ほかにも、先ほどからの話の中で、『ユーザー』とか『ターゲット』といった呼び方をしていましたね」

 

ポチ川「ああ、そうですね。それがなにか?」

 

ニャカ山T「ちなみに、ミケ野さんはどんなふうに呼んでいるかわかりますか?」

 

ポチ川「そういえば……いつも『お客さん』って言ってますね。あと、取引先の量販店のことを『店舗さん』とか『店長さん』と呼んでいる気が」

 

ニャカ山T「ミケ野さんは『ユーザー』とか『ターゲット』って使いますか?」

 

ポチ川「言われてみれば……社内でも『お客さん』『店舗さん』って言ってますね、アイツ。あっ、思い出したんですけど、ミケ野はターゲットのペルソナを決める会議のとき、『店舗さんに呼ばれたので』って欠席したんですよ。ことあるごとに『店舗さん、店舗さん』って、仕事なんだから友達付き合いのような馴れ合いは困るんですよ。先方に失礼があってもいけないし、やはり”お客様”とか”販売店様”と呼ぶべきではないでしょうか?」

 

ニャカ山T「呼び方の表現には、距離感や立ち位置などの関係性が透けて見えます。「お客様」や「販売店様」は丁寧というか失礼のない感じがしますが、『下手に出ておけば無難だろう』的な意味合いだと、実は相手を「人」だと思っていないのではないでしょうか。『お客さん』との間には、お金を払う方がエラいといった上下関係はありません。『売り手と買い手』として対峙している関係でもなく、同じ方向を向いて併走するような関係。ミケ野さんはおそらく『人と人』として量販店さんとつき合っている感覚を持っているのではないかと思います」

 

ポチ川「つまり僕が相手にしているのは『お客様』『販売店様』という距離のある存在で、ミケ野の方が関係性が近いと……」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは実際に客先と顔を合わせられる営業職ですから、まだいい方だと思います。世の中にはリアルな『お客様』とまったく接点がなくて、購入者を『数字』、ペルソナを『想像上の生き物』のように感じている人もいますからね」

 

ポチ川「うぅ。確かに購入者のことは『数字』だと思っていたかもしれません……。それに、ペルソナ会議はまさにデータを元に想像で決めていました……。調理にこだわるリモートワーク層をペルソナにしたんですけど、ミケ野が実際に会った”お客さん”は時間がなくて困っているリモートワーカーだった……」

 

「お客さん」が増えると、仕事は楽しくなる

ニャカ山T「では、今日のネコトレを始めましょう。今回のトレーニングはとても簡単ですよ。『メールの宛名の“様”を、ひらがなの“さま”に変える』です」

 

ポチ川「……え? それだけ?」

 

ニャカ山T「はい、それだけです。“さま”とひらがなで書くだけでも、お互いに距離が近く感じるものです」

 

ポチ川「そういうものですか……」

 

ニャカ山T「売り上げアップのためには『お客様』の数をとにかく増やすことも大事です。でもそのなかに『お客さん』の関係になってくれる人がひとりでも現れると、今度は仕事の面白さのステージが上がるはずですよ」

 

ポチ川「そうか。これからは、メールにちょっとした雑談でも入れたほうがよいのでしょうか? 雑談は苦手なのですが」

 

ニャカ山T「いいアイデアですね。でも、それは宛名の“さま”に慣れてきた段階で挑戦するくらいでいいと思います。今日はここまでにしましょう。また、いつでもいらしてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.05
【メールの宛名の“様”を、ひらがなの“さま”に変える!】

・「お客様」を「数字」として見ない
・「お客さん」と「人と人」としてつき合う
・「お客さん」が増えると仕事は面白くなる

Vol.00から読む
Vol.04「ネコと安定」<< Vol.05 >> Vol.06「ネコと評価」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

不変不動なことが安定? 組織人の盲点に『組織のネコという働き方』著者が説く「安定」の定義とは

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.04「ネコと安定」

 

“安定”とはいったい何だ……?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

今日は我が犬山電機の営業部に激震が走った。

 

30年以上にわたり犬山の製品を仕入れ続けてきた大手量販店Aが、弊社との取引をやめるという。どうやら今後は地球環境に配慮したサステナブルな製品だけを扱うとか。そうなると、我が社の製品はすべて基準を満たさないというのだ。

 

安さがウリだった量販店Aに、そんな大転換が果たして可能なのか? 社内でも懐疑的な声が上がっているが、これも時代の波なのだろうか……。

 

同僚と一杯ひっかける気にもならなかったその日の帰り道。スマホを眺めるオレの目に飛び込んできたのは、沈んだ気持ちに拍車をかける記事だった。あのニャンザップをオレに紹介してくれた大学時代の友人・ネコ山が、なんと気鋭の経営者・トラエモンとメディアで対談をしているではないか!

 

「ついに100億円調達! 最新型ピッキングロボットが物流に革命を起こす!」

 

ぶっちゃけ、ネコ山が新卒で入った大手企業を3年で辞め、社員20名ほどのスタートアップに転職したと聞いたとき、オレは「あいつも終わったな」と思ったんだよな。「わざわざ安定を捨てるなんてあり得ない」と。そう思ったのに、今日の時点で安定しているのはどちらだろうか……。そもそも安定とは何なのだ?!

 

混乱したオレの足は、いつのまにかニャンザップへ向かっていた……。

 

変化の時代の「安定」とは何か

↑ポチ川は再び、ニャンザップの戸を叩いた

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。今日はずいぶん冷え込みますね」

 

ポチ川「ええ。僕の気持ちも懐も、冷え込む一方です」

 

ニャカ山T「懐も? 何かありましたね」

 

ポチ川「実は今日、うちの売上を長年支えてきた量販店Aが、犬山の製品の取り扱いをやめると決定したんです」

 

ニャカ山T「安さで有名な全国チェーンのAですね。それはまたどういう経緯で?」

 

ポチ川「地球環境に配慮したサステナブルな製品だけを扱うとかで、うちの製品がすべて対象外になるのだと……」

 

ニャカ山T「なるほど。今や投資家も、企業の環境への取り組みには目を光らせていますからね。ESG投資ってやつですね」

 

ポチ川「しかし、そんな急に変化するのは無理だと思うのですが。あまりにもリスクが大きいのではないでしょうか。会社の安定が崩壊しませんか!?」

 

ニャカ山T「ほほう。安定が崩壊ですか」

 

ポチ川「ニャカ山さん、安定って一体なんなんでしょうね。僕はもう、すっかりわからなくなりました」

 

ニャカ山T「おや、安定がわからなくなったといいますと?」

 

ポチ川「僕にニャンザップを紹介してくれたネコ山って、わかりますよね?」

 

ニャカ山T「ええ、もちろん。ポチ川さんとは大学時代の同級生でしたよね。ちょうど今日、記事を見かけましたよ」

 

ポチ川「あっ、読まれましたか!? 実は僕、ネコ山が20人のスタートアップに転職したと聞いたとき、『あいつも終わったな』と思ったんです。わざわざ安定を捨てるなんてバカげていると。それがどうですか、今やここまでに。片や犬山電機は不安定になってしまった。冬のボーナスも期待できません。『何があってもビクともしない安定した会社』だと思ったから入社したのに、僕の選択のなにが間違っていたというんでしょうか?」

 

ニャカ山T「何があってもビクともしない、ですか。これまた思考が凝っているようですね……」

 

“安定” と “不変・不動” は似て非なるもの

ポチ川「どういうことですか?! 安定を求めてはいけないんでしょうか? まさか不安定なほうがいいとでも!?」

 

ニャカ山T「もし山道を走るバスに立って乗っている人がいて、くねくねした曲がり道にさしかかったときに体勢が崩れたとしましょう。その人が安定感を増すために足元をコンクリートでガチガチに固めようとしはじめたら、どう思いますか?」

 

ポチ川「は? そんなバカげた人、いるわけないでしょう。仮にいたとしても急カーブで倒れるに決まっています。まったく意味のない対策ですよ」

 

ニャカ山T「ではポチ川さんがそのバスに乗っていたら、どうしますか?」

 

ポチ川「そりゃあ全身でバランスを取って、体勢をキープするでしょう。誰だってそうしますよ」

 

ニャカ山T「そうですよね。ではポチ川さんがいう『何があってもビクともしない安定した会社』って、バスでいうとどっちのやり方に似ているでしょうか」

 

ポチ川「……」

 

ニャカ山T「刻々と変化する不安定な環境で、自分はビクともしないように努力したつもり。それが山道で足元を固めた乗客の思考ですね」

 

ポチ川「ううう……きょうの取引停止を聞いて、上司がまさに『足元を固めなければ』と繰り返していました。固めることと安定ってイコールではないのか……」

 

ニャカ山T「環境変化の少ない時代なら『不変・不動』であることが安定につながります。しかし、環境が大きく変化し続ける時代には『不変・不動』は不安定につながるのです」

 

ポチ川「うーん。でも、足元を固める以外のことって何をどうすればよいのでしょうか?」

 

ニャカ山T「そろそろ今日のネコトレをはじめましょうか。今回のテーマは、『日々のルーティンを変えてみる』です」

 

日常の小さな変化から始める

ポチ川「日々のルーティン? 毎日の業務内容を僕の一存で変えるわけには……」

 

ニャカ山T「いえ、業務でなくても、ポチ川さんご自身の生活のルーティンでかまいません。ポチ川さんは最近、プライベートで新しい出会いや発見はありましたか?」

 

ポチ川「新しい出会い? うーん。いつも同じことの繰り返しだからなぁ」

 

ニャカ山T「その繰り返しを、ちょっと変えてみるんです。たとえば通勤ルートや、毎日立ち寄るコンビニをスーパーに変えてみる、ランチで今まで入ったことのないお店に行ってみるとか」

 

ポチ川「え……そんなことでいいんですか?」

 

ニャカ山T「日常の小さな変化こそ、『不動こそ安定』という思い込みから自由になる第一歩ですから。小さな変化を習慣化して『変化が常態』と思えるようになれば、真の安定が得られるはずです」

 

ポチ川「変化が常態……。しかし、変化ばかりしていても安定しないのではないでしょうか?」

 

ニャカ山T「山道を走るバスを思い出してください。バランスを取るときに大事なことってなんですか?」

 

ポチ川「まずは体の軸をしっかりさせて、バスの動きに合わせて体勢を変え続ければいいですよね。あと、窓の外の景色も観察すると、予測が立ちますね。うーん、なるほど、そういうことか」

 

ニャカ山T「そういうことです(笑)。今日のところは、ここまでとしましょうか」

 

ポチ川「なんだか僕、真理を会得した気がします! ネコトレも早速、明日から実践してみたいと思います。通勤路を変えればいいんですよね」

 

ニャカ山T「明日からじゃなくて、今日の帰り道から実践してみてくださいね(そういうとこだぞ)」

 

今日のネコトレ

Vol.04
【日々のルーティンを変えてみる】

・「安定」と「不変・不動」は同じではない
・変化の時代は「変わらないリスク」の方が大きい
・「変化が常態」と思えるまで小さな変化を続けてみよう

Vol.00から読む
Vol.03「ネコとロール」<< Vol.04 >> Vol.05「ネコとお客さん」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

不変不動なことが安定? 組織人の盲点に『組織のネコという働き方』著者が説く「安定」の定義とは

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.04「ネコと安定」

 

“安定”とはいったい何だ……?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

今日は我が犬山電機の営業部に激震が走った。

 

30年以上にわたり犬山の製品を仕入れ続けてきた大手量販店Aが、弊社との取引をやめるという。どうやら今後は地球環境に配慮したサステナブルな製品だけを扱うとか。そうなると、我が社の製品はすべて基準を満たさないというのだ。

 

安さがウリだった量販店Aに、そんな大転換が果たして可能なのか? 社内でも懐疑的な声が上がっているが、これも時代の波なのだろうか……。

 

同僚と一杯ひっかける気にもならなかったその日の帰り道。スマホを眺めるオレの目に飛び込んできたのは、沈んだ気持ちに拍車をかける記事だった。あのニャンザップをオレに紹介してくれた大学時代の友人・ネコ山が、なんと気鋭の経営者・トラエモンとメディアで対談をしているではないか!

 

「ついに100億円調達! 最新型ピッキングロボットが物流に革命を起こす!」

 

ぶっちゃけ、ネコ山が新卒で入った大手企業を3年で辞め、社員20名ほどのスタートアップに転職したと聞いたとき、オレは「あいつも終わったな」と思ったんだよな。「わざわざ安定を捨てるなんてあり得ない」と。そう思ったのに、今日の時点で安定しているのはどちらだろうか……。そもそも安定とは何なのだ?!

 

混乱したオレの足は、いつのまにかニャンザップへ向かっていた……。

 

変化の時代の「安定」とは何か

↑ポチ川は再び、ニャンザップの戸を叩いた

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。今日はずいぶん冷え込みますね」

 

ポチ川「ええ。僕の気持ちも懐も、冷え込む一方です」

 

ニャカ山T「懐も? 何かありましたね」

 

ポチ川「実は今日、うちの売上を長年支えてきた量販店Aが、犬山の製品の取り扱いをやめると決定したんです」

 

ニャカ山T「安さで有名な全国チェーンのAですね。それはまたどういう経緯で?」

 

ポチ川「地球環境に配慮したサステナブルな製品だけを扱うとかで、うちの製品がすべて対象外になるのだと……」

 

ニャカ山T「なるほど。今や投資家も、企業の環境への取り組みには目を光らせていますからね。ESG投資ってやつですね」

 

ポチ川「しかし、そんな急に変化するのは無理だと思うのですが。あまりにもリスクが大きいのではないでしょうか。会社の安定が崩壊しませんか!?」

 

ニャカ山T「ほほう。安定が崩壊ですか」

 

ポチ川「ニャカ山さん、安定って一体なんなんでしょうね。僕はもう、すっかりわからなくなりました」

 

ニャカ山T「おや、安定がわからなくなったといいますと?」

 

ポチ川「僕にニャンザップを紹介してくれたネコ山って、わかりますよね?」

 

ニャカ山T「ええ、もちろん。ポチ川さんとは大学時代の同級生でしたよね。ちょうど今日、記事を見かけましたよ」

 

ポチ川「あっ、読まれましたか!? 実は僕、ネコ山が20人のスタートアップに転職したと聞いたとき、『あいつも終わったな』と思ったんです。わざわざ安定を捨てるなんてバカげていると。それがどうですか、今やここまでに。片や犬山電機は不安定になってしまった。冬のボーナスも期待できません。『何があってもビクともしない安定した会社』だと思ったから入社したのに、僕の選択のなにが間違っていたというんでしょうか?」

 

ニャカ山T「何があってもビクともしない、ですか。これまた思考が凝っているようですね……」

 

“安定” と “不変・不動” は似て非なるもの

ポチ川「どういうことですか?! 安定を求めてはいけないんでしょうか? まさか不安定なほうがいいとでも!?」

 

ニャカ山T「もし山道を走るバスに立って乗っている人がいて、くねくねした曲がり道にさしかかったときに体勢が崩れたとしましょう。その人が安定感を増すために足元をコンクリートでガチガチに固めようとしはじめたら、どう思いますか?」

 

ポチ川「は? そんなバカげた人、いるわけないでしょう。仮にいたとしても急カーブで倒れるに決まっています。まったく意味のない対策ですよ」

 

ニャカ山T「ではポチ川さんがそのバスに乗っていたら、どうしますか?」

 

ポチ川「そりゃあ全身でバランスを取って、体勢をキープするでしょう。誰だってそうしますよ」

 

ニャカ山T「そうですよね。ではポチ川さんがいう『何があってもビクともしない安定した会社』って、バスでいうとどっちのやり方に似ているでしょうか」

 

ポチ川「……」

 

ニャカ山T「刻々と変化する不安定な環境で、自分はビクともしないように努力したつもり。それが山道で足元を固めた乗客の思考ですね」

 

ポチ川「ううう……きょうの取引停止を聞いて、上司がまさに『足元を固めなければ』と繰り返していました。固めることと安定ってイコールではないのか……」

 

ニャカ山T「環境変化の少ない時代なら『不変・不動』であることが安定につながります。しかし、環境が大きく変化し続ける時代には『不変・不動』は不安定につながるのです」

 

ポチ川「うーん。でも、足元を固める以外のことって何をどうすればよいのでしょうか?」

 

ニャカ山T「そろそろ今日のネコトレをはじめましょうか。今回のテーマは、『日々のルーティンを変えてみる』です」

 

日常の小さな変化から始める

ポチ川「日々のルーティン? 毎日の業務内容を僕の一存で変えるわけには……」

 

ニャカ山T「いえ、業務でなくても、ポチ川さんご自身の生活のルーティンでかまいません。ポチ川さんは最近、プライベートで新しい出会いや発見はありましたか?」

 

ポチ川「新しい出会い? うーん。いつも同じことの繰り返しだからなぁ」

 

ニャカ山T「その繰り返しを、ちょっと変えてみるんです。たとえば通勤ルートや、毎日立ち寄るコンビニをスーパーに変えてみる、ランチで今まで入ったことのないお店に行ってみるとか」

 

ポチ川「え……そんなことでいいんですか?」

 

ニャカ山T「日常の小さな変化こそ、『不動こそ安定』という思い込みから自由になる第一歩ですから。小さな変化を習慣化して『変化が常態』と思えるようになれば、真の安定が得られるはずです」

 

ポチ川「変化が常態……。しかし、変化ばかりしていても安定しないのではないでしょうか?」

 

ニャカ山T「山道を走るバスを思い出してください。バランスを取るときに大事なことってなんですか?」

 

ポチ川「まずは体の軸をしっかりさせて、バスの動きに合わせて体勢を変え続ければいいですよね。あと、窓の外の景色も観察すると、予測が立ちますね。うーん、なるほど、そういうことか」

 

ニャカ山T「そういうことです(笑)。今日のところは、ここまでとしましょうか」

 

ポチ川「なんだか僕、真理を会得した気がします! ネコトレも早速、明日から実践してみたいと思います。通勤路を変えればいいんですよね」

 

ニャカ山T「明日からじゃなくて、今日の帰り道から実践してみてくださいね(そういうとこだぞ)」

 

今日のネコトレ

Vol.04
【日々のルーティンを変えてみる】

・「安定」と「不変・不動」は同じではない
・変化の時代は「変わらないリスク」の方が大きい
・「変化が常態」と思えるまで小さな変化を続けてみよう

Vol.00から読む
Vol.03「ネコとロール」<< Vol.04 >> Vol.05「ネコとお客さん」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

組織人は肩書きにこだわりがち?『組織のネコという働き方』著者が説く立場や肩書きの呪縛から解放される方法とは

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.03「ネコとロール(肩書き)」

 

業界の“新参者”のくせに馴れ馴れしい……?

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

「まったく、ずいぶんとナメられたものだ!」

 

とある家電関係の見本市を後にしたオレは、イラ立ちを覚えていた。原因は、巷でネコ型トースターを大ヒットさせている新参メーカー「ミャルミューダ電機」のキジ島とかいう営業だ。あるブースでたまたま出会ったキジ島は、営業チームの主任。愛想はいいのだが態度がなれなれしく、あろうことか業界中堅の老舗・犬山電機のオレに向かってタメ口を利いたのだ!

 

「キジ島のあの態度はどうなんだ!? オレが副主任でキジ島が主任だからだろうが、犬山と新参のミャルミューダじゃ“格”が違うってのに!」

 

オレは帰りの電車で同行の後輩・ミケ野につい愚痴ってしまったが、それは間違いだったとすぐに気づいた。空気の読めない問題児・ミケ野は、そんなオレのイラ立ちにわざわざ油を注いできたのだ。

 

ミケ野「え、キジ島さんって主任でしたっけ。気にしてなかったなぁ」

ポチ川「ミケ野も名刺交換してただろう」

ミケ野「肩書きとか興味ないんで」

ポチ川「ミャルミューダなんて、まだ100人もいない会社のはずだ。そこの主任なんて、ウチでいえば副主任より格下なんじゃないか」

ミケ野「そういうの、関係なくないですか? ってか、僕もキジ島さんにタメ口で話しちゃってたかも」

 

ミケ野「それより先輩、ミャルミューダといえば、営業部から社長直轄の新規プロジェクトへ異動になったタマ田さんの話、知ってます?」

ポチ川「あのタマ田がどうしたんだ?」

ミケ野「ミャルミューダの社長や執行役員と飲みに行ってましたよ」

ポチ川「は……!?」

ミケ野「なんでも、趣味の山登りSNSで繋がったとかで。営業部にいた頃からの話ですけど、先輩知らなかったんですね。タマ田さん、プロジェクトで新規事業とかやってるみたいだし、今後、もしミャルミューダとコラボとかあったら面白そうですよね!」

ポチ川「趣味……コラボ……?」

 

え、ちょっと、仕事なのにそれってどうなの……? なんだか頭が混乱してきた。電車を降り、ミケ野と別れたオレの足は、無意識のうちにまた、あのニャンザップへと向かっていた……。

 

老舗のプライドが傷付けられた!?

↑ポチ川は再び、ニャンザップへ足を向けていた

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「こんばんは、ポチ川さん」

 

ポチ川「……こんばんは」

 

ニャカ山T「おやおや、今日はずいぶん眉間にシワが寄っているようですが」

 

ポチ川「……ニャカ山さん。いきなりですが聞いてくれますか!?」

 

ニャカ山T「もちろんですよ。どうされましたか?」

 

ポチ川「僕は創業ほぼ100年の伝統ある犬山電機で営業をやっていることに、プライドを持っています」

 

ニャカ山T「それはなによりですね」

 

ポチ川「入社以来、営業目標は毎期キッチリ100%達成しています。全国の販売店さんとも、長年にわたって厚い信頼関係を築いてきました。つまり……」

 

ニャカ山T「つまり?」

 

ポチ川「その辺のポッと出のメーカーの営業とは、なんというか……立場が違うと思うんですよ」

 

ニャカ山T「ポッと出のメーカー……ですか」

 

ポチ川「そうです。創業たかだか10年の一発屋と犬山とでは、やっぱり伝統も格式も違うというか……」

 

ニャカ山T「創業10年……たとえば、ミャルミューダ電機あたりでしょうかね」

 

ポチ川「うっっ……(なんてカンがいいんだ……!)」

 

ニャカ山T「どうされました?」

 

ポチ川「ええ……実は今日、とある展示会でまさにそのミャルミューダ電機の営業と出会いまして……」

 

ニャカ山T「あら、当たってましたか」

 

ポチ川「せっかくの機会だったので名刺交換には応じましたが、ずいぶんなれなれしい態度を取られましてね。あろうことか僕にタメ口を利いてきたんですよ。正直、いい気持ちはしなかったです」

 

ニャカ山T「ほう、タメ口ですか」

 

ポチ川「先方の肩書きは主任だったので、僕が副主任だからとマウントしてきたに違いありません。所属企業の格からすれば、本当は僕のほうが格上のはずなのに!」

 

ニャカ山T「企業の格、ですか。これまたずいぶん凝っているようですね……」

 

【関連記事】「組織のイヌ」と「組織のネコ」とは?

 

肩書きを超えた役割をする「組織のネコ」

ポチ川「僕はそもそも、組織人として自分の立場や役割をわきまえていない人間は信用できないんです」

 

ニャカ山T「立場と役割ですか」

 

ポチ川「はい。それにね、今日はこれだけではないんですよ、ニャカ山さん。以前お話しした、営業部から社長直轄プロジェクトへ電撃異動した同期のタマ田のこと、覚えていますか?」

 

ニャカ山T「ええ、『組織のネコ』のタマ田さんですよね。覚えています」

 

ポチ川「ウワサによると、タマ田は最近、ミャルミューダの社長や役員クラスとずいぶん親しくしているそうなんです」

 

ニャカ山T「それがどうしたのですか?」

 

ポチ川「驚かないでくださいよ。趣味の山登りSNSでミャルミューダのお偉いさん方に近づいたようなんです!」

 

ニャカ山T「山登りSNS……それが何か?」

 

ポチ川「組織人として明らかなスタンドプレーでしょう! しかも営業部にいたときからつき合いがあったそうなんです。きっと上司の許可も得ていないに違いありません。そんなの越権行為でしょう。いや他部署への領空侵犯か。はたまた会社への宣戦布告……!?」

 

ニャカ山T「ちょっと落ち着いてください、ポチ川さん。だいぶお話は見えてきましたので、そろそろ今日のネコトレをはじめましょう。今日のテーマは、『会社名や肩書きで名乗るのをやめてみる』です」

 

ポチ川「は? ちょっと意味がわからないのですが」

 

会社名や肩書きから自由になる!

ニャカ山T「ポチ川さんは『形式的ロール』をとても大切にされる方ですね」

 

ポチ川「ロール?」

 

ニャカ山T「ロールプレイングゲームとかの『ロール』、つまり役割のことです。形式的ロールとは、会社名・部署名・役職などの肩書きを指します。『組織のイヌ』タイプの人は、肩書きからはみ出さない範囲で仕事を進めようとする傾向があります」

 

ポチ川「当然じゃないですか。それが職務に忠実ということでしょう。何の問題もないはずです」

 

ニャカ山T「ポチ川さんのように営業をやっていると、お客さんから相談を受けて、通常のオペレーションとは違う扱いをしてあげたいと思ったことはありませんか?」

 

ポチ川「そんなのしょっちゅうですよ。先週も管理部に相談しに行ったところです。ダメって一刀両断されましたけど……。少しは融通を利かせてくれたらいいのに」

 

ニャカ山T「では、もしポチ川さんが管理部に異動したら、その件はどう対応すると思いますか?」

 

ポチ川「えっ?! それは……ダメでしょうね……。管理部の担当者としてはそれが仕事なんですから」

 

ニャカ山T「形式的ロールを重視しすぎると、自分の価値観を封印して仕事をこなすようになっていきます。そのうち、指示されたことしかしない思考停止状態に陥ります。いわゆる『こじらせたイヌ』の状態です。末期的症状になると、『自分の人格は家に置いて出社する』感覚になっていきます」

 

ポチ川「そういわれると耳が痛いな……。うちの中間管理職なんかはまさに毎日が板挟みで、こじらせてる状態かもしれません。どうすればいいのか……」

 

ニャカ山T「タマ田さんのような『組織のネコ』タイプが大切にしているのは、『実質的ロール』です」

 

ポチ川「実質的ロール……?」

 

ニャカ山T「ネコは自分に忠実なので、自分がやりたくて得意なことでお客さんに喜ばれる、ひいては会社や社会にとって価値のある仕事を大切にします。その結果、所属部署や肩書きにとらわれない動き方になる傾向があるのです」

 

ポチ川「うーん。だからといって他社のお偉いさんと格を無視したようなつき合いをするのは会社員としていかがなものかと。それに営業部時代のタマ田は、僕とそれほど成績が変わらなかったはずです。そこまでしているのに成績が上がっていないわけですよね。職務に忠実に働けば、もっと数字が上がるのではないでしょうか」

 

ニャカ山T「なるほど、そう見えますか……。ポチ川さんがニャンザップに初めて来られたときのことを、私はよく覚えています。自己紹介のときに、まず会社名と部署名、役職をおっしゃっていましたよね

 

ポチ川「それはまぁ、いつもそうしているからです。相手がこちらの格を判断しやすいほうがよくないですか? それがわからないと、敬語で話せばいいのかタメ口でいいのかが決められないでしょう。もしかしてネコトレ的にはダメなんでしょうか?」

 

ニャカ山T「これからは人から仕事内容を聞かれたら、会社名や肩書きで説明するのをやめてみましょう。自分が実質的にどんな仕事をしているかで、自己紹介をしてみるのです。ポチ川さんの趣味は何ですか?」

 

ポチ川「うーんと……推し活ですが、それが何か?」

 

ニャカ山T「電化製品で、推しの商品はありますか?」

 

ポチ川「自社のでもいいですか? 僕はアレルギー体質なので、いろいろなモノを試しているのですが、わが社の空気清浄機は手放せません」

 

ニャカ山T「そうそう、その調子です! どういうところがいいんですか?」

 

ポチ川「えーっと、1時間くらいかかりますけど大丈夫ですか?」

 

ニャカ山T「あ……いや、そうですね、今日のトレーニングはこのくらいにしておきましょう! また、いつでもいらしてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.03
【会社名を名乗るのをやめてみる!】

・企業規模や伝統といった権威にぶら下がっていないか?
・形式的ロールにとらわれず、実質的ロールで動く
・会社名や肩書きではなく、自分の価値観を表す内容で自己紹介をする

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仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

『組織のネコという働き方』著者から学ぶ、賞味期限切れの社内ルールに対処する方法

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.02「ネコとルール」

 

自由すぎる後輩の身勝手な行動にトバッチリ

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

先日、隣町の工場で新たな製造ラインが動き始めた。犬山電機の慣習として、ライン稼働初日の朝は社内で説明会と資料配布が行われるのだが、そこであの自由すぎる後輩・ミケ野がまたやらかした。始業時間のわずか3分前、オレにいきなり「客先へ直行します!」とメッセージを送りつけてきたのだ!

 

……オイオイ、待ってくれよ。説明会の日程は前々から決まっていたし、アポを取っていたとしてなぜ前日のうちにオレに報告しない?

 

アイツの勝手な行動のせいで、指導役のオレまで一緒に上から叱られるハメに陥った。お陰で1日の予定は狂いっぱなし。3時間も残業して、推しのLIVE配信にももう間に合わない……(涙)! そんな21時、やりきれない気持ちで退社したオレは、再びあのジムに向かっていた。そう、「ニャンザップ」のニャカ山トレーナーに、ミケ野の愚かさを訴えるべきだ……!

 

会社にはびこる“謎のルール”

↑ポチ川は再び、ニャンザップの戸を叩いた

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん、こんばんは。遅いですね」

 

ポチ川「……今日はまだ営業していますか?」

 

ニャカ山T「大丈夫です。どうされましたか? なにやら表情が険しいですね」

 

ポチ川「ちょっと聞いてくださいよ、ニャカ山さん! 身勝手な後輩のせいで、きょうも散々な目に遭いました! おかげで、この時間まで残業です」

 

ニャカ山T「もしかして、以前お話に出ていた後輩の方ですか?」

 

ポチ川「お察しのとおり、入社当時から生意気なミケ野ですよ。アイツはきょう、会社の説明会を勝手に欠席して、朝から客先へ直行したんです!」

 

ニャカ山T「ほぅ、それで?」

 

ポチ川「僕は入社以来、ミケ野の指導役を任されていますからね。お陰で僕まで、主任と課長に小一時間ずつ叱られました。やってられないですよ、もう!」

 

ニャカ山T「なるほど。ちなみにその説明会とはどんなものですか?」

 

ポチ川「弊社の工場で新しい製造ラインが稼働するときに開かれる、社内向けの説明会です」

 

ニャカ山T「その説明会は、全社員が参加しなければならないのですか?」

 

ポチ川「はい。それが弊社の伝統的なルールですので」

 

ニャカ山T「ほう、伝統的なルール。実際、欠席すると業務に支障が出るような会なのですよね?」

 

ポチ川「いや、まぁ説明会といっても……、各部署の部長が始業時にざっと概要を説明して、あとは見ればわかる資料を配るだけなので、業務に支障まではないかもしれませんが……」

 

ニャカ山T「では、ミケ野さんの言い分を覚えていますか?」

 

ポチ川「はい。どうしてもその時間しか客先の都合がつかなかったようです。でもそれなら、せめてアポが取れた時点で僕に相談してくれればよかった。僕に『直行する』と連絡が来たのは、なにせ始業3分前ですからね。無断欠席も同然ですよ!」

 

ニャカ山T「なるほど、そういうことですか。やはりミケ野さんは『組織のネコ』のようですね。ポチ川さんは、ミケ野さんから学べることがありそうです」

 

ポチ川「はい!? 学べることがある? そんなわけないでしょう! 組織のネコだかトラだか知りませんが、会社の伝統的なルールを守らないヤツから学ぶことなどあるわけがない!」

 

ニャカ山T「ふむ、かなり凝っているようですね。では、今日のネコトレをはじめましょうか。今回のテーマは、『ルールの意味を考える』です」

 

賞味期限切れのルールが
組織をむしばむ

ポチ川「ルールの意味……?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、ルールというものをどのようにとらえていますか?」

 

ポチ川「そんなの決まっているでしょう。守るべきもの、ですよ」

 

ニャカ山T「どんなルールであっても?」

 

ポチ川「当たり前ですよ! 守らなければ罰を受けるのですから」

 

ニャカ山T「では、会社で『このルールはおかしいな』と思ったことはありますか?」

 

ポチ川「そんなの、いくらでもありますよ」

 

ニャカ山T「そうだとしたら、それらは賞味期限が切れたルールかもしれませんね。ルールというのは、それを作った趣旨や背景とセットで運用することが大切です。ただ漫然と”守るべきもの”として扱っていると、賞味期限が切れたときにおかしなことが起こります」

 

ポチ川「賞味期限……ですか」

 

ニャカ山T「ちなみに、今回の説明会の資料はどういう形で配付されるのですか?」

 

ポチ川「昔はブ厚いファイルが部署ごとに配付されていましたが、最近は、配布書類は社内のクラウドから自由にダウンロードできるようになっています。今回からは、説明会の録画もアップされるようになりました」

 

ニャカ山T「それなら、説明会に欠席しても後から確認できますよね」

 

ポチ川「……。でも、皆で顔を合わせて士気を高めるとか、コミュニケーションを取る目的だってあると思いますけどねぇ?」

 

ニャカ山T「いま、その目的は果たせていますか?」

 

ポチ川「うっ……。みんな黙って業務を始めますけど……。いや、それでも、ルールはルールなのですから……」

 

「組織のネコ」の問題提起を
ちょっと受け止めてみる

ニャカ山T「ルールができた当時の状況と変わってしまって賞味期限が切れているのに、”ルールだから”と運用し続けるのは、賞味期限切れの腐った物を食べさせ回っているようなものです」

 

ポチ川「では、どういうルールに変えればよいと言うんですか!? 説明会には全員リモートでの参加を義務づければよいというのですか!?」

 

ニャカ山T「ルールの作り方には2種類あります。ひとつは『指示型』。たとえば、色つきのワイシャツを着ている営業マンがいて客先から苦情が来たので『白の無地に指定する』といったものです」

 

ポチ川「はぁ。ルールって、そういうものですよね。問題を起こさないために行動を制限するわけですから」

 

ニャカ山T「ふふふ、そう思われますか。もうひとつのルールの作り方は、『OBライン型』です。ゴルフのOBラインのように『ここから先はダメだけれど、この範囲内なら何でもOK』というルールの決め方です。指示型は自由を制限するためのルールですが、OBライン型は自由を確保するためのルールといえます」

 

ポチ川「自由を確保するためのルール……。僕はまさに、ルールは行動を縛るためのものだと思っていました……」

 

ニャカ山T「やはりポチ川さんの思考は”組織のイヌ”っぽいですね。対して、ミケ野さんのような“組織のネコ”にとって、指示型のルールは息苦しく感じられます。彼らは『白無地シャツに指定しなくても、苦情がこない範囲であれば何でもいいじゃないか』というOBライン型のルールを好むからです」

 

ポチ川「でも、どういう基準でOBラインを決めたらよいというのでしょうか? むずかしいと思うのですが!?」

 

ニャカ山T「OBラインを引くためには『美意識』が大切になります。ここからハミ出したら美しくないよね、という感性が基準になるわけです。そういう意味で、”美意識のない組織”で働くイヌだと、OBラインを引くのはむずかしいでしょうね」

 

ポチ川「美意識……? そんなものが仕事に必要だなんて聞いたことありませんよ! 問題を起こさないことこそ、美意識なのでは!?」

 

ニャカ山T「長年の歴史あるイヌ型組織で働く“組織のネコ”は、賞味期限切れのルールに引っかかる行動をしやすいのです。それは、問題を起こさないことを優先するのではなく、お客さんに価値を提供することを優先しているからです」

 

ポチ川「そうか……。主任と課長からお説教をくらっているときも、ミケ野がずっと平気な顔をしていたのは、そのせいだったのかな」

 

ニャカ山T「賞味期限切れのルールを見直すためには、『そもそも』を問うことが大事です。『そもそも、なんでこのルールができたんだっけ?』と。そこを整理した上で、ミケ野さんに『どういうルールだったらよいと思う?』と聞いてみてもよいかもしれません。OBライン型のアイデアが出てくるかも……」

 

ポチ川「なるほど……。あっ、そうか、わかったぞ! マジメな僕が一向に昇進できないのも、きっと何らかの賞味期限切れルールに阻まれているに違いないですね!」

 

ニャカ山T「……」

 

ポチ川「え……ちょっと、なんでそこで黙るんですか?」

 

ニャカ山T「今日はもう遅いですから、帰ってゆっくりお風呂にでも浸かってください」

 

今日のネコトレ

Vol.02
【ルールの意味を考える!】

・賞味期限切れのルールが、組織をむしばむ
・ルールは、制定した趣旨や背景とセットで考える
・ルールには、自由を制限する「指示型」と自由を確保する「OBライン型」がある

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

組織でのキャリアパスが不安…『組織のネコという働き方』著者が説く「組織のネコ」式解決策とは?

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.01「ネコとレール」

 

花形プロジェクトに抜擢された同期にモヤモヤ……

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

先月、自由すぎる後輩・ミケ野の大口顧客獲得にざわついた営業部で、今日またしても心穏やかでない出来事が起こった。オレと同期で入社した営業一課副主任のタマ田に、社内のエリートが集まる社長直轄の新プロジェクトへの異動が通達されたのだ! しかもそのプロジェクトのメンバーは、全員が部長クラスの権限を持つことになるという……。そんな制度はこれまで聞いたことがない。

 

何より不思議なのは、同期で役職も成績もたいして変わらない、というか成績ならオレのほうがちょっと上なのに、なぜオレではなくタマ田が選ばれたのか……?入社当時から先輩社員にも臆せず意見するタマ田は、元気でいいヤツだが陰では「いけすかない」とも評されていた。アウトドアが趣味でプライベートな時間を何より優先するので、出世にも興味がなさそうだったのに……。

 

どうにも納得できないオレは、大学時代の友人・ネコ山にすすめられたあの「ニャンザップ」へ、再び向かっていた……。

 

レールにしがみつくイヌ、レールに興味がないネコ

↑ポチ川は再び、ニャンザップの戸を叩いた

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「お待ちしていましたよ、ポチ川さん」

 

ポチ川「ニャカ山さん、ちょっと聞いてくださいよ。また、全然納得できないことがあったんです!」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「営業一課にいる同期、タマ田の話です。成績は僕のほうが上なのに、彼だけなぜかエリートが集まる社長直轄プロジェクトへの異動が決まったのです!」

 

ニャカ山T「ほぅ、なるほど」

 

ポチ川「しかも部長待遇ですよ! 直属の上司さえ飛び越えて。これまで僕と同じ副主任だったというのに……!」

 

ニャカ山T「いったん落ち着きましょうか、ポチ川さん」

 

ポチ川「これが落ち着いていられますか! みんな、レールの先がつかえているからじっと耐えているのに、抜け駆けしやがって……タマ田のヤツ!」

 

ニャカ山T「レールの先がつかえている、とは?」

 

ポチ川「うちの会社は40、50代のベテラン社員がダンゴ状態で、出世のレールが大渋滞しているのです。だから人事考課のたびに昇進を期待しているのに、ガッカリの連続で……。タマ田はきっと、僕らの知らない強力なコネがあったか、うまいこと上役に取り入ったに違いない!」

 

ニャカ山T「そうですか……もしかしてそのタマ田さんって、上司から指示されてないことをやっていたりしませんか? 」

 

ポチ川「えっ?! なぜわかるんですか?」

 

ニャカ山T先日の『組織のイヌ』と『組織のネコ』の話を覚えていますか?」

 

ポチ川「覚えています。イヌは組織に忠実、ネコは自分に忠実……でしたよね」

 

ニャカ山T「そうです。イヌとネコでは、組織におけるレール、つまりキャリアコースの捉え方も違います。“敷かれたレール”、つまり決まりきった出世コースで昇進を目指すのがイヌ。イヌは、レールから外れると会社人生がゲームオーバーになると思っているので、もし落ちそうになったら懸命にしがみつこうとします」

 

ポチ川「でも昇進を目指すのは、会社で働くなら当たり前のことでしょう?」

 

ニャカ山T「そうかもしれませんね。しかしポチ川さん、大渋滞しているレールの先はどうなっていますか? 先を行っている人たちは、楽しそうに働いていますか?」

 

ポチ川「……。楽しそうではないですよ、仕事なのですから。でも昇進できれば楽しいでしょう」

 

ニャカ山T「ふむ、かなり凝っているようですね。では、今日のネコトレをはじめましょうか。今回のテーマは、『レールから降りる』です」

 

敷かれたレールから降りてみる

ポチ川「……それはどういうことですか?」

 

ニャカ山Tネコは、そもそも“敷かれたレール”の上なんて進んでいないのです。ネコは、レールから外れてもゲームオーバーにはならないとわかっています。それどころか、レールを降りたら“道路”というものがあって、レールのないところにも自由に行けるようになると気づいている。だから、レールにはそもそも興味がないのです」

 

ポチ川「つまりタマ田は、レールではなく道路を進んでいたと?」

 

ニャカ山T「道路を歩いていたタマ田さんは、きっと乗り物でも手に入れて、レールで渋滞している人たちを追い抜いてしまったのでしょう」

 

ポチ川「そんなの、ズルくないですか?! 人が列に並んでいるというのに、自分だけ別の乗り物で追い抜くなんて!」

 

ニャカ山T「だったら、ポチ川さんもやってみましょう」

 

ポチ川「あ、いや、それはちょっと……」

 

誰でも“人生のレール”を外れたことはある

ニャカ山T「ポチ川さんが恐れているのは、レールを外れてみんなと違う道を行くことではないですか?」

 

ポチ川「う〜ん……。たしかに、そうかもしれません」

 

ニャカ山T「これまでの人生を振り返って、自分がレールを外れてしまった経験はありますか? どんなレベルのものでもいいです。浪人した、留年した、第一志望の学校に受からなかった、部活でレギュラーになれなかった、など、何でもいいです」

 

ポチ川「それならいくらでも挙げられますよ。いちばんキツかったのは、高校時代にケガでバスケができなくなったことでした。しかも目標だったインターハイの全国大会まで進んだのに、あれは本当にツラかったなぁ……」

 

ニャカ山T「そうでしたか。でも、もし無理やり試合に出ていたとしたら、どうなっていたと思いますか?」

 

ポチ川「それはダメですよ。無理したせいで障害が残ってしまうかもしれないし、チームメイトにも迷惑をかけますから」

 

ニャカ山T「では、ケガでインターハイに出場できなかったことで、ポチ川さんの人生はゲームオーバーになりましたか?」

 

ポチ川「いや、バスケは今でもたまにやっているのでゲームオーバーというわけではないですね」

 

ニャカ山T「そう、レールは外れたかもしれないけれど、命がなくなったわけじゃないですよね」

 

ポチ川「その通りです」

 

ニャカ山Tレールを外れても死にはしない。まずはそれを思い出すのです

 

ポチ川「でも、バスケと仕事は別物ですよね?! 生活するために、お金を稼がなければいけないのですから! お金をもらっている以上は、会社の指示通りに働くべきでは?! レールから降りずに、レールを外れる方法はないのですか?!」

 

レールを進む以外に“道路を進む”という選択肢を持つ

ニャカ山T「まあ、落ち着いてください。ポチ川さんは日々の仕事の中で、『無駄だ』とか『意味がないんじゃないか』と感じる業務はありますか?」

 

ポチ川「いくらでもありますよ。会議用の膨大な資料作りとか。あんなもの、どうせ誰も読まないのに。印刷する紙がもったいないですね」

 

ニャカ山T「どうすればよいと思います?」

 

ポチ川「必要なデータだけ要約して、あとは『詳細データはこちらにアップされています』で済むはずだと思うんですけど」

 

ニャカ山T「でしたら、その“要約した資料”を提出してみませんか?」

 

ポチ川「そんな、いきなり形式を変えたら社長の忠臣、ハチ村課長から大目玉をくらいます! 我が社の伝統的な形式なのですから!」

 

ニャカ山T「いえいえ、資料はいつも通りつくって構いません。その上で、自分が「こっちのほうがよい」と思う資料を追加でそっと添えておくだけです」

 

ポチ川「追加で、そっと添えておくだけ……? 上司の許可を取らずに、ですか?」

 

ニャカ山T「はい、そうです。これが今日のネコトレ【指示された以外のこともやってみる】です。『言われたことをきっちりやる』というイヌの得意なことに、『言われていないことをしてしまう』というネコの要素をちょっと足すわけです。いつもの資料の中にそっと忍ばせた“ポチ川案”を見た部長が、『こっちのほうがいいじゃないか』と言ったら、その下の課長も『私もそう思ってました!』となったりすることもよくあります」

 

ポチ川「ああ、ハチ村課長がいかにも言いそうなセリフだ! そして、いまの話で思い出しました。先輩社員に何かと意見するタマ田が、いつもそういうネコっぽいことをするんです。『こっちのほうがよくないですか?』と。彼は規律にうるさいハチ村課長には疎まれていたけれど、その上のトラ林部長はニヤニヤしていたんですよね。なるほど、明日の会議資料に“ポチ川案”を添えてみようかな……」

 

ニャカ山T「お、いよいよ“レールから降りる”決心がつきましたか」

 

ポチ川「ええまあ、とりあえず片足ぐらい……」

 

ニャカ山T「大事なのは、レールを進む以外に“道路を進む”という選択肢を持っていることです。今日のトレーニングはここまでですが、また何かお困りのことがあったら、いつでもニャンザップへ来てください」

 

今日のネコトレ

Vol.01
【指示された以外のこともやってみる!】

・レールにしがみつくイヌ、レールに興味がないネコ
・これまでの人生でレールから外れた経験を思い出す
・レールを進む以外に「道路を進む」という選択肢を持つ

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

「組織のイヌ」でモヤモヤしてない?『組織のネコという働き方』著者から学ぶ、自由で自分らしい働き方

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」! はじまります。

 

ネコトレVol.00「組織のイヌと、組織のネコ」

 

ニャンザップとの出会い

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

 

今朝の朝礼で、チームの後輩・ミケ野の営業成績トップが発表された。誰もが予想外の大口顧客を獲得したのだ。ミケ野といえば入社当時から自由すぎる若者で、会議では目上に忖度せず言いたいことを言い、直行や直帰は日常茶飯事、チームの飲み会には滅多に顔を出さない。そのわりにアイツは妙に客ウケが良くて、規律にうるさい課長からも大目に見られている気がする……。

 

一方、マジメに働く副主任のオレは、今日も課長から営業成績の進捗が遅いと詰められた。この違いはいったい何なんだ……。

 

と思っているうちに、もう定時。今日は大学時代の同級生・ネコ山と、久々に一杯ひっかける約束をしていたな。

 

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

ポチ川「なぁネコ山、お前はいいよな、話題のスタートアップでのびのびやれて」

 

ネコ山「そう? ポチ川だって創業100年に近い会社で勤続10年目なんて大したものなんじゃないの?」

 

ネコ山は、新卒で入った大手企業を3年で辞め、社員20名ほどのスタートアップに転職、現在はロボット開発に携わっている。会社は急成長していて、最近、勢いのあるスタートアップとしてメディアで見かけることが増えている。

 

ポチ川「こちとら会社のために必死に働いてるのにさ、ミケ野みたいな後輩を見てると、なんだか自分が虚しくなってくるよ」

 

ネコ山「自分は自分、人は人でしょ」

 

ポチ川「そんな簡単に割り切れるものじゃないだろう。世の中、不公平だよ」

 

ネコ山「ポチ川は昔から真面目だもんな」

 

そう言うと、ネコ山は小さなメモをポケットから取り出した。

 

ネコ山「ポチ川、ここに行ってみたらどう?」

 

ポチ川「……?」

 

ネコ山「気が向いたらでいいけど。今のポチ川が欲しがっているヒントが見つかるんじゃないかなー」

 

ネコ山がくれたメモには、こう書かれていた。

 

NYAN-ZAP ニャンザップ
~成果にコミットするネコトレ~

 

……ネコトレ? 一体なんなんだこれは?

 

組織に忠実なイヌと自分に忠実なネコ

↑成果にコミットするネコトレ、とは一体……?(どこかで聞いたことあるフレーズ)

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「ニャンザップへようこそ。私は専属トレーナーのニャカ山です」

 

ポチ川「友人から紹介されて来ました。犬山電機、営業二課副主任のポチ川アキ男です」

 

ニャカ山T「ネコ山さんからお話は聞いています。そろそろお見えになると思っていました。なるほど、ずいぶんお疲れのようですね」

 

ポチ川「(ネコ山からどんな話が伝わっているんだろう……。ちょっと怪しげだけど、悪い人ではなさそうだ)実は……近ごろちょっと目障りなヤツがいるんです。職場の後輩なのですが、いつも一人で勝手に外回りへ出かけて、朝礼や夕礼にも出ない。そんな不真面目なのに、営業成績トップを獲りました。しかも、上司もアイツには甘いんです。だから真面目にやっている自分がバカバカしくなってきて……」

 

ニャカ山T「ああ、その方はきっと『組織のネコ』ですね」

 

ポチ川「組織のネコ……?! なんですかそれは?」

 

ニャカ山T「組織で働く人には、2つのタイプがあります。ひとつは『組織のイヌ』。社命を第一に考え、組織に忠実な働き方をします。上司から評価されることを重視し、失敗を避けようとしがちです。会社のためであれば、自分を犠牲にしてでも指示命令に従おうとします」

 

ポチ川「それは会社に属している人間として、当然のことなのでは……?」

 

ニャカ山T「もうひとつのタイプが『組織のネコ』です。価値を第一に考え、自分に忠実な働き方をします。顧客から評価されることを重視し、失敗を怖がりません。顧客のためであれば、会社の指示命令をスルーしてでもやろうとします」

 

ポチ川「それはまさにミケ野! あ、その後輩の名前です。アイツは上司にもまったく忖度しないのです! でもそんな彼が評価されるってことは……つまりあなたは『組織のイヌ』よりも『組織のネコ』のほうが優秀だとおっしゃりたいのですか?!」

 

ニャカ山T「まあ落ち着いてください。そういうことではないのです。『イヌがダメで、ネコがよい』のではありません。よいのは『すこやかなイヌ』と『すこやかなネコ』で、ダメなのは『こじらせたイヌ』と『こじらせたネコ』です」

 

ポチ川「『こじらせたイヌ』と『こじらせたネコ』? どういうことですか?!」

 

こじらせたイヌとこじらせたネコ

ニャカ山T「『こじらせたイヌ』は、上からの指示命令であれば何でもそのまま実行します。“指示されたからやる”だけになっていて、やっていることの意味を考えない“思考停止状態”に陥っているパターンです。最悪の場合だと、不正を指示されても、そのとおりにやってしまいかねません。

一方の『こじらせたネコ』は、正当な理由もなく『そういう仕事はやりたくありません』と言います。会社のルールも守りません。しかも、お客さんに価値を提供するという軸がぶれてしまっていて、単なる“わがまま放題好き勝手”にふるまっているパターンです。いわば、ただの不良社員ですね。

というわけで、組織で働く人には次のような4タイプがあります」

ニャカ山T「イヌとネコは、それぞれ得意なことや苦手なことが違います。すこやかなイヌとネコが相互理解をもって、それぞれの強みを活かし合えているのが“よい組織”です」

 

ポチ川「まぁ、おっしゃりたいことはわかります。でも僕はやっぱり、自分勝手なミケ野とはうまくやれる気がしないなぁ……」

 

ニャカ山T「それは、あなたが『こじらせたイヌ』だからでしょうね」

 

ポチ川「えぇ? この僕が『こじらせたイヌ』!? いやいや、ちょっと待ってくださいよ。10年も真面目に働いてきたこの僕がこじらせているだって? あなた、初対面なのに僕の何がわかるっていうんですか?」

 

ニャカ山T「まあ落ち着いてください。イヌがこじらせてしまう原因は、本人よりも組織の側にあることが多くなってきているのです。あなたの会社は創業何年ですか?」

 

ポチ川「昭和元年の創業なので、もうすぐ100年です。それがどうしたと?」

 

ニャカ山T「いま、日本の会社には2種類あります。『令和4年型企業』と『昭和97年型企業』です」

 

ポチ川「昭和97年型……?」

 

ニャカ山T「令和4年を昭和で換算すると、昭和97年になります。つまり『昭和97年型企業』とは、高度経済成長期のやり方を令和の時代になっても変えられていない企業のこと。事業や組織の賞味期限が切れている、または切れかけているのに、なんとか引き延ばそうと騙し騙しの施策を打っているが、明らかに衰退しているので社員が疲弊しているような会社ですね」

 

ポチ川(ゴクリ……まさにうちのことじゃないか……)

 

ニャカ山T「一方の『令和4年型企業』は、いわゆるスタートアップ企業のようなところ。いまの時代背景に合った体制を柔軟に取り入れ、変化を恐れず、世の中に新たな価値を生み出して成長を続けている会社のことです」

 

ポチ川「あの……、昭和97年型の企業で働いていると、どうなりますか?」

 

ニャカ山T「高度経済成長期には、大きな工場をつくって、みんなできちんと役割分担をして、自分の持ち場で言われたとおりにちゃんとやると、事業がどんどん伸びていきました。『組織のネコ』だと、『この作業は何のためにやるんですか?』などと聞いちゃうわけですが、当時は『いいから手を止めないでくれるかな』という世界なわけです。ですので、ネコの人であっても『組織のイヌ』としてふるまうほうが、会社全体のパフォーマンスも上がりやすく、給料も上がっていくので、全員が『組織のイヌ』としてすこやかに働けていた時代だったと言っていいでしょう。

その状態が長く続くうちに、『組織で働くとは、イヌとしてふるまうことである』という考え方が常識化していったのです。すなわち、本来の性質がネコの人でも『イヌの皮をかぶったネコ』として働くほうが幸せになりやすかったと言えます」

 

ポチ川「はぁ、『イヌの皮をかぶったネコ』ですか……」

 

ニャカ山T「しかし、S字曲線を描く成長カーブが『成熟期』、つまり伸びなくなる時期を迎えると、『今までどおりやっているのに結果が出ない』という現象が起こり始め、組織の空気が健やかではなくなっていくわけです」

 

ポチ川「ああ、めちゃめちゃ思い当たるのですが……。ここしばらく、仕事がキツイと感じるようになってきたのはそういうことだったのか……」

 

ニャカ山T「昭和97年型企業では、“会社のため”にがんばったところで事業や組織の賞味期限が切れているわけなので、いわば“腐った食べ物をがんばって配っている”ことになりかねません。組織に忠実であればあるほど、いつしか意欲を失って思考停止し、指示されたことしかやらない『こじらせた社員』になっていきます。

こうして生まれた『こじらせたイヌ』社員は、令和の時代に入社してきた『すこやかなネコ』社員に対して、多大なモヤモヤを感じることになるのです」

 

「自由」ですこやかに働くか、「他由」で悶々と働くか

ポチ川「お先真っ暗な昭和97年型企業で結果が出せない『こじらせたイヌ』……。それってなんだか、絶望的な話ではないですか?」

 

ニャカ山T「いえいえ、そんなことはないですよ、ポチ川さん。同じ組織の中で、『すこやかなイヌ』『すこやかなネコ』として働いている人だって、実はたくさんいます」

 

ポチ川「その『すこやかなネコ』が、うちのような昭和97年型企業で営業トップを獲る、ミケ野だということなのですか?!」

 

ニャカ山T「そうかもしれません」

 

ポチ川「ミケ野が『すこやかなネコ』……。では、どうすれば昭和97年型企業で『こじらせたイヌ』は“すこやか”になれるのでしょうか!?」

 

ニャカ山T「自由に働くことですね。『自由』の意味は、おわかりですか?」

 

ポチ川「それこそ“わがまま放題好き勝手”ではないのですか?」

 

ニャカ山T「違います。ニャンザップでは、自由を『自らに由(よ)る』、すなわち『自分に理由がある』ことと定義しています。『やりたいと思える』とか『やる意味があると感じる』というのが『自由』です。

対義語は『他由(たゆう)』になります。造語ですね。他人から言われたからやっているという『他人に理由がある』状態です」

 

ポチ川「でも、組織に属していると、ほぼすべての仕事は上司から『これやって』と言われて始まりますよね。ということは、仕事はすべて『他由』ではないですか!?」

 

ニャカ山T「そう思いますよね。ただ、上司から言われたあとに自分でいろいろ解釈してみて、『こう考えれば自分でもやりたいと思えるな』とか、『自分でやる意味があると思えるな』と思い至ることができれば、それは『他由』スタートの仕事を『自由』に転換ができた、と言ってよいのです」

 

ポチ川「うーん、なんだかまだしっくりこない……。もし僕が『こじらせたイヌ』だったとして、『すこやかなイヌ』になったら価値観の合わない『ネコ』の後輩とも気持ちよく働けるようになるのでしょうか?」

 

ニャカ山T「その通りです。“こじらせ”が“すこやか”な状態になるとは、言い方を変えれば本来の自分に戻るということ。それを実現するのが『ネコトレ』です」

 

ポチ川「イヌなのに、ネコトレ……? それで本当に効果あるのかな?」

 

ニャカ山T「ふふふ。今日はこの辺にしておきましょう。またのお越しをお待ちしていますよ」

 

今日のネコトレ

Vol.00
【「すこやかなイヌとネコ=本来の自分」を取り戻して、ゴキゲンに働こう!】

・「組織のイヌ」以外に「組織のネコ」という道がある
・「こじらせたイヌ」と「こじらせたネコ」は仕事に問題を抱えやすい
・「他由」ではなく「自由」に働くと、すこやかになれる

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO

「組織のネコ」とは? 楽天大学学長に聞く、組織の中で自分らしく働く処世術

あなたは、今の“組織”で無理せず、楽しく働けている……?「楽天市場」出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立し、社内で唯一、兼業・勤怠自由のワークスタイルを確立した正社員として知られる仲山進也さん。リモートワークや副業など、新しい働き方のスタイルが模索されている時代に、組織の“イヌ”ならぬ、組織の“ネコ”という働き方を提案しています。これからの自分にはどんな働き方が合っているのか、そんな疑問を持つすべての人に読んでほしいのが、『「組織のネコ」という働き方』。ブックセラピスト・元木忍さんが聞き手となり、同書に込められた“自分らしく働く”術を、著者である仲山さんにうかがいます。

 

『組織のネコという働き方 「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント』
1760円/翔泳社

楽天という大企業にいながら兼業自由・勤怠自由の正社員となった著者が説く、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、主に組織の「ネコ・トラ」として幸せに働く方法を紹介する。

 

自由な働き方の定義をちゃんと言語化したかった

元木忍さん(以下、元木):私たち現代人が“自由に働く”って、具体的にどういうことなのか? 仲山さんの著書『「組織のネコ」という働き方』は、それをすごくわかりやすく、なおかつ面白く教えてくれる本だと思いました。今の時代、“自由に働く”というと、自分のやりたい仕事だけをやってイヤなことはしないとか、独立・起業して組織に属さないとか、そんな働き方ばかりがイメージされがちですよね。

 

仲山進也さん(以下、仲山):はい。わがまま放題、好き勝手に仕事ができるというニュアンスだけで“自由な働き方”をとらえてしまうケースは、よくあると思います。

 

元木:ユニークな本書が生まれた背景は、そのあたりにありそうな気がします。

 

仲山:そうですね。僕は社員20人程度だったころの創業間もない楽天に入社して、2000年に「楽天大学」という出店者同士の学び合いの場を設立しました。その後、社内で唯一の「兼業自由・勤怠自由の正社員」という働き方になって、「会社に行っても行かなくてもOK」というプレースタイルを2007年から続けています。

 

「自由に働く=好き勝手やっている」と思われがちなのに引っかかりを感じたことが、この本の出版につながったと話す、著者の仲山進也さん。

 

元木:楽天って規律はわりと厳しい会社ですよね。そんな中で自由に働ける人は珍しいのでは?

 

仲山:そうですね。社内で「仲山は自由でいいよな……」みたいに言われることもあったのですけど、モヤッとしたのを覚えています。「自由でいいよね」の言外に、「こっちはちゃんと働いているのに、好き勝手やれていいよね」というニュアンスをなんとなく感じたからかもしれません。

 

元木:まるでちゃんと仕事をしていないと言われているような……。

 

仲山:自分では「好き勝手」にやっているとは思っていないので、僕のような働き方がどうしたら「変人」に見えないようになるか、“自由な働き方”を言語化したいというのが本をつくった背景にあります(笑)。

 

組織のネコという選択肢がある

元木:そして数年を経てたどり着いた答えが、“組織のネコ”という働き方だったわけですね。本書には自分が組織のネコ派か、イヌ派かを診断できるチェックリストがついていますが、これは面白いです。勤め人を経て独立した私はやっぱり、100%ネコでした(笑)。簡単にいうと、組織から与えられた職務を忠実に遂行するのが得意なのはイヌ。逆に、組織の指示命令が自分の価値観に反する場合は自分の考えややり方を大切にしようとするのがネコ……といったところでしょうか。

 

組織の動物4タイプ。ネコはトラに憧れ、イヌはライオンに畏怖の気持ちを持つ……。4種類の動物の相性、関係性をわかりやすく示した図。

 

 

仲山:元木さんのように10項目すべてが当てはまって、組織を出て独立したような方は、“ネコ道”まっしぐらですね(笑)。逆にあまり当てはまらなかった方は、組織のイヌとして“イヌ道”を進んでいけばよいと思います。ネコがよくて、イヌがダメということではなく、“違い”があるだけのことなので。よいのは“健やかなイヌとネコ”で、よくないのは“こじらせたイヌとネコ”ですもし10項目のうちひとつでも当てはまるものがあって、なおかつ今の仕事や職場に問題やモヤモヤを感じているならば、この先ずっと同じ働き方だと健康によくない可能性があります。こじらせちゃう。

 

元木:仲山さんご自身はやはりネコですよね?

 

仲山:そうなんですが、大学を卒業して就職した最初の会社では、言われた仕事を言われた通りにやっていました。 “イヌの皮をかぶったネコ”状態。

 

元木:たしかに、その働き方は不健康な感じがします。

 

仲山:この本にも登場するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さんがおっしゃっているのですが、今の日本企業には2タイプあって、“令和4年型企業”と“昭和97年型企業”に分かれると。高度経済成長期に急成長を遂げたけれど、事業や組織の賞味期限が切れかけていて、すでに時代に合わなくなった社内文化を引きずったまま今に至っているのが“昭和97年型企業”です。

 

元木:つまり後者の企業は、平成の間に何も変われなかったということですか。

 

仲山:その通りです。月曜日の朝がくるのが憂鬱だったり、正月や連休明けがツラくて仕方ない会社員の多くは、昭和97年型の企業で“イヌの皮をかぶったネコ”として働いている人ではないかと思います。昭和まではイヌの皮をかぶって会社の言うことさえ聞いていればみんなハッピーに暮らせたんです。でも賞味期限が切れかけてくると、それまでと同じことをやっていても同じ結果が出なくなり、もっと無理してがんばることで数字をつくろうとしがちになります。それによって健やかさが失われて、こじらせた人や精神を病む人が増えていくという……。

 

元木:あると思っていたレールの先がなくなってしまった……ということですかね。

 

仲山:もともとネコな人がイヌのふりをしている状態は、本来の性質に合っていない。でも、「働くとは組織のイヌとしてふるまうこと」と思い込んでガマンしながら働くも、結果が出ないのでしんどくなっていきます。そんな人たちに、「組織のネコ」という働き方の選択肢もあると伝えたいんです。楽天市場の出店者さんでも、“イヌの皮をかぶったネコ”な店長さんが、楽天大学で“ネコまっしぐら”な店長さんたちと出会って、思い切って自分を出してお客さんと接するようになると、売り上げが上がったり「仕事が楽しい」と思えるようになったりするんです。身近な人がそうやって変化していくのを見た別の店長さんが、「私にもできるかも!」という気持ちになって、実際に変わっていくということがよくあります。

 

元木:なるほど。そのあたりに、昭和97年型企業が変わっていくチャンスもありそうですよね。そういう“ネコな人”あるいは“ネコな自分を取り戻した人”が成功体験を重ねていくと、そのうち仲山さんのように仕事を心から楽しむ“トラ“になれるってことでしょうか?

 

仲山:この本では、組織にいながら自由に働いて成果を出していく人のことを“組織のトラ”、“トラリーマン”と呼んでいます。さっき話に出た藤野さんが名付け親です。その藤野さんに「仲山さんはトラですね」と認定していただいたのですが、自分ではわかりません。トラになれるかどうかは周囲の評価かなと思います。一方の“ライオン”は組織を統率する従来型の企業エリートですから、肩書に「長」がついているわかりやすい存在です。ぼくが出会ったトラっぽい人たちは、肩書に「長」がついている人もいれば、その人のためにできた肩書がついている人、肩書は平凡な人など、いろいろなパターンがありました。

 

100%ネコ派のタイプだけれど、企業に勤めていた時は“イヌをかぶって”いたこともあった……という元木忍さん。

 

こじらせたイヌ・ネコになっていないか?

元木:逆に、“こじらせたイヌ・ネコ”の人は、これからの時代どうしたらいいのでしょう?

 

仲山:“こじらせている”とは、たとえば、ネコであれば最初の話にあったような自由の意味を履き違えているタイプ。組織で大切なことに対して「なんでやらなきゃいけないんですか」「やりたくありません」などとわがままを言う状態ですね。こじらせたイヌは、指示されたことしかやらず、思考停止してしまっているパターンです。それが極まると、不正を指示されたらそのままやってしまう、というようなことが起こってしまいかねません。

 

元木:イヌにしてもネコにしても健やかでいるのが大事ということですね。ちなみに、“ネコの皮をかぶっているイヌ”というのもいたりしますか?

 

仲山:本には書いていないのですが、いると思います。いわゆる“意識高い系”って揶揄されるようなタイプの人が、イヌなのに「私は自分の価値観を大事にしています」と言っているケースとか。「うちの会社はイケてない」と言いながら、自分で変化を起こそうとするわけではなく、「早くこんな制度をつくってくれたらいいのに」と他人のせいに思っているような。

 

元木:あぁ……なんとなくわかります。自分がどっちのタイプか見極めるのは、実は難しい?

 

仲山:賢い人ほど自分をごまかせてしまいますからね。でも着ぐるみを着て運動したら効率が悪いのと同じで、本来の性質と違うふるまいをしていたら、そのうち必ずパフォーマンスや成長に悪影響が出てくると思います。そういうとき、「無理していないかな?」と立ち止まって、ふりかえりをできることが大事です。

 

世の中には、“イヌの皮をかぶったネコ”な自分に気づいていない「隠れネコ」がまだまだたくさんいるという。イヌとネコ、あなたはどちらだと思いますか?

 

“他由”で選んでいないかを自分の心に聞いてみる

元木:ここで最初の“自由に働く”という話に戻りたいのですが、ネコだから自由、イヌだから不自由というわけではないんですよね。

 

仲山:そうです。自由とは“自分に理由がある”ことだと考えています。対義語は“他由”(造語)で、指示されたからやっている、というのが他由で動いている状態です。

 

元木:他由ですか。なるほど。

 

仲山:自分の欲求で動いていても“他由”な場合があります。たとえば頑張って稼いで高級ブランドのバッグを持ちたい、という動機が、“他人からチヤホヤされること”だったら、それって他人に理由がありますよね。逆に人から言われた他由な仕事であっても、自分で解釈して意味を感じられる状態に転換できたら、それは “自由”な仕事といえます。

 

元木:そういう“自由”な選択ができる健やかなイヌとネコがいる組織は、いいものを生み出せそうですね。

 

仲山:イヌとネコは得意な仕事が異なります。ネコは新しい価値を生み出すのが得意で、イヌは業務を改善しながらきちんと回していくのが得意。トラ・ネコ派が立ち上げたスタートアップがある程度軌道に乗ったら、今度は業務をちゃんと回していけるイヌ派の人が転職してきて活躍するというケースはよくあると思います。

 

元木:もうひとつこの本のいいところは、他者との違いを理解して、人に優しくなれることだと思います。とくに私の場合は、若い人との付き合い方、コミュニケーションの取り方で参考になる部分が多いと感じました。

 

仲山:“強みを活かす”ってよく言われるじゃないですか。これって言い換えると“他者との違いを活かす”ことなので、旧来型の組織が社員に対してやってきた“凹を埋める”というやり方だけでは、強みは活かせないんですよね。決められたことを指示通りこなすことはできない、その代わり得意なことで価値を生み出す、という“組織のネコ”が増えていくと、今後は評価の仕方も変わってくると思うんです。このあたりは、次の本のテーマとして考えています。

 

元木:それも楽しみですね。発売したら、またぜひ紹介させてください!

 

『「組織のネコ」という働き方』とあわせて読みたい、仲山さんの著書。

 

【プロフィール】

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長 / 仲山進也

北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

なぜ名著のマンガ化が続くのか? マンガで読み解く時代

吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』が話題を呼んでいるように、昨今の出版界における新機軸ともいうべき、一連の名作のマンガ化。いま、なぜ“マンガで読む”“マンガで読み解く”がトレンドとなっているのか? 簡潔に人に伝える文章術を学べる『理科系の作文技術』をマンガ化した編集者、中央公論新社の齊藤智子さんをブックセラピストの元木 忍さんが訪ね、その背景を探りました。

 

老舗出版社がマンガ版にトライ

元木忍さん(以下、元木):中央公論新社さんにとって初の試みである『まんがでわかる 理科系の作文技術』。原著は40年近くも売れ続けているロングセラーですよね?

 

齊藤智子さん(以下、齊藤):はい。1981年に中公新書として発行しまして。著者は物理学者の木下是雄(きのしたこれお)先生で、理科系の学生やビジネスマンの方にとってのバイブルとしてずっと売れ続け、現在100万部を突破しています。

 

元木:すごいですね! 中公さん(中央公論新社)にとってのベストセラーですね。新書なのに作文“技術”の内容なので、少し驚きました。こんなにコンスタントに売れ続けているということは……単刀直入に訊きますが、理科系の方って、いわゆる作文が苦手なんですかね?

 

齊藤:元木さんが、今思い浮かべている“作文”とはおそらく、情緒的な言葉で綴られたものなのでは?

 

元木:まあ、作文といえばそう感じてしまいましたが……理系の作文って全然違うのですか?

 

齊藤:はい(笑)。文学的なものではなく、論文やビジネス文書といった「作文」を指しています。

 

元木:“論文”というととても難しそうですが、作文というジャンルでは文学的な作文と違いはないのでは、と感じてしまっていました。

 

齊藤:理系の方は、作文が苦手というよりは抵抗がある、という感じでしょうか。だからか、原著は代々、大学の先生方が「論文を書くときに役に立つから」と。

 

元木:それはいいですね。この本を学生さんたちに紹介してくれるんですね?

 

齊藤:紹介するというよりは、「お願いだから読んでおいて」といったところでしょう(笑)。おかげで毎年、新入生、新社会人の方々が読んでくださっています。

 

元木:それが年々積み重なって……もう37年! 電子書籍版も売れているとか。そして、満を持しての“マンガ”化なんですね!

 

まんがでわかる 理科系の作文技術
1296円/中央公論新社
ひたすら“明快・簡潔な表現”を追求する文章術のベストセラーをマンガ化。原著のエッセンスをギュッと詰め込み、マンガを読むだけで、的確な文章スキルが身につく。

 

“ビジネス書”の棚に置かれるマンガ

元木:マンガ化のきっかけとは?

 

齊藤:「マンガでわかる」とついた本が他社さんからいくつか出版されていて、書店でもけっこう目立つなぁ、と。しかも、マンガではあるけれど、マンガの棚ではなく、ビジネス書コーナーに置かれている。他社さんの新聞広告も頻繁に目にしまして。ほかの書籍と比べて出稿スペースが大きい。

 

元木:ということで、マンガ版を考えたってことですね? 本屋で平積みになっていたり、多くの宣伝費をかけているってことは売れるだろうと予測がつきますからね。ということは、マンガ版は、宣伝費をかけるほど売れる可能性があったということですものね!

 

齊藤:はい。従来のうちのベストセラーも、マンガにしたらイケるのでは? と思いまして……。

 

元木:この企画を、齊藤さんが提案されたんですね?

 

齊藤:いえいえ(笑)。最初は、上司との世間話の中で「今、マンガ化した本、けっこういいんですよねぇ。うちでもやったらいいのに」と思いつきをポロリ。すると、「じゃ、やってみたら」と言われて。

 

元木:言い出しっぺが担当する、という事態になった感じですね(笑)。驚きました?

 

齊藤:驚きましたよ(笑)。だって私、こうしたマンガは作ったことがなかったんです。コマ割とかわかりませんし……。でも、マンガ専門の編集プロダクションさんにご協力いただき、私自身も勉強して挑みました。

 

 

第一弾は絶対に失敗したくなかった

元木:中央公論新社には、ベストセラーがたくさんありますよね。マンガ化の第一弾としてなぜ、『理科系の作文技術』を選んだのですか?

 

齊藤:まずは、新書だけでなく、文庫、単行本含めるベストセラーのなかから、20〜30の作品を候補に挙げました。第一弾は“これぞ中公!”というものを出したかったので、中公新書に絞りました。

 

元木:緑色の表紙=中公新書といえば、すごく真面目な本ばかりで重々しいイメージ。それをマンガ化にする提案にもビックリしますけど!

 

齊藤:よその「まんがでわかるシリーズ」で売れているものを調査したところ、ビジネス書、ハウツーが売れている。そのなかにいろいろなジャンルがありますが、自己啓発よりもビジネスに直結して役に立つものがいいと判断しました。「そこに合致するのはなんだろう?」と営業部の人とも相談しながら、『理科系の作文技術』に決まったんです。

 

元木:この本に決めるまで、どのくらいの期間がかかったんですか?

 

齊藤:“マンガ化”というジャンルをやるかやらないか、の検討がありましたし、そうですね……3〜4カ月はかかりました。

 

元木:歴史ある御社のイメージからすると、「マンガはちょっとなー」という反対勢力は、実際にはあったりしたのでは?

 

齊藤:いえいえ、そんなことはありませんでした(笑)。以前からコミックエッセイはありますしね。でも「新書をマンガにする? そんな必要があるのか?」という意見はありました。

 

元木:え? なんで? どうして?

 

齊藤:世代の差でしょうか……。そもそも“難しいものをわかりやすくコンパクトにした”のが新書なんです。すでにわかりやすいのに、さらにマンガでわかりやすくしてどうするんだ、と。

 

元木:へえ、知らなかった!(笑)。難しそうなことがギュッとつまったのが新書だと思っていました。

 

齊藤:私も。「新書のテーマって難しい」と。でも、新書編集部やずっと新書に携わってきた方々にしてみれば「新書読めばよくない?」となる。

 

元木:でも、齊藤さんはそこを覆してトライしたんですね。ご自身が、新書よりもマンガのほうがわかりやすい世代で、わからない世代を説得してこの企画を通したのが凄い!! さあ、結果はいかに?

 

齊藤:1月25日に発売しまして、1カ月半でめでたく3刷、2万5000部になりました。

 

元木:パチパチパチ!! 起案して形になり、実績を上げた。すばらしいです。「ほら、間違ってなかった!」という鼻高々の気持ちでは!?

 

齊藤:いえいえ(笑)。でも正直、ホッとしました。この1冊だけで終わるつもりはありませんから、第二弾、第三弾と出していきたいですからね。せっかくマンガの勉強もしましたし(笑)。

 

齊藤さんが、作画で気をつけた点は、登場人物の顔が、みんな同じようにならないよう描き分けること。たしかに、それぞれのキャラクターが立っていて読み進めやすい

 

齊藤さんが、作画で気をつけた点は、登場人物の顔が、みんな同じようにならないよう描き分けること。たしかに、それぞれのキャラクターが立っていて読み進めやすい

 

齊藤さんが、作画で気をつけた点は、登場人物の顔が、みんな同じようにならないよう描き分けること。たしかに、それぞれのキャラクターが立っていて読み進めやすい

 

相乗効果で原著の売れ行きも上昇中

元木:マンガ版とともに、原著の新書版も売れているようですね。

 

齊藤:Amazonのジャンル別ランキングでは、1位がマンガ版で2位が新書版ということもありましたね。相乗効果は確実にあります。

 

元木:マンガ版を読んで満足した人もいれば、さらに知識を深めたい、理解したいと新書版を読みはじめる人もいるでしょうね。男女比はどうですか?

 

齊藤:新書版は4分の3が男性です。マンガ版は半分まではいかないけれど、40%以上は女性です。女性のほうが、マンガに抵抗がないというか、視覚で理解することに慣れているのかもしれませんね。

 

元木:ところで、肝心なことをお聞きしたいのですが(笑)、この本のマンガ化を手掛けて、齊藤さんご自身は「作文技術」のスキルが上がりましたか?

 

齊藤:ふふ、上がりましたよ! もともと文章を書くことは苦手ではありませんが、理科系としての端的、的確に伝えることの大切さを知りました。「何度も推敲しろ」というのがあって、一度読んだあと、ちょっと間を置いてまた読み返す。そうすると“不必要”な部分が見えてくるんです。
それまでは、締め切りギリギリに書いて提出していたんですが、推敲のための時間が必要だと知りましたから、「早めに書かないとダメだ!」となりました。

 

元木:おお! 編集者自らが成長している!(笑)

 

 

齊藤:ほかにも「ナニナニだと思われる」という曖昧な表現を避けるようになりました。企画書で、つい「なんとからしい」と使ってしまうのですが、2回、3回と読み直すうちに気づくようになりましたね。私だけじゃなく、上司もそうなっています(笑)。

 

元木:編集者って、ややエモーショナルな文章を書きがちですものね。あと、長く書かなくちゃ、とも思いがちだから、原点に戻っている感じですね(笑)。

 

齊藤:そうそう(笑)。盛り上げなくていいよ、淡々と書いて。「短く書け」ともありますので。でも、「1年かけてつくりました!」なんてつらつらと伝えたくなるんですよ、どうしても。でもそれじゃダメ。企画書の読み手にしてみれば、「1年間の軌跡を読まされてもね」となることがよくわかりました。

 

続いて、“マンガで読み解く”なら原著は読まなくていい? シリーズの新作とは? など、まだまだ編集担当ならではの語りは続きます。

 

マンガ版を読めば原著はいらない?

元木:では、このマンガ版を読めば、原著を読んだ際と同じスキルが身につくと理解していいですか?

 

齊藤:いろいろな意見があると思いますが、マンガであろうと原著であろうと、どのカタチで読んでも読者にとっては、その“テーマの本”なんです。ここに気がつきました。他社さんのマンガ版もそうであると思っています。ただ、マンガ版はあくまでエッセンスを抜き出して構成していますから、学びの要素は原著のほうがたくさんあります。マンガ版は、入門書のような位置づけになるのかもしれません。

 

元木:マンガ版なら小一時間で読めちゃう。こんなに読みやすくしてくれて、それで本が売れて、原著の読者も増える。出版社にとってこんなにうれしいことはないですよね。“読みやすい”というのは、作画のタッチや登場人物のキャラクター設定が大きく関わってくると思いますが、齊藤さんはマンガ、お好きですか?

 

齊藤:少女マンガ、少年マンガからは脱却しましたが好きですよ。子どものときは、少女マンガの主人公に共感してドキドキしましたが、大人の今はあんなにドキドキしませんし、少年マンガのスピード感についていけませんから(笑)。最近は、『甘々と稲妻』(雨隠ギド・講談社)や『いぶり暮らし』(大島ちはる・徳間書店)といった“食べものマンガ系”にハマっています。

 

元木:もしや、マンガ編集者になるのが夢だったとか? それとも文芸の編集者を目指していたとか?

 

齊藤:いえいえ。実はそれほど本を読むのが得意ではなく。雑誌とかビジュアルで楽しめるものばかり見ていまして。大学時代もゼミの冊子を作ったりした経験もあって、デザインをやってみたいなぁ、と思っていました。たまたま小社でアルバイト募集があって、そのままズルズルと、産休を挟むと15年お世話になっています。

 

 

元木:お子さんを産んで復帰して、ベストセラーを出すとは輝かしい! この勢いで「まんがでわかるシリーズ」は第二弾の構想は、もう進んでいるんですか?

 

齊藤:もちろんです。『理科系の作文技術』でいわゆるハウツー書の実績を出したので、次はメンタル面についてのマンガ版を企画しています。ビジネス評論家の楠木 新さんの新書『定年後』のマンガ版が、4月25日に発売予定です。

 

元木:次はあの『定年後』の本がマンガ化になるのですね? 確か人生の後半戦を輝かせるためのコツが書かれた、ベストセラーですよね。

 

齊藤:はい。2017年に出まして現在25万部。マンガ版のあとには新書の第二弾も出る予定です。ほかにもラインナップが控えていますのでご期待ください!

 

組織を離れてしまうと、仕事や仲間を失って孤立しかねない。お金を持っていても健康であっても時間にゆとりがあっても孤独ではいたたまれない……そんな定年後の最大の問題は何か? を赤裸々に説いた書。楠木 新・著『定年後』

 

今求められているのは“役に立つマンガ”

元木:ホント、中公さんは名著をたくさんお持ちだから、続々、マンガ版が登場するんでしょうね。

 

齊藤:マンガ版が成立するのは、原著がしっかりとした評価を得ているからだと思います。まったくなにもない状況で『マンガ 理科系の作文技術』なんて出しても、書店さんの棚にどーんと置かれると思いますか?

 

元木:そうですよね。本の内容が、ちゃんとしていてこそですね!

 

齊藤:それに原著がないマンガですと、マンガの棚に置かれる可能性もあります。ですが原著の実績があるから、今回、ビジネスコーナーに置いてもらえた。この差は大きいです。

 

元木:ビジネス書を見る人は、常に「自分の役に立つナニか」を探していますものね。マンガだろうと新書だろうと“身になる”本を探しているのかもしれませんね。

 

齊藤:「単なるマンガではなく、役に立つマンガ」が求められている。30代、40代のニーズはそこだと思います。

 

元木:はい。そこに気づいた出版社が増殖していて、「まんがでわかるシリーズ」は今現在の出版界のトレンドになりつつある。これからも、中公さんならではの、知識欲を刺激するきっかけになるマンガ版、楽しみですね。

 

今話題のマンガで読み解く名作

『まんがでわかる7つの習慣』1080円(宝島社)
主人公とともにステップアップしていることを体感できる『まんがでわかる7つの習慣』。原著は全世界で3000万部も読まれているスティーブン・R・ゴヴィーン博士の著『7つの習慣 成功には原則があった!』(キングベアー出版)

 

『まんがでわかる 伝え方が9割』1296円(ダイヤモンド社)
『まんがでわかる 地頭力を鍛える』1404円(東洋経済新報社)
どちらも主人公をかわいらしい女性に設定したことで、原著とは異なる層の女性読者が多い。

 

『漫画 君たちはどう生きるか』1404円(マガジンハウス)
児童文学者でありジャーナリストの吉野源三郎による『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)は80年前の著。写真中央は現代仮名遣い版で、写真右がマンガ版(ともにマガジンハウス)。

 

【プロフィール】

中央公論新社 / 齊藤智子(左)
大学卒業後、アルバイトで中央公論社(現・中央公論新社)に入社。現編集部にて一般書籍や美術書のほか、『猫ピッチャー』『母娘問題』などのコミック表現のジャンルにも携わる。

ブックセラピスト / 元木 忍(右)
ココロとカラダを整えることをコンセプトにした「brisa libreria」代表取締役。大学卒業後、学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とつねに出版に関わり、現在はブックセラピストとして活躍。「brisa libreria」は書店、エステサロン、ヘアサロンを複合した“癒し”の場所として注目されている。

 

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人生を切り拓く“ささやかな成功”と“それなりの失敗”

21歳の娘はフランスで教育を受けてきたが、現在は経済学を専攻していて、今はパリのシャルル・ドゴール空港の近くにある物流企業でインターシップをしている。日本でいうと大学2年目に当たるのだが、フランスの高等教育は前期と後期に分かれていて、娘のいる学部では前期の終了と進級のためのミッションがインターンシップなのだそうだ。

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フランスではインターンシップのことをスタージュと呼び、公教育ではなんと中学最終学年からそれがはじまるのだ。中学生で1週間、高校生で2週間、全生徒が職業体験をする。もちろんこの年齢では親や学校がスタージュ先探しをサポートするので問題はない。

 

大変なのは大学生からだ。大学側のサポートはいっさいなく、職探しは自力。しかもかなり本格的で、実際の業務にかかわり、語学力、企画力、営業力などなどが点数評価され、その証明書がその後の学位取得や、さらにその先の就職にも関わってくるので、学生たちは皆、必死だという。

 

 

日本人だから得することもある

1ヶ月間のインターンシップをクリアできなかった場合は留年になってしまうので、娘は夏休みの頃から、求人サイトをチェックし、30社以上に、履歴書とモチベーションレターを送っていた。断りの返事がくるのはまだいいほうで、大半は無視されて終わりだった。受け入れ可能の返事が来たのは3社で、その後の面接を経て1社で無事に雇ってもらえることになった。

 

「私が日本人だから、興味をもってもらえたみたい」と娘は言っていた。というのも返事がきた残り2社を国籍の違う友だちに譲ったところ、会社側から日本人じゃなきゃいらないと言われてしまったそうだ。同じ学部の半数近くの学生は未だにインターンシップ先を見つけることができず、留年の危機にあるという。

 

国際社会において、日本人がどれだけ信用されているかが分かったようで、日本人に生まれてよかったと娘はしみじみ思っているようだ。

 

が、しかし、実際に始まった仕事を覚えるのは大変で、毎日冷や汗の連続らしい。きっとミスもたくさんするだろう。このインターンシップを終えたとき、ささやかな達成感を得られるよう、親としては願うばかりだ。

 

悩んでも今の会社にしがみついたほうがいい!

さて、ビジネスマンとして成功したいと願う20代、あるいは今からでも人生を切り拓きたい30代、40代にも、ぜひ読んでほしいのが『20代でしておきたい「ささやかな成功」と「それなりの失敗」後悔しない最初の8年の過ごし方』(清水克彦・著/学研パブリッシング・刊)だ。

 

著者の清水氏は、自らが立てた“人生戦略”で成功を手に入れた、ラジオ局会社員、ジャーナリスト、ラジオプロデューサー、ビジネス作家、大学講師の5つの顔を持つスーパー・ビジネスマン。自身の体験談を交えた、数々のアドバイスには説得力がある。

 

本書には45項目のアドバイスがあるが、気になるいくつかを紹介してみよう。

大卒新入社員の内、3割が3年以内に会社を辞めているという現状に対して、清水氏は「行き詰まっても悩んでも、今の会社にしがみつけ!」と言っている。著者自身も20代の頃は、会社の規模が小さいから何もできない、上司に見る目がないから力が発揮できないと、自分が浮かばれないのは労働環境や他人のせいにしていたそうだ。

 

しかし、清水氏は会社を辞めることはせず、3つのチェックを自分に課した。

 

●今の職場で自分らしさが発揮できるところは本当にないのか?

●将来、夢の実現のために今の仕事を放棄することが本当に得策なのか?

●他業種や同業他社に移る、あるいは起業することでリスクはないか?

 

その結果、「自分らしさを発揮できる部署はある」「ラジオの仕事を通じて得られる知識や人脈は夢の実現につながる」、そして「テレビ局等へ移籍したりフリーになったりした先輩を見ると必ずしも先々明るいとは言えない」と判断し、ラジオの仕事を大事にしつつ、加齢とともに自分に武器をプラスしていくライフコースを選んだのだ。

(『20代でしておきたい「ささやかな成功」と「それなりの失敗」後悔しない最初の8年の過ごし方』から引用)

 

現在の職場で悩みを抱えている方、ちょっと立ち止まって自己チェックをしてみてはどうだろう。

 

 

評価される近道とは?

誰だって会社のなかでは「仕事がデキる」「あいつは、なかなかやるじゃないか」と思われたい気持ちが強いものだ。しかし、独りよがりや気負いは失敗のもと。仕事内容でもしも不得手な部分があれば、それを得意とする人間にパスしたほうがいいそうだ。

 

「自分はデキる」というオーラを撒き散らしたりせず、謙虚に、そして素直に、ときには弱みも見せながら、堂々と知恵を借り、助けてもらえばいいのだ。(中略)周囲の人間に助けてもらうときにも、

STOを意識してみよう。

S=少しだけ…、

T=助けて、

O=お願い!

そうすると、「頼りないやつ」と思われるどころか、意外にも「チームの和を大切にする人」というイメージを持たれたりするので、若いあなたならなおのこと、(自分には力がある)と思っていたとしても、周囲の人の力を借りながら仕事を進めたほうが、すべてが円滑に進むようになるはずだ。

(『20代でしておきたい「ささやかな成功」と「それなりの失敗」後悔しない最初の8年の過ごし方』から引用)

 

本書には、この他にもビジネスマンとして成功するためのノウハウがいっぱい。ささやかな成功を手に入れたいサラリーマンには必見の一冊だ。

 

 

【著書紹介】

GKNB_BKB0000405910092_75_COVERl
20代でしておきたい「ささやかな成功」と「それなりの失敗」 後悔しない最初の8年の過ごし方
著者:清水克彦
出版社:ブックビヨンド

入社3年で目標を立て、小さな成功を積み重ね、するべき失敗をきちんとしておけば人生はすべて思うまま! 会社員・ジャーナリスト・プロデューサー・ビジネス作家・大学講師の5つの顔をもつくスーパーサラリーマンが説く、20代の”等身大”人生設計術。

 

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