「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!
ネコトレVol.20「ネコと就職」
就職観に透けて見える“世代間ギャップ”
吾輩はイヌである。
名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機11年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

売り手市場の就職期。犬山電機では新たな取り組みとして「採用広報」が始まった。営業部からは、中堅社員としてポチ川と、新人として白田ワン子が取材を受けることになり、インタビューが行われたのだが……。
広報担当「では、次にお二人が『犬山電機を選んだ理由』を教えてください」
ポチ川「それはもちろん、長年の歴史と伝統があり、安定している会社だったからです。福利厚生も充実しています。ここで着実にキャリアを築いて定年まで勤め上げるのが理想的な働き方だと思いました。なにより、やはり両親を安心させたかったですしね!(キリッ)」
白田「就職活動では『社会的な課題解決に貢献できる仕事かどうか』を軸に考えていたので、NPO法人やソーシャルベンチャーも回ったんです。関わる方々から感謝される仕事がやりたいと思って。実際、直接的に人の役に立っている実感を得やすいと聞いていました。それでかなり悩みましたが、犬山電機を選んだんです」
ポチ川「(え、NPOと悩んだの!?)」
広報担当「決め手は何だったんですか?」
白田「犬山電機でも環境に配慮した製品開発など、社会に良い影響を与える取り組みを進めていると知り、興味を持ちました。ただ一番の理由は、面接官の方々がとても魅力的だったからです。『こんな人たちと一緒に働きたい』と思ったのが決め手でした」
広報担当「その面接官というのは、誰だったのですか?」
白田「タマ田さんと西部(さいべ)さんです」
ポチ川「え、タマ田!? 僕の同期の……?」
白田「社長直轄プロジェクトのタマ田さんです。ポチ川さん、同期だったんですか?」
ポチ川「え、あ、うん。そうなんだよね。タマ田もまぁ、いいヤツだよね、うん」
白田「タマ田さんと西部さんのお話を伺って、この会社なら本業を活かしたカタチで社会課題に貢献できると確信できましたし、何よりお二人の人柄に惹かれたんです」
ポチ川「そ、そうなんだ(……サイベさんって誰かな?)」
広報担当「なるほど、素晴らしいですね。それで実際、仕事はいかがですか?」
白田「はい! 私の教育係のミケ野さんが立ち上げた、量販店コミュニティの仕事が本当に楽しいです! いろいろなアイデアを出させてもらえますし、反応を直接いただけますし。最近、量販店さんから『このあいだの白田さんのアイデア、やってみたら手応えあったよ。ありがとう!』と言ってもらえたんです! 私は『ありがとう』と言われる仕事をやりたいと思っていたので、最高です」
ポチ川「……」
自分が指導する新人・黒井ニャン吉は会社を休みがちだというのに、タマ田とミケ野はZ世代にウケている。それは一体なぜなのか……。インタビューを終え、どうにも心が落ち着かないポチ川は、いつものニャンザップへと足を運んでいた。

Z世代は何を考えているかわからない?
ポチ川「こんばんは……」
ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。表情が冴えないようですが、何かありましたか?」
ポチ川「ええ……実は今日、会社の採用広報のインタビューを受けたんです。それで、一緒に取材を受けた新卒の白田さんの話を聞いて、なんだかモヤモヤしてしまって……」
ニャカ山T「といいますと?」
ポチ川「ウチを選んだ理由を、社会課題の解決ができると思ったから、とか言うんですよ。さらには、なんと就職先としてNPOなんかと迷ったそうで、意識高すぎじゃないのかとびっくりして。僕の就職活動のときにはそんなハナシ聞いたことないですから」
ニャカ山T「なるほど。ポチ川さんは会社を選んだ理由を何と?」
ポチ川「僕はやっぱり、会社の安定性とか福利厚生とかですよ。親も安心して喜んでくれましたしね。ただ気になるのは、白田さんの入社の決め手になったのが、面接官がタマ田だったからだと言っていて……。さらに、白田さんの教育係がミケ野なんですが、そのおかげで仕事が楽しいって言うんです」
ニャカ山T「ほう。そういえば前回、ポチ川さんが指導している新卒の方が会社を休みがちだと言われていましたね」
ポチ川「黒井ですね。今も休んでいます。それで、もしかしてZ世代の考えがわかっていないのは僕だけなのか、みたいなモヤモヤが……」
ニャカ山T「そういうことでしたか。それにしても、白田さんという方のお話はいいですね」
ポチ川「いやいや、あんなの理想論でしょう! 仕事ってもっと泥臭くて、特に営業なんて数字を上げなきゃ生き残れないシビアな世界ですよ。今はたまたま楽しいかもしれませんけど、いつまでもキレイゴトだけでうまくいくわけがないんですよ! 白田さんも黒井も考えに甘いところがあると思いますよ」
ニャカ山T 「今日のポチ川さんは、いつも以上に凝っているようですね。では、今回のテーマは『世代による就職観ギャップ』 にしてみましょうか」
令和は“キレイゴト”でも食べていける?
ポチ川「やっぱり“世代の問題”ということでいいんですかね?!」
ニャカ山T「今日は昔話でもしましょうか。大学時代の友人の話です。彼自身、就活時点でやりたいことはありませんでした。そもそもどんな仕事が向いているかもわからないので、面接で『質問はありますか?』と聞かれたときには、『ありがとうと言ってもらえる仕事がしたいのですが、御社にはそういう仕事はありますか?』と聞いていたそうです」
ポチ川「(白田さんの話と似ている……)」
ニャカ山T「多くの会社の面接官から『そんなキレイゴト』と鼻で笑われたといいます。当時は組織の歯車として働くことが求められていました。大量生産・大量消費の流れが成熟してきて、限られたパイをいかに奪い合うかが重要視されていたのです。手段を選ばず競合他社からシェアを奪った社員が、表彰されていました」
ポチ川「その方は、結局、どうなったのですか?」
ニャカ山T「『ありがとうと言われる仕事をしたい』と話した彼の言葉を笑わず、受け止めてくれた大手企業に内定をもらい、就職しました。ただ、3年も経たないうちにインターネット系のベンチャーに転職をしました」
ポチ川「そのパターン、僕の大学同期のネコ山とかなり似てませんか!?」
ニャカ山T「そうですね。まあ、私の友人はちょっと早すぎたんでしょう。当時はインターネットが出たてで認知度も低かったので、大手を辞めて転職するなんて、かなりの変わり者だと思われていたようです。白田さんの話を伺うと、ようやく時代がそういう方向になってきたのだなと思えます」
ポチ川「そういう方向? キレイゴトで食っていける時代ということですか?」
ニャカ山T「若い彼らは、親世代が組織のために必死にがんばっているのに、あまり幸せそうではない姿を見てきています。そもそもモノが有り余っているのに、もっと売り込もうとする活動に価値や意味を感じていません。自分たちより上の、工業化が始まってからの世代が地球の資源を使い、環境に負荷をかけながら自らの利益を追い求めた結果、さまざまな社会問題が顕在化してきています。それらを何とかすることに価値や意味を感じているのではないでしょうか」
ポチ川「え、じゃあ、ニャカ山さんの世代よりも若いのに、そういう価値観がわからない僕はやっぱり意識が低いってことですか?!」
ニャカ山T「意識が高いとか低いというより、見えているものが違うのが大きいかもしれません。というわけで、今回のネコトレは『リバースメンターをつける』にしましょう」
立場が逆転すると見えてくるもの
ポチ川「リバースメンター? 飲みすぎて吐きながら指導するメンター?」
ニャカ山T「……違います。リバースメンターは、若い世代の社員が年長者に対して、新しい知識や技術、視点を教えるものです。例えば、最新のテクノロジー、SNSの活用方法、新しい世代の価値観などを伝えます。つまり、ポチ川さんが白田さんや黒井さんに教えを請うわけです」
ポチ川 「はぁ? そんなの必要ないでしょう! 長年の経験こそが重要なのであって、若い人に教わるなんて! 第一、最近の若いモンは常識もなっていないじゃないですか。仕事が気に入らないとすぐ休んだりするし! 経験豊富な世代が若い世代を指導して、会社の伝統やルールを叩き込むほうがよっぽど大切ですよ!」
ニャカ山T 「そうですか。では、もしポチ川さんの”推し”のアイドルが、ベテランや中堅の歌手に対して、最新のSNSでのファンとの交流方法を教えるとしたらどうでしょうか?」
ポチ川 「それはきっと素晴らしいメンターになるでしょうね! わが推しはいつも新しいことにチャレンジする姿勢が素晴らしく、各種SNSでもファンとのコミュニケーションをすごく丁寧にしていますから。それに、新しいファン層を獲得するために、積極的に自分より若い世代のトレンドを学ぼうとしていますし、それを自分の活動に取り入れる柔軟さも持ち合わせています。その姿勢から学べることは、僕らにとって数え切れないですよ。そうだ、ニャカ山さんもぜひわが推しをリバースメンターにすべきです! まずは何から観たらよいか教えましょうか?!」
ニャカ山T「あ、ちょっと次の予定が入っていますので、きょうはこのへんで。またいつでもいらしてくださいね」
今日のネコトレ
Vol.20
【“リバースメンター”につこう】・「教えるのは上から下」という固定観念を手放そう
・若い世代に「彼らから見えているもの」を教わろう
・お客さん、ひいては世の中から「ありがとう」と言われる仕事をしようVol.00から読む
Vol.19「ネコと人材育成」<< Vol.20 >> Vol.21「ネコと転職」
仲山進也
仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。
『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。
取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO