アロマやフレグランスがライフスタイルに定着し、暮らしのいろいろなシーンを“香り”で演出している人が増えています。
日本の香りの文化は、今に始まったことではありません。「香道」という芸道があるように、古くから香りを楽しむ習慣が育まれてきました。そんな日本古来の伝統を守りながら、現代の暮らしに溶け込む新しい香りを提案しているのが、京都の香老舗で、今春、東京・丸の内の商業施設「KITTE」に香りのセレクトショップをオープンした、薫玉堂です。
歴史は安土桃山時代の薬種商までさかのぼる
薫玉堂は、日本最古のお香調進所で、その歴史は、秀吉が天下をとった安土桃山時代の文禄三年(1594年)までさかのぼります。本店のある京都・西本願寺前に薬種商「薫玉堂」を開いた創業者・負野理右衛門は、薫香の研究にも取り組み薫玉堂の基礎を築きました。創業以来420余年に渡り、天然香料を主とした調香技の伝統を継承しながら、寄り添う時代に合った香りを作り続けています。


現代に合わせ店も香りも刷新、暮らしによって和の香りを使い分ける
長年、主にお寺向けのお線香をつくってきましたが、京都で培った香老舗の香りを、より多くの人の知ってもらいたいという思いから、香りの総合ブランドを目指して2014年にリブランディングを決断。中心となって進めたのが、薫玉堂のブランドマネージャーである負野(おうの)千早さんです。
※「負」の正式な表記は、刀に貝
負野さんは、薫玉堂に代々伝わる香りのレシピが書かれた調香帳をもとに、新しい商品の開発をはじめました。2016年に、京都の情景を香りで表現した線香など“現代の暮らしに合う和の香り”をもってリブランディングを果たします。続いて2017年にお香の材料を使ったハンドクリームを、2018年には石鹸を生み出しました。
「私どもにしかできないオンリーワンを目指し、京都の四季折々の材料とお香の天然原料を組み合わせることにこだわりました。この2つを結ぶことでカタチになったのが、現代の暮らしに合わせたオリジナル商品なんです」(負野さん)
●薫玉堂で扱う代表的な天然香料
・唐木香 からもっこう:キク科の多年草の根を乾燥させた生薬(健胃・整腸剤)。芳香と苦みがある。中国・インド北部原産。
・大茴香 だいういきょう:モクレン科の常緑喬木の実。香辛料「八角」としても知られる。中国南部・インドシナ北部原産。
・丁子 ちょうじ:フトモモ科の花蕾。辛く刺激の強い香り。古来、代表的な香辛料。インドネシア・ザンジバル原産。
・零陵香 れいりょうこう:サクラソウ科モロコシソウの地上部の全草。スパイスとして、種子を薬用にも。中国原産。
・甘松 かんしょう:オミナエシ科の草木。根および根茎を乾燥させたもの。茎は生薬として鎮静、健胃に使用。中国原産。
・かっ香 かっこう:パチョリとも呼ぶシソ科の多年草。全草または葉を乾燥させたもので健胃薬としても使用。中国原産。
・山奈 さんな:ショウガ科バンウコンの根茎を乾燥させたもの。漢方としては消化促進等に。中国・インド北部原産。
・桂皮 へいひ:クスノキ科の常緑樹高木の樹皮を乾燥させたもの。シナモンの名で親しまれる。中国・ベトナム原産。
・龍脳 りゅうのう:フタバガキ科の常緑高木より採取される塩状の結晶。防虫効果、墨の香りとしても有名。スマトラ・ボルネオ原産。
・安息香 あんそくこう:エゴノキ科の安息香樹の樹脂。バニラに似た濃厚な香りで保留効果がある。スマトラ原産。
・没薬 もつやく:カンラン科の芳香ゴム樹脂が凝固したもの。古くはミイラの防腐剤。東アフリカ・南アフリカ原産。
・拝草香 はいそうこう:拝草の根を乾燥させたもの。漢方では芳香性健胃薬として用いられる。中国原産。
・乳香 にゅうこう:カンラン科の樹木のゴム樹脂が凝固したもの。鎮痛やリラクゼーションに使われる。南アラビア・東アフリカ・インド原産。
・ウコン:ショウガ科の多年草。根茎を乾燥させたもので、ターメリックと呼ばれる。中国原産。
・龍涎香 りゅうえんこう:マッコウクジラの腸内に発生する結石状のもの。アンバーグリスとも呼ぶ。インド・アフリカ原産。
・貝香 かいこう:巻貝のふたの部分にあたり、香りの保留効果がある。南アフリカ原産。
・麝香 じゃこう:山岳地帯に生息する雄の麝香鹿の香のうより採取。ムスクとも呼ぶ。チベット・ネパール原産。
・伽羅 きゃら:ベトナムの限られた地域でしか産出されない、沈水香木の中でもっとも品位の高い香木。ベトナム原産。
・沈香 じんこう:ジンチョウゲ科の樹木の樹脂がさまざまな要因で凝結し、熟成されたもの。ベトナム・インドネシア原産。
・白檀 びゃくだん:ビャクダン科の芯材部分。インドマイソール原産の「老山白檀」が最高品質。インド・インドネシア原産。
薫玉堂が、これらを調香し提案する和の香りは、リラックスしたい、リフレッシュしたい、仕事に集中したいといった気分による使い分けや、利用シーンによってセレクトできる工夫も凝らされています。
負野さんは企画を組み立て、各部署のスタッフとともに試行錯誤を繰り返しながら“現代の生活に寄り添った香り”をカタチにしてきました。では現在、薫玉堂で販売されている代表的な商品を紹介していきましょう。
・香りをくゆらせる
「線香」(紙箱)各1620円
天然素材を主にした調香帳のレシピをもとに、現代の香りをイメージして調合したお線香。

・香りを忍ばせる
「香袋」(巾着)各864円
美しい麻の袋にさまざまなお香を詰めた「香袋」。バッグに入れ、好みの香りを持ち歩くことができます。
「文香」(各3枚)1080円
美しい麻の袋にさまざまなお香を詰めた「香袋」。バッグに入れ、好みの香りを持ち歩くことができます。
「衣香」(6個)1296円
「ころもこう」と読みます。白檀を主にラベンダーやユーカリなどを調合した衣類保管にぴったりのお守りです。お香は草原に吹き渡る爽やかな風をイメージしています。
・香りと彩りを楽しむ

お香の原料を粉末状にして調合し、いろいろな形の型にはめてつくる「印香」。お線香に用いる11種類の香りから、8種類をセレクトしています。
・香りを塗る
「塗香」(15g)648円~1296円/「塗香入れ」3888円
体に塗ることで邪気を払い、心身を清めると言い伝えられる「塗香」(ずこう)。粉末状になっているので火を使わずに香りを楽しめます。少量を手にとって刷り込むと白檀の香りがふわりとただよいます。和の新しいフレグランスとしても注目されています。
・キャンドルやオイル、石鹸で楽しむ
「ソリッドソープ」2808円/「キャンドル」5400円
気軽に香りを楽しんでもらえるように、暮らしで使いやすい商品も豊富。パラフィンフリーのベジタブルワックスキャンドル(写真右)は、京都の時代の流れを5つに切り取り香りに反映させています。そのほか、四季の香りをコンセプトにしたソリッドソープ(写真左)や、ディフューザーとフレグランスオイルのセットなど。
さて、ここ薫玉堂KITTE丸の内店では、自身で香りを調香する「香袋」づくりのワークショップも楽しむことができます。さっそくチャレンジしてみましょう。
香りを身につける「香袋」を調香する
「KITTE」丸の内店では、好みに合わせて調香したお香で香袋を自作できるワークショップを定期的に開催しています。ひと袋をつくる所要時間は20~30分。ショッピングの合間にも楽しめます。詳しい日程はお店にお問い合わせください。






各原料の特性や適量はスタッフが教えてくれますから、戸惑うことはありません。原料の香りを確認しながら、理想の香りに近づけていくおもしろさはクセになりそうです。
和の香りと聞くと、とても敷居が高いように感じますが、ここ薫玉堂では、伝統とモダンがひとつになったさまざまな香りや道具を気軽に体験することができます。クローゼットやたんすの引き出しに入れて移り香が楽しむなど、新しいルームフレグランスとして、使ってみるのもいいですね。
【店舗情報】
薫玉堂 KITTE丸の内店
線香「丸の内 1933」や、東京駅の赤レンガ駅舎をデザインモチーフにお香を仕込んだ栞など、同店限定の商品や、香木の量り売りといった限定サービスも用意している。
所在地:東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE4F
Tel:03-6551-2630
営業時間:11:00~21:00(日曜・祝日~20:00)
定休日:KITTEに準じる
https://shop.kungyokudo.co.jp/
【プロフィール】
薫玉堂 ブランドマネージャー / 負野千早
薫玉堂のリブランディングの中心として、ブランドコンセプトや丸の内店の出店などを手掛けた。今後も香りを切り口に、新商品を展開予定。
取材・文=安藤政弘、撮影=真名子、中島光行(素材集合、調香帳)