民間主導ではもうムリ!「岡山バス路線の大幅廃止」で見えた地域公共交通の実態

岡山県を中心に国内外の交通事業を運営する両備グループ代表の小嶋光信氏が今月8日、県内を走るグループ内の両備バスと岡山電気軌道バス(岡電バス・写真)計31路線を廃止するという重大発表を行なった。

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このニュースを聞いて、他の地域交通の経営危機と同じような話と思った人もいるだろう。しかし両備グループと言えば、県内の中国バスや井笠バス、さらに「たま駅長」で有名になった和歌山電鐵など、さまざまな交通事業者を救済してきたことで有名。その会社が一気に30以上の路線を廃止するわけで、事情はちょっと違う。

 

小嶋氏は今回の発表の理由として、岡山市内で2012年から低運賃の小型バスを走らせる八晃運輸の「めぐりん」を挙げている。筆者も岡山に行った際にめぐりんを見たことがある。見た目はコミュニティバスなのに運行ルートは大部分が他のバスと被っており、棲み分けしていないことを不思議に感じた。

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事の発端はめぐりんが昨年春、両備グループのルーツである西大寺軌道が108年前に結んで以来主力路線となっている、JR岡山駅と市内東部の西大寺間に新路線を開設しようとしたことにある。両備バスや岡電バスも経営面では順風満帆ではなく、過半数の路線は赤字で、岡山駅〜西大寺間などの黒字路線の収益で維持しているとのこと。そこにめぐりんなど低価格の競合バス会社が参入すると、赤字路線の維持が難しくなることから、31路線の廃止を表明したという。

 

両備グループとしては、地域公共交通の実態を知ってもらうとともに、今回のような路線の認可が引き金となって、全国規模での地域公共交通の破壊という懸念すべき事態を阻止するため、あえて赤字路線の廃止届を出したとのこと。つまり問題提起を含んだ発表なのである。

 

しかしながら同じ日の夜、この地域のバス路線を統括する国土交通省中国運輸局は、めぐりんの新路線を認可した。運賃は中心部の東山まで100円、それ以遠が250円となる予定で、東山まで220円、西大寺まで400円の両備バスより大幅に安い。

 

なぜめぐりんは低運賃を実現できるのか。調べてみると、車両が維持費の安い小型であることに加え、7〜20時台と路線バスとしては短い運行時間帯、採用条件の違いなどを発見した。最後については両事業者のウェブサイトにも載っているが、賞与の有無など相応の差がある。

 

今回の問題の根源として、両備グループでは2002年の道路運送法改正によるバスの規制緩和を挙げている。この規制緩和では、観光目的のバスでは低運賃化とそれに伴う下請け事業者の過酷労働・整備不良などが問題となり、関越自動車道でのツアーバス事故、碓氷バイパスでのスキーバス事故をはじめ、さまざまな惨事の引き金になった。

 

今後は地域交通においても、今のような状況が続けば事故が頻発するような気がしてならない。その意味で小嶋代表の主張には納得できる。しかしすべての都市で岡山のような問題が起こっているわけではない。筆者が何度も訪れている富山市では、鉄道、LRT、路線バス、コミュニティバスなどがしっかり役割分担をしている。

 

公共交通はただバスや鉄道を走らせれば良いわけではなく、都市内の移動を安全快適に行えるかが大切。となればやはり富山市のように、自治体が陣頭指揮を取ってコントロールすべきだろう。地域交通が危機的状況に置かれている現在はなおさらだ。なのに岡山市からはこうしたビジョンが伝わってこない。

 

それどころか岡山市では同じ8日、やはり両備グループが運行する岡山電気軌道の路面電車について、駅前交差点の手前で止まっている線路を駅前広場まで乗り入れる事業を今年度から始めると表明した。以前から検討されてきた計画ではあるけれど、話題をそらすようなタイミングでの発表は腑に落ちない。

 

人口減少と高齢化が問題となっている現在の日本で、地域交通が民間企業の競争原理で発展するのは無理だと思う。日本に先駆けて似たような問題に直面した欧米のように、自治体が管理して税金主体で運行する方式に移行すべきだろう。小嶋代表の問題提起がきっかけになれば良いのだが。

 

【著者プロフィール】

モビリティジャーナリスト 森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。

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「ナイトタイムエコノミー」はなじまない?日本で公共交通24時間運行が難しいワケ

最近耳にするようになった言葉のひとつに「ナイトタイムエコノミー」がある。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、外国人旅行者が年々増加している中で、東京は海外のメガシティに比べてナイトライフを楽しむ環境が整っていない、具体的には深夜は鉄道もバスも止まってしまうのでナイトライフを楽しもうにも帰りの足がないことを不満に挙げる人がいる。

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ナイトタイムエコノミーが話題に上るとき、必ずといっていいほど登場するのがニューヨークだ。ニューヨークの地下鉄は年中無休で24時間休みなく走り続けるのが基本なのでナイトライフを満喫できる。東京もニューヨークのように地下鉄を24時間走らせよ!という主張を目にすることもある。

 

しかしバスならまだしも地下鉄が年中無休24時間営業している都市は、世界的に見ても数えるほどしかない。道路はもともと24時間営業なので深夜バスを走らせやすいのに対し、地下鉄は深夜時間帯は保線などインフラのチェックの時間に充てられるのが普通だからだ。

 

ニューヨークの地下鉄が24時間営業できるのは、異なる路線が線路でつながっている場所が多かったり、一部が複々線だったりして、保線をしながら列車を走らせることが可能というインフラの工夫のおかげもあるようだ。つまり東京の地下鉄を同レベルにするのは構造的に難しいのだが、それでも話題に上がるのはアメリカファーストならぬニューヨークファーストな人々がいるためではないかとも思っている。ニューヨークこそ世界のメガシティの頂点で東京やロンドンや上海は足元にも及ばないという声だ。

 

■日本人はマインド的にナイトライフと相性が悪い

一方の東京では、コンビニエンスストアが24時間営業を見直したり、デパートやスーパーマーケットが元旦営業を辞めたり、むしろ24時間年中無休からの脱却を目指している。こうした流れは個人的にも歓迎したいと思っている。そもそもニューヨークが未来のメガシティの姿として理想か?という疑問も湧く。

 

それにナイトタイムエコノミーが話題に挙がった理由は外国人観光客対応であり、年々増えてはいるものの日本人に比べればまだ少数派だ。そして日本人はマインド的にナイトライフになじみにくいと思っている。理由はしばしばデータでも証明されている労働生産性の低さだ。「24時間働けますか」を美徳とし、残業代目当てでユルユル仕事をするベテラン社員と、そういう上司を持つために帰りたくても帰れない若手社員。仮に早く仕事が上がっても社員同士で飲み歩く。これではナイトライフなど生まれようもない。

 

そもそも東京はバスについては、24時間の試験運行をしたことがある。猪瀬直樹都知事の時代に、東京メトロと都営地下鉄の一元化などと同時に、六本木〜渋谷間の都営バスの深夜運行を始めたのだ。猪瀬知事はこれに続いて、地下鉄の24時間運行も考えていたという。しかし深夜バスの利用者は低迷。猪瀬知事が辞任したこともあり、1年を待たずに終了となってしまった。その後の都知事が復活させていないところを見ると、財政面に問題がありそうな気がする。

 

過去にこのコラムで紹介したこともあるが、欧米と日本の都市交通では財政事情が大きく異なる。広島市などで公共交通を運行する広島電鉄の鉄軌道部門を見ると、収益の9割以上を旅客運輸収入で占めている。日本では一般的なパターンだ。ところが全米でもっとも住みたい街と言われるオレゴン州ポートランドの公共交通の資料を見ると、運賃収入は約2割に留まり、税金収入が半分以上を占める。

 

欧米の公共交通は税金主体で運行しており、黒字経営を目指すこと以上に、より良い公共サービスを提供することを重視している。公立学校や図書館は税金で運用され、道路も税金で作られているわけだから違和感はない。逆に儲かるかで判断する日本の考え方では、24時間運行は永遠に無理ではないだろうか。

 

ニューヨークが素晴らしくて東京は遅れているとか、そういう問題ではない。日本の公共交通の問題はすべてここに帰結するのである。

 

【著者プロフィール】

ビリティジャーナリスト 森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。

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