2030年には「勝手に光熱費が減る家」ができる!? 管理システム「AiSEG3」がもたらす未来への期待感

パナソニックは、新たなHEMS(※)「AiSEG3」(アイセグ3)を2025年3月25日から発売すると発表しました。翌日の日射量予測をもとにして、再生可能エネルギーの自家消費を促進する本機は、日々の光熱費、さらにはCO2排出量の削減に寄与します。

※HEMS…Home Energy Management System(ホーム エネルギー マネジメント システム)」の略。 家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム

 

この記事では、AiSEG3の魅力と、その発表にあわせて開催されたエネルギートレンドセミナーの模様についてお届けします。

 

日射量予測の活用&EVとの連携強化で、さらなる省エネを実現

AiSEGシリーズは、パナソニックが開発したHEMS。商品名のAiSEGは、人工知能=AIと、スマートエネルギーゲートウェイの略語・SEGを組み合わせた造語です。

↑AiSEG3のモニター。発電、売買電の状況を表示するデモ画面

 

↑AiSEG3の画面は、インターホンからでも表示できます(対応機種に制限あり)

 

HEMSは、太陽光発電システム、蓄電池、エアコンなどの家電、照明、エコキュート、床暖房など、家中のデバイスとつながり、その動作が最適になるよう制御します。「家の頭脳」ともいえるHEMSは、屋根の太陽光パネルで発電した電力の自家消費率を向上させ、高騰する光熱費の削減に寄与。そして、社会全体の課題であるCO2排出量の削減にも貢献します。

↑AiSEG3を含むHEMSは、家中の各種機器と連携。快適性を保ちつつ、エコなくらしを実現します

 

↑「起床」「お出かけ」などのシーンを登録しておくと、AIが適切なシチュエーションを選んで機器をコントロールしてくれる機能も搭載しています。従来機では、このシーンの数が限られていましたが、AiSEG3では季節のバリエーションが追加され、合計48通りになりました

 

今回発表されたAiSEG3は、2012年10月に発売されたAiSEG2の後継機に当たる製品です。従来機からの進化点は大きくわけて2つ。ひとつは、AIを活用して再生可能エネルギーの自家消費率を上げる「AIソーラーチャージPlus」の機能向上、もうひとつは、電気自動車(以下、EV)に蓄えた電力を家庭用に融通するシステム・V2Hとの連携強化です。

 

AiSEG2が搭載するAIソーラーチャージPlusは、翌日の天気予報をもとに日中の発電量を予想し、それが多いと見込まれる場合、夜間に買電する電力量を抑えるなどの機能を持っています。しかし、太陽光発電の発電量は、厳密には天気ではなく日射量によって左右されるため、天気予報だけでは正確な予測が困難でした。そこでAiSEG3では、気象庁が発表する日射量予測をもとにした機器制御機能を搭載。再生可能エネルギーの自家消費率を向上させることに成功しました。

また、AiSEG3はV2Hとの連携を強化し、EVを大容量蓄電池としても活用します。EVのバッテリーに常時確保しておきたい目標充電容量を指定でき、昼間の自家発電の余剰電力利用や、電力が安い夜間の買電によって、効率的にその容量を維持します。一方、EVのバッテリーに設定した容量以上の電力がある場合には、その余剰分を家庭に向けて放電し、電力会社から買う電力を減らします。

↑EVバッテリーの充電容量を70%に設定しておくと、常時その容量を確保するように制御され、余った電力は家庭で消費されます。EVに乗る日時と目標充電容量を個別に指定しておくことも可能で、これは業界初の機能です

 

パナソニックのシミュレーションによると、AiSEG3とエコキュート、V2Hを同時に導入した場合、再生可能エネルギーの自家消費率は76%にもなるといいます。このとき、家の電気代とクルマのガソリン代を合計した光熱費の削減額は年間19.3万円。AiSEG3なしで、エコキュートとV2Hのみを導入した場合の光熱費節約効果は18.1万円/年にとどまるそうで、AiSEG3導入時との差額は年間1.2万円です。本機の効果の高さが窺い知れます。

↑左下が、太陽光発電なしの場合、AiSEG3を導入した場合としない場合での、光熱費の負担額を比較したグラフです。太陽光発電を導入しないと、ガソリン代と電気代の合計で年間25.9万円かかっていますが、太陽光発電・エコキュート・V2H・AiSEG3をあわせて導入すると19.3万円も節約できます

 

パナソニックは、「住んでいるだけで光熱費が削減される家」を目指す

AiSEG3の発表に際して、パナソニックはエネルギートレンドセミナーを開催しました。そのセミナーには、AiSEG3の開発を手掛けた野村仁志さん、芝浦工業大学建築学部長の秋元孝之教授が登壇。AiSEG3の意義や、パナソニックが目指す未来の家の姿について、トークが交わされました。

↑トーク中の様子。左から、野村さんと秋元さん。司会は、社会起業家の石山アンジュさんが務めました

 

野村さんによると、AiSEG3のコンセプトは「光熱費削減」と「レジリエンス」。従来機のAiSEG2は、主に東日本大震災を契機にした節電ニーズ、太陽光発電の売電価格低下による自家発電した電力の自家消費率促進ニーズに応えようとしたものでした。新型機ではこれらのニーズに加え、現在の消費者の悩みである光熱費高騰や災害への備えを強化しています。

 

「AiSEG3は、24万件の家庭の電力消費データを学習しています。このデータをもとに、生活者の行動や天気といった諸条件による消費電力の増減を予測して機器を制御し、再生可能エネルギーの自家消費率をより向上させます」(野村さん)

 

一方の秋元さんは、光熱費の削減効果だけでなく、災害への備えになるという面で、AiSEG3を高く評価しています。

 

「最近は、激甚災害が多く発生しています。そういったときにも、不便なく生活できる環境を実現してくれるのが、このAiSEG3ではないかと思っています」(秋元さん)

 

セミナーのなかで特に印象的だったのが、パナソニックがAiSEG3を通して実現したいという未来のくらしについての話です。それは、2030年に「勝手に家が最適化されるくらし」を目指すというもの。その内容は、家のセンサーが住人の動きを感知し、あらゆる機器を自動でコントロールすることで、快適に住んでいるだけで光熱費が削減されるとのこと。そうなれば、毎月の光熱費の明細を見て頭を抱えることもなくなりそうで、いまよりくらしやすい世の中になる期待を感じさせてくれます。

↑AiSEGの進化。2030年の未来を見据えています

 

東京都では2025年4月から、住宅新築時の太陽光発電設置が義務化されますが、この流れは全国的に加速することが見込まれます。コストをかけて太陽光発電を導入するのであれば、その効果を最大化したいところ。太陽光発電を設置する際は、ただ屋根に発電パネルを載せるのではなく、「家の頭脳」であるHEMSを一緒に導入してはいかがでしょうか。

国際的な基準値の30倍。深刻化するインドの大気汚染

インドの大気汚染は、日本でも頻繁に報道されるほど深刻化しています。ひどい時期には、白っぽいモヤが空いっぱいに広がっていることが確認できます。現在、世界規模で温室効果ガスの削減が進められていますが、インドも2070年までに二酸化炭素排出量をゼロにする目標を掲げました。インドの大気汚染の現状と二酸化炭素を減らす取り組みについて説明します。

青天時でもモヤがかかっているインドの都市

 

インドにおける大気汚染物質PM2.5の値は普段でもとても高いのですが、最近は平均150~300とWHOが掲げる基準数値の30倍にもなってしまいました。特にインドのお正月(ディワリ)の時期がピークで、PM2.5の値は首都デリーを中心に最高値の300に達します。原因としては、お祝いの花火や爆竹、小麦を収穫した後のわら焼きが大きく関係しています。さらに、クルマの排気ガスを合わせると、非常に多くの有害物質が大気中に存在することになります。

 

雨が降ると大気中の汚染物質は落ち着きますが、ディワリの時期は乾季のため雨はめったに降りません。よって、汚染された空気はしばらく大気中に残り続けます。首都デリー周辺の学校は外出できるレベルではないとして、2022年11月初旬には学校を当面休校にしました。その他の地域の学校でも空気清浄機をつけたり、マスクを配布したりと対策をとっています。

 

さらに、心筋梗塞や肺の疾患、頭痛といった身体の不調も、大気汚染が原因で発症することが多いとされています。

 

インドの約束

2021年11月にはイギリスで、持続可能な社会を目指した「国連気候変動枠組条約第26回締約会議(COP26)」が開催されました。地球温暖化の問題が取り上げられ、各国の代表がさまざまな誓約をする中、インドのナレンドラ・モディ首相も5つの誓約をしました。

 

  • 2030年までに非化石燃料の発電容量を500GWにする
  • 2030年までにエネルギー需要の50%を再生可能エネルギーにする
  • 2030年までに予測されるGHG排出量を10億トン削減する
  • 2030年までに経済活動によってもたらされる二酸化炭素の量を45%削減する
  • 2070年までに二酸化炭素の排出をゼロにする

 

その後、インドでは本格的に二酸化炭素削減に向けての取り組みが始まりました。さらに、身近にある具体的な取り組みとして下記のことが行われています。

 

  • 交通を抑制し、車両数を減らす
  • 各都市にスモッグ計測装置を設置する
  • 爆竹の販売と購入を非合法化する

 

交通量規制については、以前はナンバープレートが偶数か奇数かによって通行できる曜日を決めるという施策もありました。ただ、一部の地域だけで実施されていたので徹底されておらず、交通量はいまだに減りません。

 

また、爆竹の販売が非合法化されているにもかかわらず、2022年のディワリもたくさんの花火や爆竹を目にしました。インド人からは「去年はコロナでできなかったからみんな待ち望んでいた。店に行けば爆竹は売っている」との声が聞かれました。

 

ゼロエミッション事業を推進

完成に向けて建設が進む高速道路

 

排出量ゼロに向け、政府規模で実施している取り組みもあります。その一つはグリーンテクノロジーの導入に向けた動きで、グリーンエネルギーの容量を2027年までに275GWにする施策です。

 

さらに、電気自動車の導入も進んでおり、インド政府は、2030年までに自動車の30%を電気自動車にすると公約しています。

 

2022年には日本政府主導のもと、UNDP(国際連合開発計画)とインドの気象庁が共同でネットゼロエミッション(※)事業を開始しました。脱二酸化炭素や持続可能な研究開発を行うためには気候変動や気象学の知識が欠かせないとして、気象庁が中心となって取り組んでいます。全予算のうち約12%の資金がインドに割り当てられました。この資金を原資とし、電気自動車の充電ステーション設置やソーラー電池を導入した診療所の拡大、中小企業へのグリーン技術の導入促進などが行われます。

※ネットゼロエミッション:正味の人為起源の二酸化炭素排出量をゼロにすること(参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構

 

さらに、車両数を削減する取り組みとして、高速鉄道の設立が始まりました。ムンバイからアーメダバードまでの約500キロメートルを結ぶラインをつくることが決まり、現在工事が着々と進んでいます。高速鉄道ができることで、都市部の渋滞が緩和し、クルマの流れがスムーズになるとの期待が高まっています。

 

このようにインドは二酸化炭素の排出ゼロに向けて、少しずつではありますが確実にプロジェクトを進めています。ただ日常生活においては、大気状態が改善されなかったり、交通渋滞が収まらなかったりと、まだ実感することはできません。世界規模で地球温暖化がクローズアップされている現在、なかなか浸透しないこれら取り組みを徹底させるためには、政府だけでなく社会全体も一丸となり、継続的に訴えていく根気強さが必要なのかと思われます。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

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電気代ゼロも可能! インド初「100%太陽光発電の村」が誕生

世界中でエネルギー価格が高騰する一方、化石燃料に頼らない、再生可能エネルギー確保の重要性が叫ばれています。そんななか、インドのナレンドラ・モディ首相は先日、グジャラート州にあるモデラで「太陽光発電100%の村」が誕生したと高らかに宣言しました。インド初となる太陽光で成り立つ村は、どのようになっているのでしょうか?

太陽光発電で希望の光を灯す

 

モデラは、グジャラート州の州都であるガンジナガールから約100㎞離れた場所にある小さな村。ここに中央政府と州政府が80.66億ルピー(約145億円※)を投じて、1300台以上のソーラーパネルを住宅の屋根に設置しました。さらに近くのサジャンプラ村には12ヘクタール分の土地を確保し、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)を導入。このBESSは、ソーラーパネルで発電した電力を貯蔵できるシステムで、太陽光発電には欠かせない存在です。これらの設備により、日中はソーラーパネルから、夜間や曇りの日にはBESSから電力が供給され、住民はそれを利用することができるのです。

※1ルピー=約1.8円で換算(2022年10月17日現在)

 

また、村の中にはソーラーエネルギーによる電気自動車の充電ステーションも設けられたそう。村の住民は正真正銘、太陽光から得たエネルギーだけで生活できるようになるのです。従来、この村には政府が電力を供給していたそうですが、今後、住民は電気代を60%〜100%減らすことができるとされているうえ、さらにソーラーパネルで得た電力を売って収入を得ることも可能。モディ首相は「モデラ村の住民は、電力を消費する立場であると同時に、電力を生産する立場でもある。ぜひ電気を売って、収入を得てほしい」と呼びかけました。

 

モデラ村があるグジャラート州は、年間を通して雨が少なく、冬の間はほとんどの日が晴れているそう。夏はモンスーンの季節ですが、日差しは強く、気温が40度以上になる猛暑日が多くなります。そんな気候は太陽光発電に適していると言えるのでしょう。

 

インドでは、2030年までに太陽光発電などの再生可能エネルギーを500ギガワットまで導入し、2070年までには温室効果ガスの排出をネットゼロ(正味ゼロ)にする目標を掲げています。その中でインド初の太陽光発電の村の存在は、モデルケースとして今後ますます注目を集めていくことでしょう。

 

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世界の期待集まる途上国の「再生可能エネルギー」。各国で起きている「リープフロッグ現象」とは?

ロシアによるウクライナ侵攻、それにともなう各国の経済制裁などにより、さらに深刻さを増している世界的なエネルギー危機。一般的に途上国は予算などの問題などからエネルギーの確保が難しく、このような状況ではさらに不利な立場におかれるとみられがちです。しかし一方で途上国の中には、民間投資を募り積極的にエネルギー危機を乗り越えようとしている国もいくつかあります。少し耳慣れないキーワード「リープフロッグ現象」とともに、世界のエネルギー分野の「今」を俯瞰してみましょう。

 

「リープフロッグ現象」とは?

リープフロッグ(Leapfrog)とは跳躍、つまり大きなジャンプのこと。新しい技術やサービスが誕生した場合、通常、先進国では段階的に発展・普及していきますが、道路や電気などの社会インフラが未整備の途上国では、ひと足飛びに普及する場合があります。これがビジネス用語における「リープフロッグ現象」です。

 

既存のインフラや法律などが足かせとなり、社会への導入がスピーディーに進まないことが多い先進国に対し、こうしたしがらみが少ない途上国では、一気に新技術が社会に受け入れられることがあるのです。道路の整備もままならないアフリカやアジアの一部地域でも、スマートフォンや通信インフラなどが普及しているのは、わかりやすい例でしょう。

 

再生可能エネルギーでリードする途上国

そしてこのリープフロッグ現象は、再生可能エネルギー分野でも報告されています。世界銀行(The World Bank)がまとめたレポートによると、モロッコでは再生可能エネルギーが設備容量(発電能力)の約5分の2を占めているそう。またインドは主要経済国の中で、再生可能エネルギーの電力増加率が最も高い国となっています。このような目覚ましい進展は、政府による野心的なクリーンエネルギー目標の設定と、投資家への優遇政策の結果です。

 

さらにバングラデシュの例をみてみましょう。同国では2022年6月、900万人がクリーンエネルギーに移行。 電力供給を受けられるようにするため、政府が5億1500万ドル(約700億円)の融資に署名しました。この融資により、首都ダッカと北部のマイメンシンにて、地方電気協同組合(BREB)のデジタル化と近代化が支援されます。結果、電力システムの損失が2%以上削減され、電力供給量が向上するのです。

 

バングラデシュのプログラムでは、100以上の顧客にソーラー発電システムが提供。蓄電システムと分散型再生可能エネルギーの強化により、年間4万1400トンの二酸化炭素排出量の削減が期待されています。

 

先進国との共同での取り組み

一部の途上国にて大胆に進められている再生可能エネルギーへの取り組みに対して、日本を含めた先進国からの投資も行われています。米英の政府機関と米ブルームバーグが年1回発行する、途上国の再生可能エネルギー状況をまとめた「Climatescope」によると、日本からの投資は中東や北アフリカに集中しているそうです。

 

またJETRO(日本貿易振興機構)がまとめたレポートには、バングラデシュでは太陽光発電において、日本のノウハウと技術、さらには合弁事業を期待する声も掲載されています。

 

世界的なエネルギー危機と再生可能エネルギーへの転換は、途上国・先進国にかかわらず、まさに可及的速やかに対策を取る必要があります。安価な化石燃料に頼ってきた先進国の場合、コストの高いクリーンエネルギーへの投資はリスキーとみなされる場合もあることでしょう。こうした点からも、途上国における再生可能エネルギー分野は、今後が大いに期待されるところです。

 

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約300円から「再エネ発電所オーナー」になれるサービスが爆売れ中。 即日完売も続出の「ワットストア」とは?

資源エネルギー庁によると、日本のエネルギー自給率は12.1%(2019年)で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも下から2番目と高くありません。この課題解決のため、政府も太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーへの転換を推進しています。

 

今回紹介するのは、民間レベルで再生可能エネルギーの普及を目指す、株式会社チェンジ・ザ・ワールドの取り組みです。わずか約300円で再生可能エネルギー発電所のオーナーになれることが話題となり、現在の登録ユーザー数は2万名を突破するという人気ぶり。新たに発売したサービスに関しては、即日完売が続出するという、ユニークかつ注目のサービスとは!?

 

福島原発事故がきっかけで再生可能エネルギー事業をスタート

山形県酒田市に本社がある同社。「創業のきっかけは2011年の東日本大震災でした」と話すのは、代表取締役の池田友喜さんです。

 

「福島の原発事故をテレビで観て、現実に起こっていることに衝撃を受けました。当時は東京でITソフトウエアの会社を経営していましたが、地球の環境やエネルギーについて深く考えるようになり、次の世代の子どもたちのためにITを活用して何かできないかと思ったのです。そこで2014年に会社を設立し、再生可能エネルギーの事業を始めました」

↑「子どもや孫たちに誇れる仕事がしたい」と話す代表取締役の池田友喜さん

 

核となる事業の1つが、スマホで買える再生可能エネルギー発電所「ワットストア」というサービス。太陽光発電所をはじめとする、再生可能エネルギー発電所の個人向け小口販売です。

 

社会貢献参加への敷居を下げるサービス

「ワットストア」は、いつでもどこでも、スマホやパソコンで簡単に好きな場所の再生可能エネルギー発電所を1ワット単位で購入できます。1ワットの価格は発電所によって異なりますが、1ワット約300円から。購入後は月に1度、売電収入が分配されます。ざっくり言うと“再エネ投資”ですが、単なる金融商品ではないと池田さん。

 

「売電した収益はお金で戻すのではなく、投資したワット数に応じて新たに発電所を付与していきます。購入後はそのまま放置していても、所有する発電所が少しずつ増えていきます。苗木を植えたら木が自然に育っていくようなイメージです。もちろん、好きなタイミングで発電所を売却することも可能です。

↑「ワットストア」のアプリトップ画面。スマホがあれば簡単に再生可能エネルギー発電所が買える

 

本サービスは「社会貢献」が目的ではありますが、一般の人々に訴求するには、まず経済的なリターンが必要だと考えました。参加する動機はどんな形であろうと、環境に対する貢献の仕組みが提供できれば、結果的には再生可能エネルギー発電所が増えていくことに変わりはないと考えています。大きな資金を用意できなくても約300円ぐらいから購入できますし、スマホやパソコンがあれば24時間、どこにいても取引ができ、発電所の発電状況なども簡単に確認できます。災害用の保険も加入しているのでリスクも少ない。できるだけ敷居を下げて、多くの人が参加できるようにしているのです。

↑アプリ上から、発電所の購入や発電量の確認などが簡単に行える

 

購入すると自分が買った発電所の発電量が気になりますよね。それがきっかけで、環境に対する意識がより高まるのではないかと期待しています。当初の目的は経済的リターンだったとしても、知らずしらずのうちに環境課題が気になり始める……。それが大切だと考えました」

 

「耕作放棄地」問題にも貢献

要となる太陽光発電所は毎月5~6基ずつ増えています。2021年1月からは、新たに風力発電所の販売もスタートしました。現在、「ワットストア」での発電所販売数は111基(2022年5月末現在)。これにより、約1870世帯分の電力をまかなえるそうです。

 

「太陽光発電所のうち、約6割がソーラーシェアリングです。これは、農地の上に太陽光パネルを設置して、農業と太陽光発電事業を同時に行う仕組みのこと。営農型太陽光発電ともいいますが、2013年に農林水産省が農地の一時転用を許可したことで可能になりました。日本には、農業が放棄された耕作放棄地が約42万ヘクタールもあります(2015年調査)。放置された土地は害虫の住処になるほか、農地として再利用できなくなる可能性も。ソーラーシェアリングは、日本が抱えるこれらの問題にも効果的です。

↑ソーラーシェアリング。太陽光パネルの下では農作物を育てている

 

農作業は、弊社の子会社である株式会社ララキノコが実施。これまで100種類ほどの農作物を試験的に栽培してきました。現在は、さつまいも、みょうがなどを主に栽培。収穫した作物は道の駅で販売したり、『ワットストア』のユーザーにプレゼントしたりしています。また最近では、CO2吸収能力の高い新品種のあしたばに注目し、東京大学と共同研究を行っています」

↑ソーラーシェアリングによって栽培された野菜

 

ただ、ソーラーシェアリングには課題も多いと池田さん。最大の課題は土地の確保だそうで、ソーラーシェアリングに対する世の中の認知・理解がまだまだ進まないのが実情だそう。

 

「ただ、近年は国や自治体がソーラーシェアリングを推奨していますし、農地法など法的な部分が今後是正されれば、この課題は改善されていくと思います」

 

経済的リターンゼロの「グリーンワット」も大反響

同社は「ワットストア」内で「グリーンワット」という商品の販売を昨年から開始。これが予想以上の結果になっているそうです。

 

「『グリーンワット』は1口500円で太陽光発電所を購入できますが、経済的リターンはゼロ。自分の持っている発電所がどのくらいCO2削減しているかなど、環境に対しての貢献度を『リーフ』という名称のポイントで可視化します。昨年7月に約2000口限定販売したところ、約14時間で完売。その後、不定期で計4回限定販売していますが、現在は全て完売しています。予想を上回る反響でした。

 

このサービスはさまざまな可能性があると考えています。例えば、製造や輸送時のCO2排出が課題と言われているアパレル業界なら、服を『グリーンワット』込みの料金で販売すれば、お客さんは自動的に『環境に配慮したお客さん』になります。一方、アパレルメーカーは、客が購入したグリーンワットにより、『環境価値(CO2削減量)』を活用してカーボンオフセットが実現できるというわけです。

 

実際、サッカーJ2のモンテディオ山形の試合で、法人(サッカーチーム)のカーボンオフセットを実現しました。“カーボンオフセットマッチ”という企画を掲げ、グリーンワット付きのチケットや選手の限定ポストカードを販売したのです。結果、1000人以上のサポーターの方が購入。選手を応援したいという気持ちと環境保護を結びつけることができたこの取り組みは、とても意義があったと感じています」

↑2022年5月8日に開催された「カーボンオフセットマッチ」。サポーターはさまざまな環境アクションに参加できた。年内にあと3試合開催予定。画像提供:モンテディオ山形

 

「カーボンオフセットマッチを通して、発電所を購入するという行為にハードルの高さを感じる人でも、もっと身近な部分であれば、気軽に環境アクションに参加してもらえることが分かりました。今後、さらに多くの人が環境アクションに参加できるように、さまざまな企業とコラボレーションをするなど面白い企画を展開していきたい。私たち一人ひとりの力は小さいかもしれませんが、多くの人たちが集まることで世界をも変えることができます。それを可能にするビジネスモデルを創り出し、美しい地球を子どもたちに残していきたいです」

 

“グリーンエネルギーの発展にみんなが参加できる社会を創る”その目的を達成するために、同社のチャレンジは続きます。

既に再エネ自給率56%! 長崎県五島市で進む「脱炭素社会」の仕掛けたち

目指すは再生可能エネルギー自給率約80%&ゼロカーボンシティ~長崎県五島市

 

2018年にユネスコ世界文化遺産に登録。最近では、NHKの連続テレビ小説「舞いあがれ!」(2022年後期放送予定)の舞台の一つとして注目を浴びている長崎県の五島列島。東シナ海に浮かぶ自然豊かなこの島は、再生可能エネルギー事業に積極的に取り組み、脱炭素の先駆者的存在として期待が寄せられています。

 

日本初の浮体式洋上風力発電機を設置

太陽光や風力、潮流、地熱など、温室効果ガスを排出しない自然の力を利用する再生可能エネルギー。五島市では、海に浮かぶ発電所ともいえる「浮体式洋上風力発電設備」が日本で初めて設置され、2016年3月からすでに実用化されています。

 

「きっかけは、再生可能エネルギーの導入を促進する環境省の実証事業への参加です。2012年に五島列島の椛島(かばしま)沖に100kw小規模実証機設置を経て、2013年に2000kw実証機1基が設置されたのですが、この辺りは波が穏やかで、かつ年平均風速が毎秒7.45mと風が強く、風速の変動も少ないため、風車を設置するには非常に適した環境でした。その後、野口市太郎現市長が就任した2012年に、4大プロジェクトが策定され、そのうちの1つに再生可能エネルギーの推進が掲げられました」(五島市 総務企画部 未来創造課 ゼロカーボンシティ推進班 佐々野一成さん)

↑現在は福江島の崎山沖に位置する浮体式洋上風力発電設備「はえんかぜ」

 

フル出力で2000kW、一般家庭の約1800世帯分を送電

水深約50mまでの浅い海域には着床式の洋上風力発電が適していますが、洋上の風が強く、効果的な発電ができる水深の深い海域では浮体式でなければなりません。浮体式は世界でも実用化がそれほど多くありませんが、排他的経済水域の面積が世界第6位の日本の場合、こうした地の利を生かした浮体式洋上風力発電に大きな期待が寄せられています。

 

「実証事業は2015年度に終了。2016年3月から福江島の崎山沖に設備を移設し、現在は実際に商用運転されています。浮体式洋上風力発電は船舶扱いで船舶名は“はえんかぜ”(方言で「南東の風」という意味。幸せを運ぶという伝えがある)。海中部分を含め全長172mで、40mの回転翼が3枚付いています。椛島での実証事業の時は海底ケーブルが細く、約600kWしか送電することができませんでしたが、福江島の崎山沖へ移設後は海底ケーブルを新たに敷設し、発電量はフル出力で2000kW、一般家庭の約1800世帯分の電力を送ることが可能となっています。2024年までにさらに8基を増設し、計9基で商用稼働させることを目指しています」

↑未来創造課の佐々野一成さん。「五島産の再エネ電気を五島のPRに活かしていきたい」と話す

 

再生可能エネルギー自給率約80%に

五島市の再生可能エネルギーの取り組みは浮体式洋上風力発電だけではありません。

 

「陸上の風力発電機は現在大型が11基、小型が18基、水力発電が1基。太陽光パネルにいたっては、家庭用も含めると1600基ほど設置されています。また、奈留瀬戸で潮の満ち引きを利用した潮流発電の実証事業がスタート。昨年までは500kWの発電機でしたが、今後は1000kW程度と規模を拡大し、4年後の実用化を目指しています。五島市の再生可能エネルギー自給率は、2020年時点の推計値で約56%ですが、こうした取り組みにより、浮体式洋上風力発電を増設した2024年には自給率約80%になる見込みです。

↑福江島にある太陽光パネル。個人宅の屋根にも多く設置されている

 

再生可能エネルギー事業は、商用化しても電気料金が安くならないなど、市民が直接的な恩恵を感じられにくい部分があります。ですが、広報誌や勉強会などで啓発活動を積極的に行っていることもあり、市民アンケートではポジティブな意見を多くいただいていますし、意義のあることだと捉えている方は少なくありません。また、浮体式洋上風力発電設備の海中部分に藻やサンゴが付着し、そこを隠れ家とした小魚を狙う魚が集まるなどの好影響も。これまでは魚が少なかったため、漁が盛んでない海域でしたが、今後の検証次第では、漁獲量の向上につながるのではないかと期待されています」

 

ゼロカーボンシティを宣言

再生可能エネルギー事業に積極的な五島市は、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を2020年12月に宣言しました。具体的には、「再生可能エネルギーの地産地消の推進」「電気自動車の推進」「市役所における省エネルギーの取り組み」「一般廃棄物焼却量減少に関する取り組み」です。

 

「実はゼロカーボンシティを宣言する前から、電気自動車に関しても2011年に国の実証事業により、五島市と新上五島町に合わせて100台が導入されました。充電設備も整備したため、その後も普及が続き、現在は島内に155台の電気自動車が走っています。うち43台はレンタカー、残りは企業や市民が利用していますが、今後も増え続けるようにさらなる推進を行っています。

↑島内で利用されている、三菱自動車の「i-MiEV」。急速充電器など島内における設備も充実している

 

地球温暖化の影響が深刻化されている近年、ふるさと五島を守り、持続可能な島にするためにゼロカーボンシティへの取り組みは必要です。その実現には、再生可能エネルギーの地産地消はもちろん、電気自動車普及の推進など市民の皆様のご理解とご協力が欠かせません。そこで、『サステナブルな暮らし10の習慣』という誰にでもできる身近な取り組みを提案したり、環境学習の題材として子どもたちに風力発電を見学してもらったり、省エネや節電を学ぶためのシンポジウムを開催したりと、いろいろなアプローチを展開しています」

 

再生可能エネルギー活用の先駆者に

ただ、現実的にはまだやれることが多いと佐々野さん。

 

「例えば余った電力を水素化して燃料電池船に利用したり、水素を運びやすくするために気体から液体に変えて貯蔵し、船で本土へ運ぶなどの実証事業も行いました。今後もさまざまな構想が練られていますが、こうした取り組みは、次世代産業の創出にもつながりますし、人にも環境にもやさしい島であり続けたいという想いも込められています」

 

経済産業省の資料によると、2019年度の日本のエネルギーの自給率は12.1%。先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)36カ国中35位と非常に低い水準です。安定したエネルギー源の確保は大きな課題。それだけに、いち早く再生可能エネルギー事業に取り組んだ五島市へと寄せられる期待はとても大きいと言えるでしょう。

 

石油を紅茶で支払う苦肉の策!「再生可能エネルギー」に食い下がるスリランカ

【掲載日】2022年3月14日

現在、原油や石油、天然ガスの価格が高騰し、世界各国でエネルギー問題が浮上していますが、ロシアのウクライナ侵攻の前からエネルギー危機に直面しているのがスリランカ。苦しい状況を打開しようと、日本の支援を受けながら再生可能エネルギーの導入に粘り強く取り組んでいます。

スリランカ西部の町カルピティヤにある風力発電の風車

 

2021年12月、スリランカは、イラン石油公社に対して、過去に輸入した石油の代金を紅茶で支払うという大胆な施策を講じたことが国内外のメディアで報じられました。新型コロナウイルスのパンデミックによる観光業の不振はスリランカの経済に大きなダメージを与え、政府債務の返済危機、さらには自国通貨のスリランカ・ルピー安も引き起こしています。

 

スリランカは、新型コロナウイルスによる経済的なダメージを受ける前から、経済成長に伴いエネルギー需要が増加傾向にありました。JICAの省エネルギー普及促進プロジェクト(2008〜2011年)や2023年まで継続する電力セクターへの技術協力など、日本もスリランカのエネルギー問題の解決に向けて大きなサポートを講じています。2021年7月からは日本気象協会が太陽光、風力の発電予測データを提供するなど、スリランカの再生可能エネルギーへの熱意は非常に高いものがあります。

 

エネルギー問題は一国の存亡に関わりますが、現在のスリランカは他国の支援を受けながら、エネルギー政策や化石燃料の輸入などに関する困難な問題に取り組む段階にいます。再生可能エネルギーの民間企業プロジェクトは300件近く稼働しており、将来は国内プロジェクトや外国企業の参入が増える可能性があります。同国における日本の長年のサポートは、日本の民間事業者がビジネス展開を検討する際にもプラスに働くかもしれません。

 

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