今こそ行きたい北海道の鉄道旅!冬の釧路湿原やオホーツク海岸線を走る、絶景&味覚体験

澄み渡る空気、見渡す限りの白銀の景色、荒々しく打ち寄せる波……。立春を過ぎても厳しい寒さが続き、まだまだ冬景色を楽しめる北海道の鉄道旅は、崇高な美しさにあふれている。旅の途中には、秘湯や冬ならではの味覚も満載。

 

今回は食べ鉄ライター・澄田直子さんに、冬の北海道ならではの鉄道旅を紹介してもらう。

 

鉄道マニアでなくても楽しい!冬の鉄道旅は魅力がいっぱい

鉄道旅というと、桜や菜の花、新緑や紅葉をイメージする人が多いかもしれない。しかし冬こそ鉄道旅が楽しい季節と語るのは、鉄道ライターの澄田直子さんだ。

 

「観光列車の多くは夏場に運行しています。そのなかであえて運行するのには、それだけの魅力があるからです。例えば『SL冬の湿原号』は、北海道の希少な自然が残る釧路湿原をSLに乗って旅するという夢のような体験ができる列車。全国でも動態保存されているSLはごくわずかですが、その貴重な列車に乗って白銀の世界が見られるのです。汽笛と蒸気を上げながらゆっくり進む列車の車窓からは雪原に遊ぶタンチョウヅルの姿が拝めることも。車内販売や停車駅でのイベントなど、旅路を楽しくしてくれる仕掛けも満載で、鉄道マニアでなくても十分に楽しめますよ」(澄田さん)

 

車内に置かれたストーブでスルメを炙れる「津軽鉄道ストーブ列車」や、こたつが設置された「三陸鉄道こたつ列車」など、冬ならではの体験ができる列車も魅力的。

 

「楽しむコツはあえて寒いところに行くことでしょうか。荒々しい日本海の景色を眺めたあとは、温泉が身に染みます。冬は魚介がおいしいので食事も楽しみ。日本の美しい景色を見つけに、冬の観光列車で出かけてみてください」

 

【SL 冬の湿原号】雪原を行く漆黒の車体は風物詩。レトロなSLに乗って出発!

齢80を超えるSLで古き良き汽車旅を満喫

1940年に製造され、1975年に引退した蒸気機関車C11形171号機を復元し2000年から運行開始。釧路〜標茶間を冬の間だけ運行する人気鉄道路線だ。釧路を出発した列車は1時間30分かけて釧網本線の標茶駅に到着。そこでしばらく停車し、釧路駅に引き返す。車窓には雪に覆われた釧路湿原が広がり、運が良ければ、タンチョウやエゾシカなどを見ることができる。

 

【ここに注目!】北海道唯一のSLでのんびりと景色を楽しむ

「製造から80年以上が経とうとするSLは、メンテナンスにも運行にも多大な労力がかかるため廃止路線が増えています。北海道唯一にして冬の湿原を行くこの路線は貴重!」(澄田さん)

↑2000年から運行を続ける人気路線

 

↑客車内のダルマストーブでスルメなどを炙ることができる

 

↑レトロモダンな客車。川に面したカウンター席が人気

 

DATA
運行区間:釧路〜標茶
運行日:2025年1月18日〜3月23日の週末を中心とした特定日
問い合わせ:JR北海道
URL:www.jrhokkaido.co.jp/travel/sl

 

【流氷物語号】流氷押し寄せる海を眺めながら、冬のオホーツク海岸線を旅する

↑海側の並び席と海側ボックス席は指定席となっている

 

流氷を車内から楽しむ北海道随一の絶景路線!

網走駅から知床斜里駅までのオホーツク海の海岸線を走る冬限定の列車。1月下旬から3月上旬にかけて流れ着く流氷の季節に合わせてディーゼルの2両編成の列車が運行され、タイミングが合えば車窓から流氷を見ることができる。乗車時間はおよそ1時間で1日2往復。「流氷物語3号」では絶景が楽しめるよう一部区間で減速運転する計らいもウレシイ。

↑北海道の自然が描かれた車体

 

↑海側のボックス席は要予約の指定席

 

【ここに注目!】“海の見える”駅、北浜駅は期間限定“流氷の見える”駅に

「とても風光明媚な路線です。下り(1号・3号)はオホーツク海に面した北浜駅で10分間停車するので写真撮影ができます。流氷の押し寄せる海や遠くに連なる知床連山など、圧巻の景色が魅力です」(澄田さん)

↑雪に覆われた北浜駅のホーム

 

↑網走駅の名物「モリヤのかにめし」もお忘れなく!

 

↑網走から出航する流氷観光船も合わせて楽しみたい

 

DATA
運行区間:網走駅〜知床斜里駅
運行日:2025年2月1日〜2月28日と、3月1日、2日、8日、9日
問い合わせ:JR北海道
URL:https://www.jrhokkaido.co.jp/travel/ryuhyo/

 

※「GetNavi」2025月2・3月合併号に掲載された記事を再編集したものです

 

【ギャラリー】

 

 

 

白銀の世界で繰り広げられる、熱い、熱い「タンチョウのダンス」って知ってる?

ここ数週間で一気に寒くなり、街中でみかける服装も一変してきました。寒さは辛いですが、この先に待ち受ける美しい冬の光景に思いをはせてみるのもいいのでは? 今回は自然科学系の書籍や雑誌の編集、執筆を主に手掛ける筆者が、北海道を代表する鳥・タンチョウヅルの歴史や北海道での観賞スポットをガッツリ紹介します。

20171020_BLnak4_1

「鶴は千年」と言われるように、ツルは昔から長寿や吉祥の象徴とされ、また『鶴の恩返し』などの昔話に登場する鳥としても親しまれてきました。日本で見られるツルのなかでも、最も高貴とされてきたのがタンチョウ(丹頂鶴)です。全身が白く、首と翼の一部だけが黒い、はっきりとした色彩。頭の上が丹色(にいろ=赤土のような色のこと)をしていることが、名前の由来。世界でも北東アジアからロシア南東部の一部にしか分布していませんが、日本では北海道東部に周年生息し、「北海道の鳥」にもなっています。

 

実はこのタンチョウ、いまでこそ北海道でしか見られませんが、昔は日本各地で見られたといいます。江戸時代には江戸(東京)にも飛来していて、そのようすは幕末の浮世絵師、歌川広重の「名所江戸百景」の1枚「蓑輪金杉三河しま」にも描かれています。江戸時代のツルは、将軍や一部の大名だけが捕ることを許された「ご禁制の鳥」であり、それに違反した者は罰せられました。捕らえたツルは上流階級での贈答品として扱われ、将軍が鷹狩りで捕らえたツルは、天皇に献上されたそう。もちろん、タンチョウが最上級の品。

 

こうして大切にされてきたタンチョウも、明治時代になると状況が変わります。狩猟を禁止する決まりがなくなり、生息地の湿地が開発されるようになると、やがて日本の野山からタンチョウの姿は消えていきました。そして、1924年(大正13年)に釧路湿原で再発見されるまで、一時は絶滅したとさえ考えられていました。その後、手厚い保護活動が行われ、1967年には国の特別天然記念物に指定されるなどした結果、タンチョウは少しずつ数を増やしていきました。現在では約1500羽が生息すると考えられていますが、依然として環境省版レッドリストの絶滅危惧種(絶滅危惧Ⅱ類)に指定された、稀少な鳥であることは変わりありません。

 

そんなタンチョウを、真冬の北海道で、しかも間近に見られる場所があります。それが給餌場。ここでは、冬場の餌不足でタンチョウが困らないように、保護活動の一環として給餌を行っています。なかでも有名なのが、釧路市にある阿寒国際ツルセンター「グルス」、そしてお隣の鶴居村にある「鶴見台」と「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」の3か所。給餌は、毎年11月から3月下旬まで行われますが、これらの給餌場では多いときには数百羽ものタンチョウが集まり、日中はその周りで過ごしています。

 

給餌場でタンチョウを見る際に、注目したいポイントがあります。それは、タンチョウの動き。給餌場に集まるタンチョウは、春の繁殖期に向けてつがいの相手を見つけますが、その際にいくつかの特徴的な動作を繰り返し行います。2羽が向かい合って翼を広げ、首を曲げて前屈みになったり、首を伸ばして体を伸び上がらせたりする動作。向かい合った2羽のうちの片方が、首を伸ばして体をやや起こした姿勢で飛び上がる動作。2羽が首を伸ばして上を向きながら鳴き交わす動作……。これら一連の動作はオスとメス(といっても見た目では区別できませんが)の求愛行動で、その動きの優雅さから、「タンチョウの舞」あるいは「タンチョウのダンス」と呼ばれています。釧路市や鶴居村の冬は、日中でも氷点下になることが多いほどの寒さですが、タンチョウたちは日々、熱い、熱い、恋の舞踏会を繰り広げています。

 

文/安延尚文さん…自然科学系の書籍や雑誌の編集、執筆を主に手掛けています。

写真/samsam / PIXTA

※本記事は航空会社・バニラエアの機内誌「バニラプレス 2017年11-2018年2月号」に掲載された内容の完全版となります