トンボ鉛筆「ZOOM」が果たした“知的なリブランディング”。「コインの裏表」と表現される魅力は?

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される “手書きツール” を、1点ずつピックアップしている。第33回となる今回は?

2024

第33話

トンボ鉛筆
ZOOM
7700円(左/C1)、4400円(中央/L1)、3520円(右/L2)

 

今春、「1本の、美学。」をコンセプトにリブランディングされた、1986年誕生の筆記具ブランド。日本の技術と感性が融合した自由で新しいスタイルの筆記具を3種類揃える。C1、L2は油性ボールペンとシャープペン、L1は水性ボールペンをラインナップする。

 

あのデザインペンの名作が知的にリニューアル。

今年2月、トンボ鉛筆の筆記具「ZOOM」シリーズのリブランディグモデルが発売されました。  オリジナルは1986年発売。国産デザイン筆記具の先駆け的存在であり、歴代ラインナップのなかでも、特にキャップ式・太軸の「505」や極細軸の「707」は、今でも現役の人気製品。現在売られているどのボールペンと比べても遜色ないほど、鮮烈でキャッチーなルックスを誇っています。

 

そして2023年。爛熟とも言える現在のボールペン界のなかで、満を持してのこのリブート。その出発にあたり、現状のボールペン界を「ユーザーのリテラシーが高まり、質の高いものを受け入れやすい土壌が整っている」と捉えるか、あるいは「いや、いまは安いボールペンでもそれなりにデザイン化されている。そのなかで差別化を打ち出すのは難しい」と捉えるかで、立てる問いと答えが変わってきます。実際このふたつはコインの裏表。さて、今回のZOOMはどちらに軸足を置くのでしょう?

 

発表された3つの製品のうち、メインは油性ボールペンの「C1」。ボディは表面にアルマイト加工を施したジュラルミン製。サラサラと手触りが良く、高級感は申し分なし。さらにデザインの最大の特徴は、ノック部と胴軸が切り離され、まるでノックパーツが浮いているかのように見えること。手に持って書いているとき、ふと目を落とすと隙間から机がチラ見えする「抜け感」(文字どおり!)は前代未聞。クリップは金属性で剛性が高く、それでいて重さもさほどないため重心バランスも悪くありません。大胆なギミックではあるものの、決して使いやすさは犠牲にしていないのです。

 

続いてゲルインクボールペンの「L1」。こちらはシルバーの本体にDURABIO TMという透明なプラスチック素材をレイヤードしており、太軸・キャップ式という外見はまさに「505」の正統後継者。それだけに安心感と安定感があり、今回のなかでは最も扱いやすく感じました。また、特筆すべきは、C1、L1ともに新しいリフィルが開発されており、これが従来のトンボ鉛筆のボールペンと比べて桁違いの書きやすさであること。実はこのリフィルの誕生こそ、今回のリブランディング最大の功績と言っていいぐらいです。

 

そして個人的に最も気に入ったのがシャープペン/0.5mmボールペンの「L2」。スリムな外見は「707」の遺伝子を感じさせつつ、よりソリッドなフォルム。ネオラバサンという塗料はまるでヌバック革のようなソフトな手触りで、トグルスイッチ風のノックパーツや細身のクリップと合わせ、使い手に繊細な扱いを要求します。この造りは、シャープペンのボディとしてとても理にかなっています。

 

こうして今回のZOOMリブートを見渡してみると、全体的に外見のインパクトは控えめ。初代707のようなエキセントリックさはありません。そのかわり、こだわりの新素材とディテールのアイデア、トータルのまとまりで勝負。また、ハイレベルなリフィルや優れた重心バランスといった実用性、そして油性/ゲル/シャープでそれぞれ適切なデザインを配する合理性など、すべての要素が噛み合った、極めて完成度の高いプロダクトとなっています。何より、 “奇をてらわずともこの良さは伝わるはずだ” 、というユーザーへの信頼感さえ透けて見えます。前述したように、ユーザーのリテラシーと製品レベルはコインの裏表のようなもの。新生ZOOMは、その幸せな相関関係のカーブの頂点にそっと腰を下ろした、知的なリブート製品と言えます。

「インク消費したい欲」を発散! 万年筆のペン先を備えるつけペン「hocoro(ホコロ)」が時間を溶かす!?

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第26回となる今回は?

 

第26話

 

 

セーラー万年筆
万年筆ペン先のつけペン hocoro(ホコロ)
1350円(細字、1.0mm)
1450円(2.0mm、筆文字)

※ペン先+ペン軸の価格(税別)

万年筆用ボトルインクを利用し、ペン先を軽く水で流すだけで色替えできるのが魅力。ペン先は細字、1.0mm、2.0mm、筆文字の4タイプで、ひとつのペン軸に付け替えて使用できる。ペン先を逆向きにも差し込め、持ち運びやすい。

 

「インク消費のためのペン」という倒錯が新たな可能性を拓きそう

買ってから使い途を考える。それは邪道ではなく、むしろ正しい。そんなペンがこの「hocoro(ホコロ)」です。

 

近年「インク沼」という言葉がSNSなどを賑わせています。万年筆用の様々なインクを愛でる趣味ですが、万年筆は一度インクを充填すると使い切るまでそれなりの量を書かねばならず、テスター感覚でちょっとずつ色んなインクを試したい人には不向きでした。そんなニーズから近年はつけペンやガラスペンに注目が集まっており、そこに目をつけたセーラー万年筆が発売したのが本品。つけペンに万年筆のペン先を取り付けたもので、細字・1mm幅・2mm幅・筆文字と4種のペン先があり、それぞれまったく異なる個性を楽しめるようになっています。これはこれで「万年筆沼」への入門編にもなっており、インクとの組み合わせを試しているだけであっという間に時間が溶けてしまいます。おそるべし、ダブル沼効果。

 

ところで、道具にはそれを中心とした様々な主従関係の糸が張り巡らされています。筆記具であれば書く人が「主」でペンが「従」ですが、時折「このペンを使いたいから手紙を書く」というような主従の逆転現象が起こります。ホコロの場合、「インク消費のためのペン」という倒錯した主従関係があらかじめ埋め込まれているところがユニーク。「インク消費したい欲」から生まれる予期せぬ使い途や、まったく新しいインクの楽しみ方に期待しています。

 

文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険」バックナンバー

【第1話~第24話】
【第25話】ようやく実用に耐えうる金属鉛筆が登場! 話題の「メタシル」の使い道とは?

1本5500円の「キャップ式シャープペン」。継続販売されるほどの人気のポイントは?

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される “手書きツール” を、1点ずつピックアップしている。第32回となる今回は?

 

第32話

三菱鉛筆
KURUTOGA DIVE
5500円(税込)

“芯が回ってトガり続ける” シャープペン「クルトガ」シリーズの新モデル。世界初の「自動繰り出し量調整機能」を搭載し、筆記前も筆記中もノック不要で書き続けられる。筆記中の芯の繰り出し量は、筆圧や芯の硬度に合わせて5段階で調整可能だ。

 

世界的にも珍しい。キャップ式高級シャープ

ボールペンは機能ではなく外見で勝負する「デザインの季節」に入った──とは、この連載で繰り返し書いてきたこと。では、「シャープペンの世界はどうなの?」といえば、例えば学生たちにとってはいまだ「メインの道具」であり続けているように、機能開発競争はいまなお続き、またそれを見た目で分かりやすく打ち出す傾向があるようです。

 

その結果、「見た目を気にしすぎて、どれも似た外見になる」という矛盾に陥らず、オリジナリティの高いペンが生み出され続けているように見えます。 と、そんな現状をまさに体現する一本が、三菱鉛筆の新製品「KURUTOGA DIVE」。昨年2度にわたって数量限定で発売され、そのたびに入手困難となっていましたが、この3月から継続品として発売されることになりました。世界的にも珍しいキャップ式のシャープペンです。

 

ノック不要の「自動繰り出し量調整機能」付きで、キャップを外すと同時に自動で芯が繰り出されるという仕組み。もちろんキャップにはデリケートなペン先を保護する意味もあるでしょう。とはいえこのキャップは実用性以上に、オリジナリティを誇示するためのギミックという側面が強いはず。そして、それが支持を受けているのだから何の問題もありません。

 

プロユースというよりは、オリジナリティを尊ぶ「マニア向け高級シャープペン」というジャンルの誕生です。その第一歩の成功をまずは言祝(ことほ)ぎたいと思います。

 

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【第31話】※※※バックナンバーURLはアタリです※※※

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ようやく実用に耐えうる金属鉛筆が登場! 話題の「メタシル」の使い道とは?

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第25回となる今回は?

 

第25話

サンスター文具
メタシル
900円(税抜)

黒鉛を含んだ特殊合金の芯と、アルミボディを組み合わせた八角形のメタルペンシル。黒鉛と合金の粒子が摩擦で紙に付着することで筆跡になる。削らずに16km書き続けられ、水や水性マーカーなどで筆跡がにじまないのも魅力。

 

使い道に悩むのも楽しい“難しいペン”

このペンは難しい。

 

筆記具にこんな感想を持ったのは初めてですが、手にしてから日毎に募る気持ちはそうとしか言えず。今日も漫然と筆先を滑らせながら、このペンの理想の居場所を考え続けています。

 

サンスター文具が今年6月に発売した新製品メタシル。いわゆる金属鉛筆と言われるもので、合金製の粒子を紙に擦り付けて書く筆記具。摩耗が少なく、とても長い距離を書けるのが特徴ですが、黒鉛を混ぜていないぶん発色が薄く、そのためこれまで実用に耐えうる製品はほぼありませんでした。

 

しかし今回のメタシルは、黒鉛の量を調整して鉛筆2H相当の濃さを実現(しかも消しゴムで消せる!)。見た目も込みで完全に実用品としての雰囲気を纏っており、その物珍しさも手伝ってか、ネットで発表されるやいなや注文が殺到。発売を2か月遅らせるほどの注目を集めました。

 

書いてみると、金属軸の固いペン先から紙の上にいつもの鉛筆の線が浮き上がってきます。いつまで経っても芯が太らず、なのにペン先が紙を擦る音は、紛れもなく鉛筆のそれ。脳がバグる。

 

とは言えやはり、薄いっちゃ薄い。罫線すら邪魔になる薄さで、これは小さな手帳やノートには不向きでしょう。逆に、無地の白紙ならほかにない無類の心地良さが楽しめます。これはスケッチ用、それともアイデア帳向け? なんていろいろ悩むのが楽しい、“難しいペン”なのです。

↑芯に含まれる黒鉛の量を調節。鉛筆2H相当の濃さの筆記を実現した

 

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【第1話~第23話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第24話】ドイツ発の「ラミー サファリ」が漢字に特化! ペン先をチューニングした話題の限定モデルの書き味は?

https://getnavi.jp/stationery/775853/

ドイツ発の「ラミー サファリ」が漢字に特化! ペン先をチューニングした話題の限定モデルの書き味は?

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第24回となる今回は?

 

第24話

ラミー
ラミー サファリ ホワイトレッドクリップ万年筆 漢字ニブ
6000円(税別)

1980年に登場した「ラミー サファリ」の漢字筆記に特化した数量限定モデル。新開発のペン先は柔軟性が高く、“トメ”“ハライ”など漢字特有の表現をサポートする。2022年5月の発売後すぐに完売し、8月以降再販予定。

 

デザイン文房具の最高峰が発売40年目にしてリブート

万年筆のペン先はアルファベット圏と漢字圏とで求める性能が異なり、ゆえに日本語を書くなら国産品がいい、と言われています。画数が多くてハネやハライのある漢字はペン先の繊細なコントロールが必要となるため、専用にチューニングされたペン先のほうが向いている、と。

 

それを踏まえて今年5月に限定発売された「ラミーサファリ ホワイトレッドクリップ万年筆 漢字ニブ」を見ると、ペン先(ニブ)は両サイドのカットによって従来品よりも柔らかく、手作業で研磨されたV字状のペンポイントのおかげで、細さ・太さを書き分けられるようになっています。これはまさに漢字に特化した仕様。実際これで漢字が上手く書けるかどうかは別問題なわけですが(拙連載・第22話参照)、間違いなくいままでのサファリ万年筆よりは明らかにふくよかな書き味となり、万年筆らしい豊かなニュアンスが楽しめるようになりました。

 

「サファリ」シリーズと言えば、ドイツ・ラミー社が誇るデザイン文房具の世界最高峰。いわば“殿堂入り”モデルとして、性能をそこまでシビアに問われる地位にはいませんでした。しかし、ペン先ひとつにチューニングを施しただけで、ペン全体が丸ごとリブートされたような進化を遂げたのです。これで本品は現代カジュアル万年筆のトップランナーに仲間入り。しかも外見は発売40年を超えてなおこのクールさですから、これはパワフルな一本の誕生です。

 

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【第1話~第22話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第23話】ニードルチップの書き味も超優秀! 最強のSDGsボールペン「ペノン」が果たす意外な役割とは
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ニードルチップの書き味も超優秀! 最強のSDGsボールペン「ペノン」が背負うメッセージとは?

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第23回となる今回は?

 

第23話

ペノン
PENON フラッグペン S ウクライナ
1400円(税込)

フラッグペンはロングとショートの2タイプあり、パッケージを組み立てると専用のペン立てが完成する。6月には「フラッグペン L アニマル」シリーズにシマエナガ・キツネ・クマの新柄が登場。8月より名入れサービスも開始予定だ。

 

アクチュアルなメッセージ性を持つボールペンに平和を祈念

クラウドファンディングで話題となったゲルインクボールペン「ペノン」は、2021年9月から一般販売が始まりました。

 

ノックパーツに小さな刺繍の旗が付いた「フラッグ」シリーズや、ネクタイやメガネをモチーフにしたモデルなど、どれもまず雑貨としてかわいい。それでいてニードルチップの書き味も優秀で実用性も十分(某国内メーカーの協力を受けているそう)。さらに本体には森林認証された木材を用い、パッケージも脱プラ仕様。また、替え芯のリサイクルシステムを独自に構築するなど、SDGs的な配慮とその実践が素晴らしく、まさにいまの時代に相応しい優等生的なプロダクトと言えるでしょう。

 

加えて今回、どうしても皆さんに知ってほしいことがあります。それは、全34か国ある「国旗」シリーズを買うと、売上の一部が国連の難民支援機関に寄付される仕組みになっていること。この試みは2021年暮れに始めたものだそうですが、最近になってウクライナ国旗の注文が増えたため、公式サイトでも目立つ位置に置くようにしたそうです。

 

私も長年文房具について書いてきましたが、このようなアクチュアルなメッセージ性を背負ったボールペンってちょっと記憶にありません。「Tシャツはメディアである」なんて言い方がありますが、ボールペンもまた然り。実はこの原稿もウクライナ国旗のペノンで書きました。しばらく使い続けようと思います。平和を祈って。

 

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【第1話~第21話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第22話】緩急自在! ペンの気軽さで万年筆の情感を込められるぺんてる「プラマン」で、美文字の窮屈さから逃避せよ https://getnavi.jp/stationery/752272/

緩急自在! ペンの気軽さで万年筆の情感を込められるぺんてる「プラマン」で、美文字の窮屈さから逃避せよ

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第22回となる今回は?

 

第22話

ぺんてる
プラマン
200円(税別)

「細い棒状のプラスチック」と、それを覆う「やじり型のプラスチック」が合わさった、唯一無二のペン先の水性ペン。ペン先の角度によって筆跡が細くも太くもなり、ペンと同じ気軽さで万年筆のような情感のある線が書ける。

 

↑プラスチック2層構造のペン先。書くときの角度を変えれば筆跡に緩急を付けられる

 

たまには“正しい文字のかたち”から逃げるのもイイ

ペンの良し悪しを評価するときに、「このペンは上手い字が書ける」と褒めるときがあります。しかし一体、この「上手い字が書ける」とは具体的にどういうことなのでしょうか?

 

例えば、普段からトメ・ハネ・ハライを意識している人は、それらが表現できるペンを「美しい字が書ける」と思うでしょう。クセ字の人なら、均一の線が描けるペンを「整った字が書ける」と気に入るかもしれません。つまり人にはそれぞれの“上手い字像”があり、逆に言えば自分の「上手く書けなさ」とどう折り合いをつけるのか、その至らなさを少しでも補うために、この世には様々なペンが存在していると言ってもいいでしょう。どうやら「上手く書けるペン」とは個人的なもののようなのです。

 

そしてこの「上手く書けなさ」の要因を大別すると、「“正しい文字のかたち”は知っているが、それを上手く再現できない人」と、「そもそも“正しい文字のかたち”が自分の中に入っていない人」とに分かれるでしょうか。

 

しかし、ここには逃げ道もあります。例えばぺんてるの水性ペン「プラマン」は、ペンの角度を寝かせたり立てたりすることで、自在に線に緩急を付けられます。インク吐出量も多く、まるでデフォルメされた万年筆のような大味な線は、「正しいかたち」から逃げるのにうってつけ。いつものペンに窮屈さを感じたとき、ぜひ手に取ってみてください。意外な風通しの良さを感じることができます。

 

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【第1話~第20話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第21話】何にでも書ける無敵の油性ペン!「ガテン無敵マーカーPRO」はインパクト抜群のハードな1本

https://getnavi.jp/stationery/740277/

何にでも書ける無敵の油性ペン!「ガテン無敵マーカーPRO」はインパクト抜群のハードな1本

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第21回となる今回は?

 

第21話

寺西化学工業
ガテン無敵マーカーPRO
おの型/230円(税別)、極太/430円(税別)

日本初の油性マーキングペンを生み出した老舗が作る、超タフな油性ペン。水に強いインクと耐摩耗性に優れた強化型ペン先を採用し、屋外や水回りで活躍する。インクは黒と赤の2色。

 

極太ゆえの大味な筆記感はペンタブにも近しい

個包装されたパッケージには、大きな文字で「無敵」の文字。その下にはなぜかカタカナで「向カウトコロ敵ナシ。」とある。筆記具の惹句(じゃっく)としては度を超えたイキり具合ですが、いわゆる油性マーカーであるところの「ガテン無敵マーカーPRO」(すごい名前だ)は、確かにこうしたハードな打ち出しが似合うペンなのです。

 

なにせ特徴は、コンクリート・金属・木材・ガラス・プラスチック、濡れた紙やダンボール等、何にでも書けてしまう「強化型ペン先」。特に「極太」芯のインパクトがスゴい。ぎょっとするほど真四角でエッジが立っており、まるでレゴブロックのパーツというか「とらや」の小型羊羹(本気の詫びのときに持っていくやつ)というか……最初に見たときは意味がわからなくて爆笑してしまいました。

 

自宅にあったボール紙に書いてみると、油性マーカーらしいツンとくる溶剤の匂いと共に、艶やかで幅広の線がくっきりと引けます。ただしその筆記感は硬質ゴムを撫でつけているような、独特の“大味”さ。一般的な筆記では、紙の質感やペン先のボールの回転といったミクロな情報を受け取っているのに対し、このペンではもっとマクロで大きな桁の値を相手にしている感じ。指先の感触と書かれた線にギャップがある、という意味ではペンタブあたりの筆記感と近いかも。

 

そしてこのペン最大の驚きは、昨年のGetNavi・GetNavi web主催の「文房具総選挙2021」で大賞を受賞していること。マジかよ! ぜひお試しを。

 

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【第1話~第19話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第20話】「どうせいいんでしょ?」を超えてきた! 極細ボールペン「ジュースアップ」3色タイプが欠点ナシの超進化形だった

https://getnavi.jp/stationery/725701/

「どうせいいんでしょ?」を超えてきた! 極細ボールペン「ジュースアップ」3色タイプが欠点ナシの超進化形だった

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第20話

パイロット
ジュースアップ3
500円(税別)

滑らかに細書きできるゲルインキボールペン「ジュースアップ」の3色タイプ。先端部分に金属を使用した低重心設計とラバーグリップで、しっかり握れて安定した筆記を実現している。手帳のペン挿しにも収まりやすい、細身ボディだ。

 

5年の歳月を経て現役最強モデルは完成形に至った

現役最強の極細ゲルインクボールペン、パイロットの「ジュースアップ」。とにかくペン先のシナジーチップが優秀で、激細らしい「引っかき感」(こう書くと悪いように聞こえますが、激細ペンにはむしろ必要なものだと思っています)を残しつつ、インクフローは潤沢で滑らか。そんな唯一無二の書き味に加え、スクエアでミニマルな飽きの来ないデザイン。これは今後末永く愛されるペンになるだろうと、2016年の発売当時から予想していたものです。

 

ゆえに、2021年暮れに多色タイプが発売されたときには、「そりゃどうせいいんでしょ?」とタカをくくってスルーしておりました。迂闊でした。実は最近、立ち寄った文具店でたまたま試し書きをして、衝撃を受けたのです。「これ、ジュースアップの完成形じゃん!」と。

 

まず唸ったのは軸の仕様。特に3色モデルは単色モデルとほぼ変わらぬ太さで、重さも単色モデル11.6gに対して3色モデルは12.2gとその違いはわずか。さらに単色モデルでは押し込んだときにカチャカチャと揺れていたノックパーツが、こちらではしっかり固定され、筆記感が引き締まってより快適になりました。つまりジュースアップの魅力はそのままに、欠点を補い、しかも多色へと進化したのです。発売から5年経ち、ようやく発売となったその歳月の重みにちゃんと気付いておくべきでした。

 

繰り返します。これが現役最強のジュースアップの、進化形にして完成形なのです。

 

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【第1話~第18話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第19話】シャーペン界に“Dr.”が登場して30年! パイロット「ドクターグリップ」から初代モデルベースの30色が限定販売

https://getnavi.jp/stationery/712165/

シャーペン界に“Dr.”が登場して30年! パイロット「ドクターグリップ」から初代モデルベースの30色が限定販売

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

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第19話

パイロット
ドクターグリップ 30カラーズ
500円〜(税別)

“疲れにくい筆記具”として登場した人気シャープペンの30周年記念モデル。初代モデルをベースに、発売当初の復刻カラーや1999年前後に流行したスケルトンカラー、新色のネオンカラーなど30色を揃える。振ると芯が出る「フレフレ機構」を搭載。

●2021年10月より数量限定販売中のため、すでに在庫切れの店舗もあります 

 

駆け出し時代から変わらず信頼を置く相棒

1991年に発売された、パイロットのボールペン&シャープペンシリーズ「ドクターグリップ」。2021年には発売30周年を記念した歴代カラーモデルが発売され、そのなかには懐かしい初代モデルもラインナップされていました。当時画期的だった「人間工学に基づいた軸径」──その効果もさることながら、そもそもこうしたうんちくを筆記具に持ち込んだこと自体が画期的だった──を強調するためだったという、医療用品をイメージしたカラーリング。当時もいまも、なんぞ? という印象そのまま、しかしいまとなっては時代を超えた貫禄さえ感じさせます。

 

個人的にドクターグリップと言えば、初代シャープペンが発売された当時(92年!)から愛用していた思い入れの深い一本。学生生活の終わりからライターの駆け出し時代、つまり最も不安で最も期待に満ちた時期、常に身近にいてくれた頼もしい仕事仲間でありました。握り込んで飴色に光るグリップから、「文房具へ愛着を持つこと」の歓びを学んだと言っても過言ではありません。

 

今回、10数年ぶりに初代モデルを使ってみたのですが、あまりの現役ぶりに驚き、そしてうれしくなりました。旧モデルならではの、硬いゴム製グリップの安定感たるや! これまで何度もお勧めのペンを尋ねられては、「量を書くならまずはドクターグリップを」と答えてきたのは間違いじゃなかった。これからもずっと、迷える若者の頼れる相棒であり続けてください。

 

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【第1話~第17話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第18話】珍奇な「回転繰り出し式の高級太軸マーカー」が予想外! ゼブラ「フィラーレ ディレクション」が常備したくなる使い勝手だった

https://getnavi.jp/stationery/703519/

 

「回転繰り出し式の高級サインペン」はイロモノ!? ゼブラ「フィラーレ ディレクション」が常備したいほど使い勝手抜群!

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第18話

ゼブラ
フィラーレ ディレクション
2000円(税別)

ボディに金属素材を使用し、高級感のあるデザインに仕上げたサインペン。ボールペンよりも筆記線が太く、遠目からでも見やすい。軸をひねってペン先を出す回転繰り出し式で、キャップがなくても乾かない「モイストキープインク」を採用。インクは黒と赤の2色。

 

スピーディーに書き始められ、ペン先を出しっぱなしでも乾きにくい

正直、最初はあまり期待していませんでした。「回転繰り出し(ツイスト)式の高級太軸マーカー」という世界的にも珍しい仕様を持つゼブラの「フィラーレ ディレクション」。この手のヤツって実際使ってみると案外使いづらかったりするんだよな……と、そんな経験則が頭をもたげつつ、それでも一応興味本位でポチってみたわけです。

 

それから2週間。ラジオの現場で毎日使ってみましたが……これ、すごくいいかもしれないです。

 

まず、ペン先を繰り出すツイスト機構。軸が太く、しかも1/4回転でペン先を出せるので、ほとんどノック感覚で書き出せるのがいい。キャップ式のマーカーよりもスピーディ、しかも無音で書き始められるのは(この連載で何度も書いているとおり)音を気にするスタジオの中ではとても都合がいいのです。

 

さらに同じくゼブラのノック式水性カラーペン「クリッカート」で初採用された「モイストキープインク」を採用しているため、ペン先を出しっぱなしにしても乾燥することがない。バタバタと慌ただしい環境で使うときには本当に助かります。キャップのことを気にせずそこら辺に放り出しておけるのが、こんなに快適でストレスフリーだったとは! 意外な発見でした。

 

いまは赤色を主に使っていて、発色がもうちょっと鮮やかだったら……とは思うものの、それを補って余りある使い勝手の良さで、個人的にはレギュラーの一本になりそう。先入観ってよくないね。お詫びに替芯10本ポチりました!

 

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【第1話~第16話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第17話】アナログレコードの音色のよう? ノック音が静かで心地良いボールペン「カルム」はウェブ会議に最適だった

https://getnavi.jp/stationery/693174/

アナログレコードの音色のよう? ノック音が静かで心地良いボールペン「カルム」はウェブ会議に最適だった

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第17回となる今回は?

 

第17話

ぺんてる
カルム
150円(単色タイプ・税別)、400円(3色タイプ・税別)、500円(多機能タイプ・税別)

静音設計を取り入れ、ノック時の操作音を従来品の66%に抑えた油性ボールペン。グリップには、カメラの持ち手を思わせる革シボ調の素材を採用。グリップの幅が広いため、どこを握っても手にしっかりフィットする。

 

心地良い静音が放送作家の琴線に触れた

ウェブ会議をするようになってから、これまで意識していなかったボールペンの「カチャカチャ音」がスピーカー越しに気になり始めた人、最近増えているんじゃないかしら。これはラジオの仕事をしている筆者には昔から切実な問題で、ノック音が小さなボールペン——ラミーの「ノト」やカランダッシュの「849」シリーズ、トンボ鉛筆の「リポーター」など——を見つけては、新人のアナウンサーさんやラジオを始めるパーソナリティにプレゼントしていました。

 

そんな筆者にとって、2021年12月に発売されたぺんてるの「カルム」はまさに待望の新製品。というのも筆者が知る限り、初めてノック音の静かさを全面に押し出したボールペンだからです。

 

手に取ってみると、単色タイプはしっとりしたマイルドな押し心地。ただし完全無音というわけではありません。それでも「無音ではなく〝心地良く調律された周囲になじむ音〟」を目指した、というとおり、金属パーツが立てる尖った高音はミュートされ、例えるならアナログレコードのような中音域の優しい音色。しかもゆっくりノックすればほぼ無音でノック可能。これなら十分合格でしょう。

 

かたや多色タイプは緩衝材をかませてかなりの消音を実現。こちらはいわば、小さめのモノラルスピーカーで聴いてる感じ?

 

ということで結論としては、この価格、この性能なら全然あり! 世界中のラジオ局で標準採用をおすすめします。

 

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【第1話~第15話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第16話】ぺんてる「エナージェル」に20周年限定で登場した「黒推し」モデルに、偉大なペンの矜持を見た

https://getnavi.jp/stationery/679166/

ぺんてる「エナージェル」に20周年限定で登場した「黒推し」モデルに、偉大なペンの矜持を見た

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第16回となる今回は?

 

第16話

ぺんてる
エナージェル ブラックカラーズコレクション
300円(1本・税別)、1800円(6色セット・税別)

全世界累計販売本数10億本を超えるボールペンの限定商品。王道のブラックに加え、オリーブブラックやボルドーブラックなどほのかに表情の異なる黒系インクを5色、全6色を揃える。極限までシンプルさを追求したボディデザインで、シーンを問わず使いやすい。

 

“偉大なペン”の遺伝子が息づく絶妙なリモデル

黒々くっきりとしたインクと滑らかな書き心地、速乾性で、日本のゲルインキボールペンの保守本流ともいえるのが、ぺんてるの「エナージェル」。ここ1〜2年のボールペン界で起こったデザイン面でのモードチェンジには少々立ち後れ、いまとなってはやや野暮ったいルックスではあるものの、それもある種の安心感であり、さらに定期的に透明軸やパターン柄、カラーモデルなどを投入することで、現役感をキープし続けています。

 

そしてこうした動きの決定打となり得るのが、2021年10月に発売された20周年限定の「エナージェル ブラックカラーズコレクション」。すべてのパーツをマットブラックで統一し、さらに黒インクのバリエーション違いを6色も用意したという、徹底的な「黒推しモデル」。こうしたインクの遊びはサクラクレパスの「ボールサインiD」でも見られましたが、こちらはルックスも黒一色に染めたことでさらにそれが押し進められた印象。何より近年のモードであるシンプルなシルエット重視に生まれ変わったため、歴代エナージェルのなかでも最もスタイリッシュなモデルとなりました。それでいてエナージェルらしさも失っていないあたり、絶妙なチューニングといえるでしょう。

 

ぺんてるがこれを新製品ではなく、エース格の製品で実現させた意味。それはいかにエナージェルが大きな意味を持つプロダクトなのかという証拠であり、実際それだけの価値があるのです。エナージェルという偉大なペンは。

 

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【第1話~第14話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第15話】ボールペンの書き心地は重心バランスがカギ! 三菱鉛筆「ユニボール ワン F」は驚異的なしっくり感を備える

https://getnavi.jp/stationery/674444/

ボールペンの書き心地は重心バランスがカギ! 三菱鉛筆「ユニボール ワン F」は驚異的なしっくり感を備える

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第15回となる今回は?

 

第15話

三菱鉛筆
ユニボール ワン F
300円(税別)

低重心で安定した筆記を叶える「スタビライザー機構」を搭載したゲルインクボールペン。より濃くくっきり書ける顔料インクを採用している。ボディは、くすみ色をベースに、時の経過を感じさせる褪せた色合いの7色展開。「消炭」や「無垢」、「花霞」など美しい色名にも注目だ。

 

重心の絶妙な位置調整で筆記具の可能性を拓く

2021年9月に発売された三菱鉛筆のボールペン「ユニボール ワン F」は、昨年発売されたユニボール ワンの上位モデル。もとのペン自体がすでに洗練されたものではあったのですが、本品はその高級版という枠には留まらない、より革新的で、今後極めて大きな意味を持つペンとなる可能性を秘めています。

 

その理由をひと言で言えば、「ペンの“重心バランス”を見直し、その最適解を提示してみせた」となるでしょうか。

 

近年、ペンの重心の位置が書き心地を大きく左右することが知られるようになり、特にペン先側に重心を寄せた「フロントヘビー」なペンが増えてきました。これはペンを短く持つ人にとっては確かに扱いやすいのですが、だからといってただ闇雲にペン先だけを重くしたのでは、また別の持ちにくさが生じてしまいます。

 

それに対してユニボール ワン Fは、重心の位置をペン先のやや後ろ、ちょうどグリップの真ん中あたりと定め、わざわざ内部に金属パーツを仕込んでチューニングを施しています。この効果は絶大で、持ったときのしっくり感、ペン先のコントロールのしやすさは驚異的なレベル。握った瞬間、明らかに「何か違う」と感じられるインパクトがあります。

 

これが意味するのは、“筆記具にはまだ未開拓の領域があり、進化の余地が残されている”というのを実証してみせたこと。ここで示した可能性により、ペンはまた新たな次元に突入するかもしれません。

↑ペン先に金属パーツを内蔵。オレンジ色の部分が、金属パーツを使用している部分を示している

 

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【第14話】ゲルインクボールペン「ボールサインiD」を低重心にする先端パーツをメーカーが公認した理由とは

ゲルインクボールペン「ボールサインiD」を低重心にする先端パーツをメーカーが公認した理由とは

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第14回となる今回は?

 

第14話

UO
ステンレス製先栓
550円(税込)

「ボールサイン iD」のプラスチック製の口金の置き換えパーツ。純正のクリップと同じステンレス製で、装着すると高級筆記具のような低重心の書き心地になる。

 

↑ベースとなる、サクラクレパスのゲルインクボールペン「ボールサイン iD」

 

デザイン事務所とサクラクレパスのこだわりが生んだ完成形

2020年12月に発売されたサクラクレパスの「ボールサインiD」は、インクが普通の黒以外に、ブルーブラック、ブラウンブラック、グリーンブラック等々、黒系のバリエーションのみで6色も揃っているという、なんともマニアックな一本でした。直線的なフォルムながらエッジを丸めたデザインも良く、全体的にとても良いペンなのですが、一点、ペン先の三角部品(口金)が樹脂製で、色味・成形ともにやや浮いているのが残念でした。

 

ところがその半年後、このペンのデザインを手掛けた浜松のデザイン事務所「UO」がボールサインiD専用の口金パーツ「ステンレス製先栓」を限定発売したのです。しかもサクラクレパス公認で。

 

想像するにおそらく、もともと金属製としてデザインしていたものの、価格を220円に抑えるために泣く泣く断念……したものの、やはり本来の形でも使ってほしい、との熱い思いから販売に踏み切ったのだと思われます。そんな話、ほかに聞いたことないんですが。

 

しかもこれには続きがあって、2021年10月にはなんとサクラクレパス本体が、口金を金属製にした「ボールサインiD プラス」を発売することになったのです。価格は385円、インクは黒系3色のみとなってしまいましたが、それを補って余りある完成度の高さ。いや、初代の軽やかさだって決して悪くなかったんですけども。

 

ともあれ、現代国産ボールペンの解像度の高さ、ぜひあなたも手に取って味わってみてください。

 

↑削り出しの金属製の口金を搭載する「ボールサインiD プラス」もラインナップ。インクは、ピュアブラック、ナイトブラック、フォレストブラックの3色だ

 

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【第1話~第12話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第13話】定番の油性ボールペン「ビックオレンジEG」がまさかの廃番! 後継モデルもさすがの書き味だが……
https://getnavi.jp/stationery/649279/

定番の油性ボールペン「ビックオレンジEG」がまさかの廃番! 後継モデルもさすがの書き味だが……

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文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第13回となる今回は?

 

第13話

 

 

ビック
BIC オレンジEG(左)
110円(税込)

1961年に誕生し、「オレンジBIC」の名で親しまれる油性ボールペン。手ごろな価格ながら、書き心地とデザイン性に優れ、“定番ボールペン”として世界中で愛されてきた。60周年を迎えた今年、廃番が決定。ファンの間に激震が走った。

 

↑後継モデル(110円・税込)の筆記距離は従来品より長い3.5km。インク残量が見やすいクリアボディだ

 

後継モデルでは拭えない淋しさから、いつか来るツールの“寿命”に思いを馳せた

「BIC オレンジEG」が廃番になると聞いて驚きました。OKB(お気に入りボールペン)総選挙を主催して10年間、様々な定番品がカタログから消えていくのを目の当たりにしてきましたが、これはさすがに大丈夫だろうとタカをくくっていたからです。なにせ1961年発売の大先輩。世界中で愛されている油性ボールペンの代名詞的な存在であり(欧米では特に)、それがまさか……いや、考えてみれば、まさにその巨大さゆえに、昨今のアナログ道具離れや、安価で高品質な日本製ボールペンの台頭のダメージを直に被っていたのかもしれません。

 

しかし、幸いにも後継となる「BIC クリスタルオリジナルファイン0.8 黒インク」がすぐに発表され、すでに市場に出回り始めています。こちらはその名のとおり綺麗なオレンジの透明軸で、筆記距離は1.75倍に伸び、環境への配慮も行き届いています。書き味はBICらしい重みと粘りがあり、旧ファンにも親しみやすいバランスになっているのは流石です。ただし、先代の“不透明軸ならではのレトロなキュートさ”は失われてしまいました———やはり、一抹の淋しさは拭いきれません。

 

いま、あなたが愛用しているそのツールだって、いつかきっとなくなる日が来る。そんなプロダクトの「寿命」に少しだけ思いを馳せてみると、目の前の風景が変わって見えてくるはずです。我々は別れから、残されたものの価値を知ることができるのです。

 

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【第1話~第11話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第12話】滑らかながら心地良い手応えを備える! 三菱鉛筆「ジェットストリーム」が15年にわたり最高のボールペンであり続ける理由
https://getnavi.jp/stationery/637544/

 

滑らかながら心地良い手応えを備える! 三菱鉛筆「ジェットストリーム」が15年にわたり最高のボールペンであり続ける理由

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第12回となる今回は?

 

第12話

三菱鉛筆
ジェットストリーム スタンダード
165円(税込)

2006年に登場し、「低粘度油性ボールペン」というジャンルを生み出したエポックメイキングなペン。“クセになる、なめらかな書き味”がコンセプトで、従来の油性ボールペンよりも摩擦係数が最大50%軽減された「ジェットストリームインク」を搭載している。くっきり濃く書け、乾きが速いのも特徴だ。

 

筆記具は、書き手と共に“在る”ことを求められている

ペン先のボールが回転している感じがきちんと伝わってくるのがいいなと、初めて使ったときからずっと思っていました。三菱鉛筆の「ジェットストリーム」。

 

この感触は案外ほかでは味わえないもので、例えるなら「ギアの軽いロードバイクで軽快に飛ばしている感じ」とでもいいましょうか。ホバーのように地表から浮き上がるのではなく、「地面(=紙面)」をしっかりと噛む、そのかすかな手応えと感触をあえて残しているような気がします。

 

これまで当連載でずっと考えてきましたが、あらためて「良い筆記具」とは、いったいどういうものでしょうか? そもそも道具とは、己の内にある思考やイメージを外部に出力するためのものです。そんなバイパスを介さずに脳から直接出せればいいのに……と、もどかしく思うときもありますが、いまの技術でそれは不可能ですし、むしろ「道具」と格闘しているうち(それは「言葉」も含みます)、当人も思っていなかったような高みにまで連れて行ってくれることさえあります。つまり道具とは、使い手を拡張・変容させ得る動的な触媒であり、ならば目指すべきは、存在を透明化することではなく、「心地良く共に“在る”こと」。

 

2006年の発売以後、最高峰のボールペンであり続けるジェットストリームは、単に滑らかだからすごいのではなく、低粘度インクで「透明」になりすぎないよう、踏みとどまったところに、そのすごみと最大の発見があったのです。

 

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【第1話~第10話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第11話】書き味はペンと紙の組み合わせ次第! コクヨ「ペルパネプ」で「手書き」の妙味を体感できる

https://getnavi.jp/stationery/626085/

書き味はペンと紙の組み合わせ次第! コクヨ「ペルパネプ」で「手書き」の妙味を体感できる

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第11回となる今回は?

 

第11話

コクヨ
ペルパネプ
ペン:143円〜440円(税込)、ノートブック:各990円(税込)

ツルツル、サラサラ、ザラザラの3種類の手触りのノートと、書き心地の異なる3タイプのペンを揃えるシリーズ。ノートはA5サイズだが、開いたときに中央に段差ができにくいフラット製本のため、A4サイズの面としても使える。罫線は3mm方眼や4mm方眼ドットなど全5種類。

 

ペンと紙の相性を趣旨に、デザイン性も妥協なし

ペン好きなら一度は必ず通る「ノート道」。お気に入りのペンに出会ったとき、ではそのポテンシャルを最も引き出せるのはどの紙なのか? それを知りたくなるのは当然の心情と言えましょう。結果、家には書きかけのノートが山積みに。あるいは良い感じのノートや手帳と出会ったとき、その紙にいちばん相応しい筆記具を見つけるべく手元のペンを取っかえ引っかえ、なんて人も多いと思います。

 

そうしたペンと紙の相性に焦点を当てたのが、コクヨの新ブランド「ペルパネプ」。同社が誇る製紙技術で作った質感の異なる3種類のノートと、ゼブラのゲルボールペン「サラサ」、プラチナ万年筆の簡易万年筆「プレピー」、そして自社の極細サインペン「ファインライター」という3本を、白を基調にリデザインしてトータルコーディネート。これは言わば、モノ単体を売っているのではなく、「紙とペンの組み合わせを考えるのって楽しいよね」という概念を売っている、もしくは筆記という行為の解像度を高めるための学習キットとでも言えるでしょう。

 

さらに思わぬ副産物も。それは白いボディで統一された各ペンの見栄えの良さ。どうにも安っぽさが否めない(これは決して悪いことではない)サラサやプレピーのシルエットが、こんなに美しいだなんて、透明軸のときには気づかなかった。コンセプトありきで終わらない、見た目にも使い心地にも配慮が行き届いた、極めて“地肩”の強いプロダクトです。

 

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【第1話~第9話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第10話】ジェットストリームに迫る滑らかさ! 伊東屋オリジナルのボールペンリフィルは優雅な書き心地で人に勧めたくなる

 

ジェットストリームに迫る滑らかさ! 伊東屋オリジナルのボールペンリフィルは優雅な書き心地で人に勧めたくなる

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を1点ずつピックアップしている。第10回となる今回は?

 

第10話

ロメオ
ボールペンリフィル easy FLOW
880円(税込)

都内を中心に店舗を展開する文房具店、伊東屋のオリジナルブランドである「ロメオ」のインクリフィル(写真上)。同ブランドの看板商品、「No.3 ボールペン(8800円~/税込・写真下)」専用のリフィルで、低粘度油性インクを使っている。インク色はブラックとブルー。

 

積極的にプレゼントしたくなるほど、いいボールペン

餞別や転職祝いにと、隙あらば知人にボールペンを贈りつけてきた筆者ですが、振り返るとこれまで一番多く選んできたのはたぶんロメオ「No.3 ボールペン」です。

 

金属パーツをあしらったレトロな外見が醸し出す“イイモノ”感、そのわりに価格はそこそこお手ごろなことなどが主なチョイスの理由ですが、実は、中身である別売りの(以前は標準装備だった)「ボールペンリフィル easy FLOW」の素晴らしさをもっと知ってほしい……というのが秘めたる動機だったりもします。

 

2006年の「ジェットストリーム」登場以降、低粘度油性インクが標準の世の中となりましたが、数ある後発インクのなかでもこのeasy FLOWだけが、ジェットストリームインクの持つ「軽さ」に肉薄していると考えています。サラサラと水っぽくしただけのインクにはない、わずかに残ったヌメリ感が独特の滑るような軽やかさを生み出し、0.7mmボールにしては明らかに太く感じる筆記線も相まって、まるで「想像上の理想の海外ボールペン」的な優雅な書き心地を満喫させてくれます(ちなみにロメオは企画が日本の銀座・伊東屋、ボールペンのボディの生産は台湾、easy FLOWはドイツ製)。

 

ともあれ、その実力のわりにイマイチ知名度の低い不遇なインク。もっと世に知らしめるためには、やはり配るしかない……(捨て身の発想)。でも、そういう気にさせるぐらい、いいペンなんですよ。

 

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【第1話~第8話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第9話】鉛筆の六角軸とシャープペンの快適さ、上質な艶やかさ! イイトコどりしたコクヨ「鉛筆シャープ」は大人こそ使うべき筆記具

鉛筆の六角軸とシャープペンの快適さ、上質な艶やかさ! イイトコどりしたコクヨ「鉛筆シャープ」は大人こそ使うべき筆記具

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第9回となる今回は?

 

第9話

コクヨ
鉛筆シャープ
198円(税込)

ペン先に鉛筆を削ったような細かな質感を施した、六角軸のシンプルなシャープペン。ノック部分の穴に直接芯を入れられる「スピードイン機構」を採用している。芯は0.3mm、0.5mm、0.7mm、0.9mm、1.3mmから選べる。

 

分類しがたい絶妙なデザインは、筆記具の新たな可能性

芯の太さはまるで鉛筆。けれど、ノック一発で書き出せる快適さはシャープペンそのもの。そんな鉛筆とシャープペンの良いとこどりをした筆記具が、各社から発売されています。ある製品は木軸で鉛筆らしさを表現、かたやある製品はシャープペン風の見た目ながら太い芯でガシガシ書ける……と、「鉛筆⇔シャープペン」間のどの座標に身を置いているかで、その製品のアイデンティティが透けて見えるのが面白いです。

 

さて、それでは2020年11月に発売されたコクヨの「鉛筆シャープ」はどうでしょうか。

 

ボディは六角軸で鉛筆風、しかし材質は光沢のある艶やかな質感で、これはかなり“非・鉛筆”的。特にブラックモデルはカドのエッジが際立ち、タイトでキリッと引き締まった凛々しい外見で、これは既存のシャープペンにはなかなかない凜々しさ。大人の普段使いにもイケるデザインだと思うのですが、皆さんどうでしょうか。

 

ふと思い出したのは、ユーザーインターフェースの世界で使われる「フラットデザイン」という考え方です。例えばスマホのアイコンなら、昔は見た目を既存のモチーフに寄せることで機能の説明をしていたのに対し、フラットデザインでは元イメージから距離を取り、抽象的でシンプルな見た目を指向しています。それに倣って言えば、本製品は、言わば「フラットデザイン的筆記具」。実は新しい座標に置くべき筆記具かもしれません。

 

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【第1話~第7話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第8話】万年筆入門にうってつけ!丸くカーブしたペン先が特徴のミドリ「MD万年筆」

https://getnavi.jp/stationery/551859/

アウトドアでも働く現場でも! ライト付きボールペン「ライトライトα」の本気を感じる進化とは

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第8話

ゼブラ
ライトライトα
660円(税込)

ペン先にライトを搭載したボールペンの新モデル。暗い場所で使っても目にやさしい、赤いライトが新たに加わった。暗い場所で長時間過ごす夜間の仕事や、天体観測などの趣味のシーンで活躍する。

 

ライト付きボールペンとしてのさらなる進化形

文房具史上初の、「本気の」ライト付きボールペン。

 

これまでも暗闇で書くためのライト付きボールペンはあるにはあったが、どれも使い勝手や書き心地がイマイチで実用に耐えるものはほとんどなかった。

 

そこに2018年、突如登場したのがゼブラの「ライトライト」。ペン先に明るいLEDライトを搭載し、インクはゼブラの主要インクである油性インクを採用。海外メーカーに通ずる無骨でシンプルなデザインと、基本的なスペックの高さからその「本気」が伝わってきた。

 

ペン先の出し入れとライトのオンオフをノックで切り替えられるから両手が塞がらないし、灯りがいらない場面では普通のペンとしても使える。ペン先が光った状態での筆記にはやや慣れが必要なので、最初はペンとライトを別々に使うのも良いだろう。クルマの中や非常用持ち出し袋に入れておく一本としても安心感がある。

 

そして2021年3月、その改良版「ライトライトα」が登場した。ペン先に蓄光パーツを使い、ライトに目が眩むのを防ぐ赤色LEDライトモデルも用意するなど、ライト付きボールペンとしてのさらなる進化形を見せてくれている。

 

同社の調査によれば、医療、運送、建設業などで働くおよそ4割の人が日常的に暗い場所で筆記しているという。「本気」で必要とする人がいるから本気で応えた、その応答が気持ちの良い一本である。

 

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【第7話】万年筆入門にうってつけ!丸くカーブしたペン先が特徴のミドリ「MD万年筆」
https://getnavi.jp/stationery/582979/

狙った所にピタリ! ペン先がカーブしたミドリ「MD万年筆」は入門者に優しく愛好家にも新鮮な書き味

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第7回となる今回は?

 

第7話

ミドリ(デザインフィル)
MD万年筆
2750円(税込)

「書く」ことにこだわった文房具シリーズ、「MDペーパープロダクト」の万年筆。ペン先は使い勝手の良い中字で、「MD PAPER」のロゴが刻印されている。鉛筆のように軽く、首軸に施されたグリップは指が滑るのを防ぐ。

 

高い完成度を持ち、万年筆初心者でも扱いやすい

無垢でシンプルで風合いが良く、それでいてクオリティも押し並べて高水準。しかもリーズナブルな価格で安定した人気を誇る「MDペーパープロダクト」シリーズに、初の万年筆が登場した。

 

クリーム色の胴軸にシルバーのキャップと、見た目がまず合格点。価格のわりに安っぽさがなく雑貨的なかわいさがある。そして何より特筆すべきは、先端が九官鳥のくちばしのように丸くカーブしたペン先だ。握って上から見たときに、ペン先が外側に反り返った万年筆ならたまに見かけるが、それが内側に湾曲しているのは珍しい。

 

外側に反ったペン先は、毛筆のようなトメ・ハネ・ハライを擬似的に再現するためのものだが、こちらはまさにその逆が狙いで、ペン先を寝かせても立てても一定の線が引けるようになっている。これは、「万年筆初心者でも扱いやすいように」という配慮なのだが、それに加えて、個人的には精密作業に使う先曲がりピンセットのような「狙ったところにピタリとペン先を落とせる」感覚がとても快適だった。これは万年筆上級者でも一度は試す価値あり。

 

いまや安価な万年筆シーンは、質・量ともに大変充実し、本格万年筆への入門編にとどまらない独立したジャンルになっている。そのなかでもこのMD万年筆は「安価な万年筆入門」にうってつけ。すでに高い完成度を持ち、しかも本格万年筆ですら持たない確固たる個性を備えているからだ。

 

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【第1話~第5話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第6話】サクラクラフトラボ「005 ゲルインキボールペン」
https://getnavi.jp/stationery/575709/

これぞサクラクレパスらしい“高級感”! サクラクラフトラボ「005 ゲルインキボールペン」に膝を打った理由とは?

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

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第6話

サクラクレパス
サクラクラフトラボ
005 ゲルインキボールペン
3520円(税込)

2017年に誕生した「かく」喜びを届ける筆記具シリーズから2020年11月に登場。流線型のシルエットと、ボディ中央から両端に向かって彫られたラインが美しい。ボディは8色展開で、インクはセピアブラックを搭載。別売りでブラック、ブルーブラックもある。

 

「新しいのにどこか懐かしい」

ここ数年、各筆記具メーカーが自社製品のリブランディングを進めていくなかで、サクラクレパスが売り出したのが「サクラクラフトラボ」シリーズ。こちらの既発4モデルはどれも、真鍮を素材に使い、重厚感のあるヴィンテージ路線を打ち出していたが(「002」のみ同社のクーピーペンシルをモチーフにしており毛色が異なるが)、どれもどっしりとしたボディにサクラならではの軽やかなインクがどうにもチグハグで、そもそもサクラクレパスが「高級感=重量感」というステレオタイプに与する理由も見当たらず、ずっとモヤモヤしたものを感じていた。それぞれの出来に文句はない。が、ほかにもっと高級感の出し方があるんじゃないかしらん−–−と。

 

そんなところに発売された新作「005」を見て、思わず膝を打ってしまった。そうそう、これこれ! クーピーペンシルにも通じる無垢なボディラインに、不揃いのスリットが走り、繊細なニュアンスを出しながら握りやすさも確保している。この「新しいのにどこか懐かしい」というバランスはまさにサクラクレパスに望んでいたことで、しかもちゃんと高級感まであるのだから感心してしまう。胴軸をひねってペン先を繰り出し、大きめの紙に殴り書き。しばし無心になってペンを走らせ、ふと尾尻を真上から眺めてみると……ペン後部の断面が桜の花びらの形になっているのに気が付いた。そうそう、こういうこと〜! 大正解。

 

↑サイドから削り込まれたボディは、天面でサクラクレパスの社章である、「サクラマーク」を形づくっているのがわかる。美しい造形だ

 

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【第1話~第4話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第5話】三菱鉛筆の開拓精神を見た! 異形のペン先をもつ3色ボールペン「ジェットストリーム エッジ3」

https://getnavi.jp/stationery/551859/

“軽くて滑らか”を超える開拓精神を見た! 異形のペン先をもつボールペン「ジェットストリーム エッジ3」

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

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第5話

三菱鉛筆
JETSTREAM EDGE 3(ジェットストリーム エッジ 3)
2500円(税別)

0.28mmの超極細ボール径を搭載した「ジェットストリーム エッジ」の3色タイプ。インクは黒、赤、青の3色。後端のダイヤルを回すことで3色のリフィルが回転し、一定の場所から繰り出される機構が新開発された。

 

↑ペン先がアシンメトリーな扁平形状で、本体軸に対しリフィルが常にまっすぐ出てくるようになっている

 

ジェットストリームの開拓精神あふれる一本

2019年12月に三菱鉛筆から発売された「ジェットストリーム エッジ」は、ボール径0.28mmの世界最細油性ボールペン。見たことがないほど細い線が書けるが、そのぶんクセも強く、針で引っ掻くような硬質な筆記感には面食らうほどだ。そんな「エッジ」の発売からおよそ1年。2020年11月に発売された3色タイプ「ジェットストリーム エッジ3」では、その異形性がいよいよ剥き出しになっている。

 

極細のリフィルがペン内で斜めにならぬよう、ペン先を軸の中心からズラし、3色のリフィルをリボルバーのシリンダーのように切り替えて垂直に下ろす機構を採用している。このためペンを持つ向きが決められているが、使ってみるとさほど違和感はない。「普通のペンとは違う、何か特殊な道具を扱っている」という感覚はあるのだが、そもそもエッジは「普通ではない特殊な道具」なのであった。”3色ボールペン”という複雑なプロダクトに対応していった結果、異形の本質が顕在化した、という言い方が正確かもしれない。

 

もとより「エッジ」シリーズは低粘度油性のジェットストリームインクなくして生まれなかったもの。だが、進化を突き詰めた結果、自ら築いた2010年代以降の「軽くて滑らか」というボールペンの主流から大きく逸脱しつつある。しかし、こうした開拓精神こそジェットストリームの”本質”なのである。外見の必然性も込みで、志の高さを感じる一本だ。

 

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】バックナンバー

【第1話~第3話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第4話】芯1本使い切るまでノック不要! メカまでシャープな「オレンズネロ」に真打登場

https://getnavi.jp/stationery/551859/

芯1本使い切るまでノック不要! メカまでシャープな「オレンズネロ」に真打登場

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す放送作家の古川耕氏による新連載は、「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される、手書きツールを1点ずつピックアップしている。第4回となる今回は?

 

第4話

ぺんてる
オレンズネロ 0.2/0.3/0.5
各3000円(税別)

1回ノックするだけで、芯を1本使いきるまで書き続けられる、「自動芯出し機構」を備えたシャープペン。ストレートのパイプが、紙と芯の設置面の視認性を高めている。パイプ先端を研磨し、滑らかな書き心地も実現。

 

名作シャープペンに待望の0.5mmが追加

グラフ1000、グラフレット500、PG5、スマッシュ……ぺんてるが誇る名作シャープペンの系譜の突端に位置しているのが、2017年発売の「オレンズネロ」。発売当時にはあまりの人気で入手困難になったほどだ。

 

「私は『かっこいい』ものを作りたかったわけじゃない。ネロはもっと大きなものを背負っているのだと思うのです」

 

とは、そのオレンズネロのプロダクトデザイナー 柴田智明氏の弁。ここで言う“大きなもの”とは、つまり前述したようなぺんてるの名作シャープペンが築いてきた遺産のことだ。こうした責任感、あるいは使命感を持って生まれたプロダクトだけに、ネロは近年のシャープペンブームのなかにあって目先のトレンドには目もくれず、どっしりと風格のあるデザインに仕上がっている。手にしていて「ここはちょっと緩いな」というパーツがひとつもなく、特に金属粉と樹脂を混ぜたという独自素材は、重さと手触りも込みで本当に見事なもの。

 

それでいて自動芯出し機構や芯折れを防ぐスライド式のパイプなど、現代シャープペンに求められる機能も兼ね備えており、使い勝手も申し分ない。これまでは芯径が0.2と0.3mmだけだったが、2020年10月には待望の0.5mmモデルが発売され、これでいよいよすべての状況は整った。

 

ぺんてるだけではない、日本産シャープペンのすべての歴史の最先端に、オレンズネロが躍り出た。

 

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】バックナンバー

【第1話・第2話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第3話】知る人ぞ知る200円の傑作! パイロット「Vペン」は“無骨な書き味”が気持ちまで文字に反映する

https://getnavi.jp/stationery/544312/

知る人ぞ知る200円の傑作! パイロット「Vペン」は“無骨な書き味”が気持ちまで文字に反映する

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す放送作家の古川耕氏による、「手書き」をテーマとした連載がスタートした。デジタル時代の今だからこそ、見直される手書きツール。いったいどんな文房具の数々が披露されるだろうか。第3回となる今回は?

 

第3話

パイロット
Vペン
200円(税別)

万年筆の書き味とサインペンの手軽さを両立した、使い捨てタイプの筆記具。ペン先は細字と中字の2種類から選べ、インクはブラック、レッド、ブルーを揃える。水性染料インクを採用している。

 

心の声を書き記すのに合う”無骨さ”

見た目はいかにも廉価版の万年筆。しかしメーカーサイトには「サインペン」と分類されており、でもキャップを取ってみるとスチール製のニブがあり、書けば無愛想ながら万年筆らしいしなりがわずかにある。どっちなんだ。最近の安い万年筆にある優等生らしさは微塵もない、カリカリとつっけんどんな書き味である。

 

パイロットの「Vペン」を知ったのは、フラッシュアニメ「秘密結社 鷹の爪」の作者FROGMAN氏が“台詞を書くのにこのペンを愛用している”と本で紹介しているのを読んだときだ。あの小気味良い会話はこのペンから生まれているのかと、文房具店に行くたびに気にするようにしていたら、大抵のペンコーナーの脇にひっそりと置かれていることに気が付いた。実は固定ファンの多い、玄人受けするペンだったのである。

 

台詞、歌詞、ラジオのCM台本など、〝声〟になる言葉はいまも手で書く、というクリエイターが実は少なくない。フィジカルな表現に息を吹き込むために、よりフィジカルな道具を選ぶというのは何やら意味がありそうだ。キーボードや予測変換機能は、ときに頼りない心の声を先回りして太字に書き換えてしまう。けれど身体で鳴らす言葉はもっと未整理で、キーボードの隙間によくぽろぽろと落ちている。それを拾い上げ、紙面に並べようとするとき、“洗練”とは言いがたいこの無骨なペンは、妙に合っている気がするのだ。

 

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】バックナンバー

【第1話】久米宏氏の美学を見た! 扱いにくくも書くのが楽しい、懐かしの“赤青鉛筆”
【第2話】“細筆”感覚の軽快なタッチが心地良い! ジェットストリーム誕生の伏線となった三菱鉛筆「ユニボール5」