ニオイとかゆみをどう解消する?“膣ケア”“膣トレ”の基本とデリケートゾーンの正しい洗い方

フェムケアとは、女性という意味の英単語「Female」の「フェム」に、お手入れを意味する「care(ケア)」を合わせた造語。主に女性のデリケートゾーンのケアのことを意味します。それが最近では広く、生理や出産、不妊や更年期症状など女性の悩み全般をケアすることを指すようにもなっており、女性特有の健康課題を解決するためのケアのこととして使われる傾向に。ここ数年、専用のケア商品が販売されるなど、社会全体で関心が高まっています。

 

今回は、本来の“デリケートゾーンのケア”にフォーカス。長年フェムケアの重要性を訴え、「腟ケア」や「腟トレ」のパイオニア的存在でもある山口明美さんに、基本的なケアの仕方を教えていただきました。

 

 

フェムケアの目的は
女性が健康課題を解決して長く“生き生き”働くこと

 

ここ数年で、フェムケアという言葉を耳にするようになりましたが、どのような社会背景があったのでしょうか?

 

「2020年10月に衆議院議員の野田聖子氏が『フェムテック振興議員連盟』を発足したことが、大きなきっかけです。快適な生理期間と妊婦の支援、更年期の諸問題解決という3つの柱を軸に、女性の悩みを解決する商品や教育を社会全体で普及する目的で始まりました。それまではフェムテックという言葉すら日本ではほとんど聞いたことがありませんでした」(膣プランナー・山口明美さん、以下同)

 

また、時を同じくして企業の健康経営への関心も高まっていたのも理由だとか。

 

「とくに女性の社会進出が増える一方で、出産、更年期などのライフステージの変化により継続して働けず、最終的には出世をあきらめたり、退職してしまう人が多いことが、企業の人材不足につながっていました。体やメンタルの不調を個人に任せるのではなく、企業全体で支えていこうという動きが高まってきたこともフェムケアが広まる一因となりました」

 

でも日本は遅れている……
デリケートゾーンの悩みとその原因

 

フェムケアの中でも関心が高いのがデリケートゾーン。働き盛りの20代から30代に多いデリケートゾーンの悩みについて教えてください。

 

「その世代の女性が抱えがちなデリケートゾーンに関する主な悩みは、3つです」

 

1.におい

「デリケートゾーンには、尿道口、膣口、肛門と3つの穴があり、尿やおりもの、便、汗などさまざまな排泄が行われ、汚れる場所でもあります。とくに厄介なのが『膣垢(ちこう)』と呼ばれる、おりものや尿などが混ざった白っぽい汚れ。これらの汚れが付着したままでいると、においやかゆみの原因になります。また夏の暑い時期の膣には、ボトムスにショーツ、おりものシートなどが層になって重なり、高温多湿のお風呂場みたいな状態に。雑菌が繁殖することも原因です」

 

2.かゆみ

「デリケートゾーンの皮膚は大変薄く刺激に弱いため、摩擦に敏感でとても乾燥しやすい部分です。下着やナプキンが皮膚に触れてかぶれる、汗や熱がこもり蒸れて菌が繁殖する場合もあります。またかゆみが長引く場合には、カンジダ症や細菌性膣炎などの可能性も。これらの病気を性行為が原因と考え自分には関係ないと考える方もいらっしゃいますが、ストレスや疲労などで免疫力が下がることでも発生します。誰にでも起こる可能性があるのです」

 

3.ゆるみ・たるみ

「女性は、初潮、妊娠・出産、更年期などライフステージによって、ホルモンバランスが変化します。たとえば、肌や髪をきれいにし、血管や骨、脳の健康を保つ、通称・美のホルモンと呼ばれる“エストロゲン”は、30代半ばからゆるやかに減少していきます。このエストロゲンが減ると、膣萎縮を起こします。潤いや弾力が減り、ゆるみの原因に。また、膣を支えている骨盤底筋が運動不足などでゆるむと、膣も同様にゆるみます」

 

無知による“放置”は
不妊症のリスクを高める!

 

山口さんがとくに深刻だと感じるのが、異変を放置してしまうことだと言います。

 

「海外では専門的な知識や情報を得られる授業やクリニック、教育団体があるのに対し、日本は学習する機会すらままなりません。欧米では10歳ごろから母が娘に膣ケアを伝えますが、日本ではあえて秘めごとにしてしまうことが多いのが現状です。違和感を感じても誰にも打ち明けられず、放置してしまいます。また、性病は無症状であることも多いので、放置することで、不妊症のリスクを高める場合があります。においやかゆみなどの異変に気づいたら、すぐに病院を受診し相談する考えを持ちましょう」

 

デリケートゾーンの不調に気づくために
日頃から行いたいこと

 

デリケートゾーンは顔と違って、普段目にしない部分です。不調に気づく方法はあるのでしょうか?

 

「毎日触って確かめることです。入浴時に洗うときに丁寧にやさしく触ることで、デリケートゾーンの変化に気づきます。もしくは鏡を当てて、定期的に目でチェックするのもおすすめです。
また、おりものは不調のバロメーター。おりものの色やにおいなどの変化で体調を感じ取ることができます。女性ホルモンがもっとも増える30代がおりもの量のピークです。生理周期に合わせて、色や量、粘質が変化します。おりものが白く濁ってポロポロしたり、生臭いにおいがするなど、いつもと違うサインが出たら、体が不調を訴えている証拠です。日頃から自分のおりものの状態を確認し、変化に気づけるようにするといいでしょう」

 

一般的なおりものの変化

月経期……生理中。経血が出ている。

卵胞期……月経期後。量が少なくサラッとしている。排卵期にむけてだんだん量が増える。

排卵期……おりものの量がピークに。透明でとろみがある。

黄体期……排卵後、だんだん量が減る時期。白濁で粘り気がある。

月経期直前……量が増え、においがやや強くなる。

 

専門家が教える
デリケートゾーンの正しい洗い方と膣トレーニング

膣まわりのケアを行った人の誰もが「やってよかった!」と効果を実感するそう。

 

「フェムケアは、それほど体に良い影響を与えるのです。具体的な膣へのアプローチは2つあります」

 

・膣を外側からアプローチする「膣ケア」
・膣を内側からアプローチする「膣トレ」

 

「膣ケアの基本は、清潔に保つこと、乾燥させないこと、冷やさないことの3つです。膣トレは、膣を支えている骨盤底筋を鍛えること。膣内には膣フローラと呼ばれる常在菌がバランスを保ち、膣のバリア機能を担っています。虫歯菌を抑えるために歯の汚れを落とし、口を閉じよく噛み、歯並びを整えるように、膣にもケアやトレーニングが必要なのです」

 

では、実践方法を順番に見ていきましょう。膣ケアは、清潔に保つ方法=洗い方に絞って解説いただきます。

 

【膣ケア】
デリケートゾーンの正しい洗い方

角層が薄く、名前の通りデリケートに扱う必要のあるデリケートゾーン。しかしながら、近くでは排尿・排便も行われているため、汚れや垢が溜まりやすい部位でもあります。でもそのわりに、正しい洗い方をきちんと習った経験のある人は少ないのではないでしょうか。山口さんにやさしく洗いながらも汚れを落とす正しいデリケートゾーンの洗い方を教えていただきました。

 

【準備するもの】

デリケートゾーン専用のボディウォッシュやソープ

 

【洗い方】

1.水圧が弱いシャワーでさっと流す。

2.腰をおとし、足をしっかり開く。専用のウォッシュかソープをしっかり泡立てて、デリケートゾーン全体を覆うように泡をのせる。

3.大陰唇と小陰唇をやさしく洗う。

 

人差し指と中指の腹を使って、Uの字にやさしくなでるように洗う。

 

4.小陰唇のヒダを指で挟んで洗う。

 

ヒダに垢が溜まりやすいので、表と裏を指で挟みながらやさしく洗う。

 

5.クリトリス包皮を引き上げて洗う。

クリトリスを守るようにかぶっているクリトリス包皮を上にやさしく引き上げてクリトリスを出し、泡をのせて円を描くようにやさしく洗う。クリトリスは、利き手の逆の人差し指と中指をピースの形にして、クリトリスの両側に置き、指を左右に広げながらお腹側に引き上げることで表出させる。

 

6.会陰(膣口と肛門の間)を円を描くように洗う。

膣口と肛門の間に位置する会陰を洗う。指の腹を使ってくるくると円を描くように3か所洗う。

 

7.膣口を泡をすべらせるようにスッとやさしく洗う。

膣内に泡が入らないように気をつける。

 

8.足をしっかり開いて肛門を洗う。肛門の周りにはシワがたくさんあるため、やさしく円を描くように。

 

9.シャワーでやさしく流し、タオルで押さえたら終了。水圧の弱いシャワーでやさしく流したあと、タオルで一度軽く押さえるようにやさしく拭くこと。

 

Q&A 膣ケア編

デリケートゾーンの洗浄に関連して、その他の疑問にも回答いただきました。

 

Q.デリケートゾーンを洗うときは、専用のソープを使うべき?

A.
「専用のソープを使うと安心です。というのも、専用のソープは皮膚環境と同じ弱酸性のため、負担を最小限に留めながらやさしく洗えます。よく洗顔石けんで洗ってもいいですかと聞かれますが、デリケートゾーンはさまざまな物質を吸収しやすい部位。肌から体内に物質が吸収される経皮吸収率は、腕の内側(前腕)の約42倍ともいわれています。防腐剤など極力不要なものが入っていないソープを使うことをおすすめします」

 

Q.黒ずみが気になるときにはどうしたらいい?

A.
「もともと人によって肌の色味が異なるように、膣の形状や色にも個人差があります。持って生まれ状態からさらに黒くなってしまう原因は、摩擦とホルモンバランスの崩れです。膣は乾燥や刺激から保護してくれる角質層が薄いため、摩擦などの刺激を受けると、メラニン色素を作って皮膚を守ろうとします。また、ホルモンバランスの崩れにより、メラニンが排出されず沈着してしまうことも。まずは摩擦から守るために保湿を行います。デリケートゾーン専用の保湿ジェルやオイルを使いましょう。黒ずみがどうしても気になる人は、メラニンの生成を抑えるデリケートゾーン専用のホワイトニングもあるので試してみるのもいいでしょう」

 

Q.いつも清潔に保つためには?

A.
「かゆみの原因でもふれましたが、夏の暑い時期の膣は、通気性が悪く、カビが発生しやすい状態です。洗うことも大切ですが、1日の中でおりものシートや下着をこまめに変え、清潔な状態を保ちましょう。また、おしゃれに敏感な方には抵抗があるかもしれませんが、吸水性・吸湿性の良い綿素材のショーツがおすすめ。夜だけでも綿素材のショーツにするなど、蒸れない対策が大切です」

 

続いて、“膣トレ”の具体的な方法を解説いただきます。

 

【膣トレ】骨盤底筋を鍛える呼吸トレーニング

骨盤底筋のゆるみは、骨盤のゆがみと筋力の低下、つまり姿勢の悪さと運動不足が原因です。現代は一日中座りっぱなしで動かない、歩く機会が少ないなど運動不足の人が多いことも影響しているので日常的に、骨盤のゆがみを整えたり、筋トレを行うようにしましょう。手軽に行えるスクワットや、呼吸を意識しながら行い、肛門・尿道・膣を締める“膣トレーニング”がおすすめです。

 

呼吸をしながら、3つの穴を締めていきます。締める順番は、肛門→尿道→膣です。最初はなかなか意識しづらいと思いますが、以下にあるように想像力を働かせイメージすることで、それぞれの部位を意識できるようになっていきます。

 

【トレーニング方法】

1.肛門を締める。
鼻から息を吸って、口から吐きながら肛門を締める。ぎゅっと雑巾を絞るイメージお尻の穴に力を入れて、5秒×10回行う。腹筋を使わずに行うのがポイント。

 

2.尿道を締める。
鼻から息を吸って、口から吐きながら尿道を締める。おしっこを我慢する感覚で、尿道から細いストローのようなものを吸い込むようなイメージで締める。5秒×10回行う。

 

3.膣を締める。
まず体を脱力させてイスに座る。耳から腰が一直線になるように自分のセンターポジションを確認する。体の真ん中にポールがあり、頭の上から串刺しになっているようなイメージ。鼻から息を吸って吐きながら膣を締める。膣の扉を閉めるような感覚で締めた後、そのまま胃→頭の上まで引き上げるようなイメージで引き上げる。5秒×10回行う。

 

Q&A 膣トレ編

Q.膣がたるんできた気が。どう対処法したらいい?

A.
「たるむ原因でもふれましたが、ケアをせず放置する、乾燥や老化によって膣がたるむことがあります。また、骨盤内の臓器を支えている骨盤底筋の指示力が低下して、膀胱や子宮頸部などが出てきてしまう骨盤臓器脱が起こる場合も。これらは、膣ケアと膣トレーニングで対処できます。骨盤臓器脱は、気づきにくく誰にでも起こりうるもの。違和感を感じたら女性専門クリニックなどへ相談しましょう」

 

 

気づかない間にデリケートゾーンに汚れを溜め、雑菌を繁殖させるなど不衛生な状態のまま放置していることが体の不調を招く原因となっているかもしれません。そんな状態をいち早く改善するためにも、まずは日頃からデリケートゾーンの状態をチェックし、正しい洗い方からスタートしましょう。

 

 

Profile


膣プランナー / 山口明美(ちつ姉)

エステサロン入社1年目での目標売上対比250%達成を皮切りに、最年少でサロン事業部統括マネージャーに昇進、美容機器販売実績6年連続1位達成、美容サロンの立ち上げと店舗展開等、美容業界の門をたたいた19歳から現在まで数々の前人未到の実績を生み続ける美容業界のレジェンド。近年では、「フェムテック・フェムケアを日本の新たな文化に」をコンセプトにフェムテック分野では日本初の膣プランナーとして活動。『ちつ姉』『膣ねぇ』の愛称でSNS総フォロワー約50万人。YouTube で話題の「令和の虎なでしこ版」では虎としてレギュラー出演。フェムケア商品プロデュースと企業コンサルティング業務に主軸を置き、主催するサロンオーナー向けセミナーやオープンイベントでは、延べ1万人を動員するなど、第一線で美容業界を牽引。
HP
Instagram
サロン「女性ホルモン活性化 フェムケアサロン FEMEW【フェミュー】」

 


『AYA×ちつ姉 最高のフェムトレ』(ワン・パブリッシング)
膣を意識することで不調解消だけではなく、お腹やせや美肌も叶えられる! 人気フィットネスプロデューサーのAYAさんが膣トレを、ちつ姉こと山口明美さんが膣ケアについてレクチャーした初心者にもわかりやすいフェムケアスターターにぴったりの一冊。

生理前の憂鬱な症状…産婦人科医が教える「PMS(月経前症候群)」の正体と付き合い方

生理が近づいてくると、なぜかイライラしたり、頭痛がしたり、気分が落ち込んだり……。月経の周期に伴って心身が不安定になる状態が続いていたら、もしかしたら「PMS」かもしれません。

 

近年、PMSの認知度は少しずつ高まっていますが、まだまだ知らない人も多いのが現状です。今回はレディースクリニック「Inaba Clinic」院長の産婦人科医、稲葉可奈子先生にお話を伺い、PMSが起こる原因や対処法について教えていただきました。

 

生理前はいつも憂鬱……
心身に不調をきたす「PMS」のメカニズム

 

PMSとは“Premenstrual Syndrome”の略称で、日本語で「月経前症候群」。読んで字のごとく、生理開始の3~10日ほど前から起こる心身のさまざまな不調のことを指します。

 

その原因には、エストロゲン(卵胞ホルモン)プロゲステロン(黄体ホルモン)という、卵巣から分泌される2つの女性ホルモンの変動が大きく関わっていると稲葉先生は話します。

 

「生理周期は、エストロゲンとプロゲステロンの分泌の増減によって生まれます。排卵後、黄体期と呼ばれる期間になると、プロゲステロンの分泌が高まり、妊娠しやすい状態にするために栄養や水分を貯めこもうとします。
妊娠しなかった場合は黄体期の後半、つまり生理の直前になると、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が急激に低下します。それにより脳の神経伝達物質などに影響を及ぼすことで、さまざまな症状を引き起こすと言われています」(Inaba Clinic 院長・稲葉可奈子先生、以下同)

 

出典=厚生労働省「e-ヘルスネット」

 

生理前に不快な症状を引き起こすPMSですが、生理が始まると症状が和らぐのもその特徴の一つです。症状は多種多様で、以下の症状例もあくまで一例です。複数の症状が同時に現れることもあり、症状の程度も軽いものから、日常生活に支障をきたす重いものまで個人差があります。

 

PMSの症状例

【精神的症状】
・イライラする
・怒りっぽくなる
・情緒不安定になる
・気分が落ち込む
・訳もなく涙が出る

 

【身体的症状】
・頭痛、頭が重い
・腹痛、お腹が張る
・腰痛
・下痢、便秘
・手足のむくみ
・食欲不振または過食
・眠くなる

 

「何もしていない」という人も多数
日本のPMS治療の現状と課題

 

日本医療政策機構「働く女性の健康増進に関する調査2018」によると、現在または過去にPMSの症状があったと回答した人は66%。半数以上の女性がPMSの諸症状を感じていることがわかっています。

 

女性なら誰でも経験する可能性があるPMSですが、日本ではまだまだPMSの認知度が低く、自分がPMSであると気づかないまま、一人で悩みを抱えているという人も多いようです。

 

「例えば生理痛であれば、生理中の症状なので、すぐに生理が原因だとわかりますよね。しかし、PMSは症状も程度も人それぞれで、また生理前に症状が出ることにも気づいていないパターンも多いため、自覚がないまま何年も悩み続けているという人も。近年はPMSの存在が少しずつ知られるようになってきたとはいえ、潜在的にはまだ自分でPMSとは気づいていない、多くのPMS患者さんがいると思われます」

 

PMSは精神面に影響を及ぼす症状も多く見られ、なかにはそれが原因で日常生活や仕事に支障をきたしてしまうこともあります。また、PMSの症状が現れる人のうち、強い精神不安や抑うつ状態、自殺願望を抱いてしまうなど、とくに精神的症状が重い場合は「PMDD(月経前不快気分障害)」と呼ばれる疾患の可能性もあります。

 

ところが、上記の調査によると、PMSに対する対処について「何もしていない」と回答した人が63%と半数を超えており、PMSを自覚していても対処していない、または対処方法がわからないという人が大半を占めているのがわかります。症状がつらくても我慢してしまい、産婦人科受診に至るケースはまだまだ少ないという現状があるようです。

 

こうした現状について、稲葉先生は「少しでもつらいと思ったら、我慢せず気軽に産婦人科を受診してほしい」と話します。

 

「PMSは女性ホルモンの乱高下によって引き起こされるので、自分で自分をコントロールすることができません。自制ができないイライラや激しい落ち込みによって、仕事のパフォーマンスなどに影響が出る方や、家庭や職場など周りに迷惑をかけてしまい、自己嫌悪に陥ってしまう方も多いです。
ですが、PMSはけっして、あなたのせいではありません。なかには『日頃のセルフケアが足りないから』『自分のメンタルが弱いから』と自分を責めてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、PMSの症状はすべて女性ホルモンの分泌によって起こるもので、本人の意志や努力では解決できない疾患です。適切な治療をすることで改善できるので、つらい症状を少しでも軽減したいと思ったら、産婦人科医に相談してください」

 

PMSはコントロールできる!
産婦人科での治療の流れ

 

「もしかしてPMSかな?」と思ったら、まずは一度病院へ。産婦人科でのPMS治療について、稲葉先生に解説していただきます。

 

「まずは問診で、患者さんの症状を詳しくヒアリングします。PMSの症状は人によって異なりますので、症状によって治療方針も異なります。問診の際には、症状をできるだけ詳細に医師に伝えてください」

 

問診の結果によってPMSが疑われる場合は、症状やライフスタイルに合った治療方針を医師と相談します。PMS治療にはさまざまな方法があり、症状に合わせて低用量ピルなどのホルモン剤や漢方薬、鎮痛剤などが処方されます。

 

なかでも、PMS治療にとくに有効とされるのがホルモン療法です。

 

「PMSの治療には、低用量ピルプロゲスチン製剤などを用いて排卵を抑制し、女性ホルモンの分泌の波をなだらかにするホルモン療法がもっとも効果的です。ホルモン剤にはさまざまな種類があるので、様子を見ながら一人ひとりに合った処方を行っていきます。
ホルモン分泌の変動を抑えることで、生理にまつわるさまざまな症状が改善されるほか、卵巣がんや子宮体がんを予防する効果などもあります。血栓症のリスクがわずかに高くなりますが、妊娠出産時の血栓症リスクの方が圧倒的に高いので、PMSの症状を改善するというメリットを上回るほどのリスクはないと考えてよいでしょう」

 

もし薬の効果が得られない場合は、症状に応じて薬を変更することもあります。

 

「ホルモン療法が体質に合わない場合は、漢方薬を使った治療への切り替えも検討します。また、むくみや頭痛などの身体症状が現れる場合は、その症状に合わせて利尿作用のある薬や鎮痛剤などを処方することもあります。どんな薬にも体質的に合う・合わないがありますので、処方された薬に疑問や不安があるときは、必ず医師に相談してください

 

体の些細な変化も話してみて
かかりつけの産婦人科を持つメリット

 

これまで、PMS治療における産婦人科受診の重要性について紹介してきました。とはいえ。産婦人科に対して「抵抗感がある」「ハードルが高い」などのネガティブなイメージがあり、受診を避けてしまうという人も多いのではないでしょうか。

 

妊娠・出産に関する診療のみを行うイメージのある産婦人科ですが、生理の悩みや性感染症、がん治療など、女性特有のさまざまな疾患の診療も行っており、女性のライフステージに密接に関わっています。体の変化や不調など、家族や友人には相談しにくいデリケートな話題を相談できる診療科が産婦人科なのです。

 

稲葉先生は「かかりつけの産婦人科」を持ってほしいと話します。

 

「虫歯になったら歯医者さんに行くのが当たり前であるように、PMSや生理痛など女性の体に関する悩みを気軽に相談できる、かかりつけの産婦人科を持つのが日本でも当たり前になってほしいと思っています。相談した結果、もし産婦人科の診療範囲でなかったとしても、適切な診療科をお伝えします。不調を感じたときの窓口として産婦人科を利用してほしいです

 

もし、産婦人科で嫌な思いしたときは……?

 

「無理して同じ病院に通い続ける必要はありません。そのときは、病院や先生を変えることも検討してみてください。ただし複数の病院を転々とする“ドクターショッピング”状態になるのはよくないので、受診前に病院の下調べをしましょう。最近はホームページに先生の顔写真が出ていることも多いです。『この先生だったら相談してみようかな』と思える先生がいる病院に行ってみて、相性のよい信頼できる先生を探してほしいと思います」

 

一人で耐えないで、まずは専門医に相談を

最後に、稲葉先生からメッセージをいただきました。

 

「これまで産婦人科医としてPMS治療に携わってきたなかで、症状が改善した患者さんから『もっと早く受診すればよかった』『悩み続けてきた10年、20年を返してほしい』などのお声をいただくことがあります。PMSは自分でなんとかできるものではないけれど、適切な治療でコントロールできるものなので、我慢する必要はまったくありません。治療をすれば、毎月しんどい思いをせずハッピーに過ごせるようになるので、もっと気軽に治療をしてほしいと思っています。
これまでPMSの存在を知らなかった方、PMSに気づいていたけど我慢していたという方にこそ、この機会に一歩踏み出して、産婦人科を受診していただきたいです。産婦人科は怖いところではないので、『少しでもこの症状が楽になるといいな』と思ったらぜひ相談しに来てください。きっと毎日をもっと快適に、元気に過ごすためのサポートができると思います」

 

 

Profile


「Inaba Clinic」院長 / 稲葉可奈子

産婦人科専門医。京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。双子含む四児の母。産婦人科診療の傍ら、病気予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報とリテラシー、育児情報などを、SNSやメディア、企業研修などを通して発信している。2024年7月に「Inaba Clinic」を開院。
Inaba Clinic HP

Galaxy Watch5、まもなく体温センサーと周期トラッキングが有効に! まず米国や韓国から

サムスンの最新スマートウォッチGalaxy Watch5が発表された当時、体温センサー搭載は明かされていたものの、実際に利用できるわけではありませんでした。この機能がまもなく有効となり、女性の月経周期トラッキングに活用されると発表されました。

Image:Samsung

 

サムスンはNatural Cyclesと提携し、Galaxy Watch5の体温センサーを女性向けの月経周期トラッキングに活用することを発表しました。Natural Cyclesはスウェーデンの避妊アプリ企業であり、体温やその他のデータを活用した独自の妊活アルゴリズムを持っています。

 

公式発表によると、この体温センサーはSamsung HealthアプリのCycle Tracking(周期追跡)機能で使われる予定とのこと。サムスンは韓国MFDS(食品医薬品安全処)の認可を受け、米国では、FDA(食品医薬品局)に「登録」したと述べています。

 

もっとも米国で医療機器として販売するには「登録」の後に「承認」を得る必要があり、実際に利用できるまでに時間がかかる可能性もありそうです。

 

この体温センサーは「赤外線温度センサー」であり、生理周期および「皮膚の温度変化」を追跡すると説明されています。そして赤外線を使っているため、周囲の温度変化や睡眠中に動いた場合でも正確に読み取れるとのこと。つまり男性ユーザーでも、皮膚温の変化は記録できるようです。

 

こうした体温センサーの仕様は、実はApple Watch Series 8(およびApple Watch Ultra)でも似ています。手首の皮膚温がどう変化したかは、iPhoneのヘルスケアアプリを開き「ブラウズ」をタップ。そして「身体測定値」>「手首皮膚温」から確認できます

Image:Apple

 

この体温トラッキング機能は、今年の第2四半期(7~9月)に米国や英国、韓国など32の市場で提供が始まる予定です。もっとも日本は含まれていないため、続報を待ちたいところです。

 

Source:Samsung

女性の不調を改善する食べ方とは?「油」が生理から更年期までの体を整える!

なんとなく体が重い、今月も生理痛がツラい、PMSがひどく仕事ができないなど、女性ならではの悩みを人知れず抱えている人は多いはず。また「体重が増えるのが怖い」と感じていたり摂食障害に悩んでいたりする人は現在、22万人以上にのぼりますが、その多くは女性であり、近年は“フェムケア”にも注目が集まっています。

 

不調の原因として知られているのが「女性ホルモンの乱れ」。これだけツラいのだから、体内でたくさん分泌されているだろうと思いますが、実は一生の間に作られる女性ホルモンの量はティースプーン一杯程度なのだとか。

 

女性ホルモンに振り回されないためにも、「食べることでフェムケア」しようと語るのは、管理栄養士の伊達友美さんです。2022年に著書『女性の不調は「油+」でよくなる』を出版しました。油でよくなる!? 私たちの固定観念を覆すタイトルですが、その真意を、伊達さんにうかがいました。聞き手は、@Livingでおなじみのブックセラピスト、元木忍さんです。

 


女性の不調は「油+」でよくなる 〜女性ホルモンに振り回されないための「食べる」フェムケア〜
女性ホルモンの材料は「油(コレステロール)」。そのため女性が抱えるさまざまな不調は、女性ホルモンの材料不足、つまり栄養不足が原因かも!? 「プラス栄養メソッド」を提唱する管理栄養士の伊達友美さんが、生理、妊活、更年期と女の一生を支える食べ方を紹介。食べて身体も心も上向きにする方法が満載。

 

1万円の美容液より、
2000円の油の方がコスパは高い!

元木忍さん(以下、元木):伊達先生の著書『女性の不調は「油+」でよくなる』を読ませていただいて、目からうろこが落ちることばかりでした。

 

伊達友美さん(以下、伊達):ありがとうございます。

 

元木:“食べたい時”に“食べたいもの”を食べることは、悪いことじゃないんだと思えて。私自身は、もともとPMSや生理痛の経験もなかったんですが、それが「体に必要なものを、知らず知らずのうちにちゃんと食べていたからだったんだ」と、この本を読んであらためて感じられました。
ところが多くの女性は、体の不調を訴えたり、食べることに必要以上に罪悪感を抱えています。最近の女性は、どのような悩みを抱えているのでしょうか?

 

伊達:最近は“天気頭痛”や磁場など自然界の影響を受けて、体調が悪くなる人が増えていますよね。昔は原因がわからなかったから「何か病気かな?」と不安に思っていた人が多かったと思いますが、いろいろな病気が知られるようになって「私だけじゃない」と安心できたかもしれませんね。

ただ、PMSや生理痛、更年期など「女性ホルモンには勝てない」と思い込んでいる人も多いんです。痛みをやわらげたり、生理中でも快適に過ごせたりする薬や生理用品などは充実しているのに、痛みやつらさはしかたがないものだとあきらめていて、根本から改善しようという人が少ないのが残念なところですね。

管理栄養士の伊達友美さん(左)と、ブックセラピストの元木忍さん。

 

元木:『女性の不調は「油+」でよくなる』を読むと、食べることがいかに大切か、あらためて実感できました。実は、美容のために高級な化粧品は使うのに、食生活は適当にしている人もたくさんいますよね(笑)、そういう女性たちにも、ぜひとも読んでほしいと思いました。

 

伊達:そうなんです。高級化粧品もたしかにいいものではあるんですけど、美容液は基本的に顔にしか使わないですよね? でも、油は口から食べることで全身に行き渡ります。1万円で顔にしか使えない美容液と、食べるだけで全身に使える2000円の油だったら、いったいどちらがコスパがいいですか? ということなんです。カサカサなお肌が潤って、きちんと生理も来て、PMSもやわらいで、毎日快適な状態でいられると思います。

 

元木:私の場合は、少し体調が悪く感じた時は、温かいものを食べて日本酒をキュッと飲んで寝たら、翌日は元気になっているタイプなんです(笑)。薬に頼らず、毎日体が必要としているだろうと感じるものを食べて、しかもお腹いっぱいになるまで食べていることが、元気でいる秘訣なのかもしれませんね(笑)

 

伊達:元木さんのような方がもっと増えてほしい! 今でこそ私も元気ですけど、若い頃に摂食障害を経験しています。当時は「カロリーが高いものは悪」と思っていたので、1日500カロリーしか摂取していませんでした。糖質も油も控えているのに、体重は増えるし不健康……、もちろん生理も止まっていました。いろいろなダイエット法を試してはリバウンドして、を繰り返してトータル5000万円近くは使いました。

 

元木:5000万円! たしかに中学か高校生ぐらいからダイエットを始めちゃう人がいますからね。私ぐらいの年でも、全然太っていないのに、いつもダイエットしなきゃって言っている人がいるので、実際に同じくらい使っている女性もいるのかもしれませんね。

 

伊達:何のためにお金を使ってきたんだろう、意地でも元に戻そう! と栄養学を学び始めた時に、油にはいい油とよくない油があるってことを知ったんです。

伊達さんはかつて、自分に自信がもてず無理なダイエットを繰り返していたといいます。

 

生理は1か月の成績表、
更年期は卒業試験と心得る

元木:伊達先生がこの世界に入ったきっかけには、どんな出会いがあったのでしょうか?

 

伊達:カナダで有名な油の本を出版されている先生が日本で講演をされた時に、とっても若々しくて感激したんです。油について勉強していくほど、脳にも、肌の潤いにも、女性ホルモンにも油は欠かせないことがわかってきました。また加齢とともに身体の水分量は失われていきますが、脂質量って増えるんですよ。それからとにかくしっかり良質な油を取り入れるようになったら、28日周期で生理は来るし、PMSも頭痛も腰の痛みもなし! これが普通の生理なんだって30代後半で知りました。

 

元木:なるほど30代後半で、油の重要性に気がついたのですね。

 

伊達:生理は、1か月に1回やってくる身体の“成績表”なんです。経血を作るのに十分な栄養が体内にあれば、PMSも生理痛もありません。経血を作る栄養が足りないとなれば、それを補充するために身体は食欲を増加させます。でも、そもそもの栄養が足りない人は経血を作れないから、全身のありとあらゆる血液を子宮まわりに集めてくる必要があるんです。そうすると、あちこち酸欠になったり、栄養不足になります。まるで子宮に引っ張られているかのように、頭が痛くなったりお腹が痛くなったり、全身のいろいろなところに痛みが出てしまいます。

栄養が足りていればそういった不調がない、つまり“合格”ということ。お腹が痛いなど不調があれば今月の栄養は足りていなかったということで、“不合格”なんです。

『女性の不調は「油+」でよくなる』には、「女の一生は、油で決まる」という衝撃的な一文が!

 

元木:生理が成績表だなんて、とてもわかりやすい発想ですね。でも、栄養不足からの不調だとわからないと、食べ物で治すということに気がつかないですよね。ここはちゃんと理解をしなくてはならない重要なポイントです。また、更年期障害を訴える女性も増えてきているようですね。

 

伊達:更年期障害は、初潮から閉経までの“卒業試験”というイメージでしょうか。毎月、不合格の赤点を取っていたら“落第”してしまいますが、途中から頑張れば挽回できます。優秀な“成績”で卒業証書をもらうために、食べることで身体を変えていけるんだよって知ってほしいですね。

私も30代後半まで生理は止まっていたり超不順でしたが、食事を見直して、足りていなかった栄養をプラスすることで、何とか優秀な成績で卒業証書をいただきましたよ。いわゆる更年期障害はまったくありませんでした。

 

気をつけるべきは
「油」と「水」だけ

元木:「よし、今日から油を!」って思った方も多いと思うんです。でも、ただ「油」を摂ればいいってわけじゃないんですよね?

 

伊達:油には、種類があるというところからご説明しますね。

まず油には、身体の中で作れる油と作れない油がありますオメガ3系脂肪酸は、身体の中で作ることができないので、食事から摂る必要がある油です。旬のシーフード、くるみ、あまに油、えごま油などに多く含まれています。

もうひとつ大切なのは、絞り方。低温・自然抽出されているものか、薬剤抽出されているかで油の質が変わってきます。低温・自然抽出されている油を選びたいですね。けっして値段が高ければいいというものでもないので、油脂の種類と絞り方をチェックして購入するようにしましょう。

『女性の不調は「油+」でよくなる』より、油の種類の分布チャート。

 

元木:油といえば、炒め物や揚げ物にはよく使っていますが、それ以外で日常生活の中でどうやって “油+”を摂取するのがいいのでしょうか?

 

伊達:普段の生活の中でオイルを生で取り入れることは、あまり習慣化されていないですからね。基本的に何にでもかけてOKです。自分が好きな味かどうか、それが一番大切。ソイラテやスムージーに少し、スープやお味噌汁なんかにも合いますよ。

 

元木:お味噌汁に“油+”もアリなんですね! この本の中には、納豆にも“油+”と書いてありましたので、早速トライしてみました。お刺身に“油+”したらカルパッチョみたいに楽しめますよね。

 

『女性の不調は「油+」でよくなる』では、さまざまな食品への“油+”が提案されています。

 

伊達:そうなんです。また、食べ物に気をつけましょうと言われると、まず「いい食材を」って思う人が多いと思うんですが、私がこだわっているのは「水」と「油」だけなんです。オーガニックとか、こだわりすぎると経済力が必要なので、スーパーの特売品も買っちゃうし(笑)

 

元木:水と油だけですか?

 

伊達:人間の身体の半分以上は水分でできていますよね。そして20〜30%は脂質(油)で構成されています。つまり身体の7割は水と油なのだから、そこをいいものに変えていくだけでいいと思ったんです。あとは、じっくり染みてくるのを待てばいいんです。

 

食べたい時にたくさん食べるのは
「食べ過ぎ」ではない!?

元木:具体的に油を摂取して健康になるというのはイメージできたんですが、それ以外に身体にどんな影響があるのでしょうか?

 

伊達:体質はもちろんのこと、性格まで変わりますよ。

 

元木:本当ですか!?

 

伊達:私自身がこれは立証しています(笑)。私の子ども時代は、いじめられっ子で登校拒否だったし、コミュニケーション能力もゼロでした。虚弱体質だったので、診察券でトランプができるくらいいろいろな病院にかかっていたんです。でも今は、元気に病院でも働いてますから(笑)

 

元木:以前の姿が想像できません……!

 

伊達:相談にくる方のなかには、恋愛経験ゼロだったのが体も心も健康に美しくなって、「先生、お嫁にいきます」って薬指の指輪を見せてくれることもありますよ。あと、出世する方も多いです。生きることが楽しくなって、すべてがポジティブに進むようになるんですよね。
脳は脂質(油)でできているって話をさきほどしましたが、いい油が体に染みてくると余計なことを考えなくなるので、クヨクヨしたり、悩んだり、ストレスを感じることが減ってくるのかもしれません。

 

元木:逆に油が少ないと、クヨクヨしちゃうってことですよね。あと、私が個人的にすごく納得できたのが「食べ過ぎの定義」についてです。『食べたいときが、食べるべきとき』ってフレーズが心に響きました。

「本当に食べたいものは、自分にとって必要なもの」。食べたいのに我慢するのが、もっとも心身に負担をかけるのです。

 

伊達:食べ過ぎって他人に決められるものじゃないですからね。よく「腹八分目」っていいますけど、胃にメモリってあったかしら? と思うし(笑)。気をつけたいのは、お腹いっぱい食べた翌朝、お腹が空いていないのに朝食を食べてしまうこと。夜「ラーメン食べたい」「ポテトチップス食べたい」という欲求には従っていいけれど、3食決まった時間にとか、お腹が空いていないのに食べてしまうのは食べ過ぎということです。

 

元木:「あぁ〜食べ過ぎちゃった」って口癖もやめた方がいいんですよね?

 

伊達:もうこれは、太る原因ナンバーワンです! 食べたことを反省する必要はありません。本能なんだから、「おいしかった!」でいいんです。問題はその後、本当にお腹が空くまでは食べないことです。

 

元木:これは個人的にも興味があるのでお伺いしたいのですが、病気で糖質を制限している人を除いて、ダイエットを目的に「お米を食べない」「お肉を食べない」って人多いじゃないですか? やっぱりお米って太るのでしょうか?

 

伊達:ごはんは水分を多く含んでいるので、夜食べて翌朝体重計に乗ったら体重は増えます。でも脂肪が増えたわけではないんです。ここ90年で、日本のお米の消費量は半分ほどにまで落ち込みました。それなのに、糖尿病と肥満は増えています。これって、お米が太る原因ではないと思うんですよね。

むしろ食べた方がいいと私は思います。和食は口内調味を楽しむ料理です。最初に温かいお味噌汁で胃腸をウォーミングアップしてから、ごはんといっしょに食べていくことが日本人には合っていると思いますよ。

食料自給率が先進国の中で圧倒的に低い日本で、自給率100%が、お米。ごはんの価値は、最近徐々に見直されるようになっています。

 

元木:たしかにそうですね。食べ方に関しても日々情報ってアップデートされていますが、情報があり過ぎて正しい情報を拾えなくて困っている人も多いですよね。『女性の不調は「油+」でよくなる』で先生が伝えてくださることは、これから不調を訴えている人たちへの救いの言葉になると思います。

 

伊達:ありがとうございます。なんでも基礎って大事なんですよ。建物だって基礎工事を怠ったら崩壊しますよね? それは人間の身体だって同じです。最終的に大切なのは、自分が心地いいか、幸せか、ということです。いろいろな情報がありすぎて、これはダメ、あれもダメって言われることがすごく多い世の中です。どんな健康情報も、自分に合うか合わないかで判断してほしいですね。

 

元木:食べたもので身体や細胞が作られるっていうのは事実ですからね。

 

伊達:いろいろと試すのは悪いことじゃないんです。ただ合わないのに続けているのはどうなんでしょう? 例えば、シャンプーは生まれた時から今まで、成長していく中で自分に合うもの・合わないものがわかってきますよね。子どもの頃からずっと同じシャンプーを使っている人は、ほとんどいないと思います。

ところが、食べ物に関しては「同じでいい」と思っている方が多いんです。子ども向けの食育は積極的にやっているのに、大人の食育は公的にはあまりされていません。大人はもう成長しなくていいのに、成長するための子供の食生活をしているからメタボリックシンドロームになっちゃうんです。

自分のお腹が空いた時に、食べたいものを食べる。大人はもう、それでいいんですよ。

 

元木:自分にちゃんと向き合って、自分自身に正直になることがポイントかもしれないですね。食事で心も身体も変えられる、本能で食べたいものを食べて、元気な人が増えたら、世界はもっと元気になれるかもしれませんね。

 

伊達:そう思います。まずは「油」と「水」からこだわってもらえたらうれしいですね。

 

【プロフィール】

管理栄養士 / 伊達友美(だてゆみ)

管理栄養士、日本抗加齢医学会認定栄養士、戸板女子短期大学食物栄養科講師。食事カウンセラーとして、クリニックやスパなどで32年間にわたって食改善アドバイスを行う。制限型の食事ではなく、代謝アップの栄養をプラスする「プラス栄養メソッド」を基本とした指導法で、健康で美しくありたいと考える多くの女性たちから人気を集めている。自身の25kgのダイエット、ニキビ肌改善、摂食障害克服の経験を踏まえながら、テレビや雑誌などでも活躍中。

※「プラス栄養メソッド」は伊達友美さんに帰属する登録商標です。

産婦人科医が教える、生理とホルモン周期に合わせたスキンケア&ダイエット法

「生理中は指や足がむくみやすい……」「生理直後はなんだか体がスッキリ!」など、生理前後で体調に変化を感じる女性は多いはず。

 

実際、女性は生理周期に沿ってホルモンバランスが変わり、体の水分量が変化します。もっとも水分量の多い時期は生理前で、体重は2kg近く増え、PMS(月経前症候群)に悩まされます。一方、生理後はもっとも体が軽く、女性ホルモンの影響で肌のうるおいがアップするのです。

 

女性ホルモンの分泌サイクルを取り入れ、スキンケアやダイエットの効果を高めるには? 「フェムテックダイエット」を提唱する、産婦人科医で婦人科スポーツドクター、さらにヨガ指導者としても活躍する、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」の副院長・高尾美穂先生に教えていただきました。

 

妊娠・出産への影響だけじゃない、
女性ホルモンの特徴と主な働き

女性が体調の変化や生理周期、効果的なダイエット方法を理解するために欠かせないのが2つの女性ホルモンの働きだという高尾先生。

 

「女性ホルモンとは、卵巣でつくられるもので、女性の健康に密接な関わりがあります。女性ホルモンというと、妊娠や出産に関わるイメージがあると思いますが、それだけではなく、肌のつやや髪のコンディション、代謝などにも影響があります。女性ホルモンの働きとして覚えておきたいのが、卵巣でつくられる『エストロゲン』と『プロゲステロン』の2つ。この2つのホルモンが適切に分泌されることで、正常な生理や妊娠につながっていきます。

女性ホルモンの黄金期は20代前半から40代前半。初潮が始まる10代から徐々に増えていき、45歳くらいから増減しながら減っていき、やがて分泌がなくなることで生理がこなくなり、“閉経”とされます。しかし、黄金期世代でも、不規則な生活や環境の変化、ストレスや過度のダイエットなどでホルモンバランスが不安定になり、生理不順や肩こり、冷えやむくみ、肌荒れなど、心身の不調が起きやすくなるのです」(女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」の副院長・高尾美穂先生、以下同)

 

2つの女性ホルモンの主な働き

・エストロゲン(卵胞ホルモン)
女性らしい体をつくるホルモン。受精卵が着床しやすくなるように、子宮内膜を厚くしたり、乳房の発達を促したり、肌や髪のうるおいや艶を引き出す。メンタルの安定にも効果的。

・プロゲステロン(黄体ホルモン)
妊娠や出産に深く関わる“母のホルモン”。体温を上げて妊娠に適した状態を維持し、子宮内膜の働きを促す。食欲増進や皮脂分泌を促し、体内に水分を蓄える働きも。ニキビや便秘症状を引き起こす要因でもある。

 

25〜38日周期が正常リズム。
女性ホルモンと生理周期

資料=『生理周期に合わせてやせる! 超効率的フェムテックダイエット』(池田書店)より

 

女性ホルモンの分泌に続いて、生理と生理周期の話に進みましょう。

 

「みなさんの生理周期はどれくらいでしょうか? 多くの場合、1か月に1度、生理がくるというサイクルですよね。25〜38日周期の中で生理が来ていれば、周期は正常と言えます。

生理周期とは、生理の開始日から次の生理の前日までの日数のことをいい、月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の4つの時期に分かれます。生理開始から排卵までが11〜24日、排卵から次の生理の前日までが14日というのが正常のサイクルで、排卵後から次の生理の前日まではだれもが同じ14日間というのが一般的。その間にエストロゲンの分泌が増える時期は2回、プロゲステロンの分泌が増える時期は1回あります。妊娠する可能性があるのは、卵胞期後半から排卵日まで。排卵が起こると、妊娠を継続させるためのホルモンであるプロゲステロンが分泌され、子宮内膜が妊娠を維持しやすい状態に整えられます。

このとき、プロゲステロンの働きで体温が0.3〜0.6℃ほど上昇し、むくみやすい状態に。妊娠が成立しなかった場合は、赤ちゃんのためのベッドとして用意されていた子宮内膜がはがれ落ち、体外に排出されます。これが生理ですね」

 

3つの時期でコントロールする「フェムテックダイエット」法

女性ホルモンの力を活かしながら行う“フェムテックダイエット”とは、どういう方法なのでしょうか?

 

「先ほど4つの時期の生理周期を説明しましたが、女性の体の状態変化で見る場合は、月経期、卵胞期から排卵期、黄体期の3つの時期に分ければよいでしょう。生理直後がもっとも体は軽く、体調のよい時期になります。このタイミングがダイエットにもっとも適した時期。ランニングや筋トレなどを取り入れて、積極的に体を引き締めていきましょう。

黄体期はむくみや便秘、頭痛などのPMS(月経前症候群)に悩まされやすく、食欲増加が起きやすくなります。もっとも体重が増える時期でもあるので、体重を落とすというよりもキープできればOK。体が重く感じ、イライラや不安の起きやすい時期なので、ヨガやウォーキング、ストレッチなどで血液の循環を促し、リフレッシュを心がけましょう。

生理の始まりから出血の多い時期は、鉄分やタンパク質が失われやすく酸素の運搬力も落ちるので、運動には不向きです。生理痛や腰痛をやわらげるストレッチ程度にし、冷えを防ぎ血の巡りがよくなるように、深い呼吸を心がけるのがよいでしょう」

 

3つの時期で調整する“フェムテックダイエット”

・月経期(生理中)
女性ホルモンがもっとも低いリセット期。運動効果が得られにくい。出血の多い時期は生理痛や腰痛をおさえるため、血液の循環を促すストレッチ程度にして、体をゆっくり休めることを心がける。

・卵胞期〜排卵期(生理後〜排卵まで)
エストロゲンが最も増える時期。体も心も快調で、もっともダイエットに適している。ジョギングや筋トレなど、ハードなエクササイズを取り入れてアクティブに過ごしたい。

・黄体期(排卵後〜生理前まで)
プロゲステロンがもっとも増える時期。食欲が湧きやすく、PMSに悩まされることも。体重を落とすことに注力するのではなく、体重キープを心がけ、ヨガやウォーキングなどでリフレッシュできるエクササイズを取り入れる。

 

【関連記事】寝る前15分のヨガで心も体も快調! 体が硬くてもできる簡単おうちヨガ

 

3つの時期に合わせた食事コントロールで、
肌コンディションを整える

エストロゲンの分泌量が多い時期が、肌や髪のコンディションがもっとも良い状態。

 

「例えば、結婚式を最高の体調で迎えたいのであれば、卵胞期〜排卵期の挙式がベスト。前もって基礎体温を付けておくことでタイミングを調整したり、ピルの服用などで生理周期をコントロールしたりすることはできます。そういう大勝負ではなく、エストロゲンの分泌が高くない時期でも肌や髪のコンディションをなるべく良い状態に保つためには、生理周期に合わせて運動や食事をコントロールするといいでしょう。

生理中は、基礎体温が下がることで冷えやすく、鉄分やタンパク質が不足しやすい時期なので、体を温めるショウガや鉄分豊富なマグロやあさりなどを取り入れるといいですね。

卵胞期〜排卵期は、筋肉量を増やすような高タンパクで低脂肪の卵や鶏ムネ肉、牛もも肉などの食材を多めに取り、筋トレなどのハードなエクササイズをするのが効果的です。

黄体期は、プロゲステロンの作用でインスリンの働きに影響が生じ、血糖値の急低下が起きることで食欲増加につながります。そのため、血糖値のアップダウンをゆるやかにする玄米やオートミール、全粒粉のパンなどを取り入れつつ、全体の食事量は変えずに食事回数を増やし、1日5食に分けることで食欲増加を和らげるといいでしょう」

 

食事内容で肌や髪のコンディションを保つコツ

・月経期(生理中)
マグロやあさりなどの鉄分やタンパク質食材、ショウガなどの体を温める食材を取り入れる。

・卵胞期〜排卵期(生理後〜排卵まで)
卵や鶏ムネ肉、牛もも肉など、低脂肪で高タンパクな筋肉量を増やす食材を取り入れる。

・黄体期(排卵後〜生理前まで)
血糖値の急降下で食欲増加が起きやすい時期なので、血糖値のアップダウンをゆるめる玄米やオートミール、全粒粉のパンなどを取り入れ、1日の食事量は変えずに回数を増やす。

 

【関連記事】ダイエットにも栄養補給にも美容にも。注目の万能食品、「オートミール」のやみつき米化レシピ

 

生理周期を正しく理解するには
“基礎体温”をつけることが大切

生理周期を取り入れたダイエットを行うならばもちろん、生理周期を理解することが欠かせません。

 

「生理周期を無視して、月経期にハードはエクササイズをすると貧血や体調不良が起きやすくなります。黄体期に塩分の多い食事を摂りすぎれば、むくみがひどく出たり、太りやすくなったりします。生理周期を把握して、体の状態に合わせて体調管理をすることで不調を緩和し、効果的にダイエットをすることができます。

生理周期を把握するには、基礎体温をつけるのが近道。生理周期は25〜38日の間であれば、一定のリズムで来なくても、基本的には問題はありません。しかし、生理不順やなんらかの生理トラブルを感じて婦人科を受診するとき、基礎体温を記録していないと不調の要因を検証することはできません。

女性ホルモンが正常に分泌されているかどうかは、14日間の高温期があることの確認により、排卵の有無を確かめます。自分の生理周期を把握するために、基礎体温を記録しましょう。排卵後に上がる体温は0.3〜0.6℃ほどなので、通常の体温計ではなく、小数点第2位まで表示される婦人体温計を使うのがオススメです。体温は目を覚ましてすぐ、動き始める前の横になった状態で、婦人体温計を舌の下に入れて計測してください。生理周期の把握とともに、自分はどの時期にどのような症状が出やすいのかをメモしておくと、生理周期に合わせたセルフケアがしやすくなります」

 

生理後から排卵期の好調期を上手に生かしたフェムテックダイエット。エクササイズや食事の内容を時期によって調整するので、飽きずに、効果を実感しながら続けられそうです。女性ホルモンに寄り添ったセルフケアで心地よい生活を手に入れましょう。

 

【プロフィール】

女性の産業医 / 高尾美穂

女性のための統合ヘルスクリニック、イーク表参道の副院長。産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター。ヨガ指導者、働く女性の産業医。東京慈恵会医科大学大学院修了。産婦人科外来に携わるほか、女性アスリートのメディカルサポートなどを行う。ヨガを長年愛好し、ヨガドクターとして講座や講演活動にも注力。アプリstand.fmで毎日更新される番組『高尾美穂からのリアルボイス』では、体や心の悩みから人生相談までリスナーの多様な悩みに回答。『生理周期に合わせてやせる! 超効果的フェムテックダイエット』(池田書店)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)ほか、著書多数。

HP= https://www.mihotakao.jp

 

『生理周期に合わせてやせる! 超効率的フェムテックダイエット』(池田書店)
1540円(税込)
女性の体は生理周期によって毎日少しずつ変化していています。そのサイクルに合わないダイエット法では、効果が出にくい時期があったり体調を崩したりしてしまいます。そこで、生理周期に沿ったダイエットスケジュールを組む方法から、実際のトレーニング法、効果的な食事のとり方までをアドバイス。生理周期を意識することで、自分の身体としっかり向き合うことができます。

生理に悩んだら3か月測定! 産婦人科医・宋美玄先生が解説する「基礎体温」の測り方と測る意味

痛みや感情の落ち込みに、毎月憂鬱な思いで迎えることが多い「生理」。その痛みを引き起こす仕組みや病気、少しでも快適に乗り切るための「生理用品」につづき、生理にまつわる事柄として「基礎体温」を取り上げます。

 

基礎体温と聞くと、妊活するときに必要なものという印象がありますが、実は女性なら誰でも一度は測ってみるべきものだそう。仕組みや測り方、その意味について、今回も産婦人科医の宋美玄先生に教えていただきました。

 

【関連記事】

10人に1人が子宮内膜症に!産婦人科医・宋美玄先生に聞く「生理」と「生理痛」について知っておくべきこと

産婦人科医が解説する「生理用品」の選択肢とそれぞれのメリット・デメリット

偏頭痛の原因は? 痛む理由から治し方までを医師が解説する“頭痛のバイブル”

 

「基礎体温」とはいったい何?

基礎体温とは、普段測る体温と異なり、“安静にしているときの体温”のことをいいます。

 

「体温は運動することで上下します。眠っているとき、人の体温はもっとも低く、そこから目が覚めて起き上がり、活動すると体温は高くなっていきます。基礎体温は、朝目覚めて体を起こさないうちに測るのですが、そうすることで、もっとも低い深部体温を正確に計測できます。また、毎日同じ条件下で測るので、日々の変化をきちんと比較できるのです」(産婦人科医・宋美玄先生)

 

基礎体温の測り方

基礎体温は、下記3つのポイントを守って測りましょう。

 

「基礎体温を測るときは通常の体温計ではなく、小数点第2位まで計測できる基礎体温専用の体温計を使います。体温を測り終えるまでに4分ほど時間がかかるものもありますが、今は予測体温計といって10秒くらいで計測できるものもたくさん販売されています。こちらもかなり正確ですし、早いので便利ですよ。また、体温計とアプリが連動していて、アプリが自動的に体温を取り込み、表にしてくれるものもあります。いちいち書くのが面倒だったり忘れてしまいそうだったりしたら、そういうものを使うのがいいでしょう」(宋美玄先生)

 

【測り方のポイント】

・枕元または枕の下に、小数点第2位まで測れる基礎体温計を置いて寝る
・朝、目が覚めたらそっと手を伸ばして体温計を取って口の中で測る
・基礎体温表やアプリに記録する

 

【注意点】

・毎日同じ時間に測ること
・起きたら体をなるべく動かさずに測ること

 

基礎体温表は3か月分管理すること

基礎体温は、一度つけると決めたら3か月は測ってみましょう。

 

「体温の変化がしっかり見て取れる、サンプルのようなグラフになることは稀です。たいていはガタガタで、ぼんやり“ここが高温期かなあ……?”という感じのグラフになるんですね。ですから1か月だけつけても読むのが難しいので、3か月はつけてみてください。その3か月の表を比べながら判断していきましょう。また、妊活中であればずっと測り続ける必要がありますが、そうでなければ3か月を1クールとして、それ以降長く続ける必要はありません。なんとなく生理不順だなとかPMSや排卵痛に悩まされることがあるなと感じたら、まずは3か月測ってみましょう」(宋美玄先生)

 

基礎体温でわかること

基礎体温をつけてみると、自分の体に起きているさまざまな変化を知ることができます。妊娠を望む場合だけでなく、不調の理由や病気のサインにも気づけるかもしれません。

 

基礎体温は、比較的体温が低い低温期と、そこから0.3度程度高くなる高温期に分かれます。低温期は、生理1日目から排卵が起こるまで、高温期は排卵日から次の生理が来るまでです。低温期と高温期がきちんと二層に分かれるようなきれいなグラフにはならないかもしれませんが、婦人科系の病気が疑われるときは、基礎体温表があるととても重要な参考資料になります。受診する際は必ず持っていきましょう」(宋美玄先生)

1「排卵の可能性がわかる」

測っていた体温がぐっと上がったら、そこが排卵日であることがわかります。排卵日付近に性交すると妊娠の可能性が高まりますから、妊活中はこの体温の上下を見逃さないようにします。

 

「低温期と高温期に分かれていれば、排卵が起きている可能性が高いでしょう。まだ10代であっても、これから妊娠したいと思っている方は、一度基礎体温を測ってみて低温期と高温期に分かれているか知っておくとよいでしょう。ただし気をつけなくてはならないのは、低温期と高温期に分かれたからといって、確実に排卵したわけではないという点です。厳密に言えば、排卵したはずだという予測でしかないので、本当に排卵しているかどうかは受診して調べます」(宋美玄先生)

 

2「不調の原因がわかる」

排卵痛やPMS、頭痛などのトラブルは、なんとなくそうかなと思っていても、そのままやりすごしてしまうことが多いもの。その原因を知るためにも基礎体温が役立ちます。

 

「排卵痛で……と言って受診される方もいるのですが、本当に排卵が起こる時期だけに痛みがあるのでしょうか。月に何度も痛みがあるにもかかわらず、なんとなく排卵痛だと思っている方も多いので、基礎体温をつけることで原因が排卵にあるのか知ることができます。イライラしたり頭痛があったりする方も、それが生理前に必ず起こっているのか、あるいは生理周期に関係なく起こっているのかが、基礎体温からわかります」(宋美玄先生)

 

3「生理日の予測ができる」

大切な予定を立てるときは、自分の体調が万全な日を選びたいものですよね。基礎体温をつけていると、ある程度周期から体調を予想することができます。

 

「プレゼンや旅行など、ちょっと気合いを入れたい予定は、いちばん体調がよい生理後から排卵までの時期に入れるのがよいでしょう。反対にストレスを感じやすい高温期はゆっくり過ごせるよう計画を立てるなど、日々の過ごし方を決めるのにも役立ちます」(宋美玄先生)

 

低温期と高温期の過ごし方

生理周期の影響を受けにくい体質の人もいますが、周期によってイライラしたり腹痛があったりする人も。ここでは低温期と高温期のおすすめの過ごし方を伺いました。

 

・低温期は楽しく元気に

「低温期には生理中も含まれるので、生理痛がつらい人は無理なくゆっくり過ごしたいもの。でも生理が終わってしまえば、高温期に入る排卵日までは比較的穏やかでストレスを感じにくい、元気な毎日を過ごすことができます。心身ともに調子がよい時期なので、何かにチャレンジしたり活発な運動にチャレンジしたりするのもいいでしょう」(宋美玄先生)

 

・高温期はストレス緩和を

「高温期は低温期とは反対に、涙もろくなったり精神的に追い詰められてしまったり、落ち込んだりしがちな周期です。肌荒れや便秘、腹痛なども起こりやすいので、好きなことをしたり、ゆっくり寝起きしたり、とにかくストレスのかからない過ごし方を選んでみましょう。妊活中の方は、低温期から高温期に変わる排卵日前後でできるだけたくさんの性交をすることをおすすめします」(宋美玄先生)

 

妊活中以外でも基礎体温は大切なデータ

基礎体温は妊活中には大切なデータですが、実は体調管理にも役立つのです。

 

「中高生や独身女性も、自分の基礎体温が二層に分かれているのかは将来のためにも知っておいた方がいいでしょう。先に説明した通り、PMSや排卵痛だと思っていたものが本当に毎月同じような時期に起きているのか知ることができます。また、40代・50代と閉経が視野に入ってくると、少しずつ生理不順になっていきます。いつ生理が来るのか来ないのかがよくわからず過ごすことになるので、基礎体温をつけておくと、生理日の予想に役立ちます。もちろん中高年だけでなく、若い方でも生理不順に悩んでいる方は、基礎体温があるとスケジュール管理に便利です」(宋美玄先生)

 

生理の悩みがあるなら「低容量ピル」や「子宮内避妊器具」の検討を

女性の一生に生理は欠かせないものですが、それによってストレスフルになったり、痛みをこらえなくてはならなかったりと、日常生活が大変な人もいるでしょう。仕事や遊びの予定に差し支えたり、生理痛がひどい人はその度に学校や仕事を休まなくてはならなくなってしまいます。

 

「生理に悩まされている方には、低容量ピルや子宮内避妊器具をぜひ検討していただきたいです。初潮が来ていればいずれも使用することができるので、10代の方にも処方することができます。低容量ピルは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンが含まれている飲み薬です。毎日飲むことで排卵を抑制してくれます。受精卵を着床しにくくし、精子の進入を防いでくれるので避妊薬として知られていますが、月経困難症やPMSの軽減の治療薬としても使われています。飲んでいる間は生理が来ず排卵がないので、生理痛などから開放されます。一方、子宮内避妊器具は子宮内に装着する、黄体ホルモンが付加された避妊器具です。こちらは一度装着してしまえば最長で5年はそのまま使用できるので、飲み薬と違って面倒はありません。こちらも生理が来づらくなるので、生理痛の治療薬として有効です。昔は、生理痛は我慢して過ごすのが当たり前とされてきましたが、毎月痛みやイライラを我慢して過ごすのは大変なことです。痛みに耐える選択をせず、産婦人科を受診してより日常生活が楽になる方法を検討してください(宋美玄先生)」

 

女性の体は、月の満ち欠けのように日々バランスが変わっていくもの。自分の体に起きていることを知るのが、まずは体調を整える第一歩となります。これまでに基礎体温を測ったことがない人は、ぜひこれを機に計測してみてください。

 

【プロフィール】

「丸の内の森レディースクリニック」院長 / 宋 美玄(ソン・ミヒョン)

産婦人科医、医学博士、FMF認定超音波医。大阪大学医学部医学科卒業後、大阪大学医学部付属病院、りんくう総合医療センターなどを経て川崎医科大学講師に就任。2009年、ロンドンのThe Fetal Medicine Foundationへ留学。胎児超音波の研鑽を積み、2015年川崎医科大学医学研究科博士課程を卒業。2017年、東京・丸の内に「丸の内の森レディースクリニック」を開業。テレビ出演や雑誌・書籍での情報発信にも力を注ぎ、著書多数あり。
HP=https://www.moricli.jp/

 

産婦人科医が解説する「生理用品」の選択肢とそれぞれのメリット・デメリット

毎月、痛みや不快な思いを我慢している人が多い「生理」。前回は基本的なその仕組みと、「生理痛」が起きる原因、病気の可能性などについて解説していただきました。今回は「生理用品」をクローズアップ。現在手に入る生理用品には、どのような種類があるのか、詳しく教えていただきます。

 

仕事やスポーツに影響が出たり、下着や衣服を汚してしまう不安を感じながら外出したり。そういった不安を払拭できる生理用品とは? それぞれのメリット・デメリットを理解して、自分の体やライフスタイルに合ったアイテムを選びましょう。

 

【関連記事】産婦人科医・宋美玄先生が解説する「生理」と「生理痛」について知っておくべきこと

 

生理用品は“使い捨て”から“サステナブル”なモノへ

ここ数年で、生理用品はバリエーションが豊富になりました。女性の健康や体の仕組みを理解し、それに寄り添ったアイテムやサービスを意味する「Femcare(フェムケア)」、なかでもテクノロジーの力で実現したアイテムを指す「Femtech(フェムテック)」という言葉も急速に浸透してきています。

 

そういったフェムケア商品の中でも、多くの女性に関係するのが生理用品。相変わらず使用率が高いのはナプキンで、約7割(※)が使い捨てのナプキンを使用していますが、ナプキンのほかにも選択肢が増え、それぞれの好みで選べるようになったのは大きな変化といえるでしょう。

※参考資料 ナプキンの使用率68.0%、おりものシートは4割以上

 

「従来のものと違い、“捨てない生理用品”のラインナップが増えてきています。代表的なものは『布ナプキン』でしたが、ほかにも『経血吸収ショーツ』や『月経カップ』は、徐々にメジャーになりはじめていますよね。環境にやさしい、という長所もあると思いますが、それよりも“生理”自体に向き合うようになってきた証なのではないでしょうか? 少し前までは“自然分娩が良し”とされる傾向が強く、無痛分娩にあまりいいイメージがなかったのですが、最近では“痛みを無理に我慢しなくていい”ことが認知されてきています。生理においても、不快感や痛みを我慢せず、自分に合ったものを選択するという方向に、世論も動いているのでしょう」(丸の内レディースクリニック院長・宋 美玄先生)

 

不快感を軽減するためにできること

生理用品の悩みでもっとも多いと先生が感じているのは、かぶれです。経血に浸ったナプキンが常に皮膚に触れていることで、かぶれやすくなり、濡れているような不快感を我慢しなくてはなりません。

 

「吸収性の高いものがたくさん発売されていますが、やはり経血が触れている時間はありますよね。かぶれに悩んでいる方は、産婦人科で薬をもらうのも手ですが、2つの方法を試してみてください。ひとつは陰部を洗ったりデリケートゾーン用のシートでこまめに拭いたりして、清潔を保つこと。いつもきれいにしておくことで、かぶれの原因が取り除けます。もうひとつはアンダーヘアの処理をすること。経血がアンダーヘアについたままということはよくあるので、短くカットしたり不要な部分は処理したりして、経血が付着しづらい環境を作っておきます」(宋 美玄先生)

 

さまざまな生理用品の種類と使い分け

何を使えばいいかは人それぞれですが、ここでは宋先生に生理用品のバリエーションと、それぞれのメリット・デメリットを解説していただきます。ひとつに絞らず、その日の体調や予定によって併用したり変えたりしながら、自身がもっとも快適に過ごせる方法を選びましょう。

 

【紙ナプキン】どこでも購入できる手軽さがメリット

学校の授業で生理について学ぶ際にも使い方を教わるのが、紙ナプキンです。初潮を迎えたときに紙ナプキンだったから、という理由で使い続けている人も多いのではないでしょうか。

 

「紙ナプキンのいいところは、コンビニでもスーパーでも、とにかくどこででも手に入れられることです。急に生理が来てしまったときにも助かりますよね。さまざまなメーカーから薄いタイプや幅広で長さもある大きいタイプ、無香料や香料つきのものなど、たくさんの種類が出ているので、選択肢が多いのもいい点。前回ご紹介した『ソフィ シンクロフィット』のようなタイプもあります。これはペタンとつけるだけで快適で、もっと広く知られてもいいなと思っている生理用品のひとつです。

 

一方で、わたしが不快だなと思うのは、汚物入れに入れて捨てなくてはならないこと。人が捨てた汚物が入っているし、そこに自分のものを入れるというのも苦手で、そこがデメリットかなと思います。ファッションに響く可能性があるのも、デメリットのひとつになりますよね。ちなみに、オーガニックコットンの紙ナプキンを使うと生理痛が軽減するとか経血が減るという噂がありますが、これはまったくの嘘。肌に当てるものが変わることで子宮内部の状態が変わるというのはあり得ません。使い心地で選ぶのがいいでしょう」(宋 美玄先生)

 

[メリット]
・どこでも簡単に入手できる
・種類豊富で好みのものを選べる

[デメリット]
・使い捨てなくてはならない
・かぶれや蒸れによる不快感を我慢しなければならないことも

 

【タンポン】使うのが怖いという声も根強い

水泳や運動をするときに便利なタンポンは、膣内に挿入する不安があって使えない、という声もよく耳にします。使い方にコツがいるのに、どう挿入するのかを教えてもらう経験がないことも、タンポンを難しくさせているのかもしれません。

 

「挿入してしまえば、すっかり生理のことを忘れられるくらい快適なので、とてもいいアイテムだと思います。温泉やプールなどで使えるのもいいですよね。肌に経血が当たることが少ないのでかぶれることもありません。ただ、日本で売られているタンポンはすべてアプリケーターがついています。紙製のアプリケーターもありますが、プラスチックのものもあるので、プラスチックゴミが出るのがデメリットといえるでしょう。

 

生理のときに温泉やプールに入ることについては、施設側で禁止としているところもありますので、マナーとしてはその場に合わせた方がいいと思いますが、衛生面だけで考えれば入って問題ありません。膣内に水が入ることはありませんし、そのような場所では水質検査もきちんとしているはずです。膣には雑菌に打ち勝てるよう常在菌もいるので、そう神経質にならなくて大丈夫ですよ」(宋 美玄先生)

 

[メリット]
・蒸れたりかぶれたりする心配が少ない
・正しく装着すれば違和感がない
・プールや運動のときにも気にならない

[デメリット]
・プラスチックゴミが出る
・正しい使い方がわからない人も多い

 

【布ナプキン】使い捨てなくていいが手間がかかる

コットンで紙ナプキンのような形に作られた布ナプキンは、洗って繰り返し使用します。紙ナプキンのように一体型になっているタイプのほか、中の吸収パッドを変えられるタイプや、おりもの用の小さなものもあります。

 

「使い捨てではないので、コストパフォーマンスはいいですよね。また、下着や洋服のように肌馴染みがいいコットン素材なので、かぶれから開放されたという方もいるでしょう。ただ、かぶれについては個人差があり、乾きの遅いコットンが逆にかぶれる原因になってしまうこともあります。また、外出先で取り替えたものを持ち帰らなくてはならないことや、洗って干すなどの手間がかかるので、面倒に感じる方もいますよね。

 

布ナプキンを使う方の中には、膣の筋肉をトレーニングして締めつけることで経血を漏らさないようにする、ということも言われています。昔の人はそうしていた、という噂も根強くありますよね。でも、膣は筒状の形をしていて、ジップつきの保存袋のようにピチッと閉まるものではないんです。尿もれ防止やセックスでの快感につなげたいなど別の視点からであれば、膣のトレーニングはいい点もあると思いますが、経血を出さないようにはできません」(宋 美玄先生)

 

[メリット]
・使い捨てなくていいのでコスパがいい
・かぶれない人もいる

[デメリット]
・乾きにくい
・外出時に取り替えたとき、持ち帰らなくてはならない
・洗濯する手間がかかる

 

【月経カップ】経血量がわかるいま注目の生理用品

最近になって広く認知されるようになってきた月経カップは、膣内に挿入して経血をカップで受け止めるもの。溜まった経血はトイレに流し、カップは洗ってまた装着します。

 

「月経カップで不便なのは、生理が終わったら煮沸消毒しておくという点です。電子レンジでもできるので、こちらの方が手間がないでしょう。それを除けば、生理であることを忘れられるくらい快適です。使いはじめは上手に装着できなかったりスムーズに取り外せなかったりということがあるかもしれませんが、2〜3回使えばすぐ慣れます。これも個人差がありますが、だいたい半日に一度くらい経血を捨ててつけ直せばよいので、面倒が少ないのもいいところです。

 

もし自分の経血量について知りたいと思ったら、一度カップを使って測ってみるのもいいと思いますよ。だいたい一週間程度続く生理で出る経血は20〜140ccと言われています。大きな紙ナプキンを日に何度も替えなくてはならない方や、オムツタイプの紙ナプキンでないと経血が漏れてしまう、という方は、一度産婦人科を受診してみてください。あまりに経血量が多いときは、子宮筋腫などの病気も疑われますし、黄体ホルモン療法などで治ることもあります」(宋 美玄先生)

 

[メリット]
・装着してしまえば不快感がない
・自分の経血量がわかる

[デメリット]
・使い勝手に慣れるまでに時間がかかる人もいる
・消毒が面倒に感じることもある

 

【経血吸収ショーツ】話題のショーツタイプは、実は10年前から存在

フェムテックという言葉がメジャーになってきて注目されつつあるのが、経血吸収ショーツ。でも、実は10年も前から商品化されていたそう。

 

「ショーツ全体が経血を吸収できるように設計されているので、履くだけでいいのが利点です。ゴミも出ず、吸収量もナプキン数枚分あるので、外出先で替える必要がありません。デメリットとしては、1枚ではもちろん足りないので何枚か揃えることになり、初期投資にお金がかかることでしょうか。興味がある方は、まずは1枚買って使ってみることをおすすめします。また、月経カップやタンポンだけでは心配な方は、紙ナプキンを使わず経血吸収ショーツと併用するのもいいかもしれませんね。

 

いちいちナプキンを替えている時間がないときは、気にしなくていいので便利ですし、ファッションにも響きにくいので、経血量が落ち着いてきたときに使うのもいいでしょう。また、生理用品の入手が難しくトイレに行くのが困難になることが考えられる災害時のために、防災グッズとして揃えておくのもおすすめです」

 

[メリット]
・吸収量が多く、いちいち付け替える必要がない
・ファッションに響きにくい

[デメリット]
・初期投資にお金がかかる
・蒸れたりかぶれたりしてしまう人もいる

 

生理は、一度初潮を迎えたら閉経まで、数十年にわたって付き合っていかなくてはならないもの。我慢しなければならないものと諦めず、快適に過ごせるよう生理用品を替えてみたり、産婦人科に相談をするのも手でしょう。

 

宋美玄先生は、「生理に煩わしい思いをしない人生を過ごしてほしい」と話します。妊娠を考えていない時期なら、ピルやミレーナ(子宮内薬剤徐放システム)などを使い、生理があることそのものと向き合ってみることも考えながら、自分にとってより良い選択ができるといいですね。

 

【プロフィール】

「丸の内の森レディースクリニック」院長 / 宋 美玄(ソン・ミヒョン)

産婦人科医、医学博士、FMF認定超音波医。大阪大学医学部医学科卒業後、大阪大学医学部付属病院、りんくう総合医療センターなどを経て川崎医科大学講師に就任。2009年、ロンドンのThe Fetal Medicine Foundationへ留学。胎児超音波の研鑽を積み、2015年川崎医科大学医学研究科博士課程を卒業。2017年、東京・丸の内に「丸の内の森レディースクリニック」を開業。テレビ出演や雑誌・書籍での情報発信にも力を注ぎ、著書多数あり。
丸の内の森レディースクリニック https://www.moricli.jp/

 

10人に1人が子宮内膜症に!産婦人科医・宋美玄先生に聞く「生理」と「生理痛」について知っておくべきこと

“初潮”がはじまった10代前半から、閉経を迎える50歳前後まで、女性にはいったい何日間、生理の日があるでしょうか? 例えば12歳で生理が来て50歳で閉経し、その間、生理周期が28日で1回の生理期間が5日間と仮定すると、約2470日。トータルでおよそ7年もの期間にのぼる計算になります。

 

生理の度に生理痛に悩まされたり、ひどい倦怠感があったり、気分が沈んだりする場合、痛みや、心と体の不調を改善する対策をしなければ、これだけ多くの時間を憂鬱な気分で過ごさなければならないことに。

 

東京・丸の内に「丸の内の森レディースクリニック」を開設し、メディアに出演するほか多くの著書を持つ産婦人科医の宋美玄(ソン・ミヒョン)先生は、多くの女性の「生理」に関する情報のアップデート不足が深刻だと言います。痛みをガマンする必要はないし、生理の不調から解放される方法はたくさんあることを知って欲しいと話す宋先生。生理痛対策を中心に、おさえておくべき生理の真実について、解説していただきました。

 

生理痛を引き起こす要因は「プロスタグランジン」の分泌

生理は一般的に毎月1回、3~7日ほど出血が続きます。生理痛は、生理が始まってすぐの“重い日”に起きることが多く、起きていられないほどの痛みに襲われる人も少なくありません。

 

「子宮内では、毎月『受精卵』を受け止めるための『子宮内膜』が作られています。妊娠をしないとその内膜が不要になるため、血液と一緒に対外に排出されるのが生理です。内膜が子宮からはがれるとき、発熱や痛みを起こす物質『プロスタグランジン』が分泌されることにより、子宮が収縮します。このときに発生する痛みが、生理痛を引き起こしています。

腹部の痛み以外にも、頭痛や腰痛などの痛みとして出る方もいます。またプロスタグランジンは腸の動きにも影響するので、生理中には便秘が解消したり下痢気味になったりする場合もあります」(丸の内レディースクリニック院長・宋美玄先生)

 

「生理痛は仕方ない」? 痛みとの正しい付き合い方

不要となった子宮内膜を外に出すための子宮収縮を起こすプロスタグランジンが、痛みの要因ということならば、痛みがあることは仕方のないことなのでしょうか?

 

「必然の痛みとは言えますが、痛むのをガマンし続ける必要は、まったくありません。痛み始めたら、早急に生理痛に効く鎮痛剤を飲み、痛みを軽減させましょう。鎮痛剤は市販のものでかまいませんが、眠気の出やすいもの、胃の弱い方には適さないものなどがあります。15歳未満は服用できないものもあります。それらの条件を避けた鎮痛剤については、薬剤師に相談し、適したものを選ぶといいでしょう。婦人科を受診して自分の体質に合ったものを処方してもらえるとよいかもしれません。しかも、病院で処方された薬は保険が適用されるので安く手に入れられると思います。

鎮痛剤を飲み続けることで、将来妊娠したときに赤ちゃんに悪影響が出るのでは、と心配している方もいますが、薬の成分は一定期間経つと対外に排出されるので、鎮痛剤を服用し続けたことが妊娠に悪影響を及ぼすことはないでしょう。生理痛をやわらげる対策として、腹部を湯たんぽやカイロで温める方法もよく聞きます。温めることで痛みがやわらぐのであれば、ご自身にとっての心地よい範囲で取り入れるようにしましょう。

ただし、子宮は体の中心部にあり、外気の影響を受けることはないので、本来は冷える臓器ではありません。暑い時期にだらだらと汗をかきながらガマンして温める必要はないでしょう。紙ナプキンを使うと子宮が冷えるという説も、正しい情報とは言えません」(宋美玄先生)

 

生理痛の裏に潜む“病気”にも要注意!

生理痛には大きく分けて「機能性月経困難症」と「器質性月経困難症」があるという宋先生。

 

「機能性月経困難症とは、プロスタグランジンの影響で痛みが発生している、子宮本来の機能から生じている生理痛をいいます。一般的に若い世代に起きやすい痛みです。20代前半くらいまでの若い世代は、本来、女性の体としては妊娠適齢期です。そのため、赤ちゃんを迎える準備がピークを迎えていて、女性ホルモンの分泌量が多くなります。その分、子宮内膜が厚く、出血量が多くなるので、プロスタグランジンの分泌も増えるのです。

もう一つの器質性月経困難症は、『子宮筋腫』や『子宮内膜症』、子宮内のポリープなどによる影響で痛みが増している状態を言います。子宮筋腫があると子宮の内宮の形がいびつになったり引き延ばされたりして内膜の面積が広がるので、生理が重くなります。器質性月経困難症は30代以降の女性の生理痛として起きやすい症状ですが、最近は10~20代前半の女性の間でも子宮内膜症を患う方が増えていて、今や国民病とも言われています。

子宮内膜症については次に説明しますが、生理の度に生理痛があり、鎮痛剤を飲まないと日常生活に支障がある状態は、器質性月経困難症の可能性があります。一方で、生理痛の症状がないまま子宮内膜症が進行している場合もあります。そのため、初潮を迎えてからは子宮と卵巣のチェックのために1年位1回くらいは婦人科を受診して欲しいです」(宋美玄先生)

 

月経のある現代女性の10人に1人が子宮内膜症に

最近は、月経のある女性の10~15%が子宮内膜症を患うと言われています。国民病とまで言われるほどの状況が起きているのはなぜでしょうか?

 

「子宮内膜症の要因はいろいろありますが、今もっとも大きな要因として考えられているのは、生理の血が逆流することです。生理の血はすべて下に流れ出ていると考えがちですが、卵管を伝って臓器の方にも逆流しています。このとき、子宮内膜の組織が生きたままほかの臓器に移動してしまうことがあり、その移動先で次の月から生理を起こすことがあります。

卵巣や卵管、腹膜、子宮と直腸の間にあるくぼみなど、本来は内膜ができるはずのないところで増殖すると深刻です。内膜が子宮以外にできると排出されないので、炎症や癒着が起きます。組織同士がくっついて詰まってしまうので、妊娠もしづらくなるだけでなく、腸閉塞になることもあります。卵巣にできた子宮内膜組織が袋のようになって血液を溜め込んでしまう『チョコレート嚢胞(のうほう)』になると、子宮を摘出する手術が必要になる可能性もあります。

妊娠する機会が減っている現代は、その分、生理の回数が増えるので、子宮内膜症の発生リスクが高くなっています。100年くらい前の女性と比べると、現代女性の生理の回数は約10倍だと言われています。それだけ、子宮の負担が増えていることは軽視できない状況です」(宋美玄先生)

 

生理の回数が多すぎる現代は「ピル」で卵巣を休めたい

10代後半から妊娠をし、1人で5~6人の出産が当たり前だった時代と比べれば、現代女性の生理の回数が10倍くらいまで増えているのも納得できます。

 

「平均寿命は伸びているし、栄養状態が良いので、初潮の時期が早まっていることからも生理の期間が長くなりますよね。10代後半から20代前半くらいの一番生理が重くなる時期に、子宮を休ませることなく、ずっと排卵をしていることの方が異常な状態だと言えます。

生理は、赤ちゃんを生む準備をするために必要な存在です。来月には妊娠したいと考えている女性以外にとっては、直近の生理は必要ありません。今は生理を3~4か月に1度のペースに抑えるような製剤が増えているので、ピルや黄体ホルモン剤(ミニピル)などを飲むことで、排卵の回数を減らす対処法は積極的に取り組んで欲しいです。

ピルを飲むと妊娠しづらくなる、太りやすくなるというような副作用を心配する人がいますが、現在の低用量ピルでは問題ありません。むしろ、将来妊娠したいと考えている女性ほど、ピルを飲んで不要な排卵による卵巣への負担を減らしてあげたいところです。卵巣の負担を減らすことで、不妊の要因である子宮内膜症や子宮筋腫の発症率を減らすこともできます。また、体調不良やメンタル不調になりやすいPMS(月経前症候群)や、感情のコントロールが難しくなるPMDD(月経前不快気分障害)の緩和にもピルは効果的です」(宋美玄先生)

 

月経困難症対策には「避妊リング」も効果的

出典=『医者が教える 女体大全 自分のカラダの「取扱説明書」』(ダイヤモンド社)イラスト/伊藤美樹

 

ピルは望まない妊娠を防ぐだけではなく、女性の卵巣を休ませる効果があるのですね。

 

「ピルの種類にもよりますが、月に数百円ほどの黄体ホルモン剤からあります。平均すると月に1500~2000円くらいで、最大3か月分を一度の受診で処方できるので、忙しい方でも取り入れやすいと思います。

ほかにも、最近注目されている月経困難症対策に避妊リング『ミレーナ』があります。これは3cmほどの小さな器具に黄体ホルモンを染み込ませたもので、子宮内に挿れておくことで、器具から黄体ホルモンが放出されます。これにより、子宮内膜が薄くなり、生理がほぼなくなります。1度装着すると5年間使え、月経困難症の対策の治療として取り入れれば保険が適用され、費用負担は約1万円ほどです。ミレーナを装着した翌月と3か月目は検診が必要になりますが、それ以降は1年ごとの定期検診でOK。避妊効果もあるので、妊娠したくなったタイミングで除去します。

私は5年前から使っていて、先日取り替えました。生理が劇的にラクになるし、生理痛からも解放されます。私には小学4年生の娘がいますが、彼女が初潮を迎えたらミレーナを装着させる予定です。子どもの時期から使えるので、不必要な生理や生理痛から解放してあげる意味でも、お子さんがいる方にも広めていきたいです」(宋美玄先生)

 

続いて、いま注目の「月経カップ」や「吸収型サニタリーショーツ」など、生理の日を少しでも快適に過ごすためのグッズを、宋美玄先生にピックアップしていただきました。

 

宋美玄先生がオススメする“フェムテック”な生理アイテム

フェムテックとは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた言葉で、女性が抱える健康問題を解決するサービスや物のことを言います。ここでは、注目したいフェムテックな生理アイテムを宋先生にピックアップしていただきました。

【関連記事】「FemTech(フェムテック)」とは? 女性を痛みや生きづらさから救うテクノロジーの最新事情

 

・最長12時間つけっぱなしにできる! エコにつながる「月経カップ」

インテグロ「エヴァカップ」
4994円(税込)

シリコーン製のやわらかいカップを折りたたみ、先端の突起が下になるように膣内に挿入するカップ。最長12時間使い続けられ、使用後は洗って煮沸すれば何度も繰り返し使えます。

「日本では女性自身が自分の膣をよく観察することがない傾向にあるので、こんなに大きなカップが入るのか? と最初は戸惑う方が多いようです。でも、慣れてしまえば生理を忘れてしまうくらい快適に。取り出すときに自分の経血量や色などが確認できるので、体調チェックにもなります」(宋美玄先生)

 

・ショーツで経血を吸収してくれる吸収型サニタリーショーツ「エヴァウェア」

インテグロ「エヴァウェア」
5500円(税込)

最大でタンポン2本分(約20ml)の経血を吸収してくれるショーツで、見た目やはき心地はいつものショーツと変わりません。生理の軽い日ならばこのショーツだけで過ごせ、重い日や寝ている間は月経カップやナプキン、タンポンなどのバックアップとして使えば、経血が漏れて服を汚してしまう危険を防げます。

「吸収型サニタリーショーツは経血の漏れの心配を払拭してくれる画期的なアイテムだと思います。ゴワゴワしないし、通気性がいいのでムレの心配なく使えるのがいいですね」(宋美玄先生)

 

・ナプキンにオンして経血を漏らさず吸収! トイレに流せる「シンクロフィット」

ソフィ「シンクロフィット」
328円(税込、店頭想定価格)

個別ラップをはがし、シンクロフィットに指を通して膣口にぴったりとはりつくようにセットします。その下に通常のナプキンをつければ、多い日でもスリムナプキンと一緒に使えば快適に過ごせます。使用後はトイレに流せるのも便利。

「これは手軽に取り入れられるし、とても便利なアイテムだと思います。まだ知らない方も多いように感じます。どんどん認知されて欲しい!」(宋美玄先生)

 

・経血による汚れをオフして清潔! ニオイやかゆみを予防する「コットンシート」

ピュビケア「オーガニック フェミニン コットンシート クールミント<20枚入り>」
1650円(税込)

やわらかいオーガニックコットンに、ローマカミツレ花水やルイボスエキス(アスパラサスリネアリス葉エキス)などの天然成分をたっぷりと含ませたウェットシート。個包装のシートを携帯しておけば、外出先でナプキンを取り換えるタイミングでデリケートゾーンの汚れを拭き取れます。無香料タイプもあります。

「経血が陰毛に付着したままの状態は不衛生だし、ムレることでニオイやかゆみの原因になります。デリケートゾーンを清潔に保つアイテムを取り入れるといいでしょう」(宋美玄先生)

 

・おりものにはコレ! ショーツの汚れを防ぐ「布ライナー」

エニュアンス「布ライナー SS 薄手5枚セット」
2480円(税込)

肌面はオーガニックコットンのニット生地で中にはネル生地、表面はおしゃれなプリントコットン3層構造の布製のおりものシート。繰り返し使える上にリーズナブルなので、汚れが目立ってきたら、買い替えやすいのも魅力です。

「おりもの対策に愛用しています。これをショーツにつけることで、汚れやニオイが防げます。付け心地もいいし、ショーツが汚れるのを防げるので手放せないアイテムになりました。柄がかわいいので、選ぶのも楽しいです」(宋美玄先生)

 

宋先生の解説を聞いて、「生理痛は病気じゃないからガマンが必要」「鎮痛剤はなるべく飲まない方がいい」「ナプキンがずれないように必死に工夫する」……そんな女性たちの日常が、いかに情報不足であったかと気づかされます。まずは、生理の痛みをやわらげ、そして子宮を休ませてあげるケアを心がけていきたいですね。

 

【プロフィール】

「丸の内の森レディースクリニック」院長 / 宋 美玄(ソン・ミヒョン)

産婦人科医、医学博士、FMF認定超音波医。大阪大学医学部医学科卒業後、大阪大学医学部付属病院、りんくう総合医療センターなどを経て川崎医科大学講師に就任。2009年、ロンドンのThe Fetal Medicine Foundationへ留学。胎児超音波の研鑽を積み、2015年川崎医科大学医学研究科博士課程を卒業。2017年、東京・丸の内に「丸の内の森レディースクリニック」を開業。テレビ出演や雑誌・書籍での情報発信にも力を注ぎ、著書多数あり。
HP=https://www.moricli.jp/

 

『医者が教える 女体大全 ―オトナ女子の不調に効く! 自分のカラダの「取扱説明書」―』
(宋美玄・著/ダイヤモンド社・刊)

女性の体に関する情報には間違った「都市伝説」がいっぱい。毎月の生理は痛い、面倒くさい、PMSに悩まされる、そんな女性たちの不調に関する疑問に応えるための一冊。生理や生理痛との向き合い方が明確になり、生理の知識がアップデートできる指南書です。