トコジラミは殺虫剤が効かなくても熱で倒せる!自宅と外出先での防御策を専門家が解説

新型コロナウイルスの流行も落ち着き、旅行などに出かける機会も増えました。日本を訪れる外国人観光客も急激に増え、都市部や観光地には活気が戻っています。感染症が落ち着いたのも束の間、今世界中で大量発生し、日本でも急激に流行し始めて問題になっているのが「トコジラミ」です。

 

ホテルの寝具や、電車のシートにまで!? 身近に潜んでいるとされるトコジラミの実態とは? また自宅に持ち込まないためには、いったいどうしたらいいのでしょうか? トコジラミの駆除および研究を行い、専門資格である「トコジラミ適正管理主任者」を育成している寝室環境衛生管理協会代表の塩田忠則さんに、トコジラミの習性から対策までを解説いただきました。

 

バルサン開発の虫博士が解説! ゴキブリ・コバエを発生させない対策法

 

トコジラミがなぜ社会問題になっている?

トコジラミとは、蚊のように人間や動物の血を吸う「吸血害虫」です。ここ数年で話題になりましたが、実はかなり昔から日本に生息していました。 「トコジラミは古くから一般家庭に生息していた害虫です。ですが戦後復興により生活環境が改善されたことや、強力な薬剤で駆除できるようになったことから、1964年の東京オリンピック頃を境に沈静化していきました。それからトコジラミを日本で見ることはほとんどありませんでした」(寝室環境衛生管理協会代表・塩田忠則さん、以下同)

 

しばらく見ることのなかったトコジラミが、最近になって流行し始めたのはなぜでしょうか?

 

 

「一番の原因は、インバウンドの影響です。コロナ禍前にも外国人観光客が大勢日本に訪れ、海外から持ち込まれたトコジラミが徐々に増えていました。ですが流行するまでにはなっておらず、コロナ禍になっていったん落ち着いたのです。コロナ禍を経た今、再び外国人観光客が増えたことで一気に増加しました。
10年前と比較すると、国内の相談件数は約10倍増えたというデータも出ています。加えて、今日本にいるトコジラミの8~9割は、従来使われていた『ピレスロイド系』の殺虫剤が効かない『スーパートコジラミ』。薬剤耐性のあるトコジラミが増えたことも、流行が拡大した要因の一つになっています」

 

とくに大都市圏や外国人観光客が訪れる観光地を中心に被害が拡大しており、今後も増え続けると予想されています。

 

トコジラミの繁殖率は?

 

トコジラミはどのような虫なのか、習性など特徴について解説いただきました。

 

■ 大きさ
「成虫は、長さ5~8mm、幅3mmほどの大きさです。動く速さはクモやアリと同じ程度。すごく速いわけではないので、目を離さない限りは目視で追うことができます。ですが、厚みは1mmに満たないほどなので、ちょっと目を離した隙に部屋の隙間に入り込んでしまいます。また成虫だと目視できますが、ふ化したばかりのものは1.2mmほどと小さく、なかなか目視しづらいです」

 

■ 卵の特徴
「卵は長さ1~2mm程度、横幅は0.2~0.3mmとかなり小さく、形は楕円形です。加えて、殻に粘着性があるため、卵が服やバッグに張り付いて一緒に移動し、自宅に持ち込んでしまうケースも少なくありません」

 

■ 活動時期
「ほかの昆虫と同じく、5月末頃から9月頃までの暖かい時期が最も活発に活動します。ただし、建物内であれば通年暖かいので、冬でも繁殖し続けます」

 

■ 繁殖の速さ
「トコジラミのメスは、1度の受精で複数回産卵できるという特性を持っています。仮に受精したメスを1匹自宅に持ち込んでしまったとします。すると1日あたり2~3個、多くて5個程度卵を産むんです。卵は約1週間でふ化し、2カ月弱で成虫になります。世代交代を境に急増し、約2カ月でおよそ110匹になる試算もされています。大体この2カ月の時点で自宅にトコジラミが潜んでいると気づくケースが多いようです」

 

毎日同じ部屋にいる場合は、もう少し発見が早まることもあるそう。ですが、宿泊施設など不特定多数の人が出入りするような場所では、さらに発見が遅れてしまうといいます。

 

私たちにどんな影響を及ぼす?
健康被害の実態

 

トコジラミによる健康被害についてもうかがいました。

 

「一番の被害は強いかゆみを発症させること。ただし、1回刺されただけではかゆみは出ません。蜂と同様に、アレルギー反応によってかゆみを発症するのが特徴です。蜂のように命に係わるわけではないのですが、2回目以降に刺されたときにアレルギー反応が起こり、かゆみが出てきます。なので、初めて刺されたときは発疹さえ出ない場合がほとんどです。かゆみの程度については、蚊の約10倍といわれています」

 

かゆみが出たら大体1週間程度、強いかゆみが続くといいます。

 

「人間を刺すときは、大体1~2分吸血し、吸血ができなくなると少しだけ場所を移動してまた吸血を始めます。連続して刺された跡があればトコジラミの可能性が高いですね。夜行性なので、日中はベッドの隙間などに潜み、夜寝ている間に人間に近づいてきます。布団や服の中に入り込むことはなく、肌が出ている首から上や足元に刺されることが多いです。手や腕が布団から出ている場合は、出ている隙を狙って刺してきます」

 

蚊は産卵するために血を吸いますが、トコジラミは産卵時だけでなく脱皮を行うためにもため吸血を必要とします。つまり、卵からかえった瞬間から死ぬまで常に吸血し続けるといいます。

 

「ただし、蚊のように感染症を媒介したという報告はないので、今のところ毒性はありません。懸念点は、強いかゆみやその繁殖率の高さから、精神的にダメージを受けてしまうこと。ノイローゼになったという2次被害の報告も出ています」

 

トコジラミの弱点とは?

従来の殺虫剤が効かないトコジラミ。ですが、弱点がまったくないわけではありません。トコジラミの弱点と、それを狙い撃ちした駆除にはどのような方法があるのでしょうか?

・高熱

「トコジラミだけでなくどの虫も同じですが、生き物はタンパク質でできていますので、タンパク質が変質する温度で死滅させることができます。スチームなら120℃以上になるので、生きていることはできません。また洗濯機の乾燥機能を活用するのも有効です」

・凍結

「高熱とともに、凍結するほどの低温下でも生きられません。私たちの皮膚が熱や凍結でやけどを起こすのと一緒ですね。ドライアイスはー85℃になります。動き回るトコジラミにドライアイスを直接触れさせることは難しいですが、『凍結スプレー』という冷却噴射できるスプレーが市販されているので、駆除する際は凍結スプレーが有効です」

また殺虫剤についても、ピレスロイド系が効かないトコジラミにも効く害虫駆除剤が大手メーカーから出始めています。

 

トコジラミが潜みやすい
要注意の外出先とは?

トコジラミはゴキブリのように勝手に家に入ってくるのではなく、外出先で服や荷物に付着したものが、自宅に持ち込まれて繁殖するといいます。一度家に持ち込んでしまったら自分で完全に駆除することが難しいため、外出先から持ち込まないことが一番の対策となります。では、どういったところにトコジラミが潜んでいるのでしょうか?

 

「まず、今一番相談件数が増えているのが宿泊施設です。次に、漫画喫茶や大衆浴場の休憩室など簡易宿泊施設でも増加しています。夜暗くなった時に人が寝泊まりする場所、と考えていただけるといいですね」

 

逆に、電車やカフェなど明るい場所に住み着く可能性は低く、そこまで警戒しなくてもいいそう。明るい場所で見つかるケースは、宿泊先などで荷物についてしまったトコジラミがたまたま落ちて発見されたと考えられるでしょう。

 

もっとも要注意!
宿泊先での対策手順は?

 

一番持ち込む可能性が高い宿泊先での対策手順を教えていただきました。

 

1.荷物を大きなビニール袋に入れる

「部屋に入ったら、まず自分の荷物にトコジラミがつかないよう注意が必要です。旅行カバンなど荷物が丸ごと入るくらいの大きなビニール袋を用意しておき、荷物はその袋の中に入れて口を閉じてください。トコジラミはつるつるしたところを上れませんのでビニール袋が有効です。荷物の出し入れをする場合も、袋の中で行うようにしましょう」

 

バスタブの中にカバンやスーツケースを置く方法もよく聞きますが、温泉旅館のようなバスタブを使う頻度が少ない宿泊先の場合、掃除を簡易にしていることが稀にあるそう。「宿泊客の荷物についていたトコジラミがバスタブに落ちたことで繁殖した」という事例もあるそうなので、やはりビニール袋の使用がおすすめです。

 

2.ベッド周りを“調査”する

「洋室の場合、ベッド周りに生息している可能性が高いです。トコジラミは吸血害虫なので、かさぶたのような小さな黒い“血糞”があるかどうかが目安になります。血糞がまとまっているコロニー(巣)がないかどうかを確認しましょう。トコジラミは人の肌が露出しやすい場所に向かってくる性質があるので、とくに枕元と足元は要チェック。シーツをめくって確認してみてください」

 

トコジラミは餌場の近くからあまり動かない性質があるので、自宅に生息する場合もベッド周りにいる可能性が一番高くなります。

 

「和室の場合は床の間を頭にして布団が敷かれることが多いので、床の間の畳の近くや、その真上の天井の角のあたりで血糞が発見されやすいです。布団が敷かれる頭側から見始めて、部屋の外側や高い方に向かって血糞がないか調べてみてください」

 

もしトコジラミの血糞が見つかった場合は速やかにホテルに報告し、部屋の移動などの対応をお願いしましょう。

 

3.室内で着用した服は袋に密閉して持ち帰る

「血糞があるかどうかは、トコジラミの生息を確認する一つの方法です。なかったけれど不安だという方は、室内で着用した服などを20Lくらいの小さめのビニール袋に入れるようにしましょう。固く一つ結びにするか、ジップロックに入れて密封してください。袋に入れたらそのままバッグにしまい、帰宅後すぐ洗濯を。トコジラミは熱に弱いので、可能なら乾燥まで全自動でできるもので駆除できます。持ち帰った袋はまた密封して捨ててください。ここまで対策することで、自宅に持ち帰るリスクはぐっと下げられます」

 

宿泊先で広げる荷物は最小限に抑え、自宅に持ち込まないよう注意しましょう。

 

外出するときにはどう対策する?

 

宿泊先での対策だけでなく、外出時にはどのような対策をすればいいでしょうか?

 

・外出時には虫除けスプレーを使う

「従来の殺虫剤でトコジラミを殺すことはできませんが、嫌がってその場から逃げていきます。その性質を使い、服や荷物に虫除けスプレーをかけておくことでトコジラミが近寄りにくい環境を作ることができます。
ただし、虫除けスプレーにもいろんなタイプがあり、プラスチック製品を溶かしてしまう性質の商品もあるので、注意事項を確認のうえで使用をおすすめします。虫除けスプレーではなく、殺虫剤をバッグや衣類にかけることはメーカーの保証範囲外の行為なので、ご自身の判断で上手に使っていただくのがよいでしょう」

 

日本で認可される虫除けスプレーの主成分濃度は、最近12%から30%に引き上げられました。濃度が高い分持続効果は高まりますが、肌に振りかける場合は危険性がないか、使い方や注意事項を確認してから使用しましょう。

 

・帰宅後に凍結スプレー&洗濯をする

「トコジラミがいる可能性の高い外出先に出かけたあとの対策です。まずは自宅に入る前に、凍結スプレーを荷物にかけると瞬間冷却で駆除することができます。卵にも効くのでより安心です。市販のスプレーですと薬剤を含むものと含まれていないものがありますが、駆除効果はどちらも変わりません。着用している服は、そのまま洗濯機に入れて洗濯乾燥するようにしましょう」

 

コロナ禍のときは手洗いやうがい、消毒を徹底していた人が多いはず。花粉の時期には、帽子やコートをはたいてから家に入るようにしているのではないでしょうか。トコジラミの対策も、コロナや花粉と同じイメージを持ってほしいと、塩田さんはいいます。

 

「日本はコロナ禍で徹底した対策を行ってきました。その時のことを思い出し、気をつけるところは気をつけながら生活するといいですね。あまり難しく考えずに対策していきましょう」

 

自宅に持ち込んでしまったら?

対策をしていたとしても、自宅に持ち込んでしまう可能性は0にはなりません。万が一自宅に持ち込んでしまい、トコジラミを発見した時はどうしたらいいのでしょうか?

 

1.トコジラミを発見した部屋には入らない

「まずは発見した部屋を可能であれば封鎖し、できる限りその部屋から荷物を持ち出さないようにしましょう。荷物にトコジラミがついていた場合、ほかの部屋に持ち込むことでトコジラミも移動し、家中に広がってしまいます」

 

最近は、トコジラミに効く害虫駆除剤も出てきています。ですが、100%自分で駆除することが難しい害虫なので、すぐに専門家に相談することが繁殖拡大を防ぐことにつながります。

 

2.信頼できる駆除業者を見つけ、依頼する

「駆除業者は、トコジラミの駆除実績があるところを選ぶようにしましょう。あまりに安すぎたり、1回で駆除できるとうたっていたりするところは避けた方がいいですね。トコジラミの卵には薬剤が効かないので、1度駆除したあとも卵がふ化することを想定し、2~3回駆除を行うケースが多いんです。『大体1カ月は経過観察が必要』だと説明してくれる業者であれば信頼できると思います。『ペストコントロール協会』に加盟している業者であれば正しい情報を理解しているケースが多いので、一つの目安にするといいですね」

 

「ペストコントロールオペレーター(PCO)」という資格もあり、1級を取得している人が在籍している会社であれば、こちらも信頼度の目安になるそうです。

 

「施工費用は、1部屋5~10万円程度になると思います。1~2万円程度の業者は薬剤をまくだけの可能性もあるので、価格だけでなく説明を受けてどういう施工をするのか確認するようにしましょう。ちなみに、家中に広がってしまった場合は50~60万円かかった事例もあります。経済的な被害にもつながりますので、早めに依頼するようにしましょう」

 

3.正しい知識を学んでおく

今はトコジラミがかなり流行しているため、駆除業者の予約がすぐに取れない可能性もあります。そうした時に頼りになるのが、トコジラミに関する知識です。

 

「当協会でもテキストを出していますが、ネット検索でちょっと調べて理解したと思わずに、専門的な媒体で正しい知識を得ておくこともおすすめします。専門知識と言ってもそこまで難しくないので、自分で知識を持っておくことも対策の一つになるのではないでしょうか」

 

 

トコジラミを自宅に持ち込んだり、業者選びに失敗したりするだけでなく、過剰な不安に駆られてしまわないためにも正しい知識を持つことも大切。トコジラミの特性を知り、それに対応した対策を取ることが、トコジラミの被害を受けないことにとつながるはずです。

 

 

Profile


一般社団法人 寝室環境衛生管理協会 代表理事 / 塩田忠則

人生の1/3の時間を過ごすことになる寝室環境を衛生的に管理することが、安心安全な環境づくりに必須であるという思いから、一般社団法人 寝室環境衛生管理協会を設立。シックハウス関連物質、ダニカビなどアレルゲンについて研究を行い、自らも現場に入り、施工及び対策のために活動している。トコジラミについては、宿泊施設や組合・団体等に対し、トコジラミに関するセミナー勉強会・駆除等を行っている。
HP

バルサン開発の虫博士が解説! ゴキブリ・コバエを発生させない対策法

気温が上がってくると、活動が活発化する虫たち。とくに6月ごろから、ゴキブリや蚊、コバエなど、やっかいな虫たちを家の中で見かけることが多くなっていきます。

 

そこで、ゴキブリとコバエを中心に、その生態や発生を防ぐ対策、意外と知らない害虫たちの生態など豆知識を紹介。「バルサン」で知られるレック株式会社の研究員であり、害虫の生態に詳しい亀崎宏樹さんに解説していただきました。

 

最低気温が20℃を超えると要注意! 虫たちが活発になる時期って?

現在生息している多くの虫たちは、屋外で生活する種類。ゴキブリやコバエも、本来は屋外に住んでいるものが主で、家に入ってきてしまうほんの一部の種類が  “害虫”  と呼ばれています。

 

「屋外で暮らす多くの虫たちは、気温の上昇とともに活動を開始します。ゴキブリやコバエも種によって異なりますが、だいたい10℃を超えたくらいに眠りから覚め、最低気温・最高気温がどちらも20℃を超える頃には、より活動が活発化するのです。
ただし、なかにはハウスダストのダニやチャバネゴキブリなど、屋内だけに適応している虫もいます。これらの種類も暖かい季節に活動は活発になっていきますが、寒い季節も暖房を常につけているなど、家庭のライフスタイルによって発生パターンが異なるものもいるので注意が必要です」(亀崎宏樹さん、以下同)

 

まずは知っておきたい、家に出るゴキブリの種類は?

対策にはまず、敵の正体を知ることから。まずはいつのまにか屋内に入り込んでいるゴキブリ。具体的な生態について、代表的な4種を解説していただきました。

 

■ クロゴキブリ
体長:23~35mm
生息地域:南日本
「一般家庭でよく見かけるのは、黒に近い暗い茶褐色をしたクロゴキブリ。ベランダや庭の植木鉢の下、ダンボールなどに潜伏し暖かくなると、繁殖のために家屋内に侵入してきます」

 

■ ワモンゴキブリ
体長:30~45mm
生息地域:沖縄・九州・本州の一部
「一番暖かいところにいるのが、ワモンゴキブリ。沖縄に行くと外を歩いているのは主にこの種類ですね。ワモンゴキブリは屋外性が高いのですが、家にも入ってきます。とにかく暖かい場所が大好きで、最近は大阪や東京のマンホールの下のなど、温かい水がながれているところでも多く見かけるようになっています」

 

■ ヤマトゴキブリ
体長:20~25mm
生息地域:東北・関東・北陸
「ヤマトゴキブリは、寒さに強いゴキブリで関東以北に住んでいます。小さいからだと高い屋外性が特徴。郊外の家によく出没するといわれています」

 

■ チャバネゴキブリ
体長:10~13mm
生息地域:全国(北海道~沖縄)
「チャバネゴキブリは他3種と異なり、一生を建物のなかで生活するのが特徴です。一般家庭よりも、ビルや飲食店などの建物に多く生息しています。これまで、ゴキブリがいないとされていた北海道に現れたのもこの種類。本来ゴキブリは寒さに弱いのですが、1年中暖かいビルや深夜まで営業している飲食店があれば、建物の余熱で冬が越せてしまうんです。暖かい建物があればどこへでも分布を広げることができるので、チャバネゴキブリの生息地域は全国区となりました」

 

観葉植物やバスルームも要注意! 家に出るコバエたちの生態

続いてはコバエ。ゴキブリはゴキブリ目という分類種類があるのに対し、コバエは「小さいハエ」のことを総称して呼んでいるもの。種類によって好みのにおいや発生場所や異なるので、それぞれの特徴を知っておくことも大切です。そのなかでも屋内でよく発生する種を紹介していただきました。

 

■ ショウジョウバエ
「生ごみの周りでよく見るショウジョウバエは、発酵した植物系のにおいに惹かれてやってくるコバエです。屋外から侵入し、ビールやウイスキー、よく熟成したスイカやメロンなどにも集まってきます」

 

■ ノミバエ
「ノミバエは動物系のにおいが大好き。過去に、大発生したコバエの発生源を調査したことがあるのですが、ノミバエが燻製系のイカやサラミなどの食品に集まってきていることがわかりました。動物の死骸などにも集まるので、ネズミやゴキブリの死骸が家のどこかにあったりすれば、それだけで大発生することがあります」

 

■ クロバエキノコバエ
「堆肥や観葉植物から発生する種類。室内に観葉植物を置いていたりすると、土に混入した卵が孵化して、クロバエキノコバエが室内で発生する可能性があります」

 

■ チョウバエ
「チョウバエは、トイレ、お風呂場、台所などの排水管の流れが滞りヘドロのようになってしまった場所に発生する種類です。お風呂や洗面台の排水溝で見かけるのも、このチョウバエですね」

 

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わずかな隙間もすり抜ける! その害虫、どこからやってくる?

屋内性の「チャバネゴキブリ」以外は、屋外から侵入してくる虫たちばかり。彼らはどこから家の中にやってくるのでしょうか?

 

ドレインホースや排水管と壁の間、窓の隙間、排水溝など、少しの空間があれば入ってきます。例えばゴキブリは、横にした割り箸が入る場所であれば侵入してくる可能性があるといわれています。幼虫であれば、もっと小さな隙間でも侵入するので、隙間があるような場所は注意が必要です。
また、玄関やベランダの扉の開閉にも気を付けてください。洗濯物を夕方に取り入れているときにのんびり窓を開けたままにしておくだけで、サッと入ってきてしまいます。網戸は非常に有効なのですが、コバエのなかには残念ながら網戸を通り抜けてしまう小さな種もいるんですよ」

 

侵入させない、発生させない! ゴキブリ・コバエ対策のポイント

では、具体的にゴキブリやコバエを侵入させない、発生させないためにはどうすればよいのでしょうか? そのポイントを亀崎さんに伺いました。

 

1.対策アイテムを使って、侵入経路を断つ

「まず大切なのが、侵入させないこと。ゴキブリの侵入経路の一つでもあるドレインホースの周りは、湿度が高く、乾燥を嫌う害虫たちの格好の潜伏場所となっています。侵入を防ぐ対策アイテムとして、防虫キャップなどの製品が販売されていますので、それらを用いるだけでも効果的です。
また、『チョウバエ』は、洗面台や浴室の排水溝が主な発生源。チョウバエが侵入しにくい機能を付けたヘアキャッチャーなども販売されていますので、そういったアイテムを上手に用いて侵入を防ぐことも重要です。
また、食べ物が保管している場所はやはり虫が出やすくなります。小さな隙間でも餌に引き寄せられて入ってしまうので、密封できる容器に入れる、冷蔵庫に入るものはできるだけ冷蔵庫に入れるなどの対策も大切だと思います」

 

2.コバエは発生源を見落とさず、こまめに清掃を

「コバエは網戸をすり抜ける種もいますので、侵入対策をするのは大変です。これらに関しては、発生源を作らない、見落とさないということが重要なのです」

 

おどろくべきはコバエの繁殖力です。

 

「コバエは発育期間が早く、約25℃の気温であれば、10日で卵から親に成長します。早く親になる上に1ヶ月ほど寿命があり、その間に産む卵の数は500個以上。ものすごい繫殖力を有しているんです。
つまり、侵入してきたコバエが放置されている生ごみに卵を産んだとしたら、2週間たたないうちに次の世代が生まれてしまうわけです。『家の中で大発生している!』と感じるのは、その次世代が生まれたとき。ですので、大繁殖してしまう前にごみや汚れを放置せず、『2週間以上気づかない』という状態をなくすことが大事なのです。とりわけ、それぞれのコバエが生息する場所や好きな臭いを発する場所は要注意です」

 

そのために必要なのは、やはりこまめな掃除。

 

「毎日は難しいと思いますが、気づいたときに『普段見ないところ』を見てみる、ということを心掛けてみてください。例えば、シンクの下。食品を置いていたりすれば、さまざまな虫が発生してしまいます。そういった場所をさっと見てみて、ほこりがたまっていたら定期的に掃いてあげるといいですね」

 

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3.ゴキブリが好む「暗くて・狭くて・暖かいところ」は要チェック

ゴキブリが好きなのは『暗くて、狭くて、暖かい』ところ。この3つの条件がそろった場所を探して、清潔にしておくといいと思います。ゴキブリはお互いのにおいで仲間を呼び寄せているので、集中していることが多いです。とくに、冷蔵庫の下、電子レンジの裏などは要注意ですね。

 

ゴキブリがいた場所には、フンが転がっていたりしますので、見つけたら早めにふき取り、待ち伏せ型のスプレー剤などを塗布しておくといいと思います。ちなみにゴキブリのフンは、種によって大きさも違いますし、コロッとしたフンをする個体もいれば、べちゃっとするフンをする個体もいるんです。一般家庭によく出るクロゴキブリであれば、1mmほどのコロッとしたフンやべちゃっとした汚れがあれば注意が必要です」

 

4.生態を知って、効果的な対策を

「虫たちの生態を知って、効果的な対策を取ることも重要なんです。例えば、ゴキブリを駆除しようと、対策アイテムとして毒えさ剤を使う人は多いですよね。ゴキブリは圧倒的に建物や部屋の隅を這う習性があります。ですので、毒えさ剤やトラップ剤も、部屋の端に置くのがベストです。ゴキブリが好きな『暗くて、狭くて、暖かいところ』や、見かけたところに置くというのもいいですね。
そしてみなさんには、勇気を出して仕掛けた毒餌剤の中をのぞいてみてほしいんです。置き場所に成功している毒餌剤は、中にある毒餌が食べられて噛み跡があるはず。毒餌剤を仕掛けた後もゴキブリを見かけるという場合には中を見て、置き場所が正しかったのかを調べていただけたらと思います」

 

1匹見たら家に100匹いる? 殺虫剤が効かない個体も? ゴキブリについての気になる疑問

「ゴキブリを1匹見たら家に100匹はいる」「殺虫剤が効かないゴキブリもいる!」などの噂を聞いたことはありませんか? そうしたちょっと気になるゴキブリに関する素朴な疑問を、亀崎さんにぶつけてみました。

 

Q.ゴキブリを1匹見たら家に100匹はいる?

ゴキブリの種類や見かけた時期、建物の環境によって大きく異なるので一概に正しいとは言えません。例えば、クロゴキブリが屋内に入ってくるような暖かい時期に見かけたのであれば、家にさっと入ってきた1匹を見かけただけで、何匹ものゴキブリが住んでいるというわけではないと思います。
そして、夜に見たのか、昼に見たのかにもよります。前述の通り、ゴキブリは夜行性なので昼にあまり現れません。にもかかわらず、昼間あふれ出るようにゴキブリを見かけるということであれば、夜になるとおぞましい光景が広がるかもしれない。例えば、繫殖力が高く、夜行性のチャバネゴキブリを、何も対策のされていないビルの中で昼間に1匹見かけたのであれば、100匹以上いるという可能性はあるかもしれませんね。つまり、環境条件によって異なる、というのが答えです」

 

Q.ゴキブリに洗剤は効く? 叩くと卵が飛び散って危険?

「殺虫剤には、『気門封鎖剤』という、昆虫の呼吸器官『気門』を防ぐことで駆除するものも一部にあります。洗剤もそれに似ていて、その気門を防ぐといわれています。しかし洗剤は食器を洗うものであって、害虫を退治する目的で作られていません。ですので、きちんと虫への対処を考えて作られた殺虫剤を使っていただきたいですね。
また、叩いて退治すると卵が飛び散るというのも、かなりのレアケースですが可能性はあるかもしれません。卵を産み付ける前のメス成虫は、2~30個体が連なる卵のさや(卵鞘)をおしりにくっつけています。その時におしりを叩いてしまうと、卵が飛び散るかもですが卵の殻は成虫より硬いですし、まれだと思います」

 

Q.殺虫剤に強くなっているゴキブリがいる⁉

「実際にそうした個体が確認されています。ただ、殺虫剤に対して抵抗性を顕著に持っているのは、屋内に住むチャバネゴキブリだけ。他の種も抵抗性を持ち合わせているかもしれませんが、大きな問題にはなっていません。チャバネゴキブリは体調が小さく、屋内、とりわけ飲食店に多く生息しています。飲食店の方は、以前からこまめに殺虫剤で処理しているので、チャバネゴキブリは殺虫剤の洗練を浴び続けてきたことも原因のひとつかもしれませんね。
ここで重要なのは、チャバネゴキブリの発育期間が短いということ。クロゴキブリなどの他のゴキブリは成虫になるまで2~3年かかるのに対し、チャバネゴキブリはなんと数か月で成虫へと成長してしまいます。発育期間が短い中で殺虫剤の洗礼を浴び続けていると、弱い個体は淘汰され、死にきれなかった個体が生き残る。生き残った個体が繁殖を続け、今では多くのチャバネゴキブリが殺虫剤の抵抗性を持つようになりました」

 

夏に要注意の害虫はほかにもたくさん! 話題の「トコジラミ」って?

気温上昇とともに、日本でさまざまな虫の活動が活発になります。だからこそ、ゴキブリやコバエ以外にも気を付けるべき虫は多い、と亀崎さん。その代表的な虫について教えていただきました。

 

■ 蚊

「やはり蚊は、病気を持つ可能性もあるので注意が必要ですね。2014年に、デング熱が70年ぶりに日本で国内発生したのですが、この現象はもっと増えてもおかしくないといわれています。
デング熱は『ヒトスジシマカ』や『ネッタイシマカ』というヤブカが媒介します。『ネッタイシマカ』は日本には常在しないのですが、日本の国際空港の周辺で見つかったという例があります。幸い、この種は日本の冬の寒さで死滅していると考えられていますが、地球温暖化で日本でも生息しやすくなる可能性もあります。また、たまたま温水が流れているところなどに住み着いて越冬してしまうとすると、よりデング熱の発症率は上がってしまうのではないかと考えられています。ですので、蚊に対する備えは大切ですね」

 

■ トコジラミ(ナンキンムシ)

「最近ニュースやSNSでも話題となった『トコジラミ』。実は2000年くらいから問題となっており、旅行者のカバンやもの、人についてやって来る害虫です。よく『ホテルで刺された』という話を聞きますが、ホテルのレベルに関わらず、刺される可能性はあると思います。病気を媒介することはありませんが、噛まれると強いかゆみを伴いますので要注意です。
何より問題なのは、トコジラミが殺虫剤にとてつもない抵抗性を持っているということ。現在ほとんどの殺虫剤に使われている『ピレスロイド系』という薬剤が効かないため、 “薬が効かない害虫” と言ってしまっても過言ではないでしょうね。
しかし、トコジラミに有効な成分系統もあります。例えば『プロポクスル』という成分は、トコジラミにも効く系統だといわれています。つまり、正しく言うとトコジラミは『非常に強いピレスロイド耐性を持っている』ということ。約2万倍の抵抗性を持っている個体群も確認されており、そのようなトコジラミには、極端に言うとピレスロイド系殺虫剤の原液をかけても駆除できない、やっかいな害虫です」

 

「生態を理解し、発生源を断つこと」が本当の害虫対策

「ゴキブリもコバエも同じですが、本当に大切な対策は『発生源を断つこと』です。
害虫を見かけたとき、みなさんはスプレー剤をかけて退治するでしょう。ところが、それは見かけた個体を退治するだけで、発生源を断ってはいないのです。だからこそ、こまめな掃除はもちろんのこと、害虫の生態をきちんと理解し、待ち伏せ型のスプレー剤やくん煙剤、毒えさ剤など有効な手段を用いて発生させない、侵入させないということを念頭に対処するようにしてください」

 

プロフィール

獣医学博士・レック株式会社研究開発部 / 亀崎宏樹

レック株式会社研究開発部で「バルサン」などの製品開発を担当している、通称「虫博士」。学生時代には農業害虫の生態を研究。以来30年以上、害虫の生態や駆除剤の研究に携わる。学会で研究成果を報告するほか、大学での講演や一般向けの害虫対策講座なども行っている。

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」