【ムー的食の新世界】実験!完全栄養食を食べつづけたら健康になれるのか?完全食02/グルメの錬金術師

食事は無駄なことなのか?

私は食べることが好きすぎて、大学時代に58キロだった体重が、50代に入り、90キロを越えようとしている。大変に重い。重いので疲れる。疲れるので食べる。食べるから太る。太るからさらに食べる。これが世にいうカルマというやつか。

 

世の中には、食事をするのが苦手だ、興味がない、時間の無駄と考える人たちが一定数いるらしい。私は食べることことが生きる意味、それ以外は食玩のラムネぐらいの価値観なので、食べることに興味がなくなったときは死ぬときだ。

 

だから感覚的に1ミリグラムも共感できないのだが、アメリカ人のロブ・ラインハートは、ある朝、目玉焼きを焼きながら疑問に思ったという。

 

――これから先、毎朝、どのくらいの数の膨大な卵を焼き続けるんだ?

 

……焼けよ、卵ぐらい。焼いてやれよ、30年間、毎日2個焼いたからって2万個じゃないか! 10個入り2000パックだろう! ……たしかに多いな。

 

ともあれ、彼は卵を焼かずにすませるには、どうすればよいか、考えた。

 

卵を焼くよりも簡単に短時間で食べられる完ぺきな栄養食を作ればいいんじゃないか?

 

シリアルに牛乳をかける程度の手間で、1日に必要な栄養価のおよそ3分の1を満たす食品があれば、残りの人生で卵を焼く必要はない。

 

そのイメージに一番近い食品といえばプロテインパウダーだろう。ボディビルダーはホエイプロテインパウダーとビタミン剤と鶏のササミで生きている。だからそれらを全部混ぜ合わせれば、他に何も食べずに済むはずだ。

 

試行錯誤の末、作られたのはオーツ麦の粉末と米から作ったタンパク質を基本に、大豆レシチン、食物繊維、ビタミンやマグネシウムなどの微量物質などを混ぜ合わせた粉末だった。

 

これにキャノーラ油と魚油を加え、水を混ぜると乳白色のドロドロした液体ができる。それが完全栄養食品『ソイレント』だ。

完全栄養食品『ソイレント』は国内未発売。個人輸入で取り寄せるしかない。

 

1食=148gのカロリーは、粉末だけの場合は510キロカロリー、オイルを加えると670キロカロリー。つまり1日に3食または4食で2000キロカロリー前後が摂取でき、1日に必要なカロリーをカバーすることができる。

『ソイレント』はプロテインパウダーに油を加えたような食べ物だ。

 

食とはエネルギーの補給ではない!

ソイレントを飲んでみた。白いラミネートパックに黒いフォントでシンプルにデザインされたソイレントのパックは、いかにもIT系の出身者(ロブ・ラインハートはソフトウェア・エンジニアである)が好みそうなデザインだ。1パックは447gなので、およそ3~4食分。この全部をまとめて水1.66リットルに溶き、別添のオイルを加えてから、朝昼晩とおやつに飲む。

 

どんな味かといわれれば、プロテインの味としかいいようがない。きな粉とかたこ焼きの粉とか、いろいろと感想はあるが、一番近いのは缶のカロリーメイトだ。カロリーメイトは1缶200キロカロリーなので、2缶半を1食にすれば、ソイレントとほぼ同じカロリーと栄養価である。

 

2日間、食事をすべてやめ、ソイレントに変えてみたが、まったく楽しくなかった。

 

カロリーは足りているんだろうが、液体を飲むだけなので、お腹はとても早く空く。お腹が空けば、ソイレントもそれなりにおいしくなってくる。飽きる飽きないというより空腹感が強い。

 

犬やハムスターが毎日同じ物を食べてよく飽きないなと思っていたが、なんとなくわかった。腹が空けば何でもおいしい。

この5杯で1日分。最初はいいが、2日もすれば完全に飽きる。

 

2日間、ソイレントでしのいで3日目の朝。前の晩に家族が食べた夕飯を朝ご飯として食べたら、舌がきらめいた。ほとんど消化に使わなかった胃に熱い味噌汁が染み渡った。

 

ソイレントは食べる時間と食事に掛かるコストを大幅に節約できるとラインハートはいう。そりゃそうだろう。粉末を水に溶くだけなんだから。「だから何だ?」って話である。

 

それをする時間は無駄だ、あれは無駄だ、これは無駄だとIT系の人たちはよくいう。コンサルティングのやっていることは、ようは上品なリストラでありコストカッターだ。

 

彼らのいい分を聞きながら、思い出すのはミヒャエル・エンデ著の『モモ』に出てくる“灰色の男たち”。灰色の男たち”は、歯磨きの時間も服を着替える時間もみんなが暖炉の前に集まる時間も、何もかもが無駄であなたの時間が奪われていると村人を脅かし、奪った時間をタバコに詰めて吸っていた。

 

私は時間泥棒と戦うモモの味方である。人生はそのすべてが美しい無駄なのだ。

 

食事のベースとなる食事

ソイレントと同じ完全栄養食を謳うベースパスタ(前回参照)だが、私はベースパスタに感動した。それが根本的にソイレントとは真逆の発想で作られた食品だったからだ。

 

必要な栄養を摂ることは、いうほど簡単ではない。特に料理に興味のない学生や新社会人にとっては、結構なストレスだと思う。橋本氏のように、スーパーで何を買うべきか、途方に暮れる人は何十万人単位でいるだろう。

 

ベースパスタは文字通りに食生活のベースを目指す。朝ごはんを食べない、夕飯はファストフードのようなデタラメな食生活でも、子どもたちが健康を維持できるのは学校給食があるためと言われる。栄養価の計算された食事が3食のうち、1食でもあれば、そこから食のバランスを保つことはできるのだ。

 

ベースパスタはそういう意味での完全栄養食であり、これだけを食べれば他を食べなくていいというものではない。あくまで食生活のベースを作るものなのだ。

 

ダイエットに使えるのか?

ベースパスタのカロリーは1食364kcal。一般的なパスタソースが1食150~200kaclなので、600kcal程度になる。これをうまく使うと、1日のカロリーを抑えながら必要な栄養は満たされて、完璧かつ安全なダイエットができるのではないか?

 

そんなことを考え、食べ始めたのだが……すいません、ダイエットは失敗しました。

 

あったりまえだが、腹が減る。最初の3日間ぐらいは良かった。大変に調子が良かったのだが、そのあたりで飲み会が。それでペースが崩れ、あとはグダグダである。ダイエットの最大の敵は酒だと思う。

 

でも何も結果が変わらなかったかというと、そうでもない。体重は減るどころか増えてしまった(飲み会のせいだ)が、血圧が下がった。145-100という高血圧だったのが、135-80まで下がったのは、栄養のバランスが良くなったためだと思う。

 

というわけで、楽してやせられる道はなかった。食べれば食べるほどやせる食べ物があればいいのに。

(完全食編/了)

 

文=川口友万

 

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