ASEANの食で注目される5つの日本技術【IC Net Report】東南アジア・小山敦史

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、アイ・シー・ネット株式会社のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、東南アジアや南アジアなどで食の開発コンサルタントを務めている小山敦史さんです。

●小山敦史/通信社勤務ののち、1992年、開発コンサルティング業界に転職。アイ・シー・ネットでの業務を中心に国際開発の仕事を続けながら、アメリカの大学院で熱帯農業を学び、帰国後に沖縄で農業を開始。野菜を生産した後に畜産業や食品加工業も手がける。現在は、グローバルサウス諸国での食品加工・食品安全、マーケティング、市場調査などについて、自身が実践してきたビジネス経験を活かし、企業や行政機関へのコンサルティングを行なっている。

 

 食視点でみる「日本クオリティ」5つのポイント

「近年の経済成長により、東南アジア諸国では、購買力を持った新しい富裕層や中間層が増えてきています。現地ビジネスの場合、どちらかというと、従来は現地で生産した野菜などを加工し、日本へ輸出するといったビジネスモデルが中心でした。しかし、現在では、果物をはじめ日本などの農産物が現地で高額で取り引きされるなど、日本への輸出一辺倒だった従来の構図が変わりつつあるのです」

ベトナム・ホーチミンで輸入高級果実を通販で売るトップ企業の幹部。ASEANはビジネスで20代、30代の女性が多数活躍

 

そこに新たなビジネスの可能性があると小山さんは指摘します。

 

「とくに農業技術や加工技術などにおける日本クオリティに対する現地の信頼度は、依然として高い。今後はこうした日本の技術を活かし、現地で生産・販売するビジネスモデルにも大いに可能性があると思います」

 

今回は、日本のブランド力を活用した現地での食ビジネスについて、カギとなる5つのポイントを解説します。

 

ASEANに多い高原地帯での温帯性農作物に商機

現地で栽培されている農作物の多くは、熱帯野菜や熱帯果実など。これらの熱帯性農作物を日本の栽培技術を活かし、ビジネスとして成立させるのは難しいと言います。一方で、温帯性農作物には商機があると小山さん。

 

「意外と知られていませんが、ベトナムのダラット高原や北西部各省、インドネシアの西ジャワ州南部、フィリピンのベンゲット州、ラオスのボロベン高原や北部各県、タイ北部、マレーシアのキャメロン高原、ミャンマーのシャン高原などの高地では、キャベツやニンジン、ジャガイモをはじめ、日本でもおなじみの温帯性野菜・果実が栽培されています。温帯性農産物であれば、国内で培ってきた日本のノウハウで、より高品質な農産物を生産することができるのではないでしょうか」

 

高地での施設栽培技術が未発達

現在、高地での栽培は露地が中心で、施設での栽培は一部を除いて現地ではまだまだ浸透していないのが現状。

フィリピン・ベンゲット州のキャベツ畑。欠株が多く、優良品種や圃場管理技術に改善の余地が大きい

 

「とくにハウスなどを活用した日本の高度な管理技術には可能性があります。トマトなどの長期どり品種をハウス栽培すれば、季節に関係なく、何ヶ月も連続して収穫できます。収穫量が増えれば、その分、電気代などの固定費の割合を相対的に小さくすることができるため、ビジネスとして成立するチャンスは十分あると思います」

 

温帯性農作物の加工販売も有望で、日本向けとしてはもちろん、現地でのニーズも見込めると言います。

 

「例えば、カップ麺用の乾燥野菜に使用するキャベツやニンジンなどを効率よく生産する圃場管理技術や、ポテトチップス用ジャガイモの生産管理技術などの加工技術を持った企業であれば、さらにチャンスは広がります」

 

今後、需要が拡大する温帯性果実の可能性

ラオスの果実専門卸売市場を調査した際の写真。左が小山氏

 

一方で、小山さんは高原地帯での果樹栽培も選択肢となると指摘。

 

「イチゴやリンゴをはじめとした温帯性果実に関しては、欧米や日本、韓国などから現地に輸入され、驚くほどの高価格で販売されています。苗木づくりから、接ぎ木、剪定、摘果、防除といった、日本が得意とする一連の果樹栽培技術を活かし応用することで、これらの果実をASEAN各国の高原地帯で生産・販売する。現地で生産することで、価格を抑えることが期待できます。ベトナムのダラット高原などでは、すでに一部でこうした取り組みが見られます」

 

肥満問題対策としての健康食品ニーズの高まり

現在、途上国共通の課題として肥満問題が取り沙汰されています。それを受け、中間所得層や富裕層を中心に広がりを見せている健康志向。

 

「例えば、こんにゃく麺やこんにゃくゼリーなどのダイエット食品、豆腐バーや大豆エナジーバーなどの機能性食品は、ASEAN諸国の都市部でも販売が始まっています。またバングラデシュのダッカなど南アジアの都市部でもダイエット食品への関心が芽生え始めています。これらの加工技術は日本のお家芸。今後、大いに期待できるジャンルだと言えるでしょう」

 

時短にもなる中間加工品に一日の長

バングラデシュ・チッタゴンの食品加工工場。機械化、自動化、衛生管理改善などのニーズが高く、ビジネスチャンスが見込める

 

「いまやASEANの都市部では、女性の社会進出が日本以上に顕著。炒め玉ねぎや揚げ玉ねぎ、揚げニンニク、トマトソースなどは、ふだん忙しい家庭で調理する上で時短になりますし、業務用・家庭用を問わず、現地での需要が大いに見込めるのではないでしょうか」

 

家庭向けの加工食品というジャンル自体、まだまだ現地では普及していないだけに、日本の加工技術を使い、さらなる付加価値を付けた加工食品は、先進国への輸出はもちろん、現地での需要も大いに見込めそうです。

 

「日本クオリティ」の落とし穴に注意が必要

現地ビジネスでの成否を握るのが日本の「技術」になりそうですが、小山さんは一方で、日本クオリティにこだわりすぎるのも逆効果だと警鐘を鳴らします。

 

「ASEANにおいて日本ブランドはまだまだ健在で、それを打ち出せば有利になることは確か。ただ日本企業の課題として、細部にこだわりすぎて、オーバースペックになる傾向が強い点が挙げられます。商品価格が上がってしまえば、結果、現地での価格競争力が低くなり、市場が大きく縮んでしまう。とくにASEAN諸国でのビジネスを考えた場合、価格を抑えつつも、ブランド価値を十分に高めていけるような事業戦略を考える必要があると思います」

 

今後さらなる需要が見込まれるASEANの食市場。そんな中、現地ビジネスを成功させるには、栽培技術や食品加工技術などで日本クオリティを打ち出しつつも、臨機応変に対応できるバランス感覚が重要だと言えそうです。

 

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巨大化するグリーン市場の形勢に変化。途上国でリープフロッグの可能性がじわり高まる

二酸化炭素の排出量を減少させたりすることで持続可能な社会を実現するための技術を指すグリーンテクノロジー。その市場規模は世界で1.5兆ドル(約200兆円※)と大きいものの、この分野では先進国が発展しているのに対して、途上国にはかなりの遅れが見られます。両者の間で差が広がりつつありますが、途上国の中にはポテンシャルの高い国もあり、先進国や国際社会の支援によっては先進国に一気に追い付く可能性もあります。

※1ドル=約133.8円で換算(2023年4月21日現在)

途上国がギャップを飛び越えるためには先進国の手助けが必要

 

先進国との差が開く

先日、UNCTAD(国連貿易開発会議)が発表した「テクノロジーとイノベーション報告2023」によると、2020年における世界のグリーンテクノロジーの市場規模は1.5兆ドルでしたが、2030年には9.5兆ドル(約1271兆円)に拡大することが見込まれています。

 

しかし、その中で重要課題として指摘されているのが、先進国と途上国の間で急速に拡大するギャップ。例えば、再生可能エネルギーや電気自動車に関連する技術の輸出では、先進国は2018年の約600億ドル(約8兆円)から2021年にはその2.6倍の1560億ドル(約20兆円)超に急増したのに対して、途上国では570億ドル(約7.6兆円)から3割増の約750億ドル(約10兆円)にとどまり、この3年間で世界の輸出に占める途上国の割合は48%から33%に15%減少しました。

 

UNCTADはグリーンテクノロジーにおけるギャップを、最先端技術への準備状況を評価するフロンティアテクノロジー準備指数で捉えています。この指数は情報技術インフラへの投資や関連スキルの向上、これらの分野を発展させるビジネス環境などによって変化。フロンティアテクノロジーには人工知能をはじめ、ブロックチェーンやドローン、遺伝子編集、ナノテクノロジーなどがあります。

 

フロンティアテクノロジー準備指数が示すランキングを見る限り、上位5か国は米国、スウェーデン、シンガポール、スイス、オランダという高所得国で占められていて、日本は19位。対照的に、ラテンアメリカやカリブ海、サハラ以南のアフリカの国々などは、まだ最先端技術に適応する準備が整っていないとのこと。

 

このような差を途上国が単独で埋めることは難しく、先進国や国際社会の支援とグローバルな枠組みがどうしても必要です。同報告書は、急速に発展するグリーンテクノロジー分野から発展途上国を除外しないように、国際社会が協調しながら迅速に行動すべきだと主張。今後数年間で急拡大するグリーンテクノロジーの波に途上国が現段階で乗り遅れると、技術的・経済的に成長する機会を逃してしまうと警鐘を鳴らしています。

 

リープフロッグを起こすためには…

しかし、そういった中でも一部の途上国は大きく進歩しています。例えば、アジアではインド、フィリピン、ベトナムといった国々のフロンティアテクノロジー準備指数が予想よりも高いことが判明。46位のインド、54位のフィリピン、62位のベトナムでは現地の政策が奏功した結果、順位が高くなりました。

 

インドは比較的低コストで利用できる高スキル人材の供給が豊富なことから、R&D(研究開発)とICT(情報通信技術)が好成績を収めています。その一方、フィリピンとベトナムは、電子機器を中心とするハイテク製造産業の水準が高いことが反映されました。

 

途上国のフロンティアテクノロジーが発展すると、リープフロッグが起きる可能性が高まります。基礎的なインフラが未整備である途上国が、先進国が歩んできた発展段階を飛び越えて、最先端技術に一気に辿り着いて普及させるこの現象は近年、アフリカやインドなどで起こっています。

 

とはいえ、多くの途上国はグリーンイノベーションの推進に向けて、先進国や国際社会の支援がまだ必要。途上国がリープフロッグを実現するためにも、先進国からの技術支援や投資が不可欠です。

 

UNCTADの報告書が述べているように、気候変動は待ったなしの問題とされているため、グリーンイノベーションには時間の制限があります。この取り組みを迅速に進めるためには、各国の政府主導による関連法律の整備やインフラ構築などが必須。途上国が波に乗り遅れないように、先進国が積極的に各国の政府に働きかけていくことが重要といえるでしょう。

 

 

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「安全な水とトイレ」の普及で企業の役割が拡大! 1600億円規模の市場に投資を促進

世界では子どもの約30%がトイレや水道のない学校に通っていると言われています。このような学校の衛生環境を改善するためには、どうすればよいのでしょうか? 近年、発展途上国では企業が現地の政府と組んで、学校のトイレや水道の整備に乗り出す動きが広がりつつあります。この取り組みは社会的なインパクトが大きいだけでなく、新たなビジネスチャンスとしても注目されています。

学校にトイレを普及するうえで企業が果たす役割が大きくなっている

 

発展途上国の多くの学校ではトイレや水道といった設備が整っておらず、子どもたちに深刻な影響を及ぼしています。ユニセフの調査によれば、学校でトイレが利用できないために、身体の不調や集中力の欠如が見られる子どもの割合は、ほぼ5人に1人に上るとのこと。10人に1人以上は排泄を避けるために意図的に食べ物や飲み物を取らないほか、女子の場合は生理中に学校に通わず自宅で過ごすことも多く、学校中退の増加につながるとされています。

 

また、トイレの不足や汚れは、下痢性疾患や寄生虫の増加といった健康上のリスクを増大させるだけでなく、水質汚染を引き起こすなど広範囲に悪影響を及ぼします。

 

このような状況を変えるために、地元の企業が政府と協力しながら学校にトイレや水道を提供し、衛生施設を管理する取り組みが広がっています。トイレが設置されると、学校側にはトイレットペーパーや石鹸をはじめ、生理用品や掃除用品などを揃える必要がある一方、これらの製品を取り扱う地元の企業にとってはビジネスチャンスとなります。

 

トイレから出る汚物や汚水の再利用にも企業が参入するようになりました。トイレから出る汚物は回収された後、農産物の肥料やバイオガスとして活用されています。バイオガスは家庭における料理や暖房などでも使われるほか、電気に変換することも可能。この取り組みは、経済活動のなかで廃棄されていた製品や原材料などを資源として再利用するサーキュラーエコノミー(循環型経済)の典型的な例と言えるでしょう。

 

そのほかにも、回収したトイレの汚物を分析して子どもたちの健康状態を管理する技術を企業が開発しており、学校の水質や衛生状態をモニタリングするための指標として活用されることが期待されています。

 

1ドルの投資で4.3ドルのリターン

学校のトイレや水道の整備には、どれほどの市場規模があるのでしょうか? 世界の水や衛生問題の解決を目指す企業が集まる「Toilet Board Coalition」がフィリピン、ナイジェリア、メキシコを対象に行った調査によれば、フィリピンの市場規模は年間9億4800万ドル(約1261億円)、ナイジェリアで6億6500万ドル(約884億円)、メキシコで12億ドル(約1600億円)とのこと。

 

このように、水や衛生への投資は世界中で年間数十億ドル相当の利益を生み出す可能性があります。学校のトイレや水道を整備するためには、従来の3倍以上の支援が必要と言われていますが、WHO(世界保健機関)は「水・衛生分野に1ドル(約133円※)投資すると、生産性が向上して4.3ドル(約570円)のリターンが期待できる」と試算しており、企業に投資を促しています。

※1ドル=約133円で換算(2023年4月13日現在)

 

発展途上国における学校のトイレや水道整備への投資は社会的意義が高い事業であり、大きなビジネスチャンスがあると言えるでしょう。販路拡大にとどまらず、企業のブランド価値向上につながる広報効果や、現地企業や政府など新たなパートナーの開拓も期待できます。こういったメリットを鑑み、関連事業を手がける日本企業は途上国の学校への投資を積極的に検討してみる価値があるのではないしょうか?

 

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【4大リスク】紛争、債務危機、温室効果ガス、SDGs…2023年の途上国が危ない!

新型コロナウイルスのパンデミックから回復基調にあるなか、インフレやエネルギー危機に見舞われている世界の国々。2023年は世界全体で経済成長があまり見込めない年になると予測されています。そんな中、財政面での余力がない途上国は、さらなる逆風を受けることになりかねません。非営利団体である「センター・オブ・サステナブル・ディベロップメント」のアナリストが指摘する、2023年に注目するべき途上国の4つのリスクとはどのようなものなのでしょうか。

 

[1]SDGs:折り返し地点で目標から後退している途上国も

2030年までに達成すべき目標が示されたSDGs。2015年の国連サミットで採択されてから、2023年はちょうど折り返し地点にあたり、9月には各国の首脳が集まり進捗について確認するSDGsサミットが開催されます。しかし17の持続可能な目標のうち、ゴールに向けて進むどころか、後退しているものもあると指摘されています。例えば、極度の貧困状態にある人々は世界で約6億人。食料、教育、医療などを十分に得られない環境下にいる人々は数百万人にものぼります。そのようなリスクを抱えている国には、タンザニア、ウガンダ、マダガスカル、ナイジェリア、バングラデシュなどが挙げられます。途上国がSDGsの目標を達成するためには、「誰一人取り残さない」というSDGsの原則にもとづき、世界各国が資金面での支援をさらに強化する必要性があると言えるでしょう。

 

[2]気候:資金不足により、温室効果ガス削減に黄色信号

中国を除く途上国が排出する温室効果ガスは、世界全体の38%を占めており、2030年には約半分を占めるまでになると予測されています。多くの途上国で、先端技術を活かして地球環境問題の解決を目指す「グリーン・トランスフォーメーション」が進められていますが、資金面の不足などでその動きは鈍りが見られているのです。例えば、途上国(中国を除く)は日照時間が長く恵まれた気候条件の国が多いのに、資金調達に苦労していることから、太陽光発電設備の容量は世界の20%以下。もし十分な資金を確保できてグリーン・トランスフォーメーションを推進できれば、温室効果ガスの排出量をより抑えられるでしょう。このような気候問題に関するリスクがある主要な国として、ブラジル、メキシコ、南アフリカなどの名前が挙げられます。

 

[3]債務:利上げと世界経済の鈍化による債務危機の可能性

途上国が2023年に中長期で負う対外債務は、推定3810億ドルにものぼると見られています。実際、世界銀行は2022年12月、途上国では輸出入収入の10分の1以上を公的機関などの長期対外債務の返済に充てており、2000年以降で最高水準であると指摘。しかも利上げが進み、グローバル経済が鈍化することで、さらに多くの国が債務危機に見舞われるリスクがあると言われているのです。そのようなリスクを抱えている途上国は、アルゼンチン、アンゴラ、スリランカ、エクアドルなど。債務の透明性を高め、債務情報の提供を通じて、途上国の債務リスク管理能力を上げていくことも必要と言われています。

 

[4]紛争・暴力:必要数の半分しか追いついていない人道的支援

2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻のように、世界では武力紛争が起きている地域がまだ少なくありません。また、不安定な政治情勢によって、暴力や貧困に苦しんでいる人々もいます。国際救済委員会(IRC)が発表した「緊急ウォッチリスト2023」で、注視するべき国として挙げられたのは、ソマリア、アフガニスタン、イエメン、シリア、南スーダンなど。いずれも紛争、暴力、災害などに見舞われている国々で、国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、そのうち人道的な問題のおよそ半分しか支援が追い付いていないそうです。世界がそのような人道支援に手を差し伸べ、支援を行きわたらせることが求められています。

 

これらのリスクを抱える途上国として挙げられた30か国は、必要とする資金が、合計で9030億ドルも不足していると指摘されています。その差分は他国から調達する必要があることは間違いありません。世界全体で経済成長が鈍化するとみられる2023年。先進国からの資金面での援助が減少する可能性が高く、途上国はさらなるリスクを抱えることになそうです。

 

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途上国のGDP、コロナ前の予測から6%低下と世界銀行が警鐘。先手必勝が鍵

2023年の世界の経済成長は1.7%。わずか6か月前に予測されたのは3%だったのに、そこから大きく減速し、2023年の経済成長は1.7%にとどまると、世界銀行が先日報告書をまとめました。過去30年間で3番目に低い成長率となり、特に途上国に大きな影響を及ぼすと考えられています。

途上国の経済はかなり停滞しそう

 

2023年1月に世界銀行が発表した『世界経済見通し(Global Economic Prospects)』によると、世界の経済成長率は2021年が5.9%、2022年は2.9%でしたが、2023年は1.7%と大きく減速すると見られるのです。

 

この大きな要因は、予測を超えるインフレの進行と、それを抑制するための急激な金利の上昇。さらに新型コロナウイルスの再流行や、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界各国との緊張状態なども関係しています。

 

これらの影響を受けて、先進国の約95%、新興国・発展途上国の約70%で経済成長率が下方修正されたのです。これは、2009年のリーマンショック、世界に新型コロナウイルスが蔓延した2020年のマイナス成長に次いで、過去30年間で3番目に低いとのこと。

 

中国を除く新興国と発展途上国の経済成長率は、2023年は2.7%。2022年の3.8%からこちらも大きく減速すると予測されています。GDPレベルは、新型コロナウイルスが感染拡大するパンデミック前に予測されていた水準より約6%も低下するとのこと。

 

先進国の景気が減速すると、貿易などを通じてその影響が東アジア、太平洋、ヨーロッパ、中央アジアなど世界各地に波及します。先進国だけに限ってみると、経済成長率の鈍化はさらに顕著。例えばアメリカは、前回の予測を1.9%も下回り、2023年の経済成長率は0.5%。ユーロ圏は1.9%マイナスの0%。中国は4.3%(0.9ポイント下方修正)。先進国全体の2023年の経済成長率は、2022年の2.5%から0.5%に減速するとされているのです。さらに長引くエネルギー価格の上昇や、紛争、気候変動による自然災害なども重なり、新興国や発展途上国に逆風が押し寄せると見られています。

 

投資なしではSDGsは不可能

さらに、世界銀行が指摘したのは、新興国や発展途上国への投資額の減少。2022年から2024年にかけて、これらの国々への投資額の総額は、平均で約3.5%増加したものの、過去20年間の投資額と比べると半分以下になるといいます。世界銀行の見通し局長を務めるアイハン・コーゼは「強力で持続的な投資が増えなければ、開発や気候関連の目標達成に向けた前進は不可能だ」と述べています。

 

また、この報告書では、人口が150万人に満たない37の小規模国にも着目。これらの国ではコロナ禍による景気後退が顕著で、観光業が長期にわたり不況となったことで経済成長が遅れていると言います。

 

世界銀行のデイビッド・マルパス総裁は、「世界の経済成長の見通しが悪化するにつれ、国際開発が直面する危機はますます深刻化するだろう。政府財務の高止まりや金利上昇に直面する先進国にグローバル資本が吸収され、新興国と発展途上国は数年にわたる低い成長に遭遇する。これにより、教育、健康、貧困、気候変動などにおける取り組みはさらに悪化するだろう」と危機感を募らせています。

 

このようにネガティブな状況では途上国への投資に躊躇する企業が多いと思われますが、こうした状況下だからこそ他社に先駆けて行動することがビジネスの成功につながります。また、マクロな視点では成長率が鈍化しているとしても、ミクロな視点で見れば成長著しい分野もあります。マクロ経済だけで判断すると悲観的になりますが、現地に行くと勢いを感じる国も多い途上国。まずは現地の情報を詳細につかみ、いち早く行動してみてはいかがでしょうか?

 

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世界の「高齢化」が史上最速で進行。途上国にも広がる「高齢社会」ならではのビジネス

日本は世界で最も高齢化が進んでいる国として知られています。しかし高齢化の波は、日本のみならず世界全体に及び、史上最速の速さで進んでいることが国連の最新の発表で明らかとなりました。高齢化先進国である日本の企業は海外をも視野に入れたビジネスモデルを構築したほうが良いかもしれません。

先進国だけでなく途上国も高齢化

 

まず、2023年1月に国連経済社会局(UNDESA)が発表した「世界社会情勢報告書2023」の結果を述べましょう。

 

2021年時点で世界にいる65歳以上の高齢者の人数は約7億6100万人。およそ10人に1人が高齢者に当てはまります。しかし2050年には、この数が2倍以上の16億人に達し、6人に1人の割合になると見込まれています。この傾向を後押ししている要因として、出生率が低下していること、教育を受ける人が増え、健康に関する知識を身に付け、長寿化が進んでいることなどが考えられます。例えば、1950年に生まれた人は平均で46歳までしか生きられなかったのに対し、2021年生まれの人は、それよりも平均で25年も長い71歳まで生き、しかも女性は男性よりも平均で5年も長生きしているのです。

 

特に高齢者が多くなるのは、東アジアと東南アジア。高齢者の増加の6割以上がこの地域に集中すると見られています。日本は高齢者の割合が最も高い国で、2020年時点で29%が高齢者。2040年には人口の36%が高齢者になると予測されていますが、2050年までに中国や韓国がこの高齢化率を上回る可能性が指摘されています。

 

また、先進国よりも途上国における高齢化が進むことも予測されており、北アフリカ、西アジア、サハラ以南のアフリカなどは、今後30年間で高齢者の数が最も速く増加するとのこと。

 

さらに、65歳以上の高齢者の中でも80歳以上の割合が急速に増加していると同報告書は伝えています。

 

高齢化社会で生まれるビジネスの可能性

健康で経済的な不安もなく暮らせる高齢者がいる一方で、病気になったり貧困で苦しんでいたりする高齢者もいます。世界で進む高齢化は、保健や医療を平等に受けられる制度を整えるなど、不平等をなくす政策がなければ、高齢化社会でも格差が広がると報告書では指摘されています。

 

他方、高齢化の世界で、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性もあるでしょう。特に日本は50年以上も前の1970年に高齢化社会に突入した、いわば高齢化社会の先進国。これまでの社会の実情と経験から、あらゆるシニア向けビジネスを率先して進めていく存在になるかもしれません。例えば、インドでは2030年に約3億人が高齢者になると予測されており、高齢者ケアのニーズが拡大すれば、日本企業がインド市場へ参入する可能性もあり、日本で培った介護ビジネスのノウハウが生きてくるという見方もできます。

 

高齢化でニーズが生まれるのは介護だけではありません。例えば、日本ではリタイア前後の60代前半の男性と、子育てが落ち着いてきた50代後半の女性が多く利用するという「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」というコミュニティサイトが存在します。アクティブなシニア世代を中心に会員数は35万人まで増えており、こうした世代は消費意欲が高く、金銭的余裕もあるため、市場としても十分な大きさがあります。

 

逆に、高齢者がサービスを供給することも考えられるでしょう。イギリスの格安航空会社・イージージェットでは、45歳以上のミドル・シニア層のキャビンアテンダントの採用を積極的に実施。パンデミックによって労働力不足が顕著となっている航空業界では、人生経験を積んだミドルやシニア層に着目しているそうです。

 

シニア層の人材を活用するビジネスや、配偶者を亡くして一人で暮らす「おひとりさま」に向けたサービスなど、先進国で生まれたビジネスが途上国にも広がることが考えられます。世界で急速に進む高齢化を見据えたビジネスモデルを検討するときかもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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人口増加のインドで「スーパーリッチ層」が増加。コロナ禍で貧困が拡大との指摘も…

最近、インドで中産階級と「スーパーリッチ」と呼ばれる層が増えています。主に生産年齢人口の増加が経済成長を押し上げており、所得が増加しているのです。しかしその一方、コロナ禍により貧富の格差が拡大したとの指摘もあり、国内で議論が続いています。インドで拡大する中間層や所得格差の現状について説明しましょう。

幅広い中間層が集まり、活気が溢れる南ムンバイ

 

近年、インドで中産階級は増加しています。ニューデリーの経済調査会社PRICEによると、年間世帯収入が50万~300万ルピー(約79万円~470万円※)の中産階級の割合は、2004~2005年の14%から2021年に31%に倍増し、2047年までに63%になると予測されています。

※1ルピー=約1.58円で換算(2023年1月19日現在)

 

しかし中産階級といっても、この層は幅広いため、一般的には2種類に分類されます。50万~100万ルピー(158万円)未満までの所得がある層を「アッパーミドル層」、それ以上の100万以上~300万ルピーまでの層を「リッチ層」と呼びます。アッパーミドル層にはテレビやエアコン、冷蔵庫を所有し、家を保有している人もいる一方、リッチ層は飛行機で家族旅行に出かけ、高級車や自宅を所有するといった暮らしを送ります。さらに収入が中産階級以上のスーパーリッチ層になると、持ち家は大きく、何人ものメイドを雇うなど、とても裕福な暮らしをしています。

 

中産階級に届かない下層階級の人たちの暮らしと比べると、大きな差があることがわかります。

 

生産年齢人口の増加

インドで中産階級や、後述するようにスーパーリッチが増加している背景には、人口が大きく関わっています。同国の人口(約14億756万人)は中国に次いで多く、2027年には中国を抜いて世界一の人口になると予測されています。それに伴い15歳以上〜65歳未満の生産年齢人口の割合も増加しており、現在は全人口の67%と3分の2以上を占めるようになりました。それにより経済成長が続き、年々GDPの値も上昇。2018年から2020年まではかなり低下したものの、2022年から2023年の成長率は7%の見込みであるとの予測が出されています。

 

このような経済成長を背景に労働者の収入が増加。保険分野のコンサルティング企業・Aon plc社がインドの1300社を対象に調査したところ、2022年の給与上昇率は10.6%で、2023年には10.4%上昇の見込みとされています。2022年の給与上昇率は米国が4.5%、日本が3.0%だったため、インドの成長率の高さが如実に表れているでしょう。

 

経済成長の別の理由としては、生産年齢人口の増加だけではなく、消費活動が活発化したことも挙げられます。インドにおける個人消費額は2008年から2018年の10年間で約3.5倍増加。さらに、次の10年間である2028年までには、約3倍増加する見込みです。

 

特にコロナ禍をきっかけに公共交通機関の利用に抵抗感を持つ人が増え、自家用車を購入する動きが加速しました。2回目のロックダウンが起きた2021年4月から5月の車両販売数は、2020年同時期と比べて19.1%も増加したとの報告があります。

 

このように中産階級が増加した結果、インド全体の不平等は少しだけ緩和されたとの報告もあります。数値が高いほど経済面の不平等が大きいことを示すジニ係数は、2021年のインドでは82.3となりました。インドの不平等は引き続き高い水準ですが、2015年には83.3だったため、1ポイントとわずかですが改善した傾向にあります。

 

コロナ禍の影響により、スーパーリッチ層はさらに増加したといわれています。最近発表されたIIFL Wealth 社のリッチリストによれば、2012年には100人のインド人が100億ルピー(約157億円)以上の資産を所有していましたが、2022年にその人数は1103人に増加。2019年から2022年のパンデミック期間に353人がリストに追加されたそうです。

 

その要因の一つとして、コロナ禍をきっかけにワクチンの製造を含め製薬業界が潤ったことが挙げられます。インドのスーパーリッチ層1103人のうち約11%にあたる126人が製薬業に携わっています。その後には、化学および石油化学産業とソフトウエア産業、サービス業が続きますが、コロナ禍をきっかけに在宅ワークやオンライン授業が増加し、ソフトウエア産業やサービス業に関わる層も資産を増やすことができたと見られます。コロナ禍でお金持ちがさらにお金持ちになったとも言えるでしょう。

 

格差は拡大、それとも縮小?

スラム街と高級住宅が存在するムンバイ

 

しかし、先述したジニ係数の改善とは反対に、格差は広がったとの指摘もあります。低所得層はパンデミックの間に職を失い、家計が苦しくなりました。休職や解雇で所得ゼロの月が続き、その日に食べるものを確保するのに必死だった人たちが続出したと言われています。

 

また、インド政府の公的医療への支出は世界で最も低いレベルなので、民間機関のヘルスケアを受けるためには高額のお金が必要となります。そのため、低所得者層の中にはコロナ禍で医療費のために借金をする人が増加するなど、多くの人が貧困に追いやられました。

 

インドの貧困層は1億7000万人以上に達し、その割合は世界の貧困層のほぼ4分の1に当たります。インド政府は子どもの無償義務教育や若年層の技能開発教育など貧富の格差改善につなげる取り組みに着手しているものの、早期の改善を期待するのは厳しい模様です。

 

経済発展を遂げることで中産階級やスーパーリッチが増えているインドは、確かに国全体が少しずつ豊かになっているようです。ジニ係数が微減し、貧困は徐々に減りつつあるとも言えますが、コロナ禍をきっかけに超富裕層と低所得者層の格差が大きくなったのも事実でしょう。この点に関する国内の議論はまだ続いていますが、インドの主要援助国である日本もこの問題から目を離さず、経済協力を続けていくことが期待されます。

 

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大統領交代で開かれた国「タンザニア」、いま日本が経済参入できる領域は?

大陸部のタンガニーカ共和国と島しょ部のザンジバルで構成される東アフリカの国、タンザニア連合共和国。日本は同国から貴金属鉱やコーヒー、魚介類などを輸入していますが、周辺国であるケニアなどと比べて日本企業の進出もまだ少なく、タンザニアの実情を知る人は多くないのではないでしょうか。

 

かつてはアフリカ社会主義を採用し、閉鎖的な印象のあったタンザニアですが、市場経済への移行にともなう民主化や2021年の大統領交代などを契機に開放路線へと舵を切り、国民の生活にも変化が現れています。そんな知る人ぞ知る同国の現在を、タンザニアに在住しているアイ・シー・ネットの三津間香織氏に聞きました。さらに同国の経済事情や日本企業にとってのビジネスチャンスについても考察していきます。

三津間 香織

日系医療機器メーカーにて商品開発から生産販売、事業開発、アライアンスに関する業務などを広く経験。その後、大学院で経営学を学び、アフリカの農村部に置き薬を広めるNPO法人AfriMedicoでの活動を開始。本団体での活動をきっかけに、アイ・シー・ネットに転職し、ビジネスコンサルタントとして農業、教育、ヘルスケア分野の日本企業のアフリカ進出を支援。市場調査、現地での事業実証検証、パートナー調査、法人設立支援等を行う。現在タンザニア在住。

 

データで見るタンザニアの概況

[基礎情報]

首都:ドドマ

言語:スワヒリ語(国語)、英語(公用語)

民族:スクマ族、ニャキューサ族、ハヤ族、チャガ族、ザラモ族等

宗教:イスラム教(約40%)、キリスト教(約40%)、土着宗教(約20%)

面積:94.5万km2(日本の約2.5倍)

人口:6,100万人(2021年:世銀)

 

GDP:678億米ドル(2021年:世銀)

 

主な産業:農林水産(GDPの26.9%)、鉱業・製造・建設等(GDPの30.3%)、サービス(GDPの37.2%)(2020年:タンザニア中央銀行)

対日輸出貿易額:100.75億円(2021年:財務省貿易統計)

対日輸出主要品目:金属鉱、コーヒー、ゴマ、タバコ、魚介類(2021年:財務省貿易統計)

 

タンザニアの面積は、日本の約2.5倍にあたる94.5万平方キロメートル。赤道直下に位置する熱帯圏で、沿岸部は高温多湿な熱帯気候、中央部の平原はサバナ気候、キリマンジャロなどの山岳地帯は寒暖の差が激しい半温帯です。

商都として発展しているダルエスサラームの風景

 

新大統領就任により外資の参入が促進

アフリカに置き薬を広めるNPO法人活動や、アフリカでのビジネスコンサルティングを通じて、タンザニアを知悉する三津間香織さん。同国に在住し、もっとも魅力を感じたのは国民性や人柄でした。

 

「タンザニア人は人懐っこく、良くも悪くも大らか。昔の日本のように支え合って生きています。ビジネス面でもガツガツしたところがなく、接していると優しい気持ちになります」

 

民族間の紛争はなく、政情が比較的安定しているのもタンザニアの特徴です。途上国ならではのカントリーリスクはありますが、経済も堅調な動きを見せています。

 

「タンザニアは与党が圧倒的に優勢なので、与野党が拮抗するケニアのように大統領選のたびに経済がストップしたり、治安が悪くなったりするようなことはありません。とはいえ、政権交代すると同時にこれまでとは真逆の方針が出されることもあります。例えば、先代大統領はタンザニア国内の経済基盤強化を掲げていたため、就任後は徐々に外資への規制が厳しくなりました。ただ、2021年に女性であるサミア大統領が就任してからは、外資にオープンな経済政策に。次期も再選が予想されているため、彼女の在任中は外資企業にとっては良い環境だと思われます」

 

一方で、市場経済の移行にともない、都市部と地方の格差が広がっていると三津間さん。

 

「国民の70%を占める農家のうち、ほとんどが家族経営の小規模農家です。事業を拡大しようにも借り入れができず、除草剤などの農業資材や農機を購入する資金も十分ではありません。かたや都市部のダルエスサラームは豊かになりつつあるため、残念ながら貧富の差は拡大しています。経済発展にともない今後も都市化は進むと想定されますが、それに対応するような政策方針も示されているため、そうした対策が奏効すれば、治安が悪化するなどのリスクは(タンザニアの国民性を鑑みても)低いと考えられます」

 

堅調な中古車輸入販売業、電力サービス事業はじめ、さまざまな分野で可能性が

タンザニアは人口増加率が高く、堅調な経済成長を遂げています。GDPも年々成長しており、国民の生活水準も上昇傾向にあります。

 

「これまでダルエスサラームには小規模な小売店が立ち並んでいましたが、最近はスーパーマーケットも増えています。また、若者の一定数はスマートフォンを所有しています。タンザニアではiPhoneの価格が日本よりも高いのですが、購入できるだけの経済力があるのでしょう。マニキュアをしたり、ウィッグをつけたりする女性も増え、経済水準が徐々に上がっていると肌で感じます。前大統領の経済政策が功を奏したからか、以前は低所得者層が多くの割合を占めていましたが、現在は低中所得者が増えつつあります」

ダルエスサラームのスーパー

 

薬局に並ぶサプリメント

 

「近年、ダルエスサラームを中心に成長著しい業種は、フードデリバリーサービスや若者向けのSNSプロモーション代行業。上述の通り中間層の増加やスマホの保有者が増えたことや、コロナ等の影響を受け、新たなサービス産業も成長してきています。」

フードデリバリーサービス用のバイク

 

「日本企業も約20社進出しており、大手商社からベンチャーまで、規模も業種も異なる企業がタンザニアに拠点を置いています。アフリカでは日本の中古車がよく売れるので、中古車や自動車部品の輸入販売会社も目立ちます。ベンチャーでは、日本のスタートアップ企業・WASSHAが太陽光充電式のランタンを、一般消費者にレンタルするサービスを提供し、多額の資金調達で事業を拡大しています。タンザニアは電化率が50%未満。地方には未電化地域も多く、都市部でも夜いきなり停電することがあるので、ランタンのような照明器具は多くの需要があります。また、ダイキン工業とWASSHAが新会社『Baridi Baridi』を立ち上げ、エアコンのサブスクリプションサービスを展開。ほかにも、個人で起業している方々もいます」

 

ビジネスの世界には、アメリカなどで成功した事業やサービスを日本で展開する「タイムマシン経営」という手法があります。タンザニアでタイムマシン経営を行う場合は、ケニアがベンチマークになります。

 

「タンザニアのGDPは、ケニアの約5年前の水準です。近年ケニアではショッピングモールが急増していますが、タンザニアもスーパーマーケットからモールにステップアップしている段階。ケニアをベンチマークにしておけば、2、3年後にタンザニアで同じような状況が起きると言えます。ケニアで堅調なビジネスをされている方は、今がタンザニアに進出するタイミングではないかと思います」

 

マーケットニーズに合った製品カスタマイズがカギ

他のアフリカ諸国と同じように、近年はタンザニアでも中国企業の進出が目立っています。

 

「一帯一路構想にアフリカ大陸が含まれているうえ、ODAでインフラ事業を推進しています。中国人が増えれば、彼らをターゲットにした小売業、飲食業が生まれ、さらには輸入業、製造業も増えていきます。これまでタンザニアのバイクはインド製が大半を占めていましたが、最近は中国製を見かけることも増えています」

 

日本企業の事業と、バッティングする可能性ももちろんあります。

 

「途上国の人々は収入が安定しないため、価格が安いものを好みます。質が悪くて安価なものを頻繁に買い替えるという消費行動を取るため、中国製の製品がフィットしているのです。一方、日本製品は質が良くて長持ちし、メンテナンスもしっかりしているものの価格が高い傾向があります。とはいえ、中国製を使用して壊れやすいことが気になるタンザニア人は、クオリティの高い商品を検討するようになるはず。質の良い商品への関心が高まりつつあるタイミングで日本製が選択肢に入り、所得が上がれば長持ちするものを好み、中国製品とのバッティングも解消されるのではないでしょうか」

 

ただ、日本企業がポジションを確保するためには、課題もあります。一般的にアフリカは保守的な人が多く、一度気に入ったブランドを使い続ける傾向があります。そのため、早期から日本企業が進出し、ブランドを認知してもらい、中国企業に先行してマーケットを築く必要があるのです。

 

「多くのタンザニアの人たちの購入の決め手とする要素は、まだまだ価格です。日本企業は、中国製から日本製へのシフトをただ期待して待つだけでなく、必要最低限の機能に絞ったシンプルかつコスパのよい商品を投入するなどの施策が重要だと感じます。こうした商品で認知度を高めたうえで、徐々に高付加価値のものにシフトしていくという戦略も考えられるのではないでしょうか。

 

例えば消費材であれば、容量を少なくする、パッケージの素材を安いものに変える、デザインを簡素化するなどの工夫により、単価を下げられるでしょう。また、1回あたりの支払い金額を抑えるために、サブスクリプションサービスを導入するといった施策も考えられます。こうした手法で他社に先行してマーケットを押さえるという、発想の転換が必要です。良いものだとわかってもらえれば使い続けてもらえるので、その商品の価値がどこにあるか、わかりやすく伝えることも大切です」

 

成長領域はモビリティ、農業、教育、医療

成長著しいタンザニアですが、経済面での課題はまだまだあります。三津間さんが感じる課題は、以下の2点です。

活況を呈するダルエスサラーム・カリアコーマーケット。個人店など小規模な商店が中心

 

「ひとつは収入が安定しないこと。農業以外の就職先が少ないため、結局、商店などの個人事業を始めるしかありません。その結果、同じようなビジネスが競合することになってしまいます。

 

もうひとつは、教育問題です。タンザニアでは小学校は無償ですが、日本の中学高校にあたるセカンダリースクールには富裕層しか通えず、進学できるのは20~30%程度。英語が話せるのも、その若者たちだけです。そのため、一部の富裕層の若者は海外を視野に入れたビジネスができますが、そうでない人々は富裕層に雇われるか、地元の小企業で働くか、実家の農業を手伝うかという選択肢しかありません。また、どこの国もそうですが、算数が弱く計算が苦手です。経済基盤を強化するなら、中間レイヤーの教育を高めていく必要があるでしょう」

 

今後成長が見込める分野、日本企業が進出の可能性がある分野としては、モビリティ、農業、教育、医療が挙げられます。

 

「どの業界にも進出の余地はありますが、中でも将来性があるのはモビリティ。現在は中古車輸入販売業がさかんですが、今後さらに所得が上がれば、車を購入する人はもっと増えるでしょう。すでに割賦払いのビジネスモデルも始まっています。おそらくバイク市場もこれから伸びるでしょうし、自転車にも根強いニーズがあります。人口増加にともない、人の移動やモノの輸送も増えるので、成長産業のひとつと言えるでしょう。

 

タンザニアの主力産業である、農業もまだ伸びしろがあります。現在タンザニアで扱っている品種は、収穫量も品質も優れているとは言えないため、種子や農業資材を扱う事業は可能性を秘めているはず。また、日本が長年支援をしてきたため、一部地域には中規模な稲作農家も存在します。田植えや収穫などの繁忙期にはみんなで声を掛け合って人手を集めますが、同じタイミングに作業が集中するため、時機を逃してしまうことも。中古の田植え機やコンバインなども、導入の余地があります。

 

また、タンザニアは人口増加率も高いため、先ほど話に挙がった教育分野のほか、赤ちゃんに関わる医療のニーズはさらに高まると思われます。かたや都市部では、糖尿病など生活習慣病も増加。タンザニア人は炭水化物を多く食べる習慣があるため、健康管理やスポーツジムのようなヘルス&フィットネス産業もニーズがあるのではないでしょうか」

 

日本企業のタンザニア進出にあたっては、事前の情報収集がカギを握ると三津間さん。タンザニア人はもちろん、すでに現地で事業を行う企業から情報を得ることの重要性を強調します。

現地の関係者と撮影(中央が三津間さん)

 

「タンザニア人は人的ネットワークを大事にするので、物事をはっきり断ったり、表立って反対意見を言ったりすることはあまりありません。そのため、商品やサービスのリサーチを行っても、好意的な反応が返ってくることが多いのです。それを真に受けず、真意を聞き出すために踏み込んだ質問をしたり、彼らに同行してじっくり反応を見たりする必要があります。また、タンザニアで事業を行う日本人もいるので、彼らから苦労した点などをヒアリングするのもいいでしょう。参入前に、多角的に情報収集しておくことが重要です」

 

タンザニアに限らず、その国の商習慣やバックグラウンドを理解する必要があることは、海外でビジネスを行う上で基本中の基本。製品やサービスをローカライズする部分と、あえて変えない部分のバランスを見出すためにも、現地に明るいコンサルタントに相談したり、現地企業などとの橋渡しをしてくれる人材を活用するなど、情報にアクセスできるさまざまな手段を持つことが大事だと言えそうです。

 

また、三津間さんの所感では、ケニアでのトレンドが5年ほど遅れてタンザニアに到来する傾向があるそうです。このような点からも、すでにケニアなどアフリカで進出し、さまざまなノウハウを得ている日本企業などにとって、いまだブルー・オーシャンとも言えるタンザニアへのビジネス参入は、大いなるチャンスと捉えることができるかもしれません。

 

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混沌を深めるミャンマー経済。ドル高と輸入規制で国中が火の車!

2021年2月のクーデターによる軍事政権の復活、大規模民主化運動、民族・宗教紛争と政治的な混乱が続くミャンマー。日本の岸田文雄首相は東アジアサミットに出席した際、同国の情勢について深刻な憂慮を表明しましたが、ミャンマーの経済はどうなっているのでしょうか? 2022年10月中旬に同国を視察し、異様な景色を目の当たりにした、ミャンマーに詳しいシニアコンサルタントの小山敦史氏(株式会社アイ・シー・ネット)がレポートします。

 

著者紹介

小山敦史氏

通信社で勤務したのち、開発コンサルティング会社に転職。国際開発の仕事を続けながら、アメリカの大学院で熱帯農業を学び、帰国後に沖縄で農業を開始。4年間ほど野菜を生産したのちに畜産業も始め、現在は食肉の加工や販売、市場調査など、幅広く行っている。自身が実践してきたビジネス経験をコンサルティングの仕事でも常に活かしており、現在はバングラデシュで食品安全に関する仕事に取り組んでいる。

 

建設作業が止まったままの高層ビル(撮影/株式会社アイ・シー・ネット)

 

ミャンマーの首都・ヤンゴンの市民生活は、驚くほど静かに営まれていました。実際、街頭での市民の抗議行動や軍の鎮圧活動といったような「騒乱」めいた動きには1週間(10月10日〜16日)の滞在中、一つも遭遇しなかったほど。日中行き交うクルマの数はかつてより減り、夕暮れ時のダウンタウンの街の灯も寂しくなっていましたが、ASEAN(東南アジア諸国連合)でも有数の景色を誇るヤンゴンの緑は、よく手入れされており、美しさを保っています。バス乗り場には、雨季(4月〜10月)の終わりのにわか雨をよけようとするバス待ちの人々が、停留所の小さな屋根の下で身を寄せ合って佇む一方、外資駐在員御用達の高級スーパーの品揃えも意外なほど豊富です。 

 

しかし、街のところどころに、ただならぬ事態が起きていました。建設途中の高層ビルが、完全に作業が止まったまま、足場やクレーンもそのままに、いくつも放置されているのです。「輸入建設資材が入ってこなくなって、にっちもさっちもいかないらしいですよ」と現地の人が解説してくれました。これで何人の建設労働者が職を失ったことでしょう。

 

平穏に見えるヤンゴンの人々ですが、実は台所は火の車。軍事政権の信用失墜にドル高が加わり、ミャンマーの通貨チャットは下落。同国政府は1ドル2100チャット(約138円※)を公定レートとしましたが、市中価格は1ドル2800 チャット(約184円)以上でした。また、ヤンゴン市民によると、米や野菜などの生活物資の価格は、騒乱による作付不能や不作が重なったこともあり、以前に比べて2 倍以上になっているとのこと。

1チャット=約0.066円で換算(2022年11月15日現在)

 

外貨は流出傾向にあります。JETRO ヤンゴン事務所の専門家は、観光収入と出稼ぎ収入が落ち込み、外国直接投資(FDI)や援助も厳しい状況が続いているため、ミャンマーの外貨準備高は相当減少しているはずと見ています。

 

同政府は外貨流出を防ぐために、輸入を露骨に規制し始めました。例えば、原材料を輸入に依存している外資系食品メーカーA社は、これまで経験したことのない「難癖」を当局からつけられ、原材料の輸入が認められなかったと言います。前述の建設途中の高層ビルにまつわる輸入建材の話も同じ文脈で理解できるでしょう。国の台所も火の車なのです。 

 

一方、ミャンマー企業の多くはドル高のデメリットに苦しんでいるようでした。ミャンマーの場合、チャット安で輸入コストが上昇しますが、A社の場合、仮に原材料を輸入できたとしても、支払いはドル決済を迫られる一方、製品の売り上げは国内市場のみ。つまり、稼いだお金は100%チャットです。チャットはドルに転換すると目減りしますが、その分を売価にきっちり転嫁したら、国内での売り上げを大きく減らすことになります。「国産原料に置き換えられないか、真剣に検討を始めました」と同社の社長は話します。3年前にA 社を訪問したとき、国産原材料の可能性は話題にもなりませんでした。

 

このように、ミャンマー経済は苦境に立たされており、一般市民の生活への影響が心配されます。国民の軍事政権への信頼は低いようで、「反国軍の市民感覚はいまだに強いと思う」と、ある日本人駐在員は語っていました。軍の弾圧によって2000人以上の人々が犠牲になっているのだから、それは当然かもしれません。しかし、経済が悪化する中で時間が経てば経つほど、ますます生活が苦しくなるのは、武力も資力もない一般市民にほかなりません。 

 

五里霧中の企業

灯りが少なく、寂しいヤンゴン

 

民間企業に勝機はあるのでしょうか? A社とは逆に、食品メーカーのB社は全て国産の原材料を使い、作った製品の一部を欧州に輸出しています。訪問時、社長はパリの国際展示会に出張中で、部長が対応してくれましたが、業績はそこそこ伸びているとのこと。チャット安の効果(製品を海外に売りやすい)があると思われます。

 

ただし、ミャンマー全体で見た場合、B社のようなビジネスをできる企業は多くはないでしょう。少なくとも3つの問題が挙げられます。まず、一定以上の品質の原材料が適切な価格で国内供給できるか? 次に、それを欧米などの市場で売れる品質の製品に加工できる技術と資金があるか? さらに、国際市場にマーケティングしていけるだけのノウハウや資金があるか? このような問題を自力で解決できるミャンマーの地場企業はまだ限られており、だからこそ、政変前はFDI が一定の役割を果たしていました。しかし、「果たしていました」と過去形で書かざるを得なくなりつつある現状こそが、ミャンマーにとって最も苦しい所です。

 

政変前に訪問した数多くの現地企業では、20 代や30代の若い経営者に何人も出会いました。 彼らは自分たちの夢を早口の英語で語っていましたが、いまはこの難局をどう切り開こうとしているのだろうか——。ミャンマー経済は今まで以上に、日本を含めた外国からの支援が必要なのかもしれません。

 

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肥料価格高騰のピンチを救うか!? リン輸出が急増する「モロッコ」に世界が注目

ロシアのウクライナ侵攻による世界への影響は、エネルギーを筆頭に、小麦、トウモロコシなどの食料を含めて多岐に及んでいます。しかし、実は農業に欠かせない肥料についても重大な変化が進行中。世界一の肥料輸出国・ロシアが制裁により供給を制限されている中、注目を集めているのがモロッコです。

世界の商人がモロッコのリンを狙う(写真は同国中部の都市・マラケシュの市場)

 

肥料には窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の3つの要素が不可欠であり、それらに沿って肥料は窒素肥料、リン酸肥料、カリ肥料の3つに大別できます。モロッコが注目されているのは、世界のリン鉱石埋蔵量の7割以上を保有し、そこからリン酸肥料の原料となるリンを得られるから。成分の中にリン酸を含む肥料の例としては、家庭園芸用複合肥料のハイポネックス液があります。

 

世界の肥料市場で、モロッコはロシア、中国、カナダに次ぐ世界4位の輸出国。2021年における世界のリン酸肥料の市場規模は約590億ドル(約8.7兆円※)ですが、モロッコのリン酸肥料の収入は2020年で59億4000万ドル(約8740億円)。世界のリン酸肥料のうち1割程度が同国で生産されていることがわかります。

※1ドル=約147円で換算(2022年11月7日現在)

 

モロッコの輸出肥料の売上高のうち約2割を占めている、モロッコ国営リン鉱石公社(OCPグループ)は、2022年6月末に発表した決算報告で、2022年の純利益が前年比で2倍近くになったことを発表。その理由の一つには、ロシアのウクライナ侵攻による肥料価格の高騰があります。しかし、ロシアでの肥料生産量が落ちている中、2022年の第一四半期におけるモロッコのリン輸出は前年同期比で77%増加しました。この勢いに乗って、モロッコは2023年から2026年にリン酸肥料の生産を増加していく計画です。

 

モロッコは1921年からリン鉱石の採掘を開始し、OCPグループが世界最大の肥料生産拠点を建設するなど、肥料生産は同国の経済成長にも大きく貢献してきました。ロシアのウクライナ侵攻が始まる前は、OCPグループが抱える取引先は、インド、ブラジル、ヨーロッパなど、世界各国350社を超えていたそう。

 

また、広大な耕作地を有するアフリカ各国へも肥料を輸出しています。2022年にはOCPグループは、零細農家に無料や割引価格で肥料を提供するなどして、アフリカの農業を支援すると同時に、同国の影響力を高めています。

 

その一方、今後のモロッコにおけるリン酸肥料の生産には課題も。専門家が指摘するのは、水とエネルギーの問題です。リン酸肥料を生産するには、大量の水と天然ガスを使用しますが、モロッコは乾燥しやすい気候で水不足に悩まされているうえ、天然ガス資源も乏しい国。そのため世界の多くと同じように、高騰するエネルギー価格が生産コストに大きく影響します。

 

この課題を克服するために、モロッコ政府は「国家水計画」を立ち上げ、ダムや海水淡水化プラントを建設するほか、再生可能エネルギーに目を向けているようです。

 

世界の肥料業界で注目度を高めるモロッコ。肥料を輸入に依存する日本の政府も、原料の安定調達のため、2022年5月に農林水産省の武部新副大臣を同国に派遣しました。日本国内では肥料価格の高騰をきっかけに、農業のあり方を見直す動きも出てきていますが、モロッコとの関係は今後より一層強化されていく模様です。

 

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アパレル輸出額が今後10倍予想! バングラデシュと日本の自由貿易協定、締結間近か。

 

インドとミャンマーの間に位置するバングラデシュは、1億6000万人以上の人口を抱える、世界で最も人口密度が高い国。もともと稲作やジュート(黄麻)の生産など、農業が盛んでしたが、近年は労働力の豊富さと人件費の安さから、日本をはじめ海外資本による製造業の進出が目立っています。これにより、同国は成長が期待される新興国「NEXT11」にも数えられています。

 

現在、日本はバングラデシュにおいて、マタルバリ港やダッカの地下鉄やハズラト・シャジャラル国際空港の第3ターミナルなど、今後数年以内に完成予定の大規模プロジェクトに関わっています。

 

そんな同国と日本との間で、自由貿易協定(FTA)または経済連携協定(EPA)締結の動きがあることを、地元紙のThe Daily Starが報じています。バングラデシュとのFTAの締結によって、とくにビジネス面で日本にどのようなチャンスが生まれるのでしょうか。

 

衣料品を中心に対日輸出が急増中

実は、バングラディッシュは国連開発計画委員会(CDP)により、後発開発途上国(LDC)に位置づけられています。この「LDCの特恵貿易」の恩恵により、同国の対日輸出はアパレル製品を中心に急成長。今年度の対日輸出額は13億5000万ドル(約2000億円)となり、前年比で14.4%増となりました。そのうち11億ドル(約1600億円)は衣料品が占めています。

 

バングラデシュから日本への衣料品の出荷量は、日本がLDCの国々におけるニットウェア分野の原産地規制を緩和した2011年4月から急増しました。それ以前は、日本は自国産業を保護するため、ニット製品に関税を設けていたのです。

 

バングラデシュにとって日本は、衣料品輸出が10億ドル(約1500億円)を超えた唯一のアジア諸国です。駐バングラデシュ日本大使である伊藤直樹氏は、アパレル製品の出荷額は2030年までに10倍の100億ドル(約1兆5000億円)に達するだろうと予測しています。

 

11月にもFTA締結に向けた交渉がスタートする!?

また伊藤大使は、バングラデシュと日本がFTAやEPAに署名し、より多くの日本への投資を誘致するためには、さらなる投資やビジネス環境を改善する必要があるとも述べています。氏によれば、バングラデシュの日本企業の数は過去10年間で3倍に、そして2022年には338社に達するのだとか。さらに、首都ダッカ近くのナヤランガンジにある日本の経済特区は、施設やインフラ、労使関係、ビジネス環境の面でアジア随一になるだろう、との発言もありました。

 

一方で、バングラデシュのTapan Kanti Ghosh(タパン・カンティ・ゴッシュ)商務上級秘書官はThe Daily Starに対し、「バングラデシュと日本は今年11月に協力覚書(MoC)に署名する予定です」とコメント。同国のハシナ首相が11月にも日本を訪れ、FTAの交渉が始まる可能性があるそうです。急速に接近しつつあるバングラデシュと日本。FTAないし、EPAが締結されれば、衣料品分野のみならず、さまざまな分野でのビジネスが期待できそうです。

 

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インドが中国を抜いてトップへ!「世界人口」がもうすぐ80億人に到達

国連経済社会局人口部の『世界人口推計2022年版』によると、2022年11月15日に世界人口は80億人に到達します。その約6割はアジアに集中する一方、サハラ以南のアフリカ諸国などでは人口が著しく増加していく模様。ヒトへの投資がますます重視されています。

人口はあっという間に80億人へ

 

世界人口はわずか100年の間に爆発的に増加してきました。初めて10億人に達したのは1804年。その後、1927年には20億人となり、それから100年も経たないうちに、その数は4倍増えることになります。

 

ただし、多くの国で出生率が低下しているなどの理由で、増加率は鈍化。2030年には約85億人、2050年には約97億人、2080年には約104億人になると見られていますが、人口はその頃にピークに達し、2100年まで104億人の数字でとどまると国連は予測。

 

大陸別に見ると、アジアの人口が際立っています。世界人口推計で人口が最も多い国は中国(14億4850万人)で、次がインド(14億660万人)。そのため、米ポータルサイト・Big Thinkの概算によれば、アジアだけで世界人口の58%を占める模様で、アフリカでさえも2割にもなりません。対照的に人口が最も少ないのはオセアニアで、わずか4400万人。これは日本の首都圏の人口(2020年に4434万人)とほぼ同じレベルにあたります。

 

【大陸別の人口と割合(概算)】

1位 アジア(約47億人、58%)

2位 アフリカ(約14億人、17.5%)

3位 ヨーロッパ(約7.5億人、9%)

4位 北米(約6億人、7.5%)

5位 南米(約4.4億人、5.5%)

6位 オセアニア(約4400万人、0.5%)

(出典:Big Think)

 

現在、世界人口ランキングのトップを争うのが中国とインド。これまで人口が爆発的に増えてきた前者ですが、2022年7月時点で人口は14億2589万人となり、若干の減少が見られるようになりました。日本と同様に、中国でも少子高齢化が進み、労働人口が減少していることから、これから人口がどんどん減少していくと見られています。

 

それに対して、インドは2023年に中国を抜いて世界トップになる見込み。2063年頃に16億9698万人に達すると、その後は減少していくと予測されており、結果的に2100年時点での人口は中国が約5億人、インドは約10億人になるそうです。

 

また、中国やインドと共にBRICS(近年、著しい経済成長を遂げたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国を指す)を構成するロシアは、世界で最も面積の大きい国であるものの、人口は1億4580万人と世界第9位。インドの東側にあるバングラデシュの人口(1億6700万人)よりも少ないのです。バングラデシュでは人口が増加傾向にあるのに対し、ロシアは少子化が進み、両国の差は今後さらに開くものと考えられます。

 

もっとヒトに投資を

一方、国連は、2050年までに増加が見込まれる世界人口の半数超が8か国――コンゴ、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニア――に集中すると見ており、その過半数をサハラ以南のアフリカ諸国が占めると予想しています。

 

とはいえ、サハラ以南アフリカの大半の国々とアジア、南米、カリブ諸国の一部では最近、出生率が減少したようで、それによって生産年齢人口(25歳から64歳の間)の割合が増加。この変化は一人当たりの経済成長を加速する機会(専門用語で「人口ボーナス」と呼ばれる)をもたらすそうですが、その利益を最大化するためには「人的資本のさらなる開発に投資すべき」と国連は説き、ヘルスケアや質の高い教育へのアクセス、雇用を促進することが必要だと述べています。

 

日本は世界一の高齢化社会であるものの、世界人口の増加はアジアに集中。サハラ以南のアフリカを含めて、両大陸の人口の動向から目が離せません。

 

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日本のゴマ消費40%がナイジェリア産! 日・ナイジェリア貿易額が年1400億円に

2022年8月にナイジェリアの首都アブジャで開催された第2回日本・ナイジェリアビジネス促進協議会において、松永一義駐ナイジェリア日本大使が、両国間の年間貿易額が10億ドル(約1430億円※)に達したことを発表しました。

※1ドル=約143.3円で換算(2022年9月16日現在)

↑ホットになりつつある日本とナイジェリアの貿易

 

ナイジェリアの対日輸出品の代表的なものは石油やLNG(液化天然ガス)ですが、あまり知られていない物としてゴマがあります。ナイジェリアの金融情報サイト・Nairametricsによれば、日本で消費されるゴマの40%はナイジェリア産だ、と松永大使が話したとのこと。近年ナイジェリアのゴマの輸出量は増加しており、同国の輸出の22.4%を占めるようになりました。

 

視野を少し広げると、この傾向は同国の農作物の輸出でも見られ、その額は2020年の3215億ナイラ(約1075億円※)から、2021年には5049億ナイラ(約1690億円)に拡大。全体的に見れば、同国の対外貿易は2021年第1四半期(1月〜3月)の11.7兆ナイラ(約3.9兆円)から2022年の同期には13兆ナイラ(約4.3兆円)に成長しています。しかし、その主な要因は農作物というより、原油の輸出の増加にある模様。

※1ナイラ=約0.33円で換算(2022年9月16日現在)

 

一方、日本の対ナイジェリアの輸出品目としては、機械や自動車が挙げられます。松永大使によると、同国には現在47社の日本企業が進出しているとのこと。ナイジェリア投資促進委員会(NIPC)のSaratu Umar事務局長兼CEOは、「私たちは日本大使館と良好な関係を維持しており、今後も協力しながら、ナイジェリアでビジネスを行う全ての日本企業を援助するつもりだ」と話しています。

 

ナイジェリアは現在、海外の投資家が政府機関と協力しながら、同国への投資に関する問題を解決できる環境を構築しつつあり、この取り組みは日本・ナイジェリア間のビジネスをより一層促進するかもしれません。

 

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世界2位の4億2000万人もの利用者を抱える「インドのオンラインゲーム市場」

インドのオンラインゲーム市場が目覚ましい発展を遂げています。スマートフォンユーザーの増加やモバイルゲームの拡大などによって、同国のゲーム人口は急増。この動向はインド企業だけでなく日本のゲーム関連企業にも大きなチャンスかもしれません。

もっと盛り上がろうぜ!

 

まずは、インドのオンラインゲーム市場について見てみましょう。同国のThe Economic Times紙によれば、インドのオンラインゲーム市場は成長率38%を記録し、世界のモバイルゲーム市場の上位5位に位置しているとのこと。また、インドには400社以上のゲーム会社があり、世界で2番目に多い約4億2000万人のオンライン利用者を抱えていると言われています。

 

インド国内に目を向けると、同国のゲーム市場は過去5年間、安定的に成長しており、2025年には3倍の39億ドル(約5400億円※1)に到達する見通し。オンライン利用者数も2020年の3億6000万人から、2021年には3億9000万人に増え、ゲーム人口は2023年に4億5000万人を超えると予測されています。

※1: 1ドル=約138.4円で換算(2022年8月31日現在)

 

このような成長の主な要因として、同紙は「若年層の増加」「可処分所得の増加」「新しいゲームジャンルの導入」「スマートフォンやタブレットのユーザー数の増加」「インターネットの高い普及率」が挙げられると分析。加えて、新型コロナウイルスのパンデミックによる「巣ごもり」も、インドのオンラインゲーム市場の拡大を加速させたと見られています。例えば、2020年9月に同国ではオンラインゲームのダウンロード数が73億回になりましたが、その数は世界で最も多く、全世界のダウンロード数の約17%を占めたとのこと。

 

それでは、インドではどのようなオンラインゲームが注目されているのでしょうか? 同国のスポーツ専門サイト・Twelfth Man Times(TMT)によれば、パズルやファーストパーソンシューティング(FPS※2)、バトルロイヤルゲーム(※3)などが人気を集めているそう。例えば、バトルロイヤルゲームの1つ『PUBG』の場合、インド市場は全ダウンロード数の25%を占め、月間5000万人のアクティブユーザーが登録しています。

※2: ゲームを操作する本人が主人公になり、銃などの武器を使って標的を倒すゲーム

※3: 多数の個人または複数のチームがゲームに参加し、他のプレイヤーもしくはチームを全て倒すゲーム。最後の1人もしくは1チームになると勝ち

 

一方、ゲーム機を利用する「コンソールゲーム市場」も高い人気を集めるようになりました。この分野では2022年から2026年にかけて年間10%の成長が見込まれています。さらに、インドオリンピック委員会が公式スポーツに指定した「eスポーツ」が盛り上がりを見せており、そのプレイヤー数は2022年に100万人に達する見込み。

 

ゲームパブリッシャーへの投資は不足

TMTによれば、インドのゲーム業界におけるゲームスタジオの数は、2009年の15社から2021年には275社へと大幅に増加したとされています。また、世界的に著名なスタジオもインドに事務所を開設し、インド市場におけるブランド確立を目指している模様。しかしその反面、インドのゲームパブリッシャーはまだまだ開発の余地があるとされており、同国のオンラインゲーム市場の成長には、ゲームパブリッシング業界へのさらなる投資が不可欠と指摘されています。

 

日本にはゲーム機やソフト、オンライン/スマホゲームを作る企業が多数存在しており、海外の企業と資本・業務提携をするなどしてグローバルに競争しています。次の戦いの舞台は、インドのオンラインゲーム市場かもしれません。

 

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実は日本とも深い繋がりあり! 島しょ国「トンガ」をデータとビジネス視点で紐解く

日本に暮らしていると「トンガ」と聞いても“南太平洋に浮かぶ島国”という認識ぐらいで、あまり具体的なイメージが沸かない人も多いのではないでしょうか。南太平洋に浮かぶ約170の島群からなる国家であるトンガは、過去に一度も植民地化されたことがなく、現在まで王制が残るポリネシアで唯一の国です。

 

データで見るトンガの概況

  • インターネット普及率…59%(2020年) ※1
  • 携帯電話普及率…62.10%(2019年) ※1
  • 一人当たりのGNI…5190ドル(2020年) ※2
  • 総GDP…4.9億ドル(2020年) ※2
  • その他…日付変更線のすぐ西に位置し、経済水域約362,000㎢に大小170余の島々が4つの諸島を構成している ※3
  • 主要言語はトンガ語・英語で、キリスト教徒が大部分を占める ※3
※1 出所:国際電気通信連合(ITU) ※2 出所:外務省 ※3 出所:国際機関 太平洋諸島センター(PIC)

 

トンガの人口は約10万人で面積は20平方キロメートル。これは日本の北海道石狩市や山口県下関市と同じくらいの大きさです。亜熱帯性気候に属し、年間を通じて温暖な地域です。気温は19℃から29℃まで変化しますが、16℃を下回ったり31℃を超えたりすることはめったにありません。年間降雨量は、首都・ヌクアロファのあるトンガタプ島の約1700mmからババウ島の約2790mmまで、ひとつの国のなかでも大きな差があります。

首都であるヌクアロファの夕景

 

海外からの送金が国を支える現実

トンガの産業構成をGDPから紐解くと、農林水産業19.9%、鉱工業11.1%、サービス業69.1%(出典:2013年国連統計)となっています。主要な輸出品はかぼちゃ、魚類、バニラ、カヴァ。輸入品は飲食料、家畜、機械・機器、燃料です。海外からの送金に依存する経済と、近代化による伝統的な生活の変化が顕著になっており、とくに貿易は著しい入超傾向が見られます。

ヌクアロファ市内にある市場

 

※四捨五入の関係上、合計が一致しないことがある。

 

トンガを含む数多くの太平洋島しょ国の人々は、オーストラリアやニュージーランドなどで季節労働者として働いています。彼らが自国に残っている家族に送るお金が、生活を支え、さらには小規模ビジネスの開業資金にもなっているのが現実です。2019年の低・中所得国への送金額は、過去最高の5540億ドルに上り、送金は太平洋島しょ国で暮らす人々にとって重要なものとなっています。

 

なかでもトンガは海外労働者からの送金額が世界で最も多く、2019年の送金総額は対GDP比で約37%に達しました。トンガでは5世帯中、4世帯が海外からの送金を受け取っており、その規模は家計消費の約30%に相当するほどです。

 

そんな中、将来、「観光」が農業および漁業の合計外貨収入額よりも約5倍の外貨を稼ぐ、トンガ最大の産業になると2017年に世界銀行が発表。雇用の面からも労働人口の25%を抱える最大の産業にもなると予測しています。トンガの経済成長を妨げる要因と言われてきた「分散した少ない人口」、「狭い土地」、「世界市場からの隔絶」、「限定された天然資源」といった諸条件が、観光資源としてユニークな売り物にできるというのが大きな理由です。

現地の土産物店

 

中国をはじめとする海外旅行客の積極的な誘致やクルーズ船の誘致、高級リゾートの拡張、先進国の高齢退職者向け長期滞在施設の整備などを積極的に推進することで、2040年までに約100万人の中国人を含む約370万人の観光客を呼び込むことを目標としてきました。ただ、新型コロナウイルスの世界的流行や、2022年1月のフンガ・トンガ噴火により、その先行きは不透明となっています。

 

トンガと日本の交流は30年以上

トンガと日本との関係は30年以上に渡ります。2015年には現在の天皇陛下ご夫妻がトンガへ訪問し、トゥポウ6世国王の戴冠式に参列されました。日本からのODAによる援助は、2016年6月時点で、トンガの近隣国であるオーストラリア、ニュージーランドに続き第3位。無償の資金協力や技術協力など、日本とトンガの関わりは深いものとなっています。

 

●我が国の対トンガ援助形態実績(年度別)単位:億円

年度 円借款 無償資金協力 技術協力
2015年度 17.37 2.15
2016年度 15.94 3.52
2017年度 24.80 2.31
2018年度 29.14 2.34
2019年度 0.62 1.73
(出所)外務省国際協力局編「政府開発援助(ODA) 国別データ集 2020」 ※1. 年度の区分及び金額は原則、円借款及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力は予算年度の経費実績ベースによる。※ 2. 四捨五入の関係上、合計が一致しないことがある。

 

トンガではかぼちゃの栽培が盛んですが、これには日本が大きく関係しています。トンガで収穫されるかぼちゃは、日本の種を使って作られ、そのほとんどが日本に輸出されてきました。トンガ産かぼちゃは毎年10月から11月に出荷され、日本ではかぼちゃが採れない冬から春にかけて市場に出回ります。トンガの人々がかぼちゃを作るのは、他の換金作物を作るより短期間で収穫でき、キロ当たりの値段がいいからです。

 

しかし、かぼちゃも津波やサイクロンといった自然災害があっては出荷できません。そこでJICAは、環境・気候変動対策や防災事業を重点分野とし、島嶼型地域循環型社会の形成、再生可能エネルギーの導入促進、観測・予警報能力の強化などを支援しているのです。

 

年々拡大するトンガでのODA事業

日本がトンガに対して行っている無償資金協力や技術協力などの協力金額は年々増加傾向にあります。その理由は、大洋州地域の持続可能な発展を確保することは、日本と大洋州島しょ国の関係強化に資するだけでなく、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を支え、地域環境の維持・促進にもつながると考えているからです。また、コロナ禍の影響により、各国で保健システムの脆弱性が改めて認識され、協力ニーズが高まっています。

 

このように重要性を増しているトンガへのODAの実情について、明治時代から南洋州との貿易を行ってきた老舗の商社・南洋貿易株式会社の常務取締役・太宰雅一氏にお話を伺いました。

太宰雅一さん●南洋貿易株式会社・常務取締役。1992年入社。2004年から現在までの約20年近くの間、トンガでのODA事業を担当し、現在は全国早期警報システム導入案件を統括している。トンガへの訪問歴も多数。

 

同社は1977年にトンガでのODA事業の受託を開始し、現在に至ります。太宰さんは2004年から現在まで長年トンガでのODA事業を担当してきました。

 

「弊社のトンガでのODA事業のきっかけとなったのは、水産研究センターの建築事業でした。過去には醤油やビールといった食料品や車両も輸出していましたが、市場規模の小ささや輸送コストの面など、さまざまな要因から中断し、いまはODA関連事業が主体になっています。弊社のODA事業は2010年以降には年間平均5〜6億円規模に拡大し、会社全体の売上の1割を占めるほどになりました」

 

同社は、文化・教育・エネルギーといったインフラ事業だけでなく、建設機材や海水淡水化装置の販売なども手掛けてきました。なかでも、トンガ唯一の高度医療サービス機関であるヴァイオラ病院の建設では2004年から2013年まで3期に渡って、医療機材を含めた設備拡充などで関わっています。そんな太宰氏が、トンガでのビジネスチャンスは「インフラ」にあると言います。

ヴァイオラ病院の施工風景

 

ヴァイオラ病院はトンガにおける高度医療サービスの中核的存在

 

「大洋州の新規ビジネスといえば、パラオの国際空港が挙げられます。こちらは空港利用税で運営されていますが、トンガなら空港会社を作るのもひとつの選択肢かもしれません。また、離島が多いトンガなら、客船ビジネスもありえるでしょう。市場規模が小さなトンガは物の売買だと大きなビジネスが成立しにくいですが、インフラサービスであれば可能性を感じています」

 

また、南洋貿易ではこれまでODA事業として、トンガにおける防災事業にも関わっています。たとえば、津波発生リスクの高いトンガにおいて、防災無線システムや音響警報システム、トンガ放送局の機材・施設の整備を行うことで、防災体制の強化を図るといった事業です。ほかにも一般財団法人 日本国際協力システム(JICS)の「トンガ王国向け防災機材ノン・プロジェクト無償 (FY 2014)」では、2019年に日本の優れた防災機材を自然災害に弱いトンガ王国へ調達しています。

 

「弊社は貿易商社なので“物を動かす”事業が主体です。ただ、インフラ投資には興味があって、これまでのODA事業で培ったノウハウを生かして、防災に強い国である日本の技術を持っていくというのも選択肢の一つかなと思っています」

 

SDGs関連事業やフェアトレードに商機が!?

トンガは石油燃料に大きく依存しており、原油価格の変動に対して非常に脆弱です。電力生成のために約1300万リットルのディーゼル燃料が消費されており、そのコストは同国国内総生産の約10%及び輸入総額の約15%にまで及んでいます。そこでトンガでは、化石燃料を燃焼させる既存の発電方法を、環境に優しく信頼性の高い、より持続可能な発電方法へ移行していくことを目的に、2030年までに再生可能エネルギーを50%にするという目標を掲げました。再生可能エネルギーの導入比率は年々高くなっており、実際に南洋貿易もODA事業で太陽光発電所、風力発電所の建築を手掛けたそうです。

ODA事業として建設された風車と電気室

 

ODAにより風力発電施設をはじめとする再生可能エネルギー設備の導入が進められている

 

「トンガの電力会社であるトンガパワーリミテッドは、メンテナンス体制がしっかりした政府100%所有の公社。再生可能エネルギーを導入しようとすると、基本となる電力の供給が安定している必要があるので、既存の発電設備がしっかりしているのは大きな強みでしょう。国を挙げて再エネ事業を推進しているので、ODAだけでなく、独立系発電事業などにも新規参入のチャンスがありそうです」

 

また昨今、途上国との貿易でキーワードにもなっているフェアトレードについても太宰さんは言及。トンガでの可能性については、日本にフェアトレードという考えがなかなか根付いていないことなどから、ビジネスとして成立しにくいと言います。

 

「弊社では、キリバス共和国のクリスマスの島の海洋深層水を汲み上げ、天日干しして作った塩を輸入販売しています。コスト面でいえば、おそらく世界一高い塩です。輸送コストを考えると、フェアトレードとはいえ、このようによほど高付加価値のある商材でないと日本に輸入するのは難しいのが現状です。例えばトンガに高品質のココナッツがあったとしても、インドネシアやフィリピンから輸入したほうが安いため、日本の商社はそちらに流れてしまいます。まずは、生産国と消費国が対等な立場で行うフェアトレードに対する重要性など、日本国内の意識を変える必要があると感じています」

 

20年近く現地のODA事業に関わってきた太宰氏から見たトンガは、市場規模が小さいことや、輸送コストがかかりすぎる点など、ビジネスとして成立させるには課題が多いと言います。しかし、日本からはるか8000km離れたこの国には、新たなビジネスが誕生する可能性に満ち溢れています。

 

トンガには、他の開発途上国と同様、解決すべき社会課題が多く存在します。例えば、気候変動や自然災害に対して脆弱性、生活習慣病のリスク低減など健康課題への解決策などが挙げられますが、これらすべての課題は、新しいビジネスの種となります。とりわけ、SDGsの目標③「すべての人に健康と福祉を」、目標⑦「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」といった側面を意識したビジネスなどには、チャンスがあると言えそうです。

 

一方、気候変動をはじめとする課題は、世界が国際協調により取り組むべき国際的な社会課題。課題解決のための援助機関の協力金額は増加傾向にあり、ODAとしても伸びしろがあります。日本には、これらの分野における課題を解決できる魅力的な技術やノウハウを持った民間企業が多く存在しています。ビジネスを展開する舞台として、市場規模が大きい国や地域に目が向けられがちですが、南洋貿易のように現地での知識・経験が豊富な企業と協業することで、社会的なインパクトの大きい新たなビジネスを生み出せる可能性があるのではないでしょうか。

 

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「混迷するスリランカ」に襲い掛かる、4つの大きなリスク

【掲載日】2022年7月22日

現在スリランカでは、財政破綻およびインフレの高騰が、国民生活に甚大な影響を与えています。長年、ラジャパクサ一族が支配してきた政治や経済状況の悪化に国民は怒り、大規模デモや大統領公邸の占拠などが発生。国外に逃亡していたゴタバヤ・ラジャパクサ氏は大統領を辞任し、数日前に暫定政権が誕生しましたが、同国の情勢は混迷しています。スリランカにはビジネス上どのようなリスクがあるのでしょうか?

スリランカの大規模デモの様子

 

スリランカは、対外債務の膨張および外貨準備高の不足によりデフォルト(債務不履行)に陥りました。原因はいくつかあります。まず、スリランカは2009年に内戦が終結した後、主に中国からの融資を受けて、港や空港などのインフラを整備しました。しかし、同国はそれらの運営に失敗し、外貨を獲得することができず、対外債務の返済が滞ります。これにより、スリランカの信用格付けが下がり、同国は海外の資本市場で資金を調達することができなくなりました。

 

また、新型コロナウイルスのパンデミックによって、スリランカの主要産業である観光業が不振になり、外貨が減ったことも大きな要因です。同国は有機農業へのシフトを図ると同時に、保有する外貨(ドル)の流出を防ぐため、農薬や化学肥料の輸入を禁止しましたが、この措置はかえって農家を苦しめ、食料生産に悪影響を与える結果となりました。そんな中、ウクライナ危機が起こり、物価が世界的に上昇しますが、スリランカは外貨不足のために石油や食料などの必需品を輸入することができず、国民生活は苦しくなり、その怒りが大規模デモという形で噴出しました。

 

海外進出のリスク

スリランカ危機が起きているいま、同国または他の新興国・途上国への進出を検討している企業にとって、リスク管理が以前にも増して重要になっているでしょう。リスク管理とは「企業が事業活動を遂行するにあたって直面するであろう損失、または不利益を被る危険、あるいは、想定していた収益または利益を上げることができない危険の発生の可能性を適正な範囲内に収めるための一連の活動」を指します(日経ビジネス経済・経営用語辞典)。リスクにはさまざまな種類がありますが、海外ビジネスを検討するうえで重要な要因が少なくとも4つあります。

 

1: 物流

海外事業に必要なアイテムや素材を購入しても、業者がそれらを予定通りに届けなかったり、予算を超えたりするという不確実性が存在します。現在、スリランカでは石油が不足しており、食品がスーパーに届かないなど、サプライチェーンが混乱しています。

 

2: 規制

国によって法律や規制が異なるため、それらに精通した弁護士が必要。近年では特に環境規制が厳しい国が多く、それらの規制に合わせることが求められています。

 

3: 金融

為替や金利、物価などが将来変動するリスク。途上国の場合、為替が不安定なことが多く、現地通貨で得た売り上げをどのように日本の本社に環流させるかという課題もあります。上述したように、金融リスクはスリランカで最も大きな不確実性です。

 

4: 政治

資産の国有化や戦争、テロ、政権交代といった不確実性。世界有数の金融グループであるアリアンツは、2022年2月に発表したカントリーリスクの調査で、スリランカは政治体制が分裂しており、連立政権が概して弱いことを指摘していました。

 

受け入れることができるリスクの量や損失の許容額は企業によって異なりますが、それらを決める前に、企業はこのようなリスクを特定することが必要です。そのためには、商習慣や文化を含めて現地のことを把握しているパートナー企業と組むことが役に立つでしょう。リスク管理を踏まえて進出する国を安全に検討したい方向けに、下記に海外進出に役立つ多くの資料を揃えていますので、ぜひ参考にしてください。

 

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