世界を襲う「砂クライシス」。危機の回避に向けて国連環境計画が解決策を提言

【掲載日】2022年6月1日

世界各地で発生している急激な都市化と人口の増加は、砂の消費量を激増させており、その価格は年々上昇しています。主にさまざまな建築物で活用される砂は、価格高騰による不正採取が跋扈しており、日本もその例外ではありません。環境保全や気候変動への適応という観点からも砂は重要であり、適切な管理方法の確立が今まで以上に求められています。

途上国の都市化により、ますます需要が高まっている砂

 

2022年4月、国際連合環境計画(UNEP)は「Sand and Sustainability: 10 Strategic Recommendations to Avert a Crisis」というレポートを発表し、砂資源の危機を回避するための戦略を提言しました。現在、世界で必要とされている砂は年間約500億トン程度で、その量は地球全体を高さ27メートルの砂壁で覆うことができる量に匹敵すると言われています。2019年に経済協力開発機構(OECD)が行った調査では、2060年までに世界人口が100億人を超えた場合、建築における砂や砂利、砕石の使用量が調査時と比較して2倍以上になるだろうと予測されています。「砂漠の砂を代用すればいいのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、残念ながら風食による細かい粒子の砂は建築資材には活用することができません。

 

新興国では近年、急激な都市化が進行しており、需要が増加したために砂の価格が過去数十年で高騰。例えば、1991年における米国の砂1トンあたりの平均価格は3.96ドル(約503円※)でしたが、2021年には9.9ドル(1257円)を記録しています。

※1ドル=約127円で換算(2022年5月25日現在)

 

砂はコンクリートの製造や住宅、道路、インフラ整備などのさまざまな用途で必要とされており、経済発展には不可欠な資源の1つ。その反面、海岸や河川などから砂を掘り出すことは、海岸などの浸食や塩害、高潮対策の喪失を引き起こす可能性があるほか、生物多様性への影響も危惧されています。さらに、海岸に砂があれば、高潮や海水面の上昇から人類を守ることができるため、UNEPは、砂の保護は「気候変動に適応するうえで最も費用対効果が高い戦略である」と述べています。

 

そこで、同レポートは、循環型経済の枠組みの中で砂を管理するべきだと主張。砂を建設資材だけの問題として片付けるのではなく、環境への影響やロジスティクス、国際公開入札に向けた新しい基準の必要性など、幅広い視点からこの問題を捉えると同時に、政府や産業界、消費者を含めた、すべての利害関係者に考慮しながら適正価格をつけるべきだと論じています。また、循環型経済の構築に向けて、公共調達案件における砂の再利用の奨励や、代替品としての砕石、解体資材のリサイクル、鉱砂など、さまざまなアプローチが提唱されています。

 

砂を適切に管理するために、UNEPは砂資源のマッピングや監視、報告体制の構築などについても言及していますが、これらに向けて、世界各国で官民挙げての取り組みが今後増えていくでしょう。各国ともに最善の対策を模索しているのが現状ですが、「戦略資源としての砂」という認識はどこも揺るぎません。砂は水に次いで世界で2番目に活用されている資源なのですから——。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

投資額が210億円を突破! 世界で急成長する「海藻」産業

【掲載日】2022年5月17日

昆布やワカメ、海苔など、古代から日本人にとって馴染み深い存在である海藻。それが近年、世界中で熱視線を浴びています。環境や食料、途上国の経済発展など、さまざまな課題を解決するために、海藻が重要な役割を担いつつあるのです。

海藻が世界を救う

 

海藻の重要な側面の1つが養殖。ニューブランズウィック大学(カナダ)の海洋生物学教授のティエリー・ショパン氏によると、海藻は世界の養殖生産の約51%を占める生産量の高さを誇り、そのうちの99.5%が東〜東南アジアに集中しているとのこと。しかし、2012年に太平洋島嶼(とうしょ)国が国連で提唱した「ブルーエコノミー(循環型経済の概念を取り入れつつ、海洋生態系を維持しながら経済的繁栄と貧困撲滅を目指す経済モデル)」の提唱もあり、海藻の養殖はアジアを超えて拡大しつつあります。国際連合食料農業機関(FAO)の統計によると、世界の海藻養殖生産量が2000年では約1060万トンでしたが、2018年には約3240万トンと約3倍に増加し、現在でも生産量が落ちることなく推移。

 

海藻のさまざまな特徴が、生産量を上げています。現代社会で二酸化炭素の排出量削減は最重要課題の1つですが、海藻の養殖は1ヘクタールあたり熱帯林の約3倍の炭素を吸収することができ、さらに地球上の光合成の約50%は海藻で行われています。また、海藻は栄養価の高い食料としてのみならず、医薬品や有機肥料、燃料など幅広い用途に活用する可能性を有しており、国連をはじめ世界各国の研究機関が海藻に関する施策を打ち出すようになりました。

 

例えば、2022年4月13日から2日間にかけてパラオで開催された「Our Ocean Conference」において、米国国際開発庁(USAID)が24の取り組みを発表し、その中でも630万ドル(約8億1220万円※)の拠出を決めた「NOSY MANGA」プログラムは、海藻とナマコの養殖を通じた持続可能なブルーエコノミーの創出を目指しています。

※1ドル=約128.9円で換算(2022年5月13日現在)

 

海藻養殖への投資は世界的に拡大しており、海藻産業のニュースやデータを提供する「Phyconomy」によれば、2021年の取引件数は前年の17件から34件に倍増し、投資総額は前年比36%増の1億6800万ドル(約216億円)に到達したとのこと。また、同年の取引額の中央値は230万ドル(約2億9600万円)で、同年最大規模の投資案件はノルウェーの海洋バイオテクノロジー企業Alginorに対する協調融資。その規模は約3300万ドル(約42億5000万円)でした。

 

海藻は今後ますます世界で注目されていく模様ですが、その中でも日本は海藻の食文化において長い歴史を持ち、全国各地で養殖を展開しています。海藻を通じた持続可能な社会の実現に向けて、日本企業は大きく貢献することができるでしょう。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」