ポップで怖い令和の新・心霊スタイル−−『ヤバい生き霊』

35年前、『オールナイトフジ』という土曜日深夜OAの生放送番組があった。ある夏の夜、この番組で稲川淳二さんが『生き人形』というものすごく怖い怪談を披露したことがある。生放送で見る稲川さんの怪談は、真夜中過ぎという放送時間もあって、それまでの人生で経験したことがないほど怖かった。

 

ポップな心霊論

以来、稲川さんプロデュース兼語りの2時間枠の怪談特番がさかんに放送されるようになり、怪談ライブの映像もよく見た。ドラマ仕立てで怪談を映像化したものもあったが、一番怖かったのはやはり稲川さん自身が語るパターンだ。聞き手の脳内に恐怖を増幅させていくような独特の語り口は、他の人に真似はできない。

 

そして今、稲川さんとは違う種類のインパクトを感じさせる語り手が現れた。心霊現象や霊能力についてポップな感覚で語るシークエンスはやともさんだ。この原稿では、吉本興業所属の“霊がよく見える”ピンの芸人さんであり、最近テレビでもよく見るようになったはやともさんの著書『ヤバい生き霊』(シークエンスはやとも・著/光文社・刊)を紹介したい。

 

殺されたはずの人が部屋にいた

つかみとなる“はじめに”で、いきなり衝撃体験が炸裂する。

 

実は、僕にはちょっと特殊な能力があるんです。それは、霊が見えてしまうこと。小学3年生のとき、たまたま殺人事件を目撃してしまったんですが、気付いたら、殺されたはずの人が僕の部屋にいて。そのとき初めて、自分に霊感があることを自覚しました。

  『ヤバい生き霊』より引用

 

スゴイことをしれっと言ってくれる。“たまたま”殺人事件を目撃したって、それは小学校3年生にとって一生のトラウマとなるはずだ。しかも、殺されたはずの人が部屋にいる……。こんなに壮絶な体験を淡々と語ることができるのだから、はやともさんは選ばれし人なのだろう。ちなみにこの時は、やはり霊能力があるお父さんに徐霊してもらったという。

 

生き霊チェック

幽霊だけではなく、生きている人の霊体や生き霊も見えるはやともさんによれば、霊体というのはその人が宿しているエネルギーのようなもの、そして生き霊は誰かに対する思いが強すぎると飛ばしてしまう念のようなものであるという。はやともさんは、人についている生き霊や霊体の様子を霊視する「生き霊チェック」をきっかけにテレビで活躍するようになった。ただ、感じ取ることができるものはそれだけではない。人の本当の感情もわかってしまうのだ。

 

正直、人の本心がわかってしまうのって、そんなにいいことじゃありません。友達だと思っていた相手が、実は自分を嫌っていると知ってしまったり、信頼していた人から、裏切られていることに気づいてしまったり…。嫌な思いをしたこともたくさんあります。

                             『ヤバい生き霊』より引用

 

いいことなんてひとつもないように聞こえる。でも、そこはお笑い芸人さん。見えちゃうものは仕方ないとすべてを受け容れ、持って生まれた特殊能力を誰かの役に立てようと思い立った。はやとも流ポップ心霊論は、ここから形になっていった。

 

“見える”人

章立てを見てみよう。

 

PART1 霊が見えるって案外、楽しい!

PART2 幽霊よりも、生き霊が怖い!

PART3 たまにマジで怖いこともある!

PART4 霊能力をポップに使いこなす!

 

吉本興業に入ったころは、劇場で視界に入る人全員に挨拶して回っていたはやともさん。ところがしばらくすると、社員さんたちから距離を置かれるようになってしまった。なぜか。はやともさんにしか見えない人たちが混じっていたからだ。

 

僕にはたしかにそこに“いる”人が見えていたんですけどね(笑)。けっこうな割合で相手は死んでいる人だったみたいです。事情を説明したら「じゃあもう、誰にも挨拶しなくていいよ…」と、ちょっと怖がらせてしまいました。

                             『ヤバい生き霊』より引用

 

これじゃ日常生活にも支障をきたすだろう。しかし今はスイッチを切り替えられるようになり、霊体が見えっぱなしという状態ではないという。

 

百物語的な読み方

どの話も見開きのスペースに収められているので、ぽんぽん読める。ポップな内容はこの“ぽんぽん”なペースが特によい。そして、たまにちりばめられる本当に怖い話は、このボリュームで語られるとさらに怖さが増す。

 

はやともさんのお父さんが霊能力に目覚めたばかりのころの話。坂の上にある友達の家によく行っていたのだが、その坂道の左右がお墓で囲まれていた。自転車をこいで坂を上り切ったところで女性の幽霊が後ろに乗ってきて、ものすごく怖い思いをしたという。

 

それから何年か経って、偶然その坂の近くを通りかかった親父。あの日のできごとを思い出して、「もう二度とあんな怖い思いはしたくないな」とつぶやくと…。「まだいるよ」と後ろから女の声が聞こえたそうです。

                            『ヤバい生き霊』より引用

 

百物語的な感覚で読み進めていくのがいいかもしれない。ポップな心霊論とすごく怖い実体験のバランスが良く、各パートの終わりには芸能人のオーラカルテ的なイラストもちりばめられていて、メリハリの利いたエンターテインメントとして楽しめる。

 

でも、はやともさん。テレビじゃ言えないことや本で書けないこと、まだまだありますよね。

 

【書籍紹介】

 

ヤバい生き霊

著者:シークエンスはやとも
発行:光文社

「幽霊や生き霊が見える」という特殊な能力が話題を呼んでいる、吉本興業所属のピン芸人・シークエンスはやともの心霊エッセイ集。『女性自身』連載中の人気連載「ポップな心霊論」から、傑作ショート怪談を93話収録した本書。「幼いころから霊を見すぎて霊が全然怖くない」という著者が、これまでの人生、霊視して見えた芸能人たちの素顔、そして自身の経験から覆す世の“心霊常識”の数々、たま~に本気で怖かった心霊体験まで、“おもしろ怖~く”語りつくす1冊です。

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夏の怪談ラストスパート! 背筋も凍る「怪談」「怪奇」を集めた4冊

8月も終わりに近づき、暦の上ではすでに秋。にもかかわらず暑く寝苦しい夜が続いています。そこで、そんな寝苦しい夜を涼しくする「怪異・怪談」を集めた4冊を紹介します。

 

 

懐かしい「昭和」オカルトの香り

読者のみなさんは、夏の風物詩という言葉から何を連想しますか? 昭和生まれの筆者は、夏休み限定で放送されていた情報バラエティ番組の心霊現象コーナーを真っ先に思い浮かべてしまいます。

 

真・怪奇心霊事件FILE』(並木伸一郎・著/学研プラス・刊)は、そういう昭和の情報バラエティ番組の心霊コーナーのテイストを思い出させてくれる一冊。トラディショナルな心霊写真の画質を上げたもの、そしてポルターガイスト現象発生の瞬間をとらえた写真など、ビジュアルにこだわった作りという姿勢が強く感じられます。そして、著者・並木伸一郎さんの徹底的なフィールドワークに裏打ちされた姿勢が前面に出ています。

 

地上波のテレビ番組ではまったくと言っていいほど見なくなった心霊現象関連番組。昭和の夏特有のカルチャーを懐かしく思い出す人も、まったく新しい感覚で受け容れる人たちも、同じ目線で楽しめて、そして怖い思いができる一冊です。

 

【書籍紹介】

真・怪奇心霊事件FILE

著者:並木伸一郎
発行:学研プラス

 

■【深夜の1冊】あなたは昭和の心霊番組を知っていますか?――『真・怪奇心霊事件FILE』

 

 

世の中には、入ってはいけないタブー地帯がある

日本全国、心霊スポットは無数に存在します。行ってはいけない、足を踏み入れてはいけないといわれるほど、なぜだか惹かれてしまうもの。怖いけれど覗いてみたい。恐ろしいけれどどんなことが起こるのか知りたい。でも、自分で行く勇気はない。そんな【禁足】の地ばかりを巡ったルポ『禁足地帯の歩き方』(吉田悠軌・著/学研プラス・刊)を紹介しています。

 

よく、なぜこんなところに? という場所に、一本だけ木が残されていることがありませんか。明らかに、道路が木を避けて作られているような……。このような場合、伐採を試みると何か悪いことが起こるなどの祟りがある「神木」である可能性が高いと著者の吉田氏は言います。

 

あなたの家の近くにも、そんな【禁足】の地があるかもしれません。

 

【著書紹介】

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禁足地帯の歩き方

著者:吉田悠軌
出版社:学研プラス

 

道にぽつんと残る1本の「木」……それは人が踏み入ると祟られる「禁足」の地なのかもしれない

 

 

 

35年分の実話怪談

「月刊ムー」。言わずと知れた世界の謎と不思議に挑戦する月刊誌です。35年間「月刊ムー」に投稿された実話怪談をまとめたのが『ムー実話怪談「恐」選集』(吉田悠軌・著/学研プラス・刊)。

 

「月刊ムー」創刊から現在にいたる30余年のあいだ、「ミステリー体験」投稿コーナーを担当している人物がいます。ライターの「T氏」です。T氏によれば、投稿者の所在地は、なぜか北海道や東北地方に偏りがあるそうです。

 

そのほか、1980年代の投稿は、連続神隠しについて語った「5歳の子供は」。魂が抜けた人の表情にまつわる「笑っているんですね」。ダンプカーに轢かれたくなる呪い「道路で横に」……などが収録されています。

 

夏の終わりに、35年分の恐怖を味わってみてはいかがでしょうか。

 

【書籍紹介】

ムー実話怪談「恐」選集

著者:吉田悠軌
発行:学研プラス

 

【深夜の1冊】「月刊ムー」に届けられた35年分の恐怖を一気に体験!!――『ムー実話怪談「恐」選集』

 

 

信じるか信じないかは、あなた次第

 

怪異そのものを目撃したことがなくても、怪異にまつわる「語り」を見たり聞いたりしてしまえば、「いる」かもしれない……という不安が生じます。「存在しない」ことを確信できなくなります。怪異とは、わたしたちの「認知システムの脆弱性」が生み出すゴーストなのかもしれません。

 

そんな「語り」や「都市伝説」をまとめた話題の本、『日本現代怪異事典』(朝里 樹・著/笠倉出版・刊)。こっくりさん、カシマさん、口裂け女、トイレの花子さんといった古典的なものから、鮫島事件、禁后、八尺様、遺言ビデオといったネット怪談までを、約300冊の底本、約30箇所の怪異アーカイブス、怪異を扱っている学術論文などを基礎資料とし、発生の経緯、派生や類型、初出や出典をまとめた全500ページの大著です。

 

そのほかにも、「五十音順」「類似怪異」「都道府県別」「使用凶器」「出没場所」ごとに索引があるので、うろおぼえの怪異も探しやすい。1000例を超える項目、およそ400点の出典リストが明示されています。民俗学や考現学や文化人類学の研究において「怪異にまつわるエビデンス」を検証するための一助となるはずです。お試しください。

 

【書籍紹介】

日本現代怪異事典

著者:朝里 樹
発行:笠倉出版

 

【夜の1冊】走るババア、ついに光速に達する! あなたが知らない怪談最新事情――『日本現代怪異事典』

来る日も来る日も、駅で待ち続ける女性を見たことありませんか?――『オトナの短篇シリーズ02「怪」』

亡くなった飼い主が現れるのを、渋谷駅でじっと待ち続けた忠犬ハチ公のように、誰かが戻ってくるのをじっと待ち続ける人間もいる。彼らは実に辛抱強く待ち続けることができるのだけれど、それはなぜなのだろう。

 

 

待つ女の怖さ

女の人がぽつんとひとりで誰かを待っているというのは、さみしい感じがする。しかし、原宿や渋谷には時々、誰かを待っているような女の人がいる。交差点のあたりでぼうっとしているのだけれど、彼女らはカメラを携えた人が現れると途端に目を輝かせる。雑誌に載ったり、芸能界にスカウトされたりしたいのではないかと思われる。彼女らの待つ姿には夢がある感じがしてあまり怖くはない。けれど、叶うかわからない夢を追っている姿は、少しせつない。

 

そして、惚れた男を待つ女というのは、少し悲しい。特に、もう戻って来なそうな男を信じて待つ女の姿はあまりにもつらい。舞台『レ・ミゼラブル』のファンティーヌは、ひと夏の恋が連れ去っていった男を何年も待ち続けていた。おそらく、もう彼は戻っては来ないだろう。けれど、待っている。待つという行為が彼女のつらいシングルマザー生活の支えになっていたのだろうと思われる。

 

じわじわくる怖い話

オトナの短篇シリーズ02「怪」』(オトナの短篇編集部・著/学研プラス・刊)では、怪談風の、ちょっと背中がゾクッとする短編集だ。夢野久作や梶井基次郎など、文豪の作品が並ぶその目次には、親切なことに田中貢太郎の『終電車に乗る妖怪』の1分から、田山花袋の『少女病』の25分まで、読み終えるまでの分数が作品ごとに記されている。

 

どの作品もよくある感じの怪談とは少し趣が違う、読みながらなんとも言えない怖さがじわじわくる感じでかえって恐ろしい。読むとあたりが少しひんやりと感じて、寝苦しい夏の夜に読むのに実にぴったりの電子書籍だった。いわゆる幽霊話ではなく、実在の人間がしてしまったことという設定の話が多いのが、リアリティがあって怖かった。

 

 

駅で待ち続ける女

収録作品の中に太宰治の『待つ』を見つけた。読み終えるまでに5分という、とても短い短編なのに、一読した時にはすぐには作品の意味がわからなかった。しばらく考えて、そして、うわっ、怖い!と鳥肌が立った。

 

それは、買い物帰りに駅前のベンチに座る二十歳の女性の話である。彼女は毎日ベンチに座り、改札から出てくる人を眺めている。誰かを待っているのに、彼女にもそれが「誰なのかわからない」という。

 

戦争が始まったばかりで若い女性の心は不安定だったのだろう。こんな嫌な世の中から連れ出してくれる誰かが現れるのを待っていたのかもしれない。けれど、男に声をかけられると「おお、こわい」「私が待っているのはあなたではない」と拒んでしまう。やがて彼女は「私の待っているものは、人間ではないかもしれない」と思うようになっていく。若い女性なりの思いつめた感情がどんどん高まっていくさまを、息詰まる思いで一気に読んだ。

 

 

そこにあるかもしれない怖さ

『待つ』を読み終えてから、しばらくしてからふと「もしかして私が毎日使っている駅のベンチにも、毎日同じ女の人が座ってたりして」と想像した時に、急に怖くなった。この作品では、駅の名前をわざと教えないと書かれている。なので、もしかしたら私の家から最寄りの駅での話かもしれないのだ。

 

怪談というのは、身近な話かもしれないと感じた時に、一気に恐怖が募る。太宰治は、あえて駅の名を伏せることで、読者に(もしかして自分が使っている駅での話だったりして)と想像させる余地を持たせたのだ。もしかしたら自分の駅に「何か」を待ってベンチに座っている女性がいるのかもしれない。そう考えた時のなんともいえないゾクリという感触、これをこんな短い作品で味あわせてくれる太宰治は、やはり、天才作家なのである。

 

【書籍紹介】

 

オトナの短篇シリーズ02 「怪」

著者:オトナの短篇編集部(企画編集)
発行:学研プラス

夢野久作や田中貢太郎、村山槐多など個性的な怪談話や奇妙な作品を中心に厳選。魅力的な「怪」の作品と共に、編集部員の選考理由も掲載。電子書籍をまだ読んだ事がない! という方にもオススメの一冊です。

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【深夜の1冊】「月刊ムー」に届けられた35年分の恐怖を一気に体験!!――『ムー実話怪談「恐」選集』

「月刊ムー」の読者欄といえば、ペンフレンド募集コーナーが有名です。一時期は「前世・使命・戦士の記憶」を共有するソウルメイトを探すべく、切実な思いで文通相手を求めるムー読者たちのよりどころでした。

 

じつは、「月刊ムー」には、ほかにも読者コーナーがあります。創刊直後の1982年から始まった「あなたの怪奇ミステリー体験」(当初タイトルは「わたしのミステリー体験」)という投稿欄です。

 

ムー実話怪談「恐」選集』(吉田悠軌・著/学研プラス・刊)は、35年以上の歴史がある「ミステリー体験」の傑作選です。

 

 

パニック!「惨殺された叔母の通夜」

青森県・15歳女性。1980年代の読者投稿です。不幸な事件で亡くなった叔母(おば)さん。その通夜の席で、投稿者はこの世ならざるショッキングな体験をします。


突然、殺された叔母さんの長女が、口から泡を吹き、目を白黒させて倒れてしまったのです。
(中略)
そのうち、今度はお経を読んでいたお坊さんが棺桶のほうへズルズル引き寄せられ始めたではありませんか。

(『ムー実話怪談「恐」選集』から引用)

 

当然のごとく、通夜の会場がパニック状態に陥りますが、ある人物が発した「ことば」によって……。

 

「月刊ムー」創刊から現在にいたる30余年のあいだ、「ミステリー体験」投稿コーナーを担当している人物がいます。ライターの「T氏」です。T氏によれば、投稿者の所在地は、なぜか北海道や東北地方に偏りがあるそうです。

 

そのほか、1980年代の投稿は、連続神隠しについて語った「5歳の子供は」。魂が抜けた人の表情にまつわる「笑っているんですね」。ダンプカーに轢かれたくなる呪い「道路で横に」……などが収録されています。

 

 

怪奇!!「るみちゃん人形」

北海道・27歳女性。1990年代から2000年代前半の読者投稿です。子どものころに買ってもらった「声が出る人形・るみちゃん」。投稿者はとても可愛がり、中学生までは寝るときも一緒でした。しばらくのち、結婚と出産をきっかけに実家に預けたところ……身のまわりに異変が起こり始めます。


それからです。子供がだれもいないところを指さして、急に泣きだすようになったのは。私自身、台所に立っているときなど、だれもいないのに服の裾を引っぱられるようになりました。
(中略)
るみちゃんは、今も私の実家にいます。(中略)本当に大好きだった人形なので、いずれは家に連れて帰ってきて、娘と遊ばせたいと思っているのですが……。

(『ムー実話怪談「恐」選集』から引用)

 

投稿者だけは、るみちゃん人形にまつわる怪奇現象におびえません。この体験談の怖いところは、ふしぎな人形よりも……。

 

そのほか、1990年代〜2000年代前半の投稿は、ドッペルゲンガー現象の合理的解釈を示した「別の場所の夫」。小学6年生だった投稿者が、未来の電子機器を目撃した思い出「まだまださきのもの」……などが収録されています。

 

「月刊ムー」は、老若男女の愛読者によって読み継がれている雑誌です。なかには、元受刑者を名乗る読者からの投稿もありました。

出所者からの手紙!?「独居房」

栃木県・36歳男性。1990年代から2000年代前半の読者投稿です。おもに凶悪犯を収容する、死刑場もそなえた「ある刑務所」。そこに服役したことがある投稿者が、いわくつきの懲罰房に閉じ込められたときの体験談を語っています。


私が収監された独居は4舎2階にある、過去に3人もの自殺者が出たという部屋でした。
(中略)
私は、急にだれかに首を絞められる苦しさに目を覚ましました。見れば、なんと囚衣を着た中年の男性が、私の首に手をかけています。しかも、天井に7人の男女の顔が浮かんでいるのです。

(『ムー実話怪談「恐」選集』から引用)

 

投稿者のことを金縛りで苦しめたのは、かつて独居房で自ら命を絶った強盗殺人犯の霊だったようです。刑務官たちはそれを踏まえて、二重の懲罰を与えたつもりなのかもしれません。

 

 

オバケの当たり屋!?「飛び込みおばさん」

愛知県・52歳女性。2000年代後半の読者投稿です。投稿者が住んでいる町の有名人(?)。車と衝突を繰り返す「年配女性の霊」という、ちょっと珍しいエピソード。


数年前のこと、兄がその交差点を自転車で通りかかったとき、彼女に気づいて急ブレーキをかけましたが、間に合わず、彼女の体を通り抜けてしまいました。
その瞬間、醜く崩れかけた右目で鋭く睨みつけられたそうです。

(『ムー実話怪談「恐」選集』から引用)

 

目撃情報によれば、その霊は「白い割烹着の和服姿で、ケガをしていて全身が血まみれ」。年配女性の霊、いわゆる「ババア怪異」にはワケアリの事例が多いです。
詳しくは、以前に紹介した、ババア怪異たちの事情『日本現代怪異事典』にて解説しています。きっと悲しい理由があるのでしょう。

 

そのほか、2000年代後半の投稿は、部屋の片隅でひたすら新聞をめくる音が聞こえる「どなた様」。隣りのおじさんと目撃した真夏の夜の夢「小さなウルトラマン」……などが収録されています。

 

ふしぎな話。こわい話。びっくりする話。60通以上の読者投稿を収録している盛りだくさんの1冊です。お試しください。

 

【書籍紹介】

 

ムー実話怪談「恐」選集

著者:吉田悠軌
発行:学研プラス

月刊ムーに投稿された読者の恐怖体験談を厳選収録。選者は気鋭の怪談師・吉田悠軌。80年代初期から2000年代まで、実話怪談の歴史を追うような体験へ誘う。30数年にわたって投稿を選集している伝説の怪談ライターへのインタビューも収録した。

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【深夜の1冊】あなたは昭和の心霊番組を知っていますか?――『真・怪奇心霊事件FILE』

夏休みに突入するはるか前から猛暑に見舞われている今年の日本。読者のみなさんは、夏の風物詩という言葉から何を連想しますか? 昭和生まれの筆者は、夏休み限定で放送されていた情報バラエティ番組の心霊現象コーナーを真っ先に思い浮かべてしまう。

 

朝は『ルックルックこんにちは』の心霊事件レポート。昼は『お昼のワイドショー』の「あなたの知らない世界」。そして『2時のワイドショー』の心霊写真コーナー。さらに夜は2時間枠の心霊特番。

 

それぞれの番組が独自の切り口で心霊現象を紹介していく。小学校の中学年くらいから大学受験のころまで、上の情報バラエティ3番組の心霊コーナーは必ずチェックしていた。ごくまれではあるものの、生放送中にマジな現象が起きてしまうことがあったからだ。

 

 

実際に起きてしまった恐怖現象

記憶があいまいだったのでネットで確認したところ、今でも多くの人が忘れられないだろう現象が起きたのは、1976年8月20日だった。放送事故と呼んでいいレベルの出来事の舞台になったのは、日テレで放送されていた朝の情報番組『ルックルックこんにちは』の「テレビ三面記事」というコーナー。主役は、生首が描かれた掛け軸だ。

 

画面に2枚の掛け軸が映し出される。向かって右側が僧侶、左側は武士らしき人物。レポーターが掛け軸の謂れについて話を進めていると、左側の武士の目が開き、カメラ目線になった。しかも黒目が、何かを追うような動きまで見せた。

 

大騒ぎになったのはこの日の放送が終了した後。視聴者から、“リアルタイムで自分の目で見た怪奇現象”についての問い合わせが殺到した。この時代、「電話回線がパンクする」という表現がよく使われていたが、まさにそういう状態が実際に生まれたようだ。翌週の放送はこの現象をとらえたVTRを徹底的に検証するという内容になった。

 

 

生中継された心霊現象

あの稲川淳二さんも、リアルタイムで進行する心霊現象に身を置いたことがある。1981年8月3日、ABC朝日放送の『ワイドショー・プラスα』という番組で「生き人形」―知る人ぞ知る最恐の実話怪談―という話をしているとき、「人形の隣に男の子が映っている」と訴える視聴者からの電話が多数かかってきたようだ。

 

そもそも関西ローカルだったこの番組、事件発生当時はテレビ朝日系列で関東圏でも放送されていたはずなのだが、なぜか記憶がない。かなり大人になってからこの番組を実際に見ていたというライターさんから話を聞いたことがある。スタジオにも電話の音が鳴り響き、天井から吊るされた照明が左右に大きく揺れて、観覧中のおばさんたちが一か所に集められるという緊迫した場面の空気を覚えていると言っていた。

 

 

ビジュアルへのこだわりとフィールドワーク志向

真・怪奇心霊事件FILE』(並木伸一郎・著/学研プラス・刊)は、そういう昭和の情報バラエティ番組の心霊コーナーのテイストを思い出させてくれる一冊だ。現存する心霊写真、そしてそういう言葉があるかどうかはわからないが、心霊ビデオが数多く紹介されている。

 

トラディショナルな心霊写真の画質を上げたもの、そしてポルターガイスト現象発生の瞬間をとらえた写真など、ビジュアルにこだわった作りという姿勢が強く感じられる。そして、著者・並木伸一郎さんのフィールドワーク志向を強調しておきたい。並木さんは敬愛する大先輩なので著書も数多く読んでいるのだが、この本に関しても、徹底的なフィールドワークに裏打ちされた姿勢が前面に出ている。

 

 

絶妙なバランス感覚

一冊で取り扱う情報のバランスのよさにも注目すべきだろう。日本発の情報と海外発の情報という比率においても、写真とビデオという比率においても、絶妙なバランス感覚が実現されていると思う。

 

巻末に収録されている『写真、ビデオからネットへ甦り続ける心霊表象のメディア史』(前川修・文)という考察文も、冷静で淡々としていて、興味深く読めた。

 

この本で紹介されている情報は、筆者のような昭和生まれにはとにかく懐かしい。平成生まれの人たちの目には、新鮮に映るのだろう。感じ方は世代によって異なるだろうが、共有する情報への興味は変わらない。その根底を形成しているのは、前の項目で触れたビジュアルへのこだわりとフィールドワーク志向にほかならない。

 

 

懐かしくて新しい昭和カルチャーの共有手段

心霊写真なんて、シミュラクラ現象の典型にすぎない。そう主張する人もいるにちがいない。点が三つあれば人間の目鼻に見えるという説にも、確かに一理ある。

 

ただし、提供される情報が記録文書に頼りっぱなしの文献学的アプローチによるものではなく、フィールドワーク最重視という姿勢なら、読み手の受け取り方もおのずと変わってくるはずだ。

 

地上波のテレビ番組ではまったくと言っていいほど見なくなった心霊現象関連番組。昭和の夏特有のカルチャーを懐かしく思い出す人も、まったく新しい感覚で受け容れる人たちも、同じ目線で楽しめて、そして怖い思いができる一冊。

 

 

【書籍紹介】

真・怪奇心霊事件FILE

著者:並木伸一郎
発行:学研プラス

身の毛もよだつ心霊写真、ビデオカメラに映ってしまったこの世ならざるもの、事件・事故が絶えない呪われた土地や物品……著者が長年にわたって研究・収集してきた数々の心霊事件を、豊富なヴィジュアルとともに紹介する。

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【夜の1冊】走るババア、ついに光速に達する! あなたが知らない怪談最新事情――『日本現代怪異事典』

高速老婆(こうそくろうば)を知っていますか?

 

車やバイクなどに対して、人間離れをした速度で追いかけてくる「おばあさん」にまつわる都市伝説(フォークロア)の総称です。

 

日本現代怪異事典』(朝里 樹・著/笠間書院・刊)によれば、走るババアは日本各地で目撃されており、地域によっては快速バーチャン120キロババアなど、さまざまな異名があるそうです。紹介します。

 

 

彼女(ババア)たちの事情

【ターボババア】
高速道路に出現し、走る車を四つん這いで追いかけてきて、追い付くと横にぴったりとついて並走するという老婆の怪異。

(『日本現代怪異事典』から引用)

 

ちなみに、ジェットババアターボババアハイパーババア光速ババアという変異を遂げます。本書『日本現代怪異事典』には、高速老婆の怪というカテゴリーだけでも20項目以上を収録しています。

 

習性や呼称がバリエーション豊かであることも「ババア怪異」の特徴です。

 

首を引き抜く老婆足喰いババサイクリング婆ちゃん壁からバーサン千婆さまババサレアメおばーさんバスケばあちゃんタンスにばばあ……など。数えてみたところ、110種類を超える「ババア怪異」が収録されています。

 

ババア怪異たちの多くは、たいてい「ワケ有り」です。

 

たとえば、スケボーババアは、飲酒運転の車にはねられて事故死したという来歴があります。けっして逆恨みで怪異になったわけではありません。セーラー服のババアは、みずから命を絶ってしまったときは若い女子生徒でした。何十年も成仏できないからババアになったのです。若作りではありません。

 

 

バラエティ豊かな「トイレ怪異」

【三本足のリカちゃん】
人形にまつわる怪異。(中略)トイレの花子さんのように学校のトイレで「三本足のリカちゃん、あそぼ」といった言葉をかけると三本足のリカちゃんが現れ、場合によっては足を切断されるなど害を被るものがある。

(『日本現代怪異事典』から引用)

 

キャラクター性がある、耳目を集めるような「怪異」は、多くの派生エピソードを生み出します。

 

三本足のリカちゃん(さんぼんあしのりかちゃん)の項目には、包丁で襲い掛かってくるパターンのほか、数種類のバリエーションが報告されています。由来もさまざまです。工場から流出した「幻の欠陥ロット」である説。三本目の足は「人肉」で作られている説。いずれにせよ、読んでいるだけで背筋がゾッとします。

 

本書『日本現代怪異事典』には、数多くのトイレにまつわる怪を収録しています。花子さんや三本足のリカちゃんに限らず、怪異は「トイレ」で目撃されることが多いようです。

 

不幸の手紙は、時代とともに電子メール(チェーンメール)へ置き換わりました。怪異には、その時代の世相が反映されるからです。

ネットが生み出した「現代怪異」

現代の怪異は、実にさまざまな媒体で語られています。(中略)近年では、インターネットも重要な媒体となっています。1990年代後半以降、ネット上で生まれた怪異がたくさんいます。

(『日本現代怪異事典』から引用)

 

怪異とは、幽霊や妖怪だけに限りません。まことしやかに語られている「都市伝説」や「恐ろしいウワサ」なども、現代では「怪異の一種」として畏怖されています。口裂け女人面犬のような怪異だけではなく、本書『日本現代怪異事典』には、ITの影響によって発生した「こわい話」も収録しています。

 

たとえば、NNN臨時放送(えぬえぬえぬりんじほうそう)という項目があります。発生日時が「2000年11月26日/2ちゃんねる/テレビ板」であること。深夜にテレビを観ていたら「謎のスタッフロール」が映しだされること。なぜか自分の名前が含まれていること。そして最後に「明日の犠牲者はこの方々です。おやすみなさい」という恐ろしいメッセージが表示されること。有名な赤い部屋との共通点についても論じています。

 

そのほかにも、鮫島事件(さめじまじけん)禁后(ぱんどら)八尺様(はっしゃくさま)遺言ビデオ(ゆいごんびでお)など、2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)スレッドや怪談投稿コミュニティを発端とする「インターネット怪異」を収録しています。現代に即した内容です。

 

 

あなたには「知る」覚悟がありますか?

本来は創作された物語であったとしても、人から人へと伝わる過程でそれが架空の出来事である前提が失われ、実際にあった話であると認識されるようになることもあるでしょう。(中略)それらは現代における、怪異の誕生の仕方の一つです。

(『日本現代怪異事典』から引用)

 

怪異そのものを目撃したことがなくても、怪異にまつわる「語り」を見たり聞いたりしてしまえば、「いる」かもしれない……という不安が生じます。「存在しない」ことを確信できなくなります。怪異とは、わたしたちの「認知システムの脆弱性」が生み出すゴーストなのかもしれません。

 

本書『日本現代怪異事典』は、約300冊の底本、約30箇所の怪異アーカイブス、怪異を扱っている学術論文などを基礎資料としています。発生の経緯、派生や類型、初出や出典をまとめています。全500ページ。

 

そのほかにも、「五十音順」「類似怪異」「都道府県別」「使用凶器」「出没場所」ごとに索引があるので、うろおぼえの怪異も探しやすい。1000例を超える項目、およそ400点の出典リストが明示されています。民俗学や考現学や文化人類学の研究において「怪異にまつわるエビデンス」を検証するための一助となるはずです。お試しください。

 

【書籍紹介】

日本現代怪異事典

著者:朝里 樹
発行:笠倉出版

戦後から二〇〇〇年前後にネット上に登場する怪異まで日本を舞台に語られた一千種類以上の怪異を紹介!類似怪異・出没場所・使用凶器・都道府県別など、充実の索引付き。こっくりさん、カシマさん、口裂け女、トイレの花子さん、ベートーベンの怪、ひきこさん…など。

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