【ムー妖怪図鑑】凶事を伝える不吉な犬の鳴き声

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」。新春のおだやかな雰囲気とは逆張り(?)に、凶事の兆しとなる怪異の数々を補遺々々しました。

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兆しをとらえる

私たちは、あらゆることを前もって知ることができます。なぜなら、多くの物事には前兆があるからです。

 

荒天の兆し、噴火の起こる前触れ、ミサイル発射の兆候。

 

それら「兆し」を見逃すことなくとらえられるのは、感知する技術が発展したからです。

 

そういった技術のなかった昔はどうだったのでしょう。なにかが起こる兆しを人々は見逃していたのでしょうか。

 

――いいえ。昔の人たちは現代人よりも鋭敏な感覚で、その兆しをしっかりととらえていました。

 

死と火の兆し

江戸時代、現在の高知県高岡郡佐川に、棚橋精庵(たなはしせいあん)という医者がいました。江戸で医学を学んだ名医で、その名は広く知れ渡っていました。

 

ある夜更けのことです。隣村の川ノ内というところから使いの者がやってきて、「重病人がいるので、ぜひおいで願いたい」と頼まれました。精庵はさっそく、おかかえの駕籠(かご)に乗って隣村へと向かいました。

 

その道中、鳥ノ巣村というところを通りました。その道は人里から離れた寂しい場所にあり、両側を山に挟まれていました。道の上の方には古寺があり、その近くを通りかかると奇妙な光景と出くわしました。

 

道の傍らに4、5人の女性が並んで腰を下ろしているのです。

 

みんな白装束を着て、菅笠(すげがさ)を被っています。

 

こんな場所で、こんな時間に何をしているのだろうと気になり、「あなたがたは何者か」と問いかけますが、だれも返事をしません。不思議に思いながら通り過ぎようとすると、後ろから声をかけられました。

 

「今から出かけても、どうにもならんじゃろう」

 

どういうことかと駕籠かき(籠を担ぐ者)が引き返すと、女たちはいっせいにケタケタと笑いだし、そして消え失せてしまいました。

 

ゾッとしながら病人の待つ隣村へと急ぎましたが、家へ着くと「今しがた死にました」といわれたといいます。

 

こちらも高岡郡に伝わる話です。

 

堀田権太夫という武芸に優れた武士がおりました。彼は泳ぎの達人でもあり、たいへん勇気のある人物だったそうです。

 

ある夏の夜でした。眠っていた権太夫が目を覚まし、ふと蚊帳の外を見ると、そこに小さな坊主が座っています。ひどく痩せ衰え、頭が長く、鼻は高く、青漆(あおうるし)を塗ったような色をしています。

 

「何者だ、こんな夜中に武士の寝所に来るとは」

 

家人も寝ているので静かに叱りますと、その坊主はひとことも返さず、ただニコニコとしながら座っています。

 

さて、どうしたものか。この坊主、明らかに化け物です。斬り捨ててしまうのは簡単ですが、騒ぎ立てて家族に知られるのも厄介ですし、血で部屋が汚れるのも困ります。

 

考えた末、権太夫は坊主を放っておくことにしました。

 

すると坊主は鶏の鳴くころには帰ったので、このことはだれにも話しませんでした。

 

ところが、この怪しい坊主は次の夜も同じ時刻に、蚊帳の外で同じように座っておりました。そして、鶏の鳴くころに音もなく去るのです。こんなことが毎晩、続きました。

 

7日目の夜。権太夫はとうとう、帰ろうとする坊主を呼び止め、厳しくとがめました。

 

すると坊主は泣くような声で「硫黄坊主(ゆおうぼうず)でございます」といい残し、帰ってしまったのです。

 

その翌日、堀田の屋敷では火事が起こり、何も残さず焼けてしまったそうです。

 

権太夫が臆病な性格で、この妖怪坊主をすぐに斬っていたら、運命は変わっていたかもしれません。

 

白装束の女たちはどうでしょう。病人が死ぬ先触れとして現れた彼女たちは、こういいました。「どうにもならん」と。死の運命はもう、確定していたのかもしれません。

 

犬が鳴く夜

今年は戌年ですから、犬にまつわる話もご紹介しておきましょう。

 

『犬が気味の悪い鳴き方をすると悪いことが起きる』、そんな俗信があります。

 

青森県下北郡脇野沢村では「犬の長吠え」は不吉であると考えられていました。これは夜中に犬が、気味が悪いくらい長く吠えることで、葬式が出る前兆といわれていました。この声が聞こえてきたら外に出て、どの方角を向いて鳴いているのかを確かめれば葬式の出る家の方角がわかるといいます。また、死期が近くなると魂が火玉のようになって飛んでいくので、それに向かって犬が吠えているのだともいいます。

 

福島県相馬市でも「犬がくぼえる」ときは近所に死人があるときだといいます。「くぼえる」とは、無気味に鳴くことです。長野県北安曇郡では、犬が人間の泣き真似をすると人が死ぬといいます。シクシク、メソメソというよりはウオォォンという慟哭でしょうか。

 

沖縄県では「犬のタカナチ」「犬の立ち鳴き」「犬(イン)のヤナナチ」といって、犬が遠吠えをすることは不吉であり、人死にや悪いことの起こる兆しとされています。また、このような鳴き方をするときは、犬が幽霊や化け物を見ているのだといいます。

 

犬が夜に鳴くことを不吉と考えるのは日本だけではありません。シェイクスピアの史劇でも語られているので、かなり古くからある俗信なのでしょう。

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文・絵=黒史郎

 

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イタリアブランドのパネライが「戌年」をモチーフにした88本限定のスペシャルエディションを発表

パネライは、中国十二支の伝統に敬意を表した“シーランド”シリーズを2009年から毎年製作してきました。丑年から始まった本シリーズも、2018年で10作目。最新作のモチーフは、もちろん「戌」です。イタリアのデザインセンスとオリエンタルな伝統文化が融合した本機の魅力に迫ります。

 

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イタリアの古代技法を駆使して戌の彫金をカバーに施す

パネライが手がけるシーランドシリーズは、文字盤を覆うカバーを取り付け、その表面に十二支にちなんだエングレービングを施した特別仕様。

 

2018年2月16日からはじまる戌年(旧暦)を祝福する最新バージョンは、自社製Cal.P.9000を搭載した「ルミノール 1950 スリーデイズ オートマティック アッチャイオ – 44mm」をベースモデルに採用しています。

 

「ルミノール 1950 シーランド スリーデイズ オートマティック アッチャイオ – 44mm」267万8400円/Ref.PAM00858。自動巻き。ステンレススティールケース。直径44mm。10気圧防水「ルミノール 1950 シーランド スリーデイズ オートマティック アッチャイオ – 44mm」267万8400円/Ref.PAM00858。自動巻き。ステンレススティールケース。直径44mm。10気圧防水

 

カバーに施された戌のエングレービングは、すべてイタリアの熟練彫金職人が、SPARSELLOという特殊な器具を用いる古代技法を駆使したものです。

 

MAKING OF SEALAND PAM00858

 

スティールに刻まれた溝に金の糸を何層にもなるように並行に埋め込み、戌をはじめとする精巧な装飾のアウトラインの溝が完全に埋まるように打ち伸ばしていく作業には、想像もつかないほどの集中力と卓越した技術力が必要となります。

 

というのも、金糸を埋め込み作業を行う時点で、カバーにはエングレービングと磨きの仕上げがすでに施されているため、わずかなミスですべてが台無しになってしまうからです。

 

 

文字盤にも特別なデザインを採用

カバーを開くと現れる文字盤は、グレートーンのダイアルにアラビア数字とバーインデックスの組み合わせ。9時側にスモールセコンドを、3時側にデイト表示を設置しています。シンプルなデザインですが、パネライの現行ラインナップにはない特別なものとなっています。

 

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裏蓋はシースルー仕様になっており、パネライが自社製造した3日間パワーリザーブを誇るCal.P.9000の動きが確認できます。

 

本機には、ソフトブラウンのレザーストラップのほか、スペアのブラックラバーストラップが付属。加えて、ストラップ交換ツールとスクリュードライバーも付いています。

 

年男にとってこの上ない縁起物となりそうなシーランドシリーズも、いよいよ戌年が発表されて残り2作。毎年恒例のまま継続されれば2020年には十二支が完成されることになります。歴代モデルは製造本数がどれも少なく入手困難ですが、新作の戌と、今後発表されるであろう亥、子なら、まだ手に入れるチャンスがあるかも!?