切手代が大幅値上げ!郵便料金110円でも出したい「手紙」の書き方とマナーとは?

2024年10月1日、日本の郵便料金が30年ぶりの大幅値上げ。例えば25グラム以下の定形郵便物の料金が84円から110円に、はがきも1枚63円から85円へ。「手紙」が高級なたしなみになりつつある今こそ、知っておきたい手紙の書き方とマナーとは? 手紙文化振興協会の代表理事であるむらかみかずこさんにうかがいました。

 

心を伝えるために。
デジタル時代に「手紙」を選ぶ意味

 

SNSやメール、チャットなどのデジタルツールが浸透する現代。自分の言葉を伝えるツールとして、“あえて、手紙を選ぶとよい理由”とは?

 

「手紙は、スピード重視のやり取りをするチャットと比べると、ゆっくりとしたツールなんです。それは届くスピードがゆっくりというだけではなく、『なんて書こうかな……』と相手のことを自然に想像する、という点でもゆっくりなんですね。例えば、手紙を書こうと思っている相手と先日会ったときに交わした会話を振り返って、『体調を崩し気味だと言っていたな……』と思えば、『その後のご体調はいかがですか?』という言葉が浮かぶかもしれません。
スピード重視のチャットだと、自分で送るときに誤解されるような伝え方をして冷たい印象を感じさせてしまったり、連絡が来たらすぐに返信しなければいけないと考えて、気持ちが焦ったりすることもありますね。
その点、手紙なら、じっくりと相手のことを考えられます。相手を思いながら手紙を書く過程で、頭の中が整理されたり、思考力が磨かれたり、さまざまな言葉が蓄積されたりするメリットがあるんです」(手紙文化振興協会・むらかみかずこさん、以下同)

 

手紙を書くときは、前向きなよい言葉を綴ることが多いため自己肯定感も高まります、とむらかみさんは言います。

 

「手紙に綴る言葉は、例えば『先日はありがとうございました』『ご発展を願っています』『お体をお大事に』など、自然と相手への感謝や成長、幸せを願うものが多いですよね。書くことで『よいことをした』という気持ちも生まれますし、きちんと心を伝えられるのが、手紙のよさだと思います」

 

そして受け取る側にとって「本当にうれしい」と感じさせてくれるのが手紙だといいます。

 

「『字が下手』『文章を書くのが苦手』といった苦手意識から、書くことをためらう人も非常に多いのですが、それはもったいないと思います。というのは、手紙には受け取る側の気持ちを弾ませる内容が数多く盛り込まれているからです。わざわざ送ってくれたこともうれしいし、じつは文章だけではなく、見た目のデザインもうれしさに含まれるんですね。
私たちの脳は、先に文字よりビジュアルに反応します。例えばInstagramであれば、まず写真に目が留まりますね。手紙でも、そこに綴られている言葉以上に『この便箋は、季節にぴったりのデザインだな』『この切手、初めて見た』など、ビジュアルの要素が記憶に残ることもあります。
美文字の教科書にあるような美しい字でなくても、小説のように流暢な文章でなくとも、受け手の心を動かすことはできるのです」

 

送り手にとってよいこと

・思考が整理される、思考力が上がる
・忘れていた感情を思い出せる
・さまざまな言葉が蓄積される
・前向きなよい言葉を綴るため、自己肯定感が上がる
・「よいことをした」という気持ちが生まれる
・きちんと心を伝えられるため、自分のことを理解してもらえる

 

受け手にとってよいこと

・手書きの文字により、あたたかい気持ちが感じられる
・たった1行の文章でも、言葉の重みが伝わる
・“言葉の力”が持続する
・相手のことを思い出せるし、1年後でも読み返せる
・カードでもらうと、部屋に飾っておける

 

「手紙」を書く前に、心に留めたいこと

 

「メールを書くように、手紙を書きましょう」と、むらかみさんは言います。「わざわざ手紙を書いている時点で、十分に礼儀正しく、ていねいな人です。相手も喜んでくれます」

 

便箋やカードを選ぶときの、3つのポイント

“手紙を書いて送ることは、それだけで素晴らしい”。その前提のうえで、基本の紙の選び方や、読みやすい字の書き方をおさえてみましょう。

 

1.季節にちなんだ絵柄

「日本には四季がありますね。例えば、春には桜の花が、夏にはアジサイが咲きます。夏なら海や風鈴、花火などが思い浮かびますし、秋になると紅葉が始まります。冬になれば、クリスマスがありますし、椿が咲いたりもします。そういった季節にちなんだ絵柄を選ぶと、相手の共感を誘うことができます」

 

2.縁起物

「縁起物には、例えば、幸せの四つ葉のクローバーや青い鳥、富士山や招き猫などが挙げられます。縁起のよいものは、受け取る側からすると捨てられないものになるのです。送り手も、まさしく幸運を運ぶ絵柄なので気持ちよく書くことができます」

 

3.趣味にちなんだ絵柄

「受け取る方の趣味をご存じであれば、例えば猫が好きな方には猫の絵柄で、音楽をたしなんでいる方には音符マークの絵柄で送ってみるとよいでしょう。ビジネスシーンでは、相手の趣味を知らない場合もありますが、それでも男性か女性か、企業の偉い方か若い方かを想像すれば、おのずと見合う紙が思い浮かぶのではないでしょうか」

 

紙を選ぶときは、紙質にも気を配ってみましょう。むらかみさんは、同じビジネスの相手でも、社会的地位が高い社長さんには高級かつ上質な紙を選び、気心知れた方にはもう少しカジュアルな紙を選んだりするそうです。

 

紙との相性を考えて、切手を選びましょう

「切手は、紙との相性を考えると、より選びやすくなります。上質な和紙を使う場合は、切手も和テイストが合うし、ポップな印象の便箋を使う場合は、切手も同様のテイストに合わせてみましょう。紙選びと同じように、季節にちなんだ柄、縁起物、趣味に関する柄は使いやすいと思いますが、さまざまな切手があるので、気に入ったものを選ぶとよいでしょう」

 

封書を選ぶと、礼儀正しい印象につながります

「はがきより封書を選ぶと、相手により深い敬意を表すことができます。より丁寧に接した方がよい相手や、送り手が受け手より遥かに目下である場合は、封書で送るとよいでしょう。またビジネスシーンであれば、社用封筒に入れて郵送すると、会社の一員としてのやり取りにふさわしいものになります。

 

はがきは紙面が小さいので、短い文章を書くだけでも格好がつきやすくなります。ただし個人情報を書くと、配達の過程で第三者に読まれる可能性があるので注意してください」

 

手紙でも、遊び心を伝えられます

「手紙は、難しい勉強のように思われる方もいるのですが、じつは遊び心を発揮できる要素がたくさんあります。例えば、シールを貼ったり、イラストを添えたり、ハンコを押したり。インクも、季節を想起させる色を選ぶこともできます。手紙に香りをつけることもできるし、工夫できるポイントが幅広くあります。まずは気に入ったペンを1本買うことから、手紙を書く習慣を始めてもよいと思います」

 

文字は、「大きく、太く、青で書く」

「字を書くことに苦手意識がある人ほど、『大きく、太く、青で書く』ことをふまえると、読みやすい字が書けます。大きな字は、相手にとっての読みやすさにつながります。大きな字で書くために、太字のペンを選びましょう。すると字が潰れないように、自然と大きな字が書けます。手紙は“気持ちを伝えるツール”なので、太い字の方が、元気のよさや若々しさ、爽やかさなどのポジティブな印象につながりやすいですね。
青で書くのも大きなポイントになります。よく『黒ではないのですか?』と聞かれますが、手書きの手紙は、書類とは違うので……気持ちを伝えるという意味では、黒色より明るい青色の方が、元気な印象を残すことにつなげられます。
青にもいろいろありますね。例えばすごく鮮やかな青もあれば、シックな紺もありますので、自分が気に入る青色のインクを選んで書くとよいでしょう」

 

多少の誤字脱字は、気にしなくてもかまわないそう。

 

「気の置けない人に手紙を送るのであれば、多少の誤字脱字は気にしなくてもよいでしょう。相手の名前や社名を間違えるのは完全にNGですが、漢字の送り仮名を一文字間違えたくらいなら気にしなくもかまいません。字を書くときに罫線からはみだしたり、多少曲がったりしても問題ありません。それも愛嬌だし、他との違いがついたりしますね。多少の間違いがあっても、もらってうれしいのが手紙です」

 

ビジネスとプライベートの手紙実例

「手紙の書き方は、ビジネスでもプライベートでも相手との関係が変わるだけで、基本的に同じです」と、むらかみさん。さっそく手紙の文例を見てみましょう。

 

ビジネスの手紙文例(契約後のお礼)

 

「相手に貢献したいときや、自分や自社を信頼して欲しいと考えているときに、手書きの手紙は効いてきます。例えば、契約後にお礼の手紙を送ると『契約してよかった』『自分の決断は正解だった』という安心感につながり、その後の関係がよりよくなる効果が期待できます」

 

【ポイント】
・お礼とともに、“やる気や抱負が伝わるひと言”を添えると、ビジネスパーソンとして信頼される人に近づきます。
・文中の「ご期待に添えるよう、最大限、努めてまいります」のほかに、「励みます」「取り組みます」「努力します」「精進します」「がんばります」などの言葉があります。

 

プライベートの手紙文例(出産祝い)

「手紙をカードで送ると形に残り、受け取った相手はお部屋に飾ることもできます。大切な言葉であればあるほど、伝えたい“言葉の力”が持続します。例えば、出産祝いなどで大きな喜びを伝えたい際は、手書きのカード(手紙)をおすすめします。より多くの予算をかけると、それだけで贈り物になる豪華で美しいカードを手に入れられます」

 


【ポイント】
・普段、相手とやり取りしている言葉で書きましょう。手書きであれば、「おめでとう」と大きく書くだけでも、言葉の重みが感じられます。
・手間をかけてカードを選んだり、字を綴ったりする分、伝わる気持ちが大きくなります。

 

「手紙」で心を伝える、3つのポイント

最後に、手紙に込めたい3つの心遣いを教えていただきました。

 

1.相手のことを想像しながら書く

「相手のこととは、相手の顔でもよいし、過去に交わした会話の内容でもよいし、一緒に出かけた場所や、そのときの思い出でもよいです。相手のことを思い浮かべながら書けば、必ず的外れの手紙にはなりません。気持ちが伝わる手紙の、第一歩です」

 

2.等身大の言葉で書く

「等身大の言葉とは、言いかえると“私らしい言葉”ですね。あまり書き慣れない『時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます』のような時候の挨拶を書いてはいけない訳ではありませんが、『いつも大変お世話になっております』で十分だと思います。
学生時代からの友達に書くのであれば、いわゆる敬語ではなく、お互いの話し方と同じ普段通りの言葉を使ってよいと思うんですね。手紙だからといってかしこまる必要はありません」

 

3.思いやりの気持ちを添える

「思いやりという言葉には広い意味がありますが、具体的に言うと、感謝や健康を気遣うこと、相手の幸せやビジネスの発展を願うことが思いやりだと私は思います。思いやりの気持ちを添える箇所は、書き出しの冒頭でも、本文中でも文末でもかまいません」

 

 

「手紙を書くことを難しく考えず、気楽にとらえてください」とむらかみさんは、終始お話されました。普段から相手の好みやエピソードを心に留めておき、手紙の中で、心のこもった言葉やさりげないアイテムで表現してみると、ますますご縁が深まりそうです。ぜひメールを出すように、手書きの手紙を送ってみましょう。

 

 

Profile


手紙文化振興協会 代表理事 / むらかみかずこ

2013年に(社)手紙文化振興協会を設立。手紙の書き方講師の育成に尽力するとともに、自宅で学べる通信講座を開発・販売。企業研修・セミナー、講演、メディアを通して、心が通じる手紙の書き方や、仕事で成果につなげる文章術を広く社会に発信している。著書・監修書多数。
HP

“美文字”研究第一人者・青山浩之先生が解説!手書きするときに意識したい美文字ロジックとは?

「文章を書く」となるとスマホやPCでの文字入力がメインとなり、手書きする機会が減った人は多いはず。そこへいざ手書きしてみると、思い通りに書けずに、自分の字が嫌いになって、やがて手書きしたくなくなる……という負のスパイラルに。でも心配はいりません。美しい文字は、いくつかのルールと手書きをサポートする文房具によって手に入れることができるのです。

 

書家であり、「美文字」研究の第一人者である青山浩之先生に、美文字を書く基本的なロジックを教えていただきました。また後編では、誰でも美文字に近づく文房具を紹介していただきます。

 

“美文字”研究第一人者・青山浩之先生が解説する、美文字に効く文房具11選

 

デジタル社会を生きる現代人は
今どんな手書き文字を書いている?

はじめに、デジタル機器を活用するシーンが増えている現代人の手書き文字にはどのような特徴がありますか?

 

「子どもの頃、私たちは紙と鉛筆を使った学習を通して文字を習ってきました。しかし社会人になるとパソコンなどデジタルを用いた仕事が多くなります。そうなってくると、手で書くという行為自体が習慣として減り、書く動作がぎこちなくなっていきます」(横浜国立大学教育学部教授・青山浩之さん、以下同)

 

例えば、下記のようなもの。いわゆる“雑な字”と言われているものです。

 

・書くときに線を止めるべきところで止めていない
・しっかりと止まってから折るべきところでも丸く書いてしまう
・線と線がくっついていないといけない箇所がちゃんとついていない

 

「このように、文字を書くための具体的な知識と意識がデジタル化の進んだ現代では薄らいでいっていますし、ペンの持ち方などもどこか不慣れな様子になりがちです」

 

また、デジタル文字に影響を受けてしまうこともあるそう。

 

「手書き文字というのは、止めたり、はねたり、はらったりして次の画にいく動作を繰り返し行う一連の流れで文字を表記します。一方、活字というのはさまざまな書体がありますが、書くことよりも読むことを重視した形となっています。
デジタルの文字になぞらえて手書きの文字を書こうとすれば、書きやすさベースと読みやすさベースの違いから矛盾が生じてしまい、余計に「雑な字」になりやすいのです。
文字の進化は書きやすさと読みやすさ両方の側面から進み、文字を扱う人間の経験と習慣の中で変容してきました。デジタル文字が多くなった現代では、書きやすさを大切にする意識が減ってきています」

 

美文字研究の第一人者が考える美しい字の定義とは?

では、青山先生の考える“美しい文字”とは、どのような文字なのでしょうか?

 

「美文字と言うと、みなさんはお手本のようにきれいな字を想像するのではないでしょうか? しかし、私の考える美文字とは、まず『その人らしい文字であること』。そして、その文字が読む人にとって読みやすいことも大切であると考えます。読みやすいということは読み手にとって心地よい文字であるということです。
文字というのは、その人のもともと備わっている感覚だけで書くものではなく、理屈で書くものです。美しい文字を書くためのルールに従って理屈で書く文字は、おのずと読みやすい文字になります」(美文字研究家・書家 青山浩之先生、以下同)

 

「ピタカクピト」を意識!
青山先生の美文字メソッド

自分の字を好きになり、手書きに臆さないようになるためにはどのような点に気をつけて文字を書けばいいのでしょうか?

 

「美文字になるということはつまり、自分の字をよい意味で自覚できることです。理屈を知れば、ていねいで形の整った文字を書くことは誰でもできるようになります。私はとくに次の2つを意識することをお伝えしています」

 

1.ピタカクピトを意識する

・「ピタ」
横画の終筆をピタッと止める。横画の最後を書き流すと乱雑な字に見えてしまいます。

横画の終筆をしっかりと止めて終わる。

 

・「カク」
線を折るところではカクッと折る。角が丸くなっている文字は幼く見えてしまいます。

折れ曲がる線は一度止めてから曲げる。

 

・「ピト」
他の線とくっつくところはピトッとつける。バラバラに見える文字は落ち着きが感じられません。

線と線が接する箇所は意識してつける。

 

2.隙間均等法を意識する

「線と線の間にできる隙間を均等にするように意識します。隣り合う隙間が均等であれば格段に読みやすくなります。人は文字を見るときに線を見ていると思いがちですが、実はその間の空間も見て判断しています。それらがバラバラであると読みにくさを感じてしまいます」

線と線との間のスペースは均等な間隔になるように意識する。

 

「これらを意識するだけでも、読みやすくていねいに見える文字となります。人から自分の書いた文字を褒めてもらえれば成功体験となり、さらに書いてみようという好循環が生まれます」

 

また「美文字には文房具選びもとても大切」と青山先生は語ります。

 

「筆圧をコントロールすることも美文字には欠かせません。そこで『しなるペン先』を搭載したボールペンを監修しました。筆圧をかける部分と抜く部分は従来のボールペンでは難しいのですが、こちらのしなるボールペン『ビモアボールペン』であれば、メリハリのある美しい文字を書くことができます。
自分の字に自信がつき、文字を書くことが好きになるきっかけにしてもらえたらうれしいです」

ZEBRA 「bimore」1100円(税込)

青山先生監修の練習帳とセットで美文字を叶えるボールペン。

 

「しなるペン先を搭載したビモアボールペンと、ビモア練習帳がセットになっています。ビモア練習帳には、わたしが直接指南する動画のQRコードがついており、スマホで簡単に筆圧コントロールの感覚を学ぶことができます。1日3分、7日間の練習をするだけで見違えるほどあなたらしい美しい文字になっていきます」

 

スマホとbimoreボールペンと専用練習帳があればどこでも簡単に練習ができます。(※写真提供=ゼブラ株式会社)

 

bimoreユーザーの文字を青山先生が添削。(※写真提供=ゼブラ株式会社)

 

このほか、後編では青山先生がお勧めする“美文字に効く”文房具を紹介します。

 

“美文字”研究第一人者・青山浩之先生が解説する、美文字に効く文房具11選

 

 

Profile

美文字研究家 / 青山 浩之

横浜国立大学教育学部教授。書家。全国大学書写書道教育学会常任理事。美文字を提唱する第一人者として、手書き文字の表現方法やスキルをわかりやすく解説し、書写や書道の魅力を広げている。メディアに数多く出演するほか、『“きれいな字”の絶対ルール』(日経BP)や『万年筆で極める美文字』(実務教育出版)など著書多数。
Instagram

『“きれいな字”の絶対ルール』青山浩之 著(日経BP)

 

人気再燃中!「シーリング(シーリングワックス)」の基本手順と、封緘だけじゃない楽しみ方とは?

SNSなどを中心に、近年ふたたび「シーリング」の人気が高まっています。デジタル時代の今になって、いったいなぜ? その理由やトレンド感のある使い方について、日本初のシーリング専門書『シーリングワックスの本』の著者である、平田美咲さんに解説していただきました。

 

「シーリング」「シーリングスタンプ」「シーリングワックス」とは?

「シーリング」とは、英語で「Wax Sealing」というとおり、手紙を蝋で封じること。かつて中世ヨーロッパの貴族が文書の差出人を証明したり、封筒を閉じたりするために使っており、外交を通して日本にも伝来しました。その後、徐々に一般庶民の間にも広まっていったものの認知度は低く、つい最近まで知る人ぞ知るアイテムとして存在しつづけました。「シーリングワックス」とも呼ばれます。

 

その「シーリングワックス」とは封じる際に使用する蝋(封蝋)を、「シーリングスタンプ」とは溶かした蝋に押し付け封緘(ふうかん)する金属印をいいます。

 

第一次 “シーリングブーム” は10年以上前のこと

令和になって訪れたシーリングブーム。平田さんによると、実は10年ほど前にも小さな注目を浴びたといいます。

 

「2010年頃、マスキングテープなどのパーソナル文房具がブームとなり、その流れに乗ってシーリングやシーリングワックスも存在が広まっていきました。とはいえ、そのころはヨーロッパ製の輸入ものが主流だったため、取り扱っているお店は本当にごくわずか。手間がかかるという点からもあまり浸透しませんでした。軽いブームになったとはいえ、まだまだ手紙好きやアンティーク好きの人が『手紙に封をするもの』『アンティークな道具』として楽しむもの、もしくはごく一部の人が『結婚式の招待状などに高級感をプラスするアイテム』として使っている状況でした」(平田美咲さん、以下同)

 

なぜ再びシーリングが話題になっている?

「それから10年以上が経った最近、中国や韓国でシーリングを楽しむ人が増え始めたことで、日本国内での人気も復活してきています。SNSなどを通じ、あらためてシーリングの魅力が伝わったうえ、さまざまな種類のシーリングスタンプやたくさんの色数のシーリングワックスが安価に出回りはじめたこともあり、より手軽に始められるようになったのです

 

その結果、これまで『手紙に封をするもの』『アンティークな道具』もしくは『ウエディングアイテムなどの添えもの』だったシーリングが、『コラージュや、ジャンクジャーナルなどの作品作りに使う画材』として手軽に楽しまれるようになりました。シール感覚でさまざまなものをデコレーションするようになったのです。また、道具の種類が増えたことでコレクション感覚で楽しむ人も出てきています」

 

ジャンクジャーナルとは、イラストやマスキングテープ、リボンなどをコラージュしたアート作品のこと。シーリングは、封筒を閉じる機能ではなく、アートを構成する要素のひとつとして受け入れられるようになったわけです。

↑コラージュの材料としてはもちろん、手帳や日記のデコレーションにもぴったり。

 

↑リボンでくるんだ紙ナプキンに添えるだけで、特別感のあるテーブルコーデが仕上がります。

 

シーリングの基本的な道具

必要な道具が多そうなシーリングですが、実はワックス、スプーン、キャンドル、スタンプがあればOK。どれも身近なもので代用可能なので、意外と手軽に始めることができます。

・ワックス

溶かして使います。シーリングワックス専用の蝋は、普通のロウソクよりも粘り気があるのが特徴。おもにタブレットタイプとスティックタイプがあり、タブレットタイプはプラスチック感が強く強度があります。一方のスティックタイプは芯付きと芯なしの2種類で、芯付きの場合はワックスに直接火をつけて溶かすことができます。色付きのグルースティックでも代用可能です。

 

・スプーン

タブレットタイプのワックスを入れて溶かすときに使います。専用スプーンもありますが、計量スプーンやカレースプーンなどでもOK。深さのあるものがおすすめです。

 

・キャンドル

ワックスを溶かすために使います。ライターやアルコールランプでも大丈夫です。キャンドルホルダー(写真一番右)があれば、スプーンをキャンドルの上に置いておくこともできます。

 

・スタンプ

垂らしたワックスにギュッと押しつけ、模様をつけます。刻印が入っていればどんなものでもスタンプとして使えるため、ラバースタンプや消しゴムハンコ、金ボタン(※)で代用可能。プラスチック製のものは熱に弱いためNGです。※金ボタンは、接着剤でコルク栓などをつけて持ち手を作る必要があります。

 

シーリングの基本的な手順

シーリングワックスの基本的な使い方について、平田さんにレクチャーしていただきました。

 

1.ワックスを火にかける

タブレットタイプのワックスを4~5個程度スプーンに入れたら、火にかけて溶かします。スティックタイプの場合はスティックの先をスプーンに押し付けるか、直接火をあててワックスを溶かしてください。

 

2.スジが残るまで溶かす

竹串や爪楊枝などでワックスを混ぜ、「の」の字を書いたときにスジが残る程度まで溶かします。

 

3.火にかけすぎた場合は少し冷ます

火にかけすぎるとブクブクと沸騰し、気泡ができてしまいます。沸騰してしまったときは火から外し、固まらない程度にゆっくり混ぜながら気泡をなくしましょう。また、ワックスがゆるすぎると垂らしたときに広がってしまうため、溶かしすぎた場合も火から外して、少し固まるのを待ちましょう。

 

4.ワックスを垂らす

シーリングワックスをつけたい部分に、スタンプの直径と同じくらいの大きさでワックスを垂らします。少し回しながら垂らすことできれいな正円になります。

 

「ちなみに結婚式のカード用に大量生産したい場合などは、グルーガンタイプを使うのがおすすめです。一つひとつ溶かして垂らす手間が減り、より簡単に作ることができます」

 

5. スタンプを捺す

ワックスが冷めないうちにスタンプを押します。模様をくっきりと出すために、強く力を入れて押すのがポイントです。

 

6. そっと外して完成

ワックスが固まったら、そっと外します。早めに外すと形がゆがんでしまうため、焦らず30~40秒ほど待つようにしましょう。また、外した後も固まっていないうちに触ってしまうとワックスがつぶれてしまうので、しばらく触れずに置いておきましょう。

 

「ワックスの垂らし方や押す力によってフチの広がり方が変わります。多少いびつでも、それが味となり魅力的に見えますよ」

 

これって失敗…? シーリングワックスの応急処置

「ワックスを溶かしすぎてしまった」「一発でうまくできるか不安」「思い通りのワックスの色がない」など、シーリングワックスを作る際に気になることについて、平田さんに対処法を教えていただきました。

 

・ワックスが余ったら固めて再利用しましょう

ワックスは再利用できるので、余ってしまったワックスはクッキングシートやシリコンマットに垂らしておきましょう。失敗してしまったときも、火にかけて溶かせば作り直すことができます。また、使い終わったスプーンはキッチンペーパーでワックスをふき取り、きれいな状態で保管しましょう。

 

・失敗はクッキングシートやシリコンマットで回避

失敗したくない場合は、クッキングシートやシリコンマットの上に作るのがおすすめ。冷めたら簡単にはがすことができるので、超強力両面テープや多用途用接着剤、シーリングワックス用両面テープなどで好きな場所に貼り付けられます。

 

・ワックスを混ぜて自分好みの色に!

複数色のワックスを混ぜることで好きな色を作ることができます。また、あえて色が混ざらないように溶かし、垂らすときに少し回すことでマーブル色のシーリングワックスになります。

 

もっと個性を出したい! シーリングのアレンジに挑戦

自分らしくアレンジできるのも、シーリングの魅力のひとつ。基本をおさえたら、ひと手間加えた作り方にもチャレンジしてみましょう。

 

・色を塗って細かな模様を際立たせてみる

文字や細かな模様など、デザインを際立たせたいときには、ペンで色を塗るのがおすすめ。ペイントマーカーなら、よれずにくっきりと塗ることができます。

 

ペンを立ててしまうと模様以外の部分にも色がついてしまうため、少し倒すのが上手に塗るコツです。

 

・ツートンカラーでもっと華やかにしてみる

色違いのシーリングワックスを重ねることで背景と模様の色を変えられます。難しいテクニックは必要ないので、意外と簡単に作ることができますよ。

 

まずは2色のうち上に乗せるシーリングワックスを作り、スタンプや模様の形に沿ってはさみで切ります。

 

切り終わったシーリングワックスを絵柄に合わせてスタンプに押しつけます。スタンプを下に向けても落ちないくらい、ぎゅっと指で押しましょう。うまくつかない場合にはサラダ油やベビーオイルなどを薄く塗って貼り付けるのもおすすめです。

 

2色目のワックスを垂らし、1色目のワックスを中心に落とすようにスタンプを押します。その後は基本の作り方と同じく、ワックスが固まったらゆっくり外しましょう。

 

・ラメやドライフラワーを使って雰囲気を変えてみる

溶かしたワックスの上にラメを落とし、スタンプを押すだけでOK! ワックスが固まらないうちに素早く落とすのがポイントです。

 

「最近のブームで模様のないスタンプも出回りはじめました。シンプルでまた違った印象のシーリングワックスになります」

 

ドライフラワーの上にワックスを垂らせば、ドライフラワーの華やかさがより目を引くシーリングワックスが完成。透明のワックスを使い、下に置いたドライフラワーを透かせるのも、今っぽくておすすめだそう。

 

たとえ失敗しても溶かして再利用できたり、少し形がいびつなほうが仕上がりに味が出たりと、初心者でもトライしやすい点がシーリングの魅力。専用の道具を揃えなくても身近なもので代用できるので、気軽にチャレンジしてみたくなります。

 

また「少し手間がかかるところも、シーリングの魅力のひとつです」と平田さん。便利なものにあふれて手間をかけることが少なくなってきた今だからこそ、シーリングワックスで特別感のあるギフトや手紙を贈ってみてはいかがでしょうか?

 

【プロフィール】

グラフィックデザイナー・イラストレーター / 平田美咲

フリーランスとして主に雑誌や書籍のデザイン、イラストを手がけるかたわら、リメイク雑貨、クラフト作品を発表するなどマルチに活動中。シーリングワックスに出会い、その魅力にとりつかれる。専門書が無かったことから2008年『シーリングワックスの本』(誠文堂新光社)を執筆。著書に『増補版シーリングワックスの本』(誠文堂新光社)、『印刷・加工テクニックブック』(誠文堂新光社)、『ボールペンイラストレッスンBOOK』(誠文堂新光社)、『エコ*コモノ』(青山出版社)、『かわいいエコ*雑貨』(小学館)、『かわいいパッケージクラフト(全3巻)』(汐文社)などがある。

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

「幸福学」研究者が科学の力で導き出した、自分らしくいるための「手紙を書く」効果

「幸福学」とは、幸福について研究する学問のこと。世界中で「幸せとはなにか」「人はどうしたら幸せになれるのか」など、「幸せ」に関する研究や実験が日々おこなわれています。つまり、科学的に証明された「幸せになれる方法」はたくさんあるのです。

 

幸福学の研究者、前野隆司さんと前野マドカさんのふたりが導き出した、日々の暮らしに取り入れられる「幸せになるための習慣」とは? 忙しい毎日に疲れてしまった人へ、ふたりの共著『そのままの私で幸せになれる習慣』から、お届けします。

 

【関連記事】「幸福学」研究者に聞く、幸せ格差が広がる時代のコミュニケーション術とは

 

習慣2.感謝している人に気持ちを込めた手紙を書く

誰かに対して心の中で感謝するだけでも幸せを感じる効果はありますが、その気持ちを手紙にしたためると、より幸せに近づきます

 

私たちが主催するワークショップで、感謝している人に手紙を書いてもらったことがあります。

 

あるとき、参加者からひとりを選んで、感謝した相手への手紙を読み上げてもらうことになりました。彼女の手紙は、母親へのもの。その場に母親はいませんでしたが、感謝の手紙を書くだけで幸せな気持ちになります。読み上げるとさらに幸せを感じられます。参加した多くの人が感動で涙していました。それは、会場が幸福感で満ちあふれていた証しです。

 

実は、私たちも結婚記念日には、手紙の交換をします。毎年感激してくれるので、その様子をイメージしながら書いているうちに、自分も感動して泣きそうになってしまいます。

 

感謝の手紙を書くときのコツは、感動しながら書くことです。言い換えれば、自分が感動しない手紙は相手も感動しません。

 

互いに感謝の手紙を大切にして、時々、読み返したりもしています。手紙は読み返せるので、何度でも幸福感に満たされることができるのも、いい点です。

 

そういえば、うちの子どもは、家族からのバースデーカードや受験が終わったときの手紙などメモリアルなメッセージを机のシートの下に敷いています。

 

自分に対する応援メッセージや愛情あふれる手紙が目につくところにあるのは、幸福感を得られるいい方法ですね。

 

※出典=前野隆司『家族の幸福度を上げる7つのピース』

 

科学が明かした「幸せ体質」になる50の習慣

1. 小さなことに声をあげて笑う
2.少しだけ上を向いて、いつもより大股で歩く
3.きれいな植物やかわいい動物と触れ合う
4.一杯のお茶をじっくりと味わう
5.頭をからっぽにして、散歩やジョギングをする
6.スマホとテレビから少し離れてみる
7.お気に入りの音楽を聴く
8.7〜8時間の質のいい睡眠をとる
9.誰かのために小さな親切をする
10.自分のためよりも、人のためにお金を使ってみる
11.なんでもないことを「満喫」する
12.自分だけの“オリジナル作品”をつくってみる
13.あえて、いつもと違うことをしてみる
14.誰かと、またはひとりでハグをする
15.「やってみたかったこと」をやってみる
16.「最後のひと月」であるかのように過ごす
17.会いたい人に連絡してみる
18.「ありがとう」を記録する
19.自分と違うタイプの友達を持つ
20.人のいいところをうわさする
21.なんでもいいからグループ活動に参加する
22.嫌いな人にうそでも同情してみる
23.周りの人を信じて「期待」する
24.悩んでいる友達の話を聞いてあげる
25.いつもの店員さんにひと言かけてみる
26.感謝している人に気持ちを込めた手紙を書く
27.小さくて、できそうな目標を立てる
28.「やらねばならないこと」をやめてみる
29.結果は気にせず、その過程を楽しむ
30.100%を目指さず、70%くらいでよしとする
31.迷ったときは「これでいっか」と妥協してみる
32.「没頭」できる仕事をする
33.こだわりすぎず「適度」にこなす
34.ネガティブなことをポジティブにとらえてみる
35.今日あった「いいこと」を3つ書き出す
36.ほほえんでしまうようなことを思い出す
37.「自分の持っているもの」を数える
38.子どもの頃にワクワクしたことを思い出す
39.人生のターニングポイントを振り返る
40.前向きにやろうと思うことを3つ挙げる
41.素直になれていないことを並べる
42.今日あった「いいこと」「悪いこと」を書き出す
43.わからないことは「わからない」と受け入れる
44.イライラ・もやもやしている自分を受け入れる
45.どんなに小さなことでも「夢」を3つ挙げる
46.いちばん大切にしている「価値」を探る
47.目の前の「やるべきこと」をはっきりさせる
48.自分にとって「最高の未来」をイメージする
49.楽しかった日々を再現して味わう
50.ポジティブな思い込みをする

 

細字になっているものも含めて全50の習慣は、こちらの本で。

【書籍情報】

『なんでもない毎日がちょっと好きになる そのままの私で幸せになれる習慣』(WAVE出版)

 

前野隆司さんと前野マドカさんの共著による最新作。「幸せになれる」と科学的に証明された方法の中から、日々の小さな習慣で「幸せ」を感じとれる、誰でも簡単に実行できる50の習慣を紹介しています。

 

【プロフィール】

慶應義塾大学大学院教授 / 前野隆司

1962年山口生まれ。1984年東工大卒。1986年東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長を兼任する。著書に、『錯覚する脳』(筑摩書房)、『幸せのメカニズム―実践・幸福学入門』(講談社現代新書)、『幸せな職場の経営学』(小学館)など。妻である前野マドカさんとの共著も多数ある。

 

慶應義塾大学大学院研究員 / 前野マドカ

EVOL株式会社代表取締役CEO、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事、国際ポジティブ心理学協会会員。サンフランシスコ大学、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などを経て現職。著書に『月曜日が楽しくなる幸せスイッチ』(ヴォイス)、『家族の幸福度を上げる7つのピース』(青春出版社、2020年)などがある。