【マネーNEXTトレンド2024】金利上昇により債券に注目!“不労所得”を得やすい値動きのない金融商品が人気

2024年1月から新NISAがスタートすることもあり、投資関連の話題が盛り上がりを見せている。インフレ時代、消費生活へのマイナスな影響を感じることも多いが、マネーのプロたちはトレンドをどう見るのか。今回は経済ジャーナリストの頼藤太希さんに今年のトレンドを聞いてみた。

※こちらは「GetNavi」 2024年2・3月合併号に掲載された記事を再編集したものです

 

経済ジャーナリスト・頼藤太希

Money&You代表。中央大学商学部客員講師。資産運用に強いFPとして活躍している。「はじめての新NISA&iDeCo」など著書累計130万部超。

 

金利上昇により債券に注目が集まり“不労所得”を得やすい値動きのない金融商品が人気

個人投資家が注目する「新NISA」施行ですが、資産運用の目的次第ではNISA制度を用いた投資が適さない場合もあります。新NISAは、子どもの教育資金や老後資金など、15年後、20年後のライフイベントに備えて中長期的な資産を用意するのに使い勝手の良い制度です。しかし、短い期間で切り崩そうとすると元本割れのリスクが高まります。

 

昨今の金利上昇局面では、「債券」にも注目。運用期間や利回りが決まっているので、過度にリスクを負わずに、使う予定のある資産をコツコツ増やすのに適します。銀行預金に代わる置き場所としてオススメなのが個人向け国債「変動10」。もう少し積み上げたいなら「Funds」も有力です。

2023年に発行された債券の例。出典:日本証券業協会「公社債発行銘柄一覧」を基に作成

スマホから手軽に優良企業へ貸付投資が可能

Funds

おもに上場企業が資金を集めるためにファンドを募集し、ネット経由で投資ができる貸付投資サービス。配当金が得られ、満期になると元本が戻る。元本保証はないものの、サービス開始以来元本割れ(貸し倒れ)はゼロ。

↑一部のファンドでは投資特典として、株主優待に代わる「Funds優待」を提供。クーポン券の提供やイベントへの参加権などを享受できる

 

↑予定利回りと運用期間が設定されているので、価格変動のリスクがなく、ほったらかしでOK。利回りは約1〜3%(年率)が一般的だ

 

【ヒットアナリティクス】コツコツと利子で増やす“不労所得”的な商品が人気

「Fundsは、低いリスクで利回り2%前後の配当金を得られるとあって、募集開始されるとすぐに枠が埋まってしまうことも。個人向け国債は、発行元が国のため銀行預金よりも安全で、現在は適用金利も上がっています」(頼藤さん)

先進技術:1 顧客ニーズ:5 市場の将来性:4 独自性:2 コスパ:5

 

国が破綻しない限り安全でメガバンクより有利

個人向け国債「変動10」

半年に1度利子が受け取れ、満期で元本を償還。3種類のうち「変動10年」は、基準金利に連動して利子も変動し、0.05%の最低金利保証があるのもメリットだ。購入から1年経過すれば元本割れせずに中途換金可能。

 

↑「変動10」は半年ごとに、その時々の基準金利を基に利子を計算。金利が上昇すれば受け取り利子も増える。2024年1月発行の適用金利は年率0.46%(出典:財務省)

 

【コレにも注目!】
為替変動リスクに注意すれば効率良く利子を得られる

米国債

為替変動リスクはあるが、日本国債より金利が高い。大きく2種類あり、保有中に利子でコツコツと増やせるのは「利付債」。「ストリップス債」は、利子が元本に組み込まれていくので複利効果を得られる。

 

※本稿は、投資行為や資産運用による利益を監修者および編集部が保証するものではありません。すべての最終判断は、個人の責任でよく考えて行ってください

「NISA」で資産形成はじめよう! プロが教える「コア・サテライト戦略」とオススメ銘柄

NISA制度は2024年に大幅なアップデートが予定されている。新しいNISAは、ほったらかし投資にも適した良い制度だと言われるが、現段階で何を学び実践しておくべきかを、資産運用に精通する経済ジャーナリスト・頼藤太希さんに教えてもらった。

こちらは「GetNavi」2023年5月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【私が教えます】

経済ジャーナリスト 頼藤太希さん

Money&You代表取締役、中央大学客員講師。19万部超のベストセラー「はじめてのNISA&iDeCo」(成美堂出版)など、投資関連の著書多数。YouTube「Money&You TV」でもお金の情報を発信中。

 

統合NISAを見越して運用の戦略を立てよう

現行のNISAは、2024年に改正を控えています。つみたてNISAと一般NISAを統合したような、使い勝手の良い制度が誕生。ほったらかし投資を始めるには、いまがチャンスと言えます。

 

まだ利用していない人は、23年内からつみたてNISAを利用するのがベスト。統合NISAへのロールオーバー(※1)はできないものの、別枠として20年間非課税で保有できる「長期」運用で、元本割れのリスクを抑えられます。

 

統合NISAはほぼすべての人が有利に始めやすいオススメの制度ですが、実力以上の投資はNG。例えば、半年〜1年ぶんの生活費を賄えるだけの貯蓄がないなら、切り崩して投資に踏み出すべきではありません。また、リスク許容度を大きく超えたハイリスクな商品に安易に手を出すことも控えましょう。そこで提唱したいのが、以下のフローを踏むこと。①リスク許容度を見極めて、②金融資産の特徴を知り、③コア・サテライト戦略に当てはめ、④銘柄を選んだら運用スタートです。③のコア・サテライト戦略は、資産をなるべく減らさず、かつ堅実に増やしていくのに適した投資戦略です。統合NISAとの相性も良好なので、本稿で自分に合った運用方法を学び、資産形成を始めましょう。

 

What is NISA ?

少額投資非課税制度。個人投資家のための税制優遇制度。通常金融商品への投資では、売却益や配当に約20%の税金がかかるが、範囲内で運用した場合は非課税となる。現行では、一般NISA・つみたてNISAのほか、未成年が利用できるジュニアNISAの3種類がある。

 

【現行】

■つみたてNISA
一定の投資信託を年間40万円まで購入でき、最大20年間非課税で保有できる制度。長期・積立・分散投資に適した投資信託が厳選されている。投資初心者でも比較的安心して商品を選びやすく、金額も決めたらあとは自動で積立購入してくれる。

 

■一般NISA
株式・投資信託などを年間80万円まで購入でき、最大5年間非課税で保有できる制度。つみたてNISAよりも大きい毎年120万円の非課税投資枠が設定され、株式や投資信託の配当・譲渡益などが非課税対象となる。つみたてNISAとの選択制。

 

【統合・改良! 2024年施行】

■統合NISA
24年以降、NISA制度の抜本的拡充・恒久化が図られ、新しいNISAが導入。「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の区分があるが、併用も可能だ。現行のNISA制度で保有している金融商品については売却する必要はなく、期間満了までは非課税で保有されるが、統合NISAへのロールオーバーはできない。

 

●目玉1:恒久化・無期限化
制度が恒久化され、非課税保有期間が無制限に。非課税保有期間が終わって課税口座に移す作業もなく、より“ほったらかし”で運用できる。

●目玉2:枠の拡大
年間投資枠が大きく増加。つみたて投資枠で年120万円、成長投資枠で年240万円、併用すれば合計で毎年360万円まで非課税で運用できる。

●目玉3:併用が可能に
つみたてNISAと一般NISAのような選択制ではなく、つみたて投資枠と成長投資枠は併用可能。明快で、投資枠いっぱい大きく運用しやすい。

●目玉4:売却枠の再利用
金融商品を売却して生涯投資枠に空きが出た場合、売却枠を再利用して新しく非課税の投資を始められる。リバランス(※2)もしやすい。

 

※1:一般NISAやジュニアNISAで非課税期間が終了した際に、保有している金融商品を、翌年の新たな非課税投資枠に移管すること
※2:資産配分の変化による偏りを正すこと。配分の変更や、保有する資産を入れ替えるスイッチングを行う

 

【頼藤流運用術1】許容できるリスクを見極める

自分が受け入れられる損失がどのくらいか

リスク許容度とは、“自分が損にどのくらい耐えられるか”の度合い。一般的には「収入・資産が多い」「年齢が低い」「投資経験が豊富」なら高くなる。しかし同様の人でも、リスクに対する考え方が慎重なら、総じるとリスク許容度は低くなる。客観的事実を踏まえたうえで、自分を分析しよう。

 

【頼藤流運用術2】金融資産のリスクとリターンの関係を知る

 

【Tips】ETFは投資信託とは違うもの?

ETFとは証券取引所に上場している投資信託のこと。株式と同様にリアルタイムで価格が変化し、タイミングを見計らった売買ができる。一般的には信託報酬は低い設定だ。

【頼藤流運用術3】コア・サテライト戦略を適用する

 

【Pick up!】銀行預金よりも安全で有利!コア資産には「個人向け国債」もオススメ

個人向け国債は、1万円から購入可能で、最低でも年0.05%の金利を保証。発行元が国なので、民間の銀行預金よりも安全で、金利も多少高い。「変動金利型10年満期 変動10」「固定金利型5年満期 固定5」「固定金利型3年満期 固定3」の3タイプのなかで「変動10年」は、長期金利次第で金利がアップする可能性がある。

 

↑マイナス金利を経て、近年の金利は微増傾向。「変動10 年」の適用利率は基準金利×0.66なので、現在0.33%だ/出典:モーニングスターホームページ「日本国債 10年」(3月7日現在)。なお、3月30日よりウェルスアドバイザー株式会社となり、ホームページも変更

 

【頼藤流運用術4】投資信託を選ぶ

●ポイント1:信託報酬が0.1〜0.3%の商品を選ぶ

投資信託は購入したら、長期間保有することとなる。信託報酬がなるべく安いものを選び、効率良くお金を増やそう。インデックス型・バランス型の信託報酬の目安としては0.1%〜0.3%程度。これ以上高い投資信託を選ぶ必要はない。

 

●ポイント2:リスク許容度に合わせて投資先を決める

リスク許容度が低いならバランス型(4資産均等型)。高いなら、全世界株式や米国株式に投資する投資信託を選び、世界経済の成長の恩恵を享受しよう。広く市場全体の動きを捉える指標に連動する投資信託に、長期・分散投資すること。

 

●ポイント3:純資産総額50億円以上の投資信託がベター

純資産総額とは、投資信託が組み入れている株式や債券など、全資産の時価総額。純資産総額が少ないと、分散投資が実践しにくいため実績に影響が出る、信託報酬が高くなる、途中で運用を停止する繰上償還に陥る、などの懸念がある。

 

【頼藤さんオススメ!! インデックスファンド】

 

【頼藤さんオススメ!! ETF】

 

いざ実践! 統合NISAの活用戦略

総括として、統合NISAの投資枠をコア・サテライト戦略に当てはめよう。実際にどんな戦略が立てられるのか、頼藤さんが3パターンを紹介する。

 

パターン1:つみたて投資枠のみを利用してコア資産に充てる

「コアの投資先は全世界株式インデックスファンドが◎。低コストで世界中の株式への分散投資が実現します。どれか1本に絞って積み立てても、全世界株式インデックス3万円+バランス2万円のように組み合わせてもOK」

 

パターン2:つみたて投資枠と成長投資枠を併用してコア資産に充てる

「成長投資枠を利用してETFを購入すれば、ETFで得られる利益も非課税に。ETFの投資候補は、世界株式『VT』、全米株式『VTI』、高配当株式『VYM』、増配株式『VIG』などです。暴落相場に強い『VIG』がイチオシ!」

 

パターン3:つみたて投資枠をコア資産に、成長投資枠をサテライト資産に充てる

「生涯投資金額をあらかじめ『つみたて投資枠1200万円/成長投資枠600万円』などと分けて、投資信託と株式を購入。年240万円までの成長投資枠は、タイミングを見て国内株式や米国株式に一括投資するのも良いでしょう」

 

※掲載している情報は、2023年3月13日までに編集部が入手したデータや、監修者および編集部の主観に基づきます。投資行為や資産運用による利益を、監修者および編集部が保証するものではありません。
すべての最終判断は個人の責任で、よく考えて行ってください。

初心者でも意外とカンタン! お金を守って増やす「ほったらかし投資」をプロが伝授

大きな話題を呼んだ“老後2000万円問題”に加え、出口の見えない物価高に辟易する昨今。そんないまこそ本気で考えたいのが、資産形成だ。2024年施行の新しいNISAを活用した“ほったらかし投資”なら、大切なお金を守りながらコツコツと増やせる。資産運用に精通する経済ジャーナリスト・頼藤太希さんとともに、投資へ一歩踏み出そう!

こちらは「GetNavi」2023年5月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【私が教えます】

経済ジャーナリスト 頼藤太希さん

Money&You代表取締役、中央大学客員講師。19万部超のベストセラー「はじめてのNISA&iDeCo」(成美堂出版)など、投資関連の著書多数。YouTube「Money&You TV」でもお金の情報を発信中。

 

時間を味方にすれば少額からでもラクに資産形成

投資は「難しそう」「損をしそう」と思われがちですが、ルールや戦略を学び実践すれば、お金を守りながら増やすことができます。今回は時間を味方につける“ほったらかし投資”を中心に伝授。無理なく少額から始めても、複利効果が手伝って数十年後には大きな資産となる可能性があります。

 

ほったらかし投資では、投資信託などを積立購入。堅実に増やす王道的な手法である「長期・分散・積立」投資ができるのです。しかも一度資産の分配や購入銘柄を決めてしまえば、あとはほとんど手がかかりません。NISAやiDeCoでも投資信託は対象になっていて、長期間ほったらかす資産の置き場所として最適。これらのおトクな制度も活用しましょう。

 

長期的に見れば、世界経済が成長する限り、投資には必ずリターンが生じます。早めに始めて、長期間の投資を実践しましょう!

↑ほったらかし投資では、短期的な値動きに一喜一憂しないこと。目標額の設定などで売り時もあらかじめ決めおけば、あとは文字通り“ほったらかし”でOKだ

 

投資の種類は

ひと口に投資と言っても、その種類は様々。それぞれリスクの大きさが異なるので、投資する資産にどんな特徴があるのかについても理解を深めよう。ほったらかし投資で初心者が運用しやすいのは、投資信託だ。

 

投資信託の種類は

各投資信託がどんな金融資産に投資するかは、銘柄によって異なる。外国のなかでも、先進国・新興国・全世界などと投資先は多岐にわたっている。複数の資産や複数の地域にまたがって投資するタイプもある。

 

知っておくべき〈複利のチカラ〉

利息を元本に含めて、これを新しい元本として投資に回して計算する方法。利息は雪だるま式に膨れ上がる。統合NISAを例にした下図では、元本を入れなくなると勾配が緩やかになるものの、指数関数的な増大が期待できる。

 

知っておくべき〈72の法則〉

複利の効果があるとはいえ、下記の例①のように、銀行預金並みの利息では元本を2倍にするのに途方もない年月が必要。しかし仮に②の年利3%で運用できれば、現実的な24年で2倍に。目標額や運用計画を決める際は参考にしよう。

 

 

投資の王道[長期]

景気は好況と不況が交互に訪れる。世界全体で見ると、その波を繰り返しながら経済活動は拡大し、株や不動産などの資産価値は上昇していく。長期にわたって投資を続けることで、利益を得られる期待は高くなるのだ。

 

<景気循環>

 

投資の王道[分散]

投資には「すべての卵をひとつのカゴに盛るな」という格言がある。投資資産の価値下落リスクを減らすため、資産を分散させるべきという意味だ。全世界株式などの投資信託を購入すれば、初心者でも簡単に分散投資できる。

 

<主な投資分散の種類>

 

投資の王道[積立]

投資で資産を減らさないコツのひとつは、一気に資金を投入するのではなく、同じ商品を定期的に同額で積立購入すること。価格下落時には同じ投資額で多くの口数を買え、資産価値の上昇時に大きなリターンを期待できる。

 

〈投資信託を購入した場合の例〉

 

※掲載している情報は、2023年3月13日までに編集部が入手したデータや、監修者および編集部の主観に基づきます。投資行為や資産運用による利益を、監修者および編集部が保証するものではありません。
すべての最終判断は個人の責任で、よく考えて行ってください。

アフリカ宇宙局が誕生! 途上国が挑む「宇宙開発」の狙いは?

スペースXやテスラ、ツイッターなどのCEOを務めるイーロン・マスク氏が火星移住計画を打ち立て、実業家の前澤友作氏が民間人として宇宙旅行を楽しむなど、昨今の宇宙開発は目覚ましいものがあります。しかし、そんな宇宙開発は先進国に限ったものではありません。ナイジェリア、ルワンダ、パキスタンなどの途上国も宇宙開発事業に取り組んでいることをご存知でしょうか?

途上国も宇宙開発に挑む

 

アフリカ諸国

アフリカ連合加盟国は2023年1月、同大陸における宇宙開発のハブとしてアフリカ宇宙庁を設立し、本格的に宇宙事業に乗り出しました。マスク氏が率いるスペースXも、南アフリカでの衛星の打ち上げを支援しています。その一方、現在、世界の多くの国々や民間企業が宇宙事業に参入しているなか、国際協調による平和的な宇宙探査を目的とした「アルテミス協定」に日本をはじめ、アメリカ、カナダ、イギリスなどが署名していますが、アフリカの国として初めて署名したのがナイジェリアとルワンダでした。

 

カザフスタン

旧ソビエト連邦を構成していたカザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンには、独自の宇宙機関や宇宙関連の民間企業があり、合計11の衛星を飛ばしています。なかでも技術的に優れているのが、カザフスタン。超小型衛星の開発に成功し、他国へのサービス提供も間もなく始まるとみられており、宇宙開発分野での国際協力も積極的に行っています。

 

トルコ

トルコでは、同国の宇宙庁が宇宙開発市場に参入するための目標を掲げた10年戦略を策定。トルコ人を宇宙に送り込むことや、同国で初となる観測用衛星を確立することなどが盛り込まれています。トルコは二国間協定や民間企業との協力を積極的に進めていることが特徴。例えば、パキスタンと衛星や宇宙プロジェクトに関する協定を結び、エルサルバドルと衛星システムに関する覚書を締結したほか、スペースXの協力のもと衛星の打ち上げも行っています。さらに、世界初の商用宇宙ステーションの開発を進めるアメリカのアクシオム・スペースとも協定を結んでいます。

 

パキスタン

パキスタンは1962年にアジアのイスラム圏で初めて宇宙開発事業に参入しました。インドとの長期にわたる国境紛争などの影響もあり、その計画は必ずしも順調に行かなかったようですが、同国が掲げる現在の「宇宙ビジョン2040」では、国産の衛星の開発と配備が主な目標とされています。パキスタンは、トルコ、タイ、UAE、中国などと協定を結び、近年はパキスタン人の宇宙飛行士の派遣に意欲を燃やしているそうです。

 

鍵は国際協力

宇宙開発は最先端の技術はもちろん、莫大な資金が必要なため、アメリカのような大国を除いて、途上国や新興国の一国だけで始めるには限界があります。そこで鍵となるのが二国間協定のような国際協力。例えば、インドは60の国と5つの国際機関の間で230以上の協定を結んでいます。2月下旬には、インドの宇宙研究機関(ISRO)とアルゼンチンの宇宙機関(CONAE)が宇宙開発の協力について会談を行ったニュースが報じられました。また、中国を抜いて人口が世界一多くなったインドは、アメリカや中国のように宇宙開発に関する長期的な目標の達成に向けて、民間企業を巻き込んで宇宙開発事業に乗り出しています。

 

このように、先進国だけでなく途上国や新興国も宇宙開発に積極的に取り組んでいますが、その目的の一つに自国の衛星システムの確立があります。日本では当たり前に利用されている衛星ですが、途上国や新興国はそうではありません。そこで、このような国々は自国の衛星を飛ばして、インターネットの普及を促進するだけでなく、そこから得た情報を活用して、国内の災害対策や森林管理、農業支援、安全保障などに活用しようとしているようです。そこでは先進国の知見が役に立つでしょう。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

途上国のGDP、コロナ前の予測から6%低下と世界銀行が警鐘。先手必勝が鍵

2023年の世界の経済成長は1.7%。わずか6か月前に予測されたのは3%だったのに、そこから大きく減速し、2023年の経済成長は1.7%にとどまると、世界銀行が先日報告書をまとめました。過去30年間で3番目に低い成長率となり、特に途上国に大きな影響を及ぼすと考えられています。

途上国の経済はかなり停滞しそう

 

2023年1月に世界銀行が発表した『世界経済見通し(Global Economic Prospects)』によると、世界の経済成長率は2021年が5.9%、2022年は2.9%でしたが、2023年は1.7%と大きく減速すると見られるのです。

 

この大きな要因は、予測を超えるインフレの進行と、それを抑制するための急激な金利の上昇。さらに新型コロナウイルスの再流行や、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界各国との緊張状態なども関係しています。

 

これらの影響を受けて、先進国の約95%、新興国・発展途上国の約70%で経済成長率が下方修正されたのです。これは、2009年のリーマンショック、世界に新型コロナウイルスが蔓延した2020年のマイナス成長に次いで、過去30年間で3番目に低いとのこと。

 

中国を除く新興国と発展途上国の経済成長率は、2023年は2.7%。2022年の3.8%からこちらも大きく減速すると予測されています。GDPレベルは、新型コロナウイルスが感染拡大するパンデミック前に予測されていた水準より約6%も低下するとのこと。

 

先進国の景気が減速すると、貿易などを通じてその影響が東アジア、太平洋、ヨーロッパ、中央アジアなど世界各地に波及します。先進国だけに限ってみると、経済成長率の鈍化はさらに顕著。例えばアメリカは、前回の予測を1.9%も下回り、2023年の経済成長率は0.5%。ユーロ圏は1.9%マイナスの0%。中国は4.3%(0.9ポイント下方修正)。先進国全体の2023年の経済成長率は、2022年の2.5%から0.5%に減速するとされているのです。さらに長引くエネルギー価格の上昇や、紛争、気候変動による自然災害なども重なり、新興国や発展途上国に逆風が押し寄せると見られています。

 

投資なしではSDGsは不可能

さらに、世界銀行が指摘したのは、新興国や発展途上国への投資額の減少。2022年から2024年にかけて、これらの国々への投資額の総額は、平均で約3.5%増加したものの、過去20年間の投資額と比べると半分以下になるといいます。世界銀行の見通し局長を務めるアイハン・コーゼは「強力で持続的な投資が増えなければ、開発や気候関連の目標達成に向けた前進は不可能だ」と述べています。

 

また、この報告書では、人口が150万人に満たない37の小規模国にも着目。これらの国ではコロナ禍による景気後退が顕著で、観光業が長期にわたり不況となったことで経済成長が遅れていると言います。

 

世界銀行のデイビッド・マルパス総裁は、「世界の経済成長の見通しが悪化するにつれ、国際開発が直面する危機はますます深刻化するだろう。政府財務の高止まりや金利上昇に直面する先進国にグローバル資本が吸収され、新興国と発展途上国は数年にわたる低い成長に遭遇する。これにより、教育、健康、貧困、気候変動などにおける取り組みはさらに悪化するだろう」と危機感を募らせています。

 

このようにネガティブな状況では途上国への投資に躊躇する企業が多いと思われますが、こうした状況下だからこそ他社に先駆けて行動することがビジネスの成功につながります。また、マクロな視点では成長率が鈍化しているとしても、ミクロな視点で見れば成長著しい分野もあります。マクロ経済だけで判断すると悲観的になりますが、現地に行くと勢いを感じる国も多い途上国。まずは現地の情報を詳細につかみ、いち早く行動してみてはいかがでしょうか?

 

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大統領交代で開かれた国「タンザニア」、いま日本が経済参入できる領域は?

大陸部のタンガニーカ共和国と島しょ部のザンジバルで構成される東アフリカの国、タンザニア連合共和国。日本は同国から貴金属鉱やコーヒー、魚介類などを輸入していますが、周辺国であるケニアなどと比べて日本企業の進出もまだ少なく、タンザニアの実情を知る人は多くないのではないでしょうか。

 

かつてはアフリカ社会主義を採用し、閉鎖的な印象のあったタンザニアですが、市場経済への移行にともなう民主化や2021年の大統領交代などを契機に開放路線へと舵を切り、国民の生活にも変化が現れています。そんな知る人ぞ知る同国の現在を、タンザニアに在住しているアイ・シー・ネットの三津間香織氏に聞きました。さらに同国の経済事情や日本企業にとってのビジネスチャンスについても考察していきます。

三津間 香織

日系医療機器メーカーにて商品開発から生産販売、事業開発、アライアンスに関する業務などを広く経験。その後、大学院で経営学を学び、アフリカの農村部に置き薬を広めるNPO法人AfriMedicoでの活動を開始。本団体での活動をきっかけに、アイ・シー・ネットに転職し、ビジネスコンサルタントとして農業、教育、ヘルスケア分野の日本企業のアフリカ進出を支援。市場調査、現地での事業実証検証、パートナー調査、法人設立支援等を行う。現在タンザニア在住。

 

データで見るタンザニアの概況

[基礎情報]

首都:ドドマ

言語:スワヒリ語(国語)、英語(公用語)

民族:スクマ族、ニャキューサ族、ハヤ族、チャガ族、ザラモ族等

宗教:イスラム教(約40%)、キリスト教(約40%)、土着宗教(約20%)

面積:94.5万km2(日本の約2.5倍)

人口:6,100万人(2021年:世銀)

 

GDP:678億米ドル(2021年:世銀)

 

主な産業:農林水産(GDPの26.9%)、鉱業・製造・建設等(GDPの30.3%)、サービス(GDPの37.2%)(2020年:タンザニア中央銀行)

対日輸出貿易額:100.75億円(2021年:財務省貿易統計)

対日輸出主要品目:金属鉱、コーヒー、ゴマ、タバコ、魚介類(2021年:財務省貿易統計)

 

タンザニアの面積は、日本の約2.5倍にあたる94.5万平方キロメートル。赤道直下に位置する熱帯圏で、沿岸部は高温多湿な熱帯気候、中央部の平原はサバナ気候、キリマンジャロなどの山岳地帯は寒暖の差が激しい半温帯です。

商都として発展しているダルエスサラームの風景

 

新大統領就任により外資の参入が促進

アフリカに置き薬を広めるNPO法人活動や、アフリカでのビジネスコンサルティングを通じて、タンザニアを知悉する三津間香織さん。同国に在住し、もっとも魅力を感じたのは国民性や人柄でした。

 

「タンザニア人は人懐っこく、良くも悪くも大らか。昔の日本のように支え合って生きています。ビジネス面でもガツガツしたところがなく、接していると優しい気持ちになります」

 

民族間の紛争はなく、政情が比較的安定しているのもタンザニアの特徴です。途上国ならではのカントリーリスクはありますが、経済も堅調な動きを見せています。

 

「タンザニアは与党が圧倒的に優勢なので、与野党が拮抗するケニアのように大統領選のたびに経済がストップしたり、治安が悪くなったりするようなことはありません。とはいえ、政権交代すると同時にこれまでとは真逆の方針が出されることもあります。例えば、先代大統領はタンザニア国内の経済基盤強化を掲げていたため、就任後は徐々に外資への規制が厳しくなりました。ただ、2021年に女性であるサミア大統領が就任してからは、外資にオープンな経済政策に。次期も再選が予想されているため、彼女の在任中は外資企業にとっては良い環境だと思われます」

 

一方で、市場経済の移行にともない、都市部と地方の格差が広がっていると三津間さん。

 

「国民の70%を占める農家のうち、ほとんどが家族経営の小規模農家です。事業を拡大しようにも借り入れができず、除草剤などの農業資材や農機を購入する資金も十分ではありません。かたや都市部のダルエスサラームは豊かになりつつあるため、残念ながら貧富の差は拡大しています。経済発展にともない今後も都市化は進むと想定されますが、それに対応するような政策方針も示されているため、そうした対策が奏効すれば、治安が悪化するなどのリスクは(タンザニアの国民性を鑑みても)低いと考えられます」

 

堅調な中古車輸入販売業、電力サービス事業はじめ、さまざまな分野で可能性が

タンザニアは人口増加率が高く、堅調な経済成長を遂げています。GDPも年々成長しており、国民の生活水準も上昇傾向にあります。

 

「これまでダルエスサラームには小規模な小売店が立ち並んでいましたが、最近はスーパーマーケットも増えています。また、若者の一定数はスマートフォンを所有しています。タンザニアではiPhoneの価格が日本よりも高いのですが、購入できるだけの経済力があるのでしょう。マニキュアをしたり、ウィッグをつけたりする女性も増え、経済水準が徐々に上がっていると肌で感じます。前大統領の経済政策が功を奏したからか、以前は低所得者層が多くの割合を占めていましたが、現在は低中所得者が増えつつあります」

ダルエスサラームのスーパー

 

薬局に並ぶサプリメント

 

「近年、ダルエスサラームを中心に成長著しい業種は、フードデリバリーサービスや若者向けのSNSプロモーション代行業。上述の通り中間層の増加やスマホの保有者が増えたことや、コロナ等の影響を受け、新たなサービス産業も成長してきています。」

フードデリバリーサービス用のバイク

 

「日本企業も約20社進出しており、大手商社からベンチャーまで、規模も業種も異なる企業がタンザニアに拠点を置いています。アフリカでは日本の中古車がよく売れるので、中古車や自動車部品の輸入販売会社も目立ちます。ベンチャーでは、日本のスタートアップ企業・WASSHAが太陽光充電式のランタンを、一般消費者にレンタルするサービスを提供し、多額の資金調達で事業を拡大しています。タンザニアは電化率が50%未満。地方には未電化地域も多く、都市部でも夜いきなり停電することがあるので、ランタンのような照明器具は多くの需要があります。また、ダイキン工業とWASSHAが新会社『Baridi Baridi』を立ち上げ、エアコンのサブスクリプションサービスを展開。ほかにも、個人で起業している方々もいます」

 

ビジネスの世界には、アメリカなどで成功した事業やサービスを日本で展開する「タイムマシン経営」という手法があります。タンザニアでタイムマシン経営を行う場合は、ケニアがベンチマークになります。

 

「タンザニアのGDPは、ケニアの約5年前の水準です。近年ケニアではショッピングモールが急増していますが、タンザニアもスーパーマーケットからモールにステップアップしている段階。ケニアをベンチマークにしておけば、2、3年後にタンザニアで同じような状況が起きると言えます。ケニアで堅調なビジネスをされている方は、今がタンザニアに進出するタイミングではないかと思います」

 

マーケットニーズに合った製品カスタマイズがカギ

他のアフリカ諸国と同じように、近年はタンザニアでも中国企業の進出が目立っています。

 

「一帯一路構想にアフリカ大陸が含まれているうえ、ODAでインフラ事業を推進しています。中国人が増えれば、彼らをターゲットにした小売業、飲食業が生まれ、さらには輸入業、製造業も増えていきます。これまでタンザニアのバイクはインド製が大半を占めていましたが、最近は中国製を見かけることも増えています」

 

日本企業の事業と、バッティングする可能性ももちろんあります。

 

「途上国の人々は収入が安定しないため、価格が安いものを好みます。質が悪くて安価なものを頻繁に買い替えるという消費行動を取るため、中国製の製品がフィットしているのです。一方、日本製品は質が良くて長持ちし、メンテナンスもしっかりしているものの価格が高い傾向があります。とはいえ、中国製を使用して壊れやすいことが気になるタンザニア人は、クオリティの高い商品を検討するようになるはず。質の良い商品への関心が高まりつつあるタイミングで日本製が選択肢に入り、所得が上がれば長持ちするものを好み、中国製品とのバッティングも解消されるのではないでしょうか」

 

ただ、日本企業がポジションを確保するためには、課題もあります。一般的にアフリカは保守的な人が多く、一度気に入ったブランドを使い続ける傾向があります。そのため、早期から日本企業が進出し、ブランドを認知してもらい、中国企業に先行してマーケットを築く必要があるのです。

 

「多くのタンザニアの人たちの購入の決め手とする要素は、まだまだ価格です。日本企業は、中国製から日本製へのシフトをただ期待して待つだけでなく、必要最低限の機能に絞ったシンプルかつコスパのよい商品を投入するなどの施策が重要だと感じます。こうした商品で認知度を高めたうえで、徐々に高付加価値のものにシフトしていくという戦略も考えられるのではないでしょうか。

 

例えば消費材であれば、容量を少なくする、パッケージの素材を安いものに変える、デザインを簡素化するなどの工夫により、単価を下げられるでしょう。また、1回あたりの支払い金額を抑えるために、サブスクリプションサービスを導入するといった施策も考えられます。こうした手法で他社に先行してマーケットを押さえるという、発想の転換が必要です。良いものだとわかってもらえれば使い続けてもらえるので、その商品の価値がどこにあるか、わかりやすく伝えることも大切です」

 

成長領域はモビリティ、農業、教育、医療

成長著しいタンザニアですが、経済面での課題はまだまだあります。三津間さんが感じる課題は、以下の2点です。

活況を呈するダルエスサラーム・カリアコーマーケット。個人店など小規模な商店が中心

 

「ひとつは収入が安定しないこと。農業以外の就職先が少ないため、結局、商店などの個人事業を始めるしかありません。その結果、同じようなビジネスが競合することになってしまいます。

 

もうひとつは、教育問題です。タンザニアでは小学校は無償ですが、日本の中学高校にあたるセカンダリースクールには富裕層しか通えず、進学できるのは20~30%程度。英語が話せるのも、その若者たちだけです。そのため、一部の富裕層の若者は海外を視野に入れたビジネスができますが、そうでない人々は富裕層に雇われるか、地元の小企業で働くか、実家の農業を手伝うかという選択肢しかありません。また、どこの国もそうですが、算数が弱く計算が苦手です。経済基盤を強化するなら、中間レイヤーの教育を高めていく必要があるでしょう」

 

今後成長が見込める分野、日本企業が進出の可能性がある分野としては、モビリティ、農業、教育、医療が挙げられます。

 

「どの業界にも進出の余地はありますが、中でも将来性があるのはモビリティ。現在は中古車輸入販売業がさかんですが、今後さらに所得が上がれば、車を購入する人はもっと増えるでしょう。すでに割賦払いのビジネスモデルも始まっています。おそらくバイク市場もこれから伸びるでしょうし、自転車にも根強いニーズがあります。人口増加にともない、人の移動やモノの輸送も増えるので、成長産業のひとつと言えるでしょう。

 

タンザニアの主力産業である、農業もまだ伸びしろがあります。現在タンザニアで扱っている品種は、収穫量も品質も優れているとは言えないため、種子や農業資材を扱う事業は可能性を秘めているはず。また、日本が長年支援をしてきたため、一部地域には中規模な稲作農家も存在します。田植えや収穫などの繁忙期にはみんなで声を掛け合って人手を集めますが、同じタイミングに作業が集中するため、時機を逃してしまうことも。中古の田植え機やコンバインなども、導入の余地があります。

 

また、タンザニアは人口増加率も高いため、先ほど話に挙がった教育分野のほか、赤ちゃんに関わる医療のニーズはさらに高まると思われます。かたや都市部では、糖尿病など生活習慣病も増加。タンザニア人は炭水化物を多く食べる習慣があるため、健康管理やスポーツジムのようなヘルス&フィットネス産業もニーズがあるのではないでしょうか」

 

日本企業のタンザニア進出にあたっては、事前の情報収集がカギを握ると三津間さん。タンザニア人はもちろん、すでに現地で事業を行う企業から情報を得ることの重要性を強調します。

現地の関係者と撮影(中央が三津間さん)

 

「タンザニア人は人的ネットワークを大事にするので、物事をはっきり断ったり、表立って反対意見を言ったりすることはあまりありません。そのため、商品やサービスのリサーチを行っても、好意的な反応が返ってくることが多いのです。それを真に受けず、真意を聞き出すために踏み込んだ質問をしたり、彼らに同行してじっくり反応を見たりする必要があります。また、タンザニアで事業を行う日本人もいるので、彼らから苦労した点などをヒアリングするのもいいでしょう。参入前に、多角的に情報収集しておくことが重要です」

 

タンザニアに限らず、その国の商習慣やバックグラウンドを理解する必要があることは、海外でビジネスを行う上で基本中の基本。製品やサービスをローカライズする部分と、あえて変えない部分のバランスを見出すためにも、現地に明るいコンサルタントに相談したり、現地企業などとの橋渡しをしてくれる人材を活用するなど、情報にアクセスできるさまざまな手段を持つことが大事だと言えそうです。

 

また、三津間さんの所感では、ケニアでのトレンドが5年ほど遅れてタンザニアに到来する傾向があるそうです。このような点からも、すでにケニアなどアフリカで進出し、さまざまなノウハウを得ている日本企業などにとって、いまだブルー・オーシャンとも言えるタンザニアへのビジネス参入は、大いなるチャンスと捉えることができるかもしれません。

 

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『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

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混沌を深めるミャンマー経済。ドル高と輸入規制で国中が火の車!

2021年2月のクーデターによる軍事政権の復活、大規模民主化運動、民族・宗教紛争と政治的な混乱が続くミャンマー。日本の岸田文雄首相は東アジアサミットに出席した際、同国の情勢について深刻な憂慮を表明しましたが、ミャンマーの経済はどうなっているのでしょうか? 2022年10月中旬に同国を視察し、異様な景色を目の当たりにした、ミャンマーに詳しいシニアコンサルタントの小山敦史氏(株式会社アイ・シー・ネット)がレポートします。

 

著者紹介

小山敦史氏

通信社で勤務したのち、開発コンサルティング会社に転職。国際開発の仕事を続けながら、アメリカの大学院で熱帯農業を学び、帰国後に沖縄で農業を開始。4年間ほど野菜を生産したのちに畜産業も始め、現在は食肉の加工や販売、市場調査など、幅広く行っている。自身が実践してきたビジネス経験をコンサルティングの仕事でも常に活かしており、現在はバングラデシュで食品安全に関する仕事に取り組んでいる。

 

建設作業が止まったままの高層ビル(撮影/株式会社アイ・シー・ネット)

 

ミャンマーの首都・ヤンゴンの市民生活は、驚くほど静かに営まれていました。実際、街頭での市民の抗議行動や軍の鎮圧活動といったような「騒乱」めいた動きには1週間(10月10日〜16日)の滞在中、一つも遭遇しなかったほど。日中行き交うクルマの数はかつてより減り、夕暮れ時のダウンタウンの街の灯も寂しくなっていましたが、ASEAN(東南アジア諸国連合)でも有数の景色を誇るヤンゴンの緑は、よく手入れされており、美しさを保っています。バス乗り場には、雨季(4月〜10月)の終わりのにわか雨をよけようとするバス待ちの人々が、停留所の小さな屋根の下で身を寄せ合って佇む一方、外資駐在員御用達の高級スーパーの品揃えも意外なほど豊富です。 

 

しかし、街のところどころに、ただならぬ事態が起きていました。建設途中の高層ビルが、完全に作業が止まったまま、足場やクレーンもそのままに、いくつも放置されているのです。「輸入建設資材が入ってこなくなって、にっちもさっちもいかないらしいですよ」と現地の人が解説してくれました。これで何人の建設労働者が職を失ったことでしょう。

 

平穏に見えるヤンゴンの人々ですが、実は台所は火の車。軍事政権の信用失墜にドル高が加わり、ミャンマーの通貨チャットは下落。同国政府は1ドル2100チャット(約138円※)を公定レートとしましたが、市中価格は1ドル2800 チャット(約184円)以上でした。また、ヤンゴン市民によると、米や野菜などの生活物資の価格は、騒乱による作付不能や不作が重なったこともあり、以前に比べて2 倍以上になっているとのこと。

1チャット=約0.066円で換算(2022年11月15日現在)

 

外貨は流出傾向にあります。JETRO ヤンゴン事務所の専門家は、観光収入と出稼ぎ収入が落ち込み、外国直接投資(FDI)や援助も厳しい状況が続いているため、ミャンマーの外貨準備高は相当減少しているはずと見ています。

 

同政府は外貨流出を防ぐために、輸入を露骨に規制し始めました。例えば、原材料を輸入に依存している外資系食品メーカーA社は、これまで経験したことのない「難癖」を当局からつけられ、原材料の輸入が認められなかったと言います。前述の建設途中の高層ビルにまつわる輸入建材の話も同じ文脈で理解できるでしょう。国の台所も火の車なのです。 

 

一方、ミャンマー企業の多くはドル高のデメリットに苦しんでいるようでした。ミャンマーの場合、チャット安で輸入コストが上昇しますが、A社の場合、仮に原材料を輸入できたとしても、支払いはドル決済を迫られる一方、製品の売り上げは国内市場のみ。つまり、稼いだお金は100%チャットです。チャットはドルに転換すると目減りしますが、その分を売価にきっちり転嫁したら、国内での売り上げを大きく減らすことになります。「国産原料に置き換えられないか、真剣に検討を始めました」と同社の社長は話します。3年前にA 社を訪問したとき、国産原材料の可能性は話題にもなりませんでした。

 

このように、ミャンマー経済は苦境に立たされており、一般市民の生活への影響が心配されます。国民の軍事政権への信頼は低いようで、「反国軍の市民感覚はいまだに強いと思う」と、ある日本人駐在員は語っていました。軍の弾圧によって2000人以上の人々が犠牲になっているのだから、それは当然かもしれません。しかし、経済が悪化する中で時間が経てば経つほど、ますます生活が苦しくなるのは、武力も資力もない一般市民にほかなりません。 

 

五里霧中の企業

灯りが少なく、寂しいヤンゴン

 

民間企業に勝機はあるのでしょうか? A社とは逆に、食品メーカーのB社は全て国産の原材料を使い、作った製品の一部を欧州に輸出しています。訪問時、社長はパリの国際展示会に出張中で、部長が対応してくれましたが、業績はそこそこ伸びているとのこと。チャット安の効果(製品を海外に売りやすい)があると思われます。

 

ただし、ミャンマー全体で見た場合、B社のようなビジネスをできる企業は多くはないでしょう。少なくとも3つの問題が挙げられます。まず、一定以上の品質の原材料が適切な価格で国内供給できるか? 次に、それを欧米などの市場で売れる品質の製品に加工できる技術と資金があるか? さらに、国際市場にマーケティングしていけるだけのノウハウや資金があるか? このような問題を自力で解決できるミャンマーの地場企業はまだ限られており、だからこそ、政変前はFDI が一定の役割を果たしていました。しかし、「果たしていました」と過去形で書かざるを得なくなりつつある現状こそが、ミャンマーにとって最も苦しい所です。

 

政変前に訪問した数多くの現地企業では、20 代や30代の若い経営者に何人も出会いました。 彼らは自分たちの夢を早口の英語で語っていましたが、いまはこの難局をどう切り開こうとしているのだろうか——。ミャンマー経済は今まで以上に、日本を含めた外国からの支援が必要なのかもしれません。

 

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ガーナにアグリテックの拠点が誕生! アフリカ全体を巻き込む「timbuktoo」とは!?

 

UNDP(国連開発計画)が主導して進めている「timbuktoo(ティンブクトゥ)」というプロジェクトをご存じでしょうか。これは、さまざまな産業でICTを活用することにより、アフリカ大陸の成長と貧困からの脱却を目指す目的で2021年に発足したイノベーションイニシアチブ。

 

具体的には、アクラ、ナイロビ、ケープタウン、ラゴス、ダカール、キガリ、カサブランカ、カイロなど、スタートアップの拠点なりうるアフリカの都市8ヵ所に、民間主導となるハブ(施設)を設立。ベンチャービルダーやベンチャーファンドへの投資を通して、若手起業家の育成・支援を実施します。各ハブは、フィンテック、ヘルステック、グリーンテック、クリエイティブ、トレードテック、ロジスティック、スマートシティとモビリティ、ツーリズムテックなど、さまざまな分野に特化すると言います。

 

投資される資金は、官民あわせて今後10年間で約10億ドル(約1400億円)。1000社以上のスタートアップの育成や、1億人以上の人々の生活改善、環境改善などを目標に掲げており、投資額の10倍となる100億ドル(約1兆4000億円)以上の経済効果を目指しています。

 

ガーナ・アクラに設置されるハブでは「アグリテック」に注力

そしてこのたび、ガーナのラバディビーチホテルで開催されたイベントで、アグリテックに特化したイノベーションハブを首都アクラに設置することが発表されました。

 

「私たちは雇用を創出する必要があります。そのためには、まず起業家を育てることが重要。DXを活用してイノベーションと雇用創出を実現したい」とガーナ共和国副大統領のMahamudu Bawumia氏は期待を寄せます。

 

一方、UNDPガーナ常駐代表のAngela Lusigi氏もこうコメントしました。

 

「timbuktooは “未来志向のスマートなアフリカ”というUNDPのビジョンに沿った新しいアプローチ。民間と協力し、テクノロジーとイノベーションを活用して駆使して未来を拓くという、大胆で新しい取り組みを誇りに思います」

 

またtimbuktooでは、アフリカの低所得国10カ国にある大学に、学生たちのイノベーションとデザイン思考を促進するための研究施設(UniPods)の設立を予定。2022年末までに運用が開始され、さらに2023年までには18カ国にまで拡大する予定だといいます。

 

官民学が連携することで、ガーナをはじめアフリカのさまざまな国で、ICTによる経済成長を図ろうとしているtimbuktoo。今後、アフリカ地域全体のさらなる成長を促すことが大いに期待されています。

 

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実は日本とも深い繋がりあり! 島しょ国「トンガ」をデータとビジネス視点で紐解く

日本に暮らしていると「トンガ」と聞いても“南太平洋に浮かぶ島国”という認識ぐらいで、あまり具体的なイメージが沸かない人も多いのではないでしょうか。南太平洋に浮かぶ約170の島群からなる国家であるトンガは、過去に一度も植民地化されたことがなく、現在まで王制が残るポリネシアで唯一の国です。

 

データで見るトンガの概況

  • インターネット普及率…59%(2020年) ※1
  • 携帯電話普及率…62.10%(2019年) ※1
  • 一人当たりのGNI…5190ドル(2020年) ※2
  • 総GDP…4.9億ドル(2020年) ※2
  • その他…日付変更線のすぐ西に位置し、経済水域約362,000㎢に大小170余の島々が4つの諸島を構成している ※3
  • 主要言語はトンガ語・英語で、キリスト教徒が大部分を占める ※3
※1 出所:国際電気通信連合(ITU) ※2 出所:外務省 ※3 出所:国際機関 太平洋諸島センター(PIC)

 

トンガの人口は約10万人で面積は20平方キロメートル。これは日本の北海道石狩市や山口県下関市と同じくらいの大きさです。亜熱帯性気候に属し、年間を通じて温暖な地域です。気温は19℃から29℃まで変化しますが、16℃を下回ったり31℃を超えたりすることはめったにありません。年間降雨量は、首都・ヌクアロファのあるトンガタプ島の約1700mmからババウ島の約2790mmまで、ひとつの国のなかでも大きな差があります。

首都であるヌクアロファの夕景

 

海外からの送金が国を支える現実

トンガの産業構成をGDPから紐解くと、農林水産業19.9%、鉱工業11.1%、サービス業69.1%(出典:2013年国連統計)となっています。主要な輸出品はかぼちゃ、魚類、バニラ、カヴァ。輸入品は飲食料、家畜、機械・機器、燃料です。海外からの送金に依存する経済と、近代化による伝統的な生活の変化が顕著になっており、とくに貿易は著しい入超傾向が見られます。

ヌクアロファ市内にある市場

 

※四捨五入の関係上、合計が一致しないことがある。

 

トンガを含む数多くの太平洋島しょ国の人々は、オーストラリアやニュージーランドなどで季節労働者として働いています。彼らが自国に残っている家族に送るお金が、生活を支え、さらには小規模ビジネスの開業資金にもなっているのが現実です。2019年の低・中所得国への送金額は、過去最高の5540億ドルに上り、送金は太平洋島しょ国で暮らす人々にとって重要なものとなっています。

 

なかでもトンガは海外労働者からの送金額が世界で最も多く、2019年の送金総額は対GDP比で約37%に達しました。トンガでは5世帯中、4世帯が海外からの送金を受け取っており、その規模は家計消費の約30%に相当するほどです。

 

そんな中、将来、「観光」が農業および漁業の合計外貨収入額よりも約5倍の外貨を稼ぐ、トンガ最大の産業になると2017年に世界銀行が発表。雇用の面からも労働人口の25%を抱える最大の産業にもなると予測しています。トンガの経済成長を妨げる要因と言われてきた「分散した少ない人口」、「狭い土地」、「世界市場からの隔絶」、「限定された天然資源」といった諸条件が、観光資源としてユニークな売り物にできるというのが大きな理由です。

現地の土産物店

 

中国をはじめとする海外旅行客の積極的な誘致やクルーズ船の誘致、高級リゾートの拡張、先進国の高齢退職者向け長期滞在施設の整備などを積極的に推進することで、2040年までに約100万人の中国人を含む約370万人の観光客を呼び込むことを目標としてきました。ただ、新型コロナウイルスの世界的流行や、2022年1月のフンガ・トンガ噴火により、その先行きは不透明となっています。

 

トンガと日本の交流は30年以上

トンガと日本との関係は30年以上に渡ります。2015年には現在の天皇陛下ご夫妻がトンガへ訪問し、トゥポウ6世国王の戴冠式に参列されました。日本からのODAによる援助は、2016年6月時点で、トンガの近隣国であるオーストラリア、ニュージーランドに続き第3位。無償の資金協力や技術協力など、日本とトンガの関わりは深いものとなっています。

 

●我が国の対トンガ援助形態実績(年度別)単位:億円

年度 円借款 無償資金協力 技術協力
2015年度 17.37 2.15
2016年度 15.94 3.52
2017年度 24.80 2.31
2018年度 29.14 2.34
2019年度 0.62 1.73
(出所)外務省国際協力局編「政府開発援助(ODA) 国別データ集 2020」 ※1. 年度の区分及び金額は原則、円借款及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力は予算年度の経費実績ベースによる。※ 2. 四捨五入の関係上、合計が一致しないことがある。

 

トンガではかぼちゃの栽培が盛んですが、これには日本が大きく関係しています。トンガで収穫されるかぼちゃは、日本の種を使って作られ、そのほとんどが日本に輸出されてきました。トンガ産かぼちゃは毎年10月から11月に出荷され、日本ではかぼちゃが採れない冬から春にかけて市場に出回ります。トンガの人々がかぼちゃを作るのは、他の換金作物を作るより短期間で収穫でき、キロ当たりの値段がいいからです。

 

しかし、かぼちゃも津波やサイクロンといった自然災害があっては出荷できません。そこでJICAは、環境・気候変動対策や防災事業を重点分野とし、島嶼型地域循環型社会の形成、再生可能エネルギーの導入促進、観測・予警報能力の強化などを支援しているのです。

 

年々拡大するトンガでのODA事業

日本がトンガに対して行っている無償資金協力や技術協力などの協力金額は年々増加傾向にあります。その理由は、大洋州地域の持続可能な発展を確保することは、日本と大洋州島しょ国の関係強化に資するだけでなく、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を支え、地域環境の維持・促進にもつながると考えているからです。また、コロナ禍の影響により、各国で保健システムの脆弱性が改めて認識され、協力ニーズが高まっています。

 

このように重要性を増しているトンガへのODAの実情について、明治時代から南洋州との貿易を行ってきた老舗の商社・南洋貿易株式会社の常務取締役・太宰雅一氏にお話を伺いました。

太宰雅一さん●南洋貿易株式会社・常務取締役。1992年入社。2004年から現在までの約20年近くの間、トンガでのODA事業を担当し、現在は全国早期警報システム導入案件を統括している。トンガへの訪問歴も多数。

 

同社は1977年にトンガでのODA事業の受託を開始し、現在に至ります。太宰さんは2004年から現在まで長年トンガでのODA事業を担当してきました。

 

「弊社のトンガでのODA事業のきっかけとなったのは、水産研究センターの建築事業でした。過去には醤油やビールといった食料品や車両も輸出していましたが、市場規模の小ささや輸送コストの面など、さまざまな要因から中断し、いまはODA関連事業が主体になっています。弊社のODA事業は2010年以降には年間平均5〜6億円規模に拡大し、会社全体の売上の1割を占めるほどになりました」

 

同社は、文化・教育・エネルギーといったインフラ事業だけでなく、建設機材や海水淡水化装置の販売なども手掛けてきました。なかでも、トンガ唯一の高度医療サービス機関であるヴァイオラ病院の建設では2004年から2013年まで3期に渡って、医療機材を含めた設備拡充などで関わっています。そんな太宰氏が、トンガでのビジネスチャンスは「インフラ」にあると言います。

ヴァイオラ病院の施工風景

 

ヴァイオラ病院はトンガにおける高度医療サービスの中核的存在

 

「大洋州の新規ビジネスといえば、パラオの国際空港が挙げられます。こちらは空港利用税で運営されていますが、トンガなら空港会社を作るのもひとつの選択肢かもしれません。また、離島が多いトンガなら、客船ビジネスもありえるでしょう。市場規模が小さなトンガは物の売買だと大きなビジネスが成立しにくいですが、インフラサービスであれば可能性を感じています」

 

また、南洋貿易ではこれまでODA事業として、トンガにおける防災事業にも関わっています。たとえば、津波発生リスクの高いトンガにおいて、防災無線システムや音響警報システム、トンガ放送局の機材・施設の整備を行うことで、防災体制の強化を図るといった事業です。ほかにも一般財団法人 日本国際協力システム(JICS)の「トンガ王国向け防災機材ノン・プロジェクト無償 (FY 2014)」では、2019年に日本の優れた防災機材を自然災害に弱いトンガ王国へ調達しています。

 

「弊社は貿易商社なので“物を動かす”事業が主体です。ただ、インフラ投資には興味があって、これまでのODA事業で培ったノウハウを生かして、防災に強い国である日本の技術を持っていくというのも選択肢の一つかなと思っています」

 

SDGs関連事業やフェアトレードに商機が!?

トンガは石油燃料に大きく依存しており、原油価格の変動に対して非常に脆弱です。電力生成のために約1300万リットルのディーゼル燃料が消費されており、そのコストは同国国内総生産の約10%及び輸入総額の約15%にまで及んでいます。そこでトンガでは、化石燃料を燃焼させる既存の発電方法を、環境に優しく信頼性の高い、より持続可能な発電方法へ移行していくことを目的に、2030年までに再生可能エネルギーを50%にするという目標を掲げました。再生可能エネルギーの導入比率は年々高くなっており、実際に南洋貿易もODA事業で太陽光発電所、風力発電所の建築を手掛けたそうです。

ODA事業として建設された風車と電気室

 

ODAにより風力発電施設をはじめとする再生可能エネルギー設備の導入が進められている

 

「トンガの電力会社であるトンガパワーリミテッドは、メンテナンス体制がしっかりした政府100%所有の公社。再生可能エネルギーを導入しようとすると、基本となる電力の供給が安定している必要があるので、既存の発電設備がしっかりしているのは大きな強みでしょう。国を挙げて再エネ事業を推進しているので、ODAだけでなく、独立系発電事業などにも新規参入のチャンスがありそうです」

 

また昨今、途上国との貿易でキーワードにもなっているフェアトレードについても太宰さんは言及。トンガでの可能性については、日本にフェアトレードという考えがなかなか根付いていないことなどから、ビジネスとして成立しにくいと言います。

 

「弊社では、キリバス共和国のクリスマスの島の海洋深層水を汲み上げ、天日干しして作った塩を輸入販売しています。コスト面でいえば、おそらく世界一高い塩です。輸送コストを考えると、フェアトレードとはいえ、このようによほど高付加価値のある商材でないと日本に輸入するのは難しいのが現状です。例えばトンガに高品質のココナッツがあったとしても、インドネシアやフィリピンから輸入したほうが安いため、日本の商社はそちらに流れてしまいます。まずは、生産国と消費国が対等な立場で行うフェアトレードに対する重要性など、日本国内の意識を変える必要があると感じています」

 

20年近く現地のODA事業に関わってきた太宰氏から見たトンガは、市場規模が小さいことや、輸送コストがかかりすぎる点など、ビジネスとして成立させるには課題が多いと言います。しかし、日本からはるか8000km離れたこの国には、新たなビジネスが誕生する可能性に満ち溢れています。

 

トンガには、他の開発途上国と同様、解決すべき社会課題が多く存在します。例えば、気候変動や自然災害に対して脆弱性、生活習慣病のリスク低減など健康課題への解決策などが挙げられますが、これらすべての課題は、新しいビジネスの種となります。とりわけ、SDGsの目標③「すべての人に健康と福祉を」、目標⑦「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」といった側面を意識したビジネスなどには、チャンスがあると言えそうです。

 

一方、気候変動をはじめとする課題は、世界が国際協調により取り組むべき国際的な社会課題。課題解決のための援助機関の協力金額は増加傾向にあり、ODAとしても伸びしろがあります。日本には、これらの分野における課題を解決できる魅力的な技術やノウハウを持った民間企業が多く存在しています。ビジネスを展開する舞台として、市場規模が大きい国や地域に目が向けられがちですが、南洋貿易のように現地での知識・経験が豊富な企業と協業することで、社会的なインパクトの大きい新たなビジネスを生み出せる可能性があるのではないでしょうか。

 

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読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

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コロナ禍でも日本は世界3位! 日本が20兆を注ぐ「FDI」、アジア向けは過去最高額に到達

【掲載日】2022年7月29日

2022年6月、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)が、世界の投資に関する動向を調べた「World Investment Report 2022」を公開しました。アジアのレジリエンス(回復力)が特筆されています。

アジアのレジリエンスに世界の投資家が期待

 

途上国への海外直接投資(FDI※)は緩やかに増加しています。2019年から2020年にかけては新型コロナウイルスのパンデミックにより世界各国で投資が減退しましたが、2021年は復調の兆しが見られました。なかでも大きく注目されるのは、3年連続でFDIが増加したアジア。2021年のアジア全体に対するFDIは6190億ドル(約83兆円*)で、過去最高を記録しています。

※海外直接投資とは…海外で経営参加や技術提携を目的に行う投資のこと。現地法人の設立や外国法人への資本参加、不動産取得などを通じて行う。当該国では雇用の創出、技術移転などが期待できることから、特に開発途上国などで積極的な受け入れを行っている。英語表記はForeign Direct Investmentを略してFDIと称される。

*1ドル=約134.5円で換算(2022年7月29日現在。以下同様)

 

アジアの中でFDIが最も多く増加したエリアは東南アジア。その増加率は驚異の44%と、アジアのみならず世界のFDIを牽引するエンジンとなりました。例えば、この地域では、マレーシアが半導体分野で世界中から投資を受けています。

 

東南アジア以外のエリアに目を向けると、インドが注目されるでしょう。2021年のFDIは対前年比でマイナスであったものの、国際的なプロジェクトの投資契約は例年をはるかに上回るペースで増加。最近では日本製鉄やスズキ自動車などの大手日本企業がインドへの投資を発表しています。

 

アジア諸国へのFDIの増加の背景には、SDGs(持続可能な開発目標)があります。途上国では、全体的にSDGsに関連する分野への海外からの民間投資が2021年に70%増加。なかでも再生可能エネルギーと教育分野では、パンデミック前と比較して、前者への投資が2%、後者では17%増えました。2022年でもこの傾向は続いている模様で、先述したスズキはインドで電気自動車の工場を新設するために、約3500億円を投資しています。一方、教育分野におけるプロジェクト数は2019年の37件から2021年には60件に増えました。

 

このように、アジアの途上国は、コロナ禍のような状況下においても、安定した投資を世界中から受けており、回復力の高さを示しています。また、上述のインドにおける事例が示唆しているように、日本は2021年の海外直接投資額ランキングで前年の5位(投資額は960億ドル〔約13兆円〕)から3位(1470億ドル〔約20兆円〕)に順位を上げました。2019年は1位(2270億ドル〔約30兆円〕)で、コロナ禍で著しく減少したものの、再び増加に転じました。FDIがアジアを中心に立ち直る中、日本も盛り返しつつあります。

 

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資本投資が168%増加! 勢いづくエジプトの「デジタル人材育成」

【掲載日】2022年5月23日

エジプト発のスタートアップ企業の台頭が際立ってきました。エジプトはデジタル人材の育成を国家的に強化しており、中東・アフリカ地域におけるエコシステムの勢力図を塗り替えそうな模様です。

中東・アフリカ地域のデジタル勢力争いに加わったエジプト

 

スタートアップ・エコシステムに関する政策の助言や調査を行うStartup Genomeが2021年に発表したレポートによれば、2020年度におけるエジプトのスタートアップ企業に対する投資額が前年度比で30%増加し、そのうちの約3割は海外からの投資でした。また、途上国のスタートアップ企業に関するデータを提供するMAGNiTTは、同国のエコシステムへの資本投資が2021年に前年比で168%増加し、5億万ドル(約645億円※)に近づいたと報告。これらはエジプトが持つ可能性の高さを如実に表しています。

※1ドル=約129円で換算(2022年5月16日現在)

 

エジプトは2016年に、経済やエネルギーなど幅広い分野を包括した国家戦略「ビジョン2030」を発表しました。この中で同国は2030年に実質GDPの成長率を発表時の前年比で12%増を目指すなど、野心的な目標を掲げましたが、その実現に向けた施策の中で特に注力しているのがデジタル化の振興。そこで不可欠になる人材育成にエジプトは国家レベルで取り組んでいます。

 

例えば、エジプトの通信情報技術省は、オンライン教育を提供する米国のUdacityと組み、デジタル技術を無償で学べる「Future Work is Digital(FWD)」と呼ばれるイニシアティブを2020年に開始。これは18か月間のプログラムで、学生は専門家による実践的なプロジェクトやウェビナーを受講できるうえ、メンターによるサポートや卒業時の就業サポートなどを受けることが可能。20万人以上の若者のITスキル向上を目指しており、ここでフリーランスとして活躍できる知識や技術、能力を身に着けることができた若者はすでに約7万3000人に上るとのこと。

 

また、国内企業のみならず海外企業のアウトソーシングに対応する人材の育成も包括しているFWDでは、情報技術産業開発局の支援により、学生を含めた1万人の若者に英語・フランス語・ドイツ語を教えるプログラムも2021年末からスタート。つまり、エジプトはデジタル業界を中心としたグローバル人材の育成において手厚いサポートを実施しているのです。

 

このような「デジタル・エジプト」の取り組みは、すでに海外で評価され始めています。米国の経営コンサルティング企業のA.T.カーニーが発行する2021年版グローバルサービス拠点インデックス(GSLI)では、中東・アフリカ地域からエジプトだけが上位20位にランクイン。同国の世界経済全体に与えるインパクトが、これから強まっていくと見られています。

 

アフリカにおけるスタートアップ企業の発展は、これまでナイジェリアやケニア、南アフリカで顕著でしたが、現在ではそこにエジプトが加わっています。デジタル戦略を推進する同国は勢いづいており、日本企業が中東・アフリカ地域への進出を検討する際にも、エジプトの人材は貴重な戦力になるかもしれません。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

【100円からはじめる! スマホ投資超入門】4つの投資スタイルで選ぶ 最適解

今回は、初心者が知っておくべき4種類の投資方法をピックアップ。目的や資産状況に応じ、最適な投資スタイルを選ぼう。これらは併用も可能なので、資産に余裕がある人は複数チャレンジしてみるのも良いだろう。

 

【前回の記事はコチラ

 

目的別・オススメの投資スタイル

【タイプA】
ライフステージの変化を見越して資産を増やしたい

→ つみたてNISAがオススメ!

年間40万円まで積立可能で運用益は20年間非課税に!

「つみたてNISA」は、年間の投資上限額が40万円と低めだが、運用益は20年間非課税になる。対象商品は金融庁の基準を満たした投資信託のみなので、少額を長期間積立したい人、分散投資でリスクを抑えたい人向けだ。資金は必要になったタイミングでいつでも引き出せる。

 

【タイプB】
節税対策や老後のため確実な資産作りをしたい

→ iDeCoがオススメ!

掛金全額が所得控除の対象! 資産の引き出しは原則60歳から

「iDeCo(個人型確定拠出年金)」は、公的年金に加え、老後資金を補うために任意で加入できる私的年金制度。掛金は毎月5000円以上、引き出しは原則60歳以降という規定があるが、全額が所得控除の対象に。つみたてNISAは所得控除の対象外のため、節税対策ならiDeCoが最適だ。

 

【タイプC】
貯めたポイントを使ってリスクなく運用したい

→ ポイント投資がオススメ!

手持ちのポイントを現金化し投資信託などの売買に利用できる!

一部の証券会社では、日常の買い物などで貯めたポイントを現金化し、投資信託や株式などの購入に利用できる。最大のメリットは、自己資金がマイナスになるリスクを負わずに、投資を実践できること。現金を使った本格的な投資の“プレ投資”として利用している人も多い。

 

【タイプD】
つみたてNISAやiDeCoに加えてもっと運用したい

→ ロボアドバイザーがオススメ!

運用益に税金はかかるがファンド購入も調整もAIが代行!

「ロボアドバイザー」は、AIが各ユーザーに適した投資先を提案。投資一任型のロボアドであれば、投資先の選択、売買、リバランスまですべてAIに任せられる。手軽な反面、運用益は課税対象なので注意。つみたてNISAやiDeCoを利用したうえで余剰資金がある人にオススメだ。

 

タイプAの人につみたてNISAをオススメするワケ

【その1】
通常、運用益にかかる約20%の税金が非課税になる!

特定・一般口座で投資信託などを購入した場合、運用益には約20%の税金がかかるが、つみたてNISA口座なら非課税投資枠が最大800万円(年間上限額40万円×20年間)。ただし、その年の投資額が40万円以下でも、未使用枠は翌年以降に繰り越しできない。

 

【その2】
最長20年間の積立で、普通預金では得られない多額の“運用益”に期待できる

投資信託も株と同様、購入時より基準価額が上がったタイミングで売却すると利益が得られる。もちろん元本割れのリスクもあるが、つみたてNISAの対象商品は長期の分散投資に適した投資信託のみ。右図のように、長期間運用するほど資産アップが見込めるため、早めにはじめるのが得策だ。

 

【その3】
一般NISAよりも“少額コツコツ”投資に向いている!

NISA制度には「一般NISA」と「つみたてNISA」があり、個人でこれらの併用は不可。一般NISAはつみたてNISAに比べ、対象商品数が多く、上限額一括でも定額でも購入できるなど自由度が高い。一方で非課税期間は5年と短いため、少額からはじめたい人はつみたてNISAを選ぼう。

 

※1:元々、一般NISAは2023年まで、つみたてNISAは2037年までだったが、法改正により5年の期間延長となる見込み

数年以内に使う予定の資金なら定額預金がベター

繰り返しになるが、つみたてNISAは長期間の運用で利益が出やすい投資スタイル。運用当初は元本割れのリスクも上がるため、短期で引き出す予定なら、定額預金のほうが確実に貯蓄でき安心だ。

 

一般NISAは2024年以降、制度内容が変更予定

NISAは今後法改正が予定されており、一般NISAにおいては2024年以降の制度内容が現時点で未確定。いまNISA口座を開設するなら、つみたてNISAのほうが間違いないだろう。

 

つみたてNISA口座の比較ポイントはココ!

つみたてNISAは多くの金融機関で利用可能。どこも販売手数料は無料(ノーロード)なので、違いは以下をチェックしよう。

①取扱商品数

金融庁が公表しているつみたてNISAの対象商品は、投資信託・ETF(上場投資信託)を併せて193本(2020年12月23日時点)。このうち、取扱商品数が特に多いのは下記の5社だ。商品数が多いと投資の幅がグッと広がるが、少ないほうが使いやすいと感じる人もいるため、好みで選ぼう。

 

取扱商品数 BEST5〉

1位 SBI証券 172本

1位 楽天証券 172本

3位 松井証券 168本

4位 auカブコム証券 157本

5位 マネックス証券 151本

●2021年2月22日時点

 

②最低積立金額

つみたてNISAの最低購入金額は、金融機関ごとに異なる。多くは「月1000円以上/1000円単位」だが、なかには「月100円以上/1円単位」の機関も。つみたてNISAの投資上限額は年間40万円なので、「月100円以上/1円単位」の機関では、月3万3333円まで購入できる。

 

〈100円から積立可能な機関〉

SBI証券

楽天証券

松井証券

マネックス証券

auカブコム証券

大和証券

など

 

③ポイント還元率

つみたてNISA口座での積立額や購入額に応じ、ポイント還元を導入している金融機関もある。なかでも高還元率なのが楽天証券。他社の還元率が0.01〜0.1%程度なのに対し、同社は楽天カードで決済するだけで1%還元に。貯めたポイントの使い道が多いのも大きなメリットだ。

 

〈高還元率 断トツ1位〉

楽天証券:買付金額の1%ぶん

楽天カードでの購入で、100円につき楽天ポイントを1%還元。さらに、楽天銀行口座と連携し「楽天銀行ハッピープログラム」に登録すると、残高10万円ごとに毎月4Pが付与され、楽天銀行の普通預金金利も0.1%にアップ!

 

タイプBの人にiDeCoをオススメするワケ

【その1】
資産の受け取りは原則60歳以降で手厚い税制優遇が魅力!

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、任意で加入できる年金制度で、掛金+運用益は60歳以降に受け取れる。運用益は全額非課税。一時金として受け取る場合は「退職所得控除」が、分割で受け取る場合は「公的年金等控除」が適用される。

 

【その2】
掛金は全額が所得控除に!

iDeCoは掛金が全額所得控除の対象なので、受け取り時の税制優遇だけでなく、運用期間中の所得税と住民税の負担も軽減できる。所得税率は課税所得によって異なるため、課税所得が多い人ほどメリットが大きい。なお、掛金の上限は職業や被保険者種別によって異なる。

 

 

【Pick Up!】

SBI証券

SBI証券ではiDeCo利用者サイトを用意し、スマホにも対応。商品ラインナップの異なる2つのコースから選べるが、注目は「セレクトプラン」。信託報酬が国内最安のインデックス投信から、好成績で人気のアクティブ投信まで揃っている。

 

タイプCの人にポイント投資をオススメするワケ

【その1】
貯めたポイントを有効活用! 資金投資の練習にもなる

例えば楽天証券では楽天ポイント、SBI証券ではTポイントを利用可能。なお、ポイント投資には証券口座の開設が不要な「ポイント運用」もある。これは現金化できず、株や投資信託の値動きに連動してポイントが増減する。

 

ポイント投資でも場合により確定申告が必要!

ポイント運用の場合は一時所得扱いとなり、基本税金はかからない。一方、ポイントを現金化して運用する場合は、分離課税の対象になる可能性が高い。

 

【その2】
商品購入金額の一部をポイント支払いにできる!

ポイントを投資に利用する場合、楽天証券やSBI証券では1P=1円相当となる。購入金額の一部に利用でき、使用するポイント数も自分で指定できる。証券会社によって、ポイントを使える取引は異なるので事前に確認しておこう。

↑楽天証券でのポイント投資のイメージ。購入画面で使うポイント数を入力すると、購入代金に設定ぶんが充当される

 

【Pick Up!】

楽天証券

楽天証券は楽天ポイント、楽天証券ポイントをつみたてNISAをはじめ投資信託の購入にも利用可能。ポイント利用の設定をすれば、1P単位で購入金額の一部または全額に充当できる(※2)。ポイントでの投資信託購入でSPUも+1倍に(※3)。

※2:投資信託の申込単位は各銘柄の最小申込単位に準じる
※3:500円ぶん以上のポイント投資(投資信託)と、「楽天ポイントコース」の設定が条件

 

タイプDの人にロボアドバイザーをオススメするワケ

【その1】
運用益に税金はかかるが商品選びから売買まで一任できる!

ロボアドバイザーには「投資アドバイス型」と「投資一任型」があり、一任型の場合は運用をすべてAIに任せられる。1万円、10万円といった少額からはじめられ、投資信託の購入手数料や為替手数料がかからず、運用コストは低めだ。

 

●投資一任型
証券会社とユーザーが投資一任契約を締結。投資商品の購入から運用、定期的な資産配分の調整(リバランス)まで、すべてAIが代行する。

●投資アドバイス型
AIが各ユーザーに最適な資産配分などを、無料で提案してくれる。AIはアドバイスするのみで、購入・運用などはユーザー自身が行う。

 

【その2】
掛金の上限額がなく、すぐに引き出せる

ロボアドバイザーは長期運用に適した投資方法だが、いつでも引き出せるのが便利。つみたてNISAやiDeCoと異なり、掛金に上限額もない。対象商品には株式なども含まれるが、株式投資よりは運用コストがかかるので注意しよう。

 

【Pick Up!】

WealthNavi

預かり資産・運用者数No.1の投資一任型ロボアドバイザー。専用口座は10万円から投資をはじめられ、その後は毎月1万円から積立投資が可能。SBI証券など、様々な金融機関などにもサービスを提供している。2021年2月よりNISAに対応した。

 

スマホから利用しやすい主要7社をピックアップ
証券会社を決めて口座を開設しよう!

投資をはじめるには、証券口座の開設が必須だ。ここで紹介する7社は、スマホの専用サイトやアプリで口座開設が可能。それぞれつみたてNISA、iDeCo、ポイント投資、ロボアドバイザーへの対応の有無もまとめた。

※銘柄数は2021年2月22日時点

 

口座開設前に、取扱商品数とスマホでの使い勝手を要確認

様々な証券会社があり、どこを選んだら良いか迷う人も多いだろう。一般的には、取扱商品数が多いほどユーザーに最適な運用がしやすいといわれる。一方で、自己判断での商品選びが難しい初心者には、ある程度厳選された商品から選ぶほうが安心できる場合もある。

 

例えば、下記7社のなかで最も新興のtsumiki証券は、投信積立に注力し、商品数は4本に限定している。一見少なすぎるように思えるが、この4本はつみたてNISAの対象で、金融庁が長期運用向きと判断した信頼のおける商品。公式サイトに各商品の特徴もまとめられているので、商品選びが面倒な人にはピッタリだ。

 

ほかにも、スマホ専用サイトやアプリの有無、そしてその使い勝手はあらかじめチェックしておこう。つみたてNISAを含む投信積立やロボアドバイザーは、口座開設から商品購入、資産状況の確認まで、運用がスマホで完結することがほとんど。年金制度であるiDeCoも、加入こそ書面での申し込みが必要な場合が多いが、運用自体はスマホで管理できるように整備されつつある。

 

①アプリで積立可能で使い勝手は文句なし!Tポイントも貯まる

SBI証券

ブラウザ/アプリ対応

【つみたてNISA】
投信積立に特化した「かんたん積立アプリ」を利用し、つみたてNISAの購入・運用が可能。対象商品は172本と最多で100円から購入でき、Tポイントが貯まる。

【iDeCo】
iDeCo加入には資料請求が必要だが、運用はスマホで行える。低コスト・好成績の36本が揃う「セレクトプラン」がオススメ。「SBI-iDeCoロボ」も商品選びに役立つ。

【ポイント投資】
投資信託の購入額の一部または全部に、Tポイントを充当できる。最低購入額は100円だが、ポイント利用は1Pから可能で、1P=1円ぶんとして現金化できる。

【ロボアドバイザー】
投資一任型の「WealthNavi for SBI証券」を提供。最低投資額10万円から利用できる。2016年1月〜2020年12月の運用実績は+15.6〜34.5%(円建て/手数料除く)。

 

②積立額の1%をポイントバック! 取扱商品も豊富

楽天証券

ブラウザのみ対応

【つみたてNISA】
つみたてNISAの対象商品は172本と最多。100円から積立でき、楽天ポイントも充当可能だ。楽天カード決済なら1%のポイント還元が受けられ、断然おトク。

【iDeCo】
2021年1月31日より、iDeCoの加入申し込み、移換手続きがウェブで可能になった。低コスト・好実績の投資信託を中心に32本という幅広い商品をラインナップ。

【ポイント投資】
投資信託の購入額に、楽天ポイントが使える。ポイント投資の利用で、楽天グループのポイントアップ制度・SPU(スーパーポイントアッププログラム)が+1倍に。

【ロボアドバイザー】
投資一任型の「楽ラップ」を提供。2020年3月から最低投資額が10万円から1万円に変更された。リスク許容度に合わせ9つのコースから選択でき、お任せ運用が可能。

 

③つみたてNISAはアプリで購入可能! ロボアドも充実

松井証券

アプリのみ対応

【つみたてNISA】
投資信託の取引ができる「投信アプリ」は、つみたてNISAに対応。アプリ上で商品購入、保有銘柄の解約が可能だ。取扱商品は168本で、100円から購入できる。

【iDeCo】
iDeCoの申し込みには書類手続きが必要だが、運用状況の確認は「投信アプリ」で可能。保有する投信全体・商品別の運用残高や評価損益などを確認できる。

【ポイント投資】
「MATSUI SECURITIES CARD」の利用や、投資信託の運用残高に応じ、松井証券ポイント(※)が貯まる。ポイント投資可能な商品は3本で、毎月の自動積立設定が可能。

※松井証券ポイントはポイント投資以外に、Amazonギフト券や3000種類以上の商品と交換することも可能

【ロボアドバイザー
3つの投資アドバイス型ロボアドバイザーを用意。投資プランの提案なら「投信工房」、新規購入なら「投信提案ロボ」、保有銘柄の見直しなら「投信見直しロボ」。

 

④様々なタイプのロボアドバイザーが投資をサポート!

マネックス証券

ブラウザ/アプリ対応

【つみたてNISA】
取扱商品は151本で、月100円から購入できる。個々に合わせた資産設計のアドバイスツール「MONEX VISION」も利用可能。運用資金に応じ、マネックスポイントが貯まる。

【iDeCo】
iDeCo加入には資料請求が必要だが、運用はスマホ専用サイトでも可能。取扱商品は27本で、iDeCo専用ロボアドバイザーが最適なプランを提案してくれる。

【ロボアドバイザー】
2つのロボアドバイザーを用意。ひとつは投資アドバイス型の「マネックスアドバイザー」、もうひとつは2020年にリニューアルした投資一任型の「ON COMPASS」。

 

⑤キャリア系列ならでは!アプリひとつでiDeCoを利用可能

auカブコム証券

ブラウザ/アプリ対応

【つみたてNISA】
つみたてNISAの取扱商品は155本で、月100円から積立可能。色彩心理学に基づいて最適な商品を提案する「FUND DRESS」というツールがユニークだ。

【iDeCo】
アプリ「カブコムのiDeCo」ひとつで、加入手続きから資産管理まで完了。対象の27本から購入でき、運用残高に応じてPontaポイントが貯まるのもうれしい。

【ポイント投資】
2020年9月よりサービス開始。投資信託の購入代金の一部または全部に、Pontaポイントを1P=1円ぶんとして利用できる。事前にau IDへの登録が必要(※)。

※auスマホユーザー以外も登録可能

【ロボアドバイザー】
●信用取引に特化したアドバイス型サービス「信用ロボアド」のみ提供

 

⑥初心者向けのコンテンツが充実しサポート体制が万全

●「つみたてサービス」トップ画面

大和証券

ブラウザのみ対応

【つみたてNISA】
つみたてNISAは厳選された商品を少額から購入でき、「つみたてサービス」で保有銘柄を一括管理できる。「SODATTE」など初心者向けコンテンツも充実。

【iDeCo】
対象商品22本のなかから自由に組み合わせ可能。運用内容の指示は、専用サイトで行える。税制メリットシミュレーションや投資スタイルナビなども利用可能だ。

【ロボアドバイザー】
最低投資額1万円、月1万円から積立可能な「ダイワファンドラップ オンライン」を用意。日本の投資一任サービスのパイオニアとして、安定の運用実績を誇る。

 

⑦積立投資がメイン! 商品を4本に厳選し投資の複雑さを解消

tsumiki証券

ブラウザ/アプリ対応

【つみたてNISA】
丸井グループが運営し、利用にはエポスカードが必要。取扱商品はつみたてNISA対象の4本のみと選びやすく、月3000円から積立可能だ。エポスポイントも貯まる。

【ポイント投資】
100エポスポイントから投資が可能で、取扱商品はつみたてNISAと同じ。ポイントを利用して好きなタイミングで投資信託が購入でき、現金として引き出しもできる。

 

もっとラクする利用のコツ

【その1】
系列のネット銀行と連携して自動スイープ機能を使おう!

自動スイープ機能とは「自動入出金」のことで、自分で資金を移す手間が不要になる。系列の銀行口座があれば無料で設定でき、手数料も無料。下記の証券会社では、SBI証券、楽天証券、auカブコム証券、大和証券で利用可能だ。

 

【その2】
つみたてNISAとiDeCoにもロボアドバイザーを活用できる!

ロボアドバイザーのうち、資産配分などの提案をする「投資アドバイス型」は無料で利用可能。つみたてNISAやiDeCoに対応したサービスもあるので、どの商品を購入したら良いか迷ったときは、参考にしてみるのもオススメだ。

【100円からはじめる! スマホ投資超入門】はじめる前に知っておくべき! 投資のキホンのキ

最近はスマホ上でも口座開設や取引ができるようになり、投資はより身近な存在となってきた。ここでは、「投資の専門知識がない」「少額からはじめたい」という初心者でも利用しやすい、資産運用の方法を紹介する。

 

【私が解説します!】

ファンドアナリスト・篠田尚子さん
ファンド分析のスペシャリスト。現在は楽天証券経済研究所に所属する。様々なメディアで活躍し、著書・監修書も多数。

 

資産運用の手はじめは一定額の長期積立が最適

先行きの見えない未曾有の事態に、経済的な不安から資産運用に興味を持つ人が増えている。しかし、いまの経済状況で投資をはじめて良いのだろうか。ファンドアナリストの篠田尚子さんに聞いた。

 

「結論から言うと『金融マーケットの動向は気にしなくてOK』です。確かにいまは相場が不安定ですが、今後さらに落ちるのか、はたまたV字回復するのかは誰にもわかりません。先の相場は常に読めないので、自分のタイミングではじめましょう。ただし、この1年で収入が減った人は無理せず、まずはいまの生活を優先してください。資産運用は、月収の3〜6か月ぶんを確保したうえで余剰資金がある人に推奨しています」

さらに、投資初心者にオススメの運用方法も教えてもらった。

 

「少額から分散投資が可能な『投資信託』は、リスクを抑えつつプロに運用を任せられるので初心者向け。特に、国の非課税制度である『つみたてNISA』口座などで投信積立をすれば、節税効果も見込めます。このように、一定額を継続購入(積立)する方式の投資は、『ドルコスト平均法』とも呼ばれます。これは市場価値が高いときは少なく、安いときは多く購入し、平均購入単価を下げて運用益を上げやすくする手法のこと。つまり、長期間運用するほど、メリットが大きいといえます。

将来必要になる生活費を確保して、老後を安心して迎えるためにも、投信積立は早めのスタートが吉。スマホの普及・規制緩和に伴い、スマホで口座開設、運用ができる証券会社も増えました。導入ハードルが下がり、初心者でも利用しやすくなっています」

 

証券口座の新規開設数は投資初心者&若年層の比率が増加!

楽天証券が発表した「2016年と2020年の口座開設者の属性」によると、30代以下の若年層比率が5割から6.5割に、投資初心者比率が6割から7割に増加。つみたてNISAの口座数も2020年12月末時点で前年同時期比122.6%となり、新型コロナの流行以降、資産形成への意識の高まりが伺える。

 

はじめる前に知っておくべき! 投資のキホンのキ

Q.株式投資と投資信託は何が違う?

A.株式投資はひとつの銘柄を自分で運用、投資信託は複数の銘柄をプロが運用

株式投資は、銘柄の選択から売買まで本人が行うため、自分の裁量で運用したい人向き。一方、投資信託はプロが選んだ複数の銘柄が一商品(ファンド)となり、少額の分散投資が可能となる。運用もプロが行うため、投資初心者にオススメだ。

 

Q.投信積立って何?

A.投資信託を毎月一定額積み立てる投資方法

投信積立は、はじめに購入するファンドと月々の購入金額を決めた後、毎月自動で積立を行う。値動きに捉われず、投資にかける時間を最小限に抑えられるのがメリットだ。購入金額は100円、1000円など少額から設定できる。

 

Q.投資をはじめる前に準備するモノはある?

A.銀行や証券会社で証券口座の開設が必要

株、投資信託、FXなど投資方法にかかわらず、取引に使う証券口座の開設が必要。証券口座を開設する際は、マイナンバーの届出が義務付けられている。「つみたてNISA」や「iDeCo」を利用する場合、総合口座に加え、専用口座も開設する。