世界首位奪還はどうなる?日本トップチーム「東海大学ソーラーカーチーム」の次戦に向けた戦い

全世界20カ国以上が参加した2023年の「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」から1年が経ちました。この世界最高峰に位置付けられる大会で、“総合5位”と“デイビット・ヒューチャック賞”を受賞した東海大学ソーラーカーチームは、すでに2025年のBWSCに向けて準備を進めています。

 

2024年8月に秋田県で行われた「World Green Challenge (以下、WGC)」では、首位を守りきり見事、総合優勝を果たしました。振り返って「学生たちだけで次に何をすべきか、どう動くべきか役割を意識して自律的に動けていた」と評価するのは、佐川耕平総監督。今回は、新車の設計まっただ中にある東海大学ソーラーカーチームのみなさんに、残り1年を切ったBWSCへ懸ける思いを伺います。

 

BWSCから1年。本当にあっという間だった

オーストラリアを縦断するBWSCの2023年大会にて。

 

オーストラリアの大地を約5日間かけて太陽の力だけで走り切るBWSCは、2年に一度開催されている世界最大級のソーラーカーレースです。4年ぶりに開催された23年大会では、気象変化やトラブルを乗り越え見事総合5位で完走しています。

 

BWSC(ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ)2023で東海大学が得た“日本トップで完走”以上の戦果とは?

 

この大会にも出場し、2024年度の学生代表を務める工学部機械工学科3年の熊林楽(がく)さんは次のように振り返ってくれました。

 

「本当にあっという間で、もう1年か……というのが率直な感想。この1年は国内大会に向けての調整をしながら、新車作りにも取り組んできました。学生代表になったことで責任感は増しましたが、自分の中ではまだまだ。来年に向けて、チームを率ながら今できることを進めていきたいです」(学生代表・熊林さん)

 

前回大会終了後の取材で「実は意外と時間がないんです」と語った佐川総監督。その実感に変化はあるのでしょうか?

 

「正直、さらに追い込まれている感覚があります。前回大会終了後、25年大会の新しいレギュレーションが発表され、これまで通りでは難しい部分も多く出てきたんです。また開催日程も10月末から8月末へ。2ヶ月早く開催される分、学生たちも夏休みに最後の追い込みができなくなり、負担も大きくなるでしょう。大人たちがチームビルディング含め環境を整えていかなければなりませんね」(佐川総監督)

 

チームワーク良く和気藹々とした雰囲気の中、WGCで総合優勝

8月に秋田県大潟市で開催された2024 World Green Challengeでは、ソーラーカーチャレンジ チャレンジャー・クラスで優勝、さらにソーラーカーチャレンジのグランドチャンピオンに輝いた。

 

新車の設計に忙しい最中ですが、8月に秋田県大潟村で開催されたWGCに参加。2019年にBWSCで準優勝した車体で挑み、周回数計34周(総走行距離875km)を走破! トラブルを乗り越えながら2位と50kmもの大差をつけ見事、総合優勝を獲得しています。

 

今回優勝したのは、2019年にBWSCで準優勝を獲得したマシン。ポテンシャルを最大限に活かし、よりチームの絆を強めた大会になった。

 

今年はたくさんの新入生が興味を持って、チームに参加してきたという東海大学。メインで活躍している新入生10名の半数が女子学生だといいます。WGCに初参加した工学部機械システム工学科1年の種田花音(おいだかのん)さんは、初めての大会で感じたことを次のように教えてくれました。

 

「プレッシャーもありましたが素直に『楽しい!』と思えることがたくさんありました。同級生も多く参加していたので、女子同士で夜遅くまで話し込んでしまいました(笑)」(種田さん)

 

トップでゴールしたマシンと、コース脇でマシンとドライバーを迎えるチームメンバーたち。

 

種田さんの言葉からも楽しそうなチームの雰囲気が伝わってきます。入学式でソーラーカーに一目惚れしてチームに参加した、という工学部4年の小平苑子(そのこ)さんは、女子学生が増えたことに「うれしい!」と目を輝かせます。

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

 

「新入生たちはとても元気なんです。女子学生が増えたことも影響しているのか、広報活動も積極的に行ってくれていて、とても和気藹々とした雰囲気。私は4年生なので、後輩に気を遣わせてしまうかな? と心配していたのですが、すごく仲良くしてもらっています」

 

WGCの会場でも、さまざまなシーンで女子学生の姿が目立った。

 

「そんな状況で、WGCを優勝できたことはチームの自信にもつながったと感じています。ただどうしてもBWSCを経験している人・していない人で経験の差が出てしまうのが正直なところ。25年の大会に向けて、後輩たちの育成など強化していきたいです」(小平さん)

 

ちなみに、この大会期間中に還暦を迎えられた木村英樹教授。1996年からチームを率いてきた中で、今年のメンバーたちをどのように見ていたのでしょうか?

 

「実は、大会期間中に体調を崩してしまいまして……戦力になれなかったと反省もあるのですが、学生たちが中心となって優勝を手にできたのはとてもうれしい結果でした。レース後には、胴上げもしてもらいましたよ(笑)
女子メンバーが増えているのは、理系学生全体にも言えることかもしれません。もちろん彼女たちが和気藹々と楽しんで参加してくれているのもチームの雰囲気に影響していますが、今年の新入生たちはコロナ禍の大学生活を知らない子がほとんど。やっと通常通りの大学生活が送れるようになったのも影響しているかもしれませんね」(木村教授)

 

チームを統括する木村教授は、大会期間中に節目となる誕生日を迎えた。学生たちとの絆を窺わせる一コマ。

 

秋田の夜空に広がる満点の星。雑音なく真剣に取り組める環境も、チームの絆を強める。

 

2025年BWSCは約2ヶ月前倒しに……課題と対策は?

大学のチームは常に学生たちの入れ替わりがあるため、来年大会に出場予定のBWSC経験者は半数ほどになってしまいます。さらに例年の10月末開催が8月末に前倒し。チームを率いる工学部の福田紘大教授は、これからの1年をどう過ごしていくかが勝負になると話します。

 

「開催時期が前倒しになることは、毎年メンバーが入れ替わる大学チームにとっては大きな影響があります。ただし、学生たちが責任感を持ってくれるようになり、自主的に動いてくれるようにもなったのは良い成果ではないでしょうか。新車体の設計についても、学生主体でアイデアを出してくれて、活発な議論ができています。私たちが『〇〇をしなさい』と指示を出さずとも、自分たちでやるべきことを見つけてくれているのはいい成長を感じられていますね」(福田教授)

 

2024 WGCでの1シーン。

 

工学部機械工学科2年の木村遥翔(はると)さんは、昨年との心境の変化を次のように話してくれました。

 

「1年生の頃はすべてが受け身の状態。大会についても先輩に教わることばかりでした。2年生になって、後輩ができてからは『受け身のままではいけない』と感じるようになり、責任感が伴うようになったと思います。2025年のBWSCはもちろんのこと2027年大会も見据えながら、この1年取り組んでいきたいです」

 

リベンジを果たし、目指せ世界一!

 

2024 WGCでの1シーン。

 

では、学生のみなさんに2025年の大会に向けた意気込みを伺っていきましょう。

 

「まだ実感がわかないのが正直なところですが、楽しみな気持ちが強いです。まだまだ私たちができることはたくさんあると思っているので、残り1年しかありませんが、できる限りのことを尽くして頑張ります」(種田さん)

 

「個人的には、焦っています(笑)。まだまだ成長できるところはたくさんあると思うので、自分自身を成長させていきながら準備していきたい。WGCでの課題をBWSCへと繋げられるよう、メンバーとのコミュニケーションを密にとりながら進めていきたいです」(木村さん)

 

「来年は大学院に進む予定なので、BWSCにも出場予定です。2021年の大会が新型コロナウイルスの影響により中止され、出場できなかった経験を踏まえて挑んだ23年の大会。そして来年が私にとっては最後のBWSCになります。いろんな思いがありますが、目標は優勝。前回大会で得た海外チームの技術も参考にしつつ、東海大学の実力を100%発揮できる大会にしたいと思います」(小平さん)

 

「8月に前倒しになったことで焦る気持ちもありますが、来年こそは優勝を目指したい。反省を活かして、リベンジですね。大会をゴールとするとまだ20%くらいの完成度だと思っています。まだまだやれることはある、そう信じて進んでいきます」(学生代表・熊林さん)

 

下が第1号車「Tokai 50TP」(1992年・Dream Cupソーラーカーレース鈴鹿大会)。2人乗り4輪の構造で、上の近年の車体とは形状がまったく異なることがわかる。

 

最後に、先生方からも学生たちに期待していることを伺いました。

 

「限られた中で、最高のパフォーマンスを出し切れるように頑張ってほしい。BWSCに出場するチームは、全チームが優勝を狙っています。技術の向上はもちろんのこと、チームで戦える力を身につけてもらえるといいですよね。今年の夏に行われたWGCでは、学業と地域イベントと新車体の設計と同時進行で進めることが多かった中で優勝することができた。チーム全体を見ながら、やるべきことに取り組める学生が増えてきたのは素晴らしいこと。期待しています!」(佐川監督)

 

「25年の大会は、開催時期が早まりレギュレーションも変わりましたが、見方を変えれば勝負できる大会ともいえます。仲間たちと勝利を勝ち取って、喜びをわかちあいたいですね。1年後にはもう大会が終わっているわけですから、どんな結果になるか私自身も楽しみです」(福田教授)

 

「毎年のことではありますが、学生チームは入れ替わりが発生する分、毎年フレッシュな気持ちで挑めるのがいい部分でもある。新しいメンバーにどんどん新しい発想を出してもらって来年のBWSCに挑みたい。学生にとっては、オーストラリアの大自然を存分に感じられるまたとない機会。世界中の仲間とふれあい、5日間過酷な条件で戦うことは人間としても成長できる大会なので、出場してよかったと心から思えるよう頑張ってもらいたいです」(木村教授)

 

 

東海大学は、この世界的なソーラーカーレースで過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回の輝かしい戦績を残しています。新たなメンバーでたくさんの人の期待を背負って挑む、2025年大会が楽しみですね。

 

 

Profile


東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・大学院生、約50名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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選挙権を手にしてからでは遅い?「こども選挙」に学ぶシティズンシップの考え方

『こどもの、こどもによる、こどものための選挙』を掲げる「こども選挙」。選挙権のない子どもたちに、本物の選挙と同時開催の模擬選挙を通じて、リアルな学びと地域社会への参加機会を提供する活動として、2022年10月に神奈川県茅ヶ崎市からスタートした、市民発の取り組みです。現在では、全国12か所で開催されるまで広がり、2023年にはキッズデザイン賞の最優秀賞・内閣総理大臣賞ほか、国内全4つのアワードを受賞するほどに飛躍。

 

先進国のなかでも圧倒的に投票率が低いことで知られる日本で、この挑戦的な取り組みがもたらしたこととは? 先日の都知事選挙や、10月に解散総選挙が決定した衆議院選挙など“選挙”に関心が高まる今、「こども選挙」の発起人である池田一彦さんに話を伺いました。

 

「こども選挙」って?

 

『こどもの、こどもによる、こどものための選挙』とはいうものの、大人と同じ選挙を子どもが行えるのでしょうか? まずは「こども選挙」とは何か、について伺いました。

 

「一つだけルールにしているのは『本当の選挙と同時開催で、模擬選挙をする』ことだけ。2022年10月に行われた茅ヶ崎市長選挙の際には『おとなは本当の選挙へ、こどもはこども選挙へ』をキャッチコピーに、市民発のプロジェクトとして開催しました。
現在、いくつかの地域でもこども選挙が行われていますが、それぞれの地域に代表者がいて、私は彼らに茅ヶ崎でのノウハウをお伝えしているだけ。ロゴなどもオープンソースとして使ってもらっているので、地域ごとにオリジナルなこども選挙が展開されています」(「こども選挙」の発起人・池田一彦さん、以下同)

 

「ちがさきこども選挙」は、2022年10月30日の茅ヶ崎市長選挙と同時に実施され、小学生から17歳まで参加した。

 

なぜ「こども選挙」を開催しようと思ったのでしょう?

 

「市内の友人夫婦と『子どもたちが投票したらどんな政治家が選ばれるのかな?』なんて話したことがきっかけです。子どもたちに“主体性のある学び”を提供するにはどうしたらいいか、本当に何気ない会話でした。私自身、選挙には必ず行きますがその程度で、もともと政治に強い関心があったわけではありません。ただ、ちょうど半年後に地元の市長選挙があることを知り、こども選挙の実現に向けて動き出すことにしたんです」

 

「まずやったことは、noteに企画書をアップして仲間を集めることでした」と池田さん。

 

池田さんは、今回取材先として伺ったコワーキングスペース「Cの辺り」を運営していたこともあり、もともと地域との繋がりはあったと話します。わずか半年で「こども選挙」を実現するのはそう簡単なことではなかったはずですが……。

 

「noteにこども選挙の企画書を公開してからほどなくして、10人の方が集まってくれて、実行委員会をつくりました。それが選挙の5ヶ月前。正直、ギリギリのスケジュールですよね」

 

2022年6月に公開されたnoteの「プロジェクトスコープ」。

 

「当初は、学校の授業の一環で模擬選挙をやりたいと考えていたのですが、『教育の現場に政治を持ち込むことはタブー』だったという現実を知りました。教育現場で選挙の仕組みは教えられても、実際の候補者に投票するとなると、政治的中立性をどのように担保するかが課題になるからです。
それなら地域発のプロジェクトとして子どもたちと関わっていこうと、ワークショップを開催。地元の子どもたちが15名ほど集まってくれて、民主主義や茅ヶ崎の歴史や課題を学んだうえで、市長候補者への質問を考えて、候補者にぶつけて答えていただき、10月30日の投票日にこども選挙を実施することができました」

 

「子どもの力を信じない大人」が多かった

池田さんが「こども選挙」実現に向けて動いていくうちに、2022年6月に国会で「こども基本法」が成立。何気なくスタートした活動でしたが「こども選挙がこども基本法での受け皿になるのでは?」と考えるようになったのだとか。とはいえ一筋縄ではいかないことも多く、“選挙”というだけで偏見の目を向けられることもあったそうです。

 

「Cの辺り」で行われたワークショップの様子。ワークショップでは、地域のことを学びながら、3名の候補者への質問が議論された。

 

「選挙って思っていたよりタブーなことが多くて。企画に賛同してくれる方がほとんどでしたが、なかにはこども選挙のポスターを貼りたいとお願いしても『前例がないから……』と断られることがありました。決定的だったのは、子どもたちが考えた質問を『大人が考えた質問なのでは?』『子どもの声を使った反対運動なのでは?』なんて考える人がいたこと……。私たちは、本気で子どもたちが考えた質問だということを知っているので、むしろ燃えましたよね(笑)。絶対成功させよう! と、士気があがりました」

 

50個集まった質問の中から、最終的にまとまったのは3つの質問。「市長になったら何をがんばりたいですか? その目的はなんですか?」「子どもと大人の意見をどのようにして取り入れますか? また、どのようにして実行しますか?」「茅ケ崎の中で、マンションを増やすことについてどう思いますか? また、マンションを建てるメリットがあると思いますか?」どれも具体的で、大人顔負けの内容だ。

 

公職選挙法にある「未成年の選挙運動の禁止」の壁

実際の選挙とリンクしているため「公職選挙法」を守りながら、実行しなければなりません。「こども選挙」を進めるにあたり、子どもたちにルールとして伝えたことはどんなことだったのでしょうか?

 

「公職選挙法には、未成年の選挙運動が禁止と書かれてあります。選挙運動とは特定の候補者の当選を目的として働きかける行為なのですが、実際には何がそれに当たるのか明確には定められていません。たとえば『誰々に投票した』と誰かに伝えることでさえもNGになってしまうことも。そのため、以下のようなルールを決めて、守ってもらえるようなオペレーションにしました」

 

ワークショップのたびに繰り返し伝え、当日も開票結果が出るまでは話さないようにすることを子どもたちは守ってくれたそう。

 

池田さんたち、そして子どもたちの頑張りもあって違反行為はなく、当日は60名近いボランティアスタッフが参加。投票所も市内11ヶ所に設置し、子どもたちの手で開票作業も行いました。

 

「茅ヶ崎のことを『宝物』のように感じた」子どもたち

当日は、11ヶ所の投票所から399票の投票とネット投票を合わせて566票が集まったとのこと。大人と同じく現職の市長が再選という結果になりました。参加した子どもたちからはどのような声が上がったのでしょうか?

 

 

「意外と『楽しかった!』と言ってくれた子が多くて『こども選挙を通じて茅ヶ崎のことが宝物みたいに感じた』という感想をくれた子もいました。なかには『大人だけ選挙ができてずるい』なんて声も(笑)。子どもたちって案外大人の行動をみているんだな〜と気づかされました。
また驚いたのは『私は、候補者のことを理解できていないから投票できない』と言った子がいたことです。“一票の重み”を感じてくれたのがうれしかったですし、子どもには考える力がしっかり備わっていることを痛感しました」

 

茅ヶ崎から全国へ

茅ヶ崎での結果を受け、全国さまざまな地域へと展開されていった「こども選挙」。当初から「そうなればいいな」と考えていたという池田さんですが、実際「我がまちでもやりたい!」と思い立ったらどうしたら良いのでしょうか?

 

「まずは僕と1on1で、こども選挙のことをお伝えさせてもらい、Facebookグループに入っていただきます。そこにシステムやノウハウ、デザインデータなどを無料公開しているので、そちらを活用して、地域ごとオリジナルで展開していただくことになります。
茅ヶ崎は初の開催だったので、制作費含めて数百万円規模の資金が必要でした。ですが有志によってボランティアで仕組みやデザインを作っていったので、実費は印刷費の10万円だけでした。全国の実行委員のみなさんにも、投票の仕組みなどをオープンソースとして提供しています」

 

悲願だった行政との連携も進んでいます。

 

「2024年4月に実施された長崎県壱岐市のこども選挙では、行政と連携して投票券を全校に配布することができました。最終的には学校のプログラムの中に『こども選挙』が加わることができれば、日本における政治や選挙との関わり方も変わってくるはず。あと何年かかるかは正直分かりませんが、教育が変われば、得票率も高くなる、そう信じています」

 

現状、投票率は右肩下がりに低下を続けており、とくに若者で顕著だ。(ちがさきこども選挙企画書より。出典=総務省資料)

 

「自分の手でまちを変えられる」という意識

「こども選挙」を経て変わったのは、子どもだけじゃなかった、と池田さん。なんと、こども選挙の実行委員として手伝っていた人のなかから、市議会議員に立候補し当選した人も出てきたそう。大人も「もっとまちを良くしたい」と考えるきっかけにつながったのかもしれません。

 

「日本では『税金払っているんだから仕事しろ!』と、ある意味消費者的な立場で、行政サービスを受けている人たちが多いような気がするんです。でも本来の政治ってそうじゃないですよね。『私たち市民がまちを変えていく一員であって、その代表を選挙で選んでいる』って『シティズンシップ』の考えが大事だと思うんです。政党とか派閥とか、そういう問題じゃない。子どもたちには、自分の手でまちは変えていけるんだ、自分もまちを作っていく一員なんだという意識で大人になっても選挙に参加してもらえたらうれしいですね」

 

池田さんが運営するコミュニティスペース「Cの辺り」。物事を動かす“人とのつながり”を象徴する場所だ。

 

池田さんは、ちがさきこども選挙が終わった後も、全国での実施のフォローだけでなく、茅ヶ崎の市議会議員さんとフランクに話せる『市議がマスターになるまちのBAR』を企画するなど、地域での活動を広げています。「こども選挙」は子どものためでありながら、関わる大人の視野も広げてくれる、そんな活動だと感じさせられます。今後の取り組みも注目していきたいですね。

 

 

Profile


「こども選挙」発起人 / 池田一彦

2000年よりアサツーDK、2009年より電通と複数の広告代理店を経て、2011年より株式会社 be代表。「すべての仕事は実験と学びである」をモットーに、事業開発からコミュニケーションデザイン、UX設計まで幅広いレイヤーのディレクションを手掛ける。新規事業開発やサービス開発において5つの特許を発明。国内外アワード受賞多数。現在は地元茅ヶ崎にて、コミュニティスペースを拠点に地域発の社会システムをつくるべく、さまざまな活動を行っている。
「こども選挙」
「Cの辺り」

9割の親が悩むスマホ広告「最新対策アプリ」って?

社会のデジタル化を背景にインターネット広告費は過去最高を更新し、その種類や形態も多様になっています。

 

一方で、広告を閉じようと思ったのに、意図せずクリックしてしまう動作上のストレスや、過激な内容の広告に不快感を覚えるユーザーも。とくに子どもがいる保護者にとっては、頭を悩ませる課題のひとつになっています。

 

約8割の保護者が子どものスマートフォン利用に不安を抱えている

キングソフト株式会社が小学校高学年(4〜6年生)の子どもにスマホを持たせている保護者104名を対象に行った「子どものスマホ利用に関する意識調査」によると、約8割の保護者が子どものスマホ利用に不安を抱えていると回答。

 

くわしいデータを見ると、不安を「非常に感じている」という回答が29.9%、「やや感じている」回答が53.8%という結果になっています。

↑子どものスマホ利用に関する意識調査(画像提供/キングソフト株式会社)

 

数ある悩みのなかでとくに注目したいのが、子どもに見せたくない広告があるという保護者の回答が約9割にのぼるという点。

 

いちばん多いのが、成人向けの内容が記載されたマンガなどの広告で58.5%、次いで子どもが真似をすると危険な広告が54.3%という結果に。

 

とくに子どもの年齢が低いほど、配慮したいと考える保護者は多いと言えるのではないでしょうか。

↑子どものスマホ利用に関する意識調査(画像提供/キングソフト株式会社)

 

↑子どものスマホ利用に関する意識調査(画像提供/キングソフト株式会社)

 

対策はブロック系アプリやブラウザ活用の一択

誰でも簡単にスピーディーに出稿できる「インターネット広告」の市場規模は、年間3兆円規模にまで成長し、その数は今も増え続けています。

 

無料で利用できるサイトの多くは広告収益によって成り立っているため、インターネットを利用する限り、広告表示は避けられません。なかには、表示される動画広告を一定時間見ることで、記事を読むことができるタイプや、無料でゲームができるタイプもあり、利用者に選択を委ねている状況も。

 

とはいえ、過激なアダルト系の広告や暴力的な内容の広告を子どもの目に触れさせたくない場合は、広告表示をブロックするアプリやブラウザの活用が有効です。

 

これらのブロック系サービスの活用は、広告表示に使用されているデータ通信料を節約できるメリットも! 無料から有料までさまざまな種類のプログラムがリリースされています。

 

広告ブロックとフィッシングブロックの2in1機能を装備したアプリ「アドクリーナーPlus」

キングソフト
アドクリーナーPlus(アドクリーナープラス)
月額550円(1台版)、770円(3台版)、990円(5台版)(すべて税込)
対応OS:Android 8.0 以上 / iOS 14.0以降

 

「アドクリーナーPlus」は、フィッシングサイトと広告を同時にブロックできる2in1機能を兼ね備えたアプリです。

 

アプリTOPのスイッチをONにしておくだけで、ウェブサイトやアプリの広告、動画配信サービスの最初や途中に再生される動画広告をブロックしてくれる点が、保護者にとっては安心できるポイント。

 

また、このアプリの強みは、広告ブロックだけではなく、近年急増しているフィッシング詐欺対策もできるという点にあります。

 

フィッシング対策協議会や警察庁、ECサイトから提供されるフィッシングサイト情報を毎日更新。利用者をインターネットの危険から守るために、セキュリティの強化を図っています。

 

最近は「ダークパターン」と言って、WEBデザインを利用して消費者を欺く手法もあり、消費者庁の調査が始まったばかり。本物そっくりのサイトデザインで個人情報を抜き取る、初回無料と誤認させて定期購入させる、解約ボタンがなかなか見つからないといったパターンなど、その手法は多岐に渡るため注意が必要です。

 

消費者1人ひとりのITリテラシーを高めていくのはもちろん、デジタルな対策としてブロック系のアプリやサービスを活用してみてはいかがでしょうか。

 

取材・文/石橋沙織

パリ五輪に代表選手8名を輩出!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」が用意する世界へ続くステージ

海外の強豪チームを招き、日本の子どもたちに世界を感じてもらうことを目的に2013年にスタートした「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」(以下、ワーチャレ)。12回目となる本大会が、8月20日から23日の4日間、千葉県のフクダ電子フィールド/フクダ電子スクエア、そしてJリーグチーム、ジェフユナイテッド千葉のホームスタジアムであるフクダ電子アリーナで行われました。今回は全国から237チームが予選に参加。本大会には過去最多となる48チームが出場し、頂点を目指しました。

 

パリ五輪サッカー代表に大会参加者8名が出場

3位決定戦、準決勝、決勝は本大会もジェフ千葉の本拠地、千葉市のフクダ電子アリーナで行われた。子どもたちにとっては、Jリーグチームの本拠地という憧れの地で、フィールドをフルに使って戦える貴重な機会だ。

 

過去の大会参加選手には、すでに欧州のトップチームで活躍する多くの選手がいます。日本のA代表でも活躍し、現在スペイン、ラ・リーガのレアル・ソシエダに所属する久保建英(たけふさ)選手は、第1回大会にスペインの強豪「FCバルセロナ」(以下バルサ)の一員として本大会でプレーし、注目を集めました。

 

また、2024年夏に開催されたパリ五輪には、日本代表で山本理仁選手、藤田譲瑠チマ選手、高井幸大選手が出場。スペイン代表では、アドリアン・ベルナベ選手、エリック・ガルシア選手、アルナウ・テナス選手、パウ・クバルシ選手が出場しました。さらに、なでしこジャパンでパリ五輪に参加した谷川萌々子選手を含めると8名がワーチャレを経て世界に羽ばたいています。

 

さらに、今大会では初の試みとして、女子サッカーを盛り上げるべく、U-13なでしこ選抜が編成されました。大会実行委員長の浜田満さんは、この取り組みについて「反響は大きかったです。男子チームと比べて女子はトップレベルのなかで試合をする機会がなかなかありませんので、彼女たちに機会を作ってあげたかった」と話します。

 

毎年、稀ではあるが女子選手の姿も。写真は2021年大会に出場した、YF NARATESOROの大田ありす選手。今回のU-13なでしこ選抜は、東京・愛知・大阪の3会場で「U-13 女子選抜セレクション」を開催。120名超のエントリーから選抜された18名により結成された。

 

チームと選手の個性が光る!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021」をコロナ禍でも開催し続ける意味

 

大会過去最多の48チームが激突し、4チームが最高の舞台へ

大会名に“ワールドチャレンジ”とついていることからもわかる通り、第1回大会から参加のバルサをはじめ、今回も複数の海外チームが参加しました。ミャンマーの「MyanmarU-12」、インドネシアから「アシアナサッカースクール」、中国の「中国足球小将」「陝西師範大学付属小学校」、マレーシアから「セランゴールFC」の全6チームが参戦。海外チームを含めた48チームがAからLまで各4チームに分かれ、12グループによるグループリーグを行いました。準々決勝までがフクダ電子フィールド/フクダ電子スクエアで行われ、決戦の地フクダ電子アリーナには「東京ヴェルディジュニア」「バディーサッカークラブ」「柏レイソルU-12」「川崎フロンターレU-12」の関東勢が勝ち上がりました。

 

3位決定戦は2016年の第4回大会と同じ、東京ヴェルディジュニアと川崎フロンターレU-12が再び激突。

 

第1回大会から参戦の柏レイソルU-12とバディーサッカークラブは、ともに初の決勝戦進出となった。

 

これまでの11大会のうち(2020年と21年は新型コロナウイルス感染の影響で海外チームの参加なし)6度の優勝、3度3位のバルサは、ラウンド16で東京ヴェルディジュニアに0-2で敗れ、決勝ラウンド進出はなりませんでした。

 

また、今回はJリーグの下部組織3チームに加え、街クラブであるバディーサッカークラブがベスト4に進出。浜田さんは「もうJチームと街クラブの差はそれほどありません。特に小学生にとっては」と話すように、近年は街クラブの躍進が目立っています。

 

同大会でも第1回の国内参加チームは主にJリーグの下部組織でしたが、第2回大会から街クラブ枠を設け、2018年の第6回大会からは「多くの子どもたちに世界の強豪チームと対戦する機会を提供したい」と街クラブ選抜チームも結成。2019年からは「大和ハウスDREAMS」と「大和ハウスFUTUERS」の2チームで参戦し、今回も元日本代表の橋本英郎さん、内野智章さんが監督を務めました。

 

そして準決勝では、街クラブの雄、バディーサッカークラブがバルサを破った東京ヴェルディジュニアに1-1からPK戦の末3-2で勝利。川崎フロンターレU-12と柏レイソルU-12は柏レイソルが2-0で勝利しました。ここからは3位決定戦、決勝戦の激闘を見ていきましょう。

 

バルサを下したヴェルディが山本ツインズの活躍で8大会ぶり3位入賞

決勝戦に先がけて行われた東京ヴェルディジュニアと川崎フロンターレU-12の3位決定戦。強豪バルサを破ったヴェルディは、トップ2の山本崇翔選手、山本大翔選手の双子の兄弟が得点源です。対するフロンターレは、準々決勝で大柄な選手が多い中国の中国足球小将を0点に抑えたディフェンスがどこまで通じるかが見所でした。

 

開始9分、山本大翔選手のシュートからこぼれ球を山本崇翔選手が押し込んで先制ゴール。後半30分には山本大翔選手がシュートを決め、兄弟が揃い踏み。0-2からフロンターレも再三ゴールに迫りましたがゴールを奪えず、逆にゴール前での果敢なディフェンスがレッドカードとなり、PKを山本崇翔選手が落ち着いて決めタイムアップ。8年前にも3位決定戦で対戦し2-0でヴェルディが勝利しましたが、今回フロンターレはリベンジならず、またもあと一歩で入賞を逃しました。

 

バルサ戦でも得点を決めた東京ヴェルディのエース、山本崇翔選手が先制のゴールを決めた。

 

東京ヴェルディの得点源、もう一人の「山本」、大翔選手も後半にゴールネットを揺らし兄弟揃い踏み。

 

川崎フロンターレは身体を張った守りから再三チャンスを演出したが、ゴールを奪うことはできなかった。

 

猛暑のなか、昼間の暑い時間帯は避け、試合中にはJリーグ同様に飲水タイムが設けられた。

 

バルサ、決勝で強豪アーセナルを撃破!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2018」が残したもの

 

同じ関東の強豪Jチームと切磋琢磨してきた末の勝利

決勝戦は同じ関東で切磋琢磨し合うライバルの対戦。バディーサッカークラブはJFA 全日本U-12サッカー選手権で2010年と19年の2度の優勝を誇りますが、19年に決勝で当たったのが柏レイソルU-12で、このときは3-1でバディーが制し、2度目の頂点に輝いています。

 

対するレイソルはワーチャレ初年度から参戦し、2013年の第1回、14年の第2回はともに3位入賞。10年ぶりのベスト4で初の優勝を目指します。今大会22ゴールと得点力の高いレイソルと、準決勝でヴェルディにPKで勝利するなど、接戦をものにしてきたバディーとの好カードとなりました。

 

通路での声出しで気合を入れた選手たちが、引き締まった表情で決勝の舞台に姿を現した。

 

過去2度3位入賞の柏レイソルにとっては初の決勝進出。

 

前半3分、バディーは浅利蓮生選手がゴール前に詰め、矢ヶ部敢太郎選手のミドルシュートで先制。さらに6分と8分に浅利選手のコーナーキックから田中譲選手が連続ゴールで3-0。さらに22分に関智也選手がミドルシュートで4点目。少ないチャンスから確実にゴールを奪ったバディーが4点リードで前半を終えました。

 

浅利蓮生選手のプレーから、バディーサッカークラブは幾度も好機をつかんだ。

 

開始早々、先制のゴールを決めたバディーサッカークラブの矢ヶ部敢太郎選手(中央)。

 

2連続得点を挙げた田中譲選手は、ピンクのヘアバンドとスパイクがトレードマーク。

 

バディーは後半もレイソルゴールに度々迫りますが、キーパーの佐藤惇太選手が好セーブを連発。攻守が目まぐるしく切り替わるもお互いゴールが奪えず、スコアレスで後半が終了し、バディーが大会初優勝を飾りました。

 

後半、柏レイソルの怒涛の反撃も佐藤惇太選手が好セーブでゴールを守り切った。

 

25分ハーフのゲームを戦い抜き、お互いに健闘を称え合う選手たち。

 

バディーの意味は「仲間」。その名の通りのチームワークで栄冠を手にした。

 

バディーの梅澤勇人監督は大会後、今回の優勝について「まさかここで優勝できるとは思っていませんでした。5月のワーチャレの予選を逃してチーム的にも苦しかったんですが、(8月の)プレミアリーグU-11チャンピオンシップの優勝で(ワーチャレ出場権を)勝ち取れて、その勢いでここまで来られました」。Jクラブの育成はだいたい小学2、3年からに対し、バディーは幼児教育から、サッカーに限らずいろんなスポーツを体験して年長の最後にセレクションがあるそうです。そうしたチームとしての継続的な取り組みが勝因となったのではないでしょうか。

 

「プロを目指す意識付けにいいのかな」と大会参加のメリットを語った梅澤勇人監督。

 

「神奈川にはフロンターレさんがいて、マリノスさんがいて、関東にはレイソルさん、ヴェルディさんもいて、本当に今まで切磋琢磨してきて、そのおかげで今があるのかなと感じます」。

 

そして、ワーチャレを通じて選手たちにどのようなことを吸収してほしいかを尋ねると、「海外からはバルサを筆頭に、アジアのチームも多く参加していて、みんなプロを目指してる。プロを意識したU-12のいろんな外国の選手たちとプレーすることにより、そこの意識付けとしていいのかなと思います」と大会参加のメリットを話してくれました。

 

五輪世代も躍動するワーチャレはこれからも続く

選手の健闘を称えるとともに、関係者やスタッフへの感謝を述べた浜田さん。

 

大会を終え、浜田さんは表彰式で決勝を戦った両チームに祝福を述べると、準優勝のレイソルにこう語りました。

 

「今回は入りがあまり良くなかった。これからのサッカー人生、小学校の残りの試合もあるし、中学校、高校と入りの良くない試合というのは、こういうことが起こる。なので、これを心に刻んでこれからのサッカー人生を強く歩んでもらえたらと思います」と、エールを贈りました。

 

3位のヴェルディに対しては「2013年、ワールドチャレンジが開幕した大会、バルサに0-5(準決勝)でヴェルディは負けているんです。それが今回2-0。守り切って勝ったわけではなく、がっぷり四つで戦い切った、それがすごく見ていて気持ち良かった」。

 

そして「今回、この4チームだけではなく、多くの日本全国のチームが非常に高いレベルで、そして海外から来たチームもレベルが高く、最後までどのチームが勝ってもおかしくない素晴らしい大会になりました。今回でワールドチャレンジは2013年から12回目ですけども、パリ五輪に合計8名の選手が出場する大会になりました。もちろん来年も、開催しようと思っています」と浜田さんは大会を締めくくりました。

 

今大会のMVPは、バディーの浅利選手が受賞しました。浜田さんに浅利選手の受賞ポイントを伺うと、「彼はスピードがあり、寄せが速い。彼を起点にボールを経由すると、状況が良くなる」と称賛。当の本人にも感想を聞きました。

 

Daiwa House MVP賞で自身の名前を告げられ仲間から讃えられる浅利蓮生選手。

 

緊張から解放された表彰式後には、喜びいっぱいの表情を見せた。

 

受賞については「いや、全然(取れると)思っていませんでした。いつも、彼(決勝2得点の田中譲選手)が取っていたので……」。スター揃いのチームで、自分にスポットが当たったことに、戸惑いながら喜びをかみしめていました。そして将来は「目標はプロサッカー選手になって世界で活躍すること。好きな選手は自分のプレースタイルとは違うのですが、三笘薫選手です」と慣れないインタビューにも健気に答えてくれました。

 

ワーチャレは、第1回大会から変わらず、大和ハウスと、賃貸住宅「D-ROOM」の管理運営を手がける大和リビングをはじめとするグループ会社の協賛で開催されている。

 

久保建英選手をはじめ、第1回大会に参加した当時12歳だった選手が、いまでは国を代表する選手に成長しています。これからも五輪で活躍する選手のなかには、ワーチャレの卒業生が続々と出てくることでしょう。初開催から13年、継続することで達成した大会は次のステージへ。参加する選手にとっては、ジュニアから次のステージに進む国内最高峰の大会として、ワーチャレがこれからも続くことを願ってやみません。

パリ五輪に代表選手8名を輩出!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」が用意する世界へ続くステージ

海外の強豪チームを招き、日本の子どもたちに世界を感じてもらうことを目的に2013年にスタートした「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」(以下、ワーチャレ)。12回目となる本大会が、8月20日から23日の4日間、千葉県のフクダ電子フィールド/フクダ電子スクエア、そしてJリーグチーム、ジェフユナイテッド千葉のホームスタジアムであるフクダ電子アリーナで行われました。今回は全国から237チームが予選に参加。本大会には過去最多となる48チームが出場し、頂点を目指しました。

 

パリ五輪サッカー代表に大会参加者8名が出場

3位決定戦、準決勝、決勝は本大会もジェフ千葉の本拠地、千葉市のフクダ電子アリーナで行われた。子どもたちにとっては、Jリーグチームの本拠地という憧れの地で、フィールドをフルに使って戦える貴重な機会だ。

 

過去の大会参加選手には、すでに欧州のトップチームで活躍する多くの選手がいます。日本のA代表でも活躍し、現在スペイン、ラ・リーガのレアル・ソシエダに所属する久保建英(たけふさ)選手は、第1回大会にスペインの強豪「FCバルセロナ」(以下バルサ)の一員として本大会でプレーし、注目を集めました。

 

また、2024年夏に開催されたパリ五輪には、日本代表で山本理仁選手、藤田譲瑠チマ選手、高井幸大選手が出場。スペイン代表では、アドリアン・ベルナベ選手、エリック・ガルシア選手、アルナウ・テナス選手、パウ・クバルシ選手が出場しました。さらに、なでしこジャパンでパリ五輪に参加した谷川萌々子選手を含めると8名がワーチャレを経て世界に羽ばたいています。

 

さらに、今大会では初の試みとして、女子サッカーを盛り上げるべく、U-13なでしこ選抜が編成されました。大会実行委員長の浜田満さんは、この取り組みについて「反響は大きかったです。男子チームと比べて女子はトップレベルのなかで試合をする機会がなかなかありませんので、彼女たちに機会を作ってあげたかった」と話します。

 

毎年、稀ではあるが女子選手の姿も。写真は2021年大会に出場した、YF NARATESOROの大田ありす選手。今回のU-13なでしこ選抜は、東京・愛知・大阪の3会場で「U-13 女子選抜セレクション」を開催。120名超のエントリーから選抜された18名により結成された。

 

チームと選手の個性が光る!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021」をコロナ禍でも開催し続ける意味

 

大会過去最多の48チームが激突し、4チームが最高の舞台へ

大会名に“ワールドチャレンジ”とついていることからもわかる通り、第1回大会から参加のバルサをはじめ、今回も複数の海外チームが参加しました。ミャンマーの「MyanmarU-12」、インドネシアから「アシアナサッカースクール」、中国の「中国足球小将」「陝西師範大学付属小学校」、マレーシアから「セランゴールFC」の全6チームが参戦。海外チームを含めた48チームがAからLまで各4チームに分かれ、12グループによるグループリーグを行いました。準々決勝までがフクダ電子フィールド/フクダ電子スクエアで行われ、決戦の地フクダ電子アリーナには「東京ヴェルディジュニア」「バディーサッカークラブ」「柏レイソルU-12」「川崎フロンターレU-12」の関東勢が勝ち上がりました。

 

3位決定戦は2016年の第4回大会と同じ、東京ヴェルディジュニアと川崎フロンターレU-12が再び激突。

 

第1回大会から参戦の柏レイソルU-12とバディーサッカークラブは、ともに初の決勝戦進出となった。

 

これまでの11大会のうち(2020年と21年は新型コロナウイルス感染の影響で海外チームの参加なし)6度の優勝、3度3位のバルサは、ラウンド16で東京ヴェルディジュニアに0-2で敗れ、決勝ラウンド進出はなりませんでした。

 

また、今回はJリーグの下部組織3チームに加え、街クラブであるバディーサッカークラブがベスト4に進出。浜田さんは「もうJチームと街クラブの差はそれほどありません。特に小学生にとっては」と話すように、近年は街クラブの躍進が目立っています。

 

同大会でも第1回の国内参加チームは主にJリーグの下部組織でしたが、第2回大会から街クラブ枠を設け、2018年の第6回大会からは「多くの子どもたちに世界の強豪チームと対戦する機会を提供したい」と街クラブ選抜チームも結成。2019年からは「大和ハウスDREAMS」と「大和ハウスFUTUERS」の2チームで参戦し、今回も元日本代表の橋本英郎さん、内野智章さんが監督を務めました。

 

そして準決勝では、街クラブの雄、バディーサッカークラブがバルサを破った東京ヴェルディジュニアに1-1からPK戦の末3-2で勝利。川崎フロンターレU-12と柏レイソルU-12は柏レイソルが2-0で勝利しました。ここからは3位決定戦、決勝戦の激闘を見ていきましょう。

 

バルサを下したヴェルディが山本ツインズの活躍で8大会ぶり3位入賞

決勝戦に先がけて行われた東京ヴェルディジュニアと川崎フロンターレU-12の3位決定戦。強豪バルサを破ったヴェルディは、トップ2の山本崇翔選手、山本大翔選手の双子の兄弟が得点源です。対するフロンターレは、準々決勝で大柄な選手が多い中国の中国足球小将を0点に抑えたディフェンスがどこまで通じるかが見所でした。

 

開始9分、山本大翔選手のシュートからこぼれ球を山本崇翔選手が押し込んで先制ゴール。後半30分には山本大翔選手がシュートを決め、兄弟が揃い踏み。0-2からフロンターレも再三ゴールに迫りましたがゴールを奪えず、逆にゴール前での果敢なディフェンスがレッドカードとなり、PKを山本崇翔選手が落ち着いて決めタイムアップ。8年前にも3位決定戦で対戦し2-0でヴェルディが勝利しましたが、今回フロンターレはリベンジならず、またもあと一歩で入賞を逃しました。

 

バルサ戦でも得点を決めた東京ヴェルディのエース、山本崇翔選手が先制のゴールを決めた。

 

東京ヴェルディの得点源、もう一人の「山本」、大翔選手も後半にゴールネットを揺らし兄弟揃い踏み。

 

川崎フロンターレは身体を張った守りから再三チャンスを演出したが、ゴールを奪うことはできなかった。

 

猛暑のなか、昼間の暑い時間帯は避け、試合中にはJリーグ同様に飲水タイムが設けられた。

 

バルサ、決勝で強豪アーセナルを撃破!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2018」が残したもの

 

 

同じ関東の強豪Jチームと切磋琢磨してきた末の勝利

決勝戦は同じ関東で切磋琢磨し合うライバルの対戦。バディーサッカークラブはJFA 全日本U-12サッカー選手権で2010年と19年の2度の優勝を誇りますが、19年に決勝で当たったのが柏レイソルU-12で、このときは3-1でバディーが制し、2度目の頂点に輝いています。

 

対するレイソルはワーチャレ初年度から参戦し、2013年の第1回、14年の第2回はともに3位入賞。10年ぶりのベスト4で初の優勝を目指します。今大会22ゴールと得点力の高いレイソルと、準決勝でヴェルディにPKで勝利するなど、接戦をものにしてきたバディーとの好カードとなりました。

 

通路での声出しで気合を入れた選手たちが、引き締まった表情で決勝の舞台に姿を現した。

 

過去2度3位入賞の柏レイソルにとっては初の決勝進出。

 

前半3分、バディーは浅利蓮生選手がゴール前に詰め、矢ヶ部敢太郎選手のミドルシュートで先制。さらに6分と8分に浅利選手のコーナーキックから田中譲選手が連続ゴールで3-0。さらに22分に関智也選手がミドルシュートで4点目。少ないチャンスから確実にゴールを奪ったバディーが4点リードで前半を終えました。

 

浅利蓮生選手のプレーから、バディーサッカークラブは幾度も好機をつかんだ。

 

開始早々、先制のゴールを決めたバディーサッカークラブの矢ヶ部敢太郎選手(中央)。

 

2連続得点を挙げた田中譲選手は、ピンクのヘアバンドとスパイクがトレードマーク。

 

バディーは後半もレイソルゴールに度々迫りますが、キーパーの佐藤惇太選手が好セーブを連発。攻守が目まぐるしく切り替わるもお互いゴールが奪えず、スコアレスで後半が終了し、バディーが大会初優勝を飾りました。

 

後半、柏レイソルの怒涛の反撃も佐藤惇太選手が好セーブでゴールを守り切った。

 

25分ハーフのゲームを戦い抜き、お互いに健闘を称え合う選手たち。

 

バディーの意味は「仲間」。その名の通りのチームワークで栄冠を手にした。

 

バディーの梅澤勇人監督は大会後、今回の優勝について「まさかここで優勝できるとは思っていませんでした。5月のワーチャレの予選を逃してチーム的にも苦しかったんですが、(8月の)プレミアリーグU-11チャンピオンシップの優勝で(ワーチャレ出場権を)勝ち取れて、その勢いでここまで来られました」。Jクラブの育成はだいたい小学2、3年からに対し、バディーは幼児教育から、サッカーに限らずいろんなスポーツを体験して年長の最後にセレクションがあるそうです。そうしたチームとしての継続的な取り組みが勝因となったのではないでしょうか。

 

「プロを目指す意識付けにいいのかな」と大会参加のメリットを語った梅澤勇人監督。

 

「神奈川にはフロンターレさんがいて、マリノスさんがいて、関東にはレイソルさん、ヴェルディさんもいて、本当に今まで切磋琢磨してきて、そのおかげで今があるのかなと感じます」。

 

そして、ワーチャレを通じて選手たちにどのようなことを吸収してほしいかを尋ねると、「海外からはバルサを筆頭に、アジアのチームも多く参加していて、みんなプロを目指してる。プロを意識したU-12のいろんな外国の選手たちとプレーすることにより、そこの意識付けとしていいのかなと思います」と大会参加のメリットを話してくれました。

 

五輪世代も躍動するワーチャレはこれからも続く

選手の健闘を称えるとともに、関係者やスタッフへの感謝を述べた浜田さん。

 

大会を終え、浜田さんは表彰式で決勝を戦った両チームに祝福を述べると、準優勝のレイソルにこう語りました。

 

「今回は入りがあまり良くなかった。これからのサッカー人生、小学校の残りの試合もあるし、中学校、高校と入りの良くない試合というのは、こういうことが起こる。なので、これを心に刻んでこれからのサッカー人生を強く歩んでもらえたらと思います」と、エールを贈りました。

 

3位のヴェルディに対しては「2013年、ワールドチャレンジが開幕した大会、バルサに0-5(準決勝)でヴェルディは負けているんです。それが今回2-0。守り切って勝ったわけではなく、がっぷり四つで戦い切った、それがすごく見ていて気持ち良かった」。

 

そして「今回、この4チームだけではなく、多くの日本全国のチームが非常に高いレベルで、そして海外から来たチームもレベルが高く、最後までどのチームが勝ってもおかしくない素晴らしい大会になりました。今回でワールドチャレンジは2013年から12回目ですけども、パリ五輪に合計8名の選手が出場する大会になりました。もちろん来年も、開催しようと思っています」と浜田さんは大会を締めくくりました。

 

今大会のMVPは、バディーの浅利選手が受賞しました。浜田さんに浅利選手の受賞ポイントを伺うと、「彼はスピードがあり、寄せが速い。彼を起点にボールを経由すると、状況が良くなる」と称賛。当の本人にも感想を聞きました。

 

Daiwa House MVP賞で自身の名前を告げられ仲間から讃えられる浅利蓮生選手。

 

緊張から解放された表彰式後には、喜びいっぱいの表情を見せた。

 

受賞については「いや、全然(取れると)思っていませんでした。いつも、彼(決勝2得点の田中譲選手)が取っていたので……」。スター揃いのチームで、自分にスポットが当たったことに、戸惑いながら喜びをかみしめていました。そして将来は「目標はプロサッカー選手になって世界で活躍すること。好きな選手は自分のプレースタイルとは違うのですが、三笘薫選手です」と慣れないインタビューにも健気に答えてくれました。

 

ワーチャレは、第1回大会から変わらず、大和ハウスと、賃貸住宅「D-ROOM」の管理運営を手がける大和リビングをはじめとするグループ会社の協賛で開催されている。

 

久保建英選手をはじめ、第1回大会に参加した当時12歳だった選手が、いまでは国を代表する選手に成長しています。これからも五輪で活躍する選手のなかには、ワーチャレの卒業生が続々と出てくることでしょう。初開催から13年、継続することで達成した大会は次のステージへ。参加する選手にとっては、ジュニアから次のステージに進む国内最高峰の大会として、ワーチャレがこれからも続くことを願ってやみません。

子どもの「主体性」を取り戻せ! 型破りな校長・ 工藤勇一先生が教える3つの問いかけ

我が家の子どもたちは、長男が中学生、長女と次女が小学生。今年で通算8回目の「小学生&中学生の保護者」をやっているわけだが、この8年間で子どもたちを取り巻く環境は大きく様変わりした。

 

一人一台デバイスを保有し、宿題などのクラス連絡はTeamsで。個人で考えて発表する授業形態から、ひとつの議題に対して周りと話し合い、意見を出し合い、考えをまとめる形態に。運動会の組体操は廃止され、かけっこもリレーも順位を競わない。

 

コロナを経たことも大きいが、数年前には想像もできなかった学校生活を令和の子どもたちは送っている。昭和や平成生まれの親たちは、ただただ驚くばかりだ。

 

自分で考えて、思うように行動できない子どもたち。その原因は大人にある!?

まさしく激動の時代を生きている子どもたちだが、我が子を含め、いまひとつ自分で物事を決められないことが多いと感じる。誰かに指示されたことを成し遂げるのは得意。けれども、自分がどうしたいかを考え、そのゴールに向かって進んでいくために行動することが苦手なのだ。

 

つまり、「主体性がない」子どもが増えてきたということだろう。事実、多くの教育専門家がこの現状を憂い、口をそろえて「これからの時代は、主体性を伸ばすことが大切」だと論じている。

 

そうは言っても、親として子どもの主体性をどう伸ばしていけばいいのだろうか。正直、大人だって言いたいことも言えないこんな世の中で。

 

その答えのヒントをくれるのが、宿題や中間期末テスト、クラス担任制など、これまでの当たり前を次々と廃止したことでその名を知らしめた工藤勇一先生だ。最新著『家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた』 (Gakken・刊) では、こう述べている。

 

主体性とは自発的な意思に基づき動くこと。それは誰でも生まれつき持っているものです。
しかし、成長していく中で周囲の大人に行動を制限されたり、命令されたりするたびに少しずつ主体性が奪われていきます。

『家庭 学校 社会みんなに知ってほしい・教育について工藤勇一先生に聞いてみた』より

 

何と言うことだろう。子どもたちの主体性を奪っていた張本人が、我々大人だったとは。でも諦めないでほしい。子どもの主体性を取り戻す方法として効果抜群の、工藤先生流3つの問いかけがある。

 

子どもの主体性を取り戻す問いかけ①「どうしたの?」

私たち大人は、自分の言うことを聞くように子どもたちを叱りがち。けれど、高圧的な指導をすればするほど、その大人に対する不信感は増すばかりだ。そこで、子どもへの第一声を「どうしたの?」に変えてみることだと工藤先生。

 

まずは、行動の背景にある事情を聞き出すこと。そして、子どもがとった行動を一度受け止めることが、主体性を取り戻すために大切な心理的安全性に繋がる。

 

子どもの主体性を取り戻す問いかけ②「どうしたい?」

「どうしたの?」と尋ねたあとは、子ども自身の考えや思いを引き出すために、「どうしたい?」と問いかけることだと工藤先生。

 

これまで「~しなさい」と指示され、主体性を奪われ続けてきた子どもたちにとっては、うまく答えられないかもしれない。けれども、小さな自己決定を続けていけば、次第に大きな自己決定もできるようになると言う。

 

ひとつ注意すべきは、「どうしたい?」と聞いたからと言って、子どもの言いなりになる必要はないということ。できる限り子どもの意思を尊重しつつ、こちら側の考えも伝えて、お互いにとって一番良い方法を見つけていくことが大切。

 

子どもの主体性を取り戻す問いかけ③「何かできることはある?」

「どうしたい?」と聞いても自己決定ができない場合は、「何かできることはある?」とフォローすることが有効だと工藤先生。場合によっては、いくつかの選択肢を提案してもOK。

 

この問いかけによって、子どもはやりたいことを自分で決めて行動できるようになる。たとえ、こちらが提案した選択肢の中から選び取ったとしても、自己決定したことには変わりがない。そんな「自分で決められた」という事実が、成功体験として子どもの心に強く刻まれるのだ。

 

主体性を取り戻すのに「遅すぎる」ことはない

工藤先生が教える3つの問いかけを繰り返していけば、少し時間がかかるかもしれないけれど、子どもの主体性は必ず取り戻せるのだと言うから心強い。

 

我が子のこととなると、つい過干渉になってあれこれ口を出してしまいがち。けれども、これからはお節介心をぐっとこらえて、子どもが本来持つ「自分で考え、行動する力」を伸ばしていこうと思う。

 

大丈夫、子どもも親も、きっと変われる。そんな工藤先生の声が聞こえてきた気がした。

 

【書籍紹介】

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた

監修:工藤勇一
発行:Gakken

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説します。

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情報端末は教育をどう変えたのか?−−教育改革の旗手・工藤勇一先生に聞いてみた

元横浜創英中学・高等学校長で、2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校長を務め、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止等の教育改革を行い、教育関係者やメディアの間で話題となった工藤 勇一先生。そんな工藤先生が監修を務めた『家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた』(Gakken・刊)。

 

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。本書では、家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説しています。

 

今回は本書より『全生徒が情報端末を持ったことで教育はどう変わりますか?』について抜粋して紹介していきます。

 

自分に合った学習効率の高い学びがしやすくなる

今、ものすごい速度で学びのあり方は変わっています。たとえば、私は毎朝英語の勉強をしています。教材はスマホのみ。読み書きの学習はDuolingo、グーグル翻訳、ChatGPTの3つがあればほとんどのことができます。これらは、10年前には想像もしていなかったことです。そして、その大きな変化は学校教育も巻き込んでいます。GIGAスクール構想で全生徒に情報端末が行きわたり、自分なりの学び方やペースで勉強しやすいインフラが整いました

 

横浜創英で試験導入している英会話ΑΙ「LANGX speaking」(早稲田大学発スタートアップが開発)は、話者の英語力をリアルタイムで評価し、レベルに合った自然な会話をしてくれます。このすばらしい技術は、教育の現場に一石を投じることになるでしょう。

 

前職の中学校でΑΙ型教材を試験導入したとき、中学3年間の数学を早い子は9か月で終える効率のよさに驚いたものです。それと同時に、元数学教員としては一斉授業が子どもにとっていかに非効率であるかを痛感させられました。

 

端末の性能の問題や通信環境の問題など、インフラ上の課題もまだ多く残されていますが、こうした革新的な学習ツールは、個別最適な学びの選択肢を広げるために積極的に導入することが大切です。情報端末を持っていること自体には意味はなく、どんな学習環境を子どもに提供できるかを考えていきましょう

 

情報端末が配られるようになり、保護者世代が受けてきた学び方とは大きく変化してきています。情報端末を使ってどのような学びを提供するのかを大切にしてください

 

【KEYWORD】

GIGA スクール構想:全国の小・中学生に一人1台教育用端末を整備する国家事業。2019年開始。コロナ禍で前倒しが進み2021年にはほぼ完了。

 

【書籍紹介】

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた

監修:工藤勇一
発行:Gakken

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説します。

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正しく子どもを褒めてますか? 教育改革の旗手・工藤勇一先生に聞く「正しい褒め方」とは?

元横浜創英中学・高等学校長で、2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校長を務め、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止等の教育改革を行い、教育関係者やメディアの間で話題となった工藤 勇一先生。そんな工藤先生が監修を務めた『家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた』(Gakken・刊)。

 

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。本書では、家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説しています。

 

今回は本書より『褒め方にコツはありますか?』について抜粋して紹介していきます。

褒めることは簡単なことではない

主体性を取り戻すには自己決定が大切ということをお伝えしました。そして、自己決定できるようになるには心理的安全性が欠かせません。この、心理的安全性を高める方法の1つが褒めることなのです。しかしながら、「褒め方」は実に難しいものです。

 

「よく子どもを褒めているよ」と思っている方はぜひ一度、褒めた体験を振り返ってみてください。成績が伸びてえらい、優勝できてすごい、上手にできたね…と結果を褒めていませんか。

 

「結果」を褒め続けられた子は壁にぶつかったときに「自分にはできない」と諦める傾向があります。成功に固執し難しいことを避けたり、得意なことに逃げてしまったりすることで、主体性を失ってしまう可能性があります。

 

ポイントは、成功したときも失敗したときも同じ温度感で、そこに至る「プロセス」を褒めてあげることです。その積み重ねが、「失敗しても大丈夫」「チャレンジが認められる」という子どもの心理的安全性につながります。

 

結果でなく、プロセスを褒めることは意外と難しいと思います。褒める視点は様々ありますが、日ごろから子どものチャレンジの様子をしっかり観察する必要があります。

 

プロセスを褒め続けられた子は、壁にぶつかっても「工夫不足だった。今度はこんな工夫をしてみよう」と努力するようになります。

 

「もう少しだったね」も結果にとらわれた言葉です。成功も失敗も、そこに至るプロセスに褒めるポイントが必ずあります

 

【KEYWORD】

褒める視点:自分で課題を見つけたこと、課題に向かって試行錯誤したことなど。挑戦したことそのものを褒めるのも有効。

 

【書籍紹介】

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた

監修:工藤勇一
発行:Gakken

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説します。

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「なぜ教育が必要なのでしょうか?」教育改革の旗手・工藤勇一先生に聞いてみた

元横浜創英中学・高等学校長で、2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校長を務め、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止等の教育改革を行い、教育関係者やメディアの間で話題となった工藤 勇一先生。そんな工藤先生が監修を務めた『家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた』(Gakken・刊)。

 

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。本書では、家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説しています。

 

今回は本書より『なぜ教育が必要なのでしょうか?』について抜粋して紹介していきます。

 

みんなが自由で、みんなが幸せな社会を実現する

人類は、教育が普及したことで科学技術や経済が発展し、生活水準は劇的に向上しました。そんな現代において教育の課題となっているのは「自分さえよければいい」という利己主義です。暴力、人権侵害、環境破壊などの元凶です。核兵器などの科学技術が発達したため、利己主義は人類を滅ぼす可能性すらあります。

 

利己主義は人間の本能的な欲求です。だからこそ、教育の力で理性的に乗り越える努力を続けることが不可欠なのです

 

世界中の教育関係者が議論を尽くしてまとめたOECD「ラーニング・コンパス2030(以下、ラーニング・コンパス)」では、これからの教育の目的は「個人及び社会のウェルビーイング」としています。これは、教育の最上位の目的と考えることができます。

 

利己主義の話と同様の考え方で、「個人のウェルビーイング」だけを追求すると対立が生まれ「社会のウェルビーイング」は実現しません。つまり、ポイントは「両立」です。

 

その両立に欠かせないのが対話やコラボレーション。違いを認め、共通のゴールを見いだし、お互いに歩み寄る。教育立国ではそうした姿勢や技術を教えることを教育の軸に据えて教育改革を進めています。

 

国連のSDGsのゴールも「leave no one behind(誰一人取り残さない)」。みんなが自由でありながら、みんなが幸せな社会を目指すのが人類の使命です。

 

ウェルビーイングとは「心身ともに幸福な状態、良好な状態」のことです。目指すのは教育による「個人のウェルビーイング」と「社会全体のウェルビーイング」の両立

 

【KEYWORD】

ラーニング・コンパス2030: 「 OECD Future of Education and Skills 2030」プロジェクトの最終報告書の1つ。2019年に発表され、教育の指針が示された。

 

【書籍紹介】

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた

監修:工藤勇一
発行:Gakken

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説します。

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箱根駅伝は2024年大会で第100回!初心者へ出場経験あるスポーツライターが解説する見どころと注目大学は?

2024年で第100回大会を迎える箱根駅伝。これまでの長い歴史の中でさまざまなドラマが生まれ、多くの人々を魅了してきました。そこで箱根駅伝の魅力をあらためて探るべく、箱根駅伝の出場経験があり現在スポーツライターとして活躍する酒井政人さんにお話を伺いました。第100回大会の見どころや、現地観戦を楽しむポイントについても解説していただきます。

 

箱根駅伝はいつ、なぜ始まった?

そもそも箱根駅伝、正式名称「東京箱根間往復大学駅伝競走」が始まったのは1920年(大正9年)のこと。マラソンの父として知られる金栗四三らの「世界に通用するランナーを育成したい」という思いが、大会創設の発端になりました。途中、第二次世界大戦の影響による中止があったため、100周年だった2020年ではなく、2024年に第100回を迎えます。

 

現在、箱根駅伝の出場資格があるのは、関東学生陸上競技連盟に加盟している大学のうち、前年の大会でシード権を獲得した上位10校と、10月の予選会を通過した10校、そして関東学生連合(予選会を通過できなかった大学の記録上位者によるチーム)を加えた合計21チームです。この21チームが、東京の読売新聞社前から箱根の芦ノ湖までの往路5区間・復路5区間の合計10区間、合計271キロの距離を、襷をつなぎながら走り、競い合います。

 

箱根駅伝のコース。距離が長いだけでなく、アップダウンが顕著なことやロケーションが大きく異なるのも特徴。基本的に東海道を辿っていくコースのため、かつては蒲田と戸塚にも踏切が存在し時間のロスやアクシデントも生まれたが、現在は高架化のため姿を消している(箱根登山鉄道の踏切は存在するがレースに合わせて時間調整を行なっている)。

 

2024年の箱根駅伝は、
第100回大会にふさわしい華やかな大会に

2024年の箱根駅伝は、記念すべき第100回の大会。酒井さんも「節目の年にふさわしい、華やかな大会になると思います」と話します。今回の大会は、通常の大会と具体的にどのようなところが異なるのでしょうか?

 

「通常の大会と第100回大会との違いは、出場枠が21から23に増えることです。今大会は関東学生連合の編成がないため、実質的には参加できる大学がいつもより3校増えます。また今大会の10月の予選会は、関東地区以外の大学にも参加資格が与えられ、全国大会に近い形になっています。しかし残念ながら、予選会で関東勢以外のチームが出場権を獲得することはできませんでした。それでも、この第100回大会をチャンスと捉えて挑むチームが全国各地に見受けられ、予選会からすでに通常とは異なる特別な大会になっていると思います」(スポーツライター・酒井政人さん、以下同)

 

長距離選手にとって憧れの舞台
「箱根駅伝」の特徴や魅力とは?

 

今大会は全国大会に近い形とはいえ、通常は関東の大学しか出場することができない箱根駅伝。しかしながら全国の長距離選手が憧れる大会であり、全国的にも高い知名度を誇っています。箱根駅伝ならではの特徴や魅力はどのようなところにあるのでしょうか?

 

箱根駅伝は、出雲駅伝・全日本大学駅伝と並んで『大学三大駅伝』と呼ばれています。その中で箱根駅伝は、ほかの二つの大会と比べると距離が長いところが大きな特徴です。距離が長いと、“ブレーキ”(アクシデントなどにより、想定タイムを大きく下回ること)が起きやすくなります。例えば全日本大学駅伝なら1分の遅れで済むようなミスも、箱根駅伝では3分の遅れになるなど、一つのミスが響いて命取りになることもあるのです。そのため順位変動が起きやすく、誰も予想しない展開になることもあります

 

箱根駅伝(2024年)の各区の距離と高低差を示す図。大会のスタート/ゴール地点となる読売新聞社前がある東京・大手町は、海抜1〜6m程度。途中の何度か急坂を挟みながらも小田原中継所地点では10mにすぎないが、そこから1区間で国道1号線の最高標高地点874mを目指して一気に駆け上がることになる。

 

「そしてなんといっても、箱根駅伝はコースが特徴的です。ビルが立ち並ぶ都会のど真ん中からスタートし、海沿いを走り、最後は山を登っていく。復路は逆になりますが、ロケーションが大きく変わるのは魅力の一つです。テレビでずっと観戦していると旅をしているような気分が味わえると思います。また、開催日程も1月2~3日という、正月休みを取って暇な方にとっては絶妙なタイミング(笑)。たとえばサッカーなどのように劇的な変化がすぐに起きる競技ではないので、家でゆっくりしながら楽しく観戦できるところも、箱根駅伝がここまで知名度を誇る理由の一つかもしれません」

 

スタート地点は日本の金融の中心地、大手町。※写真は2022年10月より以前のもの。

 

東京→横浜と街を過ぎて、3区は湘南の海沿いを通る国道134号線へ。正面に富士山、左に相模湾と大会一の景勝地だが、時に気温の上昇や強い向かい風が選手の敵に。

 

往路のゴールであり復路のスタート地点が、箱根・芦ノ湖畔。5区の山上りは最大の難所とされる。

 

復路の10区は日本橋を迂回するコースのため、1区より距離が長くなる。沿道には大勢の観客がつめかけ鈴なりに。

 

さらに、箱根駅伝の長い歴史の中で変化してきたことや、最近の傾向についても教えていただきました。

 

箱根駅伝のルートは基本的にずっと変わっていません。しかし2006年から2016年まで、主に中継所付近の工事の影響で5区が今より2.5キロほど長い時期がありました。5区はもともと800メートル超の標高差がある過酷なコースですが、今より距離が長かった時期には『山の神』と呼ばれる名選手も生まれました」

 

2018年第94回大会の往路を首位から第3位までにゴールした5区の選手たち。同大会は、復路6区で東洋大学を逆転した青山学院大学が総合優勝を飾った。

 

「また、最近の傾向として挙げられるのは厚底シューズの登場です。シューズの性能がアップしたことで一気に高速化が進みました。これは近年で一番大きく変化したところだと言えるのではないでしょうか」

 

注目のチームや選手は?
第100回箱根駅伝の見どころ

来たる第100回大会に向けてチェックしておきたいのが、注目のチームや選手。今大会も箱根駅伝を取材されるという酒井さんに、見どころを教えていただきました。

 

・前代未聞の「2年連続3大会制覇」なるか⁉ 圧倒的な強さを誇る駒澤大学

前回大会で優勝した駒澤大学。長年指揮をとってきた大八木弘明監督は昨年度で勇退し、現在は総監督に。選手たちへの接し方の変化も話題を呼んだ。写真提供=月刊陸上競技

 

「なんといっても今大会で注目のチームは、連覇のかかる駒澤大学。駒澤大学は3人のエースを擁する選手層の厚さに加え、長年培ってきた指導力、箱根駅伝での戦い方、『世界を目指す』という意識の高さなど、あらゆる面で強さをもっているチームです。

 

そして駒澤大学は昨年度、出雲駅伝・全日本大学駅伝・箱根駅伝の3大会制覇を成し遂げました。3大会制覇は史上5校目で、駒澤大学史上初のこと。そして今年度に入ってからも、出雲駅伝・全日本大学駅伝で圧倒的な強さを見せ、優勝しています。まだどこの大学も成し遂げたことのない『2年連続3大会連覇』という偉業を達成できるのか。今大会における大きな注目ポイントです」

 

・第100回大会に照準を合わせ、28年ぶりの優勝を目指す中央大学

「駒沢大学を追いかけるチームとして有力なのが、前回大会2位の中央大学。前回の2区、3区で区間賞を獲った選手が残っていて、ほかにも良い選手が揃っています。中央大学は出場回数も優勝回数も最も多い大学ですが、この28年間は優勝していません。特に吉居大和選手ら強力選手が最終学年を迎える第100回大会に照準を合わせ、これまで取り組んできたようなので、このチャンスを絶対に逃すまいと『打倒駒澤』で挑んでくるはずです」

 

・スーパールーキーの走りに期待! 10年ぶりの出場となる東京農業大学

「今大会、10年ぶり70回目の出場権を手に入れたのが東京農業大学です。実は僕の母校でもあります。なかでも1年生の前田和摩選手は、10月の予選会では日本人トップの記録を叩き出し、全日本大学駅伝でも2区で区間新記録の快走を見せました。後輩だからという贔屓目ではなく(笑)、スーパールーキーとして注目すべき選手の一人だと思っています」

 

各チームが試行錯誤する
“チームで勝つための戦略”も見どころ

箱根駅伝は、選手たちの走りはもちろんですが、各チームの戦略や駆け引きも大きな見どころです。そこで酒井さんに、チームとしての戦い方や戦略を考えるときのポイントについて教えてもらいました。知っておくと、より深く箱根駅伝を楽しめるはず。

 

「最近の戦略として多いのが、エース級の選手がどの区間を走るのかを当日までわからないようにすることです。箱根駅伝では毎年12月10日頃に各校16人の登録選手が発表され、29日頃に登録選手の中から1~10区間を走る選手が発表されます。残りの6人は補員(控え選手)になりますが、当日変更で最大4人までメンバーを入れ替えることが可能です。ただし入れ替えられるのは、1~10区間の選手と補員の選手のみ。例えば2区と3区の選手を入れ替えるなど、すでに区間が決まっている選手同士をチェンジすることはできません。そのため、エース級の選手をあえて補員メンバーに入れて、どの区間に入れるかを当日まで隠しておくチームが多くあります。

 

もちろんチームによっては、最初に発表した1~10区までのメンバーを変えないところもあるのですが、直前に選手が体調不良になるなど、不測のトラブルが起こることも考えられます。最近は特に、そうしたリスク管理の意味も含めて、エース級の選手を補員にしておくチームが多い印象です」

 

距離が長く、区間によって特徴も大きく異なる箱根駅伝は、誰がどの区間を走るかなど「チームとしてどう戦うか」という戦略を立てることも重要です。

 

「例えば2区は『花の2区』とも呼ばれるように、各校のエース級選手たちが走ることの多い区間です。2区は距離が長い上に、途中に激しいアップダウンもあり、難しいコースと言われています。さらに1区から2区は僅差で襷を渡されることが多いので、最初の順位が決まる重要な区間です。さらに5区や6区も山登り・下りがある特徴的なコース。この辺りは特に差が付きやすいので、だいたい2区と5区を走る選手を決めてから、他の区間を走る選手を決めていくことが多いのではないかと思います。

 

例えば、山登りが苦手なチームは5区で差を付けられやすいので、2区だけでなく、3、4区にも速い選手を配置したり、ずば抜けて速い選手がいないチームは、2区で差を付けられすぎないよう、他の区間でカバーして少しずつ順位を上げていける配置にしたり……。区間の特徴と自分たちのチームの特徴をあわせて考えながら、いかに短所を補い、長所で攻めていけるかを考えていく必要があります。こうしたチームプレーは駅伝の魅力だと思います」

 

箱根駅伝を現地で楽しむ際のポイント

10区。写真提供=月刊陸上競技

 

家でゆっくり箱根駅伝を観戦するのも良いですが、現地で観戦するとまた違った楽しみがあります。現地で観戦する時の注意点やおすすめの観戦方法をうかがいました。

 

「現地観戦をするときに留意しておきたいのが、中継所はとにかく人が多いということ。特にゴール付近は身動きが取れなくなるほど人がいるので、覚悟が必要です。個人的には、中継所やゴール以外の、沿道から走っている選手を見るのがおすすめ。早朝で現地へ行くのは大変かもしれませんが、6区の箱根山中は比較的人が少なめだと思います。

 

また意外と穴場なのが、選手たちが来る1時間前くらいの中継所です。選手が走る姿は見られませんが、ウォーミングアップ中の選手たちを見たり、緊張感ある雰囲気を感じたりすることができると思います。テレビで見るのとはまた違った箱根駅伝の一場面を見られるのも、現地観戦ならではの楽しみ方ではないでしょうか」

 

101回目以降の箱根駅伝はどうなる?

最後に、長い歴史をもつ箱根駅伝の「これから」について、酒井さんにうかがいました。

 

「箱根駅伝はもともと、世界に通じる選手を育成しようという目的で始まった大会です。今大会は全国大会に近い形になりましたが、個人的には今後も箱根駅伝を一部全国化にするのも良いのではと思っています。例えば、全日本大学駅伝では8位までに入った大学が翌年のシード権を獲得できるのですが、その中で地方トップのチームを箱根駅伝に招待するなど、強いチームが関東の大学に挑むような形でやるのは一つの方法かなと考えています。
というのも、地方にはすでにそれぞれ駅伝の大会がありますし、関東まで来るのにはお金もかかってしまうため、あまり現実的とは言えないからです。それでも、全国の選手たちが切磋琢磨して高め合えるような方法を模索していけると良いですよね」

 

近年は、早稲田大学出身の大迫傑(おおさこすぐる)選手のように、箱根駅伝よりも自分の目標を優先する選手も出てきたといいます。

 

「トップ選手の中には、箱根駅伝も大切にしながらさらにその先の“世界”を見据えている選手もいる一方で、大学卒業後は競技を辞めるつもりで、箱根駅伝に全てを賭ける選手も当然います。そうやっていろんな考え方の選手がいるところも、箱根駅伝の面白いところです。そして何より学生たちが懸命に走る姿は、見ていて自然と元気をもらえると思います。ぜひ第100回の記念すべき大会を、それぞれの視点で楽しんでもらいたいと思います」

 

 

Profile

スポーツライター / 酒井政人

東京農業大学1年時に箱根駅伝10区出場。故障で競技の夢をあきらめ、大学卒業後からライター活動を開始。現在は雑誌、WEBを含めさまざまな媒体で執筆している。著書に『箱根駅伝は誰のものか』(平凡社)、『ナイキシューズ革命 “厚底”が世界にかけた魔法』(ポプラ社)など。

パリ2024パラリンピックの注目競技「パラカヌー」とは? 瀬立モニカ選手と支える人々が目指すもの

“パラカヌー”とは、2016年のリオ大会からパラリンピックの正式種目に採用された、おもに下肢に障がいのある人が対象になる競技です。

 

“水上のバリアフリー”と形容され、年々競技人口が増えているというパラカヌーで活躍するアスリートたち。またその周囲には、活動をサポートするさまざまな人々が存在します。彼らはどのような思いで、競技、そしてパラリンピックの大舞台を見据えているのでしょうか?

 

脊髄損傷による両下肢麻痺という重い障がいを負いながら、パラカヌー選手として大活躍している日本代表・瀬立(せりゅう)モニカ選手と、サポートを務める日本障害者カヌー協会・上岡央子(うえおかひさこ)さんに、パラカヌーとその魅力について伺いました。

 

水上スポーツが盛んな
江東区生まれのカヌー選手

きたる2024年はオリンピック・パラリンピックイヤー。とくに回を重ねるごとに注目を集めているのが、近年面白い競技が増え続けているパラリンピックでしょう。今回紹介するパラカヌーは、そのなかでも2016年リオ五輪で正式採用されたばかりの比較的新しい競技。

 

一方で、カヌーはオリンピックでは古くから正式種目として採用されてきたスポーツです。とくに2016年のリオ大会で“カヌー・スラローム”の羽根田卓也選手が日本人初のメダルを獲得したこともあり、競技として知った人も多いでしょう。

 

まずは上岡さんに、パラカヌーの競技としての特徴を教えていただきました。

 

「オリンピックのカヌー競技には『スプリント』と『スラローム』の異なる2種類の競技があり、パラカヌーと同じ『スプリント』では、シングル(1人乗り)、ペア(2人乗り)、フォア(4人乗り)とありますが、障がい者が参加するパラカヌーは、『スプリント』競技だけです。『カヤック』と『ヴァー』の2種目でシングル(1人乗り)だけで、両者は艇の形と漕ぎ方が違うのですが、いずれも流れのない200mの直線コースで着順を競います。さらに、障がいの程度によって3つのクラスに分かれています」(上岡央子さん)

 

パラカヌーの種目

・カヤック……長さ5m×幅が艇底から10cmのところが50cm以上という規定がある1人乗りの競技艇に乗り、両端にブレードがついたパドルで漕いで進むスタイル。2016年のリオパラリンピックから正式種目となった。

 

・ヴァー……長さ7m30cm以内の競技艇の片側に浮力体がついており、片方だけにブレードがついたパドルで漕ぐスタイル。2021年に開催された東京パラリンピックから取り入れられた。

 

パラカヌーのクラス分類

・L1……胴体をまったく動かせず、肩と腕の力だけで漕ぐクラス。
・L2……胴体と腕の力だけで漕ぐクラス。
・L3……腰と胴体・腕の力だけで漕ぐクラス。

 

そのうち瀬立選手は、カヤック・L1クラスの日本代表として活躍しています。日本人で唯一、リオ・東京大会ともに出場を果たしたパラカヌー日本代表選手なのです。

 

東京・江東区生まれの瀬立選手は、実は怪我を負う以前の中学2年のときにカヌーを始めました。東京湾に面し、河川が発達している江東区は、まさに東京五輪の会場となった海の森水上競技場を有する街。五輪に向けて水路を使ったスポーツの振興と選手育成に力を入れてきた歴史があります。

 

「カヌーってそもそも道具を用意したり、カヌーを保管したり乗り降りできる場所を管理したり、始めるハードルが高いスポーツです。でも私が育った江東区は、区内の中学生なら誰でもカヌーを始められる環境を区が提供してくれていました。私もスポーツは小さい頃から得意でしたし、水泳もやっていたので、体育の先生から誘われていたんです。ただ、当時はカヌーに特別惹かれていたわけではなかったかもしれません。というのも、ちょうど中学のときは学校のバスケ部に入っていて、その練習に集中していたので」(瀬立モニカさん)

 

瀬立モニカ選手。

 

始めてみれば、持ち前の運動神経の良さからすぐに国体を目指せるほどの実力をつけた瀬立選手。しかし高校に入って間もなく、両下肢麻痺という重い障がいを負ってしまいます。

 

「競技としてのカヌーがどれだけ難しいかをよく知っていたからこそ、怪我をした直後は、もう一生カヌーに乗ることはないだろうと思っていました。なぜなら腹筋と背筋が使えず、自分の力で座っていることすらできなくなったからです」(瀬立さん)

 

諦めかけた心に火をつけた
水上のバリアフリー

 

ともすれば諦めてしまいそうな状況に打ち勝ち、再び水の上へ挑んだのはなぜなのでしょうか? ここからはお二人の対談によって、パラカヌーにかける思いや、競技環境などの実情を明らかにしていきます。

 

上岡央子さん(以下、上岡):カヌーの競技艇って、レクリエーションで使うカヌーとは違って水の抵抗を小さくするために細く作られています。健常者のアスリートがただ乗って浮くだけでも、実はかなりの練習が必要ですよね。

 

瀬立モニカさん(以下、瀬立):そうですね。誰でも最初は、何回も沈(チン=転覆)しながら5m進むのがやっと。普通の人が安定して水の上で乗っていられる状態になるまでには、3ヶ月くらいかかるかもしれません。

 

上岡:瀬立選手の場合は、胸から下を自分の力で動かすことができません。つまり、障がいの状態がもっとも重いL1クラスでパラリンピック出場を果たしているんですよ。しかも、2014年にパラカヌーを始めて2016年のリオ大会に出場していますから、練習期間としてはたったの2年間! これは並大抵のことではなかったでしょう?

 

瀬立:始めたのは、怪我をして1年くらい経ったころでした。お世話になったカヌー関係者から根気よく勧めていただいたことが最初のきっかけです。でも断るつもりで乗るだけ乗ってみたら、考えがガラリと変わりました。

 

その時に感じたことが、パラカヌーの魅力であるの“水上のバリアフリー”ということ。車椅子で生活していると、段差があるたびに先へ進めなくなったり、友達と移動していても私だけ別のルートになったりすることがたくさんあります。でも、水上に出てしまえば私もみんなと同じように前へ進めました。それに、水の上には速度制限もなければ一時停止もない。障がいを負った私でも自由に動き回れるということに大きな感動を覚えたんです。

 

上岡:カヌーって一度乗ってみるとわかるんですが、今までとまったく違う世界が見えるスポーツなんですよね。なかでもパラカヌーに親しむ方がよくおっしゃるのは、自分が車椅子に乗っていることを忘れてしまうって。実際私たちって、車椅子の方と接する時はどうしても目線の高さが違うので、コミュニケーションにある種のぎこちなさが出てしまうことってあると思うんです。でも一緒にカヌーに乗って水の上へ出てしまえば、健常者も障がい者も目線は同じ。何だかお互いの心までバリアフリーになって、コミュニケーションがスムーズになったりもするんです。

 

上岡央子さん。

 

瀬立:みなさんプールで泳いだり陸を走ったり、水中や陸上の感覚を知っている人は多いですが、水上の感覚を知っている人は案外少ない。水上ってそれだけ特殊な環境です。それに私が競技を始めた2014年当時、L1クラスでリオ出場を目指す女性選手は日本にほとんどいませんでした。だからやると決めれば、すぐ日本代表になれるような環境は整っていたんです。ただ、当時の監督から言われて今でも覚えているのは、「周りにいわれて始めるパターンだと絶対にうまくいかない。やるなら覚悟を持ってから取り組みなさい」という言葉でした。

 

上岡:たしか、当時はパラカヌー用の競技艇すらまだ日本になかったですよね?

 

瀬立:そうでしたね。

 

上岡:パラカヌーは、まず競技艇に乗れるようになるまでにも時間がかかりますし、乗れるようになったとしても、継続するにはサポートするスタッフや環境、そしてお金が必ず必要になってくるスポーツです。

 

瀬立:はい。ひとりではけっしてできないからこそ、覚悟を決めなければ絶対に続けられなくなると思っていました。結果的に私の場合は江東区生まれということで、区が選手の育成に力を入れてくれて。とても恵まれた環境ではあったと思います。

 

上岡:国内でライバルがずっといないというのも、世界を目指すアスリートとしては厳しい環境じゃないですか?

 

瀬立:常に自分との戦いでしかないですからね。国内で同じクラスのライバルって未だにいないんですよね(笑)。

 

上岡:そう! 瀬立選手の活躍もあってパラカヌーの認知度は少しずつ上がっているはずなのですが、女性の競技者がなかなか増えないんです。なぜだろうって私なりに考えてきたんですけど、やっぱり女性の場合はとくに着替える場所が必要だったり、沈して濡れたらシャワーも浴びたいじゃないですか。でもそういった設備が整っている練習場や競技場がほとんどないのが現状で。そういうものは「ない」と割り切れる人でないと、続けていけないのかなって。

 

瀬立:はい。私もトイレで着替えるのが日常です(笑)。それでも、日本のトイレはまだ綺麗だから使いやすいんですけれど。

 

瀬立選手と競技艇。背景は東京湾。

 

パラリンピックを見るなら、
“メカニック”にも注目を!

選手の海外遠征や合宿のサポートをするほか、パラカヌー競技者が競技に集中できる環境を整えることも仕事のうちだという上岡さん。カヌー競技の本場であるヨーロッパに比べると、日本の練習環境はまだまだ乏しい部分も多いようです。

 

上岡:江東区のようにカヌーやボートを気軽に練習できる環境が整っている地域というのは、まだ日本国内にはほとんどありません。ヨーロッパの場合、カヌーを日常的な移動手段として使っているという環境があるところも多いので、おそらくそれもあってあちらの選手は強いんです。ただ、河川が発達しているという意味では、日本も自然環境的には負けてはいないんですよね。

 

一方で、近年は日本でも子どもたちを対象にした自然教育がすごく注目されていると思うんですが、水辺の遊びに対しては“危険なもの”というイメージがつきすぎているところもあるような気がしていて。私たち日本障害者カヌー協会の第一の活動目的は障がい者を対象としたパラカヌーの普及なのですが、パラに限らず、カヌーというスポーツ自体の普及が、これからの未来を左右するカギになると思っています。

 

日本障害者カヌー協会では、オンシーズンを中心に、頻繁に体験会を開催している。写真は江東区の新左近川親水公園カヌー場で行われた「ユニバーサルカヌー体験会」の様子。

 

体験会は競技と異なり、視覚障がいや発達障がいなど、すべての障がいを対象としている。

 

瀬立:日本の選手も遅れをとっているばかりではありませんよ。パラカヌーの選手は自分の障がいに合わせた特殊なシートに座って競技をするので、シートのフィット感もタイムに大きく影響します。そこで私はリオ大会を目指していたときから、『川村義肢』というメーカーに特注したシートを使っていました。たとえば車椅子バスケットボール用の競技用車椅子や陸上競技用の義足など、パラ選手が用いるさまざまな用具を作る人たちのことを『メカニック』と呼ぶのですが、日本のメカニックの職人技は本当にレベルが高いんです。これは世界で一番なんじゃないかな。

 

上岡:瀬立さんのシートはカーボン製。ヨーロッパなど他国の選手のシートは意外とツギハギだったり、発泡スチロールのようなものが使われていたりしますよね。

 

瀬立:そうなんです。2015年の世界選手権に出たとき、私のようなカーボンのシートで競技している選手はひとりもいなくて、みんなに「写真を撮らせてほしい」といわれました。そうしたら、翌年のリオ大会ではみんな私のものと同じようなシートに座っていて(笑)。

 

上岡:パラカヌーの場合、厳密なルールとして決まっているのは競技艇のサイズと重さだけなので、シートのカスタマイズは自由にできるんです。

 

瀬立:私のカーボン製のシートも、私の身体のサイズにぴったり合わせて作っているから、絶対に太れないんですよ(笑)。船は軽ければ軽いほど、細ければ細いほどスピードが出ますし、そういったメカニックの技術の差で0.1秒を争っているのもパラカヌーの面白さだったりします。サポートしてくださるみんなの努力を、私の体重ひとつで台無しにはできないというプレッシャーは常にあるんです。

 

2023年8月に開催された世界選手権で競技会場となった、ドイツ・デュースブルクにて。

 

障がいのあるすべての子どもたちに
「未来は明るい」と伝えたい

東京大会に引き続き、来年のパリパラリンピック出場も目指している瀬立選手。この冬も厳しいトレーニングに取り組む一方で、現在は学生などを対象とした講演活動にも力を入れているそう。

 

瀬立:実は、今日の取材前にも中学校で講演をしてきました。

 

上岡:学生さんたちからすれば興味しんしんですよね。いろいろな質問を受けるんじゃないですか?

 

瀬立:やっぱり中学生なので、「好きな人のことで頭がいっぱいです、どうしたらいいですか」なんて可愛い質問もあったりして(笑)。

 

上岡:それは面白いですね! どんな回答をしたんですか?

 

瀬立:隙間がないくらいに、いっぱい考えなさいと(笑)。

 

上岡:さすが、瀬立さんらしいアドバイスですね(笑)。

 

瀬立:一方でグサッときたのが、やはり身体に障がいを持っている生徒さんからの、「未来は明るいですか?」という質問でした。私たちのようにある日突然障がい者になってしまうと、今後社会生活を送るうえで車椅子生活がどれだけ大きなハンデになるのか、わからないことだらけでとても不安になるんです。たとえば私自身もスポーツが大好きでしたし、運動能力が人より秀でていたからこそ、怪我をした瞬間にそれが苦手なことになってしまったショックはとても大きいものでした。学校の体育の授業すら見学することしかできなくなって、自分の個性を発揮できる場所がどんどんなくなっていったんです。そのように、生きることに自信をなくしていく人も本当に多いのが現状で。

 

上岡:たしかに、私たち日本障害者カヌー協会としても、障がいのある方にいかにして新しいことにチャレンジしてもらうか、その最初のハードルを乗り越えていただくときのサポートの難しさは日々感じています。

 

瀬立:そのハードルの高さが、一種の社会問題でもあると思うんですね。でも障がいによって一度自信をなくしたとしても、パラカヌーのようなスポーツを通じてなら、再びセルフコンフィデンスを高めることができるんです。これは2023年の秋にアジア大会に出場したとき、同じ種目で優勝した中国の選手も言っていたこと。パラカヌー競技者としてこのメッセージを発信していくことが、私の使命だと思っています。

 

上岡:そうですね。私も協会に関わるまで障害福祉に関わる仕事してきましたが、水上のバリアフリーと呼ばれるパラカヌーには、障がいのある人、ない人がより良い形で共生できる社会を作るヒントがたくさんあるような気がしています。

 

瀬立:パラカヌーって、ひとりじゃ絶対にできない競技なんですよね。私も怪我をした当初は日常で誰かに助けてもらうたびに“申し訳ない”とか、“すみません”といった気持ちを抱いていたのですが、ある人に「その『すみません』を『ありがとう』にかえてごらん」と言われてから、自分の障がいとの向き合い方が変わりました。助けてもらって幸せをもらえたその気持ちを、“ありがとうございます”って笑顔で伝えられると、相手も幸せになって、それがまた自分に返ってくる。サポートしてもらうことを引け目のように感じなくていいと気づけた瞬間があったんです。

 

瀬立選手が感じるように、家族や友人をはじめさまざまな人・団体が競技者をサポートしている。パラスポーツを起点に誰もが活躍できる共生社会の実現を目指す日本障害者カヌー協会の指針に、大和ハウスグループで賃貸住宅「D-ROOM」を管理・運営する大和リビングも共感、2023年より協賛している。

 

上岡:それで、「未来は明るいですか?」という質問には、どう答えたのですか?

 

瀬立:もちろん、「未来は明るいから大丈夫だよ」と答えました。私たちのメカニックさんがそうであるように、車椅子ひとつでも立ったまま移動できる車椅子ができたりとか、障がい者を取り巻く技術ってどんどん発展してきているんです。

 

上岡:たしかに、技術の発展とともにパラリンピックもどんどん面白くなっていますしね。

 

瀬立:はい。パラ選手の活躍をきっかけに、障がいを負っても、自分に自信を取り戻していける人たちが増えていったらうれしい。そのために私もまだまだ挑戦を続けます。

 

 

Profile

パラカヌー日本代表 / 瀬立モニカ(せりゅうもにか)

中学1年でカヌーを始め、高校1年のときに脊髄損傷の障がいを負う。リハビリを経て高校2年でパラカヌー選手としてパラリンピックを目指すことを決意。リオ2016パラリンピック競技大会では8位入賞、’19年の世界選手権で5位入賞と驚異的な成績を納め、念願叶って2021年東京パラリンピック出場を果たした。
オフィシャルサイト
Instagram

 

一般社団法人 日本障害者カヌー協会 / 上岡央子(うえおかひさこ)

介護福祉士、福祉住環境コーディネーター、ユニバーサルコーディネーター。幼少時から障害を持つ方々と日常的なかかわりを持つ経験から30年以上にわたり障害福祉分野に携わってきた。2017年の発足時より日本障害者カヌー協会に所属。強化選手のサポートや、より良い競技環境の整備、カヌーの普及活動やサポート講習活動などを幅広く担っている。
日本障害者カヌー協会

BWSC(ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ)2023で東海大学が得た“日本トップで完走”以上の戦果とは?

2023年10月下旬、オーストラリアで「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」(以下、BWSC)が開催されました。通常隔年で開催されている大会ですが、コロナ禍による大会中止もあり、今大会は4年ぶり。全世界20以上の国から大会を待ちわびていた約40チームが参戦する大会となりました。

 

過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回の輝かしい戦績を獲得してきた東海大学は、大きなアクシデントを乗り越え総合5位で完走。さらに公正かつ紳士的な姿勢が評価されデイビット・ヒューチャック賞を受賞するという、大きな成果を残しました。

 

「優勝を目指していたので悔しさは残ります。でも攻めた結果、無事ゴールできたのはうれしい」と語ってくれたのは、学生代表の宇都一朗さん。今回は、2023年の大会を終えた東海大学のソーラーカーチームに大会の感想と今後の目標、そして決意を伺います。

 

気象変化や大きなトラブルを乗り越え、
無事完走できたことがなによりの喜び

 

BWSCは、オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線距離3020kmを、太陽の力だけで5日間走り続ける大会です。世界最高峰のソーラーカーレースと言われており、世界各国の大学や企業など多くの団体が集結します。

 

これまで数々の試練を乗り越えてきた東海大学のソーラーカーチーム。優勝も期待されるなかで迎えた4年ぶりの大会でした。ところが、ゴール目前でリタイアを検討するほどの大きなトラブルが発生。それを決死のチーム力で乗り越え、無事総合5位という好成績でゴールを切りました。

 

今大会はコロナ禍で2021年大会が中心になったことも影響し、初参加となった学生が大半を占めていたといいます。工学部3年生の小平苑子(そのこ)さんは、初めてのBWSCを次のように振り返ります。

 

車体の点検を入念に行う小平さん。

 

「国内の大会には参加していましたが、世界大会は初めて。初めて見る車体や技術に触れて、素直に、世界は広いんだなと実感しました。オーストラリアをたった5日で縦断するので、環境の違いにも驚きました。いろいろなトラブルもありましたが、無事ゴールできたことが本当にうれしかったです」(小平さん)

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

 

大会時に司令車から学生たちの活躍を見守っていたのは、チームを統括する木村英樹教授。大会全体を通じて、まず気象面での変化を実感したそう。

 

東海大学ソーラーカーチームを、1996年から率いて指導する木村英樹教授。

 

「今大会は、前半戦の日照量が少なく全体的に記録が悪くなったチームが多かったですね。完走できなかったチームも少なくありません。ソーラーカーレースは、気象条件に左右される大会ですが、今年は気象の他にもブッシュファイヤー(森林火災)の影響もありました。天気予測のために衛星映像を確認するのですが、火災による煙で黒い雲が発生していたんです。煙によって太陽光が遮られるため発電量は減りますし、道路に迫るほどの距離に炎が届く場所もあったほど。地球温暖化の影響を肌で感じる、そんな大会でもありました」(木村教授)

 

そう今大会の“難しさ”を総括してくれました。では今大会でチームが目にしたものとは?

 

敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

 

BWSCを象徴する
“リスペクト文化”

 

BWSCでは、意外にも参加チーム間の交流が盛ん。大会後には、ユニフォーム交換まで行われるそう。とくに東海大学のユニフォームは各国の学生から「交換してほしい」と大人気になるほど。ライバル同士であるはずの学生たちを結びつけるのは、お互いを尊重する「リスペクト文化」だといいます。

 

「コミュニケーションが盛んなことも、BWSCの魅力だと感じます。大会中はピットで作業することが多かったのですが、それでも5〜6チームと交流して、個人のSNSのアカウントを交換することもできました。初めての大会でしたが、世界中にソーラーカーが好きで、一緒に頑張っている仲間がいるのは素敵なことだなと感じています」

 

そう語るのは、チームの機械班リーダーを務める、工学部4年の小田侑斗さん 。また、今大会のチームを率いた工学部の福田紘大教授は過去の傾向と比較しながら教えてくれました。

 

「最先端の技術が集まる大会なので、正直、過去にはペナルティ合戦になっていた部分もありました。東海大学では、一貫して『フェアにいこう、技術もオープンにしていこう』、そんな精神で取り組み続けていたので、それがデイビット・ヒューチャック賞受賞にも繋がったのだと思っています。コロナ禍で大会が中止になったことで世代が一新されたこともあり、『もうそういうのはやめようよ』と、大会全体がポジティブな雰囲気に変わっていったのもあるかもしれませんね」(福田教授)

 

お互いの良いところを認め合い、仲間とともに切磋琢磨する。BWSCはこれまで以上に未来をつくり、技術と心を育む大会へ発展しているのかもしれません。

 

機械班リーダー、小田侑斗さん。

 

進化はまだ終わらない?
ソーラーカーは最先端技術の結晶

 

また、BWSCでは、優勝チームが技術を惜しみなく公開するという文化も根付いているそう。今回2連覇を達成したベルギーのInnoptus Solar Teamが優勝した要因はどこにあったのでしょうか? 佐川耕平総監督(工学部講師)に伺いました。

 

「BWSCは、技術力を競うだけでなく情報戦も行われています。大会ごとに高い技術力を発揮するだけでなく、ソーラーパネルやバッテリーに関わる最新情報やトレンドをどこまで取り入れるかも、重要な戦略になります。今回優勝したInnoptus Solar Teamは、技術だけでなく情報面、資金面でも優れていると痛感しました。もはや軍事レベルと言っていいほどの高い技術が集約されていたので、その情報を知ることができたのは大きな収穫と言っていいでしょう。
彼らの勝因をどう活かすか、また私たちがどこまで反映できるのか、そこに今後がかかってくると思います。次の大会まで2年、というと長そうですが、実は意外と時間がないのです。一度すべてを疑って、改善すべきところは改善し、いいところもより高めるためにはどうしたらいいか検討し、さらなる高みを目指していきたいです」(佐川総監督)

 

 

1996年の大会から参加してきた木村教授は、ソーラーカーの魅力を次のように語ります。

 

「20年以上ソーラーカーの進化の過程を見ていますが、『これが限界かな?』と思えば新しい技術が出てきて、面白いほどに進化が止まる気配がありません。ソーラーカーの技術ってなかなか限界が来ないんですよ。アスリートが次々と新記録を塗り替えていくように、ソーラーカーの進化も日々限界突破していく、そんな部分に魅力を感じます」(木村教授)

 

向かうは2025年!
かけがえのない経験を次の世代へ

 

大きな収穫があっただけに、2025年に行われる次回大会に向けての意気込みは強いものがある様子。最後に、これからの目標を聞きました。

 

「2019年に次いで2回目となる大会でしたが、今回はゴール地点に家族や友人が待っていてくれて、とてもうれしかったです。またともにレースを戦った仲間、日本からレースを支えてくれていた仲間たちにも感謝したいですし、帰国後もたくさんの励ましや応援の言葉をもらえて、一生の思い出に残る大会にできたと思います。うれしいことだけでなく、レースの過酷さは経験してみないとわからないこと。今回、写真や動画でたくさんの記録を残してきたので、次の世代にも『何もかもが過酷だぞ! でも楽しいぞ!』ってことを伝えていきたいですね」(宇都さん)

 

 

「自分たちが作ったソーラーカーで3000kmを走り切る……そこに携われただけでも大きな意義のある大会でした。次の世代へは、経験することでしか得られない緊張感や雰囲気を、言葉にして伝えていきたいです。僕はレース前の車検を担当したのですが、ここを通さなければレースに出られないという、今まで経験したことのない緊張感を味わいました。身をもって経験したことを次の世代へ受け継いで、知識として役立ててもらいたいです。そして次の大会では、どっしりとかまえられる自分でいたいと思います(笑)」(小田さん)

 

 

「太陽の力だけで走るってあらためて凄いことだと実感した大会でした。ソーラーカーは、SDGsなど未来を支える技術にも関わってきます。BWSCに参加して、私も社会貢献できる一員になれるかもしれない、そんな気持ちを抱くことができました。レースにおいては『自分たちが作る車体が一番だ』と自信を持つことも大切ですし、勝つ経験を積み重ねていくことの大切さを得ることができました。経験値を高めて、2年後の大会でリベンジを果たしたいです」(小平さん)

 

「ソーラーカーの大会に参加している人の多くが、学生などの若者です。新しい技術に若者たちが挑戦している、そしてリードしていると思うとワクワクしますし、あらためて素晴らしい大会でした。東海大学ソーラーカーチームを卒業して社会人になった若者の多くが、ここでの経験を活かして空飛ぶ車や電気自動車など、“未来をつくる仕事”に就いています。ソーラーカーの技術はきっと学生たちの未来を育む武器になる。挑戦であり大変な戦いであるBWSCに、今後も学生たちとともに挑み続けていきたいですね」(福田教授)

 

大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

 

宇都さんの言葉にもあった“日本からレースを支えてくれていた仲間たち”には、チームメイトだけでなく、車体を共同開発した東レやブリヂストンをはじめ、資金面や現地の宿泊等でサポートした大和リビングなど、“サポーター”の存在も不可欠。

 

[関連記事] 3000kmのデスロードを太陽光だけで疾走! 世界最高峰のソーラーカー耐久レースで世界一奪還を誓うチームの秘策とは?(GetNavi web)

 

 

次の大会は2025年! 残り2年で、東海大学のソーラーカーチームはいったいどんな進化を遂げるのでしょうか? 技術の進歩や環境変化にも対応しながら、どんな未来を描いていくのか、今から楽しみになる取材でした。@Livingでは引き続き、その活躍を追っていきます。

 

 

Profile

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・大学院生、約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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いじめの根底にあるものとは? 教育者・工藤勇一先生が説く日頃から訓練しておくべき考え方

「みんな一緒」に経済成長できる時代は終わり、多様な文化を認めながら自身で考えて答えを導く、いわば「自律」の力が求められる時代。自分はいったい何がしたいのか、どう生きていくのか? 子どもも大人も、当事者意識を持つことが求められるようになったのです。

 

学校にはびこる“当たり前”を撤廃し、自律型教育を進める横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生。著書『きみを強くする50のことば』(かんき出版)には、子どもも大人も知っておきたい自律のヒントがたくさん詰まっています。これからの時代に必ず役立つ、工藤先生のことばをお届けします。

 

全員ちがってオーケー。

 

学校でのいじめの多くは「みんなと違う」という排除から始まります。私たちは小さい頃から、「みんなで仲良くしようね」「友達はたくさん作ろうね」と言われて育ってきました。そのため、仲良くできない人は排除する、突出して優れた才能は叩いて揃えようとします。

 

また多数決も、マイノリティを切り捨て、排除する仕組みです。多数決で決められたことは、数が多い意見が正義となり、少数だった人の意見を「みんなで決めたことだから」と切り捨て、平気で全体主義化してしまうのです。これは学校だけでなく、企業や政治など、社会のあらゆる場面で起こっていることですよね。

 

私たちは対立を起こさないよう、手軽な多数決で解決しようとします。しかし『意見のちがいは当たり前。』でもお話したように、そもそも同じ人間はいません。好きなことも、得意なことも、生まれ育った環境も、大切にしている価値観も異なります。今、目の前にある課題は、本当に多数決で決めて良いことなのでしょうか?

 

まずは異なるものを排除してしまうのではなく、経験しながら「全員ちがっていいよね」と認めていく。いろいろな経験を重ねることで、わかるようになる時がやってきます。大人になれば、どうしても仲良くできない人もいるし、それが普通だって認められますからね。

 

髪の色が違う、スカートの丈が違う、得意な教科が違う、家族が違う、趣味が違う、そんなことは当たり前。日頃から心の中で「全員ちがってオーケー」と唱えて、訓練してみましょう。

 

『きみを強くする50のことば』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

Profile

横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。
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みんなと同じなら安心? 教育者・工藤勇一先生が伝えたい「みんな違って当たり前」の先にあること

「みんな一緒」に経済成長できる時代は終わり、多様な文化を認めながら自身で考えて答えを導く、いわば「自律」の力が求められる時代。自分はいったい何がしたいのか、どう生きていくのか? 子どもも大人も、当事者意識を持つことが求められるようになったのです。

 

学校にはびこる“当たり前”を撤廃し、自律型教育を進める横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生。著書『きみを強くする50のことば』(かんき出版)には、子どもも大人も知っておきたい自律のヒントがたくさん詰まっています。これからの時代に必ず役立つ、工藤先生のことばをお届けします。

 

意見のちがいは当たり前。

「赤信号みんなで渡れば怖くない」なんて言葉がありましたが、たとえ悪いことだったとしても、“みんな”が良しとすれば流されてしまう……そんな同調圧力を感じることがあるでしょう。

 

そもそもこの世には、「同じ人間」なんていません。意見の違いは必ず出てきます。それなのに「みんな同じ」に安心してしまう。これは、対立することを恐れているからではないでしょうか? まずは、意見のちがいが起こることは当たり前なのだと受け入れましょう。

 

一人ひとり、意見が違うという前提で物事を考えられるようになると、多様性を尊重することができます。また意見の対立が起こったとしても「本来の目的はなんだったかな?」と、最上位の目的について議論できるようになります。

 

何事もやってみないとわからないことだらけです。新しいことをすれば、必ずハレーションは起こります。それを予測して、最上位の目的に向かって、オープンな状態で取り組むこと。YES or NOの対立構造でケンカしてしまうのではなく、どうしたらこの場にいる全員で目的を達成できるか? と、その都度軌道修正しながら前進していくことが大切です。 「みんな違って当たり前」「同じ人間なんていない」そう思うだけで、人との関わり方も変わります。多様性を認められるようになれば、自分の意見に誇りを持つこと、そして相手の意見を尊重することもできるようになるはずです。

 

『きみを強くする50のことば』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

プロフィール

横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。
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提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

FCバルセロナと日本の“草サッカー”が激突!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」2023年大会の成果

11回目を迎えた「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」(通称ワーチャレ)。今年は8月24日から27日、千葉のフクダ電子アリーナや周辺のグラウンドで開催されました。 “ワールドチャレンジ” と銘打つ本来の姿が戻ってきたことを感じさせた、今大会のハイライトをレポートします。

↑ジェフ千葉の本拠地、千葉市のフクダ電子アリーナで決勝・準決勝・3位決定戦が行われた

 

国際色豊かな本来の “ワールドチャレンジ” が復活

ジュニア世代を対象とした、11人制サッカーのインターナショナルなサッカー大会として、すっかりお馴染みとなった本大会。通常、小さなコートを使って7〜8人で戦うジュニア世代の諸大会と一線を画し、スペインのFCバルセロナ(バルサ)を筆頭に世界的強豪クラブのジュニアチームと、フルコートのサッカーで勝負ができる点が、参加チームにとっても大きな魅力となっています。

 

今回の2023年大会では、欧州からFCバルセロナとユベントスFCが前年に続いて参戦したうえ、コロナの影響で途絶えていたアジアやアフリカを中心とした海外チームの招待も復活。中国から2チーム、インドネシアから1チーム(直前で事情により出場辞退)、さらには政情不安が続くミャンマーからもU-12チームが参加するなど、国際色豊かな本来のワーチャレとなりました。

↑スペインからは、常連かつ大会の象徴的存在となっているFCバルセロナが昨年に引き続き参戦

 

U-12、つまり小学生でありながら、海外の強豪チームと試合ができる機会はほとんどないでしょう。とくに島国・日本の選手たちにとっては、その機会を作ることも容易ではありませんが、逆に機会を得ることができたチームや選手にとっては、得難い経験となることは間違いありません。

 

振り返れば、2013年の第1回大会では、現日本代表の久保建英(くぼたけふさ)選手を擁するFCバルセロナのジュニアチームが圧倒的な強さを見せつけ優勝。日本のサッカー指導者たちに大きな衝撃を与えました。以来、ワーチャレはバルサを筆頭とした世界の強豪クラブと勝負でき、かつ世界の最先端のプレー技術や戦術、指導技術に触れることができる大会として、ジュニアチームのコーチたちの間で注目度を増していきました。

 

一方では、この10年の間に日本におけるジュニアサッカーのレベルも着実に進歩を遂げています。当初は歯が立たなかった強豪の海外招待チームとの対戦も、僅差の勝負となる好ゲームが増え、実際コロナ禍直前の2019年、そして昨年の2022年の大会——FCバルセロナは出場した直近2大会で、決勝に辿り着けていません。それ以前の大会では、全出場大会で決勝に進出、優勝を果たしていたのです(準優勝は1回のみ)。

 

【関連記事】ナイジェリア選抜が初優勝、アジア勢が躍進!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2019」に感じる新時代の到来

 

【関連記事】バルサが再び参戦! 街クラブのU-12が世界に挑む「ジュニアサッカーワールドチャレンジ2022」で見えたこと

 

「ワーチャレは子どもたちが世界に “憧れる” のではなく、『自分たちもやれるぞ!』と肌で感じてもらうことで、今後の成長を引き出すという意図をもって開催しています」と話すのは、大会実行委員長の浜田満さん。コロナ禍を乗り越えた同大会への国内からの参加要望増加に応え、本大会に出場するための国内予選の枠も大幅に拡大されました。以前は別々だったJクラブと街クラブの垣根も取り払って、全国8カ所で予選を敢行。その結果、 “天王山” であるフクダ電子アリーナには有名無名を問わず、全国から非常にレベルの高いチームが集まりました。

↑大会の発起人で、実行委員長を務めるAmazing Sports Lab Japan代表の浜田満さん

 

その効果は、結果からも感じられます。グループリーグではどの試合も接戦、熱戦となり、FCバルセロナやユベントスFCとの試合でも、大差がつく試合が見られません。大会後、浜田さんは「日本のチームがこの大会に力を入れるようになってくれて、大会のレベルがとても上がりました」と感想を語っています。ワーチャレの開催意義が着実に日本のジュニアサッカー界にも広がり、その成果は今大会にも色濃く反映された——。そう見て間違いないでしょう。その象徴が、今大会の決勝の対戦カード、FCバルセロナ対SORRISO SELECT(ソレッソ・セレクト)でした。

↑決勝は、スペインから参戦したFCバルセロナと熊本・鹿児島・宮崎・長崎と九州4県からの選抜チーム、ソレッソ・セレクトという顔合わせ

 

バルサの猛攻に、街クラブによる席巻……今大会を象徴するような戦いの行方

今大会ではFCバルセロナの気合いの入り方が、これまでとは違って見えました。来日した選手たちは、ここ2大会で決勝進出を逃していたことを、先輩たちから聞いていたそうです。つまり彼らは、プライドを賭けて優勝を狙いに来ていたのです。 “バルサ招聘” を実現させてきた浜田さんも、「今年のバルサはすごくいいチームで、トップレベルの選手たちが出てくれた」と語ったことにも現れています。

 

彼らの優勝への強い思いが炸裂したのが、準決勝の横浜F・マリノスプライマリー戦。炎天下での連戦の疲れなどまったく感じさせず、開始早々から、1タッチ、2タッチで流れるようにつないでいく持ち前のパスサッカーと、とくに前線の3人の選手たちの個人技とスピードで、横浜F・マリノスプライマリーを防戦一方へと押し込んでいきます。また攻撃のみならず、ボールを失った後に猛然と奪いにいく選手たちの戦う姿勢には、勝利への執念が見られました。

 

バルサは決定機を量産。大量8ゴールを奪い、Jクラブのジュニアでも最高峰クラスのチームに圧勝を遂げました。横浜F・マリノスプライマリーは、終盤になって意地のゴールをもぎ取りましたが、それが精一杯の抵抗でした。これがバルサの真の実力か、そう思わせました。

↑Jクラブチーム同士の対戦となった3位決定戦は、決着がPKにまでもつれ込んだ

 

もう一方の準決勝では、ソレッソ・セレクトがヴィッセル神戸U-12を下して、決勝に進出します。勝者のソレッソは、熊本を拠点として2002年に設立された街クラブで、九州各地でスクールも展開しており、その各地から集めた選抜チームということで “セレクト” を名乗ったそう。

 

驚くべきは、「5カ所から何人かずつ集めたチーム」(広川靖二監督)が並みいる強豪たちを抑え、決勝まで進出してきたことでしょう。いわば即席のチームが、決勝でバルサと対戦する。そんな痛快なことが実現してしまうのがワーチャレの真骨頂であり、まさにこの年代の選手たちの、草の根からのレベルアップを感じさせた出来事といえました。

↑決勝戦に向かうソレッソ・セレクトの選手たち。決勝に駒を進めた喜びが伝わってくる

 

世界のバルサと地方の街クラブが激突

迎えた決勝でも、驚きは続きました。気合十分で試合に臨んだFCバルセロナのメンバーにまったく臆することなく、ソレッソ・セレクトの選手たちも前へと圧力をかけ、開始早々にコーナーキックのチャンスを得ます。ニアに送ったボールをバルサの選手が頭でそらすと、ボールはそのままバルサゴールへ……。なんとオウンゴールでソレッソが先制点を奪います。

 

まさかの失点でしたが、バルサも慌てることはありませんでした。ただそれ以上に、中盤に人数をかけ、執拗に圧力をかけてくるソレッソの選手たちに、手を焼いているのは明らかでした。それでも9分には、中盤深めの位置からのスルーパスに、今大会で見事なゴールを重ねてきたFWのエクトル・ネストル・アスム・オヤナ選手が反応。同点に追いつきます。

ソレッソは同点に意気消沈することなく、とにかく走って身体を寄せ、交わされてもカバーを繰り返します。とくに速さと巧さを兼ね備えたFWのエクトル選手やディバイン・イケナ・エジョフォル・ジョン選手のマークを任された切通武琉選手と河崎心太郎選手の身体を張ったディフェンスは、ソレッソのピンチを何度も救い、とうとう前半は1-1の同点で終了しました。

↑後半から投入されたマルビン・チュックウブンケン・ドゥル・ドゥル選手と、負けず劣らぬ走力を見せる河崎心太郎選手。彼もまた切通選手とともにバルサのFW陣を苦しめた

 

準決勝でJクラブのジュニアを完膚なきまでに叩きのめしたバルサでしたが、決勝では街クラブのソレッソに善戦を許すという構図は、今大会を象徴していたといえます。スーパーな選手がいるわけではないソレッソでも、戦い方次第でバルサでさえ苦しめることができる。まさに浜田さんの言う「世界に憧れるのではなく、『自分たちもやれるぞ!』と肌で感じる」を、ソレッソは体現していました。

↑ソレッソ・セレクトの守護神は、丹後龍人選手。決勝ではDF陣とともに、鋭い飛び出しと的確なセービングでピンチを何度となく防いだ

 

迎えた後半、ソレッソは変わらずハイプレッシャーでバルサに挑んでいきます。とはいえ、バルサの選手たちもしたたかでした。32分(後半7分)、後半から入ったマルビン・チュックウブンケン・ドゥル・ドゥル選手が一瞬のスキを突いてマークについていた相手を振り切って後方からのパスに飛び出すと、そのまま見事なゴールを決めます。逆転ゴールの歓喜に、ベンチから選手も飛び出し大喜び。それは、バルサの選手たちが本気で勝利を求めていた証でした。

 

その後もソレッソは懸命に走り続け、時にチャンスを迎えたこともありましたが、ゴールには及ばず。逆に48分(後半23分)には、今大会のMVP、ジャン・リソス・トレス選手に3点目を決められ、勝負は決しました。優勝杯は2018年以来となるFCバルセロナが獲得。準優勝はソレッソ・セレクト、そして3位はJクラブ同士の熱い3位決定戦をPK戦で制したヴィッセル神戸U-12 という結果でした。

↑チームにトロフィー、各自にメダルが授けられた

 

↑グループリーグから決勝まで、ハイスピードドリブルを武器にゴールを量産したジャン・リソス・トレス選手には、大会を通じてたった1名の選手にのみ与えられるDaiwa House MVP賞が授与された

 

日本中のサッカー少年少女にポジティブな経験を受け継ぐ

決勝の試合後、ソレッソの広川靖二監督が語った言葉が印象的です。

 

「ぼくらが(決勝まで)来られたということは、誰にでもチャンスがあるということ。それをチームとして表現できたことは、日本中のサッカーをしている子どもたちにとってポジティブなことだと思います」

 

バルサやユベントスといった世界の強豪ジュニアを招待するだけでなく、街クラブ選抜チームを作るなど、常に日本サッカー界の裾野を支える街クラブに門戸を開いてきたことも、ワーチャレのもうひとつの特徴。今大会の結果は、その試みに対する1つの成果がもたらされたといえます。街クラブでもやればできるとなれば、市井で奮闘する街クラブの指導者の皆さんを勇気づけるとともに、Jクラブにも大きな刺激を与えることにもなります。

ソレッソ・セレクトの選手たちは勇敢に戦い、日本サッカーの裾野の広さ、豊かさの一端を垣間見せてくれました。一方のバルサの選手たちは、プレーの巧みさや賢さに加え、気持ちの強さも披露。選手たちがこの大会で得た経験は、きっと豊かな土壌となって、今後の成長を一段も二段も押し上げてくれるのではないでしょうか。

↑決勝戦直後。ソレッソ・セレクトの選手たちは善戦していただけに、その顔に悔しさがあふれる

 

↑大会終了直後のアリーナでは、バルサと国内参加チームや観客たちとの交流も見られた

 

「今大会を経て、このワーチャレの趣旨というものを、また多くの方に理解していただけるのではないかと思います。ここ数年は、コロナ禍の影響で海外チームを連れてくることが難しかったのですが、今年、またイチから新たな歴史を作っていけると感じました」(浜田さん)

 

コロナ禍を乗り越え、U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジもまた新たなステージへ。次はどのような戦いが繰り広げられるのか、早くも2024年が楽しみでなりません。

教育者・工藤勇一先生が麹町中学校で宿題と定期テストを廃止した理由

「みんな一緒」に経済成長できる時代は終わり、多様な文化を認めながら自身で考えて答えを導く、いわば「自律」の力が求められる時代。自分はいったい何がしたいのか、どう生きていくのか? 子どもも大人も、当事者意識を持つことが求められるようになったのです。

 

学校にはびこる “当たり前” を撤廃し、自律型教育を進める横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生。著書『きみを強くする50のことば』(かんき出版)には、子どもも大人も知っておきたい自律のヒントがたくさん詰まっています。これからの時代に必ず役立つ、工藤先生のことばをお届けします。

 

学びは一生もの。

 

大人になってから「どうしてもっと学校で勉強しなかったんだろう」と後悔している人を見かけます。例えば、学生時代は歴史が苦手だったのに、たまたま見たドラマで戦国武将の生き様に感動したり、旅行先の世界遺産に圧倒されたり……そこから学ぶ大人もたくさんいますよね。

 

基本的に、学校の勉強は「宿題をやりなさい」「テストをやりなさい」と与えられる学びが中心です。あらかじめ決められた時間割と教科書で進行していきます。私は誰かに指示されるとやる気を失う子どもだったのですが、みなさんも同じように「今やろうと思ったのに!」と思った経験があるのではないでしょうか? 勉強は与えられるだけでは身につきません。自ら興味のあることを深めることで、学びは広がっていくからです。

 

2014年から6年間校長を務めた東京都千代田区立麹町中学校では「宿題や定期テストをやめる」、いわば学校の当たり前を変えてみたのです。これを聞いて「宿題やテストがないなら勉強しなくていいや」と思った人もいるかもしれません。しかし「勉強をしなくていい」のではなく、24時間という限られた時間の中で、今の自分に必要な学びは何か? 自分で考えられる力(自律)を身につけてもらうために行なったものでした。塾の勉強が楽しいなら塾の宿題をしたらいいし、スポーツを極めたいなら練習の時間に当てたらいい、もっと知りたい教科があれば自習すればいいのです。

 

これは大人になっても同じこと。学校を卒業したら勉強も卒業、ではありません。仕事に関わることや趣味のことなど、学びに年齢制限はないからです。いつでも誰でもなんでも、一生学び続けていきましょう。

 

『きみを強くする50のことば』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

プロフィール

横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。
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教育者・工藤勇一先生が麹町中学校で宿題と定期テストを廃止した理由

「みんな一緒」に経済成長できる時代は終わり、多様な文化を認めながら自身で考えて答えを導く、いわば「自律」の力が求められる時代。自分はいったい何がしたいのか、どう生きていくのか? 子どもも大人も、当事者意識を持つことが求められるようになったのです。

 

学校にはびこる “当たり前” を撤廃し、自律型教育を進める横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生。著書『きみを強くする50のことば』(かんき出版)には、子どもも大人も知っておきたい自律のヒントがたくさん詰まっています。これからの時代に必ず役立つ、工藤先生のことばをお届けします。

 

学びは一生もの。

 

大人になってから「どうしてもっと学校で勉強しなかったんだろう」と後悔している人を見かけます。例えば、学生時代は歴史が苦手だったのに、たまたま見たドラマで戦国武将の生き様に感動したり、旅行先の世界遺産に圧倒されたり……そこから学ぶ大人もたくさんいますよね。

 

基本的に、学校の勉強は「宿題をやりなさい」「テストをやりなさい」と与えられる学びが中心です。あらかじめ決められた時間割と教科書で進行していきます。私は誰かに指示されるとやる気を失う子どもだったのですが、みなさんも同じように「今やろうと思ったのに!」と思った経験があるのではないでしょうか? 勉強は与えられるだけでは身につきません。自ら興味のあることを深めることで、学びは広がっていくからです。

 

2014年から6年間校長を務めた東京都千代田区立麹町中学校では「宿題や定期テストをやめる」、いわば学校の当たり前を変えてみたのです。これを聞いて「宿題やテストがないなら勉強しなくていいや」と思った人もいるかもしれません。しかし「勉強をしなくていい」のではなく、24時間という限られた時間の中で、今の自分に必要な学びは何か? 自分で考えられる力(自律)を身につけてもらうために行なったものでした。塾の勉強が楽しいなら塾の宿題をしたらいいし、スポーツを極めたいなら練習の時間に当てたらいい、もっと知りたい教科があれば自習すればいいのです。

 

これは大人になっても同じこと。学校を卒業したら勉強も卒業、ではありません。仕事に関わることや趣味のことなど、学びに年齢制限はないからです。いつでも誰でもなんでも、一生学び続けていきましょう。

 

『きみを強くする50のことば』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

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横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。
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従順な “いい子” の落とし穴…教育者・工藤勇一先生が説く大人の言うことにこだわらない大切さ

「みんな一緒」に経済成長できる時代は終わり、多様な文化を認めながら自身で考えて答えを導く、いわば「自律」の力が求められる時代。自分はいったい何がしたいのか、どう生きていくのか? 子どもも大人も、当事者意識を持つことが求められるようになったのです。

 

学校にはびこる “当たり前” を撤廃し、自律型教育を進める横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生。著書『きみを強くする50のことば』(かんき出版)には、子どもも大人も知っておきたい自律のヒントがたくさん詰まっています。これからの時代に必ず役立つ、工藤先生のことばをお届けします。

 

大人の言うことにこだわりすぎない。

「いいから、言うことを聞きなさい!」

 

今子どもの人も、昔子どもだった大人も、一度は言われたことがあることばではないでしょうか? 大人でも子どもでも、目上の人の言うことを聞いて従っていれば怒られないし、ラクですよね。

 

私が教育の現場で実感したのは、今の子どもたちがどんどん従順になっていることです。従順で温厚な性格なので、先生や親に逆らいません。学校のルールはしっかり守りますし、事実として全国的に少年犯罪も減少しています。

 

しかし、従順であればあるほど、自分で考え、自分で判断し、自分で決定して、自分から行動する “自律” からは遠ざかってしまうのです。そんな従順な生徒のまま大人になるとどうなるでしょうか? 誰かに決定権を委ねる、ちょっと卑怯な大人になってしまうかもしれません。

 

たくさんの経験をしてきた大人の言うことが正しい時もあります。けれど、すべてが正しいわけじゃない。これは、大人に反抗しろということではありません。大人でも子どもでも、言われたことに対して自分がどう思ったか、どうしたいか、自分の頭で考えてみてほしいんです。

 

これからは、どれが正解かわからない時代がやってきます。そんな時、頼れるのは自分自身。自分考えて、判断できる力を身につけて、行動できる自律力を鍛えていきましょう。

 

『きみを強くする50のことば』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

プロフィール

横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。
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自分さえよければいいの? 工藤勇一先生が教える “誰かのため” を意識する意味

「みんな一緒」に経済成長できる時代は終わり、多様な文化を認めながら自身で考えて答えを導く、いわば「自律」の力が求められる時代。自分はいったい何がしたいのか、どう生きていくのか? 子どもも大人も、当事者意識を持つことが求められるようになったのです。

 

学校にはびこる “当たり前” を撤廃し、自律型教育を進める横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生。著書『きみを強くする50のことば』(かんき出版)には、子どもも大人も知っておきたい自律のヒントがたくさん詰まっています。これからの時代に必ず役立つ、工藤先生のことばをお届けします。

 

「何のため」と「だれのため」を意識する。

自分がやっていることが「何のため」と「だれのため」になっているかと、常に考えている人はあまり多くないかもしれません。これらを考えなくても生きていけますし、自分のことでせいいっぱいだと思っている人もいるでしょう。

 

ではなぜ、このメッセージを『きみを強くする50のことば』に入れたのかというと……

 

それは、社会の中で「何のため」と「だれのため」を意識して行動している人の方が、 “幸せ” を感じやすいからです。「自分が楽しいからOK」と自分だけの幸せを優先するよりも、「自分の行動が、何か(もしくはだれか)の役に立った」と思えた時、心がウキウキする、そんな経験はありませんか?

 

例えば、企業においても「何か」と「だれか」のための事業なのか、考えないと破産してしまいます。自社の利益だけを追求していても、長く続く企業にはなれません。そこで働く社員とその家族、取引先、さらには顧客、そして企業が属する地域のために取り組んでこそ、成長できるのではないでしょうか。尊敬を集める経営者だった京セラの稲盛和夫さんも、「企業は何のためにあるか?  社会の幸せのためだ」と、公明正大に事業を行うことを伝えていた先駆者ですね。

 

今日ではSDGsの話題が、多くのメディアで取り上げられています。誰一人取り残さない社会にするためには、自分だけが幸せならいいという考えでは不十分です。社会のあるべき姿を想像しながら、一人一人が「何のため」と「だれのため」を意識することで、地球全体の幸せにつながっていくでしょう。

 

『きみを強くする50のことば』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

プロフィール

横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。
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多数決では解決しない! 工藤勇一先生が教える「全員がハッピーになる答えを見つける」思考法

「みんな一緒」に経済成長できる時代は終わり、多様な文化を認めながら自身で考えて答えを導く、いわば「自律」の力が求められる時代。自分はいったい何がしたいのか、どう生きていくのか? 子どもも大人も、当事者意識を持つことが求められるようになったのです。

 

学校にはびこる “当たり前” を撤廃し、自律型教育を進める横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生。著書『きみを強くする50のことば』(かんき出版)には、子どもも大人も知っておきたい自律のヒントがたくさん詰まっています。これからの時代に必ず役立つ、工藤先生のことばをお届けします。

 

全員がハッピーになる答えを見つける。

日本では昔から、「全員で同じことをやる文化」を大切にし過ぎてきたため、何かあると「多数決」で解決しようとしてきました。ところが、なんでも多数決では、全員がハッピーになれる答えは見つかりません。

 

文化祭の出し物を例にあげてみましょう。教室を使ってお化け屋敷と喫茶店と巨大迷路のどれをやる? これは感性の問題なので、多数決でもかまいません。しかし全員参加の発表ステージで、合唱とダンスと演劇のどれをやるのか? となると、そこに利害関係が生まれてしまうため多数決で決められるものではないのです。

 

合唱であれば「音痴だからやりたくない」という人、ダンスなら「運動が苦手」という人、演劇なら「人前に出たくない」という人、それぞれに苦手な人が出てきます。こういった場合、そもそも文化祭は何のためにやるのか、という目的に立ち返る必要があります。

 

一部の人たちが青春ドラマを演じるための文化祭でいいのでしょうか?

 

誰ひとり取り残さず、全員が楽しめる文化祭にすることはできないのでしょうか?

 

そもそも文化祭にクラス全員参加のステージが必要なのでしょうか?

 

そこから考える必要があります。

 

この思考は訓練することで磨かれます。賛成と反対、AとBなど二項対立が起こりそうなときは「そもそも何が目的?」と自分自身に説き客観的に物事を捉えてみてください。

 

自分で考えて、判断して、決定して、行動する「自律」が身につき、周りの人との違いを認め、自分も含めてすべての人を「尊重」できるようになると、全員がハッピーになれる答えは見つかるでしょう。

 

『きみを強くする50のことば』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

プロフィール

横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。
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知っておかないと乗り遅れる! 途上国人材雇用の「最新トピック」【IC Net Report】バングラデシュ・池田悦子

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、海外事業開発コンサルティングを行っている、アイ・シー・ネット株式会社所属のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、バングラデシュや南アフリカなどで現地人材の育成事業に携わっている池田悦子さんです。

 

慢性的な労働力不足に悩む日本。世界的にもその傾向は顕著で、現在、いかに途上国の優秀な人材を確保するかに注目が集まっています。日本でもJICA主導で、産業人材育成やTVET(Technical and Vocational Education and Training)支援のプロジェクトを複数の途上国で実施するといった取り組みを行っていますが、企業レベルでは、トヨタ自動車など一部のグローバル企業を除けば、他の先進国に後れを取っているのが現状です。今後、さらに激化するであろう、途上国の人材確保競争に日本(企業)が勝ち残るためには!?  南アフリカやバングラデシュはじめ、アジア・アフリカ各地のポリテクや技術教育短大、職業訓練センターなどで人材育成事業に携わっている池田さんに、グローバルにおける人材育成の最新状況を伺いました。

●池田悦子/九州大学卒業。英国のイーストアングリア大学にて開発学修士を修める。タイのNGO勤務を経て、2000年より開発コンサルタントとして、主にJICAの様々な技術協力プロジェクトの運営に関わり、2018年にアイ・シー・ネットに入社。TVET分野では、パキスタン、バングラデシュ、スーダン、南アフリカ、ナイジェリア、フィリピン、キルギスタン、ウズベキスタン、ブータン他にて現地業務に。

 

日本が取り組む人材育成で優秀な人材が続々輩出

現在、バングラデシュをはじめとするアジアやアフリカ諸国では、日本の高専(エンジニアを養成する高等専門学校)や短大に相当する学校で、日本ならではの人材育成モデルを取り入れた支援が行われています。こうして育った多くの優秀な人材の中には、日本で活躍している人も。

 

「バングラデシュを例に挙げると、クルナ工学技術大学・機械工学科を卒業後に佐賀大学大学院へ留学、工学博士を修得した、現大阪産業大学工学部教授のアシュラフル・アラム氏がいます。彼は大学院を卒業後、松江高専でも教鞭を執っていました」(池田さん)

機械学科や土木学科の教員に教えているアラム教授(右端)

 

卒業後、そのまま日本で就職した後、企業を立ち上げ、順調に事業を拡大している人材もいるそうです。

 

「日本の明石高専の情報工学学科を卒業し、電気通信大学で学んだあと、NTTドコモ社に就職しムハマド・ハディ氏は、その後、自国に戻ってメガ・コーポレーションなど2つの会社を設立。ダッカと横浜を拠点に、ITコンサルティング事業、日本語通訳・翻訳などを行っています」

東京の電気通信大学で学んでいた時のハディ氏

 

日本語-ベンガル語(バングラデシュ)通訳の仕事中のハディ氏

 

「アフリカの若者のための人材イニシアティブ、通称ABEイニシアティブで来日したケニアのエリウッド・キップロップ氏は、足利工業大学(現・足利大学)で自然エネルギーについて学んだあと、筑波大学で博士号を取得。日本に留まり大学の講師を務めながら、日本とアフリカを結ぶビジネスコンサルタントとして活躍しています」

足利工業大学で風洞実験に取り組んだキップロップ氏

 

他にも、日本の大手企業に就職したり、日本で会社を立ち上げたりと、さまざまな人材が育っているそうです。しかし、日本ではまだ外国人材が普及したとは言いづらい状況。その背景にはどういった課題があるのでしょうか? グローバルの最新トピックと合わせて解説します。

 

[TOPIC.1]人材受け入れ環境が整っていない日本の現状

ただ一方で、優秀な人材は現地や他国の企業に就職するケースが多く、来日したり、日本の企業に就職したりする人は全国的に見るとほんの一握り。それには、現地と日本、それぞれの事情があると池田さん。

 

「日本企業に就職したい、日本文化を学びたい、日本へ行きたい、など若者たちの“日本への憧れ”はまだまだ健在だと感じます。ただし、地域によって差はあるのですが、まず政府が人材の送り出しに熱心でないケースが見られます」

 

また、受け入れる日本側にも環境が整っていないなどの課題が。

 

「高度人材が日本で就職する場合、日本語の習得が不可欠なのもネックとなります。現地の優秀な若者は英語が話せるので、英語で仕事ができる他国へ行くケースが多いのです。また、日本企業は採用にあたって、『日本人のような外国人』(ホーレンソー、和、しつけなど)を求める傾向にあり、ハードルが大変高いのですが、彼らの持っている人脈や言語能力、国際感覚、おおらかさを日本の会社が受け入れ活用し、多様性を学ぶことも大切ではないでしょうか」(池田さん)

 

日本人の英語習熟度が低いゆえ、現地での日本語教育の普及が必要となる点や、現地政府の理解をいかに得るかなど、解決すべき課題が山積していると言います。また、受け入れる日本企業側としてもインターンシップの拡充や意識の変革などの対応が急がれます。

 

[TOPIC.2]官民学一体となった人材育成事業が誕生

このような状況下で、池田さんが注目しているのが、「宮崎-バングラデシュ・モデル」(宮崎における産学官連携高度ICT人材地域導入事業)です。これは、自治体、企業、大学、およびバングラデシュなどのステークホルダー間で互いの課題解決に向けて協力した「高度外国人 ICT 人材育成導入事業」。

 

「まず現地で日本への就職を希望する優秀なICT技術者に、日本語、 ICT スキル、ビジネスマナーなどを学んでいただき、その後、宮崎へ留学生として派遣。宮崎では、宮崎大学が日本語学習と生活支援、ICT企業がインターンや就職相談などを行い、宮崎市がその研修費用を助成するという仕組みです」(池田さん)

 

この事業により、多くのICT技術者が日本で就職できたと言います。官民学の連携によるこうした事業が、優秀な途上国人材を獲得する近道なのかもしれません。

 

「同じく国立大学では、群馬大学が外国人留学生の群馬の企業での就職を見据えた教育と訓練を行っています。地元の製造業やサービス業とも連携した取り組みが進んでいるようです」(池田さん)

 

[TOPIC.3]大手グローバル企業の人材育成戦略

一部の大手日本企業は、現地人材雇用のため、個別に職業訓練センターなどを立ち上げているケースはあるとしつつも、戦略面で他国の企業に大きく水を開けられていると指摘します。

 

「グローバルでは、大手ICT企業が現地人材を育成する段階から、自社のソリューションや機器を提供し、人材を自社へと囲い込む施策を行っています。例えばサムスンの場合、バングラデシュ、パキスタン、中央アジアなどにある多くのTVET校に『サムスンラボ』を設置し、機材の供与やその機材に特化した短期訓練が行われています。自社に必要な即戦力となる人材が、いわば自動的に雇用できる仕組み。ヒュンダイもスーダンで似たような取り組みを実施しています。こうした具体的な就職に結びついた職業訓練は、学生に希望を与え、結果的に企業イメージアップに繋がります」

バングラデシュ/ダッカ工科女子短大の「サムスンラボ」

 

さらに、HPやAcerは世界銀行などの国際機関を通して、全世界の学校にPCを無償供与。こうした取り組みもその企業のファンをつくるためには効果的ですが、日本のメーカーでは、まだほとんど見られないと池田さん。

 

日本企業に就職したい人材を増やすためのイメージ戦略と、そうした人材をいかに日本に来てもらうか、官民学が一体となってサポートする出口戦略。優秀な途上国の人材を安定して獲得するには、これらの戦略を改めて見直す必要がありそうです。

 

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教育者・工藤勇一氏が大人にも伝えたい「自律」の意味と日本が変わるための教育

「宿題や定期テストがない学校」と聞いてどんな学校を思い浮かべるでしょうか? そんなことできるはずがない、規律が乱れて教育上良くない、などなど……否定的に思う人もいるかもしれません。ところがこの学校の “当たり前” をなくしたことで、子どもたちの学ぶ意欲が向上し偏差値もアップしたのが、東京都の千代田区立麹町中学校。この前代未聞の学校改革は多くのメディアに取り上げられ、当時の校長だった工藤勇一さんにも注目が集まりました。

 

現在は、横浜創英中学・高等学校校長を務める工藤先生。ブックセラピストの元木忍さんが横浜創英中学・高等学校に足を運び、工藤先生の著書『きみを強くする50のことば』を通して、これからの教育に大切なことを聞きました。

 


きみを強くする50のことば 』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

これまでの当たり前をくつがえす、学びの大転換

元木忍さん(以下、元木):私が初めて『きみを強くする50のことば』を読んだ時、子ども向けだけじゃもったいない! と感じたんです。大人にも響く言葉がたくさんありました。まず、どのような経緯で出版されたのか教えてください。

 

工藤勇一さん(以下、工藤):出版社さんから「一緒に絵本をつくりませんか?」という依頼がありました。せっかく取り組むなら子どもだけじゃなく、大人にも伝わるような、本質をつく絵本にしたいと制作したのが始まりです。50ある言葉をどのような順番で掲載するかは、とくに意識しました。コロナ禍の緊急事態宣言中に、編集担当者とオンラインだけで制作進行した思い出深い一冊でもあります。

 

↑著者で、横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一さん。教育現場に身を置きつつ、各界のオピニオンリーダーをも巻き込みながら日本の教育に大きな変革を果たそうと奮闘している。

 

元木:そうだったんですね! 実は『きみを強くする50のことば』で工藤先生のことを知って、ほかの著書もたくさん読ませてもらいました。そもそも、工藤先生はどうして学校の先生を目指されたのでしょうか?

 

工藤:子どもの頃は、人に指示されるとやる気を失う子だったんです(笑)。教員なら誰かの影響を受けずに仕事ができるだろうと、山形県で教員生活をスタートさせました。でも教育現場に関わっていくうちに、今の教育は「失敗させない」ことに気をつかいすぎて、人生で重要な機会を失っていると考えるようになりました。東京都での教員経験や教育委員会の経験を経て、「現場からじゃないと教育は変えられない」と、2014年から6年間千代田区立麹町中学校の校長を務めました。2020年からは横浜創英中学・高等学校の校長に就任し、学びそのものを大転換し、自律型の学校に改革しているところです。

 

元木:学びの大転換、ですか? 工藤先生は「宿題なし」「定期テストなし」など、麹町中学校でこれまでの学校教育の “当たり前” を大きく変えてきました。麹町中学校でのノウハウをさらにバージョンアップさせるようなイメージなのでしょうか?

 

↑インタビュアーは、ブックセラピストとして、大人が読みたい絵本の情報発信にも意欲的な元木忍さん。

 

工藤:僕が目指していることを100とすると、麹町中学校で実現してきたことは実は10程度。まだまだこれからです。神奈川県は公立を目指す子どもが多いので、私立の学校というのは生徒の半数以上が第二志望で入ってきている。そのなかで横浜創英高等学校はもともと部活動が盛んで、吹奏楽部は200名を超える名門校、サッカー部もインターハイに出場するなど全国クラスで、私立ならではのきめ細やかで丁寧に生徒をサポートするような学校だったんです。私が就任してからは、自分で考えて行動する「自律型」、さらに「多様性」を尊重する風土に180度入れ替えているところです。修学旅行を自分たちで企業に掛け合って計画したり、社会とつながる「リアルな教育」を実施したり、子どもたちが自律して学んでいける仕組みをどんどん取り入れています。いずれかは、学年・学級の概念も取っ払えるような仕組みも作りたいですね。また生徒が職員会議に参加してくれたらいいな、なんて思っています。

 

元木:それは斬新ですね! 今の日本にはなぜ教育の大転換、大きな改革が必要なのでしょうか?

 

工藤:世の中は大きく変化しているのに、日本の教育が変わらないからです。ご存知の通り、日本の生産性は年々減少傾向にあります。人口減少が進む中で稼いでいくためには、付加価値をつけて高く売るか、海外など市場を変えるか、労働生産性を高めるしかありません。それなのに、日本の教育は経済成長していた時と同じことを進めている……。それでは子どもたちが大人になった頃、従来のビジネスモデルは通用しないことがたくさん出てくるでしょう。世の中のせいにしたり、誰かのせいにしたりするのではなく、「自分で考えて行動できる大人」になるために、教育現場から変えていく必要があると考えています。

 

↑この人口グラフは世界でも稀。日本は1900年代からたった100年で人口が急激に増大。2010年をピークにこの先100年で明治時代の頃に戻ると言われています。戦後日本を支えた経済成長の裏には、急激な人口増加がありました。「モノは作れば作るだけ売れる、なぜなら買う人がたくさんいたから」という大量生産・対象消費の時代だったのです。

 

上位の目的に立ち返れば、多くの問題は解決できる

元木:これまで教育の「当たり前」を変えてきた工藤先生ですが、改革のなかで各関係者からの抵抗はなかったのでしょうか?

 

工藤:それはもちろんありましたよ。「変化させたい教員」 vs 「今のままでいい教員」のような対立構造もよく起こるんですが、対立を嫌う日本では、根回しのように人間関係で折り合いをつけようとしてしまうんです。でも、そもそもの目的って何だろう? とフラットに考えれば、おのずとやるべきことは見えてきます。つい対立構造で考えたくなりますが、どの教員も「いい教育をしたい」という上位目的は一緒です。教員が対立するのではなく対話ができるようになると、職員会議は10分で終わるんです。校長としても、上位の目的に対してOKなものに許可を出すだけ。先ほどお話にも出た、麹町中学校での「宿題・テストなし」も、実は教員からの発案だったんですよ。

 

元木:そうだったのですね。

 

工藤:僕は「宿題多いよな〜」「テストもいらないよな〜」とブツブツ言っていただけです(笑)。一緒に働く教員たちが対話していく中で、やめるという結論を出しました。ちなみにこの結論に、全校生徒と中3の保護者は大喜び! 塾や習い事をしている生徒もいましたし、いろいろな時間の使い方をしている子が多かったので、自分で時間を選べるのはうれしかったのでしょう。でも中1の保護者の一部からは反発もあり、「学校で宿題を出してくれないから、まったく勉強しなくなりました」と予想どおりのクレームも出てきました。

 

元木:あら……。どのように説得されたのでしょうか?

 

工藤:「宿題を出しても子どもはもともとわかるところしかやりませんから、そんなに成績に影響はありません。宿題がないから勉強しないなんて、人のせいにする子にしちゃいけません」って伝えたんです。そんな保護者の方々も1年も経たずに落ち着いてきました。宿題・テストなしでも成績を上がることがわかったからだと思います。子どもたちには “学び方” を伝えるため、さまざまな思考ツールを共有したことで、子どもたち同士でも学び方をシェアするようになりました。

 

元木:お子さんに自律が身につくことで、親御さんも変わっていくでしょうね。大人が学ぶこともたくさんあっただろうなと想像します。昨年出版された『子どもたちに民主主義を教えよう』も拝読しましたが、学校はもちろん企業でも「自律」と「対話」は必要なんだと感じました。

 

工藤:公益資本主義なんて言葉もありますが、企業は「誰のため」にやっている事業なのかを理解しないと潰れてしまいます。目的に向かって対話を深め上位で合意できる組織を作り、正しい民主主義を理解できれば、20年で世の中は変わるでしょう。多くのメディアが報道されるのは賛成・反対の結果だけで、より良くするための主張やアイデアは出てきません。日本では意見を言えば批判と捉えられ、腰を据えて対話できる体制が整っていないからです。この根本の原因は、学校教育にあると僕は思っています。だからこそ、子どもの頃から自分で答えを導く「自律」の考え方と、「対話して上位で合意する」ことを理解しておく必要があるんです。

 

↑2022年に発売され、各界の著名人からも共感の声が続々と挙がっている『子どもたちに民主主義を教えよう』(あさま社)。対立を乗り越え、合意形成に至るプロセスを経験することの重要性を説く。教育哲学者・苫野一徳さんとの共著。

 

日本では「心の教育」を重視しすぎ?

元木:ここからは『きみを強くする50のことば』についてお話を聞かせてください。私が気に入っているのが『心なんて、そもそもわからない。』なんです。「わかりましょう」じゃなく、「わからない」って言い切るのが素敵というか、その通りだなと思いました。どうしてこの言葉を入れられたのでしょうか?

 

 

 

工藤:学校で「心が大切だ」って教育をしすぎなんですよね。海外では、行動の積み重ねがその人であって、他人に心の中なんて見えないよね、って考え方が浸透しています。しかし見えない心を慮ろうとするのが日本の教育。みんなで心を合わせようとしすぎることで「心が通じていない」「俺たちと違う」「いい子ぶっている」と、残酷に他人をいじめてしまうんです。これだけ多様性が求められている時代でもいじめがなくならないのは、心を大事にしすぎているとも言えるかもしれませんね。

 

元木:なるほど、心を大事にしすぎているからなんですね。時代とともにいじめの背景も変わっていると思いますが、どうしたらいじめは少なくできるのでしょうか?

 

工藤:まず「みんな仲良くできるもんじゃない」って教えることでしょうか。『全員ちがってオーケー』ってことを伝えてあげると、「先生〜! 〇〇くんが変なことしてまーす」と茶化すようなこともなくなります。大人でも他人と仲良くするまでには時間がかかるし、全人類と仲良くなるのは難しいですから。性格の合う人・合わない人がいる、仲良くなるためには経験も訓練も必要なんだとわかれば、子どもたちも誰かを排除したり、嫌ったりすることもなくなると思いますよ。

 

 

従順な子どもじゃなく、自分で考えて自分の足で歩める子どもを

元木: 50のことばには、大人にも響くことばがたくさんありますよね。私もこんな先生のもとで勉強したかったって思いました。工藤先生から見て、今の子どもたちにはどんな特徴があると思いますか?

 

工藤:今の子どもたちって、従順な子たちが多いんですよ。大人もそうかもしれませんね。自分で答えを導けなくて、人に決めてもらおうとしちゃうんです。与えられることに慣れているとも言えるかもしれませんね。だから「もう先生の言うことを聞くな」、と(笑)。反抗するのではなく、これからの世の中はどうなるかわからないから、人のせいにするのではなく、君たちで決めなさいって。

 

元木:これは企業も一緒ですね。自分で考えて、決められない人が本当にたくさんいます。言われないと行動ができないとか、新しいチャレンジを拒んでしまう人も多くいますが、子どもの頃の教育が大切なのかもしれませんね。もっとたくさんお話を伺いたいんですが、最後に先生がこれからやっていきたいことを教えていただけますか?

 

工藤:10年以内に、日本中の学校を自律型の学校に変えていくことですね。そのために、日本中の教員に『子どもたちに民主主義を教えよう』の考え方を広めて、この学校で実践を重ねていく。そして、本当の学びを子どもたちに取り戻していきたいです。教育ってなんのためか? と考えたら、自分の足で歩んでいける人間を育むこと、より良く平和な社会をつくるためだと思うんです。日本では学校で問題が起こると「大人が悪い」と言われますよね? でも、問題を解決するのは当事者である「子ども」であって、大人たちはどうやったら解決できるか考えさせなければいけません。大人から正解を与えるのではなく、子どもたちが自力で考えて行動することが本当の学びにつながります。

 

元木:まさに「自律」ですよね。ついつい大人が「こうしなさい」と手助けしたくなりますが、ある程度放っておくことも教育にとって大切なのかもしれませんね。

 

工藤:2人の生徒が対立していた場合、教員は「2人の上位目的は〇〇なんだよね? 感情をいったん置いておいて、一番大事なことは何かを考えてごらん」と問いかけます。それだけで、子どもたちは自分で考え、行動し解決していきます。現代は、問題が起きないように防ぎすぎることで、子どもが考える機会を奪ってしまっているのです。わかりやすい例だと、公園で遊んでいる子どもがいても常にお母さんが横にいて「あら〜〇〇くんが■■を貸してくれたね、ありがとうは?」と、話したりします。これって、子どもが考えて行動する機会をすべて奪い取っているんですよ。

 

元木:日常でよく見ますね!

 

工藤:子どもだけなら「■■貸してよ!」「やだよっ!」って取り合いになるでしょう。大きなトラブルにならない限り、大人は見守っていればいいんです。次の日になれば「貸してもいいけど、返してくれるの?」「約束する!」と子ども同士でルールができるようになります。子ども同士で考え、解決できることを、先生や親が介入して機会を奪い取っていると自覚しなければいけません。まだまだ課題はありますが、確実に自律した子どもも増えていますから。そう遠くない未来で、教育はガラリと変わると思いますよ。

 

元木:「自分で考えることができる子どもたち」が大人になったら、社会全体も変わりそうですね。これからの新しい教育のあり方に期待しています! 今日は本当にありがとうございました。

 

プロフィール

横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤 勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。

 

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

早期教育とSTEAMに転換したインドの教育政策、700万人以上の教師の確保が課題

インドでは2020年7月から、新たな「国際教育政策(NEP2020)」が施行されています。教育政策の見直しは30年ぶりのことでしたが、その主眼は個人の能力を伸ばし、IT発展後も世界で活躍できる人材を育てること。「公平でインクルーシブな教育」を重要視しながら、誰もが質の高い教育を受けられることを目指します。今後の課題についても触れながら、インドの教育現場がどのように変化しつつあるのかを説明します。

インド農村部の学校に通う子どもたち

 

3歳からの早期教育を重視

まず大きく変わったのは、早期教育に重点を当てる教育制度になったこと。従来の教育システムでは6歳から始まる「10・2年制度」でした。今回の改訂では「6歳以前から脳の発達が育まれる」という考えに基づきながら3歳からの早期教育を導入し、「5・3・3・4年制」を採用。新しい教育システムによると、子どもたちは基礎段階で5年間、準備段階で3年間、中期段階で3年間、中等教育段階で4年間を過ごします。

 

現在、幼児はまず近くのプレスクールで日中を過ごし、4歳ごろになると幼稚園で2年間を過ごします。そして、就学開始時の6歳になると小学校に入学するのが一般的です。経済的な理由から、幼稚園には通わずに就学する子どもも多くいます。

 

インド政府は言語習得をはじめ、数字に関する感覚の基盤がないとその後の学習に大きく影響すると考え、言葉が発達する幼児期の教育が大切だと判断。政策の見直しにより、3歳から教育を受け始めて8歳まで同じ学校で学び続けることができるようになりました。新しい教育政策によって、基礎段階である幼稚園から小学校低学年まで一貫した教育を5年間受け、その後中等教育への準備段階にあたる小学校高学年の学習を3年間受けるという形になったのです。

 

3歳からの義務教育化によって有料の幼稚園やプレスクールに通わせる必要もなくなり、教科書代などを除けば基本的に教育費用は無料。さらに、統一されたカリキュラムに沿って授業が行われるようになり、どの子も公平に教育を受けることが可能となりました。

図工の時間に絵を描く子どもたち

 

暗記学習からSTEAMへ

また、新たな教育政策では個人の能力を伸ばす方向へと舵を切ったことも特徴。そのために、これまで暗記学習主導だったカリキュラムを体験学習や応用学習、分析・探求学習、STEAM教育を意識した学習へと移行しています。

 

これまでインドの教育は暗記中心型で、20段まである掛け算の九九も言えるなど九九や数式などの暗記を重視してきました。暗記ができた生徒から黒板の前に立って全員の前で暗唱し、できなければ覚えるまで続けるなどの手法で、他の科目も同様でした。

 

しかし今後は、新たな教育政策のもとで、暗記中心の教育から、個人の能力を伸ばす教育に転換していくことになります。具体的には、個人が抱く関心や興味を大切にし、批判的思考も養いながら、ディスカッションを通して学んでいく手法を導入。例えば、地球温暖化など自分が興味を抱いた一つのテーマについて自由に調べたうえで意見を発表し、さらにクラス内で意見交換するなど、従来の受け身から自らが進んで学ぶといった学習に変化します。

 

また、職業学習、数学的思考、データサイエンスやコーディングなど最新のデジタル技術を用いた体験学習を導入すると同時に、新たに科目選択制ができるようになり、芸術や体育など副教科とされるものについて自分の興味のある科目を選択できるようになりました。

 

教員側には、生徒の教育的、肉体的、精神的な満足度や幸せを対象に含めた新たな評価モデルが取り入れられていますが、これら全ては、将来に備えて子どもたちを真のグローバル市民に育て上げることを目標に設計されているのです。

休み時間には鬼ごっこに似た遊び「カバディ」を楽しむ

 

質の高い教員の確保が課題

新しい教育政策を進めていくうえで重要になるのが、教師の存在です。「NEP2020」を背景に、2022年1月から国内45の教育機関が新たな「統合教師教育プログラム(ITEP)」を開始しました。質の高い教師の育成に向けたもので、「ITEP」のコースは全国共通入学試験や教育技術評議会のスコアに基づいています。

 

これまで教師を目指す人は卒業と学士号取得まで5年間かかるなど、日本の大学の教職課程よりも長かったのですが、ITEPの学士号プログラムでは4年間に短縮。才能のある若者などにとって大きなメリットになると言われており、2030年以降はITEPが教師採用の基準になるようです。

 

しかし、インドでは教師の給与は高いとはいえず、むしろ低賃金の職業とされています。NEP2020によって700万人以上の教師が必要になると推定されていますが、どのように優秀な人材を確保していくのかが今後の重要課題です。

 

新たな政策のもと、大きく変わりつつあるインドの教育。筆者が知る学校では3歳からの早期教育プログラムが始まっており、子どもたちは自然の中で学習したり、造形活動をしたりと五感を使って楽しそうに学んでいます。社会的・経済的階級や背景に関係なく、全ての子どもが公平に質の高い教育を受けられるようになることは、格差社会を改善する第一歩となるでしょう。

 

執筆/流田 久美子

 

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教育DXに注力するタイ、背景にある3つの大きな教育制度の課題

2036年までに先進国になることを目指しているタイ政府は、2016年に策定した「タイランド4.0(20年間長期国家戦略)」に取り組んでいます。達成に向けた急務は先進技術に対応できる人材を育成するための教育制度を確立すること。そのための方法としてEdTechに注目が集まっています。

「タイランド4.0」で2036年の先進国入りを目指す

 

タイランド4.0は次世代の農業やバイオテクノロジー、ロボット産業、自動車産業など10種類の先進技術産業を基盤にしながら経済を成長させる計画。この計画を達成するためには、デジタルを中心とした先進技術に対応できる人材を育成する教育制度の確立が急務となっています。

 

そんな中、国内の民間企業は「タイランド4.0」を大きなビジネスチャンスと捉え、デジタル人材育成の場としてEdTechに力を入れ始めました。EdTechは「Education(教育)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、テクノロジーを用いた教育を支援する仕組みやサービスを指しますが、民間企業がEdTechに注力し始めた裏には、現在の公教育制度に多くの問題点が存在します。

 

タイの教育制度は、社会の所得格差と地域格差が是正されていないことが原因で、大きな問題を3つ抱えています。

 

1: 慢性的な教員不足

現役教員が高齢化して退職者が増加しましたが、教員の給与は民間と比べて低いので、なり手が少ないという問題があります。タイの公立校の教員は公務員となり、給与は棒級表に従います。初任給は、民間企業の大卒一般職の初任給が1万8000バーツ(約7万1000円※1)程度に対して、1万5000バーツ(約5万9000円)。ただし私立校の教員は民間扱いとなり、給与も民間企業に近い額をもらっている場合が多いです。教員不足の他の理由としては、定時後の事務作業や、生徒にトラブルが発生した場合の対応など、拘束時間が長くなることも挙げられます。

※1: 1バーツ=約3.95円で換算(2023年1月27日現在)

 

2: 国際的に低いタイの学力

生徒の基礎学力(読解力、数学的応用力、科学的応用力)が国際平均を下回り国際的な水準を満たさない。15才を対象に実施される国際学習到達度調査(PISA)のほかに、国際教育到達度評価学会(IEA)が1995年から4年に1度、「TIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study)」と呼ばれる算数・数学および理科の到達度に関する国際テストを小学校4年生時と中学校2年生時に実施しており、タイは2011年に実施された第5回まで参加していました。しかし同年度の結果は、以下の通り全ての調査で中央値を下回る結果となっています。

参加国数 順位 得点 中央値
小学4年生 算数 50か国・地域 34位 458点 507点
小学4年生 理科 50か国・地域 29位 472点 516点
中学2年生 数学 42か国・地域 28位 427点 467点
中学2年生 理科 42か国・地域 25位 451点 483点

 

3: 少ないデジタル予算

デジタル関連の予算が少な過ぎるため、農村部などでICT(情報通信技術)の整備や教育が大きく遅れていることも問題です。デジタル関連はデジタル経済社会省が担当しており、2022年度は国家予算3兆1000 億バーツ(約12兆円)に対して、デジタル関連の予算は69億7900万バーツ(約275億円)と、予算比0.2%になっています。日本の場合、2022年度のデジタル関連の予算は1兆2800億円と予算比1.2%で、デジタル化に力を入れているシンガポールの場合は、2021年度国家予算の240億シンガポールドル(約2兆3800億円※2)に対し、デジタル関連予算は38億シンガポールドル(約3760億円)と予算比15.8%を費やしています。一概には言えませんが、最低でも国家予算の1%は配分する必要があるのではないかと思われます。

※2: 1シンガポールドル=約99円で換算(2023年1月27日現在)

 

これらの問題がデジタル人材を公教育で育成することを困難にしているのですが、だからこそ民間企業はこの状況をビジネスチャンスとして認識し、タイランド4.0が求める人材育成の場として、また、ICTなど公教育が抱える問題の解決策としてEdTechに乗り出す民間企業が増えているのです。

 

例えば、タイの教育関連企業のOpenDurianは390万人のユーザー数を誇り、小学校レベルから大学入試に加え、公務員試験対策やTOEIC、IETLSなど英語資格試験対策のオンラインコースを提供しています。

 

また、School Bright社は、教師や学校事務員の作業軽減を図る業務支援アプリや、保護者が学校とスムーズにコミュニケーションが取れるような学校運営支援アプリを開発。現在、タイ全土412校で採用されています。

 

海外のEdTech企業もタイに進出しており、英国のNisai Groupがタイに「WeLearn Academy Thailand」を設立しました。中学校・高校レベルのオンライン学習支援を行うとともに、所定のカリキュラムを修了した生徒には米国の高校修了認定証明書を取得できるコースを提供しています。

 

政府もスタートアップを支援

タイのICT教育の様子

 

2021年3月に JETRO(日本貿易振興機構)が発表した「タイ教育(EdTech)産業調査」によると、タイのEdTech市場は、6.5億ドル(約845億円※3)~16億ドル(約2080億円)と見込まれています。また、タイの教育産業に属する企業の平均純利益率は6.3%で、成長率も8.7%と有望な市場と言えます。

※3: 1ドル=約130円で換算(2023年1月27日現在)

 

タイ政府も、既存産業の活性化や教育システムの質の改善が見込めると期待。国内外のEdTechスタートアップに対して多額の投資資金を投じると表明しています。

 

このように、タイランド4.0を背景に伸びているEdTechは有望市場ですが、海外からの投資規模はまだ小さく参入の余地があります。タイのスタートアップも海外企業との連携に意欲的なため、日本企業にとっては途上国ビジネスの選択肢の一つとして検討に値するのではないでしょうか?

 

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「超学歴社会」のインドネシア、ゆとり化するも「オンライン学習」で市場はますます活況に?

人口が世界4位のインドネシアは、日本よりも学歴主義が強いといわれています。平均年齢が約29歳の同国では、将来を背負う子どもたちの教育に政府も力を入れており、国家予算の20%を教育関連に配分。一方、「教育は将来への投資」と考える親が多く、できるだけ良い学校に進学することが競争社会を生き抜く術と考えているのです。教育熱心なインドネシアの政策や子育て事情を紹介しましょう。

 

インドネシア版ゆとり教育?

楽しく自由に勉強中?

 

インドネシアの学校制度は日本と同じで、義務教育である9年間の小学校と中学校を修了後、高校、大学といった高等教育へ進みます。しかし日本との大きな違いは、2019年まで小学校でも国による「全国統一試験」が卒業前に行われていたことで、各教科の基準点を下回ると卒業できないケースがありました。

 

ところが、インドネシア教育文化省は2020年2月、中期戦略計画の新ビジョンである「ムルデカ・ブラジャール」を発表。インドネシア語で「ムルデカ」は「自立」や「解放」、「ブラジャール」は「勉強」を意味しており、自由で自立した学びの実現に向けて教育制度を変えていくことを目指すとしました。

 

その柱の1つが、1981年から長期間にわたり実施されていた「全国統一試験」の廃止。1回の試験で卒業の可否を決めることについては以前から批判が多く、「子どもたちが卒業試験の合否を心配せずに楽しく学ぶ」「学校も独立性を保ちながら授業や学校運営を行う」という狙いからこの試験は撤廃されました。

 

「全国統一試験」は廃止されたものの、現在も多くの学校は小学1年生から学期ごとの定期試験を実施。そのため、就学前には読み書きや簡単な計算、英会話などの幼児教室に通わせ、就学後には学習塾や家庭教師を利用する家庭が目立ちます。

 

「学校外学習サービス」を積極利用

このような学校外の学習サービスには、インドネシア国内の企業だけでなく、公文教育研究会やベネッセコーポレーション、サカモトセミナー、立志舘ゼミナールなどの日本企業も参入しています。

 

費用については、例えば、公文は地域により価格が異なりますが、ジャワ島中部のジョグジャカルタ特別州では登録費が25万ルピア(約2125円※)です。一教科あたりの月謝が幼稚園生と小学生は36万ルピア(約3060円)、中学生と高校生は41万ルピア(約3485円)かかります。

※1ルピア=約0.0085円で換算(2022年12月23日現在)

 

ジョグジャカルタ特別州の平均月収は240万ルピア(約2万400円)なので、一般的な家庭にとって決して安い金額ではありません。それでも学校外学習サービスを利用する理由は、経済成長と人口増加が続く競争社会のインドネシアにおいて、「教育こそが我が子のより良い将来への一番の投資」と考えているからです。

 

コロナ禍以降はオンライン学習の需要が高まり、新たなサービスが次々と展開されています。2020年3月には学校が休校となり、子どもたちは自宅でオンライン学習や家庭学習をすることになりました。それに伴い、学校外学習についても自宅でオンラインを通じて受ける需要が増大したのです。

 

また、オンライン学習の浸透によって、それまで通えなかった遠くの教室の授業にも参加できるようになるなど、新たな選択肢が増加。オンライン学習はスタンダードな学習スタイルとして定着し、事業者にとっても大きな商機となりました。

 

地域間における経済格差と教育格差

教育の機会均等が課題

 

インドネシアは日本の約5倍の国土に、2億7000万もの人々が暮らしています。ただ、人口の半数以上が首都ジャカルタのあるジャワ島に集中しているため、以前から地域間での経済格差や教育格差が課題として指摘されていました。そして、こういった格差は、コロナ禍を背景にさらに広がったのです。

 

オンライン学習を実施する学校に通い、インターネットに接続できるデバイスを保有する子どもと、そうでない子どもの間で、受けられる教育の機会と質の差が拡大。この格差を是正するために、政府も国営テレビ局と協力して学習番組を放送したり、自宅学習向けにスマホの学習アプリを無料利用できるようにしたりしました。スマホのデータ通信料についても、補助金を支給しています。

 

政府主導の「ムルデカ・ブラジャール」により「全国統一試験」はなくなりましたが、現在も小学1年生から学期末定期試験が実施されるなど、競争はいまだに厳しいと言えるでしょう。従来型の塾や家庭教師に加え、オンライン授業といったサービスは今後も増加すると思われ、インドネシアの教育熱はこれからも下がることはなさそうです。

 

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大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線移動距離3020キロメートルを、5日間かけ太陽の力だけで縦断する「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」。東海大学は、この世界最高峰のソーラーカーの大会で、過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回と好成績をおさめてきた世界的な強豪チームです。2年ごとに開催されているBWSCですが、2021年は新型コロナウイルスの影響により世界大会が中止に。現在、チームは2023年大会に向け、国内でのレースや試走を重ねながら準備しています。

 

今回は、世界レベルで戦うチームに所属する女子メンバーを中心に、ソーラーカーへの各自の思いを取材。そこから、東海大学ソーラーカーチームが強豪であり続けられる理由が見えてきました。

ソーラーカーは静かに、すべるように走り抜ける。最高時速は時速100kmと、意外と速い!

 

ほとんどが “ソーラーカー初心者” からのスタート

「ソーラーカー」と聞くと、機械・工学系の男性が活躍している様子を想像する人が多いかもしれません。ところが、実のところ女性ドライバーが小柄な体型を活かして活躍しているチームもあるそう。東海大学でも、現在部員60名のうち5名の女性メンバーが活躍しています。

 

チームメンバーの多くは、もともとソーラーカーにまつわる専攻を選んでいたわけではなく、ソーラーカー初心者だったといいます。なぜこの活動に参加しようと思ったのでしょうか? きっかけから聞きました。

 

↑工学部4年生、インドネシアからの留学生のギセラ・ジョアン・ガニさん。「SNSでソーラーカーの投稿をすると映えるんです!」と目をキラキラさせながら魅力を語ってくれました。

 

「再生可能エネルギーの技術に興味があり、将来のステップに繋がると思って参加したのがきっかけです。ソーラーカーについては何も知らないまま参加しましたが、たくさんの学びを得ることができました。もちろん授業が最優先ですが、ソーラーカーが大好きなので、家にいるよりもチームがある『ものつくり館』で過ごす時間の方が長くなることもあります(笑)」(ギセラさん)

 

↑工学部2年生、小平苑子さん。授業以外はギセラさんと同じく、ほとんど『ものつくり館』にいるのだとか。「授業かソーラーカーのほぼ二択。大学生らしい生活ではないかも(笑)」とソーラーカーが大好きな様子が伝わってきました。

 

「入学式の展示でソーラーカーに一目惚れして、参加しました。そもそもソーラーカーチームがあることも知らなかったので、驚きで。この見た目で時速100キロ以上出ると聞いて、興味を持ったのがきっかけでした。世界一を目指せる場所に自分がいるっていうのが不思議な感覚でしたが、今まで感じたことのない期待感を味わえるのも好きなところです」(小平さん)

 

↑工学部1年生、岩瀬美咲妃さん。競技かるた部とかけもちでソーラーカーチームに所属しています。「大学に入ったらいろいろとやりたい気持ちが溢れ出た」と探究心が止まらない様子でした。

 

「入学式でソーラーカーを初めて見て、夢があると思ったのがきっかけです。せっかく工学部に入ったし、授業以外でも勉強できることがあると思って入部しました。今は機械班に所属し、先輩たちから図面起こしなどを教えてもらって取り組んでいます。少しずつでも、できなかったことができるようになってきて、うれしいです」(岩瀬さん)

 

↑建築都市学部1年生の早川千咲子さんは、チーム内で珍しい非工学部で、唯一の建築都市学部学生。「仲間といる時間が楽しいので週4日くらいは部室に足が向かう。もう家族みたいです」と笑顔で語ってくれました。

 

「ソーラーカーチームの存在は入学してから知ったのですが、親がクルマ関係の仕事をしていたので、興味があり入部しました。今は広報班として活動しています。ソーラーカーチームでは、設計・構築以外にも、イベントのチラシを作ったり、車体デザインを考えたりする広報の仕事もあるので、私のような工学部以外でも活動できるんです」(早川さん)

 

↑早川さんは現在チームで、広報の役割をになっている。大会では一眼レフカメラやスマートフォンをかまえ、レンズ越しに仲間たちを見守る。

 

↑工学部1年生、猶木愛子さん。ソーラーカーの車体はもちろん、そこで活動している先輩たちのかっこよさにも惹かれているそう。「さりげなく輪に入れてくれる感じが心地いい」と、和気あいあいとしたエピソードをたくさん教えてくれました。

 

「自分たちで設計したソーラーカーを、学生だけで走らせていると聞いて『マジかっこいい』と心から感動してしまい……。気がついたら先輩たちに導かれるように入部していました(笑)。わからないことも教えてくれるし、どんどんチャレンジさせてもらえます。ソーラーカーも先輩も、この環境も大好きです」(猶木さん)

 

携わる年数に差はあれど、誰もがすっかりソーラーカーの魅力にハマっている様子。活動自体にルールはなく、個人が好きな時に来て、やるべきことをやるのだとか。大学院で学びながら、ソーラーカーチームの学生代表を務める宇都一朗さんも「毎日来る人もいれば、授業やバイトの合間に来る人もいるので、自由度が高いですね」と教えてくれました。

 

「ワールド・グリーン・チャレンジ」2連覇を支えたチーム力

↑クラッシュの痕跡が痛々しい東海大学のソーラーカー。

 

2022年の夏に秋田県で行われた「ワールド・グリーン・チャレンジ」で、見事2連覇を達成した東海大学。国内から高校・大学・社会人ら20近いチームが参加して行われた大会でしたが、当日は太陽光を遮る悪天候や走行を妨げる風など、条件は最悪。しかも、接触事故により車体が激しくクラッシュするというアクシデントに見舞われます。車体を修復するために、1時間もレースを中断。それでもコースに復帰すると粘り強く挽回し、優勝を成し遂げたのです。

 

 

実はここまでの緊急事態は、学生たちにとって初めての経験だったとか。4年生のギセラさんにとっても、この2022年の「ワールド・グリーン・チャレンジ」が在学中で一番の思い出になったと教えてくれました。

 

「クラッシュした時は驚きましたが、それ以上にみんなのチームワークに助けられたと思います。1秒でも早くコースに戻そうと必死に取り組む姿は、今思い出しただけでも鳥肌が立ってしまうほど。優勝できたのでホッとしています」(ギセラさん)

↑緊迫した空気のなかで修理に没頭するギセラさん。

 

1年生は、レースに初めて参加してみて、どのような感想を抱いたのでしょうか?

 

「自分たちのチーム以外にも、いろんなチームがあることに驚きました。私たちよりも年下の高校生、年上の社会人チーム、女性だけのチームもあって規模の大きさを実感できました」(早川さん)

 

「学外で走行する姿を見るのも初めて。素直に『本当に走っている!』と感動したのが一番大きかったですね。今まで他のチームと比較することもなかったので、東海大学ソーラーカーチームの強み・弱みを把握できたと思います」(猶木さん)

 

↑優勝トロフィーを手にするギセラさん、小平さん。

 

みんなでつかみ取った優勝は、東海大学ソーラーカーチームをさらに強くしたようです。

 

国内ではトップクラスの実績を誇る東海大学ですが、目指すは世界一。どんな目標で、2023年のBWSCに挑もうとしているのでしょうか?

 

大切な仲間と一緒に “世界一” をつかみ取る!

BWSCは2年に一度の開催。コロナ禍で2021年大会が延期になった分、現在在籍しているメンバーで世界大会を知るのは2019年大会に参加したメンバーのみ。残念ながら、現在の4年生は世界大会を経験せずに卒業することとなってしまいました。学生代表の宇都さんは、2019年大会も参加したため、やっと参加できる世界大会へ向けて思いも強くあるそう。

 

「2023年は必ず、優勝したい。ライバルとなるヨーロッパ勢は、コロナ禍でも世界大会に参加しペースをつかんでいます。世界レベルを経験できていないからとネガティブになるのではなく、挑戦者の気持ちで挑むしかないと思っています。個人的には、2019年のリベンジもかけているので、しっかり優勝を勝ち取りたいと思っています」(宇都さん)

 

↑右は、学生代表の宇都一朗さん。

 

また、世界大会を経験できないまま卒業を迎える4年生のギセラさんも、後輩に向けてこんなメッセージを送ってくれました。

 

「私は入部してから挫けそうになることが何度もありました。自信もなくしたし、難しいこと、どうにもならないことも、たくさん経験できたと思います。その時は “できない自分” が嫌だったけれど、先輩たちが優しくサポートしてくれたおかげで、チャレンジできる気持ちを忘れずに取り組むことができました。チャレンジはけっして無駄じゃない。世界大会に挑むみんなには、授業では得られない貴重な経験をたくさんして欲しいですね」(ギセラさん)

 

ちなみに東海大学のソーラーカーチームに、 “卒業” はないのだとか。大会前になるとOBやOGが手伝いに来ることもあるとのことで、卒業しても強い絆で結ばれているところにも、強さの秘訣があるのかもしれません。

↑部室に飾られ、耀かしい実績を物語るトロフィーの数々。

 

【関連記事】 大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

 

↑ソーラーカーのサイズは全長約5m、幅1.2m。カーボン製の車体重量は140kg程度。車体には部品の提供元のほか、大和リビングといったスポンサーが名を連ねる。

 

↑シート状の太陽電池パネルを258枚搭載。太陽の方向へパネルを向け、充電を行う。

 

【関連記事】 敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

 

最後に、2023年に向け、そしてこれからソーラーカーチームを知る人たちに向けて、メッセージをもらいました。

 

「初心者も大歓迎! 何も知らなかった私でもたった4年で、制御プログラムが書けるように成長できました。クルマが好きな父とも、ソーラーカーの話題で以前よりも仲良くなることができました。入ってよかったなと思うことがたくさんありますよ」(ギセラさん)

 

「ゼロからのスタートでも、知識や経験を吸収してどんどん成長できるのは、ほかの部活にはないところかもしれません。新しい発見が多くできるので、探究心がある方や世界を舞台に活躍してみたい人にはおすすめです」(小平さん)

 

「クルマのことなんて全然知らないまま入部しましたが、ゼロからでも受け入れてくれる先輩がたがいっぱいいるので、安心してください。ここにいると、目標が明確なので自分のやる気も高まります。何をしようか悩んでいるならおすすめしたいです」(岩瀬さん)

 

「ソーラーカーというと、どうしても機械的な部分だけフィーチャーされてしまいますが、理系じゃなくても関われる部分はたくさんあります。授業とはまったく違うジャンルなので、刺激的で楽しいですよ」(早川さん)

 

「1年生の私が『仲良しです』っていうのはおこがましいかもしれないけれど、先輩後輩関わらず仲良しなんです(笑)。和気あいあいと楽しんでいるので、女の子にもいっぱい入部して欲しいですね」(猶木さん)

 

↑1年生から4年生まで、上下関係を感じさせることなく笑いの絶えない面々。

 

「ソーラーカー」という最先端技術を学び、実践していきながら世界を目指す……さぞストイックな部活と思いきや、仲間を大切にする人たちが揃った和やかな雰囲気を感じる取材となりました。性別も学年も関係なく、一人ひとりが目標を持ち邁進する姿に、東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密がありそうです。

 

学生だけで世界一を目指すのは、そう簡単なことではないはず。しかしこの一人ひとりが束になった時、その夢が叶えられるのかもしれません。2023年夏、オーストラリアの地でどんな走りを見せてくれるのでしょうか。日本から、応援の声を届けていきましょう。

 

プロフィール

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・院生の約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

ウズベキスタン人が日本に最適なヒューマンリソースになる3つの理由

ウズベキスタンという国をご存知でしょうか? 中央アジアに位置し、古くからシルクロードの中継地として栄えてきたエリアにあります。日本政府は海外から労働力を呼び込むプログラムの一環として、2019年にウズベキスタンと協定を結びました。日本へ労働力を送り出すためのウズベキスタンの取り組みや、ウズベキスタン人が日本の労働市場に向くと思われる理由などについて説明します。

 

150人の技能実習生が日本で働く

日本語を学習しているウズベキスタン人たち

 

ウズベキスタンは3500万人と中央アジアで最も多い人口を有する国で、約60%が若者で構成されています。ただ、働きたくても働く場所がないのが現状で、毎年約60万人が海外の労働市場に流出。現在は200万人以上の労働者がロシア、カザフスタン、韓国、トルコ、アラブ首長国連邦、アジアやヨーロッパの諸国で短期労働に従事しています。

 

日本も2019年に、技能実習と特定技能の人材を迎える協定をウズベキスタンと結びました。協定が結ばれたあと、ウズベキスタンの各州には無料で日本語や農業、介護について学習できる環境が整えられています。

 

こういった教室で1日3時間半、週に5日、合計6か月の間無料で学習し、試験に合格すれば日本語能力試験のN4(基本的な日本語を理解することができるレベル)を取得することが可能。試験の受験費用も国が負担しています。

 

2022年現在、ウズベキスタンで取得できる特定技能の資格はまだ農業と介護の2分野だけですが、2022年6月の在留外国人統計によれば、在留資格の「技能実習(1号・2号)」と「特定技能(1号)」を持つウズベキスタン人の数は現在、日本に147人、「技術・人文知識・国際業務」を持つ人は709人。ウズベキスタン政府はこの取り組みを拡大していく方針です。

 

ウズベキスタンの日本人への印象

タシケントにあるナヴォイ劇場

 

ウズベキスタンの首都タシケントにあるナヴォイ劇場は、第二次世界大戦後に抑留された日本人兵などの強制労働によって建てられました。1966年に起きた大きな地震でもこの建物だけが無傷だったことから、ウズベキスタン人は日本人の技術力をとても尊敬しています。

 

また、タシケントには日本庭園や日本人墓地など、日本に関わる場所もいくつかあります。国内では日本のドラマや映画も放送されているため、ウズベキスタンの人たちの多くは日本の技術や風習、文化に大きな関心や興味を抱いているのです。

 

そんなウズベキスタン人が日本の労働市場に向く理由は3つ考えられます。

 

1: 日本語の習得が速い

ウズベキスタンは130以上もの民族が住んでいる多民族国家でさまざまな言語が使われていますが、公用語であるウズベク語は、日本語と文法が似ています。そのため日本語が習得しやすいようで、とても早く上達します。日本人にとっても、ウズベク語は習得しやすい言語といえるかもしれません。

 

2: 日々の生活の中で介護に従事

ウズベキスタンには昔の日本のように家族と同居するという文化があるので、常に高齢者を敬い、優しくて思いやりのある人たちが多いのです。日々の生活の中で高齢者とかかわっているため、介護も自然と身についています。

 

3: 農業に従事している人が多い

ウズベキスタンは世界第6位の綿花生産国であり、世界第2位の綿花輸出国。近年はアラル海の面積と水量が縮小するなど環境の変化により綿花栽培は縮小していますが、穀物や野菜、果物といった農業が盛んです。農業に従事している人やある程度の農業知識を持っている人が多く、日本でも農業に関する仕事に向くといえます。

ウズベキスタンの農場

 

日本とウズベキスタンが協定を結んでからまだ2年程度のため、日本で本格的な労働力となるのはこれから。特定技能分野はいまのところ農業と介護だけですが、今後は他の分野にも拡大していく可能性があります。日本でたくさんのウズベキスタン人たちが労働市場を支える日も、そう遠くないかもしれません。

 

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インドが中国を抜いてトップへ!「世界人口」がもうすぐ80億人に到達

国連経済社会局人口部の『世界人口推計2022年版』によると、2022年11月15日に世界人口は80億人に到達します。その約6割はアジアに集中する一方、サハラ以南のアフリカ諸国などでは人口が著しく増加していく模様。ヒトへの投資がますます重視されています。

人口はあっという間に80億人へ

 

世界人口はわずか100年の間に爆発的に増加してきました。初めて10億人に達したのは1804年。その後、1927年には20億人となり、それから100年も経たないうちに、その数は4倍増えることになります。

 

ただし、多くの国で出生率が低下しているなどの理由で、増加率は鈍化。2030年には約85億人、2050年には約97億人、2080年には約104億人になると見られていますが、人口はその頃にピークに達し、2100年まで104億人の数字でとどまると国連は予測。

 

大陸別に見ると、アジアの人口が際立っています。世界人口推計で人口が最も多い国は中国(14億4850万人)で、次がインド(14億660万人)。そのため、米ポータルサイト・Big Thinkの概算によれば、アジアだけで世界人口の58%を占める模様で、アフリカでさえも2割にもなりません。対照的に人口が最も少ないのはオセアニアで、わずか4400万人。これは日本の首都圏の人口(2020年に4434万人)とほぼ同じレベルにあたります。

 

【大陸別の人口と割合(概算)】

1位 アジア(約47億人、58%)

2位 アフリカ(約14億人、17.5%)

3位 ヨーロッパ(約7.5億人、9%)

4位 北米(約6億人、7.5%)

5位 南米(約4.4億人、5.5%)

6位 オセアニア(約4400万人、0.5%)

(出典:Big Think)

 

現在、世界人口ランキングのトップを争うのが中国とインド。これまで人口が爆発的に増えてきた前者ですが、2022年7月時点で人口は14億2589万人となり、若干の減少が見られるようになりました。日本と同様に、中国でも少子高齢化が進み、労働人口が減少していることから、これから人口がどんどん減少していくと見られています。

 

それに対して、インドは2023年に中国を抜いて世界トップになる見込み。2063年頃に16億9698万人に達すると、その後は減少していくと予測されており、結果的に2100年時点での人口は中国が約5億人、インドは約10億人になるそうです。

 

また、中国やインドと共にBRICS(近年、著しい経済成長を遂げたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国を指す)を構成するロシアは、世界で最も面積の大きい国であるものの、人口は1億4580万人と世界第9位。インドの東側にあるバングラデシュの人口(1億6700万人)よりも少ないのです。バングラデシュでは人口が増加傾向にあるのに対し、ロシアは少子化が進み、両国の差は今後さらに開くものと考えられます。

 

もっとヒトに投資を

一方、国連は、2050年までに増加が見込まれる世界人口の半数超が8か国――コンゴ、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニア――に集中すると見ており、その過半数をサハラ以南のアフリカ諸国が占めると予想しています。

 

とはいえ、サハラ以南アフリカの大半の国々とアジア、南米、カリブ諸国の一部では最近、出生率が減少したようで、それによって生産年齢人口(25歳から64歳の間)の割合が増加。この変化は一人当たりの経済成長を加速する機会(専門用語で「人口ボーナス」と呼ばれる)をもたらすそうですが、その利益を最大化するためには「人的資本のさらなる開発に投資すべき」と国連は説き、ヘルスケアや質の高い教育へのアクセス、雇用を促進することが必要だと述べています。

 

日本は世界一の高齢化社会であるものの、世界人口の増加はアジアに集中。サハラ以南のアフリカを含めて、両大陸の人口の動向から目が離せません。

 

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ビリギャルがコロンビア大学院へ進学していた! 元スーパー劣等生だからこそ挑む「子どもが諦めずに済む」教育とは

『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』のモデルである小林さやかさんが、この9月、コロンビア教育大学院に合格してニューヨークに渡った。本が出版されてからおよそ10年。日本国内での大ヒットは言うまでもなく、中国においては上映初週に興行収入記録を塗り替えた映画公開から7年。小林さやかさんは今何を思い、どこを目指しているのか。詳しくお話を伺う機会を得た。

 

●小林さやか /愛知県出身。坪田信貴さんによるノンフィクション『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』でモデルとなった。慶應義塾大学、聖心女子大学大学院を経て、教育研究家として活動。この9月から、米国・N.Yのコロンビア教育大学院へ進学している。公式サイト YouTube Twitter

 

高い目標を持って努力をすることにはメリットしかない

−−『ビリギャル』が出版されて約10年が経過しました。その間に日本の大学院で学習科学を学んだ小林さんが、教育について興味を持った理由について教えてください。

 

小林さやかさん(以下、小林) ビリギャルが出版された2013年、私はウェディングプランナーとして働いていました。本の出版で多くの人たちに知ってもらえて、主に子ども向けの講演依頼をいただくようになり、子どもたちのためなら何でもしたいと思っていたので、働きながらあちこちに伺って話をさせていただいていました。

最初のころは自分の何がそんなにすごいのかと思っていました。もちろん頑張ったけど、私は受験しただけです。頑張って慶應大学に入った人は自分だけじゃないという感覚もあったので、何で私が注目されるのかとても不思議でした。

そんな中で衝撃的な体験をしました。「この子はもともと頭がよかったんだろう」という反応が、想像以上に大きかったんです。多くの人にそう思わせるものは何か。学習科学を学ぶために聖心女子大学院に進学した一番の動機は、「ビリギャルはもともと頭がよかった。だから自分には無理」と思い込んでいる人たち、あるいはそう思い込みたい人たちの意識を変えたいと思ったから。学習科学を選んだ理由は、昔の私がなぜできたのかを科学的に証明したいという気持ちがあったからです。

 

−−ビリギャル時代の小林さんは、日本の学校教育の問題をご自身で体験なさっていたのでしょうか? ポジティブなマインド設定をできない子どもが多いのは、そういうものが原因なのでしょうか?

 

小林 大人も含めて、日本人は総体的に自己肯定感が低いと思います。これには「わびさび」とか「和を以て貴しとなす」とする古くからの文化が、関係しているのではないかと感じます。みんなが自主規制するだけでなく監視をし合い、誰が作ったのかもわからないルールに従い、「和」を大切にする文化。「目立ったことをしてはいけない」という潜在意識によって治安の良さや街の綺麗さが保たれる反面、いろいろな可能性も同時に蓋をされてしまっていることも少なくないような気がします。

日本から出た今、長く根付いた文化が自己肯定感の低さを助長する感覚について、さらに思いを強めました。大人たちは、意図しないまま、子どもたちに自分たちの低い自己肯定感を受け継がせてしまっているのかもしれません。子どもたちは、まず周りの大人に信じてもらわないと、自ら挑戦していくことはなかなかできないでしょう。

自己肯定感の低さと、自分たち自身が信じてもらえなかった体験、規範から外れるのは良くないと教え込まれそれを当たり前と思って育ってしまったこと。代々受け継がれているこうした要素が日本の課題なのではないでしょうか。

それに「失敗すること」に対する免疫が低いようにも感じます。例えば私のように、偏差値が全国模試で28のときに、偏差値が70の慶應に行きたいと言うと、ほとんどの大人は止めに入ります。「リスクがでかすぎる」と。でも、高い目標を前に努力をすることは、結果がどうであれとんでもない成長を伴うわけで、「挑戦しないほうがいい」理由が、私には思い浮かびません。結果だけでなく、その過程でその本人がどれだけ成長できたかを評価できる大人が増えれば、子どもたちはもっとのびのびと、やりたいことに挑戦できるんじゃないかなあと思います。

 

自信は、自分との約束を守ることで生まれる

−−子どもたちは、自己肯定感が低い大人に囲まれている環境を変えることができるのでしょうか? 自分の手でカスタマイズしていくことの重要性についてお話しいただきたいと思います。

 

小林 ビリギャルとして活動していると、多くの後輩たちや先生、保護者の方と話をする機会に恵まれます。そして私は重要なことに気が付きました。私が大学受験で成功できたのは、「環境に恵まれていたから」ということ。それは、お金持ちだったから、とかそういうことではなくて、「信じてくれる人がいたから」ということです。やりたい、と自分で決めたことに、さやちゃんだったら絶対にできるよ、と飛び上がって喜んでくれた母。正しい努力の仕方を教えてくれて、伴奏してくれた坪田先生がいた。でも、多くの子どもには、そういう大人が周りに誰もいないのだということを、これまで痛感してきました。

親御さんだって、子どものことが大好きで、幸せになってほしいと心から思っている。でも、子どもが何かに挑戦したいと言ったとき、手放しに喜べる人は、比較的少ないのではないでしょうか。心理学で「ピグマリオン効果」という言葉があります。これは、「人は信じれば伸びる」という効果です。反対に「あなたにはどうせ無理だからやめておきなさい」などのネガティブな言葉をかけ続けると、能力もモチベーションも下がり、結果も望めなくなるというのが「ゴーレム効果」といいます。“良かれと思って”子どもの可能性に蓋をしてしまっているケースは少なくないです。

まずは、大人が価値観をアップデートすること。これが最も重要だと感じていますが、子どもたちには、「環境は自分で選べるよ」とも伝えています。別に親に理解してもらえなくても、学校や塾の先生があなたにワクワクの種をくれるかもしれないし、一冊の本やアートが、あなたのモチベーションになるかもしれない。なるべく多くの選択肢を持てるように、なるべく広い世界と接点を持つ努力をしてほしい、と伝えています。

 

−−子どもたちには、勉強に対する自分なりの考え方があると思います。子どもたちの気持ちを尊重しながら、可能性を消さない学習メソッドには、具体的にどんなものがあるでしょうか?

 

小林 セオリーとしてのメソッドはいろいろありますが、まだプロフェッショナルな教育者ではない私が「これがいい」とは言えません。ただ坪田先生(※)と母からいい教育を受けた立場の人間として言うなら、子どもがやってみたいことをダメだと思わせないようにする姿勢が大切です。

うちの母がたったひとつ、子育ての指針としていたのが「ワクワクする目標を自分で設定できるような人になってもらいたい」ということでした。ワクワクすることを自分で見つけ、それを目標にして一歩踏み出せる勇気を常に持っていられる大人になってほしいと思っていたそうです。

私は、こうした考え方が自分の根底にあることを感じています。子どもがワクワクする気持ちを邪魔しない。挑戦して進歩し成長して小さな成功を感じられたら、一緒に喜んであげる。それが次のチャレンジにつながっていけばいい。母はそう思っていたようです。仮に間違ったり失敗したりする時は、「これってすごく重要なステップだよね」ということをちゃんと伝え、それが成長につながればいいという感覚がありました。小さいころから母が「さやちゃん、ナイスアイデアだね」とか「よく挑戦できたね」といった言葉をずっとかけてくれていたんです。だから中学受験も自分からやりたいと思いました。中学受験に関しては、知識の基礎よりも自己肯定感の基礎が固まったという意味で本当によかったと思っています。

※坪田信貴さん:小林さんを導いた教育家であり、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の著者。坪田塾塾長。

 

−−そこからさらに踏み込んで、ネガティブな思いを消す方法や、子どもたちの成長を促す成功体験の刷り込み方について教えてください。

 

小林 さまざまなことに挑戦できる人とネガティブな人の違いは、トレーニングをしているかどうかということだそうです。ものごとの多面性をとらえるための働きをする前頭前野という脳の部位が発達している人は、攻略法をうまく立てることができたり、何かに挑戦する勇気があったりする人です。

私の場合は「挑戦してみよう」「やってみたらできた」といったことが、勝手に蓄積された成功体験のようなものとなりました。こうしたトレーニングを通して、たまたま前頭前野が比較的発達したと思うのです。

経験がない人は、自分で意図的にしていくしかないと思います。ただ、いきなり大きなことをやるのは無理です。少しずつでも成功体験を積み重ねていくことがトレーニングになります。自信は、「自分との約束」を守ることで生まれる、と坪田先生は言います。自信とは、自分を信じることです。約束を守る人は信頼できますよね。自分自身に対しても同じで、自分を信じる力は「実績がある自分ならできる」という思いから生まれます。自分との約束を確実に守り、積み重ねていけば自信になって、一歩を踏み出す勇気が生まれると思います。

 

この秋から、小林さんはコロンビア教育大学院の教育心理学プログラムで2年間学ぶ

 

“ティーチャー”ではなく“コーチ”になるという感覚を持つ

−−小林さんは実体験を積み重ねた結果、ポジティブ思考の大人になれたのでしょうが、大人がものごとにポジティブに取り組んでいく姿勢を見せること、そして自らがロールモデルになることの大切さについて聞かせてください。

 

小林 これはまさに今私がやっていることで、今回の留学を決めた動機でもあります。講演会では、ビリギャルの話を中心にしてきましたが、やがて「私はいつまでこの話をしてるんだろう?」と思うようになりました。受験しただけなのにすごく偉そうだという感覚もあって「私は何者なんだろう?」「調子に乗ってないかな?」という気持ちが拭えず、違和感が積み重なっていきました。

32歳のころ、ある女の子に「人生で後悔していることはないんですか?」と尋ねられたことがあります。自分でもびっくりしたんですが、すぐに「留学しなかったこと」と答えました。「だからみんなは、留学にちょっとでも興味があったらしといたほうがいいよ」と言ったのですが、同時に「なんで私は今から行こうとしないんだろう」と思いました。

子どもたちに対して「やってみなければわからない」「飛び込む勇気を持とう」と言っているのに、自分がそうしていないという違和感が私の留学の動機です。ワクワクすることがあるのに、怖気づいているのは自分だと気づきました。何歳からでも挑戦していいんだぞ、ということをもう一度みんなに伝えたいですね。YouTubeチャンネルを開設したり、「年内にTOEFL100点取るから見てて!」と宣言したり、ロールモデルになる気持ちはとても強かったと思います。

私は、それが大人のあるべき姿だと信じています。子どもたちを追いかけ回して「勉強しなさい」と言うのではなく、「あんなに学び続けてる人がいる。自分もああなりたい」とか「大人になるのが楽しみだ」とか、子どもがそんな風に思える大人がいっぱいいるべきです。

 

−−たくさんの講演や大学院での研究を体験している小林さんは、“ティーチング”と“コーチング”の違いについてどのように考えていますか? 具体例を通して教えてください。

 

小林 簡単に言うと、(私が通っていた)学校の先生と坪田先生の違い。それがティーチングとコーチングです。コーチングという言葉の定義は「大切な人を目的の場所まで連れて行くこと」であり、何かを教え込んだり知識を詰め込んだりすることではありません。

認知科学の研究が進む以前は、「人間は無能で受動的な生き物で、自ら学ぶ能力がないから、一人前にするために教育しなくてはならない」と考えられていた時代があります。残念ながら、今の日本の学校教育はこうした概念に立脚するシステムであると感じられます。それがティーチングだと思います。

コーチングはモチベーションを保ったり、自分を信じる力をはぐくんであげたりすることが主となります。学んで成長していくのは本人なので、その人のために環境を整備すること、モチベーションを引き出し維持することがコーチングの目的なのです。

坪田先生がしてくれたのはまさにコーチングでした。とにかくずっと対話していただけです。子どもが何に反応するか、どんなものに憧れているかをわかっていないと、能力を引き出すことやモチベーションに火をつけることはできません。だからこそとにかく対話して、学習者のことをよく知るというステップから入ります。

そもそも人それぞれ学び方や考え方、感じ方は違うわけで、それなのに一つの手法で一斉に教えて、同じ速度で学ぶことを強制され、その成果をたったひとつのものさしではかるなんていうのは、かなり難しいのではないかなと思います。今、教育は変わろうとしている重要な過渡期だと感じます。より様々な尺度で、学習者自身の主体的な学びや成長を効果的に評価できるような仕組みと、教育者が増えるといいなと思います。

 

−−ティーチングとコーチングの区別がつかない親たちは少なくないと思います。子どもの学習活動について、ただ高圧的にさまざまなタスクを押し付けるだけではなく、どんなことに気を付けるべきでしょうか?

 

小林 学びとは何なのか。一歩引いて考えたいのです。親御さんたちにとっての学び、子どもにしてほしい学びは何か。多くの知識を正確に覚えることが学びであると思っているのなら、それはもう古いでしょう。

今の時代の重要なスキルは、「持っている知識で新しい価値を生み出していくこと」です。何のために学ぶのかということをもう一度考えてほしいです。子どもたちにとって、幸せとは何なのか? 面倒くさいかもしれないけど、もう一度そこをじっくり考えてみてほしいのです。テストでいい点数をとることが、子どもや親御さんの幸せではないはずです。ぜひ、家族で話し合ってみてもらえたらと思います。正解はないです。でも、そこを考えると自ずと必要なことが、見えてくるはずです。親も、子どもと一緒に学び続ける、をすべきです。親が学んでいれば、子どもは勝手に学びます。

それに、親御さんにとっての“当たり前”が、社会の第一線に立って次の世代を生きて行かなければならない子どもたちの“当たり前”では、もうないかもしれないということを忘れないでほしいとも思います。お子さんが、自分で目標を持ち、自分の意思で一歩踏み出し、自分の人生を自分で生きていかなければいけないのです。だから、まずは親御さんが「失敗させる」ことにも免疫をつけなければいけません。子どもよりも親が、「失敗してほしくない」と思うあまり、挑戦させる勇気がないケースを多く見ます。

子どもたちには子どもたちの社会があり、親御さんたちの時代とは違うので、子どもからも学ぶという姿勢がいいと思います。それぞれの価値観を尊重して、大人もいろいろな視点から学ぶことが大切だと思います。

 

−−大学院生時代、小林さんは中学校で実践的な研究をされていましたが、当時の子どもたちと小林さんご自身が子どもだった時を比べての変化や、今の子どもと昔の子どもは違うという印象がありますか?

 

小林 生徒たちの表現の仕方が変わってきたと思います。先日たまたま目にしたのですが、授業中の先生の様子を隠れて動画で撮って、それをネットに上げてあざ笑うような投稿をしていた高校生がいました。私が学生だったころは、先生に面と向かって反抗していた。それが今では、SNSという手段を生徒たちが手にしてしまったので、より陰湿で見えにくく、表現の仕方も複雑になっていると感じます。

中学校での共同研究で感じたのは、先生方のアップデートが追いついていないということです。これは先生たちのせいではなく、仕組みの問題です。学習指導要領の変化などに加え、日々の業務、人員不足、様々な問題が先生たちを常に取り巻いています。先生になる過程で教えられてきたことが昔の型に当てはめたものだったりするので、新しい学習目標を実現するために必要な新たなスキルや高度な知識を習得できないままに、現場に立ち続けなければならない現状があります。この仕組みから考え直さなければならないでしょう。教員養成課程で何を学ぶべきなのか。さらにはどのように教師が「学び続ける」ことを実現するのか。そのあたりから一斉に仕組みとして変わっていかないと、理想的な教育を実現するのは困難なように感じます。

中学校との共同研究では、協調学習を通してもたらされた生徒たちの変化が先生たちを支え、学習観が安定しました。先生たちも学ぶことを欲しているけれども、そのための時間もリソースも機会も与えられていないこと、先生たちがそれを嘆いていることもわかりました。仕組みが変わって、色々な立場の人たちが学びの重要性を同時にとらえ直すことが一番大事であると学びました。

 

日本が「世界一幸せな子どもが育つ国」になるように

−−小林さんのお話の核の部分は、“信じること”であると感じられます。そこで、子ども自身も先生もそして親も、何かをリアルに信じられるようになる方法論についてお聞かせください。

 

小林 “何を”という部分に関しては、何でもいいと思います。日本では「ワクワクすること」をダメだと思う人がすごく多いと感じます。勉強も仕事もワクワクするものであるはずがないと決めつけているのではないでしょうか。私はよく「達成できたら鼻血が出るくらいのワクワクする目標を設定しましょう」と言います。

坪田先生が、勉強に対する準備がまったくできていなかった私という車のエンジンをかけてくれたおかげで、効率よく走ることができました。多くの子どもたちは、エンジンがかかっていないままずっと後ろから押されながら、ちょっとずつ進んでいる状態だと思います。能力うんぬんではなくて、1年で偏差値が40も上がるなんていうことは、そもそもエンジンがかからないと無理です。

 

−−坪田先生にエンジンをかけてもらって、学年ビリの学力から慶應大学合格までフルスロットルの状態で走り切ったわけですが、それをキープする原動力は何だったのですか?

 

小林 最初の原動力は櫻井翔くんが慶應大学に通っていたということでしたが(笑)、次第に坪田先生みたいになりたいと思うようになりました。坪田先生は常に「教育は憧れだと思う」とおっしゃっていて、私もシンプルにそう感じます。「あんな人になりたいな」という気持ち。学校の先生になりたいという人たちに「昔、いい先生がいたんでしょ?」と訊ねると、ほぼ全員がそうだと答えます。

教育は憧れ。本当にそう思います。私の場合は完全に「坪田先生みたいになりたい」「こんなに面白い大人がいるならもっと世界を広げたい」と思ったことがアクセルになりました。

 

−−子どもたちが無理をしないまま自分自身であることが心地よくいられる方法、そして自分なりのモチベーションを保ち続け、大きくはぐくんでいく方法についてお聞かせください。

 

小林 私が意識したのは「難しすぎることをやらない」ということでした。自分の能力よりもちょっと難しいことをやり続ける姿勢が、成長曲線を一番良い状態で保つことにつながるといわれています。モチベーションも保てず、好きでもないことをやらされるのは嫌ですが、「これはまあまあ得意だからできる」ということなら頑張って磨きをかけていけるでしょう。勉強もそうです。勉強嫌いになる理由は単純に「できないから」であって、できないものを好きになるのは難しいはずです。

勉強ができなくなる子が増えていく理由は、システム的に一人ひとりの速度や学び方に合わせることができないからだと思います。一度倒れたら立ち直るのは難しいでしょう。そういう状態では自分の能力が低いと勘違いしてしまい、話が「地頭が悪い」という方向に進みがちです。でも、戻ればできるのです。これはすごく大事なことです。戻るというより、埋めに行く感じかもしれません。スカスカなものの上には何も積み上げられません。だからスカスカなところを埋めに行って、階段と同じように一段ずつ上っていくべきです。

 

−−大学院修了後のプランについて教えてください。日本に戻るのか、それともアメリカで研究活動を継続しますか?

 

小林 日本を「世界一幸せな子どもが育つ国」だと言われるようにしたい。私にはそういうビジョンがあって、どんな形であっても、そこに貢献したいと思っています。

今は必死で英語を勉強している状況ですが、留学が終わるころには、自分がすごくアップデートされていると思います。これまでの価値観が根本的に変わる大きな経験になるでしょう。だから、今何かを決めたところでそれは絶対変わるだろうなというのが正直な気持ちです。でも、今一番興味があるのは、日本の学校の先生たちの学びの場をつくりたい、ということです。日本の先生の質はとても高いと感じています。あんなに情熱があって献身的な先生が集まっているのは本当にすごいことです。だから、その情熱や労力を、正しい方向に向かわせてあげるだけで、本当に多くの子ども達の未来が変わると思っています。卒業後といわず大学院在籍中から、そういったことに貢献できれば、とは思っています。

 

 

インタビューの最後に、小林さんはこうも話した。「こんなに勉強し続ける人生になるとは、思っていませんでした。でも、問題意識を持ってすると、勉強はとても面白いです。それを多くの人たちに知らせたいです」

 

何を勉強するか。どのように勉強するか。勉強する気になるのに遅すぎるということはない。そして、その気になったらすぐに実行すべきだ。筆者が抱いたこういう思いを、一人でも多くの人に共有していただきたいと願っている。

バルサが再び参戦! 街クラブのU-12が世界に挑む「ジュニアサッカーワールドチャレンジ2022」で見えたこと

日本の津々浦々でサッカーをプレーする少年少女たちに“世界”を体験してもらいたい……「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」は初開催から、世界最高レベルの育成機関を持つFCバルセロナの招聘(しょうへい)が実現し、ジュニア世代に貴重な体験を提供してきました。ところが、コロナ禍によりこの2年間は国内チームのみの大会に。そして今夏、3年ぶりに海外クラブが参加する本来のスタイルに回帰。そこで何が起きたのか、レポートします。

 

今年で10周年。第1回には久保建英選手が海外チームの一員として参加

↑第1回大会でイングランドのリバプールFCを破って優勝したバルサ。大会MVPに輝いたエリック・ガルシア選手、同得点王のアンス・ファティ選手は現在、スペインのトップリーグ、ラ・リーガで活躍中であること見れば、この大会のスケールが実感できるでしょう。(写真は2018年大会のバルサ)

 

日本のジュニア世代にとって、世界の強豪クラブと対戦できるのはまさに夢。しかも、国内でそうした機会にチャレンジできることは、選手だけでなく指導者にとっても大きな意義があることです。

 

そこで2013年、日本の子どもたちや指導者に“世界レベル”を体験してもらうことを目的に始まったのが、「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」。現在もメインスポンサーである大和ハウスグループの強力なサポートにより、スペインの強豪・FCバルセロナ(バルサ)の招聘に成功し、当時バルサに所属していた現日本代表の久保建英(くぼ・たけふさ)選手も参加したことは、大きな話題となりました。@Livingでは同大会の模様を幾度となく取り上げてきましたが、あらためておさらいしておきましょう。

 

↑2018年の第6回大会まではバルサが5回制覇していますが、2015年はスペインのRCDエスパニョールが初優勝、2019年にはナイジェリア代表が決勝戦で中国の広州富力足球倶楽部を破り、スペイン以外のクラブが初の優勝を飾りました。コロナ前のラストイヤーは、海外から10チームが参加と国際色豊かな大会となりました。

 

↑2020年はコロナ禍により海外からチームの参加はなく、これまではヨーロッパのシーズン変りとなる夏に行われていた大会も真冬の開催となりました。

 

↑国内のチームのみで行われた2021年の大会では女子選手が活躍するなど、多様化が進んでいる現代を象徴する大会ともなりました。

 

街クラブの子どもたちが闘将たちの薫陶を受け戦うチャンス!

第1回の国内参加チームは主にJリーグの下部組織でしたが、第2大会から街クラブの枠が設けられ、一般のクラブチームも参加。また2018年の第6回大会からは「多くの子どもたちに世界の強豪チームと対戦する機会を提供したい」と街クラブ選抜チームも結成。2019年からは「大和ハウスDREAMS」と「大和ハウスFUTUERS」の2チームで参戦しています。元日本代表の岩政大樹さん、久保竜彦さん、播戸竜二さんらが監督を務めています。

↑3位決定戦、決勝戦ではボールボーイを務めました。

 

会場はJリーグチームの本拠地!

会場は、読売ヴェルディやガンバ大阪、ジェフ千葉といったJリーグの名門チームが本拠地とするスタジアム群など。国内指折りの設備を存分に使い、11人制のゲームに挑むことになります。

 

2017年までは東京の味の素スタジアムとヴェルディグランド、18年と19年は大阪のパナソニックスタジアムなど万博競技場、20年は福島のJヴィレッジ、21年は再び大阪、そして今回は千葉で開催されました。

↑今回はジェフ千葉の本拠地、フクダ電子アリーナなど千葉市蘇我スポーツ公園で開催。

 

前置きが長くなりましたが、この「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」の2022年大会では、海外チームが一部復帰したことでどのような戦いぶりが見られたのか、最注目のバルサから見ていきましょう。

 

3年ぶりに参加のバルサは3決に回るも怒涛のゴール

3年ぶりの大会参加となったバルサは、グループリーグを1位通過。順調に準決勝進出したものの、ヴィッセル神戸U-12の堅い守りを攻略できずにスコアレスドローとなり、PKで惜しくも敗退。湘南ベルマーレアカデミー選抜との3位決定戦に進むと、前半は湘南に先制ゴールを許すも、後半は怒涛のゴールラッシュを繰り広げました。

 

↑小柄ながら存在感を放ったウゴ・ガルセス・ラグナスは後半33分にゴール前のこぼれ球を冷静に決めました。

 

後半開始1分に快足のルスラン・エムバ・エルナンドが抜け出し同点ゴール。このあと流れをつかんだバルサは後半25分間で8ゴールを挙げ、8対1で実力の差を見せつけました。前半の1点が、今大会のバルサが喫した唯一の失点でもありました。

↑一気に駆け出すと湘南の選手を置き去りに。後半3点をマークしたエルナンド選手。

 

試合後、アルベルト・プッチ・アルカイデ監督は「普段は7人制でプレーしているのが、ここでは11人制で、またこういう環境でプレーするのも初めてと、いろいろプレッシャーもありました。ただ今回は、たくさん試合ができて早く慣れることができましたし、5日間チームメイトと一緒にいられたことで、チームが結束する時間を持つことができました」と大会の収穫を振り返りました。

↑この大会で一緒に時間を過ごしたことで、これまでより結束力が高まったという選手たち。

 

↑「日本の選手から『Hola! Hola! 』と声を掛けられると、我々バルサの子たちは『アリガトウ』と返していました」と子どもたちの様子を語るアルカイデ監督。国内外のサッカー少年たちの交流も、この大会のみどころのひとつです。

 

↑また、バルサの選手たちは試合前、対戦チームにペンをプレゼント。

 

一方、同じく海外から参戦したイタリアの名門・ユベントスFCは今回が初参加。決勝トーナメント進出はなりませんでしたが、最終日も会場に残ってゲームを観戦し、帰国の途につきました。

↑ユベントスFCの選手たち。

 

バルサが3位決定戦に回ったことで、決勝戦は国内チームで激突。そのゆくえは?

 

海外クラブ参加の大会で初の国内クラブ同士の決勝戦

↑この大会9得点を挙げMVPに選ばれたマルバのオツコロ選手。憧れの選手はクリスティアーノ・ロナウドで、行きたいチームはバルサかパリ・サンジェルマン。将来が楽しみです。

 

コロナ禍で3大会ぶりに海外クラブが参加した記念すべき第10回大会。決勝戦に進んだのは、意外にも国内クラブの2チームでした。挑んだのは、全国に24校を展開する街クラブ malvaの選抜チーム「malva future select」(マルバ)と、Jリーグの下部組織「ヴィッセル神戸U-12」。

 

日本初のサッカーとフットサルを融合させた選手育成プログラムを採用するマルバは、前半開始1分で小林龍聖選手が先制ゴール。その後もマルバのペースでゲームは進みますが、お互い決定機がないまま、後半も残り8分でヴィッセルの山口隼澄選手のクロスを細野陸十選手が頭で合わせ同点。決勝戦らしい互角の攻防が続くなか、残り2分でマルバのオツコロ海桜選手がカウンターから一人で約70mを持ち込みゴール。しかし、これで終わらず1分後にヴィッセルの池田惇羽選手が技ありのロングシュートで同点。そのままタイムアップで決着はPK戦にもつれこみます。

 

↑マンツーマンでオツコロ選手についていたのは、ヴィッセルのキャプテン・花元誉絆選手(右)。再三のピンチからチームを救いました。

 

↑主に右サイドから的確なパスを繰り出した鈴木陸選手。マルバはポジションを固定せず、選手たちの判断に任せるというスタイル。

 

バルサとの準決勝でPKを3本セーブしたヴィッセルのGK田口創一朗選手に対し、今大会初のPK戦に挑むマルバ。ここでもお互い譲らず9本目のヴィッセル、決勝で同点ゴールを決めた山口選手のボールをマルバのGK、若杉颯太選手がファインセーブし、マルバ9人目の長井健選手が決めて、頂点に立ちました。

↑お互い8人の選手がPKを決め、ヴィッセル9人目の山口選手のPKをついに止めたGKの若杉選手。

 

↑18人目のキッカーでついに頂点に立ったマルバ。前回大会に続く2度目の出場で優勝を手にしました。

 

↑敗れたヴィッセルのGK、田口選手。優勝候補マルバとの準決勝では、PKを3連続でセーブする活躍を見せました。

 

↑振り返ってみれば、決勝戦らしい互角の戦い。25分ハーフの前後半では2対2で勝負はつかず、計18人にわたるPKで激闘に幕は閉じられました。

 

大会にとっては10年の節目でも、選手には一度きりのチャンス

「日本と海外の違いには、優れているところもあれば、残念ながら足りていないところもあります。小学生の頃から子どもたちにはその差を、直接肌で感じてもらいたい。指導者の方も直接対決することによってさまざまな気づきが生まれるだろうと、我々も考えています」と大会開催の意義を大会実行委員の尾形ルイスさんは語ります。

 

大会は記念すべき10回目を迎えました。とはいえ、昨年までの2年間はコロナ禍で海外クラブの招聘が難しく、開催すべきか悩んだそう。

 

「『ワーチャレ』という名前でやっていいのかということも含めて、いろいろ苦慮しました。ただ、大会実行委員長の浜田満から『子どもが諦めていないのに、大人が簡単に諦めるな』と言われて。我々もできることは何か、いつならできるかを考える2年間でした」

↑「バルサは技術レベルが高く、一人ひとりの平均値が非常に高い。今回もしっかりつなぐサッカー、まさに最高峰を見せてくれた」と語る尾形さん。

 

「コロナ禍で多くの大会がなくなり、そのなかで僕たちまでなくしたらいけないという思いがありました。なんとか全国レベルの大会は開催していかないと、という思いで。チームからは『開催してくれてありがとう』という言葉をたくさんいただきました。
参加する子どもたちの9割は6年生です。我々にとっては10回目ですけど、彼らにとっては最初で最後の1回。この時期でしか得られない体験、この時期だからこそ感じられることもあるはずという気持ちで、やり続けなければいけないと思いました」

 

また、この2年間で趣旨は変わっても、逆に特別な意味をもらった、とも話します。

 

「2019年には10チーム近くの海外のチームに来ていただきましたが、今回は2チーム。だんだん出口が見えてきたので、また次になにか新しいことができればと考えています」

↑同大会のスポンサーは、コロナ禍でも翻意せず。今年も大和リビングをはじめ、大和ハウスグループが全面的にバックアップ。

 

今回3年ぶりに海外の強豪チームが参加し、本来の「ワーチャレ」が戻ってきましたが、大会主催者は完全復活が目標ではなく、さらなる展開を考えています。選手にとっては貴重な体験、そして私たちにとってはジュニア世代の純粋な頑張りに感動をもらえる大会。10回の節目を迎えましたが、今後の開催からも目が離せません。

 

U-12 ジュニアサッカーワールドチャレンジ2022

 

研修時間が大幅にダウン! 途上国のリカレント教育におけるメタバースの可能性

人間は社会人になっても、さまざまな形で学ぶことができる。そのような意味を広義に持つリカレント教育は、国際開発でも重要な概念の1つです。近年では、企業内教育を含めたリカレント教育にメタバースを導入する動きが活発になっていますが、このトレンドは途上国で急速に発展するかもしれません。

没入すれば、可能性は無限大

 

昨今、世界中で注目を集めているメタバース。この用語は「超〜」や「〜より包括的な」を意味する接頭辞の「メタ(meta-)」と、「宇宙」を表す「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実が融合した世界を指します。カナダのリサーチ企業・Emergen Researchによると、2021年における世界のメタバースの市場規模は約630億ドル(9兆円以上※)で、2030年までに毎年43.3%のスピードで急成長していくとのこと。あらゆる業界が熱い視線を注いでいる分野ですが、別の資料によれば、VR教育の市場規模は2026年までに約1300万ドル(約18億7000万円)に達する見込み。

※1ドル=約143.6円で換算(2022年9月8日現在)

 

メタバースのような没入型テクノロジーの最も魅力的な用途は、教育やトレーニングにあると言われています。

 

メリーランド大学によると、ユーザーはコンピュータ画面上よりも仮想現実(VR)で提示されたほうが、より効果的に情報を保持することができるそうです。また、プライスウォーターハウスクーパースのレポートによると、従来の対面式教室やオンライントレーニングに比べ、VRを使用したソフトスキルのトレーニングは4倍の速さで従業員を訓練することができたと言います。

 

VRの中で被験者は対象物を、位置や自分との距離、周りのものとの関係を認識しながら、視覚的に覚えることができるようになります。例えば、「自分が立っている場所から15メートル程離れた所に建物があり、その2階の窓際に人の姿が見える。それは〇〇さんだった」という具合に、より細かく多くの情報を視覚から得られるのです。そのため、メリーランド大学の実験では、VRを使った被験者の記憶合致の率は8.8%上昇という結果が得られたそうです。

 

ビジネスの研修にもメタバースは良い効果を与えている様子。米国の小売大手・ウォルマートが2017年に、従業員の教育プログラム用に1万7000個のVRヘッドセットを導入した事例からも分かる通り、大規模な従業員を抱える企業の導入事例が増えています。世界最大の会計事務所の1つPWCが、企業研修におけるVRの機能について調べた結果、研修の参加者からは「VRに没入するため集中力が増すほか、学んだことをVRの中で気軽に練習することができるため、自信がつく」といった意見が多数挙がったそうです。さらに同社は、VRの研修は規模の経済性によって、参加者が増えれば増えるほど費用が下がるとも述べています。

 

インフラが十分でないからこそ

そんなメタバースは、まだ証拠は少ないものの、先進国以上に途上国で活用される可能性があります。

 

メタバースへの期待は途上国で最も高いことが調査で判明しており、教育への活用についても大きな需要がありそうです。JICAが行った調査によると、フィジーでは、デジタル技術を活用して業務プロセスを改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)施策の中で、デジタル技術を有する人材の不足が課題の1つになっているという事例もあるそう。

 

デジタル技術に限らず、途上国では技術をもった人材の育成ニーズが大きいのですが、教育の品質における問題や、交通のインフラ整備が不十分であったり、教育機会にアクセスが難しいといった別の課題も存在します。そこで、時間・場所を問わずアクセスを可能とし、より高い習熟度が期待できるメタバースが活躍するのではないでしょうか。

 

つまり、教育分野の制度やインフラが十分に整っていない途上国だからこそ、メタバースを試しやすいと考えられるのです。もちろん課題がないわけではありません。途上国で「メタバース教育」を実現するためには、通信環境の整備が必要。フィジーの例では、DXの有用性が明らかになる一方、通信環境の整っている地域とそうでない地域での格差が浮き彫りになっています。しかし、途上国が企業の投資や国際機関の支援を受けて、通信環境を整えた場合、その他の教育インフラの発展が遅れていたとしても、メタバースの活用が、先進国が通ってきた段階的プロセスを飛び越えて進む「リープフロッグ現象」さえ起こり得るかもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

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2032年までに約7.3兆円の成長!「アニメ・マンガ市場」の商機は途上国にあり

加速度的に拡大する世界のアニメ市場。コロナ禍の影響による「巣ごもり需要」は出版や動画配信業界にとって追い風となりましたが、アニメ関連業界は今後さらに成長すると予測されています。コンテンツ配信におけるプラットフォームの多様化がアニメの人気を世界中で高めると同時に、発展途上国でも市場が拡大する見込み。この波に乗るために、新たなビジネス機会を狙う企業が現れています。

世界中で成長するアニメ産業

 

2022年7月に米国のマーケットリサーチ企業Future Market Insights(FMI)が発表したデータによれば、世界のアニメ市場は2032年までに約530億ドル(約7.3兆円※)の成長が見込まれているとのこと。その中でも大きく注目されているのが、音楽コンサートやステージ上でのパフォーマンスといったライブ・エンタテイメント部門。新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で同部門は停滞していましたが、コロナ禍が収束するにつれて回復し、長期的には同業界を牽引していくであろうと予測されています。

※1ドル=約137円で換算(2022年7月23日現在)

 

また、スマートフォンやタブレットなどユーザーのデバイスが多様化する一方、テレビやケーブルではなく、インターネットを通して視聴者に直接コンテンツを配信する「OTTプラットフォーム」志向が世界各地で拡大。NetflixやDisney+、Amazon Prime Videoなどの動画ストリーミングサービスの普及が、アニメの人気を押し上げるようになりました。同様にオンラインゲームの発展もアニメやマンガのファンを増やすと見られています。

 

そんなアニメ市場で日本は不動の地位を築いてきました。FMIによると日本のマーケットシェアは43%以上で、今後も日本の優位は続くとされています。以前から日本が生み出すマンガやアニメは国境を超えて数多く流通しており、レベルの高さに衝撃を受けた世界中の子どもや若者が日本への憧れを抱いてきました。

 

可処分所得が増えている発展途上国では、アニメ・マンガ市場がさらに成長する可能性があります。最近では、日本の専門学校がアニメやマンガを専門的に教える学校をマレーシアで開校。熱心な若者が勉強に励んでいますが、この動きは日本の教育業界における少子化の影響を反映しているだけではなく、アニメ・マンガ業界で外国人材の活用が加速していく可能性を示唆しているかもしれません。昨今では日本の制作会社は慢性的な人材不足に陥っているため、どうしても外国人材を育成することが必要。すでに作品のローカライゼーション(現地化)では、多くの現地人材が活用されるようになりました。

 

このように、世界のアニメ・マンガ市場には、出版社やテレビ局といったメディア企業だけでなく、テクノロジーやゲーム、教育など、幅広い産業から多くの企業が参戦しており、経済発展が著しい発展途上国にも商機がありそうです。

 

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途上国の「児童労働」をなくすために。ブロックチェーン活用事例と「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」から紐解く。

皆さんは、「児童労働」という言葉にどのような状況を思い浮かべるでしょうか。

 

国際連合が定める「世界人権宣言」には、子どもが教育を受ける権利が明記されていますが、発展途上国では、子どもが十分に教育を受けられない状況が現代に至るまで続いています。世界一のカカオの生産国・コートジボワールもそうした国のひとつ。カカオ農家を家業とする家庭が多く、労働を余儀なくされている子どもたちが珍しくありません。

 

そんなコートジボワールで、ブロックチェーン技術を活用することで児童労働撤廃に向けたモニタリングシステムの実証実験が行われました。ブロックチェーン技術はどのように児童労働の撤廃につながるのでしょうか。今回の実証実験に携わったJICA(国際協力機構)の若林基治氏(JICAアフリカ部次長)と、持続可能なカカオ産業への懇話会「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を担当する山下契氏(JICAガバナンス・平和構築部 法・司法チーム企画役)にお話をうかがいました。

 

今回の実証実験の協力者に、入力端末による情報の登録方法をレクチャーする日本人スタッフ(写真左)と実際に入力操作を確かめる現地の協力スタッフ(写真右)。写真提供:国際協力機構(JICA)

 

すこし、コートジボワールのカカオ農家の現状を整理しましょう。シカゴ大学の調査データによると、コートジボワールでは、2〜3人に1人の割合で、5~17歳の子どもがカカオの生産に携わっているとされています(出典リンク)。大人の労働力だけでは、家族が暮らしていけるだけの収入を確保できなかったり、農家に大人を雇用する経済力がなかったり、そもそも、教育機関の整備が不十分であったりすることが、その主な理由です。

 

同じ問題を抱える、世界第二位のカカオ生産国・ガーナの児童労働に関する調査担当の山下氏は「現地で関係者のお話を聞くと、親は、自分の子どもを学校に通わせて、良い教育を受けさせたいと思っている。でも、さまざまな理由から、それができない。どうせ学校に通えないのなら、家の仕事を手伝わせたり、外で働かせたりした方がいいと考えてしまう親もいるようです」と語ります。

 

2〜3人に1人というコートジボワールのカカオ農家の児童労働の割合は、ショッキングな数字です。しかし、その状況はコートジボワールのカカオ農業の長い歴史が醸成してきたものであり、簡単に変えられるものではありません。では、ここにブロックチェーン技術を応用すると、どのような変化が期待できるのでしょうか。

 

若林氏は、カカオの生産過程にブロックチェーン技術を組み込む意義について「確実にトレーサビリティーを担保し、サプライチェーンを透明化することが可能です。ウナギなどの農林水産物の産地の偽装が日本でも事件として報道されていますが、ブロックチェーン技術を用いることでこのような問題が発生しにくくなります。システムの違いよって情報の内容、信頼度が変わりますが、ブロックチェーン技術を用いればシステムに関係なくカカオの由来が生産者から消費者まで同じように明らかになり、誰もが確実に児童労働の有無を確認することができるようになります。特に今回の実証実験では子供の学校の出席データを利用することで、子供の就学を促す効果が期待できます」と話します。

 

JICAとデロイトトーマツが共同で実施した今回の実証実験では、カカオ農家の代表グループが登録した「農家ごとの児童労働の状況」と、教育機関が登録した「子どもの出席状況」とを監査人が照合し、児童労働を行わなかった農家のカカオを、プレミアム価格で買い取ることで正しい情報が持続的に記録され、確認できる仕組みを構築しました。

図版は、実証実験されたモニタリングフローを図解したもの。農園(事業者)、家庭(農家)、学校の三方からの登録情報をモニタリングチームが確認し、ブロックチェーンデータベース内で情報を保全。児童労働をしない農家のカカオをプレミアム価格で買い取る仕組み。図表提供:国際協力機構(JICA)

 

それぞれの代表者は専用の端末から情報を登録します。情報は相互に突き合わせて確認されます(モニタリング)。単に情報をデータベースに登録するだけでは、“本当は働いていたのに働いていなかったことに”してしまったり、“本当は出席していなかったのに、出席したことに”してしまったりといった不正入力ができてしまいますが、生産者の現場で複数の情報を突合させることで正しい情報がブロックチェーン上に記録され、それ以降は情報の信憑性は相互に担保され、改ざんもできません。もしも情報が整合しない場合は、モニタリングチームがヒアリングし、現地調査に訪れ、事実確認をするという仕組みも取り入れました。

 

2021年の11月から12月までの1か月の実験期間で、農家グループからの申請率は100%に達し、学校の申請率も95.6%に達しました。また、双方の情報が一致しないケースは、入力や申請の誤りがほとんどであると確認されました。児童労働が明らかになったのは、2366件の申請中、学校の通信環境や業務過多を原因とした未申請の103件を除くと、わずか3件という結果になったのです。

 

つまり、信憑性・透明性の高いブロックチェーン情報をもとに、プレミアム価格のカカオ買い取りというインセンティブをつけることで、親も事業者も子供たちに児童労働を強いる必要がなくなる可能性が確認できたわけです。

 

ブロックチェーンの導入が生む新たなブランド価値と商習慣

現在のカカオの流通過程をごくシンプルに説明してみましょう。まず、カカオ農家から出荷されたカカオが、コートジボワール国内の運搬業者によって運ばれ、輸出され、各国のチョコレート工場に運ばれます。工場で加工されたチョコレートをはじめとした加工品は、小売店に並び、消費者はそれを楽しみます。

 

ごく当たり前の、長年続いている商習慣ですが、問題は、供給側にどのような問題があったとしても、私たちはチョコレートを美味しく“楽しめてしまう”という点にあります。チョコレートを食べるときに、生産者の顔を思い浮かべる人がどれほどいるでしょうか。もしかすると、コンビニエンスストアで何気なく買ったチョコレートの原料を生産するために、遠く離れた地で、子どもたちが危険な児童労働に従事しているかもしれません。ですが、私たちは、チョコレートのパッケージからその有無を知る術がありません。

 

ここに、ブロックチェーン技術を使えば、消費者側からのチョコレートの背景情報の追跡が可能になります。今回の実証実験には小売店や消費者は参加していませんが、商品が出荷されるまでの各過程を正確に追跡できるということは、消費者がデータベースにアクセスすることで、どの農園で生まれたカカオを使って、どの工場で加工されたチョコレートなのか、また、生産過程で違法な児童労働はなかったのかも知ることができるということを意味します。

 

カカオサプライチェーンの「現状(左)」と「目指す未来像(右)」。現状は、生産者側と購入者側の情報経路が相互に繋がっていないため、情報追跡ができず生産地の問題を把握することができない。目指す未来は、生産者側と購入者側が情報をリアルタイムで共有する環状のサプライチェーン。ブロックチェーン技術で情報を保全しながらトレーサビリティ(流通の追跡可能性)を確保できる。図表提供:国際協力機構(JICA)

 

若林氏は「コバルトなどのレアメタルや、ダイヤモンドなどの希少な鉱石、綿花などの農産物も、児童労働が問題視される生産物の一例です。ブロックチェーンの仕組みを取り入れることで、こうした状況も改善できる可能性があるでしょう」と話します。

 

ブロックチェーンの産業への適用は、経済的に強い立場にある先進国の消費者が、弱い立場にある発展途上国と対等で公正な取引を行うことで、生産者のウェルビーイングを目指すという「フェアトレード」にもつながっていくと言えるでしょう。

 

人権意識の強い欧米の社会では、製品がフェアトレードに基づいて生産されているかどうかが商品選択や購買意欲に結びつく状況が生まれつつありますが、日本では、まだまだ認知度が高いとは言えません。

 

●サステイナブルチョコレートの認知者の購入意向

 

 

●サステイナブルチョコレート非認知者の購入意向

 

●調査全体としての購入意向

 

日本国内でのサステイナブルチョコレートの認知度ままだ低いものの、全体の65%が購入意向ありと回答しており、サステナブルチョコレートを認知している人の89%が購入する意向を示している(15歳以上の男女1400人webアンケート:デロイトトーマツ2021)。資料提供:デロイトトーマツ

 

例えば、生産・流通の各過程をブロックチェーンのデータベースに記録した上で流通する商品には、データベースを参照できるQRコードを付与したとします。それは今回の実証実験結果のように、生産側の持続可能な労働環境の醸成に結びつくだけでなく、それを製造・販売する企業にとっては、フェアトレード製品という“付加価値”を商品に持たせ、さらに、フェアトレードに対する社会の認識を強めるきっかけを作れるかもしれません。

 

「ブロックチェーンの技術を使ってデータを記録するということは、分散型でデータ管理されるため、利害が対立している当事者でもデータを信頼することができます。従来の内部でのデータ改ざんが可能な中央集権型のデータベースとの違いはここにあります。ブロックチェーン技術で農家と直接契約を結ぶこともできますし、新たな要素を加えることもできます。発想や捉え方によって、さまざまな付加要素を後から与え、新たな価値創造が可能だと思いますね(若林氏)」

 

持続可能なカカオ産業を作るために集う「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」

JICAでは、2020年1月に持続可能なカカオ産業の実現を目的とした「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム(以下、サステイナブル・カカオ・プラットフォーム)」を立ち上げています。今回の実証実験はプラットフォーム会員が関わる取り組みのひとつです。

 

JICAで開催されたサステイナブル・カカオ・プラットフォームの イベント。写真提供:国際協力機構(JICA)

 

会員に名を連ねるのは、大手・中小の菓子メーカーや商社、広告代理店、弁護士法人、フェアトレードに関する社団法人や非営利活動法人などさまざま。それぞれの業種や業界が、それぞれの立場から、持続可能なカカオ産業を実現するべく、知見やリソースを持ち寄って共創、協働する場としての役割を果たしています。

 

JICA 開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム 概要。図表提供:国際協力機構(JICA)

 

「例えば、メーカーは、自社製品の原料がどのように生産されているか、高い関心を持っています。持続可能な方法で生産されていることを確認したい、持続可能な方法で生産できるよう生産者を支援したい、と考えているメーカーは多い。一方で、カカオ生産国で児童労働といった生産者の問題の解決に長年取り組んでいて、そのようなメーカーのパートナーになれるNGOもいますし、フェアトレード製品の流通拡大に取り組んでいる認証機関もいます。企業のサプライチェーン上の人権問題のリスクや対応事例について発信し、企業やNGOに助言を行っているコンサルティング企業もいる状況です。皆さん、それぞれの立場から持続可能なカカオ産業の実現に取り組んでいるとともに、この“場”を利用して協働する可能性を探っています。現在、メーカー、NGO、コンサルティング企業などの会員有志で、カカオ産業における児童労働撤廃に貢献するために、関係者それぞれに期待される具体的な行動を取りまとめたガイダンス資料を作成しています。(山下氏)」

 

また山下氏は、今後のサステイナブル・カカオ・プラットフォームの展開について「現在はメーカーや商社が多いですが、ほかの分野にも会員が広がっていくと、活動の幅も広げられると思っています。より消費者に近い流通業界、大手の百貨店さんやスーパーマーケットチェーンなどを巻き込んでいきたいですね」とも話します。

 

多彩なプレーヤーの増加が児童労働の撤廃につながる

「児童労働の撤廃」「持続可能なカカオ産業の実現」と聞くと、ごく限られた企業のみが関係しているようにも思えます。ですが、このテーマを追求し、発展途上国の状況や、社会構造を変革させるような大きな動きにするためには、より多くの業種の参画が必要だと私は考えています。というのも、児童労働の撤廃のためには、将来にわたって大きな収益を生み続けていくことが不可欠だからです。

 

多様な関係者間での意見交換の場となっているサステイナブル・カカオプラットフォーム。写真提供:国際協力機構(JICA)

 

今回の実証実験では、児童労働をさせないことを条件に、事業者がプレミアム価格でカカオを買い取るという仕組みで農家の収益を向上させています。ですが、上乗せ分のコストは、さまざまな方法で確保できるのではないでしょうか。

 

例えば、ブロックチェーンの技術を用いて、フェアトレード製品であることが担保されているチョコレートを、メーカーはこれまでの120%の価格で販売するとします。いわば、フェアトレード製品であることをブランド化し、付加価値を作ることで、利益率を向上させるのです。メーカーから農家に利益を還元する仕組みを作れば、消費者がその商品を買えば買うほど、農家にマージンが入るようになります。

 

あるいは、他のサービスや製品を巻き込んでプロジェクト化し、フェアトレード製品を組み込むという考え方も適用できる可能性があります。例えばエンタメ産業なら、特定のアーティストの楽曲をダウンロード購入した消費者は、フェアトレード製品を無料で受け取ることができ、音楽出版社は、楽曲の販売利益の一部を、フェアトレード製品の製造に関わった農家に還元するといったお金の還流方法です。この方法なら、協力するアーティストのファン層という、それまでとはまったく別の層にもアプローチすることになり、フェアトレードや児童労働撤廃という社会ムーブメーントの意識拡大にも期待が持てます。

 

これらはあくまでも一例ですが、私がお伝えしたいのは、一見、関わりが薄いように思える企業でも、児童労働を撤廃させるための仕組み作りに参加できる可能性を持っているということです。そしてプレーヤーが増えれば増えるほど、発展途上国の農家にインセンティブを提供できる機会も増加し、持続可能なカカオ産業の醸成に大きく近づいていくのではないでしょうか。そんな近未来を感じさせてくれる、ブロックチェーン技術とカカオと児童労働撤廃の話題です。

 

幼稚園に通う子どもたち(ガーナ)。写真提供:国際協力機構(JICA)

 

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SDGsの「目標4:教育」に警鐘! 活路はアフリカへの「オンライン教育」の技術提供か

9月19日、米国・ニューヨークの国連本部で「トランスフォーミング・エデュケーション・サミット(TES)」が開催されます。このサミットは、「質の高い教育をみんなに」という目標を掲げる持続可能な開発目標(SDG)4の実現に向けて、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が国際社会の協力を強化するために構築した「グローバル・エデュケーション・コーポレーション・メカニズム」の一環。SDG4は2030年までに「教育への普遍的なアクセス」の実現を目指していますが、実はいま、この計画が危機的な状況に陥っているのです。

どうすれば世界は結束するのか?

 

TESに先行して、ユネスコは7月に『2022 SETTING COMMITMENTS』というレポートを発表しました。SDG4には、退学率やジェンダーギャップなど7つの指標があり、それぞれの目標が達成されるために、世界各国がどれだけ貢献するかを決めています。ユネスコは各国の取り組み状況を調べ、以前よりも多くの国がSDG4の実現に向けて取り組むことを約束した、と同レポートで述べています。しかし、前向きな材料はそれ以外にほとんどなかった模様。

 

現状は厳しいようです。同レポートの主な論点は、2030年までにSDG4を達成するのが難しいということ。たとえ各国の取り組みが順調に進んだとしても、未就学の児童や青少年の数は2030年までに約8400万人に上る見込みと言われています。また、同年までに初等教育(日本では小学校に当たる)を修了することができる子どもの数は世界中で3分の2以下とされる一方、ほぼ全ての子どもが中等教育(中学校と高校)を終えることができそうな国の割合は、6か国中わずか1つ。「普遍的なアクセス」と呼ぶには程遠い状況です。

 

これを受けて、国連は警鐘を鳴らし始めました。ECOSOC(国際連合経済社会理事会)のコレン・ヴィクセン・ケラピ議長は、途上国と先進国の間で教育格差が拡大しており、その中でもアフリカの教育環境が最も脆弱であると述べています。新型コロナウイルスのパンデミックがこの傾向に拍車をかけていることは明白ですが、「仮にいまアフリカ諸国がオンライン教育に舵を切っても、オンライン教育を行うための技術的な方法がない」とケラピ議長は指摘。持てる国が持たざる国と技術や方法を共有する必要があると論じています。

 

SDG4を達成するためには、先進国と途上国の結束が重要。これからも国連の機関は従来の指標を使って各国の取り組みを測定します。危機的な状況下にある国を支援するためには先進国の指導的役割が不可欠ですが、オンライン教育や回線接続環境などにおいては、民間企業を含めた国際協調体制の構築が強く求められるでしょう。

 

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ベトナムで挑戦するミズノのSDGs―― 子どもの肥満率40%の国に「ミズノヘキサスロン」と笑顔を

【掲載日】2022年7月5日

 

本記事は、2020年9月9日にGetNavi webで掲載された記事を再編集したものです

 

「なんてつまらなそうに体育をしているのだろう」。総合スポーツメーカーであるミズノ株式会社の一社員が6年前に抱いたこの違和感が、ベトナム社会主義共和国の教育訓練省とともに同社が進めている「対ベトナム社会主義共和国『初等義務教育・ミズノヘキサスロン運動プログラム導入普及促進事業』」のきっかけでした。

 

ベトナムでは子どもの肥満率が40%以上

同事業は、ミズノが開発した子ども向け運動遊びプログラム「ミズノヘキサスロン」を、ベトナムの初等義務教育に採用・導入する取り組みです。ミズノヘキサスロンとは、ミズノ独自に開発した安全性に配慮した用具を使用し、運動発達に必要な36の基本動作を楽しみながら身につけることのできる“運動遊びプログラム”のこと。スポーツを経験したことがなく、運動が苦手な子どもでも、楽しく遊び感覚で走る、跳ぶ、投げるなどの運動発達に必要な基本動作を身につけられます。日本国内向けに2012年1月から開始、これまで多くの小学校や幼稚園、スポーツ教室、スポーツイベントなどで導入され、運動量や運動強度の改善といった効果も示されています。

「ミズノヘキサスロン」のホームページ

 

そもそもベトナムでは、子どもの肥満率が社会課題となっていました。同社の法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当(2020年取材当時)の柴田智香さんによると、「ベトナムの義務教育は小学校が6歳から始まり5年間、中学校が4年間。授業は1コマ30分と短く、国語や算数に力が入れられていて、体育はあまり重きを置かれていない状態です。また体育といっても、日本のように球技や陸上があるわけではありません。校庭も狭く、体操レベルの授業しか行われていないそうです。子ども時代に運動をする習慣が少ないためか、生涯で運動する時間が先進国の10分の1ほど。WHOによると、ベトナムの子どもの肥満率は40%を超え、同国教育訓練省も社会課題として認識していました」ということです。

法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当(2020年取材当時) 柴田智香さん

 

ベトナム教育訓練省公認のもと約200校で活用

ベトナムの抱える課題を目の当たりにした担当者は、「ミズノヘキサスロンというプログラムなら、ビジネスとして成立し、校庭が狭くても効果を発揮できるのではないだろうか」と思いつき、2015年にベトナムに提案を開始しました。しかし話は簡単には進みませんでした。

 

「ベトナムの学習指導要領に関係するので、一企業のセールスマンが政府にプレゼンをしても相手にされません。ちょうどタイミングよく、文部科学省が日本型教育を海外に輸出するための『日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)』というプログラムを行っていたのですが、弊社もそのスキームに応募し、2016年に採択されたのです。日本政府のお墨付きをいただいての交渉とはいえ、ビジネスの進め方も慣習も異なるため、一進一退の攻防が繰り広げられたようです。そこでまず、約2年間かけて子どもたちの身体機能の変化に関するデータを収集しました。その結果、運動量は4倍、運動強度は1.2倍だったことを同国教育行政に報告しました。その後、在ベトナム・日本大使館やジェトロ(日本貿易振興機構)様などの協力を得ながら、2018年9月に、『ベトナム初等義務教育への導入と定着』に関する協力覚書締結に向けた式典が行われ(場所:ハノイ 教育訓練省)、翌10月に覚書締結に(場所:日本 首相官邸)まで至ったのです」(柴田さん)

 

ミズノヘキサスロン導入普及促進活動は、ベトナム全63省を対象に行われました。農村部など経済的に厳しい家庭の子どもたちなども分け隔てなく実施しています。また、小学校の教師を対象とした、指導員養成のためのワークショップには、現在までに約1700人の教師が参加。ワークショップに参加した教師が自身の担当する小学校で指導に当たり、多くの小学生がミズノヘキサスロンを活用した体育授業を受けています(2020年6月現在)。

ワークショップに参加した小学校の教師たち。ベトナムは女性教師が約70%を占めている

 

「ミズノヘキサスロン」で子どもたちに笑顔を

「本事業は、“誰ひとり取り残さない”というSDGsの理念に立っており、ベトナムの小学生全720万人全員が対象です。現在、ベトナムの学習指導要領附則ガイドラインにミズノヘキサスロンを採用いただき、教育訓練省公認のもと、モデル校に導入されていますが、学習指導要領の本格的な運用には時間がかかっています。しかしながら、ベトナムの関係各所からは『狭い場所でやるのにも適している』『安全に配慮しているし、いいプログラムだ』と評価いただいていますし、何よりも、子どもたち自身が楽しそうに体育の授業を受けていることが写真から伝わってきます。

楽しそうに体育の授業を受けるベトナムの子どもたち

 

子どもの時に運動をする習慣ができると、大人になってからも運動を続けると思います。ミズノヘキサスロンによって運動の楽しさを知り、習慣づけられることで、将来的にも健康を保てるのではないかという期待が持てます。また、弊社の用具を使ってもらうことで、今後、ミズノという会社に興味をもっていただけたり、子どもたちがプロサッカーやオリンピックの選手になるなど、そんな未来につなげられたら素敵ですね」(柴田さん)

エアロケットを使って「投動作」を学ぶプログラム

 

今後の展開について、「現時点ではベトナムに注力しているという状態ですが、例えば、ミャンマーやカンボジアなど、他のアジア諸国でもビジネスチャンスはあると思います。ですが、まずはベトナムで事業として成功しないことには、他の国にアプローチするのはやや難しいと感じています。逆にベトナムでモデルケースができれば、他の国にも売り込みやすくなるのではないでしょうか」と柴田さん。ベトナム初等義務教育への本格的な導入が待たれるところです。

 

さまざまな課題への重点的な取り組み

来年で創業115年の節目を迎える同社。今回の対ベトナム事業もそうですが、さまざまな取り組みのベースとなっているのが、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という経営理念です。その理念のもと、社会、経済、環境への影響について把握し、効果的な活動につなげるため、自社に関するサステナビリティ課題の整理をし、重要課題の特定を2015年度に行いました。

 

「CSR・サステナビリティ上の重要課題として“スポーツの振興”“CSR調達”“環境”“公正な事業慣行”“製品責任”“雇用・人材活用”という6つの柱を掲げています。そのなかでも“環境”については1991年から地球環境保全活動『Crew21プロジェクト』に取り組み、資源の有効活用や環境負荷低減に向けた活動を行っています。また、CSR調達に関しては、他社様から参考にしたいというお話をよくいただいております。

サプライヤー先でのCSR監査の様子

 

商品が安全・安心で高品質であることはもちろんですが、“良いモノづくり”を実現するために生産工程において、人権、労働、環境面などが国際的な基準からみて適切であることが重要と考え、CSR調達に取り組んでいます。そのため本社だけでなく、海外支店や子会社、ライセンス契約をしている販売代理店の調達先までを対象範囲とし、取引開始前は、『ミズノCSR調達規程』に基づき、人権、労働慣行、環境面から評価。取引後は3年に1度、現場を訪問し、調査項目と照らし合わせながらCSR監査を実施しています」(柴田さん)

 

また、総合スポーツメーカーらしい取り組みも多くあります。その1つが、「ミズノビクトリークリニック」です。これは、同社と契約をしている現役のトップアスリートや、かつて活躍をしたOB・OG選手による実技指導や講演会。全国各地で開催し、スポーツの楽しさを伝えると共に、地域スポーツの振興に貢献しています。

水泳の寺川綾さんを招き、熊本市で開催されたミズノビクトリークリニック

 

「2007年からスタートしたのですが、昨年度は全国で89回開催しました。“誰ひとり取り残さない”という部分では、気軽にスポーツをする場、楽しさを伝える場所に。選手の方たちにとっては、これまでの経験で得た技術や精神を子どもたちに伝える場になっています。技術や経験は選手にとっていわば財産。それを伝えることに使命感を持っている方も多く、有意義な活動となっています」(柴田さん)

 

スポーツによる社会イノベーションの創出

また、SDGsの理解と促進を深めるために、社員向けの啓発活動も実施。2019年度には3回勉強会が実施され、子会社を含め、のべ約7700人が受講したそうです。

 

「社員一人ひとりが取り組んでいくことは、企業価値の創造でもあると思います。SDGsを起点に物を考え、長期的、継続的かつ計画的に様々な課題に取り組んでいく。これからも引き続き、持続可能な社会の実現に貢献し、地球や子孫のことを思い、ミズノの強みを持って、新しいビジネスにも挑戦していきます。それにより企業価値やブランド価値の向上を目指していきたいと思います。CSRは責任や義務というイメージがありますが、SDGsは未来に向けて行動を変えるというか、アクションを起こすということ。2030年の未来に向けて、今まで弊社が行ってきたことにプラスして、全社員が一丸となって取り組んでいきます」(柴田さん)

 

さらに2022年度中に、スポーツの価値を活用した製品やサービスを開発するための新研究開発拠点が、大阪本社の敷地内に完成予定です。

新研究開発拠点のイメージ ※実際の建物とは異なることがあります

 

「スポーツ分野で培ってきた開発力と高い品質のモノづくりを実現する技術力。そんなミズノの強みを生かし、SDGsに貢献できるような新しい製品であったり、人であったり、どんどんつくっていけたらと思います。競技シーンだけでなく、日常生活における身体活動にも注力し、スポーツの力で社会課題を解決する社会イノベーション創出を目指します。新しい開発の拠点となる施設。SDGsの取り組みとともに、弊社にとって新しい幹になると考えています」(柴田さん)

 

創業者である水野利八さんは、「利益の利より道理の理」という言葉を残しました。スポーツの振興に力を尽くし、その結果としてスポーツの市場が育ち、それがめぐり巡って、事業収益につながるという考え方です。その想いは、創業から今に至るまで変わらず、ミズノグループの全社員に受け継がれているそうです。スポーツの持つ力を活かして世界全体の持続可能な社会の実現にさらに貢献していくに違いありません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

かなり画期的! インドのデジタル戦略「NDAP」公開の衝撃

【掲載日】2022年7月1日

近年、民間セクターでは、ビッグデータやAIによる分析に基づいて経営やマーケティングを行うデータドリブン企業が多数存在していますが、同じような傾向は途上国の政府でも見られます。インドでは最近、政府が大胆な情報公開戦略を実施。インド政府の透明性と業務の効率化が高まると同時に、同国への進出を検討している企業の意思決定にも良い効果を与えそうです。

インドのパブリックデータを調査せよ(画像提供/NDAP公式サイト)

 

2022年5月、インドの政府系シンクタンク「NITI Aayog」は、政府所有のデータを閲覧し分析することができるプラットフォーム「National Data and Analytics Platform(NDAP)」を公開しました。統計学の回帰分析やデータマイニング、AIが組み込まれているNDAPは、農業やエネルギー、資源、財政、ヘルスケア、交通などの幅広い分野の基礎的なオープンデータを提供。それらは相互運用ができるため、ユーザーは異なる分野を横断的に分析することができます。

 

NDAPの導入によって、インドのデータエコシステムが強化され、データドリブンの意思決定がさらに促進される見込み。例えば、NDAPには治安を保つ機能があります。インドでは警察関連機関がデータ管理能力の向上に取り組んでおり、2022年3月には、インド工科大学カンプール校のベンチャー企業が警察活動を支援するために、高度なAIが搭載された検索エンジンを開発していると報じられました。これにより犯罪捜査はもちろん、監視や犯罪マッピング、分析などにおいて、警察のリソース配分が改善されると見られていますが、政府や警察などの執行機関はさまざまな形で犯罪関連のデータを利用することができ、NDAPでは、それらが金融関連データなどと紐づけられているようです。

 

他国と同様に、インドは政府のデジタル化に取り組んできました。2015年にナレンドラ・モディ首相が公共サービスの電子化を進めるキャンペーン「Digital India」を開始。それ以降さまざまな取り組みが行われ、2021年にNDAPのベータ版が一部のユーザーだけを対象に試験的に導入されました。NDAPの一般公開について、情報通信技術に関するプラットフォームを運営するOpenGov Asiaは「かなり画期的な出来事だ」と述べています。

 

このようなインド政府のデジタル化は、民間企業や海外からの進出企業にとっても有益でしょう。インド進出を目指している日本企業は、自社が所有するデータと政府の公開データを掛け合わせていくことで、より実現可能性の高い戦略やビジネスモデルを構築することができます。NDAPで公開されている情報が、勝敗を分けるかもしれません。

 

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世界初の「3Dプリンター学校」、アフリカの教育を変える驚きの手法

【掲載日】2022年6月13日

アフリカの南東部に位置するマラウイでは現在、学校と教員が不足しています。ユニセフ(国際連合児童基金)によれば、同国では約3万6000の教室が必要であるうえ、教員1人当たりの生徒数は99人であるとのこと。この状況は生徒の習熟度に大きく影響します。そこで、マラウイは学校不足を解消するために、意外な手法を用いました。

マラウイで開校した世界初の3Dプリンター学校(画像提供/14Trees)

 

2021年6月、3Dプリンターを使って建設した学校が世界で初めてマラウイで開校しました。この学校を建設したのは、スイスの建築資材企業ホルシムと英国政府系の開発金融機関ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメントの共同事業である14Trees。建設に要した時間はわずか18時間で、この学校は70人の生徒を収容することができます。マラウイの多くの児童は、自宅から数キロ以上離れた、かなり遠い学校に通学することを余儀なくされており、この学校はアクセスの改善においても強く期待されています。

 

また、従来の工法では約3万6000の学校を建設するために約70年を要するとユニセフは試算していますが、14Treesは3Dプリンター工法を活用することで、それを約10年に短縮することができると推計しています。

 

3Dプリンター工法は建設時間に加えて、コストと環境負荷の軽減にも有効。従来工法と比較すると建設コストは約25%減、二酸化炭素排出に関しては約86%も軽減することが判明しています。その反面、課題も存在しており、現在の建設用大型3Dプリンターのコストは約10万ドル(約1330万円※)以上と高価なもので初期の資金調達をクリアすることが必要です。投資家や寄付者を募る国々も多いとは思いますが、将来性の観点からすると非常に高い興味を持たれる事業であると想定できます。

※1ドル=約133円で換算(2022年6月8日現在)

 

3Dプリンターを使った学校建設プロジェクトは、マラウイ以外にもケニアや南アフリカ、マダガスカルなどで進行中。アフリカは爆発的な人口増加の渦中におり、子どもの数は増える一方ですが、多くのアフリカ諸国がマラウイと同様の問題を抱えています。また、今後アフリカ全土に広まる可能性を持つ本事業は、ほかの大陸の新興国にも注目されています。教員不足は別の問題ですが、学校が増えることはアフリカの教育にとって重要な進展となるでしょう。

 

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日本式に大きな期待!途上国へ拡大する「STEAM教育」

【掲載日】2022年4月27日

最近、STEM/STEAM教育が途上国で盛り上がりを見せています。それぞれの国の問題を解決したり、現代の産業や経済のグローバル化などに対応したりするために、途上国が国家レベルで、この教育モデルの構築に取り組むケースが見られるようになってきました。

日本式STEAM教育を世界へ

 

2022年3月、ナイジェリアでSTEAMを専門とする高等教育機関(ポリテクニック)をリバーズ州トンビアに設立する法案が可決しました。同校はソフトウェア工学や人口知能分野、さらに困難なビジネス状況に陥った場合においても創造的な解決手法を見つけ、世界に羽ばたく人材を育成することを目指していくための先駆的な機関です。

 

また、ジャマイカもSTEAM教育を国家で推進しており、4月1日の同国西インド諸島大学におけるSTEMキャリアフォーラムにおいては、初等教育段階からSTEM学習を推進しプロジェクトベースで問題解決型の能力評価を重視していく旨が大臣から発表されました。

 

そもそもSTEM/STEAM教育とは、Science(科学)Technology(技術)Engineering(工学)Arts(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字を並べたもので、国によって定義は異なりますが、「問題解決的な学習」をコンセプトにしています。当初は「科学(S)・技術(T)・工学(E)・数学(M)」という4つの学問分野を統合的に学ぶためのモデルでしたが、その後「A(芸術)」を加えたモデルへと発展。日本の文部科学省は「芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進することが重要」と述べています。

 

芸術が加えられたように、数学や科学をベースにしながら「創造力」や「感性」を重視する教育は、評価方法はもちろん、実際にそれらの分野を包括的に指導する側にも、既存の教育システムや価値観に捉われずに、新たな基準を作り出していくことが求められます。また、学習したことをビジネスに昇華させる過程では、さらに高度なレベルが求められるため、教育機関だけでなく産業界をも巻き込んだ国家的な取り組みになっていると言えます。

 

時代に適した感性や一見何事にも活用が難しいと思われる技術を掘り出して、ビジネス——つまり「商品」——としてマネタイズできる先進的なプロデューサーやプロジェクトマネージャーもSTEAM教育の先に求められてきます。

 

STEAM教育において日本は世界各国での評価が高く、資源の多くを輸入に頼っている島国を世界的に飛躍させた高品質な工業製品を生み出す原動力の1つであったと言えるでしょう。すでに掃除や日直、学級会といった特別活動を中心とする「日本式教育」は海外に輸出されていますが、これからは「日本式STEAM教育」の確立と途上国への伝達もより大切になりそうです。

 

【参考】

文部科学省『STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について:文部科学省初等中等教育局教育課程課』2022年4月25日閲覧)https://www.mext.go.jp/content/20210714-mxt_new-cs01-000016477_003.pdf

 

杉山雅俊・江草遼平・手塚千尋・辻 宏子(2021)『日本型STEM/STEAM教育の構築に向けた学習指導要領解説の比較分析』日本科学教育学会研究会研究報告、36 巻 2 号 p. 177-180 https://doi.org/10.14935/jsser.36.2_177

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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【文房具総選挙2022】PCやタブレットと併用できるアイテムも! キッズの学習がはかどる文房具15点がノミネート

仕事や勉強、作業の効率をアップさせる高機能をもつ“はかどり文房具”の年間ナンバーワンを投票によって決定する、「文房具総選挙2022」がスタートしました。ここでは【トレンド部門】「キッズの学習がはかどる文房具」部門にノミネートされた15商品を紹介していきます。

 

【ノミネート商品をまずは写真でチェック!】

<投票は4/24 23:59まで! 結果は5/24に発表>

 

【「キッズの学習がはかどる文房具」部門】

子ども向けの学習情報ポータルサイト「学研キッズネット」とコラボした本部門。新しい教育方針を反映し、PCやタブレットと併用できる文房具も登場し始めています。

 

No.73

サクラクレパス
アーチ消しゴム小学生学習用
110円

“ゴリラ筆圧でもよく消える!”とSNSで話題の「アーチ消しゴム」のキッズ向け。2B鉛筆もラクに消せる消字性能で、通常より厚みがあるため小さな手でも握りやすく、より消しやすくなった。

 

No.74

ナカバヤシ
学習タッチペン
1298円

指を固定しやすく転がりにくい、六角形の鉛筆型のスタイラスペン。子どもが握ったときにバランスを取りやすいよう、長さは一般的なスタイラスペンよりも短い98㎜に設計されている。

 

No.75

コクヨ
キャンパス クリップボードにもなる
プリントファイル
605円

不安定な場所でも下敷きなしで書き込める、クリップボード機能を持ったファイル。表紙を360度折り返せて、省スペースで使える。ポケット2つとクリップで、最大60枚のプリントを収納可能。

 

No.76

コクヨ
キャンパス ノートのための修正テープ
242円(長さ6m)、297円(長さ10m)

「キャンパスノート」の紙の色とテープの色、罫線幅とテープの幅を合わせていて、修正部分が目立たない。先端の金属プレートがテープをきれいにカットし、紙への定着性を高めている。

 

No.77

コクヨ
キャンパスノート(ハーフサイズ)
143円

セミB5ノートを半分にしたサイズで、省スペースで使える「キャンパスノート」。ノートがきれいに書ける「ドット入り罫線」と、漢字などが書きやすい小学生用の「方眼罫線」の2種展開だ。

 

No.78

コクヨ
キャンパス バンドでまとまる単語カード
176円

リング部分をシリコン素材のバンドにすることで、“持ち運び時に広がる”という単語カードの弱点を克服。従来の単語カード同様に、バンドを取り外して中身を入れ替えることもできる。

 

No.79

ショウワノート
ジャポニカ学習帳 宇宙編
209円(B5サイズ)、286円(A4サイズ)

表紙写真の解説や読み物付録が付いたロングセラー学習帳の、JAXA監修協力商品。「天の川の正体」や「ロケット打ち上げの仕組み」など、宇宙の謎に迫る知識が詰まった全18種展開。

 

No.80

レイメイ藤井
先生おすすめ 魔法のザラザラ下じき
660円(クリアー)、825円(ブルー、バイオレット)

鉛筆を思った通りに動かす力「運筆力」の向上を期待できる、作業療法士監修の下敷き。表面に施された細かなドット加工が、イメージした通りのきれいな文字を書くのを手伝う。

 

No.81

ミラガク
タツール筆入
2530円

タブレットを立てられるスタンド付きの筆箱。細めから太めの鉛筆が入る鉛筆ホルダーと、スタイラスペンや名前ペン、定規類が入る収納部、消しゴム用のスペースがあり、抜群の収納力だ。

 

No.82

STAD
はじめてのコンパス
418円

円を描くときだけ針が出る、安全設計のコンパス。ヘッド部分は人間工学に基づいた設計で、軸がブレず回しやすい。ホルダーは、スライドするだけで鉛筆を固定する。一体型のため紛失しにくい。

 

No.83

シード
プシュケシホルダー/プシュケシ用消しゴム
110円(ホルダー)、88円(消しゴム)

ホルダーをプシュプシュ押すと、バネの力で消しゴムが出てくるユニークな仕掛けが特徴。ホルダーは3色、消しゴムは6色展開で、組み合わせは18通り。自分好みに組み合わせられる。

 

No.84

ほぼ日
ほぼ日ノオト
297円

デザイン心理学に基づいて作られた、いままでにない罫線のノート。隙間があるのに線がつながっているように見えるデザインで、視覚的ストレスが少なく、文字や図をスムーズに書きやすい。

 

No.85

HiLiNE
マ磁ケシ/マ磁ケシ替え消しゴム
550円(マ磁ケシ)、165円(マ磁ケシ替え消しゴム)

消しクズを磁石で集められるよう、フェライト(鉄粉)を練り込んだ消しゴム。本体のキャップを外すと磁力がオンになり消しクズを回収、はめるとオフになってキャップ内に消しクズが落ちる。

 

No.86

ソニック
メモポケット ランドセル用
1320円

ゴムバンド付きのメモ用ポケット。連絡メモを入れてランドセルのかぶせ部分に装着すると、開閉時に視界に入り、うっかりミスや忘れ物を防げる。紛失しがちな小物を入れられるのも便利。

 

No.87

ソニック
リビガク ハコボート
磁石付トレイでかんたん整理
1485円

勉強セットや工作道具などをまとめるのに活躍。筆記具を入れるのにちょうど良い浅めのトレイ付きで、マグネットで取り外しできる。入れるモノの名前が書ける「場所決めシール」付き。

 

※価格はすべて税込で表示しています。

トレンドと機能で分類した8部門・100商品!

2013年に始まった「文房具総選挙」は今回で記念すべき10回目。ノミネートされた文房具のラインナップに、その年の世相が見える!? 2021年度のはかどり文房具をフィーチャーした「文房具総選挙2022」は最新の傾向を反映した「トレンド部門」3部門と、機能によって分類した5部門の、合計8部門。部門によってボリュームの差があるものの、およそ10数商品ずつが選出され、合計100もの商品がノミネートされました。

 

【トレンド部門】
在宅・ハイブリッドワークがはかどる文房具&環境整備アイテム 部門

在宅ワーク用ツールは、2021年度も引き続きホットなジャンル。今年は机上だけでなく、仕事環境を整備するインテリア寄りのアイテムまで選出しました。 15商品がノミネート。
https://getnavi.jp/stationery/716263/

 

【トレンド部門】
キッズの学習がはかどる文房具 部門

子ども向けの学習情報ポータルサイト「学研キッズネット」とコラボした本部門。新しい教育方針を反映し、PCやタブレットと併用できる文房具も登場し始めています。15商品がノミネート。
https://getnavi.jp/stationery/717396/

 

【トレンド部門】
SDGs文房具 部門

文房具の分野でも、脱プラや森林保全、ペーパーレスなどに貢献できる、SDGsに配慮したアイテムが続々と登場。左利きでも使えるといった多様性にも配慮するなど、企業努力が光るアイテムたちに光を当てました。13商品がノミネート。
https://getnavi.jp/stationery/717444/

 

【機能部門】
書く 部門

「サラサ」や「ジェットストリーム」、「ボールサイン」など、人気シリーズの新モデルが多数登場。ノミネート商品が最多の16点という、激戦部門でもあります。16商品がノミネート。
https://getnavi.jp/stationery/717119/

 

【機能部門】
記録する 部門

最新のクリップボードや狭いデスクでも広げやすいノート、メモ帳を中心に選出。ルーズリーフの利便性を高めるアイテムにも注目です。11商品がノミネート。
https://getnavi.jp/stationery/717178/

 

【機能部門】
収納する 部門

例年はペンケースのノミネートが目立つ部門ですが、今年はドキュメントファイルが豊富に揃いました。小物を一緒に持ち運べる書類ファイルにも注目です。12商品がノミネート。
https://getnavi.jp/stationery/717298/

 

【機能部門】
切る・貼る・綴じる 部門

開梱用カッターや瞬間接着剤など、ホームセンターに並ぶタフな文房具が多数登場。一方で、持ち運びやすいコンパクトな文房具も選出されています。10商品がノミネート。https://getnavi.jp/stationery/717325/

 

【機能部門】
印をつける・捺す 部門

ハンコ関連商品に名品が多数登場し、部門名を「分類する・印をつける」から「印をつける・捺す」に刷新。もちろん、付箋やタグにも良品が揃っています。
https://getnavi.jp/stationery/717346/

 

<投票は4/24 23:59まで! 結果は5/24に発表>

https://forms.gle/8fX4AHXHcWbvg7h66

答えは「OMO学習」にあり! コロナ時代に求められる教育方法とは?

【掲載日】2022年3月16日

経済援助や技術供与など、新興国が先進国に求める支援は多岐にわたりますが、国家繁栄の礎となるのは教育の充実にほかなりません。しかし、そこには教育環境の未整備や家父長制による女児教育機会の損失など、自力では超え難い壁が存在します。しかも、コロナ禍ではドロップアウトのリスクが増加したり、教育格差が拡大したりするなど、子供たちの学びが危ぶまれており、解決策が求められています。

フィリピンでは地域によってオンライン授業を受けることができない子供たちがいるため、オフライン教育は重要だ

 

2022年2月のロイター通信の報道によると、フィリピンの初等教育では約2700万人の子供たちが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学級閉鎖によって、約2年間もきちんとした教育を受けることができていないとのこと。そんな中、同国のケソン州タグカワヤンでは、貧困と通信インフラの不足から、教師がトロッコを活用して各地を巡る移動式教室をボランティアで行っています。

 

昨今の日本でもGIGAスクール構想によるICT教育環境の充実など、官民挙げての教育改革に取り組んでいますが、新興国においては、通信インフラの未整備地域が多いことやデジタル・デバイドによってオンライン教育を受けられない家庭が多く、先進国の政策や論理をそのまま移行できない問題に直面。そこで、前述したフィリピンのように、オフライン教育が再評価されているのです。

 

日本のラジオ講座のように

例えば、2020年11月中旬から2021年7月中旬までの期間にネパールで実施された「ラジオ学校プロジェクト」は、デジタル・デバイド格差を解消するためのラジオ番組の活用や、休校中の児童、特にジェンダー問題を抱える同国女児に向けた教育コンテンツの充実化など、インフラ面およびコンテンツ面においても現地に合わせた内容で展開されました。ネパールといった途上国では、先進国と異なる意識で教育に関する課題に取り組む必要があることを、この事例は示しています。

 

つまり、日本のみならず世界各国で現在求められているのは、オンライン教育とオフライン教育の融合「OMO (Online Merges with Offline)」。途上国の教育を支援するためには、現地の条件を第一に考慮することが必須でしょう。解決策はオンラインだけにあるわけではありません。

 

「NEXT BUISINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUISINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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チームと選手の個性が光る!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021」をコロナ禍でも開催し続ける意味

1月3日から6日にかけ、「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021」が開催されました。大阪を舞台とした今大会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、その大会の目玉というべき、バルセロナをはじめとする海外強豪チームの招聘は叶わず、2大会連続で参加は国内チームのみ。ところがそこで繰り広げられた光景は、いくつもの意義と時代性を感じさせるものでした。

 

昨年以上に届いた「サッカーがしたい」という声

「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」は、初開催の2013年大会から、FCバルセロナのジュニアチームを筆頭にACミラン、リパプール、バイエルン・ミュンヘン、アーセナルなど世界のトップクラスのチームを招くことで注目を集めてきた大会です。第1回大会では、現日本代表の久保建英(たけふさ)選手がバルセロナチームの一員として参加し優勝を成し遂げました。以来、国内チームは「打倒・バルセロナ」を目標に掲げ、大会に臨んできました。

 

世界トップクラスの子どもたちと対戦することで、サッカーレベルの底上げを図りたい――。大会目的を実現するために、U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021実行委員長の浜田満さんは最後まで海外チームの招聘に動いたと言います。

 

「“元の形に戻したい”という思いでオーガナイズしてきました。本来は2021年の夏の開催を予定していましたが、海外チームの招聘を最後まで模索していたので、年明けまでスケジュールがずれ込んでしまったのです」

 

新型コロナウイルスの感染拡大によって、国内外でサッカーをする環境が制限される動きがあります。ジュニア世代においても、いくつかの公式大会が中止を余儀なくされています。ところが、大会責任者である浜田さんには、はなから「中止」という選択肢がありませんでした。

 

「昨年以上に、今年度は出場したチームの選手やコーチから『ぜひ開催してほしい』という声をたくさんいただきました。ああ、みんなサッカーがやりたいんだなって。コロナに負けたくないんだって。去年開催して感じたことでもありますが、コロナ禍だからこそ、リアルな声や強い思いを感じることができました。実際、大会にエントリーしていただいたチームは過去最大の数に達しています」

 

大会名である“ワールドチャレンジ“こそ今年も実現できなかったものの、選手やコーチたちの「絶対にサッカーを止めない」という強い思いが後押しとなり、こうして無事に大会開催にいたったのです。

 

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コロナ禍に実現した理由

 

大人顔負け、“個性”のぶつかり合い! 大会は「センアーノ神戸ジュニア」の初優勝で幕を閉じた

センアーノ神戸ジュニアは決勝戦で自慢の攻撃が爆発! FCトリプレッタ渋谷ジュニアの強烈なハイプレスをかわして見事初優勝を飾りました。

 

こうして1月3日から始まった「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021」。最終学年の選手にとっては、ジュニア世代の最後の大会になります。32にのぼった参加チームの大会にかける思いは強く、初日から白熱した熱戦を繰り広げました。

 

グループステージと準々決勝までは「OFA万博フットボールセンター」、最終日となる1月6日の準決勝以降は「パナソニックスタジアム吹田」で行われました。パナソニックスタジアム吹田はガンバ大阪のホームスタジアムとして知られていますが、サッカーの本場・イングランドやドイツなどのスタジアムと同じく、国内で数少ないサッカー専用スタジアムです。ピッチからスタンドとの距離はわずか7m! Jリーグでプレーするプロのサッカー選手たちも絶賛しています。

 

ガンバ大阪のホームスタジアムでもある。パナソニックスタジアム吹田。

 

そんな世界レベルのスタジアムでプレーできる権利を得たのは、「YF NARATESORO」「センアーノ神戸ジュニア」「ディアブロッサ高田FC U-12 」「FCトリプレッタ渋谷ジュニア」。準決勝に勝ち残ったこの4チームはいずれも街クラブですが、優勝候補のガンバ大阪ジュニア、湘南ベルマーレアカデミー選抜などのJリーグ下部組織チームを倒してきたことになります。その強さもさることながら、特筆すべきはそれぞれに、オリジナリティに溢れたチームスタイルを持っていること。

 

決勝に勝ち上がったセンアーノ神戸ジュニアとFCトリプレッタ渋谷ジュニアの戦いは、まさに「個性」と「個性」のぶつかり合いとなりました。元日本代表の香川真司選手の出身チームであるセンアーノ神戸ジュニアは、香川選手さながらの卓越したテクニックを持った選手が多くそろい、「ボールを大事する」サッカーを展開します。いわゆるポゼッションサッカーが持ち味のセンアーノ神戸ジュニアに対して、FCトリプレッタ渋谷ジュニアは、前線から積極的にディフェンスをして相手にプレッシャーをかけていく、リアクションサッカーで対抗していきました。

 

そんな大人顔負けの駆け引きが随所に展開されたのち、相反するスタイルとの戦いは、センアーノ神戸ジュニアが6ゴールを奪って勝利。“ワーチャレ”初優勝を飾りました。結果はセンアーノ神戸ジュニアの勝利に終わりましたが、ジュニア世代にして、チームとして確固たるスタイルを身につけ、選手たちがそれぞれの個性を存分に発揮していたことに驚きを隠せません。そんな彼らの姿を見て、あらためて日本サッカーのレベルの高さをうかがい知ることができました。

 

後半8分、センアーノ神戸ジュニアの久保祐貴選手(左から2人目)がカウンターから得意のドリブルを開始。左サイドを突破してこの試合自身2点目となるゴールをゲット!

 

大会通じてセンアーノ神戸ジュニアの攻撃を牽引した片山祥汰選手。準決勝で1ゴール、決勝戦で2ゴールを奪うなど、まさにエースに相応しい活躍ぶりでした。

 

ラスト1プレーの場面では、GK谷口剛丸選手がセットプレーのキッカー役に。FCトリプレッタ渋谷ジュニアの選手たちは最後まで勝利への執念を見せました。

 

決勝でもっとも個性を発揮した選手の一人が、センアーノ神戸ジュニアの久保祐貴選手です。チームでもっとも小柄な選手ですが、憧れだというディエゴ・マラドーナのように、小さな体を活かした軽やかなステップとドリブルで相手マークをかわしては2ゴールを決め、大会MVPに選ばれています。2022年春には、かつて香川真司選手がプレーしたセレッソ大阪のJr.ユース入団が決定しています。“第二の香川真司選手”となることを願ってやみません。

 

大会MVPを獲得したセンアーノ神戸ジュニアの片山祥汰選手。大会を通じて攻撃陣をリードし、決勝では2ゴールを奪って初優勝に貢献!

 

ただひとりの女子選手が躍動! 奈良県勢対決はYF NARATESOROに軍配が

長い髪をなびかせながら巧みなステップで敵をかわすYF NARATESOROの大田ありさ選手。「イニエスタのような選手になりたい」と、次なるステージでの活躍を誓っていました。

 

決勝戦に先がけて行われたYF NARATESOROとディアブロッサ高田FC U-12の3位決定戦では、一人異彩を放つプレーヤーがピッチ上で躍動していました。奈良県勢対決となったこの試合を制したYF NARATESOROの司令塔としてプレーした、大田ありさ選手です。チーム唯一の女子プレーヤーで、男子プレーヤー相手にも臆する様子は皆無。むしろ、そのテクニックとパスセンスは、この試合でもっとも輝いていました。そのプレーススタイルは、かつてなでしこジャパンを女子ワールドカップ優勝に導いた、日本女子サッカー界のレジェンド・澤穂希さんを彷彿とさせます。

 

大田ありさ選手をチームの中心に起用している理由について、YF NARATESOROの杉野航監督は、「指導者としてフラットに判断しての結果です。男子だから女子だからで判断しません。一人の選手としてシンプル、そのポジションが彼女に合っているからです」と教えてくれました。

 

ジェンダーによって活躍の場を奪うことは、何の価値ももたらしません。それはスポーツの世界も同様。「チームのなかで、彼女が一番ボランチの適正に優れているから起用している」と当たり前のように話してくれた杉野監督のフラットな姿勢に感銘を受けながら、その期待にしっかり応えて堂々とプレーする大田ありさ選手の姿が、実に頼もしく感じました。世の中は多様化が進んでいます。時代を象徴する、まさに社会の縮図のようなチームといえるでしょう。また、男女混合でのプレーを見るチャンスがあるのもU-12の醍醐味といえます。

 

試合後、大田ありさ選手は「全少(全日本U-12サッカー選手権)で目標に掲げていたベスト4入りを、この大会で成し遂げることができてよかった」と、笑顔を見せていました。ちなみに、卒業後は、澤穂希さんが所属していたINAC神戸のJr.ユースに入団予定です。

 

大田ありさ選手。

 

敗れたディアブロッサ高田FC U-12の乾良祐監督は「自由に攻撃をするために、技術と発想力を持ってボールを大事にしたサッカーをしよう」と、つねに選手たちを指導しているそう。エースの永添功樹選手をはじめ、自由な発想力とダイナミックな攻撃で、最後までYF NARATESOROを苦しめました。エースの永添功樹選手がセレッソ大阪Jr.ユースに進む予定です。

 

選手の個性はイコール指導力。ベスト4に進んだチームが個性に溢れていたのは、言い換えれば、指導者の努力の賜物でもあります。ワーチャレを機に、これからも未来の日本代表がどんどん生まれることでしょう。

 

ディアブロッサ高田FC U-12の反撃に、ゴールキーパーが飛び出して必死に食い止める。3位決定戦は最後まで勝利がどちらに転ぶわからない好ゲームとなりました。

 

優勝はセンアーノ神戸ジュニア(兵庫)、準優勝はFCトリプレッタ渋谷ジュニア(東京)、3位はYF NARATESORO(奈良)、4位はディアブロッサ高田FC U-12 YF NARATESORO(奈良)。いずれも個性あふれるスタイルを持った好チームでした。

 

普段戦えないチームと対戦することで成長していく

「フィジカル vs テクニック」という構図となった決勝戦は、両チームの選手たちにとって大きな経験となったことでしょう。

 

センアーノ神戸ジュニアの初優勝で幕を閉じたU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2021。大会実行委員長の浜田満さんはコロナ禍での大会を無事に終えることができて、まずは安堵の表情を浮かべながら、「今大会を通して選手たちの成長を実感しました」と言います。

 

「普段戦うことのできないチームと“本気”の試合ができたのは、選手たちにとってよかったのではないでしょうか。大会のレベルは正直、海外チームが参加しているときより低いかもしれませんが、それによって大会の価値が決して失われるわけではありません」

 

浜田さんの言葉どおり、実際、普段戦うことのできないチームと試合をして“新たな刺激があった”とコーチや選手たちは口をそろえます。

 

「ベスト4には関西のチームが多く勝ち進みました。彼らはとてもテクニックがあるチームです。普段、我々のようにフィジカルを前面に出して戦うチームと対戦したことはあまりないでしょう。準優勝に終わりましたが、選手たちにとっても大きな経験になりました」(FCトリプレッタ渋谷ジュニア代表・米原隆幸さん)

 

また、「とてもいい経験をさせてもらいました」と決勝戦を振り返ったのは、優勝したセンアーノ神戸ジュニアU-12の大木宏之監督です。大木監督はFCトリプレッタ渋谷ジュニアの準決勝の試合を見て、チームの戦術を変更したそうです。「無理にボールを回さないで、人と人との間でボールをもらって敵のプレッシャーをかわせたのが勝利につながりました」と勝因を語っています。

 

大会MVPを獲得したセンアーノ神戸ジュニアの片山祥汰選手は「大会を通して、いろんな個性のあるチームと戦えてチームとしても成長できましたし、個人的にも成長できました」と話し、YF NARATESOROの大田ありさ選手は「得点も取れるボランチになりたいと思っていて、コーチからもずっと得点のことは言われていました。ようやく今大会でゴールを決めることができて、選手として成長できたのがよかったです」と笑顔で語ってくれました。

 

準優勝のFCトリプレッタ渋谷ジュニア。テクニックを重視する関西勢に対し、フィジカルを前面に押し出すサッカーで対抗しました。

 

みんなが楽しみにしている限り、ワーチャレは続く

メインスポンサーの大和ハウスグループのもと、2013年からスタートした「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」もすでに9回目。プロとして活躍する選手たちも輩出する大会に育っています。

 

U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジは、普段戦うことのできないチームと“本気”の試合ができる舞台です。サッカー少年・少女にとってとても貴重な体験ができます。今大会はコロナ禍の影響によって2年連続で国内チームのみの大会となりました。その後の変異株による“第6波”襲来の状況を考えると、もう少し時期が遅れていたら開催できなかったかもしれません。大会実行委員長の浜田満さんは、「これからもワールドチャレンジは続けます」と言い切ります。

 

「子どもたちが成長できる場所をなくしたくない。コロナで大変な時期が続いていますが、みんな楽しみにしています。だから、これからも絶対にサッカーを止めません。次こそは海外のチームを呼んで、華やかな大会にしたいと思います!」

 

次回の2022年大会では、再び世界の子どもたちと“本気”の試合ができることを願うばかりです。

 

「ワールドチャレンジは今度も続きます。今年の夏は海外のチームを呼んで華やかな大会にしていきたい」と抱負を語る大会実行委員長の浜田満さん。

 

大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

1987年から始まった「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」(以下、BWSC。創設当初の名称は「ワールド・ソーラー・チャレンジ」)。オーストラリア北部のダーウィンを出発し、アデレードまでを結ぶ総移動距離3020キロメートルの砂漠地帯を南下。日の出から日暮れまでを太陽の力だけで、5日間走り抜けます。

 

この過酷な舞台で、過去に総合優勝2回、準優勝2回、3位1回と学生ながら世界の強豪チームを凌ぐ好成績をおさめてきた東海大学。その強さの秘訣とは? そもそもなぜ学生が世界的なレースに参加することになったのか? 1996年から東海大学のソーラーカープロジェクトを指導している木村英樹教授に、モータージャーナリストの御堀直嗣さんがインタビューしました。

 

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ソーラーカーレースは、メーカー競争からアカデミックな大会へ

手作りで完成した第1号車「Tokai 50TP」。安定性を重視した結果、2人乗り4輪の構造となった

 

御堀直嗣さん(以下、御堀):東海大学でソーラーカーに取り組もうと思われたのは、なぜだったのですか?

 

木村英樹先生(以下、木村):プロジェクトがスタートしたのは1991年だったのですが、翌年に東海大学創立50周年を迎えるというタイミングでした。海外で電気自動車への注目が集まり始めた時期だったため、松前義昭初代監督は電気自動車とは異なったアプローチを……と模索する中で、ソーラーカーに行きあたったのです。ここから研究がスタートしました。

 

御堀:その頃は、世界的にも地球温暖化への関心が一気に高まった時期でしたね。「ワールド・ソーラー・チャレンジ」(当時)に参加されたのはいつからでしょうか? 1987年から大会が始まり、GM(ゼネラルモーターズ)の「Sunraycer(サンレイサー)」が優勝したと記憶しています。

 

木村:はい、初代チャンピオンはGMですね。東海大学は1993年から参加していますが、当時はまだGMやホンダといった世界的な大手自動車メーカーも参加していました。ただ、アメリカのミシガン大学やスタンフォード大学、EU圏からも多くの大学が参加していたため、自動車メーカーの大会というより、アカデミックな分野としても注目されていたと思います。

「ワールド・ソーラー・チャレンジ」は今世紀に入ってからは2年に一度、奇数年に開催されているのですが、東海大学はプロジェクト発足以降、2009年と2011年に優勝、連覇を果たしています。次の2013年大会は準優勝でした。

 

1993年大会のホンダのマシン

 

こちらは、同年に初参戦した際の東海大学のマシン

 

初優勝を飾った2009年のマシンには、シャープのソーラーパネルを搭載。大会新記録を叩き出した

 

パナソニックのソーラーパネルを搭載した2011年のマシン。2位に1時間5分の大差をつけて優勝したのち、翌年の南アフリカ大会では3連覇を達成している

 

準優勝を獲得した2019年モデル。2021年現在も同マシンを使用しているが、外装には8月よりスポンサーに加わった大和リビングのロゴが追加に

 

御堀:直近で開催された2019年大会でも準優勝でしたね。

 

木村:はい。優勝したベルギーのルーベン大学とは、わずか12分差とあと一歩のところでした。

 

学生たちが主体となって進める“学生によるプロジェクト”に

2021年に秋田で開催された大会「ワールド・グリーン・チャレンジ」で、マシンを整備する学生たち

 

御堀:素晴らしい成績を残していますね。

 

木村:我々教授陣はアドバイザーとして関わっていますが、企業のエンジニアからも直接指導をいただき、さまざまなサポートを受けています。そのような環境の中で学生自ら役割を考え、チームを編成しているんですよ。

 

御堀:学生主体なんですか。東海大学のソーラーカーチームは、どのような役割分担で活動しているのでしょうか?

 

木村:壮大なプロジェクト活動の中で学ぶことを掲げた「東海大学チャレンジプロジェクト」の一つである「ライトパワープロジェクト」として、現在約60名の大学生・大学院生が活動しています。大きく分けると、戦略を考えるストラテジーチーム、運営や広報を行うマネジメントチーム、機械部分を担うメカニクスチーム、モーターやバッテリー・発電管理を行う電気チームに分かれています。しかし、機械学科だからメカニクスというように担当する分野を決めつけていませんので、SNSの運営などの広報活動も学生たちに任せています。縦割りの組織ではなく、学生も教授も学年の垣根も超えた、フラットな活動ができていますね。

 

御堀:ソーラーカーの研究を始めた1991年から、学生主体の取り組みだったのでしょうか?

 

木村:最初は大学としての研究プロジェクトとして発足し、その後、理工系の研究室が連携した取り組みでした。それが2006年から研究室の有志連合と学生サークルのソーラーカー研究会が合体し、学生主体のプロジェクトへ発展したんです。

 

東海大学工学部教授 / 木村英樹さん。東海大学工学部を卒業後、現在は東海大学工学部 電気電子工学科 教授を務める(2022年4月より東海大学 工学部 機械システム工学科に異動予定)。2006年から東海大学チャレンジセンターの立ち上げに関わり、ソーラーカーや高効率モーターの開発を推進している

 

大学は卒業しても、チームの卒業はない!

取材に参加してくださった東海大学ソーラーカーチームの学生のみなさん

 

御堀:卒業生との関係についてはいかがでしょう?

 

木村:「学校は卒業しても、チームの卒業はない」と学生たちには伝えています。理工系プロジェクトとしては珍しいかもしれませんが、大学野球や駅伝などの部活動と似ているかもしれませんね。社会人になってからも大会が近づいてくると卒業生たちもソワソワしてくるようで(笑)、手伝いにきてくれますよ。

 

御堀:「学校は卒業しても、チームの卒業はない」というのは、素敵な関係ですね。

 

木村:チームに所属している学生は大学院への進学率が高いので、長い学生は6年間ソーラーカーと関われます。毎年メンバーが入れ替わるので、経験と知恵を継承することは大変ではあるのですが、学生たちは4年もしくは6年間、真摯にソーラーカーと向き合ってくれています。

BWSCに向けて2年に一度新車を作る際も、学生のチームリーダーを中心にアイデアを出し合いながら取り組んでいます。毎年メンバーが入れ替わる中で活動を続けられているのは、柔軟な考え方で動ける学生主体の組織だからかもしれません。

 

御堀:チームに所属されている学生さんたちの就職率が100%と伺いました。ソーラーカーでの実績を残しながら人間として成長できるのは、本当に素晴らしい取り組みです。

 

モータージャーナリスト / 御堀直嗣さん。大学の工学部で学んだあと、レースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい

 

コロナ禍に負けず、経験と知恵を継承するには

御堀:2021年に開催される予定だったBWSCは、コロナ禍で2023年へ延期になりました。練習ができず苦しんだ時もあったのではないでしょうか?

 

木村:そうですね。自粛期間中の1・2年生とは基本的にはオンラインでのコミュニケーションが中心だったので、経験としての技術継承が難しい部分はありました。そんな中、なんとかBWSCに近い形で大会に参加できないかと考えていたところ、2021年8月に秋田県大潟村のソーラースポーツラインで「ワールド・グリーン・チャレンジ」開催が決定し、東海大学も参加して見事優勝することができました。久しぶりに実践的な挑戦ができてほっとしました。

 

「ワールド・グリーン・チャレンジ」を優勝し、胴上げされるアドバイザーのひとり、佐川耕平講師

 

御堀:それはおめでとうございます。ただ、本来BWSCに参加できるはずだった学生さんは卒業してしまいますね。

 

木村:そうなんです。コロナ禍では、「いま、何ができるか?」をひたすら考え続けていたように思います。悩む時間もありましたが、「ワールド・グリーン・チャレンジ」で優勝できたことで、やっと次の2023年大会へ向けてやっと動き出したと感じています。この経験をバネに次回のBWSCに向けて取り組んでいきたいですね。

 

知恵を集結させ、気持ちよくエネルギーを使う未来へ

平面のソーラーパネルをどうやって曲面の車体に貼り付けるか、御堀さんへ説明する木村教授、福田紘大准教授、佐川講師。この3名で東海大学ソーラーカーチームをバックアップ

 

ソーラーパネルの下は、配線がびっしり!発電の効率を高めるために、12個ものブロックに分かれているのだとか。世界的に見てここまで細分化しているのは、東海大学ぐらいだそうです

 

御堀:ちょっと話はそれますが、ドライバーになりたいという学生も多いのではないでしょうか? どのように決めているのですか?

 

木村:基本的には、日頃から運転している学生になりますね。たとえば、コックピットが狭いので体格条件をクリアした学生の中から、小田原厚木有料道路を設定時間内に、当時のマイカーだったプリウスで往復し、燃費効率がよかった学生を選出したことがありました。今は、秋田県大潟村のソーラースポーツラインという1周が25㎞のコースを走行させて、データを見ながら選出しています。

 

御堀:面白い選定方法ですね。

 

木村:センスの良い学生は、自然と道路状況や燃費効率を計算し、戦略を立てられるようなドライバーになっています。

 

御堀:これからの目標をお聞かせください。

 

木村:レースというのは次世代の技術を磨くために続けられてきましたが、ソーラーカーは、太陽が出ている間しか走ることができない、とても特殊な環境で大会が進行していきます。これまで実用化が不可能と言われてきた分野ではありますが、これがもし実用化できればカーボンニュートラル社会を達成することに貢献できます。今はまだ谷の底にいる状態かもしれませんが、いろんな技術を融合させることによって、谷から地上へと這い上がり、大地の上に立てる日がくると考えています。化石エネルギーを使わなかった江戸時代に戻ろう!というわけではありません。技術や文明を退化させることなく、知恵を絞りながらどのようにカーボンニュートラルを実現させるか。気持ちよくエネルギーを使える時代になればいいと考えています。

 

御堀:そうですね。ひとつでは解決できないことでも、さまざまな科学が融合することで、人間にも自然にも快適な環境が見えてくることもありますからね。これからソーラーカーに関わりたいと考えている学生さんたちに、なにかメッセージはありますか?

 

木村:変化の激しい時代ですので、学生たちが頑張って勉強していることも3年後には時代遅れ、なんてこともあり得ます。常に新しいことに関心を持ち、吸収し、判断して、問題解決できる力を身につけて欲しいと思っています。その学ぶ場として、大学を活用してもらいたいですね。

 

チャレンジセンターに設置された、これまで獲得したトロフィーを飾るケース。BWSCの優勝トロフィーのサイズに合わせて作られており、“主”の帰還を待っている

 

新型コロナウイルスによって2021年の大会が延期になりましたが、取材時にいた学生さんに話を聞くと「延期になったのは残念ですが、これまでの経験を後輩たちにしっかりと受け継ぎたい」と明るく答えてくれました。毎年メンバーが入れ替わる中でも、技術と知恵を継承し世界でもトップクラスの成績を残す東海大学のソーラーカーチーム。2023年に開催されるBWSCに、今から期待が高まります。

 

【プロフィール】

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・院生の約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。

HP http://www.ei.u-tokai.ac.jp/kimura/kimura-lab/solarcar/solarcar.html
Facebook https://www.facebook.com/tokaisolarcar/

敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

2050年をターゲットとしたカーボンニュートラル時代に向け、「脱炭素」や「自然エネルギー」に注目が注がれています。太陽光発電を装備した住宅や企業単位での脱プラスチックへの取り組みなど、わたしたちの暮らしを取り巻く環境も急速に変化しており、もはや無関心ではいられません。

 

自動車の分野では、電気自動車や水素自動車といった二酸化炭素の排出量が少ないクルマにも注目が集まっていますが、なんと今から30年も前、1991年から太陽の力だけで走れる“ソーラーカー”のプロジェクトを推進してきた大学があるのをご存知でしょうか? 学部数日本一を誇る東海大学のチームは、国内外のソーラーカーの大会で多くの優勝経験があり、実績も折り紙付き。そこで、エコを考えるきっかけのひとつとして、今回は世界から注目される東海大学ソーラーカーチームにコンタクト。ソーラーカー、そして彼らが挑む過酷なレースについて取材しました。

 

1.最高時速は100km以上! ソーラーカーは意外と速かった

世界最高峰のソーラーカーレース「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」に集結した世界の“走り屋”たち(写真は2015年大会)

 

“ソーラーカー”と聞いてイメージするのは、車体上部に大きなソーラーパネルを積んだ“四角いクルマ”かもしれません。ところが、東海大学で目撃した最新のソーラーカーは、曲面が美しい流線形。“近未来のクルマ”のようなスタイリッシュさを感じさせます。

 

東海大学の最新型2019年製のマシン。弾丸のような細長い車体で、ドライバーが乗るコックピットも流線形。上面に電源であるソーラーパネルが備えられています

 

ソーラーカーの開発において重要なのは空気抵抗を抑えて走行するための「空力」と、太陽光を効率よく集めパワーに変える「電力」。このふたつがバランスよく融合することで実現したのは、なんと最高時速100km! 走り出しに「ブゥ〜ン」というわずかなモーター音が聞こえますが、走行中はとっても静か。当たり前ですが、排気ガスも出ていないので、風が走り抜けていくような印象です。

 

ドライバーはヘルメットをつけてコックピットへ。空気抵抗を少なくするため、空気穴はたったひとつだけ。太陽電池で発電したエネルギーを走行に集中させるため、一般車両のようなエアコンや音響設備はありません

 

ソーラーカーの車体は低く、操縦席も極限までコンパクトな設計。小柄なドライバーでも窮屈に感じる空間です。体をほとんど動かせないため、ハンドル部分にすべての操作系を集約。アクセルもペダルではなく、ダイヤルツマミです

 

2.車体はたったの140kg! 軽さの秘密はカーボンとソーラーパネルにあった

ソーラーカーのサイズは全長約5m、幅1.2mで、重量は140kg程度。軽トラックでも700kg前後はあるので、その軽さは一般車両と比べると5分の1以下です。

 

軽さを実現した最大の秘密は、車体を形作る最先端のカーボン素材にありました。繊維メーカー、東レの全面協力により、東レ・カーボンマジック株式会社の新世代炭素繊維「M40X」を採用したことで、軽さと強さを兼ね備えた車体を実現できたのだとか。

 

また取り付けられている太陽電池も、住宅用で使われているような分厚いガラスを用いた一般的なパネルとは異なり、薄いシート状の樹脂でモジュール化したものを採用。1枚あたり7g程度のパネルが、258枚取り付けられています。

 

小さな太陽電池パネルを敷き詰めるように配置。ドライバーのヘルメットなどの影で弱まった太陽電池の発電を、周囲の太陽電池が助け合う特殊な装置により、発電電力を確保しているのだそう。また分割することで、曲面にも対応しやすいというメリットも

 

3.まるで自転車!? 細くて軽いタイヤで、路面との摩擦を低減していた

ブリヂストンによりソーラーカー専用に開発された最新の低燃費タイヤ「ECOPIA with ologic」。東海大学チームをはじめとして、世界中の強豪チームがマシンに採用しています

 

クルマに装備するタイヤらしからぬ軽さと細さ、路面をしっかり捉える弾力性を兼ね備えています。とくにこの細さと軽さが、転がりやすさの秘密。タイヤに無駄なストレスをかけずスムーズに回転させることが、燃費向上につながっているのです。

 

空気の流れを乱さないよう4本のタイヤはボディで覆われています。かつては走行時の軽量化・高速化を重視し、3輪だった時代もあるとか

 

続いて、このマシンが投入されるレースについて、世界最高峰のレース「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」を例に見ていきましょう。「チャレンジ」と名付けられている通り、レース中はまさに挑戦の連続です。

 

4.世界最高峰のレース「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」は5日間で3000km超を走破!

車体やタイヤに注ぎ込まれたテクノロジーと燃費性能と技術は日進月歩。でもこのマシンを動かすドライビングテクニックやチーム力こそが、本番では試されます。

 

その世界最高峰とされる大会が、オーストラリアで1987年から開催されている「ブリヂストン・ワールドソーラーチャレンジ」(以下、BWSC。開設当初の名称は「ワールド・ソーラー・チャレンジ」)。北部ダーウィンから南部アデレードまで、総移動距離は3020km! 5日間をかけたチャレンジが繰り広げられます。

 

BWSCは、約5日間をかけ、オーストラリア大陸を縦断する世界最高峰のソーラーカーレース

 

この大会は、「チャレンジャー部門」「クルーザー部門」「アドベンチャー部門」に分かれており、毎回50団体ほどが参加。東海大学が参加するのは速度を競うチャレンジャー部門で、2009年と2011年には2連覇の偉業を達成しています。

 

BWSCの開催は2年に1度。2021年大会は新型コロナウイルスの影響で中止となりましたが、BWSCと並び30年以上の歴史をもつ秋田の「ワールド・グリーン・チャレンジ」は無事決行され、東海大学チームは見事優勝を飾りました

 

5.住宅も歩行者もゼロ! コースは寒暖差の大きなデスロードだった

コースは、赤土が続く砂漠地帯の一般道。オーストラリア人ですら足を踏み入れることは稀という、辺ぴな地域です。そこを約3000キロ縦断するとは、日本でいえば沖縄から北海道へと移動するようなもの。大会が開催される10月の現地は春ですが、スタート地点とゴール地点の気象条件は異なり、しかも砂漠地帯のため、朝晩の気温は大きく変化します。

 

スタート地点であるダーウィンは、赤道近くに位置し、とにかく暑い街。最高気温が40℃以上になることもあるため、ソーラーカーを操縦するドライバーは汗だくです。車内に冷房設備はなく、操縦席に水2Lを用意し、水分補給することが義務付けられています。太陽光がなければ走行できませんが、引き換えに過酷な暑さとの戦いでもあります。

 

また、砂漠地帯を走行するため、風の影響も避けられません。猛烈な風に煽られコースアウトや横転してしまうチームもあるといいます。そして南部のゴールが近づくにつれ、今度は寒さとの戦いがやってきます。とくに夜は気温がグッと冷え込み、半袖でも汗だくになるような日中の気温から、アウターが手放せないほどまでになるのだとか。

 

こういった暑さ・寒さと戦いながらも、太陽光パネルには常に効率よく日差しを浴びなければなりません。大会期間中は気象衛星ひまわりのデータを日本にいる解析班と協力しながら分析し、走行スピードを決めているそう。まさにチーム一丸となって挑んでいます。

 

6.サソリや毒グモも天敵! 日没にたどり着いた場所へテントを張り自給自足していた

コース上には、カンガルー飛び出し注意の看板が! 思わぬ“敵”、あるいは沿道の客に遭遇する可能性も

 

BWSCに参加する際は、日本で製作したソーラーカーをオーストラリアへ空輸。同時に約60名いる学生のうち半数が現地に行き、チームを運営します。日本に残った学生もデータ解析や、不測の事態に備え、いつでも動ける体制にあり、常に情報共有を欠かしません。

 

ゴールするまでの5日間は、全員でコース沿いにテントを張ります。もちろんスーパーやコンビニもないため食料はすべて持ち込み。公衆トイレもありません。他国の参加チームと交流しながら、自らが探り当てたキャンプ地点で夜を明かし、翌日に備えます。

 

大会中は、ドライバー以外のメンバーがサポートカーで並走します。気象衛星のデータを分析しルートや時速を調整したり、休憩場所を先取りして確保したりするなどチーム全体のマネジメントがあり、さらにレース後はソーラーカーの整備をするので、5日間は睡眠不足状態が続くのだそう。走行時間は朝8時〜夕方5時までのルールですが、太陽が出ている限り蓄電は可能。早朝3時には起床し、日の出前から太陽が出る方角に太陽電池パネルを向け太陽の光を集める準備も欠かせません。

 

日の出とともに太陽光に当て、充電を行います

 

乾燥と紫外線で唇がカサカサになり、好きなものは食べられない、温度差はキツい……と過酷な環境ですが、東海大学チームのメンバーに思い出を尋ねると、ふと笑顔に。「あの星空は忘れられない」「とにかく大自然が素晴らしい」「20年以上この大会に参加しているけれど、景色は変わらない」「トイレが大変なんだよね!」「毒を持ったサソリやクモが普通にいます!」「朝が早くて大変でした」などなど。過酷ゆえに忘れがたい思い出がたくさん生まれる機会になっているようです。

 

コース中盤、アリス・スプリングスを通過する際には、ウルル(エアーズ・ロック)の至近を走行。またアフリカ大陸の大会ではテーブルマウンテンなど、サーキット走行のカーレースと異なり、地球の雄大な自然を目の当たりにできるのもソーラーカーレースの特徴

 

ウルルの上にかかるミルキーウェイ(参考写真)。生活圏から離れているため、星空の美しさも格別でしょう

 

7.1987年の初代チャンピオンはGM。現在も受け継がれる技術と情熱

ゼネラルモーターズ(GM)の記念館に展示されている「Sunraycer(サンレイサー)」。太陽光線“Sunray”とレーサー“Racer”から名付けられたのだそう

 

「ワールド・ソーラー・チャレンジ」初代チャンピオンはGMの「Sunraycer」でした。その後、日本からはホンダもソーラーカー開発に挑戦し、1993年と1996年大会で2連覇を達成。自動車メーカーと世界の大学チームが参加する大会へと発展していきます。

 

東海大学は、1993年に初参戦。平均時速は40kmで、52台中18位だったそう。2009年・2011年の2連覇達成後、直近の2019年BWSCでは、チャレンジャー部門準優勝を獲得。優勝したベルギーのルーベン大学とはわずか12分差という、素晴らしい成績を残しています。

 

2019年大会で完走し、準優勝を喜ぶ東海大学チーム。

 

本来であれは、2021年に行われるはずだったBWSCですが、新型コロナウイルスの拡大によって大会が中止に。そんな中、どのような取り組みを続けてきたのでしょうか? 次回は、1996年から東海大学のソーラーカープロジェクトに関わり続けている木村英樹教授に話を伺います。

 

我が子とのスキンシップ不足に悩むパパ必見! 子どもが“ちゅー”してくれる最強のふれあい絵本――『おかしなおつかい』

この世の中にある子ども向け絵本には、2種類ある。

 

ひとつは、THE定番! コレさえ買っておけばOK! というような、テッパン絵本。世代も国境も越えて愛される、いわゆるロングセラーものだ。

 

たとえば、『はらぺこあおむし』や『いないいないばあ』、『ぐりとぐら』などがそのひとつ。特に、新米パパママや知人の子どもへの出産祝いに人気がある。

 

もうひとつが、一風変わったユニークな視点の絵本。ともすると、古き良き名作だけが生き残りがちな絵本界のなかに、新しい風を吹き込んでくれるタイプのものだ。開くと鏡の仕掛けが施されている『きょうのおやつは』や、コミカルな関西弁とシュールな内容が話題になった『ちくわのわーさん』をはじめ、数え上げればキリがない。

 

絵本はなかなか値が張る。1冊平均1000円前後はするので、そうたやすくホイホイと買えないのが一般家庭の常ではないだろうか。だからこそ失敗したくないわけで、図書館などで吟味しつつ、納得できるものだけを購入するという親は多いのでは。

 

そんな時間がなかなか捻出できない場合は、口コミが高い、そしてみんなが持っている、確実なロングセラー絵本を選ぶというわけだ。

 

だが、3人の子どもを持つ身としては、ロングセラーと言われる絵本は大方揃っている。そこで最近は、できれば「お!」と目を見張るような新作絵本に出会いたいと思い、日々リサーチを重ねている次第だ。

 

そしてつい先日、子どもたちは大ウケ、私自身も読み聞かせしていて楽しい、でもちょっと疲れる、そしてパパにすすめたい、そんな1冊を見つけた。『おかしなおつかい』(ささがわいさむ・作/萩原ゆか・絵/学研プラス・刊)である。

 

『おかしなおつかい』の魅力(1) ただの読み聞かせと侮るなかれ、全身運動で汗をかく!

『おかしなおつかい』のストーリーをざっくり説明すると、ある日おつかいにでかけた男の子が、不安を抱きつつも初めてのお店に足を踏み入れた。そこで待っていたのは、ひっつめ頭にチェーン付きメガネのおばちゃん店員。おつかいを頼まれた商品があるかを確認すると、奇想天外な物が次々出てきた! というもの。

 

たとえば、「パンありますか?」と聞くと、「はい、パーン! どういい音が出るでしょ?」と手のひらを大きく鳴らされたり…

 

「シャンプーありますか?」と言うと、「はい、ジャンプー!」と思いっきりジャンプしたり…

 

「じゃあ、コロッケは?」と言えば、「はい、コロコロコロッケ!」とゴロゴロ体を転がしたり…

 

読みながら一緒に同じ動作をしていると、それはもう、汗をかく。子どもたちも大喜びで真似をする。親子で笑いながら汗だくだ。

 

 

『おかしなおつかい』の魅力(2) イラスト&色使いが可愛い!

『おかしなおつかい』の絵を担当しているのが、企画会社「シンガタ」のCMプランナー・萩原ゆかさん。学習塾のキャラクター「サボロー」や「YDK(やればできる子)」などのキャラクターの生みの親でもある。

 

彼女が描くイラストは、素朴であり、でも表情豊かで、色合いも含めてこの上なく可愛い。男の子がどんどんと摩訶不思議なおつかいに惹き込まれていく様子、そして、おばちゃん店員が楽しみながらも汗だくで疲れていく様子にクスっとさせられる。

 

『おかしなおつかい』の魅力(3) 子どもとのスキンシップが楽しめる!(“ちゅー”してくれるよ!)

このコラムを読んでくれているパパたちのなかには、忙しくてなかなか子どもと触れ合う時間がない、どうやってスキンシップをはかったらいいのかわからないという人もいるのではないだろうか。

 

うちの夫の場合、娘2人とのスキンシップ不足に悩んでいる。「パパ大好き!」と気が向いたら言ってくれるが、基本は娘からくっついていったり、ぎゅっとハグしたりすることは稀だ。私には有り余るくらいのハグや“ちゅー”が振ってくるのに。いや、本人的には悩んではいないかもしれないが、どこか寂しそうなのは事実。

 

それがだ。『おかしなおつかい』を夫が子どもたちに読んであげたところ、娘たちから競うようにして“ちゅー”のプレゼントが! 実は、「シュークリームありますか?」「はいはい、チュークリームですね」といって顔中に“ちゅー”をしまくる場面がある。これを実演してくれたというわけだ。

 

他にも、「チョコレートありますか?」「はいはい、コチョレートですね」と体中をこちょこちょしたり、娘2人と夫、自然に密なスキンシップがはかれている! これには、見ていた私も目頭が熱くなった…(涙)。

 

 

クセになる!「ヘンテコことばあそび」を楽しもう!

繰り返し読むほどにツボにハマるような中毒性がある『おかしなおつかい』。自分でも同じようなヘンテコことばあそびを考えようとしたのだが、これがまったく思いつかない。「ソーッスね~(ソース)」くらいか。これではスキンシップにならない。

 

絵本に挟み込まれていたチラシには「かぶください」「はい、カプっ!」(腕に噛み付く)が例に挙げられていた。なるほど…! もう少し頭を柔らかくしなくては。

 

ちなみに、『おかしなおつかい』の作者は笹川勇さん。Eテレの人気番組「みいつけた!」のオフロスキーコーナーなど、数々の番組で放送作家・脚本家としても活躍されている方だ。

 

放送作家×CMプランナーによる、新感覚絵本。もっと子どもとイチャイチャしたい! と熱望するパパたちは、ぜひお土産がわりに『おかしなおつかい』を買って帰って、ヘンテコことばあそびを親子で楽しんでみてはいかがだろうか。

 

 

【書籍紹介】

おかしな おつかい

著者:ささがわいさむ・作/萩原ゆか・絵
発行:学研プラス

チョコを頼んだら、コチョコチョされる! シュークリームを頼んだら、チューされる! 出てくるものが奇想天外なお店におつかいでやってきた男の子と、おばちゃん店員とのやりとりは思わず真似したくなる! ヘンテコことばあそびが楽しい新感覚絵本。

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「赤ちゃんだから何もわかんないでしょ」は大間違い! 0歳児が泣き止んでじっと見つめる魔法の絵本――『まるまる ぽぽぽん』

昨年結婚した弟夫婦に、待望のベイビーが生まれた。お盆に帰省した際会わせてもらったのだが、それはもう、小さくて、可愛くて、愛しくて、たまらなかった。

 

彼と同じ目線までかがみ、「抱っこしてもいい?」と尋ねたうえで、しばし抱っこさせてもらった。誰に尋ねたかって? もちろん、赤ちゃん本人に、である。

 

「どんなに小さな赤ちゃんでも、ちゃんと意思があって、こちらの言っていることがわかる」

 

これは、私自身3人の子どもを育てている最中であり、さらにはいろいろな子育て講座などにも参加し、各界の先生方を取材してきた中で、ハッキリと確信を持って気づいたことだ。

 

 

0歳だって一人の人間! 意思がある! 

よく、「まだ赤ちゃんだから、言ってることなんてわかんないでしょ」と言う人がいるが、「そっちこそ何言ってるの、赤ちゃんは全部お見通しだぞ!」と全否定したい。

 

赤ちゃんをよーく観察していると、何かしらのリアクション返してくれていることに気づくはずだ。たとえ言葉のキャッチボールはできなくても、声で、表情で、仕草で、ちゃんと赤ちゃんは想いを伝えようとしているのだ。

 

たとえば、赤ちゃんに何の断りもなくいきなり抱っこするのと、先程述べたように、赤ちゃんにOKをもらうように話しかけてから抱っこするのでは、赤ちゃんの反応が違う。前者は泣いて嫌がることが多々あるが、後者の場合は受け入れてくれることが多い。

 

また、おむつ替えのとき、「おしっこでおむつが濡れちゃったね、気持ち悪かったね~」「さあ、おむつを替えたよ、スッキリしたね!」などと声がけを続けていると、赤ちゃんは、「このお尻の違和感=おむつが濡れた、気持ち悪い」、「おむつを替えてもらう=スッキリ、気持ちが良い」…と快や不快を学んでいくのだと保育士さんに聞いたことがある。

 

そんなこんなで、赤ちゃんの発達のためにも、より密なコミュニケーションをはかるためにも、一人の人として、たくさん話しかけることが大切なのだ。

 

 

6か月未満の赤ちゃんも、ちゃんと「見て」「聞いて」「反応してる」!

 同じように、「絵本を0歳児に読んだって、理解できないからムダじゃない?」などという声を耳にすることがあるが、こちらも「大馬鹿者!」と喝を入れたい。赤ちゃんだって、ちゃんと物を見て、色や形に反応するのだ。

 

人気の赤ちゃん向け絵本『しましまぐるぐる』シリーズが、発売10年で累計180万部を突破したことが、それを証明してくれているだろう。

 

ご存知の方も多いかと思うが、生後6か月未満の視力が未発達の赤ちゃんでも、黒・白・赤などを生かしたコントラストの強い配色の絵に注目し、ちゃんと対象物を目で追っかけると言われている。

 

さて、この度『しましまぐるぐる』シリーズから最新作が発売されたとの情報を入手した。その名も『まるまる ぽぽぽん』(かしわらあきお・絵/学研プラス・刊)。

リズミカルなタイトルと、青い地球のような半円から赤い太陽?が顔をのぞかせている表紙が印象的だ。

 

 

「まる」は赤ちゃんの大好物!

今回のテーマは、「まる」。

 

なんでも、赤ちゃんは「顔」に見える形も、「まる」の絵も好むと言われているとのこと。泣く子も黙る「アンパンマン」は、その良い例かもしれない。

 

 

ページをめくると、「あかまるちゃん」がぽん!と飛び出して、本の中を所狭しところころころころ。楕円になったり卵型になったり、てんとう虫やおにぎり、いぬ、かたつむりに姿を変えながら、ぽんぽんぽん!とはじけていく。

 

ちなみに、シリーズ代表作の『しましまぐるぐる』は我が家にもあり、子どもたちが小さい頃よく見て楽しんでいたので、その威力は証明済み。しかしながら、今回の『まるまるぽぽぽん』にどれほどのパワーがあるのかは、なんとも半信半疑だった。

 

このコラムで取り上げるからには、効果が実証できなくては。

 

そこで、下の娘が通っている保育園でお願いをして『まるまる ぽぽぽん』を預け、0歳・1歳・2歳の子どもたちにそれぞれ読み聞かせしてもらった。

 

【0歳児の反応】泣いていた子が泣き止んだ!

まずは、一番興味深い0歳児の赤ちゃんたちの反応からご報告しよう。

 

「椅子や膝の上に座らせて『まるまる ぽぽぽん』を読んでみせたところ、泣いていた子が泣き止んで、じーっと絵本の中のあかまるちゃんを見つめていました! 最後までずっと見つめていて、途中「あっ!」と声を出したり、指差しをしていたので驚きました」(保育士談)

 

ちなみに、保育士が読み終わった後も、自分の手でページをつんつんと触ったりめくったりして楽しんでいたらしい。0歳児のハートを確実に掴んだようだ。

 

 

【1歳児&2歳児の反応】みんなじーっと集中!ニコニコで言葉を繰り返す子も

続いて、1歳児&2歳児の反応はというと、

 

「みんな集中してページを見ていました。とてもカラフルなので、色に惹かれている感じでしょうか。2歳児になると、「あ! ありさんがいる!」「おにぎり!」など、ページの中に描かれている細かい部分にも気づき、声を出して教えてくれました。また、読み方にも工夫してみたのですが、「まるまる ぷかぷか~」と読むと「ぷかぷか~」と全員で繰り返して楽しんでいました」(保育士談)

 

少し年齢が上がってくると、色や形はもちろん、リズミカルな言葉にも大きく反応した様子。「いないいないばあ」や穴あきの仕掛けがあるページもあり、成長と共に刺さる部分が違っていて、長く楽しめる1冊だと感じた。

 

ちなみに、我が家の5歳児&3歳児にも読み聞かせしたところ、3歳の娘は、私の言葉に続いて「ころころ~」「まるまるぽん!」と上機嫌で繰り返し、5歳の娘も「卵、割れてるやん!」などと突っ込みながら、ニコニコと最後まで聞いていた。

 

絵本選びというと“ママの役目”なんていう家庭は多いかもしれないが、もしもパパが絵本を買って帰ってきてくれたら、子どもはもちろんママも大喜びするに違いない。

 

絵本を読み聞かせて、子どもがうれしそうに反応している姿こそ、親にとって大きな喜び。愛する我が子へのファーストブックに、『まるまる ぽぽぽん』はいかがだろうか? パパの株急上昇間違いなしだ。

 

 

【書籍紹介】

まるまる ぽぽぽん

著者:柏原晃夫
発行:学研プラス

あかちゃんに大人気の絵本『しましまぐるぐる』のシリーズ最新刊! 今度は「まる」! あかちゃんが注目する黒を中心にコントラストの強い配色でデザインした、ぽんぽん元気な「まる」がいっぱいのベイビーブック。あかちゃんが大好きな「顔」もいっぱい!

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「妻(夫)に見せる育児」が家庭円満の秘訣だ!――『そのオムツ、俺が換えます』

よく、SNSで「育児系エッセイ」にたくさんのシェアが集まっているのを見かける。ついクリックしてしまうのだが、どれもユニークで、あるある感半端ない。

 

その多くが、子どもの謎の行動とか、ワンオペ育児の辛さとか、親になって初めて知った愛しさとか切なさとか心強さとか、いわゆる「ママたちの子育て小噺」である。なかには、「うちのダンナってば…」という愚痴的要素も織り交ぜられていて、そこがまた多くのママたちに受けるのだろう。「自称イクメンとか言うけど、ウンチのときのオムツ替えもできないくせに、どこがイクメン!?」的なやつだ。

 

 

個人的には「イクメン」という言葉があまり好きではないのだが、世の中の一般的な「パパ像」がわかって面白い。「だよねー」と共感できる部分も多々ある。

 

反対に、男性側の視点で描かれている育児漫画も増えてきている。子どもに振り回される様子や、家庭内でのパパのぞんざいな扱いなどが自虐的に描かれていたりして面白い。「確かに、うちもそう!」と吹き出してしまう。

 

やはり、人は「共感」を通して、その作品を評価することが多いのだ。

 

それがだ。全然共感できない(いや、厳密に言えば共感できる部分ももちろんあるが)のに、だからこそ、笑えて泣けてグッとくる漫画がある。『そのオムツ、俺が換えます①』(宮川サトシ・著/講談社・刊)だ。

 

このコラムでは、自分が読んでおすすめしたい一冊を紹介しているのだが、今回は特に、「すべての人に読んでもらいたい!」と大声で叫びたいほど、おすすめなのである。

 

 

見せる育児に奮闘する男・宮川サトシ氏

タイトルからすると、「イクメンな俺の日常を語る漫画」と思いきや、内容はまったく違う。

 

子どものオムツ換えを毎朝行っている宮川氏。ここまでは、「イクメン日記なんでしょ?」という感じなのだが、その行為の裏には、「男親は比較的避けがちと言われるオムツ換えというミッションを率先してやっている俺! そんな俺を見てくれ!」と、常に妻の視線を意識して育児に参加している想いがあるのだという。

 

ロンパースなどの肌着の股間部分にあるスナップひとつとっても、3つあるうちの真ん中さえ留めれば問題ないが、それだと「妻や保育園の先生たちに『愛情不足だ』と誤解されかねない」から、念入りにすべてを留める。

 

保育園の行事にはできるだけ参加して「ちゃんとお父さんが来てるのウチだけだったよ~」と妻に言わせたかったけれど、意外にも他のお父さんたちの行事参加率が高く、再起をかけて保護者対抗リレー大会でガチで走る。

 

保育園の保護者読み聞かせ会に向けて絵本選びからこだわり、内容はすべて暗記、自信と声量を保った、極上のエンターテイメントとしての読み聞かせを披露し、「妻よ! 読み聞かせに必死な俺を見てくれ!」「娘よ! お前のお父さんは面白いだろ?」「園長先生! 俺の育児っぷりに一目置いてくれてますかーっ!」と全力で取り組む。

 

とにかく、すべての行動が第三者を意識した「見せる育児」なのだ。どの点をとっても、うちの夫とはまったくもって共通点がない。でも、とにかくリアルで、痛快で、爽快で、宮川氏の頑張りが、なんだかこうグッと来るのだ。

 

 

育児ポイントカードを導入すれば、家庭は明るい?

宮川氏が推奨するもののひとつに「育児ポイントカード」がある。「己の育児ぶりを己のさじ加減で数値化し記録していくためのスタンプカード」のことで、宮川氏の心の中だけにある妄想上のカードだったのだが、本書には特別付録として、巻末に夫用と妻用の育児ポイントカードがついている。

 

たとえば、「今の俺の育児、妻に響いたな…」と思ったら1ポイント。宮川氏の場合は、絵本読み聞かせ1ポイント、お馬さんごっこは腰にくるから2ポイント、オムツ交換は毎日のことだから1ポイント、ただし、妻の「すっごい助かる~」が出ればポイントは2倍!といった具合。

 

でもって、貯まったポイントに応じて、自分へのご褒美が許される、というものだ。夫版であれば、3ポイントで「リビングで堂々とうたた寝してもよい」、妻版であれば、10ポイントで「レディースデーじゃなくても映画館に行ってもよい」など。宮川氏いわく「見せる育児を志す者のモチベーションを上げつつ、家庭の調和を保つアイテム」なのだそう。

 

この方法は、かなりユニークだが面白い。なかなか褒められることの少ない育児において、「褒めて褒めて!」と自らアピールすることで、夫婦間の理解や労いの気持ちが深まるような気がする。

 

 

母になる準備・父になる準備

本作品には、よく男女間の相違点として語られることが多い「女はお腹の中で赤ちゃんを育てていく10か月間で母親になる準備をする。対して、男は体の変化がないから、父親になる自覚が湧きにくい」みたいな話が、至極生々しく描かれているのも印象的だ。

 

妻の妊娠の知らせを最初に聞いたときの、どこか客観的だった自分。

 

妊娠前は一緒に見ていた海外ドラマや夜遅くまで対決していたゲームを、妊娠してからやらなくなった妻。子育てに向けて、長かった髪をバッサリ切ってきた妻。お腹が大きくなる以外に、どんどんと妻だけが大人になっていく一方、自分ひとりが子どものまま置いてけぼりにされたようだと思った自分。

 

出産で立ち会った時、うまく泣けるかどうかをずっと気にしていた自分。そして泣けなかった自分。子どもが生まれたという実感がなかなか湧かなかった自分。

 

そこから、少しずつ「父親」としての想いが育っていく様子が、別にお涙頂戴という感じで描かれていないのに、毎話じーんときてしまう。

 

もしかしたら夫も、実はこんなふうに戸惑いを感じていたのだろうか。そして、普段はポーカーフェイスな感じで子どもに接しているが、実は「見せる育児」を意識していたりして。

 

そういえば、以前宮川氏が「“子どもはいらないと思ってたけど、この漫画を読んで子どもが欲しくなった”って感想が増えてきた」と語っていた。

 

見せる育児と育児ポイントカードは、少子化にも歯止めをかける一策かもしれない。

 

 

【書籍紹介】

そのオムツ、俺が換えます(1)

著者: 宮川サトシ
発行:講談社

あえて言おう。全ての夫は妻に褒められたくて育児をしている…と! (諸説あり)世の中のお父さんたちがずっと思ってたけど、ずっと言えなかったこと。本音満載の新感覚育児エッセイ!

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子どもの相手をスマホにさせてしまう…それって教育上ダメなの?

家事で忙しくて、娘にかまってあげられないときは、スマホを渡してアニメ動画を見ておとなしくしていてもらうこともしばしば。最近は、子どもでも当たり前のようにスマホやタブレットを使っているし、小学生になったら子ども用スマホを持たせる家庭も多いと聞くわ。

 

でも、小さなころからスマホに触れさせるのって、子どもにとってあまり良くないんじゃないかしら? 難しい問題よね……。

 

そう言えば、ご近所に住んでいる相模女子大学准教授の七海陽さんは、「子どもと情報メディアのあり方」について研究をしているみたい。ぜひ、意見を聞きたいわ!

参ったなぁ……と、いつも困っている「参田家(まいたけ)」の面々。きょうはお母さんが、なにやら困っているようです。

参田家の人々とは……
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ちょっと気弱なお父さん、元気でしっかり者のお母さん、もうすぐ小学生の娘、甘えん坊の赤ちゃん、家族を見守るオスの柴犬の4人と1匹家族。年中困ったことが発生しては、宅配便で届いた便利グッズや、ご近所の専門家からの回覧板に書かれたハウツー、知り合いの著名なお客さんに頼って解決策を伝授してもらい、日々を乗り切っている。
https://maita-ke.com/about/

 

子どもにスマホを使わせるときの適切なルールって?

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お母さん「うちの娘は普段おてんばだけど、スマホで好きなアニメ動画を見ている時間だけは静かにしていてくれるんです。でも、幼いころからスマホで遊ばせるのってあまり良くないイメージもあって……。やっぱり、もう少し大きくなってから使わせる方がいいのでしょうか?」

 


七海さん「スマホで長時間遊ばせるのは控えた方がいいですが、デジタルメディアがこれだけ浸透している時代で、まったくスマホに触れさせないというのも現実的ではありません。それに、スマホは使い方次第で子どもの興味や関心を広げるツールにもなります。子どもは、大人が思っている以上に生きる力が備わっているんですよ。スマホを使って“学ぶ機会”を与えながら、大人がしっかり使い方を見守ってあげるのが理想的ですね」

 

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お母さん「スマホが教育の一端を担うこともあるんですね! ちなみに、スマホを触らせるのはどれくらいの時間を目安にしたらいいでしょうか?」

 


七海さん「2〜5歳の場合、1日1時間以下の使用にすることを推奨しています。子どもの成長に重要な睡眠時間と、体を動かして遊ぶ時間とのバランスを取りながら、スマホを使う時間を決めてあげてください。また、この時間にはタブレットやゲームなども含まれます。メディアに触れる時間のオンオフの習慣づけをしていくことが大切です」

 

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お母さん「なるほど! うちの子はスマホでアニメを見るのが好きなんですけど、子どもが見ても良い動画って、どういったものなのでしょう?」

 


七海さん「NHK教育テレビ『Eテレ』で放送されているような内容を参考にするのがいいですね。気をつけることは、子どもにスマホを預けっぱなしにして放置しないこと。目を離している隙に子どもにふさわしくないコンテンツを見てしまう懸念があるのはもちろん、親子のコミュニケーション不足になってしまう可能性があります。親が一緒に動画を見ながら、子どもの反応に受け応えしてあげるのが大切ですね。それが、子ども自身の学びにつながると思います」

 

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お母さん「ギクッ! 子どもが黙ってスマホを触っていたら『チャンス!』と言わんばかりに、掃除や洗濯をしました……。反省しなくちゃ! 子どもは何に対しても吸収する能力が長けているから、目に入るものを、大人がきちんと選定してあげるのが大切なんですね。ちなみに、最近流行っている子ども向けのプログラミングアプリはどうでしょうか?」

 


七海さん「お子さん自身が興味を持っているのならば、与えてあげるのもいいと思いますよ。図工が好きな子なら、“どういうふうに組み立てれば目的を達成するのか”という思考を養える機会だと思います。ただし、アプリを使用する前に開発元や提供元の企業を調べて、『保護者の方へ』という注意書きがあるかどうか、またその内容を大人が確認してから遊ばせるようにしましょう。信頼できる企業ほど、保護者による設定や制限を促す注意書きがあります。それを基準にして使うアプリを選択するのもひとつの方法です」

 

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お母さん「アプリも親がしっかり確かめてから、子どもに与えるべきなんですね。あと、うちでは子どもに何歳ぐらいからキッズ用携帯電話を持たせるか、夫と相談中なんです。七海さんの意見も聞かせてください!」

 


七海さん「思春期、つまり中学生になる前にキッズ携帯を持たせて、スマホを使う練習をさせてあげるのがいいかもしれないですね」

 

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お母さん「スマホを使う練習とは、具体的にどういうことですか?」

 


七海さん「思春期からスマホを持ち始めると、子ども同士がどんなやりとりをしているのか、把握しづらいですよね。だからこそ、まずは通信する相手を制限できるキッズ携帯を渡して、親子間でコミュニケーションの練習をしてみましょう。その中で『こういう表現は相手を傷つけるかも』というアドバイスをしてあげるといいですよ」

 

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お母さん「親に反抗し始める年ごろになってからだと、アドバイスをしても素直に聞き入れてくれなさそうですよね……。必要なところは親が介入して、子ども自身が考える伸び代もしっかりと残すということが大切ですね。今日聞いたことをもとに、子どものスマホの使い方を見直してみます!」

 

まとめ

家庭でスマホの使い方ルールを決める

家庭によって異なる、子どものスマホの使い方。七海さんが監修した「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」(https://www.child-safenet.jp/selfcheck/)のセルフチェックをしてみたら、やっぱりうちも改善点する余地がありそうね。子どもがスマホを使うことで新しい世界を見て視野を広げられるよう、親として正しいスマホの使い方を教えてあげなくちゃ!

 

教えてくれたのは……

相模女子大学 子ども教育学科准教授/七海陽さん
IT企業を退職後、フリーで「情報化社会での子どもの育ち」や「デジタルメディアと子どもの発達」に関する執筆、講演などの活動を行う。2005年に浜松大学こども健康学科専任講師を経て、2009年より相模女子大学子ども教育学科へ。2013年より准教授を務める。
http://www.sagami-wu.ac.jp/faculty/arts_sciences/edu/teacher/details/nanami_yoh.html

 

日々の「参った!」というお悩みを5分で解決!「参田家(まいたけ)のおうち手帖」

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2歳&5歳の娘がどハマリ! これぞまさに、やる気を引き出すワークだ!――『2~4歳 はじめてのおけいこ 特別限定版』

下の子は、上のきょうだいを見て育つものだと、最近とみに思う。

 

我が家の末っ子2歳のここ数か月の成長は、本当に目覚ましい。兄や姉の姿をよく見ていて、気づけば自分で体を洗い、靴を履き、ボタン付きの服を一人で脱ぎ着し、箸まで器用に使っていた。どれも、まったく私は教えていない。

 

とはいえ、「教えなくても大丈夫」とあまりに放任なのも考えものだということも、痛感している。

 

 

長女のやる気スイッチはどこにある!?

長男は1人目ということもあり、私も夫もはりきっていろいろなワークや知育系おもちゃを渡し、一緒にひらがなの読み書きを学んでいった。幼稚園に入る前には50音が読め、書くこともも割と早くからできていたように記憶している。そういえば、九九も覚えていた。

 

それが、2人目の長女はというと、長男ほど力を入れておらず、というか、むしろ「そのうち読めるし書けるか~」と呑気に構えていた。だが、日常生活の動作とは違って、読み書きなどの学習的なことというのは、やはり誰かが教えてあげないと習得しないということにいまさら気づき、慌てて教えている今日このごろだ。

 

読みはOK、次は書くことを教えたいのだが、なかなか本人がその気にならない。「じぃじやばぁばに、自分でお手紙が書けたら楽しいよ」と言っても、「ママが書いてくれたらいい」の一点張り。お姫様系のひらがな練習本を渡すも、続かない。誰か彼女のやる気スイッチがどこにあるか、教えておくれ…。

 

どうしたものかと思いあぐねていたとき、「いつもの値段で6大特典付き」という、かなり魅力的なワークを書店で発見した。りんごちゃんのどアップが目を引く、『2~4歳 はじめてのおけいこ 特別限定版』(学研の幼児ワーク編集部・編/学研プラス・刊)だ。

 

先日5歳になった長女には、簡単すぎるかもしれない。だが、2歳の次女をメインにしながら、長女も一緒に楽しめたら。願わくば、文字を書くことのきっかけになってくれれば。そんな想いで、2人の娘の前にりんごちゃんのワークを置いてみた。

 

 

実際に姉妹でやってみた。その感想はいかに?

さて、ここからは娘たちの反応を盛り込みながら、『2~4歳 はじめてのおけいこ 特別限定版』で感じた点を述べていこうと思う。

 

カギは“自分だけ”の文房具

まず、箱入りの本書を見て、「わ~!」と大歓声を上げる2人。早くあけろと急かされながら、中身を取り出す。

 

注目の特典は、クレヨン3色・あいうえおポスター・三角太えんぴつ・えんぴつ削り・えんぴつ用補助グリップ・六角えんぴつの6つ。プラス本誌だ。

 

普段はなんでも同じものを与えないと大ブーイングなのだが、今回は違った。

 

「しーちゃんは2歳だから、これから線がかけるようになるように、クレヨンからはじめようね。かほちゃんはもうお姉ちゃんだから、鉛筆でいけるかな?」

 

赤青黄色のクレヨンに飛びつく2歳と、鉛筆をうれしそうに握る5歳。相手のものを羨ましがる様子はない。

 

正直、クレヨンも鉛筆も、家には山のようにある。だが、「私だけの」という特別感がたまらなくうれしく、テンションがアップしたようである。

かわいいイラストに食いつく姉妹

このワークでは、直線や曲線をうまくかけるようになるといった基本的な運筆力が育めるのだそうで、その練習ができる内容になっているのだが、イラストがどれもかわいい。はじめのページは、「ラーメンのめんをかこう」という、ラーメンのイラストの中に麺を自由にかき足すもの。

 

その後は、動物たちをプールで泳がせたり、もぐらが進む道をかいたり、子どものツボをおさえたイラストのチョイスで、ページをめくるたびに「かえるさん!」「ちょうちょがとんでる!」と本当にうれしそうなのだ。

 

なにより、表紙のりんごちゃんをいたく気に入ったようで、「今日もりんごのやつ、やるー!」と保育園から帰るなり2人でおねだりしてくる。私から見たら、さほどかわいいと思えないのだが(失礼!)。

 

 

2歳は「チャレンジ感」、5歳は「優越感」が味わえる

「2歳から4歳用だから、基本はしーちゃん(次女)がやるページだよ」と伝えつつ渡したが、そんなこんなで、前半は妹が、後半のちょっと難しい迷路やひらがなにつながる練習ページは、姉が担当。2人で仲良く、交代で取り組んでいるではないか。

 

 

クレヨンでお絵かきこそしていたが、こういったワークは初めての2歳の次女を見ていると、案外器用にこなしていて、新しいことへのチャレンジが心底楽しそうだ。

 

一方、5歳の姉は、さすがよどみなく鉛筆を進めていく。妹が戸惑ったら、やさしく教えながら。そして、スイスイできることを誇らしそうにしながら。

 

何よりの収穫は、ひらがなポスターをなぞりだし、自分から紙に文字を書いたり、お風呂の曇ったガラスにひらがなを書いて披露したりするようになったということ! あれだけやる気スイッチを探しても見つからなかったのに、この効果には本当に感動だ。

 

ワーク自体の内容ももちろん素晴らしいが、加えて6大特典が、楽しく学ぶきっかけになったと感じた。ものの1週間弱で全ページやりきってしまったが、鉛筆で書いた部分は長女、クレヨンは次女とわかるので、今後は次女が鉛筆書きのページをなぞっていくこともできる。続けて活用していけそうだ。俄然やる気になった長女には、新たにひらがなのワークを買ってあげようか。

 

娘たちのやる気を引き出してくれたりんごちゃんに、感謝しきりである。

 

 

【書籍紹介】

2~4歳 はじめてのおけいこ 特別限定版(特典つき)

発行:学研プラス

大人気の運筆ワーク「2~4歳 はじめてのおけいこ」本誌(ワーク)1冊+6大特典つきで、価格は通常の本誌と同じ660円(+税)。数量限定のお得な「学研の幼児ワーク」入門セットです。りんごの顔のかわいいパッケージで、お誕生日などのギフトにもおすすめです。クレヨンや鉛筆、鉛筆削りまでついているので、箱をあけたらすぐおけいこにチャレンジできます。

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“プログラミング教育”必修化間近! 知育玩具「カードでピピッとはじめてのプログラミングカー」が手軽で話題

学研ステイフルから幼児向けプログラミング知育玩具「カードでピピッとはじめてのプログラミングカー」が登場。2020年度から小学校で“プログラミング教育”が必修化されるとあって、時代を先取りしたアイテムに注目が集まっている。

価格:6279円(税込み) 対象年齢:3歳以上(出典画像:プレスリリースより)

 

“プログラミング教育”とは?

“プログラミング教育”と聞くと、ついつい「プログラマーを育てる教育?」と勘違いされがち。正確には、筋道を立てて論理的に考える力=“プログラミング的思考”の育成を目的としている。将来どんな職業に就いても求められる能力とあって、近年では1日2万円のプログラミング教室でも予約でいっぱいになるほど。生徒の年齢層は小学2・3年生が多いという。

 

「はじめてのプログラミングカー」は、パソコンもスマホも必要としない知育玩具。冒険マップ上にスタート地・とおり道・ゴール地を決めたら、進む方向などの“めいれいタグ”を“くるま”にかざすだけの簡単操作になっている。

 

簡単操作ながら目標を自分で設定・解決していき、小さな成功体験を積み重ねることで「やり抜く力」が育まれる同アイテム。「ゴールに向かうにはどうしたらいい?」「どうしてこの道を選んだの?」と尋ねる保護者のサポートも重要で、何を考えてどう問題を解決していくか、自分の考えを他人に伝えるコミュニケーション力のトレーニングにもなる。

 

論理的な力を育てる

プログラミングカーはコンピューターと同じように、命令したとおりに動く玩具。思ったように動かなければ命令の内容や順番など必ずどこかに原因があるはずで、“失敗から原因を突き止める”ことも重要な経験に。遊びのなかでも結果を振り返りながら「なぜそうなったのか」を考え、試行錯誤を重ねていくことで論理的に考える力が身につくはず。

出典画像:プレスリリースより

 

プログラミング教育が必修化されるとはいえ、親からは「まず何をやらせたらいいのかが分からない」「やらせてみたいとは思ってるけど、自分にとっても未知すぎるんだよね」「プログラミング教室に通わせるところから勇気が必要」といった戸惑いの声も。そんなときこそ親子で手軽にプログラミング教育を進められるアイテムとして重宝されそうだ。

 

なお、同アイテムを使ったイベントが4月28日を皮切りに新宿京王百貨店や高島屋大阪店・伊予鉄高島屋などで開催される。実際に子どもと一緒に手にとってみて、プログラミング教育をスタートさせてみてはいかがだろう。

 

■プログラミングカー イベント情報
・4月30日 京王百貨店 新宿店(東京)
・4月28日~5月6日 大阪タカシマヤ(大阪)、いよてつ髙島屋(愛媛)
・4月28日~5月7日 平和堂10店舗
・4月29日 キュリオファクトリー(二子玉川紀伊國屋書店内・東京)
・5月2日 イオンモール幕張新都心(千葉)
・5月19日・20日 カーズ・ミート(横浜赤レンガ倉庫・神奈川)

『絵でよくわかる こころのなぜ』――子どもの悩み相談で自分の「こころ」を見つめ直しませんか?

絵でよくわかる こころのなぜ』(東京学芸大学 松尾直博・監修/学研プラス・刊)は、心理学と道徳心を子ども向けに解説したガイドブックです。

 

世知にまみれた自己啓発書はひとまず置いて、童心に返ったつもりで「こころ」を見直しませんか?

 

 

「恥ずかしい」は、恥ずかしくない!

失敗しちゃってはずかしい。この気持ちを消すにはどうしたらいいの?

(『絵でよくわかる こころのなぜ』から引用)

 

失敗は、鏡(かがみ)のような働きをします。いまの自分に欠けているものをハッキリと映し出すからです。

 

失敗を認められないのは、身だしなみをせずに出歩くようなものです。失敗から目をそらさずに、鏡に映ったすがたを真摯に受け止めることによって、身だしなみ(=人格、能力)を整えることができます。

 

子どものうちは、小さな失敗を大げさに考えてしまいがちです。

 

お子さんが失敗してガッカリしていたら、大人は「自分もこんな失敗をした」と話してあげましょう。人生において「失敗はありふれたもの」であることを知ってもらうのです。

 

おとな同士でも、ひとりで抱え込まずに「失敗談」を告白してみましょう。同じような失敗をした仲間が見つかれば、こころが軽くなります。

 

 

やさしい人になるには?

「やさしくなりたい」と願うのは、とてもすてきなことだね。それには、いろいろな形のやさしさを知ること。
なぜなら、やさしくしたい相手によって、ほしいやさしさがちがうことがあるからね。

(『絵でよくわかる こころのなぜ』から引用)

 

「やさしさ」は、数学や英語のように教科書をつかって教えるものではありません。可愛がられて育てば、やさしくされると「うれしい」ということを自然に学びます。さらに、自分から「やさしさ」を与えれば、相手から「やさしさ」を得られることを学びます。

 

「やさしさ」は、万能ではありません。やさしさを「相手に好かれるため」に使いはじめると、むしろ険悪になることもあるからです。好意(承認)を目的とした優しさは、かえって相手に嫌われることもあります。「やさしさ」って難しいですね。

 

つぎに紹介するのは、「うらやましい」という気持ちです。おとなでも克服するのが難しい「嫉妬」について考えてみましょう。

嫉妬(しっと)は悪いことなの?

自分よりかわいく見えたり、成績がよかったり、自分が持っていないものを持っている人を見ると、うらやましくなることがあるよね。
その気持ちは自然なことだよ。大事なことは、そんな自分の気持ちをみとめてあげること。

(『絵でよくわかる こころのなぜ』から引用)

 

妬み(ねたみ)。嫉み(そねみ)。あわせて「嫉妬」です。

 

お子さんに「嫉妬は悪いこと」と教えてしまうと、かえって苦しませることになります。「うらやましい」という感情は、きわめて自然なものだからです。

 

他人のほうが、みんなから好かれているように感じる。それは「なぜだろう?」と探究心が芽生えたら、きっと賢い子に育つでしょう。「嫉妬」や「うらやましい」は、好奇心や向上心のはじまりです。「ほしい」「あの子のようになりたい」という目標が生まれます。成長のきっかけになります。

 

おとなは知っています。欲しがる人に与えれば、やがて尊敬されるようになります。他人から尊敬を受けることを「名誉」といいます。名誉を得ること(与えること)によって、自尊心が満たされて幸福になれるのです。人間社会はよくできています。

 

 

なぜ「悲しい絵本」を読み聞かせるのか?

悲しい気持ちは、人が生きていく中で、かならず出会う気持ちなんだと思う。
その気持ちがあることで、こまっている人や悲しんでいる人を見たときに助けたいと思うようになるんだ。

(『絵でよくわかる こころのなぜ』から引用)

 

絵本の読み聞かせは、お子さんの情操教育に良いとされています。楽しい気持ちになる絵本だけではなく、なぜか「悲しい気持ちになる絵本」も人気があります。『かわいそうなぞう』『ごんぎつね』『フランダースの犬』など。

 

「悲しい」は、「かわいそう」という感情を呼びおこします。それは「思いやり」に通じます。「笑い」は、センスや才能によるものです。同じく「思いやり」にもセンスが必要です。悲しい絵本を読み聞かせることによって、幼児期から「思いやりのセンス」を磨くことができます。

 

「悲しい絵本」を読んだあとには、お母さんやお父さんと「悲しいできごと」について話し合いたくなります。悲しい気持ちを打ち明けるという経験が、人生において「悲しみ」を乗り越えるときに役立ちます。お試しください。

 

【書籍紹介】

絵でよくわかる こころのなぜ

著者:東京学芸大学 松尾直博(監修)
発行:学研プラス

子どものやさしいこころ、強いこころを育てます。楽しい、悲しい、くやしい、不安。そんなときどうしたらいい?友達とケンカになったらどうしたらいい?ほかの人に合わせたほうがいいの?そんなこころの疑問に絵と漫画で答えます。

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天才三兄弟を育てた母・大野ママが提唱する子育ての「パンティストッキング理論」

子育てとは、正解のないテストを日々繰り返しているようなものだ。子どもの癇癪(かんしゃく)やグズりが続くと、こちらもイライラが募ってどうしようもなくなったり、はたまた妙に冷静に対応できる日があったり。なんだか、人間としての度量を試されているように感じることもある。

時には、「私の子育て、間違っていたかしら……」などと悩むことも。深い迷いの中でさまよっていると、子育てにおける成功者のアドバイスを聞いてみたくなるものだ。

 

 

今回は、メディアでも活躍している「天才三兄弟を育てた母」大野智恵子さんの著書『子どもの未来は親が決めなさい』(学研プラス・刊)から、大野ママ流・子育ての秘訣を覗いてみよう。

 

我が子とよその子と比べなさい

自分の子どもと他人の子どもを比較することは、オーソドックスな子育て論ではNGとされることが多い。確かに、「○○くんは手先が器用なのに、うちの子はホント不器用で」などと、自分より出来る子と比較されるほど気分が悪いことはない。

 

だが、大野ママは「どんどん比べなさい!」と断言する。

 

たとえば、子どもたちが遊んでいる様子を見ながら、「あの子は運動神経がいい」「面倒見がいい」「人の物を欲しがるタイプ」「一人で黙々と制作している」などと、自分の子どもと比べて観察してみる。すると、我が子の特徴がよく見えてくるのだという。比較対象が多ければ多いほど、気づきも増える。だからこそ、同級生だけでなく、年上や年下の子どもの様子もしっかり観察することが大切なのだそう。

 

そういえば、先日取材した元小学校教員の情報学博士の方も、同じようなことを語ってくれた。遊んでいる姿をしっかりと観察することで、子どもの興味関心がどこにあるのか、好きなことは何か、長所や短所がハッキリと見えてくるのだと。

 

ただし、よその子の優れたところばかりを見て、我が子のできない部分だけが目につくようでは逆効果だろう。まずは、子どもの中にある「天才のタネ」を見つけることが大野ママ流子育ての第一歩。公園で遊ばせているときも、ママ友との会話に夢中になっている場合ではないようだ。

 

続いては、大野ママが提案するユニークな子育て理論について見てみよう。

 

 

幼児期ほど厳しく育てなさい

独自のユニークな子育て論を多く発信している大野ママ。そのひとつが「パンティストッキング理論」だ。

 

パンストは、足首のあたりがきゅっと締まっていて、ふくらはぎから足のつけ根にかけて緩くなり、またお腹やウエストあたりでキツくなる造りだ。これを子育てに重ねるのだと、大野ママ。足首周辺にあたる幼児期にしっかりと厳しく育て、思春期へ進むに従って緩く、子育ての仕上げである就活期に最後の締めを!という理論である。

 

最近、叱らない子育てが話題になったり、放任主義を主張したりする親が増えている。だが、まだわからないことが多く、自分自身で判断することなど難しい幼児期こそ、もっとも厳しく育てるべきだと大野ママは語る。

 

命に関わるような危険なことはもちろん、ルール違反、人としての礼儀などは決して手を抜かず、厳しく教えること。教えれば教えただけ、スポンジのようにすべて吸収する時期だからこそ、なあなあで育ててはいけないのだ。

 

さらに、パンストは一箇所つまむと、周辺も一緒に持ち上がる。子育ても同様で、ひとつ天才のタネが育って能力や才能が伸びていくと、ほかのことまで底上げされてくるのだとか。幼児期は叱らず、とにかく褒めて育てよう!と思っていた人は、パンスト理論を取り入れてみてはいかがだろうか。

 

 

子どもの夢を育てる「子育て年表」を作りなさい

大野ママは、子どもの夢を叶えるために子育て年表を作るべきだと述べる。特徴的なのは、「逆算式」だということ。

 

叶えたい夢を設定したら、3年ごとのスパンで何をしたらよいかを年表に書き出し、ひとつずつクリアしていくというものだ。たとえば、こんな仕事をさせたい! という夢ができたら、そのためにはどこの大学に入って何を専攻させるか。高校は? 中学校は? 塾はどこに通わせる? 小学校は?というように、逆算していって細かく目標を決めていくことがコツ。

 

確かに到達点が定まれば、自ずとそこまでの道が見えてくる。実際、大野家は長男「東大への道」、次男「建築家への道」、三男「テニスプレーヤーへの道」を掲げ、それぞれの逆算式子育て年表を作成。途中で道を修正しつつも、しっかりと夢へ到達している。

 

 

100%真似したい!と思える子育て法などない

ほかにも、「兄弟を同じ土俵で戦わせない」「就活は戦略的家族力で」など、私自身3人子どもがいるので、参考になる内容ばかり。「子育ても戦略」などと言われると、条件反射で拒否感が出てしまう人もいるだろうが、日々ビジネスシーンでさまざまな戦略を練っているパパたちこそ、大野ママの子育て論に共感できる点が多いかもしれない。

 

とはいえ、なかには「いやいや、それはどうかな!」と思うものや「これは私には無理だな」という教えがあったことは事実だ。だが、それでいいのだと思う。だって、まったく同じ子育てなどありえないし、どんなに素晴らしい子育て論を掲げている人だって、100%正しい!と思えることはないのだから。

 

大切なのは、自分の信念をまげないこと。子どもとしっかり向き合うこと。

 

そのうえで、いろいろな子育て法からいいと思う部分だけ取り入れていけばいいのではないだろうか。

 

それにしても、本書を読み進めていくうちに、大野ママが松岡修造氏に重なってきた。と思ったら、自身のブログで「子育て界の松岡修子」と称していたので、やはりと納得。熱~い大野ママの子育て論、一読の価値がある一冊だ。

 

【著書紹介】

子どもの未来は親が決めなさい

著者:大野智恵子
発行:学研プラス

「子どもは本気で叱れ!」「子どもの好きにさせるのは、親の怠慢」「幼児期ほど厳しく育てる!」……3人の子どもの学力・芸術・スポーツの才能のタネを見つけて夢を叶えた著者の子育て論。杉山愛ママ(杉山芙沙子氏)・内村航平ママ(内村周子氏)推薦!!

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ユージさんに聞く! 夫婦の子育てと家事分担 後編

前編では、子どもたちとのコミュニケーションや、夫婦間のトラブルNo.1と言っても過言ではない家事の役割分担について聞いてみました。

 

妻からは「ユージさんを見習ってよ」と言われそう(泣)。でも、これを機に自分もできることからやってみようという気持ちが芽生えました。

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後編では、家族のルールをはじめ、長男の行動にグッときた話や娘さんたちの微笑ましい行動、そして子どもたちとの将来などなど。僕を始め、世のお父さん必見のエピソード満載ですよ!

 

【今月のお客さん】

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ユージさん
1987年生まれ、30歳。モデル、俳優業を始め、バラエティ番組でも活躍中。2014年に結婚し、現在14歳長男、3歳長女、2歳次女の3児の父親として育児に奮闘中。特技は建築現場で働いていた経験を活かした日曜大工やイラストを描くこと。アーティストのCDジャケットデザインを頼まれるほどの腕前を持つ。
[ブログ]http://ameblo.jp/lp-yuji/
[インスタグラム]@yujigordon

 

 

子どもを叱るときも“丁寧さ”を忘れずに

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ユージさんのように子どもたちと正面から深く接していると、思い出もたくさんあるでしょうね。

 

 

息子は、11歳の時に僕の子どもになったという経緯がありまして。結婚する前から名前で呼ばれていたので、今も息子からは「ユージ」と呼ばれているんです。あるとき、公園で友達と遊んでいる長男を見つけたので、遠くから声をかけたことがありました。でも、友達はまだ僕が父親だとは知らなかったらしく「あれ誰だ?」となってしまったんですよ。そうしたら、長男が僕に聞こえないように「僕のパパだよ」と言っていたんです! それがわかった瞬間は、グッとくるものがありましたね……。
 

 

comment-father
あれれ、目から汗が……(泣)。息子さん、めちゃくちゃ良い子ですね。

 

 
泣かないでくださいよ〜。じゃあ、娘のエピソードからは笑えるのを話しますね! 長女がまだ1歳くらいのとき、エレベーターの中で外国人男性と一緒になったんですけど、その方に向かって「パパ!パパ!」と何度も呼びかけてて。まあ、娘にしてみれば外国人顔=パパに見えたんでしょうね(笑)。僕がどうすることもできずに黙っていたら、その外国人の方が僕を見て「わかるよその気持ち」ってアイコンタクトしてくれました(笑)。
 

 

comment-father
それは焦りますね~。うちの娘も遊園地の着ぐるみを怖がって抱きついてくる、かわいい時期あったなぁ(遠い目)。そうそう、ユージさん家のルールって何かあるんですか? それと、子育ての悩みを誰かに相談したりとかしますか?。

 

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家族以外の人に悩み相談はしないですね。それから“ほかの家は気にしない!”が我が家のルールです。自分の家のことは自分たちのやり方で解決します。僕にしかできないこともあるはずだし、我が家にしっくりこないルールに振り回されるのは、心身ともに疲れちゃいますから。
 

 

comment-father
スカッとする回答ですね! 我が家も真似したい!

 

 

夫婦ゲンカも、子どもにわからないようにするのがベストですが、家の中で言い合いになってしまった場合は、子どもが聞いているかもしれないので、否定的な言葉や汚い言葉は使わないようにと約束しています。僕だったら妻のことを“お前”と呼ばない、とかですね。子どもを叱るときどんなにイライラしていても「サラちゃんもそこがよくないと思うよ」と丁寧に話します。丁寧語で言い合っている状況は、シュールでもありますが(笑)。
 

 

comment-father
子どもは親の口癖を真似たり覚えてしまうから、大人が丁寧に接しないといけないですよね。子どもたちが大きくなったらやってみたいことありますか?

 

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長男とは、将来一緒に仕事がしたいと思っています。パートナーとしてふたりで会社を経営できたら最高ですね! 娘とは、ヴァージンロードを歩くのが夢です。
 

 

comment-father
えぇっ! ヴァージンロードなんて、いま考えただけでも憂鬱になりますよ。どんな人を連れてくるんだろうとか、仕事はちゃんとしているんだろうとか。言いたいことや聞きたいことが山ほどあるけど、やっぱり躊躇して聞けないのかなとか……。

 

 
僕は、娘が幸せならどんな人でも賛成します。ただ、彼にアドバイスはすると思います。夢を追いかけている彼なら、「夢を見るだけじゃなくて、とりあえずやってみたら?」とか。正攻法じゃなくても、その夢を実現することはできると思うんですよ。やってみること、そこに向かってみることが大事だと思っているんで。でも娘には何度か確認をするかもしれませんね。「本当に彼とずっと一緒に居られる?」みたいな(笑)。
 

 

comment-father
えぇっ! ヴァージンロードなんて、いま考えただけでも憂鬱になりますよ。どんな人を連れてくるんだろうとか、仕事はちゃんとしているんだろうとか。言いたいことや聞きたいことが山ほどあるけど、やっぱり躊躇して聞けないのかなとか……。

 

 
そうなのか……ユージさんみたいな器の大きい父親なら「将来結婚するならパパみたいな人がいいな」とか言われるんでしょうね。僕も娘からそう思えるように、できることからがんばります! ユージさん、ありがとうございました。またぜひパパ会しましょうね!
 

 

【まとめ】

ユージさん夫婦の日々の過ごし方や子育ての方法は、考えさせられることばかりでした。

 

僕も参田家の大黒柱として、ちょっとずつでも前向きに努力してみようと、この年の瀬に気持ちを新たにしました。仕事や家事に子育てと、頼りないかもしれないけどお父さんなりにがんばっていますので、全国の奥様もそんな夫の不器用な姿を温かい目で見守ってくださいね!
 

 

日々の「参った!」というお悩みを5分で解決!「参田家(まいたけ)のおうち手帖」

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