断捨離生みの親、やましたひでこさんがコロナ禍を経て辿り着いた住まい方とは?

少しずつ日常を取り戻しつつありますが、新型コロナウイルスが流行する前と後では、価値観は大きく変わりました。「断捨離」メソッドの生みの親でもあるやましたひでこさんは、2020年10月から、本拠地・東京に加えて、鹿児島県指宿市にも拠点を構え行き来する、いわば“多拠点居住”を始めたといいます。

 

2022年もちょうど折り返し地点。私たちがこれから進むべき道はどこなのか、日々変化していく中で考えるべきことはなにか、多拠点での住まいを起点にお話しいただきました。

 

コロナ禍で生まれた「指宿リトリート」

———以前、取材させていただいたのが2020年の年末。その際に、指宿のホテルに住民票を移されたと伺って驚きました。現在のやましたさんは、どのような生活をされているのでしょうか?

 

「東京と指宿の二拠点生活を続けています。自然がいっぱいの指宿と、刺激的な東京。理想は半々ですが、なかなかそれも難しくて。現状は3分の1が指宿、3分の2が東京くらいの割合で過ごしています。以前の連載でも、『“断”ちがたいものは人間関係で、“離”れがたいのが土地』とお伝えしましたが、二拠点生活をしていくと、人間には、都会の暮らしも田舎の暮らしも、どちらも必要だったのだと実感しています」

 

東京のマンションと、砂蒸し風呂で有名な鹿児島県指宿市の山の上にあるホテル「指宿ベイヒルズ」に住民票を移しての二拠点生活。

 

ここに「指宿リトリート リヒト」と名付けられたやましたさんプロデュースの空間があり、自分を癒す場所として現在一般にも利用されています。

 

———どちらもですか?

 

対照的であるからこそ、ひとつになって初めてバランスが取れると、あらためて感じました。コロナ禍で田舎暮らしにシフトした方もるけれど、“田舎がいい”とか“都会がダメ”なのではなくて、両方と行ったり来たりすることで、健やかに生きていけるのだと思ったんです。私が欲張りなのかもしれないけれど、都会にしかないもの、田舎だから味わえるもの、どちらも体験したいじゃない?(笑)」

 

———二拠点生活は“いいとこ取り”ってことですね。指宿リトリートは、一般の方も宿泊できる施設とのことですが、どのような場所なのでしょうか?

 

「コロナ禍でできた場所でもあるから“一時待避所”をイメージして作りました。本当にいろんな方がやってきますよ。2泊3日で慌しく帰っていく人もいれば、1か月ほどのんびり滞在する人も。一般的なホテルや観光地と違うのは、一度リトリートに訪れた人は『ただいま〜』と言いながら、また帰ってきてくれるところでしょうか」

 

———利用される方も『ただいま〜』と戻ってくるなんて、素敵ですね。

 

「観光地ってあまり繰り返し行かないですよね? ここには『また来ます』って、帰ってくる人が多くて。初めていらっしゃった方と話していると、『ずっと悩んで、やっと来られました!』って、一大決心してやってくるんですよ。リトリートも、山の中にある砦のようだから、時間もかかるし大変なんです。でも、一度来れば『来られた』って自信になるし、不思議と2回目以降は『近い』って感じるんです。私も今は全然、遠いと思わなくなりましたね」

 

———繰り返していくことで、近く感じるようになるのは面白いですね。

 

「不思議なんだけど、遠いと思ったことはないです(笑)。満員電車で1時間以上かけて通勤している人と比べたら、飛行機に乗っていれば着くし、空港からも車で1時間半ほどなので、慣れれば近いんですよ」

 

指宿リトリート「リヒト」にあるラウンジは、誰もが自由に使える場所。

 

仕事をする人、読書をする人、料理を作る人など思い思いの時間を過ごします。一人で来ても「独りじゃない」と、たびたび訪れる人も多いのだとか。

 

空間が変わると、自分の意識も変わる

———二拠点生活をしていく中で、ご苦労はありましたか?

 

「その時、その場での自分の最適があるから、大変だったことはほとんどありませんでしたね。むしろ指宿の良さも、東京の良さもどちらも味わえて楽しいですよ。こういう話をすると、『それはやましたさんだからできるのよ』って言われちゃうんですけど、そうじゃないんです。人間、できない探しは大得意! できない理由を探すのではなく『自分がしたいのか、したくないのか』、そこから考えることが大切です

 

———なるほど。「私も指宿に行ってみたいな〜」と思ったら、できる方法から考えればいいってことですね。

 

「そうです。『いいなぁ〜』と思ったなら、どうしたらできるかを考えればいいだけ。何かをしようと思った時、私たちはできない理由から探してしまうんです。これは思考の癖。まず行動を起こしていくと、『できた』という結果が積み重なっていくので、『いいなぁ〜』と思ったなら行動あるのみです」

 

———そんなやましたさんが、これからやってみたいと思っていることはどんなことなのでしょうか?

 

「実はね、指宿でシロくんというお馬さんを飼ったんです」

 

———え、馬!? 馬って個人で飼えるんですか?

 

「東京にいたら無理ですよね(笑)。指宿の大自然を見ていると、『ここならお馬さんと暮らせるな〜』なんて、思考まで大きくなっちゃって。今は、近くの乗馬場で預かってもらっているんですけど、空間が変わったことで、自分の意識も変わったんですよね。景色に合わせて、空間に合わせて、自分の視野が広がっていくことは、二拠点生活だからこそ実現できたことだと思います」

 

———なるほど、すごい! 東京だけで暮らしていては、そういう発想にならないかもしれません。そもそも空間自体が狭いというか……。

 

「そうですね。機会があれば、高いところから都会のビル群を見てみてほしいんですが、まるで隙間を埋めるようにビルがひしめき合っていますよね? この状態が本当に“快適”かどうか、一度考えてみてほしいんです。カラーボックスのように積み上げられた建物の中をのぞいてみると、その中にもカラーボックスがいっぱい。街の中も、家の中も、窮屈な状態です。一方、田舎に目を向けると人口減少によって、空き家が増えて、街も家も生きている感じがしないですよね。密な場所と、疎な場所で、新陳代謝を生み出すことが、快適な街にするポイントなのだと思います」

 

———断捨離の考え方は、まちづくりにも活かせるんですね。

 

「誰も、ここに定住しなさいなんて言っていないですよね? 都会と田舎でバランスを取りながら、自在に暮らすことができれば、もっと楽しい人生になると思います。断捨離のテーマは『空間で労う、もてなす』です。空間が変われば、意識も簡単に変わりますよ」

 

2022年は、調和に向けてスタートする年

———以前のお話だと、2020年は分断の年、2021年は好きなものを選び、楽しむ年と伺いました。2022年もちょうど折り返しになりましたが、今年はどんな年でしょうか?

 

「今年は『調和に向けてスタートする年』でしょう。さまざまな変化を経験して、多様な価値観が生まれました。それらが調和に向かっていく年になると思います。そのスタートを切れるか、それとも変化についていけず固執してしまうか……」

 

———すごく慌ただしい時期を過ごしてきたので、調和や安定に向かっていると思うと、ホッとします。

 

「変化を経験すると、安定したいと思いますよね。でも、安定は固定ではありません。乗馬を例にしてみましょう。馬って想定していない動きをするので、常に変化していますよね。馬に合わせて動かないと、乗りこなすことはできません。乗馬している人をみると、固まっている人っていないでしょ? 人生は安定を求めがちなんですが、安定した場所はないんですよ。変化には変化で対応することが安定であり、調和なんです

 

———変化には、変化を。コロナ禍でいろんなことが変わったので、今のお話に納得できます。

 

「確実に時間は変化しているので、どうやったって元には戻れませんから。過去の成功や失敗に固着しすぎると、調和はできません。何かにしがみつくのは、安定じゃないんです」

 

———これは今までの連載でも教えていただいた『断捨離』の考え方とも通じるものがありますね。ちょっとスケールの大きな話になっちゃいますが、今のご時世、変化に不安を感じたり、「このままがいい」と感じる人が多かったり、どこか停滞感を感じる時もあります。

 

「今の日本は、元気がないですよね。それは住環境にも表れていて、いろいろなご自宅にお邪魔させてもらうのですが、どこも閉塞感と拘束感が漂っています。そんな中で暮らしていると、人間関係にも影響するのは当然です」

 

———住環境から、人間関係にまで悪影響が及んでいるとは……。調和に向けてスタートが切れるようにしたいですね。

 

「断捨離で空間を甦らせていくことで、元気と癒しを与えられると思います。何度もお伝えしていますが、断捨離は捨てるだけではありません。断捨離の基本は、断=なだれ込むモノを「断」つ、捨=いらないモノを「捨」てる、「離」=「断」と「捨」を繰り返し、モノへの執着から「離」れること。私たちは大きな変化を経験しているわけですから、何かにしがみつこうとせず、調和していきたいですね」

 

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/

 

【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

一般財団法人「断捨離®︎」代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み応用提唱。誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築。断捨離は人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置づけ、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。『断捨離』をはじめとするシリーズ書籍は、国内外累計500万部を超えるミリオンセラー。アジア各国、ヨーロッパ各国において20言語以上に翻訳されている。

・BS朝日「ウチ、断捨離しました!」<毎週月曜夜8時>レギュラー出演中
https://www.bs-asahi.co.jp/danshari/

・やましたひでこ公式HP『断捨離』
日々是ごきげん 今からここからスタート http://www.yamashitahideko.com/
・やましたひでこオフィシャルブログ『断捨離』
断捨離で日々是ごきげんに生きる知恵 http://ameblo.jp/danshariblog/
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※「断捨離」はやましたひでこ個人の登録商標であり、無断商業利用はできません。

「断捨離」生みの親 やましたひでこが振り返る2020年と、2021年にもつべき希望と心構えとは?

2020年は、これまでの“当たり前”が一変し、非日常が日常になった1年だった、という人も多いのではないでしょうか。

 

「断捨離」の“生みの親”でもあるやましたひでこさんには、この連載を通じて断捨離の真意をお話しいただいてきました。今回は、そんな特別な1年となった2020年を振り返りながら、2021年に向けて、この試練をどのように乗り越えていけばいいのか、またこの経験をどう生かしていけばいいのかを、断捨離の視点から考察していただきました。

 

2020年は良くも悪くも“分断”した年
この経験から見えてくる“希望”とは

———2020年は本当にいろいろなことがありました。やましたさんは、振り返ってみてどのような1年だったと感じますか?

 

「ひと言で表すなら、“分断”の年だったと思います」

 

———政府から緊急事態宣言が発令された後にお話をうかがった、「#StayHomeの今、私たちが家で過ごしながらすべきこと」でも、今後は“分断された社会”になるとおっしゃっていましたね。

 

「はい。振り返ってみれば、必要な分断だったのかもしれません。現状は、この分断された状況を理解した上で受け入れている人、気がついたら分断されたまっ只中にいた人、分断されていることにすら気がつかず過ごしている人の、3つに分けられると思います。できることなら理解した上で、分断の中にいる人でありたいですよね」

 

———“分断”と聞くと、どうしてもネガティブな印象をもってしまうので、3つのどの状況にあっても、「なんとなく不安だな……」という思いが付きまといます。来年以降も、漠然とした不安を抱えながら暮らしていくことになるのでしょうか?

 

「今は不安に思っている人も多いかもしれませんね。でも私は、この分断を“希望”としてとらえています。この状況を希望と感じるか、不安だと思いながら生きるかはどこに焦点を当てるか次第です。つまりは自分の意識次第なんです。

ちょっと難しいので例を出してお話しすると、新型コロナウイルスも第三波がやってきて、Go To トラベルが停止になったり、再び緊急事態宣言が出されてしまうのではないか? と不安になったり、ニュースをつければ日々ネガティブな情報ばかりが飛び交っています。けれど、世界規模で感染者増加グラフを見比べてみれば、日本の状況はそこまで悲惨ではないんですよね。もちろん、ひとりひとりが感染を予防するのは当たり前のことですが、俯瞰してみると、『今、必要以上に不安がることはないのでは?』と思えることもあります。ずっと家にいるのに、感染者が増えていくニュースに右往左往してしまってはそれこそ不安だし、疲れ果ててしまいます。感染予防し、不要な外出を控え、家の中で生活しているだけなら快適に毎日を過ごせるわけだから、どうやって物事をとらえるかで気持ちは変えられるということです」

 

「みんな一緒」の価値観はもう終わり

———確かに、新型コロナウイルスのネガティブな部分ばかりがピックアップされてしまいますが、俯瞰して考えてみると、リモートワークが中心になったことで今まで交通費がかかっていた場所の方とも気軽にオンラインでお話しできたり、自由な家空間で仕事ができたり、予想外の恩恵もありました。断捨離を通じて、「住」環境ともじっくり向かい合えた1年だったとも感じます。

 

「やっと、時代が断捨離に追いついてきましたね(笑)。この時期にしっかり断捨離できていたかどうかというのも、“分断”の中のひとつにあると思います。『断捨離していて良かった』と感じられるか、知らずに過ごしてイライラしているか……。自分が住んでいる場所が不要・不適・不快(※)だったら、それだけでもイライラするし、不安になりますからね。12月末に新著『1日5分からの断捨離』(大和書房)を発売するのですが、そこでも、目の前にあるものをたった1つでもいい、5分でもいいから断捨離してみようということを書いています。時間がなくてできないとか、何から手をつけたらいいか、と悩んでいる方はこの連載と合わせて読んでいただけると、理解も深まると思いますよ」

※『要・適・快』は、「これは私にとって、必要か(要)・ふさわしいか(適)・心地よいか(快)?」と自分に問いながら必要なものを見定めていくこと。『不要・不適・不快』は、今の自分にとって「あれば便利だけどなくても困らない(不要)モノ・今の自分には合わない(不適)モノ・長く使っているけれど違和感を感じる(不快)モノ」を手放していくこと。

 


『1日5分からの断捨離』(大和書房)

 

———われわれは、コロナ以前からやましたさんに取材させてもらっていたので、プライベートでも少しずつ断捨離することができました。こう言うのもおこがましいですが、「断捨離していて良かった」派です!

 

「それはなによりです(笑)。これは私の勝手な妄想でしかないけれど、新型コロナウイルスによって今、“密”と“疎”のバランスが見直されているのでは? とも感じています。昔は、みんなが同じアイドルが好きで、みんなが知っている歌があって、みんなが同じドラマやバラエティを見て、みんなが同じスポーツを観戦して熱狂して、日本全体で一体感を感じる場面が身近にありましたよね。日本全体の趣味嗜好や流行が“密”だったんですよね。けれど、今はどうでしょう?」

 

———今は自分の趣味嗜好に合わせた番組をYouTubeで楽しんだり、音楽もヒットチャートなど関係なくサブスク配信で好きなものを聞いたり、各コミュニティの中での一体感を感じることはあっても、日本中が一緒に盛り上がるという機会は少なくなりましたね。

 

「そうですよね。その意味での“分断”と捉えると、『私は私で好きなことやります! 興味があるなら一緒にやらない?』くらいで十分楽しめる時代になっていると思います。今までは興味のない人までどうやったら巻き込めるか? ということに苦心してきたけれど、分断されたことでかえって“個”が尊重されるようになり、働き方はもちろん、生き方も自分らしく、ダイナミックな人生を送れるようになってきたと思うと、意外といい時代だと感じませんか?」

 

———ええ、そう感じます。

 

「マラソンで例えるなら、みんな同じゴールを目指してスタートしても先頭集団と後方集団に分かれてしまいますよね。『断捨離』に関しては、今までは遅れている人がいたら、さぁ! 一緒に頑張りましょう! って並走していましたが、その行為自体がおこがましいし、私の役目ではないなと感じたんです。分断されている時代での私の役目は、先に行ってるよ〜! と、どんどん前を走っていくこと、そこについて来たい人とともにスピードアップして走り抜けることだと思っています」

 

———なるほど。後方の人も途中で目的地を変えるかもしれないし、先頭集団に追いつくスピードを得られるかもしれないですからね。「置いていかれた!」と思うのではなく、自分でどこに向かいたいか考えることが大切ですね。

 

いろいろあるから人生は面白い

———来年に向けてのお話も少しお伺いしたいのですが、やましたさんご自身は、なんと鹿児島県指宿市に住民票を移されたそうですね。

 

「はい。ご縁があって、指宿のホテルに住民票を移しました。役所での手続きはいろいろと面倒でしたけどね(笑)」

 

———すごいですね! 私にとって“住民票を移す”ということは、一大決心というか……もう戻らないぞ! とか、ここでなんとかやっていくんだ! という気合が必要な気がしてしまって。しかもその移住先がホテルとなると、驚きです。心のどこかで「楽しそうだな〜」「いいな〜」とは思っていても、なかなか行動には移せません。

 

「断捨離の中で、“断”ちがたいものは人間関係で、“離”れがたいのが土地。気軽に引越しができない背景には、仕事や学校、家族はどうするの? と、断ちにくいもの、離れがたいものがあるからです。けれど、2020年を振り返ると、仕事もリモートでできるようになって、毎日出社する人も減りましたよね。これまで当たり前に離れられなかったものが崩壊し始め、離れることのしがらみがなくなったんだと思います。だったら緑が豊かな場所でのんびり過ごしたいし、刺激が欲しい時には都会に戻りたい、自由自在に行き来できるなら『このシーズンにはこの服を着ましょう』くらいの感覚で住む場所を変えても、問題ないと考えたんです」

 

———やましたさんとお話ししていると、とても簡単なことに思えてしまうから不思議ですね……。

 

「それと、このホテルは一般のお客様が宿泊できるホテルの顔とは別に、やましたが信頼している仲間が1日でも1週間でも1年でも、いつでも来て泊まってもらえる場所として活用してもらいたいと計画しています。ひとりでのんびりしたい時には、部屋でくつろいでもらって、でもラウンジに出てくるとやましたと会えたり、他の仲間もいたり。今回の計画も、ご縁がなければ実現できなかったことですから」

 

———“分断”を経て、あらためて新しい絆が繋がっていくように感じますね。来年からはどんな方向に向かっていくのでしょうか?

 

「2020年は、“分断”によってたくさんの人が重たい荷物を手放して、捨てた年だったと思います。やましたの考え方として、人生って『いろいろあって大変だ』ではなくて、『いろいろあるから面白い』ってスタンスなんです。人生を面白がれる方が、生きていて楽しいはず。目の前にあること、人、状況と徹底的に向き合って、思いっきり楽しんでやるぞ! って姿勢が、これからの時代には必要になってくると思いますよ」

 

———お話をお伺いする前は「まだまだコロナの状況は続くし、先行きが不安定だな」と来年を迎えるのが不安だったのですが、少し希望が持てるようになりました。

 

「こんなにたくさん手放して、捨てたんですから。あとは好きなものを拾っていくだけです。これからどうしていこうかな? どんなことができるかな? って考えて、アグレッシブに行動していく年になると思いますよ。だって人生は『いろいろあるから面白い』でしょ?」

 

———本当にそうですね。すべて来年のための準備だったんだなと思うと、2021年が楽しみになってきました。ありがとうございました。

 

第7回の断捨離に関するキーワード

・2020年は分断の年。いろいろなものを断ち、手放した年
・2021年は好きなものを選び、楽しむ年
・洋服を着替えるように、住んでいる土地も選べる時代へ

 

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
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【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

一般財団法人「断捨離®︎」代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み応用提唱。誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築。断捨離は人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置づけ、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。『断捨離』をはじめとするシリーズ書籍は、国内外累計500万部を超えるミリオンセラー。アジア各国、ヨーロッパ各国において20言語以上に翻訳されている。

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※「断捨離」はやましたひでこ個人の登録商標であり、無断商業利用はできません。
※取材はオンラインで行いました。写真は2020年1月中旬に撮影したものです。



提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

“仕事と労働”は似て非なるもの! やましたひでこが説く、前向きに働くための断捨離的思考

リモートワークや時差出勤など、これまでの当たり前が変わり、働き方に変化を迎えている2020年。「このままの働き方でいいのかな?」と悩み始めた人も多いのではないでしょうか?

 

この連載では、「断捨離」の“生みの親”であるやましたひでこさんの生き方のなかで導き出された、断捨離と「人間関係」や「お金」との関係について、解説していただいてきました。今回のテーマは「仕事」。仕事と断捨離の関係を考えてみると「効率化のために〇〇をする」とか「〇〇している人は仕事ができる」と、ついノウハウに頼ってしまいがちですが、やましたさんによるとそれはNG! それ以前に、知っておくべき心得があるのだとか。心地よく、また自分らしく仕事するためのポイントを教えていただきます。

 

第6回 楽しく快適に仕事するための断捨離的考え方
———仕事の本質を理解する———

———今回のテーマは「仕事」です。“仕事における断捨離”を想像してみると、机の上から物をきれいさっぱりなくすとか、時間内にテキパキと仕事を終わらせるとか、どういったノウハウがあるのだろう? なんて思ってしまうのですが……。仕事をする上で大切な、断捨離の考え方を教えていただけますか?

 

「たしかに仕事と断捨離というと、どうしても“効率化”がクローズアップされてしまいますよね。もちろん、結果的に断捨離することで効率化はされるのですが、実は最優先ではありません。効率化が最優先になってしまうと、仕事の醍醐味や成長が失われていくような感じをおぼえます。仕事について悩んでいるのなら、まずは、“何のために仕事をするのか?”をよく考えてみないといけないのではないでしょうか」

 

———そうですね。ただ、働くことによって対価を得ている私たちにとって、仕事における断捨離はしたいけど、お金のことを考えるとすぐには難しい、また人間関係がつらいけど、年収や今の環境を考えると転職できないなど、断捨離はしたいけれど二の足を踏む人も多いかもしれません。

 

「『仕事=労働』、つまり、仕事は自分のエネルギーと時間を引き換えに、お金をもらうことだと思っていませんか? どんな仕事でも『買っていただきありがとうございます』『こちらこそ、売ってくれてありがとうございます』という、目の前にいるお客さまと“感謝の交換”が気持ちよくできるようになると、仕事が楽しくなってくるのではないでしょうか。

これは家事もそう。よく、“家事労働”という言い方をしますが、本来は“家事仕事”なんですよね。というのも、仕事は“事”に“仕”えると書きます。何に仕えるか意識するだけでも、労働と仕事は違うと思えてきませんか?」

 

———今まで「仕事=労働』という価値観でとらえていたと、ハッとしました。でも、どう向き合い方を変えたらいいのか、わかりません。

 

「これまでそんなことを教えてくれる人がいなかったのだから、わからなくて当然です。『これは労働じゃない、仕事なんだ』と、気がつくところからスタートですよね。労働じゃないと気がついたら、自分がやりたいとか楽しいと感じられる“仕事の自分軸”を探します。これはそうすぐに見つかるものではありません。私だって何十年もかけて経験を重ね、社会に揉まれながら『今の私の軸はこれだな』と、日々変化しながら感じているものですから」

 

———自分軸が見つかったらOKというわけでもなく、断捨離には終わりがないから、日々トライアンドエラーをしながら変化していくのですね。

 

「その通りです。ここまでできたから天職になった! ということではありません。厳しい道のりですけれど、考えてみると、勉強しながらお金がもらえるってすごいことだと思いませんか? 労働ではなく、今やっていることを“仕事”として捉えられるようになってくると、どんな人や環境であっても自分の経験値として積み上げられて、自分軸を築き上げる糧になっていくわけですから」

 

捨てられない書類は、「後回し」の証拠品

———少し話はそれますが、最近は自宅で仕事をする機会が増えたという人も多く、やっぱり職場じゃないと集中できないとか、どうやって仕事環境を整えたらいいのかわからないとか、なかなか落ち着いて仕事ができない人も増えています。断捨離で環境を整える方法はないのでしょうか?

 

「それは簡単。自分のいる仕事空間を美しくするだけです」

 

———それは、机の上がきれいな状態ということでしょうか?

 

「物だけでなく、机の上はもちろん戸棚やPCの中まで、目に入る景色すべて、自分の『要・適・快』に合わせて心地いい状態になっている空間です。PCのデスクトップにファイルがばらばらとまとまりなくあったら、美しくないですよね? 仕事で自分の力を100%発揮させたいのに、どうでもいいものが机の上やPCの中にあったら、力を発揮できるわけないですよね」

※『要・適・快』は、「これは私にとって、必要か(要)・ふさわしいか(適)・心地よいか(快)?」と自分に問いながら必要なものを見定めていくこと。『不要・不適・不快』は、今の自分にとって「あれば便利だけどなくても困らない(不要)モノ・今の自分には合わない(不適)モノ・長く使っているけれど違和感を感じる(不快)モノ」を手放していくこと。

 

———耳が痛いです……。とはいえ、書類なんかもなかなか捨てられなくて。

 

「よく『書類を捨てるコツを教えてください』って聞かれるんですけど、そんなコツはありません」

 

———え! ないんですか!?

 

「できない、捨てられない、と思っている時点でアウトです。『この書類、捨てるに捨てられないんだよなー』って悩んでいる時点で、あなたは仕事としっかり向かい合えていないということだと思います。その書類は、決断を後回しにして保留にしているだけの物なんです。その都度、判断を下していれば書類が溜まるはずがないし、できる・できないじゃなくて、やるか・やらないかだけのこと。『やる』を重ねていく事で、判断する時間もスピードアップし、結果、効率的に仕事ができるようになるわけです」

 

———たしかに、決めてやるのみ、ですよね。反省します。そういえば、やましたさんは普段から名刺を持ち歩かないとか。いつから「名刺は使わない」と思うようになったのですか?

 

「私も最初は、お渡ししていましたよ。でも、その場でしか機能しないものだと気がついたんです。『こういう漢字のお名前なんですね』『遠くからいらっしゃったんですね』って、確認するためのものだったんです。けっして、コレクションするものではないですよね。今の時代、お名前さえわかっていれば気軽につながれるので、名刺を作ることも渡すこともやめました」

 

———なるほど! 私は、知らず知らずのうちにコレクションしてしまっていました。

 

「あとから使う場面があるのなら、どうぞ取っておいてください。目的もなく、その場に置いているだけであれば、空間を無駄にしているだけですよ」

仕事でもっとも頭を悩ませるのは、実は人間関係ではないでしょうか? とくにいちサラリーマンは上司や部下を選べません。仕事における人間関係は、断捨離できないものでしょうか……? 引き続き、やましたひでこさんに伺いました。

 

上司や部下、同僚に期待しすぎない

———先ほどから、耳が痛いことばかりなのですが……、いちサラリーマンは上司や部下を選べません。仕事における人間関係は、断捨離できないものでしょうか?

 

「仕事環境で何がつらいかって、やっぱり人間関係ですよね。どうしてつらいか、考えてみたことはありますか?」

 

———性格の不一致など、さまざまな原因が重なってつらくなる、という感じでしょうか?

 

「たとえば、性格的に合わない上司だったとしても、あなたをちゃんと評価してくれる上司と、いい人なんだけど査定評価ではいつも曖昧にされてしまう上司とだと、どちらの方が人間関係で悩みが発生しますか? きっと曖昧にされてしまう上司のほうが悩みますよね。でもその評価基準って実は、自分の期待でしかないわけです」

 

———「なんでこんなに頑張っているのに、評価してくれないんだ!」って上司に期待をかけ過ぎちゃっているということですか。

 

「言わば、“くれない族”ですね。これもしてくれない、あれもしてくれない、って。『あぁ、私はあの上司に勝手に期待して、自分の期待通りに動いてくれないから不満なんだ』って、自分がくれない族になっていたことに気づくだけでもいいんです。上司の中には、どう頑張っても好きになれない人もいるでしょう。それは『嫌』のまま、放っておけばいいんです。好きになれとは言いません」

 

———ちなみに、今の環境が嫌だから転職したい! という人もいると思うのですが、“くれない族”のままだと転職先でも同じような思いをしてしまう可能性はありますよね。

 

「そうですね。2016年に出版した『感度の高い仕事人は断捨離じょうず。』という本でも書いたのですが、例に挙げたことで言えば、評価してくれない上司には今以上の期待はしない、けれど、『この世の中の貢献に繋がる仕事をする』と決められれば、『今の会社のままでもできるかも』とか『貢献度の高い会社に転職しよう』とか、次なる目標が立てられるようになりますよ」

 

↑『感度の高い仕事人は断捨離じょうず。』(ぴあ)仕事ができる人とはどんな人なのか? 「断捨離思考」を実践している人はなぜかみんな成功しているという。片付けだけじゃない仕事における断捨離を、やましたさんの経験や実例と共に紹介されている。男女関係なく、仕事を頑張りたいすべての人に読んでもらいたい一冊

 

———これまでのお話を伺っていて気がついたんですが、断捨離って「仕事場だけきれいだったらいい」とか「住居だけ整っていればいい」という問題ではなく、ひとつ断捨離できるようになってくると、すべてがつながるというか、表裏一体のように感じますね。きっと自宅の断捨離が上手な人は、お金も仕事も人間関係の断捨離も上手にできるような気がしてきました。

 

「よく、仕事は仕事、プライベートはプライベートと分けている人もいますが、表と裏でキッチリわけるなんて、本来なら難しいはずです。自分はひとりしかいないわけですから。たとえば、バリバリのキャリアウーマンで仕事はできるのに汚部屋に住んでますなんて、ずいぶんギャップがあると思いませんか? キャリアを築くために、朝活や人脈作りに精を出すなら、その前にまず部屋を片付けようか! ってアドバイスしたくなりますね」

 

———汚い部屋に住んでいる私と、キラキラバリバリ働く私のふたりがいるってことですね。常に違和感を感じてしまいそうです。

 

「きっと表のキラキラしている自分でいる方が好きだから、現実の汚い部屋に住んでいる私をバリバリ働いている私で取り繕うとして、ギャップが生まれてしまう。表の自分を強くすればなんとかなる! と、知識やノウハウをどんどん積み重ねて“足し算”を頑張ってしまうのだけど、汚い部屋をキレイにすればいいだけってことに気が付かないんですよね。いらないものを捨てていく“引き算”ができるようになると、自分と向かい合うこともできるし、自分の軸もはっきりする。人生が変わってきますよ」

 

———本当にそうですね。人間関係も足し算を頑張っちゃいますが、冷静に考えてみると逆なんですね。

 

「増やせばいい、たくさんいればいいってことでもないですから。人間関係も足し算では考えません。信頼できる人、敬意を払える人とのネットワークがあれば十分です」

 

———今回は、「仕事」と「労働」の違いから、人間関係の話まで、断捨離を通じて自分の仕事を振り返ることができました。ありがとうございました!

 

第6回の断捨離に関するキーワード

・「仕事」と「労働」は違う
・書類は、“後回し”にした証拠品
・仕事環境も自宅も、“要適快”なうっとり空間を目指す
・人間関係は引き算で考える

 

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/

【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

一般財団法人「断捨離®︎」代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み応用提唱。誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築。断捨離は人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置づけ、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。『断捨離』をはじめとするシリーズ書籍は、国内外累計500万部を超えるミリオンセラー。アジア各国、ヨーロッパ各国において20言語以上に翻訳されている。

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※取材はオンラインで行いました。写真は2020年1月中旬に撮影したものです。



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“お金と断捨離”は相入れない? やましたひでこが説く、お金の正しい生かし方

新型コロナウイルスの猛威に右往左往することになった2020年。思い描いていた未来とは違った現実となりましたが、2020年下半期も不安と背中合わせに過ごす日々になってしまうのでしょうか? 経済情勢も大きく変わり、“お金”について考える機会が増えた、先の見えない不安に貯蓄したいと考える人が増えた、というニュースも聞こえてきます。

 

これまで「断捨離」の生みの親である、やましたひでこさんに人生を振り返りながら、断捨離の真意を語っていただいてきましたが、そこから発展して、前回は「人間関係と断捨離」について伺いました。続く今回のテーマは、誰もが気になる「お金」について。人生を豊かにする「お金と断捨離」の関係を紐解きます。

 

第5回 財布、そして貯蓄の断捨離的考え方
———お金は目的を果たすためのエネルギー———

———今回は「お金」について伺います。まず、一番身近な“財布”について考えてみたいのですが、今までのお話を振り返ってみると、財布もひとつの“空間”として考えていいということでしょうか?

 

「そうですね、財布はお金のおうちです。お金にとって、居心地が良いと感じられる空間なら、お金も機能してくれます。お金は自発的に動くことはできませんが、その財布に入っているお金は持ち主のお金です。つまり、その財布の住環境を作り出しているのは、持ち主自身ということなんです」

 

———たしかに、お金は勝手に増えることはないですよね。ついつい「金運アップのために、黄色いお財布にしよう!」などと形から入ってしまいますが、冷静に考えたらそれは、財布を変えただけでは金運はアップしないですよね。

 

「色や形状は何でもいいんです。せっかく素敵な空間があっても、手入れもせずレシートだらけで、いくらお金が入っているかもわからない、残念な財布を持ち歩いている人が、金運を上げられると思いますか? 以前、『要・適・快』の話をしましたが、これは財布という空間でも同じです。“あなたのお金がきちんと機能できるような空間になっているか”が重要なんです」

※『要・適・快』は、「これは私にとって、必要か(要)・ふさわしいか(適)・心地よいか(快)?」と自分に問いながら必要なものを見定めていくこと。『不要・不適・不快』は、今の自分にとって「あれば便利だけどなくても困らない(不要)モノ・今の自分には合わない(不適)モノ・長く使っているけれど違和感を感じる(不快)モノ」を手放していくこと。

 

———なるほど。

 

「それに、財布を長財布にして、小銭入れと分けて、新札も揃えて入れても、もっと大きな空間である自分の家や環境が残念な有り様だったらどうですか? 『要・適・快』を理解していれば、財布の汚れやお札の向きとかも気になるだろうし、ご機嫌なお金の使い方ができるようになるはずです。すべての空間をクリエイトしているのは、自分自身の意識です。クローゼットも、リビングも、キッチンも、財布も、考え方は同じことです」

 

お金をエネルギーとして考える

———ついつい、財布だけに意識が向いてしまうといいますか、中身のお金は別で考えてしまいがちですが、俯瞰してみればモノで捉えられるということですね。ところで、ふと疑問に思ったのですが、「貯金」とは、断捨離とは逆の発想ですよね。そこに矛盾はないのでしょうか?

 

「まずここから考えてみましょう。そもそも“貯金”とは何でしょうか?」

 

———将来のためにとっておくお金……でしょうか?

 

「では、『ためる』という漢字を思い浮かべてみてください。貯水池の『貯める』と、ため池の『溜める』がありますね。貯水池は、もしくはダムというとわかりやすいでしょうか、入ってくる水と出ていく水の流れがある中で、必要な時に供給できるよう、水を貯めておく場所です。一方、溜め池は、雨など自然から水は入ってきますが、どこかに使われたり流れていくことはないので、よどみが生じます。これはあくまで私個人の考え方ですが、貯金も貯水池と同じように“使うため”にお金を貯めておくことで、そこに留めて“溜めて”おくものではないと思っています」

※灌漑目的で人工的に形成された池を「溜め池」と呼ぶ場合もあります。

 

———なるほど! 使うためのお金が、貯金ということですか。

 

「さらに言えば、お金は人間に必要な“エネルギー”だと思っているんです。例えば、クルマを走らせるためのエネルギーはガソリンですよね。ガソリンを入れているだけでクルマは走りますか? ガソリンを消費して、クルマを走らせなければ目的地にはいけません。もちろん、目的地に行く途中でガス欠は避けたいので、辿り着けるだけの潤沢なエネルギーは欲しいですが、ガソリンを入れているだけで走りもしないクルマは、目的地にも近づけません。お金も一緒で“使わないと機能しない”のです」

 

———思えば、私も節約することを優先して、ただただお金を溜め込もうとしていた気がします……。

 

「節約にもエネルギーはかかっているんですよ? 節約には“時間”というエネルギー、労力というエネルギーが必要です。一度考え方をフラットにして、節約するためにかかった時間と労力と、節約できたお金を比べてみてください。それぞれどれくらいの差があるでしょうか?」

 

———たしかに、考え直してしまいますね。

 

「私がお会いした、節約だけが目的になってしまっている人たちは、『私は節約しなければいけない』という刷り込みを毎日毎日しています。それでは心が疲弊してしまいますよね? 例えば、小さなゴミ袋に満杯までゴミを詰め込んで袋を節約できた! とか、フリーザーバッグを洗って干して何度も使うなど……。エコのためなら素晴らしいのですが、ただ節約のためだとしたら、それでいくらのお金を節約できたのでしょうか? “モノの機能を活かす”暮らしをしないと、いじましい生活になっちゃいますよ!」

 

———猛省します。もっと視野を広くして、エネルギーを賢く使っていかないといけませんね! もうひとつ貯金について伺いたいのですが、「海外旅行に行きたい!」と将来使うための貯金と、「将来が不安だから……」とさしあたって使う目的がない貯金がありますが、お金がエネルギーとするならば、貯金には目的や動機はあった方がいいのでしょうか?

 

「動機が希望なのか、不安なのか、同じ行動でも結果はそれぞれ別な形で出てしまいます。これはお金に限らず、さまざまなことで言えますね。『お金は“ある”んです、残念ながら今手元に“ない”だけで』って思いながら、“ある”ということに着目できればいいのだけど、私たち人間は、“ない”に注目するのが得意な生き物です。お金がない・時間がない・自信がない……って無意識&無自覚で、不安なイメトレをしちゃうんですよね。不安にならないためにも、断捨離のトレーニングは必要です。『これは捨てても大丈夫』『これは手放しても生きていける』と」

 

———以前の緊急提言でも教えていただきましたね! つまりお金もモノだから、今“ある”と実感できれば、「〇〇万円貯金しないと!」と金額にとらわれることもなくなり、“ない”という思考から脱却できると。

 

「エネルギーは使ってこそですから。先ほどクルマに例えましたが、タンクにガソリンが満タンでも、行動しなければ車は走りません。じゃあ、使ってみよう! と行動することで、結果が返ってきます。お金って『通貨』って言いますよね? まさに通過していくものなんです。どういう通過のさせ方をしているのか、通過される量よりも自分のお金が機能する質の高い使い方をしているかどうか、断捨離もまずは『出す』というのを以前お話しましたが、お金も出していくことがポイントです」

 

お金の質を高めるために「出す」、とはいったいどういうことでしょうか? 次のページではその真意・極意を引き続き、やましたひでこさんにうかがいます。

お金の質を高めるために、まずは「出す」

———お金を“出す”というと、とにかく使う! とイメージしてしまうのですが……。

 

「お金を得る方法は知っていても、出し方・使い方を知らない人が多いですよね。物理学で『エネルギー保存の法則』ってありましたよね? 孤立したエネルギー総量は変化しないという法則です。そのまま何もしなければ総量は変化しないけれど、もしほかのエネルギーと関わりを増やして、循環させると総量はどうなると思いますか?」

 

———増えていく?

 

「そう、自分だけで完結してしまう孤立したエネルギーだとそこだけで終わってしまいますが、困っている人を助けるため、家族や友人を喜ばせるため、社会のため……お金というエネルギーを使うとどうでしょう。『エネルギー保存の法則』で考えたら、自分の総量は増えますよね。気持ちも潤うし、お金の質が高まっていくような感覚に変わります」

 

———小さなことで言うと、スーパーで「とりあえず」と割引の付いたものを買うよりも、100円プラスして自分が美味しそうと思えるお刺身を買った方が心は豊かな気がします(笑)。そう思うと、プラスで出した100円がすごく価値あるものように感じてしまいますね。

 

「何かモノを得るためにお金を出すわけですが、お金が残念なモノに変わってしまっていたら、残念な気持ちになりますよね? 今日のお買い物で3000円使えると考えて、“とりあえず”予算内に収まるものを買うのか、自分の気持ちを尊重した“お気に入り”を買うのか、繰り返していくうちに洗練され、質について考えられるようになりますよ」

 

———本当に欲しいものを、お金というエネルギーを使って、買っているか? ということですね。

 

「選択と実践を繰り返していけば、勝手に質は上がっていきます。良いものを選べた! といううれしい気持ちが生まれれば自己肯定感も育まれていくので、いい循環ができてくるんです。その時その場の最上級を選ぶぞ! という意識です。無理に寄付をしなさい、質の高いものを買いなさい、お金を出しなさいと言っているのではなくて、今自分が持っているお金を自分が心地よくなるためにどう使うか、選択できる力を身につけて欲しいのです」

 

———「お金」ってついつい“ない”ものだと考えてしまいますが、“ある”ものをどんなエネルギーに変えてどうやって機能的に使うかを考えていくと楽しくなってきますね。

 

「人生は楽しんでこそ! 考え方を変えるためには、行動が先です。『節約しなきゃ』ととらわれている人は、一度たっぷりのお湯のお風呂に浸かってみたらいいですよ。もう心の底から気持ちいい! を感じられるはずですから(笑)。私自身もトライ&エラーを繰り返しながら、寄り道しながら、この考えに辿りつきました。選択して、実践していく中で自分の行動が何倍にもなって返ってくることを体験しています。お金は汚いものなんかではなく、感謝のエネルギーなんです。自分が持っているこのお金をどう使うか、どう貢献できるか、考えると楽しくなってくるはずです」

 

———シンプルなようでとても奥深いメッセージが込められていて、お金は身近で大切なものだからしっかりと向かい合わければ、と痛感しました。ありがとうございました。

 

第5回の断捨離に関するキーワード

・貯金は“使うために”貯めるお金のこと
ないことよりも、あることに目を向ける
・お金は「エネルギー」。使って、出すことで巡ってくる

 

第6回は、仕事と断捨離の関係について。仕事という形のないものはどういった空間理論でとらえるべきなのか、上司や職場の人間関係、収入なども含めて教えていただきたいと思います。

 

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/

【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

一般財団法人「断捨離®︎」代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み応用提唱。誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築。断捨離は人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置づけ、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。『断捨離』をはじめとするシリーズ書籍は、国内外累計500万部を超えるミリオンセラー。アジア各国、ヨーロッパ各国において20言語以上に翻訳されている。

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※「断捨離」はやましたひでこ個人の登録商標であり、無断商業利用はできません。
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その“常識”に無理してない? 漫画家わたなべぽんさんが『やめてみた。』シリーズで伝えたいこと

累計30万部突破の人気シリーズ『やめてみた。』の著者、漫画家のわたなべぽんさん。このシリーズは、家の中にあるものから人間関係まで、「こうあるべき」と、いつの間にかとらわれてしまっていた“しがらみ”を一度「やめてみる」ことで、わたなべぽんさん自身がどう感じ、また自分自身と周りの人たちがどう変わっていくのか、優しくユーモラスに語られるコミックエッセイシリーズです。2020年5月には最新刊『さらに、やめてみた。』が発売され、たくさんの読者から「泣けた」「気持ちが楽になった」など多くのうれしい声が寄せられているようです。

 

このシリーズのファンだという、@Livingでお馴染みのブックセラピスト、元木忍さんが話を伺いました。

 


『さらに、やめてみた。~自分のままで生きられるようになる、暮らし方・考え方~』
わたなべぽん / 幻冬舎
「暮らしの中」「人付き合い」「家族」の中でやめてみたことが描かれた、『やめてみた。』シリーズの第3弾。サンダルやサークル活動、夫との共同貯金など、「こうあるべき」をどうやってやめていくのか。そしてやめたことで新たに見つけた「自分のやりたいこと」とは?

 

炊飯器が壊れたことがキッカケとなった「やめてみた。」生活

元木 忍さん(以下、元木):今回の新刊も楽しく読ませていただきました。ぽんさんの漫画には愛嬌があって、実にリアルで、読みながらうなずいてしまうんです。これまで『やめてみた。』『もっと、やめてみた。』、そして最新刊の『さらに、やめてみた。』の3冊をリリースされていますが、このシリーズの始まりは「炊飯器をやめてみた。」だったんですよね。

 

わたなべぽんさん(以下、わたなべ):そうなんです。家の炊飯器が壊れてしまい、ふと土鍋でご飯を炊いてみようと思ったことがきっかけでした。次の炊飯器を買うまでの短期間を土鍋でしのごうと、見よう見まねで炊いてみたんですけどこれがほんとに上手に炊けちゃったんです。それですっかり土鍋に魅了されて、炊飯器を新調しないことに決めました。

 

元木:新しいものを買わないというところがぽんさんらしいというか、新たな気付きを得ているのが素晴らしいですよね。

 

わたなべ:その時、私の中にあった小さな『こうあるべき』みたいなものが取り払われたような気分だったんです。「ああ、炊飯器って生活必需品だと思っていたけど、なくても生きていけるし、むしろ楽しくなったなんてすごい!」って(笑)

↑炊飯器が壊れたことがきっかけで、日常生活の『こうあるべき』が取り払われたシーン。「むふふ」と笑顔なぽんさんがとても楽しそうで、「私も炊飯器やめてみようかな」と思えてしまう

 

わたなべ:私は子どもの頃から、ほかの子たちと同じことをしたり、決められた課題をこなすのが大の苦手で、世間一般に言われる『こうあるべき』が私にとってはできないことも多かったんです。できないことをいったんやめて、自分がやりやすい方法を見つけてみようと思えたのは、土鍋生活の体験で喜びがあったからだと思います。

 

元木:なるほど。土鍋に感謝ですね(笑)。それ以降、モノだけでなく人間関係までやめられていますよね。今回の新刊『さらに、やめてみた。』では、家族間のことまで描かれていらっしゃいます。これらはすべて実話なんでしょうか?

 

わたなべ:お話はすべて実際にあったことや体験したことが元になっています。でも加工はしています。登場人物が特定されないよう配慮したり、読みやすいように言葉を省略したりしますよ。子どもの頃から、日々の暮らしの中で心に引っかかったことをあれこれ考える癖があったので、それを漫画にさせていただいてるという感じです。

 

元木:実話だからこそなんだと思うのですが、ぽんさんと一緒に成長していくような、読み終わると「私もやめてみよう!」という気持ちがわいてきて、すごく心地いいんですよね。

 

わたなべ:ありがとうございます。でも、すべてを描いているわけではないので、やめられなかったことももちろんあるんです。

 

元木:日常のすべてをやめるわけにはいかないですからね! ぜひどんなことか教えてください。

 

わたなべ:やめようとしてやめられなかったことを話すのって、なんだか恥ずかしいですね(笑)。実は、変わった調味用や食材を試してみることが大好きなんです。旅行先で面白い調味用や美味しそうな保存食を見つけると、ついあれこれ試してみたくなって、たくさん買ってしまうんです……。

 

元木:わかります!

 

わたなべ:あと、物産展やお取り寄せサイトも大好きで、ついついうろうろ散策しちゃいますね。でも未開封の調味料が台所に山のように溜まってしまったこともあって……。それを見て「やめよう」と思ったんですが、根が食いしん坊なこともあり、旅行先での楽しみも減ってしまう気がして挫折しました。今ではちょっとセーブしながら買うようにしています。

 

読者目線で、ぽんさんとともに成長していく「夫君」の存在

元木:この本の重要人物といえば、夫君ですよね? 『さらに、やめてみた。』では特に、夫君の存在感が強くなっているというか、あらためて心も広くて、素敵な方だと感じました。「察してほしい」の巻でキッパリと「察せませんっ。」という姿も、偉大な人に見えました。

↑『さらに、やめてみた。』の第11話「察してほしい」の巻では、友人の娘さんが反抗期だという話から、「私も夫君なら許してくれるという甘えがあったのかも」とぽんさんが気付き、察してほしいと思っていたことをやめてみることにしたのだとか

 

わたなべ:ありがとうございます。そんな風に言っていただけると夫も喜びます。 偉大な人だなんて言われると困ってしまうのですが、もちろん人並みに欠点も短所もありますよ。例えば、言い出したらなかなか折れない頑固なところとか、人の好き嫌いが激しいところとか、私以上にインドアで出不精で……あ、これ以上は夫のためにも止めておきます(笑)。

 

元木:(笑)。でも、本当に仲良しですよね。コミックからも伝わってきます。

 

わたなべ:あまりほかの家庭と比べたことがないので、我が家が特別仲良しかどうか分かりませんが、言い合いをするようなケンカはないですね。問題が起こらないというよりも、ふたりとも声を荒げるのが苦手という感じです。言いたいことやお願いは、ズバズバ言わずに「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」と前置きをして、やんわり要求を伝えるようにしています。ふたりきりの生活なのでギスギスしても良いことはないと、お互い学んだ結果という感じです。

 

元木:お互いに学べる関係性が素敵です。あと、おふたりで居酒屋さんに出かけたりするシーンも描かれていますが、ご自宅でもおふたりで晩酌をされるんですか?

 

わたなべ:お酒は大好きですし、強い方だと思います。でも晩酌を毎晩はしないです(笑)。仕事が残っていて夕食後にも机に向かうこともあるので、そんな時はノンアルコールビールや炭酸水を飲んでいます。何でも飲めるので、料理によって合うお酒を楽しめるのは良かったなぁと。最近は特に日本酒が好きで、日本酒についてもう少し詳しくなりたくて勉強したいと思っていたところでした。

 

元木:日本酒! いいですね〜。お料理もよくされている様子が描かれていますが、お料理することは楽しいですか?

 

わたなべ:忙しい時は外食やデリバリーに頼るんですけど、料理は好きな方だと思います。一日中机に向かっていると、ほっと一息つきたい気分になって、休憩時間にぶらっと近所の商店街を回って食材を選ぶのが気分転換になったりします。

 

元木:商店街に行く場面も描かれていましたね。

 

わたなべ:そうですね。『さらに、やめてみた。』のスーパーの巻でも描きましたが、近所の個人商店を回る面白さに目覚めてからは、なおさら楽しいです。あとネーム(漫画の下書きのようなもの)に悩んでる時ほど、しっかり出汁を取ったり丁寧に魚の下処理をしたくなるんです。いったんネームから頭を離すことで、次に紙に向かったとき、頭が柔らかくなっている気がするので。

 

元木:自分のルーティンをわかっているんですね! ひとりの自由時間はどんなことをされていますか?

 

わたなべ:ひとり時間大、大、大好きです(笑)。コロナ禍の外出自粛生活中、夫はテレビゲームに夢中だったので、私は存分にひとり時間を楽しみました。憧れだったパンドカンパーニュにトライしたんですが、初めてのわりにとても上手にできて感激しましたー! 実は「こんなインドアでひとり時間ばっかりじゃダメだ!」と自分を責めていた時期もあったんです。もっと友達も増やしてアウトドアな趣味も広げて、もっと外に楽しみを見いだそう! と。でも今回の外出自粛生活ではインドアな性格や趣味のお陰で、それほどストレスを感じずににいられたので、こんな性格もまんざらじゃないな、なんて思ったりして (笑) 。

↑大の植物好きでもあるぽんさん。『もっと、やめてみた。』の中では、大好きだった観葉植物をやめたことで多肉植物と出会い、大切に長く付き合うことの大切さを実感できたのだとか

 

心地よさと怠ける心は、似て非なるもの

元木:ぽんさんは、いつから漫画家さんになりたいと思ったのでしょうか?

 

わたなべ:子どもの頃から漫画家になるのが夢だったんです。

 

元木:すごい! 漫画家さん一筋だったんですね。

 

わたなべ:幼稚園児の頃、近所に年の離れたお姉さんがいるおませな女の子がいたんですが、先生に将来の夢を尋ねられて「漫画家になる」と言ったのが、私にはとても衝撃で。漫画家という言葉を知らなかったので、なんて大人な発言なんだ! と思いました(笑)。当時からお絵描きが大好きだったので「そうだ! 私も漫画家になろう!」と思ったことを憶えています。

 

元木:その女の子がいなかったら、ぽんさんはいなかったわけですね。大人になってからはすぐに漫画家さんの道を歩まれたのでしょうか?

 

わたなべ:漫画家の前は古本屋の店長をしていました。店番している時にゆっくり本を読んでいられるなんて最高の仕事じゃないか! と思い、自宅で投稿用の漫画を描きつつ古本屋で働きました。ただ、オーナーの意向で徐々に男性向けアダルト商品も取り扱う店に変わっていってしまい……気がつけば私は女性でありながら、古本屋兼男性向けアダルトショップの店長になっていたんです。

 

元木:『女だけどHな本屋さんで店長してました』(KADOKAWA/メディアファクトリー)ですよね。読ませていただきました。

 

わたなべ:ありがとうございます。でもここで働いていたおかげで、漫画家デビューできたんです。それまでエッセイ漫画を描いたことはなかったんですけど、人生何がきっかけになるか分からないものだとびっくりしました。

 

元木:人生何がきっかけになるかわからない、というのは、ぽんさんの本を通じてのテーマだと思いました。『さらに、やめてみた。』の最後には、「自分が変わればまわりにも変化がある」とも書かれていましたが、そこに至るまでの考えにとても共感できます。やっぱり口に出して思いを伝えたり、行動するというのは大切ですよね。なかなか自分の思いやきっかけをつかめないと悩んでいる人に、アドバイスをいただけないでしょうか?

↑『さらに、やめてみた。』のエピローグで、今まで自分の思いを口に出すことが苦手だったことが語られている。ここは、ぽんさんが「ちゃんと自分の意見が言える」ことの大切さに気がついた場面

 

わたなべ:私自身も悩みながら試行錯誤の毎日なので、アドバイスさせてもらえる立場ではないのですが、これまでの『やめてみた生活』で感じたことは「試すことや変わることを楽しもう」と思えたことが、行動に大きく影響したのではないかと思います。無理やり嫌なことを始めてもやっぱり長続きしないですし、いやいややっていることって、他人から見てもなんとなくわかっちゃうような気がするので。つい自分で始めたことをやめることに罪悪感を感じてしまったり、変わろうとする自分に一貫性を感じられなくて恥ずかしくなったりすることがあるんですけど、変わっていくことは面白いことなんだ! と思ってトライしています。

 

元木:ありがとうございます! 変わっていく中というか、『やめてみた。』シリーズを通じてぽんさんが発見したこと、とくに心に残っていることを教えてください。

 

わたなべ:やめてみた生活をはじめ、自分を見つめ直す漫画を書き続けてきて一番思うのは、『心地よさとは、だらしなく怠けることではない』と感じることが多かったように思います。

 

元木:なんだか強い言葉ですね。

 

わたなべ:そんなに厳しいことではないんです(笑)。私はずっと、身体や心を休めるのは、怠けたりダラダラすることだと思っていました。たしかに「今日はお風呂掃除を休んじゃえ〜」なんて時は、ちょこっとホッとすることもあるんですけど、本当の心地よさって、心に引っかかることを片付けてしまうことじゃないかなぁと思うんです。

 

元木:だらだらしても心地よくならないのはわかる気がします。心のモヤモヤをお掃除するというか、気持ちの整理するほうがぽんさんにとって心地よかったんですね。

 

わたなべ:そうですね。最近では、欲しい情報がなんでも得られるので、正しい情報とそうでない情報を見分ける回数も増えてきたように思います。コミックエッセイは読者の方々に共感してもらうことが必要ですが、私自身の考えが偏らないように情報との付き合い方を学ばねばと思ったりもしています。

 

元木:では最後になりますが、これからぽんさんが、「やめたいこと」ではなく(笑)、「やってみたいこと」を教えてください!

 

わたなべ:インドア派なので、ひとり時間を楽しめる趣味はたくさんあるのですが、アウトドアやスポーツでなにか趣味があれば素敵だなと思っています。田舎に住む弟が大の釣り好きで、時々釣果を知らせてくれるのですが、とても楽しそうで羨ましくて。自分たちで釣った魚をその場で調理して食べてみたい! できればそこに美味しいお酒も! なんて食いしん坊なことを思っています(笑)。

 

元木:『やめてみた。』シリーズは一応今回で完結ということですが、また機会があったら番外編なども期待してしまいますね。引き続き、ぽんさんの漫画をたくさん読みたいと思っています。本日はありがとうございました。

 

Profile

漫画家 / わたなべぽん

漫画家。山形県出身。第6回コミックエッセイプチ大賞・C賞を受賞しデビュー。今回紹介した『やめてみた。』シリーズは累計30万部を突破。ほかにも、汚部屋脱出の体験を描いた『ダメな自分を認めたら 部屋がキレイになりました』『面倒くさがりの自分を認めたら 部屋がもっとキレイになりました』(ともにKADOKAWA/メディアファクトリー)や、「自分のことが嫌い」という感情を克服していく過程を描いた『自分を好きになりたい。』(幻冬舎)などがある。

溜め込まず持ち込まない! デスク周りを整理整頓する9ルール

会議で共有したレジュメや学校のプリント、地域の配布物といった書類や、交換した名刺、粗品などでいつの間にか増える文房具……自宅も会社も、デスクやその周りには、気づけばモノでいっぱいになってしまいがち。特に書類は、保管しておく必要のあるものや、あとでしっかり読もうと思いながらそのままになっているものなどたくさんあり、不要かどうかを精査するのにすら、時間がかかります。

 

整理収納コンサルタントの森山尚美さんに、デスクとその周りをすっきりと片付けるコツを、9つのルールにまとめて教えていただきました。

 

1.デスクに座るまでに書類の8割は処分する

紙モノの整理は、「持ち込まない」ところからはじまると森山さんは話します。自宅であれば、請求書やチラシ、公共料金の領収書、年金や保険のお知らせなど、日々ポストに届くものを、できるだけ手に取った時点でいらないかどうかを判断して、“溜め込まず持ち込まない”のが、片付けをスムーズにする重要なポイントです。

 

「あとで読もう、あとで考えようとして封筒を開けずに放置してしまうと、確認するのがどんどん面倒になったり、置いてあることを忘れてしまったりします。後でよく読む必要があるときは“一週間だけ”などと期限を決めて書類を置いておける場所を作り、それ以外はなるべくその場で封を開けて、しまうべき場所にしまう癖をつけましょう。わたしの経験から、持ち込んだ紙モノのうち8割は捨てられると思うので、玄関先やリビングの目立つ場所など、目につく場所に紙用のごみ箱を用意して、すぐに捨てられるようにします」(森山尚美さん、以下同)

 

雑誌がゆったり入るサイズの古紙ボックスは、いらないと確認したチラシや領収書などをすっと入れられます。

 

「片付けは、モノを流れにのせることがとても大切なんです。そのモノが家に入ってきて出て行くまでのルートを作ることを意識します。たとえば宅配ピザや、水道トラブルなどのとき必要になる工事会社のチラシなどは、本当に必要でしょうか。たいていはインターネットで調べればわかることですから、とっておいても本当に使うのか考えてみましょう。必要なのであれば、どこにどう保管しておくと、必要なときにすぐ取り出せるのかを考えます。また、保険の証書など更新されていく書類は、新しいものが届いたら古いものを処分する癖をつけ、最新版だけが常にファイリングされている状態を目指します

 

2.期限つきの“あとで考えるボックス”は週末必ず確認する

しっかり読まなければならない書類や、「来週の◯◯のときまでとっておかなければならない」などと、その時期が終われば捨てられる書類は、“あとで考える”ためのボックスに一時的に入れておきましょう。時間があるときに見られるよう、よく座る場所の近くに置いておきます。

「“あとで”と言ってここに書類が溜まっていってしまうのを避けるため、週末には必ず確認する、などと期限をしっかり決めておきましょう。保管が必要だけど、どこにどうしまっておけばいいかわからないものは、携帯電話で写真を撮って書類を捨てる、という方法もあります。スケジュールに関わるものは手帳に書き写したら捨て、連絡先に関するものは携帯電話に登録するなどして、手元にある書類を増やさないようにします」

 

3.デスクの上はシンプルにして作業スペースを確保する

デスクの上に書類が溢れていると、作業効率も悪くなります。置いておくのは、いつも使う数本のペンを立てておくくらいにしておき、なるべく他のものは机の中にしまったり、ファイルしたりして整理を心がけましょう。

「書類が雪崩を起こすようなデスクは、自宅ならともかく、職場では周囲にとっても気持ちのいいものではありません。整理整頓をしておくと頭の中もクリアになると思いますから、きちんと身の回りを整えて仕事に臨みましょう。書類をスキャンしてPDFファイルで保存しておける電子機器もありますから、紙で残すのかどうかについても精査が必要です

 

4.仕事に必要な書類は案件ごとにクリアファイルでまとめる

仕事の書類は、すべて案件別に整理して立てて収納しましょう。フィルム付箋にクライアント名や案件名を書いて貼っておくだけで簡単にラベリングできますから、こういった手間のかからない方法で整理できるようにします。また、こちらもお金関係のファイルなどと同じように、古いものは捨てるか、すぐに手が届かない場所に保管するなどして、最新の情報にアクセスしやすくしましょう。

「テプラなどを使えばきれいにラベリングできるのですが、きれいに整理しようと思うと手間がかかります。手間がかかるということは時間がかかるので、時間ないから後にしよう、と後回しになる可能性があります。そこで、きれいに収納することは二の次にして、放置してしまうよりとにかく自分がわかるようにしまう、ということに注力するようにすれば、片付けはスムーズに行えます。こちらも寝かせて収納するタイプの棚をよく見かけますが、底が見えなくなると探しづらいので、立てて収納することをおすすめします」

 

5.文具は必要最少の数だけ残して捨てる

カラーマーカーやステープラー、マスキングテープ、消しゴムにボールペンの替えインクなど、文具はかさばる上にひとつひとつの形が違うので、収納に困るアイテムのひとつです。同じものがいくつもないか、探してみましょう。

「ホチキス(ステープラー)が3つも4つもある、というお宅も多いので、まずはそういうところから、持ちものを減らしていきます。また、買ったりもらったりするときにも、注意が必要です。3本セットになったペンを買うと荷物は増えますから、今必要な分だけを購入するようにしたり、景品や粗品も不要であればもらわないようにしたり、モノをデスク周りに持ち込むときは考えてからにするという癖をつけます。収納したいものが決まったら、それに合わせた小さな引き出しを用意しましょう。あれこれ探す手間を省くためラベリングをしておくと、必要なときにすぐ取り出せて便利です」

 

6.増えていくレターセットも一括してファイルで保管

ポチ袋や便箋、一筆箋やシールなど手紙関係の文具も、ポケット式ファイルに収納しておくと便利です。宅配便の伝票や封筒に貼るラベル、切手など、手紙や宅配に関わるものはすべてひとまとめにしておきましょう。ファイルの収納場所は、「出し入れの必要があるファイル」と「出し入れの必要がなく保管しておくだけのファイル」を分別し、前者はいつも手の届く場所に、後者は奥にしまうなどして、棚や引き出し自体の整理整頓も心がけます。

「レターセットを箱で収納している方をよく見かけますが、ファイルで収納することでぐっと探しやすくなります。奥や底のものが見えづらくなる収納は、モノが埋もれていってしまい、結局表面や見えている部分のものだけを使うことに。普段は使わないけれどとっておきたい、というものを収納するときにだけ、奥行きや深さのある収納方法を選び、基本的にはモノが見えなくなることを避けて整理整頓しましょう

 

7.名刺やカード類は手間のかからない方法で

名刺は、あとから探す必要があれば会社や案件ごとに分けて収納し、連絡したいときに取り出せるようにしておきましょう。PCや携帯電話に登録したり、カードリーダーを使ってデジタルで整理したりするのもひとつの方法です。また、ショッピングカードはすべてを財布にしまうと重たくなりますから、ファイルに入れて保管しておいて買い物のときに持ち出すのが、森山さんのおすすめだそうです。

「日常の連絡は、だいたいメールや携帯電話の登録を見れば連絡先がわかるので、わたしの場合、名刺は年賀状や季節の挨拶を贈るときのために、保管してあります。名刺フォルダーに一枚一枚入れると手間なので、引き出しにざっと収納するようにしています。ショッピングカードは、すべて持ち歩けるようにファイリングしたり、カードそのものを持たずアプリで管理するようにしたり、さまざまな収納のスタイルがありますから、自分に合う方法を見つけてみてください」

 

8.お金関係の書類はすべて同じファイルやポーチにしまう

年金や保険、銀行からの通知などは、細かく分類してしまうと、いざ必要なとき探すのに時間がかかってしまいます。厚さのあるポケット式ファイルを準備して、「お金関係のことはここを探せばいい」というふうに、一括してしまっておきましょう。印鑑や通帳なども銀行別にしたり名義別にしたりせずひとまとめにしておくことで、紛失を防ぎます。また、繰越の通帳など、普段は使わないけれど保管が必要なものと、銀行などに持ち出すいつも使うものとは分けておきましょう。

「お金に関わる書類でいちばん困るのが、必要なときに見つけられないことです。事故にあったから保険の確認をしたい、今月の支払いが終わっているかわからなくなってしまった、などというときに、書類が見つからないのでは大変です。とにかくお金のことで困ったらこのファイルを見ればいい、というふうにしておけば、探すのに手間がかかりません。また、連絡先や担当者名をわかるようにしておき、問い合わせたいときにスムーズに書類が活用できるようにしておきましょう」

 

9.配線コードは収納ボックスに入れてしまうとすっきり

デスク周りに伸びる配線は、ひとつひとつ縛って整理するよりもボックスでの収納が楽でしょう。配線周りは静電気で埃がたまりやすいので、掃除にも手間がかかりません。また、部屋のどの位置にどんなコードをつけておくべきかについても考えてみましょう。

「携帯電話の充電器はデスクにあるより寝室のほうがいい、などと、生活スタイルに合わせて場所を考えていくと、本当にデスクの周囲に必要なコードがわかります。毎日使わないような充電器などはしまっておき、ここには収納しないようにするとすっきりと片付きます。ちなみに充電器も、すべて同じポーチなどに入れて収納することで、なにかを充電したいと思ったときはそのポーチを探せばいい、としておくと便利です」

 

ついつい後回しになってしまう請求書や領収書の山も、一度しまうべき場所をきちんと作っておけば、その後の整理が楽になります。必要なものをいつでも取り出せるシンプルなデスクはモノを探す時間を減らし、作業効率をあげてくれるのです。書類ではなくデジタルで残すという方法も視野に入れながら、今日もきれいなデスクで仕事したいですね。

 

【プロフィール】


整理収納コンサルタント/森山尚美さん

シンプルライフスタイリスト、整理収納コンサルタント。看護師として病院勤務ののち、11年間の専業主婦時代を通して片づけ、シンプルライフに開眼し、2012年整理収納アドバイザー1級を取得。SIMPLUSを立ち上げ、「もっと素敵に、私らしく暮らしたい」人への片づけレッスンや、各種セミナーの講師として活動。「整理収納からはじめるシンプルライフ」を伝えている。

 

取材・文=吉川愛歩 撮影=山本雅世 構成=Neem Tree

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『凪のお暇』――主人公の人生のリセットが、「普通」に疲れた女性たちの共感を呼ぶ

ドロップアウト女子を描いた漫画『凪のお暇』(コナリミサト・著/秋田書店・刊)が熱い支持を受けている。事務職として働いていた28歳のヒロイン・凪子が、過呼吸になったことをきっかけに会社を辞め、スマホも解約し、郊外の3畳のボロアパートに引越す。

 

苦境だらけに思えるこのマンガは、なぜ「ananコミック大賞」を受賞し、「マンガ大賞」でも3位を獲得したのだろうか。

 

「普通」に疲弊

退職するまでは、凪子は普通のおとなしい会社員だった。とはいえ損ばかりしている。おとなしいからと多くの人にナメられ、上司からは必要以上に叱られ、同僚からは仕事を押し付けられ、彼氏に勝手に部屋に上がり込まれる。しかも彼と付き合っていることは会社の人たちには秘密だ。それでも彼女が耐えていたのは、いつか寿退職をして大逆転ができると信じていたからである。

 

こういう女性は凪子だけではない。多くの人がたとえ理不尽なことがあってもなんとか辛抱して日々を耐え忍んでいるのだ。けれど、すがっていた希望を失った時にあっけなく崩壊が訪れることがある。凪子が求めていたのは彼との結婚で、それはごく普通の女としての幸せである。そして凪子が送っていた日常は、ごく普通の会社員としてのものである。けれど社会とズレないために彼女は神経をすり減らしていた。普通を続けるということは、人によってはえらく疲れるものなのである。

 

 

崩壊後の自由

彼女はマンガの中で日常を「なんだかなあ」とか「空気読んでいこう」などとぼやき続けている。本当はこんなことをしたくない、けれど、周囲に合わせないとお給料をもらえない。お給料をもらえなければ生きていけない。だから、働き続けなくてはならない。多くの人たちは、長いこと、このジレンマに苦しんでいた。「我慢して稼がないと暮らしていけない」という資本社会的な価値観に縛られていたのだ。そして、マンガは軽々とこの辛苦を飛び越えていった。

 

彼氏の裏切りにより、凪子は限界を超え、過呼吸になり、何もないアパートに無職の状態で引きこもる。貯金の残高はわずかに100万円のみだ。かなりのピンチだ。それなのに彼女はどこか楽しそうで、同じアパートのちょっと変わった住人たちと交流を深めていく。彼らは好きに生きている。人と自分を比べたりもしない。マウンティングしてくる同僚女子との見栄の張り合いのような会話に比べて、肩のこらない自然な関係を築いていく。

リセット疑似体験

凪子の潔いところは家具一切を捨て、身一つで暮らし始めるところだ。彼氏も友人も切り、ある意味究極の断捨離を実行してしまったところは、うらやましくさえある。そして何もないからこそ、スーパーで分けてもらったエノキや、上の階にすむ年配女性からもらったパン耳スイーツがまるで宝物のように輝いて見える。こんな風に一旦ゼロになりリセットすることは、普通の女性にはまずできない。だからこそマンガでリスタートを擬似体験する新鮮さがウケているのだろう。

 

先日、ハリの先生がダイエットしたいのなら、一旦24時間断食して胃をリセットすると早いと言っていた。そして余計なものが入っていないまっさらな胃袋に、まずは野菜スープ、次は豆腐、などと少しずつ食材を足していくと、断食しなかった人よりも効率的に痩せられるのだとか。凪子もこれと同じで、一旦部屋をからっぽにして、吟味し、少しずつ部屋に入れていくことで本当に必要なものはなんなのかがはっきり見えてくるのだろう。そのミニマリストぶりは、うらやましくなるほどに潔い。

 

 

スレスレのファンタジー

もちろんこれは女性向けマンガなので、モテというファンタジー要素がある。だからこのような状況に陥ってもなお凪子には男性が近づいてくる。元彼が追いかけてきたり、隣に音楽やってるイケメンが住んでいたりしてそれなりにリア充だし、絶望的なほどの日照りには見舞われていない。これもまた“もし私が何もかも捨てたら、どんな男性と出会えるのだろう?”と思い描きながら楽しく読み進められる一要素だ。そして多くの女性はこのマンガでこうした妄想をしてウサを晴らし、また理不尽な日常に戻っていくのだろう。

 

おそらくこのマンガはドラマ化され、多部未華子さんあたりがヒロインを演じられるのではないだろうか。ちなみに私の妄想の中では追いかけてくるイケメンの彼は坂口健太郎さんで、隣に住む音楽やってる彼は桐谷健太さんだ。脳内キャスティングできるくらい熱くなれるマンガは『東京タラレバ娘』以来(そういえばこれもプチドロップアウトコミック)なので、ドラマ化を心から願っているこのごろだ。

 

【書籍紹介】

凪のお暇

著者:コナリミサト
発行:秋田書店

場の空気を読みすぎて、他人にあわせて無理した結果、過呼吸で倒れた大島凪、28歳。仕事もやめて引っ越して、彼氏からも逃げ出したけど…。元手100万、人生リセットコメディ!!

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断捨離か保管か!? かさばる冬服のスッキリ収納術

ダウンコートや厚手のニットなど、冬服の出番が少なくなってきました。真冬にだけ着るものはそろそろクリーニングに出して、春物にチェンジしたいところ。そこで、整理収納コンサルタントの森山尚美さんに、かさばる冬服の保管と、普段のクローゼットの効率的な収納法を教えてもらいました。

 

森山さん宅のクローゼットは、オフシーズンの衣類も含めて、ご主人とお子さん2人を合わせた4人分のすべてが、ウォークインクローゼット1室にまとまっています。

 

「部屋ごとにたんすやクローゼットを配すのもひとつの方法ですが、洗濯して畳んだ洗濯物を、いくつもの部屋のいくつもの場所にしまって回るのは面倒ですよね。1部屋に収まれば、それだけ家事の効率がよくなるので、わが家ではすべて一室に。これは片づけ全般に言えることですが、まずはなにが自分にとってラクなのか、無理なく続けてやれるのか、というところから方法を考えるのがベストです」(森山さん)

 

衣替えの前にいらないものを手放し、必要な服だけを収納する

整理しやすいように多くを持たない、というのが森山さんのルール。「たくさん服を持っていても、気に入っているものは意外と少なくて、ヘビロテする服はいつも同じ、ということはありませんか? 一度着てみて『あれ? なんだかイマイチだな』と思ったものは、わたしはもう棚には戻しません。一度着てイマイチと思ったものは、次に着たときもやっぱりイマイチで、結局着ないんです。また、昔着ていたけれど最近ずっと着ていない、という服も思いきって手放しましょう」(森山さん)

 

【いらない服の見極め方】
・着てみてイマイチだなと思ったもの
・昔着ていたもの
・いつか手入れをしようと思ったまま放置してあるもの
・いるかいらないか悩んでしまうもの

 

【いらない服の手放し方】
・シーズンのはじまりにリサイクルに出す

 

「捨てるとなると勇気がいりますが、誰かが使ってくれると思うと気持ちも違うもの。不要な衣類はリサイクルに出すのがおすすめです。シーズンが終わってからよりも、シーズンがはじまるときに出すほうが高い値がついたり、早く売れたりするので、今から出す春夏ものの中から不要なものをチョイスします」(森山さん)

 

すべてをひと目で見渡せるように収納する

収納するものが決まったら、次は収納の仕方です。使い勝手のいいアイテムを揃えて、どこに何が入っているのかわかりやすくしてみましょう。

 

1.ラベルで中身を「見える化」する

「引き出しや衣装ケースなどには必ずラベルをつけて、何が入っているのかわかるようにします。マスキングテープなどで持ち主ごとに色分けすると、家族で使いやすいでしょう」(森山さん)

↑衣装ケース前面の見やすい場所に、ラベルを貼って中身を把握しやすく

 

↑無印の深さ18cmの衣装ケース。衣装ケースはだいたい18、24、30cmと3タイプの深さがラインナップ。薄手のものや子ども用には18cmを、上着やパンツなどかさばるものには24cmがおすすめです

 

2.深さと奥行きのない収納ケースを選ぶ

「衣装ケースは、奥行きのある押入タイプや、深さのあるもののほうがたくさん入るので、そちらを選びがち。実際は、浅くて奥行きのないタイプのほうが引き出しやすいし、中身が見えやすくて取り出しやすいんです。奥行きが必要な場合は、ふたつ買って並べるとよいでしょう」(森山さん)

 

3.1段ずつ分かれているケースを選ぶ

「2段、3段と重なったケースでは、位置を変えたり上下を移動させたりすることができないので、1段のものか、1段ずつ外れるタイプがよいでしょう。透明で中が見やすいものを選ぶのもポイントです」(森山さん)

 

4.服は縦に揃え余裕を持たせて収納する

「服を縦に収納することで、それがどんな服なのかわかりやすく、取り出しやすくなります。ぎゅっと詰め込まないで、スカスカにしておくのもポイント。詰め込めば量は入るかもしれませんが、取り出すときにも戻すときにも手が入りにくく、ほかの洋服まで畳み直さなければならなくなることもありますよね」(森山さん)

 

5.ケースに入れないものは畳んで収納する

「服を畳むことが苦ではない方は、わが家のようにオープンラックなどにそのまま収納するのがおすすめです。ショップのディスプレイのようにすべてが見えるので、どんな色のどんなアイテムがどのくらいあるかがすぐにわかります。また、たんすにしまうと開けたり閉めたりする手間がありますが、この収納法ならば取り出すのもラク。ただ、服を畳むことが面倒な方や苦手な方は、ハンガーにすべてかけるほうがよいでしょう」(森山さん)

 

 

次に、オフシーズンの衣類を保管する場所を見ていきましょう。

 

オフシーズンの衣類は保管する場所を工夫する

次に、オフシーズンの衣類を保管する場所を見ていきましょう。森山さんは、「管理しやすい場所に置く」ことと「預けて保管する」を上手に使い分けているようです。

 

1.オフシーズンの服でも手の届きにくい場所には収納しない

「脚立がないと届かないような場所には、たとえオフシーズンの衣類でも収納せず、思い出の品など、めったに取り出さないものを収納します。高い場所でも収納アイテムによって取り出しやすくなるのであればOK。IKEAのスクッブシリーズは、軽くて、下に手をかけるだけで引っ張り出せて便利です」(森山さん)

 

2.しまうものとしまわないものを考えて効率よく衣替えをする

「衣替えというと、秋冬ものと春夏ものをそっくりそのまま入れ替える、と思いがちですが、出し入れはなるべく少ないほうがラク。季節をまたいで一年中着られるものもありますから、しまうものは真冬のものと真夏のものだけ、というように分けて考えてみましょう」(森山さん)

↑森山さんの、しまうものとしまわないもの。右は冬にしか着ないニット類で「しまうもの」。左はシャツや長袖のパーカーなど、春夏も着る機会がある「しまわないもの」

 

3.かさばる衣類は預ける

「わが家では、コートはすべてクリーニング店に預けてしまいます。家に置いておくと場所を取るからということもありますが、いいコートはなるべくいい状態で保管しておきたいので、自宅にあるよりきちんと管理してくれるところに預けたほうが安心です。お値段はクリーニング店によって違いますが、だいたい一着数百円とお手ごろなんですよ。冬の布団も預かってもらっています」(森山さん)

 

「預ける」という選択肢の中には、トランクルームを使うという方法もあります。最近は、預けたものをアプリやブラウザで管理できるクラウド収納サービス「サマリーポケット」など、段ボール一箱から気軽に荷物を預けることができるトランクルームアプリが主流。預けた荷物はアプリからいつでも確認したり、取り出したりすることができます。

↑「サマリーポケット」では、スマホから集荷依頼ができ、ダンボール1箱から気軽に荷物を預けられます。保管物のリストもスマホの画面で確認可能

 

大和リビングによる賃貸住宅「D-room」の利用者が選べるサービス「D-room+」でも、このサマリーポケットを無料で使えるお得なオプションサービスが人気だとか。D-room+対象物件の入居者は、オプションの中からトランクルームサービス、サマリーポケットを選択した場合は専用ボックス代や月額保管料、預けたものの取り出し送料が無料になります。

↑大和リビングによる賃貸住宅の利用者が選べるサービス「D-room+」

 

↑サマリーポケットに対応したD-room物件の入居者は、①2箱分の専用ボックス代金、②居住中の2箱分の保管料、③1年につき2箱分までの取り出し送料、の3サービスを無料で利用できます

 

森山さんのように「オフシーズンの衣類や布団を預けたい」「洋服がクローゼットに入り切らない」といった収納の悩みを、すっきり解決してくれそうです。

 

続いて森山さんイチ押しの、衣類がすっきり片付く便利アイテムを教えてもらいます。

 

すっきり収納が叶うおすすめアイテム

森山さんイチ押しの、衣類がすっきり片付く便利アイテムを教えてもらいました。

 

1.ドイツ製のMAWAハンガー

MAWAハンガーは、表面に特殊なコーティングがされていて、かけた洋服が滑り落ちません。ニットなどの伸びやすい洋服もしっかり型崩れを防ぎます。「服が増えてハンガーが足りなくなったときは、ハンガーを買うのではなくて、不要な服を処分します。事前にハンガーの本数を決めておけば、服を買ったときにその都度いらないものはないかと考えるきっかけになり、服が増えません」(森山さん)

 

2.ジッパー式保存袋

薄手のコートやニットなどは、一着ずつジッパー式の保存袋にしまいます。「衣類の圧縮収納袋はサイズが大きくてたくさんのものを一度にしまうタイプなので、何が入っているかわかりにくく、今これだけ出したいというときに不便です。また、掃除機で吸い取る必要があるなど手間もかかるので、自分で空気を抜けるような小さな食品用の保存袋がベストです」(森山さん)

森山さんが終始強調していたのは、「しまいこまず、見えるように保管する」ということ。何をしまったのか見渡せると、同じような服を買ってしまうことを防げます。また、すっきりしたクローゼットは風通しがよく、服が傷みにくいというメリットがあります。さらに掃除がしやすく手間がかかりません。

 

春物を出す前に、まずはクローゼットの見直しをはじめてみましょう。

 

何気ない日常を、大切な毎日に変えるウェブメディア「@Living(アットリビング)」

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ズボラでも大丈夫!今すぐお部屋をスッキリさせるコツ

「うちって、荷物の量多いですか?」

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この春、結婚以来4回目の引っ越しを終えたわが家だが、毎度引っ越し業者の人にこの質問をしてしまう。

 

「いえ、普通ですよ! みなさんこれくらいですよ」と言われ続けてきたが、あれは本音だろうか、もしくは営業トークなのだろうか。

 

「断捨離」というワードが定着して、もう7年ほど経つ。近藤麻理恵さんの『人生がときめく片付けの魔法』(サンマーク出版・刊)という本も大ヒットした。ここ数年は「ミニマリスト」という言葉も話題となった。また、つい最近「死のお片づけ」なんて言葉もニュースで目にした。なんでも、スウェーデン式の断捨離で「自分が死んだ後を想像しながら、自分のものを整理する」というものらしい。遺品を整理する人たちの負担になるような物は捨てる!という考え方だそう。

 

いずれにしろ、世の中は「荷物は少なく、部屋はスッキリ」という方向に向かっている。

 

とはいえ、なかなか捨てられないのです。

わかっているのだが、細々した物がなかなか捨てられない。こんなに長い間使ってないのだから、捨てればいいのよ。そう思いつつも捨てられず、たまたま使う機会があったときに「確かここにあったはず……」と押し入れを探して見つけ出したりなんかすると、「ほーら、やっぱり捨てなくてよかったでしょ!」と思ってしまうのも事実。

 

ならば、今あるモノたちをいかにスッキリと収納するか、これが課題だ。とはいえ、収納グッズにあまりお金をかけたくはない。できるだけ安くて、おしゃれに見えるアイテムを使いたい。そこで目をつけたのが、『無印良品とSeriaで片付くお部屋』(ゲットナビ編集部・編/学研プラス・刊)だ。

 

人気インスタグラマーたちのおしゃれなお部屋作りや、整理収納アドバイザーによる収納のコツがわかりやすく紹介されている。なにより、使っているアイテムが無印良品&Seriaのものばかり! すぐマネできるのが、うれしいではないか。早速、本書で見つけた気になるアイテムをピックアップしてみよう。

 

初心者は「同系色で揃える」に限る

もっとも気に入ったのは、Seriaの「フタ付きプラBOX ホワイト」。ご存知の方も多いだろう。何個置いても統一感があり、並べるだけで「片付いてる感」満載だ。フタ付きなので、ポイポイ放り込むだけでOK。1つ108円というプチプライスもうれしい。

 

もう少し大きなケースが必要ならば、無印良品の「重なるブリ材角形バスケット」がおすすめ。持ち手付きなので取り出しやすく、高いところの収納にもピッタリ。食材のストックを入れておき、「この箱に入るだけ」と決めておけば、買いすぎや在庫切れが予防できる。

 

お片づけ初心者は、これらのアイテムを使って「同系色でスッキリまとめる」ことが一番だ。つい、「ピンクがかわいい!」とか「ターコイズがおしゃれ!」とか、カラフルなものを選びたくなってしまうが、ここはグッとこらえてホワイトで統一しよう。もしくは、お部屋のテイストに合わせてウッド調にするか。そして、「中身がわかるように、おしゃれにラベリング」すると、本に載っているような洗練されたインテリアに近づけそうだ。

 

実際に、試してみました!

思い立ったらすぐ実行!ということで、Seriaで「フタ付きプラBOX」を買ってきて、洗面台とトイレ収納にチャレンジしてみた。

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ドライヤーやらメイク道具やらで雑然としていた洗面台まわりも、ご覧のとおり。ラベリングは、パソコンで作ってプリントアウトし両面テープで貼っただけだが、なんだかおしゃれな雰囲気が出せた。ドライヤーは子どもたちも使うので、アイコン入りでわかりやすく。ゴチャゴチャしていたトイレ収納も、スッキリまとまって満足。

 

片付くと気分がいいので、その勢いで前々からやりたかったトミカ収納にも着手。

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使ったのは、Seriaの「木製仕切りケース」。部屋のあちこちに散らばっていた息子のトミカたちが、ちょっとステキなインテリアに早変わり。やはり、同系色でまとめると統一感が出て良い。

 

整理整頓4つのポイント

最後に、本書に載っていた整理収納アドバイザー・清水幸子さんが教える「整理整頓4つのセオリー」をご紹介する。

 

1.お部屋のものを3つに分類

2.7割収納でストレスフリーに

3.ボックスごとに中身を分類 ラベリングで一目瞭然!

4.”よく使うもの”は”手の届きやすい場所”に

(『無印良品とSeriaで片付くお部屋』より引用)

 

1はつまり、「不要なもの」は処分、「迷うもの」は”とりあえずボックス”へ、「よく使うもの」は収納する、というもの。私のように「いつか使うかも……」と長年保管しておくのではなく、捨てるかどうか迷うものは”とりあえずボックス”に入れて、保管期間を決めておく。期限が過ぎても使わなかったものは、結局「不要なもの」ということで、思い切って処分!

 

とどのつまり、収納テクニックを高めることはもちろんだが、やはり定期的に物を処分していくことが大切というわけだ。荷物で部屋が支配されているということは、不要な物に家賃を払っているといっても過言ではない。部屋が片付くと探し物をする時間もなくなり、心に余裕ができる。整理整頓のプロの教えとインテリアの達人たちの例を参考に、お部屋をスッキリさせよう!

 

(文・水谷 花楓)

 

【文献紹介】

20171110_suzuki7

無印良品とSeriaで片付くお部屋

編集:ゲットナビ編集部

出版社:学研プラス

無印良品、Seriaのアイテムを上手に使って、簡単に片付けられるオシャレなお部屋の作り方を紹介。センス抜群のアイデアで話題の、人気インスタグラマーが自身のお部屋づくりを解説します。これさえ読めば「お友だちが呼べる部屋」が完成!

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