「クロスオーバー」とはまったく別モノ。クラウン「スポーツ」「セダン」の存在感が際立ってイイ!

クラウン4兄弟の次男と三男である「スポーツ」と「セダン」がついにデビュー。ショートボディでSUV風スタイルのスポーツと、大本命ともいえるセダンが、クラウン全体のイメージに与える影響を、従来のクラウンとは「まったく別のクルマ」と評する筆者がレポートしていく。

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ クラウン

セダン 価格:730万~830万円

スポーツ 価格:590万~765万円

 

デザイン第一のクラウンスポーツ

クラウンが「クラウンクロスオーバー」に生まれ変わって約1年半。SUV風になるなんてビックリ仰天したが、早くも街でしょっちゅう見かけるようになった。

 

2023年の販売台数は、約4万台。先代末期は年間2万台前後だったから倍増! と言いたいところだが、先代のピーク時には約5万台売れていたので、「微減」とも言える。クラウンの大変身は、いまのところ大成功とまでは言えない。

 

が、クロスオーバーだけで現在の16代目クラウンを語ることはできない。現行型クラウンは、4モデルへの分化が決まっている。今回は、クロスオーバーに続いて登場した「スポーツ」と「セダン」に乗ることができた。

 

クラウンスポーツは、クラウンクロスオーバーに対して、文字通り「よりスポーティ」という位置づけだ。クロスオーバーもデザイン優先で作られたが、スポーツはさらにカッコ第一。グラマラスで速そうであることを、なによりも優先して作られている。

↑クラウンスポーツ

 

「コ」の字型の薄目ヘッドライトはクロスオーバーと共通のイメージだが、ボディはコンパクトかつ豊満。特にリアフェンダーのグワッとしたふくらみは、一瞬「くどすぎないか?」と思ったりもする。

↑ヘッドライトを薄くすることで、よりシャープで精悍な表情を実現したといいます

 

↑リアフェンダーのふくらみは、スポーツの1番の特徴。大きいタイヤの存在感を高めるうえに、ダイナミックで低重心な印象を与えるとうたっています

 

ところが、実際に走っているクラウンスポーツを斜め後ろから見ると、迫力満点でカッコいい。発表当時からフェラーリの新型SUV「プロサングエ」に似ていると評判だったが、クラウンがフェラーリと比較されるだけで驚天動地だ。

↑ボディサイズは全長4720×全幅1880×全高1565mmで、車両重量は1810kg。またボディカラーは、モノトーンカラー6色とバイトーンカラー5色を用意しています

 

インテリアもスポーティ&ゴージャスで、従来のクラウンのようなおっさんくささは微塵もない。従来のクラウンファンには異世界なので、なじめないかもしれないが、それは仕方ないだろう。

↑包まれるような感覚を意識したコックピット

 

エンジンはグッと洗練、しかも燃費は21.3km/Lでかなりエコ

パワートレインは、クロスオーバーにも採用されているFFベースのエンジン横置き2・5Lハイブリッドだ。クロスオーバーでは、特にスポーティでもなく、かといって高級なフィーリングでもなく、インパクトに欠けたが、スポーツに積まれたソレは、1年半の熟成の成果なのか、ぐっと洗練されてスポーティだ。ハンドリングも明らかにスポーティなので、今どきのエリートにピッタリな雰囲気である。

↑スポーツ Zグレードのパワーユニットは2487cc直列4気筒エンジン+モーターで、エンジン最高出力は186PS/6000rpm、エンジン最大トルクは221Nm/3600-5200rpm。

 

それでいてWLTCモード燃費は21.3km/Lと良好で、実燃費でも16km/L前後は走るから、かなりエコ。システム最高出力は234馬力なので、加速がそれほど凄いわけではないが、アクセルに対する反応がいいので、クルマの流れに乗って気持ちよく走るぶんには不満はない。

 

これで590万円という価格は、輸入車のライバルたち、たとえばスポーツSUVのBMW X4(852万円~)に比べると断然安い。もっと加速がほしい人には、今後追加される予定のPHEVモデルがおすすめだ。

ラゲージは容量397Lで、通常でゴルフバッグ1個分、後席前倒し時には4個まで収納可能とのこと

クラウンセダンは真横のシルエットはカッコいいけど……

一方のクラウンセダンは、クラウンシリーズの中で最もフォーマルなモデルだが、実物を見ると、これはこれでスポーティだ。

↑クラウンセダン

 

なにしろ全長は5mを超えている(5030mm)。それだけで「うわ、長っ!」という迫力が出る。しかもリアピラーが傾斜したファストバックスタイルなので、真横から見ると、アウディA7スポーツバックあたりがライバルというイメージ。クラウンクロスオーバーより高級なのはもちろん、クラウンスポーツと比べても、むしろシュッとスポーティに見える。

↑伸びやかで美しい佇まいを実現したというデザイン。ボディサイズは、全長5030×全幅1890×全高1475mmです

 

真横のシルエットがとてもカッコいいのに対して、フロントやリアはやや凡庸で物足りない。ヘッドライトが「コ」の字型ではなく、シンプルな薄目に見えることも、印象を薄めている。従来のクラウンのイメージはほとんど捨てているので、今後どうやってクラウンらしい「顔」を構築していくかが課題だろう。

↑縦基調のグリルを採用したフロント

 

↑リアはワイド感を強調した横一文字のテールランプを採用

 

↑スポーツのようなふくらみはなく、すっきりとした佇まいです

 

魔法の絨毯に乗っているような乗り心地

クラウンセダンは、クロスオーバーやスポーツと違って、エンジン縦置きのFR(後輪駆動)だ。つまりまったく別のクルマと言っていい。同じクラウンの中で別のモデルを作り分けるなんて、トヨタにしかできない贅沢な芸当だ。

 

FRなので、車体中央にはドライブシャフトが貫通しており(FCEVモデルは水素タンクが貫通)、リアシートの足元中央部は大きく膨らんでいる。定員は5名だが、4人乗りと考えたほうがいい。4人までならゆったりくつろげる。

↑後部座席。中央のアームレストにタッチパネルを内蔵し、オーディオをはじめ、エアコン、シート機能、リラクゼーション機能、サンシェードの操作などが可能です

 

フロントに縦置きされるのは、2.5Lのハイブリッド(730万円)だが、タンクに積んだ水素と空気中の酸素を反応させて発電してモーターを回して走るFCEV(燃料電池車:830万円)も用意される。

 

FCEVのメカは基本的にMIRAIと同じだが、これが驚くほどイイ。水素ステーションの設置が進んでいないこともあって、MIRAIは極端な販売不振に喘いでいるが、クラウンセダンのFCEVは、EVだけに静かさや滑らかさはハイブリッドとは比較にならないし、加速はダイレクトそのものだ。仮に自分が社長で、社長車にクラウンを導入するなら、FCEVがベストかもしれない。水素ステーションは運転手が探せばいいのだから。

↑FCEVのモーター最高出力は182PS/6940rpm、最大トルクは300Nm/0~3267rpm

 

しかし自分で運転するなら、やはりハイブリッドだ。エンジンが4気筒なので、アクセルを深く踏み込んだときの唸り声が少々安っぽいのは残念だが、それを除けばとても快適で、ハンドリングもサイズを考えれば軽快だ。

↑大型の杢目調パネルを採用するなど、上質感を追求したコックピット

 

なにしろクラウンセダンは、乗り心地が素晴らしい。足まわりはクラウンらしく適度にソフトだが、ピッチング(前後の傾き)を徹底的に抑えたセッティングゆえに、魔法の絨毯に乗っているようなフラットライド感なのである。

↑ハイブリッドのラゲージ容量は450Lで、ゴルフバッグ3個を収納可能。一方のFCEVは400Lで、ゴルフバッグを2個収納できます

 

スポーツ、セダンともに断然魅力的

クラウンは、スポーツ、セダンともに、従来とはまったく別のクルマになり、断然魅力的になった。反面、クロスオーバーが中途半端な存在に思えてくる。スポーツとセダンの存在感が際立っているからだ。是非もなし。

 

若返りを目論むクラウンだが、価格を考えると、若返ってもせいぜい40代まで。しかし、おっさんは見た目が9割。クラウンスポーツやクラウンセダンなら、見た目を気にする都会派エリートのおっさんも、愛車として検討対象になるはずだ。

(セダン)SPEC【Z】●全長×全幅×全高:5030×1890×1475mm●車両重量:2020kg●パワーユニット:2487cc直列4気筒エンジン+モーター●エンジン最高出力:185PS(136kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:225Nm/4200-5000rpm●WLTCモード燃費:18.0km/L

 

(スポーツ)SPEC【SPORT Z(ハイブリッド)】●全長×全幅×全高:4720×1880×1565mm●車両重量:1810kg●パワーユニット:2487cc直列4気筒エンジン+モーター●エンジン最高出力:186PS(137kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:221Nm/3600-5200rpm●WLTCモード燃費:21.3km/L

 

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撮影/清水草一

デザインはオラオラ、加速は気持ちよすぎ。BMWのフラッグシップSUV「XM」はゴージャスそのもの

ラグジュアリーブランドでありながら、いつの時代も「走りの愉しさ」を追求してきたBMW。その新時代のフラッグシップモデルとなる「XM」は、SUVでありながらスーパーカーのような斬新なスタイリングで、しかもPHEV(プラグインハイブリッドカー)。その全貌を清水草一がレポートする。

 

■今回紹介するクルマ

BMW XM(試乗グレード:Mモデル)

価格:2130万円

 

XMは現代のスーパーカー

メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのドイツ御三家は、モデル数が天文学的に増えている。特にSUVは超売れ筋ゆえ、もはやクルマ好きでも観測不能というほど多くのラインアップが揃っている。

 

BMWのSUVラインアップは、従来X1からX7までの7モデルだったが、そこに今回新たにXMが加わった。これまで、1から7まで数字が大きいほど車体が大きく、奇数は実用的、偶数はスポーティという色分けだったが、X「M」はいったいどこに属するのか?

 

ズバリ「M」である。MとはBMW Mのこと。BMWのなかでも特別にスポーティなモデルを開発する部門で、これまで「M3」などの名車を送り出してきた。ただしXMは、M3やM4よりもさらに格上の存在だ。なぜなら、M専用モデルだからだ。

 

M3は3シリーズを、M4は4シリーズをベースに作られているが、XMはM専用ゆえにMしかない。1978年の「M1」以来のM専用モデルなのだ。M1と言えば、マンガ『サーキットの狼』にも登場したスーパーカー。現代のスーパーカーはSUVスタイルが妥当! ということなのだろう。

 

フラッグシップだけあって強力なオラオラ感

シルエットは、現代のスーパーSUVとしては控え目で、特別スポーティには見えない。正直、「これってX6がベース?」と思ったくらいだ。しかし実際のサイズはX7とほぼ同じで、シャシーベースになったのは新型7シリーズ。つまりXMはBMWの新しいフラッグシップモデルと言うこともできる。

↑サイズは全長5110×全幅2005×全高1755mm。また試乗モデルはケープ・ヨーク・グリーンのカラーで、ほかにもカーボン・ブラックなど、合計で9色のボディカラーを展開しています

 

さすが「M専用モデル」かつ「BMWのフラッグシップ」だけあって、デザインのディテールはもの凄い。キドニーグリルをはじめ、ボディ各所にゴールドがあしらわれ、強力なオラオラ感を醸し出している。ゴールドというとギンギラなイメージだが、XMのゴールドはシャンパン系のゴールドなので適度に上品。ギンギラギンではなく、上品に最大限オラオラしたいという富裕層にはピッタリではないだろうか。私は一目で気に入った。庶民ですけど。

↑ウィンドウを大きく囲むアクセント・バンドや、リア、ホイールなどいたるところにゴールドが

 

↑リアは横方向に伸びるスリムかつ大胆にデザインされたL字型LEDコンビネーション・ライトで力強さを表現

 

なかでもインパクト絶大なのが、新しいデザインのキドニーグリルだ。形状は以前より角ばった八角形で、サイズも最近のBMWらしくどデカいが、縁が二重になっているのが新しい。しかもこのキドニーグリル、照明機能が付いており、夜間には輪郭がくっきり浮かび上がる。バックミラーに映れば一目瞭然。今回の試乗は昼間だったが、夜見たらインパクトはさらに絶大になったことだろう。「オラオラすぎる!」という意見もあるだろうが、なにしろBMWの頂点に君臨するモデルなのだから、これくらいワクワクさせてもらったほうがうれしい。

↑キドニーグリルがヘッドライトの間に配置されたフロント。クロームで縁取ることで高級感を表現しているそうです

加速は強力無比。気持ちよすぎてついアクセルを踏みたくなる

BMWの新たなフラッグシップだけに、XMのパワートレインは強力そのもの。新開発のPHEVシステム「Mハイブリッド」を搭載している。4.4L V型8気筒ツインターボエンジンに、電気モーターを組み合わせ、最大出力653PS、最大トルク800Nmを発生させる。

↑4.4L V型8気筒ツインターボエンジンと、第5世代のBMW eDriveテクノロジーを採用した電気モーターを搭載

 

駆動方式は、PHEV専用の4WDシステム「M xDrive」。0~100km/hの加速が4.3秒というから、まさにスーパーカー級だ。しかもこのクルマ、車両重量が2.7トンもある。そんな重い物体をこれほど強力に加速するのだから、恐れ入るしかない。ただし、最高速は250km/h(リミッター作動)と控え目(?)だ。エコに配慮したのだろうか。オプションの「Mドライバーズパッケージ」を装備すれば、リミッターを270km/hに引き上げることもできる。日本では関係ない話ですが。

 

実際に走らせると、XMの加速は強力無比。ガソリンエンジンの伸びと、電気モーターのトルクのいいとこどりなのである。アクセルを踏めばスーパーEVのようにグワッと前に出るが、どこか温かみがあり、ムチ打ちにはならないギリギリの線に抑えてある。もちろん加速の伸びはV8ツインターボならでは。加速が気持ちよすぎて、ついアクセルを踏みたくなる。

 

ボディやサスペンションの仕上がりがまた凄い。基本的に超絶スポーティなのだが、超絶なボディの剛性感のおかげで、これだけ巨大なサイズでありながら、引き締まって小さく感じる。全幅2mを超えているのに5ナンバーサイズみたい……と言ったらおおげさだが、とにかくいっさいブレずにゴーカートにように走ってくれるので、そのぶん小さく感じるのは確かだ。

 

ちなみに搭載されているリチウムイオンバッテリーは、容量29.5kWh(正味容量25.7kWh)。EVモードでは、最大88km(WLTPサイクル)走行できるが、ドライブモードを「スポーツ」や「スポーツ+」に切り替えると、エコなんか一切忘れて加速レスポンスに徹することになる。さすがBMWのM専用モデルだ。

 

ナイトドライブはさらにゴージャス(と想像)

インテリアも豪華そのもの。オラオラしつつも、適度に上品にまとめられているのはエクステリアと同じだ。驚かされるのは天井部の造形で、音響室のように凸凹している。これはいったい何が目的か? と訝ったが、サウンドを美しく聞かせようというわけではなく、夜、ルーフサイドにあしらわれたアンビエントライトで、凸凹を怪しく浮かび上がらせる目的らしい。

↑ヴィンテージ調のレザーを取り入れ、エレガントな印象を持たせたインテリア

 

↑天井部の造形は「イルミネーテッド・ルーフ・ライニング」と称され、デザインと間接照明の組み合わせで空間を演出します

 

今後もしXMに乗る機会があれば、ぜひナイトドライブを体験してみたい。昼間よりもさらにゴージャスに突っ走るに違いなかろうて。

SPEC【XM】●全長×全幅×全高:5110×2005×1755mm●車両重量:2710kg●パワーユニット:4394ccV型8気筒エンジン+電気モーター●システムトータル最高出力:653PS(480kW)●システムトータル最大トルク:800Nm●WLTCモード燃費:8.5km/L

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

撮影/清水草一

デザインはオラオラ、加速は気持ちよすぎ。BMWのフラッグシップSUV「XM」はゴージャスそのもの

ラグジュアリーブランドでありながら、いつの時代も「走りの愉しさ」を追求してきたBMW。その新時代のフラッグシップモデルとなる「XM」は、SUVでありながらスーパーカーのような斬新なスタイリングで、しかもPHEV(プラグインハイブリッドカー)。その全貌を清水草一がレポートする。

 

■今回紹介するクルマ

BMW XM(試乗グレード:Mモデル)

価格:2130万円

 

XMは現代のスーパーカー

メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのドイツ御三家は、モデル数が天文学的に増えている。特にSUVは超売れ筋ゆえ、もはやクルマ好きでも観測不能というほど多くのラインアップが揃っている。

 

BMWのSUVラインアップは、従来X1からX7までの7モデルだったが、そこに今回新たにXMが加わった。これまで、1から7まで数字が大きいほど車体が大きく、奇数は実用的、偶数はスポーティという色分けだったが、X「M」はいったいどこに属するのか?

 

ズバリ「M」である。MとはBMW Mのこと。BMWのなかでも特別にスポーティなモデルを開発する部門で、これまで「M3」などの名車を送り出してきた。ただしXMは、M3やM4よりもさらに格上の存在だ。なぜなら、M専用モデルだからだ。

 

M3は3シリーズを、M4は4シリーズをベースに作られているが、XMはM専用ゆえにMしかない。1978年の「M1」以来のM専用モデルなのだ。M1と言えば、マンガ『サーキットの狼』にも登場したスーパーカー。現代のスーパーカーはSUVスタイルが妥当! ということなのだろう。

 

フラッグシップだけあって強力なオラオラ感

シルエットは、現代のスーパーSUVとしては控え目で、特別スポーティには見えない。正直、「これってX6がベース?」と思ったくらいだ。しかし実際のサイズはX7とほぼ同じで、シャシーベースになったのは新型7シリーズ。つまりXMはBMWの新しいフラッグシップモデルと言うこともできる。

↑サイズは全長5110×全幅2005×全高1755mm。また試乗モデルはケープ・ヨーク・グリーンのカラーで、ほかにもカーボン・ブラックなど、合計で9色のボディカラーを展開しています

 

さすが「M専用モデル」かつ「BMWのフラッグシップ」だけあって、デザインのディテールはもの凄い。キドニーグリルをはじめ、ボディ各所にゴールドがあしらわれ、強力なオラオラ感を醸し出している。ゴールドというとギンギラなイメージだが、XMのゴールドはシャンパン系のゴールドなので適度に上品。ギンギラギンではなく、上品に最大限オラオラしたいという富裕層にはピッタリではないだろうか。私は一目で気に入った。庶民ですけど。

↑ウィンドウを大きく囲むアクセント・バンドや、リア、ホイールなどいたるところにゴールドが

 

↑リアは横方向に伸びるスリムかつ大胆にデザインされたL字型LEDコンビネーション・ライトで力強さを表現

 

なかでもインパクト絶大なのが、新しいデザインのキドニーグリルだ。形状は以前より角ばった八角形で、サイズも最近のBMWらしくどデカいが、縁が二重になっているのが新しい。しかもこのキドニーグリル、照明機能が付いており、夜間には輪郭がくっきり浮かび上がる。バックミラーに映れば一目瞭然。今回の試乗は昼間だったが、夜見たらインパクトはさらに絶大になったことだろう。「オラオラすぎる!」という意見もあるだろうが、なにしろBMWの頂点に君臨するモデルなのだから、これくらいワクワクさせてもらったほうがうれしい。

↑キドニーグリルがヘッドライトの間に配置されたフロント。クロームで縁取ることで高級感を表現しているそうです

加速は強力無比。気持ちよすぎてついアクセルを踏みたくなる

BMWの新たなフラッグシップだけに、XMのパワートレインは強力そのもの。新開発のPHEVシステム「Mハイブリッド」を搭載している。4.4L V型8気筒ツインターボエンジンに、電気モーターを組み合わせ、最大出力653PS、最大トルク800Nmを発生させる。

↑4.4L V型8気筒ツインターボエンジンと、第5世代のBMW eDriveテクノロジーを採用した電気モーターを搭載

 

駆動方式は、PHEV専用の4WDシステム「M xDrive」。0~100km/hの加速が4.3秒というから、まさにスーパーカー級だ。しかもこのクルマ、車両重量が2.7トンもある。そんな重い物体をこれほど強力に加速するのだから、恐れ入るしかない。ただし、最高速は250km/h(リミッター作動)と控え目(?)だ。エコに配慮したのだろうか。オプションの「Mドライバーズパッケージ」を装備すれば、リミッターを270km/hに引き上げることもできる。日本では関係ない話ですが。

 

実際に走らせると、XMの加速は強力無比。ガソリンエンジンの伸びと、電気モーターのトルクのいいとこどりなのである。アクセルを踏めばスーパーEVのようにグワッと前に出るが、どこか温かみがあり、ムチ打ちにはならないギリギリの線に抑えてある。もちろん加速の伸びはV8ツインターボならでは。加速が気持ちよすぎて、ついアクセルを踏みたくなる。

 

ボディやサスペンションの仕上がりがまた凄い。基本的に超絶スポーティなのだが、超絶なボディの剛性感のおかげで、これだけ巨大なサイズでありながら、引き締まって小さく感じる。全幅2mを超えているのに5ナンバーサイズみたい……と言ったらおおげさだが、とにかくいっさいブレずにゴーカートにように走ってくれるので、そのぶん小さく感じるのは確かだ。

 

ちなみに搭載されているリチウムイオンバッテリーは、容量29.5kWh(正味容量25.7kWh)。EVモードでは、最大88km(WLTPサイクル)走行できるが、ドライブモードを「スポーツ」や「スポーツ+」に切り替えると、エコなんか一切忘れて加速レスポンスに徹することになる。さすがBMWのM専用モデルだ。

 

ナイトドライブはさらにゴージャス(と想像)

インテリアも豪華そのもの。オラオラしつつも、適度に上品にまとめられているのはエクステリアと同じだ。驚かされるのは天井部の造形で、音響室のように凸凹している。これはいったい何が目的か? と訝ったが、サウンドを美しく聞かせようというわけではなく、夜、ルーフサイドにあしらわれたアンビエントライトで、凸凹を怪しく浮かび上がらせる目的らしい。

↑ヴィンテージ調のレザーを取り入れ、エレガントな印象を持たせたインテリア

 

↑天井部の造形は「イルミネーテッド・ルーフ・ライニング」と称され、デザインと間接照明の組み合わせで空間を演出します

 

今後もしXMに乗る機会があれば、ぜひナイトドライブを体験してみたい。昼間よりもさらにゴージャスに突っ走るに違いなかろうて。

SPEC【XM】●全長×全幅×全高:5110×2005×1755mm●車両重量:2710kg●パワーユニット:4394ccV型8気筒エンジン+電気モーター●システムトータル最高出力:653PS(480kW)●システムトータル最大トルク:800Nm●WLTCモード燃費:8.5km/L

 

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撮影/清水草一

レヴォーグと何が違う? スバル都会派ワゴン「レヴォーグ レイバック」をクローズド試乗

スバルのスポーツワゴン「レヴォーグ」をベースに、車高と最低地上高を高めたクロスオーバーモデル「レヴォーグ レイバック(以下レイバック)」が発表されました。このモデルはスポーツ志向が強かったレヴォーグに対し、都会志向のユーザー層をターゲットにする目的で新たなグレードとして追加されたものです。今回はそのプロトタイプの走りを、佐渡島の「大佐渡スカイライン」の一部を閉鎖したコースで体験してきました。

↑試乗コースは「大佐渡スカイライン」。アップダウンとワインディングが続くコースで力強い走りを見せた「レヴォーグ レイバック」

 

■今回紹介するクルマ

スバル/レヴォーグ レイバック

※試乗グレード:Limited EX

価格:399万3000円(税込)

 

レヴォーグのラインナップに追加された「都会派ワゴン」

車名のレイバックとは、「くつろぐ」「リラックスできる」という意味の「laid back」をベースとした造語で、「ゆとりある豊かな時間や空間を大切にする気持ち」をそのネーミングに込めたそうです。スバル車といえば大半の人がアウトドア系のクルマという印象を持っていると思いますが、レイバックはレヴォーグにラグジュアリー路線の新たな価値観を与える都会派ワゴンという位置づけで、新グレードとして新たにラインアップされました。

↑佐渡島の雄大な風景にもマッチする人気色「アステロイドグレー・パール」に身をまとったレヴォーグ レイバック Limited EX

 

それだけにデザインの印象もレヴォーグとはずいぶんと違います。前後のバンパーは丸みのあるレイバック専用とし、フロントグリル、サイドスカートなどにも専用デザインを採用することで都会的な雰囲気を持たせています。これに伴ってボディサイズは全長4770mm×全幅1820mm×全高1570mmと、レヴォーグに比べて若干サイズアップすることになりました。

 

【デザインを画像でチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

また、クロスオーバー車としての走破性を確保するために、最低地上高はベース車より55mm高い200mmとしています。これによって全高は回転式駐車場への入庫で制限が加わる1570mmとなりますが、ホイールベースは2670mmとベース車と変わりません。また、トレッド幅も少し広がっていますが、その差はわずかで普段の取り回しはレヴォーグとほとんど同じ感覚で扱えると思って差し支えないでしょう。

 

乗降性を高めたフロントシート。高い静粛性が快適性をアップ

インテリアは、センターコンソールやアームレスト、シートのサイドサポート部にスバル初となるアッシュカラーを採用したうえに、カッパーステッチを加えることでレイバックならではの落ち着いたカラーコーディネイトを実現しています。また、フロントシートは座面左右の張り出しを抑えてサポートワイヤーをなくすことで、車高が高くなって影響が出やすくなった乗降性を向上。一方で座面のクッションパッドにインサートワイヤーを加えることで適度なホールド性も確保したとのことです。

↑基本的にはレヴォーグと共通のインテリアは、アッシュカラーを採用してシルバー部にほんのりブルーを加えて都会派をイメージした

 

↑最低地上高が高くなってもスムーズな乗降を得るために、シート左右のサポート部にはワイヤーフレームに変更している

 

車内空間については、コンセプト通りの高い静粛性が大きな特徴となっています。タイヤにはオールシーズンタイヤを採用していますが、スバル専用設計として遮音材をしっかりと使って対策をしており、走行時のロードノイズはかなり押さえ込まれています。これならレイバック専用として標準装備された「Harman/Kardon」の10スピーカーサウンドシステムの能力を十分堪能できるのではないかと感じました。

↑後席は座り心地の良いゆとりのあるシートと広々とした足元スペースを確保。後席用のベンチレーションやシートヒーターなども採用

 

↑カーゴスペースはレヴォーグ GT-X EXと同等の561L(サブトランク含む)となっており、アウトバックとクロストレックの中間サイズとなる

 

11.6インチ縦型ディスプレイのインフォテイメントシステムはレヴォーグから引き継いだもので、見やすさと使いやすさを両立させているのが特徴です。

↑11.6インチ縦型ディスプレイを採用したインフォテイメントシステム。「what3words」を採用したほか、Apple CarPlayとAndroid Autoにも対応した

 

ナビゲーション機能には、簡単な3単語を使って正確な位置を調べられる「what3words」を採用。スマホにインストールされているアプリを使えるApple CarPlayとAndroid Autoにも対応したことで、普段聴いている音楽などもそのまま車内で楽しめます。また、専用アプリを用いた遠隔操作により、車外からでもエンジンの始動と空調の設定が可能となる、リモートエアコン機能を新たに用意しているのも見逃せないでしょう。

 

ワインディングでもロールを抑えながら快適な乗り心地を発揮

パワーユニットは、レヴォーグにラインナップされている2.4リッターターボの用意はなく、1.8リッター水平対向4気筒ガソリンターボエンジンのみの構成となります。試乗したクローズドコースはアップダウンのあるワインディングでしたが、それでもパワー不足を感じることは一切ありませんでした。減速した後に立ち上がるまでのラグが若干感じられましたが、通常の走りであればそれほど気になるレベルのものではありません。むしろターボによるトルクフルなパワーは頼もしさを感じます。

↑パワートレーンは水平対向4気筒DOHC 1.8Lターボエンジンで、最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生させる

 

↑アップダウンが激しい試乗コースにもかかわらず、レイバックはスムーズな走行体験ができた

 

足まわりには高い操縦安定性と快適な乗り心地を両立した専用設定のサスペンションを組み合わせています。ロールもしっかりと抑えられていて、段差のある場所を通過してもフワリとこなすあたりはレヴォーグとはひと味違った乗り心地です。ただ、レヴォーグに比べると車高が高いぶんだけステアリングフィールは若干曖昧で、その意味でシャキッとしたフィールを味わいたいならレヴォーグがオススメとなるかもしれません。

 

それでもレイバックはコーナーをややキツめに通過してもしっかりとグリップしてくれ、高い安心感を与えてくれました。聞けばそれはファルケン製オールシーズンタイヤによる効果が大きいそうで、開発者によれば「走行ノイズが少ないうえに、想像以上に高いグリップ力を獲得できる」実力がレイバックでの採用につながったとのことでした。つまり、十分な回頭性を持ちながら快適な乗り心地を発揮する、まさに都会派ワゴンに求められているスペックをレイバックは実現してくれたというわけです。

↑クロストレックにも採用されたオールシーズンタイヤ「ファルケン ZIEX ZE001 A/S」を標準装着とした

 

↑大佐渡スカイラインの展望台で撮影した「レヴォーグ レイバック」の用品装着車。こちらはアウトドア系に振った装備となっていた

 

SPEC●全長×全幅×全高:4770×1820×1570mm●車両重量:非公開●パワーユニット:水平対向4気筒DOHC●エンジン最高出力:177PS/5600rpm●エンジン最大トルク:300Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:非公開

 

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撮影/松川 忍

走りはどう? 日本上陸したBYDのコンパクトハッチBEV「ドルフィン」をチェック

BYDジャパンは8月末、バッテリーEV(BEV)のコンパクトハッチモデル「ドルフィン」のメディア向け試乗会を開催しました。同社は2023年1月にSUV型のBEV「ATTO3(アットスリー)」を発売しており、ドルフィンはそれに続く第2弾。9月20日に正式発表されたモデルの走りをさっそく体験してきました。

↑実車を前にすると意外に大きく存在感がある。写真はドルフィン

 

■今回紹介するクルマ

BYDジャパン/ドルフィン

価格:363万円〜407万円(税込)

 

グレードは「ドルフィン」と「ドルフィン・ロングレンジ」の2構成

ドルフィンを前にして実感するのは、思ったよりも存在感があるということでした。ボディサイズをチェックすると全長4290mm×全幅1770mm×全高1550mmで、クラスとしてはBセグメントとCセグメントの中間に位置するサイズ。これはノートやフィットよりも一回り大きいサイズに相当します。

↑ボディサイズは全長4290mm×全幅1770mm×全高1550mm、ホイールベースが2700mm。写真はドルフィン

 

↑全高はオリジナルよりも20mm低い1550mmとして回転式駐車場への入庫に配慮した。写真はドルフィン

 

ドルフィンで注目なのは輸入車ながら、徹底して日本市場にローカライズされていることです。たとえば全高は、グローバルでは1570mmなのですが、日本仕様だけは回転式駐車場制限に合わせて20mm低くしています。それだけじゃありません。ウインカーレバーを中国本国の左側から右側に変更したほか、急速充電についても日本で一般的なチャデモ方式を採用。そして、日本では装着が義務づけられている誤発進抑制システムや、各種機能の日本語による音声認識機能までも追加しているのです。

↑急速充電は日本で一般的なチャデモに対応(左)。右が普通充電用。写真はドルフィン

 

そのドルフィンは、スタンダードな「ドルフィン」と、より上級な装備を搭載した「ドルフィン・ロングレンジ」の2グレード構成となっています。違いで最も大きいのはバッテリー容量とモーターの出力にあります。

 

ロングレンジはバッテリー容量を58.56kWhとし、一充電での航続距離は476㎞。組み合わせるモーターも最大出力150kW(204馬力)・最大トルク310Nmというハイパワーを実現しています。一方のスタンダードはバッテリー容量が44.9kWhとなり、一充電当たりの走行距離は400km。モーター出力は最大70kW(95馬力)・最大トルク180Nmとなります。

↑ドルフィンのパワーユニットは、モーター出力が最大70kW(95馬力)・最大トルク180Nm

 

駆動方式はどちらも前輪駆動のみ。サスペンションは、フロントこそどちらもストラットですが、リアはロングレンジがマルチリンクを採用し、スタンダードはトーションビームの組み合わせとなっていました。これらの両者の違いも気になるところです。

 

外観上は、ロングレンジにはルーフとボンネットをブラックとした2トーンカラーを組み合わせましたが、スタンダードは単色のみの選択となります。

 

グレードを問わず、最高水準の先進運転支援システムを標準装備

インテリアはとても質の高いものでした。シンプルながら緩やかにラウンドするダッシュボードに、ドルフィン(イルカ)のヒレを彷彿させるドアノブなど、デザインへのこだわりが感じられます。ソフトパッドも随所に施され、コンパクトハッチにありがちなチープさはほとんど感じません。特にロングレンジにはサンルーフやスマホ用ワイヤレス充電器が追加されており、そういった面での満足度は高いと言っていいでしょう。

 

【インテリアなどをギャラリーでチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

加えて驚いたのが先進運転支援システムの充実ぶりです。アダプティブクルーズコントロール(ACC)をはじめ、自動緊急ブレーキ(AEB)やレーンキープアシスト(LKA)、フロントクロストラフィックアラート(FCTA)&ブレーキ(FCTB)、ブラインドスポットインフォメーション(BSI)といった多数の先進機能を装備。さらに室内に2つのミリ波レーダーを搭載し、子供やペットの置き去り検知機能も装備。これらがすべてグレードを問わず標準装備されるのです。

 

グレードによって安全装備にも差を付けていることがほとんどの国産車と違い、安全装備ではグレードに応じて差を付けない。こうした姿勢は高く評価していいと思います。

 

市街地走行に十分なパワー感を発揮する「ドルフィン」

↑スタンダードなグレードとなる「ドルフィン」。試乗は街中から高速道へ続く公道で実施した

 

さて、いよいよドルフィンで公道に出て試乗に入ります。

 

最初に試乗したのはモーター出力を抑えたスタンダードからでした。とはいえ、アクセルを踏むと、車重が1520kgもある印象はまるでなく、スムーズに発進していきます。街中は「エコモード」で走りましたが、もたつく印象は一切なく、ハンドリングは軽めながらも左右の見切りがいいので不安を感じさせません。決して速さは感じませんが、軽くアクセルを踏むだけで交通の流れに乗れるので、運転はとてもラクに感じました。

↑高速クルージングからの加速では実用上十分なトルクを感じた

 

ただ、高速に入ると加速に物足りなさを感じたのは確かです。クルーズモードに入ってからの加減速ではそれほど力不足は感じませんが、高速流入時ではすぐに加速が頭打ちとなってしまい、つい「もう少し!」と叫んでしまいそうになります。

↑高速道路本線への進入ではもう少しパワーが欲しいと感じたが、決して遅いわけではない

 

ステアリングも中間位置が曖昧で、これに慣れないでいると真っ直ぐ進むのに細かく修正を加えながら走ることになります。また、乗り心地についてもスタンダードは路面からの突き上げ感があり、後席に乗ったカメラマンからも「結構コツコツ来ますねー」との声が出たほどです。

 

圧倒的な加速力で目標速度に到達!「ドルフィン・ロングレンジ」

こうした体験の後、次はロングレンジに乗り換えてみました。街乗りからスタートするとすぐにスタンダードとの違いを実感します。路面の段差もしなやかにこなし、不快な感じはほとんどなくなったのです。ステアリングの軽さは大きく変わりませんでしたが、このしなやかさがクルマに上質感を与えてくれています。

↑ドルフィンの上級グレードとなるドルフィン・ロングレンジ。高出力モーターによる圧倒的パワーが醍醐味

 

↑タイヤは両グレードともブリヂストン「エコピア」を履いていた。サイズは205/55R16。写真はドルフィン・ロングレンジ専用デザイン

 

さらに加速の力強さが半端ない! 走行モードを「スポーツ」に切り替えてアクセルを踏み込むと、車重が1680kgもあるクルマとは思えない圧倒的な加速力で目標の速度域に到達したのです。走行モードを「エコ」に切り替えたとしても十分な加速力を実感でき、まさにモーター出力の違いを見せつけられた印象があります。

 

一方で回生ブレーキは2段階を用意していますが、ATTO3と同様、ワンペダルで走れるほど減速感は強くありません。それでもスポーツモードにするとやや減速感が強くなるので、たとえば峠道はより楽に走れるのではないかと思いました。

↑ドルフィン・ロングレンジにはスマホ用ワイヤレス充電機能が装備される

 

↑センターディスプレイはATTO3と同様、タテ表示に電動で切り替えられる

 

ドルフィンで気になるのはやはり価格でしょう。ドルフィンの価格は363万円(税込)、ドルフィン・ロングレンジは407万円で、政府のCEV補助金65万円を適用すれば、ドルフィンは298万円からとなります。正直言えばもう少し安く出てくるかとは思いましたが、昨今の円安を踏まえれば妥当な価格といったとところでしょうか。それでも、この価格は日本で販売される軽EVと真っ向から勝負できる価格。その意味でこのドルフィンは、日本におけるBYDの存在感を打ち出せるか、重要な役割を担っていると言えるでしょう。

SPEC【ドルフィン】●全長×全幅×全高:4290×1770×1550mm●車両重量:1520kg●パワーユニット:交流同期電動機●モーター最高出力:95ps/14000rpm●エンジン最大トルク:180Nm/3714rpm

【ドルフィン・ロングレンジ】●全長×全幅×全高:4290×1770×1550mm●車両重量:1680kg●パワーユニット:交流同期電動機●モーター最高出力:204ps/9000rpm●エンジン最大トルク:310Nm/4433rpm

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

写真/松川 忍(ドルフィン)、 筆者(ドルフィン・ロングレンジ)

プジョー「408」試乗。トップクラスの質感! 走ればスポーティなハンドリングで楽しい

一目見て「カッコイイ!」そう思わせたのがフランス生まれの新しくなったプジョー「408」です。セダンとクーペ、そしてSUVを融合させたファストバックモデルで、プレスカンファレンスにはアンバサダーに起用された森山未來さんが登場してそのファッショナブルな出で立ちをアピール。近年稀に見る格好良さと存在感を実感した次第です。

 

今回はそのベーシックモデルとなるガソリン車の「408 GT」の試乗レポートをお届けします。

↑新型プジョー「408」のイメージキャラクターには俳優の森山未來さんが務めることになった

 

■今回紹介するクルマ

プジョー/408

※試乗グレード:408 GT

価格:429万円〜669万円(税込)

 

質感の高さはCセグメント中トップクラス!

408 GTのボディサイズ(全長4700×全幅1850×全高1500mm)は、基本骨格こそ308と共通ですが、ホイールベースで110mm、全長では280mm延長されています。それでいて、フロントグリル周りのプジョーらしい精悍なデザイン、205/55R19の大径タイヤを履くことによる引き締めた足元とも相まって、よりスポーティな印象を伝えてきます。

 

ボディデザインはハッチバックゲートを持ち、伸びのあるクーペスタイルと力強いフェンダーラインを特徴とした、いわばクーペ的なデザインを持つSUVとして位置付けられています。全高を1500mmに抑えることでタワーパーキングにも対応しながら、室内に入ればリヤシートの足元も広々。SUVらしくラゲッジスペースもたっぷり取っており、まさに“スタイリッシュSUV”という表現がぴったりです。

 

【ボディデザインをフォトギャラリーでチェック】(写真をタップすると閲覧できます)

 

インテリアは、ダッシュボードやシートなど基本デザインを308と共通のものとしています。ただ、驚くのはその品質レベルの高さで、レザーやスエード、ソフトパッドを場所によって巧みに使い分けており、その仕上がり感はCセグメントでもトップクラスにあるといって間違いありません。

 

小径ステアリング越しに見るメーターからセンターコンソールに至るダッシュボードは、ドライバーを囲むコックピット感が満載。スポーティさも十分に感じられ、この雰囲気作りは「さすがフランス車!」と思える仕上がりレベルです。

↑高品質感が伝わってくる前席まわり。小径・扁平のステアリングホイールでクイックな操作が可能だ

 

一方で、前席の余裕ある空間に対して、後席はヘッドまわりに若干の狭さを感じました。それでも、前方の見通しはそこそこあり、閉塞感を感じさせないあたりは巧さを感じさせますね。

↑「腰に優しく長時間運転しても安心」なシートとしてのお墨付きをもらった前席

 

↑後席に座るときはヘッドレストを引っ張り出すスタイルとなる。後席用ベンチレーターも備わる

 

ただ、インターフェースはイマイチの印象です。空調系は物理スイッチで操作感が伝わってくるものなのに、インフォテイメント系は完全なタッチパネル。それでいて押したときに何の反応もないのは要改善だと思いました。ハザードスイッチも用途を考えたら、空調スイッチと並べずに独立させるべきでしょう。

 

【インターフェースをフォトギャラリーでチェック】(写真をタップすると閲覧できます)

低回転域から発揮する高トルクが力強い走りを実現

ではいよいよ試乗開始です。パワーユニットは、ガソリンエンジン搭載車には1.2L 3気筒ガソリンターボエンジンを、PHEVには1.6L 4気筒ガソリンターボエンジンを採用。今回は残念ながら、試乗するはずだったPHEVにセキュリティ系のトラブルが発生し、代わりにガソリン車の408 GTに試乗することとなりました。

↑ガソリン車には1.2L 3気筒ガソリンターボエンジンを搭載。最高出力130ps(96kW)/5500rpm、最大トルク230Nm/1750rpm

 

↑駆動方式はFF。タイヤサイズは205/55R19とした

 

実は試乗するに際し、「ターボ付きとはいえ、1.2L エンジンでこの大きめなボディに対して、十分なパフォーマンスを発揮できるのか?」と、内心不安があったのも否定できません。そして確かにアクセルを踏み込んだ瞬間は、何となく動きににぶさを感じます。しかし、そんな不安もつかの間。走り出せばすぐに力強い走りを見せてくれたのです。

 

そのワケはこのエンジンが発揮する130ps/5500rpm、230Nm/1750rpmのスペックにありました。最大トルクはほぼ2.5リッターエンジンクラスで、しかも最大トルクは1750rpmという低回転で発生します。加えて、3気筒ならではのレスポンスの良さと、組み合わされる8ATとのマッチングも良好。これが、街中でのキビキビとした動きにつながっていたのは間違いありません。そのうえで、アクセルを踏み込めばターボらしい力強い加速で、一気に車体を高速域まで引っ張り上げてくれたのです。

↑1.2L3気筒ターボエンジンの排気量からは想像できない力強い加速を発揮した新型プジョー408 GT

 

ハンドリングも素晴しいです。交差点を通過するときも、狙ったラインを正確にトレースするので安心感が極めて高い印象。しかも、そのときのフィーリングもしっとりとして気持ちがいい。大径タイヤを履くと、どうしてもバネ下重量が気になる傾向にありますが、そんな心配も一切ありません。思わず408で峠道を楽しんでいる自分の姿を想像してしまったほどです。

 

SUVテイストを発揮しつつ十分なパフォーマンスを発揮

一方で乗り心地は多少、タイトな印象を受けました。サスペンションのストロークが十分にあるのはわかりましたが、車体の高剛性なプラットフォームが影響しているのか、一般道にありがちな段差を超えるときはショックが強めに出る傾向にあったのです。とはいえ、ショックのいなし方が巧みなので不快な印象はありません。むしろ、このハンドリングを踏まえれば、このぐらいの固さはキビキビとしたスポーティさに一役買っているように思いました。

↑路面からはややタイトさを伝えてくるが、しなやかさを伴うことで不快感はまったくない

 

人気のSUVテイストをしっかりと発揮しながら、プジョーならでは乗り味を堪能できる、十分なパフォーマンスを備えた新型プジョー408。価格が499万円(408 GT)と、このクラスのガソリン車としては高めの設定となりますが、装備そのものは輸入車の常でほぼフル装備に近い状態です。国産車は価格が高くなっているにも関わらず、オプションが多いのは相変わらず。その意味でも408 GTは満足度の高い選択となることでしょう。

↑新型プジョー408にはガソリン車の「GT」以外に、PHEVの「408 GT HYBRID」(写真)がラインナップされる

 

SPEC【408 GT】●全長×全幅×全高:4700×1850×1500mm●車両重量:1430kg●パワーユニット:ターボチャージャー付き直列3気筒DOHC●エンジン最高出力:130ps/5500rpm●エンジン最大トルク:230Nm/1750rpm●WLTCモード燃費:17.1km/L

 

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撮影/松川 忍

常識を覆す衝撃の走り……ヴェルファイアとアルファードの差別化を決定づけた2.4Lターボ

都心でクルマを運転していると、見ない日はないくらい街中を走っているのが、トヨタのアルファードと兄弟車のヴェルファイアだ。今や庶民の憧れ、到達点として、かつてのクラウンのレベルに並んでいるか、下手したら凌駕しているような状態である。そして今夏、この2車に4代目となる新型が発売された(ヴェルファイアは3代目)。頂点を極めたクルマの進化とはいったいどんなものか?

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ アルファード/ヴェルファイア

価格:540万~872万円(アルファード)、655万~892万円(ヴェルファイア)

 

ルックスはアルファードの圧勝だが……

今や日本を、いやアジアを代表する高級車に上り詰めたアルファード。レクサスLSやクラウンの後席でふんぞり返っていると、周囲からなんとなく冷たい視線が注がれ、センチュリーを公用車にすると袋叩きにされたりするけれど、アルファードなら誰も文句を言わず、むしろ憧れの視線が注がれるのだから素晴らしいじゃないか。

 

従来型の国産高級車が売れなくなって久しいが、アルファードは一人勝ちで売れまくってきた。そのフルモデルチェンジともなれば、クルマ関連では今年最大級のイベントである。

 

兄弟車のヴェルファイアも、同時にフルモデルチェンジされた。アルファード人気のあおりを食って、先代モデル末期にはアルファードの3%程度しか売れなくなり、今回は消滅・統一されると思われていたが、豊田章男会長の鶴の一声で生き残りが決定したという。先代まではルックスの違いが2台の棲み分けポイントだったが、新型では走りのキャラクターで差別化を図っている。

 

まずはルックスの評価からいこう。新型アルファードのスタイリングは、大人気だった先代型のイメージを強くキープしているが、非常に洗練された印象だ。先代型は巨大な銀歯のようなオラオラ顔にばかり目が行ったが、新型のグリルはメッキ量を減らして威圧感をほどよく抑え、逆にボディフォルムはふくよかにうねらせ跳ね上げつつ、尻下がりのウエストラインでフォーマル感も出している。先代型のほうがインパクトは強かったが、新型のデザインは全体の完成度がとても高い。

↑フロント部は「突進するような力強さを生み出すべくエンブレム部分が最先端になる逆傾斜の形状」を採用

 

↑ボディのサイドにはリアからフロントにかけて流線形を取り入れている。サイズは全長4995×全幅1850×全高1935mm

 

新型ヴェルファイアは、デザイン面ではアルファードのグリル違いに徹している。スタンダード感の強い横桟グリルは、アルファードの鱗グリルに比べるとかなり平凡な印象だ。個人的には、「今回も見た目でアルファードの圧勝だな」と感じたが、ヴェルファイアのスタンダード感を好む方も少なくないらしく、新型は受注の約3割をヴェルファイアが占めているという。

↑横に伸びたグリルが印象的なヴェルファイア

 

↑ヴェルファイアのZプレミアグレードは黒色の「漆黒メッキ」を基調とした金属加飾を施し、モダンかつ上質なデザインにしたとのこと。サイズは全長4995×全幅1850×全高1945mm

 

常識を覆す走りと秀逸な操縦性のヴェルファイア

最初に乗ったのは、ヴェルファイア Zプレミアの2.4L 4気筒ターボエンジン搭載モデル(FF)。最高出力は279馬力だ。このエンジンはアルファードには用意されず、「走りのヴェルファイア」を象徴するグレードになっている。

 

走り出してすぐに衝撃を受けた。ほとんどスポーツサルーンのごとく意のままに走り、曲がり、止まってくれる。これまでのミニバンの常識を引っ繰り返す走りである。

↑走行イメージ。「運転する喜びを感じるための走行性能」を実現したという

 

従来のアルファード/ヴェルファイアは、ルックスの威圧感のわりに加速が物足りなかったが、このエンジンは、先代型の3.5L V6エンジンと比べてもパワフルでレスポンスがいい。バカッ速くはないが、意のままに加速する。燃費も思ったより良好で、燃費計の数値は10km/L弱を示していた。

↑高い加速応答性能と十分な駆動力をそなえ、ペダル操作に対して気持ちよく伸びるという2.4L直列4気筒ターボエンジンを搭載

 

操縦性がまたすばらしい。ミニバンという乗り物は基本的に重心が高く、ボディ剛性も出しにくいから、操縦性はイマイチなのがアタリマエだが、ヴェルファイア2.4ターボは違う。とにかくハンドルの反応がシャープで気持ちいい。ヴェルファイアは、19インチタイヤやスポーティなサスペンションに加えて、車体骨格の前部に補強を施してある。それがこの秀逸な操縦性を生んでいるようだ。

 

しかも、乗り心地も非常にイイのである。足まわりはやや固めだが、路面から伝わる車体の揺れが一発で収まるし、カーブでの車体の傾き(ロール)も小さめなので、結果的にこのグレードが最も快適に感じられた。

↑コックピットには12.3インチの大画面液晶のほか、カラーメーター、同時に複数の情報を見られるマルチインフォメーションディスプレイなどが搭載(画像はExecutive Loungeグレード)

 

↑プライベートジェットのような空間を設えたとする室内

 

クルマ好きが乗っても納得のアルファード

ヴェルファイア2.4ターボの走りの良さに感動しつつ、アルファードの2.5ハイブリッドE-Four「エグゼクティブラウンジ」に乗り換える。エグゼクティブラウンジは贅沢な2列目シートが売りの「動く応接間」。そこに座っていれば、まさにエグゼクティブ気分だが、アルファードの走りは、ヴェルファイアに比べるとだいぶ穏やかで当たり障りがない。ボディ剛性アップの恩恵により、先代に比べればはるかに快適性は高いが、ヴェルファイア2.4ターボの素晴らしさを知った後では、加速や操縦性だけでなく、乗り心地すら若干平凡に感じてしまった。

↑走行イメージ。新モデルは基本骨格を見直すと同時に、乗員に伝わる振動・騒音の低減に徹底している

 

↑運転席と2列目シートおよび3列目シートとの距離は従来型比でそれぞれ5mm/10mm広い前後席間距離を確保した、ゆとりのある空間を実現

 

ただし、2.5ハイブリッドのパワーユニットは先代型から大幅に進化し、システム出力は197馬力から250馬力にアップしている。先代ハイブリッドの走りはかなり眠い印象だったが、新型のハイブリッドは加速のダイレクト感があり、クルマ好きが乗っても「悪くないね」と言えるレベルになっている。

↑システム最高出力250PSの「2.5L A25A-FXSエンジン」。燃費性能も高められており、E-FourエグゼクティブラウンジはWLTCモードで16.5km/Lとなっている

 

↑コックピットは「隅々まで心づかいを施した」と自信をのぞかせる

 

アルファードには、2.5L 4気筒自然吸気エンジン搭載のベーシックなグレードも用意されている。加速はぐっと控え目になるが、「走りはそこそこでいいから、とにかくアルファードが欲しい!」というユーザーも少なくないはず。ハイブリッドより80万円安い価格は魅力的だ。

 

それでもお値段は540万円。ちなみに2.5ハイブリッドのエグゼクティブラウンジE-Four は872万円。10年前なら中古フェラーリが買えた金額なのだから、「うーむ」と唸るしかない。

 

結論として、ルックスは個人的にアルファード推しだが、走りや快適性はヴェルファイア2.4ターボFF(655万円)が抜きん出ていた。見た目を取るか走りを取るか。それ以前にお財布との相談が必要だが、すでに納車待ちは1年以上、ヘタすると2年とか。「KINTO(リース)なら半年後の納車も可能」というトヨタ側の提案を検討せざるを得ないほど、人気大爆発のアルファード/ヴェルファイアなのであった。

SPEC【ヴェルファイア/Zプレミア・ターボガソリン車・2WD】●全長×全幅×全高:4995×1850×1945mm●車両重量:2180㎏●パワーユニット:2393cc直列4気筒ターボエンジン●最高出力:279PS(205kW)/6000rpm●最大トルク:430Nm/1700-3600rpm●WLTCモード燃費:10.3㎞/L

 

一部撮影/清水草一

 

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人気の秘密は「8人乗り」にあり。日産「セレナ」の新e-POWERモデル総合力チェック!

いまや日産の主力ミニバンとなったセレナが、6代目としてフルモデルチェンジしたのが2022年の暮れ。先代に続いてガソリン車とe-POWER車の2本立てを基本としていますが、23年4月、人気の8人乗りをe-POWER車にもラインナップ。さらに最上級の「e-POWER LUXION(ルキシオン)」を追加するなど、選択肢の幅は大きく広がりました。

 

今回の試乗ではその中から一番の売れ筋となっている「e-POWER ハイウェイスターV」を選択し、その実力に迫ってみたいと思います。

 

■今回紹介するクルマ

日産/セレナ

※試乗グレード:e-POWER ハイウェイスターV

価格:276万8700円〜479万8200円(税込)

↑2023年4月から販売を開始したセレナ「e-POWER ハイウェイスターV」。販売比率はガソリン車を上回る6割近くに達する

 

「e-POWER」車比率がアップ。秘密は8人乗りの実現にあった

日産が発表した内容によれば、新型セレナの受注台数は2023年6月26日の時点で5万4000台に達し、なかでも8人乗りのe-POWER車は全体の約6割を占めるまでになったそうです。このまま行けば「年間10万台の達成も狙えるペース」と、期待通りの売れ行きに手応えを感じている様子。では、その人気のポイントはどこにあるのでしょうか。

↑フロントグリルから伸びるブラックの2トーンカラーがサイドビューに躍動感を与えている

 

↑ e-POWER ハイウェイスターVはプラットフォームこそ先代から引き継いだが、足回りなども大幅な改良が加えられた

 

セレナといえば、2005年の3代目が登場した際に、左右分割式セカンドシートを「スマートマルチセンターシート」としたことで話題を呼びました。これは2列目を用途に応じてキャプテンシートにも、8人乗車ができるベンチシートにもなる使いやすいもの。以来、セレナならではの人気装備となってきました。

 

ところが、5代目に追加されたe-POWER車ではバッテリーを追加搭載した関係上、セカンドシートをキャプテンシートとした7人乗りに変更となってしまいました。販売店の話ではこれが影響して、泣く泣くe-POWER車をあきらめてガソリン車を選んだ人も多かったそうです。

 

そうした事情を反映して6代目ではガソリン車よりスライド量が少ないとはいえ、スマートマルチセンターシートをe-POWER車にも採用。一転、全体の6割がe-POWER車を選ぶようになったのもこの対応が功を奏したとみて間違いないでしょう。

↑セカンドシートで3人掛けを実現したことでe-Power車でも8人乗車が可能となった。シート表面は汚れにくい素材を採用

 

しかも、単に8人乗りとしただけでなく、セカンドシートにはさまざまな工夫を施しているのです。たとえば、センターのバックレストを倒せば収納庫付きのアームレストになり、必要に応じてセンター部だけを前方へ移動することも可能。さらにシートスライドは前後だけでなく左右にも動かせるので、サードシートへの移動も使い方に応じた設定ができます。

 

加えて、セカンドシートでは前席の背後に備えられた折りたたみ式テーブルが用意され、左右には充電用USB端子も装備。シートバックポケットが左右に備えられているのも何かと重宝しそうです。

↑セカンドシートの真ん中を前方にスライドさせ、シートを横に動かすことで、生まれたスペースを使ってサードシートへ乗り込むことができる

 

↑前席のシートバックには折りたたみ式テーブルやUSB端子が左右2か所に装備されている

 

たっぷりとしたシート厚で乗り心地も上々のサードシート

サードシートは広々とした印象はないものの、大人が座ってもそれほど窮屈な印象はありません。シート厚もたっぷりとしており、少し遠乗りした際に家族に座ってもらいましたが乗り心地で特に不満は感じなかったそうです。むしろサードシートにもスライドドアのスイッチやUSB Type-Cが装備されていることに便利さを感じている様子でした。

↑サードシートはクッション厚もたっぷりとしており、長時間の移動でも疲れは少ないようだ

 

↑サードシート側に装備されていたスライドドアの開閉ボタンとUSB Type-C

 

↑足を出し入れする、ハンズオフでスライドドアの開閉が可能。ただし操作に若干こつがあるのが気になった

 

惜しいと感じたのは、サードシートをたたんだときに左右に跳ね上げるタイプとなっているうえに、シート厚がたっぷりとしていることが災いして、左右の幅が狭くなってしまったことです。シートの固定方法もベルトを使う古くさい方法。ここにはもう少し工夫が欲しかったと思いました。

 

一方で荷物の出し入れでいうと、上半分だけが開閉できるデュアルバックドアは、特に狭い場所での開閉がラクで使いやすさを感じます。荷物の落下防止に役立つことも見逃せないでしょう。

↑サードシートは左右跳ね上げ式を採用。シートのクッションが厚めであることが災いして左右のスペース幅は結構狭い

 

↑バックドアは上半分だけを開閉できる「デュアルバックドア」を採用。狭い駐車スペースでも荷物の出し入れができる

 

↑最後部のフロア下には、大容量のカーゴスペースを用意。普段使わないメンテナンス用品を入れておくのにも最適だ

 

運転席に座ると視界の広さを実感でき、周囲の状況はさらに把握しやすくなっています。座ったときの収まり間も良好なうえ、センターディスプレイにぐるりと囲まれるようなインテリアもデザインと機能性を兼ね備えた使いやすさを感じさせます。一方、賛否が分かれたスイッチタイプの電動シフトは、違和感を覚えたのは最初だけ。慣れてしまえば使いやすく、むしろ操作ミスを減らすのではないかと思ったほどです。

↑運転席は視界を遮るものを減らした開放感のあるもので、これが運転のしやすさをもたらしている。高品質なインテリアも好印象

 

↑日産初となるスイッチタイプの電制シフトを採用。見た目にもスッキリとしており、慣れると使いやすく確認しやすい

 

排気量が1.4Lにアップ。スムーズな走りはまさに電動車そのもの

さて、6代目となったセレナに搭載のe-POWERは、エンジンの排気量が従来の1.2Lから1.4Lへと拡大されています。従来のe-POWER搭載車でも特に力不足を感じたことはありませんでしたが、発電効率を高めることで、もともと重いミニバンで定員乗車したときなどでも余裕ある走りにつなげているのがポイントです。

 

実際、走り出してすぐに感じるのが、先代よりも明らかに静かさと滑らかさが増していることです。アクセルへの応答性も向上して、エンジンがかかる比率もかなり少なくなったこともあり、リニアな加速はもはや電動車そのもの。それがとても気持ちいいのです。モーターによる恩恵は明らかに大きいといえます。

↑アクセルを踏み込んでもストレスなく速度を上げていく。エンジンが起動しても走行中ならほとんど気付かない

 

しかもエンジンがかかってもそのときの振動はほとんど伝わってこない見事さ。これらはエンジンを収めるケース類の剛性アップとバランスシャフトの採用など、音・振動面のリファインを徹底的に施した効果が発揮されたものです。排気量拡大にともなってエンジンもパワーアップ。発電効率向上にも寄与しており、走りの快適度は確実に向上したといえるでしょう。

↑e-POWER車は新開発となる直列3気筒DOHC 1.4リッターのe-POWER専用のHR14DDe型エンジンを搭載。最高出力は72kW(98PS)/5600rpm、最大トルクは123Nm(12.5kgfm)/5600rpmで、EM57型モーターの最高出力は120kW(163PS)、最大トルクは315Nm(32.1kgfm)

 

足回りの剛性の高さも6代目の良いポイントです。5代目の柔らかめのサスとは違い、コシのあるしっかりとしたサスペンションは、段差を乗り越えたときの収束性もよく、荒れた路面での乗り心地は同乗した家族からも好評。個人的には見事なカーブでの踏ん張りが印象的で、峠道でもミニバンとは思えない粘りを見せてくれたのが好印象でした。

↑タイヤは205/65R16 95H。スポーティなハイウェイスターVながら、乗り心地が良いのもこの扁平率が効果を発揮している可能性がある

 

ただ、高速走行時に大きめの段差で受けると、ボディ全体がやや微振動として残る傾向があります。実は6代目はモデルチェンジしたとはいえ、プラットフォームまでは刷新しておらず、そのあたりの設計の古さが災いしているのかもしれません。とはいえ、一番多く利用する一般道での違和感はほとんどなし。その意味での進化は確実に遂げているとみて間違いないでしょう。

 

実用上で使いやすい「プロパイロット」。ライン装着ドライブレコーダーも

最後にプロパイロットの使い勝手に触れておきます。最上位のルキシオンには、高速でのハンズオフ走行が可能になる「プロパイロット2.0」が装備されましたが、ハイウェイスターVには単眼カメラとミリ波レーダーを組み合わせた、オーソドックスなACCを採用するプロパイロットが装備されます。

 

それでも先行車への追従性は極めて良好で、速度ムラもほとんど感じさせないため、追従走行でストレスを感じることはありませんでした。ただ、レーンキープはテンションが強めにかかるため、これが気になる人はいるかもしれません。

↑プロパイロットのメインスイッチはステアリング右側に装備。このスイッチを押して「SET」すれば設定完了。あとは+-で調整するだけ

 

↑プロパイロット作動時。レーンキープのテンションがやや強めだが、先行車への追従性は速度ムラも少なく安定していた

 

また、6代目では新たにドライブレコーダーがライン装着で選択できるようになりました。前後に2台のカメラが装備され、配線が一切露出しないうえに表示をインフォテイメントシステムのディスプレイ上で展開できます。これはまさにライン装着ならではのメリットです。販売店に聞くと装着率はかなり高いそうで、今後はドライブレコーダーの標準化も当たり前になっていくのかもしれません。

↑日産車としては初めて、ライン装着でドライブレコーダーを用意した(下)。映像はインフォテイメントシステムでモニターできる

SPEC【e-POWER ハイウェイスターV】●全長×全幅×全高:4765×1715×1885mm●車両重量:1810kg●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:98PS/5600rpm●エンジン最大トルク:123Nm/5600rpm●モーター最高出力:163PS●モーター最大トルク:315Nm●WLTCモード燃費:19.3km/L

 

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撮影/松川 忍

予約時で異例の大ヒット、イメチェンにも成功した三菱「デリカミニ」の乗り心地はどう?

https://getnavi.jp/vehicles/877011/?gallery=gallery-2_1今年の東京オートサロンで大きな注目を浴びた三菱自動車「デリカミニ」が5月25日、いよいよ発売を開始しました。昨今のアウトドアブームが後押ししたのか、5月24日時点での予約受注はすでに1万6000台超え! しかも全体の約6割が4WDモデルなのです。これはまさに、いかに多くのユーザーが三菱自動車らしいアウトドア志向の軽自動車を待ち望んでいたか、を示すものと言えるでしょう。

 

今回はそのデリカミニにいち早く試乗することができましたので、インプレッションをお届けします。

 

■今回紹介するクルマ

三菱/デリカミニ

※試乗グレード:T Premium

価格:180万4000円〜223万8500円(税込)

↑三菱自動車「デリカミニ」。試乗車はターボ付き「T Premium」の4WD車

 

ワイルド感を高めた“ヤンチャかわいい”顔つきが大きな話題に

デリカミニとはどんなクルマでしょうか。一言で表せば、高い人気を獲得している三菱のミニバン「デリカ」の世界観を、軽自動車で展開したものです。“ヤンチャかわいい”顔つきが話題のデリカミニですが、実は同社の「eKクロス スペース」をベース車としたマイナーチェンジモデル。そこにデリカならではのエッセンスを取り入れたクルマとなっているわけです。

↑ボディサイズは全長3395×全幅1475×全高1830mm。2WDの全高は1800mm

 

特に外観は従来のイメージを大きく変更し、フロントグリルには三菱車の共通アイコンである、“ダイナミックシールド”と呼ばれる痕跡を残したフロントフェイスを採用。半円形のLEDポジションランプ付きヘッドランプを組み合わせつつ、上位車であるデリカD:5との共通性をも持たせながら可愛らしさを演出しています。

 

しかも前後のフロントバンパーとリアガーニッシュには立体的な「DELICA」ロゴを浮かび上がらせたほか、光沢のあるブラックホイールアーチ、前後バンパー下にプロテクト感のあるスキッドプレートを組み合わせることでワイルドさを演出。このように、外観をがらりと変えたことによって今までのイメージを一新させ、人気獲得に結びついたというわけです。

↑フロントグリルには「DELICA」のロゴマーク。ヘッドライトはかわいらしい形状のLEDを採用

 

↑前後アンダー部とサイドに施したデカールによってワイルド感がいっそう増した

 

↑ワイルド感を高めるのに効果的なサイドデカール(3万3440円)はディーラーオプション

 

軽自動車はいまや日本で約半分を占める大きなマーケットです。その中でもスーパーハイト系ワゴンは最大の激戦区。ここには圧倒的強さを発揮するライバルが君臨しており、残念ながら三菱自動車はこれまでその一角に入ることができていませんでした。聞くところでは「候補の一つにも入れてもらえないことが少なくなかった」というのです。そんな中での大ヒット! 商品開発でのうれしい誤算となったことは間違いないようです。

 

オフロード走行を意識した足回りを4WD車に標準装備

用意された試乗車は、シリーズ中で最上位となるターボ仕様のデリカミニ「T Premium」の4WD車です。

 

車両本体価格は223万8500円。そこにメーカーオプションとして、オレンジのオプションカラー(8万2500円)とアダプティブLEDヘッドライト(7万7000円)を装備しています。さらにディーラーオプションとして、フロアマット(2万5960円)やサイドデカール(3万3440円)、ナビドラ+ETC2.0(36万9820円)などが加わり、総合計では282万7220円。諸経費を含めると300万円を超える見積りとなりそうです。

↑ディーラーオプションのナビドラ+ETC2.0(36万9820円)のナビゲーションは、手持ちのスマホとWi-Fi接続することで音声での目的地検索が可能になる

 

そのデリカミニを前にすると、やはりデリカ風のデザインがとってもカッコイイ! 試乗車のボディカラーがオレンジだったことも一つの理由だと思いますが、4WD車は車高が高くなったうえに、タイヤを標準グレードよりも一回り大きい165/60R15にしたこともカッコ良さを際立てているように感じました。さらに4WD車に限ってはダンパーにも手が加えられ、オフロードで快適な走行ができるように改良されているのです。

↑4WD車のタイヤには標準車よりも一回り外形サイズが大きくなる165/60R15を採用

 

一方で内装は黒を基調としており、基本的には従来のeKクロス スペースを踏襲したものです。とはいえ、デリカミニとしての独自色を上手に演出できており、運転席からの視界は比較的に高めで、周囲の見通しはかなり良いと言えるでしょう。ただ、ステアリングがチルトするのみでテレスコピックはなし。そのため、若干ハンドルを抱え込むポジションになってしまいました。それでもシートの座面にコシがあり、しっかりとしていることから疲れは感じないで済みそうです。

↑水平基調のインストルメントパネルはブラックで統一。着座位置は高めで視界はとても広い

 

↑シートは合皮とファブリックの組み合わせた通気性の良い撥水シートとなっている

 

レジャーを意識した装備も豊富です。たとえば寒い季節にありがたいステアリングヒーターは新装備されたもので、しかも全周囲を対象とする優れもの。また、天井に設けられたサーキュレーターはエアコンの効きを均一化できるほか、リアサイドウィンドウのロールサンシェードや助手席シートバックの折りたたみ式テーブル、さらにはUSB端子も装備されるなど、後席でも快適に過ごせるようさまざまな工夫が施されています。さらに、リアシートは320mmもスライドでき、出掛けた先でいろいろな活用法が見出せることでしょう。

 

【内装フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

ターボパワーは必要十分! ハンドリングも穏やかで乗りやすい

↑最高出力47kW(64PS)/5600rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/2400~4000rpmを発生させる直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ+マイルドハイブリッドを搭載

 

走り出しは4WD車らしい、落ち着いたスタートを切ります。軽快さはあまり感じませんが、高速道路での流入でもそれほどパワー不足を感じることはないと思います。ただ、これがノンターボ車だと、おそらくかなり動きは鈍くなるのではないかと推察できます。その意味で、オススメはターボ付きモデルですね。

↑デリカミニに試乗中の筆者。高めの着座位置ということで運転のしやすさが印象的だった

 

ハンドリングも穏やかでスーパーハイト系ワゴンにもかかわらず腰砕けしないフィーリングは、乗りやすくコーナリングも安心して走れるという感じです。トランスミッションはパドルシフト機能付きCVTで、走行中に簡単操作でシフトを変えられるのもメリットと言えます。

↑デリカミニは、「DELICA」のロゴマークが従来の「eKクロススペース」とは異なる雰囲気を醸し出していた

 

もう一つ注目なのは、悪路での走破性です。前述したように、4WD車にはスムーズなダンピングと路面への追従性を高めたショックアブソーバーが装備され、そのうえでタイヤサイズを一回り大きくした165/60R15を組み合わせています。これにより、2WD車に比べて砂利道など悪路での走破性を高めているとのこと。この日の試乗では、悪路走行はキャンプ場内に限られたため、その効果をはっきり体感できるまでには至りませんでしたが、継続装備されたヒルディセントコントロールも含め、改めての試乗で確かめてみたいと思います。

↑砂利道など悪路での走破性を高めているとのことだったが、キャンプ場内ではその効果を十分に体感することはできなかった

 

可愛い『デリ丸。』のCM効果もあって、三菱の軽自動車としては異例の大ヒットをもたらしたデリカミニ。ここまで人気を集めればサードパーティの新たなパーツの登場も期待できそうです。かつてのパジェロミニがそうだったように、デリカミニとして新たな盛り上がりを期待したいところですね。

 

SPEC【T Premium(4WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1830mm●車両重量:1060kg●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:64PS/5600rpm●エンジン最大トルク:100Nm/2400〜4000rpm●モーター最高出力:2.7PS/1200rpm●モーター最大トルク:40Nm/100rpm●WLTCモード燃費:17.5km/L

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撮影/松川 忍

もうすぐロータリー×PHEV版出ますが…マツダ「MX-30 EVモデル」の価値はどこにある?

昨今、世界の自動車メーカーから次々とEVが発表されている。そんななか、マツダは同社初の量産型EVとして、2021年1月に「MX-30 EVモデル」の国内販売を開始した。ハイブリッドモデルとなるMX-30が先行して登場しているが、併売する意義や販売的な成功はあるのだろうか。さらに、同クラスのSUVの多くがファミリーカーとして使われているなか、MX-30 EVモデルの使い勝手はどうか。発売から2年半経過した今、考察してみたい。

 

■今回紹介するクルマ

マツダ MX-30 EVモデル

※試乗グレード:EV・Highest Set

価格:451万~501万6000円(税込)

 

 

MX-30のEVモデルは遅れてきた本命

MX-30は現在日本で売れ筋となっているコンパクトサイズのSUVだが、ベースとなっているのは、同社のコンパクトSUV、「CX-30」である。そして、マツダにはさらに小型のエントリーモデル、「CX-3」もラインナップされている。棲み分けが難しいこの小さな領域において、マツダだけで3車種も販売している状態だ。

 

では、この3台で最も後出しとなるMX-30 EVモデルの存在意義とはなんなのかと言われれば、それはEVとして企画されたモデルであることにほかならない。2020年10月にマイルドハイブリッドモデルが先行して発売されたものの、EVであることを前提に開発された車種だけに、数か月後に発売されたEVモデルが「遅れてきた本命」というわけである。

 

観音開きのドアはファミリー向けの提案

デザインについても、CX-3やCX-30とは一風違ったテイストで仕上がっている。フロントまわりはEVらしくグリルが小さく、流行りの大型グリルの威圧顔とは違ったすました表情だ。全体的には現代的な曲線基調で、尖った部分はなくスッキリしており、上質さと同時に、親しみやすさを感じるデザインにまとめられている。

↑サイズは全長4395×全幅1795×全高1565mm。試乗モデルのカラーは特別塗装色のソウルレッドクリスタルメタリックで、ほか7色のカラーを展開しています

 

デザインではないが、「フリースタイルドア」と呼ばれる観音開き式のドアもこのクルマのポイントとなっている。フロントドアは通常通りの後ろ開きだが、リアのドアが前開き。つまり真横から見たら観音開きである。マツダで観音開きといえば、RX-8を思い出す好事家もいるに違いない。

 

この観音開き、実は構造的な“珍しさ”のほかにもメリットがある。それは、前席ドアを開けなければ後席ドアが開かないというもので、小さな子どものいる家庭では重宝される機能。ファミリー向けのクルマとして、ミニバン以外の選択肢に新たな提案というわけだ。

↑フリースタイルドアは専用設計のヒンジを採用しており、ほぼ垂直に近い角度まで開きます

 

↑ラゲージスペースは366Lの容量を確保

 

インテリアも非常に特徴的なデザインが採用されている。特に印象に残るのは、シフトノブの下部にスペースが設けられていること。これは一部輸入車などでも採用されていた構造で、見た目もスッキリするし、ドライブ中でも欲しいアイテムをすぐ手に取ることができて、足元に落ちる心配も少ない。また、センターコンソールに採用されたコルク素材も、現代的でオシャレである。

↑シフトノブとコマンダーコントロールは前方に配置。またセンターアームレストを高くしているため、肘を置きながら自然な腕の角度で操作できるようにしています

 

↑空間全体で包み込まれるような心地よさを実現したというシート

 

↑回生ブレーキの強さを変えられるパドルシフトが付いたステアリング

 

さらに、2022年10月の商品改良では、MX-30 EVモデルのバッテリーから電力を供給できるAC電源が追加装備されている。これで、アウトドアなどレジャーに出かけた先でも、電化製品を気軽に使うことができるため、アクティブなライフスタイルをサポートしてくれるに違いない。

コーナーも安心の乗り心地。航続距離の短さは日常使いであれば問題なし

もうひとつ、MX-30 EVモデルならではの美点がある。それは走りがいいことだ。EVならではのストップ&ゴーの気持ちよさはもちろん、乗り心地も優れている。しなやかなサスセッティングで道路に張り付くように走れるだけでなく、ドイツ車のようにタイヤの接地感が失われるようなことが少ないので、背の高いSUVでありながら高速道路のコーナーでも安心である。

 

一充電走行距離のカタログ値は256kmとなっているが、実質的には200kmくらいになるだろう。この距離をどう捉えるかだが、買い物や通勤など短距離移動を日常的にこなす人にとっては、不足感はないはずだ。

↑運転席寄りに搭載されたe-SKYACTIVEVユニット。モーターの最高出力は107kW(145ps)/4500~11000rpmで、最大トルクは270Nm(27.5kg-m)/0~3243rpmです

 

↑充電口には普通充電ポート(左)と急速充電ポート(右)をそろえています

 

さらに今後、プラグインハイブリッドモデルが発売される。電気モーターにプラスして、発電機を回す動力源としてのエンジンを搭載した「e-SKYACTIV R-EV(イースカイアクティブ アールイーブイ)」という名称のモデルが追加販売されるという。発売日はまだアナウンスされていないが、6月22日に広島の宇品工場で量産が開始されたことが発表されている。

 

この発電用エンジンというのが、なんとロータリーエンジンである。マツダにとってロータリーエンジンは特別なもので、コスモやRX-7に搭載されてきた象徴的な技術だ。RX-8生産中止以来、約11年ぶりのロータリーエンジンは、発電用であっても特有の高回転の快音が聞こえるのだろうか。だとすればファン垂涎のモデルでもあり、このモデルの投入でMX-30が一気にスターになる可能性も秘めている。今回紹介しているEVモデルの購入を検討していた人にとっては、悩ましい存在となるのかもしれないが……。

 

「人が乗ってないクルマ」「自分らしさを表現できるクルマ」を好む人が選ぶ

さて、このMX-30 EVモデルの最大のマイナス面を挙げるなら、価格が高いところだろう。ハイブリッドモデルと比べて、約200万円も高く設定されている。ハイブリッド車を検討している人からは、この価格を知っただけで見向きもされないかもしれない。

 

しかし、そもそもMX-30 EVモデルを選ぶ人は、人が乗ってないクルマや、自分らしさを表現できるクルマを好む人である。「EVに乗る生活」により早く移行できることからも、喜びを味わえるのではないだろうか。そこに加えて、CO2排出量を抑えることに意義を感じられるような人にはぴったりである。

 

同クラスのEVのなかでも、見事な“個性”を発揮しているMX-30 EVモデル。これからマツダマニア待望のロータリーエンジン搭載プラグインハイブリッドモデルが追加されることになる。ハイブリッドかEVか、はたまたプラグインハイブリッドか、人々がどのモデルを選ぶのか、今後はその経過を追ってみたい。

 

SPEC【EV・Highest Set】●全長×全幅×全高:4395×1795×1565mm●車両重量:1650kg●パワーユニット:電気モーター●最高出力:145PS(107kW)/4500-11000rpm●最大トルク:270Nm/0-3243rpm●WLTCモード一充電走行距離:256km

 

文/安藤修也、撮影/茂呂幸正

 

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「テスラか、それ以外か」と思わせるほど「モデルY」のバッテリーと乗り心地は素晴らしい

日本ではあまりうまくいっていないEV(電気自動車)の普及。しかし北米の雄・テスラは、日本以外での鮮やかすぎる販売的成功をもとに、日本にトドメとなる1台を展開させてきた。人気モデルである「モデル Y」の航続距離を強化したバージョンは、日本の市場にどれだけ食い込めるだろうか?

 

■今回紹介するクルマ

テスラ モデル Y

※試乗グレード:デュアルモーターロングレンジAWD

価格:652万6000円

 

「加速は必要ないが、長い距離を走りたい」人に最適な選択肢

テスラと言えば世界一のEVメーカー。そのテスラのなかで現在一番売れているモデルが、SUVの「モデル Y」だ。

↑フロントは目立つグリルなどがない。それがかえって先進性を醸し出している

 

SUVと言っても、最低地上高が特に高いわけではなく、セダンタイプのモデル 3の全高をこんもりと上げ、そのぶん室内を広くしたモデルだと考えればいい。そもそもセダンの販売は世界的に絶不調。そんななかでモデル 3は健闘していたが、モデル Yの生産が本格化したことで、そちらに主役の座を譲ったわけだ。

 

日本で販売されるモデル Yには、従来2つのグレードがあった。ベーシックなRWD(563万円)と、デュアルモーターAWDパフォーマンス(727万円)だ。WLTCモードの航続距離は、RWDが507km、パフォーマンスが595km。パフォーマンスのウリはスーパーカー以上のバカ加速だが、一般ユーザーには性能過剰だった。

 

そこに今回、中間的存在の「デュアルモーターAWDロングレンジ」が加わった。価格は652万円とちょうど両車の中間で、航続距離は605km。パフォーマンスより価格が75万円安いので、「バカ加速は必要ないが、安心して長い距離を走りたい」というユーザーには、最適な選択となる。今回は、発売間もないこのクルマに試乗した。

↑高速に乗って長い距離を試走

 

バッテリーマネジメントが優れた、EV界のエリート

モデル Yロングレンジに限らないが、テスラのEVには、ドアに鍵穴もタッチセンサーもない。キーを登録したスマホを持つオーナーが近づくだけで、自動的にドアロックが解除される。

 

運転席に乗り込んでも、ボタンがほとんどない。電源ONのボタンすらない。これまた、キーを登録したスマホを持ったオーナーが乗り込むだけで、自動的に電源が入るのだ。ステアリング右に生えたレバーを下げるとDレンジに入り、発進が可能になる。

↑ボタン類をほとんど排除したシンプルなインテリア。中央のディスプレイは15インチと大きめ

 

この、ほとんどボタンがない操作系には、中高年は大抵ビビッてしまう。不安で不安でたまらなくなる。でも、慣れれば気にならなくなる。初めてのスマホのようなものだ。

 

ステアリング右のシフトレバーと左のウィンカー以外のあらゆる操作は、中央のディスプレイで行なうことになる。運転中のタッチ操作は結構難儀でイライラするが、声で操作することも可能だ。音声認識はスマホ並みに優秀なので、ナビの設定やエアコンの温度変更は、声で操作するのが吉。

 

いよいよ走り出そう。充電100%で電源ON、エアコンもONの状態で、ディスプレイに表示される航続距離は525kmだった。WLTCモードの605kmよりは短いが、公称の87%に当たる。通常EVの実際の航続距離がWLTCモードの7掛け程度なのに比べると、かなり長い。さすがテスラだ。

 

テスラは、バッテリーのマネジメントが非常に優れている。つまり充放電の制御が上手なので、同じバッテリー容量でも、より長い距離を走れて、バッテリーの寿命も長い。最初に表示される「525km」という数字からも、それがうかがえる。さすがEV界のエリートである。

サスペンションがしなやかで、乗り心地は快適

走り始めると、まさにEVそのもの。音もなくスムーズに加速する。驚いたのは、新車の割にサスペンションがしなやかだったことだ。ボディも猛烈にしっかりしているので、乗り心地は素晴らしい。

 

以前乗ったモデル 3は、サスペンションがハードすぎて乗り心地は最悪レベルだったが、今回のモデル Yは雲泥の差だった。もともとテスラ車は新車時のサスのあたりが固い傾向があったが、改良されたらしい。

 

市街地で気になるのは幅の広さだ。全長は4760mmなのでちょうどいいが、全幅は1925mmもあり、取り回しには多少気を遣う。

 

そのぶん室内は広い。セダンのモデル 3と比べると、全高は180mm高く、全長も65mm長いのだから当然だ。パノラミック・ガラスルーフが標準装備なので、開放感もある。ラゲージ容量は、リアシートの後ろ側で854L。これで足りない人はまずいないと思うが、リアシートの背もたれを倒すと、2041Lという巨大な空間になる。フロントのボンネット下にも117Lの容量のトランクがある。実用性は十分だ。

↑本体サイズは約全長4760×全幅1925×全高1625mm。カラーは試乗モデルのパールホワイトのほかに、オプションで4色をそろえている

 

↑コックピットはシートポジションが高く、ダッシュボードは低いため、よく見渡せるようになっている

 

駆動用モーターは、前後に1基ずつ搭載。詳細な出力は非公開だ。モデル Yパフォーマンスに比べると加速は控え目だが、それでも十分すぎるほど速い。

↑試乗モデルは、静止状態から時速100kmまで約5.0秒の加速を実現している

 

ライバルに対して優位に立つ航続距離の長さ

テスラ車の美点は、速度を上げてもあまりバッテリーを食わない(電費がいい)点にある。新東名の120km/h制限区間を120km/hでブッ飛ばしても、100km/hのときとあまり電費が変わらないのだ。空気抵抗は1.4倍に増加しているはずなのに、不思議で仕方がない。EVは速度を上げると急激にバッテリーを食うものだが、なぜかテスラはその割合が小さい。これも優れたバッテリーマネジメントの賜物だろうか? テスラは技術的な情報をほとんど公表しないので謎だが、そう考えるしかない。

 

東京から240km先の浜松SAで折り返し、富士川まで合計340km走った段階で、バッテリーにはまだ34%電力が残っていた。つまり、100%使い切れば500km走れた計算だ。残り20%まででも、約400km走れることになる。さすがロングレンジ。ここまで航続距離の長いEVは、この価格帯にはほかに存在しない。ライバルに対して、2~3割は優位に立っている。

 

富士川のテスラスーパーチャージャー(テスラ専用の急速充電スポット)の250kW器で30分間充電したところ、87%まで回復した。推定充電量は40kW。平均充電速度は80kWhだ。最大50kWがスタンダードのチャデモ(CHAdeMO)の急速充電器よりはるかに速い。しかもテスラスーパーチャージャーは、一か所のスポットに4~6器の充電器が並んでいるから、充電待ちもまずない。

↑スーパーチャージャーでは、15分間で最大275km相当の充電が可能

 

テスラスーパーチャージャーは、現在国内70余か所、300器強が整備されている。なにしろテスラ専用なので、気分は貴族。この充電速度で、この利便性。EVは「テスラか、それ以外か」で、天と地の差があると認めざるを得ない。

 

SPEC【ロングレンジ AWD】●全長×全幅×全高:4760×1925×1625mm●車両重量:1980kg●パワーユニット:デュアルモーター●最大出力:250kW●最高時速:217km/h●航続距離:605km

 

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撮影/池之平昌信

大きいフィアットに魅力はある?「ドブロ」、兄弟車や国産ミニバンとの違いは?

フィアットから家族や仲間との遠出にピッタリなMPV『ドブロ』が日本デビューを果たしました。両側スライドドアを備えつつ、ボディは2列シート5人乗りの「ドブロ」と、3列7人乗りの「ドブロ・マキシ」をラインアップ。これまで日本でのフィアットは「500」や「500X」、「パンダ」など、コンパクトサイズの車両を展開していましたが、ドブロの登場でファミリー層にまで裾野を広げることとなったのです。

 

本記事では、ドブロの魅力をファーストインプレッションとしてお届けします。

 

■今回紹介するクルマ

フィアット/ドブロ

※試乗グレード:ドブロ・マキシ

価格:399万円〜429万円(税込)

 

ドブロはプジョー「リフター」、シトロエン「ベルランゴ」と兄弟車

フィアットのドブロは、同社が属するステランティス・グループのプジョー「リフター」、シトロエン「ベルランゴ」の兄弟車として誕生しています。それだけにボディサイズは5人乗りで全長4405×全幅1850×全高1850mm、7人乗りも全長4770×全幅1850×全高1870mmと、若干の差異はあるもののほかの2車種とほぼ同じサイズ。荷室容量も最大2693リッターと、ほぼ同じとなっていました。

 

では、このサイズはいったいどのぐらいに相当するのでしょうか。たとえばトヨタ「シエンタ」と比べると、5人乗りのドブロは145mm長く、7人乗りのドブロ・マキシになると510mm長くなります。少し大きいトヨタ「ノア」との比較では、ドブロが逆に290mm短くなり、ドブロ・マキシは75mm長いといった感じです。同じ7人乗りで比較すれば、ノア/ヴォクシーに近いサイズと考えていいと思います。

↑全長4770mmのドブロ・マキシは定員が7名。ボディカラーは、この「メディテラネオ ブルー」以外に、「ジェラート ホワイト」「マエストロ グレー」の3色を選べる

 

↑手前が7人乗りのドブロ・マキシで、奥が5人乗りのドブロ。ボディの長さが大きな違い

 

ドブロをフロントから見ると、リフターやベルランゴとはデザインで明らかにテイストが違うことがわかります。フロントグリルをキュッと細身にしたシンプルなデザインは、最近のミニバンに多いギラギラ感とは一線を画するものです。しかも、FIATのロゴマークを大きくして、存在を主張しています。これだけでもフィアットファンにはたまらない魅力となるのではないでしょうか。

↑5人乗りのドブロ。フロントの「FIAT」のロゴマークが存在感をアピール

 

↑ドブロ・マキシのホイールベースは、5人乗りドブロよりも190mm長い2975mm。タイヤは205/60R16

 

多彩なシートアレンジが高い居住性と広大なスペースを生み出す

車内もシンプルなブラックで統一されたインテリアが乗員を取り囲みます。中央を仕切るセンターコンソールには、ダイヤル式シフトやスライド式のリッド付きドリンクホルダーが配置されるのみ。メッキ類もほとんどなく、日本のミニバンに見慣れた人にとっては物足りなさを感じるかもしれません。

 

ですが、それを好まない人にとっては、そのシンプルさがかえって心地よく感じられるかもしれません。むしろ、統一されたシンプルさがあるからこそ、ステアリング中央にあしらわれた、真っ赤なFIATのエンブレムが際立つのです。これもフィアットファンには大きな魅力となるでしょう。

↑シンプルなブラックで統一されたインテリアは、日本のミニバンとは違ってメッキ類もほとんどなし

 

↑ダイヤル式シフトは慣れれば結構使いやすいものだ。パーキングブレーキが電動なのもうれしい

 

一方で収納力はリフターやベルランゴと同様、収納スペースを前席まわりに8か所配置するなど、充実しています。運転席周りは正面のメーターナセルの上にフタ付きのグローブボックスがあり、収容力はかなり大きめです。上を見上げればそこには左右一杯に広がる収納トレーを配置。左右ドアにあるドアポケットもかなり大きめで、使い勝手はよく考えられているようでした。

↑運転席の前にある巨大なグローブボックス。深さもそこそこあって容量はかなり大きめだ

 

リアシートの多彩なアレンジもドブロの魅力です。2列目は3座独立タイプで、それぞれが均等に座れるようになっており、たとえ真ん中に座ったとしても左右より窮屈だったり、居心地が悪かったりはしません。しかもシートはすべて床下に収納できてしまい、フロアがフラットになるのです。

↑3席が完全に独立しているセカンドシート。大人が十分余裕をもって座ることができる。写真は5人乗りのドブロ

 

7人乗りの場合は3列目シートが残りますが、シートそのものを取り外すことができ、それによって生まれる空間は巨大そのもの。独身世帯のちょっとした引っ越しなら十分対応できそうなレベルです。

↑7人乗りのドブロ・マキシでセカンドシートを床下へ収納した例。3列目シートの前に広大なスペースが再現できる

 

また、バックゲートはガラスハッチだけを開閉することもでき、狭い場所でも上から荷物を出し入れできます。車庫などに入れたときの荷物の出し入れに重宝することでしょう。

↑7人乗りのドブロ・マキシのカーゴスペース。脱着も可能な3列目シートを折りたたんでも、かなり広いスペースが生まれる

 

ただ、左右のスライドドア、バックドアともにパワー機構が備わっていません。どれも開け閉めには結構な力が必要で、軽自動車でもパワースライドドアが当たり前に装備されている感覚からすると、ちょっとツライかもしれません。

↑バックドアは自分で開閉。そのため、閉めるときは特に重さを感じるが、このロープが役立つ

力強いトルクが生み出すスムーズな加速。コーナーでの安定度も抜群

日本仕様のパワートレイン系は、1.5Lのターボディーゼルと8速ATの組み合わせで、最高出力130ps/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発揮します。リフターやベルランゴと共通のもので、パフォーマンス面でも満足いくレベルにあることは容易に想像ができます。

↑パワートレイン系は1.5リッターのターボディーゼルと8速ATの組み合わせのみ

 

この日はあいにく雨天での試乗となってしまい、路面から湧き起こる“シャーッ”というノイズが室内に進入し、エンジン音すらかき消してしまうほど。そのため本来の静粛性をチェックできませんでしたが、リフターやベルランゴの経験からすると、高速域でも十分な静粛性を保っていたことは確かです。

 

走りはというと、アクセルを踏み込むと同時に力強いトルクが車体をスムーズに動かしてくれました。しかしながら、決してトルクが出しゃばることなく、自然な雰囲気で加速してくれます。速度の伸びも良好で、少なくとも試乗コースとなっていた都内の道路上で不満はまったく感じませんでした。

 

一方で、サスペンションはしっかり感を伝えるフィールで、コーナーを曲がるときも後輪が路面にちゃんと追従して雨天走行でも不安感はまったくなし。MPVながら走りも楽しめそうな印象でした。

 

最後にドブロで見逃せないのが、安全装備や先進運転支援システムです。オートハイビームや自動緊急ブレーキ、車線維持支援機能を搭載したのはもちろん、ロングドライブで重宝するアダプティブクルーズコントロールを装備。レーンチェンジの安心をサポートするブラインドスポットモニターや、便利な電動パーキングブレーキも搭載しています。実用性のみならず、ドライブの安全性と快適性を両立しているのもドブロのポイントと言えるでしょう。

↑ロングドライブで役立つアダプティブクルーズコントロールを装備。先行車に追従して速度を自動的に加減速してくれる

 

【まとめ】

ドブロは、電動スライド系機構がない点は、日本車並みの至れり尽くせりな装備になっていないのは確かです。しかし、安全装備、運転支援機能を備え、収納スペース、荷室アレンジは十分。広大なスペースを活用して、自分らしい使い方をアレンジするところに魅力があり、存在意義はそこにこそあるのです。家族や仲間と一緒に、そんな新しいイタリア車の世界観を楽しんでみてはいかがでしょうか。

↑ドブロでイタリア車らしい、自分流の楽しみ方を見つけて欲しいと話す、Stellantisジャパン 代表取締役社長 打越 晋氏

 

SPEC【フィアット/ドブロ】●全長×全幅×全高:4770×1850×1870mm●車両重量:1660㎏●パワーユニット:ターボチャージャー付直列4気筒DOHC(ディーゼル)●最高出力:130ps/3750rpm●最大トルク:300Nm/1750rpm●WLTCモード燃費:18.1km/L

 

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MAZDA2は旧来のデミオファンをも取り込むポップさと質感の高さを両立してるではないか!

2023年の春、MAZDA2が大幅に改良された。MAZDA2といえばマツダの根底を支えるコンパクトカーだが、はたしてどのような変更がなされたのか。本稿では、かつてのデミオを懐かしみながら、その魅力について解説していきたい。

 

■今回紹介するクルマ

マツダ MAZDA2

※試乗グレード:15BD・2WD

価格:152万2900~254万1000円(税込)

 

デミオ時代から数えて10年目を迎えるロングセラーモデル

2010年代からブランドイメージの転換を図ってきたマツダ。イメージカラーをメタリックレッドとブラックで揃え、販売ディーラーもプレミアムな雰囲気へと変貌させた。MAZDA2は、新時代のマツダのエントリーモデルだが、かつての名称「デミオ」と呼んだほうが、そのサイズ感や特徴を捉えられる人は多いかもしれない。

 

デミオは1996年にデビューしたコンパクトハッチバックで、小型車にしては高めの全高や広い荷室を特徴として人気を博し、スマッシュヒットとなった。以後、マツダの基幹モデルとして4代目まで販売されてきており、走りのスポーティーさやデザインの妙で、2000年以降、戦国時代となっていた日本のコンパクトカー市場でも独自の地位を確立していた。

 

しかしその後、2019年の改良時に名称変更がなされ、新車種のMAZDA2としてリボーンすることとなる。つまり、MAZDA2は4代目デミオであり、改良が施されたデミオと言ってもいいだろう。そして、この4代目モデルが登場したのは2014年であり、そろそろ10年目を迎えんとするロングセラーモデルとなっている。

↑新MAZDA2は2023年1月に大幅改良がアナウンスされました!

 

なかなかモデルチェンジされないのは、言い換えれば「いいクルマだから」長く売れ続けているとも言える。たしかに4代目デミオは、「魂動」デザインが取り入れられ、内外装ともに質感が高く、また当時のさまざまな新技術も採用されて機能性も高かった。

 

それらに加えて、デミオの時代に3回、MAZDA2になってからは1度、改良が施されてきた。また、その間に先進安全技術の拡充なども図られている。そして2023年、今回の商品改良は、メーカー自ら「大幅」改良と呼ぶほどで、外観のデザイン変更から、新素材の採用、グレード追加など、その範囲は多岐にわたっている。

↑試乗モデルのサイズは全長4080×全幅1695×全高1525mm、重量は1090㎏。なおボディカラーは全12色を用意しています

 

まず大きなところでは、「15BD」、「XD BD」という新グレードが追加されている。これらは、「自分らしく、自由な発想で、遊び心を持って」というテーマが掲げられたMAZDA2において、自分好みに選べるカラーバリエーションの楽しさを味わえるモデル。今回試乗したのは、前者の「15BD」の方で、1.0Lのガソリンエンジンを搭載するモデルである(XD BDはディーゼルエンジン搭載モデル)。

 

外装・内装にアクセントカラーを取り入れて違いを出す

外観デザインは、MAZDA2全モデルにおいて、フロント&リアのグリルやバンパーの形状が変更されるなど、グレードごとのキャラクターを立てる形で変更。グレードによってはフロントグリルとリアバンパーにはワンポイントのカラーアクセントが採用されていて、今回の車両はイエローのワンポイントが入っている。地味になってしまいがちなホワイト系のボディカラーでも、このようなアクセントが1点入るだけで、グッとオシャレさが増して見える。

↑フロントグリルの正面から少し右にイエローのワンポイント。遠くから見ても目立ちます

 

さらにこの15BDでは、ホイールにも非常に特徴的なデザインが採用されている。内部のスチールホイールの表面を隠すキャップ仕様でありながらも、2トーンカラーでシンプルかつクールさを演出。また、オプションパーツだが、ルーフ(車体天板)部分にはカーボン調のルーフフィルムが採用されており、スポーティーさをアピールしている。なお、このルーフフィルムはマツダ独自の新技術で、塗装回数を減らすことに貢献するという時代にも即したものになっているという。

↑ボディに合わせたカラーのアクセントが入ったホイールキャップ

 

↑俯瞰して見たときに、デザインに大きな変化を与えるルーフフィルム

 

従来からセンスの良かった上質な雰囲気の内装は、今回、ボディカラーに合わせて3色の配色がなされた。試乗したスノーフレイクホワイトパールマイカのボディカラーは、「ピュアホワイト」のインテリアパネルが採用されている。ボディ同系色を配置する手法は、海外のコンパクトカーでよく見られたものではあるが、やはり雰囲気を艶やかにしてくれる巧みな手法だ。

↑インテリアパネルがかなり目立つ内装。パネルは植物由来原料の材料を採用し、従来の塗装にはない質感を実現しつつ、環境に配慮しているそうです

 

↑運転席と助手席の間には「8インチWVGAセンターディスプレイ」を配置

 

↑試乗モデルのシートは見た目シンプルですが、座り心地にはこだわっており、「人間中心」の思想のもとで開発。心地よくフィットするとのこと

デミオのポップさと新時代のマツダを象徴する質の高さを融合

 

さて、走りに関して特段変更点はアナウンスされていないものの、久々に試乗してみたところ、相変わらず上質な雰囲気である。コンパクトカーというと、どうしても低価格で低コストなため、チープな走りを想像してしまいがちだが、MAZDA2は静粛性が高く、高級感のある走りを味わえる。

↑エンジンにはSKYACTIV-G 1.5に、燃料をしっかり燃やしきる独自技術を搭載。また、圧縮比率を14に高めることで環境性能と燃費を上げています

 

↑コントロール性能も進化。ドライバーのハンドル操作に応じて、スムーズで効率的に挙動する「GVC」は、ブレーキによる姿勢安定化制御を追加しています

 

さらに、筆者がいいなと思ったのは、チルト&テレスコピック機能がしっかり備わっていることだ。クルマにあまり詳しくない人にとっては何のこっちゃという言葉だが、これはステアリングホイールの位置を調整する機能のこと。チルトはステアリングの上下位置(高さ)を、テレスコピックは同様にステアリングの前後位置を調整できる。コンパクトカーといえばチルト機能はあってもテレスコまで備えているものは少なく、このあたりまでコストをしっかりかけているのは、マツダのドライバーへの配慮が感じられる部分である。

 

初代、2代目、そして3代目あたりまで、デミオの味といえば、快活さやポップな雰囲気であったが、4代目モデルでは新時代のマツダの特徴に沿うように、質感の高さを持ち味にしていた。どちらがいいかはユーザーの好み次第であったが、今回のMAZDA2最大の改良では、両者の魅力を兼ね備えたモデルとなった。旧来のマツダファンも裏切らない、ポップさを備えながらも、質感の高いコンパクトカーへと変貌を遂げている。

↑定員乗車時で280Lの容量を確保したラゲージスペース。荷室幅が約1000mmと広いので、荷物の出し入れもしやすそうです

 

SPEC【15BD・2WD】●全長×全幅×全高:4080×1695×1525mm●車両重量:1090㎏●パワーユニット:1496cc直列4気筒エンジン●最高出力:110PS(81kW)/6000rpm●最大トルク:142Nm/3500rpm●WLTCモード燃費:20.3㎞/L

 

文/安藤修也、撮影/茂呂幸正

 

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「お高いハリアーPHEVに価値ある?」→超快適な乗り心地にV8を積んでいるかの加速で大アリ

国産ラグジュアリーSUVの先駆として1997年に国内市場に登場したトヨタ ハリアー。2020年に発売された現行型である4代目モデルは、質感やデザイン性が従来モデルからさらに高められ、販売も好調だ。その人気を維持、向上すべく、2022年10月には一部改良が施されると同時に、PHEV(プラグインハイブリッド車)が追加された。SUVとしては早くからハイブリッドモデルが投入されていたハリアーだが、シリーズ初となるPHEVモデルの完成度ははたしてどれほどのものか?

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ ハリアーPHEV

価格:620万円(税込)

 

衝撃的な売れ行きのハリアー。でもお高いPHEVモデルに価値はあるの?

トヨタの高級SUVであるハリアーが猛烈に売れている。少し前まで、アルファードが月に1万台レベルで売れまくり、「狂ったように売れている」と話題になった。だが、いまはハリアーがメチャメチャ売れている。上級モデルでありながら、月平均7000台を超えているのだから、衝撃的な売れ行きと言っていい。

 

ハリアーの魅力は、高級感あふれるエレガントな内外装と、乗り心地の良さだろう。いまやどんなクルマも、加速や燃費はそこそこよくて当たり前。勝負は高級感と快適さなのである。

 

そのハリアーに、PHEVが加わった。シャシーベースが共通のRAV4には、以前からPHEVの設定があったが、ハリアーは、今回のマイナーチェンジのタイミングで追加された。

↑側面には「PLUG-IN-HYBRID」のロゴがあしらわれています

 

前述のように、ハリアーの魅力は内外装と乗り心地にあった。加えて、最安312万円(税込)からという価格も競争力抜群だ。一方、ハリアーPHEVの価格は620万円。最安グレードが2台買える値段である。それだけの価値はあるのか?

 

乗り心地のフワフワ感とトルク満点の走りで気分は大富豪である

乗って驚いた。すばらしくイイのである。内外装はハリアーのトップグレード「Zレザーパッケージ」に準ずるが、乗り心地はふんわりソフトで超絶快適!

↑シートは本革で見た目にも高級感が漂います。シートに施されたダークレッドのステッチもアクセントに

 

クルマは重量が増せば増すほど乗り心地を良くすることが可能だが、ハリアーPHEVは、バッテリー搭載によってハイブリッドに比べて約200kg増えた重量をうまく使って、すばらしい乗り心地を実現している。ほかのハリアーも快適ながら、PHEVはその一段上。思わず「えええ~っ!」と声が出るほど快適なのである。

 

しかも、加速がものすごい。エレガントな乗り心地とは裏腹に、暴力的なまでに出足がイイ。それもそのはず、2.5Lのダイナミックフォースエンジン(177ps/219Nm)と、フロント270Nm、リア121Nmのモーターを使ったシステム最高出力は、なんと306psに達する。

 

馬力もすごいが、それよりすごいのがトルクだ。乗り心地がフワフワと快適でトルク満点の走りは、かつての大排気量アメ車を彷彿とさせる。特にスポーツモードでは、アクセルレスポンスがウルトラシャープで、思わず「うおおおお!」と叫んでしまう。見晴らしのいいSUVでこの加速が炸裂すると、気分は大富豪である。

 

ハリアーには従来、2.0Lガソリンモデルと2.5Lハイブリッドモデルがあった。2.0Lガソリンは、排気量のわりに低速トルクがあり、重量級のボディをそれなりに走らせてくれるが、高速道路での加速は物足りなかった。2.5Lハイブリッドなら、全域でぐっと力強い加速を見せるが、こちらも特段速い部類ではない。

 

しかし今回追加されたハリアーPHEVは、明確に速い! V8でも積んでいるのか? と思うほど速いのである。実際、モーターのトルク特性は大排気量V8エンジンに近い。

↑2.5Lの直列4気筒DOHCエンジンを搭載。エンジンのみの最高出力は130kW(177ps)を実現しており、そこにフロントとリアのモーターが加わります

 

620万円という価格は決して安くはない。しかし従来のトップグレードだった「Z レザーパッケージE-Four」は514万円だ。プラス106万円でこの乗り心地と加速なら、高くないのではないだろうか?

外観の差別化は小さい

ハリアーPHEVの外観上の特徴は、ブラックアウトされたメッシュフロントグリルや、19インチ(タイヤサイズ:225/55R19)の大径ホイール、そしてPHEVバッヂ程度。

↑前面はメッシュフロントグリルのほかに、ワイドに広がるヘッドランプも特徴

 

今回の試乗車はボディカラーがガンメタだったため、ほかのグレードとの見分けは難しい印象だったが、ハリアーのエクステリアはもとから十分カッコいいので、差別化が小さいことに対する不満はない。内装に関しては、赤のステッチやパイピングがシートやダッシュボードまわりにアクセントとして入る。

↑外観デザインを見ると、フロントからリアに流れるようなシルエットが印象的です。なお、ボディサイズは4740×1855×1660mm

 

↑フラットなラゲージスペースは、ゴルフバッグ3個分収納できます。また、スライド式のデッキボックスを装備し、デッキボード下収納にアクセスしやすいほか、ハリアーPHEVには充電ケーブル用の収納スペースを用意

 

燃費は見劣りするが、EVモードなら近所にお出かけ可能(ただしゼイタク者に限る)

では、燃費はどうか。ハリアーハイブリッドは、WLTCモード21.6km/L(E-Four)。PHEVは車両重量が210kg重いため(1950kg)、WLTC燃費は20.5km/Lと若干落ちるが、これはPHEVのEVモード走行を無視した数値だ。

 

PHEVの駆動用バッテリーは18.1kWhの容量があり、EVでの航続可能距離は93kmある。実際にはその7掛け、つまり60km程度がEVモードの走行可能距離になり、近所のおでかけならEVモードでカバーできる。

↑充電は付属の充電ケーブルとコンセントをつなぎます。200V/16Aで充電時間は約5時間30分。ただし専用の配線工事が必要で、工事なしだと100V/6Aで充電可能。その場合は約33時間で満充電となります

 

もちろんそのためには、車庫に普通充電設備が必要。つまり、車庫付き一戸建ての住人にのみ許されたゼイタクではある。ハリアーでゼイタクを満喫したいなら、間違いなくPHEVがベストだ。

 

最後に、残念なお知らせ。ハリアーPHEVは注文の殺到と生産能力不足によって、発売前から受注停止となり、当分発注すらできそうにない。早くなんとかしてもらいたいものだ。

 

SPEC【プラグインハイブリッド E-Four・Z】●全長×全幅×全高:4740×1855×1660mm●車両重量:1950㎏●パワーユニット:2487cc直列4気筒エンジン+フロント&リアモーター●エンジン最高出力:130kW(177ps)/6000rpm●最大トルク:219Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:20.5km/L●電力使用時走行距離:93km

 

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「らしくないけれど…ありがたい」アルファロメオ「トナーレ」、ファンが抱える複雑な心情

イタリアの伊達なブランド、アルファロメオはいつの時代もカーマニアを唸らせてきた。その一番の魅力は美麗なスタイリングとスポーティな走行性能にあったが、ブランドの新体制における第一弾製品は、小型のSUV。近年、最も流行りのボディタイプで、アルファロメオはいったいどのような味わいを持たせることができたのか。イタリア車に精通する清水草一がレポートする。

 

■今回紹介するクルマ

アルファロメオ トナーレ

※試乗グレード:Ti

価格:524万~589万円(税込)

 

販売立て直しが必須のなかで登場した、アルファロメオのSUV

アルファロメオはイタリアの名門。エンブレムを見ただけで「なんかステキ!」と思ってしまうブランドで、私もこれまで2台購入している。

 

ただ、今世紀に入ってからは不振が続いている。アルファロメオと言えば「オシャレなデザインと痛快な走り」というイメージだが、経営戦略の迷走により、あまりオシャレでも痛快でもなくなってしまったからだ。

 

アルファロメオはもともとフィアットグループの一員。フィアットはクライスラーと合併し、近年、プジョー/シトロエンとも合併して、多国籍自動車製造会社ステランティスとなった。ステランティスグループのいちブランドとして、アルファロメオはどのような立ち位置を目指すのか、まだはっきりしていないが、とにかく販売を立て直さなければならない。

 

トナーレはセダンタイプ「ジュリエッタ」の後継モデルだが、欧州で最も売れ筋のコンパクトSUVセグメントにボディタイプを変更した。もはやSUVじゃなければ販売の拡大は見込めないのだ。痛快な走りを身上とするアルファロメオとしては、それだけで若干ハンデだが、仕上がりはどうだろう。

 

典型的なクロスオーバーSUVだが、随所に感じられるデザイン性

まずデザインを見てみよう。フォルムは典型的なクロスオーバーSUVで、いまやどこにでもありそうな形だ。アルファらしいデザインのキレが感じられない。決して悪くはないが、あまりにもフツーと言うしかない。さすがにフロントフェイスの盾形グリルだけはアルファロメオの伝統に則っており、一目でアルファロメオだと判別できるが、それを除けば、アルファロメオらしさはあまり感じられない。

↑SUVとしては一般的なデザインながら、鮮やかな青のカラーリングは目を引きます。なお、ボディカラーはTiグレードで3色(VELOCEは5色)を用意

 

ただ、細かく見れば、アルファロメオらしさはちりばめられている。3連ヘッドライト風のシグネチャーライトは、かつてのアルファロメオSZを彷彿とさせ、5つの円を組み合わせたホイールデザインも、アルファロメオ伝統の造形だ。

↑3連のU字型デイタイムランニングライト。アルファロメオの新たなシグネチャーになっているとのこと

 

↑今回試乗した「217 アルファ ホワイト」カラーモデル。ボディサイズは全長4530×全幅1835×全高1600mmです

 

しかしこういう小技だけでなく、全体のフォルムで「ひええ! オシャレすぎる!」くらい言わせないと、アルファロメオとは言えないのではないか。トナーレのデザインは、あまりにも定番すぎて、ほかのSUVに埋没してしまいそうだ。

 

1.5L 4気筒直噴ターボに48V駆動モーター、さらにBSGも搭載

パワートレインは、新開発の1.5L 4気筒直噴ターボに48V駆動のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドで、7速DCTで前輪を駆動する。トナーレは、「ステルヴィオ」に続くアルファロメオのSUV第2弾にして、初の電動化モデルなのである。

 

電動化と言っても流行りのバッテリーEVではなく、ガソリンエンジン主体のマイルドハイブリッドという点はアルファロメオらしいが、ハイブリッド王国・日本のユーザーとしては、「いまさらマイルドハイブリッドで電動化もないだろう」と感じてしまったりする。

 

試乗したのは、エントリーモデルのTi。「Ti」とは「ツーリズモ・インテルナチオナーレ」の略だ。国境を越えて走るってこと。島国の日本ではムリだけど。

 

新開発の1.5L 4気筒ターボエンジンは、エンジン単体では160PS/5750rpmと240Nm/1700rpmを発生させ、そこに20‌PS/55‌Nmを生み出すモーターが加勢する。さらに12Vのベルト駆動スターター・ジェネレーター(BSG)も搭載されている。一般的なマイルドハイブリッドシステムはBSGだけだが、トナーレの場合は20km/hぐらいまでの低速なら、電動モーターだけで走ることもできる。つまり、マイルドハイブリッドでも、ちょっと進んだヤツではある。

↑計器盤には12.3インチの大型デジタルクラスターメーターを採用

 

アルファロメオらしくないが、アクセルを踏んだときのレスポンスがステキ

1.5L4気筒エンジンのもうひとつの大きな特徴は、ターボに可変ジオメトリータービン(VGT)を採用していることだ。タービンの排気流路を変化させ、低速側のトルクとレスポンス、および高速側の出力を両立させるメカで、ガソリンターボエンジンではかなりゼイタクである。

 

低速域では、DCTが多少ガクガクするくらいで、走りはまったく平凡かつ安楽だが、首都高に乗り入れてクルマの流れに乗ると、トナーレは水を得た魚のように躍動をはじめた。

 

「どうせマイルドハイブリッドだろ」とナメていたが、ハーフスロットルでの反応が実にすばらしい。反面、アルファロメオらしいエンジンを回す快感はまったくない。レッドゾーンはなんと5500rpmという低いところから始まっていて、「こんなのアルファロメオじゃない!」という思いも沸く。

 

しかし実際の走行では、アクセルを踏めば車体は即座にググッと前に出て、実にレスポンスがいい。アクセルを全開にしても大した加速はしないが、日常的に使う領域では非常に俊敏で速く感じる。

↑低回転時からトルクが駆動し、高回転までスムーズに伸びていくため、爽快な加速を実現しているそうです

 

ハンドリングは実に素晴らしい

パワーユニットが縁の下の力持ち的なのに対して、ハンドリングは手放しでほめられる。とにかくタイヤの接地感がすばらしく高い。アルファロメオと言えば、いつテールがすっ飛ぶかわからない、頼りない操縦性が“味わい”だったが、トナーレのハンドリングは頼りがい満点。自信満々にコーナーに入ることができる。

↑コックピットは黒を基調としたデザイン。触感にもこだわり、上質な素材を採用しています。また、中央には10.25インチのタッチ対応インストルメントパネルを搭載

 

ステアリングは適度にクイックでアルファロメオらしいが、サスペンションは当たりが優しくしなやかで、首都高のジョイントを超えてもショックは最小限。カーブを曲がるのが実に気持ちイイ。ロングドライブでも疲れ知らずで走ることができそうだ。

↑優れた前後重量のバランスを利用して、トルクへの伝達とコーナーにおけるハンドリングの最適化を実現しているそうです

 

価格は524万円(Tiモデル)。美点は主にハンドリングなので、かなり割高に感じてしまう。国産SUVなら、トヨタ「ハリアーハイブリッドS」が371万8000円〜で買える……。

 

しかしトナーレは、欧州ではそれなりに売れて、アルファロメオブランドを守ってくれるだろう。アルファロメオファンとしては、それだけでありがたいという思いが沸いた。

 

SPEC【Ti】●全長×全幅×全高:4530×1835×1600mm●車両重量:1630㎏●パワーユニット:1468cc直列4気筒ターボエンジン+モーター●エンジン最高出力:160PS/5750rpm[モーター:20PS/6000rpm]●エンジン最大トルク:240Nm/1700rpm[モーター:55Nm/200rpm]●WLTCモード燃費:16.7㎞/L

 

撮影/清水草一

質実剛健がウリだったけど大丈夫? 3代目「ルノー カングー」乗って試す

フランスのルノー「カングー」と言えば、質実剛健な造りが日本でも人気を呼び、多くのファンを生み出したクルマです。そのカングーが2020年11月に3代目としてフルモデルチェンジを果たし、それから3年を経て日本での販売をスタート。サイズアップして乗用車としての乗り心地や使い勝手を高めた新型カングーをご紹介します。

 

■今回紹介するクルマ

ルノー/カングー

※試乗グレード:インテンス(ガソリンモデル)

価格:384万円〜424万5000円(税込)

↑1.3Lガソリンターボエンジンを搭載した「インテンス」。より乗用車ライクな外観を特徴とする

 

人気の秘密は質実剛健なコンセプト。3代目で「豪華になった」のは大丈夫?

カングーは高い実用性を持つ“乗用車”として、日本でも人気を集めているフランス車。わざわざ乗用車を“”で囲ったのには理由があって、もともとカングーは商用車として登場しているクルマだったからです。

 

カングーが誕生したのは1997年のことです。商用車らしく背を高くして十分なカーゴスペースを確保しながら、直進安定性やハンドリングなどが乗用車並みに優れていると高い評価を獲得。加えて当時の商用車としては数少ないABSや4つのエアバッグを標準搭載するなど、高い安全性も確保したことで、日本だけでなく世界中で人気モデルとなりました。

 

日本で初代が発売されたのは2002年。最初はバックドアを跳ね上げ式のみとしていましたが、翌年に実施されたマイナーチェンジを機に観音開き式のダブルバックドアが選択可能となりました。以降、カングーは使い勝手の良さから一躍人気モデルとなったのです。

 

そのカングーが今回のモデルチェンジで3代目となり、より大きく豪華なクルマへと進化を遂げました。ただ、“豪華になった”と聞けば、質実剛健さがウリだったカングーにとって果たして良いことなのか? そんな心配をする声も当然出てくるでしょう。ですが、その心配は基本無用と私は感じました。むしろ、走行中の安全性や使い勝手が進化したことで、実用車としての能力が一段と高められたのではないかと思ったのです。

 

全長が210mm長くなり、スタイリングにも余裕が生まれた

今回試乗したカングーは、カラードバンパーを採用し、より乗用車らしさを追求したグレード「インテンス」です。外観は、フロントグリルが従来のカングーとは大きく違ったデザインになり、以前よりも一段とルノーっぽさを感じさせます。ボディは前モデルに比べて全長が210mm長くなり、それによりAピラーを大きく傾斜させています。室内空間を狭めることなく伸びやかさを感じるデザインです。

 

一方でキャビンから後ろ方向を見ると、サイドのグラスエリアを細めにして、相対的にルーフ部分の厚みが増しています。これは商用車として荷物の積載に配慮したものですが、ここに本来のカングーっぽさを感じ取ることができます。

↑ガラスエリアを狭めたことから商用車としての基本構造が伝わってくるが、乗用車としても十分納得がいくデザインだ

 

さらに、3代目のラインナップには、フロントとリアがブラックバンパーになっている「クレアティフ」も用意されました。ホイールをセンターキャップのみともしており、よりカングーらしい質実剛健さを求めたいユーザーには格好のグレードと言えるでしょう。

↑ブラックバンパーやホイールが特徴的なグレード「クレアティフ」

 

全長が210mm伸びたことで、実感できたのが室内空間の広さです。特に「広いなぁ」と感じるのが後席で、一人ずつ専用シートが割り当てられている3座独立タイプとなっており、身長168cmの筆者が座っても十分なゆとりを感じます。フロアもフラットであるため、ゆったりと座ることができました。

↑シートサイズもたっぷりとしたサイズで、乗用車としての質感も申し分ないレベルに仕上がっていた

 

↑リアシートは3人分を専用シートで区切ってあるうえに、足元が広いために大人3人がゆったりと座れる

 

ただ、リアスライドドアは左右ともに完全な手動式で、国産なら今どき軽自動車でも電動化を実現していることを踏まえると残念に思うかもしれません。しかし、これがカングーだと思えば許せちゃうところが不思議です。

 

運転席に座って、変わりように驚いたのがインパネのデザインです。ダッシュボードは水平基調でデザインされ、中央にはフローティングされた8インチのディスプレイを配置。その下にはクロームで縁取られた空調用ダイヤルをはじめ、シフトレバーと電動パーキングブレーキがすっきりとまとめられています。

 

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商用で使うならパーキングブレーキは引き上げるタイプの機械式が良かったのではないかと思いますが、時代の流れなのでしょう。もちろん、乗用として使うならより使いやすいと感じるはずです。

 

ダッシュボード中央の「8インチ・マルチメディア EASY LINK」は、カーナビこそ装備されていませんが、スマートフォンを接続することで、iPhoneならCarPlayで、AndroidならAndroid Autoによってさまざまなアプリが使えます。なので、iPhoneならGoogle マップやYahoo!カーナビが使え、AndroidならGoogle マップがメインとなるでしょうか。

↑カーナビは搭載していないため、スマホにインストールしてあるカーナビアプリを使うことになる。写真はアップルのCarPlay

カングーならではの圧倒的な収納力と使い勝手の良さ

そして、カングーならではの真骨頂が優れた収納力です。ダッシュボードのアッパーには開閉式の収納ボックスが用意され、ここにはUSB端子2基とシガーライターソケットを装備。また、おなじみのオーバーヘッドコンソールも引き継がれ、その手前には巨大なアシストグリップが装備されました。これまで親しまれてきたチャイルドミラーはくるりと回転すると現れるようになり、これまた使いやすさを高めています。

 

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一方で、後席用のオーバーヘッドコンソールはなくなり、代わりに前席背後に使い勝手が良い折り畳み式テーブルが装備されました。

↑前席シート背後には新たに折りたたみ式テーブルが備えられた。後席に座った人には重宝する装備だ

 

ラゲッジスペースは当然の広さ。その容量は5名乗車時でも先代モデル比で115Lプラスとなる775Lを実現。後席は6:4分割で折りたたむことができ、すべてをたためば先代モデル比で132Lプラスの2800Lにもなります。しかもフロアは出っ張りがほとんどないフルフラット状態。フロアの地上高も低いために、重い荷物でも楽に積み込めそうです。

 

さらに、カングーの美点でもある観音開きのダブルバックドア。左右のドアは右が小さく、左が大きく左右非対称となっており、片方ずつ開いて荷物の出し入れができるのです。ドアの開閉は90度まで開き、必要ならロックを外すことで180度のフルオープンにすることもできます。状況に応じてさまざまなスタイルでドアの開閉ができるのは、いざというときに役立つでしょう。

 

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エンジンは2モデル用意。ガソリンモデルは走りが軽やかで、乗り心地も◎

最後に、新型カングーの走りを検証したいと思います。エンジンは従来の1.2リッターから1.3リッターへ排気量アップしたガソリンターボを搭載しています。インテンスではほかに1.5リッターのディーゼルターボも選択可能。トランスミッションはどちらも湿式7速となったデュアルクラッチを備えるEDC(エフィシエントデュアルクラッチ)を採用。従来の乾式6速より機能面も耐久性も大幅にアップしたということです。

↑1.3L直4・ガソリンターボエンジンは最高出力96kW(131ps)/5000rpmを発揮する

 

ガソリンである試乗車は、想像以上に軽やかに発進し、そのまま滑らかに加速。ボディが大きくなったことなど、まるで感じさせない余裕を体感できます。高速域に入っても力不足を感じることはなく、安定した走りっぷりです。これなら定員乗車してたっぷり荷物を積んでも不満は感じないでしょう。

↑試乗したのはガソリン車。軽やかに発進し、そのまま滑らかに加速していく様はスムーズそのものだった

 

なかでも感心したのが市街地での走行フィールで、加減速が滑らかであるためにギクシャクする様子などまったく見せません。コーナリング中のロールもしっかりと抑えられており、これなら同乗者にも歓迎されるでしょう。

 

乗り心地も大幅に向上しました。これまでは道路の継ぎ目などをしっかり拾っていたものですが、新型ではそれを上手にいなしてくれ、高速走行時の安定した走りとも相まって格段に乗り心地がレベルアップしたことを実感させてくれます。静粛性も十分に高く、全ガラスの厚みを増したこともあり、同乗者の音声も1割ほど聞きやすくなったということです。そのためか、運転中は生い立ちが商用車であることなどすっかり忘れてしまうほど快適に走ることができました。

↑道路の継ぎ目も上手にいなすことで乗り心地は大幅に向上した。写真は.3Lガソリンターボエンジンを搭載したインテンス

 

素晴らしい仕上がりを見せた、ACCなどの先進安全装備

また、さまざまな先進安全装備の搭載も見逃せないポイントです。

 

アダプティブクルーズコントロール(ACC)とレーンセンタリングアシストを組み合わせることで、ステアリングに手を添えているだけで高速道路のコーナーを曲がっていってくれます。渋滞で停止しても電動パーキングブレーキが停止を自動的にホールド。再発進はクルコンのスイッチを押すか、アクセルを軽く踏むだけで設定はすぐに復帰されます。この一連の使いやすさはカングー初の装備とは思えない素晴らしい仕上がりでした。

↑多彩な運転アシストによりロングドライブをしっかりサポート。ACC制御も自然で違和感を覚えることはほとんどなかった

 

↑新たに搭載されたブラインドスポットモニター。隣接する車線に車両がいるとミラーでその存在を知らせてくれる

 

今回はディーゼル車の試乗は間に合いませんでしたが、低速域の力強さはガソリン車を上回るものがあると聞いています。ディーゼルということでノイズこそ高まる可能性はありますが、長距離を走ることが多い人ならこちらの選択を考えても良いのではないでしょうか。

 

とはいえ、前述したようにガソリン車でも走りで不満は感じません。新型は今までのカングーに愛着がある人も、乗用車的な使い方をしたかった人にとっても満足度が高い選択となることを実感した次第です。

 

SPEC【ルノー カングー インテンス(ガソリン)】●全長×全幅×全高:4490×1860×1810mm●車両重量:1560㎏●パワーユニット:1333Lターボチャージャー付き筒内直接噴射 直列4気筒 DOHC16バルブ●最高出力:131PS/5000rpm●最大トルク:240Nm/1600rpm●WLTCモード燃費:15.3km/L

 

撮影/松川 忍

 

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「ここまで人気を呼ぶとは……」大ヒットの予感、三菱「デリカミニ」発売前チェック

2023年1月の東京オートサロン2023で実車が初公開され、大きな注目を浴びたのが三菱の新型軽自動車「デリカミニ」です。正式発売は5月25日を予定していますが、3月上旬にはなんと7000台もの事前受注を獲得。三菱の広報担当者も「ここまで人気を呼ぶとは思っていなかった」というほど、予想以上の反響を集めているのです。

 

それほど人気を集めた新型デリカミニとはどんなモデルなのでしょうか。4月6日に明らかになった価格を含め、その詳細レポートをお届けしたいと思います。

 

■今回紹介するクルマ

三菱/デリカミニ

価格:180万4000円〜223万8500円(税込)

↑「デリカ」の世界観を軽自動車で再現した『デリカミニ』(手前)。写真はオプションの「アクティブトーンスタイル」仕様

 

オフロード4WDミニバン「デリカ」の世界観を軽自動車で実現

デリカミニを一言で言い表せば、高い人気を獲得している三菱のミニバン「デリカ」の世界観を軽自動車で展開するものとなります。

 

そもそもデリカは1960年代後半に商用車としてデビューしたのが始まりです。その後、1979年に登場した2代目「デリカ・スターワゴン」で本格的オフロード4WDシステムを搭載したミニバンとして定着。その伝統は現行の「デリカD:5」にまで引き継がれ、いまではオフロード4WDミニバンとして不動の地位を獲得しています。その“デリカ”で培ったイメージを軽自動車に再現したのが、新たに登場したデリカミニというわけです。

↑デリカミニ・G Premiumの標準仕様。ボディカラーは全12色あります。写真はアッシュグリーンメタリック×ブラックマイカ

 

東京オートサロンで初めてデリカミニの姿を見たとき、完成度の高さに思わず惹きつけられた記憶があります。デザインの表現にも限界がありそうな軽自動車というサイズながら、デリカの世界観が見事に再現されていたからです。

 

その特徴のひとつが最近の三菱車の共通アイコンである、ダイナミックシールドと呼ばれるフロントフェイスを採用していることです。半円形のLEDポジションランプ付きヘッドランプを組み合わせることで、フロント周りはデリカD:5との共通性を見事にキャッチアップ。加えて、フロントバンパーとリアガーニッシュには立体的な「DELICA」ロゴを浮かび上がらせたほか、光沢のあるブラックホイールアーチ、前後バンパー下にプロテクト感のあるスキッドプレートを組み合わせます。これらによってデリカならではの力強いミニバンを表現することに成功したのです。

↑デリカならではのSUVらしい力強さと高い質感を表現したというフロント(アクティブトーンスタイル装着車)

 

↑ドアの開口部を広げたことで乗降性や荷物の出し入れは極めてしやすくなっています(アクティブトーンスタイル装着車)

 

4WD車は専用ショックアブソーバーで足回りをチューニング

ただ、これだけだと「従来のekクロススペースとはデザインが違うだけ?」と思われてしまいそうですが、そこはしっかりとデリカミニとして新たな進化を遂げていました。

 

足回りは上位グレードに装備した165/60R15サイズの大径タイヤに加え、4WDにはデリカミニ専用チューニングを施したショックアブソーバーを装備。開発者によれば、これが路面をしっかりと捉えながら車内へ振動を伝えにくくするのに効果を発揮し、砂利道などの未舗装路での走行で高い安定性と快適性をもたらしているということです。

↑4WD車には165/60R15を組み合わせます。三菱の軽自動車ではもっとも大きい径です

 

また、室内装備としてステアリングヒーターも上位グレードに新装備されました。寒冷地でのスタートはとかく触れるものすべてが冷たいもの。そんなとき、ドライバーの手をこの機能が優しく温めてくれるのです。デリカミニらしい使われ方を想定してしっかりとここをサポートしています。

↑新たに「G Premium」「T Premium」に標準装備されたステアリングヒーター。軽自動車での装備例は数少ないです

 

一方、安全装備は基本的にekクロススペースから踏襲されました。滑りやすい路面での発進をサポートするグリップコントロールや、急な下り坂などを安心して走行できるヒルディセントコントロールを標準装備。さらに高速道路での同一車線運転支援機能として、“マイパイロット”をはじめ車線維持支援機能を搭載するなど、ロングドライブでの疲労軽減に対してもしっかりアシストしてくれるというわけです。

↑高速道路での同一車線運転支援機能として、センサーにはミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせています。中央の四角い部分にミリ波レーダーを収納(アクティブトーンスタイル装着車)

 

また、サポカーSワイドに対応する運転支援機能“三菱 e-Assist”の搭載や、メーカーオプションで光軸自動調整機構付アダプティブLEDヘッドライトも用意されていることも見逃せません。

 

グレードは「T」と「G」の2タイプ。2WD/4WDも選べる

インテリアも、アウトドアでも使いやすく機能的かつ快適な造りにしています。ダッシュボードはブラックを基調としながらも、中央にアイボリーのアクセントを加えることでワイド感を強調。シートはアウトドアでの使用や、小さな子どもがいる家庭での利用を想定して通気性を考慮したシート生地を採用し、座面や背もたれの中央部に立体的なエンボス加工を施すことで疲れにくさと座り心地の良さを両立させています。

 

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グレード体系は大きくインタークーラー付きターボエンジンの「T」と、自然吸気エンジンの「G」の2つで、それぞれに装備を充実した上級グレードの「T Premium」、「G Premium」を用意し、全グレードで2WDか4WDを選ぶことが可能となっています。

 

4月6日に明らかになった価格は以下の通りです。

【T Premium】3気筒ターボ付ハイブリッド/CVT

2WD/207万4600円  4WD/223万8500円

【T】3気筒ターボ付ハイブリッド/CVT

2WD/188万1000円  4WD/209万2200円

【G Premium】3気筒ハイブリッド/CVT

2WD/198万5500円  4WD/214万9400円

【G】3気筒ハイブリッド/CVT

2WD/180万4000円    4WD/201万5200円

 

↑ デリカミニ・G Premiumには、DOHC 12バルブ 3気筒インタークーラー付ターボチャージャー(ハイブリッド)を搭載(アクティブトーンスタイル装着車)

 

デリカらしさを際立たせるオプションパッケージも充実

デリカの一員として、デリカミニではアウトドアでの使用やカスタムでの楽しみ方もディーラーオプションパッケージとして提案しています。それが「アクティブトーンスタイル」と「ワイルドアドベンチャースタイル」です。

 

アクティブトーンスタイルは、都会での走行に似合うスタイリッシュさを強調するデザインとなっています。フロントマスクのダイナミックシールドとフロントバンパー&テールゲートガーニッシュをグロスブラックとし、フロントバンパーとテールゲートの“DELICA”エンブレムをホワイトレターに変更した「エクステリアパッケージA」はセット価格が7万5570円。“DOHC 12 VALVE”“INTERCOOLER TURBO”のサイドデカールは左右4点セットで3万3440円。ブラックのマッドフラップ(4万9940円)はデリカならではの世界観にマッチさせる格好とアイテムと言えます。※価格はいずれも取付工賃別

 

ワイルドアドベンチャースタイルは、冒険心をくすぐるカスタマイズアイテムです。フロントマスクのダイナミックシールドとフロントバンパー&テールゲートガーニッシュがシルバーとなり、フロントバンパーとテールゲートの“DELICA”エンブレムをブラックとする「エクステリアパッケージB」はセット価格が7万5570円。フロントアンダー、サイド/リアのアンダースキッドプレート風「デカールシール」を3点セットにした「デカールパッケージ」が6万75400円。さらに「タフネスパッケージ」では、三菱ファンにはたまらないレッドマッドフラップ、アルミホイールデカールなど4点をセット(7万1940円)にしました。※価格はいずれも取付工賃別

↑ディーラーオプションとして用意された「ワイルドアドベンチャースタイル」。フロントマスクやフロントガーニッシュ、テールゲートガーニッシュがシルバー塗装になります

 

↑「ワイルドアドベンチャースタイル」には、三菱ファンにはたまらないレッドマッドフラップも用意されます

 

↑「ワイルドアドベンチャースタイル」には、アウトドア好きにうれしいベースキャリアもラインアップ

 

SPEC【G /G Premium(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm[3395×1475×1830mm]●車両重量:970kg /990kg[1030kg /1050kg]●総排気量:659cc●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:52PS/6400rpm●エンジン最大トルク:60N・m/3600rpm●モーター最高出力:2.7PS/1200rpm●モーター最大トルク:40N・m/100rpm●WLTCモード燃費:20.9km/L[19.0km/L]

※[]内は4WDの数値

 

SPEC【T /T Premium(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm[3395×1475×1830mm]●車両重量:980kg /1000kg[1040kg /1060kg]●総排気量:659cc●パワーユニット:直列3気筒DOHC+交流同期電動機●エンジン最高出力:64PS/5600rpm●エンジン最大トルク:100N・m/2400〜4000rpm●モーター最高出力:2.7PS/1200rpm●モーター最大トルク:40N・m/100rpm●WLTCモード燃費:19.2km/L[17.5km/L]

※[]内は4WDの数値

 

 

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写真/松川 忍

改めて「カローラ スポーツ」に乗ってみたら…ハッチバックの最新存在意義

過日、カローラ クロスの試乗記事でも紹介したが、カローラは日本のスタンダードカーとして長期に渡って販売されてきたモデル。そのカローラシリーズのなかでも、ハッチバックタイプの「カローラ スポーツ」は現行型で最初に登場した。ハッチバックならではの魅力はどこにあるのか、ピックアップして見ていこう。

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ/カローラ スポーツ

※試乗グレード:G “Z”(ガソリン・2WD)

価格:220万円~289万円(税込)

 

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日本ではブームが終わっているけども……

現行型カローラは、まずこのハッチバックの「カローラ スポーツ」が2018年にデビューしたのを皮切りに、セダンの「カローラ」とワゴンの「カローラ ツーリング」が登場。その後、2021年にSUVタイプの「カローラ クロス」が発売され、現在は4兄弟という構成になっている。

 

クルマ自体は、カローラらしくすごくまっとうに、それでいて現代的に作りました! という最新モデルだが、4種類ものボディタイプから選べるクルマは、ほかを探してもなかなかない。実はこのハッチバックはカローラファミリーに復帰したモデルであり、先代型は「オーリス」という車名で販売されていた。余談だが、現行型も海外の一部地域では当初「オーリス」という名称で販売されたが、現在では改めて「カローラ」という名称に統一されている。

 

しかし4つのボディタイプがあるとはいえ、後になって追加されたSUV以外、セダンもワゴンも、そしてハッチバックも、正直なことを言えば、日本ではすでにブームが終わっているジャンル。個人的にオーリスが好きだったこともあり、「もしまたなくなってしまったら……」と考え、「今のうちに乗らなきゃいかん」という衝動に駆られて(笑)、借りだしてみた。なお、2022年10月にマイナーチェンジを受けて、パワートレインを刷新、安全・快適装備をアップグレードしている。

↑ラゲージスペースは9.5インチゴルフバッグが2個積める、352Lの容量を備えています

 

トヨタのこだわり、演出が随所に感じられるデザイン

フロントまわりのデザインは、ひと言でいってシャープだ。セダンやワゴンも同様のテイストだが、極力キャラクターラインを減らし、面は面として強調しつつも、ヘッドライトやグリルなど顔全体の構成物が中央のエンブレムに収束されている感じ。キリッとしていて、若干怒っているような表情に見えるのは、現在のカーデザインのトレンドにのっとったもの。

↑LEDライトを横方向に配置したヘッドライト。1灯の光源でロービームとハイビームの切り替えが行えるBi-Beam(バイ-ビーム)LEDを採用しています

 

一方、リアまわりは下部分をふっくらさせつつもシャープに見せるようなキャラクターラインがたくさん入っていてにぎやかな装い。また、リアウインドウは結構前方へ傾斜していて、スポーティさが強調されている。ハッチバックモデルのリアデザインというは、そのクルマの特徴であり、他車との違いをアピールできる部分でもある。そういった意味では、トヨタなりのこだわりが見てとれる。

↑いくつものラインが入ってはいるものの、全体を見るとシンプルなデザインに仕上がっています

 

↑ヘッドライトと同様に、切れ長でシャープな光を放つリヤコンビネーションランプ

 

全体的なスタイリングは、重心が低くてワイド。わかりやすくいえば、平べったく幅広になった印象だが、これはいわゆるスポーツカーの定番プロポーションである。フロントのシャープなデザインを基調に考えれば、セダンは重心が高そうに見えるし、ワゴンでは全長が長すぎて俊敏さが感じられない(実際の運動性能はそんなことないが)。ハッチバックのスタイリングは「低くてワイド」が実にしっくりきている。これもトヨタによるスポーティさの演出である。

↑全長4375×全幅1790×全高1460mm。また試乗モデルの総重量は1655kg

 

↑G“Z”グレードはタイヤ225/40R18、18×8J(切削光輝+ダークグレーメタリック塗装/センターオーナメント付)のホイールを標準装備

 

新時代設計思想「TNGA」に裏打ちされた快適な走り

で、実際の走りはどうかというと、これがまたいい。想像していたより静かで、快適。さらに乗り心地も悪くない。クラストップレベルの上質感といっても決して言い過ぎではない。ハンドリングも素直でコーナーでは気持ちよく曲がってくれる。そもそも、全長の短いこのハッチバックは、カローラファミリーでは一番コーナリング性能が高いのだ。

 

この走りの良さというのは、トヨタの新時代設計思想「TNGA」から生まれている。TNGA(Toyota New Global Architecture)は、パワートレーンやプラットフォーム(車体)をはじめ、クルマの基本性能を飛躍的に向上させるための車体設計や取り組みをまとめたもの。トヨタによる新時代のクルマづくりにおける構造改革の名称だ。2015年の先代型プリウスに初採用されたTNGAだが、それから3年後となる後出しだけに、カローラシリーズでは、よりセッティングが熟成されたように感じられる。

↑TNGAによって優れた重量バランスと車両安定性を実現。これによって意のままに走行でき、快適さを感じられます

 

そんなカローラ スポーツに搭載されるパワーユニットは、2.0L直列4気筒ガソリンエンジンと、1.8L直列4気筒エンジンに電気モーターを加えたハイブリッドの2種類。今回試乗させてもらったのは前者のガソリンエンジンモデルであったが、2.0Lエンジンに組み合わされるCVTのフィーリングがよかった。

↑従来のCVTに発進用ギヤを追加し、発進から高速域まで力強くダイレクトな走りと低燃費を実現。ガソリンエンジンモデルの燃料消費率はWLTCモードで17.2km/Lとなっています

 

速いかどうかと言われれば、驚くほど速いということはない。しかしこれは一般道を走るにはちょうどいいくらい。もし速さにこだわるようなら、後から追加販売されたGRカローラを選ぶといい。2022年にわずか500台のみ発売されたモデルで、入手するのは難易度が高いモデルだが、ベースはカローラ スポーツで、それだけの価値がある走りの魅力を備えたクルマである。

 

総合的に考えると、オワコンどころか核家族世帯にピッタリ

居住性に関しては、セダンやワゴンと比べると、前席はほぼ変わらないが、後席は前後長が短いハッチバックはすこし分が悪い。しかし、取り回しのよさや使い勝手の良さなどを総合的に考えるなら、これが小さな子どものいる家庭にはちょうどいい。筆者がオーリスがいいなと考えたのも子どもがまだ小さいからである。ハッチバックは“オワコン”なんかじゃなかった。現代社会の中心的存在である核家族世帯にぴったりのジャンルだったのだ。

↑広い視界を確保すべく、ダッシュボードやAピラーの形状などに工夫がなされています。高精細なHDワイドディスプレイを搭載するとともに、T-Connectのオプションサービス「コネクティッドナビ」に対応

 

↑試乗車のG “Z”はスポーツシート。黒と赤の色使いがスポーティでテンションが上がります

 

SPEC【G “Z”(ガソリン・2WD)】●全長×全幅×全高:4375×1790×1460㎜●車両重量:1380㎏●パワーユニット:1986cc直列4気筒ガソリンエンジン●最高出力:170PS(125kW)/6600rpm●最大トルク:202Nm/4900rpm●WLTCモード燃費:17.2㎞/L

 

文/安藤修也、撮影/木村博道

 

 

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乗り味はロールス・ロイス「ファントム」超えだな! BMW「7シリーズ」と「i7」の試乗報告

1970年代からBMWのフラッグシップサルーンとして君臨してきた「7シリーズ」も、電気の時代を迎えたことで、シリーズとしては初のEVモデル「i7」を新たにラインナップ。最高級車としての実力は、ライバルブランドと比較してどうか? またエンジンモデルとEVモデルでどのような違いが味わえるのでしょうか?

 

■今回紹介するクルマ

BMW/7シリーズ & i7

※試乗グレード:740i Mスポーツ(7シリーズ)、xDrive60エクセレンス(i7)

価格:(7シリーズ)1460万円~1501万円、(i7)1670万円~

↑写真左から740i Mスポーツ(7シリーズ)、xDrive60エクセレンス(i7)

 

ロールス・ロイスを意識したデザインで、見た目の威厳的にすごくアリ

みなさんは、ロールス・ロイスを知ってますよね。恐らく「世界一の高級車」という認識だと思います。実はいまロールス・ロイスは、BMW傘下にあるのですね。ロールス・ロイスのラインナップの頂点に君臨するのが「ファントム」。その見た目は、「とにかく高そう」で「すごく怖そう」で、「ひたすら威厳のカタマリ」です。そしてロールス・ロイスのデザインを象徴するのが、フロントグリル。「パンテオン・グリル」と呼ばれており、円柱が並ぶローマ神殿を模しています。

 

実は私、アレは「パルテノン・グリル」だと思い込んでいました。パンテオンはローマの神殿で、パルテノンはアテネの神殿。円柱が並ぶ形状は同じですが、パンテオンのほうは、その上に三角形が乗っかってる(残ってる)。そっちがロールス・ロイスのグリルの元ネタだったわけです。知らなかった!

 

一方、BMWのグリルは「キドニー・グリル」です。キドニーとは腎臓のこと。楕円形が2個並んだ姿が腎臓に似ているので、この名が付きました。新型7シリーズでは、そのキドニー・グリルが左右合体して、まるでパンテオン・グリルみたいになりました! これ、どう見てもロールス・ロイスを意識してるだろ!

↑xDrive60エクセレンス。グリルだけでなく、全体のフォルムも、ものすごく古典的に角張ったセダン型で、ロールス・ロイスを意識したかのようです

 

BMWの最高級セダンである7シリーズは、従来、メルセデス・ベンツのSクラスに対して常にスポーティであり、デザインもその文法に則っていましたが、新型は逆張りで、ロールス・ロイスに寄せてきたわけです。ライバルのメルセデス・ベンツEQSが、スポーティな「謎の円盤」にリボーンしたのと正反対! お互いに逆張りしたことで、ポジショニングが完全に逆転しました。

 

しかしこの、ロールスみたいな7シリーズのデザイン、意外と悪くないです。これまでの7シリーズは、「しょせんSクラスにはまるでかなわない万年2位」でしたが、新型はなにしろロールス風味。見た目の威厳に関しては、EQSをはるかに凌駕しています。こういう最高級セダンに乗る方々は、たぶん最大限の威厳を求めているでしょうから、すごく「アリ」だと思います!

↑サイズは全長5390×全幅1950×全高1545mm。カラーは13色をそろえています

 

乗り心地はフワッフワ! それでいて超ダイレクトなハンドリングで新鮮

ところで新型7シリーズには、エンジンモデルとEV(電気自動車)とが併存しています。エンジンモデルは3.0L直6のガソリン/ディーゼルですが、今回はガソリンの740i Mスポーツに試乗しました。従来7シリーズと言えば、V8やV12の巨大なエンジンを積んでいましたが、ダウンサイジングの流れにより、3.0L直6に統一されております。

↑740i Mスポーツ。サイドには流れるようなラインが施され、軽やかさが感じられます

 

BMWの3.0L直6と言えば、「シルキー6」と呼ばれ、カーマニア垂涎の的ですが、7シリーズは2tを超える重量級。さすがにパワーが足りないのでは? と思ったのですが、450Nm(先代)から520Nmへと増強されたぶっといトルクが、低い回転からグイグイと車体を前に押し出します。回転も超なめらかでスバラシイ! BMW3.0L直6はここまで進化したのか!

 

「しかも乗り心地が凄い! とろけるようにフワッフワ! この感覚はまさにロールス・ロイスに近いっ!」

 

ロールス・ロイスの名前や形は知っていても、乗ったことのある方は少ないと思います。いったいどんな乗り心地なのかと言うと、「雲の上」です。雲の上のクルマだけに雲の上。そのまんまやないけ! ですが、運転していてもステアリングインフォメーション、つまりハンドルから伝わる路面情報がまったくゼロ! 本当に浮かんでるんじゃないか? って感じなのです。新型740i Mスポーツも、その感覚に近く、浮かんでいるかのような体験でした。

 

ただ、BMWだけに、ステアリング・インフォメーションはそれなりにあり、電子制御エアサスの恩恵で、ハンドルを切ってもまったく車体が傾かず、そのままズバーンとカートみたいに曲がります。フワッフワなのに超ダイレクトなハンドリングがものすごく新鮮! このクルマ、どーなってんの?

↑コックピットには、12.3インチの情報ディスプレイと14.9インチのコントロール・ディスプレイで構成されるBMW カーブド・ディスプレイを搭載

 

振動が完全にゼロ、加速はウルトラケタ外れ! もうロールス・ロイス超えだろ

ここまででもビックリですが、新型7シリーズのEV版であるi7のxDrive60エクセレンスは、さらにケタ外れでした。まずもって、パワーユニットの滑らかさが段違い。ガソリン直6でもウルトラスムーズなのに、さすが電気モーターだけあって、振動が完全にゼロ! 日産「サクラ」も振動ゼロのはずだけど、まったく感覚が違います。そんなのあるのか? いやいや、上には上がいるのですね。

↑「740i」のパワーユニットは3リッター直6ガソリンターボエンジンと48Vのマイルドハイブリッドシステムの組み合わせ

 

乗り心地もさらにフワッフワ! ガソリンモデルより車体が600kgくらい重いぶん、フワッフワさがものすごく荘重! 荘重なフワフワなんてあるのか? と思われるでしょうが、あるんですね。ビックリです。

 

加速もウルトラケタ外れ! 前後に2個搭載されたモーターは、合計745Nmのトルクを生み出し、アクセルを踏み込めば、宇宙船のように加速します。740i Mスポーツがお子様用に思えてしまうほどの、強烈な加速の差! こんなに速くてどうするの! って感じですが、「物凄いものに乗っている」感はハンパないです。もちろんコーナーでは、ロールせずにカキーンと直角に曲がります。そうか、電気自動車って、こんなにも高級車向きだったのか……。

↑xDrive60エクセレンスは静止状態から100km/hまでを4.7秒(ヨーロッパ仕様車値)で駆け抜けます

 

i7の乗り味は、ロールス・ロイス ファントムを超えたと言ってもいいでしょう。6.8L V12ターボ(BMW製ですが)でも、i7のモーターのパワーや滑らかさにはかなわない。ロールス・ロイス ファントムのお値段は、6050万円から。たったの1670万円で買えるBMWのi7は、猛烈にコスパが高いと思います! 以上報告終わり!

↑受注生産オプションの「エグゼクティブ・ラウンジシート」。そして、Amazon Fire TVを搭載した31.3インチのBMWシアター・スクリーン(オプション)は快適空間じゃ!

 

SPEC【740i Mスポーツ】●全長×全幅×全高:5390×1950×1545mm●車両重量:2395kg●パワーユニット:2997cc直列6気筒ガソリンエンジン●最高出力:381PS(280kW)/5500rpm●最大トルク:520Nm/1850-5000●WLTCモード燃費:12.8km/L

 

SPEC【xDrive60エクセレンス】●全長×全幅×全高:5390×1950×1545mm●車両重量:2965kg●パワーユニット:電気モーター●最高出力:前258+後313PS/前後8000rpm●最大トルク:前365+後380Nm /前0-5000+後0-6000rpm●WLTCモード一充電走行距離:650km

 

撮影/池之平昌信

 

 

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メルセデスのEVにようやく主役が登場! 最高級EVのベンツ「EQS」に試乗した感想は。

長年、数多くの高級車を試乗レポートしてきた清水草一が、「これは謎の円盤だ!」と言うクルマ。それは、近年モデルラインナップにEV(電気自動車)を増やし続けてきた、メルセデス・ベンツの最新EV「EQS」だ。メルセデス・ベンツでは、車名のアルファベットで車格が表されており、「S」はフラッグシップモデルであることを示す。世界的ラグジュアリーメーカーによる、最高級EVの仕上がりとは?

 

■今回紹介するクルマ

メルセデス・ベンツ/EQS

※試乗グレード:EQS450+

価格:1578万円~2372万円(税込)

 

最高級EVの仕上がりは、例えるなら「謎の円盤」?

これまで試乗したメルセデスのEVは、どれもこれも、いまひとつな印象だった。ボディ骨格はガソリンエンジンモデルの流用だったし、航続距離も意外と短くて、実質300kmくらいしか走れない。ベンツの威光で効率がよくなるわけではないので、航続距離はバッテリー容量にほぼ比例する。贅沢なベンツだからこそ、贅沢装備が電気を食っているのか? などと想像していた。

 

ついでに書くと、ガソリン/ディーゼルエンジン搭載の新型Sクラスの印象もイマイチだった。これまでのSクラスのような、圧倒的な何かがなく、「先代のほうが凄かったなぁ」と感じさせた。メルセデスはすでに電動化に舵を切っている。だから内燃エンジン専用車であるSクラスの開発に手を抜いたのだろう。が、しかし肝心のEVモデルもいまひとつ揃い。「これで大丈夫なのかメルセデス!」みたいなことを密かに思っていた。

 

そんな状況で、ようやく主役が登場した。メルセデスの新しいフラッグシップ、EQSである。このクルマこそが、新しいSクラスなのだろう。いわゆるSクラスは、出たばっかりで「お古」になった。デザインを見た瞬間に、それが実感できる。EQSのフォルムは、横から見ると「謎の円盤」である。全長はしっかり5.2m以上あるが、前後の部分が極端に短く、どちらもなだらかに傾斜したどら焼き風味(どら焼きと書くと語感がアレなので、やはり謎の円盤とさせていただきます)。

↑全長5225×全幅1925×全高1520mmを誇る。ボディカラーは全10色から選べます

 

超古典的な超高級セダンの象徴・Sクラスが、謎の円盤にリボーンしたのだから、時代の変化を感じざるを得ない。謎の円盤フォルムには理由がある。EVのモーターは、内燃エンジンに比べると断然コンパクトだ。逆にバッテリーは、できるだけ車体の中央部分に薄く広く敷き詰めたい。前後の短い謎の円盤形状になるのは、機能の要請なのである。

 

ライバルであるBMW「i7」が、内燃エンジンを積む7シリーズとボディを共用し、超伝統的な四角っぽいセダンフォルムで勝負をかけているのとは対照的だ。「この対決、どっちが勝つのか?」、外野としてはそこも興味深い。

↑ルーフからなだらかに繋がるクーペのようなリアエンドは官能的なデザインとする一方、テールゲートにスポイラーを設けることによりスポーティな印象も持ち合わせています

 

話がそれた。EQSのドアを開けようとすると、ドアと一体化していたドアノブが、ドライバーを手招きするようにせり出してきた。さすが謎の円盤。ドアノブを引いて運転席に座ると、これがまた謎の円盤だ。運転席から助手席まで、3つの液晶パネルをガラスのカバーが覆っている。これまでも、左右にながーい液晶パネルは存在したが、EQSのソレは、インパネ形状の新しさと相まって、明らかにこれまでとは別の何かに見える。つまり謎の円盤のコクピットに見えるのである。

 

この「MBUXハイパースクリーン」、デジタルインテリアパッケージというオプションに含まれていて、価格は105万円。さすがSクラス! というお値段だが、これを付けないと、インパネのレイアウトは内燃エンジン車のSクラスと同じような感じになってしまう。EQSのお客様は、もれなくこのオプションを注文するに違いない。「これがついてなければ謎の円盤じゃないゼ!」なのだから。

↑MBUXハイパースクリーンは、コックピットディスプレイ(12.3インチ)、有機ELメディアディスプレイ(17.7インチ)、有機ELフロントディスプレイ(助手席・12.3インチ)で構成。3つのディスプレイを1枚のガラスで覆うことで、幅141cmにわたる広大なスクリーンとしている

 

「宙に浮かんで走ってるみたい!」

今回試乗したEQSは、後輪駆動のEQS450+だ。EQSには、4駆の高性能版「AMG EQS53 4MATIC+」も存在するが、今回はお安いほうのグレードだ。450+は、システム最高出力333PS、53 4MATIC+は658PS。ほぼ2倍もの差がある。お値段も1578万円対2372万円と、かなりの差がつけられている。

 

ちなみにEQSのバッテリーの容量は、どっちも107.8kWh。私が「意外と航続距離が短いなぁ」と感じた「EQA」は66.5kWhだから、2倍までは行かないが、だいぶ差がある。おかげでEQS450+の航続距離は、カタログ上700kmを誇っている。実用上も500kmくらいは行くだろう。

 

で、実際に走らせたイメージはどんなものかというと、これまた「謎の円盤」としか言いようがなかった。333馬力の加速は、EVとしては控え目なほうだ。日産「アリア」やヒョンデ「アイオイック5」あたりとも大差はない。しかし、アクセルを全開にする機会なんて、そうそうあるもんじゃないから無視していい。それより重要なのは、フツーに走って、どれくらい高級感があるかだ。なにしろこれは、メルセデスの最高級セダンなのだから。

↑コックピットの機能と操作は基本的にSクラスと同様。EQS 450+に標準装着されるステアリングは本革巻

 

EQS450+の乗り味は、高精度感がすさまじい。「これぞメルセデスのフラッグシップ!」と唸るしかない。新型Sクラスに手を抜いたぶん、きっちり手をかけた印象である。

世のEVの多くは、SUV風のボディ形状+バッテリーによる重量増加+重心の低さによって、自然と硬く締まったスポーティな乗り味になりがちだ。それはEQA等のメルセデス製EVも同じだった。

↑車両重量は2530kgに達します。ホイールは、21インチ10スポークデザイン

 

しかしEQSはまったく違う。全高の低いセダンフォルムの超ロングホイールベースボディに、連続可変ダンピングシステム「ADS+」を備えた標準装備のエアサスペンションによって、謎の円盤としか言いようのない、しっとり上質な乗り味が実現しているのである。いや、「しっとり上質」と書くとどこか旧世代的なので、「宙に浮かんで走ってるみたい!」と訂正させていただきます。

 

ライバルのBMW・i7は、ロールスロイスを彷彿とさせる超フンワリした超フラットライドな新テイストで勝負しているが、それとはまったく趣の違う、これまで経験したことのない謎の円盤テイストなのである。先ほどから謎の円盤を連呼しているが、「結局謎の円盤ってナニ?」と思われることでしょう。でも、乗ってみればわかります。「これは謎の円盤なんですヨ!」、さすがメルセデスの新しいフラッグシップ。

 

SPEC【EQS450+】●全長×全幅×全高:5225×1925×1520㎜●車両重量:2530㎏●パワーユニット:電気モーター●最高出力:333PS(245kW)●最大トルク:568Nm●WLTCモード一充電走行距離:700㎞

 

 

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車格と装備内容を考えてみれば、コスパも高いトヨタ「カローラ クロス」

2022年の普通車販売台数ランキングで2位となったのはトヨタ・カローラだが、その販売の中心となっているのは、ミドルサイズクロスオーバーSUVの「カローラ クロス」だ。発売から1年以上が経過した今、改めてその魅力を探ってみたい。

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ/カローラ クロス

※試乗グレード:ハイブリッドZ(2WD)

価格:199万円~319万9000円(税込)

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50年以上売られてきた超ロングセラーモデル「カローラ」

現代の若者たちは知らないかもしれないが、トヨタの「カローラ」といえば、一時期日本で最も売れていたクルマであり、日本を代表するスタンダードカー、そして50年以上売られてきた超ロングセラーモデルでもある。売れるクルマというのは、つまりそれだけの魅力を備えているとも言えるが、万人受けするつくりを「平凡でつまらない」と評する人もいた。

 

しかし、現代のカローラの印象はどうだろう。現行型は、2018年にハッチバック(カローラ スポーツ)が登場し、約1年後にセダン(カローラ)とワゴン(カローラ ツーリング)が発売されている。サイズは3ナンバー化し従来型より大きくなったものの、切れ長のヘッドライトやスマートなボディラインがモダンにまとめられた。さらに、ネット接続機能を特徴とした「コネクテッドカー」として、新世代モデルの象徴として誕生した。

 

そして、これら3つのボディタイプから約3年遅れで2021年に追加されたのが、このカローラ クロスである。なんといってもカローラとしては歴代初のSUVモデルということで注目を集めたが、SUVブームももう10年近く続いているので、どうして今まで出なかったのか不思議なくらいだった。ちなみに、前年の2020年にはタイで先行販売されているが(日本仕様とはデザインが若干異なる)、先に東南アジアの国で販売されるというのは国産車としては珍しい売り方である。

↑カローラ クロスのボディカラーは全8色。写真のプラチナホワイトパールマイカは、太陽の光に反射するたびに真珠のような輝きを見せる

 

カローラのクロスオーバーSUVモデル……つまり、「カローラ クロス」となるわけだが、当然SUVタイプならではの恩恵があり、アイポイントが高く、荷室もそれなりに大きい。他のカテゴリーのクルマと比べて最低地上高も高いため、さまざまなシーンでそれほど高低差を気にせずに走り抜けることができるのもSUVらしい魅力である。

 

顔つき(フロントフェイス)については、現行型カローラの特徴をしっかり受け継いでいる。ボディサイズは、同社のSUVとしては、「C-HR」よりすこし大きく、「RAV4」より少し小さい。2016年末に発売されて以降、若干、販売にかげりが見えてきたC-HRを補完する形で、同等のミドルサイズモデルとしてラインナップされた。

↑ヘッドランプは、Bi-Beam LEDランプと2灯のバルブランプを採用しています。フロントフォグランプはLED

 

アニメチックでチャレンジングなデザインが特徴のC-HRに対して、このカローラクロスのデザインは、非常にオーソドックスだ。現代のSUVらしく、オフロードっぽさより都会的な雰囲気で、筋肉質でたくましく躍動的なボディラインや、大きなグリルにツリ目のヘッドライトが組み合わされている。前後フェンダーの盛り上がりなどもあるが、これらは近年のSUVのトレンドであり、どこか特別奇抜なデザインがあるわけではない。正統派で、奇をてらわないよさがある。ここはいい意味で「カローラ」なのだ。

↑1.8Lハイブリッド車(2WD)は、225/50R18タイヤ&18×7Jアルミホイールを履く

 

ネガティブな要素は見当たらず、すべてが快適!

インテリアは、水平基調のデザインでバランスがよく、乗員を安心させてくれる心地よさがある。質感はそれほど高いとは言えないが、決して低くはない。なにより使い勝手がよく、使用感がいい。なお、外から見るとそれなりに大きさを感じたが、実際に車内へ乗り込んでみると、車体はそれほど大きく感じられず、運転しやすい。

↑ディスプレイオーディオはセンター上方に配置。ドアの解錠・施錠、ドアの開閉時には照明が自動的に点灯・消灯し、乗る人を優しく迎える「イルミネーテッドエントリーシステム」

 

前席はそれなりに広くて窮屈さはない。シートは立派な仕立てで身体を包み込むような形状をしている。後席はもう少し前後長があれば足もとも快適だが、同クラスのSUVでは広いほうである。リクライニング機構が付いているのは、腰が痛くなりがちな筆者のような中年世代にはありがたい(笑)。

↑本革とファブリックのコンビシート。パワーバックドアや運転席の電動シートが標準装備なのはZグレードだけです

 

↑膝まわりに十分なスペースを確保し、座り心地にこだわったリヤシート

 

↑電動のサンシェードがついたサンルーフは、ZとSグレードのみのオプション。開口部がかなり大きくデザイン性も高い

 

全幅が広めなこともあってか、走りはずっしり安定していて、重心の低さと全体のバランスの良さを感じさせるが、この走りの安心感はミドルサイズモデルにしては珍しい。今回の試乗車が18インチタイヤ装着グレードだったためか、多少路面のデコボコを拾うような感覚もあるが、うまく足まわり(サスペンション)で処理してくれて、乗員に嫌な印象は与えない。今回は高速走行も試してみたが、高速巡航時の安定感も高めで、背の高いSUVらしからぬ安定感があった。

↑ハイブリッド車の2WDはWLTCモード26.2km/Lの低燃費。E-FourでもWLTCモード24.2km/Lを実現しています。また、ガソリン車はWLTCモード14.4 km/Lとなっています

 

ラインナップされるパワーユニットは、今回試乗した1.8Lエンジンベースのハイブリッドモデルと同じく1.8Lエンジンのガソリンエンジンモデル。ハイブリッドモデルには4WDの設定もある。ガソリンエンジンモデルと比べて多少高額だが、販売の主流はやはりハイブリッドモデルとなっているようだ。

↑高出力と燃費を同時に追求するバルブマチックを採用

 

ある意味、日本の中心だった「カローラ」のど真ん中。ネガティブな要素は見当たらず、すべてが快適で扱いやすく、乗員を困らせるようなことがない。車格と装備内容を考えてみれば、コストパフォーマンスも高い。いろいろと「クセが強い!」時代だが、それが苦手な人にはぴったりのモデルだ。

↑リヤシート通常時でも、ゴルフバッグが4個入るラゲージスペース。最大荷室容量は487L

 

↑後席を倒すと、奥行き1885mm×最大幅1369mm×高さ957mmと広いスペースに。ロードバイクも積載可能です

 

SPEC【ハイブリッドZ(2WD)】●全長×全幅×全高:4490×1825×1620㎜●車両重量:1410㎏●パワーユニット:1797cc直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm[モーター:フロント72PS/リヤ7.2PS]●エンジン最大トルク:142Nm/3600rpm[モーター:フロント163Nm/リヤ55Nm]●WLTCモード燃費:26.2㎞/L

 

撮影/茂呂幸正 文/安藤修也

 

 

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ホンダ「ヴェゼル」。人気車種のデザインや装備に隠された魅力を改めて深堀り!

初代モデルが大ヒットしたホンダ「ヴェゼル」だったが、2021年に登場した新型モデルは、デザインイメージを一新。ライバルとは一線を画するシンプル&クリーンなデザインで、コンパクトSUV市場でも目立った存在となっている。本稿ではそのデザインや装備に隠された魅力を深堀りする。

 

■今回紹介するクルマ

ホンダ/ヴェゼル

※試乗グレード:e:HEV PLaY

価格:227万9200円~329万8900円(税込)

 

新型ヴェゼル、他車との違いはデザインの妙にある

コンパクトSUV市場はここ数年ずっと活気に満ちている。なかでもホンダのヴェゼルは、2013年に登場した先代型がブランニューモデルであったにも関わらずヒット作となり、2014年から3年連続で新車販売クラスナンバーワンに輝いた。手頃なサイズと価格、そしてアクのないデザイン、室内の広さなどが人気を博した要因だ。

 

そんなヴェゼルが新型へフルモデルチェンジしたのは2021年だが、現在のコンパクトSUV市場にライバルは多く、トヨタの「ヤリスクロス」や「C-HR」、日産「キックス」などが存在している。では、この市場で新型ヴェゼルが打ち出した違いが何かといえば、それはデザインの妙だ。

 

切れ長のヘッドライトというのは現代SUVのトレンドでもあるが、ボディ同色グリルは新型ヴェゼルの真骨頂である。まるでグリルが存在しないように見えて、無機質な感じで無印良品っぽいというか、シンプルでクリーンなイメージだ。初めは違和感を覚える人もいるかもしれないが、見慣れてくると、品がよく、知的に見えてくる。

 

一方で、やはりクルマには目立つグリルがあってこそ、みたいなユーザーも一定数存在する。その証拠に、オプションパーツでは、ボディ色と異なるブラックのグリルが人気らしい。ないものねだりという人もいるだろうが、これはつまり、ボディ同色グリル以外の部分でもヴェゼルのデザインが優れていることの証明にほかならない。

↑e:HEV PLaY専用カラーバーオーナメント付フロントグリル

 

ボディサイドには、水平基調でまっすぐなウエストラインがフロントからリアまで伸びている。しかもこれが結構高い位置に設定されていて、車両全体の重心が高いように感じられる。しかし、スポーツカーでは重心が高く見えるとカッコ悪いが、ヴェゼルのようなSUVでは問題ない。むしろ重厚さが感じられて、乗員の安心感にもつながる。

 

さらに、サイドラインからつながるように高い位置に配置された、左右につながった形状のテールランプも特徴的だ。ランプ内はサイバーなデザインが施されていて、リアのアクセントになっている。また、その上のリアウインドウはかなり傾斜がつけられていて、クーペライクなスタイリングになっている。横から見るとクルマが前傾姿勢をとっているようにも見えるが、このアンバランスさがヴェゼルのおしゃれさを引き立てている。

↑エクステリアのデザインは、クーペライクなプロポーションを際立たせている。試乗車のボディカラーは、サンドカーキ・パール&ブラック

 

全体的に見てみると、ライバル車と比べて、端正なラインで、シンプルかつ品のある雰囲気にまとめられている。清潔感がありすぎて毒が足りないという人もいるようだが、他に似てない独自性という意味では頭ひとつ抜け出しているようにも感じる。

↑e:HEV PLaYは、18インチアルミホイール(ブラック+切削)+スチールラジアルタイヤを履く

 

室内は外観同様クリーンなイメージ

ウエストラインが高いがゆえ、室内スペースは狭そうにも見えるが、さにあらず。「フィット」譲りのセンタータンクレイアウトによって、車内には余裕が感じられる。また、リアシートは座面を跳ね上げてからシートバックを前方へ倒すことができるので、ラゲッジルームを拡張した際の床面がしっかりフラットになる。こういったところはSUVを趣味の道具として使う人にとって重要なポイントだ。

↑予約ボタンを押してクルマから離れるとテールゲートが自動で閉まる「予約クローズ」機能付き。個別の車両設定により、閉まった後に自動でキーロックさせることも可能だ

 

外から見ていると、なんだかボディが大柄に感じられる。たしかに先代モデルより全長と全幅は拡大されているものの(全高は低くなった)、しっかりコンパクトなモデルで、それはシートに座ってみると実感できる。ボディ全体の感覚は掴みやすいし、特別視界が悪いということもない。なお、インテリアデザインも、外観同様クリーンなイメージでまとめられていて好印象だ。

↑インテリアのデザインではしっかりと芯の通った「かたまり感」のあるソリッドなフォルムでSUVの力強さを表現

 

↑e:HEV PLaY専用のコンビシート(グレージュ)。シートサイドにオレンジのステッチをあしらった遊び心のあるデザイン

 

↑これはちょうどイイ! フロント左右に配置された「そよ風アウトレット」。風が体に直接当たることなく穏やかに頬をなでます

 

パワーユニットは、1.5Lガソリンエンジンと、同じく1.5Lベースのハイブリッドがラインナップされている。今回試乗したハイブリッドモデルは、アクセルを踏み込んでもそれほど加速感が鋭いわけではない。どちらかといえば穏やかで上質で、のんびり走ってちょうどいいクルマといった趣である。サスペンションはほどよい固さで乗り心地も上々。先代型と比べて静粛性は高くなっているし、心地よさという部分でしっかり進化を感じられた。

↑最高出力106PS/6000-6400rpm、最大トルク127Nm/4500-5000rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターアトキンソンサイクル i-VTECエンジン

 

進化という部分では、先進運転支援装置の「ホンダセンシング」も最新バージョンが搭載されている。高速道路走行中に前走車との車間を自動でキープして走れるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は渋滞追従機能付きとなったことで、渋滞走行がさらに楽になった。標識認識機能で走行中の道路の制限速度を見落とすことも減り、先行車発進お知らせ機能は信号停車時に後方からクラクションを鳴らされるのを防いでくれる。

↑空力性能においては、F1マシンの設計・開発などを行なうHRD Sakuraの風洞実験施設を使い、コンパクトSUVトップクラスの空力性能を目指したという

 

売れ筋のカテゴリーであり、各メーカーから数多くラインナップされるコンパクトSUVのなかで、あえてヴェゼルを選ぶ人というのは、きっとシンプルな暮らしを好む、都会的で品のある人なんだろうなぁと思えてくるから不思議である。

 

SPEC【e:HEV PLaY】●全長×全幅×全高:4330×1790×1590㎜●車両重量:1400㎏●パワーユニット:1496cc直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:78kW/6000-6400rpm●エンジン最大トルク:127Nm/4500-5000rpm●WLTCモード燃費:24.8㎞/L

 

文/安藤修也 撮影/茂呂幸正

 

 

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フォルクスワーゲン「ゴルフ R ヴァリアント」は典型的な“羊の皮を被った狼”だった

GT-R然り、タイプRもまた然り、数多く存在する走り志向のクルマにおいて、「R」の称号は、今も特別なものである。では、長年、世界のスタンダードとされてきたフォルクスワーゲン ゴルフではどうか。「R」をどのようなモデルと位置づけ、どれほどスポーティなモデルに仕上げているのだろうか?

 

■今回紹介するクルマ

フォルクスワーゲン/ゴルフ R ヴァリアント

※試乗グレード:R

価格:652万5000円(税込)

 

まだまだ買えるぞゴルフR!

シビックタイプ「R」は、2万台もの注文が殺到して約4年分が売り切れたため、早くも受注停止になったが、ゴルフの「R」ならまだ買える! ゴルフRは、伝統あるゴルフ「GTI」を超えるパフォーマンスを持つ最強のゴルフ。究極のスポーツハッチバック&ワゴンを目指したマシンだ。

 

直列4気筒2.0Lターボエンジンは、最高出力320PS/5350-6500rpm、最大トルク420Nm/2100-5350rpmを誇っている。従来のRに比べても、10PS/20Nm強化されたわけだ。数字的にはわずかだが、この手のスポーツモデルは、進化し続けることが重要だ。

 

300馬力オーバーのパワーを受け止めるべく、ゴルフRは誕生当初から4WDの7速DSG(デュアルクラッチAT)のみの設定となっている。330馬力のシビックタイプRが、FFのMTのみなのに比べると、かなり正反対のキャラクターだ。シビックタイプRはサーキットに狙いを定めた超絶スポーツモデルだが、ゴルフRの主戦場は公道。速度無制限区間のあるアウトバーンでは、4WDの安定性が強く求められるのである。

↑フロントに搭載される2L直4ターボエンジン。トランスミッションは「DSG」と呼ばれる7段のデュアルクラッチ式ATが組み合わされる

 

前述のように、エンジンは320馬力を誇っている。初代ゴルフRは300馬力、2代目は310馬力、そしてこの3代目は320馬力と、台本があるかのように少しずつパワーアップを果たしている。かつて国産4WDスポーツの頂点を争ったランエボやインプレッサWRXが、280馬力だったことを思えば、320馬力という出力の過激さがよくわかるだろう。

 

しかし、実際のゴルフRは、それほどすごいクルマという感覚を抱かせない。ATのみなのでイージードライブであることは言うまでもないが、エンジンのフィーリングも、出力の向上とともに、逆におとなしくなっている。

 

7速DSGは極めて洗練され、もはや通常のトルコンATと区別がつかないほどスムーズだ。エンジンも低速域から使いやすく、フツーに走っているかぎり、そこらのファミリーカーに毛の生えたような程度に感じてしまう。乗り心地も、究極のスポーツモデルとは思えないほど快適だ。これは、オプションの可変ショックアブソーバーの効果だろうか? よく言えばウルトラ洗練、悪く言えばちょっと退屈という印象である。

↑ボディーカラーは、「ラピスブルーメタリック」(写真)に「ピュアホワイト」と「ディープブラックパールエフェクト」を加えた全3色のラインナップ

 

思い起こせば、2010年に登場した初代ゴルフRは、サウンドの演出が凄まじかった。ATがシフトアップするたびに「バウッ!」という中吹かし音(?)が轟いて、まるでランボルギーニを運転しているような錯覚に襲われた。VWグループは、1999年にランボルギーニを傘下に収めており、その知見が生かされたのか? と感じたものだが、2代目はサウンドがややおとなしくなり、この3代目はさらにおとなしくなっている。

 

新型ゴルフRも、ドライブモードを「レース」にすれば、アクセルを戻した時に「ボッ!」とレブシンクロを行なうし、アクセル全開で加速すれば、それなりに勇ましい音がするが、初代Rを知っている者には、物足りなく感じてしまう。

 

サウンドは、速さを体感する上で重要なポイントだ。近年欧州では、騒音規制が非常に厳しくなっており、もはやゴルフがランボルギーニのような音をさせることなど許されない。その影響でゴルフRも、ずいぶん地味になったように感じてしまうのだ。

↑ダイナミックターンインジケーター付きLEDマトリックスヘッドライト「IQ.ライト」。カメラで対向車や先行車を検知し、片側22個のLEDを個別制御する

 

「羊の皮を被った狼」たる理由

試乗したのは、ゴルフ R ヴァリアント(ステーションワゴン)。車両重量は1600kgとかなりの重量級だ。ランエボやインプレッサWRXは1300kg前後だったから、それに比べるとだいぶ重く、加速も相殺される。速いと言えば速いが、「ウルトラバカ速ッ!」ではない。そのぶんゴルフ R ヴァリアントは、広いラゲージやゆったりした室内など、高い実用性を持っている。「R」のエンブレムも非常に地味で目立たない。

↑見やすい大型10.25インチTFT液晶ディスプレイを採用。通常のメーター表示やナビゲーションマップなど、好みに応じて表示を切り替え可能

 

↑ホールド性もR専用ファブリック&マイクロフリースシート。ブルーのRロゴがステキ!

 

↑最大1642Lの大容量ラゲージスペースを持つ。荷物の形状や量に合わせて室内をフレキシブルにアレンジできる

 

ただ、前後バンパーはR専用であり、リアのディフューザーと4本のテールパイプが、タダモノではないことを示している。マニアが見れば、GTIより15mm低い車高や、19インチホイールの間から覗くブルーのブレーキキャリパーで、「うおお、Rだ!」と識別することが可能。このクルマは、典型的な「羊の皮を被った狼」である。

↑クロームの輝きと迫力あるルックスを演出する、クロームデュアルツインエキゾーストパイプ。足元は19インチのアルミホイールと245/35ZR19サイズのタイヤだ

 

↑VWロゴの下でさりげなく光るRエンブレム

 

では、新型ゴルフ R ヴァリアントが、ただの旦那仕様のスポーツモデルかと言えばさにあらず、新型Rのハイライトは、4WDシステムが、従来の4モーションから、「Rパフォーマンスベクタリング」に進化した点にある。4モーションは、前後輪のトルク配分を変えて最良の駆動力を得ていたが、新型Rは後輪に湿式多板クラッチを2個加えることで、後輪左右のトルク配分を変えることができるのだ。つまりコーナリング中は、外側タイヤの駆動力を増すことで、よりグイッと曲がらせることが可能というわけだ。

 

私はかつて、フェラーリ458イタリアを所有していた。458には「Eデフ」という名の左右駆動トルク配分システムが備わっており、恐ろしいほど曲がるクルマだった。コーナーで外に膨らむことはまずありえず、逆に曲がりすぎて内側のガードレールに激突しないように注意する必要があった。

 

では、新型ゴルフRもそんな感じかというと、まるで違う。普通に走っていたら、左右駆動トルク配分をしていることなど体感できない。458はそこらの四つ角を曲がるだけで「うひぃ! 曲がりすぎる!」という感覚だったが、ゴルフRは実に自然だ。セッティングがまるで違う。

 

それはワインディングロードでも同じ。まったく自然によく曲がるだけで、特段意識させるような挙動は起きない。サーキットで限界まで攻めれば違うと思いますが、一般ドライバーが公道で、左右トルク配分を体感するのはまず不可能。それよりも、「ゴルフRは進化を続けている!」という事実(勲章)のほうが重要なのだ。なにしろ「R」なのだから。価格は652万5000円。もちろんゴルフのラインナップ中、最高価格である。

 

SPEC【R】●全長×全幅×全高:4650×1790×1465㎜●車両重量:1600㎏●パワーユニット:1984cc直列4気筒ターボエンジン●最高出力:320PS/5350-6500rpm●最大トルク:420Nm/2100-5350rpm●WLTCモード燃費:12.2㎞/L

 

撮影/茂呂幸正

 

 

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ホンダ新しいタイプのSUV「ZR-V」試乗。高い静粛性と気持ちの良い走りは感動もの

ホンダが上級SUVとして2023年4月21日に発売を予定してるのが『ZR-V(ゼットアールブイ)』です。「CR-V」が日本市場からなくなった今、その後継車種としてホンダの上級SUVを支える重要な位置付けにあるといえます。今回はそのZR-Vの試乗レポートをお届けします。

 

■今回紹介するクルマ

ホンダ/ZR-V

※試乗グレード:e:HEV Z(4WD)

価格:294万9100円〜411万9500円(税込)

↑ボディカラーはスーパープラチナグレー・メタリック

 

都市型クロスオーバー的な雰囲気の新しいSUV

ZR-Vのコンセプトは“都会的なスタイルとセダンのような走り”。単にSUVとしてだけでなく、セダン的な使い勝手と走りを併せ持つホンダの上級SUVとして登場しました。そのZR-Vを前にすると、SUVらしいボリューム感のあるボディと流れるようなフォルムが、都市型クロスオーバー的な雰囲気に満ちあふれていることを実感します。タテ格子のバーチカル・フロントグリルは斬新で、その存在感は十分に異彩を放っていました。

 

ZR-Vのラインナップは、ホンダ独自のハイブリッド「e:HEV」と、ガソリンエンジンとして1.5Lターボが用意され、駆動系にはいずれも4WDと2WD(FF)を組み合わせることができます。

 

また、グレードは上級の「Z」とベースグレードの「X」がそれぞれ用意され、そのうち「Z」にはアダプティブドライビングビームやETC2.0車載器付きホンダコネクト・ナビゲーション、本革シート、12スピーカーBOSEプレミアムサウンドなどが標準で装着されます。まさにホンダの上級SUVらしい充実した装備といえるでしょう。

↑ZR-Vのラインナップには1.5Lターボエンジンを搭載したガソリン車もラインナップする。写真はXグレード

 

そんなZR-Vで試乗したのは、「e:HEV」の4WD車で、グレードも上位のZ。価格も420万円弱という結構なお値段のクルマです。価格面ではトヨタ「ハリアー」や、日産「エクストレイル」あたりともガチンコでぶつかるグレード。ただ、そうした状況でもZR-Vはこの両車に十分対抗し得る素晴らしいスペックを備えていたのです。

↑プラットフォームはシビックベースだが、足回りはCR-V譲りのパフォーマンスを発揮した

 

上級SUVらしいプレミアム感あふれるインテリア

クルマに乗り込むとインテリアはプレミアム感にあふれていました。試乗車のシートはパワー機構付きの本革製で、マットなグレー色に近い“ブラック”。その素材感は極めて高く、ダッシュボードのソフトパッドも心地よい弾力を伝えてきます。よく見るとソフトパッドは艶やかなガラスパールを散りばめたパール調表皮となっており、外装と同様、光の当たる具合で陰影ができることで、しっとりとした高級感を演出する造りとなっているのです。

↑曲線と直線を上手に交えた躍動感に溢れたデザインのインテリアは、極めて機能的でもある

 

↑後席シートはSUVらしいゆとりのあるスペースを確保している。シートは6:4可倒式を採用する

 

また、センターコンソールは中央を盛り上げるハイデッキタイプとすることで、運転席と助手席の各乗員に適度なパーソナル感を持たせており、さらにコンソール下側の凹みにはUSB端子を備えた収納スペースまで装備。もちろん、ワイヤレス充電にも対応しているので、手軽にスマホを充電することが可能です。

↑左右の席のセパレーターとしての役割も果たすコンソール。e:HEVにはボタン式シフトが採用されている

 

中でも“Z”の装備で見逃せないのが、BOSEプレミアムサウンドシステムの搭載で、車種独自の専用チューニングを施すことでクリアで臨場感あふれるサウンドをもたらしてくれます。しかも、サラウンドサウンドを体験できる「Centerpoint」システムを搭載したフルスペック仕様。限られたスペースで臨場感たっぷりのBOSEサウンドが楽しめるのは大きな魅力といっていいでしょう。

↑Zグレードには12スピーカーを備えたBOSEプレミアムサウンドシステムが標準で装備される

 

↑BOSEの「Centerpoint」は、12スピーカーを活用することで臨場感たっぷりのサラウンドが楽しめる

 

↑BOSEプレミアムサウンドシステムは、サブウーファーとセンタースピーカーを組み合わせた12スピーカーから成る。高性能スピーカーを車室内に最適配置しています

 

エンジンONがほぼわからない驚きの静粛性

ZR-Vは走りも素晴らしいものでした。ZR-Vの「e:HEV」は、2.0L・4気筒エンジンとホンダ独自の2モーターシステムを搭載したハイブリッド車となっています。これはシビックに採用されている「スポーツe:HEV」をZR-V向けに仕様変更したもので、充電用と駆動用のモーター2基を電気式CVT内に搭載。状況に応じてエンジンとモーターそれぞれの駆動を切り替えて使う独自の方式となっています。

↑ZR-Vのe:HEVに搭載された2.0L・4気筒エンジンとホンダ独自の2モーターシステムのハイブリッドシステム

 

具体的には、発進時や市街地での低速走行などではモーターのみのEVモードで走行し、加速時やある程度速度域が上がるとエンジンの動力で発電しながらハイブリッド走行します。さらに高速道路で高い速度で巡航するシーンになるとクラッチでエンジンと直結し、100%エンジンの力で走行するモードに切り替わるのです。いわば、シリーズ式ハイブリッド走行とエンジン走行のいいとこ取りをしたハイブリッドエンジンといえるでしょう。

 

この日の試乗コースは、会場となった羽田空港近くのホテルから首都高速~一般道を経由するルートです。

 

走り出して真っ先に気付いたのが高い静粛性でした。モーターで走行している時が静かなのは当然としても、エンジンがかかってもそれがほとんどわからないほど静かなのです。1.5Lエンジンを組み合わせるe:HEVを搭載した「ヴェゼル」では、アクセルを踏み込んだ際にエンジン音がハッキリと聞こえていましたが、それとは静粛性のレベルがまるで違います。高速道路の合流でもアクセルを踏み込んでもその傾向は変わらず、ロードノイズも十分抑えられていました。

↑市街地走行から都市高速に至る日常使いで優れたパフォーマンスを発揮したZR-V

 

都市高速のきつめのカーブにもしっかりと踏ん張る

足回りはしっかりと踏ん張ってコーナーを曲がっていく印象です。都市高速のきつめのコーナーを曲がった時でも車体がリニアに反応してスムーズに向きを変え、思い通りのラインを確実にトレースしていくのです。シビックを八ヶ岳で走らせた時、そのトレース能力に驚いたものですが、少なくともそれに匹敵する素晴らしさ。

 

ドライブモードは各走行シーンに応じた4つのモードから最適な設定に変えられ、e:HEV車にはパドルシフトを使って、回生ブレーキの強さを4段階で調節することができます。これを上手に使えば、峠道などで減速度を上げながら楽に走行することができるはずです。

 

一方で乗り心地は若干堅めでした。都市高速の継ぎ目などは確実に伝えてくるのです。しかし、不快さは感じないレベル。むしろ道路の状況が伝えられてくるリニア感が好ましく感じたほどです。乗り心地も良好で、後席に座った人からも不満は出ませんでした。

 

試乗を終えて実感したのは、ZR-Vはコンセプトの“都会的なスタイルとセダンのような走り”を確実に達成しているということです。特にe-HEVと組み合わせた走りは感動もののレベルで、「スムーズさ」と「静粛性」、そして「動力性能の高さ」の3本柱をしっかりと発揮していたのには驚きました。ホンダの新しい上級SUVとして、ぜひ試乗してみることをおすすめしたいです。

↑SUVらしく収納スペースも十分な容積を誇る。テールゲートはハンズフリーアクセス機能付パワーゲートが備わる

 

SPEC【e:HEV Z(4WD)】●全長×全幅×全高:4570×1840×1620㎜●車両重量:1630㎏●モーター:1993cc直列4気筒直噴エンジン+デュアルモーター●最高出力:エンジン141PS/6000rpm(モーター184PS/5000〜6000rpm)●最大トルク:エンジン182Nm/4500rpm(モーター315Nm/0〜2000rpm)●WLTCモード燃費:21.5km/L

 

写真/松川 忍

 

 

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VW「ID.4」がついに日本市場に登場!初EVでも違和感ない“普通”な乗り味を実感!

フォルクスワーゲン初となる電気自動車(BEV)がついに日本市場へ上陸しました。ドイツ本国では2020年9月にデビューしていましたが、日本導入はなかなか実現せず、「2022年内に間に合うのか?」といった声も聞かれましたが、11月22日、日本での発売が発表。そして、12月中旬、やっと「ID.4 Pro Launch Edition」に試乗する機会に恵まれました。

 

■今回紹介するクルマ

フォルクスワーゲン/ID.4

※試乗グレード:Pro

価格:514万2000円(税込)〜

↑ボディサイズは全長×全幅×全高=4585×1850×1640mm。プラットフォームにはEV専用の「MEB」を使用し、広いスペースユーティリティが大きな特徴となっている

 

ラインナップは「Lite(ライト)」と「Pro(プロ)」の2グレード

日本に導入されるID.4は、「Lite(ライト)」と「Pro(プロ)」の2グレードの展開で、前者は125kW(170PS)のモーターを52kWhのリチウムイオンバッテリーで駆動し、航続距離は435km。後者のプロはその高出力版で150kWh(204PS)のモーターと77kWhのバッテリーの組み合わせ、航続距離は618km(いずれもWLTCモード)と発表されています。今回試乗できたのは後者のプロで、「ID.4 Pro Launch Edition」は日本で展開するその記念モデルとして導入されました。

↑ボンネット内には150kWh(204PS)のモーターを組み込み、77kWのバッテリーで駆動される

 

ID.4はフォルクスワーゲンの電動化専用プラットフォーム「MEB(モジュラー エレクトリック ドライブ マトリックス)」を採用するだけに、車格を見てもゴルフのような存在にも思いがち。しかし、実際は現行ゴルフよりも遙かに大きいボディを持つ「SUV」としてラインナップされたモデルとなります。ボディサイズは全長4585mm×全幅1850mm×全高1640mmで、ホイールベースは2770mm。ゴルフと比べると全長290mm長く、全幅で60mm広く、全高も165mm高い。さらにホイールベースも150mmも長いのです。

↑伝統のVW流のデザインを伝えながら、クローズドされたBEVらしいフロントグリルを採用する

 

「MEB」の採用により、広い室内スペースとカーゴルームをもたらしました。特に2770mmのホイールベースはそのまま室内スペースの拡大につながっています。室内全体が車体のサイズをそのまま反映するかのように広々としていて、運転席まわりも十分なゆとりがあり、後席に至っては足を組んで余裕があるほど。このあたりはまさにフォルクスワーゲンの空間作りの上手さが活かされていると言えるでしょう。

↑リアビューはSUVスタイルそのものを実感させるデザインだ。Proはフロント235/50 R20 8J×20インチ、リア255/45 R20 9J×20インチを履く

 

圧倒的な広さの室内とカーゴルーム。クリーンなインテリアも好印象

SUVらしくカーゴルームの容量も圧倒的な広さを持っています。数値で表すと、前後席を使った時で543L、後席を倒せば最大1575Lにまで拡大できるのです。まさにSUVとして十分な容量を確保したと言っていいと思います。

↑SUVとして使うのに十分な容量を備えたカーゴルーム。中央にはスルー機能も備えられた

 

インテリアは余計な加飾がないクリーンな印象で、それはまさにシンプルイズベストをそのまま表したような造り込みを感じます。ドライバーの正面には5.3インチのメーターディスプレイが配置され、ダッシュボード中央にはインフォテイメントシステムとして使う12インチディスプレイを用意しています。ただ、ライトは後者が10インチとなり、いずれもナビゲーションの設定はなく、コネクテッド機能も搭載されていません。手持ちのスマートフォンをつなぐことが前提となるディスプレイオーディオと思った方が良いでしょう。

↑ダッシュボードとフロントガラスの間にあるLEDストリップにより、光のアニメーションで各種情報を通知するシステム“ID.LIGHT”を新採用

 

↑Proには「シートマッサージ機能」と「パノラマガラスルーフ」が標準装備される

 

↑空間的には足をゆったり組めるほどの広さがあるが、後席使用時はヘッドレストをリフトアップする必要がある

 

ただ、メーターディスプレイはステアリングコラムに直付けされているため、チルト/テレスコピックしても視認性が大きく変わることはありません。ディスプレイ右にはドライブモードの切替スイッチがあります。最初こそステアリング陰にあって、あちこち探してしまいましたが、一度その位置を憶えてしまえば、これ一つで前進/後退、パーキングへの切替ができ、誰もが使いやすさを実感するでしょう。

↑ドライバーの正面には5.3インチのメーターディスプレイ。ステアリングコラムと一体で上下に稼働する

 

↑メーター横に備えられたドライブモードセレクター。手元で操作でき、しっかりしたクリック感が使いやすい

 

エンジン車からの乗り替えでも違和感なく運転できる!

ガソリン車と大きく違うのは、リモコンでドアを開けて運転席に座ると、その時点でシステムが自動的に起動すること。わざわざスイッチを押すこともなく、そのままドライブモードを切り替えれば走り出すことができるのです。降りる時はその逆で、降車してキーをロックすれば自動的にOFFとなります。撮影にはちょっと困りましたが、普段使いとして考えれば極めて効率の良いインターフェースと言えるでしょう。

↑LEDマトリックスヘッドライト「IQ.LIGHT」。フロントカメラで対向車や先行車を検知し、マトリックスモジュールに搭載された片側18個(両サイドで36個)のLEDを個別に点灯・消灯を制御する

 

走り出してまず感じたのは、強烈な加速というよりもフワッと車体を前へ押し出していく感じ。電動車にありがちなトルクを前面に出すような印象はまったくありません。ひたすらスムーズに、速度域が上がっていく感じです。かといってパワーがないわけじゃありません。アクセルを強めに踏み込めば、そこは電動車、あっという間に思い通りの速度域に達してくれます。カタログ値の0→100km加速が8.5秒というのも頷けますね。

↑「ID.4 Pro Launch Edition」を試乗する筆者

 

ハンドリングの追従性も高く、カーブが連続する峠道でもノーズを自在に向けることができるなど、BEVならではの重さを感じることはほとんどありませんでした。峠道を走る愉しさを実感させてくれるクルマと断言して間違いないでしょう。

 

強いて言えば、回生ブレーキの効き方もマイルドで、Bモードに切り替えてもそれほど減速Gは感じないために、下り坂ではフットブレーキに頼らざるを得ませんでした。裏返せば、ガソリン車からの乗り換えでも違和感なく“普通”に乗れる、その素晴らしさを実感させてくれるのがID.4と言えるのかもしれません。

↑2tを超えるBEVの重量を感じさせない回頭性の良さが、峠道を走る愉しさをもたらしている

 

SPEC【Pro】●全長×全幅×全高:4585×1850×1640㎜●車両重量:2140㎏●モーター:交流同期電動機●最高出力:204PS/4621〜8000rpm●最大トルク:310Nm/0〜4621rpm●一充電走行距離WLTCモード:618㎞

 

撮影/松川 忍

 

 

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BYDのミドルサイズSUV「ATTO 3」は、コスパ面で日米欧勢のEVを上回っている!

1997年に初代プリウスが発売されて以降、日本はハイブリッドカー大国となり、世界を席巻してきた。しかし、クルマの最新進化型がEV(電気自動車)となった現代では、中国がEV大国となっている。そしていよいよ、その中国メーカー製のEVが日本へ上陸を果たす。果たして世界トップクラスのEVメーカーが放つ最新EVの実力はどれほどのものか?

 

■今回紹介するクルマ

BYD/ATTO 3

※試乗グレード:─

価格:440万円〜(税込)

 

EVで最も重要な性能は航続距離

中国は世界最大の自動車市場。昨年の新車販売台数は2627万台と、アメリカの1541万台をはるかに上回った。ちなみに日本は445万台で、なんとか世界第3位を維持したが、インドに追い上げられるなど地盤沈下が激しい。

 

中国はあまりにも巨大だが、中国製乗用車のほとんどは中国国内で消費され、輸出はゼロに近かった。中国製乗用車は、ブランド力不足により、海外ではまったく競争力がない。ところが、モノがEVなら話は違う。すでに中国製の電化製品は大いに世界に進出し、品質を認められつつある。アメリカがファーウェイ(華為)製品を排除しているのは、競争力の高さの表れだ。

 

そして2023年。ついに中国製乗用車の販売が日本で開始される。第一弾はもちろんEV。世界第2位のEVメーカー、BYDの「ATTO 3(アットスリー)」だ。

↑1月31日から販売が開始するATTO 3。写真のPARKOUR REDを含め、ボディカラーは全5色から選べる

 

ATTO 3のボディサイズは、コンパクトSUVに属する。全長は日産「アリア」より140mm短いが、全幅と全高はほぼ同じ。バッテリー容量は58.56kWhで、WLTCモードの航続距離は485kmだ。アリア(B6)は66kWhで470kmだから、それよりバッテリー容量は小さいものの、航続距離ではわずかに上回っている。つまり効率がいい。

↑この複雑な曲面のデザインを実現しているのは、BYDのグループ会社である日本のTatebayashi Moldingが持つ高い金型技術とのこと

 

EVで最も重要な性能は航続距離だ。一度でもEVに乗ったことのある者なら、その切実さを理解しているだろう。夜間、自宅で普通充電し、それでどこまで走れるかで勝負は決まる。外での急速充電は、ガソリンの給油に比べると、ストレスは100倍レベル。なにしろ30分間の急速充電で走れるのは、せいぜい100km強なのだから。

 

現在、世界の多くのEVが、航続距離500km前後になっている。500kmというのはあくまでカタログ値で、実際にはその7掛け程度と考えるべきだが、ともかくカタログ値で500kmの航続距離があれば合格というのが世界の趨勢だ。ATTO 3は、EVとして標準的な航続距離を持っている。

↑インバーター、モーター、コントロールユニットがコンパクトにまとまっている。それらが一体型で低い位置に収納される

 

ATTO 3のルックスは至って「フツー」

では、その他の部分のデキはどうか。まずデザイン。EVの定番は「未来的で高級感のあるスタイリング」だが、ATTO 3のルックスはやや安っぽい。フロントグリルのメッキでEV感を出しているが、かえってオモチャっぽく見える。と言っても落第というわけではなく、「ものすごくフツー」というレベルにある。

 

インテリアも、質感はあまり高くないのだが、こっちには斬新で楽しい仕掛けがいろいろある。インパネセンターの大型ディスプレイは、ボタンひとつで縦にも横にもなる。これはちょっとした衝撃だ。ディスプレイは、通常は横、ナビとして使うなら縦が適しているが、ATTO 3はどちらにも対応できるのだ。ボタンを押してディスプレイが回転すると、それだけで「うーん、やられた!」と感じる。

↑アスレチックジムをモチーフにデザインされた内装。センターディスプレイが回転可能で縦型にも横型になる

 

もうひとつ面白いのは、ドアにギターのようなゴム製の弦が付いていることだ。これは実際にギターをイメージした装飾で、BYDの遊び心を表したもの。ステイタスにこだわらず、楽しいクルマを作ろうとしているのが感じられる。

↑弦を弾くと音を奏でるドアトリムなどユニークなデザインが随所に散りばめられた

 

ちなみにウィンカーレバーは国産車同様、ハンドルの右側に付いている。輸入車としては極めて珍しいが、日本市場に合わせてわざわざ変更したという。

 

乗り味は、EVとしては穏やかな部類に属する。加速は、一部EVのような狂気の爆発力はなく、ガソリン車と比べれば「ダッシュがいいね」くらいのレベル。サスペンションもかなりソフトでゆったりしている。日常的な走りを優先した仕上がりと言える。

↑長距離運転や高速道路の運転をサポートするナビゲーション パイロット機能、万一の衝突時の被害を回避または軽減する予測緊急ブレーキシステムなど、先進的な予防安全機能を装備

 

基本的にEVは、どれに乗っても乗り味にそれほど大きな違いはない。電気で回転するモーターは、ガソリンエンジンのような味わいの違いが出しづらく、主な違いは加速力だけになってしまう。ATTO 3もその例に漏れないが、見た目同様、走りもEVとして「ものすごくフツー」。家電の仲間と考えれば、完全に合格点だ。

 

コスパでいうと、ATTO 3は日米欧勢を上回っている

こうなると、勝負は価格で決まる。1月31日から全国22か所のディーラーで販売が始まるATTO 3の価格は、440万円と発表されている。そのコスパはどうか?

 

主なEVの車両価格1万円あたりの航続距離をランキングすると、このようになる。

1位 ヒョンデ「アイオニック5(ボヤージ)」 1.19km/万円
2位 BYD「ATTO 3」 1.10 km/万円
3位 テスラ「モデル3(スタンダード)」 0.95 km/万円
4位 VW「iD.4(プロローンチエディション)」 0.88 km/万円
5位 日産「アリア(B6)」 0.87 km/万円
6位 トヨタ「bZ4X」 0.86 km/万円
7位 日産「サクラ」 0.84km/万円
<その他>
メルセデス・ベンツ「EQA」 0.69km/万円
BMW「iX3」 0.59km/万円

 

ATTO 3は、日米欧勢を上回っているが、韓国ヒョンデの「アイオニック5」には及んでいない。日本国内では、ヒョンデにもブランド力はないが、中国BYDに比べれば知名度は抜群だし、アイオニック5のデザインは、ATTO 3に比べれば断然イケている。

 

総合的にみると、ATTO 3は、「もうちょっと安ければよかったんだけど」というところだろうか? 400万円を切る価格なら、競争力はあったはずだ。

 

たとえば中国製のタイヤは、日欧米ブランドの4分の1程度と激安で、性能も普通に使う限りあまり差はないため、最近、シェアを伸ばしている。しかしEVの価格は、おおむねバッテリー容量で決まってくる。自動車用バッテリーは超グローバル商品。中国製もそれ以外も、価格に大きな差はない。

 

BYDが自社生産する「ブレードバッテリー」は、独自の技術で作られており、耐久性が高いと言われるが、長く使ってみないと実感できないので、当初はアドバンテージになりにくい。結論としてATTO 3は、今の段階では、「面白い存在だけど、買うかどうかは別」というステップにとどまるだろう。ただ、中国製EVの実力が侮れないことはたしかだ。近い将来、世界を席巻する可能性もある。

 

SPEC●全長×全幅×全高:4455×1875×1615㎜●車両重量:1750㎏●パワーユニット:電気モーター●最高出力:204PS/5000-8000rpm●最大トルク:310Nm/0-4620rpm●一充電航続距離(WLTCモード):485㎞

 

撮影/池之平昌信

 

 

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満足度は間違いない! 三菱「アウトランダーPHEV」は輸入車の高級モデルばりの威厳を放つ!!

2021年12月に発売された新型「アウトランダーPHEV」。すでに発売から1年が経過したが、多くの自動車メディアや評論家が高く評価している。先代モデルは約9年と長きにわたって販売されロングセラーモデルだったが、はたして新型はユーザーが待ち望んだ進化を果たしたのだろうか。現在の三菱自動車のフラッグシップモデルの実力に迫った。

 

■今回紹介するクルマ

三菱/アウトランダーPHEV

※試乗グレード:P

価格:462万1100円~548万5700円(税込)

 

ハイブリッドカーの進化系であるPHEVがある

カーボンニュートラルの波は日本の自動車業界にもひしひしと迫っており、クルマの電動化はもはや避けられない事態となっている。特に政府関係者に望まれているのはピュアEV(電気自動車)だが、日本でまだ流行らない理由は、価格が高いこととインフラに不安があるからだ。

 

前者に関しては、政府から補助金が出ることでガソリン車と変わらないくらいの価格になっているし、普及が進めば徐々に価格も下がってくることが予想される。しかし後者に関してはなかなか深刻な問題だ。給電スポットを探して不安になりながら運転するというのは、一度経験した人なら二度と味わいたくないものに違いない。

 

また、給電時間の問題もある。やっと見つけた充電スポットに先客がいれば、その人と自分とで合わせて1時間近く充電待ちしなくてはならないこともある。とはいえ、インフラが充実するには相当な時間がかかる。現在のガソリンスタンドのように、当たり前のように街中に給電スポットが揃うのはいつになることか。この先、EVの普及台数が増えていけば、追いかけっこのような状態になりかねない。

 

では、インフラが普及するまでEVは買えないのか、EVの走りを味わうことはできないのか、といえば、そんなことはない。ハイブリッドカーの進化系であるPHEV(プラグインハイブリッドカー)がある。PHEVとは充電できるハイブリッドカーのことで、基本的にはEVとしてモーターで走り、電気がなくなったら(充電できなかったら)、ガソリンエンジンを積んでいるから普通のハイブリッドカーとしても走れるし、走行中に充電もされる。

↑アウトランダーPHEVのグレードはP、BLACK Edition、G、Mの4種。今回は最上級グレードのPを試乗

 

2022年末の現在、日本ではトヨタの「プリウス」、「RAV4」、レクサスの「NX」、三菱には「エクリプスクロス」、そしてこのアウトランダーにPHEVの設定がある。しかし、このアウトランダー(先代型)こそが“PHEVの権化”という時代があったのは事実だ。元々はミドルサイズのクロスオーバーSUV「エアトレック」の後継車で、2013年に2代目モデルに世界初の4WD&SUVのPHEVとして先代型が誕生して以降、他メーカーのPHEVは販売が振るわなかったのだ。

↑ボディカラーはPグレード専用色を含めて全12色。スタイリングをさらに引き立ててくれるダイヤモンドカラーシリーズは美しい

 

そして2021年に満を持して3代目アウトランダー(アウトランダーPHEVとしては2代目)が誕生したわけだが、ガソリンエンジン搭載モデルもラインナップされていた先代型と違い、新型はPHEVのみとなっている。これは、PHEVのみでも販売的に失敗しない、そしてそれだけの高い完成度を実現したという三菱の自信の表れでもある。

↑255/45R20 タイヤ+20インチアルミホイール(2トーン切削光輝仕上げ)を履く。※Pの場合

 

↑インテリアにはインストルメントパネルを貫く力強い水平基調のデザインを採用。Pのシート生地はブラック×サドルタンのセミニアンレザーが標準だが、試乗車はライトグレーのレザー生地になっていた

 

乗り心地もフラットで、極めて乗用車ライク!

パワーユニットの構成は、フロントにエンジンを搭載し、フロントとリアにそれぞれモーターを備えた4WDとなっており、前後で異なるモーターで駆動を制御する「ツインモーターAWD」を採用している。従来モデルと同構成ながら、出力が向上されたこのユニットによって非常に優れた加速を実現しており、体感的にもEV(モーター)特有の鋭い加速が感じられた。なお、バッテリー容量は先代型から約50%近く拡大されており、カタログ値で87kmもモーターのみで走行することができる。

 

↑手になじむ大型のダイヤルを回すことで直感的にモードの選択が可能

 

↑左のスイッチはペダルの踏み替えを減らす「イノベーティブペダルオペレーションモード」。右にあるのは4つのモードから、バッテリー残量をコントロールできるスイッチ

 

先代モデルと比べると、もう少し硬かった足まわりがだいぶしなやかになった。乗り心地もフラットで、極めて乗用車ライクなものになっている。また、先代型は車高の高いSUVらしくコーナリングで多少の不安があったが、より安定感の高いフィーリングを感じさせるようになった。

 

ステアリングフィールに関しては従来から重くはなかったが、さらに軽くなった印象を受ける。全体的な操作感覚としては何もかもイージーに生まれ変わったといえる。ボディサイズは全長、全幅とも拡大されているが、最小回転半径は5.5mとなっており、ボディサイズを考えれば非常に小回りが効くクルマに仕上がっている。

↑フロントよりリアのモーターのほうがパワフルなのも三菱PHEVの特徴

 

新型はPHEVのみになったにも関わらず、先代型のガソリンモデルでラインナップされていた7人乗り(3列シート)仕様が設定されている。単純に考えてガソリン車よりPHEVのほうがメカニズム部分の容積が大きくなってしまうはずだが、そこは設計や技術で補った形だ。

 

3列目シート自体は、背もたれ、座面ともに重厚になっていて、立派な印象を受ける。しかし実際に座ってみると筆者のような身体の大きめな男性では高さが足りず、また足を置く部分の床面積にも不満が残る。多くのミニバンと同じように、あくまでも3列目は子ども向けと割り切るべきだろう。

↑3列目シートは子ども専用ともいうべきスペース感

 

↑荷室は、3列目まで使用すると容量は最大284リットル。3列目シートを床下格納すると、最大646リットルまで容量は拡大する

 

最後に、デザインについては、三菱ブランドのフラッグシップ(旗艦)らしく、堂々としたたたずまいに仕上がっていて素晴らしい。何にも似ていない三菱オリジナルテイストのフロントまわりは、同社のデザインアイコンである「ダイナミックシールド」が採用されており、非常に押し出し感が強く、輸入車の高級モデルばりの威厳を放っている。インテリアについてもクラス以上の高級感に満ちていて、クオリティが高い。流行りのフォーマットをなぞっている印象のないクルマながら、クルマの未来を感じたい人にとって、最高の一台になり得るだろう。

↑フロントマスクには最新世代の「ダイナミックシールド」デザインを採用。頰の部分にある四角いユニットがヘッドランプ

 

SPEC【P】●全長×全幅×全高:4710×1860×1745㎜●車両重量:2110㎏●パワーユニット:2359cc直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:98kW/5000rpm●フロントモーター最高出力:85kW/リアモーター最高出力:100kW●エンジン最大トルク:195Nm/4300rpm●フロントモーター最大トルク:255Nm/リアモーター最大トルク:195Nm●WLTCモード燃費:16.2㎞/L

 

撮影/木村博道 文/安藤修也

 

 

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日産「オーラ」“小さな高級車”はダテじゃなかった。走りもインテリアもこだわりの仕上がり

日産『NOTE(ノート)』のハイグレード版として登場したのが『AURA(オーラ)』です。単に装備を豪華にしたのではありません。ボディサイズを3ナンバーにまで拡張し、モーター出力もアップするなど、試乗してみれば見た目以上のその違いを実感できるものとなっていたのです。ここではベース車であるノートと比較しながらレポートします。

 

■今回紹介するクルマ

日産/オーラ

※試乗グレード:G leather edition(4WD)

価格:265万4300円~299万6400円(税込)

↑ノートに比べてボリューム感を増している「オーラ」。フェンダー部の膨らみによって3ナンバー車となった

 

5ナンバーのノートに対して、オーラは3ナンバー

一見すると「ノートとオーラの違いはよくわからない」ほとんどの人がそう思うはずです。両車ともデザイン面で違いがそれほど大きくないからです。しかし、並べてみるとその違いはハッキリとわかりました。最も大きな違いは、ノートはボディが5ナンバー枠に収まっているのに対し、オーラはなんと3ナンバーとなっていることです。

 

で、その寸法をチェックしてみると、オーラの全幅は1735mmと、ノートの1695mmから40mm広がっていました。さらにトレッド幅もノートの1490mmから1510mmへと拡大しています。デザイン上もヘッドライトの薄型化を実施して、それに伴ってフロントグリルをバッテリーEVの「アリア」にも近いデザインとしました。また、前後フェンダーも膨らみを持たせることで、オーラは3ナンバー車らしいボリューム感のある雰囲気を生み出しているのです。

 

クルマに乗り込むとオーラはインテリアにも質感の向上が認められます。インパネの表面にはツイード調のファブリックが施され、その下には木目調パネルが加えられています。メーターディスプレイも、ノートの7インチより大型の12.3インチカラーディスプレイに変更しています。これにより、オーラでは車両の機能情報以外にナビゲーションの表示もメーター内でできるようになっています。これもノートにはない注目の装備と言えるでしょう。

↑ダッシュボードは硬質プラスチックのままだが、木目などを施すことでプレミアム感を高めている。NissanConnectナビゲーションシステムは9インチワイドディスプレイ

 

↑ダッシュボードはノートと共通であるものの、ツイード表皮と木目調パネルを与えることでプレミアムな印象を醸し出している

 

↑メーターディスプレイはノートの7インチから12.3インチへ大型化され、メーター内でナビゲーション表示も可能となっている

 

プロパイロットとBOSEサウンドで快適な高速クルージング

オーラではシートもグレードアップしています。「G leather edition」には座り心地と快適性を両立させた「本革3層構造シート」を装備。標準グレードではシートのメイン部分にインパネのファブリックに合わせた素材を用いるなど、インテリアのコーディネイトにも優れた一面を見せます。また、2022年8月の仕様変更ではリアシート中央にアームレストが標準装備され、これもノートではオプションにはない特別な装備と言えます。さらにシートはノートも含めすべて抗菌仕様にもなりました。

↑オーラの「G leather edition」を選ぶと、写真の明るい内装色の「エアリーグレー」のほか、「ブラック」を選ぶことができる

 

↑オーラのリアシート。標準グレードの「G」でもアームレストは標準装備となっている

 

それとオーラで見逃せないのはサウンドシステムとして「BOSEパーソナルプラスサウンドシステム」がオプションで装着できることです。ヘッドレストにスピーカーを内蔵したことに加え、ドアにはワイドレンジスピーカー、Aピラーにはツィーターを組み込んだ8スピーカー構成とし、これを専用DSP内蔵アンプにより駆動します。耳元に近いヘッドレストでメインの音が出力されるため、音像の輪郭が鮮明でクリア。しかも「PersonalSpace」と呼ばれる機能を使うことで、音場の広がり感も自由に設定できます。その日の気分に合わせたサウンドステージが楽しめるのは使ってみるとなかなかいいものです。

↑ヘッドレストにスピーカーを組み込んだ「BOSEパーソナルプラスサウンドシステム」。演奏者の位置がわかるほどリアルなサウンドと、車室サイズを超えるような音の広がりを実感できる

 

↑「PersonalSpace」では音場を自在に変化させられる。ライブハウスのようなタイトな感覚から、アリーナの最前列で360°包まれるようなサウンドまで自在に設定可能

 

ただ、残念なのはこのシステムはプロパイロットやNissanConnect ナビゲーションシステムなどとのセットオプションとなるため、価格は40万円超えとなってしまうことです。おそらくプロパイロット+ナビを装着する人は多いと思われるので、それを選べば必然的にBOSEのシステムも付いてくるわけですが、車両価格の15%にもなるこの設定はちょっとビビりますよね。しかしオーラは遮音ガラスを採用したこともあって、高速走行時の室内はきわめて静か。音楽を楽しみながらプロパイロットでクルージングすることをオススメします!

↑ステアリングにセットアップされている「プロパイロット」の操作スイッチ

 

↑緊急時にオペレーターへ通報できる「SOSコール」はプロパイロットとのセットオプションとなる。試乗車では機能がOFFとなっていた

 

アクセルを踏んだ瞬間、パワフル感はノートを大きく超える!

ではオーラの走りはどうでしょうか。率直に言って、その走りは現行ノートでも先代とは比較にならないほど安定した走りを見せるようになりました。特に発電用エンジンの音が静かで、作動する時間も先代よりも大幅に少なくなっているので感覚的にも快適そのもの。このフィーリングはオーラにも引き継がれ、その上でフロントモーターの出力が向上しているのです。今回の試乗では4WDを選んだため、リアからのモーターアシストも加わり、アクセルを踏んだ瞬間のパワフル感はまるで違っていました。

↑発電専用の1.5L気筒エンジンを搭載し、その電力によってモーターを駆動して走るシリーズハイブリッド(e-POWER)を採用

 

↑オーラのシフトノブ。電子式のシフトレバーを全グレード標準装備した

 

操舵フィーリングも思ったコースを忠実にトレースしてくれ、e-POWERならではの「eペダル」を組み合わせることで峠道の走行もいっそう愉しさが増します。特にオーラではタイヤをノートの185/60R16から205/50R17へとサイズアップしていることもあって、コーナリングでの踏ん張りはなかなかのもの。つい峠道を選んで走ってみたくなってしまいます。

↑ノートの16インチに対し、オーラはインチアップした205/50R17を履く。これが乗り心地に影響を与えた可能性がある

 

ただ、オーラは路面からの突き上げ感は大きめに出ます。なかでも気になるのは少し荒れた一般道を入っているとき。車体にも振動が伝わってくるため、状況によっては不快に感じることさえあります。ノートの時はそれほど気になることはなかったため、おそらくサイズアップしたタイヤの影響が大きいのではないかと思いますが、一方で操安性の向上にプラスとなっているのは間違いありません。これをどう捉えるかで評価は大きく変わってくると思います。

 

「ノート+60万円」で手に入るプラスアルファの走りと質感

ではオーラとノート、どちらを選ぶのがいいのでしょうか。オーラを外から俯瞰した後でノートを見ると、前後のフェンダーに膨らみを持たせたオーラは豊かなプロポーションを感じさせます。個人的には濃いめのボディカラーを組み合わせたときのリッチな雰囲気が好みでした。ただ、オーラとノートの価格差は装備に違いがあるとは言え60万円ほどあり、そこに価値が見出せるかと言えば、人によって差は出てくるでしょう。

↑オーラ(4WD)。ボディカラーは全14色から選べる

 

↑リアドアの開く角度が大きく、乗り降りに大きくプラスとなっている

 

特にインテリアは硬質プラスチックのままで、ノートとの明らかな違いを感じ取ることはできず、せめてパワーシートぐらいは装着しても良かったのではないかと思うのです。とはいえ、ノートを上回るパワフルさが生み出す走りは楽しいし、ノート以上のグレード感は、オーラならではの大きな魅力と言えます。豊満なボディとプレミアム感、そして走りの良さを求めたいならオーラは間違いなくオススメ。自分にとって何が必要かを選択しながら、ノートと比較してみるのも良いのではないでしょうか。

 

SPEC【G leather edition(4WD)】●全長×全幅×全高:4045×1735×1525㎜●車両重量:1370㎏●パワーユニット:1.2リッター直3DOHC12バルブ+交流同期電動機●最高出力:エンジン82PS/6000rpm (モーターフロント136PS/3183-8500rpm ・リア68PS/4775-10024rpm )●最大トルク:エンジン103Nm/4800rpm(モーターフロント300Nm/0-3183rpm ・リア100Nm/0-4775rpm )●WLTCモード燃費:22.7㎞/L

 

 

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トヨタ「クラウンクロスオーバー」はスポーティなわりにフォルムが膨よかで貫禄がある!

2022年7月、トヨタが世界に向けて発表したのは、フラッグシップモデル「クラウン」の新型モデル。しかし、従来のセダンタイプだけでなく、SUVのエステート、ハッチバックのスポーツ、ワゴンのエステートと新たなボディバリエーションも同時に初公開された。そのうち、まず第一弾としてすでにデリバリーが始まっているのがクロスオーバーだ。これを早くも試乗した自動車評論家の評価とは!?

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ/クラウンクロスオーバー

※試乗グレード:RS

価格:435万円~640万円(税込)

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第一印象は「まあまあカッコいいな」

新型クラウンの発表は衝撃的だった。「今度のクラウンはSUV風になるらしい」という噂だけを頭に発表を待っていたら、なんと一気に4つのボディタイプが公開され、しかもどれもが個性的でカッコよかった! 4つのボディタイプは、セダン、エステート、スポーツ、そしてクロスオーバーだが、販売のメインになるのはセダンではなく、SUV風味のクロスオーバーだ(トヨタの目論見通りなら)。

 

トヨタ・クラウンと言えば“おっさんセダン”。昔は「いつかはクラウン」などと言われたが、さすがに誕生から60年以上経てば時代も変わる。クラウンクロスオーバーの初期受注台数を見ると、市場の反応はそれほど熱狂的ではないが、先代型クラウンの売れ行きは、ピーク時(バブル期)の10分の1程度にまで落ちていた。つまりトヨタとすれば、失うものは何もない。思い切ってバクチを打つには最高の環境だったのである。

 

発表会では、クラウンの激変ぶりに度肝を抜かれ、「トヨタ、やるなぁ」と唸らされたが、実物のクラウンクロスオーバーの第一印象は、「まあまあカッコいいな」というところだった。すごくカッコいいではなく「まあまあ」な理由は、スポーティなわりにフォルムが膨よかで貫禄があり、ややおっさんっぽいからだ。もっとスリークにシュッとさせれば、「文句なくカッコいい!」となったような気もするけれど、トヨタはそうはしなかった。

↑セダンだった先代クラウンと比べてクロスオーバーは全高が85mm高くなった。ホイールベースは2850mmと後輪駆動の先代モデル(2920mm)に比べれば短くなっている

 

21インチという大径タイヤを履き、思い切りスタイリッシュに振ってはいるが、クラウンという名前から来るイメージを完全に捨てるわけにはいかなかったのだろう。クラウンとして最大限頑張ったけれど、やっぱりクラウンはクラウン、貫禄も大事! ということなのですね。

↑21インチ アルミホイール(切削光輝+ブラック塗装)&センターオーナメント※RSの場合

 

クラウンクロスオーバーは、クラウンの伝統であるFRレイアウトを捨て、エンジン横置きのFFベース4WDにリボーンしたが、それによってフロントノーズは若干短くなり、ヘッドライトは思い切り薄くなり、今どきのスタイリッシュなファストバック車に生まれ変わった。

 

ただ、テールゲートはハッチバックではなく、独立したトランクを持っている。トランク部の出っ張りはほとんどないので、開口部はやや小さく、荷物の出し入れはあまりしやすいとは言えないが、開口部の大きいハッチバックでは、セダンのような静粛性の確保は難しい。大きく生まれ変わったとは言え、クラウンのウリである静粛性や快適性を捨てるわけにもいかなかったのだ。

↑12.3インチHDDディスプレイやステアリングヒーターを装備。ディスプレイ・メーター・操作機器を水平に集約し、運転中の視線移動や動作を最小化している

 

クラウンクロスオーバー走行した印象は?

では、この「スタイリッシュでまあまあカッコいい」クラウンクロスオーバー、走った印象はどうだったのか。

 

スタンダードな2.5Lハイブリッドモデル(電気式4WD)のパワートレインは、「カムリ」などに搭載されているものと基本的には同じで、わりとフツーだった。特に速いわけではないし、特にスポーティでもなく、トヨタのハイブリッドらしく、静かに淡々と走行する。乗り心地もどことなくカムリに近く、大径タイヤの重さもあって、それほど極上というわけではない。

 

ただ、違うのはコーナリングだ。4WS(四輪操舵)システムの恩恵もあり、ハンドルを切れば切っただけキレイに曲がってくれる。「えっ、こんなに曲がるの!?」というくらいスイスイ曲がる。このコーナリングの良さが、クラウンにとってどれほどアドバンテージになるかは未知数だが、4WSによる小回り性の高さは、確実にメリットだ。

 

というわけでクラウンクロスオーバーのスタンダードグレードは、全体に可もなく不可もなく、デザインとコーナリングが目立つ、穏やかなクルマに仕上がっていた。

 

続いてスポーティクレードである「RS」だ。クラウンのために新開発された2.4Lのデュアルブーストハイブリッドモデル(電気式4WD)を試す。

↑単体で最高出力272PSを発生する2.4リッター直4直噴ターボエンジン

 

こちらは、ハイブリッドのシステム最高出力は349馬力に達する(2.5Lハイブリッドは234馬力)。アクセルを踏めば圧倒的にパワフルで、昔風に言えば大排気量のアメ車のごとく、低い回転からズドーンと加速し、そのまま高い回転域までシュオーンと突き抜ける。エンジンは2.5L同様4気筒だが、振動はしっかり抑え込まれていて、従来のV6並みの滑らかなフィーリングが味わえる。まさにスポーツセダン!

 

だけど燃費はがっくり落ちる。WLTCモード燃費は15.7km/Lとなっているが(2.5Lハイブリッドは22.4km/L)、実燃費は10km/L程度だろうか。山道を元気に走り回った時の燃費は6km/L台。トヨタのハイブリッド車としては、びっくりするほど悪い。

 

しかし、燃費を重視するならスタンダードモデルを選べばいいわけで、RSの狙いは、このスポーティな走りなのだ。RSは加速がいいだけじゃない。コーナリングも素晴らしい。これまた4WSの恩恵で、超オンザレール感覚でシュオーンと曲がってくれる。従来の古典的なクラウンと比べると、「魔法のようなコーナリング」とすら言っていい。

 

先代型クラウンは、FRレイアウトを維持しつつ、BMW3シリーズのようなスポーティな走りを目指したが、そこにはまったく届いていなかった。しかし新型クラウンクロスオーバーには、もうBMW3シリーズやメルセデスCクラスの影はない。これは、まったく別カテゴリーのスポーツセダンなのだ。その狙いは、「RS」に関しては、8割くらいは達成できているのではないだろうか。

 

SPEC【CROSSOVER RS(クロスオーバーRS)】●全長×全幅×全高:4930×1840×1540㎜●車両重量:1900㎏●パワーユニット:2393㏄直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:272PS/6000rpm●エンジン最大トルク:460Nm/2000-3000rpm●WLTCモード燃費:15.7㎞/L

 

撮影/池之平昌信

 

 

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「21世紀の傑作デザイン」という高い評価を得ているマツダ「ロードスター」を考察

世界中のスポーツカーは大型化、高級化傾向にあり、マツダ「ロードスター」のように小型軽量で手頃に買えるスポーツカーは珍しくなった。そもそもスポーツカー自体が希少なこの時代にあって、30年以上、4代に渡って販売が続いているのは、ひとえにロードスターが魅力的なクルマであることにほかならない。最新のRSグレードに乗って、そのあたりを考察してみた。

 

■今回紹介するクルマ

マツダ/ロードスター

※試乗グレード:RS・6速MT

価格:268万9500円~342万2100円(税込)

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まるでクルマと身体が一体になったような感覚が味わえる

ロードスターは、日本を代表するスポーツカーだが、トヨタ「スープラ」や「86」、あるいは日産「GT-R」や「フェアレディZ」とは決定的な違いがある。それは、ほかのスポーツカーと違って屋根を開けることができるオープンカーであるということだ。

 

一度でもオープンカーに乗ったことがある人ならわかるかもしれないが、屋根を開けて走ると周囲の風を感じられる。適度に風を浴びながら走ると、まるでクルマと身体が一体になったような感覚が味わえて、運転することの気持ちよさが、より深く感じられる。この感覚は、よく「人馬一体」などとも表現されるが、ロードスターはまさにこの「人馬一体」の権化のようなクルマである。

↑誰もが憧れるガラス製リアウインドー付ソフトトップ。屋根をオープンにすると「クー!! カッコいいっす」

 

「人馬一体」の感覚は、1989年に登場した初代モデルの頃からしっかり味わえた。そしてそこが高く評価されたこともあって、ロードスターは世界的な人気車となり、現在まで販売されるロングセラーモデルとなった。

 

もちろん、屋根が開くことだけで長く支持されてきたわけではない。ステアリングを握ってすこし走っただけで、「すばらしい」とため息がでるクルマはそう多くは存在しないが、このロードスターは、乗った後にそんな気持ちにさせてくれるクルマなのだ。きっと多くの人が、期待以上のものを得られるに違いない。

↑3本スポークのステアリングホイール。直径366mmで細身のグリップで操作もしやすい

 

ステアリングのフィーリングは若干軽めで、足まわりもソフトな味つけになっている。一見イージー過ぎてクルマ好きには物足りないかと思いきや、コーナーを攻めてみるとしっかり踏ん張るので、かなりの速度域でコーナリングが楽しめる。逆にいえば、誰でも操作しやすくて乗りやすい、ピュアなスポーツカーにしつらえられていて、“走りの楽しさ”というものを直球で味わえる。

 

エンジンは自然吸気式の1.5L、一種類のみだが、ボディが約1tと軽いため、加速感が気持ちいい。それに加えて、なんといっても重心が低いので、ノンターボの健やかな加速でもスポーティ感がたっぷり味わえる。走りの味付けとしては全体的に風情があって、ゆっくり走っていても楽しいのだが、これが屋根をあければ、2倍や3倍にも感じられるのだ。

↑直噴1.5Lガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.5」のみを設定

 

なんだかこれで結論のようになってしまったが、現行型ロードスターの美点は走りだけではない。英国の古き良きライトウェイトスポーツカーをモチーフにした初代モデルのデザインは、レトロな趣で現在でも高い評価を獲得している。次の2代目モデルはスポーティさを誇張してワイドになったが、現役時代はさほど評価を得られなかった。そして3代目では原点に立ち返り、初代モデルのような丸みを帯びたノスタルジックな形状になったがボディは大型化していた。

 

こういった流れを受けて、2015年に登場した4代目となる現行型では、まずなによりボディサイズが小型化された。そこに、引き締まったモダンなスポーティデザインがまとめられることになった。昨今の高級スポーツカーにありがちな“無駄”なラインが省かれており、とにかくシンプルで美しい。サイズ感にもピッタリ当てはまる。

 

フロントまわりには無駄なエッジがなく、シャープでありながらどこか彫刻的だ。サイドからリアにかけては微妙なうねりがあって、動物の肢体を想像させる有機的なデザインにまとまっている。つまり、顔は清楚でありながら、お尻はセクシーなのである。

↑ヘッドランプは自動的にロービームとハイビームを切り替える「ハイ・ビーム・コントロールシステム(HBC)」に

 

↑足元は16インチアルミホイール、大径ブレーキを標準装備

 

さらに、幌を閉じた状態で見てもスタイリッシュなのは、このクルマのバランスの良さや完成度の高さを物語っている。早くも「21世紀の傑作デザイン」という高い評価を得ているが、きっと10年経っても、20年経った後でも、高く評価されるに違いない。

↑ドライバーをクルマの中心に置き、すべてを自然な位置にレイアウトすること。徹底的にボディの無駄を削ぎ落として、全長は短く、全高は低く、ホイールベースはショートに

 

↑トランクは機内持込対応サイズのスーツケースを2個積載できる容量を確保。利便性にも配慮された

 

一旦離れても、いつかまた乗りたいクルマです

スポーツカーの延長線上にはスーパーカーがあって、それはカーマニアにとっての夢、最果ての地となっているが、スーパーカーを手に入れるにはとんでもない金額を支払う必要がある。結局は一部の富を持つ人のための嗜好品だ(中古車はのぞく)。しかしロードスターは違う。価格もサイズも、さらには使い勝手も実に合理的にまとめられている。

 

スポーツカーにとって使い勝手の良さや実用性が必要かどうかと言われれば、答えは「ノー」だ。あくまでも走ることを楽しむクルマだから、そのために実用性が犠牲になっている部分はある。だから普通の人はスポーツカーに乗らないというのもすごくわかる。しかしクルマには、家電やデジタルギアと違って、機能だけで語れない部分があるのだ。

 

走ることの楽しさというのは、実際に乗ってみればわかる。そしてそれはオーナーになってみればさらにわかる。実は筆者もかつてこのクルマ(初代モデル)に乗っていた1人だが、筆者を含め、筆者のまわりにいるオーナー経験者たちは、皆一様に「いつかまた乗りたい」というコメントを残してる。

 

かつて世界中のメーカーがこのロードスターを越えようと多くのライトウェイトオープンモデルを登場させたが、結局、ロードスターに匹敵するクルマは出現しなかった。そして、今でもほぼデビュー時のコンセプトのまま残っているのはロードスターだけである。このクルマが日本で生まれたことを誇りに思う。

 

SPEC【RS・6速MT】●全長×全幅×全高:3915×1735×1235㎜●車両重量:1020㎏●パワーユニット:1496㏄直列4気筒エンジン●最高出力:132PS/7000rpm●最大トルク:152Nm/4500rpm●WLTCモード燃費:16.8㎞/L

 

撮影/木村博道 文/安藤修也

 

 

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スバル「クロストレック」試乗。軽快な走りを示す新ラインナップ「FFモデル」に注目!

より身近なSUVとして根強い人気を獲得していた「SUBARU XV」が、2023年以降、装いも新たに『クロストレック』として生まれ変わることになりました。その魅力はどこにあるのか。今回は発表を前に、クローズドコースで行われた先行試乗会でプロトタイプの走りをレポートします。

↑標準グレード「ツーリング」AWD(4WD)。ボディカラーは新色の「オフショアブルー・メタリック」

 

車名は「XV」から「クロストレック」へ

「クロストレック」という名前、少しスバルに詳しい人ならもしかしたら聞いたことがあるかもしれません。実はクロストレックという名前が使われるのは今回が初めてではないのです。すでにアメリカなど北米では、日本で展開していた「XV」をクロストレックとしていました。今回のフルモデルチェンジを機にXV名ではなく、グローバルでクロストレック名が使われることになったのです。

↑タイヤは17インチホイールに225/60R17。リアフォグランプは右下が点灯する

 

ラインナップは4WDに加えて、シティユースが多い人向きにFFを用意したのもポイントです。その分だけより身近な価格でクロストレックが手に入れられるのです。ただ、代わりに従来の1.6リッターモデルはラインナップから外れ、日本仕様のパワーユニットは2リッターの「eボクサー」のみとなりました。

↑リアハッチゲートに記された「CROSSTREK」と「e-BOXER」のバッジ

 

価格も全体的にアップしてるようで、販売店からの情報によれば、価格はFFのツーリングが266万2000円、同リミテッドが306万9000円。4WDのツーリングが288万2000円、同リミテッドが328万9000円とのこと。やはり身近な価格帯のグレードがなくなったのは少し残念ですね。(※すべて税込価格)

 

とはいえ、車名をクロストレックとした新型は、基本的なボディデザインをXVの流れをしっかりと受け継ぎつつも、“彫りが深い”フロントフェイスやグラマラスなフロントフェンダーなど、よりSUVっぽくなった印象です。その一方で、サイズはXV比でせいぜい1cm前後の違いしかなく、ホイールベースに至ってはまったくの同寸。この辺りはXVから乗り換えても違和感なく扱えると思っていいでしょう。

↑ボディカラーは全7色が用意された

 

クラス最高レベルの上質なインテリア

インテリアはダッシュボードのセンターに、11.6インチの大型ディスプレイを備えた新世代インフォテイメントが装備されました。すでにレヴォーグなどにも搭載され、その使い勝手には高い評価が与えられているものです。ただ、「STRALINK」によるコネクテッド機能は備えていますが、ボイスコントロールはローカルで認識するもので、スマホで使うような認識率の高さは備えていません。この辺りは早急に改善してほしいところです。

↑使い勝手のよさと居心地のよさを重視したインテリア。中央のインフォテイメントシステムは11.6インチディスプレイを採用する

 

しかし、内装の質感はこのクラスとして最高レベルの上質さを感じさせてくれました。シンプルなデザインながらマルチマテリアルの異なる素材を上手に組み合わせ、手で触れた感触もなかなか良さげです。ちなみに、内装トリムは上級グレードがシルバーステッチのファブリックで、標準グレードがシルバーステッチのトリコットとなります。メーカーオプションではパワー機構付きの本革シートも選べます。

 

エアコンの吹き出し口がディスプレイの左右に配置され、その操作系もオートエアコン使用時の温度調整やオーディオのボリュームなどが、物理スイッチで操作できるあたりも、使い勝手を重視した開発者のこだわりが感じられます。少なくともクルマは、運転中での操作はより確実な操作が求められるわけで、その意味でもこうした対応は高く評価したいですね。

 

そうした中でスバルがクロストレックで強調していたのが「動的質感」です。そのために医学的見地から開発したというシートは、骨(腰の中央、背骨の一番下に在る三角形の形をした部分)を押さえながら骨盤を支える構造を採用したものとなっています。そのため、走行中に生まれる左右の揺れに対して身体をしっかりサポートでき、それは優れた乗り心地にもつながりました。これが長距離走行でも疲れにくい環境を提供するというわけです。

↑標準グレード「ツーリング」の運転席周り。上位グレードの「リミテッド」のシートはメモリー付パワーシートとなる

 

↑「ツーリング」のリアシート。標準グレードでも中央にはアームレストも備えられる

 

また、走行中の快適性向上のためとして、ルーフパネルとブレースの間には、振動の吸収性が高く、耐震性に優れた高減衰マスチック(弾性接着剤)を採用しています。これが走行時に発生した、細かな振動を上手に丸め込む効果を発揮し、振動に対する高い収束性を発揮することとなったのです。この日は路面状態が良好なサーキットでの走行でしたので、公道でのロングドライブでその効果を早く体験してみたいですね。

 

安定感のある4WD、軽快感のあるFF

さて、いよいよ試乗です。コースは静岡県伊豆の国市にある「サイクルスポーツセンター」で、一周約5キロのコースをショートカットしての試乗となりました。この日はあいにくの雨模様でしたが、それはむしろFFと4WDの違いを感じるのに最適な場を与えられたようにも思いました。そこでまず感じたのは4WDの落ち着いた走りでした。路面がそこそこ濡れているにもかかわらず、ハイスピードでコーナーに入っても挙動は安定しており、楽にコントロールができたのです。これは剛性を高くしたステアリングフィールもポイントになるでしょう。

↑静岡県伊豆の国市にあるサイクルスポーツセンターで試乗中のスバル・クロストレックプロトタイプ

 

↑水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンとモーターを組み合わせた「e-BOXER」仕様。1.6リッターエンジンはラインアップから外された

 

ではFFはどうか。実はこちらも挙動変化の少ない走りを見せてくれました。それどころか旋回中の軽快さは4WDよりも高く、トランスミッション(CVT)との相性も良好。フル加速した際もダイレクト感があり、多少ラグを感じる4WDとの違いを感じたのです。特に2.0リッターエンジンにモーターアシストを加えたことも走りにプラス効果を与えたのは間違いないでしょう。ステアリングの剛性も4WD同様に高いものがあり、操作して安心感がありました。

↑試乗中の天候はあいにくの雨模様だったが、挙動変化の少ない安定した走りが印象的だった。写真はクロストレック「リミテッド」FWD(FF)モデル

 

↑トランスミッションはチェーン式CVT「リニアトロニック」で、CVT特有のラバーフィールを最小限に抑えた

 

こうした体験を通して感じたのは、軽快な運転を楽しみたいならFFの方がオススメで、どっしりとした安定感のある走りを味わいたいなら4WDということです。特に積雪がある地域の方にとっては頼りがいのある4WDモデル一択となりそうですが、日常生活で積雪がない地域の人にとってはFFモデルをむしろ選ぶべき。そう思ったほどFFの仕上がりは良かったように思いました。

↑クロストレック「リミテッド」AWD(4WD) モデル。ドッシリとした安定感のある走りを見せた

 

最新アイサイトの進化にも注目!

最後にお伝えしておきたいのは、最新の運転支援システム「アイサイト」の搭載です。残念ながら今回の試乗で体験することはできなかったため、あくまでスペック上での話となりますが、その進化は目を見張るものがあります。新設計のステレオカメラに加えて、前側方に対するレーダーも組み合わせ、これにより認識範囲を従来型の約2倍にまで拡大。両側の周辺にいる二輪車や歩行者の識別精度も向上させているのです。

↑スバル初となる広角の単眼カメラを組み合わせた新「アイサイト」を搭載。ガラス面との隙間もなくなった

 

さらに、低速走行時に二輪車や歩行者を認識する広角単眼カメラを国内スバル車で初めて採用したことで、プリクラッシュブレーキの精度向上につながりました。スバルによれば、これはアイサイトとして最高の性能になるということです。こうしたアシストに助けられないのが一番ですが、そうした状況下に万が一陥った時の安心度は大きく違います。

 

新型クロストレックは走りだけでなく、そんな万が一の安心感をもたらしてくれる一台へと進化したと言えるでしょう。公道で試乗できる日が楽しみです。

↑SUVカテゴリーにふさわしいカーゴルーム。リアシートをたたんだ際もフラットになるので使いやすい

 

 

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スバル「BRZ」は走ることを趣味とする大人のおもちゃとして最高の一台!

「若い人が買える国産スポーツカー」というカテゴリーも今はあってないようなもので、スポーツクーペが各メーカーから雨後のタケノコのようにうじゃうじゃと発売されていた80年代を懐かしむ中年世代は多い。しかしそんな時代だからこそ輝くのが、貴重なコンパクトサイズのスポーツクーペ、スバル「BRZ」だ。初代型のみで消えることなく、昨年、見事なフルモデルチェンジを遂げた同車の魅力を探る!

 

■今回紹介するクルマ

スバル/BRZ

※試乗グレード:R・6速MT

価格:308万円~343万2000円(税込)

 

BRZの乗り味は安定性の高いセッティング

国産スポーツカーファンにとって待望のクルマとして、初代モデルが誕生したのは2012年。BRZは、スポーツカーにとって冬の時代に現れた救世主的存在だった。メーカー側の「若い人に乗って欲しい」という意図に反して価格はそれほどこなれていなかったが、それでもクルマ好きにとっては貴重な存在、通好みの一台としてもてはやされてきた。その流れを受けて、2021年夏、満を持して登場したのが2代目たる、この新型BRZである。

 

先代型同様トヨタとの共同開発モデルだが、クルマの心臓部たるエンジンはスバルの水平対向型が採用されており、メカニズム的にはスバルの存在感が大きい。トヨタ版は「GR86」で、車両のベースは同じ。バンパーの造形などデザインが異なる程度で、エンブレムを見なければ一般の人に見分けはつかないかも。乗り味についても、BRZは安定性の高いセッティング、GR86は回頭性が高いセッティングとされているが、一般人が一般道を走って判別できるほどの違いはない。

↑「R」は17インチアルミホイール(スーパーブラックハイラスター)を履く。空力性能を考えてデザインされたフロントフェンダーダクトがIt’s a cool!

 

↑エクステリアデザインにおけるトヨタGR86との違いを見つけるならばバッジが早いです! オプションで上部に装着するトランクスポイラーも用意されています

 

スポーツカーということで走りがいいのは当たり前だが、なんといってもコントローラブルなところが美点である。先代型から軽量化を進め、ボディ剛性も高めるなどして、ドライバーが意のままに操れる、クルマとしての素性の良さを向上させており、運転することの喜びをしっかり味わえる。これは運転のプロなどでなくても感じられる部分なので、試乗できる機会があればぜひ試してみてほしい。

 

ボディバランスが良く、走りはとにかく軽快!

フロントにエンジンを搭載し、リアタイヤで駆動するFR方式を採用することで、ボディバランスが良く、走りはとにかく軽快だ。乗り心地も悪くないし、それどころか慣れてくると快適にさえ感じられる。高速走行中の安定性も高めで、今回は一般道と高速道路のみの試乗となったが、不快感を感じるようなシーンはほぼなかった。同クラスの従来のスポーツカーと比べると、プレミアムな雰囲気さえ感じられるほど完成度の高い足まわりである。

 

水平対向4気筒の「フラットフォー」エンジンは、先代型の2.0Lから2.4Lへボリュームアップしたことで、全領域でトルクが厚くなった。先代型では若干感じられた出足のパワー不足感が解消されている。ターボではなくなったことで出力のメリハリが減り、そのぶん低回転域から滑らかに吹け上がっていく、エンジンを回した時の気持ちよさをしっかり味わえるようになった。さらに高回転域でも加速の伸びがよく、エンジン回転の上昇に合わせてデジタルサウンドを再生するサウンドジェネレーターによる演出音も聞くことができる。

↑エンジンは全グレード共通で、排気量2.4Lの水平対向4気筒自然吸気となる

 

トランスミッションは6速ATと6速MTがラインナップされている。当代、免許証取得者の70%以上がAT限定で、新車販売の約98%がAT車だと言われているが、スポーツカーにMTがなくてはやはり寂しい。選ぶか選ばないかは別の問題として、やはりMTが希少なこの時代になっても、ラインナップされていることに価値がある。ATの仕上がりも素晴らしく、MTを選ばずとも十分走りは楽しいのだが、同車の操作フィールをさらに深く味わえるのはMTということで間違いない。

↑燃費はMTが11.8~12.0km/L、ATが11.7~11.9km/Lとなっている。(WLTCモード)

 

インテリアはスポーツカーらしく無骨で愛想のないデザインだが、包まれ感に満ちている。これをよく捉えるか悪く捉えるかはドライバー次第で、純粋に運転を楽しみたいドライバーにとっては最高に違いない。愛想のないシンプル系デザインといえば、エクステリアもそういった方向性なのだが、全体的なフォルムは塊感があって、いかにもよく走りそうな雰囲気が漂っている。

↑インストルメントパネルは、景色が見やすく、路面に対する車両の傾きも直感的に把握しやすいよう、水平基調にデザイン。デジタル表示によりグラフィカルに整理された多機能型メーターを装備しています

 

↑ブラックを基調にシートやドアトリムのレッドステッチによるアクセントで高揚感を演出

 

BRZは(GR86も同様に)カスタマイズ性もウリにしている。個性が尊重されるこの時代、買ってプレーンな状態のまま楽しむのもありだが、自分だけのカスタマイズを施して、“オレだけ仕様”にするのもまた楽しい。当然、さまざまなカスタマイズパーツが市販されているし、交換もしやすいよう設計されている。

↑トランクルームはVDA法(ドイツの自動車工業会が規定するトランクルーム内の容量測定方法のこと)で237Lの容量を確保。フロア下には工具や小物の収納に便利なサブトランクも装備しています

 

現在の国産スポーツカーはあまりにも選択肢がすくない。「GT-R」や「スープラ」は乗り出し500万円を超えてしまうし、「フェアレディZ」や「シビックタイプR」に関しては発売後にすぐ売り切れてしまった(2022年10月現在)。300万円前後で新車が買える普通車のスポーツモデルといえば、このBRZとGR86の兄弟モデルとマツダのロードスターくらいだ(あるいは軽のコペンなら200万円前後だが)。300万円と言っても若者が捻出するには大きな金額だが、同クラスとなるポルシェのスポーツクーペ「ケイマン」は乗り出し800万円である。そう思えば、クルマで走ることを趣味とする大人のおもちゃとして最高の一台ではないだろうか。

 

SPEC【R・6速MT】●全長×全幅×全高:4265×1775×1310㎜●車両重量:1260㎏●パワーユニット:2387㏄水平対向4気筒エンジン●最高出力:235PS/7000rpm●最大トルク:250Nm/3700rpm●WLTCモード燃費:12.0㎞/L

 

文/安藤修也 撮影/木村博道

 

 

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トヨタ新型「シエンタ」は買って絶対に間違いのない、完全無欠のファミリーカー

2022年8月、トヨタのコンパクトミニバン「シエンタ」がフルモデルチェンジして、3代目になった。そして、なにを隠そう自動車評論家の私、清水草一は2代目シエンタの元オーナー。その元オーナーから見て、新型シエンタの進化の度合いはどうなのか? 試乗レビューした。

 

【今回紹介するクルマ】

トヨタ/シエンタ

※試乗グレード:ハイブリッド・X(7人乗り)・2WD

価格:195万円~310万8000円(税込)

 

清水的に新型のデザインはかなりストライク!

全方位的に正常進化しております! 私が先代型のシエンタを買ったのは、なによりもスタイリングが気に入ったからだった。先代シエンタは、明らかにシトロエンのデザインの影響を受けていた。シトロエンっぽいアバンギャルド感のある、かなり尖ったデザインで、当時のトヨタとしては画期的だったのである。ボディカラーも、蛍光イエローをはじめとして攻めたラインナップが揃い、しかも2トーンが主役だった。私は迷わず蛍光イエローと黒の2トーンを選びました。

 

新型のデザインはどうかというと、シトロエンというよりもフィアットやルノーっぽく、アバンギャルドというよりもポップでお洒落さんである。デザインの方向性は微妙に変わっているが、ラテン系(イタリアやフランス)の方向性はそのままで、高級感よりもセンスの良さや親しみやすさでアピールしている。個人的には、かなりストライクだ。

↑ヘッドライトは、1灯の光源でロービームとハイビームの切り換えが行えるBi-Beam(バイ ビーム)を採用

 

↑ライン状に発光するテールランプとドット柄ストップランプが印象的なリアのコンビネーションランプ。蜂の巣みたい

 

先代シエンタのルックスは、ちょっと頑張って背伸びした感がなきにしもあらずだったが、新型は、ラテン系のデザインを完全に着こなしている。ボディカラーも、カーキなど渋いアースカラーが中心で、日本の風土に馴染んでいるような気がする。

 

先代シエンタが登場してからの7年間で、トヨタのデザイン力は目を見張るほど向上し、明らかに自信を付けている。絶好調時の打者はボールが止まって見えると言うが、そういう状態ではないだろうか?

 

5ナンバー枠を守ったボディサイズや、室内のパッケージングは、先代型からあまり変わっていない。トヨタによれば、「ボディサイズを変えることなく2列目スペースを大幅に拡大。1列目~2列目席間距離が80mm、ヘッドクリアランスが25mm広くなり、ノアやヴォクシーと同等サイズのスペースを確保できました」とのことだが、先代型オーナーにも、その点はあまり実感できなかった。

↑ステアリングヒーターを装備。一方、直射日光を遮る「後席サンシェード/セラミックドット(スライドドアガラス)」(Zに標準装備)は、後席の人に快適なひとときを与えてくれる

 

シエンタは、先代型ですでに究極とも言えるパッケージングを実現しており、全長わずか4200mm台のボディの中に3列シートを飲み込ませ、しかも3列目でもギリギリ大人が座れる程度の広さを確保していた。そこからさらに大幅に改良するなど、物理的に不可能なのだ。

↑シートのアレンジ次第で収納スペースもしっかり確保できる。ベビーカーや自転車なども収納できるぞ

 

このクラスのミニバンの3列目シートは、基本的に緊急用。いざというときだけ使うもので、普段は収納し、そのぶんをラゲージスペースとして使うのが合理的だ。

↑7人乗りの場合のラゲージスペース。開口部が広くて低床のラゲージで、荷物の積み込みがラクラク! 荷室高1105mm、荷室フロア高505mm、荷室長1525mm(セカンドシートクッションからの長さ)、荷室長990mm(シートスライド最前端時)

 

シエンタの3列目シートは、先代モデルから2列目の下に「ダイブイン」させることが可能だったが、新型もそれを踏襲している。この機能は、改善の余地がないほど素晴らしい。ライバルのホンダ・フリードは、3列目シートを跳ね上げて収納するタイプなので、そのぶんラゲージの天井や左右寸法が制限される。3列目ダイブイン収納は、シエンタ伝統の美点なのである。

↑「天井サーキュレーター」(オプション)は、車内の空気を効率的に循環させ、室内を均一に快適にしてくれる

 

走りが気持ち良いし、アクセルを軽く踏み込んだ時の加速感も力強い

では、走りはどうか。試乗したのは、ハイブリッドモデル。3気筒1.5Lエンジンとモーターを組み合わせた、トヨタ伝統のTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)である。先代シエンタのハイブリッドは4気筒の1.5Lだったが、今回は3気筒。より効率が高められている。

 

ヤリスから採用されたこの3気筒ハイブリッドシステムは、実に恐るべきパワーユニットである。3気筒と言ってもフィーリングに安っぽさは微塵もなく、逆にコロコロと適度なビートを奏で、回転フィールが心地よい。4気筒時代と比べても、断然走りが気持ち良くなっているし、アクセルを軽く踏み込んだ時の加速感も力強くなった。

↑試乗車は1.5Lハイブリッドシステム。走りの良さと優れた燃費性能を両立している

 

シエンタハイブリッド(7人乗り・X)の車両重量は、1350kg(FFモデル)。同じパワーユニットを積む「ヤリスハイブリッド」に比べると約300kg重い。そのぶん加速が遅いわけだが、日常使用で遅さを感じることは皆無だ。さすがにアクセルを床まで踏み込んだ時の加速感は、「あれ、こんなもん?」とはなるが、それは車両重量を考えれば仕方ない。とにかく普通に使うかぎり、「加速が快感です!」とすら言える。

 

足まわりは、やや引き締まっていてスポーティ。低速域では、路面からの突き上げがそれなりにある。このクルマの用途を考えれば、もうちょっとソフトでもよかった気はするが、このサスペンションのしっかり感が、高速道路では安心感に変わる。ある程度速度を上げると、乗り心地の固さはまったく気にならなくなり、安定感が増していく印象だ。

↑地上から330mm「低床&フラットフロア」(Zに標準装備)を採用。高さはもちろん、段差もなくフラットでお子さんやお年寄りの方にも優しく、安心して乗り降りすることができる。最小回転半径は5.0mだ

 

新型シエンタは、トヨタの新世代ボディ骨格であるTNGAが採用されている。TNGA採用車は、どれもこれも走りの質が見違えるほどよくなっているが、シエンタも例外ではない。先代型も悪くはなかったが、新型はさらに一、二段向上している。

 

燃費は、ハイブリッドのFF(2WD)モデルで、 WLTCモード28.5km/L。ヤリスハイブリッドの36.0km/Lに比べると大幅に見劣りするが、実燃費で20km/L程度は楽勝で、ちょっとエコランに徹すれば30km/Lくらいまで伸びる。これ以上燃費が良くても、あまり意味はないかも……と言うほどの低燃費だ。

 

大人が7人乗れて、これだけ燃費がよければ、ヘタなEVよりはるかにエコ。新型シエンタは、買って絶対に間違いのない、完全無欠のファミリーカーではないだろうか。

 

SPEC【ハイブリッド・X(7人乗り)・2WD】●全長×全幅×全高:4260×1695×1695㎜●車両重量:1350㎏●パワーユニット:1490㏄直列3気筒エンジン●エンジン最高出力:91PS/5500rpm●エンジン最大トルク:120Nm/3800-4800rpm●フロントモーター最高出力:80PS●WLTCモード燃費:28.5㎞/L

 

撮影/池之平昌信

 

 

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新型「エクストレイル」試乗。“技術の日産”をいかんなく発揮した傑出の走り!

日産がシリーズハイブリッドである「e-POWER」を世に登場させて6年。4代目となる新型「エクストレイル」に搭載された新エンジンは、その集大成とも言える素晴らしい実力を発揮してくれました。運転して楽しく、外部からの給電も不要で使い勝手は抜群! それは、久しぶりに「技術の日産」の実力を見せつけられたと言っていいでしょう。

 

【今回紹介するクルマ】

日産/エクストレイル

※試乗グレード:G e-4ORCE(4WD)

価格:319万8800円~504万6800円(税込)

↑日産「エクストレイル」G e-4ORCE(4WD)※オプション装着車

 

新開発「VCターボ」エンジンをe-POWERに初採用

実は、4代目の新型エクストレイルは、北米で「ローグ」として1年以上も前にデビューを果たしていました。パワーユニットは新型エクストレイルと同じ1.5リットル直列3気筒ガソリン「VCターボ」エンジンを搭載しましたが、ローグではこれをそのまま駆動用として使っています。それに対して日本はこのエンジンをe-POWERの発電専用としました。つまり、日本でのデビューが遅れたのは、このe-POWER化に時間がかかっていたというわけです。

 

このエンジンについて少し説明すると、その仕様は新開発のKR15DDT型1.5リッター3気筒直噴ターボエンジンで、ターボ機構にVC(Variable Compression)と呼ばれる可変圧縮比機構を採用したのが最大の特徴となっています。その仕組みは、ピストンとクランクシャフト間に特殊なリンク機構を備えることで圧縮比を変化させ、出力を回転数に応じて変化させるというものです。このエンジンは日産が長年かけて開発してきた、いわば「技術の日産」が誇る自慢のユニットであり、これを新型エクストレイルでは発電専用エンジンとして搭載したのです。

 

さらに驚くのは、 4WDである「e-4ORCE(イーフォース)」に組み合わせたモーターのスペックです。フロントには最高出力204PS(150kW)と最大トルク330N・m、リアには136PS(100kW)と195N・mを発生するモーターを搭載し、これで4輪を駆動します。このスペックからして、もはやハイブリッドの領域を超えていることがわかります。それどころか、フロントモーターだけでもバッテリーEVである日産「アリア」のフロントモーターと同じレベルなのです。これを聞いただけでも、このシステムがいかにスゴイかが伝わってきますよね。

 

ボディサイズは全長4660mm×全幅1840mm×全高1720mmで、ホイールベースは2705mmとなります。ライバルと比較すると、トヨタ「ハリアー」(全長4740mm)やマツダの「CX-60」(全長4740mm)よりは小ぶりで、「RAV4」(4600-4610mm)よりは少しだけ長い。SUVとしては使い勝手の上でもバランスがとれたサイズと言えるでしょう。また、シートは前後2列5名乗車が標準で、「X」グレードにのみ3列7名乗車が用意されました。特に3列シート仕様はライバル車にはないだけに、ミニバンからの乗り換えユーザーにもおすすめできるラインナップ。

↑G e-4ORCEは、前後とも235/55R19 101サイズのタイヤを履く

 

にわかに1.5リッター3気筒ハイブリッドエンジンとは信じられず

試乗したのはその中から2列シートの最上級グレード「G」の「e-4ORCE」でした。グレードと駆動方式を含め、もっとも高価なグレードとなります。

↑SUVらしく高い視認性とインターフェースの扱いやすさが印象的だった

 

走り出してまず驚くのがその静かさと振動の少なさです。さらにアクセルを踏み込んでもその静かさとスムーズさはほとんど変わりません。メーターではエンジンがONとなっていることを伝えているので、思わず「これって1.5リッター3気筒だったよね?」と同乗者に確認してしまったほどです。

 

しかもエンジンは駆動輪と直接つながっていないはずなのに、アクセルの踏み込みに合わせてリニアに車速が上がっていき、重さが1.8t近くあるボディをアッという間に高速域まで引っ張り上げてくれたのです。その加速感は、踏み込んだアクセルに応じてエンジンがどんどんモーターにパワーを与えていっている感じ。これはまさに従来のシリーズ型ハイブリッドとは次元が違うパフォーマンスを感じます。その完成度はもはや脱帽という他はない! そう実感したほどでした。

 

ここまでのフィーリングを実現したことについて開発担当者は、「欧州のアウトバーンでも十分なパワーが出せることを目標に、VCターボとの組み合わせを練り上げました」と話していました。つまり、速度制限がない高速域でも通用する実力を持たせて完成させたのが新型エクストレイルのe-POWERだったのです。

↑カーナビで目的地を設定しているときは、メーター内やヘッドアップディスプレイにも案内が表示される

 

加えてe-4ORCEの搭載に伴ってプラットフォームは刷新されており、電子制御ステアリングも気持ちよく曲がることを念頭に置いて設定しているということです。実際、峠道を走行しても狙ったコースをたどってくれるし、その結果、まるで運転がうまくなったような感覚にとらわれました。乗り心地もフラットで、19インチのタイヤを組み合わせながら路面の凹凸にもしっかりと対応してくれていました。従来のエクストレイルでは“タフギア感”をアピールポイントとしていましたが、新型ではそこに上質感を加えたのです。まさに走りにおいては傑作の領域にあると断言して間違いないでしょう。

↑ボディカラーは2トーンカラー含め、12色から選択可能

 

インテリアは上質だが、“500万円カー”としての物足りなさも

インテリアの上質さも見事なものでした。運転席周りの手に触れる部分はすべてがソフトパッドで覆われ、デザインとしてもラグジュアリー感あふれる造りとなっています。シートサイズもSUVらしくたっぷりとしたもので、表皮に使われた新開発の人工皮革「テーラーフィット」のタッチ感もしっとりとした心地良さを感じさせてくれました。また、個人的には色味が少し濃いめに感じましたが、オプションのタンカラーのナッパレザーシートにするとプレミア感はさらに上がります。e-POWER初の1500W対応コンセント装備も見逃せません。

↑インテリアはソフトパッドが多用され、見た目にも触感的にも上質感が伝わる

 

↑シート表皮に使われた人工皮革「テーラーフィット」はしっとりとした心地良さ

 

↑日産車のEVやe-POWER車すべてを通して、初めて100VAC電源(1500W)コンセントが装備された

 

ただし、この仕様をフル装備で諸経費まで入れると500万円を楽に超えてしまいます。「エクストレイルもここまで来たか」と感慨深さとため息も出たりしますが、一方でデイライト機能が装備されず、グローブボックス内の照明や運転席側のシートバックポケットもないなど、“500万円カー”として不釣り合いな仕様も散見されるのも事実です。さらに「NissanConnect」の費用に無料期間はありません。このプランを契約することで、地図データ更新費用が3年分無料になりますが、せめて最初の1年間は無料にしてほしかったと思いました。

↑助手席グローブボックスは外から見たよりもかなりスペースが狭く、照明の装備もない

 

↑NissanConnectはSOSコールを含め、利用料として年間7920円(税込)の費用がかかる

 

とはいえ、新型エクストレイルの魅力は電動車並みの動力性能を持ちながら、充電する必要が一切ないのが最大の魅力です。「別に充電したいわけじゃない。電動車としてのトルクフルでスムーズなフィーリングに魅力を感じている」人にとって新型エクストレイルは、まさに最適な選択となることは間違いないでしょう。正直言って、最近まれに見る魅力的な走りを見せてくれ、これだけでも絶対に買いとなるクルマといって間違いないでしょう。

↑インフォテイメントシステムは12.3インチの大型ディスプレイを使用。再生中の楽曲のタイトルを表示するなど細かな演出も見事だ

 

↑後席用としてエアコンの独立操作ができ、シートヒーターやUSB端子(type-C/A)を装備

 

↑オプションの「BOSE Premium Sound Sytem 9スピーカー」とパノラミックガラスルーフはセットオプション

 

SPEC【G e-4ORCE(4WD)】●全長×全幅×全高:4660×1840×1720㎜●車両重量:1880㎏●パワーユニット:1497㏄水冷直列3気筒DOHCターボエンジン+交流同期電動機●最高出力:エンジン144PS/4400〜5000rpm[フロントモーター204PS/4501〜7422rpm・リヤモーター136PS/4897〜9504rpm]●最大トルク:エンジン250Nm/2400〜4000rpm[フロントモーター330Nm/0〜3505rpm・リヤモーター195Nm/0〜4897rpm]●WLTCモード燃費:18.4㎞/L

 

 

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SUV志向を極めた新しいタント「ファンクロス」。走りも使い勝手の高い満足度!

今や軽自動車販売台数の約半数を占めるまでになったと言われるスーパーハイトワゴン。その元祖とも言えるダイハツ「タント」がこのほどフロントマスクを刷新するマイナーチェンジを図り、それに合わせてSUV風の新キャラクター「ファンクロス」を追加しました。今回はこの両車に試乗し、取材を通してわかった点などもご報告したいと思います。

 

【今回紹介するクルマ】

ダイハツ/タント ファンクロス

※試乗グレード:ターボ(2WD)

価格:172万1500円~193万500円(税込)

 

ダイハツ/タント

※試乗グレード:カスタムRS(2WD)

価格:138万6000円~199万1000円(税込)

↑タントをベースにアウトドア志向を極めた「ファンクロス」だが、デザインのバランスはとても良い

 

使い勝手抜群の「ミラクルオープンドア」を継続採用

ダイハツ「タント」の初代が登場したのは2003年のこと。当時は少しルーフが高いハイト系ワゴンが主流でしたが、ダイハツはここに箱形スタイルのタントを初投入しました。この時は空間の広さがポイントとなる程度でしたが、大ヒットを果たしたのが2007年に登場した2代目となってからです。そのヒットの理由は、センターピラーレスとスライドドアを組み合わせた「ミラクルオープンドア」を助手席側に採用したことでした。

 

センターピラーがなく、リアドアがスライドで後ろに下がると、そこには広大な空間が広がり、乗降性の向上はもちろん、シートのアレンジ次第でかさばるものも楽に入るというかつてない使い勝手を生み出したのです。以来、ミラクルオープンドアはタントの定番の装備となり、それは現行タントだけでなく、新キャラクター「ファンクロス」でもその魅力を引き継ぐこととなったのです。

 

では、新キャラクター「ファンクロス」はどのようなクルマなのでしょうか。

 

冒頭でも述べたように、ファンクロスはSUV風を取り入れることで「キャンプ場などでの“映え”を意識したデザイン」(ダイハツ)となっています。それを具体的に表現しているのが、ボディの四隅に施された変形六角形の樹脂ガードです。前後それぞれでこの樹脂ガードが左右を結んでそれがSUVらしい力強さを生み出しているのです。ルーフレールを装備したことで、タントよりも全高が5cm高くなっていることもポイントです。イメージカラーはサンドベージュメタリックで、他にもレイクブルーメタリックやフォレストカーキメタリックなど、自然に回帰したカラーリングが似合うデザインともなっています。

↑タント「ファンクロス」。リアエンドの処理がアウトドア志向を際立たせている。写真はサンドベージュメタリックカラー

 

SUVらしい使い方を実現するため、リアシートにこだわり

インテリアは、基本をタントと共通としたものの、各所にあしらわれたオレンジのアクセントに加え、シート表皮はカムフラージュ柄を織り込むなど、アウトドア指向のユーザーにマッチするデザインが施されています。これらは、少しクロカンチックな印象を受ける同社のタフトに近いデザインイメージと言っていいかもしれません。

↑インテリアは随所にオレンジの配色を施し、アウトドア志向を高めるデザインとなっている

 

ファンクロスで本気度を感じさせたのがリアシートです。実はこのシート、基本はベース車のタントと共通の機構を採用していますが、マイナーチェンジ前はリアシートの座面をフォールダウンして、たたむ機構を採用していました。そのため、たたんだ状態でもフロアが若干斜めに浮いた状態となっていました。それをファンクロスと新型タントでは座面は固定のまま単純に折りたたむ機構としました。そして、二段調節式となっている荷室のデッキボードと組み合わせることで、シートバックをたたんだときにフラットになるように工夫を加えたのです。ただ、この機構により、スペースの高さは5cmほど狭くなっているとのことでした。

↑カムフラージュ柄のシート。ピラーがない「ミラクルオープンドア」はアウトドア利用に大いに活用できそうだ

 

アウトドア用途に適するため、シートバックの平面は撥水加工を施した点もポイントです。荷室側からスライド調整ができる機構も新採用したことで、持ち込む荷物に応じた荷室サイズ変更にも対応できるようになりました。シートを単純に折りたためるようにしたことで、すべての操作が荷室側からできるようになったわけです。ただ、シートを前にスライドさせると隙間ができ、物が落ちやすいことには注意が必要ですね。

↑撥水加工を施したリアシートの背面。スライドドア用レバーには砂などが入り込むとやっかいかもしれない

 

一方でシートバックは垂直の状態で固定することもでき、これは箱物を積載するときに重宝するでしょう。他にもファンクロス専用装備として、後席に1か所USB端子を装備し、荷室内の照明も天井と側面に設置するなど、通常のタントにはない便利さも用意しました。

↑後席右側に装備されたUSB端子。ファンクロスだけの特別装備だ

 

↑ファンクロスの特別装備として、荷室の天井と側面には2つの照明が備えられている

 

ターボとD-CVTの組み合わせが静かでスムーズな走りを実現

試乗したのはインタークーラー付ターボエンジンにD-CVTを組み合わせた「ファンクロスターボ」(2WD)。D-CVTとは、CVTに「ベルト+ギア駆動」を組み合わせたトランスミッションで、なめらかな走りだけでなく、モード走行中のエンジン回転数を自由に変化させられるので燃費向上にもメリットがあります。ファンクロスではこのトランスミッションを標準化して、ドライバビリティ向上と経済性を両立させているのです。

↑ファンクロスターボには、インタークーラー付658ccターボエンジンを搭載。最大出力は47kW(64PS)、最大トルク100N・mを発揮する

 

走り出すと車体が軽々と前へと進みます。エンジン回転だけが先に上がって、速度が後から付いてくるようなCVTにありがちなラグはほとんど感じません。撮影のために大人3人が乗車したときも、そういった印象はなく、ひたすらスムーズに加速していく感じでした。CVT変速機は静かで、少し踏み込めば十分に力強いパワーが得られます。また、スーパーハイトワゴンは重心が高いため、本来ならカーブが苦手のはずですが、中速コーナーもしっかりとロールを抑えてくれていたのには感心しました。

↑タント「ファンクロスターボ」。D-CVTとの組み合わせによりスムーズな加速が体感できた

 

乗り心地の良さもファンクロスの特筆すべき点です。一般道の少し荒れた路面でもシートには不快な振動はほとんど伝わらず、路面にあるスリップ防止用舗装を通過したときの段差もきれいにいなしてくれます。この日は一般道だけの試乗でしたが、車内に届くロードノイズも許容範囲で、静粛性はタントと比べても十分なレベルに仕上がっていることを実感した次第です。

↑ファンクロス ターボのタイヤは、165/55R15を履く。ブランドはダンロップのエナセーブだった

 

一方でダイハツの予防安全機能「スマアシ」は、基本的にステレオカメラを使った従来からのシステムが踏襲されました。急アクセル抑制機能は搭載されていません。ただ、開発者によれば「ACC(アダプティブクルーズコントロール)の設定を、初期のタントよりもリニアに反応するタイプに変更した」ということです。従来のタントは料金所で一旦減速し、レジュームを押してからの立ち上がりがきわめて遅かった印象がありましたが、「タフトと同レベル」にまで立ち上がりを改良したと言うことでした。次回は高速道路で試してみたいと思っています。

 

新しい「タント カスタム」はより押し出し感を強めた

一方のタント。試乗車はターボエンジンを搭載した「カスタムRS」の2WDでした。フロント周りをより押し出しの強いイメージとし、ボンネットや前後バンパーのデザインに変更を加えました。アウタードアハンドルをクロームメッキ化したのも小さなことではありますが、印象深さがさらに増したのは見逃せません。インテリアはカスタム仕様にふさわしいブラックの人工皮革とブルー配色を織り込んだシートを採用しました。リアシートの機構はファンクロスと同様で、二段式デッキボードの採用も同じです。

↑フロントグリルの開口部を大型化し、より迫力を増したタント「カスタムRS」

 

乗り味はファンクロスと基本的に同じでした。アクセルを軽く踏むだけで気持ちよく速度が上がっていき、市街地の走行は実にスムーズ。路面の段差が生まれるショックも十分に吸収しており、乗用車としての満足度はとても高いと思いました。

↑ブラックの合皮とブルーのパイピングを組み合わせたカスタム専用のシート

 

SPEC【ファンクロスターボ(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1785㎜●車両重量:940㎏●パワーユニット:658㏄水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラターボ横置●最高出力:64PS/6400rpm●最大トルク:100Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:24.3㎞/L

 

SPEC【カスタムRS(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1755㎜●車両重量:930㎏●パワーユニット:658㏄水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラターボ横置●最高出力:64PS/6400rpm●最大トルク:100Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:21.2㎞/L

 

撮影/松川 忍

 

 

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マツダ新型「CX-60」に試乗! 期待のラージアーキテクチャー第一弾の実力はいかに?

マツダはかねてよりラージ商品群の登場を示唆していましたが、ついにその第一弾が姿を現しました。それが縦置きエンジン+後輪駆動の新プラットフォームを採用した「CX-60」です。今回はその主力となる3.3L直6ディーゼルターボに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた「XDハイブリッド」の試乗レポートをお届けします。

 

【今回紹介するクルマ】

マツダ/CX-60

※試乗グレード:XD-HYBRID Premium Modern

価格:299万2000円~626万4500円(税込)

↑マツダが「ラージ商品群」と呼ぶSUVの第1弾モデル「CX-60」

 

全4タイプのパワーユニットから3.3L直6ディーゼルターボが登場

CX-60は新開発された、マツダのラージアーキテクチャーを採用する新世代プラットフォームです。そのラインナップはとても幅広く、パワーユニットは全4タイプ、グレードは8タイプを用意し、すべてが組み合わせ可能ではないものの、多彩なニーズに応えられるラインナップになっています。

↑直6ディーゼルターボを搭載した「CX-60」の「プレミアムモダン」。リアバンパーコーナーパーツのボディおよびその下のエグゾーストガーニッシュに採用しているメタルの質感がスポーティさを感じさせる

 

中でもパワーユニットは、48Vマイルドハイブリッド機構を組み合わせた3.3L直6ディーゼルターボ核として、よりカジュアルな2.5L直4ガソリン、3.3L直6ディーゼルを用意。さらに2.5L直4ガソリンにプラグインハイブリッドを組み合わせたものも遅れて登場します。そのため、価格も299万円から626万円と倍以上の価格差を生まれるラインナップとなりました。

↑新開発3.3L直6ディーゼルターボを縦置きにし、駆動方式はFR。48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた

 

つまり、CX-60は、これまでのCX-5から乗り換える人にも対応するだけでなく、新たにプレミアなユーザー層も取り込んでいく。そんなラインナップ構成となりました。

 

そんな中で試乗した3.3L直6ディーゼルターボの「XDハイブリッド」のグレードは、「エクスクルーシブスポーツ」と「エクスクルーシブモダン」、「プレミアムスポーツ」と「プレミアムモダン」の4タイプ。価格はエクスクルーシブスポーツとエクスクルーシブモダンが505万4500円(税込)、プレミアムスポーツとプレミアムモダンが547万2500円(税込)です。

 

試乗したプレミアムスポーツとプレミアムモダンの違いは、前者は全体に黒を基調としたスポーティな雰囲気を演出したものに対し、後者がメッキ類を多用し内装もホワイトを基本としたラグジュアリーな雰囲気にしたもので、あくまでデザインコンセプトの違いとなっています。

 

スタイリッシュなプロポーションに高品質なインテリア

CX-60を前にして感じた印象は、とてもスタイリッシュであることです。フロントは極端に短いオーバーハングを持ったロングノーズとなっていて、ボディサイドも波打つような筋肉質を感じさせる見事なプロポーション。全長4740mm×全幅1890mm×全高1685mmの大きめのボディサイズだからこそ実現できたデザインと言えるかもしれません。

 

インテリアの仕上がりにも相当こだわったようです。マツダによれば“マツダ車史上最上”としており、それだけCX-60がかつてないプレミアムゾーンを狙っていることは容易に推察できます。手に触れられるすべてがソフトパッドに覆われ、見た目にも触れた印象でも欧州車のハイグレードモデルと比べてまったく引けをとりません。個人的には、もはやそれを超えたといっても差し支えないと思っています。

↑プレミアムモダンのインテリア。欧州車のハイグレードモデルを超える高品質ぶりは満足度が高い

 

↑プレミアムスポーツのタン仕様はオプションとして用意されている

 

↑プレミアムモダンの前席。前席にはヒーターとベンチレーター機能が備わる

 

↑プレミアムモダンの後席。ピュアホワイトのナッパレザーにチタン色のアクセントラインが入る

 

中でも印象的なのが左右のシートに挟まれた中央のコンソールです。全体に高い位置にあり、それが否応なくCX-60がFR車であることを訴えています。しかも幅が広くその存在感は抜群です。左右両開きのコンソールボックスも深さこそないものの、幅が広い分だけ少しかさばるモノも対応できるでしょう。内部にはUSB-C端子が2つ備わっており、スマホの映像を映し出すのに使うHDMI端子もここにありました。

↑シフトノブ操作は一見スタンダードに見えるが、パーキングだけは右にシフトして使う

 

↑後席用に用意されたUSB-C端子とAC100W/150Wのコンセント

 

↑12.3インチのディスプレイを採用したマツダコネクト採用。スマホで設定した目的地の転送もできる。地図データは3年間無料更新付き

 

↑カウルサイドのウーファーボックス容量を4.8Lに拡大。プレミアムモダン、プレミアムスポーツはボーズ仕様が標準となる

 

一般道では突き上げ感を感じるも、高速での安定性は抜群

試乗は御殿場を起点に東名高速と、乙女峠を抜けた箱根界隈の峠道で試してみました。まず試乗会場から東名高速へと進むと、8速ATが小気味よくステップアップして速度を上げていきます。このトランスミッションは、スタート用クラッチに湿式多板ユニットを組み合わせたトルコンレスという特徴的な構造を採用していますが、従来のATと比べても違和感はまったくありません。その上、低負荷領域をモーターでアシストしているため、発進時の動きはとても身軽で、とても2t近いボディを動かしているとは思えないほどです。

 

高速での走行は車重の重さも手伝ってか、どっしりとした安定感があります。ICからICまでの一区間でしかありませんでしたが、走り始めに感じたコツコツとした突き上げ感も速度が上がるにつれて収まっていき、ステアリングの直進性の良さとも相まって気持ちの良いクルージングを楽しむことができました。

 

ただ、乙女峠方面に進むと再び突き上げの大きさが気になるようになりました。一般道にありがちな路面の凹凸をそのまま伝え、時にそれが大きめに感じるときがあったのです。一方でコーナリングのトレース性は極めて高く、狙った方向へ確実にハンドリングしてくれます。車体のブレも最小限に抑えられているようで、安定したポジションで峠道を右から左へとハンドルを切ることができたのです。ブレーキのタッチも良好で、少しハイスピードでコーナーに入っても不安感はほとんどなく通過できました。

 

試乗したグレードの価格帯は500万円を超えており、一般的に言っても十分にプレミアムカーの領域にあると思います。クルマとしての造りこそ、それに見合うものを持っていました。高速での走りはともかく、一般道での突き上げ感はもう少しいなしてくれる気遣いが欲しかったようにも思います。とはいえ、パワーユニットが多岐にわたるCX-60では、組み合わせによってまた違った印象を与えてくれるかもしれません。

↑CX-60には「ドライバー異常時対応システム(DEA)」を採用。このSOSボタンを押すか、エアバッグの作動で自動対応できる

 

直6ディーゼル+FRを気軽に楽しみたいなら「XD」もオススメ

そこで別のグレードを選んだ場合を考えてみました。その結果、直6ディーゼルを搭載したもっとも身近なグレードが「XD」であることがわかりました。2WDの価格は323万9500円(税込)。アダプティブヘッドランプやパワーシートといったプレミアムな装備はないものの、18インチアルミホイールは装備されます。写真で見る限り、見た目にもそれほど見劣り感がないのもいいと思います。手軽に直6ディーゼル+FRの基本スペックを楽しむのに「XD」はピッタリのグレードかもしれません。

 

SPEC【XD-HYBRID Premium Modern】●全長×全幅×全高:4740×1890×1685㎜●車両重量:1940㎏●パワーユニット:3283㏄水冷直列6気筒DOHCターボエンジン●最高出力:エンジン254PS/3750rpm[モーター16.3PS/900rpm]●最大トルク:エンジン550Nm/1500〜2400rpm[モーター15.3PS/200rpm]●WLTCモード燃費:21.1㎞/L

 

 

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シトロエン「C5 X」はステキなフランス車。しかし走りには“シトロエンらしさ”を感じられなかった

これまで世界を驚愕させるようなデザインやサスペンションシステムを生み出してきたフランスのシトロエン。同ブランドの新たなフラッグシップモデルは、流行りのクロスオーバーSUV風デザインで登場した。今年ついに日本へ上陸してきたこのアバンギャルドなニューモデルの魅力とは?

 

【今回紹介するクルマ】

シトロエン/C5 X

※試乗グレード:SHINE PACK

価格:484万円~636万円(税込)

 

C5 X初対面の感想は「げえっ、カッコいい!」

シトロエンの新たなフラッグシップ、「C5 X」。私は、2015年に生産を終了したシトロエン「C5」のオーナーだっただけに、その後継とも言うべきモデルの復活には、ひとかたならぬ思いがある。しかも私はつい最近、C5 Xの兄弟車にあたるプジョー「508」(現行型の中古車)を買ったばかりだ。つまりC5 Xは、ダブルで注目せざるをえない新型車だったのだ!

 

まずそのスタイルを見て、「げえっ、カッコいい!」と思った。「げえっ」というのは、プジョー508を買ったばかりの自分にとって、「げえっ」だったということ。

 

C5 Xのデザインは、5ドアハッチバックとSUVの融合ともいうべきクロスオーバースタイル。スポーティでエレガントな5ドアハッチバックの車高を少しだけ持ち上げ、フェンダーガードで武装してSUV風味を加えると、伝統的なヨーロピアンなカッコよさに、今どきっぽいイケイケ感が付け加えられる。われら中高年は基本的に保守的だが、微妙に今どき感を漂わせたいという思いもある。C5 Xのエクステリアは、そこにドンピシャだ。

↑10月1日に登場したばかりのC5 X。フロントフェイスには、新世代シトロエンを象徴するV字型シグネチャーライトを採用

 

この手法は、新型「クラウン クロスオーバー」でも用いられている。いま話題のクラウン クロスオーバーは、C5 Xにかなりソックリ。ちなみにC5 Xは約1年前に本国で発表されているので、クラウン クロスオーバーより少しだけ先に出ている。

 

対する我がプジョー508は、完全なる5ドアハッチバック。完全に伝統的な、ある意味昔っぽいスカし感に満ちていて、中高年の美意識のど真ん中を突いているが、今どき感はあまりない。じゃ、C5 Xと508のデザイン対決、どっちが勝ちなのか? と問われれば、客観的にはC5 Xの僅差勝ち、主観的には508の僅差勝ちだ。とにかくどっちもカッコいいし、正体不明の高級感がある。

 

本邦ではフランス車は絶対的に少数派。車種を認識できる人が限られるぶん、レア感やツウ感のある正体不明感を満喫できるのだ。これは、国産車やドイツ車では味わえない感覚で、クセになる。フランス車を買う人は、なによりもスタイリングを優先する。国産車を買う人は信頼性を、ドイツ車を買う人はメカニズムを優先するが、フランス車の購入層にとって最も重要なのはスタイリングだ。正直、メカなんかどうでもいいというくらい、スタイリングを重視する。C5 Xのデザインは、いかにもシトロエンらしいオシャレさやアバンギャルドさが漂っていて、それだけで「買い」だ。

↑4色のボディカラーをラインナップ。写真のカラーは大人の渋さ漂う「グリ アマゾニトゥ」

 

フランス車を買う人は、インテリアも重視する。シートに座っているだけでオシャレ感を味わえなければ、フランス車を買った意味が薄くなる。ただし、高級感にはこだわらない。TシャツにGパンでひと味違うオシャレさを演出するパリジャンの世界を好むのだ(?)。

 

その伝で言うと、C5 Xのインテリアは実にちょうどいい。シブい色調の車内は、それほど質感の高くないオシャレ感に満ちている。かつてシトロエンと言えば、1本スポークステアリングなど奇抜な演出が定番だったが、近年のシトロエンは奇抜さよりも、親しみやすさを重視している。シトロエンファンとしては、まずまず納得の仕上がりだ。

↑木目調デコラティブパネルを採用した水平基調のコックピット。センターコンソール上部にはそのデザインと鮮やかなコントラストをなす12インチデジタルタッチスクリーンを配置。Apple CarPlay/Google Android Autoに対応するスマホと連携し、スマホアプリやコンテンツをシームレスに楽しむこともできる

 

↑ラゲッジルームの積載容量は通常時で545L。リアバックレストを倒せば、最大1640Lの広大なスペースが生まれる

 

エンジンは常に脇役で、ある意味、普通に走ればそれでいい

試乗したのは、ガソリンエンジンの1.6Lターボ仕様。もはやPSAグループの超定番エンジンで、可もなく不可もなく加速する。私が乗っていたC5と基本的には同じエンジンで、パワーは156psから180psに強化されているものの、加速感にほとんど差はなく、「ごく普通に走る」と言うしかない。シトロエンにとってエンジンは常に脇役で、ある意味、普通に走ればそれでいいのである。

 

それより重要なのは乗り心地だ。シトロエンと言えば、オイルとガスを使って魔法のじゅうたんのような乗り心地を実現していた「ハイドロニューマチックサスペンション」の伝統がある。先代型C5は、その最後のハイドロシトロエンだったが、コストが合わなくなり絶滅。このC5 Xには、その伝統を受け継ぐ形で「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)」なるダンパーシステムが搭載されている。

 

その乗り心地はというと、まだ新車で機械的なアタリが付いていないのか、あまりフンワリ感はなく、ごく普通のサスペンションという印象だった。どちらかというとスポーティで引き締まった印象で、コーナリングが得意。シトロエンらしさは感じられない。むしろ私のプジョー508のほうが、フワッと当たりがソフトなくらいだ。

↑リアコンビネーションランプはサイドまで回り込むような大胆なV字型デザインで、その存在を鮮烈に印象づける。SHINE PACKには、スライディングガラスサンルーフを装備

 

↑車速やナビゲーションのルート、ドライバーアシスト機能の作動状況など、運転に必要な情報をメーター上部のフロントウィンドウに投影する

 

ちなみにだが、C5 Xのリアサスはトーションビーム方式なのに対して、508はより高価なマルチリンク方式+電子制御ダンパーを採用している。兄弟車とはいっても、サスペンション的には微妙に508のほうが上位なのだ(軽い勝利感)。

 

ただ、同じPHCを積んだSUVのシトロエン「C5エアクロスSUV」は、フワッフワの綿アメのような乗り心地だったので、C5 Xも、車体の走行距離が延びれば、もうちょっとフワフワしてくる可能性もあるだろう。それに期待したい。

 

クラウン クロスオーバーが話題の今、そのソックリさんとも言うべきシトロエンC5 Xは、「似てるけど違うんだぜ」と主張できる、実にステキなフランス車だ。これに乗れば、周囲のクルマ好きから一目置かれることは間違いない。

 

SPEC【SHINE PACK】●全長×全幅×全高:4805×1865×1490㎜●車両重量:1520㎏●パワーユニット:1598㏄直列4気筒ターボエンジン●最高出力:180PS/5500rpm●最大トルク:250Nm/1650rpm●WLTCモード燃費:─㎞/L

 

 

撮影/池之平昌信

 

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マツダ「CX-5」クリーンディーゼルは、プレミアムブランドのラグジュアリーモデルに乗った時のような万能感

発売から5年が経過した現行型CX-5だが、今も刷新され続け、商品力を高めている。今回は同車のクリーンディーゼルエンジン搭載モデルに試乗して、このクルマの存在意義と価値について改めて考えてみた。

 

【今回紹介するクルマ】

マツダ/CX-5

※試乗グレード:XD Sports Appearance

価格:290万9500円~407万5500円(税込)

 

クロスオーバーSUVとしてカテゴリー全体を成熟

昨今、クラウンにもフェラーリにもSUV(のような)モデルが誕生し、いつの頃からかSUVは、ブームからスタンダードな存在となった。そもそもトラックから派生した悪路を走れるクロスカントリーモデルが、乗り心地が乗用車並みに改善されてSUVと呼ばれるようになり、街の風景にも似合うスタイリングをまとって、2000年代以降に世界的なブームとなったのである。

 

日本でのターニングポイントは90年代だ。1994年のトヨタ「RAV4」のヒットでシティSUV人気に火がつき、1997年のトヨタ「ハリアー」がアウトドアをしない一般層にも好評を得たことなどが、SUVカテゴリーの過渡期を担った。そして、高級感と都会的な雰囲気を高めたクロスオーバーSUVとしてカテゴリー全体を成熟させたのが、2012年に発売されたマツダの初代「CX-5」だ。

 

初代モデルは、当時話題になった「SKYACTIVE(スカイアクティブ)」技術の全面的採用車ということで、燃費性能や走行性能の良さに注目が集まった。実際、クリーンディーゼルエンジン搭載車でリッター15km(実燃費)程度の数値は出せたし、同時期のSUVと比べてコーナリング時の挙動も高速道路走行時も安定感が高かったものだ。

 

そんなCX-5が2代目へモデルチェンジしたのが2017年2月。この頃になると日本でもSUVの販売台数は急増していたが、現行型となる2代目CX-5は、キープコンセプトながら全方向で進化を果たした。その後、毎年のように商品改良されて性能や魅力を高めてきたが、登場後約5年が経過した2021年11月、さらに大幅改良がなされている。

 

まず目につくのはデザインだ。CX-5は今やマツダのグローバル販売台数の約三分の一を占める基幹車種ということで、同ブランドを象徴するようなデザインでなくてはならない。そもそも2代目モデルになった時点で、海外のプレミアムブランドに勝るとも劣らない独自のプレミアム感を備えていた“魂動”デザインが、さらに進化している。

↑ドライバーとクルマの関係を、まるで愛馬と心を通わせるかのように、エモーショナルなもの。そのための造形を追い求めつづけるのが、マツダの「魂動デザイン」

 

フロントバンパー、およびグリルまわりの形状はスッキリして、より上質で凛とした雰囲気が感じられる。まるでギリシャ彫刻のような、美しさと躍動感に満ちた表現に仕上げられている。今回の改良ではなく、現行型になった時からそうだが、CX-5のデザインは国産SUV市場においてもう一歩足りなかったファッション性のようなものを獲得しており、そういった部分ではジャガーやBMWなど欧州プレミアムブランドのSUVに肩を並べるものがある。

↑またボディカラーは全8色。試乗車はソウルレッドクリスタルメタリックだった

 

今回、インテリアに変更点はなかったようだが、もとから洗練されているデザインが好印象だ。シンプルながら大人っぽい雰囲気で、運転姿勢のまま各操作部までしっかり手が届いて操作性が高い。このクルマは外から見ると大きく見えるが、実際にシートに座ってみるとそれほど車体が大きいと感じられず、このあたりは運転のしやすさにも繋がっている。さらに、サスペンションの改良もあってか比較的長い時間運転しても疲れは少なかった。

↑ダッシュボードの低い位置に水平基調のラインを作る最新流行を取り入れ、手が触れる部分の素材に柔らかいものを使用

 

↑座面には人間が不快に感じる振動だけをカットする性質を持ったウレタンを採用し、より快適な座り心地を実現

 

運動性能はシャープな印象で、その操作感は自然!

今回、新たなドライブモード「Mi-DRIVE(ミードライブ)」の採用で対応できる走行シーンを広げているが、ベースの運動性能はシャープな印象で、その操作感は自然である。こんな風に曲がりたいと思ってステアリングを操作すれば、思い通りに曲がってくれる感じだ。乗り心地に関しては、高速域でも低速域でも快適で、現行型登場時と比べて向上しているようだった。これらの感覚はあらゆる部分が作り込まれている証拠であり、まるでプレミアムブランドのラグジュアリーモデルに乗った時のような、万能感さえ感じられる。

 

また、今回試乗したのは2.2Lのクリーンディーゼルエンジン搭載車で、パワーユニットに関して改良点はなかったようだが、相変わらずスムーズでパワフルな加速感が魅力的だ。それでいて燃料代が安いという恩恵にもあずかれるのだからありがたいかぎりである。また、エンジンではなくボディ側の改良によるものだと思われるが、静粛性も向上している。つまり、目をギラギラさせて運転しなくても、ちょっと乗っただけでその良さが感じられるところが、このクルマの走りの魅力でもある。

↑CX-5はクリーンディーゼルエンジンとガソリンエンジンから選べる

 

そして現代のクルマにとって欠かせないのが安全性能だ。搭載される先進安全技術「i-ACTIVESENSE(アイアクティブセンス)」では、ミリ派レーダーとカメラを用いて衝突回避のサポートや被害軽減を図っている。当然のようにクルーズコントロールは全車速対応だし、歩行者や交通標識の検知、認識機能も備えている。そして今回、アダプティブ・LED・ヘッドライト(ALH)が改良され、LEDを20分割化したことで、夜間の視認性を高めていることも紹介しておこう。

↑225/55R19 99Vタイヤ&19×7Jインチアルミホイール(ブラックメタリック塗装)を履く

 

今回はクリーンディーゼルモデルに乗ったが、以前乗らせてもらったガソリンモデルも決して悪くなかった印象がある。このエンジンの違いで価格が約30万円ほど違ってくるので、どちらを選ぶかは各家庭の財務担当者とよく相談してほしい。ミドルサイズのSUVを買おうと思っていて、輸入車のような洗練されたデザインのクルマに乗りたいけど予算的に不安な人にとっては、今も最注目のモデルである。さらに、国産車の信頼性の高さというおまけも付いてくる。

↑定員乗車時もゴルフバッグ4つが入る大容量を確保。フロアボードは上下段にセットが可能です。荷室高:フロアボード上段セット時約750mm /フロアボード下段セット時約790mm×荷室幅:約1450mm×荷室長:約950mm

 

SPEC【XD Sports Appearance】●全長×全幅×全高:4575×1845×1690㎜●車両重量:1650㎏●パワーユニット:2188㏄直列4気筒ディーゼルターボエンジン●最高出力:200PS/4000rpm●最大トルク:450Nm/2000rpm●WLTCモード燃費:17.4㎞/L

 

撮影/木村博道 文/安藤修也

 

 

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従来のハイブリッド車の概念を超えた!ホンダ11代目「シビック」の爽快な走りを体験

シビックが誕生して50年。6MTをラインナップに揃えるなど、スポーティな走りが改めて注目されるホンダ『シビック』に、ハイブリッドシステム「e:HEV」が追加されました。コンセプトは“爽快スポーツe:HEV”。進化したシビックの新時代の走りを体験してきました。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/シビック

※試乗グレード:e:HEV

価格:319万円~394万200円(税込)

↑“爽快スポーツe:HEV”としてデビューした11代目シビック。新開発2リッター4気筒直噴エンジンを踏み合わせたe:HEVとした

 

環境にも優しく、走りにも優れた新世代「e:HEV」

シビックが誕生したのは1972年、ホンダの4輪車の中で最も長い歴史を持ちます。この年は世界的に大気汚染が重要課題となった時期とも重なり、自動車メーカーはその対応が求められていました。特に米国で施行された排出ガス規制(いわゆる)「マスキー法」への対応は世界でもっとも厳しく、それに対応できないメーカーが続出したのです。

 

そんな中でホンダはこれをクリアするCVCCエンジンを開発。環境に取り組むメーカーとして一躍注目を浴びるようになりました。その上で人を中心に考えたパッケージングや走り、省エネルギーを高次元で両立させたことでビジネスとしても成功を収めることになります。以来、シビックはその意味で「市民」に広く浸透し、歴代のシリーズ販売台数は2700万台にも及びます。これは名実ともに日本を代表する自動車の一つといっても過言ではないでしょう。

 

11代目となる現行シビックは2021年9月に登場しました。日本市場にはハッチバックのみの投入となりましたが、フロントからリアエンドまで流れるようなデザインは、走りを一段と意識させるアグレッシブさに富んだものとなっていました。特に最初に投入されたターボ付き1.5リッター・ガソリン車は、そのデザインから受ける期待を裏切らないスポーティな走りを見せ、シビック本来の姿を取り戻したことを強く印象づけるものでした。

 

そして2022年6月、その走りに環境性能も高めたホンダ独自の「e:HEV」がラインナップに追加されたのです。このシステムに組み合わされるエンジンは新開発の2リッター直4直噴ユニットで、ここには燃料をシリンダー内に直接噴射する直噴システムを新たに採用。燃料を無駄なく燃焼させることが可能となり、従来型e:HEV用2.0Lエンジンを上回る高トルク化と、エンジンモードでの走行可能領域拡大を実現したのです。

↑シリーズパラレス型ハイブリッドとした新型シビック「e:HEV」

 

↑日本市場にはハッチバック型のみが展開される

 

このエンジンは、燃焼の高効率化も図られ、その数値は世界トップレベルの約41%もの熱効率を実現。同時に燃料の直噴化によってトルクと燃費性能を向上させています。

 

ハイブリッド方式は、発電用、駆動用の2つのモーターを備えるものです。街中などの低速域ではエンジンが発電用モーターの原動力としてその役割を果たし、高速域になるとエンジンと車輪が直結して駆動するよう切り替わります。つまり、ハイブリッド方式を状況に応じて最適な切り替えを行うシリーズパラレス式としたのです。

 

ここまでのスペックから推察して、最初は「結局、新型シビックは燃費重視の環境車なの?」と想像しました。しかし、それは走って的外れだったことがすぐにわかりました。試乗コースとして設定されたのは八ヶ岳周辺のワインでイングロード。新型シビックはそこで想像以上に爽快で楽しい走りを見せてくれたのです。

 

小気味よいステップ感で従来のHEVとは明らかな違いを実感

アクセルを軽く踏むと、それだけで力強いトルクを伴いながらスムーズにクルマを前へ走らせます。そしてアクセルをグッと踏み込むと動きは一変。エンジンの回転が先行するハイブリッド車らしさはまったく感じられず、まるで変速機でもあるかのような小気味よいステップ感を伝えながらグイグイ加速していったのです。特に興味深いのはこのステップ感で、実はこの効果はエンジン制御によって生み出されていました。

 

ホンダはこれまでもe:HEVでハイブリッド特有の、エンジンの回転が先行する違和感を抑えてきました。シビックに搭載した新エンジンでは、高回転までエンジンを回した際、燃料と点火を一旦カットし、回転が落ちたところで再びエンジンを回し始める新機構を採用。この制御をすることで、むしろターボ付き1.5リッター・ガソリン車よりもメリハリのある動作を実現することになったのです。ここにシビック本来のスポーティさを“復権”しようとする開発陣の意気込みが伝わってきますね。

↑パワーユニットは新開発の2リッター直4直噴エンジンを組み合わせた「e:HEV」とした

 

半端ない静粛レベルにも驚きました。実はフロントスピーカーからはノイズと逆位相の音を出すノイズキャンセラーが組み込まれており、これが走行中のノイズを聞こえにくくしているのです。しかも、スポーツモードにするとアクティブサウンドコントロールが作動して、パワーの高まりと共に電子音を発生させます。その効果も自然で嫌みがない。このあたりのチューニングもスポーティさを志すシビックらしい仕掛けとも言えるでしょう。

 

ステアリング制御は電動パワーステアリング(EPS)によるもので、適度な重さを伴いながら切っただけ曲がっていく感じ。これも自然で扱いやすいものです。ステアリングにはパドルレバーが装着され、マイナス側を操作することで回生ブレーキも段階的に高まり、その減速Gもわかりやすく表現されていました。この機能は特にワインディングではメリットを実感すると思います。

↑シビック「e:HEV」にはハイブリッド車系に採用する電気式無段変速機が組み合わされる

 

試乗当日は雨にたたられましたが、ほどよく固められた足回りとの相性も良く、ワインディングを気持ち良く駆け抜けることができました。若干、段差を乗り越えたときのバタツキ感が気になりましたが、それでもハイブリッド化による重量増が効いているのか、ガソリン車よりも突き上げ感はしっかり抑えられているように思いました。

 

広々とした視界と安全性にも寄与するHMIが使いやすい

インテリアは、低いフロントフードとあいまって広々とした視界を生み、爽快な気分にさせてくれる仕様です。聞けば、Aピラーの位置を50mmほど後ろへ下げたことで水平視界がグッと広がったんだそうです。近年はADASとしても交差点で歩行者を含むセンシングが重視されていますが、こうした車体設計から安全性が高める姿勢は評価したいと思います。

 

ダッシュボードには広がり感を強調するパンチングメタルのエアコンアウトレットを採用しています。これはクリーンな見え方と優れた配風性能を両立させた新開発のフィン構造を内蔵したもので、空調の最適化も同時に図っているとのこと。車内は長時間にわたって過ごすことも少なからずあるわけで、こうした配慮も新型シビックの爽快さを実感できるポイントの一つと言えるでしょう。

↑低いダッシュボードと後ろへ50mmずらしたAピラーとも相まって広々とした視界を実現した

 

また、ホンダのHMIの考え方である「直感操作・瞬間認知」を追求し、10.2インチのフルグラフィックメーターを採用しました。メーターの左半分にオーディオなどのインフォテインメントの情報を、右半分にはHonda SENSINGやナビなどの運転支援情報などをそれぞれ表示します。ステアリングスイッチの位置と同様の左右配置とすることで、直観的な操作を可能としているのが特徴です。

↑運転席シートは余裕のあるサイズで長時間座っていても疲れにくそうだ

 

↑ニースペースに余裕があり、後席も大人がゆっくり座れる。運転席シートにシートバックポケットがないのは残念

 

↑後席はシートバックの高さにも余裕があり、大人二人がゆったりとくつろげる

 

さらに新世代コネクテッド技術を搭載した車載通信モジュール「Honda CONNECT(ホンダコネクト)」も搭載します。スマホでドアロック解除やエンジン始動を含む「ホンダ・デジタルキー」などが利用できるコネクテッドサービス「ホンダ トータルケア プレミアム」にも対応しました。ガソリン車のEXとe:HEVには「BOSEプレミアムサウンドシステム」が搭載されているのも見逃せません。

↑サブウーファーを含む全12スピーカーを組み合わせるBOSEプレミアムサウンドシステム

 

試乗したシビックe:HEVは、従来のハイブリッド車の概念を根底から覆すクルマとして仕上がりました。その手法は少し人工的ではありますが、乗ってみればそのコンセプトを裏切らない爽快さを実感させてくれるはず。11代目シビックはスペック以上に、期待を裏切らないクルマに仕上がっていたと断言できます。ぜひ、試乗してみることをおすすめします。

 

SPEC【e:HEV】●全長×全幅×全高:4550×1800×1415mm●車両重量:1460kg●パワーユニット:2.0L直4 DOHC 16バルブ●最高出力:104kW[141PS]/6000rpm(135kW[184PS]/5000〜6000rpm)●最大トルク:182N・m[18.6kgf・m]/4500rpm(315N・m[32.1kgf・m]/0〜2000rpm)●WLTCモード燃費:24.2km/L

※()内は電動機(モーター)の数値。

 

 

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輸入車としてはお得ですこと! ルノー「ルーテシア E-TECH ハイブリッド」

ルノーがハイブリッドに本気だ。ハイブリッド王国ともいえる日本でこれまで輸入車がフルハイブリッドを販売してこなかったなか、2022年になると、アルカナを市場投入し、続けてルーテシア、キャプチャーと発売。提携関係にある日産の「e-POWER」とも異なる、独自のハイブリッドシステム「E-TECH(Eテック)」とはどんなシステムか、ルノーの勝算とは?

 

【今回紹介するクルマ】

ルノー/ルーテシア

※試乗グレード:E-TECH ハイブリッド

価格:266万9000円~344万円(税込)

 

ハイブリッド王国日本への挑戦!?

ガソリン価格が高騰している。執筆時点ではピーク時よりやや下がっているが、政府は石油元売り各社に、リッターあたり40円もの補助金を出して価格を抑えている。つまり補助金がなければ、レギュラーでリッター200円を超えているのだ!

 

ここまでガソリンが高くなると、やっぱり燃費のいいクルマに乗りたくなりませんか? EVならガソリンとは無縁だけど、値段が高いし、補助金の予算が尽きそうだし、充電が心配だし、まだちょっと早い気がする。結局、大本命はハイブリッドってことになる。

 

日本はハイブリッド王国だ。国産各メーカーは、こぞってハイブリッド技術を競っている。これほどまでにハイブリッドカーが普及している国はない。実際のところ、ハイブリッドカーの燃費は感動的だ。「ヤリスハイブリッド」なんて、ヘタすりゃ40km/Lを叩き出す。ほとんどスーパーカブじゃないか!

 

対する海外メーカーは、ハイブリッドを飛ばしてEV化を進めている。ハイブリッド技術では日本車に勝てっこないと踏んでの、政治的な思惑もあるだろう。これまで登場した輸入ハイブリッドカーは、どれもこれも中途半端なマイルドハイブリッドで、値段が高いわりに、燃費の向上をほとんど実感できなかった。ハイブリッドカーを買うなら日本車に限る! それはもうクルマ業界における絶対前提。輸入車で低燃費を狙うなら、ディーゼルターボ一択だった。

 

そんななかルノーは、今頃になって、輸入車初のガソリンフルハイブリッドを開発したのだから驚くじゃないか。正直、半信半疑だった。EV化に突き進んでいる欧州のメーカーが、なぜいまさらフルハイブリッドを出したのか? 日本のハイブリッドに敵うとでも思ってるのか? ルノーは狂ったのか!?

 

乗り味では日本製ハイブリッドを上回っている部分もある

ルノーは狂ってなかった。それどころか本気だった。ルノーが「いまさら」開発した「E-TECHハイブリッド」は、燃費で日本製ハイブリッドに迫りつつ、乗り味では日本製ハイブリッドを上回っている部分もあったのだ! これには本当に驚いた。

 

ルノーのハイブリッドは、まずSUVの「アルカナ」に搭載されて登場し、続いて「ルーテシア」にも採用された。アルカナはどこか不思議なプロポーションをしたSUVで、ルックスにはあまり惹かれなかったけれど、ルーテシアはいかにもフランス車的な、スタイリッシュなコンパクトハッチバック。価格も手頃で、ガソリンモデルも十分魅力的だったけれど、ハイブリッドはもっとよかった!

 

ルーテシアのサイズは、トヨタ「アクア」や日産「ノート」とほぼ同じ。つまりルーテシアハイブリッドは、国産ハイブリッド勢の本丸とガチでぶつかるわけで、比較のし甲斐がある。では、ルーテシアハイブリッドの何がいいのか? 一言でいえば、走りのダイレクト感があるってことだ。

↑クーペのようなフォルムを実現

 

たとえばトヨタのハイブリッドシステムは、究極の効率を目指した結果、エンジンとモーターが混然一体となり、無段変速でヌエ的に加減速するので、ダイレクト感が全然ない。ところがルノーのEテックハイブリッドは、エンジン側に4段のギア、モーター側に2段のギアを持ち、それらを組み合わせて変速しつつ走る。ギアチェンジは、100%ダイレクトな「ドッグクラッチ」を使っているので、アクセルと車輪は常に直結されており、トヨタのハイブリッドのような「モワ~」と滑るフィーリングがない。

↑シフトをBモードに入れると強力な回生ブレーキが発生し、クリーピング速度まで事実上のワンペダルドライブが可能となる

 

効率では、さすがにトヨタのハイブリッドシステムには及ばない。アクアが30km/L近く走るところを、ルーテシアハイブリッドは20km/L強というところだ。加えてルーテシアハイブリッドは、輸入車なのでハイオク指定。純粋にガソリン代を比べれば、アクア対ルーテシアハイブリッドの勝負は、アクアの完勝である。

 

ただ、高速道路の巡航に関しては、この勝負、きわめて僅差になる。高速道路を一定速度で走る場合、通常のガソリンエンジンやディーゼルエンジンでもかなりの低燃費で走れるので、ハイブリッドのアドバンテージは小さくなり、逆にダイレクト感のなさが「運転していてつまらない」と思わせる。

 

ところがE-TECH ハイブリッドは、常に直結なので、普通のガソリン車のようにダイレクトに走ってくれる。そこからアクセルを踏み込むと、パワフルなモーターが加速を強力にアシスト。結果、ガソリン車よりも燃費がいいのはもちろん、アクアにも肉薄。ノートを上回るのだ!

↑メインモーターであるE-モーターとHSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)という2基のエレクトリックモーターと、1.6L 4気筒自然吸気エンジンで構成

 

ノートに積まれる日産のハイブリッドシステム「e-POWER」は、エンジンを発電機役に専念させ、モーターの加速のみで走るから、ダイレクト感は100%。つまり一般道での加減速に関しては、「E-TECH ハイブリッド」よりもさらにダイレクトで楽しいのだが、これまた高速巡行を苦手としている。モーターにギアがないため、高速域ではモーターが過回転気味になり、摩擦抵抗が増大。徐々に元気がなくなり、燃費も悪化してしまう。

 

つまりE-TECH ハイブリッドは、ハイスピードでの高速巡行が多いヨーロッパ向けに開発された、地消地産型ハイブリッドシステムだったのだ!

 

ルーテシアハイブリッドは、一般道では国産ハイブリッドとそれほど遜色ない低燃費で走りつつ、ダイレクト感はトヨタ製ハイブリッドより上。高速巡行では完全にリードする。日本でも、ロングドライブの多いユーザーにはうってつけだ。

 

加えて、見た目もインテリアも、さすがおフランス車。サイズがデカくなる一方の輸入車ながら、ルーテシアの全幅は1725mmで、アクアよりは広いけどノートオーラよりちょっと狭く、取り回しがラクチン。室内の広さもごく普通に実用的だ。これで329万円からというお値段は、国産車よりは高いけど、輸入車としてはかなりお安いのではないだろうか!

↑フランス人が日常使いの心地良さを大切にして作ったという室内空間。いたってシンプルだ

 

↑前席には寒い冬に体を温めてくれるシートヒーター機能付き。ヘッドレストは、後方からの視界に配慮した薄型のデザインを採用

 

SPEC【E-TECH ハイブリッド】●全長×全幅×全高:4075×1725×1470㎜●車両重量:1310㎏●パワーユニット:1597㏄直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:91PS/5600rpm●エンジン最大トルク:144Nm/3200rpm●メインモーター最高出力:49PS/1677-6000rpm●メインモーター最大トルク:205N・m/200-1677rpm●サブモーター最高出力:20PS/2865-1万rpm●サブモーター最大トルク:50N・m/200-2865rpm●WLTCモード燃費:25.2㎞/L

 

撮影/茂呂幸正

 

 

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ホンダ新型「ステップワゴン」、最大の魅力は時代に異を唱えるシンプルデザイン

ミニバンブームが終焉したといわれるなか、2Lクラスのミドルサイズミニバンの間では、いまだに熾烈な争いが続いている。かつてのようなカクカク系シンプルデザインを取り戻した新型「ステップワゴン」のクルマとしての実力はどれだけ向上しているのか、ハイブリッドモデルについてレポートしていこう。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/ステップワゴン

※試乗グレード:e:HEV スパーダ プレミアムライン

価格:299万8600円~384万6700円(税込)

 

ユーザーの心を掴んだ新型ステップワゴン

ステップワゴンといえば、新型で6代目となる、日本における老舗的存在のミニバンだ。1996年に初代モデルがヒットして以来、ミニバンブームを牽引する存在だったが、ここ10年ほどは、トヨタ「ノア/ヴォクシー」や日産「セレナ」に対して、販売面で苦戦していた。

 

「フリード」や「シエンタ」などのコンパクトライン、「アルファード」や「オデッセイ」などのプレミアムラインの間に挟まる形で、2Lクラスのミドルラインは、日本のミニバンの王道ともいえる。そして、このカテゴリーの覇権を握るべく、日本を代表する3大メーカーが、それぞれ製品の実力を磨き続け、切磋琢磨してきたわけだ。

 

そんな状況下で、2021年末から早めにスタイリングを(ティザー広告で)公開して、ユーザーの心を掴んだのが新型ステップワゴンである。2022年5月に発売されると、発売から約1ヶ月での初期受注台数は2万7000台。これは、先代型(2015年)の約1万5000台、先々代型(2009年)の約1万8000台を超える数字となった。

 

まず新型のスタイリングが公開されて、最初に目についたのは、初代、2代目モデルのような角張ったデザインへの回帰であった。現在、流行りのツリ目でもなく、ギラギラ光る大型グリルのオラオラ顔でもない。まるで白物家電のような、シンプルで飽きのこないルックスは、見た人にクリーンな印象を与える、現在のミニバンにおいて白眉の出来だ。

↑先代ではボディ全長が4690mmだったのに対し、4800~4830mmにまで拡大。全幅も拡大しており、全車が3ナンバーになった

 

リアもコンビランプを細く縦型にするなど、このあたりも初代モデルへの回帰といえる。シンプルで親しみやすいという意味でいえば、コンパクトカーの「フィット」にも通じる雰囲気もあり、デザインの捉え方は人によって様々だが、筆者は心地よささえ感じられた。

 

また、このシンプル系デザインも、グレードによって二種類のスタイルに分類される。まずは新グレード「AIR(エアー)」。よりシンプルさが強調されていて、無印良品のようなデザインが好きな人におすすめだ。一方、「SPADA(スパーダ)」は、2代目モデルから受け継ぐ、ある意味、ステップワゴンにとっては伝統になりつつあるグレード。メッキパーツなどを施したチョイ悪な雰囲気と豪華な装備を特徴としている。

↑スパーダのフロントフェイス。ダーククロームに仕上げたシャープなメッキパーツによって、上質でありながら品格ある佇まいだ

 

インテリアもクリーンな印象のデザインにまとめられているが、ダッシュボード上にファブリック素材が使われている。ただそれがしつこくない程度にうまく配置され、スッキリした印象。ドライブ中、視界のなかにこの素材が見えているとなんだか心地いいから不思議である。スッキリ派の人にとっては、最近の他のホンダ車と同じくドライブスイッチが採用されて、シフトノブが存在しないことも好ましいに違いない。

↑室内はブラックを基調に仕上げられている。リビングのような柔らかく落ち着いた雰囲気

 

↑「P」「R」「N」「D」と独立した押しボタン式のシフトセレクター。マットな質感の樹脂パーツも室内に落ち着きをもたらしている

 

↑ダッシュボード上にスエード調の表皮。ココも落ち着いた雰囲気を演出するポイントなのでしょう

 

なんてったって燃費がいいことが嬉しい!

パワーユニットは、2Lエンジンベースのハイブリッドと1.5Lガソリンターボモデルの2種類から選ぶことができる。今回試乗させてもらったのはハイブリッドモデルで、ホンダ独自の2モーターを用いた「e:HEV」ハイブリッドシステムが搭載されている。ガソリンにモーターのアシストが加わるので、低回転域から力強く加速してくれて不足感がない。重心が高いミニバンにしてはコーナーでも安定しているし、なんと言っても燃費がいいことが嬉しい。

 

↑パワーユニットは最高出力145PSの2リッター直4エンジンに同184PSの駆動用モーターを組み合わせた「e:HEV」

 

ミニバンならではのポイントである3列目シートはどうかというと、従来型より着座位置が高く設定されているため、視界がよく、3列目着座時の閉塞感があまり感じられない。シート自体も厚めのクッションで座り心地も悪くない。とはいえ、3列目シートは常時使用しないユーザーがほとんどであるため、収納方法が重要となるが、これもまた優秀。背もたれを前方に倒せばそのまま2アクションで床下収納できる容易さを備えている。

↑3列目シート格納時荷室幅、約1195mm

 

前述のように「3列目シートは1年に数回しか使わない」ユーザーが多くなっていることから、重要視されるのが2列目シート。新型では、780mmの前後ロングスライドに加えて、左右にもスライドできるキャンプテンシートをラインナップ。2列目に座る家族の快適性が高まるというのは、ミニバンを選ぶファミリー志向のユーザーにとって嬉しいことである。

↑座面などメイン部に「ファブテクト」、サイド部に「プライムスムース」を用いたコンビシートを採用。このプライムムースは、しっとりとした質感を持つ合皮で、汚れやシワに強い機能性の高さが魅力だ

 

なお、先代型で目玉装備だった「わくわくゲート(左右上下2方向開きのバックドア)」は残念ながら廃止されてしまった。これがあるから先代型ステップワゴンを選んだという人もいるだろうが、コストなどさまざまな問題があったのだろう。その分、というわけではないが、パワーテールゲートはメモリー機能付きで、開度(開く角度)を任意に調節できるようになった。開けた時に指定した位置で止めることができるので、自宅駐車場のサイズや形状に合わせた開け方できる。

↑パワーテールゲート。開閉操作はスマートキーまたはテールゲートのスイッチから

 

ミニバンとしての使い勝手や広さに関してはどのクルマも横並びになり、ミニバンとしての強烈な魅力は発揮しにくくなったなか、新型ステップワゴン最大の魅力は時代に異を唱えるシンプルデザインだった。ステップワゴン発売の数か月前に新型ノア/ヴォクシーが発売され、今年度内には新型セレナの登場も噂される。自分のライフスタイルに最も合うデザインはどれか、競合車と比較して選び出したい。

 

SPEC【e:HEV スパーダ プレミアムライン】●全長×全幅×全高:4830×1750×1845㎜●車両重量:1840㎏●パワーユニット:1993㏄直列4気筒エンジン●最高出力:145PS/6200rpm●最大トルク:175Nm/3500rpm●WLTCモード燃費:19.5㎞/L

 

撮影/茂呂幸正 文/安藤修也

 

 

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中国発のEV、BYD「ATTO 3 」その実力を正式販売を前に一足早く体験した

国を挙げて電気自動車(EV)を推進する中国。その中国を代表するEVメーカーがBYDです。元々はバッテリー専業メーカーでしたが、その電池事業で培ったノウハウを活かして2008年からは量産型プラグインハイブリッド車を発売。その後、大型バスやタクシーなどの商用車両でもEVを発売し、今や世界屈指のEVメーカーに成長しました。

 

そして今回、ついに3台の乗用車EV「ATTO 3(アットスリー)」、「SEAL(シール)」、「DOLPHIN(ドルフィン)」を日本国内で発売すると発表。第一弾となるのが2023年1月に投入予定のe-SUV、ATTO 3です。すでに豪州、シンガポールでは発表済みで、それに続いて日本で発売が決まりました。今回は一足早く、すでに発表済みの豪州仕様に試乗。そのレポートをお届けします。

↑中国のEVメーカーBYDの日本法人であるBYDジャパンが7月21日に日本乗用車市場への参入を発表。左から上級セダンの「SEAL」、「ATTO 3」、コンパクトの「DOLPHIN」

 

2025年までに、日本国内に100店舗のディーラー網を予定

ATTO 3が中国でデビューしたのは2022年2月と最近のことです。EV専用プラットフォーム「e-Platform3.0」を独自開発し、バッテリーには安全で耐久性が高いとされるリン酸鉄バッテリーを採用。高い安全性を保ちながら、フラットな床面がもたらす広い車内空間と、440Lもの荷室容量を実現しています。BYDジャパンによれば、バッテリー容量は58.56kWhで、航続距離は485km (WLTC 値)を達成。日本仕様ではもちろん急速充電「CHAdeMO(チャデモ)」にも対応するとのことです。

↑BYDジャパンが日本市場第一弾として、2023年1月に発売予定のe-SUV、ATTO 3。写真は豪州仕様

 

驚いたのが日本における販売網です。BYDジャパンは、なんと2025年までに100店舗を日本全国に展開するというのです。先日、日本への再参入を果たした韓国のヒョンデは、ネット販売を基本としましたが、それとは真逆の戦略を取ったのです。一方で、価格は仕様が決まっていないことから未定とのことでした。ただ、BYDジャパンでは「様々なボディタイプのEVを手に届きやすい価格で展開する」方針とのことで、その価格設定には大いに期待して待ちたいところです。

 

さて、実車を前にすると、写真で見た印象よりも斬新さにあふれているのがわかります。サイドビューは波打つような膨らみを持たせ、それが面で抑揚のある変化を伝えてくるデザインです。このプレスラインの巧みさに感心していると、この金型を製作しているのは2020年にBYDが傘下に収めた群馬県にあるタテバヤシモールディングということでした。つまり、このプレスラインの実現には“メイド・イン・ジャパン”の技術力が背景にあったわけです。

↑ボディサイズは、全長4455mm×全幅1875mm×全高1615mmとやや幅は広め。しかし、SUVらしい程良いサイズ感で日本の道路事情にもマッチしそうな印象

 

遊び心にあふれた車内に心がつい躍ってしまいそうになる

車内に入ると今まで見てきたクルマとは違う斬新さにあふれていました。エアコン吹き出し口まわりやシフトレバーなど、いたるところにトレーニング器具のようなデザインが見られ、斬新かつユニークな造形。コンソール上のシフトノブはダンベルをモチーフにしたもので、ベンチレーターのリング上のデザインもフィットネスジムの雰囲気をそのまま再現しているかのようです。

↑内装はフィットネスジムをイメージしたとのことで、爽やかな色使いが印象的

 

↑たっぷりとしたサイズのパワー機構付き前席シート

 

↑フラットなフロアにより後席スペースも余裕がある

 

個人的に惹かれたのはオーディオ用スピーカーでした。ドア上部にはドアノブを一体化したミッドレンジスピーカーを組み込み、ドア下部のウーファーユニットから収納スペースにはベースの弦をイメージしたゴム製ワイヤーも張られていたのです。しかも、この弦を弾くと、なんと“ボロロン”と音が鳴るではありませんか。この遊び心いっぱいの雰囲気にはつい誰もが心躍ってしまうはずです。

↑上にあるのがドアハンドルと一体化されたミッドレンジスピーカー、下のウーファーから張られた3本のゴム製バンドが個性的。メーカー側の遊び心があふれています

 

↑SUVとして充分スペースを確保したカーゴルーム。フロアの高さは2段階

 

そんな思いを抱きながら公道へと走らせました。アクセルを踏み込むと、電動車らしい力強い加速で車体を軽々とスタートさせました。しかも、その加速力はどこまでもエンドレスでつながっていくようで、急激なトルクの立ち上がりもなく自然なフィールが好印象です。

 

道路の段差もキレイにいなし、ショックをしっかりと吸収しているのがわかります。これはe-Platform3.0による高い剛性が貢献しているものと推察され、速度を上げていってもフラットな乗り心地が変わることはありませんでした。特にEVらしい静粛性は素晴らしく、明らかにこの高剛性がメリットをもたらしているのだと実感。

↑ATTO 3に試乗中の筆者。東京・お台場界隈の一般道で試乗した

 

全体に小さめなインターフェースは要改善

ステアリングはやや緩慢な印象でしたが、それも少し走っているうちに慣れてしまう程度のものです。操舵感は全体に軽めで、ボディの見切りの良さとも相まって、駐車を含む市街地での運転は楽に行えるのではないかと思いました。一方で、EVならではの回生ブレーキも備えていますが、レベルを強弱で切り替えても効果の違いはあまり感じられず。ドライブモードもエコ、ノーマル、スポーツと3種類ありましたが、これもスポーツで若干ペダルの反応が良くなったか?と思う程度でした。

↑ダンベルをモチーフにデザインしたシフトノブ。右ハンドル車なのに、ハザードスイッチが左側にあるのが残念

 

そして、全体として小さめなものが多いインターフェースも気になるところ。速度やバッテリー状態を示すメーターはステアリングの奥に見えるレイアウトで、しかもセンターにある12.8インチのディスプレイに比べるとかなりコンパクトです。操作スイッチの位置もわかりにくく、運転中に視認しにくさを感じさせました。また、センターにあるディスプレイは、タテに回転する機構が付いていましたが、これもほぼタブレットが鎮座している印象で、決して見やすいとはいえないものでした。

↑ステアリング奥に配置されるメーターディスプレイ。サイズはやや小さめだ

 

↑タテ表示も可能な12.8インチのセンターディスプレイ。表示文字が小さめで、指の置き場所もないことから操作性は今ひとつ

 

とはいえ、EVとしての仕上がりの良さは、「さすが手慣れているな」と実感できるものでした。立ち上がりから力強い走りと静粛性は、EVへの期待を充分に満足させるものです。デザインも洗練されていて、一昔前の中国車のイメージはまったくないと断言していいでしょう。今回はインフォテイメント系のローカライズが間に合っていなかったとのことですが、こうした部分も含め、日本仕様として登場する日を期待したいと思います。

 

 

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やっぱり安心感ある! 「スイフトスポーツ」は欧州車に近い走りのコンパクトハッチバック

スズキの「スイフトスポーツ」といえば、国産車では希少となったMT(マニュアル・トランスミッション)車を設定するコンパクトハッチバック。すでに登場から5年が経過しようとしている同車だが、今改めて乗ってみて感じた魅力を綴る。

 

【今回紹介するクルマ】

スズキ/スイフトスポーツ

※試乗グレード:6MT(全方位モニター用カメラパッケージ装着車)

価格:187万4400円~214万1700円(税込)

 

とりあえずこいつを選んどきゃ間違いない!

さまざまな国産コンパクトスポーツが存在するなか、評論家筋でいつの時代も評価が高いのがスイフトスポーツだ。ライバルはトヨタ「ヤリス(ヴィッツ)」や日産「ノート」、ホンダ「フィット」、マツダ「デミオ」などのスポーツグレードになるが、クルマ選びに悩んだ際、スイフトスポーツには「とりあえずこいつを選んどきゃ間違いない!」という安心感がある。

 

それは、グローバルで販売されて高い評価を得ていること、4モデルが約20年に渡って販売されてきた歴史と伝統があること、モータースポーツに参戦していたことなどからも容易にわかるが、やはり一番の理由は、「運転が楽しい」ことに尽きる。世界中のさまざまなクルマに試乗してきた評論家陣から話を聞けば、最も欧州車に近い走りを味わえるのがスイフトスポーツなのである。

 

デザインはどうか。基本的にはスイフトをベースに、おしゃれにというよりは迫力ある雰囲気に仕立てられている。フロントまわりでは、大口径のグリルやバンパーまわりのラインが強調されていて躍動感を感じさせる。サイドからリアにかけてはブラックのアンダースポイラーが精悍さを表現し、リアディフューザーとデュアルエキゾーストパイプは、リアまわりの存在感を高めている。

↑スイフトの美点であった、Cピラー(サイドウインドウとリアウインドウの間の柱)のブラックパーツのデザイン処理はしっかりと活かされている

 

↑切削加工とブラック塗装を施した新意匠アルミホイール、シルバー塗装の新意匠アルミホイールがそれぞれ対象グレードに採用

 

今回の試乗車のボディカラーは「チャンピオンイエロー4」だったが、イエローは歴代モデルでも中心となってきた同車のイメージカラーだ。「夏は虫が寄ってきて困る」というオーナーの話も聞いたことはあるが(笑)、やはりポルシェやフェラーリにしても、RX-7にしても、イエローはスポーティなクルマによく似合う。街を走るイエローのスイフトスポーツを見たら、クルマに興味のある人ならきっと見入ってしまうはずだ。

↑レッドからブラックへとグラデーションのカラーリングがまさにエキゾチックジャパン!

 

↑荷室容量は5名乗車時で265L

 

まるでスポーツクーペのような感覚で曲がれる!

搭載されるエンジンは、1.4L直噴ターボの「ブースタージェットエンジン」。名称だけでもカッコいいが(笑)、実力もしっかりともなっている。低回転域からターボエンジンらしからぬ高トルク(力強さ)を発揮し、2000~3000回転くらいまでエンジンを回せば、1.4Lとは思えないほどパワフルで余裕のある走りを味わえる。アクセルを踏み込めばリニアに反応して鋭い加速をみせ、1t以下という軽量なボディを、まるで後方から蹴っ飛ばしたかのように押し出してくれる。

↑1.4L直列4気筒ターボエンジン。最高出力140ps、最大トルク23.4kgmで先代のNAエンジンからターボ化とハイオク化で大幅なトルクアップを果たしている

 

このクルマの一番の特徴でもあり、賞賛に値する部分といえば、やはり走りがいいこと。まずコーナーでは、全高が高めのコンパクトカーとは思えないほど路面にビシッと張り付き、まるでスポーツクーペのような感覚で曲がれる。また、「HEARTECT(ハーテクト)」と呼ばれるプラットフォーム、つまりクルマの骨格は、剛性が高く、非常にしっかりしている。ベースのスイフトと比較すると、やはりサスペンションは硬めだが、決して乗り心地は悪くない。

↑スイフトスポーツはやっぱり走っていて楽しい!

 

さらに、MTの操作感がしっかりしていて、スコッスコッと気持ちよく変速できる。このあたりも欧州車らしい味付けだ。フロントシートは、スイフトスポーツ専用デザインになっていて、速い速度でコーナーなどに侵入した際にGで身体が持っていかれそうになっても、しっかり支えてくれる構造になっている。

↑セミバケット形状のフロントシート。背中が当たる部分には“Sport”というロゴが刻まれています。シートスライドは前後に10mmずつ24段階の240mm、運転席シートリフターは上下に60mm調整でき、ドライバーの体格や好みに合わせたきめ細かい設定が可能

 

なお、2020年5月には改良が施され、後退時ブレーキサポート、後方誤発進抑制機能、リアパーキングセンサーなど、車庫入れなどちょっとした動作の際にやってしまいがちなうっかりミスを助けてくれる機能が追加された(5速MT車を除く)。また、アダプティブクルーズコントロール(全車速追従機能付き)やブラインドスポットモニター(車線変更サポート付き)なども全グレードに標準搭載されるなど、安全性能も高められている。これなら、中年になってキビキビ走るスポーツカーに対して不安を抱いているような人であっても安心だ。

 

グレードを選ぶにあたって一番好ましいのはMTモデルだが、家族も運転するとなると、MTはNG……という人も多いだろう。しかし6速ATモデルも(MTの操作感を抜きにすれば)十分気持ちよさを味わえて、街中をストレスなく走ることができる。見た目がちょっとスポーティ過ぎる感もあるが、5ドアハッチバックなので実用性は十分だ。残念ながら3ナンバーでハイオク仕様となっていてランニングコストはすこしかかるが、それほど燃費が悪いわけでもない。幼児などを抱えていて実用性がないと困るが、時には本格的なスポーティ性能を味わいたい。そんなユーザーにベストな選択となる。

↑左側にタコメーター、右側にはスピードメーター。中央にはマルチインフォメーションディスプレイを搭載

 

↑ずっと握っていたくなる6速MTのシフトノブ

 

SPEC【2WD・6MT】●全長×全幅×全高:3890×1735×1500㎜●車両重量:970㎏●パワーユニット:1371㏄直列4気筒直噴ターボ●最高出力:140PS/5500rpm●最大トルク:230Nm/2500-3500rpm●WLTCモード燃費:17.6㎞/L

 

撮影/茂呂幸正 文/安藤修也

 

 

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スバル「レヴォーグ」。これだけ速くて快適で気持ちいい実用車など、他にあるのか?

2021年11月、スバル「レヴォーグ」にハイパフォーマンスモデル“STI Sport R”が追加された。新開発の2.4L直噴ターボエンジンを搭載する同モデルは、スバルのフラッグシップスポーツ「WRX STI」と共通点があるのか? 同ブランド内での立ち位置と走行性能の真価を探る。

 

【今回紹介するクルマ】

スバル/レヴォーグ

※試乗グレード:STI Sport R

価格:310万2000円~477万4000円(税込)

 

まずはスポーツモデルWRX STIについて語ろう

スバルのスポーツモデルの頂点に君臨するのは、WRX STI(インプレッサWRX STIを含む)である。伝統の水平対向ターボエンジンに6速マニュアルトランスミッションを組み合わせ、サスペンション、ブレーキ、空力など、あらゆる面で究極の走りを目指したモデルだ。内外のマニアの間では絶対的な人気を誇ってきた。

 

ところが、2021年に登場した新型WRXには、その「STI」がなく、今後も出ないらしい。世界中のスバルファンが、「なんてこった!」と頭を抱えている。WRX STIは世界的に人気があるだけに、マニアックなスポーツモデルにもかかわらず、かなり台数が出る。そのわりに燃費が非常に悪く、世界中の燃費規制に引っかかる。エンジン(EJ20型)の基本設計も古く、排ガス規制もキビシイ。これ以上の延命は不可能だったようだ。

 

その代わりと言っては何だが、以前からあったWRXのAT(正確にはCVT=無段変速)バージョンであるS4には、これまでの2.0Lターボエンジンに代わって2.4Lターボエンジンが搭載され、CVTもスポーティな新型に更新された。

 

ただ、スペックを見ると、この2.4Lターボエンジン、以前の2.0Lターボエンジンより、馬力もトルクも低い。旧S4が300馬力/400Nmだったのに対して、新型は275馬力/375Nm。常に最高の走りを目指してきたWRXが、スペックダウンするってどういうことだ? 排気量を拡大したっていうのに信じられない! 堕落だ!

 

そのように思っていたが、実際に乗ってみて仰天した。この新型S4、めちゃめちゃパワルフなのである! どう考えても旧型より速い! いや、少なくとも速く感じる! 加えて、新開発されたCVT「スバルパフォーマンストランスミッション」が物凄くイイ! 普通に流していてもCVT特有の空回り感はまったくなく、ダイレクトな加速が楽しめるが、ひとたびスポーツ+モードに入れれば、自動的に8速ステップ変速に切り替わり、他のあらゆる変速機もかなわないほど、恐ろしく素早いシフトチェンジを行う。

 

実はこのシフトチェンジ、疑似的なもので、実際にはCVTのレシオを瞬間的に切り替えているにすぎないが、乗ったイメージはまるでF1マシン! 「クワーン、クワーン、クワーン」と快音を奏でながら、ウルトラ超速シフトアップを繰り返し、切れ目のない超絶加速をブチかましてくれる(ように感じる)。エンジンスペックは旧型より落ちているのに不思議だが、とにかく新型S4は、素晴らしく気持ちいいスポーツセダンだ。MTにこだわるマニアには物足りないかもしれないが、私は気持ちよければそれでいい。新型S4、最高だぜ!

 

が、新型S4にも欠点がある。それは、中高年にはサスペンションがハードすぎることだ。サスペンションのモード切替を「コンフォート」にしておけば問題ないが、「ノーマル」や「スポーツ」はあまりにも固すぎてツライ。つまりサスペンションだけ「コンフォート」に切り替えれば済む話だが、おっさんになると、それが面倒くさくなってくる。

 

スバルパフォーマンストランスミッションの超絶レスポンス

ところが! 同じエンジン/ミッションを積む、2代目レヴォーグ「STI Sport R」は、サスペンションが断然ソフトだという。レヴォーグのノーマルモデルは、1.8Lターボの177馬力。この「STI Sport R」は、新型S4と同じ2.4Lターボを積むが、サスペンションは基本的にノーマルモデルと同じらしい。気持ちよければそれでいいおっさんには、そっちのほうがいいかもしれない……。

 

実際乗って見ると、予想通りだった。エンジン/ミッションは超絶パワフル/超絶レスポンスのままだが、サスペンションはぐっとふんわりソフトなのだ。「うおおおお、これはイイ!」

 

今やWRX S4は、スバルのスポーツモデルの頂点。サスペンションをハードに固めて、サーキットでしっかりタイムが出るようにセッティングする必要がある。公道での快適性は二の次でも仕方ない。

 

しかしレヴォーグは違う。ステーションワゴンであるレヴォーグは、あくまで公道を快適に速く走るための実用車。サスペンションをむやみに固める必要はないから、あらゆるモードで快適な乗り心地を確保しつつ、2.4Lターボのスーパーパワーと、スバルパフォーマンストランスミッションの超絶レスポンスが味わえるのだ!

↑275PS、375Nmの圧倒的なパフォーマンスを発揮する新開発の2.4L直噴ターボエンジン。さらに、2.4Lエンジンに合わせて開発したスバルパフォーマンストランスミッションを搭載

 

欠点は、燃費が悪いことである。高速道路をゆっくり流しても、10km/Lを超えるのは難しい。日常使いで7km/Lくらい。しかもガソリンはハイオク指定。お財布には決して優しくない。しかし、それがなんだと言うのだ! これだけ速くて快適で気持ちいい実用車など、他にあるだろうか? お値段477万円。高いと言えば高いが、中身を考えればむしろ安いっ! コイツに乗っていれば、BMWの「M」やメルセデスの「AMG」に挑まれても怖くないぜ。

↑張り出しが強調された前後フェンダーが特徴。足回りはZF製の電子制御ダンパーを装備し、路面の状態や車体の動きをセンシングして、リアルタイムで減衰力を可変制御する

 

↑C字型のランプの意匠や六角形の“ヘキサゴングリル”

 

↑C字型のテールランプが目を引くリア

 

↑内装色はブラックとボルドーのツートン。そして思わずデカっと言ってしまいそうな11.6インチ大面積の縦型センターディスプレイ。ここではエアコンやナビの操作、車両の細かな設定などを行える

 

↑ドライブモードセレクトの操作画面。これは「STI Sport」系のグレードに備わる。「GT」「GT-H」系のグレードには、パワートレインの制御のみを切り替えられる「SI-DRIVE」が装備される

 

↑従来モデルより足元スペースが広くなったリアシート。座面長も18mm拡大し、USB電源は2口設けられている

 

SPEC【STI Sport R】●全長×全幅×全高:4755×1795×1500㎜●車両重量:1630㎏●パワーユニット:2387㏄水平対向4気筒直噴ターボ●最高出力:275PS/5600rpm●最大トルク:375Nm/2000-4800rpm●WLTCモード燃費:11.0㎞/L

 

撮影/阿部昌也

 

 

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ターボも加わり、走りの魅力を増したダイハツ新型「ムーヴ キャンバス」試乗

ダイハツの「ムーヴ キャンバス」といえば、ポップなツートンカラーとスライド式の両側ドアを備え、親子での共用を視野に開発されたモデル。どちらかというと女性ユーザーの多い車種でしたが、今回のモデルチェンジでは従来のイメージを踏襲する「ストライプス」に加えて、単色の「セオリー」が追加に。新たにターボエンジンも選べるようになり、ドライブを楽しむクルマ好きの目線で見ても魅力的なクルマに仕上がっています。

 

【今回紹介するクルマ】

ダイハツ/ムーヴ キャンバス

※試乗車:セオリーGターボ(2WD)/ストライプスG(2WD)

価格:149万6000円〜179万3000円(税込)

↑ソリッドカラーの「セオリー」はシックな見た目となり、選択の幅が広がった。全7色

 

ツートンカラーとモノトーンボディの2本立てに

2代目となる新型ムーヴ キャンバスが大きく変わったのはモノトーンカラーでシックな外装の「セオリー」が追加されたこと。従来のイメージを踏襲するツートンカラーは「ストライプス」と名付けられ、イメージの異なる2種類がラインナップされることになりました。

↑ツートンカラーの「ストライプス」は従来のイメージを踏襲。丸みを帯びたデザインもそのままだ。全8色

 

↑リアのナンバープレート装着位置がバンパーまで下げられたことでスッキリした見た目に

 

両者のイメージは、外観だけでなく内装にも反映されています。「セオリー」のほうは、シートもストライプ以外はモノトーンでまとめられ、ダッシュボードもシックなカラーリング。フルファブリックのシートは、ソファのような座り心地を実現しています。

↑「セオリー」のシートはモノトーンで、おとなしめのカラー

 

↑「セオリー」のダッシュボードはツートンカラーだが、シックなイメージになっている

 

↑「ストライプス」のシートは明るめのツートンカラーで、ダッシュボードもイメージは共通

 

ドライブを快適にする装備も充実しています。近年、軽自動車でも増えている大画面のナビは9インチのものをメーカーオプションとして用意。ホットドリンクを良い温度でキープしてくれる保温機能付きの「ホッとカップホルダー」も軽自動車としては初採用しています。電動パーキングブレーキや、オートブレーキホールド機能も採用されました。

↑メーカーオプションの9インチスマホ連携ディスプレイオーディオ。10インチのメモリーナビも選べる

 

↑寒い季節に飲み物の温度を約42℃に保ってくれる「ホッとカップホルダー」を装備

 

↑電動パーキングブレーキを採用し、シートヒーターも装備している

 

ユーティリティの高さも魅力の1つ。両側パワースライドドアにはウェルカムオープン機能が新設定され、降⾞時にインパネのスイッチで予約しておけば、乗⾞時に電⼦カードキーを持ってクルマに近づくだけで、パワースライドドアが⾃動で解錠しオープン。両⼿がふさがっている時でも、キーを取り出すことなくスムーズに乗り込むことができます。後席に乗り込む際だけでなく、買い物の荷物を積み込むときに両手がふさがっている際にも重宝します。

 

従来から好評の後席の「置きラクボックス」も踏襲。シートアレンジやラゲッジの拡張機能も豊富で、コンパクトながら使い勝手は抜群です。さらに、運転席と助⼿席の背⾯についた「シートバックユーティリティフック」にリュックなどの荷物を、サッと掛けられます。ユーザーへのちょっとした心遣いが満載ですね。

↑後席の下に配置され、荷物を気軽に置ける「置きラクボックス」は、荷物を固定しやすいバスケットモードも備える

 

↑開口部の大きなスライドドアから望む車室内は、シートアレンジも豊富でリラックス空間に仕立てられる

 

↑リアシートを倒せばラゲッジスペースを拡大可能。車体から想像するよりはるかに広い

 

↑「ラゲージアンダーボックス」も備えていて、高さのある荷物や傘などを入れるのに便利

 

クルマ好きも満足できる動力性能

パワートレインにターボが追加されたのも、今回の注目点。車体にもDNGA(Daihatsu New Global Architecture)が展開され、約50kgの軽量化も果たしており、走りにも期待が高まります。

↑「Gターボ」グレードに搭載されるインタークーラー付きターボエンジンは64PS/6400rpmを発揮

 

「セオリー」に採用される本革巻のステアリングを握り、少し大きめにアクセルを踏み込むとかなり元気のいい加速感が味わえます。大きめの2眼メーターのタコメーターが俊敏に動き、気分も高揚。車体や足回りも剛性感があって、昔の軽自動車しか知らない人は驚くことでしょう。クルマ好きが乗っても、十分に満足できる走りを実現しています。

↑ステアリングだけでなくシフトノブも本革。足回りも頼りないところはなく、走りを楽しめる

 

↑ターボエンジンの動力性能は十分以上。登り坂や高速道路でもパワー不足を感じることはないはず

 

もちろん、衝突回避支援や駐車支援などの予防安全機能「スマートアシスト」も装備していて、ドライブの安心感や快適性を高めています。免許を取ったばかりの初心者が運転しても不安を覚えることはないはず。親子での共用だけでなく、クルマ好きが選んでも不満を感じることはないだろうと思えます。シックで落ち着いた印象を与えるセオリー、初代の持つかわいらしさを継承しているセオリー。どちらを選びますか?

 

【SPEC(Gターボ(2WD)[G(2WD)]】●全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm●車両重量:900kg[880kg]●パワーユニット:658cc水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラーターボ●最高出力:64PS/6400rpm[52PS/6900rpm]●最大トルク:100N・m/3600rpm[60N・m/3600rpm]●燃料消費率(WLTCモード):22.4km/L[22.9km/L]

 

撮影/松川 忍

 

 

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トヨタ製BEVの先陣を切る「bZ4X」。試乗でわかった高い完成度

トヨタは2021年12月、東京・お台場で合計16モデルものBEV(電気自動車)を一気に公開して大きな注目を浴びました。それまで“BEVには消極的”と言われていたトヨタがここで反転攻勢に転じたのです。bZ4Xはそんな中で、まさにトヨタの歴史にも残るエポックメイキングカーとして登場しました。

 

ただ、発売を発表して間もなく、ハブボルトの不具合によって、リコールと出荷停止という誰もが予想していなかった事態に陥ってしまいました。今のところ、販売再開の見通しは立っておらず、発表したばかりの16代目クラウンが販売延期となったのも同じハブを使っていることではないかと言われています。

 

しかし、bZ4Xを公道試乗すると、初のBEVとは思えない高い完成度にはビックリ!トヨタの電動技術がハイレベルな領域にあることを実感させられたのです。今回はそんなbZ4Xの試乗レポートをお届けしたいと思います。

 

【今回紹介するクルマ】

トヨタ/bZ4X

※試乗車:Z(4WD)

KINTO月額利用料合計:869万7480円(税込)※CEV補助金飲み適用の場合、申込金77万円は含まれておりません

 

安定したデザインと広い車内をもたらしたロングホイールベース

試乗したルートは、軽井沢から東京都内までの約200kmの道のり。一般道と高速道を交えて走行し、途中、充電スタンドでの急速充電も行い、その際の使い勝手も検証しました。bZ4Xはラインナップを「Z」のワングレードとしており、今回試乗したのはその4WDです。なお、bZ4Xはトヨタのサブスク「KINTO」での提供のみとなっています。

 

bZ4Xのデザインテイストは最近のトヨタ車に共通するものですが、それでも冷却のための空気取り入れが必要ないBEVらしく、フロントグリルの高さを最小限にとどめるなど、独自の雰囲気を醸し出しています。ボディ寸法は全長4690mm×全幅1860mm×全高1650mmで、ホイールベースは2850mm。トヨタのSUVである「RAV4」よりもかなり大きいサイズとなりました。

 

特にホイールベースを長くしてタイヤを可能な限り四隅に配置したデザインは、接地性・走破性の高さを表現しつつもスタイリッシュなプロポーションを表現。これがゆったりとした安定感のあるデザインも生み出したと言えるでしょう。

↑フロントグリルを最小化した独特のデザインを持ち、電動車らしいロングホイールベースで安定感のあるデザインを生み出した(写真はいずれも2WD)

 

パワートレーン系は、FWDモデルがフロントに150kWの出力を誇るモーターを搭載するのに対し、4WDモデルはフロント/リア共に80kWのツインモーターを搭載します。搭載したバッテリー(リチウムイオン)は71.4kW/hとし、航続距離はWLTCモードでFWDが500km前後、4WDが460km前後としています。特にこの駆動用バッテリーについては10年後も90%の電池容量維持率を目指したロングライフ設計となっているのも大きな特徴です。

↑試乗した4WDのフル充電時での航続距離は、カタログスペックで460km前後

 

低いダッシュボードとパノラマルーフが開放的な空間を生み出す

車内に入ると、全体に低くしたダッシュボードと、大開口部を持つパノラマルーフが開放的な空間をもたらしていることを実感できます。メーターは視認性を重視するために、ステアリングの上側越しの奥にレイアウトする「トップマウントメーター」をトヨタで初めて採用。これは運転中の視線移動を可能な限り減らせる効果があります。

↑低いダッシュボードにより、広い室内空間を実現している。インパネの運転席側吹き出し口から室内へ放出され、車室内を快適な空気環境に導く「ナノイー X」を搭載(写真はFWD)

 

↑ステアリングの上側越しにメータを配置して、ヘッドアップディスプレイに匹敵する視認しやすさを実現した(写真はFWD)

 

↑12.3インチディスプレイを備えたナビゲーション&オーディオシステム。T-Connectのオプションサービス「コネクティッドナビ」に対応

 

一方で、センターコンソールは中央部に左右を分けるコンソールが配置された一般的なデザインとなっています。最上段には大型ディスプレイを配置し、そこからエアコンの操作パネル、ベンチレーターの吹き出し口、シフトノブがレイアウトされます。ダッシュボードには落ち着いた室内を演出するようにファブリック貼りとなっていました。

↑センターコンソールには、今どきの装備らしく、USB type-Cが装備されていた。一方、音楽再生用としてのUSB端子はスマホの充電スペースに配置された

 

↑オーディオはサブウーファーを含む9つのスピーカー「JBLプレミアムサウンドシステム」

 

室内はとにかく広い! の一言です。特に後席は前席とのレッグスペースがゆったりとしていて、脚を組んで乗車するのも楽々。若干、フロアが高めにはなっており、後席ヒップポイントとの段差が少なめであるのが気になりますが、レッグスペースの余裕がこれを充分カバーしてくれています。ラゲッジスペースもフロアが高めであることはあっても、かさばるものも問題なく収納できる十分な容量がありました。

↑広々とした室内空間を持ちながら、ガソリン車から乗り換えても違和感がない実用性。後席は脚を組めるほどの広いレッグスペースを確保した(写真はいずれもFWD)

 

↑ラゲージスペースはフロアが少し高めだが、かさばるものも収められる十分な容積を確保。幅最小967/最大1288×長さ985×高さ757mm(写真はFWD)

 

ストレスなくスーッと加速するジェントルかつ強力な加速

↑FFモデルはフロントに150kWの出力を誇るモーターを搭載。4WDモデルはフロント/リア共に80kWのツインモーターを搭載する

 

いよいよ試乗のスタートです。起動スイッチを押してシステムを立ち上げると、メーター上に「READY」のマークが表れ走行可能となりました。ここで戸惑ったのがダイヤル式のシフトノブです。ただ、それは最初だけでした。「P」から「D」に切り替えるときは、ブレーキを踏んで右回し、「R」にするときはその逆、左に回転させます。「P」にするときはダイヤル上にある「P」を押せばOK。とてもシンプルで使い始めるとすぐに慣れました。

 

走り始めるととてもスムーズかつ静かであることが伝わってきました。よくBEVではモーターによる低速トルクの強さが強調されますが、bZ4Xはそういった感覚とは異なり、ストレスなくスーッと速度を上げていく感じです。しかもBEVらしい加速が欲しいときはアクセルを強めに踏めば強大なトルクが一気に放たれ、鋭い加速フィールとなって現れます。ただ、これもひたすらジェントルな中で行われ、そこが他のBEVとの大きな違いと言えるでしょう。

 

4WDモデルには、スバルが開発した「Xモード」と言われるドライビングモードが装備されていました。これは主に雪道やぬかるんだ道でのコンディションに適合させたもので、時速40km/h以下でしか作動しません。一般道での利用というより、オフロードを走行するときに使うべきモードと思って良いと思います。

 

ガソリン車から乗り換えても違和感なく使える「回生ブースト」

↑高い完成度に驚かされたトヨタの第一弾となるBEV「bZ4X」

 

ハンドリング操作に対するクルマの動きはとてもスムーズに感じました。低重心と高剛性のシャーシとも相まって、意のままにコントロールできたのです。しかも快適。フロアの剛性が高いこともあって、路面からの遮音もしっかりとしていて、ざらついたコンクリート路面を走ってもその感じがほとんど伝わってこないです。この快適度はBEVの中でもトップクラスにあり、それはレクサスの高級セダンをも凌駕していると言っても過言ではないでしょう。

 

ブレーキング時もどんなタイミングで踏んでも、安定して確実に止まる感じで安心感がありました。万一の急減速に対してもスムーズに反応するし、「回生ブースト」と呼ばれる回生ブレーキも適度な減速Gで、これならガソリン車から乗り換えても違和感はないのではないかと思います。

 

ただ、ペダル一つでコントロールしようとすると物足りなさを感じるかもしれません。「回生ブースト」をONしても効果はそれほど高いものではなかったからです。スバル「ソルテラ」に装備されていて、より細かく回生Gを制御できるパドルシフトがないのも残念に思いましたね。

 

とはいえ、bZ4XはBEVとしてもきわめて高い完成度を発揮しているのは間違いありません。それでいてデザイン性や使い勝手においてもガソリン車から乗り換えても違和感なく使えるのが、いかにもトヨタらしい造り込みをしていると言えます。

 

その昔、トヨタはクルマ作りにおいて決して外さない完成度の高さを誇ってきましたが、このBEVの第一弾となるbZ4Xにもその精神は脈々と引き継がれていることが実感できます。トヨタのBEV戦略の先陣として、その完成度の高さをまずは評価したいと思います。

 

SPEC【Z(4WD)】●全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm●車両重量:2010kg●モーター:フロント・リヤ交流同期電動機●最大出力:フロント・リヤ80+80kW/109+109PS●最大トルク:フロント・リヤ169+169N・m/17.2+17.2kgf・m●WLTCモード一充電走行距離:540km[487km]●WLTCモード交流電力量消費率:134Wh/km[148Wh/km]

※[]内は235/50R20タイヤ&20×7.5Jアルミホイールを装着した場合の数値

 

 

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軽自動車の領域を超えた走りと居心地の良さに脱帽!三菱「eKクロス EV」試乗レポート

電気自動車(BEV)が相次いで市場に登場するなか、より身近な存在となる軽BEVが日産と三菱によって共同開発されました。それが日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」です。サクラは日産の新モデルとして、eKクロス EVはそれまでのeKクロスの派生モデルとしての位置付けです。ここでは、そのeKクロス EVの試乗ポートをお届けします。

 

【今回紹介するクルマ】

三菱/eKクロス EV

※試乗車:P

価格:239万8000円〜293万2600円(税込)

↑三菱「eKクロス EV」の最上位グレード「P」。外観はガソリン車のeKクロスとほぼ同一だが、よく見るとフロントグリルがガソリン車と違って網目になっていない

 

新型軽EVは「eKクロス」の派生モデルとしてラインナップ

今回、試乗したのは最上位グレードの「P」です。その実車を前にして感じるのは、フロントグリルやエンブレムに多少の違いはあるものの、外観はガソリンエンジン車とほぼ同一であるということです。サクラがウインドウやアウターミラー以外をすべて新設計にしたのに対し、eKクロス EVはちょっと見ただけではEVとは気付かないほどです。

 

これについて三菱の開発担当者は、「これはSUVをメインにラインアップしている三菱らしいアイデンティティで臨んだ結果」と話します。アウトランダーやデリカなどで培った三菱らしいデザインが好まれている今、そのデザインをあえて主張することでファンの心をつかもうというわけです。その意味で、新たなEVとして位置付けたサクラとはそもそものコンセプトが基本的に違っています。

 

ところで、eKクロス EVとガソリン車はどう見分ければいいのでしょう。最も簡単なのは運転席側のリアフェンダーにある充電用ソケットの有無です。すれ違うときにこの切れ込みがあればeKクロス EV、なければガソリン車です。これなら簡単に見分けられますね。

↑運転席側リアフェンダーにある充電ソケット。上が普通充電用、下がチャデモ方式の急速充電用

 

そんなeKクロス EVですが、その人気は急速が高まっています。三菱自動車によれば、7月3日までになんと4559台を受注。三菱の販売店は全国に550店舗(21年3月現在)ありますが、なんと1店舗当たり8.3台もの受注を獲得しているのです。しかも千葉県内の某販売店を取材すると「受注の半数は他社ユーザー」と話しており、まさにeKクロス EVは三菱のシェア拡大に大きく貢献していると言って間違いないでしょう。

 

ekクロス EVは2つのグレードがラインアップされました。標準グレードが「G」で、価格は239万8000円。フル装備の上級グレードが「P」で、価格は293万2600円。なかでも注目なのが標準グレードの「G」で、補助金55万円を差し引いて考えれば、実質1848000円となります。補助金は登録(軽の場合は届け出)してからの支払いとなりますが、これによって軽自動車の枠内でEVが買えるようになったとも言えるわけです。

 

セカンドカーとして位置付け、バッテリー容量は20kWhに

では、この価格はどうやって実現したのでしょうか。そのポイントは搭載バッテリーの容量にあります。BEVの航続距離はバッテリーの容量で大きく左右されますが、このバッテリーは高価で、容量を増やせば自ずと車両価格は高くなってしまいます。そこでサクラとeKクロス EVのような新型軽EVでは、この容量を20kWhとしました。これはBEVで先駆けた日産「リーフ」標準仕様が40kWhですから、そのちょうど半分に相当します。

 

リーフはこの容量で322kmの航続距離を実現していますが、対する新型軽EVは180kmにとどまりました。単純に半分になっていないのは車体重量が軽いことが幸いしているのだと思います。とはいえ、エアコンを使って走行すれば実質120~30km程度となってしまうでしょう。はたしてこの航続距離で不足はないのでしょうか。

 

確かにファーストカーとして使うには、この航続距離ではどう見ても役不足であるのは確かです。しかもBEVは充電するのに時間を要します。ガソリン車のように数分で満タンにできるわけではないのです。

↑普通充電中のeKクロス EV

 

そこで、新型軽EVはいずれもファーストカーではなく、セカンドカーとして割り切った使い方を提案しています。バッテリー容量を20kWhとしたことで航続距離は短くなりましたが、三菱によれば、軽自動車やコンパクトカーユーザーの約8割は1日あたりの走行距離が50km以下とのことで、大半のユーザーは2日間以上充電せずに走行できる計算になります。

 

しかもバッテリーの容量が小さければ、それは満充電までの所要時間が短くて済むということもあります。たとえば、セカンドカーとして近所での買い物や送迎を50km程度こなし、夜間は自宅で充電するという使い方を想定すれば、むしろこの少ない容量がメリットをもたらすというわけ。通勤先に充電スポットが用意されていれば、出社している間に充電をしておくという手もあるでしょう。ただ、昨今の電力供給ひっ迫を考えると夜間での充電が望ましいのかもしれません。

 

軽自動車の領域をはるかに超える上質さとトルクフルな走り

そんな使い方を思い描きつつ、eKクロス EVに乗り込みました。運転席に座って真っ先に感心したのは、フロアにバッテリーを搭載している感じが一切なかったことです。乗降性も自然で、ガソリン車のeKクロスと比べてもほとんど違いはありません。さらに後席も十分なスペースを確保しており、大人4人が乗車しても楽に過ごせそうです。

↑オプションの「プレミアムインテリアパッケージ」。インパネはEV専用のフル液晶。9インチ大画面のスマートフォン連携ナビゲーションが装備される

 

これを実現した背景として三菱の開発担当者は、「eKクロスの開発時に、バッテリーを搭載することも想定していた」ことを明かしてくれました。なるほど、だからこそ、BEVとしても優れたパッケージングを実現できていたんですね。

↑プレミアムインテリアパッケージのシートは、ダブルステッチで高級感たっぷりの仕様となる

 

↑「プレミアムインテリアパッケージ」のリアシート。ダブルステッチが施されるのはフロントと同様。大人二人がゆったり過ごせるスペースがある

 

内装はダッシュボードにソフトパッドが貼られ、スイッチ一つひとつにまで質感があります。軽自動車特有の室内幅の狭さを除けば、もはや軽自動車とは思えない上質さを感じるほどです。車載ナビも「アウトランダー」などと基本機能が同様なもので、スマホ連携やSOSコールにも対応した先進性に富んだシステムとなっています(“G”ではオプション)。

↑プレミアムインテリアパッケージでは、ダッシュボードの表面にタッチが心地よいソフトパッドが奢られる

 

↑シフトノブの右側真ん中には、回生ブレーキを利用してワンペダルでアクセルワークがコントロールできる「イノベーティブ・オペレーションモード」が備わる

 

いよいよ公道へと繰り出します。踏み込んだ瞬間、その力強さが半端ないことに気付きました。それもそのはず、最高出力こそ軽自動車の自主規制に合わせて47kW(64PS)にとどまっていますが、規制がない最大トルクはなんと195Nm(19.9kg-m)! これは軽自動車ならターボ付エンジン車の約2倍に相当します。しかも、これがスタート当初から発揮されるのです。この力強い走りは、もはや軽自動車の領域を遙かに超えているとみて間違いありません。実力としていえば2.5L車ぐらいのレベルはあるのではないでしょうか。

↑モーター系のユニットはボンネット内に収まる。モーターには「アウトランダーPHEV」のリアモーターと同一のものが使われている

 

フロアに搭載したバッテリーの効果もあり、乗り心地は常に上質です。BEVだから静粛性も極めて高く、オーディオを楽しむ人にとってもうれしい空間となることでしょう。カーブでは若干ロールがきつめに出ますが、シートがたっぷりとしたサイズで背もたれが包み込む形状なので、コーナリング中もしっかり身体を支えてくれて不安はありません。これなら、たとえ長く乗っても疲れにくいのではないかとも思いました。

↑フロア下に納められた20kWhのリチウムイオン電池(奥の白いユニット)。スペック上の航続距離は180kmを実現した

 

路面からの突き上げ感は低速域で少し強めに出ますが、それも不快な印象はまったくありません。とにかく、軽自動車でここまで仕上がったことにBEVならではのメリットを感じないではいられませんでした。

↑カーゴルーム下には付属の充電ケーブルを収納できる

 

おすすめグレードは「G」。これに適宜オプションを加えるのがベスト

最後に購入することを前提に、標準グレードの「G」と上級グレードの「P」、どちらが良いのかを考えてみたいと思います。

 

「P」は前述したように。スマホ連携カーナビやSOSコール、ステアリングヒーターなどを装備したフル装備モデルです。そのため、価格は293万2600円と300万円に迫る金額となります。ただ、これでも先行車に自動的に追従して走行するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)である「マイパイロット」は“先進安全快適パッケージ(PKG3)”としてオプションになります。走りの良さや車内の居心地の良さを考えると、ちょっと贅沢してみたくなりますが、考えてみるとそれを享受できるほどバッテリーの容量はないのも事実です。

↑ドライバーの運転操作を支援するためのシステム「マイパイロット」は、ステアリング右側のスイッチで設定する

 

↑マイパイロット設定中のインパネ内の表示。車線も認識してステアリングの制御も行う

 

これを踏まえると、あえて「P」よりも下位グレードの「G」を選び、そこに“寒冷地パッケージ(PKG6)”を装備して、ステアリングヒーターや前席シートヒーター(座面)、電動格納式ヒーテッドドアミラー、リアヒーターダクトを追加。さらにカーナビが欲しければ、ディーラーオプションの手軽な機種を組み合わせることで価格も抑えられます。この組み合わせで補助金を考慮すれば200万円前後に収まるはずです。これなら軽自動車の予算ギリギリで収まり、この「G」こそがeKクロス EVのコンセプトに叶った最良の選択になるのではないかと思いました。

↑「P」に標準装備される「スマートフォン連携ナビゲーション(9インチ)」。「G」でも“先進快適ナビパッケージ(PKG2)”のセットオプションとして装着できる

 

↑デジタルルームミラーは「P」、「G」ともにオプションとなる

 

↑「SOSコール」は、「P」に標準装備。「G」ではマイパイロットを含めたセットオプション“先進快適ナビパッケージ(PKG2)”として用意された

 

↑「マイパイロット パーキング」はACCと組み合わせたセットオプション“先進安全快適パッケージ(PKG3)”で装着できる

 

SPEC【P】●全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm●車両重量:1080kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:20kWh●最高出力:47PS/2302〜10455rpm●最大トルク:195N・m/0〜2302rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):180km

 

 

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スバルならではの走りへのこだわりを実感!スバル「ソルテラ」試乗記

スバル初の電気自動車(BEV)スバル「ソルテラ」がいよいよ市場に登場しました。トヨタの「bZ4X」と同じe-TNGA思想をベースにしながらも、生粋のスバルファンを念頭に置いて開発されただけあって、試乗してみるとソルテラからは意外なほどbZ4Xとの違いを実感できました。走りにこだわりを見せたソルテラの試乗レポートをお届けします。

 

【今回紹介するクルマ】

スバル/ソルテラ

※試乗車:ET-SS(AWD)

価格:594万円〜682万円(税込)

 

魅惑的なスタイリッシュなデザイン

ソルテラを前にすると、エクステリアからして姉妹車であるbZ4Xとの違いを明確に示していることがわかります。ソルテラのボディサイズは全長4690mm×全幅1860mm×全高1650mmで、SUVとしては低めのクーペ風の流麗なルーフラインをもっています。Aピラーやリヤウインドウはまるでスポーツカーのような傾斜があり、そのスタイリッシュなデザインにはつい惹かれてしまうほどです。

↑写真はET-HS(AWD)。ボディカラーはツートンを含め、全10色から選べる

 

ソルテラならではのデザインも随所に見ることができます。フロントマスクをスバルの基本モチーフに倣った六角形とし、ヘッドランプもデイライト部分をC字型形状として違いを強調。リアコンビランプもC字型意匠とすることでスバルならではのデザインの統一性を図っています。細かなところでは、充電ポートがあるフタを、bZ4Xが「ELECTRIC」としたのに対し、ソルテラは「EV」として違いを見せています。

↑スバルのアイデンティを示すC字型デイライト

 

↑EV用充電ポートのフタには「EV」のロゴマーク。急速充電と普通充電に対応する

 

インテリアはデザインも含め、基本的にbZ4Xと共通の部分が多くなっています。ダッシュボードは独特の風合いを伝えるファブリック製であることや、航空機のコックピットを彷彿させる12.3インチの液晶パネルによるメーターもほぼ同じデザインです。それでも、オーディオのブランドをbZ4Xが「JBL」としたのに対し、ソルテラは他のスバル車と同様に「ハーマンカードン」を採用しています。シートヒーターの作動範囲に若干変更を加えるなど、このあたりからもスバルらしいアイデンティティを感じさせます。

↑12.3インチディスプレイを備えたナビゲーション&オーディオシステム

 

↑リヤシートバックを前に倒せば広々とした空間。カーゴルームは最大441L(ET-SSは最大452L)と、SUVらしく広々としたスペースを確保している

 

↑他のスバル車と同様にオーディオブランドには「ハーマンカードン」が採用された。写真はカーゴルームに設置されたサブウーファー

 

また、ソルテラにはbZ4Xにはないパドルシフトも備えられました。さらにソルテラは最低地上高が210mmと高めとしています。これは、BEVであってもスバルらしい悪路走破性を確保することが重視されたからなのです。これは後述する雪上での試乗で実感することができました。

↑ 運転機周り。ステアリングには回生ブレーキを細かく調整できるパドルシフトが備わる

 

そして、ソルテラとbZ4Xの最も大きな違い、それは販売方法です。実はbZ4Xはトヨタが運営するサブスクリプションサービス「KINTO」でのみしか買えませんが、ソルテラは他のスバル車と同様、普通にクルマとして購入できます。残価設定ローンを組むことはもちろん、現金でスパッと支払うことも可能です。これは想定する販売台数の違いもあるでしょうが、BEVの販売で慎重を期するトヨタの姿勢がここに現れたのではないでしょうか。
 

雪道、公道で試乗した感想

ソルテラのプロトタイプに最初に試乗したのは、正式な発表を前にした2月のことでした。場所は一面の積雪で覆われた群馬サイクルスポーツセンターで、この時は除雪もままならない雪深い中での試乗会となったのです。本来なら寒さに弱いBEV向けとしてこの場所は適切ではないはずです。それにも関わらずこの悪環境が選ばれたのは、BEVであってもしっかり対応できるソルテラの走りを体験して欲しかったという思惑があったのに他なりません。

↑ ET-HS(AWD)。駆動用リチウムイオン電池の総電力量は71.4kWh

 

ソルテラはEV専用プラットフォームが採用されています。フロア下には71.4kWhの大容量リチウムイオンバッテリーが搭載され、そこから生み出される航続距離はFFで530km前後、AWDで460km前後となっています。そして、雪の中で試乗したのはソルテラのAWDでした。前後に80kW/168.5Nmの出力するモーターを配置し、計160kW/337Nmを発揮します。参考までにFF車は150kW/266Nmのモーターが前輪側に配置されます。

 

スペックからすると、さぞかし強力な加速フィールが体感できるかと想像しましたが、意外にも穏やかです。FF車があることから前輪駆動をメインにしているのかと思いきやそうではなく、後輪駆動をメインとした走りとなっていました。アクセルを踏むと後ろから押し出される感覚が伝わってきます。しかし、穏やかな加速ゆえに雪上でも不安感はまるでなし。むしろ、滑りやすい状況下でもコントロールしやすく安定感があり、「これぞスバルのEVなのか!」と思わせるに充分でした。

↑AWDシステムとして、前輪/後輪をそれぞれ80kWのモーターを個別に駆動する新システムを採用した

 

さらにソルテラにはbZ4Xにはないパドルシフトがあります。これはブレーキ回生の強さを変えるためのものとして搭載されましたが、特にデリケートな雪上路では、下り坂でもフットブレーキを使わずに回生を使って減速できるメリットがあります。bZ4Xにも「Sペダルドライブ」が装備されていますが、きめ細かなコントロールとなればソルテラのパドルシフトに軍配が上がると言っていいでしょう。

↑シフトスイッチは押して回すタイプ。操作スイッチの右上には回生ブレーキとして使うSペダルドライブのスイッチがある

 

次にソルテラに試乗したのはそれから4か月が経った6月。今度は一般道と高速道を含めた公道で試乗しました。

↑埼玉県長瀞から都心に向けて少し長めの試乗

 

シートに改めて座ってみると、その着座位置が若干高めであることに気付きます。これはフロアにバッテリーを搭載したことによるものですが、SUVとして考えればこのアイポイントの高さが前方視界の広さをもたらし、これが走行中の安心感も生み出してくれています。メーターはステアリング越しの奥に見通せる仕掛けで、最小限の視線移動で走行情報が得られるというもの。これはこれで近未来的ではありますが、一方で表示内容は意外にも普通で、もう少しハイテク感を伝えて欲しかったようにも思いました。

↑ET-HS(AWD)。ブルーステッチのタン本革シートが標準で備わる

 

↑リアシートにもシートヒーターが備わる。後席の足元には、足を伸ばしてくつろげるほどのスペースが広がっている

 

↑リアシートのヒートスイッチは3段階で調整が可能。スマホなどの充電はUSB-Cタイプ

 

スタート直後にステアリングを切ると軽過ぎず、程良い重さの操舵力が伝わってきました。235/50R20(ET-HS(AWD)の場合)サイズのタイヤを履き、ショックオブソーバーの減衰力を強めにセッティングしているにもかかわらず、低速走行中の道路の段差も上手に丸められており、乗り心地は十分に納得できるレベルです。また、遮音性の高さも優れ、高速道路に入るとその静けさはいっそう際立つことになりました。

 

一方で、加速はBEVにありがちな強烈な加速感はありません。しかし、一般道から高速道までどの領域でも俊敏に反応するのはまさにBEVならではの魅力です。ガソリンエンジン車と比較するのも変な話ですが、トルク感からすればあきらかに3Lを超える大排気量車に匹敵するレベルにあると思いました。重心の低さはコーナリングでも高い接地性を発揮し、しかもステアリングを切ったときの回頭性も良好。パドルシフトによるきめ細かな回生は峠道で程良い減速を発揮し、コントロールがとてもしやすいのが印象的でした。

 

もう少し電動車らしさが欲しかった

ソルテラを試乗して実感したのは、これまでのBEVと比べて走りが電動車然としていないことです。強力な加速感もなければ、回生による強い減速Gもなく、ひたすらマイルドに抑えられていたのです。これならガソリン車から乗り換えても違和感はほとんど感じないで済むでしょう。

 

ただ、モーターの制御次第でもっと電動車らしさを発揮できたはずです。開発陣の話では「ガソリン車からの乗り換えユーザーを想定すると、より自然に体感できる制御の方が適切」と考えたということでした。つまり、ソルテラは意識して電動車らしさを打ち消して開発が行われていたのです。

 

たしかにクルマとしての特性が急激に変化すれば、ユーザーは違和感を感じるかも知れません。ただ、個人的にはスバル初のBEVであるわけで、それならばもっと電動車ならではの特徴を活かしたセッティングでも良かったのではないかとも思いました。クルマとしての仕上がりが素晴らしかっただけに、その辺りは残念に思いました。今後、第二弾、第三弾と次期モデルが登場するに従い、そうした特徴がより前面に出てくるのかもしれません。今後の進化に期待したいですね。

 

SPEC【ET-HS(AWD)】●全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm●車両重量:2030kg●モーター:フロント・リヤ交流同期電動機●最大出力:フロント・リヤ80kW/4535-12500rpm●最大トルク:フロント・リヤ169N・m/0-4535rpm●WLTCモード一充電走行距離:487km●WLTCモード交流電力量消費率:148Wh/km

 

 

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コンパクトサイズでも存在感は十分! ダイハツ「ロッキー」はハイブリッドも魅力的だった

1LクラスのコンパクトなSUVとして、兄弟車のトヨタ「ライズ」とともに人気を博しているダイハツ「ロッキー」。そんなモデルにハイブリッドモデルと、1.2Lのエンジンを搭載したモデルが新たに加わりました。特にハイブリッドモデルは、自社製の「e-SMART HYBRID」と呼ばれるユニットを搭載した意欲作です。

 

【今回紹介するクルマ】

ダイハツ/ロッキー

※試乗車:Premium G/Premium G HEV

価格:166万7000円〜236万7900円(税込)

 

コンパクトでも小さく感じない外観と室内

5ナンバーサイズのコンパクトなSUVである「ロッキー」。コンパクトSUVとしてはトヨタの「ヤリス クロス」と比較されることも多いですが、ヤリス クロスは3ナンバーサイズであることを考えると、ロッキーは並ぶもののない存在です。外観デザインは、SUVらしい車高を確保し、デザインもフェンダーの張り出しを強調したラインなど存在感のあるもので、見た目で小ささは感じません。

↑大きめのライトを中心にデザインされたフロントフェイスは迫力があるもの

 

↑ハイブリッドモデルはグリルのデザインも変更され、エンブレムはブルーとされる

 

↑兄弟車のトヨタ「ライズ」(右)も基本設計は同一ながらフェイスデザインは異なる

 

車内に入っても、意外なほど狭さは感じません。運転席からの視界が広く確保されていることが、車室内を広く感じるのに一役買っているようです。リアシートに移っても、前席との隙間が確保され、足元もヘッドスペースも狭さを感じさせないものです。ファミリーカーとして購入しても、後席から不満が出ることはないでしょう。

↑SUVとしてはコンパクトなサイズですが、視界が広い分狭さは感じない

 

↑リアシートは足元・ヘッドスペースともに十分確保されている

 

ラゲッジスペースは後席を使用した状態で369L(2WD/ガソリンエンジン車)と十分な容量を確保。アンダーラゲッジが深く、キャンプなどの荷物も詰め込むことができます。2段階可変式のデッキボードも設置でき、荷物を上下に分けて収納することも可能です。

↑深さのあるラゲッジスペース。コンパクト車を得意とするダイハツのノウハウが感じられる

 

↑ハイブリッド車と4WD車はアンダーラゲッジのスペースがやや狭くなる

 

↑デッキボードを設置し、6:4分割式のリアシートを倒すとフラットなスペースを作れる

 

ダイハツが自社開発したハイブリッドユニット

従来のパワーユニットは996ccの3気筒ターボのみでしたが、新たに1196cc3気筒NAエンジンと、ハイブリッドが追加に。特に注目されるのがダイハツが自社開発したハイブリッドユニットで、エンジンを発電機として用い、駆動はモーターで行うシリーズ式とされています。トヨタからの提供ではなく、自社で新たにハイブリッドシステムを開発したのは、将来的に軽自動車への搭載も視野に入れているためでしょう。搭載される「e-SMART HYBRID」では1196ccのエンジンを搭載していますが、発電機として使用するシリーズ式なら軽自動車にも転用しやすそうです。

↑「e-SMART HYBRID」のパワーユニット。新型の1.2Lエンジンを発電機として搭載する

 

↑ハイブリッド用のバッテリーは後席のシート下に搭載する

 

↑こちらは新型の1196cc3気筒NAエンジン。最高出力は87PS/6000rpm

 

駆動はモーターで行うため、出だしから機敏な加速が味わえます。バッテリー電力のみでの走行距離は限られていて、アクセルを少し踏み込むとすぐにエンジンがかかりますが、システムでの燃費はWLTCモードで28km/Lなので、1.2Lエンジンの20.7km/L、1Lエンジンの17.4km/Lと比べるとかなり伸びています。

↑メーターの表示は3種類から選べ、ハイブリッドシステムの運転状態がわかる

 

モーターの最高出力は106PS、最大トルクは170Nmとシリーズの中では最もパワフル。一般道から高速道路まで走行しましたが、コンパクトな車体をしっかり加速させ、追い越し加速でも余裕のあるものでした。アクセルに対するレスポンスの良さは、モーターならではのもので俊敏な加速が味わえます。アクセルを戻すと、回生ブレーキが効く設定で、停止までは行かないものの、ある程度はワンペダルでの走行も可能。加減速の多い街中では便利なシステムです。

↑信号待ちからの加速はモーター駆動の真骨頂。交通の流れをリードできます

 

1.2Lエンジンも試乗しましたが、こちらも低速トルクに余裕があり、NAエンジンらしい吹き上がりも感じられて一般道から高速道路まで不満は感じません。ハンドリングはSUVらしいストロークの長さが感じられ、それでいて車体はコンパクトなので狭い街中での取り回しも良好。SUVに乗りたいけれども、普段は細い道を走る機会も多いという人には、またとない選択肢でしょう。

↑SUVらしい視点の高さでキビキビ走れる取り回しの良さが魅力

 

コンパクトカーを得意とするダイハツらしい完成度の高さで、独自のシェアを築いている「ロッキー」。ハイブリッドが選択肢に加わったことで、さらに魅力を増しています。ハイブリッドモデルになると、価格的に「ヤリス クロス」も視野に入ってくるところですが、5ナンバーサイズに収まるボディは大きなアドバンテージ。夫婦でクルマを共用し、SUVがほしいけれど普段は奥さんが運転する機会が多いというような人には、ありがたい選択肢となるでしょう。

 

SPEC【Premium G/Premium G HEV】●全長×全幅×全高:3995×1695×1620mm●車両重量:980kg(1070kg)●パワーユニット:水冷1.2L直3気筒12バルブDOHC横置●最高出力:64kW[87PS]/6000rpm(60kW[82PS]/5600rpm【モーター78kW[106PS]/4372〜6329rpm】)●最大トルク:113N・m[11.5kgf・m]/4500rpm(105N・m[10.7kgf・m]/3200〜5200rpm【モーター170N・m[17.3kgf・m]/0〜4372rpm】)●WLTCモード燃費:20.7km/L(28.0km/L)

※()内はPremium G HEVの数値

 

撮影/松川 忍

 

 

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これが世界のスタンダード! ホンダ新型「シビック」の完成度を調べてみた

1972年の初代モデル発売から、今年で50周年を迎え、累計販売台数は2700万台を超えるホンダの「シビック」。世代によって、この車名を聞いてイメージする姿はそれぞれでしょう。40代半ばの筆者が真っ先に思い起こすのは、コンパクトなハッチバックのシルエット。免許を取って間もない若者でも乗りやすく、それでいて走りも良いクルマというイメージでした。

 

そんな時代からすると、サイズも大きくなり車格も上がった現行の「シビック」。約7年間の日本で販売されない期間(「タイプR」のみ限定で販売)を経て、先代モデルで日本市場に復帰し、今回乗ったモデルは11代目に当ります。世界的に見るとホンダ車の中で2番目に売れているという現行「シビック」の完成度を探りました。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/シビック

※試乗車:EX

価格:319万円/353万9800円(税込)

 

上質さと落ち着きを感じさせる外観・内装デザイン

現行「シビック」で国内販売されるのは、5ドアハッチバックのボディタイプ。グレードは「EX」と「LX」の2種類が用意されますが、今回乗ったのは上位の「EX」グレードです。低く抑えられたボンネットから、リアに向けて水平基調で伸びるラインはシャープで、キャビンの形状はクーペライクなもの。20世紀に販売されていた「シビック」のハッチバックと比べると、大人向けのデザインになったと感じます。

↑よけいな威圧感はないものの、確かな存在感を漂わせるヘッドライトデザイン

 

↑テールエンドに向かってなだらなに収束するクーペのようなラインが特徴

 

フロントウィンドウは見るからに広く、視界が良さそう。車内に移動しても、開放感のある視界が実感できます。「EX」グレードは内装にレッドステッチや合成皮革が多用され、上質な仕上がり。落ち着ける空間が演出されています。

↑広いフロントウィンドウには「Honda SENSING」用のカメラも装備

 

↑水平基調で高さを抑えたインパネのラインで開放感のある広大な視界を確保

 

↑ハニカムデザインのエアコンの吹出口など、細かい部分にも配慮が感じられます

 

シートに身を沈めると、適度なホールド感と、それでいてどこにも窮屈さを感じさせない座り心地が味わえます。昨今流行りのSUVに比べると明確に低い着座位置に、ワクワクしてしまうのは世代のせいでしょうか。レザー製で適度な太さのステアリングホイールも、握り心地が良く、ドライビングへの期待感を盛り上げます。

↑上質な座り心地で、タイトな印象はないのにしっかりと体をホールドしてくれるシート

 

爽快さを存分に味わえるドライブフィール

搭載されるエンジンは1.5Lの直噴VTECターボ。最高出力は182PS/6000rpmで最大トルクは240Nmを1700〜4500rpmという低回転から広い領域で発揮します。組み合わせられるのは6速MTとCVTの2種類で、この時代に初期受注の約4割がMTという比率の高さに驚かされます。

↑現在、ホンダの主力パワートレインといってもいい1.5L直噴VTECターボエンジンを搭載

 

まずドライブしたのは6速MTのほう。先代モデルもMTの出来が良く「乗るならMTがいい」と強く感じたものですが(販売台数の約3割がMTだったとの事)、その印象はさらに強まりました。手首の動きだけでシフトが決まり、コクっとゲートに収まるフィーリングも良くなっているので、低速でも適度なクルマを操っている感が味わえます。また、エンジンも高回転になるほどレスポンスが高まるので、シフトを駆使して気持ちの良い回転数を維持するのが本当に爽快です。

↑金属製のノブに革を巻きつけたデザインとなり、フィーリングもさらに向上した6速MT

 

↑MTでも機能するACCなど、「Honda SENSING」の出来の良さも好印象

 

CVTに乗り換えても、爽快なフィーリングは変わらず。CVTにありがちなエンジンとタイヤの間にクッションがあるような感覚ではなく、ダイレクトに駆動力が伝わっているような印象です。特にアクセルを大きく開けた加速時や、ブレーキング時には段階的な変速を行う、ステップアップ/ダウンシフト制御が搭載されているので、エンジンの気持ちよさを存分に味わうことができました。

↑CVTでは「ノーマル」「スポーツ」「ECON」の3つのモードが切り替え可能

 

足回りは硬さは感じないものの、全体的にしっかりしていて、絶大な接地感が伝わってきます。低速で市街地を走っていても、ゴツゴツした印象は一切ないものの、確実に路面を捉えている感覚。高速道路では直進安定性が高く、「Honda SENSING」と相まって、長距離ドライブの疲労は確実に少ないでしょう。ワインディングでもしなやかに動く感覚は変わりませんが、荷重の増える分、路面にタイヤを押し付ける感覚が強まり、速度に合わせてスポーツしている感覚も高まってきます。ステアリングを切ると、低いノーズがスッとインに向いてくれて意のままに操れる感覚はまさに爽快。現行「シビック」の開発コンセプトである“爽快”をまさに体現する走りです。

↑硬さは感じないものの、確実に路面を捉え、意のままに動く爽快な走りが味わえます

 

高いユーティリティ性も確保

スポーツカー並みに楽しい走りが味わえる「シビック」ですが、居住性やユーティリティ性も高次元で両立しています。クーペのようなシルエットではありますが、実際にリアシートに座ってみると、ヘッドスペースに窮屈さは全く感じません。足元の空間も広く、家族をリアシートに乗せても不満が出る心配は皆無でしょう。

↑身長175cmの筆者が座っても、窮屈さを感じないリアシート

 

ラゲッジスペースは合計452Lと大容量。かつ開口部も広いので荷物の出し入れはしやすく、使い勝手はかなり良さそう。シートは6:4分割式で倒すとフラットに近いスペースを作り出すことができます。同クラスのSUVと比べても遜色のない容量と使い勝手で、気を使う部分といえば車高が低い分、重い荷物の積み下ろしで腰をかがめる必要があるくらいでしょう。ちなみに、シートを倒した状態で寝転んでみましたが、大人1人が体を伸ばして寝られる広さはありますが、途中に高低差があるので、流行りの車中泊にはちょっと向かないかもしれません。

↑荷室の床が下げられ、大容量を実現しているラゲッジスペース

 

↑6:4分割式のリアシートを倒すことで、さらに広大なスペースを確保できます

 

↑横引きタイプのカーゴエリアカバーに加えて、テールゲートにも荷物を見えなくするカバーが取り付けられます

 

街中では乗り心地が良く、高速道路では疲労の少ない安定感があり、ワインディングでは爽快な走りが味わえる。それでいて、ラゲッジスペースも広くて使い勝手も良いので、この価格帯ではライバルとなるであろうSUV勢に対しても劣るところがありません。使い勝手の良さと走りの楽しさを高次元で両立しているのは、歴代「シビック」の共通点ですが、現行モデルはさらに上質さが加わっている印象です。

 

違いのわかる大人向けのクルマと言いたいところですが、海外では若い世代に売れているとのこと。これが現在の世界のスタンダードだということでしょう。確かに、ここまで走らせる楽しさを味わえ、使い勝手と上質さも併せ持つクルマはなかなか思い浮かびません。国内での販売計画台数は月1000台と控えめですが、現行モデルのシビックはもっと売れてしかるべきと感じた試乗体験でした。

↑米国では「2022北米カー・オブ・ザ・イヤー」も受賞しています

 

SPEC【EX】●全長×全幅×全高:4550×1800×1415mm●車両重量:1360kg【6速MT1330kg】●パワーユニット:1.5L直4 DOHC 16バルブ●最高出力:134kW[182PS]/6000rpm●最大トルク:240N・m[24.5kgf・m]/1700〜4500rpm●WLTCモード燃費:16.3km/L

 

撮影/松川 忍

 

 

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売れている理由を体感! ホンダ新型「ヴェゼル」のクラスを超えた魅力

今年3月の受注開始以来、すでに約3万台もの受注を集めているホンダの新型「ヴェゼル」。世界的に人気の高いコンパクトSUV市場の中にあっても、厚い支持を集め続けているモデルです。イメージを一新し、ホンダの新しい“顔”となるモデルがどんな魅力を持っているのか、実車で体感してきました。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/ヴェゼル

※試乗車:e:HEV Z(FF)

価格 227万9200円〜329万8900円(税込)

↑ボディカラーはツートーンカラーを含め全11色。写真のボディカラーはプラチナホワイト・パール

 

 

写真で見るより実車はカッコいい

従来モデルから大きくイメージを変えたのが外観デザインです。大きめのフロントグリルと切れ長のライトを組み合わせたフロントフェイスは、発表時に写真で見た限りではあまり良い印象を持っていませんでした。しかし、実車を目の前にすると、この印象を覆すほどカッコいい。特に少し角度をつけて斜め前から見ると、グリルの微妙な凹凸が付けられたデザインにグッときます。平面で見る写真では、この辺りの3Dなデザインが伝わりにくいのが、当初の印象の要因だったようです。

↑この角度から見ると、グリルの3Dデザインがわかりやすい。メッキではなく同色に塗られているのも好印象

 

SUVでありながら、クーペ風に絞り込まれたシルエットは従来モデルから継承されていますが、新型はテールランプが水平基調となり、さらにスマートな印象となっています。

↑キャビン後方の造形はクーペのような流麗なラインを維持

 

↑スタイリッシュな印象を決定づけるウインドウと一体化したデザインのドアノブも継承される

 

↑テールランプは薄型で水平に伸びたデザインとなり、スッキリとした見た目に

 

広くなったように感じるインテリア

車内に足を踏み入れると、前モデルよりも広くなったように感じます。全幅は20mm広くなっていますが(「RS」「Touring」グレードとは同一)車体サイズはほぼ同一なので、インテリアのデザインが、「フィット」などと同じく水平基調で高さを抑えたものになっているこのが要因でしょう。個人的には華美な装飾を抑えた、オーセンティックな作りが好印象です。

↑飾った所のないインテリア。水平に広がるデザインで見通しも良い

 

リアシートに乗り込むと、広くなったという印象はさらに強くなります。ヘッドスペースは大きく変わりませんが、足元、特にヒザの辺りの空間が広くなっているのです。聞けば先代モデルより35mm広くなっているとのこと。コンパクトSUVは後席の居住性がやや狭く感じるものも少なくありませんが、この広さは特筆モノです。

↑フロントシートを大人が乗って快適な位置に合わせても、後席のニークリアランスは余裕がある

 

もう1つ触れておきたいのがラゲッジスペースです。6:4分割のリアシートは前に倒すと座面ごとダイブダウンするので、限りなくフラットな荷室空間が出現します。これだけフラットになるSUVの荷室はなかなかありません。荷物の積み下ろしがしやすいだけでなく、車中泊もできそうです。試しに寝転んでみましたが、見た目以上にフラットで、大人1人であれば快適に寝られそうでした。

 

↑身長175cmの筆者でも車体に対して斜めになれば横になれます。この状態でも、床面に角度がないので快適

 

細かい部分にも配慮を感じる

細部に目を向けても車内で快適に過ごすための配慮が行き届いているのが感じられます。フロント左右のエアコン吹き出しには「そよ風アウトレット」と呼ばれる機構を装備。これは、通常のエアコン吹き出し口の外側に、もう1つのアウトレットを備え、乗員の体に直接風を当てることなく車内を涼しく(冬は暖かく)保てるものです。

↑運転席側と助手席側はそれぞれ吹き出し口を選べるため、隣に女性を乗せた場合に、直接冷風を当てないようにできる

 

ドアのデザインは、ステップ部分まで覆う形状に。これはオフロードなどを走った際などに、ステップの部分に泥が付くことを防ぐための構造。乗り降りの際に、ステップの汚れが服の裾などに付かないようにというSUVらしい配慮です。

↑ドアが下に伸びてステップまで覆うことで、アウトドアユースでの服の汚れを防いでくれます

 

↑「e:HEV PLaY」グレードに装備される「パノラマルーフ」は開放感の高さが魅力

 

↑リアゲートは予約クローズ機能や、ハンズフリーでの開閉にも対応。トノカバーが吊り下げ式になっているのも便利です

 

クラスを超えた走行性能

今回試乗したのは「e:HEV」と呼ばれるハイブリッド・パワートレーンを搭載したグレード。先代モデルのハイブリッドは「i-DCD」という1モーターのパワートレーンでしたが、e:HEVは2モーターです。基本的にはエンジンを発電用に用い、駆動はモーターが担うシステムですが、エンジンの効率が高くなる高速クルーズ時だけは、エンジンを駆動に用います。加速力に優れるモーターと、一定速でのクルージングで効率が高まるエンジンの得意なところをそれぞれ活かしたパワートレーンといえます。

↑e:HEVはモーター走行のEVモードを中心に、ハイブリッドモード、エンジンモードと様々なドライブモードを使い分けます

 

「i-MMD」と呼ばれていた頃から、そのパワートレーンを搭載したモデルはいくつも乗ってきましたが、完成度にますます磨きがかけられている印象です。発進時はモーターらしい力強い加速が味わえ、中間速度での加減速もスムーズ。過去にドライブした際には、発電機として用いているため、アクセル開度に関わらず一定回転で回り続けているようなエンジン音に違和感をおぼえたこともありましたが、新型「ヴェゼル」ではそうした違和感もほぼ払拭されています。

↑モーターならではのスムーズで力強い加速感が「e:HEV」の魅力

 

そして、最も感心したのが足回り。大径ホイールを履き、サスペンションのストロークが長いSUVは舗装路を一定以上のペースで走るとフワフワと落ち着かない印象を受けたり、逆にサスペンションを締めすぎているように感じるモデルも少なくありません。しかし、新型「ヴェゼル」は足回りがしなやかに動きつつも、しっかりと路面を捉え、速度が上がってもタイヤを路面に押し付け続けてくれている印象。低速域では路面の凹凸をいなすように乗り心地が良く、高速域ではしっかり踏ん張ってくれるような足回りです。

↑重心の高いSUVでありながら、コーナーリングも楽しめる

 

2019年、先代モデルに「TOURING」グレードが追加された際、コーナーリング性能の向上に驚いた記憶が鮮明に残っていますが、聞けば新型はこの「TOURING」と同等のボディ剛性を基本に、足回りをさらに煮詰めているとのこと。ボディ剛性を高めることで、サスペンションは柔らかくすることができ、しなやかな動きを実現しているのです。足回りの完成度だけで言えば、2クラスくらい上の高級SUVにも勝るとも劣らない印象でした。

↑街乗りや高速クルージングは快適で、ワインディングに入ればコーナーが楽しい

 

試乗の最後に、限られた時間ですがパワートレインがガソリンエンジンの「G」グレードにも乗ってみました。受注状況は「e:HEV」が93%を占めるとのことでしたが、ガソリンモデルも好印象。出だしの加速や、しっとりした走行感はハイブリッドに分がありますが、バッテリーを積んでいない軽さからくる素直なハンドリングに、こちらも捨てがたいと感じました。メーカー担当者いわく「素うどんのような」グレードとのことでしたが、その分、このクルマの素性の良さが味わえた気がしました。これから選ぶのであれば、どちらも一度乗ってみることをおすすめします。

 

SPEC【e:HEV Z(FF)】●全長×全幅×全高:4330×1790×1590mm●車両重量:1380kg●パワーユニット:1496cc直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD)●最高出力:78kW[106PS]/6000〜6400rpm【モーター96kW[131PS]/4000〜8000rpm】●最大トルク:127N・m[13.0kgf・m]/4500〜5000rpm【モーター253N・m[25.8kgf・m]/0〜3500rpm】●WLTCモード燃費:24.8km/L

 

撮影/松川 忍

 

 

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ホンダ「シビック TYPE R」を試乗してスポーツカーの魅力について考えてみた

ホンダのスポーツモデルの代名詞的な位置付けになっているのが「シビック TYPE R」。1997年にグレードとして追加され、現行モデルは5代目となります。多くのメーカーが高性能車をテストするニュルブルクリンク北コースにおいて、FF市販車世界最速の記録を残していることを記憶している人も多いでしょう。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/シビック TYPE R

価格:475万2000円

 

搭載されるエンジンは2000ccのVTECターボで最高出力320PSと最大トルク400Nmを発生。正直なところ、公道ではフルパワーを発揮するシーンはありません。それでも、このマシン、発売から間をおかずに予定していた販売台数が終了するほどの人気を博しています。実際に最新型に試乗しながら、その理由について考えてみました。

↑ハイパワーなだけでなく、超軽量クランクトレーンや軽量アルミ製ピストンを採用し、俊敏なレスポンスと13km/L(WLTCモード)という好燃費を両立するエンジン

 

熟成の域に達したマイナーチェンジ

2020年10月にマイナーチェンジを果たしたこのモデル、次期型「シビック」の登場が噂されている状況でもあり、現行の“最終バージョン”といえる完成度。生産拠点である英国工場の閉鎖も決まっているため、今後の去就も注目されるところです。

↑歴史ある“TYPE R”のエンブレムが次期型にも受け継がれることが期待される

 

マイナーチェンジによる変更点は、まさに熟成の域に達したものです。押しの強いスタイリングはそのままに、フロントグリルの開口面積を拡大し、冷却性能の向上とダウンフォースレベルを強化。ブレーキには2ピースタイプのフローティングディスクを採用し、ハードブレーキング時のフィーリングを向上させるなど、サーキットを主舞台とするマシンらしい進化を果たしています。

↑前後バンパーの形状を小変更し、冷却性能をアップ。ダウンフォースも向上させている

 

ベースモデルは「シビック」のハッチバックですが、「TYPE R」は遠目で見てもベース車とは異なるオーラを放っています。張り出したブリスターフェンダーや大型のリアスポイラー、タダ者ではない雰囲気の20インチホイールなど、圧倒的な存在感があります。

↑大型のスポイラーだけでなく、小さなエアロスタビライジングフィンが刻まれているのが本気のマシンである証

 

サスペンション性能もブラッシュアップされています。電子制御のアダプティブ・ダンパー・システムやサスペンションブッシュのアップデートによって、ハンドリング性能を向上。スポーツ走行時のダイレクト感を増すとともに、荒れた路面での接地性・制振性も進化させています。

↑熱に強いツーピースディスクを採用することでサーキットでのブレーキフィールを向上

 

↑3本のセンター出しマフラーから響くエキゾーストノートに気分がさらに高まる

イメージカラーの「レッド」で彩られた内装

内装に目を向けてもステアリングの表皮がアルカンターラとなり、シフトノブの形状も従来の丸型からティアドロップへと変更。より操作精度を高めました。

↑ステアリングホイールは握りやすくフィット感の高いアルカンターラに

 

↑ティアドロップ形状となったシフトノブは、触れただけでシフト位置が把握しやすい

 

「TYPE R」のイメージカラーであるレッドに彩られた内装に気分を高ぶらせながら、ホールド性に優れたバケットタイプのシートに体を滑り込ませます。着座位置は低く、これぞスポーツマシンという視界。エンジンをスタートさせると、迫力ある音が耳だけでなくお腹にも響いてくるように感じました。

↑体を包み込むようにホールドするバケットシートにも「TYPE R」のエンブレムが

 

↑本気のスポーツモデルでありながら、後席の居住性も高く、シートを倒せば広大なラゲッジスペースが出現することもこのマシンの魅力

「TYPE R」はクルマを操る“楽しさ”を味わえる

6速MTのシフトを操作してクラッチをつなぐと、外観や排気音からすると拍子抜けするほどスムーズに走り出せます。街中を走らせていても乗り心地はかなり快適。マイナーチェンジ前のモデルよりもサスペンションのゴツゴツ感はやわらいでいる印象で、アダプティブ・ダンパー・システムの制御が緻密になっていることが、低速域での乗り心地にも効いているようです。

 

このマシンにはCOMFORT、SPORT、+Rの3つの走行モードがありますが、特にCOMFORTモードでの快適性が向上している印象でした。とはいえ、COMFORTといえども操作に対するダイレクトなレスポンスはスポーティーなクルマ並み。SPORTモードでは本気のスポーツカーになり、+Rモードではレーシングカーに変貌するという印象です。

↑3つの走行モードを備えるが、+Rモードはほとんどサーキット専用という仕上がり

 

混み合った街中を走っても、一昔前のスポーツカーのようにストレスを感じることがないのは、現代のスポーツマシンらしいところです。とはいえ、このマシン本来の性能の一端が感じられるのは高速道路やワインディングに足を伸ばしてから(“本領”を発揮するには、サーキットに持ち込まなければなりませんが)。とにかく操作に対してダイレクトにクルマが動いてくれるので、操るのが楽しくて仕方ありません。

 

高速道路を制限速度内で走っていても、アクセルやブレーキに対する反応が俊敏なので意のままに車体を動かすことができます。気持ち良く変速できる6MTの操作感もこれに一役買っていて、ついつい必要ない変速をしてしまうほど。コーナーではブレーキングからステアリングを切り込むと、スパッとノーズが入って思い描いたラインに乗ってくれます。そこからアクセルを踏み込んでも、ハイパワーなFF車にありがちなアンダーステアが顔を出すこともなく、むしろイン側に引っ張られるような感覚。荷重をかければかけるほどタイヤがしっかりと路面を掴んでくれるようで、ついついスピードを上げてしまいそうになります。

↑高性能のFFマシンらしく、フロントからグイグイ向きが変わっていく感覚が楽しい

 

公道での試乗だったので、このマシン本来の性能を味わうことはできませんが、その一端を感じるだけでも十分に刺激的でした。ワインディングでの試乗後はうっすらと汗ばんでいたほどで、クルマを操るのがスポーツというか一種のアクティビティであると感じられたほど。マニュアルの変速操作はもちろんですが、ステアリングやアクセル操作に対してクルマがリニアに反応する楽しさ、そしてサスペンションやステアリングから伝わってくる情報が脳を刺激する気持ち良さを味わうことができました。

 

純粋にこのマシンの“速さ”に惹かれる人も多いのでしょうが、こうしたクルマを操る“楽しさ”を味わいたくて「TYPE R」を選んだ人も少なくないのではないでしょうか。実際にステアリングを握っている間は、パソコンやスマホに向かっているときとは違う脳の回路がつながっているような感覚があり、それこそがこの時代にスポーツマシンを選ぶ価値なのではないかと思います。

↑こんなマシンがガレージにあれば、仕事の合間に少し乗るだけでも良い気分転換のアクティビティになりそう

 

SPEC【TYPE R】●全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm●車両重量:1390kg●パワーユニット:1995cc直列4気筒DOHC+ターボ●最高出力:235kW[320PS]/6500rpm●最大トルク:400N・m[40.8kgf・m]/2500〜4500rpm●WLTCモード燃費:13.0km/L

 

撮影/松川 忍

 

 

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2代目「スズキ・ハスラー」濃厚インプレ! 初代を超える出来栄えか?

2014年の発売以来、6年間で約48万台を販売する大ヒット作となった「スズキ・ハスラー」が2代目へと進化しました。ライバルのダイハツが今年に入り「タフト」を投入。SUV+軽ワゴンのクロスオーバークラスは、今後覇権争いが激化しそうな風向きですがタフトを迎え撃つ「2代目ハスラー」の出来映えはいかに?

 

[今回紹介するクルマ]

スズキ/ハスラー

128万400円~179万800円

※試乗車:ハイブリッドX(2WD、2トーンカラー仕様車)156万2000円

※試乗車:ハイブリッドXターボ(4WD、2トーンカラー仕様車)179万800円

↑丸型2灯の特徴的なヘッドライトを筆頭とするディテールを先代から継承しつつ、外観は一層SUVらしさが強調される造形になりました

 

先代を受け継ぎつつ新鮮味もプラス!

ワゴンR級のユーティリティを実現しながらSUVらしい走破性を両立。それらをアイコニックなスタイリングでまとめた初代「ハスラー」は、軽自動車のクロスオーバー市場を活性化させる大ヒットとなりました。その現役時代における月販台数は、平均で6700~6800台。モデル末期ですら5000台水準をキープしていたと聞けば、軽ユーザーの支持がいかに絶大であったかが分かろうというもの。

 

実際、初代ハスラーがデビューした当時、すでに長野(の田舎)に居を移していた筆者も道行くハスラーの増殖ぶりに驚かされた記憶があります。また、先代ユーザーは女性が6割を占めていたそうですが、乗っている人の年齢層を幅広く感じたことも印象的。高齢とおぼしきご夫婦が、鮮やかなボディカラーの初代で颯爽と出かける姿をしばしば見かけたことは新鮮でもありました。

 

そんな人気作の後を受けて登場した2代目は、当然ながら初代のデザイン要素が色濃く引き継がれた外観に仕上げられています。軽規格、ということで3395mmの全長と1475mmの全幅は変わりませんが、ホイールベースは先代比で35mmプラスの2460mm。全高は15mm高い1680mmとなりましたが、丸目2灯のヘッドライトを筆頭に全体のイメージは先代そのまま。

 

とはいえ、決して変わり映えしないわけではありません。ルーフを後端まで延長し、ボンネットフードを高く持ち上げたシルエットはスクエアなイメージを強調。バンパーやフェンダー回りも良い意味でラギッドな造形とすることで、SUVらしさと新しさが巧みに演出されています。

 

リアピラーにクォーターウインドーを新設。2トーンカラー仕様では、ルーフだけでなくこの部分とリアウインドー下端までをボディ色と塗り分けている点も先代と大きく違うポイントです。この塗り分けは、リアクォーターやルーフなどがボディ本体と別パーツになる「ジープ・ラングラー」などに見られる手法ですが、タフなイメージの演出という点では確かに効果的です。

↑写真のボディカラーはデニムブルー×ガンメタリック。バリエーションはモノトーン5色、2トーン6色の合計11色。2トーンのルーフは、ボディカラーに応じてホワイトの組み合わせもあります

 

初代ハスラーが成功した要因として、その個性的な外観の貢献度が大であることは誰もが認めるところ。となれば、後を受ける2代目が初代のイメージを受け継ぐことは“商品”として必然でもあるわけですが、新鮮味の演出も必須。ヒット作の後継はこのあたりのさじ加減が難題で、クルマに限っても失敗例は数知れず。

 

その点、2代目ハスラーの外観は上出来といえるのでは? という印象でした。ちなみにSUVとしての機能も着実に進化していて、走破性に影響するフロントのアプローチアングル、リアのディパーチャーアングルは先代比でそれぞれ1度と4度向上した29度と50度となっています。

↑タイヤサイズは、全グレード共通で165/60R15。ホイールは「X」グレードが写真のアルミとなり、「G」グレードはスチールが標準となります

 

室内はSUVらしい力強さと華やかさを演出! 装備も充実ぶり

そんな外観と比較すると、室内はSUVらしさを強調するべく一層“攻めた”デザインになりました。インパネはメーター、オーディオ、助手席上部の収納部(アッパーボックス)にシンメトリーを意識させるカラーガーニッシュを組み合わせてタフな世界観を表現。ガーニッシュはボディカラーに応じて3色が用意され、華やかさを演出するのも容易です。シートカラーもブラックを基調としつつ、ガーニッシュと同じ3色のアクセントを揃えて遊び心がアピールされています。

↑インパネは、シンメトリーなイメージの3連カラーガーニッシュが印象的。カラーは写真のグレーイッシュホワイトのほかにバーミリオンオレンジ、デニムブルーとボディカラーに応じて組み合わせられます。収納スペースが豊富に設けられていることも魅力のひとつ

 

↑スピードメーターと組み合わせる4.2インチのディスプレイには、スズキ車初のカラー液晶を採用。走行データをはじめ、多彩な表示コンテンツが用意されています

 

↑フロントシートは、インパネのガーニッシュと同じく3色のアクセントカラーを用意。シートヒーターが標準で装備されることも嬉しいポイントです

 

元々広かった室内空間も、新世代骨格の採用やホイールベースの延長などで拡大されています。後席は着座位置が高くなったにもかかわらず頭上空間が拡大、前席も左右乗員間の距離が広くなりました。また、フロントガラス幅の拡大やリアクォーターウインドーの追加などで視界が良くなっていることも、ユーザー層が幅広い軽ワゴンとしては魅力的ポイントといえるでしょう。

↑後席は座る人の体格や荷物に応じたアレンジが可能なスライド機構付き。一番後方にセットすれば、余裕の足元スペースが捻出できます

 

↑シートバック背面には操作用ストラップが設けられ、後席のスライドが荷室側からでも可能です。荷室の床面と後席背面は汚れや水分を拭き取りやすい素材を採用。荷室左右には販売店アクセサリー用のユーティリティナット(合計6か所)に加え、電源ソケットも装備されています

 

↑後席を完全に畳めば、最大1140㎜の床面長となるスクエアな荷室が出現。床下には小物の収納に便利なラゲッジアンダーボックスも装備されています

 

最新モデルらしく、運転支援システムも充実しています。衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制機能などがセットになった、「スズキ セーフティ サポート」は全車標準(ベースグレードのみ非装着車を設定)。新型ハスラーのパワーユニットは先代と同じく自然吸気とターボの2本立てですが、後者では全車速追従機能付きのアダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線逸脱抑制機能がスズキの軽自動車で初採用されました。

 

また、対応するナビゲーションシステムと組み合わせればクルマを真上から俯瞰したような画像を映し出せる全方位モニターの装備も可能です(オプション)。

↑ターボ車には、スズキの軽自動車で初めて全車速追従機能付きのACC(アダプティブクルーズコントロール)が装備。同じくターボ車では運転支援機能のひとつとして車線逸脱抑制機能も標準で備わります(自然吸気は警報のみ)

 

このほか、SUVとしては先代から引き続いて4WD仕様に滑りやすい下り坂などで威力を発揮するヒルディセントコントロールを搭載。新型では、さらに雪道やアイスバーン路面での発進をサポートするスノーモードも新採用されました。新型ハスラーのボディは前述の通り秀逸な対地アングルを実現。最低地上高も180mmが確保されていますから、ジムニーが本領を発揮するような場所に踏み入れるのでもなければ悪路の走破性も十二分といえるでしょう。

↑4WDに装備されるヒルディセントコントロールやグリップコントロール、新機能となったスノーモードの操作はインパネ中央のスイッチを押すだけ

 

新開発の自然吸気エンジン採用。走りのパフォーマンスも進化!

新型ハスラーが搭載するパワーユニットは、前述の通り自然吸気とターボの2種。前者は、燃焼室形状をロングストローク化して燃料噴射インジェクターも気筒当たりでデュアル化。さらにクールドEGRを組み合わせるなどして、全方位的に高効率化された新開発ユニットが奢られました。

 

組み合わせるトランスミッションはどちらもCVTですが、こちらも先代より軽量化や高効率化を実現した新開発品となります。また、近年のスズキ車は電気モーター(ISG)が発進や低速時に駆動をサポートするマイルドHVがデフォになっていますが、新型ハスラーでは先代よりISGの出力が向上。容量こそ変わりませんが、リチウムイオンバッテリーの充放電効率を向上させたことでHV車としての機能が向上しています。

↑自然吸気エンジンはロングストローク化や燃焼室形状のコンパクト化、スズキの軽では初採用となるデュアルインジェクター(気筒当たり)やクールドEGRなどで一層の高効率化を実現。燃費は先代比で約7~8%向上したとのこと

 

↑ターボ仕様のエンジンは、新開発CVTなどとの組み合わせによって燃費性能が先代より約3~5%向上。ロングドライブを筆頭に、幅広い用途に使いたいユーザーにオススメ

 

その走りは、新型車らしく着実な進化を実感できる出来栄えでした。先代も軽ワゴンとしてはなんら不満のないパフォーマンスでしたが、新型ではアクセル操作に対する反応が一層リニアになり静粛性も向上。絶対的な動力性能で選ぶならターボ仕様ですが、日常的な使用環境なら自然吸気でも必要にして十分な動力性能です。

 

新世代プラットフォームのハーテクトや環状骨格構造のボディ、スズキ車で初となった構造用接着剤の採用などの効果か、走りの質感が向上していることも新型の魅力。フロントがストラット、リアはトーションビーム(4WDはI.T.L.=アイソレーテッド・トレーリング・リンク)というサスペションも、先代よりオンロード志向のセッティングとしたことで特に日常域では自然な身のこなしを実現しています。SUVとのクロスオーバーとはいえ、ハスラーは日常のアシという用途が主体の軽ワゴンのニーズに応えるクルマですから、新型の味付けは理にかなったものといえるでしょう。

↑写真は4WDのターボ仕様。絶対的な動力性能は自然吸気でも必要にして十分ですが、ターボなら余裕をもってSUVらしく使うことが可能です。ボディの剛性感や静粛性など、新型は走りの質感が向上していることも魅力的です

 

このように、先代が築いたキャラクターを継承しつつ軽クロスオーバー資質が着実に底上げされた新型ハスラー。とりあえず、ダイハツ・タフトを迎撃する備えは万全といえるのではないでしょうか。

 

SPEC【ハスラー・ハイブリッドX(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1680㎜●車両重量:820㎏●パワーユニット:657㏄直列3気筒DOHC●最高出力:49[2.6]PS/6500[1500]rpm●最大トルク:58[40]Nm/5000[100] rpm●WLTCモード燃費:25㎞/L

 

SPEC【ハスラー・ハイブリッドXターボ(4WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1680㎜●車両重量:880㎏●パワーユニット:658㏄直列3気筒DOHC+ターボ●最高出力:64[3.1]PS/6000[1000]rpm●最大トルク:98[50]Nm/3000[100]rpm●WLTCモード燃費:20.8㎞/L

 

撮影/宮越孝政

 

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