「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」がIWSC2024で金賞を受賞!

サントリーの日本ワイン「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022(※)」が、「インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション(The International Wine & Spirit Competition、以下IWSC)2024」において、金賞を受賞。

※9月10日(火)からサントリー登美の丘ワイナリー、ECサイト「SUNTORY FROM FARM Online Shop」および一部流通などで数量限定発売予定

IWSCは、1969年に英国・ロンドンで創設された、世界で最も影響力のある酒類コンペティションの一つ。「ワイン部門」「スピリッツ部門」など部門ごとに分かれて審査され、毎年その受賞結果が世界の注目を集めている。今回、IWSC2024の「ワイン部門」には6000点以上のワインが出品され、うち約120点が金賞を受賞した。

 

●「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」について

ぶどう品種「甲州」を100%使用し、サントリー日本ワインのフラッグシップである「登美」の名を冠する商品の発売は初となる。

 

中味は、メロンや黄桃、みかんなど果物を思わせる香りに加え、黄色い花やハチミツを連想させる甘い香りが感じられる。豊かな果実味とまろやかな酸味、ほろ苦い余韻が魅力の、凝縮感と気品の高さを高次元で併せ持つ、まさに「登美」にふさわしい味わいとなっている。

 

●ぶどう品種「甲州」の取り組み強化について

サントリーは、「良いワインはよいぶどうから」の理念のもと、100年以上にわたって日本の風土と向き合い、栽培・醸造技術を磨き上げ、ぶどうづくり・ワインづくりに取り組んできた。2022年には新ブランド「SUNTORY FROM FARM」を立ち上げ、ブランド名にもある「FROM FARM(すべては畑から)」のコンセプトのもと、日本の風土の中で畑からぶどうをつくることにいっそう向き合い、高品質で丁寧なものづくりを行っている。

 

「甲州」は国際ブドウ・ワイン機構が定める日本固有品種で、和柑橘を思わせる上品な香りが特徴的な、日本を代表するワインぶどう。サントリーは「甲州」が世界で愛され、評価されるワインぶどうとなることを目指している。

 

そのために、登美の丘ワイナリーや自社管理畑における栽培面積拡大や、目指す味わいのワインを実現する「甲州」に育てるため、栽培する圃場の環境・栽培方法にこだわりぬき、収穫時にも完熟した房のみを選別するなど、よりいっそうの品質の向上に取り組んでいる。

 

▼「SUNTORY FROM FARM」ホームページ
https://suntory.jp/NIHON/

▼ECサイト「SUNTORY FROM FARM Online Shop」
https://japan-wine.direct.suntory.co.jp/

アジア最高位に選ばれたメルシャン「椀子ワイナリー」がワイン醸造同様に力を入れていること

近年、国内外で注目を集めており、人気が高まっている日本ワイン。長野県上田市にある「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ワイナリー」は、その年の世界最高のワイナリーを選出するアワード「ワールド ベスト ヴィンヤード」で、2023年のアジアNo.1に選ばれました。

 

名実ともに日本のワイン文化をけん引する存在となったメルシャンと椀子ワイナリーでは、より革新的なワイン造りを実践・発信するべく、サステナブルに焦点をおいたワイナリーツアーの開催を発表。現地に赴き、その取り組みを取材しました。

↑「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」。2003年に開園した椀子ヴィンヤード内に2019年開業し、2023年7月「ワールド ベスト ヴィンヤード2023」に日本のワイナリーで唯一、2020年から4年連続選出。同時にザ・ベスト・ヴィンヤード・イン・アジアにも選ばれました。ちなみにヴィンヤードとはぶどう畑のこと

 

一部の国のワインばかりが消費される日本を変えたい

なぜ、メルシャンがサステナブルなワイン造りに注力するのか。それはSDGsが世界的な目標であることはもちろん、ワイン造りが農業と密接な関係があり、地域社会や自然との共生が欠かせないと確信しているから。

↑地域や先人、自然への感謝を話す、メルシャンの長林道生社長

 

しかし、日本のワイン業界の現状は、海外と比較すると後れをとっているのだとか。この実情については、日本で唯一の「Master of Wine」(マスター・オブ・ワイン。ワイン業界において最も名声が高いとされる資格)で、名前の後に「MW」を付記することが許されている大橋健一さんが教えてくれました。

 

今夏、世界中のマスター・オブ・ワインが集うシンポジウムがドイツで開催されました。そこで大橋さんが驚いたのは、すべての講演でサステナビリティについて触れられていたこと。つまり、海外のワイン業界ではサステナビリティがきわめて重要視されているのです。

↑大橋健一MW。自らの立場も踏まえたうえで、国内メーカーと一丸になってワイン業界の意識を変えていかないといけない、世界からリスペクトされるための課題はたくさんあると力説します

 

大橋MWの考える、日本人の意識改革のひとつがワインの立ち位置。日本人1人あたりのワイン消費量は1年間で4本にすぎないそうで、ほかのお酒と比べると“日常酒”となっておらず、価格も高め。極端にいえば“ハレの日に飲む高級品”となっており、「ワインはたまにしか飲まない贅沢品だからサステナブルでなくてもいいんじゃないか、サステナブルな見地からは外れてもいいんじゃないかとか。日本ではそういう傾向が見受けられます」と警鐘を鳴らします。

 

つまり、国内におけるワインはラグジュアリーグッズとしての側面ももっており、サステナブルな観点としてはけっして歓迎できるものではないということ。

 

「ラグジュアリーグッズであるがゆえに、日本では圧倒的に偏った国のワインばかり消費される傾向が否めません。加えて公共性の面においては、まったくサステナブルではないのです」と大橋MW。こうした現状を、椀子ワイナリーを中心にシャトー・メルシャンが変えていこうと試みていることを教えてくれました。

 

見学や試飲で楽しむ新設のSDGsツアーを体験

椀子ヴィンヤードの開園は2003年。かつて桑畑であったものの生糸業の衰退とともに放棄され、荒廃農地となっていた土地をぶどう畑に転換して誕生しました。高品質なワインを造るために下草を刈るなどの丁寧な農作業を行い、雄大な草原環境を生み出し、現在では希少種を含む様々な生きものが生息する豊かな自然環境に回復させています。つまり、椀子ヴィンヤードはもともとサステナブルに意欲的なヴィンヤードなのです。

↑椀子ヴィンヤードの広さは約30ヘクタールと、東京ドーム約6個分。標高約600~650mに位置し、メルローやシャルドネ、シラーやソーヴィニヨン・ブランなど、白黒約8種類のブドウを垣根式で栽培しています

 

そんな同ワイナリーによる新たな取り組みが、見学体験や試飲を交えて楽しみながらヴィンヤードの価値を伝えていく「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー SDGsツアー」。2023年は9月2日と11月11日(ともに土曜)の2回開催し、今後も季節ごとに年間5回程度実施予定とのことで、その一部をいち早く体験させてもらいました。

↑この日案内してくれたのは、シャトー・メルシャンの小林弘憲ゼネラルマネジャー。SDGsツアーのスタート地点である一本木公園にて

 

椀子ヴィンヤードは10年以上前から地元・塩川小学校の学びの場にもなっているそう。3年生になるとじゃがいもを栽培・収穫。4年生になるとぶどう収穫、そして5年生はその植樹を体験する特別授業が盛り込まれるのだとか。これは郷土愛を育む体験として、また食育の観点からも素敵な取り組みだと感じました。

↑ヴィンヤード内の畑。毎年7月下旬が収穫期で、そのじゃがいもは児童の学校給食に使われるとか。その後は地元の委員会が蕎麦を植え、秋冬にかけて収穫するサイクルです

 

SDGsツアーではもちろん、ぶどうの木や果実も見学できます。取材時は夏だったため果実は青々としていましたが、秋には熟して収穫となり、9月のSDGsツアーはやや酸味が強いものの試食できるとのこと(11月は収穫後の時季ですが、残っていれば試食可)。

↑椀子ヴィンヤードの代表品種のひとつ、メルロー。お盆ごろに黒くなり、あえて食べごろがあるとすれば(生食用品種ではなく加工用品種であるため)収穫時期の9月下旬とのこと

 

SDGsの取り組みは、収穫後のぶどうにも。例えば、醸造時にぶどうの実を搾ったあとの皮や種、茎などを活用するための堆肥場が圃場の端にあり、ここで約2年間微生物にゆっくりと発酵させて肥料にします。ぶどうのカスは焼却炉で燃やすようなことはせず、また外部から持ち込む肥料を少なくすることで、運搬時に発生するCO2の排出を最小限に抑えているのです。

↑堆肥場で発酵させた、ぶどうの皮や種など。年間15~18トン出るカスが、約2年でサラサラの状態に。土地が広く、近隣に民家がないからできることと、小林マネジャーは言います

 

良好な草原環境へと整備された椀子ヴィンヤードには在来種や希少種などの多様な植物が生育しており、2014年から実施している生態系調査では、絶命危惧種を含む昆虫168種、植物289種が確認されているそう。その一例が、絶命危惧種の蝶「オオルリシジミ」の幼虫唯一の食草である「クララ」です。

↑オオルリシジミの幼虫が唯一食べる草、クララ。根を食べるとクラクラするほど苦いことが名称の由来とか。オオルリシジミが飛んでくることを願って、クララを増やす活動をしています

 

施設にもサステナブルな取り組みがあまた

また、椀子ワイナリーは施設自体がSDGsに配慮した設計になっています。それは「グラヴィティ・フロー」という、高低差を利用した設備や、動線により自然にかかる重力で果実や果汁を移すシステム。余計な動力が不要であるとともに、ぶどうの繊細な個性が損なわれず、エレガントで特色のあるワインが造れるというメリットがあります

↑ワイナリーは斜面を利用した設計。なお、圃場が近いため収穫後にすぐ運べるというメリットもあります

 

椀子ワイナリーは山の高台にあるため、冷涼であることも特徴。これはワイン樽熟成庫の空調面で大きな効果があり、冷房が必要なのは初夏〜盛夏ぐらいだそう。SDGsツアーでは、そんな熟成庫への入室もできます。木を通して呼吸をするワイン樽はかすかに優美な香りを放ち、心地いい気分に浸れることでしょう。

↑熟成庫では年間を通じて15℃以下、湿度70%以上をキープ。なお樽はフランスの10数社から購入し、材質はほぼフレンチオークです

 

ラストはお待ちかねのテイスティング。椀子の気候風土を表現する定番ワインのほか、オススメの限定品を含む計6種が味わえます。そのなかには高級銘柄の「シャトー・メルシャン 椀子オムニス」も。SDGsツアーの参加費はひとり税込1万円ですが、決して高くないといえるでしょう。

↑写真は一例で、右端が椀子オムニス。発売当初は海外の高級ワインで採用されるような重厚な輸入ボトルでしたが、いまやその価値観は一変。現在は環境に配慮し、国産の軽量なボトルを採用しています

 

残暑はまだまだ続きますが、今年もあっという間に実りと収穫の秋が訪れるでしょう。つまり、ぶどう狩りやワインの季節でもあります。椀子ワイナリーでは今回紹介したSDGsツアー以外にも様々なイベントが開催されているので、行楽シーズンでもある秋に、旅行も兼ねて訪ねてみませんか。

 

【SHOP DATA】

シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー

住所:長野県上田市長瀬146-2
営業時間:10:00~16:30(テイスティングカウンター ※L.O.16:00)

※営業日は公式サイトのカレンダーを要確認

■アクセス

<電車の場合>
しなの鉄道「大屋駅」からタクシーにて約10分、JR北陸新幹線「上田駅」からタクシーで約25分

<車の場合>
上信越自動車道「東部湯の丸」ICより約10分

https://www.chateaumercian.com/winery/mariko/

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

アジア最高位に選ばれたメルシャン「椀子ワイナリー」がワイン醸造同様に力を入れていること

近年、国内外で注目を集めており、人気が高まっている日本ワイン。長野県上田市にある「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ワイナリー」は、その年の世界最高のワイナリーを選出するアワード「ワールド ベスト ヴィンヤード」で、2023年のアジアNo.1に選ばれました。

 

名実ともに日本のワイン文化をけん引する存在となったメルシャンと椀子ワイナリーでは、より革新的なワイン造りを実践・発信するべく、サステナブルに焦点をおいたワイナリーツアーの開催を発表。現地に赴き、その取り組みを取材しました。

↑「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」。2003年に開園した椀子ヴィンヤード内に2019年開業し、2023年7月「ワールド ベスト ヴィンヤード2023」に日本のワイナリーで唯一、2020年から4年連続選出。同時にザ・ベスト・ヴィンヤード・イン・アジアにも選ばれました。ちなみにヴィンヤードとはぶどう畑のこと

 

一部の国のワインばかりが消費される日本を変えたい

なぜ、メルシャンがサステナブルなワイン造りに注力するのか。それはSDGsが世界的な目標であることはもちろん、ワイン造りが農業と密接な関係があり、地域社会や自然との共生が欠かせないと確信しているから。

↑地域や先人、自然への感謝を話す、メルシャンの長林道生社長

 

しかし、日本のワイン業界の現状は、海外と比較すると後れをとっているのだとか。この実情については、日本で唯一の「Master of Wine」(マスター・オブ・ワイン。ワイン業界において最も名声が高いとされる資格)で、名前の後に「MW」を付記することが許されている大橋健一さんが教えてくれました。

 

今夏、世界中のマスター・オブ・ワインが集うシンポジウムがドイツで開催されました。そこで大橋さんが驚いたのは、すべての講演でサステナビリティについて触れられていたこと。つまり、海外のワイン業界ではサステナビリティがきわめて重要視されているのです。

↑大橋健一MW。自らの立場も踏まえたうえで、国内メーカーと一丸になってワイン業界の意識を変えていかないといけない、世界からリスペクトされるための課題はたくさんあると力説します

 

大橋MWの考える、日本人の意識改革のひとつがワインの立ち位置。日本人1人あたりのワイン消費量は1年間で4本にすぎないそうで、ほかのお酒と比べると“日常酒”となっておらず、価格も高め。極端にいえば“ハレの日に飲む高級品”となっており、「ワインはたまにしか飲まない贅沢品だからサステナブルでなくてもいいんじゃないか、サステナブルな見地からは外れてもいいんじゃないかとか。日本ではそういう傾向が見受けられます」と警鐘を鳴らします。

 

つまり、国内におけるワインはラグジュアリーグッズとしての側面ももっており、サステナブルな観点としてはけっして歓迎できるものではないということ。

 

「ラグジュアリーグッズであるがゆえに、日本では圧倒的に偏った国のワインばかり消費される傾向が否めません。加えて公共性の面においては、まったくサステナブルではないのです」と大橋MW。こうした現状を、椀子ワイナリーを中心にシャトー・メルシャンが変えていこうと試みていることを教えてくれました。

 

見学や試飲で楽しむ新設のSDGsツアーを体験

椀子ヴィンヤードの開園は2003年。かつて桑畑であったものの生糸業の衰退とともに放棄され、荒廃農地となっていた土地をぶどう畑に転換して誕生しました。高品質なワインを造るために下草を刈るなどの丁寧な農作業を行い、雄大な草原環境を生み出し、現在では希少種を含む様々な生きものが生息する豊かな自然環境に回復させています。つまり、椀子ヴィンヤードはもともとサステナブルに意欲的なヴィンヤードなのです。

↑椀子ヴィンヤードの広さは約30ヘクタールと、東京ドーム約6個分。標高約600~650mに位置し、メルローやシャルドネ、シラーやソーヴィニヨン・ブランなど、白黒約8種類のブドウを垣根式で栽培しています

 

そんな同ワイナリーによる新たな取り組みが、見学体験や試飲を交えて楽しみながらヴィンヤードの価値を伝えていく「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー SDGsツアー」。2023年は9月2日と11月11日(ともに土曜)の2回開催し、今後も季節ごとに年間5回程度実施予定とのことで、その一部をいち早く体験させてもらいました。

↑この日案内してくれたのは、シャトー・メルシャンの小林弘憲ゼネラルマネジャー。SDGsツアーのスタート地点である一本木公園にて

 

椀子ヴィンヤードは10年以上前から地元・塩川小学校の学びの場にもなっているそう。3年生になるとじゃがいもを栽培・収穫。4年生になるとぶどう収穫、そして5年生はその植樹を体験する特別授業が盛り込まれるのだとか。これは郷土愛を育む体験として、また食育の観点からも素敵な取り組みだと感じました。

↑ヴィンヤード内の畑。毎年7月下旬が収穫期で、そのじゃがいもは児童の学校給食に使われるとか。その後は地元の委員会が蕎麦を植え、秋冬にかけて収穫するサイクルです

 

SDGsツアーではもちろん、ぶどうの木や果実も見学できます。取材時は夏だったため果実は青々としていましたが、秋には熟して収穫となり、9月のSDGsツアーはやや酸味が強いものの試食できるとのこと(11月は収穫後の時季ですが、残っていれば試食可)。

↑椀子ヴィンヤードの代表品種のひとつ、メルロー。お盆ごろに黒くなり、あえて食べごろがあるとすれば(生食用品種ではなく加工用品種であるため)収穫時期の9月下旬とのこと

 

SDGsの取り組みは、収穫後のぶどうにも。例えば、醸造時にぶどうの実を搾ったあとの皮や種、茎などを活用するための堆肥場が圃場の端にあり、ここで約2年間微生物にゆっくりと発酵させて肥料にします。ぶどうのカスは焼却炉で燃やすようなことはせず、また外部から持ち込む肥料を少なくすることで、運搬時に発生するCO2の排出を最小限に抑えているのです。

↑堆肥場で発酵させた、ぶどうの皮や種など。年間15~18トン出るカスが、約2年でサラサラの状態に。土地が広く、近隣に民家がないからできることと、小林マネジャーは言います

 

良好な草原環境へと整備された椀子ヴィンヤードには在来種や希少種などの多様な植物が生育しており、2014年から実施している生態系調査では、絶命危惧種を含む昆虫168種、植物289種が確認されているそう。その一例が、絶命危惧種の蝶「オオルリシジミ」の幼虫唯一の食草である「クララ」です。

↑オオルリシジミの幼虫が唯一食べる草、クララ。根を食べるとクラクラするほど苦いことが名称の由来とか。オオルリシジミが飛んでくることを願って、クララを増やす活動をしています

 

施設にもサステナブルな取り組みがあまた

また、椀子ワイナリーは施設自体がSDGsに配慮した設計になっています。それは「グラヴィティ・フロー」という、高低差を利用した設備や、動線により自然にかかる重力で果実や果汁を移すシステム。余計な動力が不要であるとともに、ぶどうの繊細な個性が損なわれず、エレガントで特色のあるワインが造れるというメリットがあります

↑ワイナリーは斜面を利用した設計。なお、圃場が近いため収穫後にすぐ運べるというメリットもあります

 

椀子ワイナリーは山の高台にあるため、冷涼であることも特徴。これはワイン樽熟成庫の空調面で大きな効果があり、冷房が必要なのは初夏〜盛夏ぐらいだそう。SDGsツアーでは、そんな熟成庫への入室もできます。木を通して呼吸をするワイン樽はかすかに優美な香りを放ち、心地いい気分に浸れることでしょう。

↑熟成庫では年間を通じて15℃以下、湿度70%以上をキープ。なお樽はフランスの10数社から購入し、材質はほぼフレンチオークです

 

ラストはお待ちかねのテイスティング。椀子の気候風土を表現する定番ワインのほか、オススメの限定品を含む計6種が味わえます。そのなかには高級銘柄の「シャトー・メルシャン 椀子オムニス」も。SDGsツアーの参加費はひとり税込1万円ですが、決して高くないといえるでしょう。

↑写真は一例で、右端が椀子オムニス。発売当初は海外の高級ワインで採用されるような重厚な輸入ボトルでしたが、いまやその価値観は一変。現在は環境に配慮し、国産の軽量なボトルを採用しています

 

残暑はまだまだ続きますが、今年もあっという間に実りと収穫の秋が訪れるでしょう。つまり、ぶどう狩りやワインの季節でもあります。椀子ワイナリーでは今回紹介したSDGsツアー以外にも様々なイベントが開催されているので、行楽シーズンでもある秋に、旅行も兼ねて訪ねてみませんか。

 

【SHOP DATA】

シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー

住所:長野県上田市長瀬146-2
営業時間:10:00~16:30(テイスティングカウンター ※L.O.16:00)

※営業日は公式サイトのカレンダーを要確認

■アクセス

<電車の場合>
しなの鉄道「大屋駅」からタクシーにて約10分、JR北陸新幹線「上田駅」からタクシーで約25分

<車の場合>
上信越自動車道「東部湯の丸」ICより約10分

https://www.chateaumercian.com/winery/mariko/

 

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3000円は破格すぎ!リニューアルしたメルシャン「勝沼ワイナリーツアー」がスゴい

燃料費高騰などの影響で輸入ワインの値上げが叫ばれる一方、日本ワインは注目度を高めています。それは価格的な利点に加え、日本ワインのクオリティが年々高まっているから。そんな日本ワインのふるさとであり、日本一のワイン産地が山梨県勝沼市です。

 

市内には30を超えるワイナリーがあり、見学ツアーを行っているところも。今回は、なかでも有名かつ、2022年5月にリニューアルを果たした「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」のツアーを紹介します。

↑「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」。JR中央本線「勝沼ぶどう郷駅」からタクシーで約8分、同線「塩山駅」からタクシーで約10分の場所にあります

 

現存する日本最古のワインがここに

同ワイナリーでは主に2つのプランがあり、本稿で紹介するのは所要時間約90分でじっくり体験できる「勝沼ディスカバリーツアー」(3000円)。もうひとつは、より贅沢かつ上級者向けの「勝沼ワインメーカーズスペシャルツアー」(1万円/約100分)となります。

 

両方ともワインテイスティング付きで、「勝沼ディスカバリーツアー」では4種の飲み比べが可能。まずはワイン資料館で、動画やパネルを参照にメルシャンの理念や歴史を学ぶところから始まりました。

↑ワインギャラリーの向かいにある、ワイン資料館。もともとは1904(明治37)年に建てられた宮崎葡萄酒(※)の第二醸造所で、1997年に県の有形文化財に指定されました

 

メルシャンは1877(明治10)年に創業した、日本初の民間ワイン企業「第日本山梨葡萄酒会社」がルーツ。同社の伝習生としてフランスに派遣された高野正誠氏と土屋龍憲氏は、日本におけるワイン造りの偉人としても有名です。

 

※宮崎葡萄酒:「大日本山梨葡萄酒会社」の共同創業者・宮崎市左衛門氏の子息である光太郎氏が設立

↑パネルの右下の2人が高野氏と土屋氏。このツアーにはガイドも付き、今回担当してくれたのはホスピタリティ・マネージャーの生駒 元さん。同ワイナリーで仕込み統括も務めたスペシャリストです

 

メルシャンの最近のトピックスとしては、2020年にワイン資料館が、文化庁より日本遺産に登録。また「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ。長野県上田市)ワイナリー」が2020~2022年と3年連続で、「ワールド ベスト ヴィンヤード」に日本で唯一ランクインし、アジアNo.1のワイナリーとしても名声を高めています。

 

次は過去の醸造設備や古樽などの現物資料と写真パネルを参照しつつ、昔のワイン醸造がどのように行われ進化していったかを学びます。

↑1887(明治20)年ごろに使われていた圧搾(あっさく)機。粉砕機でつぶしたぶどうをこの機械でさらに搾り、果汁をとっていた

 

なお、上階のフロアには現存する日本最古のワインなどが展示。こちらは高野正誠家の蔵に眠っていた1879年産のヴィンテージで、1976年に偶然発見されたそうです。100年以上経っていたものの保存環境がよかったため、中身も健全とか。

↑日本最古のワインがこちら。隣には、高野氏と土屋氏がワイン造りを学んだフランス・トロワ郊外モングー村の、クロ・サン・ソフィーの丘で造られたワイン(1976年産)が並んでいます

 

時季によってはぶどうの味見ができる

次はワイナリー敷地内の、多種多様なぶどうの木が並ぶ圃場(ほじょう)「祝村(いわいむら)ヴィンヤード」へ。ここには白黒約20種のぶどうが植えられており、生育状況によってはぶどうの実を味見することもできます。

↑「祝村ヴィンヤード」。ぶどうの味見でオススメの時季は8月下旬とのこと

 

なお、日本では1本の木から多く収穫できるなどの利点がある棚式栽培(頭上ほどの高位置で育てる)が主流ですが、ここでは収穫量が少ないぶん凝縮感に優れたぶどうが育つ、欧州で主流の垣根栽培が採用されています。

↑こちらの黒ぶどうはカベルネ・フラン。粒は比較的小さめで、凝縮した果実味や軽やかな酸味を感じました。甘みも十分あります

 

年間約500トンのぶどうがここでワインになる

ここからはツアーの後半。最初の敷地を出て3~4分ほど坂を下り、醸造現場へ。メルシャンは勝沼のほか椀子、桔梗ヶ原(ききょうがはら。長野県塩尻市)と計3つのワイナリーがあり、ここはそのうち最大の生産量を誇ります。

↑醸造所。メルシャン全体で使用する年間約650トンのぶどうのうち、約500トンがこの勝沼でワインになります

 

ツアー限定で見学できる施設は数か所。まずは18~21℃の冷蔵空間に大型のステンレスタンクが並ぶ「Bセラー」内を通って、「レセプション(仕込み場)」へ。ここでは山梨のほか、秋田や福島といったヴィンヤード産ぶどうの仕分けなどを行うほか、常温の発酵タンクもあります。

↑「レセプション」。これ以上近づくことはできませんが、日時によっては実際に稼働している状況も見学できます

 

次いで、産地や区画、ぶどう品種ごとにステンレスや木桶など様々なタンクが置かれた「Aセラー」。また、スタンダードタイプのワイン原酒を貯蔵するための巨大なワイン樽が並ぶ「Fセラー」を見学。各セラーは、ぶどうの産地や品種、ランクなどによって分けられています。

↑大中小の多彩な約100ものタンクが並ぶ「Aセラー」。なお、C、D、Eのセラーはありません

 

↑「Fセラー」にはひとつ約3300リットルという巨大なオーク樽がズラリ。エンジェルズシェア(蒸発)を最小限にするため、樽が卵型(空気に触れる面を少なくする)になっているのも特徴です

 

「Fセラー」の見学後は、敷地内の「ビジターセンター」に移動。内部の「地下セラー」へ行くと、そこには500~600もの樽が貯蔵されていました。なお、ここには特別なプライベート空間「オルトゥスルーム」が併設。用途の一例として、1万円のプラン「勝沼ワインメーカーズスペシャルツアー」ではテイスティングルームとして使われるそうです。

↑「地下セラー」。バニラの甘やかさを感じさせる、ワイン樽の妖艶な香りが漂っていました

 

テイスティングは五感を使ってわかりやすく学べる

「勝沼ディスカバリーツアー」の最後は、ワイン資料館に戻ってお待ちかねのテイスティング。白赤2種ずつの計4種を試飲し、この日は「岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ 2021」「北信シャルドネ キュヴェ・アキオ 2019」「穂坂マスカット・ベーリーA シングル・ヴィンヤード 栽培責任者 横内栄人 2018」「塩尻メルロー 2018」が提供されました。

↑生駒さんが解説しているモニター資料は、ひとり1台に貸与されるタブレット端末で同内容が閲覧可能

 

ユニークなポイントのひとつが、「○○の香りを感じ取ろう」と、各ワインの特徴的な香りを生駒さんが解説しながら手ほどきしてくれるところ。「ワインのテイスティングノート、よくわからないんだよね」という人は、これを体験するとコツがつかめるはずです。

↑こちらは「岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ 2021」を対象としたトライアル。グレープフルーツのほか、かぼすやすだちといった和柑橘のニュアンスも

 

テイスティングの4種はそれぞれ、同色のワインでもキャラクターが異なるタイプで組み合わせてくれるので、香りの違いを感じやすいのも特徴です。

 

「北信シャルドネ キュヴェ・アキオ 2019」は南国果実やバニラ、アーモンドのニュアンス、「穂坂マスカット・ベーリーA シングル・ヴィンヤード 栽培責任者 横内栄人 2018」はストロベリーにクリーミーさが合わさった明るくエレガントな果実味。そして「塩尻メルロー 2018」は、ブルーベリーやカシス風味の奥にごぼうなど、根菜類の要素が見え隠れ。

 

↑気に入った銘柄があれば、ぜひワインギャラリーへ。左から4600円、5500円、5200円、5800円(ワイナリー販売価格)で買えます

 

なお、ワイナリーで食事とともにペアリングを楽しみたいという人は、ツアーの申し込みとは別に「ペアリングBOX」を予約しましょう。こちらは老舗グランメゾン「銀座レカン」の元シェフ・ソムリエが店主を務める勝沼の人気フレンチ「ビストロ・ミル・プランタン」特製となり、ワインによく合う料理が少量のポーションで詰め合わせになっています。

↑「ペアリングBOX」は1800円。ワインは別途、1杯700円となります。1か月前の同日~1週間前の同曜日までに電話で予約を(ビジターセンター:0553-44-1011)

 

冒頭で輸入ワインの高騰に触れましたが、2021年のボージョレ・ヌーヴォーも同様に高くなっていて、そのぶん日本のヌーヴォー(新酒)に注目が集まっています。そこで、もし今季同ワイナリーを訪れるなら、お土産には「シャトー・メルシャン 日本の新酒」がオススメ。

 

↑「シャトー・メルシャン 日本の新酒」。白は「山梨県産甲州 2021」、赤は「山梨県産マスカット・ベーリーA 2021」で、ともに1本2000円です

 

ここまで「勝沼ディスカバリーツアー」を紹介しましたが、じっくり90分学べるうえに4杯のテイスティング付きで3000円という料金は破格でしょう。ビギナーにこそオススメ(上級者の人は1万円のほうへ)といえる同ツアー。ワイン好きで未踏の人はぜひ予約を!

 

【WINERY DATA】

シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー

住所:山梨県甲州市勝沼町下岩崎1425-1

アクセス:JR中央本線「勝沼ぶどう郷駅」からタクシーで約8分、同「塩山駅」からタクシーで約10分

営業時間:ワイン資料館9:30〜16:30、ワインギャラリー・ワインショップ10:00~16:30、テイスティングカウンター10:00~16:00(L.O.)

定休日:年末年始

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

すき焼きや鍋と合わせたい! 年始のおうちご飯をちょいリッチにする「シャトー・メルシャン 山梨マスカット・ベーリーA」

新年あけましておめでとうございます!  今年の年末年始はみなさんゆっくり出来ましたか?

 

年末年始は、一年間の中でもお酒が最も飲まれるハイシーズンでもあります。そこで本企画ではこの年末年始におすすめの日本酒やクラフトビールなどさまざまなお酒を、国際唎酒師の髙橋理人さんが解説。

 

さらに2021年12月27日に発売したお酒マンガ『ほろ酔い道草学概論』の、お酒紹介話もお披露目します。おすすめのお酒と、それにちなんだマンガをゆったりとお楽しみください。

●解説

髙橋理人さん

全国の酒蔵のサポートおよび情報発信を行っている、酒蔵支援スタートアップ「株式会社蔵楽(クラク)」代表取締役。SSIインターナショナル認定「国際唎酒師」であり、一般社団法人日本ソムリエ協会認定「SakeDiploma」、「ワインエキスパート」とお酒関連の資格を幅広く持つ。大手化学メーカーに就職した最初の赴任地、新潟県糸魚川市にて感動的な日本酒に出会い、その魅力の虜に。日本酒普及に向けた活動を行い、オンラインセミナー「日本史と日本酒」、「日本酒都道府県旅」など日本酒と人を繋げる新たなアプローチを数多く試みている。

 

●年末年始におすすめの一本

シャトー・メルシャン 山梨マスカット・ベーリーA

 

赤い果実を連想させる香りと程よい樽のニュアンスのバランスが良い一本。マスカット・ベーリーAは、昭和の初期に交配された日本固有のブドウ品種で、山梨県で広く栽培されているもの。山梨県甲州で生まれた良質なぶどうの香り、程よい酸味が食欲を誘います。

 

ワインは年始のどんな場面に合うのか? 髙橋さんによると…

 

日本の品種であるマスカット・ベーリーAは、あっさりとしたライトな味わいと共に、出汁のような旨味がじわじわ膨らむのが特徴です。醤油やみりんなどの甘くて旨味のある調味料と相性が良く、すき焼きや寄せ鍋との相性が抜群です。家族みんなでお鍋を囲みながら「シャトー・メルシャン 山梨マスカット・ベーリーA」で、年始の食事時間を楽しんでください。

 

とのこと! 鍋にワイン、聞いているだけで生唾を飲み込んでしまいます…。

 

今回紹介したお酒は、お酒マンガ『ほろ酔い道草学概論』でも紹介しています。ぜひマンガと合わせて、その魅力を知ってください。マンガは全て12月27日に発売したばかりの単行本に収録されている特別版です!

※マンガ部分が読めるのは、2022年1月7日21時までとなります

 

【作品情報】

●ほろ酔い道草学概論 インドアな私が酒と街歩きにハマるまで

漫画:zinbei

刊行:ワン・パブリッシング

うまい酒とエモい散歩は学問だ――。日本全国の足を運ばないとわからない魅力を持った「土地」、その土地でこそ楽しめる「お酒」の楽しみを描いた、今までありそうでなかった「酒×街歩き」コミックがついに単行本に。作中で登場する日本酒やワイン、クラフトビール、健康センターのサワーなど、全て実在のもの。お酒と共に、土地々々の隠れた顔に迫る「エモい街巡り」が描かれます。コロナ禍以降、お出かけの解放感とお酒の楽しみから遠ざかった人、また少しずつでも足を伸ばしてみようと思っている人に寄り添う酒マンガの新境地!

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【作品情報】

●ほろ酔い道草学概論 インドアな私が酒と街歩きにハマるまで

漫画:zinbei

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北海道から九州まで上質で個性的なワインが続々!「日本ワイン」の歴史と産地別の注目ワイン

自宅でワインを楽しみたい、できれば産地や銘柄にもこだわりたい、ワインを開けて注ぎ、グラスを傾ける仕草もスマートにしたい……。そう思っても、基本はなかなか他人には聞きにくいもの。この連載では、そういったノウハウや、知っておくとグラスを交わす誰かと話が弾むかもしれない知識を、ソムリエを招いて教えていただきます。

 

「ワインの世界を旅する」と題し、世界各国の産地についてキーワード盛りだくさんで詳しく掘り下げていく、このシリーズは、フランスをはじめとする古くから“ワイン大国”として名を馳せる国から、アメリカなどの“ワイン新興国”まで、さまざまな国と産地を取り上げてきました。今回はいよいよ、日本。寄稿していただくのは引き続き、渋谷にワインレストランを構えるソムリエ、宮地英典さんです。

【関連記事】
第1回 :フランス
第2回:イタリア
第3回:ドイツ
第4回:オーストラリア
第5回:アメリカ
第6回:ニュージーランド

 

日本ワインを旅する

「日本ワインの歴史は浅い」という話をよく聞きますが、他国に比べて、本当に浅いものなのでしょうか? こと歴史という点では、5世代続く家族経営のワイナリーもありますし、サントリーやメルシャンといった大手メーカーの歴史は100年以上続いています。

 

日本人のワインとの初めての出会いは、16世紀にさかのぼります。ポルトガルの宣教師が日本に持ち込んだものだったようです。珍重され流通した時代もありましたが、“国内で生産する”という流れにはならず、江戸時代の鎖国政策でそれも一度途絶えました。

 

そして明治維新が起こり、ヨーロッパを視察した岩倉使節団はワインが産業として重視されていることを知り、新政府の産業振興の一環としてワイン造りを奨励したことが、“日本ワイン”の始まりとなります。日本人として初めてフランスに留学した山梨県の青年2人は、1877年(明治10年)に日本初のワイン会社である大日本山梨葡萄酒会社を設立し、これが現在のメルシャンの起源ともいえる事業に。時を同じくして全国各地にワイン醸造家が生まれ、サントリーも1899年に創業し、ワインの製造販売を始めます。

 

ですが、ワイン産業が奨励された後も、通常のワインは食卓になかなか受け入れられず、神谷伝兵衛の「蜂ブドー」やサントリーの「赤玉ポートワイン」といった人工甘味果実酒だけが成功を収めました。多くのワイン醸造家は苦しい時代を過ごしたことは想像にかたくありません。

 

そして明治維新から約100年。1970年の大阪万博をきっかけに幕を開けた高度経済成長の時代に、第一次ワインブームが起こり、1975年に初めて、ワインの消費量は甘味果実酒を上回ります。

 

ヨーロッパでの現代ワインのスタイルを体系化した原産地呼称制度は1920年代、アメリカやオセアニアが現在のワインのスタイルを確立していったのも戦後の20世紀後半になってからのこと、と考えると、歴史そのものはけっして見劣りするものではないように思えるのです。

 

それよりも生育期の高温多湿、梅雨や夏から秋にかけての台風といった気候条件と、現在世界中で脚光を浴びる「日本酒」という米文化、ヨーロッパの食文化が根付くのに時間が必要だったことが、ワイン文化を育み、ワイン用ブドウを栽培することに積極的になれなかった、大きな要因だったように思えます。

 

現在、日本のワイン消費は第7次ワインブームの真っただ中。チリワインなどの低価格帯ワインの家庭消費やバル、レストランの多様化など複合的な要因がありますが、そのひとつに「日本ワインブーム」もあるとされています。今では北は北海道、南は九州まで、幅広い地域でさまざまなスタイルの日本ワインが造られるようになり、目を見張るような素晴らしい品質のワインにも出会えるようになってきました。

 

100年以上の時間が必要だったとはいえ、日本ほど世界中の多様なワインが消費されている国はなく、また美食という観点からも、日本ほどレストランが高いレベルでしのぎを削る国はありません。そのなかで日本ワインが、国内のみならず海外でも広く知られる日は、もうすぐそこに迫っているように思えます。日本ワインの個性やスタイルといったものが確立されるのは、近い将来のことなのです。

1. 山梨県
2. 長野県
3. 栃木県足利と北海道
4. 山形県
5. 新潟県

 

1. 山梨県
− 日本ワインらしさを期待される甲州種の可能性 −

山梨県は、日本のワイン生産の発祥の地であり、山梨大学と県の産業技術センターに属する“ワインセンター”という研究機関をそなえる、歴史的にも技術的にも日本ワインの中心的な生産地です。メルシャンやサントリー、マンズ、サッポロなど大手メーカーの拠点もありますが、写真の「中央葡萄酒」のような家族経営のワイナリーにも注目が集まっています。

 

日本ワインのオリジナリティという話で、必ず名前が挙がるブドウ品種が「甲州」種です。山梨県勝沼で古くから栽培されてきた甲州種は、DNA研究によって3/4がヴィティス・ヴィニフェラ系であることがわかり、甲州種ワインの成功はすなわち日本固有のワインの成功につながると、これまでさまざまな工夫が重ねられてきた品種なのですが、元来生食用に栽培されてきた甲州種は糖度が上がりづらく、ワイン用のブドウには不適な面もあったのです。ワイン用ブドウは少なくとも20度、ボリュームのある味わいを得るには24度ほどの糖度が必要と言われていますが、甲州は通常だと16~18度ほどの糖度にしか上がりません。そこで中央葡萄酒の三澤茂計氏は、従来の棚仕立てから、海外で主流である枝を縦に這わせる垣根仕立てを採用し、ワイン用ブドウに必要な糖度を持った凝縮した果実を栽培しようと試みます。ところが1992年に初めて採用した際には、樹勢の強い性質から結実すらしなかったといい、挑戦は失敗に終わります。そして現在の醸造長である三澤彩奈氏は垣根仕立てに加え、高畝式というブドウ樹になるべく水分を吸わせない方式を採用、2012年に初めて糖度20度を超え、2013年には25度の果実が生まれるようになりました。

 

この年醸造した「キュベ三澤明野甲州2013」は世界最大のワインコンクールであるデキャンタ・ワールド・ワイン・アワードで、日本ワイン初の金賞を獲得します。当時、日本経済新聞に掲載された金賞獲得の記事を読んだ際、日本ワインの夜明けを感じるような感慨、わがことのようにうれしく思ったことを、昨日のことのように思い起こせます。三澤茂計氏にとっては20年以上、代々続く中央葡萄酒、山梨のワイン、日本ワインにとっては100年に及ぶ挑戦のひとつの結実だったと思えるのです。

 

こと甲州種によるワインは、日本ワインのひとつの方向性を示しました。そしてそれは現在進行形のもので、より深くより明確に日本ワインのオリジナリティを表現していく期待が、甲州種には集まっているのです。

 

中央葡萄酒「グレイス甲州 2019」
オープン価格

2. 長野県
− ワイン特区、信州ワインバレー構想が生んだ新しい日本ワイン −

長野県の日本ワインにおける歴史は古く、塩尻市桔梗が原は明治末期から、甘味果実酒の原料ブドウの大供給地として運営されてきました。五一わいんの創業者である林五一氏が戦後メルローの栽培を始めたことにより、現在に至るまで、海外品種の栽培では山梨県に先んじている産地となっています。

 

元々長野県は、ワイン用ブドウの栽培比率が全国の中でも高く、輸入ブドウに頼らないワイン生産が行われてきました。そして長野県では小規模ワイナリーが開業しやすいよう、従来の1/3の醸造量でも酒造免許が取得できるワイン特区(構造改革特別区)を制定。意欲ある生産者が続々とワイナリーを開業しています。また「信州ワインバレー構想」と銘打って、日本アルプス、桔梗が原、千曲川、天竜川と県内の産地に色付けを行い、長野ワインの個性をより明瞭に打ち出し始めました。

 

サントリーやメルシャンといった大手も拠点を構えていますが、小布施ワイナリーやヴィラデスト、ファンキーシャトーといった小規模なワイナリーは、どこもヨーロッパ品種で成功を収めています。代表的なものには桔梗が原のメルロー、千曲川のシャルドネが産地全体で高品質なワインを産みだし、同時に小規模で植えられているさまざまな品種、そしてコンコードやナイアガラといった生食用ブドウで造られたワインも、長野ワインの多様性を表現しています。

 

写真のワイン、微発砲の“辛口ペティヤン”というスタイルは、ヨーロッパの地ワイン的で価格的にも親しみやすいのではないでしょうか。生産量では山梨には及びませんが、今の日本ワインのさまざまな個性を楽しめる、また将来が楽しみなのが、長野ワインの素晴らしいところです。

 

ドメーヌ・ナカジマ「ペティアン・ナチュール・ロゼ 2020」
1980円(税込)

3. 栃木県足利と北海道
− とあるアメリカ人の、日本ワインへの功績 −

栃木県足利市にあるココ・ファームは、障害者支援施設の一面を持った国内でも珍しいワイナリーで、1958年足利市田島町に、特殊学級の教員だった川田昇氏が3ヘクタールのブドウ畑を開墾したことから始まります。

 

醸造免許を取得し、初めてワインを生産したのは1984年のこと。その5年後に、アメリカでワイナリーのコンサルタントをしていたブルース・ガットラブ氏が来日し、ココ・ファームの醸造指導を行うことになりました。その当時のココ・ファームのワインを飲んだことはないのですが、その他の多くの日本ワインと同様に甘口が主体だったものを、ガットラブ氏が加わり辛口に仕上げられるようになったということです。その頃の日本のワイン消費が食中酒ではなかったことを裏付けるエピソードですが、当初は辛口のワインは顧客に受け入れられず、クレームすらあったといわれています。それをガットラブ氏は変革の手を緩めず、野生酵母の使用や無濾過、亜硫酸に頼らないワイン醸造という、現在では当たり前ともいえる手法を次々に導入し、ココ・ファームのワインを国内でも先進的なものに変えていきました。そして2000年に開催された九州・沖縄サミットの晩餐会では“日本を代表するワイン”として供されるに至ります。

 

現在ガットラブ氏は、ココ・ファームの醸造指導を続けながら北海道岩見沢に10R(とある)ワイナリーを運営し、北海道の栽培農家に醸造の場を提供して、多くの生産者にワイン造りの示唆を与えています。足利という日本ワインの小さな一角から北海道、ひいては日本ワイン全体に変化を与えたブルース・ガットラブ氏は、日本ワインの近代化に大きな影響をもたらしたのです。

 

ココ・ファームでは、毎年秋に“収穫祭”と銘打って収穫を終えたブドウ畑の斜面でつくりたてのワインと料理を楽しむイベントを行っています。1984年のファーストヴィンテージから開催され、県外からも多くの観光客が集まる日本版ワインツーリズムのひとつの成功例となっていますが、残念ながらコロナ禍のなかでは、オンラインイベントに切り替えるなど限定的なものになっています。日本で開催されるワインイベントとしてはワインと自然が結びついていることを感じられる貴重な機会なので、また多くの人が集まれるようになったら再開が心待ちにされているイベントです。

 

ココ・ファーム「こことあるシリーズ・ツヴァイゲルト 2017」
3500円(税込)

4. 山形県
− “果物王国”山形はワインもおいしい 

岩手もドイツ系品種の栽培に成功していますが、東北のワイン生産の中心は、洋ナシやさくらんぼで有名な山形県ではないでしょうか。老舗のタケダワイナリーは大正時代からブドウ栽培を始めていて、東北ワインの歴史と歩みをともにしています。同じく山形の高畠ワイナリーは1990年創業とタケダワイナリーに比較すると歴史は浅いですが、2009年から10年間醸造責任者を勤めた川邉久之氏の活躍は、山形ワインの可能性を引き出すことに成功しました。

 

川邉氏は、カリフォルニアのナパ・ヴァレーで15年にわたりワイン醸造に携わっていたことから、日本人醸造家としては豊富な経験と知識を日本ワインにもたらした方です。以前、ナパ・ヴァレーの恵まれた気象条件と日本のそれとは大きな開きがあるという話を伺ったことがありました。ですがその際に印象的だったのは、世界のワイン産地のなかにも厳しい条件下で優れたワインを産み出す産地もある、という言葉でした。高畠ワイナリーでは、さくらんぼを原料としたフルーツワインやガス注入の廉価なスパークリングワインなど、幅広い層に受け入れられるワインも造りながら、深夜に収穫するナイトハーベストを導入するなど、本格的なヨーロッパワインの消費者層にも受け入れられるワインづくりも模索されていたように私の目には映りました。写真のゾディアックは、土壌造りから始めたという意欲作で、日本では成功例の少ないピノ・ノワールを見事な完成度で仕上げた1本です。

 

現在の日本の市場は、世界の銘醸ワインの消費者層と日本ワインの消費者層があまり重なっていないところが課題だと思うのですが、海外のワインをよく知る川邉氏のようなワイン・パーソンが今後増えていけば、いつか日本ワインはより多くの日本人に親しまれ、世界にも広がっていくように思えます。高畠ワイナリーのピノ・ノワールは、そんな想像をさせてくれる日本ワインでした。

 

高畠ワイナリー「ピノ・ノワール・ゾディアック 2017」
オープン価格

5. 新潟県
− 海と砂のテロワールと訪問客を楽しませるワイン産地 

新潟のワイン生産の歴史は古く、現在日本の赤ワイン用品種の中心を担うマスカット・ベリーAも上越市で産まれました。マスカット・ベリーAをはじめブラック・クイーン、レッド・ミルレンニュームなど数々の優良品種を産み出し、“日本ワインの父”ともいわれる川上善兵衛の創設した岩の原葡萄園は、サントリーの傘下として現在にまで残っています。

 

けれども今、日本ワインの未来を考えた際に注目すべきは、新潟市街地の角田浜、越前浜にある5軒の生産者たちが形成する「新潟ワインコースト」ではないでしょうか。1992年にカーブドッチを創業した掛川史人氏は新潟産ブドウとヨーロッパ品種でのワインづくりにこだわり、2005年に砂質土壌に適した品種としてスペイン、ポルトガル品種のアルバリーニョの可能性を見出して、この地域のオリジナリティを模索し続けています。

 

また掛川氏の主催するワイナリー経営塾の卒業生たちがフェルミエ、ドッメーヌ・ショオ、カンティーナ・ジオセット、ルサンクワイナリーと立て続けにワイナリーを開業し、新潟ワインの新しい一面を表現しています。そして特筆したいのは、レストランやオーベルジュを併設してゲストを楽しませるという、日本では初めてのコンセプトを打ち出したのも、掛川氏だということ。現在では、迎賓館赤坂離宮の正門前にカフェをオープンするなど、多角的に日本ワインを盛り上げています。新潟もまた、日本ワインの新しい潮流を産み出す新しい産地として、変化を続けているのです。

 

カーブドッチ「うみがめ(ソーヴィニヨン・ブラン)2019」
3520円(税込)

 

※ワインの価格はすべて希望小売価格です。

 

【プロフィール】

ソムリエ / 宮地英典(みやじえいすけ)

カウンターイタリアンの名店shibuya-bedの立ち上げからシェフソムリエを務め、退職後にワイン専門の販売会社、ワインコミュニケイトを設立。2019年にイタリアンレストランenoteca miyajiを開店。
https://enoteca.wine-communicate.com/
https://www.facebook.com/enotecamiyaji/