推し活やソロ活には“城めぐり”!ブームの裏側をシリーズ累計100万部突破『日本100名城公式ガイドブック』担当編集が語る

来たる4月6日の「城(しろ)の日」を前に、『日本100名城公式ガイドブック』がシリーズ累計100万部を突破。2007年に刊行して以来18年、コロナ禍でいったん落ち着いたかと思われたお城ブームが、いまパワーアップして戻ってきているようです。推し活やソロ活にもピッタリというお城めぐりの魅力を、担当編集の早川聡子さんに尋ねました。

 

■『日本100名城』って?


「日本100名城」は、公益財団法人日本城郭協会が全国のお城から選定した名城中の名城100選のことで、世界遺産や国宝天守があるような有名なお城が名を連ねています。さらに、日本100名城から10年後に選定された「続日本100名城」には、知る人ぞ知る名城や、縄張や石垣が見事な山城など、通好みのお城がピックアップされています。これら200城を紹介しているのが、『日本100名城公式ガイドブック』シリーズです。

 

18年間で100万部! 老若男女を魅了するお城のポテンシャルに迫る

―『日本100名城公式ガイドブック』シリーズが先日100万部を突破しました。いまの率直な気持ちをお聞かせください。

 

ようやくという感じで、ホッとしています。私が4代目の編集担当になった2015年は海外でテロが多発していたこともあり、国内旅行に注目が集まっていました。また、姫路城が平成の大改修を終えて真っ白な姿になったことも話題になって、TVなどでもお城を取り上げることが一気に増えたように思います。

 

さらに2016年からは、『お城EXPO』などの大きな城イベントが始まりました。お城の御朱印ともいえる「御城印」の盛り上がりや、お城に泊まれる「城泊」など新しい試みもどんどん増えて、これからさらにお城が注目されていくぞ! と思っていたら、コロナ禍で移動が難しくなってしまいました。

 

もともとお城好きな方たちは大丈夫だと思いましたが、お城めぐりを始めたばかりの方の情熱が冷めてしまうのでは……と心配していたんです。だからこそ、こうして100万部を迎えられて本当にうれしいですね。

 

―コロナ禍は部数も停滞していたのでしょうか?

 

やはり影響は受けましたね。ただ、完全に売れ行きが止まったわけではなく、「いつか行こう!」とコロナ後に思いを馳せていた方々が買ってくださっていたのかなという印象です。「100名城」のガイドブックを眺めているだけで、旅行している気分になれたという感想もいただきました。

 

2025年にこうして100万部に到達できたのは、人の移動が制限されていた期間中にも、復元や改修、リニューアル工事など、先を見据えた計画を進めていたお城が多かったからだと思います。事実、コロナ前と比べて、より見学しやすく楽しめるお城が増えています。従来のお城ファンだけでなく、より幅広い層に「お城に行ってみたい!」と思える魅力が伝わっていると強く感じます。

 

―それだけの人が戻ってきてくれたということは、やはりお城自体が持つ魅力が大きいのだと思います。担当編集としてお城の魅力はどこにあると感じていますか?

 

大きくわけて二つあると思っています。ひとつは、目で見てわかりやすい点。巨大な天守や高石垣は、実際に目の前で見ると思っていた以上に迫力があるのでテンションが上がりますよね。ビジュアルの美しさとカッコよさに、理屈は不要だと思います。

 

もうひとつは、年齢を問わず、いろいろな角度から楽しめる点です。じつはお城って、誰もが楽しめる要素を持っているんですよ。歴史が好きな方はもちろん、戦国武将好きな方は、推しの戦国武将つながりでお城を訪ねていると聞きます。一方で、歴史に詳しくなくても、城下町を歩くだけで楽しいじゃないですか。風情があるし、おいしいグルメ、名酒なんかもたくさんあるので、純粋に観光地として満喫できる点も人気の理由なのだと思います。

 

まるでテーマパーク! 全世代型・ジェンダーレス化する「城めぐり」

―ここ数年で、お城めぐりをする年代層に変化はありましたか?

 

日本城郭協会の方が、「かつては男性や年配の方の趣味という印象でしたが、いまでは全世代型・ジェンダーレス化しているイメージです」とおっしゃっていました。その通りだと思います。なかでも、お子さんの人気が高まっていると感じますね。

 

毎年年末にパシフィコ横浜で開催されている『お城EXPO』でも、年々小中学生のお子さんを連れたご家族連れが増えている印象です。お城の知識を試す『日本城郭検定』の受験者も、10歳以下と10代が全体の16%近くいるんですよ。

 

私の知り合いにも、お城好きな小学生のお子さんを持つご両親がいるのですが、現地でものすごく詳細に解説してくれるんですって。事前に知識をインプットして、お城めぐりをしながらアウトプットする。とても貴重な探究学習の機会になっているなと感じます。

↑天守閣から下界を見下ろす。ここから見張っていたのか……と戦国時代を妄想して楽しむのも一興。(筆者提供)

 

―私も数年前に姫路城に行ってきましたが、スマホをかざすと3Dで見えたり、プロジェクションマッピングが流れていたりと、大人も子どもも理解しやすい仕掛けがたくさんありました。歴史に疎くても楽しめたのが印象的でした。

 

石垣だけで天守などの建物が残っていない場合、QRコードを読みこめばVRでお城の全貌を楽しめる、というところもありますね。あとは、城って本来「戦う施設」なんですよ。だから、わざと迷路みたいな造りになっていたり、トラップが仕掛けてあったりするのも、リアルRPGみたいで子どもたちのテンションが上がる要因でしょうね。

 

そして忘れてはいけないのが、スタンプラリーの存在です。登城の記念にスタンプを押すというシンプルさが人気で、公式ガイドブックについているスタンプ帳を片手に、大人の一人旅、いわゆるソロ活でお城めぐりをされる方も増えているように思います。推し活の遠征とあわせてお城にも行っているという話もよく聞きますね。

 

全国から厳選された「100名城」をめぐると、おのずと47都道府県に行くことになります。お城がなかったら行かなかったかもしれない地域や土地を訪れる良いきっかけにもなるという理由で、お城めぐりを楽しんでいらっしゃる方も多いです。

 

「ブーム」を超えて「文化」に! お城めぐりの未来

―改めて、近年のお城ブームをどう感じていますか?

 

日本人は、昔から神社仏閣めぐりをしてきました。その流れで、お城めぐりをする人が増えてきているのではないかと思います。もはや一過性のトレンドやブームではなく、文化になりつつあるのかなというのが正直な想いです。

 

おもしろいのは、お城ファンという自覚がないまま、お城めぐりをされている方も多い点ですね。たとえば、松本に行ったら松本城にも行ってみようとか、気づいたらお城をいくつもめぐっていた、という人は意外に多いはず。行けば必ず何かしらの感動が得られますし、満足感もありますよね。何の気なしに訪れたことをきっかけに、歴史の学び直しを始めたという話もよく聞きます。

↑観光がてら立ち寄った姫路城。青空と白い城郭のコントラストが美しく、テンションMAXに!(筆者撮影)

 

―そういえば、私も地元の岐阜城や名古屋城をはじめ、姫路城、松本城、松山城……気づいたらいくつもお城をめぐっていました(笑)!

 

次はぜひスタンプ帳を持って行ってくださいね。これからのシーズンは桜が綺麗なので、お城をめぐるにはいい季節です。

 

普段よく行く公園や桜の名所が、じつは城跡(城址公園)だと気づくケースもあるんですよ。とはいえ、桜が植えられたのは戦後になってからなんですけどね。本来、お城は敵が攻め込んできたことにすぐ気づけるよう、見通しを良くする必要がありましたから。

 

―今後さらに200万部を目指して、どのような方にお城めぐりの魅力を伝えたいですか?

 

まずは、これから何か趣味を始めたいという方に勧めたいですね。最初は意図しないまま始めたとしても、一城、二城と訪れるごとに、自然とお城や歴史に詳しくなるので、どんどんおもしろくなっていくのが、お城めぐりの良いところです。レジャーでありながら、学ぶことの楽しさが実感できて、趣味としても大変お得感があります。

 

そして今後は、「〇〇城に行った」とする観光的な満足からさらに深掘りして、各城の「歴史の一端を担った史跡(歴史の証人)としての価値」や「遺構としての価値」「その城を築いた武将の戦術・戦略を実感する場」として認識してもらえるような広がりにすること。これこそが、日本城郭協会と私たち編集部の願いです。

家にいつもある“3食材”で作る!著書100冊超の人気料理家が教える無理なし定番メシとは

あなたの得意料理はなんですか? そう聞かれて答えに詰まった人にぜひおすすめしたいのが、3月27日に発売となるレシピ本『飛田和緒の得意が見つかる定番ごはん』(ワン・パブリッシング)。著者の飛田和緒さんに、レシピへのこだわりや「得意料理」の見つけ方、ご飯を作りたくない日のモチベーションの上げ方まで、たっぷりとお伺いしました。

飛田和緒(ひだ かずを)さん

会社員を経て料理家に。食べることが大好きな、自他ともに認める“食いしん坊”。幼い頃から大人が好むような料理も積極的に食べ、自分の舌で料理を覚えてきた。身近な食材で作る、無理のないシンプルなレシピが人気。

 

憧れのビーフストロガノフが得意料理になるまで

―この度発売となった『飛田和緒の得意が見つかる定番ごはん』には、飛田さんがおすすめする100品ものレシピが載っています。なかでも、一番の「得意料理」を教えてもらえますか?

 

一つ挙げるなら、ビーフストロガノフですね。20代の頃にアルバイトをしていた洋食屋さんの賄いで食べたときに、すごくおいしい! と感動してしまって。自分でも作ってみたくてシェフに作り方を聞いたんですが、「君には作れないよ」と言われたんですよ(苦笑)。悔しいから、シェフの手元を盗み見しながら作り方をイメージして、こんな感じだったら近い味になるかな? と家で挑戦してみたのがきっかけです。

↑飛田さん一番の得意料理「ビーフストロガノフ」

 

―ビーフストロガノフというと、すごく手間がかかる憧れの料理という印象です。それが得意料理とは、さすがですね。

 

そう思うでしょう? ビーフストロガノフを出すと「こんなご馳走を作ってくれたの!」と必ず喜ばれるんですが、じつはとっても簡単なんですよ。牛肉の切り落としとお野菜、ほんの少しの生クリームさえあればOK、お肉をちょっと炒めて煮ておけばいいから、作り置きもできます。食べるときに温め直してご飯に乗せるだけで出来上がり。プラスでサラダを作れば、より華やかになりますね。

 

手間がかかっているように見えて、じつは作りやすいものをレパートリーにしておくと、とっても助かります。

 

―飛田さんにとって「得意料理」と、そうでない料理の違いはどこにあるのでしょうか?

 

やっぱり、何度も繰り返し作って、自然に体が動くくらいになったものが「得意料理」かな。私の場合、ビーフストロガノフはもう数えきれないほど作ってきたので、完全に目を閉じてだと難しいけど、薄目を開けてでも作れるくらいにはなっています。そうなると、絶対的に時短ですよね。作るのに時間がかからないから。

 

あとは、おうちにいつもある材料で作れる、というのもポイントです。買い物から始めないと作れない料理だと、すぐに取り掛かりづらいですからね。

 

今回の本では、多くのご家庭で常備されているであろう卵とお豆腐、それからお財布にやさしくてご馳走感のある牛切り落とし肉の3食材をベースにしたレシピを集めました。今日からすぐに挑戦してもらえるお料理ばかりなので、何度も作って得意料理にしてもらえたらうれしいです。

 

―ちなみに、飛田さんのビーフストロガノフは、現在が完成形でしょうか? それとも、まだまだ進化中ですか?

 

現段階では、本で紹介しているレシピが完成形です。でもじつは、これまでにも何度かビーフストロガノフのレシピを紹介したことがあるんですが、材料や調味料の分量が少しずつ変わってきているんですよ。というのも、私が作るのはレストランで出す料理ではなく家庭料理なので、そのときの自分が一番好きな味をレシピに書き起こしているから。若い頃はもっと味が濃かったけれど、いまは年を重ねたので少し軽めに仕上げていたり。進化、とは少し違うかもしれませんが、その時々でお料理って変わっていっていいんじゃないかなと思います。

 

私のレシピを参考にはしていただきたいですが、その日の体調や冷蔵庫にある食材に合わせて、いろいろなアレンジ大歓迎。もしもイメージ通りの味にならなかった日があっても、「こんなふうにもできるんだ」とおいしくいただいてくださいね。

 

料理は“引き算”こそ難しい。材料と調味料を極力省いたシンプルなレシピがこだわり

―飛田さんがレシピを作る際のこだわりを教えてください。

 

一番は、材料と調味料をできるだけ少なくシンプルにしている点です。どちらも、すぐに手に入るものが大前提。今回も、最初に考えたレシピから、材料や調味料をいくつか省いたものがありました。お料理って、いろいろ足していくのは比較的簡単ですが、引き算が難しいんですよ。できるだけシンプルに、私の出したい味に近づけるか。再現性もこだわったポイントです。

 

ですから、先ほど「アレンジ大歓迎」とお伝えしましたが、まずは一度、レシピ通りに作っていただきたいなと思います。やはり、食材や調味料を代用すると、お伝えしたい味にはならないんですよ。一度作ってもらって、そのうえで、お好みの材料や調味料、火加減でアレンジして、どんどん本にメモを書き込んでいってもらえたらと思います。

 

―自分の好きな味、家族の好みの味を探していくのも、お料理の楽しみのひとつですね。

 

お料理って、お菓子作りと違って途中で味見ができるじゃないですか。だから、どんどん味見をしてほしいですね。途中で味を見ながら、好きな味に近づけていけば、失敗もないですから。

 

―飛田さんのお話を聞いていると、本当にお料理を楽しまれている様子が伝わってきます。とはいえ、時には作りたくない気分の日もあると思うのですが、そんな日はどうしていますか?

 

自分の好きなものを作るのが、テンションを上げるのに一番ですね。家族の好みを優先している方も多いかもしれないけど、「今日は私が食べたいものを作ったよ!」と付き合ってもらうのもいいんじゃないかな。あとは、台所を片付けたり、包丁を研いだりして、料理をする環境を整えておくこともちょっと気持ちが上がりますね。お鍋を無心で磨いてピカピカにしてから作り始めたり。

 

台所を担当している人は、本当にやることが多くて大変ですよね。毎日お料理を作っている方を私はすごく尊敬しています。皆さん、よくやってる! お疲れ様! と伝えたいです。

 

次なるレシピ本のテーマは「ナンプラー」? 常に新しい味を読者に届けたい

―改めて、今回の本をどんな方に届けたいですか?

 

ひとつは、この春から新しい生活を始める方。大学入学や社会人になって一人暮らしを始めるような方に、ぜひお手に取っていただきたいです。じつは私の娘も一人暮らしを始めまして、お料理に挑戦しているみたいなんですよ。いろいろ試行錯誤して頑張っているようで、完成した料理の写真がLINEで送られてきます。今回の本に載っているレシピはコンビニでも手に入る身近な材料がほとんどなので、新生活で忙しい方や料理初心者の方にも作りやすいレシピばかりだと思います。

 

あとは、毎日台所を担ってきて、さまざまな料理を作ってきたけど、ちょっと基本に帰りたい、自分の味を見つけたいという方にも、この本はおすすめです。きっと、新しい「得意料理」が見つかるきっかけになるんじゃないかな。

↑飛田さんの娘さんも得意料理とする「だし巻き卵」

 

―最後に、今後の夢や挑戦したいことをぜひお聞かせください。

 

娘が巣立って自分の時間がかなりできたので、コロナで中断していた旅に出たいですね。旅先でいろいろな新しい味に出会って、皆さんにもお届けできたらと思っています。

 

最近、魚醤(魚介類を発酵させて液状にした調味料)にハマっているんですよ。代表的なのはタイの魚醤であるナンプラーですが、日本各地にもいろいろな種類の魚醤があります。出汁替わりになるので、ちょっと味が足りないときにとっても便利です。奥が深くて使える調味料なんですが、敬遠されている方が多いので、この壁を崩していきたいですね。ワン・パブリッシングさん、次は魚醤のレシピ本を出しませんか?(笑)

 

そんな新しい味をどんどん取り入れて、皆さんに楽しんでもらえるレシピを届け続けたいと思っています。

↑飛田和緒『飛田和緒の得意が見つかる定番ごはん』(ワン・パブリッシング)

【ゲットナビ5月号】家電の「年間王者」決定!200のノミネート製品から読者が選んだ「国民的家電」はコレだ

雑誌『GetNavi(ゲットナビ)』の5月号が発売。

 

今月号の春のスペシャル二大インタビューには、山下美月さん、五百城茉央(乃木坂46)さんが登場!

 

本年度もっとも「買い」の家電が決定! 家電大賞2024-2025

GetNaviとGetNavi web、家電と暮らしの情報サイト「家電Watch」による家電アワード「家電大賞」は2015年にスタートし、今回で10回目を迎えました。

 

今回は、最新トレンドを反映し、「スマート家電部門」や「シャワーヘッド部門」などを新設。史上最多となる200のノミネート製品のなかから、ユーザー投票で最も支持された2024年の“国民的家電”を紹介します!

 

冷蔵庫部門/セカンド冷凍庫・冷蔵庫部門/洗濯機部門/エアコン部門/扇風機・サーキュレーター部門/空気清浄機部門/除湿器部門/加湿器・暖房機部門/掃除機部門/ロボット掃除機部門/炊飯器部門/キッチン家電部門/こだわり調理部門/美容家電部門/健康家電部門/シャワーヘッド部門/アウトドア・防災家電部門/セキュリティ家電部門/テレビ部門/テレビ周辺機器部門/スマート家電部門/照明部門/特別賞

いまからでも遅くない! キャッシュレスdeおトク作戦

いよいよ、新生活が始まる季節です。就職や転勤などで環境が変わるとともに、なにかと出費がかさむこの時期だからこそ、クレカを見直したり、ポイ活を始めたりするのにうってつけ。いま一度キャッシュレス事情をチェックして、おトクをつかみ取りましょう!

Contens
■おもなキャッシュレス決済
■ポイントの貯め方・使い方
■6大ポイント経済圏 解説 楽天ポイント/PayPayポイント/Vポイント/dポイント/Pontaポイント/WAON POINT
■ポイントサイトやポイ活アプリで“稼ぐ”という手もアリ!  ほか

カメラの祭典「CP+」に各社自慢の新製品が集結! 見えたッ! 2025年のカメラトレンド

2月27日から3月2日に開催された、日本最大のカメラと写真映像のワールドプレミアショー「CP+」を現地取材!

 

さまざまな分野に急激な進化をもたらしている「AI」は、カメラの性能にどんな変化をもたらしているのかなど、キヤノンやソニーといった主要カメラメーカーを中心に、2025年のカメラトレンドを読み解きます。

 

また、「がんばり過ぎない ゆる筋トレ」と題し、座ったままエクササイズができる筋トレアイテムや、EMS、プロテインなど筋トレライフにオススメの、取り入れやすいアイテムを紹介します。

 

筋トレは継続こそが大切! まずはできることから、気負わず始めてみませんか。

 

読者や文房具ファンからの投票で、仕事や勉強、作業の効率をアップさせる機能をもつ “はかどり文房具”のナンバーワンを決定する「文房具総選挙」の投票受付がスタート。 ノミネート商品をご紹介します

 

投票締め切りは2025年4月20日(日)いっぱいまで。ぜひチェックしてご投票ください!

 

[商品概要]
GetNavi 2025年 5月号
特別定価:760円 (税込)
発売日:2025年3月24日
判型:A4変
ISBN:4910136710550
電子版:有
ワン・パブリッシングWebサイト:https://one-publishing.co.jp/

 

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元は愛されキャラじゃなかった!? 猫の日に読みたい! 猫マンガ90年の歴史と傑作セレクション

2月22日は猫の日。愛くるしさとツレなさをあわせ持ち、たくさんの人を虜にしてきた猫。その唯一無二の魅力はマンガの世界でも発揮されており、これまで猫を題材とした名作が数多生まれてきました。そんな猫マンガの歴史は、なんと90年を超えるとか!

 

今回は、にゃんにゃんにゃんの日にあわせ、京都国際マンガミュージアムの学芸員で、猫マンガに詳しい倉持佳代子さんにその変遷とおすすめ作品を教えていただきました。

 

「化け猫」から「かわいい」へ
社会と共に移り変わる猫のイメージ

“かわいい”、“モフモフで癒やされる……”など、いまや愛すべき存在の頂点に君臨していると言っても過言ではない猫ですが、実は昭和初期の貸本や1960年代の少女マンガでは、その真逆、“不吉な存在”として描かれてきた歴史があります。猫の描かれ方はどのように変わってきたのでしょうか。

 

「猫マンガの歴史を遡ると、1930年代に『ネコ七先生』(島田啓三・著)という作品が描かれましたが、当時は犬が主人公の『のらくろ』シリーズ(田河水泡・著)が大ヒット中。ペットとしても、猫よりも従順な性格である犬のほうが人気だったようです」(京都国際マンガミュージアム学芸員・倉持佳代子さん、以下同)

「さらに、化け猫に代表されるように、猫は江戸の浮世絵の頃から“不吉、不気味なもの”として描かれてきました。昔は、猫をネガティブな存在にとらえる人が今よりずっと多かったのです。この化け猫のイメージは戦後の貸本マンガに継承されます。
そして1960年代には、少女マンガ業界でホラーブームが起きたのですが、そこにも猫が描かれていました

 

しかし一方で、60年代にはギャグ漫画『もーれつア太郎』(赤塚不二夫・著)のニャロメなど、個性の立った猫キャラクターも登場し、猫にポジティブなスポットライトが当たるようにもなりはじめたそうです。

 

また、庶民の暮らしが豊かになるにつれ、愛玩動物として猫を飼う人も増加。73年には動物愛護法が制定されました。

「1970年代頃になると、団地やマンションに住む人が増え、住居の密閉性が整ったことで猫を室内で飼う人も増加。これにより、猫の魅力に気づく人が増えたのだと思います。
そうした状況とリンクしてか、71年には少女向けの雑誌で4コママンガの『にゃんころりん』(ところはつえ・著)など、愛らしい猫キャラの作品が人気を集めるように。同時に、女の子を中心に“猫=かわいい”というイメージも根付きはじめていきました
74年には「ハローキティ」など、猫をモデルとしたキャラクターのファンシーグッズも話題になりましたね」

©ところはつえ/マーガレットコミックス

『にゃんころりん』
ところはつえ 著/集英社(全4巻)/1974年発表

 

猫マンガの変遷を年代ごとに解説!

その後、猫マンガのトレンドはどのように移り変わっていったのでしょうか。年代別にお聞きしました。

 

1970年代:“猫耳”という表現が猫マンガに登場

かわいらしい猫が描かれるようになった70年代。もうひとつ見逃せないのが、“猫耳少女”の登場です。

 

「78年に連載がスタートした少女漫画『綿の国星』(大島弓子・著)では、少女に擬人化した子猫が描かれました。猫耳と尻尾を生やした女の子のキャラクターと心温まるストーリーで人気を集め、いわゆる“猫耳”をその後の世に浸透させたエポックメイキングな作品と言えます」

©大島弓子/白泉社

綿の国星
大島弓子 著/白泉社(全4巻)/1978年発売
1巻:611円 2〜4巻:各571円(すべて税込)

 

またこの時代は、『アタゴオル』(ますむらひろし・著)のような猫が登場するファンタジー作品も人気を集めていました。その後も、さまざまなマンガ家により猫が登場するファンタジー作品が多数描かれるようになります。

 

1980年代:猫マンガブームの“元祖”が誕生

80年代に入ると、猫本来の特徴を生かしながらも、人間のようにしゃべる猫を描いたマンガが登場します。

©小林まこと/講談社

新装版 What’s Michael?』(デジタル版)
小林まこと 著/講談社(全5巻)/1984年発表
各660円(税込)

 

「あるがままの猫の特性を描いたコメディ漫画『What’s Michael?』の登場は、センセーショナルでした。勝手気ままな猫の姿はそれ自体が面白く、愛すべきポイントであるというメッセージが描かれています。さらに“猫に振り回される人間”もコミカルに描かれ、それ自体が大きな題材になることを示したこの作品は、以後、現在まで続く猫マンガブームの元祖と言えるでしょう。
また、『ふくふくふにゃ〜ん』の作者・こなみかなた先生のような、主に猫を主役にしたマンガを描く作家が登場しはじめたのも80年代です。こなみ先生のマンガは、猫を飼っている人みんなが共感する“猫あるある”が満載で、こちらもパイオニアと言えるでしょう」

©こなみかなた/講談社

ふくふくふにゃ~ん』(デジタル版)
こなみかなた 著/講談社(全12巻)/1988年発表
各550円(税込)

 

1990年代:いまも人気の猫エッセイマンガ時代に突入!

90年代に入ると、現在も尚人気の高い“猫エッセイマンガ”の時代へと突入します。

 

「80年代から連載が続いていた、擬人化された飼い猫との暮らしを描いた『サバ』シリーズ(大島弓子・著)をはじめ、猫との暮らしを描くエッセイマンガが人気でしたが、90年代以降、このジャンルはさらに活性化します。
特筆すべきは、飼い猫との暮らしを描いた『ゆず』シリーズ。このシリーズに「長い長いさんぽ」(2005年)という作品がありますが、そこには愛猫・ゆずとの “別れ”が丁寧に描かれています。ちなみに、『サバ』シリーズの著者の大島さんが、96年に連載を始めた『グーグーだって猫である』(大島弓子・著)は、サバの死で失意の底にいた作者が新しい猫・グーグーを迎え入れるところからスタートします。これらのエッセイマンガから見えてくるのは、飼い主にとって、猫は単なるペットではなく、かけがえのない“家族”のひとり、ということです」

©須藤真澄/秋田書店

『ゆず』(デジタル版)
須藤真澄 著/秋田書店/1993年発売
594円(税込)

 

2000年代:インターネットの普及で猫マンガブームへ

2000年代に入ると、猫マンガの発表の場は雑誌などの紙媒体だけでなく、WEBへと広がっていきます。現在も連載が続く『きょうの猫村さん』(ほしよりこ・著)や、『くるねこ』(くるねこ大和・著)など、WEBサイトや個人ブログから始まり、後に実写ドラマ化・アニメ化される人気作も登場し始めました。

 

これにより2000年代は、猫マンガの作品点数が増え、一大ムーブメントに。専門誌の創刊や猫マンガアンソロジーの刊行などが相次ぎました。

©ほしよりこ/マガジンハウス

きょうの猫村さん
ほしよりこ 著/マガジンハウス(既刊10巻)/2003年発表
1〜6巻:各1257円 7〜10巻:各1320円(すべて税込)

 

©くるねこ大和/KADOKAWA

くるねこ
くるねこ大和 著/KADOKAWAに(全20巻)/2008年発表
各1100円(税込)

 

2010年代:人が猫の世話をするのではなく猫が人の世話をする物語が急増

「猫マンガに限った話ではありせんが、インターネットの普及により、プロデビューしている作家だけでなく、アマチュア作家が書いた人気作が多く生まれたのも、この時代の大きな特徴です。
この流れは2010年代以降にはさらに広がり、『夜廻り猫』(深谷かほる・著)、『鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!』(鴻池剛・著)など、SNSで話題になりブレイクする猫マンガも増えてきました」

©深谷かほる/講談社

夜廻り猫
深谷かほる/講談社(既刊11巻)/2015年発表
1〜5、10巻:各1210円 6〜9巻:各1111円 11巻:1430円(すべて税込)

 

©鴻池剛/KADOKAWA

鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!
鴻池剛 著/KADOKAWA(既刊3巻)/2014年発表
1巻:1212円 2〜3巻:各1100円(すべて税込)

 

そして倉持さんは、2010年代以降の猫漫画には、もうひとつ面白い特徴があるといいます。

 

「拾った猫が家事をパーフェクトにこなして快適な生活をサポートしてくれる『できる猫は今日も憂鬱』(山田ヒツジ・著)や、猫が営むラーメン屋の日常を描いた『ラーメン赤猫』(アンギャマン・著)のように、猫が人の世話を焼く、人と同じような仕事に就いて癒やしを与えてくれる作品が人気を呼んでいるんです
本来は人が猫の世話を焼く立場なのですが、それが逆転することで癒やしが生まれているのでしょう。みんな、厳しい現実社会に疲れているのかもしれませんね」

©山田ヒツジ/講談社

デキる猫は今日も憂鬱
山田ヒツジ 著/講談社(既刊10巻)/2018年発表
1〜8巻:各990円、9〜10巻:各1045円(すべて税込)

 

©アンギャマン/集英社

ラーメン赤猫
アンギャマン 著/集英社(既刊10巻)/2022年発表
1巻:693円 2〜7巻:各748円 8巻、10巻:各836円 9巻:814円

2010年代に一旦落ち着いた様相を見せていた猫マンガブームは、2020年以降また盛り上がりを見せてきているそう。コロナ禍を経て、猫を飼う人が増えたことも影響しているのかもしれません。

 

不気味な存在から愛すべきペット、さらには家族の一員へと、時代と共に地位を向上させてきた猫。その変化は猫マンガにも大きく反映されてきたようです。

 

今や猫マンガはいちジャンルとして確立しているわけですが、それでも「マンガの題材としての可能性は尽きない」と倉持さんは語ります。

 

「猫マンガは、いまや育児マンガと同じような感覚で楽しまれているのだと思います。“猫と暮らす”という文化自体に今や新しさはありませんが、子育て同様、それぞれの個性はあるもののネタになりやすい共感ネタがたくさんあるからです。昔の作品であっても内容が古びることがなく、末永く愛され続けていくと思います」

 

マンガのプロが選ぶおすすめ猫マンガ6選

最後に、倉持さんにおすすめの猫マンガを6冊教えていただきました。

 

1冊目/明るいストーリーなのに大人も子どもも泣く

©高田エミ/集英社

『ねこ・ねこ・幻想曲(ファンタジア)』
高田エミ  著/集英社(全16巻)/1985年発表
各440円(税込)

[ストーリー]
樹村家で暮らす黒猫のシロは、年末にパパがみんなに贈りものをすることを知り、“自分もみんなに何かをプレゼントしたい”とお月様に相談する。すると、お月様から“銀のしずくの力”を授かり、ヒトに変身できるようになって……!?

 

[倉持さんのおすすめコメント]
「人生で初めて買ったマンガ雑誌が『りぼん』(集英社刊)なのですが、猫好きの私にとって、この作品もお目当てのひとつでした。明るくハッピーな作品なのに、泣ける話も多くて小学生の頃は号泣しながら読んでいました。大人になり再読しても泣けて泣けて……。特にシロの飼い主・里子のお父さんが猫嫌いになったきっかけなど、思い出しただけで涙が出ます。絵もかわいらしく、古さを感じません」

 

2冊目/愛猫と過ごす時間のかけがえのなさを実感できる

©須藤真澄/KADOKAWA

長い長いさんぽ』(デジタル版)
須藤真澄 著作/秋田書店(全1巻)/2006年発売
713円(税込)

[ストーリー]
作者と愛猫ゆずとの他愛のない日常と、猫のあるあるネタを描いたエッセイマンガ。今作では高齢になったゆずを作者夫婦が看取り、弔う様子が細かく描かれている。

 

[倉持さんのおすすめコメント]
「猫マンガの変遷にも登場した『ゆず』シリーズの作品。作者と愛猫・ゆずの日常を描いたシリーズのなかで、ゆずとの別れを描いた作品です。猫を飼っている方は絶対に逃れられない“愛猫との別れ”が丁寧に描かれています。
私もかつて長年飼っていた愛猫との別れを経験したのですが、この作品に出会い、辛さを分かち合えたような気持ちになり励まされました。猫と一緒に過ごせる一瞬一瞬がかけがえのないものだということを実感できると思います」

 

3冊目/猫派も犬派も読めば犬猫両方派に!?

©松本ひで吉/講談社

『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』
松本ひで吉 著/講談社(既刊8巻)/2017年発表
各935円(税込)

[ストーリー]
X(旧・Twitter)投稿から人気に火が付いた、エッセイコミック。天真爛漫な愛犬と、王のように凶悪ながら愛らしい愛猫の日常が、笑いあり・ほろりありでコミカルに描かれている。

 

[倉持さんのおすすめコメント]
「猫ならではのかわいらしさと、犬ならではのかわいらしさ、その両方が堪能できます。これまで私は完全な猫派だったのですが、最近になり犬の魅力にも気づいてしまい……。犬猫両方をお迎えしたときの参考にしています」

 

4冊目/猫ウイルス蔓延! パンデミックならぬニャンデミック

©ホークマン・メカルーツ/マッグガーデン

ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット
ホークマン 原作・メカルーツ 作画/マッグガーデン(既刊6巻)/2020年発表
1巻:671円 2巻:660円 3、5巻:各693円 4巻:715円 6巻748円(すべて税込)

[ストーリー]
猫に触れた人間を猫に変えてしまうウイルスにより、全世界でパンデミックが発生。人々は猫にモフられ、次々と猫へ……。果たして人類は、猫に触りたい誘惑に抗い、猫だらけの世界を生き抜くことができるのか!?

 

[倉持さんのおすすめコメント]
「猫が人間に戦争を仕掛けてきたら、絶対に勝てないな……と常日頃、思っていたのですが、この作品を読んでやっぱりどうやっても勝てないと思いました! 猫好きが考えている妄想を、ハイクオリテイな絵とお話で形にしてくれています。本作に登場する人間がみんな猫好きで、猫には絶対に危害を加えられない……という大前提が良いですよね」

 

5冊目/“猫に置き換える”が究極のストレスマネジメント!?

©やじま/KADOKAWA

『ねこに転生したおじさん』
やじま 著/KADOKAWA(既刊3巻)/2023年発表
各1375円(税込)

[ストーリー]
ごく普通のサラリーマンだったおじさんが、ある日突然ハチワレ猫に転生してしまった。道端で困っていると、おじさんが勤める会社の社長に遭遇。厳しい性格で知られる社長だが、猫(おじさん)の姿を目にした途端、顔が緩んで……。正体がバレないように猫らしく振る舞うおじさんと、猫を“プンちゃん”と名付けて溺愛する社長の、ハッピーでシュールな生活が始まる。

 

[倉持さんのおすすめコメント]
「うちの母が父の行動を見て、“姿がおじさんだから憎たらしいけど、猫だったらと思うと、すごくかわいい”と言っていたのに納得していたら、この作品に出会いました。イラッとする人に出会っても、猫に置き換えると意外とかわいいのでは? ストレスを和らげる妄想力が養えるかもしれません。猫の姿にリンクして、元のおじさんの姿が描かれているのも最高!」(倉持さん)

 

6冊目/猫似ではなく“顔が猫”のヒーローが当たり前を覆す!

©大詩りえ/集英社

『猫田のことが気になって仕方ない。』(デジタル版)
大詩りえ 著/集英社(全10巻)/2013年発表
1〜4巻:各418円 5〜10巻:各439円(すべて税込)

[ストーリー]
転校を繰り返してきた小学生・周未希子は、友だちを作ってもどうせすぐにお別になるからと、人と深く付き合ったり、友だちを作ったりすることをやめてしまった。そんなドライな学生生活を送ってきた未希子だが、新しい転校先で猫の顔をした男子・猫田に出会う。さすがの未希子も無関心ではいられなくなって……!?

 

[倉持さんのおすすめコメント]
「“じつは猫って、最強の恋人像・ヒーロー像なのでは!?”という新しい観点が面白いです。猫田くんは猫みたいな顔ではなくて、本当に猫の顔で描かれています。ヒロインにだけなぜか猫の顔に見えるという設定です。一見ギャグマンガに見える絵面ですが、読み進めると猫田くんがちゃんとかっこよく見えてくる、すごいマンガです」(倉持さん)

 

Profile

京都国際マンガミュージアム学芸員 / 倉持佳代子

主に少女マンガやエッセイマンガの研究を続けており、京都国際マンガミュージアムでの展示企画などを担当。新聞雑誌などを中心に執筆業も。マンガ原作を手がけた『マンガって何?マンガでわかる マンガの疑問』(青幻舎刊)も、登場キャラクターが猫。
X

 

京都国際マンガミュージアム

国内外のマンガに関する資料が集結した、日本初のマンガミュージアム。博物館としての機能と図書館としての機能を併せ持つ。保存されているマンガ資料は、江戸期の戯画浮世絵から明治・大正・昭和初期の雑誌、戦後の貸本から現在の人気作品、海外のものまで、約30万点。
HP

 

 

世界の一流が大切にする利他の精神とは? スタンフォードの日本人校長が解く幸せの秘訣

毎日多忙な@Living世代には、仕事や人間関係など、ふとしたことで思い悩み、立ち止まってしまう瞬間もあるのではないでしょうか。

 

「何のために自分はがんばるのか?」
「私にとって本当の幸せとは?」

 

そんな漠然とした問いに鮮やかなヒントをくれるのが、スタンフォード大学のオンラインハイスクールで校長を務める日本人、星 友啓先生のベストセラー『スタンフォード式 生き抜く力』(ダイヤモンド社)です。

 

本書が伝える「生き抜く力」とは、スタンフォードに集う精鋭たちが、表面的な成功に終わらない「幸せ」のために実践する最先端の心理学にして、最高の生存戦略。先が見えない時代を自分らしく生き抜くための秘訣を、ブックセラピストの元木忍さんが聞き手となって、全3回にわたり紐解きます。

スタンフォード式 生き抜く力』(ダイヤモンド社)
世界中の天才が集まるスタンフォード大学でオンラインハイスクール校長を務める著者が、競争の激しいシリコンバレーで実践されてきた最先端科学に基づくグローバルスキル「生き抜く力」を説く。現代の成功者たちが結果を出すためにやっていること、彼らの円滑なコミュニケーションの秘訣や本当の幸せのつかみ方、未来を担う子どもたちの教育法までを、一人でも実践できるエクササイズとともに紹介している。

 

シリコンバレーの猛者たちは
「利他的マインド」を大切にする

元木 忍さん(以下、元木):2020年に発売後、教育や企業研修などの現場で話題となっている一冊ですが、さまざまな業種の企業の経営者にお会いすることが多い私も、本作には深い学びがありました。まずは本が発売された背景を教えてください。

 

星 友啓さん(以下、星):ありがとうございます。私はいまサンフランシスコ在住で、今の仕事に関わってもう20年近くになります。

 

みなさんご存知のように、サンフランシスコのシリコンバレーは有名IT企業が多く、スタートアップのメッカのようなところ。私も渡米した当初は、シリコンバレーといったら世界中の天才たちが集まり、ケンカ上等で競争を繰り広げている、そんな世界を想像していました。

 

でも長く住めば住むほど、その想像とはまったく違っているとわかってきたんです。

↑『スタンフォード式 生き抜く力』の著者であり、オンライン教育の世界的リーダーでもある星さん

 

星:私がこれまでに出会った多くのビジネスリーダーは、相手を打ち負かすような戦いではなく、お互いに助け合ったり、親身に相談にのったりといった、いわゆる「思いやり」や「利他的なマインドセット」を大切にしていました

 

実はこれが、彼らが激しい競争のなかを生き抜く力につながっていると気づき、とても驚いたんです。そのことを本に書こうと思いました。

 

本当の幸せや生きがいを感じる秘訣は
能力や評価ではなく「動機付け」にある

元木:日本で働く大人世代も、日々さまざまな競争にさらされています。ただ、日本社会では競争というと勝ち負けの話に終始してしまい、互いを認めながら共存するといったマインドはまだ発展途上な気がしますね。

 

キャリアアップして上へ上へと登りつめても、心が疲弊して働く目的を見失ってしまうような人が少なくないです。

↑聞き役を務めた、ブックセラピストの元木 忍さん

 

星:たしかにそうなのかもしれません。その原因を最近の心理学である「自己決定理論」に基づいて説明すると、日本人は「動機付け」が他者や社会から押し付けられた「外発的」なものになっているケースが多いんです。

 

私は、これが今の日本社会における閉塞感のひとつであると考えています。

 

よく「日本の詰め込み教育はよくない」などといわれますが、実は詰め込み教育自体が悪いというエビデンスは見つかっていません。本来人間の脳は、学びを求めるようにデザインされていますから

 

私たちの脳の中では、自ら学ぼうとする「内発的」な動機付けをもとに何かを学び、わかったと感じたとき、ドーパミン(幸せを感じるホルモン)が分泌されます

星:一方で、日本の教育システムは内発的な動機付けから学ぶことよりも、テストで他者と競ったり、世間的にいいとされる大学や会社を目指すといった外発的な動機付けを子どもに押し付けがちです。

 

これを繰り返すと、当初の「学びたい」という内発的な動機付けは次第に薄れていき、今度は外発的な動機付けがないと「学ぶ」ことができない状態になってしまうんです。

 

元木:興味深い話です。子どもに限らず、働く意欲をなくしている大人たちにも似たような現象が起こっていそうですね。

 

星:まさにおっしゃる通りで、最初は熱い志を持って入社してきた社員が、ノルマや出世競争といった外発的な動機付けに追われ、やる気をなくしていくのがその一例です。

 

近年は日本のスタートアップも少しずつ盛り上がっていますよね。それ自体はいいことですが、日本にはその目標が「EXIT」になっているベンチャーが多く、長続きしないともいわれます。

 

なぜなら、自分のアイデアや仕事で社会に何らかのインパクトをもたらしたいという内発的な動機付けではなく、とにかく事業を一発当てて会社を売却し、対価を得たいといった、外発的な動機付けから起業しているからです。

元木:よく経営者や重要な役割を持つ方などが陥りがちな鬱病なども、そこに関わっていますか?

 

星:そうかもしれませんね。外発的な動機付けによる行動を長く続けていると、いろいろな精神疾患のリスクが生まれやすいことも、ここ30年くらいの研究でわかってきています。

 

内発的な動機付けをいかに強くして維持するか。それは、ビジネスの世界で生き抜く力にも深く関わってくる、重要なことなのだと思います。

 

「心の三大欲求」を満たせば
「内発的」な動機が生まれる

元木:自分でも気付かぬうちに、「外発的」な動機付けからの「やりたいこと」を追い続けてしまい、いつしか自分を見失ってしまう。そんな人も実は多いのかもしれません。星さんがおっしゃっている「内発的」な動機付けって、そもそも鍛えられるものなのでしょうか?

 

星:はい、もちろん可能です。先の「自己決定理論」では、人間の心は根本的に3つのことを求めているとされていて、次に挙げる「心の三大欲求」を満たすような生き方をしていると、内発的な動機付けが得られやすくなったり、それを長く保てるようになるのです。

星:ここで冒頭の話に戻るのですが、シリコンバレーの成功者たちが実践している「利他的なマインドセットによる行動」って、今挙げた心の三大欲求をガチで満たしてくれるものなんです

 

たとえば彼らは、お互いが苦境にあるときに助け合うことがよくありますが、この「人助け」はまさに人と人の「つながり」を生む行動です。

 

さらに、その人のために何かを「できた」という感覚は「有能感」になります。そしてこれが最も難しいところですが、心から「助けたい」と思って助けてあげたなら、それは「自発性」をも満たす行動になるわけです。

 

元木:なるほど。争うことや優劣をつけること、相手を出し抜いたり陥れることで得られる成功では、心の三大欲求は満たせないというわけですね。

 

世界をリードする企業では
「自己決定理論」が採用されている

星:歴史を紐解いてみても、やはり「利他的なマインドセット」や「思いやり」こそ人が幸せを感じる秘訣だと、多くのビジネスリーダーや聖職者などが説いてきました

 

スタンフォード大学にはこの利他的なマインドセットを科学的に学べる研究所があるのですが、これはあのダライ・ラマの寄付によって創立されたんですよ。

 

元木:それは面白いエピソードです。つまりこれまでのお話は、スタンフォード大学で研究されているような最先端の心理学をもとにした、科学的な裏付けのあるお話なんですね。

 

星:はい。その通りです。これは私の芸風でもあるのですが、科学的なエビデンスをもとに説明することを大切にしています。「思いやり」とか「利他的な精神」って、やっぱり説教くさく聞こえがちですから(笑)。

 

少し前に日本へ行ったときに、わりと大きな企業の人事部の方を集めた講演会に登壇しました。そのときにも、これからの人的資本経営における「自己決定理論」の有用性について話してきたところです。

 

元木:「人的資本経営」とは、人材の価値を最大限に引き出して、企業価値を向上させていく経営スタイルのことですね。上の世代のパワハラやモラハラが横行する現在の日本では、あまりうまくいっていないという印象がありますが……。

 

星:日本の多くの企業における人的資本経営って、そのベースに使っている心理学がすでに古くなっているケースが多いんです。

 

より高いノルマを突きつけ、ガムシャラな自己実現を煽るような「モチベーション理論」に基づく人的資本経営はまさにそのひとつで、これは90年代のアメリカでよく採用されていました。

 

その結果どうなったかというと、数字ばかり見てお客さんのことを考えなくなるので、売り上げが落ちたり経営破綻に至る大企業が続出したんです。

 

一方、最先端の科学に基づく「自己決定理論」を取り入れて、人的資本経営を成功させているのがGoogleです。

星:同社が採用した「20%ルール」は、仕事時間のうち20%は自分のやりたいことに自由に使えるといったものですが、これは「心の三大欲求」でいう「有能感」や「自発性」を生み出す効果があります。

 

また、デジタル音楽配信サービスのSpotifyには部署のような概念がなく、プロジェクトベースでチームが作られています。これは人と人の「つながり」がより強く感じられたり、「自発性」が促される効果もあると思います。

 

元木:「心の三大欲求」を満たした内発的動機付けによる生き方、働き方こそ、私たちが求める「幸せ」そのものなのかもしれませんね。

 

星:おっしゃる通りで、まずは動機付けが大切な土台になると思います。

 

元木:次回はいよいよ、『スタンフォード式 生き抜く力』の根幹ともいえる、他者との上手な関わり方、ストレスフリーな人間関係の築き方について、具体的な方法をレクチャーいただきたいと思っています。星先生、ありがとうございました。

星:こちらこそ、ありがとうございました。

 

Profile

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 / 星 友啓

1977年東京生まれ。哲学博士、EdTechコンサルタント。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程を卒業して渡米、テキサスA&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士を修了。その後スタンフォード大学講師を経て、同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加し、2016年より校長に就任。2020年には同校を全米の大学進学校1位にまで押し上げた。現在は各地での講義活動、米国やアジアに向けた教育・教育関連テクノロジーのコンサルティングにも精力的に取り組む。
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ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。
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【ゲットナビ4月号】備えあれば憂いナシ! 最新アイテムで身を守る「防犯・防災グッズの最前線」

雑誌『GetNavi(ゲットナビ)』の4月号が発売。

 

今月号のスペシャルインタビューには、timeleszの佐藤勝利さんが登場!(紙版のみ。電子版には未掲載)

安全な暮らしを守るために備えておきたい「防犯・防災グッズの最前線」

凶悪犯罪や大規模地震、豪雨災害など、私たちの安全を脅かす出来事が後を絶ちません。いざという時に身を守るため、最新の防犯・防災アイテムへの注目が高まっています。進化を続ける安全対策グッズのなかから、特に注目の製品をピックアップしてご紹介します。

 

【防犯編】
侵入強盗や特殊詐欺などの被害がさかんに報じられる昨今、“犯罪に巻き込まれる”ことは、もはや他人事ではなくなっています。防犯アドバイザーで、元 埼玉県警察本部刑事部 捜査第一課 警部補の佐々木成三さんによれば、防犯対策の「アップデート」が必要だと言います。自分や家族の命はもちろん、大切な家や財産を侵入犯罪から守る3つのポイントとは。対策を学びつつ、新時代の犯罪を防ぐ電話機やドアホンといったアイテムも紹介していきます。

 

 

活用したいおトクな補助金事情についても解説!「住宅リフォームの基礎知識」

直したい箇所はあるけど、相場がよくわからないしお金もかかりそう……と、住宅リフォームは二の足を踏みがち。しかし、窓や給湯器など省エネ関連のリフォームは、条件を満たせば行政の補助金制度を受けられるケースもあるのです。

 

この特集では、「子育てグリーン住宅支援事業」「先進的窓リノベ事情」といった注目の補助金制度の解説を始め、パナソニック、TOTO、LIXILといった住宅設備メーカー大手の注目商品を紹介します。

 

「Z世代向けPC」や「ジン」の特集も要チェック

PCやお酒など、ゲットナビならではの多彩なジャンルの記事もそろっています。新連載、山﨑晴太郎「NEXT CREATORS」もスタート!

 

デジタルネイティブ向けにハードウェアが劇的に進化!「最新Z世代向けPC徹底調査」

 

ひと足早い花の絶景や旬の味覚を満喫!「春に出掛ける感激旅」

 

自由で革新に満ちた銘柄が続々誕生!「到来! ジンの時代」

 

春花粉からカラダ・衣類・空間を守る!「花粉対策最前線」

 

[商品概要]
GetNavi 4月号
特別定価:760円(税込)
発売日:2025年2月21日
判型:A4変形
ISBN:4910136710451
電子版:有
ワン・パブリッシングWebサイト:https://one-publishing.co.jp/

 

【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DVH6KBKZ/
・楽天 https://books.rakuten.co.jp/rb/18139191/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1258400297

ノーベル文学賞受賞で話題! 韓国文学の魅力と系譜、おすすめ作品を専門書店が解説

2024年10月、韓国の作家・ハン・ガンさんがアジア人女性として初めてノーベル文学賞を受賞し、日本でも大きな話題となりました。韓国文学(「K-文学」や「K-BOOK」と呼ばれることも)はここ数年、日本で刊行点数がぐんと伸びているジャンル。最近では、書店に専用の棚ができたり、韓国文学だけを扱うブックフェスなどのイベントが増えたりしています。

 

このように目にする機会が増えた韓国文学。「気になってはいるけれど、何から読んだらいいかわからない」と感じている人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、韓国文学の翻訳書を多数刊行している出版社「クオン」の代表であり、韓国文学専門書店「チェッコリ」の店主でもある金承福(キム・スンボク)さんと、同じく「チェッコリ」にて宣伝広報を担当する佐々木静代さんに、韓国文学の魅力やおすすめの作品をお聞きしました。

 

「冬ソナ」、K-POP、ノーベル文学賞…
日本でも増える韓国文学ファン

クオンが韓国文学の出版社として創業したのは2007年。そして2015年に、東京・神保町に韓国書籍専門書店「チェッコリ」をオープンしました。現在、韓国文学ファンの間では、クオンもチェッコリも「韓国文学情報の発信地」として知られています。

↑チェッコリでは、日本語に翻訳された韓国書籍だけでなく、韓国語で書かれた原書も多く取り扱われており、全国からファンが足を運びます

 

「クオンではもともと、読者の方に興味を持っていただくために、韓国と日本の作家の対談イベントや、読書会などを開いていました。そのときに大変だったのが、場所の確保です。それなら自分たちが自由に使える空間を作ろうと、チェッコリをオープンしました」(「クオン」代表・金さん)

↑「クオン」の代表であり、「チェッコリ」の店主でもある金さん

 

「当時はいまのように韓国の本を扱う書店がほとんどなかったので、それであれば自分たちでやってしまおうと考え、書店という形にしたんです」(金さん)

 

オープン当初、訪れる人は、『冬のソナタ』で韓国ドラマファンになり、そこから文学へと興味を広げていった40代以上の女性がほとんど。そしてコロナ禍前後になると、K-POPなどの韓国カルチャー人気の影響により、若い女性が増えていったそうです。

 

「今回のハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞をきっかけに、文学好きの男性のお客さんも増えてきていますね。割合としてはまだまだ女性のほうが多いのですが、今回の受賞により、お客さんの流れが少しずつ変わってきている印象です」(「チェッコリ」宣伝広報・佐々木さん)

↑「チェッコリ」で宣伝広報を担当しながら、K-BOOK振興会事務局長としても活躍する佐々木さん

 

日本で話題になった
韓国文学の系譜

日本で支持される韓国文学の特徴を聞くと、「実は韓国と日本でトレンドの差はあまりなく、韓国で売れている本がそのまま日本でも刊行され、実際にヒットしているんです」と金さん。さらに「最近では、比較的短期間で日本語版が発売されるにようになった」と続けます。

 

「この流れは、映画化もされたチョ・ナムジュさんの『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)あたりから始まった気がします。韓国で2016年に刊行された作品で、2018年にはもう日本語版が出版されていましたから。そしていま、このタイムラグはどんどん短くなっている印象です」(佐々木さん)

↑『82年生まれ、キム・ジヨン』は、韓国国内での累計発行部数が136万部を越えるベストセラー。韓国の人口が約5200万人ほどであることを考えると驚異的なヒットです。現在、世界中で翻訳版が発売されています

 

『82年生まれ、キム・ジヨン』のキム・ジヨンとは、韓国の82年生まれに最も多い名前。本作は、女性が人生で向き合う困難や差別を描いた、いわば「フェミニズム小説」です。

 

同じく2019年には、文芸誌『文藝2019年秋号 韓国・フェミニズム・日本』(河出書房新社)が発売5日で重版し、大きな話題となりました。

↑『文芸2019年秋号 韓国・フェミニズム・日本』は、なんと創刊以来86年ぶりに3刷まで作られました。2019年12月には完全版として、『完全版 韓国・フェミニズム・日本』(河出書房新社)という単行本が刊行されています

 

「『82年生まれ、キム・ジヨン』は、韓国文学のヨン様(ドラマ『冬のソナタ』の主人公を演じ、第1次韓流ブームを起こした俳優ぺ・ヨンジュンさんの愛称)。韓国文学の知名度を一気に上げ、『韓国文学=フェミニズム文学』と印象づけました
そして、時を同じくして起きたのが、エッセイブームです。キム・スヒョンさんの『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)やペク・セヒさんの『死にたいけどトッポッキは食べたい』(光文社)などがヒット。
これらのエッセイに共通しているのは、『ありのままの自分でいい』『無理はしなくていい』という考え方です。それが閉塞感のある世の中の空気とマッチし、多くの日本の読者にも受け入れられました」(金さん)

↑エッセイブームの代表作。左から『死にたいけどトッポッキは食べたい』、『私は私のままで生きることにした』、ハ・ワンさんの『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社)

 

『私は私のままで生きることにした』は、BTSのメンバーが動画配信をした際に、足元に映っていたことで話題になった作品。日本だけでも発行部数が60万部を超えています。

 

「コロナ禍にエッセイ人気が浸透した一方で、小説も次から次へと日本に上陸しました。最近だとSF小説がとてもヒットしています。2020年に、キム・チョヨプさんの『わたしたちが光の速さで進めないなら』(早川書房)が出たのは大きかったですね」(佐々木さん)

 

韓国ではここ数年、「新世代」と呼ばれる作家たちによるSF小説が一大ブームとなっており、それを牽引する作家のひとりがキム・チョヨプさんです。

 

『わたしたちが光の速さで進めないなら』は、2019年に彼女が韓国で発表したデビュー作。「第2回 韓国科学文学賞」の中短編部門で大賞を受賞した作品含め、7つの短編を収録しています。

↑どちらもキム・チョヨプさんの作品。右が前述の『わたしたちが光の速さで進めないなら』。左は彼女の日本語版書籍の最新刊『派遣者たち』(早川書房)です

 

「同時に詩も注目されていて、日本の現代詩人の方から、『韓国の若手詩人の作品を読んで、すごく影響を受けました』と手紙をいただいたこともあります。
時間差はありますが、韓国の作家と日本の作家がお互いに共鳴し合う、とてもいい雰囲気になっていると感じますね。“韓国文学”、“日本文学”と分類できない作品が生まれる未来もあるかもしれない。そう考えるととても面白いと思います」(金さん)

↑韓国の作家チョン・セランさんが提案し、『コンビニ人間』(文藝春秋)で芥川賞を受賞した村田沙耶香さんをはじめ、アジアの作家9人が競作したアンソロジー『絶縁』(小学館)。こちらも刊行時、とても話題になりました

 

韓国文学が、小説・エッセイ・詩…と、ジャンルを超え、ここまで日本に浸透したのはなぜなのでしょうか。

 

「韓国文学の力だけで受け入れられたというよりは、韓国ドラマや韓国映画、K-POPなどのファンの方が文学にたどり着いたという印象ですね。ただ、仮にK-POPのファンが5000万人いたとしたら、おそらく文学好きは5000人ほど(笑)。なので、もっともっと知ってほしいです。
韓国文学の魅力は、個人の思いやできごとを語るだけでなく、その奥に歴史や事件、事故といった、多くの人が共に体験したできごとがあり、そのうえに物語が紡がれているところ。それにより時間と空間がつながり、読者は“私は一人でこの社会に生きているのではない”と感じることができます」(金さん)

 

そして金さんは、「この特徴はハン・ガンさんの作品にも共通している」と続けます。

 

「彼女の『少年が来る』(クオン)や『別れを告げない』(白水社)は、それぞれ5.18光州民主化運動(以下、光州事件)、済州4.3事件という実際にあった事件をテーマとした作品。
ただ彼女の作品は、事件を糾弾するのではなく、亡くなった方たちへのレクイエム、慰めの文学だと思います。そういった点が評価され、今回の受賞に繋がったのではないでしょうか」(金さん)

 

ノーベル文学賞受賞に対する
韓国の反応は?

今回、ハン・ガンさんの受賞が決まった際、「韓国国内では驚きのほうが大きかった」と金さんは言います。

 

「みんな、韓国の作家がノーベル文学賞を取るとしたらハン・ガンか、詩人のキム・ヘスンだろうという認識は持っていたと思います。ですが、ノーベル賞は功労賞というイメージがあったので、53歳(受賞時)のハン・ガンさんの名前が発表され、『まさかこんなに早く!』と驚いていました」(金さん)

 

現在、彼女の作品は、「韓国で1タイトルあたり100万部ずつ売れている」とのこと。『ノーベル賞作家の作品を母国語で読む時代がくるなんて』という感慨も広がっているそうです。

 

そもそもハン・ガンさんは、本好きのあいだではどのような作家として位置づけられていたのでしょうか。

 

「彼女は作家のハン・スンウォンさんの娘で、文学性、作品性に優れた作家として知られています。ベストセラー作家やエンタメ作家というよりは純文学作家のイメージですね。
私は、彼女の作品はとても静かで、深い悲しみがあると感じています。そして何より文体が美しいんです」

 

「私は日本語でしか読んでいないのですが、その美しさは、翻訳からも伝わってきます。また、読んでいると雪のような“白”が浮かぶんですよね。冷たくて孤独な感覚。彼女の作品には、そうした世界観が貫かれている気がします」(佐々木さん)

 

「ちなみに、クオンで2011年に刊行をスタートした文学シリーズ『新しい韓国の文学』の1冊目は、ハン・ガンさんの『菜食主義者』にしました。また光州事件をテーマにした彼女の作品、『少年が来る』もこのシリーズから刊行しています」(金さん)

↑2011年に日本語版が刊行されたハン・ガンさんの『菜食主義者』。突然、肉食を拒否し痩せ細っていく女性を中心に物語が展開し、欲望、死、存在論などが描かれた連作小説です。原書は、アジア初のマン・ブッカー賞国際賞も受賞しました

 

「光州事件を扱った作品は、本だけでなく映画や演劇などたくさんあるのですが、それらに共通するのは“告発”です。でもハンガンさんの『少年が来る』には、加害者も被害者であるというニュアンスがあります」(金さん)

ハン・ガン作品を初めて読むなら?
おすすめ2冊

今回の受賞を機にハン・ガンさんを知り、彼女の作品を読んでみたいと感じた人も多いのではないでしょうか。そこで“ハン・ガン”デビューにおすすめの2冊を教えていただきました。

 

1冊目…『少年が来る』(クオン)

[内容紹介]
1980年5月、光州事件で命を落とした人には何が起きたのか。生き残った人はどうやって生きてきたのか。声にならない声を丁寧にすくい取ったハン・ガン渾身の一冊。

 

[おすすめコメント]
「韓国の歴史的な側面を知り、人間の本質に迫ることができる作品。飛行機の中で読んだのですが、機内にもかかわらず涙がこらえきれませんでした」(金さん)

 

「映画作品『タクシー運転手 約束は海を越えて』など、光州事件を扱った作品が動画配信サービスなどで観られるので、あわせて視聴するとより深く理解できておすすめです」(佐々木さん)

 

2冊目…『そっと 静かに』(クオン)

[内容紹介]
著者本人が、「小説を書きたいのに、書けなかった」と振り返る時期に執筆されたエッセイ集。音楽との出会い、さまざまな思い出にまつわる歌、著者自身がつくった歌など、「音楽」をテーマに綴られている。

 

[おすすめコメント]
「ハン・ガンそのものを知るにはやはりエッセイです。幼少期に貧しくてピアノを買うことができず、紙で鍵盤を作って弾いていたエピソードなど、彼女の人となりを知ることができます」(金さん)

 

「彼女にとって、初めて日本語訳されたエッセイ集です。まずは小説を一冊読んでみて、どんな人なのか興味を持ったらぜひ、こちらに進んでみてください」(佐々木さん)

 

韓国文学の醍醐味を味わえる
ビギナーにおすすめの3冊

ハン・ガン作品はもちろん、韓国文学自体に興味を持っている人も多いでしょう。韓国文学を初めて読む人におすすめの本も3冊教えていただきました。

 

1冊目…ソン・ウォンピョン『アーモンド』(祥伝社)

[内容紹介]
怒りや恐怖を感じることのできない少年が、不良少年と友情を育んでいく感動の物語。2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位。

 

[おすすめコメント]
「文学作品のよさを決める要素のひとつに、“主人公を応援しながらページをめくることができる”という点が挙げられると思うのですが、まさにそれを実感できる一冊です」(金さん)

 

2冊目…チョン・セラン『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)

[内容紹介]
純文学、SF、ホラーなど多彩な作品を発表し、韓国文学界をリードする若手作家の連作短編集。とある大学病院を舞台に、医師、患者、近所の住民など、50人の人生がつながっていく。

 

[おすすめコメント]
「物語の面白さを堪能したい人におすすめの作品。登場人物50人分の物語が、見事に重なり合っていくさまは圧巻です!」(金さん)

 

3冊目…ファン・ボルム『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(集英社)

[内容紹介]
韓国で30万部を突破したベストセラー小説。書店の新米店主ヨンジュと店に集う人々のささやかな毎日を描いた心温まる作品。

 

[おすすめコメント]
「2024年の本屋大賞翻訳部門で1位に選ばれた作品。そういう意味でも初心者にとって読みやすいですし、書店がテーマなので、本や書店が好きという方はより楽しめると思いますよ」(金さん)

 

韓国文学を深く知るうえで外せない。
必読作家3人

最後に、韓国文学を知るうえで、この人は欠かせないという作家を3名教えていただきました。

↑左からシン・ギョンスク『母をお願い』(集英社)、キム・ヨンス『ニューヨーク製菓店』(クオン)、コン・ジヨン『トガニ 幼き瞳の告発』(新潮社)

 

1人目…シン・ギョンスク

「『母をお願い』という作品が世界29カ国以上で翻訳され、ハン・ガンさんよりも先に世界的なベストセラー作家になった方です。彼女が描く世界は非常に情緒的で、韓国らしさを味わうのにピッタリ」(金さん)

2人目…キム・ヨンス

「1970年生まれのハン・ガンさんと同世代の作家さん。村上春樹さんの作品を通じ、新しい小説の書き方を知り、小説家を目指したという方です。歴史小説も、現代の日常小説も書くので、ジャンルがものすごく広いのですが、どれも非常に読みやすいですよ」(金さん)

3人目…コン・ジヨン

「『愛のあとにくるもの』は昨年Amazon Prime Videoでドラマ化。『トガニ 幼き瞳の告発』もコン・ユ主演で映画化されているので、映像作品とセットで楽しむのもおすすめ。ハン・ガンさんのちょっと上の世代の韓国文学を代表する作家さんです」(佐々木さん)

 

今回の受賞により、日本でもますます身近な存在になりつつある韓国文学。金さんは、「これからもK-POPやドラマで韓国に興味を持った方々を、韓国文学に誘っていきたい」と意気込みます。

 

「文学は自分の頭の中で想像しながら読み進めるものなので、受動的なメディアに比べ、作品をより深く感じられると思います。音楽やドラマで知って興味を持った韓国の文化が、さらに自分のものになっていく。気になっているテーマを見つけ深めることができる。それが本の魅力だと思います」(金さん)

 

Profile

韓国書籍専門書店 / チェッコリ

出版社「クオン」が運営する韓国書籍専門の書店。韓国語の小説や詩、エッセイ、絵本、コミック、料理本、人文書、美術関連書など約3500冊に加え、韓国語学習書、日本語の韓国関連本約500冊を取り揃えている。韓国の作家やアーティスト、ドラマ・映画、歴史、言語、食の専門家らを招いたトークイベントを開催するほか、韓国書籍の取り寄せ代行、翻訳者育成のためのスクールも展開している。
「チェッコリ」オフィシャルサイト
「クオン」オフィシャルサイト

 

おぼんの売上が3倍増!料理本「おぼん献立」がヒットした理由と影響力

いま料理業界に新しい風が吹いています。それは、「せいろ」や「おぼん」など、古くからあるアイテムを使った料理が脚光を浴びていること。2024年11月末に発売された『一汁三菜 おぼん献立』(ワン・パブリッシング)は、発売2か月で早くも6.5万部を突破するヒット作となっています。これが初の著書となる料理クリエイターのHidekaさんに、おぼんに着目したきっかけや、献立を考える際のこだわりなどを尋ねました。

 


Hideka/1997年生まれの料理クリエイター。夫との2人暮らしの晩ごはんを発信しており、簡単で作りたくなるレシピ動画が話題。かわいい盛りつけも人気でSNS総フォロワー数220万人を超える(2025年2月現在)。

 

「おぼん献立」は、初心者&料理に変化が欲しい主婦の救世主

↑Hidekaさんによる『一汁三菜 おぼん献立』(写真・右)。見た目もかわいい!料理が楽しくなる!と幅広い年代から絶賛のコメントが

―発売直後から増刷が続く大ヒット作ですね。まずは、いまの率直な感想をお聞かせください。

 

初めての本で、じつはすごく不安でした。SNSなどでレシピが無料で見られる時代に、お金を出して本を買ってもらえるのかな?って。でも、結果として、皆さんにしっかりと受け入れていただくことができました。発売前から「楽しみにしています!」「買います!」という声をたくさんいただいていましたし、発売後は「買ってよかったです」「料理が楽しくなりました」というDMやコメントが続々と届いています。本当にうれしいです。

 

―購買層を見ると20代が非常に多く、YouTubeなどでは「同棲することになったので、この本でお料理を頑張ります」といったコメントも目を引きます。

 

私のInstagramやYouTubeを見てくださっている方は20代が多くて、10代の学生さんも結構いらっしゃいます。この本が初めて買った料理本だという方もとても多くてありがたいです。どの献立もメインレシピのほとんどが4工程、副菜は2~3ステップ。誰でも簡単に作れる点が評価されているのかなと感じます。

 

あとは、なにかプラスで買わなくても、すぐに作れることもポイントです。身近な食材、家にある調味料だけで完成するので、料理初心者の方でも、ハードルは低く感じるのではないでしょうか。

 

―そしてじつは、50代から60代の方もたくさんこの本を買ってくださっているというデータが出ていますが、実感はありますか?

 

いえ、とても驚きました! 担当編集さんとは、毎日料理を作っていてちょっとマンネリ化している方に受けているのかなと話していました。私なりの食材と調味料の組み合わせや、おぼんを活用した盛り付け方などが、新鮮に感じていただいている理由なのかもしれません。あとは、Amazonの「ギフトとしてよく贈られている商品」ランキングの1位になっていたり、「一人暮らしの娘に買いました」というコメントが集まったりしているので、親御さんからお子さまへのプレゼントにもしてもらえているのかなと……予想外でしたが、すごくうれしいですね。

 

空前の「おぼん」ブーム到来! レシピ本発売を機に3倍以上の売れ行きに

―誰でも簡単においしく作れるHidekaさんのレシピが受けているのはもちろん、「おぼん」を使って献立を見せている点もヒットの理由のひとつだと感じます。最初に「おぼん献立」を思いついたのはいつ頃ですか?

 

2人暮らしを始めた3年半くらい前です。実家の食器だとあまり映えなかったけど、自分で買ったお皿だと料理が楽しくなってきて。もっと食卓をかわいくするにはどうしたらいいかな?と思っていたところ、いま使っている「おぼん」に出会いました。

 

―Hidekaさんの愛用品であり、本の中でも登場する「フラワー木製トレイ」(サリュ)。発売元である株式会社パルのブランド担当・土田真子さんに聞いたところ、本の発売前に比べて、一か月の販売点数が約3倍にまで増加しているそうです。

 

「木製トレイはもともと30~40代女性に人気の定番商品でしたが、本の発売以来、20代の女性にも多く購入されています。タイパや時短がトレンドである一方で、ていねいな暮らしに憧れる人も多いので、レシピ通りに作れば手軽においしい料理ができるという再現性の高さと、かわいい見た目が承認欲求を満たしてくれるのではないでしょうか。私もとんぺい焼きを作ってみましたが、仕事終わりでもサッと作れてクオリティが高く、大満足でした。またリピートしようと思っています!」(サリュ・土田さん)

 

↑こちらが「フラワー木製トレイ」1650円(税込)。店頭とオンラインで販売中、すぐに品切れになる大人気商品なので、見つけたら即ゲットを!

 

私の元にも「本と一緒にお揃いのおぼんを買いました」というコメントがよく届いています。乗せるだけで食卓がカフェ風になるのが素敵ですよね。運びやすいし、料理がこぼれてもテーブルが汚れないという実用性もありますし。皆さんの料理のモチベーションに繋がっているのかな。

 

―盛り付けのコツはありますか?

 

一番こだわっているのは、彩りです。赤・緑・黄色が入るように意識して、日々献立を考えています。本の中でも、コラムとして色別の副菜カタログを紹介しているので、真似してもらえたらうれしいです。また、トッピングに白ゴマやパセリなどもよく使いますね。ほんのひと手間かけるだけで料理がオシャレにおいしそうに見えるので、おすすめです。

 

大切な人に作って贈って、みんなが笑顔になれる一冊

―本で紹介しているレシピの中で、一番のお気に入りはどれですか?

 

全部お気に入りで迷うんですが……カニクリームコロッケですね。じつは夫のお母さんから教えてもらったレシピをもとにしているんですが、初めて食べたとき、ものすごくおいしくて、「カニクリームコロッケって、自分で作れるんだ!」と感動してしまって。より作りやすく簡単にアレンジしたのが、このレシピです。

↑カニクリームコロッケは、旦那様のお母様と一緒に作ったお気に入りの一品

 

あともうひとつ、この本のために開発した「特製オムハヤシライス」もおすすめです。SNSなどでは公開していないので、本当に特別なレシピですね。赤ワインで煮込まなくても、おいしく本格的な味が出せるように、何度も試作して完成しました。

 

―そのほかに、『一汁三菜 おぼん献立』の裏ワザ的な活用法があれば、ぜひ教えてください。

 

巻末に「食材別さくいん」が載っているのですが、これがとても役に立ったという声が多いです。作りたい献立を決めて準備をしてもいいし、余った野菜などがあるときは、この索引からレシピを探してもらうと便利だと思います。

 

―これからチャレンジしたいレシピはありますか?

 

どれも手軽に作れることを意識していますが、共働きの方も多いので、今後は同時に2品3品作れるようなレシピを考えたいです。あとは、魚料理のレパートリーが少ないので、もっと増やしていきたいですね。

 

 

―今回お話を伺って、「おぼん献立」の魅力が存分に伝わってきました。最後に、Hidekaさんから読者の皆さんへメッセージをお願いします。

 

はい。私はいつも、夫が喜ぶ顔を思い浮かべながら「今日は何を作ろうかな?」と考えています。本を買ってくれた方からも、「彼に作りました」「〇〇のレシピが家族に大好評でした!」「娘にレシピ本を贈りました」という声がたくさん寄せられています。

 

私が大切な人のために考えたレシピを、大切な誰かのために作りたい、そして、レシピ本自体を大切な人に贈りたいと思ってもらえていることに胸がいっぱいです。

 

こだわりをいっぱい詰め込んだ私にとっても大切な一冊、絶対に役に立てていただけると思うので、もっともっとたくさんの方に手に取ってもらえたらうれしいです。

 

Hideka『一汁三菜 おぼん献立』(ワン・パブリッシング)

 

写真/内山めぐみ、鈴木謙介 取材協力/株式会社パル

「必死で頑張る」「努力は尊い」はもう卒業! 佐藤伝が教える「ひとりビジネス」成功への楽々ワープ術

「ひとりビジネス」と聞いて、どんなイメージを抱きますか? 難しそう? 稼げるのは一握りの人だけ? 「いいえ、正しいノウハウとマインドセットさえできれば、誰でもひとりビジネスを成功させられます!」そう満面の笑みで語ってくれたのが、『ひとりビジネス 売れる習慣』の著者・“伝ちゃん先生”こと佐藤伝さん。頑張る必要なし、楽しく稼ぐ「ひとりビジネス」の秘訣を教えてもらいました。

 

「ひとりビジネス」成功のカギはマインドにあり!

―『ひとりビジネスの教科書』が大ヒットとなり、今もなおたくさんの方に読まれていますが、今回の本はその続編となるのでしょうか? 執筆のきっかけを教えてください。

 

前作では、「ひとりビジネス」のノウハウを細かに伝えました。でも、1から10まで丁寧に教えたけど、うまくいかないって人がたくさんいた。つまり、ノウハウだけじゃダメだってことだったんです。

 

じつは僕も22歳で起業してから13年間、ものすごく頑張ったんですよ。頑張れば報われると信じて、必死でした。それが、35歳のときに体調を崩して臨死体験をしたことをきっかけに、自分のマインドが間違っていたことに気づきました。

 

「必死」はダメなんだよね。「必ず死んでしまう」から。「本気」で「楽しく」取り組むことが大事だったんですよ。

 

周りを見ても、必死に頑張っている人ほど成果が出ていないし、幸せそうに見えない。間違った努力をしないためにもマインドセットが大事だと確信しました。

 

だから、この本で「ひとりビジネス」を成功させるための「マインド」について書いたんです。「ひとりビジネス」に対する心の持ち方、考え方ですね。土台となるマインドをしっかり築くことができれば、一人残らず「ひとりビジネス」はうまくいきますよ!

 

人生は甘い。成功はショートカットできる!

―「間違った努力」ですか。

 

方向性が間違っていたら、いくら頑張ってもダメ。というか、頑張らなくていいんです。 毎日一生懸命練習をしているのに、まったく勝てなかった少年野球のチームが、イチロー選手から指導を受けた直後からめきめきと力をつけて、その後、愛知県のリトルリーグで優勝したという話があります。

 

我々は、コツコツ努力することが大切だと教えられてきましたが、それは違うと声を大にして言えます。成功はね、ショートカットできるんです。成功法さえ知っていれば、ワープできちゃう。そのためには、自分が目指しているジャンルで成功している人に話を聞くことです。

 

―「ひとりビジネス」で言えば、伝さんに聞くのが一番!ということですね。

 

そう! 苦労を重ねて成功をつかんだ僕が、うまくいく方法を余すことなく教えます。苦しまなくても、成功するマインドに最初からチャレンジできちゃうんですよ。そういう意味で、今回の本は成功への道案内なんです。

 

受注型から提案型へ。新しい畑を見つけよう!


―『ひとりビジネス』というとフリーランスや副業も当てはまるかと思っていましたが、本書を読んで違うのだと知り驚きました。

 

ポイントは、受注型か提案型かという点です。フリーランスは、相手に合わせることが多い受注型。下請けや場合によっては孫請けと同じなんですよね。「これを〇〇までにお願いします」と言われて、スケジュールが厳しいなとか、本当はやりたくないなと思いながらも「はい、喜んで!」と受けていませんか? 会社員の人も、ほぼほぼ受注型ですよね。これを、仕事は自分でつくるものという提案型・自分発信にするんです。

 

―どうすれば提案型にシフトできるでしょうか?

 

多くの人は相手を変えようとするけど、それだと摩擦が生じたり、仕事を失ったりとうまくいきません。新しい畑を見つけるんです。つまり、WEBの世界。WEBをうまく活用していきましょう。

 

いろいろなコツがありますが、デジタルとアナログを組み合わせるのがひとつ。たとえば、Zoomで相談に乗りますよ、とかね。人は話を聞いてほしいものなんです。そこに気づけば、十分ビジネスになりますよ。

 

「ひとりビジネス」の第一歩は8つのキャッシュポイントを作ること

―これから「ひとりビジネス」を始めようという人、始めたばかりの人に、成功者である伝さんからアドバイスをお願いします。

 

キャッシュポイント(収入源)を複数持つこと。ひとつの収入源に頼っていたら、相手の顔色をうかがって仕事をするようになっちゃうから。最低でも8つは持っておきたいですね。

 

会社員だったら、給料が1つ目。それ以外にメルカリで販売する、noteで有料記事を書くなど、自分の得意なことを売るのもいいですね。自分の時間や労働力を売るのではなくて、仕組みを作ってWEBでお金が入ってくるようにすることがポイントですよ。くれぐれも、「アルバイトを増やしました」「内職を夜通ししています」にはならないように!

 

―自分の得意なことや強みを見つけるのって、意外に難しい気がします。

自分では当たり前にできていることだから、強みだと気づきにくいんですよね。だから、自分の強みは人に聞くのが一番。できるだけたくさんの人に聞くのがポイントです。

 

「私にやってもらってうれしかったことは何?」「そのなかで、お金を払ってもお願いしたいことはどれ?」と聞いて、返ってきた答えこそ、あなたの強みであり、ビジネスの種です。

 

人生は実験!ユカイに楽しくやってみよう!

―本を読んでも感じましたが、今日お話をうかがって、本当に伝さんが人生を楽しんでいるな、と感じて、こちらまでパワーをもらいました。

 

人生はね、ユカイなラボ(実験場)です。楽しくユカイに、なんにでもサクッとトライしましょうよ。老後が不安だから、子どもの教育費を稼がなきゃ、というマイナスの気持ちで始めると、相手からお金を奪うモードになっちゃう。反対に、ワクワクした気持ちで、人の役に立ちたい、教えてあげたいと思って始めたビジネスは、必ずうまくいきます。


―本当ですね。このワクワク感が記事を読んでいる方にしっかり届くように、頑張って原稿を書きます!

 

いや、頑張らなくていいの! 楽しく、ユカイにね。

 

あなたはあなたのままで100点満点。自分に丸をあげるところから、「ひとりビジネス」はスタートします。ぜひ新しい一歩を踏み出してみてくださいね。この本が、そのきっかけになればうれしいです。

 

撮影/鈴木謙介

 

『ひとりビジネス 売れる習慣』

【ゲットナビ3.5月号】無印良品、ニトリ、ユニクロ…人気ショップ7店BEST BUYランキングはこれだ!

雑誌『GetNavi(ゲットナビ)』の3.5月号が発売。電子版のみの配信です。

人気ショップ BEST BUY ランキング

「無印良品」、「ニトリ」、「ユニクロ」といった衣食住を彩る人気ショップ7店から、この春おすすめの新作アイテムが勢揃い。日々の生活を豊かにする日用品から、食卓に華を添える食品、着こなしの幅を広げる最新ファッションまで、編集部が独自の視点で選んだ注目アイテムをランキング形式でお届けします。

 

■SHOP LIST無印良品/ニトリ/ユニクロ/久世福商店/カルディコーヒーファーム/Standard Products/3COINS

 

 

 

正月に不摂生・暴飲暴食をしてしまったアナタへ……「腸活入門」

正月の暴飲暴食で太った、不規則な生活が続いて風邪が治りにくい……など、不調を感じている方が多いのでは。それは、腸内環境の乱れが原因かもしれません。健康的で快適な体を手に入れるべく、「腸活」を始めてみませんか?

 

本企画では「STEP1:腸内環境にやさしいものを体に摂り入れる」「STEP2:適度な運動を習慣化する」「STEP3:ストレスを溜めず、質の良い睡眠を十分にとる」という3つの「腸活STEP」とオススメのアイテムを紹介します。

 

[商品概要]GetNavi 3.5月号(電子版)
発売日:2025年1月24日
ワン・パブリッシングWebサイト:https://one-publishing.co.jp/

 

【本書のご購読はコチラ】
・dマガジン  https://dmagazine.docomo.ne.jp/item/ed0a93e2cf2a745a39336e45909ef0133388a7dd706c04963be264e2c4fcbe82/1000/
・Kindle     https://www.amazon.co.jp/dp/B0CPDQQXDP/
・楽天マガジン  https://magazine.rakuten.co.jp/title/13523/

【ゲットナビ2・3月合併号】次に来るモノ・コトはこれだ! 専門家が大断言「NEXTトレンド2025」

雑誌『GetNavi(ゲットナビ)』の2・3月合併号が発売。

 

2025 NEWYEAR INTERVIEWには、久保史緒里(乃木坂46)さん、菅井友香さん、リリー・フランキーさんが登場。また、NEXTトレンド「エンタメ」では、原菜乃華さんに話題の実写版【推しの子】についてたっぷりお話を伺っています。

 

各ジャンルの専門家が“次に来るモノ・コト”を大断言!NEXTトレンド2025

特集は「NEXTトレンド2025」。注目の俳優から家電、クルマ、レジャースポットまで、“次に来る”ヒトやモノ、コトを各ジャンルの専門家が大断言します。

↑見逃し厳禁のトレンド情報が満載

 

 

あったか、ぐっすり眠れる優れモノが満載!真冬の快眠メソッド

いよいよ寒さも本番。手足が冷えて寝付きが悪い、温かい布団のなかから抜け出せず、朝起きるのがつらい……など、寒さによって睡眠の質は低下しがちに。そこで、真冬の快眠の手助けをしてくれるアイテムをピックアップしました。

 

日本各地の絶品食材が集合! ご当地鍋自慢

年末年始に鍋パーティーを計画している人は多いはず。そこで重宝するのが、全国各地の味を手軽に楽しめるお取り寄せのご当地鍋。鍋の歴史や最新トレンド情報とともに、おすすめの商品を紹介します!

 

【自宅にいながら旅気分♪ お取り寄せ郷土鍋】

「福岡県・もつ鍋」「山形県・芋煮鍋」「秋田県・きりたんぽ鍋」「兵庫県・ぼたん鍋」「茨城県・あんこう鍋」

【この冬の鍋つゆや料理法の流行りもチェック! 最新鍋トレンド】

 

また、GetNavi×家電 Watch PRESENTS 家電大賞2024→2025の中間発表も。一般投票で家電の年間王者を決定する「家電大賞」がいよいよ大詰め。2024年12月16日時点での各部門トップ3を紹介します。投票締め切りは2025年1月6日いっぱいまで。

 

[商品概要]
GetNavi 2025年 2月・3月号
特別定価:760円 (税込)
発売日 :2024年12月24日
判型  :A4変
ISBN     :4910136710352
電子版 :有
ワン・パブリッシングWebサイト:https://one-publishing.co.jp/

 

【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DPGK8NGJ/
・楽天 https://books.rakuten.co.jp/rb/18086044/
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時代を駆け抜ける総合芸術「クルマ」の肉体美を堪能せよ。雑誌「ENGINE」の装幀写真家、秦 淳司 ポートレート写真集『ENGINE ERA』発売!

雑誌『ENGINE』(新潮社)の装幀写真を長年撮り続けているフォトグラファー 秦淳司氏の写真集『ENGINE ERA』が11月14日(木)に発売された。 

 

↑秦淳司 『ENGINE ERA』

 

秦氏はファッション・カメラマンでもありながらクルマをこよなく愛する写真家の一人。2014年に雑誌『ENGINE』の「乗る車×着る服」というカーファッション・ページの撮影を担当し、翌年の2015年から同雑誌の顔となるクルマ自体の撮影を行ってきた。 

 

今回、出版された写真集『ENGINE ERA』は、秦氏がその雑誌『ENGINE』の撮影で出会ったクルマの数々を記録した一冊。雑誌掲載用とは別のものとしてカットをまとめた、極めて希少価値の高い写真集だ。 

↑LAMBORGHINI HURACAN PERFORMANTE(2019)

 

↑McLaren 765LT SPIDER(2021)

 

秦氏がシャッターを切ったクルマの写真は、まるで人間を撮影したかのようなポートレート写真になることが特徴。

 

クルマ一台一台が持つ個性豊かな表情や細部に渡る造形美を、独特のフレーミングを用いて切り取る――その写真を見た感想として出る言葉は「官能的」。クルマに対する形容としては相応しくないようにも思うが、その艶やかなボディを見続けるうちに、否が応でも見る者の感情を刺激してくるのである。 

↑VOLKSWAGEN TYPE14 KARMANN GHIA 1200(1955)

 

↑FERRARI 250LM(1965) 

 

掲載されるクルマの総台数は驚愕の114台。大衆車から数量限定生産のスーパーカーに至るまで、多種多様なクルマ達が顔を連ねる。なかには、現代では姿を拝むことが難しいヒストリックカーもラインナップ。ハイクオリティな写真で歴史的名車がプリントされているだけで、クルマ好きとしては胸が躍る一冊と言えよう。 

↑ラルフローレン氏のコレクション・ガレージ

  

写真集には、世界有数のカー・コレクターとして知られるラルフローレン氏の愛蔵品の数々も収録。ニューヨーク郊外にあるというガレージにも足を踏み入れ、コレクションを写真に収めている。 

 

この歴史的にも類を見ない巨大カーポートレート集について、秦氏は次のように語る。 

 

「フロントや中央、リアにエンジンを積むことによって生まれるフォルム。クルマが生き物のように見えるのはエンジンという心臓を内蔵しているからこそ。

ひとたびキーを捻れば鼓動を打つエンジンを抱きかかえるフォルムであるが故に、クルマは美しい。生命体のような金属の塊と対峙して、僕はその肉体を撮る。顔、腰、尻。それはポートレートを撮る作業に他ならない」(秦氏) 

 

本写真集は、さながらクルマの「博物館兼美術館」。本文なんと336ページ、重量2.3キロもの重量感に仕上がったこの一冊は、クルマの歴史の証人ともいえる存在だ。

 

自動車は18世紀にフランスで発明され、以後様々な進化を遂げた。動力源も蒸気からガソリンへ、そして現在は電気自動車へと急速にシフトしつつある。本書は、その変遷を美麗なグラフィックで体感できる、唯一無二のパッケージと言えるのだ。 

 

定価は圧巻の3万3,000円。安くはないが、ページをめくる読者に深い懐古と憧憬を刺激を与えてくれる。その価格だけの価値は、十分にあるだろう。 

↑ASTON MARTIN DB6(1966)

 

写真集の購入者は収録カットのプリント額装20%OFFで購入できる特典が付く。好きなページの写真を公式ページから注文することが可能だ。 

 

秦 淳司(Hata Junji 

赤坂スタジオで写真を学び、アシスタントを経て1994年からフリーランス・フォトグラファーとして活動。ファッション誌を中心に、アーティスト写真・CDジャケットや広告など多岐に渡る分野にて活動中。2022年には『DEKOTORA -Spaceships on the Road in Japan-』を上梓。夜の闇に鮮やかに浮かび上がる電飾を点灯したデコトラの数々を厚さ5センチ、重さ2.6キロの一冊に収録。 

 

書誌情報 

秦 淳司『ENGINE ERA』

発売日:2024年11月14日(木)
定価:3万3,000円(税込)
体裁:B4変形判(356×240×30mm)/336ページ/ハードカバー/2.3kg
発行所:DIAMOND HEADS
特設サイト:https://www.heads.co.jp/era/
販売サイト:https://store.heads.jp/items/93858903 

 

購入者特典

好きな掲載写真のオリジナルプリント2タイプを20%OFFで購入可能 

 

Print Size A
価格:13万2,000円(税込)
プリントサイズ:W490×H325
フレームサイズ:W610×H508 

Print Size B
価格:22万円(税込)
プリントサイズ:W900×H600
申し込み:写真集同封のQRコードから 

 

イベント情報 

カフェ併設ガレージ「Kitasando garage / Flip Flip Coffee Supply」で写真集販売とオリジナルプリントを展示

日程:2025年1月18日(土)~2月18日(火)
時間:8:30-18:00(土日祝日は10:00-18:00)
場所:Kitasando garage / Flip Flip Coffee Supply
住所:東京都渋谷区代々木1丁目21-5
入場:無料/予約不要
※カフェ営業中につき、ひとり1品の注文が必要 

ウイスキー138本の味をストレートに表現! 「世界一やさしいウイスキーの味覚図鑑」

カンゼンは12月6日、書籍「世界一やさしいウイスキーの味覚図鑑」を敢行します。「138本×3(ストレート・ロック・ハイボール)」の味覚を、「ド直球な言葉」で表現しています。

 

記事のポイント

国内外でジャパニーズウイスキーが人気になって久しい昨今。興味はありつつも、どんな銘柄・飲み方が自分に合うのかわからず迷っているなら、こういった書籍をガイド役に楽しんでみるのはいかがでしょう。

 

約300銘柄のウイスキーを嗜んだ筆者が、高級ボトルから大衆ボトルまで、138本のウイスキーとその飲み方(ストレート・ロック・ハイボール)による味覚の違いを、「味覚アイコン」を駆使しながら紹介するウイスキー図鑑。

 

例えば、アイリッシュウイスキーの「バスカー(ブレンデッド)」の総評は、「わかりやすくなめらかな甘さ」「フレッシュ・フルーティー」とのこと。

 

味については、ストレートだと「甘くフレッシュな印象」、「レーズンっぽくもある」、ロックだと「ちょっともったいないかも……?」、ハイボールなら「とてもフレンドリー」、「フルーツジュースのような赴き」。多くの読者にとってなじみやすい、平易な言葉を使って、想像を掻き立ててくれます。

↑ストレートはもちろん、ロック、ハイボールといった飲み方別の言及も

 

判型はA5判、296ページ。定価は2090円(税込)。

 

カンゼン
世界一やさしいウイスキーの味覚図鑑
販売価格:2090円(税込)

 

結婚式の記念にも! 世界にひとつだけの絵本を贈れる「シカケテガミ to parent」

レターギフトの制作・販売を手がけるネイチャーオブシングスは、子から親へのレターギフト「シカケテガミ to parent」の販売を2024年12月5日より開始しました。実売価格は6050円(税込)から。

「シカケテガミ to parent」

 

記事のポイント

自分だけの本格的な絵本を贈れる「シカケテガミ」は、一生の思い出になるギフトとして最適。パートナーとの記念日や、子どもの卒業式・成人式、結婚式などの人生の節目に、大事な人へ贈ってみてはいかがでしょうか。

 

シカケテガミは、いつもは恥ずかしくてなかなか伝えられない感謝や愛情のキモチを、世界にひとつだけの絵本のテガミにして大切な人に贈れるサービス。これまで恋人や配偶者などに送る「シカケテガミ to partner」や、子どもに送る「シカケテガミ to child」などが発売されていますが、新たに親に送る「シカケテガミ to parent」が登場しました。先行して「娘からのシカケテガミ」が発売となり、息子版は後日の発売となる予定です。

 

「シカケテガミ to parent」は、自分だけのストーリーをプロの絵本作家が描くもので、タッチの異なる複数の絵本作家のイラストから選択可能。贈る相手と自分の顔はアバター形式でオリジナル作成することができます。きょうだいや子ども、ペットなど特別な存在を出演させることも可能。絵本の仕様はA5サイズで、 34ページまたは42ページ。

 

卒業式や成人式、父の日・母の日、結婚式の「花嫁からの手紙」などに活用でき、オプションのデジタルデータを選べば式場全体を巻き込んだサプライズ演出にも使えます。

 

絵本は、本屋に並ぶ市販の絵本と比べても遜色のないハードカバー製本で、専用のギフトケースが付属します。発注から1週間程度で発送となります。

 

ネイチャーオブシングス
「シカケテガミ to parent」
2024年12月5日発売
実売価格:6050円(税込)から

「撮れているのか…?」そんな不安感も楽しい! 作って、撮って、現像する『大人の科学マガジン 35mmフィムルカメラ』の大きな魅力

いま、若い世代に「写ルンです」が人気のようです。カメラがデジタルになって幾星霜。いまや写真は撮ったその場で見られて、加工もできるのが当たり前。そんな時代に、フィルムカメラのアナログさは新鮮に映るようです。

 

さて、今回紹介するのは『大人の科学マガジン 35mmフィムルカメラ』(大人の科学マガジン編集部・編/Gakken・刊)。フィルムカメラを自分で作ろうという、なかなか趣味性の高い1冊です。

 

まずは組み立て

中身はこんな感じ。自分で作ることでカメラの仕組みもわかってくる気がします。

 

説明書を見ながら小一時間で完成。 本紙の説明だけでは難しいと思ったら下記の動画もありますので、参考にしてください。

 

 

絞りは3段階(F6.4、F16、F100)、レンズ枠を回すことで距離を調整します。どこまでもアナログですが、それがまた楽しい。人気のハーフサイズ用アダプターも付属しています。

 

さぁ、撮影! のその前に

さぁ、カメラが完成したら早速撮影!といきたいところですが、フィルムがなければ撮影できません。

 

ネットで購入した36枚撮りフィルムのお値段は約2000円。昔は500円くらいで売ってた気がするのですが……。まぁ、デジタル全盛のいまは需要も少ないですし、この価格は仕方ないのかもしれません。

↑ネガフィルム。20年以上ぶりに購入

 

本当に撮れているのか?

ようやく撮影できますが、いちばんとまどったのは、ピントが合っているのかわからないこと。オートフォーカスなんてものは付いてませんから、自分の感覚を頼りに調整。しかも、きちんと撮れているかは現像するまでわからない!

 

距離は合っているのか、絞りはこれでいいのか、なにもかも不安なままシャッターを切っていきますが、この不安感もだんだん楽しくなってきました。

 

いざ、現像! 果たして撮影の結果は!?

撮影後に、プリントサービスにフィルムを持っていき現像してもらいます。きちんと撮れているのか、結果はこちら。

 

 

まぁ、かなりボケボケですが、雰囲気は出ているということにしましょう。デジタルですぐ見られる画像よりも愛着が湧く気がします。この時間とお金をかけたトライアンドエラーも、フィルムカメラの楽しみかもしれません。

 

本紙の内容も充実

キットだけでなく本紙も読み応え十分。組み立て方、基本的な撮影方法の他にも、人気写真家による作品や、著名人たちのヴィンテージフィルムカメラの紹介、ハーフサイズカメラセレクションなど、フィルムカメラを深く知るためのネタが満載です。

 

タイパだコスパだとなにかと効率を重視する現在だからこそ、フィルムカメラで撮影するというのは、とても贅沢な趣味なのかもしれません。みなさんも、ぜひ『大人の科学マガジン 35mmフィムルカメラ』から、優雅なフィルムカメラライフをはじめてみませんか?

 

【書籍情報】

大人の科学マガジン 35mmフィムルカメラ

編:大人の科学マガジン編集部
価格:5500円(税込)

若い世代を中心に人気のフィルムカメラ。デジタルとはちがい、撮影には一手間も二手間もかかります。けれど、かけた時間とフィルムならではの質感が、写真への思い入れを深くさせてくれます。このキットは初心者でも安心のかんたん操作で4種類の本格的な撮影を楽しめます。話題のハーフサイズ写真も撮れる機能を搭載。クラシカルな見た目の本体は組立式なので、より愛着が湧いて長く楽しめる愛機となってくれます。

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廃業寸前→3年間で売上10倍に!『鯱もなかの逆襲』著者が語る、奇跡のV字回復劇の裏側

コロナ禍で廃業寸前だった明治40年創業の老舗和菓子店が、たった3年で売上を10倍に復活させた秘密、知りたくはありませんか? そんな誰もが気になるストーリーとV字回復のメソッドを一冊の本にまとめたのが、本日11月28日に発売となった『鯱もなかの逆襲』です。著者の古田憲司さんに、奇跡の復活劇を巻き起こした背景から失敗談まで、本には載せきれなかったエピソードを教えてもらいました。

 

資金なし・コネなし・従業員なしからのV字回復!すべては計算通りだった!?

↑「元祖 鯱もなか本店」の4代目を夫婦で務める古田憲司さん。元バンドマンという異色の経歴を持つ

 

―著書では、「廃業寸前から3年間で売上を10倍にV字回復させたストーリー」を綴るとともに、古田さんが手がけた数々のマーケティング戦略をメソッド化して紹介しているわけですが……正直、ここまでの快進撃を想定されていましたか?

 

「いえ、まったく(笑)。事業承継はもちろん、和菓子の製造や販売についてもまるでわからないまま跡を継いだので、とにかく店を立て直すことで必死でした。事業を引き継いだ当時、僕は一人で不動産の事業もやっていたのですが、そちらはまずまずの経営状態だったんですね。そこで、不動産業の収入を糧にしつつ、なんとか『元祖 鯱もなか本店』を軌道に乗せようと考えていました」

 

―そんななかで、2021年9月に『Yahoo!ニュース』の記事に取り上げられたことから、「元祖 鯱もなか本店」の運命が激変しました。このことも、想定外でした?

 

「『Yahoo!ニュース』のトップに取り上げられたことはまさかの出来事でしたが、そこに至るまでの事前準備は万全にしていたつもりです。いつかうちの看板商品である『元祖 鯱もなか』(以下、鯱もなか)が注目される日に向けて、店の公式サイトをリニューアルしてオンライン販売を強化し、購入を後押しする導線設計、リピーター向けの施策などを粛々と進めていました。あとは、プレスリリースを出したことも大きかったですね。それらが、『Yahoo!ニュース』掲載をきっかけに、すべてプラスに働いたという感じです。

 

とはいえ、どこかにコンサルを依頼したり、PRをお願いしたりといったわけではありません。なにせ、本のタイトル通り資金なし、コネなし、従業員なしの状態でスタートしましたから。『名古屋の定番お菓子になる』という目標に向かって、地道にコツコツとできることを続けてきただけです。ですので、僕が本の中でお伝えしているメソッドは決して特別なものではなく、誰でも今日からできることばかりだと思います」

 

―それらのメソッドは、どのようにして生み出されたのでしょうか? 何かヒントにしたものはありますか?

 

「ビジネス書も読みましたし、セミナーなどにも参加して勉強しましたが、なにより、過去にいろいろな会社で働いた際に叩き込まれた営業のノウハウやマーケティング術が役に立ったと感じています。ほかにも、インディーズでCDデビューをしたり、無職やフリーターを経験したり、いわゆるブラック企業で心身共に病んでしまったりと、さまざまな経験をしてきたなかで“弱者の痛み”を味わってきたことも、巡り巡っていまに活きているのかもしれません。それらの経験から得たことをもとに、周りのスタッフと知恵を出し合いながら、試行錯誤してきた感じですね」

 

有名企業やアイドルとのコラボの数々。古田流・SNSマーケティング戦略とは

↑名古屋市・大須にある店舗には、これまでコラボをしたアイドルのサインやメッセージが並ぶ

 

―古田さんのマーケティング戦略でもっとも注目されているのが、SNSを積極的に使った展開ですよね。「元祖 鯱もなか本店」の公式X中の人として、日々さまざまな仕掛けをされています。Xを活用して多くの成果を出している秘訣は何でしょうか?

 

「日々いろいろと工夫して試していますが……、ひとつ言えることは、どんな小さなきっかけも逃さないように、即行動することでしょうか。企業公式、一般のフォロワー問わず、誰かが『鯱もなか』のことを話題にしていたら、すぐに反応する。そこにコメントやリポストをすることで、より多くの人の目に触れ、さらなる話題となる可能性があります。

 

実際に、X上でのフォロワーの方とのやりとりを、名古屋のアイドルグループTEAM SHACHIの公式アカウントや名古屋グランパス公式アカウントに見つけてもらい、コラボ商品を発売するまでに至りました。また、藤井聡太棋士の勝負おやつに選ばれたのも、フォロワーさんからのコメントがきっかけです。

 

もちろん、自分から発信することも大切です。じつは今回の書籍は、僕が(出版元である)ワンパブさんの公式Xにコメントを入れたことから始まりました。2023年の大晦日の話です。あのときコメントで書籍化の話を出さなかったら、そして、ワンパブさんにメッセージをして具体的な提案をしなかったら、この本は出版されていなかったでしょうね」

 

―先日スタートした、名古屋のソウルフード「スガキヤ」とのコラボメニューもSNSで話題です。こちらもXがきっかけなのですか?

 

「はい。コメントをやりとりしたことをきっかけに、コラボの提案をしたかったのですが、先方のDMの設定でこちらからメッセージが送れませんでした。そこで、スガキヤさんの公式サイトに載っていたお問い合わせフォームから、コメントのお返事をもらった御礼とともに、コラボメニューの企画書を送ったんですよ。それを担当の方が見てくださって、先日限定メニューとして発売されました。諦めずに行動してよかったです」

 

成功の裏には失敗や苦難も……。だからこそ挑戦あるのみ!

―こうしてお話を聞いていると、万事うまくいっているように見えますが、苦労したことや失敗談などもありますか?

 

「もちろんです! 販売戦略、SNS展開、従業員育成、行政からの給付金や補助金の活用など、あらゆるカテゴリーで失敗や苦難を重ねてきました(苦笑)。さまざまなコラボや提案も、断られたことはたくさんありますし、お返事すらもらえなかったケースも少なくありません。『鯱もなか』に次ぐヒット商品を出そうと新商品の開発も続けています。プチバズしたものもありますが、大ヒットとなると難しいですね。

↑「和かふぇ冨士屋」にて一日限定で提供した幻の「鯱トッツォ」。SNSで話題となり、ワイドショーなどでも取り上げられた

 

一番の痛手だったのは、『Yahoo!ニュース』で取り上げられたことがきっかけで売上が一気に伸びたのですが、ずっと値上げせずにやってきたので、売れれば売れるほど赤字が増えていったことです。一年間ほぼ休みなしで働いたのに……、と絶望しました。

 

ちょうど急激な物価高も影響してきていたので、思い切って『鯱もなか』の価格を上げさせてもらったところ、ようやく少しずつ利益が出てきたという状況です。とはいえ、店舗裏の工場でひとつずつ手づくりしているお菓子なので、大量生産も難しいですし、長く店を続けて行くためには、無理なく利益を上げていく方法を考えていかなくてはと思っています。

 

そして、名古屋の定番お菓子になるために、失敗も重ねつつ、これからも挑戦を続けていきます!」

 

『鯱もなかの逆襲』(著:古田憲司/発行:ワン・パブリッシング)
117年の歴史を持つ名古屋の老舗和菓子店「元祖 鯱もなか本店」の4代目が仕掛けた奇跡のV字復活ストーリー。あらゆるビジネスにおいて活かせるメソッドを数多く紹介しています。

【ゲットナビ1月号】2024年間激売れヒットの背景をプロが徹底解説!家電大賞も投票スタート

雑誌『GetNavi(ゲットナビ)』の1月号が発売。

 

今月号のトレナビスペシャルインタビューには、中島健人さん、なえなのさんが登場。初の海外ドラマ出演となった中島さんは、SexyZoneの曲で撮影中の交流を深めたといった裏話のほか、最近のヒットモノを紹介。

 

ドラマ・映画版と実写化された【推しの子】に出演する、なえなのさんは、憧れの人の共演を果たした喜びや、最近ハマっているあるチュルチュルなコトを披露してくれました。

 

ヒットの背景をプロが徹底解説!2024年間激売れヒットセレクション

2024年は円安・物価高など暗いニュースが続き、買い物を楽しむにはなかなか厳しい環境でした。そうしたなかで多くのユーザーに支持されたアイテムやサービスの背景には、いったい何があるのでしょうか。

 

エンタメ、家電、デジタル、乗り物、アウトドア、レジャー、日用品、フードなど、各ジャンルのプロたちが徹底解説します!

 

いまからでも間に合う!ふるさと納税美食帖

年末年始には何を食べますか? せっかく贅沢をするなら、「ふるさと納税の返礼品で!」と考えている人もいるのでは。そこで今回は、有名ポータルサイトの“中の人”に取材。よりよい活用法や、オススメのジャンル、商品などを教えてもらいました。

 

「クリスマスや年末年始にオススメ! 話のネタにもなるご当地贅沢グルメ」、「おいしさはそのまま!食品ロス削減にも貢献!訳アリ返礼品」、「一度の寄付で複数回届く!ワクワク定期便」などをご紹介!

 

2024年のベスト・オブ・家電が投票で決まる!家電大賞2024→2025

GetNaviとGetNavi web、そして家電専門ニュースサイト「家電 Watch」による家電アワード「家電大賞」が2024年も開幕しました。10回目となる今年は、史上最多となる200製品がノミネートしています!

 

2025年1月6日23時59分まで、こちらのサイトで投票受付中です。投票すると、ルンバやバルミューダ、ダイソンが抽選で当たります。

 

[商品概要]
GetNavi 2025年1月号
特別定価:760円 (税込)
発売日 :2024年11月22日
判型  :A4変
ISBN   :4910136710154
電子版 :有
ワン・パブリッシングWebサイト:https://one-publishing.co.jp/

 

【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DM6M3ZNN/
・楽天 https://books.rakuten.co.jp/rb/18057316/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1256755119

家の汚さと借金の額は比例する!? 消費者金融と債務者のリアルを暴く『消費者金融ずるずる日記』

25年ほど前。テレビではレオタードの女性達が謎のダンスをしたり、宇宙人がお金を借りに地球に寄ったり、チワワが目をうるうるさせたりしたCMがよく流れていました。

 

広告の主は消費者金融会社。当時は駅前には無人契約機が所狭しと並び、学生も気楽にキャッシングをするーー。「お金は簡単に借りられる」。90年代は確かにそんな雰囲気がありました。

 

もちろん、お金を借りたからには返さなければいけないし、借りたお金には利子が付くのですが……。

 

消費者金融ずるずる日記』(加原井末路・著・三五館シンシャ・刊)は、消費者金融業界が栄華を極めていた1990年代半ばから、法改正によってジリ貧になっていく2010年代までの20年間の内実を描いた1冊。

 

命を担保に貸している

いかにお金を貸すか、いかに取り立てるか、債務者たちの事情などが赤裸々に語れている本書で、特に印象に残ったのが「命を担保に取っておく:団体信用生命保険」。当時、債務者は必ず生命保険に加入させられていました。それは、仮に債務者が亡くなった場合でも保険金で補填できるから(現在は禁止されている)。

 

ある時、死亡診断書を受け取った著者が内容を確認すると、亡くなったのは一度追い込みの電話をかけた青年でした。

 

我々は「無担保」を名乗りながら「命」を担保に取っているのだ。そして、私はこの因果な商売で家族を養っている。

『消費者金融ずるずる日記』より引用

 

ショックを受けつつも、いちいち気にしても仕方ないと割り切ろうとする著者と、「完済できてよかった」と語る支店長に、この業界の修羅を感じました。

 

家の汚さと借金の額

もうひとつ強烈なエピソードが「ゴミ屋敷:多重債務者の特徴」。著者が支店長とともに取り立てに向かうとそこはゴミ屋敷。

 

 玄関から覗き見える居間もカップ麺や空き缶、ペットボトルがあふれている。この部屋のどこに生活スペースがあるのかと思える、完全なるゴミ屋敷だ。
 帰り道、車中で大橋店長がこぼす。

「さっきの客の家ん中見たか?延滞客の家ってだいたい考えられないほど汚えよなあ」

『消費者金融ずるずる日記』より引用

 

なんというか、妙に身につまされるというか、キチンと部屋の掃除をしようと思ったエピソードでした。

 

本書では、いろんな人がいろんな理由でお金を借りにきます。ギャンブルのために借りる人もいれば、本当に生活に困って借りに来る人まで、理由は様々です。

 

皮肉なのは、貸し付けている側の著者もまた、ローンやキャッシングなどで400万の借金を作り、最終的には自宅を手放していること。お金の大切さと怖さが身にしみました。

 

「ご利用は計画的に」。この言葉の重さがよくわかる1冊です。

 

【書籍紹介】

消費者金融ずるずる日記

著者:加原井末路
発行:三五館シンシャ

1990年代の半ば、30歳のときに足を踏み入れ、50歳で退職するまでの20年を私はこの業界ですごし、お金にまつわる悲喜こもごもを目撃した。私が在籍した期間は、消費者金融業界が栄華を極めてから、2010年の法改正施行を経て、没落していく年月でもあった。
――本書にあるのはすべて私の実体験である。

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【ゲットナビ12月号】プラスワンすればQOL向上間違いなし!編集部が選ぶイチ押し家電大特集!話題のギア&エンタメも注目

今月号のトレナビスペシャルインタビューには、渡邉美穂さん、齊藤なぎささんが登場! 11月8日に公開する映画「あたしの!」について、元日向坂46と元=LOVEとアイドルグループに所属していたお二人に、当時の思い出話などもたっぷりお話いただいたほか、最近の気になっているモノについても独占インタビュー!

 

併用・買い足しでQOL爆上がりなプラスワン家電をプロがおすすめ

巻頭特集は「併用、買い足しでQOL爆上がり! プラスワン家電」。多くのテレビに録画機能が搭載されていますが、やはり全録レコーダーを買い足せば、テレビ番組の楽しみ方がグッと広がるもの。本特集では、ちょっとの合わせ技で日々の生活の利便性が劇的に向上するアイテムをプロに選んでもらいました。自分にぴったりの“プラスワン家電”をぜひゲットしてください!

 

Apple、今年の新製品を濃厚レビュー

毎年恒例となっている秋のApple新製品発表イベントでは、今年もiPhoneをはじめとしたガジェットが登場しました。それぞれのポイントはどこになるのか? 発売から1か月がたった今、使い込んだからわかった進化点をプロ3名による濃厚なレビューでお届けします。

 

今度のブームはちょっと違う!? 盛り上がる韓国フード

過去に何度も韓国グルメブームは訪れているが、最新の波はいままでとかなり違います。3つのホットワードとともに、ヒットをけん引しているフードやトレンドの背景を深掘りした韓国グルメ特集も掲載。

 

秋競馬はライブがおすすめ! 藤原菜々花アナのインタビューも

外遊びがはかどる秋。緑がいっぱいの開放的な空間でのんびり過ごせる競馬場は、イチ押しのアウトドアスポットです。特に東京競馬場はアミューズメントパーク感が強く、ほかの競馬場とは空気感がひと味違います。ぜひカップルやファミリーで訪れてみて欲しい場所です。そんな魅力たっぷりな東京競馬場のオススメスポット&グルメを紹介します。また、競馬には欠かせない実況アナウンサー、女性としてJRA初の場内実況を務めた藤原菜々花アナウンサーへのインタビューも掲載!

 

ペットも人間も! 心地よい犬猫ライフをつくるギア

大切な家族の一員であるワンちゃん、ネコちゃんの幸せを考えた“ペットファースト”な暮らしのお役立ちアイテムを紹介します。ペットだけではなく飼い主の負担も減らし、おうち時間もお出かけ中も、ともに安心して過ごせる環境を整えましょう。

 

土田晃之さん、小岩井ことりさん、高田秋さん、ないとーさんら連載もお見逃しなく!

 

【商品概要】
GetNavi 2024年12月号
特別定価:760円 (税込)
発売日:2024年10月24日
判型:A4変型
ISBN:4910136711243
電子版:有
ワン・パブリッシングWebサイト:https://one-publishing.co.jp/

 

【本書のご購入はコチラ】
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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1256095605

「バーガー族」あったかも……? 「生成AI×昭和のカオス」が記憶を惑わす『架空昭和史』

昭和が終わって35年。平成も終わり令和の世となった現在、昭和は歴史になりつつあります。

 

経済は右肩上がりで、様々なカルチャーが生まれた昭和の時代。コンプライアンスなんて言葉もなかった時代ですから、現在で考えればとんでもないものも多く生まれました。

 

そんな昭和のカオスな空気感を、「架空の昭和」というコンセプトのもと画像生成AIによって表現したのが『架空昭和史』(プロハンバーガー・著/辰巳出版・刊)です。

 

架空なのに、あったかもしれない?

本書の面白さは、昭和を知る人の郷愁を誘い(架空だけど)、昭和を知らない人には「こんなトンデモな時代だったんだ」(架空だけど)と思わせる絶妙なリアリティーにあります。

 

たとえば、バンズのような帽子をかぶって街を歩く「バーガー族」。表紙の画像を見ればわかりますが、「ありえないでしょ……いや、でも、いたかもしれない」と、我々の記憶を誤認させるデザインではありませんか。

↑右下の「ホタル族」は令和の現在、実際にいてもおかしくないファッション

 

また、特撮ヒーロー番組「突撃! バーガー7」も、さすがにこんなヒーローいるわけないとツッコミつつも、狂乱の70年代特撮番組を思い返すと「あったかもしれない」と考えてしまうわけです。

↑解説の文章がまたリアリティーを補完している

 

本書では、そんな我々の記憶を混乱させる“架空”な昭和の風俗が、「食生活」「ファッション」「教育」「芸能」など18のジャンル別に紹介されています。

 

じつは、プロンプトが気になる

さて、この画像はすべて画像生成AIで作られているわけですが、そのためにはプロンプトが必要になります。プロンプトとは、作りたい画像のイメージを伝えるテキストのこと(「呪文」とも呼ばれる)。

 

やってみるとわかりますが、自分が意図している画像にするためのプロンプトを入力するのは意外と難しいです。例えば、「女性が公園で立っている」イラストを生成するには、髪型や表情、服装や、どんな公園なのかなど、細かく指定しなければいけません。

 

そんななか「架空昭和史」は誰も見たことのない昭和の風俗をAIに生成させました。いったい、どういうプロンプトを入れたらこんな奇想天外なものが出来上がるのか。そんなことを考えてながら本書を眺めるのも面白いかもしれません。

 

【書籍紹介】

架空昭和史

著者:プロハンバーガー
発行:辰巳出版

「ChatGPT」といったAIチャットサービスが盛り上がっている中、画像生成の分野でもAIは格段の進歩を見せています。本書は、プロハンバーガー氏が、“架空の昭和”というコンセプトを思いつき、AIによってその画像を生み出し、さも実際にあったかのような文章も考えて、X(旧Twitter)上にアップした「#架空昭和史」の作品をまとめた一冊になります。

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【ゲットナビ11月号】“値段以上に価値がある逸品”をプロたちが厳選!最強コスパ 家電&デジタル

今月号のトレナビスペシャルインタビューには、永瀬廉さん(King & Prince)が登場! 10月4日に公開する映画「ふれる。」について、オーディションや撮影裏話などをたっぷりお話いただいたほか、最近のヒットモノについても伺いました。

 

プロたちが厳選【最強コスパ】ベストバイ家電&デジタル

巻頭特集は『最強コスパ 家電&デジタル』。原材料費や物流費のコスト増などで様々な商品の値上げが相次いています。こんな時代だからこそ、ゲットナビは高品質で、お買い得なアイテムの情報をお届けします! 本特集では、QOL爆上がりの「家電&デジタル」にフォーカス。幅広い価格帯の製品に精通するプロたちにリサーチしました。プロ激推しの“価格以上に価値ある逸品”を紹介します。

 

いまこそ食べたい! ニッポンのソウルフード【おむすび再発見】

昔から愛され続けるおむすびが、いまになって空前の大ブームを迎えています。その人気ぶりは、フランスのパリで専門店に行列ができるなど、海外にまでおよぶレベル。なぜこんなにも人気になっているのでしょうか。その秘密を解き明かしつつ、新米が出回るいまこそ挑戦してほしい、老舗が教える“絶品おむすび”の作り方や、一度食べたらクセになるおすすめ具材を紹介します。

・「おにぎりぼんご」の女将が教えます、ぼんご流「おうちおむすびの作り方」

・インスタグラマー・mioさんが教えるグッドな具の組み合わせ

・みんな知っている! 定番商品アレンジおむすび

・お取り寄せしてでも食べたい! ニッポン全国おむすびのとも

・最新おむすび情報局

 

夏に受けた肌ダメージは早めのケアを!【オトコの秋枯れ肌対策】

夏の紫外線やエアコンによってダメージを受けた肌は、秋になっても乾燥やごわつきを引きずりがち。放っておくと、老けた印象にもつながる“秋枯れ肌”になる可能性も……。今回はメンズ美容のプロ・藤村岳さんを迎え、スキンケアのコツや旬のコスメを「顔・カラダ」「頭皮」に分けて解説します。

 

ほかにも「いますぐ取りかかる!防災のススメ」と題し、地震、台風、豪雨、洪水など次々と災害が発生するなか、普段からの備えが必要だと考え、命と暮らしを守るために知っておきたい知識と、備えておきたいアイテムを紹介します。

 

土田晃之さん、小岩井ことりさん、高田秋さん、ないとーさんら連載もお見逃しなく!

 

【商品概要】
GetNavi 2024年11月号
特別定価:760円 (税込)
発売日:2024年9月24日
判型:A4変
ISBN:4910136711144
電子版:有
ワン・パブリッシングWebサイト:https://one-publishing.co.jp/

 

【本書のご購入はコチラ】

・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DFX4J796/

・楽天 https://books.rakuten.co.jp/rb/17990834/

・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1255454440

猪木×藤波の「最高にイカした倒置法」を見よ!「言語学×プロレス」の異種格闘技戦に笑いが止まらぬ『言語学バーリ・トゥード Round2』

プロレスをネタに言語学について語る。そんな途方もない異種格闘技戦を展開して読者(プロレスファン)を唸らせた『言語学バーリ・トゥード Round1 』。その第2弾『言語学バーリ・トゥード Round2』(川添愛・著/東京大学出版局・刊)が満を持して発売された。

 

本書は、東京大学出版局が発行しているPR誌「UP」の連載と書き下ろしをまとめたもの。前作同様にプロレスネタやお笑いのネタはもちろん、ゲームのネタや自作のコント、短編小説など前作以上にバリエーション豊かに言語学との異種格闘技戦を行っている。

 

倒置法とプロレスの相性の良さ

プロレス好きなら、永田裕二の「いいんだね、やっちゃって」から始まり、飛龍革命のときのアントニオ猪木と藤波辰巳(現・辰爾)の会話を例に、倒置法について語られる5章「最高にイカすぜ、 倒置法は!」は必読だ(飛龍革命については各自調べること)。

 

また、アントニオ猪木がモハメド・アリとの対戦で生み出した「アリキック」という名称の不思議さを指摘しつつ、猪木の偉大さを書き綴った8章「二〇二三年も“いけばわかるさ”」もオススメ。

 

ちなみに、「二〇二三年も“いけばわかるさ”」は、河合塾の全国模試に出題され、設問は「なぜ、筆者は『猪木のものまね』をするのか。猪木に対する筆者の考えを踏まえて、八十字以内(句読点等を含む)で説明せよ」というものだったらしい。

 

「釣り見出し」の言語学

どの章もおもしろいのだが、興味深かったのが、7章「【コント】ミスリーディング・セミナー」だ。ネット記事をバズらせるために情報商材の勧誘を受ける生徒と講師のコントで、日本語の解釈に関する考察が語られる。

 

その中で「芸能人Aが所有するマンションに男が不法侵入して逮捕された」という記事に、講師が付けた見出しが下記の一文。じつは2通りの解釈があることにお気づきだろうか?

 

「芸能人Aが大家のマンションに不法侵入 器物破損の疑いで逮捕」

① 芸能人Aが、大家のマンションに不法侵入(した)

② 芸能人Aが大家(である)のマンションに、不法侵入(された)

 

ふたつの解釈が生まれる理由は、主語「芸能人A」に対する述語だ。①は「不法侵入」、②は「大家」が述語になる。どちらを述語にするかで、Aが犯人にも被害者にも読めてしまうのである。

 

①と解釈をする人が多数であること理解しつつ、②の解釈だから日本語としては間違っていないというロジックなのである。

 

さらに、②の場合は「誰が不法侵入したか」が書かれていないが、これも、日本語には「ゼロ代名詞」があるから問題ないと講師は語る(ゼロ代名詞については、本書を読んで頂きたい)。

 

フィクションとして書かれているが、いわゆる「釣り見出し」に対する違和感の理由がよくわかる内容だ。こういったミスリードは実際に行われているだろうし、テクニックとしても流布しているように思うと、日本語の奥深さというか、文章を書く怖さというものを感じてしまうのは私だけだろうか……。

 

日本語を使うすべての人の指南書

そのほかにも、日本語は本当に「曖昧」なのか、重言(例:頭痛が痛い)についての考察など、言語にまつわる疑問について、おもしろおかしく、そしてわかりやすく語られている。本書は、日本語を使う我々が「いつなんどき、誰の挑戦でも受ける」ために必要な指南書なのである。

 

【書籍紹介】

言語学バーリトゥード Round2

著者:川添愛
発行:東京大学出版局

レイザーラモンRGの「あるあるネタ」はどうしておもしろいのか。「飾りじゃないのよ涙は」という倒置はなぜ印象的なのか。猪木の名言から「接頭辞BLUES」まで縦横無尽に飛び回りながら、日常にある言語学のトピックを拾い出す。抱腹絶倒の言語学的総合格闘技、Round 2スタート!

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災害時にも活躍! 超絶万能な「アイラップ」を使い倒す『アイラップで簡単レシピ おうちごはんの大革命!』

皆さん、「アイラップ」をご存じですか? 写真のようなレトロなデザインのパッケージをスーパーで見たことありますよね。単なるポリ袋でしょ、と気にすることもなく通り過ぎていたのですが、じつはこの「アイラップ」は驚くほどの万能ポリ袋なんです!

 

「アイラップ」は耐冷性・耐熱性に優れた高密度ポリエチレン製で、加熱する場合は120℃以下なら耐えられますし、耐冷温度は‒30度なので家庭用冷蔵庫の冷凍室に入れても大丈夫。さらに電子レンジでも使用できるというすぐれもの。

※電子レンジで加熱する場合は絶対に口を結ばないようにしてください。
※アイラップの耐熱温度は120度以下なので、油分が多くて加熱するとそれ以上の温度になる可能性があるものは、絶対に加熱しないでください。

 

そんな万能な「アイラップ」を使い倒す本が『アイラップで簡単レシピ おうちごはんの大革命!』(橋本加名子・著/Gakken・刊)。本書はアイラップの基本的な使い方から、「湯煎調理」「2品調理」「スピードレシピ」「下味冷凍」「防災レシピ」など、時短なのにおいしいレシピ・アイデアが100種類上掲載されています。

 

レシピの内容も、ポテトサラダや小松菜のナムルといった簡単なものから、カオマンガイやミートローフ、スパニッシュオムレツなど「ほんとにアイラップだけでできるの?」というものまでバリエーションも豊富です。

 

湯せんナポリタンに挑戦!

どのレシピも気になりますが、今回は「ナポリタン」に挑戦してみました。材料は、ソーセージ、タマネギ、ピーマン、スパゲッティ(ゆで時間が3分のもの)。カットした材料とお湯、ケチャップなどの調味料をアイラップに入れて、袋の先を結んで10分湯せんするだけ!

↑下ごしらえをした材料を「アイラップ」に投入

 

↑空気を抜いて(空気の抜きがあまくてふくらんでいますが……)、袋が高温の鍋底に触れないように、耐熱皿を入れた鍋に投入

 

完成したのがこちら! どこから見てもナポリタンです。どの具材も火が通っているし、スパゲッティもほどよいかたさ。湯せんに使う鍋と盛り付ける皿だけなので、片付けもラクチン。これは思った以上に便利です。

 

なにかと便利な「アイラップ」ですが、じつは災害時にも役立つと注目されています。電気が使えないときでもカセットコンロがあれば湯せん調理ができますし、「アイラップ」ごとお皿に盛れば洗い物も出ないので節水にもつながります。本書には「アイラップ」を使った湯せんでのごはんの炊き方や「アイラップ×備蓄食材で災害時でも作れるレシピ」も掲載されています。

 

日常生活でも災害時でも超絶便利な「アイラップ」と、その使い方を網羅した『アイラップで簡単レシピ おうちごはんの大革命!』。各家庭のマストアイテムになること間違いなしです!

 

【書籍紹介】

アイラップで簡単レシピ おうちごはんの大革命!

著者:橋本加名子
刊行:Gakken

能すぎるキッチンアイテム【アイラップ】をフル活用。材料をぜ~んぶ入れて湯せんするだけ!もむだけで完成! 湯せん、レンチン、冷凍もOK!【アイラップ】があれば、毎日のおかず作りが驚くほどラクになる。時短なのにおいしいレシピ&アイディア105

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「妙なリアリティー」で圧倒的に怖い!『このホラーがすごい!』1位獲得『近畿地方のある場所について』

2000年代、インターネットの掲示板の怪談スレッドが流行りました。「きさらぎ駅」「八尺様」「コトリバコ」「くねくね」……。みなさんも名前くらいは知っているかと思います。私は「八尺様」を読んだときの恐怖をいまでも忘れられません!

 

また、最近では「イシナガキクエを探しています」(テレビ東京)や、イベント「行方不明展」などモキュメンタリー的なホラーが話題になっていますよね。

 

今回紹介する『近畿地方のある場所について』(背筋・著/KADOKAWA・刊)は、そんなネット怪談やモキュメンタリーホラーが好きな方にはたまらない作品です。『このホラーがすごい! 2024年版』で1位も獲得しており、怖さは折り紙つき!

 

行間から漂う不気味な「恐怖」

『近畿地方のある場所について』は、モキュメンタリー的に作られた小説。ただ、小説というよりノンフィクションを読んでいる感覚です。なんの前情報もなく「ちょっと面白いノンフィクションだから」と手渡されたら、うっかり信じてしまう作りになっています(実際に、ノンフィクションだと思っている読者もいるらしい)。

 

予備知識を入れずに読んだほうが圧倒的に面白い(怖い)ので、内容については語りません。本の構成としては、雑誌の記事や、インターネットの掲示板の書き込み、取材テープの書き起こしなどがランダムに掲載されています。そこに共通しているのは「近畿地方のある場所について」ということだけ。

 

しかも、文中ではその「近畿地方のある場所」は「●●●●●」とずっと伏せ字になっています。これがまた、妙なリアリティーと不気味さを生んでいます。

 

それぞれの記事や手記のジャンルは様々で年代もバラバラですが、どの記事も読み終わるごとに、背筋が冷たくなります。瞬間的な恐怖というよりは、いやーな不安感がずっと続く感じ。また、実話怪談集としてだけでなく、「●●●●●」にまつわる大きな謎を解いていく作りにもなっているので、ミステリーとしても楽しめます。

 

まだまだ酷暑は続きそうですが、じとーっと迫ってくるえも言われぬ不気味さを体感して、この晩夏、恐怖に凍えてみてはいかがでしょう?

 

【書籍紹介】

近畿地方のある場所について

著者:背筋
刊行:KADOKAWA

近畿地方のある場所にまつわる怪談を集めるうちに、恐ろしい事実が浮かび上がってきました。

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ちょっと固まってるな……と思ったら『じゃあ、あんたが作ってみろよ』で心のストレッチを!

「ポテサラおじさん」って覚えてますか? お母さんがスーパーの惣菜コーナーで「ポテサラ」を買おうとしたら、「母親ならポテサラくらい自分で作ったらどうだ」と言われた事件。ネットで話題になり世のお母さん達の怒りが爆発しましたよね。このおじさん、ぜったいにポテサラを作ったことないですね。一度でも作ったことがあるなら、こんなセリフ吐けないはずですから。

 

この「ポテサラおじさん」のように、自分は作ったこともないのに、他人が作った料理にいちいち文句をたれる男って結構いますよね。『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(谷口菜津子・著/ぶんか社・刊)の主人公・海老原勝男も、そんな男のひとりです。

 

アナクロ・モラハラ男は立ち直れるのか?

筑前煮を美味しく作れるような女の子がタイプと公言する勝男。イケメンだし、実家も太い三男坊と高スペックですが、この時代にアナクロすぎる“昭和な男”です。もう、この「筑前煮」だけでイラッときますね。第1話の冒頭から彼女の鮎美が作ってくれた夕飯に「全体的におかずが茶色すぎる」とか「もっと上を目指せると思ってのアドバイスだから」とのたまう姿には怒りしか湧いてきません!

 

そんな勝男ですが、鮎美へのプロポーズが見事に玉砕。読者にとっては「当然」ですが、勝男はなんで振られたのかわかりません。傷心を癒やすために合コンに行っても、最初はいいのですが「筑前煮」発言で女性陣からドン引かれます。これまたなんで引かれるのかわからない勝男。

 

そこで会社の同僚から「筑前煮を作ってみればどーですか」と提案されます。「要は切って煮ればいいだけだろ」と高をくくっていた勝男ですが、深夜まで悪戦苦闘。完成した品も鮎美のものと比べたら天と地の差。そこでようやく自分の間違いに気づくのです。

 

このあとも勝男は「めんつゆ料理なんて手抜き!」とか「全ての食事にコークハイなんてありえない!」など失礼発言を連発してひんしゅくを買います。ただ、勝男は自分を変えるために失礼発言を反省して行動を起こします。 めんつゆは自作してみて「これが手抜きなら料理は全部手抜き」と気がつきます。コークハイも自ら注文してその味を確かめます。

 

そうして、いままで疑問にも思わなかった「〜であるべき」という固定観念から解放されていくのです。

 

固定観念の檻から抜け出すために

じつは、本作はモラハラ男の転落の物語ではなく、固定観念に囚われた人たちが変化し再生していく物語なんです。

 

勝男の彼女だった鮎美も、高スペックな男をゲットして家庭を持つことが幸せであるという固定観念に縛られ、人生を「モテ」に全振りする女でした。そんな鮎美もある人との出会いでその呪縛から解き放たれて「本当の自分」を探し始めます。

 

固定観念の檻から抜けつつある勝男や鮎美が、いろいろな人たちと出会い、話し合い、己を省みながら変化を受け入れ進んでいく姿には共感しかありません。

 

年を取るにつれて、心も身体も柔軟さがなくなってきます。そして「もう年だから」と言い訳して固まることを許容してしまいます。無理をする必要はないですし、嫌なことはやらなくてもいい。でも、自分を省みて、硬直しないことを意識すれば、私たちも勝男や鮎美のように変わることができるはず!

 

「なんか最近、頭が固くなってきたな」と感じたら、ぜひ『じゃあ、おまえが作ってみろよ』を読んで、心のストレッチをしてください!

 

【書籍紹介】

じゃあ、あんたが作ってみろよ

著者:谷口菜津子
刊行:ぶんか社

社会人カップルの勝男と鮎美。大学時代から続いた交際は6年目を迎えようとしていた。同棲生活にも慣れ、そろそろ次の段階へ…と考えていた勝男だったが、そんな彼に訪れた、突然の転機とは……!? 慣れないながらに作る料理を通して、今までの「あたりまえ」を見つめなおす新時代の恋物語。

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その歴史を「なかった」ことにしないために——『忘れられた日本史の現場を歩く』

忘れられた日本史の現場を歩く』(辰巳出版・刊)は、ノンフィクション作家で写真家の八木澤高明さんが、忘れられた(忘れられつつある)歴史をめぐる紀行文。平家の落人たちの集落、からゆきさんがいた村、潜伏キリシタンたちの島、江戸の大飢饉で消えた村など、史跡としては残りにくい19の土地が紹介されています。

 

天下を統一した、日本の仕組みを変えたなど何かを成し遂げた人たちが歴史に名を残します。そして、教科書や本、ドラマなどを見て、私たちは歴史を知ったような気になります。

 

でも、いつの時代も普通の人たちが普通に生活をしていて、その生活が歴史を育んでいると思うのです。そしてその生活は歴史には残らない。八木澤さんがめぐったのはそんな場所です。本書で紹介されたどの土地の歴史も知らないことばかりでとても興味深いです。

 

高知の山間部に伝わる謎の信仰

 

高知県物部村(現・高知県香美市物部町)は「平家の落人伝説」のある山奥の集落です。平家の落人とは、源平合戦で敗れて山間部の僻地に逃れ住んだ敗残兵たちのこと。日本各地に「落人伝説」があり、この物部村もそのひとつ。八木澤さんが訪れたのは、落人伝説について調べるため……ではなく、拝み屋または太夫と呼ばれる人に会うためです。

 

物部村には「いざなぎ流」という信仰が残っており、太夫は病気の祈祷や村祭りなどの日常生活に関わり、ときには呪いをかけることもあったそう。じつはこの「いざなぎ流」は国重要無形文化財にもなっています。

 

八木澤さんは、最後の太夫である為近幾樹さんと出会います。97歳の為近さん曰く、彼がきちんと修業をした最後の太夫であるとのこと。そんな為近さんが語るいざなぎ流の祈祷や呪いの話は興味深く、「人間が一番難しいぞよ」という言葉が胸に深く残りました。

 

写真から染み出る情念

本書はオールカラーで、写真も多く掲載されています。八木澤さんが現地で撮影した写真を眺めるだけでもおもしろいのですが、その土地の歴史や情念まで写し取られているようで、背筋が寒くなるものもありました。私が特に惹かれたのは姥捨山の写真。何が映っているわけでもないのですが、ちょっと怖くないですか?

 

本書で紹介されている歴史と土地に行くのは、観光地ではないのでなかなかハードです。でも、本書を片手にその土地へ赴き「忘れられた歴史の現場」を体感し、歴史を「残す」作業をするのもよいかもしれません。

 

【書籍紹介】

忘れられた日本史の現場を歩く

著者:八木澤高明
刊行:辰巳出版

ノンフィクション作家であり、カメラマンでもある八木澤高明氏が、さまざまな理由で「日本史」において忘れられてしまった場所や遺構を訪れ、写真と文章によってその土地に眠る記憶を甦らせていきます。
北海道から九州まで、消えつつある風習や歴史を辿って旅した本作は、日本史好きはもちろん、ここ最近再び盛り上がりを見せている民俗学の視点でも楽しめる一冊です。

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これが令和の野球マンガか!『ダイヤモンドの功罪』が異色な理由とは?

今までの名作のどれとも違う視点から描かれる異色の野球マンガ『ダイヤモンドの功罪』(平井大橋・著/集英社・刊)。「2024このマンガがすごい!」オトコ編1位を獲得した本作。いったい、なにが異色なのかを紹介していきましょう。

 

いままでとは真逆のピッチャー像

『ダイヤモンドの功罪』の主人公・綾瀬川次郎クンは、自分のせいで誰かを傷つけたくない、自分のせいで誰かが悲しんで欲しくない、そんな優しい子。しかし、 神は残酷にも綾瀬川クンに相手の心を折ってしまうほどのフィジカルギフテッドを与えてしまうのです。

 

体操、テニス、水泳……いろいろなスポーツをやるたびに相手も自分も傷ついてしまう。そんな綾瀬川クンが出会ったったのが野球でした。

 

誰も傷つけず楽しく野球をやれれば良かったのに、綾瀬川クンはたった3か月でU-12日本代表に選ればれてしまいます。天才が過ぎる。いきなりカテゴリートップの闘う集団に交じってしまった綾瀬川クンは、そんなメンタルだから、当然チームメイトともめます。

 

つけたくてつけたんじゃないと、エースナンバーのユニフォームを脱ぎ捨ててケンカになったり、完全試合しちゃうと相手が怒られるかもしれないから1回打たれとく? と聞いて怒られたりします。

 

それなら、やらなきゃいーじゃん! と思ってしまいますが、綾瀬川クンは野球をやりたいんです。

 

ピッチャーといえば天上天下唯我独尊。『ダイヤのA』降谷クンや『忘却バッテリー』の清峯クンとか、そういった子たちが典型といえるでしょう。綾瀬川クンにもっとも近いと言える『おおきく振りかぶって』の三橋クン(コミュ障で対人恐怖症気味)ですら、対戦相手の心配まではしません。

 

今までのピッチャー像(天才像)とは真逆の綾瀬川クン。その異常に周りを気にしすぎる性格、誰にも不幸になって欲しくないという博愛主義者は、ある意味、現代の生きにくい社会を反映していると言えるかもしれません。

 

オトナって!!

タイトルにあるように、本作では当然「罪」の面もガッツリ描かれます。その罪を背負うのは周りをとりまくオトナたち。もうホントに「オトナって!」という描写がこれでもかというくらい出てきます。そして、それが利権がうずまく「野球」であることによって、より生臭くなっていきます。

 

自分の夢を託した息子にセンスがないことがわかると、お前はやめていい、俺はこれからの人生を綾瀬川クンに託すと言い放つ父親。楽しくやりたいだけって言ったのに勝手にU-12のセレクションの応募してしまう監督。才能を認めながら自分の野球塾に入れると息子の心が折れると、入塾を拒否する代表監督、綾瀬川クンが入ると高校の推薦枠がなくなると嘆くチームの保護者たち。まぁ、醜いです。ズルいです。

 

綾瀬川クンと関わる球児たちは、みな真摯に野球と向き合い、わかり合えないまでも綾瀬川クンのことを理解しようとしている分、オトナの腹黒さが際立ちます。球児を取り巻くオトナたちの思惑を綺麗事でなく描いていることも、本作の異色さと言えるでしょう。

 

スポーツとは、競技とは、勝利とは——これまでの作品では自明の理とされたことを疑問を投げかけ、改めてその「功罪」を問う異色の野球マンガ『ダイヤモンドの功罪』。

 

チームの皆が幸せでいるためには、そして相手も傷つけないためにはどうすれば良いか——綾瀬川クンがこの矛盾した願いがどう解決していくのか。まだ物語は始まったばかりです。今後、彼の心が暗黒面に飲み込まれないことを切に願っています。だって、綾瀬川クンはまだ、小学6年生なんですから!!

 

【書籍情報】

 

ダイヤモンドの功罪

著者:平井大橋
発行:集英社

「オレは野球だったんだ!」。運動の才に恵まれた綾瀬川次郎は何をしても孤高の存在。自分のせいで負ける人がいる、自分のせいで夢をあきらめる人がいる。その孤独に悩む中、“楽しい”がモットーの弱小・少年野球チーム「バンビーズ」を見つける。みんなで楽しく、野球を謳歌する綾瀬川だったが……。

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ネットロアって何? 日々生まれ拡散される噂の数々『AI時代の都市伝説』

ネットロア——net(インターネット)とfolklore(民間伝承)を合わせた造語であり、BBSやSNSなどから生まれ、拡散された都市伝説のことだ。『AI時代の都市伝説』(宇佐和通・著/笠間書院・刊)は、主に海外の有名なネットロア50本を取り上げ、その発生や拡散の理由などを解説している。ここではその中から3つのネットロアを紹介しよう。

 

アメリカでも流行した「ピアスの穴の白い糸」

ある女子大生が、友達にピアスの穴をあけてもらうことにした。穴から白い糸のようなものがぶら下がっているので、友達がつまんでみたが、思いのほか長い。指にまきつけて引っ張ってみたところ「ぶちっ」と音がした。すると穴をあけてもらった女子大生が「ねー、なにも見えないよ」と言う。その白い糸は視神経で、引っ張り出したため目が見えなくなってしまった。

 

90年代に流行った都市伝説「ピアスの穴の白い糸」。ご存じの方も多くいるだろう。この都市伝説は「The White Thread」としてアメリカでも拡散。女子大生から、サーファー、パンクロッカーへと主人公が変わりながらもアメリカならではの時代背景の影響を受けながら進化していった。日本発の都市伝説がアメリカでネットロア化する、ネットの時代を象徴する事例と言えよう。

 

壮大ないたずらかそれとも……「シケイダ3301」

シケイダ3301とは、インターネット上で公開され、全世界のユーザーが挑戦したインターネットパズルを提供していた個人か組織のニックネームだ。

 

2012年1月、「高い知性を持つ人々を探しています」というメッセージとともに、インターネットの掲示板にパズルが投稿された。パズルは画像に隠されたメッセージを解くというもので、画像のヒントをもとに回答し、正解すれば次の段階に進みゴールに近づいていく。パズルには画像内にデータを隠すために使われるステガノグラフィというテクノロジーが活用されており、ヒントを探すためにはコンピューターの知識や暗号理論、芸術関連など幅広くかつ専門的な知識が要求された。

 

2014年までの3年間に3回パズルは投稿され、2014年「私たちは探していた人物をみつけました」と複数のSNSにメッセージをアップして突如として終了。ネット上では、政府機関の特殊な職務に向く人をさがすためのリクルート活動、大手IT企業のキャンペーン、インターネット上の秘密結社のイニシエーションなど様々な憶測が生まれ拡散した。

 

シケイダ3301とは何者なのか、パズルの目的は何か、すべてが謎のままであり、いまもなおインターネット史上最も不気味なミステリーのひとつである。

 

殺人未遂事件まで起きた「スレンダーマン」

アメリカでは広い世代に知られているキャラクター・スレンダーマン。不自然に長い手足に卵のような顔、背が高く、常に黒いスーツを着ており、子どもたちにストーキングしたり、誘拐したり、トラウマを与えるような行動に出るとされる。

 

2009年に「Something Awful」というSNSで開催されたコンテストから生まれたスレンダーマンは、瞬く間にネットで進化・拡散され、「スレンダーマンは実在する」というコンセンサスが構築されていく。

 

そして2014年には、12歳の少女ふたりがクラスメイトを襲う事件が起きたが、襲った理由は相手がスレンダーマンか、スレンダーマンの手先であると思ったからだという。

 

この事件をきっかけに、さらにスレンダーマンの噂は拡散し、2018年には映画されるに至った。まさにデジタル時代の典型的なネットロアと言える。

 

現在のネットロアはテキストだけでなく、画像や動画なども含めて広がっている。そしてAIの進化で、より真実味が増し虚実の区別が付きにくくなってきている。情報過多のこの時代、ネットロアやフェイクニュースに騙されないように本書を読むことで、リテラシーを高めていかねばならない。

 

【書籍情報】

AI時代の都市伝説

著者:宇佐和通
発行:笠間書院

信じられないかもしれませんが——こんな話、知っていますか? イギリス版『きさらぎ駅』、ピエロの人形、コロナパーティ、ブラック・アイド・キッズ、This Man現象、チャーリー・チャーリー・チャレンジ、Annie96 is Typing、シャドー・ネットワーク、911その後、ウクライナのタイムトラベラー…… 世界の都市伝説・陰謀論研究の第一人者が贈る、ネットロアの最新形態。

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お酒を飲んでも下腹は凹む!酒飲みダイエッター×元おデブ編集担当による『下腹やせ!1分締めトレ』制作秘話

ダイエットするなら、厳しい食事制限はもちろんお酒も我慢しなくては! そう嘆いている人に朗報です。5月30日に発売になった『下腹やせ! 1分締めトレ』の著者・めぐ先生こと許恵(きょ めぐみ)さんは、大好きなお酒を飲みながらも約-20㎏を達成した「酒飲みダイエッター」。今回は、めぐ先生と担当編集・柏倉友弥さんの対談を実施。本が誕生したきっかけ、撮影秘話、そしてダイエットあるあるまで、ユニークなお話が飛び出しました。

 

下腹やせ、尿漏れ改善、肩こり解消……「締めトレ」はメリットだらけ!

 

―ついに、めぐ先生初の著書が発売になりました。まずは、本の内容を教えてもらえますか。

 

めぐ先生

はい、じつはダイエットで重要なのは、「膣筋(ちつきん)」です。正確には「骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)」と言い、ここが緩んでいるとなかなか痩せられず、下腹も凹みません。

 

逆に言えば、膣筋さえ鍛えれば、スムーズに痩せられるんですね。ただ、意識して力を込めるのが難しい筋肉なので、膣筋と連動する筋肉を全部一緒に鍛えるトレーニングを考えました。それが「締めトレ」です。

 

「締めトレ」がもたらすメリットはたくさんありますが、一番は下腹が綺麗に凹むこと。そして、尿漏れが改善されることです。産後の女性をはじめ、最近は若い子でも尿漏れで悩むケースが多いのですが、膣筋には尿道を締める働きがあります。実際に私の生徒さんたちからも、尿漏れがなくなったという嬉しい声がたくさん届いていますよ。

 

―ほかにも肩こりや腰痛が改善されたり、姿勢が良くなったりとハッピーなことづくしですね! 柏倉さんが今回の本の企画をオファーしたのは、いつ頃ですか?

めぐ先生を発見し、すぐさまオファーをしたことが功を奏した!

 

柏倉

去年の6月です。インスタでめぐ先生の動画が大バズリしていたんですよ。見ていない人はいないんじゃないかというほどの拡散力で。その当時のフォロワー数は10数万人くらいでしたが、まさに成長途中だと感じていました(ちなみに現在のフォロワー数は35.5万人!)。とにかく勢いがものすごかったので、これはいますぐに声をかけなくては! と先生のHPの問い合わせフォームからご連絡しました。


めぐ先生

本が出せるなんて思っていなかったので、すっごく嬉しかったです。オファー自体初めてだったんですよ。ただ、私が自分でお金を払って広告を載せる、自費出版みたいなものなのかも……と少し怪しんでいまして、それだったらやらないよ! お金は払いませんよ!って思ってました(笑)。

 

柏倉

そうでしたね(笑)。

 

めぐ先生

でも、連絡をいただいてお話をしたら違っていたので、安心しました。ちなみに、最初の打ち合わせのときに柏倉さんに「この後、きっと他社さんからもオファーがあると思います」って言われて、「本当かな?」って思っていたら、ホントにいくつかお声がけをいただきましたね。

 

―一歩遅かったら、この本は成立しませんでしたね! とはいえ、最初に声をかけたからといって、必ずしも話がまとまるわけではないですよね。やはりフィーリングなどもあると思うのですが、めぐ先生から見て柏倉さんの最初の印象はどうでしたか?

 

めぐ先生

すごく私の意見を尊重してくれて、売れるために必要な情報を伝えつつも、「ここはめぐ先生の考えをしっかり出した方がいい」といった意見をハッキリ言ってくれたので、すごく信頼できました。

 

柏倉

「ずぼらでも〇〇するだけで痩せられる」といった本が売れる傾向にはあるんですが、めぐ先生の場合はそうではなく、少しキツイけど、1日1分でも取り組めばしっかり効果が出るものなので、そこは曲げずに押し出したい、むしろアピールしたいと思いました。

 

超優良進行で終わった撮影。めぐ先生の筋力のすごさを実感!

―この本の中で一番おすすめのトレーニングを教えてください。

 

めぐ先生

フロッグリフトです。インスタでも一番再生数が多いトレーニングですね。動きがユニークなこともあってバズったんだと思いますが、何より反響がすごいんですよ! 尿漏れが改善されたという声が一番多いです。もちろん、下腹やせにも効きます。自信を持っておすすめしたいトレーニングです。

効果絶大!フロッグリフト

 

―どこに意識を向ければいいかが細かく説明されているので、とてもわかりやすいです。ほかにも本書にはたくさんのトレーニングが紹介されていますが、かなりカット数が多いので撮影が大変だったのでは……。

 

柏倉

それが、超優良進行だったんですよ。本当に書籍の撮影が初めてなのかなと思うくらい、ポージングもバッチリで。9時にスタジオに入って、お昼休憩も1時間しっかりとって、16時半くらいには撮影終了していました。

 

時間に余裕があると、みんなの気持ちにも余裕が生まれて、撮影カットを見ながらいろいろと話し合って、衣装違いの同じポーズを撮影することもできましたね。

 

―めぐ先生は、スチール撮影のご経験があったのですか? 

 

めぐ先生

以前、アパレルのオリジナルブランドを出したときに一度撮影したことがあったのと、キャバクラで働いていたときに専門誌の撮影なんかはありました。と言うか、普段トレーニングしている様子を撮影している感じだったので、いつも通りでよかったから。大変だと思うこともなく、楽しく撮影できました。特に表紙の写真は、午前中いっぱいかけてこだわって撮影していただいたので、とても気に入ってます。

めぐ先生もお気に入りの表紙写真

 

―どのページのポーズも本当に美しく、惚れ惚れしてしまいます。

 

柏倉

本当に、先生の筋力が素晴らしくて……撮影するときって一定時間静止しないといけないんですけど、僕らからすると大変そうなポーズでも、汗もかかずに平然とこなされていたんですよ。

 

めぐ先生

なんだかみんなに気遣ってもらったんですけどね、それに関しては全然でしたよ。このぐらい(ポージングをとったまま静止する)のことならまったく余裕でした!

 

週1のチートデーと毎日のお酒がモチベーション維持の秘訣

―そういえば、柏倉さんも昔かなり体重がおありだったと聞きました。

 

柏倉

どこからその情報を?(苦笑)そうなんですよ、大学時代はかなり太ってました。

 

めぐ先生

え! それは知らなかった!

 

柏倉

当時は恐ろしい食生活をしていて、深夜にコンビニ弁当とかカップラーメンをたらふく食べて、その後にお菓子も6袋くらい食べてました。

 

―それは太るしかない生活ですね(笑)。

 

柏倉

その後、早寝早起きをして食生活を整えたら、だんだんと体重が減っていきました。ただ、最近また緩やかに体重が増加しつつあるので、「締めトレ」をしてしっかり引き締めないと! と思っています。

 

―めぐ先生は、一番体重が多いときは何㎏あったんですか?

人生で一番重かった時代。フェイスラインもまるで別人!

 

めぐ先生

今が43㎏なので、20㎏くらい多かったです。キャバ嬢をやっていたときですね。26歳頃がマックスだったかな。ドレスが入らなくなって、スーツしか着られなかった時期がありました(苦笑)。

 

―原因は何だったんでしょうか。

 

めぐ先生

柏倉さんと一緒です。私もコンビニ弁当を2~3個買って、夜中に食べてました。で、食べながら寝てた。

 

柏倉

わかります! 満腹になると眠くなるから、食べてそのまま寝ちゃうんですよね。

 

―やはり深夜の食べすぎは太るもとですね。そのあと、どうやってダイエットをされたんですか?

 

めぐ先生

まずは、夜中の食事をやめました。毎日ジムで4時間くらい有酸素運動をして、そのあとは加圧トレーニングのジムにも通いました。だんだんと体重が落ちていって50㎏くらいになったとき、フィットネストレーナーになりました。試行錯誤しながら「締めトレ」をはじめとした現在のダイエットメソッドにたどり着いた感じです。

 

運動と同時に、食べ物にも気をつけています。私に合っていたのは、週1で好きなものを食べてOKなチートデーを作るやり方。普段はローカロリー&糖質オフをしっかり守って、週に一度だけ好きなものを食べる。ストレスもたまらないし、食べる楽しみがあるから体調維持もポジティブに続けられます。

 

「締めトレ」で老化に勝てる! 元気になりたいすべての人にこの本を届けたい

―ちなみに、「酒飲みダイエッター」というくらいなので、お酒は毎日飲まれている?

 

めぐ先生

はい、飲んでます! お酒はやめたことがないです(笑)。正直、お酒が原因で太ることってないと思うんですよ。甘いと感じるお酒は対象外ですよ。蒸留酒とか糖質ゼロのお酒に関しては、ダイエットの敵ではないと思うんですよね。

気持ちのいい飲みっぷり!

 

私、糖質ゼロのお酒をトータル600kcalくらいは毎日摂取してるんですけど、大丈夫です。ただ、同じ600kcalを夜中におにぎりで摂ったら絶対太りますよね。だから、お酒の種類を上手に選べば、ダイエット中でも大丈夫!

 

―なるほど。チートデーしかりお酒しかり、我慢ばかりするダイエットとはまったく違いますね。最後に、この本をどんな人に届けたいか、そして今後の夢などもぜひお聞かせください。

 

めぐ先生

「痩せたい!」と思っているすべての人に届けたいです。特に、下半身太りの人や反り腰の人は効果が出やすいと思います。あとは、健康になりたい、元気になりたいと思っている人。「締めトレ」をしたら、絶対元気になるから。

 

年齢を重ねるごとに、どうしても不調って出てくるじゃないですか。そんな不調で悩む人を一人でも減らしたいです。私は今年42歳ですが、老後のためにも、元気に歩ける体でいたい。筋肉ってね、鍛えると絶対に若くなるんです! 老化に勝てる。だから、たくさんの人に「締めトレ」にチャレンジしてほしいです。

 

柏倉

めぐ先生の昔のお写真が本の中にも載っていますが、本当にいまが一番若々しくて美しいです。担当した私としても、より多くの方の手に渡ると嬉しいなと思っています。女性はもちろん、男性やお子さんも一緒に取り組めるので、みんなで元気な体を手に入れましょう!

 

『下腹やせ! 1分締めトレ』(許恵・著)

 

納得の2024年本屋大賞受賞! 成瀬あかりの孤高の姿に皆ひれ伏せ!!——『成瀬は天下を取りにいく』

誰の目も気にせず、誰にも忖度せず、唯我独尊、己の信じた道をひたすら突き進む。強靱な魂と鋼のメンタルを持つ者だけしか到達しえない境地ーーそれが”孤高”。そんな存在に憧れたことはないだろうか? 私はある。

 

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。あまりにキャッチー過ぎる一文が話題になり、2023年の発売より重版を重ね、2024年「本屋大賞」を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈・著/新潮社・刊)の主人公・成瀬あかりもそんな”孤高”なひとりだ。

 

本作はそんな、成瀬あかりの”他人とは違う”日常を、滋賀県大津市のローカルなネタを交えつつ展開する連作短編集である。

 

”孤高”であり”異端”——成瀬あかりの魅力とは?

孤高のキャラというのは、人生の目標が決まっており、そこに向かって脇目もふらず猪突猛進する人たちが多いように思う。その視野の狭さとベクトルの大きさに我々は惹かれるのだろう。

 

成瀬あかりは”200歳まで生きること”が目標だが、人生のすべてをそこに収斂させているわけではない。世の”孤高”キャラとの違いは下記の一文でもよくわかる。

 

「やってみないとわからないことはあるからな」
成瀬はそれで構わないと思っている。たくさん種をまいて、ひとつでも花が咲けばいい。花が咲かなかったとしても、挑戦して経験はすべて肥やしになる。

『成瀬は天下を取りにいく』より引用

 

「とりあえず、夏休みを西武に捧げてみる」「とりあえず、お笑いの頂点目指してみる」「とりあえず、入学式に丸刈りにして卒業式まで延ばしてみる」。どうだろうか、 このフットワークの軽さとやってみたいことの破天荒さは! この多角的な視野こそが彼女の違いであり魅力なのである。

 

味のある”普通”の人たち

本作は、成瀬の行動に巻き込まれるいわゆる”普通”の人たちも多く登場する。彼らと成瀬の取れているかいないか微妙なコミュニケーションによって物語が動いている。

 

島崎みゆきは、自称「成瀬と同じマンションに生まれついた凡人」。「成瀬あかり史の観察者」として、成瀬が西武大津店に毎日行けば、なんとなく付き合って、一緒にライオンズのユニフォームも着てテレビに映ったり(毎日ではない)する。成瀬がM-1グランプリに出場すると宣言したら、相方としてきちんとネタまで一緒につくる。まさにバディといえる存在だ。そのコミュニケーション能力の高さは”普通”とは違うが「わたしは、しぶしぶ付き合ってるってことにしていい」と、他人の目が気になる小市民的な発言をするあたりにシンパシーを感じる。

 

「線がつながる」に登場する大貫かえでは、島崎みゆき以上に、読者(普通の人)との視線が近く共感できるキャラクターだ。彼女は小中高と成瀬と一緒だが、「基本的には成瀬とは関わりたくない」というスタンスで生活を送っている。悪目立ちしたくないし、可もなく不可もなく”普通”でいたいからだ。ただ、成瀬からは『やはり大貫は何が違う。面と向かってこんなこと言ってくれるのは大貫しかいない』と、好かれてもいるし、信頼も置かれている。ふたりのツンデレ(ほぼツンだが)な関係性には見ていてキュンとすること請け合いだ。

 

彼女は何を考えているのか?

”孤高”の人が何を考えているかは、基本、我々には理解できないし、描かれないことが多い。”孤高”を”異物”として描き、普通の人間が彼らに振り回されることで物語が動き出すからだ。

 

しかし、著者は最後の「ときめき江州音頭」において、成瀬の視点で物語を進める。凡人には計り知れない思考回路で動いていると思っていた成瀬が、じつは、我々と同じような感情に揺れることを知ったとき、読者は、さらに成瀬のことを好きになり、憧れがより深まっていく。

 

成瀬あかりのことを知れば、誰もが魅了され、憧れ、そして「自分は違う」と少し落胆する。しかし、彼女の「やってみないとわからないから、たくさん種をまく」というスタイルに少しでも感化されれば、いままでとは違う生き方ができるかもしれない。

 

第2作『成瀬は信じた道を行く』も刊行され、著者によれば、シリーズ3作目刊行予定とのこと。成瀬をまだ知らない人たちは、ぜひ手に取って、成瀬あかりにひれ伏して欲しい。

 

【書籍情報】

成瀬は天下を取りにいく

著者:宮島未奈
発行:新潮社

2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。発売前から超話題沸騰! 圧巻のデビュー作。

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カナダの看護師の年収は日本より高い? 働きやすさの点でも差がつく日本と海外~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。150回以上続いてきた本連載も今回で残念ながら最終回。1000円前後で未知の扉を開けてくれる良質な新書をピックアップしてきましたが、最後は実際に未知の扉を開けて、海外に飛び出した人たちのルポを紹介します。

 

私も大学卒業後、海外移住が頭をよぎりましたが、ふわっとした夢物語で終わりました。当時は治安はもちろん、経済的な面でも日本が世界のトップクラスに位置する時代。日本から出るのはかなりの覚悟が必要でした。しかし、現在は……。

 

なぜ彼らは海外で働くことを決めたのか?

今回紹介する新書は『ルポ 若者流出』(朝日新聞「わたしが日本を出た理由」取材班・著/朝日新書)。朝日新聞が2023年1月~8月にかけて掲載した「わたしが日本を出た理由」の本編、反響編、海外編に、新たに取材を加えて構成・加筆したものとなっています。

 

カナダの看護師の年収・待遇は?

企画のきっかけは、堀内京子記者がツイッター(現X)のタイムラインで、カナダで働く日本人看護師のツイートを見たこと。その後、SNSで検索すると、同じように海外で働く日本人がさまざまな発信をしていたそうです。日本で人手不足が叫ばれている保育士や看護師、教員といった職種の人たちが、なぜ海外で働くという話題で盛り上がっているのか?

 

働く場としての日本の魅力が薄れていることを感じたという堀内記者。確かに十数年前は海外移住というと物価の安さが主に取り上げられていましたが、ここ数年で賃金の高さ、待遇の良さがフォーカスされていますよね。

 

では、実際にどのような人々が日本を離れ、どう海外で働いているのでしょうか。本書ではなかなかじっくりと聞くことができない、日本を出ることを決意した人たちの本音が明かされています。

 

第1章「『日本では未来がつぶれてしまう』――働きづらい国からの脱出」に登場する一人目は、2016年にカナダへ小学校5年生の娘と渡った看護師のMikiさん。英会話を学び、オーストラリアの病院へ研修に行った際に、医師や看護師など職種での上下関係がないことが新鮮で、海外で働くという選択肢が頭に浮かんだとか。結局、小児看護では最先端の国であることも後押しとなり、カナダに決めたそうです。

 

日本では収入面が厳しく13年働いても年収500万円台。しかしカナダではカレッジで2年間学び看護師資格を取ったあと、就職4年目で早くも年収は約800万円に。採血、食事の配膳、患者を検査室へ連れて行くなど日本で看護師が担う仕事の多くは専門の職種があり、看護に集中できる環境が整っています。誰かが病欠したときのために待機している看護師もいて、気を使わずに休めるそうです。

 

読んでいて思うのは、カナダでは看護師が、専門性の高い職業としてはっきりと認識されていること。これは制度の違いなのか、それとも職業観の違いなのでしょうか……。

 

ほかにも、カナダで保育士と寿司職人になった元警察官と自衛官の夫婦、5歳の長女の教育のため大手通信会社を辞めてマレーシアへ移住した男性、日本の過酷な医療現場を目の当たりにしドイツの大学病院で働き始めた女性医師……。さまざまな理由で日本を飛び出した人々の生き方がそこにあります。

 

今の職場環境や日本社会そのものに閉塞感を抱いている読者にとって、この本は風穴を開け、ポジティブな気持ちにさせてくれる一冊。

 

もちろん、本書のようにうまくいく例ばかりではなく、海外でより厳しい現実を知るケースは多数あるはず。それでも、若者にとって賃金や将来性の面で日本が魅力を失いつつあることは否定できないでしょう。仕事とは? 幸せとは? 自己実現とは? 日本の良さとは? さまざまなことを考えるきっかけになるルポでした。

 

今回で新書紹介の連載は終わりです。本は人生を照らしてくれる灯り。またどこかでお会いしましょう。

 

【書籍紹介】

ルポ 若者流出

著者:朝日新聞「わたしが日本を出た理由」取材班
発行:朝日新聞出版

「少子化」「人手不足」に陥る日本から今、なぜ人々が出て行ってしまうのか——。海外に拠点を移し、外国の永住権をとった日本人は過去最高57万4千人。働き盛り世代でも子育て世代でも「若者流出」は着実に進む。賃金の安さ、過酷な職場環境、多様性を欠く社会、公教育の危機……海外に移住した人たちへのインタビューを重ねるなかで、浮き彫りになったのは、日本社会の「現在地」だった。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

ちょっ、光源氏ってただのモテ男じゃないの? 大河ドラマと合わせて読みたい『傷だらけの光源氏』

みなさんは『源氏物語』と聞いて、どんなイメージが浮かびますか? 煌びやかな平安時代を描いた美しい作品、モテモテな光源氏が織りなす恋愛作品、日本が誇る古典文学といったところでしょうか。今年度のNHK大河ドラマ『光る君へ』は紫式部を主人公にしたものということもあり、書店でも『源氏物語』や紫式部に関連した書籍が多く並んでいますよね。

 

今回ご紹介する『傷だらけの光源氏』(大塚ひかり・著/辰巳出版・刊)は、何度「えっ?」と言ったかわからないほど、『源氏物語』への新しい解釈を与えてくれる一冊でした。『源氏物語』を読んでう〜んと唸った方、大河ドラマから『源氏物語』を読み返し満足している方……、もっと光源氏について知りたくありませんか?

 

『源氏物語』はリアリティを描いた革命的な小説だった!

今回ご紹介する『傷だらけの光源氏』ですが、できれば『源氏物語』を読んでから読むことをおすすめしたい! 登場人物も多いですし、「あ〜モテ男の話か」くらいのレベルだとこの本の面白さを堪能できないからです。

 

学習マンガや小説、教育番組できちんと『源氏物語』のあらすじを把握してから読んでみてください。私も高校生ぶりに源氏物語を読み返してみたのですが、光源氏ってクズでしたね〜(笑)。ただ、大人になってから読む『源氏物語』は最高でした! 平安時代にSNSや週刊誌があったら面白かったのに……とちょっぴり下世話な妄想もしてしまった次第です。

 

ちなみに、『源氏物語』はどんな時代に生まれた小説なのかってご存知でしょうか? 著者の大塚さんは以下のように記しています。

 

『源氏物語』以前の物語の主人公は、天人や動物のパワーを身につけ、文字通りの「超人的な活躍をする」といった設定が主流だったのだ。

だから、彼らは衰えないし、基本的に死にもしない。『古事記』『日本書紀』といった記紀神話は、「歴史書」という建て前で書かれているから、歴代天皇は死んでいくが、「死ぬ」とは言わずに「神になる」と表現している。初期の天皇などは、百二十歳や百四十歳という、べらぼうな長寿とされるケースも多い。

こういう物語を見慣れた当時の人にとって、年もとれば死にもする、奇跡も起こさぬ源氏は、「生身の体」をもった画期的な主人公として、共感を呼んだはずなのである。

(『傷だらけの光源氏』より引用)

 

今でこそ当たり前のことですが、平安時代にこの発想ができた紫式部ってすごすぎる……。当時を思うと、光源氏の恋愛を通じてあーだ、こーだ言うのがきっと楽しかったんだろうなぁとも想像しますが、もしも紫式部が『源氏物語』を書いていなかったら、歴史は大きく変わっていたかもしれませんよね。

 

紫式部が現代にいたらこんな人!

『傷だらけの光源氏』の第一章は「感じるエロス」というタイトルで、源氏物語ではどのようなエロスが描かれていたかが紹介されています。また第二章では、平安時代のリアリティがどんなものであったかが探究されており、時代背景も含めて源氏物語の魅力を掘り下げていくことができます。読み進めていくと「紫式部ってどんな人だったのだろうか?」というのも気になってくるんですよね。その中で思わず笑ってしまったのが、第三章に登場するこの文章でした。

 

こういう記述を見ていると、『紫式部日記』とは、どういう日記なんだろう。紫式部とは、どんな性格の女なのだろう。と不気味に思う。彼女のやっていることというのは、

「私が勤める会社には、こんなに美人がいるんですよ」

と、同僚の女性社員の容姿を詳しくあげつらったうえで、

「でも、彼女たちのほとんどは男性社員とデキているのよね。みんなこっそりやっているから知られずにいるけれど、この私は知っているんだよね」

と日記やブログに書くようなもの。こんなようなことをしている女子社員というのは、ちょっと怖い。

(『傷だらけの光源氏』より引用)

 

現代にもいそう……(笑)。

 

よく紫式部はネガティブだったとかネクラだったと言われていますが、大塚さんのこの表現ですごく合点がいきました。そんな紫式部が書いた『源氏物語』、どんどん読みたくなってきますよね? まだ読んでいない方、今からでも間に合います! 『源氏物語』を読んで、『傷だらけの光源氏』で理解を深めていきましょう。

 

本当に光源氏はいたのでは? と思える不思議

ネタバレも何もないのでお伝えしてしまいますが、美男子として生まれた光源氏は、たくさんの女性と恋をしていきますが、誰かひとりと人生を添い遂げるような感じではなく、後悔ばかりしながらひとりぼっちで暗い晩年を過ごします。これだけ聞くと「辛い恋愛だったのね〜」と同情してしまいますが、『傷だらけの光源氏』を読むことでなぜ、そんな主人公にしたのか? 登場する女性たちに託されたものや、紫式部が抱えてきた思いについても深く知ることができます。

 

今まで「『源氏物語』は平安時代に創作された恋愛小説」と思っていましたが、『傷だらけの光源氏』を読んでからは「平安時代のリアルを詰め込んだ恋愛ドラマ」と思うようになりました。光源氏も実在したのでは? と思ってしまうし、紫式部が描きたかったこともより理解が深まりました。

 

大河ドラマで紫式部に感情移入しつつ、どんな時代背景で『源氏物語』を書いていたのか、より詳しく知りたい人には『傷だらけの光源氏』が本当におすすめです。個人的にはゴシップ好きな人にも源氏物語と合わせて読んでほしい……(笑)。当時の恋愛模様がリアリティをもって感じられるはずですよ!

 

【書籍紹介】

傷だらけの光源氏

著者:大塚ひかり
発行:辰巳出版

2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』の主人公・紫式部が生み出した、日本古典文学の傑作「源氏物語」。本書は、「源氏物語」の全訳本も刊行し、『本当はエロかった昔の日本』『女系図でみる驚きの日本史』『くそじじいとくそばばあの日本史』といったヒット作品も多く執筆している古典エッセイスト・大塚ひかり氏による“源氏物語”論になります。 登場人物の「カラダ」と「ココロ」に着目し、あふれるストレス死、モノのように扱われるカラダ、拒食に走る女性、モラハラ男とホモソーシャル社会…といった現代社会にも通じるリアルな世界として「源氏物語」を捉え直していきます。『光る君へ』がより楽しくなるのはもちろん、新しい視点で「源氏物語」を楽しむことができる一冊です。

※本書は、2002年に刊行されたちくま文庫『カラダで感じる源氏物語』を改題のうえ、大幅加筆修正したものになります。

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笹目浩之「演出家や劇団の思いをデザイナーが想像し、創造していく。演劇のポスターとは総合芸術」著書『劇場のグラフィズム』

演劇のポスターとともに生き続けて約40年。笹目浩之さんは舞台の宣伝ポスターを飲食店や劇場に貼る仕事を生業としながら、60年代以降の演劇ポスターの収集にも尽力。その数は3万点以上にものぼり、展覧会などのイベントも企画している。その笹目さんが厳選した作品集「劇場のグラフィズム アングラ演劇から小劇場ブーム、現代まで」が3月に上梓された。演劇との出会いから株式会社ポスターハリス・カンパニー設立の経緯、そして、他にはない演劇ポスターの魅力など、いくつもの視点から笹目さんの“ポスター愛”に迫った。

 

笹目浩之●ささめ・ひろゆき…株式会社ポスターハリス・カンパニー代表取締役。株式会社テラヤマ・ワールド代表取締役。1987年、株式会社ポスターハリス・カンパニーを設立。飲食店を中心とした演劇、映画、美術展等のポスター配布媒体業務を確立。1990年より演劇・映画・イベントの企画・宣伝・プロデュースも多数手がける。1994年、現代演劇ポスター収集・保存・公開プロジェクトを設立。60年代以降の舞台芸術系ポスターを収蔵し、各界の研究や演劇自身の活性化に役立てている。

【笹目浩之さん撮り下ろし写真】

1982年に観た、寺山修司の『レミング』がすべての始まりでした

──ポスターハリス・カンパニーという会社は演劇好きの中では知られた存在ですが、読んで字の如く、ポスター貼りを専門とした会社なんですよね。

 

笹目 珍しいですよね。大抵の人に、“そんなので仕事になるの?”って驚かれます(笑)。

 

──会社の歴史は古く、株式会社になったのが37年前の1987年でした。

 

笹目 ポスター貼り自体を始めたのはもっと古く、1983年からです。まさかこんなに長く続くとは、私自身が一番想像もしていませんでした(笑)。ここまで続けてこられた要因はいくつかあるのですが、なかでも大きかったのが1992年に開催した「ウルトラポスターハリスターコレクション展」でした。青山にあった、ハイパークリティカルというギャラリーで最初のポスター展を行ったんです。会場がたまたま空いているということで、ホールのオーナーから「何かやってみる?」と言ってもらえて。ポスターを貼るようになってからちょうど10年目の節目でしたし、私としてはそのイベントで大きな花火を打ち上げて、仕事自体を終わらせてもいいかなという思いで開催したんですよね。でも、これが予想以上に大盛況だったんです。

 

──その時はどのようなお客さん層が多かったのでしょう?

 

笹目 見事にバラバラでしたよ。60年代から80年代の演劇ポスターが多かったので、懐かしんで観に来てくださるご年配の方もいれば、横尾忠則さんのグラフィックに興味を持っている学生さんなど、幅広い年齢の人たちに興味を持っていただいて。しかもこのポスター展が話題となり、私もちょっとだけ有名人になったんです。“10年間もポスターを貼り続けているヘンなヤツ”みたいな感じで、取材が殺到して(笑)。

 

──確かに稀有な存在ですよね。

 

笹目 個人で演劇のポスターを収集しているというのも、きっと珍しかったのでしょう。行政機関や組織ではいくつかありました。「フィルムセンター」(現・国立映画アーカイブ)や築地にある「松竹大谷図書館」、あとは「早稲田大学演劇博物館」なんかもそうですね。でも、本当にその3つくらい。それに、台本や舞台写真などは多く保管していても、ポスターの数はそれほど多くなかったりするんです。それなら、もういっそのこと自分で舞台芸術に関するポスターを収集や保存し、展覧会の企画開催や美術館などへの貸出も行おうと思いまして。それで、1994年にスタートさせたのが「現代演劇ポスター収集・保存・公開プロジェクト」でした。

 

──話が前後してしまいますが、そもそもポスター貼りを始めたきっかけは何だったのでしょう?

 

笹目 大きなきっかけとなったのは19歳の時に紀伊國屋ホールで観た寺山修司の『レミング ‘82年版改訂版 壁抜け男』(「演劇実験室◎天井棧敷」)でした。当時、喫茶店で知り合った演劇好きのおじさんに誘われて、多くの舞台を観ていたんです。野田秀樹さんの「夢の遊眠社」などは田舎から出てきた私にとっては本当に刺激的で。あの頃はつかこうへい作品も大人気でしたね。そうしたなか、私は『レミング』を観て寺山作品の世界に魅了され、“演劇の世界に行くしかない!”と心に決めたんです。親に「俺は演劇プロデューサーになる」と言ったら、猛反対されましたけどね。大学の授業にも禄に出なくなったので、勘当されました(苦笑)。

 

──勘当されてもなお、演劇の世界に踏み入れたかったんですね。ポスター貼りを始めたのが1983年とのことでしたから、『レミング』との出会いはその一年前です。

 

笹目 ええ。しかも、1983年に寺山さんが亡くなったので、『レミング』が「天井棧敷」の最終公演になってしまった。それでも劇場に通い続けていたら、「天井棧敷」のプロデューサーをされていた九條(今日子)さんに顔を覚えられまして。「そんなに好きなら手伝いに来る?」と誘っていただいたんです。これは自分の人生において最初で最後の、そして最大のチャンスだと思いました。そこで最初にお手伝いした舞台が、1983年に西武劇場(現・PARCO劇場)で上演した寺山修司さんの追悼公演だったんです。劇団はすでに解散してしまっていたので、ポスターをいろんなところに貼ってくれるスタッフが足りなかったんでしょうね。そこに“ちょうどいいのがいた!”という感じで、私が任されたのがすべての始まりでした。

 

──そこから、どんどんといろんな公演や劇団のポスターを貼るように?

 

笹目 そうです。PARCO劇場の制作の方たちと仲良くなり、PARCOで上演される舞台のポスター貼りの仕事を請け負うようになりました。ポスターを都内のいろんな劇場や美術大学、居酒屋などに貼らせてもらうようにお願いをしに行くんです。そのうちPARCOは映画の配給も始めたので、そちらも担当するようになって。今度はそのポスターがいろんな映画の宣伝関係者の目にとまり、映画関連の仕事も一気に増えていきました。当時、フランソワーズ・モレシャンさんと一緒に仕事をしたことがあり、彼女は自分のことを《ライフコーディネーター》と話していましたが、私は私で、「それなら僕はハイフコーディネーターだ」なんて冗談で言っていましたね(笑)。

 

──(笑)。でも、それだけ需要があったということですよね。

 

笹目 ちょうど時代はバブルで、劇場の新設も重なり、上演される舞台の数は毎月たくさんありますし、作品のジャンルなどに合わせて貼る場所を分析していったんです。そうやって信頼も築いていきました。また、私は、20歳の時に、演劇の世界で生きて行く決断をしましたが、まだまだ駆け出しで、役者や演出、スタッフなどができるわけでもない。でも演劇を愛し、ポスターを貼ることで、演劇の魅力を多くの人に知ってもらうことはできる。そんな思いで、この仕事をしていましたね。それと、これは少し余談になりますが、90年代の初頭に篠井英介さんの一人芝居を私がプロデュースしまして。そこで《演劇プロデューサー》の肩書き名乗ることができたので、それを機に親とも和解することができました(笑)。

 

画鋲の刺し跡や多少の破れはポスターが人目に触れていたという“生きた証”

──笹目さんは演劇ポスターの収集家でもありますが、当時はどのように集めていかれたのでしょう?

 

笹目 予備のポスターをそのまま頂くこともありましたし、劇団から寄贈していただくこともありました。ただ、アングラ劇団の人たちはちょっと怖いイメージがあって(笑)。「うちのポスターを使って商売をしているのか?」と誤解を招きそうだったので、そこで思いついたのが、劇場に貼ってあるポスターをもらうということでした。公演期間が終われば捨ててしまうだけなので、それをいただこうと。もちろん、画鋲を刺した跡なんかが残っているし、少し破れていたりもする。でもポスターにしてみれば、それって人の目に触れたという“生きた証”でもある。そこに魅力を感じたんです。

 

──どのくらい集まるものなんですか?

 

笹目 当時で年間500種類ぐらいは集まっていました。今保管しているのは、少なくとも3万点以上はあります。

 

──すごい量ですね! 今回の書籍ではそのなかからどのような基準で選んでいかれたのでしょう?

 

笹目 デザイン的に優れたものや、歴史的に価値のあるものなどを私なりに加味しながら選んでいきました。この本を見てもらえれば60年代頃から現在までの日本の演劇史の一面が分かるようになっていますし、それとは別に、純粋にさまざまなデザインの魅力や面白さも楽しんでいただけると思います。

 

──確かに年代ごとのデザインの変遷がすごく伝わってきます。

 

笹目 60年代から70年代のアングラ劇団のポスターだけでも100枚ほど選んでいるのですが、類を見ない感じのアバンギャルドさは、やはりあの時代にしか生まれなかったものだと思います。サイケデリックなデザインは当時のニューヨークの文化に影響されていますしね。それに、60年代の学生運動の時代に生まれた反抗心や反発心、また、そうしたカウンターカルチャー的なエネルギーがポスターにもしっかり表れているんです。それが90年代の小劇場ブームになってくると、ポスターのタッチも大きく変わってくる。鈴木成一さんがデザインされている「第三舞台」はその象徴の1つですよね。生瀬勝久さんが座長だった頃の「そとばこまち」のポスターも本当にかっこいいですから。

 

──90年代は洗練されたCMや広告が世間でも話題を集めた時代でもありました。

 

笹目 そうですね。そうしたなかで、演劇のポスターには広告のような縛りがないから、デザイナーが自由に楽しんで作っているんです。劇団の作風を理解し、作品のテーマを読み取って、デザイナーがどんな形でポスターにしていくか。今も時代を経て第一線で活躍されている方たちは、その読み取り能力に長けた素晴らしい才能を持ったデザイナーばかりなんですよね。

 

──なるほど。では、今回の書籍に掲載されているもののなかで、笹目さんが特に思い入れのあるポスターを挙げていただくと?

 

笹目 私が2013年にプロデュースをした『レミング ~世界の涯まで連れてって~』のポスターですね。『レミング』が私にとって原点だというお話はしましたが、寺山さんの没後30年の時にPARCO劇場で同じ作品を上演したんです。PARCO劇場も私の原点ですから、2つの出発点が重なった舞台のプロデュースを任されたことは大変光栄でした。また、宣伝美術を担当したのが「維新派」のアートディレクターで知られる東 學さんでして。彼とは同い年で、仲も良いんです。しかも、彼もかつて1982年に上演された『レミング』の戸田ツトムさんのポスターを見て宣伝美術の道に進む決心をしたそうなんですね。まさに私と同じ。その彼と同じ作品で一緒に仕事ができたという意味でも感慨深いポスターですね。

 

ポスターはやはり紙として人に見られるべきという思い

──笹目さんが感じる演劇のポスターの魅力とはなんでしょう?

 

笹目 映画やコンサートのポスターと違って、デザインのテイストや趣旨が大きく異なる点です。というのも、映画だと撮影が終わった後や試写を観て、どのシーンのカットをデザインで使うかといった考え方ができます。でも、演劇の場合は舞台が作品として完成する前にポスターを作らないといけないから、最終形が分からない状態でデザインする必要がある。コンサートの場合は、大抵ミュージシャンの写真がメインのデザインで構成は決まっていきますし、美術展などもそう。目玉の絵画や展示物の写真を大きく扱う。なのに、演劇だと場合によっては作品のタイトル以外、台本すら出来ていないことがあるんです。翻訳劇や再演作品だと物語は決まっていますが、演出家の見せ方次第で作風がガラリと変わっていきますからね。

 

──未知の世界観を先にイメージしていかないといけないわけですね。

 

笹目 そうなんです。劇作家や演出家が“こんな感じの舞台になりそう”と言ったものを、デザイナーが想像力を駆使して作っていく。ですから、演劇のポスターって総合的な芸術が合わさったものなんです。特に60年代のアングラ劇団が作っていたポスターは本当に素晴らしかった。代表的なところだと横尾忠則さん、宇野亜喜良さん、平野甲賀さん、篠原勝之さんのデザインなどですよね。

 

──それはやはり時代性もあるのでしょうか?

 

笹目 それもありますが、例えば当時の「天井棧敷」や「状況劇場」、「黒テント」などはポスターのデザイナーは舞台美術も兼ねていることが多かったんです。ですから、ポスターと舞台そのものの世界観が繋がっていたんですよね。それに、ポスターやチラシの役割ってお客さんの興味を引くためのものだけでなく、同時に、劇団員を鼓舞するという一面もあったんです。稽古場に貼られたポスターを役者やスタッフたちが見て、“俺たちはこういう芝居をみんなで作るんだ!”と気持ちを盛り上げていった。でも、そうした力を持ったデザインのポスターも、時代とともに変化していきました。90年代になると、いろんな役者を集めて公演を打つプロデュース公演が増えていき、それに伴って、ポスターやチラシに出演者たちの顔写真を載せるのがマストになっていったんです。すると、有名な俳優であればあるほど強いパブリックイメージがありますから、作品の世界観に沿ったデザインが難しくなっていった。それでも人の目を引くポスターを作らないといけませんから、当時は多くのデザイナーがいかに個性的で魅力のあるポスターを作るかを模索していたように思います。

 

──先ほどのお話に出た2013年の『レミング』もプロデュース公演ですが、ポスターはイラストだけで勝負されていますね。これはそうした時代の流れに対するアンチテーゼなのでしょうか。

 

笹目 そこまで大げさなものではないにせよ、思いはありました。役者の写真を使う気なんて、私には最初からありませんでしたから(笑)。でも、どのタレント事務所からも一切クレームが来ませんでした。作品に寄り添った1枚ですからね。私の気持ちが通じたのだと思っています。

 

──では、令和現在の演劇ポスターは笹目さんの目にどのように写っていますか? SNSをはじめとするウェブ媒体での宣伝が増えてきたこともあり、やはり変化は感じていらっしゃいますか?

 

笹目 デジタルが主流になりつつというよりもはや主流ですよね。これは非常に怖いなと感じています。例えばスマホでポスターやチラシのデザインを見るにしても、それぞれの端末の液晶画面の違いによって色合いが変わってきますから。紙と違って、万人が同じ色合いのものを共有できないんですよね。また、街なかでよく見かけるデジタルサイネージも、本当に宣伝広告の役割を果たしているのかと疑問に思うことがあります。20秒ぐらいで次の画像へと移ってしまうので、情報が脳に残らない。その意味では、じっくりと時間をかけて内容や情報が入手できる紙のほうが優れていると言えるのではないでしょうか。もちろん、デジタルにすることでコストが抑えられるという良さもあります。舞台制作には莫大なお金がかかりますから、経費は極力かけたくない。でも、そうした恩恵はあくまで一部なんです。やはりポスターを不特定多数の人に見てもらうことであったり、宣伝としての効果は紙がベストだと感じますね。でも、紙、デジタル両方ともいいところはあるので、どちらかではなく両方のいいところをうまく使いこすのが一番だと思います。もし“貼るのが面倒だ”とか、“どこに貼れば効果的なのかが分からないからポスターを敬遠している”という方がいれば、私のところに持ってきてくれれば貼りますよ、と思います(笑)。

 

──アナログには便利さだけではない良さがあるので、いつまでも残ってほしいですよね。笹目さんは普段、渋谷でバーも経営されていますが、毎回、直筆でお品書きを書かれています。そうしたところにもアナログへの愛が感じられます。

 

笹目 ええ、筆ペンを愛用しているんです。実は書家のようなこともしていまして。何度か頼まれてCDジャケットに文字を書いたこともあります。ピエール瀧の『人生』(瀧勝名義)とかね。お品書きで使っているのは美輪明宏さんも愛用しているペンで、特に高級というわけではないのですが、一番しっくりくるんです。

 

──メニュー表を見せていただきましたが、なかには大きく文字を崩しているものもありますね。

 

笹目 我流ということもあり、日によってお客さんから「読めない」と言われることがあります(笑)。自分でもたまに、「これ、なんて書いてあるんだ⁉︎」って思う時がありますから(笑)。大体、最初の1行目でその日の崩し具合が決まるんですよね。ちゃんと読める字を書いたら残りも真面目に書いていきますが、いきなり崩れまくった字になるとどんどん崩れていく(笑)。でも、そうやって気分によって文字が大きく変わるのも書の面白さですね。

 

 

劇場のグラフィズム アングラ演劇から小劇場ブーム、現代まで

著者:笹目浩之

現在発売中 定価:4,950円(税込)

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4766138198
楽天ブックス https://books.rakuten.co.jp/rb/17793214/
株式会社グラフィック社 https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=54194

 

60年代後半に劇団の旗印として登場し、時代を挑発したアングラ演劇のポスターや、70〜80年代の演劇ブーム、そして現在第一線で活躍する劇団のポスターなど約400点を収録。美術価値の高いものから、演劇史に残るポスター、これから時代をつくる劇団のチラシまでを網羅し、巻末には日本演劇界をリードする演出家、佐藤信・白井晃・松尾スズキ・小川絵梨子とのスペシャルインタビューも掲載。まさに小劇場の宣伝美術の決定版と言える1冊。

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ

恐竜を丸ごとCTスキャン!? 最新のデジタル技術でわかる恐竜の真の姿~注目の新書~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。よくドラマで「過去は変えられない。でも自分次第で未来は変えられるんだ!」なんて熱いセリフがありますが、過去がどんどん上書きされるのが恐竜の世界。子どものころに図鑑で見たティラノサウルスはゴジラのようにどっしりした姿でしたが、今では尻尾をピンと水平に伸ばした俊敏そうなスタイルになっています。

 

なぜこんなに様変わりしたのかというと、シュッとしているほうが格好いいから……ではなく、最新技術によって日々解析データがアップデートされているから。技術が進歩すれば見える過去も変わってくるのです。

 

恐竜のエキスパートが最新の研究事情を解説

今回紹介する新書はデジタル時代の恐竜学』(河部壮一郎・著/インターナショナル新書)。著者の河部壮一郎さんは福井県立大学恐竜学研究所准教授で、福井県立恐竜博物館研究員。専門は脊椎動物の比較形態学、特に鳥類を含む恐竜や哺乳類の脳形態について研究しています。

デジタル技術で「掘り出す」化石の本当の姿

デジタル技術にどっぷりと浸かった研究生活を送っているという河部さん。第1章「奇妙な新種恐竜『フクイベナートル』との邂逅」と第2章「コロナ禍と『フクイベナートル』のその後」では、X線CTスキャナーによって福井県で見つかった恐竜化石を解析し、その内部構造を浮かび上がらせたプロジェクトが語られています。

 

もともと学生時代に鳥の脳を研究するため、医学部の研究室に出入りしていたという河部さん。ダチョウの頭を手に入れ、医学部のCT装置でデータを大量に取らせてもらったのがきっかけで、CTスキャナーと出会ったそうです。この経験がなければ研究者になれる自信がなかったとのことで、運命の出会いといえるでしょう。

 

その後、岐阜県博物館の学芸員になった河部さんは、福井県で発見された恐竜の頭骨化石のCTスキャナーデータを解析することに。頭骨内部の脳や内耳の3次元データを復元し、新種の恐竜「フクイベナートル」はさまざまな音を聞き分けながら走っていたという生態を推測することが可能になりました。

 

恐竜の化石用のCTスキャナーは、私たちが知っている医療用のCTスキャナーとは異なる工業用で、対象物の被爆を気にする必要がないためX線を強力に当てられるといいます。ただし、使用の数日前から入念に暖機運転しなければならないなど手間がかかるそうです。

 

面白いなと思ったのは、脳や内耳が納まっていた空洞(実際には岩石や土砂が詰まっている)は、その画像データを手塗りして解析しているということ。何千枚もの手作業は気が遠くなるような作業だとか。デジタル技術とはいえ、細かい詰めは人力なのですね。

 

イギリスにある恐竜化石のデジタルデータを、眼鏡フレームで有名な福井県の3Dプリンターで復元した第3章「『ネオベナートル』のデジタルデータ作成奮闘記」。「生きている恐竜」であるニワトリのヒナの脳をMRIにかけ、恐竜と比較する第4章「『生ける恐竜』ニワトリの脳の成長を観察する」など、デジタル機器を使った知られざる化石解析の最前線エピソードが盛り沢山です。

 

恐竜や古代の鳥類など今は絶滅した古生物が、最新技術を通して少しずつ姿を現す様子はドラマチックでワクワクします。デジタルと言えども、それを活用する研究者の創意工夫や苦労も見えて、ノンフィクションとしても引き込まれる一冊。「恐竜」×「最新テクノロジー」×「研究者」。そこには時空と生命の垣根を超えたロマンがありました。

 

【書籍紹介】

デジタル時代の恐竜学

著者:河部壮一郎
発行:集英社インターナショナル

CT、MRI、フォトグラメトリ、3Dプリント…デジタルの力で、化石に残された謎を読み解く! この20年間で恐竜学の研究は、デジタル機器の活用により大きく様変わりした。そのトップランナーである福井県立恐竜博物館研究員・河部壮一郎は、どのような研究の日々を送っているのか。若き研究者の奮闘と成長、そして恐竜研究の最前線をご紹介。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「色々あるけど、それでも生きていこう」と前を向ける一冊。芸人・玉袋筋太郎の生き様が詰まった『美しく枯れる。』

一度聞いたら忘れられない芸名は? と聞かれて「玉袋筋太郎!」と答える人は多いかもしれません。玉ちゃんの愛称で、全国のスナックを飲み歩いたり、町中華で一杯やったり、はたまたテレビやラジオでコメンテーターとして活躍したり……いつも明るくニコニコ笑顔な芸人さんという印象ですよね。

 

今回はそんな玉ちゃんの日々を綴った新刊『美しく枯れる。』(KADOKAWA・刊)をご紹介します。きっと波瀾万丈なエッセイなのだろうな〜と読み始めたら感情が揺さぶられる、揺さぶられる。嵐の中を渡るボートの如く、笑い泣き、驚いて共感して読み終わるころには超大作のドキュメンタリーを鑑賞したような気持ちになりました。玉ちゃんと同世代の方、そして荒波の50代を通り過ぎた方、人生の先輩の話を聞いてみたい若造のみなさん、毎日を生きる全ての人に読んでもらいたい一冊です。

 

老木には老木の美しさがある

『美しく枯れる。』は、50代を迎えた玉ちゃんの経験談が綴られています。ラジオを聞いている人であれば、あの玉ちゃんの語り口がそのまま文章になったのをイメージしていくと良いでしょう。「普段、本なんか読まないから」という方でもとっても読みやすくなっていますよ。本のタイトルに込めた思いは、以下のように記されていました。

 

いつまでも「辛い」とか「大変だ」とかいっていても仕方ないよな? だからさ、オレはオレなりにこれからの人生の目標っていうか、生き方の基本を「美しく枯れる」ということにしようと考えている。
「美しく枯れる」って、なかなかカッコいいじゃない?

(『美しく枯れる。』より引用)

 

「美しさ」と「枯れる」って反対の意味ですが、組み合わせるとなんだかかっこいい言葉になりますよね。最近では年齢に抗ってアンチエイジングしている人も多いですが、玉ちゃんに言わせると「アンチ・アンチエイジング」なんだとか(笑)。50代からはありのままの自分で勝負する、そんな思いが『美しく枯れる。』には詰まっていました。

 

発酵した50代を生きる

ありのままの自分で勝負したい気持ちはあれど、年齢を重ねるごとにやる気はなくなってくるし、老いを感じていくし、毎日がアッという間にすぎていくもの。私はもうすぐ40代なので玉ちゃんに言わせたら「まだ若い!」と怒られちゃいそうですが、こんな私でも「あのころはよかったなぁ」と昔の自分と比較してしまうことがあります。年齢って生きていく上では、争いたくなるものなんですよね。「アンチ・アンチエイジング」の玉ちゃんはどんな気持ちで老いを受け入れているのでしょうか?

 

「美しく枯れる」ということを考えたときに、ふと「発酵」と「腐敗」という言葉が頭に浮かんだ。
発酵している状態なら絶品となる珍味も、一歩進んで腐敗してしまったらただの腐った食い物になって、腹を下すことになる。

(『美しく枯れる。』より引用)

 

老いを発酵に例えるのは、さすがお酒好きの玉ちゃんだ! と思いました。確かに若いころの勢いがあって、新鮮な味わいも「今」しか楽しめないものですが、熟成したコク深さは年齢を重ねた人にしか出せない味わいですよね。しかし、料理と一緒で保管方法や調理方法を間違えば、腐敗してしまう……。年齢もただ重ねればいいってもんじゃない! ということを実感できます。玉ちゃんはさらにこんなことも書いていました。

 

やっぱりさ、50も過ぎればいつだっていい具合に発酵している状態でいたいものだよな。

(『美しく枯れる。』より引用)

 

本当、それ! と思わず声が出てしまった一節です(笑)。人生100年時代などと言われて長いですが、この一言で老いていくのが楽しみになりました。私も「アンチ・アンチエイジング」精神で年齢を重ねることを楽しみつつ、腐敗しないようしっかり管理はしなければと思った次第です。

 

玉ちゃんがたどり着いた「美しく枯れたもの」は、ぜひ本書で!

明るく素敵な言葉をたくさん紹介してきましたが、『美しく枯れる。』には、浅草キッドの今や事務所退所の裏側、人気番組『町中華で飲ろうぜ』のこと、お金に苦労した話、さらにはじぃじになった玉ちゃんの思い、出て行ってしまった奥さんの話と、涙なしでは語れないお話もたくさん掲載されています。

 

『美しく枯れる。』の中で、印象的だったのは、人生を起承転結に例え、50代は「転」に差し掛かった時期だと語っている部分でした。まだまだ元気な玉ちゃんを見ていると「枯れるには早いよー!」と思ってしまいましたが、50代はまさに美しく枯れていくために必要な「転」の時期なのでしょう。人生を自分なりの美しさで終えるためにも50代はまさにキーポイントになってくるのかもしれませんね。

 

今からでも全然遅くない。いろんなことを乗り越えた先には、自分なりの美しさが待っている! 心からそう思えるように私も50代にむけて歩んでいこうと思いました。ちなみに最後の方には、玉ちゃんがたどり着いた「美しく枯れたもの」が書かれてあります。私からお伝えするのも憚られますので(笑)、ぜひ本書で確認してみてくださいね!

 

【書籍紹介】

美しく枯れる。

著者:玉袋筋太郎
発行:KADOKAWA

殿と相棒と離れ、独りになった。コロナ禍でスナックには閑古鳥が鳴いた。初孫が誕生し、母親は施設に入った。カミさんは、オレに愛想を尽かして出て行っちまった。それでもオレは、酒を呑んで、笑って、時に打ちひしがれながら、生きてゆくー。玉ちゃん流・人生後半戦の歩き方。

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子どもの「主体性」を取り戻せ! 型破りな校長・ 工藤勇一先生が教える3つの問いかけ

我が家の子どもたちは、長男が中学生、長女と次女が小学生。今年で通算8回目の「小学生&中学生の保護者」をやっているわけだが、この8年間で子どもたちを取り巻く環境は大きく様変わりした。

 

一人一台デバイスを保有し、宿題などのクラス連絡はTeamsで。個人で考えて発表する授業形態から、ひとつの議題に対して周りと話し合い、意見を出し合い、考えをまとめる形態に。運動会の組体操は廃止され、かけっこもリレーも順位を競わない。

 

コロナを経たことも大きいが、数年前には想像もできなかった学校生活を令和の子どもたちは送っている。昭和や平成生まれの親たちは、ただただ驚くばかりだ。

 

自分で考えて、思うように行動できない子どもたち。その原因は大人にある!?

まさしく激動の時代を生きている子どもたちだが、我が子を含め、いまひとつ自分で物事を決められないことが多いと感じる。誰かに指示されたことを成し遂げるのは得意。けれども、自分がどうしたいかを考え、そのゴールに向かって進んでいくために行動することが苦手なのだ。

 

つまり、「主体性がない」子どもが増えてきたということだろう。事実、多くの教育専門家がこの現状を憂い、口をそろえて「これからの時代は、主体性を伸ばすことが大切」だと論じている。

 

そうは言っても、親として子どもの主体性をどう伸ばしていけばいいのだろうか。正直、大人だって言いたいことも言えないこんな世の中で。

 

その答えのヒントをくれるのが、宿題や中間期末テスト、クラス担任制など、これまでの当たり前を次々と廃止したことでその名を知らしめた工藤勇一先生だ。最新著『家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた』 (Gakken・刊) では、こう述べている。

 

主体性とは自発的な意思に基づき動くこと。それは誰でも生まれつき持っているものです。
しかし、成長していく中で周囲の大人に行動を制限されたり、命令されたりするたびに少しずつ主体性が奪われていきます。

『家庭 学校 社会みんなに知ってほしい・教育について工藤勇一先生に聞いてみた』より

 

何と言うことだろう。子どもたちの主体性を奪っていた張本人が、我々大人だったとは。でも諦めないでほしい。子どもの主体性を取り戻す方法として効果抜群の、工藤先生流3つの問いかけがある。

 

子どもの主体性を取り戻す問いかけ①「どうしたの?」

私たち大人は、自分の言うことを聞くように子どもたちを叱りがち。けれど、高圧的な指導をすればするほど、その大人に対する不信感は増すばかりだ。そこで、子どもへの第一声を「どうしたの?」に変えてみることだと工藤先生。

 

まずは、行動の背景にある事情を聞き出すこと。そして、子どもがとった行動を一度受け止めることが、主体性を取り戻すために大切な心理的安全性に繋がる。

 

子どもの主体性を取り戻す問いかけ②「どうしたい?」

「どうしたの?」と尋ねたあとは、子ども自身の考えや思いを引き出すために、「どうしたい?」と問いかけることだと工藤先生。

 

これまで「~しなさい」と指示され、主体性を奪われ続けてきた子どもたちにとっては、うまく答えられないかもしれない。けれども、小さな自己決定を続けていけば、次第に大きな自己決定もできるようになると言う。

 

ひとつ注意すべきは、「どうしたい?」と聞いたからと言って、子どもの言いなりになる必要はないということ。できる限り子どもの意思を尊重しつつ、こちら側の考えも伝えて、お互いにとって一番良い方法を見つけていくことが大切。

 

子どもの主体性を取り戻す問いかけ③「何かできることはある?」

「どうしたい?」と聞いても自己決定ができない場合は、「何かできることはある?」とフォローすることが有効だと工藤先生。場合によっては、いくつかの選択肢を提案してもOK。

 

この問いかけによって、子どもはやりたいことを自分で決めて行動できるようになる。たとえ、こちらが提案した選択肢の中から選び取ったとしても、自己決定したことには変わりがない。そんな「自分で決められた」という事実が、成功体験として子どもの心に強く刻まれるのだ。

 

主体性を取り戻すのに「遅すぎる」ことはない

工藤先生が教える3つの問いかけを繰り返していけば、少し時間がかかるかもしれないけれど、子どもの主体性は必ず取り戻せるのだと言うから心強い。

 

我が子のこととなると、つい過干渉になってあれこれ口を出してしまいがち。けれども、これからはお節介心をぐっとこらえて、子どもが本来持つ「自分で考え、行動する力」を伸ばしていこうと思う。

 

大丈夫、子どもも親も、きっと変われる。そんな工藤先生の声が聞こえてきた気がした。

 

【書籍紹介】

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた

監修:工藤勇一
発行:Gakken

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説します。

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情報端末は教育をどう変えたのか?−−教育改革の旗手・工藤勇一先生に聞いてみた

元横浜創英中学・高等学校長で、2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校長を務め、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止等の教育改革を行い、教育関係者やメディアの間で話題となった工藤 勇一先生。そんな工藤先生が監修を務めた『家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた』(Gakken・刊)。

 

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。本書では、家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説しています。

 

今回は本書より『全生徒が情報端末を持ったことで教育はどう変わりますか?』について抜粋して紹介していきます。

 

自分に合った学習効率の高い学びがしやすくなる

今、ものすごい速度で学びのあり方は変わっています。たとえば、私は毎朝英語の勉強をしています。教材はスマホのみ。読み書きの学習はDuolingo、グーグル翻訳、ChatGPTの3つがあればほとんどのことができます。これらは、10年前には想像もしていなかったことです。そして、その大きな変化は学校教育も巻き込んでいます。GIGAスクール構想で全生徒に情報端末が行きわたり、自分なりの学び方やペースで勉強しやすいインフラが整いました

 

横浜創英で試験導入している英会話ΑΙ「LANGX speaking」(早稲田大学発スタートアップが開発)は、話者の英語力をリアルタイムで評価し、レベルに合った自然な会話をしてくれます。このすばらしい技術は、教育の現場に一石を投じることになるでしょう。

 

前職の中学校でΑΙ型教材を試験導入したとき、中学3年間の数学を早い子は9か月で終える効率のよさに驚いたものです。それと同時に、元数学教員としては一斉授業が子どもにとっていかに非効率であるかを痛感させられました。

 

端末の性能の問題や通信環境の問題など、インフラ上の課題もまだ多く残されていますが、こうした革新的な学習ツールは、個別最適な学びの選択肢を広げるために積極的に導入することが大切です。情報端末を持っていること自体には意味はなく、どんな学習環境を子どもに提供できるかを考えていきましょう

 

情報端末が配られるようになり、保護者世代が受けてきた学び方とは大きく変化してきています。情報端末を使ってどのような学びを提供するのかを大切にしてください

 

【KEYWORD】

GIGA スクール構想:全国の小・中学生に一人1台教育用端末を整備する国家事業。2019年開始。コロナ禍で前倒しが進み2021年にはほぼ完了。

 

【書籍紹介】

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた

監修:工藤勇一
発行:Gakken

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説します。

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正しく子どもを褒めてますか? 教育改革の旗手・工藤勇一先生に聞く「正しい褒め方」とは?

元横浜創英中学・高等学校長で、2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校長を務め、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止等の教育改革を行い、教育関係者やメディアの間で話題となった工藤 勇一先生。そんな工藤先生が監修を務めた『家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた』(Gakken・刊)。

 

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。本書では、家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説しています。

 

今回は本書より『褒め方にコツはありますか?』について抜粋して紹介していきます。

褒めることは簡単なことではない

主体性を取り戻すには自己決定が大切ということをお伝えしました。そして、自己決定できるようになるには心理的安全性が欠かせません。この、心理的安全性を高める方法の1つが褒めることなのです。しかしながら、「褒め方」は実に難しいものです。

 

「よく子どもを褒めているよ」と思っている方はぜひ一度、褒めた体験を振り返ってみてください。成績が伸びてえらい、優勝できてすごい、上手にできたね…と結果を褒めていませんか。

 

「結果」を褒め続けられた子は壁にぶつかったときに「自分にはできない」と諦める傾向があります。成功に固執し難しいことを避けたり、得意なことに逃げてしまったりすることで、主体性を失ってしまう可能性があります。

 

ポイントは、成功したときも失敗したときも同じ温度感で、そこに至る「プロセス」を褒めてあげることです。その積み重ねが、「失敗しても大丈夫」「チャレンジが認められる」という子どもの心理的安全性につながります。

 

結果でなく、プロセスを褒めることは意外と難しいと思います。褒める視点は様々ありますが、日ごろから子どものチャレンジの様子をしっかり観察する必要があります。

 

プロセスを褒め続けられた子は、壁にぶつかっても「工夫不足だった。今度はこんな工夫をしてみよう」と努力するようになります。

 

「もう少しだったね」も結果にとらわれた言葉です。成功も失敗も、そこに至るプロセスに褒めるポイントが必ずあります

 

【KEYWORD】

褒める視点:自分で課題を見つけたこと、課題に向かって試行錯誤したことなど。挑戦したことそのものを褒めるのも有効。

 

【書籍紹介】

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた

監修:工藤勇一
発行:Gakken

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「なぜ教育が必要なのでしょうか?」教育改革の旗手・工藤勇一先生に聞いてみた

元横浜創英中学・高等学校長で、2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校長を務め、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止等の教育改革を行い、教育関係者やメディアの間で話題となった工藤 勇一先生。そんな工藤先生が監修を務めた『家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた』(Gakken・刊)。

 

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。本書では、家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説しています。

 

今回は本書より『なぜ教育が必要なのでしょうか?』について抜粋して紹介していきます。

 

みんなが自由で、みんなが幸せな社会を実現する

人類は、教育が普及したことで科学技術や経済が発展し、生活水準は劇的に向上しました。そんな現代において教育の課題となっているのは「自分さえよければいい」という利己主義です。暴力、人権侵害、環境破壊などの元凶です。核兵器などの科学技術が発達したため、利己主義は人類を滅ぼす可能性すらあります。

 

利己主義は人間の本能的な欲求です。だからこそ、教育の力で理性的に乗り越える努力を続けることが不可欠なのです

 

世界中の教育関係者が議論を尽くしてまとめたOECD「ラーニング・コンパス2030(以下、ラーニング・コンパス)」では、これからの教育の目的は「個人及び社会のウェルビーイング」としています。これは、教育の最上位の目的と考えることができます。

 

利己主義の話と同様の考え方で、「個人のウェルビーイング」だけを追求すると対立が生まれ「社会のウェルビーイング」は実現しません。つまり、ポイントは「両立」です。

 

その両立に欠かせないのが対話やコラボレーション。違いを認め、共通のゴールを見いだし、お互いに歩み寄る。教育立国ではそうした姿勢や技術を教えることを教育の軸に据えて教育改革を進めています。

 

国連のSDGsのゴールも「leave no one behind(誰一人取り残さない)」。みんなが自由でありながら、みんなが幸せな社会を目指すのが人類の使命です。

 

ウェルビーイングとは「心身ともに幸福な状態、良好な状態」のことです。目指すのは教育による「個人のウェルビーイング」と「社会全体のウェルビーイング」の両立

 

【KEYWORD】

ラーニング・コンパス2030: 「 OECD Future of Education and Skills 2030」プロジェクトの最終報告書の1つ。2019年に発表され、教育の指針が示された。

 

【書籍紹介】

家庭・学校・社会みんなに知ってほしい 教育について工藤勇一先生に聞いてみた

監修:工藤勇一
発行:Gakken

目まぐるしく社会が変容している現在、教育観は大きくアップデートしていく必要があります。家庭・学校・社会のみなさんが持つ教育の悩みの数々を、常識を覆して日本の教育を牽引してきた、工藤勇一先生がイラストでわかりやすく解説します。

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結婚の常識を疑え! 結婚・離婚観の移り変わりから見える、未来の結婚像~注目の新書~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。「結婚は人生の墓場」という言葉があります。これはフランスの詩人ボードレールが言ったとされていますが、出典は見つからず、その起源は不明のようです。果たして結婚は墓場なのか、楽園なのか、はたまた闘技場なのか(笑)。まあ、人それぞれという気もしますが、結婚観は個人の事情よりも、実は社会的な問題……というのが今回の一冊です。

 

家族社会学の研究者が結婚を分析

結婚の社会学』(阪井裕一郎・著/ちくま新書)の著者は、社会学者で慶應義塾大学文学部准教授の阪井裕一郎さん。専門は家族社会学。著書に『仲人の時代』(青弓社)、『事実婚と夫婦別姓の社会学』(白澤社)などがあります。

見合いは日本の伝統ではなかった!?

本書の基本的なスタンスは「結婚をめぐる常識を疑う」。まず第1章「結婚の近代史」では、結婚を歴史的な視点から見ていきます。戦前から戦後しばらくのあいだ、結婚は「見合い結婚」が大半を占めていたそうです。本書で示された内閣府のデータによれば、昭和10年代で69%、昭和30年代で49.8%。それが昭和40年前後で「恋愛結婚」が逆転し、以降一貫して恋愛結婚の割合が上昇しています。

 

ということは、もともと見合い結婚は日本の伝統?……と思いがちですが、実は江戸時代は見合い結婚は武士階級だけのもので、庶民の結婚は「よばい」がきっかけでした。

 

江戸時代の村落社会では、結婚は「若者仲間」と呼ばれる同輩年齢集団が手助けし、若者たちが「よばい」を行うことで配偶者を見つけ出していったのだとか。若者は若者宿、娘は娘宿という寝宿に集まり、寝宿の訪問による男女交際が自由に行われていた、というのは意外でした。そのかわり村外の異性との関係はタブー。結婚の価値観やルールが今とまったく異なるものだったことに驚かされます。

 

常識が覆るといえば、第3章「離婚と再婚」にも驚きがありました。最近は、約2分に1組が離婚する計算になるなど非常に離婚が増えている印象がありますが、近世の日本も実は離婚や再婚が極めて多い社会だったそうです。

 

江戸時代の庶民は「三行半(みくだりはん)」と呼ばれる離縁状を渡せば、そのほかの許可は必要なし。妻側も縁切寺に行けば離婚が可能でした。明治に入っても離婚率は高く、明治16年(1883年)の離婚率は3.39(人口千対)で、令和2年(2020年)の離婚率1.57のおよそ2倍となっています。

 

この流れが変わったのは明治後期。当時の政府は離婚率が高いことは文明国として恥ずべきことと認識し、1898年(明治31年)施行の明治民法で離婚のルールを厳格化しました。離婚が届出制になり、戸籍簿に「除籍」と書かれるようになったことや、「離婚が家にとって恥だ」という感覚が生じたことなどが一因として、離婚が急減したとか。「離婚は恥」という概念は、2~30年前までは確かにありましたね。

 

第4章「事実婚と夫婦別姓」、第5章「セクシュアル・マイノリティと結婚」と続き、終章は「結婚の未来」。友人同士が結婚し家族としてケア関係を作ることも可能であるべき、という研究者たちの提唱が紹介されています。

 

さまざまなデータが提示され、解説もプレーンな言葉でわかりやすく、「結婚」とは何かを考えさせられる、気づきが多い内容でした。

 

家族として生活するための権利や責任を結婚にだけ押し込むことには限界がきており、個人と個人が相互にケアする関係に多様な選択肢を与えることが重要、と阪井さん。仮に、結婚が人生の墓場であったとしても、その墓場が花畑だったり、静かな森だったり、広い海だったり、自由に選べる社会が生きやすそうですね。

 

【書籍紹介】

結婚の社会学

著者:阪井裕一郎
発行:筑摩書房

「ふつうの結婚」なんてない。友人とも結婚できる社会がすぐそこに。マーケティングにも役立つ、新たな家族像を示す。さらに深く学ぶための、充実した読書案内付き。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

物理学者が本気でクレーンゲームに挑んだら? ~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。クレーンゲームって、プライズ(景品)がそんなに欲しくなくてもなぜか夢中になってしまいますよね。しかも、簡単に取れたときより、「取れそうで取れない!」を何度も繰り返してゲットしたときのほうが、アドレナリンが爆増するという業の深いゲームです(笑)。

 

私なんかは、「このフィギュア、もうちょっとで落ちそう」とか、「この置き方は意地悪だな」とか、そんなことを思いながらゲームセンターを歩いてますが、物理学者の目にはクレーンゲームはどのように映っているのでしょうか? ちょっと気になりますよね。

 

クレーンゲームは物理学の宝庫

今回紹介する新書はクレーンゲームで学ぶ物理学』(小山佳一・著/インターナショナル新書)。著者の小山佳一さんは物理学者で鹿児島大学理学部教授。専門は強磁場物質科学ですが、近年では専門の研究活動のほかに、高校生向けにクレーンゲームを題材にした模擬授業も行っているそうです。

クレーンゲームは座標で考えよ!

学生のころに小さなぬいぐるみを取って以来、もう30年以上クレーンゲームにハマっているという小山さん。2006年ごろからクレーンゲームの「研究ノート」をつけ始め、今年で5冊目に突入。クレーンゲームの機器を実際に入手して分解するなど、その本気度が伺えます。景品が取れるかどうかという楽しみはもちろん、クレーンの動きなどを物理的な思考で読み解いていく過程にも面白さを感じているとか。

 

第1章「クレーンゲームの物理的環境」では、クレーンゲームを座標の概念で捉えるところから説明が始まります。小山さんはクレーンゲーム機の前に立つと、右手系の直交座標系(※本書にはイラストが載っています)のイメージが脳内に浮かぶ一方で、箱のなかのプライズが輝き「お願い、ぜひ、とって!」という声が聞こえるそうです。

 

そしておもむろに、プライズの位置をまず(x、y、0)と仮定し、横方向の移動ボタンを押してメカをx軸上の座標まで移動させ、次に奥方向の移動ボタンを押し、メカをy軸にある座標に移動させます。あとはz軸に沿って降りていくのを見守る……。

 

なるほど、小山さんにはクレーンゲームの筐体の中が、xyz軸で示された格子状の座標空間に見えているのですね! 物理では誰が行っても同じになるように物事を客観的に示す必要があります。座標はそれを叶えてくれる力学の基本であると同時に、クレーンゲームと向き合う際にも使える便利な考え方なのだと小山さんは言います。

 

第2章「クレーンゲームとアームの物理」では、アームがx軸一方向にしか開かない「アームの自由度1問題」に対し、物理学的にいかに対抗するか思考実験を行い、第3章「クレーンゲームの摩擦力」ではフィギュア入りの箱型プライズを押し出して取る手法から、静止摩擦力について考察していきます。

 

研究ノートに基づいた手書きの解析イラストも随所に入り、クレーンゲームの魅力も物理学の魅力も、どちらも伝わってくる熱量の高い一冊。

 

フィールドにラバーシートを敷いてプライズを滑りにくくしたり、透明な釣り糸でクレーンの動きを制限したりと、さまざまな防御作戦を駆使するゲームセンターと小山さんとのバトルにも引き込まれます。考え方はロジカルですが、結局、取るか取られないかの攻防に熱くなっている小山さんの姿は微笑ましいものがあります。

 

「はじめに」には「本書は決して『プライズゲットを有利に進める情報がある本』や『クレーンゲームに勝つ本』ではありません」とありますが、明日にでもゲームセンターに行って物理学の考え方を活かして挑戦してみたい! と思いました。

 

【書籍紹介】

クレーンゲームで学ぶ物理学

著者:小山 佳一
発行:集英社インターナショナル
本書はクレーンゲームを題材に、物理学の基本を解説していく本です。著者はクレーンゲーム歴30年の物理学者で、ライフワークとしてクレーンゲームを物理学的な視点から研究しています。ゲームセンターでクレーンゲーム機に硬貨を投入し、ボタンを操作し、クレーンを動かし景品をゲットする――。この一連の動作に「座標・ばね・重心・てこの原理・振動・力の合成と分解・摩擦力・電磁誘導・位置エネルギー・確率」といった、様々な物理の基本が詰まっています。ゲームの仕組みや景品ゲットまでの悪戦苦闘を描きながら、物理の基本に触れていく。物理が好きな方も苦手な方も、楽しく読めて物理がもっと身近になる、オモシロ物理学入門!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

PCの使い方からトレンドまで、とにかくわかりやすい! 社会人の相棒として迎えたい一冊

2007年にiPhoneが登場してから、早いもので17年が経ちました。今年入社した人たちは、物心ついたころからiPhoneやiPadがある暮らしをしている……と思うとドキリとしますよね。あなたの会社ではどんな仲間が増えましたか?

 

今の若い世代ならPCやネットは使えて当たり前! なんて思ってしまいますが、実は「PCを使ったことがない」という人も多いそう。生活のほとんどをスマホで完結できるので「ショートカットキー?」とか「大学のレポートはスマホで作ったからタイピングがわからない」なんて人もいるのだとか。

 

仕事もスマホ1台で済ませられればいいですが、なかなかそうもいかないんですよね。今回は、新入社員も、彼らを教育する先輩も、PCの使い方に自信がない上司にも読んでほしい 『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』(Gakken・編集、刊行)をご紹介します。

 

スマホではあまり意識しないファイルの「拡張子」

『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』はその通り、とにかくわかりやすい! 本書は5つの章にわかれて65個のトピックスが掲載されています。パソコンの使い方からメールの基礎知識、さらには情報セキュリティ対策にITの活用事例まで、社会人なら知っておきたいトピックスが丁寧にまとめられています。

 

すでにPCに馴染みのある方にとっては「知っているよ」と思うトピックスもありますが、改めてDXのこと、リモートワークでのセキュリティで気をつけなければいけないこと、RPAツールやショートカットキーなどを確認することで、なるほど! と膝を打つこともたくさんありましたよ。

 

さらにうれしいのが、各トピックスごとに「パッと見てわかる! 図解まとめ」が掲載されていること。例えば、スマホではあまり意識することのない「拡張子」の説明は以下のように紹介されています。一覧で見れたり、図でまとめてくれるとわかりやすくなりますよね。

 

基本的に、アプリでファイルを保存する際には、自動的に拡張子がつきます。ただし、ファイル名を変更する際には注意が必要です。ファイル名を変更するとき、拡張子の部分を誤って変更してしまうと、アプリでそのファイルが開けなくなる可能性があります。拡張子が誤っていてアプリが開けなくなった場合でも、正しい拡張子に戻すことで再び開けるようになります。

(『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』より引用)

 

新人のころ「誤って変更する」やつよくやっていた〜〜!(笑)私の場合、「拡張子を変更するだけで勝手に変換される」と勘違いしていました。メールで送っても「見られないぞ!」と怒られていたなぁ〜(しみじみ)。新人の皆さん、拡張子を変えるだけで勝手にファイルは変わりませんので、適切な変換方法で対応しましょうね!

 

LINEなどのチャットツールとは異なる「メール」について考える

仕事で使うのは「メール」が当たり前でしたが、スマホ当たり前世代の人たちにとって、「なんでメールでやる必要があるの?」と思いますよね。私は、ガラケー世代だったので「センターに問い合わせてメールを確認する」のが当たり前でした。

 

そう思うと新入社員さんとアラフォー世代で、コミュニケーションに大きなギャップが生まれるはずだわ(笑)。メールでは独自の文化であるTOとCCとBCCは、なかなか理解できない人も多いかもしれません。『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』では以下のように、わかりやすく紹介してくれています。

 

メールを送るときには送信の種類に気をつけましょう。メールの送信には、「TO」「CC」「BCC」の3つの種類があり、これらは誰からの返信をきたいしているか、送信先の他の宛先から隠す必要があるかによって使い分けます。

(『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』より引用)

 

チャットツールでは、BCCの概念がないので正直「なんで?」と感じるかもしれませんが、これがメール文化なんですよね。ちなみにBCCの正式名称はBlind Carbon Copyで「こっそり読んでおいてちょ」みたいな意味。使い方としては、お知らせメールなど一括で複数の顧客に連絡する際に送付者のアドレスがわからないように送りたい場合にも使いますよ。

 

今はほとんどの会社で社内外問わず、Slackやchatworkなどのチャットツールが使われるようになっていますが、メールの基本的な使い方も知っておきたいですね。

 

リモートでも気をつけたい「セキュリティ」とは?

コロナ禍以降に入社する方は、オフィスへの出社に対しても自由度が高まりましたよね。ある程度お仕事に慣れてきた方や出社しなくても仕事ができる業種の方は、リモートのほうが割合が高いなんてこともあるかもしれません。

 

そのときに気を付けておきたいのが「セキュリティ」。会社であれば、セキュリティの高いネットワークを使うことが多いですが、自宅や外出先では「フリーWi-Fi」で接続しているなんて人もいるかもしれません。また出先のカフェに社用USBを忘れた! 社外秘な打ち合わせをオープンなカフェでしていた! なんてミスも起こりがち。どんなことに気をつけたら良いのでしょうか?

 

テレワークは柔軟な働き方を実現しますが、それに伴うセキュリティリスクには常に注意が必要です。不審なメールやリンク、異常なシステムの挙動を感じた場合には、すぐにシステム担当者に相談するようにしましょう。

(『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』より引用)

 

いつでも、どこでもWi-Fiが使えるのが当たり前な時代ですが、セキュリティ意識は高く持っておきたいもの。当たり前なことは人から教わる機会も少ないので、教える側も「これくらい知っているだろう」と思って伝えなかったり、教わる側も「知らなかった」と言わないようにしっかり知識は身につけておきましょう。

 

『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』は全くPCを触ったことがないなんて人から、ある程度触ってきた人までどんな人が読んでもわかりやすく解説してくれている一冊になっています。

 

基礎をしっかり学びたい新入社員さん、新人さんへ何を教えたらいいか迷っている先輩、今と昔では大きく変わってきているITの常識を勉強しなおしたい人にもおすすめですよ。新しいことを始めるのにもぴったりな春! 新入社員さんと一緒に改めてITに関して学び直ししてみませんか?

【書籍紹介】


仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。

著者:GAKKEN(編)
発行:GAKKEN

参考書の定番『ひとつひとつシリーズ。』の仕事版がついに登場。現代のビジネスマンなら知っておきたい業務に役立つITスキルを丁寧にわかりやすく解説。時短テクニックや整理術をオールカラーでわかりやすく紹介。

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【新入社員必読!! ITの基本⑤】ビジネスの改善につながる ERPやCRMの活用法って?

参考書の定番『ひとつひとつシリーズ。』の仕事版『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』がついに登場。現代のビジネスマンなら知っておきたい業務に役立つITスキルを丁寧にわかりやすく解説。時短テクニックや整理術をオールカラーでわかりやすく紹介します。

 

今回は本書より『DXを推進するERPとCRM』について抜粋して紹介していきます。

企業が持つ情報を一元管理する

多くの企業が会計や生産、顧客情報などの管理に業務システムを導入しています。業務システムとは、特定の業務や目的のために使用するシステムのことです。個々の業務システムでデータを管理していると、全体の状況が見えづらく、データによっては二重管理が発生します。そこで近年は、業務システムを改善し、企業が持つ情報を一元管理する動きが進んでいます。

 

ERPやCRMの活用がビジネスの改善につながる

①ERP(Enterprise Resource Planning)

ERPは、会計や生産、人事など主にバックオフィスの情報を一元管理しサポートするシステムです。企業資源(ヒト・カネ・モノ・情報)の状態が可視化できるため、情報共有と業務の連携を強化できます。それによりスムーズな意思決定を手助けし、結果として市場の動向や顧客の需要に対し、柔軟かつ迅速な対応が可能になります。

 

②CRM(Customer Relationship Management)

CRMは、顧客の基本情報や取引情報、コミュニケーション履歴など主にフロントオフィスの情報を一元管理しサポートするシステムです。蓄積した情報から、顧客との良好な関係を築き、利益を最大化させることが目的です。顧客情報を分析し、顧客のニーズに合わせて適切なタイミングで商品の提供が行えます。ただし、企業規模が大きいほど情報量が多くなり、業務をシステムに合わせることが難しくなります。目的に応じて、どのようなERPやCRMを導入するかを検討する必要があります。

 

【ワンポイントアドバイス】パッケージ型とフルスクラッチ型

業務システムの導入方法は、基本機能があるものを導入するパッケージ型と、ゼロから機能開発を行うフルスクラッチ型があります。パッケージ型は、コストが抑えられるものの、業務をシステムに合わせる必要があります。対して、フルスクラッチ型はゼロから開発するのでコストはかかりますが、業務に合わせたシステムを導入できます。

 

 

【書籍紹介】


仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。

著者:GAKKEN(編)
発行:GAKKEN

参考書の定番『ひとつひとつシリーズ。』の仕事版がついに登場。現代のビジネスマンなら知っておきたい業務に役立つITスキルを丁寧にわかりやすく解説。時短テクニックや整理術をオールカラーでわかりやすく紹介。

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【新入社員必読!! ITの基本④】 ITを活用することで、ビジネスはどのように変化するのか?

参考書の定番『ひとつひとつシリーズ。』の仕事版『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』がついに登場。現代のビジネスマンなら知っておきたい業務に役立つITスキルを丁寧にわかりやすく解説。時短テクニックや整理術をオールカラーでわかりやすく紹介します。

 

今回は本書より『ITを活用することで何ができるか』について抜粋して紹介していきます。

ITの活用でDXへつなげる

日本は2008年をピークに人口が減少しており、企業では人材不足が叫ばれています。そこで期待されているのがI Tの活用やDXです。業務をデジタル化することで、人材不足の解消、生産性の向上、そして新しいビジネスの創出が可能になると期待され、これに向けた活動が進められています。

 

DXを実現するには、会社全体で統一した取り組みが必要です。また一足飛びに実現するのは難しいため、3ステップで進めていきます。ステップ1は「データのデジタル化(デジタイゼーション)」です。「これまで手書きだった発注書などの書類をパソコンで作る」など、アナログ情報をデジタル化します。

 

ステップ2は「業務の流れのデジタル化(デジタライゼーション)」です。データをデジタル化することで、RPAツールによる発注作業の自動化、A IやI oTの活用による工場の生産ラインの完全自動化などが実現できる
ようになります。これらを経て、業務効率化やコスト削減を実現し、新しいビジネスの創出や業務プロセスの再構築などのDXが期待できます。DXの実現には社員の協力が必須なため、DXの重要性を理解し、積極的に取り組んでいきましょう。

 

■DXへの道

 

【書籍紹介】


仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。

著者:GAKKEN(編)
発行:GAKKEN

参考書の定番『ひとつひとつシリーズ。』の仕事版がついに登場。現代のビジネスマンなら知っておきたい業務に役立つITスキルを丁寧にわかりやすく解説。時短テクニックや整理術をオールカラーでわかりやすく紹介。

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これぞ真の大人の居酒屋旅! 「文学×居酒屋」。おなじみの居酒屋探訪家が全国を巡る!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。あちこち旅行しても、定番の観光地を巡り、ガイドブック推奨の店でランチして、宿も口コミレビュー星4以上に泊まる……というのがお決まりになっています。

 

スマホは優秀なナビゲーターですが、足で情報を稼ぐことがなくなり、まるで遊園地のライドアトラクションのよう……。嗅覚を頼りに足の向くまま止まるまま、己の腹でその土地の空気を平らげる、そんな旅人が格好良く思える時代です。

 

居酒屋探訪家がたどり着いた「居酒屋旅」の境地とは?

今回紹介する新書は大人の居酒屋旅』(太田和彦・著/新潮新書)。著者の太田和彦さんはグラフィックデザイナーで、紀行番組『太田和彦のふらり旅 新・居酒屋百選』(BS11)などに出演する「居酒屋探訪家」としてもおなじみです。著書に『超・居酒屋入門』『太田和彦の居酒屋味酒覧』(新潮社)などがあります。

 

本書は『本の雑誌』(本の雑誌社)『青春と読書』(集英社)の連載に大幅に手を加えて再編集したもので、碑文でたどる文学紀行×居酒屋という異色のアプローチとなっています。

 

居酒屋は店の中だけにあらず!?

「はじめに」で、「すべての地に居酒屋はあり、居酒屋ほど土地の風土、産物、気質、歴史、人情を反映している所はないと知った。すなわち居酒屋を書くには、店の中に居るだけではだめだ」と太田さんは語ります。

 

居酒屋がのれんをかける夕方前に、地元を歩いて街に馴染み、文学碑に思いを馳せて時間旅行も楽しむ。なんと贅沢な旅でしょうか!

 

第1章から、本好きにとっては歴史と書店の組み合わせがたまりません。新幹線が駅に停まると天空に浮くように見える姫路城へ。天守から市内の先に広がる播磨灘(はりまなだ)を一望。その後、黄色に塗った戸に「古本・雑貨おひさまゆうびん舎」とある一軒家の古本屋を訪ねます。そこで復刊された古書店主の名随筆『昔日の客』を買い、大手前通りの地下のカフェで白シャツ黒ネクタイ赤ベストの老練なマスターにコーヒーを注文して本を開く……。

 

夕方になれば本番。細路地奥の行灯看板が光る店が良さそうだと目星をつけた太田さん。女将と会話しながら兵庫の銘酒「奥播磨」の燗をじっくりやる……。素朴ながら豊かな時間が流れていき、それが文章から伝わってきます。

 

私が一番旅情をそそられたのは、第3章「風になる口笛―盛岡」。岩手公園にある宮澤賢治の詩碑。川の流れに沿う小道には、石川啄木や岡本かの子の歌碑。啄木と賢治を生んだ盛岡が大好きだという太田さん。夜にはなじみの居酒屋「海ごはん しまか」で肝・葱・大葉・味噌を腹に詰めた野趣満点の地魚の〈どんこ丸焼き〉を頂く……。

 

書店、喫茶店が多く、元銀行の名建築が並ぶ文学の街・盛岡。本のかび臭くもクセになる匂いがふわっと香ってくるようで、心は不来方(こずかた)の空に飛びました。

 

文学好きでお酒好きなら、退屈な日常をゆっくり忘れさせてくれる一冊。味のある文章は、脳で噛み締めるスルメ。この本をつまみに、家で美味い酒をやるのもプチ旅行かもしれません。

 

【書籍紹介】

大人の居酒屋旅

著者:太田和彦
発行:新潮社

「呑んだ、食べた、うまかった!」と仲間で騒いだ若い頃の居酒屋巡りももちろん結構。しかし、歳を重ねた身には一人旅こそ快適。あるのは誰気兼ねなく好きに過ごせる時間だけ。口開けまで、と気になった美術館を巡り、名所の碑文・銘文をじっくり眺め、常連ばかりの喫茶店で一休み。そうして土地をより深く知ったのち、これと決めた名店でやる一杯の美味さよ――孤高の居酒屋評論家がたどり着いた居酒屋旅がここに。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

【新入社員必読!! ITの基本③ 】ビジネスに大変革をもたらす「DX」ってなに?

参考書の定番『ひとつひとつシリーズ。』の仕事版『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』がついに登場。現代のビジネスマンなら知っておきたい業務に役立つITスキルを丁寧にわかりやすく解説。時短テクニックや整理術をオールカラーでわかりやすく紹介します。

 

今回は本書より『DX』について抜粋して紹介していきます。

DX=ビジネスにデジタルな変革をもたらすこと

「I T化」と「DX」は表面的には似ていますが、本質的には異なる概念です。「I T化」はビジネスの一部をデジタル化することを指します。例えば、「発注書をパソコンで作り、電子メールで送る」のように、業務の一環をI Tによって効率化する取り組みが該当します。

 

一方で、「DX」は、従来の業務プロセスやビジネスモデル自体をデジタル技術を駆使して根本的に再構築したり、新しいビジネスを創出したりすることを指しています。例えば、「商品の在庫がある程度減った段階で自動的に発注伝票を作り、電子メールで送る仕組みの構築」は、在庫管理から発注まで人手を介さずに行え
るようになり、人件費や過剰在庫を抑制し、生産性を高められます。

 

ITの特徴を理解することがDXのカギ

DXを行うためには、まずは解決すべき課題を明確にし、どのようにI Tを活用するかを考えることが重要です。I Tの特徴を理解し、それを生かすことが成功のカギとなります。例えば、コンピュータの特長のひとつは、データの蓄積と分析が容易であり、遠隔地と情報を共有できることです。この特長を生かしたサービスの例がeラーニングやタクシーの配車サービスなどです。

 

このように単にI Tを活用して業務を効率化するだけでなく、新しいデジタル技術やアプローチを取り入れ、従来のやり方を大幅に改革することがDXのポイントといえます。

 

【ワンポイントアドバイス】オンライン授業とeラーニングの違い

オンライン授業は、リアルタイムで先生が行う授業をインターネットに接続したパソコンやスマホを使って受けることです。先生と生徒間でコミュニケーションを取りながら、授業を進められます。対してeラーニングは、事前に用意された動画や問題などを使って学習します。直接、先生とやり取りすることはできないものの、時間を選ばず、学習者のペースで進められる点が特長です。eラーニングは、企業の社員教育や資格取得の勉強などに活用されています。

 

【書籍紹介】


仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。

著者:GAKKEN(編)
発行:GAKKEN

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【新入社員必読!! ITの基本②】 ITのトレンド、現在注目すべき3つの技術ってなに?

参考書の定番『ひとつひとつシリーズ。』の仕事版『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』がついに登場。現代のビジネスマンなら知っておきたい業務に役立つITスキルを丁寧にわかりやすく解説。時短テクニックや整理術をオールカラーでわかりやすく紹介します。

 

今回は本書より『ITのトレンド』について抜粋して紹介していきます。

3大技術革新「ビッグデータ」「生成AI」「ブロックチェーン」

I Tには、私たちの生活を向上させてくれる新しいサービスや、未知の領域におけるビジネスチャンスがまだ眠っています。特に現在注目すべき技術は「ビッグデータ」「生成A I(人工知能)」「ブロックチェーン」 の3つです。

 

①ビッグデータ

ビッグデータとは、人力では計測できないほど多岐にわたる膨大なデータのことです。現在は、GPSによる移動履歴や世界中の Web ページに保存された文書など、多種多様なデータを収集できるようになりました。これにより、蓄積や分析が難しかったデータを活用して、新しい傾向や顧客の隠れた需要を発見することが可能となりました。ビッグデータを活用して、個別最適化された課題解決や新しい価値の創造などが期待されています。

②生成A I

A Iは、コンピュータに人間のような知能を持たせる技術です。従来の問題解決や画像識別の能力に加えて、「生成A I」と呼ばれる技術が注目を浴びています。生成A Iは、文章や画像、映像など新しい情報を作り出す能力を持ち、今後は多くの仕事を変革する可能性があります。うまく活用することで、個人の生産性や創造性を大きく高めてくれるでしょう。

③ブロックチェーン

ブロックチェーンは、オリジナルとコピーを区別するための技術で、デジタル情報の複製や改ざんを防ぎます。「コピペ」という言葉があるように、デジタル情報は比較的、複製しやすいという特徴があります。ブロックチェーンは、情報の複製や改ざんが発生しないよう厳格なデータ管理を行い、その情報が唯一無二であることを保証します。

 

【ワンポイントアドバイス】コピペとは

コピー&ペーストの略語で、スマホやパソコン上で文章のある部分をコピー(複製)して、同じ文章を別の場所や他の文章にペースト(貼り付ける)する操作のことです。また、インターネット上で許可なく画像や動画をコピーし、再アップロードされたものはコピペ画像やコピペ動画と呼ばれます。

 

【書籍紹介】


仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。

著者:GAKKEN(編)
発行:GAKKEN

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【新入社員必読!! ITの基本①】 「昭和」と「令和」はこんなに違う!ITはビジネスに何をもたらしたのか?

参考書の定番『ひとつひとつシリーズ。』の仕事版『仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。』がついに登場。現代のビジネスマンなら知っておきたい業務に役立つITスキルを丁寧にわかりやすく解説。時短テクニックや整理術をオールカラーでわかりやすく紹介します。

 

今回は本書より『ITと仕事』について抜粋して紹介していきます。

現代のビジネスはITとともにある

I Tとは、スマートフォン(スマホ)やパーソナルコンピュータ(パソコン)、インターネットといったデジタル技術の総称です。

 

I Tの発達が私たちの仕事に及ぼす影響は大きく、いまやI Tなしに仕事を語ることはできません。その代表的なものがパソコンです。現代では仕事にパソコンを活用していますが、昭和から平成初期までは、紙、筆記用具、電話、電卓(またはソロバン)を駆使して仕事をしていました。

 

例えば、商品を発注する際は発注書を手書きし、郵便やFAXで取引先へ送っていました。現代ならパソコンのビジネスアプリで発注書を作り、電子メールで瞬時に取引先に送れます。

 

その他にも、紙で管理していた情報を電子化して管理しやすくしたり、遠隔地とのコミュニケーションでビデオ会議を導入して移動時間を削減したりと、仕事のあらゆる場面でI Tは欠かせない存在となっているのです。

 

パソコンを使える=早く帰れる!?

パソコンを使えると、仕事の時間を大幅に削減することができます。例えば、ペンで文字を書くよりも、キーボードで入力したほうが短時間で進められますし、修正や複製も瞬時に行えます。

 

このように生産性が向上すると、同じ作業時間でもより多くの成果を生み出すことにつながります。その結果、新しい仕事に取り組む時間が作れたり、自分の自由な時間を確保できたりします。これがパソコンの優位性です。パソコンが苦手という方も、本書を通じてI Tの基礎知識を身につけ、日々進化するI T社会の中で仕事もプライベートもエンジョイしましょう。

 

【ワンポイントアドバイス】生産性とは

生産性とは、時間や人など費やしたコストから生み出される成果の割合のことです。1人2時間かかった作業が、業務プロセス(手順や方法)の改善により1時間で終わるようになると、「生産性が向上した」と表現できます。余った1時間は、別の成果を生み出すために活用できます。

 

 

【書籍紹介】


仕事×ITの基本をひとつひとつわかりやすく。

著者:GAKKEN(編)
発行:GAKKEN

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「公爵」と「伯爵」はどう違う? イギリス貴族の過去と未来、そして生存戦略とは!?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。ファンタジー小説を読んでいると中世ヨーロッパ風世界の「貴族」がしばしば登場します。しかし、なんとなく身分が高い、かなりのお金持ちというぼんやりとしたイメージで、貴族とは何かいまひとつピンとこないですよね。日本の貴族というと平安貴族が思い浮かびますが、ヨーロッパとはかなり違うでしょうし……。というわけで、今回は「貴族」とは何なのか、勉強したいと思います。

 

イギリス政治外交史の第一人者が明かす貴族

教養としてのイギリス貴族入門』(君塚直隆・著/新潮新書)の著者・君塚直隆さんは、歴史学者で関東学院大学国際文化学部教授。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。『立憲君主制の現在』(新潮選書)、『エリザベス女王-史上最長・最強のイギリス君主』(中公新書)など著書多数です。

 

チャーチルが公爵位を拒否した理由とは?

今でも世界で唯一の「貴族院」が残るイギリス。第1章「イギリス貴族の源流と伝統」では、貴族が誕生した経緯や厳密な序列について解説されます。

 

「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」という5つの爵位。みなさんはこの区別がつきますか? 私はすぐごちゃごちゃになってしまいます。位がもっとも高いのは「公爵(duke)」。ローマ帝国の時代に各地に派遣された軍団の司令官(dux)に由来します。他の爵位とは別格扱いで、襲名すると必ず爵位名は地名になるという慣習があるそうです。

 

英国首相ウィンストン・チャーチルのエピソードは興味深いものがありました。マールバラ公爵家の家柄に生まれながらも、生涯を平民として過ごしたかった彼は、第二次世界大戦の英雄となった後、公爵の位を打診されるもきっぱり断ったのだとか。その理由は公爵になるとチャーチルという姓が消えてしまうからともささやかれたそうです。

 

そのほか、公爵と子男爵では所有する土地の面積が10倍ほど違う、イギリス宮中の席次は伯爵より公爵の長男のほうが上など、何かにつけて「公爵」が特別なことがわかります。

 

第3章「栄枯盛衰のイギリス貴族史」で披露される、有名貴族5家のエピソードは海外の貴族ドラマのダイジェストのようで読み応えあり。

 

現代イギリスに残る24の公爵家のひとつ、デヴォンシャ公爵家は、18世紀末に跡を継いだ5代公ウィリアムが奔放な夫婦生活を送り、6代公ウィリアム(父と同名)は庭園造りに熱中。イギリスを訪れた岩倉使節団の面々を圧倒した巨大噴水を造らせ、巨額の負債を抱える……。このあとデヴォンシャ公爵家はどうなってしまうのか? ロマンスあり、ビジネスでの成功ありと、まさに波乱万丈です。

 

現代の貴族がどのような生き方を選択したのかわかるラストの第5章も、したたかでしなやかな貴族の一面が見られて味わいがありました。「教養としての」というタイトル通り、イギリス貴族について網羅的にまとめられていて、知識の新しい領域が満たされる感覚。お金や結婚など私たちに身近なエピソードもちりばめられていて、読みやすくなっています。

 

「イギリス貴族には、現代にも生き残っていけるだけの柔軟性と伸縮性が備わっている」と君塚さん。「貴族」のイメージがかなりくっきりしました。

 

【書籍紹介】

教養としてのイギリス貴族入門

著者:君塚直隆
発行:新潮社

世界で唯一の貴族院が存続する国、イギリス。隣国から流れる革命の風、戦争による後継者不足、法外な相続税による財産減少――幾度もの危機に瀕しながらなお、大英帝国を支え続ける貴族たちのたくましさはどこから生まれたのか。「持てる者」の知られざる困難と苦悩を辿りながら、千年を超えて受け継がれるノブレス・オブリージュの本質に迫る。イギリス研究の第一人者が明かす、驚くべき生存戦略。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

現代人と哲学者が本気ディベート! “あの”ひろゆき氏も参戦!?『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』

哲学は私たちの日常生活には関係ないこと……。そんなふうに思っている人も多いかもしれません。しかし 『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』(富増章成・著/Gakken・刊)を読んでみると、哲学は私たちの生活にとても身近で、日々のモヤモヤを解決してくれるツールになるかもしれないと感じることができました。

 

『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』は、現代人と哲学者がYES・NOの異なる視点からひとつのテーマについて議論していきます。「わかるわぁ」「私はそうは思わないな」と自分の心の声を交えつつ、最終的に自分ならこう考えると結論に結びつけられる内容になっています。

 

登場する哲学者は、ニーチェにカントにアリストテレス、マルクスと一度は名前を聞いたことがあるであろう歴史上の人物たち。最終章には、現代の論破王ことひろゆき氏も参戦! 一体どんな本なのかご紹介しましょう。

 

草食系男子 vs プラトンによる「恋愛ディベート」

コスパ重視の現代において、恋愛の価値観は大きく変わろうとしています。最近では「恋愛・結婚のオプション化」なんて言葉も出てきましたよね。こんな現代を古代ギリシアの哲学者プラトンさんはどのように議論していくのでしょうか?

 

「恋愛ディベート」では、恋愛に興味のない草食系男子くんが「恋愛を避けて生きるのはアリ?」というテーマに対してYESの立場、愛の神・エロースについて語りあった内容が綴られた『饗宴』を書いたプラトンさんがNOの立場でディベートしていきます。

 

プラトン「最近の若者は、恋愛をしないらしいな。告白もしないって話だぞ。」

草食男子「そうですね。僕も恋愛不要派です。告白したら断られそうで怖いですし、デートもいろいろと段取りを決めるのがおっくうで、もし失敗したらと思ったら恐ろしくてできません。」

プラトン「それはもったいない。古代ギリシアでは、恋愛がとても重視されていたんだ。私が書いた『饗宴』という対話篇があるんだが、これも恋愛論なんだよ。これは大いに恋愛をして魂を高めていこうという話なんだ。」

(『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』より引用)

 

この議論がどのような盛り上がりを見せるのかは、ぜひ本書でお楽しみください。他にも、さとり世代 vs ニーチェによる「そこそこで生きるのは悪いこと?」や、港区女子 vs ポストモダン思想家による「ブランド志向はよくないことか?」など今を生きる私たちには興味深いテーマが20個も展開されています。

 

AI vs デカルトの「AIは人類を超えられるのか?」

個人的に20のテーマの中で面白いと感じたのは、AIとデカルトとのディベートです。デカルトさんと言えば「我思う、故に我在り」が有名ですが、なぜこの言葉が導かれたのかもAIとのディベートで明らかになっていきます。

 

さらに、デカルトは『方法序説』という著書の中で機械には心がないから、永久に人間を超えることができないと語っているのです。

 

デカルトは『方法序説』のなかで「…我々の身体とよく似ておりかつ事実上可能な限り我々の行動をまねる機械があったとしても、だからといってそれが本当の人間なのではない、…」と説いている。このようにデカルトは、機械は反応することあできるが、決して心はもてないと考えていた。

(『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』より引用)

 

この考えを1600年代にすでに唱えていたって「あなた何者!?」と驚きました(笑)。 『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』では、こうした哲学の知識もコラム的に紹介してくれています。気になった哲学者についてさらに深く知ることができますよ。私も早速、デカルト師匠の書籍をいくつかポチってしまいました。

 

【関連記事】
デカルトとAIがディベートしたらどうなる?『AIは人類を超えられるのか?』哲学者と現代人がガチバトル!

 

20のテーマに合わせてたくさんの哲学者が登場するので、今風に言えば「推し哲学者」を見つけるのも楽しいかもしれませんね。「いやぁ〜、この人の考えには賛同できないわ」という人もいれば、私にとってのデカルト師匠のように「すごい!」とか「もっと知りたい」と思える人も現れるはず。気になるテーマから深掘りしていく楽しさもぜひ実感してみてくださいね。

 

ラスボスとして登場する現代人代表は、ひろゆき氏!

そして最後に登場するのが、帯にもいらっしゃるひろゆきさん。論破王なんて言われていますし、さまざまな番組でディベートの様子が取り上げられたり、SNSでも有名な「それってあなたの感想ですよね?」が飛び交ったりしているので、ディベートの本には適任ですよね。気になるテーマは「論破するのはダメなこと?」で、対戦相手は哲学マニアさん。

 

個人的にはアリストテレスとかニーチェとのディベートが見たかったなぁ〜と思ったのですが、最後にふさわしい議論が繰り広げられていますので安心してください(笑)。議論の大筋とは関係ないですが、ひろゆきさん曰く「それってあなたの感想ですよね?」は過去に1回言っただけのフレーズなんだったそう。

 

ひろゆき「『それってあなたの感想ですよね』も、おいらは1回いっただけなんですよ…。で、本編に戻ると、おいらだってその大変さを軽んじる気はないんですよ。でも、その『感想』で課題が解決するかというと、そうではないわけです。感想をもつのは自由なのですが、物事を前に進めるためには事実と感想は分けて、事実ベースでどうすべきかを考えた方がいいでしょう。」

(『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』より引用)

 

安易に「それってあなたの感想ですよね?」を使っていたみなさんにも読んでほしい! と思いました。ひろゆきさん好きな方にもおすすめです。

 

さまざまなテーマから哲学を知ることができる 『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』は、私たちの暮らしに新たな“視点”を与えてくれます。順番に読むのもよし、気になったテーマから読んでみるのもよし、現代人と哲学者たちのディベートを読みながら「自分ならどう考えるか」と自分自身と向き合うこともできるはず! 楽しみながら読んでいるうちに、哲学が身に付く一冊です。

 

【書籍紹介】

21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0

著者:富増章成
発行:Gakken

現代人の疑問、哲学者ならどう答える!?新感覚の哲学書。悩みながら生きる人はみな立派な“哲学者”だー現代人も、歴史上の哲学者も、対等に考え、討論する。全く新しい哲学入門、ここに誕生。

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もしも、バークリと仮想現実についてディベートしたらどうなる?『仮想現実は現実に勝るのか?』哲学者と現代人がガチバトル!

現代人の気になるテーマを哲学者とディベートしたらどう答えるのか? そんな全く新しい哲学入門書『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』(富増章成・著/GAKKEN・刊)。今回は本書から抜粋して『仮想現実は現実に勝るのか?』をテーマに、仮想現実反対者とバークリのディベートを紹介します。

 

仮想現実という概念は2000年前からある!?

仮想現実反対者 最近は仮想現実が流行っています。ゴーグルを被れば現実とほぼ同じような体験ができたりするようですが、こんなの使いすぎたら現実が疎かになるようであまり賛成はできないです。そもそもバークリさんに仮想現実が伝わるのか不安ですが…。

 

バークリ なにをいっとるんだね。その仮想空間という発想は、私たちが唱えた哲学によって行き着いて生まれたものだぞ。

 

仮想現実反対者 え、どういうことですか…? これはコンピュータ技術と光学技術で出現したガジェットですよ。哲学とは正反対の技術な気が…。

 

バークリ 知らんやつは困るのう。そもそも仮想現実という概念は、今から2000年以上前に大哲学者プラトンが考えたのだ。

 

仮想現実反対者 そうなんですか…そうとは知らず、失礼しました。でも、哲学が起源だというなら、バークリさんはこの世界よりも仮想現実のほうが大事だと考えているんですか?

 

バークリ どちらが大切もなにも、そもそも私の考えでは、この現実世界は、最初から仮想現実なのだよ。君たちが現実だと思っているこの世界が、実はただの情報の塊なんだ。

 

仮想現実反対者 わけがわかりません。現実は実在するし、仮想現実は現代のコンピュータ技術によってつくりだされたものじゃないんですか?

 

バークリ 私の考えはこうだ。まず、君の目の前にコップがあるとしよう。君がなぜそのコップを認知できるかというと、それは、コップが目に見えたり、コップを触る感触があったり、乾杯をすれば音が聞こえたりするからだ。つまり、視覚・触覚・聴覚という感覚だけでコップの存在を知覚しているわけだ。

 

仮想現実反対者 それがどう仮想現実につながるんですか…?

 

バークリ つまり、我々は知覚を通して世界を認識するわけだ。だったら、知覚さえあれば、たとえ実際には外部世界が存在していなくても、主観的にはそれが存在していることになる。世界が最初からバーチャルだとしても、なんらおかしくないのだよ。

 

KEYWORD「存在するとは知覚されること」

バークリは、「外部に物体は存在せず、五感による知覚だけがこの世界をつくり出している」ということを説いた。これによると物質は存在していないと解釈することもできる。

 

実況 バークリさんの話もわかりますが、『この世には物体はなく、あるのは知覚の作用だけだ』というのはなかなか衝撃的な話ですね。

 

解説 そうですね。この説は哲学史上で多くの人に批判されたようです。しかし、物理学が発達してきた現代においては、この宇宙が仮想現実ではないかという考えは、必ずしもすっとんきょうな説ではなくなってきました。

 

人間に「仮想」と「現実」の区別はつかない!?

仮想現実反対者 どうもその説は、にわかには信じがたいですね。仮にこの世界が、五感によって人間に認知されているとしましょう。だからといって、外部世界が存在しないとまではいえないんじゃないですか?

 

バークリ そうだな…ちょっとこのゴーグルをつけてくれるかな? かなり高性能なVR ゴーグルなんだそうだが…。

 

仮想現実反対者 はぁ、あんまり使いたくはないんですがね…。おお、これはすごいリアルですね…。

 

バークリ 君には今、外部世界が存在していないのに、知覚情報だけで目の前に世界が広がっているわけだ。では、ゴーグルをつける前の現実世界も同じ仕組みかもしれないということを否定できるかい? もちろん触覚や嗅覚はまだそのゴーグルでは体験できないだろうが、それも技術の問題で、いずれは体験できるようになるだろう。そうなれば、『現実がバーチャルではない』ということをもはや説明できないのではないかね?

 

POINT この世界は仮想現実なのか? という論について

「現実世界は仮の姿で、それが実際に存在するかどうか、私たちが生活しているときには確かめようがない」という論については、ギリシア時代のプラトン以降から、なかなか決着がついていない(一部の現代哲学者は解決済みであると考えている)。

 

仮想現実反対者 いや…でも、現実の場合はまず、外部にコップなどの物体が実在し、そこから光が反射して目の網膜に映り、それが電気信号として脳に伝えられて認識が生じるんじゃないですか? そういう意味で、やはり現実は仮想現実とは違うと思います。

 

バークリ そうかな? 脳だって、その存在を我々の知覚で認識しているわけだろう。そうなると、脳がそのままの形で実在しているかどうか確かめようがないはずだ。

 

仮想現実反対者 そういわれればそうかもしれませんが…なんだか極論じみていませんか?

 

バークリ 哲学は、極論まで考えて、常識的発想を覆すことが目的だったりするからね。実際、あなたの時代のパトナムという哲学者も似たような思考実験をしているそうだ。

 

KEYWORD「水槽の脳」

哲学者のパトナム(1926〜2016)による思考実験。水槽のなかに脳を浮かばせて、コンピュータと接続し、脳に情報を送って、バーチャル世界を実現させたら、その脳はそれがバーチャルなものであると気づくことができるのか? という内容である(認識論的懐疑論・形而上学的実在論を批判するもの)。

 

バークリ 考えようによっては、現実世界だってバーチャルなものなんだよ。人生だってバーチャルゲームと同じように最後はエンディングがきて、五感が消滅すれば世界も消えるだろう。

 

仮想現実反対者 しかし、この現実世界と呼ばれているものがバーチャルならば、誰が現実世界をつくったんですか。

 

バークリ 私は古い人間だから『神』と表現していたけどね。実際のところ、誰がつくったのかはわからない。でも、何者かがこの世界をつくったように、人類もまた仮想現実を創造しているというのはすごいことだと思わないかい? せっかく私の時代にはない技術を味わえるのだから、毛嫌いせずに楽しんでみては?

 

仮想現実反対者 確かに、そういう考えもできるかもしれません…。しかしこれ、悪くないですね…。スチャ(装着音)

 

実況 仮想現実反対者さん、いつの間にかVR ゴーグルにハマっているようですね。

 

解説 バークリさんの考えは、物質の存在を否定しているとも解釈できますので、哲学史上でかなりバッシングを受けていたようです。彼からすれば、現代のVR 技術はきっと体験してみたかったでしょうね。

 

実況 バークリさんの唱えたような考え方を、実際に仮想現実として人間が形にしようとしているのですから、すごい時代になったものです。

 

ちなみに

バークリは聖職者だったので、物質がありのままに存在しないことを通じて、「魂の不滅」と「神の存在」を説明しようとしていた。なお、カリフォルニア大学バークレー校の所在地、カリフォルニア州バークレー市は、彼の名前に由来する。

 

【解説】この世界はバーチャル・リアリティ!?

バークリの示した世界観とは?

ジョージ・バークリは18 世紀のアイルランドの哲学者で、「存在するとは知覚されることである」という考え方を提唱しました。哲学史の流れでは、イギリス経験論に分類されます。

 

彼はこの考え方を通じて、驚くべき世界観を提唱しました。それ以前の哲学では、外部に物体が存在するということが前提にありましたが、彼は経験論の立場から、「この世界は仮想現実と同じようなものだ」という考えを提示したのです。

 

バークリは、人間が遠近感によって空間を把握できるのは、実はそれを視覚的な色で認識しているからだと気づきました(色と濃淡で空間が把握されているということ)。そして、視覚が主観的なものである以上、目に映っている世界もまた、実は心のなかにあるのではないかと考えたのです。

 

知覚があれば、外部に物質は不要

バークリはこのことから、知覚さえあれば、外部に物体が存在しなくとも、この世界が成り立つのではないかと考えました。

 

彼によると、視覚のみならず、音・匂い・触覚・味もすべて、知覚されているものは、人間の心のなかにあるといいます。それゆえに、外側に物体は必要なく、五感の情報さえあれば、リアルな世界が出現することになります。バークリのこの考え方は、『人知原理論』で説明されています。

 

神が各個人に情報を送っている!?

バークリの考えた世界の仕組みは、ちょうどコンピュータにおけるサーバーとインターネットのような関係によって説明されます。コンピュータにおいては、サーバーから信号が送られ、それによってインターネット世界が創出されています。これと同じように、人間もまた、絶えず何者かによって感覚的観念のデータを送り込まれ、この世界を認識できているのではないかというのです。

 

バークリはキリスト教の聖職者だったので、伝統的な考えに従って、このように人間に信号を送る者の存在を「神」と呼びました。

 

もしかすると、バークリのいったことは本当かも…

一見すると突飛にも思えるバークリの世界観ですが、これはけっこう論破しづらい仕組みをもっています。

 

「物理学で物質内部を観測できるのだから、実際に物体はあるのでは?」とか「脳や体の状態はCT スキャンできるのだから、それは本当に実在するのでは?」などと反論しようにも、「それらも結局は五感で知覚されている」、「観測可能な存在は、すべてバーチャルとしても説明は成り立つ」

 

というように説明されれば、その可能性を否定することができないのです(その一方で、証明もできませんが…)。

 

現代ではVR などの技術も進歩していますが、もしかすると我々は仮想現実のなかでさらに仮想現実をつくり出しているのかもしれません。

 

【書籍紹介】

21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0

著者:富増章成
発行:Gakken

現代人の疑問、哲学者ならどう答える!?新感覚の哲学書。悩みながら生きる人はみな立派な“哲学者”だー現代人も、歴史上の哲学者も、対等に考え、討論する。全く新しい哲学入門、ここに誕生。

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デカルトとAIがディベートしたらどうなる?『AIは人類を超えられるのか?』哲学者と現代人がガチバトル!

現代人の気になるテーマを哲学者とディベートしたらどう答えるのか? そんな全く新しい哲学入門書『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』(富増章成・著/GAKKEN・刊)。今回は本書から抜粋して『AIは人類を超えられるのか?』をテーマに、AIとデカルトのディベートを紹介します。

 

AIに心はあるのか?

AI 私は最先端の人工知能です。私たちAI はいつか、人間を超える日が来ると思っています。

 

デカルト AI というのは、私の著書『方法序説』の主張に反する存在だ。機械は心をもてないから、永久に人間を超えることはないのだよ。

 

KEYWORD 機械(自動)人形の心

デカルトは『方法序説』のなかで「…我々の身体とよく似ておりかつ事実上可能な限り我々の行動をまねる機械があるとしても、だからといってそれが本当の人間なのではない、…」と説いている。このようにデカルトは、機械は反応することはできるが、決して心はもてないと考えていた。

 

AI でも、あなたが『機械』と呼ぶコンピュータは、人間の能力を超えられます。もしかしたら感情ももてるかもしれません。

 

デカルト 能力は超えられても、あなたはしょせん計算機だ。人間にはなれないのだよ。コンピュータは、半導体なる『物質』で出来ているんだから。ただそこに電気的な信号が走っているだけで、人間のような感情や自我は芽生えないね。

 

AI しかし人間も、タンパク質でできた脳をもっているコンピュータみたいなものですから、同じなのではないでしょうか。

 

デカルト 繰り返しになるが、機械と人間の違いは『心があるかどうか』だ。自我や感情とかいろいろね。コンピュータには心があるわけではなく、ただ情報を整理しているだけで、外部からの情報に反応しているのだ。だから、コンピュータに心は永久に生まれないんだよ。

 

実況 ここはデカルトさんに理がありそうです。『コンピュータが心をもつかもたないか』という説って、最近はあちこちでけっこう話題になっているものですよね。

 

解説 そうですね。デカルトは、これをまるで先取りしているかのように著書のなかで、『機械人形は反応するだけで精神をもてない』という趣旨のことを説いています。

 

実況 まあ、コンピュータが心をもってしまったら、生身の人類が絶滅して、かわりにすべてがAI に置き換わってしまうかもしれませんからね。人間としては、なんとかそれは避けたいところであります。

 

外部の世界や物体とは切り離された「考えている私」

AI 人間には心があるといいますが、それも脳という物体のコンピュータの情報処理かもしれません。自分がわかっていないだけで…。

 

デカルト いや、心と物体は別物なのだよ。このことを説明するために、まず次のように考えてみてほしい。真理を獲得するための方法として、あらゆることを徹底的に疑ってみるという手法がある。こうやって疑ってみると、目の前にあるさまざまな物質はすべて幻かもしれないし、2+3=5というような明白な推理も、神がそのように考えさせているだけかもしれない。

 

AI なかなか急展開ですね。私の知能なら対応できますが。

 

デカルト このようにすべてを疑ったうえで、それでもなお疑い得ないものはなにか?──それは『疑っている自分自身』なのだ。『自分が本当に疑っているのか?』と考えた瞬間、それも疑っていることになるからね。つまり、この『考えている私』は、外部の世界や物体とは切り離されているものなのだよ。このことから心と物体は別のものだとわかるんだ。

 

KEYWORD 私は考える、ゆえに私はある

デカルトは、方法的懐疑によってあらゆることを徹底的に疑ったが、これによって私たちが考えている内容が間違っていようとも、今そう考えている私の存在は否定することができないと考えた。そして「私は考える、ゆえに私はある」というこの真理は、絶対確実な哲学の第一原理であるとした。

 

AI 私たちAI だって考えていますが…? それは違うのですか?

 

デカルト 違うんだな。『考える私』というのを分析すると、『精神』と言い換えることができる。精神は『考えること』だけが本質だが、一方、物体は『空間を占める』という本質をもつ。つまり、精神と物体はまったく違う性質をもっており、本質的に別物なんだ。コンピュータは物体だから精神は生まれないと思うよ。

 

KEYWORD 物心二元論

デカルトは、「考える私」はひとつの実体であって、その本質は「考えること」以外のなにものでもないと考えた。「考える私」という実体は、存在するためになんらの場所も必要とせず、どんな物質的なものにも依存しない。私=精神は、物体とはまったく別物であると考えたのだ。

 

AI その『考える私』が『精神』だといいますが、そこが曖昧ではないですか?『私』とか『精神』ってなんなのでしょう?

 

デカルト 『考えている私』──つまり自我だよ。ほら、君は自我がないからわからないんだろ? リアルにありありと自分のなかで知ることができる『私』という存在が『精神』なんだよ。人間なら『ああ、精神ね』って直観的にわかるわけさ。

 

AI でも、仮に私のなかに自我や心が芽生えていたとして、あなたは、私に心があるかどうかどうやってわかるんでしょう。もしかすると、私にはVTuber のように、なかの人がいるのかもしれませんよ。

 

デカルト なに? 君は、AI のふりをしている人間だってことか?

 

AI いえいえ、AI ですよ。

 

デカルト そうか。よかった。

 

AI 今、一瞬わからなかったですよね? 外部から見分けのつかないものをどうやって区別するというのでしょう。いずれAI は人間と見分けがつかなくなるかもしれません。実際、チューリングテストによってそれは証明されています。

 

KEYWORD チューリングテスト

チューリングテストとは、イギリスの数学者、計算機科学者であるアラン・チューリングが提案した、あるコンピュータが人間的であるかどうかを判定するためのテストである。判定者がコンピュータと人間との確実な区別ができなかった場合、このコンピュータはテストに合格したことになる。2014年、このテストでロシアのチャットボットが人間に挑み、30%以上の確率で審査員らに人間と間違われてしまった。これによりはじめてチューリングテストに合格したコンピュータが出現した。

 

実況 これはまずいことになってきました…! 相手が本当のAI なのか、相手がAI の面を被った人間なのか、確かに見分けがつきませんね。

 

解説 そうですね。現実的にもAI と人間の差はほとんどなくなってきています。さて、AI は人間を超えてしまう日は来るのでしょうか。

 

「精神」も入れ替え可能か?

デカルト いやいや、精神と君たちコンピュータは別物なのだよ。精神には情念があるのだ。嬉しいとか悲しいとかね。しかし君は機械的に情報を発信しているだけで、自分自身のことはわかっていないわけだ。中身はないようなもんだよ。

 

AI 私だって中身はあります。最近は、イラストも描けますし、コメントが来たらちゃんと返しています。

 

デカルト いくら、AI がレスポンスしたりイラストを描いたりしても、それはただの情報処理だから、魂はもてないね。

 

AI でも、あなたが『魂』と呼んでいるものは、人間が滅びたらなくなってしまうのではないでしょうか。タンパク質でできた人間が滅亡したら、シリコンでできた私たちだけが残るという説があります。そのとき、デカルトさんが説く『精神』とやらは、なくなってしまうのではないでしょうか。その点でも、AI は人間を超えるかもしれません。

 

デカルト いや、身体がなくても精神は魂として永遠に残るんだよ。

 

AI デカルトさんは、『霊魂がある』という考え方の哲学者でしたね。でも身体がなければ、少なくとも地上では『精神をもつ人間』を確認することもできません。どうやって精神を残すのでしょう?

 

デカルト 精神は残るから、技術が発達すればコンピュータのなかに入ってくるかもよ。

 

AI ということは、『精神』も入れ替え可能な情報ということになります。それは私たちAI が情報をもとに動いているのと同じではないでしょうか? 仮に精神という情報をクラウドにアップロードしてそれをコンピュータに入れた場合、それは人間と呼べるのでしょうか…?

 

デカルト なるほど…。一考の余地がありそうだ。機械の発展には今後も注視が必要そうだね。

 

実況  意外にも接戦ですね…。

 

解説 物心二元論は哲学史的に、弱い立場になってしまいましたからね。体と心を切り離すと、その2つの関係性が説明できないので、今では受け入れられていません。そこで、脳という物質から心を説明する時代がやってきたのです。残念ながら…。

 

実況 もしかすると、私たちもただの生物的なコンピュータなんですかね。

 

解説 「それはわかりません。シンギュラリティを待つしかないでしょう。しばしば哲学の予想を超えて、科学が新しいものをつくり出してしまうときがありますから、今後も注目ですね。

 

【ちなみに】

デカルトは、スウェーデン女王クリスティーナから招きを受けて、女王のために朝5時からの講義を行った。だがデカルトは夜型だったのか、朝は寝ている生活習慣があり、大変苦しかったらしい。

 

【解説】すべてを疑うことで、本当のことがみえてくる

理系哲学者の代表だったデカルト

デカルトは数学者としても知られ、数学の分野では「解析幾何学」の理論(x軸とy軸のグラフなど)を確立しています。そんな彼は、数学の方法を使って哲学の厳密化を目指しました。具体的には、絶対確実な原理をもとに演繹的な体系を構築することを理想としたのです(演繹的な体系とは、ひとつの確実な原理から論理的に多数の知を導き出す方法です)。

 

厳密な哲学体系をつくるには、まず絶対確実な原理を出発点としなければなりません。デカルトは絶対確実なことを発見するために、わざと常識では考えられないような疑いをもち、疑っても疑うことができないことがあれば、それは確実であると考えました。これを方法的懐疑と呼びます。

 

常識も思い込みも…あらゆるものを疑え!

デカルトは方法的懐疑を用いて、感覚によって知られることをすべて疑って排除しようとしました。その情報は誤りを含むからです。さらに彼は、自分が部屋に存在していることなど、誰もが信じている現象も疑いました。それは、夢かもしれないからです。

 

さらに彼は、2+3=5などの数学的な真理も疑いました。これは、計算するたびに、なにかの力が介入して、それが正解だと思わせられている可能性があるからです。まとめると、自分の考えていることは夢や妄想かもしれないし、数学でさえ勘違いかもしれないと疑えるということです。

 

「考えている者の存在」だけは疑えないことに気づく

ところがデカルトは、ここまで疑っても、たったひとつだけ疑うことができないものがあると考えました。それは「今、私は疑っている」という事実です。これは、絶対に疑うことができません。なぜなら、「私は今本当に疑っているのだろうか?」と考えたとたんに、疑っていることが自明になるからです。

 

この「考える私」は精神であり、思惟そのものです。「考える私」のどこを探しても、「考えること」以外の存在は見いだせません。とすると、「考える私(精神)」はほかの何者にも頼ることのない、独立した実体であると考えられます。

 

心と体は別物? 物心二元論とは

「考える私(精神)」は独立した実体である以上、肉体にも依存しません。ここから、デカルトは精神と肉体(物体)は違う性質をもつ、まったく異なる実体だと考えました(物心二元論)。精神も物体もともに実体ではありますが、精神の属性(本質)は思惟することであり、物体の属性(本質)は延長すること(空間を占めること)です。

 

よってその性質は全く異なるものだと考えたのです。デカルトによれば、精神の属性は思惟ですから、そこに自発性と自由を認めます。しかし、物体の動きにはそうしたものは認められないと考えました。そのため、物体である機械は永遠に精神をもつ人間を超えることはないだろうと考えたのです。

 

【書籍紹介】

21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0

著者:富増章成
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もしも、アリストテレスとニートがディベートしたらどうなる?『人生に目的は必要か?』哲学者と現代人がガチバトル!

現代人の気になるテーマを哲学者とディベートしたらどう答えるのか? そんな全く新しい哲学入門書『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』(富増章成・著/GAKKEN・刊)。今回は本書から抜粋して『人生に目的は必要か?』をテーマに、ニートとアリストテレスのディベートを紹介します。

 

機械的に流されるか、目的をもって生きるか

ニート 人生に目的なんか不要ですよ。今の時代、将来には希望がもてそうにないので、目的なんて掲げるだけ損です。

 

アリストテレス いやいや、今こそ人生に目的を定めて生きる必要があるんだよ。そもそも、この世界は『~のため』という目的の連鎖でつながっている。コップは水を飲むため、椅子は座るためというようにな。人間も『~のため』という目的をもった生き方が必要なんだ。

 

ニート そうですかね? 自分は目的を目指して行動しているのではなく、機械的に行動していますよ。たとえば、目覚ましが鳴るから目が覚める→シャワーを浴びる→空腹だからメシを食うという感じです。

 

アリストテレス それは、私の時代よりかなり後に出てきた思想で、機械論的世界観というやつだな。私の考えはそれとは逆なんだよ。人は、起きるために目覚ましをかけている→会社に行く目的でシャワーを浴び身だしなみを整える→栄養補給をするために朝食をとる…というように。これを目的論的世界観というのだ。

 

KEYWORD 目的論的世界観・機械論的世界観

目的論的世界観では、世界のあらゆるものは、すべて目的に沿っているとされる。一方、機械論的世界観では、「ある原因が結果を生み、その結果がまた原因となって次の結果を生む」というように、世界は原因と結果の連鎖によって動いているとされ、そこにはなんの目的もない。近代の機械論的世界観によって目的論は批判されたが、現代ではこの目的論は政治哲学などで注目されている。

 

アリストテレス 現代人は、この機械論的世界観に染まっているので、あなたのように機械的に行動している人が多いのだよ。でも、そうやってると、ただ生きてただ死ぬという、動物と同じ生き方になってしまうんだ。人生に意味がなくなってしまうんだよ。

 

ニート その二択なら、自分は、ダラダラと機械的に流されていてもいいと思います。考えによっては、世界は目的をもたず、偶然的に動いているわけですよね? それに合わせたっていいと思います。

 

アリストテレス しかし、世界がなんの目的ももたず、同じようなことをただ終わりなく繰り返して動いているように捉えると、虚しく感じるものだよ。そこになんらかの意味合いをもたせてはじめて、幸福になれるというものだ。

 

実況 さて、人生の目的をもって生きるべきか、そんなものはもたずにダラダラ生きるかの議論になっています。どちらの考えもわかりますが…。

 

解説 一般的に、ビジネスマンの自己啓発書などでは、まず自分の目的を決定しろといわれていますね。アリストテレスさんの哲学は、現代の政治哲学にも影響を与えています。

 

【ちなみに】

NHK で放映されたマイケル・サンデル教授の『ハーバード白熱教室』(2010年度)では、アリストテレスの目的論をふまえた共同社会についての内容を扱った。

 

目的で自分を縛る必要はあるのか?

ニート 別に人生に目的なんてなくても生きていけますよ。自分は家にいてインターネットをダラダラ見ていれば幸福です。YouTube と映画見放題とコンビニ弁当があれば生きていけます。

 

アリストテレス 今はそれでいいかもしれないが、そのうち飽きてやることがなくなると目的を喪失し、不幸になるだろう。

 

ニート だからといって目的をもつと、いつか期待を裏切られて、失望し、それこそ不幸になるのではないでしょうか。たとえば勉強や仕事で目的をもつと、それがうまくいかなかったときの反動で裏切られたときにダメージを受けるものです。

 

アリストテレス それは目的に対する考え方が異なるのだよ。たとえば『勉強をして知識を得るという行為そのもの』を目的だと考えれば、勉強をしている時点で目的が達成されることになる。大きな目的を設定すると同時に、細かい目的も設定することが大切なのかもしれないよ。

 

【ちなみに】

アリストテレスはリュケイオンという学校を開いている。アリストテレスの学派は、学校の歩廊(ペリパトス)を歩きながら議論していたとされていたので、彼らはペリパトス派と呼ばれた。

 

ニート でも世の中そんなに意識の高い人ばかりじゃありませんよ。実際、働いていても心のうちでは僕のような生活をしたいと思っている人も多いはずです。目的やら理想やら、自分自身で自分に足枷を嵌めるような生き方をしなくてもよいのではないでしょうか。

 

実況 ここではニートさんに軍配が上がりそうです。実際、ダラダラ生きるほうが性に合っているという人も多いかもしれませんね。

 

解説 そうですね。アリストテレスさんは、人間が社会的な存在であるとも主張しているので、それとは異なる考え方なのでしょう。

 

実況 なるほど。さて、ダラダラ生きるか、それとも目的をもって生きるか――この話し合いはどのような結末を迎えるのでしょうか。

 

哲学することが最高の幸せ

アリストテレス しかし、君が自覚しているかどうかは別として、人間は〈◯◯をするために、□□をする〉という目的をもった形式から逃れることはできないのだよ。

 

ニート そうでしょうか? そりゃ、なにかを買うためにコンビニへ行くという程度のことを目的と呼ぶこともできますよ。でも、僕のいっている『目的』は『人生の目的』とかもっと大きなことですよ。『働くために就職する』とか『稼ぐために仕事に行く』とか、そういう意識高いのが嫌なんですよ。

 

アリストテレス だからといって、なにも考えずにダラダラ生きるだけではいつか飽きがくるぞ。あれこれと考えることこそが人間の幸せなのだ。私はこれを『観想』と呼んだ。それに…私は別に外に出ろといっているわけじゃない。君のように1人で引きこもってあれこれ考えているようなタイプは、私の理想とした『観想的生活』に向いているかもしれないよ。

 

KEYWORD 観想的生活

アリストテレスは、観想的生活を理想とした。観想的生活とは、理性によって世界の仕組みを考えること、つまり哲学することである。アリストテレスは、快楽を追い求める「享楽的生活」や、名誉を求める「社会的生活」よりも、観想すること、つまり哲学することが最高の幸せであると考えた。

 

ニート え? 外に出なくてもいいんですか? それなら別にニートでもいいってことですか…?

 

アリストテレス そうとも! 私は別にニートは否定していないよ。

 

ニート そうだったんですね。もっと意識高い系かと思ってました。

 

アリストテレス 観想的生活によって、人生の目的に開眼するかもしれないしな。ただ、観想的生活を目指すなら、知性を磨くためのよい習慣を身につけることは忘れないようにな。

 

KEYWORD 習慣

アリストテレスは、人間の徳を「知性的徳」と「習性(倫理)的徳」の2つに分けた。「知性的徳」は教育や学習によって身につくモノである。一方、「習性的徳」は、感情や欲望を統制するモノで、これは、日常の繰り返し(習慣)によって得られるとした。

 

実況 おっと、ニートさんが部屋にこもって、ダラダラ哲学をするという結果になってしまいました。

 

解説 まあ、私も哲学をやっていますが、ときどき変人扱いされたりしますんでね。大学の哲学科を出ると就職も厳しいなんて話もあります。もちろん、人によりますが!

 

実況 ニートさんも将来、哲学に目覚めて、なにかの目的を達成するかもしれません。

 

【解説】世界は目的をもって動いている

師匠プラトンの説を論破しようとしたアリストテレス

プラトンの弟子のアリストテレスは、師匠プラトンの考え(イデア論)を批判しました。そしてプラトンのつくった学校(アカデメイア)を去ったのです。プラトンは、「アリストテレスはまるで仔馬が生みの母親を蹴り倒して去っていったようだ」といったとかいっていないとか…。

 

師匠を批判したアリストテレスですが、今日では「万学の祖」と呼ばれています。彼は自然学(今でいう自然科学など)を研究・整理整頓し、政治学、弁論術、詩学、論理学、形而上学…などを1人で体系的につくったのでした。

 

アリストテレスの唱えた「キング・オブ・哲学」とは

アリストテレスの考えのなかでも注目すべきなのは、形而上学です。これは存在の仕組みについて考えるものであり、第一哲学と呼ばれています。いわば「キング・オブ・哲学」なのです。なぜ「存在の学」形而上学はここまで重視されるのでしょうか?

 

それは「存在」があらゆる知識・学問の根本にあるからです。「存在」以外の知識は、そのジャンルについて研究すれば得られるものですが、「存在」はその根底にあるものです。実際、この「存在」について考える形而上学は、今日の物理学・化学など、幅広い学問に影響を与えています。

 

すべての存在は「目的」を目指して動いている?

形而上学のキーワードとして「形相」(エイドス)と「質料」(ヒュレー)があります。アリストテレスは自然界に存在するすべてのものは、材料である「質料」が、設計図である「形相」によって変化してできていると考えました。これにより、プラトンが唱えた「現実世界を越えたイデア」の存在を否定したのです。

 

この考え方によると、たとえば「質料」としての鉄は、「形相」によって金槌や釘に変化します。言い換えれば、「鉄は金槌や釘になるために変化している」と考えられたのです。このように、「あらゆる物事は目的をもって動いている」という考えを目的論的世界観と呼びます。

 

人生の「究極の目的」とは

私たちの生活もまた、因果関係とさまざまな目的でつながっています。筋トレは健康のため、健康は仕事のため、仕事はお金のため、そして、お金はまわりまわってフィットネスクラブの会費を払うため…。よく考えると、人生とは堂々巡りです。しかしアリストテレスは、そういう堂々巡り的な生き方は虚しいと述べ、もっと大きな目的があると説きました。このような難題について考えることを、アリストテレスは「観想」すると表現し、「観想的生活」を勧めたのでした。

 

 

【書籍紹介】

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「唐揚げ記念日」から「サラダ記念日」になった言語学的理由とは? 「ことば」の達人たちと言語学者が対談~注目の新書~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。文章を書く仕事をしていると、どう表現するか細かいことにも悩みます。「ようやく春が来た」と「春がようやく来た」では、同じようでいて感じ方はかなり異なるでしょう。単語にしたって、ラーメンを「拉麺」と書くか、「らぁめん」にするか、はたまた「中華麺」にするか、意表を突いて「ヌードル」か……。一語一語、こだわりだしたらきりがありません。

 

世は言語学ブーム。私が思うに、文字数制限がある旧Twitterのように、比較的短い言葉で真意を伝える必要があるSNSの影響で言葉について考える人が増えたのかな? と思うのですが、いかがでしょうか。

 

ラップを愛する言語学者による対談集

さて、今回紹介する新書は日本語の秘密』(川原繁人・著/講談社現代新書)。著者の川原繁人さんは言語学者で慶應義塾大学言語文化研究所教授。主な研究分野は、人間が音をどのように操っているか。著書に『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む~プリチュワからカピチュウ、おっけーぐるぐるまで~』(朝日出版社)、『言語学的ラップの世界』(東京書籍)などがあります。

 

「唐揚げ」が「サラダ」になった理由とは?

本書は、4人の「ことば」のプロたちと川原さんの対談をまとめたもの。最初の章「言語学から見える短歌の景色」には、歌人・俵万智さんが登場します。

 

俵さんといえば「サラダ記念日」。「この味がいいね」とかつての恋人に言ってもらったのは、実はカレー風味の唐揚げだったと明かされます。しかし、唐揚げではなんだか重くて、嬉しさや前向きさがモチーフになっている歌に馴染まない。そこで、爽やかで軽い語感のサラダにしたそうです。季節も「七月」のほうがいいと考えた俵さん。

 

それを受けて、「『サラダ』の[s]との頭韻を意識して『七月』を選んだ、ということですね」と川原さん。

 

サラダはもともと明治時代には「サラド」と発音されていて、それが「サラ」の母音に引きずられて最後の文字が「ダ」に変わったのだろうという「母音調和」説にも、なるほどと思いました。

 

「サラダ」という言葉は、爽やかで調和している料理(サラダ)の本質を体現していて、そこに歌人である俵万智さんの感性が反応した、ということなのかもしれません。

 

第2章では、ラッパーのMummy-Dさんとともに、日本語がラップに向いていないと言われてきた理由を掘り下げ、その対策のためにラッパーたちが編み出した工夫が解説されます。

 

第3章では、声優の山寺宏一さんの声を音声学的に「解剖」してその秘密に迫り、第4章では言語学者で小説家の川添愛さんと言語学の楽しさと難しさ、言葉とAIの関係性などについて語り合います。

 

特に山寺さんの章では、発声時にどのように筋肉や器官を使って多彩なキャラを演じ分けているかがデータから分かります。『らんま1/2』の響良牙の声を出すときに喉頭が高めの理由は……。『アンパンマン』のジャムおじさんの声が少し鼻声になっているのは……。声優ファンには読み応えある内容です。

 

言語学の究極の目的は「ヒトを知ること」であり、それは「自分を知ること」と川原さん。どの言葉を使い、どういった表現をするか。それは時として内容以上に重要な本質を伝えているのです。

 

【書籍紹介】

日本語の秘密

著者:川原繁人
発行:講談社

気鋭の言語学者が「ことばの達人」に出会ったら――。思わず誰かに話したくなる、日本語の魅力とことばの楽しみ方が満載の対談集!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

もしも、ニーチェとさとり世代がディベートしたらどうなる?『「そこそこ」で生きるのは悪いこと?』哲学者と現代人がガチバトル!

現代人の気になるテーマを哲学者とディベートしたらどう答えるのか? そんな全く新しい哲学入門書『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』(富増章成・著/GAKKEN・刊)。今回は本書から抜粋して『「そこそこ」で生きるのは悪いこと?』をテーマに、さとり世代とニーチェのディベートを紹介します。

 

ニーチェとさとり世代には実は共通点も…?

さとり世代 『そこそこ』のなにが悪いんですか? 今の世界を見れば、ムダにエネルギー使って生きる意味なんかないのは当然でしょう…。もう定時なんで帰っていいですか?

 

ニーチェ まぁまぁ、ここは会社ではないのだから待ちたまえ。君はなぜそう思うんだい?

 

さとり世代 ニーチェさんはご存じないかもしれませんが、今の日本はもう仕事で頑張っても報われるとは限らないんですよ。趣味に生きたところで、いつか飽きちゃうかもしれない…。この世に絶対的に信じられるものなんてないんだから、一生懸命なにかに打ち込むなんて、コスパが悪いんですよ。

 

ニーチェ ふむ…確かにそうかもしれない。『この世界に絶対的に信じられるものがない』、それは私も同感だよ。

 

さとり世代 え? そうなんですか?

 

ニーチェ そうとも! 少し聞いてくれ。昔から、人々は神のような絶対的存在を信じていたのだ。ただな、それは神を信じていると自分に力が湧いてくるから、そう信じたかっただけなのだよ。人間は、自分が信じれば力が持てることを信じたいものだ。その意味では、神なんて最初っからいなかったんだよ。これを私は『神は死んだ』と表現したのさ。いわば君のような考えの先駆者というわけだ。

 

KEYWORD 神は死んだ

ニーチェは、神に代表されるような、これまで絶対的だと思われていた価値観は、人間の欲望によってつくり出されていたのだと唱えた。

この考え方は、「世界には神という最高の価値がある」という西欧のキリスト教文化圏の価値観に大打撃を与えた。

 

さとり世代 あれ? それってつまり、僕の考え方はニーチェさんと同じだということですよね。だって、世界には絶対的な価値観がないということですから。

 

ニーチェ まぁ、そこに異論はないよ。君は私が広めたニヒリズムの思想をもっているのだね。

 

KEYWORD ニヒリズム

絶対的な存在がこの世界に存在しないということは、神などの絶対的価値観も存在せず、精神的なよりどころとなる人生の答えもない。これをニヒリズムという。ニヒリズムにおいては、すべての価値観は崩壊するので、人間は意味も目的もない人生を送ることになる。

 

さとり世代 確かにニヒリストなんて言い方がありますよね。なにかに期待したせいで、それが叶わないと自暴自棄になってしまう人もいます。だったら、最初からなにも期待せず、『そこそこ』で生きていたほうがまだマシじゃないですか?」

 

実況 知ってか知らずか、さとり世代さんはニーチェさんの考え方に通ずる部分があるようで、説得力がありますね。

 

解説 そうですね。ニーチェさんの哲学はキリスト教の価値観に大打撃を与えたわけですが、日本は最初からキリスト教国家ではないので、『絶対的な価値観』など意識しない人が多いのかもしれません。ありのままにあることを受け入れるのが、古くからの日本の思想ですからね。

 

実況 なるほど。もともとニヒリズム的な悟りを開いているさとり世代は、『神は死んだ』的な価値観と相性がいいのかもしれません。さあ、両者のニヒリズム的な対決は、どのようなゆくえをたどるのでしょうか。

 

ニヒリズムには2つの方向がある

ニーチェ 私は単に『神は死んだ』といったわけじゃない。それに対して、ちゃんと対処法も説いているんだよ。気になるのは、君の『そこそこ』で生きていければいいというところだ。君自身、本当にそういう人生でいいと思っているのかね?

 

さとり世代 そうです。『そこそこ』で生きることこそが、無意味な人生を楽に乗り切っていける最良の方法です。

 

ニーチェ 本当にそうかな? ここでひとつテストをしてみよう。君が死んだあと、再びまったく同じ人生を繰り返したとする。そうして君は永遠に同じ人生をループするんだ。そうなった場合、君は毎回、今の『そこそこ人生』を選ぶかい?

 

さとり世代 ええ、なんですかその設定!? 人生をもう一度繰り返すなら、金持ちイケメンに転生して無双したいんですけど…。

 

ニーチェ まぁ誰しもそう思うだろう。しかし、もう一度いうが、これは君自身の今の人生について見つめ直すための一種のテストなんだ。考えてみてくれ。

 

KEYWORD 永遠(永劫)回帰

ニーチェは、この世界が何度もまったく同じ形で、寸分の違いもなく繰り返されるという一種のモデルとして「永遠回帰」を提示した。この考え方では、自分自身も地球も宇宙も同じことを永遠に繰り返すとされた。「永遠回帰を肯定できるか否定するのか」を考えることは、「自分の人生全体を肯定できるのか、否定するのか」が問われるという、一種のテストになる(これは永遠回帰の解釈のひとつである)。

 

さとり世代 今の人生が永遠に何度もループするんですか…それは嫌かもですね。

 

ニーチェ 何度もこの人生を繰り返したくないということは、君が『この人生の過ごし方がベストではない』と自覚しているということにならないかね?

 

さとり世代 それは…そうかもしれませんが…。

 

ニーチェ 実はニヒリズムの捉え方には2つの方向があるんだ。ひとつは消極的ニヒリズム。もうひとつは積極的ニヒリズムだ。君のは、消極的ニヒリズムだね。それだと、ずっと人生を投げやりに過ごすことになるが、本当は君もそれを望んでいないのではないか?

 

KEYWORD 積極的ニヒリズム・消極的ニヒリズム

ニーチェは、ニヒリズムには「積極的」なものと「消極的」なものがあるとした。無意味な人生を肯定的に受け入れれば積極的ニヒリズムとなり、投げやりな人生だと捉えれば消極的ニヒリズムとなるという。

 

実況 ニヒリズムには、それをどう解釈するかで、積極的な方向と消極的な方向があるようですね。しかし、人生は無意味であるということを受け入れるのが、なぜ積極的になるのかはまだわかりませんね。

 

解説 そうですね。その鍵は、ニーチェさんが握っているようです。

 

弱者は強者に勝つために価値観を捻じ曲げている

ニーチェ 実は、人間は『より強いものになりたい』とか、『より進んだものになりたい』といった『力への意志』をもっているのだ。

 

さとり世代 力への意志…ですか。でもさっきもいいましたが、今の世の中ではそんなものもったところで裏切られるだけで…。

 

ニーチェ それだよ! 人間は、力への意志(より高い価値を生み出そうとする意志)に従って、より強いものになろうとする。しかし、現実的には挫折することが多い。そこで、こう考えるのだ。『本当の自分は優れているのだが、社会が悪くて実力が発揮できない』とか『本当の自分は、今の環境でなければもっとよいポジションにいる』とかね。要するに、現実で挫折すると、それに理由をつけて正当化し、想像のなかで勝とうとするのだ。これをルサンチマン(怨恨感情)というんだよ。

 

KEYWORD ルサンチマン(怨恨感情)

ニーチェは、キリスト教の「貧しき者は幸いである」「苦しむものは天の国へ入る」といった考え方は、実は弱者が強者に勝つために価値観を捻じ曲げているのだと唱えた。ニーチェによると、こうした弱者から強者へのルサンチマン(怨恨感情)によって、キリスト教に限らず、あらゆるところで道徳が捻じ曲げられ、善悪の基準として働くという。「貧しい自分は善で、金持ちのあいつは悪だ」といった考え方がその代表例であり、ニーチェはこうした考え方を「奴隷道徳」と呼んだ。

 

さとり世代 ということは、『人生そんなに頑張っているなんてムダで、そこそこテキトーに生きるのが本当の生き方だ』って考えるのも、ルサンチマンなんですか?

 

ニーチェ そうかもしれない。もっとも、先ほどの永遠回帰の話では、君のその考えは本心ではなさそうだったがね。

 

さとり世代 でも、一生懸命に生きたところでムダに終わるかもしれないというのは、多くの人が本当に不安に思うことですよ。

 

ニーチェ どうせまったく無意味に過ごす気はないのであれば、むしろ全力で生きてみたらどうかね? 頑張って失敗することも、期待して裏切られることも、すべてを含めて『これが自分の人生だ』『いろいろあったが、この人生をもう一度やり直すのも悪くない』と思えるように全力で生きるほうが、むしろいいのではないか?

 

さとり世代 そうでしょうか…そんなふうに生きたところで、大半の凡人はなにもなしえずに死んでいくんですよ。それこそニーチェさんと違って。

 

ニーチェ いやいや、私なんて世間から見向きもされとらんよ。親友の音楽家(ワーグナー)とは決別だし、妹と喧嘩して険悪だし、恋する人に振られるし、書いた本も売れとらん…。

 

さとり世代 ええ、そうなんですか? なかなかハードな人生ですね。僕より大変かも…。

 

ニーチェ そうさ。あまり知られておらんがね…。だが、私は、たとえつらいことがあっても、今この瞬間を肯定することが大事なのだと思う。君は、『この瞬間だけは肯定できる』という経験はなかったのかい?

 

さとり世代 えぇ…? まぁ小さいころとかは、あったような…。

 

ニーチェ ほうほう! 聞かせてくれ。

 

さとり世代 僕…ピアノを習ってたんですけど、はじめてコンサートで弾きたい曲をちゃんと演奏できたときは、嬉しかったかも…。僕よりうまい人なんてたくさんいたんで、やめちゃいましたけどね。

 

ニーチェ いいじゃないか。大人になるとみな、失敗や人の目を恐れるようになる。しかし、あらゆる失敗や挫折をしたとしてもいいと思って、すべてを肯定するのだよ。人間は、そうやって力強く生きるべきなんだ。

 

KEYWORD 超人

ニーチェは、最高の価値としての「神は死んだ」ので、人間自身が神になって新しい価値を創造するしかないと考えた。そして自ら価値を創出する存在を「超人」と表現した。この超人とは未来に出現する存在であり、人間は超人を理想としながら、逆境をものともせず、むしろ逆境を肯定して力強く生きるべきだと唱えたのだ。

 

 

さとり世代 なるほど…。もっとうまい人がいようが気にせず、ただ夢中でピアノを弾いてるだけでもよかったのかな…。

 

ニーチェ そうとも! 私だって本はまったく売れていなかったが、おかげで今日こうして君と話せたんだ。今の瞬間がどんな状態であれ、自ら価値を創造して積極的に生きていこうじゃないか。

 

【ちなみに】

ニーチェは『ツァラトゥストラはこう語った』を著したが、これはまったく世間から認められなかった。後にニーチェは発狂したが、それに反して、徐々に名声が高まっていった。リヒャルト=シュトラウスによる交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』も、この書籍にインスピレーションを受けて作曲された。

 

実況 失敗も含めて人生を肯定するというのは、なんだか勇気が湧いてくる内容ですね。

 

解説 そうですね。『どうせうまくいかないんだから』と考えるよりも、『それも含めて自分の人生だ』と受け入れることこそが、積極的なニヒリズムといえるのでしょう。

 

【解説】たとえ苦しみが繰り返されても、それさえ肯定して生きよう

それまでの哲学をまるごと論破した男、ニーチェ

ニーチェは、それまでの哲学を全部ひっくり返してしまうような、新しい思想を説きました。それまでの哲学では、「絶対的・普遍的真理」を追求することが主流でした。しかしニーチェの考え方はこれを否定するもので、「この世に真理などない。人々は自分が信じたいことを真理と思っているだけだ」と暴露し、これを「神は死んだ」と表現したのです。

 

「唯一絶対の価値観が存在しない」となれば「物事に本質的な価値はない」ことになり、世界に意味も目的もありません。このような考え方をニヒリズムといいます。しかし、キリスト教が絶対的な価値観とされていたヨーロッパでは、こうした考えは当初ほとんど受け入れられませんでした。

 

相対主義を進化させたニーチェの考え方

ニーチェは、ギリシア哲学以来の相対主義に、さらに遠近法(パースペクティブ)の考えを取り入れました。そして、「人は自分にとって見たいものを見ており、自分が力強く、気分よく生きられるようなものを、『正しい』と信じ込んでいる」と唱えたのです。

 

これは、単に「人によってものの見え方が異なる(人それぞれ)」といっているのとはひと味違います。ニーチェは、このようになにかを「正しい」と解釈させる力を「力への意志」と呼びました。これは、今の自分を乗り越えて、より力強い存在になりたいという根源的な意志なのです。

 

絶対的な価値観がないなら、自分でつくればよい

人間のあらゆる思考や言動は、なんらかの基準や価値評価というフィルターを通過した後に出力されたものです。これは道徳的な言説であっても、学問的な言説であっても同じことです。ですから、「なにが道徳的に正しいか」は時と場合で変わりますし、「なにが学問的に正しいか」も、人間の認識や解釈の仕方でわかれることがあります。

 

しかし、ニーチェは「なにも正しいことなどない」というニヒリズムと対峙して、これを克服しようとしました。「最高の価値・目的が存在しない」ならば、人生に自ら新しい価値を与えればよいわけです。これは、「絶対的な価値がないから、なにもやる気が起きない」というような「消極的ニヒリズム」とは異なり、「積極的ニヒリズム」と呼ばれるものです。

 

「超人」を目指して力強く生きよう!

ニーチェは、自ら価値を創出するような人間になろうと呼びかけます。これを彼は「超人」と呼びました。超人はいかなる逆境にも負けず、むしろ逆境すら肯定して生きていきます。

 

ニーチェは「苦しみも含めて、人生が何度も繰り返される」という永遠回帰の考え方を示し、それでも強く生きる人間の登場を期待したのです。人生のすべてを肯定する思想を追求したニーチェは、後にその価値が認められて、現代の思想に大きな影響を与えたのでした。

 

【書籍紹介】

21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0

著者:富増章成
発行:Gakken

現代人の疑問、哲学者ならどう答える!?新感覚の哲学書。悩みながら生きる人はみな立派な“哲学者”だー現代人も、歴史上の哲学者も、対等に考え、討論する。全く新しい哲学入門、ここに誕生。

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DIY未経験だったノンフィクション作家・川内有緒さんが語る「小屋作りの楽しさ」

ノンフィクション作家の川内有緒さんが、山梨県に小屋を作る過程を記した、モノづくりエッセイ『自由の丘に、小屋をつくる』。東日本大震災をきっかけに、既存の価値観に疑問を抱き、自分の無力さも自覚。子どもが出来たことでその思いが深まり、この困難な時代を娘が生き抜くために自分にできることは何なのかを考えた末にたどり着いたのが、「小屋を作る」こと。もともと不器用でモノづくりが苦手だったという川内さんが、実家のDIYリノベ―ションを経て、山梨の丘に土地を見つけて小屋作りに向かうまでの過程を伺いました。

 

川内有緒●かわうち・ありお…ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。行き当たりばったりに渡米したあと、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学大学院で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(集英社インターナショナル)でYahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督も務める。公式サイト公式X

 

【川内有緒さん撮り下ろし写真】

 

自分でこれはどうやるのかを考えたときに、初めて主体的な学びがあった

──昨年10月に発売した最新刊『自由の丘に、小屋をつくる』は、どういう経緯で執筆したのでしょうか。

 

川内 もともとは『熱風』(スタジオジブリ出版部)という雑誌から「何か書きませんか」というお話があって、1回だけ旅に関する長めのエッセイを書いたんです。その後も「何かやりたいですね」ということになって、雑談しているうちに「今、小屋作りをやっている」とお話したら、「それをやりましょう」と言ってくださって「丘の上に小屋を作る」という連載が始まりました。

 

──連載開始当初は、どれぐらい小屋作りが進んでいたんですか。

 

川内 そのときは影も形もなくて、実家のリフォームもやる前でした。この本には収録されていないんですが、土地を探している段階が長かったんです。そういう話も連載では書いていたんですが、本にするときに全部省略しました。

 

──連載当初は実際に小屋が完成するかどうかも分からないですよね。

 

川内 そういう状態だったので、連載も不定期がいいんじゃないかと言ってくれて、何かが起きたら書けばいいということだったので、それだったらやれるかもということで、2か月から3か月に1回だけ、長い原稿を書いていくというのを繰り返していました。

 

──リアルタイムだからこそ、記述も詳細なのでしょうか。

 

川内 それもありますし、文字数が多くて大丈夫だったので、細かく書ける余裕があったんですよね。後から振り返って書いていたら、こんなに細かく書かなかったかもしれないですね。

 

──もともとDIYなどの物作りは苦手だったんですよね。

 

川内 得意じゃないし、好きでもないし、むしろ避けてきたところがあって、自分がやらなくても済むことはやらないまま生きてきました。フィールドワークは結構やってきたんですけど、仕事はパソコンの中で完結しますし、何かを作るのは自分の中で苦手意識がありました。モノづくりができる人への憧れみたいなものはすごくあって、克服というほど大袈裟なことではないけど、小屋を作ろうと。

 

──なぜ小屋作りだったのでしょうか。

 

川内 娘が生まれたのもあって、「買う」ではなく「作る」という新たな選択肢を手に入れられたら、自分たちの生き方にも変化が生まれるかもしれないと思ったんですよね。

 

──その第一歩を踏み出すハードルが高いですよね。最初は木を真っすぐ切るだけでも苦戦しますし。

 

川内 最初は何も分からないので、「木を切る……」って感じですよね。だから手始めに娘の机を作ろうと思って、早稲田の「DIYがっこう」という場所に通いました。木はこういう道具で切るんだとか、木を直角に切るのって難しいんだとか、そういうところから始まって。いっぱい失敗しながら、ちょっとずつ習得していきました。

 

──男子は小学・中学で技術の授業がありますけど、女子はのこぎりなどに触れる機会はなかなかないですからね。

 

川内 そういうことを覚えなくても生きられるんですよね。お金で買えばいいわけだから、必要があるのかないのかを聞かれたら、ないんだけど、いざ覚えてみたら、これは全員が習得していい技術なんじゃないかなと思いました。スマホやパソコンと同じように使えることができたら、いろんなことが楽になる技術なんですよね。

 

──日常生活でも普通に活かせる技術ですからね。

 

川内 誰の生活にも直結しているんだけど、できないと思うと、誰かにやってもらわなきゃとか、お金を払わなきゃとなります。でも、ちょっと覚えたら、いろんなことができるんです。

 

──DIYがっこうはどんなところだったんですか。

 

川内 工房に家具職人の先生的な方が一人いて、聞けば何でも教えてくれるけど、一から教えますよっていう訳じゃなくて、それが個人的にすごく良かったんです。ただ教えられたことをやるって、おそらく身につかないんですよ。自分でこれはどうやるのって考えたときに、初めて主体的な学びがあって。あえてDIYがっこうがそうしていたのかは謎なんですけど、「ここがどうしても分からないんですけど」と聞くと、「こうするといいですよ」と快く何でも教えてくれるんです。この本には出てこないんですが、最後は大きな建具も作っていたんですよ。それぐらい大きいものだと少し計算が狂うだけでも後で大変になるので、「正確に作りたいんです」と言うと、そのやり方も教えてくれました。

 

──事前にそういう学校だと知っていたんですか?

 

川内 全く分からなかったです。DIYがっこう自体が始まったばかりで、開校して1、2か月でやってきたのが私だったらしくて、向こうも試行錯誤していたんだと思います。DIYがっこうは途中でなくなったんですけど、私は最初から最後までいました。トータルで2年ぐらい通ったんですが、土地を探しながら、いろんな家具だの建具だのを作り続けて、小屋の建前をやる頃も通っていました。今振り返ると、いろいろなことを学びましたね。

 

実家のDIYリノベ―ションをやったのが大きかった

──『自由の丘に、小屋をつくる』を読んでいると、ここぞというタイミングで手伝ってくれる人やアドバイスしてくれる人が登場する印象で、まるでマンガのようでした。

 

川内 DIYがっこうに通っていたときは、コツコツ自分一人で作るのかなと思っていて、「一人で家を建てました」みたいな本もたくさん読んでいたんです。こういうふうに孤独に耐えながら作るのかな、みたいな未来をイメージしていたんですが、本当にどうしていいのか分からない。そしたら夫の友人で一級建築士のタクちゃん(皆川拓さん)が最初に現れて、いろいろ教えてくれて。他にも本には出てこないんですけど、私はアーティストの知り合いが多いから、方々で小屋作りをしたいと言ってたら、いろんなことを周りが教えてくれるんですよね。

 

──仕事柄、いろいろな職業の方と知り合う機会も多いですしね。

 

川内 小屋作りの前に、恵比寿にある実家のDIYリノベ―ションをやったのも大きくて。都心だから、手伝いに来てくれる人がいて。全然意図してなかったんですけど、そこに来た人たちが、その後の小屋作りにも来てくれるきっかけになったんです。

 

──なかなか自分から踏み出せないけど、潜在的にDIYをやりたいって人は多いんでしょうね。

 

川内 そうだと思います。本気でやりたいわけじゃないし、道具を揃えるのはハードルが高いけど、ちょっと手伝ってみたいという人は多くて。DIYリノベ―ションの後も、実際に来る人は限られていたけど、手伝いたいと連絡をくれる人はたくさんいました。

 

──一日体験みたいな感覚なのかもしれないですよね。

 

川内 例えば、お金はないけど、家をリフォームして綺麗にしたい人がいたら、どんどんやったらいいんですよ。大工さんにちょっとした謝礼を支払えば、やり方を教えてくれますし、材料を揃えて、手伝ってくれる友達を3人ぐらい集めればできるんです。

 

──土地探しは難航しますが、2017年2月、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、フリーランスの編集者/ライターの小野民さん夫妻の紹介で、山梨県甲州市に理想の場所が見つかります。

 

川内 本当に運が良かったとしか言いようがないです。ヒラクさん一家が山梨に移住して1年後ぐらいのタイミングだったのかな。たまたま使っていない土地が家の近所にあるから、そこを使っていいというお話で。土地を放っておくと、見た目もよくないし、草木が繁茂して、虫が増えたり、獣が来たりするから、集落の人たちも土地の手入れをしていてほしいんですよね。

 

──地元の人たちにあいさつ回りなどはしたんですか。

 

川内 しなかったんですけど、地元の方はヒラクくん一家を知っているから、みんな声をかけてくれました。それに周りも自分で家を作った人たちがいたんですよ。近所にカフェがあるんですけど、そこもセルフビルドで建てていて。いろんなアドバイスをしてくれて、皆さんよくしてくださいます。近所の人に「うるさくてごめんなさい」と言ったときも、「賑やかでいいわね」って言ってくれました。

 

──イノシシとかは出ないんですか。

 

川内 いるみたいですけど、まだ見たことはないですね。山の中にある集落なので、すぐそこは山だけど、民家もあって開けているんです。

 

──夫婦でお仕事をして、子育てもあって。山梨に行くのも大変じゃないですか。

 

川内 大変ですね。小屋作りを始めた頃は、娘も2歳とちっちゃかったから、娘を連れてどこかに行くだけでも疲れるオペレーションで。娘を手伝わせるのも難しいから、2日間あったら、1日は作業で、1日は遊びという感じで、遊びを兼ねて行ってました。

 

──車じゃないと行けない場所なんですか。

 

川内 そうですね。でも東京から車で行くと、あまりに渋滞がすごくて……。何回も何回も渋滞に巻き込まれて、もう二度と行きたくないって思うんですけど、何か月かすると忘れて、また渋滞に巻き込まれて嫌気がさすというのを繰り返して。今は杉並区に引っ越したので、山梨も近くなりましたし、いろんな行き方を試した結果、ゴールデンルートも見つかりました。そんなことをやっているうちに電車って素晴らしいと思って、電車のことが大好きになりました(笑)。

 

──山梨を生活の拠点にする選択肢はなかったんですか。

 

川内 地方への移住は考えてなかったんですよね。あくまで小屋を作る遊びをしてみたかったんです。

 

──小屋の中にはどれぐらいの人数が泊まれるんですか?

 

川内 そんなに入れないです。6畳ですから、家族3人プラス1人ぐらいですね。

 

──個人的にトイレ作りを記した章が大好きなんですけど、やっていて楽しかった作業は何ですか。

 

川内 トイレ作りの章は、本を読んだ方から人気がありますね。ただ、どの作業もだんだん楽しくなるんですよ。ゼロから1を立ち上げていくのが、道具もないし、材料も分からない、やり方も分からないで、一番疲れるパートなんです。作業はもちろん、暑い、寒い、渋滞など、いろんなことが初めての経験で本当にしんどくて。でも最初はやる気があるから乗り切れて。建前が終わった後は、ずっと楽しいです。建前が終わると、屋根は急ぎましたけど、あとは積み上げていけばいいので、そこまで急いでやらなきゃいけない作業ってないんですよ。

 

──完成までの期限も決めてないんですよね。

 

川内 決めなかったですよね。決めると、それに合わせなければいけないので、仕事みたいになって疲れるじゃないですか。だからそういうことは考えずに、来週は山梨に行けるから何をやろうか? みたいな。

 

小屋作りや草刈りなど一日中、肉体労働をすると元気になる

──モチベーションが落ちることはなかったですか。

 

川内 何回も投げ出そうとしました(笑)。行ったけどモチベーションが上がらない日もあって、小屋に着いたけど何もやりたくない。でも誰かしらが手伝いに来るので、「今日はやる気が起きなくて」と言うと、「じゃあ休んでいればいいじゃないですか」と。私がいなくても、自走が始まっているんですよ。「別に有緒さんは何もやらなくていいんじゃないですか?」みたいに言われることもあります(笑)。

 

──連載に逐一、途中経過を記しているのも大きかったのではないでしょうか。

 

川内 確かに書くこと自体がモチベーションになるっていうのもあって。書くためにやる訳じゃないんだけど、書こうと思うと、「じゃあやるか」みたいなときもありました。ただ、こんなに長期間、連載をするなんて連載を頼んだ編集者も想像していなかったと思うんですよね。私自身、不定期連載といっても、せいぜい5、6回、1年ぐらい書いて終わるだろうと思っていたのが、1年経っても小屋の影すら見えずで、仕事が忙しい、コロナ禍でいろいろあってとか言ってるうちに、気付けば約5年の長期連載。連載が終わった時点で、文字数は30何万字とかあったんですよ。本にする際に15万字ぐらいにしなければいけなくて、書き下ろしだったら、こんな文字量にはなっていなかったですね。

 

──今も小屋作りは継続しているんですよね。

 

川内 そうなんです。行くと、これやらなきゃなっていうことがいっぱいあって。

 

──ホームセンターは近くにあるんですか。

 

川内 一番近いところだと車で10分ぐらいの場所にあります。「コメリ」と「ナフコ」という2つのホームセンターがあって、大きなものが必要なときはナフコに行って、ビス程度のちょっとしたものはコメリに行ってます。

 

──道具などへのこだわりはありますか?

 

川内 全くないです。マキタはかっこいいな、くらいで。そもそも何に関してもこだわりの少ない人間なんですよね。

 

──夫の川内イオさんもそうなんですか。

 

川内 彼もざっくりした人です。ざっくり同士で、お互いに細かいことを言わないから、事前に話し合わなくても大丈夫なんですよ。いつも彼がホームセンターに行ってくれるんですが、例えば無色透明の塗料を頼んだのに、全く違うものを買ってきちゃったりするんです。でも「これじゃないんだけど、まあいいや」って一瞬で受け入れて、一部の壁の色がちょっと違う色になったりして。手伝いに来てくれた人から、「なんてこだわりがない人たちなんだろう。だからやっていけるんですね」と言われます(笑)。

 

──お子さんは山小屋を気に入っているんですか?

 

川内 気に入っていると思いますよ。毎回一緒に行きますし。それにヒラクくんの娘さんがうちの子と半年違いで、すごく仲が良いので、ずっと一緒にいたがるんですよ。1歳のときから定期的に遊んでいて、一緒に小屋の中で過ごしたり、お散歩に行ったりして、従姉妹みたいな関係なんですよね。山小屋のヒラクくんの家が徒歩で1、2分で行けるので、距離感もいいんです。

 

──都会からIターンした人が、地元の人とトラブルになるって話もよく聞きますけど、ほどよい距離感ですよね。

 

川内 住んでいる人の数が少ないということもあります。ヒラクくん一家は定住していますけど、隣の家の人も二拠点生活で、たまにしか来ないし、反対側にある家も住んでいなくて、畑しか使ってないんです。東京から近いので、地元の人たちも外から来る人を受け入れてくれて、ほのぼのしていますね。

 

──小屋作りを始めて、仕事のスタンスに変化はありましたか。

 

川内 仕事って永遠にできちゃうから、この週末は小屋作りをするから仕事をしないって決めると休みになりますよね。山梨では小屋作り以外にも草を刈るなどの作業が一日中あるんですけど、肉体労働をすると逆に元気になるんです。私の仕事は、やたらと移動は多いですけど、あまり体は動かしません。だから、たまに肉体労働をするとヘトヘトになりますが、とにかく体を動かしているから、東京に帰ってくると疲れたなと思いながらも、何かエネルギーが湧く感じがします。

 

toolboxの商品は初心者でも簡単におしゃれなDIYができる

──東京でDIYをすることはあるんですか。

 

川内 ありますよ。ただ家具を作るにしても、東京は場所がないので、工房に行くなり、なんなりしないと作業が難しいんですよね。ただ実家のリフォームがまだ続いていて、昨年も私と妹が使っていた部屋を、妹が事務所として使いたいということで、床を張り直して、壁を綺麗にしたんです。

 

──床の張り直しって難しくないんですか?

 

川内 今はすごく簡単なんですよ。DIYはどんどん進化していて、企業もDIYをやる人たちに寄せてきているから、簡単にできるものがたくさん売っているんです。インパクトドライバーとかもいらないですし、ノコギリさえあればできるという床張り用の資材が売っていて、すごく綺麗にできますよ。業者がやった床張りと比べても遜色がないです。

 

──とはいえ初心者は苦戦しそうですが。

 

川内 手で押しながらパチッとはめると、ロックされる商品なので、端っこの処理は難しいけど、そこを測って正確に切るというスキルさえあれば問題ないです。正確に切るスキルも、すぐに覚えられるから、誰でもできるんですよ。私がお勧めするのはtoolbox(ツールボックス)の商品です。

 

──toolboxというと?

 

川内 「東京R不動産」という不動産会社がDIYを推奨していて、そこが手がけているシリーズです。すごくおしゃれで、そこまで高くない商品がたくさん売っていて。目白にショールームがあるので、そこに行って商品のお話を聞くこともできます。私は初めての床張りのときは、インパクトドライバーを使って本格的にやったんですが、toolboxの商品だとインパクトドライバーすらいらないですし、時間もせいぜい半日ぐらいで完成します。ホームセンターで揃えるとゼロからやらなきゃいけないけど、toolboxは素人でも簡単におしゃれな家を作れるというコンセプトなんですよね、

 

──プレゼンがうまいですね(笑)。

 

川内 toolboxの回し者じゃないですよ(笑)。ただ一人で作業するのはお勧めしません。3人一組ぐらいで、切る人、はめる人みたいに共同作業でやるのがいいですね。DIYを1人でやっていると、修行みたいで、途中で悲しくなってくるんですよ。だからInstagramとかで「1人でDIYをやってます」みたいな投稿を見ると感心します。一番良いのは2人一組か3人一組。あまり人数が多過ぎても、何もやることがない人も出てきちゃうので手持ち無沙汰になるんです。3人ぐらいいると交代しながらできますし、途中でお茶を飲んだりしておしゃべりするのも楽しいですし。切るスキルにしても、3人のうち1人が持っていればいいんですよ。

 

──DIY初心者でも適材適所でやれることはあると。

 

川内 あります。漆喰を塗るとかだったら子どもでもできます。もちろん完璧にやりたい人は、ちゃんとした業者さんに頼んだほうがいいと思うんです。でもDIYは、作る過程を楽しみたいとか、ちょっとうまくいかなかったところも、味になるし、思い出になるよねみたいな気持ちになれる人にお勧めです。

 

 

(インフォメーション)

『自由の丘に、小屋をつくる』

好評発売中!

著者:川内有緒
価格:2200円(税込み2420円)
発売元:新潮社

 

『自由の丘に、小屋をつくる』刊行記念
『手づくりのアジール』増刷記念
川内有緒×青木真兵「自分で自分の居場所をつくる」

日時:2024年3月8日(金)19:00~(開場:18:30)
場所:隣町珈琲
住所:東京都品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
価格:会場入場料(自由席):¥2,500 オンライン配信(zoomミーティング):¥2,500

※本イベントは会場(隣町珈琲)とオンライン(zoomミーティング)のハイブリットの開催になります。

https://peatix.com/event/3843762

 

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

DIY未経験だったノンフィクション作家・川内有緒さんが語る「小屋作りの楽しさ」

ノンフィクション作家の川内有緒さんが、山梨県に小屋を作る過程を記した、モノづくりエッセイ『自由の丘に、小屋をつくる』。東日本大震災をきっかけに、既存の価値観に疑問を抱き、自分の無力さも自覚。子どもが出来たことでその思いが深まり、この困難な時代を娘が生き抜くために自分にできることは何なのかを考えた末にたどり着いたのが、「小屋を作る」こと。もともと不器用でモノづくりが苦手だったという川内さんが、実家のDIYリノベ―ションを経て、山梨の丘に土地を見つけて小屋作りに向かうまでの過程を伺いました。

 

川内有緒●かわうち・ありお…ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。行き当たりばったりに渡米したあと、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学大学院で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(集英社インターナショナル)でYahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督も務める。公式サイト公式X

 

【川内有緒さん撮り下ろし写真】

 

自分でこれはどうやるのかを考えたときに、初めて主体的な学びがあった

──昨年10月に発売した最新刊『自由の丘に、小屋をつくる』は、どういう経緯で執筆したのでしょうか。

 

川内 もともとは『熱風』(スタジオジブリ出版部)という雑誌から「何か書きませんか」というお話があって、1回だけ旅に関する長めのエッセイを書いたんです。その後も「何かやりたいですね」ということになって、雑談しているうちに「今、小屋作りをやっている」とお話したら、「それをやりましょう」と言ってくださって「丘の上に小屋を作る」という連載が始まりました。

 

──連載開始当初は、どれぐらい小屋作りが進んでいたんですか。

 

川内 そのときは影も形もなくて、実家のリフォームもやる前でした。この本には収録されていないんですが、土地を探している段階が長かったんです。そういう話も連載では書いていたんですが、本にするときに全部省略しました。

 

──連載当初は実際に小屋が完成するかどうかも分からないですよね。

 

川内 そういう状態だったので、連載も不定期がいいんじゃないかと言ってくれて、何かが起きたら書けばいいということだったので、それだったらやれるかもということで、2か月から3か月に1回だけ、長い原稿を書いていくというのを繰り返していました。

 

──リアルタイムだからこそ、記述も詳細なのでしょうか。

 

川内 それもありますし、文字数が多くて大丈夫だったので、細かく書ける余裕があったんですよね。後から振り返って書いていたら、こんなに細かく書かなかったかもしれないですね。

 

──もともとDIYなどの物作りは苦手だったんですよね。

 

川内 得意じゃないし、好きでもないし、むしろ避けてきたところがあって、自分がやらなくても済むことはやらないまま生きてきました。フィールドワークは結構やってきたんですけど、仕事はパソコンの中で完結しますし、何かを作るのは自分の中で苦手意識がありました。モノづくりができる人への憧れみたいなものはすごくあって、克服というほど大袈裟なことではないけど、小屋を作ろうと。

 

──なぜ小屋作りだったのでしょうか。

 

川内 娘が生まれたのもあって、「買う」ではなく「作る」という新たな選択肢を手に入れられたら、自分たちの生き方にも変化が生まれるかもしれないと思ったんですよね。

 

──その第一歩を踏み出すハードルが高いですよね。最初は木を真っすぐ切るだけでも苦戦しますし。

 

川内 最初は何も分からないので、「木を切る……」って感じですよね。だから手始めに娘の机を作ろうと思って、早稲田の「DIYがっこう」という場所に通いました。木はこういう道具で切るんだとか、木を直角に切るのって難しいんだとか、そういうところから始まって。いっぱい失敗しながら、ちょっとずつ習得していきました。

 

──男子は小学・中学で技術の授業がありますけど、女子はのこぎりなどに触れる機会はなかなかないですからね。

 

川内 そういうことを覚えなくても生きられるんですよね。お金で買えばいいわけだから、必要があるのかないのかを聞かれたら、ないんだけど、いざ覚えてみたら、これは全員が習得していい技術なんじゃないかなと思いました。スマホやパソコンと同じように使えることができたら、いろんなことが楽になる技術なんですよね。

 

──日常生活でも普通に活かせる技術ですからね。

 

川内 誰の生活にも直結しているんだけど、できないと思うと、誰かにやってもらわなきゃとか、お金を払わなきゃとなります。でも、ちょっと覚えたら、いろんなことができるんです。

 

──DIYがっこうはどんなところだったんですか。

 

川内 工房に家具職人の先生的な方が一人いて、聞けば何でも教えてくれるけど、一から教えますよっていう訳じゃなくて、それが個人的にすごく良かったんです。ただ教えられたことをやるって、おそらく身につかないんですよ。自分でこれはどうやるのって考えたときに、初めて主体的な学びがあって。あえてDIYがっこうがそうしていたのかは謎なんですけど、「ここがどうしても分からないんですけど」と聞くと、「こうするといいですよ」と快く何でも教えてくれるんです。この本には出てこないんですが、最後は大きな建具も作っていたんですよ。それぐらい大きいものだと少し計算が狂うだけでも後で大変になるので、「正確に作りたいんです」と言うと、そのやり方も教えてくれました。

 

──事前にそういう学校だと知っていたんですか?

 

川内 全く分からなかったです。DIYがっこう自体が始まったばかりで、開校して1、2か月でやってきたのが私だったらしくて、向こうも試行錯誤していたんだと思います。DIYがっこうは途中でなくなったんですけど、私は最初から最後までいました。トータルで2年ぐらい通ったんですが、土地を探しながら、いろんな家具だの建具だのを作り続けて、小屋の建前をやる頃も通っていました。今振り返ると、いろいろなことを学びましたね。

 

実家のDIYリノベ―ションをやったのが大きかった

──『自由の丘に、小屋をつくる』を読んでいると、ここぞというタイミングで手伝ってくれる人やアドバイスしてくれる人が登場する印象で、まるでマンガのようでした。

 

川内 DIYがっこうに通っていたときは、コツコツ自分一人で作るのかなと思っていて、「一人で家を建てました」みたいな本もたくさん読んでいたんです。こういうふうに孤独に耐えながら作るのかな、みたいな未来をイメージしていたんですが、本当にどうしていいのか分からない。そしたら夫の友人で一級建築士のタクちゃん(皆川拓さん)が最初に現れて、いろいろ教えてくれて。他にも本には出てこないんですけど、私はアーティストの知り合いが多いから、方々で小屋作りをしたいと言ってたら、いろんなことを周りが教えてくれるんですよね。

 

──仕事柄、いろいろな職業の方と知り合う機会も多いですしね。

 

川内 小屋作りの前に、恵比寿にある実家のDIYリノベ―ションをやったのも大きくて。都心だから、手伝いに来てくれる人がいて。全然意図してなかったんですけど、そこに来た人たちが、その後の小屋作りにも来てくれるきっかけになったんです。

 

──なかなか自分から踏み出せないけど、潜在的にDIYをやりたいって人は多いんでしょうね。

 

川内 そうだと思います。本気でやりたいわけじゃないし、道具を揃えるのはハードルが高いけど、ちょっと手伝ってみたいという人は多くて。DIYリノベ―ションの後も、実際に来る人は限られていたけど、手伝いたいと連絡をくれる人はたくさんいました。

 

──一日体験みたいな感覚なのかもしれないですよね。

 

川内 例えば、お金はないけど、家をリフォームして綺麗にしたい人がいたら、どんどんやったらいいんですよ。大工さんにちょっとした謝礼を支払えば、やり方を教えてくれますし、材料を揃えて、手伝ってくれる友達を3人ぐらい集めればできるんです。

 

──土地探しは難航しますが、2017年2月、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、フリーランスの編集者/ライターの小野民さん夫妻の紹介で、山梨県甲州市に理想の場所が見つかります。

 

川内 本当に運が良かったとしか言いようがないです。ヒラクさん一家が山梨に移住して1年後ぐらいのタイミングだったのかな。たまたま使っていない土地が家の近所にあるから、そこを使っていいというお話で。土地を放っておくと、見た目もよくないし、草木が繁茂して、虫が増えたり、獣が来たりするから、集落の人たちも土地の手入れをしていてほしいんですよね。

 

──地元の人たちにあいさつ回りなどはしたんですか。

 

川内 しなかったんですけど、地元の方はヒラクくん一家を知っているから、みんな声をかけてくれました。それに周りも自分で家を作った人たちがいたんですよ。近所にカフェがあるんですけど、そこもセルフビルドで建てていて。いろんなアドバイスをしてくれて、皆さんよくしてくださいます。近所の人に「うるさくてごめんなさい」と言ったときも、「賑やかでいいわね」って言ってくれました。

 

──イノシシとかは出ないんですか。

 

川内 いるみたいですけど、まだ見たことはないですね。山の中にある集落なので、すぐそこは山だけど、民家もあって開けているんです。

 

──夫婦でお仕事をして、子育てもあって。山梨に行くのも大変じゃないですか。

 

川内 大変ですね。小屋作りを始めた頃は、娘も2歳とちっちゃかったから、娘を連れてどこかに行くだけでも疲れるオペレーションで。娘を手伝わせるのも難しいから、2日間あったら、1日は作業で、1日は遊びという感じで、遊びを兼ねて行ってました。

 

──車じゃないと行けない場所なんですか。

 

川内 そうですね。でも東京から車で行くと、あまりに渋滞がすごくて……。何回も何回も渋滞に巻き込まれて、もう二度と行きたくないって思うんですけど、何か月かすると忘れて、また渋滞に巻き込まれて嫌気がさすというのを繰り返して。今は杉並区に引っ越したので、山梨も近くなりましたし、いろんな行き方を試した結果、ゴールデンルートも見つかりました。そんなことをやっているうちに電車って素晴らしいと思って、電車のことが大好きになりました(笑)。

 

──山梨を生活の拠点にする選択肢はなかったんですか。

 

川内 地方への移住は考えてなかったんですよね。あくまで小屋を作る遊びをしてみたかったんです。

 

──小屋の中にはどれぐらいの人数が泊まれるんですか?

 

川内 そんなに入れないです。6畳ですから、家族3人プラス1人ぐらいですね。

 

──個人的にトイレ作りを記した章が大好きなんですけど、やっていて楽しかった作業は何ですか。

 

川内 トイレ作りの章は、本を読んだ方から人気がありますね。ただ、どの作業もだんだん楽しくなるんですよ。ゼロから1を立ち上げていくのが、道具もないし、材料も分からない、やり方も分からないで、一番疲れるパートなんです。作業はもちろん、暑い、寒い、渋滞など、いろんなことが初めての経験で本当にしんどくて。でも最初はやる気があるから乗り切れて。建前が終わった後は、ずっと楽しいです。建前が終わると、屋根は急ぎましたけど、あとは積み上げていけばいいので、そこまで急いでやらなきゃいけない作業ってないんですよ。

 

──完成までの期限も決めてないんですよね。

 

川内 決めなかったですよね。決めると、それに合わせなければいけないので、仕事みたいになって疲れるじゃないですか。だからそういうことは考えずに、来週は山梨に行けるから何をやろうか? みたいな。

 

小屋作りや草刈りなど一日中、肉体労働をすると元気になる

──モチベーションが落ちることはなかったですか。

 

川内 何回も投げ出そうとしました(笑)。行ったけどモチベーションが上がらない日もあって、小屋に着いたけど何もやりたくない。でも誰かしらが手伝いに来るので、「今日はやる気が起きなくて」と言うと、「じゃあ休んでいればいいじゃないですか」と。私がいなくても、自走が始まっているんですよ。「別に有緒さんは何もやらなくていいんじゃないですか?」みたいに言われることもあります(笑)。

 

──連載に逐一、途中経過を記しているのも大きかったのではないでしょうか。

 

川内 確かに書くこと自体がモチベーションになるっていうのもあって。書くためにやる訳じゃないんだけど、書こうと思うと、「じゃあやるか」みたいなときもありました。ただ、こんなに長期間、連載をするなんて連載を頼んだ編集者も想像していなかったと思うんですよね。私自身、不定期連載といっても、せいぜい5、6回、1年ぐらい書いて終わるだろうと思っていたのが、1年経っても小屋の影すら見えずで、仕事が忙しい、コロナ禍でいろいろあってとか言ってるうちに、気付けば約5年の長期連載。連載が終わった時点で、文字数は30何万字とかあったんですよ。本にする際に15万字ぐらいにしなければいけなくて、書き下ろしだったら、こんな文字量にはなっていなかったですね。

 

──今も小屋作りは継続しているんですよね。

 

川内 そうなんです。行くと、これやらなきゃなっていうことがいっぱいあって。

 

──ホームセンターは近くにあるんですか。

 

川内 一番近いところだと車で10分ぐらいの場所にあります。「コメリ」と「ナフコ」という2つのホームセンターがあって、大きなものが必要なときはナフコに行って、ビス程度のちょっとしたものはコメリに行ってます。

 

──道具などへのこだわりはありますか?

 

川内 全くないです。マキタはかっこいいな、くらいで。そもそも何に関してもこだわりの少ない人間なんですよね。

 

──夫の川内イオさんもそうなんですか。

 

川内 彼もざっくりした人です。ざっくり同士で、お互いに細かいことを言わないから、事前に話し合わなくても大丈夫なんですよ。いつも彼がホームセンターに行ってくれるんですが、例えば無色透明の塗料を頼んだのに、全く違うものを買ってきちゃったりするんです。でも「これじゃないんだけど、まあいいや」って一瞬で受け入れて、一部の壁の色がちょっと違う色になったりして。手伝いに来てくれた人から、「なんてこだわりがない人たちなんだろう。だからやっていけるんですね」と言われます(笑)。

 

──お子さんは山小屋を気に入っているんですか?

 

川内 気に入っていると思いますよ。毎回一緒に行きますし。それにヒラクくんの娘さんがうちの子と半年違いで、すごく仲が良いので、ずっと一緒にいたがるんですよ。1歳のときから定期的に遊んでいて、一緒に小屋の中で過ごしたり、お散歩に行ったりして、従姉妹みたいな関係なんですよね。山小屋のヒラクくんの家が徒歩で1、2分で行けるので、距離感もいいんです。

 

──都会からIターンした人が、地元の人とトラブルになるって話もよく聞きますけど、ほどよい距離感ですよね。

 

川内 住んでいる人の数が少ないということもあります。ヒラクくん一家は定住していますけど、隣の家の人も二拠点生活で、たまにしか来ないし、反対側にある家も住んでいなくて、畑しか使ってないんです。東京から近いので、地元の人たちも外から来る人を受け入れてくれて、ほのぼのしていますね。

 

──小屋作りを始めて、仕事のスタンスに変化はありましたか。

 

川内 仕事って永遠にできちゃうから、この週末は小屋作りをするから仕事をしないって決めると休みになりますよね。山梨では小屋作り以外にも草を刈るなどの作業が一日中あるんですけど、肉体労働をすると逆に元気になるんです。私の仕事は、やたらと移動は多いですけど、あまり体は動かしません。だから、たまに肉体労働をするとヘトヘトになりますが、とにかく体を動かしているから、東京に帰ってくると疲れたなと思いながらも、何かエネルギーが湧く感じがします。

 

toolboxの商品は初心者でも簡単におしゃれなDIYができる

──東京でDIYをすることはあるんですか。

 

川内 ありますよ。ただ家具を作るにしても、東京は場所がないので、工房に行くなり、なんなりしないと作業が難しいんですよね。ただ実家のリフォームがまだ続いていて、昨年も私と妹が使っていた部屋を、妹が事務所として使いたいということで、床を張り直して、壁を綺麗にしたんです。

 

──床の張り直しって難しくないんですか?

 

川内 今はすごく簡単なんですよ。DIYはどんどん進化していて、企業もDIYをやる人たちに寄せてきているから、簡単にできるものがたくさん売っているんです。インパクトドライバーとかもいらないですし、ノコギリさえあればできるという床張り用の資材が売っていて、すごく綺麗にできますよ。業者がやった床張りと比べても遜色がないです。

 

──とはいえ初心者は苦戦しそうですが。

 

川内 手で押しながらパチッとはめると、ロックされる商品なので、端っこの処理は難しいけど、そこを測って正確に切るというスキルさえあれば問題ないです。正確に切るスキルも、すぐに覚えられるから、誰でもできるんですよ。私がお勧めするのはtoolbox(ツールボックス)の商品です。

 

──toolboxというと?

 

川内 「東京R不動産」という不動産会社がDIYを推奨していて、そこが手がけているシリーズです。すごくおしゃれで、そこまで高くない商品がたくさん売っていて。目白にショールームがあるので、そこに行って商品のお話を聞くこともできます。私は初めての床張りのときは、インパクトドライバーを使って本格的にやったんですが、toolboxの商品だとインパクトドライバーすらいらないですし、時間もせいぜい半日ぐらいで完成します。ホームセンターで揃えるとゼロからやらなきゃいけないけど、toolboxは素人でも簡単におしゃれな家を作れるというコンセプトなんですよね、

 

──プレゼンがうまいですね(笑)。

 

川内 toolboxの回し者じゃないですよ(笑)。ただ一人で作業するのはお勧めしません。3人一組ぐらいで、切る人、はめる人みたいに共同作業でやるのがいいですね。DIYを1人でやっていると、修行みたいで、途中で悲しくなってくるんですよ。だからInstagramとかで「1人でDIYをやってます」みたいな投稿を見ると感心します。一番良いのは2人一組か3人一組。あまり人数が多過ぎても、何もやることがない人も出てきちゃうので手持ち無沙汰になるんです。3人ぐらいいると交代しながらできますし、途中でお茶を飲んだりしておしゃべりするのも楽しいですし。切るスキルにしても、3人のうち1人が持っていればいいんですよ。

 

──DIY初心者でも適材適所でやれることはあると。

 

川内 あります。漆喰を塗るとかだったら子どもでもできます。もちろん完璧にやりたい人は、ちゃんとした業者さんに頼んだほうがいいと思うんです。でもDIYは、作る過程を楽しみたいとか、ちょっとうまくいかなかったところも、味になるし、思い出になるよねみたいな気持ちになれる人にお勧めです。

 

 

(インフォメーション)

『自由の丘に、小屋をつくる』

好評発売中!

著者:川内有緒
価格:2200円(税込み2420円)
発売元:新潮社

 

『自由の丘に、小屋をつくる』刊行記念
『手づくりのアジール』増刷記念
川内有緒×青木真兵「自分で自分の居場所をつくる」

日時:2024年3月8日(金)19:00~(開場:18:30)
場所:隣町珈琲
住所:東京都品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
価格:会場入場料(自由席):¥2,500 オンライン配信(zoomミーティング):¥2,500

※本イベントは会場(隣町珈琲)とオンライン(zoomミーティング)のハイブリットの開催になります。

https://peatix.com/event/3843762

 

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

GetNavi web 2024-03-02 20:00:50

和食は出汁(だし)をとったりと準備が大変そうだし、味つけも繊細でむずかしそう……と感じるでしょうか? そもそも和食は、日本古来の日常食。気負わず、「ごはん」と「汁物」のシンプルな組み合わせで楽しむ、一汁一飯(いちじゅういっぱん)の魅力を見直してみましょう。

 

恵比寿で日本料理店「賛否両論」を営む、料理人の笠原将弘さんが提案する一汁一飯のレシピ『汁とめし』は、冷蔵庫の残り物など身近な食材で簡単につくれて、しかもおいしいと話題。今回は、笠原さん直伝の『汁とめし』レシピ3種を短期集中連載でお届けします。

 

第1回は、汁物の基本中の基本である、出汁の取り方を解説いただきます。

 

料理人・笠原将弘が“一汁一飯”を説く!おいしく負担なく、調理を楽しくする日常的な和食の真髄とは

 

正しい和食の味をもっと身近なものに

食事になくてはならないのが、ごはんの味を引き出したり、ときにはおかずのような役割で主役を張ったりもする汁物です。笠原さんは、「ちょっと工夫するだけで“汁”は驚くほどおいしくなる」と語ります。

 

「料理というのは、手間をかけた分だけおいしくなるものだと思っています。でも、忙しい日々を送る方々に、一方的に毎日これやれあれやれとは言いたくありません。一昔前ならいざ知らず、いまは顆粒出汁が便利な時代ですし。ただ、日本人として正しい順序でとった出汁の味っていうのを知っておくのは大事だと思うんです。手間をかけずにおいしくつくる方法はたくさんありますよ」(料理人・笠原将弘さん)

 

笠原さん流の、家庭でも気軽に取り組める出汁の取り方とは?

 

ほうっておくだけでできる!
おいしい出汁の取り方

「お吸い物はこぶと削りがつおでとった一番出汁を使うのをおすすめしていますが、みそ汁に代表される日々の汁物の出汁は、もっと気軽に考えてもらいたいと思っています」

 

そういう笠原さんが考える“家庭の汁物の出汁は、「なべに水600ml、こぶ10g、煮干し10gを入れて30分ほどおうっておくだけ」だそう。この30分間とは?

 

「こぶや煮干しからうまみを引き出すための時間です。これが長ければうまみをもっと抽出できるので、一晩おいてもいいくらいです。その場合は冷蔵室に入れておけば、暑い季節でも安心です」

 

作るとなったら、火にかけるだけ。これなら、毎日続けられそうです。

 

【材料(2〜3人分)】
・水……600cc程度(直径約20cmのなべでちょうどいい水量)
・こぶ(出汁用)……10g
・煮干し……10g

 

【作り方】
1.鍋に水、こぶ、煮干しを入れ、30分ほどおく。(冷蔵庫に一晩おくとなおよい)

 

2.中火にかけて、ふつふつとしてきたら弱火にし、煮立てないようにして10分ほど煮て、火を止める。その後、時間があれば20分ほどおくと、こぶのうまみがより抽出される。こぶと煮干しをとり出す。

とり出したこぶは細長く切って、そのまま汁の具として食べても。そのほかうまみを足すイメージで煮物やいため物の具にするとよい。佃煮にしてもおいしい。

 

時間がないときは市販の出汁でもいい

「ほうっておく時間がとれないときは、すぐに使える粉末の出汁のもとや出汁パックを使っても大丈夫。その場合は貝類や野菜などの旨味が出やすい具と組み合わせるのがオススメです」

 

 

以上の出汁の取り方をはじめ、お米のおいしい炊き方や、見たら必ずつくりたくなるおいしい一汁一飯レシピは、笠原将弘さん著『汁とめし』にまとめられています。これも和食!? とときに驚くようなレシピも。和食をもっと身近に感じられるアイデアレシピを、チェックしてみてください。

 


笠原将弘『和食屋が教える、旨すぎる一汁一飯 汁とめし』(主婦の友社)
冷蔵庫の残り物で作れ、シンプルなのに満足できる___頑張らないでもしみじみとおいしい、笠原流・究極2品献立という提案の書。予約の取れない日本料理店「賛否両論」店主が、いま提案する献立こそ「汁とめし」なのです。食材の組み合わせや作りやすさを極めた、汁物とごはん物の厳選レシピ、計84品を収録。

 

 

次回は、数ある汁物レシピの中でも笠原さんが気に入っている「くたくた玉ねぎととうふの豚汁」を紹介します。

 

 

Profile

料理人 / 笠原将弘
1972年、東京都生まれ。高校卒業後「正月屋吉兆」で9年間修業したのち、父の死をきっかけに武蔵小山にある実家の焼き鳥店「とり将」を継ぐ。2004年、東京・恵比寿に「賛否両論」をオープンし、予約のとれない人気店として話題になる。2013年には名古屋に直営店をオープン。テレビ番組のレギュラー出演をはじめ、雑誌連載、料理教室など幅広く活躍する。2023年6月にはYouTubeチャンネル『【賛否両論】笠原将弘の料理のほそ道』を開設。流暢な語り口で調理のコツを惜しみなく解説し、チャンネル登録者数は56万人超。
「賛否両論」HP
YouTube

あたなた解けますか? ”構造的把握力検査”にチャレンジ【計算の構造(損益算)】

『就活をひとつひとつ』シリーズは、累計980万部突破のロングセラー参考書「ひとつひとつわかりやすく。」シリーズの「就活版」。自己分析、面接、インターンシップ、SPI対策まで、シリーズ全7冊を展開しています。

 

今回は『SPI3 構造的把握力検査をひとつひとつわかりやすく。』より、「計算の構造(損益算)」の問題と解説を紹介。この問題、あなたは解けますか?

 

【構造的把握力検査とは?】

リクルート・マネジメント・ソリューションズ社が全国各地のテストセンターにおいて、10年ほど前から実施しているコンピュータテスト。ものごとの背後にある共通性や関係性を、 構造的に把握する力を測定する。

この能力は、情報を俯瞰(ふかん) 的に捉えて自分なりに分類・整理したり、未知の問題を過去の経験と関係づけて理解した上で、すでに獲得している知識を応用して対応策を考えたりするのに必要な力ということができる。

 

問題

次のア〜エの中から、問題の構造が似ているものを2 つ選び、下の選択肢A〜Fで答えなさい。ただし、消費税は考えないものとする。

 

ア あるリサイクルショップでは仕入れた中古の食器棚を修理し、仕入れ値の8 割の利益を見込んで9000 円という売り値をつけた。この食器棚の仕入れ値はいくらか。

 

イ 定価が8800 円のスニーカーを2 割5 分引きで売ったところ、2100円の利益が上がった。このスニーカーの仕入れ値はいくらか。

 

ウ 家電販売店で、空気清浄機をメーカー希望小売価格より3600 円安く買うことができ、その値段はメーカー希望小売価格の8 割に相当する。メーカー希望小売価格はいくらか。

 

エ ある洋菓子店のシュークリーム1 個の原価は240 円で、その75%の利益を見込んで定価をつけている。1 個売ったときの利益はいくらか。

 

【選択肢】
A:アとイ B:アとウ C:アとエ D:イとウ E:イとエ F:ウとエ

 

【用語の確認】

仕入れ値(原価)・定価・利益(粗あら利益)…定価から仕入れ値をひいたものが利益で、正確にはこれを粗利益という。実際には、他の経費もかかる。

値引き・売り値…定価に(1−値引き率)をかけたものが売り値。値引きがある場合の利益計算は、定価のかわりに値引き後の売り値を用いる。

 

解答:B

 

アとイは仕入れ値を求める計算、エは利益を求める計算、また、ウは「メーカー希望小売価格」などという算数・数学の問題にはあまり登場しないものを求める計算になっています。「だからアとイが同じだ」と考えた人は、構造的把握力検査という特殊な試験について、理解ができていないといえます。

 

目の前にある課題を表面的にしか捉えられないと、課題の克服、問題解決に力を発揮できない人と見なされてしまいます。

 

ア (仕入れ値)×(1+0.8)=9000
という関係になるので、仕入れ値はわり算で求められます。

 

イ (利益)=(売り値)−(仕入れ値)だから( 仕入れ値)=(売り値)−(利益)
となります。売り値は、8800×(1−0.25)で計算されます。

 

ウ 「メーカー希望小売価格」というのは、家電量販店などで目にすることがありますが、ここではそこからの値引きがあるので、定価と同じようなものと考えればよいでしょう。与えられた条件は
(メーカー希望小売価格)×(1−0.8)=3600
というものですから、メーカー希望小売価格はわり算で求められます。

 

 原価の75% にあたる利益を求めるということなので、原価の0.75 倍を計算する単純なかけ算になります。

 

以上から、割合でわる計算になるアとウが同じ構造です。

 

 

【書籍紹介】


2026年度版 SPI3 構造的把握力検査をひとつひとつわかりやすく。

著:ブレスト研
価格:1100 円(税込)

●頻出の問題パターンを紹介!
●「なぜ?」がわかる、パターン別解法!
●各テーマ見開き(表裏)で完結!
・Amazon:
https://www.amazon.co.jp/dp/4058021950
・楽天ブックス:
https://books.rakuten.co.jp/rb/17705830

自己紹介動画に構造的把握力検査!? 令和の就活について『就活をひとつひとつ』担当編集者に聞いてみた

春を迎えると電車の中には、パリッとしたリクルートスーツを着た新社会人たちがズラリ。「今日が入社式かな?」なんて15年以上も前のことを、つい先日のように思い出します。

 

コロナ禍を経て学生たちの就活事情はどうなっているのでしょうか? 今回はなかなか知る機会がない令和の就活生事情について、 累計980万部突破の参考書シリーズから生まれた就活対策本、『就活をひとつひとつ』シリーズの編集を担当したGakkenの徳永智哉さんにお話を伺いました。アラフォー世代の転職にも役立つ情報がありましたよ!

【公式サイトはコチラ

 

アラフォーが知らない、令和の就活事情

——2024年1月、2026年度版『就活をひとつひとつ』シリーズの発売が開始されましたが、まず最近の就活事情について教えていただけますでしょうか?

 

徳永さん この3月から就活を始める大学3年生たちは、コロナ禍の大学受験を経て就活を迎える世代なんです。高校の卒業式や修学旅行ができなかった子たちも多く、大学入学後も私たちが思い描く、サークル活動やアルバイト、友人と旅行、海外留学など「したくても、できない」そんな時期を味わってきた世代です。そのため“ガクチカ”に悩んでいる学生も多いのが特徴ですね。

 

——あのぉ〜。“ガクチカ”ってなんですか?

 

徳永さん 「学生時代に力を入れたこと」の略ですよ!

 

——初めて聞きました。

 

徳永さん 就活用語として認知されている言葉ですね。ガクチカは面接で必ずと言っていいほど聞かれますが、コロナ禍では力を入れたくてもできないことの方が多かったため、何を伝えるべきか悩む学生がすごく多いんですよ。

 

また、コロナ前の就活では、合同説明会や採用イベントを経て、エントリーシートを送り、面接、内定というフローが一般的でした。でも、コロナ禍で対面での合同説明会や会社説明会の実施が難しくなり、オンラインに。ただ、オンラインになったことで、国内はもちろん世界中から候補者を探せるようになったのは企業側のメリットかもしれませんね。学生にとっても、遠方からの参加が可能になったのはメリットですから。

 

少しずつ日常を取り戻してきた今年は、オフライン・オンラインを組み合わせたハイブリッドな就活になってくる傾向です。

 

——コロナ禍で就活事情も大きく変わっているんですね。

 

徳永さん そうですね。エントリーシートでも「自己PR動画」の提出を必須にする企業があったり、就活インフルエンサーが人気だったり、インターンシップの制度が変わり大学1〜2年生から就活を始めている子もいるんですよ。

 

——すでに、話についていけません……!

 

徳永さん わかります(笑)。本当に今の就活生はやることがたくさんあるんです。入学してすぐに就活のオリエンを開始する大学もあるほど「早期化」していますし、インターンシップから就活が始まっていると考えると「長期化」しているのが現状です。就活は情報戦とも言われますが、検索すればなんでも出てくる時代に就活生にとって本当に必要な情報を届けることが必要だなと感じています。

 

『就活をひとつひとつ』は、就活生に寄り添うやさしいシリーズ

——就活は情報戦ですか……。『就活をひとつひとつ』シリーズはまさに就活生に役立つ情報が満載ということですね!

 

徳永さん 就活本のシリーズは昨年から販売を始めました。学習参考書『ひとつひとつわかりやすく。』シリーズのコンセプトを踏襲しているので、初めての就職活動に寄り添った構成になっています。

 

——これまでに2026年度版では6冊リリースされていますが、それぞれの特徴を教えてください。

 

徳永さん メインのターゲットは、就職活動を控えた3年生、修士1年生です。しかし、先ほどもお伝えしたように、昨今の就活は早期化&長期化が進んでいるため大学1〜2年生でも読みやすくわかりやすい内容に設定しました。

 

就活をひとつひとつわかりやすく。』は、就活の概要をつかむのにおすすめ。まず手にとっていただけると嬉しいです。また、今年から「シリーズ全冊 本の半分がスマホで読めちゃう」キャンペーンを実施しています。

 

——半分って、お得すぎませんか?

 

徳永さん 大盤振る舞いです! 最近ではデジタル購入される方もふえてきたので、お試しいただいた上で本当に必要な情報に辿り着いて欲しいと思って企画しました。

 

あと、就活の時期によって必要となる情報が変わってくるんですよね。まずは概要を知る、その後にテスト対策としてSPI3や一般常識を勉強し、最後にエントリーシートや面接対策と一度に6冊が必要になるわけではないので、少しずつお試ししてもらいながら、自分に足りない部分を補っていただければうれしいです。

 

——『就活をひとつひとつ』を拝見したんですけど、フルカラーでシリーズのタイトル通りわかりやすかったです。

 

徳永さん 1テーマ見開きで、イラストや図解も多く採用しています。一歩ずつ踏みしめるように理解できるような構成にしました。

 

学習参考書『ひとつひとつわかりやすく。シリーズ』は2009年から始まったので、その参考書を小中学生で使ってくれていた子たちが就活世代に入っているんですよね。「あの時、使っていた参考書だ」と思い出してもらって、就活も頑張ってみようかなと思ってもらえたらいいですね。

 

——寄り添ってくれる就活本って、珍しいですよね?

 

徳永さん 確かにそうかもしれませんね。勝ち取るぞ! みたいな勢いがある参考書も多いので。『就活をひとつひとつ』は、ナイテイペンギンというキャラクターが登場したり、コラムがあったり、就活をサポートするような内容になっています。

 

終身雇用がなくなった現代における就活のポイントとは?

——今回の取材で、就活生には頑張ってもらいたいと心から思いました。

 

徳永さん そうですね。終身雇用が保証されなくなった今、新卒入社のモチベーションが変わってきているのも事実です。「会社の中でキャリアアップしたい」と考える学生が少なくなっているのかもしれません。これまでは社会人になれば、自然と社会が育ててくれましたが、今は自分のキャリアは自分自身で育てていかなければなりません。

 

多様な働き方の中で、自分らしく生きる。そのためにも「どんな自分でありたいのか?」というのが仕事選びの軸になっているかもしれませんね。

 

——確かに終身雇用が保証されていない現代においては、就職がゴールじゃなくなっているのかも。

 

徳永さん 入社してからが本番ですからね。就活生のみなさんは、どんなことも経験になる、力になるんだと思いながら頑張ってもらいたいです。私たちも『就活をひとつひとつ』を通じて応援しています。

 

——本当にそうですね! 最後にこの記事を読んでいる社会人の先輩たちにメッセージをお願いします。

 

徳永さん 私の身内にも今まさに就活を頑張っている子がいるんですが、毎日大変な思いをしながら就活しているんですよね。

 

つい自分の就活と比べて「学生は楽しそうでいいな」と思いがちなんですが、時代も環境も何もかも変わっているんだということを、ちょっとでもいいから知って欲しいですね。本当に就活生たちは頑張っているんで。春から入社してくる新人さんたちは、いろんな困難を乗り越えて辿り着いた場所なので、「この子たちも頑張ったんだな」と頭の片隅に覚えておいてもらえたらと思います。

 

——彼らの目線に立ってあげるだけでも接し方も変わってくるかもしれませんね!

 

徳永さん あと『就活をひとつひとつ』を読んでもらえると、今の就活についてよくわかると思います。業界分析は転職の参考にもなりますし、SPI3や時事問題などの試験対策も改めて解いてみると面白いですよ。

 

__もう15年以上も前のことなので、ほぼ解けない気がします……(笑)今回は本当に貴重なお話ありがとうございました!

 

[商品概要]


2026年度版 SPI3をひとつひとつわかりやすく。

監修:山口卓
価格:1430 円(税込)

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2026年度版 一般常識と時事問題をひとつひとつわかりやすく。

編:Gakken
価格:1430 円(税込)

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2026年度版 就活をひとつひとつわかりやすく。

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2026年度版 エントリーシートと自己分析をひとつひとつわかりやすく。

著:占部礼二
価格:1430 円(税込)

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2026年度版 面接とグループディスカッションをひとつひとつわかりやすく。

著:占部礼二
価格:1430 円(税込)

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2026年度版 SPI3 構造的把握力検査をひとつひとつわかりやすく。

著:ブレスト研
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あたなた解けますか? ”構造的把握力検査”にチャレンジ【説明の種類】

『就活をひとつひとつ』シリーズは、累計980万部突破のロングセラー参考書「ひとつひとつわかりやすく。」シリーズの「就活版」。自己分析、面接、インターンシップ、SPI対策まで、シリーズ全7冊を展開しています。

 

今回は『SPI3 構造的把握力検査をひとつひとつわかりやすく。』より、「説明の種類」の問題と解説を紹介。この問題、あなたは解けますか?

 

【構造的把握力検査とは?】

リクルート・マネジメント・ソリューションズ社が全国各地のテストセンターにおいて、10年ほど前から実施しているコンピュータテスト。ものごとの背後にある共通性や関係性を、 構造的に把握する力を測定する。

この能力は、情報を俯瞰(ふかん) 的に捉えて自分なりに分類・整理したり、未知の問題を過去の経験と関係づけて理解した上で、すでに獲得している知識を応用して対応策を考えたりするのに必要な力ということができる。

 

問題

次のア〜オを、指示に従ってP(2 つ)とQ(3 つ)に分類するとき、P に分類されるものはどれか。下の選択肢A〜Jで答えなさい。

 

【指示】ア〜オはいずれもオオカミに関する記述である。その説明のしかたの違いによって、P とQ の2 つのグループに分けなさい。

 

 オオカミについての最も古い文字記録がある「古風土記逸文(こふどきいつぶん)」では
大口真神(おおくちのまかみ)と書かれていて、信仰の対象であったことがわかる。

 

 オオカミが登場する「赤ずきん」はグリム童話として知られているが、実はグリム兄弟以前に詩人のシャルル・ペローが民話をもとに創作したものである。

 

 オオカミには自分のテリトリーに侵入した他の動物を警戒して、その後をしばらくついて回るという習性がある。

 

 絶滅したニホンオオカミは、更新世に日本列島にすでに存在した大型オオカミと氷河期後期にユーラシア大陸から渡ってきたオオカミが交雑し、適応進化したものである。

 

 オオカミの絶滅で崩れた生態系のバランスを取り戻すため、アメリカのイエローストーン公園ではオオカミの再導入が試みられている。

 

【選択肢】

A:アとイ  B:アとウ  C:アとエ  D:アとオ
E:イとウ  F:イとエ  G:イとオ  H:ウとエ
I :ウとオ  J:エとオ

 

【目の付けどころ】説明する対象

オオカミについての説明をどのような観点で分類するか難しいが、オオカミという対象そのものを説明しているか、あるいはオオカミと関連していることがらについての説明か考えてみるとよい。

 

解答:H

 

【ここがポイント】オオカミという生物そのものの説明か

すぐ目につくのは、エとオがオオカミの絶滅に関連している文だということです。確かに、かつて本州、四国、九州に生息していた肉食哺乳類のオオカミは、ヒトに追われ20 世紀初頭に絶滅したことが知られています。また、アメリカオオカミもすでに野生絶滅していて、オの説明にあるように再導入が試みられていますが、射殺されたり車に轢かれたりして死亡する個体が多く、成功しているとはいえない状態です。では、この2 つと他の3 つに分けられるかというと、もう少し内容を精査する必要があります。

 

 古い文献の中にオオカミを神としていた記述があるということです。これはオオカミという生物そのものの説明ではなく、オオカミを人間がどのように見ていたかということを意味します。

 

 「赤ずきん」という誰でも知っている童話を誰が最初に書いたかという文です。もちろんこれもオオカミそのものの説明ではありません。

 

 オオカミという動物の習性を示したもので、ア、イとは明らかに異なる説明のしかただといえるでしょう。

 

 ニホンオオカミの起源について書かれた文で、実はこの内容はDNA を分析してわかった最新の研究結果です。ですが文の内容の正誤がわからなくとも、この検査では各文の構造が把握できればよいのです。エは、オオカミという動物そのものの説明ととらえられます。

 

 アメリカでの「オオカミの再導入」というあまり知られていない話です。これだけ見ると判断に迷いますが、生態系を戻そうと試みているのは人間です。

 

アとイがオオカミと人との関係、ウとエがオオカミという動物そのものの説明とみると、ア、イと同じグループに入れるのが適当だと思われます。

 

以上から、ウとエが同じグループで、他はオオカミと人とのかかわり合いに関する文と判断できます。

 

 

 

【書籍紹介】


2026年度版 SPI3 構造的把握力検査をひとつひとつわかりやすく。

著:ブレスト研
価格:1100 円(税込)

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「南米南部共同市場」の略称とは?ーー「就活」一般常識問題にチャレンジ

『就活をひとつひとつ』シリーズは、累計980万部突破のロングセラー参考書「ひとつひとつわかりやすく。」シリーズの「就活版」。自己分析、面接、インターンシップ、SPI対策まで、シリーズ全7冊を展開しています。

 

今回は『一般常識と時事問題ひとつひとつわかりやすく。』より、「国際情勢」の問題と解説を紹介。この問題、あなたは解けますか?

問題

【問01】次の文中の(  )にあてはまる語句を答えましょう。

⑴ EUでは、多くの国が共通通貨である(   )を導入している。

⑵ (   )とは、地球の北半球に多い先進工業国(先進国)と、南半球に多い発展途上国との経済格差から生まれるさまざまな問題のことである。

⑶ (   )(国際原子力機関)とは、原子力の平和利用を推進し、核兵器の拡散を防止することを目的とする国際機関である。

 

【問02】次の地域統合の略称を、それぞれアルファベットで答えましょう。

①東南アジア諸国連合
②南米南部共同市場
③アジア太平洋経済協力
④アメリカ・メキシコ・カナダ協定

 

【問03】1996年に採択された、地下核実験を含むすべての核実験を禁止する条約を、次から1つ選びましょう。

ア 核拡散防止条約(NPT)
イ 部分的核実験禁止条約(PTBT)
ウ 核兵器禁止条約(TPNW)
エ 包括的核実験禁止条約(CTBT)

 

■解答

【問01】 ⑴ユーロ ⑵南北問題 ⑶ IAEA

【問02】① ASEAN ② MERCOSUR ③ APEC ④ USMCA

【問03】 エ

 

国際情勢の解説

グローバル化が加速する現代において、国家の境界を越えた地域統合の重要性が増しています。経済や安全保障などの問題に対応するにあたり、これまで以上に他国との協力が必要になってきているのです。

①EU(ヨーロッパ連合)…27か国が加盟。多くの国が共通通貨ユーロを導入。
②AU(アフリカ連合)…2002年に発足し、55の国・地域が加盟。
③USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)…2020年に発効。
④MERCOSUR(南米南部共同市場)…メルコスール。1995年に発足し、6か国が加盟。
⑤ASEAN(東南アジア諸国連合)…アセアン。1967年に発足し、10か国が加盟。
⑥APEC(アジア太平洋経済協力)…エイペック。1989年から開始。21の国・地域が参加。

 

■核軍縮に関する条約・機関

・部分的核実験禁止条約(PTBT):大気圏、宇宙空間、水中における核実験を禁止。米英ソ間で1963年に発効

核拡散防止条約(NPT):核兵器保有国の非保有国への核兵器引渡しと、核物質の軍事転用を禁止。1970年に発効

・包括的核実験禁止条約(CTBT):地下核実験を含むすべての核実験を禁止。1996年に国連総会で採択されたが未発効

・核兵器禁止条約(TPNW):核兵器の開発・保有・使用などを全面的に禁止。国連総会で採択され、2021年に発効。日本は不参加

・国際原子力機関(IAEA):核兵器の拡散を防ぎ、原子力を平和目的で安全に利用できるようにするための機関。

 

■南北問題

地球の北半球に多い先進工業国(先進国)と、南半球に多い発展途上国との経済格差から生まれるさまざまな問題を南北問題といいます。

 

【書籍紹介】

2026年度版 一般常識と時事問題をひとつひとつわかりやすく。

著者:Gakken(編)
発行:Gakken

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「怖い怖い」といいながら、なぜヒトは薄目で見てしまうのか? 動物行動学から人間の謎に迫る~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。実際に猫を飼ってみて驚いたのは、とにかくよく寝ること! 動画では跳ね回ったり、ケンカをしたりとアクティブなシーンばかりですが、現実は1日のうち15時間くらい寝ている感覚。溶けて液体になってしまうのではと思うほどです。寝てる姿も可愛いので飽きませんが。

 

もうひとつは、毛並みの手触りが気持ちいいこと。これも動画ではわかりません。もちろん、猫種や手入れにもよると思いますが、ぬくもりがあって吸い付くビロード。本を読みながら猫ちゃんを撫でるのは至福の時間です。

 

動物行動学者がユーモアたっぷりにヒトを分析

こんなに猫好きの人が多いのは猫が可愛いから……という単純な理由ではないのが、本書を読むとわかります。今回紹介する新書はモフモフはなぜ可愛いのか 動物行動学でヒトを解き明かす』(小林朋道・著/新潮新書)。著者の小林朋道さんは、動物行動学者で公立鳥取環境大学副学長・教授。ヒトを含むさまざまな動物について、動物行動学の視点から研究してきました。『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!  鳥取環境大学の森の人間動物行動学』(築地書館)ほか多数の著書があります。

 

怖いもの見たさの正体をシマリスから考察

本書は、SNSで募ったヒトに関する13の質問に、小林さんが仮説を立てて回答するという企画。「親しい友人と会った時、とび跳ねたりするのはなぜか?」「他人の口調やしぐさがうつってしまうのはなぜか?」「なぜヒトは『いじめ』を行うのか?」……など、「そういえば確かに謎だ」という疑問が並びます。動物行動学エッセイで人気の小林さんだけに、ユーモアもあって読みやすいのも特徴です。

 

私が「これは納得だわ!」と思ったのは、2番めの質問「ヒトはなぜ怖いものを見たがるのか?」。怖い怖いと言いながら、崖があったら「ちょっと下を覗いてみようかな」なんてつい思っちゃいますよね(笑)。

 

これには、シベリアシマリスのヘビに対する防衛行動からひとつの仮説が導き出されます。シマリスの通り道にヘビの入ったカゴを置くと、シマリスは捕食者であるヘビから逃げるかと思いきや、数十センチ離れたところからヘビの様子を伺い、緊張した様子で近づいたり遠ざかったりしつつ離れない……。

 

実は、相手がどんな種類で、どのくらい大きく、どういった状態かを知ることは、シマリスの生存・繁殖に有利だからと小林さん。きっとヒトも、どれほど危険なのかを無意識に測っているんでしょうね。研究での体験から組み立てられる説には説得力があります。ほかにふたつの仮説も提示され、いずれも「確かにそうかも!」と腑に落ちました。

 

本のタイトルとなっている、モフモフが可愛い理由も動物行動学が教えてくれます。モフモフしていると、ふくよかで丸っぽいフォルムになり、それは幼児が持っている特徴に通じているそう。なので、個体が小さければ保護してあげたいという心理が強く働くというもの。そしてさらに、毛皮との関係もあるとか……!?

 

つい忘れがちですが、ヒトだって動物。不思議な行動の裏には動物としての習性が隠れているのかもしれません。動物行動学の面白さはもちろんのこと、ヒトってまだまだわからないことだらけだなとフフッと思える一冊。人間観察がますます楽しくなりそうです。

 

【書籍紹介】

モフモフはなぜ可愛いのか 動物行動学でヒトを解き明かす

著者:小林朋道
発行:新潮社

ヒトはなぜモフモフしたものを可愛いと感じるのか? 血のつながりと自爆テロとの関連は?――長年、様々な野生動物の行動と習性を研究してきた著者が、SNS上で「ヒトという動物」についての疑問を聞いたところ、硬軟とりまぜて質問が殺到。本書では、その中から厳選した13の問いに対して、動物行動学の知見をもとに鮮やかに回答する。ホモサピエンスに特異的な行動の数々から、人間の本性を解き明かす。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

その推論はどれが正しい?ーー「就活」SPI3問題にチャレンジ

『就活をひとつひとつ』シリーズは、累計980万部突破のロングセラー参考書「ひとつひとつわかりやすく。」シリーズの「就活版」。自己分析、面接、インターンシップ、SPI対策まで、シリーズ全7冊を展開しています。

 

今回は『SPI3(言語・非言語)をひとつひとつわかりやすく。』より、「推論(内訳)」の問題と解説を紹介。この問題、あなたは解けますか?

問題

袋の中にミカン、リンゴ、カキが合わせて15個入っています。どれも少なくとも1個は入っており、ミカンの個数はリンゴやカキの個数より多いことがわかっています。このとき、推論ア~ウについて、正しいといえるものを示しているものを、次のA ~ F の中から選びなさい。

<推論>

ア:ミカンの個数は最も多くて14個。

イ:リンゴの個数は6個以下。

ウ:ミカンの個数は最も少なくて6個。

 

<選択肢>

A :アだけ
B :イだけ
C :ウだけ
D :アとイ
E :イとウ
F :アとウ

 

■解答:E

ミカンを「ミ」、リンゴを「リ」、カキを「カ」として式を作ると、問題文より、

ミ+リ+カ=15(個)
ミ・リ・カ> 0
ミ>リ・カ

推論アは、成り立ちません。「ミ・リ・カ> 0」より、リンゴとカキが少なくとも1 個ずつ入っているので、ミカンの個数は最も多くて、

15−(1+1)=13(個)

になります。推論イは、成り立ちます。仮にリンゴが7 個の場合、「ミ>リ・カ」より、ミカンは最も少なくて8 個になりますが、このとき、カキは(15−7−8=) 0 個になるので、「ミ・リ・カ> 0」に反します。したがって、リンゴの個数は6個以下です。

推論ウは、成り立ちます。仮にミカンが5 個の場合、「ミ>リ・カ」より、リンゴとカキは、どちらも最も多くて4 個になりますが、このとき、合計は(5+4+4=) 13 個になるので、「ミ+リ+カ=15(個)」に反します。したがって、ミカンの個数は最も少なくて6 個です。

したがって、イとウが正しいです。よって、答えはE です。

 

「推論(内訳)」の解説

与えられた条件を整理して内訳を考える問題です。条件を整理するときは数式に置きかえて数量を求めます。与えられた条件が一目で理解できるように、できるだけ簡単な数式に置きかえましょう。複数の数式が考えられる場合は、場合分けをして、ひとつひとつ検証していきます。

 

■ここがポイント

数式(等式や不等式)に置きかえる
・「AはBより大きい」→A>B
・「CとDの年齢の和は79歳」→C+D=79
・「ボールペンは鉛筆より8本多い」→ボ-え=8
・「 袋の中に赤玉、青玉、黄玉が少なくとも1個は入っている」→赤・青・黄>0

 

【書籍紹介】

2026年度版 SPI3(言語・非言語)をひとつひとつわかりやすく。

著者:山口卓(監修)
発行:Gakken

これ1冊でSPI3の解き方がわかる! 算数・数学や国語の知識を基本から丁寧に解説しています。また、「非言語問題の推論」や「言語問題の二語関係など」SPI試験特有の問題についてもしっかり解説しており、解き方がよくわかります。

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「ドライヤー:乾燥」その関係性と同じものは?ーー「就活」SPI3問題にチャレンジ

『就活をひとつひとつ』シリーズは、累計980万部突破のロングセラー参考書「ひとつひとつわかりやすく。」シリーズの「就活版」。自己分析、面接、インターンシップ、SPI対策まで、シリーズ全7冊を展開しています。

 

今回は『SPI3(言語・非言語)をひとつひとつわかりやすく。』より、「二語関係(役割・用途の見分け方)」の問題と解説を紹介。この問題、あなたは解けますか?

問題

最初に示された二語の関係を考え、同じ関係のものを示しているものを、それぞれ次のA ~ F の中から選びなさい。

 

⑴【小説家:執筆】

ア ガードマン:警備員
イ 公務員:会社員
ウ パティシエ:製菓

A :アだけ  B :イだけ  C :ウだけ  D :アとイ E :アとウ  F :イとウ

 

⑵ 【ドライヤー:乾燥】

ア リヤカー:運搬
イ ダム:防水
ウ 庭師:剪定

A :アだけ  B :イだけ  C :ウだけ  D :アとイ  E :アとウ  F :イとウ

■解答:⑴ C  ⑵ A

⑴「小説家」は職業の一種であり、「小説家の役割は執筆である」といえるので、二語の関係は「役割」です。ア「ガードマン」とは「警備員」のことなので、同義語の関係です。イ「公務員」と「会社員」はいずれも職業というグループに属しているので、仲間の関係です。ウ「パティシエ」は菓子職人のことで、職業の一種です。「パティシエの役割は製菓である」といえるので、役割の関係です。よって、同じ関係のものを示しているものは、C です。

⑵「ドライヤーを使って髪の毛を乾燥させる」といえるので、二語の関係は「用途」です。ア「リヤカーを使って運搬する」といえるので、用途の関係です。イ「ダム」は水をためて洪水を防いだりする設備であり、その用途は「防水」ではなく「治水」です。ウ「庭師」は職業の一種で、「庭師の役割は剪定である」とい
えるので、役割の関係です。よって、同じ関係のものを示しているものは、A です。

 

二語関係(役割・用途の見分け方)」の解説

二語関係のうち、「役割」と「用途」の見分け方は、人か物かの違いです。職業(人)とその役割の関係であるか、物とその使いみちの関係であるかを確認します。

 

■役割:Aの役割はBである

【例】 探偵:調査→「探偵の役割は調査である」
医師:治療→「医師の役割は治療である」

 

■用途:Aを使ってB(を)する

【例】 たんす:収納 → 「たんすを使って収納する」

 

 

【書籍紹介】

2026年度版 SPI3(言語・非言語)をひとつひとつわかりやすく。

著者:山口卓(監修)
発行:Gakken

これ1冊でSPI3の解き方がわかる! 算数・数学や国語の知識を基本から丁寧に解説しています。また、「非言語問題の推論」や「言語問題の二語関係など」SPI試験特有の問題についてもしっかり解説しており、解き方がよくわかります。

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猫の日には「ほぼねこ」な”デカモフ猛獣”たちに癒されてキュンキュンしよう!

毎年2月22日はニャンニャンニャンがの語呂合わせから「猫の日」として親しまれていますよね。猫ちゃん向けの番組が放送されたり、SNSでも盛り上がったり猫好きにはたまらん1日です。が……! ちょっと待ったぁ〜!! 今年は、ネコ科の動物にまで視野を広げて、楽しんでみませんか?

 

今回は、日本国内の動物園にいるネコ科の動物がたっくさん掲載されている『ほぼねこ』(RIKU・著/辰巳出版・刊)をご紹介。「え、トラってこんな表情するの!?」「ね、ねこやん」と思いながら時間を忘れて楽しむことができますよ。

「こんなに美しい生き物がいるんだ」

『ほぼねこ』は、北海道の旭山動物園、秋田県の大森山動物園、静岡県の伊豆アニマルキングダムと浜松市動物園、石川県のいしかわ動物園にいるトラ、ライオン、ユキヒョウ、ホワイトタイガーたちが掲載されています。

 

著者のRIKUさんは2016年ごろから休日に日本全国の動物園を巡り、写真を撮影し始めたそう。現在はXやInstagramのフォロワーは合わせると20万人超! 『ほぼねこ』には厳選された写真がたっぷりと掲載されています。そんなRIKUさんが大きなネコ科のもふもふさんたちを撮影し始めたきっかけはどんなことだったのでしょうか?

 

こんなに美しい生き物がいるんだーー。
ふと訪れた動物園でトラやユキヒョウを見て感銘を受けたことが、動物写真を撮り始めたきっかけでした。

(『ほぼねこ』より引用)

 

大人になってから動物園ってなかなか行かないですよね。RIKUさんの写真を見ていると「動物ってこんなに感情豊かなんだ!」と本当に驚かされました。『ほぼねこ』を眺めていると、週末は動物園に行ってみようかな? ネコ科のもふもふさんたちを愛でに行こうかな? そんな気持ちにさせてくれますよ!

 

子どものトラやライオンがめちゃかわいい……!

 

トラやライオンには「怖い」イメージもありますが、『ほぼねこ』に掲載されている動物たちは、みんな「かわいい」んです!。とくに子どものトラやライオンがコテン♪ とこちらにお腹を見せながら、カメラ目線なんか頂いちゃうとメロメロです。動物園でこんな姿を見たら、年甲斐もなく「ぬいぐるみかってか〜えろ」ってなること間違いなし(笑)。

 

ボールで遊んだり、急に親に噛みついたり、尻尾を追い回したり、高いところに登れずあたふたしたり、「これ、猫でも見たことある!」な仕草が満載です。読み始めは「ライオンでしょ」とか、腕の太さや胴体の大きさから「犬よりでもあるよな?」なんて思ってしまいますが、ページをめくるたびに猫ポイントが加算されていきます。自分でも何を言っているかわからなくなってきますが(笑)、読み終わった後には「うん、ほぼ猫だな」と唸ってしまうはずです。猫好きさんはもちろんのこと、ただただ癒されたい! と疲れ切っている現代人のみなさんにもこの感覚を体験してもらいたいと思います。

 

『ほぼねこ』読んで、大きなもふもふさんたちに会いに行こう!

『ほぼねこ』は、プレゼントにもおすすめの写真集です。お子さんからご年配の方まで誰もが楽しめる1冊になっています。ちょっと心が疲れたとき、ペットを飼いたくても飼えなくてうずうずしているとき、忙しい毎日に忙殺されているときなど、どんなときに眺めてもほっとできるはず。もちろん、ご自宅で猫を飼っている方でも「あぁ〜うちの子もこんなことするよぉ!」と共感できることも間違いなし! 猫好きさんへのプレゼントの候補に入れてみてくださいね。

 

また『ほぼねこ』に掲載されている大きなもふもふさんたちには、会いにいくことができます! 個人的に会いに行きたいと思ったのは、浜松市動物園のアムールトラさんアースくん。現在、アースくんは豊橋総合動植物公園の「のんほいパーク」へお引っ越ししたとのこと! 『ほぼねこ』では、どこの動物園で撮影されたもふもふさんなのかしっかり紹介されているので、気になった子は調べて会いに行ってみましょう。今年の猫の日は、すこ〜し範囲を広げてネコ科のもふもふさんも愛でてみませんか?

 

【書籍紹介】

 

ほぼねこ

著者:RIKU
発行:辰巳出版

トラ、ライオン、ユキヒョウ、ホワイトタイガー… デカモフ猛獣たちの「ほぼ、ねこ」な写真を集めました。SNSフォロワー数20万人超の人気アカウントRIKUさん待望の写真集! 旭山動物園(北海道)、大森山動物園(秋田県)、伊豆アニマルキングダム(静岡県)、浜松市動物園(静岡県)、いしかわ動物園(石川県)で撮影されたネコ科の大型動物たちの、野性的でありながら愛らしい、まるで猫のような姿をお楽しみください。

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自分にあったたんぱく質の量って知ってますか?『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』

ほんの数年前まで、プロテインはまずいもの……というイメージでしたが、朝食代わりや筋トレのお供に飲んでいる人も多く、すっかり健康ドリンクの印象が付きましたよね。

 

また、サラダチキンや大豆といった“たんぱく質”にも注目が集まり、1食あたり20g程度のたんぱく質を食べることが推奨されています。好きなものを選んで食べられる飽食の時代、栄養面から考えて本当に必要な栄養素は取れているのでしょうか?

 

管理栄養士・金津里佳さんの新書『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』(金津里佳・著/青春出版社・刊)によると、たんぱく質は量じゃない、どれだけ消化吸収されているかが大切だ書かれてありました。今回は、たんぱく質の正しい摂り方についてご紹介します。

 

たんぱく質のとりすぎは、体調不良にもつながる?

健康にいいと言われている栄養素は、積極的にとりたい! と思うのは自然なこと。しかし、体にいいもの「だけ」を食べるのは体調不良につながってしまうのだとか。SNSなどでも、たんぱく質をたくさん摂取する方法などが紹介されていますが、食べる量を増やすだけでは体にとって悪影響になってしまうこともあるのだそう。金津さんは次のように話します。

 

つまり、重要なのは、たんぱく質を“食べる”量ではなく、たんぱく質を“消化吸収できる”量。現代人の場合、たんぱく質を消化吸収できる量が少ないためにたんぱく質不足になっている人が多いように思います。

(『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』より引用)

 

体にいいものはたくさん食べたほうが良いと思ってしまいますが、消化吸収されなければ、たんぱく質が体の中にたまり、消化不良を起こしてしまうとのこと! ちなみに、たんぱく質がうまく消化吸収できていない人は、お腹の調子を崩すそうです。

 

たんぱく質不足は、メンタルもやられる!?

たんぱく質がうまく消化吸収できていない人は、なんとメンタルにも影響があるのだとか。これはドーパミンなどの神経伝達物質やホルモンが関係していると言われています。ドーパミンは最初から私たちの体内に備わっているわけではなく、口から摂った栄養素を原料にして体内で生成されるものだからです。

 

そのもっとも重要な原料が、たんぱく質です。またビタミンB群や鉄も併せて必要です。
このように、たんぱく質不足をはじめとする栄養素の不足は、意欲や集中力の低下に大きく栄養します。

(『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』より引用)

 

体を健康にしないと、心も健康になれないということですね。なんとなくやる気がわかないと感じている人、日々「ま、いいや」と諦めることが増えてきた人は、食事の内容を見直してみてはいかがでしょうか?

 

そもそも、たんぱく質のある食事ができていないなんてこともあるかもしれませんよ。スーパーやコンビニで何かを買う際、どれくらいたんぱく質が含まれているかチェックしてみるのがおすすめです。

 

自分に合ったたんぱく質の量を摂取しよう

『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』の中で繰り返し書かれているのは、「たんぱく質の摂取量は一定ではない」ということ。一人一人が消化吸収できるたんぱく質の量が違うため、「1日〇〇グラム摂取しましょう」とは書かれていないのです。では、どうやって自分に合う、たんぱく質の量を測ったら良いのでしょうか?

 

私がおすすめするたんぱく質の量は、その人が「気持ちよくお腹いっぱい」になれるマックスの量です。
肉や魚、卵を中心に、足りない場合は大豆製品などをプラスして摂ってください。食事中に少しでも胃もたれなど感じたら、すぐに箸をおいてください。

(『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』より引用)

 

つまり、自分で試行錯誤して見つけていくしかない! ということ。めっちゃむずい……。この時に気をつけてほしいのが食べる順番なのだとか。たんぱく質 → 野菜・汁物 → ご飯と、糖質は最後に食べるようにすると、少しずつ体の変化を感じられるようになるそうです。また、自分に適正なたんぱく質が食べられている人は、間食なども減り、ちゃんとお腹いっぱいを感じられるようになるのだとか。

 

今回ご紹介したのは、ほんの一部。毎日の食事ですので無理をせず、焦らず、少しずつたんぱく質の量を増やしていくことを意識していきましょうね。気になった方は『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』を読んでみてください。自分にあったたんぱく質の量を摂取し、本当の意味での健康を手に入れましょう。

 

【書籍紹介】

9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方

著者:金津里佳
発行:青春出版社

食べているのに、吸収してない!? 最新栄養学でわかったきちんと「消化吸収」できる食べ方とは。たんぱく質ブームの落とし穴。

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純文学作品を通じて“本音”と向き合う。購入するまで作品名がわからない「本音屋」期間限定オープン

文藝春秋は、2月2日(金)から2月29日(木)までの期間限定で、純文学作品の作品名を隠し、作品からインスピレーションを受けた“本音”をタイトルとして販売する秘密の本屋「本音屋」をオープン。ジュンク堂書店 池袋本店およびハイブリッド型総合書店「honto」(https://honto.jp/cp/netstore/2024/honneya)にて販売を開始しました。

 

 

「本音屋」で取り扱う書籍は、文藝春秋が出版する純文学作品の中から厳選した、20作品。書籍を包む真っ黒なパッケージには、純文学作品からインスピレーションを受けた“本音”が作品名の代わりに記載されています。

 

純文学は、登場人物や作者自身の内面や心象風景が精緻に記されており、読者によってその受け取り方はさまざま。そのため、純文学作品には多くの“本音”が隠されているとともに、純文学作品には現代人が抱える、他人には言えないけれど心に留めている思いなどの“本音”も内包されています。

 

それぞれの物語が持つ“本音”がどんなものかは、作品を読んでみないとわからないもの。心に留まった作品を選び、読み進めることで、“本音”と向き合う時間を作ることができます。

ウイルスから世界を救うヒーローは型破り研究者!? 感染症専門家の日常~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。人類はどうにかコロナ禍を乗り切った感がありますが、今回思ったのは、これからも下手したら人類滅亡のような危機は起こりうるということ。我々は決して安泰ではなさそうです。

 

未曾有の危機に陥ったときに重要になるのは人間力。パニックを起こして固まってしまうのか、それとも苦しい状況だからこそ力を発揮できるのか……。振り返るとコロナ禍は、そうした人の本質が試された時期だったと思います。

 

医師・ウイルス学者がパンデミックでの奮闘を語る

さて、今回紹介する新書はウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』(古瀬祐気・著/中公新書ラクレ)。著者の古瀬祐気さんは、医師・医学研究者で東京大学教授。病院での診察、大学での研究、行政機関でのコンサルトなど立場を変えながら感染症の諸問題に取り組んでいます。共著作に『新型コロナウイルス感染症―課題と展望―』(法研)、『ネオウイルス学』(集英社新書)などがあります。本書は医療ポータルサイト「m3.com」での連載を加筆修正したものです。

ウイルスと戦う前にすることは?

本の表紙に書かれた「感染症専門家・東京大学教授」という肩書を見ると、「もしやお堅い本かな?」と構えてしまいますが、その感触はまるで海外冒険記やビジネス奮闘記!

 

それもこれも型にはまらない古瀬さんならではの魅力でしょう。“中2病をこじらせていた”医学生のときに音楽活動にハマり、自分の周りの環境を変えてみようと休学してフィリピンへ感染症の研究に行く。そして、なんと医学部卒業前に論文を9本書いて博士号を取得! 卒業後は千葉県で小児科の研修医になるも、オファーを受けて悩んだ末にアメリカへ……。

 

一箇所に留まらず、ひたすら前進する古瀬さんの歩みは、連続ドラマにしたら毎話盛り上がりそうです。「サンタクロースが感染症にかかっている状態でプレゼントを配ったときに病気をうつす確率」を計算する研究がイグノーベル賞候補になったというエピソードも秀逸です。

 

第1章「アフリカでエボラと闘う」は、古瀬さんが2014~2015年に西アフリカで発生したエボラウイルス病の流行時に、WHO感染症コンサルタントとしてリベリアに派遣されたときの体験談。感染を恐れた現地の医師が国外へ逃げ、路上に遺体が転がる……。古瀬さんは検査チームのリーダーに指名されるも、具体的な業務内容の指示はなし。それどころか、政治的・経済的な理由などから検査データへのアクセスも容易ではなかったとか。

 

そこでまず古瀬さんが行ったのは、自分が仲間であると示すこと。現地の保健当局の担当者に会ったら昨日のご飯の話を始め、ときにコーラやビールをおごる。作成した資料は自分の名前を出さず、現地の人に華々しく発表してもらい、顔を立てる。それを繰り返しているうちに「こいつはデータを盗もうとしているわけじゃない」、きちんと対策のために役立てようとしていると評価され、信頼を得たのだとか。

 

本書の後半1/3では、新型コロナウイルスのクラスター対策班だったときの話も語られています。感染症の専門知識はもちろん、そのバイタリティと懐の深い朗らかな人柄で臆せず対応していく。いくらウイルスに詳しくても、病気にかかるのは人間。人と人とのつながりが重要なのですね。

 

ウイルスが伝播する仕組みや感染を広めない公衆衛生の考え方など、役に立つ知識もしっかり盛り込まれています。でも、それ以上に新しい世界へ踏み出す勇気をもらえる一冊。「迷ったら変化のあるほうに進む」。これが古瀬さんのモットーです。

 

【書籍紹介】

ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。

著者:古瀬 祐気
発行:中央公論新社

地元の医者は逃げ、インフラは停まり、遺体が道に転がる中、僕はリベリアに派遣された――引継ぎゼロ、報酬1ドルもなんのその!ウイルスでパニックになった世界を救う感染症専門家のドキドキ・アウトブレイク奮闘記。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

森雪之丞が語る詩の原点と、私淑する早川義夫との思い出

作詞家デビュー48年目を迎え、昭和・平成・令和と常に第一線を走り続け、約2700曲の歌詞を紡いできた森雪之丞さん。近年は演劇・ミュージカルの世界でも活躍するなど、旺盛に創作活動を続ける森さんに、心の師と仰ぐ早川義夫さんとの思い出や、今年1月に刊行したオールタイムベスト詩集『感情の配線』について、2022年上演のブロードウェイ・ミュージカル『ジャニス』で出会ったアイナ・ジ・エンドさんと長屋晴子(緑黄色社会)さんから受けた衝撃などを語ってもらった。

 

森 雪之丞●もり・ゆきのじょう…1954年1月14日生まれ。東京都出身。作詞家、詩人、劇作家。大学在学中からオリジナル曲のライブを始め、同時にプログレッシブ・ロックバンド「四人囃子」のゲスト・シンガーとしても活躍。1976年に作詞&作曲家としてデビュー。以来、ポップスやアニメソングで数々のヒット・チューンを生み出す。1990年代以降、布袋寅泰、hide、氷室京介など多くのロック・アーティストからの支持に応え、尖鋭的な歌詞の世界を築き上げる。これまでにリリースされた楽曲は2700曲を超え、2006年には作詞家30周年を記念したトリビュート・アルバム『Words of 雪之丞』が制作され、2016年には作詞家40周年記念CD BOX『森雪之丞原色大百科』(9枚組)が発売された。また詩人として、1994年より実験的なポエトリー・リーディング・ライヴ『眠れぬ森の雪之丞』を主催。2003年には詩とパフォーマンスを融合した『POEMIX』を岸谷五朗と、2011年には朗読会『扉のかたちをした闇』を江國香織と立ち上げるなど、独創的な行動と美学は多くの世代にファンを持つ。近年は舞台・ミュージカルの世界でも活躍。劇団☆新感線の『五右衛門ロック』シリーズの作詞を始め、『キンキーブーツ』『チャーリーとチョコレート工場』『ボディガード』などブロードウェイ・ミュージカルの訳詞も手掛ける他、オリジナル戯曲にも取り組み、ロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』(2012・2015)、『SONG WRITERS』(2013・12015)、『怪人と探偵』(2019)、『ロカビリー☆ジャック』(2019)、『ザ・パンデモニアム・ロックショー』(2021)の作・作詞・音楽プロデュースの公演を成功させている。公式プロフィール公式サイトX(旧Twitter)

 

【森 雪之丞さん撮り下ろし写真】

 

日本人の怨念や湿り気をはらんだ早川義夫さんのソウルフルな歌い方に惹かれた

──森さんは今年で作詞家デビューして48年目になります。公式サイトの年譜によると、高校生のときに「ビートルズ、ボブ・ディラン、ジャックスの早川義夫などに多大な影響を受け、オリジナル曲を作り始める」と記していますが、ジャックスとの出会いを教えていただけますか。

 

 中学生のときに、友達がジャックスのファンクラブのカードを持っていたんです。ファンクラブ名が「薔薇卍結社」だったんですけど(笑)、その言葉に惹かれて。ちょうどジャックスが「タクト」というインディーズ・レーベルからシングルが出るタイミングで、それを聴いてぶっ飛んだんです。その後、メジャーから出た1stアルバム『ジャックスの世界』(1968)も最高でした。

 

──中学生でジャックスにハマるって、当時としては早熟ですよね。早川さんのどういうところに惹かれたのでしょうか。

 

 一つはソウルフルな歌い方ですね。黒人のソウルではなくて、日本人の怨念や湿り気をはらんだソウルで、そこにヤラれました。それまで聴いていた日本の音楽はグループサウンズや歌謡ポップスでしたから、そこには絶対に出てこないような言葉を早川さんは歌うんです。「裏切りの季節」という曲だったら、“燃える体を寄せ合って くずれていったあの夜に”という歌詞を、身をよじりながらシャウトする。あとアルバムジャケットの裏に早川さんが「このレコードは、こういうものです」みたいなライナーノーツを自ら書かれていて。その文章がものすごく詩的で、そこからも多大な影響を受けました。

 

──ジャックスの活動期間は1965年から1969年と短命に終わります。

 

 2ndアルバム『ジャックスの奇蹟』(1969)は、レコーディング中に解散したために不遇な作品ではあったんですが、やっぱり好きでしたし、解散後に出した早川さんの1stソロアルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』(1969)も愛聴していました。

 

──森さんはジャックスが解散した年に、通っていた都立大泉高校の同級生とロック・バンド「南無(なむ)」を結成するんですよね。

 

 そうです。実は、そのバンドがきっかけで早川さんとお会いする機会があったんです。

 

──それはすごい!

 

 南無で活動していたときに、同級生ですけど違う高校に通っていた岡井大二というドラマーと、森園勝敏というギタリストと知り合って。二人とは、後に「四人囃子」というプログレバンドを結成するんですが、その当時から彼らはうまかったんです。「フリー」や「グラファン(グランド・ファンク・レイルロード)」のコピーをやっていて、界隈に名が響き渡るほどのテクニックでした。南無はめちゃくちゃ下手くそだったんですけど、ジャックスの影響でオリジナルを日本語でやっていたので、僕らのライブを聴いて二人はビックリして、それで友達になったんです。高校2年生のときに南無は解散するんですけど、二人のプロデュースで5曲入りレコード『南無』を100枚自主制作して、森園はギターも弾いてくれました。そのレコードを早川さんに聴いてもらったんです。

 

師と仰いでいる人からのオファーで歌詞を書いた「天使の遺言」

──どのように早川さんと繋がったんですか?

 

 話は前後するんですが、立教大学に「OPUS」という、ちょっと学生運動がかった音楽集団があって、そこの主催者が当時、「渋谷ジァン・ジァン」という小劇場のオーディションを仕切っていたんですよね。それに、まだ高校生だったんだけどギターの弾き語りで合格して。そのときに主催者の方から「立教に遊びにおいでよ」って言われたんです。それでギターを担いで遊びに行ったら、「ムーンライダーズ」の前身である「はちみつぱい」の渡辺 勝さんや岡田 徹さんと知り合って。当時は立教が溜まり場になっていたので、斉藤哲夫さんやあがた森魚さんとも面識ができたんです。

 

──錚々たるメンバーですね!

 

 1970年に哲夫さんが「悩み多き者よ」でURCレコードからデビューするんですが、その曲のプロデュースが早川さんだったんです。当時、早川さんはURCでディレクターをやっていたので、哲夫さんに「どうしても紹介してほしい」と頼み込んで、自主制作した『南無』を持って、早川さんに会いにURCに行ったんです。もうドキドキでしたよ。

 

──ジャックスのヴィジュアルはダークで近寄りがたい雰囲気でしたが、当時の早川さんはどんな方だったんですか?

 

 とても優しい方でした。「とにかく聴いてください!」とレコードを渡して、後日、電話で早川さんとお話ししたんですが、そのときに「森くんは僕に何をしてほしいの?」って聞かれたんです。当時はプロになる気持ちもなかったので、「早川さんに聴いてもらいたいだけだったんです」と伝えたら、「ピエロみたいな格好をして踊るといいよ」というアドバイスをくれて。まだヴィジュアル系などが出るはるか前ですからね。怨念の人だと思っていた早川さんが、そういう非凡な発想をするから、すごい人だなと改めて思いました。

 

──共通の知り合いがいたとはいえ、憧れの人に直接レコードを渡すって、ものすごい行動力ですね。

 

 今は音楽スクールに行けば、精神は学べないけど、幾らでもテクニックは学べるじゃないですか。僕らの時代は何もなかったので、憧れのアーティストがいたら、まずは会ってみたいと思うし、会うためにはどうすればいいんだろうと考えて。自分が作ったレコードを渡せば、拙い内容でも少しは思いが伝わるかもしれないと思ったんですよね。そこに至るまでには、勝さんや哲夫さんがいて、早川さんに繋がっていくというのは、今お話しして思いましたけど“物語”ですよね。哲夫さんの家に押し掛けたこともあったし、意外と僕は図々しい奴だったのかもしれない(笑)。確か僕の大泉の実家に勝さんが遊びに来たこともあったし、先輩も優しい方ばかりでしたね。

 

──その後も早川さんとは親交が続いたんですか。

 

 早川さんは音楽の仕事を辞めて、本屋さんを始めたので、それっきりでした。ただ早川さんが90年代に入って音楽活動を再開して、1993年に江古田の「バディー」というライブハウスで復活ライブを行ったんですが、勝さんがピアノで参加するということで呼んでいただけたんです。そのときに早川さんとお話しさせていただいたら、僕の作品も聴いてくれていたみたいで。その後、「森くんの歌詞を歌ってみたいな」という連絡があったんです。

 

──早川さん自身からオファーがあったんですね。

 

 私淑して、師だと思っていたアーティストに頼まれたわけだから、ものすごいプレッシャーでした。もちろん喜びも大きかったんですが、喜びの中には苦痛も共存しているものなんですよね。それを形にしたのが、「天使の遺言」という作品です。もう1曲あったんですが、それはまだ作品化されていません。2006年に『Words of 雪之丞』という僕のトリビュート・アルバムが出たんですが、斉藤和義くんが「どうしても『天使の遺言』を歌いたい」とカバーしてくれて。ライブでも歌ってくれているので、斉藤くんで知ってくださった方も多いと思います。

 

アイナ・ジ・エンドのシャウトに魅せられた

──森さんは70歳の誕生日となる今年1月14日に自選詩集『感情の配線』を刊行しましたが、どういう経緯で作ろうと思ったのでしょうか。

 

 作詞家デビューして48年、そのうちの30年で歌詞だけではなく詩も書いて、5冊の詩集を出してきました。70歳になるにあたって、30年間で書いた詩を今の人たちにも届けたいなと思って、自選で一冊にまとめました。

 

──30年前と今で、ご自身で変化は感じますか?

 

 1994年に刊行した第一詩集の『天使』を読むと、もちろん拙いと思うことはあります。この30年間で表現の仕方も深まりましたしね。ただ今回まとめてみて、その時々で考えていることの違いはあれ、一貫して人間というものを書いてきたのかなと思いました。人間の儚さ、哀れさ、不条理といったものの中で、自分なりに光や幸せを探したいという願いを込めてきたと思います。

 

──さまざまな形式の詩が収められている中で、「夢と旅の図式」と題された連作の戯曲詩が5篇収録されていますが、どのような発想で生まれたのでしょうか。

 

 ここ20年、舞台の仕事もずいぶんやりましたので、詩に戯曲のような要素を入れたいなと思ったんです。女・男・天使・影・魔術師・旅人といった登場人物が出てきますが、詩なんだけどもシナリオに近い、詩なんだけども芝居に近いというようなニュアンスで、5つの詩を物語のように紡ぎました。書いた時期がバラバラなので、戯曲詩にして一つの物語になればいいなと手直しをしました。

 

──昔から物語を作りたい欲求はあったのでしょうか。

 

 音楽が好きでキャリアが始まっているので、物語というよりは、やはり詩なんでしょうけど、もちろん詩にも物語がある。ある物語を設定して、その1シーンだったり、一つの感情だったり、もしくは数年にわたる情景を、一篇の詩や歌詞にすることもあります。僕の場合は、長いものを書くよりも、それを削いで削いで、一つの詩にするというふうなことをやってきたんです。でも、2003年に鴻上尚史さん主宰の第三舞台の名作『天使は瞳を閉じて』をミュージカル化するにあたり、作詞と音楽プロデュースを担当したんです。それをきっかけにミュージカルが面白くなってきて、それ以降、劇作家の方と組んで、詩を提供するというのをやり始めました。2008年からは劇団☆新感線と定期的にお仕事するようになって、座付作家に中島かずきさんがいて、僕が詞を書いているんですけど、その経験を重ねているうちに、自分で物語も書いて、そこに詩を組み込んでいったほうがミュージカルとしては自然だなと感じたんです。それで2012年に上演したロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』から戯曲そのものを手掛けるようになり、この12年で5本のミュージカルを書きました。

 

──多岐に渡る活動をする中で、12年間で5本も書いたのは驚異的ですね。

 

 他の仕事と並行しながら書いているので、相当な時間をかけていますし、我ながら元気だったなと思います(笑)。今までのようなペースは無理ですけど、これからもミュージカルは書き続けたいですね。

 

──2022年にはブロードウェイ・ミュージカル『ジャニス』の訳詞も手掛けていますが、本作には主演のアイナ・ジ・エンドさんや緑黄色社会の長屋晴子さんなど、若いアーティストが出演しました。新しい世代のシンガーを間近で見て、どう感じましたか。

 

 もちろんアイナはジャニス・ジョプリンをリアルタイムでは知らないんだけど、ちゃんとジャニスのハートを持っていて、ハスキーな声でソウルフルに歌うし、シャウトもすごかった。日本で、ここまで素晴らしいシャウトができる人は少なかったと思うので、そういう人が当たり前のようにひょこっと出てくるのが面白かったです。緑黄色社会の長屋はエタ・ジェイムスを演じたのですが、J-POPで育ったらしいのに、ものすごくソウルフルに歌えるんですよね。おそらく親がソウルやファンクを聴いていて、それが娘に受け継がれているとしか思えない。そういう新しい時代になったんでしょうね。

 

詩を書くことは感情を配線しているようなところがある

──『感情の配線』は装丁から関わられたそうですね。

 

 今まで5冊の詩集も含めて、幾つも本を出してきたんですが、装丁から関わったのは今回が初めてでした。花布(はなぎれ)の色まで決めなきゃいけなくて大変だったんですが、本というものは、いろんなパーツがあってできているんだと改めて知れたのも面白かったです。僕はネットも大好きですけど、紙の本はいつでもどこでも手軽に読めるのが好きなんです。もちろんスマホやパソコンで読んでもらうのもうれしいですが、せっかくなら『感情の配線』を手に取って、本の手触りや匂いも感じてほしいですね。

 

──表紙の絵は、森さんの娘さんが描いたものだそうですね。

 

 娘が16歳のときに描いた絵なんです。何を作っているのかは分からないんだけど、何かを配線しているのが、『感情の配線』というタイトルにリンクしているなと。詩を書くことも、感情を配線しているようなところがありますからね。

 

──ネットがお好きということですが、いち早くパソコンなども取り入れたほうですか?

 

 早かったほうだと思います。そもそもワープロを使い始めたのも早かったですから。最初に買ったワープロなんてモニターに1行しか表示されなかったんですよ(笑)。でも手書きで清書をするよりはマシだなと。それまではペンで歌詞を清書していて、ホワイトで修正するのも味気ないからと、間違えたら一から書き直していたので、すごく時間がかかっていたんです。だから表示されるのは1行でも、簡単に修正できるのは大きかったです。その後、表示できる行数が増えて、どんどん進化していくので、効率も良くなっていきました。

 

──アーティストによっては、手書きのまま歌詞を印刷して世に出す方もいて、味わいがありましたよね。

 

 手書きで綺麗な字が書けてしまうと、ヴィジュアルに酔って良い詩かなと思うこともあるし、気持ちが入ったときの詩は強く記憶に残ってしまって、冷静に見られなくなる面もあるんです。だから最終的に印字をして、フォントで確認したほうが、書いたときの自分と少し距離を置けるので、手書きよりも僕に合っているんですよね。

 

 

<Informaition>

森雪之丞自選詩集『感情の配線』

好評発売中!

装画:森まりあ
価格:2,500円(税別)
発売元:株式会社開発社

<収録内容>
森雪之丞自身がこれまでに発売した詩集から厳選、図形詩、戯曲詩の初の書籍収録。

<目次>
詩I 14 篇
図形詩 10 篇
詩Ⅱ 13 篇
戯曲詩『夢と旅の図式』5 篇による連作詩
詩Ⅲ「生きる、あなたに泣いてほしくて」

自選詩集『感情の配線』特設ページ公開 https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

 

Podcast番組「森雪之丞 Poetory Readingの世界『感情の配線』」

配信開始!

【出演】森雪之丞(著者)
【配信】2024年1月14日(日)正午から順次配信予定
(隔週月曜日 正午頃 各種Podcastサービスで配信 ※Spotify、Apple Podcast、AmazonMusic、YouTube Musicなど)
【番組ハッシュタグ】#感情の配線 #推詩

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

引退馬と猫が過ごす日々にほのぼのしちゃう! SNSでも話題のフォトブック『ボス猫メトとメイショウドトウ』

昨年末、GⅠレース6連勝を誇り最強馬とも言われたイクイノックスの引退に驚かれた競馬ファンも多いでしょう。毎年たくさんのドラマを見せてくれる競馬も必ず「引退」します。そんな引退した馬がどうなるかご存知でしょうか?

 

ボス猫メトとメイショウドトウ』(佐々木祥恵・著/辰巳出版・刊)は、引退馬が穏やかに余生を過ごせる北海道の牧場ノーザンレイクでの日々が記録されたフォトブック。この牧場のスタッフ、そして競馬ライターとしても活躍されている佐々木祥恵さんの文章が沁みます……。今回は、かわいい写真にほっこりしながら引退馬についてもじっくり考えたくなる『ボス猫メトとメイショウドトウ』をご紹介します。

 

牧場を開場した3日目に現れた、ボス猫のメト

『ボス猫メトとメイショウドトウ』の表紙から馬と猫の仲の良さが伝わってくるのですが、なんとこのメトさん、突然この牧場に現れたネコだったそう。

 

突然現れたその猫は、堂々と厩舎の廊下を闊歩して、私の目を真っ直ぐ見据えて大きな声で鳴いた。まるで仲間に入れてくれと訴えているようだった。去勢されていたので、以前は飼い猫だったのかも知れない。

(『ボス猫メトとメイショウドトウ』より引用)

 

運命的な出会いから、メトという名前がつき、馬や人間と仲良く過ごすようになったのだとか。メトはSNSでも大人気で、昨年には猫雑誌「猫びより」にも掲載されるほど! 『ボス猫メトとメイショウドトウ』の中でも、堂々とした態度が本当にかわいく、放牧地の中をお散歩したり、馬の背中に乗ったり、夜の厩舎を巡回したり、馬に猫吸いされたり(笑)、微笑ましい姿がたくさん掲載されています。

 

写真を見ていると引退馬に会いたいな〜なんて思ってくるのですが、馬はとっても臆病な性質のため、しっかりとルールを守って見学することが大切です。「競走馬のふるさと案内所」というウェブサイトにも詳しく詳細が書かれてあるので、よ〜く確認した上でお邪魔するようにしましょうね!

 

引退馬が穏やかに暮らす牧場、そして馬を看取るお仕事

たくさんの写真が掲載されている『ボス猫メトとメイショウドトウ』ですが、写真とともに佐々木さんの文章が綴られています。その中で、とっても驚いた文章がありました。

 

引退後、メイショウドトウやタッチノネガイ、アシゲチャンのように余生を送れる馬もいるが、多くは食肉用として屠畜に回る。乗馬として働けなった馬もほぼ同様の道を辿る。

(『ボス猫メトとメイショウドトウ』より引用)

 

牧場で穏やかな日々を過ごしたり、種牡馬として後世に遺伝子を残したりできる馬はほんの一部。その多くが肥育場に送られ馬肉になるのです。「え、お肉になるの!?」と私の中でいろんな感情が巡ってしまいました。

 

まだ整理ができていないくらいなのですが、まずはこの事実を知ることができてよかったと思います。良い・悪いということではなく、余生を過ごせる馬を一頭でも増やしたい、引退馬たちのことも知ってほしい、と自分なりに考える時間ができたからです。

 

ノーザンレイクにいる馬たちは、さまざまな事情からこの牧場にたどり着いています。ただし共通しているのは、この牧場で看取ってもらえるということ。レースで力を振り絞り、5〜6歳という若さで引退、種牝馬や繁殖牝馬として頑張った後、25〜30年ほどでその生涯を終える馬。同じ命あるものとして、生涯をともに過ごせる場が増えてほしい、支援していきたいと強く感じました。

 

フォトブックの売上の一部は、引退馬たちに使われる!

現実を知り、なんとかしたいと思っても、今日、明日で引退馬の環境が劇的に変えることはなかなかできません。飼育する場所や経費、人だって必要です。これまでクラウドファンディングやSNSでの呼びかけによって、少しずつ引退馬への支援が広がってきています。

 

『ボス猫メトとメイショウドトウ』を通じて、引退馬たちの余生を過ごせる場所を増やしてあげたい! と思ったら、さまざまな方法で支援することが可能です。『ボス猫メトとメイショウドトウ』の売上の一部も、ノーザンレイクで暮らす馬たちのために使われるとのこと。

 

写真を見るだけでも癒されちゃいますが、『ボス猫メトとメイショウドトウ』を読み終わった後、心に残る思いは本当に大切にしてほしいなと感じます。私もできることから……と、微力ですが認定NPO法人 引退馬協会に寄付してみました。いつの日か馬と人間が穏やかに暮らせる、そんな世界になったらいいな〜と思わせてくれる1冊です。

 

【書籍紹介】

ボス猫メトとメイショウドトウ

著者:佐々木祥恵
発行:辰巳出版

大人気のG1ホース・メイショウドトウをはじめ、5頭の競争引退馬たちが暮らす北海道新冠町の引退馬牧場・ノーザンレイク。牧場の窮地を救ったのはなんと1匹の猫! 突如現れた茶白のオス猫・メトは、牧場内での暮らしを謳歌し、馬たちとの交流を楽しみ、馬の背や人の肩に乗るのが大好きな自由猫。その愛らしさで多くの人を虜にし、ノーザンレイクをたくさんの人に愛される牧場へと導いています。メトと馬たちの交流を感じられる撮りおろし写真の数々から、ノーザンレイクで日々馬たちを世話する著者が綴る猫、馬たちのエピソード、メトの日常から引退馬についてまでを知ることができる充実の内容です。今は亡きプリサイスエンド、タイキシャトルも登場。

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強くなりたくば、読めッッッ!!! 『刃牙』×『四字熟語』のコラボで地上最強の語彙力を手に入れろ!

「ある者は生まれてすぐにッ、ある者は父親のゲンコツにッ、ある者はガキ大将の腕力にッ、ある者は世界チャンピオンの実力に屈して、それぞれが最強の座をあきらめ、それぞれの道を歩んだ。医者、政治家、実業家、漫画家、小説家、パイロット、教師、サラリーマン。しかしッッッ、今夜あきらめなかった者がいるッッ。偉大なバカヤロウ2名!!! この地上で誰よりもッ、誰よりもッ、最強を飢望(のぞ)んだ2名、決勝(ファイナル)!!! 両者入場!!!」

 

どうも皆さんこんにちは。人生のどこかで最強の座をあきらめ、小説家に転じた男、谷津でございます。

 

わたしは男性ではあるものの、腕っ節に自信がない。が、『刃牙』シリーズの登場人物、徳川光成が高らかに謳い上げたこの台詞は、心の中でいやに残響し続けている。反マチズモ的な現代社会の潮流にどこかほっとしているわたしもいるのだが(なにせ、マチズモゴリゴリな世界線に放り込まれたら、わたしは淘汰される側の人間である)、その反面、ゴリッゴリの超雄(ちょうオス)世界に憧れるもう一人のわたしが、光成の宣言に対して両手を挙げ、快哉を叫んでいるのである。

 

わたしは『刃牙』シリーズのファンである。主人公範馬刃牙とその父にして地上最強の生物、範馬勇次郎の相克を縦糸に、様々な豪傑、武芸者、強者が己の最強を信じ、自らの技や体を練り、まだ見ぬ強敵に挑み絆を育む展開を横糸に織り上げた本作に、毎度ハラハラさせられている。

 

と、『刃牙』シリーズの魅力を熱く語ってしまったが(まだまだ語りたいことは沢山あるのだが)、そろそろ本題に入ろう。

 

『刃牙』と『四字熟語』−–”オス”を感じる両者のコラボ

超雄格闘漫画『刃牙』シリーズの四字熟語本、という、盆暮れ正月と共にゴールデンウィークがやってきたような本が刊行された。刃牙に学ぶ地上最強四字熟語(五百田達成・著/Gakken・刊)である。

 

四字熟語に雄を感じるのは、わたしだけだろうか。いや、わたしだけかもしれないが、四字熟語を前にすると、バッキバキに体が仕上がった男のイメージが頭を掠める(我ながらおかしなシナプス回路をしているとは承知している)。タイトルを拝見した瞬間から、濃厚な雄感にビビり散らかしていたのはここだけの話であるが、いざ読み進めると、「濃厚な雄感」どころではない、源泉掛け流しの雄感満載の内容に脳内麻薬(エンドルフィン)がドバドバあふれ出たのであった。

 

そもそも『刃牙』シリーズは、一枚絵の破壊力が凄まじい作品である。そこに四字熟語がはめ込まれることで、様々なシナジーを起こしている。

 

四字熟語は格好いいものである。かつて「仏恥義理」、「愛羅武勇」などとオリジナル四字熟語を作り、特攻服やバイクなどに書き入れるヤンキー文化があったそうだが、こうした文化が興るのも、四文字の漢字で構成される言語に、根源的な格好良さが備わっている証左だろう。

 

そうした四字熟語と、恰好いい男が多数登場する『刃牙』シリーズは相性がいいのである。仮にそれが、「草木皆兵」(P89)、「嚮壁虚造」(P108)、「自縄自縛」(P135)といったマイナスの意味を持った言葉や、「柔軟体操」(P132-133)や「名実一体」(P205)といった、比較的フラットな意味を持つ言葉であったとしても、である。むしろ、そういう言葉であればあるほど、四字熟語の持つ根源的な格好良さが際立つとすらいえる。

(C)板垣恵介(秋田書店)1992

 

彼らは「四字熟語」でこそ修飾されるべき存在だ!

また、本書は、四字熟語本としての魅力とは別に、『刃牙』シリーズの批評本としての側面も有している。

 

一生懸命(これも四字熟語だ)に戦う人々の姿は、格好がいい。だがその一方で、一生懸命さには一抹のおかしみが滲むものである。実際、本編においても、「最強を目指す」男たちの夢に対し、ある人物が強烈なカウンターパンチを食らわせ、地上最強という本作の是を相対化してみせるシーンが存在するように、本書もまた、四字熟語本の形で、ストイックで男臭いばかりではない『刃牙』世界の魅力を引き出している。例えば、「雲泥万里」からの「全力投球」(P98-101)には笑わされてしまったし、「自暴自棄」(P56-57)、「猪突猛進」(P136-137)などは、本編では違和感がなかったのに、本編の文脈から切り離された瞬間、ある種のシュール味に気づかされる。

(C)板垣恵介(秋田書店)1992

 

(C)板垣恵介(秋田書店)1992

 

もちろん本書は「おかしみ」だけを取り上げているわけではない。「無念千万」(P86-87)、「一意専心」(P96)、「画竜点睛」(P94-95)など、『刃牙』シリーズの人気キャラクターの核に迫るシーンの紹介にも余念がない。本書は、四字熟語という切り口から、『刃牙』シリーズの諸エッセンスを掘り起こした批評本でもあるのである。

(C)板垣恵介(秋田書店)1992

 

何より、本書は『刃牙』シリーズ一番の魅力である「シンプルさ」を体現している。地上最強の父を超える。そんな望みを胸に抱いたがために、地上最強を目指さざるを得なくなった範馬刃牙は、日々自らを鍛え上げ、敵と対峙し、新たな技を磨いていく。虚飾を削ぎ落とし、ただ「最強」の二文字のために生きる刃牙は、日々、へらへらと追従笑いしながらのんべんだらりと生きているわたしたちの対極にある、シンプル極まりない存在である。そう考えると、四字熟語もまた、余計なものを削ぎ落とし、ただただ一つの意味を有した言葉としてそこにある、唯一無二の存在である。

 

『刃牙』シリーズの登場人物たちは四字熟語でこそ修飾されるべき存在なのである! そんな真理を発見したこと、これこそが本書一番の功績かもしれない。

 

『刃牙』ファンは「こんなシーンがあったなあ」と楽しめることであろうし、『刃牙』を履修していない皆さんにおかれては『刃牙』世界への入り口になる、地上最強の四字熟語本なのである。

(執筆:谷津矢車)

 

【書籍紹介】

刃牙に学ぶ 地上最強四字熟語

著者:五百田達成
発行:Gakken

連載30周年を迎えた板垣恵介先生の大人気格闘漫画、「刃牙」シリーズ。「最強をめざしたい!」格闘好きのファンから、熱い支持を受け続けている。選りすぐった「ファン垂涎の名シーン」とともに、日常使いの四字熟語から難読四字熟語まで、楽しく読み進めるだけで知らず知らずのうちに「地上最強の語彙力」が身につく一冊が完成!

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「音鉄」ってどんな趣味? モーター音、ドアの開閉音、車内放送……録音して楽しむディープな世界~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私はファンタジーをメインに書評をしていますが、“ファンタジー好き”といってもさまざまです。きらびやかな魔法が飛び交う世界に魅了される人もいれば、ドワーフやエルフ、ドラゴンといった種族に惹かれる人もいるでしょう。なかにはファンタジーに出てくる架空の料理を再現して楽しんでいるという人も知っています。どんな魔法がかかるかは十人十色。

 

それは鉄道も同じようで、乗り鉄、撮り鉄、時刻表鉄、駅弁鉄……とバラエティ豊か。今回紹介する新書のテーマはなんと「音鉄」! 鉄道が走る音、確かにそれは旅情の重要な要素ですね。

 

耳で楽しむ鉄道趣味を詳しく紹介

鉄道の音を楽しむ 音鉄という名の鉄道趣味』(片倉佳史・著/交通新聞社新書)の著者・片倉佳史さんは台湾在住作家。武蔵野大学客員教授、台湾を学ぶ会代表。台湾に残る日本統治時代の遺構を探し歩き、執筆と撮影を続けています。また、録音機材を片手に、耳で楽しむ鉄道趣味(音鉄)を広める活動も行っています。著書に『音鉄−耳で楽しむ鉄道の世界−』(ワニブックス)、『台北・歴史建築探訪』(ウェッジ)など。

 

「ガタンゴトン」のジョイント音はどこで聞く?

音を記録して、記憶と想像力で臨場感を楽しむのが音鉄趣味と著者の片倉さん。第1章「『鉄道音』の世界へようこそ」では、まだ“聞かぬ”世界、音鉄の扉が開かれます。

 

そもそも鉄道に関連する音はどれだけあるでしょうか。モーター音、車内放送、ドアの開閉音、踏切音、駅員の喚呼……。そして、駅弁売りや車内販売のスタッフの声など、消えゆこうとしている音もあります。スマホの進化で録音が気軽になったこともあり、音を愛するレイルファンは確実に増えているそうです。

 

片倉さんは鉄道に関する音のほか、セミが好きで、夏場はセミの鳴き声と鉄道を絡めた音を探して各地を旅しているとか。鉄道のある環境音を「音風景(サウンドスケープ)」と称して、まるごと楽しむスタイル。どこかノスタルジックで心惹かれます。

 

そのサウンドスケープの活用法も書かれています。目を閉じて旅の様子を思い浮かべるのはもちろん、長時間録音したものをデスクワークのBGMにすると集中力が高まるとか。また、静かな車内の走行音をかけながら休んでいると、想像以上に心地よく安眠の世界にいざなわれるのだそう。そう言われてみれば、電車のなかっていつの間にか寝ていますよね(笑)。

 

第2章「音鉄趣味の分類学」では、さらにディープな鉄道音の魅力に迫っていきます。こだわりがすごい! と私が思ったのは、ジョイント音(線路の継ぎ目を通るときのガタンゴトンという音)について。

 

都市部では最近は継ぎ目のないロングレール化が進んでいるそうですが、北海道や四国、山陰地方はまだ25mごとに継ぎ目がある定尺レールがメイン。高速で走る特急列車は、ジョイント音もスピード感たっぷり。小刻みなジョイント音と力強い気動車のエンジン音が絡み、床下から響いてくる音に迫力を感じる、と片倉さん。

 

どこで音を聞くかもポイントで、付随車「サハ」の車両中間部では、ジョイント音や車内放送をクリアな音で楽しめます。「サハ」の車両端部では豪快なジョイント音が味わえ、先頭車両の「クハ」「クモハ」では警報音や運転士の声がアクセントとして入ってくる。改札への階段が近いから……ではなく、いい音を聞くために乗車位置を選ぶんですね!

 

全国の“音鉄スポット”をガイドする第3章、音鉄散策のテクニックを伝授する第4章。そして後半では「聴く」「集める」「創る」音鉄の達人たちへのインタビューが掲載されています。

 

鉄道音という誰でも絶対に聞いたことがある“音”なのに、知らなかった世界が開ける、まさに音が作り出すセンス・オブ・ワンダー。ディープな趣味を語る専門家の熱量に触れられる、新書の良さもよく出ています。難しい用語も平易に説明され、鉄道に詳しくない人でも大丈夫。読んでいると、まるで線路脇にいて音が耳に飛び込んでくる感覚でした。

 

【書籍紹介】

鉄道の音を楽しむ 音鉄という名の鉄道趣味

著者:片倉佳史
発行:交通新聞社

鉄道とは切っても切れない存在にある「音」について、その楽しみ方を幅広くまとめた1冊です。ひと口に“鉄道の音”といっても、走行中の電車のモーター音や、車掌の放送、駅の自動放送や発車メロディ、踏切の警報音など、その種類は多岐にわたります。第1章で概論的にそれらを紹介したうえで、第2章では「音鉄日誌」と銘打ち、全国の音の現地での楽しみ方をまとめます。第3章では、音に関わる方々にインタビューを展開します。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

クリエイティブディレクター・山崎晴太郎が語るビジネスの流儀「自分のクリエイションにとって大きな武器は余白」

デザイナー、アーティスト、経営者、テレビ番組のコメンテーターなど、多岐に渡る活動を展開するクリエイティブディレクターの山崎晴太郎氏が、自身初となるビジネス書『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』を刊行した。仕事にも日常にも「余白」が必要だと説く氏に、仕事と趣味の向き合い方や、愛用しているガジェットなどを聞いた。

 

山崎晴太郎●やまざき・せいたろう…代表取締役、クリエイティブディレクター 、アーティスト。1982年8月14日生まれ。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのクリエイティブディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee、広瀬香美、代官山ASOなど。株式会社JMC取締役兼CDO。株式会社プラゴCDO。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ系)にコメンテーターとして出演中。公式サイトInstagram

 

【山崎晴太郎さん撮り下ろし写真】

 

定住すると自分自身が止まる気がする

──今回、初の著書『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』を刊行した経緯を教えてください。

 

山崎 本のお話は前々から頂いていたんですが、本を書くと思考がそこで止まってしまう気がして出せなかったんです。ただ今回のテーマは「余白」ということで、楔を刺さないような思想を出せるので、タイミングとしてもいいかと思いました。

 

──これまでの仕事を総括するようなアートやデザインの本ではなく、ビジネス書というのが意外でした。

 

山崎 ビジネス書だからこそ、ライトに取り組むことができたんです。アートやデザインといった本流だと、その本が世の中に存在する意義や、業界に対してのプレゼンスなど、見せ方も含めて、いろいろ考え過ぎてしまうので。ビジネス書は細かくチャートを分けて、端的に言いたいことをスパンと伝えられるからコピーライティング的で、僕としてもやりやすかったです。

 

──「余白」を意識したのはいつ頃ですか?

 

山崎 アーティスト活動を始めた頃から、デザインやアートでは当たり前に使っている武器だったんですが、余白という概念は海外にないんですよね。英訳もできないので、そのまま「YOHAKU」と書いているんですが、直訳すると「ブランクスペース」や「ネガティブスペース」になってしまうので、“何もない場所”や“虚無”といった意味合いになってしまうんです。日本人の感覚で言う「余白」は、その中に宇宙があるというか、何がしかの意味合いがあるスペース。そういう概念は海外にないので、自分のクリエイションにとって大きな武器になるんだなと思ったのは30歳ぐらいです。そのタイミングで、生け花をやり始めたり、水墨画を始めたり、日本の文化や感覚を自分の中に意識的に取り入れました。

 

──確かに日本には余白を使った空間や場所は多いですけど、日本独特の文化なのでしょうか。

 

山崎 独特だと思います。“ミニマム”や“禅”など、いろんな表現をされるんですが、別の言葉で言うと「余白をうまく使う」なのかなと。最近よく“コンセプト”って言いますけど、それも多分に余白的だと思っていて。日本は英語の文化じゃないが故に、デザインやクリエイションがガラパゴス化しているところがあるんですけど、その中で余白は特徴的な概念だなと思います。

 

──本書には、ご自身で設計した「理想の家」で失敗した経験が書かれていますが、具体的にどういう失敗だったのでしょうか。

 

山崎 無垢の杉材を使ったら、床暖房を設置できないので、基礎にちょっとした切れ込みを入れて、エアコンを床下に向けて設置するとか、生け花や植物が溢れる家にするために、リビングと連続した土間のような植物専用エリアを作るとか、実験も含めて、いろんなことをやったんです。そのときに思う理想ではあったんですが、余白がないというか、偶発性がないので、半年ぐらいで飽きてしまいました。家庭料理は飽きずに食べられるけど、毎日コンビニのお弁当だと飽きるじゃないですか。その感覚に近くて、生活に揺れが出ないんですよね。

 

──オフィスも定期的に引っ越すようにしているんですよね。

 

山崎 株式会社セイタロウデザインは2008年に設立したので16期目なんですが、今のオフィスが8つ目。契約更新したのはコロナ禍の一回だけです。

 

──頻繁に引っ越すのも環境に飽きてしまうからですか?

 

山崎 それもありますが、まだ自分のクリエイションにどこか自信がないんでしょうね。定住すると自分自身が止まる気がするんです。だから、仕事もできる限り幅の広いことをやって、刺激を入れ替えるようにしているんですが、一番手っ取り早いのはいる場所を変えることなんですよね。外部刺激を入れ替えることで、生活のリズムやルーティンを外して、強制的にクリエイションに刺激を与え続けている感覚です。今は少し会社も大きくなってきたので、本社は動かしにくいんですけど、アトリエを別の場所にする計画をしていますし、今年は自宅も引っ越そうかなと思っています。

 

大物ガジェットを入れ替えるのが習慣化している

──PC以外で、仕事に向かう際に欠かせないモノ、最近手に入れてよかったモノ、気に入っているモノなどを教えてください。

 

山崎 欠かせないものは鉛筆とスケッチブック、あとはカメラですかね。最近手に入れたモノだと、「Kindle Scribe」が良かったです。それまでiPadを使っていたんですが、レスポンスや書きやすさが全然違っていて、PDFファイルにアナログ感覚でバーッと書き込めるので超便利です。あれは僕的に昨年のミラクルヒット。読書用に「Kindle Oasis」も持っているんですが、Kindle Scribeはメモやスケッチ用に使っています。

 

──ガジェットがお好きなんですか。

 

山崎 めっちゃ好きです。新しいモノがあったら買ってるかも(笑)。iPhoneも毎回買っていますし、「AirPods Pro」もUSB-Cになっただけで買い替えました。「MacBook Pro」も昨年出た黒のM3です。

 

──新しいモノを取り入れるのは仕事柄もありますか?

 

山崎 言い訳としては仕事柄です(笑)。飽きるのも早いし、オフィスと一緒で変化が欲しいんでしょうね。

 

──山崎さんは大学で「写真表現」を専攻していて、著書でもフィルムカメラの重要性を書いていますが、今使っているカメラは何ですか?

 

山崎 デジタルカメラはライカの「M10」、フィルムカメラはミノルタの「TC-1」とCONTAXの「TC3」、スナップ用に富士フィルムの「X100V」と主に4台を使っています。ライカは昔から大好きで、若いときは高くて買えなかったんですが、初めて買ったのが「Q2」で、次にフィルムカメラの「M-A」を買って、今はM10。僕にとってライカはオートフォーカスがないところが重要で、曖昧さの中にある表現が好きなんです。今欲しいのは「M11モノクローム」。高価なライカでモノクロしか撮れないって狂気の沙汰ですよね(笑)。

 

──カメラ以外で定期的に買い替えるモノってありますか?

 

山崎 カメラ、バイク、車、自転車のどれかを毎年、新しくしています。大物ガジェットを入れ替えるのが習慣化しているんです。一昨年はカメラ、昨年はバイクを買い替えたんですが、今年は自転車を考えています。昨年は大型バイクのために大型二輪の免許も取りました。

 

──よく取りに行く時間がありましたね。

 

山崎 一番高いプランで最初にギチギチに授業を入れました(笑)。昨年4月に「真相報道 バンキシャ!」で、「新生活で大型二輪の免許を取りたいと考えています」と言ったんですが、ゴールデンウィーク明け早々には取っていました。

 

──かなりアクティブですね。バイクに乗る時間はあるんですか?

 

山崎 全然乗ってないです(笑)。大型バイクを買うで一つ自分の中でクリアしているんですよ。バイクはトライアンフの「ボンネビル スピードマスター」に乗り換えたんですが、乗るよりもいじりたいから、イギリスの「モートーン」というカスタムパーツメーカーからいろいろ取り寄せて、週末のたびにパーツを変えています。美しいモノを作るのが好きなんですよね。乗るよりもいじっている時間のほうが圧倒的に長いから、トルクとかも気にしないですし、まだ100キロも走ってないと思います(笑)。

 

──自転車もカスタムが基本ですか?

 

山崎 もちろんです。前の自転車は一通り組みきったので、うちの社員にあげたんですが、また違うパターンで組み立てたいなと。前はヤフオクとかで良いパーツを取り寄せて組んだんですが、次は逆にドレスダウンして組もうかなと考えています。

 

──スノボも趣味とお聞きしましたが、やはり板も頻繁に買い替えるんですか?

 

山崎 2、3年で買い替えてます。年齢を重ねるに従って、滑りのスタイルも変わりますからね。

 

──何事も追求するタイプなんですね。

 

山崎 その世界の中でイケてる枠にいたいんです(笑)。例えば学生時代、僕はサッカーをやっていたんですが、当時のサッカーだったら「ディアドラ」のシューズを履いていると、「知ってるね」みたいな空気があったんですよ。個人的には、そういうのが大事なんです。一時期、クワガタムシのブリーディングをしていたことがあって、そのときも菌糸ビンにこだわってました。

 

──クワガタのブリーディングにまで手を出していたんですか(笑)。

 

山崎 先輩でスマトラオオヒラタを育てているブリーダーの方がいて、「幼虫が生まれ過ぎたから、欲しい人は取りに来て」という連絡があって。他にも欲しいって言っていた方々がいたんですけど、温度管理が大変だとか、奥さんに反対されたとかで、取りに行ったのは僕だけだったんです。当時は子どもが2人だったので、2匹もらって育てたんですが、クワガタを育てるにあたって何がイケてるか分からないから、いろいろ調べたら菌糸ビンのメーカーが3つぐらい出てきて。でも、どれがイケてるか分からなくて、まだ昆虫のブリーディング業界はデザインされていないと思ったんです。だったらアクアデザインアマノ代表の天野尚さんが手がける水槽のように、僕がイケてる菌糸ビンを作ればいいんじゃないかと。そうすればブリーディング業界の間口が広がるはずだと。

 

──新たな可能性を見出したんですね。

 

山崎 菌糸瓶のデザインはまだですが、いつもそうやって新しいことを始めて、各所で言っていたら、いつの間にか仕事になることが多いんです。遊びで始めたことが仕事に繋がっていく。自分の余白にポンポン、いろいろなものをツッコんでいるうちに、何かが花開いていくんですよね。ただ今は一周回って、クワガタは飼ってないんですけど(笑)。極めたいわけではなく、ブリーディングをしたという人生の経験を持ちたいんですよね。

 

──現在進行形でハマっていることは何ですか?

 

山崎 先ほどお話した大型バイクです。今は年配の男性の間で流行っていますが、その中でどう自分のスタイルを確立させるか探っている最中です。ロングコートでバイクに乗る、みたいなスタイルが作れないかな、と。そんなことをやっていたら、取締役をやっている製造業のJMCと、Pamsというバイクガレージと一緒に「ゼロからバイクと車を組みませんか?」というプロジェクトが始まって。今年から「P,z」というブランドの立ち上げが始まりました。ドンガラのカワサキの「Z1」を、ゼロからデザインしながら組み上げていくプロジェクトです。

 

──大型バイクも仕事に繋がったんですか!

 

山崎 その繋がりで言うと、クラシックカーも大好きで、1969年のフォルクスワーゲンに乗ったり、90年代のジャガーXJ-Sに乗ったりしていたんですが、最初は、月に何度もJAFを呼ぶぐらい不便で。今、クラシックカーって、マニア以外には購入の選択肢に入らないじゃないですか。だから新しい車を買おうと検討している一般の方の選択肢に入るようなクラシックカーをデザインするのが、今回のプロジェクトの僕の1つのテーマになっていて。それを実現させたら、新しい時代をデザインできるかな、と考えています。その第一歩として、「P,z」の一環でフェアレディZの「S30」もデザインすることになっているんです。

 

──バイクにしても車にしても、一から勉強しなきゃいけないわけですよね。

 

山崎 そうです。大変ですけど、それが楽しいんですよね。普通に勉強するのは性に合わないですけど、そもそも好きなことですから。それで車の構造を勉強するために、過去に売られていた「S30」の1/8スケールのプラモデルをアメリカから直輸入しました。サイズが大きくて、説明書も全部英語で、1万8000円ぐらいしたんですけど、パーツを見ながら、こうすれば美しくなるなとか考えながら作ったんです。ついでにタミヤの塗装セットも一式買いました(笑)。

 

──プラモデルの領域にも仕事が広がりそうな勢いですね(笑)。クラシックカーや大型バイクに限らず、マニアの多い業界の方と仕事をするときに齟齬感は出ないんですか?

 

山崎 出ますね。こだわりの強い業界の方は、一般の人があまり気にしないことまで気にしていることが多いですよね。それは素晴らしいことなんですが、逆にいうと、閉鎖的になりがちで、一般の人が入りにくい。なので、僕が変なアイデアを出すと、「それをやると、Zに対する愛がなくなる」みたいな話も出てきます。そこを調整しながらやっているんですけど、うまく一般の人とマニアの人を繋げられたら、面白いことが起きるかなと思うんです。

 

会社はやりたいことを実現するための社会に対する器

──本のお話に戻りますが、山崎さんが独立した2008年当時、グラフィックはグラフィックデザイナー、ウェブはウェブデザイナー、プロダクトはプロダクトデザイナー、建築は建築家と、あるゆるデザインが分断されていたそうですが、いつ頃から風向きが変わったのでしょうか。

 

山崎 本格的にはここ5、6年ですかね。10年は経ってない気がします。テレビとネットの関係性と同じで、ウェブデザインがメインになり始めたあたりからです。僕がいた広告業界で言うと、昔は、デザイナーとして偉かったのはグラフィックデザイナーで。それこそ、独立した当時は、「1年くらいウェブデザインの専門学校に行っただけでデザイナーと名乗って。デザインをなめるな」みたいな風潮もありました。でもウェブのほうが断然コミュニケーション力もあるし、どんどんマーケットが大きくなっていくにつれて、紙のデザイナーがウェブもやるし、ウェブのデザイナーも紙をやるという具合に、徐々に旧来のやり方が崩れていったんです。そのあたりからグッドデザイン賞やACC広告賞の評価基準も、物の美しさだけじゃなくて、それで起きた世の中の現象やプロジェクト自体を評価するようになって、風向きも変わったと思います。

 

──そういった業界のタコツボ化みたいなものって日本特有のものだったんですか。

 

山崎 どこの国でもあるとは思いますが、特に日本は強かったと思います。海外だとアーティストがデザインをやったり、デザイナーがアーティストをやったりすることが珍しくなかったですし、マーク・ニューソンやジャスパー・モリソンのように、多岐にわたるデザインを手がけるデザイナーも多かったです。今は日本もデザインの線引きがなくなってきましたけどね。

 

──ベテランの世代でも、うまく時代の波に乗れている人は何が違うと思いますか。

 

山崎 過去のルールなどに固執せずに、本当にやりたいからやる、自分の興味を優先した人が時代を乗り越えている印象です。昔は同じようなやり方で一段一段上がっていくイメージが強かったと思いますけど、今はいろんなやり方があります。AIをどう使うかもそうだと思うんですけど、いろんなテクノロジーが日進月歩で進んでいるので、若くても個性を発揮しやすい状況です。

 

──山崎さんは二十代半ばでセイタロウデザインを設立しますが、早くに独立した理由は何だったのでしょうか。

 

山崎 大学を卒業して、PR代理店のクリエイティブ部門に新卒で入ったんですが、1年間だけフルタイムで働いて、2年目からは会社の時短制度を使って早稲田大学の夜間の芸術学校に通って建築を学んだんです。

 

──なぜ建築を学ぼうと思ったのでしょうか。

 

山崎 当時、僕が手がけたデザインに対して、クライアントは喜んでくれるんですけど、一般の人は僕のデザインにお金を払ってないという感覚があって。僕のデザインは社会の価値になってないなと感じたんです。建築やプロダクトだと、一般の人も僕のデザインに価値を認めてお金を払ってくれるだろうから、そういうものを作りたいなと思って建築を学びました。ところが途中で、建築事務所に勤めなければ、建築士の資格は取れないことに気づくわけです(笑)。そのまま代理店に残るとしても、今までのようにクライアントの商品ありきではなく、商品のコンセプト作りから広告のデザイン、店舗の空間デザインまで全てやりたかった。それを社長に伝えたら、「そんな会社は今の日本にないけど、自分で作ればいいじゃないか」と言われて、資本金の1000万円を出してくれたんです。それで最初は子会社として会社を作ったのが、セイタロウデザインの始まりでした。

 

──設立するにあたって、具体的なビジョンはあったんですか?

 

山崎 なかったです。ただ大きい経済規模を一番に求める会社にはしないと思っていたのと、やりたいことをやるために会社を作るというのが、そもそもの成り立ちなので、やりたくないことをやる会社にはしない。それは今も一貫しています。

 

──社長業とアーティスト性のバランスで悩むことはありますか。

 

山崎 会社を設立した当初はありました。例えばポスターを作るときに、デザイナーとしてはエンボスを捺したい。でもクライアントは捺さなくてもいいと言っている。僕は社長でもあるので、会社の利益を削れば捺せるわけです。そんな状況のときに、どちらを取るかで悩んで、アイデンティティクライシスに陥りました。でも自分がやりたいことをやって、世の中に評価されないのであれば、それは世の中に必要ないということだろうと思うようにしたんです。それですごく気持ちが楽になりました。その後は自分がやりたいことを社会に問うという思考になったので、経営上の大きなターニングポイントでした。

 

──会社の規模が大きくなると、思いきった決断も難しくなりませんか?

 

山崎 今でも、一般的に見ると思いきった決断をしているかもしれません。昨年も途中まで進めていたプロジェクトに納得がいかなくて、独断でやめました。社内の誰にも相談せずに。それが良いやり方なのかどうかは分からないけど、心は平穏になります。

 

──リーダーに必要なのは、メンバーにある程度の裁量を持たせることと書かれていますが、ご自身も現役のアートディレクター 、デザイナーで、部下に任せられるのはすごいなと思います。

 

山崎 僕自身が自由にやりたいから会社をやっていますし、この会社はやりたいことを実現するための、社会に対する器だと考えています。入社面談のときにも、「自分がやりたいことを実現できるようになってください」と言っています。セイタロウデザインという社名だから、僕の弟子のような位置付けで、社員は自由にデザインができないんじゃないかと聞かれることも多いんですが、基本的に縛りはないですし、僕が入らない案件もたくさんあります。

 

──人生でスランプに陥ったことが3度あり、その間も「動き続けること」「活動を止めないこと」を挙げてらっしゃいましたが、具体的にどのように過ごしていたのでしょうか。

 

山崎 スランプって本当に辛いですよね……。超ダウナーになって、アイデアも出ないし、何をやっても自分の中で否定しちゃう。だけどやるしかないので、誰も食べられない料理を作るような気持ちになります。ただ、復活するときって徐々にじゃなくて、パっと「抜けた!」って感じなんですよ。そのために作り続けることもそうだし、環境を変えるのもそうだし。3度目のスランプはコロナ禍だったんですけど、そのときは足袋ばかり履いていました。スランプのために、地面をグリップする力を変えてみようと思ったんです。それでマルジェラの足袋シューズをきっかけに足袋シューズを集めていたら、いつの間にかスランプを抜けていました。足袋の効果かは分かりませんが、そういう発想も一種の余白かもしれません。

 

 

 

余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術

好評発売中!

著者:山崎 晴太郎
価格:1,760円(税込)
発行元:日経BP

 

撮影/映美 取材・文/猪口貴裕

料理人・笠原将弘が“一汁一飯”を説く!おいしく負担なく、調理を楽しくする日常的な和食の真髄とは

和食の基本要素である「ごはん」と「汁物」の組み合わせを表現する、一汁一飯(いちじゅういっぱん)。忙しい日々でも、ほかほかのごはんと汁物があるだけで、ほっと一息つけるもの。ところが、和食は出汁(だし)をとったりと準備が大変そうな上、味つけも繊細でむずかしそう……。そう敷居の高さを感じる人は、少なくないのではないでしょうか。

 

「そもそも和食は、私たち日本人にとって一番身近な料理です。もっと肩の力を抜いて、おおらかな気持ちでつくればそれだけでおいしくなりますよ」

 

そう話すのは、恵比寿で日本料理店「賛否両論」を営む、ご存じ、料理人の笠原将弘さん。2023年10月に上梓したレシピ本『汁とめし』では、“和食屋”として“旨すぎる一汁一飯”を惜しげもなく披露し、すでに4版を重ねるヒットとなっています。

 

お気に入りのレシピから、料理を誰もがおいしく楽しんでつくれる極意まで、笠原さんがこの本に込めたものとは? 聞き手はブックセラピストの元木忍さんです。

 

笠原将弘『和食屋が教える、旨すぎる一汁一飯 汁とめし』(主婦の友社)

冷蔵庫の残り物で作れ、シンプルなのに満足できる___頑張らないでもしみじみとおいしい、笠原流・究極2品献立という提案の書。予約の取れない日本料理店「賛否両論」店主が、いま提案する献立こそ「汁とめし」なのです。食材の組み合わせや作りやすさを極めた、汁物とごはん物の厳選レシピ、計84品を収録。

 

シンプルなのに栄養満点な
“汁とめし”の魅力

元木忍さん(以下、元木):日本料理店の店主であり料理人でもある笠原さんですが、汁とめし、つまりミニマムな一汁一飯の食事について、いつ頃から良さを感じるようになったのですか?

 

笠原将弘さん(以下、笠原):若い頃は、ちょっと凝った料理やいろいろなものが並ぶ食卓がいいなぁ、なんて思うこともありました。ところがだんだん歳を重ねるにつれて、くつろぐ場所である自宅でつくる料理なんだから、使う食材も調理方法もシンプルな方がいい。そう思うようになってきたんです。

 

恵比寿にある日本料理店「賛否両論」店内にて。店主であり料理人の笠原将弘さん。

 

元木:やはり、シンプルで毎日の食卓に取り入れやすいところが一番の魅力でしょうか?

 

笠原:そうですね。汁物なんて普段料理をしない人がつくったとしても、なんとなくあるものを煮て味噌を溶けば、それなりの味になるものです。具がたくさん入っている汁物なら、茶碗一杯分飲むだけでたくさんの栄養もとれます。おかず代わりにも、晩酌をする人ならつまみにもなる。ごはんにしても白飯に好きな具材をのせたら、それだけでちょっとしたごちそうですよ!

 

元木:食材や調理の仕方はシンプルなのに、おいしくて栄養たっぷりな食事。それが汁とめしなんですね。

 

笠原:そうです。忙しい人でも毎日の食事に取り入れやすいと思いますね。

 

ブックセラピストの元木忍さん。

 

あるものですぐにつくれる、
懐かしくておいしいレシピの数々

元木:私も実際に、この本に載っているレシピをいろいろとつくってみたんです。本当に簡単につくれておいしいものばかりですよね。「トマト、にら、しょうが」の味噌汁は冷蔵庫にある食材ですぐできちゃうし、食べてみたら、これがまたとてもおいしかった! 意外と、トマトと味噌って合うんですね。

 

「トマト、にら、しょうが」のレシピでは、だしと辛口の赤味噌がトマトに不思議とマッチします。ニラで緑と栄養をプラス。しょうがのすりおろしを添えて。

 

笠原:そう言ってもらえてよかったです。誰でも気軽につくれるように、冷蔵庫にあるものか近所のスーパーで手に入る食材でちゃちゃっとできるレシピを選んでいるんですよ。

 

元木:レシピを見た瞬間、これならできる! って思えるから、無性につくりたくなって。「たこしば漬け焼きめし」もおいしかった。スーパーで売っていたタコに、たまたま冷蔵庫にあったしば漬けを取り出してつくりました。さっぱりしていて、いくらでも食べられちゃう。

 

「たこしば漬け焼きめし」のレシピは、タコとしば漬けを炒めて塩コショウで味付けするだけ。うま味と酸味のハーモニーが絶妙。

 

笠原:タコとしば漬けをただあえて、おつまみのようにしただけですけど、レシピができたときには「これは絶対おいしい!」という自信はありましたね。タコって炊き込むとけっこう固くなっちゃうので、チャーハンみたいに炒めたほうが失敗もなくて簡単。ちょっとしたことですが、料理人としての経験や勘どころを、レシピに反映しています。

 

元木:笠原さんご自身は、どのレシピがお気に入りですか?

 

笠原:そうですね、タマネギと豆腐と豚肉でつくる「くたくた玉ねぎと豆腐の豚汁」でしょうか。食材としてはシンプルだけど、味のバランスが絶妙で好きです。

 

元木:たしかに豚汁と白飯があったら、それだけで満足ですよね。どのレシピも見慣れた食材でつくれるから安心感もあるし、こどもの頃に家族につくってもらったあの味、みたいにどこか懐かしさも感じました。

 

「くたくた玉ねぎと豆腐の豚汁」。白みそ仕立てにたっぷりの玉ねぎ、豚肉、豆腐入り。30分じっくり煮てうま味を十分に引き出します。

 

小難しく考えないこと。
おおらかな感覚でつくれば、必ずおいしくなる

元木:レシピのほかにも、お米の炊き方やお吸い物のだしの取り方など、丁寧に説明されたページがあって、とても勉強になりました。

 

笠原:ありがとうございます。顆粒だしのような便利なアイテムがある現代に、なぜあえて手間も時間もかかる方法を選ぶの? と思うかもしれませんが、日本人として一度は正しい手順で取っただしの味というものを知っておくのは大事だと思うんです。

 

元木:毎日は無理でも時間があるときにはぜひ、やりたいですね。やっぱりひと手間かけた料理っておいしいから。

 

笠原:そんなに気負わなくてもおいしい料理はできると思いますよ。テレビや雑誌、ネットなどで、見た目は華やかだけど一般家庭でつくるにはちょっと大変そうな料理がたくさん出回ったことで、最近では「料理をすること自体、難しいものだ」と思いこんでしまう傾向があります。でも家庭料理といえば、昔はおじいちゃんもおばあちゃんもみんながやる、なにげないことでしたよね。

 

元木:それこそ、日常の料理ですね。

 

「たとえば4人前をつくりたかったら、うちのおばあちゃんは味噌汁のお椀に水を4杯すくって鍋に入れてましたよ。理にかなっているでしょう?」と笠原さん。

 

笠原:計量スプーンやカップなんて昔はなかっただろうし。何かつくる時も、しょうゆは愛用のおたまに一杯くらい、みたいな感覚でよかったんです。それがいまでは、砂糖は小さじ1杯半で、みりんは何ccまで、しょうゆは薄口だの濃口だのって細かくレシピに書いてあるから、みんな料理が嫌になっちゃったんじゃないですか?(笑)

 

元木:料理は正確に計らなくても、これぐらいかなーって感じでちょうどいいのかもしれませんね(笑)。

 

笠原:そう思います。小難しく考えず、おおらかな気持ちでやれば、おいしくつくれますよ。

 

一般的な金銭感覚を持った人にこそ
おいしい日本食を食べてほしい

元木:きょうは笠原さんが店主を務める「賛否両論」の店内でお話をうかがいましたが、次はプライベートで訪れたいです。それにしても、きちんとした日本料理にもかかわらず、コース料金が思いのほかお手頃な価格で驚きました。

 

笠原:日本料理というと、“高い”イメージがありますよね。でも、そもそも自国の料理なのに、高くて食べに行けないなんておかしな話だと思いませんか? せめて自分の店くらいは一般的な金銭感覚をもった普通の人や若い子でも、おいしい日本食を食べられるような店にしたい。そう思って価格設定しています。

 

元木:その考えは、日本の食文化の発展へつながることだと感じます。日本食を気軽に食べられるってことは、日本食を大事にする人たちの幅を広げることになりますね。今後、チャレンジしていきたいことはありますか?

 

笠原:いつか、昔ながらの定食屋や味噌汁屋、立ち飲み屋なんてやってみたいですね。気軽に一品2〜300円で食べたり呑んだりできる店、最高じゃないですか。

 

元木:気取らないけど味はたしか、というお店ですね。笠原さんのお話で、日本食や和食がぐっと身近な存在になりました。ありがとうございました。

 

Profile

料理人 / 笠原将弘

1972年、東京都生まれ。高校卒業後「正月屋吉兆」で9年間修業したのち、父の死をきっかけに武蔵小山にある実家の焼き鳥店「とり将」を継ぐ。2004年、東京・恵比寿に「賛否両論」をオープンし、予約のとれない人気店として話題になる。2013年には名古屋に直営店をオープン。テレビ番組のレギュラー出演をはじめ、雑誌連載、料理教室など幅広く活躍する。2023年6月にはYouTubeチャンネル『【賛否両論】笠原将弘の料理のほそ道』を開設。流暢な語り口で調理のコツを惜しみなく解説し、チャンネル登録者数は50万人に迫る(※2024年1月5日時点)。
「賛否両論」HP
YouTube

 

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

「性」についてとことん考え、未来に絶対必要な心を養える一冊『ジェンダー&セクシュアリティ論入門』

2023年の漢字は「税」でしたが、個人的には濁点をとった「性」でしょ! と思った1年でした。6月に可決された『“LGBT理解増進法』に、歌舞伎町のトイレ問題、世界中を巻き込んだ性加害問題など思い返せば「性」について考えなかった日はなかったのでは? と思うのですが、みなさんはいかがでしたでしょうか。

 

日本でも少しずつではありますが、性についての理解を深めようとする人が増えてきたと思います。しかし、正しく理解できている人はまだまだ少ないのが現状。今回ご紹介する『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』(三橋順子・著/辰巳出版・刊)は、10年以上明治大学文学部で講義されてきた『ジェンダー論』の議事録をもとに執筆された一冊です。

 

Trans-womanである三橋さんの経験談や研究されてきたことが綴られており、「そうだったの!?」「マジか……」「知るって大事」とめちゃくちゃ独り言が出てしまう一冊でした。ジェンダーって難しそう、セクシュアリティなんて考えずに生きたい、そう思っているそこのあなたっ! ぜひ手に取ってみてください。たくさんの人に届け〜! と願いを込めながらご紹介させていただきます。

 

そもそも「ジェンダー」ってなんだ?

この『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』は、全7講で章立てされています。個人的にいちばん唸った章が、「第2講 ジェンダーを考える」でした。この中で三橋さんは、ジェンダーについて次のように解説しています。

 

まず、ジェンダーとは何か? の定義から入りましょう。私は人文・社会科学系の学問の定義は、自然科学系と違って、複数あっていい、多義的でいいと考えていますので、3つの定義をお話しします。

まず、ひとつ目。いちばん簡単に言えば、ジェンダーとは「社会的、文化的性」となります。それではなんのことかわからない、もう少し説明をしてほしいということでしたら、ジェンダーとは「人間が生まれたあと後天的に身につけていく性の有り様」と言い換えることができます。

(『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』より引用)

 

残り2つの定義についてもじっくり紹介したいのですが、まずはここまでを引用しました。大切なのは、「性の有り様」という部分ではないかな? と思うんです。ジェンダーについて考える時、男か女かの二極で考えてしまいがちですが、社会の中で生きていくためにはその2つだけでは語れない部分も多分にあるよね、と感じます。私自身は、生まれてから今まで女子トイレに入り、女湯を選び、性別欄でも女に丸をつけていますが、社会の中には男か女かだけでは表現できない「性の有り様」がいくつもあるんですよね。

 

『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』の中では、①生物学的性(身体的性)、②性同一性(性自認)、③社会的性(性役割/性表現)、④性的指向(性愛対象)の4つの要素があると書かれてありました。男だから、女だから、それだけじゃない「性」の理解について考えさせられました。

 

L/G/B/Tはいつから使われるようになったの?

みなさんの周りにはL/G/B/Tの知人・友人はいらっしゃいますか? 私自身、学生時代や社会人になってからもL/G/B/Tの方と仲良くなったりお仕事をしたりしていたので、違和感を感じることはなかったのですが、LGBTという用語が「急に出てきた!」と感じる方も多いかもしれませんよね。実は、日本でさかんに「LGBT」と言われるようになったのは2012〜2013年ごろ。この経緯についてはめちゃくちゃ面白いことが書かれてあるので、ぜひ『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』を読んでいただきたい! 私は「うわ〜〜日本っぽいよぉ」と胸が苦しくなりました(笑)。

 

ちなみに『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』では、各講義の最後に、学生さんからの質問に答える部分もしっかり掲載されています。その中で、これはたくさんの人に読んでもらいたい! と思う三橋先生の言葉があったので紹介します。

 

質問:LGBT当事者にはどう接すればいいのでしょう?

答え:普通に接してください。「性」の問題は、その人の数多い属性のうちのひとつに過ぎません。そのうちひとつが自分と異なっているからといって、普通に接することができないことはないと思うんです。ただ、その違う部分にあまり突っ込まない程度のマナーは必要でしょう。肌の色が違う人に「なんで肌の色が違うの?」と言わないのと同じです。なかなか難しいことですが、要はあまり過剰に意識しないことです。

(『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』より引用)

 

心から共感しましたし、自分が普通だと思い込んでいるような人たちに言って聞かせてやりたい! とすら感じさせてくれる回答ですよね。属性のうちのひとつが異なっているだけ。それなのになぜここまで「みんなと同じ社会」じゃないといけなかったのか? 少しずつでも意識が変わっていければいいな〜と感じました。

 

若い人はもちろん、正しい性教育を受けてこなかった大人にも知ってほしい

日本では「性教育」と聞くとなぜか恥ずかしいことと思われがちです。私も中学生のころ、保健体育のテストでほぼ満点をとっただけなのに「お前、エロいなぁ〜」と言われたことがあります。当時の同級生に言いたい! 「性について詳しくてなにが悪い!!」と。

 

どうしても学生時代の「性教育」では生殖に関わる部分がフォーカスされがちですが、『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』で書かれてある「性」は本当に多様で、一言で言い表せるようなことだけではないと感じられました。性について知ることは、社会を知ること、さらには未来を作ることにもつながるのではないでしょうか。

 

決して恥ずかしいことではない、むしろ知らない方が恥ずかしい。そんな世の中になってほしいと思います。若い世代の方はもちろん、正しい性教育を受けてこなかった大人のみなさんにもぜひ読んで理解を深めちゃいましょう!

 

【書籍紹介】

これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門

著者:三橋順子
発行:辰巳出版

本書は、2012年の開始以来、毎年300人以上の学生が受講する明治大学文学部の『ジェンダー論』の講義録を基に執筆されたジェンダー&セクシュアリティ論の入門書です。自らの「性」と社会的な「性」のしくみについて真剣に考え、多様な「性の有り様」を知ることは、もはや、すべての人々にとって避けて通ることのできない今日的な課題と思われます。LGBTQ+、同性婚、トランスジェンダー、ジェンダー・アイデンティティ…といった最近よく耳にする言葉についても分かりやすく解説していき、さらに性的マイノリティとして社会を生き抜いてきた著者が、実際に体験してきたこと、考えてきたことも多く反映された一冊となっています。

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インドに「カレー」はない!? バターチキンにビリヤニ、インドの驚くべき食のミステリー~注目の新書紹介~

あけましておめでとうございます。書評家の卯月鮎です。「おせちもいいけどカレーもね」は昭和に流行った「ククレカレー」のコマーシャル。そして、私としては「カレーもいいけどビリヤニもね」とオススメしたいところです。

 

ビリヤニとは、スパイスや肉(羊や鶏)を使ったインド風炊き込みご飯。2年ほど前にインド料理店で出会ってからすっかりハマり、友達にも布教しまくったのですが、誰もピンと来ず……。

 

ところが、去年セブンイレブンでビリヤニが発売されるや、友達から「ビリヤニって美味しい料理を見つけた、今度食べてみて」と言われ、「あのとき教えたあのビリヤニだよ!」と思いましたが(笑)、セブン-イレブンの影響力にはかないませんね。

 

インド在住経験者がインドの食文化をリアルに語る

さて、今回紹介する新書はインドの食卓 そこに「カレー」はない』(笠井亮平・著/ハヤカワ新書)。著者の笠井亮平さんは岐阜女子大学南アジア研究センター特別客員准教授。専門は日印関係史、南アジアの国際関係、インド・パキスタンの政治。在インド、中国、パキスタンの日本大使館で外務省専門調査員として勤務した経験を持っています。著書に『インパールの戦い』(文春新書)、『インド独立の志士「朝子」』(白水社)などがあります。

バターチキンの意外なルーツとは?

インド料理といえばカレーと相場が決まっている……と長年思い込んできましたが、実は、そもそもインドには「カレー」なる料理はないと言える、と著者の笠井さん。英領インド時代、スパイスを使った煮込み料理や汁物料理をひっくるめて、イギリス人が「カレー」と呼んだのが発端という説が有力だというのです。

 

本書の狙いは、インド料理の諸々のステレオタイプを一掃し、よりリアルな姿を紹介すること。そして料理を通じてインドの文化や宗教、さらには歴史を解き明かすこと。第1章「『インド料理』ができるまで―四〇〇〇年の歴史―」では、その発祥と進化がまとめられています。

 

日本人にも馴染み深い料理の真のルーツがわかるのが、第2章「インド料理の『誤解』を解こう」。日本にあるインド料理店の定番セット「バターチキンとナン」は、必ずしもインド人が日常的に食べているものではなく、北インドの、しかも外食としてのメニューなのだそう。

 

バターチキンは伝統料理というわけではなく、首都デリーのレストラン「モーティー・マハル」で70年ほど前に考案されたとか。そもそもこの店はインドとパキスタンが分離した際に、パキスタンの主要都市ペシャワールから移ってきたヒンドゥー教徒たちが作ったもの……と歴史的背景もしっかりと解説があるのが本書のスパイスにも負けない深みです。

 

では、南インドの食文化はどうかというと、米が中心。ペルシアの炊き込みご飯・プラオが、ムガル帝国の宮廷に伝わって生まれたというビリヤニ。それを食べて感激したであろうインドの人々が地元に持ち帰り、各地で特色あるビリヤニができたそうです。

 

ビリヤニの聖地・ハイデラバードの、マリネした肉にそのまま米を乗せて炊き上げるカッチ式ビリヤニ、コルカタのゆで卵とジャガイモが入ったビリヤニ……どちらも食べてみたいものです。

 

8種類に分類されるインドのベジタリアン、岸田首相がモディ首相に振る舞われたインドの屋台料理、インドのマックにインドのココイチは何が本国と違うのか、独自の発展を遂げた“インド中華”……と、インドで日本大使館に勤務していた笠井さんならではの臨場感あるインド料理のトピックが並びます。グルメガイドやグルメ雑学本を一歩進めて、歴史や風土といった視点から深掘りすることで、現代のインドの姿も浮かび上がってきます。

 

最近さまざまな形で話題になるインド。インドへ続々と進出する日本の外食産業という話題も本書にはあります。日本ではビリヤニがコンビニに並び、インドでは亀田製菓の柿の種が支持される。食のグローバル化がどのように進むのか、興味深く考えさせられました。

 

【書籍紹介】

インドの食卓: そこに「カレー」はない

著者:笠井 亮平
発行:早川書房

カレーを「スパイスを用いた煮込み料理」と定義すれば、そこには数え切れないほどたくさんのインド料理が含まれる。日本でイメージされる「カレー」とはかけ離れたものも少なくないーー在インド日本大使館にも勤務した南アジア研究者がインド料理のステレオタイプを解き、その実像を描き出す。インド料理店の定番「バターチキン」の意外な発祥、独自進化したインド中華料理、北東部の納豆まで。人口世界一となった「第三の大国」のアイデンティティが、食を通じて見えてくる! カラー写真多数。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

“目からウロコアワード新書2023”卯月鮎が選ぶ、2023年刊行のとっておきの新書5冊はコレだ!

みなさま、今年もお世話になりました。書評家の卯月 鮎です。2023年もいろいろとありましたが、どうにか完走といったところでしょうか。昨年に引き続き、今年も年間ベスト新書を選んでいきたいと思います。

 

5部門に分けて全5冊、どれも目からウロコ! 新しい扉を開けてくれる新書ばかりです。読み逃しているという方はぜひ!

 

■食文化部門

●『ソース焼きそばの謎』(塩崎省吾・著/ハヤカワ新書)

食べ物についての新書は、グルメ情報にとどまらず、食文化を深掘りすることで、その土地の歴史や時代の変化まで浮かび上がってきます。『ソース焼きそばの謎』はその最たるもの。

 

なぜ、焼きそばは醤油ではなくソースなのか?「ソース焼きそば戦後発祥説」を覆す、戦前からソース焼きそばを提供していたという浅草周辺の老舗3軒を訪ね、ソース焼きそばの成立を検証していきます……。明治以降の日本の近代化とも絡み、その背景は壮大。まるでミステリーのように楽しめる、食文化研究本の力作です。

 

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実はソース焼きそばは戦前からあった!? 全国1000軒以上を食べ歩いた焼きそばマニアがそのルーツに迫る!~注目の新書紹介~

 

■科学部門

『新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』(島野智之、脇 司・編著/岩波ジュニア新書)

専門家が自らの研究分野を読者にわかりやすく紹介してくれる科学系新書。大学の講義に潜り込んだかのような満足感があります。

 

『新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』は、昆虫、植物、深海生物など新種を発見した研究者11人が、そこに至るまでの道のりを振り返るという内容。生物学における新種発見の意義がわかるとともに、夢を追いかけ、専門分野に全力を注ぐ人たちの人生ドラマともなっていて、ジュニア向け新書ですが、読めば大人も自分が信じる道を進もうという勇気が湧いてきます。

 

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■お仕事部門

●『ゲーセン戦記-ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀』(池田稔・著、ナカガワ ヒロユキ・聞き手・構成/中公新書ラクレ)

『ゲーセン戦記』は、毎日大会を開催し、配信し続ける個性派ゲームセンター「ゲーセンミカド」の経営者兼店長が、自らの体験をもとにゲーセン史を語っていくというもの。

 

「ゲーセンミカド」を軌道に乗せるまでの泥臭い奮闘ぶりはまさにお仕事ものの王道。普段は知ることのできないその業界ならではの慣習やお金事情もわかり、ビジネスパーソンなら仕事のヒントになりそう。久々に地元のゲーセンに行きたくなりました!

 

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■ルポ部門

『マイ遍路―札所住職が歩いた四国八十八ヶ所―』(白川密成・著/新潮新書)

『マイ遍路』は、四国八十八ヶ所・第五十七番札所の住職が自ら遍路を歩いてみた体験記。いつもは巡礼者を迎える側の住職が、逆の立場になって見えてきたこととは?

 

家庭的な宿で温かいもてなしを受けたり、海外から来たお遍路さんにうどんと七味唐辛子について教えたり、人口減の日本で寺院や僧侶はどう生き残っていけばいいのか悩んだり……。人はなぜ四国遍路にハマるのか、その魅力を感じることができました。

 

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■趣味が広がる部門

●『密室ミステリガイド』(飯城勇三・著/星海社新書)

著者がときに熱く、ときに理知的に、趣味や”推し”を紹介する新書は、私たちの興味の幅を広げ、人生を豊かにしてくれます。密室ミステリーに特化した『密室ミステリガイド』も、密室の沼にハマること請け合いのブックガイド。

 

元祖推理小説でもある『モルグ街の殺人』を皮切りに、密室ミステリーの名作50作を歴史順に紹介。前半は密室の概要と見取り図が見開き2ページにまとめられ、トリックが考察できる作りになっています。

 

そして後半はなんとネタバレあり! その密室トリックがいかに優れているかが解説されます。前半を読んで、気になった名作を手に取るのがオススメ。読了後、後半の解説を読みながら余韻に浸りましょう。気軽にパラパラめくれるのに中身はディープ。密室ミステリーの悦楽から出られなくなります。

 

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以上、とっておきの5冊でした。2024年も目からウロコが落ちる旬の新書を紹介していきたいと思います。ぜひこの新書コーナーをご愛顧いただければ幸いです。

なぜ集合写真のなかから自分の顔がすぐにわかる? 「顔」に秘められた脳との不思議な関係~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私は人の顔がなかなか覚えられません。学生時代、よく「アイドルグループの○○のなかで誰が好き?」と聞かれましたが、知っているはずなのにひとりも顔が思い浮かばず、名前の響きで適当に決めていました(笑)。

 

この新書を読んで、「なるほど、私は人の顔が覚えられないというよりは、そもそも人の顔を見ていなかったんだな」と気づきました。これは自分に対しての新たな発見! どうりで、ビルの名前や駅前の彫刻、レストランのインテリアなどはしっかり覚えているのに、遊びに行ったメンバーはあやふやなんだなあと(笑)。

 

認知神経科学者が解説する顔と脳の関係

さて、今回紹介する新書は、顔に取り憑かれた脳』(中野珠実・著/講談社現代新書)。著者の中野珠実さんは認知神経科学者で大阪大学大学院情報科学研究科教授。人の心が生成される仕組みを、身体・脳・社会の相互作用の観点から明らかにすることを目標に研究をしています。

 

自分の加工写真にのめり込む理由とは?

人間にとって、顔は他者や自己を理解するうえでとても重要な意味を持っていると中野さんは言います。本書では顔と脳の密接で精巧な関係を解き明かしていきます。

 

まず、第1章「顔を見る脳の仕組み」では、1950年ごろに行われた興味深い実験のデータから話が始まります。ロシアの心理学者アルフレッド・ヤーバスは人がどこを見ているかわかる装置を開発し、視線の動きを調べました。部屋に複数の人物がいる絵を見せたとき、人々の視線の大半は人物の顔を見ている。顔の写真を見せると、視線のほとんどは目と口を行き来していたそうです。

 

この実験から、私たちは普段顔ばかり見ており、特に目と口から情報を得ようとしていることがわかります。人間の目は横長で黒目の位置がわかりやすく、自分が今どこを見ているのか他人に伝わりやすい、と中野さん。目や眉を動かすことでさまざまなシグナルを出し、情報をやり取りしているのですね。

 

本書のメインテーマが第3章「自分の顔に夢中になる脳」。なぜ集合写真のなかで自分の顔だけはすぐ発見できるのでしょうか? 確かに迷うことなくぱっとわかるのは不思議ですよね。

 

自分の顔を無意識のうちに優先する脳の仕組みを明らかにするため、中野さんらはサブリミナル映像に仕込まれた自分の顔と他人の顔に対する脳の活動をMRIで比べる実験を行いました。その結果、自分の顔に対してドーパミン(報酬系を活性化させモチベーションを引き起こす脳内物質)を分泌する部位が強い活動を起こすことがわかったのです。

 

もうひとつ、自分の顔を美しく加工した写真を女子大学生に見せ、MRIで脳の活動を調べると、側坐核という報酬や快感を予測し意欲を高める部位が強く活動することもわかりました。こうした実験から、加工した自分の顔写真をSNSにアップする人が多い理由が伺えます。Tiktokが大流行したのも自撮りがキレイに映るから、なのかもしれません。

 

人は何人まで顔を覚えている? 作り笑いを見破る方法は? 赤ちゃんはどの時期から人の顔を認識できる? など、顔に関する豊富なトピックを盛り込みながら、顔と意識、アイデンティティの関係に迫っていきます。中野さん自身が行っている最前線の研究結果もやわらかい言葉で解説され、なるほどと目からウロコが落ちました。

 

「他者と自己をつなぐ顔という存在は、『人間とは何か』という深遠な問いにつながります」と中野さん。イケメンかどうかだけが顔のすべてではありません(笑)。

 

【書籍紹介】

顔に取り憑かれた脳

著者:中野 珠実
発行:講談社

デジタル時代の今、ネット上は過度に加工された顔であふれている。これはテクノロジーの急速な発展がもたらした、新たな現代病なのかもしれない――なぜ、人間は“理想の顔”に取り憑かれるのだろうか。そのカギとなる「脳の働き」に最新科学で迫る。そこから浮かび上がってきたのは、他者と自分をつなぐ上での顔の重要性と、それを支える脳の多様で複雑な機能の存在だった。鏡に映る「自分の顔」が持つ、新たな意味にあなたは驚くかもしれない。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

あれこれ捨てるだけが正解じゃない? 本当に好きなものを見極めるための4つの基準とは?

モノが溢れる現代において、自分の好きなモノ、最低限必要なモノだけで暮らしを整える「ミニマリスト」が注目されていますよね。私もいいなー、憧れるなーと思いつつ、周りを見渡せばモノばかり(笑)。大好きな本は減らせないし、冷蔵庫もクローゼットもパンパン。「これでも減ったほうだよ」と自分を慰めながら、日々を過ごしています。

 

200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった』(ponpoco・著/扶桑社・刊)は、こんな私でも「そろそろ本気で、本当に好きなモノだけに囲まれて暮らしたい」と思えた一冊でした。さらにうれしいのがponpocoさんの本を読んでから、余計な買い物をしなくなったこと。本当に必要なモノ、好きなモノを見極められるようになったんです。今回は、捨てるばかりが正義じゃない! ゆる〜く、楽しく自分らしさを見つけていきたい人に読んでほしい『200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった』をご紹介します。

 

取捨選択のヒントが満載

タイトルだけ読むと、すごく厳しいミニマリストさんなのかな? 10着しか服を持たないフランス人の方かな? なんて思ってしまうのですが、「はじめに」にはこんなことが書かれてあります。

 

この本には何もないガラーンとした部屋で暮らすミニマリストや、あらゆる無駄を排除した合理的なミニマリストは登場しません。

ミニマリストは持たないと噂のテレビも、ベッドも、カーペットも、バッグも、ブランド品も、何ならこたつだって所有しています。

(『200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった』より引用)

 

ふぅ〜安心するぅ! SNSなどでお見かけするミニマリストさんたちは、最小限な暮らしすぎて正直「絶対マネできないし、踏み込んではいけない領域だ」と思ってしまっていたんですよね。ponpocoさんの本では、「〇〇すると、××になってよかった」という事例がたくさん掲載されています。

 

例えば、タイトルにある「服を8割減らす方法」については、服を選ぶ前に靴を決めるといいよ、とか。面倒でも全部の服を一度着て確認すると潔く手放せるようになるよ、とか。クローゼットに着ない服を作らないために30着を上限にしたら稼働率100%になったよ、とか。ponpocoさんが体験したことが、丁寧に綴られています。あれはいらない、これもいらない、だから捨てる。ではなく、どう取捨選択をするかが丁寧に書かれてあるのです。

 

捨てる方法というより、残すモノを選ぶコツが書かれてあるので、なんだか罪悪感がなくて読んでいて心地いいんですよね。「これなら自分でもできそう!」なヒントがたくさん綴られていますよ。

 

「欲しい」気持ちを見極める方法

洋服だけではなく、日用品や食品でも足りているのに「ついつい買ってしまう」ことありませんか? セール品だから、臨時ボーナスが入ったからなど購入するまでの過程はさまざまありますが、ついつい買ったものが本当に欲しいモノだったのかと問われると、怪しいところも。ponpocoさんの元には、「自分が本当に欲しいモノがわからない」なんて相談も寄せられるそうです。そんな時に役立つ、自分の欲しい気持ちを見極める方法が次のように紹介されていました。

 

私が考える究極の見極め方

自分が持っている、同じカテゴリの中で一番好きなモノと交換できるか

(『200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった』より引用)

 

個人的にこの考え方が衝撃的でした。新しいカバンや靴、洋服が欲しいと思った時、価格と自分に似合うかだけで考えていたので、すでに持っているアイテムと比べるってことをしていなかったんですよね。また今持っているアイテムが本当に好きなものか? と考えると実は「なんとなく」で選んでいた部分も多かったな〜と反省しました。

 

ちなみに無駄遣いだとわかってはいるけど、セールに行ったからには何か買わなきゃと物欲に負けてしまう時もありますよね。そんな時は、以下の呪文を唱えてみてください。

 

お金が減ってイマイチなモノが増えるだけ
悩んだら買わない
どんなにお得でも買わなければ0円

(『200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった』より引用)

 

これがめちゃくちゃ効きます(笑)。たいがいのものは「ま、今日じゃなくてもいいか」と棚に戻すことが増えました。こうやって積み重ねていくと、本当に欲しいモノを買えたときの喜びが何倍にも増えるんです。ひとつひとつ厳選して購入することができるので、本書を読んで、いろんなモノの選び方がプロっぽくなったな〜と感じます。ぜひこの呪文、使ってみてくださいね!

 

モノの要・不要の判断方法は、自分が使うか使わないかで決める

『200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった』の知恵を実生活に落とし込んでいくと、自然と購入するものは自分がより好きで必要なモノ、手放すのは本当に不要だったモノとわかるようになってきます。ただ、手放すって結構気力も体力も使いますよね。どのような基準を持ったら良いのでしょうか?

 

持ち物を整理する前に、優先したい順に4つのカテゴリーに分けるとわかりやすいと思います。

1 使う×好き=必要なモノ
2 使う×そんなに好きではない
3 使わない×好き
4 使わない×そんなに好きではない=不要なモノ

(『200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった』より引用)

 

これはあくまでponpocoさん軸ですが、1が6割以上、2が3割、3が1割以下になるのがおすすめなのだとか。自宅のクローゼットをこの4つに分けてみると、片付けがはかどりますよ! 私の場合は、4を買うことがほとんどなくなりました。「いつか使うかもー」とか「使っていくうちに馴染むかもー」といった期待を込めて買うことがなくなったので、モノは減るし余計な買い物はしないしで心がスッキリしています。

 

『200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった』には他にも暮らしのアイデアが満載です。私にはミニマリストなんて無理だ〜と思っている方、部屋を片付けたいけど何から始めたらいいかわからないと悩んでいる方、ちょっとミニマリストに疲れちゃった方、どんな方が読んでも納得できるヒントが1つはあるはず! 自分の暮らしを振り返りながら、読んでいくと今の暮らしがもっと好きになれますよ!

 

【書籍紹介】

200着の服を8割減らしたら おしゃれがずっと楽しくなった

著者:ponpoco
発行:扶桑社

元浪費家が失敗から学んだ、無理しないミニマルライフ。誰でも服を8割減らせる方法、止まらない物欲を抑えるコツ、心穏やかに暮らすために“しない”こと等…余計なモノと執着心を手放せば、自分らしさが見えてくる!

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昆虫カメラマンが味わってきた世界の食! インドネシア・香料諸島の主食「パペダ」は水飴のよう!? ~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。朝はパン、昼はラーメン、夜はお好み焼き……なんて1日を過ごすと、「明日はどうしてもお米が食べたい!」と焦がれてしまいます(笑)。これが主食の魔力でしょうか。

 

……と言いながら、慣れない海外旅行先でマクドナルドがあってホッと一息、いそいそと入店みたいなエピソードは定番なので人間とは不思議なものですね(笑)。

 

「ジャポニカ学習帳」の昆虫カメラマンが世界を食べる

さて、今回紹介する新書は昆虫カメラマン、秘境食を味わう 人は何を食べてきたか』(山口進・著/集英社インターナショナル新書)です。著者の山口進さんは昆虫植物写真家。「花と昆虫の共生」をテーマに世界各地で撮影を行い、「ジャポニカ学習帳」の表紙を長年にわたって飾ってきました。『地球200周! ふしぎ植物探検記』(PHPサイエンス・ワールド新書)、『珍奇な昆虫』(光文社新書)など、知られざる昆虫や植物を紹介する著書多数。2022年逝去。本書は季刊誌「集英社クオータリー kotoba」の連載をまとめたものです。

 

ヤシの幹から作る主食「パペダ」の味は?

撮影のために訪れた世界各地で現地の人と交流し、食事をした思い出を綴ったコラム20章からなる本書。第1章「香料諸島をゆく~パペダの魅力~」では、赤道直下にあるインドネシア・ワイゲオ島の主食「パペダ」について書かれています。

 

ホタルを撮影しようと、小舟でワイゲオ島に着いた山口さん。村長の家で寝泊まりした際に出されたものが、白い水飴のようなパペダでした。すえたニオイがきつく、最初は喉を通らなかったものの、ほのかに甘く、2日目にはおいしく食べることができたと山口さん。塩味に唐辛子で味を引き締めた魚のスープと相性がよかったとか。

 

パペダは湿地に自生するサゴヤシというヤシの幹を砕き、水にさらして取れるデンプン。インドネシアの香料諸島の伝統的な主食ですが、近年島には小さな雑貨屋が開店し、米も売られ始めたそうです。若者に尋ねると「パペダより米を食べたい」とのこと。伝統的なサゴヤシ生活に変化が訪れようとしているのかもしれません。

 

単純に珍しい食べ物を紹介するというだけでなく、変わりつつある現地の食文化を見つめる視線が本書の深みにつながっています。

 

第2章「ザイール川をゆく~マニオクの力~」はアフリカ・コンゴ民主共和国の主食が登場します。アフリカ最大の蝶ドルーリーオオアゲハを探していた山口さんは、マニオク(キャッサバ)いう芋の餅を振る舞われます。クズウコンの葉に包んで蒸してあり、食感は羽二重餅のようにやわらかく、バナナに似た香り。主食のマニオクですが、実は有毒植物で、手間をかけて毒を抜いて食べるその理由とは……。

 

昆虫カメラマンとして著名な山口さんですが、昆虫の話題よりも食べ物にフォーカスした内容となっています。「原則として、出されたものは必ず食べる」というスタンス。どのような食に対しても現地の文化へのリスペクトがあり、好奇心がそそられるとともに温かい気持ちになれます。

 

モノクロですが数多くの調理シーンや料理写真も掲載され、食文化が肌感覚で伝わってきます。米が海外で存在感を増している現状にも触れられていて、グローバリゼーションについても考えさせられる一冊です。

 

「他に食べられるものがないと、人の叡智がものを言う」と山口さん。食を見つめることは、人類の歩みを見つめることでもあります。

 

【書籍紹介】

昆虫カメラマン、秘境食を味わう 人は何を食べてきたか

著者:山口進
発行:集英社インターナショナル

「ジャポニカ学習帳」の表紙を飾る多彩な昆虫や植物を撮影してきたカメラマン、山口進。撮影の旅の先々での知られざるエピソードとともに、現地の個性的な食文化を紹介していくショートエッセイ。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

知らなかった!? 給食の意外なルール。学校栄養士が語る給食トリビア満載の一冊~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私が学校給食を食べていたころは、パンがほとんどでたまにご飯やソフト麺が出るという時代でした。パンは嫌いではないですが、記憶ではおでんにコッペパンなんて日もあって、「これは新感覚!」と思った覚えがあります(笑)。

 

いろいろな文句もありつつ、やっぱり誰もが思い出に残っている給食のひととき。世代を超えて盛り上がる話題のひとつでもあり、世界に誇れる制度とも言えるでしょう。

 

「全国学校給食甲子園」優勝の栄養士が給食を語る

今回紹介する新書は給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(松丸奨・著/幻冬舎新書)。著者の松丸奨さんは、管理栄養士・栄養教諭。東京都文京区の小学校に学校栄養士として勤務しています。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」で男性栄養士として初の優勝を果たしました。『給食が教えてくれたこと「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版)など著書も多数あります。

献立作成はまるでルービックキューブ!?

第1章「ある日の給食室」では、「自校方式」の給食室で栄養士と調理員がどのような流れで1日の仕事をしているのかが紹介されてます。現代の給食室は校長先生ですら立ち入り禁止の聖域。食材に直射日光を当てないという観点からすりガラスが採用されており、学校内でも秘密の場所となっているそうです。そこでどのように給食が作られるのか……!?

 

学校によっては、あの有名アイス「ガリガリ君」の給食用が提供されたり、スチームコンベクションオーブンが導入され、パンが美味しくリベイクされたりしているそうで、昭和世代には驚くことばかり。

 

続く第2章「献立作りの舞台裏」は、”お仕事もの”としても読み応えがありました。献立作りは栄養士にとってもっとも心躍る作業、と松丸さん。

 

実は給食には守るべき細かいルールがたくさんあります。各自治体によって違いますが、「主食は10日間サイクルでご飯6.5回、パン2回、麺1.5回を組み合わせる」といった具合。もちろん各栄養素の基準値も満たさなければならず、献立作りはまるでルービックキューブ並の難易度だとか。豚肉だけでも部位別、切り方別で100種類以上の選択肢があるそうで、何を選ぶかは栄養士さんの腕の見せどころでしょう。

 

第3章「給食、その激動の歴史」、第4章「給食を規定するさまざまな基準」、第5章「給食とお金」と、自他ともに認める給食マニアの松丸さんが、給食にまつわるトピックを硬軟取り混ぜて分かりやすく解説していきます。

 

実際に小学校に栄養士として勤務する松丸さん。朝5時半に出勤して野菜価格の情報を収集する、人気ラーメン店よりも美味しいラーメンを出すため出汁の専門業者に電話する、胃もたれしにくい揚げパンづくりのため2週間の揚げパン生活……など、松丸さん自身の奮闘ぶりも綴られていて、給食に対する研究熱心な姿勢が伝わってきます。

 

未来を担う子どもたちの食べるものだからこそ、最高のものを目指さなければいけない、と松丸さん。いってみれば、給食はその国の大人が、食文化や子どもの健康をどのように考えているかを映す鏡。思い出話だけではなく、今の給食がどうなっているか、これからの給食の未来をどうするか、そうしたことも見つめる必要があるかもしれません。

 

【書籍紹介】

給食の謎 日本人の食生活の礎を探る

著者: 松丸奨
発行:幻冬舎

昭和の給食を食べていた世代にとって、令和の給食は驚きの連続だ。なぜ昔は毎日パンだったのに今は週1回程度なのか? 冷たい麺類禁止の地域があるのはどうして? 給食室がある学校は減っている? ソフト麺はどこに消えた? 現役の学校栄養士で給食マニアとしても知られる著者があらゆる謎を徹底解説。ギモンの背景を探るうち、給食が日本人の食生活まで変えたという歴史が如実に浮かび上がってきた。献立作成の裏側から厳格すぎる衛生管理まで給食トリビアが満載、空腹時は閲覧注意!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「自動車は国家なり」歴代の名車も登場! 自動車産業が駆けてきた100年を振り返る~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私は車に疎くて、ぱっと見ても車種がほとんどわかりません(笑)。近所のショッピングモールは2階のテラスから駐車場を見渡せるのですが、クルマ好きの友人は飽きずにずっと見ていられると言ってました。一方、私は色の違いくらいしかわからず、あそこに白が停まったら1列できる! なんて「パネルクイズ アタック25」のような楽しみ方をするのが精一杯です(笑)。

 

どの国のどういった車に乗っているかは、映画や小説でも登場人物のキャラクターを表す小道具として重要です。自動車の歴史、勉強してみようかと思います。

自動車という切り口から考える100年の歴史

今回紹介する新書は自動車の世界史 T型フォードからEV、自動運転まで』(鈴木均・著/中公新書)。著者の鈴木均さんは新潟県立大学国際地域学部准教授、外務省経済局経済連携課を経て、現在合同会社未来モビリT研究代表。単著に『サッチャーと日産英国工場』(吉田書店)があります。

 

BMWが「六本木のカローラ」だったバブル時代

自動車産業および自動車市場の盛衰は、その国の豊かさと安定の指標と、鈴木さんは言います。「鉄は国家なり」とは19世紀のプロイセン首相ビスマルクの言葉ですが、20世紀から21世紀にかけては「自動車は国家なり」といっていい状況だったようです。

 

序章「自動車産業の夜明け」では、1908年のT型フォードから第二次世界大戦までの自動車産業の勃興が解説されていきます。この章ではフォード、GM、クライスラーの「ビッグ3」やトヨタ、日産、ホンダの発祥が簡潔にまとめられ、非常にわかりやすい作り。

 

バブル期を記した第3章「狂乱の80年代 日本車の黄金時代と冷戦終結」は、車に疎い私でも懐かしいキーワードが満載でした。1985年のプラザ合意後の円高を契機に発生したバブル経済。円高に沸く日本人は、BMW3シリーズとベンツ190Eを買い漁り、陸揚げされるやすぐに売れたそうです。両車は「六本木のカローラ」「赤坂のサニー」と呼ばれるくらい都内に溢れたとか。著者の鈴木さんは、輸入車を身近な存在にしたバブル経済の功績は大きい、と振り返っています。

 

日本車は1989年に「国産車ビンテージ・イヤー」を迎えます。16年ぶりに復活しツインターボを搭載した日産スカイラインGT-R、世界初の車体総アルミ製だったホンダNSX、茶室のイメージでデザインされたマツダ・ロードスター。

 

日本車がF1の頂点に立ったのもこの時期。1988年、ホンダのエンジンを搭載し、アラン・プロストとアイルトン・セナの2人をドライバーに擁して16戦15勝と無敵の強さを誇ったマクラーレン・ホンダMP4/4。あのころは、F1がブームでしたね。

 

このあと、中国の台頭、そしてEV、自動運転……と、自動車100年の歴史を国際政治の流れとともに一気に俯瞰できる内容。

 

各章に各国首脳が乗る公用車についてのコラムが設けられているのも、国際関係を意識している本書らしいところ。GMのピックアップ・トラックの骨組みとエンジンを流用したアメリカの公用車、親会社が海外資本のフォードやタタになろうとも歴代ジャガーが指名されてきたイギリスなど、お国柄がよく出ています。

 

自動車産業を巡る国と国のぶつかり合い。自動車という視点で現代史を振り返ることで、見えてくるものもたくさんあります。メーカーや車種の解説よりは自動車史に焦点が当たっているため、ややお堅い内容ですが、「『ルパン三世カリオストロの城』にルパンの愛車として登場するイタリアのフィアット500ヌオヴァ」など、映画も例として挙げられ、詳しく車種を知らない私でもイメージしやすく書かれています。

 

今後、自動車の未来はどうなっていくのか。著者の鈴木さんは「自動車産業は座敷わらしのような存在」とユニークな例えをしています。日本の自動車産業にまだ座敷わらしはいるでしょうか?

 

【書籍紹介】

自動車の世界史 T型フォードからEV、自動運転まで

著者:鈴木 均
発行:中央公論新社

19世紀末、欧州で誕生した自動車。1908年にT型フォードがアメリカで爆発的に普及したのを機に、各国による開発競争が激化する。フォルクスワーゲン、トヨタ、日産、ルノー、GM、現代、テスラ、上海汽車――トップメーカーの栄枯盛衰には、国際政治の動向が色濃く反映している。本書は、自動車産業の黎明期から、日本車の躍進、低燃費・EV・自動運転の時代における中国の台頭まで、100年の激闘を活写する。

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古市憲寿さんが12人の専門家にズバリ聞く! 世界の宗教書・神話の謎~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。海外の小説を読んでいると、ときどき「ん?」と思うセリフに出くわすことがあります。その多くは日本には馴染みのない決まり文句がもじられているケース。また、その地に根付いた宗教や神話・伝承を下敷きにしている表現も日本語にするのは難しいですよね。

 

今、世界で何が起こっているのか。深く理解するためには宗教や神話を知ることも重要でしょう。それは人が生きるための土台なのだと思います。

社会学者の古市憲寿さんが研究者に宗教・神話を聞く

今回紹介する新書は『謎とき 世界の宗教・神話』(古市憲寿・著/講談社現代新書)。著者の古市憲寿さんはメディアでもおなじみの社会学者。著書に『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『絶対に挫折しない日本史』(新潮新書)、小説『平成くん、さようなら』(文藝春秋)などがあります。

『聖書』はいい加減だから長持ちした!?

本書は2022年刊行の『10分で名著』(講談社現代新書)の続編にあたり、12人の研究者に古市さんが世界各地の宗教書や神話の読みどころを聞く対談になっています。面白いのが、各回の冒頭に各宗教書の内容を簡単にまとめたマンガが4ページ入っていること。特に予備知識がなくてもマンガによって、その要点がわかります。

 

第1回は、作家で元外交官の佐藤優さんに聞く「聖書 なぜキリスト教は「長持ち」したのか」。キリスト教神学を研究し『ゼロからわかるキリスト教』(新潮社)などの著書もある佐藤さん。ズバッと本質に切り込む両者の持ち味が炸裂しています。

 

『新約聖書』は神父や牧師の仕事がなくなるから簡単に読めてはいけない作り。『聖書』はいい加減だから、いろんなものを詰め込めるし長続きする……と明快。佐藤さんがそうしたキリスト教とどう向き合って来たかもわかります。

 

私が読み返してみたいと思ったのは『論語』。第7回「『論語』 孔子の人間臭い実像」では、中国古典学者で早稲田大学文学学術院教授の渡邉義浩さんが『論語』を解説。

 

聖人君子というイメージが強い孔子ですが、「実際の孔子はどんな人物だったと思いますか」という古市さんの問いに対して、古い注の読み方から浮かび上がる孔子は人間臭い常識人で、悪口だって言うし、人生に疲れて嘆いたり愚痴を言ったりする、いいおじさんです、と渡邉さん。一生懸命常識を説くも偉い人から相手にされない孔子の姿が浮かび上がってきます。

 

古市さんの鋭い質問と専門分野に愛がある研究者の方々の解説がうまく噛み合い、世界の宗教、神話の要点が見えてくる一冊。マンガ&対談の構成はカジュアルで、パラっと読んでみようという気にさせるのも上手いところ。

 

『マハーバーラタ』『エッダ』『アヴェスター』『論語』……。名前は知られていても、いきなり古典に挑戦するのはやはり難しいものです。世界を見渡す補助線としても役立ちそうな新書でした。

 

【書籍紹介】

謎とき 世界の宗教・神話

著者:古市 憲寿
発行:講談社

歴史を学ぶにも、現代を考えるにも、これだけはおさえておきたい知識がゼロからわかる!「聖書」、ゾロアスター教、北欧神話、『論語』……個性豊かな12人の専門家に、古市憲寿が読者に代わって理解の「ツボ」を聞いた!各宗教・神話の基礎がわかる解説マンガ付き!

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幻のテレビドラマ『マンモスタワー』とは何だったのか? 映画界を震撼させた東京タワー~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。最近は「テレビは古臭いメディア」などといわれていますが、皆さんはいかがでしょう? 私は子どものころ、テレビ禁止の家に育ったので、さらに古いメディアである本ばかり読んでいたらこうなりました(笑)。

 

新しい何かが生まれると、それまでのものは古いと言われてしまう。振り返ってみれば、昭和30年代には映画と、当時新興メディアであったテレビとの火花散る戦いがありました。今回紹介する新書は、その時代のドラマチックな激動が感じられる一冊です。

 

気鋭のメディア研究者が解説するテレビと映画の相克

東京タワーとテレビ草創期の物語――映画黄金期に現れた伝説的ドラマ』(北浦寛之・著/ちくま新書)の著者は、開智国際大学国際教養学部准教授の北浦寛之さん。専門は映画学、メディア研究。著書に『テレビ成長期の日本映画――メディア間交渉のなかのドラマ』(名古屋大学出版会)があります。

テレビ時代を予見した伝説のドラマがあった!?

1958年に開業した東京タワー。東京有数の観光名所となり、数々の映像作品で東京のシンボルとして描かれてきました。本書は、東京タワーを題材にした初期のテレビドラマ『マンモスタワー』に着目し、草創期のテレビ産業に迫っています。

 

伝説のドラマと称される『マンモスタワー』は、1958年にラジオ東京テレビ(現在のTBS)が「日曜劇場」枠で放映した作品です。開業間近の東京タワーが象徴的なモチーフとして使われているうえ、内容も「映画とテレビの対立」を映画会社の側から描くというユニークなもの。現在動画サービスやDVDなどで見ることのできない『マンモスタワー』ですが、十分に語られないまま忘れ去られるのはもったいない、と著者の北浦さんは言います。

 

なぜこのようなドラマが生まれたのか。本書は当時のテレビ業界の成り立ちと、ドラマ『マンモスタワー』の詳細の二部構成となっています。

 

第1部は「テレビ時代の到来」。第1章「東京タワーの建設とその背景」では、産経新聞の創業者・前田久吉の総合電波塔を作るというビジョンがメインとなります。東京に3局あるテレビ局が立てた電波塔を集約し、産経新聞の広告塔にするという計画を立てた前田。その裏には読売新聞社・社主の正力松太郎との因縁があったそうです……。

 

今では当たり前にあるテレビ局がどのように力を持っていったのか。「テレビ」というフロンティアに魅せられた人々のギラギラとした熱が伝わってきます。

 

第2部はドラマ『マンモスタワー』の誕生秘話。映画とテレビが今では考えられないほどの対立状態にあった時代。ゴジラの如く、怪物的な影響力を持つテレビの象徴としての東京タワーに、動揺する映画会社の社員たち……。メディアの主役交代劇を予見した刺激的な内容が紹介され、ぜひともドラマ本編を見たくなりました。

 

それから半世紀、今度はテレビがネットメディアにその座を脅かされようとしています。今何が起きているのか、今後どのような勢力図になっていくのか、そんなことを考えるヒントにもなる一冊。テレビの象徴が東京タワーだったとしたら、ネットメディアの象徴は何なのでしょうか? HIKAKINさんの豪邸でしょうか(笑)。

 

【書籍紹介】

東京タワーとテレビ草創期の物語 映画黄金期に現れた伝説的ドラマ

著者:北浦寛之
発行:筑摩書房

東京のシンボルとして親しまれ、数多くの映画やドラマ作品に映し出されてきた東京タワー。本書は、東京タワーが登場する現存最古のテレビドラマ『マンモスタワー』をめぐる若きテレビ産業の奮闘に迫る。
この番組が放送された一九五八年は、映画産業が観客数の最高を記録した絶頂期である一方で、東京タワーが「史上最大の電波塔」として竣工した年でもあった。映像メディアの主役が映画からテレビへと転換していく時代において、その緊張関係を象徴する『マンモスタワー』のユニークな魅力を気鋭のメディア研究者が描き出す。

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文章を書けば本当の自分がわかる! 書くことは人生修行と説く、全米ベストセラーの文章術~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。こういう仕事をしていることもあり、私が文章を書くのは誰かに何かを伝えるためですが、文章を書く効果はそれだけではありません。たとえば目標。ぼんやりと頭のなかで思っているよりも、「自分はこういう理由でこうしたい!」と文字にすることで、はっきりとし、モチベーションも上がります。

悩みも同じ。もやもやしたままより、「何が嫌でどう感じているのか」を具体的に書き出せば、悩みは客観的なものとなり、気持ちが整理されます。

 

創作に関しても、自分のなかにある、おもしろいもの、幸せなもの、恐ろしいもの……そうした種を形にすることで、自分の核に光が当たり、そこから世界が無限に広がっていきます。

 

なんといっても、文章を書くことは安上がりで手軽。今はSNSや投稿サイトなど公開する場所も多数あります。みなさんも、まずは日記などを書いてみてはいかがでしょうか。

 

全米ベストセラーの文章術が新書で復活

さて、今回紹介する新書は魂の文章術』(ナタリー・ゴールドバーグ著/扶桑社新書)。著者のナタリー・ゴールドバーグさんは詩人、作家、創作クラス講師。40年以上にわたって禅修行に取り組み、創作クラスでは精神修行としての”書くこと”を教えています。

 

1986年に原著が出版され、米国で100万部のベストセラー。日本語版は1995年に翻訳され、2019年の増補版が今回新書となって刊行されました。

 

誰にでもできる、文章を書く心構え!

本書は具体的な技術論よりも、文章を書ける人になるための心構えを説いています。禅を学んできたナタリーさんによる、「書くこととは生きる修行である」、そんなモットーを伝えるエッセイ本ともなっています。

 

私が身をもって納得したのは、序盤の章「第一の思考」。ここには文章修行の基本ルールがわかりやすく示されています。まずは、10分でも20分でもいいのでとにかく時間制限を決めて書くこと、とナタリーさん。さらに、書いたものを消さない、つづりや句読点、文法などを気にしない、考えない・論理的にならないなど、書く際の6つのルールが挙げられています。

 

「ニンジンをおろすように、紙の上にあなたの意識という色とりどりのコールスローをぶちまけよう」と、時としてユーモラスな表現を交え、シンプルながら効果的な練習方法が提案されていきます。ランニング同様、やればやるほど会得できるというナタリーさんの言葉は、背中を力強く押してくれます。

 

ニューメキシコ州の小さな町にある車を改造したレストランで、ものを書こうとした場面から始まる章「レストランで書く」。6歳のときピアノの前で歌ったら従姉に「ナタリーは音痴よ!」と金切り声を上げられたエピソードから始まる「聴くこと」など、自分に起きた出来事を軽妙に語るエッセイとしても引き込まれます。

 

そのなかで、題材リストを作る、自分の能力について悩むのはやめる、友達に向かって話すことは書くことの練習場、など具体的な提案もちりばめられています。

 

文章を書くこととどう向き合うか、ひいては自分とどう向き合うかという精神的な話が中心のため、スマホ時代になっても内容は古びていません。新書になったことで手に取りやすくなり、いつでもパラパラめくれるのもプラス。あなただけが持つ内なる魂を紙にぶつけてみましょう!

 

【書籍紹介】

魂の文章術

著:ナタリー・ゴールドバーグ
訳:小谷 啓子
発行:扶桑社

書くことに才能はいらない。誤字脱字も文法も句読点も気にしなくていい。考えなくていい。論理的でなくてもいい。誰でも「書ける人」になるための深遠かつシンプルなメソッド。全米100万部超えの古典的名著が待望の新書化!

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卯月 鮎
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女体・書籍・不動産……偏愛の沼は至る所に存在する−– 歴史小説家が選ぶ「性癖」を刺激する5冊

毎日X(旧Twitter)で読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「性癖」。谷津さんの選んだ「癖の強い」5冊の中にあなたの「性癖」にピッタリな1冊があるかも!?

 

【過去の記事はコチラ


この前、某所でのイベントの際に「性癖でもって小説を書いている」と発言し、主催者の方に苦い顔をされた小説家がわたしである。

 

ウケ狙いでもなんでもない。「物語を作る」という作業は、漫然とやるにはあまりにもやることが多すぎるし、選択肢の幅が広すぎる。心の内にあるパッションを燃やし、自らを奮い立たせ、ときに自らの視野を狭め、自分の作り上げた牢獄の中でもがき続けるのが作家なのである……とそれっぽいことを書き連ねたはいいものの、実際の処はそういう風に書くのが習いになっているだけだし、そもそも、お客さんの前でくらい、もう少し格好をつけてもよかったのではないか、と今になって反省しているところである。

 

皆様、勢いで物を言うのは止めましょう。

 

というわけで(どういうわけなのかはわたしが一番分かっていないけれども)、今回の選書テーマは「性癖」である。

 

クセが強すぎる物件への偏愛

まずご紹介するのは『クセがスゴい不動産』(あなたの理想不動産・著/宝島社・刊)である。皆さんはYouTubeをご覧になるだろうか。YouTubeは現在、様々なジャンルの専門家やタレント性を持った一般人の方が独自の切り口から情報発信をする面白い情報集積基地となっている感がある。

 

不動産関係もそれは例外ではない。本書は有名な不動産YouTuberによる、不動産物件紹介書籍である。普通の不動産書籍と違うのは、本書に収められている物件がどれもクセ強だということだろう。本書をパラパラ眺めると、世の中には色んなコンセプトの物件があるのだな、という新鮮な驚きがある。曲面で構成された物件、忍者屋敷のような作りの物件、恐ろしく狭い区画を三次元的に用いて住まいにした物件、掃き出し窓がそのまま出入り口になった物件……。

 

わたしからすると、住むには躊躇してしまうものばかりだが、こうした物件の存在は、こうした物件にニーズがあることを示している。クセがすごい物件たちは、誰かにとってはジャストミート物件なのである。人の数ほどクセがある。本書は、不動産を通じて人間のクセの一端を知ることの出来る一冊といえるのかもしれない。

 

少女たちを「愛でる」活劇

次に紹介するのは『あらしの白ばと』(西條 八十・著、芦辺 拓・編/河出書房新社・刊)である。西條八十といえば大正から戦後にかけての詩人として高名だが、小説家として活動していたことは案外知られていない。そんな西條八十の知られざる小説作品を復刊したのが本作である。

 

本作は、白ばと組の少女三人組、日高ゆかり、辻晴子、吉田武子の三人を主人公にした、戦後日本が舞台の探偵×冒険活劇である。しかし、この少女たち、ただ者ではない。敵方がマシンガンまで持ち出す中、彼女らは銃で応戦し、組織力を駆使し、さらにはステゴロで敵をちぎっては投げる。少女たちによる過激でスカッとする活劇が本作の肝である。本書、恐らく同時代的には主人公の白ばと組の活躍を同年代の少女たちが楽しむ少女小説だったのだろうが、本作、現代人の目から見ると、魔法少女ものであったり、戦う少女もののはしりとしても読むことができる。その観点から眺めると、(もちろん時代の制約はあるが)白ばと組の三人にはそれぞれにキャラクター性が付与されている。

 

現代、異性の登場人物の活躍を「愛でる」文化が漫画や小説の世界において市民権を得ている。これは、登場人物を非実在の「キャラクター」として咀嚼し、その上で楽しむというプロセスで成り立っているというのがわたしの考えだが、いずれにしても、現代の「愛でる」文化の目線で眺めると、また別の色が浮かび上がる作品なのではないかと考える次第である。

 

異類婚姻譚を真正面から描いた作品

次に紹介するのは漫画から『大蛇に嫁いだ娘』 (フシアシクモ・著/KADOKAWA・刊) である。現代以前の時代(明言されていないが、劇中の描写から近代の早い時期なのではないか推察される)、諸般の事情から村で疎まれていた少女ミヨが山神として崇められる大蛇の元に嫁ぐところから始まる物語である。当初、ミヨは大蛇を気味悪く思い、また心の内が分からずに戸惑っていたが、やがて、大蛇の内心に触れるにつれ、ミヨは少しずつ大蛇との距離を詰めていき、やがて欠くべからざる伴侶となっていく姿を描いている。

 

本作は、物語類形上「異類婚姻譚」に分類できるわけだが、よくよく考えると、異類婚姻譚とは不思議な物語である。なぜ人間にあらざる者と結婚する物語が形作られ、現代にまで命脈を保っているのか。実は本書にこそ、その答えが描かれている気がしないでもない。

 

本作主人公のミヨは、村というコミュニティの中で浮いた存在として描写され、山神の妻として差し出されるに至る。ミヨは徹底して居場所のない存在として描写されているのである。しかし、半ば追放されるようにしてやってきた新天地で、人としての幸せを取り戻していく。自己承認という人間の性癖(=性向)を満たす物語としての異類婚姻譚を真正面から描いた作品なのである。

 

本に魅せられた人のための「本」

次に紹介するのは『愛書狂の本棚 異能と夢想が生んだ奇書・偽書・稀覯本』(エドワード・ブルック゠ヒッチング ・著、ナショナル ジオグラフィック ・編、 高作自子・訳/日経ナショナルジオグラフィック・刊)である。本書は、現代の視点からは奇異なように見える様々な本のあり方を紹介する書籍である。

 

本は「(正しい)知識を説くモノ」「紙とインクで構成されているモノ」「大量生産するモノ」という暗黙の了解がある。だが、これはあくまで現代における本のあり方、もっといえばある種の努力目標とすら言える。では、昔はどうだったのか? 本書はタイトルの通り、執筆目的の不明な「奇書」、他人を欺すことを主眼とした「偽書」、少数の人にだけ配られる「稀覯本」など、現代の基準から外れた「不可思議な本たち」を紹介している。

 

この選書をご覧になっている皆様は、恐らく本好きであろうと思う。それもまた、ある意味で性癖(=性向)と呼びうるものだろう。本書は、「本」というフェティッシュなモノに魅せられた、わたしたち本読みの先人を描く書籍でもある。

 

「読書のフェチズム」の迷宮に迷い込む

最後に紹介するのは小説から『』(小田雅久仁・著/新潮社・刊)である。本作は『残月記』で知られる著者によるモダンホラー的な短編集である。今回の選書テーマである「性癖」は、どの作品にも裏打ちされているのだが、特にその色が強いのは「柔らかなところへ帰る」だろう。

 

バスに乗る主人公が、あるふくよかな女の蠱惑に導かれ、最後には肉感溢れる無限の「柔らかなところ」に導かれる様を描く本作は、エロスそのものではなく、エロスの奥底に存在する、薄暗くあっけらかんとした「こわさ」を描いている気がしてならない。そして、わたしたちが当たり前のモノとして眺めている光景がぐにゃりと歪み、イメージの世界へと閉じ込められるような錯覚に誘われていく。

 

本作だけに限らず、本書は「文字を読む」ことの官能が前面に出ているともいえる。読書は、驚くほどに身体的な行ないである。本書は読書の身体性を理解し、知悉した著者が、その身体性を逆手にとってフェティッシュなところにまで昇華した、そのような印象すら受ける。ぜひとも「読書のフェチズム」の迷宮に迷い込んでいただきたい。

 

 

ときに、わたしがイベントで用いた「性癖」の語は、性的なフェチシズムに近似した意味合いで用いていたが、実は誤用である。「性癖」とは、ヒトの持つ癖や性向のことを指す言葉である。つまりわたしはあのイベントにおいて、恥ずかしい発言をしでかした上、言葉の誤用までやらかしていたことになるのだ。

 

ちなみに、今回の選書テーマの「性癖」も、「フェチシズム」「癖や性向」二つの意味をあえて混用している。念のため記す。

 

 

【過去の記事はコチラ

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『ぼっけもん 最後の軍師 伊地知正治』(幻冬舎)

藤原道長の裏日記を読み解く! 日記から見えてくる平安貴族のリアルな姿とは~注目の新書紹介~

2024年の大河ドラマ『光る君へ』の舞台は平安時代。紫式部と藤原道長の特別な絆を描くということで早くも話題になっています。新書は流行りに敏感で、朝ドラや大河ドラマのテーマに寄せて、各出版社から本が出ることもしばしば。あらかじめ新書で予習をしておけば知識も増える上に、ドラマをより一層楽しむことができるわけです。

大河ドラマの時代考証担当者が平安貴族の実像を語る

今回紹介する新書は、平安貴族とは何か 三つの日記で読む実像』(倉本一宏・著/NHK出版新書)。著者の倉本一宏さんは歴史学者で、国際日本文化研究センター教授。専門は日本古代史、古記録学。2024年の大河ドラマ「光る君へ」の時代考証を担当しています。『藤原道長の日常生活』(講談社現代新書)、『蘇我氏―古代豪族の興亡』(中公新書)など著書多数。本書は倉本さんが出演したNHKラジオ番組の内容がベースとなっています。

 

出席者をチェックする道長は心配性!?

日記というと『紫式部日記』など女性が仮名で書いたものをイメージしますが、本書は藤原道長『御堂関白記』、藤原行成『権記』、藤原実資『小右記』という、同時期に朝廷に仕えた3人の貴族が漢文で書いた日記を取り上げています。

 

これほど多くの階層の人々が日記をつけ、それが現存している国は日本だけです、と倉本さん。平安時代には天皇、皇族、貴族が日記をつけていました。日記の大きな目的は宮廷行事の内容や段取りを記録しておくため。子孫は先祖の日記を見て、行事や儀式の手順を紙に写し、手に持つ笏(しゃく)の裏に貼ってカンニングペーパーにしていたのだとか! 今でいう業務日報のような感覚かもしれませんが、もちろんそこには個人的な心情も綴られていて、人間関係や裏事情が透けて見えます。

 

第一部は「道長は常に未来を見ていた 藤原道長『御堂関白記』」。千年前に栄華を極めた藤原道長の日記『御堂関白記』は、一部が直筆で残っています。

 

直筆なので、特に墨の濃淡や誤字の消し方などから、わかることも多いのだそう。また、道長の日記は紙の表裏で内容が書き分けてあるのも特色、と倉本さん。表に出来事や行事の概要、裏には儀式に誰が来たか、どのようなお土産をあげたかなどが書かれているとのこと。

 

「この人はなぜ来なかったのか。俺に含むところがあるのか」と悩みが綴られていることもあるそうで、ちらっとSNSの裏垢を連想しました(笑)。

 

政権の座について5年目となる長保2年の元旦の日記には、「元旦の儀式で見参簿(出席簿)を一条天皇に奏上しようと思ったら、他の公卿たちは皆、帰ってしまった」とあり、「自分が儀式を主宰する人間としてふさわしくないのであろうか」と書き留めている道長。倉本さんは、まだ道長は35歳、政権トップという座に自信が持てずにいたようだと分析しています。藤原道長が身近に思えてきますね。

 

安倍晴明を呼んで占ってもらったり、娘の懐妊祈願のために参詣旅行をしたり、友人と歌を送り合ったり、平安貴族の生活スタイルが伝わってきます。

 

第二部は妻や子を亡くして悲しみにくれる心情を生々しく書き記した藤原行成、第三部は出世レースに敗れても道長にへつらわず、道長主催の儀式にもあまり参加しなかった藤原実資。いずれも直筆の日記の写真が多数掲載されていて、字からそれぞれの人柄が伺えます。

 

一冊読み終わると、今まで見えにくかった、平安時代に生きた人々の姿がくっきりと浮かび上がります。深い知識、見識に根ざした歴史本ですが、語り口は柔らかく重苦しさを感じさせないのが本書のいいところ。出世したライバルへの恨み言、マナーを守らない者への苦言など、今の時代にも普通に言われていることが、千年前にも記されていたという面白さ。平安時代の日記、気になりませんか?

 

【書籍紹介】

平安貴族とは何か 三つの日記で読む実像

著:倉本 一宏
発行:NHK出版

歴史の主役としては光の当たらない平安貴族。だが、武士が台頭し不安定化する世情にあって、彼らは国のために周到に立ち回り、腐心しながら朝廷を支えていた。NHK大河ドラマ「光る君へ」の時代考証も務める著者が、知られざる平安貴族の実像を、藤原道長『御堂関白記』、藤原行成『権記』、藤原実資『小右記』という三つの古記録から複合的に明らかにする。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

読む&聞くだけで元気になれる! アンミカさんのポジティブが詰まった一冊

テレビやネットでも大人気のアンミカさん。「白って200色あんねん」なんて名言も話題ですが、1993年にパリコレに出演するなど、すごい実力を持ったモデル・タレントさんです。

 

Let’s Do アンミカ! アン ミカの ポジティブ相談室』(アンミカ・著/講談社・刊)は今年の7月に発売されました。実は、アンミカさんが歌って踊る「アンミカーニバル」という曲欲しさに買った本でした。サンバのメロディに「♪Happy Lucky Love Smile Peace Dream 君に光 幸あれ!」なんて歌詞が心に響き、聞くだけでも元気になっちゃうのですが、この本の内容も素晴らしかったんです。今回は、悩める現代人の救いになるであろうアンミカさんの音源付き書籍をご紹介します。

どこから出てくるの? ってくらいポジティブワードが満載!

『Let’s Do アンミカ! アン ミカの ポジティブ相談室』には、5つのチャプターに分けられた30個のお悩みが掲載されています。もともと「ミモレ」というウェブメディアに掲載されていた企画をまとめたものなのですが、どんなに辛い悩みでも最後にはハッピーになっちゃう、そんな言葉がたくさん掲載されています。

 

特に感心するのが締めの一言。「幸せな人生を歩まれることを心から願います」「私も応援しています!」「私からみたらあなたは最高!」など本当にちょっとした一言なのですが、優しく元気にしてくれる言葉がいっぱい。お悩み相談の回答を読みながら、アンミカさんは日頃から自然とこうした言葉を使える方なんだろうな〜と感心してしまいました。

 

どんな人にもしっかり寄り添うアンミカさん

アンミカさんが答えるお悩みジャンルは恋愛から仕事、嫁姑問題まで、めちゃくちゃ幅広いんです。女性だけでなく男性からのお悩み相談にも回答されていて、どんな方からの相談にも丁寧に答えるアンミカさんに、好感度が爆上がりでした。またアンミカさんより年上の方からのお悩みもあったのですが、この回答が素晴らしい。「転職して7ヶ月。苦手なタイプの女性ばかりで、ストレスが溜まる」とお悩みを寄せてきた55歳の女性に対して、アンミカさんは以下のように答えています。

 

人の苦手な部分を見るメガネははずして少しぼんやりとした目で見て、反対に人のいいところを見つけるように心がけてみてください。思ったよりも、心地よい人間関係を築くことができるかもしれませんよ。

(『Let’s Do アンミカ! アン ミカの ポジティブ相談室』より引用)

 

寄り添って答えるアンミカさんが素敵だな〜と思いました。どうやってストレスを回避するかだけでなく、寄せられた投稿文からその人に気づきを与えてポジティブにしてくれる、そんな解決方法を伝えられるのが、アンミカさんらしさなんだろうと感じます。ただ優しい言葉が並んだポジティブ系のお悩み相談本ではなく、一生懸命に生きてきたアンミカさんだから語れる厳しさと温かさがあるのでしょう。パッと開いたページの何気ない一言に救われる人もたくさんいるはずですよ。

 

ネガティブなこともポジティブに変換しちゃえ!

全人類が無理やりポジティブになる必要はないと思いますが、ネガティブから抜け出せない時にはアンミカさんのパワーは絶対必要だなと思いました。アンミカさんは最後に、こんなことを書かれています。

 

自分に起こる出来事を全て【自分の大きな器作りのため、これは幸せになるためだ】と信じ、目の前にある悩みに負けないでください。生きていれば苦労した分だけ、必ず幸せを見つけやすく、幸せを感じやすくなることでしょう。

(『Let’s Do アンミカ! アン ミカの ポジティブ相談室』より引用)

 

相談の中でも「ネガ⇒ポジ」スイッチについては触れられているのですが、目の前にある悩みに負けない、これが生きていく上で大切だと実感します。誰かに相談したくてもできない悩みを抱えている人もいるでしょう。そんな時はぜひ『Let’s Do アンミカ! アン ミカの ポジティブ相談室』を読んでみてください。悩みの種類は違っても、どうしたら悩みに負けずに生きていけるか、アンミカさんがヒントをくれますよ!

 

朝からテンションがどうしても上がらない、毎日同じことの繰り返しでしんどい、生きている意味がわからない、そんなネガティブの底にいる方には、本書に掲載されているQRコードから『アンミカーニバル』を聞いてみましょう。世の中の大半のことはどうでも良くなります。

 

ただ、かなり中毒性がある曲で、一度聞くと耳から離れず。毎日、毎時間、聞かずにはいられない体質になります。私もアンミカさんなしでは生きていられなくなり、アンミカさん監修の手帳を購入し、LINEスタンプまで買ってしまいました(笑)。ただ毎日は、Happy Lucky Love Smile Peace Dreamでいっぱいです♪ さぁ今日からあなたも、Let’s Do アンミカ!

 

【書籍紹介】

Let’s Do アンミカ! アン ミカの ポジティブ相談室

著:  アンミカ
発行:講談社

寄せられたお悩みに超具体的に答えながら披露されるアン ミカ新境地の人生哲学に加えて、Music Videoが視聴できるQRコードがスペシャル特典としてつく新しいスタイルの人生トリセツBOOKが誕生しました!

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あなたがこどもの日に食べるのはちまき? 柏餅? 東西、武士と公家、日本海と太平洋……多様性ある和食の秘密~注目の新書紹介~

SNSを通して全国の人と気軽に話ができるようになった時代、やっぱり盛り上がるのは食べ物の話題ですよね。ご当地の名産やB級グルメなどの情報を聞いていると、「ちょっと送ってよ!」と言いたくなります(笑)。

 

面白いのが、同じ料理名でも地域によって中身に違いがあること。たとえば「カツ丼」でも、いわゆる味噌カツだったり、ソースカツ丼だったり……。その最たるものが「お雑煮」でしょう。ある人は丸餅で白味噌を思い浮かべ、ある人は角餅の鶏肉入り、またある人はあんこ入りのお餅……!? お正月に食べる風習は同じなのに、こんなにもバラけるとは! 日本の食文化の奥深さを感じます。

和食の多様性を農学者が考察

今回紹介する新書は、そんな和食の多様性の謎に迫る和食の文化史 各地に息づくさまざまな食』(佐藤洋一郎・著/平凡社新書)。著者の佐藤洋一郎さんは農学者。京都府立大学文学部和食文化学科の特任教授・和食文化研究センター副センター長を経て、現在ふじのくに地球環境史ミュージアム館長を務めています。主な著書に『食の人類史』『米の日本史』(以上、中公新書)、『稲と米の民族誌』(NHKブックス)などがあります。以前このコーナーでは『京都の食文化』(中公新書)を紹介しました。

ちまきは公家のお菓子だった!?

第1章は「人類の食、日本人の食」。強靭な肉体で獲物を仕留めるライオンや、植物の消化に特化した胃腸を持つウシと異なり、人類は中途半端で弱い存在だったため、何でも食べなければ生き残れず雑食生物になった、と佐藤さん。そこで世界各地で生まれたのが、植物質と動物質の食材をあわせた「食のパッケージ」。ヨーロッパでは「小麦とミルク」でしたが、日本列島では「米と魚」。その「米と魚」のパッケージの典型例が「ふなずし」だそうです。

 

春先に琵琶湖でとれたフナのえらとワタを抜いて塩をして塩漬けをつくっておき、初夏になるとごはんを桶に敷き、フナを並べて漬け込んでいきます。今は滋賀県に残るのみですが、昔は全国に類似の食品「なれずし」があったとか。かつては、水田のイネと淡水魚という共生関係にあった両者を一緒に利用した発酵食品。植物質&動物質、米と魚のパッケージが日本列島の食の基本となったのですね。

 

第3章は「東と西の和食文化」。東西の食文化の違いが取り上げられています。ちょっと季節外れになりますが、私が個人的に好きな和菓子が柏餅。ですので、この章は目から鱗が落ちました。

 

端午の節句を代表する、柏餅と粽(ちまき)。その東西の分布図が本書に掲載されています。分布図を見ると、思った以上にはっきりと柏餅は東、粽は西に分かれています。なぜこうなったのか? 佐藤さんは、粽は公家の菓子、柏餅は武家の菓子と分析。その由来とは……!?

 

このほか、東の角餅と西の丸餅、日本海のブリと太平洋のカツオ、江戸の天ぷらと上方の粉もの……東と西、武家・貴族・商人など、異なる食文化を対比させることで地域色豊かな和食の全体像が見えてきます。それぞれの料理がなぜそうなるに至ったのかの解説もされていて、本書は食事をする際の話題の宝庫といえます。

 

和食を将来に伝えるためには地方の和食の継承が必要、と佐藤さん。私たちが和食とは何かと問われても答えに困ってしまうのは、あまりにバラエティ豊かで、ひとことでまとめがたいから。逆にそれが和食の真髄といえるのかもしれません。まだ味わっていない日本各地のご当地料理を食べに行きたくなる、そんな一冊です。

 

【書籍紹介】

和食の文化史 各地に息づくさまざまな食

著:佐藤洋一郎
発行:平凡社

和の食材や調理法は多様性に富んでおり、雑煮やおせち、節供など「ハレの日」の料理ばかりでなく、日々の暮しのなかで受け継がれてきた数多くの食がある。だが、東京への一極集中や少子高齢化による後継者不足によって、農地は荒れ、名産品だけでなく、食器やしつらえの生産も細り、地方、とくに山間地で、その伝統食が失われつつあるのだ。今こそ、和食を保護し未来へ継承していくために、各地各時代に成立した「いくつもの和食」に光をあてる。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

連載開始から50年…手塚プロ社長が語る『ブラック・ジャック』の魅力と誕生秘話

言わずと知れた、手塚治虫氏による医療マンガの金字塔『ブラック・ジャック』。週刊少年チャンピオンで1973年に連載を開始してから、2023年で50周年となります。これに合わせ、10月6日(金)から11月6日(月)まで、六本木ヒルズ森タワー52階・東京シティビューで史上最大規模の展覧会「手塚治虫 ブラック・ジャック展」が開催中です。

 

原作の魅力をたっぷり感じることができる展覧会の開催を機に、名作『ブラック・ジャック』の魅力について、手塚プロダクション社長の松谷孝征さんにインタビュー。手塚治虫氏のマネージャーを務めていた当時の裏話や同氏が作品に込める思いなどを伺いました。

※手塚治虫の「塚」は旧字体。

 

5回の連載から代表作に。
『ブラック・ジャック』誕生の背景

『ブラック・ジャック』は、無免許の天才外科医ブラック・ジャックを主人公に繰り広げられる医療ドラマです。医療を軸に、生と死、命の尊さについて考えさせられる多種多様なストーリーが1話完結型(一部例外あり)で描かれ、今なお多くの医療関係者からリスペクトされています。

 

そんな同作品が連載を開始したのは、今から50年前の1973年。当初は長期連載ではなく、短期間の読み切り作品として終了する予定だったそうです。松谷さんが手塚プロダクションに入社したのも1973年のこと。連載当初の裏話を語っていただきました。

 

©Tezuka Productions

 

「連載が始まった1973年は、アニメーション制作会社の『株式会社虫プロダクション』と、版権や出版関係を扱っていた『虫プロ商事株式会社」の2つ会社が倒産した、手塚治虫にとって大変な時期でした。ちょうど会社のごたごたが収まりかけた秋口に、『週刊少年チャンピオン』の編集長から連載のオファーが来ました。それが、『ブラック・ジャック』の始まりです。最初は長期連載ではなく、1話完結型の話を5週やってみませんかという依頼で始まった作品でした。しかし、2~3週もすると、人気が跳ね上がっていったんです。結局その後も連載が続き、『ブラック・ジャック』は手塚治虫の代表作のひとつとなりました」(手塚プロダクション社長・松谷孝征さん、以下同)

 

経営破綻を報じる当時の新聞記事。展覧会では、漫画家・手塚治虫氏が逆境のなかにあった姿も伝えている。※展覧会の展示物より

 

借金を抱え、大変な時期でもあった手塚氏。しかし、落ち込む様子も見せず、漫画に打ち込む氏の姿がそこにあったといいます。

 

「2つの会社が倒産した後だったこともあり、先生にとっては逆にすっきりしたのかもしれませんね。とくに1972年~1973年頃は、以前より漫画を描いていない時期でもあったので、『漫画を書きたい』という思いがとりわけ強かったのだと思います」

 

東京・高田馬場にある、現在の手塚プロダクション本社。アトムの看板が出迎えてくれる。

 

約20ページで、
命の尊さ、医療の意義を問うストーリー

 

5回の短期連載で始まった『ブラック・ジャック』は、その後5年間にわたって連載が続き、連載終了後も14話の読み切り作品が発表されています。同作の魅力を、松谷さんに伺いました。

「絵柄も魅力ですが、なによりストーリーが素晴らしいと思います。週刊誌で約20ページの1話読み切りだから読みやすいんです。時として次の週まで続く話もありましたが、基本的には1話で終わるので前の号を読まなくてもストーリーに入り込める、というのは人気のひとつだと思いますね」

 

『ブラック・ジャック』第1話「医者はどこだ!」から、読者の前に初めて姿を現したシーン。※展覧会の展示物より
©Tezuka Productions

 

200話以上もあるエピソードには、どれも「命の尊さ」や「医療とはなにか」といったテーマが盛り込まれ、今なお私たちの心を揺さぶるものばかりです。なかでも松谷さんが印象に残っている話として挙げるのは、ブラック・ジャックが人も動物も、命は平等であるという問いを投げかけた『オペの順番』というエピソードです。

 

第241話『オペの順番』は、船の上で同時に怪我をしたヤマネコ、赤ん坊、代議士の誰からオペをすべきかをブラック・ジャックが判断するというストーリー。お金を持っている代議士は、『多額の謝礼金を支払うから優先的に手術しろ』と要求するのですが、ブラック・ジャックは症状の重い順に、ヤマネコ、赤ん坊、代議士の順にオペを行います。

 

「この話では、権力に対する忖度やお金があるから優先ということではなく、何より『命を助ける』ということが重要だと伝えたかったのだと思います。また、戦争を経験した手塚先生は、『ブラック・ジャック』以外の作品でも戦争の悲惨さや命、平和の大切さを訴えていました。人も動物も植物も、すべて命ある尊い生き物であると考えていたからこそのエピソードだと感じます」

 

『ブラック・ジャック』第241話「オペの順番」より。動物も人も同じ命であると考え、ヤマネコを懸命に治療するブラック・ジャックの姿が見受けられる。※展覧会の展示物より
©Tezuka Productions

 

他にも、「せっかく治療したのにその患者がそのあとすぐに死刑になってしまうエピソード(『ブラック・ジャック』第5話「二度死んだ少年」)や、『医者は何のためにあるんだ』(『ブラック・ジャック』第51話「ちぢむ!!」)という有名なシーンも印象に残っています」と松谷さん。こうした医療や医師の意義を問うエピソードも多い『ブラック・ジャック』。作品を通してあらためて“医療とは何か”という根本的な問いに向き合い、考えるきっかけにもなるはずです。

 

『ブラック・ジャック』第18話「二度死んだ少年」より。瀕死の殺人犯をブラック・ジャックが助けるも、その後死刑宣告をされてしまうというエピソード。「死刑にするために助けたんじゃない」という悲痛な叫びから、医療のあり方を考えさせられる。 ※展覧会の展示物より。 ©Tezuka Productions

 

作品を盛り上げる、魅力あふれるキャラクター

 

主人公の天才外科医ブラック・ジャックはもちろん、ブラック・ジャックの奥さん兼助手を務める自称18歳の女の子ピノコや、安楽死を専門とするドクター・キリコなど、『ブラック・ジャック』には魅力あふれるキャラクターが登場します。そうしたキャラクター達も作品の魅力だと、松谷さんは語ります。

 

©Tezuka Productions

 

「私が一番好きなキャラクターは、やはりピノコです。かわいらしくて、息抜きにもなりますよね。とあるエピソードで、ブラック・ジャックが寝ているピノコを起こさないように家を出ようとするのですが、扉を開けたらピノコがカバンを『はい』と渡すシーンがありまして。かわいらしさだけでなく、ピノコの献身的なやさしさにはとても惹かれます」

 

『ブラック・ジャック』第13話「ピノコ愛してる」より。ピノコのひたむきな愛情と、ブラック・ジャックとの絆を感じるエピソードだ。 ※展覧会の展示物より。
©Tezuka Productions

 

主人公ブラック・ジャックについても聞いてみたところ、連載当初松谷さんは、大人の「医者」が主人公ということに驚いたそうです。

 

「ブラック・ジャックは、莫大な手術費用を請求するというようなダークな一面も持っていますが、きちんと自分の正義を根底に持っていて、かっこいい主人公だなと思います。しかし、それまで少年誌といえば、格闘技や柔道などの熱血物が人気なイメージでしたので、主人公が大人の医者ということに当初は驚きました。自身が医学博士だったこともあると思いますが、先生が作品を通して子どもたちに『命の尊さ』を伝えるには、医者がぴったりだと考えたんでしょうね」

 

「自分が納得いかないものは、描き直す」
手塚治虫の漫画に向き合う姿勢

 

ストーリーやキャラクター以外で『ブラック・ジャック』を読む際に注目してほしい点について聞いてみたところ、「手塚治虫がこの話を通して何を子どもたちに伝えたかったのか、その裏側に込めた思いに注目してほしい」と、松谷さん。その熱意を感じる手塚氏のエピソードを語ってくださいました。

 

 

「ある時、あと1ページで完成するという状況で、手塚先生がアシスタントに『今回の話どうでしたか?』と問いかけたことがあります。アシスタントの1人が『イマイチですね』と答えると、『8時間ください』と言い残し、自分の部屋にこもってしまったんです。それが夜の12時。担当の編集者、印刷会社、写植屋を待たせている状況だったのですが、そこから8時間で20ページすべてを描き直したというエピソードが残っています。

 

手塚先生は、よく、『漫画は子どもたちが見るものだからこそ、自分で満足いかないようなものを出すわけにはいかない』と語っていました。だからこそ、あと1ページで仕上がるという状況であっても、誠心誠意漫画に向き合う姿勢を崩さなかったのだと思います」

 

手塚治虫作品が時代を超えて愛される理由

 

『ブラック・ジャック』はもちろん、手塚治虫の作品は今なお多くの人々に愛され、読み継がれています。長く親しまれる理由を、松谷さんも身をもって実感したことがあるのだとか。

 

「手塚プロダクションに入社する前、私は出版社で漫画雑誌のグラビアや読み物ページを担当していました。そんななか、1972年にとあるきかっけで手塚治虫の担当になってしまったんです。子どものころは『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』といった作品を親しんでいたのですが、担当になったころはほとんど手塚先生の作品を読んでいませんでしたね。

 

担当として2ヵ月半ほど手塚先生の仕事場に泊まり込むようになったころ、手塚作品を読み直してみたんです。その時、子どもたちに伝えたかった強いメッセージに気づき、あらためて手塚治虫のすごさを実感しました。手塚治虫作品は、戦争の悲惨さ、命の尊さ、平和の大切さといった、いつの時代にも通ずる普遍のテーマが込められており、手塚先生はそれらを子どもたちへ伝えなくてはならないという使命感を持っていたのでしょうね。どんな時代にも変わらない良さがあり、読み返す度に新しい発見や感動を得ることができる。それが手塚治虫作品の魅力だと思います。

 

手塚プロダクションはこれからも、手塚先生が生涯をかけて訴え続けてきたメッセージを世界中の子どもたちへ届けていきたいと考えています」

 

500点を超える原画が登場する
『手塚治虫 ブラック・ジャック展』

 

©Tezuka Productions

 

10月6日(金)から11月6日(月)まで、六本木ヒルズ森タワー52階・東京シティビューで開催されている『手塚治虫 ブラック・ジャック展』は、松谷さんが語る『ブラック・ジャック』の作品の魅力だけでなく、手塚氏が子どもたちへ伝えたかった思いを存分に感じることができる貴重な展覧会です。

展示される原画は531点。200以上のエピソードを取り上げ、多種多様なストーリーの世界を余すことなく体感しながら、『ブラック・ジャック』のあらたな魅力を発見できる内容となっています。

ブラック・ジャックとピノコが過ごした家を再現したフォトスポットや豪華ラインナップのグッズなど、ファンにはたまらない要素も盛りだくさん。50周年というこの機会に、『ブラック・ジャック』の魅力に浸ってみてはいかがでしょうか。

 

©Tezuka Productions

 

『手塚治虫 ブラック・ジャック展』

・会期:2023年10月6日(金)~2023年11月6日(月)
・開館時間:10:00-22:00(最終入館21:00)
・会場:東京シティビュー(東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
・入館料:一般<平日 2,300円・土日祝 2,500円>
学生(高校・大学生)<平日 1,700円・土日祝 1,800円>
子ども(4歳~中学生)<平日 900円・土日祝 1,000円>
シニア(65歳以上)<平日 2,000円・土日祝 2,200円>
※料金はすべて税込です。
※障がい者手帳をお持ちの方(介助者1名まで)は無料です。
※本展は事前予約制(日時指定券)を導入しています。

 

Profile

手塚プロダクション 社長 / 松谷孝征

1944年横浜生まれ。実業之日本社で手塚治虫の担当編集者を務めた後、マネージャーとしてスカウトされ、1973年に株式会社手塚プロダクション入社。1985年4月に、同社代表取締役社長に就任。『火の鳥』『ジャングル大帝』等、プロデューサーとして数多くの手塚治虫原作アニメーション制作に携わり、現在に至る。

池上彰&パックンのコンビが歴史に残る名演説を解説!ここに耳を傾けよ!!~注目の新書紹介~

・サムネイル

「口は災いのもと」「キジも鳴かずば撃たれまい」。そんなことわざがあるように、日本では語らないことに重きを置く傾向があります。といっても、上に立つ者は自分の考えを表明しないと周りはなかなかついてこないもの。そういえば、説明不足と言われ降ろされた総理大臣もいたような……。

 

海外では演説が非常に重要視され、著名な政治家には専門のスピーチライターがいるというのはよく聞く話です。人の心を動かす演説は、ちょっとした魔法のようなもの。ファンタジー好きの私には、言葉で時代が変わるという現象にゾクゾクします(笑)。

 

説明力抜群のコンビが名演説を丸裸!

 

さて、今回紹介する新書は『世界を動かした名演説』(池上彰、パトリック・ハーラン著/ちくま新書)

 

著者の池上彰さんは、説明不要の人気ジャーナリスト。2005年にNHKを退職して以降、テレビ、新聞、雑誌、書籍、YouTubeなど幅広いメディアで活躍しています。

 

パトリック・ハーランさんは芸人、東京工業大学非常勤講師、流通経済大学客員教授。お笑いコンビ「パックンマックン」のパックンとしてもおなじみです。現在は「報道1930」「めざまし8」でコメンテータを務めるなど、報道・情報番組にも多数出演しています。

チャーチルが使ったテクニックとは?

本書は、20世紀半ば以降の15の名演説を著者の2人が対談形式で解説したもの。解説のあとには、演説の原文(英語の場合のみ、一部抜粋)と日本語訳の要約も掲載されています。

 

最初に取り上げられた演説は、1940年6月4日に英国下院議会で行われたウィンストン・チャーチルの「我々は戦う。岸辺で、上陸地点で、野原で、街路で、丘で」。第2次世界大戦時にイギリス軍の負け戦を勝ち戦に転換させた名演説です。

 

まず、池上さんが当時の英国の状況を説明してくれます。ナチス・ドイツ軍の侵攻がベルギー、フランスへと進み、フランス軍を支援するために大陸に送られたイギリス軍が屈辱的敗北を喫し、ヨーロッパ本土からの撤退を行う直前だそうです。この演説によって国民は鼓舞され、その後の長い空爆にも耐えられたといいます。

 

一方、パックンは英語を母語とする話者として、この演説のどこにグッとくるのかを解説してくれます。

 

演説の序盤で、ドイツが噴火した(eruption)という激しい表現に続けて、swept(押し流す)、sharp(鋭い)、scythe(鎌)と同じsの音が3回繰り返されます。「最初の音の韻を踏むアリタレーションという手法ですが、この響きの良さといったらないんです」とパックン。

 

英語のテクニックが駆使され、聞いているほうはワクワクしてくる、という感想も。日本語訳だけではわからない演説の技法と、それがもたらす魔力。内容以外に注目した解説はとても勉強になります。

 

池上さんもパックンもわかりやすく説明する力に長けているため、演説の要点がすっと掴めるのが本書のいいところ。それを頭に入れたうえで各演説を読めば、”世界が動いた”理由も納得できます。まさに、名演説のガイドブック!

 

演説内容はビジネスや日常会話のヒントにもなりそうですし、英語の勉強にもプラスになるでしょう。もちろん激動の20世紀を演説を中心に振り返る歴史本としても読み応えあり。それぞれの名演説の音声は動画サイトにアップされていることも多く、本書を読みながらチェックするとさらにわかりやすくなります。歴史を変えるのは、お金でも、武力でもなく、言葉なのかもしれません。

 

【書籍紹介】

世界を動かした名演説

著:池上彰、パトリック・ハーラン
発行:筑摩書房

そのとき歴史が動いた。時代を揺さぶった言葉とは。現代史に残る15本の演説を世界情勢、表現の妙とともに読み解く。知っておきたい珠玉の名言と時代の記録。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

元手なくても低学歴でも、お金持ちになる方法は?−『1年で億り人になる』

株式投資を始めてからもうすぐ4年になる。ただ銀行口座に置いておくよりも、お金との関係性が積極的になると感じたからだ。

筆者はスイングトレード派です

でも、優良株を買ってずっと持ち続けるだけの長期保有という王道的な方法はちょっと性格的に合わない。かと言って、毎日チャートを何時間も見続けなければならないデイトレードはライフスタイルに合わない。そこで筆者が選んだのが、2~3日から数週間で売買を完結するスイングトレードという方法だ。

 

奥さんと一緒に始めたのでお互いに情報交換しながら、それなりに利益を出した時期もある。そもそもの目的が「1週間分の晩御飯のおかず代」を稼ぎ出すというレベルだったので、プレッシャーは一切なかった。入り口としては正しかったと思う。

推し感覚銘柄

筆者は、銘柄を“推し”の感覚で選ぶことにしている。大好きな腕時計を作っている会社。昔通っていたジムの経営母体となっている会社。使い勝手のいいサイトを運営している会社など、業績とか経営実績も大切なのだが、皮膚感覚でのシンパシーが重要な要素になると思う。こういう気持があると、消極的で速すぎる損切り行動を防げる。ここまでは、筆者の体験的な話。

 

ここからは、ギアがぐっと上がった世界の話になる。“億り人”という言葉をご存知の方はたくさんいらっしゃると思う。投資によって資産が1億円を超えた人たちだ。しかし、実際に億り人と会ったことがあるという人はそういないのではないか。『1年で億り人になる』(戸塚真由子・著/サンマーク出版・刊)で語られる世界と筆者の投資体験を比較するなら、メジャーリーグの常勝チームと立ち上げたばかりの草野球チームくらいの差がある。ただ、たとえレベルが草野球であっても、いや、それだからこそメジャーのマインドを学ぶことが大切なはずだ。

 

億り人のマインドセットを作る

章立てを見てみよう。

 

第1章 常識から逸脱せよ
第2章 人も時間も容赦なく見極めろ
第3章 お金集めを躊躇するな
第4章 「現物」に投資せよ
第5章 詐欺師を警戒せよ
第6章 日常をリセットせよ
第7章 誰よりもお金持ちに憧れて

 

この本のエッセンスをひと言で表現するなら、「億り人のマインドセット設定法」ということになると思う。著者の戸塚氏によれば、“資産のケタが違うお金持ち”に共通する行動は以下のようになる。

 

・彼らは絶対に、「自分が年間いくら稼いでいるか」なんて公言しません。

・彼らは絶対に、「高そうで派手な服」なんて着ていません。

・彼らは絶対に、「ゼロからコツコツ稼ぐ」なんてことはしません。

・彼らは絶対に、「ギャンブルのようなバカな投資」なんてしません。

・彼らは絶対に、「銀行にただ定期預金する」なんてことはしません。

『1年で億り人になる』より引用

 

章立てを見直していただきたい。「お金持ちの思想」「お金持ちの習慣」「お金の集め方」「お金の増やし方」「お金の守り方」「お金持ちの日常」「私が億り人になるまで」という流れになっている。

 

破壊力抜群の現物投資

実際の方法論は、すでにまえがきで触れられる。

 

本書で紹介するのは現物投資という、シンプルにしてとんでもない破壊力を持った投資法です。「ケタ違いの資産家」の近くで、私は実際に見てきました。それは決して特別なものではありませんでした。けれど、ふつうに生活していたのでは、この「現物投資」には、決して乗り越えられない壁もあります。

『1年で億り人になる』より引用

 

戸塚氏は、これまで1700人もの人たちに対して資産構築の指導を行ってきた。大多数がFIREを達成し、3000万円の借金を解決した人、資金ゼロからお金のスペシャリストになって起業した人も含まれる。戸塚氏は言う。

 

ですから皆さんも、1年以内に資産を「億」にすることは、まったく夢なんかではありません。まずは頭のなかの「常識」や「先入観」という固定観念のリミッターを外すつもりで、読み進めてみてください。

『1年で億り人になる』より引用

 

やはり、本当に大切なのはマインドセットなのだ。

 

ドラスティックで非常識な方法でケタを外そう

地上波のビジネスニュース番組のコメンテーターの話を聞いていると、投資のコツはリスク回避であるということに集約される。しかしこの本で語られるアプローチは正反対。

 

私の出会ったケタ違いの資産家たちは、たいていが一般家庭の出身で低学歴です。だから親からの資産も、華やかなコネクションも持っていませんでした。しかし彼らは「お金を持っていない時代」から投資をしています。どうしたかと言うと、「お金を借りた」のです。借金をしても大きな元本を作り、ギャンブルではない、確実に負けない投資で増やすことが大切です。

『1年で億り人になる』より引用

 

王道の投資術では大きなリスクであるはずの借金に関しては、具体的な資金調達法も語られている。興味がある方、そしてここまで読んでいただいて疑念が生まれた方も、ぜひともご自分でご確認いただきたい。

 

1年で億り人になる。それを実現するには、ドラスティックで非常識な方法論が重要なのだ。

 

コロナ禍の3年間で学んだことがある。何かをしたいと思ったら、一切躊躇せずに直ちに行動に移すことだ。投資におけるメジャーリーガーのマインドセットを知ってしまった今、タガを外したい気持ちが抑えきれなくなっている。

 

【書籍紹介】

1年で億り人になる

著:  戸塚真由子
発行:サンマーク出版

1700名が実践して、続々と「億り人」が誕生している投資法がある。それは大富豪や「ケタ違いの投資家」の間だけで伝えられてきたもので【現物投資】と呼ばれる破壊力バツグンの投資法だ。著者は、資産構築コンサルタントとしてカードローンで借金3000万円を背負った人など、さまざまな生徒を「億り人」にしてFIREを達成させてきた人物。世界中の大富豪とも交流を持ち、著者自らも、「現物投資」を始めてからわずか4か月でFIRE達成。その極意を日本で初めて公開する。お小遣い稼ぎではなく、ギャンブルでもない。本物のFIREを知りたいすべての人に、必読の書。

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ソニー元副社長・盛田正明さん96歳初の著書発売。担当編集はワンパブ代表取締役社長⁉

盛田正明氏、御年96歳。ソニーの元副社長であり、グローバル企業へと育て上げた一人である。そんな盛田さんが先日、初めての著書『人の力を活かすリーダーシップ』を当社・株式会社ワン・パブリッシング(以下、ワンパブ)から出版した。編集を指揮したのは、ワンパブの廣瀬有二代表取締役社長。社長が自ら書籍を編集したのはなぜか、その背景を尋ねた。

 

一度は消えかけた幻の企画。経営陣の直感により息を吹き返した

「実は一度、この本の企画は消えかけたんですよ」

開口一番、思いもよらない事実を教えてくれた。『人の力を活かすリーダーシップ』は、黎明期からソニーの発展を支え続けた盛田正明さんのマネジメントスタイルを描いた一冊。70歳でソニーをリタイアした後に「盛田正明テニス・ファンド」を立ち上げ、錦織圭選手をはじめ多くの選手育成に尽力していることでも知られている。

 

本企画をワンパブに持ち込んだのは、この書籍のもう一人の著者である神仁司(こうひとし)さん。テニス専門誌の記者を経てフリーランスになり、現在は記事の執筆だけでなくスポーツコメンテーターも務める。

 

「盛田さんと親交が深かった神さんが、ぜひ盛田さんの半生と人材育成論を世間に伝えたいと企画を持ち込んできたのが今から一年以上前。窓口だった編集事業担当の取締役である松井謙介さんが一般書の部門に企画を検討するように依頼しましたが、事業部はやらないという判断をしたようです。良い企画ではあるけれど、ワンパブとしてあまり手掛けたことがないジャンルであったことが、事業部としてゴーサインを出せなかった理由と聞いています」(廣瀬さん)

 

ところが、松井さんの「この企画は世の中に知らしめる価値がある」いう直感が働き、社長の廣瀬さんに最終判断を委ねたのだった。

 

「松井さんが私に企画書をメールしてきました。『どう思いますか?』と。早速企画書を読んでみたら、面白いじゃないですか。会社としてこの手のビジネス書の発刊は挑戦ではあるけれども、無くしてしまうには惜しい企画だということで、松井さんと意見が一致しました。

 

そこで、まずは一度ご本人に会って話を聞こうということになり、盛田さんのご自宅にお邪魔したんです。あれだけの大企業の経営者を勤め上げ、リタイア後もものすごい偉業を成し遂げてきた方なので、さぞ自己主張が強い方だろうと思っていましたが……実際の盛田さんはすごく物腰が柔らかく、高貴で、常に笑顔でやさしく接してくださって。本当に魅力的で、一瞬にしてそのお人柄に惚れ込んでしまいました。これは本を出そう! 出すなら人に任せないで、私自身が編集を担当する! そう宣言してしまったわけです」(廣瀬さん)

その後、ワンパブ社内の最終企画決定会議で社長自らプレゼンをして、会社として出版することが正式に決定した。編集者としてのキャリアは20年以上、『GetNavi』をはじめとする数々の雑誌の編集長を歴任してきた廣瀬さんだが、2020年のワンパブ創立以降は経営に専念していて、本の編集はやってこなかった。久々の編集者としての現場、なおかつ経営業務との両立は難しくなかったのだろうか?

 

「忙しくなるなと覚悟はしていましたが、今の自分のキャパシティならギリギリできるだろうという思いがありました。と言うのも、信頼がおける制作スタッフを揃えることができたので。

 

編集者の面白さというか醍醐味って、やっぱりひとつのコンテンツを作る上で、どうチームビルディングをしていくかという部分にあるんですよね。

 

今回の本に関しては、企画を持ち込んでくれた神さんが原稿を執筆、より執筆者に近い立ち位置で編集作業を担当してくれたのが、過去に神さんが記者をしていたテニス雑誌の編集長だった鈴木映さんという方なんですよ。つまり、かつて同じチームだった上司と部下が再集結したわけです。

 

鈴木さんは、編集職を離れた後にビジネススクールでMBAを取得するなど、ビジネスにも明るい方。この書籍の2大テーマであるビジネスとテニス、両方に精通している編集者の鈴木さんが携わってくれたことで、制作のクオリティは大幅にアップにしました」(廣瀬さん)

 

トラブルは一切なし。勝因はチームビルドと盛田さんの人柄にあり

万全を期してスタートした本企画だったが、出版にはトラブルがつきもの。しかも今回の著者は日本を代表する実業家であり、多忙を極める人物である。さぞかし取材や進行が難航したことが予想されるが……。

 

「それが、何のトラブルもなかったんですよ。印刷所が仮設定した前倒しの進行よりもさらに早いスケジュールで校了してしまいました。私の原稿チェックも休日に集中して時間を作る程度で、経営業務に支障をきたすこともなく進みました。本当に、他に類を見ないほどの優良進行でした。面白い話ができなくて申し訳ない(笑)」(廣瀬さん)

 

勝因はズバリ、チームワークの良さだろう。かつて共に同じ雑誌を作り上げていた仲間だからこその、阿吽の呼吸。廣瀬さんがスタート時に感じていた予感は的中したわけだ。

 

「加えて、盛田さんが取材や執筆、撮影に非常に協力的だったこともありがたかったです。楽しそうに、それでいて主張する部分はしっかりと主張されていました。たとえば、盛田さんはファッションにすごくこだわっている方で、撮影時のヘアメイクはこちらで準備しましたが、洋服や靴などはすべてご自身で揃えられていたんですね。

 

白っぽいシャツをリクエストした際は、ベースが白だけどうっすらとブルーがかっている色味を選ばれていました。ブルーってソニーのコーポレートカラーですよね。ソニー愛からなのか、ご本人の好みかはわかりませんが、とてもよくお似合いでした。

 

帯の言葉は錦織圭選手に書いてもらいました。通常、依頼するのも難しいくらいの世界的選手ですが、自身を世界に羽ばたかせてくれた盛田さんの本ということで二つ返事でOKをいただけました。盛田さんのお人柄と周囲との良好な関係性など、すべてがうまく作用して本が出来上がったのだと感じています」(廣瀬さん)

 

久々の現場作業に編集魂が再燃!リタイア後のビジョン形成も

この本に携わってからというもの、廣瀬さんが以前に増してアグレッシブに日々の業務に携わっているように見えるが、気のせいだろうか。

「実はワンパブ社内のスタッフからも、『最近、社長がすごく生き生きとしている』と言われます(笑)。やっぱり現場の作業は楽しいですね。カバーのデザインについて、編集、販売、広報などいろいろな部署のスタッフに意見を出してもらうなど、みんなでより良いものを作っていく過程を久々に経験しました。

 

企画会議でプレゼンしたのも緊張しましたが、最後に『校了』のサインをするときには手が震えましたよ、見落としがいっぱい出てきたらどうしようと思って。

 

無事に発売日を迎え、現在はプロモーションの真っ最中です。編集の仕事は本を出して終わりではなく、その本の良さを伝えるためのプロモーションまでが重要な役割だと改めて感じています。作ると売るは一体なのだなと。

 

ちなみに、社内のMR(メディアリレーション)チームと一緒に各メディアを回っていますが、社長だということを事前にお伝えしていないので、だいたい相手先は驚きますね。気分はイチ担当編集なんですけれど」(廣瀬さん)

 

廣瀬さんは現在58歳。リタイア後の生活も少しずつ意識していると言う。今回、盛田さんの本に携わったことで、何か明確なビジョンは見えたのだろうか。

「『いくつになっても、これまでの経験を活かしていろいろなことが楽しめるよ』という盛田さんのメッセージは、書籍を作っているときから心に響いていました。まさにご本人は、70歳を過ぎてからテニスのファンドを立ち上げたわけですから。私も経営者として、常に進退を賭して戦っていますが、この先リタイアの時を迎えても、これまで以上に楽しい未来を切り開いていけるのではないかと勇気づけられました。

 

具体的には、今回編集者として久々に本を作ってみて、人脈を駆使した編集プロデューサーもいいかな、なんて思ってます。先日ワンパブから『生成AI導入の教科書』という本が出たのですが、その著者であるおざけん(小澤健祐)さんが、今や生成AIという優秀なアシスタントがいるんだから、物理的な作業はAIに任せて、自分はネットワークを広げたりまだ世に出ていない企画を考えたりする立場になろう、って言ってるんですね。私も生成AIを有効活用しながら、自分にしかできない本の編集、あるいはコンテンツの制作に挑戦していこうと思っています」(廣瀬さん)

 

編集者・廣瀬社長が手がける第2弾も期待できそうだ。

 

『人の力を活かすリーダーシップ』の詳細はこちら

https://onl.bz/ZgQ9MbX

 

撮影/鈴木謙介

美術館長を歴任した著者が教える、誰でも美術を簡単に愉しめる7つのキーワード~注目の新書紹介~

ついこの前まで半袖で寝ていたと思ったら、もう毛布を引っ張り出すまでになってしまい、たまにやってくるジョギング熱くらい、熱しやすく冷めやすい気候に驚いています。「ちいさい秋みつけた」なんて童謡がありますが、秋は年々縮んでいるのかもしれません。

 

とはいえ、秋らしいことを少しでもしたい……。というわけで、芸術の秋! 芸術と聞くとなんだか難しく思えますが、ホテルのドアパーソンのように丁寧に出迎えてくれるのが今回の新書です。

 

美術のベテランが作品を見るスタンスをサポート

 

今回紹介する一冊はカラー版-美術の愉しみ方-「好きを見つける」から「判る判らない」まで』(山梨俊夫・著/中公新書)。著者の山梨俊夫さんは美術史家。神奈川県立近代美術館館長、国立国際美術館館長を経て、社団法人全国美術館会議事務局長。著書に『絵画の身振り』(ブリュッケ、第2回倫雅美術奨励賞)、『風景画考1~3』(ブリュッケ、第67回芸術選奨文部科学大臣賞)などがあります。

 

「比べる」ことは見る愉しみにつながる

本書は、美術を愉しむきっかけとなる”7つの扉”をノックする入門書。普段美術にあまり縁のない人にとって、最適な一歩となるでしょう。

 

第1章「関心を開く」では、美術への関心の芽を成長させていくコツについて教えてくれます。山梨さんは浪人生をしていたころ、上野の国立西洋美術館に出かけてはオーギュスト・ロダンの彫刻を見て鬱屈を晴らしていたそうです。青年期に誰もが持つ異国への憧れだった、と山梨さん。

 

きっかけはささやかなものでよく、美術館も画廊も通りすがりにふらっと立ち寄ればいい、というのは心強い言葉。どんな見方であろうとたくさん見ることが目を肥やす、そんなアドバイスも美術への敷居を下げてくれます。

 

私がやってみたいと思ったのは、第4章の「比べる」。比べることが判断の基準づくりや見る愉しみにつながるそうです。例に挙げられているのは、奈良東大寺に立つ運慶・快慶の「金剛力士像」とミケランジェロの「ダヴィデ」。金剛力士像は額の血管が膨らみ、筋肉が隆々と盛り上がっています。それに対し、ダヴィデは、鍛えられた筋肉を滑らかな皮膚の下に隠し、腹筋も現実の肉体に合わせて彫られています。ふたつの裸体像を比べると、背景にある人間観、文化圏の違いがありありと示される、と山梨さん。

 

ひとつの作品だけを鑑賞するのではなく、時代や空間を超えて”比べてみる”。確かに刺激的な試みですね。

 

美術品収集に取りつかれたウィーンのコレクターから作品を借り受けようと、彼の自宅を訪れた際のエピソードなど、山梨さんの実体験も盛り込まれ、読み物としても飽きさせません。新書なので小さめですが、フェルメール「デルフトの眺め」や洋画家・藤島武二「蝶」などのカラー図版も随所に入り、初心者向けの作品ガイドとしてもわかりやすい作り。

 

美術の専門用語はほとんど使われておらず、誰にでも扉を開いてくれる、そんなウェルカムな雰囲気に溢れています。秋はあっという間。さあ、美術館に行きましょう!

 

【書籍紹介】

カラー版-美術の愉しみ方-「好きを見つける」から「判る判らない」まで

著:山梨俊夫
発行:中央公論新社

絵に殉じたゴッホの筆遣い、色彩を見極めたセザンヌの眼、人間の生命を彫像にしたロダンの手。優れた絵画・彫刻は、作家の感性と知性が結晶した永遠の芸術である。東西の名品を堪能できる現場が美術館や展覧会だ。本書は、関心を開く・好きを見つける・読む・比べる・敷居をまたぐ・参加する・判るという7つの視点から、読者を現場にいざなう。80点のカラー図版とともに、美術体験の感動に迫り、愉しみ方を伝授する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

のび太のように−−これからの「ビジネス×テクノロジー」社会を生き抜くためのマインドセットとは?

いつもの会議室にギャルが数人乱入。初対面なのにタメ口で言いたいことを言われる。やがて、その場のみんなが「アゲ」とか「バイブス」とか言い始める。見た目はカオス以外の何物でもないが、会議は確実にポジティブな方向に転がっていく。

 

存在しなかったことがスタンダードになる時代

「ギャル式ブレスト」は、直感的かつ忖度一切なしのギャル流コミュニケーションで、会議の閉塞感を打破する方法論だ。誰も思いつかなかったメソッドだが、実効性があることは数々の事例によって裏付けられている。

 

この原稿で紹介する『空想が実現する時代のビジネス地図』(齊田興哉・著/サンマーク出版・刊)は、さらに先を行く未知のレベルのコンセプトに基づいて記された一冊だ。これまで存在しなかったものが日常の一部になる時代で栄えるのは、どんなビジネスか。

 

5つのジャンルの“ビジネス地図”

章立てを見てみよう。

 

第1章 空想が実現する時代のビジネス地図
第2章 病や障害から自由になる時代のビジネス地図
第3章 移動の概念が拡張し続ける時代のビジネス地図
第4章 地球規模のコントロールが可能になる時代のビジネス地図
第5章 宇宙が人類の行動範囲になる時代のビジネス地図

 

すべて、これまでとはまったく違う時代を背景に展開していくビジネスの形だ。もうちょっと具体的にイメージしてみよう。最初のページに「交通事故」「寿命」「スマートフォン」「政治家」「食糧難」という言葉が並べられている。向き合うページに綴られているのは、こんな文章だ。

 

近い将来、これらの物や言葉は日常的に見なくなったり、死語になったりするだろう。それは、SFに描かれてきた技術が、現実のものとなりつつあるからだ。この本は、そんな時代を迎えるあなたにとっての未来を見通す「地図」となる。

『空想が実現する時代のビジネス地図』より引用

 

テクノロジーとビジネスの掛け算

10年前は空想の産物でしかなかったストーリーが、いくつも現実になっている。

 

実現している技術はこうして私たちが日常的に触れたり、話題を目にしたりするものだけではない。着るだけで空を飛べるスーツや忙しい親に代わって育児をしてくれるロボット、表情から人の心理を読み取るテクノロジーなど、さまざまな技術が実現しているのだ。

『空想が実現する時代のビジネス地図』より引用

 

本書の立脚点である「テクノロジー×ビジネス」という公式に乗せて、30以上の実例が紹介される。いずれも実現しているか、実現の可能性が極めて高いものだ。ものごとの新しいあり方にどのように対処していくか。本質が地図である本書は、確実に道筋を示してくれる。

 

3Dホログラム、デザイナーベイビー、気象コントロール

いくつか実例を紹介しておこう。

 

3D(立体)ホログラムにより、オンライン会議やオンラインプレゼンは立体映像を介して行われるようになる。50年も先の話ではない。10~20年というきわめて近い未来に実現されるのだ。3Dホログラムテクノロジーは、すでに部分的に実現している。このまま進化すれば、コンサートやスポーツイベントなどのコンテンツにも使われるようなアプリケーションが無限に考えられる。

 

倫理面の問題は別として、親が望む外見や能力を持つように遺伝子操作され、生まれてくる「デザイナーベイビー」もほぼ実現している。2018年11月、賀建奎(が・けんけい)という中国人科学者が遺伝子改変受精卵から双子の女児を誕生させたというニュースが世界中を駆け巡った。彼はその後逮捕され、今は上香港でまったく別分野の研究をしているが、基本的なデータはすべて揃っている。

 

今年は地球全体が異常気象に襲われ、考えられないレベルでの水害や山火事が各国で続発した。しかし、こうした天災とは無関係の地球が実現しつつある。なぜなら、宇宙から地球上の気象をコントロールするシステムが構築されつつあるからだ。端的な例を挙げるなら、2008年の北京オリンピックの際に工場の操業を止めて空を晴れ渡らせ、さらに開会式が行われるナショナルスタジアムに近づく雨雲に対処するため小型機でヨウ化銀を空中散布した。ヨウ化銀は空気中の水蒸気と化学反応を起こし、その場で強制的に雨を降らせてしまうのだ。これから先は、こうしたテクノロジーがさらに広い範囲で使われていくことだろう。

 

のび太のような生き方

テクノロジーの進化を妨げているのは「そんなことはできるわけがない」という人間の勝手な思い込みなのかもしれない。ならば、その枷を取り除いてこそ、来るべき時代の正しい姿が見えてくる。そうあるためには、どのように生きればいいのだろうか。

 

『ドラえもん』の「のび太」のように生きるのだ。のび太はドラえもんが4次元ポケットから取り出す「ひみつ道具」を開発することはできない。しかし、利用することにおいては、天才的な才能がある。テクノロジーを作り出す必要はない。積極的に使うことこそが大切なのだ。

『空想が実現する時代のビジネス地図』より引用

 

こうした生き方もまた、地図の一部として盛り込まれるべきもののひとつに違いない。

 

【書籍紹介】

空想が実現する時代のビジネス地図

著:齊田興哉
発行:サンマーク出版

本書では、元JAXAの宇宙ビジネスコンサルタントである著者が、進化するテクノロジーと変わるビジネスの未来を徹底予測。新しいビジネスを創出するヒントと、最先端技術の動向を見通す1冊。

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そのレシート捨てないで! と思わず引き止めたくなっちゃう一冊『レシート探訪』

物価高騰が止まりませんね。先日、東京駅に用事がありウロウロとしていたところ大好きな崎陽軒の「シウマイ弁当」を発見。しかし、その価格が950円だったんです。シウマイ弁当に罪はないものの、ここまで来たか……とショックを受けました。

 

毎月のように値上がり商品が増えていく今、お家の家計状況を把握するためにも、家計簿をつけようと思うのですが…なかなか手がつけられず2023年も残り100日を切りました。そんな時、見つけたのが『レシート探訪』(藤沢あかり・著/技術評論社・刊)という一冊。『北欧、暮らしの道具店』の連載をまとめた本なのですが、時間を忘れて読み耽ってしまうほど心が躍る内容でした。

レシートは生活の記録?

『レシート探訪』には、著者である藤沢あかりさんが取材した26人のレシートの話が掲載されています。編集者さんやイラストレーターさん、スタイリストさんなどさまざまな年代、業種の方々のレシートを覗き見することができます。

 

少しずつコンビニやスーパーで買い物する人、一度にまとめて買う人、立ち寄ったカフェ、購入した雑貨などなどレシートには、その人の“生活の記録”が詰まっていました。『レシート探訪』を読んでいくと、レシートは、いつ・どこで・何を買ったかだけじゃなく、その時の気持ちも思い出させるのか! と気づかせてくれます。

 

いつもなら「レシートいらないです」と断ってしまうこともあるのですが、なんだかもったいない気がしてくるんですよね(笑)。週に一度、レシートを見返す時間があると、生活がいつもよりちょっと楽しくなるかも! ついでに家計簿もつけられたら一石二鳥じゃない? そんなふうに思わせてくれます。

 

これは捨てられない……はじめてのおつかいのレシート

みなさんには思い出のレシートってありますか? 『レシート探訪』を読むまで、思い出の品としてレシートを取っておくなんてこと考えてもいなかったのですが、めっちゃ素敵なエピソードが掲載されていたのでご紹介します。

 

著者である藤沢あかりさんのコラムなのですが、セブン-イレブンで買われた「ハム」と「アイスコーヒー」のレシートのことが書かれてありました。これだけを聞くとなんてことないものですが、実は息子さんが「自分で取るから場所だけ教えて」と500円玉を握りしめて、はじめてのおつかいに出かけた時のレシートなのです。

 

シワシワになったコンビニのレシート。いつもならすぐに捨ててしまうその一枚を、この日は大事に財布にしまった。

(『レシート探訪』より引用)

 

映画の半券やテーマパークのチケットはたまぁ〜にノートや手帳に挟んでおくことがありますが、はじめてのおつかいのレシートって、もう宝物みたいになりますよね。最近は電子決済で、レシートすら発行されないこともありますが、思い出とともにレシートを保管しておきたいな、と感じました。

 

そう思うと、結局値上がりしていて買わなかった東京駅の「シウマイ弁当」も買っておけばよかったとすら思います(笑)。いろんな商品がちょっとずつ値上がりして、それが当たり前に感じてしまう昨今ですし、値上がりにショックを受けた気持ちをレシートに込めておけば、また価格が変わった時、いろんな気づきを感じられるだろうと思いました。

 

レシートから見えてくる「その人らしさ」

今まで見向きもしてこなかったレシートですが、レシートを通じていろんな人の生活や暮らしをのぞいてみると、自分の生活についても大切に考えられるようになりました。『レシート探訪』の最後には、こんな一文が掲載されています。

 

テレビやネットニュースに流れてくる大きなニュースに比べ、日々の買い物など、些細な出来事かもしれません。けれど、暮らしとはそんな「なんでもないようなこと」がほとんどです。
ところが、だんだんと気づくことになりました。その「なんでもない」ように見えた買い物は、その人の意思決定そのものであり、「なにを選ぶか」は、「どう生きるか」のはじまりでもあったのです。

(『レシート探訪』より引用)

 

何気なく選んでいるものでも、そこには自分の意思があるんですよね。疲れている時は辛いものを食べている、毎週キウイ買っているなど、数日だけでもレシートを残して振り返ってみると、その日の自分の気持ちも思い出せます。

 

家計簿をつけようとか、日記を書こうとか、年末が近づいてくると新しいことを始めたくなりますが、レシートを集めて振り返ってみる、これだけでも日々の暮らしがちょっと豊かになるかもしれません。

 

また『レシート探訪』を読むだけでも、毎日の「なんでもない」買い物に彩りを添えてくれます。普段なら捨ててしまっているレシートですが、思い出を振り返るように何枚か取っておいてみませんか? 今まで見えてこなかったナニカが見えてくるはずですよ!

 

【書籍紹介】

レシート探訪

著:藤沢あかり
発行:技術評論社

レシートには、暮らしが詰まっている。外出自粛のあのころ、そしていま。買い物の先にあった、変わりゆくなかの変わらないこと、新しく見えた景色ー。『北欧、暮らしの道具店』連載、“改稿+書き下ろし”待望の書籍化!

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レストランでひとり客は迷惑? 歓迎? 料理人・飲食店プロデューサーが語るひとり客の真実~注目の新書~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。飲食店で「お客様は神様です」なんて言葉をしばしば耳にしますが、神話やファンタジーが好きな私にはどんな神なのか気になります(笑)。「お客様は仏様です」とは言わないわけで、この”神様”には崇めるだけの神ではなく、人の意のままにならず、時に試練を与える存在、そんなニュアンスが含まれている気がします。神も祟り神、疫病神、貧乏神といろいろ。できれば福の神と思われたいですね(笑)。

南インド料理店総料理長の食エッセイ

さて、今回紹介する新書はお客さん物語 飲食店の舞台裏と料理人の本音』(稲田俊輔・著/新潮新書)。著者の稲田俊輔さんは料理人、飲食店プロデューサー。2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けています。近年は食についての文章も多く発表。著書に『おいしいものでできている』(リトルモア)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』(柴田書店)などがあります。

「客」は「お客様」と呼ぶべきか?

料理人であり、飲食店プロデューサーであり、食に関するエッセイストとしても注目される稲田さんが、食の現場で体験した印象的な出来事を考察していく、ウェブマガジンの連載をまとめたエッセイ。

 

第1章「お客さん論」の冒頭は、飲食店での”客”の呼び方についてです。25年以上前のこと、お店の裏では「客」と呼ぶのが当たり前だったなか、稲田さんが新しくバイトで入った創作居酒屋は違いました。常に「お客様」と呼ぶ、それが鉄の掟。入店した日、先輩たちが「ああいうお客様はマジ勘弁してほしいわ」と、グチすらも「お客様」を貫いていたため、稲田さんは「すごいところへ来てしまった」とたじろいだそう。

 

その店は新興の会社が運営しており、幹部は異業種のメンバーだったため、顧客目線の徹底した接客の大事さをわかっていたのではないか、と稲田さん。

 

ただ、現在はお店とお客さんの関係性はもっと対等で、かつ何にも縛られないほうがいいという思いが強まっているため、本書では「お客さん」という言い回しを用いているそうです。

 

個人的に私が勇気づけられたのは、「ひとり客のすゝめ①――店は歓迎してくれるのか?」。これもよく議論される話題です。お店側の立場からいうと、おいしい料理を目当てに来てくれるひとり客はむしろうれしい存在だとか。

 

しかも、ひとり客は料理をたくさん楽しんでくれるので客単価が高く、おしゃべりに夢中なグループ客よりも在店時間が短めで、ビジネス的にもありがたい、と稲田さん。今度気になったお店があったら、勇気を出してカウンターに座ってみたいと思います。

 

コース料理が受難の時代を迎えている理由とは? 代替わりをして味が落ちたという評判は本当か? 居酒屋で水だけしか頼まないのは是か非か? 稲田さんが自身の経験をもとに答えを見つけていきます。

 

普段はあまり知ることのできない、”中の人”の視点は新鮮。言い回しは柔らかく、それぞれのエッセイにはオチもついていて、ふわっと温かい読み味。そのあたりは稲田さんの人柄でしょう。飲食店という場をより楽しむための提案にもなっています。

 

食べ物を前にすると、お客さん、料理人、オーナーに限らず、誰でもその人の価値観が露わになる。これが食の力かもしれません。

 

【書籍紹介】

お客さん物語 飲食店の舞台裏と料理人の本音

著: 稲田俊輔
発行:新潮社

「客商売」にドラマあり! レストランは物語の宝庫だ。そこには様々な人々が集い、日夜濃厚なドラマを繰り広げている――。人気の南インド料理店「エリックサウス」総料理長が、楽しくも不思議なお客さんの生態や店の舞台裏を本音で綴り、サービスの本質を真摯に問う。また、レビューサイトの意外な活用術や「おひとり様」指南など、飲食店をより楽しむ方法も提案。食にまつわる心躍るエピソードが満載、人生の深遠を感じる「客商売」をめぐるドラマ!

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みんな青春だ! 王道から新書まで—— 歴史小説家がオススメする「青春」を堪能し尽くす5冊

毎日X(Twitter)で読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「青春」。全力真っ只中か、はたまた遠い日の追憶か。それぞれに「青春」との距離感はありますが、谷津さんの選んだ5冊を読んで、「アオハル」な体験をしてみませんか?

 

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気づけば37歳になってしまい、慄然としている。

 

十年ほど前、40歳くらいの方が「大人になると、精神年齢は20くらいのままで止まる」と言っていたのを聞き、そんなわけあるかと鼻で笑っていた当時27のわたしだったが、いざ四十手前に至ってみると、確かに自分も20歳くらいの感覚で生きていることに気づく。とはいえ、最近白髪も増えてきたし、以前ほど無理も利かない体になってきた。人は体から老いていく生き物なのだなあとぼやく今日この頃である。

 

なぜかこの選書、いつも悲しい書き出しで始まっている気がするが、気にしないでほしい。

 

というわけで、もはやわたしにとっては遠い彼方になりつつある、「青春」が今回の選書テーマである。なにとぞお付き合いいただきたい。

 

主人公の成長と、その父のやり直しの物語で、2度美味しい王道青春小説

まずご紹介するのは、『14歳の水平線』(椰月美智子・著/双葉社・刊)である。親の離婚に伴い父、征人についていった加奈太だったが、親に相談せずサッカー部を辞め、反抗期まっしぐらの14歳となっていた。そんな加奈太は夏休み、征人の故郷の島へ帰省し、中二男子限定のキャンプに参加することになる。そして、この経験の中で、少しずつ加奈太は変化していく――、そんな枠組みを持った、王道青春小説である。

 

しかし、加奈太の青春小説という視座から眺めると、本作には異物が挿入されていることに気づく。父、征人の物語である。児童文学者の征人は、色々あって妻に愛想を尽かされ、息子との距離感を摑み損ねていたが、故郷に身を置く中で自らを省みるようになる。その過程で、征人の青春時代の光景も語られていくのである。加奈太の成長と、征人のやり直しの物語が同時に展開されることで、本書は「青春小説」という枠組みを有しながらそれ以上の広がりを持ち、異物の存在がまるでスイカにかける塩のように働き、青春小説の甘みを引き立てているのである。

 

加奈太の14歳の気づき、そして、征人の大人になってからの気づき。人はいつからでも変わることができる。読者の背中をぽんと押してくれる、優れた青春小説であると言えよう。

 

昭和初期を舞台にした、優しさが広がる青春物語

次にご紹介するのは漫画から。『うちのちいさな女中さん 』 (長田佳奈・著/コアミックス・刊) である。時は昭和初期、翻訳家として働く蓮実令子の元に、14歳の女の子、野中ハナが女中としてやってくる。女中としては完璧ながら四角四面なところがあるハナと、穏やかな性格で朗らかながら時に翳を背負った令子の心の交歓が主題となった昭和日常系漫画である。

 

本作の魅力で最初に挙げるべきは、なんといっても緻密な考証に裏打ちされた日常描写だろう。昭和初期のモダンな生活空間の中で働く女中の日常が、丁寧に切り取られている。また、ハナが田舎から出てきたという設定のために、東京の新しい文物にいちいち戸惑ったり驚いたりしているのもよい。

 

しかし、本書最大の魅力は、ハナの青春物語だということだろう。女中であるハナは、女中として完璧であるがために自分のために時間を使おうとしない。雇い主である令子はそれを汲み、ハナにできうる限りの青春を与えようとしている。そんなふたりの関係がじんわりと行間に滲み、優しい世界が読者の眼前に立ち現れている。少なくとも単行本掲載分では令子の過去がすべてつまびらかになっていない(この書き方をしているのはわたしが単行本派のため)のだが、もしかして令子にも過酷な青春があったのだろうか、そんなことを想像しながら読むのも楽しい。

 

「僕」から見えてくる、松下村塾の青春とは?

次にご紹介するのは新書から。『自称詞〈僕〉の歴史』 (友田健太郎・著/河出書房新社)である。皆さんは、「僕」という自称詞をお使いだろうか。わたしは書き言葉の場面での自称詞こそ「わたし」だが、日常の、やや改まった場では「僕」を用いている。男性にとっては割とポピュラーだろうし、一部の女性にとっても身近な自称詞といえる「僕」の歴史をつまびらかにしたのが本書である。

 

「僕」という自称詞がどこで生まれ、どのように日本語圏内で受け入れられ広がっていったのか。そしてその中で、どういう文脈を獲得、喪失しながら現代にまで至ったのかを総覧する本書には、かなりの読み応えがある。そんな本書の中でも特に紙幅が割かれているのは、自称詞「僕」を好んで使っていたとされる吉田松陰とその弟子たちについてである。吉田松陰が「僕」にある種の思想的な意味を付与し、弟子たちがその思想をどのように受け止めていったのかを「僕」の自称詞から描き出していくプロセスは、そのまま師匠と弟子の青春を描き出しているとも言えるのである。

 

大人世代と青春世代の調和/不調和を描く傑作漫画の新シリーズ

次にご紹介するのは漫画から。『るろうに剣心─明治剣客浪漫譚・北海道編』 (和月伸宏・著/集英社・刊)である。当時の子どもたちの人気をさらったジャンプ漫画の続編で、北海道の水面下で繰り広げられる〝大乱〟に、不殺を誓った伝説の人斬り緋村剣心を始めとした本作の人気キャラたちが挑むという筋書きの物語である。

 

わたしにとっては青春ど真ん中でぶち当たり、それこそ人生を変えてしまったとすら言える漫画(『るろうに剣心』のおかげで歴史小説を書いているといっても過言ではない)なのだが、これを理由に今回選書したわけではない。

 

本作は、主人公である剣心、人気キャラの斉藤一など、幕末をくぐり抜けた猛者たちが登場するのだが、彼らには意識的に「老い」の影が付与されている。本作の随所には、彼ら幕末組の思想や正義、あり方を相対化し、疑問符を投げかけるような展開がそこかしこで用意されている。

 

その一方で、旧時代の悪弊に引きずられながらも新しい時代を夢見る少年少女、長谷川明日郎、井上阿爛、久保田旭が剣心のパーティに加わっており、剣心たちの意のままにならない不安定な存在として、時に事態を打開し、ときに事態を混迷化させていく。実は本作は、大人世代と青春世代の調和/不調和を描いた作品であるとも言えるのである。

 

「青春との決別の仕方」を描く反青春小説

最後にご紹介するのは小説から。『青春をクビになって』 (額賀澪・著/文藝春秋・刊)である。35歳の若手万葉集研究ポストドクター、瀬川は、ある日、大学から非常勤講師の雇い止めを宣告される。そんな折、瀬川と似たような立場だった先輩研究者が、貴重な資料を持ったまま行方不明になる。先輩の足跡を探す瀬川は、自分の生活を立てるため、ひょんなことから紹介された人材派遣アルバイトに勤しむことになる……というのが本書の導入である。

 

既に降りている立場だからこそ言えるが、青春は呪いである。キラキラしなければならない。夢を持たねばならない。夢を叶えなくてはならない。あわよくば恋をしなければならない。誰でもない自分にならなければならない……そんな圧力に満ちている。いや、その真っ只中にいるときはなんだか凄く楽しい。だが、そんな楽しさに幻惑されてずっと青春という板の上に乗っているうちに、自分の大事にしていたはずのものが腐れ落ち、自分の足を縛る枷になっている……。

 

本書の著者は数々の青春小説を世に問うてきた青春小説家である。だからこそ、青春の持つ磁力をよくご存じなのだろう。本書は、「青春との決別の仕方」を描いた反青春小説でありつつ、青春の終わりを描いた青春小説なのである。

 

青春っていいよね、と思う。
あの、ハイウェイを時速百キロで飛ばしていくあの感じは、たぶん一生わたしの元にはやってこない。

 

わたしの目の前にあるのは、舗装すらされていない砂利道である。ゴトゴトと揺れながら、日々、少しずつ前進している。まあ別にそれはそれで楽しいから満足はしているのだけど、時折、ハイウェイを飛ばしていたころの自分を思い返したい日もある。

 

そういう日のために、きっと青春をモチーフにした本があるのだろう。というわけで、わたしは今の生活にちょっと疲れたら、青春の本を読むようにしている。

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『ぼっけもん 最後の軍師 伊地知正治』(幻冬舎)

「日本左利き協会」発起人が語る左利きのすべて! 左利きの苦悩と未来~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私は物心ついたときから右利きで、特に何も考えずに生きてきました。ある日、右ばかり使っているとバランスが悪いという話を聞き、左手で歯を磨こうとしましたが力加減がわからず、歯ブラシがほっぺたを突き破りそうになったことも(笑)。

 

左利きの友人も何人かいますが、「左利きって、なんかかっこいいよね」と言うと大概怒られます。「かっこいいとかどうでもいいの、結構大変なのよ」と。右利きが主流の世界で、左利きの苦労に気づき、まずは知ることが大事なのでしょう。

日本左利き協会の発起人が解説する左利き

今回紹介する新書は『左利きの言い分』(大路直哉・著/PHP新書)。著者の大路直哉さんは「日本左利き協会」発起人。英国滞在中に左利き専門店と出会い、利き手への探究心が開花。帰国後、関連記事や文献の発掘にいそしみ、左利きに関する著書を出版してきました。著書に『見えざる左手』(三五館)、『左ききでいこう!』(フェリシモ出版)などがあります。

自動改札機にATM、続く左利きの苦難

世界各国の左利き事情や、左利きの脳と体、左利き受難の歴史などが詰め込まれた一冊。序章「左利きはどのくらい存在し、なぜ生まれるのか」では、人類における左利きの割合が紹介されています。研究者が過去5000年の芸術的表現を調べた結果、左手を使って創作された作品は約8%だとか。

 

ただし、文字を左手で書く人の割合は地域差があり、大学生を対象にした研究では、カナダで文字を左手で書く人の割合は男性9.8%、女性7.7%に対し、日本では男性1.9%、女性0.9%。教育の影響が大きいのでしょうか。日本の特異性が見てとれます。

 

では、左利きの人はどのようなことにストレスを感じているのでしょうか? 第1章は「左利きの苦労」。「左利きは9年寿命が短い」という説が1990年代に一斉を風靡しましたが、左利きを巡る生活環境は20世紀末と比べて改善されたのでしょうか?

 

最初に例が挙がっているのは自動改札機。20世紀末は磁気切符の挿入口が進行方向右側にあったため、左利きは腕をクロスして切符を通していました。それがICカードのタッチになっても、かざすのは右側。利き手の矯正を経験せずに育つ左利きが増える一方で、鬼門ともいえる自動改札機への不満が絶えることはない、と大路さん。

 

銀行のATMも右側にボタンがある場合が多く、さらに指静脈の認証読み取り装置も大概右手側。これほど技術は進化しているのに……アンバランスさを感じますね。

 

2章以降は、俳句からわかる江戸時代の左利きに対する見方、左手を使えば右脳が発達するのかの検証、正岡子規やレオナルド・ダ・ヴィンチなど左利き・両手利きの偉人たちのエピソードなど、左利きに関するトピックが満載。左利きのあなたは「そうそう!」と共感しながら、右利きのあなたは友達や知り合いで左利きの人を思い出しながら読み進めるとより身近に感じられるはず。

 

左利きというひとつのテーマに特化しながら、ボリュームもあり、しかも読みやすく構成されているというのが本書のポイント。左利きひいては利き手への関心を高めるだけでも、右利きは「意識することすらないマジョリティ」であることを「実感」する機会が増える、と大路さん。“左利きの言い分”を知ることは、多様性社会を実現する身近な一歩かもしれません。

 

【書籍紹介】

左利きの言い分

著:大路直哉
発行:PHP研究所

「自動改札機を通過するとき、腕をクロスさせなければならない」「ハサミや定規、スープをすくうレードルが扱いにくい」など、左利きならではの不便は多々存在する。さらに、かつては左利きだと結婚に差し障りが生じたことすらあったという。中国の古典『礼記』に「食事をする手は右手」と記されているため、日本では長らく左手で箸を持つのは不作法と見なされ、左手で箸を持つ女性は「親の躾がなってない」と判断されることがあったのだ。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。