総力特集は、異星人と秘密結社の「シン・人類史」! 月刊「ムー」11月号

世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリー・マガジン、月刊「ムー」11月号が発売中。

 

 

 総力特集 異星人と秘密結社の「シン・人類史」

はるか遠い神話と伝説の時代、人類が築き上げようとし、崩壊したバベルの塔は今、再び形を変えて甦ろうとしている。これは人類史において必然なことだった。その理由とは何か。創造神が地球に降臨した時代より、人類を監視する秘密結社へと連綿と受け継がれた意志。そこに秘められた真であり、新である「シン・人類史」を読み解く!!

 

 

特別企画 最新理論 アメリカ海軍とUFOの知られざる秘密戦争

アメリカ海軍とUFOの関わりは70年以上に及ぶ。今年6月、アメリカ国防総省が発表した3本のUFO映像が物語るように、未知との遭遇においては、監視、調査、追跡が行われてきた。だが、その裏で、ミサイルを発射するという戦闘状態になっていたケースも少なくない!!  知られざるアメリカ海軍の対UFO戦争を暴露する!!

 

[商品概要]

月刊ムー 2021年11月号

著者:ムー編集部
定価:950円 (税込)

【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09GRLCLK8/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1229889377

どんどん試したくなる! お店でもお家でも楽しめる『サイゼリヤで神アレンジ!激ウマかけ算ごはん』

日本人のイタリア、サイゼリヤ!ファミレスとしての魅力も残しつつ、本格イタリアンとも称されるなど、ここ数年「サイゼリヤやばい!」と美味しさを再認識する人が急増していますよね。『サイゼリヤで神アレンジ!激ウマかけ算ごはん』(味変レシピ編集部・編/扶桑社・刊)には、そんな美味しいサイゼリヤをさらに美味しく楽しめるアレンジレシピが54品掲載されています。この本はサイゼリヤ全面協力のもとレシピが監修されています。オフィシャルブックといっても良いくらいサイゼファンにはたまらない一冊ですよ!

 

コロナ禍でダメージを受けている飲食店も多いですが、私も料理はもちろん、壁画風なアートや他の飲食店ではあまり聞かない独特なBGMも大好きなので、サイゼリヤを応援したい気持ちと共にこちらの本をご紹介したいと思います。

 

行ったら絶対頼んじゃう! 「小エビのサラダ」アレンジ

そのまま食べても美味しいサイゼリヤのメニューですが、調味料エリアにあるものをちょい足しするだけで、さらに美味しく変身してくれます。人気の「小エビのサラダ」(350円・税込)のアレンジをご紹介しましょう。

 

【作り方】

1.小エビのサラダは通常のサイゼリヤドレッシングありで注文する。

2.ホットソースを少量かけ、絡めながら食べる。

(『サイゼリヤで神アレンジ!激ウマかけ算ごはん』より引用)

 

いつもそのままで食べていたので「ホットソース」を使ったことがなかったのですが、これが……うまいうまいっ! 途中で味変させたい時にもぴったりでした。

 

ちなみに、サイゼリヤではちょい足しした「ホットソース」(税込・500円)や小エビのサラダに使われているオレンジ色のサイゼリヤドレッシング(税込・500円)も購入できます。もちろん買ってしまった私……(笑)。これでいつでも「おうちdeサイゼ」ができちゃいますな♪

 

『サイゼリヤで神アレンジ!激ウマかけ算ごはん』にはもうひとつ「セロリのピクルス」と合わせたレシピも紹介されているのですが、今季のメニューからは消えていました……。いつまでもあると思うな、セロリのピクルス! 切実に復活を願います!!

 

ドリンクバーでもMake Your Favorite!

「おか〜さーん! ジュース、混ぜちゃった〜」とはしゃぐ子どもをよく見ますが(笑)、美味しく作れる大人なアレンジドリンクも紹介されています。お肉料理も美味しいサイゼリヤでさっぱりとした食中ドリンクを楽しみたいなら「ティアモグレープ」がおすすめです。

グラスに氷を入れ、トニックウォーター、炭酸水、山ぶどうを1:1:1で注ぎ、ポーションレモンを1個加えて。レモンの酸味とトニックウォーターの苦味で、ノンアルコールドリンクでありながら赤ワインのように料理に寄り添ってくれます。

(『サイゼリヤで神アレンジ!激ウマかけ算ごはん』より引用)

 

ドリンクバー(単品 300円・税込)なので、自分好みの割合に変更できるのもいいですよね♪ 私はレモン2個入れて少し酸っぱい感じにしてみました。いつもコーヒーかパックのお茶ばかり飲んでいるので、トニックウォーターも初めて飲んだのですが、そのままでもさっぱりとしていて美味しかった! 自分だけのオリジナルドリンク楽しんじゃいましょう♪

 

美味しすぎて衝撃がエグい! ティラミス&エスプレッソ

デザートも安くて美味しいサイゼリヤ。イチオシなのが、ティラミス! 300円とは思えないクオリティで、本格的な味わいで目を閉じればそこはイタ〜リア!! まだ食べたことがない人はぜひ、そのまま召し上がってみてください。

 

そんなティラミスですが、アフォガードにするとめちゃくちゃ美味しいんです〜!!

 

マスカルポーネチーズの香りを生かした本格的な味わいのティラミスクラシコ。エスプレッソをお供にして食べるのはもちろん、ティラミスの上からかけるのもオススメ。よりほろ苦さを楽しむことができ、さっぱりとした味わいになります。

(『サイゼリヤで神アレンジ!激ウマかけ算ごはん』より引用)

 

エスプレッソの量はお好みですが、ドリンクバーのカップに注がれた3分の1くらいの量がちょうど良いです(全部かけるとびしゃびしゃになるので注意!)。個人的にはそのままよりもアフォガードにしたほうが好みなので、今後はドリンクバーを頼んだら、セットでティラミスも頼もうと心に誓いました。

 

他にも、アレンジパスタやランチでついてくるスープのちょい足し、お家でも楽しめるアレンジピザまで情報が満載! またサイゼリヤ側もメニューがリニューアルされているのにも注目しておきましょう。季節限定スープの「たまねぎのズッパ」(税込・300円)は、最高です。ランチにディナーに、テイクアウトで! コロナ禍で楽しめる幅が増えたサイゼリヤを『サイゼリヤで神アレンジ!激ウマかけ算ごはん』でもっと楽しんじゃいましょう。

 

【書籍紹介】

サイゼリヤで神アレンジ!激ウマかけ算ごはん

著者:味変レシピ編集部(編)
刊行:扶桑社

本書では、サイゼリヤ全面協力のもと、グランドメニューからテイクアウトまで2つ以上のメニューを組み合わせた新感覚のサイゼリヤレシピ54品を収録! 例えば、アーリオ・オーリオと熟成ミラノサラミをかけ合わせ、オリーブオイルと粉チーズを足せば、「とろける極上サラミのアーリオ・オーリオ」というアレンジメニューに大変身。

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1話5分で読了できる最高のエンタメがここにある!——『余命3000文字』

余命3000文字』(村崎羯諦・著/小学館・刊)。題名に惹かれてこの本を手にし、ページを開いたら、すごくおもしかった! すき間時間の5~6分で読めてしまう短編が26篇収録されているが、どの話も冗談かと思うような設定と展開にまず驚く。が、しかし、そこに感動があり、笑ったり、泣いたりでき、そして本当に大切なことを教えてくれる、とても不思議な1冊なのだ。

 

著者の村崎さんは、小説投稿サイト「小説家になろう」にて短編小説の投稿を中心に活動し、同サイトでは人気ナンバーワンだという。サイトに掲載された作品に加え、書き下ろしも加えた本書は20万部を超える大ヒットとなっている。

きっちり3000文字の小説

「大変申し上げにくいのですが、あなたの余命はあと3000文字きっかりです」 医師からある日、文字数で余命を宣告された男の残りの人生を描いた、表題にもなっている短編「余命3000文字」の原稿は、本当に3000文字きっかりで書かれているそうだ。これには著者も編集者も苦労したに違いない。読者はスラスラと読んでしまうだけで文字数を数えたりはしないだろうが、3000文字ピッタリに収めることにこだわった著者は本当にスゴイ! と思う。

 

さて、物語に話を戻そう。できる限り同じ毎日を過ごし、当たり障りのない人生を送れば3000文字もしないうちに寿命を迎えると医師からの助言に従い、男は仕事の往復以外は人との交流も最低限にし、家にこもる毎日を過ごしていた。

 

一年が経ち、二年が経ち、五年が経った。(中略)今日はちょうど俺の三十五歳の誕生日。次に俺は現時点の文字数を確認する。ここまでで約900文字。このままのペースでいけば、十分天寿を全うできるだけの文字数だった。

(『余命3000文字』から引用)

 

ところが近所で火災が発生、男は人助けに走るべきか否かで悩む。ネタバレになってしまうのでこの先は書けないが、人生の意味、あるいは本当の幸せとはなにかを考えさせられる、とてもいいストーリーだった。

 

興味津々のタイトル続々

ここで本書の目次(26のタイトル)を紹介しておこう。著者の発想の豊かさは見事で、繰り返し読みたくなる話ばかりなのだ。

 

余命3000文字

彼氏がサバ缶になった

心の洗濯屋さん

焼き殺せよ、恋心

私は漢字が書けない

笑う橋

世界がそれを望んでいる

食べログ1.8のラーメン屋

終末のそれから

それはミミズクのせいだよ

骸骨倶楽部

おはよう、ジョン・レノン

向日葵が聴こえる

パンクシュタット・スウィートオリオン・ハニーハニー

幼馴染証明書

精神年齢10歳児

出産拒否

不倫と花火

流れ星のお仕事

死人のお世話

何だかんだ銀座

大誤算

彼氏スイッチ

顔に書いてある

←の先

 

童話を読んでいる気分になる2篇

26篇の中で印象に残るものは読み手の好みでさまざまだと思うが、私は童話のようなふたつの物語がとても気に入った。

 

ひとつめは「心の洗濯屋さん」。ムーニ国という王国に住むパニチャという小さな女の子が主人公で、パパとママは心の洗濯屋さんをしてつつましく暮らしていた。悲しみで汚れたお客さんの心をいい香りがする手作りの石けんを使って洗ってあげると、心は生まれたてのようにきれいなり、お客の表情は晴れやかになり、皆元気になって帰っていくのだ。

 

ところがある日、偉い役人が竹かごに入れられた汚れてもいない心をいくつか持って現れ、高い報酬と引き換えに腐った卵のような臭いがする石けんでその心を洗ってほしいと頼まれたことからパニチャ一家の生活は激変することなる。役人が持ってくる仕事で大金持ちになるのだが、毎日を楽しく過ごすことができなくなってしまうという洗脳をテーマにした物語だ。

 

もうひとつは「流れ星のお仕事」。お父さんが毎晩、大気圏に飛び込んで、流れ星になってみんなの願いを叶えるという仕事に就いている女の子の心情を綴ったもの。お父さんの肌は仕事のせいで真っ黒に焦げていて、他の人とは見た目が違うため、それをからかう子どもたちがいる。少女は心ない言葉に傷つくが、それでも父親を誇りに思い、夜空を見上げながら感謝をするというショートストーリーには、ホッと心が温まる。

 

奇想天外な発想に驚く物語

「出産拒否」と「大誤算」もとんでもなくおもしろかった。

 

「妊娠六年目にもなると色々と生活が大変でしょう」 定期健診で産婦人科医院を訪れた私に、担当医の柳先生が顔をほころばせながらそう言った。

(『余命3000文字』から引用)

 

妊娠6年? 驚きの数字ではじまる「出産拒否」は母体で健康に育つ男の子の話だ。話せる胎児は「僕はまだ生まれたくない」ときっぱり。その理由は生まれ出る世界がそれほど素晴らしくないとわかっているからだ、と。ところが、ある日、すでにこの世に生まれ出ている同い年のカワイイ女の子に病院の待合室で話しかけられ、それに対する母親の考えを聞いて胎児はまさかの選択をするという話だ。

 

「大誤算」は「余命3000文字」とは対照的で、寿命がどんどん延びたら人生はどうなるのか? をテーマにした作品だ。

 

私の夫の柳田孝雄は来月で八十五歳になる。(中略)しかし、人間はいつか老いて死ぬ。(中略)その日が来るまで、私は不平不満を一切漏らさず献身的な妻を演じ、気が向いたときに柳田のお相手をする。それだけでいい。そうしていればいずれ、私のもとに自由と柳田家の莫大な富が転がり込んでくる。

(『余命3000文字』から引用)

 

ところが、人生はままならない。物語は日記形式で進むが、夫はまず100歳の誕生日を迎え、やがて長寿でギネス世界記録を更新。その後も生き続け、なんと柳田は200歳も超えてしまう。妻の目論見は外れたものの、彼女も100歳、120歳と年を重ねていく。生きる意味を考えさせられるいい話だった。

 

この他の物語も、アイディアに溢れていて、どれも読み応え十分。文庫本なのでポケットに入れておけば、通勤の電車の中、あるいは昼休みにもさっと取り出し1篇ずつ読める。すき間時間を充実させてくれる1冊となるだろう。

 

【書籍紹介】

余命3000文字

著者:村崎羯諦
発行:小学館

「大変申し上げにくいのですが、あなたの余命はあと3000文字きっかりです」ある日、医者から文字数で余命を宣告された男に待ち受ける数奇な運命とはー?(「余命3000文字」)。「妊娠六年目にもなると色々と生活が大変でしょう」母のお腹の中で引きこもり、ちっとも産まれてこようとしない胎児が選んだまさかの選択とはー?(「出産拒否」)。「小説家になろう」発、年間純文学「文芸」ランキング第一位獲得作品の書籍化。朝読、通勤、就寝前、すき間読書を彩る作品集。泣き、笑い、そしてやってくるどんでん返し。書き下ろしを含む二十六編を収録!

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イルカ研究に捧げた人生。実験の相棒・イルカのナックが示した感動の行動とは?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんの心に最初にイルカの存在が強く刻まれたのはいつですか? 水族館のイルカショー、アニメ『海のトリトン』、クリスチャン・ラッセンの絵画……という人もいるかもしれません。Excelのヘルプとして表示されるイルカが消えなくてイライラしたのが思い出、なんてケースもあったりして(笑)。

 

 

あなたのイルカのイメージは?

私のイルカとの出会いは、『2001年宇宙の旅』のアーサー・C・クラークによるジュヴナイルSF『イルカの島』。学校の図書室でふと手に取って読んだ本で、漂流する主人公の少年を助けるイルカたちの頭の良さと愛らしさに心を奪われました。

今回の新書イルカと心は通じるか 海獣学者の孤軍奮闘記』(村山 司・著/新潮新書)は、イルカを長年研究している海獣学者によるイルカ本。イルカと人間の絆が見えてきます。

 

著者の村山 司さんは東海大学海洋学部教授で、専門はイルカの視覚能力や認知機能の研究。高校生のときに『イルカの日』というアメリカの映画を何気なくテレビで見て衝撃を受け、「イルカと話したい」という夢を抱いて研究者を志したそうです。しかし、当時はイルカの研究に今以上に理解がなく、変わり者扱いされながら独学で30年以上この道を歩んできました。そんな村山さんの夢が、実現間近になってきているのです。

 

イルカの賢さの秘密に迫る

まず1章では、脳の仕組みや「エコーロケーション」などのイルカの生態に迫ります。知らなかったことも多く、イルカの知能の高さには驚くばかり。イルカはそもそも脳が大きく、神経細胞の数も約100~200億個と、ヒトの約140億個と比べても引けを取りません。

 

脳が大きくなった理由は、超音波を発して跳ね返ってきた音で物の大きさ、形、材質、距離などを認識する能力「エコーロケーション」を獲得したから。これによって行動が多様になり、大脳が発達していった……とされています。イルカは人間が示す複雑な文章をも理解し、群れを作り、同盟を結んだり、乳母役を引き受けるイルカがいたりと、社会性も人間並みだとか。

 

イルカと心がつながった瞬間

本書の後半では、著者の村山さんの具体的な研究内容が紹介されていきます。実は村山さんは極度に船に弱く、遊覧船の映像を見るだけでも船酔いしてしまう体質……。そこで、水族館のイルカに対して行動実験をするという手法を長年続けています。

 

たとえばイルカに三角形と円形のパネルを見せ、三角形を識別して選んでもらうといったもの。しかも「カニッツァの三角形」というあるはずのない三角形が見える錯視図像も、人間と同様にイルカも錯覚して三角形と認識するそうです。イルカと人間が把握している世界は近いのかもしれません。

 

現在はイルカにことばを教える研究にも取り組んでおり、30年以上のパートナーである鴨川シーワールドのシロイルカ・ナックは物を示す記号を覚え、さらに鳴き音でその物を表すことができるようになったとか。そしてとうとうナックは村山さんの名前を……!

 

イルカの生態が詳しく分かるのはもちろんですが、30年以上イルカを追いかけてきた研究者のイルカ愛や、誰も手がけていなかった分野を究めることの苦労と喜びも明かされていて、村山さんにも親近感が湧きました。

 

イルカをテーマにした生物本を超えて、研究者と研究対象の絆が見えてくるドキュメンタリーともいえる本書。イルカのお茶目さも伝わってきて、胸が温かくなります。

 

【書籍紹介】

イルカと心は通じるか―海獣学者の孤軍奮闘記―

著者:村山司
発行:新潮社

イルカと話したい。しかし、著者には大きな弱点があった。大小かまわず船がダメ、泡を吹き、気絶したことも。これでは大海のイルカは追えない。ならば、「陸」のイルカの知能に迫ろう。水族館に通い続ける日々が始まった。ことばを教えるには、音か視覚か? シャチが実験に飽きた? そしてついに、シロイルカが「私」の名を呼んだ!? ――孤軍奮闘の三十余年、変わり者扱いされながらたどりついた「夢のはじまり」を一挙公開。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

渡 哲也。病魔と闘い続けた”真の大人”の人生哲学とは?——『流れゆくままに』

俳優の渡 哲也が亡くなったのは、2020年8月10日のことでした。ニュースで訃報を知ったとき、頭の中でひとつの記憶がフラッシュバックするのを止めることができませんでした。

 

渡 哲也が目の前に

私がまだ大学生だったころのことです。友達と渋谷を歩いていたら、偶然ドラマのロケに遭遇しました。ADらしき人に「しばらく歩道から動かないでくださいね」と言われ、私たちは「何のドラマなのかな」と、あたりをキョロキョロ見ていたら、目の前に突如、渡 哲也が現れたのです。知り合いでもないのに、私は思わず「あ、渡 哲也!」と言いそうになりました。

 

目があったのをいいことに、私は持っていた大学ノートを差し出し、「あの、サインをいただけますか」とお願いすると、彼はにっこりしながらうなずき、「ここでいいの? このページにすればいいんですね」と確かめたあと、サインをしてくれました。スターのサインはくずしてあって読めないものだと思っていたのですが、彼のサインはちゃんと渡 哲也と読むことができました。アルファベットではなく、漢字で書かれていて、そのかっちりとした書体が、大学ノートにぴったりとおさまっていました。

 

もっといかつい感じの方だと思っていたのですが、すらりとした華奢な体で、驚くほど小顔の持ち主でした。その後、もちろん会うことはできませんでしたが、テレビで姿を見るたびに、あの日のことを思い出していたのです。

 

それなのに……。まだまだ活躍できたはずなのに……病気だと報道されてはいましたが、早すぎると思いました。

 

死を身近に経験した少年

流れゆくままに』(渡 哲也・著/青志社・刊)は、俳優・渡 哲也の生き様を描いた作品です。まるで大河ドラマのように、誕生から最後の日々までが丹念に書かれています。元々は渡 哲也自身がまとめた一生を伝記として出版する予定だったのだそうです。しかし、残念なことに体調不良のため、2015年に中断したまま完成には至りませんでした。

 

けれども、渡 哲也に惚れこんでいた人たちは、彼の死を悲しみながらも、もう一度、彼を主人公として蘇らせたいと考えたのでしょう。石原プロダクションの応援を得て、1冊の本として完成させました。

 

本書には、渡 哲也がまだ俳優になる前、淡路島で育った少年時代や、ひょんなことから俳優になり、スターにのぼりつめていく道のりが書かれています。彼自身が目の前で語ってくれているかのようです。

 

彼自身の家族についても詳しく書かれていますが、私にとってそれは驚きの内容でした。渡 哲也には、同じく俳優の渡瀬恒彦という弟がいることは知っていました。けれども、他にもあとふたり兄弟がいて、男ばかりの4人兄弟として育ったのだそうです。ところが、渡 哲也が6歳のときに兄が栄養失調のため亡くなります。そして、それから 6年後、彼が12歳のときには可愛いがっていた末っ子の弟も病死します。わずか6年の間に、ふたりの兄弟を失うなんて、どんなにか辛かったことでしょう。

 

渡 哲也は華やかなスターでしたが、どこか寂しげで、死に対してあきらめたような雰囲気を持つ俳優でもありました。わずかの間に兄弟をふたりも亡くした経験が、彼の明るさに影を落としていたのかもしれません。渡 哲也自身も言っています。

 

人間はいつか必ず死ぬ。いや、死ぬということ自体よりも、どんなに愛そうとも、あるいはどんなに愛されようとも、人間の思いや願いとはいっさい関わりなく、死んでいくときは死んでいくという、この厳然たる事実に心が揺さぶられていました。

(『流れゆくままに』より抜粋)

 

人は時にあきらめるしかないほどの不幸に耐えなければならないということでしょうか。

 

病気との闘い

渡 哲也は望んで俳優になったわけではありません。大学時代の空手部の仲間が、彼に無断で新人俳優のオーディションに応募したのだそうです。浅丘ルリ子の相手役を探すためのオーディションでした。俳優になるなんて考えたこともなかったので、最初は固持したものの、もしかしたら、憧れの石原裕次郎に会えるかもしれないと考え直し、日活の撮影所に出向きます。これが彼の人生を変えてしまうのですから、人生にはいつなんどき何が起こるのかわかりません。

 

結局、渡 哲也は石原裕次郎には会えませんでした。それでも、せっかく来たのだからとオーディションを受けました。そして、撮影所の大食堂でカレーライスを食べていたら、いきなりスカウトされたのです。浅丘ルリ子の相手役には選ばれなかったものの、スカウトの目にとまったのですから、やはり独特のオーラがあったのでしょう。

 

それでも、俳優になる決心はつきませんでした。

 

役者で食っていくという気持ちがあれば別だったのでしょうが、そんなものはまったくありません。(中略)こうしたい、ああしたいという夢も目的もなく、流されるままに不真面目な俳優志望者を続けていたのです。

(『流れゆくままに』より抜粋)

 

結局、月給の良さに惹かれ、両親を安心させたいという思いもあって、俳優になろうと決めます。けれども、演技も知らず、学ぶ気も起こらずと、悶々とした日が続きます。俳優なんて無理だ、もう辞めようと思ったとき、またしても、撮影所の大食堂で運命の出会いが待っていました。憧れの石原裕次郎に紹介されたのです。緊張して挨拶をすると、石原裕次郎はわざわざ立ち上がり、握手をして「キミが渡君ですか。石原裕次郎です」と名乗ってくれたのです。

 

この出会いによって、渡 哲也は俳優として生きようと決心したのですから、まさに決定的な大食堂の出会いだったのでしょう。

 

ストマになっても

一旦、俳優になろうと決心するや、渡 哲也はスター街道をひた走るようになりました。相手役にも恵まれ、石原裕次郎との共演も果たし、まさに向かうところ敵なしの華やかな生活が始まります。

 

ところが、そんな彼を嫉妬するかのように、戦うべき相手が次々と現れるのです。といっても、ライバル俳優ではなく、スキャンダルに見舞われたわけでもありません。大きな仕事が入り、真面目に役を演じようとすると、病魔に襲われるのです。それも「なぜ今なのか」と、天を仰ぎたくなるほど絶望的なタイミングで起こります。

 

とくにNHKの大河ドラマ「勝海舟」を収録中、発病したことは痛恨の極みでした。さあ、これからという時だったからです。最初はただの風邪だと思っていたのですが、「左胸膜陳旧性癒着性肋膜炎」との診断を受け、途中で降板せざるをえませんでした。たとえ死んでも演じきるつもりだと、悔しがる渡を説得したのは、他でもない石原裕次郎でした。他の人だったら、渡 哲也は納得しなかったかもしれません。

 

『流れゆくままに』には、他にも病にまつわる話が続きます。ここまで打ち明けるためには、勇気が必要だったでしょう。病気の話はできたら隠していたいものだからです。

 

とりわけ、直腸癌の全摘手術によってストマ(人工肛門)をつけることになったときの衝撃と絶望を正直に綴ってあることには、心底驚きました。俳優という職業を続けていくうえで、ストマの存在は命取りになるのではないかと悩んだこともさらしています。俳優は、ラブシーンや入浴する場面も撮影しなければなりません。アクションシーンもありますし、俳優として生きていこうとするなら、ストマの存在は隠していたいと思っても不思議はありません。けれども、渡 哲也はストマになったことを公表します。これはなかなかできることではないと思います。

 

さらに、ストマをつけた後の生活についても告白します。そして、洗腸という方法をマスターすれば、便を入れる袋をぶら下げる必要はなくなることまでも教えてくれます。同じ病気に悩む人にとって、大きな励ましとなるでしょう。

 

渡 哲也は勇気のある、魅力あふれるスターであったことを、改めて感じる本、それが『流れゆくままに』です。亡くなるわずか3日前、渡 哲也と話をした石原プロモーション専務の浅野賢治郎による特別寄稿にも、最後まで周囲を思いやった姿勢が読み取れます。

 

流れゆくままに生きようと望みながらも、自分を律することを忘れない真の大人、それが渡 哲也という人だったのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

流れゆくままに

著者:渡 哲也
発行:青志社

運は振り向いてくれたけど病魔には容赦なく襲われた。長く生きることよりも“生き方”を大切にしたい。七十八歳で逝去した昭和最後の映画スター渡哲也の自伝。

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今からでも遅くない? 毎日の習慣を少し変えるだけで効率がアップする『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』

「何もできずに1日が終わってしまった……」と、朝起きてから夜寝るまでモヤモヤした毎日を過ごしている方、必見! 精神科医でもある著者、樺沢紫苑さんの新刊『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』(樺沢紫苑・著/KADOKAWA・刊)には、日常生活の9割の悩みを解決できる方法が掲載されています。

 

文章を読むのが苦手という人でもわかりやすいように、前半はイラストによる解決方法の紹介、後半には論文や研究データを踏まえたエビデンス解説が紹介されています。「そんなことでよかったのか!」と思わず膝を打つコツがいっぱいですよ!

まずは、目次から自分の悩みを探そう!

この本を手に取ったのなら、まず目次をじっくり眺めてみましょう。あなた自身がどんな「悩み」を抱えているのか、目次をチェックすることで見えてくるはずです。例えば、

 

・スッキリと気持ちのいい「目覚め方」を学ぶ
・ちょっとした「休憩のとり方」で効率が変わる
・成功している人は「遊び」の達人が多い
・日々たまっていく「疲れ」を取る方法
・誰でもできる「アイデア」の出し方
・三日坊主にならない「続ける方法」をマスターする
・多くの人に愛されている「コーヒーの飲み方」の正解

 

などなど、目次には50項目に及ぶ行動最適化が紹介されています。

 

そこから気になったページに飛ぶと、見開きでイラストが掲載されており、そのページを見るだけでも「そうだったのか!」と解決できることも。イメージしやすいイラストなので、お子さんと一緒に読んでみるのもおすすめです。

 

「もっと詳しい情報を知りたい!」と思ったのなら、ページの隅に後半部分のエビデンスに関わるページ数が記載されているので、そこも読んでみましょう。どの項目もトータル3分ほどで読めてしまうので、今までモヤモヤと悩んでいたこともスッキリ解決できますよ。

 

『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』は、1ページ目から順を追って読まなくてもいい点や、文字を読まなくてもイメージだけで納得できてしまう新しい本の形だと感じました。日常生活の悩みは日々変化していくので、少し時間が経って読み返してみると新たな発見も。家の本棚に置いておきたい一冊ですよ。

 

記憶のゴールデンタイムは寝る前15分

ここからは2つ、もっと早く知りたかった〜! な行動最適化をご紹介します。

 

ひとつ目は、「記憶の最適化」。テスト勉強が効率よくできない、資格の勉強はいつも徹夜、なんて人いませんか? 記憶のゴールデンタイムと呼ばれる寝る前15分を活用すると簡単に暗記できるかもしれません!

 

単語帳やノートなどに「暗記したい項目」「暗記できなかった項目」をまとめておきます。洗顔、歯磨きを済ませてすぐに寝られる状態で、それらの暗記をします。

最後の3分間が最も重要です。最も覚えにくく、いつも間違ってしまう、難易度の高い英単語を3個ピックアップし、それぞれ10回ずつ紙に書きます。そして、すぐに布団に入る。眠りに入るまで、3つの英単語を頭の中で、順番に繰り返していきます。

(『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』より引用)

 

ここでは英単語と紹介されていますが、公式や歴史の年代でもOK。3分間で書き切れる数をピックアップし、やってみましょう。私も中学生のころに知りたかった……! いつも寝る前はラジオ番組を聴きながら寝落ちしていたので、その番組の内容は今でもよく覚えています。きっとこの効果だったのでしょうね(笑)。

 

『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』には、インプットやアウトプットのポイント、また記憶と睡眠の関係についても最適化できる方法が記載されていますよ。

 

「やる気」は存在しない?

「あぁ〜やる気が出ないなー」がしょっちゅうな私。やる気が出るのを待つのですが、なかなか簡単には出てきてくれません。脳科学者の池谷裕二教授によると、行動が先にあり、感情は後からついてくるものだから「やる気」そのものは存在しないよとのこと! やる気待ちしていた私、ただ何もしていなかっただけということなのですね……。

 

とはいっても「やる気」が出ないと仕事も勉強もはじめられないという人は、どうすればよいのでしょうか。

その答えは、「さっさとはじめる」ことです。

「そんなの矛盾している」と思うかもしれませんが、「やる気が湧かないときは、とりあえずはじめる」というのが、脳科学的に正しい方法なのです。

(『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』より引用)

 

億劫に感じても、行動してしまうことでやる気がみなぎってくるそうです。私も追い込まれタイプなのでよくわかるのですが(笑)、始めてしまえばどうってことないんですよね! 「やる気の最適化」について詳しくは『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』を読んでみてください!

 

『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』には全部で153項目もの行動最適化が掲載されています。自分の苦手だな〜と思っていることの習慣を変えることで自分自身を今より好きになれるかも? と、読んでいて感じました。

 

「どうして自分はできないのだろう?」とモヤモヤ悩んでいる人は、意外と簡単なことで今までの習慣が変わってしまうので、前向きに「次はあれもやってみよう」と取り組むことができるようになるはず。

 

巻末には、最適化チェックリストも掲載されているので、適宜活用すれば毎日を楽しく過ごせるでしょう。勉強に悩むお子さんから、会社での対人関係に悩むお父さん、自分の時間を作りたいお母さんまで、どんな悩みも解決してくれます。一家に一冊『今日がもっと楽しくなる行動最適化大全』、おすすめですよ!

 

【書籍紹介】

今日がもっと楽しくなる行動最適化大全 ベストタイムにベストルーティンで常に「最高の1日」を作り出す

著者:樺沢紫苑
刊行:KADOKAWA

一人のビジネスパーソンが、仕事においても健康においても最適な1日を過ごすために必要な行動を紹介。それに加え最適な学習方法や最適な睡眠の取り方などビジネスマンに限らず子供や老人でも役に立つような情報も盛り込んでいます。イラスストだけでわかるパート1、最新学術理論を用いたパート2、この2部構成だからこそ、子供から大人まで老若男女が理解できる!

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僕たちと30年ともに歩んだゲームをめぐる冒険——『僕たちのゲーム史』

ファミリーコンピュータが発売されたのは1983年。以来開発されたさまざまな家庭用ゲーム機は今も進化を続け、ファミコン発売からほぼ40年が経過した現在、ゲームの主なステージはスマホになりつつある。

 

自分のゲーム史と重ねてみる

筆者が初めて買ったファミコンのゲームは『ベースボール』だった。『スーパーマリオブラザーズ』をはじめ、『ゼルダの伝説』や『ゼビウス』などもかなりやりこんだ。

 

ファミコンからスーパーファミコンへの過渡期に順応しながら、セガサターンとか3DO-REALも試した。ファミコンなら『燃えろ!!プロ野球』、スーファミは『大相撲魂』や『モノポリー』、プレステは『バイオハザード』と『ウイニングイレブン』シリーズというように、思い入れの深いタイトルもある。

 

ゲーム史はそのままポップカルチャー史なのかもしれない

僕たちのゲーム史』(さやわか・著/星海社・刊)は、数多くの懐かしいゲームを通して、ちょっと昔の日本を見ていく本だ。まず、自分自身のゲーム史と重ねながら読むのが楽しい。ゲームを軸にして日本のポップカルチャー史を見直し、懐かしむという読み方もできる。マイ・ベストゲームは収録されているのか。どんな感じで紹介されているのか。そのあたりも気になる。目次を見ていただきたい。

 

はじめに なぜ「ゲームの歴史」が必要なのか

第一章  スーパーマリオはアクションゲームではない

第二章  僕たちは誰を操作しているのか

第三章  物語をシミュレートする

第四章  体感と対戦

第五章  CD-ROMの光と影

第六章  終わりの/と始まり

第七章  楽しみはゲームの外にある

第八章  あたらしい一人称

第九章 「別世界」から「現在」へ

おわりに ゲームの未来

 

コントローラーさばきを思い出させる文章

本書の本質は、次の文章に集約される。

 

ゲームのことを語る、そのやり方は、大きく分けて四通りくらいしかないように思います。一つは懐古として。つまり、かつて自分が好きだったゲームについて、その思い出を語るやり方です。一つは印象として、要するに、自分の関心と経験に沿って築かれた理論から、ゲーム一般を説明づけるものです。一つは産業として。売上や業界動向に注目した語りのことです。一つは原理として。「遊びとは何か?」というような基礎理論を軸にしながら、話の裾野を広げていくものです。

『僕たちのゲーム史』より引用

 

四通りのやり方すべてが網羅されているこの本の章立てを改めて見てみる。『スーパーマリオブラザーズ』を第一章で検証するのは当然なはずだ。他にも本当に懐かしいゲームが紹介されていて、見ているだけで楽しくなる。『きこりの与作』『チャレンジャー』『グーニーズ』『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大魔境』。あのころのコントローラーさばきや連射テクの動きをすぐに思い出した。そして第五章ではテクノロジーに特化した話が展開されていく。豊富な知識に裏打ちされた振れ幅の大きさが、読む者を飽きさせない。

 

ゲーセン➝テレビゲーム➝eスポーツ

歴史シミュレーションしかしない人。単純かつ奥が深いパズルゲームをこよなく愛す人。ひたすらスポーツものに特化する人。あるいは、特製コントローラーを買ったり作ったりして格ゲーを極める人。最近では、PCのオンラインゲームしかしないという人もいるはずだ。そういえば、eスポーツという言葉もいつの間にかすっかり定着していて、かなり高額の賞金が出る大会もある。日本国内でも数多くのプロチームが立ち上げられている。

 

読み進めながら、うれしく感じたことがもう一つある。ゲームセンターの名機にも触れてくれているのだ。『ストリートファイターⅡ』とか『ダンスダンスレボリューション』『ドラムマニア』あたりがすぐに脳裏に浮かぶ。特定のゲームにまつわる心象風景めいたものが呼び覚まされるのは、遊んだ絶対時間数と思い入れのせいだろうか。

 

変化しながら紡がれていくエンターテインメントの歴史

ダウンロードしてスマホで遊ぶほうが多くなった今の時代、ゲームという恒久的なエンターテインメントは、画面のサイズ感に関してもニーズの方向性に関しても、ぐっとフォーカスが絞られているのかもしれない。結びの部分で、次のような文章を見つけた。

 

過去を継承しながら、過去にないものを作っていく。そういう矛盾をはらんだ営みの連続を、人は歴史と呼びます。僕たち全員がその先端にいて、たった今も、未来のゲーム史を作っています。

『僕たちのゲーム史』より引用

 

2016年11月には「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」、そして2017年10月には「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」が立て続けに発売された。いずれも、選りすぐりのゲームソフトを搭載した手のひらサイズのファミコン型端末だ。ちょっと小さくなったけど、実機という呼び方がしっくりくる。実機を求めるニーズは、2020年を過ぎても変わらない。懐かしさも斬新性も欠かせないゲームの世界。ここから先、どのような歴史が紡がれていくのだろうか。

 

【書籍紹介】

僕たちのゲーム史

著者:さやわか
刊行:星海社

本書は、ゲームと共に生きてきた「僕たち」のための本です。僕たちの暮らしの中にゲームが登場して、30年ほどの時が流れました。本書ではその歩みを辿ってゆきますが、ソフトの売り上げ、あるいはハード戦争といった事柄に重心を置いた記述はしていません。なぜなら、日本のゲームは、「ボタンを押すと反応する」という基本を巧みにアレンジしつつ、一方で「物語」との向き合い方を試行錯誤してきた歴史を持っているからです。このような視点でゲーム史を編むことで、「スーパーマリオのようなゲームはもう生まれないのか?」「最近のゲームはつまらなくなったのでは?」といったあなたの疑問にもお答えできるようになりました。さあ、ゲーム史をめぐる冒険の旅に出ましょう!

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インド人の「自己肯定感」が強い3つの理由——『どんなに自己肯定感が低くても生きやすくなるすごいインド思考術』

よく「インドに行くと人生が変わるよ」という話を聞く。特に、日本での生活に生きづらさを感じている人ほど、そういう体験をするようだ。

 

どんなに自己肯定感が低くても生きやすくなるすごいインド思考術』(あぬ・著/ANU WORKD出版・刊)は、「いい大学に入っていい会社に入ることがいい人生」と思っていた著者が、インドに行くことで人生観が変わったという内容の書だ。

 

著書は大学を卒業して就職をするが、ほんとうに自分がしたい仕事ではなかったため、悶々とした日々を過ごしていた。思い立ってインドへ旅行をし、最終的にはインドで就職。日本にいたころの価値観が変わり、インドでほんとうに人生が変わったのだ。

自己肯定感の高いインド人の3つの特徴

本書によれば、インド人は自己肯定感が強いという。ほとんどの人がスマホの待ち受け画面は自分の顔写真だし、自撮りが大好き。つまり「自分大好き」な人種なのだ。

 

まあ、そういうお国柄だからと言ってしまえばそれまでなのだが、なぜインド人はそんなに肯定感が高いのか、筆者は3つの特徴を挙げている。

 

ひとつめが「インド人は親バカ」ということ。とにかく自分の子どもが一番かわいくてしょうがなく、奧さん同士で子ども自慢合戦が繰り広げられることもしばしば。日本では「うちの子なんて…」と謙遜することが多いが、インドはその逆。このような環境だから、自然と子どもも「自分は素晴らしい」というマインドになるのだろう。

 

ふたつめが「大家族が多い」こと。家族が多いため、自然と家族の中で自分の役割が決まってくる。弟妹の面倒を見たり、家事を手伝ったりといった役割があり、それを全うすることで「自分は家族の間で役に立っている」という感覚が育ちやすいのだ。

 

最後が「家族愛の強さ」。家族が風邪を引けば仕事を休み、離れて暮らしていても毎日電話で話す。常に家族を愛し家族に愛されていると感じることが、絶対的な安心感になり、自己肯定感につながっているようだ。

 

「人を許す心」をインドで学んだ

筆者は「インドは許容する国」と評している。日本は何事もスムーズに進む一方で、ちょっとでも停滞した場合は大問題になることも。電車が1分遅れるだけでお詫びのアナウンスが流れるのが日本だが、インドは10時間以上電車が遅れることも日常茶飯事。それでもみんな「ノープロブレム」と言っているのだから、日本とインドは真逆の感覚なのだ。

 

私はスムーズにいかないインドでは、常に「しょうがない」という諦めの心を持つようにしていました。「どうしてもこの日までにやらなければ」という執着を捨てていました。
常にそのような気持ちでいることを意識していると、小さなことでイライラしなくなりました。

「人を許す」心が持てたのです。

(『どんなに自己肯定感が低くても生きやすくなるすごいインド思考術』より引用)

 

諦めの心が他人を許し、他人を許すことで自分も許す。なんともインド的な思考回路でうらやましい。いや、うらやましいと思っている時点で、僕は自己肯定感の低い人間なのかもしれない。

 

「アフォメーション」で潜在意識を変える

自己肯定感を高める具体的な方法も本書に記されているが、そのなかで「アフォメーション」というものが紹介されている。これは「肯定的な宣言」。たとえば「お金持ちになりたい」ではなく「私はお金持ちだ」と断定し、それを繰り返し自分にいい聞かせる。一種の自己暗示のようなものだが、潜在意識に働きかけることで、次第に考え方や行動が変わってくるという。

 

これなら手軽に始められそう。僕はそれほどネガティブな性格ではないが、非常に怠惰で自己中心的なところがあるので、「オレは好きなことをして生きている」と唱えていれば、今までの僕の人生が救われるかもしれない。

 

 

【書籍紹介】

どんなに自己肯定感が低くても生きやすくなるすごいインド思考術

著者:あぬ
発行:ANU WORKD出版

あなたは自分に自信がありますか? 自分自身を愛していると自信を持って言えますか? 劣等感の塊で自己肯定感の低かった私ですが、あるときインドへ行き、考え方が大きく変わります。インド人から学んだ精神性は、私だけではなく、私と同じように自己肯定感が低かったり、自分に自信が持てなかったりするあなたの役に立つはずです。

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江戸時代まで日本人は宝石を身に付けなかった!?——『ジュエリーの世界史』

現代女性の身を飾るものとして、指輪やネックレスなどのアクセサリーがあります。しかし、江戸時代の日本女性は宝石を身につける習慣がなかったため、髪を飾る櫛やかんざしがアクセサリーの代わりを果たしていました。

なぜ自分の身を飾るのか

現代人はなぜ自分の身を飾るのでしょう。それは少しでも自分の印象を良くしたいという思いがあるからではないでしょうか。たとえばダイヤモンドなどのジュエリーを好む女性で「キラキラしたものをつけることで、私も輝いて見える気がするから」と言った人がいました。

 

また、見栄を張りたいという気持ちもあるでしょう。ベルトやバッグや時計など、全身を同じ高級ブランドで統一する人がいます。そうすると、そのブランドが大好きだという意思表示ができると同時に、これだけの財産を私は持っているのですよという主張もできるのです。

 

江戸時代のジュエリー感覚とは

しかし現代人のアクセサリー感覚と、江戸時代のアクセサリー感覚は大きく異なります。

 

ジュエリーの世界史』(山口遼・著/新潮社・刊)では、江戸時代の女性たちは宝石を付ける習慣がなかったため、櫛やかんざしで自分を飾っていたと書かれているのです。

 

確かに江戸時代の浮世絵などを見ると、女性たちはネックレスやブレスレットやイヤリングを付けていないようです。その代わりに、かなり豪華なかんざしを頭に飾っていたり、飾り櫛を挿したりと、おしゃれ小物をつける場所は頭に集中していました。

 

なぜ髪飾りだったのか

本書によると、日本人がアクセサリーを付けなかった期間は、奈良時代以降、江戸時代末期までと長期に及びます。髪飾りがジュエリーの代わりとなるような流れは他の国では起きていない、珍しい現象だったそうです。ちなみに男性は刀などの武具に装飾を施していたのだとか。

 

そして、アクセサリーの代わりに、着物そのものがどんどん豪華になっていったそうです。確かに平安時代の十二単や江戸時代の金糸で刺繍された打掛や帯など、着ているものに圧倒的な豪華さがあります。着物にかなり存在感があったので、アクセサリーを付ける必要がなかったのかもしれません。

 

アクセサリーと男女関係

現代日本では、男女関係の儀式的な意味合いでジュエリーが用いられることがあります。たとえば交際1周年のお祝いにお揃いの指輪を付けたり、誕生日やクリスマスのプレゼントにネックレスを贈ったりなどです。特に、プロポーズの時に指輪を贈る人はかなり多いのではないでしょうか。

 

時代劇などでも男性が女性にべっこうの櫛などをプレゼントするシーンを見かけますので、髪飾りはジュエリーと同じ扱いだったのでしょう。実際、プロポーズの時には高価な櫛を贈る習慣もあったそうですから、婚約指輪のような役割を櫛が果たしていたのでしょう。

 

宝石と着物文化のハーモニー

本書によると、日本人が盛んに宝石を身に付けるようになったのは明治時代以降ということです。いつごろに付けられたのか、宝石の和名はとても趣があります。たとえばダイヤモンドは金剛石ですし、ルビーは紅玉と付けられました。宝石もしっかり和風に受け入れているところが素敵です。

 

西洋文化が入ってきてからは、宝石と和文化は絶妙なハーモニーを奏でながら進化していきました。今では大量のスワロフスキーが縫い付けられた振袖や、ターコイズなどの宝石を帯留めにするなど、様々なアレンジが楽しめるようになっています。

 

髪飾りにも愛を

しかし、現代はさまざまなアクセサリーがあるためか、ヘアアクセサリーに気合を入れる人は少数派です。宝石が付いているヘアピンもありますが、忙しい現代人は、あちこち移動する際に髪飾りを落として失くす可能性を恐れているのかもしれません。

 

最近、かんざしは海外でも注目されています。ヘアゴムを使わずにかんざし1本だけで髪をまとめることができて、便利でおしゃれだからです。長く愛されている日本ならではのヘアアクセサリーを改めて試してみると、新しい発見があるかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

ジュエリーの世界史

著者:山口 遼
発行:新潮社

高価でお金持ちしか関係ないと思われがちな宝石。しかし、その意外な歴史はあまり知られていない。ティファニーやカルティエはどんな人物?ダイヤモンドの値段はどう決まる?古代日本人から装身具が消えてしまった謎など、身を飾りたいという欲望とかかわる装飾品の歴史的変遷から、業界人しか知りえない取引の詳細まで、宝石に関する面白い話、満載。

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銀座はベッドタウン、渋谷は別荘地だった!?東京の意外な秘密に迫る~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私は趣味でよく散歩をしているのですが、歩いているとたくさんの疑問が浮かんできます。「どうしてこんな地名が付いたんだろう?」「なぜこの街外れに飲食店が並んでいるのだろう?」。

 

街には謎が転がっている!

何年も住んでいる街でも、その成り立ちや発展の経緯は知らないことが多いですよね。今回の東京の謎(ミステリー) この街をつくった先駆者たち』(門井 慶喜・著/文春新書)は、関東圏に住んでいる読者なら「なるほど!」と膝を打つ新書です。

 

 

著者の門井慶喜さんは、『銀河鉄道の父』で直木賞を受賞した作家。徳川家康の命を受けた家臣と職人たちが江戸の基礎を作り上げていく連作短篇『家康、江戸を建てる』でもおなじみです。本書はウェブ連載のコラムをまとめた一冊。広く深い知識によって、東京の謎が露わになっていきます。

 

渋谷は閑静な別荘地だった!?

「なぜ三菱・岩崎弥太郎は巣鴨を買ったのか」「なぜヱビスビールは目黒だったのか」「なぜ新宿に紀伊國屋書店があるのか」。タイトルだけでもそそられるものばかり。なかでも私が驚いたのは銀座について。「なぜ銀座は一時ベッドタウンになったか」。日本屈指のブランド街・銀座が、実は明治時代初期に一時期ベッドタウンになっていた事実とその理由が明かされます。

 

もともと銀座は、徳川幕府の銀貨鋳造所があった場所。しかし、明治政府によって、貨幣を製造する機関は「造幣寮(現在の造幣局)」として大阪に移転となりました。

 

役割を失い、真空地帯になった銀座。明治5年の大火災で街そのものが焼けたこともあり、時の政府がレンガ造りの住宅街をズラリと建て、いわば日本初のベッドタウンにしたのだとか。そもそもなぜ造幣寮が大阪に移ったのか、その背景も推理されていきます。今となっては銀座に住むなんて庶民にとっては夢のまた夢ですよね。

 

銀座と同じく、後に繁華街として東京の顔となる渋谷。「なぜ五島慶太は別荘地・渋谷に目をつけたのか」のコラムも、“街”とは何かを考えさせられました。もともと渋谷は大名の下屋敷や旗本の別邸が多かった、いわば別荘地。谷が多く起伏に富んだ地形で庭園内の築山が作りやすく、湧き水があり池も枯れないため、眺めを楽しむ別荘地向きだったというのは意外でした。

 

この静かな場所を今のような繁華街に変えたのが、東京急行電鉄(東急)の実質的な創業者である五島慶太。彼の人生と渋谷という街のあり方が重なっていく、その語り口に引き込まれます。

 

本書は東京に関する雑学コラムですが、小説のように各エピソードが生き生きと描かれ、物語が転がっていくような感覚があります。もちろん歴史事実もしっかり折り込まれ、読後の納得感も抜群。ひとつひとつの街に関わった人物のドラマが浮かび上がり、壮大な小説の一端を覗いた気分になります。

 

時代によって移り変わって行く街の役割。かつての名残(人の営み)が感じられるのが、街を観察する楽しみなのかもしれません。

 

【書籍紹介】

『東京の謎(ミステリー) この街をつくった先駆者たち』

著者:門井 慶喜
発行:文藝春秋

『家康、江戸を建てる』『東京、はじまる』など、江戸・東京に深い造詣をみせる筆者が、東京の21の地域について過去と現在とを結び、東京の「謎」を解き明かす。回ごとに東京と町を築き上げてきた巨人たちとの交差が描き出されます。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

シロさんとケンジのほっこり2ショット表紙が目印! Cinema☆Cinema No.95は『劇場版「きのう何食べた?」』を大特集!!

POTATO11月号別冊「Cinema☆Cinema No.95」は本日発売!

 

その巻頭大特集を飾るのは、人気コミックをドラマ化し好評を博した「きのう何食べた?」の劇場版 。西島秀俊演じるシロさんと、内野聖陽演じるケンジの2ショット表紙が実現しました。

 

『劇場版「きのう何食べた?」』の世界そのままの表紙は必見!!

累計発行部数815万部突破(電子版含む)のよしながふみの大ヒットコミックをドラマ化した「きのう何食べた?」。料理上手で几帳面な弁護士のシロさんを西島秀俊、その恋人で人当たりのいい美容師のケンジを内野聖陽が演じ、2人と彼らを取り巻く人々のほっこりとしたやりとりと劇中に登場する料理が人気を博し、深夜ドラマとしては異例のヒットとなりました。11月3日(水・祝)にその劇場版が公開されるに当たり、Cinema☆Cinema No.95では作品を大特集しています。

 

表紙は、コミックやドラマのファンなら思わずきゅんとしてしまいそうな寄り添うシロさんとケンジの2ショット。見ているだけで幸せな気持ちになること間違いなしです。

 

グラビアでは、西島秀俊と内野聖陽の対談はもちろん、小日向役の山本耕史&ジルベール役の磯村勇斗対談、原作のよしながふみ、フードスタイリストの山﨑慎也、監督の中江和仁のインタビューも掲載。最新シーン写真と併せて、「何食べ」の世界を心ゆくまで堪能できます。

 

瀬戸康史、林遣都&小松菜奈、作間龍斗のインタビューなど、秋~冬の映画情報も満載!!

そのほか、『劇場版 ルパンの娘』瀬戸康史、『恋する寄生虫』林遣都&小松菜奈、『ひらいて』作間龍斗インタビューや、松本潤主演『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』、生田斗真主演『土竜の唄 FINAL』、永瀬廉主演『真夜中乙女戦争』の撮影現場レポートなども掲載しています。 秋の映画を楽しむのなら、ぜひ「Cinema☆Cinema No.95」をお手元に。

 

[商品概要]

POTATO11月号別冊 Cinema☆Cinema No.95

著者:Cinema☆Cinema編集部
定価: 1020円 (税込)

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『チェーンソーマン』『逃げ上手の若君』から『文豪たちの関東大震災体験記』まで—— 歴史小説家が選ぶ「陰謀」をめぐる5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「陰謀」。玉石混交の多量な情報の海の中で、真実が何か見えづらくなっている今日。自らのリテラシーを高め「陰謀」に踊らされないためにも、谷津さんの選ぶ5冊を参考にしてみてはいかがでしょうか?

 

【過去の記事はコチラ

 


きな臭い時代ですなあ、と、ついため息をつきたくもなる日々である。

 

インターネットブラウザを開いてみれば不確かな情報がこだまとなってねじ曲がり、また違った方向に響きゆく。そしてもはや元の音と無関係の雑音となってわたしたちの耳を苛むようになる。

 

コロナ禍の長期化、それに伴う社会の行き詰まりや先行き不透明からくる不安が噂を生み、やがて虚報となって文字化される。現在の苦しみが裏打ちされた情報は時に犯人捜しに人を駆り立て、「この状況は誰かが仕組んだものなのだ」という陰謀論へと成長を遂げることになる。アメリカのQアノン(アメリカの上流社会が悪魔崇拝を旨とする秘密結社に乗っ取られており、ドナルド・トランプ氏はそれら勢力と戦っていたのだとする陰謀論)も、決して対岸の火事ではない。

 

というわけで、今回の選書テーマは「陰謀」である。

 

主人公を待つ壮大な「陰謀」とは?

まずご紹介するのは漫画から。チェンソーマン (藤本タツキ・著/集英社・刊)である。悪魔の存在する世界、悪魔のポチタとともにデビルハンターをしながら底辺生活を送っていた少年デンジがある事件で死にかけ、ポチタと同化することで命を永らえることに端を発する暗黒少年漫画である。教養、規範意識に乏しく、己の本能に忠実なデンジだが、そんな彼の肖像は様々な人間関係が希薄化しつつある現代においては、逆にリアルな印象さえ受ける。ジャンプ漫画としては異色かもしれないが、時代のスタンダードといえる主人公像と言えるだろう。

 

実は本作、事態が進行するごとに、ある陰謀が明らかになる。その陰謀によって、デンジがようやく得た小さな日常が破壊されることになるのだが――。すべてを失ったデンジが結局何を得たのか。そして、何を以て本作は一区切りを迎えるのか。デンジの選んだ衝撃的な結末は、ぜひ、皆さんご自身でご確認いただきたい。

 

関東大震災の「デマ」を文豪たちはどう見たのか?

次にご紹介するのは新書から。文豪たちの関東大震災体験記 (石井正己・著/小学館・刊) である。1923年に起こった関東大震災においては多数の文筆家が被災し、出版社の求めに応じて様々な手記を書き残している。それに着目し、当時の文豪たちの声を拾い上げ、その上で関東大震災の有様を提示する一般向け書籍である。

 

なぜ関東大震災の本が「陰謀」の選書に?

 

皆さんもご存知だろう。関東大震災発生後、「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」「朝鮮人と主義者が掠奪強姦をなす」といったデマが横行、やがて被災者の一部が自警団を結成し、怪しい者たちを独自に取り締まり、中国人、朝鮮人、ろうあ者など、当時の日本社会におけるマイノリティが殺害される痛ましい事件が起こっている。

 

本書を読むと、文豪たちの遺した文章の中に、これらデマの横行を示唆するような記述が多々あることに気づかされる。被災者として苦しむ文豪が書き残した風聞を並べ比べていくうちに、これらのデマが陰謀論に育ち、暴挙に駆り立ててゆく過程が浮かび上がってくるのだ。

 

本書は関東大震災とともに、デマが陰謀論に育ち、社会にダメージを与えるまでの姿を間接的に描いているのである。

 

生々しくない「陰謀論」をめぐるツッコミ

次に紹介するのはこちら。と学会レポート人類の月面着陸はあったんだ論(山本 弘、江藤 巌、皆神龍太郎、植木不等式、志水一夫・著/楽工舎・刊)である。

 

2000年代初頭、「アポロは月に行っていない」という与太話がメディアで大々的に紹介されていた時期があった。

 

第二次世界大戦後、アメリカとソ連は世界の覇権国家目指して鎬を削り合っていた。特に宇宙開発競争は過熱の度を深め、アポロ計画でアメリカが月面に到達したことで一応の決着がついたのだった……。が、これらの経緯から、「アメリカが技術開発競争に負けたくない一心で、月に行ったと捏造したのではないか」という陰謀論が発生、どうしたわけか2000年代初頭の日本で再燃したという経緯なのであった。

 

本書はそんな「アポロは月に行ってない(ムーンホークス)説」の主張に歯切れのいいツッコミを入れていく本である。本書を一読するだけでムーンホークス側の荒唐無稽な主張が理解できようし、冷戦下の宇宙開発史や、ムーンホークスが生まれたアメリカのお国柄など、さまざまな知識を得ることができるだろう。

 

そして何より、数ある陰謀論の中でも生々しくないというのもいい点だろう。次また来るかも知れない陰謀論のパンデミックに備えるワクチンとして読むのも一興である。

 

 

日本史上屈指の「陰謀」はびこる時代を逃げ切れるのか?

お次はまた漫画から。逃げ上手の若君(松井優征・著/集英社・刊)である。

 

本書は鎌倉北条氏の得宗家御子であり、南北朝動乱の時代に独特の光彩を与えた北条時行(ほうじょう ときゆき)を主人公にした歴史漫画である。鎌倉幕府を足利尊氏らに滅ぼされ庇護者を失った時行は、人並み外れた「逃げ上手」の特性を諏訪領主・諏訪頼重(すわ よりしげ)に見出され、諏訪の地で雌伏、足利尊氏の喉元を切り裂く刃となるべく、修行を重ねる……というのが大まかなストーリーラインである。こう書くと硬派な歴史物に聞こえるかもしれないが、少年漫画の文法にきっちりと物語が乗せられている上、前述の諏訪頼重がほんの少しだけ未来が見えるという設定から、ボケ役や注釈役、現代の読者との橋渡し役を兼ねているあたり、現代のエンタメとしての打ち出しに成功している。

 

本書の描く時代は、日本史上でも屈指の陰謀はびこる時代である。この後、時行は様々な陰謀にかちあっていくことだろう(し、既にある種の陰謀に乗せられているのかもしれない)。この「逃げ上手」を武器にする前代未聞の主人公がどうこの時代の陰謀に立ち向かっていくのか、今から楽しみである。

 

個人レベルで繰り広げられる陰謀の哀しさ

最後は小説から。仮面家族(悠木 シュン・著/双葉社・刊)である。

 

妻の言いなりに振る舞う「新しい父親」、娘に詳細な日記を書かせ提出させる上、隣に住む女子高生に近づくよう命じたり、またその女子高生と喧嘩するようにと指示するとにかくヤバい母親、そしてその娘の不可解な日々を描いたミステリ小説である。

 

本書を読み進めるごとに、当然読者の疑問の目は母親へと向かう。この母親は一体何がしたいのか。一体何を企んでいるのか……、この不気味極まりない母親についてあれこれと想像が広がり、思いあぐねながらページをたぐっているうちは、著者の仕掛けた罠にしっかり嵌っている。是非とも本書が明らかにする歪なる真実に驚いて欲しい。

 

そして全体像が露わになったその時、個人レベルで繰り広げられる陰謀の哀しさと、そこに浴びせられる冷徹な結末に肝を冷やすことになる。一気読み、寝不足必至のサスペンスである。

 

 

現代においても、陰謀ははびこっていると見るべきだ。きっと、世の中のどこかで、わたしたちの目の届かないところで数々の謀がなされているのだろう。だが、それらの多くは陰湿な形で、しかも露見せぬように行なわれているものがほとんどのはずだ。

 

わたしたちは、今、誰からも確度が保証されぬ言葉の渦に囲まれて生きている。耳に飛び込んできた言葉が、果たして事実なのか、それともフェイクなのかをいちいちジャッジする必要がある。

 

そのためにこそ、過去の陰謀論を学んだり、フィクションの描く陰謀の在り方を〝接種〟しておくとよい。常日頃からそうしたものに触れていれば、設定の甘いフェイクならば見破ることができるようになるだろうからだ。

 

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『雲州下屋敷の幽霊』(文藝春秋)

伝説的アイドル・本田美奈子さんのデビュー当初の貴重な未公開カットを多数収録「本田美奈子.デジタルMomoco写真館」

1980年代に発売されていたアイドル雑誌『Momoco』(学習研究社刊・当時)で、毎号巻頭を飾っていた人気グラビア企画「Momoco写真館」。

30年の時を超えて今よみがえる、アイドルたちのまぶしい笑顔

グラビア撮影の第一人者である写真家の小澤忠恭氏が撮り下ろしたカットを10ページ以上にわたって組んだグラビアページで、カメラ専門誌の『CAPA』(ワン・パブリッシング刊)では2020年9月号からリバイバル企画をスタート。

 

当時のオリジナルフィルムをあらためてデジタルスキャンして掲載したところ、多くの反響が寄せられ、当時未掲載だった秘蔵カットをあらたに加えて全60ページのデジタル写真集として現代に蘇えらせたのが、「デジタルMomoco写真館」です。第3弾は本田美奈子さん。本書に掲載されたカットはすべて1985 年レコードデビュー直後の6 月に香港ロケで撮影されたもの。水着やチャイナドレスなど、いろいろな衣装に着替えた本田美奈子さんの大変レアなカットを多数収録しています。

 

写真はすべて当時のポジフィルムをあたらめてスキャニングした、「デジタルリマスター」ともいえる仕上がりです。

 

オフショット風の当時の未公開カットも多数収録しています

 

18歳になる直前の本田美奈子.さんの弾けるような笑顔がまぶしい!

 

[商品概要]

本田美奈子. デジタルMomoco写真館

定価:1650円(税込み)

【本書のご購入はコチラ】
Kindle:https://www.amazon.co.jp/gp/product/B09GJSWWMM/
楽天:https://books.rakuten.co.jp/rk/177af75b98553ef58502d81bdf0cf48d/

DIYライフマガジン『ドゥーパ!』のMOOK本、移住と里山ライフの実践的カルチャーマガジン『Soil mag. (ソイルマグ)』が発売

DIYライフマガジン『ドゥーパ!』のMOOK本として、地方移住と里山ライフをテーマにした雑誌『Soil mag. (ソイルマグ)』が9月30日(木)に発売。発刊第1号の特集テーマは、「“ 耕す暮らし” の創りかた」。日本各地の美しい里山の土地で、日々土に触れ、作物を育てて食べるというプリミティブな歓びに満ちた暮らし。実践者たちの経験に裏付けされた叡智に学びながら、その土台づくりのヒントと実践的なノウハウを紹介します。

 

混迷の時代のなか、本質的な“ 豊かさ” を求めて、都市から地方へと居を移す人の流れが加速しています。また、「田舎でのリモートワーク」「二拠点生活」「ワーケーション」など 多様なライフスタイルが一般化し、 世の中には自分らしいオリジナルの暮らし方、場所を求める機運もこれまでになく高まっています。 住む場所も、生き方も、自分の心のままに選ぶ。自然の営みに寄り添いながら、自らの手で暮らしをつくる。コツコツとたおやかに。「Soil mag. (ソイルマグ)」が目指したのは、そんな心豊かなライフスタイルへの道筋を照らす、小さな灯台です。

 

雑誌タイトルの「Soil」は、Sustainable(持続可能な)、Organic(自然体の)、Innovative(革新的な)、Local(自然に囲まれた地方)というキーワードから頭文字を抽出したもの。もちろん、私たちの暮らしを支える「土」という意味もあります。地球環境への影響を誰もが意識するようになった現在、 自然に優しい暮らし方を模索する人々は急増しています。 自然に囲まれた環境で、自分らしく生きるスタイルを見つける、そして、築いていくための具体的なアイディアを届ける新しいメディアとして『Soil mag. 』はスタートします。

◆CONTENTS
001  Why Cultivate? パーマカルチャーとコンパニオンプランツ
002 土は、語り続ける。—土の研究者・藤井一至との対話ー
004 漫画 それから、わたしたちは。
006 理想の土地を求めて。それぞれの移住ストーリー
岐阜県飛騨市古川町 「ソヤ畦畑」森本悠己さん・恵美さん
岡山県真庭市蒜山 「蒜山耕藝」高谷裕治さん・絵里香さん
018 特集 “耕す暮らし”の創りかた。
020 旅する料理家・三上奈緒が綴る、SHO Farm という理想郷。
024 移住と「農」で人生は変わる! ? 半農半X という生き方を求めて 塩見直紀
028 半農半X のリアル –6 人の移住者、それぞれの「農」と「生活」–
034 自給自足を叶える“カスタマイズ自給菜園” 入門 有機農家・金子勝彦
050 Portrait Of Favors 写真/砺波周平 文/砺波志を美
054 Everyday,Farm to table 農的暮らしに息づく畑の恵み 生活庭園研究家・四井千里
058 有機栽培、自然栽培、自然農法、自然農 その違いと意義
青果ミコト屋・鈴木鉄平
059 生産と消費のサイクルを生むコンポスト考察
鴨志田農園・鴨志田純
060 耕す暮らしを叶える、農地と住処のイロハ
066 ゼロから始める、新規就農の手びき
074 ファッションスタイリスト・岡部文彦さんが楽しむ
移住と、一次産業と、ワークウェアのデザイン
078 家畜×農業 その深淵なる世界 ~馬・合鴨・鶏・山羊~
082 Kiss the ground 三宅洋平 里山ライフ放談。
088 IDEAS FOR THE FUTURE
持続可能な環境をつくりだすための知恵とアイデア
オオカミを野に放て/竹林の未来/テラサイクルという選択
094 群馬で叶える“手放さない”移住
100 注目の移住スポット
108 日本全国移住支援策navi
112 “地方創生推進交付金”とは?
114 日本全国ワーケーションスポットCATALOG
118 暮らしを楽しむ新しい入口「クラシガエ」
122 移住と、私と、クリエイティブ テキスタイルデザイナー・真田 緑
124 BRAND STORY-Jack Wolfskin 環境に優しいモノしか、使いたくない。
125 DIY 雑誌「ドゥーパ!」編集人に聞く LIFE of DIY
126 土中環境を意識した家づくり 建築家・和久倫也
127 読者プレゼント
128 写真家が焦がれた風景。奥山淳志

●編集部:株式会社ミゲル
●公式Instagram:@soilmag

 

【書籍概要】

著者:株式会社ミゲル

定価:1100円(税込)

発売日:2021年9月30日

判型:A4変形

DIYでプライベートサウナを手に入れろ! DIYサウナのバイブル『Sauna Builder ~DIYでサウナを作る本~』発売

『Sauna Builder ~DIYでサウナを作る本~』(発行:株式会社キャンプ/代表取締役社長:豊田大作)が9月30日に発売!

 

◆サウナブーム×DIYブーム、今やサウナも自作する時代!

近年人気が高まり、ますますその勢いを増しているサウナ。「ととのう」や「ロウリュ」などサウナ用語が一般に認知されるほど世間に浸透してきたサウナですが、そのネクストフェーズはずばりDIYで作るホームサウナ! 本書ではさまざまな手作りサウナの実例から具体的な製作方法の紹介をはじめ、テントサウナのカスタムや、サウナハットやヴィヒタやといったサウナツールの製作方法も紹介。DIYサウナで自分だけの特別なととのい時間を手に入れよう!

日本唯一のDIY専門誌「ドゥーパ!」編集部が総力を挙げて作った唯一無二の手作りサウナムックとなります。

 

◆DIYで作った日本全国の手作りサウナが大集合!

ムック冒頭を飾りのは手作りサウナ実例集。狭小な立地をいかしたソロサウナ、秘密基地に作る大型ログサウナ、はたまたどこでも行けちゃうサウナトラック……。サイズやデザイン、構造はもちろん、温浴方法からとっておきのサ飯まで、その楽しみ方は千差万別。そんなDIYだからこそ実現した、個性あふれるサウナを徹底取材。気になる材料費、製作期間から、断熱の方法や熱源となるストーブ、さらには水風呂、外気浴の工夫など、サウナ作りで気になるポイントをあますことなく紹介します。

 

◆DIYでできる!サウナ小屋の作り方を公開

編集部が森の中に作ったサウナ小屋の製作過程を24Pに渡って詳細リポート! 用意した材料や使用した電動工具はもちろん、各部の構造や断熱箇所はイラスト図解つきでわかりやすく紹介。また安全な薪ストーブの設置方法や薪の選び方、日本の職人が手がける国産サウナストーブやDIYサウナキットカタログも収録。これを読めば、あなたも絶対にサウナ小屋が作れる!

 

◆サウナテントも自分好みにカスタマイズ

機動性の高さが魅力のサウナテントは、今やアウトドアサウナの定番。本章では、そんなサウナテントをさらにパワーアップさせる、ミシンを相棒にしたカスタマイズ方法をフューチャー。実例紹介では、極寒の氷上でも快適な温浴を楽しめる、エクストリームな超断熱DIYサウナテントも登場。サウナテントはDIYでここまで進化する!

 

◆DIY専門誌ならではのディープなサウナツール自作アイデアも

せっかく自作サウナを楽しむなら、サウナツールまでこだわりたい。そんなハードなサウナビルダーたちに捧げるのが本章。羊毛を使ったサウナハット作りから、シラカバから作るフレッシュヴィヒタ、さらにはホームセンターの庭石を利用したサウナストーン検証実験まで……DIYサウナライフをより楽しむためのディープで尖った情報は、全サウナ-必見です。

 

◆DIYビギナー必見! サウナ小屋作りのための基本テクニックも収録

巻末には、サウナ小屋作りに必須の「切る」「固定する」「あける」、3つの材料加工テクニックのノウハウをていねいに解説。これを読めば、小屋作りはもちろん、日々のDIYにも役立つこと間違いなしです。

 

サウナが好きであればあるほど、それに比例してこだわりが増えるもの。そんな自分の理想を反映できるのがDIYサウナの魅力であり、サウナビルダーの特権です。サイズ、デザイン、使用する資材や熱源、楽しみ方まで……すべては自分の思いどおり。ぜひ本書を相棒に、DIYで究極のマイサウナを手に入れてください。

 

【書籍概要】

著者:ドゥーパ!編集部

定価:1980円(税込)

発売日:2021年9月30日

判型:A4変形

毎日使う“言葉”の大切さ、伝え方を考えさせられる。日テレ藤井アナの本『伝える準備』

自宅で仕事をしている中で「夕方のニュースを見るようになった」という人も多いのではないでしょうか? 日本テレビ系列で夕方に放送している『news every.』もコロナ禍で注目を集めた番組のひとつ。藤井貴彦アナウンサーが番組の最後に伝える言葉がSNSでも話題になっていましたよね。

 

そんな藤井アナが執筆された『伝える準備』(藤井貴彦・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊)を読むと、言葉を発する前にどれだけのことを準備し、どんな心持ちで伝えているのかがわかる一冊です。ポンポンと気軽に言葉を発信することができるようになった昨今ですが、あなたはその言葉を大切にしていますか?

 

言葉を「寝かせる」大切さ

この本を読むまでは「伝える」ことに準備が必要かな? なんて考えていました。とくにアナウンサーは、臨機応変な対応が必要だろうし、準備したくてもできないのでは? 夕方の番組でも準備していたらあの言葉は出ないのでは? なんて思っていました。

 

けれど読み進めていくうちにその考えはひっくり返されました。藤井アナは、ひとつひとつの言葉と真摯に向き合っていて、どの言葉もポロっと出た言葉ではなく、何度も考え、何度も検討し、まさに伝える準備で言葉を日々蓄えていたのです。

 

言葉を選ぶ準備とは

たくさんの言葉を引き出しに集めておいて、

その人にフィットする言葉を見繕い、

最後に一つに絞ること。

(『伝える準備』より引用)

 

また、スポーツ実況のようなリアルタイムで状況を伝える方法もあります。でも、その場で「えいや!」とやっているのではないんです。藤井アナはスポーツ実況担当になったころ、3か月かけて10試合分のサッカー実況の言葉を大学ノートに書き写し、実況ワードの仕組みを理解していたというのです。1試合だけでも大学ノート15ページ分になっていたとのことなので、相当な準備をした上で「当たり前のスポーツ実況」を聞いていたのだと知りました。いやぁ〜本当にすごい仕事です!

 

誹謗中傷コメントはフォントを変えろ!

藤井アナが「エゴサーチ」をした際、たくさんの共感の言葉の中に、心ない言葉を目にしたことがあったそうです。SNSに上がっている文字の多くは瞬発的に発せられている言葉が多いため、ネガティブな感情もむきだしで晒されています。そこに傷ついている人もたくさんいるはず。そんな時のアドバイスもいくつか書かれていたのですが、その中になるほど! な解決方法がありました。

 

もし、SNS上で誹謗中傷を目にしたら、

思いっきりかわいい文字に変換してみてください。

ひどい言葉ほど面白く見えてきます。

(『伝える準備』より引用)

 

藤井アナ曰く、デジタルの整えられたフォントは誹謗中傷すら素晴らしい意見に見えてしまうフォントマジックがかかってしまっているとのこと。確かに……! 壁の落書きのような手書きの文字なら「あぁ〜落書きだな」と思えても、デジタルのフォントだと落書きと同じ言葉でも鋭さが変わり、受け止める側への負担が大きくなりますよね。「伝えるフォント」が違うだけでも受け止め方が変わると実感しました。

 

本の「奥付」にも、藤井さんの優しさが!

『伝える準備』には素敵な言葉がいっぱいあるので、もっともっと紹介したいのですが、最後にひとつ「奥付」について紹介させてください! この『伝える準備』の奥付は今まで見たことのない奥付でした。

 

なんと100人近いスタッフクレジットが掲載されているのです! 本を書いた人、本を編集した人、出版した会社、デザインした人、本のタイトル、出版した日付……までは標準の奥付なのですが、書店営業の方、オンラインでの販売担当の方、電子書籍に関わった方、出版プロデューサーまで掲載されていました。

 

私たちが手に取っている本の言葉は、これだけの人たちの協力と準備があって、自分の元に届いたのか……と感じられる奥付だったので「よし、もう一度読もう」と、読み終わってすぐ読み返してしまいました(笑)。

 

「準備」というのは、人の目に晒されることのない部分だと思いますが、その「準備」がどれだけ行われていたかはきっと伝わるはずです。メール、SNS、電話など言葉を伝える機会がある人はぜひ一度、この『伝える準備』を読んでみてください。毎日言葉を伝えている藤井アナに元気をもらえるはずです。

 

【書籍紹介】

伝える準備

著者:藤井貴彦
刊行:ディスカヴァー・トゥエンティワン

日々、どんな小さなことも書き留め、積み重ねて、「自分の土台」をつくり上げる。27年間、「5行日記」を続けて培った言葉の力。日本テレビ系「news every.」のアナウンサーがはじめて明かす思いが伝わる言葉のつくり方。

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日常のゴタゴタに疲れたら、1000年前のペルシャの詩に癒やされてみる——『ルバーイヤート』

日常のゴタゴタに疲れると、『ルバーイヤート』(オマル・ハイヤーム・著/平凡社・刊)を読みたくなります。この本は、11世紀、ペルシャの詩人オマル・ハイヤームが著した四行詩を集めたものです。

 

彼は、天文学、数学、そして医学を修めた科学者でしたが、ルバーイヤートと呼ばれる四行詩を書き残した詩人でもあります。遥かかなたの地ペルシャ(現在のイラン)の詩人に、なぜそうも惹かれるのか、自分でもよくわかりません。けれども、体の具合が悪いとき、心が衰え何もかも投げ出したくなったとき、パラパラとめくっていると、エネルギーがチャージされていくような気持ちになるのです。

 

著者・オマル・ハイヤームについて

『ルバーイヤート』の著者オマル・ハイヤームは1048年に生まれました。科学者として活躍した人ですが、詩人であることはほとんど知られていなかったようです。ところが、19世紀の末になって、イギリスの詩人・E・フィッツジェラルドが英語の翻訳を出版したのがきっかけで、その名を広く知られるようになりました。優れた文芸作品は、時代を超えて生き残ることができるのでしょう。

 

科学者であるハイヤームが、いつから詩を作り始めたのか、はっきりしません。なぜ詩作を始めたのかもわかりません。もしかしたら、ただ単に好きだったから、自分の楽しみのための詩作だったのかもしれません。それとも、心に抱えた鬱屈をはき出すためにどうしても必要だったのでしょうか。

 

『ルバーイヤート』を翻訳した岡田美恵子は、オマル・ハイヤームが生きた当時、ペルシャがアラブ・イスラームの支配下にあったことに着目し、次のように述べています。

 

ハイヤームがいつから詩作をはじめたか不明だが、生前の彼は現代でいう科学者として生き、知られていた。科学者として生き、イスラームの信仰を強いられる不自由からのがれるために詩作を楽しんだものであろうか。とはいえ、他の詩人の作品がえんえんと続く長大なものであるのに対して、ハイヤームのは四行詩、きわめて短い。なお「四行詩」という語の単数形は「ルバーイー」、その複数形が「ルバーイヤート」である。

(『ルバーイヤート』より抜粋)

 

やはり、ハイヤームは詩作を通して、自らの魂を解放していたのでしょう。現代に生きる私たちも、自分では頑張って生きているつもりでも、時に呆然と立ち止まり、いったいこれからどうしようかと途方に暮れることがよくあります。そんなとき、『ルバーイヤート』にある詩の調べが、私たちの心に寄り添い、慰撫してくれます。

 

鏡餅と翻訳者

『ルバーイヤート』は今まで何冊かの翻訳が出ています。このコラムで取り上げたのは、2009年に初版が出た平凡社のものです。既に書いたように、翻訳したのは岡田恵美子。テヘラン大学文学部博士課程を修了した文学博士で、東京外国語大学教授、中央大学教授を歴任した研究者です。

 

アカデミックな世界に生きる著者ですが、『ルバーイヤート』で披露されるエピソードは、驚きに満ちた面白さです。

 

ある年の正月、浅草の仲見世通りをイラン人と一緒に歩いたことがある。初詣の終わった頃だったので通りは意外に閑散として、店の大きなショーウインドウには一抱えもありそうな「鏡餅」が飾ってあった。彼、S氏は立ち止まって珍しそうに眺めていたが、「あれは宇宙か?」と質問してきた。不意をつかれてすぐには答えのでてこない私に、「では日本の天地創造か?それとも混沌か?」とたたたみかけてくる。

(『ルバーイヤート』より抜粋)

 

宇宙? 天地創造? 混沌? まったくもってびっくりの反応です。けれども、では「鏡餅とは何か?」と、問いかけてみると、はっきりと答えられないまま、ただ戸惑う自分を発見します。その意味でも、本書は不思議さに満ちた本なのです。

 

私の好きなルバーイヤート

『ルバーイヤート』は四行で構成されていますが、短いながらも、中身はぎゅっと濃いと言っていいでしょう。私たち日本人は、俳句という文芸に親しんでいますから、とくに違和感なく受け入れられるのかもしれません。

 

好きな作品は人それぞれですが、参考までに、心に響いたものをいくつか紹介したいと思います。

 

穹窿にかかる星々は、
賢者たちを懐疑にいざなう。
心せよ、知性の糸の先を見失うな、
運行するものたちが、頭をふっているのだから。

 

この詩の「運行するものたち」とは、「宇宙で揺れうごく星々」を指します。思わず夜空を見上げ、きらきら光る星に目をこらしたくなるのではありませんか。

 

いざ、青春のめぐりくるこの日、
酒をのもう、酒こそわが喜び。
その酒が苦くとも、とがめるな、
わたしの生命だから苦いのだ。

 

お酒はイスラームでは禁じられています。ところが、『ルバーイヤート』には頻繁に酒がとりあげられています。ペルシャ時代の思い出が残っているからでしょうか。

 

ハイヤームよ、酒に酔うなら、楽しむがよい。
チューリップの美女と共にいるのなら、楽しむがよい。
この世の終わりはついには無だ。
自分は無だと思って、いま在るこの生を楽しむがよい。

 

私はこの詩がとても好きです。人間が最終的に行き着くのは死だとわかっていますが、せめてそれまでの間は楽しく、機嫌良くいたいからです。

 

それぞれの人にぴったりフィットしたルバーイヤートがあるはずです。あなたのルバーイヤートを探してみてください。時を超えたエネルギーが、あなたの心に響くはずです。

 

【書籍紹介】

ルバーイヤート

著者:オマル・ハイヤーム
発行:平凡社

盃に酒をみたし、この世を天国にするがよい、あの世で天国に行けるかどうか分からないのだから。——十一・十二世紀のペルシアに生きた科学者にして、虚無と享楽の詩人ハイヤーム。原語からの正確で平易かつ香り高い新訳に加えて、「人間は土から創られ土になる」など、私たちと同じようでしかし違うその世界観を解説、名高い四行詩を細かいところまで味わう一冊。

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100年前も今も変わらない? 芥川龍之介・与謝野晶子・菊池寛…文豪たちの遺した言葉から見る感染症

現在、世界中の人々は先の見えないコロナ禍で日常生活を一変させられ、不安な日々を送っているが、100年前も世界は同じような状況にあった。スペイン風邪は1918年から1920年にかけて世界を襲ったインフルエンザ・パンデミックで、世界人口の3割近くが感染し、死者は1億人を超えていたと推定されている。

 

文豪と感染症』(永江 朗・編/朝日新聞出版・刊)は、芥川龍之介、秋田雨雀、与謝野晶子、斎藤茂吉、永井荷風、志賀直哉、谷崎潤一郎、菊池寛、宮本百合子、佐々木邦、岸田國士という11人の文豪が、スペイン風邪のパンデミックに直面した際に感じた恐怖、それぞれの感染対策を小説やエッセイ、日記の中で綴ったものを集めた1冊。読んでいるとまるで現在を見ているようで、人間はあまり変わっていないことに驚いてしまう。

日本人の記憶から消えたスペイン風邪

編者の永江さんが調べたところ、日本ではスペイン風邪による死者はなんと関東大震災の4倍もあったそうだ。

 

日本国内だけでも患者数二三〇〇万人、死者三八万人。一九一八年から二〇年ごろの日本の人口は五五〇〇万人ぐらいですから、現代でいうと八〇万人ぐらいの人が亡くなっている感覚です。(中略)ところが不思議なことに、「スペイン風邪」はいまひとつ印象が薄いんですね。

(『文豪と感染症』から引用)

 

1923年に起こった関東大震災は視覚的な衝撃が大きいので写真などを見て人々の記憶に長く残ったが、スペイン風邪は目に見えない。ウイルスの存在は見えず、感染症に罹り衰弱していく人々も、外見上の変化はそれほどなかったことが印象を薄くしているのではないかと永江氏は言う。

 

けれども、スペイン風邪を扱った作家たちの文章を集めてみて、当時の人たちはけっして感染症に鈍感ではなかったし、恐ろしさについて無知ではなかったことをあらためて知ったそうだ。では、いくつかを紹介してみよう。

 

芥川龍之介の書簡

芥川龍之介は二度もスペイン風邪に感染し、その病状は深刻で、友人への書簡には辞世の句も書いていたそうだ。感染により、体調は最悪にもかかわらず、小説を書かなければかならない、療養に専念出来ない辛さが、知人たちに宛てた書簡から伝わってくるのだ。

 

僕は今スペイン風でねています うつるといけないから来ちゃ駄目です 熱があって咳が出て甚苦しい。

胸中の凩 咳となりにけり

 十一月三日 鎌倉から 小島政二郎宛(葉書)

スペイン風でねていますが熱が高くって甚よわった病中髣髴として夢あり退屈だから句にしてお目にかけます。

凩や大葬ひの町を錬る

まだ全快に至らずこれもねていて書くのです 頓首

 十一月五日 鎌倉から 小島政二郎宛(葉書)

(『文豪と感染症』から引用)

 

芥川が肺炎で苦しむ様子がひしひしと伝わってくる。本人は幸いにして治癒したが、実父はこの感染症で亡くなったそうだ。

 

与謝野晶子はありとあらゆる予防を徹底した

本書に収録されている「感冒の床から」「死の恐怖」という2篇は新聞に寄稿した与謝野晶子の文章だ。与謝野晶子と鉄幹夫妻は子だくさんだったため、感染への恐怖を感じ、万全の対策をしていたが、それでも小学生だった子どものひとりが伝染したことがきかっけで、家庭内感染を経験している。晶子は学校、さらには政府の対応の遅さを強く批判していた。

 

生徒が七分通り風邪に罹って仕舞って後に、漸く相談会などを開いて幾日かの休校を決しました。どの学校にも学校医と云う者がありながら、衛生上の予防や応急手段に就いて不親切も甚だしいと思います。

(『文豪と感染症』から引用)

 

また、スペイン風邪は高熱を放置しておくと肺炎を誘発するので、解熱剤を服用して進行を止める必要があるとも訴えていた。しかし、当時、最上であった解熱剤は薬価の関係から庶民はなかなか服用できなかったそうだ。

 

こう云う状態ですから患者も早く癒らず、風邪の流行も一層烈しいのでは無いでしょうか。官公私の衛生機関と富豪とが協力して、ミグレニンやピラミドンを中流以下の患者に廉売するような応急手段が、米の廉売と同じ意味から行われたら宜しかろうと思います。

(『文豪と感染症』から引用)

 

貧しいというだけで有効な薬を服すことができず、余計に苦しみ、危険を感じるということは不合理だと記している。

 

与謝野晶子の文章を読んでいると100年前と現在の状況が重なってくる。彼女がもし今生きていたら国の対応を強烈に批判したに違いない。

 

菊池寛の「マスク」

「マスク」はスペイン風邪の流行化での実体験を元に描かれた短編小説だ。主人公である”自分”は頑健に見えるが、実は心臓も肺も胃腸も弱い。さらに医者から、流行性感冒に罹って40度くらいの熱が3~4日続けばもう助かりっこありませんね、などと言われ、怯えてしまう。そこで自分は極力外出しないようにし、どうしても用事で出かけなくてはならないときはガーゼを沢山詰めたマスクを掛けた。感染のピークが過ぎ、マスク姿が減ってもなお自分はマスクを外すことができなかった。

 

「病気を怖れないで、伝染の危険を冒すなどと云うことは、それは野蛮人の勇気だよ。病気を怖れて伝染の危険を絶対に避けると云う方が、文明人としての勇気だよ。誰も、マスクを掛けて居ないときにマスクを掛けているのは変なものだよ。が、それは臆病ではなくして、文明人としての勇気だと思うよ」自分は、こんなことを云って友達に弁解した。

(『文豪と感染症』から引用)

 

そんなことを云っていた自分だったが、やがて季節が巡って陽気がよくなり、マスクを外すことになると、たまに目にする他人のマスク姿に逆に不快感を抱くようになってしまう。マスク着用に関する複雑な感情を菊池寛は見事に描いている。

 

本書には、この他にも読み応えのある小説、エッセイの数々が収録されている。文豪たちが書き残してくれた100年前の記憶を私たちはうまく受け継ぐことができなかったと読後に感じるかもしれない。ならば、今後、私たちは今の新型コロナウイルス感染症を未来にどう伝えていけるのだろうと編者の永江氏は皆に問いかけている。

 

いつかは訪れる感染症の収束を願いつつ、100年前と今を比べながら読みたい1冊だ。

 

 

【書籍紹介】

文豪と感染症

著者:永江 朗
発行:朝日新聞出版

100年前、日本の文豪たちは20世紀最大の感染症・スペイン風邪に直面していたー。病に暴された芥川龍之介は辞世の句を詠み、菊池寛はマスクを憎悪し、与謝野晶子はソーシャルディスタンスを訴える!? 現況と重なる感染症の記録を日記から小説まで収録。

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ヘミングウェイが愛した猫の秘密とは?文豪と猫の幸せな関係~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。猫が飼われた最古の記録は約4000年前の古代エジプト……というのが定説でしたが、近年、約9500年前のキプロス島の遺跡から男性の骨と一緒に埋葬された猫の骨が発掘されて話題となりました。人と猫の付き合いはかれこれ1万年。人類は猫に魅了されっぱなしです。

 

猫と人間はおよそ一万年のパートナー

もちろん名だたる文豪たちも例外ではなく、猫を愛でながら文学史に残る傑作を生み出してきました。今回紹介する文豪の愛した猫』(開発社・著/イースト新書Q)は、猫と作家の知られざる逸話が満載の新書。猫好き×文学好きにはたまりません。

 

 

 

谷崎潤一郎がこよなく愛した猫

第1章の「日本の文豪と猫」には、『我が輩は猫である』の夏目漱石を筆頭に日本人作家19名の猫エピソードが並んでいます。私が一番興味を引かれたのは『細雪』の谷崎潤一郎。女性の美をフェティッシュに描いた耽美な作風で知られた谷崎は、イメージ通り猫派だったようです。

 

「猫好きの人間はその我が儘なところが又たまらなく可愛いんでございます」(随筆『猫と犬』)とメロメロの様子。

 

なかでも飼っていたイギリス種のべっ甲猫・チュウがお気に入りで、この猫をモデルに男女の三角関係を浮き彫りにした『猫と庄造と二人のをんな』という小説を書いています。私も読んだことがありますが、人間3人を振り回す頂点に立っているのが猫で、なまめかしく賢い様子が猫好きならぐっとくること間違いなし。

 

第2章は「海外の文豪と猫」。日本でも人気が高い『老人と海』を書いたアーネスト・ヘミングウェイは、1930年代、アメリカ・フロリダ州のキーウエスト島で暮らしていたときに知人から猫をもらい、釣った魚をあげているうちに仲良くなったそうです。

 

その後、飼っている猫の数はどんどん増えていき、最大68匹になったとか。なかでも一番可愛がっていたのが猫のボイシー。ボイシーは自分を特別だと思っていたようで、ほかの猫たちがエサに群がる間もその輪には加わらず、悠然とヘミングウェイの好物のマンゴーやアボカドを食べていたという恋人のような猫。晩年の作品『海流のなかの島々』にもボイシーは登場しています。

 

ヘミングウェイの飼っていた猫たちは、最初にもらった猫の遺伝で六本指の子が多く、ヘミングウェイは「幸せの猫」と呼んでいました。

 

巻末には萩原朔太郎の詩「猫」や太宰治の「ねこ」など、猫に関する短編や詩、随筆も8本収録されています。定番ですが、個人的には宮沢賢治の「どんぐりと山猫」がオススメ。黄色い陣羽織を着てどんぐりに威張る緑色の目をした山猫、ほほえましいですよね。

 

開発社という編集プロダクションが手がけた新書で、猫愛が随所に感じられ、読んでいて心がほっこりします。猫が登場する作品も多数紹介されていて文学案内としても役立つ一冊。1万年前の人間もきっとそうしていたように、猫を撫でて癒されながら、読書の秋を満喫してはいかがでしょう。

 

 

【書籍紹介】

『文豪の愛した猫』

著者:開発社
発行:イースト・プレス

飼い猫をモデルに書いた連載小説で人生が好転した夏目漱石。捨て猫を放っておけないほどの繊細な一面があった三島由紀夫。生涯500匹の猫たちと暮らした大佛次郎『キャッツ』でエンターテインメント界きっての人気者となったT・S・エリオット。名作を残した文豪たちは、いかにして人生さえも左右する猫と出会い、どのように愛し、いかにして別れを惜しんだのか。知られざる文豪の素顔を、愛猫と結んだ「絆の物語」から迫っていく。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

今だからこそ、自分のライフスタイルを見つめ直してみる——『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』

生きたいように生き、働きたいように働く。言うのは簡単だが、いざ実行するとなると常識とか社会規範などさまざまな縛りがかかり、なかなか踏み出せないのではないだろうか。

ゆるく考えてラクに生きよう

ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』(ちきりん・著/イーストプレス・刊)は、そういう縛りと自分のアイデンティティをすり合わせていく上でとても役立つ本だ。

 

著者のちきりんさんがこの本を書いたのは2011年。東日本大震災の一か月半前というタイミングだった。朝から晩まで、そして時には休日まで働き続けるようなライフスタイルに疑問を感じ、それまでの仕事を辞めて新しい働き方を模索していたという。

 

仕事やお金や人生設計に関して、もっと自由に発想し、もっと合理的に判断できれば、今という時間を楽しむことを、もっと優先する生き方ができるはず。そう考えてこの本を書きました。

『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』より引用

 

自分についてちょっと思い出してみる。筆者がとあるシティホテルに就職したのは1986年。入社したてだったのに、年末のボーナスがえらく良かった。今思えば、そこから4年あまり続くバブル景気を感じさせるに十分な出来事だった。

 

あの時この本があれば

でも、結局は2年で辞めてしまった。第一の理由は、入社直後から続いたナイトシフト勤務が辛すぎたこと。特にレストランサービス課で働いていたときは1回出社すると2日経ってしまう。ほとんど眠れなかったし、大したこともしないまま時間がものすごい速さで流れていった。

 

ある日突然、これは違うと確信した。その日のうちにワーキングホリデーに関する資料を可能な限り集め、2週間後には具体的な計画を立てた。辞表を提出したのは、それからちょうど1か月後だ。あのころこの本があってくれたら、よりポジティブでよりよいものごとの進め方を考えることができていたと思う。

 

自分を縛らない

当時の筆者の気持ちをそのままなぞってくれたような文章がある。

 

また、日本には「良薬口に苦し」ということわざがあり、まるで「つらいこと=価値があること」のようにいいたがる人がいます。けれど、論理的に考えれば一番いいのは「楽しくて、ラクで、価値があること」であり、まずはそれを目指すべきではないでしょうか。

『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』より引用

 

目次を見てみよう。

 

1.ラクに生きる

2.「自分基準」で生きる

3.賢く自由に「お金」とつきあう

4.仕事をたしなみ、未来をつくる

5.ストレスフリーで楽しく過ごす

 

「何よりも自分のアイデンティティを大切にしながら無理せず働き、ネガティブな要素になるものとは距離を置いて、自分が心地よい範囲内で生きていきましょう」という方向性だ。周囲から押し付けられる思いで自分を縛ることもない。

 

完全に自分らしくある覚悟

この本は、欲との向き合い方として読むのも正しいかもしれない。そのニュアンスは、次の文章に表されていると思う。

 

毎日を気分よく楽しく過ごし、おいしいものを食べて、できる限り長い時間を自分の好きなことに使って過ごしたい。それを実現するためには、世間で言われる「あるべき論」も、ちょっとだけゆるく解釈すればいいじゃないか、これが私の基本的な考え方です。

『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』より引用

 

筆者は、ちきりんさんの考え方を全面的に認める。だって、ずっとそう生きてきたから。いくつか職を経て32歳でフリーランスライターになったとき、ある人から「毎日が日曜日みたいな生活」と言われ、「ああ、世間からはそう見えるのね」と感じさせられることもあったな。

 

とあるツイートの話

ごく最近、とあるハローワークの相談員さんの言葉に関するツイートが話題を集めた。

 

「もっと無責任で、いい加減に生きなよ!嫌なら初日で辞めな!いろんな職場見て、自分に合うところが見つかるまで転々としたって全然いいんだよ、自分の人生なんだから周りの意見なんて聞きすぎちゃダメだよ!」

ハンドルネームりんごさんのツイートより

 

世の中は、ちょっとずつ変わってきてるんだろうか。副業という働き方、45歳定年制、FIRE…。生きるということにおいて比較的大きな側面である働き方にも、さまざまな選択肢が増えつつある。そんな中、この本はさまざまな要素の優先順位を決めていく方向性を的確に示してくれる。

 

コロナは、テレワークというこれまでとはまったく異質な働き方を日本社会にもたらした。こうした働き方が定着したとは言いがたいが、それなりに手ごたえや手がかりを感じている人も少なくないはずだ。自分という存在をとりまくさまざまなことがらについて、もっとゆるく考えてみる。今が絶好のタイミングかもしれない。

 

【書籍紹介】

ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法

著者:ちきりん
刊行:イースト・プレス

「仕事やお金や人生設計に関して、もっと自由に発想し、もっと合理的に判断できれば、今という時間を楽しむことを、もっと優先する生き方ができるはず…そう考えてこの本を書きました」(「文庫化に寄せて」より)世の中が大きく変化していく中で、どう考え、どう生きていけばいいのか。「世の中」「お金」「働き方」についての具体的で実用的な考え方が満載。日本一影響力を持つブログ「Chikirinの日記」の著者によるベストセラーが遂に文庫化。

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「ほくほく楽しい秋のおいもレシピ」月刊テレビテキスト「上沼恵美子のおしゃべりクッキング2021年10月号」

テキストオリジナルの特集は「ほくほく楽しい秋のおいもレシピ」。月刊テレビテキスト「上沼恵美子のおしゃべりクッキング2021年10月号」が発売中。

 

 

この号は、おうちでアウトドア気分が楽しめる「キャンプ飯」、アスリートのように栄養を考えた「バランスごはん」など、今までにないようなちょっとユニークなレシピが登場。また、栗、きのこ、さつまいも、さんまなど「秋の味覚」たっぷりの週も。10月4~8日の「ご飯があれば」の週は久しぶりのゲストで北斗晶さんが登場します。ぜひ番組とテキスト、合わせてお楽しみください。

 

9月27日-10月29日放送の5週分のレシピを掲載!

■テレビテキスト

9/27→10/1放送 テーマ「キャンプ飯」
鶏のイタリアンロースト/潮煮込みうどん/肉まんパン/
豚肉と玉ねぎのポットロースト/鮭ときのこのホイル焼き

10/4→10/8放送 テーマ「ご飯があれば」
きつね混ぜご飯/えびチリドリア/やきやきチーズピラフ/
いかマグロ丼/かにかまチャーハン

10/11→10/15放送 テーマ「バランスごはん」
具だくさんのとろろ汁/リヨン風サラダ/うなぎのニラ玉/
元気もりもりスパイシーカレー/鶏とかぼちゃのXO醤蒸し

10/18→10/22放送 テーマ「簡単スピードメニュー」
春雨のうま煮/鶏のガーリック焼き/いかのカプレーゼ風/
豚肉の玉ねぎ風味/厚揚げとあさりの蒸し煮

10/25→10/29放送 テーマ「秋の味覚」
ほっこり栗おこわ/きのこのカルボナーラスープ/鶏とさつまいもの炒めもの/
さんまのわた焼き/栗と豚肉のパスタ

ほくほく楽しい秋のおいもレシピ

おいもがおいしい季節。さつまいも、じゃがいも、さといも、長いもと、持ち味を生かしながら、個性的な使い方や味を、辻調理師専門学校の先生方のレシピで紹介します。
おいもご飯、さつまいもと鶏の煮込み、焼きえびいもの鶏あんかけ、まぐろのごまとろろ、じゃがいもの揚げ団子 他

 

好評連載「旬の野菜でもう1品!」は、かぶ、れんこん他のレシピを紹介

料理研究家・本田明子さんのレシピで毎号、季節の野菜おかずを紹介する人気のコーナー。 今月は、かぶ、れんこん、さといも、りんご、いちじくと、秋の食材たっぷりのレシピを紹介します。「いつもある野菜」で作るレシピを紹介するコーナーは、じゃがいもレシピ。みんなの大好きな定番の肉じゃがのレシピも登場します。
かぶとつくねのみそ煮、れんこんハンバーグ、揚げさといもの四川風煮、ホットアップルトースト、薄切りハッシュドポテト 他

[商品概要]

上沼恵美子のおしゃべりクッキング21年10月号

著者: ABCテレビ 辻調理師専門学校
特別定価: 520円 (税込)

 

【本書のご購入はコチラ】
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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1229670732

覚えていますか? あの名選手たちはどうやって引退したのかを——『現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』

人間、いつかは終わりを迎える。その究極が「死」だが、もうひとつ象徴的なのが「引退」だろう。それは会社員ならば定年かもしれないし、僕のようなフリーランスならば「もう仕事やーめた」と言ったときかもしれない。

 

「引退」の文字が取り上げられることが多いのが、プロ野球選手だ。特に名選手と呼ばれている選手が引退するときには、何かしらのドラマがあるものだ。

プロ野球選手の「最後の1年」

現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』(中溝康隆・著/新潮社・刊)は、プロ野球選手が引退する最後の1年にフォーカスを当てた書。名選手の場合、その全盛期の活躍に目が行きがちだが、意外と辞める年のことは記憶になかったりする。

 

長嶋茂雄、王 貞治、ランディ・バース、門田博允、村田兆治、原 辰徳などなど、往年の名選手の最後の1年について書かれている。全盛期と変わらぬ成績を残しながら、きれいに引退することを望んだ選手、ボロボロになるまで戦い抜いた選手、それぞれの引退にまつわるエピソードが綴られていて、興味深い。

 

かなり有名な選手ばかりなので、長年プロ野球ファンを営んでいる人たちにとっては知っている内容は多いものの、引退にまつわる苦悩やいきさつなどが改めて知ることができておもしろい。

 

名プロ野球選手の心に残る名言

本書には、各選手が発した言葉が数多く掲載されている。そのなかでも印象深いものをいくつか紹介しよう。たとえば、読売ジャイアンツの主軸として活躍したヤッターマン中畑 清。現在も野球解説者として活躍している彼だが、とても義理人情に厚い一面がある。当時のチームメイト、定岡正二とかなり山奥の過疎の村にサイン会に出かけた。定岡は、都内のデパートでやればいいじゃないかと不満をもらしたとき、中畑はこう言う。

 

「うん、サダ。ここはな、オレがまだ一軍で活躍していないころ、最初に呼んでくれたところなんだ。だから、ここだけは大切にしたいんだ」

(『現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』より引用)

 

昭和の浪花節を感じさせるいい話だ。

 

また、マサカリ投法で有名なロッテオリオンズのエース、村田兆治は、引退する年に26試合登板し10勝8敗2セーブ、防御率4.51という成績。、あと2、3年くらいは現役でできそうな感じだが、40歳のこの年にスパッと引退する。引退直後に出版された『剛球直言』(小学館・刊)でこのように真情を吐露しているという。

 

「余力を残してマウンドを去ることがエースの美学だ」

(『現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』より引用)

 

50歳を過ぎても130kmを超える投球をしている村田兆治らしい発言だ。

 

未完の大器、長嶋一茂

本書に登場している選手の中で、話題性だけ高くてあまり活躍できなかった選手も含まれている。それが長嶋一茂。そう、ミスタープロ野球長嶋茂雄の息子だ。

 

その素質は父親譲りと言われていたが、結局花開くことなく未完の大器のまま現役を引退。パニック障害やそれに伴う過呼吸症候群の疑いがあったりと、かなり精神的にやられていたそうだが、個人的には父親譲りのエピソードがおもしろい。

 

中学生の時に、父親が読売ジャイアンツの監督を辞任(事実上の解任)。一茂は「オヤジの敵討ちは自分でやる」と決め、「リベンジ」という文字を鉛筆やカバン、廊下の壁にカッターナイフで彫ったという。また、プロ入り2年目には、遠征のときにスリッパのまま車を運転してきたそうで、このあたりは、まさに長嶋2世といった感じだ。

 

やっぱり惜しまれつつ引退したい

プロ野球選手は、なるのも狭き門だが、多くのファンに惜しまれつつ引退する選手はそれこそほんの一握りだろう。この本を読んでから、もし自分がフリーライターを辞めると宣言したら、みんなが惜しんでくれるだろうかと考えてしまう。

 

世間にはあまり知られてないフリーライターだが、できれば仕事関係の人たちには「もったいないね」と言われるくらいにはなっておきたいものだ。

 

【書籍紹介】

現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」

著者:中溝康隆
発行:新潮社

華やかに有終の美を飾るか、静かに去り行くかーー。長嶋、王、江川、掛布、原、落合、古田、桑田、清原など、24人のラストイヤーをプレイバック。意外と知られていない最晩年の雄姿。その去り際に、熱いドラマが宿る!

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覚えていますか? あの名選手たちはどうやって引退したのかを——『現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』

人間、いつかは終わりを迎える。その究極が「死」だが、もうひとつ象徴的なのが「引退」だろう。それは会社員ならば定年かもしれないし、僕のようなフリーランスならば「もう仕事やーめた」と言ったときかもしれない。

 

「引退」の文字が取り上げられることが多いのが、プロ野球選手だ。特に名選手と呼ばれている選手が引退するときには、何かしらのドラマがあるものだ。

プロ野球選手の「最後の1年」

現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』(中溝康隆・著/新潮社・刊)は、プロ野球選手が引退する最後の1年にフォーカスを当てた書。名選手の場合、その全盛期の活躍に目が行きがちだが、意外と辞める年のことは記憶になかったりする。

 

長嶋茂雄、王 貞治、ランディ・バース、門田博允、村田兆治、原 辰徳などなど、往年の名選手の最後の1年について書かれている。全盛期と変わらぬ成績を残しながら、きれいに引退することを望んだ選手、ボロボロになるまで戦い抜いた選手、それぞれの引退にまつわるエピソードが綴られていて、興味深い。

 

かなり有名な選手ばかりなので、長年プロ野球ファンを営んでいる人たちにとっては知っている内容は多いものの、引退にまつわる苦悩やいきさつなどが改めて知ることができておもしろい。

 

名プロ野球選手の心に残る名言

本書には、各選手が発した言葉が数多く掲載されている。そのなかでも印象深いものをいくつか紹介しよう。たとえば、読売ジャイアンツの主軸として活躍したヤッターマン中畑 清。現在も野球解説者として活躍している彼だが、とても義理人情に厚い一面がある。当時のチームメイト、定岡正二とかなり山奥の過疎の村にサイン会に出かけた。定岡は、都内のデパートでやればいいじゃないかと不満をもらしたとき、中畑はこう言う。

 

「うん、サダ。ここはな、オレがまだ一軍で活躍していないころ、最初に呼んでくれたところなんだ。だから、ここだけは大切にしたいんだ」

(『現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』より引用)

 

昭和の浪花節を感じさせるいい話だ。

 

また、マサカリ投法で有名なロッテオリオンズのエース、村田兆治は、引退する年に26試合登板し10勝8敗2セーブ、防御率4.51という成績。、あと2、3年くらいは現役でできそうな感じだが、40歳のこの年にスパッと引退する。引退直後に出版された『剛球直言』(小学館・刊)でこのように真情を吐露しているという。

 

「余力を残してマウンドを去ることがエースの美学だ」

(『現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」』より引用)

 

50歳を過ぎても130kmを超える投球をしている村田兆治らしい発言だ。

 

未完の大器、長嶋一茂

本書に登場している選手の中で、話題性だけ高くてあまり活躍できなかった選手も含まれている。それが長嶋一茂。そう、ミスタープロ野球長嶋茂雄の息子だ。

 

その素質は父親譲りと言われていたが、結局花開くことなく未完の大器のまま現役を引退。パニック障害やそれに伴う過呼吸症候群の疑いがあったりと、かなり精神的にやられていたそうだが、個人的には父親譲りのエピソードがおもしろい。

 

中学生の時に、父親が読売ジャイアンツの監督を辞任(事実上の解任)。一茂は「オヤジの敵討ちは自分でやる」と決め、「リベンジ」という文字を鉛筆やカバン、廊下の壁にカッターナイフで彫ったという。また、プロ入り2年目には、遠征のときにスリッパのまま車を運転してきたそうで、このあたりは、まさに長嶋2世といった感じだ。

 

やっぱり惜しまれつつ引退したい

プロ野球選手は、なるのも狭き門だが、多くのファンに惜しまれつつ引退する選手はそれこそほんの一握りだろう。この本を読んでから、もし自分がフリーライターを辞めると宣言したら、みんなが惜しんでくれるだろうかと考えてしまう。

 

世間にはあまり知られてないフリーライターだが、できれば仕事関係の人たちには「もったいないね」と言われるくらいにはなっておきたいものだ。

 

【書籍紹介】

現役引退―プロ野球名選手「最後の1年」

著者:中溝康隆
発行:新潮社

華やかに有終の美を飾るか、静かに去り行くかーー。長嶋、王、江川、掛布、原、落合、古田、桑田、清原など、24人のラストイヤーをプレイバック。意外と知られていない最晩年の雄姿。その去り際に、熱いドラマが宿る!

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創刊40周年スペシャル号!カメラ愛あふれる岡田准一さんのインタビューも必見!!「CAPA 10月号」

「CAPA 10月号」は、写真家40名の名作と思い出カメラが大集合。カメラ愛あふれる岡田准一さんのインタビューも必見の創刊40周年スペシャル号!

 

【特集】写真家40人の名作を生んだカメラたち

1981年の創刊から40年間の毎号、 『CAPA』ではプロの写真家の傑作写真が誌面を飾ってきました。 そして、 それらの写真は時代を彩った名作カメラの数々から生み出されてきました。 創刊40周年を記念する本特集は、 40人の写真家の名作写真と、 その写真を撮影したカメラのエピソードを大特集。 写真が伝える豊かなメッセージと、 カメラが本来持っている表現できる道具としての楽しさを再発見してください。

 

キヤノンEOS R3 最上の「R」登場! 話題のスーパーミラーレスの全貌が明らかになる!

今年4月に開発発表されたキヤノンのフルサイズミラーレス、 EOS R3が遂に正式発表されました。 最先端の裏面照射積層CMOSセンサーを搭載し、 超高精度AFと高速連写を実現。 さらには、 話題の「視線入力機能」も備え、 まさに未来を先取した超高性能カメラに仕上がっています。 そんなスーパーミラーレスの実力を、 実写を交えていち早くレポートします。

 

全16ページで写真家・岩合光昭氏に迫る!

『世界ネコ歩き』でおなじみの動物写真家・岩合光昭さんが登場。 コロナ禍になってから本格的に取り組み始めた飼い猫2匹のあまりに可愛すぎるショットの数々や、 ロングインタビューで岩合さんが写真を通じて‟伝えたいこと”をじっくり探っていきます。

 

表紙を飾った岡田准一さんが愛機とともに登場
スペシャルインタビューではアツいカメラ愛を語る

ニューモデルレポートでは、 リコーGRIIIxと富士フイルムGFX50SIIのほか、 キヤノン、 ニコン、 パナソニック、 シグマ、 タムロンなどの新レンズを紹介。 秋の風景テクニックでは、 悪天候を逆手にとって鮮やかな色彩を引き出す「潤いの紅葉撮影 新PL活用術」をお届け。 人気グラビア連載「Momoco写真館、 ふたたび」では、 1984年デビューの3人組アイドルグループ・少女隊の未掲載カットも公開します。

 

[商品概要]

CAPA2021年10月号

著者: CAPA編集部
定価: 1200円 (税込)

 

【本書のご購入はコチラ】
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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1229666793

いま人気沸騰中のヤギ。その飼い方から撮影のコツまでを網羅した『ヤギ飼いになる New edition!』

「ヤギ飼い」というと、多くの人は「アルプスの少女ハイジ」に出てくるペーターを思い出すことでしょう。ペーターは毎日村人達のヤギをまとめ、山に連れて行く仕事をしていました。そして実は、現代の日本で、ヤギの飼養頭数が増加しているのです。なぜ、今、ヤギが人気なのでしょうか。

ヤギの頭数1.5倍増

2011年から2018年の間、日本で飼養されているヤギの飼養頭数は約2万頭から約3万頭へと1.5倍も増加しています(農林水産省「めん羊・山羊をめぐる情勢」(令和2年)調べ)。

 

約1万2千頭と圧倒的シェアを誇っている沖縄や、九州地方ではヤギは肉食用で、それ以外の地域は乳用が多いとのこと。沖縄料理では豚肉以外にヤギ肉も使われ、専門店もあるそうなのです。

 

飼いやすく助けになるヤギ

食用ではなくヤギと暮らすことを選ぶ人も増えています。以前、東京都内の住宅街で、ペットのヤギを散歩させている人を見かけて驚いたことがあります。かつては渋谷にもヤギがいるカフェがありました。のどかな姿を眺めているだけで時間はあっという間に過ぎたのですが、今はもう引退されています。

 

また、立川駅北口の空き地でヤギたちが雑草をはべっていたこともありました。ヤギたちは除草作業のためにいたのですが、道ゆく人たちが眺めたり写真を撮ったりとしばしの間、癒しの存在になり、元の牧場に戻る際にはお別れ会が開かれたほどの人気でした。

 

ヤギはニワトリと並んで自給自足生活を送る際の助けになる家畜だとも言われています。ニワトリからは卵が、ヤギからは乳がとれるからです。牛よりもずっと小柄で飼いやすいうえに除草までしてくれる働きものなので、田舎暮らしの相棒として飼われることも多いのだとか。

 

ヤギのいる暮らし

ヤギ飼いになる New edition!』(ヤギ好き編集部・著/誠文堂新光社・刊)は、1冊まるごとヤギと暮らすための本です。子ヤギの時から高齢時までのお世話の方法がレクチャーされ、なりやすい病気リストや困った時の問い合わせ先リストまで付いている、とても親切なつくりになっています。

 

目を奪われるのは、随所に並んだ写真の可愛らしさ! 実際にヤギを飼っている人たちを訪ね、日常の光景を綴っているのですが、まるで飼い主に笑いかけているかのような表情豊かな画像が多く、ヤギ愛に溢れていて、ほっこりします。

 

ヤギ撮影のコツ

動物園などでヤギを撮影しようとすると、まぶしそうに目を細めている顔になってしまい、あまり可愛く撮れないことが多いのですが、本書ではそれについてもしっかり説明がされています。明るいところではヤギの瞳孔は細くなってしまうのだそうです。

 

黒目がちな愛らしい顔を撮るには、夕方や曇りの時など、光が弱まっている時を狙うと良いそうです。本の表紙のヤギがまさにそんな感じのくりくりした瞳をしています。曇りの時に黒目に白っぽい空が映り込むようにして撮れば瞳が潤んで輝いて見えると、細かなアドバイスもありました。

 

ヤギがいるところ

草の上でのんびりとまどろむヤギの画像を見つめているうちに、実際に会いに行きたくなる人もいることを見越しているのでしょう、本書にはヤギ牧場やヤギのいる宿泊施設や飲食店も紹介されています。ヤギの乳やチーズは通販もされているので、一度試してみたくなってしまいます。

 

ヤギを大切に思って作られたであろうこの本は「もし私がいつかヤギを飼ったら……」という楽しい空想をも与えてくれます。気持ちを遠い高原に飛ばし、隣には白く温かいヤギが寄り添ってくれていることを思い浮かべるだけで、心が和らぎ、ひとときの幸せに浸ることができるのです。

 

【書籍紹介】

 

ヤギ飼いになる New edition!

著者:ヤギ好き編集部
発行:誠文堂新光社

自然の多い田舎のカフェやレストラン、体験ができる農家などで、ヤギを見かける機会が増えました。そういう場所でヤギに触れ、ヤギの魅力にはまっている人も多いはず。ヤギは、ミルクが取れ、除草の手助けもしてくれて、そして伴侶動物として何よりかわいく、私たち人間にとって、とってもとっても優秀な動物なんです! そんなヤギの魅力と実際に飼うにはどうしたらいいのかを、かわいい写真をたくさん交えて紹介します。

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待望の復刊!あの「ビックリマン」ブームとは何だったのか?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。40代にとって懐かしいものはいろいろあります。ゲーム&ウオッチにファミコン、キン消しにミニ四駆……。中でも私の記憶に刻まれているのが「ビックリマンチョコ」です。ロッテのウエハースチョコのおまけに付いてくるシールが、80年代末に子どもたちの間で大ブームとなりました。私はお小遣いが少なくてたまにしか買えず、シールを束で持っている子を見ては指をくわえていたものです(笑)。

シールがひときわ輝いていた時代

今回の物語消費論 「ビックリマン」の神話学』(大塚 英志・著/星海社新書)は、“ビックリマン”とは何なのかを考察した新書。1989年に刊行された本を復刊したもので、雑誌「本の雑誌」や出版業界専門紙「新文化」などで発表されたエッセイがまとまっています。

 

現在につながる「おたく文化」の分析が緻密になされた硬派な批評本であると同時に、復刊ということもあり、「当時はこうだったな」と懐かしく思い出せるタイムカプセル的な一冊でもあります。

著者の大塚英志さんはマンガ原作者・批評家。マンガの原作者としては『多重人格探偵サイコ』『リヴァイアサン』など人気作多数。また批評家としても鋭い視点に定評があり、「おたく文化」への造詣が深いことでも知られています。

 

「ビックリマン」と「マハーバーラタ」

第1章「物語消費論ノート」は、本書のキーワードとも言える「物語消費」について書かれたパート。「ビックリマンチョコ」の消費者である子どもたちは袋を開けてビックリマンシールを取り出し、ためらいなくチョコを捨てることも……。それでは何が消費の対象となっているのか? そんな問いから始まります。

 

シールの裏には「悪魔界のウワサ」と題される短い文章が印刷され、いくつかを組み合わせると天使と悪魔の抗争など「小さな物語」が見えてきます。さらにそれらを積み上げることで神話を連想させる「大きな物語」が浮かんでくる……。子どもたちはこの「大きな物語」に惹かれ、チョコを買っているという分析がなされます。

 

個人的な記憶を振り返ってみても、確かに「ヘッドロココ」や「サタンマリア」に天使界・悪魔界での深いいきさつがあるような気がして、シールを眺めながらいろいろ想像していました。

 

第2章に収録されたエッセイでは、古代インドの長大な叙事詩「マハーバーラタ」と「ビックリマン」の類似性が示されます。「マハーバーラタ」は血を分けた2つの王家の抗争を描いていますが、実は登場する英雄たちが神の化身であり、王族たちの戦いは神の聖戦だった……という内容です。

 

片や「ビックリマン」も聖と邪に分かれた双子の兄弟、スーパーゼウスとブラックゼウスの勢力が争う内容。子どもたちは神話的世界の断片を入手し、最終的にその世界の全体像を把握する。「商品の実態はシールでも、ましてやチョコレートでもなく、〈神話〉そのものであったのである」。

 

こうした「ビックリマン」論以外にも、「キャプテン翼」の同人誌と引用文化、マンガ「ファイブスター物語」の年表に見る架空歴史人気、「SDガンダム」という複製によって再生する「機動戦士ガンダム」……など当時のサブカルに言及したエッセイも収録され、読み応えたっぷり。今と当時を比べて、流行っているものは別物でも、その消費の本質はあまり変わっていないことがわかります。

 

ちなみに、「ビックリマン」はすっかり過去の物というわけではなく、この6月には「ビックリマン 悪魔VS天使」の新弾(第35弾)が登場しています。「鬼滅の刃」や人気YouTuberとのコラボも行われるなど、新しい層にもアピールする「ビックリマン」。壮大な神話はまだ続いているのです。

 

秋の夜長、ノスタルジーとともに、消費と物語の関係について思いを巡らすのはいかがでしょうか。

 

【書籍紹介】

『物語消費論 「ビックリマン」の神話学』

著者:大塚英志
発行:星海社

現代おたく文化論の原点を成す物語消費論がこの一冊に! 本書は「物語消費」という概念を新たに提示した記念碑的な消費社会論である。かつて80年代の子供たちを虜にした「ビックリマンチョコ」は、チョコレートとしての商品価値ではなく、その背後に存在する「物語」によって人気を爆発的なものにした。商品の消費を通じて日本中に広がっていく都市伝説や、「小さな物語」としての同人誌文化など、現代に続く80年代当時の様子が生々しく浮かび上がる歴史を記録した一冊であるとともに、「モノ」と戯れ続ける消費社会の行き着く先を大塚英志が予見した、批評史においても画期を成す一冊である。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

祝・通巻500号『月刊 BOMB』は、AKB48オールメンバーサイン入りチェキも当たる超豪華号!

1979年から発売され、創刊42周年を迎えたアイドル誌『月刊 BOMB』が、今月ついに通巻500号を達成! 80年代を彩った松田聖子さんや、おニャン子クラブ、さらには平成のグラビアアイドル界を支えた広末涼子さんや優香さん、そしてAKB48グループのメンバーたちや坂道グループのメンバーと、昭和・平成・令和とこれまでに数多くのアイドルたちが表紙を飾ってきました。

 

記念すべき500号の表紙は、AKB48の岡田奈々さん&村山彩希さん&下尾みうさんの3人。夏らしいさわかやな水着でお祝いしてくれていますよ〜♪

 

グラビアもプレゼントも豪華すぎるAKB48尽くし

今回のBOMBは、AKB48が48ページにわたって特集されている超特大号になっています。綴じ込み付録には光沢フォトメッセージカードと、別冊付録に両面超BIGポスターが2枚(4種類の写真が楽しめます)もついてくるんです!

両面超BIGポスター

 

光沢フォトメッセージカード

 

さ・ら・に!

 

AKB48の大特集号だけあって、先日卒業を発表されたAKB48のゆいはんこと横山由依さんも含んだオールメンバー89名全員のサイン入りチェキが当たるプレゼント企画も実施。

 

全メンバーに

 

Q1 あなたの好きな言葉は?

Q2 あなたの好きな食べ物は?

Q3 読者のみんなにおすすめの500円で買えるお気に入りのものを教えて!

Q4 あなただけが知っているAKB48メンバーの噂ってナニ?

 

という4つの質問が行われ、チェキ画像と共に全員分の回答が掲載されています。もうこのページは、眺めているだけでも面白い(オムライスが好きと答えているメンバーが多い気がする……笑)。特に「Q4」の回答は、ここだけのネタがたくさん語られていますよ。「そんなこと言っていいの?」なんて話もあったので、ファンの方は見逃せません!

 

さすが老舗アイドル雑誌! 女の子たちのかわいいが詰まっている……!

私にとってこの『月刊 BOMB』の通巻500号は、人生初のアイドルグラビア誌だったのですが、癒し効果がすごかったです(笑)。勝手ながら「ちょっとエッチな感じなのでは?」なんて思っていたのですが、めちゃくちゃかわいい! 美しい!!

 

とくに、19歳の同い年コンビでグラビアを飾ったゆいゆい(小栗有以)とずっきー(山内瑞葵)の2人は最高でした。ルージュを口元にあてて、まさに10代のあどけなさから20代のオトナへとステップアップしちゃう感じが表現されていて、月刊誌を読んでいる感覚を忘れるくらいグッと来てしまいましたね〜。

 

 

Twitterなど公式ショットで紹介されているグラビアも見所満載ですが、ぜひこのルージュショットは『月刊 BOMB』を購入してお確かめいただきたいっ!!!(激推し)

 

また写真だけでなく、二人の仲良し対談も掲載されています。お互いの印象や、ハタチになったらやりたいことなども素直な言葉で語られているので、じっくり写真を眺めながら対談も楽しめます。ちなみにこの二人はTSUTAYA限定版の表紙になっています!

 

通常版とTSUTAYA限定版、お好きな方をチョイスしてみてくださいね!

 

この内容で、この価格はめっちゃお得でしょ!

ちなみに『月刊 BOMB』は、オールカラーの月刊誌で価格はなんと1098円(税込)。いやいや、安すぎでは?(笑)

 

また通巻500号には、これまでご紹介したAKB48メンバーだけでなく、女優の奥山かずささん、さくちんこと安藤咲桜さん、人気ドラマ『彼女はキレイだった』(フジテレビ系列)にも出演されていた吉田莉桜さんのグラビア&インタビューが掲載されています。どのグラビアもそれぞれのテーマに沿ったシチュエーションで撮影されていて、とにかく美しかったです。

 

「かわいい女の子を愛でる」というのは、こんなにも尊い行為だったのか……と実感するとともに、美しい写真を見せていただいたことに感謝の気持ちすらわいて来ました(笑)。『月刊 BOMB』さん、本当にありがとう! そして500巻おめでとうございます!

 

今年の夏はぱ〜っとできなかったなぁ、夏っぽいことできなかったなぁ、と少し気持ちが落ち込んでいる方はぜひ『月刊 BOMB』で元気を貰っちゃってください。自粛で海に行けなくても、ページを開けば水着の女の子たちがかわいい笑顔を見せてくれますぞ。

 

【書籍紹介】

月刊 BOMB 2021年10月号

発行:ワン・パブリッシング

BOMB10月号は通巻500号記念! 9月29日(水)に1年半ぶりのシングル『根も葉もRumor』をリリースするAKB48が表紙巻頭に登場!

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野村克也が「没イチ」になって語った夫婦愛——『なにもできない夫が、妻を亡くしたら』

夫に先立たれた妻を「未亡人」と呼ぶことは知っていた。では、妻が先に亡くなり取り残された夫を何と呼ぶのだろう。疑問に思っていたら、最近は男女を問わず「没イチ」と呼ぶのだと教えてもらった。高齢化社会を迎えた私たちにとって、「没イチ」後の生活をどう生きるかは大問題だ。夫婦が同時に死を迎えるのは、極めて希なケースであり、いつかはその日が来ると、妻も夫も覚悟しなければならない。

猛烈な妻を持った夫

なにもできない夫が、妻を亡くしたら』(野村克也・著/PHP研究所・刊)は、妻を亡くした野村克也が、「没イチ」となった後の思いを正直に綴った「告白の書」だ。今さら言うまでもないが、野村克也は選手としてだけでなく、プロ野球4球団の監督を歴任し、独特の手法で選手を育て、チームを優勝に導くなど輝かしい功績を残している。評論家としても有名で、講演会の演者として引っ張りだこだった。

 

そして、何より恐妻家として知られ、妻のサッチーこと沙知代さんに頭が上がらないと自ら認めていた。日常生活では何もかも妻に頼り切りだったのだ。

 

著者がそんな妻の死にどんな風に向き合ったのか? 誰もが知りたいところだろう。私もそう思いながら、『なにもできない夫が、妻を亡くしたら』を開いた。そして、最初の1行で心をわしづかみにされた。

 

二〇一七年一二月八日──。
私は「ひとり」になった。

(『なにもできない夫が、妻を亡くしたら』より抜粋)

 

「妻が亡くなった」とか、「妻が亡くなったのは、二〇一七年一二月八日だった」ではなく、私は「ひとり」になったと始まる。すさまじいまでの孤独を感じるオープニングで、このあと読み進もうかどうしようか迷ったほどだ。

 

沙知代夫人は、猛烈なキャラクターの持ち主として知られていた。かつては毎日のようにテレビに出演し、1996年には衆院選に立候補して、一躍、時の人となった。こうして華やかな取り上げ方をされる一方で、学歴詐称や脱税問題、周囲との激しい軋轢など、非難の矢面にも立たされた。夫である野村克也は良いときも悪いときも、妻の味方だった。裏切られたと知ったときでさえ、「自分には沙知代しかいない」とかばい続けた。

 

著者が妻に望んだことはただひとつ、自分より先に死なないで欲しいということだった。

 

自分から野球を取ったら何も残らない。自分の体は野球でできている、そう思っていた彼にとって、妻は何よりも頼りになる存在だった。彼は財布さえ持っておらず、必要なものはクレジットカードで買うように命じられていたそうだ。自分で稼いだお金が入っているのに、キャッシュカードの暗証番号さえ教えてもらえない。すべては妻が管理していたからだ。「あんたに渡すと女に使うと言われるんだよ」などとぼやきながらも、結局は受け入れていたところをみると、まかせておくほうが安心で安全だと思っていたに違いない。

 

野球界を引退してから、野村克也は日本全国で講演会を行う人気者だった。それも、妻の沙知代が仕事を引き受けては、「あんた、頑張りなさい」と、はっぱをかけ続けていたためだという。本来、口べたで人前で話すのは苦手だったそうだが、妻は「仕事が来るだけ有り難いでしょ」と言うだけだ。疲れるし、嫌だと思いつつも、講演を続けるうちに段々コツを覚えていった。そのうち、妻の言うとおりだ、仕事があるのは有り難いことだ、感謝しようと思うようになった。

 

このまま死ぬまで、妻の尻に敷かれて生きていこう。著者はそんな風に思っていただろう。そもそも、女性は平均寿命が男性より長い。まして、沙知代夫人は健康に問題もなく、人生を謳歌しているように見えた。それなのに……。

 

突然の別れ

別れは突然だった。

 

昼過ぎのことだった。リビングでテレビを観ていると、お手伝いさんがあわてたようにやってきて、叫んだ。
「大変です!奥さんの様子がおかしいです」。
驚いてダイニングに向かうと、朝食をとっていた妻が椅子に座ったままテーブルに頭をつけていた。

(『なにもできない夫が、妻を亡くしたら』より抜粋)

 

最後の言葉は「大丈夫よ!」だったそうだ。救急隊員が駆けつけ病院に運ばれたが、亡くなってしまった。虚血性心不全による死だった。

 

あまりにも突然で看病する間もなく、妻の死を覚悟することさえできないままに、野村克也は妻を喪った。突然の、あまりにあっけない別れだった。

 

それでも、妙なことはあったという。昼ごろ、妻が突然「左手を出して。手を握って」と頼んだのだそうだ。滅多にそんなことを言わないので、戸惑いながら手首を握ったという。何か予感があったのかもしれないが、夫からしたら納得できない。

 

85歳という年齢ながら、元気いっぱいの妻。健康診断でも異常なしの妻。前夜も一緒にホテルで食事をしたばかりだ。そんな彼女が亡くなるなんて、誰にも想像できなかっただろう。

 

しかし、それは起こり、あとには突然「没イチ」となった野村克也が取り残された。あれほど「おれより先に逝くなよ」と頼んでいたのに。

 

もっとも、沙知代さんはその願いに素直にうなづいたりすることはなく、「そんなの、わからないわよ!」と答えていたそうだ。彼女は最期は「ピンピンコロリが理想」とも言っていたというので、理想通りの死を迎えたのだろう。

 

寂しくてたまらない

妻を亡くし、ひとり暮らしになっても、野村家には家政婦さんがいて、家事一般の世話をしてくれるため、実際の生活で困ることはほとんどなかった。加えて、息子さん夫婦が同じ敷地の中に家を建て、一緒に住んでいたので、何かと心強かった。

 

それでも、妻が亡くなった家で、著者は呆然としている自分を発見する。寂しいのだ。とにかく寂しくてたまらない。待っている人のない家に帰るのがつらい。それまで、特にいそいそと家に帰っていたわけではなかった。会話が多かったわけでもない。40年以上も夫婦をしていると、それほど話すことなどない。夫婦とはそういうものだろう。

 

野村家も表面上は、ふたりで暮らしていたときと変わらない毎日だ。しかし……。

 

同じ家のなかに彼女がいるかいないかで、まったく違うのである。顔は見えなくても、声はしなくても、同じ空間のなかに彼女がいることで、安心するというのか、心が休らいいでいたのだということを、ひとりになって改めて痛感した。

(『なにもできない夫が、妻を亡くしたら』より抜粋)

 

考えてみると、我が家も今年で結婚41年だが、たいした会話をしていない、どちらかが一方的に必要なことを話すだけだ。それも内容は業務連絡的なことが多い。最近は私が何か話しかけても、八割方「ちょっと待ってて。今忙しい」と、言われる。しばらくして、「何?」と聞かれても、今度はこちらが何を言うか忘れていたりする。いずれにせよたいした話ではなく、そのまま静かに日々は過ぎて行く。我が家でも、どちらかが「没イチ」になったとき、ひとりになるとはどんなことか、実感するのだろう。

 

没イチになってからの生き方

妻亡き後も、野村克也は一生懸命に生きた。

 

寂しさは克服できないままだったが、ひとりになってからは、何かあると妻ならどうしただろうと考えるようにした。さらには、これから先、自分がどう生きるかについても考えた。できることなら、仕事をしたまま逝きたい。それがひとりになった野村克也の生きる指針であり、「没イチ」としての生き方だった。そして、妻の死から2年2か月後、2020年の2月11日、野村克也は亡くなった。お風呂の中でぐったりしているのを発見され、すぐに病院に運ばれたものの、そのまま帰らぬ人となった。

 

『なにもできない夫が、妻を亡くしたら』には、ぼやきで有名だった故人特有のユーモアあふれる言葉が並んでいる。先に逝ってしまった妻に「なぜ置いていったのか」という悲しみをぶつけながらも、「良い奥さんだった」という感謝がつまっている。妻が生きているときには言えなかった言葉を綴ったラブレターのようだ。私たちは、ひとりになったとき、果たして互いにラブレターのような言葉を並べることができるのだろうかと考えてしまう。「没イチ」になった方はもちろんのこと、ふたりでいるのが普通だと思っている夫婦にも、様々な問いを投げかける本だと思う。

 

【書籍紹介】

 

なにもできない夫が、妻を亡くしたら

著者:野村克也
発行:PHP研究所

2017年末、最愛の妻・沙知代さんが85歳で逝った。普段は財布も持たず、料理もしない「なにもできない夫」が、妻を亡くしたらどうすればよいのかー。「その日」はどんな夫婦にもやってくる。大切なのはそれまでに、支えとなる「ふたりのルール」を作っておくこと。野村家で言えば、それは「死ぬまで働く」「我慢はしない」「どんな時も『大丈夫』の心意気を持つ」などである。世界にたった1人の妻への想い、45年ぶりに訪れたひとり暮らし…。球界きっての「智将」が、老いを生きる極意を赤裸々に語る。巻末に曽野綾子氏との「没イチ」対談を収録。

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城好き必読! 舞台裏も公開! 城郭イラストの第一人者と城郭研究家が語る復元イラストの魅力

『歴史群像』の人気連載「戦国の城」の復元イラストを中心にまとめた香川元太郎氏の城郭イラスト集『ワイド&パノラマ 鳥瞰・復元イラスト 戦国の城』が8月下旬に発売になりました。

 

本書掲載の105城には、40名近くの監修者にご協力を頂いていますが、最多の18城を監修されているのが城郭研究家の中井 均氏です。香川氏とは20年以上にわたりタッグを組み、近年は城のイベントもよく一緒に登壇されていますが、本格的な対談は意外にも今回が初めてとのこと。

 

それぞれの立場でお城の楽しさを発信され続けておられるお二人に、復元イラストの魅力、意義、苦労、そして今後について伺いました。

※本対談は、『歴史群像』169号(2021年9月発売)よりタイトルを一部変更して転載したものです。

 

(取材・構成=歴史群像編集部)

 

最初は否定的だった?

――お二人が小誌の城郭再現イラストで初めてタッグを組まれたのは2000年秋冬号掲載の小谷<おだに>城ですね。

 

香川 はい、そうだと思います。まだ歴史群像(以下歴群)が季刊誌でした。

 

中井 しっかり記憶に残ってます。小谷城で初めて香川先生とお仕事したときに、お城を知っているイラストレーターの先生だと出来上がりが全く違うぞと、強く思いましたので。

 

――戦国期の山城の復元イラストについて、お二人の場合の制作過程を教えてください。

 

中井 私が一緒にお仕事をするときは、まず編集者を通じて縄張図をお渡しします。香川先生はその縄張図から、最初の下絵を起こされるんだろうと思います。

 

香川 そうですね。今回の本にも収録されている赤穴瀬戸山<あかなせとやま>城を例にすると、最初に中井先生から縄張図が送られてくる訳です。勿論、縄張図だけでなく、復元のポイントもいただきます。ここはこう描いてほしいとか、一番中心の曲輪<くるわ>についての捉え方は色々あるけど、全体を天守台と考えてもいいだろうとか。そういう要点も伺って図面を起こし始めます。具体的には、各曲輪の推定の標高を縄張図の上に赤で描き込んで、次に碁盤の目を描いて、城を見る方向を決めます(図1)。これは中井先生や編集部とも相談することもあります。それを今度は斜めから見たパースに起こして、立体化した下絵にします。さらに、そこに建物案を赤で描き込んだもの(図2)を、中井先生にお戻しします。

 

図1:赤穴瀬戸山城の縄張図に標高と碁盤の目を描いたもの

 

図2:碁盤の目を使って地形を立体化し、建物案を描き込んだもの

 

――ということは、最初は平面の縄張図と文字情報だけなんですね?

 

香川 そうですね。

 

中井 実は私、最初にこういう復元イラストを作りたいという依頼を受けたときは、わりと否定的だったんですよ。というのも、縄張図は曲輪と土塁<どるい>と堀切<ほりきり>はわかるけれど、建物はわからないので。地形を鳥瞰図に起こすのは賛成だけど、そこに描き込む建物までは保証できないし、完全なものにはならない。だけど、曲輪や土塁や堀切だけだと、一般の人はこれが戦国時代の城だと思って、建物がなかったというイメージを持ってしまう。それは困るなあと(笑)。なので、あくまでも建物については想定復元という理解で、香川先生の下絵に対して、なんとか他の城の発掘調査の事例なども参考にして、ここはやっぱり建物がなくて曲輪だけだったんじゃないかとか、そういうところをキャッチボールさせてもらってます。

 

香川 そして、いただいた指摘を反映させます。歴群の場合は〆切もありますし、中井先生とは何度もお仕事してるので、細かいところは私の方でお任せくださいという感じで、キャッチボールも簡単に、サクッと本画に取りかかります。その代わり、本画が仕上がった段階でもう一回見ていただいて、そのあと修正を加えるということもあります。出来上がるまで、だいたいひと月ぐらいでしょうか。

 

『ワイド&パノラマ 鳥瞰・復元イラスト 戦国の城』に掲載された中井先生監修の赤穴瀬戸山城。本書はこうした折込(A3サイズ)で80城、その他25城を掲載している

 

20年での変化

――長年復元イラストに関わってこられて、感じておられる変化などがあれば教えてください。

 

中井 基本的に私は、戦国時代の山城の面白さを、歴史好きの人だけでなく多くの人にわかってもらうことが大事だと思ってます。我々は現地に行けば、そこにどんな城が建っていたか、おおよその想定ができるけれど、一般の人は何かビジュアルがないと難しい。そこは、いまも昔も同じです。復元イラストの重要性は変わっていません。変わったのは、復元イラストのクオリティがより高くなってきていることですね。同じ城でも監修者が違えば香川先生の描き方も違ってくるように、何人もの人間が一つの城に挑んで、何度も描かれるうちに、クオリティが上がってきている。そして一番驚くのは、昔から知られている有名な城だけでなく、本当にマニアの人しか知らないような城まで、復元イラストが描かれるようになったことですね。雑誌だと紹介したことのない城を載せるという編集方針もあるでしょうけれど、やっぱり今までやってきた蓄積があるからこそ、どんどん新しい城にも挑めるのかと。もう、五大山城とか、十大山城とかの世界じゃない訳ですよ(笑)。

 

香川 けっこうマニアックな城も入ってきますよね。私も、依頼を受けた段階では全く知らない城が結構ありますからね(笑)。

 

中井 当然、監修の担当者は縄張図を描きに現地に行ってるだろうけど、それを受ける香川先生が、歴群の場合だとひと月ぐらいで描かれている。これまでの経験が名前も聞いたことのないような城でも描けることに繋がっているとは思いますが、すごいことですよ。

 

香川 いま思い返してみると、最初の頃の復元イラストって、もうちょっとざっくりやってましたね。縄張図は当時と今とでそんなに変わるものではないけど、そこにどんな建物が建っていたかは、わりとイメージでいいでしょうという雰囲気があったんですよ、最初の頃は(笑)。それが今は発掘調査も進んで、繰り返し復元イラストが描かれることで、この場所にこんなにいっぱい柵が回ってたらおかしいだろうというような意見も出てくるようになった。想像を含むとはいえ、根拠のない想像ではなく、その根拠が増えてきて、考証の精度が上がってきてます。

 

中井 その分、大変さは増してるでしょうね。

 

香川 より細かいところにまで気を遣うようになってますね。城の遺構<いこう>以外の部分、人物が持っている武器や旗印<はたじるし>などにも当然気を配って描いているので、本書では是非じっくりご覧いただきたいです(笑)。

 

塀を描くか、柵を描くか

――復元イラストの難しいところや監修のポイントを教えてください。

 

中井 私の場合はやっぱり建物ですね。我々監修者は調査に行って、現地の遺構から判断して縄張図は描ける。少しは自分も進歩していると思うので、縄張図については、もうこれでやってくださいと、ある意味自信があります。が、じゃあ、どこに何が建っていたかというと、毎回悩むところですね。香川先生から送られてきた下絵を見て、なるほどここに櫓<やぐら>を描かれたのはそういうことかと、教えられることもあります。もちろん、建物じゃなく土木がすごい城もあるので、建物と土木のさじ加減みたいなものは、監修するときのポイントになってますね。あと、例えば、虎口<こぐち>があって土塁があると、門があった可能性がある。で、その門は薬医<やくい>門(鏡柱と控え柱をまとめて一つの切妻造の屋根で覆った格式の高い門)なのか、土塁の上に櫓を渡した櫓門か。土木の図面である縄張図を描いているときにはあまりそこまで考えないけど、いざイラストになると思うと、ここは土塁が高いのでひょっとすると櫓門だったかもしれないと、考えが浮かぶことがあります。

 

香川 ある程度ポイントとなるところは、ここは櫓門でしょうと、きちんと指示していただけますが……。

 

中井 香川先生にお任せするところもあって、下絵は毎回楽しみです。そうした場合に、曲輪に何もない、要するに建物が描かれていないこともありますが、建物のあるなしは、どういうふうに判断されてるんですか?

 

香川 そこは、他の城の事例やこれまでの経験から考えます。その判断がいつも正しいとは限らないんで、いろいろ指示を受けることもあるんですけどね(笑)。あと、私が一番悩むのは、塀を描くか柵を描くかですね。曲輪があってもそこに建物がないケースはもちろんあると思いますが、それなりの広さがあったら、何かで囲ってるだろうと思うわけです。そのときに、曲輪の縁に柵を回すのが果たして正しいのか。そこは塀を回してもう一段下の帯曲輪<おびぐるわ>に柵を回すべきじゃないかとかね。塀や柵を描くことによって、これは城の曲輪なんだというイメージがはっきりするので、絵としてはかなり大事なところなんですが、その大事なところを想像でやるので、おおいに迷うところでもありますね。ここは削平<さくへい>されてるけど、捨て曲輪的なところなんじゃないかとか、形や全体から総合的に判断したりします。いつも試行錯誤がありますよ。

 

中井 なるほど、香川先生とのキャッチボールがやりやすいわけですね。情報提供する側の我々と、同じレベルの情報を持っていらっしゃるとは常々感じてましたが、納得です。

 

――監修されたなかで、特に印象に残っているイラストを教えてください。

 

中井 一つは佐和山<さわやま>城です。香川先生が描かれた佐和山城を初めて見たとき、これ、これなんだよ、僕が思ってたのはって思いました。で、もう一つは天王山山崎城(図3)。これは、城を見る方向が新しかった。天守を北側から描かれていて、今までの鳥瞰図とは全く違うイメージがありました。

図3:北から描かれた山崎城。本丸の北端部に一段高く天守台が配置されている

 

香川 山崎城の方向は、当時の編集者のアドバイスがあったと記憶してます。

 

中井 あとは彦根城。慶長の築城時を監修させてもらって、自分でも上出来だと思ってるんです(笑)。あと、彦根城は別の監修者の方で、違う時代を描かれたものもある。それを見ると、なるほどこういう見方もあるんだと思います。

 

――中井先生の監修の特徴を教えてください。

 

香川 中井先生が、ここが面白いでしょうと挙げられるポイントは、絵にしたときに見栄えがします。建物について難しいと仰るけど、例えば織豊<しょくほう>系の山城の鎌刃<かまは>城や宇佐山<うさやま>城なんかも、小さいけどここに織豊系の面白い建物が建っていたというご指示をいただき、それをクローズアップして描きました。

 

中井 そう言っていただけると嬉しいです。イラスト監修の仕事をするようになってからは、城に行って、これ歴群に使えるなって思うときがあるんですよ。その典型が先ほど例に出た赤穴瀬戸山城です。ここは戦国期の堀切がそのまま残ってる一方で、慶長期以降に富田<とだ>城の支城として改修されたときにつくられた石垣もあるという新旧時代が同居している国境の城です。

 

香川 私も描いていて楽しかったです。

 

中井 普通は〇〇城をお願いしますと言われて監修を引き受けるけど、赤穴瀬戸山城に関しては、編集者に自分から推薦して、何年越しかで取り上げてもらいました。城に行って、香川先生にイラストにしてほしいと思うことはよくあります。

 

自治体依頼の復元イラスト

――今回の本では、自治体から依頼されて描かれたイラストもあり、それらには中井先生の監修も多く含まれますが、その経緯を教えてください。

 

中井 まさに城の復元イラストが評価されたということだと思います。行政の方たちも地元の城跡を整備して、もっと多くの人に知ってもらうにはどうしたらいいかを真剣に考えている。私も色々な城の整備委員をやっている関係で相談を受けたときには、復元イラストがわかりやすいよと伝えてます。で、香川先生にお願いするという話に進んでいくのかと(笑)。

 

香川 ありがとうございます。

 

中井 いや、ただでさえお忙しいのに、申し訳ないと思ってます。

 

――歴群の場合と違いはありますか?

 

香川 基本は同じですが、実際は自治体の方が大変ですね(笑)。というのも、地元の多くの方が納得するものじゃなきゃいけないので、歴群のようにお一人の監修だけで済むというわけではなく、チェックする方が多くなる。下絵のやり取りも、何か月もかけて何度もやるということが非常に多いですね。中井先生のような方が中心になっていただける場合は早いのですが、復元のイメージは人によって違って、すごく立派なものを想像される方もいるし、逆にすごく簡素なものを想像される方もいる。そして、そのどちらも間違いではないわけです。

 

――城だけでなく城下も含めて広い範囲を描かれているものもありますね。

 

中井 これは調査研究の影響もあるでしょう。山城部分だけでなく山麓部分の地籍<ちせき>調査(一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査)をすると、戦国期に城下があったという痕跡が残っている。江戸時代に城下町ごと別のところに移動したようだと。となると、戦国期のお城だけ描いてあったら、城しかないようにイメージされてしまう。実は城下も伴ってたことがわかるように、城と城下をセットで描いてほしいということになりますね。

 

香川 広い範囲を描くときは、縄張図だけでなく地形図を何種類も使うので、地形を起こすのも骨が折れます。そこに当時の景観を描くとなると、町の規模だとか、当時はここに寺があったとか、資料も多岐にわたります。私が最初に下絵を描いたら、それを見て担当の方が新たな資料を探してくることも、よくあります。実は、ここに道があったようです、とかね(笑)。そういうのが大変といえば大変ですね。でもそうすることによって、城だけでなく戦国期のその地域がどうだったかという全体的な景観が出来上がってくるので、非常に意味があることだと思ってます。

 

――最後に、今後やってみたいことを教えてください。

 

中井 私は失われた山城、つまり開発で山ごと住宅地や道路になってしまって、遺構が現存していない山城を復元したいですね。実はこうした理由で、開発前に山を丸ごと発掘調査してる山城が全国にいくつもあるんですよ。その発掘成果を、そっくりイラストで再現する。学問的にも価値があるし、香川先生とタッグを組んで一回やってみたいと思ってます。

 

香川 私は最初の頃に描いた城を、新しい視点や切り口で、いまもう一度描くのも面白いのではないかと思ってます。次号(歴史群像170号)に中井先生の監修で虎御前山<とらごぜやま>城を描く予定ですが、この城は小谷城の付城<つけじろ>なんですよ。だから小谷城も一緒に描く予定です。二十年経ってもう一度小谷城を、違う角度から再考証しようということになるかもしれませんね。じつは海外の方からもメールをいただくことがあって、中国のファンの方からは、戦国武将の本拠地のようなもっと有名な城を描いてくださいというリクエストが多いです(笑)。なので、これから、もう一度、有名な城を描いてみるのもいいと思ってます。

 

――次号がさらに楽しみになりました。本日はありがとうございました。

 

中井均(なかい・ひとし)

1955年、大阪府生まれ。城郭研究家、滋賀県立大学名誉教授、公益財団法人日本城郭協会評議員、織豊期城郭研究会代表。特に中世考古学・織豊系城郭が専門で、多くの山城の整備委員として指導もしている。

 

香川元太郎(かがわ・げんたろう)

1959年、愛媛県松山市生まれ。日本城郭史学会委員、イラストレーター。特に歴史考証イラストが専門で、歴史教科書、参考書などにも多くの作品が掲載されている。

 

【書誌情報】

ワイド&パノラマ 鳥瞰・復元イラスト 戦国の城

著者: 香川元太郎(イラスト)
発行:ワン・パブリッシング
定価: 3850円 (税込)

 

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さくらももこの抱腹絶倒、伝説の旅エッセイで、何処にもいけないストレスを発散する

日曜日の18時になると「あっ、まるちゃんの時間だ」とテレビをつける。テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』は大好きな番組で、心の底から笑え、元気をもらえるからだ。作者のさくらももこさんが突然この世を去ってから早3年、同じ静岡出身者としては、もっともっと新しい作品を読んだり、観たりしたかったと残念な気持ちでいっぱいだが、それでも彼女が残したものは大きい。大きな書店では文庫化されたさくらさんの本が今も平積みでずらっと並んでいる。

 

ももこの世界あっちこっちめぐり』(さくらももこ・著/集英社・刊)はその中の1冊で、「non-no」誌上で1996年~1997年にかけて連載された旅エッセイだ。世界各地の名所を訪ねたさくらさんのリポートは爆笑もので、コロナ禍で何処にもいけないストレスを発散させてくれるのだ。

 

しょうもない発見やズッコケ話に期待

さくらさんは旅行がそれほど好きではなく、また、ファッションやブランド物にも興味がなかったという。だから仕事の依頼があったとき編集部の意図がわからなかったそうだ。

 

「もう、どこへでも好きなところに行って好きなことをしてきて下さい。別にnon-noだからといって、オシャレな事を書かなくてはなどと考えなくてけっこうですから」とおっしゃって下さったので、かなりホッとした。どうやらnon-no側は、私が世界のあっちこっちに行って、しょうもない発見やズッコケ話などを持って帰ってくることに期待をよせている様子である。non-noの誰かがハッキリ私にそれを期待していると言ったわけではないが、たぶんそうに決まっている。

(『ももこの世界あっちこっちめぐり』から引用)

 

さくらさんの旅は、イコールまるちゃんの旅。歯に衣着せぬリポートはおもしろくないわけがない。ページをめくる前からワクワク気分になる。章立ては下記のようになっている。

 

スペイン・イタリア編

バリ島編

アメリカ西海岸編

パリ・オランダ編

ハワイ編

番外編

 

父ヒロシとまる子の海外旅行

この本で、いちばんおもしろく読んだのが、アメリカ西海岸編。さくらさんの父親であり「ちびまる子ちゃん」でいつも皆を笑わせてくれるヒロシが登場するからだ。ヒロシの語り口調は”静岡のお父さん”そのもので、私の父も同じような喋り方をするので親近感が湧くのだ。

 

さて、さくらさんが小学生だったころ、父ヒロシに世界で行ってみたいところは? と尋ねたところ、「オレはグランドキャニオンを見てえなァ」と答えていたのだそうだ。それから20年が経ち、ヒロシの夢を叶えてあげることになった。

 

ヒロシは本当にうれしそうであった。(中略)おそらく彼の人生の中で一番のクライマックスがやってきたといえよう。彼は六十歳を過ぎて初めてパスポートをとってきた。ズボンのポケットから得意そうにパスポートを取り出して私と母に見せた時のヒロシの顔はまさに人生最大のクライマックスが近づいている者の表情であった。

(『ももこの世界あっちこっちめぐり』から引用)

 

こうして、さくらさんとご主人、そしてヒロシはアメリカ西海岸へと向かったのだが、それまで親孝行などしてこなかったのに、この急な展開で彼女は不安を覚えてしまう。『まる子、親孝行がアダに!!』というような新聞の見出しまで想像してしまう件は、まるちゃんらしくアニメを観ているようにおもしろく読める。

 

そして、一行はヨセミテ公園、サンフランシスコ、ラスベガスを巡り、いよいよグランドキャニオンへ。

 

ヒロシはグランドキャニオンを見れてよかったと連発していた。予想よりもはるかに壮大だった事に驚いた様子である。「キャニオンはでけぇなァ」と、勝手に略して言っていたのが何ともヒロシらしいところだ。

(『ももこの世界あっちこっちめぐり』から引用)

 

父ヒロシのキャラクターは最高だ、というより、それをどこまでもおもしろく書けるさくらさんの才能をあらためて感じたのだ。

 

パリとピエール・ラニエの時計

パリのことは花輪クンにまかせておけばよい。あんなオシャレな国は、まる子なんかには縁のない話だ。と、さくらさんは思っていたそうだ。しかも1996年といえば、その前年にフランス政府が核実験を強行したことに、さくらさんはカンカンに怒っていた。

 

にもかかわらず、パリ行きを決意したのは、政府の強引な方針に国民が泣き寝入りするのはどこの国も同じ事とフランス国民に同情したのと、ピエール・ラニエの腕時計に魅せられていたからだという。

 

実はさくらさんがこのエッセイを書くまで私はピエール・ラニエを知らなかった。フランスの時計メーカーで、高級品ではなく、手頃な値段の地味めなブランドなのだが、ある時期から限定版の腕時計をシリーズで販売し始めた。さくらさんはそれに魅了されたのだ。

 

美しい石や貝などを素材にした絵が文字盤に描かれているというもので、主に動物や楽器が絵のモチーフとして選ばれている。それらの絵はひとつひとつ手作業により制作されるため大量生産はされずに各デザインごとに九百九十九本のみの限定販売となっている。

(『ももこの世界あっちこっちめぐり』から引用)

 

さて、時計を求めてパリに向かったさくらさんだったが、ピエール・ラニエには本店というものはなく、また、現地では置いてある時計店も少なく、さらに限定モデルを探し出すのは難しい状況に。それでも親切な店員に出会い、問屋まで探しに行ってくれ、なんと9本も限定モデルをゲットできたというエピソードはフランス人の意外な一面を伝えてくれている。

 

ちなみに、ピエール・ラニエは、その後、さくらももことのコラボの限定モデルを発売、これがとってもカワイイのだ。

 

このほか、スペインではガウディに魅せられ、イタリアではベネチアングラスの金魚鉢を買い、バリ島では毎日ナシゴレンを食べ続け、ハワイではハンモックに揺られ……、などなど、さくらさんならではの気取らない海外旅行記は誰をも笑顔にしてくれる。ストレス解消にもひと役の1冊といえる。

 

【書籍紹介】

ももこの世界あっちこっちめぐり

著者:さくらももこ
発行:集英社

ああ素晴らしき、この世界! スペインでガウディにキュンとして、バリ島で毎日ナシゴレンを食べ、父ヒロシと長年の憧れグランドキャニオンに飛び…。行く先々で思いもよらない出会いやハプニングがある。それがももこの旅。一九九六年五月から約半年間にわたって世界じゅうをめぐった記録を、感動も驚きも尾籠な話も全部ひっくるめて綴る、抱腹絶倒、伝説の旅エッセイ。初の文庫化!

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総力特集は、天空の城「浮揚大陸マゴニア」の謎!! 月刊「ムー」10月号

世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリー・マガジン月刊「ムー」10月号が発売中。

 

総力特集 天空の城「浮揚大陸マゴニア」の謎

ヨーロッパ各地に残る飛行船伝説と、 その発信基地だという浮揚大陸マゴニア。 天空に浮かぶこの巨大な城の真実は、 だれも知るあの小説「ガリバー旅行記」に記されていた!! やがて、 激しい天空の戦いの後に姿を消した彼らは、 どこからやってきて、 どこへ去っていったのだろうか? 謎を解く第一級資料は、 日本の「虚ろ舟」事件にあった!!

 

特別企画 最新理論 ブラックホールの正体

とてつもなく強大な重力をもち、 近づくすべてのものを飲み込むブラックホール。 かつては「理論上の存在」と考えられていたが、 観測技術の向上によって実在することが確認されてから、 その研究は飛躍的に進歩してきた。 その結果、 ブラックホールには特異点も事象の地平面も存在しないことがわかってきた!! 常識が覆る暗黒天体の本当の姿を追う!!

 

[商品概要]

月刊ムー 2021年10月号

著者: ムー編集部
定価: 850円 (税込)

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地球外生命体は存在すると思いますか?美しい写真とともに宇宙浪漫飛行~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。1938年の出来事、アメリカでラジオ番組『宇宙戦争』が放送されました。音楽中継の途中で火星人の襲来を知らせる臨時ニュースが入るというシナリオでしたが、これをリアルと勘違いして慌てる人が続出したとか……。

 

 

火星人と出会える未来はある?

ラジオが主要な情報源であった当時、何も知らずにたまたまこの番組を聴いた人はさぞかし驚いたことでしょう。そして、かつては今以上に火星人の存在が信じられていたようです。

 

今回紹介する生き物がいるかもしれない星の図鑑』(荒舩 良孝・著/サイエンス・アイ新書)は、火星を筆頭に宇宙の星々に地球外生命体がいる可能性を探っていくロマンある科学読み物。図鑑と銘打っているだけあって、ページを開くごとに写真やイラストがオールカラーで掲載されている贅沢な新書です。

著者の荒舩良孝さんは、東京理科大学在学中から活動を始め、最先端研究から身近な科学のトピックまで幅広い分野で取材・執筆活動を続ける科学ライター・ジャーナリスト。『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』(青春出版社)、『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)など宇宙に関する著作も多数あります。

 

生命誕生の秘密に迫る!

まず、第1章「宇宙に生命はあるか」では、地球の生命が発生したメカニズムに迫ります。生命の共通の祖先は、深海で400℃近い熱水が噴き出している「熱水噴出孔」のような特殊環境で生きる「超好熱メタン生成菌」という菌に近いとされています。

 

掲載されている、マリアナ海溝にある熱水噴出孔の写真を見ると、ブルーグリーンの海底から白い煙のような熱水がもくもくと出ていて神秘的のひと言! ここがすべての始まりと思うと不思議な感慨があります。こんな環境でも微生物が存在し、それを食べるためにエビやカニが生息して独自の生態系が成立しているのは本当に驚きです。

 

続く第2章「太陽系に私たち以外の生命はあるか」では、本題ともいえる太陽系の天体に生命がいる可能性を考えていきます。人類が最初に地球外生命体の存在を科学的に意識したといわれているのが火星。19世紀末に望遠鏡で観測した結果、運河のような筋模様が見え、火星には高度な文明が成立しているのではないかと考えられたそうです。

 

本書には、この19世紀末の火星地図や1972年の米マリナー9号が撮影した写真、今年火星に到着した米探査車パーサヴィアランスが送ってきた画像まで、順を追って火星探索の歴史が美しい写真とともに解説されています。パーサヴィアランスが撮った火星地表は赤茶けて荒涼としており、昔読んだブラッドベリのSF小説『火星年代記』を思い出して、しばらく妄想に耽ってしまいました。

 

いつか地球外生命体が発見されたときに、「この本で読んだことがある」と思い出してもらえればうれしい……と著者の荒舩さん。多くの天文学者が確実に宇宙のどこかに生命は存在すると信じて、研究を進めているそうです。ラジオ番組『宇宙戦争』では悪い知らせでしたが、いつかポジティブなニュースとして生命体発見の速報が入るかもしれません。

 

生命起源の秘密を握るという小惑星「イトカワ」「リュウグウ」、太陽系外の惑星をいくつも発見してきた米の探査機ケプラーなども取り上げられています。科学ライターとして活躍する荒舩さんの文章はソフトでわかりやすく、フォトジェニックなカラー写真とあいまって肩がこらずにパラパラと読み進めていけます。まるでSF映画の世界に入り込んだ感覚。宇宙への夢をかき立てられる一冊でした。

 

【書籍紹介】

生き物がいるかもしれない星の図鑑

著者:荒舩 良孝
発行:SBクリエイティブ

私たちは宇宙に憧れます。星々の間を旅し、そこで誰かと出会う物語が、昔からいくつも編まれてきました。そして、人類は宇宙に行くようになりましたが、地球外生命体は、長らくフィクションの中だけの存在でした。しかしその常識は、この数十年で大きく変わっています。研究が進み、生命の存在する条件を満たしそうな天体がたくさんあることがわかってきたのです。そこで本書では、そのような太陽系の天体、さらに太陽系の外にある惑星についてご紹介していきます。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

毎日がてんてこ舞いでトラブル祭り!? いつもより印刷物をありがたく感じられる漫画『印刷ボーイズに花束を』

突然ですが、私がこのページで書籍紹介をさせてもらうようになり5年ほどになります。毎週どんな本を紹介しようかと本屋さんをウロウロしたり、Amazonを眺めていたり、私のお仕事は「本」がなくては始まりません。そんな「本」が当たり前に印刷されて私の手元にやってきていると思ったら……そりゃあなた! バチがあたりまっせ! というのを実感させてくれる漫画が『印刷ボーイズに花束を』(奈良裕己・著/ワン・パブリッシング・刊)です。

 

印刷会社のナビ印刷に勤める刷元 正(すりもと・ただし)さんを中心とした登場人物たちが、印刷会社のあるあるを面白おかしく語りかけてきます。いつも必死! 常にトラブル! でも出来上がった商品を見て思わず笑顔になっちゃう! そんなどこかちょっぴり愛おしい彼らの世界をご紹介します。

 

漫画の面白さに加えて、印刷業界の情報がてんこ盛り

この『印刷ボーイズ』シリーズは、GetNavi webの漫画コーナーで連載されている人気連載をコミックブック化したもの。これまでに『いとしの印刷ボーイズ』『印刷ボーイズは二度死ぬ』と2冊出ており、今回ご紹介する『印刷ボーイズに花束を』で第三弾になります。

 

著者はマンガ家でイラストレーターの奈良裕己さん。元印刷会社&広告制作会社の営業マンという経歴を持つ方なので、他の業界漫画と比べても「これでもか!」というほどに業界知識が散りばめられています。過去2作品にもたくさんのあるあるや業界知識が掲載されていましたが、今回は気合がすごい(笑)。

 

特に、広辞苑ならぬ『印辞苑』がおまけとして付いているのですが、これっておまけのレベルじゃないよね!? と思うほど。以下のように丁寧に印刷に関する用語が紹介されているのです。

やれ【ヤレ】印刷・加工などの工程でどうしても出てしまう「製品として使用できなくなった印刷物」、つまりゴミのことです。破れたり汚れたりで使用できなくなった用紙を「ヤレ紙」と呼びます。

(『印刷ボーイズに花束を』より引用)

 

しかもこの『印辞苑』は全21ページ、196用語も掲載されているんです!!!! 専門誌ですか? いいえ、漫画です。

 

これから印刷業界を目指したい大学生や、転職先として検討している人なら、教科書レベルで役立ちます。私も雑誌を作るお手伝いをしたことがあるのですが、前2作品の『印刷ボーイズ』があったことで、デザイナーさんとのやりとりがスムーズにいくようになり、めちゃくちゃ助けられた経験があります。笑いながら漫画を読んでいるうちに、「どうしてそんなことを知っているの!?」という知識まで身についてしまう一冊なのです。

 

個人的にはビジネス書以上に役立つ一冊なので、印刷と関わるお仕事をしている方には、ぜひ持っておいていただきたい漫画だと思います。

 

CMYKとRGBの違いってちゃんとわかっていますか?

私自身、新卒で入ってから今までの10年以上ほぼウェブ畑だったため、ず〜っとRGBという色味で画像を作ってきました。ある時、RGBカラーのまま印刷データを作ろうとしたことがあり、デザイナーの子から「つるちゃん、それはまずいよ」と言われたのも懐かしい思い出……。

 

そう、ウェブのRBGのまま印刷すると若干のくすみが出たり「あれ? なんか画面上で見るとの違うな〜」という色になることがあるのです。

 

説明しよう
デジタル画像や動画のRGBと印刷のCMYKではそもそも色域が違うため、色によってはRGBで再現できてもCMYKでは不可能な場合がある!

(『印刷ボーイズに花束を』より引用)

 

「そんなの気にしないよ〜」という人も多いかもしれませんが、これ気になり始めるとめちゃくちゃ気になるポイントでして(笑)。デザイナーさんだけでなく、デザインに関わる全ての人に知っていただきたいポイントなのです!

 

ちなみに今回のシリーズから登場するフリーランスデザイナーの真戸珠緒ちゃんは、RGBの申し子と言っていいほどRGBへの強いこだわりがある子。彼女の要望に、ナビ印刷がどう応えるのかはかなり読み応えがあります。CMYKでのRGBの色味の再現化は「おおおお〜!」と声が出るほど感動しました。

 

本にチラシに商品パッケージ、街のポスターなどなど印刷物に幸あれ!

最近では、オンラインでの会議や動画コンテンツなど、紙を見る機会が減ったなんて言われますが、『印刷ボーイズに花束を』を読んでいると、身近な印刷物に愛着が湧くようになってきます。

 

本はもちろんのこと、自宅のポストに投函されているチラシ、買い物したらもらえるレシート、どうやって印刷したの? と思うようなツルツルな紙に印刷された商品パッケージ、どでかい街中のポスターなど、私たちの身近にはたくさんの「印刷物」が存在しています。何気なく、手にしているものですが、街の中に目を向ければそこは印刷物だらけ! そしてその印刷物は勝手にポン! と生まれたのではなく、デザイナーさんや印刷会社などたくさんの手を経て私の手元にたどり着いているわけです。

 

たかが印刷、されど印刷! 日々奮闘し続けている印刷ボーイズ達に感謝しながら、これからも本をいっぱい読んでいきたい、そんなことを考えています。

 

 

【書籍紹介】

印刷ボーイズに花束を 業界あるある「トラブル祭り」3

著者:奈良裕己
刊行:ワン・パブリッシング

印刷事故で謝りまくる営業マン、怖い現場の職人気質のベテラン、無茶苦茶を言うクライアント……。マニアックなのに不思議に魅了される面白さに、さらにシリーズ史上最大と言える新規コンテンツを収録!「印辞苑」~印刷用語の基礎知識~(21ページ)、「印刷王ウルトラクイズ」、コラム「印声人語」の欄外オマケ74本、特製<手描き>校正記号一覧表など、印刷・広告・出版業界関係者にとどまらず、紙に関わるすべての人が「面白く学べる」シリーズ第3弾です!

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庭&野外空間の活用術「ウッドデッキと野外基地」特集!『ドゥーパ!』2021年10月号(144号)発売

日本で唯一のDIY専門誌『ドゥーパ!2021年10月号』(発行:株式会社キャンプ/代表取締役社長:豊田大作)が9月8日に発売!

 

・第1特集は「自分で作るから大満足! ウッドデッキと野外基地」
特集のメインコンテンツは、編集部が提案する野外基地作り。定番のウッドデッキをはじめ、フォールディングテーブルにスタッキングチェアのセット、さらにはバーカウンター、アースオーブン(ピザ窯)、雨水タンク&シンクが一体化した渾身のアウトドアベース作りの模様をお楽しみください。実践的なテクニック&アイデアの数々、とくとご覧あれ!

 

実践リポートに続くDIY実例集は、みんなの手作り野外基地が大集合! 空中に浮かぶプールつきウッドデッキを皮切りに、ウッドデッキシアター、ガーデンバー、焚き火サークルに露天風呂、さらにツリーハウスまで! 男たちはもちろん、家族や仲間もワクワクさせるアウトドアリビングの魅力満載でお届けします。

 

 

・第2特集は「軽トラ・軽バンDIY快適化計画」
本格的なキャンピングカーもいいけれど、DIYで遊ぶならやっぱり軽トラ・軽バンがアツい! 車中泊ならぬ車中憩をテーマにしたバンや、走って飲んで宿泊できるモバイルワインバーなど、ユニークなDIY車両をラインナップ。ワンポイントアイデア集も充実の内容で、読んだら今すぐ「遊べる軽」を作りたくなること間違いなし!

 

・バラエティあふれる連載にも注目!
溶接を駆使したアイアンDIY、トリマー&ルーター木工、さらにはレザーソーイングやグリーンウッドワークなど、さまざまなジャンルのもの作りの魅力を個性あふれる作家とともにお届けします。その他、自給自足の田舎暮らしエッセイやDIYにまつわる法律相談など読み物も充実。こちらもお見逃しなく!

 

【書籍概要】

著者:ドゥーパ!編集部

定価:1100円(税込)

発売日:2021年9月8日

判型:A4変形

「闘蛇」って何? 鱗をおおう甘い香りがする粘液とは?——手触りと匂いが伝わる傑作ファンタジー『獣の奏者』

「読書の秋」がやってきた。読書好きの方は季節関係なく楽しんでいるだろうが、普段あまり本を読まないという方は、この機会に読書をしてみてはいかがだろうか。

 

そこで、僕がオススメするタイトルをご紹介しよう。それは『獣の奏者』(上橋菜穂子・著/講談社・刊)だ。

 

発行は2006年。その後コミカライズされたり、2009年にはNHK教育テレビで『獣の奏者 エリン』としてアニメ化もされているので、知っている方も多いだろう。

 

手触りと匂いが伝わってくる描写力が魅力

簡単にストーリーを解説すると、リョザ神王国という異世界が舞台。そこで暮らす10歳のエリンと、その世界に登場する架空の獣たちとの関係を描くファンタジー文学だ。

 

僕は発行された当時に本書を読んだのだが、ストーリーがおもしろいことはもちろん、その文章力というか表現力にとても心が惹かれた。

 

『獣の奏者』を読んだとき、僕が最初に思ったのは「リアリティがある」ということ。異世界の話なのだが、なぜか自分がそこに住んでいるかのような錯覚に陥る。文章だけなのに、目の前に景色が広がる感じがして、かなりショックを受けた。

 

冒頭にこんな描写がある。

 

母が、土間の水場で手を洗っているのがぼんやりと見えた。足音を忍ばせて寝間にあがってきた母が、寝具に身体を滑りこませると、ふうっと雨の匂いと、闘蛇の匂いが、漂ってきた。

戦士を乗せて水流を泳いでいく巨大な闘蛇の鱗は、麝香のような独特な甘い匂いがする粘液でおおわれている。闘蛇の背にまたがって戦に行く戦士たちは、どこにいても、その匂いでわかるほどだ。

闘蛇の世話をする母もまた、いつも、この匂いをまとっていた。エリンにとっては、生まれたときから嗅ぎつづけている、母の匂いだった。

(『獣の奏者 I闘蛇編』より引用)

 

僕は、初めて読んだとき、この描写に心をわしづかみにされた。文字だけなのに、匂いが伝わってきたのだ。闘蛇というのは小説の中だけに出てくる架空の獣なのに、その匂いを昔から知っているかのように感じたのだ。

 

いろいろな小説を読んできたが、匂いを感じたことはあまりなかったので、とても感動したことを今でも覚えている。

 

大人も子どもも楽しめる希有な作品

上橋菜穂子は、児童文学のノーベル賞と言われている「国際アンデルセン賞作家賞」を受賞している。『獣の奏者』も一応は児童文学の範疇になるのだろうが、どちらかというとファンタジー文学の色が濃く、あまり児童文学という感じはしない。主人公が10歳の少女であること、比較的平易な言葉遣いで綴られている点が、児童文学らしさを残している。

 

そのためか、非常に読みやすい。あまり難しい言葉は出てこないのでもちろん子どもが読むこともできるし、大人が読んでも楽しめる。これだけ幅広い層が読める小説もそうそうないのではないだろうか。

 

ストーリーは、読みやすさとは反比例するかのように、わりとシリアス。10歳のエリンに数々の不幸が降りかかってくるが、持ち前の聡明さと周囲の人や獣との関わりにより、まっすぐ成長していく姿は、同年代の子どもたちは共感するだろうし、大人は親目線でドキドキハラハラしながら見守るという感覚になる。

 

児童文学とファンタジー文学の両方の兼ね備えた、希有な作品と言えるだろう。

 

『獣の奏者』は、全4巻構成となっている。ただ、読みやすいために1巻を読むのにそれほど時間はかからないはず。親子で読める作品なので、読書の秋に家族で読んでみるというのもいいのではないだろうか。

 

 

【書籍紹介】

獣の奏者

著者:上橋菜穂子
発行:講談社

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すがー。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。

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日米空母はどのようにして激突したか?“日米空母決戦”、南太平洋海戦の実相に迫る!『歴史群像10月号』

『歴史群像10月号』が発売中。第1特集「実録 南太平洋海戦[前編]ガ島をめぐる「日米空母決戦」への道程」、第2特集「陸軍南方進攻航空作戦~菅原道大の統率と第三飛行集団の戦い」、第3特集「戦国大名 尼子氏の興亡」ほか、「図説・日本海軍艦艇の進水式」「虎と豹~戦車大国ドイツを支えた二種の猛獣」ほか企画満載です。

 

 

 

ガダルカナル島をめぐる日米空母2度目の激突はなぜ生じたのか?

第1特集では、「実録 南太平洋海戦」の前編として、1942年8月7日に米軍がガダルカナル島の日本軍飛行場を奪取して以降、同年10月25日に南太平洋海戦が生起するまでの2か月半の日米両軍の動きを追うとともに、両軍空母の激突がなぜ、どのようにして生起するに至ったかを考察します。

 

太平洋戦争開戦劈頭の“マレー電撃戦”

第2特集「陸軍南方進攻航空作戦」では、快進撃で大成功に終わったという印象の強い日本陸軍のマレー進攻作戦において、実は山下奉文(ともゆき)率いる地上部隊・第二十五軍と、菅原道大(みちおお)率いる航空部隊・第三飛行集団の間で、航空部隊の運用をめぐる対立が生じていました。この記事ではマレー・蘭印進攻作戦における航空作戦の推移とともに、作戦の主役たる両者の知られざる対立の実相にも迫ります。

 

このほか、第3特集「戦国大名・尼子氏の滅亡~「十一州太守」への軌跡と毛利元就の出雲侵攻」、その他「ベルリン空輸作戦1948-49~ソ連軍に封鎖された〝分断の都〟を救え」「五代友厚伝~首相の器と惜しまれる稀代の実業家」等の論考記事、カラー記事「図説・日本海軍艦艇の進水式~万単位の市民が参加したビッグイベントの歴史と実像」「 CG彩色でよみがえる! 虎と豹」ほか企画満載です。

 

[商品概要]

歴史群像10月号

定価: 1060円 (税込)

【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09DMVXQQY/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1229366182

 

人当たりがよすぎる人、笑顔が爽やかすぎる人——それは他人を操って支配する「マニピュレーター」かもしれない

仕切り屋。ステージママ。鍋奉行。決して必要ではないリーダーシップを発揮し、周囲の人たちを巻き込んで、その場の時間も空気もすべて独占するようなふるまいをする人たちがいる。

 

ヒツジの皮をかぶったオオカミ

いや、ここでしたいのはそんなレベルの話じゃない。もっと深い部分で、相手が誰であっても自分の思い通りに動かそうとするやつらだ。ヒツジの皮をかぶったオオカミという表現は、男女関係に限ったものではない。根深い凶悪さや攻撃性を、いかにも穏やかな物腰や誰からも好かれるような態度に隠して近づいてくるやつら。この表現をタイトルにした翻訳本を紹介したい。

 

他人を支配したがる人たち』(ジョージ・サイモン・著、秋山 勝・訳/草思社・刊)の原題は『IN SHEEP’S CLOTHING』という。著者のジョージ・サイモン氏は自らクリニックを経営し、人の心の攻撃性の問題に20年以上にわたって取り組んできた臨床心理学者。この本で取り扱うのは“マニピュレーター”(操作する者)だ。

 

人を追い詰め、その心を操り支配しようとする者—「マニピュレーター」は、聖書に書かれた「ヒツジの皮をまとうオオカミ」にじつによく似ている。人あたりもよく、うわべはとても穏やかなのだが、その素顔は悪知恵にあふれ、相手に対して容赦がない。ずる賢いうえに手口は巧妙、人の弱点につけこんでは抜け目なくたちまわり、支配的な立場をわがものにしている。

『他人を支配したがる人たち』より引用

 

こういう人たちは想像するよりはるかに多く、近くにいる。

 

あなたに向けられる静かな攻撃性

章立てを見てみよう。

プロローグ 誰も気づかない「攻撃性」
第1章 「攻撃性」と「隠された攻撃性」
第2章 勝つことへの執着
第3章 満たされない権力への渇望
第4章 虚言と誘惑への衝動
第5章 手段を択ばない戦い
第6章 壊れた良心
第7章 相手を虐げて関係を操作する
第8章 親を思いのままに操る子ども
第9章 人を操り支配する戦略と手法
第10章  相手との関係を改める
エピローグ  寛容社会にはびこる攻撃性

 

誰かの顔が思い浮かんでいるだろうか。こういうタイプの人間からは逃げられない。逃げようとすれば、さらに押し込まれるからだ。逃げられないなら、向き合っていくしかない。

 

本書で紹介するのは、マニピュレーターとされる人たちの人格をどのように把握するか、その新たな考え方だ。ここで示されている考え方にしたがってもらえるのなら、これまでの手法よりもさらに的確にこうした人たちの特徴を把握し、より正確に相手の行動を見極めることができるようになるだろう。

『他人を支配したがる人たち』より引用

 

リアルで残酷なケーススタディー

著者は、マニピュレーターの本質を「潜在的攻撃性パーソナリティー」という言葉で形容する。ヒツジの皮をかぶったオオカミとは、どのように関わり合っていけばいいのか。各章に具体的な事例が示され、章のテーマに沿ったケーススタディーのように話が進められる。マニピュレーターはどこにでもいる。職場や学校、近所、通っているジム、さらには家庭。彼らは場所を選ばずに現れる。

 

ケーススタディーで紹介される実例は、どれもリアルで残酷だ。ここでひとつひとつを紹介できるだけのスペースはないが、すべてを貫くテーマのようなものが感じられる。現場に立ち続けてきた臨床心理学者である著者の言葉を借りれば、マニピュレーターというパーソナリティー障害は、古典的な精神分析の手法を用いて理解しようとしてもまったく役に立たない。普通の人間とは違う、異質の存在なのだ。

 

彼らの場合、その目的は感情的な痛みや罪悪感、あるいは羞恥心から自分を守るためでもなければ、それによって恐れている事態が起こるのを未然に防いでいるわけでもない。それどころか、彼らがこうした行為におよぶのは、望みの事態を確実に引き起こしたり、あるいは人を支配してコントールしたりするのが本当のねらいなのである。

『他人を支配したがる人たち』より引用』

 

これはもう、サイコパスに近いかもしれない。

 

ヤバいやつらはすぐ近くにいる

いかにも人あたりがよい人。笑顔が爽やかすぎる人。誰に対しても親身になって接する人。気を付けよう。ヒツジの皮の部分だけ見ていたら、いつの間にか意のままに操られてしまう。そしてそういう関係は、一度構築されたら元通りにするのはきわめて困難だ。

 

少し前、友人を装って近づいてきて実害を与える“フレネミー”という言葉をよく見かけた。マニピュレーターは、フレネミー質をさらにこじらせたタイプなのかもしれない。ヤバいやつらは、すぐ近くにいる。現代社会ならではのライフハックに不可欠な知識を与えてくれるこの一冊で、正しく武装しよう。

 

【書籍紹介】

他人を支配したがる人たち

著者:ジョージ・サイモン
刊行:草思社

なぜかあの人には逆らえず、いつも言いなりになってしまう…。それは他人を操って支配する「マニピュレーター」かもしれない。ふだんは優しさの仮面をかぶり、時に激情的にふるまい、人を攻撃し、あるいは甘い言葉で丸めこむ。罪の意識を持たず、自分を通すためには手段を選ばない。理不尽な彼らの行動になぜ毅然と逆らうことができないのか? 誰にもわかってもらえない「心の暴力」の正体をとらえ、自分の身を守るすべを臨床心理学者が教える。

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人当たりがよすぎる人、笑顔が爽やかすぎる人——それは他人を操って支配する「マニピュレーター」かもしれない

仕切り屋。ステージママ。鍋奉行。決して必要ではないリーダーシップを発揮し、周囲の人たちを巻き込んで、その場の時間も空気もすべて独占するようなふるまいをする人たちがいる。

 

ヒツジの皮をかぶったオオカミ

いや、ここでしたいのはそんなレベルの話じゃない。もっと深い部分で、相手が誰であっても自分の思い通りに動かそうとするやつらだ。ヒツジの皮をかぶったオオカミという表現は、男女関係に限ったものではない。根深い凶悪さや攻撃性を、いかにも穏やかな物腰や誰からも好かれるような態度に隠して近づいてくるやつら。この表現をタイトルにした翻訳本を紹介したい。

 

他人を支配したがる人たち』(ジョージ・サイモン・著、秋山 勝・訳/草思社・刊)の原題は『IN SHEEP’S CLOTHING』という。著者のジョージ・サイモン氏は自らクリニックを経営し、人の心の攻撃性の問題に20年以上にわたって取り組んできた臨床心理学者。この本で取り扱うのは“マニピュレーター”(操作する者)だ。

 

人を追い詰め、その心を操り支配しようとする者—「マニピュレーター」は、聖書に書かれた「ヒツジの皮をまとうオオカミ」にじつによく似ている。人あたりもよく、うわべはとても穏やかなのだが、その素顔は悪知恵にあふれ、相手に対して容赦がない。ずる賢いうえに手口は巧妙、人の弱点につけこんでは抜け目なくたちまわり、支配的な立場をわがものにしている。

『他人を支配したがる人たち』より引用

 

こういう人たちは想像するよりはるかに多く、近くにいる。

 

あなたに向けられる静かな攻撃性

章立てを見てみよう。

プロローグ 誰も気づかない「攻撃性」
第1章 「攻撃性」と「隠された攻撃性」
第2章 勝つことへの執着
第3章 満たされない権力への渇望
第4章 虚言と誘惑への衝動
第5章 手段を択ばない戦い
第6章 壊れた良心
第7章 相手を虐げて関係を操作する
第8章 親を思いのままに操る子ども
第9章 人を操り支配する戦略と手法
第10章  相手との関係を改める
エピローグ  寛容社会にはびこる攻撃性

 

誰かの顔が思い浮かんでいるだろうか。こういうタイプの人間からは逃げられない。逃げようとすれば、さらに押し込まれるからだ。逃げられないなら、向き合っていくしかない。

 

本書で紹介するのは、マニピュレーターとされる人たちの人格をどのように把握するか、その新たな考え方だ。ここで示されている考え方にしたがってもらえるのなら、これまでの手法よりもさらに的確にこうした人たちの特徴を把握し、より正確に相手の行動を見極めることができるようになるだろう。

『他人を支配したがる人たち』より引用

 

リアルで残酷なケーススタディー

著者は、マニピュレーターの本質を「潜在的攻撃性パーソナリティー」という言葉で形容する。ヒツジの皮をかぶったオオカミとは、どのように関わり合っていけばいいのか。各章に具体的な事例が示され、章のテーマに沿ったケーススタディーのように話が進められる。マニピュレーターはどこにでもいる。職場や学校、近所、通っているジム、さらには家庭。彼らは場所を選ばずに現れる。

 

ケーススタディーで紹介される実例は、どれもリアルで残酷だ。ここでひとつひとつを紹介できるだけのスペースはないが、すべてを貫くテーマのようなものが感じられる。現場に立ち続けてきた臨床心理学者である著者の言葉を借りれば、マニピュレーターというパーソナリティー障害は、古典的な精神分析の手法を用いて理解しようとしてもまったく役に立たない。普通の人間とは違う、異質の存在なのだ。

 

彼らの場合、その目的は感情的な痛みや罪悪感、あるいは羞恥心から自分を守るためでもなければ、それによって恐れている事態が起こるのを未然に防いでいるわけでもない。それどころか、彼らがこうした行為におよぶのは、望みの事態を確実に引き起こしたり、あるいは人を支配してコントールしたりするのが本当のねらいなのである。

『他人を支配したがる人たち』より引用』

 

これはもう、サイコパスに近いかもしれない。

 

ヤバいやつらはすぐ近くにいる

いかにも人あたりがよい人。笑顔が爽やかすぎる人。誰に対しても親身になって接する人。気を付けよう。ヒツジの皮の部分だけ見ていたら、いつの間にか意のままに操られてしまう。そしてそういう関係は、一度構築されたら元通りにするのはきわめて困難だ。

 

少し前、友人を装って近づいてきて実害を与える“フレネミー”という言葉をよく見かけた。マニピュレーターは、フレネミー質をさらにこじらせたタイプなのかもしれない。ヤバいやつらは、すぐ近くにいる。現代社会ならではのライフハックに不可欠な知識を与えてくれるこの一冊で、正しく武装しよう。

 

【書籍紹介】

他人を支配したがる人たち

著者:ジョージ・サイモン
刊行:草思社

なぜかあの人には逆らえず、いつも言いなりになってしまう…。それは他人を操って支配する「マニピュレーター」かもしれない。ふだんは優しさの仮面をかぶり、時に激情的にふるまい、人を攻撃し、あるいは甘い言葉で丸めこむ。罪の意識を持たず、自分を通すためには手段を選ばない。理不尽な彼らの行動になぜ毅然と逆らうことができないのか? 誰にもわかってもらえない「心の暴力」の正体をとらえ、自分の身を守るすべを臨床心理学者が教える。

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なぜ、無料のTV番組ではなく有料の動画配信を観るのか?——『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』

近ごろ、人々の自己紹介に、大きな変化が起きています。それは「好きな番組」。今までは民放のバラエティ番組を挙げる人が多かったのですが、最近は「Amazonプライム・ビデオ」や「Netflix」、または「YouTube」と言う人が多いのです。いったい何が起きているのでしょうか。

感想を共有した時代

皆が同じ時間帯に同じテレビ番組を観ていたころ、人気ドラマが放送された翌日は、学校の教室内はその感想でもちきりになったものです。多くのクラスメイトがそのドラマを観ていたので、感動を共有することができていました。

 

それが今はどうかというと、テレビ自体を観ない人が増えました。しかも観たとしても録画してから後でまとめて視聴するので、リアルタイムに番組を楽しむ人が減っています。なので、放送翌日に話題にあがることも減り、共有体験がしづらくなっているのです。

 

スマホだけでいい

テレビ番組は無料で視聴できますし、YouTubeも無料なので、テレビを観なくなった人がYouTubeを観るようになったという理屈はまだわかります。筆者の娘(20歳)もしょっちゅうYouTubeを観ていますが、その理由が「普段スマホを使っているので、そのままスマホで視聴できるもののほうがラクだから」というのです。

 

面倒くさがりの娘は、テレビのリモコンのスイッチを押すことすら手間に感じ、YouTubeを愛用するようになりました。一部のテレビ番組をスマートフォンで視聴できるアプリ「TVer」も愛用しています。彼女は番組を視聴しながらツイートし、LINEをやり取りしているので、スマホで観ることができるものがありがたいのです。

 

アマゾンエフェクトの拡がり

日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP研究所・刊)は、著者である経営コンサルタントの鈴木貴博さんが、2020年代にどういったことが起きるかを予測した本。そのなかでは動画視聴の変化についても分析されています。

 

本書には「アマゾンエフェクト」という興味深いワードがありました。アマゾンが成長することでリアル店舗などが受ける影響を指す言葉です。人々がネット通販で買い物をする回数が増えればリアル店舗での買い物回数は減ってしまうのですが、それと同様のことが今、動画視聴にも起きているのだそうです。

 

有料なのに観る理由

アメリカでは今までケーブルテレビの利用が多かったのですが、Amazonプライム・ビデオという動画配信サービスが始まって以降、ケーブルテレビを解約してAmazonプライム・ビデオに切り替える人が出てきました。この現象をコード・カッティングと言うそうです。

 

日本では無料のテレビ番組から有料のAmazonプライム・ビデオやNetflixに切り替えるのはハードルが高いのではとも言われていたのですが、今では多くの人が視聴していて、よく観る有料動配信ランキングではAmazonプライム・ビデオは大抵ランキング1位です。Amazonプライム・ビデオを観るためには年間4900円がかかるのですが、なぜ無料のテレビ番組よりそちらを選ぶ人がいるのでしょうか。

 

共有に運命を感じる

本書では、Amazonプライム・ビデオによる視聴内容の変化が取り上げられています。Amazonプライム・ビデオでは映画もドラマもシリーズ作品が一覧でき、気に入ったら続編や関連作をどんどん観ることができるのです。そのため、ドラマも毎週細切れに観るのではなく、まとめて一気に視聴する人が増えたのだとか。人々はそのボリューム感をおトクに感じ、料金を払っているのかもしれません。

 

近ごろは自分のペースで行動することが尊重されています。毎週同じ時間にテレビの前にスタンバイするよりも、自分の都合のいい時間にゆっくりドラマの世界に浸ることが選ばれるのもその流れなのでしょう。動画配信サイトはスマホで視聴できるのも大きなメリットです。

 

けれど寂しいのは、ドラマの感動を多くの人と分かち合いづらくなったということです。自己紹介で「よく観る動画配信サイト」を挙げる人が増えているのは、感想を言い合う仲間を求めているからなのではないでしょうか。そして同じ動画配信サイトを楽しんでいる人と巡り会えたら、感動を共有できることを喜び、運命を感じるのかもしれません。

 

【書籍紹介】

日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方

著者:鈴木貴博
発行:PHP研究所

新型コロナウイルスの感染拡大により大波乱の幕開けとなった2020年代。「この10年間は、これまで叫ばれてきた様々な危機が現実化し、『日本が壊れる10年間』となる」。未来予測と経営戦略立案の専門家である著者はそう警告する。コロナショックはどんな影響を及ぼすのか? その後に到来する「7つのショック」とは?どうすれば崩壊を食い止められるのか? 不安な未来を読み解き、新たな変化とリスクにいち早く対応するための必読書。

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オンライン廃線巡りで、家にいながら歴史鉄道散歩~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。自宅から少し行ったところに、住宅街なのに突然だだっ広い道路がまっすぐ広がっている不思議な空間があります。調べてみると、そこは昔の花街で、その道は中心となる大通りだったと分かりました。

 

廃線跡から見えてくる風景

風景からふと昔の名残が見えると、「今、自分は長い歴史の上に立っているんだなぁ」と感慨が湧いてきますよね。それは廃線跡も同じでしょう。私は鉄道オタクではないですが、廃線巡りのロマンには惹かれるものがあります。

 

廃線跡巡りのすすめ』(栗原 景・著/交通新聞社新書)の著者・栗原景さんは、旅、鉄道、韓国をテーマに活動するフォトライター、ジャーナリスト。小学生のころからひとりで各地の鉄道を乗り歩いてきた強者です。『地図で読み解くJR中央線沿線』(三才ブックス)、『新幹線の車窓から~東海道新幹線編』(メディアファクトリー)、『アニメと鉄道ビジネス』(交通新聞社新書)など鉄道に関する著書も多数。

 

 

 

入門するなら名古屋鉄道美濃町線

序章「初めての廃線跡巡りに―名古屋鉄道美濃町線」では、入門編的な位置づけで、岐阜市~美濃市に残る名古屋鉄道美濃町線の廃路跡を訪れます。比較的最近(2005年)に廃止されたためか、線路跡がよく残っているうえ、危険な場所が少なく歩きやすいのがポイント。

 

鉄道が生きていた時代の地図をスマホに表示し、まずは起点の「徹明町駅」へ。元駅ビルは空き屋ですが、1階のきっぷ売り場はそのまま。アスファルトに入った斜めの亀裂は、レールを剥がして埋めた跡だとか。言われなければ見過ごしてしまう“遺跡”もあちこちに残っているんですね。

 

そうこうしていると年配の男性に「美濃町線を歩いているんですか」と話しかけられる著者の栗原さん……。単に廃線跡の情報だけでなく、地元の人々とのちょっとした交流も挟まり、読んでいて旅情感があります。

 

オンライン廃線巡りに役立つサイトは?

「そういう楽しみ方もあったのか!」と新鮮に感じたのが、第2章のオンライン廃線巡り。最初に「グーグルマップ」の航空写真で廃線跡をチェックするのが基本。そこを「ストリートビュー」でたどっていくと、撤去されていないコンクリート橋脚などがしっかり確認できるそうです。

 

昭和の戦前期から撮影されてきた航空写真が見られる国土地理院の「地理院地図」、全国49地域で明治期以降の地形図を閲覧できるサイト「今昔マップ」など、便利なサイト・アプリも具体的に紹介されていて、本書を手に取ったその日からオンライン廃線巡りに出発できます。

 

日本最後の非電化軽便だった石川の尾小屋鉄道、廃線跡の沿道にしだれ桜が植樹され新名所となっている福島・喜多方の日中線など「特徴的な廃線跡4例」、「廃線跡巡りの持ち物について」、「著者がおすすめする廃線跡」と各章で切り口もいろいろ。今よりもゆっくりと時間が流れていた時代、鉄道を中心に栄えていた風景を想像して、ノスタルジーに浸るのもいいですね。

 

【書籍紹介】

廃線跡巡りのすすめ

著者:栗原 景
発行:交通新聞社

在りし日の鉄道の姿を想像しながら歩く『廃線跡巡り』。やってみたいとは思っていても、そもそも下調べからして難しそう! たしかに昔はそうでした。それが今、劇的に始めやすくなっているのです。事前調査から実際に歩いてみるまで、数多くの廃線跡を巡った著者が豊富な実例と実体験をもとに新しい廃線跡巡りのHow Toと、廃線跡をもっと楽しむ方法を詰め込んだ実用の一冊です。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

起業の神髄がここにある! 明治・大正・昭和を駆け抜けた「無名の起業家」の一生

頼介伝』(松原隆一郎・著/苦楽堂・刊)は実に不思議な本である。著者・松原隆一郎が、自分の祖父・松原頼介の生涯を描いた作品なのだが、単なる「思い出の記」というわけではない。そもそも、著者は祖父のことをよく知らなかったという。

 

可愛がってもらった記憶はあるのだが、祖父がどんな風に生きたか、何を考えていたかについては、わかっていなかった。祖父は自分のことを語らない人だったので、長い人生をどのように過ごしたか知らずにいたのだ。ところが、父が亡くなり相続のための事務を行ううちに、自然と祖父の来歴を知るようになった。それが、この『頼介伝』を書くきっかけとなったのだから、父が祖父に会わせてくれたと言っていいだろう。

 

松原頼介という人物

最初のうち、著者は税務上、必要なことだけを調べるつもりだった。ところが、次第に祖父に取り込まれていき、やがてその人生を夢中でたどるようになった。父の死後、6年間も膨大な史料にあたり、祖父が暮らした土地を実際に訪ね、祖父を知っているという人を探し出してはインタビューを繰り返した。まるで取り憑かれたかのように。

 

『頼介伝』の主人公となった松原頼介は、1897年に生まれ、1988年に亡くなっている。つまり、明治の世に生まれ、大正・昭和を生き抜き、91才の長寿を全うした。妻に先立たれた後は、親戚の世話を受けながら、静かな晩年を送り、過去の話をしたりもしなかった。そのため、孫にあたる著者でさえ、彼の人生が波瀾万丈で、時にめちゃくちゃなものであることに気づかなかった。

 

祖父・頼介が生きたのは、変転に次ぐ変転を繰り返す希有な時代だった。ヒトは自分がいつ生まれるのかを選ぶことはできないし、同時にいつ死ぬかを決めることもできない。その意味では、運命に翻弄される不自由な生物だ。もちろん、頼介も自ら望んで1897年にこの世に生を受けたわけではない。しかし、彼には時代の波を勘良くとらえ、サーフィンするようにスイスイと乗り切る才覚があった。

 

頼介は人生で二度、巨大な右肩上がりの景気の波に出くわし、迷わず乗った。現在の日本人には、一度のバブルに熱狂しその崩壊後に立ち直れなくなったり、生まれて以来ダラダラ続く不況しか知らない人が大半を占めている

(『頼介伝』より抜粋)

 

二度の大波とは、ひとつめは、第一次世界大戦に伴う好景気から日華事変勃発までの4年あまりを指し、ふたつめは戦後の高度成長期だ。頼介はこのふたつの波を逃さなかった。最初の波が来たとき、彼は松原商会を起業して活動を開始する。主に、外国航路の機材を販売する船具の卸売りをしながら、他にも食品や医薬品なども扱い、手広く商売を展開した。さらに、紡績工場を作るという大勝負に出るや、上昇気流に乗って莫大な利益をあげていく。ところが、太平洋戦争に突入すると次第に商売は傾き、破綻する。

 

それでも、頼介は負けなかった。事業の失敗から立ち直るや、敗戦後の混乱を経て、今一度、勝負に打って出る。そして、大和伸鉄株式会社という製鉄会社を起こし、再びの成功を勝ち得るのだ。

 

頼介は、しくじっても負けることなく強気に前進し、幸運を味方につけて立ち直る強運を持っていた。それだけではない。時代を読み取る力に秀でており、滅多なことでは訪れないであろう好機を見逃すことなく、自分を成功へと導いた。失敗を怖れずにチャレンジする強い心、それが、先行きに不安を感じながら生きている今の私たちの心を打つ。

 

かつて、日本にもこういう時代があったのだ、こんな風に生きた人がいたのだ。コロナ禍のもと、段々しぼんでいくような気持ちを抱えている私たちにとって、それは大きな救いとなる。

 

頼介と神戸

頼介は山口県で生まれ、その後、日本を飛び出し、フィリピンのダバオに渡る。しかし、数年後に帰国すると、神戸で暮らすようになり、亡くなるまで神戸にいた。私は、著者が祖父の面影を求めて歩くのが、神戸の東のはずれにある東出町(ひがしでまち)ということに興味をひかれた。東出町は、JR神戸駅の南口から線路に沿って西に向かった場所にあるが、元々は川崎重工のお膝元の町として繁栄していて、立ち飲み屋から人があふれ出すほど賑やかな町だった。しかし、中国や韓国のメーカーとの競争に敗れ、今ではすっかりさびれてしまい、神戸在住の人でも知らない人が多い。著者も「まったく聞き覚えがない地名である」と、述べている。

 

私事だが、私は1985年に神戸に引っ越してきて、それからずっと神戸に住んでいる。以来、神戸の人達にはひたすら親切にしてもらってきた。なぜよそ者の自分にこんなによくしてくれるのか、よくわからない。私が暮らしているのは、阪神間と呼ばれる地域だが、ここは特によそ者に優しいところなのかもしれない。

 

阪神間は当初は別荘地として、阪神電鉄の開通とともに通勤圏の生活居住地として、脚光を浴びていった。人気の理由は、どの立ち位置からも山と海が眺望できる、明るい自然環境にあった。そこに大正末の関東大震災の影響で東京から文化人が移住してくる。

(『頼介伝』より抜粋)

 

作家・谷崎潤一郎も移住組の1人であり、関西を舞台に『細雪』などの優れた作品を残した。神戸に引っ越して来たばかりのころ、友達のいない寂しさに耐えかねた私は『細雪』ばかり読んでいた。もし、あのとき、『頼介伝』があったなら、神戸についてまた違う側面からの理解を深めることができただろう。

 

不思議の書『頼介伝』

『頼介伝』は、頼介の生涯を描いた作品であり、伝記のジャンルに属するものであるはずだ。著者も主人公の孫として、親戚などから思い出話を聞き、祖父の一生を明らかにしようと奮闘した。

 

一方で、著者は熱心に取材をしながらも、しばしば袋小路に入り込んでしまったように、立ち止まってしまう。頼介の生涯をとりまく環境を細かく、あまりにも緻密に描こうとしては、知らない町を迷いながら突っ走る少年なような危うさも見せる。加えて、祖父の人となりばかりではなく、人生をとりまくすべてを把握しようと、推理に推理を重ねているうち、深い穴に落ち込んでしまったようなときもある。そんなときは、読んでいる私までが、たまらなく不安になる。

 

『頼介伝』の過剰なまでの緻密さは、著者が社会経済の学者であることにも関係があると思う。東京大学大学院総合文化科教授を経て、放送大学教授をつとめる著者にとって、家族のライフ・ヒストリーを書くにあたっても、ただの懐かしい話として終わることなどできはしないのだろう。家族だからこそ、冷静に、客観的に、調べに調べて記述することを自分に課したのではないだろうか。

 

著者は『経済思想入門』や『ケインズとハイエク』などの専門書も著しているが、著書の中で異彩を放つのが、この『頼介伝』と『書庫を建てる』だ。『書庫を建てる』は、祖父が残した仏壇と著者自身の1万冊近い蔵書をおさめるために書庫を建てるプロジェクトについて書かれた本だ。この2冊を順番に読むと、人がどう生き、どう読み、どう死んでいくかについて、思いを巡らし、人間の不思議さを堪能することができる。

 

【書籍紹介】

賴介伝

著者:松原隆一郎
発行:苦楽堂

1万冊を収める著者の書庫は、祖父・頼介が最後に残した遺産で造られた。岸信介と同級生だったという祖父は、どのように財を成し、そして失ったのか。「無名の起業家」の足跡を辿る旅が始まる。戦前の南洋ダバオ。暴動の街・神戸と鈴木商店の興亡。満鉄相手の大商売。『細雪』の地での成金暮らし。すべて戦禍で失われた8隻の船。終戦直後の再起。『華麗なる一族』を地で行く製鉄業での栄光と破綻。頼介の生涯は、そのまま神戸そして日本の忘れられた近現代史と重なっていく。この国の百年を体感する傑作大河評伝。

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仕事の質とスピードが上がる、驚きの技の数々を余すことなく紹介!「エクセルパーフェクトテクニック350+α最新版」

「エクセルパーフェクトテクニック350+α最新版」は、仕事の質とスピードにつながる深い分析、細かい計算も楽ちんなエクセルの究極テクニックを大収録。ショートカット、マクロ、文書作成など驚きの技の数々を288ページの大ボリュームで余すことなく紹介しています。HPにアクセスして練習用ファイルをダウンロードできる特典付き。

仕事の質を高めるエクセルの究極テクニックを収録

本書は仕事の質とスピードにつながるエクセルの究極テクニックを350以上収録。知りたいことが見つかる「Question」、やるべき操作がわかる「Answer」などを見やすく配置し、仕事の現場ですぐ役立つようなさまざまな工夫がなされています。

ショートカットの活用など細かい便利ワザも収録

ショートカットの有効な活用法や、マウスを使わずに効率的に操作する方法など、普段はあまり使わない便利なテクニックも多数収録。

表計算や集計もサクサク

表計算や表の集計といった面倒で複雑な作業を効率化する時短ワザ、便利な操作方法もひとつひとつ丁寧に紹介。圧倒的なボリュームでエクセル業務の効率化を手助けします。

[商品概要]

エクセルパーフェクトテクニック350+α最新版

著者: ゲットナビ編集部
定価: 748円 (税込)

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パラリンピックの名付け親は日本人だった! スポーツの楽しさを再認識させてくれる『大人も知らない!? スポーツの実は…』

いろいろあったオリンピック・パラリンピックも9月5日で終幕。先日、仕事で日本武道館近くを通った際「本来ならここに観に来ていたのになぁ」とちょっと切ない気持ちになりました。自粛生活も重なり、テレビで色々なスポーツを楽しんでいましたが、オリンピックで33競技339種目、パラリンピックでは22競技539種目も争われていたってご存知でしたか? いやぁすごい数! 1年くらいかけてじっくり全競技見たいですよね(笑)。

 

そこで今回は、意外と知らないスポーツのルールや歴史を紹介する『大人も知らない!? スポーツの実は…』(白旗和也・著/文響社・刊)から、知っていると自慢できる豆知識を3つご紹介します!

 

『パラリンピック』の名付け親は日本人だった!

パラリンピックの開会式では、まさかの布袋寅泰さん登場でめちゃくちゃテンションが上がってしまいました! その後、映画『キル・ビル』のサントラを聴いてしまったのはいうまでもありません(笑)。個人的には毎回オリンピックよりも盛り上がってしまうパラリンピックなのですが、意外にもこの名称を考えたのは日本人だと言われています。

 

実はこの「パラリンピック」という名称は日本人がつけたもの。ローマ大会から4年後の1964年東京オリンピックにあわせて行われた障がい者のためのスポーツ大会を「パラリンピック」と呼んだのがきっかけです。「下半身まひ」のことを英語で「パラプレジア」と呼ぶことから、「オリンピック」とかけあわせて生まれた“造語”でした。ただ、一体誰が思いついたのかは、今でも謎のままです。

(『大人も知らない!? スポーツの実は…』より引用)

 

ちなみにパラリンピックの原点は、1948年にイギリスの病院で開催された車椅子患者さん16名によるアーチェリー大会だったのだとか。

 

最近では、オリンピックと並行で行われる、もうひとつのオリンピックという意味の「パラレル」を意味する「パラリンピック」として呼ばれるようになりました。パラリンピックを見ていると、車椅子だけでなく本当にたくさんの競技に挑戦されている方々を見ることができます。なかには、オリンピックの記録をパラリンピックの選手が超えてしまうなど、まさにもうひとつのオリンピックになっていますよね。これを機に、パラアスリートたちに注目していきたい! そんなことを思わせてくれる大会です。

 

あっという間にやってくる冬季五輪!

2022年2月から始まる北京での冬季オリンピック。なんともう半年後なんですよね……!

 

今回の東京オリンピックでは、スノーボードのメダリストである平野歩夢選手が追加種目として加わったスケートボードに挑戦していました。今回の東京オリンピックで「スケートボード面白かった!」と感じた人は、ぜひ半年後のスノーボードにも注目してみましょう。スノーボードを見る時、特に聞き逃せないのが「技の名前」です。なんとローストビーフやチキンサラダといった食べ物の名前がついた技名があるそうです。

 

「ローストビーフ」とは、ジャンプしているときに後ろの手を股の間に通してボードの背面側をつかむこと。「チキンサラダ」は、同じ場所をつかみますが、手首をひねるので、さらに難易度が高いのです。

スノーボードの技は、考案した人が名付け親になることができるため、他にも「カナディアンベーコン」や「スイスチーズ」などの技があります。

(『大人も知らない!? スポーツの実は…』より引用)

 

自由な世界! 次回は北京での開催予定なので、「北京ダック」なんて新技が加わって欲しい……。競技はもちろん、実況にも注目しておきたい競技ですね。

 

クライミングのスピードは、エレベーターよりも早い!

もうひとつ今回の東京オリンピックから追加科目となったスポーツクライミングも盛り上がった種目でした。近年、健康維持のためにとボルダリングを始める人も増えて、注目が集まっていましたよね。そんなスポーツクライミングの中でも駆け上がる速さを競う「スピード」は、カメラが追いつかないほどでしたね。何か手にくっつけているのかと思ったくらいでした!

 

テレビで見ていても十分に凄さは伝わりますが、非現実的すぎて(笑)想像できないのも正直なところ。時速で測ると、エレベーターの上昇スピードより早いのだとか!

 

ビル4〜5階分にもなる高さに、男子ならなんと6秒弱で到達してしまうのです。その速度は秒速2〜3m。対して、一般的なエレベーターの速度は秒速0.5〜1m。同時にスタートを切ればクライミング選手の方が圧倒的に早くゴールに到達します。

(『大人も知らない!? スポーツの実は…』より引用)

 

エレベーターに乗るたびに思い出してしまいそうですね(笑)。

 

『大人も知らない!? スポーツの実は…』には、他にも「最も短い飛距離のホームランは60cm!」「オリンピックは全員裸で競技していた!」「オリンピックには芸術競技があった!」など驚くようなスポーツ豆知識が豊富に掲載されています。

 

オリンピック・パラリンピックを観て、スポーツをやってみたくなった方は、ぜひ『大人も知らない!? スポーツの実は…』と一緒に楽しんでもらえればと思います。

 

【書籍紹介】

大人も知らない!? スポーツの実は…

著者:白旗和也
刊行:文響社

『日本体育大学教授』がおしえる!スポーツ・オリンピックが100倍楽しくなる事典。全35種類のスポーツ&パラスポーツ/70以上のこれまでのスポーツの常識をひっくり返す”実は…”を集めた大人も楽しめる今までにない新しいスポーツ本!

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「女の子と恋はできないだろう」と親から言われた男がとった行動とは?——『クラスメイトの女子、全員好きでした』

爪切男さんのエッセイは、せつなくも、おもしろい。出会った女性たちに振り回された半生を描き、ドラマ化もされたデビュー作『死にたい夜にかぎって』に勇気づけられた男性は多いのではないかと思う。その爪さんの小学校、中学校、高校時代の女子たちとの思い出を綴ったのが『クラスメイトの女子、全員好きでした』(爪切男・著/集英社・刊)だ。笑える数々のエピソードを読んでいると、読者の中に眠っていた学生時代の思い出までもが呼び覚まされる痛快センチメンタル・スクールエッセイなのだ。

クラスの女の子を観察し、覚えること

「おまえは、女の子と恋はできないだろう」。なんと爪さんは小学生の時、父親からそう言われたそうだ。父子家庭で貧乏でルックスもよくない、というのが理由だったという。

 

「お父さん、僕はどうしたらいいの? 恋ができない僕は、みんなが恋しているときにどうしたらいいの?」

「そうやな、”覚えろ”」

「覚える?」

「女の子たちの顔や、話したこと、過ごした時間をずっと覚えとけ。それは、おまえが大きくなったら、ほんまに大切な宝物になる」

(『クラスメイトの女子、全員好きでした』から引用)

 

父親のこの言葉で爪さんは同じクラスになった女の子をひとり残らず”覚える”ようになったのだそうだ。そうして生まれたのが本作というわけだ。けれども、40代独身男性になった今、爪さんは父親の予言は外れていたと言う。なぜなら爪さんは片思いでも、ずっと恋をしていたのだから。この本は時を超えたラブレター集なのだそうだ。

 

思い出は美化されるもの

本書に収められた20のエピソードには20人のヒロインが登場する。大筋は実際にあった話だが、特定されてしまわないように年齢やプロフィールは多少変更してあるとのこと。また、爪さんは思い出を美化するクセもあるという。

 

思い出なんて自分の中では多少美化しているぐらいでいいんじゃないでしょうか。そうでなくても人生は兎にも角にも辛いことが多過ぎる。先のこと、十年先の未来を考えても、心から明るい気持ちになれる人なんてほんのわずかじゃないかと思います。だから、私はこれからも恋をする。気分が落ち込んだ時、クラスメイトの女子の誰かを思い出し、頭の中で恋をして、彼女たちから元気をもらいます。そして。「まぁ、明日までがんばるか」くらいの緩さで明るく生きていくつもりです。

(『クラスメイトの女子、全員好きでした』から引用)

 

そう、人は、思い出に勇気づけられることも多いのだ。

 

ワックスをかけた教室の匂いが蘇る

20篇は、どれもこれも笑えるのだが、とくに私が懐かしいと思ったのが、「ワックスの海を滑る僕らの学級委員長」と題した項。爪さんが小学校5年生の時の思い出を綴ったものだ。教室のワックスがけの記憶は私にもあり、読んでいたら、あのワックスの匂いまでもがありありと蘇ってきたのだ。

 

爪さんが通っていた小学校では、学期末のワックスがけが恒例だったそうだ。床の掃き掃除、拭き掃除はクラス全員でしたものの、ワックスがけは学級委員と担任教師が居残りで行うことになっていた。が、担任はプリント整理を理由に学級委員だった爪さんと女子の中野さんに任せてその場を立ち去ってしまったのだそうだ。そうして二人で作業をはじめようとした矢先、ワックスがたっぷりと入ったバケツを中野さんがひっくり返してしまった。しかも、そのワックスに滑って彼女は体中ワックスまみれに。

 

「あう~ あう~」と恨めしそうな声を出す中野さん。その声が面白くて私はさらに大声で笑う。次の瞬間、女の子が泣き出す前の嫌な沈黙が教室に流れた。これはヤバい。なんとか中野さんを元気づけようと思った私は、すぐ行動を起こす。「しゅい~~~ん!」と叫び声を上げながら、私は床にこぼれたワックスめがけてヘッドスライディングを敢行する。腹這いの姿勢で床の上を一直線に滑る私。(中略)「最高に楽しいよ」と私は親指を立てる。最初は呆然としていた中野さんも、もう辛抱たまらんと笑みをこぼし、そのうち二人して大声で「あはははは!」と笑い出す。

(『クラスメイトの女子、全員好きでした』から引用)

 

彼はなんと優しい男の子だったのだろう。その後、二人はワックスの海を何度も滑って、回って、転がって遊んだのだそうだ。当然、担任からはこっぴどく叱られたものの、一番楽しい学校帰りになったという。そして爪さんは、彼女は最高に可愛くて、最高の相棒で、最高の学級委員だった、と今もなお思っているそうだ。

 

バク転を女の子に見てもらいたい

「空を飛ぶほどアイ・ラブ・ユー」も最高だった。中学生時代、ジャッキー・チェンの映画に影響され、ひとりでカンフーごっこをしていた爪さんは、バク転が出来るようになった。父親は皆に見せれば人気者なれると言ったが、しかし、ブサイクが変に目立つことをすると、それに腹を立てたヤンキーにイジメられる恐れもある、そう思った爪さんはバク転が出来ることを学校では内緒にすることにした。けれども「女の子にバク転を見てもらいたい」という思いは募る。当時のクラスメイトには「沈黙の佐藤さん」という女子がいて、どうやら場面緘黙症だったようで、校内ではまったく言葉を発しなかった。彼女なら秘密を守ってくれると爪さんは佐藤さんに声をかけ、人目がない廊下に誘った。

 

「危ないから少し離れて見ててね」と安全な距離を取り、充分な助走から側転→バク転のコンビネーションを狙う。(中略)そして私は飛んだ、世界が回った。着地も成功だ。「どうだ!」という表情で、佐藤さんの方を振り返ると、口をあんぐりと開けて驚きの顔をしている彼女。そしてすぐ「パチパチパチ……」と大きな音を立てて拍手をしてくれた。

(『クラスメイトの女子、全員好きでした』から引用)

 

佐藤さんは誰にも他言せず、というか、彼女の声はついに一度も聴くことはなかったという。ただ卒業アルバムに達筆で「バク転カッコ良かったよ」と書いてくれたので、爪さんは卒業式の日に、もう一度彼女の前で飛んだのだそうだ。なんて素敵な思い出だろう。

 

この他のエピソードも、せつなくて、楽しくて、笑えるものばかり。誰もをノスタルジックな気分にさせてくれる本書、おススメです。

 

【書籍紹介】

クラスメイトの女子、全員好きでした

著者:爪 切男
発行:集英社

小学校から高校までいつもクラスメイトの女子に恋をしていた。主演・賀来賢人、ヒロイン山本舞香でドラマ化もされたデビュー作「死にたい夜にかぎって」の前日譚ともいえる、全20篇のセンチメンタル・スクールエッセイ。きっと誰もが“心の卒業アルバム”を開きたくなる、せつなくておもしろくてやさしくて泣ける作品。

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岩手の「福田パン」大阪の「551HORAI」……超人気店が全国展開しない理由とは?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。地方から東京や大阪へ出てきて、「えっ、あのお店って全国チェーンじゃなかったの!?」と驚いた経験はありませんか? 県内では圧倒的な人気でも、実は全国展開していない……という地域密着型のチェーン店は意外と多いようです。

 

 

地域密着のローカルチェーンに注目!

強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(辰井 裕紀・著/PHPビジネス新書)は、テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」に約7年携わったリサーチャー・辰井裕紀さんの初となる著書。辰井さんは元放送作家で、現在はネットメディアを中心にライターとして活躍しています。

 

 

岩手の「福田パン」が愛される理由

取り上げられているのは、「ローカルで繁盛している」「すごいビジネスの工夫がある」という2つの条件を満たしている7チェーン。

 

第1章は岩手の「福田パン」。私は知りませんでしたが、岩手県盛岡市で1948年に開業して以来、長らく地元で愛され、最近ではコッペパンブームの火付け役となった“東北ローカルフードの代表格”だそうです。その特徴は、好みの具を組み合わせてその場でコッペパンを作ってくれる対面販売の直営店。

 

メニューは「あんバター」「ピーナツバター」など甘い系が30数種類、「タマゴ」「焼きそば」などの調理系が20数種類、そこにトッピングも加わり、オーダーの組み合わせはなんと2000種類以上にも及ぶとか! スーパーでもパッケージされているものが売られていますが、対面販売ではクリームが増量になるという噂もささやかれ、直営店には行列が絶えないといいます。

 

社長の福田 潔さん曰く、全国進出しない理由は、「いまぐらいの規模がちょうどいい」「そこに行かなきゃ味わえないほうが価値はある」とのこと。東京の「吉田パン」など、福田パンの製法を学んだお店が全国でオープンしていて、自らライバルを増やすようなやり方ですが、「仲間が増えるので嬉しい」という社長の言葉を読んで、まさにコッペパンのような素朴な温かさを感じました。

 

第2章は大阪の「551HORAI」。豚まんは関西のおみやげとしても有名ですよね。以前から「551」という数字の店名が気になっていましたが、本書を読んで謎が解けました。創業者が吸っていたタバコの銘柄が「555(スリーファイブ)」で、「数字なら覚えやすいし万国共通だ」とひらめいたのが理由。「551」には「味もサービスもここ(55)がいち(1)ばんを目指そう!」という意味も込められているとか。

 

「東京でも気軽に買えたらいいのに」という声もよく聞かれますが、生地を美味しく作るため、本部として管理できる上限を60店舗前後と見て、その範囲内で出店しているそうです。遠方の百貨店に出張する際は生地の粉とミキサーを持っていって、その場で作るという徹底ぶりです。

 

「豊潤で噛みごたえがある真っ白な分厚い皮がいい……ふたくち目でついに具へと到達し、やわらかい豚肉からコクがじんわり染み出る」。著者の辰井さんによる豚まんのレポートも食欲をそそります。

 

そのほか、茨城のうどんチェーン「ばんどう太郎」、三重のおにぎり専門店「おにぎりの桃太郎」、埼玉の「ぎょうざの満洲」……と選ばれた店は個性派ばかり。辰井さんが実際に現地へ行って取材し、経営のトップやキーマンにインタビューしているため、店舗の雰囲気、人気メニューの味から、知られざる社風まで臨場感を持って伝わってきます。

 

各チェーンの哲学が見えるビジネス書であり、ローカルなソウルフードの秘密に迫るグルメ本としても楽しめる一冊。みなさんが思わず自慢したくなるような地元のチェーンはありますか?

 

【書籍紹介】

『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』

著者:辰井 裕紀
発行:PHP研究所

「地元に残る」が価値になる。「秘密のケンミンSHOW」元リサーチャーが全国行脚!福田パン、551、ばんどう太郎…「逆境をチャンスに」厳選7店の儲かる黄金ルール。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

岩手の「福田パン」大阪の「551HORAI」……超人気店が全国展開しない理由とは?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。地方から東京や大阪へ出てきて、「えっ、あのお店って全国チェーンじゃなかったの!?」と驚いた経験はありませんか? 県内では圧倒的な人気でも、実は全国展開していない……という地域密着型のチェーン店は意外と多いようです。

 

 

地域密着のローカルチェーンに注目!

強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(辰井 裕紀・著/PHPビジネス新書)は、テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」に約7年携わったリサーチャー・辰井裕紀さんの初となる著書。辰井さんは元放送作家で、現在はネットメディアを中心にライターとして活躍しています。

 

 

岩手の「福田パン」が愛される理由

取り上げられているのは、「ローカルで繁盛している」「すごいビジネスの工夫がある」という2つの条件を満たしている7チェーン。

 

第1章は岩手の「福田パン」。私は知りませんでしたが、岩手県盛岡市で1948年に開業して以来、長らく地元で愛され、最近ではコッペパンブームの火付け役となった“東北ローカルフードの代表格”だそうです。その特徴は、好みの具を組み合わせてその場でコッペパンを作ってくれる対面販売の直営店。

 

メニューは「あんバター」「ピーナツバター」など甘い系が30数種類、「タマゴ」「焼きそば」などの調理系が20数種類、そこにトッピングも加わり、オーダーの組み合わせはなんと2000種類以上にも及ぶとか! スーパーでもパッケージされているものが売られていますが、対面販売ではクリームが増量になるという噂もささやかれ、直営店には行列が絶えないといいます。

 

社長の福田 潔さん曰く、全国進出しない理由は、「いまぐらいの規模がちょうどいい」「そこに行かなきゃ味わえないほうが価値はある」とのこと。東京の「吉田パン」など、福田パンの製法を学んだお店が全国でオープンしていて、自らライバルを増やすようなやり方ですが、「仲間が増えるので嬉しい」という社長の言葉を読んで、まさにコッペパンのような素朴な温かさを感じました。

 

第2章は大阪の「551HORAI」。豚まんは関西のおみやげとしても有名ですよね。以前から「551」という数字の店名が気になっていましたが、本書を読んで謎が解けました。創業者が吸っていたタバコの銘柄が「555(スリーファイブ)」で、「数字なら覚えやすいし万国共通だ」とひらめいたのが理由。「551」には「味もサービスもここ(55)がいち(1)ばんを目指そう!」という意味も込められているとか。

 

「東京でも気軽に買えたらいいのに」という声もよく聞かれますが、生地を美味しく作るため、本部として管理できる上限を60店舗前後と見て、その範囲内で出店しているそうです。遠方の百貨店に出張する際は生地の粉とミキサーを持っていって、その場で作るという徹底ぶりです。

 

「豊潤で噛みごたえがある真っ白な分厚い皮がいい……ふたくち目でついに具へと到達し、やわらかい豚肉からコクがじんわり染み出る」。著者の辰井さんによる豚まんのレポートも食欲をそそります。

 

そのほか、茨城のうどんチェーン「ばんどう太郎」、三重のおにぎり専門店「おにぎりの桃太郎」、埼玉の「ぎょうざの満洲」……と選ばれた店は個性派ばかり。辰井さんが実際に現地へ行って取材し、経営のトップやキーマンにインタビューしているため、店舗の雰囲気、人気メニューの味から、知られざる社風まで臨場感を持って伝わってきます。

 

各チェーンの哲学が見えるビジネス書であり、ローカルなソウルフードの秘密に迫るグルメ本としても楽しめる一冊。みなさんが思わず自慢したくなるような地元のチェーンはありますか?

 

【書籍紹介】

『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』

著者:辰井 裕紀
発行:PHP研究所

「地元に残る」が価値になる。「秘密のケンミンSHOW」元リサーチャーが全国行脚!福田パン、551、ばんどう太郎…「逆境をチャンスに」厳選7店の儲かる黄金ルール。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

城好きならゼッタイ手に入れたいマストアイテム!『ワイド&パノラマ 鳥瞰・復元イラスト 戦国の城』

『ワイド&パノラマ 鳥瞰・復元イラスト 戦国の城』は、城郭イラストの第一人者である香川元太郎氏が、 雑誌『歴史群像』に描き下ろしてきた精密な復元イラストを、 折込A3のワイドサイズで掲載し、 その城を熟知する研究家たちが解説する、 城ファン待望のイラスト集です。

 

 

第一人者による城郭イラスト!

雑誌『歴史群像』の連載「戦国の城」は、 在りし日の城の姿をイラスト復元して紹介する人気企画。 縄張図や発掘調査、 文献資料をもとに、 城郭研究者たちとタッグを組んでビジュアル化するという難しい試みを、 20年以上担当しているのが、 現代の城郭イラストの第一人者である香川元太郎氏です。 本書には、 これまで『歴史群像』に掲載されてきたイラストだけでなく、 地方自治体や博物館の依頼で描き下ろされた秘蔵イラストも多数掲載しているので、 お城ファンは必見です。

 

大迫力のA3掲載で見えてくるもの!

イラストの多くは、 折込A3サイズで掲載。 絵の中心部分もノドに邪魔されることなく、 一枚の絵として迫力の復元イラストを楽しめます。 大きく掲載することで、 時代による石垣の積み方の違いや、 人物の旗指物などの細部の描き込みまでよくわかり、 復元イラストが持つ圧倒的な情報量を存分に堪能。

 

第一線の城郭研究家たちの解説!

それぞれの城の解説は、 イラストの監修を行った城郭研究家が担当しています。 その城を知り尽くした専門家ならではの、 簡潔にして熱のこもった文章は、 その城の魅力を最大限に引き出して伝えます。 他に、 香川氏自らが解説している城も。

城めぐりが難しい状況が続いています。 こんな時期は、 復元イラストで時代を超える城めぐりをされてはいかがでしょう?

 

[商品概要]

ワイド&パノラマ 鳥瞰・復元イラスト 戦国の城

著者: 香川元太郎(イラスト)
定価: 3850円 (税込)

 

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鳥のくちばしは何でできているの? インコはどうして喋れるの? そんな「鳥」の疑問を解決してくれる一冊

先日、マンションから外をぼ〜っと眺めていると、2羽のハトがイチャイチャしているのを発見! 『付き合ってまだ2週間です』っていうくらいのラブラブぶりに驚いて、週刊誌カメラマンのごとくこっそり撮影してしまったのですが、こちらに気がついたのか、仲良く遠くの電信柱へと飛び立ってしまいました。

 

私たちの身近にいる鳥たちについて、まだまだ知らないことってありますよね。そんな鳥に関する素朴な疑問をわかりやすくまとめたのが『NHK子ども科学電話相談 鳥スペシャル』(川上和人、上田恵介・監修、NHK「子ども科学電話相談」制作班・編/NHK出版・刊)です。毎週日曜日に放送しているラジオ番組「子ども科学電話相談」の中から鳥に関する話題をピックアップした一冊です。

 

鳥のくちばしは「つめ」と同じ!

『NHK子ども科学電話相談 鳥スペシャル』は小学校低学年でも読めるような優しい文体で書かれてあり、さらに文字も大きいので、大人だと45分くらいで読み終えてしまう一冊です。しかし、その内容は濃くて、大人でも知らなかったことばかり。36個ある子どもたちからの相談に、鳥類学者の川上和人さんと、日本野鳥の会会長である上田恵介さんが回答しています。

 

私が一番面白かったのは、鳥の「くちばし」に関する相談。小学1年生の女の子が「みかんを枝にさしていたら、くちばしで食べていました。くちばしは何でできていますか?」の疑問に、川上さんが次のように回答していました。

 

くちばしは、つめと同じケラチンというたんぱく質でできているので、かたいんです。

で、くちばしっていろんなものを食べたりするので、傷ついたりもする。傷ついたりけずれたりしたままだと困っちゃうけれども、つめがのびるように、くちばしの表面もどんどん治って、のびてきます。

(『NHK子ども科学電話相談 鳥スペシャル』より引用)

 

ご自宅で鳥を飼っている方は、「のびる」ということをご存知かもしれませんが、野生の鳥か、動物園やペットショップにいる鳥しか見たことのない私には衝撃でした。本書では、くちばしについて詳しく紹介もされているので、お子さんの「ねぇ、どうして?」攻撃にもこれがあれば対応できそうです(笑)。

 

インコが喋れる理由

次は「インコはどうして人間の言葉を真似するの?」という小学1年生の男の子からの疑問。これには上田さんが回答しています。

 

人間は「こんにちは」「おはよう」というでしょう。インコも人間が「おはよう」といったら「おはよう」と返すことを知って、インコ的には「同じインコ仲間どうしで連らくし合ってる」「お話をしている」つもりになるんやと思います。

(『NHK子ども科学電話相談 鳥スペシャル』より引用)

 

もともとインコはお喋り好きな鳥だそうで、鳥同士でも常にピーピー話をしているのだとか。人間を仲間だと思ってくれるなんて、めっちゃインコかわいい……! さらにオスとメスでは、「メスにアピールしたい」と進化してきたオスのほうがよく喋るとも言われているそうです。

 

読み終わるころには鳥が好きになる!

あらためて鳥に注目してみると、身近に結構いっぱいいることに気がつきます。街中を飛び回るカラスや、小さなスズメ、公園にいるハト、近くの川にいるサギやカモなど、ただ眺めているだけでも楽しいですが、本書を読んでおくことで、鳥たちのことを深く知ることができます。

 

「CDをカラスよけに使うのはどうして?」「どうしてツバメは春になるとやってくるの?」「庭に野鳥を増やすにはどうしたらいい?」「鳥は夢を見るの?」など、大人では思い付かないような疑問を子どもたちが投げかけてくれるので、大人も一緒に楽しめます。この「NHK子ども科学電話相談」シリーズは、他にも『天文・宇宙スペシャル』『恐竜スペシャル』『昆虫スペシャル』と展開されているので、気になる話題から選ぶのもおすすめです!

 

【書籍紹介】

NHK子ども科学電話相談 鳥スペシャル!

著者:川上和人、上田恵介(監)
刊行:NHK出版

「インコはなぜ人間の言葉をまねするの?」「チョウにあるりん粉って鳥にもあるの?」知的好奇心をくすぐる絶妙な会話で、子どもの「なぜ?」が「わかる!」に変わります!朝の読書にも!

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「あの雲、キリンみたいだね」。この現象、名前があるんです!

空を見上げると目に入る「雲」。夏は入道雲が目立ちますし、ひこうき雲を見つけるとなんだかラッキーな気分になったりします。

 

雲を見ていると、何かに似ているなと思うことがあります。犬だったり猫だったり、ゾウだったりキリンだったり。このように、雲が動物に見える現象には、名前が付いているんです。

 

雲が動物に見えるのはパレイドリア現象のせい

空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎・著/KADOKAWA・刊)は、映画『天気の子』の気象監修者でもある著者が、天気にまつわるおもしろくてためになる知識をわかりやすく解説している書です。

 

その中に、先ほどの現象についての記述があります。

 

その名もパレイドリア現象。ふだんからよく知っているものの形を、本来はそこに存在しないにもかかわらず思い浮かべてしまうという、心理現象のひとつです。

『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』より引用

 

パレイドリアとは、ギリシャ語で「間違って見えるもの」という意味なんだそう。よく小さなお子さんが「あの雲、クマさんみたいだね」なんて言ってるのもパレイドリア現象。そう考えると、なんだか子どもが哲学者のように見えてきます。

 

人の顔に見える現象にも名前がある

ちなみに、雲が人の顔のように見える現象にも名前があります。

 

これはシュミラクラ現象(類像現象)といって、点や線が逆三角形に並んでいると、脳が人の顔だと判断してしまうというものです。

『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』より引用

 

シュミラクラは英語で「偽者」という意味です。この現象、結構体感していると思います。壁のシミが顔に見えたり、心霊写真なんかもほとんどがこれで説明がつきます。たまに、街中で見かける無機物(ネジの入ったプレートとか)を見ても人の顔に見えることがありますが、それもシュミラクラ現象なんですね。

 

地震と雲はまったく関係ない

天気の本の紹介をしていますが、天気とあまり関係ない話になってしまいましたので、天気関連のおもしろいお話も。よく、大きな地震が起きたときに「そういえば、地震雲が出てた」なんて聞くことがありますが、実は雲と地震は関係がないんだとか。

 

地震雲と呼ばれることの多い雲として、空に立っているように見える細長い雲があります。これは地上から空を見ている方向と同じ向きに飛行機雲がのびたもので、実際には雲は同じような高さに水平にできています。

『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』より引用

 

つまり、地震雲だと思っているものは、そのほとんどが雲の現象。そもそも、地震と雲の関連性については、わかってないようです。迷信みたいなものなんですね。

 

天気は、もしかしたら一番身近な科学なのかもしれません。ただ雲を眺めたり、雨が良く降るなぁなんて感じたり、暑くてやってられないなんて思うだけではなく、本書を読んで天気や気候について少し知れば、毎日が少し豊かになって、天気でイライラしたりすることがなくなるかもしれませんよ。

 

 

【書籍紹介】

空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑

著者:荒木健太郎
発行:KADOKAWA

とっても身近な空や雲、天気ですが、じつは知らないことがたっくさん!「雲は何でできている?」「どんな種類の雲がある?」「虹を見るにはどうしたらいい?」「空が青いのはどうして?」「最近大雨が起こりやすくなっているの?」「『大気の状態が不安定』ってどんな意味?」などなど、空にまつわるギモンに、一気にお答えします!

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タイトルから勝ってる婚活ドキュメンタリー『57歳で婚活したらすごかった』

最近、twitterをはじめとする各種SNSを激しく使っている。使い分けもうまくなった。そんな中、どんな媒体でも見るジャンルの広告のバリエーションが気になっている。

 

 

出会いの場の主流となったマッチングアプリ

それは、マッチングアプリの数々だ。30歳までの年齢層に特化したもの、50歳以上のシニア狙いのもの、変化球的にはパパ活したい女性たちの受け皿になっているものもある。

 

気軽な出会いから結婚相手をがっつり探すためのものまで、真剣度のグラデーションもさまざまだ。頻繁に行われているマッチングアプリの利用率に関する調査を見ると、どのサービスもメンバー数が上昇していることがわかる。ごく普通の飲み会もできなくなった今、第一義的な出会いの場として選ぶには弱めだったかもしれないマッチングアプリが主役になりつつある。

タイトルから勝ってる婚活ドキュメンタリー

57歳で婚活したらすごかった』(石神賢介・著/新潮社・刊)は、もうタイトルから勝っている。婚活という戦場に舞い降りた57歳の戦士にとって、何がどうすごかったのか。どうしても知りたい。プロフィールを見たら、著者の石神氏は1962年生まれ。同い年だ。がぜん距離が縮まる。序章に、次のような文章を見つけた。

 

この本は57歳からの、オヤジの“熟年婚活記”だ。婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティーなどを利用したリアルな体験をつづっていく。いい大人になってなお女性と上手に付き合えないもどかしさも、はるか年下の女性に罵倒された屈辱も、ありのまま打ち明ける。

『57歳で婚活したらすごかった』より引用

 

石神さんと筆者は、同じポップカルチャーの影響を受けているはずだ。高校から大学時代にかけて、身近に『週刊プレイボーイ』とか『HotDog Press』とかの恋愛情報ツール的な性格が強い媒体がいつもあった。こうした媒体から得た恋愛ノウハウには、耐用年数みたいなものがあるのだろう。それに、時代精神と恋愛行動のコンパティビリティみたいなものもあるだろう。序章の文章を読んだだけでさまざまな思いや場面が浮かび、広がっていく。

 

年齢を重ねてからの婚活はディストピアでしかないのか

章立てを見てみよう。

 

序章  57歳で一人、がつくづく嫌になる

第1章 41歳女性に「クソ老人!」とののしられる

第2章 予期せず本気の恋をして打ちひしがれる

第3章 結婚相手の愛犬に尻をなめられる

第4章 イベント系婚活は人柄がわかる

第5章 コロナ禍で追い詰められる婚活者たち  

終章  誰かと生きるのではなく、誰かのために生きる

 

各章のタイトルを見て感じられるのは、ある程度年齢を重ねてからの婚活のディストピア感だ。ただ、それだけが本書のテーマかといえば、決してそうではない。ディストピア感の向こう側に、温かく柔らかいものが確実に存在している。

 

プロフィールと現実の絶望的乖離

マッチングアプリを使えば、自分と相手の需給関係の調整をある程度までの段階まで、ある程度のスピード感を持って進めることができる。ただ、実際に会って話をして、ある程度うまくいったという“打感”があっても安心はできない。プロフィールによる選択と実際の顔合わせは、まったく違うゲームなのだ。そのあたり、第1章で詳しく触れられている。

 

石神さんは41歳の女性と会った。かつて地方のテレビ局でレポーターの仕事をした経験があり、離婚歴が一度ある銀行員だった。趣味が合うことも確かめ、アドレスを交換し、二人とも好きなR&Bアーティストの来日公演に行くことまで約束して別れた。

 

チケットも買ったが、全く連絡が来ない。LINEでメッセージを送ったら、3回目に「しつこいです。もう連絡しないでください。無理です」という返信が来た。そこで、「失礼しました。もう連絡はさしあげません」と送信して寝ると、翌朝こんなメッセージが届いていた。「連絡すんなって書いてあんの読めないのかよ。老眼鏡つけとけよ。てめーからLINEくるだけでゾッとして不眠になるわ。クソ老人!」

 

老眼鏡、クソ老人というワードの響き。石神さんと同い年である筆者自身が世界からどう見られているのか、思い知らされる気がする。

 

行くぜ! 婚活

60歳近くになってからの婚活が順調に進むわけがないし、それを望む方がまちがっているのかもしれない。ただ石神さんは、クソ老人と罵られたり、思わず出会ってしまった本気の恋で心折れたりしながらも、ある境地に至った。以下に紹介するものも含め、本書に記された一つひとつの文章を味わい、行間から感じ取るべきものはたくさんある。

 

自我が育ち切ってしまった中高年の場合、一人で生きていく自信があってこそ、自分以外の人間に費やす時間と余力があってこそ、誰かと一緒に生きることができるのではないだろうか。

『57歳で婚活したらすごかった』より引用

 

驚きとか嘆きとか、喜びとかキュンキュン感など、振れ幅の大きなさまざまな感情が交差しながら進んで行く超リアリスティック恋愛ドキュメンタリー。57歳、恋の大冒険。『レイダース/失われたアーク』とか、『ロマンシング・ストーン/秘法の谷』とか、80年代前半のアドベンチャー映画のバイブスも感じる。確実に言えるのは、婚活はいろんな意味で本当にすごかったということだ。

 

【書籍紹介】

 

57歳で婚活したらすごかった

著者:石神賢介
制作:新潮社

やっぱり結婚したい。57歳で強くそう思った著者は、婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティーを駆使した怒涛の婚活ライフに突入する。その目の前に現れたのは個性豊かな女性たちだった。「クソ老人」と罵倒してくる女性、セクシーな写真を次々送りつける女性、衝撃的な量の食事を奢らせる女性等々。リアルかつコミカルに中高年の婚活を徹底レポートする。切実な人のための超実用的「婚活次の一歩」攻略マニュアル付!

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特集は「秋に食べたい和のおかず」と「基本調味料だけでできる絶品おかず」月刊テレビテキスト「上沼恵美子のおしゃべりクッキング2021年9月号」発売!

「上沼恵美子のおしゃべりクッキング2021年9月号」は、  秋もおいしい「なす」のレシピや、 お腹の健康にもいい「発酵食品」を使ったレシピ、 香りを味わう「スパイス&ハーブ」のレシピなどを紹介します。 また、 テキストオリジナルの特別編集企画では、 秋に食べたい和のおかずや、 基本調味料だけでできるおかずなどを紹介します。

 

 

8月30日-9月24日放送のレシピを掲載!

■テレビテキスト

8/30→9/3放送 テーマ「秋なすを味わう」
蒸しなすの生姜和え/なすのメンチカツ/なすのココナッツカレー/ なすとベーコンのスパゲッティ/なすの辛味和え

9/6→9/10放送 テーマ「発酵食品を使って~体にいいごちそう~」
高菜と挽肉の卵焼き/甘酒煮込み麺/トマトクリームグラタン/ 温野菜のうま味噌/鶏団子のスープ

9/13→9/17放送 テーマ「スパイス&ハーブ」
牛肉の黒こしょう煮/いわしのシチリア風/豚しゃぶの辛味和え/ パリパリ鶏の香味だれ/緑野菜のさわやかドレッシング

9/20→9/24放送 テーマ「簡単スピードメニュー」
パプリカのカレー風味/じゃがいものマスタードソテー/鶏とかぼちゃの炒めもの/豚バラとキャベツのあっさり蒸し/サーモンのねぎ山椒ソース

旬の食材をたっぷりと。 秋に食べたい 和のおかず

まだまだ暑さは続くものの、 少しずつ秋の気配を感じる時期。 食卓にもいち早く秋の食材を取り入れてみませんか。 とくに季節を感じるのは、 やはり和のおかず。 今回の特集では、 秋野菜、 秋の魚を使った主菜・副菜を石原洋子さんが紹介します。

 

秋なすと鶏肉の南蛮酢がけ、 れんこんのはさみ照り焼き、 柿と春菊のごまだれ和え 他

 

簡単味つけでもっとおいしく! 基本調味料だけでできる絶品おかず

砂糖、 塩、 酢、 しょうゆなどの基本調味料だけでシンプルに作れる和洋中のおかずを、 近藤幸子さんが提案します。 毎日のおかず作りに役立つレシピばかりです。

 

えびとアスパラのレモンバター炒め、 シンプルフライパンから揚げ、 ミニトマトのにんにくしょうゆ漬け、 ピーマンのみそディップ 他

 

[商品概要]

上沼恵美子のおしゃべりクッキング21年9月号

著者: ABCテレビ 辻調理師専門学校
特別定価: 520円 (税込)

【本書のご購入はコチラ】
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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1228881421

各ピラミッドの角度が少しずつズレている謎とは? 古代と天文のミステリー~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。「智恵子は東京に空が無いといふ」。これは高村光太郎の有名な詩の冒頭です。東京にだって空はあるのですが、都会のせわしさで空の雄大さを感じる心が失われてしまっている、そんな気がします。そういえば私も最近、雲や星をのんびり眺めてないなあと……。こうしたときだからこそ、空に思いを馳せるのもいいかもしれません。

 

最近、空を見てますか?

古代文明と星空の謎』(渡部 潤一・著/ちくまプリマー新書)は、古代と天文という二大ロマンが一気に味わえる一冊。

著者の渡部潤一さんは天文学者で国立天文台副台長。国際天文学連合で「準惑星」というカテゴリーが作られたときに、冥王星をその座に据えた惑星定義委員のひとりとしても知られています。『第二の地球が見つかる日』(朝日新書)、『眠れなくなるほど面白い 図解 宇宙の話』(日本文芸社)など著書多数。今回は昔の人たちが星空をどのように眺め、どう利用してきたか、遺跡や記録を手がかりに読み解いていきます。

 

ピラミッドの角度がズレている理由

第1章「巨石文化は何を示しているのか?」では、巨石で有名な古代遺跡を「古天文学」の見地からチェックしていきます。

 

イギリス南部のソールズベリーにあるストーンヘンジは、誰が何のために作ったのか、いまだにわからない謎多き遺跡。立てられた年代もはっきりとはわかっていません。このストーンヘンジ、中央に平たい石「聖壇石」があり、この石とサークルの外側に置かれている立石を直線で結ぶと夏至の日の出の方向と一致するのだとか!

 

あれだけの巨石がきちんと計算されて置かれている。ストーンヘンジは天文観測所だったのか、日時を測る巨大な時計だったのか、それとも宗教的な祭壇だったのか……。想像力をかき立てられます。

 

2章はエジプトのピラミッドと天文学の関わりについて。最近の研究では、ピラミッドの内部構造を「ミューオン」という素粒子で透視する手法が進んでいるそうです。これによって、ピラミッドの内部は太陽信仰に基づき、埋葬された王が天へ登るための階段を模していると考えられるようになりました。

 

星を使って方位を測って建築されたといわれるピラミッドは、各辺がかなり正確に東西南北を向いています。現在の測量技術で確かめてもほんのわずかな違いしかないというから驚きです。ただ、そうはいっても各ピラミッド同士を比べると、東西南北に微妙なずれが生じています。一見測量のずれと簡単に片付けてしまいそうですが、実はこれは天文学的な現象「歳差」が理由……という説があります。

 

地球は自転する際に地軸が円錐状に動く「みそすり現象」を行っているため、星が見える位置も時間の経過に伴い少しずつずれていってまたもとに戻ります(およそ2万6000年周期)。星を基準に厳密に方位を測っていたため、結果的に建造年によって各ピラミッドの角度が若干異なってしまった……。そして、この手がかりから正確な建造年が導き出せる! まさにミステリーの謎解きのようです。

 

ほかにも、マヤ文明と金星の関係、奈良のキトラ古墳で見つかった世界最古とされる天文図「星宿図」の秘密といったロマンをかきたてるトピックが多数。星の座標の概念など文系には少々手強い箇所もありますが、文章が柔らかく読みやすいのも本書のいいところ。人類がこれまで見上げ続けてきた空。空への想いは時を超えてつながっています。

 

【書籍紹介】

『古代文明と星空の謎』

著者:渡部 潤一
発行:筑摩書房

ストーンヘンジは夏至の日の出を示し、ピラミッドは正確に真北を向いている。古代人はどうやって計測したのか。当時の星空をシミュレーションして読み解く!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

あなたの身近に意外といるかも? 40代からの婚活のリアル——『お互い40代婚』

最近、40代を過ぎてから婚活を始める女性が増えています。仕事に夢中になって30代を駆け抜け、気づいたら40代、そろそろパートナーをと考え始める人が多いようです。実際、40代の婚活とはどんな感じなのでしょう。

結婚相談所での苦境

私の周囲でも、40歳を過ぎて婚活を始める女性が何人もいます。最初のうちは張り切って結婚相談所に登録するのですが、そこでまず憤慨します。なぜなら紹介されるのが、年上の男性であることが多く、しかも10歳以上も年齢差があったりするのです。

 

同年代か年下の男性を希望する女性が少なくないのですが、なかなかそうした人を紹介してもらえません。それはなぜかというと、同年代の男性は年下の女性を希望することが多く、ニーズが合致しにくいからなのだとか。そこで初めて現実の厳しさに直面し、どうしたらいいのだろうと困り果ててしまう人もいます。

 

どこで出会えばいいのか問題

40代女性は近場での出会いにあきらめ気味です。「同世代でいいなと思った男性は大抵既婚者。もう結婚相談所に頼る以外ない」と思い込んでしまうのです。自然に生活していたら出会いは起きないので、頑張って婚活するしかないと考えてしまうのです。

 

40歳を超えると急に老後に不安を感じ始め「やっぱりパートナーがいたほうがいいかも」と、急いで婚活を始める人が多いと私は感じています。39歳までは「いい人がいたら結婚してもいいかも」と言いながら、楽しく仕事に没頭していた女性も、40歳になった途端「今が結婚のラストチャンスかも」と焦って迷走し始めてしまうのです。

 

実はすぐ近くにいるのかもしれない

コミックエッセイ『お互い40代婚』(たかぎなおこ・著/KADOKAWA・刊)は、40歳を過ぎてから結婚相手を見つけた、たかぎなおこさんの体験が綴られています。彼女は婚活をしたわけでも、結婚相談所に登録したわけでもありません。自宅のすぐ近くでお店を営む男性と交際し、ゴールインされたのです。

 

彼は、引っ越しのご挨拶をした時から親切でした。そして、たかぎさんが困った時には手を貸してくれました。その助けかたが押し付けがましくなく、とても自然なのです。おそらく普段から人を助け慣れている徳の高い男性なのでしょう。なのでたかぎさんも「この人いいなあ」と思い始めるのです。

 

長く生きてきたからこそ

この男性はとにかく女性を大切にしてくれます。サラダは自然に取り分けてくれるし、お取り寄せした果物をお裾分けしてくれたりもします。飾らない優しさは、一緒に暮らしてもきっとこんな感じなのではと思わせられます。たかぎさんが彼の素晴らしさに気づくことができたのは、やはり40年という長い歳月、人と関わってきた経験があったからなのでしょう。

 

若いころは、バラの花束を抱えて現れるような男性に胸がキュンとなり、まるでドラマのヒロインになったかのような恋愛に憧れるものです。けれど、年齢を重ねるうちに、結婚で大切なのはドラマではなく日常なのだと人は気づかされます。人生の長い時間を一緒に過ごすので、お互いに自然体でいられる相手であることが一番なのです。

 

40代婚の良さ

本書に描かれている40代同士の交際や結婚、そして新婚生活はとてもおだやかで、そしてお互いに思いやりに満ちた温かいものです。同時に複数のことを頑張ることが苦手な人もいます。仕事中心だった30代が過ぎ、40代は精神的にも余裕ができてきて、自分の生活に目が行くようになる人がいますが、それも素敵な生きかたです。

 

そして、この本でとても興味深かったのは、たかぎさんが前々からの希望通りの男性に出会ったということ。友人知人に「タヌキっぽくて、ギャンブルしないのんびりした人」と話していたのです。そして結婚したのはまさにそういう男性でした。日頃から具体的なパートナー像を頭に描いていたから、良縁のお相手が現れた時に、ピンと来たのかもしれません。自己分析はやはり大事なのでしょう。

 

 

【書籍紹介】

お互い40代婚

著者:たかぎなおこ
発行:KADOKAWA

ひとりぐらしを満喫して、仕事に趣味に楽しい毎日をおくってきたけれど、楽しいからって私、ずっとこのままでいいのかな…? そんなときにカニがご縁で(?)仲良くなった通称「おつぐやん」。ほのぼの優しくて、食べ物の趣味も合うし、なんかこの人いい感じじゃない…? お互い40代で出会ったからこそ、オトナの幸せを満喫…と思いきや、妊娠・出産は待ったなし!! 「別冊レタスクラブ」に掲載された漫画に加え、書き下ろし94ページ! 大人気イラストレーター、たかぎなおこの40代ならではの焦燥感と貫禄(?)をたっぷり味わえる、ファン待望のコミックエッセイです。

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ふんどし一枚で回転する人、急に金回りがよくなる謎のインド人——俳人・西東三鬼が出会った「ハキダメホテル」の人々

本を捨てるのが苦手だ。家事の中で、本箱の掃除が一番、嫌い……。何とかして本を減らそうと頑張っているのだが、別れはつらく、どうしようか迷いながら再読しているうち、半日が経ってしまったりする。

 

一年に一度、年末の大掃除で泣く泣く処分するのだが、それでも捨てられない本もある。大掃除を乗り越え、しぶとく生き残ってしまうのだ。表紙は破れ、ページは茶色く変色し、さんざんな姿になりながらも、本箱の一番、良い場所に生息し続ける。『神戸・続神戸・俳愚伝』(西東三鬼・著/講談社・刊)も、生き残り組の一冊で、何度もの危機をかいくぐってきた。


シンガポールでの青春

『神戸・新神戸・俳愚伝』の著者・西東三鬼は、1900年生まれの俳人だ。三鬼は雅号で、本名を斎藤敬直という。両親を早くに亡くしたため、兄のもとで育ち、長じて歯科医となってからも、兄を頼りに生活したようだ。兄の赴任地であるシンガポールについていき、歯科医院を開業している。自分で望んで始めた海外生活ではないが、熱帯の暮らしが彼を一変させたようだ。

 

シンガポール時代の三鬼は、すべてを取り戻そうと全方位に向けてはばたいた。外国人と遊興する一方で、日本より古典文学書を取り寄せ耽読。シンガポールという「赤道直下の乳香と没薬の国」(『俳愚伝』)で、日本古典を読むという、一見ミスマッチな生活が、後の俳人三鬼のバックボーンを作ることになる

(『神戸・続神戸・俳愚伝』解説より抜粋)

 

人間は異文化の中に放り込まれると、化学反応を起こしたかのように、自分を変えてしまうときがある。シンガポールに移住した西東三鬼にも同じことが起こった。生まれ変わったように、三鬼は希望に満ちた生活を送るようになる。熱帯での暮らしと相性がよかったのだろう。

 

けれども、結局、三鬼のシンガポール生活は三年で終了となった。対日感情が悪化し、日本排斥運動が始まったためだ。さらには、チフスに罹って生死の境をさまよい、帰国を余儀なくされた。

 

三鬼にとっては、残念な帰郷であったろう。しかし、物事には良いことと悪いことがある。シンガポールを追われ、体も壊し、「亡霊のような異邦人」となった彼だったが、知り合いに勧められた俳句の世界と出会い、生気をとりもどした。自分を救うための何かを求めていた三鬼は、俳句に魅了され、次々と驚くような斬新な句を発表し始める。

 

水枕ガバリと寒い海がある(昭和十一年)

(『神戸・続神戸・俳愚伝』より抜粋)

 

言葉に力があり、俳句に興味を持たない人でも、強く心を動かされるに違いない。

 

神戸での不思議な暮らし

俳人として活躍していた三鬼だったが、42才のとき、突如、それまでの生活を終焉することにする。生活の糧である歯科医も辞め、妻子を捨て、東京を出て神戸に向かい、軍需産業のブローカーとして働き始めるのだ。

 

その理由を彼はこう説明している。

 

昭和十七年の冬、私は単身、東京の何もかもから脱走した。そしてある日の夕方、神戸の坂道を下りていた。街の背後の山へ吹き上げてくる海風は寒かったが、私は私自身の東京の歴史から解放されたことで、胸ふくらむ思いであった。

(『神戸・続神戸・俳愚伝』より抜粋)

 

自由と言えば自由。でたらめと言えばでたらめな生き方に、自ら身を投じたことになる。

 

その後、三鬼は神戸のホテルで暮らすようになった。そこは、様々な事情を抱えた人びとが長期滞在している奇妙な場所だった。ホテルというより、多国籍な人物が集まる吹きだまりのようなところと言ったほうがいいかもしれない。三鬼も同じような立場だったから、たどり着くべくして着いたと言うべきか……。

 

国籍は、日本人が十二人、白系ロシヤ女一人、トルコタタール夫婦一組、エジプト男一人、台湾男一人、朝鮮女一人であった。

(『神戸・続神戸・俳愚伝』より抜粋)

 

職業も様々で、病院長、バーのマダム、肉屋など。いったいどうやって食べているのか、はっきりわからない人が好き放題に暮らしていた。中には、たとえ故郷へ帰りたくても許されず、身動きがとれないまま、ただ呆然と日々を送る外国人もいた。

 

思えば悲しい毎日だ。いったい明日、どうなるのか見当もつかない不安な日々を送らざるをえないのだから。ところが、三鬼の描くホテル生活は奇妙に明るい。食べる物に不自由している人もいれば、売春婦として生きる女性もいたが、彼らは彼らなりの倫理観を持って、堂々と生きている。そこに加わった三鬼は、周囲に「センセイ」と呼ばれ、頼りにされながら、毎日を過ごすようになった。

 

濃すぎるほどのキャラクター

『神戸・続神戸・俳愚伝』には、個性的というにはあまりにもすさまじい性格を持つ人達が、次から次へと登場する。「こんな人が本当にいたの? いていいの?」と、いぶかしく思うほどだが、本当に存在したのだろう。作り話や思いつきで構築できるキャラクターとは思えない。

 

私が一番興味をひかれたのは、ホテルの前に三日に一度、姿を表す人物だ。彼は一見したところは普通の男だが、ホテルの前にあるお気に入りの場所に来ると、いきなり服を脱ぎ捨て、ふんどし一枚になるや、天を仰ぎ、左の踵を軸にして、コマのようにグルグル回ってみせる。「なぜそんなことをするのか?」と問うても、「乱れた心が静まる」というわかったようなわからないような返事をするだけだ。めちゃくちゃな話だが、どこか救われるところがある。

 

実は、私も先日ひどく情けないことがあり、乱れた心を静めたくなった。そこで、着衣のままではあったが、彼の真似をして回ってみた、いや、回ってみようとした。しかし、果たせなかった。その回転は、想像していた以上に、高等技術を必要とする技で、運動神経の鈍い私にはできなかったのである。

 

ホテルに滞在しているエジプト人のマジット・エルバなる人物も面白い。彼はいつも極貧にあえいでいるのだが、突如、大金をふところに帰ってきては、皆に大盤振る舞いをする。しかし、翌日には早くもお金を使い果たし、一文無しに戻る。彼が稼いだときはいつも、どこかで牛が1頭、盗難にあっているという記事が新聞に掲載されるというのだから、どこで何をしているのやら……。

 

他にも、三鬼の恋人となった波子をはじめ、多くの奇矯な、しかし、魅力的な人物が登場するが、そのほとんどが悲劇的な運命に見舞われていく。あまりにも悲しくて、涙さえ出ない。涙より、吐き気に襲われるほどだ。それでいながら、残酷な運命を受け入れた人だけに許される、どこか突き抜けた明るさもある。

 

これから先、何度、本箱の掃除をしようとも『神戸・続神戸・俳愚伝』は生き残り、本箱の一等地に鎮座し続けるに違いない。大好きな一冊とは、私の場合、しぶとい本と同義のようだ。

 

【書籍紹介】

神戸・続神戸・俳愚伝

著者:西東三鬼
発行:講談社

“東京の何もかも”から脱出した“私”は、神戸のトーアロードにある朱色のハキダメホテルの住人となった。第二次世界大戦下の激動の時代に、神戸に実在した雑多な人種が集まる“国際ホテル”と、山手の異人館「三鬼館」での何とも不思議なペーソス溢れる人間模様を描く「神戸」「続神戸」。自ら身を投じた昭和俳句の動静を綴る「俳愚伝」。コスモポリタン三鬼のダンディズムと詩情漂う自伝的作品三篇。

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足裏を見れば健康状態や心の状態までわかる!「足相」チェックで元気な毎日を手に入れよう!

なかなかマッサージにも行きにくい昨今。自宅でセルフケアする人が増えています。私も以前はほぼ月1〜2ペースで足裏マッサージに行っていたのですが、時短営業などでなかなか予約が取れなくなり、セルフ足ツボ押しや近所の整体店でもここぞという日には「足ツボセットで!」とお願いするようになりました。

 

う〜んもっと足裏ケアについて知りたい……そんな方におすすめなのが『すべての不調は足裏を見ればわかる!』(鈴木きよみ・著/ワン・パブリッシング・刊)です。正直「足で何か変わるの?」と思う方も多いかもしれませんが、変わります!(笑)今回はそんな足裏の世界をご紹介します。

 

自分の足の裏をじっくり見たことありますか?

 

足のマッサージというと、痛くて辛い「足ツボマッサージ」を思い浮かべるかもしれませんが、今回ご紹介するゾーンセラピーは、30万人以上の足裏を見てきた著者の鈴木きよみさんが開発した独自の方法なので、これまで足のマッサージが苦手……と感じていた人にも是非試してもらいたい内容です。

 

ただ単にツボを押すだけでなく、心身の状態を読み解くことから始めるので、「今日はどんな状態かしら?」と足裏を見るのが楽しい! 見るタイミングはいつでもいいので、テレビを見ながらなどちょっとした時間でできます。

 

本の内容も「ここを刺激してください〜」というツボ押し本とは違い、まず足の色・感触・指の形・シワを手相のようにチェックし、本に掲載されている足の裏と見比べながら自分にあったマッサージを選択することができます。

 

体が硬くて足の裏がチェックできない! という方は、スマホのタイマー機能を利用して撮影したり、家族の方に撮影してもらうのがおすすめ。毎日変化する足の裏を観察し、今の自分の健康状態にあったマッサージをしていきましょう。

 

足相の基本! 毎日変化する足の色を観察しよう

自分の足の裏を見てみると、「こんなにシワってあったんだ」「今日は湿っぽいな」「めっちゃ臭い!」など色んな発見ができます。その中でもわかりやすいのが「足の色」で、その種類は、理想的な「ピンク」、少し気力が落ちた「白」、ストレス気味な「黄色」、エネルギー過剰な「赤」、血液の循環が悪い「紫(赤っぽいアザの色)」の5つに区分できるのだとか。

観察し始めると、私はよく「赤」になることが多いことに気がつきました。これは交感神経が優位に働いていて、心身のエネルギーが過剰になっている状態なのだとか。言われてみれば、いろんな感情を溜め込んでしまっていたかも……(笑)。

 

著者の鈴木さん曰く、色んな色が混ざっている場合は、以下のような状態なのだとか。

 

足がさまざまな色でまだらになっている場合は、内臓の不調や心身ともにストレスが強くかかっている可能性があります。そんなときは、体を温め、足裏を刺激して汗を出しましょう。

(『すべての不調は足裏を見ればわかる!』より引用)

 

私は、朝起きてから「足相」を見るようにしているのですが、前の日の疲れを引きずっているようなときは白っぽい足になっています。こんなに変わる? と驚いたのですが、理想的なピンク色を目指して、日々観察していこうと思います。

 

肩こり・首こりにおすすめのゾーンセラピー

『すべての不調は足裏を見ればわかる!』には、「ストレス過多の人の足」「片頭痛の人の足」「認知機能の衰えがある人の足」などさまざまな足相診断症例集が掲載されています。

 

また「最近便秘だな」「少し風邪っぽいな」など症状に合わせたゾーンセラピーも紹介されているので、そのときの体調と相談しながら、進められるのもうれしいですよね。今回は「肩こり・首こり」の改善に役立つゾーンセラピーをご紹介しましょう。

 

(左足からSTART)

1.頚部と首をさする

指角をつくり、人差し指の第二関節を親指の付け根にある「頚部・首」ゾーンにあてます。第二関節を押しあてて、上下に3回さすりましょう。

2.僧帽筋をさする

人差し指の第二関節を人差し指から小指の根元にある「僧帽筋」のゾーンをまんべんなく上から下へさすります。それを3回くり返しましょう。

(右足も同様に行う)

(『すべての不調は足裏を見ればわかる!』より引用)

 

年中肩こりに悩んでいる私は、足の親指の付け根をちょっと触っただけでも「いててぇ〜」となったので、いた気持ちいいラインを狙ってさすってみてくださいね。「僧帽筋」はゴリゴリと老廃物が出ていくような感覚を味わえるので、結構クセになりますよ!

 

自分の体調管理はもちろん、家族の健康チェックも足裏で、なんてこともできそうですよね。『すべての不調は足裏を見ればわかる!』には他にも健康の気になる疑問や3週間体験した人たちのレポートまで充実した内容が掲載されています。マッサージに行くよりも安く、ものすごくためになる情報が手に入るので、個人的には超コスパのいい一冊だと感じました(笑)。なかなかマッサージに行けない方、どんよりとした毎日で気分が落ち込み気味の方、新しい健康法を探している方、たくさんの方に知っていただきたい一冊です。

 

 

【書籍紹介】

 

すべての不調は足裏を見ればわかる!

著者:鈴木きよみ
制作:ワン・パブリッシング

これまでの30万人以上の足を診て、ケアしてきた足裏研究家の鈴木きよみ先生による、足相学に基づいた健康メソッド。毎日の足裏チェックで、その日の体調を把握し、足刺激で体調管理できるだけでなく、足裏でわかる性格分析も。足や足指の形、足裏の色、しわのでき方などで見る足相の実例写真を数多く掲載し、自分の足裏と見比べながら健康チェックができます。不調が表れている箇所のマッサージ法もていねいに解説します。

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ノーベル賞作家カズオ・イシグロが描く心優しきAIロボットの物語『クララとお日さま』

私はロボットや人造人間が登場する作品が大好きだ。子ども時代はテレビアニメの「鉄腕アトム」に夢中だったし、子育てしていたときは幼子に「ドラえもん」ばかりを観せていたので、大人になってもドラえもん好きの娘が出来上がってしまった。アメリカのテレビドラマ「新スタートレック」ではピカード艦長よりもアンドロイドのデータ少佐のファンだし、映画でもレプリカントと呼ばれる人造人間が登場する「ブレードランナー」はお気に入りで何度も何度も繰り返し観ているのだ。

 

さて、今日紹介する『クララとお日さま』(カズオ・イシグロ・著/早川書房・刊)は、カズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞受賞後の第一作で、AIロボットが登場する近未来小説とあって、これは読まずにはいられないとさっそくページを開くこととなった。

クララは人工知能を搭載したロボット

本書の語り手となる”わたし”はクララという名のAIロボットだ。イシグロ氏の小説は本作に限らず背景や状況に対する詳しい説明が少なく、読者の想像に任せるのが特徴だ。この物語も場所は書かれていないが、おそらくアメリカのニューヨークあたりが舞台になっているように思う。話はアクセサリーや雑貨類を扱う店で幕を開ける。その店には”AF”という人工親友(人工知能搭載ロボット)が多く並んでいて、近未来の世界では裕福な家庭の子どもたちがこぞってAFを買っているようだ。AFたちは自分を選んでくれるお客が現れるのを店内でひたすら待っている。

 

ある日、クララがローザという名のAFと共に店頭のウィンドーに置かれているとき、ジョジーという少女が現れ、ずっと探していたAFはあなただとクララに告げる。

 

「あなたはフランス人? なんとなくフランスっぽいけど」わたしは笑顔で、首を横に振りました。「先日の交流会にフランスの子が二人来ていたのよ」とジョジーが言いました。「どっちも髪をそんなふうに、こざっぱりとショートにして、かわいかった」そのまま黙ってわたしを見ている様子に、また悲しみのサインを見たように思いましたが、お店での経験が浅いわたしにはたしかなことは言えません。

(『クララとお日さま』から引用)

 

その時代の子どもたちは学校に行っておらず、自宅でオブロン端末なるものを使って遠隔授業を受けているため孤独な生活を送っている。他の子どもとはごくたまに開かれる交流会で会うだけなので、普段の孤独を癒してくれるのがAFというわけだ。

 

実はクララは型落ちのロボット

必ず迎えに来るから、ジョジーはクララにそう言っていたが、その日は待てど暮らせど来ない。ジョジーは病弱だったためすぐに来ることが叶わなかったのだ。やがてB2型のクララたちは最新鋭のB3型のAFたちに表舞台であるウィンドーをゆずり、店の奥に並べられていた。

 

そうしてやっとジョジーが母親と来店し、フランス人みたいなAFがいたはずと言うと店長は「誰だがわかったかもしれませんよ」と言い、店の奥に案内した。しかし母親はB3型ではなく型落ちになったロボットの購入を躊躇する。

 

「ママ、わたしはクララがほしいの、ほかのじゃいや」

「ちょっと待って、ジョジー。人工親友って、どれも独自の個性をもっているのよね?」

「そのとおりです、奥様、とくに、このレベルになりますと(中略)クララには独自の美質が数多くありまして、朝中かけても全部は説明しきれません。ですが、特別な何か一つということになると、そうですね、観察と学習への意欲ということになるでしょうか。周囲に見えるものを吸収し、取り込んでいく能力は、飛び抜けています。結果として、当店のどのAFより、—これはB3型も含めてです—どのAFより精緻な理解力をもつまでになりました」

(『クララとお日さま』から引用)

 

こうしてクララはジョジーの親友となり、彼女の家で新たな生活をはじめることとなった。

 

人間の子どもに施される向上処置とは?

本書では、イシグロ氏の階級社会への批判も随所に盛り込まれている。近未来の世界では、裕福な家庭の子どもたちはある年齢になると、ゲノム編集技術によって知性の”向上処置”を受ける機会に恵まれている。しかし、そうでない子どもたちはどんなに頭がよくてもいい大学への進学が閉ざされている。ただ、向上処置には副作用があり、それが原因で病気になってしまうケースも。ジョジーがどんな病気でどうして病弱になったのかは書かれていないが、おそらくその処置が関係ありそうだと、私は読んでいて思った。

 

物語のもうひとりの重要人物として登場するのがジョジーの家のお隣さんで、幼なじみのリックだ。リックは頭がいい少年だが、向上処置を受けておらず、ジョジーの家で開かれた交流会では浮いた存在になってしまう。が、ジョジーとリックの絆は強く、AFのクララ以外で、ジョジーを思いやり、常に寄り添ってくれるのは彼だけだったのだ。

 

クララにとって太陽は神さま

太陽光を動力源にしているAIロボットのクララにとって、お日さまの存在は神に近い。ジョジーの病が重くなり、ベッドから起き上がることも出来なくなると、クララは一縷の望みをかけてお日さまとコンタクトを取ろうと行動する。そんなクララに手を貸すのが、やはりジョジーの回復を強く願うリックだ。クララはリックに背負ってもらい、草むらの先にある夕日が射すある納屋に向かい、そして祈る。

 

「(前略)わたしがいまここにこんなふうに来ているのは、お日さまがいかに親切な方であるかを忘れていないからです。お日さまはあの物乞いの人とその犬に親切にしてくださいました。あの大きな親切を、ぜひジョジーにもお願いします。ジョジーには、いまあの特別の栄養が必要です」

(『クララとお日さま』から引用)

 

クララはお店のウィンドーにいたとき、ビルの狭間で息絶えたように見えた物乞いと犬が太陽の光で蘇ったのを驚きをもって目撃していたのだ。

 

その後、ジョジーがどうなったのか、そしてクララはいつまでジョジーのそばにいられたのかはネタバレになってしまうので書けないが、とても美しく感動的な物語であることは間違いない。主人公の”わたし”がAIロボットなので、涙こそ流れてこないが、クララの優しさ、そして機械であるがゆえの悲しさに胸を打たれる。本書は繰り返し、何度でも読みたくなる小説だと思う。是非ご一読を。

 

 

【書籍紹介】

クララとお日さま

著者:カズオ・イシグロ
発行:早川書房

人工知能を搭載したロボットのクララは、病弱の少女ジョジーと出会い、やがて二人は友情を育んでゆく。生きることの意味を問う感動作。愛とは、知性とは、家族とは? ノーベル文学賞受賞第一作、カズオ・イシグロ最新長篇。

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「きさらぎ駅」に「ヒップホップババア」、ネット発の新時代怪談いくつ知ってる?~注目の新書紹介~

蒸し暑い夏にピッタリなものといえば、そうめんと怪談(笑)。昔は心霊写真や恐怖体験特集が、夏場にテレビでよく組まれていましたよね。インターネットが発達して、わからない情報も検索すればすぐ手に入る時代。都市伝説やオカルトの類は消滅の危機かと思われましたが、むしろ電脳空間で活躍の場を広げているようです。

 

ネットに広がる現代の怪異

今回の『21世紀日本怪異ガイド100』(朝里樹・著/星海社新書)は、電子掲示板「2ちゃんねる」のオカルト板での書き込みを中心に、比較的最近生まれた怪異を100個セレクト。見開き2ページでイラストとともに紹介しています。

 

著者の朝里樹さんは怪異愛好家。同人誌が評判を呼んで書籍化された『日本現代怪異事典』は口コミで広がって重版を重ね、この手の事典としては4万3000部という驚きのヒットとなっています。

 

日常の隣に開く異界への入口

現代の怪談として外せないのは「きさらぎ駅」でしょう。2004年、「身の回りで変なことが起こったら実況するスレ」が発祥です。書き込み主は「はすみ」と名乗る女性。いつもの通勤電車に乗り込んだはずが電車が停まらず、到着したのは見知らぬ「きさらぎ駅」。彼女がこの駅で降りると、そこは無人駅で周囲には何もなく、携帯電話でも位置情報にエラーが生じて場所がわからない。しかたなく歩き始めると太鼓や鈴の音が聞こえてきた……。

 

ことの真偽はわかりませんが、異界に迷い込んでいく様子がネットで実況されるというのはIT時代ならでは。著者の朝里さんは「今の時代だからこそ生まれた現代の神隠しであり、同時に異界駅という怪異の先駆者であると言えるだろう」と解説しています。携帯で乗り替え案内を見ながら移動する私たちにとっては、知らない駅という存在は昔以上に恐怖かもしれません。

 

笑ってしまうのが「ヒップホップババア」。こうした怖いかどうかギリギリの話も載っています。とあるところに仲のいい老夫婦がいて、「どちらかが死んだら寂しくないよう壁に埋めよう」と約束していました。婆さんが先に死んだため、爺さんが約束通りにすると、壁のなかの婆さんが話しかけてくるように……。

 

ある日、爺さんが村の若い男に留守番を頼み出かけると、壁から鬼の形相をした婆さんが飛び出してきてラップを歌い出す!?(笑)。後半、突然の展開で怖さも一気に引いていくシュールな話。ネットで流行し、さまざまなパターンも生まれました。本書には著者の解説として、広島で語られていた伝承とネットの書き込みの2つが組み合わさったとあり、どうしてこのような怪作が誕生したのかの一端がわかります。

 

コロナ禍で脚光を浴びた「アマビエ」、奇妙な二十面体の置物「リンフォン」、身の丈八尺(約2.4m)ある白いワンピースの巨大な女性「八尺様」……。科学では解明できない不可解な存在から、人間の暗い闇が浮き彫りになる事件まで100個の怪異はバラエティ豊か。ネットの書き込みをまとめただけではなく、各話に解説がついているのも本書の良さ。怪談への情熱と真摯さを感じます。

 

民俗学の研究書や古典などにある類話が例として挙げられ、現代的な怪談と伝承との関連も見えてきます。同人誌版『日本現代怪異事典』から著者の朝里さんとコンビを組んでいる挿絵作家の裏逆どらさんの怪異イラストも雰囲気満点。熱帯夜が続く今、読むタイプのクーラーとしていかがでしょう?

 

【書籍紹介】

『21世紀日本怪異ガイド100』

著者:朝里 樹
発行:星海社

遥か昔から伝えられてきた怪異や妖怪と呼ばれる現象・存在は、科学技術が進歩したこの21世紀だからこそ、むしろネットの海へとその活躍を広げ、かつてない隆盛を誇っています。本書は、そんな現代を舞台に語られる怪異から100種類を精選! 2ちゃんねるオカルト板の名スレッド「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?」で物語られた「八尺様」「リョウメンスクナ」などの人気怪異から、現代技術が喚び起こした怪現象「幽霊だけど何か質問ある?」「LINEわらし」、コロナ禍で脚光を浴びた予言獣「アマビエ」まで、すべてイラスト付きで紹介・解説・考察します。怖くて愉快な怪異の世界へようこそ!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

『盆の国』から『お盆本 – obonbon -』『精霊流し』まで—— 歴史小説家が選ぶ「お盆」について少し考えてみる5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「お盆」。遠出が制限され、ステイホームを余儀なくされる今年、谷津さんの選ぶ5冊を参考にして、本来の「お盆」について、じっくり考えてみてはいかがでしょうか?

 

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お盆休みである。

 

作家にとっては締め切りに影響があるほかは、本を読んで原稿を書く、いつもの日々である。違いといえば、編集者からのメールやお電話がなく、割と落ち着いて仕事ができることくらいである。とはいえ、実家に帰省して仏壇に線香の一つも上げようか、というのが人情というものだが、どうやら今年は死者を偲ぶことすら難しい年になってしまったらしい。

 

今年、例のウイルス感染拡大防止の観点から、県をまたいだ移動をしないよう、全国知事会が異例の声明を発表している。これをお読みの皆様の中にも、お盆休み帰省を諦めた方もいらしたことだろう。

 

というわけで、今回の選書テーマは「お盆」である。しばしお付き合い願いたい。

 

ループし続ける「終わらない夏」

まずご紹介するのは漫画から。『盆の国』 (スケラッコ・著/リイド社・刊)である。お盆の時期になるとあの世から戻ってきた幽霊の姿が見える中学生少女の秋が、ずっと八月十五日を繰り返す時空に取り込まれ、そこから脱却するべく夏夫というミステリアスな青年と一緒に駆け回る……という筋のファンタジー作品である。

 

触りを書いただけでも本作の空気感はご理解いただけたと思う。お盆の時期特有のしめやかな雰囲気と生と死の交錯、夏と秋の同居する明るくももの哀しげなお盆の雰囲気を上記の設定が増幅し、わたしたちの眼前に立ち現れる。「ループし続ける」ことが肝となる本作は、逆説的に「変わりゆくもの」が強調される仕組みになっている。

 

何が変わっていくのか。そして、この物語がどこに向かっていくのか。是非、本作を手に取って確認していただきたい。漫画作品としては短編に分類できるだろう、全一冊の作品である。

 

名曲とのリンクも深まる自伝的小説

お盆といえば――。

 

音楽がお好きなら、グレープの「精霊流し」を思い浮かべる方もおられるだろう。わたしにとっては世代の音楽ではない(わたしの親が聴いていたはずである)が、八月のカレンダーを眺めると、あの哀感溢れるバイオリンと儚げなアルペジオの響くイントロが頭を掠める。

 

と、ここまで書いたらわたしが何を紹介したいのか、想像つく方もおられるだろう。

 

本曲の作詞作曲を務めたシンガーソングライターのさだまさしは、小説家としての顔を持っている。本日ご紹介したいのは、そのものずばり『精霊流し』(さだまさし・著/幻冬舎・刊)である。

 

本書はさだの自伝的小説と位置づけ出来る一冊である。長崎に生まれたミュージシャンの雅彦が、様々な挫折や失敗を重ねながら、ポピュラーミュージックの世界で成功を収めてゆくのと同時に、様々な知り合いや仲間たちとの別れを織り込んだ甘くも苦い青春物語である。そんな中、タイトルにもなっている精霊流しの光景が特段の存在感を放っている。

 

曲のイメージが先行しているせいで、しめやかなお祭りと誤解されがちな精霊流しの実際の様子もうかがうことができると同時に、さだが精霊流しに仮託した感情の在処にも迫ることが出来る一冊でもあり、本書を読むと、名曲の世界観理解を深める助けになることだろう。

 

甲子園がなかった君たちへ

お盆といえば甲子園、という方もいらっしゃることだろう。

 

だが、件のウイルスは甲子園にも暗い影を落とした。2020年、甲子園大会は中止となり、多くの球児が戦わずして涙を呑むことになった。

 

そんなイレギュラーな夏だからこそ世に出た一冊をご紹介しよう。『監督からのラストレター 甲子園を奪われた君たちへ』(タイムリー編集部・編/インプレス・刊)である。

 

本書は名前の通り、甲子園に出場するはずだった高校の監督が、不本意な形で夏を終えた球児に向け書いた手紙をまとめた書籍である。

 

わたしは野球オンチである。守備のポジションを数え上げると、どうしても八人までしか思い出すことができず、ああ、ショートがあったわ、と二時間後くらいに気付くくらいには野球に疎い(ショートを守っている全世界の皆様、本当にすみません)。そんなわたしが読んでも、本書には心を捉える何かがある。それは、長い間、一つの目的に向かい一緒に戦った師と弟子の紐帯を文章の端々に感じることが出来るからだろう。

 

無論、本書は指導者側から生徒に向けた一方的な書簡集であるからして、本書に横溢する〝美しさ〟を鵜呑みにするわけにはいかないのだが、一方で無視することも難しい。

 

ある種の留保はお勧めしながらも、本書の一文字一文字に籠もった力強さは唯一無二である。

 

アイスランドと日本を「お盆」でつなぐ

次は奇書といってもいい本かもしれない。

 

お盆本 – obonbon –』(お盆研究会・著/to know・発行)である。有志メンバーにより結成されたお盆研究会によるお盆調査報告書――と書くと、「なんだ、珍しくもなんともないじゃないか」とお思いの方もいるだろう。いやいや、様々な地域のお盆的な習慣を比較しているんです、とわたしが説明を重ねても、なおも「いや、よくあるコンセプトだろう」といぶかしむことだろう。

 

本書の凄さは、比較対象のぶっ飛びぶりである。岩手県遠野、岐阜県郡上。うん、ここまではわかる。だが、なんとこの二つと共に比較対象の俎上に載せられるのが、アイスランドのお盆的習慣なのである! 日本とアイスランド。ほとんど文化的交流はなく、互いが影響したはずはなかろう。だが、遠野、郡上、アイスランドのお盆的習慣を四つのキーワードから読み解いてみると、不思議な一致、というか、共通の心象風景が見えてくるような気がするから不思議だ。そして、見慣れないアイスランドの祭りを通じ、わたしたちの側であるお盆を相対視することにも繋がり、自分たちの側にあるはずの風景が別の色彩でもって立ち上がってくる。

 

そんな頭でっかちな所感は抜きにしても、本書は写真が多く、パラパラ眺めているだけでも幻想的な風景を楽しむことができる。見慣れないアイスランドの祭りはもちろんのこと、お盆というわたしたちが既知であるはずの風景をも、未知の側に寄せられてしまったかのような心地を残す本である。

 

沖縄・日本・アメリカ・お盆

最後は小説から。『宝島』(真藤順丈・著/講談社・刊)である。

 

山田風太郎賞、直木三十五賞、沖縄書店大賞を獲得した本作は、冷戦という時代の枠組みによって収奪されてきた現代の沖縄を舞台にした小説である。

 

アメリカと日本の狭間に揺れる沖縄を舞台にした本作は、時に大胆にエンターテインメントの文脈を用い、その下に生きる沖縄の精神性をあぶり出している。とともに、半ば無関心、無自覚に沖縄から収奪し続けている本土人のわたしたちにとっても、本作の問いはあまりに大きいと言わざるを得ない。実に堂々たる沖縄文学作品であると言えよう(そしてやや楽屋裏的な話ではあるが、本作のスタンスは実に歴史小説的であり、若手歴史小説家の間でもすごい歴史小説が出た、と戦慄が走った一作でもある。歴史小説ファンにもお勧めである)。

 

さて、沖縄を舞台にしている本作をなぜ「お盆」のテーマで紹介するのか――。きっと、本書をすべてお読みになった時、わたしの意図をご理解いただけるのではないかと思う。この選書を通じて手に取られた方は楽しみにしていてほしい。

 

 

季節感が失われた、と嘆く声は根強い。

特に今年はイレギュラーである。なおのこと、季節を感じづらいかもしれない。

だが、わたしたちは言葉を持っている。そして、言葉を通じて季節を感じることが出来る。

ステイホームの夏だからこそ、言葉で季節を感じようではないか。

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『雲州下屋敷の幽霊』(文藝春秋)

『ほめちぎる教習所』がオススメする誰でもできる「最初ほめ」ってなに?

ここ数年「車の免許が欲しいな〜」と考えることが増えてきました。けれど、車の免許を取るためには、まず教習所へ行かなければいけません。旦那に「免許取ろうと思うんだけど……」と話をしたところ、「いいね! でも教習所大変だと思うよ。俺の教官はめっちゃ厳しくて、普通に叩かれたりしたからね」と言われ、めちゃくちゃ怖くなってしまいました。そう……、教習所は怖いところ。いつしかそんなイメージが私の中で出来上がり、どんどん足が遠のいていったのです。

 

そんな時『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』(加藤光一・著, 坪田信貴・監修/KADOKAWA・刊)なんて一冊を発見! 実際に調べてみると、全国に「ほめちぎる教習所」が10か所ほどあるではないですか。「ほめちぎる教習所」とは一体、どんなところなのでしょうか?

「ほめる」で免許って取れるものなの?

車の運転には危険がいっぱい。なんとなくニコニコほめられながら指導されても、合格できるの? と思ってしまいます。しかも、教習所に通っただけでは免許は取れないので、実際の試験に合格するために、何時間も勉強したり、短期間で運転技術を身につけたりするためには多少の厳しさも必要なのでは? と考えてしまいます。

 

三重県にある南部自動車学校で2013年から始まった「ほめちぎる教習所」では、そんな不安をよそにどんどん生徒数が増え、しかも実績もしっかりついてきたというのです。

 

まず、免許の合格率が、「ほめる」教習をはじめて以来、年々向上したのです。2014年からの3年間だけでも、4.5%アップしました。

さらにうれしいことに、「ほめる」教習を実施してから卒業生の事故率が半数近くにまで減少しています。

(『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』より引用)

 

私自身も上の世代から厳しく指導された世代なので、「厳しいほど強くなる」と、ある種の勘違い……といいますか、ほめられるよりも厳しく指導されることに慣れている人間です。そのため「ほめたら、甘くなっちゃうのでは?」という考え方を持っていました。それが、ほめることで結果を残せているなんて驚きです。

 

さらに働いている指導員さんたちも、心を病む人が減って、離職率まで低くなっていったそう。会社全体のパフォーマンスがアップし、実績もアップするとは、今までの指導って一体なんだったの? と考えてしまいます(笑)。とはいえ、いきなり「ほめちぎる教習所」にしよう! と言っても実現するのは大変だったはず。どのように進めていったのでしょうか?

 

卒業まで一人の指導員が担当する「担任制」を導入

これまでの教習所というのは、授業毎に違う先生が担当するのが普通だったそうです。それを南部自動車学校では、公安委員会や所内からの反発を2年かけて説得し、1997年から「担任制」の導入を開始。生徒たちから「先生に質問がしやすくなった」と高評価につながったそうです。さらに指導員側も「授業を早く終わらせなければと焦る気持ちが減った」「生徒の成長を感じられて嬉しい」と社員のモチベーションアップにつながったといいます。

 

この担任制があったからこそ「ほめちぎる教習所」の創設ができたわけですが、いきなりほめる指導に切り替えていこう! と言われても難しいですよね。特に、50〜60代のベテラン指導員さんたちはなかなか「ほめる」までに大変な苦労があったそうです。どのようにして、「ほめる」ことに慣れていったのでしょうか?

 

あるベテラン男性指導員は、意を決して、奥さんに「今日はきれいだね」と言ってみたそうです。

すると奥さんは「何? 悪いことでも企んでいるの?」と憎まれ口を叩きながらも、うれしそうで、それを見て「ほめることには効果があるんだ」と実感でき、教習でも「ほめる」を使う決意ができた、と言っていました。

(『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』より引用)

 

ちょっとかわいいエピソードですね(笑)。相手をほめることが苦手な人でも、身近な家族をほめることから練習してみると、慣れてきて仕事場でも実践できるようになったようです。家族に慣れてきたら友人をほめてみる、友人に慣れてきたら近所のコンビニの店員さん、そして同僚や部下、そして生徒と、苦手だったほめることへのハードルも低くなっていくそうですよ!

 

誰にでも今すぐ使えるおすすめのほめ方「最初ほめ」

『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』には、ほめるのが苦手な人でも実践できる、「ほめ方10選」も掲載されています。その中にある日常生活ですぐに使える「最初ほめ」をご紹介しましょう。

 

「最初ほめ」とは、その名のとおり最初にほめて良い人間関係を作ることです。

教習所では「名字をほめる(有名人と同じだね)」「名前をほめる(いい名前だね、どんな意味なの?)」「笑顔をほめる」「持ち物をほめる(アクセサリーの趣味、服装のセンス)」「所属をほめる(学校、会社など)」など、誰に対しても使える“ネタ”を共有しています。

(『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』より引用)

 

「え、そんなことでいいの?」と思ってしまいますが、言われてみるとうれしいものです(笑)。リモートワーク続きで、家族となんとなくギクシャクしてしまっているな〜と感じたり、テレビ会議が多くて部下とは業務のことしか話していないな〜という方、チームでプロジェクトをうまく回せていないと感じている方は、1日の始まりに、テレビ会議の冒頭や電話の最初などに「最初ほめ」を入れてみてはいかがでしょうか?

 

『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』には他にも実例をもとにした「ほめ方」のコツがたくさん紹介されています。ちょっぴりの恥ずかしい気持ちを抑えつつ、今日は誰かをほめてみませんか? たくさんほめられたい! という気持ちになってきたので、私も近々「ほめちぎる教習所」に通ってみようかなと思っています(笑)。

 

【書籍紹介】

「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方

著者:加藤光一(著)、坪田信貴(監)
制作:KADOKAWA

気づいたら、部下や子供に、イライラしていませんか? 本当は、イライラしたくないのに、なかなかやる気を感じられないと、ストレスが溜まっていませんか? 断言します。そんなときに怒っても、逆効果にしかなりません。相手のやる気を引き出し、あなたのイライラを手放す。そして会社(チーム)の業績がアップする。「ほめる」だけで、そんなすばらしいことが起こるのです。これはすべて南部自動車学校で実際に起こったことばかりです。そしてあなたにも、必ず起こすことができます。

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犬の気持ちを理解する最良の方法はボディ・ランゲージだ!——『サイレント・コミュニケーション』

テレビ番組表に変化が起きた。ここ2週間ほどオリンピックのライブ放送と関連特番が多く組まれていたのはもちろんだが、その合間にペットの投稿動画をまとめて見せるというフォーマットの2時間番組が増えた気がする。

 

わんこの眼差し

ちょっとでも時間があれば、かわうそのおやつとかフクロウの深夜会議のYouTube動画を見てしまう筆者。特に気に入っているのは、人語を話すペットたちだ。お風呂に入れられ「なんでやねん!」と連呼するわんこ。玄関を開けて「ただいま」と言うと近寄ってきて、「二人の時間」と告げるにゃんこ。

 

筆者と同居している10歳半のビションフリーゼも、寝言を含め人語にしか聞こえない響きの鳴き声を発することがある。5歳くらいの時から「もうお話しできるでしょ?」なんて繰り返し尋ねていたので、いよいよ本気になったのかもしれない。

 

目で語りかけてくることもある。こちらが投げる言葉に対し、さまざまな表情の視線を向けてくるのだ。そういう時は、筆者も黙って視線を返す。伝えたい具体的な言葉を脳裏に浮かべながら、わんこの目をひたすら見つめる。

 

犬が人と一緒にいることを選んでくれた

サイレント・コミュニケーション~犬のメッセージに気づいたとき、あなたが変わる』(ロージー・ラゥリー・著、藤田紀子・訳/AHWIN Co., ltd・制作)は、わんこと暮らしているすべての人に手に取っていただきたい一冊だ。この種の本にありがちな押しつけがましい提案ではなく、「あるある」感覚を通してわんことのコミュニケーションの質について考えることができる。その第一歩は、ネイティブ・アメリカンの実に印象的な言い伝えだ。

 

神様が人と動物との間に溝を作られ、その溝が次第に大きくなり、もう飛び越えることができなくなるその瞬間に、犬は、その溝を越えて人のもとにとどまることを選びました。

『サイレント・コミュニケーション』より引用

 

そうか。うちの子のご先祖様は、自ら進んで人と一緒にいることを選んでくれたのか。そうしてくれて本当によかった。

 

共に暮らしていくための指標

犬をペットという感覚ではなく、生活を共にするパートナーとしてとらえる本書の立脚点は、目次からもわかる。

 

犬の音声コミュニケーション

コミュニケーションの共有―愛犬との関係を見直そう

犬の弱い者いじめ行動

なぜボディ・ランゲージは必要なのか

シンプルな変化・大きな影響・まず人間が変わろう

犬のシグナルの具体例

私の犬は不安なの?

犬とストレス

人間社会で生きる犬の葛藤

犬が発する警告のシグナル

選択の自由化コンロトールか―あなたならどうする?

 

献辞を寄せている犬の行動カウンセリングの専門家シーラ・ハーパーによれば、今の時代の犬との生活は“飼う”のではなく、“共に暮らす”というニュアンスがはるかに強い。確かに筆者も、起床時間から始まって食事、散歩の時間などお互いにスケジュールを譲り合ってこなしていくようなところがある。そういう基本的なところから積み上げていってくれる作りのこの本は、長年犬と暮らしている人には確認の意味で、初めて一緒に暮らす人には基本情報のインプットの指標となるだろう。

 

彼らなりのコミュニケーションにこちらが寄せる

はっとしたのは、次のような文章だ。

 

音声を発することは、人間に気づいてもらえるという意味で、犬にとっては大変効果的な方法です。でもその結果はどうでしょう。残念ながら、この音声コミュニケーションが攻撃的と判断され、遺棄や殺処分という悲しい結果をもたらすこともあるのです。

 『サイレント・コミュニケーション』より引用

 

だからこそ、サイレント・コミュニケーションがお互いにとって大切になる。ごく当たり前だが、わんこと人間は、お互いに幸せを感じ合い、与え合いながら暮らしていくべきなのだ。

 

最良の方法はボディ・ランゲージ

犬も人間もパートナーにストレスをかけることなく、ギブ・アンド・テイクの関係を構築していくためのサイレント・コミュニケーションの核となるのは、ボディ・ランゲージだ。前述の通り、筆者は眼差しを含めた表情を最大限に駆使するのがよいと思っているので、積極的に実行している。

 

10年一緒に暮らしていると、お互いに行動を読み合うようなところが出てくる。こういう動きをしたら、次はこう。その次はこう。そんなルーティーンめいた感覚が芽生える。これはこれで、サイレント・コミュニケーションだと思う。ただこの本には、そこから先の理想的な方法論も示されている。

 

人が犬のボディ・ランゲージをまねて、同じ方法で伝えれば犬はその意味を理解することができます。本当はこちらのほうがよっぽど効果的なのです。

『サイレント・コミュニケーション』より引用

 

表情だけじゃダメなんだな。これからは、全身を使うことを意識しよう。うちのわんこのご先祖様は人に歩み寄ってくれたのだから、筆者も、もっともっとわんこに寄せていこう。

 

【書籍紹介】

サイレント・コミュニケーション

著者:ロージー・ラゥリー(著)、藤田紀子(訳)
制作:AHWIN Co., ltd

本書は、なぜ、犬のコミュニケーションを理解する必要があるのかを、人間同士の コミュニケーションの例を交えながら、分かりやすく説明します。犬は、ペットという枠を超えて、私たちの家族・友だちとなりました。でも私たちは、人間の家族や友だちと同じように、犬の気持ちを理解し、尊重しているでしょうか。カギは、犬が発するシグナルを理解することです。深く固 い絆は、相互理解の上に成り立ちます。それには、気持ちの通ったコミュニケーションは不可欠です。愛犬ともっと仲良くなりたい人、愛犬の問題 行動に悩む人、里親になった人、これから犬を飼う人や、レスキューの現場の方にもぜひ読んでいただきたい、犬目線のコミュニケーションの本です。

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日々のストレスを霧消させる癒し効果抜群!「日常系」の決定版『のんのんびより』を知ってる?

僕は、「マンガやアニメのなかで好きなジャンルは?」と聞かれると、たいてい「日常系」と答える。

 

日常系というジャンルを簡単に説明すると、僕たちが普段暮らしている現実の世界で、キャラクターたちにこれといった大きな事件や出来事が降りかかってこない、いわゆる日常を淡々と描写している作品だ。代表作はやはり『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』ということになるだろう。

 

『けいおん!』が日常系を意識した最初の作品

もちろん『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』は好きだったが、僕がはっきりと日常系を意識した作品が『けいおん!』だった。女子高生の軽音部が舞台のストーリーだが、バンド運営などの話はあまり出てこない。ひたすら4人(後に5人)の軽音部メンバーたちの日常が描かれている(アニメだと多少ドラマチックになっているが原作はさらに日常にフォーカスしている)。

 

よく考えれば、僕が好きなマンガを思い返してみると結構日常系がある。古くは業田良家の『自虐の詩』だったり、森下裕美の『少年アシベ』なども好きだった。

 

『のんのんびより』は田舎の分校が舞台のほのぼの日常系

ここ数年、大好きな作品が『のんのんびより』(あっと・著/メディアファクトリー・刊)だ。この作品は、全校生徒が小学生・中学生合わせて5人しかいない田舎の分校が舞台。その学校と周辺で繰り広げられる日常が描かれている。

 

何か大きな事件が起こったりはしない。最大の出来事は、小学5年生の一条 蛍が転校してくるところくらいか。まあアニメの場合は1話目で描かれているのだが(原作だと転校シーンは描かれていない)。

 

あとはひたすら日常。小学1年生の宮内れんげが「ここは田舎なのか」と疑問に思い、それをみんなで考察したり、中学2年生の越谷小鞠と蛍が一緒に駄菓子屋に行ったり、学校の遠足に出かけたらただの田植えだったりと、そんな感じの話がずーっと続く。

 

アニメのほうは3期まであり、映画化もされている。ただし、登場人物たちは年をとらない。同じ1年間が繰り返されるシステムだ。

 

文章で読むと「何がおもしろいのか?」と思うかもしれないが、実際に作品を読んでみるとおもしろい。おもしろいポイントを挙げようと思えば挙げられるが、こればっかりは実際に見てもらわないとわからないだろう。

 

ストレスとは無縁の世界に行きたいから日常系を見る

なぜ僕は日常系が好きなのかと考えてみたことがある。もちろん、スポ根だったりSFだったり、ヒューマンドラマのような作品も好きだ。ただ、それらを見ていると途中で苦しくなることがある。

 

たいていストーリーの起伏が大きい作品は、誰かが死んでしまったり、ものすごく辛い目にあったりすることがある。最近は、そういうことをストレスに感じてしまうのだ。同じ理由で、テレビドラマも何十年も見ていない。

 

僕にとって『のんのんびより』は、お気に入りの金魚が住んでいる水槽のようなもの。気分転換に目を向ければ、金魚がゆらゆら泳いでいる。それを見ると安らぐ。『のんのんびより』にも同じような感覚を覚える。ものすごくのめり込んで見るという感じではなく、ふとしたときにマンガなりアニメなりを見るといった感じだ。

 

それがたいへん心地よい。また、あまり気合いを入れて見ているわけではないからなのか、ストーリーなどを細かく覚えていないので、いつでも新鮮な気持ちで見られるのもいい。毎回同じところで大爆笑してしまうから、お得感もある。

 

もし、仕事や生活でちょっとストレスを感じたら、『のんのんびより』を見てもらいたい。すると、なんとなく心が軽くなり、自然と笑顔になってしまうはず。何がおもしろいのかよくわからないけれど、何度でも見てしまう。そんな癒し効果が『のんのんびびより』にはあるような気がしてならない。

 

 

【書籍紹介】

 

のんのんびより

著者:あっと
発行:メディアファクトリー

田舎にある学校「旭丘分校」には、小中合わせて生徒は5人のみ。みんな家の鍵は閉めないし、たぬきはよく出るし……どこか不便だけど、でも何だかんだで気ままに過ごしている。『こあくまメレンゲ』のあっと先生が描く、ド田舎の学校に通う少女たちのまったりライフ。

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無印良品の「コオロギせんべい」はえびせんの味? コオロギが世界を救う~注目の新書紹介~

私は無印良品の「不揃いバウム」やバターチキンカレーが好きでよく無印良品の商品をチェックしているのですが、最近気になっているのが「コオロギせんべい」。コオロギのパウダー入りのえびせんのようなお菓子で、SNSでも話題になっています。

 

コオロギは地球にやさしくヘルシーな食材

一度は食べてみたいと思っていたところに、今度はドンキホーテでコオロギラーメンなるものを発見! どうやらコオロギフードがちょっとしたブームのようです。

最強の食材 コオロギフードが地球を救う』(野地 澄晴・著/小学館新書)は、コオロギの可能性を教えてくれる一冊。著者の野地澄晴さんは発生・再生生物学の研究者で徳島大学学長。コオロギフードブームを支えるひとりです。

 

野地さんとコオロギの出会いはおよそ25年前。擬態する昆虫としてマレーシアのハナカマキリを研究していた際、エサとしてコオロギを注文したのがすべての始まり。カマキリの飼育には失敗したものの、コオロギの実験生物としての可能性に気付き、それ以来徳島大学ではコオロギの研究を続けてきました。この実績が徳島大学発のコオロギベンチャー企業「グリラス」にも活きています。

 

コオロギはえびせんに最適!?

第1章「人類の課題:環境悪化と食糧不足」では、なぜ昆虫食なのか、なぜコオロギなのかの理由が語られます。近年、地球温暖化の原因として問題視されているのが、牛のげっぷやおならなどに含まれるメタンガス。

 

その点、昆虫はCo2の排出量が牛のような大型家畜に比べてごく少量で済みます。昆虫のなかでもコオロギは約30日で発育し、雑食性で飼育も簡単。しかも高タンパクで低糖質と、栄養源としてのメリットも大きいとか。

 

徳島大学で繁殖させているのは石垣島などに生息するフタホシコオロギ。一年中産卵するので増える速度が早く、理論上では1000個の卵を理想的な環境で飼い、すべての成虫を繁殖に回すと1年後には約477兆匹になる計算だそうです。コオロギの繁殖力恐るべし。これを味方に付けない手はないですね。

 

2章では、徳島大学でコオロギベンチャーが立ち上がった経緯と無印良品の「コオロギせんべい」商品開発のエピソードが紹介されます。

 

国立大学が法人化されて以降、研究費の不足に悩んでいた徳島大学はクラウドファンディングに挑戦しようと食用コオロギのプロジェクトを立ち上げました。この「コオロギプロジェクト」の記事を見た「無印良品」を運営する良品計画から声がかかり、コオロギ・パウダーを練り込んだ食品を作る運びとなったのです。

 

しかし、そこには大きな壁が……。コオロギ・パウダー入りの食品を作ってくれる食品会社が見つからない!? 実は食品に関わる業者にとって昆虫はタブーな存在。通常の食品製造ラインに昆虫の痕跡が少しでもあると不良品になってしまいます。あちこちの会社から断られるなか、唯一引き受けてくれたのがえびせんの会社だったというわけです。

 

実際にコオロギせんべいの味はえびせんに近く、「香ばしくて普通に美味しい」「手が止まらなくて完食した」との書き込みがTwitterでも見られました。

 

コオロギせんべいの話題以外にも、国内外のコオロギビジネスの動向や、骨再生治療にも使える医療材料としてのコオロギの有用性など、勉強になることばかり。「こんなに食べるものがあるのにコオロギなんて……」と思っている人は、この本を読むと、「なるほど、コオロギもありだな」と思うようになること請け合いです。

 

【書籍紹介】

『最強の食材 コオロギフードが地球が救う』

著者:野地澄晴
発行:小学館

2021年5月、世界で食糧危機に瀕している人口は1億5000万人超。こうしたなか脚光を浴びているのが「昆虫食」、なかでも食用コオロギだ。高タンパク・低糖質で繁殖力の強いコオロギの研究をいち早く始めた徳島大学長の野地澄晴さんがその実状を解説する。「コオロギせんべい」の販売から、新型コロナウイルスのワクチンへの応用、延命や再生医療への活用まで、まさに地球を救うと言っても過言ではない、その可能性を探る。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

ギリシャ正教の聖地。神秘に包まれた女人禁制の聖山・アトスとは?

ギリシャは憧れの国です。一生に一度でいいから旅してみたいと願う人は多いでしょう。まして、コロナのため、開催が危ぶまれた東京2020が開催されている今、近代オリンピック発祥の地に注目しないではいられません。

 

開会式の聖火リレーで、最終ランナーとして登場した大坂なおみさんが、ギリシャで採火された聖火を灯したシーンは胸に迫るものでした。ところが、よく考えてみると、私はギリシャのことをあまり知らないのではないかと不安になり、刊行されたばかりの『ギリシャ正教と聖山アトス』(パウエル中西裕一・著/幻冬舎・刊)を読みたくなりました。ギリシャを正しく理解するために必要な本だと思ったからです。

ギリシャ人の神々

予想した以上に、『ギリシャ正教と聖山アトス』は深い内容の本でした。これまでの私は、ギリシャといえば、まずはオリンピック発祥の地と考え、次に多くの偉大な哲学者を輩出した国ととらえてきました。ソクラテス、プラトン、アリストテレスなど、優れた哲学者を輩出した奇跡の場所として、ただなんとなく憧れていたのです。そのくせ、哲学書は難しく、細かく読んではいませんでした。自分では、ギリシャをそれなりに理解していると考えていたのですが、『ギリシャ正教と聖山アトス』を読むと、それは思い上がりだと知りました。ギリシャ人がキリスト教徒であることさえ把握していなかったのです。

 

ギリシャの神々と聞いて、私がまず思い浮かべるのは、ゼウス、アポロン、アフロデーテなど、ギリシャ神話に登場する多くの魅惑的な神々でした。けれども、それは古代ギリシャの神々であり、現在のギリシャの人びとはキリスト教徒として生活しているというのです。

 

日本においては、ギリシャ文化が古典古代に偏ったかたちで紹介されてきたからでしょう。近代国家としてのギリシャの独立は1830年です。それまで様々な国家の支配を受け続けるなか、多くのギリシャ人達の絆は、ギリシャ文字を用いギリシャ語を話すこと、そしてギリシャ正教徒であることだったのです。

(『ギリシャ正教と聖山アトス』より抜粋)

 

そ、そうだったのですね。わかったつもりでいながら、実はまったくわかっていなかった国、それがギリシャであることに、私は初めて気づいたのです。

 

著者・パウエル中西裕一について

『ギリシャ正教と聖山アトス』の著者・パウエル中西裕一は、日本ハリストス正教会教団に属する東京復活大聖堂教会の司祭です。

 

「日本ハリストス正教会? 何、それ?」と思う方もいるかもしれません。けれども、東京は神田にあるニコライ堂と聞けば「あぁ、あの立派な教会ね」と、合点がいくのではないでしょうか。

 

著者は生まれながらにギリシャ正教徒だったわけではありません。若いころからギリシャ正教の司祭として生きていたわけでもありません。彼は哲学者・プラトンが描くソクラテスの問答法にひかれて哲学を専攻し、古典ギリシャ語や西洋古代哲学を学び、その後は大学で古代ギリシャ哲学を教えていました。

 

そんな著者に転機が訪れたのは、海外で研究する機会を与えられ、古代哲学研究の源となるギリシャで学ぼうと決めたときでした。結果的にその選択が、著者の興味を哲学からギリシャ正教へ方向転換させます。ホームステイ先のギリシャ人家庭で出された硬く平たいパンが、ギリシャ正教と出会うきっかけとなったのです。それはキリスト教徒の断食の習慣に深く関わるものでした。

 

帰国後も、著者のギリシャ正教への興味は深まる一方でした。そして、とうとう日本で洗礼を受け、かねてより興味があった正教徒の聖地アトスを訪れる決心をします。この訪問が著者を再び、大きく変えます。聖山アトスに魅せられ、足繁く通うようになったのです。以来、20年もの間、巡礼をくり返し、修道士達と生活を共にしてきました。世俗と隔絶された環境で祈りの毎日を送っているうち、著者の思いはさらに深まっていきます。そして、アトスで司祭となり、2012年からは修道小屋で司祭として聖体礼儀(筆者註:カトリックでいう「ミサ」にあたる)を行うまでになります。ちなみに日本人としては初めての司祭叙階となります。

 

聖山アトス

著者を変えた聖山アトスとは、どういう場所なのでしょうか? 世界遺産に認定されたこともあり、今や世界的にその存在を知られています。けれども、その内情はというとあまりに神秘的で、一般の人が訪れることも簡単には許されない聖なる場所となっています。

 

聖山アトスは、ギリシャ国内にあって、同国の憲法によって外交以外の自治を認められている女人禁制の地域であり、963年にこの地に修道院が創設されて以来、現在も神に生涯を献げる人達が住まう楽園、天国のモデルです。

(『ギリシャ正教と聖山アトス』より抜粋)

 

アトスは、祈りの生活を貫くと決心した男性修道士だけが籍を置くことを許されます。巡礼が許されるのも男性に限られ、徹底した女人禁制を貫いています。いまどきそんなところがあるのかと驚きますが、聖山アトスは生神女(神を産んだ母)マリアを統治者としているため、家畜でさえ雄しか入山を許されないのです。例外として、猫だけが、ネズミを退治するのに必要だという理由で、繁殖を許されています。あまりの徹底ぶりに唖然としますが、この世には「なぜ?」と問うたところで、その答えが返ってこないところがあるのでしょう。著者の聖山アトスでの日々は次のようなものです。

 

ここで私は、修道士達と同じように祈り、歌い、食べ、与えられた仕事をし、思索し、文献を調べ、器物の写真を撮り、執筆し、恐ろしいほどの静寂に抱かれて、夜は深い眠りに落ちて日々を過ごしました。そして何より祈りに満たされた生活の中にあって、とりわけこころ穏やかな日々だったのです。

(『ギリシャ正教と聖山アトス』より抜粋)

 

著者はアトスで天国を見たのでしょう。『ギリシャ正教と聖山アトス』には、ギリシャ正教や聖山アトスについてだけではなく、聖地巡礼や祈り、そして、コロナ禍にどう対処しているかまで、驚きの内容が記されています。その一つ一つに驚きながら、この世には祈る、ただそれだけのために存在する場所があることに気づかされます。

 

巻末には付録として、アトス山に巡礼するためにはどうしたらよいのかについてのガイドが記されていますので、興味のある方は読んでみてください。たとえ、アトス山には行くことができなくても、心の巡礼を果たすことができるかもしれません。

 

ギリシャを知りたくて、『ギリシャ正教と聖山アトス』を手に取った私ですが、思いがけなく、あり得ないほど特殊な聖なる領域について触れることとなりました。けれども、アトスという不思議な聖地を思い描くと、心に風が吹き渡るような不思議なさわやかさを感じるのでした。

 

【書籍紹介】

ギリシャ正教と聖山アトス

著者:パウエル中西裕一
発行:幻冬舎

1054年、キリスト教は西方カトリック教会と東方(ギリシャ)正教会に分裂。その後カトリックは宗教改革を経てプロテスタントと袂を分かつが、正教はキリスト教の原点として、正統な信仰を守り続けている。ギリシャ北部にある正教の聖地アトスは、多くの修道院を擁し、現在も女人禁制の地。修道士たちは断食や節食により己の欲を律し、祈りにすべてを捧げてその地で生涯を終える。本書では日本人として初めてアトスで司祭となった著者が、聖地での暮らしを紹介しながら、欲望が肥大しきった現代にこそ輝きを放つ正教の教えを解説する。

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『おかえりモネ』ファンは必読!? 『ときめく雲図鑑』を片手に夏の空を見上げよう

毎日暑いですね〜。外出しにくい時期でもあるので、涼しい家のなかでじっとしている人も多いかもしれませんが、ご自宅の窓やベランダから空に浮かぶ雲を眺めて、観察してみませんか?

 

ときめく雲図鑑』(菊池真以・著/山と渓谷社・刊)には、「こんな雲があったの?」と思うような珍しい雲や、「こんな名前だったんだ!」と初めて知る雲がたくさん掲載されています。今回は炎天下の暑い日でも、雲を知ることで夏の空が好きになるかもしれない、そんな一冊をご紹介します。

雲は大きくわけると10種類

一言に「雲」と言っても、同じ形のものはほとんどありません。素人は「どれも同じでしょ?」なんて思ってしまいますが、世界気象機関が「10種雲形」としてしっかり雲の種類を分類しています。

 

巻雲(すじ雲)/乱層雲(あま雲)/巻積雲(うろこ雲)/層積雲(うね雲)/巻層雲(うす雲)/層雲(きり雲)/高積雲(ひつじ雲)/積雲(わた雲)/高層雲(おぼろ雲)/積乱雲(にゅうどう雲)

(『ときめく雲図鑑』より引用)

 

「何個かは聞いたことがあるけれど…」と思いますが、実際に絵に描いてみろ! と言われても描けないのが正直なところですよね。『ときめく雲図鑑』では、写真とともにそれぞれの雲が紹介されているので、わからなくても大丈夫! 図鑑と照らし合わせながら、「あれはひつじ雲かな?」などと理解していくことができます。また見分けが難しい雲も紹介されているので、分類に困った時にも助けてくれます。

 

夏の空に現れる「にゅうどう雲」

夏といえば、真っ青な空にもくもくと大きく広がる「にゅうどう雲」のイメージがありますよね。このにゅうどう雲は“雲の王様”とも呼ばれていて、雲の厚さは10キロメートル以上にもなるのだとか。

 

雲はぷかぷか浮いているので、「軽そう〜」「ふわふわしていそう〜」とメルヘンなイメージがありますが、現実は水の集合体です。0.01ミリメートルの小さな水の粒が集まって、ひとつの雲が構成されています。にゅうどう雲のように大きな雲にはどれくらいの水が含まれているのでしょうか?

 

にゅうどう雲のように大きな雲に含まれる水の量は、数万〜数十万トンにもなります。このたっぷりの水が大雨のもとになることがあります。

(『ときめく雲図鑑』より引用)

 

すごい量! そりゃ雨降るわ〜と思いますよね(笑)。またこのにゅうどう雲は、急ににゅうどう雲として出現するわけではありません。発生要因のひとつに小さい子どもが描く絵のような形をしたわた雲が組み合わさって、にゅうどう雲になる場合があります。特に、気温の高い日は、地表の空気がどんどんあたためられ、わた雲がたくさん発生しやすいため、それらがくっつきあって、夕方には大きなにゅうどう雲が発生するなんてことも。時間がある人は、わた雲がある場所を定点カメラで撮影してみるとどんどん大きくなっていく雲が撮影できるかもしれませんよ!

 

定点観測は、夏休みの自由研究にもおすすめ!

毎日をあくせくと動いているとなかなか雲を見上げる時間もなくなってしまいますが、「朝だけ」「夕方だけ」でも空を見上げれば季節を感じることができます。夏場は夕焼けがきれいに見える時期なので、テレワークをしている人は、少し手を休めてベランダから夕焼けを眺めてみる……なんてのもいいですよね〜。

 

ちなみに今のように天気予報がなかった時代は、毎日雲の様子や空の動きを眺めながら天気を予想していました。現代ならスマホを開けば降水確率がパッと出てきますが、雲の流れを見ながら「これはそろそろ雨になりそう」という直感的な感覚も忘れずにいたいものだな〜と思います。

 

現在放送されているNHK朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』でも番組の最後に「あなたの身近な観天望気」が紹介されています。観天望気とは、天気にまつわる言い伝えや、ことわざのこと。「猫が顔を洗うと雨」「夕焼けだと明日は晴れ」など、今ではなかなか天気のことわざを言う人も使う人も少なくなってしまいましたが、昔の人の知恵が詰まった観天望気は現代でも役立つことがたくさんあります。1日3分でも『ときめく雲図鑑』とともに空を眺め、季節の移ろいを感じることができたら、あつ〜い夏も少し好きになれそうな気がしてきます。

 

また空の観察は、夏休みの自由研究としても人気ですし、毎日続けていくことで新たに発見できることもあるはず。おうち時間が増えているので、ご自宅でできる自由研究にお困りの親御さんは『ときめく雲図鑑』が役に立ってくれますよ!

 

【書籍紹介】

 

ときめく雲図鑑

著者:菊池真以
発行:山と渓谷社

すべての雲には名前がある? もっとも身近な自然である雲を、気象予報士の菊池真以さんが解説します。基本となる10種類の雲「きほんの10種」、ほか空に現れるときめく雲たち「かわいい雲」「きれいな雲」「ふしぎな雲」「すごい雲」「めずらしい雲」、雲と光が作るコラボレーション「光×雲」など、充実した種類の雲を美しい写真とともに紹介。

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知らないうちに自分の記憶もよみがえってくる珠玉の旅行エッセイ——『縁もゆかりもあったのだ』

縁もゆかりもあったのだ』(こだま・著/太田出版・刊)は、覆面作家のこだまさんが、ウェブ上で一年にわたって連載された”旅”にまつわるエッセイに加筆修正をして一冊にまとめたものだ。こだまさんといえば私小説『夫のちんぽが入らない』で鮮烈なデビューをしたが、北国の田舎町に暮らしていること、主婦であることなどわかっている素性はわずかしかない。彼女が作家であることは編集者をはじめとしたごく一部の人以外、家族すら知らないのだという。が、こだまさんのエッセイはとてもおもしろく、文章にリズムがあって読みやすくファンが多い。かくいう私もそのひとりなのだ。

 

初めて訪れた土地が初めてではないことも?

本作について、こだまさんはこう語っている。

 

自分とは無関係だと思い込んでいた人や土地が、その細い糸を辿っていくと、つながっていた。何気なく通り過ぎた場所が数十年の時を超えて急に意味を持つ瞬間もある。そんな過去の記憶とのつながりもまた、旅ではないか。(中略)何かを見たり聞いたり触れたりすると、大事なものや忘れかけていた些細な出来事が、わっと降りてくる。それを整理しないまま話すのでは伝わらない。「こじつけや妄想はいけない」と、いつも注意されていた。言葉にはださないけれど、点と点を結ぶ作業は頭の中で続けていた。『縁もゆかりもあったのだ』は、そんな少女時代に押しやった声を自由に出していい場所になった。

(『縁もゆかりもあったのだ』から引用)

 

コロナ禍で、自由に旅ができないこの夏だから、こだまさんのエッセイを読みつつ、誰にでもある土地にまつわる古い記憶を呼び起こしてみるのも悪くない。

 

ポストカードの中の京都

子ども時代のこだまさんは赤面症で友だちづくりに苦労したという。そんな彼女の心の拠り所だったのが文通だった。京都に住む同い年のチカちゃんという女の子とは、互いに「いらないものを交換する」というやりとりをしていたそうだ。こだまさんが使い捨てカイロや御守りなどを送ると、チカちゃんからは京都のポストカードを数枚送ってきた。北国の集落からほとんど出たことがないこだまさんにとって、ポストカードの風景は初めて触れる生身の異文化。中でも目を奪われたのは赤茶けたレンガの橋「水路」だったと振り返る。文通は5年ほど続いたものの、やがて間隔が長く開くようになっていき自然と手紙のやり取りはなくなった。

 

時は流れ、30代になったこだまさんは、ひとり旅をしよう、京都に行こうと決め、ガイドブックを買ってページをめくると、あの「水路」があった。

 

知ってる。私この場所、ずっと前から知ってる。チカちゃんの送ってくれたポストカード。あの「水路」だ。四月初旬の京都の街をひとり歩いた。(中略)私の足は京都市の東側、南禅寺に向かった。寺のシンボルとなっている荘厳な三門を抜け、境内の片隅に視線を移すと不意にそれが目に入った。「あ、チカちゃんの水路」思わず声に出していた。(中略)初めて訪れたのに、初めてじゃない。懐かしさが込み上げてくる。

(『縁もゆかりもあったのだ』から引用)

 

写真や映像で見たことのある風景が、目の前に現れると、ふいに懐かしい気持ちになることが私にもある。自分とその場所になにか繋がりがあるのかはいつもわからずじまいなのだが……。

 

東京は縁のない場所だった

現在、こだまさんは編集者との打ち合わせなど仕事で月一で通うようになった東京だが、そもそもは縁のない場所だったという。東京を知らない、何をすればいいのかわからない、そんなぼんやりとした怖さがあって東京を避けていたのだそうだ。封印が解けたのは2010年のことで、同じ投稿サイトの仲間20人と東京で会うことになった。都心だと山暮らしのこだまさんが辿り着けないだろうと配慮して場所は蒲田になった。

 

「蒲田なら空港からすぐだから大丈夫だよ」と言われたが、東京に大丈夫な場所があるとは思えなかった。ひとりでちゃんと電車に乗れるだろうか。三十歳をとうに過ぎているのに、そんな初歩的なところで躓いてしまう。私の故郷には線路すら通っていない。バスは一日二本。とても難易度の高いミッションにしか思えない。

(『縁もゆかりもあったのだ』から引用)

 

このくだりを読んでいたら、自分が上京した日を思い出していた。地方都市出身の私でも、はじめての東京は緊張し、新幹線を降りて山手線に乗り換えるのもウロウロひと苦労したのだった。こんな風に、こだまさんのエッセイは彼女の体験を綴っているのにもかかわらず、読者の記憶をも呼び覚ましてくれるのだ。

 

ロンドンで出会ったクジャクとリス

こだまさんが初めて海外を訪れたのは新婚旅行で「ロンドン、パリ、ローマ七泊八日」のツアーに参加したとき。食欲も物欲もある他の参加者と比べ、こだまさん夫婦は異国に居ながら何も浮かばない垢抜けない存在になっていたという。けれどもご主人はそんな状況を面白がっていたそうだ。

 

ロンドンではホテルから歩いて近い「ホランド・パーク」で飽きることなく過ごした半日を綴っている。公園は見渡せるような規模ではなく、森を歩いているよう。不意に草むらが音を立てて揺れたので身構えると、なんと色鮮やかなクジャクが現れた。パンをちぎって投げると飛びついたので、こだまさん夫婦はヘンゼルとグレーテルのようにパンくずをこぼしながら小道をあるいたのだそうだ。

 

振り返ると、どこに潜んでいたのかクジャクが増えていた。パンをめぐって喧嘩も勃発している。地元の子どもたちが指をさして笑う。私たちはクジャクを連れまわす日本人になっていた。その公園にはリスもいた。(中略)彼らもまた人間に擦り寄ってくる。私たちは売店でピーナッツを買い、リスの小さな手に渡した。するとあっという間にリスに囲まれた。その傍らには先ほどのクジャクもいる。

(『縁もゆかりもあったのだ』から引用)

 

海外旅行に出かけたとき、あえて街に繰り出さなくても、こんな楽しい体験ができることをこだまさんは教えてくれる。

 

この他にも、どんな土地でも気取らず自然体のまま行動するこだまさんの旅の話は、とにかく痛快だ。本書を読めば、ステイホームをしなければならない夏のひとときをきっと楽しく過ごせるだろう。

 

【書籍紹介】

縁もゆかりもあったのだ

著者:こだま
発行:太田出版

初めて訪れたのに、初めてじゃない。京都、ハワイ、病院、引っ越し。場所と記憶をめぐる、笑いと涙の紀行エッセイ。

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「ワインは年寄りのおっぱい」「おまえは自分の頭上に月を引き下ろす」世界のレアなことわざ大集合~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私は子どものころからことわざ事典が好きでよく読んでいました。ことわざって不思議ですよね。「猫にカツオ節」はわかるとして、「猫に小判」なんて誰が考え付いて、どう広まったのか? 当時の流行語だったのかなあと勝手に想像してしまいます。

かくも奥深きことわざの世界

ことわざはリズムや語呂がいいものも多いですよね。「桃栗三年柿八年」「いずれ菖蒲(アヤメ)か杜若(カキツバタ)」「急(せ)いては事を仕損じる」。必殺技の決めゼリフみたいで、口に出すだけでもちょっと楽しくなります(笑)。

たぶん一生使わない? 異国のことわざ111』(時田昌瑞・著/イースト新書Q)は、各国・地域の特色が現れたことわざを集めた一冊。なるほどと感心するものや、「その視点はなかった」と驚くものまで、1ページにつき1つずつ解説されています。ときどき挟まるイラストも味があります。

 

著者の時田昌瑞さんは、日本ことわざ文化学会副会長。『岩波 ことわざ辞典』(岩波書店)、『辞書から消えたことわざ』(KADOKAWA)など著書も多く、日本のことわざ研究の第一人者として知られています。

 

聞いたら忘れられないフレーズ

111個の選択基準は、時田さんの趣味である骨董品の評価方法に準じて3つ。「古いこと」「レアなこと」「広い範囲からピックアップ」。なんと90余の言語・地域から選ばれ、さしずめレアなことわざオリンピックといったところでしょうか。

 

私が気に入ったのは、インドネシア・マレーシアのことわざ。「海の塩と山のタマリンドが鍋の中で出会う」。タマリンドは豆の一種で東南アジアでは調味料としてよく使われています。人間の縁の不思議さを表す言葉で、料理になぞらえているのが洒落たところ。対照的な性格ながら、なんだかんだで仲のいい夫婦がにぎやかに鍋を食べる食卓の光景が浮かぶようです。

 

もうひとつ、「アルマジロとアルマジロは甲羅を壊し合わない」(ベネズエラ)も、かわいらしいのに深いことわざ。仲間同士は危害を加えないという意味のほかに、自分の強みを活かした戦い方があるというニュアンスも感じられます。この項目に添えられている、トンカチを構えてにらみ合うアルマジロのゆるいイラストも、フレーズのユニークさを引き立てています。

 

演劇のセリフかと思う格好いいことわざが、古代ギリシアの「おまえは自分の頭上に月を引き下ろす」。神話が根付いていた古代ギリシアらしさが出ています。自分で禍いを呼び寄せる「自業自得」のような意味ですが、本当に月を頭上に引き下ろせたら、それはもうマンガのヒーローです(笑)。

 

そして、お酒を飲み過ぎたときにつぶやきたいのが「ワインは年寄りのおっぱい」。スイスに伝わる酒の素晴らしさを讃えることわざで、赤ちゃんのミルクと比べているところがクスッとさせられます。

 

読んでいて思うのは、言い回しは世界各国でバラバラでも、世の中の本質を突いていることわざが多いということ。人間の思考や行動は地球のどこでも大差ないんでしょうね。短い言葉ながら情景がパッと浮かぶのもことわざのすごさです。使い道はないかもしれませんが(笑)、ことわざで世界一周をしてみてはいかがでしょうか?

 

【書籍紹介】

『たぶん一生使わない? 異国のことわざ111』

著者:時田昌瑞
発行:イースト・プレス

ことわざの数だけ世界がある!「マングース殺して後悔(ネパール)」「苦労はお前の、金なら俺の(モンゴル)」「ロバをしっかり繋げ、後はアッラーに任せよ(トルコ)」「ウオトカよ、こんにちは、理性よ、さようなら(ジョージア)」「ワインは年寄りのおっぱい(スイス)」「大きなジャガイモを集めるのが最高(アイルランド)」などなど、ユニークな世界のことわざをイラストとともにご紹介!日本では通じないけれど、あなたも使ってみたくなるかも?

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

ワード&エクセルの入門から活用までを“ぜんぶやさしく”解説した初心者向け解説書の決定版!

ワードとエクセルの入門から活用までを“ぜんぶやさしく”解説した初心者向け解説書「ぜんぶやさしいエクセル&ワード 最新版」は、仕事に欠かせない二つのソフトが使いこなせるお得な1冊。 仕事にプライベートに、オフィスソフトを楽しく快適に使いこなすための情報を徹底収録しています。

 

基本から活用術まで充実解説の「エクセル編」

前半のエクセル編は、 初心者でもかんたんに使いこなせる基本編からビジネスに役立つ活用術まで、 まんべんなく網羅。

 

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後半のワード編は、 文書作成の基本、 年賀状などあいさつ状の作り方、 またイラスト・写真・図形を駆使した魅せるビジュアル文書の作り方まで詳しく解説。

 

エクセル、 ワードともすぐに活用できるコラムが充実

「エクセルの表示形式を理解しよう」「失敗しない印刷ワザ」「はじめての関数入門」「オブジェクトを自由に配置」など、 すぐに役立つコラムも充実。

 

[商品概要]

ぜんぶやさしいエクセル&ワード 最新版

著者: ゲットナビ編集部
定価: 858円 (税込)
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10代の若者とその親の悩みを瀬戸内寂聴さんがまるっと解決!『97歳の悩み相談』

久しぶりにテレビ電話をした大学の友人から「ちかちゃん、瀬戸内寂聴さんに似てきたね」と言われ驚いた私。しかし妙に親近感が湧いてしまい(笑)、瀬戸内寂聴さんの本を色々と読み始めました。祖母の家にあった法話のカセットテープを聞いたことはありましたが、「あれ? 本は読んだことなかったかも」と思い、気になった本をポチポチ。読んでみると、寂聴さんの言葉が乾いた心に沁み渡り、「似ている」と言ってくれた友人に感謝したのでした。

 

いくつか買った書籍の中でも2019年に発刊された『97歳の悩み相談』(瀬戸内寂聴・著/講談社・刊)は、大人の心にも響く言葉がたくさんありました。これは同年に瀬戸内寂聴さんが暮らす京都の『曼荼羅山 寂庵』にて行われた「10代のための特別法話」と「10代のための悩み相談」を再構成したもの。会話形式でお話が進み、1時間もあれば読めてしまうボリュームなので、普段読書をあまりしないという方や、忙しくて本を読む元気もないよ、なんて人にもおすすめできる本です。今年で99歳になられた瀬戸内寂聴さん。人生の大先輩は10代の若者にどんなメッセージを届けたのでしょうか?

 

恋愛のこと、家族のこと、10代の子どもとその親が寂聴さんに悩み相談

『97歳の悩み相談』は、「自分を愛せない人へ」「一歩を踏み出せない人へ」「人間関係に悩む人へ」「大人とうまくいかない人へ」「将来が不安な人へ」「子育てに迷う親たちへ」という6つのカテゴリに分かれて、42個のお悩みが掲載されています。

 

気になるところから読むだけでも十分楽しめますが、最初から順番に読んでいくと、読み終わるころにはまるで自分の悩みまで解決したような清々しさを感じられます(もう36歳のおばさんですが……w)。

 

10代の若々しいお悩みにも真摯に向き合う当時97歳の瀬戸内寂聴さんも素敵で、いつかこんなおばあちゃんになれたら、なんて図々しくも思ってしまうのです。お悩みの内容も10代だからと侮ってはいけません。「何をやろうとしても、なかなか続けられません」「他人と自分を比べて、劣等感を持ってしまいます」など、大人より大人なお悩みもちらほら。

 

さらに、親からの相談として「息子の生活態度が悪くて、腹が立ちます」なんて面白い話もあるので、これに対して寂聴さんがどんな回答をしているのかも、読んで確かめてもらいたい内容です。今回はこの中から、気になった2つの相談をご紹介しましょう!

 

大人が望む「普通の人生」を生きたくない!

15歳の女の子から「大人は自分らしく生きろと言いながら、結局はいい大学に行け、いい会社に入れと言います。普通の人生しか生きられない世の中はおかしいと思います。」というお悩みを聞いた寂聴さん。一体、この悩みにどう答えたと思いますか?

 

「普通の人生しか生きられない」と言うけれど、じつは普通の人生を生きることがいちばん、難しいんです。「普通の人生しか」じゃない、「普通の人生こそ」なかなか生きられない。普通に生きられたら楽だけど、人生はそうはいかないものです。

(『97歳の悩み相談』より引用)

 

実際にはもっと長く答えているのですが、「あなたの言うことは正しい」と肯定しつつも、このような回答ができるのは寂聴さんだからこそだと感じました。私だったら「そうだよね。ごめんよ」くらいしか答えられない!

 

自分を振り返ってみても、10代のころって「普通がつまらない」って思っていましたよね。大人になってから、普通のすごさ・ありがたさって知るものなのかもしれない、親が言っていたことも今なら理解できるなぁ〜と感じます。私自身も「自分もこの回答に納得できるくらい、大人になったんだなぁ」と感慨深く感じました。

 

どうしたら行動できるようになりますか?

続いては、「私はいつも、ああなりたい、こうなりたいと思うばかりで、自分から進んで行動を起こせません。」という17歳の女の子からの相談です。

 

何かをしたいと思いながらしない残念さと、したけれども失敗した残念さとを比べたら、したいことをしなかったほうが、ずっと悔しい。だから、したいことは全部やりなさい。

(『97歳の悩み相談』より引用)

 

さらに寂聴さんは、「若き日にバラを摘め」という言葉とともに、若い時ならバラのトゲで傷ができても回復力があるからすぐ治る。心の傷と一緒だよ、と話してくれています。これはもっと若いころに知りたかったよ〜!

 

確かに、大人になってから傷を負ってしまうと色々と言い訳をして回復が遅くなることや、傷口に塩を塗ってくるような人も現れるので、バラを摘むなら若き日に……というのは納得です。けれど、現在99歳の寂聴さんと比べれば私も若造なはず! 「あなたもやってみなさい」という声が聞こえてくる気がしました。

 

他にも『97歳の悩み相談』には、たくさんの経験を積まれてきた寂聴さんのあたたかい言葉がたくさん掲載されています。中高生なら読書感想文の課題図書としてもお勧めですし、短い夏休みを読書で満喫したい大人にも楽しんでいただけるはずです。ぜひご覧ください!

 

【書籍紹介】

97歳の悩み相談

著者:瀬戸内寂聴
発行:講談社

人間関係、コンプレックス、恋愛、家族、将来のこと。若い世代のリアルな悩みに、97歳の寂聴さんが答えます。人生の大先輩が贈る、幸福に生きるための知恵!

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もう太らない!ヘルシーメニューがどっさり! 全レシピに野菜のグラム数を表示した「野菜おかず600品」

「野菜おかず600品」は、 毎日食べたいヘルシーな野菜おかずばかりを集めた1冊。 野菜の主菜、 副菜を、 野菜の種類別に紹介しているので、 使いたい野菜ごとにレシピが探せて便利! プロの料理家によるレシピばかりなので、 味も保証つき。 健康的でバランスのよい食事を作りたい、 食べたい人に必ず役立つ本です。

 

野菜の種類別にレシピを掲載!野菜の栄養や旬もひと目でわかる!

レシピは、 お役立ち野菜ベスト5、 緑黄色野菜、 淡色野菜、 根菜、 きのこそれぞれのパートに分けて紹介。 野菜名からレシピを探せます。 それぞれの野菜ページでは、 野菜の旬の時期・栄養・選び方・保存方法なども解説。 レシピはすべて4人分で掲載しています。

 

プロの料理家のおいしいレシピばかり!

石原洋子さん、 藤井 恵さん、 市瀬悦子さん、 今泉久美さんほか、 テレビや雑誌などでおなじみの料理家のレシピを多数掲載。 肉や魚介類と組み合わせた主菜、 野菜ひとつで作る副菜などバリエーション豊かで組み合わせも自由。 味は保証付きです。 巻末には料理さくいんもついているので、 作りたい料理がすぐ探せます。 巻頭特集では、 「ごちそうサラダ」、 いろいろな野菜を使った「ボリューム野菜おかず」、 野菜そのもののおいしさが味わえる「蒸し野菜レシピ」とそれに合うたれ&ソースも紹介しています。

 



 栄養価は最新の食品成分表(八訂)をもとに計算

レシピにはすべて野菜量、 カロリー、 塩分を掲載。 こちらはすべて2021年の食品成分表(八訂)の数値をもとに計算。 毎日の食事の栄養価が気になる方に役立ちます。

 

[商品概要]

野菜おかず600品

著者: 料理書編集部
定価: 1078円 (税込)

【本書のご購入はコチラ】

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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1107217520

選択肢を絞るな!二兎を追え! TEDトーク350万回超再生の著者が語る「自分だけのキャリアの見つけ方」

大谷翔平選手が、ホームラン王を狙う勢いで活躍している。投手としての成績も15登板で5勝1敗/防御率3.04(執筆時現在)。二刀流という言葉をこれほど明らかな形で実現している野球選手はいない。

 

自分という存在の定義

野球以外のジャンルにも、二刀流という言葉で形容できる人がいる。お笑い芸人で芥川賞作家。医師で弁護士。グラドルで女子プロレスラー。こういう生き方って、ごくわずかな、選ばれた人にしかできないんだろうか。

 

実はそうでもなさそうなのだ。『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』(エミリー・ワプニック・著、長澤あかね。訳/PHP研究所・刊)は、読者に「ひょっとしてありかも」と思わせてくれる一冊だ。まず、次の文章を読んでいただきたい。

 

これは、「やりたいことを一つだけ選んで、残りをすべて捨ててしまうなんてイヤだ」と考える人たちのための本です。好奇心旺盛で、新しいことを学ぶのが大好きで、いくつものアイデンティティをはぐくみ、それを自在に行き来するのを楽しむ、あなたのための本なのです。

『マルチ・ポテンシャライト』より引用

 

人は、ひとつの要因で定義されるわけでは決してない。それがこの本のテーマの明確なメッセージだ。

 

可能性のリストアップ

「二兎を追う者は一兎をも得ず」「転石苔むさず」といったことわざで端的に示されるように、特に日本社会では、色々なものに手を出したり、居場所を転々と変えたりというあり方にネガティブな視線が向けられることが普通な時代もあった。

 

しかし今、自分のさまざまな可能性を試すことをためらう必要はない。必要なのは、新しい時代の価値観に基づく意識の変容を自分ごととしてとらえていく姿勢だ。否定から始めるのではなく、可能性のリストアップから始めると、ものごとがまるで違って見えてくる。

 

マルチ・ポテンシャライトとは

マルチ・ポテンシャライトとは、マルチ(多くの)―ポテンシャル(潜在能力を持つ)―アイト(人)という意味だ。目次を見てみよう。

 

・マルチ・ポテンシャライト=世間にしばられず、複数の転職を追究する人たち

・マルチ・ポテンシャライトのスーパーパワー

・マルチ・ポテンシャライトが幸せに生きる秘訣

・グループハグ・アプローチ=ある一つの多面的な仕事に就き、その中でいくつもの分野を行き来する

・スプラッシュ・アプローチ=パートタイムの仕事やビジネスを掛け持ちし、精力的にその間を飛び回る

・アインシュタイン・アプローチ=安定し「ほどよい仕事」をしながら、情熱を注げる取り組みをほかに持つ

・フェニックス・アプローチ=数か月、数年ごとに業界を移り、興味を一つずつ掘り下げていく

・自分に合う「生産性システム」の作り方

・マルチ・ポテンシャライトが抱く「不安」に対処する

 

マルチ・ポテンシャライトという生き方・あり方に関わる多様性やダイナミズムが具体的に想像できると思う。

 

アイデンティティをはっきりさせていく過程

「バイトをいくつもかけもって生活を維持する生き方」という言い方からポジティブな雰囲気を感じる人は、それほど多くないはずだ。でも、そういうライフスタイルを送っている本人はむしろ「マルチ・ポテンシャライト」にきわめて近い感覚で日々を過ごしているのかもしれない。

 

会社に勤めながら副業でも活躍したり、社内で副業を持ったり、あるいは“複業”という言葉で表されるように二つ以上の仕事を持つなど、「自分を活かせる場が二つ以上ある」ことは普通になりつつある。そして、自分を活かすのが仕事がらみの場だけとは限らない。ただ、こうした場を探す過程には悩みや葛藤がつきものだ。

 

「自分の人生の目的って何なのだろう?」という問いは、年齢を問わず人々を悩ませている。そうした悩み―キャリアだけでなく、「アイデンティティ」そのものをめぐる悩み―を経験するのは、浮ついているからではない。本人は、身のすくむような気分でいるのだから。

『マルチ・ポテンシャライト』より引用

 

自分という存在を定義する要因は、生き方にそのままつながる「アイデンティティ」をはっきりさせていくプロセスに不可欠だ。だから、悩むという行いも欠かせないのだろう。

 

生き方も働き方も変わる時代

著者のエミリー・ワプニックさんは音楽・アート・映画・法律という4つの分野を仕事や学問として探求してきたマルチ・ポテンシャライトだ。ほかの人たちとはちょっと違う生き方・働き方をしてきた彼女は、読者に語りかける。

 

この本の情報は、自分に合うものだけを取り入れて、残りは無視しよう。複数のワークモデルをスムーシングしてみよう。毎年新しいワークモデルを試すのが心地いいなら、そうしよう。いろいろ実験し、繰り返し試して、自分仕様にしてほしい。あなたの仕事で、あなたの人生なのだから。(太字部分本書ママ)

『マルチ・ポテンシャライト』より引用

 

私たちは、生き方や働き方に対する考えが根本から変わりつつある時代のさなかにある。そういう時代を生きている自分の現在位置を確かめ、これから向かっていく場所に思いを馳せるのに役立ってくれるだろう。

 

【書籍紹介】

 

マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法

著者: エミリー・ワプニック(著)、長澤 あかね(訳)
発行:PHP研究所

TEDトーク350万回再生超!「人生の選択肢が絞れない……」と悩む人が、自分だけのキャリアを見つけられる画期的な方法。

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永遠の命題「最強のプロレスラーは誰か?」のひとつの解答——『永遠の最強王者 ジャンボ鶴田』

プロレスファンは、しばしば「誰が最強か?」という議論を交わす。特に、総合格闘技がメジャーになってきたころから、プロレスラー最強は誰なのかという話は、よくしていた。

 

プロレスが大好きだった僕は、常に「最強のプロレスラーはジャンボ鶴田だ」と言い続けていた。その気持ちは今でも変わらない。

 

プロレスに就職した新世代のプロレスラー

ジャンボ鶴田は、1951年山梨県生まれ。高校まではバスケットボール選手でインターハイに出場。その後オリンピック出場を目指し中央大学に進学して、レスリングを始める。そして1972年のミュンヘンオリンピックにグレコローマン100kg以上級の代表として出場。大学4年時に全日本プロレスに入団。そのときの鶴田のコメントが話題となった。そのとき「全日本プロレスに就職します」というコメントを残し、それまでの泥臭いプロレスラーとは違う、爽やかさとスポーツマンシップを感じさせた。逆に言えば、プロレスラーらしくないプロレスラーだった。

 

その後アメリカ修行を経て、全日本プロレスのエースとして活躍。一流外国人レスラー相手にいい試合を重ねるものの、スマートな試合運びが災いして「善戦マン」などというありがたくないニックネームを付けられていた時期もあったが、その強さは徐々に知られていくこととなる。

 

全日本プロレスが日本人対決にシフトチェンジしてからは、下の世代との対決でその無類の強さを発揮。当時テレビで全日本プロレスを見ていた僕は、「鶴田はめちゃくちゃ強い」というイメージがあった。

 

しかし、1991年にB型肝炎を発症し一線を退き、大学院でコーチ学を学んで教授レスラーに。その後全日本プロレスにスポット参戦をしながら、母校の中央大学などで教鞭を執っていた。

 

1999年にはポートランド州立大学の客員教授に就任したが、2000年5月13日、フィリピン・マニラにて肝臓移植手術中に大量出血により死去。享年49。早すぎる死だった。

 

底が見えない強さ

永遠の最強王者 ジャンボ鶴田』(小佐野景浩・著/ワニブックス・刊)は、プロレス週刊誌『週刊ゴング』の記者だった著者が、「ジャンボ鶴田は何者だったのか?」を、鶴田の家族や関係者のインタビュー、そして当時の試合記録や雑誌のインタビューなどから考察していく内容だ。

 

一般的に、ジャンボ鶴田が最強と言われている理由は「強さの底が見えない」というところ。鶴田は幼いころから培われた生来の運動神経と豊富なスタミナがあり、プロレスの試合でも本気で戦っているように見えないところがあった。

 

実際、他のレスラーたちも「強かった」と口を揃えて言う。どんなに動いても息が上がらず、60分戦っても平然としている。相手のレスラーは疲労困憊で歩けないくらいなのにだ。その上、アマレス仕込みの各種スープレックスや、ジャンピングニーパッドなどの技を的確に決めてくる上、バックドロップは相手の力量によって落とす角度を変える技術も持ち合わせている。

 

やっぱり最強じゃん。

 

一方、お酒のあまり飲まず、オフは趣味に没頭(ギター弾き語りでライブをしたりレコードを出したりもしている)。ヘビーな練習をしているという印象もなく、常に飄々としているため、プロレスファンからは感情移入がしづらいという面もあった。

 

要は、「本気出してないのに強い」のが鶴田。それだけに、「本気だったらどれくらい強いんだろう」という想像をさせてくれるレスラーだった。そこが僕は大好きだった。

 

もし、ジャンボ鶴田が総合格闘技に出ていたら

あまり「たら、れば」の話はしたくないのだが、ジャンボ鶴田に関してはいろいろ考えてしまう。

 

日本での総合格闘技ブームの火付け役となった「PRIDE 1」は、1997年に開催された。ヒクソン・グレイシーに高田延彦が負け、「プロレスラー最強は誰だ?」とファンは考え始めた。

 

鶴田はそのころは完全にプロレスラーを引退していたが、やはり「鶴田がいればな」という声は多かった。鶴田は純プロレスラーで格闘技経験はないが、全盛期の鶴田ならもしかしたらヒクソンに勝てるんじゃないか。そんな風に思っていた。

 

鶴田の性格からして、実際に総合格闘技の試合をすることはなかっただろう。しかし、鶴田なら涼しい顔してヒクソンの攻撃をすべて受け流して、拷問コブラツイストでねじ上げたり、えげつない逆エビ固めを仕掛けたり、ジャンピングニーパッドで吹っ飛ばしてくれるんじゃないか。そんな夢を見てしまう。

 

そして試合が終わったら、「オー!」を10連発ぐらいして控え室に帰って、ニコニコしてビールかけをしている。そんな光景が見えてくる。まあ、全部僕の妄想なのだが。

 

ジャンボ鶴田が残してくれたもの

ジャンボ鶴田は、「プロレスに就職した」と言ってはいるが、心の中ではプロレスを愛していた。ただ、いわゆる豪快なレスラーというタイプではなく、リングの上ですべて語るタイプだったため、誤解されていた面がある。相撲や柔道、空手のように伝統的な格闘技は精神論や主従関係、道を究めるといった側面があるが、バスケットボールからスポーツの世界に入った鶴田には、その感覚が薄い。また、努力している姿を人に見られることもあまり好まなかった。

 

プロである以上、根性とか闘魂は絶対に言わないようにしている。努力して当たり前なんだからさ。

(『永遠の最強王者 ジャンボ鶴田』より引用)

 

常にプロレスラーであるためにオフのときも豪快に飲み歩いたりする昔気質のレスラーとは違うプロ意識を持っていたのだ。今のレスラーは、鶴田よりもさらに洗練された考え方が多いと思う。

 

本書を読んでみてもやはり鶴田は最強だと思うが、一方で「どのくらい強いのか」というのはわからずじまい。もうその答えが出ることはないのだが、鶴田は僕らに「鶴田最強説」というお土産を置いていってくれたんだと思うことにしている。

 

【書籍紹介】

永遠の最強王者 ジャンボ鶴田

著者:小佐野景浩
発行:ワニブックス

「普通の人でいたかった怪物」今でも根強い“日本人レスラー最強説”と権力に背を向けたその人間像に初めて迫る! 没後20年ー今こそジャンボ鶴田を解き明かそう!

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よその家の事件ではない。DVの深い闇——『目に見えない傷』

DV(ドメスティックバイオレンス)という言葉は、同居する家族や恋人など親密な関係にある、またはあった者から受ける暴力のことを意味します。今までは家庭での(限定しないほうがいいかなと)個人の問題だと考えられてきたのですが、近年、これが大きな事件への起爆剤になっていることがわかってきたのです。

 

犯人がいる部屋に帰る恐怖

DVは大変特殊な事件です。なぜなら、加害者と被害者が同居している、または近い距離にいるため、事件後も一緒に暮らさなくてはならないからです。たとえ警察に逮捕されても、家族の場合、加害者が戻ってくるのは被害者が眠る部屋なのです。つまりお互いが離れない限り、再発のリスクがつきまとうことになります。

 

再び暴力を振るうかもしれない相手としょっちゅう顔を合わせなくてはならない日々は、被害者にとって相当な苦痛です。外出した際は、加害者がいる家に帰りたくなくなり、寄り道をして時間を稼ぐという人も少なくないといいます。

 

パートナー殺害では終わらない

目に見えない傷』(レイチェル・ルイーズ・スナイダー・著/みすず書房・刊)はDVについて多方面から考察した本です。ここには被害者や加害者の言葉と同時に支援組織や警察の事情も記されているので、総合的にこの問題を捉えることができます。

 

DVは次第にエスカレートする事例が多く、時には命に関わる事件に発展することまであります。日本では110件のDVが、殺人事件(未遂含む)として検挙されています(令和2年・警察庁調べ)。海外ではさらに悲惨な状況の国もあります。

 

本書によると世界中で毎日137人もの女性(子どもを除く成人女性のみ)がDVで殺されているとのこと。カナダやフランスなど、その数が増加傾向にある国も少なくないようです。そして著者は多くのDV事件を調査するうちに、あることに気づきます。

 

アメリカでの銃乱射事件を調べると、事件が起きるその前にDVが起きていることが半数以上もあったのです。事前に自宅で母親や妻を殺害してから銃乱射現場に向かうケースも複数ありました。家族だけに向けられていた暴力が外にも向かうことがあるという記述は戦慄でした。DVはよその家の出来事として片付けられないものだったのです。

 

加害者の更生とは

著者はDV加害者を逮捕するだけでは解決しないと述べています。「受刑者の出所時の暴力性は、収容された時点と比べて低下しているわけではない」(本文より)からです。アメリカではさまざまな更生プログラムが用意されてはいますが、それでもなお改善に向かわない男性たちの姿も描かれていました。

 

出所した加害者たちのなかには、プログラムで得た学びや気づきをさらに深めたいと考える前向きな人もいたのですが、彼らにないものはその資金。大学に行きたい、人生をやり直したいと望みながらも、生きていくのに精一杯のお金しか稼げず、そして気持ちが荒み、悪い仲間とつるむ……というさまを読むと、なんとかならないものかと憂えてしまいます。

 

更生とスポンサー制度

本書ではDV対策への予算の少なさについても挙げられ、スポンサーがついてはどうかという提案もなされていました。被害者への支援も大切ですが、加害者がもう2度と暴力を振るうことがないよう、更生に手を貸すことも大切になってくるでしょう。

 

本来、家族や恋人はとても大切な存在のはずです。そのかけがえのない人を痛めつけてしまうほどの怒りを加害者が抱えているのだとしたら、できるだけ早いうちにそれをコントロールする方法を考え、事件を未然に防ぐ工夫も必要です。

 

本書では若い年齢のうちからDVについての知識を伝える方法も検討されていました。私たちは、ティーンに伝えておきたい事柄のなかに、お金や性に加え、暴力をふるわれたら、そして暴力をふるってしまったら、という項目も付け加えるべきなのかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

 

目に見えない傷

著者:レイチェル・ルイーズ・スナイダー
発行:みすず書房

ドメスティック・バイオレンスは世界中で深刻な被害をもたらしている。けれども何が問題の本質なのか、そもそも何が起こっているのか、理解されているとはいえない。著者は、被害者、加害者、双方の家族、支援組織のアドボケイト、警察官などに会い、話を聞いていく。ひとは被害者に「なぜ逃げないのか」と問うが、被害者は加害者といることを選択しているのではなく、現行制度のなかで最大の警戒をしながら動いている。加害者はパートナーの日常をコントロールし、力を喪失させる。制度の隙間は事態を深刻化させる。取材するうち、そうしたことが分かってくる。警察、支援組織、法執行機関という、異なる価値観に基づく組織の連携をどうとるか、DVの危険度を判定する基準をどうつくり、共有するか。被害者が仕事や人間関係を失わずに生活をするためのプログラムとは。何年もかけた取材によって、外からは見えにくいDVの実態を明らかにし、解決への糸口を示した本として、アメリカで高い評価を得た。

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あの「エアマックス狩り」はなぜ起こったのか?スニーカーから見える時代の変化~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。ブドウ狩りやイチゴ狩りなら平和ですが、90年代半ばに問題となったのが「エアマックス狩り」。ナイキのスニーカー、エアマックスを履いていると、襲撃されて奪われるという事件が相次ぎました。

時代とともに歩むスニーカー

スニーカーに詳しくなかった私は、どうしてそれほど人がエアマックスに夢中になるのか、ピンと来ませんでしたが、ようやくこの新書を読んで納得しました。単なる靴が、ファッションアイコンとなり、投資の対象となっていく……。自分がまったく触れてこなかったカルチャーを気楽に覗けるのが新書の良さです。

『1995年のエア マックス』(小澤匡行・著/中公新書ラクレ)の著者は、ファッション編集者の小澤匡行さん。アメリカ留学後、ファッション雑誌「Boon」でライター業を開始し、長年その制作に携わってきました。スニーカーに造詣が深く、著書には『東京スニーカー史』(立東舎)があります。

 

スニーカーブームの裏側に迫る

第1章は、2010年代に起こった世界的な第二次スニーカーブームについて。その立役者となったのはスマホでした。オンラインで簡単にスニーカーが購入・取引できるようになり、インスタグラムでファッション情報が一気に拡散される。こうした変化が新たなブームを生み出しました。

 

世界的なスニーカーブームを支えているのが中国の若い「プチ富裕層」。2016年の中国での「海外ブランド好感度調査」によると、アルマーニやシャネルといった高級ブランドを抜いて、1位はナイキ、2位はアディダスとなっています。しかし、中国ではフェイク品が多いため、彼らは東京へ来て店頭で実物をチェックし、安心してショッピングするのだそうです。

 

また、スニーカーのリセール(転売)市場は現在1兆円規模に拡大。2016年に設立されたアメリカ発のオンラインマーケットプレイス「StockX」では、株式市場のメカニズムを利用し、スニーカーの市場価格がリアルタイムで更新されています。スニーカーでマネーゲーム……純粋なスニーカーファンはどう思っているのでしょうか?

 

第2章「『シューズ』から『スニーカー』へ」では、単なるアスレチックシューズだったスニーカーが、80~90年代にカルチャーと結びついていった経緯が語られます。きっかけのひとつはNBAシカゴ・ブルズに1984年に入団した新人、マイケル・ジョーダンとナイキが異例の大型契約を結んだこと。

 

ジョーダンの名前を冠した「エア ジョーダン 1」(1985年)は、「バスケットシューズは白」という慣例に反した大胆な黒×赤のカラーリングで、今でも人気のモデルです。ちなみにこのカラーリングはNBAの規約違反で、ジョーダンはナイキに違約金を肩代わりしてもらって履き続けたという逸話がありますが、著者によるとこれはあくまで都市伝説とか(笑)。

 

そして第3章では、日本で起きた「エア マックス95」騒動が語られます。読んでいて驚いたのは、ソールが黒で、下に向かって色が濃くなるグラデーションという当初の重々しいデザインは不評で、日本国内のバイヤーたちが「この新作は売れないのでは」と仕入れ数を控えめにしたというエピソード。その結果品薄となり、逆に空前のブームを呼んだそうです。「週刊朝日」の表紙で木村拓哉さんが、ドコモのポケベルのCMで広末涼子さんが着用したのも人気が爆発するきっかけとなりました。

 

それぞれのスニーカーが単品で紹介されているわけではなく、経済状況や若者の意識変化と結びつけて解説されているのがこの本の良さ。カジュアルなアイテムだからこそ、世の中の移り変わりを敏感に映す鏡となったスニーカー。その一足には時代の空気が詰まっています。

 

 

【書籍紹介】

『1995年のエア マックス』

著者:小澤匡行
発行:中央公論新社

国境を越えて争奪戦が起き、富裕者層の所有欲求を満たすアイコンとなったスニーカー。Youtubeはスニーカーの動画で溢れかえり、株式のように売買できるマーケットまで成立。長くファッション誌に携わってきた著者はこの状況を「ターニングポイントは『エアマックス95』だった」と指摘する。あの一足で世界はどう変わり、この先どうなるのか?歴史、経済、そしてカルチャーー。スニーカーには、そのすべてが投影されている!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

マイクラ建築初心者は必読! 素敵な暖炉も観葉植物もラクラクできちゃう『Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド』

夏休みがやってきますね〜。今年もなかなか外出できないので「何をしようか……」と悩む方も多いのではないでしょうか?

 

そんな方にオススメなのが、ひとりでも親子でもみんなが楽しめるマイクラ! すでにハマっているよ〜という方もいるかもしれませんが、今回オススメするマイクラは、フラットな地形でひたすら建築しまくるクリエイティブモード。私も5年ほど前に「流行っているから……」とかじっていたことがあるのですが、久しぶりにサバイバルモードで再開したところ洞窟に迷い込んでしまい「やば! どうやって抜け出すのかわからない!」と、真っ暗な中で放置してしまいました(笑)。

 

しかし『Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド』(ゲットナビ編集部・著/ワン・パブリッシング・刊)を読んでいくうちに「ひたすら建築しまくる楽しさ」を発見。今回は、マイクラ初心者でも夜眠れなくなるくらいハマっちゃう「ものづくり」の楽しさをお伝えします。

 

建築初心者は「クリエイティブモード」から始めよう!

マイクラと聞いて思い浮かぶのは、「サバイバル」モードでプレイするものですよね。「夜になるとモンスターがやってくる」「自分で材料を集めて家を建てる」など、冒険しながらゲームを進めていくイメージではないでしょうか? けれど、それはマイクラの一部! 実は3つのモードでゲームを楽しむことができるのです。

 

プロフィールを設定すると世界を「新しく作る」からどんなモードで楽しむのかを選ぶことができます。それぞれのモードは以下の通り。

 

クリエイティブ
体力や空腹のゲージがなく、モンスターも攻撃してこない。最初からすべてのアイテムを使うことができる。

サバイバル
モンスターにおそわれるとダメージを受ける。建築で使うアイテムも自分で集めたりつくったりする必要がある。

アドベンチャー
自分や他のプレイヤーがつくったワールドを冒険できるゲームモード。ブロックを壊したり置いたりすることはできない。

(『Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド』より引用)

 

冒険したい! と思っている方は「サバイバル」モードの優しいレベルからスタートするのが良いですが、基本的にゲーム内にチュートリアルはないので「え、放り出されたけど何したらいいの?」となることも。私のようにちょっとかじっていたくらいの知識で「まずは素材集めじゃ!」とイキった結果、洞窟から抜け出せなくなることもあるので、お気をつけください(笑)。

 

今回は、ひたすら建築を楽しめる「クリエイティブ」を平坦な土地がひたすら続いていく「フラット」地形で、楽しんで行こうと思います。

 

インテリアを飾るために、まず家を建てる!

フラット地形のクリエイティブモードを開くとこんな感じ。作業台とたいまつだけが登場します。Nintendo Switchの場合、「Xボタン」を押すと使える材料がずらりと出てきます。インテリアを飾るためにも、まずは建物を作らないと……ですよね!

 

「建築に自信がないな〜」という初心者の方は、基礎知識もしっかり掲載されているので、『Nintendo Switch版 マインクラフト建築ガイド 絶対つくれる設計図つき』を一緒に持っておくと安心です(とりあえずインテリアを作りたいなら、『Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド』には内装配置図も付いているから家を建てなくても作ることも可能です)。

 

私が作った家がこちら!!

 

天気の悪い日だったので(笑)怪しい感じが出ていますが、トータル5〜6時間で建てることができました。達成感がすごい!!

 

ちなみに中はこんな感じ。

電気も何もないので、真っ暗な家で、寂しい!

 

マネからでOK! マニュアル通りに作れるようになると、アレンジも無限!

家ができたので、ここからインテリアを作り始めるわけですが、まずはあかりが欲しい! クリエイティブモードにも夜は来るし、雨も降るので、真っ暗な中で作るよりも明るい方がいいですよね。ランタンをポンと置くだけでも多少は明るくなりますが、ちょっと工夫したい……そんな方には明るくて暖かい「暖炉」がオススメ!

↑できたー!

 

『Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド』には、必要な材料と組み立て順も掲載されているので、指示通りに作るだけ。

 

続いて、ただ天井が高いだけではもったいないので「2階をつくろう」と階段や床をつくって、2階スペースを作ってみました。

 

絵画も飾って、ベッドも3台繋げて、階段脇には本棚も設置! 『Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド』にあるものを参考に作ってここまでできました〜!

 

ここまでできると、気分はインテリアコーディネーター(笑)。当初、2階は一面床にしていたのですが、暖炉の熱で床が燃えてしまったので、柵をつけて吹き抜けに。ちょっと殺風景だったので、天井にはシャンデリアを設置して、壁の脇には観葉植物を置いてみました。

 

建築初心者でも10時間ほどでこれくらいできてしまうので、なかなかうまく建築できないなぁと悩んでいる方でも大丈夫。最初は本に掲載されているマニュアル通りに色々と作りましたが、「ここの色は変えてみよ〜」「この柵は違う素材にしよう〜」などアレンジする余裕が出てくるようになると、めっちゃ楽しくなってくる! 現在、調子に乗ってこの家の隣にカフェを建築しています(笑)。

 

日常生活の中で、何かを黙々と作り続ける機会はなかなかないので、マインクラフトを今までやったことがない! 一度やったけれど苦手だった! という人も『Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド』とともに「ものづくり」の楽しさを味わっちゃいましょう。私のようにひとりで黙々と作りまくるのも良いですが、2人での同時プレイも可能なので、親子で楽しむのもオススメですよ〜!

 

【書籍紹介】

Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド

著者:ゲットナビ編集部
発行:ワン・パブリッシング

マインクラフトの世界をよりゴージャスにしてくれる「インテリア」の実例を紹介した1冊。丁寧な図解付きで手順を追うだけで様々なインテリアを作ることができます。作成したインテリアを建物のナカにどう置いたらいいのかもわかる「内装配置図」もあるので、インテリアを美しく見せるノウハウも学べます。お洒落なシステムキッチンやカフェ、ショップのほかかっこいい武器屋や酒場などを作ってみよう!

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騎馬像ファン必見の『日本の騎馬像』で自分の推しの像を見つけてみる

「いつかきっと白馬に乗った王子様がやってくる」と、信じている女性は多いのではないでしょうか。「イマドキ、そんなヒトいるわけないでしょ?」と、言われるかもしれませんが、口には出さなくても、心の中ではそう夢見ている方はいるはずです。たとえ自分は一人で生きていくと決心し、自立して生活していても、心身共に衰えたとき、窮地に陥ったあなたを助けるために誰かが颯爽とやって来ると信じていたいものでしょう。

騎馬像に惹かれる理由

私の伯母もその一人でした。和裁士として独立しながらも、白馬の王子様を待ち続けていました。ある時、「なぜ馬なの? 車でいいじゃない? フェラーリなら馬のエンブレムがついてるし」と、ふざけて言ったら、ちょっと考えた後、「やっぱり馬じゃないと駄目。だってヒーローは馬に乗ってるもんでしょ」と、真面目な顔で答え、一枚の絵はがきを見せてくれました。そこには、甲冑を着た侍が馬にまたがる雄々しい姿がありました。なるほど確かに人が馬に乗る姿はかっこうがいいなと納得したのをよく覚えています。

 

日本の騎馬像』(山口洋史・著/エクイネット・刊)は、日本全国に数多く存在する騎馬像を訪ね、調べ、写真におさめた本です。写真集とも言えますが、騎馬像の百科事典のようでもあり、楽しい読み物でもあります。著者・山口洋史は、元JRA職員で、乗馬のコーチもつとめていた馬の専門家です。それだけに、単なる趣味を越えた専門的な一冊に仕上がっています。

 

私は子どものころ、競馬場の近くに住んでいて、サラブレッドと毎日のように接しながら育ちました。そのせいか、馬に関することにはなんでも興味を持つ癖がついています。旅先などで騎馬像を見かけると、急いでいてもつい立ち止まり、見とれてしまいます。けれども、なぜ騎馬像を見ると心が躍るのかはわかっていませんでした。白馬の王子様を信じていた伯母の刷り込みだと思っていたのですが、『日本の騎馬像』を読み、合点がいきました。

 

騎馬民族を除くと、昔から馬に乗るのは偉人、貴人、英雄など、人々から畏敬の念をもって迎えられる人々であり、馬上と地上との位置的な関係がそのまま人間の上下関係を現しているとも言われている。

そのため、騎乗している者は元々多くの人からの尊敬を集めていると言えるし、その尊敬を確固たるものにするために高い位置での騎乗姿で表現していると言えるかもしれない

(『日本の騎馬像』より抜粋)

 

なるほど……。騎馬像を見上げるとき、知らず知らずのうちに、私はそこに英雄の姿が蘇るように感じ、凜々しさに酔いしれていたのでしょう。

 

それぞれに楽しみを見出す

日本にどのくらいの騎馬像があるか、正確にはわからないといいます。『日本の騎馬像』では、著者がこれまで実際に見て歩いた騎馬像に絞って紹介してあります。まず、騎馬像に乗っている人が誰かを紹介し、神社や公園といった場所の種類、そして、住所も記されています。さらに、騎馬像の馬の性別、馬の体勢(止まっているとか立ち上がっているとか)、制作者、制作年、像の材質、制作の経緯までが書かれています。著者の感想も面白く、この本を持って旅して歩いたら、かなり多くの魅力的な騎馬像に出会うことができるでしょう。

 

『日本の騎馬像』を眺めているうち、私はかつて行ったことのある馬のセリ市を思い出しました。高額な馬の売買が行われるセールで、立派なカタログ冊子が配られます。一頭一頭、細かな説明がなされていて、カタログを見ているだけでも楽しいのですが、『日本の騎馬像』もそれに似て、ページをめくる度に、様々な騎馬像を見ることができます。

 

馬や乗馬が好きな人はもちろん、騎馬像は歴史上の人物とのつながりが深いので、歴史好きな方も興味をそそられることでしょう。見た人が見たいように見て、それぞれに思いを巡らすことができる、それが『日本の騎馬像』の一番の魅力だと言えましょう。

 

騎馬像、ベスト3はこれだ

『日本の騎馬像』を何度か見ているうち、私好みの像があることに気づきました。そのページに来ると、手が止まるのです。もし、私のベスト3は? と、問われたら、次の3つの騎馬像を挙げたいと思います。

 

まずは、仙台の青葉城にある「伊達政宗像」。ここは私が実際に行ったことがあるので、とくに印象に残っているのかもしれません。仙台の街が一望できるところにあり、青い空をバックに素敵な写真を撮ることができます。インスタ映えする場所ですから、スマホを掲げて撮影する人でいっぱいでした。騎乗している人物が、かの有名な伊達政宗であることにも惹かれます。

 

騎馬像はかなり高い台座の上に設置されているので、下から見上げると首が痛くなるほどです。嫌でも仰ぎ見る形となるわけですが、それがまたヒーローらしく、私のイチオシの騎馬像です。

 

次に好きなのは、鹿児島県のJR伊集院駅前にある「島津義弘像」。後ろ足二本だけで立ち上がった姿勢をとっているのですが、前足が宙に浮いている様子がたまらないのです。これほど不安定な姿勢の馬に甲冑をつけた人間がまたがっている様子は、人間離れしていて、神々しさを感じます。ギリシャ神話のケンタウロスを思わせる人馬一体感を堪能できます。

 

そして、一番、びっくり仰天したのが、埼玉県にある「畠山重忠の像」です。こんな像があるなんて、想像したことさえありませんでした。人が馬に乗っているのではなく、馬が人に乗っている、というか、畠山重忠が馬を担いだ格好になっているのです。「そんなわけないでしょ」と、思われるかもしれませんが、写真を見ているうち、畠山重忠はこういう人なのだと信じるようになりました。一ノ谷の合戦の際、愛馬三日月を支えながら鵯(ひよどり)越えの急坂を下っている姿だといいます。

 

他にも、たくさんの魅力的な騎馬像が掲載されていますので、自分のベスト騎馬像を見つけていただきたいと思います。

 

そういえば、白馬の王子様を待ち続けた伯母は、結局、結婚しないままに亡くなってしまいましたが、もし、今、伯母に会うことができたら、私はこう伝えるでしょう。「おばさま、王子様は馬上にいるとは限らないみたい。馬を担いでいるときもあるのよ」と。

 

【書籍紹介】

日本の騎馬像

著者:山口洋史
発行:エクイネット

日本に多く展示・設置されている騎馬像。 そのほとんどの「騎乗者」が偉人や英雄であり、焦点も自ずと「騎乗者」に目がいくもの。 本著は「騎乗者」ではなく、鞍下の「馬」の情報に焦点をあてた。 設置されている場所から、馬の性別、歩法、著者から見た馬の雄大さやロケーションなども細かに記載されている。 騎乗者、像の制作者、制作年、像の材質など、詳細にわたり収録。 馬や歴史に興味のある方には必携の騎馬像事典といえる。

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イギリス人陶芸家の生涯を描いたアート小説がおもしろい——『リーチ先生』

コロナ禍になってから原田マハさんのアート小説にハマッている。海外旅行に行くことができず、美術館で名画を見ることもできない今だが、原田さんの小説を読んでいると、ピカソにも、ゴッホにも、ゴーギャンにも、モネにも出会えて、気分だけでも世界を駆け巡ることができるからだ。

 

今日紹介する『リーチ先生』(原田マハ・著/集英社・刊)もそのひとつ。日本の美を愛し続けたイギリス人陶芸家の生涯を描いた作品なのだが、私は陶芸の世界には疎いので、主人公のバーナード・リーチのことは本を読むまで知らなかった。高村光太郎をはじめ、柳 宗悦、武者小路実篤、志賀直哉など白樺派の人々とリーチとの交流も史実を基に書かれていてワクワク、ドキドキの連続。また、土選びからはじまり、陶器がどうやって出来上がっていくのかも克明に描かれているので、陶芸に親しみたい人にもおすすめの一冊だ。

架空の人物が史実に絡み合う

物語は昭和29年の春、大分県の小鹿田からはじまる。イギリス人の高名な陶芸家であるリーチ先生が、日本人陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎と共に小鹿田焼きの里を訪れることになり町は大騒ぎ。しばらく滞在するリーチ先生の世話をすることになったのが若い見習いの陶工・沖 高市で、彼はやはり陶工だった父亡き後、他家へ修行に来ていたのだ。はじめは緊張していた高市だったがリーチ先生とは不思議とウマが合った。ある夜、窯の燃え盛る炎の前でリーチ先生が言った。

 

「君のお父さんは、オキ・カメノスケ、という名前ではありませんか」(中略)沖亀乃介—それは、まさしく高市の父の名前だった。「ど……どうして、知っちょるとですか……?」震える声で、高市は訊き返した。リーチの瞳に親しみの色が溢れた。(中略)「やっぱり、君はカメちゃんの息子でしたか。

(『リーチ先生』から引用)

 

ここから物語は、明治42年に戻っていく。沖亀乃介は高村光太郎の父である高村光雲邸の書生。ある日、黒い山高帽を被り、三つ揃えのスーツを着た外国人が高村邸を訪ねてきた。幼少期から横浜の食堂で外国人客たちの英語を聞いて育った亀之介は英語が話せたので対応に当たる。これがバーナード・リーチとやがて彼の助手となる亀乃介の出会いだった。

 

私は本を読み終えるまで、この沖父子は実在した人物だと思っていたが、読後に調べてみても沖亀乃介・高市は見当たらない。そう、この父子は小説をより面白くするために原田さんが生み出した架空の人物だったのだ。

 

陶芸家バーナード・リーチができるまで

リーチは1887年香港で生まれたが母親を亡くし、京都で英語教師をしていた祖父の元で幼少期を過ごした。その後、香港、シンガポールへと移り、1897年10歳のときにイギリスに戻り教育を受けた。芸術家を目指して勉強していたが、父親が亡くなったため一旦は銀行員に。しかし、美術への情熱は持ち続け、ロンドンの美術学校でエッチングを学んだ。そこで留学中だった高村光太郎と運命の出会いがあり、一大決心をして1909年(明治42年)に来日。上野に住み、エッチング教室を開いた。ここで生涯の友となる柳 宗悦、そして”白樺派”の人々とも知り合い、交流を深めていった。

 

また、リーチはのちに人間国宝となった陶芸家・富本憲吉とも知り合いになった。ふたりの陶芸との出会いは偶然で、ある展覧会で絵付けを体験することになったのだ。本書にもそのときの様子が描かれている。

 

「ずいぶんご熱心に見ておられるようですが、よろしければこちらへ来て、一緒に絵付けをなさいませんか」

はっとして、亀乃介は、すぐに英語に訳してリーチに伝えた。たちまちリーチの顔が、ぱっと輝いた。「ハイ、ヤッテミマス」リーチは日本語で答えると、ゆっくりと立ち上がって、男性の近くへ歩み寄った。

「私も、やってみます」富本も立ち上がり、リーチの隣に座った。

(『リーチ先生』から引用)

 

この体験がきっかけとなり、リーチも富本もすっかり陶芸に心を奪われ、その道を極めていくことになる。リーチはその後、我孫子にあった柳 宗悦邸の庭に窯を開き、陶芸家として”実用的で美しいもの”の制作に没頭していったのだ。

 

イギリス、セント・アイヴスに窯を開く

日本の陶芸はまちがいなく世界一だ。技術も、感性も、芸術的価値も、世界的に見ても比類がない。自分は、それをじゅうぶん吸収したし、我がものにすることができたと感じている。しかし、それだけでいいのだろうか。日本で学んだ陶芸のすばらしさを、世界じゅうの人々に知らせたい。

(『リーチ先生』から引用)

 

こう思いはじめたリーチはイギリスへの帰国を決意、そのときかけがえのない同志となっていた陶芸家の濱田庄司を伴ってイギリス西南部コーンウォール半島のセント・アイヴスに向い、その地に日本式の登窯『リーチ・ポタリー』を開いたのは1922年のこと。リーチはその後1979年に亡くなるまで陶器を焼き続けていたそうだ。『リーチ・ポタリー』は開窯100年を迎えた今も健在で、多くの陶芸家を育てているという。また、リーチの作品を展示した美術館も併設されているそうだから、自由に旅ができるようになったら、私もぜひ訪ねてみたいと思っている。

 

フィクションならではの感動がある

さて、小説ではリーチの助手という設定の架空の人物、沖 亀乃介も渡英し、セント・アイヴスに向かい開窯を手伝う。その後、亀乃介は日本に戻って各地の窯を回って修行を重ね、大分県の小鹿田の隣町の小石原に落ち着き、自身の窯を持った。

 

物語の冒頭に登場したその息子である若き沖 高市は、その後、高名な陶芸家となり、年老いたリーチ先生に会うべくセント・アイヴスの『リーチ・ポタリー』を訪ねるところがラストだ。

 

本書は、バーナード・リーチの伝記であり、沖父子以外は、ほぼ実在した人物だが、随所に登場する亀乃介、そして高市がストーリーを盛り上げ、感動を添えているのは間違いない。

 

原田さんにしか書けない史実を基にしたアート・フィクションを、この夏、あなたも是非楽しんでみては?

 

【書籍紹介】

リーチ先生

著者:原田マハ
発行:集英社

1954年、大分の小鹿田を訪れたイギリス人陶芸家バーナード・リーチと出会った高市は、亡父・亀乃介がかつて彼に師事していたと知る。—時は遡り1909年、芸術に憧れる亀乃介は、日本の美を学ぼうと来日した青年リーチの助手になる。柳 宗悦、濱田庄司ら若き芸術家と熱い友情を交わし、才能を開花させるリーチ。東洋と西洋の架け橋となったその生涯を、陶工父子の視点から描く感動のアート小説。

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創刊40周年スペシャル 第1弾!総勢40人の写真家が愛した交換レンズを大公開「CAPA 」8月号は本日発売

「CAPA 」8月号は本日発売。

 

【特集】創刊40周年記念大特集・第1弾! 写真家40人のベストレンズ

名作写真の陰には名玉あり! 写真家の目となってシーンを目撃し、 描いてきたベストレンズを大特集。 総勢40人の写真家が、 愛用レンズの「手放せない理由」「このレンズだからこそ可能になった写真表現」について語っています。 至極の描写、 自分の分身のごときしっくり感、 写真家が選び、 愛したレンズの数々が一堂に会します。

 

驚異のスポーツフォト -プロがカメラの先進機能を使いこなすとスゴイ写真が撮れる!

年々進化を続けてきた、 プロが絶対の信頼を置く各社のフラッグシップモデル。 そんな、 先進のカメラ機能を駆使して、 この道のプロフェッショナルが撮影したスポーツ写真を紹介。 最新のカメラ性能とプロの卓越した技術で捉えた‟驚異の一瞬”を堪能してください。

 

水、 風、 雲、 そしてセルフライティング「長秒露光で撮る夏風景」

写真ならではの表現、 それは長秒露光による描写。 流れる水や雲、 風によって揺れる草花は姿を変え、 肉眼では見ることのできない写真が撮れます。 この記事のトビラ写真「月夜の虹」も長秒露光することで生まれた一枚。 ここでは、 長秒露光を生かした夏の風景撮影術を紹介します。

 

巻頭特集のほかにも、 交換レンズの記事が盛りだくさん。 キヤノンRF100ミリやニッコールZ MC105ミリ&50ミリなどを徹底検証する「ミラーレス時代のマクロレンズの描写力に迫る」、 辛口コメントで最新レンズを一刀両断する連載企画「伊達淳一のレンズパラダイス」ではソニーFE35ミリF1.4GMなど、 フルサイズFEマウント用大口径35ミリの5本の描写をチェックします。

 

テクニック記事では、 作者がそっと明かすマクロ撮影の奥義「玉ボケの中に現れる‟不思議な影絵”を撮る!」をお届け。 また人気グラビア連載「Momoco写真館、 ふたたび」では、 80年代後半から90年代に活躍していたアイドル・島田奈美さんの未掲載カットを公開します。

 

【商品概要】

CAPA 2021年8月号
著者: CAPA編集部
定価: 1100円 (税込)

本当は石油王なんていない!? 中東一有名な日本人サラリーマンが伝えるアラブ世界~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。アラブと聞いてまっさきに思い浮かぶのが“アラブの石油王”。お金という概念すら持ち合わせていないような大金持ちが、マンガやゲームにたまに出てきますよね。

 

ところが今回の新書を読んで、「実はアラブに石油王はいない」と知り、ステレオタイプの思い込みだったと気付きました。まあ、外国の方にはいまだに日本にニンジャやサムライがいると思われていることがありますが、実際にはいないですしね(笑)。

 

知らなかったアラブ世界

私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(鷹鳥屋 明・著/星海社新書)は、アラブ世界の文化や暮らしが見えてくる一冊。

 

著者の鷹鳥屋明さんは、日本の企業で働くサラリーマンで、版権やIP(知的財産)関連の事業戦略を担当し、日本のコンテンツを展開したり、グッズを作って中東などに売ったり……といった仕事をしているそうです。

 

もともとは大学で東洋史を専攻していた鷹鳥屋さん。メーカーに入社して5年目ほどのときに、日本の外務省とサウジアラビア政府組織による外交イベント「日本サウジ青年交流団」に参加し、民族衣装一式を買ったのが人生の転機。

 

大雪が降る東京で民族衣装を着て雪の中で遊んでいる写真をインスタグラムに投稿したところ、アラブ圏の人たちに大受け!「日本の風景×民族衣装」の投稿を繰り返すうちに、アラブ人SNSフォロワー約10万人という「中東きっての有名日本人サラリーマン」になったのです。

 

王族とオタク論争で大ゲンカ!?

そんな鷹鳥屋さんのもとには中東の要人からさまざまな依頼が舞い込んできます。第1章「アラブの王族について」は、ある日突然「オレのボスであるサウジアラビアの王子があなたに会いたいと言っている」と、怪しいメールが届いたところから始まります。

 

王子の部下を名乗るのはアメリカとサウジアラビアを拠点にするラッパー!? 偽メールかもしれないと疑う鷹鳥屋さんですが、王子に招待されたモロッコのホテルで待っていたのは……。この章では本物だったサウジアラビアの王子との交流エピソードが語られます。

 

モロッコの街をポルシェで爆走し、ナイキショップで同行者全員分の靴を大人買い。突然店員の女性が気に入り、告白してふられる(笑)、という天衣無縫な行動も王子っぽいです。

 

アラブに私たちが想像するような石油王がいない理由もこの章で明かされます。中東各国では石油や天然ガス企業の多くは国有企業で、社員は国家公務員に近い立場になるため、「石油王」の概念はないとか。石油で得た収入は国庫を通じて、王族だけでなく国民全体に分配されるのが一般的です。

 

第3章は「アラブにおける日本文化」。1980~90年代に『キャプテン翼』や『UFOロボ グレンダイザー』といったアニメが中東のテレビで放映され、熱狂的なファンを生みました。

 

特に『グレンダイザー』は、テレビ見たさに街から子どもが消えたとの逸話があるほど。第1章で登場したサウジアラビアの王子も、グレンダイザーのフィギュアをプレゼントされて大喜びしています。

 

ちなみに当時なぜ日本のアニメが中東で放映されていたかというと、対欧米感情が悪化していた折、隙間を埋めるような形で日本の作品が導入されたから。国際情勢が文化にも影響を及ぼしているのですね。

 

鷹鳥屋さんとカタールの王族が「アニメ『スレイヤーズ』の続編『スレイヤーズTRY』と『スレイヤーズNEXT』、どちらが作品として優れているか」という議論で白熱し、取っ組み合いのケンカに発展したというエピソードも笑ってしまいました。作品を愛するオタク心は国籍も身分も超えて世界共通ですね(笑)。

 

ほかにも、テレビ番組『風雲!たけし城』の意外な人気、惣菜パンや焼きそばパンを出す日本風パン店の大ヒットなど、思いもしなかった日本文化が中東で受け入れられている様子が書かれています。

 

深くアラブを理解する鷹鳥屋さんの親しみやすい説明で、アラブから見た日本、日本から見たアラブ、両面が把握できる本書。「アラブといえば石油王!」とすぐに思ってしまう方は、等身大のアラブ世界をのぞいてみては?

 

 

【書籍紹介】

私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?

著者:鷹鳥屋明
発行:星海社

豪奢な石油王、ラクダとともに生きる砂漠世界、はたまた暗殺者が横行する危険地帯──これらステレオタイプともいうべき「中東」「アラブ」へのイメージは、残念ながら日本において現実の中東世界への誤解や偏見の根源となっています。本書は、中東に住む人々や文化への敬意と理解によってはからずも“中東きっての有名日本人”となった著者が、サウジアラビアの王族や中東有数の財閥子息たちとのお付き合いを通じて身を以て体験した耳を疑うような数多の実話とともに、私たち日本人が知らない魅力の溢れる中東世界へと誘います。著者所蔵の貴重で豊富な現地写真とともに、いざ等身大(?)のアラブ世界へ!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

アートがグッと身近になる『ヘンタイ美術館』を読んで、美術館へ行こう!

先日、上野に用事があったのでそのついでに……と東京国立博物館へ初めて行ってきました。軽い気持ちで入館しましたが、あまりの面白さに閉館間近まで滞在。教科書で見たことのあるような日本美術のホンモノがたくさん展示されており、「友の会」に入会するか本気で悩んでいるところです!

 

もっと美術や歴史について学びたい! そしてその知識とともにアート作品を楽しみたい! でも難しい本は無理……と思い手にしたのが、『ヘンタイ美術館』(山田五郎、こやま淳子・著/ダイヤモンド社・刊)。西洋美術入門としても楽しめる一冊でした。

 

なんで「ヘンタイ」なの?

『ヘンタイ美術館』は、評論家の山田五郎さんとコピーライターのこやま淳子さんによるトークイベントをまとめ、2015年に書籍化されたもの。台湾、韓国、中国語にも翻訳され、アジアにも「ヘンタイ」の波が広がっているようです!

 

しかし、なぜ『ヘンタイ美術館』という名前になったのでしょうか? 冒頭にこんなことが書かれてありました。

 

こやま こむずかしく考えがちな西洋美術も、ヘンタイでどうかしちゃってる美術家たちの側面から見ていくと、とてもおもしろくわかってくる。当美術館は、そんなヘンタイ斬り口から西洋美術を見ていこうという、ちょっと変な美術館です。

 

山田 オレは最初、このネーミングには反対だったんですよ。ホンモノの変態に失礼だから。

 

こやま そう、もちろん性的倒錯など、ホンモノな方々も美術家にはいらっしゃいますが、ここではもっとライトに、ちょっと変わった美術家さんのキャラクターにスポットを当てていこう! という趣旨です。

(『ヘンタイ美術館』より引用)

 

美術作品って周りの評価や歴史が深すぎて「素人が簡単には立ち入ってはいけない感じ」となんとなく思っていましたが、ヘンタイと言われると「何?」と気になってしまう(笑)。そんな気になる部分から作品を紐解いていくと、ハードルが下がり美術作品を気軽に楽しめるようになるはずです。

 

そして何より『ヘンタイ美術館』は、わかりやすい! 知識豊富な山田五郎さんの解説と、読者目線で素直な疑問を投げかけてくれるこやま淳子さんとの掛け合いが最高なのです。クスクス笑いながら読み進めていくうちに、美術の知識も身についている! そんな一冊です。

 

合計12名のヘンタイが登場!

一言に「西洋美術」と言ってもその歴史は深く、どこから誰の作品を見始めたらいいのか、正直わかりません。超素人な私は「モナ・リザって、ダ・ヴィンチだよね?」「ムンク展は行ったよ!」くらいの知識しかありませんでした(汗)。

 

『ヘンタイ美術館』は私のような低レベルでも全然ウェルカムな一冊です。4つの時代にそれぞれ3名の芸術が登場し、歴史と作風が「ヘンタイ」目線で紹介されていきます。

 

CHAPTER1の「ルネサンス3大巨匠」には、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロが登場。CHAPTER2の「やりすぎバロック」には、カラヴァッジオ、ルーベンス、レンブラントの3人。CHAPTER3では「理想と現実」というタイトルで新古典主義のアングル、ロマン主義のドラクロワ、写実主義のクールベが紹介され、最後のCHAPTER4「2文字ネーム印象派」に、マネ、モネ、ドガの3人、合計12名が登場します。

 

ちなみに、表紙で描かれている『グランド・オダリスク(1814年)』もこの12名の中にいるひとりの作品。この作品が登場した当時は「背中が長すぎる!」「腰椎が3つ多い」などと酷評だったそうですが、一体だれの作品だかわかりますか? ぜひどんなヘンタイだったのかは、本を読んで確かめてもらえればと思います。

 

「モナ・リザ」は、レオナルド・ダ・ヴィンチが常に持ち歩いて描いていた作品だった!

有名な「モナ・リザ」。どんな絵かは、頭の中にパッと思い浮かびますが、どうしてこれだけ評価されているか、そしてどれくらいの時間をかけて、どんな技法で描かれた作品かって実はあまり知られていないですよね。

 

この「モナ・リザ」を拡大してみると、どこからがまぶたの線なのか、輪郭なのか、色の境目が曖昧になっています。これは「スフマート」という技法だそうで、イタリア語で「煙らせる」という意味があるのだとか。何度も丁寧に絵の具で重ね塗りをして、ふわっともわっとした表情になっているところが評価されている理由のひとつになっているとのこと。

 

山田 科学調査してみたら、20回以上塗り重ねられていたそうですよ。油絵の具って乾くのに時間がかかるんです。だからダ・ヴィンチはこの作品をずーっと持ち歩き、暇を見ては塗り重ね続けていた。

 

こやま もはや趣味だったんですね。これを直すのが。

 

山田 そこまでやったからこそ、究極のスフマートが実現できた。『モナ・リザ』が名画と呼ばれる理由のひとつは謎の微笑にあるといった意味、わかったでしょ?

(『ヘンタイ美術館』より引用)

 

ちなみにこの「モナ・リザ」は未完説もあり、もしかするとまだ塗りたかったのかも……と思ってみるとレオナルド・ダ・ヴィンチのヘンタイっぷりも楽しめますね(笑)。他にも「モナ・リザ」がすごい理由や、ダ・ヴィンチのヘンタイエピソードが満載なので、続きは『ヘンタイ美術館』でお楽しみください!

 

この本を読んでいると、もっと美術のことを知りたくなります。今回紹介しているのは12名の美術家ですが、日本にもヘンタイな美術家はいたはず! ちょっとアートは苦手だな、と思っていた人も、新たな一面を知ることでもしかしたら美術が好きになれるかも。まだまだおうち時間も続きそうなので、新たな趣味のひとつとしてアート鑑賞を取り入れてみるのはいかがですか?

 

 

【書籍紹介】

ヘンタイ美術館

著者:山田五郎、こやま淳子
発行:ダイヤモンド社

この「ヘンタイ美術館」は、美術評論家・山田五郎さんを館長に見立てた架空の美術館。美術に興味はあるけれどよくわからなという方々に向けた西洋美術の超入門書。「ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ。一番のヘンタイは誰?」教科書的な知識より、こんな知識の方が実はビジネス会話でも使えたりするのです。

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マインクラフトの世界をよりゴージャスにする「インテリア」の製作実例を紹介した『マインクラフトインテリア建築ガイド』

子どもたちに人気のゲーム「マインクラフト」は、 ユーザーの自由な発想と仕組みを理解することで自由なモノづくりを楽しめます。 『Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド』では、 その中でも様々な建造物を作成したあとに、 もうワンステップ上を目指したいユーザーに向けて、 建造物の内装や各種家具などの小物、 インテリア製作に特化した1冊です。 内装配置図付きで、 『何をどこに置くのか』がわかりやすく、 空間設計のコツまでを習得できます。

 

マインクラフトでインテリア作りに挑戦したいならまずはこの1冊!

本書は、 2017年に刊行された『マインクラフトインテリア建築ガイド』(学研プラス・刊)をあらたに、 マインクラフトの統合版(Nintendo SwitchやWindows10など)に対応させた再編集版。

 

本書を読めば、 街角にあるようなフラワーショップやアパレルショップ、 RPGに出てくるようなファンタジー系の武器・防具屋、 酒場など、 世界観にあった建造物のインテリアを作成できます。 自身が作った建造物の内装までこだりたい人向けです。

 

基本の家具作りからはじめられて初心者でも安心!

インテリア作りに欠かせない、 各種ブロックの積み方・つなげ方ルール、 名称と機能などの基本からしっかりとサポート。 代表的な家具の椅子、 テーブル、 ソファ、 シャンデリア、 暖炉の基本的な作り方をまずは習得して、 本書で掲載している全15作品にチャレンジしてみよう。 それぞれ平面図付きで、 どこになにを配置するのかひと目でわかります。 本書を読み習得すれば、 ゴージャスで落ち着いた雰囲気で圧巻の高級ホテルのようなロビーも作れます!

 

自分好みに色を染めたり旗に模様を描くコツも紹介!

巻末特集では、 アイテムを様々な色に染めてよりオリジナリティを演出したい人向けに、 染色の方法を収録。 素材別の染色方法や染料一覧でわかりやすい。 さらに、 色を変えるだけではなく模様も描くことができるアイテム「旗」を使った模様の描き方も紹介。 染色や模様の仕組みを理解すれば、 より世界観にあったオリジナルのインテリアを制作できます。

 

[商品概要]

Nintendo Switch版 マインクラフトインテリア建築ガイド

著者: GetNavi特別編集・編
定価: 1089円 (税込)
発売日: 2021年7月13日(火)

 

すべてを「あきらめる」と、ラクになる——プロ奢ラレヤーに教わる「抗わない」生き方

抗っている。まず、コロナ禍の閉塞感。次に、漠然とした不安。そして、言葉で表せないさまざまな焦り。特に理由もないのに、ベッドから出たくない朝がある。メンタルやられちゃってるのかと思う瞬間もある。とにかく、抗っている。

 

抗ってダメなら、あきらめるほうが効率的

なりたい自分とか理想とかにがっつりつながるような大げさなものじゃなく、ぐっと日常生活に近いところにある何かに向いている感情だ。この種の感情には個人差があるだろうし、ライフサイクルにかかわる部分もあるだろう。筆者の場合、ミッドライフクライシスにしては年齢が行き過ぎているから、更年期なのかな。それはそれで抗いたくなるが。

 

プロ奢ラレヤーのあきらめ戦略―お金に困らず、ラクに、豊かに生きるには』(プロ奢ラレヤー・著/祥伝社・刊)は、何かと抗っている自覚があったらすぐに手に取るべき一冊だ。

 

夢なんか叶わない?

・お金がなくて、生活が苦しい人

・「何者か」になりたいけど、なれていない人

・しんどい労働はせずに、生きていきたい人

・プロ奢ラレヤーがどのように現在の生き方に行き着いたのか、その方法論を知りたい人

 

といった人たちを対象に書かれたこの本。まえがきに次のような一文がある。

 

夢は叶いません。というか、そもそも世界のあらゆる夢はほとんど叶っていません。なんなら、「99.9%」の夢は叶わない。そこに努力があろうが、「あきらめない」でいようが、現実的に99.9%の夢はいつだって幻なのです。

『プロ奢ラレヤーのあきらめ戦略』より引用

 

煽りのニュアンスも含め、魅力的な響きを感じる筆者には、すでに何らかのバイアスがかかってしまってるんでしょうか?

 

プロ奢ラレヤーとは?

著者の“プロ奢ラレヤー”さんとは、どんな人なのか。フォロワー数ざっくり10万のTwitterアカウントを介して寄せられる「奢らせてください」リクエストに応え、ご飯を奢られることを主な活動としている。世間一般で普通と思われているものすべてに縛られることを嫌い、靴下も履かない。というか、履けない。

 

3年半前、当時19歳だった僕は、まず「労働」をあきらめました。「バイトするくらいなら、メシなんていらない!」「公園で寝て、だらだらしてるほうがずっとマシ!」「働いて食う焼肉より、働かずに食う雑草だ!」

『プロ奢ラレヤーのあきらめ戦略』より引用

 

そして物価の安い国へ行って(!)ホームレスをしたり、現地で作った友達にご飯を奢ってもらったり、ゴミ箱から拾ったハンバーガーを漁ったりする生活を送った。ここまで読んで、すでに半ギレ状態になっている人がいるかもしれない。でも、ちょっと考えてほしい。プロ奢ラレヤーさんは、他人の目にどう映ろうが、自分というものを明らかにしていく過程に共鳴する人たちにご飯を奢ってもらい、そうしたライフスタイルから得るものをまとめて本にした。世間的には間違いなくネガティブに映るだろう自分のあり方を実現するため、わざわざ国外に出ていくというアクロバティックなポジティブさもある。

 

トレードオフ・ベースの生き方

次にあきらめたのは、「家」だ。

 

フォロワーの家に泊まればタダでいいじゃん! 外よりも100倍は優雅!! タダなのに暖かい! 涼しい! Wi-Fiもあって、風呂も入れる! これで家賃も0円になりました。プライドも、完全に0です。

『プロ奢ラレヤーのあきらめ戦略』より引用

 

労働も家もプライドも、あって当たり前のものであるはずだ。そういうものをあきらめる背景にあるものは何なのか。

 

「あきらめる」ということ―これはどこか「悪いこと」として扱われる節があります。しかし、それはきれいごとです。あきらめることなくして、得られるものはありません。

『プロ奢ラレヤーのあきらめ戦略』より引用

 

ならばプロ奢ラレヤーさんの生き方は、究極のトレードオフということになる。筆者は、こうしたやり方が間違いだとは思えない。

 

プロの凄み

章立てを見てみよう。

 

・なぜ、あきらめると人生得するのか

・あきらめたくないものに気づくための9ステップ

・あきらめにくい6つのハードル

・実践編 あきらめめチャレンジ

番外編 「あきらめる」以上に何か欲しい人へ

 

しがみついているものが多い人ほど、本書の内容に対する違和感が膨らんでいくだろう。読み進めていくうちに違和感ばかりが膨らんでいくのか。あるいは「あきらめること」を受け容れるスペースが広がっていくのか。

 

ひとつ明確に言っておきたいのは、ありとあらゆる世間体をあきらめているプロ奢ラレヤーさんの言動が完全に一致していることだ。出版契約の締結も、靴下を履くのと同じくらい嫌だったらしい。

 

しかし、この本の印税をもらうためには「契約書」という鳥肌ゾーンを突破しなくてはいけません。契約、ケイヤク、けいやく………。……というわけで、この本の印税はあきらめます。編集者さん、そんな感じでよろしくどうぞ。印税、いりませーん。

『プロ奢ラレヤーのあきらめ戦略』より引用

 

これがプロの凄みですよ。

 

【書籍紹介】

プロ奢ラレヤーのあきらめ戦略 お金に困らず、ラクに、豊かに生きるには

著者:プロ奢ラレヤー
発行:祥伝社

絶対に働かない彼は、なぜ生活に困らないのか—。才能、スキル、何もいらない。ただ「あきらめる」だけ。どんな時代でも通用する生存戦略を大公表!

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名作に時代は関係ない。日本の古典推理小説『点と線』は今読んでもやっぱりおもしろい

僕は、子どものころにシャーロック・ホームズにはまり、それから推理小説を読みまくっていた。アガサ・クリスティ、エラリー・クィーンはおそらくほとんどの作品を読んだと思う。ただ、なぜか日本の推理小説はあまり読んだ記憶がない。おそらく中学生くらいから赤川次郎が好きになり、推理小説以外のジャンルも読むようになったからだろう(赤川次郎にも推理ものはたくさんあるのでそれは読んでいた)。

 

その後は児童文学や日本の純文学などを読むようになったので、純粋な推理小説からはかなり離れてしまった。たまにシャーロック・ホームズを読み返したり、横溝正史をぶっ続けで読んだりしたくらいだ。

 

そういえば、昔から気になっていた作品があった。松本清張の『点と線』(松本清張・著/文藝春秋・刊)だ。舞台は昭和30年代。連載が開始されたのが1957年(昭和32年)。もちろん僕は生まれていない。日本の推理小説の名作と言われておりその内容はうっすら知っていたのもの、ちゃんと読んだことがない。そこで『点と線』を読んでみることにした。

 

時刻表ミステリーの傑作

推理小説ということで、あまり深く内容を記すことはしないが、簡単に言うと時刻表ミステリーの部類に入る。当時は新幹線がまだなく、飛行機も一般的ではなかった時代。福岡で起きた心中事件の謎を、警察が解き明かしていく。

 

事件解決の鍵となるのが、東京駅での空白の4分間。この「四分間の目撃者」は、推理小説ファンなら誰もが知るところだろう。非常によくできたトリックだ。

 

基本的には、容疑者のアリバイを崩していくスタイルの推理小説。東京、福岡、北海道と、日本全国を舞台としている。今読むと、昭和30年代の鉄道の様子なども知ることができて興味深い。

 

名作に時代は関係ない

この令和の時代に昭和の名作ミステリーを読んだ感想は、「名作に時代は関係ない」ということだった。

 

新幹線もなく、東京—福岡間が最速でも特急で17時間超。飛行機もあるにはあるが、一般的な乗り物ではない。今の交通事情とは全然異なるのだが、読んでいるときは自然と昭和30年代の日本に入り込んだような感覚になり、そのことに違和感を覚えない。

 

また、横溝正史の作品のように人が次々死んでいくこともなく、ただひたすら刑事たちが容疑者のアリバイを崩すために頭を悩まし、自分の脚で確かめるという感じで、一見すると地味だ。

 

ただ、逆にそれがいい。松本清張の筆力とでも言うべきか、とにかくテンポがいいし、余計なサイドストーリーもない。読みやすい文体で、一気に読めてしまう。そして、トリックも時刻表をつぶさに読み込んでいくもので、西村京太郎の時刻表ミステリーの原点のような感じだ。

 

一応長篇ミステリーとなっているが、4、5時間あれば読める分量。あまり気負わずに読める。エンターテインメントとして完璧だ。僕はそう感じた。なぜ『点と線』が名作と呼ばれているのか、分かった気がする。

 

ステイホームのお供に名作小説はいかが?

コロナ禍で家で過ごす時間が増えている。たまには古典の名作を読むというのもいいのではないだろうか。今は電子書籍で簡単に本が買える時代。ちょっと気になっていた小説を読んでみると、新しい発見があるかもしれない。

 

しかし、『点と線』を読んだら電車に乗ってどこか遠くへ行きたくなってしまった。早くそんな当たり前のことが楽しめるようになることを願いつつ、次は何の本を読もうか、インターネットの本棚を探すことにしよう。

 

 

【書籍紹介】

点と線

著者:松本清張
発行:文藝春秋

博多・香椎海岸で発見された、某省の課長補佐と料亭の女の死体。一見して疑いようのない心中事件と思われたが、その裏には汚職をめぐる恐るべきワナが隠されていた。時刻表を駆使した精緻なトリックと息をのむアリバイ崩し。著者の記念碑的作品となったトラベル・ミステリーが、風間完画伯の挿画入りであざやかによみがえる。

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DIYで小屋を作るためのノウハウを詰め込んだ一冊!『小屋を作る本2021』

ドゥーパ!特別編集のムック本『小屋を作る本2021』が好評発売中!

 DIYerが手作りした小屋の実例集、DIY初心者にもわかりやすく解説した基本テクニック&資材ガイド、さらに小屋が完成するまでの工程を完全リポートする小屋作り実践記事などを収録。 本書を読めば、憧れの小屋作りの実現にグッと近づくこと間違いなし!

 

Part1 厳選・手作り小屋実例集

庭に作ったカフェ小屋や、キャンプギアを収納する秘密基地、自然豊かなフィールドに建てた宿泊小屋、さらにツリーハウス、工房小屋、茶室、キッズハウス、見晴らし小屋など、それぞれにこだわりが詰まった多彩な小屋を一挙に紹介。小屋作りの参考になるのはもちろん、眺めているだけでも楽しくなる。

 

Part2 小屋作りのためのテクニックガイド

材料の切り方いろいろ、固定の仕方いろいろなど、小屋作りに関連するDIY基本テクニックを詳しく解説。このガイドをチェックすれば、きっとビギナーも小屋作りを実現できるはず。

 

Part3 実践・小屋作り完全マニュアル

「できるだけ手軽に作る」をコンセプトに実践した小屋作りの製作手順完全リポート。同じように作業すれば、ご覧の小屋が完成するというわけ。さらに小屋の室内をヴィンテージウッディに仕上げる内装施工手順完全リポートも収録。

猫のための家具と遊具の作例がいっぱい!『DIYで作る猫との暮らし』

ドゥーパ!特別編集のムック本『DIYで作る猫との暮らし』が好評発売中!

ごはん台、トイレカバー、ニャンモックスタンドなどからキャットタワーやキャットウォークまで、猫のための家具と遊具の作例をたっぷりと収録しています。

 

また、猫の家具や遊具いっぱいの手作りの部屋の実例集や猫DIYに役立つ基本テクニックまで網羅。猫との住まいづくりの参考としてお楽しみいただけるのはもちろんのこと、愛猫のために家具や遊具を手作りしたい!というDIY派な飼い主さんの願いを叶える1冊になっています。

 

PART 1 猫と私のための手作りの部屋

猫が遊んだり、くつろいだり、外のパトロールを楽しむことができる手作りのキャットタワーやキャットウォークがある部屋の実例集。猫ちゃん専用のお部屋まで。

 

PART2 DIYを始める前に知っておきたいこと

愛する猫ちゃんに安全に使ってもらうために事前に知っておきたい猫のカラダのことやDIYのキホン。

 

PART3 猫のための家具を作ろう

猫ちゃん必携のごはん台、トイレカバー 、ニャンモックスタンドなどの作り方。

 

PART4 猫のための遊具を作ろう

猫ちゃんを迎え入れたその日から猫ちゃん以上に飼い主が欲しくなるのがキャットタワーとキャットウォーク。猫ちゃんが思う存分、遊べる仕掛け満載の遊具。

ラッコの食費は月150万!? アルパカはペットとして飼える!?——『動物の値段』

ペットというと犬や猫を思い浮かべる人が多いでしょう。けれど、最近はアパートで飼われていた大蛇が逃げ出す騒ぎがあるなど、ペットも多様化しています。

 

散歩中に目に入る意外なペット

先日、近所でウサギを散歩させている人を見かけました。猫にリードをつけて散歩させている人は珍しくないですが、ウサギは初めて見かけました。以前はヤギを引き連れていた人もいましたし、大きなオウムを肩に乗せて歩いている人もいます。

 

ペットの世界もかなりの多様化が進んでいるのかもしれません。以前、友達の家に行ったら引き出しからフェレットが出てきたこともありましたし、蛇をマフラーのように首に巻いて出かける人もいました。一緒に暮らしたいと思える大好きな生き物と暮らせるなんて、素敵なことです。

 

白くてフワフワが欲しい

美大生の娘は、白くてふわふわの動物と暮らす夢を持っています。猫だったらペルシャ(チンチラ)(20-30万円)、犬だったらチャオリアというポメラニアン(約60万円)なのだそうです。ふわふわした生き物を見つめていると、それだけで癒されるからなのだとか。

 

この娘が先日、アザラシにハマりました。アザラシは普段は黒に近いグレーのような色合いですが、生後2週間ほどは真っ白な産毛にくるまれていて、それがたまらなく可愛らしいのだそうです。彼女は真っ白い赤ちゃんアザラシをひとめ見たいあまり、カナダや北海道に向かうことを今の目標としています。

 

ラッコは人間より美食

動物の値段』(白輪剛史・著/KADOKAWA・刊)には、動物商の著者が過去に見聞きしたさまざまな動物の価格が載っています。パンダのレンタル料金が年間1億円と高額であることにも驚きますが、なによりも大変そうなのは維持費。動物は生きているのですからエサ代や檻代もかかるのです。

 

娘はラッコも好きです。アザラシと同じ北の海に暮らす可愛い仲間だからです。本にはラッコを個人が飼う場合の話が載っていましたが、かなり大変そうでした。なにしろラッコは美食家。好物がウニやカニなのですから、毎日高級料理を食べているようなものなので、野生と同じ環境でエサを与えると食費だけで1日5万円もかかるのだとか。月に150万円です。月にこれだけの食費を払っているヒトはほとんどいないのではないでしょうか。

 

さすがにこれほどのエサを与えるのは難しいので、動物園や水族館は、代わりにイカを食べさせているそうで、せつない話です。それでも食費は月に15万円になるそうです。そして、かなり深い水深を好むため、そのための水槽作りに数億円が必要なのだとか。ものすごいお金持ちじゃないとペットとしてラッコを飼うのは難しそうです。

 

動物を巡る輸出規制

世の中にはペットとして飼うことができる意外な動物もいろいろあります。たとえばもふもふしていて可愛いアルパカ。那須にアルパカ牧場があるのですが、そのホームページにも「販売しています」と書かれているので、牧場主になる機会があれば、ぜひ家族の一員として迎えてみたいものです。

 

しかし、本書を読むと、動物を輸入する際にはかなり細かい規制があることが分かります。コウモリやげっ歯類、サル類など、輸入自体が禁止されている動物もあるのです。著者が南米からチスイコウモリという吸血鬼のように血を吸うコウモリを輸入しようとしたところ、狂犬病を媒介する可能性があると知り、キャンセルしたというエピソードもありました。

 

また、サルを輸入しようとすると検疫に30日もかかるのだとか。流行病を上陸させないよう、以前よりさまざまな工夫されていることを改めて知り、私たちやペットの健康はこうした水際で守られているのだということに気づかされます。検疫をパスして無事に日本にやってきた生き物たちのことを、今後はさらに愛おしく感じられそうです。

 

【書籍紹介】

動物の値段

著者:白輪剛史
発行:KADOKAWA

ライオン(赤ちゃん)45万円、ラッコ250万円、トラ500万円、ゾウ3000万円にシャチは1億円!!…でも、エリマキトカゲはわずか5万円。動物園・水族館のどんな動物にも値段がある! 人気者たちの意外なお値段を決めるポイントはいったい何か? キリンやカバなどは、どのように輸送しているのか? すべてが驚きの動物商の世界。その舞台裏を明かした画期的な1冊! テリー伊藤氏との文庫版特別対談も収録。

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沖縄の魚「ダルマ」は食べても観察しても良し!? 生物学×旅行ガイドで沖縄探検~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。関東に住んでいる身としては、旅行先に沖縄と北海道、どちらを選ぶかは言ってみれば究極の選択。友達と「コロナが落ち着いたら旅行しよう!」と約束していて、沖縄そばか海鮮丼か、ラフテーかジンギスカンか、いつも盛り上がっています。どちらも美味しい食べ物があって自然豊か。まあ、本書を読んだ今はかなり沖縄に傾いています(笑)。

 

沖縄の島々を巡りたくなる新書

ゲッチョ先生と行く 沖縄自然探検』(盛口 満・著/岩波ジュニア新書)は、沖縄の不思議な生き物の生態を紹介する一冊。岩波ジュニア新書という中高生向けのレーベルですが、大人が読んでも驚くこと間違いなし。

 

著者の「ゲッチョ先生」こと盛口 満さんは生物学を専門とし、現在は沖縄大学学長。もともとは埼玉の私立中学・高校の理科教員で、長期休みを利用して憧れの西表島にたびたび旅行し、ついには移住してしまったという経歴の持ち主。沖縄に住んでもう20年になるとか。

 

『コケの謎―ゲッチョ先生、コケを食う』(どうぶつ社)、『めんそーれ! 化学――おばあと学んだ理科授業』(岩波ジュニア新書)など著作多数。埼玉の教員時代、生徒たちとタヌキやイルカの死体を拾って骨格標本を作る様子をつづった『僕らが死体を拾うわけ』(ちくま文庫)は、「こんな先生に生物を教わりたかった!」と高校生をやり直したくなりました。

 

沖縄の不思議な生き物たち

本書は春休みに沖縄にやってきた高校生の姉・あかりと中学生の弟・太陽を、那覇に住む叔父が案内するというスタイルで進んでいきます。第1章「沖縄島・南部」でまず向かったのは、那覇港の近くにある魚市場「泊(とまり)いゆまち」。赤い色をした目の大きな魚「赤マチ」、1mほどもある巨大なイカ「セーイカ」、オウムのようなクチバシ状の口を持つ「イラブチャー」など、あかりと太陽には見慣れない魚ばかり。

 

昼ご飯として買ったのは「骨がおもしろい」とおじさんが勧める、丸っこい顔をした「ダルマ(和名:ヨコシマクロダイ)」。頭と骨は魚汁、身はオリーブオイル焼きにして食べたあと骨をじっくり観察します。アゴを見ると人間の奥歯に似た歯があってビックリ! 胃には硬いウニや貝殻が入っていました……。イラストもふんだんに挟まり、モノクロとはいえ図鑑のように見ているだけでも楽しめます。

 

その後、姉弟とおじさんは、与那国島、石垣島、西表島、宮古島……と、それぞれ特徴的な自然と文化を持つ沖縄の島々を巡っていきます。ハイライトはやはり著者の盛口さんがこよなく愛する西表島を訪れる5章。

 

干潟を散歩して、明治時代に絶滅したジュゴンの骨を見つけて興奮し、「野生生物保護センター」でイリオモテヤマネコの頭骨を観察して普通のネコとの違いを探ります。イリオモテヤマネコは西表島に30年以上通っているおじさんも1度しか見たことがないとか。本当にレアな生き物なんですね。

 

一般的な観光名所の案内は一切ありませんが、沖縄の風と太陽と海の匂いが活字から漂ってくる一冊。生物本×旅行ガイドという切り口もユニークです。盛口さんの自然を愛する温かい人柄も手伝って、読んでいて心地良い気分になりました。

 

【書籍紹介】

『ゲッチョ先生と行く 沖縄自然探検』

著者:盛口 満
発行:岩波書店

博物学者ゲッチョ先生の案内で、生き物の宝庫・沖縄へ出かけよう! 都会の森でホタル観察、海辺で拾える巨大な豆、ふしぎなジュゴン伝説、樹上で子育てするカエル、イリオモテヤマネコが生き残った理由――沖縄島、与那国島、石垣島、西表島、宮古島を中心に、島々の個性的な自然や文化を、臨場感あふれるイラストと共に紹介。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

筋トレ、怪談、水族館—— 歴史小説家が選ぶ、今年の「夏」をひと味違うモノにするための5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「夏」。引きこもりを余儀なくされる今年の夏。谷津さんの選ぶ5冊を片手に特別なものにしてみるのはいかがでしょうか?

 

【過去の記事はコチラ

 


 

今年も夏がやってくる……のである。

 

あれ、この前夏の終わりに立ち会ったばっかりじゃなかったっけ? そんな感慨に襲われているのは、なにもわたしだけではあるまい。大人になってから、とみに時の流れが速くなっている気がする。このまま体感時間が速くなっていき、ついには月の運行まで目視できるようになるのだろうか……って、これ、藤子・F・不二雄のSF短編そのまんま(「光陰」)である。

 

とにかく、夏である。コロナが蔓延してようが、とてつもないビッグイベントが開催されようが、刻々と時を刻むのが自然なのである。

 

というわけで、今回の選書テーマは「夏」である。

 

古典のみに許された入れ子構造の「エモさ」

夏と言えば花火。花火といえば――。まずご紹介するのはこちら。『花火・来訪者 他十一篇』 (永井荷風・著/岩波書店・刊) である。

 

表題作を紹介したい。東京市欧州戦争講和記念祭の花火の音を聞いた永井荷風が、ふとそれまで自分が経験してきた新しい祭りの光景を思い出す、そんな随想である。その中で描かれるのは、前近代から近代へと少しずつ作り替えられていく世の中の諸相であり、その変化を前に立ちすくみ哀悼を捧げる一人の物書きの後ろ姿である。現代語に「エモい」なる言葉があるが、表題作の目指すそれは、まさしく「エモい」なのである。永井の詳細な筆によって切り取られた当時の風俗こそがこの「エモさ」の正体である。

 

そして、現代の我々からすれば、本作は著者にとっては想定外の「エモさ」が付与されているといえるかもしれない。永井荷風が佇む憂いの「今」もまた、わたしたちにとってはノスタルジアの対象となっている。現代人にとって本作は、ノスタルジアの時代に生きる人間の抱くノスタルジア、という入れ子構造になっているのである。これは読み継がれた古典のみに許された味であるといえよう。

 

水族館の「推し」が探せるガイドブック

夏と言えば海。海と言えば水族館。というわけで、お次にはこれを紹介しよう。『水族館めぐり』(GB・刊)である。

 

本書は日本中にある人気水族館の看板動物を紹介する本である。水族館案内と一線を画しているのは、各水族館の人気個体を名前と共に紹介していることだろう。

 

昔からそういう側面はあったが、ここのところ、動物園や水族館においても「推し」の概念が浸透したように思う。特定の個体に愛情を向け、一日中その個体に張りついているファンや、動物園・水族館の動物をある種のキャラクターと見なし愛でる鑑賞法が徐々に一般化してきているのだ。

 

本書はそんな風潮に合わせ、「推し海獣・推し魚」を見つけやすいよう、より個体それぞれの魅力に迫った一冊になっている。本書を読んでいると、実際に動いているところを見たくなること請け合いだ。

 

コロナ禍の今、なかなか水族館にも足を運びにくい。だが、コロナ禍もいつかは終わる。コロナ明けに水族館推し活をしたいあなたに。あるいは、デートプランや家族サービスプランを練るための一冊としてもお勧めである。

 

引きこもらざるを得ない夏だからこそ「筋トレ」を

夏と言えば男女問わず薄着になって露出が増える。そうなると気になるのは体型である。とはいえ、食事制限などしようものならストレスは溜まるし、最悪夏バテで倒れかねない……。

 

というわけで、こんな本はいかがだろうか。『筋肉を最速で太くする』(広瀬統一・著/エクスナレッジ・刊)。本書はなんといってもパンチある表紙と直截極まりないタイトルが目を引くが、実際に、めちゃくちゃ実用的な筋トレ本である。なにを隠そう、わたしも去年辺りから肉体改造に勤しんでいるのだが(小説家もPC前で長い間同じ姿勢を取るため、腹筋や背筋は必要不可欠である)、本書は非常に助けになった。

 

本書は筋肉のつくメカニズムや体型に関する基礎知識から話を始め、筋肥大を促すために大事なこと、効率のよい運動法など、理論面からの解説がなされモチベーションアップ。その後、様々なトレーニング法に従いステップアップしてゆけば、最終的にはバッキバキの筋肉が手に入る寸法である。

 

なお、わたしはあまり筋肉がつきやすい性質ではない上、諸般の事情で自重トレーニングしかできないのだが、それでも本書を参考に筋トレを続けた結果、筋力が着々とついてきていると付言しておこう。

 

今年はまだ、水着姿を披露する夏とはならないだろう。だが、引きこもらざるを得ない夏だからこそ、体型維持、肉体改造に目を向けてみてはいかがだろうか。

 

夏の終わりのアンニュイさが漂う傑作SF漫画

夏にはなんとなくもの悲しさがある気がする。そんなわたしの感覚に頷けるあなたにお勧めなのが『ヨコハマ買い出し紀行』 (芦奈野ひとし・著/講談社・刊) である。えっ、今更こんな有名作品を紹介するのか、とお叱りを食らいそうであるが、いい本なのだから仕方あるまい。

 

本書は人類文明が滅びに向かっている時代(本書においては「のちに夕凪の時代と言われるてろてろの時間」と称呼される)に生きる人々の姿を、女性型ロボット・アルファの目から活写したSF漫画である。

 

誤解ないように言っておきたい。本書は夏の光景ばかりが描かれているわけではない。アルファの目を通じて描かれるのは、滅び行く時代の四季折々を「てろてろ」生きる人々の姿だ。だが、一読者としてのわたしは、本書に夏の気配を感じてしまう。

 

本書に描かれる「滅び」は破局的なものではなく、言うなればそれは老衰のような、いや、あるいは線香花火がぽっと下に落ちるかのような、穏やかなるものと示唆されている。その有様が、夏の終わりに漂うアンニュイさに似ている気がするのである。

 

そんなわたし個人の読みはさておき、破局直前の寂寥と、そんな時代にあっても存在する人間の普遍とが入り交じる傑作SF漫画である。未読の方は是非是非。

 

怪談の裏にある闇を顕現させるホラー作品

夏と言えばホラー。ホラーと言えば怪談――。というわけで、こちらを紹介しよう。『カイタン 怪談師りん』 (最東対地・著/集英社・刊) である。本作は怪談を大きなモチーフに置いた新感覚ホラー作品である。

 

著者である最東対地はサスペンスホラーと現代的な作劇技法を組み合わせたスピード感溢れる作品群で知られるホラー作家だが、一方で『異世怪症候群』(星海社)のような「語り物・テキストとしてのホラー」にも強い興味を有している。本作は、そんな著者の二つの作家性を閉じ込めた一冊と言えそうである。

 

本書は妹を神隠しで失った少女、りんが怪談師の馬代 融と出会い、妹の神隠しの真相に迫っていくというサスペンス的な味も強い一冊でもあるが、その一方で、「怪談とは何か」「怪談というフィクションの裏側にある真実」に対する思索が見え隠れしている。怪談というフィクションの裏側に存在するノンフィクション性を作品の中で解いてみせることで、作中の恐怖をわたしたちのすぐ側まで拡張しているのである。

 

わたしたちが何気なく聞いている怪談、実はその裏側にはとてつもない闇が広がっているのかもしれない。本書の提示する怖さは、それまでは少しも感じることのなかった闇を殊更に色濃く見せること、なのかもしれない。

 

 

わたし個人、あまり夏は好きではなかった。

 

まあ、皆さんもお気づきの通りの陰キャ街道まっしぐらな青春を送ってきたわたしが夏を好きになれる道理はないのだが、齢三十五を重ね、嫌いではない、くらいの距離感にはなってきた。それもこれも、本を通じて夏の歳時記に触れてきたがゆえのことだろう。

 

夏が好きなあなたも、そうでないあなたも、本で夏を感じるというのも乙なので是非、と元夏嫌いとしては申し上げる次第である。

 

【過去の記事はコチラ

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は『吉宗の星』(実業之日本社)

【8月31日まで】「地球の歩き方」がKindle Unlimitedで読み放題!コロナ禍の活用術を中の人に聞いた

いま、「地球の歩き方」がAmazonのKindle Unlimitedの読み放題となっているって知ってましたか?

 

しかも今回は、旅好き女子のためのプチぼうけん応援ガイド「aruco」、初めてその場所を旅する人や、短い滞在時間で効率的に観光したい旅人におすすめのシリーズ「Plat」、自分流に楽しむリゾートステイを応援する「ResortStyle」も含めた主要4シリーズ全176タイトルが読み放題なんです!

 

これだけ読み放題なら、ざっと眺めるだけでも旅行気分に浸れるかもしれません。でも、せっかくなら、もっと本物の旅に近い体験をしたいと思いませんか?

 

そこで、今回は「地球の歩き方」を使った、家にいながらの旅行体験「アームチェアトラベル」について、「地球の歩き方」の中に人に教えてもらいました! これを実践すれば、あなたの「旅に行きたい!」欲も満たされること間違いなし!!

 

 

■「地球の歩き方」Amazon Kindle Unlimited 詳細はこちら(Amazonページへ移動します)

配信期間:2021年7月1日(木)~2021年8月31日(火)
200万冊以上のKindle電子書籍が読み放題のサブスクで初回30日間無料、以降は月額980円(税込)。

・対象書籍:「地球の歩き方」主要4シリーズ全176タイトル電子版
「地球の歩き方ガイドブック」シリーズ:110タイトル
「地球の歩き方aruco」シリーズ:28タイトル
「地球の歩き方Plat」シリーズ:23タイトル
「地球の歩き方ResortStyle」シリーズ:15タイトル

各シリーズ詳細はこちら(「地球の歩き方」公式サイトに移動します)

 

「アームチェアトラベル」って何?

 

「アームチェアトラベル」とは、自宅にいながら自由に旅行気分を味わうこと。海外では一般的に使われている言葉のようですが、「脳内トリップ」「妄想旅行」なんて言い換えてみるとわかりやすいですね。「よし! 今日はアームチェアトラベルをやるぞ!」と決め込むよりも、海外の絶景写真集を眺めているうちに、海外ドラマを見ているうちに、旅ブログを読んでいるうちに、「あ、旅行気分を味わっていた!」という方が多いかもしれません。

 

今回は、『地球の歩き方』の旅行マーケティング部所属の倉林さんと曽我さんにアームチェアトラベル、そして旅行の楽しさについて教えていただきました。そもそもアームチェアトラベルとはどんなものなのでしょうか?

 

倉林 元気さん
旅行先では蚤の市、古着屋を必ず探す。古着、雑貨巡りが大好き。JICAの青年海外協力隊でミクロネシア連邦チューク州駐在経験もあり。

 

曽我 将良さん
バックパック旅行好き。ビーチバレーが趣味で、行った国々のビーチでオーバーヘッドキックを決めている写真を撮っているのだとか!

 

倉林さん「本を読んだり、写真集を眺めたり、現地のラジオ番組や音楽を聞いたり、ぼんやりといつか行ってみたい国の情報を検索するだけでも、立派なアームチェアトラベル。日常の中で旅気分を味わうって意外と簡単にできるので、入門編として『気になる国を調べてみる』『気になる国のガイドブックを読んでみる』から始めてみるといいかもしれませんよ」

 

曽我さん「旅行って頑張っても年に1〜2回しか行けませんが、アームチェアトラベルなら365日好きな場所へいつでも旅行ができます。旅先を検索窓に入力するだけで、普段見られないような南極の景色や過去に訪れた旅行先の今の風景が見られたり、気づきが得られるはず。旅行と同じように試行錯誤しながら、自分が一番旅行気分を味わえるアームチェアトラベルを見つけて欲しいですね」

 

また、アームチェアトラベルは大きく分けると2つの楽しみ方ができるのだとか。ひとつめは、「過去に行ったことのある国や地域でアームチェアトラベル」する方法。もうひとつは、「旅行情報を参考に行ったことのない国や地域にアームチェアトラベル」する方法。ネットや本など参考にできるものがたくさんありますが、まとまった情報として活用できるのが『地球の歩き方』! プランの立て方からおすすめの観光スポットまでたっぷりと掲載されています。

 

『地球の歩き方』の意外な読み方&活用法

 

私も「アームチェアトラベルをやろう!」 と、無計画にペラペラと旅行雑誌を読みながら、YouTubeで現地ガイドさんの動画を見たのですが、30分と楽しむことができませんでした。そんな話を倉林さんと曽我さんにしてみると、「しっかりプランを立てないと!」とお叱りが! ごめんなさい!! 一体、どんなプランを立てるのが良いのでしょうか? お二人にそれぞれ今行きたい国でプランを考えてもらいました。

 

■倉林さんのバングラデシュ旅

1.『地球の歩き方 バングラデシュ』を最初からじっくり読み込む
2. 現地到着初日と最終日以外の日の過ごし方を決める(複数個所を巡る周遊型か、拠点を決めたじっくり滞在型か)
3.『地球の歩き方』でピックアップした場所をGoogle Mapに落とし込む

「旅行の醍醐味は「五感」をフル活用できるところ。旅先で存分に楽しむためにも準備は大切。なので僕は、準備としてのアームチェアトラベルをします。『地球の歩き方』は旅の先輩。とりあえず欄外コラムやはみだし情報まで全部読みます。先輩の経験談がたっぷりと語られていますよ!」

 

■曽我さんのエジプト旅

1.地図を広げてエジプトの全体像を把握する
2.航空券を調べて、金額感を把握する
3.『地球の歩き方 エジプト』を読みながらモデルコースを参考に行く場所を決める

「新しい旅行先が見つからないなら、本屋さんに足を運ぶのがおすすめ。インターネット上だと欲しい情報以外は見過ごしがちですが、KindleUnlimitedなら好きなだけ読めるので気になる国を一気にダウンロードすれば本屋さんにいる時と同じように楽しめますよ」

 

始める前に「何」をしたいかを考えることが大切なんですね! お二人とも、旅行に行くことを想定しながらプランを立てられていたので、お話を聞いているだけでもワクワク感が伝わってきました。

 

お二人も活用していた『地球の歩き方』ですが、初めて手に取った方はどこから読んだらいいかわからない人もいるかもしれません。そんなときは、以下のポイントを抑えておくのがおすすめです。

 

■『地球の歩き方』の読み方&活用方法

・初めての旅行先であれば、冒頭のモデルプランページを参考に

・どの国でも掲載されている「旅の準備と技術」には、その国のすべてが詰まっているので必読

・掲載されている情報は、現地取材したものなので、本当に直面したスリリングな情報も……!

・一度訪れた場所でも知らなかった歴史や民族文化・風習、地形や建築解説ほか幅広く掲載されていることもあるので、旅の上級者にこそ読んでほしい

・簡単な会話集や歴史年表、関連書籍や現地の流行事情など、あえて後ろのページから読んでみると、意外な情報に気が付く場合も

・定番のガイドブック以外にも、旅の雑学『図鑑シリーズ』・72時間濃縮プラン『Plat』・女子旅プチおうえん『aruco』など個性豊かなシリーズも発行されている

 

初心者でも手軽に楽しめる「アームチェアトラベル」5選

では、初心者でも手軽に楽しめるアームチェアトラベルを5つご紹介しましょう!

 

【行きたい場所が見つからない人向け!】
・絶景写真集などから行ってみたい場所を探す(所要時間:1時間〜)

海外の絶景だけを集めた写真集や雑誌を見て気になる場所の『地球の歩き方』を読むだけでも十分楽しめます。またInstagramのハッシュタグ「#世界の絶景」「#photo_travelers」でも写真や動画が見られますよ!

 

【スマホだけでいつでもできる!】
・一人で、家族と、友達と! 過去に訪れた場所を写真で振り返る(所要時間:1〜2時間)

あなたのスマホの中に、旅先の写真いっぱい入っていませんか? それを眺めているだけでも十分なアームチェアトラベルに。ひとりでも楽しいですが、家族や友達をオンラインで繋げて、写真を披露したり「これはどこでしょう?」クイズを出し合うのもおすすめ。

↑ポキを食べて浮かれている2018年の私。ここはどこでしょう? クイズに使えそう! ちなみに正解は、Nico’s Pier 38。トロリーに乗って行ったなぁ〜♪

 

【じっくりと時間をかけたい!】
・旅の先輩である『地球の歩き方』から、先輩っぽい発言を引き出して学ぶ(所要時間:2時間〜)

旅の先輩である『地球の歩き方』は、発言も少し先輩っぽい(笑)。以下は地球の歩き方 マダガスカルで紹介されているお土産物屋さんについての記述。

 

ただし観光客にはかなり値段をふっかけてくるので、あらかじめ相場を調べておいてしっかり値切ろう。交渉次第で2分の1〜5分の1ほどになることもあるので試してみよう。

(『地球の歩き方 マダガスカル』から引用)

 

ありがとう、先輩!!(笑)他にもちょっぴりポエミーな一節があったり、読めば読むほど味わい深い文章がたくさん。行き先にもよりますが、隅から隅までじっくり読むのには2時間程度かかるので、通勤や通学、お昼休みの合間に読むのもおすすめです。

 

【1日中旅行気分を楽しみたい!】
・香り、味、耳で現地の雰囲気を再現する(所要時間:2時間〜)

旅行気分を味わうなら、嗅覚・味覚・聴覚を刺激しましょう。個人的には、蒸し暑い日に熱々のタイラーメンを作り、イヤホンでタイの音楽を聞きながら食べていたら、「あれ? ここはタイかな?」と感じることができました(タイ旅行未経験ですが)。

↑買ってきたタイ料理の素材。味覚からのアプローチも大切な要素!

 

【少しの空き時間でもできる!】
・『地球の歩き方』の表紙と同じ場所をGoogle Earthから探してみる(所要時間:10分〜)

『地球の歩き方』で使われている表紙のイラストと同じ場所をクイズのようにGoogle Earthから探し出すのも盛り上がります。先ほどご紹介した地球の歩き方 マダガスカルの表紙はバオバブの木が描かれています。

 

 

Google Earthで調べてみると……バオバブの木を発見!

 

本当にこんな形をしているのかとか、人が写っているところもあるので実際の大きさも想像でき、臨場感が増しますね!

 

私なりのアームチェアトラベルを実際にやってみた!

最後に、私が実際にやってみたアームチェアトラベルをご紹介。

 

ひとつめは、過去に2回(2018年春&2020年新春)訪れたハワイ〜! 海外旅行はホノルルしか経験していませんが、他の国には行かなくてもいいくらい大好きです! 仕事中も「イライラしないように」とよくハワイアンミュージックを聴いているのですが(笑)、振り返ってみればそれもアームチェアトラベルだったかもしれません。

 

せっかくなので、今回はいつもよりハワイ感が高まるアームチェアトラベルをしてみましょう!

 

■アームチェア・ハワイ旅

1.現地で買ってきたものを机の上に並べる
2. 現地のラジオ番組やハワイアンなBGMをかける
3.『地球の歩き方 ハワイ1オワフ島&ホノルル』を読んで、行ったことのある場所や次、行きたい場所に付箋する

 

 

「こんなことで?」と思うでしょ? これが不思議なのですが、気がつくと机の周りがハワイになります(笑)。振り返りながら『地球の歩き方』を読んでいると旅行中に通り過ぎていた場所や新たな魅力を見つけることができます。

次行くなら、朝早く起きてbikiに乗ってモンサラット通りへ行きたい! そして「カフェ・モーリーズ」でフライドライスを食べるっ

 

次に旅する先は「パリ」。地球の歩き方の編集長にコロナ前、人気だった観光地を伺ったところ、

 

・「地球の歩き方ガイドブック」シリーズ:イタリア、シンガポール、パリ、ベトナム、台北
・「地球の歩き方arucoシリーズ」:ソウル、ニューヨーク

 

と教えていただけたので、今回は地球の歩き方 パリ&近郊の街を参考に、パリの街をネット上でお散歩してみることに。というのも、アート作品をウェブ上で公開する美術館が増え、いつでもどこでもアート散策できるようになったのです。実際のパリでは、予算の関係上そんな優雅な過ごし方できそうにもないので(笑)、アームチェアトラベルでたっぷり楽しみましょう!

 

■アームチェア・パリ旅

1.『地球の歩き方 パリ&近郊の街』から行きたい美術館をチョイス
2.美味しいフランスパンをトーストし、部屋の中をパリっぽい匂いにする
3.映画『ミッドナイト・イン・パリ』のサントラを聴きながら、美術館のサイトをチェック

 

↑ルーブル美術館をバーチャルで見学してみました! バーチャル訪問はこちら

 

行ったことはありませんが、音楽と食べ物があると現地感が深まります。地球の歩き方 パリ&近郊の街には美術館や施設の最新情報が掲載されているので、「行くときにはパリ・ミュージアム・パスを絶対買おう!」「え、オペラ座ってふたつもあったの?」「書店めぐりとかおしゃれなんですけど!」と旅行に役立つ情報も満載でした。

 

今のうちから「行きたい場所」や「もう一度訪れたい場所」についてアームチェアトラベルしておくことが次の旅行の糧となり、自分自身を支えてくれるはずです。

 

ちなみに『地球の歩き方』の編集長にコロナ後に人気になりそうな観光地についてお話を伺ったところ、「具体的なデスティネーションというよりは、アフターコロナの旅のスタイルが変わるので、密にならないネイチャー系の観光地は全体的に人気になると思われます」と教えてくれました。ぜひ旅行先選びの参考にしてみてくださいね!

 

そして安心安全に旅行ができるようになった際には、リュックの中に『地球の歩き方』先輩を一緒に連れて、コロナ前よりもちょっぴりレベルアップした自分で旅を楽しみたいですね!

 

■「地球の歩き方」Amazon Kindle Unlimited 詳細はこちら(Amazonページへ移動します)

配信期間:2021年7月1日(木)~2021年8月31日(火)
200万冊以上のKindle電子書籍が読み放題のサブスクで初回30日間無料、以降は月額980円(税込)。

・対象書籍:「地球の歩き方」主要4シリーズ全176タイトル電子版
「地球の歩き方ガイドブック」シリーズ:110タイトル
「地球の歩き方aruco」シリーズ:28タイトル
「地球の歩き方Plat」シリーズ:23タイトル
「地球の歩き方ResortStyle」シリーズ:15タイトル

各シリーズ詳細はこちら(「地球の歩き方」公式サイトに移動します)

 

【INFORMATION】

「aruco東京シリーズ」発刊記念プロジェクト!
HISとのコラボによるオンラインツアーを開催!!

「旅好き女子のためのプチぼうけん応援ガイド」地球の歩き方arucoシリーズは女性に人気の海外エリア38タイトルを発行しています。【arucoシリーズの詳細はこちら

今回、シリーズ初の国内版『aruco東京』『aruco東京で楽しむフランス 』『aruco東京で楽しむ韓国 』『aruco東京で楽しむ台湾』の4タイトルを同時発売。発刊記念プロジェクトとして、HISとのコラボによるオンラインツアーを開催予定です。

実施期間は8月~9月。各タイトルにちなんだ「おうちで海外気分」をテーマに行う予定です。

 

日向坂46が表紙巻頭! 豪華3大付録のスペシャル号「BOMB」8月号発売!

「BOMB」8月号は本日発売!

 

あゃめぃちゃんの夏グラビア・かげちゃんの胸キュングラビア

表紙を飾るのは、 おひさまにはお馴染みの“あゃめぃちゃん”こと高本彩花・東村芽依。 ふたりで過ごす夏休みをテーマに、 夏を満喫しています。 水鉄砲で勢いよく水を発射、 庭のスプリンクラーのほとばしる水しぶきで、 歓声をあげて水遊び。 縁側でスイカを食べて、 スーパーボール釣り。 たらいで足を濡らしたら、 部屋着姿でまったりと。 浴衣に着替えたら、 お互いにフイルムカメラで写真を撮り合い…。 夏の思い出をギュッと詰め込んだエモーショナルグラビアになりました。

 

影山優佳は、 彼女と一緒に夏のスタジアムへサッカー観戦…という妄想グラビア。 かげちゃんが作ってきてくれたお弁当は、 おにぎりがサッカーボールみたいなやつ! そんな超胸きゅん的なグラビアです。 夏らしい白のノースリーブと水色の短パンが爽やかです。

豪華3大付録!

●綴じ込み付録

持ち歩いてもいい感じ!
光沢フォトポストカード 高本彩花・東村芽依(日向坂46)

 



●別冊付録
両面超BIGポスター


1.あゃめぃちゃん/東村芽依(日向坂46)
2.高本彩花/影山優佳(日向坂46)

 

今月の綴じ込み付録は最高です! 
縦14.8cm×横10cmサイズの光沢フォトポストカード。 
ポストカードとしてだけでなく、 机に飾ったり、 壁に貼ったり、 手帳に挟んで持ち歩いたり。 ずっとあゃめぃちゃんと一緒です!

 

そのほかのラインナップ

●6枚目のシングル『Awesome』を発売したNGT48からは、 小越春花、 安藤千伽奈、 對馬優菜子の3人が登場。 「にいがた総おどり」よろしく公園でダンスをしたり、 みんなでオムライスを作ったり。 初めての薄着撮影(本人談)に緊張のメンバーも!

●大好評の48グループ初水着連載。 今月はNMB48の中野美来が登場! グループ加入当初から妹イメージの強い美来ちゃんが18歳になって緊張の初水着。 ドキドキが伝わります。

●北向珠夕はボム1年ぶりの水着グラビア。 身長170cmの抜群のスタイルと透き通るような肌。 ハイレグ水着もよく似合う!

●ファッション誌モデルとしても活躍している古田愛理はボム初水着グラビア! 19歳になったばかりのフレッシュビキニは要チェック!

●7月14日(水)の結成7周年記念日にアニバーサリーEP『RAINBOW SUMMER SHOWER』を発売する虹のコンキスタドールからは、 大和明桜と蛭田愛梨の19歳と17歳の10代コンビが、 夏曲さながらの元気いっぱいのビキニ姿で登場!

●通巻500号カウントダウン企画第4弾! ボムが送るアイドルグッズ専門販売サイト『ボムアイドル工房』がスタート!! 第1弾に登場してくれたのは、 都丸紗也華、 山田南実、 由良朱合の3人。 3人のビキニ姿がプリントされたTシャツやマグカップ、 クッション、 キーホルダーなど、 ここでしか買えないオリジナルグッズがいっぱい! オープンを記念して、 都丸紗也華にスペシャルインタビュー!

 

【掲載タレント】

高本彩花、 東村芽依(日向坂46)
影山優佳(日向坂46)
小越春花、 安藤千伽奈、 對馬優菜子(NGT48)
中野美来(NMB48)
北向珠夕
古田愛理
大和明桜、 蛭田愛梨(虹のコンキスタドール)
都丸紗也華
木下彩音
井頭愛海
吉柳咲良
井桁弘恵
≠ME

 

[商品概要]


ボム8月号

著者: ボム編集部
定価: 1098円 (税込)
発売日

 

総力特集は、ウイルス進化論のグレートリセット大予言!月刊「ムー」8月号本日発売

月刊「ムー」8月号は本日発売。

 

総力特集 ウイルス進化論のグレートリセット大予言

われわれ人類に牙をむいた新型コロナウイルスは、 感染拡大により、 生活習慣まで変えてしまった。 だが、 ウイルスの本質は、 そこではない。 生命進化における、 きわめて重要な役割が存在する。 ならば、 今回の新型コロナウイルスがもたらす人類への最終的な影響は、 どこにあるのか。 そして、 遠い昔に仕組まれた究極の人類進化の正体とは?

 

特別企画 禁断の聖遺物 ガブリエル・アーク

崩壊したイスラム教の聖地マスジド・ハラームから世にも恐ろしい箱が発見された。 高エネルギーを発する石の箱の名はガブリエル・アーク!! モーセが手にした契約の聖櫃アークにも匹敵するともいわれる聖遺物は、 何の目的で作られたのか。 ふたつのアークがもたらす終末と復活の日とは何か!?

 

今月もミステリー記事満載!!

●2色刷り特集 

夏目漱石から始まる「怪奇と幻想」の血脈/実用スペシャル フラワー・オブ・ライフの開運呪術/特別付録 聖なるシンボル「フラワー・オブ・ライフ」メダル/灼熱のコロナに暗黒天体が再び出現!!/ヒト形モンスター「レイク」が寝室に現れた!!/UFOの残骸が隠された洞窟リチャーズ・ケイブ/アマチュア無線で異星人と交信/生きている巨大惑星「木星」の驚異/ほか




●好評連載 

吉田悠軌のオカルト探偵/南山宏のちょっと不思議な話/松原照子の大世見/リュウ博士の見えない世界の歩き方/辛酸なめ子の魂活巡業/エミール・ジェラザードの西洋占星術/ネオ・パラダイムASKAグラム……ほか

 



[商品概要]

月刊ムー 2021年8月号

著者: ムー編集部
定価: 950円 (税込)

総力特集は、ウイルス進化論のグレートリセット大予言!月刊「ムー」8月号本日発売

月刊「ムー」8月号は本日発売。

 

総力特集 ウイルス進化論のグレートリセット大予言

われわれ人類に牙をむいた新型コロナウイルスは、 感染拡大により、 生活習慣まで変えてしまった。 だが、 ウイルスの本質は、 そこではない。 生命進化における、 きわめて重要な役割が存在する。 ならば、 今回の新型コロナウイルスがもたらす人類への最終的な影響は、 どこにあるのか。 そして、 遠い昔に仕組まれた究極の人類進化の正体とは?

 

特別企画 禁断の聖遺物 ガブリエル・アーク

崩壊したイスラム教の聖地マスジド・ハラームから世にも恐ろしい箱が発見された。 高エネルギーを発する石の箱の名はガブリエル・アーク!! モーセが手にした契約の聖櫃アークにも匹敵するともいわれる聖遺物は、 何の目的で作られたのか。 ふたつのアークがもたらす終末と復活の日とは何か!?

 

今月もミステリー記事満載!!

●2色刷り特集 

夏目漱石から始まる「怪奇と幻想」の血脈/実用スペシャル フラワー・オブ・ライフの開運呪術/特別付録 聖なるシンボル「フラワー・オブ・ライフ」メダル/灼熱のコロナに暗黒天体が再び出現!!/ヒト形モンスター「レイク」が寝室に現れた!!/UFOの残骸が隠された洞窟リチャーズ・ケイブ/アマチュア無線で異星人と交信/生きている巨大惑星「木星」の驚異/ほか




●好評連載 

吉田悠軌のオカルト探偵/南山宏のちょっと不思議な話/松原照子の大世見/リュウ博士の見えない世界の歩き方/辛酸なめ子の魂活巡業/エミール・ジェラザードの西洋占星術/ネオ・パラダイムASKAグラム……ほか

 



[商品概要]

月刊ムー 2021年8月号

著者: ムー編集部
定価: 950円 (税込)

キャンプブーム&DIYブームで、キャンプギアも自作が主流の時代に!? 『DIYでキャンピングギアを作る本Vol.2』

オリジナルキャンプギアを作る本の第2弾『DIYでキャンピングギアを作る本Vol.2』が好評発売中!

 

 

同書は、2018年に発売し9刷を重ねたムック「DIYでキャンピングギアを作る本」の第2弾。昨今のアウトドアブームやDIYブームによって、キャンピングギアを自作する人が急増しているなか、「ドゥーパ!」編集部が総力を挙げて、キャンパーたち自慢のオリジナルギアを全国で取材。手作りキャンプアイテムのアイデアとテクニックが満載の一冊です。

 

テーブルをはじめ、チェア、スパイスボックス、コーヒードリッパースタンド、コット、ストーブなどの実例集は、折り畳みテクニックなどの便利機能から、既製品のカスタムまで、キャンパーならではのDIYアイデアが多数掲載されています。

 

「キャンプギアDIYレシピ・10選」のページでは、編集部も実際に製作したギアをはじめ、厳選した10個のキャンプギアの製作過程や、道具の使い方などを図面付きで詳しく紹介。「ホームセンター活用術」では電動工具を持っていないビギナーでもハイレベルなキャンプギアが作れるホームセンター使いこなし技、さらにキャンプに役立つグッズも紹介しています。

 

また、自然の素材を使い、シンプルな道具と技術で野営を楽しむキャンプスタイル「ブッシュクラフト」の基本テクニックから、枝を削り出したスプーンの作り方といった作品集まで、初めてでも楽しめる入門ガイドを掲載。丸太を使ったへぎ皿の削り出しや、ロープワークを使ったトライポット作りなどを、詳しく解説しています。

 

【書籍概要】

著者:ドゥーパ!編集部

定価:本体1600円+税

発売日:2021年4月8日

判型:A4変形

暗いギスギスした今の世の中に愛と勇気を! アンパンマンの作者・やなせたかしさんの『明日をひらく言葉』とは?

もうすぐ3歳になる姪っ子は、アンパンマンが大好きです。テレビ電話をしていると、アンパンマンのキャラクターが描かれた本を持ってきてくれるので「アンパンマンどこにいる?」と聞くと、その中から「これ〜」と指をさして教えてくれます(超かわいい!)。

 

今も昔も子どもたちに大人気なアンパンマンを生み出したのは、ご存知やなせたかしさん。絵本「あんぱんまん」が発刊されたのは50歳を過ぎてから、アニメ化されたのも70歳を過ぎてからとかなり遅咲きだったそうです。

 

2013年に94歳で亡くなったやなせさんですが、これまで残してきた言葉を読み返してみると、この混沌とした2021年を柔らかく包み込んでくれるように感じます。今回はそんな優しい言葉がたくさん詰まった『やなせたかし 明日をひらく言葉』(PHP研究所・編、刊)をご紹介します。

絵本になる前の「アンパンマン」

「アンパンマン」と聞くと、アニメのイメージが強いですが、始まりは1973年に発刊された『あんぱんまん』という絵本でした。しかし、本当の始まりはラジオ番組の5分間コントだったと言います。そこに出てくる「アンパンマン」は、みんなの思い浮かべる、自分の顔をちぎってアンパンを分けてくれる正義のヒーローではなく、パンを配るおじさんだったのだとか。

 

当時のアンパンマンは、パンを配るおじさんだった。自分でパンを焼いているからマントも焼け焦げだらけだ。顔もハンサムじゃない。空を飛んで戦地に行き、お腹のあたりからアンパンを取り出して子どもたちに配る。でも、国境を超えるとき、未確認飛行物体と間違われて撃ち落とされてしまうというお話だった。

(『やなせたかし 明日をひらく言葉』より引用)

 

アンパンマン……! 庵野秀明監督に『シン・アンパンマン』なんて映画を撮って欲しい! と思ってしまいましたよ(笑)。最初のアンパンマンを知った上で、絵本やアニメを見ると、なんだか感慨深くなりますよ。

 

アンパンマンと他のヒーローとの違い

『やなせたかし 明日をひらく言葉』の中で、昨今のヒーローについてこのように語っている部分がありました。

 

戦争が終わると、アメリカからスーパーマンというヒーローが登場した。テレビ放送が始まると、月光仮面やウルトラマンなども出てきた。

けれど、彼らは飢えた人を助けに行くことは全然しない。

することといえば、敵対する悪人や怪獣をやっつけることだ。悪人は人をだましたり、殺傷したりする。怪獣は都市を破壊する。そういう奴らをやっつけると正義が勝ったということになるようだ。

(『やなせたかし 明日をひらく言葉』より引用)

 

この言葉を聞いてから、アンパンマンのアニメを見たのですが、めちゃくちゃかっこいい正義のヒーローに見えてしまいました。バイキンマンをアンパンチで山の向こうへ飛ばすけれど、それ以上のことはしないし、アンパンマンが何より優先しているのは「困っている子」で、自分を犠牲にしてでも安心できる優しい世の中にしようとする心に惚れます!

 

この優しさの背景には、やなせさんの戦争体験も大きく影響していると書かれてありました。詳しく知りたい方はぜひ『やなせたかし 明日をひらく言葉』でお確かめください。本当にアンパンマンの見方がガラリと変わりますから!

 

自分が小さいころは、「アンパンマンって弱いな〜」「バイキンマンの方が好き!」と思っていましたが、心が優しくいつもニコニコしているアンパンマンこそが正義のヒーローだ! と、36歳になってようやく理解することができました。ありがとう、アンパンマン!!

 

「よろこばせごっこ」をしよう

誰もが口ずさめるだろう『アンパンマンのマーチ』。やなせさんは、作詞するときにこんなことを思ったではないでしょうか。

 

人間は、宇宙的にいえば、ごく短い間しか生きはしないのだ。

つかの間の人生なら、なるべく楽しく暮らしたほうがいい。

それでは、人は何が一番楽しいんだろう。何が一番うれしいんだろう。

その答えが「よろこばせごっこ」だった。

(『やなせたかし 明日をひらく言葉』より引用)

 

すっかり暗い世の中になってしまいましたが、小さいころに見たアンパンマンのお話や歌の記憶は誰にでも残っているはずです。家族や同僚、友人や電車で近くに座っている人、誰でもいいので、喜ばせてあげることができれば、世界中が暗い時でも少しは明るくなるのではないでしょうか。そういえば、姪っ子が喜ぶことを考えている時の自分ってめちゃくちゃ穏やか!(笑)誰かを喜ばせようと考えたり行動したりすることも、そのリアクションも全部心の栄養になることばかりですよね。

 

もし最近、ちょっぴりお疲れでギスギスしているな〜と感じたら、自分の心の中にいるアンパンマンと相談しながら「よろこばせごっこ」してみるのはいかがですか?

 

 

【書籍紹介】

やなせたかし 明日をひらく言葉

著者:PHP研究所(編)
発行:PHP研究所

「アンパンマン」「てのひらを太陽に」の父、やなせたかし。幼少期は劣等感に悩み、戦争も経験、作品がブレイクしたのは七十歳手前と、その人生は順風満帆ではなかったという。逆境でも希望を胸に前へ進んできた彼の言葉からは、生きることのよろこびがビシビシと伝わってくる。本書では心に刺さるやなせ氏の言葉を精選。忘れかけていた大切なものが、きっと見えてくる一冊。

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DIYで小屋作りを楽しむ「超実践的!小屋作りガイド」〜『ドゥーパ!』2021年8月号〜

日本で唯一のDIY専門誌『ドゥーパ!2021年8月号』(発行:株式会社キャンプ/代表取締役社長:豊田大作)が7月8日に発売!

 

・第1特集は「超実践的!小屋作りガイド」
特集の目玉はセルフビルドリポート3本立て! 人気急上昇のサウナを編集長自らが2×4工法で作る、サウナビルドドキュメントを筆頭に、軸組工法で作る東屋風小屋、資材材と廃材で作るドームハウスをラインナップ。いずれも図面や使用資材や材料費、加工方法など実践的な情報満載でお届けします。三者三様、工法はもちろん、デザインや用途によって変わる構造やテクニックの違いもお楽しみに。

DIY実例集は「小屋を作り、小屋で暮らす」と題し、実際に小さな小屋を作って暮らしを営む2組の夫婦を紹介。その他、新潟のユニークなセルフビルドプロジェクトや古材・廃材をメインにした小屋作りも。「読めば作れる」にこだわった、実用情報満載のリポートにもご注目ください!

 

・第2特集は「古民家リノベ成功術」
地方移住やデュアルライフのベースとして、注目が高まる古民家。本特集では、現代住宅にはない魅力を持った古民家を、DIYでオンリーワンの住まいに変えるアイデア&テクニックを一挙公開! 基礎・土台・床、外壁・内壁、キッチン・トイレ・浴室など、スペースごとにズームアップ。古民家ならではのトラブルや注意点も併せて紹介しています。DIYリノベで古民家のポテンシャルを引き出し、オンリーワンの住まいを作ろう!

 

 

・バラエティあふれる連載にも注目!
溶接を駆使したアイアンDIY、トリマー&ルーター木工、さらにはレザーソーイングやグリーンウッドワークなど、さまざまなジャンルのもの作りの魅力を個性あふれる作家とともにお届けします。その他、自給自足の田舎暮らしエッセイやDIYにまつわる法律相談など読み物も充実。こちらもお見逃しなく!

 

【書籍概要】

著者:ドゥーパ!編集部

定価:1100円(税込)

発売日:2021年7月8日

判型:A4変形

あなたのイライラ・モヤモヤ・ムカムカを一発解消!——『不機嫌のトリセツ』

最近、不機嫌な人が増えているような気がしてなりません。先日も大学病院で、支払い窓口の列に並んでいたら、「遅いわ〜〜、何をやっとんの〜〜」とプリプリ怒っている女性に出会いました。イライラする気持ちはわかります。けれども、病院の窓口が混んでいるのはいつものことですし、「何やっとんの」と言っても、窓口の人は懸命に何かやっています。何をしているかはよく分かりませんが、何もしていないわけではありません。

 

傍らにいたご主人もそう思ったのでしょう。「少しは我慢しろや」と小言を言いました。彼女はますます不機嫌になり、突如、振り向いて「なぁ、あんたもそう思わへん? そうやろ? 長いことかかりすぎやろ」と私に訴えたのです。焦ったものの、私はうなずきました。『不機嫌のトリセツ』(黒川伊保子・著/河出書房新社・刊)を読んだばかりだったので気づいたのです。彼女はご主人や私に鬱憤をぶつけたいわけではなく、単に共感を求めていただけだということを……。ただこう言って欲しかったのでしょう。「本当に長いことかかりますね」と。

 

「そうだね」と言って欲しかっただけなのに……」

実は、私も大学病院に診察に行く度に思っているのです。隣りに誰かいて、共感して欲しいなと。何かをして欲しいわけではありません。付き添いが必要なほど重病ではありませんし、支払いだって自分でできます。ただ、「混むわねぇ」と言ったとき、「本当だね」と返事をして欲しいだけなのです。

 

『不機嫌のトリセツ』には、そこらへんの微妙な事情が実にうまく描かれています。今までは、私も何か文句を言う度にたしなめられ、「ただ、そうだねって言って欲しいだけなのに、どうして分かってくれないのだろう」と、思って来ました。「今日も混んだわ〜〜」と訴えると、夫は嫌な顔をします。やはり、私はわがままなのだろうか、彼を責めたつもりはないのにと自己嫌悪に陥り、「やっぱ病院は一人で来るに限るわ」と、思うようになりました。

 

『不機嫌のトリセツ』には、「女は「何でもない話」ができる男を愛し続ける」として、目から鱗のメッセージを伝えてくれます。

 

女には、「何でもない話」で、心を通わせる習性がある。たとえば、「今朝、あなたの夢を見たの」「どんな夢?」「それが、忘れちゃった」みたいな実のない話。(中略)男からすれば、「いったい、何の話?」と、聞き返したくなるだろう。結論もない、教訓もない、うんちくもない情報量ゼロの会話である。けど、それがいいのだ。情報がないからこそ、共感に専念できるのである。

(『不機嫌のトリセツ』より抜粋)

 

そうなんですよ。「混むわね」の言葉に、たいした意味などないのです。「病院に掛け合ってシステムを変えてくれるよう、あなたから言ってちょうだい」とか「このままじゃ、具合が悪くなるから何とかしてよ」と、怒っているわけでもありません。ただ、「本当だね」という共感の一言が欲しいだけなのです。けれども、夫は「文句多いよな」と、思っていたに違いありません。それで不機嫌になるのでしょう。対する私は私で「今まで何回あなたの病院通いに付き合ったと思ってるのよ。不公平だわ。もう二度と付き添ってなんかあげないから」と、一人で怒りをエスカレートさせていきます。言葉に出すと喧嘩になるので言いませんが、その分、態度に出ていたのは間違いありません。

 

愛する人に共感がないと感じたとき、女は絶望して機嫌が悪くなり、愛していない人に共感がないと感じたとき、女は無関心になる。機嫌を損ねるということは、そこに愛があるのだから、男としては、おだてるくらいの器量があってほしいですね。

(『不機嫌のトリセツ』より抜粋)

 

う〜〜、胸にしみます。

 

父と母になった男女

男女が恋に落ち、一生一緒にいたいと願って結婚し、やがて子どもが生まれ、父親と母親になる。これはとても素敵なことです。それなのに、「こんなはずではなかった」と思う人のなんと多いことでしょう。

 

もちろん男女であった夫婦の関係が、父と母になるわけですから、ここに変化が起こるのは仕方がないことです。私も赤ん坊が生まれたとき、一夜にして自分が違う人間になったと感じました。けれども、それは振り返ってみればであって、当時はそんなこと考える余裕はありませんでした。

 

『不機嫌のトリセツ』には、著者の経験をふまえ、再現フィルムを見るかのような新米パパとママのシーンが展開されます。ちなみに新米のママは命を投げ出した戦士であり、育児は一種の戦闘態勢という設定です。

 

おむつを替えていて、赤ちゃんが寝返りを打ったせいで、お尻拭きに手が届かない……!なのに、傍にいる夫が、ぼ〜っとしている。その瞬間、目から火が出るほど腹が立つ。恋人気分のときには、「たっくん、とって〜」と声をかけていたのに、甘えて取ってもらうなんて思いつきもしない。そりゃ、そうでしょう、「私がヘリコプターのエンジンかけるから、たっくん、ドア閉めて〜〜、ちゅっ」なんていう戦闘チームがいる?」

(『不機嫌のトリセツ』より抜粋)

 

思わず吹き出しつつも、「いない、そりゃあ、無理」と言いたくなります。

 

『不機嫌のトリセツ』には、まったくもって「ああ、その通り、なぜ今まで気づかずにいたのだろう」と思うことが満載です。もし、もっと早く知っていたら、人間関係にまつわる悩みはぐ〜んと減っていたに違いありません。ここでは紹介できなかったのですが、「思春期の娘はなぜ不機嫌なのか」や「定年後の夫婦に起こること」、そして「メンタルがダウンしたときに考えてみること」などについて、興味深い説明がなされています。「なぜあの人はいつも不機嫌なのだろう」と思ったときは、イライラしたり、泣いたりせずに、『不機嫌のトリセツ』を読んでみてください。突破口が見つかります。

 

著者について

著者・黒川伊保子は、『妻のトリセツ』や『夫のトリセツ』、そして『娘のトリセツ』『息子のトリセツ』など、トリセツシリーズで有名です。シリーズ累計で88万部を突破しているそうです。それだけ、人間関係、とりわけ家族の間のすれ違いに悩んでいる人が多いということなのでしょう。

 

著者は、物理学科の出身で、脳科学、人工知能(AI)研究者として活躍してきました。コンピュータ・メーカーでAI開発に携わり、脳とことばの研究に没頭し、その結果、「男女でとっさに使う脳神経回路に大きな違いがある」ことを発見します。その研究成果をわかりやすい言葉で、私たちに教えてくれます。

 

男女や息子や娘の間に生じる違いに悩んでいる人も多いでしょう。ちょっとした誤解でうまくいかなくなった関係が、この世にはあふれていますから。けれども、絶望しないでください。ユーモアあふれる言葉で綴られた『不機嫌のトリセツ』を読んでいると、なんとかなるさと、明るい気持ちになります。一度きりの人生、機嫌良く生きていきたいと思いませんか? もし、あなたが不機嫌な人にどう対処したらよいのか悩んでいるなら、新しい解決法を示してくれるでしょう。

 

ただし、頑張っても頑張っても相手が不機嫌なままだったら……。それはもうあきらめざるをえません。不機嫌な人にうまく接するのは大切なことですが、それは機嫌を取ることでは断じてありません。赤ちゃんではないのですから、機嫌をとらなければうまくいかない関係にエネルギーを投じすぎ、疲れ果ててしまうのは、あまりにも悲しいことです。

 

とりあえずは、『不機嫌のトリセツ』に助けてもらいながら、新しい毎日を生きていくようにしたいと思います。絶望するのはその後です。

 

 

【書籍紹介】

不機嫌のトリセツ

著者:黒川伊保子
発行:河出書房新社

コロナ禍と高速通信のおかげで、家にいる時間が人類史上最も長い時代。世の中は「不機嫌」がガスのように充満している。家族間のイライラ、職場でのモヤモヤ、男女間のムカムカ…。そんな今だからこそ必要な、究極の「トリセツ」がここに誕生! 家庭、会社、学校、あらゆる場面で起こる、自分自身の、そして周囲の不機嫌を一掃し、毎日を楽しく快適に過ごす知恵とテクニックが満載!

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ペットにも財産は残せる!? 動物と暮らす前に知っておきたい大切なこと——『人とペットの赤い糸』

「人間が犬を選ぶわけじゃないんですよ、犬のほうが直感で飼い主を決めるんです」。生後2か月のラブラドールレトリバーの子犬と私たち家族が出会った日に、ブリーダー兼獣医師はきっぱりとそう言った。たくさんいた子犬の中の一匹が、当時6歳だった娘と目が合い駆け寄ってきた。「よーし、その子だ!」とブリーダーが叫んだ。きっと、娘と子犬は赤い糸で結ばれていたのだと思う。その日から15年弱、”うちの子”は天寿を全うするまで娘に寄り添い癒し続けてくれたのだ。

 

人とペットの赤い糸 人もペットも幸せになれる72のヒント』(越村義雄・著/学研プラス・刊)のタイトルを見たとき、わが愛犬と過ごした日々が走馬灯のようによみがえってきた。そして確信した。人とペットには運命の赤い糸がゼッタイにあることを……。

コロナ禍でペットに癒しを求める人が増えている

本書は、『夕刊フジ』で連載されていた人気コラム「人とペットの赤い糸」の中から、72話を厳選し書籍化したもの。著者はペット業界の第一線で活動し、人とペットの幸せ創造協会会長、ペットフード協会名誉会長などを兼任する越村義雄氏だ。

 

現在のコロナ禍でペットに癒しを求める人が増えている。2020年の統計で、新たに人と暮らし始めた犬は前年比14%増の46万2000頭、猫は前年比16%増の48万3000頭で、過去5年間で最高の伸び率になっているそうだ。しかし、一方では残念ながらペットの飼育を放棄する人が増えているのも現実。越村氏はこう記している。

 

ペットが人の精神と肉体に素晴らしい効用をもたらしてくれることを少しでもご理解いただけたら幸いです。また、ペットに愛情を持って世話をすれば、動物は必ずそれに応えてくれます。(中略)人とペットの素晴らしい関係をこれからも維持・発展させていくには、本書の中でも触れたように、「人の健康、動物の健康、環境保全(ワンヘルス)」を実現する必要があります。

(『人とペットの赤い糸』から引用)

 

まずはあなた向きの動物選びから

章立ては、

 

第1章 ペットと暮らす

第2章 ペットを知る

第3章 人とペットの理想郷

 

これからペットを家族として迎えたいと考えている人、今いるペットとさらに生活の質を高めたいと思っている人、ペットロスから抜け出せない人達に向けて、あらゆる角度からペットと暮らす意義を教えてくれる一冊だ。

 

また、犬猫だけでなく、ウサギ、ハムスター、フェレット、鳥、鑑賞魚、そして大型の馬まで、読めばあなたにはどんな動物が必要なのかが分かってくる。では、気になる内容をほんの一部だが紹介してみよう。

 

犬と暮らせば健康寿命が延びる

犬と暮らすと健康になることは確かだ。ラブラドールを飼う前の私はしょっちゅう風邪をひくし、肩こり腰痛でも悩んでいた。が、愛犬と一年365日、雨の日も風の日も散歩をするようになってから、免疫力が高まったようで、まったく風邪をひかなくなり、また足腰が鍛えられ体も心も若返ったような気がしたものだ。

 

現在、人の健康寿命を延ばすことが政府の大切な施策のひとつとなっています。ペットフード協会の2014年の調査で、犬と散歩する人は健康寿命が男性で0.44歳、女性で2.79歳延びることが判明しています。

(『人とペットの赤い糸』から引用)

 

本書には、犬と暮らすための基本知識から、健康寿命をさらに延ばすために犬と楽しむスポーツやダンスの紹介。そして、足の力が弱くなりがちな現代の犬のためのドッグフィットネスの話など、知っておきたい情報が満載。さらに、犬は子どもの読み聞かせ能力向上にも貢献するのだそうだ。

 

欧米の調査では、本の読み聞かせ能力が低下している子どもが増えている中、犬に本を読み聞かせると、犬があたかもおとなしく聴いているかのように子どもには見え、より多くの本を読んであげようという気持ちにつながることがわかっています。子どもの読み聞かせ能力を高めるのに犬を介在させる「リードプログラム」です。

(『人とペットの赤い糸』から引用)

 

ペットは子どもの情操教育にも役立ってくれるのだ。

 

家猫は寿命が2.56歳延びる

猫のモフモフとした毛を撫でていると、幸せホルモンである「オキシトシン」が分泌されるのだそうだ。つまり猫を飼えば癒され、幸せになれるというわけだ。ところで、狭い家に猫を閉じ込めるのはかわいそうと思う人もいるが、長生きさせるには家の中だけで飼うほうがいいようだ。

 

猫の行動範囲は半径500メートルといわれている。家の中と外の両方で飼っている人もいるが、外猫は感染症や交通事故に遭遇するリスクが高い。家猫にすることで、寿命が2.56歳延びる。(2020年ペットフード協会調べ)

(『人とペットの赤い糸』から引用)

 

猫と快適に暮らす方法のレクチャーはもちろん、本書では、猫に財産は残せるか? という問題にまで切り込んでいる。ペットは民法上は物と見なされるため、猫が財産を相続することはできない。しかし、

 

誰に引き取ってもらうのかを決め、その人が世話をしてくれることを条件に財産を渡すことを遺言しておきます。これは「負担付遺贈」または「負担付死因贈与」などと呼ばれます。(中略)引き受けた人は、贈与された財産の上限の範囲内で「負担の義務」を果たす必要があり、猫の寿命や飼育にかかるお金を考慮し、十分な財産を贈与してもらわなければなりません。

(『人とペットの赤い糸』から引用)

 

家族であるペットに遺産を残したいと考えている人は必見の内容になっている。

 

ペットと暮らせる集合住宅を増やそう

私はフランスで犬を育てたが、かの国では集合住宅でペットを飼うのは自由で、法律上家主は借家人が犬や猫を飼うことを禁止してはならないことになっていた。もちろん飼い主は粗相をさせない、無駄吠えをさせないなどしつけを徹底し、マナーを守る義務はあった。

 

一方、日本では、ペットを飼いたくても飼えない人が多い。調査によると「集合住宅で禁止されているから」と答えた人は30%にもなるそうだ。

 

ペットと暮らせるマンションが増えつつはあるが、まだその供給がペットを愛する人たちのニーズを満たしていないのが現状だ。ペットの飼育OKを出してくれる家主さんが増えることを願ってやまない。

 

高齢者にこそペットは必要

飼育放棄させられた猫や犬を引き取って育ててあげたいと思う高齢者はとても多い。が、譲渡会に行くと年齢制限があり、断られてしまうケースがほとんど。これについて越村氏はこう記している。

 

若い人であっても必ず長生きできるとは限りません。欧米のように年齢制限を設けず、積極的に高齢者にペットと暮らすことを支援・サポートするしくみやインフラを整備していくことが、人生100年時代における人とペットの共生の正しいあり方でしょう。

(『人とペットの赤い糸』から引用)

 

この他にも、自然災害が多い日本でペットと共に生き抜く方法、ペットロスの乗り越え方など、本書にはペットを暮らすための大切な話がいっぱい。動物を愛するすべての人に読んでほしい一冊だ。

 

【書籍紹介】

人とペットの赤い糸

著者:越村義雄
発行:学研プラス

人とペットの暮らしを、もっと楽しく・幸せにーー長年、ペット業界の第一線で活動し、たくさんの生きものと触れ合ってきた著者が伝える、いまペットと暮らしている人はもちろん、これから迎えたいと考えている人も知っておきたい大切なこと。夕刊紙の人気連載から厳選した72のコラムを書籍化。

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超リアル!「歴史群像」8月号付録・戦艦『大和』超精密ペーパークラフトのクオリティーが高すぎる!

ペーパークラフトといえば、簡単に組み立てられるけど大幅にデフォルメされていて、本物とはだいぶ形状が違うと思っていませんか。そんな常識を覆す超リアルなペーパークラフトが雑誌の付録として登場しました。それが「歴史群像」8月号の付録、「戦艦『大和』超精密ペーパークラフト」です。

 

↑付録『大和』の全景。水面の部分でカットされているウォーターライン・モデル

 

↑就役前の昭和16年(1941)10月、高知県宿毛湾沖を全力航行中の『大和』(写真=National Archives)

 

専門家の考証を踏まえて誕生した、1/700スケール・全長37.6センチの本格派!

スケール(縮尺)は艦艇プラモデルでは一般的な1/700で、組み立てると全長37.6センチになります。船体下部は水面のラインでカットされたウォーターライン・モデル。『大和』の代名詞、46センチ主砲の砲身が上下動し、主砲塔も回転。当時の写真等、史料を踏まえて造形考証を行い、昭和20年(1945)4月6日に沖縄へ向けて最後の出撃をする直前の姿を再現しています。

 

たとえば、下の写真は沖縄に向けて出撃した大和が米軍機の攻撃を受けている場面ですが、写真の『大和』の甲板の縁にほぼ全周に及んで白い四角形のマーキングが施されているのが見えます。ペーパークラフトではこうした細部も再現しています(※一部、細かくなりすぎて作れなくなりうるパーツはデフォルメしています)。

 

↑昭和20年(1945)4月7日、米軍機の猛攻を受ける『大和』。こののち『大和』は撃沈された(写真=Naval History & Heritage Command)

 

↑主砲は砲身が動き、砲身も回転する

 

 

“史上最強の戦艦”『大和』とは?

『大和』といえば、世界最大の46センチ主砲を3門備えた砲塔3基を装備した「史上最強の戦艦」として知られています。この砲塔1基の重さは、なんと駆逐艦1隻分に相当する2779トン。主砲の最大射程は42キロメートルで、概ね東京駅から直線距離で大船駅までに相当します。全長は263メートル、最も高い艦橋の頂部の高さは喫水線から40メートルに達しました。

 

しかし、このように何もかもが破格の戦艦『大和』は、登場した時にはすでに海戦の主役の座を空母に奪われていました。日本軍は真珠湾攻撃に複数の空母を集中使用しましたが、それによって航空機の時代の幕があけ、その母艦たる空母が新時代の海の王者となったのです。そして『大和』はその力を発揮しきれないまま、昭和20年(1945)4月、米軍の猛攻を受ける沖縄に向けて出撃、同月7日、押し寄せる米軍機の攻撃により撃沈されました。

 

「ステイホーム」が続きそうなこの夏、あなたも『大和』を作ってみませんか?

本付録は全32ページの冊子になっていて、パーツが並んだ「展開図」のページと組み立ての手順や道具などの解説で構成。丁寧にわかりやすく解説されているので、初心者でも問題なく作れるはず。

↑付録冊子と完成状態

 

↑付録冊子の内容。左側が組み立て方説明、右側がパーツが並ぶ「展開図」

 

さらに本誌では、完成させたペーパークラフトを用いて『大和』の特徴や設備を解説。解説記事を読みながら完成品を見ることで、「立体的な教材」として『大和』の特徴をより深く理解できます。

 

↑本誌記事の付録解説ページ。組み立てた『大和』を使ってその構造と歴史を解説いているのでわかりやすい

 

歴史群像ホームページで無料でダウンロードできる「海面ジオラマシート」に載せた状態

 

まだしばらくは「ステイホーム」が続きそうですが、ペーパークラフトの『大和』の制作に没頭するのもよいのでは。

 

古今東西の「戦い」に関する記事も充実!

 

「歴史群像」8月号は、付録以外の記事も充実。今号の特集は「【作戦ドキュメント】インド洋作戦」「参謀 辻政信の生涯~その戦略・作戦の是非」「共産党軍vs.国民党軍 金門島の戦い1949」の3本。この他、「徳川慶喜と渋沢栄一」「近現代火砲講座」「北方世界の戦国史」「図説・佐世保要塞」「満鉄「あじあ」号」「独ソ開戦前夜、スターリンは何を考えていたのか」など、読み応え満載の内容です。

 

【書籍情報】

歴史群像8月号

特別定価:1150円 (税込)

【本書のご購入はコチラ】
・Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/B097SQPXS9/
・セブンネット: https://7net.omni7.jp/detail/1228005713

趣味なし会社員が陶芸に目覚めてプロの陶芸家になった!? ハマる陶芸のススメ~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。最近、「F.I.R.E.(ファイア)」という言葉をよく聞きます。これは「Financial Independence, Retire Early(経済的な独立と早期リタイア)」の略で、まあ、簡単に言えばセミリタイアのこと。若い人の目標となっています。

 

とはいえ、リタイアするのはいいですが、新しい生きがいを見つけるのはなかなか大変かもしれません。私の友達も「趣味らしい趣味がない」と、よくぼやいています。せっかくF.I.R.E.しても「仕事をしていたころのほうが充実していた……」なんて状況になったら本末転倒なのは、ファイアだけに火を見るより明らかです。

生きがいと言える趣味はありますか?

 

今回の陶芸は生きがいになる』(林 寧彦・著/新潮新書)は、広告会社に勤める無趣味だった会社員が陶芸という生きがいを見つけて、プロの陶芸家になるまでを綴ったエッセイ。

 

著者の林 寧彦さんは、博報堂で長年CMプランナーとして活躍してきた経歴の持ち主。バブルが崩壊して時間が余るようになり、趣味を見つけようと40歳手前で陶芸教室をのぞいたところ、深みにハマってしまったそうです。陶芸のどこにそれほど惹きつけられたのでしょうか?

 

単身赴任先のマンションが工房に!?

第1章「僕の陶芸入門」は、陶芸経験ゼロから“カリスマ日曜陶芸家”と呼ばれるに至るまでの道のりが順を追って語られています。趣味を見つけようと陶芸教室を見学しに行った林さん。お試しのつもりが、自分の手で粘土のかたまりが湯飲みになるのを目の当たりにして、その日のうちに教室への入会を決めたそうです。

 

一生の趣味になると確信した林さんは、「耐用年数10年なら1か月1000円以下だから」と理由を付けて、10万円ほどの電動ロクロを購入し、ベランダで湯飲みをひたすら作る日々。

 

始めて8か月で県の美術会が主催する展覧会「県展」に、大きな直径40cmほどの鉢を出品すると見事入選! でも、展覧会の図録で出品者の94%が入選していると知りガッカリ。妻がのぞき込もうとするのを見て急いで図録をバッグにしまったとか(笑)。エッセイのあちこちにほのぼのとした風景が見え隠れし、読んでいて温かい気持ちになります。

 

その後、気乗りしない福岡への転勤話が持ち上がるも、単身赴任先のマンションを工房化することにして、ポジティブに受け入れた林さん。思い切って、マイコン制御で温度管理できる電気窯を発注します。その価格はなんと100万円! ところがマンションのエレベーターよりも外寸が大きいことに後から気付いて……。試行錯誤しながらステップアップしていくワクワク感がこちらにも伝わってきます。

 

第2章「陶芸は奥が深くて面白い」は、陶芸の歴史など多彩な陶芸雑学を集めたコラム的な章。『美味しんぼ』の海原雄山のモデルにもなった陶芸家・北大路魯山人は、実はロクロを挽いていなかったという話には驚きました。ではどうしたかというと、専門のロクロ師に器を挽かせてから好みの形に仕上げていたとか。まさにアートディレクターといったところでしょう。

 

ほかにも、「陶芸家が惜しげもなく作品を割るのはなぜ?」「陶芸家にはどうやったらなれるの?」「信楽、織部、志野など焼き物の名前の由来は?」など、興味をそそるトピックスが並んでいます。

 

5年間の単身赴任を終えた林さんは、帰任して3年後に早期退職制度を使って会社を辞め、陶芸家という第二の人生を歩み始めます。本書には「失敗しない陶芸教室の選び方」などのアドバイスも多く、陶芸を始めたい人のサポートにも最適。1000円弱の新書の出費で、もし新しい生きがいが見つかったらこんなに素晴らしいことはありません。

 

【書籍紹介】

『陶芸は生きがいになる』

著者:林 寧彦
発行:新潮社

“生きがい”になる趣味がほしい――すべてはここから始まった。中年にさしかかった著者が、ふと見学した陶芸教室。まずは週末だけと通ううちに、土いじりの解放感と自分の手で作る達成感、釉薬の不思議に憑かれていく。そこには、他では得られない心の充足、出会い、何より新しい人生の予感があった。プロの陶芸家になった著者が実体験を元に、初心者向けアドバイスと陶芸の喜びを丸ごと紹介する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

今さら聞けないLINEの基本操作「500円でわかるLINE 最新版」

「500円でわかるLINE 最新版」は、LINE初心者はもちろん、より便利に楽しく使いたい人に向けて、仕組みや基本操作、活用テクニック、そして便利に使える各種サービスまでを丁寧に解説。 安心・安全に利用するためのセキュリティ対策も詳しく掲載している1冊です。

 

 

はじめてのLINEも思いどおりに楽しめる!

無料通話やトークをインターネットを通じて行うLINEは、便利な半面、安全面など不安があると思っている人もいることでしょう。本書では、はじめてのLINEをより安心して使いこなすために、知っておきたいことをQ&A形式で紹介。

 

「トーク」や「無料通話」を使いこなそう

LINEアプリの入手、 アカウント設定、 友だちとのコミュニケーションを気軽に行える「トーク」や「無料通話」の楽しみ方など、LINEの基本的な使い方から、知っていると便利な快適ワザまで、丁寧に解説されています。

 

安心・安全のセキュリティ対策を解説

LINEを楽しむときに気になるのはセキュリティ面。 実はLINEはさまざまなセキュリティ対策が充実しており、 適切な設定を行うことで安心して利用できます。 巻末では、 必ずやっておきたいセキュリティ対策など、 さまざまな設定のやり方が分かりやすく説明されています。

 

[商品概要]


500円でわかるLINE 最新版

著者: GetNavi特別編集・編
定価: 550円 (税込)

 

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改めて、リモートワークについて考えてみる——『リモートワークで生きていく!』

朝起きてカーテンを開けると、ベランダから50メートルくらい離れたところにある私鉄の駅のホームが見える。並んでいる人たちも、入ってくる電車に乗っている人たちも一向に減っていない。もうすっかり定着しているはずのリモートワークのイメージとは程遠い。

 

 

オフィスが要らない時代

ただ、一流企業が自社ビルを売却するトレンドが続いている。また、東京の都心部に住んでいたビジネスマンが地方都市に移住し始めているという話もよく耳にする。オフィスの集合体であるビルの中で仕事をするスタイルの働き方は、このままフェイドアウトしていくのだろうか。

 

ワクチン接種率の上昇といったポジティブな情報と同じくらい、たとえば変異株の猛威などに関するネガティブな情報が毎日のようにもたらされる今、開催まであと1か月を切った東京オリンピックに関しても、リアルな全体像を思い浮かべることはできない。

 

ものごとは、1年半前に言われ始めた「新しい生活様式」寄りで進んでいるのか。ならば、そういうトレンドを頭の片隅に置いておくだけにとどまらず、強く意識しておくほうが時代に対して積極的である気がする。

 

思っていたよりもできているリモートワーク

働き方改革というキーワードも浸透している。半ば強制される形ながらも、こうした概念と具体的に取り組み始めるきっかけがコロナ禍だったはずだ。会議も商談も、飲み会さえもオンラインで行われるようになり、「ある程度までできる」「想像していたほどの違和感はない」と思う人が増える中、リモートワークに対する支持率も徐々に上がっている。

 

ただ、リモートワークに全体重をかけるのはまだちょっと自信がない人。働き方の軸のひとつとして、もう一度基本から確かめておきたい人。どちらも少なくはないだろう。この原稿で紹介するのは、リモートワークの本質について触れた実践的・実際的な一冊だ。

 

新しい働き方の羅針盤

リモートワークで生きていく! リモート歴2年以上の私が教える完全ノウハウ』(稲員未来・著/インプレス・刊)は、2020年5月に執筆されている。コロナ禍の長期化が事実として受け止められ、今後の働き方がどのようになるのか本格的に模索し始める人の数が増えようとしていた時期だ。著者の稲員未来(いなかずみく)さんは、この時点ですでに週5日のほとんどを都内の自宅でこなしていた。

 

私がこの本を書きたいと思った理由は、自宅で仕事したいけどリモートワークなんて無理、スキルがないからできないと諦めそうになっている人に、「こんな働き方の選択肢もあるんだ」ということをぜひ知ってほしいと思ったからです。

「リモートワークで生きていく!」より引用

 

そして稲員さんがリモートワーカーとして走り出した約2年後、コロナ禍がやってきた。

 

どこから読んでもすぐに使える内容

すぐに使える本という印象が強い。章立てを見てみよう。

 

第1章 リモートワークとはなにか?

第2章 リモートワークで働くためのチェックポイント

第3章 リモートワークの事例紹介

第4章 リモートワークでぶつかる壁への対処

 

第1章でリモートワークの基本を確認し、第2章で自分とリモートワークとの親和性を探り、第3章で実例を通してリモートワークという働き方に自分を投影し、第4章でリモートワーカーとしての自分のあり方をシミュレートしてみる。そんな流れで読み進むことができるはずだ。

 

気になった項目をいくつか挙げておく。「リモートワークしやすい職種・雇用形態」「リモートワークのメリット・デメリット」「自宅環境のチェックポイント」「リモートワークで仕事相手からの信頼を得るためのコツ」「リモートワークに向いている人の特徴」。この本の実践的・実際的な性質は、こうした項目からも感じ取っていただけると思う。

 

筆者が特に力を入れて紹介しておきたいのは、第3章「リモートワークの事例紹介」だ。著者の稲員さん本人を含め5人紹介されているのだが、“20代女性・情報システム部門”とか“40代男性・事業開発”あるいは“30代女性・コンサルタント”など、幅広いバリエーションが示されている。ここにもこの本の実践的・実際的な性格が出ている。

 

実用アイデアも満載

最後の第4章ではリモートワークという働き方を初めて体験する人たちが遭遇しやすい状況についてのヒントが具体的な形で示される。たとえば、業務関連のやりとりだけではなく、雑談用のチャットグループを作るというのはとてもよいアイデアだと思った。

 

談話室は「雑談・ひとりごと・趣味の話・なんでもOK」のチャットグループです。作成された当初は「誰がどんな投稿をするのかな?」と見守っていたのですが、社長がひとりごとを呟いたり、かわいいネコの画像を投稿しているのを見て、「こんな内容でも投稿していいんだ!」と思ったであろうメンバーが次々に投稿するようになりました。

「リモートワークで生きていく!」より引用

 

リモートワークのコツは、本来は業務で使う道具を少し外した感覚で取り入れていくことなのかもしれない。また、そういう意識を忘れないように日々の仕事をしていくと、想像以上にうまくこなしていけるのかもしれない。これから先の時代、これまでスタンダードだった働き方はどうなるのか。そんな瀬戸際めいた今だからこそ読んでおきたい一冊。

 

【書籍紹介】

リモートワークで生きていく!

著者:稲員未来
発行:インプレス

自宅環境の整え方や便利なITツール、企業視点でのマネジメント法など、リモートワーク(テレワーク)に必須のポイントを網羅的に解説。リモートワークを始めたばかりの方、これからリモートワークを導入したいという方は必読の1冊です!

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