自らの走りで母国の未来を拓く――南スーダンの未来と希望を背負った選手たちを元オリンピアン横田真人さんが激励

「私は国のために走っている」

決意を持った力強い眼差しで語るのは、陸上競技で東京オリンピック・パラリンピックの出場を目指す、南スーダンのグエム・アブラハム選手。母国を代表して出場するオリンピック・パラリンピックの舞台ですから、“国のために走るのは当たり前のことなのでは?”と考える人がいるかもしれません。しかし、アブラハム選手が語る“国のため”には、私たち日本人が考えるよりもはるかに重い意味がありました。

 

南スーダンの選手団が来日したのは2019年11月末。国際協力機構(JICA)より南スーダンを紹介されたことをきっかけに、群馬県前橋市が南スーダンの選手団の受け入れを決定し、東京オリンピック・パラリンピック大会に向けた長期事前合宿が始まりました。しかし、世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響で大会の延期が決定。今後1年間をどのように過ごすかの協議がなされた中で、選手たちは日本に残ることを希望し、前橋市はその気持ちを受け取り、2021年の大会終了までの合宿継続を決定しました。大会の開催がいまだ先行き不透明な中、彼らはどのような心境で事前合宿に臨んでいるのでしょうか?

↑元オリンピアンとして、また現役コーチとして、独自の視点から南スーダン選手たちの本音を聞き出した横田真人さん(写真左)と、マイケル選手(中・パラリンピック陸上100m)、アブラハム選手(右・オリンピック陸上男子1500m)

 

今回、彼ら南スーダンの選手たちの想いに耳を傾けるのは、現在、陸上界のみならず、幅広いスポーツ分野から注目を集める元オリンピアンであり、陸上コーチの横田真人さん。昨年12月に開催された、日本陸上競技選手権大会の長距離種目・女子10000mで18年ぶりとなる日本新記録で見事優勝を果たした新谷仁美選手を、技術面・精神面で支えたそのコーチングに関心が高まっています。選手の個性を活かしながらの練習メニュー作成や、個人種目ながらチームとして一丸となって競技に挑むという横田コーチのマインドに共感するスポーツファンも多いのではないでしょうか。

 

「スポーツはプロフェッショナルだけのものではない」「持続可能な文化としてのスポーツのあり方を模索したい」と、勝ち負けだけにとらわれないスポーツとの向き合い方を模索し続けている横田さんだからこそ聞き出せる、南スーダンの選手たちの「国のために走る意味」に迫ります。

 

インタビュアー

横田真人さん

男子800m元日本代表記録保持者、2012年ロンドン五輪男子800メートル代表。日本選手権では6回の優勝経験を持つ。2016年現役引退。その後、2017年よりNIKE TOKYO TCコーチに就任。2020年にTWOLAPS TRACK CLUBを立ち上げ、若手選手へのコーチングを行う。選手一人一人に合わせたオーダーコーチングがモットー。活躍はスポーツ界だけにとどまらず、現役時代には米国公認会計士の資格を取得するなど様々なビジネスを手掛ける経営者としての側面を持つ。

 

勝ち負けだけが全てじゃない。スポーツの価値とオリンピック・パラリンピックの意義

↑「勝敗よりも大切なことがある」と、オリンピック・パラリンピックへの想いを語るアブラハム選手(写真右)

 

横田真人さん(以下、横田お二人にとって、オリンピック・パラリンピックはどういう意味を持つ大会なのでしょうか?

 

グエム・アブラハム選手(以下、アブラハム):オリンピック・パラリンピックは重要な意味を持つ大会です。もちろん、自分の実力を披露する場としての意味もありますが、私たちにとっては、“世界を知る”良い機会でもあります。世界各国からアスリートが集まることで、違う人種、文化的背景を持つ人々と触れ合うことができますからね。

 

クティヤン・マイケル選手(以下、マイケル):様々な文化に触れることで、自国・他国の良い面、悪い面が見えてくるはずです。それを自ら体験することは非常に貴重な経験だと思います。パフォーマンスの面でもやはりオリンピック・パラリンピックは特別です。自分たちが良い結果を出せれば、国に帰ってからの生活の質を変えることにも繋がりますからね。それも踏まえた上で国を代表する立場になって、胸を張って戦いたいと思います。

 

アブラハム:メダルを取ったり、良い記録を残したりすることはもちろん大切です。しかし、私たちにとってオリンピック・パラリンピックに出場することは、勝ち負け以上の価値があります。南スーダンには様々な部族の人々が住んでいて、さまざまな要因により内戦が続いています。でも、私たちが“南スーダン人”としてオリンピック・パラリンピックに出場すれば、部族の垣根を超えて全員が私たちを応援してくれると思います。南スーダンという国が一つになるために、そしてそれが平和につながるように、私たちは国のために走っているんです。

 

「前橋市の人たちには感謝しかない」。1年の延期が強めた南スーダン選手団と市民との絆

 

横田:前橋でのキャンプも1年以上が経過しましたが、日本には慣れましたか? 来日直後の日本に対する印象と、現在の日本の印象は変わったでしょうか?

 

マイケル:来日前は、日本に対するイメージが全く湧かなかったのですが、実際に来日して、本当に素晴らしい国だなと感じました。私たちの活動に対して、コーチを含め、たくさんの人々がサポートしてくれています。

 

アブラハム:特に日常的に感じるのが、市民の方々からの愛情です。子どもたちを含め、交流会などで触れ合う人々は、私たちの言葉に真摯に耳を傾けてくれますし、笑顔で迎え入れてくれます。街で出会った際も気軽に挨拶を交わしてくれます。本当に皆さんには感謝の想いしかありません。

 

横田:新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期されました。アスリートにとって1年の延期は、コンディションを整える難しさもあると思います。お二人にとっては異国の地での再調整という特殊な背景もありますが、この数ヶ月どのように過ごしてきましたか。

 

アブラハム:もちろん、オリンピック・パラリンピックの延期を知らされた時には大変大きなショックを受けました。しかし、この延期は私達にとってチャンスだと考えました。あと1年間、日本でトレーニングを積めば、さらに高度な練習に取り組むこともできるし、記録を伸ばすこともできます。ですから、選手団のメンバーは全員、前橋でのキャンプ延長を望んでいました。

 

マイケル:実際、もし帰国したら練習の場所や時間の確保が難しいのが南スーダンの現状です。また、日々の食事を確保するのも容易ではありません。もしかしたら、昔のように1日1食の生活に戻ってしまうかもしれないのです。だからこそ、私たちとしては延期をポジティブにとらえて、大会に向け、日本でコンディションを整えていきたいと考えています。

 

アブラハム:家族や友達に会いたいという気持ちはありますが、生活面や環境面に関しても、私たちが快適に過ごせるよう皆さんが全面的にサポートしてくれているので、難しさを感じたことはほとんどありません。前橋市の担当である内田さんともジョークを言い合える仲になっていますし、今では異国の地という感覚はなく、ホームタウンのような居心地の良さを感じています。

 

独立と半世紀にもおよぶ内戦。南スーダンの現状

↑コーチ(左)とともに練習に励むアブラハム選手(中)とマイケル選手(右)

 

南スーダン共和国は、半世紀にも及ぶ内戦を経て、2011年にアフリカ大陸54番目の国家としてスーダンより独立を果たした国。独立したとはいえ、その後も国内では内戦が絶えませんでした。

 

2013年末に始まった政府軍と反政府軍の争いでは、2015年・2018年の調停及び2020年2月の暫定政府設立に至るまでに約40万人の死者と、400万人以上の難民・避難民が発生したとされています。アブラハム選手が語るように、スポーツを練習する環境を整えることはおろか、日々の食事を確保することも困難な状況が続いているのだそう。

 

このような内戦が続く理由として、南スーダンが大小合わせ約60もの民族からなる多民族国家である、という特殊な事情が挙げられます。様々な価値観や生活様式、宗教を持った民族が1つの国で生活を共にするというのは、私たち日本人が想像するよりも、はるかに困難なことなのかもしれません。

 

東京オリンピック・パラリンピック以降の未来に何を見据えるのか? “文化としてのスポーツ”を伝えるために

 

横田:東京オリンピック・パラリンピックに向けて、全力で準備を行っている真っ只中だと思いますが、大会後についてお二人はどのように考えていますか? 今はまた陸上にどっぷりはまっていますが、私は引退後のセカンドライフを考えてアメリカで公認会計士の資格を取得しました。日本と南スーダンとでは思い描くセカンドライフは異なると思いますが、お二人が考える未来への展望を聞いてみたいです。

↑将来的にはパラリンピックを目指す後進の育成に携わりたいとマイケル選手

 

マイケル:私は大会後もトレーニングを続けて、何らかの形で競技に携わっていきたいと考えています。将来的には、パラリンピックを目指すアスリートたちに適切な指導ができるコーチになりたいです。南スーダンは、障がい者に対する指導環境が整っているとはいえない状態です。だからこそ、自分自身が日本で学んだこと、オリンピック・パラリンピックの舞台に立ったからこそ伝えられる経験を、若い世代に伝えていきたいです。

 

アブラハム:オリンピック・パラリンピックは目標ではありますが、ゴールではありません。幸いにも、私はまだ若い年齢でこのようなチャンスをいただけていますから、別の大会、そしてまた次のオリンピックへ向けて、記録を伸ばしていきたいと思っています。一方で、母国に住んでいる家族のことはいつも気にかけています。競技を続ける上でも、まずは一人で支えてくれている母親のためにも、家を建てて生活を安定させたいという希望もありますね。その後に、もしチャンスをいただけるのであれば、ぜひ日本に戻ってきて競技を行いたいと思います。

 

横田さん:お二人の練習風景を見学させていただいて、オリンピック・パラリンピックで活躍する姿を見るのがますます楽しみになりました! まだまだ厳しい国内情勢が続く南スーダンでは、スポーツに対する価値が国や国民に浸透していないのではないかと思います。オリンピック・パラリンピックが終わって、お二人が自国に帰った後、どのようにスポーツの価値を発信していこうと考えているのか、ぜひ教えて欲しいです。

 

マイケル:一般的にアフリカの人たちは、物事を「聞くこと」ではなく、「自身の目で見ること」で信じる傾向があります。だから、自分たちをスポーツで成功した例として国民に知ってもらうことが大切だと思います。例えば、自分が大きな家を建てることで、それを見た子どもたちや親たちが「スポーツでの成功が生活の豊かさに繋がる」ということを認識すると思うんです。そういった意味でも、まずはオリンピック・パラリンピックの舞台で自分が出来得る限りのいいパフォーマンスを披露したいですね。

 

国民結束の日(全国スポーツ大会)が大きな転機に。スポーツが切り開く国の未来

 

アブラハム:母国に帰れば、私たちが日本で経験したことを積極的に発信していくつもりです。おそらく、僕たちのストーリーに対して南スーダンの子どもたちもきっと興味を持ってくれると思います。しかしながら南スーダンにはまだスポーツで羽ばたくチャンスは少ない。国の情勢を考えても、スポーツだけに取り組むことができる人はほんの一握りですし、能力や才能がある子どもたちがいるとしても、それを披露する場所や機会がないのが実態です。

↑「国民結束の日」が自分にとっての大きな転機となったと強調するアブラハム選手

 

横田:南スーダンがいまだスポーツが日常的に楽しめる情勢ではないことは、聞いています。そんな中でアブラハム選手はどのようにしてオリンピック・パラリンピック代表を目指すまでのチャンスを得たのでしょうか。

↑国民結束の日の模様(写真:久野真一/JICA)

 

アブラハム: JICAの協力で始まった『*国民結束の日(全国スポーツ大会)』は、1つの大きなきっかけとなりました。あのイベントがなければ、もしかしたら私たちはオリンピック・パラリンピックに出場するチャンスを得られなかったかもしれません。私にとってこの経験が大きかったからこそ、帰国後、親や子どもたちに伝えるのはもちろん、スポーツができる環境づくりなどに投資をしてもらえるよう、政府にも直接訴えかけないといけないと思うんです。そうすることで、才能ある子どもたちが、自身の実力を披露する機会が得られると思いますし、国としてのスポーツの発展につながるのではないかと考えています。

*「国民を1つに結束させる」という目標を掲げ、2016年よりJICA協力のもと開催されているスポーツイベント。

 

横田:政府に働きかけることによってスポーツに対する環境を整える。そして、スポーツで成功した人を目撃することで、そこに憧れを持った子どもたちがスポーツに取り組む。2人の視点はどちらも大切ですよね。母国を離れ、2年近く日本での生活を送ったこと、そしてオリンピック・パラリンピックへ向けた挑戦を経験したからこそ体験できたスポーツの可能性を、ぜひ母国に帰って広めてほしいと思います。

 

前橋市担当者が語る市と市民のサポート

「選手たちの強い想いが、人々の心を掴んでいるのだと感じます」

↑「陽気な人たちが来るのかと思っていたら、非常に寡黙で驚きました」と、南スーダン選手団来日時の印象を語る前橋市役所スポーツ課の内田健一さん。今ではジョークを言い合えるほど、選手団のメンバーと打ち解けているのだそう

 

東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まった際、前橋市でも様々な議論が行われました。選手団全員が大会終了までのキャンプ継続を希望したことから、支援を決意。資金の工面などの問題が予想されましたが、多額の寄付金が集まり、支援が継続されています。

 

「南スーダン選手団のキャンプで発生する費用は、ふるさと納税などの寄付金で賄われています。コロナ禍ということで、キャンプ継続に対して様々な意見があることも事実ですが、多額の寄付金をいただけているということからも、前橋市民を含め、全国の方々がこの活動を肯定的に捉えてくださっていると考えています」と内田さん。選手たちの競技への想いは、確実に地域、そして日本の人々の心を掴んでいると語ります。

 

【関連リンク】

JICA(独立行政法人 国際協力機構)のHPはコチラ

 

オメガに巨大クロックが登場!競泳オリンピアンのチャド・レクロー&菜々緒と東京五輪をカウントダウン

2020年の東京オリンピックでオフィシャルタイムキーパーを務めるオメガが、「東京オリンピック・カウントダウンクロック」の設置記念イベントを行いました。会場にはスペシャルゲストとして競泳選手のチャド・レクロー選手、女優の菜々緒さんが来場。オメガの最新ウオッチを身に着け、イベントを華やかに盛り上げました。

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イベント前日もメダル獲得!オメガファミリーに高まる期待

来年の平昌大会、そして2020年の東京オリンピックでオフィシャルタイムキーパーを務め、2032年まで国際オリンピックとのパートナーシップの延長も決定しているオメガ。銀座の中心に構えるニコラス・G・ハイエック センターで行われた今回のイベントでは、日の丸を意識したという高さ約3メートル、重さ1.2トンの「東京オリンピック・カウントダウンクロック」がお披露目されました。

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スウォッチ グループ ジャパンのクリストフ・サビオ社長は、「2020年のオリンピックの地が“東京”だと発表されたとき、僕も東京にいる者として非常にうれしく思いました。そしていま、東京全体が大会に向けてドキドキしているのではないでしょうか。今回もハイエックセンターでこのようなお披露目イベントをできるのが非常にうれしく思っています」とコメント。

 

2011年からブランドアンバサダーを務めるレクロー選手についても「2012年のロンドン大会では、あのマイケル・フェルプス選手を破り金メダルを獲得し、それ以来チャド選手はトップ選手として君臨し続けています。東京オリンピックまであと981日、約2年あまりとなりますが彼の活躍を心より楽しみにしております」と期待を寄せました。

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サビオ社長、スポーツ競技の時計機材などを扱うオメガ タイミングのアラン・ゾブリスト社長に迎えられて、レクロー選手と菜々緒さんが登場。イベント前日の15日、14日に開催された「FIFAスイミングワールドカップ2017東京大会」で金・銀メダルを獲得をしたばかりのレクロー選手は、「こんにちは!」と晴れやかな表情をのぞかせます。

 

「私が来日して東京に来るのはこれで7回目です。最初は2010年、そしてオメガのファミリーになったのは2011年。そして2020年のオリンピックを東京で迎えることができるのも非常に運命的なものを感じています」と2年後の大会へと思いを馳せました。

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「カウントダウンが始まって、私自身もすごくワクワクしています」と笑顔を浮かべていた菜々緒さん。「チャドさんをはじめ、すべての選手が素晴らしい結果を残せることを私も祈っております」とエールを送りました。

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この日、レクロー選手は「シーマスター プラネット オーシャン ディープブラック」を着用。セラミックケースにセドナゴールドをあしらった上品なモデルで、シースルーバックでありながら600m防水を実現しています(価格180万3600円)。

 

菜々緒さんは「スピードマスター 38mm」を着用。タキメータースケールの外周にはダイヤモンドが敷き詰められており、スポーティーでありながらエレガンスさを表現してくれるモデルです(価格104万7600円)。

 

 

 

外国人ゲストに教えてあげたい日本のマナー

つい先日、東京から静岡まで新幹線に乗ったら、その車両の半分が外国人客だった。私の座席の前後左右は英語圏の観光客で、少し離れた席からはフランス語も聞こえてきた。列車の車窓から富士山が見えはじめると外国人たちは席を立ち上がり、一斉にスマホで、わが日本の誇る富士山の雄姿を写しはじめたのだ。

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日本を訪れる外国人が増え続けているのを実感したひとコマだった。

 

外国人は“ジャパン・レール・パス”で日本全国を駆け巡る

外国人の友人から「一緒に九州を旅しよう。途中で京都、広島、岡山にも寄って」と誘われたことがあったが、私は残念ながら無理と言って断った。問題なのは時間ではなく、経済的な理由だ。「私は日本人だからジャパン・レール・パスが買えないのよ」と告げたら友人も納得していた。

 

ジャパン・レール・パスはJRが発売している外国人向けの日本全国のJR路線が乗り放題のお得なパスだ。90日以内の日本滞在の外国人のみが買えるパスで、普通車両なら現在のところ7日間で29,110円、14日間で46,390円、21日間で59,350円。子どもはその半額料金だ。ちなみにグリーン車両パスもそれぞれあり、7日間なら38,880円とかなりお得。

 

このパスは新幹線も乗り放題なので、来日外国人たちは北海道から九州まで日本全国をスイスイと移動し、各地をくまなく見て回ることができるのだ。

 

それは2005年のことだったが、知り合いのフランス人家族が愛知万博を訪れたが、会場から近いホテルはどこも満室だったため、なんと宿泊だけは京都にしたのだ。新幹線を使えば名古屋と京都の移動は簡単。彼らは京都の日本旅館を楽しみつつ、毎日、新幹線で万博に通ったのだ。こういう裏技が使えるのもジャパン・レール・パスのおかげ。日本人としては、なんともうらやましい限りだ。

 

「靴を脱いで……」と外国人に注意できる?

さて、2020年の東京オリンピック向け、今後はますます多くの外国人が来日するだろう。日本が気に入り、長期滞在する人々もきっと増えるはずだ。ご近所に外国人、いやいや、自宅に外国人ゲストという機会もこれからはなくはない。

 

そんなとき、日本独特のマナーやルールを、外国人にスムーズに伝えられるよう、今日はこの本を紹介しよう。

 

『英語で教える日本の暮らしのマナーとコツ』(下山布妃都・訳 伊藤美樹・絵/学研プラス・刊)は、日本の公共のマナーから、日常のおつきあい、訪問とお招き、冠婚葬祭などすべてに英訳がついた、とても便利で使えるマナー本だ。

 

外国からのゲストに、「そこはスリッパを履き替えてほしんですが……」と注意するにはどう言えばいいんだろうと、歯がゆい思いをしたことがありませんか?「ここは下座ですから、どうぞ上座に」はどうでしょうか?

 

日本には、円滑な社会生活を送るための独特なマナーやルールが存在します。(中略)ただ、それを「外国人に教える」ということになると、頭を抱えてしまいます。本書では、そんな暮らしの中のマナーやコツについて、対訳英語をつけてみました。日本の伝統文化はもちろん、日々のちょっとした習慣を簡単な英語で外国人に説明するときのフレーズを紹介しています。

(『英語で教える日本の暮らしのマナーとコツ』から引用)

 

日本旅館に着いてスリッパに履き替えてほしいときは、

 

「Take off your shoses when you arrive at a ryokan,and put on the slippers provided.」

 

客人は床の間のある上座に通すは、

 

「Seating arrangement is by pecking order. In the case of a Japanese-style room,the guest is offered a place nearest the tokonoma(alcove),and the host sits near the door so she can wait on the guest」

 

本書では、このように日本語と英語でさまざななケースでのマナーを解説している。また、わかりやすいイラストがついているので、英語の発音が苦手なら、外国人ゲストにページを開いて見せれば、スムーズに通じるだろう。

 

見送りの温度差について

この本では、日本人が外国人に対して「どうして?」と感じる感覚の違い、あるいは外国人が日本人に対して「どうして?」と感じる作法の違いなどの答えまで紹介されているので、読んでいてとてもおもしろい。

 

見送りの温度差はその最たる例だ。

 

欧米人の別れ際は「さようなら」のひと言で実にあっさりしている。日本人のように相手の姿が見えなくなるまで見送ることを彼らはしないのだ。

 

「気をつけて。元気でね」とちょっぴり感傷的な気分になるのが日本流の別れなのだが、アメリカ流の見送りはずっとドライである。(中略)「じゃあね」と言ったら、バタンとドアを閉める。バタンの後にはガチャッと鍵をかける音まで聞こえるのだから、なんとも興ざめだ。部屋の中では「元気でね、寂しくなるわ」と別れを惜しむのだが、別れの余韻に浸ることはない。

(『英語で教える日本の暮らしのマナーとコツ』から引用)

 

訪ねてきた外国人が帰るときは振り向きもしないのが普通というのをあらかじめ知っておけば、ショックを受けることもないだろう。

 

また、本書では日本の食べ方のマナーもとても詳しく解説している。

 

例えば、そばをすすって食べる作法、“そばは、かみすぎず、つるっとのどごしで味わうように、音を立ててもOK”の英訳もある。

 

「You shouldn’t overchew when eating soba,for it is said that soba is fully appreciated by enjoying how smoothly it goes down your throat.It is considered polite to slurp noodles,especially when eating hot soba,because slurping will quickly cool down the soba.」となるそうだ。

 

日本におけるありとあらゆる場面での英訳があるので、プライベートでも、また、ビジネスでも外国人とのお付き合いに欠かせない一冊となるだろう。また長期に日本に滞在することが決まった外国人への贈り物にも本書はおすすめだ。

 

(文:沼口祐子)

 

【著書紹介】

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英語で教える 日本の暮らしのマナーとコツ

著者:下山布妃都(訳)、伊藤美樹

出版社:学研プラス

150万部突破の人気本「マナーとコツ」シリーズが、選りすぐりの内容、対訳英語つきの電子書籍で登場。日本で暮らすための生活の知恵やマナー、周囲の人々とのコミュニケーションの取り方をアドバイスする。英語つきだから、外国人や、身近に外国人がいる人に最適。

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あの松井秀喜でさえ、ゴール目前で気がゆるむ。成功を“通過点”にすることで上を目指すアスリートたち

アスリートが金字塔を打ち立てたとします。大記録を達成したとします。そのインタビューで必ずといっていいほど口にする言葉は、「これを通過点にしたいです」。正解です。なぜなら“通過点”にしたからこそたどり着いた金字塔、大記録なのですから。

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■ゴールが近づくと“力をゆるめて”しまう?

先のリオデジャネイロ・オリンピックでも、日本人で金メダルを手にした選手は、リオ五輪を最終的なゴール(目標)に設定しませんでした。2020年の東京オリンピックを最終ゴールに設定し、リオ五輪を“通過点”にしたからこそ金メダルを獲れたのです。

 

人は身近なゴール(目標)が近づいてくると、力をゆるめてしまう傾向にあります。

 

松井秀喜がヤンキースに入団して2年目のシーズン、31本のホームランを記録しました。31本塁打といえば、日本のプロ野球で50本に相当します。球場の大きさが違いますし、ほとんどの球場が風に左右される屋外ということもあります。それだけに、この数字はとても価値のあるものでした。本人もわれわれマスコミも「これは、もっといける!」と思ったのは無理もありません。

 

■大丈夫と思ったときが“終わり”の始まりに

ところが、メジャーリーグの10年間で結局、2年目の31本が最高で、それを超えることはできませんでした。現役を引退する際、松井はこう言いました。

 

「もう大丈夫と思ったときが、終わりの始まりなんですね」

 

身近なゴール(目標)が近づいてくると、「もう大丈夫」と思って力をゆるめてしまう。松井でさえもそうなのですから、私たちは心してかからなければいけません。

 

ここで重要なのは、“通過点”という考え方です。ゴール(目標)に到達するためには、もうひとつ先(上)のゴール(目標)を設定しなければいけません。そうしなければ、“通過点”にならないからです。

 

■もうひとつ先のゴールを設定する

達成しようとする記録のもうひとつ上の記録をゴール(目標)に設定する。受験しようとする学校のもうひとつ上の偏差値をゴール(目標)に設定する。目標とする売り上げの少し上の金額を設定するのです。都大会や県大会ではなく全国大会に出場することをターゲットにする。これで“通過点”にできるのですが、さらに重要なことは、ゴール(目標)が近づいてきても、けっして「もう大丈夫」と思ってはいけません。「もう大丈夫」を禁句にすれば、ゴール(目標)の方からあなたに近づいてくるでしょう。

 

【著者プロフィール】

瀬戸口仁

1960年2月25日、東京生まれ。サンケイスポーツ新聞社でプロ野球を11年間担当。独立して1993年に渡米し、ニューヨークを拠点に13年間、メジャーリーグ、とくに日本人メジャーリーガーを取材。日本の新聞、雑誌、サイト、テレビ、ラジオに彼らの「今」をリポートした。帰国後は長年のキャリアを活かした“日米比較”や“正しいゴール設定の仕方”、“潜在意識”など、スポーツに関連するテーマを中心に執筆活動を行うかたわら大学や専門学校で講師を務める。著書に「宣言力」シリーズ(野球編、サッカー編、オリンピック編)、「最強の日本人のつくり方」など。