アスリートが金字塔を打ち立てたとします。大記録を達成したとします。そのインタビューで必ずといっていいほど口にする言葉は、「これを通過点にしたいです」。正解です。なぜなら“通過点”にしたからこそたどり着いた金字塔、大記録なのですから。
■ゴールが近づくと“力をゆるめて”しまう?
先のリオデジャネイロ・オリンピックでも、日本人で金メダルを手にした選手は、リオ五輪を最終的なゴール(目標)に設定しませんでした。2020年の東京オリンピックを最終ゴールに設定し、リオ五輪を“通過点”にしたからこそ金メダルを獲れたのです。
人は身近なゴール(目標)が近づいてくると、力をゆるめてしまう傾向にあります。
松井秀喜がヤンキースに入団して2年目のシーズン、31本のホームランを記録しました。31本塁打といえば、日本のプロ野球で50本に相当します。球場の大きさが違いますし、ほとんどの球場が風に左右される屋外ということもあります。それだけに、この数字はとても価値のあるものでした。本人もわれわれマスコミも「これは、もっといける!」と思ったのは無理もありません。
■大丈夫と思ったときが“終わり”の始まりに
ところが、メジャーリーグの10年間で結局、2年目の31本が最高で、それを超えることはできませんでした。現役を引退する際、松井はこう言いました。
「もう大丈夫と思ったときが、終わりの始まりなんですね」
身近なゴール(目標)が近づいてくると、「もう大丈夫」と思って力をゆるめてしまう。松井でさえもそうなのですから、私たちは心してかからなければいけません。
ここで重要なのは、“通過点”という考え方です。ゴール(目標)に到達するためには、もうひとつ先(上)のゴール(目標)を設定しなければいけません。そうしなければ、“通過点”にならないからです。
■もうひとつ先のゴールを設定する
達成しようとする記録のもうひとつ上の記録をゴール(目標)に設定する。受験しようとする学校のもうひとつ上の偏差値をゴール(目標)に設定する。目標とする売り上げの少し上の金額を設定するのです。都大会や県大会ではなく全国大会に出場することをターゲットにする。これで“通過点”にできるのですが、さらに重要なことは、ゴール(目標)が近づいてきても、けっして「もう大丈夫」と思ってはいけません。「もう大丈夫」を禁句にすれば、ゴール(目標)の方からあなたに近づいてくるでしょう。
【著者プロフィール】
瀬戸口仁
1960年2月25日、東京生まれ。サンケイスポーツ新聞社でプロ野球を11年間担当。独立して1993年に渡米し、ニューヨークを拠点に13年間、メジャーリーグ、とくに日本人メジャーリーガーを取材。日本の新聞、雑誌、サイト、テレビ、ラジオに彼らの「今」をリポートした。帰国後は長年のキャリアを活かした“日米比較”や“正しいゴール設定の仕方”、“潜在意識”など、スポーツに関連するテーマを中心に執筆活動を行うかたわら大学や専門学校で講師を務める。著書に「宣言力」シリーズ(野球編、サッカー編、オリンピック編)、「最強の日本人のつくり方」など。