失敗しない2025年福袋の選び方…グルメガチャにアイドル体験まで、プロが選ぶおすすめ5選

年始の風物詩のひとつといえば「福袋」。初売りの行列に並んだり、オンラインストアでの販売開始に向けて待機をしたり、争奪戦に参加したことがある人も多いのではないでしょうか? 最近は、購入前に袋の中身がわかる公開型や、モノではなくコトを販売する体験型など、福袋も多様化しています。

 

そこで今回は、福袋研究会を主宰する恩田ひさとしさんに、福袋の歴史やその魅力とともに、福袋選びで失敗しないためのポイント、さらには2025年の注目福袋まで教えていただきました。

 

 

福袋の始まりは江戸時代。
中身は着物の端切れだった

 

恩田さんによると、福袋の歴史は江戸時代まで遡ります。

 

「諸説あるなかで、今のところもっとも信頼できるのが”大丸起源説”です。正確な年号までははっきりしていないのですが、江戸時代に福袋を販売していたことが、大丸の創業250年を記念して作られた社史(1967年発行)に記録されています。創業が1717年なので、福袋は江戸時代中期、徳川吉宗の時代以降に登場したといえそうです」(福袋研究会主宰・恩田ひさとしさん、以下同)

 

福袋が江戸時代から続くた文化だとは驚きです。当時の福袋にはいったいどのようなものが入っていたのでしょうか?

 

「大丸は今、百貨店として知られていますが、江戸時代には呉服店を営んでいて、福袋には着物の端切れが入れられていました。江戸時代の一般市民には、服が破れたとしてもすぐに新しいものに買い換える余裕がなかったため、福袋の端切れを継ぎあてに使ったり、端切れ自体を継ぎはぎして着物を作ったりしていたようです。
呉服店にとって着物の端切れは、そのままでは売り物にならないので、まとめてお得に販売することを考えたのでしょう。その結果、福袋は売り手と買い手双方にとってお得感のある商品になりました。これが福袋の原型です」

 

そんな江戸時代の福袋には、“福袋ならではの仕掛け”があったと恩田さんは言います。

 

「大丸は、福袋の中に時折、錦糸の帯を入れていたんです。全部に入っていたわけではないのがポイントで、これにより袋を開けたときに『当たった!』という驚きや喜びが生まれます。この驚きや喜びは、まさに今にも通じる福袋の魅力と言えるでしょう」

 

時代を作った名福袋でたどる!
福袋カルチャーの変遷

 

江戸時代を出発点として、令和の今日まで脈々と続いてきた福袋文化。その間、どのような変遷があったのでしょうか? 恩田さんによると、大きな変化は1980年以降に起きたようです。

 

1982年:“余り物の寄せ集め”という印象を一新

「最初の大きな転換点は、西武ライオンズが日本シリーズで悲願の初優勝を果たし、西武池袋本店がそれを記念して発売した1982年の福袋です。1万円の福袋だったのですが、なんと中にはニコルのダブルスーツが入っていたんです。当時、高校生だった僕も池袋まで買いに行きました。
それ以前の福袋の記憶といえば、小学生の頃に1000円程度で買ったもの。錆びた灰皿とか、アルミ製の半端なサイズの急須とか、余り物の寄せ集めみたいなもので、親に『お小遣いを無駄にするな』と怒られたものです」

 

福袋に対して“余り物の寄せ集め”という印象を抱いていたのは、恩田さんだけではありません。当時の福袋は買って後悔することも多く、この時代の人たちにとって福袋は必ずしも良い印象ばかりではなかったそうです。

 

「そのマイナスの印象を『お得なだけでなく良いものが入っている』というイメージに変えたのが西武池袋本店の福袋なんです。実際にこの福袋は、飛ぶように売れました」

 

1989年:有名画家の作品が入ったバブルな福袋

その後の1989年に、再びエポックメイキングな福袋が登場します。それが三越が発売した「5億円福袋」です。

 

「ピカソとルノワールの絵画が2点セットで5億円という、驚くべき内容でした。当時の日本はバブル真っただ中。この価格は、まさに時代の象徴とも言えるでしょう。マスコミにも大きく取り上げられ、『福袋はせいぜい5000円。高くても1万円』といった従来のイメージを刷新するきっかけになりました」

 

※:画像はイメージです。実際の福袋に使用された絵画ではありません

 

「また、これまでの福袋は『開けるまで何が入っているかわからないもの』として親しまれてきました。だからこそ購入した人は、よくも悪くも思いもよらない商品との出会いに驚いたのです。しかしこの福袋は、最初から中身が明らかにされていました。そういった点でも非常に斬新な福袋でしたね」

 

ちなみに5億円福袋の購入者がいたかどうかは、記録が残っておらず、わからないとのことです。

 

1992年:出店ブランドごとに福袋を発売するように

そして1992年、今度はプランタン銀座の福袋が話題をさらいます。

 

「それまでの福袋は、ざっくり言うと“ひとつの百貨店にひとつの福袋”という総合福袋が中心でした。ところがプランタン銀座は、百貨店に入っているブランド(ショップ)ごとに福袋を販売するという新しいスタイルを採用しました。
数年後、テレビ朝日がその販売スタイルを大きく報道したことで、プランタン銀座には福袋を求める人の大行列ができました。自分の好きなブランドの福袋であれば、はずれをひきにくいというメリットがあるので、たくさんの人が買いに走ったわけです」

 

写真は、2016年のプランタン銀座の様子。1992年以降も福袋販売前には店外に大行列ができていました。(撮影:恩田さん)

 

プランタン銀座の福袋をきっかけに1990年代後半は、恩田さん曰く「福袋文化の最も熱い時期」となったそう。初売りの2日前から泊まり込みで並ぶ人が現れたり、西武池袋本店で2万人が大行列を作ったりと、多くの人が福袋に熱狂したのです。

 

2000年以降:コアなファン層を意識した体験型福袋が登場

そして2000年代に入ってからは、体験型の福袋が登場し始めます。体験型福袋は、今も福袋の人気ジャンルのひとつとして定着しています。

 

「なかでも印象深かったのは、2016年に発売された『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』でおなじみの漫画家・松本零士先生が似顔絵を描いてくれるというものです。価格は100万円。当時、非常に注目を集めましたね。
僕の記憶に強く残っているのは、2017年にダンサーのSAMさんがプロデュースした『アクティブシニアダンスチーム結成プラン』。ほかにも、棋士の藤井聡太さんの活躍が目覚ましたかった2018年には、藤井彼の師匠・杉本昌隆八段と対局できる福袋が販売されました。このように福袋は、コアなファン層を意識した商品が作られるようになっていったのです」

 

福袋を失敗せずに
楽しむには?

 

さまざまな変遷をたどり、成熟していった福袋文化。ここまで読んで、実際に買いたくなった人も多いのではないでしょうか? 次に大切なのが福袋選びです。福袋で失敗しないためのポイントを教えていただきました。

 

・百貨店の食品系福袋を買う
「福袋で失敗したくないという方は、百貨店の食品系の福袋を選ぶとよいでしょう。百貨店のデパ地下の食品であれば味に間違いがないですし、普段よく行くお店となればなおのこと、はずれることは少ないです。1000〜2000円とリーズナブルなものがたくさんあり、通常価格よりも少なくとも3〜4割はお得なので、損をしたと感じることはほとんどないはずです」

 

・抽選型の福袋に応募する

「『新年の夢を買う!』という気持ちで抽選型の福袋に応募してみるのもいいと思います。そもそも福袋は、各百貨店の情熱が詰まった驚きやよろこびを届ける企画です。もしかしたら当たるかもしれないと、運試し感覚でワクワクしながら応募してみると抽選結果の発表を待つのも楽しいはず。
応募期間は百貨店ごとに変わりますが、だいたい12月上旬から1月3日くらいまで。価格帯はさまざまですが、来年でいえば2025円のように年号にちなんだ福袋も多数販売されます。気軽にチャレンジしてみてください」

 

それでも福袋の選定に迷ったら、毎年10月下旬ごろに開催される『福袋お披露目会』で取り上げられた福袋を選ぶのがおすすめとのこと。

 

「このお披露目会では、地下の食品街から最上階のレストラン街まで、百貨店全館をあげて作られた福袋が並びます。つまりお披露目会は、初売りに向けて全フロアのエネルギーが結集しないと実現できないイベントなんです。これに参加できるのは、一流が揃う百貨店のなかでも限られたブランドのみ。彼らの福袋販売にかける情熱には、並々ならぬものがあります。きっと想像を超えた商品が手に入るでしょう」

 

福袋研究家がセレクト
2025年注目の福袋 5選

知れば知るほど魅力的な福袋の世界。さて2025年にはどのようなな福袋が販売されるのでしょうか? 恩田さんにおすすめ商品をご紹介いただきました。

 

1.高品質な食が揃う毎年人気のグルメガチャ

松屋銀座「食の福ガチャ 〜『えん』を感じる福袋〜
5000円(税込) 【限定110袋】 1月3日の初売りで販売

「松屋銀座の初売りでは、7000円〜2万円相当の肉や魚、惣菜、冷凍食品などが当たるグルメガチャを1回5000円で回せます。
毎年大人気の福袋で、今年は『鮮魚専門店 山助』の『厳選本まぐろ入り刺身12点盛り合わせ+本まぐろ入りにぎり寿司52貫』や、洋惣菜や生ハムのテイクアウト専門店『シャルキュトリーコダマ』のイベリコ布巻きロースやアンガス牛ハンバーグなどが入った『コダマスペシャル』をはじめ、20種類以上の美食が揃い、最大2万円相当の賞品が当たります。食に自信のある松屋銀座ならではの素晴らしい中身。満足できること間違いなしです」

 

2.絶品和洋菓子4点に「お菓子すくい」の挑戦権をセット

松屋銀座「お菓子すくい 〜ご縁をつなげていこう〜
2025円(税込) 【限定30袋】 1月3日の初売りで販売

「こちらも松屋銀座の人気福袋。銀座の日本料理『Kuma3(クマサン)』がプロデュースし、誕生までに3年を費やしたという『銀座へしれブラウニー』、京都・御所南に工房を構えるショコラトリー『MUNIANKASSHOKU (ムニアンカッショク)』のころんとかわいい絶品フィナンシェ『カカオレーヌ』、西洋菓子の店『鹿鳴館』の見た目も美しいチョコレート菓子『ショコクル』、明治創業の老舗『銀座文明堂』のカステラにどらやき生地を巻いた『カステラ巻き』。これらの和洋菓子4点が入った福袋に、その場でチャレンジできる『お菓子すくい』の挑戦権が付いています。ゲーム感覚で楽しめますよ」

 

3.大丸グルメを味わい尽くせるお買い物券セット

大丸東京店「制覇福袋
5万円(税込)〜 【抽選でそれぞれ限定5袋】 応募受付は1月3日〜5日

「大丸東京店のお弁当、スイーツ、レストラン・喫茶を、それぞれ割安で楽しめるお買い物券の福袋です。24年はお弁当のみでしたが、好評を受けて25年は種類が増えました。
デパ地下40ブランドでそれぞれ2000円分使える買い物券をセットにした8万円相当の『弁当制覇福袋』(5万円)、和洋菓子売り場の48ブランドでそれぞれ2000円分使える買い物券をセットにした9万6000円相当の『菓子制覇福袋』(6万円)、3000円の買い物券を25ブランド分セットにした7万5000円相当の『レストラン喫茶制覇福袋』(5万円)の3種類がそれぞれ5袋ずつ販売されます。高額ではありますが、間違いなく損をしない福袋です」

 

4.昨年は倍率140 倍! 昭和のアイドル気分で写真撮影

東武百貨店 池袋本店「マルベル堂『私もアイドル!気分福袋』」
2025円(税込) 【抽選で限定3組】 2025年1月3日午後6時まで応募受付中

「昭和レトロな世界観が楽しめる大人気の写真撮影体験福袋です。オリジナルポスターや写真集、アクリルスタンドなどを作ることができ、アイドルの気分を体験できます。80年代風という設定が、昭和生まれの人たちにとっては懐かしく、平成生まれ以降の人たちにとってはエモく新鮮に映るでしょう。昨年の倍率は約140倍ととても人気の福袋ですが、もし当選したら忘れられない思い出になるはずです」

 

5.新世代特急列車を貸し切った日光ワンデイトリップ

東武百貨店「東武グループコラボレーション福袋『東武鉄道スペーシアX 特別運行FUNABASHI車両貸切で行く日光日帰りツアー』福袋
5万8000円〜7万8000円(税込) 【64組128名限定】 2025年1月3日午後6時まで応募受付中

「スペーシアXは『旅そのものを楽しむ空間』を提供する、移動手段を超えた新世代特急列車。これを貸し切り、日光へ日帰り旅行ができる新年ならではの豪華な福袋です。特製記念台紙付き記念乗車証のプレゼント、『コックピットスイート・コックピットラウンジ&コンパートメント&プレミアムシート』の見学、東武百貨店船橋店オリジナル『特別運行FUNABASHI』掛け紙が巻かれたお弁当付き。観光プランは4種類から選べます」

 

 

百貨店をはじめ、お店の情熱とアイデアが詰まった福袋。いままでチェックしていなかったという人もぜひ、2025年は自分にぴったりの商品を探してみてはいかがでしょう。きっと新年を迎える楽しみが、増えるはずです。

 

 

Profile


福袋研究会主宰・ライター / 恩田ひさとし

IT関連をメインとしたライターとして活動。その傍ら、仕事の企画ではじめた福袋の魅力に魅せられ、福袋研究会を主宰して約20年。年末年始は福袋コメンテーターとして、さまざまなメディアで活躍中。
HP

 

箱根駅伝は2024年大会で第100回!初心者へ出場経験あるスポーツライターが解説する見どころと注目大学は?

2024年で第100回大会を迎える箱根駅伝。これまでの長い歴史の中でさまざまなドラマが生まれ、多くの人々を魅了してきました。そこで箱根駅伝の魅力をあらためて探るべく、箱根駅伝の出場経験があり現在スポーツライターとして活躍する酒井政人さんにお話を伺いました。第100回大会の見どころや、現地観戦を楽しむポイントについても解説していただきます。

 

箱根駅伝はいつ、なぜ始まった?

そもそも箱根駅伝、正式名称「東京箱根間往復大学駅伝競走」が始まったのは1920年(大正9年)のこと。マラソンの父として知られる金栗四三らの「世界に通用するランナーを育成したい」という思いが、大会創設の発端になりました。途中、第二次世界大戦の影響による中止があったため、100周年だった2020年ではなく、2024年に第100回を迎えます。

 

現在、箱根駅伝の出場資格があるのは、関東学生陸上競技連盟に加盟している大学のうち、前年の大会でシード権を獲得した上位10校と、10月の予選会を通過した10校、そして関東学生連合(予選会を通過できなかった大学の記録上位者によるチーム)を加えた合計21チームです。この21チームが、東京の読売新聞社前から箱根の芦ノ湖までの往路5区間・復路5区間の合計10区間、合計271キロの距離を、襷をつなぎながら走り、競い合います。

 

箱根駅伝のコース。距離が長いだけでなく、アップダウンが顕著なことやロケーションが大きく異なるのも特徴。基本的に東海道を辿っていくコースのため、かつては蒲田と戸塚にも踏切が存在し時間のロスやアクシデントも生まれたが、現在は高架化のため姿を消している(箱根登山鉄道の踏切は存在するがレースに合わせて時間調整を行なっている)。

 

2024年の箱根駅伝は、
第100回大会にふさわしい華やかな大会に

2024年の箱根駅伝は、記念すべき第100回の大会。酒井さんも「節目の年にふさわしい、華やかな大会になると思います」と話します。今回の大会は、通常の大会と具体的にどのようなところが異なるのでしょうか?

 

「通常の大会と第100回大会との違いは、出場枠が21から23に増えることです。今大会は関東学生連合の編成がないため、実質的には参加できる大学がいつもより3校増えます。また今大会の10月の予選会は、関東地区以外の大学にも参加資格が与えられ、全国大会に近い形になっています。しかし残念ながら、予選会で関東勢以外のチームが出場権を獲得することはできませんでした。それでも、この第100回大会をチャンスと捉えて挑むチームが全国各地に見受けられ、予選会からすでに通常とは異なる特別な大会になっていると思います」(スポーツライター・酒井政人さん、以下同)

 

長距離選手にとって憧れの舞台
「箱根駅伝」の特徴や魅力とは?

 

今大会は全国大会に近い形とはいえ、通常は関東の大学しか出場することができない箱根駅伝。しかしながら全国の長距離選手が憧れる大会であり、全国的にも高い知名度を誇っています。箱根駅伝ならではの特徴や魅力はどのようなところにあるのでしょうか?

 

箱根駅伝は、出雲駅伝・全日本大学駅伝と並んで『大学三大駅伝』と呼ばれています。その中で箱根駅伝は、ほかの二つの大会と比べると距離が長いところが大きな特徴です。距離が長いと、“ブレーキ”(アクシデントなどにより、想定タイムを大きく下回ること)が起きやすくなります。例えば全日本大学駅伝なら1分の遅れで済むようなミスも、箱根駅伝では3分の遅れになるなど、一つのミスが響いて命取りになることもあるのです。そのため順位変動が起きやすく、誰も予想しない展開になることもあります

 

箱根駅伝(2024年)の各区の距離と高低差を示す図。大会のスタート/ゴール地点となる読売新聞社前がある東京・大手町は、海抜1〜6m程度。途中の何度か急坂を挟みながらも小田原中継所地点では10mにすぎないが、そこから1区間で国道1号線の最高標高地点874mを目指して一気に駆け上がることになる。

 

「そしてなんといっても、箱根駅伝はコースが特徴的です。ビルが立ち並ぶ都会のど真ん中からスタートし、海沿いを走り、最後は山を登っていく。復路は逆になりますが、ロケーションが大きく変わるのは魅力の一つです。テレビでずっと観戦していると旅をしているような気分が味わえると思います。また、開催日程も1月2~3日という、正月休みを取って暇な方にとっては絶妙なタイミング(笑)。たとえばサッカーなどのように劇的な変化がすぐに起きる競技ではないので、家でゆっくりしながら楽しく観戦できるところも、箱根駅伝がここまで知名度を誇る理由の一つかもしれません」

 

スタート地点は日本の金融の中心地、大手町。※写真は2022年10月より以前のもの。

 

東京→横浜と街を過ぎて、3区は湘南の海沿いを通る国道134号線へ。正面に富士山、左に相模湾と大会一の景勝地だが、時に気温の上昇や強い向かい風が選手の敵に。

 

往路のゴールであり復路のスタート地点が、箱根・芦ノ湖畔。5区の山上りは最大の難所とされる。

 

復路の10区は日本橋を迂回するコースのため、1区より距離が長くなる。沿道には大勢の観客がつめかけ鈴なりに。

 

さらに、箱根駅伝の長い歴史の中で変化してきたことや、最近の傾向についても教えていただきました。

 

箱根駅伝のルートは基本的にずっと変わっていません。しかし2006年から2016年まで、主に中継所付近の工事の影響で5区が今より2.5キロほど長い時期がありました。5区はもともと800メートル超の標高差がある過酷なコースですが、今より距離が長かった時期には『山の神』と呼ばれる名選手も生まれました」

 

2018年第94回大会の往路を首位から第3位までにゴールした5区の選手たち。同大会は、復路6区で東洋大学を逆転した青山学院大学が総合優勝を飾った。

 

「また、最近の傾向として挙げられるのは厚底シューズの登場です。シューズの性能がアップしたことで一気に高速化が進みました。これは近年で一番大きく変化したところだと言えるのではないでしょうか」

 

注目のチームや選手は?
第100回箱根駅伝の見どころ

来たる第100回大会に向けてチェックしておきたいのが、注目のチームや選手。今大会も箱根駅伝を取材されるという酒井さんに、見どころを教えていただきました。

 

・前代未聞の「2年連続3大会制覇」なるか⁉ 圧倒的な強さを誇る駒澤大学

前回大会で優勝した駒澤大学。長年指揮をとってきた大八木弘明監督は昨年度で勇退し、現在は総監督に。選手たちへの接し方の変化も話題を呼んだ。写真提供=月刊陸上競技

 

「なんといっても今大会で注目のチームは、連覇のかかる駒澤大学。駒澤大学は3人のエースを擁する選手層の厚さに加え、長年培ってきた指導力、箱根駅伝での戦い方、『世界を目指す』という意識の高さなど、あらゆる面で強さをもっているチームです。

 

そして駒澤大学は昨年度、出雲駅伝・全日本大学駅伝・箱根駅伝の3大会制覇を成し遂げました。3大会制覇は史上5校目で、駒澤大学史上初のこと。そして今年度に入ってからも、出雲駅伝・全日本大学駅伝で圧倒的な強さを見せ、優勝しています。まだどこの大学も成し遂げたことのない『2年連続3大会連覇』という偉業を達成できるのか。今大会における大きな注目ポイントです」

 

・第100回大会に照準を合わせ、28年ぶりの優勝を目指す中央大学

「駒沢大学を追いかけるチームとして有力なのが、前回大会2位の中央大学。前回の2区、3区で区間賞を獲った選手が残っていて、ほかにも良い選手が揃っています。中央大学は出場回数も優勝回数も最も多い大学ですが、この28年間は優勝していません。特に吉居大和選手ら強力選手が最終学年を迎える第100回大会に照準を合わせ、これまで取り組んできたようなので、このチャンスを絶対に逃すまいと『打倒駒澤』で挑んでくるはずです」

 

・スーパールーキーの走りに期待! 10年ぶりの出場となる東京農業大学

「今大会、10年ぶり70回目の出場権を手に入れたのが東京農業大学です。実は僕の母校でもあります。なかでも1年生の前田和摩選手は、10月の予選会では日本人トップの記録を叩き出し、全日本大学駅伝でも2区で区間新記録の快走を見せました。後輩だからという贔屓目ではなく(笑)、スーパールーキーとして注目すべき選手の一人だと思っています」

 

各チームが試行錯誤する
“チームで勝つための戦略”も見どころ

箱根駅伝は、選手たちの走りはもちろんですが、各チームの戦略や駆け引きも大きな見どころです。そこで酒井さんに、チームとしての戦い方や戦略を考えるときのポイントについて教えてもらいました。知っておくと、より深く箱根駅伝を楽しめるはず。

 

「最近の戦略として多いのが、エース級の選手がどの区間を走るのかを当日までわからないようにすることです。箱根駅伝では毎年12月10日頃に各校16人の登録選手が発表され、29日頃に登録選手の中から1~10区間を走る選手が発表されます。残りの6人は補員(控え選手)になりますが、当日変更で最大4人までメンバーを入れ替えることが可能です。ただし入れ替えられるのは、1~10区間の選手と補員の選手のみ。例えば2区と3区の選手を入れ替えるなど、すでに区間が決まっている選手同士をチェンジすることはできません。そのため、エース級の選手をあえて補員メンバーに入れて、どの区間に入れるかを当日まで隠しておくチームが多くあります。

 

もちろんチームによっては、最初に発表した1~10区までのメンバーを変えないところもあるのですが、直前に選手が体調不良になるなど、不測のトラブルが起こることも考えられます。最近は特に、そうしたリスク管理の意味も含めて、エース級の選手を補員にしておくチームが多い印象です」

 

距離が長く、区間によって特徴も大きく異なる箱根駅伝は、誰がどの区間を走るかなど「チームとしてどう戦うか」という戦略を立てることも重要です。

 

「例えば2区は『花の2区』とも呼ばれるように、各校のエース級選手たちが走ることの多い区間です。2区は距離が長い上に、途中に激しいアップダウンもあり、難しいコースと言われています。さらに1区から2区は僅差で襷を渡されることが多いので、最初の順位が決まる重要な区間です。さらに5区や6区も山登り・下りがある特徴的なコース。この辺りは特に差が付きやすいので、だいたい2区と5区を走る選手を決めてから、他の区間を走る選手を決めていくことが多いのではないかと思います。

 

例えば、山登りが苦手なチームは5区で差を付けられやすいので、2区だけでなく、3、4区にも速い選手を配置したり、ずば抜けて速い選手がいないチームは、2区で差を付けられすぎないよう、他の区間でカバーして少しずつ順位を上げていける配置にしたり……。区間の特徴と自分たちのチームの特徴をあわせて考えながら、いかに短所を補い、長所で攻めていけるかを考えていく必要があります。こうしたチームプレーは駅伝の魅力だと思います」

 

箱根駅伝を現地で楽しむ際のポイント

10区。写真提供=月刊陸上競技

 

家でゆっくり箱根駅伝を観戦するのも良いですが、現地で観戦するとまた違った楽しみがあります。現地で観戦する時の注意点やおすすめの観戦方法をうかがいました。

 

「現地観戦をするときに留意しておきたいのが、中継所はとにかく人が多いということ。特にゴール付近は身動きが取れなくなるほど人がいるので、覚悟が必要です。個人的には、中継所やゴール以外の、沿道から走っている選手を見るのがおすすめ。早朝で現地へ行くのは大変かもしれませんが、6区の箱根山中は比較的人が少なめだと思います。

 

また意外と穴場なのが、選手たちが来る1時間前くらいの中継所です。選手が走る姿は見られませんが、ウォーミングアップ中の選手たちを見たり、緊張感ある雰囲気を感じたりすることができると思います。テレビで見るのとはまた違った箱根駅伝の一場面を見られるのも、現地観戦ならではの楽しみ方ではないでしょうか」

 

101回目以降の箱根駅伝はどうなる?

最後に、長い歴史をもつ箱根駅伝の「これから」について、酒井さんにうかがいました。

 

「箱根駅伝はもともと、世界に通じる選手を育成しようという目的で始まった大会です。今大会は全国大会に近い形になりましたが、個人的には今後も箱根駅伝を一部全国化にするのも良いのではと思っています。例えば、全日本大学駅伝では8位までに入った大学が翌年のシード権を獲得できるのですが、その中で地方トップのチームを箱根駅伝に招待するなど、強いチームが関東の大学に挑むような形でやるのは一つの方法かなと考えています。
というのも、地方にはすでにそれぞれ駅伝の大会がありますし、関東まで来るのにはお金もかかってしまうため、あまり現実的とは言えないからです。それでも、全国の選手たちが切磋琢磨して高め合えるような方法を模索していけると良いですよね」

 

近年は、早稲田大学出身の大迫傑(おおさこすぐる)選手のように、箱根駅伝よりも自分の目標を優先する選手も出てきたといいます。

 

「トップ選手の中には、箱根駅伝も大切にしながらさらにその先の“世界”を見据えている選手もいる一方で、大学卒業後は競技を辞めるつもりで、箱根駅伝に全てを賭ける選手も当然います。そうやっていろんな考え方の選手がいるところも、箱根駅伝の面白いところです。そして何より学生たちが懸命に走る姿は、見ていて自然と元気をもらえると思います。ぜひ第100回の記念すべき大会を、それぞれの視点で楽しんでもらいたいと思います」

 

 

Profile

スポーツライター / 酒井政人

東京農業大学1年時に箱根駅伝10区出場。故障で競技の夢をあきらめ、大学卒業後からライター活動を開始。現在は雑誌、WEBを含めさまざまな媒体で執筆している。著書に『箱根駅伝は誰のものか』(平凡社)、『ナイキシューズ革命 “厚底”が世界にかけた魔法』(ポプラ社)など。

消化に良く胃腸にやさしい「内臓疲労回復」レシピ3種で年末年始の食べ疲れた体をいたわる

忘年会、新年会に正月の祝い膳と、ごちそうが続いた年末年始のあと。さらに休み明けとあって、ますます胃腸に負担がかかります。新しい年もすこやかに過ごすには、胃をいたわりながら体調を整えたいもの。そんな年始に食べたい「疲労回復レシピ」を、料理家の吉川愛歩さんに教えていただきました。

 

胃にやさしくて消化に良い食材は?

消化によい食べ物とは、繊維質や脂肪分が少なく、水分が多くて胃液が混ざりやすく、胃の中に止まる時間が短いもののことを言います。反対に、消化に悪いものは脂肪と食物繊維が多いもののことで、疲れているときには胃もたれや消化不良などの原因になることがあります。

 

「胃にやさしいものを食べたいなと思ったときは、なるべく薄味を心がけ、油を使わないお料理にします。となると、炒めたり揚げたりという調理法は選択肢から消えますよね。もともと日本料理は油が少なく、油を使わずに調理できるレシピが多いので、昔ながらの食べ物を思い浮かべるといいと思いますよ」(料理家・吉川愛歩さん、以下同)

 

【消化に良い食材】
大根・白菜・キャベツ・かぶ・たまご・豆腐・鶏むね肉・うどん など

 

【消化に悪い食材】
油・バター・食パン・れんこん・ごぼう・ベーコン・海藻・きのこ など

 

消化に良い年末年始の食べ物。正月明けに食べる「七草粥」とは

正月に食べる消化にやさしい食べ物といえば、七草粥。1月7日になると、日本では七草粥を食べる風習がありますが、これは平安時代から続く伝統的にならわしです。

 

「年末年始に食べ過ぎたから七草粥を食べるという説をよく耳にしますが、こちらは現代になってあとから意味づけしたもの。1月は、これから一年でいちばん寒い季節が来るとき。今も昔ももっとも人が亡くなる時期でもありますし、そんな厳しい季節を乗り越えるため、雪の下でもしっかり育つ生命力の強い野草を使ったレシピで栄養をつける、というところからはじまったと見られています。とはいえ、七草にはそれぞれ薬効があり、胃にやさしい食べ物ですから、お正月明けにはぜひ取り入れたいですね」

 

【関連記事】1月7日の「七草粥」から始める、胃腸が整うおいしいおかゆの作り方

 

ここからは、消化に良く胃腸にやさしい「内臓疲労回復」レシピを吉川さんに考案、解説していただきます。まずは大豆を消化の良い豆腐にしたあんかけ豆腐。

 

つるんと食べられるやさしい味「柚子あんの手作り豆腐」

はじめにご紹介するのは、あんかけにしたお豆腐です。大豆は消化にあまりよくないのですが、豆腐になると、消化に良くなります。植物性タンパク質は胃への負担が少ないので、体調不良や食べ疲れてしまったときにもぴったり。つるんとした喉越しで体調がすぐれないときにも食べやすく、ゆずの華やかな香りにも癒されます。

 

「豆乳ににがりを混ぜて蒸した、自家製のお豆腐です。お豆腐が作れる無調整豆乳とにがりを冷蔵庫に常備しておくと、いつでも作れます。今回はおいしさも考えてあんかけにしましたが、おしょうゆやだし汁、お塩などをかけて食べることもできます。熱々に蒸しあがったお豆腐は、身体を内側から温めてくれますよ」

 

【材料(2人分)】

・無調整豆乳(豆腐が作れるもの)……150ml
・にがり……1.5g(豆乳の1%)

〈ゆずあん〉
・水……大さじ3
・しょうゆ……小さじ2
・みりん……大さじ1
・片栗粉……小さじ1/2(同量の水で溶く)
・ゆずの皮……適宜

 

【作り方】

1. 豆乳ににがりを入れてよく混ぜる。

「豆乳を泡立てたくないので、ゴムベラなどで静かに混ぜます」

 

2. 耐熱の器に流し入れる。

「今回は2つ分で作りましたが、材料を倍にすれば4つ作れます。容器はマグカップでも大丈夫。作って冷蔵庫に入れておくこともできるので、まとめて作りたいときは分量を増やしてください」

 

3. キッチンペーパーの端を使って泡を吸い取る。

「泡立ててしまうとスが入りやすくなるので、そっと混ぜてそっと流し込み、それでも残った泡は、最後にペーパーで吸い取ります」

 

4. 器にラップをして、しっかり蒸気の上がった蒸し器に入れて強火で10分蒸す。

5. 小鍋にゆずあんの調味料と、千切りにしたゆずの皮を入れて加熱する。

「はじめに水としょうゆ、みりん、ゆずの皮を入れておき、中火でふつふつとしてきたら水溶き片栗粉を入れてさっと混ぜ、とろみがついてきたらすぐに火を止めます」

 

6. 蒸しあがった豆腐にゆずあんをかける。

「お豆腐は、蒸しあがったら数分置いてからラップをはがします。すぐに食べない場合は蒸し器の中に入れておき、食べる前にまた温めてからあんをかけましょう」

 

次のページでは、使う調味料は塩だけの、とろんとした食感のポタージュと、脂肪分控えめの部位を使っ鶏団子の鍋を紹介していただきます。

調味料は塩だけ。とろんとろんのスープ「里芋のポタージュ」

茹でた里芋をだし汁と牛乳で伸ばしたスープ。里芋の滋味ととろみが、疲れた胃を癒してくれます。

 

「里芋は食物繊維が豊富なのですが、ぬめり成分が胃や消化管の粘膜を守ってくれる役割をしてくれる野菜です。また、食べたものの消化を促し、腸内の環境を整えてくれるので、消化不良や便秘に効果的。柔らかく煮てポタージュにすることで、消化にかかる時間を少なくし、さらに胃腸にやさしい味つけにしました。素朴でシンプルな味ですが、疲れ気味のからだのお助けレシピになってくれますよ」

 

【材料(2人分)】

・里芋……正味200g
・だし汁(昆布だしまたは水)……100ml
・牛乳……100ml
・塩……小さじ1/2〜

 

【作り方】

1. 里芋の皮を剥き、竹串がスッと刺さるまで茹でたら潰す。

「里芋は、皮つきのままチンして皮を剥くのでも構いません。なめらかになるまで潰していきます」

 

「フードプロセッサーを使ってもいいのですが、つぶつぶが少し残っているのがおいしいので、潰し過ぎに注意してください」

 

2. 里芋をだし汁で伸ばす。

「だし汁を少しずつ入れながら、さらに里芋を潰していきます。だしは、一度だしをひいた後の昆布を煮出した二番だしを使っています。昆布の旨みがあるほうが深みが出ておいしいのですが、もし面倒であれば、添加物が多く味の濃い市販のだしや麺つゆではなく、水で代用してください」

 

3. 中火にかけて牛乳を加える。

「次は牛乳を入れて、さらに伸ばしていきます。あまり加熱しすぎず、ふつふつと煮るくらいいで大丈夫」

 

4. 塩で味をととのえる。

「最後に塩を加えて、味をととのえます。味見をしてみて、おいしいと思える塩加減に調整していきましょう」

 

脂肪分少なめの胸肉で。生姜でぽかぽか温まる「鶏団子とせりのひとり鍋」

最後に紹介していただくのは、鶏むね肉を使った鶏団子に野菜を合わせた鍋。鶏むね肉は、肉のなかでも脂肪分が少なく、消化に負担がかかりにくい食材です。

 

「今回はひき肉を使いましたが、より脂分を少なく胃への負担を軽減したい場合は、皮なしのむね肉を包丁で叩いて、ひき肉にしてから使います。取り合わせたせりは、ミネラルとビタミンCが豊富で、抗酸化作用や免疫力を高める役割をしてくれます。ネギや生姜には胃液の分泌を促進して、消化を良くする成分がありますが、同時に刺激物でもあるので、体調を見なから具材を考えてみてください。だしに鶏のうまみとせりの香りがうつって、ホッとする味ですよ。身体も温まるので、食べられるときは最後にごはんを入れて雑炊にするのがおすすめです」

 

【材料(1人分)】

〈鶏団子〉
・鶏ひき肉……200g
・木綿豆腐……50g
・生姜(すりおろし)……小さじ1/2
・塩……少々

〈鍋の汁〉
・だし汁(昆布だし)……300ml
・酒……大さじ1
・しょうゆ……小さじ1
・みりん……小さじ1
・生姜(薄切り)……1かけ

〈鍋の具材〉
・ねぎ……1/2本
・木綿豆腐……半丁
・せり……適量

 

【作り方】

1. ボウルに鶏団子の材料を入れてよくこねる。

「肉と豆腐を先によく混ぜておき、ある程度混ざってから生姜と塩を加えていきます」

 

2. 鍋にネギと豆腐、汁の材料を入れて中火で煮る。

「グツグツと煮て、ネギに火が通ったら次の工程に進みます」

 

3. (1)の鶏肉を団子にして入れる。

「スプーンを2本使って、お肉をくるくると丸めて入れていきます。手で丸めても、もちろんかまいません」

 

4. 鶏団子がしっかり煮えるよう、よく加熱する。

「鶏肉に火が通ったら、せりを乗せてさっと温めていただきましょう。具材は全部最初に入れてしまわなくて大丈夫。食べながら少しずつ加えていきます」

 

休みに入ると、身体は楽になる一方、生活リズムが乱れたり食べ過ぎ・飲み過ぎなどで胃腸に負担をかけてしまったり。羽目を外す楽しみを大切にしながらも、 “整える日” を意識的に作り、新しい年も健康でいられるよう丁寧なはじまりを心がけたいですね。

 

プロフィール

料理家 / 吉川愛歩

出版社に勤務後、ライターとして独立。雑誌や書籍の出版に携わりながら茶懐石を学び、料理家・フードコーディネーターとして活動をはじめる。企業広告や雑誌等でレシピを制作するほか、趣味が高じて『メスティン自動BOOK』(山と渓谷社)や『キャンプでしたい100のこと』(西東社)などでアウトドア料理のレシピを考案。また、誰にとっても読みやすいバリアフリーレシピの書き方を研究中で、編集者・ライターとしても幅広く活動している。『1年生からのらくらくレシピ』(文研出版)や『糖質オフのやさしいお菓子』(ワン・パブリッシング)の制作に携わり、『日本一おいしいソロキャンプ』(KADOKAWA)では執筆とともに調理も担当している。

 


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日本独自の正月の風習「鏡餅・鏡開き」に秘められた意味とすべきこと

毎年正月に家庭で飾られている「鏡餅(かがみもち)」。近年はコンビニエンスストアでも手軽に入手できますが、なぜ「鏡」なのか、それをどうして家の中に飾るのか、本当の意味を知っているでしょうか?

 

「鏡餅」の由来や飾り方、その餅をいただく「鏡開き(かがみびらき)」の風習について、和文化研究家の三浦康子さんに詳しく解説していただきました。

 

「鏡餅」とは? 新年にお迎えする「年神様」の依代となる場所

「鏡餅」とは、丸餅を2段重ねにした正月飾りのひとつ。その由来は、日本の伝統的な正月行事の意味と密接に結びついています。

 

「日本の正月行事は、『年神様(としがみさま。歳神様、歳徳神ともいう)』という新年の神様をお迎えする行事です。新年を司る年神様は、農耕の神様でありご先祖様でもあると考えられていて、元旦に子孫の家々にやってきます。『鏡餅』はお迎えした年神様の居場所であり、その魂が宿る依代(よりしろ)なのです」(和文化研究家・三浦康子さん、以下同)

 

新年の「恵方(えほう)」からやってくるといわれる年神様。その年神様の魂が宿る鏡餅は、言い換えると新年の魂であり、人が生きる力そのものであると三浦さんはいいます。

 

「日本には古来、『人の魂は元日に更新されて、新たな1年を生きるための力が与えられる』といった考え方があります。つまり日本のお正月は、家族みんなで新たな魂=生きる力をいただくための行事なのです。そう考えると『鏡開き』の理屈もおのずとわかってきます。年神様が宿った『鏡餅』を『開いて食べる』ことによって、その力を身体に取り込み、ご加護を受けるという意味があるのです」

 

ところで、神様の依代をなぜ「鏡餅」と呼ぶのでしょうか? その由来は「鏡」という言葉にヒントがありました。

 

「伊勢神宮をはじめ、神社に鏡が祀られていることは広く知られていますが、それは鏡が『三種の神器』のひとつだからです。鏡は日の光を反射して輝くことから、太陽神・天照大神(あまてらすおおみかみ)の魂が宿る依代と考えられています。昔の鏡は銅鏡で、丸い形をしていました。同時に日本人は、古代からの主食であるお米を、霊力が宿る神聖な食べ物とみなしてきました。餅はその米を一生懸命について霊力を凝縮した食べ物ですから、丸い鏡を餅で表現した『鏡餅』は、年神様の依代としてふさわしいというわけです」

 

ちなみに、結婚式や企業のパーティなどお祝いの席でも、酒樽の蓋を叩き割る行為を「鏡開き」と呼びますが、これも関係があるのでしょうか?

 

「考え方は同じですね。清酒の原料もまたお米ですから、酒樽の丸い蓋を鏡に見立て、神様の力が宿ったお酒を皆で飲み交わして新たな門出を祝うのです」

鏡餅は、平安時代の時点ですでにその概念が存在していたそう。

 

「古くは『源氏物語』に鏡餅の記述があります。ちなみに2段重ねの形には、陰と陽、月と太陽を表しているという説があります。万物は相反する性質をもった陰と陽の相互作用によって成り立つという、古代中国伝来で日本文化に深く関わってきた陰陽思想に基づいていると解釈できます」

 

割ることで運を開く、「鏡開き」の意外なルーツ

では、なぜ鏡を「開く」と言うのでしょうか?

 

「『鏡開き』のルーツは武家(武士の家系)にあるとされています。武家では毎年お正月になると、武士の魂である鎧や兜にお餅を供え、1年の無事を祈る『具足祝い(ぐそくいわい)』をしていたそうです。正月が明けたら餅をおろし、皆で分け合っていただく『刃柄祝い(はつかいわい)』という風習がありました。これが『鏡開き』の起源です。

このとき、餅を切る行為は武士にとって『切腹』をイメージさせて縁起が悪いため、木槌で叩き割ることにしました。さらに縁起の良い『開く』という言葉が当てられ、『鏡開き』になったといわれています。当初は『はつか』にちなんで、毎年1月20日に行われていました」

 

現代では1月7日に松の内が明け、11日を鏡開きの日とする地域が多くを占めています。実はこの日にちを早めたのは、江戸幕府だったそう。

 

「徳川家の第三代将軍・家光が4月20日に死去したため、その月命日に被らないよう配慮したといわれています。ただし、京都など伝統を継承している地域では、現在でも1月15日までをお正月とし、20日に鏡開きを行うところもあります」

 

鏡餅は12月28日までにお供えするのがベター

由来がわかったところで、次に鏡餅の飾り方をおさらいします。毎年12月になると、しめ縄などのお正月飾りと一緒に店先に並ぶ鏡餅。いつごろ飾るのが “正解” なのかは気になるところです。

 

「12月13日を『正月事始め』といい、すす払いなど正月を迎える準備を始める日とされています。年神様という尊いお客さまをお迎えするわけですから、まずは家中をきれいに掃除し、場を清めておく必要があります。家が清浄な空間になったら、玄関に結界としての『しめ飾り』を施し、さらに年神様の案内役となる門松を立てて、床の間や神棚などに鏡餅をお供えするという流れです。

鏡餅をお供えする日に明確な決まりはないのですが、12月28日までを目安にするといいでしょう。28は末広がりで縁起のいい数字です」

 

とはいえ、現代人の師走は年の瀬ギリギリまで多忙なケースも珍しくはありません。

 

「そうですね。どんなに遅くとも、できれば12月30日には準備を終えたいところです。31日は一夜飾りで年神様に失礼なので避ける慣わしがありますし、余裕をもって準備をしたほうが、気持ちよく年が越せるのではないでしょうか。

ちなみに12月29日は、29が『二重苦』『苦持ち=苦餅』に通じるので縁起が悪いとする考えがあります。しかし、一方で29は『ふく=福』とも解釈できることから、12月29日についたお餅を『福餅』と呼び、福を呼ぶので縁起が良いととらえる家もあります。何が正解かはその家によってケース・バイ・ケースだと思います」

 

一般的には12月28日ごろを目安にお供えする鏡餅。供える場所や置き方などの作法についても、正解を知っておきましょう。

 

「昔はお客さまをお迎えする床の間や神棚にお供えするのが一般的でしたが、それらがない現代の家では、皆が集まるリビングにお供えするのがいいでしょう。ただしテレビや冷蔵庫の上のような騒がしい場所や、人が見下ろすような低い位置は避けてください。飾り棚など目線が高くて落ち着いた場所にお供えするようにしましょう」

 

餅の上の「橙」にはどんな意味がある?

鏡餅といえばお餅の上に乗せる「橙(だいだい)」もポイントですが、実はこの橙にもちゃんと意味があります。

 

「橙の実は木から落ちずに成長し、1本の木に代々の実がなります。そこから代々家が続く、子孫繁栄といった意味で用いられていますが、実が大きくお餅のサイズに合わないことも多いため、現代ではみかんも代用されています。そもそも柑橘類の『きつ』が『吉』に通じるので、おめでたいモチーフとして古くから着物や書画に描かれてきました」

 

鏡餅に乗せる橙は、先ほど出てきた「三種の神器」でいう「勾玉」にも見立てられているそうです。

 

「餅が『鏡』、餅の上に乗せる橙が『勾玉』。そして残る『剣』を表しているのが、西日本でよく用いられる串柿です。串柿は橙と同様、お餅の上に乗せて飾ります。また鏡餅は、『三方(さんぽう)』という供物を乗せる台に飾るとより丁寧です。そこに白い和紙か四辺を赤く染めた『四方紅(しほうべに)』という紙を敷き、さらに『裏に黒い心がない』といった意味を示す『裏白(うらじろ)』という常緑のシダ、神様の降臨を表す『紙垂』を敷いてから鏡餅を置き、『喜ぶ』という意味の『昆布』、橙を乗せれば、本格的なお飾りになります」

 

ただし、必ずしもすべてを揃える必要はないそう。

 

「大切なのは、お供えする場所を清浄に保つこと。気持ちさえこもっていれば、白い和紙などを敷いて鏡餅を置き、柑橘類を乗せるだけでもじゅうぶんです」

 

木槌で割り、神様の力をいただこう

松の内が明ける頃、お供えしてある鏡餅にはだんだんとヒビが入ってきます。11日になったらお供えを下げて、いよいよ「鏡開き」です。

 

「餅は刃物で切るのではなく、家族みんなで分け合って食べられる大きさになるまで木槌や手で割ります。木槌がなければ金槌でもいいでしょう。結構な力が必要なので、丈夫なテーブルや畳の上などに敷物を敷いて行ってください。どうしても割れない場合は、半日ほど水につけてふやかしてから、レンジで温めて手で千切ってもかまいません」

 

開いた餅は、ひとかけらも残さずいただくことが大切だそう。

 

「年神様が宿ったお餅ですから、残してはいけません。食べ方は、お雑煮はもちろん、お汁粉にしてもおいしくいただけ、細かいかけらも入れて煮ることができます。ちょっと気分を変えたいなら、さっと揚げて『かきもち』にするのもおすすめです。実は『かきもち』の名前の由来は、鏡餅を小さく欠いた『欠き餅』からきているんですよ」

日本人の多くは、幼いころから漠然と正月の風習と触れ合いながら育ちます。しかし、家に年神様をお迎えする、鏡餅に神様が宿るといった正月行事の意味合いは、あまり知らない人も多いのではないでしょうか。

 

「まずは、意味をきちんと知ることが大切だと思っています。たとえば年末の大掃除というと、現代ではその手法にばかり注目が集まりますよね。しかし、そもそも正月を迎えるためになぜ大掃除をするのかに目を向けてみると、年神様をお迎えして1年の健康や幸せを祈るという、古くから大切に受け継がれてきた日本人の精神性に触れることができます。コロナ禍によって家の中での過ごし方に関心が集まっているいま、こういった風習をあらためて学ぶことは、人生の豊かさにもつながるのではないでしょうか」

 

今時はコンビニや100円ショップでも手に入れられる鏡餅。この正月は、鏡餅から新年のパワーをいただいてはいかがでしょうか。

 

プロフィール

和文化研究家 / 三浦康子

古を紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Web、講演などで提案しており、「行事育」提唱者としても注目されている。連載、レギュラー多数。All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとる。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)、監修書『季節を愉しむ366日』(朝日新聞出版)ほか多数。
HP


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初心者が挑戦すべきおせち「黒豆」の煮方と「数の子」の塩抜き〜漬け方とは

正月料理といえばおせち。毎年お母さんが作ってきた、という家庭が多いでしょう。そろそろ自身でも作れるようになりたいと思うなら、まずチャレンジすべきは「黒豆」と「数の子(かずのこ)」。初心者のために、シワなく艶やかに仕上げるのが難しいと言われる黒豆の煮方と、覚えてしまえばすぐにできるようになる数の子の漬け方を、料理家の吉川愛歩さんに教えていただきました。

 

【関連記事】年越し蕎麦や正月飾り、おせちに初詣……正月の縁起物・縁起事には全部意味があった!

 

おせち料理には欠かせない、「三ツ肴(みつざかな)」とは?

おせち料理は、手をかけて作られたさまざまなお料理がぎっしりとお重に詰められているもの。江戸時代以降、おせちは正月の祝いに欠かせないものとなりました。

 

「とはいえ、それだけのご馳走を用意することができた人ばかりではありませんでした。そんな時代にも、食材が安価で庶民でも準備ができた三つの祝い肴(お祝いの席で出る酒の肴のこと)とお餅さえあれば、正月を迎えられると言われてきたそうです。関東では黒豆、数の子、田作りの三つが “三ツ肴” で、関西では黒豆と数の子の他に、たたきごぼうが挙げられます。黒豆は乾物で、数の子は塩漬けになっていて保存がきくため、多くの地域に広まったとの説も。この季節になると、さまざまな地域の台所で、黒豆と数の子を仕込んでいたのでしょうね」(料理家・吉川愛歩さん、以下同)

 

黒豆にはどんな意味がこめられている?

黒豆には、真っ黒に日焼けするくらい健康でまめまめしく働けるように、という意味があり、「まめな人」や「まじめである」ことの象徴でもあります。おせちに入る蜜煮は、乾燥した豆を戻し、砂糖としょうゆを入れてふっくらと煮た料理です。

 

「昔は保存性を高めるためにも、たっぷりの砂糖で煮るものでしたが、今はそこまで保存のことは気にしなくてもいいので、控えめの甘さで仕上げていきましょう。できあがるまでに時間はかかりますが、慌てずじっくり作るのがおいしさのコツ。いつまででもパクパクと食べられて、やみつきになる黒豆ができあがります」

 

“錆びた釘” を入れるのはなぜ?

黒豆を煮るというと、必ず登場するのが「錆びた釘」。これは、黒豆に含まれるアントシアニンが鉄と反応して、黒豆の退色を防いでくれるから。鉄分と一緒に煮ることで黒豆がより黒く美しく仕上がるため、錆びた釘と一緒に煮るレシピが受け継がれてきたのです。

 

「でも、錆びた釘があるという家庭はあまりないですよね。鉄玉子というお料理専用の鉄の塊が売られているので、それを購入するのもひとつの手です。我が家では、写真のような鉄板を鍋の底に敷いて、一緒に煮ることもあります。つまりは、どんなものでも鉄といっしょに煮ればいいのです。ちなみにストウブのような鉄鍋はホーロー加工され、鉄分が溶け出さない仕組みになっています。加工されていない鉄鍋なら、そちらで煮ることもできます。ただ、無理して黒さを意識しなくても、ものすごく薄い色になってしまうことはないので、なければなくても大丈夫。充分きれいな黒豆になります。今回作ったものも、鉄製品を使わずに煮たものです」

 

甘さ控えめでちょっぴり塩気のある「黒豆の蜜煮」

黒豆の蜜煮は、二日かけて仕上げるお料理です。1日目はたっぷりの熱湯で乾燥した豆を戻し、2日目にじっくり煮ていきます。

 

「黒豆は、必ずその年に収穫された新豆を選びます。古くなった豆はどうしても硬くなりがちで、戻しきれないまま煮ることになってしまったり、煮上がるまでに時間がかかってしまったりします。できあがった蜜煮は、そのまま食べるほかパンケーキに入れて焼いたり、蒸しパンに混ぜたり、お菓子のアクセントとして使うのもおすすめです。冷凍することもできるので、食べきれなかったら保存容器や保存袋に入れて冷凍しましょう」

 

【材料】

・黒豆……250g
・重曹(食用)……小さじ1/2
・水(蜜用)……600ml
・砂糖……180g
・しょうゆ……小さじ1
・塩……ふたつまみ
・みりん……大さじ1

 

【作り方】

1.ボウルか鍋に黒豆と重曹を入れ、たっぷりの熱湯(分量外)を加える。

「黒豆は、重曹入りの熱湯で戻します。重曹を入れると豆が早くふっくらと煮える上に、皮が破けにくくなります。また、水で戻してしまうと、皮が戻るよりも実が膨らむほうが早くなり、皮が破けてしまいます。豆の3倍くらいの量の熱湯を加えて、膨らんでも豆がお湯から出ないよう、表面をラップやキッチンペーパーで覆っておきましょう」

 

2.一晩(8時間)置いて、豆を戻す。

「右が乾燥している豆、左が8時間浸しておいて戻った豆です。ふっくらと大きくなっていたら、次の工程にうつります」

 

3.戻した黒い水のまま、鍋で強火にかける。沸騰したら弱火にして1時間半煮る。

「戻したときの水のまま、鍋で加熱します。強火にかけるとモコモコと重曹の泡が出てくるので、出てくるたびに取りましょう。泡が落ちついたら、弱火でコトコトと煮ていきます」

 

4.豆が柔らかくなったら人肌まで冷まし、ぬるま湯で洗う。

「食べてみて、豆が簡単に舌でつぶれるくらいの柔らかさになったら、そのまま人肌になるくらいまで冷まします。手が入れられる温度になったらざるにあけ、ぬるま湯でそっと洗います。水を換えながら、重曹を洗い流しましょう。このとき、急に冷たい水に入れてしまうと、豆が破けやすくなります。豆の温度を急激に換えないように注意しましょう」

 

「丁寧に煮ていても、このように皮が破けてしまうものがありますが、気にせず一緒に煮ましょう」

 

5.鍋に水と砂糖、しょうゆを入れて沸かす。

「砂糖が溶けるまで加熱します。ちなみに砂糖は、上白糖でもきび糖でもお好みのもので構いません。白い砂糖を使うとすっきりとした甘さに、茶色い砂糖を使うとコクのある甘さに仕上がります」

 

6.黒豆を入れて1時間煮たら、しっかり冷ます。

「豆を入れたらキッチンペーパーを3枚くらい重ねて落とし蓋にします。木の落とし蓋は豆には重すぎるので、キッチンペーパーで。ただし1枚だと、豆が空気に触れてしまう可能性があり、皮にシワがよってしまうので、厚めに覆います。煮ている間に水分が飛んでしまったら、鍋の中の温度が変わらないようお湯を差し、常に黒豆がしっかり水に浸かっているようにします」

 

7.蜜だけを鍋に入れ、煮詰める。

「1時間煮たらしっかり冷まし、黒豆をざるにあけて、今度は蜜だけを1/3くらいの量になるまで煮詰めます」

 

8.蜜に黒豆を戻し、みりんをまわしかけてさっと混ぜて火を止める。

「蜜ができたら豆を戻して、最後に  “追いみりん”  をします。みりんをまとうと、ふくよかな香りがして、上品な味に仕上がります」

次のページでは、数の子の漬け方を、下ごしらえとして不可欠な塩抜きとともに解説していただきます。

数の子は子孫繁栄を祈る縁起の良い食べ物

続いては数の子です。数の子は、ニシンのたまごのこと。アイヌ語でニシンを「カドイワシ」と呼び、その子どもを「カドの子」と呼ぶようになったことが語源という説があります。正月料理として定着したのは江戸時代で、当時は今のように高価ではなく、もっと簡単に入手できる食材でした。

 

数の子の粒の多さが子孫繁栄を示し、縁起がよいと結納品としても活躍しました。ニシンには「二親」という漢字が当てられることがあり、ふたりの親からたくさんの子宝に恵まれるようにという意味が込められています。

 

「売られているものは、ほとんどが塩漬けになっているものか、すでに塩抜きして味付けされているもののどちらかです。塩漬けのものはそのまま食べられないので、塩抜きして漬け汁に漬けてからいただきます」

 

プチプチした音と食感を楽しむ「数の子のおだし漬け」

数の子を塩抜きしてだしに浸していただく、おせちの定番レシピ。塩抜きに一日かかるので、早めに準備しなくてはならないお料理のひとつです。

 

「数の子をおいしく仕上げるポイントのひとつは、しっかりと塩抜きすること。時間を守るというより、塩が抜けているかきちんと味見をして確かめてから、だしに漬けるようにします。もうひとつのポイントは、おいしい出汁(だし)をひくこと。昆布とかつおぶしでひいた一番だしを使います。このひと手間が、数の子をぐっと上品な味に仕上げます」

 

【関連記事】昆布・煮干し・鰹節のだしの取り方を徹底解説! レンチンや水出しなど手軽な出汁取り方法も

 

【材料】

・数の子……5本
・水……400ml
・塩……小さじ1/2
・だし……150ml
・うすくちしょうゆ……大さじ2
・酒……大さじ1
・かつおぶし……適宜

 

【作り方】

1.ボウルに水と塩を入れてよくかき混ぜて塩を溶かし、数の子を入れて丸一日置く。

「水から数の子が出ないよう、キッチンペーパーやラップを密着させて置いておきます。塩水で塩抜きするのは不思議かもしれませんが、呼び塩といって真水に漬けるよりも早く塩が抜け、数の子が水っぽくならずに塩抜きすることができます」

 

2.白い薄皮を指の腹でこすりながら剥く。

「薄皮は口に残るので、両面をよく見て丁寧に取り除きます」

 

3.鍋にだしを入れて沸かし、うすくちしょうゆと酒を入れて冷ましたら、数の子を入れる。

「キッチンペーパーで覆ったら、このまま一晩置いて味を含ませます。盛りつけるときに、かつおぶしをのせましょう」

 

今回は、黒豆の煮方と数の子の漬け方だけをご紹介しましたが、毎年1〜2品ずつでもレシピを覚えていけば、だんだんと作れる品数も増えていきます。手作りした分、特別なお正月に。ただでさえ慌ただしい年末ですが、家族や周りの人が健康でしあわせであるよう願いながら、おせちの用意ができたらいいですね。

 

プロフィール

料理家 / 吉川愛歩

出版社に勤務後、ライターとして独立。雑誌や書籍の出版に携わりながら茶懐石を学び、料理家・フードコーディネーターとして活動をはじめる。企業広告や雑誌等でレシピを制作するほか、趣味が高じて『メスティン自動BOOK』(山と渓谷社)や『キャンプでしたい100のこと』(西東社)などでアウトドア料理のレシピを考案。また、誰にとっても読みやすいバリアフリーレシピの書き方を研究中で、編集者・ライターとしても幅広く活動している。『1年生からのらくらくレシピ』(文研出版)や『糖質オフのやさしいお菓子』(ワン・パブリッシング)の制作に携わり、『日本一おいしいソロキャンプ』(KADOKAWA)では執筆とともに調理も担当している。

 


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年越し蕎麦や正月飾り、おせちに初詣……正月の縁起物・縁起事には全部意味があった!

古くからのしきたりに触れる機会が多い年末年始。一年の締めくくりや、年始早々から「縁起の悪いこと」はしたくないですよね。そこで今回は「現代礼法研究所」の主宰を務める岩下宣子さんに、気持ちよく新年を迎えるために知っておきたい、大晦日から正月にかけての“縁起もの”や“縁起ごと”にまつわる、いわれとマナーについて教えていただきました。

 

【大晦日】一年を締めくくる大切な一日

そもそも正月とは、健康と幸せをもたらす「年神(歳神)様」を家に迎えてお祝いをする行事。昔の大晦日は年神様をお迎えするために神社に参拝し、寝ずに過ごす日とされていて「寝ると白髪になる」とも言われていたそう。そういう習慣はなくなっても、現代でも変わらず大晦日は、一年を締めくくる大切な日です。そんな大晦日にまつわる縁起ごとや縁起ものについて、岩下さんに教えていただきました。

 

・年越しそば

「年越しに食べる料理と言えば、『年越しそば』ですよね。しかし東北など、地域によっては『年越し膳』と呼ばれるおせち料理を食べるところもあります。その理由は、江戸時代までは日没が一日の始まりとされていたから。当時は、大晦日の夜はすでにお正月と考えられていました。

年越しそばを食べる理由は、大きく3つあります。1つは、細く長くのびることから『末永く健康に過ごすため』。2つ目は、麺がちぎれやすいことから『悪運との縁を断ち切るため』。3つ目は、金粉を集めるときにそば粉を使っていたことから『金運を強めるため』。毎年なんとなく年越しそばを食べていた人も、『なぜ食べるのか』を少し意識して、来年が良い年になることを祈りながら味わってみてください」(岩下さん、以下同)

 

・除夜の鐘

「大晦日の夜には、除夜の鐘を108回鳴らします。この『108』という数字は、人間の煩悩の数を表しています。そもそも煩悩とは、怒り、苦しみ、欲望といった心の乱れのこと。一年の最後の日に、煩悩と同じ数だけ鐘を鳴らすことで、それを消すことができると考えられています。また、107回は年内に、108回目は年が明けた瞬間に鳴らすのがルールです」

 

【お正月飾り】年神様を迎えるための大切なしきたり

昔は12月13日が「お正月事始め」とされていて、この日から、家の内外を掃除する「すす払い」など、新年を迎えるための準備が行われていました。中でも、年神様を迎えるために欠かせない「お正月飾り」の準備はとても大切です。これらは、いつ、どのように飾るのが正しいのでしょうか? 理由とともに教えていただきました。

 

お正月飾りはいつから準備する?

お正月飾りを飾るのは『すす払い』が終わってから。しかし、29日は『二重苦』、31日はお葬式を連想させる『一夜飾り』になってしまうため、この2日間に飾るのは縁起が悪いと考えられています。最近ではクリスマスが終わってから準備をする家も多いと思うので、26、27、28、30日のいずれかに飾るのが良いのではないでしょうか」

 

・注連飾り(しめかざり)

「そもそも注連縄(しめなわ)とは、神様の世界と下界を隔て、『ここから先は神聖な領域である』ということを示すもの。注連縄を張ることで神様を招く力が強くなるとも言われています。お正月の注連飾りも、より強い力で年神様を招くために飾られます。また、注連飾りは『すす払い』が終わったことを年神様に知らせるためのサインでもあります」

 

・門松

「門松は、年神様が迷わず降りて来られるようにするための大事な目印。玄関に左右一つずつ並べるのが一般的です。門松がない家には年神様は降りて来られません。松のリースや盆栽などでもいいので飾ってくださいね」

 

・鏡餅

「門松を目印にして家に入って来られた年神様が鎮座するのが、鏡餅です。鏡は、神社などでご神体とされているところが多く、重ねた餅を鏡に見立てて『鏡餅』と呼ぶようになりました。また鏡餅の上に乗せる『橙(だいだい)』には、家が『代々』続くようにという意味が込められています。鏡餅は、神様へのお供物であり鎮座される場所なので、床の間やサイドボードなどの高いところに置くのが良いと思います」

 

片付ける時期や家庭での処分方法は?

「お正月飾りを片付けるのは、一般的には1月7日の『松の内』が終わってから。どんど焼きやお炊き上げをするのがベストですが、私は家庭で処分することもあります。その際は、お正月飾りを包装紙に包んで塩と酒を撒き、清めてからゴミ袋に入れるようにしています。ちょっとした心遣いや感謝の気持ちを持って処分するようにしましょう」

 

【お正月料理】すべての食べ物に意味がある

華やかな料理が並ぶ、お正月の食卓。たくさんの料理がありますが、その一つ一つには、きちんと意味が込められています。その中でも良く食べられている料理について、縁起の良い理由や食べられるようになった由来をうかがいました。

 

・御節(おせち)料理

「おせち料理は、年神様を迎えてお祝いし、幸せを祈るためのものです。関東では黒豆・数の子・ごまめ、関西では黒豆・数の子・たたきごぼうを『三つ肴』または『祝い肴』と呼び、おせち料理に欠かせない3種とされています」

 

・黒豆
「黒豆には、語呂合わせで「まめ」に暮らせるようにという願いが込められています。また、黒はもともと魔除けの色でもあります」

 

・数の子(かずのこ)
「ニシンの卵である数の子。小さな卵がたくさん集まっていることから、『子孫繁栄』を願う意味が込められています」

 

・五万米(ごまめ
「五万米とは、片口鰯を炒って甘辛く煮詰めたもの。田植えの際に肥料にすると米が多く取れたことから、漢字で『五万米』と書くようになりました。おせち料理では、新年の豊作を祈るために食べられています」

 

・たたきごぼう
「ごぼうは、豊年のときに飛んでくる黒い鳥『瑞鶏(ずいちょう)』に似ていることから、豊作や息災を願う縁起の良い食べ物とされています。また、ごぼうは地中深くまで根を張るため、『地に足がついて安定する』という意味もあります」

 

続いて、「三つ肴」以外のおせち料理の意味や由来についても教えていただきました。

 

・海老
「腰が曲がっている海老は『長寿』への願望を表しています。また、海老が脱皮して成長していく様子は『新しく生まれ変わる』というイメージを与えるため、祝い事には欠かせない縁起の良い食材とされています」

 

・蒲鉾(かまぼこ)
「かまぼこは半月型の形が日の出に似ていることから、新しい門出を祝う日に食べられるようになりました。また、お正月によく食べられるのは赤と白のかまぼこ。赤は魔除け、白は清らかさを表しています」

 

・伊達巻(だてまき)
「伊達巻は、卵と魚のすり身と砂糖を混ぜて焼き、渦巻のように巻いてつくられたもの。巻物のような形が書物に似ていることから知性の象徴とされ、『学業成就』などの願いが込められています。また『伊達』には『粋』という意味もあり、かっこよく“粋”に生きられるようにという意味もあるようです」

 

【関連記事】“年取り魚”とは? 境目はどこ? 正月に知りたい鮭と鰤の話

 

・お雑煮

「地域によってさまざまな特色があるお雑煮。もともとは、神様へのお供物を下げて、それと餅を一緒に煮たものでした。餅自体にも神様が宿っていると考えられていて、昔から縁起のよい食べ物とされています」

 

・祝箸

「お正月の食事には『祝箸』を使います。めでたい日に箸が折れてしまうと縁起が悪いため、祝箸には丈夫で折れにくい柳の木が使用されています。また祝箸は、真ん中がふくらんでいて両端が細くなっているのも特徴です。真ん中のふくらみは妊婦を連想させ、『子孫繁栄』の意味があります。両端が細くなっている理由は、片方は神様用、もう片方は人間用と考えられているからです。そのため祝箸は逆さにして使わず、どちらか片方だけを使うようにしてください。また祝箸は三が日の朝に使うのが一般的なルール。袋に名前を書くなどして、この期間は他の人の箸は使わないようにしましょう」

 

【初詣】正しく参拝して、新しい一年をスタート!

新年を迎えて初めてお参りする「初詣(はつもうで)」。毎年お参りにいくものの、意外と正しいルールを知らない方も多いのではないでしょうか? 初詣に行く前に知っておきたい参拝の仕方や、おみくじ・おまもりに関するマナーを教えていただきました。

 

・神社への参拝

「初詣はもともと元旦にするものでしたが、今は1日から3日までの三が日に参拝すれば良いと考えられています。また昔から祝い事は、魔物が出る夕方~夜を避け、午前中に行うのが良いとされているため、初詣もできるだけ日没までに参拝するのが良いと思います。

また初詣は本来、家から一番近い『氏神詣』と、その年の縁起の良い方角にある寺社に『恵方参り』の2か所に参拝するのが一般的でした。しかし今は、有名な神社に参拝する人も大勢います。日本には八百万の神様がいますが、どの神様もとても寛容なので、好きなところに好きなように参拝しても罰当たりにはなりません。それぞれの神様に感謝の気持ちを持つことを忘れないようにしてくださいね」

 

参拝のルール

1.鳥居の前で一礼する。
2.鳥居をくぐるときには、中央を通らずに端を通る。……鳥居の正面から見て左側に手水舎(ちょうずや)がある場合は左側を、右側にある場合は右端を通る。
3.手水舎でお浄めをする。……お浄めのときは、左手、右手の順に水をかけ、左の手のひらに水をためて口をすすぐ。最後に柄杓を立て、残った水を柄にかけて流す。柄杓に水をためるのは一回だけ。
4.拝殿へ行き、鈴があれば鳴らして賽銭を入れる
5.二礼、二拍手、一礼の順で参拝する

 

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・おみくじ

「おみくじに書かれているのは、神様からのお言葉です。おみくじを引いて受け取るときや紙を開くときは、両手で丁寧に行いましょう。また、読み終わったおみくじを、境内の木の枝に結び付ける人も多いですが、私は持ち帰って財布や大切な引き出しの中に入れておくのも良いのではないかと思います。何かに悩んだときや迷ったときに読み返せば、神様からのお言葉が支えになったりヒントになったりするかもしれません。もちろん、神社に置いて帰るのも『縁起が悪いこと』ではないので、自分が良いと思った方法で最後まで大切に扱ってくださいね」

 

・お守り

「お守りはいわば、持ち運べるようにコンパクトにした『ご神体』。粗末にせず、大切に扱ってください。また、お守りの有効期限は基本的に一年間と考えられています。有効期限が過ぎてしまったお守りをずっと持っていても問題はありませんが、お正月には神社でお炊き上げなどをすることも多いので、そのときに持って行くのが良いと思います。お炊き上げができない場合は、神社に納めるのも一つの方法。感謝の気持ちを持って手放せば、罰当たりにはならないはずです」

 

「年神様を迎えるお正月があることで、また新たな希望を持って一年間を生きることができます。新しいことを始めたり目標を考えたりするのにもぴったりな機会ではないでしょうか。ぜひ、家族や大切な人と互いの健康や幸せを祈りながら、和やかに過ごしてくださいね」

 

【プロフィール】

現代礼法研究所 主宰 / 岩下宣子

NPOマナー教育サポート協会 理事・相談役。30歳からマナーの勉強を始め、全日本作法会の故・内田宗輝氏、小笠原流・故小笠原清信氏のもとで学ぶ。1985年に現代礼法研究所を設立。マナーデザイナーとして、企業、学校、商工会議所、公共団体などでマナーの指導、研修、講演と執筆活動を行う。著書に『知っておきたいビジネスマナーの基本』(ナツメ社)、『ビジネスマナーまる覚えBOOK』(成美堂出版)、『好感度アップのためのマナーブック』(有楽出版社)、『図解 マナー以前の社会人常識』『図解 マナー以前の社会人の基本』『図解 社会人の基本 マナー大全』(講談社)『<カラー版>これ一冊で完ぺき!マナーのすべてがわかる便利手帳』(ナツメ社)などがある。新刊『相手のことを思いやるちょっとした心くばり』が2021年11月に発売。

1月7日の「七草粥」から始める、胃腸が整うおいしいおかゆの作り方

1月7日の朝に食べる七草粥(ななくさがゆ)は、一年の願いを込めていただく食事。そもそもおかゆとは、胃腸がまだ発達していない子どもの離乳食にもなるほど消化によく、胃腸に負担がかかりにくいので、行事食以外でも積極的に作りたいところです。

 

管理栄養士の鈴木あすなさんに、七草粥の正しい作り方やゆえんに加え、おかゆのおいしい作り方を教えていただきました。おかゆ作りは、生米から炊くおかゆから、炊き上がったごはんから作る簡単な方法までを紹介していきます。

 

七草粥とは“無病息災”を祈る食べ物

セリやナズナなど、7種類の野菜“春の七草”を入れて炊く「七草粥」は、“人日の節句”(じんじつのせっく=)に無病息災を祈っていただくもの。

 

「古くは中国から伝わった願掛けであるとも言われています。節句に節目としていただくのはもちろん、そもそも現代人は常に食べすぎていると指摘されているので、胃腸を休めるため、疲れたときにおかゆを作っていただくのもいいでしょう。七草粥には、脂質やタンパク質が豊富に入っているわけではないので、これだけで栄養バランスが整うわけではありませんが、ミネラルやビタミン、食物繊維は七草から摂れ、デトックスにもいいんですよ」(管理栄養士・鈴木あすなさん、以下同)

※じんじつのせっく。五節句のひとつに数えられる。五節句とは、1月7日の人日にはじまり、3月3日(上巳)、5月5日(端午)、7月7日(七夕)、9月9日(重陽)をいう。

 

“春の七草”とは?

・セリ……奈良時代から食用とされていたことが古事記や万葉集にも残っているセリ科の植物。香りがよく、料理では三つ葉のようにも使われる。

・ナズナ……アブラナ科の植物。ペンペン草とも呼ばれ、河原や草原でも自生している。

・ゴギョウ……キク科の植物。ハハコグサとも呼ばれ、昔はよもぎではなくゴギョウで草餅を作ったそう。

・ハコベラ……ハコベともいう。野原でよく見かけるナデシコ科の植物。白くて小さいきれいな花が咲く。

・ホトケノザ……コオニタビラコのことで、キク科のもの。図鑑などで見るホトケノザとは別の植物。

・スズナ……アブラナ科の植物。蕪(かぶ)は別名スズナといい、春の七草でもその呼び名が使われる。

・スズシロ……アブラナ科の植物。大根の葉の部分のこと。

 

七草粥の炊き方

七草粥は、その見た目から苦味やえぐみが強いのでは? と敬遠されがちですが、実はどの葉にも味に強いクセはなく、あっさりとしていてとても食べやすいものです。

 

「七草粥の作り方は、通常おかゆを炊く場合とさほど変わりません。おかゆの炊き方はこのあと解説しますね。

 

ただし、葉をはじめから入れてお米と一緒に炊いてしまうと、葉に火が入りすぎてしまい、見た目も食感も悪くなってしまうので、お粥を炊き上げてから、別でさっと茹で、刻んでおいた七草を入れていただきます。葉の歯応えや香りが残り、おいしくいただけますよ」

 

ここからは、おかゆの基本と、作り方を教えていただきましょう。

 

全粥、五分粥……おかゆの種類には何がある?

“おかゆ”とひと口に言っても実は、いくつかの種類があります。それぞれどのようなものか、鈴木あすなさんに解説していただきました。

 

「まず間違えがちなのは、“おかゆ”と“おじや”です。どちらも炊いたごはんから作れるのですが、おかゆの場合は炊いたごはんを一度洗ってから煮ていきます。洗うことでデンプンの粘りをなくし、ごはんがさらさらした状態になるんですね。一方、おじやは、炊いたごはんを洗わずにおかゆ状にしたもの。汁が白く濁り、粘り気のある仕上がりになります」

 

・お粥(おかゆ)・全粥……お米1に対して水5で炊く5倍粥のこと。一般的に、おかゆというと、この炊き方のことを指す。

・五分粥……10倍粥ともいい、お米1に対して水を10倍にして炊く。全粥よりとろみがあり、糖質も少ないのでダイエット食にも用いられる。

・重湯(おもゆ)……炊いたおかゆをざるで漉し、お米を取り除いた汁だけのもの。離乳食はここからはじまるので、ファスティング後の回復食にもよい。

・おじや……ごはん(炊いたお米)を洗わずにおかゆとして炊いたもの。お鍋の後にごはんを入れるものを示すこともある。

 

土鍋で生米から炊くおかゆの作り方

はじめに、生米から土鍋でおかゆを炊く方法を確認しましょう。今回使うのは、ごはん炊き用の土鍋ですが、片手鍋や鋳物の鍋などでも同じように炊けます。

「土鍋で炊いたおかゆは、とろみがありながら粘りは少なく、さらりとした食感です。そのままでももちろんおいしくいただけますが、ねぎや梅干し、海苔などをトッピングしても楽しめます」

 

【材料(2人分)】

・生米…100g
・水…500ml

 

【作り方】

1. 生米は洗ってざるにあげ水気を切る

「ざるにあげたら、最低でも10分はこのまま水切りしておきましょう。急いでいないときは30分ほどあげておき、次に進みます。洗ったあとにこうして水をきちんと切らないと、分量よりも水分量が多くなってしまい、仕上がりが変わってきてしまうんです」

 

2. 土鍋に米と水を入れて強火にかける

「沸騰するまでは強火にかけましょう。蓋を少しずらしておき、中が見えるようにして火をつけると、吹きこぼれの心配がありません」

 

3. 沸騰したら、弱火で20〜30分炊く

「弱火にしてからも、吹きこぼれないよう蓋は少しだけ開けておきます。ただし、たくさん開けてしまうと水分が飛びすぎてしまうので、あくまでも吹きこぼれないように少しだけにしてください。20〜30分炊いたら固さを見て、好みの固さになるまで炊きましょう」

 

4. 炊き上がったら、全体を混ぜて盛りつける

「炊き上がったばかりのおかゆは、水分とお米とにちょうどよく分かれています。ここから時間が経つごとにお米が水分を吸ってしまい、水気のないおかゆになっていってしまうので、炊いたら早めにいただきましょう」

 

炊いたごはんから簡単におかゆを作る方法

続いて、炊いたごはんからおかゆを作ってみましょう。

 

「お米から炊くよりも時間が短縮でき、手軽なので、急いでいるときやすぐに食べたいときには便利です。ただ、炊いたお米から作ると、お米が潰れたり溶けたりしやすく、水の色が白色に濁り、粒が感じにくいおかゆができます。おかゆ用に炊くことを考えるなら、少し硬めに炊いておくのもいいでしょう。離乳食やファスティング後の回復食として食べるなら、あえて粒感がないよう、ごはんから作ると手軽でいいかもしれませんね」

 

【材料(2人分)】

・炊いたごはん…200g
・水…500ml

 

【作り方】

1. 炊いたごはんを洗う

「炊いたごはんをざるに入れたら、上から水をかけて手でさっと洗います。ここであまり時間をかけてしまうと、ごはんが水を吸ってしまうので、あくまでもさっと表面を流す程度にしましょう」

 

「ごはんの周りにあった粘り気が取れ、パラパラとした感触になったら炊きはじめましょう」

 

2. 分量の水を入れて火にかけて炊く

「はじめは強火にかけ、沸騰したら弱火にして10分ほど煮ていきましょう。このときも蓋を少しだけずらした状態で上に乗せておきます」

 

「炊けたおかゆに溶き卵を流し入れ、うすくち醤油で味をつけました。たまごの甘みが加わるとさらにおいしく、タンパク質も取れますよ」

 

消化にいいものを摂って胃腸を休めることが、翌日からのパフォーマンスにもつながります。とくに、いつも以上にご馳走を食べる機会が多いハレの日が続く年末年始の後には、体を軽くするためにも、おかゆを食事に取り入れたいもの。七草粥に限らず、おかゆでデトックスする生活をしてみてはいかがでしょうか。

 

【プロフィール】

管理栄養士・料理研究家 / 鈴木あすな

愛知県名古屋市出身。大学卒業と同時に「管理栄養士」を取得し、世界中にたくさんの素敵な食卓=TABLEを作りたいという想いから、株式会社Table forを立ち上げる。現在はテレビ・ラジオ・雑誌のレギュラーを持ち、メディアを通じた情報発信を行う他、料理教室「Table for」の運営や企業とのレシピ開発、商品プロデュース、地域貢献など、より豊かな食卓が増えるよう幅広い活動をしている。著書に『美人をつくる! まいにちの簡単スムージー123』(学研プラス)などがある。

Table for https://table-for.co.jp/



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“年取り魚”とは?境目はどこ?正月に知りたい鮭(シャケ)と鰤(ブリ)の話

その昔、魚はとても貴重な食べ物でした。物流や保存の技術が進んだことで、今日のように魚が毎日でも食卓に出せるようになりましたが、かつて海から遠い地域では、お正月くらいにしか魚が食べられなかったとか。

 

その正月には、鮭や鰤といった魚が、縁起物として親しまれてきました。なぜ縁起物とされてきたのか、そのいわれを、江戸懐石近茶流を受け継ぎ、料理研究家としても活躍する柳原尚之先生に教えていただきました。

 

江戸懐石近茶流嗣家の柳原尚之さんに、「鮭」と「鰤」のうんちくを教えていただきます。

 

年取り魚は「鮭」か「鰤」か?

日本では、大晦日にご馳走を用意して、正月の“年神”さまを迎える準備をする風習があります。普段は食べられないような贅沢な食材も、この日に限っては「年取り膳」として食卓に上ったとか。その年取り膳に上った魚が、「年取り魚」と呼ばれる鮭(サケ・シャケ)や鰤(ブリ)。魚は傷みが早いため、昔は発酵させたり塩漬けにしたりするなど工夫して、遠くまで運ばれていました。

 

「獲れた魚を保存するため、各地方でさまざまな工夫がなされてきました。とくに、米と魚と塩を発酵させて作る“熟れ鮓(なれずし)”は、今でも残っている伝統的な魚のいただき方のひとつです。作り方はほとんど同じなのですが、熟れ鮓の中でも日本海側でよく食べられていたのは“飯ずし(いずし)”で、主に鮭が使われています。石川県や富山県ではこれを鰤とカブで作り、“かぶらずし”と呼んでいます」(江戸懐石近茶流嗣家・柳原尚之さん、以下同)

写真は鮭の飯ずし。(調理・撮影/柳原尚之)

 

「年取り魚は、フォッサマグナ(※日本の主な地溝帯のひとつで、東日本と西日本の境目となる地帯のこと)で有名な新潟県の糸魚川を境にして、鮭なのか鰤なのかが分かれていたようです」

 

まずは、「鮭」について教えていただきましょう。

 

鮭には5つの種類がある

子どもから大人にまで人気があり、身近な魚である鮭。実は、ひと口に“シャケ”と言っても、5種類にも分かれているのです。

 

「わたしたちがよく目にする鮭は、3種類あります。1つ目は、日本海側で獲れる白鮭(シロザケ)。内臓を抜き、塩漬けにしたあと干して作る“荒巻鮭(新巻鮭)”にも使われます。2つ目は銀鮭(ギンザケ)で、鮭の中では小ぶりです。3つ目が紅鮭(ベニザケ)で、北海道や太平洋で漁が行われます。

残りの2種類は、“ピンクサーモン”と呼ばれるカラフトマスと、“キングサーモン”と呼ばれるマスノスケ。どちらも鱒(マス)と言うので鮭とは別物のように感じてしまいますが、サケマス科に入り、同じ種類なんです。

鮭はサーモンとして生でお刺身やお寿司としても食べますが、それはここ20年くらいのこと。生食するものは、寄生虫が入らない養殖ものです。昔は寄生虫の心配がありましたから、生食するときは冷凍してから薄切りにしていただく“ルイベ”が一般的でした」

 

鮭のおいしい季節は“夏前”と“秋”の二度

11月頃になると、スーパーの鮮魚売り場に鮭がずらりと並びます。その印象から、秋だけが旬だと思っている人も多いかもしれません。でも実は、夏の前にも旬があるのです。

 

「新潟県村上市にある三面川(みおもてがわ)では、2月になると鮭の稚魚を放流します。私は小学生のころ生物クラブに所属していたので、イクラを孵化させたことがあるのですが、本当にあの小さな赤い粒から魚の赤ちゃんが出てくるんですよ。そこから稚魚まで育てた鮭は放流されると北米を周り、4年かけてまた元の川に戻ってきます。これを獲ったものが秋に出回る鮭なのです。

一方、夏前の鮭は“時知らず”と言って、回遊の途中で捕獲されたものを指します。産卵する前の状態の鮭なので脂がのっていて、秋とは違ったまた味わいを楽しめます」

 

鮭が“縁起物”とされる理由は“戻ってくること”にあった

成長すると同じ川に戻ってくる鮭は、大きくなって“出世”した姿で田舎に戻ってくることから、縁起が良いとされてきました。

 

「“尾頭つき”は特に縁起がいいので、荒巻鮭一匹をお歳暮や新年のご挨拶に送る風習もありました。一尾をおろしていただきますが、高橋由一(たかはしゆいち)の絵画のように、一切れずつ切り分けながら食べる方もいらっしゃいます。

また、イクラは、南天に見立てられることから縁起が良いと言われ、大根おろしと混ぜ合わせた“雪中南天”としてお節(おせち)に入れます。日本海側のお雑煮には、上にイクラをのせることもありますよね。

ただ、わたしたちがよく目にするイクラは、海で獲った鮭の子(筋子)なので、皮が柔らかく、割れてしまいやすいのです。お雑煮にのせるものは川に戻ってきた鮭の子(バラ子)で、皮が強く、食べるとプチプチとした食感が楽しめます。バラ子は残念ながらスーパーでは見ることが少ないのですが、ここにも地域性が現れていますよね」

 

おせちに入れたい、鮭のさまざまな料理法

それでは少し鮭を使った料理法についても教えていただきましょう。一般的に馴染みがあるのは焼き鮭。普段の食卓でもおなじみですが、このままおせちに入れることもできます。

 

「以前、父(柳原一成さん)が皇室のおせちを再現したことがありました。そのなかに、鮭に塩と酒を振って焼く“酒塩焼き”というお料理があります。普通の焼き鮭にするときも、酒に漬けておいて、酒を塗りながら焼くと身がふっくらして香りがよく、おいしいですよ。

近茶流ではたまごの黄身を塗って焼く“黄金焼き”にしてお節に入れたり、塩麹に漬けて焼いたりすることもあります。お正月にはこういう料理でなくてはならないという決まりはありませんから、スモークサーモンを薄切りにした大根と巻いて甘酢漬けにすることもあります」

柳原尚之さんの著書『はじめての和食えほん』。北海道の郷土料理で、たっぷりのもやしやキャベツと一緒にいただく“ちゃんちゃん焼き”が紹介されています。鮭の旨みを吸った野菜がたくさんとれて、ごはんが進みます

 

続いては、鰤についてです。

 

同じ魚なのに名前が変わる“出世魚”

鰤は“出世魚”といい、成長とともに呼び名が変わる魚です。また、地方によって呼び名が異なります。

 

関東では小さいサイズから順に、「ワカシ」「イナダ」「ハマチ」「ブリ」となりますが、関西では「ワカナ」「ツバス」「ハマチ」「ブリ」となります。その他地方にも、さまざまな呼び名があります。

 

「昔は12キロ前後のものを鰤と呼びましたが、今はそう大きいものが少なくなり、8キロ前後のものからブリと言います。ちなみに関東でハマチと言うと、鰤の小さいサイズのものだったのですが、今は養殖で育てられた鰤のことを指します。

名前が変わっていくのは、それだけ味や見た目に変化があるからなのですが、豊臣秀吉や明智光秀なども、成長や出世によって名前をいただいて変わっていきましたよね。鰤は成長や出世をする縁起のよい魚として、古くから親しまれてきました。同じ食べ物なのにさまざまな呼び方がある食材というのは、親しまれていた証でもあります。漁は大変ですし、庶民が普通に食べられるものではなかったと思いますが、さまざまな地域で水揚げされ、愛されていた魚です」

 

“鰤おこし”から漁が始まる!

鰤は日本海側で漁が盛んで、富山の氷見や金沢、新潟などで獲れていましたが、最近では水温が高くなった影響で北海道のものが多くなっているといいます。もっとも脂がのっておいしいのは冬、11月ごろから2月ごろまでです。石川県では11月ごろに来る雷雨のことを、“鰤おこし”と呼ぶのだそうです。

 

「鰤おこしの後は、鰤が獲れるという言い伝えがあります。冬型の気候になると、気圧が変化し嵐になるのでしょうね。昔は鮭と同じように発酵させたものや、塩鰤といって荒巻鮭のように内臓を取って漬(づけ)にしたものがよく使われていました。日本海で獲れた鰤は塩鰤にして、信州まで運ばれたといいます」

 

正月には願いをかけて。旨みが強い鰤の料理法

鰤をお正月料理としていただくときにも、特別これと決まった料理法はありません。ただし、おせちに入れるときは日持ちするよう、焼き物にするといいでしょう。

 

「鰤は焼き物にも煮物にも、蒸したり揚げたり、どのような料理にもできる万能な魚です。焼き方も、照り焼きにしたり西京味噌で漬け焼きにしたりと、いろいろな味わいが楽しめます。鰤のいいところは旨みが強くだしが出ることなので、鰤大根のように野菜と一緒に煮物にするのもいいですし、昆布と塩鰤でだしをひいて潮汁にしていただくのもおすすめですよ」

『はじめての和食えほん』の中には、ぶりの照り焼きのレシピがありました。醤油とみりん、砂糖で作る照り焼きは、あまじょっぱくておいしく、蒸し焼きにすることで身がふっくらと仕上がります

 

現代でこそ、大晦日や三箇日であっても買い物ができ、お節や保存食は意味を成さなくなってきていますが、あらためて正月料理を見直してみてはいかがでしょうか? 歴史的な背景やいわれ、食材が、日本全土にどのように運ばれたかなど、ルーツを知ることで料理が一層楽しくなるはずです。

 

【プロフィール】

江戸懐石近茶流嗣家 / 柳原尚之

東京農業大学で発酵食品学を学ぶ。小豆島の醤油会社やオランダの帆船でのキッチンクルーとして勤務後、現在は、近茶流宗家の柳原一成氏とともに、東京・赤坂にある料理教室で、日本料理、茶懐石研究指導にあたる。NHK「きょうの料理」に出演するほか、NHKドラマ「みをつくし料理帖」、大河ドラマ「龍馬伝」などの料理監修、時代考証も数々手がけている。TBS「渡る世間は鬼ばかり」でも、料理所作指導を長く務めた。2015年には文化庁文化交流使に任命され、約3か月諸外国をまわり、日本料理を広める活動を行った。日本食普及の親善大使にも任命されている。子どもへの食育や、江戸時代の食文化の研究、継承もライフワークとして行っている。
https://www.yanagihara.co.jp/


『はじめての和食えほん 冬のごちそうつくろう』(文溪堂刊)
柳原尚之さんが季節ごとに日本の伝統的な料理をまとめた、絵本で読めるレシピ本『はじめての和食えほん』。春から冬まで4冊のラインナップが揃っています。



提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

2月になっても食べたい! メインにつまみにスイーツに……飽きない餅レシピ

正月に主役となるフードといえば、餅。年始にはあんなに食べた餅も、三が日や鏡開きを過ぎてしまうと、食べる機会がぐっと減る上、食べ方も雑煮、磯辺焼き……とマンネリ化しやすいのが悩みの種です。

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そんな正月に食べ切れなかった餅を無駄にせず、いつもとはちょっと違った食べ方で楽しみたい!そんなわがままをフードディレクターの川上ミホさんに伝えたところ、あっと驚くアレンジが。

 

そのポイントは、“食感”のバリエーションにありました。

↑正月に使い切れなかった餅を活用。実は季節を問わずおいしく食べられる食材なのです。ちなみに、あらかじめスリットが入っていない切り餅のほうが、アレンジには向いているとか↑正月に使い切れなかった餅を活用。実は季節を問わずおいしく食べられる食材なのです。ちなみに、あらかじめスリットが入っていない切り餅のほうが、アレンジには向いているとか

 

「揚げもちと牡蠣の味噌和え」でおもちがメインディッシュ化!

20180130_omochi_02餅を食事として楽しめるのが、「揚げ餅と牡蠣の味噌和え」。餅は揚げることで、サクサクの食感を演出しています。“揚げ餅”というとおかきを連想するので“おやつ”のイメージですが、食材と組み合わせることで、しっかりメインを張れるおかずになるんですね。

 

【材料(2人分)】
・切り餅 1.5個
・牡蠣 大6粒
・味噌 30g
・みりん 40g
・しょうゆ 5~10g
・セリ 1.5束
・ごま油 10g

 

まずは、切り餅を6等分にカットします。

次に紹介するレシピでも揚げもちを使用するので、今回はおもち3個を揚げもちにした。↑次に紹介するレシピでも揚げ餅を使用するので、今回は3個を使いました

 

続いて、餅を油で揚げていきます。揚げ物と聞くと難色を示す人もいるかもしれませんが、「お餅は表面に水分がないので油跳ねしにくく、粉を使わないので油も汚れにくいんです」と川上さん。ここで使用する油には、米油か太白ごま油といった、香りが少ないものが適しているそうです。

小さい鍋かフライパンに油(分量外)を2cmほどの深さまで入れ、180度でもちの表面が少しきつね色になるまで揚げる。もちは手で砕いて器に盛っておく↑小ぶりの鍋かフライパンに、油(分量外)を2cmほどの深さまで入れ、約180度で餅の表面が少しきつね色になるまで揚げます。揚がった餅は、手で砕いて器に盛っておきます

 

一方で、タレを作っておきます。味噌、みりん、しょうゆを混ぜ合わせます。このあと、セリは根と茎を5cm、葉をざく切りにしておきましょう。

味噌、みりん、しょうゆを小さいボウルで混ぜ合わせる。これはもちを揚げる前にしてもOK↑味噌、みりん、しょうゆを小さなボウルで混ぜ合わせます。これは餅を揚げる前に準備しておいてもOK

 

小さめのフライパンにごま油を熱し、よく水洗いして水切りをした牡蠣を中火で炒めます。牡蠣に火が通ったかどうかを見るには、身の張り具合を確認してください。表面がパンパンに張っていれば、加熱完了のサインです。

牡蠣に焼き色がつき、表面がぷっくりと張ってきたら火が通った証拠↑牡蠣に焼き色がつき、表面がぷっくりと張ってきたら火が通った証拠

 

あとは、合わせ調味料を加えて、軽く炒めます。このとき、香ばしさが出るように少し焦がし気味に炒めるといいでしょう。

香ばしさを意識して炒めるのがポイント。このままでもごはんのおかずになる↑香ばしさを意識して炒めるのがポイント。このままでも充分、ごはんのおかずになります

 

揚げ餅の上に汁ごとかけて、セリの葉を上からトッピングすれば完成です。

汁もたっぷりかければ、揚げもちにタレがしっかり絡みつきます↑汁もたっぷりかければ、揚げ餅にタレがしっかり絡みつきます

 

和えダレは、ぷりぷりの牡蠣と一緒に香ばしく加熱することで、オイスターソースのような味わいも。その絶妙なタレが絡んだ揚げ餅は、サクサクした食感がたまりません。餅を使った料理ではあるものの、つい白米のごはんも食べたくなるような濃厚な味付けで、酒のつまみにもぴったり。白ワインとの相性も良さそうです。

 

「揚げ餅入り韓国風スープ」はじゅわっと染み出るスープに感動!

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先ほどの揚げ餅を使った別の食べ方が、「揚げ餅入り韓国風スープ」。スープにするならわざわざ餅を揚げなくてもいいのでは、と思われるかもしれませんが、実は揚げていることがとても重要なんです。

 

【材料(2人分)】
切り餅 1.5個
ニラ 20g
牛肉 80g
チキンスープ 300g
大根 60g
醤油 10~15g
コチュジャン 20g
ごま油 5g

 

ニラは4cm長さに、牛肉の薄切りは食べやすい大きさに、大根は皮をむいて7mm厚さのいちょう切りにしておきます。鍋にチキンスープと大根を入れて中火にかけ、煮立ったら弱火にして大根に火を通しましょう。それから、醤油とコチュジャンで調味し、残りの具材を加えていきます。

大根が柔らかくなったら醤油とコチュジャンで調味し、ニラを加える↑大根が柔らかくなったら醤油とコチュジャンで調味し、ニラを加えます

 

大根、ニラ、牛肉の順に具材を加えたら、盛り付け用の器に揚げ餅を入れ、熱々のスープをたっぷりと注ぎかけましょう。好みでごま油を垂らしても構いません。

牛肉を入れて火を通す。このとき、アクが多ければ取っておく。↑牛肉を入れて火を通します。このとき、アクが多ければ取っておきましょう

 

揚げ餅を噛んだときに、じゅわっと口いっぱいに広がるコチュジャンを使ったピリ辛スープがたまりません! また、スープを吸った餅は少しとろりとした食感に。揚げているからこそ、一度にいろんな食感を楽しめるのです。

 

牛肉や大根、ニラなど具がたっぷり入っているので、見た目以上にボリュームも満点。まだまだ続く寒い日にこそ食べたくなりますね。

 

 

餅だからできる、もちもち食感の「ポンデケージョ」

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ポンデケージョといえば、ブラジル生まれのもちもちした食感のパン。パン作りは発酵や温度管理などが難しそうなイメージがありますが、餅を使ったポンデケージョの作り方はとても簡単なんです。

 

【材料(2人分)】
切り餅 100g
牛乳 40g
小麦粉 100~120g
砂糖 30g
卵 1/2個
溶けるチーズ 30g

 

まずは、鍋に切り餅と牛乳を加えて弱火にかけ、焦がさないように牛乳の熱で餅を柔らかくします。ここで焦って火を強くしないでください。

約3分ほどでおもちは柔らかくなる。その間は火の側を離れないのがベター↑約3分ほどで餅は柔らかくなります。その間は火の側を離れないのがベター

 

続いて、木べらでしっかりと練って滑らかにします。耐熱ボウルに入れて600wのレンジに2分かけてから、木べらで柔らかく練り混ぜてもかまいません。

 

次に、ボウルにすべての材料を入れて、しっかりと捏ね混ぜます。手にくっつかないギリギリくらいの固さまで、小麦粉を加えて調節。生地を10個に分けて手で丸め、190度に熱しておいたオーブンで15分焼きましょう。

 

冷えて硬くなってきたら、オーブントースターやフライパンで軽く温め直せば、表面がカリッとした新たな食感も楽しめます。サイズの割に満腹感があるので、おやつとしてはもちろん、食事パンにもいいかもしれません。

 

洋風の味付けが新鮮な「かぼちゃ汁粉」

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餅を使った定番料理のお汁粉も、あんこを作るのが面倒だったりしますよね。また、少し甘さが控えめの甘味が食べたいときに作ってみてほしいのが、「かぼちゃ汁粉」です。

 

【材料(2人分)】
切り餅 2個
かぼちゃ正味 140g
キビ砂糖 20g
牛乳(or水) 80g
マスカルポーネチーズ 20g
メープルシロップ 10g
シナモンパウダー 少々

 

まずはかぼちゃの汁粉を用意します。今回はかぼちゃで作りましたが、さつまいもを使ってもかまいません。

かぼちゃは種と皮を取り除いて柔らかく茹で、お湯をしっかりきってからマッシュする。キビ砂糖と牛乳を加えて弱火で温めて器に盛る↑かぼちゃは種と皮を取り除いて柔らかく茹で、お湯をしっかりきってからマッシュ。キビ砂糖と牛乳を加えて弱火で温めて器に盛ります

 

次に、フライパンで餅を焼きます。餅がぷっくり膨らむ様子に期待が高まりますね。

フライパンでもちの表面に軽く焼き目が付くまで焼く↑フライパンで、餅の表面に軽く焼き目が付くまで焼きます

 

あとは、焼いた切り餅、マスカルポーネチーズを乗せ、メープルシロップを回しかけ、シナモンパウダーをふりかければ完成です。

マスカルポーネチーズとメープルシロップ、シナモンの組み合わせで一気に洋風の汁粉に変身↑マスカルポーネチーズとメープルシロップ、シナモンの組み合わせで一気に洋風のお汁粉に変身します

 

かぼちゃの優しい甘みは、ポタージュスープのような印象を受けます。マスカルポーネチーズとメープルシロップ、シナモンがいいアクセントになっており、各人がメープルシロップで甘さを調節できるのもいいですね。

 

川上さんは「お餅は揚げたり、焼いたり、茹でたりするだけで、どれも食感が異なります。この食感の違いを活かせば、いろんな食べ方ができる万能食材なんです」と話します。たしかに、今回教えてもらったレシピはどれも食感が異なり、だからこそ餅の自由度を最大限に引き出している印象を受けます。

 

このレシピを覚えれば、正月の残りものの餅を使い切るつもりが、ついつい買い足したくなること間違いなし。餅の新たな可能性を楽しんでみてください。
【Profile】
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フードディレクター / 川上ミホ

国内外のレストランを経て独立。食のスペシャリストとして書籍、雑誌、TVなどメディアを中心に活動。2014年、目黒区東山にプライベートレストラン「5 quinto」をオープン。2015年、Louis Vuitton city guide TOKYO 版掲載など注目を集めると共に、同名で食を中心としたライフスタイルブランドをスタートしている。また、2015年には、女優・タレントのローラさんのレシピブック『Rolaʼ s Kitchen』にレシピ提供、執筆、フードディレクションを行い、2016年には『キッシュトースト』を、今年『ギルトフリーなおやつ 食べても罪悪感なし。』を上梓した。

 

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『ギルトフリーなおやつ 食べても罪悪感なし。』
1620円/文化出版局

 

取材・文=今西絢美 撮影=真名子

 

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ヨドバシ、スタバ、カルディなど人気店が「福袋ラインナップ」を発表! 2018年はどこを買うべき?

正月に向けて、各企業が福袋のラインナップを発表。それぞれ中身も充実しており、ネット上では「全部魅力的すぎる」「どれ買おうか悩んでたら2時間経ってた…」と盛り上がりを見せている。

出典画像:「ヨドバシカメラ」公式サイトより出典画像:「ヨドバシカメラ」公式サイトより

 

ヨドバシとスタバは抽選販売に!

あっという間に師走に入り、いよいいよ目前に迫ってきた年末年始。正月の楽しみのひとつとして「福袋」を挙げる人も多く、SNSなどでは既に「今年はどこの福袋を買おうかな」「予算内でいくつ買おう…」と心待ちにする人の声も。

 

そんな中、様々な企業も福袋のPRを開始。「ヨドバシカメラ」は毎年恒例の福袋「夢のお年玉箱」について、今年は抽選販売にすると発表。特設サイトから申し込み、当選者のみ手に入れられる方式だ。申し込み期間は12月1日~8日の午前9時59分までだが、中には12月7日現在で倍率が100倍を超える人気商品も出現。予想を上回る人気ぶりに「油断してるうちに100倍になってたけどダメ元で応募するか…」「毎年争奪戦は激しいけど、数字を改めて見るとすごいな」といった驚きの声が上がっている。

 

抽選方式となるのはヨドバシカメラだけではなく、「スターバックス」も今年から導入。毎年行列必須のスタバの福袋とあって、「申し込もうとしたらアクセスが集中してるのかサーバーが死んでる…」と嘆く人が続出。12月13日の23時59分まで応募を受け付けているので、欲しい人は諦めずに応募してみては?

出典画像:「スターバックスコーヒージャパン」公式サイトより出典画像:「スターバックスコーヒージャパン」公式サイトより

 

ヨドバシカメラやスタバの抽選方式に、ネット上では様々な反響が上がっている。「無駄に並ばなくていいし混雑緩和になるからこれはいい動き」「前までは転売ヤーがいっぱいいたけど、こっちの方が本当に欲しい人が買えるからいいね」といった賛成の声が上がる一方で、「並ぶのが毎年の楽しみだったのになぁ」「これじゃ福袋って感じがしない」と悲しむ声も。抽選方式がどのような効果をもたらすのか、今後の動きに目が離せない。

 

カルディの福袋も大人気

コーヒーと輸入食品を取り扱う「カルディ」も、2018年の福袋について詳細を発表。定番人気商品や福袋でしか手に入らない商品を集めた「食品福袋」や、厳選された和食材を詰め合わせた「もへじ 和の福袋」は引換券との交換が可能。他にも様々なコーヒーがセットになった「人気セット」や「こだわりセット」、「ワイン福袋」など充実したラインナップが注目を集めている。

 

出典画像:「カルディコーヒーファーム」公式サイトより出典画像:「カルディコーヒーファーム」公式サイトより

 

カルディの福袋は毎年欠かさずに買うファンも多く、「カルディのは中身がしっかりしてるから間違いない」「今年もカルディの福袋を最優先で買いに行く予定」との声が。「食品福袋」と「もへじ 和の福袋」はオンラインショップにて抽選販売も行っているので、気になる人はチェックしておこう。

正月くらい休むべき!? ロイヤルホストが24時間営業廃止に続き元旦を一斉休業日に!

ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」などを展開するロイヤルホールディングスが、2018年から元旦を休みにすることを発表。ネット上では「元旦くらいゆっくり休んだ方がいい!」と好意的な声が上がっている。

※画像はイメージです※画像はイメージです

 

ロイホ、てんや、カウボーイ家族が元旦休業!

元旦休業の対象になるのは、ロイヤルホールディングスが経営する「ロイヤルホスト」「天丼てんや」「カウボーイ家族」。全国に展開する店舗の多くが休みとなり、従業員に一斉休日を与える。

 

ロイヤルホールディングスは、元旦の他に5月と11月にも一斉休業日を設定する予定。正月にも営業していることが当たり前となりつつある外食チェーン店において今回の取り組みは珍しく、SNSでは「素晴らしい動き」「もっとこういう店が増えてもいいと思う」など絶賛の声が相次いでいる。

 

ロイヤルホストは過去にも「働き方改革」の一環として、営業時間の短縮などを進めてきた。2017年には24時間営業を廃止したにも関わらず増益を実現している。同じくファミリーレストランの「ガスト」も24時間営業の店舗を大幅に収縮し、「ファミレスは24時間営業が当たり前」といった時代は終わりに近づきつつあるのかもしれない。

 

労働環境を改善する働きは他の企業でも見られ、「ファミリーマート」も24時間営業を見直すことが報じられた。すると賛同する人が続出し、「実際人が全然来ない時間もあるだろうし、全店舗が24時間開けとく必要はないよね」「24時間の店舗が半分くらいになってもいいと思う。本当に必要なものがあれば少し離れた店舗にでもいけば済むし」との声が見られた。

 

さらに最近では多くの企業が人手不足に悩まされていることもあり、「こういうのをしっかりやってる会社の方が人も集まるでしょ」といった意見も上がっている。

 

デパートも正月休みが増える!?

2015年には、三越伊勢丹ホールディングスが一部の店舗を1月2日まで休業することを発表。今まで1月2日が初売りの定番とされてきたが、3日にずらすことで販売員のモチベーション向上などを狙いとしている。こちらも「新年に物を買う方がおかしい」「もっと休んでもいいのでは?」など支持する声が上がっていたが、一方で「2日の初売りが新年の楽しみだったから少しさみしいかな」「忙しくてなかなか買い物にもいけないから、初売りで毎年買いだめしてたのになぁ」と悲しむ声も。

 

しかし「正月は休んだ方がいい」といった意見が大半のようで、「家族でゆっくりおせちを食べるのが本来の日本の正月」「こういう動きが進んでいくと日本ももっとまともになるかもしれない」など将来に希望を見出す人も見られた。

 

これからは正月休みを設ける企業が増えていくのか、今後の動向にも注目していきたい。