頑固でお茶目な臍曲がりが作る魔法のようなラーメン【京王堀之内「口樂」】~田中貴のラーメン狂走曲~

ラーメン好きミュージシャンが一杯の味わいを一曲に例える斬新コラム――

モノ・トレンド情報誌「GetNavi」で2013年から続く連載「ラーメン狂走曲」が、2023年より「GetNavi web」へ引っ越し。通算119杯目となる今回は、最寄りの京王堀之内駅から徒歩20分以上かかる八王子の「口樂(こうらく)」を訪れた。

 

田中 貴

サニーデイ・サービスのベーシスト。2021年には2作目の著書「ラーメン狂走曲」を上梓。CSフジ「ラーメンWalkerTV2」のメインMCをはじめ、テレビ・ラジオ出演、ラーメン関連のコラム執筆も多数。TBS系「マツコの知らない世界」では「ご当地ラーメンの世界」を熱く紹介。

 

得体の知れない、掴みどころがない。謎すぎる店主

僕が好きなラーメン屋の店主は何故か一風変わった人が多い。変な人だからそのラーメンが好きということではなく、純粋に味で評価しているのだが、話してみると凄く変な人ということが多々ある。それも、ナチュラルに変な人。変人ぶってる人が作るラーメンには、何故か強く惹かれない。

 

2012年創業、八王子市下柚木にある「口樂」。ここを教えてくれたのは、同じく八王子の大名店「もつけ」の岡田智也店主。いくつか岡田さんの好きな店を伺ったのだが、自家製麺というのに惹かれ、すぐさま駆け付けたのが3年前。

 

最寄駅である京王堀之内、南大沢からは徒歩で20分はかかる場所。清潔な店内には独特な世界観のオブジェがセンスよく置かれる。まあ、この時点でちょっと変だとは感じていたが、店主の風貌で度肝を抜かれた。三つ編みおさげに長い髭のクールな男前。おぉぉう。インパクトあり過ぎるルックスの店主は、本格的な中華料理店で修業した色川賢一さん。

 

↑色川店主。「下のお名前は?」と聞くと、「けんいちです。一番賢いって書くんですよ。こんなですけど」とお茶目な返事

 

ブリンブリンな食感がたまらない艶やかな極太麺

料理技術の基礎はしっかり身に付けながらも、ラーメンに関しては独学だそう。当時の一番オーソドックスなメニューと思われる「鯵な漢の煮干そば」を注文。

↑「鯵な漢の煮干そば」(撮影/田中 貴)

 

寡黙な店主から手渡されたのは、強い煮干し出汁を香味油がうまくバランスを取る一杯。うどんのような艶やかな太麺がブリンと滑り込む喉越しの良さも素晴らしい。随所に垣間見える強いこだわりに感動し、今まで知らなかったことを後悔しつつ、その後通い続けている。

 

そしてこちらが、「鯵な漢の煮干そば」に相当する現在のオーソドックスなメニュー「中華そば」。

↑「中華そば」850円

 

スープは以前より澄んでいるが、煮干しの味わいはエッジを強めた印象。手揉みでウェーブを出す麺もワイルドさを増している。普通の店では、ベーシックなメニューが数年でここまで大きく変化をすることはない。

↑ひもかわのような平べったい麺も一本入る

 

口樂の最大の魅力は“得体の知れない”ところにある。次々繰り出される限定メニューの創造性と幅広さはもちろんなのだが、そもそもの通常メニューも独創的で、このように頻繁に変更される。

↑自家製麺は手揉みして独自にちぢれさせることも特徴

 

基本的には、全く別な味わいのあっさりとこってりの2種と、その時々の限定がラインナップしている。はずだ。取材を申し込んだ時には「口樂式家系ラーメン」がこってりの定番で、メインで紹介しようと思っていたのだが、取材の数日前に突然止めてしまった。

 

吉村家へのリスペクトを感じさせつつも個性的なスープと、口樂ならではの自家製極太麺の組み合わせは、家系と自ら名乗らなければそうとは思わないオリジナリティーのある豚骨醤油の名作だった。今回初めて会話をする色川店主に、挨拶もそこそこにまずその理由を伺った。

↑店主の背中越しに見えるのが餃子焼き機(後述)

 

「学生たちがそればっかり頼むから、もういいかなと思って」

 

ナイス臍曲がり。ライブでシングル曲じゃなく、マイナーな曲ばかりをやりたくなってしまう僕としては、非常に気持ちがわかる。好みの味のラーメンを作る人とは、なんだか気が合う。僕にはよく起こる現象だ。

 

アド街で紹介された人気メニューもあっさり変更

こんなウマいラーメンを出す口樂だが、ラーメン評論家からは一切評価されていない。というか、情報を足で稼ぐことをしない彼らは、この店の存在すら知らないであろう。駅から遠く離れた場所に隠れるように佇み、メニューは頻繁に変わり、おまけに店構えもちょいちょい変わる。そんな、近所の人にも理解が難しい存在からか、メディアで紹介されることは殆どない。

↑以前の外観。店が変わったのかと思うレベルの変化がチョイチョイある(撮影/田中 貴)

 

しかしなんと、昨年『アド街ック天国』の南大沢特集に出たのだとか。さすが人気長寿番組のスタッフは優秀ですな。紹介されたのは、その当時のメニュー「ルージャン麺」と、餃子をつけ麺のつけ汁に漬けて食べるオリジナルの「つけ汁餃子」。

↑当時の外観。暖簾には「元祖 名代 つけ汁餃子」の文字が(撮影/田中 貴)

 

だが、放映からしばらくして、どちらもメニューから消えた。「つけ汁餃子」はオンエアー前から人気で、暖簾も「餃子」と大きくデザインされたものに変更し、餃子焼き機まで導入する力の入れようだったのに。

↑単品の餃子は存在する。3個260円、6個520円で、タレは自家製の焼肉ダレで提供。ただし焼肉はメニューにはない

 

「人気店になりたくない訳じゃないんですけど、今やりたい事だけをやりたいんですよね」

 

取材を拒否する訳でもなく、便乗して一儲けしてやろうという気もない見事なマイペースっぷり。友達になれそうな気がする。

 

「ルージャン麺」も評判のメニューで、時折メニューにラインナップする。例の絶品極太麺に、中国の屋台でよく見かける羊肉串を思わせるスパイシーな焼豚、アチャールのような野菜類、生姜、フライドオニオンなどを特製の甘辛いタレに絡めて食べる。

作るのも相当な手間がかかるほどに多種の食材や調味料が入り、見るからに食欲をそそる。あらゆる味が混ざり合って完成する緻密に計算された味わいと、元々相当な二郎好きである色川店主ならではの豪快さが共存する一杯。

↑「ルージャン麺」880円。取材時には復活していたが、また消える可能性は高い

 

辛いルージャン麺(「中辛」+50円、「大辛」+100円)もメニューにあるが、さらなる刺激を求めるならキャロライナ・リーパーを使った「鬼辛」(+200円)という自家製の辛味がプラスされる。その都度マイナーチェンジが繰り返され、インド風、メキシコ風などのアレンジも加わる。うーん、想像しただけでたまらん…。

↑こちらがメキシコ風の「ルージャン麺」

 

接客しないでラーメンだけを作っていたいと笑顔で語る

高めのカウンターの奥、広めの厨房を忙しく動きながら、客が来ると小さな声で「いらっしゃいませ」と呟く色川店主。

 

「ラーメン作るのは大好きなんですけど、とにかく接客が苦手で…」

 

若い頃、レコーディングは大好きだけど、人前でのライブは苦手だった僕としては共感しかない。ラーメン作りに集中しているので無愛想に感じられることもある色川店主だが、現在は陽気なスタッフが入ってるので店内はいいバランスになっている。

 

気まぐれに、そして複雑に変化するメニューは、Twitterにて詳細に告知される。そう、面と向かっての接客は苦手だが、どこの店よりも親切で丁寧なのだ。そのTwitterでたまに見かけて気になるのが「居酒屋 口樂」の文字。不定期で開催される居酒屋営業では、色川店主ならではの創作料理の他、スパイスを使った口樂式レモンサワーなども提供される。

 

僕としては、電車とバスを乗り継いでも絶対行きたいやつだ。話すと気さくでオモロイ色川店主と酒を酌み交わせるなんて最高じゃないか。

そう書いて締めようと思っていたが、取材2日後に新メニュー「旅するラーメン」が登場していた。「鰹と煮干しの和風だしに爽やかな青唐が香る日本から、ライムを潰してカンボジア、えび味噌を溶かしてタイ、スパイストマトを混ぜると一気にメキシコへ!」と書かれている。

 

なにそれ! コンセプトもネーミングも素敵じゃないか。めちゃくちゃ食べたいんですけど! そんな心惹かれる新メニューが登場することを、なんで取材時に一言も話してくれなかったのか。色川店主、変というか、得体が知れないというか、掴みどころがないというか、とにかく謎すぎるが、僕にとっては最高なラーメン職人である。

 

この一杯からはこんな音色が聴こえてきた!

WIZZARD「WIZZARD BREW」(撮影/田中 貴)

ド派手な見た目の妖しい魔法使い、ロイ・ウッドが作り上げる珠玉のポップス。色川店主も夜な夜な謎のスパイスを調合して、新たなメニューを創造するのであろう。一度その魔術にかかれば、日々口樂の新作を追い続けることになるだろう。

 

【今回訪れた店】

口樂

住所:東京都八王子市下柚木2-9-11 シルキーパレスⅡ 1F

アクセス:京王相模原線「京王堀之内駅」徒歩20分以上。京王バスにて下柚木のバス停「さんもり橋」下車すぐ

営業時間:11:00〜14:00、18:00〜20:00 ※日曜は昼のみ

定休日:月曜

※営業時間、定休日、メニュー、価格は掲載時のものです

https://twitter.com/ko_u_ra_ku

 

構成/中山秀明 撮影/鈴木謙介

「二郎」と「二郎系」の違いとは? 取材拒否ラーメン店の凄みをラーメン好きクリエイターが激論

ラーメン好きミュージシャンとして有名なサニーデイ・サービスの田中貴さんが、2作目の著書として2021年12月27日に上梓した「ラーメン狂走曲」。ラーメンマニアの間からも絶賛の声が上がるなか、「一度ラーメン談義したいっす!」とラブコールを送ってきたのが“プロ営業師”“プロ飲み師”と称される高山洋平さんです。

 

高山さんは「ラーメン二郎」に1年で108回行ったことがあるほか、さまざまな店を食べ歩くラーメン好き。田中さんも「喜んで!」ということで対談が実現、その模様をお送りします。場所は同書にも載っている飯田橋の「びぜん亭」より。

 

田中 貴(左):サニーデイ・サービスのベーシストであり、バンドは現在ニューアルバムをレコーディング中。CSフジ「ラーメンWalkerTV2」のメインMCをはじめ、テレビ・ラジオ出演、ラーメン関連のコラム執筆も多数。TBS系「マツコの知らない世界」では「ご当地ラーメンの世界」を熱く紹介。

高山洋平(右):インターネット広告企業のアドウェイズに入社後、その子会社として2014年に株式会社おくりバントを創業。“プロ営業師”として多数の企業や大学にてセミナーの講師を務める。「ラーメン二郎」(特に目黒店)をこよなく愛し、高円寺「中洲屋台長浜ラーメン初代 健太」の常連でもある。

 

高山さんが「ラーメン狂走曲」に感銘を受けた点のひとつが、ほかのラーメン本にはない独自の観点で店主やラーメンが書かれていること。なかにはラーメンマニアですら驚く希少な情報もあり、「こりゃラーメン通のバイブルっす!」と高山さんは同書への愛を田中さんに語ります。

 

希少性のひとつが、かつて新宿御苑前にあった「佐高」の茂木佐高店主と田中さんとのツーショット。そんな話題から対談は始まりました。

 

実は饒舌で優しいという店主はけっこういる

高山:僕の飲み仲間に、ラーメンに超詳しい友人がいるんですけど、佐高さんの笑顔は超スゴいって言ってました。

 

↑左が茂木佐高店主。本書にも「ラーメンマニアは驚くであろう奇跡の笑顔ツーショット」と書いてあります(撮影/黒飛光樹:TK.c)

 

田中:そうそう。佐高さんはふだん寡黙だから、取材もNGなのかなって思ってたんです。でもあるとき食べに行ったら何かの記事がお店に貼ってあって。それで僕も聞いてみたらあっさりOK。しかも「昔から来ていただいてますね」って。

 

高山:営業中は寡黙で怖いけど、実はよくしゃべるし優しい店主さんってけっこういますよね。

 

田中:この本でいえば、大山の「Morris(モリス)」とか。

 

↑板橋区大山にある「Morris」の松田店主と。詳しくは動画「ラーメン狂走曲」にて

 

高山:「もー、最初っからこの笑顔見せてよー」ってやつですね。僕も、特に二郎(「ラーメン二郎」)好きだからいろんなとこに行くんですけど、例えば仙川店の大将の眼光が鋭いのは一生懸命なだけですから。

 

田中:二郎の店主さんはそのパターン多いですね。千住大橋駅前店の大将は僕飲み友だちですけど、普段はめちゃくちゃ気さくで面白い人ですし。

 

高山:「ラーメン狂走曲」は特に人にフォーカスしてるなっていう印象なんですけど、ラーメンの味はもちろん、そこにいる人も魅力だっていうことですよね。

 

田中:そうですね。僕が好きな店を振り返ってみると、ラーメンのウマさはもちろん重要なんですけど、そこの人がイチから作ってるってことも大切なんだろうなって思います。

 

高山:大事ですよね。だからセントラルキッチンでスープを作ってるチェーンよりも、店内で炊いている個人店がいいし、麺も自家製がいい。二郎と、ヘタな二郎インスパイアとの違いも、ひとつはそこにあると思います。

 

田中:高山さんがこの本を読んで、特に気になる店ってどこでした?

 

高山:行ったことのない店ですと、例えば「らーめんタンポポ」(荒川区新三河島)とか。修業もせず人気店の食べ歩きもしないで作り上げちゃった、天才的なラーメン。一刻も早く行きたいです。

 

田中:田平店主っすね、ゆるいけど個性の塊みたいな。3種の鶏皮をベースにした、独創的なこってりラーメンがあるかと思ったら、宍道湖(しんじこ)のシジミで作った「たんぽぽラーメン」があったり。

 

↑「らーめんタンポポ」のページ(本書P.64~65)

 

高山:「しじみくん」っていう、店主自らが描いたキャラクターの絵が飾られてるんですよね。気になってしょうがないっす!

 

都合のいいところだけパクる二郎系はダメ!

田中:高山さんはジロリアンでもあると思うんですけど、一番行くのってどこの二郎ですか?

 

高山:「ラーメン狂走曲」にも取り上げていただいた、メグジ(ラーメン二郎 目黒店)です! 108回行った年も6割はメグジで、いつもコラコラ(コラーゲンコラーゲン=コラーゲンマシマシ)でオーダーしてます。

 

↑「ラーメン二郎 目黒店」は、コロナ禍の営業自粛要請により特別に販売されたテイクアウトを紹介(本書P.80~81)

 

田中:6割! じゃあ若林さん(目黒店の若林克哉店主)とも親しいんですか?

 

高山:よくしていただいてますけど、恐れ多いです。僕にとって若林さんは大スターなので。でも以前メグジが25周年を迎えたタイミングで、お菓子を買って「おめでとうございます」って持っていったんです。

 

田中:目黒は1995年オープンだから、2020年ですか。

 

高山:そしたら、山田総帥(「ラーメン二郎 三田本店」の山田拓美店主)が喜寿祝いと生前葬やったときのグッズをお返しにいただけて。思わず嬉し泣きしちゃいましたね。

 

田中:常連ならではですね~。

 

高山:メグジも本店も高校生のときから通ってましたし、感無量でした。

 

田中:高山さんは、インスパイア系には行かれるんすか?

 

高山:それこそ、メグジの助手が2019年に開業した「らーめん玄」とかは行きますけど、基本的には本家の二郎ですね。本家だからこその味ってのもありますから。

 

田中:二郎なら醤油だったり、家系なら「吉村家」ならではの酒井製麺など食材の独自性もありますし、さらに本家や直系は、そこならではの心意気にグッときますよね。

 

↑「吉村家」直系の「ラーメン環2家 蒲田店」の「ラーメン」。「ラーメン狂走曲」にももちろん掲載されています

 

高山:大事ですよね。インスパイアするほうも、味をマネするだけじゃなくて、リスペクトや感謝の気持ちがなきゃいけないと思います。

 

田中:僕、二郎の心意気は価格にもあると思うんです。だって、目黒の「小ラーメン」は500円で、本店だって「ラーメン」600円でしょ。それなのに、セコいインスパイアは量が少ないのに平気で900円とか1000円とか。

 

高山:田中さんも「ラーメン狂走曲」で、「自分に都合のいいところだけパクッて、大事な心意気は真似しないとはどういう了見だ」って、ビシッと書かれてますよね。

 

田中:上っ面じゃダメなんです。でも、こういう話をしても「味がおいしければいいんじゃない?」っていうラヲタ(ラーメンオタク)もいるんですよ。

 

高山:ほんとですか? 僕のまわりのラヲタは、精神論も含めて語りますけどね。

 

田中:そう、でもそれ最近思うんです。もしかしたら高山さんも僕も、何かを創り出す側の人間だからかもしれないなって。

 

高山:と、言いますと?

 

田中:創り出すってことは、生みの苦しみを知ってるわけですよね。だから味を創り出すことの凄さもわかる。でも、そうじゃなければ凄さもわからないし、創り出すことへの敬意も生まれないと思うんです。

 

高山:パクりとかっていう部分では、ラーメン以外にも当てはまるかもしれませんね。影響は無意識のうちに受けるからいいんですけど、そこに敬意がないと悪用になってしまいかねませんし。

 

田中:そうそう。例えば音楽でも、新しいジャンルになるような凄い作品が生まれたとして、もちろんそれはいろんな影響を受けたうえで創り出されているんです。でも、その作風をマネした二番煎じのようなバンドや曲には魅力がないですし、オリジナルを超えることもないですから。

 

高山:ところで、田中さんはどこの二郎によく行くんですか?

 

田中:なんだかんだでよく行くのは、家から近くて遅くまでやってる歌舞伎町店(「ラーメン二郎 新宿歌舞伎町店」)です。

 

高山:飲んだあとに食べられる二郎だ。イイですよねー。

 

田中:泥酔して二郎食べるなんて最高ですよ(笑)。量も少なめなので二郎好きからは下に見られがちかもしれませんが、全っ然! 直系だしちゃんとウマいですから。インスパイア店とは比べ物にならないですよ。色々あったんですけど、歴史も長くて、90年代後半にはありましたね。僕、リキッドルーム(ライブハウス)が歌舞伎町にあった頃から行ってましたし。

 

高山:おお~! あの頃のカブジ(「ラーメン二郎 新宿歌舞伎町店」のこと)は、BGMがメタルかパンクしかかかってなかった記憶があります。

 

田中:営業時間長くて杯数も出るから、確かに他の二郎とは劣ってるところもあったけど、新代田店(「ラーメン二郎 環七新新代田店」)の辻本店主が店長になった頃から劇的に変化したんですよね。

 

高山:新代田店の辻本さん、ENGINEってバンドもやってますよね。CD買ったことがありますけど、店内に「CD買っても対応は変わりません」みたいに書いてあって(笑)、最高っす!

 

田中:あったあった。当時の辻本さん、朝は三田本店で麺を打ちに行って、夜は歌舞伎町店でも麺打って、みたいなことやってたから同じ麺を新宿で味わえたんですよ。

 

高山:そのあとの店員は、けっこう入れ替わってますよね。

 

田中:はい。僕は辻本さんのあとは、外国人の店員と仲良くやってましたね。通常ではやってもらえないカスタムもしてもらったり。あんまり行ったことないのに真似する人が出てくるから教えませんけど(笑)。

 

ラーメン界の奇才・「がんこ」家元のエピソード

高山:「ラーメン狂走曲」は、レジェンドのエピソードが載ってることも魅力ですけど、僕が気になったのは家元(「一条流がんこラーメン総本家」の一条安雪店主)とカラオケに行ったという話。あれはどういういきさつで?

 

田中:ネットやSNSが発達して、「一条流がんこラーメン総本家」もいまや大行列になっちゃったんですけど、いまの四谷三丁目に前身の「ふわふわ」が開業した2011年から数年間は、そこまで並ぶほどじゃなかったんです。

 

高山:そうだったんですね!

 

田中:もともと人気はありましたけど、行列といっても限定メニュー目当てにファンが押し寄せるとかで、一般の人が早朝から並ぶなんてことはなかったです。だから僕もよく通ってて、家元とふたりきりなんてこともありましたよ。

 

高山:それもあって取材を受けてくれたんですかね。

 

田中:「これが最後だな」みたいなことはおっしゃってましたけどね。でも、お店が混んでなかったから家元も元気で、よく飲み歩きもしてたんですよ。で、家元のお店にも「カラオケ大会やります」みたいに貼り紙がしてあって。

 

高山:なるほど! そりゃ行きますよね。

 

田中:はい。カラオケとか普段はまずやらないんですけど、家元と飲めるなら行きたいなと思いまして。

 

高山:田中さんを押しのけて1位になったおっちゃんもスゴいですね!

 

田中:まあ、僕は歌う人ではないんで(笑)。そんなこんなで、家元にはいろんな話を聞かせてもらいました。ラーメン屋になる前はマッサージ師をやってて、でも職場の人と話すのが面倒だからと2年くらい中国人のフリをしてたとか。そんなあるとき、家元が友人と居酒屋で楽しく飲んでたら偶然にも同僚が来ちゃったみたいで、「日本語しゃべってる!」って腰を抜かしたって言ってました。

 

高山:面白過ぎる! 昔から奇人だったんですね(笑)!

 

田中:ほかにも、若い頃はボディビルダーをやってたって言ってました。初めて聞いたときは、二つ返事で「そうなんですか」みたいな会話だったんですけど。そのあとお店に行ったら「前に話したボディビルの写真、出てきたんだよ」って。それを見たら、めちゃめちゃガチなのが出てきたんです。

 

↑田中さんがそのときに撮った、若かりし家元(「一条流がんこラーメン総本家」の一条安雪店主)のボディビル写真

 

高山:わっ、スゴ(笑)! でも確かにこれ、家元ですわ。ちなみに、こういう家元の伝説ってよく知られた話なんですか?

 

田中:どうですかね? がんこのファンやラヲタは知ってるでしょうけど。あとは2016年に出した1冊目(「サニーデイ・サービス 田中 貴 プロデュース ラーメン本 Ra:」)に、「一条流がんこラーメン総本家」の取材を通して家元のエピソードも詳しく書きました。

 

↑2016年に出版した「サニーデイ・サービス 田中 貴 プロデュース ラーメン本 Ra:」(学研プラス)

 

田中 貴は国際的な評価が高いラーメン映画に出演

高山:そろそろラーメン食べたくなってきました。

 

田中:いいですね、では注文しますよ!

 

高山:ありがとうございます! そういえば、田中さんは「びぜん亭」にもよく来るんですか?

 

田中:ここって飲めるのも魅力じゃないですか。で、あるとき来たら、知り合いの人が偶然いて、大将(「びぜん亭」の植田正基店主)とも仲がいいってことでよく来るようになったんです。

 

高山:「びぜん亭」はドキュメンタリー映画にもなって、田中さんも出演されてるんですよね?

 

田中:そうなんですよ。アメリカ人のジョン・ダッシュバックさんが監督の作品で、去年から世界中の映画祭に出品してます。

 

↑「COME BACK ANYTIME(邦題:またいらっしゃい)」の田中さん出演シーン。同作はソノマ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなど、国際的な評価も受けています

 

高山:必見ですね!

 

田中:ラーメンも来たし、いただきましょうか!

 

↑「びぜん亭」の「ちゃあしゅうそば」

 

高山:あ~染み渡る! ラーメンがウマくて雰囲気もよくて、お酒も飲めるって最高ですね。今日はたくさんお話も聞けて、めっちゃ楽しかったです。

 

田中:僕も楽しかったです。また語りましょう!

 

高山:ぜひお願いします! 僕、中野や高円寺でラーメン仲間とよく飲んでるのでお誘いさせてください!

 

田中:ぜひぜひ!

 

↑「びぜん亭」の植田正基店主(中央)とともに

 

【取材協力店】
びぜん亭
住所:東京都千代田区富士見1-7-10
営業時間:11:30〜21:00頃まで
定休日:土、日曜、祝日

 

↑田中さんの新刊「ラーメン狂走曲」(ワン・パブリッシング)

 

取材・文/中山秀明 撮影/我妻慶一